古村治彦です。

 世界規模での食糧価格とエネルギー価格の高騰は続いている。あらゆる商品の値上げが続き、経済はインフレイション状態になっている。好景気の結果としてのインフレイションならば物価上昇率を給与の上昇率が上回り好循環となるが、日本の場合は給料が上がらない中で物価だけが上がるということになり、人々の生活は苦しくなり、社会は不安定になる。社会が不安定になれば、体制に対する不満から騒擾や暴動、戦争が起こりやすくなるというのは歴史が示している通りだ。

社会不安からの騒擾、体制転換について思い出すのは、2011年の「アラブの春(Arab Spring)」と呼ばれた、アフリカ北部、サハラ砂漠以北(Sub-Sahran)の国々で起きた大規模な反政府デモと体制転換にまで行きついた出来事である。アラブの春によって各国の独裁者たちは排除されることになった。非民主的な体制から民主体制へと移行することを「民主化(democratization)」と呼ぶ。

 民主化というのは素晴らしいもののように思われる。確かに独裁体制や王政の圧政から人々が解放され、人々の意思が政治に反映されるということは素晴らしいことだ。しかし、多くの場合、民主化の陰には大国の思惑がある。現代で言えばアメリカの思惑がある。アメリカはデモクラシーのチャンピオンとして、「世界中にデモクラシーを拡散する」という使命を持っているのだと考える人は多い。そして、「世界中が民主国家になれば戦争は亡くなり平和になる」という「民主平和論(democratic peace theory)」という考えが出てくる。しかし、現実はそのようにはうまくいかない。

アラブの春を例に取れば、一般の人々による自発的な、下からの民主化に向けた動きということになっている。しかし、拙著『アメリカ政治の秘密』(PHP研究所)で明らかにしたように、米国務省とビッグテック(2011年当時にはこの言葉は一般的ではなかった)のツイッターとフェイスブックが関与したものである。計画的なものであった。アメリカは自分たちがみんしゅかしたいと考える国々の社会不安を利用する、もしくは社会不安を引き起こすということをこれまでやってきた。

 今回のウクライナ戦争をきっかけにエネルギー価格や食料価格の高騰が続いている。これらによって対ロシア制裁に踏み切った先進諸国内での人々の生活は苦しさを増している。日本でもあれだけ暑かった夏も過ぎ、朝晩は涼しい、もしくは寒いということになっている。ヨーロッパ諸国では例年天然ガスの価格が安い夏に冬に備えて備蓄するということが行われていたが、今年の夏はそれができなかった。今年の冬がどのような寒さになるかは分からないが、降雪地帯も多いヨーロッパ各国では厳しい冬を迎えることになるだろう。人々は自衛策として薪を貯蔵しているという話も報道されている。

 先進諸国が対ロシア経済制裁を行えばロシアはすぐに屈服するという楽観的な見通しは外れて、先進諸国の国内で不満が醸成され、社会不安が起きるような状況になっている。各国で民主化を起こす前に、自国の政権がどうなるかが分からない状況になっている。アメリカでは大統領を出し、連邦上下両院で過半数を握っている民主党に対して、11月の中間選挙で厳しい判断が下されることになる。

 日本でもあれだけ盤石と見えた自民党に対しての逆風が吹いている。岸田文雄政権の支持率が低迷している。これは、安倍晋三元首相の国葬魏の強行、統一教会と自民党との深い関係、東京オリンピックでの汚職捜査の進展、これらに加えて、人々の生活に不安感が増している状況で冬を迎えるという状況がある。

 ロシアとの関係を維持している新興国や発展途上国は少なくとも天然ガスに関しては、先進諸国よりもずっと有利な立場にいる。現物を握っている方が強いということ、先進諸国の自分たちへの過大評価と西側以外の国々(the Rest)への過小評価が一緒になって現在の状況を作り出している。先進諸国内で政情不安が起きないとも言えない。「他人の心配をしている場合か」ということだ。

(貼り付けはじめ)

食糧価格の高騰で独裁国家が崩壊した時の準備はできているのだろうか?

デイヴィッド・A・スーパー筆

2022年8月23日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/opinion/international/3611666-are-we-ready-for-when-dictatorships-implode-over-rising-food-prices/

ロシアがウクライナに侵攻し、世界有数の農業国である2つの国へのアクセスが阻害されたことで、世界中で食料価格が高騰している。戦闘当時両国が輸出していない商品も、入手できなくなった小麦やひまわり油で代用され、より高価になっている。さらに、エネルギー価格も高騰しているため、多くの発展途上国では、食糧が必要な時期に、食糧に使えるお金がさらに少なくなっている。

歴史上、食糧価格の高騰は、安定した専制君主(despots)に対する民衆の反乱を数多く引き起こしてきた。腐敗した政権に異議を唱えれば弾圧を受ける恐れがあった人々が、家族を養えなくなると怯え、捨て鉢になるのである。このような国民の怒りの爆発がいつ起きてもおかしくない状況にある。

残念ながら、私たちの短絡的な政策が、これらの国々の多くで民主化運動を迫害し、しばしば民主化を挫折させる一因となっている。世俗的な民主政体を求める野党の指導者たちは、民衆の反乱を指導し、怒りを前向きな方向に導くことができるだろう。もし私たちがこうした勇気はあるが困難な状況にある、人々を積極的に擁護し始めなければ、いかなる動乱も不寛容な宗教的過激派や、新世代の腐敗した日和見主義の専制君主に乗っ取られる可能性が高いだろう。

10年前の「アラブの春(Arab Spring)」革命は、専制君主制の民主化と近代化(to democratize and modernize)を目指したものと広く受け止められているが、そのきっかけはパン価格の高騰であった。エジプト革命の主要なスローガンは「パン、自由、社会正義(Bread, Freedom, and Social Justice)」であった。失業率が上昇し、食品価格が18.9%に上昇した時期に、国から補助されたパンが不足したことが、人々を街頭に繰り出させることになった。同様の価格高騰は、アラブの春以降、各地で反乱の引き金となった。

豊かな欧米諸国は、発展途上諸国の経済的に不安定な人々にとって食糧価格の重要性を過小評価しがちである。特に抑圧的な政権の下で家族を養うのに苦労している人々は、政治は自分たちにはできない贅沢だと感じているかもしれない。しかし、食糧価格が高騰すると、彼らは街頭に立つしかないと感じるかもしれない。

エジプトほど、ポジティヴな方向にもネガティヴな方向にも導く可能性を秘めた国はないだろう。エジプトは世界のアラブ系人口の約4分の1を擁し、軍事、政治、文化、宗教の分野で重要な役割を担っている。また、エジプトは小麦の輸入大国でもある。

数十年前、アンワル・エル=サダト大統領は、民衆の怒りで政権が倒れそうになった時、パンの値上げを撤回した。それ以来、歴代政権は低所得者層が利用できるように、基本的なパンの価格を低く抑えている。

汚職と新型コロナウイルス感染拡大によってエジプト経済がボロボロになる中、現大統領のアブドルファッターフ・アッ=シシ将軍は昨年、パンの値上げを提案した。批判が殺到し、政府はすぐに撤回した。今となっては、選択の余地はないのかもしれない。この地域の他の政府も同じような状況に置かれている。

レバノンは更に酷い状況だ。名目上はエジプトよりもずっと民主的だが、レバノンの政治は、敵対する外国勢力の代理人として機能する各ブロックによって腐敗したままである。

スリランカでは飢えた人々が通りを埋め尽くし、経済が大きく破綻して食糧を買うことができなくなった。

ギニアの首都ではデモ隊が暴れまわっている。

このように事件を数え上げればきりがない。

このような状況下では、「簡単な」解決策を約束したり、おなじみのスケープゴートを非難したりするデマゴーグが暴徒の先頭に立つことはあまりにも容易である。デマゴーグはもちろん、国民に永続的な救済をもたらすことはないだろうが、それが明らかになる前に、彼らは権力の座を固めてしまうだろう。

エジプトはその典型的な例である。何百万人ものエジプト人が、選挙で選ばれたものの抑圧的で無能なムスリム同胞団(Muslim Brotherhood)の大統領モハメド・モルシに対して立ち上がった時、シシ大統領は彼らの願望を代弁すると主張し、権力を掌握したのである。何千人もの平和的なムスリム同胞団と世俗的な抗議者たちを殺害し、彼を脅かす可能性のある反対派の人物を投獄または追放した後、シシ大統領は厳しく管理された偽の選挙を実施した。

より良い方法がある。

食糧価格に対する民衆の反乱が、軍事専制主義者たち(miliary despots)とイスラム専制主義者たち(Islamic despots)の間の終わりなき二項対立の新たな局面を引き起こすのではなく、これらの反乱は有意義で持続的な変化のための機会を提供することができるだろう。世俗的で民主的な統治は、経済の成長の可能性を奪っている腐敗を不安定にする可能性がある。また、公的資金を際限のない軍備増強から国民のニーズに応えることに振り向けられるかもしれない。そして、不可避なこととして、無能な人々が大統領官邸に入り込もうとする時、民主的移行(democratic transitions)は、ムバラク大統領やシシ大統領のように長期にわたる損害を与える前に、その扉を開くことができる。

残念なことに、これらの国々の世俗的な民主的な指導者たちが刑務所に収監されたままでは、食糧を求める反乱は良い方向に向かうことはないだろう。

アラブの春デモを遅ればせながら一時的に支援したオバマ政権は、その後ほとんど関心を失ってしまった。ドナルド・トランプ政権も、抑圧的なシシ政権に制裁を加える瞬間があったが、その後、両大統領は結束を固めた。

ジョー・バイデンはより良くできるはずだ。

エジプトの民主活動家でブロガーのアラ・アブデル=ファッタは、アラブの春の重要な指導者だったが、シシが権力を握って以来、何度も投獄されている。彼は現在ハンガーストライキ中で、その健康状態は悪化していると伝えられている。 アル=シシ大統領は、幅広い国民的対話を望んでいると主張するが、アブデル=ファッタのような本物の反対派の声と話すよりも、むしろ投獄しているのである。

バイデン大統領は、シシ大統領に対して、正当な野党の声を投獄する限り、二国間関係の進展は不可能であるという明確なシグナルを送ることができるし、そうすべきである。彼は特に、アブデル=ファッタを釈放し、必要な治療を受けさせるよう主張すべきだ。

投獄された世俗的な民主政体擁護者たちのために立ち上がることはそれだけの価値がある。民主的で豊かなウクライナがロシアやベラルーシの独裁政権に疑問を抱かせるように、自由で民主的なエジプトは、この地域の多くの専制政権を弱体化させるだろう。多くの高学歴者が潜在能力を発揮できるようになったエジプトは、経済の停滞と化石燃料への依存で知られるこの地域において、急速に持続可能な繁栄を達成することだろう。

デイヴィッド・A・スーパー:ジョージタウン大学法学部カーマック・ウォーターハウス記念法学・経済学教授。また、センター・オン・バジェット・アンド・ポリシー・プライオリティーズの顧問弁護士を数年間務めた。ツイッターアカウント:@DavidASuper1

(貼り付け終わり)

(終わり)

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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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