古村治彦です。
国会が動物園になって大分時間が経ちました。いや、これは動物園に失礼な発言です。
とりあえず、総理大臣が奇声をあげて喜ぶ、そんな場所になり果てました。本日の参院特別委員会で安倍首相が奇声をあげて委員長に注意され、その規制の内容を撤回した(謝罪はなし)ということが起きました。
国会、政治の世界には「ヤジは議場の華」という言葉があるように、ヤジによって議論や雰囲気が高揚するという考え方があります。確かに三木武吉の高橋是清蔵相に対する「達磨は三年」などの名ヤジはありました。また、うまいヤジには当意即妙な返しをすることで盛り上がるということもありました。
しかし、戦後、特に1970年代以降の自民党の歴代のヤジ将軍(松田九郎や浜田幸一)のヤジは聞くに堪えない内容となり、国会論戦において、「ヤジは議場の華」ということはなくなりました。
ヤジは言われた本人も微苦笑し、その内容を認めざるを得ないような本質を突いた言葉であって、しかもそこにはユーモアがなければなりません。ですから、ヤジを言うには相当の素養と頭の回転が必要です。ただ、ワーワーと叫び散らせばよいものではありません。
民主党政権時代、鳩山由紀夫首相が参議院の本会議に出席した際に、自民党所属の丸川珠代議員がアナウンサー仕込みの良く通る美しい声で、「ルーピー」と叫んだことがありました。「ルーピー」とはアメリカの俗語で「バカ」という意味で、アメリカ政府の高官が鳩山首相を評して使ったということが報道され、アメリカ政府が慌てて謝罪してきたいわくつきのものです。丸川議員はこれを使って得意げに「ルーピー」と叫んだのです。私はこの件を報道する新聞記事に「ヤジ」と書いてあったことに違和感を覚えました。あれは、ヤジでもなんでもなくて、ただの奇声である、と。
安倍首相が質問者に対して自分の座っている席からかける言葉もヤジではなく、奇声です。「日教組は、日教組は」とか「早く質問しろよ」「いいじゃん、そんなこと」など、とても品性下劣な、知性のかけらもユーモアも感じない奇声を発して、注意されたら、「そんなことは言っていない」と抗議する始末です。着席のままで発言することは委員会では認められていない訳ですから、それを謝罪すべきなのに、その謝罪もありません。そして、注意されたら、そんなことなど言っていないと言う始末。いわゆる「逆切れ」という奴です。
「質問者が安倍首相を挑発しているじゃないか」という意見があるかと思いますが、それなら、「挑発に乗せられて、軽率な発言や奇声をしてしまうような首相となれば、大事な外交交渉など心配ですね」と答えたいと思います。大事な場面でこそ冷静にかつ大胆に行動できることが一国の宰相の最低限の資質だと思いますが、安倍首相にはそれが欠けていることは明らかです。最も現在の政治家でこの資質を備えている人は皆無ですが。
これまで安倍首相の委員会での奇声は問題になっていますが、それぞれ民主党の女性議員に対して発せられたものです。これで女性が活躍する社会をつくる、などと言うのは片腹痛い話ですが、私は、安倍首相が女性に対してある種の恐怖感と優越感を共存させて持っているのではないかと思います。つまり、女性を怖いと思いつつ(その代表例が岸信介の娘で岸にそっくりの母上)、女性を見下すことが男性らしさだという前時代的な思い込みがあるのではないかと思います。だから、女性議員たちに対して、攻撃的になってしまうのではないかと思います。
男の子が気になる女の子を邪険に扱うとか、わざと意地悪をするというのなら、よほど酷いものではない限り、微笑ましいものですが、もういい年をしたおぢさんがこのようなことをやる、しかも国権の最高機関たる国会で首相の座にありながら、奇声を発し続けるのです。この姿はとても異常なものだと私は考えます。安倍晋三さんはだいぶお疲れのようですから、ご自愛なさることを祈念します。そして、最大の「ご自愛」は辞任なさることだと愚考します。第一次安倍政権の時のように。
(新聞記事転載貼り付けはじめ)
●「「いいじゃん、そんなこと」=安倍首相再びやじ、すぐ撤回―参院特別委」
時事通信 8月21日(金)18時1分配信
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150821-00000116-jij-pol
安倍晋三首相は21日、参院平和安全法制特別委員会で民主党の蓮舫代表代行の質問中、自席から「まあいいじゃん、そんなこと」とやじを飛ばした。
蓮舫氏の抗議を受け、鴻池祥肇委員長(自民)が「自席での発言は控えてほしい」と注意。首相はすぐに発言を撤回した。
蓮舫氏は、中谷元防衛相の答弁が、武力行使の一体化に関する大森政輔元内閣法制局長官の「大森4原則」と、周辺事態を例示した野呂田芳成元防衛庁長官の「野呂田6類型」を混同していると指摘し、質疑を一時中断。その際に首相にやじられ、「どうでもいいとはどういうことか」と反発した。
首相は「本質とは関わりないと言った。どうでもいいとは言っていない」と反論したが、委員長の注意を受けて発言を取り消した。
●「安倍首相やじ「早く質問しろ」=抗議受け陳謝-衆院特別委」
時事通信 2015年5月28日
http://www.jiji.com/jc/zc?k=201505/2015052800531
安倍晋三首相が28日の衆院平和安全法制特別委員会で、民主党の辻元清美氏の質疑中、席に着いたまま「早く質問しろよ」とやじを飛ばし、審議が紛糾する場面があった。民主党の抗議を受け、首相は陳謝した。
28日の審議では辻元氏ら民主党議員が、前日の審議で不適切な答弁があった中谷元防衛相に照準を合わせて追及。この戦法が首相を刺激したとみられる。首相はやじの後、「(辻元氏が)延々と自説を述べ、私に質問をしないというのは答弁をする機会を与えないということから言ったが、言葉が少し強かったとすれば、おわび申し上げたい」と述べた。
この日は、首相が積極的に答弁に立とうとする場面も目立った。首相は、いら立った様子で「(答弁者の)指名権は(質問する)委員にはない。そのことをよく勉強した方がいい。委員長が議事進行を仕切る」とも語った。
首相のやじについて、民主党の枝野幸男幹事長は国会内で記者団に「首相としてあるまじきことが堂々と全国民注視の下で起きた」と批判。民主党は特別委終了後の理事会で、首相が6月1日の委員会質疑冒頭で正式に謝罪するよう要求した。(2015/05/28-19:03)
(新聞記事転載貼り付け終わり)
(終わり)