古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:Quad

 古村治彦です。

21世紀に入って、アメリカが国力を落とし、衰退する一方で、中国の台頭が続いている。経済力を示すGDPで言えば、アメリカは超大国になって以来、様々な挑戦者が出現したが、中国が最もアメリカの経済力に近づいている状態だ。これから20年ほどで中国がアメリカを追い抜いて、世界最大の経済大国になるという予想もなされている。

アメリカは独力では中国を抑制、封じ込めることは難しくなっている。そのために、アメリカは日米豪印戦略対話(Quadrilateral Security DialogueQuad)という枠組みを作った。しかし、インドはアメリカの言う通りにはならない。インドはアメリカの言いなりになって、中国と直接対立することを避けている。そのために、クアッドは既に機能しないような状態になっている。
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クアッド

 同じような枠組みにオーカス(AUKUS)がある。これはオーストラリア(AUS)、イギリス(UK)、アメリカ(US)の枠組みが構築された。アメリカは、オーストラリアを引き込んで、対中最前線基地とするために、オーストラリアがフランスと結んでいた、ディーゼルエンジン型の潜水艦購入契約に横槍を入れて破棄させて、その代わりに原子力潜水艦を与えるということ主行った。オーカスは文化的にはアングロサクソン系の国々という同質性があるが、日本をオーカスに入れて「ジャーカス(JAKUS)」にすべきだという主張があることはこのブログでも既にご紹介した。
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オーカス

 そのオーカスであるが、困難な状況にあるのではないかという話が出ている。アメリカは、オーストラリアがフランスと結んでいたディーゼル型潜水艦の購入契約を破棄させて、その代わりにアメリカから原潜を買わせるということになったが、源泉を約束通りに提供できないということだ。それはアメリカにオーストラリアに提供する原潜を構築する余剰の能力がないということだ。オーストラリアに製造基地を建設するという話も出ているようだ。

 私たちは、アメリカのイメージをアップデイト、更新しなければならない。アメリカが世界最強で、全能の唯一の超大国で、何でもできるというイメージは修正しなければならない。アメリカについてのより現実に近いイメージを持ち、日本の安全保障を考えねばならない。それこそがリアリズムだ。

(貼り付けはじめ)

オーカスは低迷しているのか?(Is AUKUS floundering?

マイケル・オハンロン筆

2022年12月1日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/opinion/national-security/3753627-is-aukus-floundering/

緊密な同盟関係にあるオーストラリア、イギリス、アメリカの間のいわゆるオーカス(AUKUS)協定は、その効力を失いつつあるのだろうか? もしそうであれば、中国の脅威に対して同盟国やパートナーと共に反撃するという、バイデン政権が得意とする2、3の構想の1つが失われることになりかねない。しかし、政権はこのリスクに気づいていないようだ。ペンタゴンのE止め輪リングからホワイトハウスに至るまで、そろそろこの問題に対する自己満足を捨て去る時期に来ている。

初期段階のオーカス構想は、いろいろな意味で直感に反していた。それは、既に同盟関係にある3カ国が、なぜ新たな協力の仕組みを必要とするのかが明確でなかったからだ。オーストラリアの軍事予算は350億ドル程度(アメリカの20分の1)と控えめで、この取引の中心となる潜水艦を購入する余裕があるとは思えなかった。このような中規模のパートナーと他の分野の軍事技術開発で協力することによって、アメリカが得られる他の大きな利益があるのかどうかも明確ではなかった。また、アメリカ政府の一部には、中国がこの10年のうちに台湾を攻撃する可能性があると予測しており、早ければ2030年代にオーストラリアに潜水艦を引き渡すだけのプログラムについても、どのような有用な変化をもたらすかは明らかでなかった。

更に悪いことに、オーカスの見苦しい2021年の展開は、ホワイトハウスに大人が戻ってきた、アメリカの同盟諸国は再びアメリカ政府から尊重されるだろうというバイデンの主張を少しばかり馬鹿にしたようなものとなった。ワシントン、キャンベラ、ロンドンの間で秘密裏に交渉されたその中心的なコンセプトは、オーストラリア軍にアメリカ設計の攻撃型原子力潜水艦8隻を売却するという提案であった。中国がインド太平洋地域で軍事力を増強し、自己主張の強い行動を続ける中、これらの潜水艦は50隻以上の攻撃型潜水艦を保有するアメリカの艦隊を補完し、インド太平洋海域をパトロールすることになる。また、この地域の安全保障のために同盟諸国が一丸となって取り組むという決意を象徴するものである。

しかし、この契約をオーストラリアにとって適切なものにするために、キャンベラはフランスの造船所との既存の通常動力型潜水艦の製造契約をキャンセルしなければならなかった。パリは大混乱に陥り、バイデン政権はつい最近アフガニスタンからの撤退に失敗し、国家安全保障面でも基本的な外交手腕でも失敗したように見えた。国家安全保障顧問の国家安全保障問題担当大統領補佐官ジェイク・サリヴァンが辞任を申し出たが、バイデンはそれを受け入れなかったという報道が出ている。

当初の案件の是非や、そもそもこの案件を生み出した裏工作の不様さはさておき、オーカス協定は、アメリカのアジア太平洋に対する大戦略の中で広く尊重され、際立った要素になっている。日本、アメリカ、オーストラリア、インドが参加する非公式な安全保障パートナーシップである「クアッド(Quad)」を徐々に強化されている。クアッドは、冷え込んだ日韓関係を徐々に改善する努力に加え、南シナ海の軍事化、香港や新疆ウイグル地区に対する独裁的行動、台湾に対する脅威といった中国に対して積極的に反撃しようとするアメリカの取り組みの中心的な存在となっている。

オーカスは、中国の脅威に対するアメリカの見解を共有する、ワシントンと同盟2カ国との関係を強化することで、このような問題で過剰反応しがちなアメリカの傾向を和らげることができる、冷静で抑制的な態度をしばしば取る同盟諸国であり、大戦略(grand strategy)の良い要素となっている。このことは、オーカスのメンバーが披露しようとする技術や武器売却の一つひとつにとどまらず、あらゆる面で言えることである。

しかし、今、AUKUSは困難に陥っているように見える。アメリカは、潜水艦をめぐる合意をどのように実現させるかについて、考えがまとまらないようだ。官僚政治、そして戦略的・政治的緊急性の欠如が、この問題の原因となっているのだろう。潜水艦をできるだけ早くオーストラリアに届けるには、原子力潜水艦の技術がよく分かっているアメリカで建造する必要がある。しかし、アメリカの造船所には、オーストラリアのために潜水艦を建造する能力はなく、同時に、海軍が望むように、自国の攻撃型潜水艦を現在のSSN約55隻から60隻以上へと拡大しようとしても、その能力はない。これが現状だ。

1つのアイデアは、アメリカの造船基地拡張の資金をオーストラリアに求めることである。その価格が妥当であれば、そして、オーストラリアに一定の期日までに潜水艦の引渡しを保証されるのであれば、それは合理的な方法かもしれない。しかし、この2つの問題に関して、アメリカ海軍は難色を示し、誰もそれを覆すことはできないようだ。

その結果、オーカスは実質的に立ち消えてしまうかもしれない。2021年に外交政策全体がぐらついた後、2022年までロシアと中国の脅威への対処がそれなりに印象的だった時期に、バイデン陣営にとってそれは良い政治ではないということになっている。更に重要なことは、北京が既に、アメリカは地政学的な目的意識と決意を失っているのではないか、また、新しい戦略を1、2年以上継続する能力も失っているのではないかと考えている時期に、アメリカの新しい戦略にとって良いことではない。

※マイケル・オハンロン:ブルッキングス研究所フィリップ・H・ナイト記念防衛・戦略所長。複数の著書があり、近刊予定に『現代戦略家たちのための軍事史(Military History for the Modern Strategist)』がある。ツイッターアカウント:@MichaelEOHanlon.

(貼り付け終わり)

(終わり)

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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 アメリカはバラク・オバマ政権下でのヒラリー・クリントン国務長官(2009-2013年)下で策定した「アジアへ軸足を移す(Pivot to Asia)」を基にして「中国封じ込め(containment of China)」を進めている。この流れはドナルド・トランプ政権でも変わらず、ジョー・バイデン政権も推進している。その中で、構築されたのが「クアッド(Quad)」と呼ばれる日米豪印戦略対話(Quadrilateral Security Dialogue)である。アメリカ、オーストラリア、インド、中国によるインド太平洋における安全保障の枠組みと言えば聞こえは良いが、簡単に言えば中国封じ込め、東南アジア諸国を取られないための枠組みである。しかし、インドは両天秤をかけている。
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 インド太平洋地域における枠組みにAUKUS(オーカス)がある。これはオーストラリア、イギリス、アメリカの枠組みである。アメリカが原子力潜水艦建造技術をオーストラリアに供与する、オーストラリアはフランスとの間で進めていたディーゼル潜水艦建造協力を破棄するということで、フランスが態度を硬化させたことで注目を集めた。オーストラリアは原潜を持ち、原潜の製造・修理工場を国内に持つことで、対中国の最前線ということになる。アメリカ軍と協力して中国海軍の源泉とにらみ合うことになる。オーストラリアにおけるアメリカの核兵器の配備、オーストラリアによる買い兵器開発と保有まで進む可能性もある。この「アングロサクソン軍事同盟」はクアッドに代わる枠組みになる可能性がある。
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 オーカスが結成された当初、日本政府は参加することはないと述べていたが、日本も参加して「JAUKUS(ジャーカス)」にすべきだという議論は出ている。日本がクアッドとオーカスに参加するということになると、対中国に備えた軍備増強を図るということになる。岸田文雄政権は「防衛費の対GDP比2%」という総額ありきの防衛予算増額を決め、そのために増税を国民に押し付けようとしている。国民から搾り取ってその金でアメリカから武器を買うということになる。アメリカから武器を買って済むことならまだ我慢もできるかもしれないが、問題は外国に対しての先制攻撃を可能にする安全保障戦略を発表している。先制攻撃と軍備拡張は「いつか来た道」である。国民に塗炭の苦しみを味わわせた先の大戦の反省はすっかり忘れられている。

 先の大戦の前も「日本は世界の五大国だ」「国際連盟の常任理事国だ」と浮かれ、大国意識だけが増長し、実態とはかけ離れた自己意識の肥大のために、最後は大きく進むべき道を誤ることになった。「日本は世界第3位の経済大国だ」「日米同盟は世界で最も重要な同盟だ」などというスローガンに踊らされて、調子になってバカ踊りをやって後で泣きを見ることがないようにするのが大人の態度であるが、今の日本の政治家にそのような期待をすることは難しい。

(貼り付けはじめ)

日本がAUKUSに参加すべき理由(Why Japan Should Join AUKUS

-東京はインド太平洋において不可欠な安全保障上のアクターとなった。

マイケル・オースリン筆

2022年11月15日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/11/15/japan-aukus-jaukus-security-defense-pact-alliance-china-containment-geopolitics-strategy-indo-pacific/?tpcc=recirc_latest062921

インド太平洋地域では、新たな四カ国同盟(quad)が形成されつつある。それはオーストラリア、インド、日本、アメリカが参加する日米豪印戦略対話(Quadrilateral Security DialogueQuad)よりも大きな影響を与える可能性がある。中国の影響力とパワーの拡大に対抗して、オーストラリア、イギリス、日本、米国が安全保障上の利害を一致させるようになったことで、新たな連携が生まれつつある。2021年に締結された豪英米防衛協力協定(Australia-United Kingdom-United States defense cooperation pact、通称AUKUS)に日本が加わり、JAUKUSとなる見込みであり、これまでの同盟(alliance)や準同盟(quasi-alliance)にはなかったインド太平洋の自由主義的民主政体諸国(liberal democracies)間の安全保障協力

このようなパートナーシップはあらかじめ決まっていたものではない。実際、今年初め、日本がAUKUSへの加盟をひそかに検討しているという報道があったが、東京はすぐに否定し、当時のホワイトハウスのジェン・サキ報道官もこの報道内容を否定した。しかし、日本はこの3カ国と連携するようである。これは、日本の安全保障姿勢を一変させるだけでなく、インド太平洋においてますます重要な役割を果たすアクターに変貌させた戦略的革命の一部となる。7月に暗殺された安倍晋三首相(当時)の下、日本は共同兵器開発に関するほとんどの制限を撤廃し、軍事予算を着実に増やし、自衛隊がパートナー諸国の軍隊との集団的自衛権に関与することを認めるなどより積極的な防衛態勢を取るようになっている。

2021年10月の就任以来、岸田文雄首相は安倍元首相の外交・安全保障政策を基礎とするだけでなく、アジアや世界の主要自由主義的な諸国と日本の関係を拡大・強化した。岸田首相は、ロシアがウクライナに侵攻した後、直ちにワシントンやヨーロッパ各国とともにロシアへの制裁を行った。また、NATOとの関係を深め、6月には日本の指導者として初めてNATO首脳会議に出席した。国内では、岸田首相は日本の防衛予算を増やし続け、1000億ドル近くまで倍増させる可能性があり、近く新しい国家安全保障戦略(national security strategy)を発表する予定である。アジア専門家たちにとって重要なことは、日本の戦略的変革は政治家たちの個性がもたらしたのではなく、むしろ深刻化する中国と北朝鮮の脅威と結びついている。アジアの安全保障環境が不安定なままである限り、東京はその能力を高め、パートナーシップを拡大し続けるだろう。

岸田首相のアプローチの核となる要素は、AUKUSの3カ国との着実な連携だ。10月下旬、キャンベラと東京は安全保障協力に関する共同宣言に署名した。正式な相互防衛協定(formal mutual defense pact)ではないが、この協定は日本とオーストラリアの「特別な戦略的パートナーシップ(Special Strategic Partnership)」を強化するものであり、グローバルな規範と地域の開放性に対する両国の支持を繰り返し表明している。1月には既に、日豪両国は軍の相互アクセス協定(military reciprocal access agreement,)に調印しており、これにより、訪問部隊の手続きが容易になり、オーストラリアと日本の軍隊が合同演習(joint exercises)を実施し、アメリカを含めて災害救援に協力できるようになる。

実際のJAUKUSを作るには、次のステップとして、日本の参加を徐々に正式なものにする方法を検討する必要があるだろう。

新たな安全保障協力宣言により、日豪両国は、情報の共有、サイバー防御に関する協力、サプライチェーンの確保などの活動を行いながら、軍隊間の「実践的な協力を深め、相互運用性を更に強化する」ことに合意している。完全に実施されれば、提案された協力の範囲は、各国にとって最も重要なパートナーシップとなるだろう。

一方、英国と日本は12月に、日本が既にオーストラリアと結んでいる協定と同様の相互アクセス協定に署名し、互いの国への軍隊の入国を緩和し、合同軍事演習と兵站協力を強化する予定である。これは、東京とロンドンが次世代戦闘機の開発でイタリアと協力するという7月の発表に続くものだ。イギリス海軍と海上自衛隊は前月、英仏海峡で合同演習(joint exercises)を行ったが、これは新型空母HMSクイーン・エリザベスと打撃群が日本を訪れてからちょうど1年後のことであった。

イギリスにとって、日本とのアクセス協定は、ボリス・ジョンソン首相が最初に説明したインド太平洋地域へのロンドンの「傾斜(tilt)」の骨に、更に肉を付けることになる。日英の防衛関係の深化は、リシ・スナック新首相がロンドンの最も重要な公的戦略文書である「統合的レビュー(integrated review)」を中国の脅威により明確に焦点を当てるよう改訂する見込みであることと合わせて、日本とのアクセス協定は、インド太平洋地域におけるキャンベラ、東京、ワシントンとのより正式な協力関係を構築する舞台となるものである。

しかし、4カ国が正式な合意に達する前であっても、中国の前進に対してバランスを取ることを目的とした行動の調整のおかげで、非公式のJAUKUSが既に出現している。2021年10月には、4カ国の海軍がインド洋で共同訓練を行っている。 8月、AUKUSが極超音速技術と対極超音速技術の両方の開発に焦点を当てると述べた直後に、日本は極超音速ミサイルを研究すると発表した。同様に、日本は量子コンピューティングへの投資を増やしており、その投資の一部は、世界で2番目に高速なスーパーコンピューターを所有する富士通によって行われている。このイニシアティヴは、潜在的な軍事的影響を伴う量子および人工知能技術を共同開発するというAUKUSの関与と一致している。

同様に、4カ国は国内の安全保障問題でも連携を強めている。4カ国はいずれもファーウェイを国内の通信ネットワーク、特に6Gから締め出しているが、その実施状況はまちまちだ。更に言えば、イギリスの安全保障担当大臣トム・トゥゲンドハットが最近、イギリスに残る孔子学院を全て閉鎖すると発表したことは、世界中の大学に圧力をかけて中国批判を封じ込め、中国国家の利益につながる肯定的なシナリオを押し付けてきた北京系組織の存在と影響力を、4カ国それぞれが削ごうとして動いていることを意味する。

実際のJAUKUSを作るための次のステップは、日本の参加を徐々に正式なものにする方法を検討することだ。まず、量子コンピュータや極超音速機開発など、共通の関心を持つ分野について、AUKUSの17のワーキンググループのいくつかに日本の関係者を招き、見学させることから始めることができるだろう。次の段階として、日本のJAUKUSにおけるステータスを変更したり、共同運営グループの会合に定期的に出席したりすることを検討することも考えられる。共同運営グループは、AUKUSが重視している2つの主要テーマ、潜水艦(submarines)と最先端の技術を使った能力(advanced capabilities)について方針を決定し、長期的なメンバーシップを議論する。また、オーストラリアへの原子力潜水艦供給という AUKUS の中核的な取り組みに東京がどのように参画できるかを冷静に探れば、特に軍事利用のための原子力技術に反対する日本の国内政治において、潜在的な外交的・政治的地雷の可能性を排除することができるだろう。

その過程や最終的な地位が同盟であれ協定であれ、あるいはもっと非公式なものであれ、JAUKUSは、インド太平洋を戦略的に考える意思と能力を持つ4つの主要な自由主義的な諸国による安全保障上の懸念とイニシアティヴの収束の自然な展開である。政策や目標の共通性が明らかになるにつれ、JAUKUS諸国は、インド太平洋地域の安定を維持するために、それぞれの努力を更に調整し、結合することの利点を理解するであろう。

※マイケル・オースリン:スタンフォード大学フーヴァー研究所研究員。著書に『アジアの新しい地政学:再形成されるインド太平洋に関する諸論稿(Asia’s New Geopolitics: Essays on Reshaping the Indo-Pacific)』がある。

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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 世界覇権国アメリカの衰退が叫ばれて久しい。その間の中国の台頭は目覚ましい。次の世界覇権国は中国だという考えは世界中で広がっている。アメリカを中心とする西側諸国(the West)の凋落も続いている。この中には日本も含まれている。西側以外の国々(the Rest)の経済成長は堅調である。大きく見ればアメリカを主軸とする西側世界が支配してきた世界構造が変化しつつある。

 中国が世界覇権国になるための道筋を地理的に見るならば、太平洋に拡大するか(中国から見て東側に進む)か、ユーラシア大陸に拡大するか(西側に進むか)ということになる。太平洋に向かうとぶつかるのはアメリカである。太平洋は大きく分けて西太平洋と東太平洋に分けられる。現在の太平洋は全体がアメリカの海であり、アメリカは更に「インド太平洋(Indo-Pacific)」という概念を用いて、その支配を維持しようとしている。それに対して、中国は西太平洋、具体的には第二列島線(Second Island Chain)までを中国の海にしたい構えだ。これに対抗するためにできたのがクアッド(日米豪印戦略対話、Quadrilateral Security DialogueQuad)だ。

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 中国が西側に向かうというのがユーラシアであり、その具体的な計画が一帯一路構想だ。そして、その道筋にある国々で結成されているのが上海協力機構(Shanghai Cooperation OrganizationSCO)だ。この一帯一路計画では、ユーラシアの端のヨーロッパと中国がつながり、海路を通じてアフリカにまで到達する。これはインド洋も中国が取るということになる。中国の膨張に対してアメリカは防戦一方となる。中国がユーラシアを抑え、太平洋を抑えることで、アメリカは西半球に封じ込められるということになる。
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 現在のウクライナ戦争も大きく考えてみると、アメリカを軸とする西側世界と中国を軸とする西側以外の世界の衝突ということになる。米中はそれぞれが直接対決している訳ではないが、ロシアとウクライナによる代理戦争(proxy war)を戦わせているという構図になる。アメリカ当局もこうした中国の戦略や大きな構図を分かっていることは下の論稿で明らかであるが、身動きができない状態になっている。それはアメリカの国力の減退ということがある。中国が嫌い、怖いと感情的になるのではなく、まずはどういう意図を持っているのか、そして世界は大きくはどのように変化しているかを理解して、対策を立てることが重要となってくる。

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中国には世界支配への2つの道がある(CHINA HAS TWO PATHS TO GLOBAL DOMINATION

-そして、北京がどちらの戦略を選択しているのか、ワシントンが見抜けるかどうかにかかっている。
2020年5月22日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2020/05/22/china-superpower-two-paths-global-domination-cold-war/

習近平国家主席率いる中国は超大国としての野心を隠していない。ほんの数年前、アメリカの中国専門家の多くはまだ、中国が自由な国際秩序を支える脇役に徹する、もしくは西太平洋におけるアメリカの影響力に対して挑戦を控えるだろうという希望的観測を持っていた。当時の常識は、中国はアジア地域における役割を拡大させ、地域におけるアメリカの役割を縮小させることを目指すが、遠い将来については国際的な野心を持っているというものだった。しかし、現在は、中国はアメリカの世界の指導者としての役割に対して張り合うようになっている。これは間違いないところであり、その張り合う場面は至る所にある。

その一つが海軍力増強、建艦プログラムである。中国は2014年から2018年の間に、ドイツ、インド、スペイン、イギリス各海軍の艦艇数の総計を超える数の艦艇を就航させた。中国政府はハイテク産業を独占し酔うという意図を持っている。ハイテク産業は、将来の経済力、軍事力の配分を決定することになるだろう。中国沿岸部からの重要航路をコントロールする動き、中国から遠く離れた場所に軍事基地と物流拠点のチェインを構築する動きもある。アジア・太平洋地域やそれ以外の地域における経済面での影響力を経済面での強制力に変換するシステム的な努力も行われている。

特に、その野心を表向きには隠してきた国がそれを表向きにして隠さない状態になっているのは事実だ。習国家主席は2017年に中国は「新時代」に入った、「世界における中心に位置を占めねばならない」と発言した。その2年後、習主席は、アメリカとの関係悪化について「新しい長征(new Long March)」であると形容した。中国国内から発生した戦略的ショックでさえ、北京の地政学的野心の展示ケースとなった。習近平政権が、自らの権威主義によって悪化した新型コロナウイルス危機を、中国の影響力を誇示し、中国モデルを海外に売り込む好機に変えようとしたことを見ても明らかであろう。

不透明で権威主義的な政権の意図を正確に見抜くことは難しい。また、敵対的な意図を断定的に表明することは、運命論(fatalism)や自己実現的な予言(self-fulfilling prophecies)につながる危険性がある。安定的で建設的な米中関係が可能かどうかについては、私たち2人は異なる予断を抱いている。しかし、中国が実際に世界の主要国としての地位を確立しようとしているのか(あるいは必然的にそうしようとしているのか)、そしてその目標を達成するためにどのような行動を取り得るのかを問わないのは、故意に知らないふりをしているということになる。アメリカの中国戦略の立案者たちは、いかに本能的に融和的であろうと対立的であろうと、この問題に正面から向き合わなければならないのである。

もし、中国が真の超大国の地位(superpower status)を目指すのであれば、そこには2つの道がある。1つは、これまでアメリカの戦略家たちがこれまで認めてきた中国の世界的野心の範囲を改めて強調する道である。この道は中国がお膝元と言うべき西太平洋をめぐるものだ。この道は、中国がグローバル・パワーへの跳躍台として、地域内での優位性を築くことに重点を置いており、アメリカ自身がかつて通った道とよく似ている。第2の道は、戦略や地政学の歴史的法則に反しているように見えるため、非常に異なっている。このアプローチは、アメリカが西太平洋で揺るぎない強固な地位を築くことよりも、中国の経済的、外交的、政治的影響力を世界的規模で発展させることによって、アメリカの同盟システムと同地域での戦力プレゼンスを減少させることに重点を置いている。

中国がどの道を歩むべきかという問題は、北京の戦略家たちにとって差し迫った問題であり、彼らは今後数年間、何に投資し、どんな戦いを避けるべきかという厳しい決断に迫られることになる。そして、中国がどのような道を歩むかという問題は、アメリカの戦略家たち、ひいては世界の他の国々にとっても深い意味を持つ。

中国が世界的な影響力を確立するためには、まず地域的な覇権を確立することが必要であるというのが、確立されつつある常識である。これは、冷戦時代のソヴィエト連邦のように、近隣諸国を物理的に占領することを意味しない(台湾を例外とする可能性はある)。しかし、それは、北京が西太平洋の第一列島線(first island chain、日本から台湾、フィリピンまで)とそれ以遠の地域で支配的なプレーヤーになること、近隣諸国の安全保障と経済の選択に対して有効な拒否権を獲得すること、この地域におけるアメリカの同盟を破棄させ、アメリカ軍を中国の海岸からどんどん遠ざけていくこと、を意味している。もしこれができなければ、中国がグローバルに力を発揮するための安全な地域的基盤を持つことはできない。中国は、脆弱な海洋周辺部における持続的な安全保障上の課題に直面し、そのエネルギーと軍事資産を攻撃ではなく防御に集中させなければならなくなるだろう。そして、米国が第一列島線に沿った強力な軍事的立場を維持する限り、ヴェトナム、台湾、日本など地域の大国は、中国の台頭を受け入れるのではなく、それに抵抗しようとするだろう。つまり、アメリカの同盟諸国や安全保障パートナー、軍事基地、その他の敵対的諸大国の前線基地に囲まれたままでは、中国は真のグローバル・パワーにはなり得ないということになる。

このシナリオがアメリカ人にとって説得力を持つ理由の1つは、アメリカが国際舞台で優位に立つための道筋に酷似しているからである。アメリカ建国初期から、アメリカ政府高官たちは、北アメリカおよび西半球で戦略的に敵がいない状態を確立するまでは、ワシントンが世界情勢の中で主要な役割を果たすことは考えにくいと理解していた。これは、1820年代のモンロー・ドクトリン(Monroe Doctrine)から1898年のカリブ海戦争でのスペイン勢力打倒まで、数十年にわたる半球からのヨーロッパのライヴァルたちを追い出す作戦の多くの構成要素をつなぐ戦略論理(strategic logic)であった。1904年のルーズヴェルトの系譜(Roosevelt Corollary)から、1980年代のドナルド・レーガン政権によるキューバやソ連と同盟関係にあったサンディニスタ・ニカラグアに対する公然の秘密の戦争まで、ヨーロッパ人たちがこの地域に再び足場を築くのを防ぐための100年にわたる努力(その一部は道徳的に曖昧で、深い問題さえある)を前述の考え方が支えたのである。

冷戦時代、アメリカのグローバル・パワーが地域の支配的地位と密接に関係していることは超党派の委員会で明確に述べられている。「アメリカが国際舞台で許容範囲のパワーバランスを管理可能なコストで維持できるかどうかは、陸上国境に固有の安全保障にかかっている」と委員会は述べている。もしアメリカが「国境付近の安全保障上の脅威から防衛」しなければならないとしたら、「恒常的に増大する防衛負担を負わなければならず、その結果、世界の他の場所での重要な公約を削減しなければならなくなる」だろうということだった。

中国がこの論理を身につけたことは確かで、中国の政策の多くが地域の優位性を確立するために計算されているように見える。北京は、アメリカの艦船や飛行機を自国から遠ざけ、近隣諸国とより自由に付き合えるようにするために、高度な防空能力、エンジン音の静かな潜水艦、対艦ミサイル、その他の対接近・領域拒否能力(anti-access/area-denial capabilities)に多額の投資を行ってきた。北京は、南シナ海と東シナ海を中国の湖にすることに重点を置いている。これは、米国がライヴァル国をカリブ海から追い出そうと決意したのと同じ理由であると推測される。

同様に、中国は、アメリカの軍事パートナーや条約上の同盟諸国との関係を弱めるために、誘惑、強制、政治的操作の混合物を使用してきた。中国当局は、「アジア人のためのアジア(Asia for Asians)」という考えを推進してきた。これは、アジア地域はアメリカの干渉を受けずに地域の諸問題を解決すべきだという考えを暗に示している。習近平が「大国間関係の新モデル(New Model of Major-Country Relations)」構想を発表した際、その核心は、米中両国が太平洋の両側に留まれば、仲良くやっていけるというものであった。

最後に、中国人民解放軍は台湾を征服するために必要な軍事力を構築していることを公言しているが、これは一夜にして地域のパワーバランスを崩し、西太平洋におけるアメリカの他のコミットメントに疑問を投げかけることになる。台湾海峡での米中戦争は、今すぐにも、あるいは数年以内に起こる可能性があるとするアナリストたちもいる。これらの政策は全て、アメリカが中国に戦略的に接近することに対する基本的な不安感を示している。そしてもちろん、これらはすべて、地域支配という狭い目標に合致するものである。しかし、これらの政策は、もし北京がアメリカのグローバル・パワーへの道を模倣しようとするならば、予想されることと一致するものでもある。

しかし、もし中国が世界の超大国を目指すのであれば、本当にこのような道を歩むのだろうかと疑問を持つ理由が存在する。国際問題においては、敵対国が私たちと同じように世界を見る、あるいは私たち自身の経験を再現しようとすると仮定する「ミラー・イメイジング(mirror-imaging)」には常に大きな危険が潜んでいる。それは、中国がその周辺地域を支配することは、アメリカにとってよりもはるかに困難であることは、今や北京にとって明白だからだ。

アメリカは、自国の半球(訳者註:西半球)で日本に対峙したことがない。中国から見ると、日本は地域の重要な国であり、更に大きな国(訳者註:中国よりも大きなアメリカ)と同盟関係にある。中国にとって第一列島線を超えるということは日本を超えるということだ。また、インド、ヴェトナム、インドネシアなど、中国の領土や海域に立ちはだかる多くのライヴァルたちに対処する必要もアメリカにはなかった。また、アメリカを単に厄介者、あるいはより差し迫った脅威に対する支援を確保するためになだめるべきライヴァルと見なすのではなく、アメリカを最大の挑戦者とみなす超大国と向き合う必要もない。中国から見ればこれらは全て逆になる。地域支配を目指すと、アメリカが得意とするハイエンドなハイテク軍事競争に戦略的競争を集中させ、中国の近隣諸国を更にアメリカに引き込むことになりかねない。実際、これまでのところ、北京の誘惑と強制の努力は、フィリピンとタイの地政学的志向を変えることに部分的に成功しているが、オーストラリアと日本への対応では裏目に出てしまっている。つまり、こうしたことから、北京が地域的なパワーアップを成功させることができるかどうかは明らかではなく、中国のグローバル・リーダーシップへの第二の道があるかどうかという疑問までが生じてくる。

もし、中国が地域覇権に焦点を当てた後に世界覇権を検討するのではなく、逆に物事に取り組むとしたらどうだろうか? この第二の道は、中国を東よりも西に導き、ユーラシア大陸とインド洋に中国主導の新たな安全保障・経済秩序を構築するとともに、国際機関における中国の中心的地位を確立するものである。このアプローチでは、中国は、少なくとも当面の間、アメリカをアジアから追い出すことも、アメリカ海軍を西太平洋の第一列島線の外に押し出すこともできないことを不承不承のうちに受け入れることになる。その代わりに、世界の経済ルール、技術標準、政治制度を自国に有利なように、また自国のイメージ通りに形成することにますます重点を置くようになるであろう。

この代替アプローチの主要な前提は、グローバルなリーダーシップを確立するには、伝統的な軍事力よりも経済力と技術力が基本的に重要であり、東アジアに物理的な勢力圏を持つことは、そうしたリーダーシップを維持するための必要条件ではない、というものになるだろう。この論理に従えば、中国は、西太平洋における軍事バランスを維持し、対接近・領域拒否の原理によって、自国の周辺地域、特に領有権主張に注意を払い、戦力の相関関係をゆっくりと自国に有利な方向に変化させながら、他の形態のパワーによって世界支配を追求すればよいということになる。

 

 

 

ここで北京は、アメリカのアナロジーの異なるヴァリエーションを考えるだろう。第二次世界大戦後に形成され、冷戦終結後に強化された国際秩序における米国のリーダーシップは、少なく とも3つの重要な要因に依存していた。第一は、経済力を政治的影響力に変換する能力だ。第二は、世界に対する技術革新の優位性を維持することだ。そして第三は、主要な国際機関を形成し、世界の主要な行動規範を設定する能力である。中国は、この第二の道を歩むにあたり、これらの要素を再現することを目指すことになるだろう。

これは、ユーラシアとアフリカにまたがる「一帯一路構想(Belt Road Initiative)」の野心的な拡大から始まるだろう。物理的なインフラの建設と資金調達により、中国は複数の大陸にまたがる貿易・経済リンクの網の中心に位置することになる。また、この取り組みのデジタル要素である「デジタル・シルクロード(Digital Silk Road)」は、中国の基盤技術を展開し、国際機関における標準設定を推進し、中国企業の長期的な商業的利点を確保することで、「サイバー超大国(cyber-superpower)」になるという2017年の中国共産党大会で中国が表明した目標を前進させるものだ。中国は、新型コロナウイルスからの回復で先行したことを利用して、競合他社が一時的に低迷している主要産業で更なる市場シェアを獲得し、この課題を推進しているとの見方もある。積極的な対外経済政策と技術革新に向けた国家主導の大規模な国内投資とを組み合わせることで、中国は人工知能から量子コンピューター、バイオテクノロジーに至る基盤技術のリーディングプレーヤーとして台頭してくる可能性がある。

中国はこうした取り組みを通じて経済力を高めると同時に、その力を地政学的な影響力に転換させる能力を磨いていくだろう。カーネギー国際平和基金研究担当副会長エヴァン・ファイゲンバウムは、中国が「政治的・経済的選好を固定化」するために利用できるレヴァレッジには、潜在的・受動的なものから積極的・強制的なものまで、複数のタイプがあると指摘する。ファイゲンバウムは、北京が、韓国、モンゴル、ノルウェーなど多様な国々との間で、これらの手段をフルに活用する「ミックス・アンド・マッチ(mix and match)」戦略を磨き続けるだろうと分析している。最終的に中国は、より体系的なエスカレーションのハシゴを採用し、好ましい結果をもたらすようになるかもしれない。

アメリカが戦後の重要な制度を自らの政治的イメージで構築したように、この第二の道は中国を国際秩序の中心的な政治的規範の再構築に向かわせるだろう。多くの研究が、北京が国連システム全体で、中国の狭い範囲の利益を守るため(台湾の国連での地位の否定、中国への批判の阻止)と、国家主権が人権に勝るという価値観を強化するために、全面的に圧力をかけていることを記録してきた。また、オーストラリア、ハンガリー、ザンビアなどの民主主義国家において、中国が政治的言論に影響を与えるために行っている介入的な取り組みを「シャープ・パワー(sharp power)」という言葉で表現することが一般的になっている。また、北京は急速に外交力を高め、世界各地の外交官ポスト数でアメリカを抜き、多国間金融機関、国際気候変動・貿易機関、その他の重要なルール設定機関においてその影響力を持続的に拡大させている。ブルッキングス研究所のタルン・チャブラは、北京のイデオロギーに対するアプローチは柔軟かもしれないが、その累積的効果は権威主義の余地を拡大し、透明性と民主的説明責任の余地を狭めるものだと的確に指摘している。

戦後およびポスト冷戦時代における米国のリーダーシップのもう1つの重要な原動力は、もちろん、強固で弾力的な同盟システムであった。これは、北京にとって資産として利用しにくい。それにもかかわらず、中国の指導者たちは、ジブチを皮切りに、中国の国外に潜在的な軍事基地ネットワークを構築し始めている。また、中国は自国の同盟の欠陥を補うために、西側の同盟構造を弱め、分裂させる戦略に着手し、東欧諸国を育成し、アメリカとアジアの同盟国の間の絆を緩めさせようとしている。

これらの努力は全て、アメリカが秩序の保証人としての伝統的役割から一歩後退した時期に行われたものである。そして、これこそが最も重要な要素なのかもしれない。

ドナルド・トランプ米大統領は、アメリカがアジアの実際の大国としての役割を維持するための伝統的な軍事・安全保障投資を重視し続けている。しかし、中国がもたらすグローバルな課題に、少なくとも首尾一貫した方法で対応することについては、そこまで関心を示していない。新型コロナウイルスに対するアメリカの対応は、悲しいことに、その象徴的なものとなってしまった。ウイルスが中国に由来することを世界に認識させるための不器用な努力と無能な国内対応とが組み合わさって、本来であればアメリカの優位性を示す最高の広告塔であった原則的国際リーダーシップが、相対的に欠如している。かつては、アメリカが経済刺激策と世界的な公衆衛生対策を調整する国際的な取り組みの先頭に立つことを期待できたかもしれない。確かに、連邦政府が国家的な対応策を練り、正確な情報を発信する上でこれほどまでに失敗するとは思っていなかっただろう。大国間競争が叫ばれる中、中国がアメリカの空白を徐々に埋め、他の国々は有力な代替手段がない中で、中国の力が増大する世界に順応していくというシナリオは、もっともな話である。

もちろん、世界的に卓越した中国が、海洋周辺部の支配大国(dominant power on its maritime periphery)であるアメリカを永久に受け入れるとは思えない。しかし、グローバル・リーダーシップを目指すことは、単に西太平洋におけるアメリカの立場を出し抜くことであり、政治的・軍事的圧力や対立ではなく、経済的・外交的影響力の蓄積によって、アメリカの立場を維持できなくすることであるとも考えられる。

確かに、この方法にも問題がある。中国はアメリカよりもグローバルな公共財を提供する能力が低いかもしれない。その理由は、中国の国力が低いことと、権威主義的な政治システムのために、アメリカの優位性を際立たせてきた比較的賢明な、相互にとって利益を出す(positive-sum)のリーダーシップを発揮することが困難であることの2つがあるためだ。新型コロナウイルスの危機は、この点で双方向に作用している。アメリカの緩慢な対応は、アメリカの能力と信頼性に対する世界の懸念を増幅させたことは確かであるが、同時に、世界的な感染拡大を助長するような初期の発生の隠蔽、アメリカ発のウイルスに関する不合理な話のでっち上げ、深刻な問題を抱える国への欠陥検査の販売など、中国の無責任で攻撃的な振る舞いを示すものでもある。ドイツなどヨーロッパの主要国の政府は、北京の略奪的な貿易慣行、主要産業の支配努力、人権慣行への批判を封じ込め、民主政治体制世界の言論の自由を抑圧しようとする動きにすでに嫌気がさしている。新型コロナウイルス問題は、中国モデルの暗黒面を示すことで、北京のグローバルな野心に対する抵抗力を更に高めることになるかもしれない。

最後に、中国の指導力にはイデオロギーの壁が存在する。中国の台頭をめぐる緊張は、単に経済的・地政学的な利害の衝突から生じるものではない。民主政治体制国家の諸政府と強力な権威主義政権の関係をしばしば苦しめる、より深く、より本質的な不信感をも反映している。北京の政治的価値と世界の民主政治体制国家の価値との間にあるこの溝は、ヨーロッパをはじめとする多くの国々が、世界情勢における中国の役割の増大に対して不安を持ち始めていることを意味する。しかし、このことは、北京がまだこの道を歩もうとしないことを意味しない。この道は、アメリカが民主国家群との関係を悪化させ、威信を低下させるにつれて、より広く、より魅力的になっていくように思われる。

「二つの道」を分析する場合、明白な疑問に直面することになる。もし、その両方であったら、あるいはどちらでもなかったらどうなるのだろうか? 実際、中国の戦略は、現在、両方のアプローチの要素を兼ね備えているように見える。これまでのところ、北京は西太平洋でアメリカと対峙するための手段を蓄積し、地政学的影響力を求めると同時に、より広範な世界的挑戦に向けて自らを位置付けている。また、北京の経済や政治体制が衰えたり、競合相手が効果的に対応したりすれば、最終的にどちらの道もうまく行かない可能性も十分にある。

しかし、いずれにせよ、北京の選択肢を整理することは、3つの理由から有益な作業ということになる。

第一に、今後数年間に中国が直面する戦略的選択と取引(trade-offs、トレードオフ)を明確にすることができる。中国の資源は膨大に見えることが多いが、それでも有限である。空母キラー・ミサイルやエンジン音の静かな攻撃型潜水艦に費やされる1ドルは、パキスタンやヨーロッパのインフラ・プロジェクトに使うことはできない。また、中国のトップリーダーの関心と政治資金も限られている。強大なライヴァルに直面し、なおかつ困難な内的問題に直面している新興国が、資源に過剰な負担をかけず、努力の効果を薄めずに地政学的・地質経済的な課題に取り組めるのは限られた数だけである。したがって、どちらの覇権への道がより有望であるかを見極めることは、中国の戦略家たちにとって一貫した関心事であり、アメリカの対応を決定しなければならないアメリカの当局者にとっても同様であろう。

第二に、2つの道に関する分析は、アメリカが直面している戦略的課題を明確にするのに役立つ。アメリカの有力な国防アナリストの中には、北京がその海洋周辺部での軍事競争に勝たなければ、グローバルにアメリカに対抗することはできないと主張する人たちがいる。この分析は、台湾海峡やその他の地域のホットスポットにおいて、既に傾き始めているパワーバランスを補強するために必要な軍事投資と技術的・運用的革新をアメリカが行うことを重要視しているものである。

これらの投資と技術革新は確かに重要である。しかし、私たちの分析は、アメリカが西太平洋で強力な軍事的地位を維持することができたとしても、中国との競争に敗れる可能性を提起している。5G技術やインフラ投資の代替ソースの提供、グローバルな問題への取り組みにおける有能なリーダーシップの発揮など、よりソフトな競争手段も、中国の挑戦に対処する上でハードな手段と同様に重要であることを思い起こさせる。また、アメリカの同盟やパートナーシップを、中国の影響力買収や情報操作による内部崩壊から守ることは、外部からの軍事的圧力から守ることと同じくらい重要であることを示唆している。また、アメリカ軍に多額の投資をする一方で、外交や対外援助は手薄にし、アメリカのグローバルな関係ネットワークを空洞化させ、国際機関を弱めたり撤退させたりすることは、アメリカが海外で存在するためのハードパワーとなる軍事力を強化しないのと同じくらい危険であることを示す警告を発しているのである。

最後に、中国の覇権への2つの道を考えることは、米中間の競争が冷戦と似ているようでいて異なることを明確にする。当時も現在と同様、米ソ両国が最も直接的に対峙する軍事的な中心舞台が存在した。中央ヨーロッパである。冷戦期には、この戦域からアメリカを排除することの困難さと危険性から、ソ連は側面攻撃(flanking maneuver)を展開した。モスクワは、経済援助、破壊活動、革命運動とのイデオロギー的連帯などを駆使して途上国での優位を探り、暗黙の軍事圧力と政治的干渉によってヨーロッパとそれ以外の地域でのアメリカの同盟関係を空洞化させようとしたのである。

しかし、ソヴィエト連邦は世界経済のリーダーシップの重大なライヴァルでは決してなく、北京ができるかもしれないようなグローバルな規範や制度を形成する能力も、洗練された能力も持ってはいなかった。ソ連のパワーは結局のところ極めて狭い範囲にとどまっており、モスクワの持つ戦略的選択肢は限られていた。アメリカとソ連は、善と悪、勝利と敗北、生存と崩壊という二元論的な言葉で対立を捉えていたが、今日、ますます激しくなる競争と依然として重要な相互依存を組み合わせた関係において、より微妙なニュアンスを持つようになっている。

アメリカは、現在のような自虐的な軌道をたどらない限り、その競争において十二分に力を発揮することができる。しかし、中国が優位に立つためのもっともらしい2つの道筋を持っているという事実は、この競争が、アメリカの最後の大国間競争時代よりも複雑で、より困難なものになる可能性があることを意味している。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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 古村治彦です。

 今回も海外メディアで紹介された安倍晋三元首相に関する記事をご紹介する。2つの記事は「安倍晋三元首相の業績を評価する」内容である。簡単に言えば、アベノミクスで日本経済を回復させた、日本を「普通の美しい国にする(アメリカの下で戦争ができる国にする)」という目標をある程度達成した、インド太平洋地域の安全保障の枠組みを作るために、インドを引き込むことに成功した、中国との関係は冷え込んだ(対立が激化した)、憲法改正に向かって精力的に動いていた、日本憲政史上最長の在任記録を達成した、自民党最大派閥の領袖としてキングメイカーとして力をふるうところだったなど、である。

 ロシアとの関係(北方領土問題の解決を目指すもうまくいかず)、北朝鮮との関係(北朝鮮のミサイル開発は進み、日本人拉致問題は解決せず)のような「負の遺産」については書かれていない。これらの記事は言ってみれば「礼賛記事」である。

 分析として興味深いのは、安倍元首相が頑固な「ナショナリスト」から「国際主義者(internationalist)」へと臆面もなく進化したことと書かれている点だ。ナショナリストというのはアメリカからすると嫌われる。ナショナリズムを突き詰めていくと反米に貼ってしまうからだ。安倍晋三元首相を中心とする「歴史修正主義(revisionism)」や「核武装論」はアメリカにとって受け入れられるものではない。そうしたところをバランスを取りながら、アメリカに利用されてきたのが安倍晋三元首相だったと私は考えている。アメリカにとっては、防衛予算を増やしたり、自衛隊を海外で「使いやすく」したりしてくれるという点では便利な人物であるが、歴史修正主義や核武装に関してはそんなことは許さないというところだっただろう。

 安倍元首相の逝去で日本政治はこれから変化していくだろう。それだけの存在感があった。どのように変化していくかを注視していく。

(貼り付けはじめ)

安倍晋三元首相はいかにして日本を変えたか(How Shinzo Abe Changed Japan

-暗殺された元首相は複雑な遺産を置いていった。

トバイアス・ハリス筆

2022年7月8日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/07/08/shinzo-abe-assassinated-obituary-japan-legacy-abenomics/

安倍晋三元首相は、2007年9月にそのキャリアを終えるはずだった。2007年7月の参議院選挙で自民党を惨敗させ、首相就任からわずか1年で辞任を余儀なくされた安倍首相自身、かつて期待された政治生命が終わったという見方を広く共有していたようだ。

しかし、その5年後には自民党のトップに返り咲き、2012年12月に劇的な首相への返り咲きを果たす。そして2020年9月、7年8カ月という記録的な在任期間の後に首相の座から退いた後、自民党最大派閥のリーダーとして、また世界の中でも有名な政治家として、日本政府の方向性を左右する並外れた力を持つ、キャリアの第3幕が始まった。

こうして日本の権力の頂点に立った安倍首相は7月8日、参議院選挙を控えた自民党候補の応援演説中に、暗殺者が仕掛けたショットガンの2発の爆風に倒れ、その生涯を閉じた。

安倍首相は、政治家として名高いが毀誉褒貶の激しい一族の出身であり、このような高みに上り詰めたのも当然のことだった。しかし、安倍首相は決して権力そのものに興味があったのではない。1990年代に政界入りした彼は、祖父であり元首相の岸信介からの使命を受け継いだ。それは、日本の政治家たちの助けを受けながら、米国が世界舞台で力を発揮するために課した制約、とりわけ戦後憲法と「平和」条項による日本の軍事力制約を取り除くことだった。

1990年代初頭、冷戦の終結とバブルの崩壊により、独りよがりだった政治分野のエスタブリッシュメントたちは力を失い、安倍元首相をはじめとする若い保守派政治家たちが、「戦後レジームからの脱却(break] away from the postwar regime)」の好機ととらえ、第一次政権時にそれを押し出した。

新しい保守主義者たちは、日本の国家を根本から変えようとした。戦後、内閣の中でかろうじて「同輩中の首席(first among equals)」であった首相の権力を強化しようとした。また、政府の危機管理能力を強化するために、本格的な能力を持つ防衛省、首相直属の安全保障会議など、確固とした国家安全保障体制を構築しようとした。官僚や国会議員の権力を制限した。彼らは国益を犠牲にして自分たちの狭い利益を追求しようとしてきたからだ。そして、アメリカや他のパートナー諸国と一緒に戦うことのできる適切な軍隊を日本が持つことを妨げている制約を緩めようとした。

しかし、安倍元首相がこのプログラムに欠けていたもの、すなわち経済力を身につけたのは、2007年の首相退陣後、荒野に身を置いてからである。

2006年の首相就任後、安倍元首相は経済政策の知識と経験が乏しいことを認めた。他の民主政治体制国家の有権者たちと同様に、日本の有権者たちもまず経済問題に関心を持つことを考えると、これは致命的な欠点である。2009年の自民党の大敗後、野党に戻った安倍首相は、日本経済の停滞という問題を真剣に考えるようになった。

日銀が長引くデフレーションにもっと積極的に取り組むことを望む経済評論家たちと力を合わせ、「全く新しい次元(an entirely new dimension)」の金融刺激策、拡大する財政政策、ハイテク分野への生産シフトと日本の労働力減少を遅らせるための産業・労働・規制政策の数々を盛り込んだ、後にアベノミクスとして知られるようになるプログラムを作成した。

批判者たちの中には、安倍首相がアベノミクスを自らの政治的野心を隠すためのイチジクの葉(fig leaf)として日和見的に利用していると批判する人たちもいるだろうが、事実、アベノミクスは日本の成長課題に取り組むための真剣で、持続的、かつ柔軟な試みであった。しかし、それは安倍首相が成熟した考えを持つようになったことを示すものである。安倍首相は、若手議員の頃は軍事力やアメリカによる日本占領の象徴的な遺産に固執していたが、2回目に首相になると、国力の基盤である経済力を無視できないことを学んだのであろう。より競争力の高い世界で日本の将来を確保するためには、日本経済は新たな成長基盤が必要であった。

アベノミクスのおかげもあり、安倍首相は、最初の首相に続いた短期間の首相の回転ドアを終わらせ、2回目の政権で選挙後に選挙に勝つことができた。アベノミクスは、少なくとも何年にもわたる停滞した賃金を逆転させた。企業の利益、税収、観光客の流れを押し上げ、過去最高を記録した。失業率を下げて過去最低を記録することもできた。

安倍元首相の忍耐力は、国家安全保障会議を設立し、首相官邸に官僚の人事決定を集中させ、日本国憲法を再解釈して日本の自衛隊が集団的自衛隊に従事することを許可するという長年の野心を追求することを可能にした。憲法を改正するために、深刻ではあるが最終的には失敗した入札を開始する。

また、日米関係を強化するだけでなく、インドやオーストラリアといった地域のパートナー(日米豪印戦略対話の基礎を築いた)や東南アジアの主要諸国との関係を深めるなど、野心的な外交政策を追求することができた。また、アメリカが環太平洋戦略的経済連携協定(Trans-Pacific Partnership TPP)から離脱した後、日本は地域および世界の経済統合を追求する上で指導的な役割を果たすことができた。

安倍元首相の数々の成功は新型コロナウイルス感染拡大によって弱められた。新型コロナウイルス感染拡大によって経済的利益が逆転させられ、日本の国家を強化し中央集権化する改革の限界を明らかにした。2020年8月に個人の健康上の理由で辞任したとき、彼は後継者に青写真を残したが、これまでのところ、国内外で力を行使することは、これを超えていない。

一方、安倍首相は、死ぬまで強力な政治力を発揮し、財政政策や防衛政策をめぐる今後の議論において中心的な役割を果たすことができる政治家としての資質も身につけていた。安倍首相の死は、岸田文雄首相たちが埋めるべき大きな空白を残した。

※トバイアス・ハリス:アメリカ進歩センターのアジア担当上級研究員。著書に『因襲打破主義者:安倍晋三と新しい日本』がある。ツイッターアカウント:@observingjapan

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安倍の遺産は彼を超えて生き続ける(Abe’s Legacy Will Outlive Him

-ワシントンは、日本をインド太平洋における真の安全保障上の同盟国にした人物を追悼している。

ジャック・デッチ、エイミー・マキノン筆

2022年7月8日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/07/08/shinzo-abe-assassination-japan-indo-pacific-security/

日本の安倍晋三元首相は金曜日、奈良市で自身の政党の選挙運動中に銃撃され、死亡した。戦後の平和主義から脱却し、日本の安全保障体制、特にインド太平洋地域において、日本とその同盟諸国が自己主張を強める中国に立ち向かうために結集する中で、日本で最も長く首相を務めた人物が、東京に不滅の影響を残しているのだ。

安倍首相は4期にわたって政権を担当し、1年生き延びるのがやっとの首相もいるような不安定な政治状況の中で、2度目の政権を約8年間務めた。中国の台頭に対してより厳しい姿勢とより強気の防衛費に向けて、寡黙な日本国民を説得し、日本の軍事力を強化するとともに、クアッド(Quad)として知られる日米豪印戦略対話(Quadrilateral Security Dialogue)の見直しに向けたレトリックの土台を構築した。

ランド研究所で東アジアの安全保障問題を専門とする政治学者のジェフリー・ホーナングは、「安倍元首相は日本の外交政策と国際舞台での日本の役割を大きく前進させた。彼は、クアッドや自由で開かれたインド太平洋といったものを提唱した人物だ。彼は、崩壊しそうな時に提供される必要があったものに、構造的、概念的なアイデアを提供するのを助けた」。

日本は1990年代の「失われた10年(lost decade)」に埋没し、安倍元首相が登場するまでは、大局的な戦略的思考から遠ざかっていた。しかし、安倍元首相が「アベノミクス」と呼ばれる金融緩和政策と財政出動のカクテルで、かつて強力だった日本経済を超高速で(ワープスピード、warp speed)に戻そうとするにつれ、東京の戦略予測は変化しはじめた。

安倍元首相は、中国をあからさまに刺激することなく、非同盟のニューデリーを対話に誘い込むために、太平洋の安全保障についてインドを含めて拡大することに中心的役割を果たした。2007年、安倍首相は短い任期中に初めてインドを訪問し、インド洋と太平洋の間の「二つの海の合流点(confluence of the two seas)」についての構想を演説し、後にアメリカが採用した「自由で開かれたインド太平洋」の基礎となるヴィジョンを示した。また、2004年のインド洋大津波をきっかけに非公式に発足し、後に地域安全保障フォーラムとして再構築された「クアッド(Quad)」の立役者としても広く知られている。

オバマ政権時代に副大統領として安倍元首相と仕事をしたジョー・バイデン米大統領は、金曜日に声明を発表し、「安倍元首相は日米同盟と日米両国民の友情の擁護者であった。日本の首相として最も長く在職し、自由で開かれたインド太平洋という彼のヴィジョンは、今後も続くだろう」と述べた。

安倍元首相は、戦犯を含む第二次世界大戦の日本軍を祀る神社を参拝して批判を浴びた強固な日本のナショナリスト(nationalist)から、臆面もなく国際主義者(internationalist)へと進化した。アメリカの元政府高官や専門家たちは、安倍元首相の影響は太平洋を越えて波及していると考えている。安倍は、アメリカの権力の回廊でこの地域について語られる方法に、紛れもない影響を及ぼした。2017年、日本の政府関係者は安倍元首相の「自由で開かれたインド太平洋」構想をワシントン周辺で喧伝し、非同盟のインドを惹きつけようとした。このフレーズは、今やバイデン自身のトークポイントの主力となっている。そして米防総省は2018年、この地域の最高軍事司令部の名称を米太平洋軍から米インド太平洋軍に変更したが、これは安倍首相の影響力を証明するものである。

米インド太平洋軍司令官と駐韓アメリカ大使を務めたアメリカ海軍の四つ星提督(退役)ハリー・ハリスは次のように述べた。「国際的に日本が置かれている状況は、安倍元首相に一直線に戻ることができると思う。難しいことはないだろう。安倍元首相は日本と同盟にとって変革のリーダーだった。インド太平洋の両側で多くの人が彼を惜しんでいることだろう」。

戦後、アメリカ軍に占領された日本の憲法は、帝国日本の軍国主義への回帰を防ぐために平和主義を謳い文句にした。しかし、2015年には、自衛のための限定的な武力行使を容認する法案が国会で可決され、戦争の悲惨さを思い知る国民を前に、安倍首相は長年の目標であった戦争放棄の条文を削除することに失敗した。安倍首相は、国家安全保障会議の設置、2013年の日本初の国家安全保障戦略の採択、首相官邸での意思決定の一元化など、日本の安全保障機構を一新する一連の制度改革を推進することに成功した。

安倍元首相は第二次世界大戦の遺産を過去のものにしたいという願望を持っていたが、批判的な人々から、安倍元首相は歴史を修正し、戦時中に日本軍が行った残虐行為を軽視していると頻繁に非難された。そのプラグマティズムにもかかわらず、安倍首相は日本の最も重要な安全保障と貿易のパートナーの1つである韓国との関係をほぼ冷却化し、戦時中の韓国人奴隷労働者の利用をめぐって日本に8万9000ドルの賠償金を支払うよう求めた韓国の最高裁判決をめぐって、2018年に貿易戦争を開始した。

安倍首相が2度目の政権に復帰した2012年、前任の野田佳彦元首相が、中国が釣魚島と呼ぶ東シナ海の尖閣諸島の領有を主張し、激しく争う国有化を決めたことで、日本の中国との関係はどん底に陥っていた。安倍首相の在任期間中、関係は冷え込んだままだった。当時のバラク・オバマ大統領は、尖閣諸島での戦闘を含めて、アメリカの日本に対する安全保障上の関与を再確認した。

ブルッキングス研究所東アジア政策研究センター長のミレア・ソリスは、「アメリカがこの地域に完全に留まっていることを確認することが中心だった。安倍元首相は、中国が覇権を握るアジアでは日本は生きていけないと強く感じていた」と述べている。

それは、自由で開かれたインド太平洋を維持しようとする彼の努力と、インド、アメリカ、オーストラリアとのクアッドへの関与を裏打ちするものであった。多くの同盟国との関係を緊張させたトランプ政権の間、安倍首相はニューヨークへ飛び、就任前にトランプと会談するなど、魅力攻勢(charm offensive)を仕掛けた。

安倍首相は、アメリカの政策立案者の頭の中にあった太平洋とインド洋の結合、地域の同盟関係の拡大について努力し、国内では平和主義者の日本が、インドは形式的に軍事的に非同盟のままでインドを仲間に引き入れるという利益を得た。

ランド研究所の専門家であるホーナングは、「中国に反発していると口先だけで言うのではなく、実際に中国に反撃することができる。自由と透明性の原則を守るだけで良い。日本政府は決して言わないだろうが、中国の影響力を抑制し、中国に一度も言及することなく中国のやっていること全てに反撃しようとする戦略であり、実に巧妙であった」。

2020年の驚きの退陣後も、安倍首相は台湾を擁護する発言をし、2020年12月には中国が台湾に侵攻すれば「経済的自殺行為(economic suicide)」と警告するなど、日本政界で力を発揮していた。2022年4月の『ロサンゼルス・タイムズ』紙への寄稿では、台湾とウクライナの類似点を強調し、アメリカの戦略的曖昧さの立場が成り立たなくなったと主張した。安倍元首相は「今こそアメリカは、中国の侵略計画から台湾を守ることを明確にしなければならない」と書いている。

そして、安倍元首相は殺害される前、日本政治のキングメイカーとなるべくしてなった。専門家や政府高官たちは、安倍首相の影響力はまだ残っていると考えている。この10年余りの間に、日本はGDPの2%を防衛費として使うようになった。何十年もの間、その半分を使うのがやっとだった日本にとって、これは急な変化である。また、日本は軍事的により攻撃的な方向へと舵を切り続けている。安倍首相の後継者である岸田文雄首相は、敵対勢力に対する先制攻撃という、ほんの数年前までは考えられなかったことを言い出している。

ホーナングは次のように述べた。「安倍首相は、中国を問題視して危険信号(赤旗、red flag)を掲げた最初の人物だ。防衛の問題だけではない。経済的な問題でもある。外交問題でもある。政府全体の問題なのだ。そういう意味で、安倍首相は実にユニークで、自衛隊のこれからのあり方を示してくれた」。

※ジャック・デッチ:『フォーリン・ポリシー』誌国防総省・国家安全保障担当記者。ツイッターアカウント: @JackDetsch

※エイミー・マキノン:国家安全保障・情報分野担当記者。ツイッターアカウント:@ak_mack

(貼り付け終わり)

(終わり)※6月28日には、副島先生のウクライナ戦争に関する最新分析『プーチンを罠に嵌め、策略に陥れた英米ディープ・ステイトはウクライナ戦争を第3次世界大戦にする』が発売になります。


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