古村治彦です。

 新型コロナウイルス感染拡大は世界的な規模で危機的状況を作り出している。アメリカ国内も中国や日本を馬鹿にしていたが、今やプロスポーツは中止、選挙も延期などと影響が出ている。有名人が手を洗う動画を投稿し、「皆さん、しっかり手を洗いましょう」という呼びかけを行っている。手洗いうがいに関しては、日本の方が勝っているだろう。

 そうした中で、新型コロナウイルスを「ブーマー・リムーヴァー(boomer remover)」というスラングで呼ぶことがアメリカのインターネット上では流行しているそう。「ブーマー」とは「ベイビー・ブーム世代」、日本で言えば「団塊の世代」だ。戦後すぐ生まれから15年後くらいの間の世代ということになる。1946、47年から1964年くらいまでに生まれた人々であり、年齢で言えば55歳から74歳くらいまでを指す。

 「リムーヴァー」は除去剤という意味だ。ペンキやインク、マニキュアを剥がす液体などがリムーヴァーという。「ブーマー・リムーヴァー」とは「ベイビー・ブーム世代を除去するもの」という意味になる。新型コロナウイルスについてはその特徴として、高齢者になるほど重症化リスク、致死率が高いということが知られている。若者の重症化リスク、致死率が低い。これで「人口が多い高齢者だけを除去する(殺す)ウイルス」ということになる。何とも嫌な言葉である。しかし、現在の先進国が抱える、世代間の不公平感を示す言葉ともなっている。

 私のある知人は、「この新型コロナウイルスって高齢者しか死なないなんて、財務省からしたら最高じゃない?社会保障関連予算がどんどん増える中で年寄りだけが減るんだから。財務省にしたら万歳しながら、“社会保障改善ウイルス”と呼びたいんじゃないの」と冷酷に述べていた。これは、超高齢社会(高齢者が人口に占める割合が3割弱)の中で、税金と社会保障費で約5割の負担が重い中で、高齢者たちはバブルも経験して、逃げ得をしようとしている、という現役世代は不平不満を持っているということを示している。
 下の記事で言えば、ミレニアル世代とは20代中盤から30代後半までの人々、Z世代は18歳から20代中盤を指す。日本で言えば、団塊ジュニア世代は、アメリカで言えばX世代と呼ばれている。

 日本ではメディアの報道もあり、高齢者も新型コロナウイルスの危険性を理解し、行動を抑えている人々が多いように思う。しかし、以下の記事で紹介されているのは、アメリカでは、ベイビー・ブーム世代の高齢者が危険性を理解せず、子供たち世代の説得も聞き入れないで生活を抑制的にしないことで、子供たち世代が苛立っているということだ。ベイビー・ブーム世代の高齢者について「話が通じなくて、知識がない」という認識を持つ若い人たちが多くなっているということも紹介されている。この点は興味深い。

 社会が危機的状況に陥ると様々な事象が出てくるが、新型コロナウイルス感染拡大とともに「ブーマー・リムーヴァー」という言葉も拡大しているというのは、先進国の行き詰まり感をよく示しているものだと思う。

(貼り付けはじめ)

寒気がするコロナウイルスに関するインターネット上のスラング「ブーマー・リムーヴァー」は、ミレニアル世代の人々をより怖い世代だと考えさせるだけの効果しかない(Morbid ‘boomer remover’ coronavirus meme only makes millennials seem more awful

ハンナ・スパークス筆

2020年3月19日

『ニューヨーク・ポスト』紙

https://nypost.com/2020/03/19/morbid-boomer-remover-coronavirus-meme-only-makes-millennials-seem-more-awful/

コロナウイルスの爆発的流行に対する新しいスラングが出て来ているが、それは嫌な思いをするが、寒気がするほど実態を表している言葉だ。それは、「ブーマー・リムーヴァー(boomer remover)」だ。

この虚無的なキャッチフレーズは、投稿型ソーシャルサイト「レディット(Reddit)」で拡散されて、全てのSNSプラットフォームでも拡散されている。特に知識が豊富なミレニアル世代の人々の間で広がった。こうした人々は、COVID-19ウイルスはベイビー・ブーム世代、もしくは55歳から75歳までの人々に狙いを定めているように見えるという事実を取り上げている。

疾病コントロール・予防センターのデータによると、アメリカ国内ではコロナウイルス感染関連で入院している患者の40%が54歳よりも若い人々であるという事実はある。しかし、今回の疾病がより年齢の高い人々にとってより厳しいものとなるということも事実だ。コロナウイルス関連での死者の80%が65歳以上である。

このような状況の中で、「ブーマー・リムーヴァー」は現在、インターネット上で流行語(trending meme)となっている。

しかし、アメリカ政府の医療関係の役人たちは、感染数の「カーヴを緩やかに」するために全ての年代の人々は家に留まるように求めている。若い人々の多くは、ベイビー・ブーム世代に属する両親や祖父母の世界規模の健康上の危機に対する無気力なアプローチを取るように感じている。

成人した人々からすれば高齢の人々の思慮のない行動が懸念材料となる。

フリードリッヒ・エイジェンシーの出版エージェントをしているルーシー・カールソンは心配しながら次のようにツイッター上で書いている。「糖尿病を持っているベイビー・ブーム世代の親に町中に行かないように止めるために説得するベストなアドヴァイスは何?電話で怒鳴ってしまうのは私の流儀ではないのだけれど」。

別の不満を持っているミレニアル世代のある人は次のようにツイートした。「70歳になるおふくろに、同世代が集まる行為を全部やめるように言う前に、若い人たちがコロナウイルスをブーマー・リム―ヴァ―と呼んでいるようだよ、と言ってやったんだ」。

『ニューヨーカー』誌のマイケル・シュルマン記者はツイッター上に、「ベイビー・ブーム世代の親たちが自分たちよりもコロナウイルスについて真剣に捉えていない」ことを教えて欲しいと投稿したところ、似たような状況にあって苛立っている子供世代から1500以上もの返事が返ってきた。こうした人々の中には、高齢の親戚がフロリダに休暇に行くと言って説得を聞き入れてくれない、いつも通りに教会に行くと言い張る、101歳になる両親に会いに行くのが悪いことなのかと食って掛かるといったエピソードが紹介されている。

ミレニアル世代はまだ家族として高齢者を心配しているところがあるが、Z世代の人々は高齢者に対してより敵対的な態度を取っている。

ツイッターユーザーのBW・カーリンはSNS上の議論を踏まえながら、「中学校の生成をしている親戚がいるのだけど、生徒たちはコロナウイルスを“ブーマー・リムーヴァー”と言っているんだって」とツイッター上に投稿している。

昨年、Z世代とミレニアル世代の人々は、高齢者に対する怒りを「分かったから、ブーマー世代(OK, boomer)」というキャッチフレーズを作ることで表現した。このベイビー・ブーム世代を馬鹿にする否定的な表現は、55歳以上の人々について話が通じず、何も知らないと若い人々が考えていることを示している。

しかし、ブーマー・リムーヴァーというより強い意味を持つ表現は更に先に進んだものと言えるだろう。

この言葉に対して批判的なある人物は次のようにツイートしている。「ハハハ、ブーマー・リムーヴァーか。これにはあなたの家族や愛する人、それに有名人や政治家も含まれる。こうした人々は若い人たちを常に助けてきた。彼らの政治的な考え方は未熟だ」。

別の人物は次のように不満を表明している。「#BoomerRemoverというタグをつけている奴らについて簡単に言うと次のようになる。これまで“ダメ”と言われたこともなく、共感や責任感を教えられたこともない甘やかされた子供ちゃんたちだ。誰も相手なんてしない。どれだけでも甘やかされたいんだろう。そして実際に甘やかされている」。

今週初め、『フィナンシャル・タイムズ』紙のラナ・フォールハー記者はこの流行している言葉の政治的な文脈からの分析を行った。

フォールハーは次のように書いている。「若い人々はコロナウイルスを“ブーマー・リムーヴァー”と呼んでいる。これは現在、社会全体に共感が欠けているということを反映している。しかし、同時に若い世代が年齢の高い世代に対して持っている漠然とした政治的な怒りも反映している」。

しかし、他の人たちはこうした論争を和らげようと努めている。ベイビー・ブーム世代の中には、十代の時に世代間の戦いを戦い抜いた人たちがいる(性的革命、ヴェトナム戦争への抗議活動、ビートルズ)と主張している人々がいる。

ヴィデオ作家ジャック・セイントは次のように書いている。「コロナウイルスを“ブーマー・リムーヴァー”と呼ぶ十代は恐ろしい。しかし、これがどのように誤っているかを教えようとしている人々は、十代がどんな人たちで何を考えているかを知らなければならない」。

結局、高齢者たちのコロナウイルス関連死を笑っている世代は、現在、春休みでフロリダの海岸に集まっている人々なのである。

(貼り付け終わり)

(終わり)

amerikaseijinohimitsu019
アメリカ政治の秘密
harvarddaigakunohimitsu001
ハーヴァード大学の秘密 日本人が知らない世界一の名門の裏側