古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:翻訳

 古村治彦です。

 米中貿易戦争は出版の分野にも影響を及ぼしている。アメリカで発刊された書籍の中国への輸入・出版が差し止め状態にあるということだ。もちろん書籍であるので、その中身や著者の思想が中国当局に忌避されて差し止めとなっている場合も多いだろう。不思議なのは、エズラ・ヴォーゲル博士の書籍が出版差し止めとなっている点だ。ヴォーゲルといえば『新版 ジャパンアズナンバーワン』で日本でも有名だ。日本研究分野で一番売れた本である。社会学者であるヴォーゲルは奥さんと子供たちを連れて日本の柏市に住んで、日本について研究してこの本を書いた。

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ヴォーゲル博士は日本研究家として知られているが、実はもともと日本語も中国語も堪能で、2000年代には既に中国に研究の重点を移していた。そのような人物の著作が出版差し止めというのは気になるところだ。日本では最近『リバランス 米中衝突に日本はどう対するか』という本を出した。「中国で一番有名な日本人」として知られる加藤嘉一氏が聞き手として参加している。

 世界の出版市場に占める割合はアメリカが30%、中国が10%、ドイツが9%、日本が7%、フランスが4%、イギリスが4%となっている。日本の出版の売り上げが約1兆5000億円となっているので、アメリカは6兆円超、中国は2兆円超であることが推計される。

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 誰もが名前を耳にしたことがある日本の大手出版社の売り上げは1000億円超から1500億円くらいだ。その多くが漫画、コミックの出版のおかげで何とかなっている。一般書の売り上げは落ち込んでいる。日本の子供、若者も大人も皆日々の生活に忙しくてなかなか本を手にすることはない。電車で熱心に本を読んでいる人を見かけることもあるが、スマホの画面を眺めている人がほとんどだ(電子書籍を読んでいる人はいるかもしれない)。

※出版社の売り上げについてはこちらからどうぞ。

 日本語の壁に守られている日本の出版市場であるが、人口が減っていくということになれば売り上げはまた落ちていく。本を買って読まないということが習慣化されつつあり、これもまた痛手となる。日本の出版物を翻訳しての海外展開はこれから重要になってくる。私は今年夏に深圳を訪問したのだが、そこで書店に入った。書店には日本の書籍の翻訳が多数置いてあったが、一番人気はミステリー作家の東野圭吾氏だと感じた。東野氏だけ、書籍の棚に「東野圭吾」コーナーがあったからだ。また、学生や若い人たちを中心に村上春樹氏やよしもとばなな氏の小説が人気だという話も聞いたことがある。書店は人とすれ違うのが大変なほどに混みあっていた。その様子が下の写真だ。

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全体主義の中国がアメリカを打ち倒すーーディストピアに向かう世界

 学習教材のところには親子連れが多くいたが、それ以外に場所にも多くの子供たちや若者たちが熱心に「座り読み(日本だったら立ち読みになるだろう)」をしていた。座り読みをされたくない本にはビニールでラップがしてあった。出版にとって中国市場はこれから有望である。日本の書籍の人気ぶりを考えると、これからどんどん日本の書籍が翻訳されて紹介されていくだろうし、また逆のことも起きるだろう。実際に、中国発のSF小説・劉慈欣(りゅうじきん)著『三体』が日本でも人気となっている(『三体』は世界的にも評価が高いのではあるが)

 米中貿易戦争は意外なところで影響を及ぼしている。

(貼り付けはじめ)

貿易戦争によって中国国内でのアメリカの書籍出版に打撃(Trade war hits U.S. books in China

レイチェル・フラジン筆

2019年12月27日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/policy/finance/trade/476089-trade-war-hits-us-books-in-china

米中両国で貿易戦争が戦われている中、中国国内でアメリカの書籍出版が停止されたと報じられている。

『ニューヨーク・タイムズ』紙は、今年に入り貿易戦争が激化したことで、数百冊のアメリカの書籍の出版が中国当局によって差し止められている、と報じた。

ニューヨーク・タイムズ紙によると、リストには、ボブ・ウッドワード著『恐怖の男:ホワイトハウスのトランプ』、1973年発刊のコーマック・マッカーシー著『神の子供』の翻訳、リサ・ハリディ著『非対称』、ステファニー・クーンツ著『婚姻の歴史』、エズラ・ヴォ―ゲル著『中国と日本』、中国語版のマイケル・J・サンデル著『公共哲学:政治における道徳性緒論』が含まれている。

ニューヨーク・タイムズは次のように報じている。それぞれの書籍の販売が停止されている理由は明確になっていない。ウッドワードの書籍に関しては、貿易戦争よりも政治的な内容がその理由であろうという憶測が流れている。

しかし、ニューヨーク・タイムズは、アメリカの書籍出版の証人はほぼストップしており、そのために出版社はアメリカの書籍から別の書籍に関心を移している、と報じた。

北京のある出版社に勤める編集者アンディ・リューはニューヨーク・タイムズの取材に次のように語っている。「アメリカの書籍を出版するのは現在ではリスクの高いビジネスとなっている。海外の書籍を紹介しようとするにあたっての前提が揺らいでいる」。

中国は検閲があるという評判が立っているがそれでも世界の書籍市場で主要な市場となっている。国際出版業協会によると、2015年の時点で、中国はアメリカに続いて世界第2位の書籍市場となっている。

今月、中国とアメリカは「第一段階」の貿易合意に達した。これによって米中両国は関税を引き下げることになる。

(貼り付け終わり)

(終わり)

アメリカ政治の秘密日本人が知らない世界支配の構造【電子書籍】[ 古村治彦 ]

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 古村治彦です。

 

 今回は、丸山真男・加藤周一著『翻訳と日本の近代』(岩波新書、1998年)をご紹介します。私はこの本を年末年始に読みました。本書では、明治維新前後における西洋の書物の「翻訳」について、誰が、何を、どのように翻訳したのかということを出発点にして、碩学・丸山眞男と加藤周一が話をする対話形式で話が進められています。大変読みやすい形式です。内容は多岐にわたっています。



 日本で学問といえば長年にわたり儒教でした。中国の古典(四書五経)を学び、解釈し、理解するのですが、中国語の原文(漢文)を日本語に読み下す形式でした。「有備無患」とあれば、「備え有れば患い無し」と訳し、「何かの時のために準備をしておけば心配することはない」と理解するという形式です。これに対して、荻生徂徠は、「原文で理解しなければ、漢字の本当の意味が分からない。訳したものでは変な解釈が入っていて本当に分かったとは言えない」と主張しました。彼は、中国語を学習し、原文で理解したり、漢字の本来の意味を古典という古典を渉猟して集めた辞書を作ったりしました。こうした学問に加えて、蘭学も発達して言った訳ですが、日本の学問は外国からの受容を基本としており、その点では翻訳に対する「心構え」や「姿勢」が既に長年にわたり準備され、洗練されていたと言うことができます。



 ウェスタン・インパクト呼ばれる西洋列強の到来によって、アジアは大きな変貌を遂げます。中国(清)は1840年にアヘン戦争に敗れ、イギリス、そして西洋列強に屈することになります。日本もペリー来航によって開国することになりました。この開国は阿部正弘や堀田正睦といった穏健で現実的な幕閣がリードしました。この時期、ヨーロッパではクリミア戦争が起き、アメリカでは南北戦争が起きたために、日本は「ほっておかれた」ため、植民地化されずに済みました。その間に、武士階級は西洋列強の文化や知識を吸収しようとしました。この時に役立ったのは翻訳です。こうした翻訳に従事したのは、幕府が作った蕃書調所の俊英たちでした。丸山と加藤は、中国の知識人(科挙に合格して政府高官や軍司令官になる)と日本の武士階級との比較から、日中の近代化のスピードを比較しています。中国の知識人にとっては、古代の聖王や彼らが治めた国が理想となり、それ以外を認めることは出来ず、西洋の知識や技術を受け入れることに抵抗を示しました。一方、日本の武士階級はかなわないとなると、すぐに「変わり身の早さ」で、西洋流の近代化を貪欲に推進することになりました。彼らにとっては、中国の知識人のような理想主義はなく、現実主義的でありました。そして、武士階級が明治維新を成功させました。

 

 明治時代になって早速翻訳されたのは、西洋の歴史書でした、ギボンの『ローマ帝国盛衰記』やバックルの『英國開化史』が翻訳されました。明治時代の知識人たちは、まず歴史を学ぶことで、西洋諸国の発展を「実践的に」捉えようとしました。中国の古典では古代の理想的な王国や王たちの事績を学ぶことに重点が置かれ、それが真理となります。多分に演繹的な方法論と言えますが、明治の知識人たちは、中国の理想ではない、実践的な国家発展の方法を学ぼうとしたと言えます。

 

 西洋の言葉(英語やフランス語)からの翻訳となると、大きな問題は訳語をどうするかということです。漢語はそのまま熟語にしてしまえば何とか対処できますが、アルファベットとなるとそうはいきません。漢文のように返り点などを付けるというやり方もできません。日本語では単数形と複数形の区別が曖昧です。自由民権運動という言葉に含まれている民権という言葉についても、福澤諭吉によれば、単複の区別がない為に、「人権と参政権の区別」がつかない、という事態が起きた、ということです。

 

 日本の社会科学系の訳語を生み出したのは、西周(にしあまね)です。Philosophyに「哲学」、Scienceに「科学」という訳語を当てました。西周については、私も参加した『フリーメイソン=ユニテリアン教会が明治日本を動かした』(副島隆彦+SNSI副島国家戦略研究所著、成甲書房、2014年)の中の第4章をご参照ください。



 私は翻訳書を複数出版しております。その中で、いつも戸惑ってしまうのは、主語と単複の区別です。日本語は主語をはっきりさせない言語なので、IHeSheTheyをそのまま訳していくと、文章がくどくなって読みづらくなります。また、単複の区別がないということも痛感させられます。人権(human rights)について言えば、諸人権、様々な権利と訳すとくどくなってしまいます。

 

 日本は歴史的に翻訳を通じて文化を受容してきました。そして、明治以降は翻訳を通じて西洋流の近代化を行ってきました。そして、日清戦争後、中国はたくさんの留学生を日本に送り出してきました。彼らは文字が近い日本語を通じて西洋文化を受容しました。そして、訳語を持ち帰りました。有名な話ですが、「中華人民共和国」という言葉のうち、「中華」以外の、「人民(People)」「共和国(Republic)」は日本語の訳語です。

 

 私が尊敬する政治学者である故ベネディクト・アンダーソンは、翻訳の重要性を指摘しています。一方的な受容だけではなく、発信という点もこれからの日本には重要な事になるでしょうし、世界の変化に伴い、西欧言語以外の著作からの翻訳も重要性を増していくことでしょう。こうした中で、日本が培ってきた翻訳文化が活きてくるということになるでしょう。



(終わり)





アメリカの真の支配者 コーク一族
ダニエル・シュルマン
講談社
2016-01-22



アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12






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 古村治彦です。

 ここ最近、ブログの更新が滞りまして、誠に申し訳ございません。体調不良(風邪や腰痛、足の痛みなど)に悩まされながら、翻訳の仕事と2014年3月1日に開催されます、副島隆彦を囲む会定例会内で行う講演の準備のためにブログを更新することが出来ませんでした。

 翻訳の仕事は、アメリカ人の気鋭の政治学者2人が中国の近現代史について書いた400ページを超える大部を英語から日本語に翻訳するというものです。翻訳をするとどうしてもページが増えますので、日本語版は600ページを超えるものになるかと思われます。これを何とか今年の前半に出版するということで今取り組んでいる最中です。アヘン戦争から現代までを網羅した大変面白い本です。是非ご期待くださいませ。

 もう一つやっておりましたのが、2014年3月1日に開催される「第32回副島隆彦を囲む会定例会」で行う講演の準備です。今回の講演は、私が2014年1月21日に刊行しました『ハーヴァード大学の秘密 日本人が知らない世界一の名門の裏側』(古村治彦著、PHP研究所、2014年1月)の発刊記念講演です。1時間の予定で、『ハーヴァード大学の秘密』の第1部で取り上げた人脈の話と、そこからつなげて、私が個人的に研究した、日米人脈の話を申し上げる予定です。

(貼り付けはじめ)

第32回「副島隆彦の学問道場」主催定例会
「キャロライン・ケネディ駐日大使着任が日本政治中枢に与えている衝撃」
講師:副島隆彦先生、古村治彦研究員

開催日 2014年3月1日(土曜日)
会場 「全電通労働会館 ホール」
アクセス
■JR 中央線 総武線「御茶の水駅」聖橋口出口 徒歩5分
■東京メトロ 千代田線「新御茶ノ水」駅 B3出口 徒歩3分
■都営地下鉄 新宿線 「小川町」駅 A7出口 徒歩4分
■東京メトロ 丸の内線 「淡路町」駅 A5出口 徒歩4分

会場住所 〒101-0062 東京都千代田区神田駿河台3丁目6
電話 03-3219-2211  FAX 03-3219-2219

※定例会の予定等についてのご質問は、囲む会(042-529-3573)へ、お問い合わせをお願い致します。
「全電通労働会館 ホール」へは、交通アクセスについてだけ、お問い合わせ下さい。

【当日の予定】

開場  12:15
開演  13:00
終了  16:30

※開場、開演時間以外は、あくまで予定です。終了時刻等が変更になる場合もございます。
※お席は全て「自由席」になります。お手荷物・貴重品等はお客様ご自身で管理をお願い致します。

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※講演会の概要・お申込みについては(こちらからどうぞ)

(貼り付け終わり)

 まだお席に余裕があるということなので、お時間がある方は是非ご参加いただければ幸いです。「定例会」と銘打っておりますが、副島隆彦を囲む会の会員ではない方もご参加いただけます。もちろん、副島隆彦先生のご講演もありますし、第3部では、副島隆彦先生、中田安彦筆頭研究員、私の鼎談も予定されております。現在の政治状況について関心、興味、懸念をお持ちの皆様には是非ご参加いただければと思います。

 今後もブログの更新は滞りがちになるかと思いますが、どうぞよろしくお願い申し上げます。

(終わり)


アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12


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