古村治彦です。

 

 昨日もご紹介しましたが、各メディアや大学が行う世論調査では、ヒラリーがリードしており、ヒラリーが優勢となっている州を足すと、当選に必要な選挙人の数270名を超えてしまうという報道もなされています。

 

 今回もまた、現在伯仲となっている激戦州をトランプが全部獲得しても、ヒラリーには及ばないという選挙予測の結果が出ました。

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 選挙予測とは世論調査の結果を当てはめながら行うものです。この世論調査の数字ですが、統計学的には有意(意味がある)ものなのですが、だいたい同じ期間に同じような場所で世論調査を実施手も数字にばらつきが出ます。

 

 これまで見ていると、ラスムッセンという会社やロサンゼルス・タイムズ紙と南カリフォルニア大学の共同調査の場合には、トランプにとって良い数字が出ます。

 

 この世論調査の数字を全く無視して、バカにしてしまっては選挙戦の動向を掴むことが出来ません。しかし、あまり過信し過ぎることもまた、選挙戦の動向を見失うことになってしまいます。

 

 マスコミや大学が公表することを目的にして行う者とは別に政党や候補者が独自に行う世論調査がありますが、これは公表されることはありません。この数字がどのようなものなのか気になりますが、なにせ遠い日本にいて徒手空拳でやっているものですから、これらの数字を参考にするしかありません。


 下の記事にあるように、7月の民主、共和両党の全国大会終了後、トランプは度重なる失言で、支持率を大きく落とし、ぼろ負けという選挙予測がなされていました。ヒラリー・クリントンは民主党史上最弱の候補者なのに、それに負けてしまうとなると、史上最低の敗者ということになってしまいます。

 そこで、トランプ陣営は責任者を交代させましたが、これが奏功しています。スティーヴ・バノン、ケリアン・コンウェイのコンビがこれからトランプ陣営を建て直していくでしょう。そして、その裏に、ロバート・マーサーとリベカ・マーサ―親子がいるという構図です。

 これまでは素人が無手勝流でやってきて、予備選挙まではうまくいきましたが、それ以降、トランプをうまくコントロールすることが出来ずに、素人が行き当りばったりで選挙活動をしてきたという印象がトランプ陣営にはありました。そこに、テッド・クルーズを応援していた、エスタブリッシュメントのマーサー親子(コーク兄弟と同じくリバータリアンです)が、民主党のヒラリーを倒すために、陣営建て直しのために介入し、マーサー親子の息のかかったマスコミの寵児と選挙のヴェテランを責任者に据えたということになります。

 これから、トランプはシナリオ通りの役を演じる俳優に徹して、勝利を目指すことになるでしょう。彼がそれにどこまで耐えられるか分かりませんが、そうしなければ勝てないとなったら、腹をくくって、何でもやってやるという思い切りの良さと覚悟の潔さはトランプの真骨頂でしょう。勝利のために、自分と敵対し、自分も悪しざまに罵ってきたエスタブリッシュメントの人々の言うことを聞くという大きな決断をしたのですから。しかし、選挙や政治というのはつくづく他の社会活動は違うものなのだなと再認識させられます。

 

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クック・ポリティカル・レポート:トランプが激戦州(伯仲州)を全て獲得しても、それでもヒラリーに敗れる(Cook: Trump could sweep toss-up states and still lose to Clinton

 

ニキータ・ヴラディミロフ筆

2016年8月17日

『ザ・ヒル』誌

http://thehill.com/blogs/ballot-box/presidential-races/291762-cook-trump-could-sweep-toss-up-states-and-still-lose-to

 

クック・ポリティカル・レポートが月曜日に発表した、今回の大統領選挙の選挙人獲得予想によると、ドナルド・トランプは、11月に激戦州(伯仲州)で全て勝利を収めても、ヒラリー・クリントンに敗れるという結果が出た。

 

レポートでは、「大統領選挙の現在の情勢からすると、トランプが現在、激戦州(伯仲州)となっている州を全て獲得したとしても、当選に必要な270名の選挙人に2名足りない」と書かれている。

 

レポートでは続けて次のように書かれている。「8月中旬の時点で、ヒラリー・クリントンは21の州とワシントン・コロンビア特別区、更にメイン州の4名の選挙人の3名を、確実州、優位州、優勢州として押さえている。これらの合計が272名となり、当選のために必要な270名を2名超えている」。

一方、レポートではトランプについて次のように書いている。「ドナルド・トランプは22の州とネブラスカ州の5名のうちの4名を、確実州、優位州、優勢州として押さえている。これらの合計は190名となり、270名から80名足りない」。


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クック・ポリティカル・レポートでは、フロリダ州、アイオワ州、ネブラスカ州、メイン州の連邦下院議員選挙第2区、ネヴァダ州、ノースカロライナ州、そしてオハイオ州を激戦州(伯仲州)としている。これらの各州の合計は76名となる。

 

クック・ポリティカル・レポートは、いくつかの重要な州で、共和党大統領選挙候補者トランプが、民主党大統領選挙候補者ヒラリーに差をつけられているとし、トランプは世論調査でうまくいかずに劣勢になっていると報告している。

 

レポートでは次のように書かれている。「多くの専門家たちが、過去60年間の大統領選挙ので、各党の全国大会が終わってから2週間経った時点で、世論調査でリードしている候補者が最終的に勝利を収めていると指摘している」。

 

レポートでは次のように結論付けられている。「11月8日の投開票日まで84日残っている段階で、ヒラリー・クリントンがドナルド・トランプを破って当選する可能性が極めて高いと私たちは考えている。その差についてはいまだに確定的なことは言えない」。

 

クック・ポリティカル・レポートは、アメリカ連邦議会、州知事、大統領選挙の分析を専門とする超党派のニューズレターである。


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トランプは負ける準備をしている?(Is Trump getting ready to lose?

 

ティモシー・スタンレー筆

2016年8月15日

CNN

http://edition.cnn.com/2016/08/15/opinions/is-trump-getting-ready-to-lose-stanley/index.html?iid=ob_article_organicsidebar_expansion

 

CNN発。ドナルド・トランプは負ける準備をしている最中だ。私は、彼が絶対に負けるとか、彼が密かに「もう終わった」と考えていると言いたい訳ではない。彼の言葉遣いは、彼の心理状態の変化を明確に反映してはいないと考えている。

 

つい最近まで、彼は「私は勝つ」と言っていた。それが、突然、彼は自分が勝利できないだろうと言い出し、その理由を挙げるようになっている。

 

理由その1:民主党側が不正をする。オハイオ州での遊説で、トランプは選挙自体が「捻じ曲げられている」と語った。ペンシルヴァニア州では、自分が負けるとすれば、民主党支持者たちが「1人で5回投票する」場合だけだと述べた。

 

トランプは、最初は本気で言ったのに、後にそれを皮肉だったと言い訳することで良く知られている。だから、彼がどれほど真剣に発言しているか、気を付けて見る必要がある。彼は、「私の考えでは、ペンシルヴァニアで私たちが負けるとするならば、それは不正が続けられた場合だけだ」と語っている。そこには皮肉や諧謔の兆候はない。

 

理由その2:マスコミがトランプを公正に扱っていない。トランプは、特にニューヨーク・タイムズ紙のトランプ選対全体が絶望感に包まれ、トランプは候補者として力不足だという記事について怒り狂っているようだ。

 

トランプはツイッター上で次のように不満を漏らしている。「ねじ曲がったヒラリー・クリントンはマスコミによって守られている。もし汚れきって腐敗し尽くしたマスコミが自分の姿を正直に報道し、言葉も正確に解釈して伝えていたら、今頃ヒラリーに20ポイントの差をつけて勝っていただろう」。

 

この時点で、私は筆を止めて笑ってしまうのだ。真面目にこんなことを言っているのだろうか?

 

反対のことこそが真実だ。マスコミがトランプについて報道することを止めていたら、トランプは20ポイントの差をつけて勝っていただろう。どうしてか?それは、ヒラリー・クリントンが1856年以降、最弱の大統領選挙候補者であるからだ。共和党の大統領選挙候補者がベンガジ事件の中心人物に勝てない唯一の理由は、候補者がドナルド・トランプであることだ。

 

共和党大統領選挙候補者ドナルド・トランプは長年にわたり、スポットライトを浴びてきた。不動産開発からテレビ番組の企画出演まで、彼はトランプ帝国を築き上げてきた。

 

トランプの問題意識、彼が口にする問題は、多くの有権者が憂慮しているものであろう。従って、反エスタブリッシュメントであるトランプを候補者として選ぶというのは保守派にとってはそれだけの理由があったものと思われる。しかし、トランプは自爆している。彼は、人々の目から見て、本気なのか、「皮肉を言っている」のか分からない。

 

トランプが当選した場合に、彼のアホさからアメリカを守ってくれるであろう部下を選ぶ能力にも疑問符がつく。トランプ選対の責任者ポール・マナフォートは、ロシアとの「トラブルを引き起こす関係」(民主党)のために批判を受けている。これは、ニューヨーク・タイムズ紙が、マナフォートがウクライナの金権政治家たちからお金をもらっていたと示唆する記事を掲載した後から起きた。

 

マスコミは、ヒラリー・クリントンの難点よりもドナルド・トランプの難点をより多く報道しているように見えるだろう。しかし、トランプには規律が欠け、判断力も悪いために、それが報道するネタとなってしまうのだ。数千人が集まる集会で主人公にカメラを向け、発言を録音するのは、「腐りきった主流」マスコミの偏りのためではない。それがジャーナリズムなのだ。

 

しかし、トランプは「集会はいつ大入り満員、大盛り上がりだ(訳注。YUGEと書かれている。これはトランプがhuge[巨大な]yugeと発音している)」と述べている。実際にそうなのだ。いつもそうなのだ。

 

しかし、思い出してもらいたい。1984年の投開票日の数日前に、民主党大統領選挙候補者であったウォルター・モンデールはニューヨークに10万人を集めた。モンデールは、世論調査の結果について言及し、彼のファンたちはブーイングをした。集会に集まった人の数で見れば、モンデールが勝者のはずだった!しかし、それから数日後、モンデールは、ニューヨーク州でロナルド・レーガンに54%対46%で負け、全国では59%対41%で敗北した。トランプ陣営はマスコミの偏りに照準を定めている。

 

群衆は鏡のようなものだ。候補者たちは群衆の中に投影される自分の姿を見る。候補者たちは群衆たちの希望を映し、群衆の中に映される自分のイメージに対して恋に落ちる。彼のファンであるマイク・ハッカビーとのインタヴューの中で、トランプはテレビカメラが彼の顔ばかりを映して、集会の大きさを映そうとしないと不満を述べた。彼は見られ方に異常な「関心」を持っている。

 

トランプは支持者たちと本物の関係を築いているということは恐らく真実だろう。しかし、彼らは、トランプの選挙運動が家でニュースを見ている普通の有権者たちにアピールしていると考えることで、現実から目を背け、騙し合いをしている。彼らは、世論調査でトランプの数字が低いことを納得できる唯一の説明である「民主党とマスコミが選挙を盗むために協力し合っているのだ」を言い合うことで、お互いに現実から目を背けている。

 

敗北を知りながら、それに目を伏せるだけが方法ではない。候補者は禅のような方法で敗北を受け止めることができる。モンデールは実際には、民主党全国大会開催時までに既に自分が選挙に敗れるだろうことは知っていた。そして、彼は実際の勝利ではなく、女性を副大統領候補に選ぶことで、道徳的な勝利を目指すことにした。ジョージ・HW・ブッシュは、1988年の共和党大会の時点では、マイケル・デュカキスに大きくリードされていた。そこで、ブッシュは、自分の身を彼の選対幹部たちに預けることに合意し、民主党側の弱点を執拗に攻める攻撃的な選挙戦を展開した。ブッシュは容易に勝利を収めることが出来た。規律を導入することで物事は良い方向に進むのだ。

 

トランプの選対幹部は、ニューヨーク・タイムズ紙は「ゴミだ」と語った。

 

対照的に、ニューヨーク・タイムズ紙は、トランプが「陰鬱で、冷静さを保てない」状態になり、妥協を拒んでおり、「自分の本能ママにやることがよほど良いとぶつぶつ言っている」最中だと報じた。この記事の内容は、トランプの頑固さについての他の記事内容とも合致しているし、公の場での彼の怒りっぽい振舞いとも一致する。

 

こうしたことは全て、人々の最大の懸念に集約される。それは「トランプが大統領にふさわしい気質を持っていない」ということだ。トランプはプレッシャーがかかる状況で冷静さを欠き、予備選挙と本選挙では選挙運動のやり方が異なることを再認識する知性にかけているのだ。

 

「共同謀議があり、それが自分を邪魔する真犯人だ」と心底信じることで、候補者たちは修正することが出来なくなってしまう。どうしてそんなことが起きるのか?それは彼らが無意識で敗北を受け入れ、進んで炎の中に飛び込もうとしているからだ。 しかし、無意識のうちに敗北に向かうことで、トランプは11月8日の投開票日の後にアメリカにわなを仕掛けることになってしまう。トランプの支持者たちに選挙結果の正当性に疑問を持たせてしまうことになってしまう。

 

もしトランプが選挙に敗れたら、彼の支持者たちが民主的なプロセスに対する信頼を失う危険がある。そうなれば、アメリカ国内に辛辣さと無力感、分裂が広がるだろう。そして、そうなれば大規模な暴力が起きる可能性も高まる。

 

(終わり)