古村治彦の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、以下のアドレスをご覧ください。http://soejimaronbun.sakura.ne.jp/goaisatsu.html 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:金正恩

 古村治彦です。

 

 今回は、ヘンリー・キッシンジャーによる北朝鮮問題の分析記事をご紹介します。北朝鮮は金正恩委員長の指導の下、ICBMを開発し、アメリカの領土を射程に捉えたという報道がなされています。ICBMは第二次世界大戦中にドイツが開発したV(報復)1ロケット(イギリス国内を攻撃した)がその原型と言われています。世界大戦から72年も経過し、その当時、最先端技術であった原子爆弾も長距離攻撃ミサイルも作ろうと思えばどの国でも作ることが可能なものとなりました。

 

 北朝鮮はアメリカとの交渉を求めています。6か国協議という枠組みはありますが、北朝鮮は多国間協議の枠組みには何も決める力がないのだから、アメリカとの直接交渉しかないと考えています。韓国や日本、ロシアや中国を無視している状況です。一方、アメリカはトランプ大統領が激しい言葉遣いをしていますが、ティラーソン国務長官は交渉最優先という立場を取っています。

 

 北朝鮮とアメリカは両国ともに交渉を求めていますが、北朝鮮はアメリカとの直接交渉、アメリカは中国に北朝鮮への対応を求めつつ交渉は6か国協議で、とそれぞれ異なる主張を行っています。

 

 ヘンリー・キッシンジャーがトランプ政権の外交指南役であることはすでにこのブログでも数度にわたってご紹介しました。キッシンジャーの考えはトランプ政権の外交に反映されるのですから、彼の考えを知っておくことは重要です。

 

キッシンジャーは北朝鮮の「非核化(denuclearization)」を目的としています。そのためには武力行使という選択肢を完全に排除しないとしながらも、交渉を優先するという立場を取っています。そして、キッシンジャーは北朝鮮の体制転換を求めず、核兵器を放棄した場合に、その機に乗じて北朝鮮を攻撃しないということを国際社会が約束することを条件にすべきだと述べています。

 

キッシンジャーは中国の存在と思惑を考慮しながら、アメリカと中国が衝突することなく、非核化(北朝鮮だけでなくアジア地域全体)という共通の目的を達成すべきだとしています。

 

私は北朝鮮という国家は、力の空白の中に存在する稀有な国であると考えています。野球で打球が野手の間に落ちてしまうということがありますが、野手の一人が無理をすれば打球をキャッチできるのに、誰も怖くて無理をしないために結局キャッチできない、ということになります。北朝鮮はまさにこのような打球であると考えます。

 

北朝鮮が存在することで、中国はアメリカと直接陸上で対峙しなくて済むという状況にあります。ロシアも同様です。長年中国の圧力を受けるという歴史を経験してきた朝鮮半島の国家である韓国からすれば、逆のことが言えます。そうした中で、どの国も「北朝鮮は存続して欲しいが、核兵器は持ってほしくない」と考えることになります。

 

私は最近、韓国の大学教員の方と話をしました。北朝鮮について質問すると、「韓国と北朝鮮は、言葉は同じだが、全く異質の国同士となってしまった。これを急に統一することはかえって危険である。韓国には急激な統一に耐えられるほどの経済力もない。また、国民の中にも北朝鮮と統一したいと考える人はそう多くない」と答えました。

 

私の中には、朝鮮半島の分断状態は良くないことなので出来るだけ早く統一すべきだという考えが前提にありましたが、「二国共存状態(two-state solution)」ということも考慮しなければならないのだと考えを改めました。

 

北朝鮮としてはアメリカに対して、体制保障と不可侵を求めています。そのための交渉のカードとして核兵器やICBMを開発しています。朝鮮半島問題について考える場合に、「朝鮮半島は統一されるべきだ、それも韓国に吸収される形でというのが望ましいし、それ以外は無理だ」という考えが前提となりますが、統一ではなく、まずは二国共存で、北朝鮮をより開放された、中国のような国にすると考えると選択肢が広がり、短期的には危機が回避されるではないかと思います。

 

(貼りつけはじめ)

 

「北朝鮮危機をどのように解決するか」

―アメリカ政府と中国政府との間の理解が不可欠の前提条件である。日本政府と韓国政府もまた重要な役割を果たすことになる

 

ヘンリー・A・キッシンジャー筆

『ウォールストリート・ジャーナル』紙

2017年8月11日

https://www.wsj.com/articles/how-to-resolve-the-north-korea-crisis-1502489292

 

30年以上にわたり、国際社会は北朝鮮の核開発プログラムに対して、非難と有罪判決宣告の引き伸ばしという矛盾した対応を取ってきた。

 

北朝鮮政府の無謀な行為は強く非難されている。核兵器開発に向けた動きは受け入れられないという警告が国際社会から発せられている。しかし、北朝鮮の核開発プログラムは加速される一方だ。

 

2017年8月5日に国連安全保障理事会によって北朝鮮に対する制裁決議が満場一致で可決された。これは大きな前進を意味する。もっとも、合意されるべき決議はまだ議論されたままで残っている。しかし、大きな一歩は踏み出された。

 

しかし、北朝鮮は大陸間弾道ミサイルの発射実験を成功させた。これによって、更なるごまかしを行う余地が失われることになった。

 

金正恩が中国とアメリカによる反対と国連安保理の満場一致の制裁決議があるにもかかわらずに核開発プログラムを推進するならば、重要なプレイヤーである諸大国間の地政学的な関係を変化させることになるだろう。

 

国際社会が困惑している間に北朝鮮が全面的な核攻撃能力の開発を完成させてしまったら、アジア地域、特にアメリカの同盟国である日本と韓国におけるアメリカの核の傘の信頼性を一気に失わせるという深刻な事態を招来することになるだろう。

 

北朝鮮は長年にわたり核開発を行ってきた。そして、北朝鮮による核の脅威がアメリカの領土に到達するということになり、北朝鮮の核兵器が存在することによる無秩序が生み出される可能性も出てきている。北朝鮮が実用に耐えるICBMを持つには、弾頭の小型化、ミサイルへの弾頭の設置、複数のICBMの製造が必要であり、これにはしばらく時間がかかる。

 

しかし、アジア諸国は、北朝鮮が既に開発している短距離、中距離のミサイルによる攻撃という脅威に直面している。

 

この脅威が増していくと、ヴェトナム、韓国、そして日本といった国々において自国の防衛のために核兵器を開発するという動機が急速に大きくなっていくだろう。これは、アジア地域や世界全体にとって良くない転換点ということになる。

 

北朝鮮が既に開発した核技術から後退させることは、更なる開発を防ぐことと同じく重要になる。

 

アメリカ単独、もしくは複数の国による対北朝鮮外交はこれまで成功していない。それは主要諸国の目的を一本化させることができないためだ。特に中国とアメリカとの間で北朝鮮の核兵器開発を実際にどのように阻止するかという点で合意が形成されていないためだ。

 

アメリカは北朝鮮に対して核開発プログラムを終了することも求めている。しかし、アメリカからの要求は何らその効果を示していない。軍部を含むアメリカの指導者たちは、軍事力の行使には消極的だ。ジム・マティス国防長官は朝鮮半島における戦争は「破滅的なものとなる」という見通しを述べた。

 

北朝鮮では数千本の大砲が韓国に向けて据えられている。それらは韓国の首都ソウルを射程内に捉えている。これは、ソウルと周辺地域に住む3000万人の人々を人質にとるという北朝鮮の戦略を反映している。

 

アメリカ単独による先制軍事行動は中国との衝突を引き起こすという大きなリスクをはらんでいる。中国は一時的にはアメリカの軍事行動を許容するだろうが、それでも中国の鼻先でアメリカが決定的な結果をもたらそうとする戦略を実行することを我慢して受け入れることはないであろう。1950年代の朝鮮戦争において中国は戦争に介入したという事実は中国がアメリカと衝突する可能性があることを示している。

 

軍事力の使用は注意深く分析されねばならない。そして、軍事力使用に関する言葉遣いもまた抑制的でなければならない。しかし、軍事力の行使の可能性を排除することはできない。

 

これまで述べたような考えを前提にして、トランプ政権は中国に対して、北朝鮮の非核化を実現するための外交的な努力を行わせようと試みている。こうした努力はこれまでのところ、部分的にしか成功していない。

 

中国はアメリカが持つ核兵器の拡散に関する懸念を共有している。実際のところは、中国こそは北朝鮮の核兵器によって最も影響を受ける国なのである。しかし、アメリカは北朝鮮の非核化という目的を明確に示しているのに対して、中国は北朝鮮の非核化がもたらす政治的な結果に直面することを嫌がっている。

 

北朝鮮は核兵器開発プログラムに国の資源の多くの部分を投入している。その割合は国力に釣り合わないものだ。そうした中で、核兵器開発プログラムの放棄、もしくは実質的な削減や後退は北朝鮮国内で政治的な混乱を引き起こし、更には体制転換にまで至る可能性がある。

 

中国はこのことをよく理解している。従って、最近の外交上の大きな成果としては、中国が原則として北朝鮮の非核化を支持しているということを中国が明確に示したことだ。しかし、同時に、北朝鮮国内の分裂や無秩序状態が起きることは、中国にとっての2つの大きな懸念を引き起こす。

 

一つ目の懸念は北朝鮮国内の危機が、中国の政治と社会に与える影響である。中国の1000年に及ぶ歴史で繰り返された出来事が再び繰り返されるのではないかという懸念である。

 

二つ目の懸念は北東アジア地域の安全保障に関するものだ。中国は北朝鮮の非核化に貢献する誘因が存在する。そして、中国としては北朝鮮の非核化から朝鮮半島全体の非核化を行いたいと考えている。現実には韓国には現在のところ、核兵器開発プログラムは存在しない。計画の発表すらない。しかし、国際的な核兵器開発禁止は別の問題となる。

 

中国は非核化につつく北朝鮮の政治的な発展についてもある程度の利害関係を持っている。それは、朝鮮半島において二国共存状態を維持するか、統一を行うか、といことであり、北朝鮮地域における軍事力の展開に制限をするかどうか、ということでもある。

 

これまでのところ、トランプ政権は中国に対して北朝鮮へ圧力をかけるように求めてきた。アメリカは自国の目的のために中国を下請け業者のように扱ってきた。より良い、唯一実現可能なアプローチはアメリカと中国両国の努力と試みを一本化し、共通の立場に立ち、他の国々の参加を求めていくということだ。

 

「我々の目的は北朝鮮を利害関係諸国が参加する会議に出席させることだ」とアメリカ政府は何度も発表している。こうした発表は、交渉こそがアメリカの目的だという前提の存在を反映している。交渉は自国の都合の良いタイミングで行われ、交渉に相手を引きずり出す圧力とは関係なく、交渉は最終的な合意まで続けられるべきだとアメリカは考えている。

 

しかし、アメリカの外交は、過程ではなく、結果によって最終的に判断される。アジア地域の安全保障構造は危機に瀕していると考える国々とって、アメリカが「我々は自国のみの利益を求めない」と繰り返し主張するだけでは不十分なのだ。

 

どの国が、何について交渉すべきなのか?朝鮮半島の非核化にとってアメリカと中国との間の理解と同意は必要不可欠な条件となる。皮肉な展開なのは、現時点の中国がアジア諸国の会兵器開発を阻止することについて、アメリカよりもより大きな関心を持っているかもしれないということだ。

 

中国は「北朝鮮に対する圧力が不十分だ」と非難されてアメリカとの関係を悪化させてしまうという危険に直面している。北朝鮮の非核化には持続した協力が必要である。経済的な圧力だけで非核化を実現することは不可能だ。米中間の非核化以後の事態、特に北朝鮮の政治的な発展と北朝鮮領土内の軍事力展開の制限に対する共通理解と対策が必要だ。このような共通理解がなされても、既存の日本や韓国との間の同盟関係を変化させてはならない。

 

半世紀に及ぶ歴史に照らしてみると逆説的に見えるかもしれないが、このような理解こそが朝鮮半島における行き詰まりを打開する最良の方法なのである。

 

米中が目的を明確とする共同声明を発表し、暗黙の裡の行動を行うことで、北朝鮮は孤立を痛感し、非核化という結果を守るために必要な国際的な保証の基礎が確立することになる。

 

韓国と日本はこの過程において重要な役割を果たさねばならない。韓国以上に北朝鮮の核開発に最初から関与してきている国は存在しない。韓国はその置かれている地理的な位置とアメリカとの同盟関係によって、政治的な結果に対して大きな発言力を持っている。

 

韓国は外交における解決によって最も直接的な影響を受けることになるだろう。また、軍事的な不測の事態が起きた際には最も危険な状態に陥ることになるだろう。アメリカとその他の国々の指導者たちが、北朝鮮の非核化を利用することはないと宣言することは重要だ(訳者註:核兵器を放棄した北朝鮮を攻撃しないという宣言を行うこと)。韓国はより包括的で正式な考えを表明することになるだろう。

 

同様に、日本は歴史的に朝鮮半島とは1000年以上のかかわりを持っている。日本の安全保障に関する基本的な概念に照らすと、日本が自国で核兵器を所有する状態にない中で、核兵器を持つ国家が朝鮮半島に存在することを許容することはないだろう。アメリカとの同盟関係に対する日本による評価は、アメリカの危機管理において日本の懸念をどの程度考慮してくれるかということにかかっている。

 

アメリカと北朝鮮の直接交渉という代替案も魅力的ではある。しかし、アメリカの直接交渉の相手である北朝鮮は、非核化の実行について最も利益を持たず、米中間を離反させることに最大の関心を持つ。

 

アメリカが中国との間で理解を共有するためには、最大限の圧力と実行可能な保証が必要となる。そして、北朝鮮は最終的な国際会議に出席することができるようになる。

 

核兵器の実験の凍結によって最終的な非核化に向かうための一時的な解決が出来ると主張する人々がいる。この主張の通りに行うことは、アメリカとイランとの間で結ばれた核開発を巡る合意という過ちを繰り返すことになるだろう。アメリカとイランの合意は、技術的な側面のみに限定して地政学的な戦略における問題を解決しようというものだ。これが間違いだったのだ。両国の合意は、「凍結」の定義がなされ、調査手続きが確立されたが、核開発放棄の引き伸ばしに対する口実を与えることになる。同じことが米朝間の合意でも起きるだろう。

 

「北朝鮮は手続きに時間をかけて、彼らの真の目的を隠す戦術を取っている。それは、言い逃れや引き延ばし工作をして長年の悲願を達成しようとしている」という印象を持っている人も多いだろう。北朝鮮はこのような印象を人々に持たせるのは得策ではない。段階的なプロセスを踏むということは考慮するに値するアイディアかもしれないが、それはあくまで北朝鮮の核兵器能力と研究プログラムを短期間のうちに実質的に削減することにつながるものである場合に限られる。

 

北朝鮮が一時的にも核兵器能力を保持することは、永続的な危険性を構造化してしまうことになる。その危険性は次のようなものだ。

 

・貧しい状態にある北朝鮮が核技術を他国に販売することになるかもしれない。

 

・アメリカの北朝鮮の非核化に向けた努力が自国の領土を守ることにばかり集中し、実際に北朝鮮の核の脅威に直面しているアジア地域をほったらかしにしているという印象を与えてしまうことになる。

 

・他国も北朝鮮、相互、そしてアメリカに対抗し、抑止するために核兵器開発を行う可能性も出てくる。

 

・非核化交渉が進まないことに対する不満が中国との間に争いを激化させることになる。

 

・核兵器の拡散はその他の諸地域で加速するだろう。

 

・アメリカ国内で行われる議論はより対立的なものとなるだろう。

 

非核化に向けた実効性のある進歩、それも短期間での非核化こそが最もよく考えられた慎重な望ましい方向ということになる。

 

※キッシンジャー氏はニクソン政権とフォード政権で国務長官と大統領国家安全保障問題担当補佐官を務めた。

 

(貼りつけ終わり)

 

(終わり)



アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12


アメリカの真の支配者 コーク一族
ダニエル・シュルマン
講談社
2016-01-22

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 古村治彦です。

 

 今年に入ってから、北朝鮮のミサイル発射が大きな問題になっています。最近では、大陸間弾道弾(ICBM)の開発に成功したのではないか、これでアメリカ本土も攻撃圏内に入ったのではないかと言われています。

 

 北朝鮮に関しては、直接的な利害を持つ国として、韓国、中国、ロシア、日本、アメリカが挙げられます。これらに加えて北朝鮮も参加しての6カ国協議も行われたことがありましたが、現在はその機能を停止しています。北朝鮮は中露には多少の遠慮がありつつ(それもこの頃ではだいぶ薄れているようです)、「アメリカとだけ交渉する」という態度を取っています。日韓に関してはアメリカに追従するしかないと見ているようで、それはまさにその通りです。

 

 アメリカは中国に対して、「北朝鮮を何とかしてくれ」と再三にわたって要請していますが、中国としては、北朝鮮に潰れてもらっては困りますし(朝鮮半島が韓国だけになってしまうと、北朝鮮地域に米軍基地が置かれてしまう心配がある)、急に貿易を止めてしまって北朝鮮を自暴自棄にしてしまうと迷惑を蒙るのは自分たちだと分かっていますから、あまり積極的(アメリカ側の視点からの積極的)には動こうとしません。

 

 ロシアも北朝鮮と国境を接し、旧ソヴィエト連邦時代からの関係もあります。ロシアは北朝鮮に対しては、アメリカとは異なったアプローチを考えているようです。「北朝鮮がハリネズミのようにミサイルと核開発を行っているのは、アメリカによる軍事的脅威がなくなっていないからだ、それなら、体制転換や軍事介入などの荒療治はしないとアメリカが保証すれば北朝鮮はミサイルや核兵器の開発を止めるだろう」というのがロシアの考え方です。

 

 このような考えに対して、ロシアは無責任だ、という批判もできるでしょう。しかし、北朝鮮と国境を接しているロシアは、北朝鮮で動乱が起きた場合には無傷では済まない可能性がある国です。実際に、日本海側にミサイルが発射されると、日本では日本に向けて発射されたかのように報道されますが、実際にはロシアの領土や領海により近い場所に落ちている場合もあります。ウラジオストックというロシアにとって重要な港湾都市の近くに落ちたこともあります。北朝鮮のミサイルがロシアに向けて発射される可能性もゼロではありません。

 

 しかし、ロシアの対応は非常に冷静です。それは北朝鮮建国以来、北朝鮮をずっと観察してきた情報と知識の蓄積があるからだと思います。そして、金正恩と北朝鮮は合理的な選択ができると考えています。ですから、ミサイルを発射させないうちに取引ができると冷静に見切っているようです。

 

 こうしたロシアの態度と考えを見ていると、アメリカ側がやや慌てて対応しているように見えてしまいます。そして、アメリカの内部に北朝鮮に対して軍事的に介入して押しつぶしてしまいたい、そのためには大変なことが起きても構わないと考えている人々がいるのだろうということが推察されます。ですから、決して、アメリカの攻撃的な言辞だけが北朝鮮に対応する際に正しいものだと考えずに、冷静になってみることも重要であると考えます。

 

(貼り付けはじめ)

 

なぜロシアは金正恩の核兵器について懸念を持っていないのか?(Why Isn’t Russia Worried About Kim Jong Un’s Nukes?

―トランプ政権が北朝鮮との対決の方向へと進む中、ウラジミール・プーティンは戦略的な優位を獲得しようと考えている

 

クリス・ミラー筆

2017年7月17日

『フォーリン・ポリシー』誌

http://foreignpolicy.com/2017/07/17/why-isnt-russia-worried-about-kim-jong-uns-nukes/?utm_content=buffer09f90&utm_medium=social&utm_source=facebook.com&utm_campaign=buffer

 

7月4日はアメリカの北朝鮮政策にとって良くない日となった。それは、北朝鮮が大陸間弾道弾の発射を成功させたからではなかった。この日、ロシア大統領ウラジミール・プーティンと中国国家主席習近平がモスクワで首脳会談を行ったのだ。2人は共同で朝鮮半島の緊張を激化させないように支援するという声明を発表した。声明によって、北朝鮮の核兵器とミサイル開発の凍結と米韓両軍による大規模な軍事演習の中止が結び付けられることになった。

 

アメリカ政府は中露両国とは異なるアプローチを主張し続けている。アメリカ政府はこれまでの数カ月、北朝鮮の核開発プログラムとミサイル開発プログラムを停止させるように中国に対して、プレッシャーをかけるような声明を次々と発表してきている。先週、ドナルド・トランプ政権が、中国の行動が北朝鮮の核問題を解決できないようであれば、アメリカ政府は北朝鮮とビジネス関係を持っているという疑いのある中国の個人や企業に対して経済制裁を科すと主張し始めた。

 

しかしながら、トランプ政権は問題解決のためロシアも参加させようと努力している。今年5月、北朝鮮がロシアの太平洋岸の港湾都市ウラジオストック方面にミサイルを発射した後、トランプ政権は声明を発表し、その中で次のように述べた。「ロシアの領土の間近にミサイルが発射された。実際のところ、日本よりもロシアの領土に近いところにミサイルは落ちた。米国大統領はロシア政府がこのことを喜んで受け入れることを創造することができない」。

 

実際のところ、ロシア政府は北朝鮮のミサイルについてそこまで懸念を持っていない。もちろん、ロシアは朝鮮半島の非核化を望むであろう。ロシアは、朝鮮半島の緊張状態を解決する唯一の手段は北朝鮮と交渉し、金正恩体制に対して安全保障上の保証を与えることだと確信を持っている。ロシア政府は北朝鮮の核開発プログラムに制限を設けることを支持している。しかし、経済制裁については懸念を持ち、体制転換については明確に反対している。このロシアの態度はアメリカの考えとは一致していない。そして、国際的な努力に対する大きな障害となっている。

 

ロシアが北朝鮮に対してより懐柔的な政策を望む理由としてはまず自己利益が挙げられる。今年5月、北朝鮮がウラジオストック方面にミサイルを発射したのと同じ週、北朝鮮はウラジオストック向けの新しいフェリーを就航させた。

 

北朝鮮はイデオロギー的に自立圏を必要としているが、北朝鮮とロシアとの間の経済関係は驚くべき程に深い。両国は石炭や石油といった産品を交易しており、これはエネルギー不足に悩む北朝鮮にとって価値のある貿易となっている。統計上の数字は明らかになっていないが、ロシアには北朝鮮からの留学生が数多く学んでいるし、ロシア極東地方では北朝鮮出身の非熟練労働者たちが働いている。 ロシアと北朝鮮の経済関係の規模は限定的なものとなっているが、アメリカの制裁が解除され、北朝鮮政府が経済の開放を決定すれば、貿易額は増加すると考える専門家たちもいる。

 

ロシアが北朝鮮に対してより懐柔的な姿勢を取っている主要な理由は、ロシア政府の最高幹部たちが、北朝鮮の行動について、アメリカやアメリカの同盟諸国とは大きく異なる解釈をしているからである。ロシアはアメリカに比べて、より長い期間にわたり、北朝鮮を支配する金王朝について楽観的な見方を保持してきた。ロシアもまた短い距離ではあるが、北朝鮮と国境を接している。冷戦初期、北朝鮮とロシアは共産主義という信念を共有していた。しかし、イデオロギー上の連帯は遠い昔に既に消え去ってしまっている。

 

ロシア政府首脳たちは、金王朝は奇妙ではあるが、合理的でもあるということを確信している。しかし、ロシアの北朝鮮専門家たちは、「金正恩はミサイルや核兵器を攻撃的に使えば、アメリカによって核兵器による反撃を受け、自分は殺され、北朝鮮は亡ぼされることを知っている」と考えている。ロシアから見れば、 相互確証破壊の論理は冷戦期において核兵器の使用を思いとどまらせたが、これは現在でも北朝鮮からの攻撃を防ぐためには有効である、ということになる。従って、ロシアの専門家の多くが、北朝鮮の核開発プログラムは、北朝鮮が安全保障化に関してより自信を持たせ、アメリカが北朝鮮に対して軍事攻撃を行うことを差し控えさせるので、状況を安定させることに貢献すると主張している。

 

ロシア政府は北朝鮮問題についてアメリカ政府とは異なる立場をとるいくつかの理由が存在する。中国と同様、ロシアも北朝鮮政府がアメリカと同盟関係にある統一された朝鮮(韓国)に取って代わられることが利益とはならない。ロシア政府は中国政府と一緒になって、アメリカによる韓国国内のミサイル防衛システム配備を批判している。アメリカが東アジアに集中する限り、アメリカは旧ソヴィエト連邦地域の争いに注意を向けなくなる。旧ソヴィエト連邦地域は現在でもロシア政府にとって最重要地域である。こうした点から、北朝鮮に対して、ロシアはアメリカとは全く異なる立場をとることが容易いのである。なぜなら、金王朝の非妥協的な態度に対するアメリカ側の不満の多くは、中国に向けられるからだ。

 

ロシアからすれば、アメリカは朝鮮半島の緊張状態に関して、少なくとも北朝鮮と同程度の責任があるということになる。この考えからすると、金王朝の兵器開発プログラムは自己防衛が主たる理由ということになる。 ロシアの外交政策の著名な専門家であるフョードル・ルキアノフは「北朝鮮はたいていの場合、率先した行動よりも対応的な行動を行う。サダム・フセインとムアンマール・カダフィに何が起きたか、そして、脅しは決して賢いやり方ではないということを彼らの運命が示していることを北朝鮮は理解している。そこで彼らは核開発プログラムとミサイル開発プログラムを進めている。核とミサイルの存在によって、北朝鮮に対する外国からの介入は受け入れがたいほどに高い代償を支払うことになる」。ロシアの専門家たちの多くは、アメリカが体制転換という脅威を与えなければ、北朝鮮は何をおいても核兵器の開発をしなくてはならないと考えなかっただろうと主張している。

 

北朝鮮の核開発プログラムが存在する以上、トランプが発した北朝鮮に対する米軍の軍事攻撃という脅しは、北朝鮮からの脅威と同じほどに危険なものだとロシアは考えている。あまり言及されていないが、北朝鮮の持つ通常兵器の多くは韓国の首都ソウルを射程内に入れている。ロシアからすれば、軍事行動ではない経済制裁でも、北朝鮮が核兵器取得を目指す論理を変えることはないということになる。ただ、経済制裁によって実験や更なる開発は凍結できるかもしれないとは見ている。北朝鮮は既に、大規模飢饉と経済破綻があっても生き残ることができることを示した。ロシアの専門家たちは次のように問いかける。「アメリカは、より厳しい経済制裁を科すことで北朝鮮が核開発プログラムを放棄すると説得できると考えている。核兵器は北朝鮮がアメリカからの攻撃に対して唯一対抗できる防御策であるのに。アメリカはどうしてこんな考えをするのだろうか?」。

 

核開発プログラムをまず放棄させるという考えはアメリカの行動における重荷となってしまっている。ロシアの専門家たちは、アメリカが朝鮮戦争を最終的に終結させる平和条約に署名しておらず、現在も北朝鮮に軍事的脅威を与えている、と指摘している。今週、北朝鮮がミサイル実験を行った後、プーティンは北朝鮮を非難することを差し控え、中国が北朝鮮とアメリカ双方にこれまでの流れを変えるように訴えたことを支持した。

 

アメリカ政府は、中国が北朝鮮に対して圧力をかけてこれまでの流れを変えようとしないことやその能力に欠けていることに対して、不満を募らせている。そして、その他の選択肢に方向転換しつつある。北朝鮮にアメリカを攻撃できる可能性を持つミサイルの開発とテスト継続させることは訴える力を持たない選択肢である。特に、トランプ大統領が、北朝鮮の核兵器がアメリカに到達することは「起こらない!」と述べた後では、そうだ。北朝鮮の核兵器を除去するために軍事面から圧力をかけることは、韓国や日本を巻き込むより広範囲な戦争を引き起こすリスクを持っている。

 

アメリカ政府が朝鮮半島における目的を軟化させ、北朝鮮の核開発プログラムを受け入れ、北朝鮮に対して安全保障上の保証を与えるならば、ロシア政府は北朝鮮が武器の実験とミサイル開発を止めるように圧力をかけることに参加するかもしれない。しかし、アメリカ政府が軍事力による解決や体制転換を選択肢として残す限り、ロシア政府は批判の矛先を金正恩ではなく、ドナルド・トランプに向けるだろう。

 

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金正恩は、クーデターを予防するための最も信頼を置ける方法は、恐怖であると確信しているようだ。彼は軍部と警察に対するこれまでにない大幅な粛清を行ってきた。有名な将軍たちがひとり、またひとりと公の場に姿を見せなくなり、参謀総長のような最高司令官たちや国防大臣が処刑された。

 

最近起きた金正恩の異母兄である金正男の殺害事件は、選択的なテロのパターンに合致するものである。金正恩は、エリートたちの不満を糾合できる存在は誰でも粛清する決心をしている。金正男は公の場で発言することがあり、金正恩のコントロールの中で生きていた。彼の存在は脅威であった。金一族の一員として、金正男は共同謀議で担ぎ上げられる存在となる可能性が高かった。彼は金一族の正統性を保つ人物であったし、多くの北朝鮮国民には不思議なオーラをまとう人物であった。金正男が中国の庇護を受けていたことは助けにならなかった。金正恩は中国を信頼しておらず、エリート内の不平葉を糾合する手助けをする可能性のある国だと考えている。

 

重要な点は、金正恩は非合理的な恐怖支配を指揮監督しているのではないということだ。一般的な北朝鮮国民が政治犯罪で逮捕される可能性が高まっている兆候はない。政治犯の数はきわめて多い。しかし、金正男の統治下、この数字は変化していない。祖父金日成時代と比べれば、その数はかなり少なくなっている。顕著なのは、粛清の対象が軍部と治安担当部門の最高幹部、「銃を持っている人々」に限られていることだ。経済部門の最高幹部たちの身の安全は保障されている。

 

言い換えるならば、金正男は、むきだしの恐怖を、彼を追い落とす理由と手段を持つであろう人々に向けているのだ。彼のやり方は過激であり、野蛮であるが、政権維持という点では非合理的ではない。金正恩はクーデターの成功の可能性をまずゼロにしようとしているのだ。

 

しかし、将軍たちが金正恩を追い落とすことはないだろう。三番目の脅威は、人々の反乱と蜂起だ。北朝鮮の最大にして唯一の問題は、低迷を続ける経済だ。1940年代、北朝鮮は、東アジア地域に置いて、日本を除いて、最も工業化が進んだ国であった。しかし、数十年間の運営の失敗のために、最も遅れた国となってしまった。北朝鮮と韓国の1人当たりのGDPの比率は、国境を接している2国間関係の中で最も大きいものとなっている。その比率は1対14とも1対40とも言われている。東ドイツと西ドイツの比率は1対2、もしくは1対3であった。

 

両国間の経済格差は大きい。これは、中国式の経済改革を進めようとする際の大きな政治的障害となる。中国の共産党政権は幸運であった。中国は隣に繁栄した資本主義で民主政体の同族国を持っていない。台湾は小さすぎて政権転覆の脅威とならない。北朝鮮で中国の「改革開放」政策を模倣する試みがなされれば、現在は外界から孤立させられている国民たちが韓国の信じられないほどの豊かさを認識するようになり、権威を恐れなくなる可能性がある。普通の国民は、数十年にわたり、国内の経済運営の失敗について金一族を非難してきた。そして、一晩で全ての問題を一気に解決する手段として、韓国政府主導で北朝鮮の韓国への速やかな統合を夢見るようになっている。その結果として、北朝鮮では、資本主義への移行への試みは中国式の経済ブームをもたらす可能性は低いということになる。 それよりも、韓国による急襲によって、東ドイツのような政治的な崩壊をもたらす可能性が高い。現在の北朝鮮のエリートたちは生き残ることが出来ても、完全に今の地位からは追われてしまうことになるだろう。

 

金正恩の父親である故金正日はこの脅威を認識していて、時代遅れのスターリン主義的システムが崩壊しつつあっても改革の導入を慎重に避け続けた。しかし、北朝鮮の市場経済は成長し始めていた。金正日の政権末期、民間ビジネスは非合法であったが、黙認されていたが、この部門は国家のGDPの25%から40%を占めると推計されていた。金正恩は、長期的に見て、「下からの資本主義」が自発的に始まってしまい、これによって彼の支配が打撃を受けることになることを恐れている。しかし、彼は父親とは違う政策を採用している。2012年から2014年にかけて、金正恩は1980年代に中国が採用した諸政策を次々と採用し始めた。

 

農業は家族を基盤としたシステムに移行している。農家では実物税を収めた後の収穫物のほとんどを保有することを許されるようになっている。実物税の税率は上限35%である。工業部門の管理職クラスは、ビジネス上の自由を認められるようになっている。市場価格で売買する権利や従業員の雇用と回顧の権利が認められている。民間の実業家たちと裏市場の運営者たちは、罰せられる危険性がなくなり、政府機関と協力して投資をするように促されている。彼らは数百ドル、数千ドルの規模から、数百万ドルの資金を持つ人たちまでいる。

 

この政策は経済の回復をもたらそうとしている。全員が一致しているわけではないが、専門家たちのほとんどは、ここ最近の北朝鮮の年間GDP成長率は3%以上を記録している。飢饉が席巻した時代は終わった。ピョンヤンだけでなく、北朝鮮全体で生活水準は上昇している。民間の資金が建設ブームを牽引しており、商店やレストランは新興の富裕層でいっぱいである。交通渋滞についても、以前はピョンヤンでも見られることはほぼなかったが、現在は大きな問題になりつつある。

 

しかし、こうした市場志向の改革は政治的な自由化によってもたらされている訳ではない。文化とイデオロギーの分野では、「北朝鮮化されたスターリン主義」は最高の価値とされている。また、北朝鮮は世界の中で政治犯の人口における割合が最も高い国だ。人口わずか2500万の国で約8万人の政治犯がいる。金正恩は経済成長と厳しい監視体制を組み合わせることで国民を従順にしようとしている。これは最終的に失敗する試みとなるだろう。しかし、合理的ではある。東アジアの「開発独裁主義」の創始者たち、中国の鄧小平、台湾の蒋介石、シンガポールのリー・クワン・ユーは幸せな最期を迎え、国民たちからの賞賛を受けた。

 

金正恩の時に野蛮に見える合理的な政策は、長期的に見て、政策を安定させることに成功するだろうか?彼の政策のほとんどはリスクを伴うものだ。核開発競争はアメリカによる先制攻撃を誘発する可能性がある。将軍たちに対する厳しい姿勢は政権転覆の共同謀議に走らせる可能性を高めることになるだろう。経済改革は金正恩の統制に服さない社会的な勢力を生み出す可能性もある。しかし、リスクが高いということと非合理的であるということはイコールではない。これまでのところ、金正恩の諸政策は機能しており、北朝鮮の指導者たちは自分たちの置かれている状況を認識しており、それら以外の選択肢はよりリスクが高いものとであると分かっている。これらの政策が機能するということは、世界はこれからも長期にわたって金一族と共存していかねばならないということだ。金一族はどのように生き残るかを知っており、これからもそれを実行していくことだろう。

 

これは私たちにとってどのような意味を持つだろうか?第一に、この問題は一気に解決することは不可能だということだ。北朝鮮の非核化は不可能だが、核開発プログラムを監督すること、更なる開発に制限をかけることは可能である。核開発によって抑止力を持つことができ、自分たちにはそれが必要だと金一族は考えている。もちろん、北朝鮮国民は、核開発プログラムの凍結によって寛大な条件を手にできると期待しており、核開発に固執してはいない。

 

外部の世界は、肯定的な変化を促すことができるし、そうすべきだ。その一つが経済成長であり、現在の北朝鮮で起きていることだ。まとめると、世界は北朝鮮国民が情報に接することができるようにすべきなのだ。北朝鮮にとって最も希望に満ちた将来は、下からの圧力による変化である。金政権が生き残りのために人々との間で妥協をする必要を感じるか、金政権の完全な打倒となるかはともかく、国境の外の暮らしを知った人々による圧力で変化すべきだ。金一族は、北朝鮮の国民が合理的であるように、おそらく合理的であるだろう。

 

(貼り付け終わり)

 

(終わり)





アメリカの真の支配者 コーク一族
ダニエル・シュルマン
講談社
2016-01-22



 

 古村治彦です。

 

 今回は北朝鮮についての優れた分析記事を皆様にご紹介します。その内容は、北朝鮮は、金一族の生き残りのために合理的に動いており、ただ狂っていると非難しているだけでは問題は解決しないというものです。そして、北朝鮮の核開発問題を一気に解決する方法は存在せず、漸進的に対処していくしかないとしています。

 

 金正恩は経済改革を進めつつあり、経済制裁が科されている中で、経済成長が3%以上になっており、国民の生活水準が向上していると著者のランコフは指摘しています。そして、金正恩は、自分に対してクーデターを仕掛ける実行力、武力を持つ軍の最高幹部や治安部門のトップに対して粛清を行うことで、恐怖感を与え、クーデターが起きないようにしているということです。

 

 北朝鮮を3代にわたって支配している金一族(金日成、金正日、金正恩)は生き残りのために動いていることがよく分かります。ですから、彼らの生き残り(政治的、物理的[肉体的])ということを考えていけば、北朝鮮に対処することはそれほど難しいことではないし、ただ、おかしい、狂っているとして話も聞かない、攻撃あるのみとするのは問題解決につながらないし、かえって東アジア地域を不安定化させることになると思います。

 

 北朝鮮が合理的なアクターであることをトランプ大統領も分かっていて、硬軟取り混ぜた対応で交渉を行おうとしています。官民、頭がよさそうなインテリでも、ただ厳しいだけの単細胞的な対処をしようとしているのは日本というのが何とも悲しい話です。「暴戻支那を膺懲す」という時代から余り賢くなっていないようです。

 

(貼りつけはじめ)

 

金正恩は生き残りのために動く人物であって、狂人ではない(Kim Jong Un Is a Survivor, Not a Madman

 

北朝鮮の行動は外国人からすれば非合理的に見えるだろう。しかし、金体制は、生き残りのために論理的な行動を取っているだけなのだ

 

アンドレイ・ランコフ筆

2017年4月26日

『フォーリン・ポリシー』誌

http://foreignpolicy.com/2017/04/26/kim-jong-un-is-a-survivor-not-a-madman/?utm_content=buffer1fc93&utm_medium=social&utm_source=facebook.com&utm_campaign=buffer

 

あらゆる人々が北朝鮮は狂っていると考えがちだ。北朝鮮は週2回のペースでアメリカを核攻撃で焼き尽くすと脅しの言葉を吐いている。北朝鮮の指導者は将軍たちを無慈悲に処刑し、兄を殺害させた。北朝鮮は破綻した経済モデルに固執しながら、莫大な資金を核兵器開発に浪費している。北朝鮮の狂気の記事は新聞や記事のフロントページを飾っている。

 

問題は、メディアが北朝鮮政府と金正恩を非合理的だと描写していることではなく、アメリカの政治家たちがメディアと同じ行動を取っていることだ。2017年4月、アメリカ連邦下院議員ブラッドリー・バーン(アラバマ州選出、共和党)は、「私には北朝鮮の指導部は合理的だとは思えない。非合理的な誰かに対してどのように対処できるか?」。彼は米国連大使ニッキー・ヘイリーの発言を繰り返しているだけのことだ。ヘイリーは「私たちは合理的な人物に対処していない」と発言した。ヘイリーは、金正恩について、「合理的な行動を取らない人物であり、明確な思考をしない人物」だと述べている。

 

北朝鮮を理解するための手引きとしては、このような分析はただただ間違っている。北朝鮮に対する政策作りの手引きとしては、このような分析は破滅的な結果をもたらすだろう。 北朝鮮のシステムは外国にいる私たちから見れば奇妙奇天烈なものに見えるが、金一族は政治的に見て、最終的に生き残ってきた一族である。冷徹なまでのリアリストたちであって、彼らの行動は常に明確な目的を持っている。それは、一族が権力の座に居続けることである。彼らを狂人たちだと考えるのは間違っているだけでなく、危険でもある。政策が成功するためには、自分たちの反対の立場の人々の論理を理解することが基礎になっており、非合理的だと切って捨てていては成功などおぼつかない。金一族を核兵器を持った狂人たちと見ることは、彼らがより驚異的な存在だと考えてしまうようになる。そして、戦争勃発のリスクを高めてしまう。更には、北朝鮮が「正気になった」時にだけ、妥協が成立するという非現実的な期待感だけが高まることになる。

 

1980年代、金一族は味方であるはずの東側世界においても、スターリン流の非合理性を体現しているとして嘲笑の的となっていた。金一族は、時代遅れの個人崇拝にこだわっており、経済運営に失敗し、ハンガリーの改革志向の指導者グロース・カーヌイのような東欧諸国の新しい考えを持つ指導者たちを見習うべきだと批判されていた。今日、東欧の指導者たちは歴史のゴミ箱に投げ込まれている。彼らは指導者の地位を追われ、侮蔑され、忘れ去られた。一方、金一族は権力の座をいるだけでなく、それにともなる豪奢な生活を楽しみ、北朝鮮を完全にコントロールしている。

 

確かに、これまでの25年間は簡単な道のりではなかった。大規模な飢饉によって国民が塗炭の苦しみを味わい、友好国を失い、中国も支援に腰が引けるようになり、世界唯一の超大国と対立するようになった。こうした連続的な危機の中で、金一族は生き残らねばならなかった。金一族は生き残ってきた。これは彼らが合理的で冷酷な行動を取ることの徴候であると考えるべきなのだ。

 

現在のところ、金正恩は抑制的だ。また、彼は祖父、父と同じく長期的な責務を担っている。それは、彼自身と彼の子孫の統制下で政権の存続を確かなものとすることである。一族の生き残りには3つの脅威が存在する。金正恩の政策から判断すると、彼はこれらの脅威を認識しているだけでなく、無効化しようと努力している。

 

第一の脅威は外国からの攻撃だ。彼の父親同様、金正恩もまたこれを大変に懸念している。これは誇大妄想と言えるかもしれない。しかし、諸外国が自分を狙って出てくるとなると、誇大妄想とは言えない。サダム・フセイン、アフガニスタンにおけるタリバンの指導者たちの運命を考えれば分かる。イラクとアフガニスタン、そして北朝鮮は、アメリカ政府によって、ひとつのグループとして扱われてきた。しかし、リビアのムアンマール・カダフィの悲運が金一族にとって最も重要な教訓となっている。2003年、リビアの指導者カダフィは、西側諸国との間で、核兵器開発プログラムの放棄し、その見返りに寛大な経済援助を受けることに合意した。アメリカと対立してきた国によってこのような妥協がなされたのはリビアが最初であった。

 

2011年にリビアで革命が勃発し、カダフィ政権を滅亡に追いやったのは、NATOによる飛行禁止区域設定であった。この物語の結末は、自動車のボンネットの上に打ち捨てられた毀損されたカダフィの遺体であった。

 

10年前、アメリカの外交官とジャーナリストたちの間では、リビアの核開発放棄合意について喜びがあふれた。彼らは異口同音に「北朝鮮の指導者たちもリビアの教訓から学ぶべきだ」と語った。彼らは実際の結末とは全く異なるバラ色の結末を想定していた。

 

金正恩は核開発プログラムを純粋に防衛上の施策だと考えている。韓国への進攻は、理論上は可能なものと言える。しかし、韓国への進攻は金正恩の手に負えないものである。アメリカは韓国防衛の責任を負っているし、韓国も経済と技術上の力の優位を持っている。金正恩は、北朝鮮が韓国、もしくはアメリカを攻撃すれば、悲劇的な結末を迎えることになることを分かっている。おそらく自分は殺害されるだろうと考えている。金正恩は自殺志願者ではない。しかし、金正恩は、アメリカは、核保有国、特にミサイル能力と第二次攻撃能力を持っている国を攻撃しないだろうし、アメリカのトランプ政権は内部闘争に明け暮れており、北朝鮮に関わっていられないのだと主張している。

 

従って、北朝鮮の指導者たちは核開発にこだわらねばならないと確信している。そして、核兵器は国家安全保障を担保する存在になると考えている。彼らを説得して考えを変えさせることができる圧力の形態は存在しない。いかなる圧力をかけても彼らは考えを変えない。彼らに提案を受け入れさせるための約束は存在しない。北朝鮮の指導者たちは核兵器がなければ死んだも同然だと確信している。これは北東アジア地域にとって厄災であるが、金一族は完全に合理的な選択ということになる。

 

北朝鮮の核開発プログラムは防御を目的とするものだが、世界に向けて、自国の存在を認識させ、「マッドマン戦略」とリチャード・ニクソン大統領が呼んだ戦略を使っていることは合理的な行動だ。「マッドマン戦略」とは、敵に対して自分のことを非合理的で、爆発しやすく、コストを無視する存在だと考えさせる戦略だ。そのために、北朝鮮のプロパガンダは様々な激しい言葉遣いになるのだ。北朝鮮のテレビ番組では、「ソウルを火の海にする」、オーストラリアのキャンベラを核攻撃する、アメリカの地図に核攻撃の標的となる各都市を示し、その前に金正恩の姿を重ね合わせて放送しているが、ただひとつのメッセージを発信している。それは、「私たちはここにおり、私たちは爆発する、敵たちが脅威を与えるならば行動することを躊躇しない」というものだ。

 

核兵器がなければ、金一族はアメリカからの直接攻撃を懸念することになる。しかし、彼ら同時に、北朝鮮内部の反乱にアメリカ、もしくは中国が介入してくるのではないかと心配している。彼らはリビアで起きたことを認識している。リビアでは西側の諸大国が飛行禁止区域を設定し、反乱勢力の勝利を手助けした。彼らはまた、1956年に中国が当時のソ連と協力して金日成を失脚させるための共同謀議を支援したことを記憶している。この試みは失敗した。金日成は現在の最高指導者である金正恩の祖父だ。

 

金正恩の別の非合理的に見える政策は防御的なものと考えるべきだ。核兵器は政権の防衛のための十分条件にはならない。核兵器があれば外国からの攻撃を防ぐことができるかもしれないが、国内の軍事クーデターの危険を除去することはできない。金正恩はまだ若年で、将軍たちが彼に対して、若年と経験のなさから悪感情を持っていると疑ってしまうのは自然なことだろう。金正恩は父親の急死のわずか1年前に後継者に仕立てられたが、その当時、その存在は全く知られていなかった。金正恩は、非民主的な国家でクーデターが起きることは常態であり、成功するケースが多いということを認識しているのは間違いない。最新の研究によると、1950年から2010年にかけて世界中で発生した457回のクーデターのうち、227回は成功したということだ。227回の成功例のうち、2回は北朝鮮が最も注目している国で起きた。韓国だ。

 

(貼り付け終わり)

 

(続く)





アメリカの真の支配者 コーク一族
ダニエル・シュルマン
講談社
2016-01-22





アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12





野望の中国近現代史
オーヴィル・シェル
ビジネス社
2014-05-23


 

 古村治彦です。

 

 今回は北朝鮮に関する論稿をご紹介します。金正恩が公の場に姿を見せなくなったことで欧米のメディアでは、北朝鮮の不安定化を懸念する声が上がっています。そのことを示す論稿です。

 

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一枚の絵から見る、北朝鮮の金正恩が権力を掌握する必要がある理由(One image shows why we need North Korea’s Kim Jong-Un in power

 

スー・チャン(Sue Chang)筆

2014年10月6日

MarketWatch

http://blogs.marketwatch.com/themargin/2014/10/06/one-image-that-shows-why-we-need-north-koreas-kim-jong-un-in-power/?link=sfmw_fb

 

 金一族は三世代にわたって北朝鮮において権力を掌握してきた。金一族が支配してきた北朝鮮は、天然資源の豊かな国家という地位から世界でも最も貧しい国の一つへと転落した。

 

 現在の最高指導者である金正恩が入院し、経験不足の妹である金汝貞が国家を運営していると報告されている。金正恩は2011年に父の跡継ぎとなり権力を掌握し、3年しか経っていないが、既に権力継承に関する疑問が出ている状況だ。

 

 北朝鮮はジョージ・オーウェルの小説に出てくるような国家であり、情報を得ることが難しく、分析も困難だ。この非合理的な破綻国家は韓国と日本に対して好戦的であるが、これだけが北朝鮮を非難する理由ではない。アメリカはこの孤立した国家が核兵器開発能力を手にすることを恐れているのだ。

 

 金正恩の健康回復により時間がかかり、権力の座に戻ることが遅れてしまうと、誰が彼の後に権力を掌握するのかという疑問が出てきて、北朝鮮政治の中心テーマとなる。

 

金正恩の不在が長引くことで無秩序が発生し、様々な派閥が権力を巡って争う可能性が高まり、一方で国際社会が北朝鮮国内の不確実な状況の継続を望まないという状況にある。こうした状況下、アメリカは韓国と日本を軍事的に防衛する義務がある。中国は大国としての地位を守るためにも、裏庭とも言うべき北朝鮮の安定を望む。

 

それでは誰が権力を継承し、国を支配するのか?金一族の家系図を見る限り、金正恩の後継者の有力な候補者は見当たらない。金一族の権力掌握の脆弱さだけが浮き彫りとなっている。

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●金日成(Kim Il-Sung 1912-1994年):金正恩の祖父。金王朝の創設者。北朝鮮の初代国家主席。

 

●金正日(Kim Jong-Il  1941-2011年):金正恩の父。3人の女性との間に5人の子供たちをもうけたと言われている。

 

●金敬姫(Kim Kyong-Hui 1946年―):金正日の妹。夫である張成沢の処刑以降、公の場に姿を見せていない。

 

●張成沢(Jang Sung-Taek 1946-2013年):金正恩の叔父。有る時期、北朝鮮における最も有力な人物の一人。2013年に汚職のために粛清。

 

●金正男(Kim Jong-Nam 1971年―):金正日の長男であり、金正恩にとっては異母兄。父親から後継者として承認されず、現在は事実上の亡命生活を中国で送っていると言われている。

 

●金正哲(Kim Jong-Chul 1981年―):金正日の次男であり、金正恩の兄。彼もまた父親の後継者になることはできなかった。彼についてはほとんど情報がなく、金正恩が権力を掌握してからほとんど公の場に姿を見せていない。

 

●金正恩(Kim Jong-Un 1983年―):現在の北朝鮮の支配者。母親は側室、末っ子であったために、父の後継者になったことは予想外のことであった。

 

●李雪主(Ri Sol-Ju 1986年―):2009年に金正恩と結婚したと言われている。北朝鮮政府から発表された写真を見ると、若く、スタイリッシュな女性である。

 

●金汝貞(Kim Yo-Jong 1987年―):金正恩の妹であり、彼の執政を務めているとも言われている。情報はほとんどなく、最近まで人々の目から遠ざけられた存在であった。

 

●金ジュエ(Kim Ju-Ae 2012年―):金正恩の娘。彼女の存在は昨年北朝鮮を訪問したNBAの元スター選手デニス・ロッドマンによって確認されている。

 

(終わり)









 

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