古村治彦です。
2026年1月2日のアメリカのドナルド・トランプ大統領の決定に基づくアメリカ軍のヴェネズエラ急襲・ニコラス・マドゥロ大統領夫妻拘束移送は世界に衝撃を与えた。アメリカは1830年代のモンロー主義(Monroe Doctrine)と1900年代の棍棒外交(Big Stick
Diplomacy)を合わせた、トランプが主導するドンロー主義(Donroe Doctrine)が実行される時代になった。ドンロー主義についてはまだ定義がはっきりはしないが、「西半球(western hemisphere)、南北アメリカ大陸はアメリカの影響圏(sphere
of influence)であり、他国の影響力を排除する。そのためには武力行使も躊躇しない」ということになる。アメリカが世界の警察官(World Police)であることを辞め、世界の一極支配(unipolar
dominance)を放棄するということだ。
トランプは気脈を通じている中国(習近平国家主席)、ロシア(ウラジーミル・プーティン大統領)とのG3体制、ヤルタ2.0体制で、「世界三分の計」を行おうとしている。世界の多極化が進むことになる。また、国際協力や国際機関からの撤退、脱退も積極的に推進する。私たちは世界からアメリカが引いていく状況に直面している。下記で紹介している論稿の著者アミタヴ・アチャラは「世界マイナス1(the world minus one)」と表現している。この世界では、アメリカは存在が必要ではあるならず者(the indispensable rogue)として存在することになる。そして、アメリカ以外の国々は、その対処を実地で学んでいくことになる。私たちはそのような時代の幕開きに立ち会っているということになる。
トランプはG3,ヤルタ2.0という「表の顔」とイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相、日本の高市早苗首相と共に、世界の地政学リスクを高める「悪の枢軸(the axis of evil)」も形成している。やりたい放題で、世界に不安を与えるが、トランプは世界に安定をもたらすG3の顔も持つことができる。この融通無碍さがトランプの真骨頂だ。日本とイスラエルはこの二重構造を看取して、それなりの対応をせねばならない。ただの嫌われ役になってしまっては国際的な孤立状態になり、非常に危険である。
(貼り付けはじめ)
世界マイナス1の瞬間(The World-Minus-One Moment)
-敵対的・攻撃的なワシントンとともに世界秩序を管理する。
アミタヴ・アチャラ筆
20261月5日
『フォーリン・ポリシー』誌
https://foreignpolicy.com/2026/01/05/world-minus-one-united-states-isolationism-multilateralism-global-power/?tpcc=recirc_latest062921
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ドナルド・トランプ米大統領は二期目において、世界秩序(the global order)の基盤に対する継続的な攻撃を主導してきた。トランプは国際法(international law)を露骨に無視し、多数の国に対する一方的な関税賦課で世界貿易体制を破壊し、重要な多国間機関からアメリカを脱退させた。
アメリカは常に国際協力(international cooperation)の理想的な擁護者だった訳ではない。新興大国(a rising power)の時にはアイソレイショニズム(isolationism)に傾き、超大国(a superpower)になると単独行動主義(unilateralism)に傾倒した。しかし、トランプが世界秩序の再構築に取り組んだアプローチは、アイソレイショニズムと力の拡大という、新たな危険な組み合わせを生み出している。彼は多極主義(multilateralism)を軽蔑し、力の露骨な行使に固執している。彼の支持者も同じだ。これは、ワシントンで何が起ころうとも、今年80歳を迎えるトランプ大統領の時代を超えて、トランプ主義が生き続けることを意味しているだろう。
評論家や政治学者たちは、アメリカの一極支配時期(the United States’
unipolar moment)の終焉と、より多極的な秩序の台頭を長らく予測してきた。トランプはしばしばこのプロセスを加速させる要因として挙げられる。しかし現実には、彼は全く異なる事態を生み出してしまった。アメリカは今後数年間、世界で最も経済的にも軍事的にも強力な国であり続けるだろう。しかし、既存の国際秩序には参加せず、積極的に敵対するだろう。この特異な状況は多極(multipolarity)ではなく、むしろ「世界マイナス1(the world
minus one)」と言える。
そこで出てくる疑問は、国際社会(the international community)がどのように対応すべきなのかということである。ワシントンの圧力に屈することなく、国際協力を維持することは困難だろう。トランプ主義を乗り越え、より強力な存在となるためには、既存の多国間機関は適応し、改革を行い、努力を倍増させなければならない。もしそれが成功すれば、アメリカはいつかより平等な条件で国際秩序に再加盟せざるを得なくなるだろう。
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2005年4月24日、インドネシアのバンドンで行われた1955年バンドン会議50周年記念式典で握手するインドネシアのスシロ・バンバン・ユドヨノ大統領(左)が南アフリカのタボ・ムブイェルワ・ムベキ大統領(2005年4月24日)
「世界マイナス1」という概念は、トランプ政権第二期において新たな意味合いを帯びてきた。2025年初頭から、私は新たな世界秩序を表現する際に「世界マイナスX(world minus X)」「世界マイナスアメリカ合衆国(world minus the United States)」「世界マイナス1」といった用語を用いてきた。シンガポールのリー・シェンロン元首相は2025年7月、「一時的な世界マイナス1(the world temporarily minus one)」という表現を用いて、より狭義にはアメリカのリーダーシップなしに世界経済と貿易を管理することを指して、この概念を広めた。しかし、現在の状況は経済の枠を超え、現代の核心的な課題を物語っている。
マデリーン・オルブライト元米国務長官は、アメリカは不可欠な国(the
indispensable nation)であり、アメリカなしでは国際協力の構築も維持も不可能であるとよく述べていた。この前提は、アメリカ政府が世界秩序への関与を放棄するにつれて、世界は非協力的になり、暴力的になる(Washington abandons its commitment to the global order, the world
will grow less cooperative and more violent)という懸念の根底にある。
国際関係の歴史は異なる物語を物語っている。スティーヴン・クラズナーやロバート・コヘインといった学者が主張するように、経済の開放と政治協力(economic openness and political cooperation)が普及するためには、世界を支配する覇権国(a globally dominant hegemon)は必ずしも必要ではない。国際機関は一度形成されると、その存在は固定的である。集団的利他主義(collective altruism)のためではなく、加盟国の中核的利益(core
interest)に奉仕するために存在するのだ。これらの中核的利益が存続するならば、協力も存続する。これは、覇権国が棄権する(abstains)、撤退する(withdraws)、あるいは他国間の協力に反対する(opposes cooperation among others)としても、多国間主義が存続できることを意味する。
実際のところ、20世紀の歴史は、現在の国際秩序の最も基本的な要素のいくつかが、いかなる覇権国(hegemon)の支援も受けずに形成されたことを示している。例えば、脱植民地化(decolonization)と人種平等(racial equality)は、アメリカ合衆国の不可欠な支援によってではなく、ワシントンの当初の抵抗に直面して、世界規範(global norms)となったのである。
1919年のヴェルサイユ会議において、ウッドロウ・ウィルソン米大統領は、国際連盟(the
League of Nations)の基本原則に人種平等条項を盛り込もうとする日本の動きに反対した。ウィルソンは自身の人種差別的信念に基づき行動すると同時に、日本の移民に懸念を抱く国内政治家や、オーストラリアなどの西側同盟諸国への配慮も図っていた。しかし、こうした反対にもかかわらず、現在「グローバル・サウス(the global south)」として知られる国々はこの理念を支持し続けた。その顕著な例は、1955年にインドネシアのバンドンで開催されたアジア・アフリカ会議(the 1955 Asian-African Conference)である。
バンドン会議(the Bandung Conference)は、人種平等の提唱に加え、アジアとアフリカの即時脱植民地化も要求した。ここでも、アメリカの支援はせいぜい中途半端なものとなった。ワシントンは主要同盟国であるイギリスの支援を得て、会議参加国に対し、脱植民地化の要求を拒否するよう圧力をかけた。これは、新たに独立した国々が共産主義体制に乗っ取られることを懸念したためである。もちろん、脱植民地化のための戦いは続き、今日存在する
193の主権を持つ国連加盟国(sovereign United Nations member states)の世界が作り上げられた。
実際、第二次世界大戦終結以来、ワシントンは国際舞台において一貫して受動的かつ攻撃的なアクター(a passive-aggressive actor)であることを示してきた。アメリカは制度(institutions)や規則(rules)を作り上げ、それがアメリカの利益にかなう場合には尊重するが、そうでない場合には無視してきた。アメリカは多くの多国間条約に加盟しているものの、気に入らない結果には警戒を怠らない。極端な例では、ワシントンは行動に異議を唱える機関に対して、脅迫、ボイコット、制裁措置(bullying, boycotting, and sanctioning)に訴えることさえある。
近年の3つの例、すなわち国連海洋法条約(the U.N. Convention on the Law of the Sea、UNCLOS)、気候変動に関するパリ協定(the Paris Agreement on climate change)、そして国際刑事裁判所(the International Criminal Court、ICC)は、アメリカが不在(absent)、不遵守(noncompliant)、あるいは積極的に敵対する(hostile)場合でも、多国間制度や協定がいかに存続できるかを示している。
ワシントンは、第3回国連海洋法会議に参加した後も、1982年に締結された海洋法条約への署名を拒否した。しかしながら、国連海洋法条約は、海域(maritime zones)と航行権(navigational rights)に関する安定した世界的な法的枠組みの構築に広く貢献してきた。貿易を促進し、紛争の平和的解決のメカニズムを提供してきた。また、アメリカの国益にも合致してきた。ワシントンは、南シナ海における中国の広範な領有権主張に対し、国連海洋法条約の手段を行使し続けている。しかし、アメリカが国連海洋法条約への正式加盟に頑なに抵抗していることは、中国にワシントンの偽善を非難する根拠を与えている。加盟を拒否しながらも国連海洋法条約に整合した行動をとるというアメリカの決定は、世界マイナス1にとって最良のシナリオ、すなわちワシントンが正式に国際規範を拒否した後もそれを遵守し続けるというシナリオを体現している。
アメリカが多国間協定から離脱したり、協定に違反したりした場合でも、協力は維持される可能性がある。確かに、ワシントンのパリ協定離脱は有害な影響を及ぼすだろう。その一部は国内的なものであり、例えば気候規制の後退やそれに伴う温室効果ガスの増加などが挙げられる。国際的には、アメリカの離脱は、経済成長を犠牲にして排出基準を負担する国への補償など、気候規制のための資金を圧迫する可能性がある。
しかし、アメリカの財政支援の喪失はパリ協定の実効性を損なう一方で、他の国々は依然としてネットゼロ炭素排出目標(net-zero carbon emissions target)の達成を約束している。現在世界最大の汚染国である中国は、この目標を2060年までに達成することを誓約している。世界第4位の汚染国であるヨーロッパ連合(European Union、EU)は、日本と同様に2050年までにネットゼロを達成することを誓約しており、インドは2070年までにこの目標を達成することに同意している。実際、アメリカが何をしようとも、残りのパリ協定署名諸国は、自国が決定した炭素削減目標を5年または10年ごとに見直し、改善する義務を負っている。そして、風力・太陽光発電技術が安価になり普及するにつれて、これらの目標を上回る可能性も残されている。
最後に、国際刑事裁判所の例を挙げよう。1998年、ワシントンは国際刑事裁判所(ICC)の設立を定めたローマ規程に反対票を投じた。アメリカの市民、外交官、そして兵士を危険にさらす懸念があったからだ。さらに劇的なのは、アメリカがイスラエル指導者を訴追した国際刑事裁判所に対し、裁判官と検察官に制裁を科すことで報復措置を取った。しかし、イギリスを含むアメリカの同盟諸国は国際刑事裁判所の独立性を支持し続け、これに追随しなかった。その結果、国際刑事裁判所は指導者の不処罰を抑制し、人道犯罪の抑止力として機能し続けている。
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ニューヨークで開催された第80回国連総会での演説を終え退席するドナルド・トランプ米大統領(2025年9月23日)
アメリカの多極主義へのアプローチが常に条件付きであったとすれば、トランプ政権下では、それは紛れもなく敵対的なものとなった。実際、トランプはこの敵対的な姿勢を2025年国家安全保障戦略(2025 National Security Strategy)に明記し、「個々の国家の主権を明示的に解体しようとする国際機関のネットワーク(network of international institutions … that explicitly seeks to
dissolve individual state sovereignty)」を非難している。アメリカは現在、同盟国と敵対国を問わず、自己中心的で二極主義的、排他的、そして取引的な関係を追求している。
2016年以降、トランプは複数の多国間協定や機関から脱退、あるいは脱退計画を発表している。これらには、パリ協定、イラン核合意(the Iran nuclear deal,)、国連人権理事会(the U.N.
Human Rights Council)、オープンスカイズ条約(the Treaty on Open
Skies)などが含まれる。さらに、第二次トランプ政権は、世界保健機関(the World Health
Organization、WHO)からの脱退とユネスコからの脱退を表明している。
さらに、トランプ大統領は国連予算の削減を計画している。最も顕著なのは、国連平和維持活動(U.N. peacekeeping operations、PKO)への8億ドルの削減で、これには既に連邦議会で承認されている資金も含まれる。政権はハイチ、レバノン、コンゴ民主共和国など、支援する特定の平和維持活動に資金を集中的に投入することに同意しているものの、より広範な削減によって国連は国際平和維持部隊(global peacekeeping force、GFP)を25%削減することになった。トランプ大統領はまた、アメリカ政府に割り当てられている義務的拠出金(mandatory contributions)の拠出を差し控えており、国連予算の削減総額は20億ドルを超えると推定されている。その結果、国連は現在、予算を5億ドル以上削減し、職員を約20%削減することを検討している。
皮肉なことに、トランプはノーベル平和賞を公然と要求する一方で、欠陥はあるものの紛争の緩和と人命救助に大きく貢献してきた国連平和維持活動を弱体化させている。
しかし、こうした破壊だけが全てではない。トランプがアメリカを世界の不在あるいは亡命国家の最高指導者という評判を固めている一方で、国際協力は維持されてきた。今や、台頭する大国がトランプの関税や脅しを拒絶し、BRICS、G20、上海協力機構(the
Shanghai Cooperation Organisation、SCO)、東南アジア諸国連合(the Association of Southeast Asian Nations、ASEAN)といった多国間フォーラムをその手段として利用しているのを目にしている。
BRICS諸国、特に当初加盟国であった国々は、高関税にもかかわらず、トランプ大統領に公然と反抗してきた。ブラジルでは、ジャイル・ボルソナロ前大統領の裁判は、ホワイトハウスからの免罪圧力にもかかわらず継続された。南アフリカのシリル・ラマポーザ大統領はホワイトハウスに出向き、南アフリカの白人が迫害されているというトランプ大統領の主張を公然と否定した。中国は重要な鉱物サプライチェインにおける優位性を利用して、貿易戦争でトランプ大統領を出し抜こうとしてきた。インドにはそのような天然資源の切り札はないが、トランプ大統領はより身近なところで反発を招いている。アメリカの政策関係者は、トランプ大統領の任期1期目におけるインド太平洋戦略の要であった中国に対する重要な戦略的パートナーをホワイトハウスが疎外したことに、今や困惑し、憤慨している。
トランプ大統領が世界の不在大統領、あるいは離反大統領(the world’s
absentee- or defector-in-chief)としてのアメリカの評判を固めている一方で、国際協力は維持されている。
2024年12月、次期大統領のトランプは、米ドルに代わる取り組みを放棄しないBRICS加盟諸国に対し、100%の関税を課すと警告した。2025年7月、リオデジャネイロで開催されたBRICS首脳会議において、トランプは「BRICSの反米政策(Anti-American policies of BRICS)」に沿う国からの製品に10%の追加関税を課すと発表し、「例外はない(no exceptions)」と付け加えた。これに対し、ブラジルなど一部のBRICS加盟国は、共通通貨構想(a common currency)を軽視する姿勢を見せている。しかし、トランプの圧力は裏目に出る可能性もあり、代替決済システムの開発とドルへの依存度の低減(to develop alternative payment systems and reduce their reliance on
the dollar)への意欲をさらに強めることになる。
2025年8月に中国の天津で開催された上海協力機構(SCO)首脳会議は、トランプの政策に対する多国間の抵抗を示す新たな場となった。この会議で、中国の習近平国家主席とインドのナレンドラ・モディ首相が会談し、インドと中国はライヴァルではなくパートナーであると宣言した。
しかし、上海協力機構だけではない。G20はブラジル、インド、インドネシア、南アフリカといった国々にも、世界的なリーダーシップを強化する機会を与えてきた。2022年のインドネシアでのG20首脳会議は、ロシア・ウクライナ紛争をめぐる混乱への対応をG20が後押しした。2023年のインドでのG20首脳会議は、アフリカ連合(the African Union、AU)のG20加盟確保に貢献し、グローバル・サウスの役割拡大につながった。2025年11月にヨハネスブルグで開催されたG20首脳会議は、もう1つの画期的な出来事となった。アフリカで初めて開催されたG20首脳会議はアメリカによるボイコットにもかかわらず、多様性、包摂性、そして、平等(diversity, inclusion, and equality)といった課題を中心に議論された。他の加盟国はアメリカのボイコットに追随せず、アメリカの世界的な孤立がさらに浮き彫りになった。
こうした国際フォーラムで示された結束(solidarity)に加え、地域主義(regionalism)への傾向も見られる。過去20年間で、アフリカ主導の平和活動は急増した。アフリカ連合や西アフリカ諸国経済共同体(he Economic Community of West African States)などの地域機関、そしてより小規模なアドホック連合は現在、アフリカ17カ国で10件の活動を展開している。アフリカ主導の平和活動は、チャド盆地、シエラレオネ、ソマリアにおける反乱勢力による紛争の封じ込めにおいて、一定の成功を収めている。実績はまちまちだが、これらの平和活動は、不安定な情勢に対する地域的かつ状況に応じた対応や、国連よりも幅広い活動に取り組む意欲など、独自の特徴を示している。重要なのは、これらのプロジェクトは主にヨーロッパ連合の資金提供を受けており、アメリカの役割は最小限にとどまっていることである。
これら全ての機関と並んで、国連は依然として重要な協力の場となっている。アメリカはしばしば国連の人権保護の不備を批判し、権威主義的なライヴァル国に対する政治的得点獲得の場として利用している。しかし、国連は民主政治体制国家と非民主政治体制国家が人道支援を効果的に推進する場として存続してきた。
特筆すべきは、過去20年間で中国の国連への拠出額が大幅に増加したことだ。アメリカは国連の通常予算の22%、平和維持活動の26.2%を拠出しているが、中国は現在、通常予算の20%、平和維持活動の23.8%を拠出しており、世界第2位の拠出国となっている。また、中国は国連安全保障理事会の常任理事国5カ国(the five permanent members of the U.N. Security Council)の中で、最も多くの平和維持部隊を派遣している。国連の人道支援機関に対する中国の自発的な拠出額は依然として比較的低い水準だが、もし中国がアメリカの不関与(U.S. disengagement)を絶好のチャンスと捉えれば、拠出額は急速に増加する可能性がある。
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中国深圳でコンテナ船、クレーン、そして積み上げられた輸送コンテナの近くに翻る中国国旗(4月12日)。
今後数年間、台頭する大国と多国間機関は、トランプ大統領の攻撃に対応して進化を続けるだろう。しかし、彼らは「世界マイナス1」という状況を乗り越え、国際協力と自由貿易(global cooperation and free trade)をうまく維持できるのだろうか?
中国の対応は特に重要となるだろう。北京は必然的に自国の利益に導かれ、ワシントンを犠牲にして影響力を拡大しようとするだろう。しかし、中国が賢明かつ自制心を持って行動すれば、中国支配の世界(a Chinese-dominated world.)の構築ではなく、国際協力(global
cooperation)の強化につながるだろう。
伝統的に安全保障をアメリカに依存してきたアジア太平洋地域は、「世界マイナス1」秩序の中心となる可能性が高い。ここで特に注目すべき2つの貿易協定、すなわち東アジア地域包括的経済連携(the Regional Comprehensive Economic Partnership、RCEP)と中国・ASEAN自由貿易協定(the China-ASEAN Free Trade Agreement、CAFTA)である。2022年に発効した15カ国・地域のRCEPは、GDPと人口の両面で世界最大の貿易グループへと成長しつつある。中国、日本、韓国、ASEAN諸国を合わせたRCEPは、現在、世界のGDPの約30%を占めている。RCEPは20年間で域内の関税の90%以上を撤廃し、電子商取引や知的財産など紛争の多い分野で共通ルールを策定することを目指している。
2010年に発効し、2015年と2025年10月に改訂されたCAFTAは、グリーン経済やサプライチェインの連結性などの分野で中国とASEANの協力を推進している。専門家の一部は、アメリカがASEAN諸国に対し、中国とのデカップリング(decouple、分離)と中国の積み替え貨物に対するアメリカの懲罰的関税(punitive
U.S. tariffs)の遵守について圧力をかけてきたため、これは北京にとって明らかな戦略的勝利だとしている。しかし、真実はもっと複雑である。ASEAN諸国は、アメリカに完全に同調するつもりはなかった。むしろ、彼らは既にCAFTAなどの協定を利用して自国の利益を推進し、中国の影響力に対する懸念に対処している。実際、北京が経済的利益を制限し、これらの国々と多国間で関与し、自由貿易と開放的で包括的な地域秩序につながる関係を追求するようになったのは、ASEAN諸国からの圧力によるものである。
ヨーロッパ連合もまた、世界マイナス1への対応が極めて重要となる主要プレイヤーだ。2021年、ヨーロッパ連合は3000億ドル規模の「グローバル・ゲートウェイ」計画(Global Gateway plan)を発表した。これは、インフラ、エネルギー、気候変動対策プロジェクトを統合し、世界における中国の影響力に対抗するためのものだ。例えばアフリカでは、グローバル・ゲートウェイは北アフリカからヨーロッパを結ぶ水素パイプライン[hydrogen pipeline]「SoutH2 Corridor」や、東アフリカの食料安全保障強化プロジェクトを支援している。また、ヨーロッパ連合は現在、メルコスール[Mercosur](アルゼンチン、ボリビア、ブラジル、パラグアイ、ウルグアイ)諸国との自由貿易協定の締結に向けて調整を進めており、大半の品目の関税撤廃、投資拡大、持続可能性の確保を目指している。
理想的には、ヨーロッパと中国は、アフリカや南アメリカといった地域において、ゼロサムではなく相互補完的な(complementary)形で関与できるはずだ。例えばアフリカでは、中国はヨーロッパ連合のグローバル・ゲートウェイ構想(Global Gateway initiatives)に積極的に参加している。重要なのは、こうした姿勢はヨーロッパや中国の寛大さから生まれたものではなく、アフリカや南アメリカの指導者たちの要求によるものであるということだ。
インドはまた、世界がワシントンの不在にいかに効果的に対応するかを決定する上で重要な役割を担っている。トランプ大統領の圧力に強く抵抗する一方で、インドはインドの貿易関係を急速に拡大し、制度化している。これには、ASEANおよび日本との既存の貿易協定の強化交渉、そして、2025年7月にイギリスと締結する新たな貿易協定が含まれる。インドはまた、EU非加盟国のアイスランド、リヒテンシュタイン、ノルウェー、スイスを含む欧州自由貿易連合(the European Free Trade Association、EFTA)とも2024年に貿易協定を締結した。中国と同様に、インドはロシアとの貿易の多くを自国通貨建てで行っている。インドはまた、ロシアと緊密な安全保障関係を維持しており、ロシアは引き続きインドの武器輸入の36%を供給している。たとえその後ワシントンとの関係が改善したとしても、インドが戦略的自立性を継続することで、米中の優位性が薄れ、世界マイナス1体制の持続可能性が確保されるだろう。
最後に、国連がトランプ大統領を機に、長らく待たれていた改革を実行に移すかどうかは、依然として不透明だ。トランプ大統領の第二期就任以来、アメリカはフランスで開催された国連海洋会議とスペインで開催された第4回開発資金会議をボイコットした。それでもなお、国連加盟国の大多数はこれらの会議に出席した。ワシントンの不在にもかかわらず、各国は海洋生物の保護、債務救済、気候変動対策への財政支援といった合意形成など、通常通りの活動を継続することができた。
この成功を基盤として、国連は更なる適応策を講じなければなりません。これには、優先分野に重点を置くための予算削減や、中核ミッションに不可欠ではなくなった機関の廃止による重複削減などが含まれます。元国連高官でスウェーデン首相のカール・ビルト氏らが提案した、より抜本的な対策は、国連本部をニューヨーク市から移転することです。これによりコストが削減され、米国にとって非友好的と見なされる地域からの代表団へのビザ発給を米国が拒否する可能性も排除されます。理想的には、各国がトランプ大統領の予算削減に対し、通常の国連予算の内外を問わず支援を強化し、国連に対し民間部門の資源と専門知識を動員するよう働きかけることで対応することが期待されます。これらの措置により、トランプ大統領の敵意によって国連が機能不全に陥る事態を回避できるでしょう。
To build on this success, the U.N. must do
more to adapt itself. This should include making budget cuts to focus on
priority areas and reduce duplication by dispensing with agencies no longer
critical to core missions. A more radical step, suggested by former senior U.N.
official and Swedish Prime Minister Carl Bildt and others, would be to move the
U.N. headquarters out of New York City. This would cut costs and remove the
chance of the United States denying visas to delegates from places deemed
unfriendly to Washington. Ideally, every country would respond to Trump’s cuts
by providing more support, within or outside the regular U.N. budget, and by
pushing the U.N. to mobilize resources and expertise from the private sector.
These measures can ensure that the U.N. will not die due to Trump’s hostility.
世界マイナス1の時代はいつ終わるのか? それはアメリカの国内政治と外圧(external
pressures)の両方に左右される。トランプ大統領が多極主義と対外援助を拒否しているにもかかわらず、アメリカの国際社会からの離脱は完全でも不可逆的でもない。ピュー・リサーチ・センターが2025年3月に実施した調査によると、成人アメリカ人の47%がアメリカの国際情勢への積極的な関与を支持し、64%が主要な国際問題においてアメリカは他国と妥協すべきだと考えている。また、過半数が開発途上国への食料、医薬品、衣料品などの援助に賛成している。
アメリカが最終的にトランプ主義を脱却する場合、世界はどのように反応すべきだろうか? 多くのことは、新しいホワイトハウスがいかにしてダメージを修復するかにかかっている。例えば、アメリカはどれほど迅速に制度に復帰し、拠出金の返済や拠出停止を返済し、カナダからインドに至るまでの同盟諸国やパートナーとの関係を修復するだろうか?
ワシントンがどのような行動を取ろうとも対応は様々だろう。NATO加盟諸国は、ロシアや国際テロの脅威から、同盟をかつての活力ある状態に戻そうと熱心に動くかもしれない。対照的に、BRICS諸国は、アメリカがかつての経済的役割を取り戻そうとするいかなる試みにも抵抗するだろう。
ワシントンの世界秩序への復帰を最もよく表すシナリオは2つあるだろう。放蕩息子(the
prodigal son)と存在が必要ではあるならず者(the
indispensable rogue)だ。ワシントンのリベラルエリートは前者を好むかもしれない。聖書に出てくる不良息子のように、アメリカが両手を広げて歓迎されるシナリオだ。しかし、このシナリオは実現しそうにない。世界はトランプ政権時代を許すかもしれないが、決して忘れることはないだろう。そして、ルールに基づく秩序(the rules-based order)にアメリカがもたらした過去のダメージも忘れることはないだろう。国民の記憶は短く移り変わりやすいものだが、アメリカはかつての同盟諸国やパートナー、たとえ西側諸国であっても、真の信頼を取り戻すことは難しいだろう。
ここから第二のシナリオが導き出される。アメリカはもはや自由世界のリーダーではなく、単に世界にとって存在が必要ではあるならず者(an indispensable rogue)となる。世界は依然として、アメリカの軍事力、経済力、そして技術力を、多くの地球規模の課題への対応に不可欠だと認識するだろう。しかし、世界はワシントンが世界のリーダーシップの座に就くことを望まないだろう。
簡潔に述べれば、アメリカの地政学的優位性(U.S. geopolitical
dominance)やリベラル・ヘゲモニー2.0(liberal hegemony 2.0)への回帰はない。トランプの後継者が共和党の大統領で彼の政策を継続するか、善意の民主党大統領が政策転換を図るかに関わらず、トランプは世界のアメリカへの信頼と依存(the world’s faith in and dependence on the United States)を打ち砕いた。動揺した同盟諸国に対し、別のジョー・バイデンが次の大統領となって「アメリカは戻ってきた(America is back)」と告げるのを待つ人間はいない。
その結果、世界秩序はより多重化(multiplex)するだろう。ワシントンは、より広範に分権化されたシステム(more broadly decentralized system)の中で生きることになるだろう。それは、アメリカの力や目的よりも、経済・安全保障上の結びつきの網に絡み合った他の大国や中堅国によって形作られるシステム(one shaped less by U.S. power or purpose than that of other great
and middle powers enmeshed in a web of economic and security ties)だ。
つまり、アメリカが多極主義に復帰する頃には、世界はすでに変化を遂げているだろう。ワシントンにとって唯一の選択肢は、より対等な条件で、より弱い存在(a weaker entity on more equal terms)として国際秩序に再加入することかもしれない。
※アミタヴ・アチャラ:アメリカン大学国際関係学部卓越教授。最新作は『かつての世界秩序と未来の世界秩序:なぜ世界文明は西洋の衰退を生き残るのか(The Once and Future World Order: Why Global Civilization Will
Survive the Decline of the West)』がある。
(貼り付け終わり)
(終わり)

シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体

『トランプの電撃作戦』

『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』


