古村治彦です。

 2020年2月4日のアメリカ連邦議会議場での一般教書演説ではドナルド・トランプ大統領とナンシー・ペロシ連邦下院議長の場外戦が話題となっている。トランプ大統領がペロシ議長との握手を無視し、ペロシ議長は演説直後にトランプ大統領から渡された演説原稿を引き裂いた。
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 一般教書演説の翌日、連邦上院でトランプ大統領について出されていた弾劾(impeachment)訴追について無罪評決が出された。公務員の弾劾について簡単に説明すると、連邦下院は検察官の役割を果たし、調査をした上で、弾劾訴追をするかどうかを評決で決める。過半数以上の評決となれば弾劾訴追となる。連邦上院は裁判官役となり、連邦上院議員に対して、下院側の代理人と訴追対象者の弁護人がそれぞれの正当性を主張する裁判が実施され、最終的に連邦上院議員の評決で結果が決まる。弾劾には3分の2以上の賛成投票が必要である。アメリカ連邦上院の定員は100名であり、3分の2以上、67票以上の賛成票が必要となる。

 今回のドナルド・トランプ大統領に対する弾劾訴追は大きく2つの訴追内容に分かれており、一つは「権力の濫用(abuse of power)」、もう一つは「議会の行動に対する妨害(obstruction of Congress)」だった。権力の濫用については以下のような内容であった。トランプ大統領が昨年、ウクライナ大統領に対して、ウクライナ国内におけるジョー・バイデン前副大統領と息子ハンター・バイデンの行動などに関して調査を行うように要求し、応じるように圧力をかけるためにアメリカ政府からウクライナ政府への支援を一時的に差し止めた、これは自身の大統領選挙再選を有利にするために政敵を追い落とすために権力を濫用した、というものだ。

 議会に対する妨害は、連邦下院が訴追について調査を行う際に、ホワイトハウスは連邦下院への書類提出を拒否し、またホワイトハウスに勤務している人物たちに対して議会からの召喚に応じないように求めた。これが連邦下院の調査を妨害しているということになり、訴追内容に加えられた。

 今回の連邦上院での評決は、党派の区別に沿ったものとなった。共和党側が53議席を持っており、民主党側は47議席を持っている。権力の濫用については有罪47票、無罪53票となり、無罪となった。議会への妨害は有罪48票、無罪52票となり、無罪となった。共和党のミット・ロムニー連邦上院議員(ユタ州選出)が権力の濫用については無罪、議会への妨害については有罪に投票したために、2つの訴追内容それぞれで評決数に違いが出た。ロムニー議員はトランプ大統領に批判的な議員であり、共和党内穏健派、「ロックフェラー・リパブリカン」の系譜に連なる人物だ。トランプ大統領が再選を果たし、二期目となったら、その4年間でどういう動きをするかは不確定だが、トランプ大統領の意向に反する行動を多くとることになるのではないかと思う。共和党内部にいる反トランプ派はいくつかのグループに分かれているが、それらを糾合して指導的な立場につくのではないかと私は予想している。
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 トランプ大統領に対する弾劾訴追は無罪評決で終わることは容易に予想された。大統領選挙の年に現職の大統領を失職させることを共和党がする訳がないからだ。そして予想通りの結果となった。弾劾の訴追内容も無理筋ということもあった。

 アメリカでは共和党が優勢な州をレッド・ステイト、民主党が優勢な州をブルー・ステイトと呼ぶ。それぞれの色は両党のシンボルカラーから来ている。連邦上院は全米50州から2名ずつ出ている。人口、州の広さなどは関係ない。カリフォルニア州のような巨大な州も2名、ヴァーモント州のような小さな州でも2名である。一方、連邦下院議員の選挙区はだいたい同じ人口になるように区分けされる。カリフォルニア州は多くの連邦下院議員を出し、人口が少ない州は少なくなる。レッド・ステイトはアメリカ内陸部や南部、ブルー・ステイトは東西沿岸部に位置する。州の数では互角、ややレッド・ステイトが多い。そうなると、自然と連邦上院では共和党が優位ということになる。しかし、「人ではなく土地を代表する連邦上院」という伝統は崩れないだろう。

 前日の一般教書演説、そしてトランプ大統領弾劾訴追無罪評決によって、アメリカの党派対立は激しさを増していることは改めて印象付けられた。そして、そのまま選挙戦は激しいものとなっていくだろう。今年アメリカは政治のお祭りの年となる。

(貼り付けはじめ)

連邦上院は弾劾の条項についてトランプ大統領に無罪評決(Senate votes to acquit Trump on articles of impeachment

ジョーデイン・カーニー筆

2020年2月5日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/senate/481670-senate-votes-to-acquit-trump-on-articles-of-impeachment

水曜日、連邦上院は、権力の濫用(abuse of power)とウクライナとの取引について連邦議会の調査への妨害(obstruction of Congress)という容疑についてのドナルド・トランプ大統領に対する弾劾(impeachment)について、無罪評決を行った。これによってワシントンを数カ月支配した大きな物語は終焉を迎えた。

連邦上院の評決結果は、権力の濫用に関しては48対52、議会に対する妨害に関しては47対53となった。トランプ大統領に対して有罪評決し、失職させるには3分の2以上の賛成投票が必要であり、それには遠く及ばなかった。

しかし、トランプ大統領と連邦上院多数党(共和党)院内総務(Senate Majority)ミッチ・マコーネル連邦上院議員(ケンタッキー州選出)は共和党を団結させようと努力した。その努力に対して、一撃が加えられた。2012年の大統領選挙で共和党大統領選挙の候補だった共和党所属のミット・ロムニー連邦上院議員(ユタ州選出)は投票の2時間前に、権力濫用については有罪に投票し、議会に対する妨害については無罪に投票すると表明した。

ロムニーは連邦上院議場での演説の中で次のように述べた。「アメリカ合衆国憲法が連邦上院議員に課している、解答を要する重要な疑問は、トランプ大統領が極端に酷い行動をして、それが犯罪行為と不品行のレヴェルにまで達しているかどうか、というものです。そうです、大統領はそのような行動を取りました。大統領は人々の信頼を乱用し傷つけたたこと(訳者註:アレクサンダー・ハミルトンの言葉)に関しては有罪です」。

共和党側はここ数カ月民主党側から無罪に投票する議員が出ると予測していた。しかし、この予測は外れた。民主党所属の側からトランプ大統領に無罪投票をした議員は出なかった。ダグ・ジョーンズ連邦上院議員(アラバマ州選出、民主党)、ジョー・マンチン連邦上院議員(ウエストヴァージニア州選出、民主党)、クリステン・シネマ連邦上院議員(アリゾナ州選出、民主党)は無罪投票する可能性があると見られていたが、全員が水曜日午前に有罪に投票すると発表した。

トランプ大統領はアメリカ史上、3人目の弾劾にかけられた大統領となった。そして、弾劾の評決を受けた後に再選を目指す初めての大統領になった。連邦議会が上下両院それぞれ過半数を占めている政党が異なる中で弾劾の手続きが取られたのは史上初のことであった。また、3度の大統領弾劾の機会の中で、最も党派性の争いが強く、刺刺しい状況が作り出された。

容疑に関する条項が連邦下院で可決されたのは2019年12月だった。この際、2人の民主党所属の連邦下院議員、コリン・ピーターソン議員(ミネソタ州選出)とジェファーソン・ヴァン・ドリュー議員(ニュージャージー州選出)は否決に投票した。一方、アメリカ大統領選挙民主党予備選挙に出馬しているトゥルシー・ギャバード連邦下院議員(ハワイ州選出)は「出席しているが棄権(present)」と投票した。共和党所属の連邦下院議員でトランプ大統領への弾劾に投票する議員は出なかった。そして、ヴァン・ドリュー議員は共和党に所属すると発表した。

水曜日の連邦上院での投票は、トランプ大統領の弁護団と連邦下院の代理人たちがそれぞれの主張の正当性を連邦上院議員たちとアメリカ国民に向けて主張し続けた数週間に及ぶ弾劾裁判の終わりを意味した。

投票直前に議席などを整理すると、共和党側は過半数53議席を持ち、弾劾を目指す民主党側は67票の有罪投票が必要であった。これは少数の態度を決めていない民主・共和両党に属する上院議員たちが弾劾を決することになり、11月の選挙を前にして有権者の利益になることを示していた。

マコーネル上院議員は投票が終了した直後に勝利宣言を行った。そして、弾劾について民主党側が犯した「巨大な政治的な誤り」と評した。

記者会見の席上、マコーネル議員は記者団に対して次のように述べた。「現在、トランプ大統領は就任して以降、最高の支持率を記録しています。弾劾裁判が開始される前に比べて、共和党側の議員たちの選挙に向けた状況はより良くなっています」。

ロムニー議員の投票について質問され、多数党(共和党)連邦院内総務であるマコーネル議員は渋々とではあるが、「私は驚き失望しました」と発言した。しかし、ロムニー議員がほとんどの場合党の方針に従った投票を行っているとも述べた。

弾劾裁判はドラマなしでは終わらなかった。先週まで連邦議会では、証言者についての重要な投票をめぐり激しい怒りが渦巻くことになった。

共和党側は前任の国家安全保障問題担当大統領補佐官ジョン・ボルトンを証人として召喚するかについて集中的な審議に直面した。ボルトンが出版予定の回想録『それが起きた部屋』の中で、トランプ大統領がウクライナ向け支援を利用して、2020年米大統領選挙民主党予備選挙の候補者となっているジョン・ボルトン前副大統領と彼の息子ハンター・バイデンについての捜査を行うように圧力をかけたと主張している、と『ニューヨーク・タイムズ』紙が報じた。

ロムニー議員は投票の前にボルトンからの証言を聞きたいと考えていたと述べていた。その理由を「ボルトンが嫌疑の内容に新たなものを加えることができ、大統領の行為に関する合理的な疑いを提示でき、その結果として弾劾に賛成投票を行うという厳しい責務を私自身が果たさなくて済むと考えた」としていた。

激しいぶつかり合いの中で、トランプ大統領の弾劾訴追の基礎となった諸事実については真剣に争われることはなかった。トランプ大統領と大統領の周辺人物たちは、まずハンター・バイデンについて、そして2016年の米大統領選挙にロシア政府ではなく、ウクライナ政府が介入したという説を暴くことについて調査を開始するようにウクライナ政府に圧力をかけた。

同時に、トランプ政権は数百万ドル規模のウクライナへの支援を一時的に遅らせた。ウクライナは同国の東部に対するロシアによる侵略と戦っている。

しかし、トランプ大統領に対する早々の無罪評決は木曜日の夜には期待通りの場所に収まることになった。ラマー・アレクサンダー連邦上院議員(テネシー州選出、共和党)は新しい証言者からの聞き取りに対して賛成票を投じないと発言した。これは民主党側が続けていた新しい証言者に証言させるために4名の共和党所属の議員から賛成票を得ようとしていた努力に対する打撃となった。

アレクサンダー議員は、共和党側の主張とは矛盾していたが、トランプ大統領は「不適切な」行為に関わったが、弾劾されるべき行為ではなかったと発言した。リサ・マコウスキー連邦上院議員(アラスカ州選出、共和党)はトランプ大統領の行為を「恥ずべきもので間違ったもの」と述べた。スーザン・コリンズ連邦上院議員(メイン州選出、共和党)はトランプ大統領が「思慮が足りないままで判断」をしたと述べた。

マイク・ペンス副大統領は水曜日午前に放映されたフォックスニュースとのインタヴューの中で次のように述べた。「私たちはアメリカ合衆国連邦上院において党派性に影響されない投票がなされることを期待しています。連邦下院で党派性に影響されない唯一の投票は弾劾に反対するものであるはずでした。本日、連邦上院で党派性に影響されない投票がなされることを期待しています」。

トランプ大統領は水曜日の午後に連邦上院での投票結果について演説を行うと見られている。昨晩の連邦上下両院合同の議場で行った一般教書演説では弾劾について触れなかった。

弾劾訴追の第一条項では、トランプ大統領が「自身の職務の権力を行使」して「2020年の米大統領選挙への外国政府の介入を、相手方の利益を用いて誘導しようとした」と糾弾している。

この条項には次のように書かれていた。「彼(訳者註:トランプ大統領)は、ウクライナ政府に対して、自身の再選にとって利益となるであろうが政敵となる人物の選挙戦の行方にマイなしの影響を与えることになるであろう、捜査を行うと公式に発表するように、相手方の利益をちらつかせて迫った。そして大統領選挙に影響を与えた」。

ホワイトハウスの弁護団は裁判の間繰り返しトランプ大統領がウクライナに対する援助を遅らせたのは汚職に対する懸念があったこと、そして外国の負担分担への懸念があったことが理由だったと主張してきた。

トランプの弁護士ジェイ・セクロウは水曜の評決の直後に勝利宣言を行い、ロムニー上院議員に関しての質問を無視した。

セクロウは「私たちは結果について大変喜んでいます。私たちが勝利を得たことを喜んでいます。そして、アメリカが勝利を得たことを喜んでいます」と述べた。

ロムニー議員について質問されたが、セクロウは次のように語った。「大統領は全ての容疑に関して無罪となりました。私たちはその他のことについて何も懸念を持っていません。私はその質問について答えません。私の答えは、大統領は勝利した、それだけです」。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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