古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

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 古村治彦です。

 昨日は、国際関係論の一学派リアリズムの泰斗であるスティーヴン・M・ウォルトのリアリズムによる新型コロナウイルス感染拡大に関する分析論稿を紹介した。今回ご紹介する論稿はウォルトの論稿に対する反論という内容になっている。

 新型コロナウイルス拡大が国際的な問題となって3年が経過した。各国は医療体制の拡充や補助金の新設や増額などで対応してきた。日本も例外ではない。そうした中で、国家の役割が増大し、人と物、資本が国境を越えて激しく動き回る、グローバライゼーションの深化はとん挫した形になった。国際機関に対する信頼も小さくなっていった。

 しかし、今回ご紹介する論稿の著者ジョンストンは、初期段階の対応はリアリズムで分析できるが、これからはそうではないと述べている。もう1つの学派であるリベラリズム(Liberalism)によって分析・説明が可能になると主張している。

 リベラリズムとは、各国家は国益を追求するために、進んで協力を行う、国際機関やNGOなどの非国家主体が国際関係において、重要役割を果たすと主張する学派だ。新型コロナウイルス感染拡大の初期段階では各国は国境を閉じ、人の往来を制限して、国内での対応に終始した。しかし、これから新型コロナウイルス感染拡大前の世界に戻るということになれば、国際的な取り決めや協力が必要になり、国際機関の役割も重要になっていく。グローバライゼーションの動きがどれくらい復活をしてくるかは分からないが、おそらくこれまでのような無制限ということはないにしても、人、物、資本の往来はどんどん復活していくだろう。

 社会科学の諸理論は、社会的な出来事を分析し、説明し、更には予測することを目的にして作られている。理論(theory)が完璧であればそれは法則(law)ということになるが、それはなかなか実現できないことだ。諸理論は長所と短所をそれぞれ抱えており、また、現実の出来事のどの部分を強調するかという点でも違っている。理論を構成していくというのは、言葉遊びのようであり、まどろっこしくて、めんどくさいのように感じる。

 しかし、そうやって遅々としてか進まない営為というものもまた社会にとって必要であり、いつか大いに役立つものが生み出されるのではないかという希望を持って進められるべき営為でもある。日本においては官民で、学問研究に対する理解も支援も少なくなりつつあるように感じている。それは何とも悲しいことだし、日本の国力が落ちている、衰退国家になっているということを実感させられる動きだ。

(貼り付けはじめ)

感染拡大とリアリズムの限界(The Pandemic and the Limits of Realism

-国際関係論の基本的な理論であるリアリズムはそれが主張するよりも現実的ということではない。

セス・A・ジョンストン筆

2020年6月24日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2020/06/24/coronavirus-pandemic-realism-limited-international-relations-theory/

スティーブン・ウォルトの「コロナウイルス感染に対するリアリズム的ガイド」は、彼の他の論文とともに、国際関係の現実主義者がコロナウイルスをこの学派の思想の正当性を証明するのに役立つと見ている説得力のある例である。現実主義者が自信を持つには十分な理由がある。新型コロナウイルス感染拡大への対応は、主権国家の優位性(primacy of sovereign states)、大国間競争の根拠(rationale for great-power competition)、国際協力への様々な障害(obstacles to international cooperation)など、リアリズムの伝統の主要な信条を実証するものとなった。

しかし、新型コロナウイルス感染拡大は、政策を成功に導く源泉としてのリアリズムの欠点も露呈している。リアリズムが得意とするのは、リスクや危険を説明することであり、解決策を提示することではない。リアリズムの長所は治療や予防よりも診断にある。新型コロナウイルスに最も効果的に対処するためには、政策立案者たちは、過去4分の3世紀の他の大きな危機への対応に、不本意ながら情報を与えてくれたもう1つの理論的伝統に目を向ける必要がある。

リアリズムは多くのことを正しく理解しており、それが、少なくともアメリカにおいて、リアリズムが国際関係論の基礎となる学派であり続ける理由の1つである。新型コロナウイルス感染拡大は、世界政治の主役は国家であるというリアリズムの見識を浮き彫りにしている。新型コロナウイルスが発生すると、各国は国境を閉鎖または強化し、国境内の移動を制限し、安全保障と公衆衛生の資源を結集して迅速に行動した。世界保健機関(World Health OrganizationWHO)は当初、こうした国境管理に反対するよう勧告し、企業は経済活動の低下を懸念し、個人は移動の自由の制限に苦しんだが、これは秩序を維持し出来事を形成する国家の権威を強調するものだ。

しかし、国の独自行動がいかにリアリズムから理解できるものであっても、また予測できるものであっても、その不十分さは同じである。国境管理と渡航制限によって、各国が新型コロナウイルス感染拡大から免れることはなかった。たとえ完璧な管理が可能であったとしても、それが望ましいかどうかは疑問である。島国であるニュージーランドは、物理的な地理的優位性と国家の決定的な行動により、新型コロナウイルスに対して国境を維持し、比較的成功を収めていることについて考える。ニュージーランドが国家的勝利を収めたとしても、感染拡大が国境を越えて猛威を振るう限り、それは不完全なものに過ぎない。再感染し、国際的な開放性に依存する産業が経済的なダメージを受け続ける危険性がある。つまり、自国内での感染を防ぐことは国益にかなうが、他の国が同じことをしない限り、その国益は実現しないのだ。経済や安全保障の競争は、「相対的利益(relative gains)」やゼロサムの競争論理といったリアリズム的な考察に合致しやすいが、疾病のような国境を越えた大災害は、「無政府状態(anarchy)」の国際システムにおける個々の国家の限界を露わにする。

国境を越えるようなリスクと国益との間の断絶は、資源をめぐる国家の奔走という別の問題にも関連している。ここでもリアリズムがこの問題の診断に役立っている。なぜ各国が医療用マスク、人工呼吸器、治療やワクチンのための知的財産といった希少な品目をめぐって争うのかを説明している。このような争いは、ゼロサムの論理の性質を持つ。しかし、協調性のない行動は非効率的な配分(inefficient allocation)をもたらし、時間と労力を浪費し、コストを増大させる。これら全ては、感染症の発生を阻止するという包括的なそして共通の利益を損なうものである。同じ資源をめぐるアメリカの州や自治体の無秩序な争いは、国内でもよく見られる光景である。リアリズムが提示する建設的な選択肢はほとんどない。

リアリストたちは国際機関を信用しないよう注意を促す。例えば、国連もWHOも新型コロナウイルスを倒すことはできない。国際機関が自律的な国際的なアクターであるとすれば、それは弱いものであることは事実である。しかし、この批判は的外れである。国際機関は、国家の行動に代わるものでも、国際関係における国家の主要な地位に対する挑戦者でもない。むしろ、外交政策や国家運営(statecraft)の道具である。国家が国際機関を設立し、参加するのは、予測可能性(predictability)、情報、コスト削減、その他機関が提供できるサーヴィスから利益を得るためである。リアリズムの著名な学者であるジョン・ミアシャイマーでさえ、国際機関は「事実上、大国が考案し、従うことに同意したルールであり、そのルールを守ることが自分たちの利益になると信じているからである」と認めている。制度学派のロバート・コヘインとリサ・マーティンが数十年前にミアシャイマーとの大激論で述べたように、国家は確かに自己利益追求的であるが、協力はしばしば彼らの利益になり、制度はその協力を促進するのに役立つのである。ミアシャイマーは、最近、他の分野でもアメリカの利益に資するために、より多くの国際機関を創設するよう主張したので、最終的には同意することになったのかもしれない。また、制度学派も、安易な協力を期待することの甘さに対するリアリズムの警告を認めている。日常生活において、隣人との協力は簡単でも確実でもない。しかし、アメリカ人の多くが感染拡大にもかかわらず、街頭に出て要求したように、代替案よりも望ましいことであるから、それを得るために努力する価値があるのだ。

主要な違いは、制度主義(institutionalism)の方が、自己利益追求的な協力の現実的な可能性をより強調することである。この強調の仕方の違いによって、リアリズムと制度主義の間にある実質的な共通点が曖昧になりかねない。両方とも、国際協力(international cooperation)が望ましいことは認識しているが、より困難な問題は、それをどのように達成するかということである。この点では、現実主義的な洞察(insight)が大いに貢献する。覇権的なパワー(hegemony power)が国際的な制度を押し付けると、その制度は覇権を失った後も存続しうるという古典的な考え方がある。また、ジョセフ・ナイのリーダーシップに関する議論でも、パワーは中心的な役割を果たし、コストを下げ、成果を向上させるために、パワーのハードとソフト両面の「賢い(smart)」応用が必要であるとしている。さらに他の研究者たちは、制度設計(institutional design)が強制、情報共有、その他の設計上の特徴を通じて、不正行為(cheating)、恐怖(fear)、不確実性(uncertainty)のリスクを縮小することができると指摘している。これらの資源は完璧ではないが、パワー、リーダーシップ、制度設計に対する影響力など、その全てがアメリカで利用可能であることは朗報である。

日常生活において、隣国との協力は簡単でも確実でもない。しかし、感染拡大にもかかわらず、アメリカ人の多くが街頭に立って要求しているように、代替案よりも望ましいことであるから、それを得るために努力する価値はある。国益は、利用可能な資源やヴィジョンと相まって、アメリカや他の国々が過去の危機の際に国際機関を設立し、行動してきた理由を説明する。国際連合(United Nations)は、第二次世界大戦中にアメリカが連合国(the Allies)に対して作った造語であり、終戦時に制度化されたものである。イスラム国(Islamic State)討伐のための国際的な連合は、国際テロ対策という共通の利益を更に高めるために数十カ国が結集し、それ自体は2014年のNATO会議の傍らで考案されたものである。2008年の金融危機の際、各国は経済政策を調整し、コストを分担し、経済を救うために、G20を再発明した。

アメリカはこうした制度の創設を主導し、莫大な利益を得た。第一次世界大戦後の国際連盟(League of Nations)への加盟を拒絶し、911後のテロ対策では、当初はやや単独行動的(unilateral)であったように、国際協力は必ずしもアメリカの最初の衝動では無かった。しかし、アメリカは最終的に、国際的な協調行動とリーダーシップによって、自国の利益をよりよく実現することができると判断したのである。

新型コロナウイルスの大流行に対する国家の初期反応については、リアリズムで説明することができるが、より良い方法を見出すためには、他の諸理論に建設的な政策アイデアを求める必要がある。これまでの世界的危機と同様、アメリカは国際機関に国益を見出す努力をすることができるし、そうすべきである。

※セス・A・ジョンストン:ハーヴァード大学ベルファー科学・国際問題センター研究員。

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(終わり)

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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 大変古い記事で申し訳ないが、国際関係論におけるリアリズムとリベラリズムという2つの学派の考え方を現実問題に当てはめてみたらどのような分析になるかという内容の論稿をご紹介したい。著者はリアリズムの代表的な学者でハーヴァード大学教授のスティーヴン・M・ウォルトだ。

 ここ最近の世界的な大事件と言えば、新型コロナウイルスの世界規模での感染拡大だ。各国はどのように新型コロナウイルスに対応するのかという分析記事である。国際関係論におけるリアリズムとは、国際政治においては国家が主役であり国益のために行動し、それぞれのパワー(力、国力)を前提として、国際関係を分析するが、国家間の協力よりは競争、更には均衡状態が実現しやすいという考え方である。リベラリズムとは、世界各国は国益を実現するために協力を行い、相互依存関係を深化させる。そして、国家以外の主体(国際機関やNGOなど)も重要なアクターであるとするものだ。

 今回の新型コロナウイルス感染拡大で各国政府は様々な分野で役割を果たした。国家の存在、役割が改めて認識されることになった。その点で言えば、リアリズムの分析が有効ということになる。リアリズムは国益を国家の生存と定義し、各国家の体制の違いにはあまり注目していない。どの形の国家であっても、国家の生存を第一とするということになる。各国家は滅亡しないように生存を最優先して行動する。これが前提となる。

 グローバライゼーションが深化して、国家以外の主体、国際機関やNGOなどが重要な主体となっているということが盛んに喧伝されたが、今回の新型コロナウイルス感染拡大ではそこまでの存在感を示すことはできなかった。やはり各国家が、他の国々の対応を横目で見ながら対応するということになった。

 2016年のドナルド・トランプの米大統領選挙当選、イギリスのEUからの離脱(ブレグジット、Brexit)はグローバライゼーションへの大きな反撃となったが、新型コロナウイルスもまたグローバライゼーションを止めるための要素となった。「アイソレイショニズム(Isolationism)」「アメリカ・ファースト(America First)」という言葉が改めて実感を持って認識されることになった。

 日本国内でもグローバライゼーションによる格差拡大、各レヴェルの政府の役割の縮小が進んでいた中で、新型コロナウイルス感染拡大対策が後手に回ったと言わざるを得ない。日本でもグローバライゼーションに対する揺り戻しがこれから進んでいくだろう。グローバライゼーションの推進勢力である自民党、公明党の連立政権と与党補完勢力(ゆ党)の日本維新の会に対する支持率の低下はそのことを示していると言えるだろう。

 新型コロナウイルスは世界の進む方向とそのスピードを変えるほどの大きな影響があったということになる。

(貼り付けはじめ)

コロナウイルス感染に対するリアリズム的ガイド(The Realist’s Guide to the Coronavirus Outbreak

-グローバライゼーションはICU(集中治療室)に向かっている。そして、増大する国際的な危機の性質に関するその他の外交政策に関する洞察にも向かっている。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2020年3月9日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2020/03/09/coronavirus-economy-globalization-virus-icu-realism/

国際政治と外交政策に対するリアリズムのアプローチは、新型コロナウイルスの発生のような潜在的な感染拡大の問題にあまり注意を向けない。もちろん、全てを説明する理論は存在しない。リアリズムは主に、無政府状態の制約効果(constraining effects of anarchy)、大国同士が優位性を競う理由(reasons why great powers compete for advantage)、国家間の効果的な協力に対する永続的な障害(enduring obstacles to effective cooperation among states)に焦点を当てている。種間ウイルス感染、疫学、または公衆衛生の最善の形態についてはほとんど語られていないため、リアリストたちに在宅勤務を開始する必要があるかどうかを尋ねるべきではない。

これらの明白な限界があるにもかかわらず、リアリズムは、新しいコロナウイルスの発生が提起しているいくつかの問題に対して、有益な洞察を提供することができる。たとえば、トゥキディデスのペロポネソス戦争に関する記述(リアリズムの伝統の基礎となった文書の1つ)の中心的な出来事が、紀元前430年にアテネを襲い、3年以上にわたって続いたペストであることは、記憶しておく価値がある。歴史家たちは、このペストはペリクレスのような著名な指導者を含むアテネの人口の約3分の1を殺害し、アテネの長期的な力の可能性に明らかにマイナスの影響を及ぼしたと考えている。リアリズムとは、私たちが現在置かれている状況について、何か示唆を与えてくれるものではないだろうか?

第一に、最も明白なことは、現在の緊急事態(present emergency)は、国家(states)が依然として世界政治の主役であることを思い起こさせるということだ。数年ごとに、学者や評論家たちは、世界情勢において国家の存在意義が薄れつつあり、他の主体や社会勢力(非政府組織、多国籍企業、国際テロリスト、グローバル市場など)が国家の主権を弱め、国家を歴史のごみ箱に押し込んでいると指摘している。しかし、新たな危険が生じた時、人間は何よりもまず国家に保護を求める。911同時多発テロの後、アメリカ人はアルカイダから自分たちを守るために、国連やマイクロソフト社やアムネスティ・インターナショナルに頼らず、ワシントンと連邦政府に頼った。そして、それは今日も同じである。世界中で、市民は公的機関に権威ある情報を提供し、効果的な対応策を講じるよう求めている。先週、ジャーナリストのデレク・トンプソンがツイッター上で書いていたように、「パンデミックにリバータリアンは存在しない(There are no libertarians in a pandemic)」。これは、より広範なグローバルな取り組みが必要でないということではなく、グローバル化にもかかわらず、国家は依然として現代世界の中心的な政治的アクターであることを思い出させるものである。現実主義者たちはこの点を何十年にもわたって強調してきたが、コロナウイルスはそれをまたもや鮮明に思い出させるものである。

第二に、より構造的なリアリズムでは、相対的なパワーを除いて、国家間の差異を軽視する傾向があるが、コロナウイルス感染への対応を通じて、異なるタイプの政権の強みと弱点が露呈していることだ。硬直した独裁国家は飢饉や伝染病などの災害に対して脆弱であると、学者たちは以前から指摘してきた。これはまさに中国やイランで起こったと思われることである。警鐘を鳴らそうとした人々は沈黙させられ、あるいは処罰され、トップはそれに対処するために迅速に動員する代わりに、何が起こっているのかを隠そうとした。権威主義的な政府は、資源を動員して野心的な対応をすることが得意である。北京が都市全体を隔離し、広範囲に及ぶ規制を行ったのはそのためだが、トップに立つ人々は何が起こっているのかを把握し、認識した後でなければならないのである。

民主政体国家では、独立したメディアや下級役人が処罰されることなく警鐘を鳴らすことができることもあり、情報がより自由に流れるため、問題の発生をより的確に把握することができるはずだ。しかし、民主政体国家においては、時宜を得たな対応策を策定し、実行に移す際に問題が生じる可能性がある。特にアメリカでは、緊急事態に対応する第一対応者(first responder)やその他の機関が、多くの州政府や地方政府の管理下に置かれているため、この欠陥が深刻になる可能性がある。事前に十分な計画を立て、ワシントンから効果的な調整が行われない限り(最善の状況でこれを行うのは容易ではない)、正確で時宜を得た警告であっても、効果的な緊急対策は生まれないかもしれない。ニューオーリンズのハリケーン・カトリーナやプエルトリコのハリケーン・マリアへの対応の失敗がその具体例だ。

残念なことに、ミシェル・ゴールドバーグが最近の『ニューヨーク・タイムズ』紙の論稿で指摘したように、「ドナルド・トランプのコロナウイルスへの対応は、独裁と民主政体の最悪の特徴を兼ね備えており、不透明さとプロパガンダと指導者不在の非効率性が混在している」のである。以前、連邦政府全体とホワイトハウス自体の災害対策を格下げしたトランプは、一貫してコロナウイルス発生の深刻さを軽視し、資格を持つ科学者の評価を覆し、あるいは挑戦し、効果的な連邦政府の対応を調整できず、前線にいる地方公務員と喧嘩をし、全てを退任して3年以上になる前任者バラク・オバマのせいにしてきた。分権的な民主政体システム(decentralized democratic system)の責任者に権威主義者を据え、更に深刻な緊急事態が重なれば、このような事態も予想される。

明るい兆しはあるのだろうか? リアリズムはわずかながらあるのかもしれないと提案している。競争の激しい世界では、国家は他国が何をしているかに警戒心を抱き、成功を真似ようとする大きな動機がある。例えば、軍事上の技術革新はすぐに他国に採用される傾向がある。適応に失敗すれば、遅れをとって脆弱になるからだ。このような観点から、いくつかの国がコロナウイルスに対してより効果的な対応をとれば、他の国もすぐにそれに追随することが予想される。このプロセスは、各国が正確な情報を共有し、情報を政治的に利用したり、利益を得るために利用したりすることを控えれば、より迅速に実現することができる。

残念なことに、リアリズムは、この問題に関して効果的な国際協力を実現することは、その必要性が明らかであるにもかかわらず、容易ではないことも指摘している。リアリストたちは、協力(cooperation)は常に起こるものであり、規範(norms)や制度(institutions)は、国家が協力することが自国の利益になる場合には、それを助けることができると認識している。しかし、リアリストたちは、国際協力は往々にして脆弱であると警告する。その理由は、他国が約束を守らないことを恐れたり、協力が自分たちの利益よりも他国の利益になることを心配したり、コストの不釣り合いな負担を避けようとしたりすることにある。このような懸念があるからといって、各国が互いに協力してこの地球規模の問題に取り組むことを妨げるとは思わないが、これらの懸念のいずれか、あるいは全てが、集団的対応(collective response)の効果を低下させる可能性がある。

最後に、外交政策上のリアリズムは、もしこの新型コロナウイルス感染拡大が(2003年のSARSの流行のように)迅速かつ多かれ少なかれ永久に沈静化しないならば、既に進行中の脱グローバリズムへの拡大傾向を強化することになるとも指摘している。1990年代、グローバライゼーションの使徒たち(apostles of globalization)は、貿易、旅行、グローバル金融統合、デジタル革命、そして資本主義的自由民主政治体制の明白な優位性によって、世界はますます緊密につながり、ますますフラットでボーダレスになっていく世界で、私たちはみな豊かになるために忙しくなるだろうと信じていた。過去10年以上、この楽観的なヴィジョンは着実に後退し、自律性(autonomy)と大切な生活様式の維持のために、効率、成長、開放性を交換しようとする人がどんどん増えている。イギリスのEU離脱賛成派(Brexiteers)が言うように、彼らは「コントロールを取り戻したい」ということなのだ。

リアリストにとっては、この反発は当然のことである。リアリストのケネス・ウォルツがその代表作『国際政治の理論(Theory of International Politics)』で書いているように、「国内の命令は『特殊化する(specialize)』」であり、国際的命令は『自分のことは自分でやれ!(Take care of yourself !)』」なのだ!」。キリスト教的リアリストのラインホールド・ニーバーも1930年代に同様の警告を発し、「国際商業の発展、国家間の経済的相互依存(economic interdependence)の増大、技術文明(technological civilisation)の全装置は、国家間の問題や課題を、それを解決する知性(intelligence)が生まれるよりもはるかに急速に増大させている」と書いている。

リベラル派の理論家たちは、国家間の相互依存の高まりが繁栄の源泉となり、国際的な対立を阻害すると主張してきた。これに対し、リアリストたちは、緊密な関係は脆弱性(vulnerability)の源でもあり、紛争の原因となり得ると警告している。ウォルツとニーバーは、国家間の結びつきが強くなればなるほど、解決できる問題と同じくらい多くの問題が発生し、時には解決策を考えるよりも早く問題が発生する、と言っているのだ。そのため、国際政治の重要な構成要素である国家は、互いの取引に制限を設けることでリスクと脆弱性を軽減しようとする。

従って、リアリズムの観点からすれば、新型コロナウイルスは国家にグローバライゼーションを制限する新たな理由を与える可能性がある。超グローバライゼーションは、世界の金融システムを危機に対してより脆弱にし、雇用の奪い合いによる深刻な国内政治問題を引き起こしたが、現在我々が目撃しているような国際規模の感染拡大に文字通りさらされる機会も増加した。

明確にしよう。リアリズムは、経済的自立への後退や、2つの世界大戦と世界恐慌の結果として起こったのと同じレヴェルの脱グローバリズムを予測するものではない。現代の国家は、新型コロナウイルスのようなものに直面しても、全ての関係を断ち切る訳にはいかない。しかし、現代のグローバライゼーションの高水準はもはや過去のものとなり、2つの種類の境界を越えたウイルスが、国家間の境界(borders)をもう少し高くする理由の1つになるのではないかと私は推測している。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。ツイッターアカウント:@stephenwalt

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 古村治彦です。

 アメリカは高いインフレ率に見舞われ、その対処のために利上げを行っている。高校の現代社会、倫理政経の授業で行うような説明をすれば、利上げを行うことで、社会に出回っているお金が金融機関に預けられることになり、出回るお金が少なることで、物価が下がるということになる。しかし、物価が下がるというのは景気後退を伴う。アメリカは来年に景気後退ということになるかもしれない。アメリカで景気後退ということになれば、世界でも旺盛な需要のアメリカで需要が落ちるということになり、それが世界全体に影響を与えることになる。日本を含めてアメリカとの貿易関係が対外貿易に大きな割合を占めている国々にとってアメリカの景気減速はそのマイナスの影響を大きく受けるという懸念が出てくる。

 ジョー・バイデン政権の国家安全保障問題担当大統領補佐官を務めるジェイク・サリヴァンは補佐官就任以前に複数の論稿で、「産業政策(industrial policy)」について書いている。産業政策とは国家が特定の産業を保護し育成するというものだ。産業政策と言えば、戦後日本がその成功例である。チャルマーズ・ジョンソン著『通産省と日本の奇跡: 産業政策の発展1925-1975』こそは産業政策をアメリカに知らせて、「日本の経済政策はこうなっているのか」ということをアメリカ政府に知らせた歴史的な書籍である。この本が出た時、通産省では「誰が日本にとって最も重要な秘密をアメリカに知らせるような行為に協力したのか」という犯人捜しのようなことが行われたという逸話が残っている。アメリカは自由市場、政府の介入を嫌うということを基本にしてきたが、それが変化しつつある。補助金などを通じて産業政策で中国と対抗すること、特に半導体分野での競争をもくろんでいる。政府補助金は自由貿易体制を侵害するものだという批判は当然出てくる。

 中国も生後日本の奇跡の経済成長を研究し、自国に政策に応用し、成功させている。中国は国内では自由市場体制を採用していないが、対外貿易では、自由貿易体制の恩恵を受けてきた。アメリカの内向きな政策、保護主義的な政策について「自由貿易体制を侵害する」として反対している。対外貿易の面で見れば、中国が自由貿易体制の擁護者という奇妙な状態になっている。そして、日本の産業政策から学んだであろう米中両国が産業政策を使って対決するという構図になっているのも何とも奇妙な形である。

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バイデンの「アメリカ・ファースト」経済政策はヨーロッパとの間に溝を生む恐れがある(Biden’s ‘America First’ Economic Policy Threatens Rift With Europe

-ヨーロッパ諸国では、自動車、クリーンエネルギー、半導体に対するアメリカ政府による膨大な補助金供与が自国の経済にとって危険であると考えられている。

エドワード・アルデン筆

2022年12月5日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/12/05/biden-ira-chips-act-america-first-europe-eu-cars-ev-economic-policy/

ジョー・バイデン米国大統領の就任以降、2年近くの蜜月が続いたが、経済政策をめぐってワシントンとヨーロッパの同盟国の間に大きな亀裂が入りつつある。この対立をうまく処理しなければ、アメリカがヨーロッパやアジアの同盟諸国やパートナーと協力して中国やロシアの野心を抑えるというバイデン政権の新しい世界経済秩序の構想は競合する経済ブロックの世界へと堕落してしまうかもしれない。

数カ月の間、静かに続いていた対立は、先週ついに表に姿を現した。ヨーロッパ連合(EU)の域内市場委員であるティエリー・ブルトンは、今週メリーランド州で開かれる大西洋横断経済政策の重要な調整機関であるアメリカ・EU貿易技術評議会(U.S.-EU Trade and Technology Council)の会合から離脱することを発表した。「評議会の議題は、多くの欧州産業界の閣僚や企業が懸念している問題について十分な議論ができるものではなくなった」と述べ、電気自動車やクリーンエネルギーに対するアメリカの新たな補助金がヨーロッパの自動車メーカーやその他の企業に不利になっているというEUの苦情を指摘した。ブルトンは「欧州の産業基盤の競争力を維持することが急務であるという点に焦点を当てる」と述べた。

先週、新型コロナウイルス感染拡大後初めて開催されたホワイトハウスの公式晩餐会に出席するためワシントンを訪れたフランスのエマニュエル・マクロン大統領は、米国の補助金は「アメリカ経済にとって非常に良いものだが、ヨーロッパ経済と適切に調整されていなかった」と述べた。訪問に先立ち、フランスのブルーノ・ル・メール経済・財務相は、アメリカが中国式の産業政策を追求していると非難した。

今回問題となった補助金は、今年初めにアメリカ連邦議会で可決された2つの巨大法案、インフレイション削減法(Inflation Reduction ActIRA)とCHIPS・科学法だ。前者は、アメリカでクリーンエネルギーをより早く導入するために3700億ドルもの補助金を提供するものだ。その中には、米国で電気自動車を購入した場合の税額控除も含まれているが、これはその電気自動車が北米で組み立てられ、その部品がアメリカまたはその他の「自由貿易パートナー諸国(free-trade partners)」で製造された場合に限られる。このような表現をすると、フォルクスワーゲンやBMWといったヨーロッパの自動車会社が打撃を受けることになるだろう。後者は、半導体メーカーがアメリカに高性能製造工場を新設に対して520億ドル支援するものだ。ヨーロッパ各国の指導者たちは、どちらの法律もアメリカ企業に不当な補助金を与え、ヨーロッパ大陸の競争力問題を悪化させ、アメリカや中国と費用のかかる補助金競争へとヨーロッパを追い込む可能性があると考えられている。

オランダ政府は先週、チップ製造装置の主要メーカーであるASMLASMインターナショナルに対して、中国との関係を断つよう求めるアメリカの圧力に公然と反撃した。アメリカは、高性能の半導体とチップ製造装置の中国への販売を阻止するため、徹底的なキャンペーンを展開しているが、日本やオランダのような同盟諸国を説得するには至っていない。オランダの経済大臣ミッキー・アドリアンセンスは『フィナンシャル・タイムズ』紙に対し、オランダは中国との関係について「非常に前向き」であり、中国への輸出規制については欧州とオランダが「独自の戦略を持つべき」であると述べた。

バイデン大統領とヨーロッパの指導者たちは、大西洋を横断する根本的な亀裂を許すわけにはいかないことを十分承知している。

分裂が拡大しているのは、ロシアのウクライナ戦争が一因である。アメリカとヨーロッパは対ロシア制裁とウクライナへの軍事支援で一致団結しているが、ヨーロッパはこの紛争ではるかに高い経済的代償を払っている。ヨーロッパ各国の天然ガス価格は米国の10倍程度に高騰し、ヨーロッパの産業界は大きな不利益を被っている。アメリカは、ヨーロッパがロシアのガスの損失を液化天然ガス(liquefied natural gasLNG)の輸出で埋めるのを助けているが、それは現在高騰している市場価格で販売されている。在ワシントン・フランス大使のフィリップ・エチエンヌは、『フォーリン・ポリシー』誌の取材に対して、「アメリカがヨーロッパに液化天然ガスを提供してくれるのはありがたいが、価格については問題がある」と述べた。

より長期的に見れば、バイデン政権の産業政策(industrial policies)の相反する目標が争点の中心になる。一方では、アメリカは、将来の産業にとって重要な技術や投入物を供給する中国の役割を減らし、強固なサプライチェインを構築することを望んでいる。そのためには、無駄な重複を防ぎ、供給の弾力性を高めるために、同盟諸国との密接な協力、つまり、政権が「友人たちとの共有(フレンドシャアリング、friendshoring)」と呼んでいるものが必要である。一方、中国との競争もあって製造業が失われたことは、アメリカの安全保障を弱め、経済に悪影響を与えたと考え、アメリカの製造業の復活を切望している。また、ミシガン州、ペンシルヴァニア州、ウィスコンシン州などの各州では、製造業の雇用喪失が民主党への支持を低下させた。アメリカの新たな措置はいずれも、企業がヨーロッパや他の緊密なパートナー諸国ではなく、アメリカに投資することを有利にするものだ。

バイデン政権の商務長官であるジーナ・ライモンドは、自分の父親はロードアイランド州にあるブローヴァの時計工場で28年間勤めていたが、同社が生産を中国に移したことで失業したと先週マサチューセッツ工科大学で行ったスピーチで述べた。ライモンドは「これからは、未来の技術をアメリカで発明するだけでなく、その製造もアメリカで行うようにすべきだ」と述べた。このような考え方は、アメリカの同盟諸国やパートナー国にとって都合の悪いものだ。それは、アメリカがこれらの国々に対して新たな規制を受け入れるよう主張し、多国籍企業が安価なエネルギーと寛大な補助金を利用するためにアメリカに移転したり生産を拡大したりすることで、中国市場を失うという可能性に直面することになるからだ。

このような懸念を抱いているのはヨーロッパだけではない。世界貿易機関(World Trade OrganizationWTO)のンゴジ・オコンジョ・イウェアラ事務局長は、無差別規範(貿易相手国が平等に扱われるという条件)を保護しようとしている。イウェアラは、バイデン政権が提示する二者択一を受け入れる国はほとんどないと主張する。「多くの国は2つのブロックのどちらかを選ぶことを望んでいない」と彼女はオーストラリアのロウリー研究所でのスピーチで述べた。このような選択を強いることは、アメリカ、中国、その他の国々が協力せざるを得ない問題での進展を損なう恐れがある。彼女は、「弾力性と安全保障の構築を目的とした政策による分断(デカップリング)は、結局は自己目的化してしまい、気候変動、新型コロナウイルス感染拡大、政府債務危機などの集団的課題に対する協力に悪影響を及ぼす可能性がある」と警告した。

バイデンは、マクロンとの公式晩餐会に先立って、ヨーロッパ各国の懸念を認識し、それを改善しようとする意思を示す言葉を発している。バイデンは、米仏両首脳が「私たちのアプローチを調整し、連携させるための実際的な手段を議論することに合意した。大西洋の両側で製造と革新が強化されるようにした」と述べた。マクロンは、「両首脳は、私たちのアプローチを再び同調して進めることに合意した」と繰り返した。バイデンは「私たちは、存在するいくつかの違いを解決することができる。私はそれを確信している」と述べた。

しかし、その詳細は簡単に解決できるものではないだろう。バイデンは、上記の法律には修正すべき「不具合」があることを率直に認めた。しかし、例えば、自由貿易パートナーが生産する商品への補助金の拡大に関するインフレイション削減法の文言を拡張して、EUを含めることができるかどうかは不明だ。また、議会や政権、鉄鋼や太陽光発電などの業界には、アメリカは製造業の復活が遅れていると考え、この法案の「アメリカ第一」原理にこだわる人々が多い。彼らは、この法律の過度に寛大な解釈に反発するだろう。

バイデン大統領とヨーロッパ各国の指導者たちは、大西洋を横断する根本的な亀裂を許す訳にはいかないことを十分承知している。冷戦の最盛期以降で、ロシアと中国の二重の脅威が、アメリカとヨーロッパに、エアバス社とボーイング社への補助金をめぐる長い論争のように、ストレスの少ない時代には何年もくすぶっていたかもしれない経済問題を協力し解決することを迫っているのである。

この大きな賭けは、両者が解決策を見出すことを示唆している。マクロン大統領は「この状況下では、私たちは協力する以外に選択肢はないのだ」と述べた。

※エドワード・アルデン:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト、ウエスタン・ワシントン大学非常勤教授。外交評議会上級研究員。著書に『調整の失敗:アメリカは如何にして世界経済を置き去りにするのか(Failure to Adjust: How Americans Got Left Behind in the Global Economy)』がある。ツイッターアカウント:@edwardalden

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世界各国がインフレイションを下げようと躍起になっている中で世界規模での景気後退に起きると国連が警告(UN warns of a global recession as countries race to lower inflation

トバイアス・バーンズ筆

2022年10月4日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/policy/3673894-un-warns-of-a-global-recession-as-countries-race-to-lower-inflation/

国連は、アメリカやヨーロッパなどの先進諸国の規制当局が高騰するインフレイションを抑えようとする中、月曜日に世界的な景気後退の発生を警告した。

国連は、アメリカ連邦準備制度(U.S. Federal Reserve)をはじめとする中央銀行に対し、「軌道修正し、これまで以上に高い金利に頼ることで物価を下げようとする誘惑を避けるように」と呼びかけた。

アメリカ連邦準備制度は、新型コロナウイルスの感染拡大による世界的な経済活動停止を受けて、景気が減速し、40年ぶりの高水準にあるインフレイション率を下げようと、金利を引き上げている。3月以降、金利は0%前後から3から3.25%へと上昇している。

しかし、国連の主要な経済関連団体をはじめに、世界各国の金融当局の姿勢を見直すことを求める声が高まっている。彼らは、インフレイション目標を下げることは、継続的な金利引き上げの痛みに見合わないと主張している。アメリカ連邦準備制度の中央値予想によれば、来年の金利は4.6%に達すると見られている。

国連貿易開発会議U.N. Conference on Trade and DevelopmentUNCTAD)は月曜日に発表した報告書の中で、中央銀行に対し、今後の景気後退は「政策によるもの(policy-induced)」であり「政治的意思(political will)」の問題であるとし、軌道修正するよう促した。

国連貿易開発会議のグローバライゼイション部門の部長であるリチャード・コズル・ライトは声明の中で、「政策立案者たちが直面している本当の問題は、あまりにも多くのお金があまりにも少ない商品を追いかけることによるインフレイション危機ではない。あまりにも多くの企業が高すぎる株式配当を支払い、あまりにも多くの人々が給料日から給料日までの間の生活に苦労し、あまりにも多くの政府が債券支払いから債券支払いまで何とか生き残っているという、分配に関する危機的状況である」と述べている。

月曜日の国連貿易開発会議報告書は、世界経済における最後の高インフレイション期との比較を軽んじ、今日の経済状況は1970年代とは本質的に異なり、両者の間に類似点を見出すことは「過ぎ去った時代の経済の内臓を調べ上げること」に等しいと述べている。

具体的には、賃金上昇が物価上昇をもたらし、その逆もまた同じだ(物価上昇が賃金上昇をもたらす)という賃金価格スパイラルは、今日の世界の価格ダイナミクスにとって重要な力ではないとしている。

UNCTADの報告書は、「1970年代を特徴付けた賃金価格スパイラルが存在しないにもかかわらず、政策立案者たちは、ポール・ヴォルカーが率いていたアメリカ連邦準備制度が追求したのと同じ規模ではないにしても、短期間の鋭い金融ショックが、不況を引き起こすことなくインフレ期待を固定するのに十分であると期待しているようだ」と述べている。

同時に報告書は次のように書いている。「しかし、多くの国で起きている深い構造的・行動的変化、特に金融化、市場集中、労働者の交渉力に関する変化を考えると、過ぎ去った時代の経済的内臓をふるいにかけても、ソフトランディングに必要なフォワードガイダンス(forward guidance 訳者註:中央銀行が将来の金融政策の方針を前もって表明すること)は得られそうにない」。

アメリカ国内のコメンテーターたちの中にも、40年前にインフレイションを引き起こした賃金と物価のスパイラルを軽視し、今日の経済のグローバライゼイションを強調し、同様の見解を示す人たちがいる。

ウエストウッドキャピタルの経営パートナーであるダン・アルパートはインタヴューで次のように語った。「インフレが賃金価格スパイラルを引き起こすと考えるギリシャの大合唱がある。しかし、それは供給サイドを無視しており、賃金価格スパイラルが発生した1970年代と今日の供給状況の大きな違いを無視している。今日、私たちは膨大な量の外生的な供給と商品、つまり世界中から商品がやってくるのだ」。

米連邦準備制度は7月の会合議事録で、「賃金価格スパイラルの欠如」と指摘し、国内経済では賃金上昇と物価上昇の相互強化が作用していないことを認めている。

しかし、ジェローム・パウエルFRB議長は、講演や公的な発言でこの2つの概念をしばしば結びつけている。9月の記者会見では、FRBの金利設定委員会の委員たちが「労働市場の需要と供給が時間の経過とともに均衡し、賃金と物価に対する上昇圧力が緩和されることを期待する」と述べた。

パウエル議長は、「アメリカ人は利上げによる経済的痛みを感じるための準備をいつまで続けるべきか?」と質問され、「いつまでか? それは、賃金に影響を与え、それ以上に物価に影響を与えるまでだ。インフレが下がるのにどれだけ時間がかかるかによる」と答えた。

より大きく言えば、パウエル議長は、景気後退や経済減速の痛みは2つの悪のうち小さい方で、大きい悪は米国の消費者にとって常に物価が上昇することだと主張している。

パウエルは8月に「金利の上昇、経済成長の鈍化、労働市場の軟化はインフレ率を低下させるが、家計や企業には痛みをもたらす。これらはインフレを抑えるための不幸なコストだ。しかし、物価の安定を回復できなければ、はるかに大きな痛みを意味する」と述べている。

共和党はインフレに対してタカ派的なスタンスをとっており、賃金価格スパイラルは景気後退に直面しているアメリカ経済にとって依然としてリスクであると主張している。

連邦下院歳入委員会の共和党側幹部委員ケヴィン・ブレイディ連邦議員(テキサス州選出、共和党)は月曜日にCNBCのテレビ番組に出演し、「確かに、賃金スパイラルはかなり危険だ。どの国もそうでありたいとは思わないが、私たちは深くその中にいる。私たちは伝統的な定義のスタグフレイションの状態にある」と語った。

ブレイディ議員は「私が懸念しているのは、FRBがインフレを減速させるために必要な失業率を知っているかどうかということだ。つまり、インフレ減速を達成するために経済成長をどの程度減速させるべきか、彼らが知っていると私には思えない。私は、彼らがここで手探り状態になっていることを心配している」と述べた。

インフレがもたらすリスクについては違いがあるものの、共和党所属の政治家たちや国連のエコノミストの中には、過去10年間の超緩和的な金融政策は行き過ぎだったという意見を一致して述べる人たちがいる。

パット・トゥーミー連邦上院議員(ペンシルヴァニア州選出、共和党)はインタヴューの中で、「私たちはあまりにも長い間非常に金融緩和政策を採用していたので、資産価格は高騰し、少しやり過ぎということになった。そして今、金利を正常化しているので、風をいくらか弱める傾向にある」と述べた。

国連のエコノミストたちも、月曜日の報告書とともに発表された声明の中で、ほぼ同じことを述べている。

UNCTADは「超低金利の10年間で、中央銀行は一貫してインフレ目標を下回り、より健全な経済成長を生み出すことができなかった」と書いている。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 前回は「ウクライナ戦争勃発によって黒海の入り口を抑えるトルコの重要性が再認識されている」という論稿を投稿した。今回は、トルコがヨーロッパ政治においてもその存在感を増している。トルコはEU(ヨーロッパ連合)に関しては、加盟候補国となっている。これは、EUに加盟申請したものの、EUが定める様々な基準を満たしていない、満たす見通しが立っていないので正式加盟は認めないということである。NATO(北大西洋条約機構)に関しては、既にメンバー国となっている。NATOについては、新規加盟申請がある場合、加盟国が全会一致で賛成しなければ新規加盟はできないことになっている。

 ウクライナ戦争勃発後、フィンランドとスウェーデンがNATO加盟を希望することになった。その理由はロシアの脅威に対抗するためというものだ。ここで問題になったのがNATOの新規加盟には全会一致の賛成が必要という条件だ。EU加盟諸国は無条件に賛成するというのは当然だったが、ここでトルコが難色を示した。トルコが新規加盟に難色を示したのは「北欧諸国がクルド人テロ組織(トルコとアメリカがテロ組織認定)であるクルド労働者党への対処が徹底されていない」ということが理由だった。クルド人は国家を持たない民族としては最大規模の人口を持つ。イラクやトルコに多数在住して、独立運動を展開し、各国は独立運動に対して厳しく対処している。イラクではイラク戦争後にクルド人自治区が経済発展を続けているが独立はしていない。ある一国からの独立ということではなく、複数の国を巻き込んでの独立ということになると大変に難しい状況になる。

 クルド労働者党はイスラム国(IS)との戦いにおいて最前線で戦っていることもあり、テロ組織認定に関しては「揺らぎ」が生じていた。「クルド労働者党はイスラム国と戦っている。トルコはクルド人を抑圧しているのだから」という声も上がっている。トルコ政府にしてみればこうした理由で北欧諸国がクルド労働者党の取り締まりに手心を加えているのではないかという苛立ちを持っていた。欧米諸国とトルコの関係はぎくしゃくしていた。

 しかし、ウクライナ戦争勃発を受けて、トルコの存在感は高まった。それは黒海の入り口を抑えているという地理的な条件があるからだ。これは前回のブログ記事の通りだ。今回はNATOの全会一致の賛成という条件を使って、フィンランドとスウェーデンからクルド労働者党の取り締まりの強化の約束を取り付けることに成功した。加えてアメリカからF-16先頭の支援を取り付けることにも成功している。トルコは、ロシアから防衛システムを導入したり、対ロシア制裁に反対したりしている。こうした中、西側とそれ以外の世界の接点として、自国に有利な動きを展開している。日本もこうした土耳古の動きを見習う必要がある。

(貼り付けはじめ)

バイデンは、エルドアンがフィンランドとスウェーデンのNATO加盟を許したことを称賛(Biden praises Erdoğan for allowing Finland, Sweden to join NATO

モーガン・チャルファント筆

2022年6月29日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/administration/3541492-biden-praises-erdogan-for-allowing-finland-sweden-to-join-nato/

アメリカのジョー・バイデン大統領は水曜日、トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領が、スウェーデンとフィンランドによるNATO加盟の提案への反対を取り下げたことを賞賛した。

バイデン大統領は、マドリードで開催されたNATO首脳会議に併せて行われた一対一の会談で、エルドアン大統領に対し、「フィンランドとスウェーデンの状況をまとめてくれたこと、そしてウクライナから穀物を取り出そうとする驚くべき仕事ぶりに特に感謝したい。あなたは素晴らしい仕事をしている」と述べた。

エルドアンは、首脳会談の後、両首脳が「両手いっぱいに成果を持ち、満足して自分の国に帰ることができるだろうと信じている」と述べた。また、バイデン大統領のリーダーシップについて、「将来のNATO強化の観点から極めて重要だ」と評価した。

両首脳の会談は、トルコがスウェーデンとフィンランドのNATO加盟への反対を取り下げ、同盟の大幅な拡大に道を開くことに同意した翌日に行われた。NATOは、フィンランドとスウェーデンがロシアのウクライナ侵攻の中で加盟に関心を示したことを受け、水曜日に正式に加盟を要請した。

トルコ、フィンランド、スウェーデンの3カ国は火曜日にテロ対策の協力を深める覚書に署名し、トルコやアメリカなどからテロ組織と認定されているクルド労働者党(PKK)の取り締まりに北欧の2カ国が十分でないというトルコの懸念に対処することに同意した。

また、スウェーデンとフィンランドの加盟を支持するようアンカラを説得する努力の一環として、アメリカがトルコに改良型F-16戦闘機を売却する契約を発表するのではないかとの憶測も広まっている。

複数のバイデン政権高官は水曜日に記者団に対して、アメリカは北欧の2カ国が同盟に参加することへの反対を取り下げるようトルコに譲歩を申し出ることはしなかったと述べた。

それでも、米国防総省のある高官は水曜日、アメリカはトルコにF-16を売却する意思があると示唆した。

国際安全保障問題担当のセレステ・ワランダー国防次官補は記者会見で、「アメリカはトルコの戦闘機部隊の近代化を支持する。それはNATOの安全保障、したがってアメリカの安全保障に貢献するものだからだ」と述べた。

バイデンとエルドアンの会談について、ホワイトハウスが発表した資料には、F-16戦闘機についての言及はない。

報告書には次のように書かれている。「両首脳は、ロシアの侵略に対するウクライナの防衛における継続的な支援と、ウクライナの穀物の輸出に対するロシアの障害を取り除くことの重要性について話し合った。また、エーゲ海とシリアの安定を維持することの重要性についても話し合われた。バイデン大統領は建設的な二国間関係を維持したいとの意向を改めて示し、両首脳は両政府間の緊密な協議を継続することの重要性に合意した」。

トルコがフィンランドとスウェーデンのNATO同盟参加を認めたことは、5月に北欧2カ国の首脳とホワイトハウスで行われたイヴェントでNATOの拡大を公然と声高に支持したバイデンにとって成功と見なされている。

複数のバイデン政権高官は、水面下でトルコ、スウェーデン、フィンランドと交渉してきた。バイデン大統領は火曜日にエルドアン大統領と電話会談を行い、数ヶ月ぶりにトルコ大統領と11で会談し、交渉が進展していることを示した。

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NATOは同盟加盟のためにフィンランドとスウェーデンを招待(NATO invites Finland, Sweden to join alliance

キャロライン・ヴァキル筆

2022年6月29日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/policy/international/3541158-nato-invites-finland-sweden-to-join-alliance/

NATOは水曜日、スウェーデンとフィンランドを正式にNATOに招待した。トルコが北欧諸国を防衛ブロックに参加させることに難色を示した翌日である。

NATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長は、マドリードで開催中のNATO首脳会議の席上で次のように語った。「ウラジミール・プーティン大統領がNATOの扉を閉ざすことに成功していないことを示すものだ。プーティンは望んでいることの反対を手に入れている。彼はNATOの縮小を望んでいる。プーティン大統領は、フィンランドとスウェーデンが私たちの同盟に加わることで、より多くのNATOを手に入れようとしている」。

バイデン大統領は、「私たちは、NATOが強く、結束しており、この首脳会談で講じる措置は、私たちの集団的な力をさらに増強するものであるという紛れもないメッセージを送っている、と私は考えており、あなた方もそう考えている」と述べた。

CNBCによると、この招待はすぐにロシアから非難され、あるクレムリン当局者は「純粋に不安定化させる要因だ」と述べたという。

この展開は、ロシアのウクライナ侵攻を背景に、スウェーデンとフィンランドのNATOへの加盟に対する考え方が変化していることを意味している。北欧の2カ国は先月、NATOへの加盟申請書を提出した。

NATO加盟諸国の多くは両国のNATOへの加盟に支持を表明したが、トルコは、フィンランドとスウェーデンが、トルコなどがテロ集団に指定している「クルディスタン労働者党(PKK)」に対して十分に積極的でないと非難し、異論を唱えた。

しかし、各国が国家安全保障上の脅威に対して互いに支援し、テロ対策協力を強化することを誓う3カ国間の覚書に署名したことで、トルコは火曜日にその疑念を撤回した。

トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領とアメリカのジョー・バイデン大統領は、マドリードで開催中のNATO首脳会議で水曜日に一対一で会談すると見られている。

NATO加盟諸国が首脳会議後に発表宣言文を発表した。その中には次のように書かれている。「NATO同盟に加盟する場合、全ての同盟国の正当な安全保障上の懸念に適切に対処することが極めて重要である。私たちは、そのためのトルコ、フィンランド、スウェーデンの3カ国間の覚書締結を歓迎する」。

宣言文には続けて次のように書かれている。「フィンランドとスウェーデンの加盟は、両国の安全を高め、NATOを強化し、欧州・大西洋地域をより安全なものにする。フィンランドとスウェーデンの安全保障は、加盟プロセス中も含め、同盟にとって直接的な重要性を持っている」。

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複数の政府高官たち:トルコはフィンランドとスウェーデンのNATO加盟を支持(Turkey will support Finland, Sweden joining NATO: officials

モーガン・チャルファント筆

2022年6月28日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/policy/international/3540070-finnish-president-says-turkey-will-support-finland-sweden-joining-nato/

複数の政府高官たちは火曜日、北大西洋条約機構(NATO)へのフィンランドとスウェーデンの加盟申請に対し、トルコが反対を取り下げたことで、マドリードでの首脳会議で大きな進展があったと述べた。

フィンランドのサウリ・ニーニステ大統領は声明で、3カ国全てが「互いの安全保障に対する脅威に対して全面的に支援する」ことを約束する3カ国協定に署名した後、トルコが北欧2カ国の加盟申請を支持することに同意したことを発表した。

ニーニスト大統領は、フィンランドとスウェーデンのNATO加盟プロセスに関する「具体的な手順」は、首脳会日の残り日数で合意されるだろうと述べた。

NATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長は、その直後の記者会見で、「フィンランドとスウェーデンのNATO加盟に道を開く合意ができたことを発表できることを嬉しく思う」と述べた。

ストルテンベルグ事務総長は、3カ国がトルコの懸念に対処し、テロ対策に関する協力を深め、トルコの国家安全保障への脅威と戦うために支援することを約束する覚書に署名したと述べた。

この発表は、スペインで開催されているNATO首脳会議の初日に行われた。トルコ政府は、テロ、特にクルド労働者党(PKK)の脅威と戦うために十分なことをしていないという懸念を表明し、両国の同盟への加盟に数週間にわたって抗議していた。

トルコ政府が発表した覚書のコピーによると、覚書への署名において、スウェーデンとフィンランドはPKKの活動を取り締まり、トルコのテロリスト容疑者の引き渡し要求に「迅速かつ徹底的に」対処することに合意した。

フィンランドとスウェーデンは先月、正式にNATOへの加盟を要請したが、これはロシアのウクライナでの戦争に対応するための決断だった。

NATO加盟国30カ国のうち過半数が加盟への支持を表明しており、各国政府がNATOへの新規加盟を批准した上で、全会一致の支持が必要だ。

アメリカは、両国の加盟を強力に推進し、民主党と共和党の議員も両国の加盟を支持している。ジョー・バイデン大統領は、首脳会議の傍らで水曜日のうちにトルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領と会談する予定である。

「私は、ストルテンベルグNATO事務総長、同盟諸国、そして連邦議会と協力して、彼らを同盟に速やかに迎え入れることができるようにすることを楽しみにしている。マドリードでの歴史的なNATO首脳会議を始めるにあたり、私たちの同盟はこれまで以上に強く、団結し、断固としている」とバイデンは述べた。

専門家の一部は、トルコ政府がスウェーデンとフィンランドの同盟加入への反対を撤回するために、アメリカがトルコに譲歩、おそらくアメリカ製戦闘機の形で提供するだろうと推測していた。

ストルテンベルグ事務総長によると、NATO加盟諸国はマドリードでのサミット2日目の水曜日に、スウェーデンとフィンランドをNATOに招待することを正式に決定するとのことだった。

その後、NATO加盟諸国の個々の議会と国会が2カ国の加盟を承認する投票を行う必要があり、このプロセスが完了するまでに数ヶ月かかる可能性がある。

しかし、このニューズは、ヨーロッパで激化するロシアの侵略に直面し、強さと結束を示そうとするNATOにとって好材料である。

マドリード首脳会議は、ロシアがウクライナで5カ月目の戦争に突入したときに開催された。ここ数日、ロシアはウクライナの首都キエフへの新たな攻撃を開始し、その軍事作戦はウクライナ東部に集中している。

NATO諸国はサミットの期間中、バルト三国とポーランドでの戦力強化について話し合うと見られる。

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アメリカは「問題のある」NATO同盟国トルコに苛立っている(US frustrated over ‘problematic’ NATO ally Turkey

ラウラ・ケリー、モーガン・チャルファント筆

2022年5月21日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/administration/3496164-us-frustrated-over-problematic-nato-ally-turkey/

トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領は、スウェーデンとフィンランドによるNATO加盟に反対し、アメリカと同盟諸国を苛立たせている。

トルコの姿勢は、ジョー・バイデン政権がウクライナへの侵攻をめぐってモスクワに送りたい結束のメッセージを複雑にしている。

スウェーデンとフィンランドによる軍事同盟(NATO)への加盟は歴史的なことであり、両国の加盟を望まないロシアにとっては大きな敗北である。彼らの決断がロシアの戦争の結果であることは、複数のアメリカ政府高官も強調している。

しかし、北欧諸国がクルド人テロリスト集団を匿うという嫌疑をめぐるエルドアンの反対で、モスクワに対する外交的勝利は雲散霧消する。

NATO加盟諸国は全会一致で受け入れに同意しなければならない。

アンカラは祝福を与えるために何か、例えばアメリカの戦闘機を求めているのではないかと囁かれている。

エルドアンは土曜日にフィンランド政府高官たちと会談する予定で、記者団に対して、「外交を中断させないために、これらの議論をすべて継続する」と述べ、変化への扉を開いたままにしている。

トルコは、必要ではあるが問題のあるパートナーであると広く見られている。

エルドアンは長年、ロシアの兵器システムの導入、シリアでの軍事的冒険、国内の政治的抑圧、アメリカ連邦政府の警備員や首都のアメリカ人抗議者に対する暴力などで、ワシントンを怒らせている。

しかし、トルコが黒海におけるNATOの安全保障に重要な役割を果たし、ウクライナに武器を提供し、ロシア軍との戦いで決定的な役割を果たしたことは、バイデン政権や連邦議員たちも認めている。

アメリカは、エルドアン政権が対ロシア制裁に加わることに抵抗していることに苛立っているが、同時にアンカラはキエフとモスクワの間で行われるかもしれない和平協議を受け入れ実施するためには、独自の意義を持つ場所であると認めている。

連邦上院外交委員化で民主党側の序列第2位の委員であるベン・カーディン連邦上院議員(マサチューセッツ州選出、民主党)は、「トルコはNATOにとって重要なパートナーだ。トルコには重要な軍事施設があり、トルコと良好な関係を保つことは私たちの利益になる」と本誌に述べた。

カーディンは「ウクライナに関しても、トルコは良いパートナーだ。だから、NATO内の安全保障上の必要性に反する可能性のあるロシアとの関係を持たせないことを明確にすることで、責任あるパートナーとして行動することを確認したい」と語った。

バイデン政権は、フィンランドとスウェーデンの受け入れを得るためにトルコに何を提供できるかについて何も発表していない。

ホワイトハウスのジェイク・サリヴァン国家安全保障問題担当大統領補佐官は24日、エアフォース・ワンの機内で記者団に対し、アメリカはいかなる形でも支援する用意があると述べたが、意見の相違は主にトルコ、フィンランド、スウェーデンの間のものであると説明した。

サリヴァンやその他のバイデン政権高官たちは、北欧諸国のNATO加盟を認めることで同盟が全体で合意することに自信を示している。

サリヴァンはまた、バイデン大統領とエルドアン大統領が話す予定はないとしながらも、バイデンは求められれば「エルドアン大統領とは喜んで会談する」と指摘した。

バイデンは、フィンランドとスウェーデンの両首相を木曜日にホワイトハウスに招き、両国のNATO同盟参加に対するアメリカの強い支持を表明した。ローズガーデンでの会見で、フィンランドのサウリ・ニーニスト首相は次のようにトルコに直接訴えた。

ニーニシスト首相は次のように述べた。「NATOの同盟国として、トルコが私たちの安全保障に関与するのと同様、私たちはトルコの安全保障に関与する。私たちはテロを深刻に受け止めている。私たちは、あらゆる形態のテロを非難し、テロとの戦いに積極的に取り組んでいる。私たちは、トルコが私たちのNATO加盟に関して持ちうる懸念全てについて、オープンで建設的な方法で議論することに前向きである」。

NATOの元副事務総長であるローズ・ゴッテモラーは、フィンランドとスウェーデンの申請は最終的に成功すると予想しているが、トルコとは「非常に厳しい交渉」になるだろうと予測した。

ゴッテモラーは「これは難しい問題だ。それは、私が副事務総長だった頃から、この問題は常に重要な議題として挙がっていたからだ。トルコはこの問題を常にレヴァレッジとして使っていた」と述べた。

連邦上院外交委員会の幹部委員であるジェイムズ・リッシュ連邦上院議員(アイダホ州選出、共和党)は、トルコがフィンランドとスウェーデンの加盟に反対し続けることができるのか、と疑問を呈した。

リッシュは「もしあなたがある組織のメンバーで、あなた以外の29人のメンバーがやりたがっているのにあなたが反対するならば、これは困難な状況にあなたが入ることになる」と述べた。リッシュはまた、アメリカとトルコの関係について、「プラスとマイナス」があると形容した。

全ての議員がリッシュほど外交的というわけではない。連邦上院外交委員会委員長ロバート・メネンデス上院議員(ニュージャージー州選出、民主党)は、トルコの行動に屈しないよう警告を発した。

メネンデスは次のように述べた。「端的に述べるならば、トルコの行動が報われるべきではないと私は考える。トルコはロシアにヨーロッパやアメリカの制裁を加えることに同意していない。その他にも多くの懸念材料がある中で、権威主義の人物に報い続けるというのは理解できない」と述べた。

メネンデスは、トルコがF-16戦闘機を更に購入したいという要望を出してきても、バイデン政権は受け入れるべきではないと警告している。

メネンデスは「私はトルコにF-16戦闘機を送ることに賛成しない。彼らはまだCAATSA制裁に違反している」と述べた。メネンデスは、トルコがアメリカ連邦法に違反するロシアのミサイル防衛システムS400を所有していることにも言及した。

米国務省は、トルコに既存のF-16戦闘機のアップグレードと軍需品の販売を提案しており、ワシントンとアンカラの協力関係の緊密化を強く示唆している。

連邦議員たちは、この提案を支持するかどうかについては口を閉ざしている。

連ポイ上院外交委員会のメンバーでもあるジェーン・シャヒーン連邦上院議員(ニューハンプシャー州選出、民主党)は、F-16のアップグレードを支持するかどうかという質問に対し、「トルコを強力なNATOの同盟国として維持することが重要だと思う」と本誌の取材に答えた。

民主党所属の連邦議員の一部は、トルコがギリシアの島々で挑発的な軍事飛行を行っているというギリシアの懸念に応え、アンカラへの軍事機器売却を厳しく監視することを検討している。

ギリシアのキリアコス・ミトタキス首相は、火曜日に行われたギリシア議会での演説で、トルコへの武器売却に対して警告を発したが、アンカラの名前は特に挙げなかった。

ミトタキス首相は「NATOは、ウクライナがロシアの侵略に打ち勝つのを助けることに集中している現在、NATOの南東部にもう一つ不安定な要因が出てくることを最も避けたいと考えている」とミトタキスは言った。

ミトタキス首相は「そして、東地中海に関する防衛調達の決定をする際に、このことを考慮されることを希望する」と続けて述べた。  

ティム・ケイン連邦上院議員(ヴァージニア州選出、民主党)は、ミトタキスの発言は「完全に正しい」とし、同議員は2023年の国防権限法を用いて、東地中海におけるトルコの行動に対する懸念に対処する可能性があると本誌に述べたが、具体的な内容には踏み込まなかった。

ケインは「この問題については簡単に答えが出るものではない。アメリカとトルコの軍事的な関係はまだ強固だが、外交や選挙の分野では今本当に不安定だ」と述べた。

「こうしたことは現在、本当に問題になっている」とケインは語った。

(貼り付け終わり)

(終わり)※6月28日には、副島先生のウクライナ戦争に関する最新分析『プーチンを罠に嵌め、策略に陥れた英米ディープ・ステイトはウクライナ戦争を第3次世界大戦にする』が発売になります。


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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 ウクライナ戦争は膠着状態と言われているが、ウクライナ東部ではロシア軍が勝利している。ウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領は失った領土を取り戻すと宣言しているが、同時に年内で停戦したいという発言もしている。西側諸国では「ゼレンスキー疲れ」が出ており、西側諸国の国民の中に「自分たちの生活だって苦しい。いつまでウクライナを支援するのか。早く停戦して欲しい」という声が出ている。

 ウクライナ戦争が始まってしばらくの間、とくにイギリスの政治家たちからの勇ましい声が聞こえてきた。「ロシア経済を破綻させる」「プーティンを引きずり下ろす」といった言葉だ。日本の某政党の党首の言葉を借りれば、「ロシアを、ぶっ壊―す」というところだ。

 「何故ロシアを徹底的に敗北させねばならないのか?」という疑問に対する答えは、「他国を侵略しようとしている政治指導者たちに教訓を与える、侵略は割に合わないどころか失敗するのだということを」ということになる。それについて、このブログで何度もご紹介しているスティーヴン・M・ウォルト教授は「教訓にならない」としている。そして、歴史上、これまで失敗してきた例を多数挙げて説明している。

 人間は教訓があるのに、それを無視する。まず痛い目に遭って教訓を得てもそれを忘れてしまう。その痛みを忘れてしまう。昨今、日本国内で頭の軽い口先だけ勇ましい政治家や言論人が多数出てきている。これは国家全体として先の大戦の痛みを忘れつつあるからだろう。

そして、人間は希望的観測を使って、自分の都合よく現実を解釈する。「多分こうすれば大丈夫」ということで、現実から目を背ける。厄介なのは「多分こうすれば」という部分に数字が使われて、いかにも価値中立的に、科学的に説明されているように見えると、それが希望的観測ではなく、事実に基づいた推論(より正確な予測)ということになってしまうことだ。これもまた日本を例に考えてみればわかりやすい。どこをどう取り繕ってみても、アメリカと日本では国力が違う。しかし、「こうして、ああして」やれば、何とかなるだろう、アメリカと和平を結べるかもしれないということで、最後は開戦した。しかし、結果は惨め極まるものとなった。

 失敗から学ぶということもあるが、学び方を間違うとこちらも悲惨だ。「あいつは馬鹿だから失敗した、俺は頭が良いから失敗しない」という自惚れや短慮があればどうなるか。失敗から学ぶと言っても本質的なことを学べず、客観視もできず、でこの人も又失敗するのである。「次やるときは失敗しない」と「また同じ失敗を繰り返す」は残念ながらほぼ同義語となっている。

 国家侵略が割に合わない、それどころか、侵略した方が滅んでしまうということはこれまで何度も起きている。何度も起きているということは、人間は失敗から学ばない生き物であることを示している。そこのところを冷酷に見つめ、「教訓にならないようなことは無駄だからやめてより現実的な方向に進もう」というのがリアリズムの考え方である。一日も早い停戦を、だ。

(貼り付けはじめ)

侵略者たちに教訓を与えれば、将来の戦争を抑止できるのか?(Will Teaching Aggressors a Lesson Deter Future Wars?

-ロシアに決定的な敗北を与えよという声は見当違いであり、そのようなことをしてもプーティンや他の国々が武力を行使するのを必ずしも防ぐことはできないだろう。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2022年6月2日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/06/02/will-teaching-aggressors-a-lesson-deter-future-wars/

NATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長のような西側諸国の人々は、ウクライナへの支援をこれまで以上に強化することを望んでおり、ロシアに決定的な敗北を与えることが、他の場所での将来の戦争を防ぐことになると仄めかすこともある。ロシアが決定的な敗北を喫した場合、あるいは少なくとも大きな成果が得られなかった場合、西側諸国は「侵略は報われない(aggression does not pay)」ことを示すことになる。ウラジミール・プーティン大統領はこれに懲りて二度とこのようなことはしないであろうし、中国の習近平国家主席のように武力行使を考えている指導者たちも、同じようなことをする前にもう一度考えるだろう。

フランシス・フクヤマをはじめとする学識者の一部は、ロシアの決定的な敗北は、西側の自由主義が近年経験した倦怠感(malaise)を終わらせ、衰退しつつある「1989年の精神(spirit of 1989)」を回復させる可能性があると指摘している。

しかし、ウクライナと西側諸国がロシアの侵略者を打ち負かすことができず、結局キエフがモスクワと妥協せざるを得なくなれば、非自由主義の理想が一部正当化され、将来の侵略(ロシアの新たな策略を含む)の危険性が高まることになろう。ジョー・バイデン米大統領が『ニューヨーク・タイムズ』紙に寄稿した文章の中で「もしロシアがその行動に対して大きな代償を払わなければ、他の侵略者となる者たちに、彼らも領土を奪い、他の国々を征服することができるというメッセージを送ることになるだろう」と書いている。更に憂慮すべきことに、歴史家のティモシー・スナイダーは、「民主政治体制諸国の運命は天秤にかかっている」と警告している。

この種の主張は、何十年もの間、強硬派(特にネオコン派)の言説の定番であった。ドミノ倒し理論(domino theory)が何度反証されても廃れないように、この種の主張は、1つの紛争の結果を地球全体の運命を左右する闘争に変容させる。私たちが直面する選択は厳しい。1つの道は平和を愛する強力な民主主義諸国の統一された同盟が主導する自由主義秩序が復活し、戦争が少なく繁栄が続く未来かというものだ。もう1つの道には、独裁政治が台頭し、人権が侵害され、戦争が頻発する世界が待っているというものだ。この考え方によれば、ウクライナは大きな勝利を収めなければならないし、そうでなければ全てが失われる。

このように問題を整理すると、常により多くのことを行い、あらゆる種類の妥協を拒否することが有利ということになるが、この選択は強硬派が言うほど厳しいものなのだろうか? 侵略者たちを打ち負かすことが、本当に他の人々に良い行動を教えることになるのだろうか? もしこれが事実であれば、世界はより穏やかなものになるだろう。しかし、過去1世紀ほどを見てみると、そうではないことが分かる。

第一次世界大戦は、ヨーロッパの主要国全てが開戦に関与したが、1914年の7月危機では、ドイツがその原動力となった。ドイツの指導者たちは、ロシアの台頭を過剰に恐れ、オーストリアのフェルディナント大公の暗殺とオーストリア・ハンガリーとセルビアの対立を契機に、ヨーロッパの覇権をめぐる予防戦争(preemptive war)を起こした。その結果、ドイツは連合国に完敗し、ホーエンツォレルン王国とオーストリア・ハンガリー帝国、オスマン帝国の同盟国は消滅し、懲罰的な講和条約を結ばされることになった。

しかし、ドイツの敗戦という厳しい現実は、アドルフ・ヒトラーが約20年後にヨーロッパの覇権を目指さないようにするための教訓にはならなかった。実際、ドイツが後ろから刺されたという神話とベルサイユで科せられた厳しい和平条件は、ナチズムの台頭を促し、再び戦争を起こすための舞台を整えることになったのである。また、第一次世界大戦の惨劇は、日本がアジアに独自の帝国を築こうとすることが悪いことだと日本に教えてくれた訳でもなかった。

また、第二次世界大戦では、侵略者たちに大きな罰が与えられた。日本は何度も空襲され、2つの都市が原爆で破壊された。ドイツは占領され、その後2つの国家に分割された。ヒトラーとイタリアの指導者ベニート・ムッソリーニは最後には死亡して終わった。「侵略は報われない(aggression does not pay)」ということをこれほど明確に示した例はないだろう。そして、ドイツも日本もその教訓をよく学んだと言える。しかし、この教訓は、金日成が1950年に(ヨシフ・スターリンの全面的な支援を受けて)韓国を攻撃するのを止めることも、アジアや中東の他の国々の指導者たちに戦争をすることは常に賢明ではないことを納得させることもできなかった。

同様に、フランスとアメリカがヴェトナムで経験したことは、傲慢さの危険性と軍事力の限界、そして有能な現地パートナーなしに深く分裂した社会で国家建設を試みることの無益さを、鮮明かつ永続的に思い起こさせるものであると考えたかもしれない。しかし、2001年のアフガニスタン侵攻、2003年のイラク侵攻の際、ジョージ・W・ブッシュ政権はこの教訓を全く意に介さなかった。

しかし、2001年のアフガニスタン侵攻、2003年のイラク侵攻の際、ブッシュ政権はこの教訓を無視した。1982年、アルゼンチンの軍事政権は、イギリスのフォークランド諸島(マルビナス諸島と呼ぶ)を自分たちのものだと決めつけ、武力で領土を奪うことを決意した。イギリスはアルゼンチン海軍の旗艦を沈め、島々の奪還に成功し、アルゼンチンの民衆の抗議運動は最終的に将軍たちを政権から追いやった。

イラクのサダム・フセインも結局は同じような運命をたどった。1980年に革命的なイランを攻撃するという彼の決断は、約8年にわたる戦争につながり、何十万人ものイラク人が命を落とし、イラクの経済も崩壊してしまった。その2年後、彼は最初の戦争が引き起こした経済問題を解決するために、隣国のクウェートを占領することを決めたが、アメリカ主導の連合軍によって無念にも追放され、非常に押しつけがましい国連の制裁下に置かれることになった。しかし、アメリカ主導の連合軍によって追放され、国連の厳しい制裁下に置かれた。どちらの場合も攻撃は報われなかったが、サダムの失敗によって、著名な民主政治体制国家を含むいくつかの国々が新たな戦争を始めることを止めなかった。

手痛い敗北が本当に他国への明確な警告となるのであれば、ソ連とアメリカのアフガニスタンでの経験や2003年以降のアメリカのイラクでの経験から、プーティンとその仲間たちは、ウクライナへの侵攻が強力な民族主義的反応を引き起こし、外部の勢力が彼の目的を阻止するためにできる限りのことをするようになる可能性があることを学んだはずだ。アメリカがソ連のアフガニスタン占領を打破するためにムジャヒディンを支援したことも、シリアとイランがそれぞれイラクの反乱軍を支援してアメリカのイラクでの取り組みを打破したことも、きっとプーティンは知っていただろう。この2つの紛争の教訓はあまりにも明白に思えるが、プーティンはそれがウクライナには当てはまらないと自分に言い聞かせているようである。

もちろん、侵略戦争全てが敗北に終わる訳ではないが、侵略者たちが酷く打ちのめされたケースには事欠かないし、戦争を始めた人々がその愚かさのために大きな個人的犠牲を払ったケースも少なからずあるように思われる。しかし、「侵略は報われない」という教訓は、通常、無視されるか、忘れ去られる。何故だろうか?

その理由の1つは、どのような戦争でもその教訓は必ずしも明確ではなく、合理的な人々は敗戦から異なる結論を導き出すことができるからである。戦争に進んだのは最初から悪い考えだったのか、それとも敗因は作戦の実行が拙かったからなのか、それとも単に運が悪かっただけなのか? また、政策立案者たちが、今度は違う、新しい知識、新しい技術、巧妙な新戦略、あるいは他に類を見ないほど有利な政治状況などがあれば、失敗した戦争からの教訓は捨て去られることになろう。エリートが本当に戦争をしたいということになると、どのような説得をするか、決して見くびってはならない。

指導者たちは自国の歴史には精通していても、同じような境遇にある他国がどうであったかはあまり知らないし、気にも留めない。

2つ目の問題は、故ロバート・ジャービスが指摘したように、人間には他人の経験よりも自分の経験を重視する傾向があることだ。ある国の指導者は、自国の歴史には詳しいかもしれないが(自分勝手な歴史を吸収しているかもしれないが)、同じような境遇の他の国に何が起こったかについてはあまり知らないし、関心もないだろう。

そして、他国の失敗を、その大義名分が正当でなかった、その決意が偉大でなかった、その軍隊が自国ほど有能でなかったと主張することによって、簡単に否定することができる。更に、戦争の決断は通常、脅威、機会、予想されるコスト、代替案を複雑に考慮して行われるため、全く別の紛争で他国に起きたことは、彼らの計算には大きく影響しないかもしれない。

更に言えば、戦争を始める指導者たちは、リスクがあることを認識していることが多く、勝利の確率が低いことを認識していることもある。それでも、より悪い状況になると判断すれば、「鉄のサイコロを振る(roll the iron dice)」のである。例えば、1941年の日本の指導者たちは、アメリカが圧倒的に強く、真珠湾攻撃は大きな賭けであり、おそらく失敗することを理解していた。しかし、アメリカの圧力に屈し、大国としての地位とアジア支配を諦めるという選択肢は、限りなく悪いと考えたのである。

根本的なことを言えば、アメリカの政策立案者たちは、ウクライナ(あるいはイエメン、エチオピア、リビア)での勝利が歴史の弧(arc of history)を自分たちの好む方向に決定的に傾けると信じて今日の行動を取ってはならない、ということになる。また、今日の紛争の結果は、将来の指導者たちが戦争を始めるかどうかを決定する際に、自分たちの見通しについてどう考えるかに大きな影響を与えることはないだろう。

ロシアに対抗しようとするウクライナの努力を支持することには十分な理由がある(ただし、その支持の度合いについては合理的な人々の間で意見が分かれるところである)が、それに民主政治体制の将来がかかっている訳でもない。この戦争をロシアに教訓を与える機会と捉えるのではなく、政策立案者たちは、今問題になっている特定の利益と問題を特定することに集中し、再び戦闘が起こらないように、誰もが望むものを十分に与えることができる和平解決を考案するよう努力すべきである。

その方法を考えることだけでも十分難しいのに、戦争の結果に人類の運命がかかっているなどと考えるような愚かな真似はして欲しくない。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー国際関係論教授。

(貼り付け終わり)

(終わり)

※6月28日には、副島先生のウクライナ戦争に関する最新分析『プーチンを罠に嵌め、策略に陥れた英米ディープ・ステイトはウクライナ戦争を第3次世界大戦にする』が発売になります。


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