古村治彦です。
今回のアメリカ大統領選挙では、民主党のヒラリー・クリントン、共和党のドナルド・トランプ共に「嫌われて」います。世論調査の数字を見ると、「好き・嫌い」に関する質問については、両方とも過半数の人たちが「嫌い」と答えています。
不人気な2人による大統領選挙ですが、共和党側では、共和党全国大会で正式に大統領選挙候補者に指名された後でも、トランプに対する批判が出ています。また、共和党に所属しながら、トランプを支持しないと表明する人たちも出ています。だからと言って、ヒラリーを支持するというところまで表明する人たちは多くありません。
トランプが、ヒラリーが国務長官時代に私的なEメールアカウントを使っていて、消してしまったEメールについて、ロシアがハッキングしているのなら、是非提供して欲しい、と発言したことに、民主党側が怒りを持って反応するのは当然ですが、共和党側からも批判が出ています。
トランプがヒラリーのEメール問題に関して、ロシアにハッキングと提供を求めた発言やロシアのウクライナ進攻とクリミア併合を非難しなかったことによって、トランプとロシアの関係について批判する記事が多く出るようになっています。
先日もこのブログで書きましたが、民主党側では、こうしたトランプの対ロシア姿勢を利用して、「アメリカの大統領選挙にロシアを干渉させて良いのか」「ロシア製の大統領で良いのか」という問題提起を行っています。そして、もしウィキリークスなどがヒラリーのEメールをリークした場合でも、「これはロシアがアメリカの大統領に自分たちの都合の良い人物を決めようとして行ったのだ」という言い訳で、ダメージを最小に抑えようとするものです。これは非常に巧妙かつ狡猾なやり方です。
トランプは、ヒラリーのように対中、対露で対決姿勢ではなく、交渉で問題を解決しようと訴えています。どちらが世界のために良いかとなれば、トランプの考えの方が良いに決まっています。しかし、選挙戦術として、これから共和党支持者や党員たちを超えて訴えかけねばならない時に、あまりに稚拙な失言を繰り返しているのでは、「敵を喜ばせる」だけになっているという現状があります。現在の情勢では、トランプの勝利はかなり厳しいと言わざるを得ません。
そうした中で、Eメール問題と健康問題はヒラリーにとってのアキレス腱ですから、これを有効に使えるようにしておかねばなりません。今のところ、それが出来ていないということになります。
少し古い記事ですが、以下にトランプに対する保守系からの批判を掲載します。
======
ジュアン・ウィリアムズ:トランプのロシア問題(Juan Williams: Trump's Russia problem)
―振り返ってみると、記者会見の酷さが現実なのだ
ジュアン・ウィリアムズ筆
2016年8月8日
『ザ・ヒル』誌
http://thehill.com/opinion/juan-williams/290590-juan-williams-trumps-russia-problem
民主党全国大会が終了した時、ドナルド・トランプはカメラの前に立ち、ロシアに対して、ヒラリー・クリントンの私的なEメールをハッキングして、アメリカのマスコミに提供するように訴えた。
トランプは真顔で次のように明言した。「ロシアよ、もし今聞いているのなら、行方不明になっている30000通のEメールを見つけ出して欲しいと願っている。それらを提供すれば我が国のメディアから多額のお礼をしてもらえるだろう」。
共和党の大統領選挙候補者トランプは、オバマ政権がロシアと協力できなかったのは、ロシアのウラジミール・プーティン大統領がオバマ大統領を嫌ったからだと述べた。トランプは、「プーティンはオバマ大統領を“間抜け(nerd)”と呼んでいる」と主張した。
その後、激しい批判に晒されたトランプはその批判をかわそうと、アメリカの大統領選挙に外国に干渉させようとしたことは「軽い冗談」だと言い訳した。しかし、トランプの発言は、アメリカの捜査官たちが、ロシアはアメリカの法律を破り、民主党全国委員会のコンピューターをハッキングした、と「確信している」と述べた直後という最悪のタイミングで出された。
これ以降、トランプはロシアと協力したいという希望を明らかにし、「ロシアと友好的になることは、悪いことではないだろ?」と述べた。トランプは、ロシアがウクライナに進攻し、領土の一部を奪取したことを批判することを拒否した。その前には、トランプは、ロシアの進攻の恐怖の中で存在しているNATO加盟諸国が攻撃された場合に、アメリカがそれらの国々を防衛する必要があるという考えを否定した。トランプは、主要政党の大統領選挙候補者にとっては伝統的に行われている、アメリカの最高機密情報に関するブリーフィングを受けようとしている。
トランプが無条件のロシアへの支持とロシアの大衆煽動的な指導者への無条件の好意を示していることを考えると、国家機密をトランプに教えることは大変危険なことだ。
最大の危険はトランプとトランプ陣営にいるスタッフのほとんどは、ロシアとプーティン大統領にアメリカの国家機密を教えてしまうだけのお金に関わる理由を持っているということだ。彼らはそのためにはアメリカの国益を犠牲にするかもしれないのだ。
8年前、ドナルド・トランプの息子ドナルド・トランプ・ジュニアは「トランプ家の財産においてロシアはその規模に似合わないほど多くの面でかかわりを持っている」と発言した。
『ワシントン・ポスト』紙のコラムニストであるジョージ・ウィルは最近、「トランプとプーティンやプーティンの側近たちとの間の金銭上の深いかかわり合いは、トランプが個人のそしてビジネスの税金情報の発表を拒否したことで明白なものとなった」と書いた。
『ポリティファクト』誌によると、トランプ選対の責任者ポール・マナフォートは、「ウクライナの親ロシア派の政治家たちと長きにわたる深い関係にある」ということだ。マナフォートはまた、プーティンと近いロシアの富豪たちの投資の管理をしていたこともある。
国防情報局元長官で退役中将のマイケル・フリンは、トランプの顧問である。彼は、ロシア政府が出資している『ロシア・トゥディ』紙とテレビ局RTの発足を祝う式典に出席し、プーティンと一緒に写真に収まっている。
昨年12月、フリンはRTのインタヴューに答え、その時のやり取りがRTのうウェブサイトに掲載された。この時、フリンは、アメリカとロシアは協力してISISを打倒し、シリアの内戦を終わらせるべきだと述べた。
トランプのロシアに関する顧問として、実業家のカーター・ペイジがいる。彼はロシアと大きなビジネスを展開している、と報じられている。
今年7月中旬、『ワシントン・フリー・ビーコン』誌の記者モーガン・チャルファントは、「先週、ペイジはモスクワを訪れ、アメリカと西洋各国を批判した。彼はアメリカをはじめとする国々は、民主化、格差、腐敗、体制転換といった考えに偽善的に固執していると述べた」と書いている。
ペイジは今年3月にブルームバーグ社とのインタヴューの中で次のように語っている。「私が知っている人たちや一緒に仕事をしている人たちの多くが経済制裁政策によって大きな影響を受けている。アメリカによるロシアに対する経済制裁の解除によって、状況は好転すると思う」。
トランプ陣営はこのような親露的な態度を持っており、共和党全国大会前に、共和党政策のある点に変更を加えた。ワシントン・ポスト紙は次のように報じた。「トランプ陣営は先週、新たに採択される共和党の政策綱領において、ロシアと反対勢力と戦うための武器をウクライナに提供しないという点を明確にするために裏で活動していた。この考えは、ワシントンにいる共和党の外交政策部門の幹部や専門家たちのほぼ全ての考えと衝突するものだ」。
トランプ自身がかつて、オバマ大統領がISに対して同情心を持っているとほのめかし、「何かが進行している」と述べたことがある。
各種世論調査の結果から、アメリカの人々はトランプとプーティンやロシアとの奇妙な関係について把握していることが分かる。
先週のYouGovの世論調査では、54%のアメリカ人が、その中には無党派の48%が含まれているが、トランプがロシアに対してヒラリーのEメールをハッキングするように求めたことを「不適切」だと考えていることが分かった。
この世論調査では、40%のアメリカ人が、そして無党派のうちの38%が、トランプは「ロシアと親しすぎる」と考えていることが分かった。
各種世論調査では、前国務長官であるヒラリーが、外交政策ではどちらがより良い大統領になるかという質問に関して、トランプに対するリードを広げている。
先週のCNN・ORCの世論調査では、59%の有権者がヒラリーの方が外交政策に関して信頼が置けると答えている。一方、トランプへの信頼は36%であった。
ヒラリーは8日前に「フォックス・ニューズ・サンディ」で放送されたインタヴューの中で、トランプのプーティンに対する好意についての疑問を呈した。
ヒラリーは次のように発言している。「トランプは、ロシアに対してアメリカのEメールアカウントに侵入してハッキングをするように求めている。また、プーティンに対して過剰な賛辞を送っている。また、ロシアの望むような外交政策に対する姿勢を表明している。こうした点からも、私たちは、トランプが私たちの大統領であり最高司令官の地位に就くのにふさわしい人物ではないという結論に達せざるを得ない」。
数日後、オバマ大統領は、イスラム教徒だった戦死した米軍将校の両親に関するトランプの発言について、「これらの発言を聞いて、私は共和党の大統領選挙候補者が大統領に不適格だと思わざるを得なかった」と述べた。
オバマは次のように述べている。「トランプは大統領になる準備が全くできていない。この一点だけで、“もうたくさんだ”ということになる」。
有権者にとって、ポイントは、トランプのロシアとの疑わしい関係である。
=====
共和党の専門家50名:トランプは国家安全保障を「危機に晒す」(50 GOP officials: Trump puts national security ‘at risk’)
リサ・へーゲン筆
2016年8月8日
『ザ・ヒル』誌
http://thehill.com/blogs/ballot-box/presidential-races/top-republican-gop-50-officials-warn-donald-trump-national-security-risk-dangerous
共和党の国家安全保障政策専門家50名が月曜日に、書簡を発表し、その中で、ドナルド・トランプは大統領となるための経験が不足しており、国家の安全を危険に晒すことになると訴えている、と『ニューヨーク・タイムズ』紙が報じた。
ジョージ・W・ブッシュ政権とリチャード・ニクソン政権に参加した専門家たちが署名した公開書簡では、彼らは誰もトランプには投票しないだろうと書かれており、その理由として、「私たちは、トランプが危険な大統領になるであろうこと、そして、彼が我が国の国家安全保障と福利を危険に晒すであろうことに思い至ったからだ」としている。
公開書簡には次のように書かれている。「トランプ氏は大統領にふさわしい人格、価値観、経験を備えていない。トランプは自由世界の指導者としてのアメリカの道徳的権威を弱めてしまっている」。
更には次のように続いている。「トランプはアメリカ憲法、アメリカの諸法律、アメリカの諸機関の根底にある信条についての基本的な知識を持っていない。アメリカの信条とは、宗教的寛容、表現の自由、司法の独立である」。
専門家たちは「トランプが当選したら、アメリカ市場で最も無謀な大統領になるだろう」と予測している。
署名した人々には、CIAと国家安全保障局の長官を務めたマイケル・ヘイデン、ブッシュとオバマ両政権で国土安全保障省長官を務めたマイケル・チャートフ、ブッシュ政権の国家情報局長官を務めたジョン・ネグロポンテ、ブッシュ政権で国土安全局長官を務めたトム・リッジがいる。また、激戦州のひとつペンシルヴァニア州の元州知事、アメリカ通商代表、国家安全保障問題担当補佐官や大使を務めた人々もいる。
これまで共和党の幹部クラスの中には、公にこの秋にトランプには投票せず、民主党の候補者ヒラリー・クリントンを支持すると表明する人たちが出ている中、書簡が発表された。
月曜日、レズリー・ウェスティンは大統領選挙でヒラリーに投票すると述べた。ウェスティンはジョージ・W・ブッシュ大統領時代のホワイトハウス連絡部長兼副補佐官を務めた。
『ニューヨーク・タイムズ』紙は、ヘンリー・キッシンジャー、ジョージ・シュルツ、ジェイムズ・ベイカー、コリン・パウエル、コンドリーザ・ライスの国務長官経験者たちが公開書簡に署名をしていないと指摘している。トランプは、数カ月前に、キッシンジャーとベイカーに会っている。
(終わり)