古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:for

 古村治彦です。

 ジョー・バイデン政権の閣僚(cabinet members)人事で重要なのは、国務長官や財務長官といった重要閣僚の人事ではない。私が注目しているのは気候変動問題担当大統領特使(U.S. Special Presidential Envoy for Climate)ジョン・ケリー(John Kerry、1943年-、77歳)とアメリカ国際開発庁(USAID)長官(administrator)のサマンサ・パワー(Samantha Power、1970年-、50
歳)だ。今回はサマンサ・パワーを取り上げる。
samanthapowerjoebiden001
バイデン(左)とサマンサ・パワー

 私は著書『アメリカ政治の秘密』の中で、サマンサ・パワーを取り上げた。彼女は2008年の大統領選挙でオバマ選対に入り、民主党予備選挙でヒラリー・クリントン陣営と激しい戦いをする中で、イギリス・スコットランド地方の新聞のインタヴューを受けた際に、ヒラリーを「彼女は怪物よ、もちろんこれはオフレコでお願いね(She is a monster, too—that is off the record)」と発言したことが、そのまま掲載されたために、選対を離れることになった。オバマ政権では国家安全保障会議のスタッフになり、オバマ政権二期目には、閣僚級の米国国連大使に任命された。

 パワーは1990年代に、20代でジャーナリストとなり、民族紛争が激化していた当時のバルカン半島を取材した。そして、2002年に最初の著作『集団人間破壊の時代(A Problem from Hell": America and the Age of Genocide)』を出版した。これが2003年にピューリッツァー賞 一般ノンフィクション部門を受賞する。そこで高い知名度を得た。

 USAIDの予算規模は2016年の時点で272億ドル(約2兆9000億円)、人員は約4000名だ。「庁(Agency)」となっているが、「省(Department)」クラスの規模だ。ここに人道的介入主義者(humanitarian interventionist)のサマンサ・パワーを長官に持ってくる。その意味は重たい。

更に言えば、バイデン政権から、USAID長官も国家安全保障会議(National Security Council、NSC)にも出席できるようにする、ということになった。ここが重要ポイントだ。国家安全保障会議は縦割りの弊害をなくし、大統領の許で、外交や国家安全保障政策を一元化するための会議であり、アメリカにとっても世界にとっても最重要の会議である。議長は大統領であるが、実際の差配は国家安全保障問題担当大統領補佐官(National Security Advisor)が引き受ける。もっと細かいことは国家安全保障問題担当次席大統領補佐官(Deputy National Security Advisor)が行う。国務長官や国防長官、財務長官などは出席する。これまでの正式な出席メンバーは以下の通りだ。

(貼り付けはじめ)

●議長:大統領、●法的参加者:副大統領、国務長官、国防長官、エネルギー長官、●軍事アドバイザー:統合参謀本部 (JCS) 議長、●情報関係アドバイザー:国家情報長官、●定期的参加者:国家安全保障問題担当大統領補佐官、首席補佐官、国家安全保障問題担当次席大統領補佐官、●追加参加者:財務長官、司法長官、国土安全保障長官、ホワイトハウス法律顧問、アメリカ合衆国国家経済会議委員長、米国国連大使、アメリカ合衆国行政管理予算局局長

(貼り付け終わり)

省の長官(Secretary)でも出席できないものが殆どであるのに、国務省の傘下にあるUSAIDの長官(administrator)が出席できるようになった。これは、「アメリカの海外援助を国家安全保障政策や外交政策と同格に扱う」ということ、歴代政権もぼやかしてきたことを、初めて明確にしたのである。私たちは海外援助と言えば、井戸を掘ったり、農業技術の支援をしたり、学校や道路、橋を建設したり、ということをイメージする。困っている人たちを助ける、ということを想像する。

 しかし、アメリカの海外援助はそうではない。そんなただでお金をくれてやる、そんな無駄なことはしない。海外援助を「ターゲットにした国の体制転換(regime change)のために」使うということなのである。私はその実態を『』の中で書いている。そのために、人道的介入主義派(humanitarian interventionism)のリーダーである、サマンサ・パワーをUSAID長官に持ってきた。更に、サマンサ・パワーがホワイトハウスでの国家安全保障会議に出席できるようにした。バイデン政権は海外介入をやる気満々だ。

現在、新型コロナウイルス感染拡大が問題になっている。バイデン政権は感染症対策のために、このUSAIDの海外援助を利用しようとしている。中国が世界各国に対して支援を行っているが、アメリカもそれに遅れてはならじ、ということであろう。しかし、新型コロナウイルス感染拡大が一番深刻なのはアメリカである。まずは自国のことからしっかりやれよ、そのためにUSAIDの予算を削減して国内対策に回せ、と私は考える。

 人道的介入主義とネオコンは同根である。「アメリカの理想や価値観を世界中に広めて、それで統一すれば戦争は起きない、平和な世界になる」という何とも思い上がった思想を共有している。そのためにターゲットにされる国にとっては災難であり、厄災である。バイデン政権誕生を喜んでいる人間は何ともおめでたい人たち、なのだ。

(貼り付けはじめ)

バイデンは元米国国連大使をUSAIDのトップに指名し、アジア担当スタッフを強化(Biden Names Former U.N. Envoy to Head USAID, Beefs Up Asia Staff

-元米国国連大使サマンサ・パワー(Samantha Power)はトラブルを抱えた政府機関を立て直すことになるだろう。一方、オバマ政権に参加したヴェテラン、カート・キャンベル(Kurt Campbell)とイーライ・ラトナー(Ely Ratner)をアジア担当のトップの地位に就く

ジャック・デッツ、アイミー・マキノン筆

2021年1月13日

『ザ・ヒル』誌

https://foreignpolicy.com/2021/01/13/biden-names-former-u-n-envoy-to-head-usaid-beefs-up-asia-staff/

大統領選挙当選者ジョー・バイデンは元米国国連大使サマンサ・パワーを米国国際開発庁(U.S. Agency for International DevelopmentUSAID)に指名している。著名なジャーナリストだったパワーを外国向け支援担当政府機関の責任者にすることになる。USAIDは過去4年間に予算削減と運営管理の失敗によって動きが取れなくなってしまっている。

パワーがUSAID長官に指名されるという報道を初めて行ったのは、NBCニュースであった。アイルランドからの移民であったパワーの名前が最初に世間に知られるようになったのは、大虐殺に対するアメリカの反応についての研究でピューリッツァー賞を受賞したことがきっかけだった。パワーのUSAID長官への指名を政権移行ティームが事実だと認めた。今回の人事は、新型コロナウイルス感染拡大への対応で、外国への支援が重要だと、来るべきバイデン政権が考えていることを示している。バイデン政権はUSADI長官を国家安全保障会議の参加メンバーに引き上げる。

バイデンは国家安全保障会議(NSC)に、調整役ポジションを新たに作った。このポジションは世界のより広範な地域や重要な地域を担当することになる。これらの地位はすぐに埋まった。バイデンはキャンベルとラトナーを指名したが、この人事は中国との戦略的競争に集中することを示している。

水曜日、『フィナンシャル・タイムズ』紙は次のように報じた。オバマ政権下で国務省において幹部を務めたカート・キャンベルをインド太平洋担当コーディネイターに指名した。キャンベルはオバマ政権下でアメリカは太平洋地域に集中すべきだと主張した人物である。また、ブルッキングス研究所の研究員ラッシュ・ドシーを中国担当部長に指名したフィナンシャル・タイムズ紙はまた、バイデンの副大統領時代に次席国家安全保障担当副大統領補佐官だったイーライ・ラトナーがインド太平洋問題担当国防次官補(assistant secretary)に就任すると報じた。インド太平洋問題担当国防次官補は、国防省の職位の中で、アジアに関して、連邦上院の人事同意を必要とする、最も高い地位である。

 こうした人事を発表する中で、バイデンはパワーを「世界的な賞賛を受けている、両親と道徳的明確性を主張する声のような存在」と称賛している。そして、パワーは尊厳と人間性のために立ち上がる人物だと評している。

バイデンは声明の中で次のように述べている。「パワーは、彼女自身が提起した、原理に基づいたアメリカの関与に対して、比類のない知識と疲れを知らない努力を行っていることを知っている。USAIDの世界の舞台でのリーダーという役割を再び果たすようになるためには、パワーの専門性と考えが必要不可欠である」。

国連大使として、パワーは国連において、シリアにおける化学兵器による攻撃、ロシアによるクリミア侵攻、エボラ出血熱危機などの諸問題に対するアメリカの対応を主導した。パワーは理想主義者を自称しているが、1990年代のバルカン半島においてジャーナリストとしての取材経験が大きな影響を彼女自身に与えている。バルカン半島において最初にプレスパスを得る際には、若いパワーは本誌『フォーリン・ポリシー』誌の推薦状を得た。この推薦状はカーネギー国際平和財団を通じてもたらされたものだが、当時、パワーは同財団でインターンをしていた。

オバマ政権で、パワーはシリアとリビアで起きている人道上の危機の深刻化を止めるためにはアメリカの力が必要だと声高に主張した。2019年に出版した回顧録『ある理想主義者の教育(The Education of an Idealist)』の中で、パワーは、2013年にホワイトハウスのシチュエーションルームで激しいやり取りがあったと書いている。オバマ大統領は、パワーに向かって、「サマンサ、私たちは皆、君の本を読んでいるんだよ」と述べた。

USAIDはトランプ政権下で脇にどかされ、士気が下がっていた。パワーはそのUSAIDを率いることになる。USAID長官に政治任用された人物が就任することになり、USAIDの士気は上がるだろう。2020年の大統領選挙の翌日、ホワイトハウスは、連邦上院の人事承認が必要なUSAID副長官ボニー・グリックを解任した。その日は、USAIDの臨時長官ジョン・バルサの任期の最終日(連邦欠員法の定めによる)であった。そして、バルサはグリックの後任として副長官になり、USAIDのトップの地位を維持した。

1月6日の連邦議事堂進入事件の後、USAIDのホワイトハウス担当キャサリン・オニールはトランプ政権で登用された人物だが、事件をきっかけにしてUSAIDの幹部職員たちが次々と辞任していくことを批判した。

バラク・オバマ元大統領が連邦上院議員時代にサマンサ・パワーの文章に注目した。バイデンはトランプ政権と連邦議会によって予算を削られ続けたUSAIDに、知名度の高いパワーをもってきた。トランプ政権は繰り返し海外援助予算を削減しようとし、昨年にはUSAIDの予算を22%削減することを提案した。しかし、小の動きは連邦議会によって阻止された。トランプ政権は、イラクのような緊急性の高い場所でのフルタイムの援助担当職員の数を減らし、最低限の帰還要因だけを残すようにした。

パワーはバイデン、そして国務長官内定者アントニー・ブリンケンと直接の関係を持ち、人権問題に対して熱心に発言してきたという記録は残っているが、国際開発の分野におけるバックグラウンドは持っていない。パワーのUSAID長官指名に到達するまでに、バイデン・ハリス政権以降ティームは、国連世界食糧計画の責任者を務めたエルサリン・カズンやオバマ政権下でUSAIDの幹部職員を務めたジェレミー・コインディアックも候補に挙がった。コインディアックはツイッターなどを通じてトランプ政権の新型コロナウイルス感染拡大への対処を激しく批判したことで有名だ。

(貼り付け終わり)

(終わり)

amerikaseijinohimitsu019
アメリカ政治の秘密
harvarddaigakunohimitsu001
ハーヴァード大学の秘密 日本人が知らない世界一の名門の裏側
このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

 古村治彦です。

 

 アメリカの中間選挙(Midterm Elections)まで残り約1カ月となりました。現在のところ、連邦上院では、共和党の改選議員が少ないこともあり、共和党が過半数(共和党:51議席、民主党:49議席)、連邦下院では、民主党が過半数(218)を超える勢いです。

 

 アメリカ政界に大きな影響力を持つコーク・インダストリーズ会長チャールズ・コークが率いる政治運動ネットワークが今年の中間選挙に向けて動きを活発化させています。チャールズは弟デイヴィッドと共にコーク兄弟として、共和党の大口献金者として活動していましたが、今年6月にデイヴィッドが健康上の理由で会社経営や政治活動からの引退を発表しましたので、「コーク兄弟」という枠組みは解消となりました。

 

 今回、コーク・ネットワークは無条件で共和党の候補者を応援しないと決めています。トランプ大統領の推進した財政支出や関税政策について賛成した現職議員は応援しない場合があるとしているようです。また、刑法改革や移民政策で、子供の頃に親に連れられてアメリカにやってきて不法移民となった人々に対する市民権付与を主張する民主党議員でも応援を検討しているということです。

 

 チャールズ・コークが信奉しているリバータリアニズムは政府による規制、経済や社会への介入を嫌うので、外国からの輸入品へ関税をかけることには反対です。この点で、政府が財政出動することにも反対となります。また、人々の自由権利を最大限擁護するので、親に連れられて不法移民状態になった人々への市民権付与にも賛成です。

 

 こうして見ると、チャールズ・コークは共和党というよりは、ドナルド・トランプ大統領と相容れず、かえって民主党の一部の政策と近いということになります。

 

 2016年の米大統領選挙では、オバマ政権の副大統領であったジョー・バイデンに対する待望論がありました。ヒラリー・クリントンが大統領になれば、積極的に外国への介入を行って、アメリカが泥沼にはまってしまうという危機感がありました。そうした中で、リベラル派とリバータリアン派が協力して、リベラル・リバータリアン連合を形成して、バイデンを推して、ヒラリーを追い落とすべきだという主張もありました。

 

 今回の中間選挙では、チャールズ・コーク率いるコーク・ネットワークは反トランプの姿勢を打ち出しています。コークにしてみれば自分たちは長年共和党員であったが、トランプなんてついこの間まで長く民主党員をやってヒラリーと親密だったではないかという気持ちもあるのでしょう。そして、共和党の議員でトランプ寄りの姿勢を取る議員を応援せずに、民主党の議員を応援する場合もある、検討するとまで打ち出しています。トランプの高関税政策などは民主党が本来主張してきた政策ですから、民主党にしてみても、トランプ政権に対しては是々非々ということになるでしょう。

 

 トランプ大統領がこれまでにない動きを見せているために、アメリカ政治もしばらく奇妙な連合と分裂が起こることになるでしょう。

 

(貼り付けはじめ)

 

コーク・ネットワークが中間選挙に向けてスーパーPACを発足させる(Koch network launches super PAC ahead of midterm elections

 

ジョナサン・イースリー筆

2018年9月10日

『ザ・ヒル』誌

http://thehill.com/homenews/campaign/405820-koch-network-launches-super-pac-ahead-of-midterm-elections

 

大富豪の活動家チャールズ・コークの支援を受けている政治運動ネットワークは月曜日、新たなスーパーPAC(政治活動委員会)を発足させた。設立の目的は、ネットワークの保守的なそしてリバータリアニズムの価値観を共有する候補者を当選させることだ。

 

コーク・ネットワークの政治部門である運動組織「アメリカンズ・フォ・プロスペリティ(Americans for ProsperityAFP)」は、「AFPアクション」という組織を新たに創設した。AFPアクションは、ヒスパニック系の創設したスーパーPACである「リブレ・アクション」、「コンサーンド・ヴェテランズ・フォ・アメリカ(アメリカの現状を憂うる退役軍人たち)」と協力して、「人々の秘めている可能性の実現を妨げる国内、対外関係の両方における障壁を壊すという私たちの目標を共有する候補者たちを支援する」ことを目的としている。

 

新たなスーパーPACであるAFPアクションは、保守的、もしくはリバータリアン的考えを持つ大富豪たちから巨額の資金を集めることが出来るだろう。しかし、スーパーPACの役員たちは、2018年の中間選挙でどれくらいの資金を投入するのかという質問に対して、回答を拒否した。

 

今回の中間選挙で、コーク・ネットワークは総額で4億ドル(約440億円)以上を投入すると見られている。

 

AFPアクションの広報担当ビル・リッグスは次のように語った。「AFPはこれまで、接戦となる選挙において、私たちの支持する政策の実現に協力する候補者を応援することで、政治に新たな力を送り込んできた。AFPアクションは、こうした私たちの努力の幅を広げるための新しい道具となり、より大きな影響力を与えることになる」。

 

コーク・ネットワークは、トランプ大統領と共和党が過半数を占める連邦議会に対する不満を高め、戦略を練り直している。そうした中でスーパーPACであるAFPアクションが創設された。

 

コーク・ネットワークはトランプの関税政策に反対を表明し、コーク・ネットワークの幹部たちはトランプ大統領の言動を批判し続けている。彼らは、今年の3月に連邦議会が1兆3000億ドル(約140兆円)の公的支出計画を承認し、トランプ大統領が署名して法制化したことにも怒りを募らせている。

 

今年初めに開催された大口献金者たちの集まりにおいて、コーク・ネットワークは支援する候補者をより厳しく選択していくと発表した。共和党が連邦上院で何とか51議席(全100議席)を確保し、連邦下院では民主党が過半数を獲得するという厳しい見通しではあるが、共和党所属でも支援しない候補者も出てくると発表したことになる。

 

AFPはノースダコタ州の連邦上院議員選挙で、現職のハイディ・ハイトカンプ連邦上院議員(ノースダコタ州選出、民主党)に挑戦する共和党のケヴィン・クラマー連邦下院議員(ノースダコタ州選出、共和党)を支援しないと決定した。ノースダコタ州は2016年の大統領選挙でトランプが圧勝した州である。AFPは、財政支出法案、農業関連法案、輸出入銀行創設に賛成したクラマーを支援しないと発表した。

 

コーク・ネットワークは今回の中間選挙で財政支出に賛成した共和党議員を懲らしめ、刑法改革と実験的な麻薬解禁法など重要な分野で自分たちの考えに沿った投票を行った民主党議員を支援するために、広告や手紙などに多額の資金を投入している。

 

コーク・ネットワークはまた、「ドリーマーズ(訳者註:子供時代に親に連れられてアメリカにやってきて成長した不法移民)」への市民権付与を進めるために民主党の候補者への支援も検討している。

 

現在でも、コーク・ネットワークの資金のほとんどは、共和党の候補者や保守的な主張に提供されている。ネットワークは、トランプ大統領によって指名されたアメリカ連邦最高裁判所判事候補ブレット・カヴァナウの承認を訴えるテレビ広告に数百万ドルを投じている。

 

(貼り付け終わり)

 

(終わり)

アメリカ政治の秘密日本人が知らない世界支配の構造【電子書籍】[ 古村治彦 ]

価格:1,400円
(2018/3/9 10:43時点)
感想(0件)

ハーヴァード大学の秘密 日本人が知らない世界一の名門の裏側[本/雑誌] (単行本・ムック) / 古村治彦/著

価格:1,836円
(2018/4/13 10:12時点)
感想(0件)





このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

 古村治彦です。

 

 アメリカでは反トランプの動きが活発化しています。ヒラリーの選挙運動を支援した、民主党内のヒラリー派(人道的介入主義派)とネオコンが合同して、ロシア問題を突破口にして、トランプ政権に反撃を加えようとしています。


allianceforsecuringdemocracy001

 

 今年の8月に、「民主政治体制を守るための同盟(Alliance for Securing DemocracyASD)」は、ロシアのアメリカ政治やヨーロッパ各国の政治への介入について徹底的に調査し、それを公表することで、ロシアからの攻撃から民主政治体制を守るのだと高らかに宣言しています。

 

  ASDには、ネオコンの大物ビル・クリストル(雑誌『ザ・ウィークリー・スタンダード』誌編集長)とジェイク・サリヴァン(ヒラリー・クリントンの側近、ヒラリー選対の外交政策責任者を務めた)が顧問として名前を連ねています。ネオコンについて、そしてジェイク・サリヴァンという人物の重要性については、2012年の拙著『アメリカ政治の秘密』(PHP研究所、2012年)で詳しく述べました。あわせてお読みください。

jakesullivan001
ジェイク・サリヴァン

billkristol001
ビル・クリストル

この新しいグループの母体となっているのは、ジャーマン・マーシャル・ファンド(German Marshall FundGMF)です。GMFは1972年にヨーロッパでマーシャル・プランが発動されて25周年を記念して当時の西ドイツ政府によって創設されたシンクタンクです。ヨーロッパとアメリカの相互理解と協力の促進を活動目的にしています。ジャーマン・マーシャル・ファンドには、若手の日本とトルコの専門家であり、ヒラリーの側近とも言われるジョシュア・ウォーカー(プリンストン大学で博士号、幼少期を日本で過ごし、日本が堪能)が研究員として在籍しています。

 

 ASDのウェブサイトを見ますと、ロシアがツイッターなどで流す嘘情報の出どころなどを示すダッシュボードという機能があり、これに「HAMILTON 68」という名前が付けられています。名前の由来の説明はないようですが、これは、ジョージ・ワシントン初代アメリカ大統領時代に国務長官を務めたアレクサンダー・ハミルトンにちなんでいることは明白です。現在、全米でミュージカル「ハミルトン」が大人気です。これはアレクサンダー・ハミルトンの生涯をミュージカル化したもので、ラップを使い、白人である登場人物たちを黒人など少数派が演じることで話題になっています。ハミルトンの外交姿勢は、積極的な関与ということで、ネオコンや人道的介入主義派の源流と言えます。そうしたことに目をつぶって、ハミルトンのミュージカルに熱狂しているアメリカ人や、一部の、感覚が鋭いと思われたい日本人はアホとしか言いようがありません。まあアメリカ人は良いとしても、日本人で訳も分からずにアメリカで人気だからということで飛びつくような人間は浅はかだと言うしかありません。


hamilton68001

 

 ネオコンと人道的介入主義派の合同は、世界にとって危険な兆候です。

 

現在、北朝鮮によるミサイル発射など挑発的な行為が続いています。挑発がエスカレートするようだと、交渉以上の、軍事的な行動が必要だという主張が勢いを増すことになります。アメリカが北朝鮮を見る場合に、北朝鮮単独でみることはありません。地理的にも、政治経済的にも近い、中国とロシアも念頭に置いています。ですから、北朝鮮に対する攻撃ということは、中国やロシアにもダメージを与えるということになります。これは、ネオコンや人道的介入主義派にとって最良のシナリオということになります。

 

 トランプ政権がこのシナリオに乗っていくのかどうか、ですが、現在の日本や韓国に対する態度や、今回紹介した動きを見ていると、問題は攻撃があるのかどうか、ではなく、どの程度の攻撃になるかということになっているように思われます。

 

(貼り付けはじめ)

 

国家安全保障問題専門家たちはロシアの悪影響に対応するためのプロジェクトを始動させる(National security figures launch project to counter Russian mischief

 

ジョシュ・ロジン筆

2017年7月11日

『ワシントン・ポスト』紙

https://www.washingtonpost.com/news/josh-rogin/wp/2017/07/11/national-security-figures-launch-project-to-counter-russian-mischief/?utm_term=.47a48556bae4

 

アメリカとヨーロッパにおけるロシアによるハッキング、介入、プロパガンダに関して様々な議論がなされている。そうした中で、国家安全保障問題分野の専門家たちの間で、ロシアの活動を阻止するための対応が十分になされていないという懸念が広がっている。こうした懸念から、民主、共和両党に属する専門家たちが、ロシアによる政治介入、インターネット上における破壊行為、フェイクニュースの拡散を追跡し、徹底的に対処するための新しい試みが開始されることになった。

 

「民主政治体制を守るための同盟(Alliance for Securing DemocracyASD)」という名前の新プロジェクトに参加する署名をしたのは、民主、共和両党に所属する国家安全保障問題の専門家たちだ。顧問会議に名前を連ねたのは次の人々だ。元国土安全保障長官(ジョージ・W・ブッシュ政権)マイケル・チャートフ、元CIA長官代理(バラク・オバマ政権)マイケル・モレル、元連邦下院諜報特別委員会委員長マイク・ロジャース(共和党)、元欧州連合軍最高司令官ジェームス・スタヴリディス海軍大将(退役)、ジョー・バイデン前副大統領国家安全保障問題担当補佐官ジェイク・サリヴァン、前エストニア大統領トーマス・イルヴェス。

 

今回のプロジェクトの母体となるのは、ジャーマン・マーシャル・ファンド(German Marshall FundGMF)だ。そして、日常業務はローラ・ローゼンバーガーとジェイミー・フライが率いるスタッフが行う。ローゼンバーガーはオバマ政権で国務省高官を務めた。フライはマルコ・ルビオ連邦上院議員(フロリダ州選出、共和党)の国家安全保障問題担当補佐官を務めた。

 

ローゼンバーガーは次のように語っている。「私たちの民主政治体制が現在直面している脅威は国家安全保障に関する問題となっています。ロシアは私たちに対して戦争を仕掛けてきているのです。彼らは通常の戦争で使われる武器とは異なる様々な武器で私たちを攻撃しています。私たちはロシアが使用している武器についてより深く理解する必要があります。彼らが使っている武器は将来、ロシア以外の国々が民主的な機構を害することに使うでしょう。ロシアからの脅威に晒されているヨーロッパの同盟諸国とも協力しなければなりません」。

 

アメリカとヨーロッパにおけるロシアによる政治に影響を与えるための諸活動についての討論の場と情報収集・蓄積の場を作るという考えは、協力の基礎となるものだ。そして、アメリカとヨーロッパ双方の専門家のための分析材料も提供されることになり、これでロシアによる介入を押し返すことができる。

 

「民主政治体制を守るための同盟」の目的は、SNSにおけるロシアの偽情報提供、インターネット上の動き、資金の流れ、国家レヴェルでの協力、そして、ヨーロッパ諸国の極左、極右に対するロシアの支援といったことを明確にあぶりだすことである。

 

モレルは筆者の取材に対して次のように答えた。「もし完全な社会があるなら、何が起きているか、ロシア人たちが何をしたのか、これから国家として自分たちを守るために何をすべきか、プーティンがこのようなことを繰り返さないようにするために何をすべきか、といったことを把握するための国家レヴェルの委員会が存在することでしょう。しかし、こんなことが実際には起きないことはわかっています。ジャーマン・マーシャル・ファンドの試みのようなことは、理想と現実のギャップを小さくするうえで極めて重要なことと言えるでしょう」。

 

「民主政治体制を守るための同盟」は、ロシアからの偽情報がフェイクニュースに紛れ込む、ロシアのSNSによって拡散されているストーリーが拡散されている様子を視覚化するデジタルダッシュボードをインターネット上に発表することになる。「民主政治体制を守るための同盟」は、ロシア政府が拡散している情報がどのようにしてアメリカとヨーロッパのメディアの中でどのように拡散しているかを明確にする試みを行うことになる。

 

モレルは更に次のように語った。「ロシア人たちは選挙以外の様々な問題において幅広く活動しています。ロシア人たちが同性愛結婚や人種問題で私たちを分裂させようとしているということが分かっても私は全く驚きません」。

 

このプロジェクトの目的は2016年のアメリカ大統領選挙についてほじくり返すことではない。また、トランプ選対がロシア政府と共謀したのかどうか、もしくはロシアのアメリカへの介入政策の一部としてロシアに利用されたのかどうかを調査することでもない。ロシアの介入は継続しているし、ロシアの介入を理解し、徹底的に対処するための方策が不十分だということが前提となっている。

 

チャートフは次のように語った。「ロシア問題について懸念を持っている人々は党派の違いを乗り越えて、私たちのプロジェクトの下に結集する時がやってきたということです。2018年(中間選挙[アメリカ連邦議会の選挙]がある年)が近づいてくる中で、ロシアへの対処が十分に行われていない状況です。このままだと恐ろしいことが起きますよ」。

 

「民主政治体制を守るための同盟」は、FBIや連邦議会の諸委員会によって現在行われている操作や調査と重複することを望んでいない。しかし、「民主政治体制を守るための同盟」が調査を行うことで、ロシアの活動についてアメリカ政府とアメリカ連邦議会の関心、その阻止と反撃を促すことになるだろうと考えられている。

 

フライは次のように語った。「問題なのは、トランプ政権がロシア問題についていかに対処すべきかについていくつも勧告が出ているのに、それを取り上げていないことです。トランプ政権がアメリカとヨーロッパの民主政治体制を守るために必要なことを進んでやるのかどうかの結論はまだ出ていません」。

 

=====

 

民主党タカ派とネオコンサヴァティヴスとの間の邪悪な同盟が出現中(The emerging unholy alliance between hawkish Democrats and neoconservatives

 

カトリナ・ヴァンデン・ハウヴェル筆

2017年8月8日

『ワシントン・ポスト』紙

https://www.washingtonpost.com/opinions/the-emerging-unholy-alliance-between-hawkish-democrats-and-neoconservatives/2017/08/08/3c1c7676-7bb5-11e7-9d08-b79f191668ed_story.html?utm_term=.b9c6a8248199

 

外交政策分野のエスタブリッシュメントの失敗に対してトランプ大統領は愚弄している。また、トランプ大統領は粗雑な「アメリカ・ファースト」政策を推進しようとしている。これに対して、タカ派の共和党ネオコンサヴァティヴスと「アメリカは掛け替えのない国(indispensable-nation)」を標榜する民主党員たちと緊密に協力することになった。考えを変えないエスタブリッシュメントは抵抗し始めた。アメリカが妄想的か、破滅的かの二者択一を避けようとするならば、外交政策に関する新たな進歩的立場が必要である。

 

ビル・クリストル、マックス・ブート、ディック・チェイニーのようなネオコンたちは、ジョージ・W・ブッシュ元大統領によるイラク侵攻を推進したイデオロギー上の原動力となった。イラク侵攻はヴェトナム戦争以来最悪の外交政策上の失敗だ。ヒラリー・クリントン、マデリーン・オルブライト、ミッシェル・フロノイのような「アメリカは掛け替えのない国」を主張する人々は当初、イラク戦争を支持していた。また、バラク・オバマ大統領のアフガニスタンへの「増派」を擁護し、リビアにおける破滅的な体制転換を組織化する支援を行った。ネオコンにしても、「アメリカは掛け替えのない国」を主張する人々は失敗から学ぶこともなく、怯むこともなかった。

 

グレン・グリーンワルドは、新たな同盟関係の出現を、単なるワシントンの外交政策専門家たちの集合では済まないと書いている。その同盟関係こそが、 「民主政治体制を守るための同盟(the Alliance for Securing DemocracyASD)」である。ASDは、ロシアを集中的に取り上げる「超党派、環大西洋的な試み」であるとグリーンワルドは述べている。ASDの目的は「ロシアやそのほかの国家やグループによる関与から防衛し、関与を防止し、関与のコストを上げるための総合的な戦略を立案し、アメリカとヨーロッパの民主政治体制転覆を狙ったウラジミール・プーティンの現在も進行している試みを白日の下に晒す」というものだ。ASDは、イラク侵攻を強く主張した、1997年に発足したプロジェクト「ニュー・アメリカン・センチュリー(New American CenturyNAC)」の最新版である。NACを創設したのは、ネオコンに属する言論人クリストルとロバート・ケーガンであった。ASDの顧問会議のメンバーは、ヒラリー・クリントン選対の外交政策責任者でアドヴァイザーだったジェイク・サリヴァン、オバマ政権でCIA長官代理を務めたマイク・モレル、クリストル、ジョージ・W・ブッシュ政権の国土安全保障長官だったマイク・チャートフ、元連邦下院議員で共和党内タカ派として知られるマイク・ロジャースである。外交政策の悲劇的な大失敗をしたエスタブリッシュメントたちが同盟を組んで反撃に出ようとしている。

 

トランプ政権の無策やエスタブリッシュメントの失敗よりもうまくやれるはずなのだ。バーニー・サンダース連邦上院議員(ヴァーモント州選出、無所属)とエリザベス・ウォーレン連邦上院議員(マサチューセッツ州選出、民主党)に率いられている進歩派は、国内政策についての激しい議論を主導している。これに対して、チャールズ・E・シューマー連邦上院民主党院内総務(ニューヨーク州選出、民主党)とナンシー・ペロシ連邦下院民主党院内総務(カリフォルニア州選出、民主党)は経済政策に特化した新しい提案を発表した。民主党指導部は、過去に民主党が明確で大胆な経済政策を打ち出すことに失敗したことを認め、そのような過ちは繰り返さないと宣言している。

 

しかし、外交政策に関しては、民主党は現在も漂流中だ。2016年の大統領選挙においてトランプ選対がロシアのハッキングを共謀したという疑いの追及は、ロシアからの脅威についての懸念を増大させている。ネオコンは今でも熱狂的な冷戦の戦士である。ネオコンはこのロシアに対する懸念を利用して、民主党の国家安全保障の専門家たちに近づいたのだ。

 

進歩派の人々の声は必要だ。ロー・カンナ連邦下院議員(カリフォルニア州選出、民主党)は、アメリカの外交政策における抑制とリアリズムを主張している。タルシ・ガバード連邦下院議員(ハワイ州選出、民主党)は外国の体制転換にアメリカが関与することに反対している数少ない政治家だ。クリス・マーフィー連邦上院議員(コネチカット州選出、民主党)はサウジアラビアによるイエメンの爆撃という恥ずべき行為をアメリカが支持したことに勇気を持って反対を表明した。そして、「軍事的介入か、孤立か」の間の「二つの選択」という選択肢を主張している。「戦場についての再考」という報告書の中で、マーフィー議員は、スマート・パワー、外交、海外援助、開発援助の分野において中国、ロシア、ISと対抗する21世紀版のマーシャル・プランといった新しい「道具立て」を強く主張している。

 

マーフィーが主張する「道具立て」の多くは説得力を持っている。マーフィーが「アメリカの軍事覇権の大規模軍事力」と呼ぶものについての懐疑もまた説得力を持っている。しかし、マーフィーは、アメリカは世界の警察官であるべきだと主張している。彼は「世界各地のアメリカ軍の存在を強化する」ことを求めている。マーフィーは、「アメリカがコストのかかる軍事介入をする前に、内戦や争いを阻止する」ことが必要だとも述べている。 アメリカにとっての重要な安全保障上の課題と世界中をパトロールして回ることを分離して考えることが重要だという主張に耳を傾ける人の数は少ない。

 

ニック・タースが『ザ・ネイション』誌で書いたように、今年の前半でアメリカの特殊部隊が作戦実行したのは137か国で、全世界の70%に達した。特殊部隊作戦は国家を防衛するための政策ではない。特殊部隊の利用は機構上の、そして帝国主義的な思い上がりでしかない。共和党のネオコンと民主党の「掛け替えのない国」派は両派ともに、オバマ大統領に対して、「弱い態度に終始した、シリアに対して十分な空爆をしなかった、ロシアに対して十分に強硬な態度を取らなかった」として、激しく非難した。しかし、オバマ大統領が退任する時点で、アフガニスタン、イラク、シリアに米軍の人員を派遣したままで、7か国でドローンを使って空爆し、南シナ海で中国と対立し、ロシアとの間で新しい冷戦を始めようとするような状況となっていた。オバマ政権最後の予算では、既に巨額に達している国防予算の更なる増加を求めた。これは実質価値に換算すると、冷戦の終結の年に匹敵する規模となった。外交政策の専門家にとってみれば、これでもオバマ大統領はアイソレーショニズムに傾倒している、ということになる。

 

トランプは、これまでの外交政策の失敗を厳しく批判しているが、現実的な代替案を提示してはいない。 エスタブリッシュメントが反撃に出たのは自然の成り行きだ。しかし、トランプもエスタブリッシュメントも現代世界におけるアメリカに適した、現実的なかつ考え抜かれた戦略を提示できていない。アメリカには国家安全保障に関して新しい戦略が必要になっているのだ。

 

(貼り付け終わり)

 

(終わり)

アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12






このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

このページのトップヘ