古村治彦です。

 2020年アメリカ大統領選挙民主党予備選挙はアイオワ州の党員集会からいよいよ実際の投開票が始まった。アイオワ州では党員集会の最初と最後で2回誰を支持するかの集計を取り、スマートフォンのアプリで民主党のアイオワ州党本部に報告することになっていたが、このアプリが使いにくいものであったために、集計は大いに遅れ、結果は最終的に2020年2月10日に発表される予定だ。

 アイオワ州の党大会の暫定的な結果としては、1位にインディアナ州サウスベンド市前市長ピート・ブティジェッジ、2位にバーニー・サンダース連邦上院議員(ヴァ-モント州選出、無所属)、3位にエリザベス・ウォーレン連邦上院議員(マサチューセッツ州選出、民主党)、4位にジョー・バイデン前副大統領、5位にエイミー・クロウブッシャー連邦上院議員(ミネソタ州選出、民主党)となった。ブティジェッジとサンダースの得票率の差は0.1%と大接戦となった。これまでの世論調査では、バイデンが1位か2位に入っていたのに、4位に沈んだことが衝撃的だった。

 今年に入ってから全国的な世論調査の結果で、バーニー・サンダースの勢いが出てきたことはこのブログをお読みの皆さん方には既に当たり前の知識となっているはずだ。今、日本のメディアでいかにもびっくりしたようにアイオワ州での結果を報道しているが、このブログや私のツイッターを読んでおられる方々には「何をいまさら」という内容だ。

 民主党内部でサンダースの勢いを警戒している人々がいる。それは民主党エスタブリッシュメント派、主流派と呼ばれる人々だ。ワシントンの政治にどっぷりとつかった政治家や民主党全国委員会の幹部などだ。昔風に言えば、パーティー・ボス(party boss)だ。民主党は昔から「ボス政治」が盛んだった。人々に利益を与え、その見返りに地位を得る、というポークバレル・ポリティックス(pork barrel politics)をやってきた。

 民主党の「ボス政治」の証拠、名残りが「特別代議員(superdelegates)」という存在だ。「代議員」というのは民主党全国大会(Democratic Convention)に出席して党の意思決定に参加する人々のことだ。最大の決定事項は党の大統領選挙本選挙候補者を指名することだ。民主党は全米各州や自治領に人口に応じて全部で3977名の宣誓済み代議員(pledged delegates)を配分している。今回のアイオワ州には41名の代議員が配分されており、得票率に応じて予備選挙の候補者に配分される。最終的な結果はまだだが、ブティジェッジには13名か14名、サンダースには12名、ウォーレンには8名、バイデンには6名、クロウブッシャーには1名の代議員が配分される。この大議員たちは全国大会でそれぞれの候補者に投票する。

 特別代議員は連邦議会議員や州知事、民主党全国委員会の幹部など771名だ。この人々は全国大会に出席して、自分の意志で支持する候補者に投票することができる。自分の選挙区や州の予備選挙の結果に縛られることはない。この特別代議員制度は共和党にもあったが2012年の選挙から廃止している。
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2016年民主党全国大会
 2016年の大統領選挙民主党予備選挙はヒラリー・クリントン元国務長官とバーニー・サンダースの一騎討となった。最終的にはヒラリーが勝利した。この時の予備選挙では、特別代議員と宣誓済み代議員が一緒に投票する形で会った。そうなると、特別代議員で既に数百票の差をつけていたヒラリーの勝利は確実なものと決まっていた。これについて、おかしいではないか、特別代議員の影響力が強すぎるということで大きな非難、抗議が起きた。
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広義の様子
 今回の予備選挙のルールは2018年に決定された。特別代議員を廃止するのではなく、影響力を弱めるということになった。これは民主党主流派が自分たちの力をどうしても温存しておきたいという意向が強く働いた結果だ。しかし、そのためにルールが複雑なものとなってしまった。

 今年の民主党全国大会では、全米に配分された宣誓済み代議員3979名の過半数1990名以上を獲得した候補者が党の指名候補となる。党全国大会までに予備選挙の投開票は全て終わっているので、その時点で1990名以上の宣誓済み代議員を獲得している候補者は自動的に党の指名候補となる。

 宣誓済み代議員2268名(全宣誓済み代議員の約57%)と超過半数を得ている候補者がいる場合には、特別代議員も宣誓済み代議員と一緒に投票できるが、結果は既に超過半数2268名(過半数は1990名)を得ている候補者の勝利であるので、特別代議員の投票が結果に影響を与えることはできない。

 今回の宣誓済み代議員1886名から2267名を獲得した候補者が出た場合、特別代議員は1回目の投票には参加できない。そして、宣誓済み代議員たちだけによる投票の結果で候補者が決まる。従って、1886名以上の宣誓済み代議員を獲得した候補者が勝利者となる。特別代議員は投票結果に影響を与えることはできない。

 「ブローカー全国大会(brokered convention)」の状態となる場合はどの候補者も宣誓済み代議員1885名を獲得できない場合だ。この場合はまず全国大会で1回目の投票が実施される。そして、1885名以上の宣誓済み代議員獲得候補者が出ないとなり、2回目の投票が実施されることになる。この時は特別代議員が投票に参加できることになる。特別代議員も入っての東京となると、投票総数4750となり、過半数は2376となる。競争的全国大会状態となると、過半数2376に達するまで投票が実施される。

 長々と書いたが、今回の民主党全国大会ではブローカー全国大会の状態にならない限り、特別代議員が影響力を行使することはできない。

 現在の勢いでサンダースが1886名以上の宣誓済み代議員を獲得するとなると、主流派が推しているバイデンは勝利できないということになる。また、誰も1885名以上の宣誓済み代議員を獲得した候補者が出ない場合でも、進歩主義派のサンダースが2位、ウォーレンが3位となった場合には2,3位連合を組むことでサンダース勝利が近づく。中道派はバイデンに一本化できるかどうかが焦点となる。そこで重要なのがこのブログでもお知らせしてきたマイケル・ブルームバーグの動きだ。
 そこで、民主党の一部で、ルールを変更すべきだという主張が出ているそうだ。2018年に決めたルールを実際に選挙が始まって変えようというのはあまりにご都合主義だ。しかし、それほどにサンダースの勢いが高まっているということを示している。

 民主党主流派は今回の選挙では一時的に特別代議員の影響力を弱めておいて、次回はまた特別代議員の影響力を高めようともしている。

 民主党内部は深刻な分裂を抱えながら大統領選挙を戦う。この分裂は修復がかなり難しいように思われる。

(貼り付けはじめ)

民主党全国委員会の複数のメンバーが民主党全国大会においてサンダースの党指名候補獲得を阻止すべくルール変更を話し合った(DNC members discuss rules change to stop Sanders at convention

―このよう話し合いがなされているというのは、予備選挙の投開票が始まる直前においてヴァ-モント州選出連邦上院議員の勢いが上がっていることについて懸念が広がっていることを示している。

デイヴィッド・サイダース筆

2020年1月31日

『ポリティコ』誌

https://www.politico.com/news/2020/01/31/dnc-superdelegates-110083

アイオワ州デモイン発。民主党全国委員会の少数のメンバーが私的に集まって、「バーニー・サンダースの大統領選挙運動の勢いを弱める、もしくは民主党全国大会において1回回の投票で党の指名候補が決まらないようにする」ことに関する計画への支持を集めようと動き始めている。

民主党全国委員会の幹部会の休憩時間、電話やEメールを通じて、6名ほどの民主党全国委員会のメンバーたちが、いわゆるスーパーデレゲイト(特別代議員、superdelegates)が民主党全国大会において1回目の投票から参加できるようにするルールの変更を行う可能性について議論した。このようなルール変更が行われた場合、民主党全国委員会のメンバー、党所属の連邦議員、また民主党の幹部たちの持つ、党の指名候補選びへの影響力が増大することになる。現在のルールでは、スーパーデレゲイトたちは、民主党全国大会の1回目の投票で党の指名候補が決定されない場合に、投票に参加ができるようになっている。

ある民主党全国委員会のメンバーが先週、民主党全国委員会のテネシー州代表メンバーであるウイリアム・オーウェンにEメールを送ってきた。オーウェン自身はルール変更を支持していない。Eメールには「私たちはルールの変更をすべきだと確信しています。ルール変更に関しては他のメンバーからも賛成の意見を聞いています」。

オーウェンはメッセージを送ってきたメンバーの名前を明らかにすることは拒否したが、このメンバーは更に「ルール変更を実際に行うことは難しいと思います。私たちはルール変更のための会議を開くか、全国大会の場で決めるかすべきです」と書いていると述べた。

ルール変更の支持者たちは、ルール変更を行うのに十分な支持を集めることはできないと認識している。しかし、こうしたルール変更に関する会話は、民主党エスタブリッシュメント派の多くがアイオワ州党員集会を前にして大きな不安と怒りを感じていることを示している。

サンダースは支持率を伸ばし、一方でバイデンは全国レヴェルではリードを維持している。しかし、少なくとも3名の候補者たちは有力だと見られている。現在の候補者たちの数とそれぞれの勢いから、民主党全国大会においては、1回目の投票で党の指名候補が決まらずに2回目の投票が必要となると見込まれている。

月曜日のアイオワ州での党員集会でサンダースが勝利を収め、これ以降も支持を伸ばし続ける場合、全国大会において多数の宣誓済み代議員(pledged delegates)を獲得しているという想定も可能となる。しかし、サンダースは、1回目の投票で過半数を獲得し、党の指名候補となるには不十分な数しか獲得できないだろうと考えられている。サンダースと同じ進歩主義派のエリザベス・ウォーレンが獲得宣誓済み代議員数で2位か3位で民主党全国大会に臨む場合、サンダースとウォーレンの獲得代位議員数を合計すると、トップを上回る可能性もある。

2回目の投票になってスーパーデレゲイトは自分たちが支持する候補者に投票することになる。そうなれば形勢を逆転できる(訳者註:サンダースではなくバイデンを党の指名候補に選ぶことができる)であろうが、民主党員の多くは、そのような結果になれば、党の指名候補になった人物の本選挙での戦いの邪魔となる反乱がおきるかもしれないと懸念している。

ルール変更に関する会話は、サンダースが予備選挙で勢いを増している中で行われた。しかし、民主党全国委員会の中で具体的に話が進んでいるものではない。

サウスカロライナ州出身の民主党全国委員会元委員長ドン・ファウラーは「民主党全国大会の場で今回の候補者選びの過程に関するルールの変更について会話がなされたそうです。しかし、それは正式なものではなくて気軽なものだった。私も少し参加しましたよ」と述べている。ファウラーは2018年に民主党全国委員会が最終決定された、スーパーデレゲイトが党の大統領選挙指名候補選びの過程において持っている力を削ぐことに反対した人物だ。ファウラーは続けて「しかし、はっきりさせておきたいのは、私は2020年の党の全国大会の場でそのようなルール変更をしようと試みる勢力には加担していません」と述べた。

ファウラーは更に次のように語った。「民主党全国委員会の席上でルールを決めるにあたり私たちの主張は通りませんでした。それで私たちがルール変更に関して今回の全国大会の場で争いを起こそうとするのは誠意ある態度ではないと思います」。彼は、そのようなことをすれば、「民主党全国大会の歴史の中で最も忌むべき戦い」が展開される結果になってしまうだろう、と述べた。

ファウラーは会話に参加したメンバーの名前を明かすことを拒絶した。そして、民主党全国委員会はルール変更に関する考えを却下した。

民主党全国委員会の広報担当デイヴィッド・バーグスタインはEメールを通じた取材に対して次のように答えた。「現在の民主党全国委員会委員長トム・ペレズは、あらゆる手段を講じて、自動的に決定される代議員(スーパーデレゲイト)ではなく、民主党の指名候補が予備選挙の投票を通じて選ばれた宣誓済み代議員によってえらばれるようになるよう戦いました。民主党全国委員会は今回のルール改正を満場一致で可決しました。現在のルールは私たちの党をより強くし、党の指名を受けた候補者が、党を支える支持者の方々から全面的な支援を受けられるようにするものです」。

どの候補者も代議員の過半数を獲得しない全国大会になってスーパーデレゲイト、現在は「自動代議員」と呼ばれる代議員2回目の投票ができるようにした。これはスーパーデレゲイトの力を削ぐ決定だ。この決定がなされるまでに2016年の大統領選挙から2年刊を費やした。2016年の大統領選挙の民主党全国大会で、スーパーデレゲイトの圧倒的多数がヒラリー・クリントンを支持したことに、サンダース支持者たちは激怒した。

2018年のルール変更は民主党左派にとっては大きな勝利だったと見られている。この当時、代議員制度の改革を「歴史的な」事業と位置付けていた。一方、民主党内の進歩主義派と穏健派の多くは、党の権力の集中化に疑問を持つ若い有権者たちに自分たちの主張を声高にアピールしていた。

会話の中で他のメンバーに対してルール変更を主張した民主党全国委員会のあるメンバーは、今週の試みについて「厳しい戦い」だと形容した。

しかし、このメンバーは名前を明らかにすることは拒絶しているが、この人物は党の全国大会は「党の最高の意思決定機関であり、党の全国大会は望むことはなんでもできるのです」と述べた。

この人物は更に「民主党全国委員会のメンバーは予備選挙でも1回目の投票をすることができないんですよ。サンダース氏が勢いを増している状況が続けば、全国大会でどのようなパニックが起きるかを見ることになります」と述べた。

ミルウォーキーで今年開催される民主党全国大会の後でルールの改正が行われる可能性は高い。これは今年の党の指名候補選びのためではないが、2024年の党の指名候補選びのためである。

前述のファウラーは「今回の民主党全国大会の後、ルール改正が行われることが予期されます。古いルールが採用されるようにする努力がなされるでしょう。古いルールについて関心を持つ人はたくさんいます」と述べた。

この記事が出された後、ペレズはツイッター上で次のように書いた。「そんなことは絶対にない。私たちは権力を草の根の人々に戻すようにしてきた。私たちは民主党全国委員会が決めたルールに従っていく。それを変えるようなことはしない。ルールを変更することはない」。

サンダース陣営の上級顧問ジェフ・ウィーヴァ―はEメールの中で、「民主党が数年をかけて実施してきた党指名候補決定の過程について述べるならば、改革を実施しようとしてこなかったことが深刻な間違いなのである」と述べた。

2016年の予備選挙の後にスーパーデレゲイトの力を弱める動きに強く反対した人々の多くも現在のルールを変更することに関心を持っていない。

民主党全国員会の元委員長ドナ・ブラジルは民主党ルール・内規委員会での議論について次のように述べた。「私がついた側は議論に負けました。せっかく治った傷口を再び開くようなことは賢いことではないと考えています」。

ブラジルは次のように語った。「2024年までに、2016年の大統領選挙の後がそうであったように、昔のような公平なゲームになるようにルールは変更されることになるでしょう。しかし現在のところは、現在のプロセスに私たちは満足すべきなのです」。

オーウェンもまたスーパーデレゲイトの影響力の削減に反対した。しかし、オーウェンは金曜日に「ルールに関するいかなる変更もルール変更に投票した人々の横っ面を張り倒す」ようなものだと述べた。

オーウェンは次のように語った。「私は、私たちのティームを勝たせたいと考えています。ティームを勝たせる方法は分裂ではなく、団結です」。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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