古村治彦です。

 日本は軍拡の姿勢を鮮明にしている。ミサイルによる敵基地攻撃能力を保持し、軍事予算も大幅に増額することを自民党政権は決定した。国力が減退し、衰退国家となっており、少子高齢化が猛烈なスピードで進んでいる日本が軍拡を行うのは合理的ではない。この軍拡は、対中国に向けたものであるが、日本の経済力は中国の3分の1弱程度しかない。また、中国との軍拡競争ということになれば最終的には核兵器保有まで進まねばならない。そのような状況に行くまでに経済が破綻する可能性もある。

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 日本はアメリカの強請によって、国防予算(軍事予算)を現在のGDP比1%から2%に引き上げる動きに出ている。これが実現されると10兆円以上規模となり、世界第三位の防衛予算(軍事予算)となる。先制攻撃用のミサイルなど兵器調達はアメリカから行うことになるだろう。世界第1位のアメリカと世界第3位の日本で、世界第2位の中国を抑え込むということを企図しているのだろうが、アメリカが中国と対峙する場合に、日本を先手として使おうとするのは当然だ。日本が貧乏くじを引いて大きなマイナスになってもアメリカは「それが属国の務めだ」ということにするだろう。私たちは、そのような馬鹿げた状況に陥ってはいけない。アメリカに利用されて中国とぶつかるのは日本で漁夫の利をアメリカが得るという状況は避けねばならない。
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 アメリカが日本をはじめとする同盟諸国に軍事予算の増額を求めているのは、ヨーロッパであればロシア、東アジアであれば中国と対峙させるためだ。しかし、ヨーロッパ諸国にしても日本にしても、そのロシアや中国とは経済的に深いつながりを持っており(ロシアとドイツ、中国と日本)、直接ぶつかって大きな損失を得ることは得策ではない。それでもアメリカは軍事予算増額を求め続けている。それは軍拡競争、国防予算増額競争の負担が大きくなっているからだ。

 防衛予算や軍全体の構成や規模を見ればアメリカが最強であることは変わりない。しかし、中国の軍事的な伸び、ロシアの軍事的な精強さはアメリカにとって脅威である。アメリカにとってはこの2つの軍事的な脅威に独力で対抗することは難しくなっている。そのために同盟の引き締めを行おうとしている。西側世界の優位を守る戦いだという大義名分を掲げることになるだろう。実際にはアメリカの世界支配を守るための戦いである。その大きな嵐の中で、私たちは如何に損害を少なくして嵐をやり過ごすかということを考えるべきだ。調子に乗って「アメリカさまと中国征伐だ」「世界で最も重要な同盟関係が日米関係だ」などと馬鹿丸出しの言動や態度を取るべきではない。その点で、現在の日本の政治家たちの浮ついた、軽薄な、いささか酔っぱらいのような、国防への姿勢には失望せざるを得ない。

(貼り付けはじめ)

軍備拡張競争の技芸(The Art of the Arms Race

-災厄を避けるために、アメリカは冷戦からの重要な教訓をいくつも学びなおさねばならない。

2022年71

ハル・ブランズ筆

『フォーリン・ポリシー』

https://foreignpolicy.com/2022/07/01/arms-control-race-cold-war-geopolitical-rivalry/

軍備管理(arms control)は死につつあり、軍拡競争(arms races)は復活しつつある。この20年間で、冷戦時代に築かれた超大国の軍備管理体制(superpower arms control regime)のいくつかの主要な柱、対弾道ミサイル条約(Anti-Ballistic Missile Treaty)、ヨーロッパ通常戦力条約(Conventional Armed Forces in Europe Treaty)、中距離核戦力条約(Intermediate-Range Nuclear Forces Treaty)、オープンスカイ条約(Open Skies Treaty)と、次々と崩壊してきた。最も重要な米露協定である新START(戦略兵器削減条約)も、ウラジミール・プーティン大統領のウクライナ戦争の犠牲となるかもしれない。一方、中国は、太平洋地域とそれ以外の地域での支配を目指し、通常兵器と核兵器の戦力を急速に増強している。世界各地では、新技術が軍事力の劇的な向上を約束している。

緊張が高まり、軍事バランスについて激しく競われ、大国が振り回す武器の種類と量に対する制約がますます少なくなる世界は軍拡競争の好機である。この新しい世界は、実際、かつての対立の時代を彷彿とさせるような課題を多く含んでいる。災厄を避けるために、アメリカは冷戦時代に学んだこと、すなわち軍拡競争をいかにうまく行うかを学び直さなければならない。

確かに、軍拡競争は、2つ以上のライヴァル国が有利な軍事バランスを確保するために競い合うものでありその評判は高くはない。軍拡競争は、よく言えば、思慮のない兵器の集積、もしくは邪悪な軍産複合体(military-industrial complex)の産物として、悪く言えば、緊張の高まりや破滅的な戦争の主な原因として見られている。ドワイト・アイゼンハウアー大統領は1956年、国家安全保障会議において、「アメリカは、その究極の安全を決して提供できないことをよく承知している軍備を積み上げている。他にどうしたらいいかわからないから軍備を増強しているのだ」と発言した。

しかし、軍拡競争は不当に悪い評価がなされている。地政学的環境が厳しくなる中、状況をより客観的に見ることができるようになっている。

アメリカの冷戦時代についての最も鋭い思想家たちが理解していたように、軍拡競争は決して無謀なことではない。攻撃的な敵に対して有利な力の均衡(balance of power)を保つことは、戦争を抑止する最良の手段であり、戦争を誘発するものではない。更に、軍拡競争は戦略的な相互作用であり、賢明な投資によって形成され、時間の経過とともに自国に有利になるように導くことが可能である。軍備管理は、軍拡競争に代わるものではなく、競争優位を獲得するための戦略の重要な構成要素であると考えるのが適切である。しかし、そのためには、軍拡競争の技術(art of the arms races)を再認識することが必要である。

軍拡競争はいつの時代にも起きているが、この言葉が一般的になったのは20世紀初頭のことである。ドレッドノート戦艦(dreadnought battleship)や飛行機などの新技術が、軍事バランスを急速に変化させる可能性を生み出した。大国間の緊張が高まるにつれ、軍事的優位の追求はより緊急性を帯びてきた。例えば、第一次世界大戦前の数十年間は、イギリスと台頭するドイツとの間で、最も多く、最も優れた戦艦を建造するための熱き戦いが繰り広げられた。

しかしながら、軍拡競争に対する私たちの理解が本格的に深まったのは、核兵器の出現と戦略研究(strategic studies)が学問(academic discipline)として確立した冷戦時代のことである。サミュエル・P・ハンティントンやコリン・S・グレイなどの学者たちが軍拡競争の定義を明確にした。政府や学界では、米ソの軍備の発展や、一方の動きが他方の動きにどの程度影響を与えるかを研究していた。優越性(supremacy)をめぐる長い二極対立の中で、超大国の軍拡競争は知識人や政策立案者にとってまさに強迫観念(veritable obsession)のようなものとなった。

米ソの軍事競争はやがて恐るべき規模にまで至った。モスクワとワシントンがそれぞれ核兵器で人類文明を破壊する能力を獲得すると、「軍拡競争(arms race)」は非難のための言葉となった。核軍拡競争(nuclear arms race)は、安全保障の追求がかえって現実的な不安を引き起こすという不条理を思い起こさせるものと見なされがちであった。

1970年代以降の軍備管理協定は、超大国の核兵器に上限を設け、ミサイル防衛システムのような安全保障状況を不安定化させると考えられる能力を制限することで、この不安を軽減しようとするものであった。(一方が相手の報復ミサイルを撃ち落とす能力があれば、もう一方は核による先制攻撃をより慎重に検討するという理論である)。相互確証破壊(mutual assured destruction)という言葉、つまり、核兵器競争には誰も勝てないし、勝とうとするのは危険だという考え方が浸透していったのである。ロバート・マクナマラ米国防長官は1967年の演説で、「私たちはソ連との核軍拡競争を望んでいない。作用と反作用(action-reaction)の現象が、それを愚かで無益なものにしている」と明言した。

しかし、現実はそう単純ではなかった。アイゼンハウアーは1957年、ジョン・フォスター・ダレス米国務長官に対して、「軍拡競争は原因ではなく結果であった」と認めている。大国が武装したのは敵同士だったからであり、その逆ではない。軍拡競争に勝つこと、少なくとも負けないことが必要不可欠となった。戦争や西側の地政学的な崩壊の脅威は、拡張主義的なライヴァルが決定的な軍事的優位を獲得すれば確実に増大する。更に、賢明な観察者たちは、軍拡競争は愚かで思慮のない機械的な努力ではないことに気づいていた。軍拡競争は、創造的思考(creative thinking)と戦略的洞察力(strategic insight)に報われる学問だ。

このようなアメリカの軍拡競争に対するより洗練されたアプローチを象徴するのが、長年の防衛 知識人で、軍事バランスを厳密に評価する米国防総省の省内シンクタンクであるオフィス・オブ・ネットアセスメントの初代所長となったアンドリュー・マーシャルであった。マーシャルは、ロバート・マクナマラの「作用・反作用」モデルは単純すぎると主張した。ソ連とアメリカの軍備計画は、一触即発のプロセスと同様に、歴史的遺産と官僚的バイアスを反映していたからである。より重要なことは、ワシントンはモスクワとの軍事的競争は、責任を持って避けることができないため、その相互作用を自国に有利になるように形成する必要があるということである。1972 年、マーシャルは「アメリカはソヴィエト連邦を出し抜かなければならない」と書いている。その鍵は、「アメリカの比較優位の分野(“areas of U.S. comparative advantage)を特定し、戦略的軍拡競争(strategic arms competition)をこれらの分野に誘導することによって、ソ連のコストを上昇させ、困難を倍加させること」と指摘した。

その実例がアメリカの戦略爆撃機計画(U.S. strategic bomber program)である。モスクワは、1941年にアドルフ・ヒトラーのドイツ空軍が地上のソ連空軍の多くを破壊したため、空からの 攻撃を過剰に恐れていたとマーシャルは指摘している。ささやかな爆撃機の部隊を作ることで、アメリカはクレムリンに防空システムに多額の投資をさせ、西側諸国にとってより脅威となる攻撃能力から資源を振り向けさせることができたし、実際にそうしたのである。そして、冷戦の決定的な最後の10年間、マーシャルの論理は浸透していた。それは、モスクワが莫大なコストをかけて構築した計画と能力を否定することで、ソ連に大きな負担をかけるというものであった。

精密誘導弾(precision-guided munitions)、低空飛行巡航ミサイル(low-flying cruise missiles)、ステルス戦闘機(stealth aircraft)の開発により、米国防総省は敵の後方奥深くで大惨事を引き起こす能力を得て、ソ連のヨーロッパでの作戦概念をくつがえした。高精度の大陸間弾道ミサイル(intercontinental ballistic missilesICBM)の配備と照準能力の向上は、モスクワが核戦争中に指導者たちを高額の資金をかけて建設したバンカーに避難させて生存させるという計画を脅かした。ロナルド・レーガン大統領の戦略防衛構想は、宇宙を拠点とするミサイル・シールド計画であり、モスクワが何十年もかけて開発した陸上ミサイル部隊の有効性を、遠からず脅かす可能性があった。1982年の米国防省の計画文書には、アメリカの防衛計画は「不釣り合いなコストを課し、主要な軍事競争の新たな分野を開拓し、ソ連のこれまでの投資を陳腐化させる」はずだと記されている。

多くの予想に反して、積極的な軍拡競争は、実際には歴史的な軍備管理を可能にした。ロナルド・レーガン大統領の戦略的増強は、モスクワに中距離弾道ミサイルと大型ICBMの兵器を大幅に削減させるインセンティヴを与えた。また、経済的にも技術的にも衰退していたソ連は、競争力が著しく低下し、指導者は最終的に和平を求めることを選択した。ソ連のミハイル・ゴルバチョフ書記長は1986年、「長い間守ってきた立場を崩さないなら、結局は負けることになる。私たちは管理できない軍拡競争に巻き込まれるだろう」と断言した。アメリカにとって、超大国の軍事競争に勝つことは、より大きな冷戦に勝つための前提条件(prerequisite)であった。

しかし、冷戦終結後、アメリカの軍拡競争への適性は低下した。アメリカは軍事的に優位に立ったので、創造的で非情な戦略をとる必要がなくなったように見える。しかし、そのような余裕のある安全保障が失われた今、アメリカは新たに古い規律を習得しなければならない。

ロシアのウクライナ侵攻は、20年にわたる通常兵器と核兵器の増強の集大成であり、これによりモスクワは近隣諸国を打ちのめす一方で、核兵器によるエスカレーションの脅威を利用してワシントンを抑え込むことができるようになった。ロシアの軍隊はウクライナで酷い目に遭ったかもしれないが、通常兵器と核戦力の増強は、ウラジミール・プーティンの攻撃的な行動と相まって、今後何年にもわたってNATOを脅かすことになるだろう。中国は、近隣諸国を威圧するための戦力投射能力(power-projection capabilities 訳者註:軍事力の準備、輸送、展開能力)、アメリカ軍を遠ざけるための接近阻止・領域拒否能力(anti-access and area denial capabilities)、アメリカの政策立案者たちの介入をそもそも阻止するための核兵器の増強など、同様の作戦書(playbook)に従って開発を進めている。ロシアと中国は、地政学的修正主義(geopolitical revisionism)からの決意に基づいた計画を支えるために武装しており、アメリカが忘れてしまった軍拡競争に関する多くの教訓を吸収している。

長年にわたり、北京は、アメリカの軍事的なプラットフォーム対プラットフォームの形で対抗しようとはしなかった。対艦ミサイル(anti-ship missiles)、防空防衛(air defenses)、対衛星兵器(anti-satellite weapons)など、アメリカが世界中に力を及ぼすために使用している空母(aircraft carriers)、通信衛星(communications satellites)、地域基地(regional bases)を脅かす特定の能力に投資した。つまり、北京はマーシャルの忠告を真摯に受け止めている。1980年代にワシントンがモスクワの戦争方式を陳腐化させたように、中国の戦争方式はアメリカの戦争方式を陳腐化させる可能性がある。

激化する軍事的対立の中でアメリカが繁栄するチャンスはあるが、そうするためには、ワシントンが軍拡競争の技芸(art of the arms race)を再認識しなければならないということになる。

しかし、そのためには軍拡競争というものを再認識する必要がある。現在の傾向が続けば、米国は10年後までに1つではなく、2つの核兵器保有国との競争に直面することになる。ウクライナでのロシアの敗北にかかわらず、アメリカの同盟システムのユーラシア周辺地域における通常戦力のバランスは、不利とまではいかないまでも、不安定なものになるだろう。冷戦時代と同様、危険な軍事的不均衡はアメリカのライヴァルを誘惑して現状を強引に打破する可能性もあるし、アメリカの同盟ネットワークが依拠する信頼の基盤を単に蝕む可能性もある。アメリカの利益を守るためには、再び軍拡競争を展開し、それに勝利することが必要となる。

勝利は一部には金銭の問題である。最も優れた頭脳をもってしても、ドル不足を補うことはできない。米国防総省は、中国とロシアに対して同時に通常兵器の優位性を維持するために、より多くの防衛費を必要とする。また、1つの核兵器保有大国ではなく2つの核兵器保有大国を抑止するために、より大きな核兵器貯蔵が必要になる。人工知能(artificial intelligence)、量子コンピュータ(quantum computing)、合成生物学(synthetic biology)など、魅力的な技術を大規模に展開できる能力にするためには、大規模な投資が必要になるかもしれない。アメリカが現在軍事関連に投じている予算は、GDPの3.5%未満であるのに対し、少なくとも5%に相当する軍事費を投じることが、この10年間とそれ以降の平和のための最低条件となるだろう。

しかし、資金が流れても、ライヴァルに勝つためには、ライヴァルを上回ることも必要だ。

ライヴァルを上回るためには、まず自らを欺かないことだ。軍備管理論者は、1950年の熱核兵器(thermonuclear weapons)の開発であれ、今日のAIの軍事的応用であれ、敵が同じようにすることを期待し、アメリカが一方的に自国の能力を制限すべきであると主張することがある。しかし、これはほとんどうまくいかない。

1950年代初頭にアメリカが水爆(hydrogen bomb)の製造延期を決定していれば、ソ連が先に水爆を製造するのを許すだけだったことが、今では分かっている。1960年代にロバート・マクナマラがアメリカの戦略的蓄積を停止させると、モスクワは同等な立場を主張するために前進を始めた。「こちらが作れば、向こうも作る。1979年、ハロルド・ブラウン米国防長官は、「私たちが削減すれば、彼らは構築する」と主張した。特殊な技術は変わっても、厳然たる真実は変わらない。独裁的な敵国から自制を得るには、通常、軍拡競争に対抗できないことを示す必要がある。

第二に、効果的な軍拡競争のためには敵を熟知していることが必要である。マーシャルの洞察の1つは、ソヴィエトの動向を把握することは、ソヴィエトのバランスを崩すために不可欠であるということであった。同様に、ロシアと中国が何を望み、何を恐れ、どのように行動しようとしているのかを把握せずに、現在のアメリカの軍事計画を決定するのは良い方法ではない。残念ながら近道はない。冷戦時代、敵の頭の中を理解するためには、世代を超えて長期間にわたりソヴィエト学(Sovietology)への投資が必要だった。

この知識は非常に重要だ。それは、軍拡競争はあらゆる場所で平等に競争する必要も報酬もないからだ。アメリカは、極超音速兵器における中国の全ての発展を模倣する必要はない。これらの兵器は、妥当なコストでは、ワシントンが西太平洋で必要とする火力の量を提供することはできない。米国防総省はまた、クレムリンの膨大な短距離核兵器に匹敵する量を整えるべきではない。アメリカは、敵がアメリカの通常戦力と戦略的核兵器の間の空間を調査することに大胆さを感じさせないようにするために、十分な限られた核の選択肢を単に必要としている。

より良いアプローチは、非対称的に(asymmetrically)考えることである。つまり、アメリカの明確な優位性を利用して、敵が掲げる勝利のための理論を混乱させ、そのコストを上昇させることだ。例えば、台湾に対する中国の軍備増強の価値を下げるには、アメリカとその同盟諸国が重要な優位性を利用することである。荒波に囲まれた島を防衛することは、征服するよりもはるかに容易である。対艦ミサイル、機雷(sea mines)、無人航空機(unmanned aerial)、水中走行車(underwater vehicles)など、中国軍にとって侵略を血みどろの悪夢に変えることができる安価な兵器を大量に配備して、台湾防衛は実現可能となる。同様に、北京が中距離ミサイルの競争を望むなら、ワシントンは同盟諸国間のネットワークを利用して、現在の中国の優位を将来の負債に変えることができる。結局のところ、同盟諸国の領土にあるアメリカの中距離通常ミサイルは中国本土に容易に到達できるが、中国の中距離ミサイルはアメリカに到達できない。また、中国が空母やその他の大型艦艇に資金を投入する中、ワシントンは海中戦の優位性を維持することで、一世代分の海軍近代化を危うくすることができる。北京の計画に一貫して挑戦し、その能力を低下させることによって、ワシントンは最終的に中国の指導者に軍拡競争が何を達成するのか疑問を抱かせることができるのである。

ここでは、関連するルールが参考になる。軍拡競争の防御的側面も忘れてはならない。今日、かつてと同様、軍備管理論者はしばしば、弾道ミサイル防衛は不安定だ、あるいは単に無駄だと主張するが、それは安価な対抗手段で打ち負かすことができるからである。しかし、アメリカのミサイル防衛は急速に改善されており、レーザーなどの指向性エネルギー兵器(directed energy weapons)やその他の新技術の利用により、迎撃ミサイル(interceptors)の割高のコストや数量制限などの問題がまもなく緩和される可能性がある。北朝鮮のような、ならず者国家(rouge states)だけでなく、ロシアや中国に対して限定的な弾道ミサイル防衛を行うことは、モスクワや北京の核強制のドクトリンを複雑にする可能性があり、少数の核攻撃で地域紛争へのアメリカの介入(U.S. intervention)を妨害または抑止することを想定している。また、核兵器搭載の潜水艦やプーティンが開発した終末装置(doomsday-device)のような兵器など、ミサイル防衛を破るには非常に高価で斬新な核運搬手段への投資を増やすことで、ロシアと中国のコストを押し上げる可能性もある。

もちろん、軍拡競争には質的な側面と量的な側面がある。このことは、もう1つの原則、すなわち、数字だけが重要なのではないということを思い起こさせる。1980年代、アメリカが達成した重要な成果は、数的に同等な状況下でも先手を打った。米国のICBMの精度の革命的な向上は、ソ連当局に核戦力の存続を危ぶませた。今後、核兵器の増強が必要なのは明らかだが、均衡を保つには、ミサイルの精度やISR(比類のない国際的な認識を提供する情報・監視・偵察能力)などの質的優位を生かす必要がある。

しかし、抑止力(deterrence)とは心の持ちようだ。一方が相手に対して何ができるか、何をするかということにかかっている。従って、アメリカの政策立案者たちは、認識が現実と同じくらい重要であることを忘れてはならない。1980年代、米国防総省はステルス技術に関するニューズを垂れ流し、ソ連の核ミサイル潜水艦を沈める能力を喧伝し、精密誘導弾の効果を劇的に明らかにし、かつ時には誇張し、モスクワの軍事バランスに対する認識を操作する、巧妙な情報戦略を使っていた。今回、アメリカはロシアや中国に警戒心を抱かせるために、高度な新能力を誇示したり、実際には起こっていない技術的飛躍を恐れさせ、報われない領域に誘い込んだりする可能性がある。新技術は新たな可能性を生み出し、特にサイバー分野は能力の真のバランスを知ることが難しいため、欺瞞の対象となりやすい。

このことは、競争がより鋭く、より緊迫したものになることを意味している。しかし、過去から得た最後の教訓は、軍拡競争は軍備管理と一緒に行われ得るということである。軍備管理が軍拡競争を助長することもある。1970年代、アメリカはヴェトナム戦争から立ち直り、準備が整うまで、対弾道ミサイル条約を利用して防衛的な軍拡競争を遅らせた。1980年代におけるレーガン大統領の経験が示しているように、軍備管理は軍拡競争につながる可能性もある。

軍備管理はそれでもまだ良い考えだ。2021年の新START延長は軍拡競争の観点からは理にかなっている。なぜなら、経済的に優位に立つアメリカを上回るには時間がかかるとしても、モスクワは短期的に戦略核戦力を増強するのに有利な立場にあるからだ。そして、増強から削減へというのは今でも正しい方式である。中距離ミサイル(intermediate-range missiles)や戦略核戦力(strategic nuclear forces)、あるいはAIやその他の新技術の不安定な応用を制限する米中露3カ国間協定はいずれ可能になるかもしれないが、そのためにはまずアメリカが、無制限の軍拡競争は最終的にライヴァル諸国をより貧しく、より脆弱にすることを証明しなければならないだろう。

コリン・S・グレイは、『フォーリン・ポリシー』誌の1972-73年冬号で、「軍拡競争という言葉は、敵意、危険、高い税金を連想させる」と書いている。しかし、軍拡競争は、戦争での敗北や軍事的劣位から生じる影響力の漸進的喪失など、より醜い結果を回避するために必要な場合もある。また、知的な戦略によって、修正主義的な敵対勢力にアプローチを修正させ、おそらくは長期目標を再考させることができれば、軍拡競争から得られる報酬は大きなものになる。利害関係の強い軍拡競争は、今日既に繰り広げられており、アメリカはそれを形成することが強く求められている。軍拡競争は、負ければ無駄になるだけだ。

※ハル・ブランズ:ジョンズ・ホプキンズ大学高等国際問題研究大学院ヘンリー・A・キッシンジャー記念教授、アメリカン・エンタープライズ研究所上級研究員。ツイッターアカウント:@HalBrands

(貼り付け終わり)

(終わり)

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