古村治彦です。

 

 アメリカの中間選挙(Midterm Elections)まで残り約1カ月となりました。現在のところ、連邦上院では、共和党の改選議員が少ないこともあり、共和党が過半数(共和党:51議席、民主党:49議席)、連邦下院では、民主党が過半数(218)を超える勢いです。

 

 アメリカ政界に大きな影響力を持つコーク・インダストリーズ会長チャールズ・コークが率いる政治運動ネットワークが今年の中間選挙に向けて動きを活発化させています。チャールズは弟デイヴィッドと共にコーク兄弟として、共和党の大口献金者として活動していましたが、今年6月にデイヴィッドが健康上の理由で会社経営や政治活動からの引退を発表しましたので、「コーク兄弟」という枠組みは解消となりました。

 

 今回、コーク・ネットワークは無条件で共和党の候補者を応援しないと決めています。トランプ大統領の推進した財政支出や関税政策について賛成した現職議員は応援しない場合があるとしているようです。また、刑法改革や移民政策で、子供の頃に親に連れられてアメリカにやってきて不法移民となった人々に対する市民権付与を主張する民主党議員でも応援を検討しているということです。

 

 チャールズ・コークが信奉しているリバータリアニズムは政府による規制、経済や社会への介入を嫌うので、外国からの輸入品へ関税をかけることには反対です。この点で、政府が財政出動することにも反対となります。また、人々の自由権利を最大限擁護するので、親に連れられて不法移民状態になった人々への市民権付与にも賛成です。

 

 こうして見ると、チャールズ・コークは共和党というよりは、ドナルド・トランプ大統領と相容れず、かえって民主党の一部の政策と近いということになります。

 

 2016年の米大統領選挙では、オバマ政権の副大統領であったジョー・バイデンに対する待望論がありました。ヒラリー・クリントンが大統領になれば、積極的に外国への介入を行って、アメリカが泥沼にはまってしまうという危機感がありました。そうした中で、リベラル派とリバータリアン派が協力して、リベラル・リバータリアン連合を形成して、バイデンを推して、ヒラリーを追い落とすべきだという主張もありました。

 

 今回の中間選挙では、チャールズ・コーク率いるコーク・ネットワークは反トランプの姿勢を打ち出しています。コークにしてみれば自分たちは長年共和党員であったが、トランプなんてついこの間まで長く民主党員をやってヒラリーと親密だったではないかという気持ちもあるのでしょう。そして、共和党の議員でトランプ寄りの姿勢を取る議員を応援せずに、民主党の議員を応援する場合もある、検討するとまで打ち出しています。トランプの高関税政策などは民主党が本来主張してきた政策ですから、民主党にしてみても、トランプ政権に対しては是々非々ということになるでしょう。

 

 トランプ大統領がこれまでにない動きを見せているために、アメリカ政治もしばらく奇妙な連合と分裂が起こることになるでしょう。

 

(貼り付けはじめ)

 

コーク・ネットワークが中間選挙に向けてスーパーPACを発足させる(Koch network launches super PAC ahead of midterm elections

 

ジョナサン・イースリー筆

2018年9月10日

『ザ・ヒル』誌

http://thehill.com/homenews/campaign/405820-koch-network-launches-super-pac-ahead-of-midterm-elections

 

大富豪の活動家チャールズ・コークの支援を受けている政治運動ネットワークは月曜日、新たなスーパーPAC(政治活動委員会)を発足させた。設立の目的は、ネットワークの保守的なそしてリバータリアニズムの価値観を共有する候補者を当選させることだ。

 

コーク・ネットワークの政治部門である運動組織「アメリカンズ・フォ・プロスペリティ(Americans for ProsperityAFP)」は、「AFPアクション」という組織を新たに創設した。AFPアクションは、ヒスパニック系の創設したスーパーPACである「リブレ・アクション」、「コンサーンド・ヴェテランズ・フォ・アメリカ(アメリカの現状を憂うる退役軍人たち)」と協力して、「人々の秘めている可能性の実現を妨げる国内、対外関係の両方における障壁を壊すという私たちの目標を共有する候補者たちを支援する」ことを目的としている。

 

新たなスーパーPACであるAFPアクションは、保守的、もしくはリバータリアン的考えを持つ大富豪たちから巨額の資金を集めることが出来るだろう。しかし、スーパーPACの役員たちは、2018年の中間選挙でどれくらいの資金を投入するのかという質問に対して、回答を拒否した。

 

今回の中間選挙で、コーク・ネットワークは総額で4億ドル(約440億円)以上を投入すると見られている。

 

AFPアクションの広報担当ビル・リッグスは次のように語った。「AFPはこれまで、接戦となる選挙において、私たちの支持する政策の実現に協力する候補者を応援することで、政治に新たな力を送り込んできた。AFPアクションは、こうした私たちの努力の幅を広げるための新しい道具となり、より大きな影響力を与えることになる」。

 

コーク・ネットワークは、トランプ大統領と共和党が過半数を占める連邦議会に対する不満を高め、戦略を練り直している。そうした中でスーパーPACであるAFPアクションが創設された。

 

コーク・ネットワークはトランプの関税政策に反対を表明し、コーク・ネットワークの幹部たちはトランプ大統領の言動を批判し続けている。彼らは、今年の3月に連邦議会が1兆3000億ドル(約140兆円)の公的支出計画を承認し、トランプ大統領が署名して法制化したことにも怒りを募らせている。

 

今年初めに開催された大口献金者たちの集まりにおいて、コーク・ネットワークは支援する候補者をより厳しく選択していくと発表した。共和党が連邦上院で何とか51議席(全100議席)を確保し、連邦下院では民主党が過半数を獲得するという厳しい見通しではあるが、共和党所属でも支援しない候補者も出てくると発表したことになる。

 

AFPはノースダコタ州の連邦上院議員選挙で、現職のハイディ・ハイトカンプ連邦上院議員(ノースダコタ州選出、民主党)に挑戦する共和党のケヴィン・クラマー連邦下院議員(ノースダコタ州選出、共和党)を支援しないと決定した。ノースダコタ州は2016年の大統領選挙でトランプが圧勝した州である。AFPは、財政支出法案、農業関連法案、輸出入銀行創設に賛成したクラマーを支援しないと発表した。

 

コーク・ネットワークは今回の中間選挙で財政支出に賛成した共和党議員を懲らしめ、刑法改革と実験的な麻薬解禁法など重要な分野で自分たちの考えに沿った投票を行った民主党議員を支援するために、広告や手紙などに多額の資金を投入している。

 

コーク・ネットワークはまた、「ドリーマーズ(訳者註:子供時代に親に連れられてアメリカにやってきて成長した不法移民)」への市民権付与を進めるために民主党の候補者への支援も検討している。

 

現在でも、コーク・ネットワークの資金のほとんどは、共和党の候補者や保守的な主張に提供されている。ネットワークは、トランプ大統領によって指名されたアメリカ連邦最高裁判所判事候補ブレット・カヴァナウの承認を訴えるテレビ広告に数百万ドルを投じている。

 

(貼り付け終わり)

 

(終わり)

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