アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12




野望の中国近現代史
オーヴィル・シェル
ビジネス社
2014-05-23

 

 古村治彦です。

 

 元ニューヨーク州知事で、米民主党リベラル派(Liberal Lionと呼ばれました)の大物マリオ・クオモ(Mario Cuomo、1932~2015年)が亡くなりました。クオモは1983年から1994年までニューヨーク州知事を務めました。長男のアンドリュー・クオモ(Andrew Mark Cuomo、1957年~)は2011年からニューヨーク州知事を務め、現在2期目です。その前は、クリントン政権下の1997ねから2001年まで、住宅都市開発庁長官を務めました。

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マリオ・クオモ
 
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アンドリュー・クオモ 

 

 マリオ・クオモの追悼記事で必ず言及されているのが、1984年の米民主党の全国大会での基調演説です。この「二つの都市の物語(A Tale of Two Cities)」(チャールズ・ディケンズの小説『二都物語』から来ている)と呼ばれる演説は名演説として、アメリカ政治史に燦然と輝いています。

 

 私はこの名演説を聞きながら、1980年代のアメリカは現在の日本の状況とよく似ていると感じました。考えてみれば、この時期にアメリカに留学していた竹中平蔵氏が今の日本のグランドデザインを描いていることを考えれば当然のことかもしれません。


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竹中平蔵

 この時期の米民主党は、共和党のロナルド・レーガン(Ronald Reagan、1911~2004年)大統領の圧倒的な人気の前に、劣勢、苦戦を強いられていました。この時期を支えたのがマリオ・クオモでした。この部分も今の日本とよく似ています。私は、今年1月18日に開催される日本の民主党の代表選で、このマリオ・クオモの名演説に匹敵する演説が出て欲しい、そして、自民党との対抗軸を鮮やかにして欲しいと考えています。


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1984年米大統領選挙の結果(共和党:レーガン<赤>;民主党:ウォルター・モンデール<青>)

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ロナルド・レーガン
 

 下に演説の一部とその拙訳を掲載しました。ご覧いただければ幸いです。

 

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1984年民主党全国大会におけるマリオ・クオモニューヨーク州知事の基調演説(抜粋)

 

10日前、レーガン大統領は、この国には状況が良くなっている人々もいるが、今でも不幸せで、自分自身について、家族について、そして、自分たちの将来について不安を持っている人たちも多くいると認めました。大統領は、彼らの持つ不安が理解できないと述べました。彼はこう言いました。「どうしてそんな風に思うんだろう?この国は丘の上で輝きを放つ都市(a shining city on a hill)だというのに」。大統領の発言は正しいのです。多くの点で、私たちアメリカは、丘の上で輝きを放つ都市なのですから。

 

しかし、ここに厳しい現実が存在します。それは、全ての人々がこの輝ける都市の輝きと栄光を共有していないという事実です。大統領がホワイトハウスの玄関や彼の持つ農場のヴェランダから見れば、都市は輝いて見えるかもしれません。そこの住む全ての人々が幸せに暮らしているように見えるかもしれません。しかし、そこにはもう一つの都市があるのです。輝きを放つ都市にはもう一つの部分があるのです。そこでは人々は住宅ローンを支払うことができず、それどころか若い人々の殆どは住宅を持つことができません。学生たちは教育を受けられず、中間階級の親たちが子供たちに臨んだ夢は煙のように消え去っています。

 

輝ける都市のもう一つの部分では、アメリカの歴史上、これまでにないほど人々は貧しくなっています。多くの家族が問題を抱え、より多くの人々が助けを必要としながら、それを見つけられないでいます。状況はもっと悪くなっています。家の地下室で寒さに震えている恒例の人たちがいます。道路の上や排水溝の中で眠るしかない人々がいます。そこには輝きなんてありません。ゲットーでは多くの若者が仕事にあぶれ、教育もない中で、毎日、麻薬密売人に自分たちの命を差し出しています。レーガン大統領、そこにあるのは絶望(despair)です。貴方が仰った輝ける都市で、貴方が会わなかった人々の顔、そして訪問しなかった場所にあるのは絶望です。

 

大統領、この国は、「丘の上にある輝きを放つ都市」の国ではなく、「二つの都市の物語」の国なのです。貴方はこのことを知らねばなりません。

 

大統領、貴方はこれまでもいくつかの場所に行かれたことでしょう。貴方が訪問されたアパラチア地方では今でも掘立小屋で暮らしている人々がいます。貴方はラカワナにも行かれましたね。そこには製鉄所で働いていたが解雇された多くの人々がいます。彼らは、どうして我が国が外国の鉄鋼に対して補助金を出すのか疑問に思っています。大統領、恐らく貴方はシカゴにあるシェルターに立ち寄って、ホームレスの人々と話をしたかもしれませんね。貴方は必要な助けを受けることを拒絶された女性に、子供たちにきちんとご飯を食べさせるように言ったでしょうね。しかし、彼女が援助を受けられなかったのは、貴方が富裕層に対する減税をし、使いもしないミサイルを増やすために社会保障関連予算を削ったからなのです。

 

恐らくですが、大統領、私はそうあって欲しくないと思っています。紳士淑女の皆さん、真実は私たちが懸念するものに近いようなのです。レーガン大統領は就任早々、私たちに対して、自分は社会ダーウィニズム、適者生存、「政府は万能ではない」という考えを信奉していると述べました。そして、強い人々に対して手厚い保護をして、彼らの経済的野心と慈善によって他の人々にも恩恵が届くようにするという政策を行っているのです。富める人々はますます豊かに、彼らのテーブルからこぼれ落ちる欠片だけで、中間階級や懸命に働いて中階級になろうとする人々には十分だと彼らは言っているのです。

 

フーヴァー大統領時代、共和党はこの政策を「トリクルダウン」と呼びました。そして、現在彼らはこれを「サプライサイド(供給重視)」と呼んでいます。しかし、あの時と現在とで共通しているのは、彼が唱える輝きを放つ都市に住めるほどに幸運な人はほとんどいないということです。この都市から排除された人々、鍵をかけられて入れないようにされた人々ができることは、この都市のけばけばしい高層ビルから離れるということだけです。

 

これはもう時代遅れの物語です。私たちの歴史と同じくらいに古いものです。民主党と共和党との間の違いは常に勇気と自信によって測られてきました。共和党は、貨車に老人、若者の一部、弱者の一部を乗せないようにし、置き去りにしないと何も達成できないと確信しています。「強者だけがこの土地を受け継ぐことができる」と彼らは私たちに言います。

 

私たち民主党はいささか別のものを信じています。私たち民主党は家族全員が相互に関わることで何かを実現できると信じています。フランクリン・ルーズヴェルトは、立ち上がれずにいたアメリカを立ち上がらせるために、車いすから立ち上がりました。教育、住宅、平和といった新しいフロンティアに貨車をどんどん送り込みました。この貨車にはアメリカという家族全員が乗っていました。その成果はアメリカという家族全体に届いていきました。この貨車には全員が乗ってきました。黒人、ヒスパニック、全ての人種、そしてアメリカ先住民の人々も含まれていました。彼らは家族のために懸命に働き、アメリカという偉大な国の分け前を少しずつですが分け合うことができました。

 

私たち民主党員は団結しなければなりません。私たち民主党員はアメリカを団結させるために団結せねばなりません。それは、共和党がこの国に団結をもたらすことができないからです。彼らの政策は、幸運に恵まれた人々と置いてけぼりにされた人々という2つのグループに国を分断しています。共和党はこの分断をして勝利だと呼びます。彼らはこの国を二つに切り分けようとしているのです。一時的に良い状態になる人々と、悪くなる人々に分けて、そしてこの分断を回復と呼ぼうとしているのです。

 

私たちは、アメリカという一つの家族にならねばならないと確信しています。私たちはお互いにつながっているのだということを認識しなければなりません。デュラスに住む退職した先生が抱える問題は私たちの問題なのです。バッファローに住む子供たちの将来は、私たちの将来なのです。正統な形で生きていこうとしているボストンに住む障害を抱えた人の苦闘は私たちの苦闘なのです。リトルロックにいる女性の飢餓は私たちの飢餓なのです。私たちが何かを与えねばならないのにそれができていないのは、私たちの失敗なのです。

 

私は皆さんにお願いしたいことがあります。それは、紳士淑女、兄弟たちそして姉妹たち、この偉大な国に対する愛、アメリカという家族に対する愛、そして神の愛によって、素晴らしい将来をどのように作り上げるかをこの国に思い出させてほしいのです。

 

どうもありがとうございました。皆さんに神のご加護がありますように。

 

(終わり)