古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。X accountは、@Harryfurumura です。ブログ維持のために、著作のお買い上げもよろしくお願いします。

 古村治彦です。

 冷戦期においてアメリカとソ連という二大超大国は核兵器軍備管理に関しては協力した。核兵器開発と貯蔵を進めていたが、それは同時に世界を核戦争に巻き込む脅威となり、人類の存続も危険に晒すという判断もあった。1962年のキューバ危機で米ソ両国と世界は核戦争に近づき、軍備管理の方向に舵を切った。そして、核兵器の削減を行うという合意も形成できた。ソ連が崩壊しても、米露両国は核兵器の軍備管理と削減の体制を維持してきた。
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 しかし、現在は中国が核兵器の製造と貯蔵を進め、米露に迫るようになっている。冷戦期は米ソ両国の二極(bilateral)で済んだ話に、新しいプレイヤーが登場し、米中露の3カ国、三極(trilateral)の構造になり、プレイヤーが増えたことで格段に難しくなる。物理学における三体問題(three-body problem)のようなことになる。米中露における新たな核兵器軍備管理、削減の枠組が構築されることが望まれるが、それぞれの思惑もあり、難しい。
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 しかし、米中露は世界の大国であり、国連安全保障理事国の常任理事国であり、核兵器不拡散条約(NPT)にも加盟している。また、米中露は中国を中心とした「ヤルタ2.0」体制を構築し、相互不可侵の状態になっている。米中露での核戦争の可能性は限りなく低い。 

核不拡散条約(NPT)は国連安保理常任理事国である米中露英仏の5カ国を核保有国とし、それ以外の国の核兵器製造と保有を禁じている。しかし、実際には核不拡散条約から脱退、もしくは加入を拒む、核保有国があり、インド、パキスタン、北朝鮮、イスラエルの4カ国である。パキスタンはサウジアラビアと相互防衛協定を結んでおり、パキスタンはサウジアラビアに核兵器による防衛(核の傘)を提供している。ここで重要なのは、イスラエルの核兵器である。

 核不拡散(NPT)体制は現在の不平等条約と言っても良いだろう。なぜ国連安保理常任理事国だけが核兵器を独占できるのかと不満を持つ国が出てくるのは自然であろう。そして、この枠組みから外れれば核兵器が持てるではないということになり、4カ国は加盟していない。こうなると、国際社会による監視も行き届かない。どれだけの核兵器を持っているのかが分からないし、適切な環境で危険がないように管理されているかも心もとない。核兵器が「横流し」されてしまっても誰にも分からない。インド、パキスタン、北朝鮮、イスラエルを国家として信用するとしても、それにも限界がある。

 米中露英仏に関してはある程度の信用はできる。しかし、NPT外の4カ国に関しては、枠組みに入らない(入ってしまえば核兵器を廃棄しなければならない)ということで信用はできない。米中露に関しては保有する核兵器の数量に危険を感じるが、NPT外の国々関しては保有そのものが危険である。そして、何よりNPT体制外の国々に関しては、その使用可能性についても米中露英仏に比べて格段に高いと言わざるを得ない。

(貼り付けはじめ)

ポスト冷戦の核時代は終焉を迎えたのかもしれない(The Post-Cold War Nuclear Era Might Have Just Ended

-新戦略兵器削減条約(New START)の期限切れと中国の核兵器保有量の増加により世界はより危険な場所となった。

ファリード・ザカリア筆

2026年2月9日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/02/09/cold-war-nuclear-new-start-treaty/

世界がより不確実な局面に入りつつあることを私たちは皆感じている。同盟関係は不安定になり、貿易は細分化され、大国間の駆け引きはより露骨になっている。しかし、こうした目に見える変化の裏には、あまり議論されていない、より危険な何かが潜んでいる。それは、核の安定性の緩やかな崩壊(the slow collapse of nuclear stability)だ。

冷戦期間の大半において、人々は核兵器が存在する世界は必然的に核拡散(proliferation)を招き、戦争は核戦争へと発展するだろうと恐れていた。実際、人類の歴史において、兵器庫に未使用のまま保管された兵器はほとんどなかった。しかし、まさにそれが現実となった。兵器庫は存在し続けたが、それらは条約、慣習、そして自制に関するドクトリンによって制約されていた。軍備管理協定によって核兵器の数は制限され、抑止力関係は比較的明確だった。核拡散は、不完全ながらも、規範と圧力によって抑制されていた。安全な世界ではなかった、安定した世界だった(It was not a safe world—but it was a stable one)。

しかし、この時代は終焉を迎えているかもしれない。

最も明確な兆候は、今週、アメリカとロシアの間で唯一残っていた核軍備管理条約(nuclear arms control treaty)である新戦略兵器削減条約(新START)が失効したことである。世界最大の核兵器保有国である米露両国に対し、50年以上ぶりに法的拘束力のある制限がなくなった。この状況が一時的なものに終わることを期待する声もあり、後継条約の締結に向けた取り組みが始まっている。しかし、より広い視点で見ると、楽観できる状況にはない。

2010年に新STARTが署名された当時は、世界情勢は今とは異なっていた。ロシアの戦略兵器は老朽化が進み、中国の核兵器保有量は少なく、「最小限抑止(minimum deterrence)」と呼ばれる戦略に基づいていた。しかし、エリック・エデルマンとフランクリン・ミラーが『フォーリン・アフェアーズ』誌に書いているように、もはやそのような世界は「存在しない(no longer exists)」。

ロシアは戦略核戦力の約95%を近代化したとウラジーミル・プーティン大統領は主張している。さらに懸念されるのは、モスクワが広大な地域核兵器庫を構築したことである。専門家たちは、陸海空から展開可能な戦術核兵器を約1500発保有していると推定している。これらのシステムは新戦略兵器削減条約(新START)の対象外である。ウクライナ戦争中、プーティン大統領は繰り返し核の脅威をちらつかせ、恐ろしい脅迫ゲームを仕掛けてきた。

中国の動向はさらに重大な影響を及ぼす可能性がある。習近平国家主席が2012年に政権を握った当時、中国は約240発の核弾頭を保有していた。現在、中国は600発以上を保有しており、アメリカの推定によれば、2030年までに1000発に達する見込みである。中国は地上配備型ミサイル、弾道ミサイル潜水艦、空中発射型ミサイルという完全な核戦力三本柱(a full nuclear triad)を配備し、警戒態勢の頻度を高めている。これには、敵のミサイルがまだ空中にある間に発射できる「警告発射(launch on warning)」能力も含まれる。

ジョー・バイデン政権は対話を通じてこの軍備増強を抑制しようと試み、北京に核軍縮協議への参加を促した。しかし、中国の反応は冷淡だった。中国は、自国の核兵器保有量がアメリカとロシアのそれとより近い水準に達した場合にのみ、真剣に協議に応じるとした。エデルマンとミラーが指摘するように、北京は透明性と検証を信頼醸成措置ではなく、むしろ弱点とみなしている。軍備管理は、避けるべき制約と捉えられているのだ。

その結果、冷戦時代の二極対立よりもはるかに複雑な、三つ巴の核競争が繰り広げられている。『エコノミスト』誌はこの変化を鮮やかな比喩で表現している。原子爆弾の父であるロバート・オッペンハイマーがかつて「瓶の中の2匹のサソリ(two scorpions in a bottle)」と呼んだものが、今や3匹になった。瓶の中が混み合っているということは、サソリの動きが予測しにくくなるということだ。

これは重要な問題だ。なぜなら、システムが複雑化するにつれて抑止力は脆弱になるからだ(deterrence grows more fragile as the system grows more complex)。二極化した核世界は危険ではあったが、その構造は明確だった。しかし、三極化(tripolar)、あるいは多極化(multipolar)の世界はそうではない。ロシアと中国は緊密に協力し、技術交流や合同軍事演習を実施しており、時には核保有能力を持つ部隊も参加している。2023年、超党派のアメリカ戦略態勢委員会は、「日和見主義的な侵略(opportunistic aggression)」、あるいは複数の戦域にわたる協調的な圧力のリスク(coordinated pressure across multiple theaters)について警告した。主に二国間競争を想定して設計されたアメリカの核戦力は、2つの同等の敵対国を同時に抑止することを目的としたものではない。

軍拡競争(arms races)は危険だ。核兵器の数は徐々に増加し、ドクトリンは曖昧になる。誤算のリスク(the risk of miscalculation)は高まる。それは戦争時だけでなく、危機、演習、あるいはパニック状態においても同様だ。現代の核システムは、サイバーネットワーク、宇宙空間に配備されたセンサー、そして短縮された意思決定時間とますます密接に結びついている。誤報や信号の誤読は、過去よりもはるかに速いスピードで事態をエスカレートさせる可能性がある。

危険は主要大国だけに留まらない。『ニューヨーク・タイムズ』紙によれば、約40カ国が核兵器製造技術を有している。

数十年にわたり、核不拡散(nuclear nonproliferation)は一種の取引の上に成り立っていた。ほとんどの国は、安全保障の保証(security guarantees)と核保有国が核兵器について責任を持って管理するという約束(the promise that nuclear states would manage their arsenals responsibly)と引き換えに、核兵器を放棄するというものだった。しかし、この2つの柱は今、危機に瀕している。

アメリカが同盟諸国を一貫して守る意思があるのか​​どうか疑念が深まるにつれ、一部の国は静かに選択肢の見直しを始めている。韓国では、独自の核抑止力獲得に関する議論が、これまで周縁的なものだったのが主流へと移行しつつある。日本では、かつては考えられなかったような議論が、戦略家たちの間で囁かれるようになっている。こうした動きが北東アジアで始まれば、そこで終わることはないだろう。

私たちは、管理された抑止力(managed deterrence)から競争的な再軍備(competitive rearmament)へ、制限(limits)から蓄積(accumulation)へ、予測可能性(predictability)から即興(improvisation)へと漂流しつつある。

何十年もの間、私たちは歴史上最も強力な兵器の脅威の下で暮らし、それらをどのように使ってはいけないかを不完全に学んだ。この成果は画期的なものだが、脆弱で、一時的なものに終わる可能性もある。

※ファリード・ザカリア:CNNの番組「ファリード・ザカリアGPS」の司会者であり、近著に『革命の時代』がある。彼は『ワシントン・ポスト』紙に週刊コラムを執筆しており、そのコラムは『フォーリン・ポリシー』誌にも配信されている。Xアカウント:@FareedZakaria

(貼り付け終わり)

(終わり)
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ザ・フナイ vol.225(2026年7月号)
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シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 
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『トランプの電撃作戦』
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世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 ドナルド・トランプ大統領は独裁者だろうか。好き勝手なことを言い、態度をくるくると変えて、「自分が最高だ」という傲慢な態度を見せる。突然、高関税をかけてみたり、引っ込めてみたり、「海外での戦争なんてやらない」と選挙の時に言っておきながら、ヴェネズエラやイランを攻撃してみたり、やりたい放題のように見える。トランプはやりたいことを邪魔されずにやれて、誰にも、どんな組織や機関も止められないと考える人も多いだろう。

 しかし、アメリカは三権分立(Separation of Powers)の体制になっている。立法権(Legislative):連邦議会、行政権(Administrative):大統領、司法権(Jurisdictive):連邦裁判所がそれぞれに権限を持ち、お互いに牽制をしている。抑制と均衡(Check and Balance)とも言う。フランスの思想家シャルル・ド・モンテスキューが『法の精神(De l'esprit des loisThe Spirit of Law)』(1748年)で唱えた。アメリカにおける三権分立の概念図は以下の通りだ。

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 アメリカの連邦最高裁判所は、トランプ関税は違憲だという判決を下した。現在の最高裁の判事の構成は保守派が多く、本来であればトランプ関税を支持するということも考えられるが、公開税は憲法違反ということで取り消すという判決が下された。また、連邦議会下院では、戦争終結の決議案が可決されたことはこのブログでもご紹介した。連邦下院も共和党が過半数を握っていて、このような決議案が可決されない可能性もあったが、共和党議員の中から賛成が出て可決された。このように、権力分立は機能している。もちろん、戦争終結決議案は抑制と均衡の機能街ではあるが、トランプの動きを止めようという動きとして機能している。

 トランプは大統領令を頻発してこの権力分立、抑制と均衡を崩そうとしているが、アメリカの政治体制においてはその動きにも限界がある。このようにしてみると、一概にトランプが権力を拡大して、独裁的になっていると言うこともできない。日本でも権力分立が導入されているが、「忖度」「空気」によって実際には、行政権の拡大が著しい。日本は近代的な制度を持ちながら、実際には前期断定黄な運用をしているという点で、遅れていると言わざるを得ない。そして、それは私たち国民の責任でもある。

(貼り付けはじめ)

真の「文明の消滅」はアメリカで起きている(The Real ‘Civilizational Erasure’ Is Happening in America

-トランプによる国家権力(state power)の拡大は西洋の核心的な成果である「権力への制約(limits on authority)」を損なう。

ファリード・ザカリア筆

2026年1月30日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/01/30/trump-vance-western-civilization/

ドナルド・トランプ、JD・ヴァンス、そしてその他のMAGA支持者たちは、西側諸国が直面する深刻な危機は「文明の消滅(civilizational erasure)」であると繰り返し主張し、ヨーロッパでまさにそれが起こっていると訴えている。彼らは、ヨーロッパがアイデンティティと移民問題に関して危険なほど誤ったアプローチを採用することで、西側諸国の独自の遺産を破壊していると主張している。

しかし、西側諸国の特徴は、部族もしくは宗教的連帯(tribal or religious solidarity)ではない。それは世界の大半に当てはまることだ。西側諸国の貴重で、ほとんど他に類を見ない功績は、国家権力の制限(he limitation of state power)である。1215年のマグナ・カルタ(Magna Carta)以来、西側諸国は市民の権利(rights of citizens)、独立した裁判所(independent courts)、主権を持つ教会(a sovereign church)、そして私有財産の神聖さ(the sanctity of private property)を通して、統治者に対する制約(constraints on rulers)を徐々に課してきた。この遺産こそが、西側諸国を民主的で繁栄した国家にしたのだ。そして、この遺産こそが、西側諸国を安定させた。権力が法によって制限されていたからこそ、市民は異議を唱えることができ、企業は投資することができ、市民社会は繁栄することができた。

トランプ政権2期目は、こうした伝統を急速に侵食しようとしている。

ミネアポリスでは、憲法修正第1条で保障された権利を行使していた2人が射殺された。ミネアポリスをはじめとする各地で、連邦捜査官たちが覆面を着用し、しばしばナンバープレートのない車両で、令状なしに逮捕を行っている。その実態は、権威主義的な警察活動、際限のない国家権力の行使を如実に物語っている。

そして、これは単なる見かけ上の問題ではない。現政権は、驚くほど攻撃的な方法で権力を行使し、裁判所の判決への服従をしばしば意図的に遅らせ、事実上、判決を無視していると言っても過言ではないほどだ。

トランプ政権は市民社会、すなわちメディア、大学、非政府組織、法律事務所、さらには民間企業にまで宣戦布告した。司法省がジョージ・ソロスのオープン・ソサエティ財団のような組織を捜査する計画(大統領はこれを恐喝行為[racketeering]と表現している)は、不穏な兆候を示している。それは、好ましくない集団を犯罪者扱いする動きだ。これは、ハンガリーやロシアの論理をアメリカ政治に持ち込んだものだ。批判者を反論するのではなく、捜査するのだ。

そして、法曹界も例外ではない。政府が法律事務所を脅迫する―機密情報へのアクセス制限、連邦政府機関への立ち入り制限、そして「不適切な」依頼人を代理すれば不利益を被るという示唆―これは、政府が好まない法律事務所を選べば適正手続きの保護は条件付きになる、と静かに、しかし明確に国民に告げているのだ。

大学もまた、前例のない規模で正面から攻撃され、捜査を受けている。現代の大学を愛する必要はない。ここに潜む危険性は明らかだ。政府は資金提供を利用して、独立した教育機関から政治的な譲歩を強要しているのだ。

自由社会の早期警戒システムとして常に重要な役割を担ってきた報道機関は、容赦ない脅迫としか言いようのない状況に直面している。報道機関は訴訟を起こされ、規制当局の権限が公然と行使され、経営者に党の方針に従うよう強要しようとしているかのようだ。8月には、連邦判事が、トランプ政権による左派団体メディア・マターズに対する連邦取引委員会の調査は、同団体の憲法修正第1条の権利を侵害した可能性が高く、中立的な規制ではなく政治的報復のように見えるとの判断を下した。

トランプ政権は経済における国家権力を拡大しているが、それはルール制定者としてではなく、むしろ交渉役や規律維持者としての役割を果たしている。公表された基準と競争的な補助金制度に基づく産業政策と、CEOがホワイトハウスに召喚され、罰せられたり、褒賞を与えられたり、あるいは「奨励されて(encouraged)」従うよう促されるようなシステムとの間には、天地ほどの隔たりがある。規制当局が、企業が特定の政策を採用(あるいは放棄)するかどうかによって、日常的な承認、更新、あるいは審査が左右される可能性を示唆すると、資本主義は競争の場ではなくなり、恩恵供与のシステムへと変貌し始める。

そして、これら全てに影を落としているのが、政権が過激派ではなく反体制派に対して、国家安全保障の手段を用いようとする姿勢である。例えば、一部の「アンティファ(antifa)」グループを外国テロ組織に指定しようとする動きを考えてみよう。この概念はあまりにも曖昧で定義が不十分なため、国家安全保障の専門家たちでさえ、あらゆる組織に適用されかねないと警告している。現行法では、指定された外国テロ組織に故意に「物的支援(material support)」を提供した場合、最高20年の懲役刑が科せられる可能性がある。しかも、「支援(support)」は些細な援助まで含めて広く解釈される可能性がある。民主政体はこうして衰退していく。異議申し立て(dissent)を違法と宣言することによってではなく、異議申し立てを別のものとして再分類することによって、国家権力が拡大し、民主政体は衰退していく。

政権は「西洋(the West)」をまるで文化遺産博物館(a heritage museum)のように語る。象徴、スローガン、アイデンティティといったものだ。しかし、西側諸国の真の偉大さは制度にある。その制度とは、強者も弱者も関係なく全ての人を拘束する法、慈悲深い指導者ではなく、制約を受けた指導者によって守られる自由、そして国家に反対しても犯罪行為とみなされることを恐れないほど強固な市民社会である。

西側諸国は血統(a bloodline)ではない。それは、権力が抑制され、権利が保護され、強制力が説明責任を負うという、一種の取引である。西側諸国にとって最大の脅威は、寛容になりすぎたり、個人の権利を過度に重視しすぎたりすることではない。国家権力の拡大こそが、西側諸国を、強者が弱者を支配する他のあらゆる社会と同じようなものにしてしまうことなのだ。

こうした観点から見れば、「文明の消滅(civilizational erasure)」は確かに起こっていると断言できる。しかし、それはヨーロッパではなく、ここアメリカで起きている。アメリカ政府が無制限の権力(unbounded power)に慣れ、国全体が無制限の権力と生活するに慣れきってしまっているからだ。

※ファリード・ザカリア:CNNの番組「ファリード・ザカリアGPS」の司会者であり、最新刊『革命の時代(Age of Revolutions)』がある。『ワシントン・ポスト』紙に週刊コラムを執筆しており、そのコラムは『フォーリン・ポリシー』誌にも配信されている。Xアカウント:@FareedZakaria

(貼り付け終わり)

(終わり)

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ザ・フナイ vol.225(2026年7月号)
sillionvalleykarasekaishihaiwoneraugunsanfukugoutainoshoutai001
シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 
trumpnodengekisakusencover001
『トランプの電撃作戦』
sekaihakenkokukoutaigekinoshinsouseishiki001
世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 5月に米中首脳会談、中露首脳会談が北京で実施された。その後、習近平中国国家主席の7年ぶりの北朝鮮訪問、平壌(ピョンヤン)での北朝鮮の最高指導者である金正恩委員長との首脳会談が実施されるという報道が出た。その後、本日8日から習主席による訪朝が実施されると発表された。習近平訪朝の報道が出た後、中国が北朝鮮を自分の陣営、影響圏にとどめておくことを重要視しているという分析が多く出た。それについてはこのブログでもすでにご紹介した。北朝鮮は国際政治の中で、独自の立場を築きつつある。ロシアにはウクライナ戦争への派兵と戦死傷者を出すということで、朝露関係は「血の盟約」に格上げとなった。ロシアからは石油や技術支援を得ることが可能になった。中国への依存度を減らすことに成功した。中国としてこれは困る。北朝鮮が行動の自由を得て勝手な行動を行うことは、予測不可能性が高まり、東アジア地域の安全環境にとってマイナスだ。先日の中露首脳会談で、中国の習近平国家主席はロシアのウラジーミル・プーティン大統領に、北朝鮮との関係について一種の「警告」を発しただろうと私は考えている。

 重要なことは、中朝首脳会談は、習近平国家主席が北朝鮮を訪問する形になるということだ。米中首脳会談、中露首脳会談はドナルド・トランプ大統領、ウラジーミル・プーティン大統領が北京を訪問するという形になった。それに対して、習近平国家主席が北朝鮮までわざわざ足を運ぶという形を取ることで、北朝鮮側の字損信を満足させるということになる。しかし、その代償としては、北朝鮮に対しては厳しい「警告」もあるだろうと私は考えている。もちろん、自分の陣営にとどめるために、支援の約束もするだろうが、「誰が北朝鮮をこれまで支えてきて、国家として存続することを助けてきたのか」ということを金正恩委員長にしっかりと理解させることが最優先事項となるだろう。

中国が見放してしまえば、北朝鮮は国家として存続することができない、もちろんそんなことになれば、北朝鮮は自暴自棄になって何をするか分からないのではあるが、最終的には中国人民解放軍が北朝鮮の人民を「解放」するために国境を越えて侵攻し、現体制の転換、金王朝の打倒を強引に行うということも示唆するだろう。そういうことはしたくないから、核兵器保有までは認めてやるが、それ以上、暴れるようなことはするな、分かっているなということを確認するための中朝首脳会談となるだろう。金正恩委員長も馬鹿ではない。外交に関して軌道修正を行うということになるだろう。

(貼り付けはじめ)

中国は北朝鮮を自分の陣営にとどめる必要がある(China Needs North Korea on Its Side

-もう筋実施されると見られる習近平国家主席の平壌訪問は7年ぶりとなる。

デン・イーウェン筆

2026年5月27日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/05/27/xi-jinping-kim-jong-un-china-north-korea-visit/

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北京の天安門広場で、ロシアのウラジーミル・プーティン大統領、中国の習近平国家主席、北朝鮮の金正恩委員長が並んで歩いている(2025年9月3日)

韓国メディアは最近、中国の警備・儀典担当者が既に平壌入りして、準備を進めていると報じ、習近平国家主席が5月下旬か6月上旬に北朝鮮を訪問する可能性があると伝えた。

中国は訪問を正式に発表していないが、今回の訪問は長らく待たれており、習主席の視点からすれば必要不可欠だ。北京と平壌は、表向きは緊密な関係にあるものの、水面下では両国関係はしばしば緊張状態にある。中国は北朝鮮の核保有国としての地位を完全には認めておらず、北朝鮮における影響力をロシアに奪われることを懸念している。

習主席が最後に平壌を公式訪問したのは2019年6月で、7年近く前のことだ。パンデミックによる3年間を除いても、これは長い空白期間であり、その間、習主席は韓国を含む多くの国を訪問している。キューバやヴェネズエラの首脳をはじめ、ここ数週間でドナルド・トランプ米大統領やウラジーミル・プーティン露大統領など、多くの外国首脳が中国を訪問している。平壌にもプーティン大統領やヴェトナムのト・ラム大統領など、多くの賓客が訪れている。

外交儀礼の空白自体が政治的なシグナルとなる。そして、北朝鮮が世界から極めて閉鎖的であるため、中国と北朝鮮の外交は本質的に異例である。中朝両国は共産主義国家であり、相互支援の歴史を持ち、北朝鮮は中国にとって唯一の正式な条約同盟国であるものの、「血で結ばれた(forged in blood)」友情は見た目以上に脆い(fragile)。

習近平国家主席の訪朝が長らく遅れていることは、北朝鮮が事実上の核保有国(a de facto nuclear-armed state)となったという現実を北京がまだ完全に受け入れていないことを反映しており、これが中朝関係の深化を阻む大きな障害となっている。

北朝鮮は既に核兵器を保有しており、一方、中国の長年の外交政策は朝鮮半島の非核化(the denuclearization of the Korean Peninsula)である。北朝鮮の金正恩委員長にとって、核兵器は体制の安全保障を究極的に保証するものであり、小国としての運命を免れ、アメリカと交渉するための唯一の切り札(nuclear weapons are the ultimate guarantee of regime security and North Korea’s only bargaining chip to escape the fate of a small state and negotiate with the United States)である。金委員長に核兵器放棄を求めることは、体制の安全保障を放棄させることに等しい。北京にとって、北朝鮮を核保有国として公然と認めることは、中国が長年堅持してきた核不拡散の立場を損ない、韓国、日本、その他諸国からの連鎖反応を引き起こす可能性がある。

北京はかつてアメリカと協力して北朝鮮に核開発計画の放棄を迫ったが、これは中朝両国関係を悪化させた。その結果、中朝関係は長年にわたり極めて悪化した。最終的に、北京は北朝鮮の核兵器保有を暗黙のうちに容認せざるを得なくなった。つまり、朝鮮半島の非核化を原則として強調し続けながらも、実際には北朝鮮が核保有国であることを認めざるを得なかった。

中国の外交用語には依然として「朝鮮半島の非核化」という言葉が使われているが、もはや中朝関係の中心的なテーマではない。北京は、朝鮮半島の平和と安定、政治的解決、アメリカの軍事的抑止力への反対、そして北朝鮮の正当な安全保障上の懸念への尊重をより重視するようになっている。この変化は重要である。これは、北京が平壌との関係を重視し、米日韓安全保障同盟への対抗を非核化という目標よりも優先させていることを示している。

習近平国家主席の訪朝は、新たな協議の機会となる。北京は、北朝鮮の核問題を中国と北朝鮮の首脳レヴェルの交流を阻害する要因としてこれ以上容認できないと認識したのかもしれない。中朝両国関係は、北朝鮮の事実上の核保有という現状を踏まえて再構築される必要がある。

習主席の訪朝はまた、中国が北朝鮮を自国の戦略的緩衝システム(its own surrounding strategic buffer system)に再び組み込むことを意味するだろう。現在、日米韓の安全保障協力が深化し、日中関係が極めて悪化している状況下で、北朝鮮の中国にとっての戦略的価値は高まっている。核武装した北朝鮮は、もちろん中国にとっても潜在的な脅威ではあるが、日本にとってはより差し迫った脅威であり、北京にとっては切り札となる。

習近平はプーティン大統領のことも念頭に置いている。金正恩がモスクワに接近したのは、中国をロシアに取って代わらせたいからではなく、北朝鮮の安全保障を保証してくれる後ろ盾が必要だからだ。プーティン大統領はまさにその支援を提供する用意がある。しかし、ロシアが北朝鮮に提供できるのは軍事・安全保障面での支援だけであり、1980年代から1990年代にかけて中国が追求し、中国当局が長年北朝鮮に受け入れるよう働きかけてきたような、完全な発展の道筋を示すことはできない。

中国が北朝鮮との距離を保ち続ければ、北朝鮮はますますロシアに接近し、最終的には朝鮮半島における支配的な地位を失うことになるだろう。こうした現実を踏まえ、中国は習近平の訪問を利用して、経済的・安全保障上のインセンティヴを提供することで、北朝鮮を北京主導の軌道に引き戻そうとするだろう。

さらに、習近平の訪問は、豆満江河口と羅津・先峰経済特区へのアクセスを開放し、中国東北部の経済を活性化させることも目的としている。かつて中国の工業地帯として栄えたものの、長らく停滞状態に陥っている中国東北部の復興は、長年にわたり議論されてきたものの、いまだに本格的に始動していない。

人口減少や制度の停滞など、その理由は多岐にわたるが、周辺地域との関係も無視できない。中国東北部は北朝鮮と国境を接しており、北朝鮮の長期にわたる閉鎖政策が、真の意味での国境を越えた交流や貿易の機会を阻んできた。もし中朝関係が改善し、北朝鮮が限定的な形で開放政策を実施し、豆満江の河口が開放され、羅津港と羅先経済特区が再び活発化すれば、中国東北部は朝鮮半島、ロシア極東、そして日本海を結ぶ新たな繋がりを築き、新たな未来を切り開く可能性を秘めている。プーティン大統領の最近の中国訪問において、習近平国家主席との共同声明で再び豆満江問題と北朝鮮との協議の必要性が言及されたことは、この問題が依然として完全には解決されていないことを示している。

金正恩委員長には、習主席の訪問を歓迎する独自の理由がある。プーティン大統領は既に国内における王朝的権威(dynastic authority)を固めているものの、国外からの承認も必要としている。北朝鮮訪問は既に安全保障面で大きな支持を得た。しかし、中国の重要性は異なる。今日のロシアは、戦争と制裁に苦しみ、国力が衰退している大国である。一方、中国は世界第2位の強国である。

北朝鮮が真に発展を望み、政権の安定を維持するためには、依然として大国である中国の援助と支援に頼らざるを得ない。習近平国家主席の訪朝延期が続くということは、中朝関係がそれほど強固ではなく、金正恩の個人的権威が習主席の全面的な支持を得ていないことを意味する。したがって、金正恩委員長は習主席を盛大に歓迎することで、自身の権威にさらなる正当性を加える必要がある。

そして、北朝鮮が将来的に門戸を開放し、国際社会に復帰したいのであれば、孤立国家(a pariah state)の瀬戸際に立たされているモスクワではなく、北京を必要とする。特に、金正恩委員長がアメリカとのルートを開設し、トランプ大統領との首脳会談を再び開催し、アメリカの制裁の一部解​​除を実現したいのであれば、北京の仲介と安全保障の提供が必要となるだろう。

習主席の北朝鮮訪問は、金正恩委員長が中国を迂回してトランプ大統領と直接接触し、将来のトランプ大統領との首脳会談から中国が排除されることを北京が恐れていることの表れだと指摘する人もいる。習近平国家主席が北朝鮮を訪問すれば、トランプ大統領へのメッセージを伝える可能性は確かにある。しかし、北京が将来の米朝交渉から中国が排除されることを恐れているというのは誇張である。北朝鮮はそのようなことはしないし、そもそもできない。金正恩委員長とトランプ大統領の過去2回の会談では、中国は排除されなかった。むしろ、金委員長はシンガポールでトランプ大統領と会談する前に、まず北京で習主席と会談した。

今日、金委員長が北京を迂回して単独で行動することは、さらに困難になっている。北朝鮮はアメリカを信用しておらず、金委員長もトランプ大統領を信用していない。2019年のハノイ首脳会談の失敗は、金委員長にとって痛恨の出来事であり、教訓となった。彼はすでにトランプ大統領の土壇場での要求や突然の方針転換を経験している。ヴェネズエラやイラン、そしておそらくキューバでの経験を踏まえれば、小国は大国の支援、核兵器、あるいはその両方を必要とするという確信をさらに強めるだろう。彼がアメリカとトランプ大統領を信用しているだろうか?

習近平国家主席の訪朝は、核問題をめぐる中朝両国間の対立が完全に解消されることを意味するものではない。しかし、両国は現実に基づいた、より現実的な二国間関係を構築するだろう。中朝両国は伝統的な友好関係を引き続き重視する。北朝鮮は引き続き中国の保護と支援(China’s protection and assistance)を必要とし、北京は引き続き北朝鮮を自国の交渉材料(its own bargaining chip)として必要とする。それぞれが必要なものを得ることで、相互の実用的な関係(a relationship of mutual pragmatism)は長く続く可能性がある。

※デン・イーウェン:中国の作家・学者

(貼り付け終わり)

(終わり)

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ザ・フナイ vol.225(2026年7月号)
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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 アメリカ連邦下院で、イラン戦争終結を進める決議案が可決された。法的拘束力を持たせるためには連邦上院での可決が必要で、更にドナルド・トランプ大統領が拒否権を行使するということが考えられるため、実際にアメリカ連邦議会がイラン戦争を終結させるということはできない。これは象徴的な動きではあるが、アメリカ国内のイラン戦争反対の声を代表している動きでもある。

 トランプ大統領の支持率、そして、イラン戦争に対する支持率はともに低下し、40%台ギリギリ、もしくは割り込む状態になっている。支持率の平均を見ると、何とか40パーセント台に乗っているが、いつ30%台に下がるか分からない。それでも、朝鮮戦争時にハリー・トルーマン、スキャンダルが発覚したリチャード・ニクソン、イラク戦争が長期化し人気が低迷したジョージ・W・ブッシュ(バカ息子)時代には20%台を記録したこともあり、トランプ大統領はまだ高いと言えるが、歴代最低に近い方に位置し、厳しいことに違いはない。
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ドナルド・トランプ大統領の支持率
 イラン戦争に対する支持率も時間の経過とともに低下している。開戦当初は不支持率が高いとは言いながら、まだ拮抗していた。それが時間の経過とともに差が大きくなっていった。トランプ大統領は開戦直後に数週間で終わると豪語していたが、その数週間後で戦争は終わっていないことから、不支持率は上昇のペースを速めた。ガソリンや食料の価格上昇の第一の原因がイラン戦争ということで、アメリカ国民の過半数は戦争を支持していない。また、トランプは海外での戦争を行わないということを公約していたために、「裏切られた」という反感も大きいだろう。大統領の支持率と不支持率、戦争への支持率と不支持率はどちらも差が大きくなり、グラフで見ると、よく言われる「ワ二の口」状態になっている。
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イランに対する軍事行動の支持率
 連邦議会では共和党が上下両院で過半数を握っている状態であり、彼らはトランプを支持することで選挙に勝とうという計算を持っている。しかし、トランプの任期がここまで下がれば、トランプの岩盤支持層がいるレッドステイト(共和党優勢州)以外の議員たちにとっては、トランプを支持し続けることは危険でもある。今年11月の中間選挙の予想は今のところ、民主党が有利となっている。

 連邦下院共和党指導部は引き締めを図り、トランプ大統領の戦争権限を縛ることはイランを利することになるという論法を用いて、決議案の否決を目論んだがうまくいかなかった。連邦上院では決議案が可決する可能性は低いが、こうした動きが出て、採決にまで至り、実際に議案が可決されるというのはあまりないことで、イラン戦争に対するアメリカ全体の「嫌気」「拒否感」が大きいことが示されている。トランプ大統領にとっては国内からも停戦、和平に向けた圧力を受けていることになる。イラン攻撃失敗はトランプにとっては致命傷となる大失策であったということは間違いないところだ。

(貼り付けはじめ)

連邦下院はイラン戦争終結決議案を可決しドナルド・トランプ大統領に異議を唱える(House passes resolution to end Iran War, challenging Trump

マイク・リリス筆

2026年6月3日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/house/5908560-iran-war-resolution-house/

Link copied

アメリカ連邦下院は水曜日、ドナルド・トランプ大統領にイラン戦争の終結を強制する議案を可決した。これは、連邦議会の明確な承認なしには戦争は違法であると主張する民主党と憲法原理主義者(constitutional purists)にとっての勝利となった。

賛成215票、反対208票で議案は可決された。共和党議員4名、トーマス・マッシー議員(ケンタッキー州)、ブライアン・フィッツパトリック議員(ペンシルベニア州)、トム・バレット議員(ミシガン州)、ウォーレン・デビッドソン議員(オハイオ州)が、民主党議員全員とともに賛成票を投じた。

この法案は同時決議(a concurrent resolution)と呼ばれるもので、法的効力(the force of law)を持つかどうかについては依然として議論が続いているため、今回の可決は象徴的な意味合いが強い。また、たとえ連邦上院でも可決されたとしても、トランプ大統領は議案の正当性(the authority of the measure)を争うだろう。

それでも、今回の採決はイラン戦争をめぐる政治闘争において重要な進展であり、3カ月以上も続き、世界経済を揺るがし、終結の見通しが立たないこの戦争を連邦議会が公式に非難したことを意味する。

ジャレッド・ハフマン連邦下院議員(カリフォルニア州選出、民主党)は次のように語っている。「これは非常に力強い結果となった。連邦上下両院がこれを違法な戦争(an illegal war)と宣言する段階に近づいている。これは非常に大きなことだ」。

ハフマン議員は「彼(トランプ)のやっていることはますます容認できないものになっている」とも述べた。

今回の投票は、中間選挙が近づくにつれ、共和党連邦議員の間でトランプ大統領に主要な問題で反抗する姿勢が強まっていることも浮き彫りにした。すでに多くの共和党議員は、ホワイトハウスの舞踏場周辺の警備に10億ドルを投じるというトランプ大統領の要求に反発している。また、トランプ大統領が提案した18億ドルの「兵器化」基金(“weaponization” fund)に対する共和党の反対の波を受け、トランプ政権当局は今週、この計画を完全に撤回したと発表した。

戦争権限に関する議論も同様の様相を呈している。

連邦上下両院の戦争反対派は過去3カ月間、戦争終結決議案の可決を何度も試みたが、トランプ大統領派の共和党支持者によって阻止されてきた。しかし先月、状況は一変した。連邦上院は独自の戦争権限決議案を上程した。これは、トランプ大統領がルイジアナ州共和党予備選でビル・キャシディ連邦上院議員(ルイジアナ州選出、共和党)を破ることを支援したわずか数日後、キャシディ議員が賛成票に転じたことがきっかけとなった。連邦上院での最終採決がいつ行われるかは不明だ。

連邦下院では、水曜日の採決は戦争反対派が終結を目指した4度目の試みとなった。最初の3回の戦争権限決議案は共和党の一部の支持を得たものの、多数派を占める連邦下院でトランプ大統領の支持者の反対を覆すには至らなかった。マイク・ジョンソン連邦下院議長(ルイジアナ州選出、共和党)の背後では、ほとんどの共和党議員が、この紛争は戦争のレヴェルには達しておらず、したがって連邦議会の承認は必要ないと主張している。

共和党指導部は、紛争の最中にトランプ大統領の手足を縛ることは、アメリカの安全保障を犠牲にしてテヘランのイスラム政権を強化することになると警告している。

しかし、紛争が国内でますます不人気になるにつれ、共和党の防衛線は崩れつつある。この変化は、圧倒的に戦争を支持する共和党支持層の中では起きていない。しかし、無党派層は戦争が長引くにつれて紛争に幻滅しており、2026年11月の中間選挙で議席維持を目指す共和党連邦議員にとって、これは警告信号(a warning sign)となっている。

こうした世論の変化の大きな要因は経済的なものだ。戦争は直接的に世界的な貿易混乱を引き起こし、ガソリンや一部の食料品といった国内生活必需品の価格高騰を招き、あらゆる層の有権者に影響を与えている。(ガソリン価格は先週若干下落したものの、全米自動車協会によると、水曜日の1ガロンあたりの平均価格は4.26ドルで、1年前の3.14ドルから​​上昇している。)

こうした物価上昇は、連邦議会の民主党議員たちも見過ごしておらず、選挙運動中にトランプ大統領が掲げた2つの主要公約、すなわち海外紛争回避(to avoid conflicts overseas)と労働者階級の生活費削減(to cut costs for working-class people)を放棄したとして、あらゆる機会にこの問題を取り上げ、トランプを攻撃してきた。

「ドナルド・トランプの無謀で費用のかかる選択戦争(war of choice)は、特にガソリン価格の上昇によって、一般市民に数百ドル、場合によっては数千ドルもの負担を強いている」と連邦下院少数党(民主党)院内総務ハキーム・ジェフリーズ連邦下院議員(ニューヨーク州選出、民主党)は火曜日、連邦議事堂で記者団に語った。「この戦争、この無謀で費用のかかる選択戦争は、今日にも終わらせなければならない」。

共和党議員の中には、戦争終結を支持する決定の大きな要因として、戦争権限法そのものを挙げている者もいる。1973年のこの法律は、大統領に国防の名の下に、連邦議会の承認なしに軍事作戦を開始する権限を与えている。その期間は60日間で、さらに30日間延長できる。この期間は5月初旬に終了し、共和党議員の一部はトランプ大統領に対し、テヘランに対する軍事力行使の継続を連邦議会で承認するよう要求した。

連邦下院外交委員会の民主党筆頭委員であるグレッグ・ミークス連邦下院議員(ニューヨーク州選出、民主党)が提出したこの決議案は、戦争権限法に大きく依拠している。戦争権限法を引用し、トランプ大統領に対し、「宣戦布告またはイランに対する軍事力行使に関する連邦議会の明確な承認がない限り」、テヘランとの「敵対行為(hostilities)」から全てのアメリカ軍を撤退させるよう指示している。

この決議案は「同時執行(concurrent)」とされており、連邦上下両院の承認は必要だが、大統領の署名や拒否権行使のためにホワイトハウスに送られる必要はない。これは、連邦上院の戦争権限法案(「共同」決議[a “joint” resolution])とは対照的だ。この議案はトランプ大統領の署名を経て成立し、署名されれば法律としての効力を持つ。トランプ大統領は、もし議案が成立に至ったとしても拒否権を行使すると予想されている。

ホワイトハウスは、ミークス決議案を法的根拠に基づいて却下し、行政権限に対する「違憲な立法拒否権(unconstitutional legislative veto)」であると主張した。政権はまた、トランプ大統領が4月初旬に停戦を呼びかけたことで紛争は終結したとして、実務的な観点からもこの決議案に異議を唱えている。

ホワイトハウスは先月、ミークス法案に反対する公式文書(行政政策声明)の中で、「現在、アメリカ軍を撤退させるべき敵対行為は存在しない」と記した。「2026年2月28日に始まった敵対行為は、2026年4月7日に大統領が命じた停戦によって終結した」としている。

水曜日に行われた別の採決では、連邦下院はトランプ政権が反対する別の法案、すなわちロシアとの戦争が続くウクライナへの支援法案も可決した。その法案は、いわゆる「委員会審査省略動議(a discharge petition)」と呼ばれる、あまり知られていない手続き上の策略によって本会議に提出された。提出請願は、連邦議会を支配する共和党指導部が反対する法案を採決に付すために218人の署名を必要とする。

先月、カリフォルニア州選出の共和党員で現在は無所属のケヴィン・カイリー連邦下院議員が218人目の署名を提供し、連邦下院共和党議員団を二分するこの問題について、今週後半に採決が行われることになった。

=====

アメリカ連邦下院がトランプへの批判としてイラン戦争停止決議案を可決(US House votes to halt Iran war, in rebuke to Trump

2026年6月3日

クワシ・ギャムヒ・アシエドゥ(ワシントンDC発)筆

BBC

https://www.bbc.com/news/articles/cj6pldg39deo

アメリカ連邦下院は、ドナルド・トランプ大統領によるイランへの軍事行動の継続を阻止する議案を可決した。

賛成215票、反対208票で可決されたこの議案は、2月に始まったイラン戦争への反対を公然と表明した共和党議員4名が民主党議員側に加わったことで成立した。これは、連邦議会の承認を得ていないと批判されているトランプ大統領の戦争権限(war powers)を抑制しようとする連邦下院の4度目の試みとなる。

この連邦下院決議(the House resolution)は、共和党が多数を占める連邦上院の承認を得る必要がある。たとえ連邦上院で可決されたとしても、イランに対する軍事行動を完全に抑制できる可能性は低い。

トランプ大統領は議案に拒否権(veto)を行使できる。大統領の拒否権を無効化するには、連邦上下両院で3分の2以上の賛成が必要となる。

連邦上院は、過去7回の否決を経て、5月に同様の決議案を上程したが、本会議での採決には至っていない。

連邦下院では、共和党のトーマス・マッシー、ブライアン・フィッツパトリック、トム・バレット、ウォーレン・デビッドソンの各議員が、民主党議員側と連携し、水曜日の決議案を可決した。以前は同様の法案に反対票を投じていたメイン州選出の民主党所属の議員ジャレッド・ゴールデンは、今回は賛成票を投じた。

ミシガン州選出の共和党所属の連邦下院議員であるトム・バレットは、「連邦議会のみが宣戦布告を行い(declare war)、私たちはそれを厳重に守らなければならない」と述べた。トランプ大統領からの報復(retribution)を懸念しているかと問われると、バレット議員は「私は良心に従って正しいと思うことに投票し、その結果を受け入れる覚悟がある」と答えた。

水曜日のこの採決は、トランプ大統領が率いる共和党内の分裂を示す最新の兆候となった。数日前には、連邦議会の保守派議員の反発を受け、トランプ政権は政治的同盟者たちへの18億ドル規模の「反兵器化」基金("anti-weaponization" fund)の計画を撤回せざるを得なかった。

連邦下院外交委員会の民主党筆頭委員であるグレゴリー・ミークス議員は、今回の採決を「トランプ大統領によるイランでの違法かつ多大な犠牲を伴う戦争に対する、超党派による重要な非難であり、戦争を終結させるための第一歩だ(a significant bipartisan rebuke of President Trump's illegal and costly war in Iran and the first step toward ending it once and for all)」と評した。

ミークス議員は、トランプ大統領は戦争の目的を達成できなかっただけでなく、国内の燃料価格を高騰させ、イランの核開発問題に対する外交的解決をさらに困難にしたと述べた。

「本日、この決議案が可決されたことは、重要な転換点(a significant turning point)を示している。それは、中東で終わりなき戦争を望まない有権者の声に耳を傾ける共和党議員が増えているということだ」と決議案の共同提案者であるミークス議員は述べた。

アメリカとイスラエルは2月28日にイランへの攻撃を開始した。イランはこれに対し、イスラエルと湾岸のアメリカの同盟諸国を攻撃し、世界の海上輸送にとって重要な航路であるホルムズ海峡を事実上封鎖した。

4月、アメリカはイラン沿岸を行き来する船舶に対する海上封鎖を実施すると発表した。

アメリカとイランは4月8日に暫定的な停戦合意(an initial ceasefire agreement)に達した。

しかし、この合意にもかかわらず、アメリカはここ数日イランを攻撃し、イランはアメリカの同盟国であるクウェートへの攻撃で報復した。トランプ大統領は採決を前に、戦争終結に向けた交渉は「非常に順調(going very well)」に進んでおり、早ければ今週末にも合意に至る可能性があると改めて主張した。

「私たちはこれまで、そして昨夜もイランをかなり強く攻撃した」とトランプ大統領は水曜日にホワイトハウスで記者団に対し、イランへの攻撃について言及した。「私たちが別の理由で強い行動をとったため、イランはやや挑発されたと言い、報復したのだろう」。

トランプ大統領はさらに、政権幹部のほとんどが「人々を殺害することなく」合意によって紛争を早期に終結させたいと考えていると付け加えた。

「理論的には、彼らは合意文書に署名する寸前だ。実際、私たちは彼らと非常に良好な関係を築いている」

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 古村治彦です。

 ドナルド・トランプ大統領がイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相を罵倒したという報道についてはすでにご紹介した。「狂っている」「何をやっているんだ」「ますます嫌われるぞ」ということを使ってはいけない言葉「fuck」を交えて浴びせたということだ。もっとひどい内容もあったのではないかと推察される。トランプの一連の発言は、「お前にはすっかり騙された」「イランが、イスラエルがレバノン攻撃を停止しないと和平交渉をしないと言ってきている、俺たちの邪魔をするな」という気持ちがよく出ている。

 トランプがここまで感情を爆発させたのは、今回のイラン攻撃、イラン戦争が完全に失敗、大失敗、大失策だということを認めており、和平交渉もうまくいっていない、イスラエルのせいでさらに状況が悪くなるということを認識しているからだ。さらに「ますます嫌われるぞ」というのは国際ツ的な孤立を危惧しており、アメリカがイスラエルと一緒に孤立することは望ましくないということも考えの中にあったということだろう。

 トランプが融通向けであること、自分の過去の発言や行動には全く縛られずに、くるくると態度を変えるということは世界中の人々が目撃し、そのような人物だと認識している。従って、「私は間違った判断をした」という言葉もさらっと言ってしまえるだろう。しかし、そのためには、「自分を間違いに導いた主要な責任者を差し出す」ということが必要になる。スケープゴートについて言及し、「こいつのせいなんだ、こいつが悪いんだ、こいつに責任があるんだ」ということが言えなくてはならない。犠牲の羊の候補者は、アメリカ側では、ピート・へぐセス米国防長官、外国では、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相だ。へぐセス長官は、イスラエルのネタニヤフ首相がイラン攻撃を売り込んだ際に、トランプ政権の閣僚たちが不安を感じ、反対する中で、前のめりで賛成した。イラン攻撃後に、トランプが「ピート、君がやれと言ったよな」と記者会見で発言したこともある。

 イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相はなんと言っても、ホワイトハウスまで出向いて、トランプ大統領と閣僚たちを前にして、1時間にわたり、イラン攻撃のメリットをプレゼンしたという事実がある。イスラエルだけではイランへ大規模攻撃をすることができない。アメリカを巻き込めるかどうかがカギだったが、それに成功した。しかし、イラン攻撃、イラン戦争自体は失敗だった。トランプとしては、ネタニヤフ首相に責任をかぶせることが良い選択肢となる。

 トランプ大統領としてはイスラエルを切り捨て、イランと和平を結び、中東地域から出ていきたい。イスラエルは既に中東地域のイスラム教国のいくつか(代表格はUAE)を取り込んでいる。ここにアメリカとイスラエルの分裂線がある。イスラエルはアメリカに見捨てられたらどうしようもない。アメリカにしがみつこうとするだろう。それならば、アメリカが支援し続けるためには、落とし前をつけてもらおう。それはネタニヤフ首相を退陣させろ(汚職で逮捕するかどうかはイスラエル国内で話し合って判断しろ)ということになるだろう。イスラエル国内で反米感情が沸き上がることも考えられる。しかし、根本に立ち返るならば、極右勢力を政治の主流に据えないということになり、イスラエル国内政治が浄化されねばならないということになる。これは日本も同じような状況である。

(貼り付けはじめ)

トランプは自分が大失敗したと認めるべきだ(Trump Should Just Admit He Screwed Up

-イラン戦争は明白に間違いだった。なぜそう言わないのか?

スティーヴン・M・ウォルト筆

2026年5月28日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/05/28/trump-iran-war-mistake-admit/

アメリカとイランの間で噂されている和平合意の詳細、あるいはそもそも合意が成立するかどうかも不明だが、3桁のIQを持つ者なら誰でも、イスラエルとアメリカが戦争を始めた時点でとてつもない大失敗(a colossal blunder)をしたことを理解している。アメリカとイスラエル両国が掲げた目標は1つも達成されていない。イラン政権は崩壊せず、核兵器を放棄せず、ミサイルとドローンの能力はそのまま維持されている。イランは、近隣諸国に甚大な被害を与えたいと思えばいつでもホルムズ海峡を封鎖できることを実証した。ドナルド・トランプ米大統領とピート・ヘグセス米国防長官が過去3カ月間繰り広げてきた自慢話や威勢のいい発言は、くだらない大言壮語(hot air)に過ぎなかったことが暴露された。

和平合意が成立すれば、トランプ政権はこの豚に大量の口紅を塗りつけ、一種の戦略的勝利(strategic victory)だと主張するだろう。しかし、納得する人はほとんどいないだろうし、こうした努力はトランプ大統領とその取り巻きの追従者たちを滑稽に見せるだけだ。この大失敗を成功と偽る説得力のある方法はどこにもない。彼らがそうしようとすればするほど、妄想に取り憑かれているように見えるだろう。

そこで私は考えた。もしトランプ大統領が自分の大失敗を認めたらどうなるだろうか? 大失敗を認めることは彼の得意分野ではないが、その点では彼だけではない。政治家は、たとえ誰の目にも明らかな大失敗であっても、大失敗を認めることはほとんどない。ましてや重要なこととなるとなおさらだ。例えば、ボリス・ジョンソン元英首相はブレグジットを擁護し続け、マイク・ポンペオ元米国務長官は、イラク侵攻(2003年)と第一次トランプ政権のイラン核合意破棄(2015年)は賢明な判断だったと今も主張している。

こうした明らかな大失敗を認めようとしない姿勢は、少々不可解だ。誰もが知っているように、完璧な人間など存在しないし、外交政策は不確実なものであり、どんなに綿密に練られた計画でも失敗する可能性がある。トランプよりも賢明で衝動性が低い指導者であっても(もっとも、トランプを基準にするのは低いのではあるが)、全てを完璧にこなせる指導者など存在しない。また、ほとんどの人は、失敗したときは、大失敗を認め、経験から学び、同じ大失敗を繰り返さないようにすることが最善策だと学ぶ。当然のことながら、高額な代償を払い続ける指導者は、いずれその代償を支払うことになるだろう。しかし、概して職務を立派に遂行し、時折の過ちを認める勇気を持つ当局者は、国民が彼らの最善の努力を認め、その誠実さを評価すれば、より人気が高まるかもしれない。

しかし、この道を選ぼうとする指導者はほとんどいないようだ。独裁者は特に間違いを認めることを嫌がる。なぜなら、彼らの権力は通常、個人崇拝(cults of personality)と、自分たちが絶対無謬であるという幻想(the illusion that they are infallible)を維持することに依存しているからだ。しかし、民主政治体制の指導者でさえ、たとえ些細な間違いでも認めれば、反対派がすぐに攻撃してくることを知っているため、在任中は間違いを認めることをためらう。例えば、ジョン・F・ケネディはピッグス湾事件の失敗について全責任を負い、バラク・オバマはトム・ダシュルを米保健福祉省長官に任命した初期の決定(ダシュルの脱税が発覚して裏目に出た)を認め、ロナルド・レーガンはイラン・コントラ事件が間違いだったことをほぼ認めた。しかし、このような瞬間は稀だ。2004年にジョージ・W・ブッシュ米大統領が最初の任期中に犯した間違いを思い出すように求められたとき、彼は1つも挙げることができなかった。政治家が失敗を認めるのを見たいなら、たいていは回顧録が出るまで待たなければならないが、それでも期待外れに終わるかもしれない。

しかし、トランプは政治家としてのキャリアを通して規範を壊し続け、そのテフロンのような耐性はレーガンさえも凌駕する。考えてみて欲しい。彼はかつて「五番街で人を撃っても支持者を失うことはない(he could shoot someone on Fifth Avenue and not lose any voters)」と豪語した人物だ。そして残念なことだが、この発言は彼の最も的確な言葉の1つであることが証明されている。近年のアメリカ大統領の中で、カメラの前で大失敗を認め、そして前に進むことができる人物がいるとすれば、それはトランプだろう。実際、彼は過去にそうしたことがあるが、過去の反省の態度が本心からのものだったかどうかは疑問だ。

そして、それはそれほど難しいことではないかもしれない。トランプはまず、イラン問題が長年にわたり厄介な問題であり、歴代大統領も解決できなかったことを人々に思い出させることから始めればよい。彼は、この問題をきっぱりと解決したかったと主張し、もう一度爆撃すれば効果があると考えた十分な理由があったと説明できるだろう。イランの政権が不人気で、年初にデモの波を鎮圧せざるを得なかったことを指摘することもできる。この計算は大きく間違っていたことが判明したが、トランプ流の典型的なやり方で、何事も100%確実ではないと人々に思い出させ、自分の仕事は難しい決断を下すことだと述べ、様々な方面から受けた悪い助言のせいで間違いを犯したと非難することができるだろう。ここで彼は、トランプの好戦的な態度がトランプに何の利益ももたらさず、アメリカとイスラエルの両方でますます不人気になっているイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相を非難することができるだろう。ネタニヤフがどれほど評判を落としているかを考えると、彼をスケープゴートにすることは、この時点でトランプの人気を高めることさえあるかもしれない。

トランプは、自身の意図は称賛に値するものであり、今回の策略は価値のある賭けだったと主張した後、この一件から多くを学んだと述べ、前任者たちと対比させるだろう。彼の声が聞こえてくるようだ。「眠そうなジョー・バイデンとは違い、彼は何事にも考えを変えず、同じ失敗を繰り返すばかりだった。私は常に学び続け、適応力のある、非常に安定した天才だ」。そして、ホワイトハウスの物議を醸している舞踏室プロジェクトなど、別の話題に移るだろう。

トランプが、数々の失策を重ねてきた2期目における最も深刻な失態に対して、このようなアプローチを取ると期待できるだろうか? 正直に言って、そうは思わない。トランプは、過去に時折、大失敗を認めてきた(たいていは、無能な任命者を解任せざるを得なくなった時だが)。しかし、重大な失敗を認めることは、彼の権力のオーラを損ない、より多くの人々が公然と彼に反抗するようになり、偉大な大統領として記憶されるという彼の夢(his dream of being remembered as a great president)を打ち砕くことになると、彼は考えているのだろう。たとえそれが今となってはどれほど可能性が低くなっているとしても諦めていないだろう。トランプの支持基盤であるMAGA支持者たちは今後も彼を支持し続けるだろうが、数カ月後には彼らだけがトランプの頼みの綱となるかもしれない。

紛争終結を遅らせることで、トランプは敗北寸前の状況から勝利の幻想を無理やり掴み取ろうとしているが、これはアメリカとその同盟諸国が被っている苦痛をさらに増幅させ、トランプ自身の評判にもさらなるダメージを与えている。彼が自らの失敗を認め、前に進む方が皆にとって良いだろう。しかし、高齢の親から車の鍵を取り上げた経験のある人なら誰でも知っているように、頑固な高齢者はしばしば自分の利益を理解できないものだ。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。ウォルトは『新地政学(The New Geopolitics)』の著者。これは今日の世界を生き抜くために活用すべき最も重要な概念を解説した、全5回のニュースレター形式のマスタークラスだ。Blueskyアカウント:@stephenwalt.bsky.socialXアカウント:@stephenwalt

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ザ・フナイ vol.225(2026年7月号)
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シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 
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『トランプの電撃作戦』
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世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 イラン戦争は4月上旬に一時的に停戦が合意され、その後、停戦が延長されている状況だ。アメリカやイランによる小規模な攻撃は実施されているが、大規模な攻撃の再開には至っていない。アメリカとイランによる和平交渉は継続されており、アメリカ側が少しずつ条件を緩めている、譲っているという状況である。イラン側はホルムズ海峡を握っており、これが世界経済に深刻な影響を与えており、アメリカ側にとっても厳しい状況になっている。数週間で戦争は終わり、イランの政権転覆、もしくは体制転換までつながるという甘い目論見で戦争を始めたドナルド・トランプ大統領にとっての致命的な失策となり、また、アメリカにとっても国力や存在感、影響力を毀損するほどの重大な出来事ということになるだろう。

 アメリカ軍は世界第一の規模と戦闘力を持っており、予算額でいえば、世界第2位から第10位までの9カ国の予算の合計総額を一国で上回る規模を誇っている。アメリカ軍は最強であるということは世界の「常識」であった。それが崩れつつある。アメリカは弱い相手、確実に圧勝できる相手を選んで戦争を仕掛けて軽く勝ってきたが、少し骨のある相手となると途端に弱くなるということが今回のイラン戦争で明らかになった。また、ウクライナ戦争への支援もあり、アメリカは装備面で不安を持っていることも明らかにされた。あれだけの防衛予算がありながら、武器や装備に不安があるということも驚きであった。イラン戦争ではイスラエルやペルシア湾岸諸国のアメリカ軍基地に攻撃が加えられ、被害が出た。「アメリカ軍があっても屁のツッパリにもならんではないか」ということにもなっている。

 ドナルド・トランプ大統領はアメリカが世界から撤収する、西半球(南北アメリカ大陸)に戻る、21世紀型のモンロー主義であるドンロー主義を打ち出していた。2026年1月のヴェネズエラ攻撃やキューバに対する非人道的な封鎖は批判されるべきだが、ドンロー主義としては筋が通っている。しかし、イラン攻撃に関してはトランプの主張と矛盾している。イラン戦争と中東地域の不安定は、イスラエルの利益となる。トランプは「アメリカ・ファースト」ではなく、「イスラエル・ファースト」の選択をし、失敗してしまった。トランプを失敗させる方向に誘導したイスラエルの洗脳力は大したものだと言わねばならない。

 しかし、イラン戦争はトランプとアメリカにとって墓穴ということになる。国力を毀損し、世界を混乱に陥れ、信頼を失い、世界帝国、世界覇権国の地位からの陥落を内外に印象付けた。イラン戦争の影響は数年の間続くだろう。その間にアメリカはますます衰退していくだろう。日本政府、高市早苗政権はイラン戦争がすぐに終わると見込んで、無策で大事な3月、4月、5月を過ごした。その付けをこれから支払うことになるだろう。アメリカ追従一辺倒が、これからの時代に以下に危険かということを私たちは痛みの中で学んでいくことになるだろう。

(貼り付けはじめ)

イラン問題はトランプにとっての最大の失敗となる可能性がある(Iran Could Be Trump’s Greatest Failure

-多くのことが恐ろしいほど間違った方向に進んでいる―そして、事態はまだ終わっていない。

ラヴィ・アグラワル筆

2026年5月18日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/05/18/iran-war-trump-foreign-policy-failure-energy-crisis-military/

先週北京で行われた華やかな式典の中、ドナルド・トランプ米大統領は、習近平中国国家主席にワシントンとテヘラン間の和平合意の仲介を依頼できると期待していた。しかし、それは実現しなかった。中国も、ロシアを除くほとんどの国と同様に、戦争の終結を望んでいるだろう。しかし、イランの新指導者たちは、相手が明らかに逃げ腰になっているチキンゲーム(a game of chicken in which their opponent has long made it clear that he wants to chicken out)を楽しんでいるように見える。

テヘランは、私たちと同じようにニューズの見出しを読んでいる。そして、トランプ大統領にとってこの戦争が破滅的(disastrous)になるという証拠は増え続けている。現時点で、戦争がどのように終結しようとも、トランプ大統領、アメリカ、そして世界経済全体にとっての苦痛は、しばらくの間続くことになるだろう。それは一体何のためであろうか?

それでは、イラン攻撃によって何が得られたのかを見てみよう。最高指導者アリ・ハメネイ師を含む主要指導者が殺害された。イランの空軍と海軍は壊滅的な打撃を受け、ミサイル発射能力も低下した。しかし、得られたのはここまでだ。イランの政権は依然として存続しており、より若く、より復讐心に燃える新たな指導者が誕生した。『ニューヨーク・タイムズ』紙がアメリカの情報機関の評価に基づいて発表した衝撃的な報道によると、イランは戦前のミサイル備蓄量の70%、移動式発射機の70%を依然として保有しており、ホルムズ海峡沿いのミサイル基地の90%以上を運用可能な状態で利用していることが明らかになった。この最後の点は、イランが将来いつでも世界で最も重要なエネルギーの要衝であるホルムズ海峡を通る航行を妨害し続けることができることを意味する。テヘランはミサイルでイスラエルやアメリカのペルシア湾岸の同盟諸国を攻撃することも依然として可能である。そして最も驚くべきことに、イランは依然として高濃縮ウランを保有している。もし戦争の目的の1つが、テヘランが核爆弾を開発できないようにすることであったとすれば、その目的は達成されていない。

一方、米国防総省は損失の算定に追われている。『ワシントン・ポスト』紙の調査によると、イランは中東地域のアメリカ軍基地15カ所で217棟の建造物を損傷させた。CNNは、バーレーン、クウェート、イラク、アラブ首長国連邦、カタールにある少なくとも9カ所のアメリカ軍基地がイランの攻撃により「甚大な被害(significantly damaged)」を受けたと報じた。これらの施設の再建には数年と数十億ドルの費用がかかる。戦略国際問題研究所(CSIS)によると、アメリカは現在進行中の戦争の激戦期に、パトリオット防衛ミサイルの半分から60%(ウクライナがロシアとの4年間の戦争で使用した数よりも多い)とトマホークミサイルの3分の1をイランとの交戦に使用した。費用はさておき、これらのミサイルは製造と補充に最大4年かかる。もしアメリカが別の戦場、例えば台湾防衛に投入された場合、戦力は大幅に低下した状態で戦闘に臨むことになるだろう。そして、人命の損失も忘れてはならない。これまでの戦闘で少なくとも13名のアメリカ軍兵士が死亡し、400名以上が負傷した。遺族はただただ、なぜこのような事態になったのかと問い続けるしかないだろう。

ここでソフトパワーの代償について語るのは少々無粋に思えるかもしれないが、国内的あるいは国際的な合意なしに戦争を遂行すれば、ホワイトハウスは他国が戦争を始めたことを非難する際に、規範や規則を持ち出す余地が少なくなるという点を考慮する価値はある。アメリカは他国の指導者の処刑を命じることを常態化させてしまった。

そして、エネルギー危機もある。アメリカのガソリン価格は昨年同時期と比べてほぼ50%上昇している。商用車が使用するディーゼル燃料は59%も上昇した。明白な理由は戦争だ。ホルムズ海峡の封鎖によって、それまで供給過剰だった市場が圧迫された。以前にも書いたように、ヨーロッパやアジアではその影響はさらに深刻だ。パキスタンやフィリピンなどの国々は、エネルギー節約のため、公務員の勤務時間を短縮し、大学を閉鎖している。世界第5位の経済大国であるインドでさえ、先週、14億人の国民に対し、燃料消費量を削減し、金(きん)の買い占めをやめるよう要請した。これだけでも十分悪い状況だが、最悪の事態はまだこれからだ。アメリカが石油輸出を拡大し、戦略石油備蓄を取り崩していなければ、エネルギー価格は今頃もっと高騰していたはずだ。国内需要が減少している中国も、膨大な石油備蓄を使い果たしている。ワシントンが輸出を削減したり、北京が備蓄ではなく市場に供給し始めたりすれば、価格は急騰する可能性がある。いつものように、最も大きな打撃を受けるのは小規模経済国だろう。

他の商品も深刻な不足に見舞われており、世界全体に様々な波及効果が及ぶことが予想される。ホルムズ海峡は、平時であれば世界の原油と天然ガスの5分の1を輸送するだけでなく、世界の肥料供給量の5分の1、ヘリウム供給量の3分の1も担っている。世界的な食糧危機と、ヘリウムを必要とする半導体の不足は、すでにエコノミストたちの来年の予測に織り込まれている。危機が長引けば長引くほどコストは増大する。

世界経済の成長はすでに鈍化している。4月、国際通貨基金(IMF)は成長率予測を3.4%から3.1%に下方修正した。本日発表される新たな予測では、さらに0.3ポイントの下方修正が必要となるだろう。IMFは、エネルギー供給が正常に戻らなければ、来年の成長率は2%まで低下すると予測しており、このシナリオはますます現実味を帯びてきている。この事態を客観的に捉えるために、1980年以降、世界の経済成長率が2%を下回ったのはわずか4回しかないことを指摘したい。また、1950年以降、世界経済が景気後退に陥ったのは、2008年の世界金融危機と2020年の新型コロナウイルス感染症パンデミックの2回だけだ。もしイラン戦争がこれら2つの予期せぬ衝撃に並ぶ事態になれば、トランプとアメリカにとって、歴史的なオウンゴールとなるだろう。

アメリカの同盟諸国へのコストも考慮に入れるべきだろう。トランプ大統領は、ホルムズ海峡の強制的な再開と機雷除去のために、ヨーロッパのNATO同盟国に協力を求めた。しかし、支援が得られないことに気づくと、支援を要請したことを否定した。率直さで知られていないドイツのフリードリヒ・メルツ首相は、アメリカはイランによって「屈辱を与えられた(humiliated)」と述べ、トランプ大統領を激怒させ、すでに緊張状態にあった両国関係をさらに悪化させた。ペルシア湾岸諸国では、アメリカに自国領土に軍事基地を建設するよう要請した国々が、なぜ自ら進んで標的になったのかと疑問を抱いている。例えば、カタールは戦前の天然ガス生産量に戻るには数年かかる見込みで、今年の経済成長率は8.6%のマイナスになると予測されている。ショックに耐える力が限られているアジアの同盟諸国は、アメリカが国際舞台でならず者国家なのではないかと疑問を抱いている。しかし、アメリカの敵対諸国は、この戦争を別の視点で見ている。中国は、アメリカ軍が過負荷状態に陥り弱体化したことを喜んでいるだろう。そして、ロシアはこの紛争の明白な勝者となり、開戦以来、月間石油収入を倍増させている。

トランプ大統領は、戦争をさらに強化するという選択肢を公然と検討している。しかし、それは以前にも増して不確実な利益と、はるかに大きな潜在的な苦痛を伴うだろう。この状況から抜け出す方法としては、外交が望ましいが、そもそもなぜ戦争を始めたのかという疑問が残る。これは、先週のトランプ大統領と習近平国家主席の首脳会談に立ち返る。もしあなたが北京の指導者だったら、最大の長期的競争相手が致命的な過ち(a catastrophic mistake)を犯している最中に、その邪魔をしたいと思うだろうか? 私はそのように考えない。

※ラヴィ・アグラワル:『フォーリン・ポリシー』誌編集長Xアカウント:@RaviReports

=====
ドナルド・トランプのイラン戦争はオウンゴール(Trump’s Iran Own Goal

-イラン戦争は強硬派を勢いづかせ、重要な海上輸送路を封鎖し、ロシアの勢力を拡大させた。

ファリード・ザカリア筆

2026年4月3日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/04/03/trump-iran-war-israel-united-states-military-nuclear-weapons-missiles-winners-losers/

アメリカ・イスラエルとイランの戦争が始まって2カ月が経過した現在、現状を改めて確認しておく価値がある。2月末に戦争が始まる前のイランとその周辺地域の状況は以下の通りだ。

昨年6月、イランの核濃縮施設は、ドナルド・トランプ大統領の言葉を借りれば、アメリカとイスラエルの空軍によるステルス爆撃機と3万ポンド(約13.6トン)のバンカーバスター爆弾を用いた12日間の爆撃作戦によって「完璧に完全に破壊された(completely and totally obliterated)」。イスラエル国防軍司令官もトランプ大統領の意見に同意し、「私たちはイランの核開発計画を何年も遅らせた。ミサイル計画についても同様だ」と述べた。イスラエル原子力委員会もこの結論を改めて表明し、イランが核物質を入手しない限り、「この成果は無期限に続く」と付け加えた。そして、イランが核物質を入手することは積極的に阻止されていると強調した。

2024年にイスラエルが行った複数の空爆作戦により、イランの軍事力は大幅に弱体化していた。これらの作戦では、イスラム革命防衛隊の主要幹部が殺害され、防空システムが破壊され、弾道ミサイル施設が攻撃された。イスラエルはまた、イランの最も強力な同盟民兵組織であるヒズボラを激しく爆撃し、その指導部を複数殺害した。多くの分析によれば、ヒズボラの軍事力は壊滅的な打撃を受けた。イスラエルは既にガザ地区のハマスを壊滅させていた。さらに、シリア政府を支援していたイラン系民兵組織に対するイスラエルの作戦は、2024年12月のシリア政権崩壊の一因となった。

言い換えると、イランは軍事的に非常に劣勢な状況にあった。加えて、経済も制裁強化と腐敗した政権によって崩壊寸前だった。イランが近隣諸国、ましてや約6000マイル離れたアメリカにとって脅威であると主張する者はほとんどいなかった。トランプ大統領は水曜日、事実上これを認め、「アメリカは必ずしもそこにいる必要はないが、同盟諸国を支援するためにそこにいる」と述べた。注目すべきは、ヨーロッパやアジアの同盟諸国は事前に相談を受けておらず、多くの国が戦争に反対の声を上げている点である。

実際、報道によると、ベンヤミン・ネタニヤフ首相がトランプ大統領にこの戦争を説得したのは、イランが差し迫った脅威だったからではなく、イランのかつてない弱体化が政権交代を迫る好機となったからだという。そうでなければ、トランプ大統領が開戦直後の短い声明を、イラン国民に立ち上がって政権を打倒するよう呼びかける言葉で締めくくった理由は何だろうか? ネタニヤフ首相も自身のメッセージで同様の呼びかけを行った。

これまでのところ、イランに壊滅的な打撃を与え、既に脆弱な軍事力を弱体化させたこと(このような一方的な戦いでは予想できたことだが)を除けば、望まれた成果はほとんど得られていない。イランの政権は崩壊していない。主要な指導者は交代したが、その内容は悪化している。核兵器開発を禁じたことで知られる86歳のアリ・ハメネイ師は殺害され、息子が後を継いだ。息子は父親よりも強硬派と言われている。概して、常に好戦的だった革命防衛隊は勢力を拡大しているように見えるが、これは戦時下においては当然のことと言えるだろう。

47年間にわたるアメリカ・イラン間の緊張関係の中で、数々の脅威にもかかわらず自由航行を維持してきたホルムズ海峡は、トランプ大統領が「はるかに理性的(much more reasonable)」と評する新指導部によって封鎖されている。トランプ大統領は、あと数回の爆撃の後、イランが自国の石油を輸出したがるため、海峡は「自然に(naturally)」開通するだろうと述べている。これは状況を誤解している。海峡は閉鎖されていない。イラン産原油は自由に、特に中国に向けて流れている。戦争の結果、イランは紛争前と比べて、日々の原油販売で約2倍の収入を得ている。さらに、タンカー1隻あたり200万ドルという通行料を徴収し続ければ、テヘランは毎月数億ドルもの追加収入を得ることになる。これは軍事力の再建に十分な額であり、それ以上の利益をもたらすだろう。

アメリカの湾岸同盟諸国は、戦争前よりもはるかに不安定で緊張した環境に直面している。彼らのビジネスモデルは、平和、安定、そして経済統合を必要としている。サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン王太子は、近代化という野心的な計画を推進するために地政学的な緊張を緩和しようと、2023年にイランとの関係を修復した。しかし現在、石油輸出が停滞し、地域が安定のオアシスへと向かう道筋から紛争のるつぼへと転落したことで、こうした進展はすべて危機に瀕している。

勝者がロシアであるのは明白だ。原油価格の高騰とアメリカによる制裁解除により、ロシアは毎月数十億ドルもの追加収入を得ることになる。ウクライナは必要な武器が中東地域に転用されるため、損失を被る。ヨーロッパはエネルギーコストの高騰に苦しむ一方、トランプ大統領はNATOにアメリカが起こした戦争への参加を要求し、従わなければ脱退すると脅迫している。(NATOは防衛同盟であり、朝鮮戦争、ヴェトナム戦争、イラク戦争には参加していないことに留意すべきである。)アメリカが中東地域の新たな紛争に巻き込まれ、アジアへの関心を失うことで、中国は利益を得る。一方、北京はグリーンテクノロジーへの巨額投資によって、この戦争の多くのコストから守られており、世界からはより責任感があり、混乱を招かない超大国(a more responsible, less disruptive superpower)として認識されている。

もちろん、状況は変わる可能性がある。戦争は予測不可能(unpredictable)だ。しかし、これまでのところ、これほど多くのコストを費やして、これほど少ない利益しか得られなかったアメリカの軍事行動はかつてあっただろうか?

※ファリード・ザカリア:CNNの番組「ファリード・ザカリアGPS」の司会者であり、最近では『革命の時代(Age of Revolutions)』を著した。彼は『ワシントン・ポスト』紙に週刊コラムを執筆しており、そのコラムは『フォーリン・ポリシー』誌にも配信されている。Xアカウント:@FareedZakaria
(貼り付け終わり)

(終わり)

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 古村治彦です。

 アメリカのドナルド・トランプ大統領がイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相に対して怒りを爆発させ、罵倒したという報道が出た。イスラエルがレバノンへの攻撃を激化させていることに対して、イラン側がそのようなことが続けば停戦交渉は続けられないとアメリカが側に伝えたことがきっかけで、トランプの怒りが爆発したということのようだ。ネタニヤフ首相に電話をかけて、「狂っている」「何をやってやがるんだ」ということをおよそ外国の指導者に対しては使わない、使ってはいけない「fuck」という言葉を交えて、激しく罵ったということだ。ネタニヤフ首相は「OKOK、全てをうまくやるから」と宥めたが、レバノンの首都ベイルートへの攻撃は中止せざるを得なかったようだ。
donaldtrumpbenjaminnetanyahulashout2026001
トランプ(左)とネタニヤフ

 このブログでも、そして、『ザ・フナイ』2026年7月号の拙稿でも紹介したように、2026年2月28日からの、アメリカとイスラエルによるイランへの大規模攻撃は、ネタニヤフ首相がトランプ大統領に売り込んで実現したものだ。トランプは、ネタニヤフの巧言に乗せられて、重大な決断をしてしまった。政権の最高幹部たちはこぞって反対意見を述べ、止めようとしたが、トランプは突き進んだ。JD・ヴァンス副大統領は明確に反対意見を述べたが、その内容が現在そのまま起きている(ホルムズ海峡の封鎖や世界経済への影響、トランプ大統領の支持率低下など)。

 イラン戦争が思い通りの結果にならず、石油価格の上昇を招き、それがアメリカの一般国民の生活にも影響を与えている。トランプ大統領の支持率は40%を切り、不支持率は50%代後半まで上昇している。現状では2026年11月に実施される中間選挙で共和党は敗北を喫し、トランプは力を失うということになる。イランとの停戦合意は現状を打破し、状況を改善するための最善の方策である。再攻撃をちらつかせているが、再攻撃をすれば、停戦交渉はさらに困難になる。再攻撃をするならばイランを政権転覆・体制転換まで追い込むまでやる必要があるが、そんな力はアメリカ軍にはない。

従って、何としても停戦交渉をまとめたい。しかし、イスラエルが邪魔をしてくる。それを分かってイランが圧力をかけてくる。こうした思い通りにいかない状況でトランプが爆発してしまったということになる。政治の世界では「騙される方が悪い」ということになる。ネタニヤフの口車に乗ってイラン戦争を始めてしまったトランプが悪い。しかし、トランプとしては、「ネタニヤフの野郎が俺を騙して、嵌めて、こんな状況にしてしまった」「イランの言うことを聞かなくちゃならない屈辱、これは全てネタニヤフが悪い」ということになる。

 重要な点として、トランプは「イスラエルが国際的に孤立しつつある」ということをきちんと理解している点が挙げられる。イスラエルはガザ地区への過剰な報復攻撃から、イラン攻撃、レバノンへの過剰な攻撃を実施している。それも全て「自衛」を理由にし、批判を「反ユダヤ主義」というラベリング、レッテル貼りで封殺する。しかし、実態は狂信的極右による攻撃に過ぎない。これはイスラエルの安全を高めることにはならない。イスラエルは国際的孤立など望むところだというくらいになっている。トランプがネタニヤフに「狂っている(crazy)」という言葉を使ったが、この言葉は現在のイスラエルを形容する言葉ということになる。

(貼り付けはじめ)

「俺がいなければお前は刑務所に」 トランプ氏がネタニヤフ氏罵倒か

毎日新聞 2026/6/2 10:20(最終更新 6/2 10:49

https://mainichi.jp/articles/20260602/k00/00m/030/028000c

 トランプ米大統領は1日、イスラエルのネタニヤフ首相と、レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラの代表者それぞれと電話協議し、双方に交戦停止を求めたと明らかにした。これに先立ち、イランがレバノンでの戦闘激化を理由に米国との停戦交渉を中断すると表明しており、米政権がイラン側に配慮したとみられる。トランプ氏は自身のソーシャルメディアに「イランとの協議は速いペースで続いている」と投稿した。

 イスラエルと親イランのヒズボラの戦闘を巡っては、4月中旬に発効した停戦合意が形骸化しており、米イランの停戦協議のネックとなっている。イスラエルは最近、レバノンへの攻勢を強めており、ネタニヤフ氏がベイルート南郊への攻撃計画を発表していた。

 米ニュースサイト「アクシオス」によると、トランプ氏は電話協議でネタニヤフ氏を「今や誰もがお前を嫌っている」「完全に狂っている」「俺がいなければお前は刑務所に入っていた」などと罵倒し、強い不満をあらわにしたという。トランプ氏とネタニヤフ氏はこれまでも度々電話協議をしているが、アクシオスは米政府高官の話として、今回はトランプ氏の2期目就任以降では最悪レベルのものだったと報じた。

 一方、ネタニヤフ氏はトランプ氏との協議後、X(ツイッター)に「イスラエル軍はレバノン南部での作戦を計画通り実施する」と投稿しており、レバノンでの緊張緩和につながるかは不透明だ。

 トランプ氏は1日、米ABCニュースの電話取材に応じ、停戦のためのイランとの「覚書」について、今後1週間程度でまとまるとの見通しを述べた。まだ交渉中の点があり、合意には至っていないとも説明した。【ワシントン平野光芳、エルサレム松岡大地】

=====

「あんたは全く持って狂っている」:トランプ大統領がネタニヤフ首相に電話会談を行いレバノンに関して激怒("You're fucking crazy": Trump fumes at Netanyahu in call on Lebanon

バラク・ラヴィド、マーク・キャプト筆

2026年6月1日

『アクシオス』誌

https://www.axios.com/2026/06/01/trump-netanyahu-israel-lebanon-call

ドナルド・トランプ大統領は月曜日、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相と電話会ダインを行い、レバノンにおけるイスラエルの軍事行動のエスカレーションについて、罵詈雑言を浴びせた。アメリカ政府当局者2人と、会談内容を知る別の情報筋が『アクシオス』誌に明らかにした。

●なぜこれが重要なのか:月曜日、イランはイスラエルのレバノンにおける行動を理由に、アメリカとの交渉を打ち切ると脅迫した。情報筋2人によると、トランプ大統領は電話会談でネタニヤフ首相を「狂っている(crazy)」と呼び、恩知らず(ingratitude)だと非難した。また、イスラエルによるベイルート攻撃計画を止めた(put the brake)。

●舞台裏:あるアメリカ政府当局者によると、トランプ大統領はネタニヤフ首相に対し、レバノンの首都ベイルートへの爆撃を実行すれば、イスラエルは国際社会でさらに孤立するだろうと伝えた。

・情報筋2人によると、トランプ大統領はネタニヤフ首相が投獄されないように尽力したと主張したと述べた。これは、ネタニヤフ首相の汚職裁判におけるトランプ大統領の支援を指している。

・トランプ大統領のネタニヤフ首相への発言を要約して、ある当局者は「あんたは全く持って狂っている。俺の助けがなかったらあんたは刑務所に入っていただろう(You'd be in prison if it weren't for me)。俺があんたを救ってやったんだぞ。今や誰もがあんたを憎んでいる。この(レバノン攻撃)せいで誰もがイスラエルを憎んでいる」と述べた。

・電話会談の内容を知る別の情報筋によると、トランプ大統領は「激怒(pissed)」しており、ある時点でネタニヤフ首相に「一体全体、あんた何をやっていやがるんだ?」と怒鳴ったという。

●ニューズの中心:アメリカ政府当局者によると、トランプ大統領はヒズボラがイスラエルに向けて発砲していること、そしてイスラエルが自衛する必要があることを認識していたものの、ここ数日、ネタニヤフ首相の対応が不均衡にエスカレートしていると感じていたということだ。

・ベイルートへの脅威に加え、イスラエルはレバノン南部での地上作戦を拡大している。

・別のアメリカ政府当局者によると、トランプ大統領はイスラエルがレバノンで多数の民間人を殺害したことを懸念しており、ヒズボラの司令官1人を排除するためにイスラエルが建物を破壊したことに反対していたという。

●現状:あるイスラエル政府当局者は、ベイルートのヒズボラ標的への攻撃計画はもはやないとアクシオスに語った。

●文脈読解:トランプ大統領とネタニヤフ首相は過去に何度か緊迫した電話会談を行ってきたが、イラン問題や他の問題については緊密に連携してきた。あるアメリカ政府当局者は、今回の会談はトランプ大統領が政権復帰後、ネタニヤフ首相と行った電話会談の中で最も険悪なものの1つだったと述べた。

・トランプ大統領の怒りは、ネタニヤフ首相がレバノン情勢をエスカレートさせたことで、イランとの交渉が破綻する恐れがあったことに起因していると見られる。

・電話会談後、トランプ大統領はSNS「トゥルース・ソーシャル」に、イランとの協議は「速いペースで進展している最中だ(continuing, at a rapid pace)」と投稿した。

●もう1つの側:ネタニヤフ首相は電話会談後、声明を発表し、ヒズボラがイスラエルへの攻撃を停止しなければイスラエルはベイルートの標的を攻撃するとトランプ大統領に伝え、その間もイスラエルはレバノン南部での作戦を継続すると述べた。

・「私たちの立場は変わらない」とネタニヤフ首相は声明の中で書いている。

・別のアメリカ政府当局者は、実際にはトランプ大統領が電話会談でネタニヤフ首相を「圧倒した(steamrolled)」と主張した。「ネタニヤフ首相は電話で、『OKOK、とにかく全てきちんと処理する』と述べた」とこの当局者は語った。

・ネタニヤフ首相官邸はコメントの要請に応じなかった。

●注目点:アメリカとイランが交渉中の覚書には、レバノンでの戦闘終結を求める内容が含まれていると情報筋はアクシオスに語った。これは、以前トランプ大統領とネタニヤフ首相の間で行われた緊迫した電話会談の原因となったものだ。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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 古村治彦です。

 ドナルド・トランプ大統領は9年ぶりに中国を訪問し、習近平国家主席と首脳会談を行った。トランプ大統領は自身のSNSで「習近平主席が『アメリカは衰退国家かもしれない』と述べたが、それについては、バイデン政権の下での点であれば100%正しい」と投稿した。第二次トランプ政権下ではその逆になっており、習主席からは業績について祝福されたとも書いている。「G2」「西側諸国(the West、ジ・ウエスト)を率いるアメリカと、西側以外の国々(the Rest、ザ・レスト)を率いる中国」という枠組みで世界の動向を決める最高峰の首脳会談が行われている中で、アメリカ大統領がこのようなことを投稿するということは前代未聞である。このような前代未聞のことを融通無下に行えるのがトランプ大統領の真骨頂である。

 トランプをはじめとする世界各国のポピュリズム(既存のエリートたちに対する人々の異議申し立て)を基盤とする指導者たちの外交政策や外交姿勢についての共通点を抽出しているのが以下の論稿だ。重要なポイントは以下の通りだ。

「しかし、問題は、ポピュリスト的な外交政策が自己強化的(self-reinforcing)になっていることだ。トルコ、インド、ハンガリーの例に見られるように、失敗が人々の行動を変える可能性は低い。循環論法(the circular logic)はあまりにも強力だ。外交政策の私物化とエリート層の排除(the personalization of foreign policy and dismissal of elites)は、指導者たちを軌道修正に向かうように促すフィードバックループ(feedback loop)から孤立させてしまう。社内メディア制作とニューズのキュレーションはこのループを増幅させる。ポピュリストによる「腐敗したエリートたち」という枠組みと壮大な歴史叙述は、世界的な反発を自らのヴィジョンのさらなる裏付けと捉えさせる。そして、世界的な恐喝によって得られたわずかな利益であっても分配することで、国内からの批判にもかかわらず、主要支持層の忠誠心を確保することができる」

 トランプ大統領の今回のSNS投稿について言えば、「ジョー・バイデン前政権」という「腐敗したエリートたち」によるアメリカの衰退を中国の最高指導者も認めているが、自分の業績は評価したという自己宣伝を行っている。こうした行為は「主要支持層の忠誠心を確保する」ためのものとなる。外交政策についてこのように見てみることで、興味関心が高まると思う。ぜひ参考にしていただきたい。

(貼り付けはじめ)

ポピュリスト外交政策の7本の柱(The Seven Pillars of Populist Foreign Policy

-トランプの世界へのアプローチを理解するには彼に似ている指導者たちを見てみよう。

リセル・ヒンツ、ベーク・イーセン、トゥーダー・オネア筆

2026年2月19日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/02/19/trump-erdogan-orban-modi-india-hungary-turkey-populism-corruptionthe-seven-pillars-of-populist-foreign-policy/

ドナルド・トランプ大統領就任から1期、1年、1カ月が経過した現在も、アナリストたちは彼の外交政策をどう理解すべきか議論を続けている。トランプは新たな世界的課題に対し、ワシントンの伝統的なアプローチを調整していると主張する人もいれば、彼のイデオロギー的衝動がアメリカの強さの源泉を独自に誤解していると主張する人もいる。良くも悪くも、トランプが外交政策上の制約に直面する状況は、最初の任期に比べてはるかに少なくなっていることは明らかだ。

私たちは、トランプ外交を理解するための最良のアプローチは、アメリカの世界における独自の地位やトランプ自身の特異性ではなく、むしろ彼のポピュリスト的な統治形態(his populist form of governance.)にあると考える。トランプの国内政策を、ハンガリーのヴィクトル・オルバン首相、インドのナレンドラ・モディ首相、トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領といった他のポピュリスト指導者たちの政策と比較することは、すでに一般的になっている。しかし、この比較が外交政策の領域においても非常によく当てはまることは驚くべきことだ。結局のところ、アメリカ合衆国はハンガリー、インド、トルコとは全く異なる地政学的立場にある。しかし、トランプ政権下では、世界政治へのアプローチは極めて類似している。

ポピュリスト指導者たちは、彼らが代表すると主張する「人々(the people)」という点において、大きく異なっている。しかしながら、全体として見ると、彼らは類似した物語、様式、戦術、そして、複数の統治チャンネル(channels of governing)を用いており、それらは国内政治に影響を与えるだけでなく、海外での行動にも明確な影響を与えている。近年の研究は、ポピュリズムが戦略とイデオロギーの両面として機能すること、意思決定の手続き面が非ポピュリストのそれとどのように異なるか、ポピュリスト政権下での外交政策の変化の激しさを形作る条件、そして世界的なポピュリズムの台頭が国際秩序に与える影響を明らかにしている。

私たちが「ポピュリスト外交政策の7本の柱(the seven pillars of popular foreign policy)」と呼ぶものは以下のようなものだ。個人化(personalization)、ハイパー・メディア化(hyper-mediatization)、「腐敗したエリートたち」(“corrupt elites”)、壮大な歴史(grand history)、修正主義(revisionism)、恐喝(extortion)、そして(時に失敗する)国内における配当の追求(the (sometimes unsuccessful) pursuit of domestic dividends)である。これらの全ての領域において、トランプは国際的なポピュリスト指導者たちと非常によく似た行動を取っている。少なくとも、これらの類似点は、トランプの国際舞台における行動の根底にある独自の戦略的論理を探し求めるのは誤りであることを示唆している。

(1)個人化(1. Personalization

トランプと同様に、ポピュリスト指導者(多くの場合、当初は自由かつ公正に選出された)は、伝統的に自らの統治に対するチェック機能を果たしてきた民主的制度に穴を開け、可能であれば掌握しようとする傾向がある。

トランプは「効率性(efficiency)」の名の下に官僚機構を大幅に削減したが、エルドアンの粛清はクーデター計画者や「テロリスト(terrorists)」を標的とするものだった。ハンガリーのオルバン首相は新たな憲法秩序を設計した。このように制度的知識を骨抜きにし、豊富な技術と知識を持つ人材を政治任用者(political appointees)に置き換えることは、外交政策の意思決定に深刻な影響を及ぼし、予測不可能性、リスク許容度の高さ、無能さ、そして他の国家優先事項を犠牲にした行政府の肥大化などを引き起こしている。

(2)ハイパー・メディア化(2. Hyper-mediatization

全ての指導者が政治的コミュニケーションに関与するのに対し、ポピュリスト的な政治スタイルは、ニューズメディアやソーシャルメディアを巧みに活用して政治的スペクタクル、つまり一種の政治としてのメディアを演出する。

エクアドルのラファエル・コレア前大統領、ヴェネズエラのウゴ・チャベス前大統領、そして最近退陣させられたニコラス・マドゥロ大統領による毎週のテレビ番組、エルドアン大統領によるほぼ毎日の演説、そしてモディ首相のバーチャルアバターとの3D炉辺談話(the 3D fireside chats)は、国民との感情的な繋がりを生み出す役割を果たしている。これらのプラットフォームを利用して現職指導者の外交政策における勝利を強調することは、現職指導者だけが偉大さを再び示し、国民が当然得るべき地位と尊敬を取り戻すことができるというメッセージを伝えることになる。

トランプは大統領執務室を、厳選されたメディアの前で、外国の指導者を叱責したり、あるいは味方に引き入れようとしたりできる、実際の(新たにギラギラとさせられた)舞台と見なしている。2025年2月に政権の最高幹部たちがウクライナのウォロディミール・ゼレンスキー大統領を厳しく叱責した事件は特に記憶に残る出来事であり、元テレビプロデューサーのトランプは、この出来事は「素晴らしいテレビ番組」になるだろう(the proceedings would make “great television”)と述べた。しかし、サウジアラビアとトルコの首脳による公式訪問を国民向けに企画したことも、ポピュリズムの芝居がかった演出を如実に示した。

ソーシャルメディアもまた、政治の場として頻繁に利用されるようになっている。トランプは、Xや自身のトゥルース・ソーシャルといったプラットフォームを利用して、指導者を脅迫し、政策変更を示唆するとともに、自らの功績を誇張している。

(3)「腐敗したエリートたち」(3. “Corrupt elite”

ポピュリスト指導者たちは、国際政治を、腐敗した既存のエスタブリッシュメントの経済・文化エリートから「純粋な人々(pure people)」を守る正当かつ必要な守護者(rightful and necessary guardians)であると主張する場と捉えている。ポピュリストは、国際的な地位を要求し、悪意ある外国エリートとその国内の陰謀から国家-国民、価値観、領土―を守ることで、「人々(the people)」の利益を強化すると主張している。

世界中のポピュリストは、自らの「腐敗したエリートたち(corrupt elites)」をアメリカ、ヨーロッパ、あるいは西側諸国と結託しているかのように仕立て上げることに長けている。チャベスは2008年のメルコスール首脳会議で、アメリカとヨーロッパ連合(EU)の移民政策を「合法化された野蛮行為(legalized barbarism)」と激しく非難した。親政府メディアから「太陽のスーパーマン(Solar Superman)」と称されるモディ首相は、2023年のG20サミット開催に際し、発展途上国に制限的な政策を課す西側諸国の指導者たちを非難した。

トランプはこのポピュリスト的な筋書きを維持し、西側諸国の一カ国であるアメリカの首都で権力を握る立場から、西側諸国が設計した秩序を批判し続けている。「リベラル派(liberals)」がアメリカを意図的に弱体化させ、世界の物笑いの種にしていると非難する際に、彼らがコスモポリタン的な、従って、非アメリカ的な利益(un-American interests)と結託していると常々示唆している。例えば、アメリカがユネスコから2回脱退した際、トランプは2回目の理由として、ユネスコが「意識の高いウォーク(woke)」だからだと述べた。

(4)壮大な歴史(4. Grand history

ポピュリストの歴史叙述は、理想化された過去へのノスタルジアを喚起し、現指導者との連続性を確立し、失われた物質的および名声的な偉大さを過去の政権のせいにする。エルドアンはオスマン帝国の過去を持ち出してトルコの地域的自己主張を正当化する。モディはヒンドゥー教の民族主義的歴史を引用し、インドを文明的な世界大国として位置づける。オルバンは歴史を巧みに利用して親ロシア的な姿勢を正当化し、ひいてはハンガリーの強化を目指す。

トランプの「アメリカを再び偉大に(Make America Great Again)」という政策は、アメリカの外交政策の中核を成す従来の叙述に挑戦する。アメリカが設計した多国間機構に誇りを持つ代わりに、トランプはそれらをアメリカの力に対する制約として位置づける。彼は、アメリカがNATOに資金を提供し、ヨーロッパ諸国がただ乗りしている(free riders)と主張し、冷戦後のルールに基づく秩序は前述のグローバリストの陰謀によって画策されたアメリカの利益への裏切りであると主張する。こうした主張は、一極行動主義(unilateralism)への転換、同盟諸国との取引関係、そしてパリ気候協定やイラン核合意といった過去の協定からの離脱を正当化するために利用された。

(5)修正主義(5. Revisionism

ポピュリストは国際社会を「腐敗したエリートたち」と混同することで、しばしば修正主義を抱き、長年の同盟諸国との対立を招く可能性がある。超大国ではないポピュリストが率いる国家もまた、自国の地位向上につながる国際秩序の修正を求める。

エルドアン大統領が国連総会で「(国連安全保障理事会の常任理事国を指して)世界は5カ国よりも大きい」と頻繁に警告するのは、トルコに有利なように伝統的な力関係を崩すことを狙っている。地域レヴェルでは、オルバン大統領はハンガリーがヨーロッパ連合理事会の輪番議長国を務めていたことを利用し、域内の規範を「強引に押しつぶし(bulldoze)」、多国間構造に内側から挑戦を仕掛けた。

トランプの場合、国家統治術(statecraft)を研究した学者ウォルター・ラッセル・ミードが2017年に初めて指摘した「ジャクソン流ポピュリスト・ナショナリズム(Jacksonian populist nationalism)」が飛躍的に拡大している。二期目のトランプは、エリザベス・N・サンダースの言葉を借りれば「海外の皇帝(emperor abroad)」のように振舞っている。「アメリカ・ファースト」の名の下に広範囲に及ぶ関税、国際機関の権威への挑戦、そしてNATO同盟国に対する領土主張は、いずれもかつての覇権国家(hegemon)というよりは、むしろグローバル・サウスにおける台頭しつつある勢力に見られる修正主義的なアプローチを示唆している。

(6)恐喝(6. Extortion

ポピュリストたちは、いかなる外交政策行動にも見返り(a payoff)が必要だと考えている。そして、ポピュリストたちは見返りを得るための機会を人為的に作り出すことをためらわない。これはしばしば、事態を悪化させ、正常化のための譲歩を要求することによって達成される。実際、ポピュリスト指導者の際立った特徴は、現状に対する劇的で変革的な変化を強調するにもかかわらず、しばしば見返りとして既存の取り決めとの共存を受け入れる用意があることだ。

真の修正主義は革命的だ。しかしながら、ポピュリストたちは現実的である。彼らは激しいレトリックと、劇的だが限定的、そしてさらに重要なことに、安易な権力の誇示から始める。あるいは、相手側と交渉して影響力を行使し、同盟関係を破壊して譲歩を引き出すことで、自らをディールメーカーとして位置付ける。そして、適切な見返りが得られれば、完全な勝利を収め、通常通りの行動に戻ると主張する。

2015年のシリア内戦でシリア難民が流入した際、エルドアン大統領は移民をヨーロッパに送り込むと脅した。その後の数カ月のうちに、彼はヨーロッパ連合(EU)と60億ユーロの資金援助を約束する合意を結んだ。その後、資金が期待したほど迅速に提供されなかったため、彼は再び脅しを続けた。

ワシントンの独自の立場は、トランプに見返りを確保するためのより有利な立場を与えているに過ぎない。例はいくらでも挙げられる。同盟諸国に対する包括的関税は個別交渉の結果撤回された。グリーンランド占領の脅しは曖昧な合意へと変貌し、グリーンランドにアメリカの主権の無駄な一帯を生み出した。トランプはロシアへの制裁をちらつかせたが、その後、ロシアへの巨額投資の約束と引き換えに、ウラジーミル・プーティン大統領との会談に同意した。アメリカ大統領はコロンビアに介入をちらつかせた後、コロンビア大統領に交渉を求めた。ヴェネズエラの野党活動家を突き放した後、彼女のノーベル平和賞を自ら獲得しようと画策した。

(7)国内における配当(7. Domestic dividends

伝統的な指導者は一般的に非難を避けようとする。しかし、ポピュリストたちはそうではない。彼らはしばしば国際的な成果を勝利として主張しようと、紛争を煽り、永続させる。ポピュリストたちは人々の擁護者としてリスクの高い冒険に乗り出し、人々のために戦い、人々のために勝利していることを示す。

世界は、例えば国内メディアとは異なり、ポピュリストたちのコントロールが及ばないことが多いため、これは指導者が時として苦戦する領域である。エルドアンはEU難民協定に対して国民の激しい反発に直面した。2023年のG20サミットをインドが主催した際に、「#GoBackModi」キャンペーンが巻き起こった。インドでは、モディ首相の度重なる国際訪問が自国民に何の利益ももたらしていないという厳しい批判が巻き起こった。

時が経つにつれ、トランプもますます同じ轍を踏む危険性が高まっている。20261月にイプソス社が行った調査では、グリーンランド併合を支持したアメリカ人はわずか5人に1人だった。キュニピアック大学の世論調査では、10人中9人が武力行使に反対している。別の世論調査では、アメリカ人の大多数が、トランプが宣言したようにヴェネズエラを「統治(running)」することに反対していることが明らかになった。

トランプの外交政策は、自らが約束した変革をもたらす成果をもたらすどころか、その条件自体がほぼ失敗に終わった。アメリカの戦争終結を誓ったにもかかわらず、ウクライナでは今のところ何の成果も得られず、ガザ地区では不安定な停戦しか実現していない。海外におけるアメリカの軍事的関与を削減するどころか、トランプはイランとの紛争をエスカレートさせ、ヴェネズエラに対する軍事作戦を命じた。貿易と安全保障に関するより良い合意を約束したにもかかわらず、中国との関税戦争は決着がつかずに終わった。実際、国内的に見ても、トランプの政策は彼が期待した支持率の向上にはつながっていない。

しかし、問題は、ポピュリスト的な外交政策が自己強化的(self-reinforcing)になっていることだ。トルコ、インド、ハンガリーの例に見られるように、失敗が人々の行動を変える可能性は低い。循環論法(the circular logic)はあまりにも強力だ。外交政策の私物化とエリート層の排除(the personalization of foreign policy and dismissal of elites)は、指導者たちを軌道修正に向かうように促すフィードバックループ(feedback loop)から孤立させてしまう。社内メディア制作とニューズのキュレーションはこのループを増幅させる。ポピュリストによる「腐敗したエリートたち」という枠組みと壮大な歴史叙述は、世界的な反発を自らのヴィジョンのさらなる裏付けと捉えさせる。そして、世界的な恐喝によって得られたわずかな利益であっても分配することで、国内からの批判にもかかわらず、主要支持層の忠誠心を確保することができる。

その結果、世界規模で、予測不可能性(unpredictability)、紛争(conflict)、そして腐敗(corruption)がさらに蔓延する可能性が高い。

※リセル・ヒンツ:ジョンズ・ホプキンス大学 高等国際関係大学院(School of Advanced International Studies)講師。

※ベーク・イーセン:トルコ・サバンシ大学政治学部准教授。

※トゥーダー・オネア:トルコ・ビルクネット大学国際関係学部講師。

(貼り付け終わり)

(終わり)
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ザ・フナイ vol.225(2026年7月号)
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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 アメリカは輝ける国家だった。第二次世界大戦後の世界において、たとえソ連を中心とする社会主義陣営に住む人々であっても、アメリカの余裕のある豊かな生活は憧れの的だった。アメリカに対する憧れを形作ったのは「ソフトパワー」だった。
 「ソフトパワー」について、下記論稿の著者スティーヴン・M・ウォルトは、「ナイはソフトパワーを「魅力の力(the power of attraction)」と定義した。つまり、他国が模倣し、関係を築き、その先導に従いたくなるような資質を備えていることで、他国を望むように動かす能力(a nation’s ability to get others to do what it wanted)のことである」と書いている。
 具体的には、アメリカ発の映画やテレビドラマ、小説、出版物、絵画、演劇、商品(コーラやジーンズ)、音楽、芸能などに振れることでアメリカを知り、アメリカに憧れた。読者の皆さんそれぞれに考えてみても、各世代でアメリカから影響を受けているということになるのではないかと思う。私の個人的な体験でいえば、子供の頃に田舎の映画館で見たアメリカ映画、「スーパーマン」や「E.T.」、「バックトゥザフューチャー」などを今でも覚えている。映画のお供は映画館の近くにあるマクドナルドで、持ち帰りで買ってもらったハンバーガーとコーラだった。1984年のロサンゼルス・オリンピックも楽しみで見ていた。小学生の頃だったが、日米経済摩擦があり、日本製品が世界で人気だということを知り、誇らしかったことを覚えている。大人たちからは「日本は資源がないから、資源を輸入して、自動車や冷蔵庫なんかを作って、それを外国に買ってもらってお金を稼いでいるんだよ、アメリカが一番買ってくれる国なんだよ」と教えられた。アメリカは良い国なんだと子供心に思ったことを覚えている。
 こんな単純なアメリカ感は成長すれば持たなくなるものだが、「三つ子の魂百まで」で、アメリカへの憧れはあり、最終的にはアメリカ留学までさせてもらうことになった。子供の頃にテレビで見たロサンゼルス、オリンピックのメイン会場であるLAコロシアムを訪問した時は感動した。
 しかし、輝けるアメリカはなくなりつつあり、憧れのアメリカという虚像がなくなって、裸のアメリカが見えてくると、アメリカへの親近感が薄れ、反発が大きくなっている。現在の第二次ドナルド・トランプ政権のヴェネズエラ攻撃、キューバ封鎖、イラン戦争は、むき出しの欲望の発露であり、親米感情を削り取るものだ。また、アメリカ国内のインフラの劣化や分裂などもまた、アメリカへの憧れを生み出すものではない。これはもう覆い隠しようがない。トランプは逆にそれをさらけ出し、欲望をむき出しにすることで、アメリカ人と世界の人々にアメリカの厳しい現実を伝え、何とか対応しようとしている姿を見せている。「アメリカを再び偉大に」という言葉の前提は「現在のアメリカは偉大ではない」ということだ。そして、「再び」偉大になるかと言われて、素直にそうなると答えられる人はほぼいないだろう。
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アメリカのソフトパワーの終焉(The End of America’s Soft Power)
-アメリカは自分の国際的な強みの1つを放棄してしまった。
スティーヴン・M・ウォルト筆
2026年5月4日
『フォーリン・ポリシー』誌
https://foreignpolicy.com/2026/05/04/trump-soft-power-usa/
ドナルド・トランプ政権の外交政策における最も顕著な特徴の1つは、選択された目標(the chosen ends)ではなく、好まれる手段(preferred means)にある。それは、アメリカのハードパワー(hard power)に対する絶対的な自信と、故ジョセフ・ナイが「ソフトパワー(soft power)」と呼んだものに対するほぼ完全な軽視である。ナイはソフトパワーを「魅力の力(the power of attraction)」と定義した。つまり、他国が模倣し、関係を築き、その先導に従いたくなるような資質を備えていることで、他国を望むように動かす能力(a nation’s ability to get others to do what it wanted)のことである。ハードパワーを多く持つ国は、武力や威嚇、あるいは援助や保護の提供によって他国を強制できる。一方、ソフトパワーを多く持つ国は、他国が自国に憧れ、自国の理念に賛同し、あるいは自国をファッショナブルで成功しており、さらには「イケてる(hip)」と見なすことで、より大きな影響力を享受できる。
私のような素晴らしいリアリストは、ハードパワーの重要性を軽視するようなことなどない。むしろ、確固たるハードパワーによる裏付けなしにソフトパワーを多く持つことは困難だ。しかし、ウラジーミル・プーティンのロシアが示したように、ハードパワーは豊富でもソフトパワーはほとんど、あるいは全くないという状況もあるだろう。理想的には、国家はハードパワーとソフトパワーの両方を豊富に持つことが望ましいだろう、それは、ソフトパワーが豊富であれば、他国は自然と自国の意向に従うようになり、ハードパワーを頻繁に使う必要がなくなるからだ(Ideally, a state would like to have a lot of both, because having a lot of soft power means others will be naturally inclined to do what you want and you won’t have to use your hard power very often)。ナイは、アメリカのハードパワーとソフトパワーの組み合わせが、国際社会との関係において大きな優位性をもたらすと確信していた。これが、彼がアメリカの将来に楽観的で、衰退を予測する人々に懐疑的だった理由の1つだ。しかし、長いキャリアの終盤には、彼でさえアメリカの国際的な魅力の衰退を懸念し始めていた。
トランプ政権2.0では、ハードパワーさえあれば十分だという考え方が、至るところで見られる。政権は関税の脅威を利用して貿易相手国に一方的な経済協定を強要し、最高裁判所がそれらを無効とする判決を下したにもかかわらず、その努力を続けると誓っている。政権は6カ国以上で軍事力を行使し、カリブ海と太平洋で麻薬密輸容疑者を殺害し続けている。殺害されている人々が誰であるかが明確ではなく、全員が実際に麻薬密売に関与していることを証明できず、これらの行動が違法薬物の入手可能性にほとんど、あるいは全く影響を与えないことを政権も認めている。ドナルド・トランプ大統領は繰り返し他の世界の指導者を弱腰だ(being weak)と非難し、ウクライナのウォロディミール・ゼレンスキー大統領には「切り札がない」のでロシアと取引すべきだと述べ、キューバの一般市民をさらに困窮させ、最終的には政権を降伏させることを目的としたキューバ封鎖(a blockade on Cuba)を課した。最後に、そして決して軽視できない点として、イラン政権はすぐに崩壊し、私たちにとって好ましい政権が誕生するだろうという誤った前提に基づき、外交を放棄し、不必要かつ一方的なイランに対する戦争を開始した。
この強大な力への執着で最も驚くべき点は、その行使を隠蔽したり、正当化したり、弁明したりする努力がほとんどなされていないことである。ほとんどの国は時折、悪事を働く。大国は特にその傾向が強いが、通常は規範的な正当化(normative justification)というヴェルヴェットの手袋で、その凶暴な拳(mailed fist)を隠そうとする。しかし、トランプ政権はそうではない。確立された規範を破り、相手に苦痛を与える機会があれば、まるで、喜びを感じているかのようだ。大統領がイラン文明の根絶を脅迫したり、国防長官が国際法を無視し、アメリカ軍は敵に「容赦しない(no quarter)」(これは戦争犯罪に相当する)と豪語したりする時、彼らの目的は説得(to persuade)ではなく威嚇(to intimidate)、誘引(to attract)ではなく強制(to compel)にあることは明らかだ。彼らのモットーは、「最強であるということは、決して謝る必要がないということだ(Being the strongest means never having to say you’re sorry)」ということのようだ。
この強大な力への崇拝(veneration)は、かつてアメリカを他国にとって魅力的な存在にしていた制度や政策を組織的に弱体化させる努力と並行して行われている。米国国際開発庁(the U.S. Agency for International Development)はイーロン・マスクとDOGEの活動によって突然解体され、世界中の何百万人もの人々の命を危険に晒し、アメリカを恣意的で無関心な国に見せた。政権はヴォイス・オブ・アメリカの放送ネットワークを閉鎖しようとしたが、裁判所と連邦議会の異例の反対によって阻止された。マルコ・ルビオ米国務長官は60以上の国際機関から米国を脱退させ、数十の外交ポストを空席のままにしておき、主要な国際サミット会議にアメリカ代表を派遣しなかった。移民税関執行局(Immigration and Customs Enforcement)による暴力的な強制捜査と無実の抗議者の殺害は、アメリカの醜い側面を世界に露呈させ、かつてはアメリカの威信とソフトパワーの最も目立つ象徴の1つであった高等教育への継続的な攻撃は、アメリカの大学を外国人留学生にとって魅力のない留学先にした。こうした措置は学界の収益に打撃を与えるだけでなく(それが狙いなのかもしれないが)、アメリカで教育を受ける外国人留学生の数を減らすことにもつながる。通常、アメリカ留学は留学生を以前よりもさらに「親米(pro-America)」へと導く経験だからだ。これらの要素を総合的に考えると、なぜ中国の国際的なイメージが高まり、アメリカのイメージが低下しているのかが理解できるだろう。
トランプ政権によるアメリカのソフトパワー優位性への組織的な攻撃に気づいたのは、私が初めてではない。不可解なのは、なぜ政権幹部が事態を認識していないのかということだ。彼らは、ハードパワーへの過度な依存(overreliance on hard power)、つまり他国を傷つけるための軍事力行使(the use of military force)を、稀で遺憾な必要事案ではなく、称賛すべき行為として扱うことが、気まぐれで復讐心に燃え、潜在的に脅威となるアメリカとの協力を他国が望まなくなるということを理解していないのだろうか? 「酢よりも蜂蜜の方が多くのハエを捕まえられる(you can catch more flies with honey than with vinegar)」という古い格言(old adage)を聞いたことがないのだろうか?
ここから私の考えを書いていく。
第一に、トランプ大統領をはじめとする政権幹部は、世界を強者[the strong](「勝者[winners]」)と弱者[the weak](「敗者[losers]」)に二分し、弱者とのいかなる妥協も失敗とみなしている。そのため、自慢をしたり、見栄を張ったり、たとえ些細な批判や反対意見に対しても容赦しない態度を取ったりする傾向が見られる。カナダやデンマークといった、アメリカに忠実な国々への無思慮な攻撃は言うまでもない。ピート・ヘグセス国防長官が「戦士の精神(warrior ethos)」や「致死性(lethality)」の喜びについてマッチョな発言をしたり、スティーヴン・ミラー大統領次席補佐官が歴史の「鉄則(iron laws)」が強者の支配を正当化すると宣言したりしたことは、おそらくこの考え方の最も明白な例だろう。しかし、権力者は他人に何をすべきかを指示し、従うことを期待できると信じているのは、彼らだけではない。思い出して欲しい。彼らは、スターであるというだけで女性を虐待しても構わないと豪語した大統領によって任命されたのだ。この(不)道徳な世界では、ルールは他人のためのものなのだ。
第二に、トランプとその支持者たちは熱烈な愛国者だと主張しているものの、自分たちが率いようとしているこの国を好きではないようだ。MAGAのスローガンを考えてみよう。「アメリカを再び偉大にすることが必要だと信じるなら、今のアメリカが偉大だとは思ってはいけない(If you believe it’s necessary to make America great again, you must not think it’s great today.)」。象徴的な国旗を振り回す彼らの行動は、トランプとその取り巻きがこの国について好き、あるいは尊敬している点がいかに少ないかという点で驚くべきものだ。彼らはほとんどのメディアを嫌い、ほとんどの人気芸能人を軽蔑し、民主党員(共和党員よりも人口に占める割合が大きい)を憎み、権力分立や法の支配を嫌い、この国で生まれていない市民(生まれている市民の中にもいる)を疑い、科学をほとんど尊重せず、大学を敵視し、影の「ディープステート(deep state)」が今もなお軍隊、外交団、そして多くの政府機関を蝕んでいると確信している。トランプはホワイトハウスさえ好きではなく、それをけばけばしい帝国の記念碑に作り変えたいと思っている。彼らはアメリカが深刻な状況にあると信じているため、この国の永続的な特徴が他国にとって魅力的である可能性を想像しにくいのかもしれない。
第三に、トランプとその支持者たちは、政権が結んだ見せかけの和平協定や暫定的な貿易協定など、あたかも成果であるかのように見せかけることができる即効性のある解決策を好む一方で、海外からの支持を得るための忍耐強く長期的な努力を避けている。トランプたちは、人々の間に良好な関係を築くことよりも、他国の指導者と取引をすることの方に興味がある。良好な関係は徐々に利益を生み出し、彼らが退任した後になって初めてその恩恵が完全に実現する可能性があるからだ。2028年以降に政権を去る自分たちにとって、次世代の留学生を獲得することなど誰が気にする必要があるだろうか?
もしこれがあなたの世界観であれば、ソフトパワーの重要性を軽視し、ハードパワーに頼るだろう。しかし、アメリカ人はもっと賢明であるべきだ。アメリカの外交政策史における最大の成功のいくつかは、かつての敵国を含む他国と建設的かつ寛大に協力し、自国の社会の好ましくない側面を是正することで、国際的なイメージを高めてきた結果だ。例えば、マーシャルプラン、NATO、公民権運動、慎重な貿易自由化の推進、そして冷戦を終結させドイツを統一した、厳しくも最終的には平和的な交渉などが挙げられる。対照的に、アメリカの外交政策における最大の失敗のいくつか(例えば、ヴェトナム戦争、イラクとアフガニスタンにおける終わりのない戦争、リビアにおけるムアンマル・カダフィの追放、そして現在のイランにおける混乱)は、十分なハードパワーがあれば成功が保証されるという考えから生じた。
アメリカには依然として多くの魅力的な特質があり、外国政府や国民は、国家としての理想としてのアメリカと、最悪の指導者たちの行動を区別することができてきた。しかし、アメリカの政治生活がますます粗野で腐敗し、ハードパワーが繰り返し悪用される一方でソフトパワーが衰退していくならば、この2つを切り離しておくことははるかに困難になるだろう。
※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。Blueskyアカウント:@stephenwalt.bsky.social、Xアカウント:@stephenwalt
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ザ・フナイ vol.225(2026年7月号)
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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

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ザ・フナイ vol.225(2026年7月号)

 イラン戦争は、停戦合意が大詰め段階だとドナルド・トランプ大統領が発表しながら、同時に「合意を急がないように」と述べたと発表し、トランプらしさ全開で状況が進んでいる。アメリカとしては、イランの政権転覆(体制転換)が望めない中で、核兵器開発につながるウラン濃縮の廃棄を求めている。イランとしては、戦争の被害の賠償と体制の保証、ホルムズ海峡の管理権を求める。イスラエルとしては、中東地域の混乱が続けば良いということなので、和平は静観しているようだ。イスラエルは、既にUAEという「魚の小骨」をイランの喉(ペルシア湾)に刺すことに成功しているので、これ以上のことは望んでいないだろう。
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 下記論稿において、著者ファリード・ザカリアは、イスラム革命後のアメリカは、イランについてディレンマを抱えてきたと指摘している。それは「イランの体制を転換させるのか、イランの政策を転換させるのか」ということだ。

 イランの体制を転換するためには、アメリカはイランに対して軍事攻撃をするしかない。しかし、それは実態としては不可能であった。今でもそうだ。今回のイラン戦争は、規模で見れば大規模な戦争ではない(犠牲となった人たちには非常に申し訳ない表現になってしまって心苦しいが)。範囲も期間もそこまでではない。しかし、ペルシア湾、ホルムズ海峡というチョークポイントがそこに含まれることで、世界規模で影響を受け、大きくなってしまった。逆に、ホルムズ海峡がなければイランはここまで持ちこたえることはできなかっただろう。アメリカはイランほどの大国を攻撃して体制転換させるほどの力をすでに失っている。第二次世界大戦の時期とはもう違う。しかし、公式的には、イランとの国交はないし、外交関係はない。

 しかし、アメリカとイランは実際には交渉はしなければならないし、イランは国連にも加盟している。実質的には国家として認めている。しかし、外交関係はない。それでも、バラク・オバマ大統領時代には核開発に関して合意が結ばれた。建前とは違うのだ。今回、イラン側がアメリカ側に体制の保証を求めている。これをアメリカ側が認めてしまうと、アメリカは建前が崩れてしまう。国家として認めてしまうことになる。それはそれでアメリカにとっては良いことかもしれないが、今回のイラン戦争の失敗はこの点にある。「イランと交渉して、体制保障をしてしまわねばならない」ことで歴史は動くが、アメリカの建前は崩れる。これこそがアメリカの敗北である。このアメリカの敗北を世界に喧伝してしまうことになってしまう。アメリカ帝国の崩壊をここに明白に示すことになる。アメリカの終わりの始まりということになる。

(貼り付けはじめ)

ワシントンが解決を拒むイランに関するディレンマ(The Iran Dilemma Washington Refuses to Resolve

-アメリカの政策において2つの目標が半世紀近くにわたり対立し続けている。

ファリード・ザカリア筆

2026年5月8日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/05/08/iran-war-united-states-nuclear-weapons-regime-change-donald-trump-foreign-policy/

世界で最も強力な国家が、経済制裁と軍事攻撃によって荒廃した、はるかに小さく弱い国家に対して、なぜ思い通りにできないのだろうか? イラン戦争におけるアメリカの抱える問題を理解する最も簡単な方法は、ゲーム理論(game theory)を用いることだ。ドナルド・トランプ大統領はイランと「チキン」ゲーム(a game of “chicken”)を仕掛けた。まるで2台の車が互いに真っ直ぐに突進し合うようなものだ。このような状況では、一方の存亡に関わる利害が他方の利害がはるかに低い場合、利害の大きい方がたいてい勝つ。イラン政権にとって、負ければ政権が崩壊し、国民が虐殺される可能性が高い。一方、ドナルド・トランプ大統領にとっては、マール・ア・ラーゴでの週末が台無しになる程度だろう。イラン側がこのチキンゲームでハンドルを握りしめることを厭わない理由が容易に理解できる。

しかし、アメリカがイランへの対応にこれほど苦しんでいるのには、トランプ大統領と今回の拙速な戦争(ill-conceived war)だけではない、より広範な理由がある。イランでイスラム政権が樹立されて以来、アメリカはイランに対して相反する態度(two minds)を取り続けてきた。一方では、人質解放から核兵器制限に至るまで、アメリカが解決を望むいくつかの課題があった。他方では、単に交渉するだけでなく、政権を打倒したいと考えている。この2つの姿勢の間には、半世紀近くにわたってアメリカの外交政策を貫いてきた緊張関係が存在する。ワシントンはイランの特定の政策を変えたいのか、それともイランそのものを変えたいのか?(Does Washington want to change certain policies of Iran or does it want to change Iran?

ワシントンがテヘランと交渉すれば、ギヴ・アント・テイクがあり、必然的に双方の譲歩(concessions on both sides)があり、敵対関係はいくらか緩和される。何よりも、アメリカ政府はイランと関わることで、イスラム共和国に一定の正当性を与え、真剣な交渉相手として扱い、国際舞台でイランを代表する存在として認めることになる。しかし、この容認は一部のアメリカのエリート層にとっては受け入れがたいものだった。彼らは、イラン・イスラム共和国は非合法であり、存在すべきではなく、ワシントンがイランに対して取るべき唯一の政策は、イランを打倒することだと考えているからだ。それでも、ワシントンが望むものの中には、イランでしか実現できないものもある。だからこそ、ロナルド・レーガン大統領でさえ、公にはイランの聖職者たちを非難しながらも、密かに彼らと交渉していた。

トランプ大統領のイラン政策には、ほぼ毎日、矛盾した態度が見られる。あるソーシャルメディアの投稿では、イラン文明を破壊し、47年にわたる悪行に終止符を打つと脅迫する一方で、同じ日に別の投稿では、イランとの交渉が進展していると述べている。トランプ大統領は交渉に臨み、イランとの合意に楽観的な姿勢を見せたかと思えば、交渉の合間にテヘランとの戦争を始め、イラン国民に政府打倒を促す。そして1週間も経たないうちに、イランが要求に応じれば明るい未来が待っていると約束する。

アメリカはソ連に対しても同様に矛盾した態度をとっていた。1917年に共産党がロシアを掌握すると、ワシントンはソ連との国交を断絶し、小規模ながらソ連打倒を試みたことさえあった。フランクリン・D・ルーズヴェルト大統領がソ連の存在を認め、モスクワと大使を交換するまでには、それから約16年もの歳月を要した。この緊張関係は第二次世界大戦後に再び表面化した。1970年代、ヘンリー・キッシンジャーのソ連との交渉政策は、悪の帝国(evil empire)の地位を強化するものとして右派から激しく非難された。キッシンジャーは常に、アメリカはソ連とはイデオロギー的に対立しているものの、核兵器管理(the control of nuclear weapons)など、モスクワとの合意なしには解決できない国益も抱えていると主張した。

イラン問題におけるキッシンジャーの立場に相当するのが、バラク・オバマ大統領である。オバマ政権は、イランに別の政権を望むかもしれないが、アメリカの国益に対する最大の脅威(ソ連の場合と同様、核兵器問題)に対処するためには、現政権と向き合わなければならないと判断した。イラン核合意は、イランの外交政策における最も危険な要素を無力化(neutralize)するための試みであり、実際にその目的は達成された。しかし、多くの右派にとって、その代償は、ある意味でイラン政権を正当化(legitimized)してしまったことだった。トランプ大統領はアメリカを核合意から離脱させたが、これはハサン・ロウハニ大統領の失脚とテヘランの強硬派の復権を招き、彼らはイランのウラン濃縮計画を加速させた。そしてトランプ大統領は再び同じディレンマに陥った。合意を結ぶべきか、それとも毅然とした態度を取るべきか?(Does he make a deal or take a stand?

現時点で、トランプ大統領が合意を望んでいることは明らかだ。しかし、合意に至れば、イラン・イスラム共和国が47年間求め続けてきたもの、つまりアメリカ国内の最も強硬な勢力からも無制限の承認(unqualified acceptance)を得ることになるかもしれない。テヘランにとって、それは多くの譲歩に値するほどの大きな報酬となるだろう。

※ファリード・ザカリア:CNNの番組「ファリード・ザカリアGPS」の司会者であり、最新刊に『革命の時代(Age of Revolutions)』がある。彼は『ワシントン・ポスト』紙に週刊コラムを執筆しており、そのコラムは『フォーリン・ポリシー』誌にも配信されている。Xアカウント:@FareedZakaria

(貼り付け終わり)

(終わり)
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