古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、以下のアドレスをご覧ください。http://soejimaronbun.sakura.ne.jp/goaisatsu.html 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:CSIS

 古村治彦です。

 

 今月末に橋下徹氏がアメリカの首都ワシントンDCを訪問する予定だということが明らかになりました。トランプ政権の首席ストラティジストであるスティーヴ・バノンやその他の政権幹部との会談ができるように調整中であるということです。また、ワシントンにあるシンクタンク、CSIS(戦略国際問題研究所)とヘリテージ財団で講演を行う予定になっています。トランプ政権幹部との面会は調整中でしょうが、CSISとヘリテージ財団での公演は既に決まっているでしょう。これに関連した記事をいかに貼り付けます。

 

(貼り付けはじめ)

 

橋下前大阪市長、今月26日訪米 トランプ政権と会談模索

 

東京新聞 201734 0200

http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2017030301002199.html

 

 日本維新の会の法律政策顧問を務める橋下徹前大阪市長は3月26日から29日の日程で米首都ワシントンを訪問する方針を固めた。日米関係などをテーマにシンクタンクで講演するほか、トランプ政権幹部との会談も模索している。維新関係者が3日明らかにした。維新メンバーとして外交の表舞台に立つことで政界復帰論が膨らむ可能性もある。

 

 馬場伸幸幹事長と、下地幹郎国会議員団政調会長も同行する。橋下氏はトランプ大統領について、自身のツイッターで「真の政治家」「目的達成のためには犠牲も批判も恐れない」と評価している。

 

(共同)

 

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Ex-Osaka Mayor Hashimoto aims to meet Trump aides — including Bannon — during U.S. visit

 

KYODO

The Japan Times  MAR 4, 2017

http://www.japantimes.co.jp/news/2017/03/04/national/politics-diplomacy/ex-osaka-mayor-hashimoto-aims-meet-trump-aides-u-s-visit/#.WLo3f2-LTIU

 

OSAKA – Former Osaka Mayor Toru Hashimoto will visit Washington this month and is trying to set up a meeting with senior aides to President Donald Trump, sources close to him said Friday.

 

Hashimoto, a high-profile politician whose candid remarks have often stirred criticism at home and abroad, is seeking to arrange a meeting with White House chief strategist Steve Bannon and other senior staffers through the Foreign Ministry, the sources said.

 

He also plans to deliver speeches at think tanks, the Center for Strategic and International Studies and the conservative Heritage Foundation during his March 26-29 visit, which is apparently aimed at boosting his flagging profile.

 

After ending a four-year stint as mayor in 2015, Hashimoto took up a position as an advisor to the opposition party Nippon Ishin no Kai. Before becoming mayor he spent almost four years as Osaka governor.

 

He will be accompanied by senior party lawmakers on the U.S. trip, which could be seen as a forerunner to his return to the political arena.

 

Hashimoto is known for praising Trump, tweeting that he is a “true politician” and “does not fear sacrifice or being criticized to achieve his goals.”

 

Hashimoto had planned a visit to the United States in 2013 but had to cancel amid a backlash after saying it had been necessary for the Japanese military to use so-called comfort women — Koreans and other women forced into wartime brothels — “to maintain discipline” in the military.

 

He had also said that U.S. forces in Okinawa should use the adult entertainment industry to prevent sex offenses by servicemen.

 

(貼り付け終わり)

 

 この時期の橋下氏の訪米には、CSISの副所長にまで出世したマイケル・グリーンがかかわっているでしょう。以下の記事にあるように、マイケル・グリーンは橋下氏を非常に買っていました。しかし、2013年に橋下氏が戦時中の従軍慰安婦問題に絡んで、規律を保つためには必要だった、在日米軍の兵士たちの性犯罪を防ぐために風俗産業を利用すべきだと言った発言が反発を受けて、訪米が取り止めになったこともありました。しかし、今回、CSISとヘリテージ財団での公演がほぼ決まったということで、マイケル・グリーンは、橋下氏を評価しているということが分かります。

 

(貼り付けはじめ)

 

●「「橋下氏、キングメーカーになる」マイケル・グリーン氏-産経新聞 -米国家安保会議 元アジア上級部長」

 

産経新聞 2012年3月22日

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120322-00000524-san-pol

 

 【ワシントン=古森義久】いま日本の政治を揺さぶる大阪市長の橋下徹氏と同氏が率いる「大阪維新の会」について、米国政府の元国家安全保障会議(NSC)アジア上級部長、マイケル・グリーン氏が20日、「橋下氏は異色のリーダーシップ技量を備え、国政舞台では首相の任命を左右するキングメーカーとなりうる」などと論評した。

 

 現在は戦略国際問題研究所(CSIS)日本部長やジョージタウン大学教授を務めるグリーン氏は、アジアの新リーダーについてのセミナーで、「橋下氏への人気は日本の政治での異色の重要現象で、同氏はポピュリスト(大衆に訴える政治家)として明確な技量を備えている」と述べた。

 

 グリーン氏は、日本では県や市などの地方自治体の長やそのグループが国政にすぐに進出することは構造的に容易ではないと指摘する一方、橋下氏がこの枠を破って国政の場で活躍する可能性もあるとの見解を示した。その場合、「首相あるいは首相の任命を左右できるキングメーカーになることも考えられる。小泉純一郎元首相のような国民の信託を得るリーダーになるかもしれない」という。

 

 日米関係への影響についてはグリーン氏は「橋下氏がたとえ首相になっても日米同盟支持、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)支持の立場を考えると、米国との安保関係も経済関係も円滑にいくだろう」と語った。ただし、橋下氏の反原発の姿勢には「日本の経済を考えれば、夢想しているに等しい」と批判した。

 

(貼り付け終わり)

 
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ヘリテージ財団は、トランプ政権になって重要度を増していますので、簡単に説明します。ヘリテージ財団は、1973年に創設され、1980年代初頭、レーガン政権初期の政策大綱づくりに参加し、1994年に共和党のニュート・ギングリッジ連邦下院議員が発表した「アメリカとの契約」の原案づくりにも携わりました。ヘリテージ財団の大きな主張は、小さな政府、自由市場、規制撤廃、不法移民対策強化、国防強化、対中強硬姿勢です。今回、トランプ政権が軍事費の増額を決めていましたが、これは、昨年のヘリテージ財団の「2012年のレヴェルまで軍事費を戻すべきだ」という主張が受け入れられたためです。

 

ヘリテージ財団には、保守的な大富豪、韓国や台湾が資金を提供しています。トランプのスポンサーで、スティーヴ・バノンを選対に送り込み、またホワイトハウスに送り込むことに成功したレベカ・マーサーのマーサー家や、教育長官となったベッツイ・デヴォスのデヴォス家が創業したアムウェイが大スポンサーです。これらの人々は共和党主流派とは距離を取っています。これらの人々を半周流派のネットワークに取り込んだのが、私が翻訳しました『アメリカの真の支配者 コーク一族』の主人公コーク兄弟です。

 

台湾からの資金が流れていますので、反中国的な提言を行いますし、日本関係でも反中的な主張をする人々との関係が深いようです。2016年8月には「トランプ政権」に参加したい人材募集ページをウェブサイト内に開設しました。このことから、トランプ政権に近いシンクタンクであることが分かります。

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2012年4月、当時の石原慎太郎が訪米し、「尖閣諸島は都が買い取る」という爆弾発表を行ったのがヘリテージ財団です。また、下の写真にもあるように、櫻井よし子も数回、このシンクタンクを訪問し、日本・韓国担当の研究員ブルース・クリングナーと話をしているようです。


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ブルース・クリングナーは、2012年11月に論文を発表しているが、この内容が現在の安倍内閣の施策とほぼ一致している、ということから、ジャパン・ハンドラーの新顔として注目されています。今回の橋下氏訪米でも何らかの役割を果たしたことでしょう。ヘリテージ財団はトランプ政権の「与党」的なシンクタンクですので、人脈を通じて働きかけをすることは可能です。

 

 CSISとヘリテージ財団と日本の接点が、「ジョージタウン大学日米リーダーシッププログラム(Georgetown University Leadership Program、GULP)」です。これは、日本の新聞記者や地方議員をジョージタウン大学に1週間ほど招いて、授業を受けたり、討論をしたり、著名人を招いての優勝会を開いたりするものです。講師にはマイケル・グリーンがいます。また、CSIS(元々ジョージタウン大学内で設立されたので関係は深い)とヘリテージ財団訪問も日程に組み込まれています。このプログラムのスポンサーがアムウェイで、アムウェイの本社があるミシガン州グランドラピッズ市を訪問し、滞在します。

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※アドレスはこちら↓

http://www.amway.co.jp/about-amway/citizenship/achievement?lng=ja

http://www.gulpjapan.com/

 

 話が大分それましたが、橋下氏の今回の訪米には、馬場伸幸幹事長と下地幹郎国会議員団政調会長が同行します。橋下氏は現在政治家ではなく、日本維新の会の法律政策顧問です。従って、このように党の重職、国会議員が一緒についていくのはこの訪米が大変重要なものであることを示しています。

 

 私が大好きな野球に例えるなら、2試合目に登板してきた安倍投手は順調に危なげない投球を続けてきましたが、女房役であるキャッチャーのパスボールや味方のエラーでランナーを塁に出してしまい、苦しい投球になりつつあります。肩で息をし始めた感じなので、監督と投手コーチが投手交代の時期を考えて始めています。ブルペン(投球練習場)には何人か投手が座っていて、「橋下、肩を作っておいて」ということで、投球練習を始めた、ということではないかと思います。橋下氏は国会議員ではありませんから、すぐに総理大臣になることはできませんが、上の記事でマイケル・グリーンが述べているように、近いうちにまずは「キングメーカー」としての役割を果たすことになるかもしれません。

 

(終わり)

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 古村治彦です。

 

 今回は、ネオコンの牙城であるシンクタンクCSISの上級副所長にして、先日共和党の外交政策専門家50名による反トランプ書簡にも名前を連ねた、マイケル・グリーン先生による「天皇のお言葉」についての解説です。

 

 天皇は直接的に退位に関することは述べることが出来なかったが、これは政治に関与することが出来ない天皇の立場から当然のことだが、年齢や健康、義務の負担について言及することで、間接的に「退位をしたい」ということが分かるようになっていたという解説は、なかなか良く分かっているなという印象です。

 

 今回の天皇退位の間接的な意思表明について、「これは安倍内閣に対する失望の表明だ」という解釈についても言及しており、これは日本の主要なマスコミでは流されていない話なので、細かくインターネットでも情報を取っていることを示唆しています。この解釈について言及しておいて、これは主要な解釈ではないと書いてあるところは、これは妄説だと切り捨てたいという意思の現れでしょう。

 

 最後の「明確になっているのは、明仁天皇は日本の皇室の伝統を改革するための時期が来たという間接的なシグナルを送ったということである」という部分は、今上天皇が最も言いたかったことを捉えているのだろうと思います。

 

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日本の天皇による珍しいテレビを通した声明(A Rare Television Address by Japan’s Emperor

2016年8月8日

August 8, 2016

https://www.csis.org/analysis/rare-television-address-japan-emperor

 

2016年8月8日、日本の明仁天皇はテレビに出て声明を発表した。これはきわめて珍しい機会であった。天皇は衰えていく健康と日本の高齢化社会に言及し、「天皇もまた恒例となった場合に望ましい天皇の役割」についての個人的な考えを伝えたいと述べた。明仁天皇は現在82歳だ。日本の皇室典範によると亡くなるまで終身天皇の地位にとどまらねばならない。しかし、天皇の声明は、天皇が天皇の位から退きたいと考えているかもしれないという推測を人々に起こさせた。安倍晋三首相は、天皇の発言には真剣に対応すべきだが、天皇退位の可能性についての詳細なコメントはしなかった。

 

問1:天皇が退位問題について直接声明を発表しなかったのはどうしてか?

 

答1:日本の戦後憲法は、天皇を国家の象徴とし、統治に関わる権力を持っていないと規定している。天皇は政治的だと思われる可能性を持ついかなるコメントも行うことは禁止されている。従って、天皇は直接退位について言及しなかった。現在の法律では天皇退位に関する条項は存在しない。しかしながら、天皇は、たとえ高齢になっても国の象徴としての天皇の義務を減らすことはできないこと、そしてもし天皇が義務を果たせなくなったら摂政(恐らく彼の息子)が摂政に任命されるにしても天皇は終身在位し続けるという事実に変更はないことに言及することで、間接的に、退位問題について示唆を与えた。安倍首相は、天皇が直接人々に向かって直接、年齢と天皇の義務に伴う負担について語ったという事実を真剣に受け止め、何ができるのかを考える必要があると述べた。

 

問2:声明はどのように解釈されるか?

 

答2:天皇の衰えいく健康(天皇は前立腺と心臓の手術を受けた)が主要な要素であり、10分間の声明の中で、一度ならず肉体的な状態について言及した。日本国内、国外のマスコミの中には、天皇が安倍内閣の安全保障政策に対して失望を表明しているという憶測が流れている。昨年、安倍内閣は一連の国防政策改革を国会で通過させた。その内容は、集団的自衛権の行使や攻撃されている同盟国の防衛にかけることといったことであった。この改革の意図は、安全保障問題における日本の役割を増やすことであった。しかし、この解釈は、明仁天皇の先の大戦に関する不明帳な発言を基にしている。そして、マスコミ、政治家、官僚の大部分はそのような解釈を行っていない。

 

問3:日本政府はこの問題をどのように対処するだろうか?

 

答3:国会は天皇退位を許可するために皇室典範を見直す必要があるだろう。そしてこの可能性の調査をこの9月から始まる国会の会期で始めるだろう。マスコミの中には、安倍内閣が天皇退位問題研究のために専門家による委員会を創設するだろうという報道をしている社もある。世論は変更について賛成している。週末に行われた朝日新聞の世論調査では、84%が天皇退位を支持している。しかし、この議論が展開されるペースがどれくらいのものになるか、はっきりしていない。明確になっているのは、明仁天皇は日本の皇室の伝統を改革するための時期が来たという間接的なシグナルを送ったということである。

 

※マイケル・J・グリーン:ワシントンにある戦略国際研究センター(CSIS)のアジア担当上級副所長兼日本チェア、ニコラス・セーチェーニ:上級研究員兼日本チェア副部長。

 

(終わり)





 
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 古村治彦です。

 

 アメリカのネオコンの拠点の1つである、戦略国際問題研究所(CSIS)が毎年発表しているグローバル予測の最新版から、所長のジョン・ハムレとジャパン・ハンドラーズの1人マイケル・グリーンの論稿をそれぞれ紹介します。ネオコン派がどのように考えているかが分かるものとなっています。

 

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2016年グローバル予測(2016 GLOBAL FORECAST

 

クレイグ・コーエン(CRAIG COHEN)、メリッサ・G・ダルトン(MELISSA G. DALTON)編

 

戦略国際問題研究所(Center for Strategic and International StudiesCSIS

http://csis.org/files/publication/151116_Cohen_GlobalForecast2016_Web.pdf

 

 

アジアへの再接続(Reconnecting of Asia

 

ジョン・J・ハムレ(JOHN J. HAMRE)筆

 

400年前、人類史上初めての純粋に国際的な国家間システムが出現した。この時以前、中国の各王朝と近隣諸王国との相互交流のような地域的な地政学システムはいくつか存在した。しかし、純粋に国際菜的な国家間システムは存在しなかった。国民国家が出現した際のウェストファリア体制は極めて斬新なものを生み出した。個人の忠誠心は王に対する忠節から国民としての意識と国家への同一化へと変化した。この時期、制限責任企業のような組織に関する新しい概念が生まれた。制限責任企業は幅広く資本を集め、対象となる商業的な冒険的試みに大量の資本を投入できるようになった。

 

 これらのヨーロッパの国民国家は、大都市の発展を支えた大富豪を生み出すための世界規模の帝国を創設しようとして相争った。ヨーロッパを中心とする国際的な地政学的システムが生み出された。このシステムは、操作法則として力の均衡(balance of power)を基礎とし、商業主義的な諸原理によって動くものであった。

 

 しかし、この発展には副作用も伴った。ヨーロッパの各帝国は世界各地に商業拠点を獲得しようと躍起になった。この世界システムの経済的ダイナミズムによって、アジアとアフリカの沿岸部にヨーロッパから企業家精神に溢れた人々が押し寄せるようになった。海上輸送が世界的な商業の基礎となった。アジア各地の沿岸部と主要航路沿いに巨大な都市が次々と誕生した。それから400年間、アジアにおいて地政学的に重要であったのは沿岸部であった。

 

 それ以前、アジアにおける商業と地政学の点で重要であったのはユーラシア大陸内陸部であった。国家間の商業活動は、いわゆる「シルクルート(silk routes、シルクロード)」に沿って行われていた。

 

 400年間にわたりアジアにおいては沿岸部に地政学的な中心が置かれてきたが、その状況は変化しつつある。巨大なユーラシア大陸が内陸部で再接続されつつある。ロシアは、極東とヨーロッパを結ぶ鉄道ネットワークを構築するという野心的な計画を明らかにしている。中国は「一帯一路(One Belt, One RoadOBOR)」構想に基づいて様々なもっと野心的な計画を発表している。この計画は、中央アジアと西アジアを貫く形で輸送ネットワークを劇的に拡大するというものだ。中国はその他にもアジアインフラ投資銀行(AIIB)やシルクルート基金のようなより衝撃的で野心的な計画を実行しようとしている。数十の社会資本建設・整備計画が既に発表され、この計画の方向性はすでに示されている。

 

 一帯一路構想は、様々な議論を引き起こした。懐疑論を唱える専門家たちは、この計画は成長が遅れている中国内陸部の開発を促進するための試みだと述べている。また、個の計画は中国国内で建設ラッシュが一段落している建設業者たちに機会を与えるための経済刺激策だと主張する人たちもいる。更には、中央アジア諸国の中国に対する忠誠心を獲得し、属国関係として固定化するための地政学的な設計図に基づいて行われていると主張する専門家たちもいる。

 

一帯一路構想はアメリカにとってどのような意味があるものなのだろうか?これからの数十年間、中国はこの計画にエネルギーを使い、結果として東南アジアに対する圧力が弱まることになるのだろうか?それとも、巨大なアジア大陸全体に中国の覇権を及ぼすという究極的な目標を反映したものなのだろうか?一帯一路構想はアメリカにとって良いものなのだろうか、それともアメリカの国益にとって脅威となるのだろうか?

 

 新しいシルクルートという話はこれまで長い間流布されてきたものだ。インターネットで、「シルクロード」というキーワードを入れて調べてみると、ヒットするものの半数以上はトルコ発のもので、トルコの商業に関するものである。一帯一路構想が地政学的な側面を持っていることは疑いようのないところだが、その根底にある商業的な大きな動きを見逃すと、分析を間違うことになる。アジアの製造業をヨーロッパの市場に結び付けるための最も効率の良い方法は、海上輸送であると思われてきた。しかし、長距離鉄道網を使えば輸送時間を2倍から3倍も短縮することはたやすい。輸送時間を劇的に短縮することで、投資する資本が何も生み出さない時間を減少させることによって、必要な資本を減らすことが出来るのだ。

 

 アメリカ政府はこの巨大な展開を評価するための能力に欠けている。官僚たちは世界を分割してそれぞれ担当しているが、それによってより明確なビジョンを掴むことが出来ないようになっている。米国務省は世界を4つの地域に分けてそれぞれに、東アジア・太平洋担当、ヨーロッパ・ユーラシア担当、近東担当、南アジア・中央アジア担当という担当部局を置いている。国防総省は太平洋司令部を置いており、中国はそこの担当になっている。しかし、その他のアジアは、中央司令部とヨーロッパ司令部の担当になっている。

 

 官僚主義的な機関は創造的な思考には不向きだ。世界を4つに分割し、それぞれの中で見ていれば、この巨大な流れを見逃すことになる。新しい大きな流れの特徴を古い歴史的なフィルターを通じてみてしまうことになる。

 

 ユーラシアの再接続の重要性を見過ごすことは大きな過ちとなる。そして、この動きをアメリカの脅威としてしまうことは危険なことでもある。この巨大な展開においてアメリカの果たすことが出来る役割は限られている。しかし、それは私たち自身がそのようにしてしまっているためなのだ。私たちはこの大きな新しい流れを客観的に評価し、判断しなくてはならず、それには時間が必要だ。一帯一路構想に対処することは次の大統領の政策課題ということになるだろう。

 

(終わり)

 

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私たちが生きる現代にとって正しい戦略を追い求めて(Seeking the Right Strategy for Our Time

 

マイケル・J・グリーン(MICHAEL J. GREEN)筆

 

 アメリカは現在世界のいたるところで守勢に回っているように見える。中国は南シナ海において侵略的な土地埋め立てと島の要塞化計画を進めている。また、アメリカの同盟諸国への影響力を強めることになる、新しいユーラシア秩序の構築を求めている。ロシアはウクライナとシリアに軍隊を派遣することでNATOを侮蔑している。イランはアメリカとの間で内容の乏しい核開発合意を締結したが、中東各地の代理となる諸勢力に武器を与え、衰えることの野心を見せ、宗教的な統一という目標のために動いている。イスラミック・ステイトは暴力的で抑圧的なカリフ制度を求めて活動している。その活動力は落ちているが、規模を縮小させるまでには至っていない。更には、気候変動に関する国際的な協力は、2015年12月にパリで開催されたCOP21の開催前に既に失敗していた。これは、オバマ政権の成立当初からの目的の達成失敗ということになる。

 

 アメリカにとっての大戦略が必要な時期はこれまでほとんどなかったが、今はまさにそのタイミングだ。しかし、現在のアメリカが大戦略を構築し、それを実行することは可能だろうか?大戦略には様々な脅威と障害についての明確な定義が必要だ。努力を向ける目的の優先順位をつけることと、目的の達成のために外交、情報、軍事、経済といった分野の力を統合することが必要である。トクヴィルが明らかにしたように、アメリカの民主政治制度は、そのような意思決定と権威を一つの政府機関に集権化することを阻害するように設計されている。

 

 民主政治体制は、様々な障害が存在するが、何とかして、重要な事業の詳細を規制し、固定化された設計を保ち、その実行を行っている。民主政治体制では秘密で様々な手段を実行することはできないし、長い時間、忍耐を持って結果を待つこともできない。

 

 それにもかかわらず、アメリカは、共和国としての歴史の中で、これまで何度も大戦略を成功させてきた。アメリカ建国の父たちはヨーロッパ型の機構と策謀に大きな疑念を持ちそれをアメリカのシステムに反映させたが、それでも大戦略が成功したことがたびたびあった。アメリカ政府は、19世紀末までに西半球において自分たちに都合の良い国境を策定することができた。19世紀から20世紀に移行する次期、アメリカは太平洋における主要な大国としての地位を獲得した。第二次世界大戦後、ヨーロッパとアジアの民主諸国家との間で同盟関係を固めることができた。そして、25年前にソヴィエト主導の共産主義体制を流血の惨事を引き起こすことなく打ち倒すことが出来た。これらの大戦略が一人の人物によって実行されたことは少ない。それでもセオドア・ルーズヴェルトとヘンリー・キッシンジャーはそれに成功した。しかし、たいていの場合、アメリカの大戦略は、「目的と手段を効率的ではなく、効果的に結びつける巨大なプロセス」から生み出されたのである。ジョン・アイケンベリーが述べているように、戦後に海外で成功したアメリカの戦略は、アメリカ国内における公開性と諸政治機関の競争性によって生み出された。それらによってアメリカ主導の国際秩序において利害関係を持つ参加者たちの力を増大させ、安心感を与えることが出来たのだ。トクヴィルが致命的な弱点だと考えたものが、実際には大きな長所となった。

 

 しかしながら、現在では、アメリカの民主政治体制の政治過程が、同盟諸国やパートナーに対して、安心感ではなく、より厳しいものとなり、警戒感を与えることになっている。また、アメリカの政治指導者たちが、「アメリカは国際的な諸問題で世界を指導できる能力を持っているのか」という疑念を起こさせている。第一次世界大戦とヴェトナム戦争の後、アメリカは大きく傷ついた。アメリカ国民はこれらの時期、世界に対してアメリカが関与していくことを基礎とする地政学を求める指導者を選んだ。イラク戦争後、アメリカの全体的なムードも同じような流れになった。アメリカの外交政策戦略の主要なテーマが「アメリカの世界的な評価を回復する」ということになった。アメリカ政府は地政学ではなく、国際的な脅威に関心を払うようになった。「戦争」か「関与」かの単純な二者択一で政策を行うようになっている。また、「バカなことはやらない」という考えに基づいて受け身的な事なかれ主義になっている。

 

 イラク戦争後のこうした流れによって、伝統的な国民国家、勢力均衡、アジア、東欧、中東に出現しつつある地域的な秩序に関する競争の重要性は減退した。中国、ロシア、イランは、アメリカの影響力を小さくし、アメリカの同盟諸国の力を小さくするための強制的な戦略を用いることで、戦争と関与との間にある「グレーゾーン」を埋めている。同じようなことは南米についても言える。しかし、南米で現在の国際システムに異議を唱えている国々の国際的な秩序に与える脅威はより小さいものと言える。アメリカとの間で相互利益がある地域における ロシア、中国、イランの関与はそれぞれの国益にかなうものであるが、この関与を「大戦略」と呼んでしまうと、オバマ政権が「これまでの国際秩序を作り変えようとする諸大国に地域的な秩序作りを任せてしまっている」という印象を世界中に与えることになってしまっている。一方、これらの大国に対して純粋に競争的な戦略を採用すべきと主張しているリアリストたちは、アメリカの同盟諸国やパートナーの置かれている複雑な立場を分かっていない。これらの国々のほとんどは、特にロシアと中国に対して、冷戦期のような立場をはっきりさせるような戦略を採れないような状況にある。アメリカの大戦略は国家間関係の根本的な理解のために地政学を復活させねばならない。しかし、同時に国際社会で指導的な立場に立つには、信頼されるに足るだけの外交的、経済的、軍事的、価値観に基づいた選択肢を提供する必要があることもアメリカは認識しなければならない。世界の国々に近隣の新興大国、既存の国際システムに異議を唱える大国関係を持たないようにさせようとしても無駄である。

 

 言うまでもないことだが、海外で指導的な役割を果たすためには、国内での経済成長を維持することは欠かせない。しかし、それがアメリカの縮小のための言い訳になってはいけない。アメリカは、これから数年の間、競争が激しい世界秩序から撤退し、世界がボロボロになった後に戻ってくる、などということをやってはいけない。実際、多くの国際協定が締結間近であるが、これらは海外におけるアメリカの影響力を強化するだろうが、アメリカの国内経済を大きく動かすことにもなる。環太平洋経済協力協定(TPP)と環大西洋貿易投資協定(TTIP)によって、アメリカの貿易を促進され、ヨーロッパと太平洋地域をアメリカとより緊密に結びつけることになる新しいルールを構築されることになる。より良い統治の促進、女性の地位向上、法の支配、市民社会が強調されることで、諸外国ではより正義に基づいた、安定した、そして繁栄した社会が生み出されることになる。消費は促進され、知的財産権はしっかり保護されることになる。違法行為を終わらせ、保障関係のパートナーシップを強化することで、各企業はよりまともな戦略を立てることが出来、同盟諸国やパートナー諸国との間で新しいシステムと技術に関してより生産的な発展を進めることが出来る。多くの国々がアメリカとの間の更なる経済的、軍事的な協力関係を望んでいるのだ。実際のところ、近現代史を通じて、現在ほどアメリカとの協力が求められている時期はないのだ。ここで大きな問題となるのは、アメリカ政府は、この新しい流れを利用して、経済、規範、軍事の関与に関するあらゆる手段に優先順位をつけ、それらを統合することが出来るのかどうか、ということである。

 

 この問題に関しては、アメリカ国民の考え方ひとつだ。この問題に関して、歴史は大きな示唆を与えてくれる。1920年代初めに行われたギャロップ社の世論調査では、アメリカ国民の大多数が、第一次世界大戦に参戦したことは間違いであったと答えた。1930年代、連邦議会は国防予算を減額し、保護主義的な関税を導入した。1930年代末、日本とドイツがヨーロッパと太平洋の既存の秩序に脅威を与えるようになった。この時期、ギャロップ社の調査で、数字が逆転し、大多数のアメリカ国民が第一次世界大戦にアメリカが参戦したことは正しかったと答えた。フランクリン・デラノ・ルーズヴェルト大統領は、互恵通商法を成立させ、海軍の再増強に乗り出した。1970年代半ば、アメリカ国民はヴェトナム戦争に反対するようになった。この時、連邦議会は防衛予算を減らし、大統領の外交政策遂行に制限を加えた。それから10年もしないうちに、ソ連が第三世界に対してそれまでにない拡張主義で臨むようになると、アメリカ国民は国防予算を増額し、ソ連の進出を阻止し、冷戦の終結につながる動きを促進する政策を支持した。

 

 最近の世論調査の結果は、アメリカ人の中に国際主義が再び復活しつつあることを示している。国家安全保障は共和党支持者たちにとって最も重要な問題となっている。一方、ピュー・リサーチセンターの世論調査では、大多数のアメリカ国民がTPPを支持している。問題解決は指導者の力量にかかっている。民主、共和両党の大統領候補者予備選挙の始まりの段階では、むちゃくちゃなポピュリズムの旋風が起きている。それでも、国際的な関与を主張する候補者が最終邸には勝利を得られるだろうと考えるだけの理由は存在するのだ。

 

(終わり)

メルトダウン 金融溶解
トーマス・ウッズ
成甲書房
2009-07-31




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