アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12



 

古村治彦です。

 

 今回は、2016年1月22日に発売となります、『BIS(ビーアイエス)国際決済銀行 隠された歴史』(アダム・レボー著、副島隆彦監訳・解説、古村治彦訳、成甲書房、2016年)を皆様にご紹介いたします。

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 以下に海外のメディアで紹介された書評を掲載します。参考にしていただき、ご購入いただけましたら幸いです。

 

 宜しくお願い申し上げます。

 

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ブルームバーグ電子版 2013年6月10日

  

http://www.bloomberg.com/news/2013-06-09/shadowy-bank-in-basel-funded-nazis-pushed-euro-books.html

 

「バーゼルにある秘密銀行がナチスに資金提供をし、ユーロ導入を推進した」

 

ダニエル・アクスト(Daniel Akst)筆

 

もしあなたが国際決済銀行(BIS)をただの地味な国際機関だと考えておられるなら、アダム・レボーの新刊はあなたのそのような考えが間違いであることを気づかせてくれるものになる。

 

『バーゼルの塔』はスイスに本部を置くBISを全面的に攻撃する内容である。しかし、BIS側から著者に対して何の抗議も回答も寄せられてはいない。

 

レボーは、ナチス・ドイツの侵略にBISが資金を提供した様子を克明に描いている。これはBISの歴史における汚点として良く知られている。レボーは更に、テクノクラートたちが主導する戦後ヨーロッパの復興にもBISが関わったと批判的に書いている。BISは現在危機的状況を呈しているユーロの産婆役を務めたといことである。レボーは、BISの閉鎖、もしそれが不可能ならより透明性を高めることを求めている。

 

レボーはきちんとした調査を行っている。しかし、それはあくまでもきちんとしているだけのことだ。BISは1930年に創設された。それには二人の伝説的な中央銀行総裁が中心的な役割を果たした。イングランド銀行総裁のモンタギュー・ノーマンとドイツ帝国銀行総裁のヒャルマー・シャハトである。BISはドイツの第一次世界大戦に関する賠償金支払いを管理するために創設された。ケインズやその他の有識者たちは、国家経済を傾けるような過度の賠償金支払いを課すことは間違った考えだと主張した。そして、BISが創設されてすぐに、ドイツは賠償金支払いを停止してしまった。

 

しかし、BISはその後も存続し続けた。各国間の同意に基づいて大きな自律性も認められている。スイスに存在する安全な避難所となっている。中央銀行間の取引を仲介することで得られる手数料で大きな収入を得ている。それだけではなく、国際金融における取引と中央銀行関係者たちの協調を促進する役割を果たしている。ナチスにとって、国際金融で大きな存在感を持つBISはとても使い勝手の良い機関となった。

 

●ナチスが略奪した金

 

第二次世界大戦中、BIS総裁はアメリカ人であった。それにもかかわらず、BISは厳格なまでに中立にこだわった。戦争当事諸国全てとの取引を継続できるように、政治的な側面には全く関わらないようにし、技術的な側面にこだわった。しかし、これが不幸にして、ナチの恐るべき行為を助長する結果となってしまった。

 

BISはナチスが略奪した金を受け入れた。この金を元にしてドイツは必要な戦時物資を購入し続けた。ドイツはチェコスロヴァキアに侵攻後、チェコスロヴァキアの保有する金を横取りしようとした際、BISはそれに許可を与えた。

 

第二次世界大戦中、BISは恥ずべき行為を行った。そのため、BISはアメリカやその他の国々の中にいたBISに対する敵対者たちによって「解散すべきだ」という攻撃を受けた。しかし、BISはこうした攻撃に負けず、戦後世界で新たな役割を果たすことになった。アメリカはヨーロッパ再建に力を注ぐことになったが、BISはそれを金融面で支えることになった。また、ヨーロッパ統合プロジェクトを促進するという役割を果たすことになった。

 

●現代ヨーロッパ

 

ユーロの実現に至るまでの過程もまたレボーの批判の対象となっている。レボーは、現代ヨーロッパの国家を超える統合というアイディアはブリュッセルとバーゼルにいる官僚たちによって主導されたものだと主張している。そして彼らのヨーロッパ統合というアイディアは、ナチスのヨーロッパ統合というアイディアとほぼ同じであり、各国の有権者たちの承認を得たものではないとも書いている。

 

BISは世界各国の中央銀行によって所有され、運営されている。そして、現在のBISは 2カ月に1度、中央銀行の総裁たちはBISに集まり、高級な食事を楽しみ、完全に秘密が守られた状態で、議論を行っている。BISはまた、国際金融に関して精度の高い調査・研究も行っている。

 

これがそこまで悪いことなのだろうか?レボーは悪いことだと考えている。そして、「BISは秘密主義、エリート主義、反民主的な機関であって、二十一世紀という時代には全くふさわしくない存在だ」と非難している。

 

たぶん彼が正しいのだろう。しかし、本書の副題にあるような「世界を動かす秘密銀行」という、BISに対するレボーの非難はいささか誇張が過ぎていると私は思う。レボーがBISの業務についてもっと詳しく調べていれば、そこまでの非難はできなかったのではないかと思う。BISの業務が重要かどうか、彼らの仕事を他の機関が簡単に肩代わりできるかどうかを判断するのは彼にとってもたやすいことであったであろう。

 

不幸なことに、レボーはBISの機能をぞんざいにしか扱っていない。BISが秘密主義であるのは議論の余地がない。しかし、BISの融資がどのようなものであるかはレボーも書いているし、BISの資本と利益がどのようにして生み出されているかについても書いている。BISは2011年から2012年にかけての年度だけで10億ドル以上の税金のかからない売り上げを上げている。

 

BISは廃止されないようにするために、改革を行う必要がある。レボーはいくつかの改革案を示し、その中には透明性を高めることと利益の一部を社会慈善事業に回すことというものがある。しかし、このような改革を行う前に、バーゼルの塔(BISの本部がある円形のタワービル)にいる人々は、最善の行動を取るようにすべきなのだ。

 

(終わり)

 

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フィナンシャル・アンド・ディヴェロップメント誌(IMFが発行している雑誌) 第50号第2巻2013年6月

 

http://www.imf.org/external/pubs/ft/fandd/2013/06/books.htm

 

「書評:BISの歴史を網羅した書」

 

ペーター・アコス・ボッド(Peter Akos Bod、ブダペスト・コルヴィヌス大学教授)筆

 

●過ちを隠蔽し続けた歴史

 

BISは銀行関係者以外にとっては曖昧な存在でしかない。BISが何の省略形なのか分からない人も多い。しかし、新聞の金融面を読むような人にとってはスイスにある都市バーゼルはお馴染みの名前である。それは、銀行業監視に関するバーゼル委員会が定める銀行の自己資本比率とその他の勧告が良く報道されるからだ。そして、このバーゼル委員会の実務を取り仕切っているのが国際決済銀行(Bank for International Settlements)、略称BISなのである。現代ヨーロッパの様々な問題をテーマにしているジャーナリストであり作家のアダム・レボーは、BISという、バーゼルにある近代的なタワービルに本部を置く、一般にあまりよく知られていない国際銀行についての300ページを超える著作を発表した。彼の調査は行き届いたものである。

 

この本の背表紙には「世界で最も秘密主義の国際機関の歴史についての初めて調査の結果を記した本」と記載されている。私は、本書は示唆に富んでおり、数多くの情報も含まれている。しかし、著者レボーの感情が色濃く反映した内容の本となっている。レボーは多くの書籍を読み込み、多くの人々に話を聞き、多くの文書を渉猟してこの本を完成させた。

 

しかし、これは退屈な歴史書などではない。本書の言いたいことは題名に表現されている。それは、「世界を動かす秘密銀行の隠された歴史」ということである。

 

レボーは調査をする価値のある問題を見つける能力を持っている。今回、彼が取り組んだBISはまさにそのようなテーマである。1930年の創設以来、BISの歴史は波乱万丈であった。このBISという興味をそそる機関について徹底的な調査がなされ、その結果を広く知らしめるために本にして発表されることは長年待ち望まれてきた。BISの存在意義と現在の機能を平易な言葉で書くことさえ難しいのである。BISは第一次世界大戦後、実行が困難な使命を実行するために創設された。その使命とは、ヴェルサイユ条約によって決定された敗戦国ドイツに対する賠償金支払いを円滑に進めるということであった。資金調達、事務手続き、実際の支払いといった技術的なことを円滑に進めるには専門の金融機関が必要であった。

 

従って、BIS(ドイツ語ではBIZ)は、第一次世界大戦の戦勝国(ベルギー、フランス、イタリア、そしてイギリス)の中央銀行だけでなく、ドイツ、日本、連邦準備制度に代わってアメリカを代表した三つの銀行代表団が創設した。その後すぐにオーストリア、チェコスロヴァキア、ハンガリーやその他のヨーロッパの小国がBISに加盟した。それは、中央銀行間、もしくは民間銀行との金融取引における隙間を埋めることを目的としていた。しかし、歴史はすぐに大きな転換点を迎えた。ドイツの賠償金支払いは停止されたのだ。しかし、BISは活動を継続した。BISの株主たちには交戦国同士の中央銀行が存在したが、戦時中においてもその機能を停止させることはなかった。

 

レボーは、BISが第二次世界大戦前、そして戦時中において中立ではなかったと確信している。レボーは、BISの総裁や主要な地位の人々がドイツ人ではなかったにもかかわらず、実質的にドイツにコントロールされる銀行になっていたと考えている。レボーは、BISに関わる主要な人々の人生やその活動について詳しく書いている。その主要な人々とは、ドイツ帝国銀行総裁ヒャルマー・シャハト、イングランド銀行総裁モンタギュー・ノーマン、戦時中のBIS総裁でアメリカ人のトーマス・マッキトリックだ。レボーは、ノーマンとマッキトリックが裏切り行為を拡大させたとして非難している。レボーは、第二次世界大戦中に重要な役割を果たした人々の人生を描くことで、第二次世界大戦が外交面、金融経済面、そして政治面で複雑に錯綜していることを読者に示している。

 

彼が取り上げている人物には米国戦時情報局(OSS)スイス支部長アレン・ダレス、米財務長官ヘンリー・モーゲンソー、米財務次官ハリー・デクスター・ホワイト、西ドイツの「経済的奇跡」の設計者と言われているルードビッヒ・エアハルトがいる。それぞれの人生が生き生きとしたエッセイ風の文体で描かれている。そしてそれらには説得力がある。しかし、私は、これらの短いエッセイでは主要な人々に対して十分に正当な評価を加えることはできないと考えている。また、本書は、BISが第二次世界大戦後から現在のような成功を収めるに至った理由とその原動力について全く書いていない。1990年代はじめ、私はハンガリー中央銀行総裁を務めていた。私は毎月BISで開催される総裁会議に出席していた。私の個人的な経験から言えば、BISの役割は重要だし、その存在は必要不可欠である。レボーが「BISは曖昧な存在であるが、エリート主義で、反民主的な存在でもある。そして21世紀にふさわしくない機関である」と結論付けているが、私はこれは厳しすぎるし、正当化できない主張だと思う。

 

BISは、激しく変化を続ける国際環境において新たな役割を見つけねばならない国際機関である。BISが行っている銀行業に関するデータの収集、高度な調査・研究、有効な助言の提供は、現代の金融が正しく機能する上で重要な貢献となっているのだ。ヨーロッパ統一通貨ユーロの導入と欧州中央銀行の創設は、BISに対する新たな挑戦となった。現在、いわゆるBRICS諸国(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)やその他の新興諸国はその重要性を増し、各国の中央銀行はBISに対して意見が反映され、考慮されることを望むようになっている。BISは、国際金融の要求に対して、その全存在を賭けて革新的に、かつ効果的に対応ができる限り、存続し、繁栄し続けることができるだろう。

 

(終わり)

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野望の中国近現代史
オーヴィル・シェル
ビジネス社
2014-05-23