古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。X accountは、@Harryfurumura です。ブログ維持のために、著作のお買い上げもよろしくお願いします。

2016年03月

 古村治彦です。

 

 アメリカのネオコンの拠点の1つである、戦略国際問題研究所(CSIS)が毎年発表しているグローバル予測の最新版から、所長のジョン・ハムレとジャパン・ハンドラーズの1人マイケル・グリーンの論稿をそれぞれ紹介します。ネオコン派がどのように考えているかが分かるものとなっています。

 

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2016年グローバル予測(2016 GLOBAL FORECAST

 

クレイグ・コーエン(CRAIG COHEN)、メリッサ・G・ダルトン(MELISSA G. DALTON)編

 

戦略国際問題研究所(Center for Strategic and International StudiesCSIS

http://csis.org/files/publication/151116_Cohen_GlobalForecast2016_Web.pdf

 

 

アジアへの再接続(Reconnecting of Asia

 

ジョン・J・ハムレ(JOHN J. HAMRE)筆

 

400年前、人類史上初めての純粋に国際的な国家間システムが出現した。この時以前、中国の各王朝と近隣諸王国との相互交流のような地域的な地政学システムはいくつか存在した。しかし、純粋に国際菜的な国家間システムは存在しなかった。国民国家が出現した際のウェストファリア体制は極めて斬新なものを生み出した。個人の忠誠心は王に対する忠節から国民としての意識と国家への同一化へと変化した。この時期、制限責任企業のような組織に関する新しい概念が生まれた。制限責任企業は幅広く資本を集め、対象となる商業的な冒険的試みに大量の資本を投入できるようになった。

 

 これらのヨーロッパの国民国家は、大都市の発展を支えた大富豪を生み出すための世界規模の帝国を創設しようとして相争った。ヨーロッパを中心とする国際的な地政学的システムが生み出された。このシステムは、操作法則として力の均衡(balance of power)を基礎とし、商業主義的な諸原理によって動くものであった。

 

 しかし、この発展には副作用も伴った。ヨーロッパの各帝国は世界各地に商業拠点を獲得しようと躍起になった。この世界システムの経済的ダイナミズムによって、アジアとアフリカの沿岸部にヨーロッパから企業家精神に溢れた人々が押し寄せるようになった。海上輸送が世界的な商業の基礎となった。アジア各地の沿岸部と主要航路沿いに巨大な都市が次々と誕生した。それから400年間、アジアにおいて地政学的に重要であったのは沿岸部であった。

 

 それ以前、アジアにおける商業と地政学の点で重要であったのはユーラシア大陸内陸部であった。国家間の商業活動は、いわゆる「シルクルート(silk routes、シルクロード)」に沿って行われていた。

 

 400年間にわたりアジアにおいては沿岸部に地政学的な中心が置かれてきたが、その状況は変化しつつある。巨大なユーラシア大陸が内陸部で再接続されつつある。ロシアは、極東とヨーロッパを結ぶ鉄道ネットワークを構築するという野心的な計画を明らかにしている。中国は「一帯一路(One Belt, One RoadOBOR)」構想に基づいて様々なもっと野心的な計画を発表している。この計画は、中央アジアと西アジアを貫く形で輸送ネットワークを劇的に拡大するというものだ。中国はその他にもアジアインフラ投資銀行(AIIB)やシルクルート基金のようなより衝撃的で野心的な計画を実行しようとしている。数十の社会資本建設・整備計画が既に発表され、この計画の方向性はすでに示されている。

 

 一帯一路構想は、様々な議論を引き起こした。懐疑論を唱える専門家たちは、この計画は成長が遅れている中国内陸部の開発を促進するための試みだと述べている。また、個の計画は中国国内で建設ラッシュが一段落している建設業者たちに機会を与えるための経済刺激策だと主張する人たちもいる。更には、中央アジア諸国の中国に対する忠誠心を獲得し、属国関係として固定化するための地政学的な設計図に基づいて行われていると主張する専門家たちもいる。

 

一帯一路構想はアメリカにとってどのような意味があるものなのだろうか?これからの数十年間、中国はこの計画にエネルギーを使い、結果として東南アジアに対する圧力が弱まることになるのだろうか?それとも、巨大なアジア大陸全体に中国の覇権を及ぼすという究極的な目標を反映したものなのだろうか?一帯一路構想はアメリカにとって良いものなのだろうか、それともアメリカの国益にとって脅威となるのだろうか?

 

 新しいシルクルートという話はこれまで長い間流布されてきたものだ。インターネットで、「シルクロード」というキーワードを入れて調べてみると、ヒットするものの半数以上はトルコ発のもので、トルコの商業に関するものである。一帯一路構想が地政学的な側面を持っていることは疑いようのないところだが、その根底にある商業的な大きな動きを見逃すと、分析を間違うことになる。アジアの製造業をヨーロッパの市場に結び付けるための最も効率の良い方法は、海上輸送であると思われてきた。しかし、長距離鉄道網を使えば輸送時間を2倍から3倍も短縮することはたやすい。輸送時間を劇的に短縮することで、投資する資本が何も生み出さない時間を減少させることによって、必要な資本を減らすことが出来るのだ。

 

 アメリカ政府はこの巨大な展開を評価するための能力に欠けている。官僚たちは世界を分割してそれぞれ担当しているが、それによってより明確なビジョンを掴むことが出来ないようになっている。米国務省は世界を4つの地域に分けてそれぞれに、東アジア・太平洋担当、ヨーロッパ・ユーラシア担当、近東担当、南アジア・中央アジア担当という担当部局を置いている。国防総省は太平洋司令部を置いており、中国はそこの担当になっている。しかし、その他のアジアは、中央司令部とヨーロッパ司令部の担当になっている。

 

 官僚主義的な機関は創造的な思考には不向きだ。世界を4つに分割し、それぞれの中で見ていれば、この巨大な流れを見逃すことになる。新しい大きな流れの特徴を古い歴史的なフィルターを通じてみてしまうことになる。

 

 ユーラシアの再接続の重要性を見過ごすことは大きな過ちとなる。そして、この動きをアメリカの脅威としてしまうことは危険なことでもある。この巨大な展開においてアメリカの果たすことが出来る役割は限られている。しかし、それは私たち自身がそのようにしてしまっているためなのだ。私たちはこの大きな新しい流れを客観的に評価し、判断しなくてはならず、それには時間が必要だ。一帯一路構想に対処することは次の大統領の政策課題ということになるだろう。

 

(終わり)

 

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私たちが生きる現代にとって正しい戦略を追い求めて(Seeking the Right Strategy for Our Time

 

マイケル・J・グリーン(MICHAEL J. GREEN)筆

 

 アメリカは現在世界のいたるところで守勢に回っているように見える。中国は南シナ海において侵略的な土地埋め立てと島の要塞化計画を進めている。また、アメリカの同盟諸国への影響力を強めることになる、新しいユーラシア秩序の構築を求めている。ロシアはウクライナとシリアに軍隊を派遣することでNATOを侮蔑している。イランはアメリカとの間で内容の乏しい核開発合意を締結したが、中東各地の代理となる諸勢力に武器を与え、衰えることの野心を見せ、宗教的な統一という目標のために動いている。イスラミック・ステイトは暴力的で抑圧的なカリフ制度を求めて活動している。その活動力は落ちているが、規模を縮小させるまでには至っていない。更には、気候変動に関する国際的な協力は、2015年12月にパリで開催されたCOP21の開催前に既に失敗していた。これは、オバマ政権の成立当初からの目的の達成失敗ということになる。

 

 アメリカにとっての大戦略が必要な時期はこれまでほとんどなかったが、今はまさにそのタイミングだ。しかし、現在のアメリカが大戦略を構築し、それを実行することは可能だろうか?大戦略には様々な脅威と障害についての明確な定義が必要だ。努力を向ける目的の優先順位をつけることと、目的の達成のために外交、情報、軍事、経済といった分野の力を統合することが必要である。トクヴィルが明らかにしたように、アメリカの民主政治制度は、そのような意思決定と権威を一つの政府機関に集権化することを阻害するように設計されている。

 

 民主政治体制は、様々な障害が存在するが、何とかして、重要な事業の詳細を規制し、固定化された設計を保ち、その実行を行っている。民主政治体制では秘密で様々な手段を実行することはできないし、長い時間、忍耐を持って結果を待つこともできない。

 

 それにもかかわらず、アメリカは、共和国としての歴史の中で、これまで何度も大戦略を成功させてきた。アメリカ建国の父たちはヨーロッパ型の機構と策謀に大きな疑念を持ちそれをアメリカのシステムに反映させたが、それでも大戦略が成功したことがたびたびあった。アメリカ政府は、19世紀末までに西半球において自分たちに都合の良い国境を策定することができた。19世紀から20世紀に移行する次期、アメリカは太平洋における主要な大国としての地位を獲得した。第二次世界大戦後、ヨーロッパとアジアの民主諸国家との間で同盟関係を固めることができた。そして、25年前にソヴィエト主導の共産主義体制を流血の惨事を引き起こすことなく打ち倒すことが出来た。これらの大戦略が一人の人物によって実行されたことは少ない。それでもセオドア・ルーズヴェルトとヘンリー・キッシンジャーはそれに成功した。しかし、たいていの場合、アメリカの大戦略は、「目的と手段を効率的ではなく、効果的に結びつける巨大なプロセス」から生み出されたのである。ジョン・アイケンベリーが述べているように、戦後に海外で成功したアメリカの戦略は、アメリカ国内における公開性と諸政治機関の競争性によって生み出された。それらによってアメリカ主導の国際秩序において利害関係を持つ参加者たちの力を増大させ、安心感を与えることが出来たのだ。トクヴィルが致命的な弱点だと考えたものが、実際には大きな長所となった。

 

 しかしながら、現在では、アメリカの民主政治体制の政治過程が、同盟諸国やパートナーに対して、安心感ではなく、より厳しいものとなり、警戒感を与えることになっている。また、アメリカの政治指導者たちが、「アメリカは国際的な諸問題で世界を指導できる能力を持っているのか」という疑念を起こさせている。第一次世界大戦とヴェトナム戦争の後、アメリカは大きく傷ついた。アメリカ国民はこれらの時期、世界に対してアメリカが関与していくことを基礎とする地政学を求める指導者を選んだ。イラク戦争後、アメリカの全体的なムードも同じような流れになった。アメリカの外交政策戦略の主要なテーマが「アメリカの世界的な評価を回復する」ということになった。アメリカ政府は地政学ではなく、国際的な脅威に関心を払うようになった。「戦争」か「関与」かの単純な二者択一で政策を行うようになっている。また、「バカなことはやらない」という考えに基づいて受け身的な事なかれ主義になっている。

 

 イラク戦争後のこうした流れによって、伝統的な国民国家、勢力均衡、アジア、東欧、中東に出現しつつある地域的な秩序に関する競争の重要性は減退した。中国、ロシア、イランは、アメリカの影響力を小さくし、アメリカの同盟諸国の力を小さくするための強制的な戦略を用いることで、戦争と関与との間にある「グレーゾーン」を埋めている。同じようなことは南米についても言える。しかし、南米で現在の国際システムに異議を唱えている国々の国際的な秩序に与える脅威はより小さいものと言える。アメリカとの間で相互利益がある地域における ロシア、中国、イランの関与はそれぞれの国益にかなうものであるが、この関与を「大戦略」と呼んでしまうと、オバマ政権が「これまでの国際秩序を作り変えようとする諸大国に地域的な秩序作りを任せてしまっている」という印象を世界中に与えることになってしまっている。一方、これらの大国に対して純粋に競争的な戦略を採用すべきと主張しているリアリストたちは、アメリカの同盟諸国やパートナーの置かれている複雑な立場を分かっていない。これらの国々のほとんどは、特にロシアと中国に対して、冷戦期のような立場をはっきりさせるような戦略を採れないような状況にある。アメリカの大戦略は国家間関係の根本的な理解のために地政学を復活させねばならない。しかし、同時に国際社会で指導的な立場に立つには、信頼されるに足るだけの外交的、経済的、軍事的、価値観に基づいた選択肢を提供する必要があることもアメリカは認識しなければならない。世界の国々に近隣の新興大国、既存の国際システムに異議を唱える大国関係を持たないようにさせようとしても無駄である。

 

 言うまでもないことだが、海外で指導的な役割を果たすためには、国内での経済成長を維持することは欠かせない。しかし、それがアメリカの縮小のための言い訳になってはいけない。アメリカは、これから数年の間、競争が激しい世界秩序から撤退し、世界がボロボロになった後に戻ってくる、などということをやってはいけない。実際、多くの国際協定が締結間近であるが、これらは海外におけるアメリカの影響力を強化するだろうが、アメリカの国内経済を大きく動かすことにもなる。環太平洋経済協力協定(TPP)と環大西洋貿易投資協定(TTIP)によって、アメリカの貿易を促進され、ヨーロッパと太平洋地域をアメリカとより緊密に結びつけることになる新しいルールを構築されることになる。より良い統治の促進、女性の地位向上、法の支配、市民社会が強調されることで、諸外国ではより正義に基づいた、安定した、そして繁栄した社会が生み出されることになる。消費は促進され、知的財産権はしっかり保護されることになる。違法行為を終わらせ、保障関係のパートナーシップを強化することで、各企業はよりまともな戦略を立てることが出来、同盟諸国やパートナー諸国との間で新しいシステムと技術に関してより生産的な発展を進めることが出来る。多くの国々がアメリカとの間の更なる経済的、軍事的な協力関係を望んでいるのだ。実際のところ、近現代史を通じて、現在ほどアメリカとの協力が求められている時期はないのだ。ここで大きな問題となるのは、アメリカ政府は、この新しい流れを利用して、経済、規範、軍事の関与に関するあらゆる手段に優先順位をつけ、それらを統合することが出来るのかどうか、ということである。

 

 この問題に関しては、アメリカ国民の考え方ひとつだ。この問題に関して、歴史は大きな示唆を与えてくれる。1920年代初めに行われたギャロップ社の世論調査では、アメリカ国民の大多数が、第一次世界大戦に参戦したことは間違いであったと答えた。1930年代、連邦議会は国防予算を減額し、保護主義的な関税を導入した。1930年代末、日本とドイツがヨーロッパと太平洋の既存の秩序に脅威を与えるようになった。この時期、ギャロップ社の調査で、数字が逆転し、大多数のアメリカ国民が第一次世界大戦にアメリカが参戦したことは正しかったと答えた。フランクリン・デラノ・ルーズヴェルト大統領は、互恵通商法を成立させ、海軍の再増強に乗り出した。1970年代半ば、アメリカ国民はヴェトナム戦争に反対するようになった。この時、連邦議会は防衛予算を減らし、大統領の外交政策遂行に制限を加えた。それから10年もしないうちに、ソ連が第三世界に対してそれまでにない拡張主義で臨むようになると、アメリカ国民は国防予算を増額し、ソ連の進出を阻止し、冷戦の終結につながる動きを促進する政策を支持した。

 

 最近の世論調査の結果は、アメリカ人の中に国際主義が再び復活しつつあることを示している。国家安全保障は共和党支持者たちにとって最も重要な問題となっている。一方、ピュー・リサーチセンターの世論調査では、大多数のアメリカ国民がTPPを支持している。問題解決は指導者の力量にかかっている。民主、共和両党の大統領候補者予備選挙の始まりの段階では、むちゃくちゃなポピュリズムの旋風が起きている。それでも、国際的な関与を主張する候補者が最終邸には勝利を得られるだろうと考えるだけの理由は存在するのだ。

 

(終わり)

メルトダウン 金融溶解
トーマス・ウッズ
成甲書房
2009-07-31




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 民間市場からスパイウェアを購入した政府はパナマ政府だけではない。イギリスを拠点とする監視団体プライヴァシー・インターナショナルが発表した2015年の報告書によると、アメリカが所有するイスラエル企業ヴェリント(Verint)は、コロンビアの治安当局に先進的な調査システムを供給した、ということだ。報告書には、「2005年以降、ヴェリントは、コロンビアの大量盗聴能力の発展において中心的な役割を果たした」と書かれている。2015年2月、コロンビアの元治安責任者は、2002年から2010年にかけてのアルヴァロ・ウリベ大統領の在任時に違法な盗聴に関わったとして訴追された。

 

 ヴェリントとイスラエルの技術企業ナイス・システムズは、カザフスタンとウズベキスタンに対してスパイ手段のハードウェアとソフトウェアを売却した、とプライヴァシー・インターナショナルと報告している。これによって両国の抑圧的な政府は、電話線、携帯電話、インターネットに対してスパイ活動が行えるようになり、政治的反対者たちに対しての弾圧が行えるようになった。報告書の共同執筆者エディン・オマノヴィッチは、2014年に『ヴァイス』誌のインタビューで次のように語った。「権威主義的諸国の野蛮で冷酷な秘密警察は、全ての国民の私生活を対象とでいる監視能力を手に入れることで、力を増している。スパイ手段産業が規制のないままに無責任な活動を続けているために、これは避けようのない悪夢のシナリオなのだ」。

 

 プライヴァシー・インターナショナルは、ヴェリントがカリフォルニアを拠点とする企業ネトロノーム(Netronome)に接触した、と指摘した。ヴェリントはネトロノームが持っている、フェイスブック、Gmail、その他のウェブサイトの暗号化を無効化できる技術をウズベキスタン政府に提供しようとした。この試みが成功したかどうかははっきりしない。この報告書が出された後、ネトロノームは声明を発表した。その中で、「我が社は人権や個人のプライヴァシーに対するいかなる侵害行為にも加担していない」と述べ、事業を展開している各国の法律を遵守していると発表した。

 

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しかし、ここに問題がある。監視手段の大衆化と私有化は、脆弱な輸出管理と侵入的なスパイ手段に関しての自発的な国際合意の結果である。スパイシステムを規制する唯一のメカニズムは、ヴァッセナール合意である。この合意によって参加国は、通常兵器と軍民共用の道具と技術の移動に関しての情報を定期的に交換できるようになった。しかし、アメリカを含む締約国41か国を法的に拘束するものではないし、イスラエルはこの合意に参加していない。

 

 ワシントンでは、クリス・スミス連邦下院議員(ニュージャージ州選出、共和党選出)は、2013年に「アメリカ企業が、人々を弾圧する外国政府がインターネットを検閲と監視の道具に変えてしまうようなことに協力することを防ぐ」ことを意図した法案を提出した。この法案は小委員会で否決されてしまった。スパイ手段の規制に関して共和党全体の関心は低いままであるがこれは驚くに値しない。

 

 昔は、技術は市民の側に立っていた。アナログコミュニケーションが主流だった時代、大量監視は労働力投入を必要とするものだった。多くの人々と多くの電話線が対象となって捌ききれなかった。盗聴や監視をするための人員はあまりにも少なかった。しかしながら今日、進んだデジタル技術は抑圧者の側に立っている。 時計の針を基に戻すことはできない。しかし、スパイ手段に関しての厳格な規制を実施するのに遅すぎることはない。実際に実施している例が2つある。2012年、アメリカとEUは、シリアとイランに対してのスパイ手段の売却、供給、輸送、輸出を禁止した。

 

 より多くの国々が大量監視手段システムを大量破壊兵器の一つだということに合意しない限り、ジョージ・オーウェルの『1984年』の内容が現実のものとなるだろう。「あなた方は、あなた方が起こす全ての音が聞かれ、暗闇を除き、全ての動きを精査される習慣がやがて本能とまで昇華する中で生きてきた」。

 

(終わり)



野望の中国近現代史
オーヴィル・シェル
ビジネス社
2014-05-23

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 古村治彦です。

 

 今回はスパイ手段装置を取り扱う企業についての記事をご紹介します。

 

 記事の著者バムフォードは、人権や自由を標榜するアメリカの企業がスパイ手段を抑圧的な各国政府に売りつけている矛盾を指摘しています。この矛盾は、アメリカ全体が抱えている矛盾そのものです。

 

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スパイ産業経済(The Espionage Economy

―アメリカの企業は独裁者たちにスパイウェアを売りつけて巨額の利益を上げている。

 

ジェイムズ・バムフォード筆

2016年1月22日

『フォーリン・ポリシー』誌

http://foreignpolicy.com/2016/01/22/the-espionage-economy/

 

 リカルド・マルティネリはフロリダのビスケイ湾にある最高級高層マンションであるジ・アトランティスのコンドミニアムに住んでいる。ビスケイ湾はテレビドラマの『マイアミ・ヴァイス』で有名になった。がっちりとした体躯で白髪の富豪マルティネリは63歳で、数年前には南米で最も人気のある指導者であった。2009年から2014年にかけて、マルティネリはパナマの大統領であった。しかし、彼は現在贅沢な生活をしているが、司直の手から逃れて逃亡者なのである。

 

 パナマの最高裁判所がマルティネリ政権に対して汚職に関する捜査を行うと発表する数時間前にマルティネリは2015年1月28日にパナマから逃亡した。マルティネリに対する様々な容疑の中に、政治的なスパイ活動というものがあった。これで有罪になると21年の懲役が宣告される可能性があった。マルティネリは違法に150名以上の人々の電話を盗聴し、Eメールを盗み読みしたという容疑が掛けられた。彼が対象にしたのは、パナマの野党の指導者、ジャーナリスト、裁判官、ビジネス上のライヴァル、閣僚、アメリカ大使館の職員、ローマ教会の大司教、マルティネルの愛人と言われた女性であった。

 

 マルティネリが関与したとされる違法な活動は、軍隊が使うレヴェルのスパイウェアを民間企業が取り扱うことになって可能になった。2011年、『ウォールストリート・ジャーナル』紙は監視手段の小売市場はここ10年で全く存在しない状態から年間50億ドルの規模で拡大し続けていると報じた。監視手段取引市場の動きは全く規制されてこなかった。そして、2013年にアメリカ国家安全保障局の盗聴スキャンダルが発覚した。それでもアメリカの連邦議員や政策立案者は外国政府に対して監視手段を売りつけるアメリカ企業の動きに対して注意を払っていない。

 

 パナマのスキャンダルは、スパイ手段の輸出ビジネスがどれだけ危険な存在になっているかを示す具体例となっている。規制をかけなければ、スパイ手段産業がもたらす危険性は高まるばかりである。より多くの国々が汚職を続け、人権を侵害するための道具を手に入れることになる。

 

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 パナマの検察当局はマルティネリに対しての訴追を準備しているが、マルティネリの弁護士ロゲリオ・クルズはこの訴追を「カフカの文学作品の内容のようだ」と語った。クルーズは、彼の顧客マルティネリはアメリカに亡命することを求めているが、彼に掛けられている容疑に関して全て無罪だと主張している。しかしながら、ウィキリークスが暴露した2009年の外交公電によると、マルティネリは大統領に就任直後、アメリカ政府に対してアメリカ麻薬取締局が使っている盗聴設備を送ってくれるように依頼した。彼は盗聴設備を国家安全保障に対する脅威に使う意図があると伝えた。当時の駐パナマ米国大使バーバラ・スティーヴンソンが出した公電には、「マルティネリは盗聴をやりたいと躍起になっている」と書かれている。スティーヴンソンは、マルティネリの依頼を拒絶したと書いている。その理由として、スティーヴンソンは「マルティネリは正当な安全保障上の対象と政治的な敵対者との区別がついていない」ということを挙げている。外交公電は、「マルティネリは、他の政府や民間部門に対して盗聴能力を手に入れることで敵を服従させたいと考えているようだ」と結論付けている。

 

 この情報は正しいようだ。パナマの地元紙は、マルティネリが電話を盗聴し、Eメールを盗み読みするための手段に少なくとも1340万ドルを支払ったと報じた。『パンナム・ポスト』紙は、貧困者向けの食糧プログラム予算の一部を流用してスパイ手段購入に当てたと報道している。マルティネリが使った会社の一つがNSOグループテクノロジーズ(NSO Group Technologies)だ。NSOグループテクノロジーズは、アメリカ企業フランシスコ・パートナーズ(Francisco Patners)が所有するイスラエルの情報企業である。NSOのプロモーション資料によると、システムは「ペガサスと名付けられており、強力で個性的な監視手段を提供する。これによって、遠隔操作と捕捉不能の監視が可能であり、遠隔操作と追跡不可能な手段によって対象の装置からデータを全て抽出できる」ということである。イタリアの有害ソフト販売業者ハッキング・ティームの内部メモがウィキリークスによって昨年の夏に暴露された。このメモによると、このシステムを使えば、対象の電話に対して、「ショートメッセージを送り、それを使って電話を捜査することができる」ということであった。この機能が使用可能となるには、電話の所有者がショートメッセージを読まなければならない。

 

(続く)

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 古村治彦です。

 

 今回は、その勢いでアメリカ政治を揺るがしているドナルド・トランプ(Donald Trump、1946年―)の選対の幹部スタッフを皆様にご紹介したいと思います。


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トランプ
 

 幹部スタッフを見ると、東部の一流大学、アイヴィーリーグ出身者はいません。そして、草の根保守市民運動団体アメリカンズ・フォ・プロスペリティの活動家をしていた人たちが多いです。一方で、各種選挙で手腕を発揮したヴェテランの選挙のプロも選対の要所要所に配置されています。

 

 トランプ陣営の幹部たちの配置を見ていると、「非エリート」たちが「素人くささ」と「過激さ」を演出しつつ、裏で選挙のプロたちが実務を仕切っているという姿が見えてきます。こうしてトランプは、エリートやエスタブリッシュメントに対して反感を持っている、怒れる白人たちを惹きつけることに成功したということが分かります。

 

 外交政策に関しては過激な言動ばかりが取り上げられるトランプ陣営ですが、まだきちんとした外交政策の専門家たちを集めてのティーム作りはできていないようです。ただ、ティームのトップに現職の連邦上院議員ジェス・セッションズ(Jeff Sessions、1946年―)が就任しました。彼はワシントンでも5本の指に入る保守派議員であり、いくつかの舌禍事件を起こしたことでも知られています。

 

※トランプ陣営の幹部スタッフはこちらのアドレスで紹介されています

http://www.p2016.org/trump/trumporg.html

 

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●選挙対策本部長:コーリー・R・ルワンドウスキー(Corey Lewandowski、1973年―)


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ルワンドウスキー

ルワンドウスキーは、トランプの選挙対策本部を仕切っている人物です。ルワンドウスキーと政治のかかわりは古く、マサチューセッツ大学ローウェル校在学中にマサチューセッツ州上院議員選挙に立候補し敗れました。その後も様々な選挙に関わりました。1997年にアメリカン大学修士課程修了(政治学修士)した後、コーク兄弟が資金提供を行っている団体シティズンズ・フォ・サウンド・エコノミーのスタッフとなりましたが、数カ月後には、オハイオ州選出の連邦下院議員のアシスタントとなりました。2001年には共和党全国委員会の北東部地域立法部政治部長となり、そこからニューハンプシャー州選出の連邦上院議員ボブ・スミスの選挙対策本部長に就任しました。しかし、2003年の選挙でボブ・スミスは共和党の予備選挙で、ジョン・スヌヌに敗れてしまいました。そこから業界団体や広告代理店を経て、2008年から2014年まで、コーク兄弟がスポンサーの保守系草の根市民団体アメリカンズ・フォ・プロスペリティの幹部スタッフとして活動しました。トランプ陣営の激しい言葉遣いや過激なスタイルはこのルワンドウスキーのスタイルが反映されていると言われています。

 

●選挙対策本部副本部長:マイケル・グラスナー(Michael Glassner

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グラスナー 

 

 グラスナーは、1985年にカンザス大学卒業(政治学士)しました。1986年から2001年まで大物連邦上院議員だったボブ・ドールのスタッフ、側近を務めました。ボブ・ドールの連邦上院議員選挙や大統領選挙出馬で手腕を発揮しました。また、選挙コンサルティングとして、2008年の米大統領選挙では共和党側のジョン・マケイン、サラ・ペイリンのために働いています。2014年からは全米最大のユダヤ系アメリカ人団体AIPAC(American Israel Public Affairs Committee、アメリカ・イスラエル公共問題委員会)の南西地域担当政治部長を務めました。AIPACは、私も翻訳に関わりました『イスラエル・ロビーⅠ、Ⅱ』(ジョン・ミアシャイマー・スティーヴン・ウォルト著、副島隆彦訳、講談社、2007年)でも書かれている通り、全米最強のロビー団体であり、親イスラエル(政府)系として、アメリカ政府のイスラエル政策に大きな影響を与えています。ボブ・ドールとのつながり、選挙での経験と全米最大のロビー団体での活動から、グラスナーは、トランプ陣営の中で選挙のプロとして実務を取り仕切っていると考えられます。

 

●全国活動部長:スチュアート・ジョリー(Stuart Jolly


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ジョリー

 サウスカロライナ州にあるシタデル(サウスカロライナ軍事大学)を卒業し(政治学士)、イースト・カロライナ大学で国際関係論と経営学で修士号を取得しました。アメリカ陸軍に入隊し、第一次湾岸戦争に従軍、中佐にまで昇進しました。その後は、セントラル・オクラホマ大学の軍事学の教授を務めました。2006年からは、アメリカンズ・フォ・プロスペリティのオクラホマ州支部を立ち上げ、責任者を務めましたが、2013年からは、エデュケイション・フリーダム・アライアンスの上級部長を務めました。

 

●全国スポークウーマン:カトリーナ・ピアソン(Katrina Pierson

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ピアソン
 

 ピアソンは、父親が黒人、母親が白人ですが、両親が早くに離婚し、シングルマザーの母親の下、貧しい生活を経験しました。彼女自身も若くして結婚し、子供にも恵まれましたが、すぐにシングルマザーとなりました。20歳の頃には万引きで逮捕もされています。ピアソンは、テキサス大学ダラス校を卒業しました(生物学士)。テキサス州ガーランドでティーパーティー運動グループを立ち上げ、2014年からはティーパーティー・リーダシップ・ファンドのスポークスウーマンを務めました。更には2014年の米連邦下院議員選挙でテキサス州第32区の共和党予備選挙に立候補しましたが、落選しました。現在は自身の会社ピアソン・コンサルティング・グループのオーナーも務めています。ピアソンは叩き上げの人物で、テレビのニュース番組に出演した時、銃弾で作ったネックレスを身に着けており、注目と非難を浴びました。トランプ陣営の過激な性格を体現している女性であると思われます。

 

●ソーシャル・メディア担当部長:ダニエル・スカヴィーノ・ジュニア(Daniel Scavino Jr.


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スカヴィーノ

 ダニエル・スカヴィーノがドナルド・トランプに近づくことが出来たきっかけはゴルフでした。ピッツバーグ州立大学在学中に、ニューヨークにあったゴルフ場のキャデイをしていて、そこでトランプとコカ・コーラ社の会長と知り合いました。大学卒業後の1998年、スカヴィーノはコカ・コーラの地域マネージャーとして入社しました。2003年にはトランプがスカヴィーノと知り合ったゴルフ場を買収し、「トランプ・ナショナル・ゴルフ・クラブ」と改名し、スカヴィーノは副支配人となりました。その後、トランプ・オーガナイゼ―ションのゴルフ部門の責任者となりました。スカヴィーノはトランプの腹心の1人となりました。スカヴィーノはトランプ陣営のソーシャル・メディア担当となりましたが、主な仕事はツイッターにメッセージや写真、動画を掲載することで、討論会などでは他の候補者たちの発言に対して、日本風に言えば、突っ込みを入れるというようなことをやっています。

 

●全国委員会共同委員長兼政策顧問:サム・クローヴィス(Sam Clovis、1949年―)


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クローヴィス

クローヴィスは、1971年空軍士官学校を卒業しました(政治学士)。そして、25年間、アメリカ空軍に勤務し、大佐で退役しました。そして、ゴールデン・ゲイト大学で経営学修士号、アラバマ大学で公共政策博士号をそれぞれ取得しました。その後は、ラジオショーの司会者、大学教授などをしていました。政治とのかかわりは、アイオワ州財務長官選挙、アイオワ州選出の連邦上院議員の共和党予備選挙に挑戦し、それぞれ敗れていることです。また、2012年の米大統領選挙ではリック・サントラム支持で動いたことも挙げられます。今回の大統領選挙では、リック・ペリーの選対本部のアイオワ州責任者をしていましたが、トランプの政策顧問へと転身しました。保守的な立場で、トランプの「イスラム教徒の入国禁止」発言を擁護しました。

 

●上席顧問:サラ・ハッカビー・サンダース(Sarah Huckabee Sanders


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サンダース
 

 サラ・サンダースは名前で分かるのですが、元アーカンソー州知事で、共和党の大統領選挙予備選にも出馬したマイク・ハッカビーの娘です。クアチタ・バプティスト大学を卒業した後の2002年、父親マイク・ハッカビーの知事選挙再選のために働き始めました。2年ほど、教育省に勤務し、2008年の米大統領選挙の共和党予備選挙に出馬した父ハッカビーの選対幹部を務めました。2010年の連邦上院議員選挙では、アーカンソー州のジョン・ブーズマンの選対本部長を務め、ブーズマンは当選しました。2011年には、大統領選挙予備選に出馬を表明したティム・ポーレンティー選対の上級政治顧問を務めました。更には、2014年にはアーカンソー州の連邦上院議員選挙でトム・コットン陣営の上席顧問を務め、新人のコットンを勝利に導きました。夫のブライアン・サンダースは、ハッカビーの大統領選挙では政策部長を務め、現在は共和党専門の選挙コンサルティング会社ザ・ウィッカーズ・グループのリトルロック(アーカンソー州)事務所長を務めています。選挙のプロであり、父親を通じて幅広い人脈を形成していることは疑いの余地がありません。また、父親のハッカビーは、トランプを応援し、共和党の政治家たちを批判するコメントを出しています。

 

(終わり)

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 古村治彦です。

 先週発売されました『週刊朝日』2016年3月18日号23ページに、拙訳『アメリカの真の支配者 コーク一族』(ダニエル・シュルマン著、講談社、2015年)の翻訳者としてコメントを掲載していただきました。どうぞよろしくお願い申し上げます。

20160318weeklyasahicomment



(終わり)

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 古村治彦です。

 

 今回はアメリカ大統領選挙についての奇妙な動きについて書きたいと思います。

 

  私が翻訳しました『アメリカの真の支配者 コーク一族』(ダニエル・シュルマン著、講談社、2015年)は大変好評をいただいております。日本のマスコミでも「コーク一族」「コーク兄弟」という単語が使われるようになりました。私も今週発売の『週刊朝日』で、翻訳者としてコメントを致しました。是非お読みいただければと思います。

 


 コーク兄弟は、共和党の政治家たちへの大口献金者としてよく知られています。また、反オバマ大統領の「草の根の」保守市民運動であったティーパーティー運動のスポンサーであることも知られています。こうしたことは、『アメリカの真の支配者 コーク一族』に詳しく書かれていますので、是非お読みください。

 

 今回の大統領選挙では、共和党予備選で実業家のドナルド・トランプがリードし、連邦上院議員のテッド・クルーズが追いかける展開になっています。同じく連邦上院議員のマルコ・ルビオは失速しています。このブログでもご紹介しておりますし、私がウェブサイト「現代ビジネス」に寄稿した論稿でも書きましたように、トランプは、コーク兄弟を嫌っています。また、コーク兄弟もトランプを批判してきました。

 

 しかし、下に貼りつけた記事にありますように、コーク兄弟は、自分自身のお金をトランプの共和党大統領選挙候補者指名阻止のためには使わないと表明しています。共和党のエスタブリッシュメントと呼ばれるエリート層や現役の政治家たちはこぞってトランプに反対する動きを取っています。トランプが大統領選挙候補者になっても支持できないということを言っている政治家たちも多く出ています。そうした中で、コーク兄弟はそうした動きには加わらないと表明したことになります。このブログでも書きましたが、この動きは、「共和党の中から元々民主党員であったネオコンたちを追い出すための動き」ではないかと私は考えています。コーク兄弟は彼らが考える「共和党の正常化」を行おうとしているのではないかと私は考えます。

 

 そして、奇妙なことが起きています。チャールズ・コークが2016年2月18日付の『ワシントン・ポスト』紙の論説ページで、「自分とバーニー・サンダース連邦上院議員の間には多くの相違点があるが、全ての人々、特に最も恵まれない人々の犠牲の上に恵まれた少数が助けられているという政治・経済システムについて怒っているという点では一致している」と書きました。アメリカの大企業や富裕層が政府の規制や補助金で利益を得ている、企業が「福祉」を受けていることを批判している点では、コーク兄弟とサンダース議員は一致しています。

 

 そして、昨日、コーク兄弟が支援している「フリーダム・パートナーズ」(これも訳書に頻繁に出てきます)という団体がテレビ広告で、アメリカの輸出入銀行について批判を行い、その中で「バーニー・サンダースが輸出入銀行に対して行った批判は正しい」という表現がなされたそうです。

 

 共和党支持者のはずのコーク兄弟が民主党でも左派のサンダースを支持するかのような主張を行うのは、コーク兄弟がリバータリアニズムという思想を深く信奉しているからです。サンダースは大企業に対する補助金に反対していますが、これは、「企業は市場原理によって成功し、失敗すべきであって、政府は介入すべきではない」というリバータリアニズムの考えに結果として合致します。

 

 こうして共和党支持であるはずのコーク兄弟がサンダースを支持するという奇妙な現象が出てくることになります。

 

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March 09, 2016, 12:15 pm

Koch-backed group features Sanders in Ex-Im ad

By Ben Kamisar

http://thehill.com/blogs/blog-briefing-room/272370-koch-backed-group-features-sanders-in-ex-im-ad

 

The Koch-aligned nonprofit Freedom Partners is up with a new video Wednesday that stars Bernie Sanders touting the group's stance on the Export-Import Bank.

 

The video has no narration and instead plays the Vermont senator’s own words from Sunday's Democratic debate to make its point.

 

"Seventy-five percent of the funds going from the federal government to the Export-Import Bank goes to large, profitable corporations," Sanders said during the CNN debate.

 

"I don’t think it’s a great idea for the American taxpayer to have to subsidize through corporate welfare profitable corporations," Sanders said.

 

That quote is bookended by on-screen text that says, "Bernie Sanders is right about the Ex-Im Bank. That's why we oppose corporate welfare across the board."

 

The ad makes for odd political bedfellows — conservative Freedom Partners is far from a typical ideological partner for the progressive Sanders. But the Ex-Im Bank cuts across ideological lines, uniting moderates in both the Republican and Democratic parties against those further to either side on the ideological spectrum.

 

Hillary Clinton shares the view of the moderates that the bank is an essential way to help promote American businesses abroad. But Sanders disagrees and casts the bank as corporate welfare.

 

A bloc of House conservatives successfully delayed the reauthorization of the bank last year over similar concerns. But a bipartisan coalition rallied enough support to overcome that opposition.

 

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March 03, 2016, 08:29 am

Koch brothers won't try to stop Trump: report

By Harper Neidig

http://thehill.com/blogs/ballot-box/271597-koch-brothers-wont-try-to-stop-trump-report

 

The Charles and David Koch, two of the country’s most prolific conservative political donors, will not try to stop Republican presidential front-runner Donald Trump from winning the nomination, Reuters reported Wednesday.

 

We have no plans to get involved in the primary,” said James Davis, a spokesman for Freedom Partners, a nonprofit funded by the brothers.

 

The report added that the Kochs believe money spent against Trump would be wasted since all attacks on the real estate mogul have failed.

The brothers have also reportedly soured somewhat on spending big on presidential elections, having bankrolled failed 2012 Republican candidates Newt Gingrich and Mitt Romney.

 

The announcement comes as a blow to establishment Republicans hoping to topple Trump. Some big donors are pouring their money into anti-Trump super-PACs, and influential establishment figures like Romney are ramping up attacks on the businessman.

 

The Koch brothers’ powerful network of political donors, some of whom are contributing to anti-Trump efforts, have pledged to spend $889 million in the 2016 election.

 

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Charles Koch: This is the one issue where Bernie Sanders is right

 

By Charles G. Koch February 18

Washington Post

https://www.washingtonpost.com/opinions/charles-koch-this-is-the-one-issue-where-bernie-sanders-is-right/2016/02/18/cdd2c228-d5c1-11e5-be55-2cc3c1e4b76b_story.html

 

As he campaigns for the Democratic nomination for president, Vermont Sen. Bernie Sanders (I) often sounds like he’s running as much against me as he is the other candidates. I have never met the senator, but I know from listening to him that we disagree on plenty when it comes to public policy.

 

Even so, I see benefits in searching for common ground and greater civility during this overly negative campaign season. That’s why, in spite of the fact that he often misrepresents where I stand on issues, the senator should know that we do agree on at least one — an issue that resonates with people who feel that hard work and making a contribution will no longer enable them to succeed.

 

The senator is upset with a political and economic system that is often rigged to help the privileged few at the expense of everyone else, particularly the least advantaged. He believes that we have a two-tiered society that increasingly dooms millions of our fellow citizens to lives of poverty and hopelessness. He thinks many corporations seek and benefit from corporate welfare while ordinary citizens are denied opportunities and a level playing field.

 

I agree with him.

 

Democrats and Republicans have too often favored policies and regulations that pick winners and losers. This helps perpetuate a cycle of control, dependency, cronyism and poverty in the United States. These are complicated issues, but it’s not enough to say that government alone is to blame. Large portions of the business community have actively pushed for these policies.

 

Consider the regulations, handouts, mandates, subsidies and other forms of largesse our elected officials dole out to the wealthy and well-connected. The tax code alone contains $1.5 trillion in exemptions and special-interest carve-outs. Anti-competitive regulations cost businesses an additional $1.9 trillion every year. Perversely, this regulatory burden falls hardest on small companies, innovators and the poor, while benefitting many large companies like ours. This unfairly benefits established firms and penalizes new entrants, contributing to a two-tiered society.

 

Whenever we allow government to pick winners and losers, we impede progress and move further away from a society of mutual benefit. This pits individuals and groups against each other and corrupts the business community, which inevitably becomes less focused on creating value for customers. That’s why Koch Industries opposes all forms of corporate welfare — even those that benefit us. (The government’s ethanol mandate is a good example. We oppose that mandate, even though we are the fifth-largest ethanol producer in the United States.)

 

It may surprise the senator to learn that our framework in deciding whether to support or oppose a policy is not determined by its effect on our bottom line (or by which party sponsors the legislation), but by whether it will make people’s lives better or worse.

 

With this in mind, the United States’ next president must be willing to rethink decades of misguided policies enacted by both parties that are creating a permanent underclass.

 

Our criminal justice system, which is in dire need of reform, is another issue where the senator shares some of my concerns. Families and entire communities are being ripped apart by laws that unjustly destroy the lives of low-level and nonviolent offenders.

 

Today, if you’re poor and get caught possessing and selling pot, you could end up in jail. Your conviction will hold you back from many opportunities in life. However, if you are well-connected and have ample financial resources, the rules change dramatically. Where is the justice in that?

 

[Read more: Actually, the “billionaire class” might be more progressive than Sanders says]

 

Arbitrary restrictions limit the ability of ex-offenders to get housing, student or business loans, credit cards, a meaningful job or even to vote. Public policy must change if people are to have the chance to succeed after making amends for their transgressions. At Koch Industries we’re practicing our principles by “banning the box.” We have voluntarily removed the question about prior criminal convictions from our job application.

 

At this point you may be asking yourself, “Is Charles Koch feeling the Bern?”

 

Hardly.

 

I applaud the senator for giving a voice to many Americans struggling to get ahead in a system too often stacked in favor of the haves, but I disagree with his desire to expand the federal government’s control over people’s lives. This is what built so many barriers to opportunity in the first place.

 

Consider America’s War on Poverty. Since its launch under President Lyndon Johnson in 1964, we have spent roughly $22 trillion, yet our poverty rate remains at 14.8 percent. Instead of preventing, curing and relieving the causes and symptoms of poverty (the goals of the program when it began), too many communities have been torn apart and remain in peril while even more tax dollars pour into this broken system.

 

It is results, not intentions, that matter. History has proven that a bigger, more controlling, more complex and costlier federal government leaves the disadvantaged less likely to improve their lives.

 

When it comes to electing our next president, we should reward those candidates, Democrat or Republican, most committed to the principles of a free society. Those principles start with the right to live your life as you see fit as long as you don’t infringe on the ability of others to do the same. They include equality before the law, free speech and free markets and treating people with dignity, respect and tolerance. In a society governed by such principles, people succeed by helping others improve their lives.

 

I don’t expect to agree with every position a candidate holds, but all Americans deserve a president who, on balance, can demonstrate a commitment to a set of ideas and values that will lead to peace, civility and well-being rather than conflict, contempt and division. When such a candidate emerges, he or she will have my enthusiastic support.

 

(貼り付け終わり)

 

(終わり)

アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12


 
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 古村治彦です。

 

 前回は、ヒラリー陣営の外交政策ティームについての記事をご紹介しましたが、今回は対抗馬のバーニー・サンダース連邦上院議員陣営の外交政策ティームについての記事をご紹介します。

 

 ヒラリーがワシントンにいる民主党系の専門家をごそっと陣営に引き入れたのとは対照的に、サンダースは外交政策ティーム作りにかなり出遅れてしまったようです。今のところ、ビル・フレンチという専門家が陣営に参加したようですが、その他には名前が出てきていないようです。ヒラリーは大統領選挙での勝利の可能性が高く、人が集まりやすいうえに、国務長官として人脈作りもできていたという利点があります。ヒラリーは国内政策の面でサンダースにかなり寄せてきているので、違いを出すには外交政策の厚みと深さということになっています。

 

 サンダースはかなり不利な状況で、更に、外交政策ティーム作りが遅れているということを執拗に攻撃されているようです。これから選挙戦が進んでいく中で、挽回はかなり難しそうです。

 

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独占:バーニー・サンダースが外交政策ティーム構築を始める(Exclusive: Bernie Sanders Begins Building Foreign Policy Team

 

ジョン・ハドソン筆

2016年2月24日

『フォーリン・ポリシー』誌

http://foreignpolicy.com/2016/02/24/exclusive-bernie-sanders-begins-building-foreign-policy-team/

 

 民主党の大統領選挙候補バーニー・サンダースが外交政策アドヴァイザーを集め、ティーム作りをついに始めた。ここ数週間、ヒラリー・クリントンからの「サンダース陣営には信頼に足る専門家たちがいない。将来、米軍の最高司令官になろうとする人にとってこうした専門家たちの存在は必要不可欠だ」という批判が続いた。

 

 サンダース陣営に近い複数の人たちに取材したところによると、サンダースは、ビル・フレンチに声をかけ、外交政策に関するメッセージ作りを手伝い、外部のアドヴァイザーと専門家たちを集めて欲しいと依頼した。ビル・フレンチは、非営利団体の政策グループであるナショナル・セキュリティ・ネットワークの政策アナリストである。この非営利団体は、「進歩的な国家安全保障政策を構築し、保守的な政策に対抗する」ことを目的としている。フレンチは、これまでに多くの機会を通じて連邦議会で証言を行ってきた。その中には、イラクとシリアのイスラミック・ステイトと戦うための提案が行われた時の議会証言も含まれている。昨年3月、フレンチは議会証言で、連邦議員たちに対して、大統領に対してスンニ派の過激派に対する戦争権限承認を与えたことに警告を発した。彼は、これによって将来の大統領が予想もしなかった方法を採る可能性があると主張した。フレンチは更に、オバマ政権が掲げる「イスラミック・ステイトを弱体化し、完全に破壊する」という理想主義的なコトバの実現性に疑念を表明した。

 

 フレンチはこれまでにアメリカ国防政策とアメリカ近現代史について数多くの著作を発表している。F-35統合攻撃戦闘機の能力に関する膨大な分析やアメリカ連邦議会がこれまで可決してきた全ての軍事力行使権限の承認に関する研究を行ってきた。

 

 サンダース陣営にはこれまでに再三コメントを求めたが、返答はなかった。サンダース陣営はこれまで、メディアから再三質問されてきたにもかかわらず、陣営内のフルタイムの外交政策アドヴァイザーの名前を公表することが出来なかった。サンダースのために政策メモや政策に関する文書の下書きを書くための外部のアドヴァイザーティームとしてやっとフレンチの名前が出てきたのだ。

 

 『フォーリン・ポリシー』誌が報じているように、ヒラリー陣営は数百名、いや恐らく数千名の専門家たちを集めてネットワークを構築し、外交政策のアドヴァイザーとしている。そして、こうした専門家たちは、世界唯一の超大国アメリカを率いる大統領としてのサンダースンの能力に疑義を呈している。

 

 ヒラリーが数多くの専門家たちのネットワークを構築できているのは、彼女が民主党の最有力候補であるということ、そして国務長官であったという経歴に起因している。ヒラリーは国務長官時代に民主党の外交政策の専門家たちとの緊密な関係を構築した。ヒラリー陣営の政策責任者を務めているのはジェイク・サリヴァンである。サリヴァンは、国務省時代にはヒラリーの次席補佐官を務めた。毎日の業務や長期亭な計画を立てているのは、国務省に勤務経験のあるローラ・ローゼンバーガーである。外部のアドヴァイザーとして、マデリーン・オルブライト元国務長官、CIA長官や国防長官を歴任したレオン・パネッタ、オバマ大統領の国家安全保障問題担当補佐官を務めたトム・ドニロン、センター・フォ・ア・ニュー・アメリカン・セキュリティ代表のミッシェル・フロノイが名前を連ねている。

 

 現在までのところ、ヒラリーはサンダース陣営に外交政策アドヴァイザーがいないことを演説やメディアとのインタヴューの中で真っ先に批判している。

 

 今月、ヒラリーはNBCの番組「ミート・ザ・プレス」に出演し、「サンダース上院議員を支え、アドヴァイスを送る外交政策の専門家のネットワークはないんですよ」と述べた。彼女は続けて次のように語った。「大統領になるからには、就任第一日目から全ての面で準備ができていなくてはならないのです。ご存じの通り、私たちを取り巻く世界環境は複雑さを増しています。大統領には就任してから勉強を始める、そんな時間は用意されていないのです」。

 

 サンダースは外交政策よりも経済的不平等を彼の選挙戦の主要なテーマにしている。サンダースは連邦上院議員として、オバマ政権の外交政策目標とあまり違わない政策を主張してきた。サンダースは、イランとの核開発を巡る合意の無効化に反対票を投じた。イスラエル・パレスチナ問題に関しては二国共存での問題解決を支持している。そして、オバマ大統領が進めている、世界各地でテロリストたちだけを対象としたドローン攻撃に関してこれを支持している。ヒラリーと同様、サンダースはホワイトハウスが強力に推進している環太平洋経済協力協定(TPP)に反対している。TPPは巨大な貿易協定であるが、これについてサンダースは、この協定では、アメリカの労働者たちを適切に保護することはできないと主張している。

 

 ヒラリーとサンダースとの間の批判合戦は激しさを増している。特に、サンダースがニューハンプシャー州の予備選挙で20ポイント以上の大差をつけて劇的な勝利を収めて以降、激しくなっている。先週、サンダースは全国規模で行われた世論調査で予備選期間中としては初めてヒラリー・クリントンを支持率で上回った。フォックスニュースが行った世論調査で、サンダースは47%、ヒラリーは44%の支持率となった。同時に、ヒラリーは土曜日に行われるネヴァダ州での党員集会で勝利を確かなものとし、その他の3州でもサンダースに2ケタのポイント差をつけてリードしている状況だ。ヒラリー陣営は、土曜日のサウスカロライナ州での大統領選挙予備選挙で圧勝すると期待している。ここ最近の世論調査では、ヒラリーは20ポイントの大差をつけている。

 

(終わり)





 
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 古村治彦です。

 

 今回は、ヒラリー・クリントン陣営の外交政策ティームについての記事をご紹介します。ヒラリーは、外交政策に関して数百人の専門家をネットワーク化しているそうです。ここに名前が挙がっている人たちは、ヒラリーが政権の座に就いた時には、政府高官になると思われます。今から名前を知っておくのは損がないと思います。

 

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ヒラリー・クリントンの巨大な外交ブレイントラストの内部に迫る(Inside Hillary Clinton’s Massive Foreign-Policy Brain Trust

 

 ヒラリー・クリントン陣営は、前国務長官ヒラリーにアドヴァイスしてもらうために数百名の専門家を擁している。大きすぎて失敗できない?

 

ジョン・ハドソン筆

2016年2月10日

『フォーリン・ポリシー』誌

http://foreignpolicy.com/2016/02/10/inside-hillary-clintons-massive-foreign-policy-brain-trust/

 

 毎日、ワシントン中の事務所でヒラリー・クリントンに会ったことがない多くの外交政策のアドヴァイザーたちが、彼女のために政策メモを書いている。しかし、それをヒラリーが読むことはないだろう。

 

 アドヴァイザーの集団の規模は巨大だ。クリントン選対の幹部たちでもその数をはっきりさせることが出来ない。「数百人」というのがいつもの答えだ。この集団は締め付けが強くないので、選対幹部でも、この集団を直接管理することはできない。

 

 調整するための苦労があるとは言え、この政策専門家のネットワークは、民主党の大統領選挙候補者争いのライヴァルであるバーニー・サンダースに対する強力な武器となっている。ヒラリーの味方する多くの専門家たちがサンダースの外交政策についての考えを批判する。そして、こうした専門家たちが多くいることは、ヒラリーが既に民主党内の外交政策専門家たちのほとんどを取り込んでいるのだという印象を与えている。

 

 クリントン陣営にとって、専門家の数は重要だ。サンダース陣営の外交政策アドヴァイザーの数はヒラリー陣営に比べて少ない。この事実から、「サンダースは大統領就任初日からアメリカを率いていく準備ができてない」という考えが出てくる。ヒラリー陣営はサンダースに対してこの攻撃を進んで行っている。2008年の民主党大統領選挙予備選で当時のバラク・オバマ上院議員に対して当時のヒラリー陣営は同じような批判を行ったが、この時には失敗に終わった。しかし、今回、サンダースに対しての攻撃の場合、これが有効なものとなっている。この点が前回の選挙戦と大きく異なる点だ。

 

NBCのチャック・トッドは先週の日曜日、インタヴューの中でヒラリーに対して「当時上院議員だったオバマについてあなたが述べていたことと現在サンダース上院議員についてあなたが述べていることの違いはなんですか?」と質問した。トッドは、「サンダースは外交政策の分野で経験不足だ」というヒラリーの発言を念頭に置いて質問した。

 

 ヒラリーは、「それは大変大きな違いがありますよ」と答えた。

 

 ヒラリーは、「オバマ氏はあの当時、国家安全保障政策と外交政策の諸問題についてアドヴァイザーを集めネットワークを構築していました。今回の選挙戦では相手陣営はそのようなことをしていません。サンダース上院議員を支え、助言をする外交政策の専門家のネットワークが存在していないのですよ」と語った。

 

 実際のところ、その通りだ。

 

 サンダースがどんなにそうではないと否定しようとしても、彼がアメリカの国家安全保障の専門家たちと実際に会談したのは1回きりである。その時にはワシントンの有名なシンクタンクの幹部たちやアメリカ政府に勤務していた人々と会っている。今月初めにサンダースは外交政策分野における経験が乏しいと批判された後、サンダース陣営は、サンダースがこれまでにあった専門家たちのリストを発表した。そこには、センター・フォ・アメリカン・プログレス上級研究員のローレンス・コーブ、外交評議会に所属しているイラン専門家レイ・タケイヤ、ブルッキングス研究所所属の学者タマラ・コフマン・ウィッテスの名前があった。このリストが発表された時、コフマン・ウィッテスは、既にクリントン陣営の中東担当ワーキンググループの上級顧問に就任していた。これはやってしまいがちな間違いだ。ワシントンの専門家たちをヒラリーはほぼ独占してしまっているのが現状なのだ。

 

 サンダース陣営にこの記事のためのコメントを求めたが、返答はなかった。

 

 クリントンの外交政策ティームは数多くの人々が参加している。それはヒラリーが選挙戦をリードしていて選挙に勝つ可能性が高いからであるし、民主党のエスタブリッシュメントと彼ら専門家たちは長い間協力関係を維持してきたからでもある。しかし、このティームをフルタイムで管理しているのはたったの2人だ。外交政策ネットワークのトップには、政策責任者のジェイク・サリヴァンが控えている。サリヴァンはヒラリーの国務長官在職時に副補佐官としてヒラリーに仕えていた。元国務省職員のローラ・ローゼンバーガーは陣営内の外交政策ネットワークに関する日常業務と長期計画を担当している。

 

 この記事はヒラリー陣営の6名の人々のインタヴューを基に構成している。彼らは匿名を条件にしてインタヴューに応じてくれた。それは、彼らは対外的な発言をする権限を持っていないからだ。

 

 陣営に参加している人々は、サリヴァンとローゼンバーガーは外部のアドヴァイザーたちと定期的に連絡を取っていると述べている。元CIA長官・元国防長官のレオン・パネッタ、前大統領国家安全保障問題担当補佐官トム・ドニロン、センター・フォ・ア・ニュー・アメリカン・センチュリーCCEOのミッシェル・フロノイ、元国務長官のマデリン・オルブライト、その他高名な人々がヒラリー陣営のアドヴァイザーとなっている。

 

 最高の専門家たちだけではなく、ヒラリー陣営には、各地域や問題別に分かれた12の政策アドヴァイスを行うワーキンググループが存在する。地域で言えばアジアからヨーロッパ、問題で言えば人権、国防、対テロリズム、インターネットに関するワーキンググループが存在する。これらのワーキンググループには、個別の国や個別の問題に関わる小グループが含まれる。そして、選挙戦において緊急に用意しなければならない政策に関する回答の準備に備えている。

 

 ヒラリー陣営のアドヴァイザーティームの規模を制限することを側近たちは欲していない。

 

 ヒラリーの選対本部は、「上級パートナー」と呼ばれる人たちに、アドヴァイスのためのワーキンググル―プに参加してもらう専門家を選ぶ権限を与えている。時には、ヒラリーの側近もその専門家たちについてはよく知らないということが起きる。外部の専門家が外交政策のアドヴィザ―ティームに参加することを受け入れると、その人は、参加するワーキンググループの他のメンバーの名前を口外しないと誓約する書面にサインをすることになる。

 

 システムを分散させた結果、ヒラリー陣営は驚くほど多くの専門家たちを陣営に参加させることが出来ている。20代の駆け出しのシンクタンク研究員から50代、60代の元外交官までが参加している。誰もがヒラリー・クリントンのアドヴァイザーになる体制が整えられている。

 

 アドヴァイザーの数が多いことは様々な良い効果を生み出している。

 

 この1年、これらのシンクタンクの研究員や元外交官は、選挙戦でヒラリーが対することになるであろう質問を全て想定し、その準備のために、メモや要点をまとめたリスト、ポジションペーパーを準備している。ヒラリーの側近たちは、陣営のアジア担当者は、北朝鮮の最近の核開発の動きを既に察知していたと考えている。

 

 ヒラリーに近い人々は、ヴェトナムやウガンダでの選挙、アジア、ヨーロッパ、南米での首脳会談など重要度の低い問題にまで数多くの政策メモが作られることの有効性について疑問を持っている。あるアドヴァイザーは、「フルタイムの選対スタッフに私の書いたメモが近づくだけでもうれしい」と述べている。

 

 しかし、無料のアドヴァイスが受けられることだけが、ヒラリー陣営が巨大な外交政策ティームを持つことのメリットではない。ある専門家は、「ティームに参加しいているという幻想」を持たせることで、ヒラリーに対する忠誠心を確固としたものとすることが出来ると述べている。

 

ある著名なシンクタンクに属する学者は、「たとえ数百人の中の1人でしかなくても、ティームの一員であると感じるのだ」と述べた。

 

 こうしたシステムになっているので、専門家たちはヒラリーの失言に対して辛辣なツィートをすることや、記者たちに気の利いたコメントをすることを控えるようになる。多くの専門家にとっての最終目標は、アドヴァイザーグループに入って将来はヒラリー・クリントン政権に参加することである。

 

 イデオロギー的には、アドヴァイザーにはタカ派とハト派が混合している状態であり、ヒラリーとオバマの側近を長く務めている人々もその中に入っている。

 

 ヒラリー陣営の中東担当ワーキンググループを率いているのは、上級顧問のウィッテスと、オバマ政権に参加していたデレク・コレットである。コーディネイターとして、オルブライト・ストーンブリッジ・グループの上級副社長のプレム・クマールである。このワーキンググループには幅広い中東専門家たちが参加している。元国務省職員のブルース・ジェントルソン、外交官出身で国家安全保障子会議の広報担当を務めたバーナデット・ミーハン、センター・フォ・アメリカン・プログレス上級研究員ブライアン・カトゥラスが参加している。

 

 ヒラリー陣営の対テロ担当ワーキンググループを率いているのは、ランド・ビアーズ、ダン・ベンジャミン、そしてマット・スペンスだ。ビアーズは国土安全保障省の官僚だった人物で、ベンジャミンは国務省に勤務していた。そして、スペンスは国防総省に勤務していた。人権担当ワーキンググループは、それぞれ国務省に勤務していたハロルド・コウとマイク・ポズナーが率いている。ヨーロッパ・ロシア担当ワーキンググループを率いているのは、元駐露大使のマイケル。マクファウル、オバマ政権に参加しホワイトハウスに勤務していたフィル・ゴードン、そして、ジョー・バイデン副大統領の次席国家安全保障担当補佐官を務めたジュリー・スミスだ。

 

 シンクタンクであるニューアメリカ財団の研究員ダン・カーツ=フェランのような人々は、ローゼンバーガーを助けて、多くのアドヴァイザーたちの調整を行っている。

 

 アドヴァイスを与えること以外に、専門家たちは汚い仕事にも手を染めている。

 

 2016年2月4日の民主党の討論会の後、ヒラリー陣営は、ベンジャミンが主催してのマスコミの記者たちを集めた懇談会を開催した。この場で、ベンジャミンはサンダースを批判した。

 

ベンジャミンは、「サンダース議員は多くの重要な問題についてしっかりと勉強していないように思われる。北朝鮮についての彼の答えは通行人への街頭インタヴューでの答えのようであり、知識が全くないことが分かる」と述べた。

 

 それから遡ること数週間前、ヒラリー陣営は、サンダースが「イランとの関係を正常化するためにできるだけ攻撃的にする」ことを求めたことについて批判する、アドヴァイザーたちの署名が入った手紙を公開した。

 

 ヒラリーのアドヴァイザー10名が連名で出した公開書簡の中には、「私たちが懸念しているのは、サンダース上院議員がこれらの重要な国家安全保障の問題についてしっかりと考えていないのではないかということだ。これらの問題は我が国の安全保障に大きな影響を与えることになる」と書かれていた。

 

 サンダース陣営は、「当時のヒラリー・クリントン連邦上院議員と違って、サンダース連邦上院議員は2002年のイラク戦争開戦に反対票を投じた」という反撃を繰り返し行っている。2002年にヒラリーが行ったこの投票が、2008年の大統領選挙予備選でオバマに敗れる原因となった。

 

サンダースは先週の日曜日にNBCの政治番組「フェイス・ザ・ネイション」に出演し、「私たちが生きる現代において最も重要な問題であるイラク戦争に関して、私は正しい判断をしたが、ヒラリー・クリントンは間違ったのですよ」と語った。

 

 サンダースは、「彼は外交政策に強くない」とする、「メディアによる印象操作」を払拭するために、「私はアメリカ国民にとって有益な外交政策を立案できる強力なティームを作り、有能な人々に参加してもらえる自信を持っています」と述べた。

 

 サンダースはヒラリーに対してアイオワ州の党員集会ではほぼ引き分け、そしてニューハンプシャー州の予備選挙では20ポイント以上の大差をつけて勝利という結果を得た。こうした状況下、サンダースに対して外交政策ティームを作るべきだというプレッシャーは大きくなっている。しかし、彼がティーム作りを計画しているのなら、ヒラリーが接触してくる前に新しいアドヴァイザーたちを勧誘するか、ヒラリー陣営に参加している人を強引に引き入れはじめる必要がある。

 

(終わり)



 
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  古村治彦です。

 

 今回は、スーパーチューズデー以降のアメリカの政治の動きについて考えたことを書きたいと思います。大体のことは前回に書いたのですが、そこからさらに考えたことを書きたいと思います。

 

 アメリカには民主、共和両党以外にも実はたくさんの政党があります。しかし、この2つ以外の政党から大統領が出るとか、連邦議会で過半数を取るというようなことはありません。たまに無所属の議員が出ることはありますし、バーニー・サンダース連邦上院議員も民主党所属ではなくて、無所属(ヴァーモント州の地域政党)で、連邦議会では民主党の会派に入っているということになります。

 

 国政レヴェルの政治に参加するということになると、どうしても民主、共和両党に所属するということになります。1955年から1993年の日本で続いた「55年体制」(自民党が国会で常に過半数を維持し、社会党が3分の1前後を維持して改憲を防ぐ)の下の自民党もそうでしたが、そうなると、様々な考えや主張の人たちが1つの政党に所属することになります。アメリカの民主、共和両党にも多くのグループがあります。それを分かりやすく説明しているのが、副島隆彦著『世界覇権国アメリカを動かす政治家と知識人たち』(講談社+α文庫、1999年)です。この本は20年近く前に書かれた本ですが、人の入れ替わり(亡くなったり、引退したり)はあっても、基本的には本で書かれたアメリカ政治の形は変わっていません。ですから、今のアメリカ政治を理解する上でも重要な本です。

 

 この本の中には以下のような図があります。これは今のアメリカ政治、特に現在起きている現象を理解する上で重要です。この図は、『世界覇権国アメリカを動かす政治家と知識人たち』に入っているものです。

 

seven-party

 ここで重要なのは、ネオコン派です。この図では、「(こうもり集団)」と書かれています。これについて説明します。ネオコン派とは、ジョージ・W・ブッシュ前政権で外交・安全保障政策の分野で政策を推進した人々です。彼らは911同時多発テロ事件を受けて、アフガニスタンとイラクに対して軍事力を行使しました。そして、これらの政策は大失敗であったという評価になっています。ネオコン派は元々、民主党系でジョン・F・ケネディ大統領を支持していた理想に燃える若者たちでした。ジョン・F・ケネディ大統領と言えば、日本でもイメージの良いアメリカ大統領として今でも有名ですが、彼は反共主義者として、キューバ侵攻(ピッグス湾事件)からキューバ危機を起こしたり、ヴェトナムに介入したりと、結構攻撃的な人でした。彼が暗殺された後大統領になったリンドン・ジョンソン大統領もその路線を踏襲しました。

 

 しかし、ジミー・カーター大統領になって穏健路線に転換し、これに対して、ネオコン派の人々は失望し、集団的に脱党、共和党支持に転換しました。ネオコン派を英語では、NeoconservativesNeoconと書きますが、ここで、ニュー(New)ではなく、ネオ(Neo)という言葉が使われているのが重要です。英語でNeoが使われる場合は、偽物やまがい物という意味が含まれます。ネオナチなどという言葉を思い出していただければわかると思います。彼らは、共和党に移っても、保守本流の人たちからは「あいつらは転向してきた、偽物だ」ということで、Neoが付けられたということになります。

 

 保守本流や上の図にあるリバータリアンの人たちからすると、ネオコン派は信用できない人たちということになります。また、最近で言えば、ジョージ・W・ブッシュ政権の外交、安全保障政策の失敗、更には民主党のバラク・オバマにホワイトハウスを奪われた責任者たちということにもなります。

 

 ここからは、2012年に出した拙著『アメリカ政治の秘密』(PHP研究所)に書きましたが、アメリカの外交政策の大きな流れとしてリアリズム(現実主義)とアイディアリズム(理想主義)があります。そして、民主、共和両党にそれぞれリアリズムと理想主義の流れがあります。リアリズムとは、外交において理想に走らずに、国益(国家の生存)実現を第一にするというものです。リアリズムの特徴は無理なことはしないし、穏健な方法を模索するということです。もちろん武力行使をしないということではありませんが、理想の実現やある状態を劇的に変化させることを目的にすることはありません。

 

 一方、理想主義的な流れを代表しているのが、民主党では人道的介入主義派であり、共和党ではネオコン派ということになります。人道的介入主義とは、女性やマイノリティなどの人権侵害などがある国で起きた場合、それらの人々を守るために、米軍による攻撃も辞さないというものです。現在、民主党の大統領選挙予備選でリードしている、ヒラリー・クリントン前国務長官は人道的介入派の代表格です。

 

民主党:リアリズム⇔人道的介入主義

共和党:リアリズム⇔ネオコン

 

 人道的介入主義派とネオコン派の外交、安全保障政策はほぼ同じです。ネオコン派は、反共的な立場からスタートしましたが、その後、ソ連の崩壊後には、「世界中の国々を民主化すれば、世界は平和になる。何故なら、民主国家同紙は戦争をしないからだ」という考えに基づいて、世界各国の民主化を理想に掲げました。

 

 前の方で書きましたが、ネオコン派は元々が民主党にいた人々です。ですから国内政策ではリベラルであり、これがまた共和党の保守本流の人々をイライラさせます。

 

 ここまで説明したことと現在のアメリカの政治状況を重ねて見ていきたいと思います。現在、共和党の大統領選挙予備選挙ではドナルド・トランプが大きくリードしています。トランプ旋風に対して、共和党のエスタブリッシュメントは慌てています。何とか、この旋風を抑えようとしています。それは、トランプ現象が、ポピュリズムを基礎にして起きているからです。ポピュリズムとは大衆迎合主義という側面もあります。しかし、それ以外に、「民衆がワシントンで行われている政治が余りにも自分たちの考えとかけ離れていると感じて、それに対して怒りを爆発させて、自分たちの代表者にふさわしい人物を押し立てて、ワシントンを攻撃する」という面もあります。アメリカのポピュリストとして有名なのは、1930年代に活躍したヒューイ・ロングです。フランクリン・D・ルーズヴェルト大統領が「最も危険な男」と呼んだ人物です。今回のトランプ現象は、このポピュリズムが起きているために起きている現象なのです。

 

 人々が何について怒っているのかについては、このブログで前回書きましたので、ここでは繰り返しません。簡単に言ってしまえば、「アメリカらしさの喪失」に対して怒っているのです。そして、「大統領選挙で勝てなくても良いから、自分たちの怒りや不満を全身で受け止めて表現している人物であるトランプに投票する」ということになっています。

 

 彼らは共和党の支持者でありながら、共和党が大統領選挙で勝利することを求めていません。これは、党内の政治家たちを中心とするエスタブリッシュメントにとっては衝撃です。これでは政党の存在意義すら否定することになるではないか、ということになります。

 

 私が翻訳した『アメリカの真の支配者 コーク一族』(ダニエル・シュルマン著、講談社、2015年)の主人公であるコーク兄弟、チャールズ・コーク、デイヴィッド・コークは、多額の政治資金を投入することで政治に大きな影響力を行使しようとしています。彼らは、ドナルド・トランプからは目の敵にされ、彼らからお金をもらう候補者たちはトランプから侮蔑的な言葉をかけられました。

 

 共和党エスタブリッシュメントに属する富豪たちは、トランプ現象を阻止するために動こうとしています。しかし、コーク兄弟は、自分たちの政治資金をトランプ阻止のために投入しないと発表しました。これは、間接的なトランプ支持、ということが言えます。

 

 コーク兄弟の狙いを忖度すると、それは、「共和党をぶっ壊す」ということではないかと思います。そして、より具体的には、「ネオコン派を叩き出す」ということだと思います。そして、破壊の後に再生ということで、共和党を昔のように戻す、ということなのだろうと思います。ネオコン派の外交専門家たちが、トランプに対して不支持を表明する公開書簡を出しましたが、これは、こうした動きを察知しての反応だと思われます。

 

 トランプ現象をただ人々が不満をぶつけているだけと捉えるのは表層的だと思います。そこには政治思想やアメリカ自体の変容が大きく絡んでいると私は思います。

 

(終わり)




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 古村治彦です。

 アメリカ大統領選挙は、2016年3月1日に民主、共和両党で多数の州が予備選挙を行うスーパーチューズデーを終えた。あれだけ多くの候補者たちが選挙戦を展開していたが、いよいよ「ビッグ5」である、民主党側のヒラリー・クリントン前国務長官とバーニー・サンダース連邦上院議員、共和党側のドナルド・トランプ、テッド・クルーズ連邦上院議員、マルコ・ルビオ連邦上院議員に絞られてきた。言い換えると、この中から、次のアメリカ大統領が出る。それがいよいよ現実感を持って迫ってきている。

 

 民主党側ではヒラリー・クリントン、共和党側ではドナルド・トランプがリードしてスーパーチューズデーを終えた。テッド・クルーズがテキサス、オクラホマ両州、マルコ・ルビオがミネソタ州で勝利したが、トランプの勢いを止めることはできなかった。スーパーチューズデーの結果を受けて、共和党内部では動揺が走っている。

 

アメリカ政治に詳しい人々ほど、トランプ旋風・トランプ現象は、いつか止まるものだ、と考えていた。議員や知事など政治経験もなく、過激な言動を繰り返す、トリックスターであるトランプを、人々は最初のうち面白がって支持するだろうが、やがて、彼への支持を止めるだろうし、予備選挙が始まる前から1位を独走している候補者は予備選序盤で他候補たちからの集中攻撃を受けて、失速していくのがこれまでのパターンであった、と考えた。しかし、トランプがいくら失言を繰り返しても、支持はなくならない。スーパーチューズデーという、これまでであれば、民主、共和両党である程度の流れが見えてくるこの時期に、トリックスターであるトランプが二大政党の一角である共和党で1位を独走するという状態は、現在生きている私たちにとって初めての経験だ。

 

 共和党内部は揺れている。慌てている。呆然としている。共和党内部で、大物政治家たちや政策立案者たちの間から、「自分(たち)はトランプを支持しない」という声が上がっている。彼らは「トランプでは11月の本選挙に勝てない」「トランプの考えや行動は危険だ」「大統領になって法律違反の命令を出したら、軍隊はそれには従わない」などと述べている。しかし、彼らがそのような態度表明をしても、トランプ支持が減ることはないだろう。それはトランプを支持している人々は、共和党内部の主流派、エスタブリッシュメントを形成している人たちを嫌っているからだ。

 

 アメリカの三大ネットワークの1つABCがスーパーチューズデーの日に行った出口調査で興味深い結果が出た。「あなたはどういう基準でどの候補者に投票すると決めましたか?」という質問に対して、「11月の本選挙で勝てる」よりも、「自分と価値観を共有している」という項目が上回ったのだ。彼らの多くがトランプ支持者であろう。トランプに投票した人々は、「私たちは、11月の大統領選挙の本選挙で共和党が勝とうが負けようがどうでもいい、そんなことよりも自分たちの不満を確実に表現してくれる人がそこにいるから投票する」として行動している。これは政党としては恐るべきことだ。

 

 どんな政党でも選挙がある以上、その選挙に勝とうとする。議席数だったり、得票率だったりで、目標(勝敗ライン)を決めて、勝った、負けたをしている。アメリカの場合は、二大政党だから、大統領選挙は、最後は民主、共和両党による一対一の大勝負である。「選挙に勝てなくても良い」というある意味で「矛盾した」志向を持つ「支持者たち」が共和党の支持者の多くを構成している。これは政権獲得を目指す、という政党の存在意義にまで関わってくる根源的な問題となる。彼らは、選挙に勝てる共和党の支持者という状態から「逃走」を始めている。

 

 私がこのブログで既に紹介したように、トランプ支持者は、「テキサスを除く南部からアパラチア山脈、北東部工業地帯に住む、白人で、大学の学位を持っていない、中流から下の人々」という調査結果が出ている。彼らの住むエリアは、バイブルベルトと呼ばれる、キリスト教プロテスタントの熱心な信者たちが多く住むエリアとも重なる。彼らは怒っている。
 

 彼らは何に怒っているのかということもこのブログで既に書いた。彼らは自分たちが習流派であったはずのアメリカの「喪失」に怒っているのだ。ホワイト・アングロ・サクソン・プロテスタント(WASP)文化と「アメリカは人々が機会の平等を保障される、民主的な共和国(世襲の王様や貴族がいない)であること(American Creed)」が失われているとして怒っている。マイノリティたちは自分たちの出身の文化や言語を捨てようとしない、それなのに優遇を受けている、共和党の主流派金持ちたちの言いなりだ、ということに彼らは怒っている。彼らは自分たちの現実の生活の苦しさにも不満を持っている。

 「世界最高の国であるアメリカの国民である自分たちがどうして恵まれない生活なのか」ということであり、「帝国臣民としての当然の分け前である豊かな生活(千五から60年代までに世界中を惹きつけた物質的に豊かな生活)」が出来なくなっていること、端的に言えば、「アメリカの衰退」を肌で感じて苛立っている。トランプのスローガンである「アメリカを再び偉大な国に(
Make America Great Again)」は彼らの不満と願いを明確に余すところなく表現したものだ。

 

 私たちが小さな頃、「アメリカは“人種のるつぼ”です」と習った。「るつぼ」の意味すらよく分からないままであったが、後で、「どんな国から来た人でも溶け合ってアメリカ人になる」という意味だと分かった。今は、「アメリカは“サラダボウル”です」となる。キャベツもレタスもトマトもキュウリもそれぞれの形のままで一つのボウルの中でサラダを形成する、ということになる。「るつぼ」ではなくなりつつアメリカにトランプ支持者たちは怒っている。アメリカ国内はまさに「文明の衝突」状態にあると言えるだろう。

 

 彼らからすれば、ローマ法王がトランプを批判したことは怒りの対象となる。プロテストタンとの国として建国されたアメリカは共和国であって、王様はいない。カトリックの「皇帝」であるローマ法王が外からアメリカ国内に手を突っ込むかのような動きは、警戒すべき動きだ。また、アメリカにはカトリックが主流の国々からの移民も多い。古くはアイルランドやイタリア、最近では南米からのヒスパニック。彼らの中でアメリカ国民としての忠誠心よりもカトリック教徒としての信仰心が上回ったらどうなるか、最悪の場合はアメリカの分裂ではないかという恐れと懐疑がローマ法王には向けられる。

 

 コーク兄弟と彼らが率いる大口献金者グループは、トランプ阻止に動き出そうとしていた。共和党のエスタブリッシュメントたちは油断した。それはアイオワの党員集会でテッド・クルーズが勝利したからだ。「テッド・クルーズやマルコ・ルビオに献金しながら、しばらく様子を見よう」ということになった。しかし、ニューハンプシャー州の予備選挙でトランプが勝利をして慌てだした。しかし、スーパーチューズデーまでに有効な対策を取ることが出来なかった。ここまでくると、来たるべきヒラリー当選でホワイトハウスを民主党が抑えるのなら、せめて連邦議会は共和党、それも自分たちが注文を付けられる議員たちを勝たせようとして、大統領選挙と同時に行われる連邦下院議員選挙(全員)と連邦上院議員選挙(3分の1)に注力することになる。

 

 2016年3月4日の朝、ロイターの日本語版が「コーク兄弟が自分の持つ政治資金を大統領選挙には投入しないと表明、トランプ追い落としに動かず」という速報を打った。コーク兄弟の動向が日本でも詳しく報道されるようになったのはそれだけでも大きいことだ。私は、この動きは、「間接的なトランプ支持」であり、「共和党主流派に対するコーク兄弟の三行半」なのではないかと考えている。

 

 コーク兄弟が信奉しているのはリバータリアニズムという思想である。これは、「個人の自由はとことん守り、政府はとことん小さく(だから税金もとことん少なく)、自分たちのことは自分たちで決めるし、やる」というものだ。そして、コーク兄弟は、民主、共和両党はこの理念に反しているので大嫌いなのだ。民主党を抑えるために、まだ少しましな共和党を支持するということになる。彼らは1980年の大統領選挙では、リバータリアン党に多額のお金を出したし、何よりも弟のデイヴィッド・コークが副大統領候補として実際に選挙を戦った。リバータリアン党としては最高の得票数を獲得したが、当然のことながら民主、共和両党を脅かすまでには至らなかった。そこで、現実政治に関与するためには、二大政党、そのうちの共和党の政治家たちにカネを出すということになった。そして、リバータリアニズムに基づいた市民運動として、彼らが多額の資金を出しているのが、反税金、反オバマ大統領のティーパーティー運動であった。

 

 コーク兄弟は他の大富豪と違って、共和党エスタブリッシュメントを嫌っている。そして、共和党をリバータリアニズムの方向に変革したいと考えている。だから、この際、自分たちを嫌っているドナルド・トランプに、共和党を引っ掻き回してもらおうとしているのだ。トランプを勢いづかせた要素の一つとして、途中まで共和党の予備選挙を戦ったニュージャージー州知事クリス・クリスティがトランプ支持を表明したことが挙げられる。コーク兄弟は2012年の米大統領選挙では、クリスティを共和党の大統領候補に賜与と強力にバックアップしていた。また、州知事選挙でも応援している。クリスティの動きは、恩人であるコーク兄弟を裏切っているようにも見えるが、機を見るに敏なクリスティは、コーク兄弟がトランプを使って共和党をひっくり返そうとしていると読んで、いち早くトランプ支持を表明したということも考えられる。

 

 トランプ旋風によって共和党は大きく揺らぐ。分裂ということすら可能性が出てきている。共和党が分裂は、民主党にとっては有利な展開ということになる。しかし、彼らにとっては有利なことであっても、この現象は、アメリカの衰退が引き起こしていることに注目しなくてはいけない。アメリカの衰退によってアメリカの政治風景が大きく変えられ、もしくは大きな傷が付けられようとしている。アメリカの民主政治体制の重要な要素である二大政党制の維持すら怪しくなっている。

 

マルクス流の「下部構造が上部構造を規定する」を前提とするならば、今回のトランプ旋風は、アメリカの衰退が引き起こしていることなのだと私は結論付けたいと思う。

 

(終わり)


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