古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:連邦上院

 古村治彦です。

 アメリカ連邦議会は新しいセッション(第118期)が始まった。始まって早々、連邦下院では新議長選出を巡って大騒ぎとなったことは日本でも報道され、記憶に新しいところだ。前回のセッションまで連邦議会共和党の少数党(共和党)院内総務を務めてきたケヴィン・マッカーシーが新しい下院議長に選出されることは通常であれば当然のことであった。 

しかし、共和党内から造反議員が出て、何度も何度も否決され、15回目の投票でようやく過半数の得票となり、新議長に選出された。その過程で議場ではつかみ合いの喧嘩騒ぎも起きた。民主党側からは造反してマッカーシーの議長就任に賛成票を投じた議員は出なかったので、今回の騒動は共和党内部の争いということになった。

 マッカーシー議員は2014年から連邦下院共和党の最高幹部であり、2014年から2019年までは連邦下院多数党(共和党)院内総務、2019年から2023年まで少数党(共和党)院内総務を務めた。ドナルド・トランプ政権下では、連邦議会で過半数を失って少数党となった共和党を指揮し、トランプ大統領と協力して議会運営に当たった。トランプ派と目される人物の1人である。

 共和党内でマッカーシー議員の議長就任に抵抗したのは、フリーダム議連(Freedom Caucus)のメンバーたちである。フリーダム議連とはティーパーティー運動が源流の議員連盟であり、「保守系」もしくは「リバータリアン系」と評される議員たちの集まりだ。彼らの考えを簡単に述べれば「反福祉・反税金・反大きな政府」ということになる。彼らの資金源となっているのがコーク・インダストリーズという巨大企業を率いるチャールズ・コークだ。コーク一族の歴史と動きについては拙訳『アメリカの真の支配者 コーク一族』(講談社)を是非お読みいただきたい。

 簡単に言えば、フリーダム議連のパトロンであるチャールズ・コークは反ポピュリズム、反トランプの立場を取っている。トランプのポピュリズムは、彼から見れば「貧乏人にバラマキを約束している」ということになる。トランプ派と目されるマッカーシーの議長職就任を妨害したい、もしくはフリーダム議連が議会活動で有利になるような条件を受け入れさせたい、ということでフリーダム議連を使って妨害活動としい活動を行ったということになる。コークとフリーダム議連は共和党内部のエスタブリッシュメント派とも対立しており、フリーダム議連、エスタブリッシュメント派、トランプ派という形で共和党は分裂しているということになる。フリーダム議連とエスタブリッシュメント派が共同してトランプ派をけん制し、トランプの大統領選挙での復活を阻止したいという動きになっている。そのために、フロリダ州のロン・デサンティス知事やニッキー・ヘイリー元国連大使の名前を、2024年の大統領選挙の共和党側の有力候補として主流メディアは出している。

 2023年、2024年のアメリカは、2024年の大統領選挙に向けて政治の季節となる。共和党内部の争いはますます激化するだろう。

(貼り付けはじめ)

5つのポイント:マッカーシーは如何にして連邦下院議長職を勝ち取ったか(Five takeaways: How McCarthy won the Speakership

イアン・スワンソン筆

2023年1月7日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/3803662-five-takeaways-how-mccarthy-won-the-speakership/

ケヴィン・マッカーシー連邦下院議員(カリフォルニア州選出、共和党)が新しい連邦下院議長に就任した。この1週間、議場では15回もの投票が行われ、党内分裂が誰の目にも明らかな異常事態となった。

しかし、この騒動は、マッカーシー議員が分裂した共和党をどのように統率していくのか、また、政府予算や国の債務上限(debt ceiling)引き上げの時期が来た時、国にとってどのような意味を持つのか、それらについて疑問が生じている。

ここでは、これまで誰も見たことのないような狂騒のうちに誕生した連邦下院議長選挙について5つのポイントを紹介する。

(1)マッカーシーは反対派をけん制する(McCarthy picks them off

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第118期連邦議会で連邦下院議長に選出されたケヴィン・マッカーシー連邦下院議員(カリフォルニア州選出、共和党)が人々の歓声に応える。2023年1月7日。

マッカーシーはこの1週間、民主、共和両党の有権者や批評家たちから、連邦下院で最も大きな丘を登る能力を疑問視され、次々と批判されてきた。

マッカーシーに対する反対派は動じる気配もなく、次々と票を失う中で、彼が必要な過半数を獲得できるのかどうか、多くの人が疑問に思った。

マッカーシーの戦術のいくつかは成功しなかったし、批判されるには理由があった。

2023年1月2日の非公開の会議で反対派に圧力をかけても誰も動かず、マッカーシー議員が批判派に対して議長の座を獲得するに決まっていると話すと、ローレン・ベイバート議員(コロラド州選出、共和党)が「くそ野郎!」と叫ぶなど激しい票読みの始まりとなった。

1回目の投票で19人の共和党所属の議員たちがマッカーシーに反対票を投じ、3回目の投票でバイロン・ドナルド連邦下院議員(フロリダ州選出、共和党)が反対者に加わり、その数は20人に膨れ上がった。

しかし、マッカーシーはこの間、実にたくましく対応しており、火曜日には「次から次へと投票がある中で戦うことを恐れていない」と発言していたが、その通りとなった。

マッカーシーは「戦う準備はできている」と公言し、週半ばには反対勢力との取引に向け、味方の議員たちとともに水面下で猛烈に働きかけた。その努力が実り、金曜日には、12回目の投票で反対派20人のうち13人が賛成に代わり、14回目の投票では更に1票が反対派から賛成に変わるという劇的な投票が行われた。 

その数時間後、連邦下院の議場で歴史的な前代未聞の瞬間が訪れた。

(2)マット・ゲーツが注目を集めた瞬間(Matt Gaetz gets his moment)

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2023年1月5日(木)、第118期議会の3日目に連邦下院民主党の議員たちと話すマット・ゲーツ連邦下院議員(フロリダ州選出、共和党)

マッカーシーの政治的将来が、金曜深夜に近づくにつれ、マット・ゲーツ連邦下院議員(フロリダ州選出、共和党)の投票にかかるようになるとは、誰も予想しなかっただろう。

ゲーツ議員とマッカーシー議員との間の反目は、この1週間の投票の底流にあり、金曜日には、フロリダ州の共和党員であるゲーツは、マッカーシーを連邦下院議長職に就くために裏取引をしたと非難し、より個人的な反感が高まっているように見えた。

ゲーツはまた、「これは、計算し、集計し、絶対に回避できることをこの機関に課している人物の虚栄心の表れなのか?」と問いかけた。

しかし、マッカーシーは議長選挙で216票を確保し、あと1票で当選というところでゲーツの投票を待っていた。当時、マッカーシーが連邦下院で過半数を獲得するには217票が必要だった。

ゲーツは「賛否を示さない出席(present)」と発言した。結果として、マッカーシーが投票者の過半数を獲得するための基準を引き下がることになったが、ゲーツの投票では勝利するのに十分でなかった。

ゲーツと同席していたマッカーシーの信頼する盟友パトリック・マクヘンリー連邦下院議員(ノースカロライナ州選出、共和党)を含む議場の共和党所属議員たちは、マッカーシーのマジックナンバーをまだ確保していないことにすぐには気づかず、立ち上がって拍手喝采を送った。

ゲーツは考えを変えなかった。ゲーツの投票は「賛意を示さない出席」だった。

当初、マッカーシーにとって完全な災難に見えたが、その味方は月曜日まで議会を閉会させる投票に動いた。しかし、その閉会投票が行われると、別の切り替えが行われた。どうやら、共和党側のマッカーシーを非難する最終グループの6人全員が「賛否を示さない出席」票を投じるという取引が成立したようだ。

マッカーシーと他の共和党議員たちは閉会日に票を入れ替え、新たに議長選の投票が行われ、マッカーシーは再び216票を獲得したが、今度はそれで十分であった。ゲーツをはじめとする4人の共和党議員がベイバート議員に加わって「賛否を示さない出席」票を投じたことで、マッカーシーが過半数を確保した。

ゲーツは政治的なショーマンであり、カメラに映る時間を多く獲得し、その中心的存在となった

(3)この人たちはどうやって付き合っていくんだろうか?(How are these people going to get along?

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2023年1月6日(金)に連邦下院議長選挙の14回目の投票が実施された後、マイケル・D・ロジャース連邦下院議員(アラバマ州選出、共和党)は、ローレン・ベイバート連邦下院議員(コロラド州選出、共和党)とマット・ゲーツ連邦下院議員(フロリダ州選出、共和党)から引き離されている。

1枚の絵は1000の言葉に匹敵する(百聞は一見に如かず、Sometimes a picture is worth a thousand words)ということがある。

リチャード・ハドソン連邦下院議員(ノースカロライナ州選出、共和党)がマイク・ロジャース連邦議員(アラバマ州選出、共和党)の体をつかまえている写真(片手を肩に、片手を顎に置き、レスリングに近い動き)は、そうした写真の1つである。

この時のロジャースは、ゲーツと現在の自身の投票について話し合うか、彼の首を絞めるかのどちらかに興味があるように見えた。

この100年間、連邦下院議長の投票では見られなかった光景に、多くの共和党員たちが互いにどれほど不満と疲れと苛立ちを感じていたかを示す象徴となった。

今、連邦下院共和党は僅かな差で、この違いを埋めて、彼らがやりたいこと、監視、支出削減、国境警備強化のための戦い、これら全て行うために協力しなければならない。

1月15日の投票でマッカーシーが新議長に決まった後、団結をするようにと訴えられていた。

しかし、この連邦下院議長選出の戦いは、今後、法案や規則をめぐって共和党内で更なる争いが起こることを予感させるものでもある。

今週、マッカーシーが強いられた屈辱や、ゲーツなどの議員たちの行動に見られた大義名分に対して怨嗟の声が上がるだろう。

マッカーシーがこの騒動をどう処理するかは今後直面する厳しい試練の一つになるだろう。

(4)マッカーシーは勝利を収めるために多くのことを諦めた(McCarthy gave up a lot to win

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2023年1月6日(金)、連邦下院議長選挙の14回目の投票中のケヴィン・マッカーシー連邦下院議員(カリフォルニア州選出、共和党)。

連邦下院議長の座を勝ち取るために、マッカーシーは多くのルール変更と反対派への譲歩を提示しなければならなかった。特に、新議長の投票を強制することができる議長退任動議を1人の議員が出すことができるようにすることが重要だった。

マッカーシーと提携する委員会は、共和党の予備選挙における委員会の役割を制限すると述べ、保守派議員たちは、議場に提出される全ての法案を審議する連邦下院規則委員会を含む、より多くの委員会の割り当てを受けることになる。

マッカーシーはまた、歳出法案を公開規則で審議することに同意したが、これは実質的に基本的な予算措置の可決を得ることをかなり難しくするものである。

今週マッカーシーに反対していた共和党議員の多くは、政府支出(国内支出と国防総省の予算の両方)の削減を望んでいる。今回の規則改正は、理論的には彼らにそれを実行する力を与えることになる。

この譲歩はマッカーシーの力を弱めることになりそうだが、彼は公の場で、この譲歩によって連邦下院議長が弱体化するとの見方を否定した。

(5)債務上限をめぐる戦いが注目の戦いだ(The debt ceiling fight is the battle to watch

andybiggs501 

2023年1月5日(木)、ワシントンの連邦下院議会で10回目の投票中に、ケヴィン・マッカーシー連邦下院議員(カリフォルニア州選出、共和党)と話すアンディ・ビグス連邦下院議員(アリゾナ州選出、共和党)(右)。

連邦政府は歳入を上回る支出をしているため、連邦議会は長年にわたり、社会保障や医療保険から軍事費まであらゆる資金を調達するために、国の借入限度額を定期的に引き上げる必要がある。

債務上限を引き上げること自体は、新たな連邦政府支出の増加や承認にはならないが、連邦政府がより多く支出することを可能にする。

もし、債務上限が引き上げられなければ、連邦政府は支払いをすることができない。

2011年には、当時のバラク・オバマ大統領と共和党が過半数を握る連邦下院が何とか合意に至るまで、政府はデフォルト(default、債務不履行)に近い危険な状態に陥った。

次に債務上限を引き上げなければならないのは今年8月である。どのようになるかは誰にも分からないが、今後数カ月、ワシントンやウォール街では多くの神経がすり減ることになりそうだ。

今週、マッカーシーの議長選に反対していた共和党側議員の1人であるラルフ・ノーマン連邦下院議員(サウスカロライナ州選出、共和党)は水曜日、「マッカーシーは債務上限を引き上げるより、連邦政府を閉鎖することを望んでいるのだろうか?」と語った。ノーマンは更に「これは交渉の余地がない」とも述べた。

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マッカーシーの譲歩による連邦下院議長職獲得は驚きとなった(McCarthy concessions to win Speakership raise eyebrows

マイク・リリス、マイケル・シュニール、アル・ウィーヴァ―筆

2023年1月7日

『ザ・ヒル』

https://thehill.com/homenews/house/3803315-mccarthy-concessions-to-win-speakership-raise-eyebrows/

ケヴィン・マッカーシー連邦下院議員(カリフォルニア州選出、共和党)は、歴史的な投票失敗の週を経て、議長の当選に必要な支持を得るために、反対派からの一連の要求に屈することを余儀なくされた。

ほとんどの共和党連邦議員たちはマッカーシーの譲歩の重要性を軽視しているが、この変更はマッカーシー自身の指導力を犠牲にして一般議員に権限を与えるものであり、連邦下院の統治機能を麻痺させかねないという懸念も出てきている。

特に、1人の議員が下院議長を追放するプロセスを開始できるようにする今回の変更は、保守派の強硬派グループがマッカーシーに圧力をかけて重要な必須法案を維持するために繰り返し使用することを恐れている民主、共和両党の議員に胸焼けを与えている。

その結果、連邦政府が閉鎖され、債務不履行に陥り、連邦下院の事業が急停止するリスクが高まると彼らは言う。

ドン・ベーコン連邦下院議員(ネブラスカ州選出、共和党)は、「これは恐ろしい決断だ」と述べた。

ベーコン議員は「1人でも議場から退席の動きを推し進めればまたやることになる。毎週こんなことをするのはいかがなものか?」と、マッカーシーの下院議員当選を数日遅らせた内部抗争を引き合いに出してこのように語った。ベーコン議員は「こういう人が何人かいると将来的にそうなるのではないかと思う。連邦下院議長が弱体化し、最小会派が強化されることになるのだ」と語った。

マッカーシーの保守派の批判者たちの中には、国の債務上限(連邦政府が債務を支払うためにお金を借りることを認める)を引き上げるいかなる動きも、社会保障やメディケアなどの国の権利プログラムの削減を伴わなければならないと要求している者もいる。そして、新しい連邦下院規則パッケージの条項では、債務上限引き上げについて別途投票を行うことが義務付けられている。

チップ・ロイ議員(テキサス州選出)は、木曜日に連邦議会議事堂で記者団に対して、「債務上限引き上げには具体的な支出制限が必要だと考えている」と語った。

マッカーシーの反対派で、今回の譲歩で最終的に支持に回ったスコット・ペリー連邦下院議員(ペンシルヴァニア州選出、共和党)も「何事もなく進められる債務上限引き上げはありえない、それは間違いない」と述べた。

この要求は、民主党側の議員たちからの反発を招いた。民主党議員たちは、国のセーフティネット・プログラムを守りたいが、マッカーシーが保守派の意向に従えば、連邦債務不履行のリスクが高まることを恐れているのだ。

民主党側のある議員は、「もし彼らが債務上限を設定したら私たちは終わりだ」と述べた。

今週の長丁場の交渉を通じて、中道派の共和党所属の議員たちにとってもう1つの大きな懸念は、保守派が小委員会の権限を自分たちのものにしようとすることで、この案は既に小委員会の席についている議員たちを激怒させた。

ベーコンはこれを「成功の見込みがない(non-starter)」だと形容した。特に小委員会の委員になるために努力してきた穏健派共和党員の間で怒りが広がっている。

ベーコンは次のように語った。「連邦下院議長職やそのようなものについて話すのであれば、彼らはまだそれを獲得しなければならない状況にあるのだ。私はそれを獲得していないにもかかわらず指導的役割を担わせるという、最も小さな議連に対するアファーマティブ・アクション同様だと考えている。私たちは共和党側の実力を基礎にしたシステム(merit-based system)を信じている」。

2013年から連邦下院議員を務めているアン・ワグナー議員(ミズーリ州選出、共和党)は、連邦下院議長職の「年功序列プロセス(seniority process)」だと強調した。

「誰もが年功序列のプロセスを経て、両委員会の役職や議長職などを獲得していかなければならないのだ」とワグナー議員は語った。

共和党が第118期連邦議会の開幕に際して採用したその他の変更点は、それほど議論の余地のないものである。その中には、全下院議員の任期制限を設けるための議場投票の保証、修正案の公開手続き、連邦政府機関に対する新たな権限を議会に与えるいわゆるホルマンルールの採用、議場に入る前に議員が法案を読むために丸3日間を必要とする72時間ルールなどが含まれる。

これらの変更は、全て過去の時点で採用されている。そして、ほとんどの共和党側議員たちは、マッカーシーが議員職の見返りに多くを捧げ過ぎたという説を否定している。

マージョリー・テイラー・グリーン連邦下院議員(ジョージア州選出、共和党は)「そのようには感がない」と語った。グリーンは下院議長選でマッカーシーの最も有力な支持者の1人となった。

キャシー・マクモリス・ロジャーズ連邦議員(ワシントン州選出、ワシントン州選出)は、「これらの譲歩は私たちの話し合いで合意されたものであり、最終的には、より国民主導の立法過程につながると信じている。これは、より多くの権力と意思決定を議員に取り戻すことだ」と述べた。

ダン・クレンショー連邦下院議員(テキサス州選出、共和党)は、最初の規則パッケージの最小値である1人制と5人制の違いはほとんどないと述べ、1人制の空転動議についての懸念さえも軽視した。

クレンショー議員は「皆さん方はもう5人制で合意したのだろう。5人制と1人制で一体何が違うのか? 説明責任の問題だ。だから、みんなチームとして働こう、それが最善だ」と述べた。

マッカーシー自身も瀬戸際の交渉を擁護し、この重要な譲歩が彼を「弱い議長」にすることはないと断言している。

木曜日の夜、マッカーシー議員は記者団に対して、「これを恐れていたら、より弱い議長になるだけだ」と語った。「私は弱い議長になどならない」とも述べた。

マッカーシー議員は更に「前の議長を除いてはいつもそうだ。私はそれが結構なことだと思う」と付け加えて述べた。

しかし、民主党側は、カリフォルニア州選出の共和党議員であるマッカーシーが共和党右派対して提案したことは、彼の権威を低下させ、安定した統治を損なうと警鐘を鳴らしている。

前回と前々回の議会で下院議長として一人退席ルールを撤廃したナンシー・ペロシ連邦下院議員(カリフォルニア州選出、民主党)は、その復活を「馬鹿げたことだ」と評した。

前多数党(民主党)院内総務のステニー・ホイヤー議員(メリーランド州選出、民主党)は、この協定は共和党の極右勢力にあまりにも大きな力を与えるものだと述べた。

ホイヤ―議員は次のように述べた。「彼は私が予想した以上のものを与えたと思う。この協定は、共和党の小さな、意志を持った一派、共和党の否定的な一派、ほぼ一様に妨害的な一派に、彼らが持つべき以上の権威を与えることになると思う」。

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「クラブ・フォ・グロース」とコークはフリーダム議連に資金提供(Club for Growth and Koch nurtured Freedom Caucus

アイザック・アーンスドーフ筆

2015年10月22日

『ポリティコ』誌

https://www.politico.com/story/2015/10/freedom-caucus-koch-club-growth-214973

最近、連邦下院をひっくり返した連邦下院保守派の反逆派の背後には、共和党の極右からおなじみの寄付者たちが何人か立っている。それが「クラブ・フォ・グロース(Club for Growth)」 とコーク・インダストリーズ(Koch Industries)だ。

非営利団体「センター・フォ・レスポンシヴ・ポリティックス(Center for Responsive PoliticsCRP)」と共同で行った本誌の分析によると、これらの強力な外部勢力は、ジョン・ベイナー連邦下院議長を追い出し、ケヴィン・マッカーシーが後継になることを阻止した共和党内グループである「連邦下院フリーダム連盟(House Freedom Caucus)」のメンバー37人の政治キャリアを育むのに一役買ってきた。

この分析によると、フリーダム議連のメンバーは、銀行や自動車ディーラーなど、伝統的に共和党候補を支持している業界から強い支持を受けてきた。しかし、議連のメンバー数は、共和党の重要な勢力として台頭し、時には保守的な原則をめぐって指導部と衝突する外部団体の影響力を示すものでもある。

各議員が報告した選挙運動およびリーダーシップPACへの寄付の金額を基に分析したところ、10万人の会員を持つ自由企業体制擁護団体「クラブ・フォ・グロース(Club for Growth)」の寄付額は177万ドルで、各議員が集めた総額1億7500万ドルの約1%に相当することが分かった。このクラブは、11人の議連メンバーにとって最大の寄付者であり、他のどの寄付者よりも多くのメンバーが寄付を受けた。

クラブ・フォ・グロースの広報担当者ダグ・サクトルベンは、本紙の取材に対して、最近の連邦下院での共和党指導部の混乱について、フリーダム議連に責任はないと述べた。サクトルベン「私たちの問題は、フリーダム議連の問題ではない。彼らは、選挙で訴えたことや有権者が投票したことを守っている。問題なのは、エスタブリッシュメントと指導部だ」と発言した。

指導者争いの中で、クラブはベイナー議員傘下のPACから「自分たちの信じる原則を守るために」攻撃を受けている保守派議員たちへの支援を公に表明していた。

カンザス州ウィチタに本社がある石油・ガス複合企業のコーク・インダストリーズは、現在フリーダム議連と提携しているメンバーたちに長期にわたり、総額で59万9400ドルを献金してきた。同社のPACとコーク社の従業員からの個人献金を合わせると、カンザス州選出のティム・ヒュールスカンプ連邦下院議員にとっての第2位の献金者となった。しかし、今回の分析では、フリーダム議連メンバーへの全体では2番目に大きな寄付をするのに十分な資金をばらまいていることが分かった。今回の分析では、コーク兄弟が築き上げた政治団体の幅広いネットワークはカヴァー仕切れておらず、これらはまとめて共和党候補への主要な資金源として発展してきた。

コーク PACのスポークスマンであるケネス・P・スペインは、同団体はフリーダム議連だけでなく、たくさんの共和党所属の議員たちに寄付していると述べた。CRPがまとめたデータによると、2014年のサイクルで1080万ドルを寄付していた。

この1カ月間、宮廷内の陰謀(palace intrigue)の中で、メンバーの名前を秘密にしているフリーダム議連は、党のどの派閥、グループが連邦下院指導部を支配するかをめぐる争いで影響力のある勢力として浮上してきた。連邦下院議長候補と目されているポール・ライアン連邦下院議員は、フリーダム議連が賛同し、ベイナー議員に対して脅した手続き上の戦術を諦めることに同意する場合のみ、連邦下院議長の座を望むと述べた。

共和党内部のエスタブリッシュメント派は、フリーダム議連が共和党のビジネス界の同盟者を軽視し、ひいては党の資金調達と多数派拡大への努力を軽視していると見て、不満を募らせている。しかし、クラブ・フォ・グロースやコーク・インダストリーズのような反体制的な資金提供者たちとの結びつきは、この集団がそれなりの資金基盤を持っていることを示唆している。

アメリカ商工会議所(UCC)は、この強力な勢力を排除するため、予備選挙の挑戦者を支援すると宣言している。

ベイナーのスタッフからロビイストに転身したある人物は次のように述べている。「昔は、党組織や経済界がもっと大きな影響力を持っていた。今、フリーダム議連は、ワシントンのグループは自分たちに献金しないと言って、ワシントン以外からもっと金を集められる。経済界は、この人たちと話をして、関係を構築する方法を考えるべきだ。今、彼らは共和党の未来を担っているように見えるからだ」。

業種別では、フリーダム連邦の寄付者の7%が退職者、次いで医療従事者(5%)と分析されている。

『ポリティコ』誌とCRPの分析によると、このブロックで最も資金調達に成功したのはニューメキシコ州のスティーヴ・ピアース連邦下院議員で、キャリアを通じて1690万ドル(クラブ・フォ・グロースから34万7867ドル、コーク・インダストリーズから86000ドルを含む)を稼ぎ、現職下院議員の中で38位にランクされた。ニュージャージー州のスコット・ギャレット連邦下院議員は1360万ドル(コーク・インダストリーズから7万2500ドルを含む)で69位と続く。

この分析は、選挙運動へのハードマネーによる寄付のみを対象としており、これらのレースにおける候補者の賛否を問わない独立した支出は反映されていない。

フリーダム議連への献金者の上位5位は、アメリカ銀行協会、全米自動車販売店協会(連邦議会への寄付額ではトップクラス)、エヴリ・リパブリカン・イズ・クルーシャルPACEvery Republican is Crucial PACERICPAC)で、エリック・カンター連邦下院多数派(共和党)院内総務がヴァージニア州選出のデイヴ・ブラット連邦下院に失脚させられる前に協力していた諸団体である。

アメリカ銀行協会の連邦議会関係・政治問題担当のジェームズ・バレンティン執行副会長は次のように述べている。「アメリカ銀行協会は、新人議員から議会指導部、その間にいる全ての議員に至るまで、通路の両側の議員たち(民主、共和党両党)と協力してきた長い歴史がある。これらの議員の中には、偶然にも、全米の銀行にとって重要な数々の施策を支持している議員たちもいる」。

ケネス・P・ヴォーゲルはこの記事の作成に貢献した。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
20211129sankeiad505

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 古村治彦です。

 「ウクライナ疲れ(Ukraine fatigue)」という言葉がある。これは、ウクライナを支援する西側諸国で、ウクライナ支援の財政負担に対して、「物価高などで自分たちの生活も苦しいのに、いつまでウクライナ支援を続けねばならないのか、巡り巡って増税になるだけのことだろう」という考えが国民の間で広がっているというものだ。以前に紹介したヨーロッパ諸国の世論調査では、「正義(justice)を望むか、和平(peace)を望むか」という項目になっていたが、これも正義はウクライナ戦争と支援の継続、和平はウクライナ戦争の停戦をそれぞれ意味し、和平派が増えているということだ。これもウクライナ疲れということになる。

 ウクライナ支援の大部分はアメリカが担っている。アメリカからの資金と武器でウクライナは戦っている。アメリカからの支援が縮小されれば、ウクライナ軍の攻勢も止まってしまうという構図だ。

 これまで米連邦議会はバイデン政権から要求されたウクライナ支援に関しては可決成立させてきた。それどころか、米国防総省が提出した支援策の内容について、「これでは足りない」「この武器を入れた方が良いのではないか」ということで更に増額したり、武器の種類を増やしたりしてきた。これは、地元に軍事産業の工場がある議員たちがお手盛りで、地元にお金を落とすためにやっている。戦争は産業になっており、それによって儲かる、生活が成り立つということでもある。しかし、共和党のトランプ派の一部の議員たちや民主党の進歩主義派の議員たちはウクライナ支援に対して反対票を投じてきた。こうした議員たちは国内問題優先(アメリカ・ファースト)であり、海外の戦争にアメリカが関わるべきではないというアイソレイショニズムの考えを持っている。

 アメリカ中間選挙で、連邦下院では共和党が過半数を掌握した。トランプ派の候補者たちが多く当選した。民主党では進歩主義派の議員は少し増えた程度となった。連邦下院共和党はこれから党内に増えたトランプ派への対応が難しくなる。ウクライナ支援に賛成か、反対かという分裂線で考えれば、共和党の一部と民主党の一部、エスタブリッシュメント派が協力することになる。バイデン政権のウクライナ支援は安泰ということになる。しかし、これはアメリカ国民の「ウクライナ疲れ」を反映しないということになる。アメリカ国民の多くが望んでいるのは物価対策であり、ウクライナ戦争の停戦である。バイデン政権はこれからウクライナ政府に停戦に向けて圧力をかけるように、国民と連邦議員の一部から圧力をかけられることになるだろう。

(貼り付けはじめ)

アメリカ連邦議会からウクライナへ:私たちはまだあなた方を支援する(Congress to Ukraine: We’ve Still Got Your Back

-アメリカ連邦議員たちはウクライナに対する長期関与への疑念を払拭するため安全保障会議に集結する。

ロビー・グラマー筆

2022年11月21日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/11/21/ukraine-congress-war-russia-u-s-committed-republicans-democrats/?tpcc=recirc_latest062921

ノバスコシア州ハリファックス(カナダ)発。アメリカの中間選挙の数週間後、アメリカの超党派の連邦議員たちがカナダで開かれた国際安全保障会議に出席し、アメリカの同盟国にメッセージを発した。私たちは全てをウクライナに与える。

キエフやヨーロッパの他の地域では、中間選挙で共和党が僅差で勝利したことを受けて、ウクライナに対するアメリカの軍事支援の継続について懸念する声が出ている。共和党所属連邦議員の一部はウクライナへの支援を疑問視し、アメリカの武器供与、援助、支援を停止するよう求めている。しかし、他の連邦議員たちは、このシナリオが連邦議会の大多数の意見を代表していないと主張し、こうした主張に反発している。

連邦上院外交委員会の共和党側幹部委員であるジム・リッシュ連邦上院議員は、ウクライナの対ロシア戦争への支援継続について問われ、「これはおそらく、私が連邦議員になって以来、最も超党派的な問題の1つだろう。私たちは超党派でこれを行う義務がある。私たちはこの件では手を組んでいる」と答えた。

リッシュをはじめとする民主、共和両党の議員8人は、国家安全保障の指導者や専門家が毎年集まるハリファックス国際安全保障フォーラムで、ウクライナやカナダなどNATO諸国の要人らにメッセージを伝えた。

このメッセージは、少なくとも短期的には、ウクライナ人や他のNATO加盟諸国の間に残る疑念を和らげたようである。ヨーロッパ各国とウクライナ政府の高官たち5人は一部が匿名を条件にしてインタヴューに応じてこのように答えた。

しかし、2024年の大統領選挙サイクルが始まる中、アメリカ政治がどのようになるのか、特に戦争が何年も長引き、支援の費用が積み重なった場合、ウクライナやヨーロッパ各国の不安や恐れを和らげることはほとんどなかった。

「連邦議員たちは、私たちやウクライナが聞くべきメッセージ、つまり、彼らは皆、今ここで献身しているというメッセージを伝えてくれた」とあるヨーロッパの政府高官は匿名を条件に語った。ドナルド・トランプ前大統領が使用した「アメリカを再び偉大にする(Make America Great AgainMAGA)」というスローガンを指して、「2年経った今でも、私たちはトランプ後の二日酔いの状態にある。しかし、2024年以降に何が起こるのか、新たなトランプ派連合(MAGA coalition)が超党派のウクライナ支援を無効にできるのか」とこの政府高官は述べた。

ジョー・バイデン米大統領は今月、軍事・人道支援を含むウクライナへの緊急資金として370億ドルを連邦議会に要求した。これは、ウクライナ軍がロシア軍に次々と痛烈な勝利を収め、重要な港湾都市ケルソンを奪還した後の大規模な資金投入となった。

ハリファックスでの会議でロイド・オースティン米国防長官は、アメリカのウクライナ支援は大西洋をまたぐ安全保障とアメリカ経済の健全性の両方にとって不可欠であり、ヨーロッパはアメリカにとって最大かつ最重要な貿易相手国の1つであることを強調した。オースティン長官は次のように述べている。「北米に住む私たちには、この問題を放置しておくという選択肢はない。アメリカとEUの貿易関係は世界最大規模である。だから、侵略者がヨーロッパに巨大な安全保障上の危機を作り出せば、アメリカ人やカナダ人の日常生活に打撃を与えることになる」。

このような主張が、物価が上昇し続けるアメリカ国民にどれだけ共鳴し続けるかは不明だ。複数の新しい世論調査の結果では、ウクライナ戦争に何百億ドルもの資金を投入し続けることで、アメリカの政治家たちが将来、有権者からの圧力に直面する可能性があるという初期的な警告となっている。特に西側諸国がインフレと格闘し、大きな世界経済の後退に備えている。

今月初めに発表された『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙の世論調査によると、共和党支持の有権者の48%が、アメリカはウクライナ支援に過剰な努力をしていると考えており、3月の6%から上昇した。ハリファックス国際安全保障フォーラムとイプソス世論調査グループが行った別の世論調査では、88%のアメリカ人が、経済的に困難な時期には世界に目を向けず、内向きになるべきだと考えていることが明らかになった。

ドナルド・トランプ政権下でウクライナ特使を務めたカート・ヴォルカーは、有権者はヨーロッパが公正な負担を担っていないと考えれば、ワシントンは最終的にウクライナ支援にブレーキをかけるような政治的圧力に晒される可能性があると指摘する。

ヴォルカーは『フォーリン・ポリシー』誌に対して、「ヨーロッパが行動を共にし、ウクライナをもっと支援するようにならなければ、アメリカではそれが政治的な責任になる」と語った。また、2024年の大統領選挙サイクルで、アメリカの対ウクライナ支援をめぐる新たな議論が再燃するとの見通しも示した。

民主党のある有力議員は、アメリカの同盟諸国が「ウクライナ疲れ(Ukraine fatigue)」がワシントンに定着する懸念を共有するのは理解できると語った。連邦上院外交委員会のメンバーである民主党のクリス・クーンズ連邦上院議員は、「私は西側諸国がエチオピア疲れ(Ethiopia fatigue)になるのを見てきたし、西側諸国がソマリア疲れ(Somalia fatigue)になるのを見てきたし、西側諸国がアフガニスタン疲れ(Afghanistan fatigue)になるのを見てきた。歴史に基づけば、それは理解できる懸念である」。

「しかし、この会議に過去最大の議会代表団が参加した理由の1つは、ウクライナ人と会い、彼らの話を聞き、私たちの強力な支援を提供するためだ。私たちには、連邦下院と連邦上院、共和党と民主党があります。私たちの間には1インチの違いもない」と述べた。

このような安心感を与えるメッセージは、戦争が何年も長引いた場合にアメリカによるウクライナ支援が継続されるかどうかについて同盟諸国の信頼を損ねるような、連邦議会内部の小さなスキャンダルが相次いだ後に出された。その中には、バイデンにロシアとの直接外交を求める進歩主義的な議員たちの不器用な手紙や、ほんの一握りの親トランプの共和党所属の連邦議員たちがウクライナに「もう1ドルも」与えないことを誓った書簡も含まれていた。

ハリファックスの会議に出席した米連邦議員たちは、これらのコメントがメディアで大々的に取り上げられたことに不満を爆発させ、両党の大多数の議員たちのウクライナ支持を反映していないと述べた。

連邦下院外交委員会のメンバーである民主党のサラ・ジェイコブス連邦下院議員は外交政策について次のように語った。「最も挑発的なことを言っている1人か2人を取り上げるのは常に簡単だ。大体において、ウクライナが自衛するために必要なものを確保し続ける必要があるということは、幅広い超党派のコンセンサスがある」。

ジム・リッシュ議員も同じようなメッセージを発した。「ウクライナの闘争に関与することを躊躇している人はほんの一握りだ。その人たちは、あなたたちからたくさんのインクをもらっている。だから大多数に目を向けよう」。

※ロビー・グラマー:『フォーリン・ポリシー』誌外交・国家安全保障記者。ツイッターアカウント:@RobbieGramer

(貼り付け終わり)

(終わり)

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 2022年アメリカ中間選挙が終わった。まだ最終結果は確定していない。現在のところの確定した結果は以下の通りになっている。

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2022年11月10日現在の結果

 連邦下院(435議席)では共和党が過半数(218議席)を奪還すると見られているが、連邦上院(100議席)では接戦が続いており、共和党の過半数獲得(51議席)は微妙な情勢だ。議席数が50対50になれば、副大統領が議長役で1票を投じることになるので、民主党が過半数を獲得ということになる。
2022genericcongressionalvote20212022graph511

民主、共和全体の支持率の推移(赤線は共和党)
 ジョー・バイデン大統領の支持率の低迷とインフレイション率の急上昇によって、中間選挙は共和党が優勢で、連邦上下両院で過半数を奪取するのではないかと見られていた。その後、民主党が支持率を回復し、連邦下院では過半数を失うが、連邦上院では何とか過半数(50議席以上)を維持できるのではないかと見られていた。

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バイデン大統領の支持率の推移(赤線は不支持率)
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アメリカのインフレ率

 共和党側では、ドナルド・トランプ前大統領が支持推薦した候補者たちが多数当選した。トランプはツイッター上に「1749敗だ」と投稿した。150名以上のトランプ派が当選したことは、バイデン政権の議会対策を難しいものとすることは間違いない。私は、現在も続いている連邦下院での2021年1月6日の連邦議事堂襲撃事件に関する特別委員会の活動は停滞するだけでなく、ジョー・バイデン大統領と息子ハンター・バイデンのウクライナ疑惑に関する調査が実施されるのではないかと見ている。この結果如何では、バイデン大統領の弾劾訴追まで進むものと考えている。

 ウクライナ戦争に関しては、民主党進歩主義派と共和党のトランプ派は共に早期停戦とロシアに対する制裁に反対する姿勢を示している。来年の連邦議会ではウクライナ戦争に関して、停戦に向けた動きが進む可能性がある。「アメリカ・ファースト」、「アイソレイショニズム(国内問題解決優先主義)」が出てくることになるだろう。

 今回の中間選挙の結果は、共和党側からすれば「赤い波(レッド・ウェイヴ)」を引き起こすまでの大勝利ということにはならず、民主党側からすれば、大敗北を避けることができたということで、民主党の粘り勝ちという評価になるようだ。共和党内を見てみれば、エスタブリッシュメント派にとっては議席が増えたことは喜ばしいが、トランプ派が大量にワシントンにやってくることは忌々しいということになる。トランプ派への対応を間違うと、民主党と対峙する以前に党内抗争を戦わねばならないということになる。共和党は分裂含みということになる。民主党もまた進歩主義派が影響力を持つことで分裂含みということになる。共和党内のトランプ派と民主党内の進歩主義派は共にポピュリズムということになり、ポピュリズムがワシントンを席巻するという状態が続くことになる。

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中間選挙の5つの重要なポイント(Five early takeaways from the midterms

ナイオール・スタンジ筆

2022年11月9日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/campaign/3726836-five-early-takeaways-from-the-midterms/

水曜日の夜明けとともに、2022年の中間選挙はいくつかの決定的な結果を残した。

しかし、劇的な一夜を経て、既に明らかになっている教訓も存在する。

これから5つの重要なポイントを挙げていく。

(1)民主党にとっては予想よりも良い夜となった(A better night than expected for Democrats

maggiehassan511

マギー・ハッサン連邦上院議員(ニューハンプシャー州選出、民主党)は、選挙前の数週間に共和党が期待を寄せていたドン・ボルデューの挑戦を退け上院の議席を維持した

専門家たちの一部や世論調査が予測した共和党の「赤い波」が実現しなかったことが明らかになり、民主党は火曜日、一晩中安堵のため息をついていた。

フロリダ州知事ロン・デサンティス(共和党)と連邦上院議員マルコ・ルビオ(共和党)の両候補の圧勝が予測された際に、共和党は夜明け前に最高水位を記録した。

しかし、そこからは共和党にとって下り坂となった。

最も劇的な結果は、これまでのところ、全米で最も注目されている連邦上院議員選挙の1つであるペンシルヴァニア州で、民主党のジョン・フェッターマンが共和党のメフメト・オズを破ったことだ。

上院議員のラファエル・ウォーノック(ジョージア州選出、民主党)は、元アメフト選手のハーシェル・ウォーカー(共和党)に対してやや有利な結果となっているようだが、12月の決選投票が避けられるかどうかはまだ分からない。

その他の結果も、軒並み民主党の希望を後押ししている。

マギー・ハッサン連邦上院議員(民主党)は、選挙戦の最終週に共和党が追い上げていたニューハンプシャー州での議席を維持した。

連邦下院では、エリッサ・スロトキン連邦下院議員(ミシガン州)をはじめ、民主党の落選予想リストに指定されていた有名議員が議席を確保した。連邦下院では、エリッサ・スロトキン(ミシガン州)、アビゲイル・スパンバーガー(ヴァージニア州)、マーシー・カプチャー(オハイオ州)など、民主党の落選予想リストに掲載された有名な政治家たちが何人も選挙に勝ち残った。

各州の知事選挙では、民主党が直前まで神経質になっていたミシガン州知事グレッチェン・ウィットマーとニューヨーク州知事キャシー・ホーチュルは圧勝した。

民主党が連邦下院の議席を減らすことは確実であり、過半数を失う可能性も十分ある。

しかし、これはバイデン大統領が率いる民主党が期待した通りの中間選挙結果であった。

今、厳しい問題に直面しているのは共和党である。

高いインフレ率とバイデン大統領の低い支持率という強力な追い風にもかかわらず、共和党は非常に僅かな利益しか得ることができなかった。

(2)フェッターマンが大勝利を収めた(Fetterman pulls off a huge victory

johnfetterman511
 
ペンシルヴァニア州連邦上院議員選挙で、ジョン・フェッターマン副知事が共和党のメフメト・オズを降した。民主党は安心のために大きなため息をつくことができた

水曜日の未明に確定したフェッターマンの勝利は民主党にとって大きな追い風となった。

この数週間、型破りな副知事フェッターマンのリードはどんどん縮まり、支持者は心配し通しだった。

特に、オズはフェッターマンの犯罪記録に対する攻撃で支持を得ていたようで、その中には州恩赦委員会の委員長として、在任中に以前よりはるかに多くの減刑を勧告したことが含まれていた。

5月に脳卒中を発症したフェッターマンは、10月に行われた両候補の唯一のテレビ討論会でも、訥々とした様子を見せていた。

しかし、頭を剃り上げ、パーカーを着たフェッターマンの勝利は、全米で最も分断の激しい激戦州においても、彼の主張する進歩主義的ポピュリズムが通用することを証明するものとなった。

この勝利は、純粋に数学的な意味でも民主党にとって必要不可欠なものとなった。

今回の選挙におけるペンシルヴァニア州の連邦上院議員の議席は、共和党のパット・トゥーミー連邦上院議員の引退によって空席になったものだった。

民主党は、アリゾナ州とネヴァダ州の2つの州(本稿執筆時点ではまだ集計中)を失ったとしても、共和党から奪ったこの議席によって、余裕を確保することができることになった。

(3)デサンティスがフロリダを赤く染める(DeSantis turns Florida red

rondeSantis521 

共和党にとって大きく失望させられる夜となったが、フロリダ州知事ロン・デサンティスは、再選勝利へ進んだ

フロリダ州知事ほど良い夜を過ごした共和党員は他にいなかった。

デサンティスの2期目への再選は予想されていた。しかも、その差は歴然としており、民主党の対立候補であるチャーリー・クリスト元連邦下院議員20ポイントほども引き離していた。

その背景には、4年前にデサンティスが1ポイント以下の差で知事職を獲得し、2年前にドナルド・トランプ前大統領が約3ポイント差で勝利したことがある。

2024年の大統領選挙に関心が移り始める中、彼の信頼性を証明するという意味では、まさにデサンティス知事にとってのブースターとして思惑通りの結果となった。その点では、火曜日の結果が、トランプにとってせいぜい凡庸な結果にとどまったことも、彼を助けたと言える。

デサンティスの勝利の他の輪郭のいくつかは特に重要で、特に、人口が多くヒスパニック系の多いマイアミ=デイド郡を押さえたことが大きい。

デサンティスは勝利演説で「政治地図を塗り替えた」と自画自賛したが、ヒスパニックの多い地域での勝利はそれが単なる誇張ではなかった理由の1つである。

マルコ・ルビオ連邦上院議員もヴァル・デミングス連邦下院議員(民主党)に約17ポイントの差をつけて圧勝した。

デサンティスとルビオによる2つの勝利の規模を見れば、フロリダが共和党優勢州になったことは明らかだ。

そして、「フロリダは全米最大の激戦地だ」という考え方はもはや通用しないことになった。

(4)連邦下院での共和党の過半数は良くても大きなものとはならないだろう(GOP House majority will be narrow at best

kevinmccarthy522 

連邦下院少数党(共和党)院内総務ケヴィン・マッカーシー連邦下院議員(カリフォルニア州選出、共和党)は共和党が連邦下院の過半数を確保すると予想しているが、その差は予想より小さくなりそうだ

連邦下院少数党院内総務ケヴィン・マッカーシー連邦下院議員(カリフォルニア州選出、共和党)が、当初終了予定だった1時間後に祝勝会の壇上に立ったが、詳細な物語を語った。

東部時間午前3時30分の時点で、共和党が連邦下院の過半数を奪取するという予測は、主要な報道機関からはまだ出ていなかった。

マッカーシーは聴衆に対して、「明日起きたら私たちが多数派で、ナンシー・ペロシが少数派になっている」と選挙の結果に自信を見せた。

彼が正しいことは、やがて証明されることだろう。しかし、共和党の連邦下院過半数奪取が、夜が更けても確定しないということは、この夜が共和党にとっていかに残念な夜であったかを物語っている。

また、たとえマッカーシー議員が連邦下院議長に就任するにしても、共和党が過半数を獲得しても民主党との差が小さい場合には、マッカーシーには大きな試練が待ち受けている。

このシナリオの場合、共和党の最も強硬なメンバーが非常に大きな影響力を持つことになり、それを利用することは間違いない。

水曜未明、マージョリー・テイラー・グリーン連邦下院議員(ジョージア州選出、共和党)は声明を発表し、「我が党が敗北しないよう、戦いをリードしていく」と主張した。

(5)民主党の2人のスターが消えてしまった(Two Democratic stars fade

staceyabrams522 

ステイシー・エイブラムスは、現職のジョージア州知事のブライアン・ケンプ(共和党)に2度目の知事選でも敗れ、今後、民主党内でのスター性が薄れる可能性がある。

民主党全体では、予想よりも上の結果が出たかもしれないが、2つの敗北が党全体を直撃した。

2つの敗北は共に州知事選でのことだった。ジョージア州ではステイシー・エイブラムスが現職のブライアン・ケンプ知事(共和党)に敗れ、テキサス州ではビトー・オルーク元連邦下院議員が現職のグレッグ・アボット知事(共和党)に敗北した。

これら2つの敗北という結果は予想されていたことで、エイブラムス、オローク両候補は世論調査の結果でかなりの差でリードされていた。

しかし、それでも、それぞれの候補者は、少し前まで、民主党の輝くスターと見られていた。

火曜日、エイブラムスがケンプに連敗し、オロークは2018年の連邦上院議員選挙でテッド・クルーズ上院議員(共和党)に敗れ、2020年の民主党大統領選挙予備選への挑戦を断念した後、3度目の敗北となったことを考えると、彼らの輝きは今ひどく損なわれることになった。

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20211129sankeiad505

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 古村治彦です。

 アメリカの中間選挙(Midterm elections)が近づいてきた。連邦下院の全議席、連邦上院の一部、州知事の一部の選挙が実施される。現在のところ、連邦下院では共和党の過半数が確実、連邦上院では共和党が過半数を獲得できるかどうか微妙な状況となっている。以下の図の通りだ。

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連邦上院の状況
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連邦下院の状況

 今回の全国規模の選挙は「中間」という名前がついている通り、大統領選挙と大統領選挙の間に行われ、現職の大統領に対する「評価」がなされる選挙である。大統領選挙を期末試験と考えると、中間選挙は中間テストということになる。アメリカでも日本と同様にエネルギー価格と食料価格の高騰により、生活が苦しい人々が多く出ており、経済問題が選挙の焦点となっている。

 それ以外にも、今回の中間選挙には2024年の大統領選挙の前哨戦として、いくつかの重要なテーマが存在する。それらは、(1)民主党はラティーノ系有権者の支持を確保できるか、(2)ドナルド・トランプ前大統領以外の有力な大統領選挙候補者は出てくるか、(3)トランプはどれくらい躍進するか、(4)2016年にトランプを当選に導いたブルーカラー、労働者たちの支持はどこに向かうか、である。そして、2016年、2020年の大統領選挙で激戦州となった、フロリダ州、ジョージア州、ペンシルヴァニア州、オハイオ州、ウィスコンシン州、ネヴァダ州、アリゾナ州が焦点となる。これら、選挙の結果が大きく変わるパープルステイト(共和党の赤色と民主党の青色が混ざって紫となり、激戦であることを示す言葉)、スイングステイトに注目が集まる。

 今回の選挙戦では共和党予備選挙の段階で、トランプ前大統領が支持する候補者が躍進し、共和党のエスタブリッシュメント、主流派は戦々恐々としている。トランプ派はマイノリティではなく、共和党で大きな勢力となる。2024年の大統領選挙にトランプ前大統領が出馬するのか、もしくは彼が支援する候補者が出るのかということは大きな焦点となる。連邦議会の上下両院で過半数を獲得することになれば、共和党はジョー・バイデン政権と共和党に対してより対決的な姿勢で臨むことになるだろう。バイデン政権の政権運営は厳しいものとなる。

 民主党側では、バーニー・サンダース連邦上院議員(ヴァ―モント州選出)やアレクサンドリア・オカシオ=コルテス連邦下院議員(ニューヨーク州選出)が率いる進歩主義派の「ジャスティス・デモクラッツ」は勢力を少し拡大しそうであるが、トランプ派のように民主党を動かすほどにはならないだろう。民主党はホワイトハウスを抑え、連邦議会上下両院で過半数を占める与党であるが守勢となっている。大型の財政出動を行おうとしてきたが、党内に「ブルードック」と呼ばれる財政規律重視派を抱え、それもうまくいっていない。現状ではなかなか厳しい結果となるであろう。

 バイデン政権1期目後半の政権運営が厳しいものとなる場合、人々の関心を国内から国外に向けるために、外交と防衛分野で何かしら大きなことを起こそうとするだろう。その相手となるのは、中国とロシアということになる。しかし、ここで舵取りを間違うと、世界大戦を引き起こすということにもなりかねない。バイデンが次の2024年に大統領選挙に出馬できるかどうも焦点となる。これから注目である。

(貼り付けはじめ)

今回の中間選挙の5つの選挙戦が2024年の選挙とそれ以降に対する教訓となるだろう(Five midterm races that will hold big lessons for 2024 and beyond

ナイオール・スタンジ筆

2022年11月1日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/campaign/3713192-five-midterm-races-that-will-hold-big-lessons-for-2024-and-beyond/

選挙の投開票日まであと1週間となり、連邦上院の熾烈な争いの中でも、最も緊迫した複数のレースに注目が集まっている。

しかし、いくつかの選挙戦は、アメリカ政治の現状を知る上で重要なスナップショットを提供したり、2024年以降への教訓を提供したりと、別の意味でも重要である。

これからいくつかの重要な一対一の選挙戦について見ていく。

(1)ネヴァダ州とラティーノ系有権者たちの争奪戦(Nevada and the battle for Latino voters
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ネヴァダ州は、共和党が民主党から連邦上院の議席を奪う最大のチャンスとなる州だ。

現職のキャサリン・コルテス・マスト連邦上院議員(民主党)は、決して安泰とは言えない。最近の各種世論調査では、共和党の挑戦者であるアダム・ラクサルトがわずかに優勢となっている。月曜日の午後に発表されたリアル・クリア・ポリティックス(RealClearPoliticsRCP)の平均では、ラクサルトが1ポイントリードしているという状況だ。

レースがどちらの道に進むにせよ、政治の専門家たちは、ラティーノ系有権者たちの間での民主党支持の更なる低下、あるいは安定化の兆候を探るために、この結果に注目するだろう。

民主党は既に、フロリダ州南部やテキサス州のリオグランデヴァレーなど、国内の他の地域でラティーノ系支持の低下の兆しが見られることを懸念している。

コルテス・マストはアメリカ史上初のラティーノ系上院議員で、彼女の公約には包括的な移民制度改革への強い支持が含まれている。

祖父が連邦上院議員やネヴァダ州知事を務めたラクサルトは、共和党のテレビ広告で「国境の混乱(boarder chaos)」と称し、コルテス・マスト議員やバイデン大統領を非難している。

ラクサルトは、スペイン語の広告や「Latinos Con Laxalt」のイヴェントなど、ラティーノ系有権者たちに対して激しい支持獲得競争を行っている。彼は、「ラティーノ系有権者は経済成長と機会という共和党の公約に応えている」と主張する。

それでもコルテス・マストはラティーノ系有権者のほとんどを獲得するはずだが、ラティーノ系有権者の間での両者の獲得支持の差は極めて重要となるだろう。

過去2人の民主党大統領候補、2020年のバイデンと2016年のヒラリー・クリントンは、出口調査によると、ネヴァダ州でのラティーノ系有権者の支持率で、それぞれ26ポイント、31ポイント差をつけていた。

もしコルテス・マストがこれよりずっと小さい差しかつけられなければ、おそらく彼女にとって破滅を意味し、全米の民主党議員に混乱を引き起こすことになる。

(2)フロリダ州とデサンティスの2024年の希望(Florida and DeSantis’s 2024 hopes
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理論的には、フロリダ州のロン・デサンティス知事(共和党)は厳しい再選キャンペーンに直面していたかもしれない。

知事は様々な問題でリベラル派を激怒させ、最近の最も爆発的な例は、彼が組織したマサチューセッツ州マーサズ・ヴィンヤードへの移民を送る飛行機便だ。

デサンティスは学校での性教育の制限を定める法律を支持したが、それは別の批判を生み出した。デサンティスとバイデンはまた、新型コロナウイルス感染拡大をめぐって激しく対立した。

こうした状況にもかかわらず、デサンティスは民主党の対立候補であるチャーリー・クリスト前連邦下院議員を大きく引き離している。

クリストは元知事で、元共和党員だが、リアル・クリア・ポリティックスの平均ではデサンティスが12ポイント以上リードしている。

現職知事のデサンティスが圧勝すれば、2024年の大統領選挙への立候補の憶測が高まっている中、手ごたえを感じることになる。

デサンティスは、共和党の大統領選挙予備選挙でドナルド・トランプ元大統領に一矢報いることができる唯一の共和党員との見方が広がっている。トランプが出馬を見送った場合、デサンティスは即座に最有力候補に躍り出ることになるだろう。

フロリダ州は共和党優勢に傾き始めてはいるが民主党との差は僅かでしかない。2018年の州知事選挙でデサンティスは1ポイント以下の差で初当選し、2020年にはトランプがバイデンにおよそ3ポイント差をつけてフロリダ州を制した。

その中で、デサンティスが得票率で2桁の差をつけて勝利を収めれば、彼は2024年に全米で最も選挙に強い共和党員であると主張する上でそれを証明する強力なデータとなる。

デサンティスの強さを考えれば、デサンティスとトランプの間に緊張が高まるのは当然だ。

トランプは選挙の投開票日直前、2日前の11月6日にマイアミで集会を開く予定だ。民主党のヴァル・デミングス連邦下院議員が候補者になっている、連邦上院議員選挙において、再選を果たすと予想されるマルコ・ルビオ連邦上院議員(フロリダ州選出)もトランプ主催の集会に出席する予定だ。

複数のメディアは、デサンティスはこの集会に招待されていないと報じている。

(3)アリゾナ州と2020年大統領選挙否定論(Arizona and election denialism
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民主党は今回の選挙で、特に2020年の大統領選挙における選挙不正の虚偽の主張と、扇動的な言葉を好むトランプを争点にしようとしてきた。

今のところ、少なくとも民主党の支持層を超えて、その主張が多くの有権者たちに浸透することはなさそうだ。

その代表例が、アリゾナ州の共和党知事候補であるカリ・レイクだ。

熱心なトランプ支持者であるレイクは、2020年の大統領選挙は違法であると繰り返し主張している。彼女はまた、今年初めの自身の共和党予備選が何らかの形で汚染されている可能性を示唆した。それは彼女の予備選挙での勝利が明らかになるまで続いた。レイク最終的に「私たちは不正に勝った」と宣言した。

10月中旬、ABCニュースのジョン・カールとのインタヴューで、レイクは今年の選挙の結果を受け入れるかどうかについて、ひどく曖昧な態度を示した。

レイクは、もし敗北した場合、自分の敗北を認めるかどうかについてカールに質問され、「公正、正直、透明である限り」認めると答えた。

それでもレイクは、リアル・クリア・ポリティックスの平均で民主党の対立候補であるケイティ・ホッブス州務長官に4ポイント近く差を付けてリードしている。

レイクがリードしているのは、共和党予備選挙で彼女を支持したトランプとの親密さと、元TVニュースキャスターで鍛えたメディアスキルに助けられているからだ。

何より重要なのは、アリゾナ州におけるバイデンの支持率が低調で、9月下旬のマリスト大学実施の世論調査では、登録有権者の39%が支持、54%が不支持という結果になったことだ。

レイクの勝利は、トランプとトランプ主義にとって大きな追い風となるだろう。

また、レイクが勝利することは、アメリカの民主政治体制の道筋を懸念する民主党員たちなどの血を凍らせる結果ということになるだろう。

(4)オハイオ州とブルーカラー有権者からの支持強化を求める民主党の探求(Ohio and Democrats’ quest to shore up blue-collar support
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民主党にとって今年の数少ない明るい話題は、ティム・ライアン連邦下院議員(民主党)が共和党のJD・ヴァンスとの連邦上院議員選挙で、多くのワシントン政治専門家たちの予想以上に競争力を発揮したオハイオ州だ。

オハイオ州は数十年にわたり民主党にとって先導指標であったが、近年は急激に共和党に傾倒している。トランプ大統領は2016年、2020年ともに同州を約8ポイント差で制した。

ライアンは、世論調査の平均値でヴァンスに23ポイント以上離されないでついていっている。

ライアンは、ヤングスタウンエリアでの自身の平凡なルーツを強調し、特に「警察から予算をはく奪せよ(Defund the Police)」 という有害なテーマについて、自身が所属する民主党の進歩主義的な要素との違いを明確にすることで戦ってきた。

ライアンは「バイデンは2024年に大統領選挙に再出馬すべきだとは考えていない」とも発言しているのが特徴的だ。

ライアンが直面している逆風を考えると、いずれも勝利を切り開くには十分ではないかもしれない。

現在、リアル・クリア・ポリティックスの平均では2ポイント差、データ・世論調査サイト「ファイヴサーティエイト(FiveThirtyEight)」では、ヴァンスの勝率は80%近くとされている。

ライアンに近い人々は、ミッチ・マコーネル連邦上院院内総務(共和党)とつながりのあるスーパーPACがヴァンスを支援するために約2800万ドルを費やしたにもかかわらず、全米民主党がライアンにより多くの資金援助をしなかったことを不満に思っている。

いずれにせよ、ライアンが勝つにしても負けるにしても、他の民主党員たちは、ライアンが労働者階級の有権者にどれだけ受け入れられるか、この結果を鋭く観察することになる。

もしライアンが好成績を収めれば、今後の選挙戦の雛形(テンプレイト)となる可能性がある。

(5)ミシガン州と中絶権をめぐる戦い(Michigan and the fight over abortion rights
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ミシガン州知事選挙は現在のところ民主党が神経を尖らせている選挙の1つとなっている。

現職のグレッチェン・ウィットマー知事(民主党)は、共和党の対立候補チューダー・ディクソンが10月初旬に2桁つけられていたリードを少しずつ縮めているのを目撃している。

リアル・クリア・ポリティックスの平均ではウィットマーが4.2ポイントの差をつけてリードしている。最近のある世論調査では同率という結果が出た。

両候補者間の最も顕著な対立点の1つは人工妊娠中絶である。

ウィットマーは中絶の権利を断固として擁護し、ディクソンはウィットマーと正反対だ。

現職知事ウィットマーはこの問題について生々しい言葉で語っている。大学時代にレイプされ、その結果として妊娠するのではないかという恐怖を感じたことを公然と語っている。また、中絶の権利を守るための戦いを、成人した自分の2人の娘に言及して語っている。

対照的に、ディクソンは、レイプや近親相姦の場合でも中絶に反対する立場を示しており、ウィットマーの立場を「極めて過激だ」と評している。

ミシガン州では、中絶の権利を明記する州憲法改正案「プロポーザル3」に対して有権者が意見を述べる機会があるため、中絶問題は特に顕著になる。

世論調査では、ミシガン州民の多くは中絶が広く合法とされることを望んでいる。中絶権活動家たちは、夏に、より保守的なカンザス州で、自分たちの側(中絶合法化)がほぼ同等の票を獲得したことに注目している。

もしウィットマー知事がミシガン州で圧勝すれば、中絶問題の有効性を証明することになる。

しかし、もしレースが拮抗し続けるか、あるいは彼女が敗れるなら、選挙結果から得られる教訓は全く異なるものになるだろう。

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これら5つの選挙戦が連邦上院の過半数をどちらが制するかを決定することになるだろう(These five races will determine the Senate majority

マックス・グリーンウッド、アル・ウィーヴァー筆

2022年10月31日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/campaign/3712941-these-five-races-will-determine-the-senate-majority/

連邦上院議員選挙は、有権者が投票に向かうまで残り1週間しかなく、誰が勝ってもおかしくない状況だ。

共和党は現状から1議席増を確保すれば良い状況だ。国内環境がますます共和党寄りになっていて、ジョージア州とネヴァダ州で共和党がリードしているとの調査結果もあり、その扉を叩いている最中だ。「ファイヴサーティエイト(FiveThirtyEight)」の最新予測によると、過半数をめぐる戦いは「デッドヒート(dead heat)」状態になっており、最後の数日間は有権者を投票に向かわせるための最後の全力疾走でのスパートを両党が行っている。

連邦上院の過半数を決めることになるだろう5つの選挙戦をこれから見ていく。

(1)アリゾナ州(Arizona
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このリストにある5州のうち、民主党がマーク・ケリー連邦上院議員の議席を維持する可能性はまだ高いが、共和党のブレイク・マスターズがここ数週間でその差を縮めてきている。

ケリー議員は、再選を目指す民主党現職議員の中で最有力とされてきたが、8月初旬の予備選で共和党候補が浮上した後、2ヶ月近くマスターズに対してかなりのリードを保っていた。その多くは、民主党の圧倒的な資金調達作戦の結果、広告の猛攻を行ったおかげだ。

しかし、ここ数週間で状況は一変し、ほとんどの調査でケリーのリードは誤差の範囲に収まっている。その理由の多くは、激戦州でのレースが自然に接戦になることと、共和党の州知事選挙候補カリ・レイクの存在が上院議員選挙の結果に影響することの2つであるとあるストラティジストは語っている。

全国の連邦上院選挙に携わっている民主党のある幹部は、「ケリーが扉をこじ開けるとは思うが、誰もが予想するよりも選挙戦は極めて厳しい」と述べた。

アリゾナ在住のある共和党幹部は本誌の取材に対し、月曜日に出た『ニューヨーク・タイムズ』紙とシエナ・カレッジの共同世論調査は「現実的」だとしながらも、現時点でマスターズが2、3ポイントの差をは予想の範囲内であるとし、逆転の可能性の原動力はレイクでも述べた。

このストラティジストは「レイクとマスターズが協力しているのは間違いない。彼女はティーム全体をゴールまで引っ張ろうとしている」と述べている。

最新のリアル・クリア・ポリティックスの平均によると、州知事選挙でレイク(共和党)はアリゾナ州務長官ケイティ・ホッブス(民主党)を3.8%ポイントリードしている。同様に、現職の連邦上院議員ケリー(民主党)はマスターズ(共和党)を2.4ポイント差でリードしている。

(2)ジョージア州(Georgia
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ラファエル・ウォーノック連邦上院議員(ジョージア州選出、民主党)は、共和党の対立候補ハーシェル・ウォーカーに対して優位に立っているように見えたが、元NFLのスター選手で初出馬のウォーカーは、連邦上院選挙の過程で個人的にも職業的にも多くの論争に巻き込まれている。

ウォーカーに関する最も衝撃的な事実の1つは、先月初め、『デイリー・ビースト』紙が報じたもので、ウォーカーが2009年に当時の恋人に中絶手術を受けさせるために金を支払ったという疑惑を詳細に報じたものだ。

しかし、ウォーカーは世論調査でこのスキャンダルからそれほど大きな打撃を受けていない。ウォーカーは、犯罪の増加や長引く経済的懸念について何度もウォーノック議員を非難し、スキャンダルについてほぼ嘘だと一蹴している。その結果、ウォーカーはウォーノックとの各種世論調査の差を着実に縮め、ファイヴサーティエイトの世論調査平均によると、現在1ポイント強の差でウォーノックがリードしている。

元州議会上院議員でジョージア州共和党委員長のチャック・クレイは、「実際問題、ウォーカーはこれまで見た中で最も多く攻撃されている。私たちがまだ知らないような恐ろしい話が潜んでいるのでなければ、彼はこれまでにかなり叩かれていると思う」と述べた。

ウォーノックとウォーカーのレースが特に不安定なのは、ジョージア州は、候補者が選挙に勝つために50%以上の得票を必要とする2つの州のうちの1つであるという事実だ。そして、今のところ、ウォーノックもウォーカーもその基準に達していない。

クレイは「ウォーカーは50%には達しないかもしれないが、全てのネガティブな要素が大きな影響を及ぼしているようには見えない。まだ迷っている最後の2、3パーセントの人たちに、全てがかかっている」と述べた。

(3)ネヴァダ州(Nevada
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再選を目指す民主党所属の連邦上院議員の中で、キャサリン・コルテス・マスト連邦上院議員(ネバダ州選出、民主党)は最も脆弱かもしれない。

民主党の選挙戦が最も盛り上がっていた時期でさえ、彼女は共和党のライバルである元州司法長官アダム・ラクサルトに対して、他の激戦区の民主党議員が持つような明確なリードを保ってこなかった。ニューヨーク・タイムズとシエナ・カレッジが月曜日に発表した新しい世論調査では、コルテス・マストとラクサルトは47%で拮抗している。

ネヴァダ州は、民主、共和両党にとって一連の課題を突きつけている。一方、民主党は近年、ネヴァダ州で連勝を続けており、2018年のディーン・ヘラー元連邦上院議員(ネバダ州選出)の落選とその2年後のジョー・バイデン大統領の勝利で頂点に立った。

他方、共和党がラティーノ系有権者の間で差を拡大していることは、民主党がネヴァダ州での勝利を推進するために長年頼ってきた支持基盤を削り取る可能性がある。また、ネヴァダ州は人口が流動的であるため、政治的に固定化することが特に難しい。

複数の連邦上院議員選挙に携わった経験を持つある民主党のストラティジストは、「ネヴァダ州は、色々な意味でつかみどころがない。ネヴァダ州は、私たちが見てきた様々な潮流やトレンドが集まる場所だ」と語った。

(4)ペンシルヴァニア州(Pennsylvania
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選挙戦最終週、メフメト・オズの背後にはしっかりと風が吹いているが、それが来週ジョン・フェッターマン副知事(民主党)を倒すのに十分かどうかはまだ分からない。

現段階では、明らかにオズ有利な状況である。オズの犯罪増加についての絶え間ない批判は、何ヶ月も前から有権者の共感を呼び、先週の討論会では、脳卒中のため苦戦を続けていたフェッターマンの恩恵に浴した。

しかし、オズの終盤の追い上げは、州司法長官ジョシュ・シャピロ(民主党)の支持者を知事選、特にフィラデルフィア近郊で十分に引き剥がせるかどうかにかかっている。シャピロは、任期満了のトム・ウルフ知事(民主党)の後任として、ダグ・マストリアーノ州上院議員(共和党)に対する最有力候補と目されている。

ミューレンバーグ大学政治学教授であるクリス・ボリックは、オズの最近のメッセージを分析して次のように述べた。「本当に厳しいレースで、このクロスオーヴァー集団(民主党支持から共和党支持へ移る人々)はインパクトがあるかもしれない。メフメト・オズはフェッターマンを叩きのめして自分を穏健派として売り込もうとしている。彼はトランプについて話しているのではない。マストリアーノのような軽薄な党派的なことは一切語っていない」。

ブリックは続けて「これはアピールだ。オズの売りは、彼は大丈夫だということだ。過激ではないということだ」と述べた。

リアル・クリア・ポリティックスの最新の調査平均によると、フェッターマンはまだ1.5ポイントリードしている。

誰が勝利しても、僅差で勝利する可能性が高く、選挙の夜には勝敗がつかず、次の連邦上院議員が決まるまで何日もかかる可能性が高まっている。リー・チャップマン州務長官代理(民主党)は先週、完全な結果を出すには「少なくとも数日かかるだろう」と述べた。

ペンシルヴァニア州のある共和党幹部は本誌の取材に対し、「もしこれが厳しい選挙だと言うならば、選挙の正当性が疑われるような、非常に危険なウサギの穴にまた入ることになるだろう。他の州では、このようなことが予定通りに行われているのを見ると、なぜペンシルヴァニア州ではできないのかという疑問が生じる」。

(5)ウィスコンシン州(Wisconsin
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2022年は全体的に厳しい政治環境にあるが、民主党はウィスコンシン州に目をつけ、論争の絶えない共和党現職のロン・ジョンソン連邦上院議員を有権者が納得して追い出してくれるかもしれないと考えた。

民主党側は、長期にわたる、時には厳しい予備選挙を経て、副知事のマンデラ・バーンズ(ウィスコンシン州、民主党)を指名した。初期の世論調査ではジョンソンが危ういとされていたが、バーンズも総選挙への出馬に苦戦し、彼を「急進左派」と決めつける攻撃に何週間も晒されることになった。

民主党は最後の数週間、バーンズに最後の追い風を吹かせようと、選挙戦に資金を注ぎ込んでいる。バラク・オバマ前大統領は、今でも民主党で最も人気のある人物の一人であり、週末にはウィスコンシン州で党勢を回復させるために奔走している。

また、ファイヴサーティエイトの平均値では、ジョンソンがバーンズに3.4ポイントの差をつけており、レースは依然として接戦であることは確かだ。それでも共和党は、バーンズの見込みが過大評価され、民主党はジョンソンの強さを過小評価していると主張する。

共和党系のストラティジストのダグ・ヘイは、今年初め、「候補者の質」を理由に同党の連邦上院選勝利の見通しを軽視したミッチ・マコーネル連邦上院少数党(共和党)院内総務(共和党)の言葉を引用して発言した。

ヘイは「候補者の質が重要だと言って、マコーネルを非難しようとした人もいた。しかし、それは民主党の側でも重要なことだ。これはマンデラ・バーンズがあれほど期待はずれだった理由の1つだ」と語った。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
20211129sankeiad505

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 古村治彦です。

 民主党のジョー・バイデン政権の主要政策である大型投票法案が先月、連邦上院で否決された。大型公共支出法案と合わせてバイデン政権の目玉政策であり、民主党としては可決成立を進めようとしてきたが、失敗に終わった。その内容を見ると、ちょっと首をかしげてしまうような内容も含まれている。大義名分は「マイノリティなど、投票に困難を感じている人々の投票を促進する」というものだが、民主党の支持基盤であるマイノリティの投票率向上を狙ったものである。例えば「写真付きではない身分証明書でも受け付けねばならない」というものがある。これだと、他人の出生証明書やソーシャル・セキュリティ・ナンバー・カードを使って投票ができることになる。

 アメリカでは住民票という制度はなく、投票をするためには、自分自身で地元の選挙管理委員会に届け出をして、有権者登録(registration)をしなければならない。その際に、各党の予備選挙に投票したい人は民主党支持か共和党支持かも登録する。州によっては、予備選挙で党員以外の人の投票を受け付けるところもある。連邦レヴェルの選挙でも実施主体は各州であり、各州の権限が強く、全国一律、統一的ということはない。そこをある程度まで統一させようというのが法案の別の大義名分でもあった。

 しかし、今回、民主党のジョー・マンチン連邦上院議員(ウエストヴァージニア州選出)とカースティン・シネマ連邦上院議員(アリゾナ州選出)も共和党所属50名の連邦上院議員と共に反対票を投じたために、否決された。両議員の出身州は共に共和党優勢州であり、共和党支持の有権者が多いために、地元の有権者の意向に敏感にならざるを得ないために、結果として、バイデン政権の目玉政策に反対票を投じることになる。両議員に対しては、共和党側から「こちら側に来ませんか」という秋波が送られている。

 バイデン政権と民主党は連邦下院ではかろうじて過半数を超えているが、連邦上院では50対50の同数で、同数になった際の決選投票で議長である副大統領が投票できるために、連邦上院で過半数を握っている状態だ。今年秋の中間選挙で、連邦上下両院で民主党が過半数を失うと、バイデン政権の行く先は更に不透明になる。アメリカ政治の混迷はさらに深まるということになる。

(貼り付けはじめ)

連邦上院共和党が反対票を投じた大型投票権法案の内容をご紹介する(What's in the major voting rights bill that Senate Republicans voted to block

グレイス・パネッタ筆

2022年1月21日

『ビジネス・インサイダー』誌

https://www.businessinsider.com/freedom-to-vote-act-john-lewis-voting-rights-bill-explainer-2022-1

・連邦上院民主党は、水曜日の夜、投票権法案可決に向けて最後の手段を講じたが、失敗した。

連邦上院共和党は、アメリカの選挙を再構築する広範囲な法案を否決した。

・以下は、「投票の自由:ジョン・R・ルイス投票促進法案(Freedom to Vote: John R. Lewis Act)」が可決していたら、こうなるはずだったことを紹介する。

連邦上院は水曜日、「投票の自由・ジョン・ルイス投票促進法」を否決し、連邦上院民主党の投票権法可決に向けての懸命な努力に致命的な一撃を与えた。

2022年1月13日、連邦下院は2つの法案を可決した。そして、2つの法案は一つにまとめられ、法案名は「投票の自由:ジョン・R・ルイス投票権促進法案」となった。民主党は、連邦上院での法案審議を早めるために、関係のないNASA法案を立法手段として利用した。NASA法案はすでに両院で審議されていたため、通常審議に必要な60票の代わりに、単純多数決で審議が進められた。

しかし、民主党の独創的な手続き上の回避策にもかかわらず、審議を終了するには60票が必要で、法案は予想通り共和党が一致して反対したことで阻止された。その後、連邦上院のフィリバスター規定を変更するための投票を行おうというシューマー議員の動きも、上院の共和党議員50人全員と民主党の上院議員2人の賛成で失敗に終わった。上院の共和党議員50人全員と、民主党のジョー・マンチン、カーステン・シネマの2人が反対票を投じた。

もし、この法案が成立していれば、アメリカの投票と選挙管理の風景は大きく変わっていただろう。

投票の自由法案は、全米で投票選挙法を標準化し、今年可決された何十もの新しい州レベルの投票規制の影響を覆すなど、投票へのアクセスを大幅に拡大するものだ。ジョン・ルイス投票促進法案は、最高裁で破棄されたり弱体化されたりした、1965年の投票権法の主要

■「投票の自由」法案からの規定(Provisions from The Freedom to Vote Act):

投票の自由法案(FTVA)は、2021年3月に下院を通過したH.R.1(投票権、選挙資金、連邦倫理に関する民主党が提案している大規模メッセージ法案)の後継法案としてスリム化された内容になっている。

連邦上院共和党が2021年6月にH.R.1に対する議事妨害を行った(filibustered)。その後、連邦上院民主党の一部議員たちが、民主党所属のジョー・マンチン議員、選挙管理担当の官僚たち、その他の関係者からの多くの意見を取り入れ、「投票の自由法案」の草稿を作成した。

共和党所属の連邦上院議員の50名全員が2021年10月下旬の法案採決の際、法案審議の阻止に動いた。

●法案において、投票過程で必須条件とされたもの(What the bill would require on voting access):

・選挙の投票日を連邦政府の定める休日(federal holiday)にする。

・有権者登録をオンライン、自動、投票日当日に行えるようにする。

・期日前投票の期間を最低15日間確保する、その中には少なくとも2度の週末を含む。

・アメリカ合衆国郵便公社による効率的な選挙郵便の配達に加え、投函箱への十分なアクセスとオンライン投票による投票結果の追跡が可能な郵便投票の実施。

・各州は、投票に身分証明が必要な場所において、写真がついていない多種多様な身分証明書を受け入れねばならない。

・誤った選挙区で行われた仮投票の有資格者票を得票に加えて集計すること。

・重罪で有罪判決を受けた元被収監者の投票権を復活させること。

・有権者名簿の管理に関する規制を強化する。これによって各州が有権者を名簿から削除することを困難となる。

・障害を持つ有権者や海外・軍関係の有権者に対応するための保護と資源を拡充させる。

・アメリカ領土での投票に対する連邦政府の保護と監視を強化する。

・アメリカ合衆国選挙支援委員会(U.S. Election Assistance Commission)の再承認と強化に加え、有権者登録に関する資源と広報や連絡(outreach)を向上させる。

・また、同法案には、連邦法に投票権を肯定的に規定する「投票権法(Right to Vote Act)」も含まれている。

●選挙実施機関と選挙区の再編成について(On election administration and redistricting):

・新しい選挙区を決める場合に、一定の基準を用いることを各州に義務付けることで、党派的なゲリマンダー(partisan gerrymandering)を禁止する。

・有権者が確認可能な紙の投票用紙を使用し、選挙後に監査を行うことを各州に義務付ける。

・各州にサイバーセキュリティーの補助金を与え、アメリカ合衆国選挙支援委員会に投票機器のサイバーセキュリティー基準を強化するよう指示する。

・地方の選挙管理者を理由なく解雇、解任することを禁止する。

・有権者登録への干渉を連邦犯罪とし、選挙業務にかかわる人々に対する嫌がらせ、脅迫、威嚇に対する罰則を強化する。

・投票用紙と選挙資料の透明性を保護するための証拠保全要件(chain of custody requirements)、非公式な党派的 「監査」に対抗するための規定を再定義する。

●選挙資金について(On campaign finance):

・この法案には、選挙におけるいわゆるダークマネーを対象とした「情報公開法(DISCLOSE Act)」と、選挙広告の透明性を高めることを目的とした「誠実な広告法(HONEST Ads Act)」が含まれている。

・連邦下院議員選挙に公的資金制度を創設し、候補者が選挙資金について、育児を含む「個人使用(personal use)」サービスに使用することを認める。

・外国の干渉を受けた事例を報告する選挙運動に対する連邦政府の義務を創設する。

・ある候補の政治活動委員会と選挙運動との間の違法な協調をより厳格に取り締まる。

・連邦選挙管理委員会による選挙資金規制の執行を強化する。

■ジョン・ルイス投票促進法からの規定(Provisions from the John Lewis Voting Rights Advancement Act):

ジョン・ルイス投票促進法は、特に連邦最高裁判所と各級連邦裁判所を狙い、1965年の画期的な投票権法の主要部分を無力化したり、弱めたりした判決を取り消すことを目的としている。

最も重要なのは、差別の歴史を持つ各州が、新しい投票規則や選挙区割り計画を制定する前に、連邦政府の許可を得ることを義務付ける連邦事前審査要件(federal preclearance requirement)を復活させるための新しい方式を作ることである。2013年の画期的なシェルビー対ホルダー裁判における連邦最高裁判決で、これまでの適用方式を取り消した。

また、ジョン・ルイス投票促進法第2条に基づく人種に基づく有権者差別に対する保護を大幅に弱めたブロノヴィッチ対民主党全国委員会裁判の最高裁判決(2021年)を取り消すものとなった。

連邦下院の法案は2021年8月末に可決された。連邦上院に提出された法案は比較的小さな違いがあるが、2021年11月に連邦上院の共和党員1人を除く49名が議事妨害を行った。

・ブロノヴィッチ判決による最高裁の新たな「道標」と基準を覆し、投票権法第2条に基づく人種差別の立証を困難にしている。

・投票権のパラメーターの下で、マイノリティーの選挙区を設定する努力を強化するために、司法判例と立法プロセスを盛り込む。

・投票権法の下で、少数派の選挙区を設定する取り組みを強化するため、司法判例と立法経緯を明記する。

・連邦最高裁がシェルビー裁判で取り消した連邦事前承認制度(federal preclearance regime)を復活させる。今回の法案は、最近投票権侵害の経歴のある州に要求する新しい適用方式を創設するものである。

・連邦裁判所を狙い、シャドー・ドケット(闇の台帳、shadow docket)と呼ばれる、緊急判決で、裁判官に理由の説明を義務付け、パーセル原則(Purcell principle)と呼ばれる選挙規則に関する緊急事件の判断において、裁判官が選挙の近さだけに頼ることを制限しようとするものだ。

・連邦上院版の法案には、選挙実施者を嫌がらせや脅迫から守るための連邦政府の保護を強化する「選挙実施者・投票所保護法」も含まれている。

・連邦上院版の法案は更に、「ネイティヴ・アメリカン投票権法」に修正を加えている。この法律は、ネイティヴ・アメリカン共同体における有権者保護を強化する法律である。

■選挙集計法とは何か?(What about the Electoral Count Act?

この2つの法案が予想通りに可決されないとなると、本格的な選挙改革の最良のチャンスは、1887年に制定された選挙集計法(Electoral Count ActECA)の更新ということになるだろう。この法律は、連邦議会選挙の投票の数え方を規定し、議会が論争している選挙の問題を解決するための道筋を提供しようとするものである。

2021年1月6日の暴動事件発生から1年経過し、ドナルド・トランプ前大統領とその協力者たちがその曖昧さを利用してマイク・ペンス前副大統領に圧力をかけ、トランプの選挙人団獲得における敗北を覆そうとしたことから、政治な立場の違いを超えた専門家たちは、議会に19世紀に成立した法律を近代化するよう求めてきた。

特に専門家たちからは、副大統領の役割はあくまで儀礼的なものであることを明確にすること、異議申し立ての基準を明確にすること(特に各州が無投票で選挙人名簿を提出した場合)、異議申し立てに必要な議員数のハードルを上げることなどを連邦議会に対して求めている。

連邦上下両院の議員による改革への取り組み現在、4つの別々の試みが進められている。連邦上院では、アンガス・キング連邦上院議員を中心とする民主党のグループが法案提出を予定しており、超党派の穏健派上院議員たちもこの問題について可能性を検討している。

超党派の議員グループのメンバーであるユタ州選出のミット・ロムニー連邦上院銀は火曜日、記者団の取材に対して次のように答えた。「まだ改革プロセスの初期段階だ。私たちは、選挙に関連する他の条項と同様に、この法律に加えたい修正点として、変更点のリストを取り交わした」。

連邦下院では、2021年1月6日暴動に関する特別委員会と連邦下院行政委員会の民主党側委員が、それぞれ独自の分析と法改正の提言を発表する予定である。

しかし、連邦議会民主党指導部やホワイトハウスは、選挙集計法改革だけでは不十分であり、より重要な選挙権法の成立に取って代わるものではないとしている。

連邦議会で様々な提案がなされていること、民主党指導部が選挙集計法法案に対する単独での支持を今のところ表明していないこと、明確な期限がないことも、選挙集計法改革の可能性を阻む要因になっている。

ロムニーは「選挙集計法が適用される選挙がこれから3年間実施されないこともあり、すぐにでもやらなければならないという緊急性はないと私は考える」と述べた。

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●「米 投票権めぐる法案 成立見通し立たず バイデン政権に打撃か」

2022120 1526分  NHK

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220120/k10013440551000.html

アメリカで投票の権利をめぐり議論が続く中、議会上院で、与党・民主党が主導する、投票権を守るためとする法案が、野党・共和党などの反対で、成立の見通しが立たなくなり、実現を強く訴えてきたバイデン政権にとって打撃となりそうです。

アメリカの議会上院で19日、与党・民主党が主導する、郵便投票の拡大など投票の権利を守るためだとする法案の審議が行われ、この結果、野党・共和党などの反対で、成立の見通しが立たなくなりました。

アメリカでは、トランプ前大統領などが先の大統領選挙で大規模な不正が行われたとする根拠のない主張を続けていることを背景に、去年、19の州で選挙法が改正され、期日前投票で有権者の本人確認を厳格化することなどが決まりました。

野党・共和党が主導するこうした法改正は、本人確認の厳格化によって、運転免許証などを持つ割合が少なく、民主党の支持基盤でもある、黒人などのマイノリティーを選挙から排除することがねらいだという反発も出ていて、民主党側はこれに対抗する法案の成立を目指していました。

法案が成立しなかったことを受けて、バイデン大統領は声明で「議会上院が民主主義を守ろうとしなかったことにひどく失望している」として不快感を示しましたが、民主主義を守るためだとして実現を強く訴えてきただけに、バイデン政権にとって打撃となりそうです。

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●「米投票権法案が頓挫、バイデン政権に打撃 民主党内もまとまらず」

ワシントン=大島隆 2022120 1427分 朝日新聞

https://www.asahi.com/articles/ASQ1N4FZMQ1NUHBI00J.html

 米国で広がる投票制限の州法制定の動きに対して、全国規模で投票する権利を守る連邦法制定の動きが頓挫した。法案を推進する民主党は19日、議事妨害のルールを変更することで採決に持ち込もうとしたが、共和党だけでなく民主党議員からも反対が出て変更案が否決された。法案は成立の見通しが立たなくなり、推進してきたバイデン政権にとっては大きな打撃となる。

 米国では共和党の州議会議員や知事が主導して、不正防止を理由に投票手続きを厳格化する州法の制定が進んでいる。一方、民主党や投票権問題に取り組む市民団体は「マイノリティーらの投票制限につながる」と反対。郵便投票の拡大や投票日の休日化などで投票を容易にする、全国で適用される新たな投票権法の制定をめざしていた。バイデン大統領も11日、ジョージア州アトランタで演説し、「投票権法案は、民主主義か専制かを選ぶ、この国の転換点となる」と法案への支持を訴えていた。

 法案は下院で可決され、上院での採決が焦点となっていた。上院では民主党と共和党が共に50議席で同数だが、フィリバスターと呼ばれる議事妨害のルールがあり、審議を打ち切って採決に入るためには60人の賛成が必要となる。

 このため民主党上院は19日、投票権法案に限ってフィリバスターをなくし、過半数で可決できるようにする異例のルール変更を提案。しかし、民主党の上院議員2人が「ルール変更ではなく超党派の合意をめざすべきだ」と反対に回ったため変更案は否決され、投票権法案は成立の見通しが立たなくなった。(ワシントン=大島隆)

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●「投票権制限効果を持つ州法が相次いで成立(米国)-2022年中間選挙に向け、民主党に逆風」

2022126日 JETRO

https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2022/afa1db0106200e32.html

2020年の米国大統領選挙では、新型コロナウイルス禍を受け、郵便投票が奨励され、ドライブスルー形式の投票なども導入された。これらは結果的に、マイノリティーの投票権を守ることにつながった。同時に、民主党のジョー・バイデン氏の勝利を後押ししたとみられる。

こうした大統領選挙後、共和党の勢力が強い州を中心に、投票権を制限する効果を持つ法案が可決された。この動きに、民主党は反発を強めている。とはいえ、対抗策を打ち出すのが難しい状況だ。202211月の中間選挙に向けて、民主党への逆風が強まる状況にある。

■多州で講じられた投票権制限とは

ニューヨーク大学法学部ブレナン司法センターは202112月、「各州における投票権制限の動き外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」を取りまとめた。この報告によると、20211月から127日までに、19州で33の投票制限法が制定されたという。中でも、共和党の勢力が強い州でそうした動きが活発だ(表参照)。 各州で多く採用された投票制限としては、郵便投票の受付窓口の制限や、投票者の身分証明要件の厳格化、有権者名簿からの除外などがある。

例えば、ジョージア州で成立した法律には、投票の列に並んで待っている有権者に水を提供することを禁止する条項が盛り込まれた。テキサス州では、選挙監視員の行動に制限が課されることになる。結果的に、障害者支援や言語的支援が難しくなる。また、24時間利用可能な投票所の設置やドライブスルー投票も禁止される。

ペンシルベニア州でも、投票権を広範に制限する法案が州議会で一度は可決された。しかし、州知事が拒否権を発動。現在、30の法案審議が2022年に持ち越されている。なおそれら法案の中には、州知事の審査なしに州議会が制限的な投票法を成立できるようにする憲法改正案が含まれているという。

このような立法が目立つようになった背景には、司法判断がある。連邦最高裁判所は20217月、アリゾナ州の投票制限強化について合法とする判決を下していた。これが各州の投票規制導入の追い風になったとみられる。

表:各州の投票権制限の動き

州名       制限項目

アラスカ              AK

アーカンソー      ABFI

アリゾナ              CHJ

フロリダ              CEFGILM

ジョージア          ADGILP

アイオワ              ABDFGJKMNP

アイダホ              H

インディアナ      G

カンザス              DFHM

ケンタッキー      AFJ

ルイジアナ          J

モンタナ              FIMN

ニューハンプシャー          IJM

ネバダ   O

ニューヨーク      A

オクラホマ          A

テキサス              DFHIJKMNP

ユタ       J

ワイオミング      I

注:制限項目の内容。

A:郵便投票の受付窓口を制限

B:郵便投票の受付期間を短縮

C:永久不在者投票リストへの掲載制限

D:特に要求のない有権者への郵便投票申請書の送付を廃止または制限

E:特に要求のない有権者への郵便投票用紙の送付を廃止または制限

F:有権者の郵便投票用紙を返送する際の支援制限

G:郵便投票箱の数、場所などを制限

H:郵便投票に厳しい署名要件を課す

I:より厳しい投票者の身分証明要件を課す

J:有権者名簿から除外

K:障害のある有権者への障壁を増やす

L:投票の列に並ぶ有権者に軽食、水提供を禁止

M:有権者登録をより困難に

N:投票所の数、開所時間を制限

O:選挙区ごとの有権者数を増やす

P:期日前投票の日数と時間を制限

出所:ブレナン司法センター

■民主党は猛反発

ジョージア州議会が20213月に投票制限法を可決した際、バイデン大統領は「残虐行為」という強い表現で非難した。テキサス州で成立した投票制限法に対して、司法省は202111月、「有権者の権利を奪う」としてテキサス州を提訴した。

各州で投票制限の動きが続く中、民主党は危機感を強め、連邦レベルでの投票権強化に動く。バイデン大統領は202216日(注1)の演説でも、この問題に言及。主に共和党が州知事や州議会を押さえている州で投票方法を従来より制限する立法の動きについて、牽制した(202217日付ビジネス短信参照)。また、カマラ・ハリス副大統領も117日(注2)の演説で、各州の投票権制限法により5,500万人の米国人の投票権が影響を受けると懸念を表明した(2022118日付ビジネス短信参照)。さらに、ジョージア州アトランタを訪問したバイデン大統領は、2022111日の演説で、上院の議事進行妨害(フィリバスター)規定を改めてでも、投票権法案を成立させることを求めた。

法案は、113日に下院で可決された。しかし、上院での審議は難航。議事規定の改定には、民主党からも反対の声が上がった〔キルステン・シネマ上院議員(アリゾナ州)とジョー・マンチン上院議員(ウェスト・バージニア州)が当該改定に反対〕。法案は結局、19日の上院採決で否決された。この結果に対しバイデン大統領は、非常に落胆したとしながらも、「同志と共に必要な法案を前に進めていく」との声明を発表した(2022121日付ビジネス短信参照)。

選挙権擁護の活動家で、ジョージア州知事選挙に民主党から立候補しているステーシー・エイブラムス氏は投票制限の動きについて、「私たちが今直面しているのは、民主主義の破壊だ。非常に現実的で深刻なケースと言える」と訴えた。さらに「党派に関係なく、われわれの民主主義を保護する上院が必要」と語った。

■米国民の分断から政情不安につながる懸念も

ブルッキングス研究所シニアフェローのエレイン・カマーク氏は、投票権制限が選挙結果を左右すると指摘する。とくに2020年大統領選挙の結果が僅差だったアリゾナ、フロリダ、ジョージアの各州(注3)では、上下両院選挙にあたって誰が投票するかが重要になるからだ。

米国の調査会社ユーラシア・グループは、「2022年の世界10大リスク」(注4)の第3位に、米国の中間選挙を挙げた。あわせて、中間選挙で共和党の得票が予想を下回る結果だった場合でも、同党が選挙手続きや投票の不正を主張するだろうと分析(202217日付ビジネス短信参照)。米国内の分断が悪化すると懸念した。

コネチカット州のキニピアク大学が20221月に実施した世論調査では、「米国の民主主義が崩壊の危機にあると思う」との回答が6割近く(58%)に上る。また、「国内の政情不安の方が、敵対する国(adversaries of US)より大きな危険」と捉える回答者は、4分の3を超える(76%)。さらに、過半の53%が「国内の政治対立が悪化する」と回答した(2022113日付ビジネス短信参照)。ちなみに、「民主党と共和党のどちらが投票権を守ってくれると思うか」という問いには、民主党が45%、共和党43%だった(2022117日付ビジネス短信参照)。

このように、中間選挙に向け、大多数の米国民が政情不安を予想する状況だ。国内だけでなく米国外への影響も懸念される。今後も、投票制度をめぐる状況を注視する必要がある。

116日は、連邦議会議事堂襲撃事件から1年を経た時期。

2 117日は、キング牧師記念日。

32020年の大統領選挙で、バイデン氏とトランプ氏の得票率は、バイデン氏がジョージア州で0.24ポイント(11,779票)、アリゾナ州で0.31ポイント(1467票)上回った。フロリダ州では、トランプ氏が3.0ポイント(371,686票)上回った。

4:ユーラシア・グループは、20221月に「2022年の世界10大リスク」を発表した。

執筆者紹介

海外調査部米州課 課長代理

松岡 智恵子(まつおか ちえこ)

展示事業部、海外調査部欧州課などを経て、生活文化関連産業部でファッション関連事業、ものづくり産業課で機械輸出支援事業を担当。20184月から現職。米国の移民政策に関する調査・情報提供を行っている。

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●「米上院民主党トップ、フィリバスターめぐる規則変更視野 共和党が阻止する投票権案で」

202214日(火)1047分 Newsweek日本版

https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2022/01/post-97771.php

米上院民主党トップのシューマー院内総務は3日、共和党により進展が阻止されている投票権関連法案について、可決しやすくするため、フィリバスター(議事妨害)に関する規則変更の是非を今月中に採決する考えを表明した。

米国では昨年、共和党が優勢の州で投票権を制限する法案が相次ぎ可決された。背景には2020年の大統領選で敗北した共和党のトランプ前大統領が不正行為のまん延を主張して選挙結果を認めなかったことがある。

シューマー氏は上院民主党の議員らに宛てた書簡で、昨年16日にトランプ氏の支持者などが選挙結果の確定を阻止しようとして議会議事堂を襲撃した事件に触れ「この乱暴な暴動と同様に、全米各地で共和党の州当局者らは、投票者の不正に関するトランプ氏の大うそを根拠に反民主主義的法案を可決した」と批判。この流れを止めるために「強い行動」を起こす必要があると訴えた。

投票権法案の審議を進めるには、定員100議席の上院でフィリバスターを阻止する60票を確保する必要があるが、民主党は昨年、共和党側の抵抗で4回にわたり審議入りを阻まれた。上院では両党の勢力が拮抗している。

シューマー氏は、規則変更に関する採決を今月17日の祝日までに行うと述べた。規則変更は単純過半数で承認できるが、民主党の2人の中道派議員は繰り返し規則変更に反対を表明している。

2人のうちシネマ議員は3日の声明で、投票権とともに、フィリバスターを認め、60票の賛成を必要とする規則も支持していると表明。その上で、上院規則を議論することには前向きだとした。

もう1人はマンチン議員で、コメントを求めたところ回答はなかった。

(貼り付け終わり)

(終わり)

bigtech5shawokaitaiseyo501
ビッグテック5社を解体せよ

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
20211129sankeiad505

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