古村治彦です。

 

 今回は映画『ダイナマイトどんどん』をご紹介したいと思います。

dynamitedondon009
ダイナマイトどんどん [DVD]

 

 『ダイナマイトどんどん』は1978年に制作された映画です。監督は岡本喜八、主演は菅原文太です。舞台は昭和25年ごろの北九州小倉で、伝統的な任侠道を追求する岡源組と新興勢力の橋伝組が激しく抗争を繰り返しています。この映画ではユーモラスに流血の場面は描かれていませんが、実際には相当激しい抗争があったのだろうと思います。現在でも、小倉を拠点にしている工藤会は武闘派として、手榴弾を使うなど荒っぽいことでも知られています。


 

 抗争に業を煮やした警察署長は小倉の親分衆を警察署に集め、脅したり宥めたりしながら抗争の鎮静化を要請します。そして、抗争は暴力ではなく、野球の試合で決着をつけろ、とういうことになります。どの組も組員内の野球経験者を探したり、新たに身を持ち崩した元野球選手たちをスカウトしたりしますが、橋伝組は特に札ビラ攻勢で、有力選手を次々と獲得します。一時期のプロ野球のようです。プロ野球のスカウト合戦については、『あなた買います』という映画(同名小説が原作)があります。南海ホークスに外野手と入団し、後に監督となった穴吹義雄(高松高―中大)のスカウト合戦の実話が小説化され、映画化されています。

 

 菅原文太演じる主人公の加助は、岡源組の組員で野球経験もありますが、野球の試合をやることなどに気が進まずに、ティームに参加しませんし、野球なんかできるかと毒づきますが、最後には参加することになります。橋伝組には、北小路欣也演じるハンサムな元中学野球(現在の高校野球)のエース(身を持ち崩している)・橘銀次が参加し、加助とは恋のライヴァルということになり、勝負は白熱します。最後はやっぱりドタバタの暴力沙汰となります。タイトルは、岡源組のティーム岡源ダイナマイツの掛け声「ダイナマイトー、どんどん」から来ています。

 

 「ヤクザ(暴力団)が野球ティームを作り、何かを賭けて試合をする」というプロットで思い出したのは、漫画の『じゃりン子チエ』に出てくるエピソードです。主人公チエの住宅兼店舗(ホルモン焼きと酒の店)をヤクザが取り上げようとして、野球の試合をするというもので、ヤクザのティームに昔甲子園で活躍した名投手がおり、最後に打たれ、店は守られるという内容でした。

 

『じゃりン子チエ』の作者はるき悦巳は、映画のプロットをそのまま使ってしまう癖があるようで、『じゃりン子チエ』に出てくる猫・小鉄が主人公の外伝『どらン猫小鉄』では、映画『用心棒』(黒澤明監督)そのままのエピソードがあり、これは現在は絶版になっています。この外伝は、舞台は九州北部で、猫たちがダイナマイトを投げ合うという内容になっていて、これは、『ダイナマイトどんどん』から着想を得ているのではないかと思います。『用心棒』と『ダイナマイトどんどん』を混ぜてオマージュしたというところでしょう。


jarinkochie005

 

 『ダイナマイトどんどん』は野球がメインなのでどうしても野球のシーンが長くなって、ちょっと冗長かなと思いますが、大変面白く見ることが出来る映画です。「民主主義の世の中になったのだから抗争(出入り)も民主的に」「それなら、アメリカから教えてもらった民主主義、最も民主的な野球だろう」「市民に愛されるヤクザになろう」という馬鹿馬鹿しい発想から野球大会となる、というのはぶっ飛んでいる感じがして面白い。

 

日本人は本当に野球が好きだった(今はだいぶ人気が落ちている)のだなと思わされます。そして、ヤクザという世界も怖いもの見たさもあって興味がある、好きなのだということです。『ダイナマイトどんどん』それらが一緒になって痛快な映画となっています。

 

そして、うわべだけの民主化を皮肉たっぷりに馬鹿にしている、形だけ真似をして本質を理解しない日本人の姿を描いているようにも思います。結局最後は暴力に戻ってしまうところも日本らしいところです。

 

監督役の元プロ野球の有名選手で、徴兵され戦争で負傷して(左手と足に重傷を負った)野球を続けられなくなった人物・五味徳右衛門(フランキー堺が演じています)が出てきます。この人は平安高校(現在は龍谷大学付属平安高校)を率いて全国制覇を果たした西村進一氏がモデルになっていると思われます。西村氏は旧制平安中学から立命館大学に進み、その後、名古屋軍でプロ野球選手として活躍します。


nishimurashinichi001
西村進一 

その後、徴兵され、フィリピンで戦い、右手首を失うという重傷を負い、野球選手としては再起不能となります。復員後は、指導者として平安中学野球部を率い、右手の義手にボールを乗せ、左手でバットを操りノックを行うなど熱血指導で、平安高校を全国制覇に導きました。元名選手が不遇な状態になり、指導者となるというのは漫画『タッチ』でもこのようなプロットがあったように記憶しています。

 

 ヤクザを使って世の中を風刺するという意味では、小林信彦の『唐獅子株式会社』という小説と通底するところがあります。この小説も後に映画化されます。小林信彦の『オヨヨ大統領』シリーズと『唐獅子株式会社』を読むと、1970年代の日本の雰囲気を味わうことが出来ます。真面目に茶化すという点で、岡本喜八監督とは表現方法は違いますが、共通しているとことがあると思います。

kobayashinobuhiko001
小林信彦

 
okamotokihachi001
岡本喜八

 この『ダイナマイトどんどん』は、以前にご紹介した『ブルークリスマス』と同じ1978年に公開されています。同一監督が同じ年に2回も映画を公開するというのは、映画全盛期だと珍しくないのでしょうが、現在では聞いたことがないように思います。岡本監督の気力や体力が充実していたのだろうと思いますが、方向性の違う2つの作品を共にうまく仕上げるというのは凄いことだと思います。

 

(終わり)

アメリカ政治の秘密日本人が知らない世界支配の構造【電子書籍】[ 古村治彦 ]

価格:1,400円
(2018/3/9 10:43時点)
感想(0件)

ハーヴァード大学の秘密 日本人が知らない世界一の名門の裏側[本/雑誌] (単行本・ムック) / 古村治彦/著

価格:1,836円
(2018/4/13 10:12時点)
感想(0件)