古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:NATO

 古村治彦です。

 このブログでもご紹介したが、ピューリッツア賞受賞のヴェテランのジャーナリストであるシーモア・ハーシュが自身のウェブサイトに論稿を発表した。その内容は、昨年9月に爆発事故を起こして稼働できなくなった、ロシアとドイツを結ぶノルドストリーム・パイプラインについて、爆破はアメリカ軍が、ジョー・バイデン政権の最高幹部たち(アントニー・ブリンケン国務長官、ジェイク・サリヴァン国家安全保障問題担当大統領補佐官、ヴィクトリア・ヌーランド国務次官など)の共同謀議による作戦立案とバイデン大統領の命令を受けての攻撃だったというものだ。

 今回は、ハーシュがドイツのジャーナリストであるファビアン・シードラーのインタヴューに答える形で記事が出た。ドイツは自分たちがノルドストリーム爆破の直接の被害者であるから関心が高いはずだ。しかし、いまのどいつのショルツ政権ではアメリカに対して、ほんのちょっとでも抗議をすることなどできもしないだろう。日本はその点で同じだ。

 ショルツ政権の副首相・経済・気候保護大臣であるロベルト・ハーベック、外務大臣であるアンナレーナ・ベアボックは共に緑の党から出ているが、彼らは対中、対ロシアに対して強硬である。原発が稼働停止するドイツでロシアからの天然ガスはエネルギーにおける命綱であるはずだが、彼らは喜んで命綱を切断し、国民に塗炭の苦しみを味合わせる。「それがSDGsよ」「なんてエコな暮らし」と言いながら、耐乏生活、窮乏生活をさせるのだ。これは私の推測だが、彼らはアメリカによるノルドストリーム爆破に了承を与えていたのではないかとすら思えてしまう。

 バイデン政権は犯罪政権である。しかし、ノルドストリーム爆破をバイデン政権が実行したことは報道されないし、明らかにされないだろう。バイデンの寿命はそこまで長くないだろうが、爆破に関わったブリンケン、サリヴァン、ヌーランドはこれからある程度の期間は生きるだろうし、アメリカ政治の枢要に参画するだろうから、彼らを犯罪者にはできないということに短期的にはなるだろう。しかし、流れが逆転するということもある。アメリカの覇権が崩れ始めて、これまでのアメリカの犯罪が暴かれる際には彼らは当事者として逮捕されるだろう。そうしたことが起きないために(少なくとも短期的には)、彼らは何が何でもバイデンの大統領選挙再建に突き進む。

 それでも、バイデンの再選に暗雲が立ち込めている。それはアメリカ経済の失速から崩壊の可能性が高まっていることだ。アメリカで「経済のことならトランプだ」という機運が高まれば、バイデンの再選も難しい。バイデンが選挙に落ちるようなことがあれば、アメリカ政治、アメリカ政界は大混乱に陥る可能性がある。

(貼り付けはじめ)

シーモア・ハーシュ:アメリカがノルドストリーム・パイプラインを破壊した(Seymour Hersh: The US Destroyed the Nord Stream Pipeline

シーモア・ハーシュとのインタヴュー

インタヴュアー:ファビアン・シードラー

2023年2月15日
『ジャコバン』誌

https://jacobin.com/2023/02/seymour-hersh-interview-nord-stream-pipeline

先週、高名な調査報道ジャーナリストであるシーモア・ハーシュは、ロシアからドイツへ天然ガスを輸送するために利用されてきたノルドストリーム・パイプラインの破壊はアメリカの責任だと主張する内容の論稿を発表した。

2022年9月26日、ロシアからドイツに到るノルドストリーム天然ガスパイプラインが、バルト海において複数回の爆発によって広範囲に破壊された。先週、賞を受賞した経験を持つ調査報道ジャーナリストであるシーモア・ハーシュが、1名の匿名の情報源からの情報を基にした論稿を発表した。その内容は、バイデン政権とCIAに爆発の責任があるというものだ。

ハーシュは1970年にピューリッツア賞を受賞した。授賞理由は、アメリカ兵が非武装の市民を300から500人殺害したミライ虐殺事件の報道で果たした役割であった。ハーシュは『ジャコバン』誌のために、ファビアン・シードラーに最新の記事で取り上げた疑惑とCIAと国家安全保障部門がアメリカの外交政策に及ぼす影響について話した。

ファビアン・シードラー:

最初にあなたの発見について詳細にご説明いただきたい。あなたの情報源からの情報から、正確に何が起きたか、誰が関与したのか、この行為の裏にある誘因は何か?

シーモア・ハーシュ:

私は行っていることは明らかなことを単純に説明しているに過ぎない。それは単に語られるべき物語に過ぎない。2022年9月下旬、8個の爆弾が爆発するはずだった。6個はバルト海のボーンホルム島付近の水面下、やや浅いところで爆発した。その爆発でノルドストリーム12の4本の主要パイプラインのうち3本を破壊した。

ノルドストリーム1は、長年、非常に安い価格でドイツにガス燃料を供給してきた。そして、両方のパイプラインが爆破され、なぜ、誰がやったのかが問題になった。2022年2月7日、ウクライナ戦争を前に、アメリカのジョー・バイデン大統領は、ドイツのオラフ・ショルツ首相とホワイトハウスで記者会見し、「ノルドストリームを止めることができる」と発言した。

シードラー:

ジョー・バイデンの正確な文言は、「もしロシアが侵攻してきたら、ノルドストリーム2はなくなる。私たちはパイプラインに終止符を打つ」というものだ。そして、このプロジェクトがドイツの管理下にあることを踏まえ、具体的にどのようにそれを行うつもりかという記者団からの質問に対して、バイデンは、「私たちはそれを行えることだと約束できる」とだけ答えた。

ハーシュ:

バイデン政権の国務次官であるヴィクトリア・ヌーランドは、2014年に彼らがマイダン革命と呼ぶものに深く関与しており、その2週間前に同様の言葉を使用した。

シードラー:

パイプラインの撤去は、バイデン大統領によってもっと前に決定されていたということになる。あなたの記事によると、国家安全保障問題担当大統領補佐官ジェイク・サリヴァンが、統合参謀本部、CIA、国務省、財務省から新たに結成されたタスクフォースの会議を招集した2021年12月から時系列で、最初から話を整理している。サリバンは、ノルドストリーム・パイプラインを破壊するための計画を立案する意図を持っていたのだ。

ハーシュ:

このタスクフォースは当初、この問題を研究するために12月に召集された。彼らはCIAなどに呼び寄せられ、極秘のオフィスで会議を持った。ホワイトハウスのすぐ隣に、行政府庁舎と呼ばれるオフィスビルがある。そこは地下トンネルでつながっている。その最上階に、大統領情報諮問委員会と呼ばれる外部顧問の秘密グループの会議場がある。私はホワイトハウスの人々に、私が何かを知っていることを知らせるために、このことを報告したに過ぎない。

会議は、ロシアが戦争を仕掛けてきたらどうするのかという問題を検討するために招集された。ウクライナ戦争の3カ月前、2022年のクリスマス前のことだ。ハイレヴェルなグループだった。おそらく違う名前だったと考えられるが、私はただ「省庁間グループ」と呼んでいる。正式な名前があったのかどうかは分からない。CIAと通信を監視・傍受する国家安全保障局、資金を供給する国務省と財務省、そしておそらく他にもいくつかのグループが関与していた。その他に、統合参謀本部も参加していた。

制裁や経済的圧力の強化といった可逆的なものから、爆発物など不可逆的なものまで、ロシアを止めるために何をすべきかを提言するのが彼らの大きな仕事だった。情報源を守らなければならないので、特定の会議について具体的に話したくない。何人が会議に参加していたのか分からない。私の言っていることが理解できるだろうか?

シードラー:

論稿の中で、2022年初頭、 CIAの作業部会がサリヴァンンの省庁間グループに報告し "パイプラインを爆破する方法がある" と提言したと書いているが?

ハーシュ:

彼らは方法を知っていた。アメリカでは「機雷戦」と呼ばれているものを理解している人たちがいた。アメリカ海軍には、潜水艦に入るグループと、原子力工学に関する司令部があり、機雷戦司令部も存在する。機雷こそは非常に重要であり、熟練した鉱夫がいるのです。機雷戦従事者の訓練で最も重要なのは、フロリダの田舎にあるパナマシティという小さなリゾート地である。

そこで非常に優秀な人材を育成し、活用している。機雷戦従事者はとても重要な存在だ。港への入港を妨害したり、邪魔なものを吹き飛ばしたりすることが可能なのである。ある国の海底石油パイプラインが気に入らなければ、それも爆破することができるという訳だ。いいことばかりではないが、彼らはとても秘密主義である。ホワイトハウスにいたグループにとって、パイプラインを爆破できることは明らかだった。C-4と呼ばれる爆発物がある。これは非常に強力で、特に使用量が多いと壊滅的だ。水中ソナー装置を使って遠隔操作することができる。水中ソナーは非常に低い周波数の信号を送る。

2022年1月初旬には、ホワイトハウスにそのことが伝えられた。2週間か3週間後に、ヴィクトリア・ヌーランド国務次官が「できる」と言ったのだ。これは1月20日のことだったと考えられる。そして、大統領もオラフ・ショルツ独首相と一緒にいる場所で、2月7日に「できる」と言った。ショルツは具体的なことは何も言わず、曖昧な態度に終始した。しかし、もし私がドイツ議会で公聴会を開催できるとしたら、ショルツにこう質問するだろう。「バイデン大統領からパイプライン爆破について聞いたか? その時、なぜ彼が爆破できると確信したのか話をしたか?」

まだ計画は具体的には存在しなかったが、爆破能力があることは分かっていた。

シードラー:

作戦においてノルウェーはどのような役割を果たしたのか?

ハーシュ:

まず、ノルウェーは海洋大国であり、地下エネルギーも保有している。また、西ヨーロッパ諸国やドイツに販売できる天然ガスの量を増やすことを強く望んでいる。そしてそれを実現し、輸出量を増やしている。従って、経済的な理由から、アメリカと一緒にこうどうするということになったのではないか? また、ロシアに対する嫌悪感も根強く残っている。

シードラー:

論稿の中で、あなたはシークレットサーヴィスとノルウェー海軍が作戦に参加し、スウェーデンとデンマークは説明こそ受けたが全ては教えられなかったと書いている。

ハーシュ:

私に言わせれば、「伝えなかったのは、伝える必要はなかったから」ということだ。つまり、自分がやっていることを相手も知っていて、何が起こっているのかも理解しているのに、誰もイエスと言わないということだ。私はこの問題に関して情報源と一緒に真剣に取り組んだ。要するに、この任務を遂行するために、ノルウェーは適切な場所を探さなければならなかった。パナマシティで訓練を受けていた潜水士達は、重い潜水タンクを使わずに、酸素と窒素とヘリウムの混合物だけで水深300フィート(約90メートル)まで到達できる。

ノルウェーは、バルト海のボーンホルム島沖に水深260フィート(約78メートル)の場所を見つけ、そこで活動できるようにした。そこまで到達したらゆっくり戻ってこなければならない。減圧室があるノルウェーの潜水艦「ハンター」を使用した。4本のパイプライン爆破に送られた潜水士はわずか2名だった。

バルト海を監視している人たちにどう対処するかという問題もあった。バルト海の監視は非常に徹底しており、公開されている情報も多いので、そのための担当者を34人用意した。そして、私たちが行ったことは実にシンプルなことだ。地中海とバルト海を管轄するアメリカ海軍第6艦隊は、21年前から毎年夏にバルト海でNATO加盟諸国の海軍のための演習(バルト海作戦)を行っている。そして、海軍の空母や大型艦船を動員する。非常にオープンなものだ。ロシアは確かにそのことを知っていた。私たちは公の場で爆破作戦を実行した。そして、このバルト海でのNATOによる作戦では、歴史上初めて新しいプログラムが実施されました。10から12日間の期間をかけて、地雷を落として発見する演習を行う予定を組んでいた。

いくつかの国が機雷作戦ティームを派遣し、あるグループが機雷を落とすと、自国の別の機雷作戦グループがそれを捕捉して爆破する。だから、爆破するまでにはある時間があったのだが、その間にノルウェー軍は深海潜水士を回収することができた。2本のパイプラインは1マイルほど離れて走っており、少し土の下にあるが、到達するのは難しくないし、彼らは作戦を実行した。爆弾の設置には数時間しかかからなかった。

シードラー:

それは2022年6月のことか?

ハーシュ:

そうだ。6月に入って10日過ぎた頃、演習の最後に爆破を実行する予定だったのだが、最後の最後でホワイトハウスがナーヴァスになった。バイデン大統領は、実行することが怖いと語ったのだ。そして、いつでも爆弾を落とせるように、いつでも遠隔操作で爆弾を落とせるようにと命令した。レイセオン製の通常のソナーを使って作戦実行。上空を飛行し、シリンダーを落とす。低周波の信号を送る。フルートのような音で、様々な周波数を発することができる。しかし、心配だったのは、水中に長く放置しておいて爆弾が作動しないことだった。そのため、グループ内では適切な手段を見つけようとパニックになり、実際には他の情報機関にも問い合わせる必要があった。論稿ではそのことは書かなかった。

私は、ブリンケンやその他の政権幹部たちが思慮深い人間ではないと考えている。

シードラー:

そして、その時に何が起きたのか? 彼らが爆弾を設置し、遠隔地からコントロールする方法を見つけた・・・。

ハーシュ:

ジョー・バイデンはパイプラインを爆破しないと決定した。それは6月上旬のことだった。当時はウクライナ戦争が始まって約5カ月だった。しかし、9月になって、バイデンは爆破を決断した。

あることをあなたに教えよう。作戦にかかわった人々、つまりアメリカのために能動的な活動を行う人たちは、大統領の命令通りにする。彼らは当初、これは交渉に使える便利な武器だと考えていた。

しかし、ある時点で、ロシアが侵攻した後で、パイプライン爆破作戦が完了すると、爆破作戦を実行した人々にとって、これはますます嫌なものになった。彼らはよく訓練された人々で、最高レヴェルの秘密情報機関に所属している。彼らはこのプロジェクトに背を向けた。彼らは、これは非常識なことだと考えた。そして、原爆投下の1週間後、あるいは3、4日後、彼らが命令されたことを実行した後、多くの怒りと敵意が生まれた。これは私が取材してあきらかになったことだ。

そして、もう1つ言っておきたいことがある。アメリカやヨーロッパでパイプラインを建設している人たちは、何が起こったかを知っている。私は今重要なことを話している。パイプラインを建設する会社を経営している人たちは、この話を知っている。私は彼らから話を聞いた訳ではないが、彼らが爆破事件について知っていることはすぐに分かった。

シードラー:

それでは昨年6月の状況に戻ろう。ジョー・バイデン大統領は爆破作戦を直接行わず、延期するように決定を下した。それなのに、どうして9月になって作戦を実行したのか?

ハーシュ:

アンソニー・ブリンケン米国務長官は、パイプラインが爆破されて数日後の記者会見の席上で、プーティンから経済的にも、そして軍事的にも大きな力が奪われてしまったと述べた。ブリンケンは、「ロシアがパイプラインを武器化することができなくなったことでもあり、これは大きな機会となった、それは、ロシアがつまり、今回の戦争において、西ヨーロッパ諸国がアメリカを支援しないように強制することができなくなったのだから」と述べた。西ヨーロッパがこれ以上戦争に付き合わないようになることを恐れたのです。その時にやろうと思ったのは、西側諸国にとって戦争がうまくいっていないこと、そして冬が来ることを恐れていたのだと思う。ノルドストリーム2はドイツから制裁を受けているが、アメリカは厳しい冬になってドイツが制裁を解除することを恐れていた。

シードラー:

あなたのお考えでは、その裏側にはどのような動機があったと言えるだろうか? アメリカ政府がパイプラインに反対した理由は様々だ。ロシアと西ヨーロッパ、特にドイツとの結びつきを弱めたいから反対した、という人もいる。しかし、アメリカ経済と競合するドイツ経済を弱体化させるためでもあったとも考えられる。ガス価格の高騰で、企業はアメリカに移転し始めている。アメリカ政府がパイプラインを爆破した場合、その動機についてあなたはどのように考えるか?

ハーシュ:

彼らはよく考えていないと思う。奇妙に聞こえるかもしれないが、私は ブリンケンをはじめとする政権の一部の人たちが深い考えを持った人たちだとはとても思えない。アメリカ経済には、私たちがより競争力を持つという考えを好む人たちが確かにいる。私たちはLNG、液化ガスを極めて大きな利益で売っている。これはアメリカ経済にとって長期の景気浮揚策になる、と考えた人たちもいたことだろう。

しかし、あのホワイトハウスでは、常に再選に執着し、戦争に勝ちたい、勝利を得たい、ウクライナに何とか魔法のように勝ってほしいと思っていたのだろうと私は考える。

ドイツ経済が弱くなれば、私たちの経済にとって良いことかもしれないと考える人もいるかもしれないが、それはおかしな考えだ。私は、基本的に、私たちはうまくいかないものに深く食い込んでしまったと考える。戦争はこの政府にとって良い結果をもたらすことはないだろう。

シードラー:

この戦争はどのように終結すると考えるか?

ハーシュ:

私が何をどう考えるかは重要ではない。私に分かっているのは、この戦争が思い通りにならないこと、そして、この先どうなっていくのか分からないということだ。大統領がこのようなことを望んでいたのなら、私はそのことに恐怖を感じている。

そして、この作戦を行った人々は、バイデン大統領がドイツの人々に何をしているのか、うまくいっていない戦争に対して罰を与えていることに気づいていると信じていた。そして長い目で見れば、これは大統領としての評判だけでなく、政治的にも非常に不利になることだろう。アメリカにとって汚点となることだろう。

CIAは王冠のために働くのであって、憲法のために働くのではないと理解されている。

つまり、ホワイトハウスは状況が自分たちにとって悪くなると考えていた。ドイツや西ヨーロッパ諸国が武器を提供しなくなり、ドイツの首相がパイプライン稼働を再開かもしれない。ホワイトハウスは常にこうした事態を恐れていた。私にはドイツのオラフ・ショルツ首相に質問したい事項がたくさんある。例えば、2月に大統領と一緒にいたときに何を知ったのか、ということなどだ。この作戦は大きな秘密で、大統領はこの作戦遂行能力について誰にも話してはいけないことになっていた。でも、彼は喋ってしまうのだ。話したくないことも話してしまう人だ。

シードラー:

あなたの話は、欧米諸国のメディアでは、ある程度の抑制と批判をもって報道された。あなたの評判を貶めるために攻撃したり、匿名の情報源は1つだけであり、それでは信頼に足る話ではないと主張したりする人々がいる。

ハーシュ:

私が情報源について語ることなどあるだろうか? 私はこれまで匿名の情報源を元に多くの記事を書いてきた。もし誰かの名前を明らかにしたら、彼らは解雇されるか、最悪、投獄されるだろう。厳しい法律がある 私は誰についても暴露したことなどない。もちろん、この記事のように、情報源はあくまで情報源であると書いている。そして長年にわたって、私が書いた記事はいつも受け入れられてきた。この記事には、『ニューヨーカー』誌で一緒に働いていた時と同じレヴェルの熟練したファクトチェッカーを起用した。当然の話として、私に伝えられた不明瞭な情報を検証する方法はたくさんある。

それに、私に対する個人攻撃は本質を突いていない。バイデンはこの冬、ドイツに厳しい冬を過ごさせることを選んだ。アメリカ大統領は、ドイツがウクライナ戦争に協力的でない可能性よりも、エネルギー不足のために、ドイツの人々が厳しい寒さの中で生活するのを見たいのだろう。私にとっても、作戦に参加した人たちにとっても、これは酷いことだ。

シードラー:

ロシアだけでなく、西側の同盟諸国、特にドイツに対する戦争行為と受け止められる可能性があることもポイントだ。

ハーシュ:

単純に考えてみよう。この作戦に関わった人々は大統領が短期的な政治的目標のためにドイツを冷遇することを選んだと見ており、それが彼らを恐怖に陥れたと言えるだろう。これは、アメリカに強烈な忠誠心を持つアメリカ人についての話だ。CIAでは、私が論稿で述べたように、彼らは王冠のために働き、憲法のために働かないということが理解される。

CIAの長所は、米連邦議会で自分の主張を通せず、誰も耳を貸さない大統領が、ホワイトハウスのローズガーデンの裏庭をCIA長官と散歩して、8000マイル(約1万2800キロ)離れたところで誰かを傷つけることができる、ということだ。CIAのセールスポイントについては、小唄内容であるため、私は問題視している。しかし、そのCIAでさえ、勝ち目のない戦争を支援するためにヨーロッパを冷遇することを選んだことに愕然としている。パイプライン爆破は極悪非道な行為だと私は考える。

シードラー:

論稿の中であなたは攻撃の計画は米連邦議会に報告されなかったと述べている。秘密作戦の場合でも連邦議会に報告しなければならないそうだが。

ハーシュ:

米軍の多くの部署に対しても報告はなされなかった。他の政府機関の幹部たちも知っておかねばならないことであったが、情報提供はなされなかった。作戦はどこまでも秘密で実行された。

シードラー:

バルト海沿岸の船舶や航空機に関するオープンソースインテリジェンス(OSINT 訳者註:公表されているデータを収集し、分析する諜報活動)の評価に携わっている人々から、「9月26日やその前の日に爆発地点で直接検知されたノルウェー機はない」という批判もあった。

ハーシュ:

本格的な秘密作戦はOSINTを考慮し、それに対処するために実行される。私が言ったように、この問題に対処する人が任務に就いていた。

シードラー:

あなたの職業において勇気はどのような役割を果たすのか?

ハーシュ:

真実を伝えることに何か勇気が必要であろうか? 私たちの仕事は恐れることではない。そして時には醜くなることもある。私の人生にもそのようなときがありました。理解してもらえると思うが、私はそのことについて話さない。脅迫されるのは、私のような人間ではなく、私のような人間の子どもだ。酷い目にあったこともある。しかし、気にしないことだ。ただ、自分のやるべきことをやるだけだ。

※シーモア・ハーシュ:ピューリッツア賞受賞のアメリカの調査報道ジャーナリスト。

※ファビアン・シードラー:ベルリンを拠点とするジャーナリスト。著書に『巨大マシーンの終焉:衰退しつつある文明の概略史(The End of the Megamachine: A Brief History of a Failing Civilization.)』がある。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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ビッグテック5社を解体せよ

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
20211129sankeiad505

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 古村治彦です。

 NATOはウクライナ戦争以降、大きな注目を集めている。NATOは北大西洋条約機構(North Atlantic Treaty Organization)の略である。NATOは冷戦下の対ソ連に対する集団的自衛のための組織であった。ソ連はワルシャワ条約機構(Warsaw Treaty/Pact Organization)を組織して対抗した。冷戦終結後、ソ連が解体された後も、加盟国を増やしながら存続してきた。その主要な仮想敵国はロシアになった。

 また、NATOに関しては、「ドイツの力を封じ込める」という考え方もある。「日米安全保障条約は日本の力を封じ込めるためのものだ」という「瓶のふた」論と共通する内容だ。NATOの外部ではロシアを、内部ではドイツを抑え込むという二重の構造になっている。しかし、NATOという冷戦の遺物が規模を拡大して残ってしまっていることが、ロシアの恐怖感を強め、ロシアにとっての脅威となり、ウクライナを正式加盟させていないのに、実質的に加盟国のように遇して軍備増強をさせたことがロシアの侵攻につながったということを考えると、NATOの存在が安全保障に資するものなのかどうか甚だ疑問である。アメリカではドナルド・トランプが大統領時代に、NATOは役立たずの金食い虫だと喝破したことがある。NATOの存在意義が議論の対象になっている。

 NATOの在り方に関しては、これまで通り(アメリカに頼りながら)、役割を拡大(アメリカのインド太平洋戦略の補助者として)、ヨーロッパの安全保障に専念してアメリカに頼らないというものであり、下記の論稿の著者スティーヴン・ウォルト教授は最後の在り方を推奨している。

 NATOは現在、アメリカを補助する役割を拡大し、アジア太平洋地域におけるプレゼンスを高めようとする動きが活発だ。イギリスやフランスが空母を派遣し、ドイツも艦艇を派遣するという動きに出ている。イギリスは英連邦(British Commonwealth)、フランスは太平洋に海外領土を持っており、それを大義名分にして空母まで送ってきている。しかし、それは「あなた方の仕事ではないはずだ」と私は考える。ウクライナに対する支援の少なさを考えると、「まずは自分の足元からしっかり見直すべきではないか」と言いたい。

 アジア太平洋地域にこれ以上、外部からしゃしゃり出てこられても困るのだ。しかも、老大国、自分の頭の上のハエを追うことすらままならない国々が、昔アジア太平洋地域を植民地化した古き良き時代が忘れられないのか、アメリカに唆されて嫌々なのかは分からないが、おっとり刀で出て来たところで何の役に立つと言うのか。

 NATOは自分たちの周辺だけでも、旧ソ連、中東、マグレヴ(サハラ砂漠以北のアフリカ諸国)と言ったところで多くの問題を抱えている。まずはそれらにしっかりと対処することだ。更に、内部での独仏の争いについても何とかしなさい、ということになる。仲間割れをして戦争にまでならないように、他のところは他のところできちんとやるから、ということになる。

(貼り付けはじめ)

どのNATOを私たちは必要とするか?(Which NATO Do We Need?

-環大西洋同盟の4つの可能な未来。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2022年9月14日

『フォーリン・ポリシー』誌

Stephen M. Walt

https://foreignpolicy.com/2022/09/14/nato-future-europe-united-states/

絶え間なく変化する世界の中で、大西洋を越えたパートナーシップの耐久性は際立っている。北大西洋条約機構(North Atlantic Treaty OrganizationNATO)は私の人生よりも歴史が長い。そして、私はもう若くない。NATOの歴史は、エリザベス2世が英国に君臨していた時代よりも長い。「ソヴィエト連邦を排除し、アメリカを取り込み、ドイツを抑える」というNATOの本来の目的は、以前ほど重要ではなくなったが(ロシアのウクライナ戦争は別として)、大西洋の両側ではいまだに尊敬をもって見られている。もし読者である皆さんが、ワシントン、ベルリン、パリ、ロンドンなどで頭角を現すことを望む政策担当者ならば、NATOの不朽の美点を称賛することを学ぶのは、今でも賢い出世術と言えるだろう。

NATOが結成され、「大西洋横断コミュニティ(trans-Atlantic community)」の構想が具体化し始めてから、どれほどの変化があったかを考えると、この長い歴史は特に注目に値する。ワルシャワ条約(Warsaw Pact)は消滅し、ソ連は崩壊した。アメリカは20年以上にわたって中東において、お金ばかりかかってしまって成果の上がらない戦争に国力を費やしてきた。中国は、世界的な影響力を持たない貧しい国から世界第2位の強国へと成長し、その指導者たちは将来、さらに大きな世界的役割を果たすことを望んでいる。ヨーロッパもまた、人口動態の変化、度重なる経済危機、バルカン半島での内戦、そして2022年には長期化しそうな破壊的な戦争と、大きな変化を経験している。

確かに、「大西洋を越えたパートナーシップ(trans-Atlantic partnership)」は完全に固定化されてきた訳ではない。1952年のギリシャとトルコに始まり、1982年のスペイン、1999年からの旧ソ連の同盟国、そして最近ではスウェーデンとフィンランドと、NATOはその歴史の中で新メンバーを増やしてきた。冷戦終結後、ヨーロッパの大半が国防費を大幅に削減するなど、同盟内の負担配分にも変動があった。NATOはまた、様々な教義上の変化を経てきたが、その中にはより大きな影響を及ぼすものもある。

従って、大西洋横断パートナーシップは今後どのような形を取るべきかを問う価値がある。その使命をどのように定め、どのように責任を分担していくべきなのか? 投資信託と同様、過去の成功は将来のパフォーマンスを保証するものではない。だからこそ、最高のリターンを求める賢明なポートフォリオ・マネージャーは、状況の変化に応じてファンドの資産を調整する。過去に起きた変化、現在の出来事、そして将来起こりうる状況を考慮した上で、大西洋横断パートナーシップが存在し続けると仮定した場合、将来どのような広範なヴィジョンを形成すべきなのだろうか?

私は少なくとも4つの異なるモデルを考えることができる。

一つは、官僚的な硬直性(bureaucratic rigidity)と政治的な慎重さ(political caution)を考慮すれば、おそらく最も可能性の高いアプローチで、現在の取り決めをほぼそのまま維持し、できる限り変化を与えないというものだ。このモデルでは、NATOは(その名称の「北大西洋」という言葉が示すように)、主にヨーロッパの安全保障に焦点を当て続けることになる。アメリカは、ウクライナ危機の際もそうであったように、ヨーロッパにとっての「緊急応対者(first responder、ファースト・レスポンダー)」であり、同盟のリーダーとして揺るがない存在であり続けるだろう。負担の分担は依然として偏っている。アメリカの軍事力は引き続きヨーロッパの軍事力を凌駕し、アメリカの核の傘(nuclear umbrella)は依然として同盟の他の加盟諸国を覆っている。「地域外(out-of-area)」の任務は、ヨーロッパそのものに再び焦点を当てることに重点を置くことになるだろう。この決定は、アフガニスタン、リビア、バルカン半島諸国におけるNATOの過去の冒険がもたらした失望的な結果に照らして、理にかなったものだと言える。

公平に見て、このモデルには明らかな長所がある。それは、慣れ親しんだものであり、ヨーロッパにとっての「アメリカのおしゃぶり(American pacifier)」をそのままにしておくことだ。アメリカ(Uncle Sam、アンクルサム)が笛を吹いて喧嘩を仲裁してくれる限り、ヨーロッパ諸国は国家間の紛争を心配する必要はない。再軍備の結果として手厚い福祉国家を切り崩したくないヨーロッパ諸国は、アンクルサムに不釣り合いな負担をさせることを喜ぶだろうし、ロシアに地理的に近い国はアメリカの強力な安全保障を特に望むだろう。不釣り合いな能力を持つ明確な同盟のリーダーがいれば、そうでなければ扱いにくい連合軍内で、より迅速で一貫した意思決定が可能になる。この方式に手を加えようとする者が現れると熱心な大西洋主義者が警鐘を鳴らすのにはそれなりの理由がある。

しかし、通常業務(business-as-usual)モデルには深刻なマイナス面もある。最も明白なのは機会費用(opportunity cost)だ。アメリカをヨーロッパにとってのファースト・レスポンダーとして維持すると、アメリカは、力の均衡(balance of power)に対する脅威が著しく、外交環境が特に複雑なアジアに十分な時間、注意、資源を割くことが難しくなる。アメリカのヨーロッパへの強い関与(commitment)は、ヨーロッパでの潜在的な紛争の原因を減らすかもしれない。しかし、それは1990年代のバルカン戦争を防げなかったし、アメリカが主導してウクライナを西側の安全保障軌道に乗せる努力は現在の戦争を誘発する一因となった。もちろん、これは西側諸国の誰もが意図したことではないが、結果こそが重要なのだ。最近のウクライナの戦場での成功は非常に喜ばしいことであり、今後もそうであって欲しいが、戦争が起きない方がはるかに良かった。

更に、通常業務モデルは、ヨーロッパの保護継続を奨励し、ヨーロッパの外交政策の遂行における全般的な自己満足と現実主義の欠如に寄与している。問題が起きればすぐに世界最強の超大国が味方になってくれると確信していれば、外国のエネルギー供給に過度に依存したり、身近に忍び寄る権威主義(authoritarianism)に過度に寛容であったりするリスクを無視しやすくなる。そして、誰も認めたがらないが、このモデルは、アメリカ自身の安全や繁栄にとって必ずしも重要でない周辺の紛争にアメリカを引きずり込む可能性を持っている。少なくとも、通常業務も出るは、もはや無批判に支持すべきアプローチではない。

●モデル2:国際的な民主政治体制の拡大(Model 2: Democracy International

大西洋横断安全保障協力の第2のモデルは、NATO加盟諸国のほとんどの民主的な特徴の共有と、民主政治体制国家と独裁国家(特にロシアと中国)の間の格差の拡大を強調するものである。このヴィジョンは、バイデン政権が民主政治体制の価値観を共有することを強調し、世界の舞台で民主政治体制が依然として独裁政治体制を凌駕しうることを証明したいと公言していることの背景にあるものだ。元NATO事務総長であるアンデルス・フォグ・ラスムセンの民主国家同盟財団(Alliance of Democracies Foundation)も同様の構想を反映している。

ヨーロッパの安全保障に主眼を置いた通常業務モデルとは異なり、大西洋横断パートナーシップに関するこの概念は、より幅広いグローバルな課題を包含している。現代の世界政治を民主政治体制と独裁政治体制のイデオロギー論争として捉え、この闘いは地球規模で行われなければならないと考えている。アメリカがアジアに軸足を移すのであれば、ヨーロッパのパートナーも同様に、民主政治体制を擁護し促進するというより大きな目的のために軸足を移す必要がある。ドイツの新しいインド太平洋戦略では、この地域の民主国家群との関係を強化することが謳われており、ドイツの国防相は最近、2024年にもアジアにおける海軍のプレゼンスを拡大することを発表している。

このヴィジョンは、民主政治体制が良くて独裁政治体制が悪いという単純な利点はあるが、欠点はその良さよりもはるかに大きい。まず、このような枠組みは、アメリカやヨーロッパが支持する独裁国家(サウジアラビアや湾岸諸国、あるいはヴェトナムなどアジアの潜在的パートナー)との関係を複雑にし、大西洋横断パートナーシップを偽善の塊のようなものとして暴露することは避けられないだろう。第二に、世界を友好的な民主国家と敵対的な独裁国家に分けることは、独裁国家間の結びつきを強め、民主国家間が他国間に対して分割統治を行うことを抑制することにつながる。この観点から、1971年に当時のリチャード・ニクソン大統領とヘンリー・キッシンジャー国家安全保障問題担当大統領補佐官が毛沢東率いる中国と和解し、クレムリンに新たな頭痛の種を与えた時に、この枠組みを採用しなかったことを喜ぶべきだろう。

最後に、民主政治体制の価値を前面に押し出すことは、大西洋横断パートナーシップを、可能な限り民主政体を諸外国に植え付けようとする十字軍のような組織にしてしまう危険性をはらんでいる。このような目標は抽象的には望ましいことかもしれないが、過去30年間を見れば、同盟のどのメンバーもこれを効果的に行う方法を知らないことが分かるはずである。民主政体の輸出は非常に困難であり、特に部外者が力づくでそれを押し付けようとする場合にはたいていの場合失敗する。また、現在のNATO加盟諸国の一部で民主政治が悲惨な状態にあることを考えると、これを同盟の主要な存在意義として採用することは非常に奇妙に見える。

●モデル3:「世界に出ていく」対「中国」(Model 3: Going Global vs. China

モデル3はモデル2に近いものであるが、民主政治体制やその他の自由主義的価値を中心に大西洋横断関係を組織するのではなく、中国を封じ込めるためのアメリカの幅広い努力にヨーロッパを参加させようとするものだ。事実上、アメリカのヨーロッパ諸国のパートナーは、アジアに既に存在する二国間ハブ&スポーク協定と一体化し、アメリカが今後何年にもわたって直面する可能性がある唯一の深刻な競合相手に対して、ヨーロッパの潜在力を発揮しようとするものである。

一見したところ、これは魅力的なヴィジョンであり、アメリカ、イギリス、オーストラリア間のAUKUS協定は、その初期の現れであると指摘することができる。ランド研究所のマイケル・マザールが最近指摘しているように、ヨーロッパはもはや中国を単に有利な市場や貴重な投資相手とは見ておらず、中国に対して「ソフトバランス(soft balance)」し始めている証拠が増えつつある。純粋にアメリカの視点に立てば、ヨーロッパの経済的・軍事的潜在力をその主要な挑戦者である中国に向けることは、非常に望ましいことであろう。

しかし、このモデルには2つの明らかな問題がある。第一に、国家はパワーだけでなく脅威に対してもバランスを取っており、その評価には地理的な要因が重要な役割を果たす。中国はより強力で野心的になっているかもしれないが、中国軍はアジアを横断してヨーロッパを攻撃することはないし、中国海軍は世界中を航海してヨーロッパの港を封鎖することはないだろう。ロシアは中国よりはるかに弱いがはるかに近い。最近のロシアの行動は、その軍事的限界を知らず知らずのうちに明らかにしているとしても、憂慮すべきものである。従って、ヨーロッパが期待するのは最もソフトなバランシングであって、中国の能力に対抗するための真剣な努力ではない。

NATOのヨーロッパ加盟諸国は、インド太平洋地域の力の均衡に大きな影響を与える軍事能力を有しておらず、また、すぐにそれを獲得することも考えにくい。しかし、その努力のほとんどは、ロシアに対する防御と抑止を目的とした地上・航空・監視能力の獲得に向けられるだろう。それはヨーロッパの観点からは合理的であるが、これらの能力のほとんどは、中国との紛争には無関係であろう。インド太平洋地域にドイツのフリゲート艦を数隻派遣することは、同地域の安全保障環境の変化にドイツが関心を示していることを示す良い方法かもしれないが、地域の力の均衡を変更したり、中国の計算を大きく変更させたりすることはできないだろう。

もちろん、ヨーロッパは、外国軍隊の訓練支援、武器の販売、地域安全保障フォーラムへの参加など、他の方法で中国との均衡を図ることができ、アメリカはそうした努力を歓迎すべきだ。しかし、インド太平洋地域におけるハードバランシング(hard balancing)をヨーロッパに期待するべきではない。このモデルを実行に移そうとすることは、失望と大西洋における軋轢を増大させることになる。

●モデル4:新しい分業(Model 4: A New Division of Labor

こうなることは分かっていたはずだ。私が考える正しいモデルとは。私が以前から主張しているように(最近『フォーリン・ポリシー』誌上で書いたように)、大西洋横断パートナーシップの最適な将来モデルは、ヨーロッパが自国の安全保障に主な責任を持ち、アメリカがインド太平洋地域に大きな関心を払うという新しい役割分担である。アメリカはNATOの正式加盟国としてその地位にとどまるが、ヨーロッパにとっての緊急応対者ではなく、最終手段(last resort)としての同盟国になるであろう。今後、アメリカは、地域における力の均衡が劇的に損なわれた場合にのみ、ヨーロッパに再び上陸することを計画するが、そうでない場合は、上陸しない。

このモデルは一夜にして実現できるものではなく、アメリカがヨーロッパのパートナーに必要な能力の設計と取得を支援し、協力的な精神で交渉する必要がある。しかし、これらの国々の多くは、アメリカを説得するために全力を尽くすだろうから、アメリカは、これが今後支持する唯一のモデルであることを明確に示す必要がある。NATOのヨーロッパにおける加盟諸国が、自分たちはほとんど自分たちの力でやっていけると本気で思わない限り、そして確信するまでは、必要な措置を取るという彼らの決意は弱いままで、約束を反故にすることが予想される。

アメリカ大統領時代のドナルド・トランプは、虚勢を張って大袈裟で、同盟諸国を無意味に困惑させたが、トランプの次の大統領であるジョー・バイデンは、上記のプロセスを始めるのに理想的な立場にある。バイデンは熱心な大西洋主義者という評価を得ているので、新しい役割分担を推し進めることは、恨みや怒りの表れとは見なされないだろう。バイデンと彼のチームは、ヨーロッパのパートナーに、この措置が全員の長期的な利益につながることを伝えることができるユニークな立場にある。私は、バイデンたちがこのステップを踏むことを期待している訳ではない。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。ツイッターアカウント:@stephenwalt

(貼り付け終わり)

(終わり)

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 私はウクライナ戦争開戦直後から停戦を主張してきた。ウクライナが押し返した時期が複数回あり、その度に停戦交渉すべきだと訴えてきた。それは、ウクライナ、ロシア双方の人々の生命が守られて欲しいという考えがあってのことだ。更に言えば、ウクライナ戦争が拡大し、第三次世界大戦にまで発展し、核兵器を使用した戦争になって欲しくないが、その危険性が高いということも考えたからだ。以下の記事も併せてお読みいただきたい。

※「古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ」

「ウクライナ戦争の核兵器使用によるエスカレーションの危険は大きくないが存在する」(2022年11月4日)」↓

http://suinikki.blog.jp/archives/86756663.html

 先日、ポーランド国内にミサイルの発射体もしくは残骸が落下したことで、2名が死亡するという事件が起き、世界に緊張が走った。ロシアからの攻撃の場合、NATOがウクライナ戦争に軍事介入するとなれば、戦闘地域が東欧、中欧に拡大する、もしくは核戦争が引き起こされるという懸念が高まった。ウクライナやポーランドの政府当局は、ロシアのミサイルだという声明を早々に発表し、NATOを戦争に引きずり込もうとした。しかし、アメリカのジョー・バイデン大統領がロシアのミサイルではないという見解を示し、事態を鎮静化させた。アメリカはNATOの主体とならねばならず、NATOが戦争に関わることになれば、アメリカ軍とロシア軍が交戦するという危険があった。そうなれば、ウクライナ戦争は拡大し続けることになる。

 以下に、スティーヴン・M・ウォルト・ハーヴァード大学教授の論稿をご紹介する。ウォルト共助の抑制的な考えをぜひ多くの皆さんにお読みいただきたいと思う。単純に「良いもの、悪いもの」という子供のヒーロー戦隊もののような構図で世界を見ることは危険である。そのような単純な思考では、大きく騙されることになる。実際に、リベラルと言われるような人々がウクライナ戦争で以下に好戦的な発言を繰り返したか、常日頃は戦争反対を唱えながら、いざとなればあれだけ好戦的になるというのは驚きだった。このような好戦性を利用されれば、戦争協力までさせられるということになりかねない。

 私たちには常に白黒はっきりつけたいという思いがある。しかし、世界や社会はそのように単純にはできていない。そのことを私たちは理解して、世界を見ていかねばならない。

(貼り付けはじめ)

ポーランド国内での死亡事故は全ての人への警告である(Deaths in Poland Are a Warning for Everyone

-ウクライナからのミサイル誤射は「戦争が常に偶発的にエスカレートする可能性がある」ことを思い起こさせるものだ。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2022年11月17日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/11/17/poland-missiles-ukraine-deaths-war-russia-nato-escalation/

もし読者であるあなたが、「ウクライナ戦争がエスカレートするリスクなど些細な、小さなものだ」と考えているなら、火曜日にウクライナの防空ミサイルの誤射によりポーランド人2人が死亡した悲劇を受けて、少しは立ち止まって考えるべきだろう。ウクライナでは大きな戦争が進行中であり、敵対国同士が慎重を期していたとしても、大きな戦争は不確実性(uncertainty)に満ちた厄介なもので、予期せぬ結果に満ち溢れている。武器は故障するし、現地の指揮官たちは必ずしも命令に従わないし、戦争の霧(fog of war 訳者註:作戦・先頭における不確定要素)は敵の行動を見極めることを難しくし、その意図を読み誤らせることも容易にしてしまう。

今回の事件ではすぐに冷静な判断が下されたが、それでも偶発的、不用意なエスカレーション(escalation)の可能性を示している。ミサイルがポーランド国内に落ちたという報道がなされた時、ウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領はロシアによる「エスカレーション」だと言い、ポーランド政府はNATO条約第4条と第5条を発動し、同盟の安全に対する脅威であるかのような発言をした。この「攻撃(attack)」の原因が理解されると、西側諸国はすぐにウクライナの責任を免除し、ウクライナはロシアの重要インフラへのミサイル攻撃から身を守るために誤ったミサイルを発射したと正しく指摘し、ロシアが戦争を始め、ウクライナの領域を不法に占領していることを皆に思い起こさせることに成功した。

アメリカとポーランドの政府当局者たちがこの不幸な出来事の原因を素早く見極め、エスカレートする圧力を抑えるために行動したことは評価に値する。しかし、それは自己満足の根拠にはなりえない。もし、ロシアのミサイルがコースを外れ、ポーランド国内を直撃し、2人が死亡する事故が起きていたらと想像してみるとどうなっていたか。モスクワは関与を否定するか、事故だったと主張するだろう。しかし、仮にロシア側の主張が真実だったとしても、誰がそれを信じるだろうか? NATOの決意を試すためにモスクワが攻撃を命じたという憶測が出て、何らかの対応を迫られることになっただろう。ロシアのウラジミール・プーティン大統領は核攻撃の可能性を探っていた、あるいはウクライナ国外の重要な物流拠点を直接攻撃することでロシアが逃げ切れるかどうか試していたとする分析も出ただろう。NATOは「抑止力回復(restore deterrence)」のためにロシアに報復しなければならないと主張する声も聞かれただろう。

今回の事件、特にゼレンスキーの反射的な対応は、ウクライナがこの種の事件を利用して、ロシアへの非難を強め、外部からの同情と支持を集めようとすることを物語っている。実際、『ニューヨーク・タイムズ』紙は、水曜日の夕方の時点で、ゼレンスキーが「最初の調査結果には納得しておらず、ロシアのミサイルが関与しているとまだ信じている」と述べたことを報じている。ゼレンスキーの行動の背後にある論理(logic)を理解することはできる。しかし、その論理構成はウクライナにとって正しいことであっても、私たちの利益にはならない。そして、このやり方は簡単に裏目に出る。『フィナンシャル・タイムズ』紙は、西側の外交官の匿名の発言として、「これは馬鹿馬鹿しいことになっている」と報じている。この外交官は「ウクライナ人は、私たちの信頼を破壊している。誰もウクライナを非難しないのだが、彼らは公然と嘘をついている。これはミサイルよりも破壊的だ」と述べた。

ウクライナがその運命を決定する上で十分な発言権を持つことが当然で、それには疑問の余地はない。しかし、ウクライナを支援する外部勢力も同様に発言権を得ることになる。「ウクライナに共にいる(standing with Ukraine)」とは、自国の利益や関心を保留にすることではなく、特にキエフの利益や目的と必ずしも自分たちと重ならない場合には自国の利益を追求すべきなのである。責任ある世界の指導者たちが自国の利益を犠牲にして他国の利益を図ることはできないし、そうすべきでもない。良き同盟者とは、相手が不用意に行動していると思えば、それを諭すものである。

また、「偶発的(accidental)」あるいは「不注意な(inadvertent)」エスカレーションが、この戦争を拡大し、より致命的なものにする唯一の方法でも、最もあり得る方法でもないことを忘れてはならない。戦争中の国家がエスカレートするのは、通常、相手側に重要な閾値が破られたからではなく、相手側が行ったことを読み違えたからでもなく、自分たちが負けているからである。第一次世界大戦でドイツが無制限潜水艦戦を採用し、第二次世界大戦でV-1、V-2ロケットを使ったのも、太平洋戦争で日本が特攻機による神風攻撃を始めたのも、1970年にアメリカがカンボジアに侵攻したのもそのためである。

この力学は、今日のウクライナですでに働いている。数日から数週間の「特別軍事作戦(special military operation)」として始まった戦争は、今や終わりの見えない大規模な消耗戦(war of attrition)と化している。度重なる失敗の末、ロシアは数十万人の兵力を増強し(プーティンは開戦時には明らかに予期していなかった)、ウクライナのインフラに対する意図的な攻撃を展開している。同時に、ウクライナの同盟諸国は、外交、経済、軍事面での支援を強化している。この過程に「偶然(accidental)」はない。エスカレートが起きているのは、どちらの側も和解交渉の用意がなく、勝ちたい、絶対に負けたくないという思いがあるからだ。

ウクライナの立場を理解するのは簡単である。ウクライナ人は生き残るために戦っている。ウクライナ人は生き残るために戦っている。私たちの同情と物質的支援は彼らとともにあり、それは当然のことだ。しかし、アメリカ人は世界の問題を独裁的な指導者の悪意のせいにすることに慣れているので、ウラジミール・プーティンとその仲間が自分たちの死活的な利益も危ういと考えていることを認識するのがより困難になっている。この現実を認識することは、プーティンの命令を擁護することでも、ロシア軍がウクライナに対して行ったことを正当化することでもない。ただ、モスクワは自分たちの娯楽のために戦争をした訳ではなく、簡単に敗北を受け入れることはないだろうということを思い起こさせることである。

不幸なことに、この状況は、戦争を終わらせることがどうして望ましいのか、そして戦争終結がどうして多くの障害の直面するのか、その両方を浮き彫りにしている。戦争が続けば、より危険な事件が起こり、意図的にエスカレートする危険性が不快なほど高いままということになる。更に、将来の事件が適切に解釈されるかどうか、賭け金を上げる誘惑に常に抵抗できるかどうか、確信が持てない。外交にもっと注意を払い、和解に向けたより真剣な努力を求める人々にとっては、弾丸やミサイルが飛んでくる限り、残り続ける危険性を強調するのが正しいやり方ということになる。

しかし、交渉は万能(panacea)ではない。実際、外交がうまくいくと楽観視することはできない。現在、戦場ではウクライナにかなりの勢いがあるが、モスクワが妥協する気配はなく、ましてやウクライナの要求を全て受け入れることはない。双方が戦い続けることで状況が改善されると考えているならば、取引は不可能である。

また、仮にそれぞれが真剣な話し合いに関心を持ったとしても、成功への障害は乗り越えるのが困難なものとなるだろう。モスクワとキエフの間には、深い憎しみがあり信頼は全く存在しない。多くの利害関係者が、結果について何らかの発言権を求めている。軍隊の撤退、国境線の画定、捕虜や誘拐された市民の送還、ウクライナの復興支援、将来の安全保障、戦争犯罪の説明責任、制裁解除などなど、解決しなければならない現実問題は山積している。その全てを解決するのは極めて困難であろう。タレーラン、メッテルニヒ、ビスマルク、周恩来、ラクダール・ブラヒミ、リチャード・ホルブルック、ジミー・カーターのような仲介者がいても、今すぐに大きな前進を遂げるのは難しいだろう。

私は、今回の遺憾な事件に関して、1つの明るい兆しを見出すことができる。戦争は長引けば長引くほどエスカレートする傾向があり、そのエスカレートが破滅的な結果をもたらすかもしれないことを皆に思い起こさせることができるなら、誤射したミサイルは双方の指導者に、できるだけ早く紛争を止めようとする動機付けになるかもしれない。そうしなければ、この先、必ずまた危険な事件が起こり、次に何が起こるかは誰にも分からない。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。ツイッターアカウント:@stephenwalt

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 古村治彦です。

 2022年11月15日、ポーランドのウクライナ国境近くにミサイルの発射体もしくは破片が落下して2人が死亡するという出来事が起きた。この事故について、ロシアのミサイルがポーランドに発射されたものだという非難がウクライナや東欧・中欧の国々から出て、NATOの集団的安全保障が発動されて、NATO軍がウクライナ戦争に参戦することになるのではないかという懸念と緊張が高まった。しかし、当事国ポーランドとアメリカが静観する構えを見せ、ウクライナのミサイルの可能性を指摘して、事態は沈静化した。ロシアはウクライナのポーランドとの国境地帯にミサイルは発射していないと主張している。

 2022年2月24日にウクライナ戦争が起きて、早いもので今年も暮れようとしている。ウクライナ戦争は2022年の世界全体に大きな影響を与えた。ヨーロッパから遠く離れた日本で暮らす私たちの生活にも暗い影を落とした。エネルギー価格と食料価格の高騰によって、生活費が高騰している。買い物に行って以前と同じものを買っても出ていくお金は増えているという状況だ。

 ウクライナ戦争が世界に暗い影を落とすという状況はこれからもしばらく続きそうだ。それは停戦に向けた動きが見えないからだ。ウクライナは西側諸国に対して「どんどん武器と金と物資を送れ。送らないのは正義に反する行為だ。そして、自分たちはウクライナ東部とクリミア半島を奪還する」と主張している。このような「正義」に基づいた主張には表立って反対しにくい。しかし、このブログでも以前に紹介したように、エネルギー価格の高騰、エネルギー不足で一段と厳しい生活を強いられるヨーロッパ各国の国民は「何とか和平を達成してくれないか」という願いを持ち、「平和」を希求している。より露骨に言えば、「ウクライナはもういい加減戦争を止めてロシアと停戦しろ、こっちだって生活が苦しいんだ。しかも人の武器と金で戦争しているんだぞ」ということになる。

 今回のポーランドでの出来事を受けて世界は緊張した。NATO軍、その主力はアメリカ軍ということになるが、NATO軍が参戦することになれば第三次世界大戦、更には核戦争にまで発展するということが人々を恐怖させた。戦争が拡大すれば現在よりも状況が悪化し、世界は不安定になる。そのことを改めて深刻に実感することになった。

 ウクライナ戦争が第三次世界大戦につながる危険性をいち早く指摘したのは、私の師である副島隆彦だ。『プーチンを罠に嵌め、策略に陥れた英米ディープステイトはウクライナ戦争を第3次世界大戦にする』(2022年6月)を読むと、半年近く経っても状況は全く好転していないということが改めて実感できる。是非お読みいただきたい。

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プーチンを罠に嵌め、策略に陥れた英米ディープステイトはウクライナ戦争を第3次世界大戦にする

 ウクライナが満足する形で停戦が成立するためには、ウクライナ側の主張ヲ基にすれば、ウクライナが東部とクリミア半島を完全に奪還しなければならない。このことがまず可能なのかどうか、そして、可能だというならばそれにかかる時間とコスト(人命、お金、物資など)を冷静に判断しなければならない。そして、ウクライナがこれからどのような国家として存在していくのかということも改めて検討してある程度の道筋をつけなければならない。現在のところ、ウクライナが戦争に勝利して、自分たちの目的を達成することは「ほぼ不可能」である。そのことは、アメリカ軍の制服組トップであるマーク・ミリー米統合参謀本部議長が認めている。そして、ミリーは「政治的解決」を示唆している。これは「停戦交渉をするべき」ということを意味する。

 以下の論稿は正義派の考えに基づいて構成されているが、私が問いたいのは「どのタイミングで停戦交渉するのか」「ウクライナに良いタイミングが来るまで待つというが、そのタイミングはいつ来るのか、そもそもそのようなタイミングが来るのか」ということだ。私たちは太平洋戦争で、ミッドウェー海戦敗北とガダルカナル島失陥以降、アメリカの反転攻勢を受けて日本が追い詰められていく過程で、「何とかアメリカ軍に一撃を加えてそれでアメリカ側をひるませて講和に持ち込む」という「一撃講和論」という楽観主義的な考えによって、戦争が長引き、結果として無残な結果となったことを知っている。ウクライナ戦争でウクライナ側が攻勢に出ているが、ロシアが東部とクリミア半島の防御態勢を整えて、膠着状態に陥った場合、ウクライナの求める条件はまず達成できない。そうなれば戦争がだらだら長引く。ウクライナに対する支援をずっと続けられるのかどうか、という問題も出てくる。西側諸国からの支援がなければウクライナは戦争を継続できない。結局、ウクライナは自分たちの目的を達成する前に停戦ということになる。それは現状とほぼ変わらない段階でのことになるだろう。それならばだらだらと続いた期間とその間のコストは無駄ということになる。

 私は今年の3月の段階で早期停戦すべきだと述べた。その考えは今も変わらない。ウクライナがロシアに一撃を加えた今がタイミングだと思う。このまま戦争がだらだらと続くことは世界にとって不幸だ。

(貼り付けはじめ)

米軍高官「ウクライナ、軍事的勝利は当面ない」 政治解決に期待

11/17() 8:35配信 毎日新聞

https://news.yahoo.co.jp/articles/ea4a4cbf2f1838b30306fd58c9f0bf254c7b891c

 米軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長は16日の記者会見で、ロシアのウクライナ侵攻に関して「ロシアがウクライナ全土を征服するという戦略目標を実現できる可能性はゼロに近い。ただ、ウクライナが軍事的に勝利することも当面ないだろう」と指摘した。その上で「ロシア軍は大きなダメージを受けており、政治的判断で撤退する可能性はある」と述べ、攻勢に出ているウクライナにとっては交渉の好機だとの考えを示した。

 ミリー氏は「防衛に関して、ウクライナは大成功を収めている。ただ、攻撃に関しては、9月以降にハリコフ州とヘルソン州(の領域奪還)で成功したが、全体から見れば小さな地域だ。ウクライナ全土の約20%を占領するロシア軍を軍事的に追い出すことは非常に難しい任務だ」と指摘した。

 一方で、「ロシア軍は、多数の兵士が死傷し、戦車や歩兵戦闘車、(高性能の)第45世代戦闘機、ヘリコプターを大量に失い、非常に傷を負っている。交渉は、自分が強く、相手が弱い時に望むものだ。(ウクライナの望む形での)政治的解決は可能だ」と強調した。秋の降雨でぬかるみが増える季節を迎えたことで「戦術的な戦闘が鈍化すれば、政治解決に向けた対話の開始もあり得る」との見解を示した。【ワシントン秋山信一】

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ロシアとの交渉は魅力的であり、そして間違っている(Talking With Russia Is Tempting—and Wrong

-ウクライナでの戦争を終結させるための交渉を始めるのは時期尚早である。

ジェイムズ・トラウブ筆

2022年11月16日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/11/16/talking-with-russia-is-tempting-and-wrong/

1814年の夏、2年前にイギリスがアメリカに侵攻し始まった戦争を終結させるために、米英両国の交渉官たちがヘント(ベルギー)に集まった。イギリスは勝利の確信を持ち、領土に関するアメリカ側の譲歩を求めた。ジョン・クインシー・アダムスとヘンリー・クレイが率いるアメリカ代表団はイギリスからの強硬な条件をはねつけた。イギリスは、ニューイングランドの一部を含む当時の制圧地域を境界線として描き直すことを提案した。10月初旬にヨーロッパに届いたワシントン焼失のニューズは、アメリカ側にも譲歩を促すものだった。

しかし、アメリカ側は良い知らせを待って交渉を長引かせた。良い知らせは、シャンプラン湖周辺とボルチモアでのアメリカの勝利という形ですぐに届いた。クリスマス直前、イギリスは全ての要求を撤回し、最も争点となる問題を将来の議論に任せて先送りすることに同意した。ヘント条約は、アメリカの主権が脅かされていた時代に終止符を打ったのである。

この逸話の教訓は、戦時中の早まった外交は誤りであり、戦場のダイナミズムが交渉の条件を形成することを許さなければならないということである。マーク・ミリー統合参謀本部議長は、ウクライナがロシア軍と「膠着状態(standstill)」まで戦った今、外交の「好機をつかむ(seize the moment)」ようバイデン政権の同僚に呼びかけている。しかし、それは間違った比喩だ。ウクライナ人はまずロシアの猛攻に耐え、その後でそれを押し返した。1914年9月の協定がニューイングランドの大部分を切り落としたように、1カ月前の外交交渉では、ウクライナが取り戻したケルソンの支配をロシアに譲り渡すことになっていたかもしれない。外交のチャンスはいずれやってくるが、それは今ではない。

以前、ウクライナ問題で進歩主義的な民主党所属の政治家たちがジョー・バイデン米大統領に送った書簡について、私はコラムで左派の反戦外交の主張(left’s antiwar case for diplomacy)には抵抗があることを書いた。しかし、より強い主張は、右派、少なくとも左派ではない勢力から出ている。右派は、ウクライナの領土保全への関心は限りなく高いが、欧米諸国には他にも多くの懸念があり、ウクライナ支援とのバランスを取る必要があると正しく指摘している。ユーラシア・グループのクリフ・カプチャン会長は、『ナショナル・インタレスト』誌の記事の中で、戦争がもたらす重大かつ長期的なコストとして、「脱グローバリゼーション(deglobalization)」の加速、食料・エネルギー価格の上昇とそれらが引き起こす社会・政治不安、核の不安定性、そして何よりもロシアとNATOとの戦争、おそらくロシアによる核兵器の使用という見込みを挙げている。

最近、カプチャンの話を聞いたところ、「ロシアとの話し合いを受け入れるべきだと考えるのは少数派だ」と述べていた。彼が最も懸念するのは、軍事的なコストだ。「プーティンのレッドライン(最終譲歩ライン)はまだ見つかっていない」と彼は言った。ロシアのウラジミール・プーティン大統領は、これまで考えられていたようなリスク回避を受け入れる人物ではない。ウクライナ人がそれを払うに値すると考えるかどうかにかかわらず、彼は自分の体制に対する脅威と見なすものには、核兵器であれ何であれ、西側諸国にとって災難となるようなエスカレーションで対応するかもしれない。カプチャンの兄弟でジョージタウン大学のチャールズ・カプチャン教授(国際問題)も、「ロシア軍がウクライナ東部とクリミアから完全に追放された場合、クレムリンの核兵器への依存は現実的な選択肢となる」と主張している。

これはつまり、ウクライナ人が戦場で大成功を収め、プーティンが世界を引きずり込む前に、西側諸国は外交的な最終案を練り始める必要があるという提案を行うもので、これは外交とタイミングに関して本末転倒な主張だ。このような理屈は、もちろん、核の恐喝が使われる要点ということになる。私がクリフ・カプチャンにこのように言うと、彼は戦争の追加的なコスト、つまり何百人ものウクライナの子どもたちの恐ろしい死について指摘した。しかし、これはウクライナ人自身が喜んで負担しているように見えるコストである。

だからといって、プーティンのハッタリに簡単に応じるのは、狂気の沙汰としか言いようがない。バイデン政権はレッドラインの問題を痛感している。ウクライナに4億ドルの軍需物資を追加供与することを承認しながら、ロシア国内の標的を攻撃できる長距離無人機の供与は拒否した。外交上の主張は、事実上、ワシントンはアメリカだけでなくウクライナも制限しなければならないということになる。そうでなければ、国際関係学者のエマ・アシュフォードが最近書いたように、「戦争に対する慎重に調整された対応が、絶対的な勝利という危険なファンタジーに取って代わられるかもしれない」ということになる。アシュフォードは慎重に中立的な立場を取り、交渉による解決は「今日では不可能に思える」が、アメリカの外交官は「そのようなアプローチが伴う困難な問題を公にして、そしてパートナーに対して提起し始めるべきだ」と示唆している。

ウクライナにロシアとの対話を迫ってはいけないが、必ず来るだろう話し合いに向けて準備を始めるべきだということだ。これは論理的に聞こえる。しかし、本当にそうすべきなのか? 外交問題評議会のロシア専門家であるスティーヴン・セスタノビッチにこの問題を提起してみた。セスタノビッチは、可能性のあるシナリオを公開することさえ、最も貴重な要素であるウクライナの意志を奪うことになりかねないと述べた。彼は次のように語った。「そう、ある時点では、ウクライナ人と座って将来について話すことができる。しかし、彼らはどれだけの損害を受容するのかどうかについては敬意を払わなければならない」。セスタノビッチは、1940年5月、ウィンストン・チャーチルがイタリアの外交打診を拒否したのは、イギリスの士気が下がるのを恐れてのことであったという歴史的な類推(analogy)を使用した。

今、外交官の机の中に最終案の計画が残っているのは、タイミングや戦術だけでなく、外交的リアリストが甘く見がちな他の種類のコストにも関係がある。英国は、1812年の戦争後、アメリカがあまりにも強く、立地も良いため、奪還は不可能であることを悟った。しかし、プーティンは2014年の状態より少し良いものを認める協定によって勇み立つだろう。実際、プーティンは、危害を加える能力を保持している限り、近隣諸国と西側諸国にとって脅威であり続けるだろう。セスタノビッチは、ウクライナが東部で前進を続け、失ったものの多くを取り戻せば、「ロシアは完全にパニックモードになり」、プーティン自身の支配が脅かされることになると示唆している。これは事実上、ウクライナ軍の成功の最良のシナリオである。もちろん、最悪のシナリオは、その脅威に対してプーティンが暴発することである)。

根本的な問題は次のようなものだ。問題は、「それがどの程度問題なのか?」ということだ。これまでのところ、アメリカとヨーロッパは、ウクライナにおけるロシアの侵略を阻止することは、それなりの犠牲を払うに値するという結論に達している。欧米諸国が公言する価値観が本物であることが判明したことは、プーティンにとって当然ショックであり、欧米諸国の多くの人々にとっても、非常に喜ばしいショックであったに違いない。しかし、その意志は無限であるとは言い難い。バイデンをはじめとする指導者たちは、ロシアの賠償金とウクライナの領土の隅々までの返還を含むウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領の最大限の条件を達成するために、政治的、経済的負担を負い続けることはないだろう。

外交官たちがその計画を机上から引き上げる時が来るだろう。しかし、その前に、我々の協力でウクライナがプーティンの進撃をどこまで押し返せるか、見届けなければならない。それが私たちの利益であり、ウクライナの利益でもある。

※ジェイムズ・トラウブ:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト、ニューヨーク大学国際協力センター非常勤研究員。著書に『リベラリズムとは何だったか?:過去、現在、そして新しいアイディアの期待(What Was Liberalism? The Past, Present and Promise of A Noble Idea)』がある。ツイッターアカウント:

(貼り付け終わり)

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 ウクライナ戦争についてその原因と責任について議論されることがある。その際に注意にしたいのは「時間の長さ」と「考えるもしくは分析するレヴェル」だ。キエフ・ルーシ、モスクワ・ルーシと呼ばれていた時代から考え始めるのか、20世紀から考え始めるのか、それもソヴィエト連邦成立(1917年)から考えるか、それとも、ソヴィエト連邦崩壊(1991年)から考えるのか、2022年2月23日から24日にかけての48時間で考えるのか、だいぶ異なった主張が出てくるだろう。どの時間軸を取るかということだ。

 そして、「分析レヴェル」だ。3つの分析レヴェルというのは、国際関係論の泰斗ケネス・ウォルツが『人間・国家・戦争』という著書の中で示した考え方だ。また、外交政策分析においても個人レヴェル、国内レヴェル、国際システムレヴェルで分析することが出来る。こうした手法を用いると、色々な説明ができる。

個人レヴェルで言えば、ロシアのウラジミール・プーティン大統領やウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領、更には欧米諸国の指導者たちに焦点を当てて、彼の経歴や権力掌握後からこれまでの行動を心理学的、社会学的な手法を用いて分析するということができる。国内レヴェルで言えば、国内の政治体制やどのようなアクター(政治家や政党、団体など)がどのような活動を行っているか、力を持っているかということを分析して説明することができる。国際システムレヴェルは国際関係論のリアリズムとリベラリズムという理論を用いて分析するということになる。

社会における現象の多くは単一の原因で起きることはない。複数、しかもかなり多くの原因で起きる。それら様々な原因の与える影響の度合い、強さ、大きさは異なる。例えば、ある植物(小学校の時に朝顔の観察日記を奴休みの宿題でやった人は多いだろう)の種を地面に埋めてそこから芽が出る、という現象について考えてみると、その原因は多くある。気温、湿度、日光、肥料(その中にもいろいろな成分ある)、水など素人が考えても様々出てくる。

 人間社会の減少もそれと同じで数多くの原因がある。社会科学はそのうちのどれに焦点を当てるか、どこを強調してモデルを作るかということになる。個別の研究から共通点や法則性を見つけ出して抽象度を高めていき、仮説や理論を生み出して、この仮説や理論がどれだけ当てはまるか、説明する力を持っているかを検証し、試していくということになる。

 話がだいぶ逸れてしまったが、「ウクライナ戦争はロシアが悪い」という言葉は非常に粗雑な言葉だということを私は言いたい。戦争開始を決定したのはウラジミール・プーティンで、ウクライナ国内に侵攻したのはロシア軍だ。それは間違いない。この現象がどうして起きたのか、ということを上記のように順序だてて考えていかねばならない。単純にプーティンが独裁者で奇矯な人物だからだ、ロシアという国は昔から好戦的なのだということでは済まない。「ロシア人たちが非合理的に周囲からの攻撃を心配し、自分たちの安全に関して病的になっている」と馬鹿にするのも間違っている。ロシアの不安を煽り続けたことはなかったか、という視点も必要だ。矛盾した言い方になるが、社会科学は法則を見つける作業ではあるのだが、対象の人間や社会があまりにも複雑であり、人間の理性はあまりにも無力であるのでそのような作業はうまくいかない。従って、今できることは、分析の段階を整理して、落ち着いて考え続けることだ。

(貼り付けはじめ)

ロシア・ウクライナ戦争の原因はロシアか、NATOか?(Who caused the Russo-Ukrainian war, NATO or Russia?

アレクサンダー・J・モトリル筆

2022年7月5日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/opinion/international/3543012-who-caused-the-russo-ukrainian-war-nato-or-russia/

悪い論調の中にはなくなるべきであるにもかかわらず、なくならないものがある。その1つが、ローマ教皇フランシス、シカゴ大学のジョン・ミアシャイマー、コロンビア大学のジェフリー・サックスらが最近行った、NATOがウクライナの加盟除外を断固拒否したためにロシア・ウクライナ戦争が起こったという主張である。言い換えれば、この戦争はロシアとウクライナの問題ではなく、ロシアに隣国への攻撃と侵略を強要した西側の愚かな政策の問題であると主張する人々がいるのだ。

この主張を、ソヴィエト連邦の人々がかつて「歴史の灰の山(ash heap of history)」と呼んだような場所に捨てる上で、少なくとも9つの説得力のある理由が存在する。そしてそれは早ければ早いほどいい。西側諸国の存続がかかっているのだ。それらについてこれらを考えてみよう。

(1)ウクライナが今後20数年の間にNATOに加盟する可能性がゼロであることは、誰もが知っていた。それは、アメリカ人も、ヨーロッパ人も、ウクライナ人も、ロシア人も含めてそうだった。そして、ウクライナにとってNATO加盟は非現実的であったため、アメリカがウクライナの港に船を停泊させたり、ウクライナの東部国境にミサイルを設置したりする可能性もゼロであった。

(2)1991年にNATOの宿敵であったソ連が崩壊して以来、ほとんど全てのNATO加盟諸国の軍隊が資金不足に陥り、それが無視されてきたことは周知の事実である。そのようなNATOがロシアの安全保障に脅威を与えるという考えは、特にロシアが軍隊の近代化のために何十億ドルも費やしてきたことを考えると、馬鹿げていたということになる。

(3)ヨーロッパを訪問してみると、東ヨーロッパのNATO加盟諸国がロシアから攻撃される場合、他のヨーロッパ諸国が軍隊を派遣してそれらを防衛することは考えられないことが理解できる。2017年に行われたヨーロッパの諸国民を対象とした世論調査で、攻撃された場合に自国のために戦う気があるかどうかを尋ねたところ、この点を立証している。ドイツ人の18%が「はい」と答えた。イタリア人の20%、スペイン人の21%、フランス人の29%が同様に「はい」と答えた。

(4)そして悪名高い第5条(NATO条約の相互防衛条項)が存在する。これは、ある加盟国に対する攻撃には、他の加盟国が軍事的対応をとることを保証するものとされている。しかし、そんなことはない。第5条は明確にこう言っている。「締約国は、一国又は複数の締約国に対する武力攻撃は、全ての締約国に対する攻撃と見なすことに同意し、その結果、かかる武力攻撃が行われた場合には、各締約国は、武力の行使を含む必要と認める行動を直ちにとることにより、攻撃を受けた締約国を支援することに同意する」。言い換えると、攻撃された時にどう対応するかは、個々の国家が必要かどうか考える問題なのである。ポーランドは軍隊を派遣するかもしれないし、ドイツは平和行進を組織し、フランスは会議を開くかもしれない。

(5)より詳しく見てみると、NATO、西側諸国、そしてアメリカがロシアにウクライナとの戦争を強要したという主張は根拠のないロシア人像を前提としている。この主張では、ロシアの指導者たちは悪名高くタフな集団であるが、実際には非常に敏感で、ほとんどヒステリックになっている。NATO拡大に関する約束違反やウクライナのNATO加盟の可能性に関する約束がないことに対して、彼ら独特の効用計算に従ってコストと利益を計算するのではなく、感情的に、ほとんど子供のようにふて腐れることによって反応しているのは確かだ。ロシア人、特にプーティン大統領が、現実の、あるいは想像上の侮辱に対して、西側諸国に仕返しするために戦争を起こし、大量虐殺に乗り出すと、誰が本当に信じるだろうか?

(6)フィンランドとスウェーデンがNATO加盟を目指したのは、プーティンの対ウクライナ戦争がきっかけだった。同じように、ウクライナもロシアの攻撃を恐れてNATO加盟を目指した。現在進行中の戦争が示すように、ウクライナの恐怖は完全に正当化された。このような恐怖は誇大妄想(パラノイア)の産物ではなく、17世紀半ばに始まり今日までほとんど衰えることなく続いてきたロシアの侵略と搾取の長い歴史的経験によるものだった。NATO加盟は、ウクライナの求める安全保障を提供するかどうかは別として、ウクライナが存立の危機に直面しているという信念を示すものであった。

(7)ミアシャイマー、サックス、ローマ法王は主張の中で、ロシアの歴史的・現代的帝国主義、プーティン率いるロシアの政治システムの本質、ロシアの帝国主義・権威主義的政治文化の露骨な現実を無視して議論している。あたかもロシアが反応はするが主導権を持たない受動的な行為者であるかのように語っている。このようにして、彼らはロシアから主体性を奪い、その指導者を非理性的な子供にして、それによって戦争の全ての責任を幼稚なロシアから父権的な西洋に転嫁することに成功したのである。

(8)少なくとも14世紀以降、モスクワ大公国(Muscovy)は帝国主義を実践し、ピョートル大帝(Peter the Great)が生み出したロシア帝国はモスクワ大公国の足跡を引き継いでいる。このような帝国主義が長く続いた背景には、ロシアが歴史的に独裁体制であったことと国内外での攻撃的な行動に価値を置く政治文化を持っていることがある。独裁者は、自らの支配を正当化する手段として、外国に対する拡張と侵略を行う。この点で、プーティンはピョートル大帝やイワン雷帝(Ivan the Terrible)と何ら変わるところはない。帝国主義的な政治文化は、拡張と侵略を正常で望ましいこと、ロシアの歴史的運命の一部であるかのように思わせることによって、拡張と侵略を促進させるのである。

(9)ウクライナは確かにロシアに対して脅威を与える。それは、ウクライナが理論上2050年にはNATO加盟国になっている可能性があるからではない。そうではなくて、ロシアとその神話から独立しようとする民主政体国家としてのウクライナの存在自体が、ロシアの帝国主義、ロシアの権威主義、ロシアの政治文化を脅かすからである。プーティンとそのプロパガンダ担当者はそのように言っており、それを信じない理由はない。現在進行中の戦争における彼らの大量虐殺行為は、この点を強調しているに過ぎない。

これらのことは政策にとってどのような意味を持つのだろうか?

第一に、一部の人々が喧伝する単純化された世界観は危険なほど間違っており、脇に置くべきだということである。第二に、ロシアは子供ではなく、領土の拡大、政治的独裁、社会的支配に深くコミットする冷静な計算高い大人である。そして第三に、もしロシアがウクライナの占領に成功すれば、ロシアは拡大を続けるだろう。なぜなら、その帝国主義的プログラム、ファシスト的政治体制、帝国主義的政治文化は、拡大を必要とし、促進するからである。エルミタージュ美術館の館長が簡潔に述べたように、「私たちは皆、軍国主義者であり、帝国建設者である」ということだ。

もしくは、ウクライナが陥落するならば、次はヨーロッパだ。

※アレクサンダー・J・モトリル:ラトガース大学ニューアーク校政治学教授。ウクライナ、ロシア、ソヴィエト連邦、ナショナリズム、革命、帝国、政治理論の専門家。ノンフィクション10冊の著書。著書は『帝国の終焉:諸帝国の衰退、崩壊、復活』と『諸帝国の再現の理由:帝国の崩壊と帝国の復活の比較視点』がある。

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