古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

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2016年05月

 古村治彦です。

 

 今回は、アメリカの外交政策雑誌『フォーリン・ポリシー』誌に掲載された、ハーヴァード大学教授スティーヴン・ウォルトの論稿を皆様にご紹介したいと思います。

 

 ウォルトは、アメリカの外交政策の潮流、国際関係論の学派で言えば、リアリズムという流れに属します。リアリズムと対極にあるのがリベラリズム(アイディアリズム)というものです。リアリズムは、自国の国益(国家の生存)を最優先にするが、決して無理なことをしないという考えです。

 

 ウォルトは、アメリカが行ってきた、理想主義的(アイディアリスティック)な外交政策、民主政治体制の拡散、特に軍事介入を行っての政権転覆と民主化に反対しています。今回の論稿では、その理由などについて詳しく分析しています。

 

 ウォルトはオバマ大統領の外交政策に批判的ですが、オバマ自身はリアリストであり、そのような外交政策を展開しました。そして、ウォルトやオバマの考えを読むと、ドナルド・トランプの考えに通じるものがあります。彼らがアメリカ国民から支持されるのは、「アメリカが世界の警察官やら仲裁者、ブローカーをやるのは疲れた。アメリカが外ばかり向いているうちに、国内が疲弊してきた。もうそういう仕事は止めて家に帰ろう」と人々が考えているからだと私は考えています。

 

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アメリカが外国で民主政治体制確立の促進することがうまくいかないのはどうしてなのだろうか?(Why Is America So Bad at Promoting Democracy in Other Countries?

 

アフガニスタン、イエメン、イランのような国々において、短時間で、お金のかからない、もしくは軍事力を使った方法で、平和をもたらす方法など存在しない。今こそ、私たちはこれまでのやり方を変える時だ。それにはまず国内から始めることだ。

 

スティーヴン・M・ウォルト(Stephen M. Walt)筆

『フォーリン・ポリシー』誌

2016年4月25日

http://foreignpolicy.com/2016/04/25/why-is-america-so-bad-at-promoting-democracy-in-other-countries/?utm_content=buffer8e7d6&utm_medium=social&utm_source=facebook.com&utm_campaign=buffer

 

 あなたが熱心なウィルソン主義者であるなら、これまでの25年間は失望の連続だったはずだ。自由主義的民主政治体制こそがグローバル化する(均一化する)世界における唯一の政治体制として生き残ると考えられてきた。そして、これまでの三つのアメリカの政権はウィルソン主義に基づいた理想を掲げ、民主政治体制の拡散をアメリカの外交政策の根幹に据えてきた。ビル・クリントンは、それを「関与と拡大の国家安全保障戦略(National Security Strategy of Engagement and Enlargement)」と呼んだ。ジョージ・W・ブッシュは第二期目の大統領就任演説の中で、「自由に関するアジェンダ(Freedom Agenda)」と呼び、コンドリーザ・ライスのような政権幹部たちもこの言葉を繰り返し使った。バラク・オバマは、前任者たちに比べてウィルソン主義に対する情熱に欠けるところがある。しかし、オバマは、多くの熱心な自由主義的国際主義者(liberal internationalists)を政権に迎え入れた。そして、「自分たちの指導者を選ぶ権利以上に根本的に重要な権利は存在しない」と高らかに宣言した。オバマは、エジプト、リビア、イエメンなどの国々の民主体制への移行(democratic transition)を公的に支持してきた。

 

 もうすぐ出版となる、ラリー・ダイアモンドとマーク・プラットナーが編集を行った編著書で書かれているように、残念なことであるが、民主政治体制の拡散と促進に向けた努力は実を結んでいない。最近、ミャンマーでは軍事政権による支配が終了した。このようなサクセスストーリーもあるが、それと同じくらい、失敗もあった。その具体例がリビア、イエメン、イラクである。また、民主政治体制の後退がトルコ、ハンガリー、ロシア、ポーランドなどで起きている。また、民主政治体制の機能不全がヨーロッパ連合(EU)とアメリカで起きている。ダイアモンドが編著書の中の自身の記事の中で指摘しているように、過去30年で、世界の民主国家の4分の1近くが崩壊、もしくは後退している。

 

 読者の中には、私のようなリアリストは、ある国の国家体制のタイプや国内の政治機構については関心を持たず、民主政治体制の拡散という目標について冷淡だと考えている人たちもいらっしゃるだろう。しかし、それは誤解だ。リアリストは国家体制のタイプや国内の政治機構について関心を持っている。リアリストの大物ケネス・ウォルツは民主的な体制の違いを比較した本を書いているほどだ。リアリストたちは、非民主的な政権を民主的な政権と同じような方向に動かすには、組織化された圧力などよりも、相対的な国力と安全保障の必要性の方がより重要だと考えているのだ。

 

 従って、リアリストやその他の学派の人々は民主政治体制が良いものだと考えてはいるが、同時に、民主体制への意向に伴う様々な危険について危惧するのだ。安定した民主国家は一般的に見て、より長期にわたる経済成長を記録しているし、基本的な人権を守るという点でもより良い実績を残している。民主政治体制にも欠点はある。しかし、民主政体は、飢饉や準備不足の社会工学(social engineering)的な試みで、人を死なせたことは他の体制に比べて少ない。その理由は、民主政治体制の下では、修正するための情報にアクセスすることが出来るし、政治家や官僚たちも説明責任を果たさねばならないようになっているからだ。民主国家はその他の政治体制国家と戦争を始める傾向にあるが、民主国家同士は戦わない傾向にある。これにはかなり信憑性の高い証拠が揃っている。従って、勢力均衡という点から考えても、世界における民主国家の数が増加することは人類のほとんどにとってより良いことだと私も考えている。

 

 しかし、ここでどうしても1つの疑問が生じる。それは「民主化という目標をどのように達成したらよいのか?」というものだ。

 

 乱暴な言い方になるかもしれないが、私たちは何が全く機能しないか、そしてそれがどうしてなのかについての知識を持っている。民主化にとって役に立たないのは、軍事介入だ。これは別名で「外国による押しつけの体制変更」と呼ばれる。アメリカが軍隊を送り、独裁者と周辺人物たちを追い払い、新しい憲法を作り、選挙を2、3回やれば安定した民主国家が出来上がる、一丁上がり!という考えは、その実現性が疑わしい。この考えがうまくいかないことを示す証拠が山ほどあるのに、多くの賢い人々はこの考えに固執する。

 

 民主政治体制を拡散するために軍事力を使うと失敗するということにはいくつかの理由が存在する。第一に、自由な秩序が定着するには憲法や選挙だけではなく、もっと多くの要素が必要となる。効果的な法体系、多元主義、まともな収入と教育、ある選挙で負けた政党も将来はより良い仕事をするチャンスは持っているという人々の確信、現在の民主的な政治システム内で活動をし続けるという誘因が必要なのだ。自由な秩序が機能し、維持されるためには多くの社会的な要因を適切に配置する必要がある。西洋世界において、機能的な民主政治体制が構築されるまでに数世紀の時間を要した。そして、そのプロセスは論争的で、時に暴力にまで発展することもあった。アメリカの軍事力によって手早くそして安価に海外に民主政治体制を輸出できると考えることは、思い上がりも甚だしいことなのである。私たちは失敗した事例をきちんと思い出さねばならない。

 

 第二に、民主政体を拡散するために軍事力を使うと常に暴力的な抵抗を引き起こしてしまう。ナショナリズムなど個々の国々独自のアイデンティティが現在、世界中で力を保っている。そして、軍備を固めた外国の占領者たちからの命令に従うことを嫌う人々は数多くいる。更に言えば、サダム・フセイン失脚後のスンニ派のように、民主政体への移行によって権力、富、地位を失った人々は、民主化に反対するために武器を取って立ちあがるようになってしまう。これは避けがたいことだ。また、ある国の民主化によって自国の国益が影響を受ける近隣諸国は、民主化を阻止、もしくは退行させようとする。こうした動きは民主政体の確立の戦いにおいてどうしても起きる最後の抵抗である。それは、暴力というものは、機能する政治機構を作り上げ、党派の違いを乗り越えて合意を形成し、寛容の精神を促進し、より活発なそして生産的な経済を生み出す能力を持つ人たちよりも、暴力事態をうまく使える人たちによって効果的に行使されてしまうものだからだ。

 

 もっと悪いことに、外国からの占領者たちは地元の人々に中から適材を選び出すための知識を十分に持っていることはほぼないと言ってよい。また、新たに樹立された政府に対して気前のよい、善意の援助をしても、多くの場合、腐敗を生み出し、その国の政治を予測不可能なものとしてしまう。外国に民主政治体制を樹立することは、巨大な社会工学的プロジェクトなのであり、大国がそれを効果的に行うように期待することは、言ってみれば、地震が頻発する地域に、設計図がない状況で、原子力発電所を作ってくれと依頼するようなものである。民主政治体制の場合も、原子力発電所の場合も、どちらも予想されるのはメルトダウンである。

 

 重要なことは、外国勢力がある国の民主政治体制への移行を行うに当たって、手早くできて、安くあがって、確実に結果を出せる、損な方法は存在しないのだ。特に問題のある国が民主政体の経験をほんの少ししか持ってない、もしくは全く持っていない、そして社会各層の分裂が酷い時には、民主化を簡単に行うための方法は存在しない。

 

 民主政治体制の拡散が望ましいものであるのなら、軍事力はそのための正しい道具とはならない。それでは、正しい道具となるのは何であろうか?私は、2つの大きなアプローチを提案したい。

 

 私たちができることの第一は外交だ。民主政治体制を求める、純粋な、重要な、そして真面目な運動が存在する時、外部の有力なアクターは、前身的な民主政体への移行を促進するためにほんの少しの影響力を行使するだけで良い。「ヴェルヴェット革命」が起きた時の東欧や現在のミャンマーがこの事例に当てはまる。アメリカは、韓国やフィリピンにおいて、首尾一貫した、そして粘り強い、非軍事的な方法(経済制裁など)を用いて、これらの国々の民主化を成功させた。これらの事例においては、民主化運動は長い年月をかけて形成され、力を付けていくのに合わせて、広範な社会層からの支持を得るようになっていった。外交を主とすることでは、軍事侵攻が持つ「ショックと恐怖」のような派手さと興奮は起きないであろう。しかし、かかるお金はより少なく、しかも成功の確率はだいぶ上がるのは間違いないのだ。

 

 私たちにできる第二のことは、より良いお手本となることだ。アメリカの民主政治体制の理想は、アメリカがより公正で、繁栄し、活力のある、寛容な社会であると世界中で考えられるならば、真似しようとする国が次々に現れる。しかし、アメリカ社会は格差が酷く、政治指導者たちは外国に対する敵愾心剥き出しの言葉遣いをするし、刑務所に貼っている人の数が世界最大で、空港をはじめとする社会資本の質がどんどん低下している、となると、アメリカの理想など誰も真似しようとはしない。数百万の有権者たちが投票ができないようにされている一方で、少数の大富豪や金融会社がその数に見合わないほどに大きなそして悪い影響をアメリカ政治に与えているのが現状だ。このような状況では、アメリカの理想は、他国に対してかつてほどのアピール力を持たないようになってしまっている。これは当然の帰結だ。グアンタナモ収容所、少数のテロリスト標的にした殺害方法、アブグレイブ刑務所、国家安全保障庁による行き過ぎた諜報活動、政治家たちに対して間違いを犯した時に責任を取らせないようになっている状況などが加味されると、アメリカというブランドは大いに汚されてしまっているということになる。

 

 まとめると、アメリカは、まずは国内に於ける人々の生活を理想に近づけることが出来れば、海外で民主政治体制を拡散することはできる、ということになる。必要な改革の実行は容易なことではない。私はその実行を容易にするための魔法を知らない。しかし、アメリカ国内を改革することは、アフガニスタン、イエメン、その他10年以上にわたって民主政治体制の確立に失敗してきた国々にしっかりとした民主政治体制を作り上げることよりもかなり容易なことのはずだ。

 

より良いアメリカを作り上げることは、より多くのアメリカ人が豊かな、誇りある、安全な、そして希望に満ちた生活ができるようにすることである。私は夢を見ているだけなのかもしれない。しかし、アメリカ国民の生活を改善することが、外国における民主政治体制拡散にとって最善の途ではないだろうか?

 

(終わり)





 

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 古村治彦です。

 

2016年5月29日に「副島隆彦の学問道場」の定例会が開催されます。テーマは「アメリカ大統領選挙と最新の国際政治・経済情勢」です。ドナルド・トランプ旋風の原動力 “ポピュリズム”と”アメリカファースト!”とは何か、改めてじっくり語ります。

 

 宜しくお願い致します。

 

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35回副島隆彦を囲む会主催定例会

 

『<アメリカ名物>「トランプ・ポピュリズムの嵐」と最新の世界情勢(仮題)』

講師:副島隆彦

 

『数理物理学の思考(仮題)』

講師:小澤徹

 

【参加費について】

参加費(特別会費)

「『囲む会』会員の方:4,000円/非会員(1 Day会員)の方:6,000円」

になります。

 

【ご注意】

※複数人でお申し込みをされた方は、

「各お一人様につき、4,000円(または 6,000円)ずつ」の合計の金額を、お振込み下さい。

■□■□■

 

【会場について/交通手段】

 

・「全電通労働会館 ホール」

↓以下のURLをクリックしていただくと、

↓会場「全電通労働会館」までのアクセスのご案内が出てきます。

http://nttbj.itp.ne.jp/0332192211/index.html

 

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35 副島隆彦を囲む会主催定例会

『アメリカ名物「トランプ・ポピュリズムの嵐」と最新の世界情勢(仮題)』

小澤徹(早稲田大学理工学部教授)講演

講師:副島隆彦先生、小澤徹研究員

 

開催日 2016年5月29日(日曜日)

会場 「全電通労働会館 ホール」

アクセス

■JR 中央線 総武線「御茶の水駅」聖橋口出口 徒歩5

■東京メトロ 千代田線「新御茶ノ水」駅 B3出口 徒歩3

■都営地下鉄 新宿線 「小川町」駅 A7出口 徒歩4

■東京メトロ 丸の内線 「淡路町」駅 A5出口 徒歩4

 

会場住所 〒101-0062 東京都千代田区神田駿河台3丁目6

電話 03-3219-2211  FAX 03-3219-2219

※定例会の予定等についてのご質問は、囲む会(メールアドレス:snsi@mwb.biglobe.ne.jp)へ、お問い合わせをお願い致します。

「全電通労働会館 ホール」へは、交通アクセスについてだけ、お問い合わせ下さい。

【当日の予定】

 

開場  12:15

開演  13:00

終了  17:30

 

※開場、開演時間以外は、あくまで予定です。終了時刻等が変更になる場合もございます。

※お席は全て「自由席」になります。お手荷物・貴重品等はお客様ご自身で管理をお願い致します。

 

お問い合わせ先:

「副島隆彦を囲む会」

メールアドレス:snsi@mwb.biglobe.ne.jp

 

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※申込み画面のアドレスはこちら↓

http://soejima.to/cgi-bin/kouen/kouen.html

 

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(終わり)

アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12


 

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