古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

 古村治彦です。

※2025年3月25日に最新刊『トランプの電撃作戦』(秀和システム)が発売になります。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
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 私がこのブログで紹介している、国際関係論の大物学者スティーヴン・M・ウォルトの論稿をご紹介する。彼は昨年、オーストリアのウィーンにある人間科学研究所に客員研究員と滞在した。彼がオーストリア大罪を通じて得た知見を基にして、アメリカとオーストリアを比較する内容の論稿になっている。ちなみに、ある調査では、ウィーンが世界で一番住みやすい都市となっている。私は旅行したことはないが、確かに、ハプスブルク王朝の都で、ヨーロッパ有数の都市というイメージはある。

 ウォルトは両国の類似点として、右派ポピュリズムへの移行を挙げている。オーストリアではオーストリア自由党が台頭し、アメリカではドナルド・トランプが大統領に当選した。ウォルトは両国の相違点として、経済格差の大きさを挙げている。オーストリアは経済格差が小さく、アメリカは大きい。ここで、ウォルトは重要な指摘を行っていて、それは、「経済格差が右派ポピュリズムを台頭させる訳ではない」ということだ。それでは何が右派ポピュリズムを台頭させるのかという疑問が出てくるが、そのことについては論稿では触れていない。

 ウォルトは、アメリカはヨーロッパを見習うべきだという主張を行っているが、それは不可能な話、無理な話だ。そのことはウォルト自身が書いている通りに、アメリカ社会のダイナミクスとヨーロッパでは異なるからだ。私は国民皆保険(universal health insurance)について思い出す。アメリカ留学中に、大学の日本政治の授業に出席した際、日本研究専門家である先生が学生たちに「ヨーロッパや日本は国民皆保険であるが、アメリカではそうではない」と一言ポロっと発言した。次の授業の冒頭で、その先生は「私はアメリカを批判した訳でもないし、社会主義を称揚した訳でもない」と述べた。不思議に思って、先生に話を聞いたところ、前回の授業の後に、学生の中に保護者に先生の発言を伝え、保護者が学校側に「アメリカを批判するような人物を先生にしているのか」「社会主義者を雇うな」というような抗議の電話があったということだ。

 国民皆保険の話1つでこのような騒ぎになる。アメリカには平等や相互扶助という考えが広がるのは難しい。しかし、アメリカはこれから国力を落とし、世界覇権国としての地位から転落していく。世界最強の国の国民として享受してきた特権や生活水準がなくなっていく。そうした中で、アメリカ人たちも考えを変えていくかもしれない。しかし、その時には「時すでに遅し」ということになるだろう。

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オーストリアはアメリカのヨーロッパにおけるモデルとなるべきだ(Austria Should Be America’s European Model

-西側諸国で最も過小評価されている国の1つから学ぶ政治的教訓。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2024年12月11日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/12/11/austria-should-be-americas-european-model/

ハーヴァード大学の同僚だった故シドニー・ヴァーバは、著名な学者であり、また機知に富んだ人物でもあった。彼が皮肉たっぷりに残した格言の一つ(one of his tongue-in-cheek aphorisms)に、「その上空を飛行したことのない国について書くべきではない(you should never write about a country you haven’t flown over)」というものがある。この控えめな基準からすれば、私はここ数ヶ月、ウィーンの人間科学研究所の客員として過ごしてきたので、オーストリアについて書く資格は十分にあると言えるだろう。

人間科学研究所は素晴らしく協力的な環境で、私はここで過ごした時間を心から楽しんだ。しかし、以下に述べる考察は、オーストリアの政治や文化に関する広範な調査や深い知識に基づくものではない。一方で、私は今、ドナルド・トランプ次期米大統領が任命した一部の人々が新しい職務に関して持っていると思われるよりも、オーストリアについて多くの専門知識を持っている。

オーストリアとアメリカ合衆国には、顕著な類似点と重要な相違点がいくつか存在し、両国の最近の選挙は両者を浮き彫りにした。両国にはどのような共通点があり、どのような相違点があり、アメリカ人はオーストリアの経験からどのような教訓を得ることができるだろうか?

第一に、類似点について。オーストリアとアメリカ合衆国はどちらも豊かな工業化した民主政治体制国家(wealthy industrial democracies)だ。アメリカ合衆国は建国以来(不完全なものではあるが)共和国(a republic)であり、オーストリアは第二次世界大戦後に占領していた外国軍が最終的に撤退した1955年以降、安定した民主政体国家となっている。

両国とも、直近の選挙でポピュリスト勢力が大きな勝利を収めたものの、直接的な政治的影響は異なるだろう。オーストリアで9月に行われた世論調査では、ヘルベルト・キクル率いる極右政党オーストリア自由党(Austrian Freedom PartyFPO)が、ナチスのシンボルやレトリックを時々用い、過去に疑わしい行動歴があったにもかかわらず、最大の得票率(28.8%)を獲得した。言うまでもなく、アメリカ合衆国では、有罪判決を受けたトランプが再び大統領選に勝利し、共和党が連邦上下両院を制した。

オーストリアは議院内閣制を採用しており、オーストリア自由党は絶対多数(an absolute majority)を獲得できなかったため、他の主要政党が政権樹立を阻止しており、現首相カール・ネハンマーが引き続き複数党連立政権(a multiparty coalition)の首班を務める可能性もあるが、その樹立は困難なプロセスであることが証明されている。

類似点はそれだけではない。両国において、移民反対は他のヨーロッパ諸国と同様に、ポピュリスト政治家にとって大きな追い風となっている。両国の投票パターンは、都市部と農村部の根深い分断(a profound urban-rural divide)を反映している。つまり、ウィーンをはじめとするオーストリアの都市は、中道左派に大きく傾いている(人口でオーストリア第2位の都市であるグラーツの市長は共産主義者だ)。一方、アメリカの多くの赤い(共和党支持)の州の各都市では、青い(民主党支持)、または拮抗した状態(紫色)に投票の投票になっている。

両国には強力な宗教的伝統もある。オーストリアでは依然としてカトリック教徒が圧倒的に多く、アメリカ人は多様な宗教に属しているが、両国とも宗教的慣習(religious observance)は衰退しつつあり、オーストリアの信者もますます多様化している。

まとめると次のようになる。オーストリアは人口約900万人の小国であり、アメリカ合衆国は人口約3億4000万人の大陸規模の超大国だが、両国にはいくつかの顕著な類似点がある。中でも特に顕著なのは、近年のポピュリスト右派へのシフト(a recent shift toward the populist right)だ。

それでは、違いは何だろうか? おそらく最も顕著なのは不平等・格差(inequality)だ。両国とも裕福だが、所得の分配はアメリカ合衆国よりもはるかに平等だ。オーストリアのジニ係数[Gini coefficient](不平等・格差の指標)はアメリカ合衆国よりも10ポイント低く(29.8対39.8)、オーストリアでは人口の下位50%が所得の22%を得ているのに対し、アメリカ合衆国ではこの数字はわずか13%だ。オーストリアでは上位10%が所得の29%を得ているのに対し、アメリカ合衆国では上位10%が所得の45%を得ている。

したがって、ロンドンに拠点を置く調査機関「ワールド・エコノミクス」がオーストリアの経済的平等を世界21位、米国を66位と大きく下回る順位にランク付けしているのも当然と言えるだろう。これは、現代のポピュリズムが経済的不平等・格差とあまり密接に関係していないことを示唆している。

世界で最も住みやすい都市の1つという名声にふさわしいウィーンに住めば、その違いはさらに顕著になる。私が到着して間もなく、同僚の1人が次のように述べた。「ウィーンは、1世紀以上も社会主義政権に支配された都市がどのような存在になり得るかを示している」。ウィーンには、アメリカのどの都市も匹敵できない、素晴らしい公共交通機関(extraordinary public transit that no U.S. city can match)がある。地下鉄、路面電車、バスは快適で、運行頻度も高く、時間通りで、ほぼどこにでも行くことができる。しかも、移動手段は驚くほど安価である。私の月間パスは全路線が乗り放題で、料金はわずか51ユーロだ。

同様に、オーストリアには優れた公営住宅制度[a remarkable system of public housing](オーストリアでは「ソーシャルハウジング[social housing]」として知られている)があり、その構造と目的はアメリカ合衆国とは大きく異なる。オーストリアでは、最貧困層のみを対象とし、貧困層を他の住民から巧妙に隔離する手段として利用されるのではなく、はるかに幅広い層の住民がソーシャルハウジングの入居資格を得ており、これもアメリカ合衆国の同等の制度よりもはるかに魅力的だ。

その結果、オーストリアの公営住宅の居住者はより幅広い社会階層(a wider range of social classes)に及び、これらのコミュニティはアメリカの公営住宅事業に見られる多くの機能不全から解放されている。手頃な価格の住宅が広く利用できるため、民間の1年賃貸はアメリカのほとんどの都市よりもはるかに安価だ。(ただし、私が現在住んでいるアパートのような短期賃貸は数が少なく、高額なのが難点だ。)

ヨーロッパの多くの国々と同様に、オーストリアの公衆衛生制度(public health system)もアメリカを凌駕しており、これがオーストリアの平均寿命がアメリカよりもはるかに高い(81歳対76.4歳)理由の1つとなっている。オーストリアの殺人率はアメリカの8分の1だ。誰であっても、どこに住んでいても、オーストリアははるかに安全な場所だ。もしもっと多くのアメリカ人がウィーンで数ヶ月間生活する機会があれば、バーニー・サンダース連邦上院議員の考えが正しいのではないかと疑い始める可能性がある。

もちろん、オーストリアはオーストリア=ハンガリー帝国の崩壊時に帝国主義の野望を放棄した小さな中立国(neutral country)であり、そのため無分別な海外進出に国富を浪費していないという点も有利に働いている。

オーストリアは完璧か? もちろんそんなことはない。オーストリアの官僚機構は時に苛立たしいほど独断的だ。ウィーン市民は常に礼儀正しいものの、移民を特に歓迎しているということもない。公営住宅制度も完璧ではない。そして、オーストリアはヨーロッパの多くの国を悩ませているのと同じ人口動態上の問題(高齢化と人口減少)に直面している。ウィーンの物価は安くなく、インフレと公的債務は深刻な問題であり、オーストリア社会は変化を嫌う。シリコンヴァレーの合言葉が「早く動いて、物事を壊せ(move fast and break things)」だとすれば、オーストリアのスローガンは「ゆっくり動いて、可能な限り維持しろ(move slowly and conserve as much as possible)」なのかもしれない。

他の国と同じように、オーストリアにも過去には完全には忘れ去られていない不快な出来事がいくつかある。そして、薬局を含めほとんどの店が閉まっている日曜日にイブプロフェンが買えたら良いのであるが。

しかし、こうした特徴にもかかわらず、オーストリアには多くの魅力がある。一般のアメリカ人の日常生活を真に改善したいと願うアメリカ大統領は、オーストリアの例から貴重な教訓を学ぶことができるだろう。残念ながら、アメリカ人がそのような人物を選出する機会を得るまでには、少なくとも4年はかかるだろう。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。ブルースカイ・アカウント:@stephenwalt.bsky.socialXアカウント:@stephenwalt

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『トランプの電撃作戦』
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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 トランプ関税は迷走している。90日間の実施延期が発表されたり、対中ではスマートフォンや周辺機器への課税が例外とされたりで、「アメリカは強気で始めたが、米国債の弱点もあり、いつか後退するぞ」という考えが出てきつつある。そのために株式市場は落ち着き、株価は上昇している。トランプ関税の主眼は、アメリカの貿易赤字を解消することであり、アメリカの製造業を復活させることだ。そして、アメリカ製品を売るためにドル安に誘導することだ。

 アメリカの最大の貿易赤字を生み出している国は中国である。アメリカの対中貿易赤字は約3000億ドルだ。対日赤字は約680億ドルだ。日本はそこまで大きくない。1000億ドルを超えているのは中国、メキシコ、ヴェトナムだ。アメリカはスマートフォンや付属品、周辺機器を中国で生産している。そして、中国はアメリカ国債の世界第2位の保有国だ。これらの点はアメリカにとって中国に対峙する際の弱点となる。中国はアメリカに対して簡単に屈服することはないし、そんな必要もない。中国はアメリカの属国ではない。そこは1980年代の日米貿易摩擦の際の日本との最大の違いだ。
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 更に言えば、アメリカが世界唯一の超大国として、強いドルを背景にして、世界中の産品を買うことで、外国を経済成長させ、その儲かった分でアメリカ国債を買わせて、ドルをアメリカ国内に還流させ、アメリカ国内の生活を豊かにする(借金によって)というスキームは終わりを迎えようとしている。他人の借金で生きるというアメリカ人の生活をトランプは変革させようとしている(彼個人は汗水たらして働くなんてできないだろうが)。

 アメリカが世界覇権国の地位から退くことによって(必然的にそのための乱暴なやり方が進められることで)、世界各国の中国に対する信望が高まる。少なくとも「アメリカよりはだいぶまし」という状況になる。そうなれば、相対的に中国の国際的な地位は更に高まる。日本は、アメリカ一辺倒の対外政策を選択し続けることは不可能だ。やはり中国や韓国と言った東アジアの周辺国との関係を改善し、アメリカの世界覇権国の地位喪失後の世界に備える必要がある。

 トランプ政権によって、世界の構造の大変化は進められることになる。日本はその大変化に備えねばならない。

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トランプ関税は習近平中国国家主席への贈り物だ(Trump’s Tariffs Are a Gift to Xi

-中国への高額な関税にもかかわらず、アメリカ主導の経済のジェットコースターは北京にとって有利に働く可能性がある。

ハワード・W・フレンチ筆

2025年4月10日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2025/04/10/trump-us-tariffs-china-impact-xi-jinping-global-order/

2012年に中国の指導者である習近平が権力の座に就いて間もなく、数十年にわたる低摩擦外交(low-friction diplomacy)と世界屈指の経済成長(world-beating economic growth)によって築き上げてきた中国の優位性を、彼がいかに容易に浪費したかを見て、専門家たちたちは困惑し始めた。

習近平は統治開始初期、南シナ海全域の領有権を主張する積極的な動きを強めた。中国はまた、新型空母をはじめとする軍事技術の導入を進め、軍の近代化(the modernization of its armed forces)を加速させた。また、習近平は中国人民解放軍に対し、戦争に備えるだけでなく勝利も目指すよう熱心に訴え、近隣諸国に警鐘を鳴らした。

国内では、習近平は大規模な反汚職運動(anti-corruption drive)を開始したが、これはすぐに批判者や潜在的なライヴァルを威圧するためのキャンペーンと映った。間もなく、習政権はこの政治攻勢(political offensive)を拡大し、言論統制(constrain speech)を更に強化した。そして、急速な成長と革新で中国の台頭を支えてきたアリババなど、中国で最も成功した企業のトップたちを脅迫し、屈辱を与えた。

多くの中国人は、規律ある行政部門(a disciplined executive)への権力の集中(the concentration of power)は、民主政治体制の喧騒と混沌(the palaver and chaos)の中では不可能な方法で物事を成し遂げるという、お決まりの議論に頼って権威主義(authoritarianism)を正当化した。長年、私の授業に出席する中国人の大学院生たちは、この制度上の優位性(systemic advantage)を誇っていたが、習近平による弾圧の息苦しい雰囲気と、それに伴う憂慮すべき経済減速(the alarming economic slowdown)によって、その主張は終焉を迎えた。

突然、会話は政治理論家たちが「悪帝​​」問題(the “bad emperor” problem)と呼ぶものへと移った。新世代の若者たちは、ほぼ確実にチャンスが巡ってきた時代の喪失を嘆き、権威主義体制下での生活を単なる運の問題と捉え始めた。彼らは、一見すると啓蒙的な独裁者(a seemingly enlightened dictator)が、一瞬にして軽率で無知な暴君(a rash and benighted despot)に取って代わられる可能性があることに気づいたのである。この振り子の揺れ(pendulum swing)を経験した人々にとって、権威主義には決定的な欠点があった。政府を投票で追放できる民主政体とは異なり、国民には、不運を耐えてより良い後継者を期待する以外に頼る手段がないのだ。

しかし、これは権威主義に固有の問題だけではない。近年、世界最古かつ最強の民主政体国家が今や「悪い皇帝」のジレンマに直面していることが、ますます明らかになっている。

アメリカが誇る牽制と均衡のシステム(the United States’ vaunted system of checks and balances)は、ドナルド・トランプ米大統領の権力を抑制する上でほとんど無力であることを毎週のように露呈している。『フィナンシャル・タイムズ』紙のあるコラムニストは最近次のように書いている。トランプ政権は「アメリカ共和国とアメリカが築き上げた世界秩序に対する包括的な攻撃を行っている。国内では、国家(the state)、法の支配(the rule of law)、立法府の役割(the role of the legislature)、裁判所の役割(the role of the courts)、科学へのコ関与(the commitment to science)、そして大学の独立性(the independence of the universities)が攻撃されている。今、彼は自由主義的な国際秩序を破壊している」。

再選された民主的な指導者のほとんどが任期制限(term limits)に縛られていると感じている一方で、トランプは2期目には更に無謀な行動を取り、憲法で定められた8年の任期制限を超えて権力を拡大する懸念を繰り返し提起している。

皮肉なことに、トランプ大統領の最も無謀な行動のいくつかは、中国に集中している。水曜日、トランプ大統領は中国を除くほぼ全ての国に対する恣意的で不合理な高関税の課税を停止した。トランプ大統領自身は気づいていないかもしれないが、145%にまで引き上げられた対中関税の劇的なエスカレーションは、習近平国家主席への贈り物となる可能性が高い。

確かに、北京は短期的には、そしておそらく長期的にも困難に直面するだろう。しかし、トランプ大統領の行動は、習近平国家主席自身の欠点から中国国民の目を逸らさせ、自国の政治体制の優位性、そして中国を抑え込もうとするワシントンの悪意ある企みに関する、長年にわたる北京のプロパガンダに力を与えることになる。

世界全体にとって、中国は今や、安定と現状維持を志向する国際秩序において、より穏健な勢力として映っている(To the world at large, China now looks like a more moderate force in the international order oriented toward stability and the status quo)。もし、ある国家がどの超大国と手を組むか選択しなければならない場合、中国は好ましい選択肢として浮かび上がってくるかもしれない。

トランプ大統領の北京に対する極端な措置は、中国と通常は不信感を抱く隣国である日本と韓国、そして中国とヨーロッパの間に和解の道(avenues for rapprochement)を開いた。株価と債券市場の低迷の中で、トランプ大統領が突如、自らの誇る取引締結能力を証明しなければならなくなったことで、東京とソウルのトランプ大統領政権に対する交渉力も強化されただろう。これは、無謀な経済戦争(a reckless economic war)を仕掛け、他の指導者たちが自分の尻にキスしたがっていると豪語するほど愚かで権力に酔った大統領を抑制できなかったことに対する、ワシントンが払うであろう戦術的な代償である。

なぜトランプ大統領は、このような行動に価値があると考えているのだろうか? コメンテイターたちが頻繁に指摘するように、トランプ大統領の世界観の多くは、アメリカの産業的優位性の時代(the waning era of U.S. industrial preeminence)が衰退しつつあった、1970年代と1980年代に形成された。当時、トランプ大統領はまず日本を、そして次に中国を、アメリカの雇用、生産、そしてアイデアを「盗んでいる(stealing)」と非難した。トランプにとって、国家の階層構造の頂点に立つワシントンの地位は、確かにノスタルジーにとらわれているが、同時に生得権にもとづいているようだ。そして、関税によって他国を罰することで、アメリカから奪ったはずのものを返還できると考えているようだ。

これは経済学の基礎だけでなく、世界史についても大きな誤解だ。中国は確かに、近年の急成長の中で、高速鉄道の技術から戦闘機の設計に至るまで、海外から知的財産を盗み、競争から自国経済を守る方法を編み出してきたと考えられる。しかし、トランプは、19世紀のアメリカを含め、近代以降、新興国が同様のことを行ってきたことに気づいていないようだ。

しかし、自動車、輸送、再生可能エネルギー、ロボット工学における中国のリーダーシップ、そして人工知能や宇宙探査におけるアメリカとの熾烈な競争は、窃盗だけで片付けられるものではない。トランプが理解していないのは、中国の功績の大部分は、国民の勤勉さと犠牲、そして継続的かつ意図的な国家改革によってもたらされてきたということだ。産業界においては、バイオメディカルやロボット工学といった最先端分野を特定し、多額の投資を行ってきた。そして、それは高等教育の改善とより広範な教育機会の提供に向けた、同様に協調的な取り組みによって支えられてきた。

悪い皇帝は自信過剰(self-sure)で衝動的(impulsive)なだけではない。彼らはまた、情報に疎い傾向がある。それは、彼らが自らの政党を完全に服従させ、イエスマンに取り囲まれるまでに、自分たちの意見に反する情報に触れることはほとんどなくなるからだ。

トランプは、自身の無敵感(invincibility)とアメリカ合衆国の無敵感を混同している。国内で誰も彼に抵抗できなかったため、今では世界で誰も彼に抵抗できないと考えている。たとえ政権のメンバーが中国について人種差別的な軽蔑的な発言をしても、だ。JD・ヴァンス副大統領は先週、アメリカ人は「中国の農民(Chinese peasants)」から借りるべきではないと述べた。日曜日には、ハワード・ラトニック商務長官が、世界的なスマートフォン革命を可能にした中国の工場を、大量の労働者が「小さなネジを締める([screw] in little screws)」だけの作業場だと一蹴した。

一方、スコット・ベセント米財務長官は今週、中国のビジネスモデルは破綻しており、アメリカ市場なしでは「生き残れない(can’t survive)」と述べた。(中国の対米輸出が世界の輸出に占める割合が、1990年代後半の42%という高水準から現在では約13%へと着実に減少していることは考慮に入れていない。)ベセントは、ワシントンの指示に北京が従うような世界を思い描いている。彼は次のように述べている。「バランスを取り戻せ。消費を増やし、生産を減らす。私たちは消費を減らし、生産を増やす。私たちは競争条件を大幅に平等にする」。

トランプの顧問の中で最も冷静な人物としばしば評される人物によるこの傲慢な発言は、そのナイーヴさに驚かされる。これは、1985年のプラザ合意(the 1985 Plaza Accord)のような、アメリカの全能の過去に対するトランプのノスタルジーを反映している。プラザ合意は、西ドイツや当時非常に競争力があった日本とのアメリカの貿易赤字を削減するために、世界の主要通貨を再調整した、一見すると一筆書き(the stroke of a pen)のような合意だった。

しかし、経済が減速し、人口が減少し始めた中国でさえ、1980年代の日本とは全く異なる。当時の日本ははるかに小さな国で、アメリカとの貿易に依存し、安全保障もアメリカに頼っていた。中国の人口は日本の約11倍であるだけでなく、わずか1世代余りで、ほとんどの国にとって主要な貿易相手国となり、世界銀行よりも大きな資金源となり、そして一流の軍事力を持つに至った。

中国外務省は最近の声明で次のように述べている。「中国は古代文明(an ancient civilization)を有し、礼儀正しさと正義の国である。私たちは問題を起こさず、また問題に怯むこともない。中国に対して圧力をかけたり脅迫したりすることは、正しい対処法ではない。中国はこれまで、そして今後も、自国の主権、安全保障、そして発展の利益を守るために断固たる措置を講じていく」。

レトリックはさておき、北京のこの冷静な発言は基本的に正しい。アメリカは関税を根拠に中国を威嚇することはできないだろうし、悪しき工程の大統領が自らの力と国家の能力を誇張することによっても中国を威嚇することはできないだろう。自国の弱点に目を向けなければならないのであって、決して戻ってこない過去に対する見当違いのノスタルジーではなく、未来に向けた前向きで要求の高いアジェンダが必要だ。

※ハワード・W・フレンチ:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。コロンビア大学ジャーナリズム大学院教授。長年にわたり特派員を務めた。最新作に『黒人として生まれて:アフリカ、アフリカの人々、そして近代世界の形成、1471年から第二次世界大戦まで(Born in Blackness: Africa, Africans and the Making of the Modern World, 1471 to the Second World War.)』がある。ブルースカイ・アカウント: @hofrenchbluesky.socialXアカウント:@hofrench
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『トランプの電撃作戦』
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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 ドナルド・トランプの一挙一投足に世界が振り回されている。現在、世界を振り回しているのはトランプ関税だ。トランプ政権が全ての国に対して10%の関税と、それ以外に選ばれた60カ国に追加の関税を課すということで大騒ぎになっている。トランプ関税のうち、追加関税は実施まで90日の延期が発表された。トランプ政権の動きに世界各国の株式市場が敏感に反応し、株価は乱高下した。
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ニューヨークの株価の推移
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日経平均株価の推移

トランプ関税の目的は、アメリカの製造業における競争力を取り戻すこと、アメリカ製品を世界中に輸出することが目的だ。アメリカが抱える巨額の貿易赤字を削減することもまた目的である。アメリカ製品を買うと言っても、魅力的な製品があるかと言われると思いつく物品はない。アメリカの農産物と言っても「まぁ安ければ」という程度だ。アメリカ車はアノ大きさ、力強さが好きだという人はそこまで多くないだろう。埼玉県南部や東京を歩いていても、アメリカ車を見かけることはほぼない。販売店がどこにあるかも分からない。アメリカからの製品で重要なのは、天然資源であり、石油や天然ガスだ。それも「国際的に納得できる価格なら」ということになる。

 アメリカが輸出志向になる際に重要なのはドルの価値だ。私が小学生だった1980年代前半は、日米貿易摩擦が激しかった頃で、親や先生が時事解説として、色々と教えてくれた。「どうして1ドル235円が230円になったら円髙で、逆になったら円安って言うの?」というところから始まって、輸出や輸入について簡単に教えてくれた。そこで、子供心に「日本は円安の方が良い、それは日本の自動車や電気製品がアメリカや諸外国で売れやすくなるからだ」ということが刷り込まれた。これを敷衍すれば、トランプが求めているのはドル安だ。しかし、現在はドル高の状態にある。ドルの購買力が高く、輸入品が安く入ってくるが、輸出はしにくいということになる。為替を何とかしなければ、関税だけでは、輸出のしにくさや貿易赤字を解消することはできない。
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円ドル為替の推移

 そこで出てきているのは「マールアラーゴ合意(Mar-a-Lago Accord)」という話だ。これはドル安(円高)のための多国間の取り決めを行うということで、その会場が、トランプ大統領の邸宅であるマールアラーゴになるというものだ。これに関して、トランプ政権の大統領経済諮問委員会(Council of Economic AdvisersCEA)委員長のスティーヴン・ミラン委員長がヘッジファンド会社「ハドソン・ベイ・キャピタル」の上級ストラティジストだった2024年11月(大統領選挙直後)に発表した論文が重要だと今年に入ってから報道されてきた。この報告書の内容は簡単に言えば、ドル安に誘導するために、関税を取引材料にするというものだ。ドルの価値は過大に評価されており、購買力が実態よりも高い状態になっているのを是正するというものだ。
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スティーヴン・ミラン

 ドルはこれまで世界の基軸通貨(key currency)として機能してきた。これは、石油の取引はドルでだけ行うというペトロダラー(オイルダラー)体制が機能してきたからだ。極端に言えば、アメリカはドルを刷りさえすれば、世界中から物が買える状態であった。そのために、莫大な貿易赤字を抱えることになった。アメリカとの貿易で利益を得た国々は、稼いだドルを「世界一安全な資産」(笑止千万)である米国債を購入することで、ドルがアメリカに戻るということになり、それがアメリカ国民の生活を下支えすることになった。このような状況を第2次トランプ政権は変革しようとしている。マネーゲームであぶく銭を稼いだり、借金で生活するのではなく、モノ作りに励み、きちんと働いて、倹約をするという生活をアメリカ国民が行う(アメリカ勃興期はそうしていたはずだ)ことを目指すという点で、最新刊『トランプの電撃作戦』で書いたように、トランプ政権は「維新」政権なのである。

 アメリカの家系が借金漬けという話はよく聞く。実際に1世帯で、住宅ローンで約3600万円、住宅を担保にしてのローンで約600万円、その他に約1500万円の借金がある。これは平均であるが、アメリカ国民がこれだけ借金ができるのはドルの強さのおかげだ。しかし、インフレが進行する中で、貧困層を中心に多くのアメリカ国民が生活困難に陥り、ホームレスになったり、犯罪に手を染めたりという話は日本でも報道されている。
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アメリカの家計全体の借金と平均

 このような借金漬けの状態を何とかしなければアメリカが立ち行かなくなるということは誰が見ても明らかだ。しかし、誰も手を付けようとしてこなかった。ここで、トランプが何とかしようとして、関税に取引材料にして、アメリカの体質を改善させようとしているのだが、これは厳しい試みになるだろう。既に、アメリカ国債の金利が急上昇し(アメリカ国債が売られている)、国内金利の急上昇を招く状態になり、慌てて、追加関税発動の90日間の日延べを決めた。これは、中国がアメリカに対してのけん制で行ったものだろう。農林中金が行ったという見方もあるようだが、日本勢にそのようなこと、つまり米国債売却をする度胸はない。中国が対抗できる実力を十分に見せたことで、関税に関して、米中間の真剣な交渉ということになる。トランプ政権側は虚心坦懐にアメリカの苦境を述べて、中国の支援を求めるだろう。単に中国と無益な争いをするために、高関税を中国に課すというような非合理な、馬鹿げたことはやらない。ここから交渉である。

 日本は世界最大の米国債保有国であるが、ここで外貨準備の構成やアメリカ一辺倒の経済政策や外交政策を見直すという動きを行うべきだ。ある意味でその機会である。アメリカは日本のことなど気にしてくれない。最大の米国債保有国であるのに、アメリカ政府とアメリカ国民の生活を支えているのが日本であるというのに。私たちはアメリカの属国という状況を抜け出すという最大の国益を練糖に起きながら、あらゆる状況に対処すべきだ。

(貼り付けはじめ)
関税の次は為替戦争か、米国「100年物米国債押し売り」までほのめかす

4/9() 13:36配信

中央日報日本語版

https://news.yahoo.co.jp/articles/ccdbe59385bfaeaa5cb151b0bf126780b853477b

トランプ米大統領が「関税戦争」の次に「為替戦争」を選ぶ可能性が大きくなっている。米国が慢性的な貿易赤字と財政赤字を解決するため関税緩和を口実にドルの価値を下げる「第2のプラザ合意」を要求するだろうという見通しが出ている。

◇「弱いドル」望むトランプ大統領、「マールアラーゴ合意を検討」

ニューヨーク・タイムズなど外信は8日、トランプ政権がドル相場を調整する多国間協議体である「マールアラーゴ合意」を検討していると明らかにした。マールアラーゴはトランプ大統領が所有するリゾートの名前だ。過去の「ブレトンウッズ体制」や「プラザ合意」が交渉場所であるリゾートの名前を使ったのをまねた名称だ。

米国がドル価値調整を試みる可能性が大きいのは為替相場が持つ相殺効果のためだ。実際に2019年の米中貿易紛争当時、中国は人民元を切り下げて米国が課した関税効果の4分の3以上を相殺したという分析がある。

米国の貿易赤字と財政赤字の「双子の赤字」が基軸通貨であるドルの構造的強さのためという見方も為替戦争の可能性を裏付ける。他国が基軸通貨であるドルを準備資産として蓄積しドルの価値が過度に上がり、これによって米国の輸出競争力が落ちたという解釈だ。このため自国の製造業復活を掲げるトランプ政権としてはドル高を必ず抑える必要がある。

◇関税緩和口実に「弱いドル、100年物国債押し売りの可能性」

米国政府の最近の関税施行が「弱いドル」を作るための布石という具体的なシナリオも出ている。ホワイトハウスのミラン経済諮問委員長は昨年11月の大統領選挙直後にまとめた報告書で、「懲罰的関税以降、欧州と中国のような貿易パートナーが関税引き下げの見返りとして通貨協定にさらに受容的になるだろう」とした。関税を先に課した後、これを緩和する見返りとしてドル安に同意する、いわゆるマールアラーゴ合意を導くことができるという主張だ。

問題はドル安を人為的に作る時に発生しうる影響だ。ドルが基軸通貨の地位を維持するには、それだけ強い需要がなければならず、そのためにはある程度のドル価値は維持されるほかない。だがドル高が続けば経常収支赤字は累積する。結局ドル基軸通貨体制では経常収支赤字を避けることができないといういわゆる「トリフィンのジレンマ」が発生する。

ミラン委員長は報告書でこのジレンマを解決するために「100年物米国債」を同盟国に事実上「押し売り」しなければならないと主張した。同盟国に米国政府が超長期で無料に近く資金を借り入れて長期間ドルに対する需要を維持するということだ。この場合、ドル安でもドルの基軸通貨としての覇権は続くというのがミラン委員長の考えだ。ミラン委員長は「関税というムチ、防衛の傘というニンジンを活用すればそうした取引に同意させられる」と報告書に書いた。

◇プラザ合意時は「3安好況」「いまは当時と違う」

米国が「ドル安体制」を実際に試みるならば、韓国経済に及ぼす影響は複雑だ。ひとまずドル安自体は韓国経済に大きく悪くないとの分析が多い。過去のプラザ合意時は輸出競合国である円の価値が大きく上がり、韓国の輸出競争力が上がった前例がある。プラザ合意後に韓国は低金利・原油安・ドル安の「3安好況」の恩恵を受け高い経済成長率を記録した。今回の米国の貿易紛争の主な当事者は中国だが、人民元を切り上げる場合、中国と競争する韓国の輸出品が相対的に利益を得られる。

ただプラザ合意当時と状況が違うという指摘もある。漢陽(ハニャン)大学経済学科のハ・ジュンギョン教授は「円と違い人民元はウォンと同調するので人民元が上がればウォンも一緒に上がり、韓国の輸出品に大きな利益は発生しないだろう。プラザ合意当時は韓国が貿易赤字国だったが、いまは黒字国のため米国はどんな形でも黒字を減らそうとする可能性が大きい」と指摘した。

◇「中国は従わないだろう、実現の可能性小さい」

トランプ式為替戦争の実現の可能性そのものが低いという分析も出ている。プラザ合意当時は主な交渉対象である日本とドイツが米国の国防力に依存していたため合意が比較的容易だった。だが今回は中国を相手にしなければならないため交渉自体が困難という説明だ。かえって関税と為替政策を大きく調整する状況で金融不安だけ拡大しかねないという懸念が大きい。

梨花(イファ)女子大学経済学科の石秉勲(ソク・ビョンフン)教授は「過去とは違い大多数の国が変動為替相場制を採択している状況で米国の強要により為替相場を人為的に調整するのは事実上不可能だ。結局トランプ大統領は中間選挙用に業績として掲げる投資誘致や防衛費引き上げのような他の反対給付を要求する可能性が大きい」と話した。
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●「「マールアラーゴ合意」とは何か、ドルへの影響は-QuickTake

Enda Curran、アンスティー・クリストファー

2025227 11:38 JST

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2025-02-27/SS8UW9T0AFB400

・米輸出競争力を高めるためのドル安誘導合意の臆測が飛び交っている

・内需拡大や為替介入、金利調整などの合意を通じて実現か

トランプ米大統領が対外貿易の在り方を大きく変える積極的な計画を打ち出していることを受け、ドルを意図的に弱くし、米国の輸出企業が中国や日本などのライバルと競争しやすくする多国間協定の可能性を巡り臆測が飛び交っている。

 アナリストの間では既に、フロリダ州パームビーチにあるトランプ氏の私邸にちなんで、「マールアラーゴ合意」という名前が定着している。

 注目されているのは、トランプ氏が大統領経済諮問委員会(CEA)委員長に指名したスティーブン・ミラン氏が、ヘッジファンド会社ハドソン・ベイ・キャピタルのシニアストラテジストだった202411月に発表した論文だ。

 ミラン氏はこの論文で、グローバルな貿易システムの改革と、「持続的ドル高」がもたらす経済不均衡の是正に向けたロードマップを提示した。

 トランプ氏の周辺でこのような考えを持つのは同氏だけではない。スコット・ベッセント氏は財務長官に指名される前の昨年6月、今後数年間で「何らかの壮大な経済再編」が起こると予測していた。

■「マールアラーゴ合意」は何を目指しているのか

 トランプ氏は、製造業と輸出の復活を含む米国の黄金時代を実現すると約束している。米貿易赤字の規模についても長年懸念している。赤字は24年に1兆2000億ドル(約179兆円)という過去最大を記録した。

 問題は、ドルの為替レートが歴史的に見て強含みで推移しており、輸入品を相対的に安価にすることで米国の競争力を損なっていることだ。

 実際、一部のアナリストは、通貨の国内購買力などを考慮する経済モデルに基づき、現在のドルは過大評価されているとみている。過大評価とその影響は、米政府がドル高に対処する何らかの合意を他国と結ぶ動機になる。

■これまでに同様の合意に達したことはあるか

 ある。1985年、先進5カ国蔵相・中央銀行総裁会議(G5)が開かれたニューヨークのホテルの名にちなんで「プラザ合意」と呼ばれる協定が、同じような状況(高インフレ、高金利、ドル高)の中で締結された。米国とフランス、日本、英国、西ドイツ(当時)の間で各国通貨に対してドル安に誘導する合意が成立した。

 この協定は、ドルの大幅な上昇が世界経済に悪影響を及ぼしているという認識に基づいてまとめられた。ドル高は、インフレ抑制を目的としたボルカー米連邦準備制度理事会(FRB)議長(当時)の金融引き締め、レーガン大統領(同)の減税や歳出拡大という積極的な財政政策によって加速していた。

 当時、米議員らは米国への主要な輸出国だった日本を保護主義だとし、対日批判を繰り返し、現在の中国とよく似た状況だった。プラザ合意はドル安誘導に成功したが、その後の行き過ぎた円高を招く要因になったとされた。

 87年には「ルーブル合意」が結ばれ、ドル安の流れに歯止めをかけ、円高の抑制が試みられた。日本では、これらの合意が「失われた10年」として知られる90年代の経済停滞の一因だと考えられるようになった。

 中国経済がデフレ圧力や不動産危機、製造業の過剰生産能力に直面する中で、日本の教訓は中国にとって決して見過ごせるものではない。

■「マールアラーゴ合意」はどのように機能するのか

 従来の手法では、米国の貿易相手国が自国内で生産する製品の内需拡大を誓い、製造業の対米輸出依存の軽減を図る。

 外国為替市場に介入して通貨を望ましい方向に誘導するという取り決めを盛り込むことも可能だが、外為市場の取引高は1日当たり7兆5000億ドルと膨大なため、これは難しいだろう。

 金利調整に関する規定を設けることも可能だが、80年代の合意当時よりも中央銀行の独立性が高まっているため、この分野での誓約は問題視され得る。

 ミラン氏とベッセント氏の昨年の発言からは、両氏がこれまでのテンプレートを超えることを望んでいることがうかがえる。

 ドルが世界の準備通貨であるため、他の国々はドルを買い続ける。その結果、ドルは過大評価され続け、米国の製造業に大きな負担となり続ける。多国間協定はドル高圧力の要因を減らす必要がある。

■米国の債務は協議の対象となるのか

 最近の臆測の一つに、米財務省が100年後が満期のゼロクーポン債を発行するというアイデアがある。

 ミラン氏は昨年11月の論文で、元クレディ・スイスのアナリストで調査会社エクス・ウノ・プルレスの創業者であるゾルタン・ポジャール氏が同年6月の論文で提案した米国と軍事同盟国との合意に言及している。それによると、米国が安全保障を担保する見返りとして、同盟国はこの100年債の購入を義務付けられる。

 

 米財務省が発行済み米国債の外国保有分を長期ゼロクーポン債に交換するという案もある。参加を拒否する同盟国は、安全保障が担保されなかったり、関税を課されたり、あるいはその両方の措置を取られる可能性がある。

■米国債のこうした再編はどのような結果をもたらすのか

 考えられるのは、米金利低下と財政赤字縮小、ドル安進行というシナリオだ。しかし、こうした急進的な考え方は、29兆ドル規模の米国債市場の信頼性を損なうリスクがある。

 連邦政府は長年にわたり、債券発行は「規則的かつ予測可能」に行うべきだと主張してきた。同盟国に債務スワップや100年債の購入を迫れば、米国債市場の評判に予測不可能なダメージを与えかねない。

 米国債が長きにわたって世界のベンチマークであり続けてきた主な理由は、流動性が高い、つまり取引が容易と見なされ、普遍的に理解されている法の支配に従っていることだ。

 この現状を覆すことになるという見通しから、債務スワップを伴う「マールアラーゴ合意」が実現するとは考えにくい。

■トランプ氏は強いドルを支持しているのではなかったのか

 トランプ氏と政権の経済チームは、米国は今後もドル高政策を堅持するつもりだと述べており、貿易決済にドルを使わないことを目指す新興国に対して関税を課すと示唆している。

 世界経済の中心におけるドルの役割を支える政策を推進しながら、同時にドル安政策も模索するというのは、政権にとって極めて難しいかじ取りとなるだろう。

■ドル安が米経済にもたらし得るリスクは何か

 ドル安は輸入コストを押し上げ、その結果としてインフレ率を上昇させ得る。また、利回りの高さや安全資産としての地位を求めて米資産に群がる投資家を追い払う結果になり、資金の一部がユーロや円など競合する通貨に流れる可能性もある。
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●「ウォール街が警戒する「マールアラーゴ合意」-国際金融秩序の再編も」

Liz Capo McCormick

『ブルームバーグ』日本版

2025221 12:39 JST 更新日時 2025221 16:22 JST

保有する米国債と超長期国債との交換を外国債権者に強制とのうわさ

ドル安誘導と借り入れコスト引き下げを目指すアジェンダの一環か

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2025-02-21/SS05KZDWRGG000

それはあまりに過激で、深く考える正当性すらないように思われた。米国の債務負担軽減のため、トランプ大統領が外国の債権者の一部に対し、保有する米国債と超長期国債との交換を強制する可能性があるというのだ。

 「マールアラーゴ合意」のうわさが広がり始めた後、ビアンコ・リサーチの創業者ジム・ビアンコ氏は、話し合いのため20日に顧客を集めた。

 それが近い将来に起きるとビアンコ氏は考えていないが、そのことはある意味で本題ではない。トランプ氏は、今後4年で国際金融秩序全体を一変させる可能性が十分あるとはっきり述べており、ウォール街は備える必要がある。

 30年余りの市場経験を持つベテランのビアンコ氏によれば、米国の債務負担を劇的に再編するという考えは、関税を用いて国際貿易を刷新し、ドル安を誘導し、最終的に借り入れコストを引き下げるというトランプ政権チームのアジェンダ(政策課題)の一環であり、いずれも米国の産業を世界の他の国・地域とより対等な立場に置く狙いがある。

 トランプ氏が既に着手した政府系ファンド創設や、安全保障で同盟国により大きな負担を求めることもプランの要素に含まれる。

 ビアンコ氏はウェビナーで、「ここで今起きていることについて、大きな視点で大胆に考え始めなければならない。マールアラーゴ合意は実際に存在するわけではなく、コンセプト(構想)であり、金融システムの一部を根本的につくり変える計画だ」と主張した。

 トランプ政権のアジェンダの背景にあるアイデアの多くは、大統領経済諮問委員会(CEA)委員長に指名されたスティーブン・ミラン氏が202411月に公表した論文に基づいている。元財務省上級顧問のミラン氏は、「持続的なドル過大評価」に起因する経済的不均衡の解消と、国際貿易システム改革に向けロードマップを提示した。

 ビアンコ氏によると、ベッセント財務長官の見解とそれは必ずしも食い違うものでない。ベッセント氏は20日、ブルームバーグ・テレビジョンとのインタビューで、「米国は強いドル政策をなお堅持している」と語った。

 「ミラン氏とベッセント氏は、同じ聖歌シートから歌っているように見える。全体の構想としてドルの価値を下げ、金利の価値を下げ、国の負債負担を減らすことを期待しており、それが彼らがやろうとしていることだ」とビアンコ氏は指摘した。

 同氏は債務スワップのアイデアやトランプ氏のより急進的な提案全般に言及し、「真剣に受け止める必要があり、字面通りに受け取ってはいけない。トランプ氏が北大西洋条約機構(NATO)をつぶして構わないと考えているとすれば、金融システムをつぶして構わないと考えない理由があるだろうか」と警告した。

 ニューヨークのプラザホテルで1985年に開催された先進5カ国蔵相・中央銀行総裁会議(G5)でのドル高是正のための「プラザ合意」、米ニューハンプシャー州ブレトンウッズで1944年に開かれた連合国国際通貨金融会議で締結され、第2次大戦後の国際通貨体制の枠組みを定めたブレトンウッズ協定は、現代の国際経済システム確立の重要な節目となった。

 いずれも討議の舞台となったリゾート名に由来しており、マールアラーゴ合意もフロリダ州のトランプ氏の邸宅にちなんでそう呼称される。
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●「【マーケットを語らず Vol.192】マールアラーゴ合意とはなにか 準備通貨供給と安全保障の一体性」

(今日のマーケット短歌)ウォラーを語り ベッセント語って 訳知り顔看板だけの 知識人よ

フェデリティ投信

重見 吉徳 2025/03/07

https://www.fidelity.co.jp/page/strategist/vol192-what-is-mar-a-lago-accord-vol1

目次:

Q1】「合意」の前に。そもそも「マールアラーゴ」とは?

Q2】「マールアラーゴ合意」とは?

Q3】マールアラーゴ合意の目的は?

Q4】なぜ準備通貨の供給と安全保障は一体不可分なのか?

(今回および次回はまさに、生成AIに投げれば済むことだったのかもしれません。なぜ、そうしなかったのか。筆者自身にもわかりませんが、おそらく筆者は時間を無駄にしているのでしょう。)

最近の金融市場は、いくつかの不安要素を抱えているようです。たとえば、

トランプ政権の通商政策(輸入関税の引き上げ)

米大手巨大テクノロジー企業による人工知能(AI)関連の設備投資

米国の景気動向

円金利の上昇:引き締めによる短期金利の上昇か、緩和継続による長期金利の上昇

ウォーレン・バフェット氏が率いるバークシャー・ハサウェイが株式保有を減らしていること

などです。

今日はこのうち、最初の点に関連する点を考えてみます。

トランプ政権の通商政策(輸入関税の引き上げ)に関してよく言われるのは、「トランプ氏は、貿易相手国から何らかの利益を得るために関税引き上げやその脅しを用いており、あくまでディール(取引)が成立するまでの一時的なものである」というものです。

たとえば、第1期のトランプ政権であれば、「中国が米国製品の輸入拡大を約束する」、「日本が(米国も互いに)関税を引き下げる・撤廃する」といったことがありました。

他方で、第2期のトランプ政権の関税政策については、

1期目に得たものよりもはるかに大きい「獲物」を狙っているのではないか、

国によっては、米国からの高関税賦課が恒久的に続くのではないか、

世界の分断がいっそう進むのではないか、

といったことも考慮しておく必要がありそうです。

そして、こうした、いわば懸念の中心的な役割を担うのが、最近の世界の金融市場で話題になっている「マールアラーゴ合意」です。以下に見ていきましょう。

Q1】「合意」の前に。そもそも「マールアラーゴ」とは?

マールアラーゴは、ドナルド・トランプ氏が米フロリダ州に持つ邸宅のことです。ウィキペディアによれば、この邸宅は、1924年から1927年にかけてフロリダの商人が建設したもので、1万平方メートルの敷地に126の部屋があるそうです。トランプ氏は1985年に、この邸宅を商人の遺族が運営する財団から購入したそうです。

Q2】「マールアラーゴ合意」とは?

マールアラーゴ合意は、(トランプ大統領によって米経済諮問委員会(CEA)の次期委員長に指名されている)スティーブン・ミラン氏(米国の資産運用会社のストラテジスト)が昨年11月に書いた論文のなかで示した、新たな多国間通貨合意の枠組みのことです。

後述の【Q4】で触れるように、この論文の最も重要なポイントは、準備通貨の供給と安全保障を一体不可分のものとして考える点です。

話を戻すと、過去の多国間の通貨/外国為替相場制度に関する取り決めは、ブレトン・ウッズ合意やスミソニアン合意、プラザ合意、ルーブル合意など、避暑地や博物館、ホテル、宮殿などのリゾート地で取り交わされており、マールアラーゴ合意はこれらに倣って名づけられています。

マールアラーゴ合意とは、具体的には、

外国の通貨当局が保有する外貨準備の大半売却による新たなドル安調整と、

金利上昇を抑制するための方策:外国の通貨当局が外貨準備として最小限残す短期の米国債を100年物割引国債と交換する、

政策協調への参加を促すための方策の組み合わせ:①輸入関税の賦課、②「安全保障の傘」からの除外、【論文からの筆者による外挿ですが】③FRBが提供するドル・スワップラインからの除外、

を指します*

なお、ミラン氏は論文の中で、「政策協調によるドル安調整」だけでなく、「米国単独によるドル安調整」も検討しています。

具体的には、

外国の通貨当局が保有する外貨準備の売却を促すために(なおかつ、「安全保障の傘」の過去と将来のコストを同盟国にも負担させるために)、米国債の支払い利息から「手数料」を徴収する(→ミラン氏は言及していないものの、筆者が補足すれば、手数料徴収を進めれば利付債は割引債になる)。

(外国の通貨当局がこれまで行ってきたように)FRBに外国為替市場での外貨買い・ドル売りの不胎化/非不胎化介入を依頼する。

金利上昇を抑制するための米国債の買い入れ(→補足すれば、新型コロナ・パンデミック以降の量的金融緩和・QE局面のように、リバース・レポ・ファシリティを使ってQEによる流動性拡大の影響を相殺することもできる)

*最初にミラン氏に代わって強調しておくと、ミラン氏が論文のなかで示しているのは、「米国の通貨当局はこうすべき。これが効果あり」という確信に満ちた政策提言ではなく、あくまで、「こうしたこともできるかもしれない」という、様々なツールを提示する思考実験として捉えられるべきものです。付け加えれば、ミラン氏は自身の論文について個人の考えであり、トランプ次期政権(当時)のものではないことを強調しています。したがい、本稿もトランプ政権が必ずしもミラン氏のアイデアと同様に考え、また同様に行動するわけではない点にご留意ください。

Q3】マールアラーゴ合意の目的は?

マールアラーゴ合意の目的は次の3つと考えられます。

貿易不均衡の是正:米国に製造業と雇用を戻す。

米国が他国からの借り入れで構築し提供してきた「安全保障の傘」(安全な自由貿易体制を含む)の負担を、「傘」の中にいる他国にも負担させる。

米国の公的債務≒米国が提供する「安全保障の傘」を持続可能にする。

ここで、1点目の貿易不均衡の是正は「重商主義」と捉えられたり、製造業の国内回帰は貿易理論の面から非効率と捉えられがちです。

他方で、世界経済の分断が予見されるなかではコストをかけてでも、たとえば食料品や半導体、軍事装備品、その他の必需品などの自給を進めるべきという、現政権による長期的な洞察もあるとみられます(→天然資源もそうでしょう)。

すなわち、上記1点目は、ほかの2点と一体として結びついていると筆者は捉えています。

翻って、われわれはまずは食料の自給率向上を考える必要があるでしょう。他国を支援できるほどの軍事能力があってはじめて同盟は機能するでしょうし、他国を支援できるような自給率を持ってこそ「いざ」というときに支援を得られるはずです。

Q4】なぜ準備通貨の供給と安全保障は一体不可分なのか?

先にも述べたとおり、ミラン氏の論文を通じて最も重要と思われるのは、準備通貨の供給と安全保障を一体不可分のものとして考える点です。

たとえば、次のように考えることができます(→以下は筆者による補足であり、筆者による解釈を含みます)。

米国は、第2次大戦を経て、その圧倒的な経済力と軍事力を背景に(少なくとも)西側諸国では一極覇権国(unipolar hegemon)となった。また、1950年代の後半以降、世界の主要な貿易財(特に原油)の決済は、それまでの英ポンド建てから、徐々に米ドル建てに移行していった(もしくは、1971年のニクソン・ショック以降は、ドルを安定させるために、そのように仕向けた)。

結果、米国は世界の貿易相手国に、準備通貨(米ドル)と準備資産(米国債)を供給し続けている。

準備通貨(米ドル)と準備資産(米国債)の供給にはたいてい、準備通貨供給国(米国)の経常収支赤字と財政収支赤字を伴う(→米国の経済学者、ロバート・トリフィンが指摘したもの。⇒米国がモノを買わなければ、相手国にはドルを渡せないし、米国政府が借り入れをしなければ、相手国には米国債を渡せない)。

確かに、米国は準備通貨の恩恵に浴した(→元フランス大統領、シャルル・ドゴール氏が『法外な特権』と呼んだもの)。

しかし、米国の準備通貨供給の恩恵に浴したのは、米国だけではない。

なぜなら、米国は巨額の対外借り入れによって、巨額の軍事支出を行い、西側世界の政治および経済の安定に寄与してきたためである(→米国側の言い分)。

たとえば、①自由かつ安全に世界の海や空を航行でき(→自由なサービス消費)、また、自由かつ安全に貿易財を移動できるのは(→自由な財消費)、米国による実力行使や、米国が持つ抑止力のおかげである。加えて、たとえば、インターネットの開発やインターネット上での自由かつ安全な取引(→自由なサービス消費)についても米国の技術力や監視のたまものである。

②米国以外の諸国の企業は米国への輸出拡大によって、売上と利益、そして雇用を得てきた。その裏側で、米国の製造業は米国から撤退し、米国の雇用は失われてきた。それは、米国の労働者が負担してきたものである。

③米国が準備通貨を供給する、その裏側で生じる米国の過大な消費は、一面では準備通貨供給国の特権であるかもしれないが、それはすべて返済が必要な借り入れである。すなわち、米国以外の政府や企業は米国から利息という収益まで取ってきた。それもまた、米国の労働者が負担するものである。

以上の3点をまとめると、現在の準備通貨システムは、「米国に過大消費のための資金を貸し付けることで、収益と雇用と安全保障の3つを得る、一石三鳥の構図」である。

しかし現在、米国は利払い費が軍事費を上回り、公的債務は利払いが利払いを生んで雪だるま式に膨らんでいる。

かかる状況は、世界の自由貿易と安全保障に疑問を投げかける。

システムの構築が必要であろう。おそらくは、米国以外の諸国が自由貿易と安全保障のための負担を拡大する必要があるだろう。

米国以外の諸国は、過去に得た、そして、将来においても得るだろう自由貿易と安全保障の恩恵について、応分の負担をすべきである。

負担の方法としては、各国が軍事支出を増やすことは当然のこととして、このほかに、米国政府の関税支払いやドル安調整、米国債利息の受け取り放棄(→米財務省による利付国債の買い戻しと、超長期の割引国債での借り換え)などが考えられる。

こうした負担に応じない場合には、関税を引き上げたり、安全保障の傘から外すことで対処する可能性がある。

関税の大きさについては、たとえば、互いの関税率の比較、外貨準備蓄積の規模や自国通貨抑制の過去、国内市場の開放度、米国の知的財産権保護の程度、「第3国」として中国が再輸出して米国からの関税を回避することに貢献しているか否か、北大西洋条約機構(NATO)の義務を全額負担しているか、国連における主要な国際紛争で中国・ロシア・イランの側に立っているか、制裁を受けた企業がこれを回避したり、制裁を受けた企業と取引することを支援しているか、世界のさまざまな戦域における米国の安全保障の取り組みを支持しているか、テロリストやサイバー犯罪者などの「米国の敵」をかくまっているか否か、こうした基準によって、変わるかもしれない。

以上、筆者が解釈する、ミラン氏の考えのアウトラインです。

(貼り付け終わり)

(終わり)
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『トランプの電撃作戦』
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世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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