古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。X accountは、@Harryfurumura です。ブログ維持のために、著作のお買い上げもよろしくお願いします。

2017年08月

 古村治彦です。

 今回は「副島隆彦(そえじまたかひこ)の“予言者”金融セミナー 第14回 『アメリカに食い潰される日本経済』(徳間書店)発刊記念」を皆様にご紹介いたします。

 宜しくお願い申し上げます。

(貼りつけはじめ)

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「副島隆彦(そえじまたかひこ)の“予言者”金融セミナー 第14回」
    『アメリカに食い潰される日本経済』(徳間書店)発刊記念

*会場:浜離宮朝日ホール 東京都中央区築地5-3-2 朝日新聞東京本社・新館2階

*日時:2017年9月17日(日)
*開場・受付/10:00~ 終了/17:00 (予定)

*受講料:15,000円(税込)/全指定席

<セミナーの主な内容>━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

1.銀行が要らなくなって、消えてゆく時代 !! 1万円札が廃止されるか。
 ますます資産家は国に狙われる。

2.ビットコイン、フィンテックのいかがわしい仮想通貨。
 電気自動車、AI(人工知能)、DX などの最新の話。

3.トランプたちがNY株をつり上げ続ける。日本株も連れ高。
 だが下がる時は下がる。為替は変わらない。
 米FRBは利上げできない。金がようやく上がり始める。

(貼りつけ終わり)

※お申し込みは下記アドレスでお願い申し上げます↓

http://kokucheese.com/event/index/484995/

宜しくお願い申し上げます。

(終わり)



アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12


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 古村治彦です。

 

 今回はアジア地域におけるもう一つの核問題であるプルトニウム生産問題についての論稿をご紹介します。この記事の著者たちは、北朝鮮の核兵器の脅威と同様に、日中韓3か国のプルトニウム生産について懸念をもっています。プルトニウムは原子力発電所で使用した燃料を再処理することで出てきます。そして、プルトニウムは核兵器の燃料となるものです。ですから、プルトニウムを大量に生産し、貯蔵することは核兵器開発にとって必要不可欠の前提条件となります。

 

 日本でプルトニウムを生産しても、核兵器を製造することはできません。非核三原則がありますし、アメリカも許さないでしょう。ドナルド・トランプ大統領は選挙期間中、日本と韓国の核武装について言及しましたが、これをすぐに許可することはないでしょう。しかし、プルトニウムが貯蔵されるということは核兵器開発につながるのではないかという懸念を諸外国に持たせることになります。実際には中国が日本に対して懸念を表明しています。

 

 プルトニウム生産について懸念を払しょくする最善の方法は生産しないことだ、と著者たちは述べています。自民党と官僚の一部には、日本の核武装を目指す勢力がいるでしょうから、プルトニウムの生産と貯蔵をやめることはないと思われますが、それが果たして日本の安全保障につながるのかということを考えてもらいたい。諸外国の懸念と恐怖を引き起こして、割に合わないことになると考えられます。何よりもアメリカに疑念を持たせることが一番の問題ということになります。

 

今回ご紹介した論稿で重要なのは、河野太郎外務大臣の存在に焦点を当てている点です。河野太郎外相は外相就任以前から日本の原子力政策に批判的でありながらも建設的な提案をしている数少ない政治家の一人でした。今回の内閣改造で重要ポストである外務大臣に、一言居士の河野太郎氏の起用ということになり、人々は首をひねりました。どうして河野氏が外務大臣になったのか、と。対中国、対韓国の関係改善ということが理由で挙げられています。日本の原子力政策に批判的な河野氏を外相に起用したのは、今回の論稿のテーマであるプルトニウム生産問題について、安倍晋三首相が米中韓の各国にメッセージを発したのだと解釈することも可能です。

 

 このように考えると、河野太郎氏の外務大臣起用はより国際政治とリンクした重要な意味を持つものなのだと言うことができると思います。

 

(貼り付けはじめ)

 

日本政府とアメリカ政府はもう一つの核にかかわる問題を抱えている(Tokyo and Washington Have Another Nuclear Problem

 

ヘンリー・ソコルスキー、ウィリアム・トビー筆

2017年817

『フォーリン・ポリシー』誌

http://foreignpolicy.com/2017/08/17/tokyo-and-washington-have-another-nuclear-problem-china-korea/

 

今週、日本の外務大臣・河野太郎と防衛大臣・小野寺五典はワシントンで、アメリカ側の担当者である国務長官レックス・ティラーソンと国防長官ジェイムズ・マティスと会談を持つ。彼らは最近の北朝鮮による挑発行為に日米両国はどのように対処すべきかを議論する。今回の会談は素晴らしいものだ。日本や韓国と緊密に協力し、また中国と共同行動を取る時にのみ、アメリカは北朝鮮が与えている核兵器の脅威に効果的に対処できる。

 

北朝鮮問題は重要であるが、日米両国の担当者たちは、より長期的な、潜在的に深刻なもう一つの核に関する脅威について考慮しなければならない。そのもう一つの脅威とは、日本、中国、そしておそらく韓国におけるプルトニウムの生産量の増加である。この問題は複雑であるが、私たちが協力的に行動しても解決は存在しない。その論理構成は次の通りだ。

 

日本は、膨大な使用済み核燃料を処理するための再処理施設を2018年秋に六ヶ所村に開設する計画を持っている。六ヶ所村の再処理施設は核兵器に利用できるプルトニウムが8000キロ生産されることになる。これは年間1000発以上の核爆弾を製造できる量である。この再処理施設開設の表向きの理由は、再処理された燃料を発電用原子炉と高速炉に供給するためとされている。ここに一つの問題が存在する。現在、日本で稼働している原子炉は5つのみであり、唯一存在した高速炉は廃止されたばかりだ。つまり、これからプルトニウムが貯蔵されるはずもないのに、六ヶ所村の再処理施設を稼働させる必要はないのだ。

 

一方、中国はフランスから六ヶ所村の再処理施設の同規模の施設を購入することに合意した。最初に計画された施設に対しては大規模な反対運動がおこり、中国政府は建設を断念した。中国は再処理施設の稼働を2030年までに開始したいと望んでいる。そして、2040年から2050年にかけてこの施設から生産されたプルトニウムを利用する高速炉を稼働させる計画だ。繰り返しになるが、問題はこれから10年以上続くことになる。中国は核爆発用のプルトニウムを年間約8000キロ生産することになるだろう。

 

これがどうして問題になるのだろうか?中国はすでに数百発の核兵器を保有し、更なる核兵器製造のために必要なプルトニウムを貯蔵していると推定されている。この数字は実態に沿ったものであろう。しかし、中国がロシアやアメリカと対抗したいと望むのならば、中国は更なる数千発の核兵器用の燃料をさらに貯蔵する必要に迫られている。中国政府が核兵器用の燃料を軍事的な野心を露わにしない形で貯蔵したいと望むなら、「平和的」な高速炉プログラムの形を取ることになる。

 

韓国について見てみる。韓国は長年にわたりアメリカ政府に対して不満を表明してきた。アメリカは日本に対して核燃料を与え、その再処理を認めているが、韓国には認めていない。この点を韓国は不満に思っている。韓国の新大統領である文在寅は原子力発電所建設に反対し、米韓民生用原子力協定の下でプルトニウム生産の権利を求めない可能性がある。文大統領は大統領選挙で40%の得票率で当選した。文大統領の政敵たちは権利の存在を確認している。野党の政治家たちの中には韓国の核武装について公の場で主張している人たちが出てきている。

 

日中韓のプルトニウム生産計画はアジア地域における恐怖感と対立を高めている。日本政府の高官は非公式の場で、韓国はプルトニウムの再利用する必要はないと主張している。彼らはまた中国のプログラムについても懸念を持っている。一方、中国政府は、日本政府のプルトニウム生産計画がもたらす核兵器開発の脅威について公の場で避難している。中国政府はまた、アメリカが韓国に対してプルトニウム生産を許可するかもしれないということについて懸念を持っている。

 

このような危機的状況に関しては、簡単な解決法がある。トランプ政権はプルトニウムを燃料とする反応炉を製造する技術に対して政府補助金をゼロにすると決定した。トランプ政権は日本、中国、韓国に対して再処理施設計画を取りやめるように促すべきだ。どうしてそのようなことをすべきなのか?それは、日中韓が再処理施設計画を取りやめることで、資金を浪費するだけで実効性の乏しい核エネルギーの形態である再処理にお金を使わないで済むのだ。政治的にもこれは意味があることだ。中国政府は再処理施設建設を国民に説得できないでいるし、韓国は原子力開発計画をスローダウンさせたいとしている。アメリカ政府が対処に苦しんでいる北朝鮮問題について、同盟諸国や中国との間の協力関係は同氏も必要となる。一方、日本のプルトニウム生産プログラムは技術的にも経済的にも割に合わないものである。

 

今回の日本の代表団のワシントン訪問に話を戻す。今回の代表団には河野太郎外務大臣も参加している。河野大臣は日本国内において、日本のプルトニウム生産プログラムに対する最も厳しい批判を行ってきた人物である。昨年、安倍晋三首相は河野に対して日本政府の予算を削減する方法を質問した。河野は高速増殖炉「もんじゅ」の廃止を主張した。そして、安倍首相は河野の主張に合意した。

 

河野外相は就任後初の記者会見の場で、日米原子力協力協定が2018年7月に自動更新される前に専門家に諮問されるべきと考えるかと質問された。河野外相は諮問されるべきだと答え、日本のプルトニウム生産プログラムが示す安全保障上の諸問題について話し合われるべきだと述べた。今年初め、河野はこれよりさらに踏み込んだ行動をとった。それは、「日本政府は六ケ所村の再処理施設開設を取りやめること、原子力協力協定についてアメリカ政府と話し合うこと、プルトニウムの商業的生産の一時停止についてアメリカ、韓国、中国と協力すること」を内容とする共同宣言に河野は署名したのだ。

 

北朝鮮は重要な問題である。しかし、北東アジア地域における唯一の核に関する脅威ということではない。アメリカ、中国、日本、韓国がプルトニウム生産レースを回避できれば、北朝鮮の核の脅威に対して共同歩調を取ることは難しいことではないし、将来に発生しうるより深刻な脅威を防ぐこともできるだろう。ティラーソン国務長官とマティス国防長官はこのことを十分に考慮すべきだ。

 

(貼り付け終わり)

 

(終わり)

アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12





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 古村治彦です。

 

 今回は、ヘンリー・キッシンジャーによる北朝鮮問題の分析記事をご紹介します。北朝鮮は金正恩委員長の指導の下、ICBMを開発し、アメリカの領土を射程に捉えたという報道がなされています。ICBMは第二次世界大戦中にドイツが開発したV(報復)1ロケット(イギリス国内を攻撃した)がその原型と言われています。世界大戦から72年も経過し、その当時、最先端技術であった原子爆弾も長距離攻撃ミサイルも作ろうと思えばどの国でも作ることが可能なものとなりました。

 

 北朝鮮はアメリカとの交渉を求めています。6か国協議という枠組みはありますが、北朝鮮は多国間協議の枠組みには何も決める力がないのだから、アメリカとの直接交渉しかないと考えています。韓国や日本、ロシアや中国を無視している状況です。一方、アメリカはトランプ大統領が激しい言葉遣いをしていますが、ティラーソン国務長官は交渉最優先という立場を取っています。

 

 北朝鮮とアメリカは両国ともに交渉を求めていますが、北朝鮮はアメリカとの直接交渉、アメリカは中国に北朝鮮への対応を求めつつ交渉は6か国協議で、とそれぞれ異なる主張を行っています。

 

 ヘンリー・キッシンジャーがトランプ政権の外交指南役であることはすでにこのブログでも数度にわたってご紹介しました。キッシンジャーの考えはトランプ政権の外交に反映されるのですから、彼の考えを知っておくことは重要です。

 

キッシンジャーは北朝鮮の「非核化(denuclearization)」を目的としています。そのためには武力行使という選択肢を完全に排除しないとしながらも、交渉を優先するという立場を取っています。そして、キッシンジャーは北朝鮮の体制転換を求めず、核兵器を放棄した場合に、その機に乗じて北朝鮮を攻撃しないということを国際社会が約束することを条件にすべきだと述べています。

 

キッシンジャーは中国の存在と思惑を考慮しながら、アメリカと中国が衝突することなく、非核化(北朝鮮だけでなくアジア地域全体)という共通の目的を達成すべきだとしています。

 

私は北朝鮮という国家は、力の空白の中に存在する稀有な国であると考えています。野球で打球が野手の間に落ちてしまうということがありますが、野手の一人が無理をすれば打球をキャッチできるのに、誰も怖くて無理をしないために結局キャッチできない、ということになります。北朝鮮はまさにこのような打球であると考えます。

 

北朝鮮が存在することで、中国はアメリカと直接陸上で対峙しなくて済むという状況にあります。ロシアも同様です。長年中国の圧力を受けるという歴史を経験してきた朝鮮半島の国家である韓国からすれば、逆のことが言えます。そうした中で、どの国も「北朝鮮は存続して欲しいが、核兵器は持ってほしくない」と考えることになります。

 

私は最近、韓国の大学教員の方と話をしました。北朝鮮について質問すると、「韓国と北朝鮮は、言葉は同じだが、全く異質の国同士となってしまった。これを急に統一することはかえって危険である。韓国には急激な統一に耐えられるほどの経済力もない。また、国民の中にも北朝鮮と統一したいと考える人はそう多くない」と答えました。

 

私の中には、朝鮮半島の分断状態は良くないことなので出来るだけ早く統一すべきだという考えが前提にありましたが、「二国共存状態(two-state solution)」ということも考慮しなければならないのだと考えを改めました。

 

北朝鮮としてはアメリカに対して、体制保障と不可侵を求めています。そのための交渉のカードとして核兵器やICBMを開発しています。朝鮮半島問題について考える場合に、「朝鮮半島は統一されるべきだ、それも韓国に吸収される形でというのが望ましいし、それ以外は無理だ」という考えが前提となりますが、統一ではなく、まずは二国共存で、北朝鮮をより開放された、中国のような国にすると考えると選択肢が広がり、短期的には危機が回避されるではないかと思います。

 

(貼りつけはじめ)

 

「北朝鮮危機をどのように解決するか」

―アメリカ政府と中国政府との間の理解が不可欠の前提条件である。日本政府と韓国政府もまた重要な役割を果たすことになる

 

ヘンリー・A・キッシンジャー筆

『ウォールストリート・ジャーナル』紙

2017年8月11日

https://www.wsj.com/articles/how-to-resolve-the-north-korea-crisis-1502489292

 

30年以上にわたり、国際社会は北朝鮮の核開発プログラムに対して、非難と有罪判決宣告の引き伸ばしという矛盾した対応を取ってきた。

 

北朝鮮政府の無謀な行為は強く非難されている。核兵器開発に向けた動きは受け入れられないという警告が国際社会から発せられている。しかし、北朝鮮の核開発プログラムは加速される一方だ。

 

2017年8月5日に国連安全保障理事会によって北朝鮮に対する制裁決議が満場一致で可決された。これは大きな前進を意味する。もっとも、合意されるべき決議はまだ議論されたままで残っている。しかし、大きな一歩は踏み出された。

 

しかし、北朝鮮は大陸間弾道ミサイルの発射実験を成功させた。これによって、更なるごまかしを行う余地が失われることになった。

 

金正恩が中国とアメリカによる反対と国連安保理の満場一致の制裁決議があるにもかかわらずに核開発プログラムを推進するならば、重要なプレイヤーである諸大国間の地政学的な関係を変化させることになるだろう。

 

国際社会が困惑している間に北朝鮮が全面的な核攻撃能力の開発を完成させてしまったら、アジア地域、特にアメリカの同盟国である日本と韓国におけるアメリカの核の傘の信頼性を一気に失わせるという深刻な事態を招来することになるだろう。

 

北朝鮮は長年にわたり核開発を行ってきた。そして、北朝鮮による核の脅威がアメリカの領土に到達するということになり、北朝鮮の核兵器が存在することによる無秩序が生み出される可能性も出てきている。北朝鮮が実用に耐えるICBMを持つには、弾頭の小型化、ミサイルへの弾頭の設置、複数のICBMの製造が必要であり、これにはしばらく時間がかかる。

 

しかし、アジア諸国は、北朝鮮が既に開発している短距離、中距離のミサイルによる攻撃という脅威に直面している。

 

この脅威が増していくと、ヴェトナム、韓国、そして日本といった国々において自国の防衛のために核兵器を開発するという動機が急速に大きくなっていくだろう。これは、アジア地域や世界全体にとって良くない転換点ということになる。

 

北朝鮮が既に開発した核技術から後退させることは、更なる開発を防ぐことと同じく重要になる。

 

アメリカ単独、もしくは複数の国による対北朝鮮外交はこれまで成功していない。それは主要諸国の目的を一本化させることができないためだ。特に中国とアメリカとの間で北朝鮮の核兵器開発を実際にどのように阻止するかという点で合意が形成されていないためだ。

 

アメリカは北朝鮮に対して核開発プログラムを終了することも求めている。しかし、アメリカからの要求は何らその効果を示していない。軍部を含むアメリカの指導者たちは、軍事力の行使には消極的だ。ジム・マティス国防長官は朝鮮半島における戦争は「破滅的なものとなる」という見通しを述べた。

 

北朝鮮では数千本の大砲が韓国に向けて据えられている。それらは韓国の首都ソウルを射程内に捉えている。これは、ソウルと周辺地域に住む3000万人の人々を人質にとるという北朝鮮の戦略を反映している。

 

アメリカ単独による先制軍事行動は中国との衝突を引き起こすという大きなリスクをはらんでいる。中国は一時的にはアメリカの軍事行動を許容するだろうが、それでも中国の鼻先でアメリカが決定的な結果をもたらそうとする戦略を実行することを我慢して受け入れることはないであろう。1950年代の朝鮮戦争において中国は戦争に介入したという事実は中国がアメリカと衝突する可能性があることを示している。

 

軍事力の使用は注意深く分析されねばならない。そして、軍事力使用に関する言葉遣いもまた抑制的でなければならない。しかし、軍事力の行使の可能性を排除することはできない。

 

これまで述べたような考えを前提にして、トランプ政権は中国に対して、北朝鮮の非核化を実現するための外交的な努力を行わせようと試みている。こうした努力はこれまでのところ、部分的にしか成功していない。

 

中国はアメリカが持つ核兵器の拡散に関する懸念を共有している。実際のところは、中国こそは北朝鮮の核兵器によって最も影響を受ける国なのである。しかし、アメリカは北朝鮮の非核化という目的を明確に示しているのに対して、中国は北朝鮮の非核化がもたらす政治的な結果に直面することを嫌がっている。

 

北朝鮮は核兵器開発プログラムに国の資源の多くの部分を投入している。その割合は国力に釣り合わないものだ。そうした中で、核兵器開発プログラムの放棄、もしくは実質的な削減や後退は北朝鮮国内で政治的な混乱を引き起こし、更には体制転換にまで至る可能性がある。

 

中国はこのことをよく理解している。従って、最近の外交上の大きな成果としては、中国が原則として北朝鮮の非核化を支持しているということを中国が明確に示したことだ。しかし、同時に、北朝鮮国内の分裂や無秩序状態が起きることは、中国にとっての2つの大きな懸念を引き起こす。

 

一つ目の懸念は北朝鮮国内の危機が、中国の政治と社会に与える影響である。中国の1000年に及ぶ歴史で繰り返された出来事が再び繰り返されるのではないかという懸念である。

 

二つ目の懸念は北東アジア地域の安全保障に関するものだ。中国は北朝鮮の非核化に貢献する誘因が存在する。そして、中国としては北朝鮮の非核化から朝鮮半島全体の非核化を行いたいと考えている。現実には韓国には現在のところ、核兵器開発プログラムは存在しない。計画の発表すらない。しかし、国際的な核兵器開発禁止は別の問題となる。

 

中国は非核化につつく北朝鮮の政治的な発展についてもある程度の利害関係を持っている。それは、朝鮮半島において二国共存状態を維持するか、統一を行うか、といことであり、北朝鮮地域における軍事力の展開に制限をするかどうか、ということでもある。

 

これまでのところ、トランプ政権は中国に対して北朝鮮へ圧力をかけるように求めてきた。アメリカは自国の目的のために中国を下請け業者のように扱ってきた。より良い、唯一実現可能なアプローチはアメリカと中国両国の努力と試みを一本化し、共通の立場に立ち、他の国々の参加を求めていくということだ。

 

「我々の目的は北朝鮮を利害関係諸国が参加する会議に出席させることだ」とアメリカ政府は何度も発表している。こうした発表は、交渉こそがアメリカの目的だという前提の存在を反映している。交渉は自国の都合の良いタイミングで行われ、交渉に相手を引きずり出す圧力とは関係なく、交渉は最終的な合意まで続けられるべきだとアメリカは考えている。

 

しかし、アメリカの外交は、過程ではなく、結果によって最終的に判断される。アジア地域の安全保障構造は危機に瀕していると考える国々とって、アメリカが「我々は自国のみの利益を求めない」と繰り返し主張するだけでは不十分なのだ。

 

どの国が、何について交渉すべきなのか?朝鮮半島の非核化にとってアメリカと中国との間の理解と同意は必要不可欠な条件となる。皮肉な展開なのは、現時点の中国がアジア諸国の会兵器開発を阻止することについて、アメリカよりもより大きな関心を持っているかもしれないということだ。

 

中国は「北朝鮮に対する圧力が不十分だ」と非難されてアメリカとの関係を悪化させてしまうという危険に直面している。北朝鮮の非核化には持続した協力が必要である。経済的な圧力だけで非核化を実現することは不可能だ。米中間の非核化以後の事態、特に北朝鮮の政治的な発展と北朝鮮領土内の軍事力展開の制限に対する共通理解と対策が必要だ。このような共通理解がなされても、既存の日本や韓国との間の同盟関係を変化させてはならない。

 

半世紀に及ぶ歴史に照らしてみると逆説的に見えるかもしれないが、このような理解こそが朝鮮半島における行き詰まりを打開する最良の方法なのである。

 

米中が目的を明確とする共同声明を発表し、暗黙の裡の行動を行うことで、北朝鮮は孤立を痛感し、非核化という結果を守るために必要な国際的な保証の基礎が確立することになる。

 

韓国と日本はこの過程において重要な役割を果たさねばならない。韓国以上に北朝鮮の核開発に最初から関与してきている国は存在しない。韓国はその置かれている地理的な位置とアメリカとの同盟関係によって、政治的な結果に対して大きな発言力を持っている。

 

韓国は外交における解決によって最も直接的な影響を受けることになるだろう。また、軍事的な不測の事態が起きた際には最も危険な状態に陥ることになるだろう。アメリカとその他の国々の指導者たちが、北朝鮮の非核化を利用することはないと宣言することは重要だ(訳者註:核兵器を放棄した北朝鮮を攻撃しないという宣言を行うこと)。韓国はより包括的で正式な考えを表明することになるだろう。

 

同様に、日本は歴史的に朝鮮半島とは1000年以上のかかわりを持っている。日本の安全保障に関する基本的な概念に照らすと、日本が自国で核兵器を所有する状態にない中で、核兵器を持つ国家が朝鮮半島に存在することを許容することはないだろう。アメリカとの同盟関係に対する日本による評価は、アメリカの危機管理において日本の懸念をどの程度考慮してくれるかということにかかっている。

 

アメリカと北朝鮮の直接交渉という代替案も魅力的ではある。しかし、アメリカの直接交渉の相手である北朝鮮は、非核化の実行について最も利益を持たず、米中間を離反させることに最大の関心を持つ。

 

アメリカが中国との間で理解を共有するためには、最大限の圧力と実行可能な保証が必要となる。そして、北朝鮮は最終的な国際会議に出席することができるようになる。

 

核兵器の実験の凍結によって最終的な非核化に向かうための一時的な解決が出来ると主張する人々がいる。この主張の通りに行うことは、アメリカとイランとの間で結ばれた核開発を巡る合意という過ちを繰り返すことになるだろう。アメリカとイランの合意は、技術的な側面のみに限定して地政学的な戦略における問題を解決しようというものだ。これが間違いだったのだ。両国の合意は、「凍結」の定義がなされ、調査手続きが確立されたが、核開発放棄の引き伸ばしに対する口実を与えることになる。同じことが米朝間の合意でも起きるだろう。

 

「北朝鮮は手続きに時間をかけて、彼らの真の目的を隠す戦術を取っている。それは、言い逃れや引き延ばし工作をして長年の悲願を達成しようとしている」という印象を持っている人も多いだろう。北朝鮮はこのような印象を人々に持たせるのは得策ではない。段階的なプロセスを踏むということは考慮するに値するアイディアかもしれないが、それはあくまで北朝鮮の核兵器能力と研究プログラムを短期間のうちに実質的に削減することにつながるものである場合に限られる。

 

北朝鮮が一時的にも核兵器能力を保持することは、永続的な危険性を構造化してしまうことになる。その危険性は次のようなものだ。

 

・貧しい状態にある北朝鮮が核技術を他国に販売することになるかもしれない。

 

・アメリカの北朝鮮の非核化に向けた努力が自国の領土を守ることにばかり集中し、実際に北朝鮮の核の脅威に直面しているアジア地域をほったらかしにしているという印象を与えてしまうことになる。

 

・他国も北朝鮮、相互、そしてアメリカに対抗し、抑止するために核兵器開発を行う可能性も出てくる。

 

・非核化交渉が進まないことに対する不満が中国との間に争いを激化させることになる。

 

・核兵器の拡散はその他の諸地域で加速するだろう。

 

・アメリカ国内で行われる議論はより対立的なものとなるだろう。

 

非核化に向けた実効性のある進歩、それも短期間での非核化こそが最もよく考えられた慎重な望ましい方向ということになる。

 

※キッシンジャー氏はニクソン政権とフォード政権で国務長官と大統領国家安全保障問題担当補佐官を務めた。

 

(貼りつけ終わり)

 

(終わり)



アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12


アメリカの真の支配者 コーク一族
ダニエル・シュルマン
講談社
2016-01-22

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 古村治彦です。

 2017年8月26日(土)に神奈川県横須賀市で副島隆彦先生の講演会が開催されます。

 主催は立憲主義を守るよこすか市民の会です。私も今年1月に同会のお招きを受けまして、ヴェルクよこすかで講演会を行いました。

 ヴェルクよこすかは京浜急行横須賀中央駅の東口を出て大きな通りをゆっくり歩いて8分くらいのところにあります。

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 宜しくお願い申し上げます。

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(終わり)



アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12


野望の中国近現代史
オーヴィル・シェル
ビジネス社
2014-05-23

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 古村治彦です。

 2017年10月15日に副島隆彦を囲む会主催の定例会が開催されます。今回は、作家・評論家の田中宇(たなかさかい)氏をお招きして、お話を伺うことになります。

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田中宇(たなかさかい)氏

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トランプ革命の始動 覇権の再編

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第38回 副島隆彦を囲む会主催定例会

「海外記事を20年、どのように読み解き、分析してきたか。
~『学問道場』が田中宇(たなかさかい)氏に質問する」
講師:副島隆彦、田中宇

開催日 2017年10月15日(日曜日)
会場 「日本建築学会 建築会館ホール」
アクセス
■JR「田町」駅,都営地下鉄「三田」駅(浅草線・三田線)

会場住所 〒108-8414 東京都港区芝5丁目26番20号

【当日の予定】

開場  12:15
開演  13:00
第1部:田中宇講演(20-30分)
第2部:質疑応答コーナー(60-90分)※副島、中田、会場の質問をぶつけます
第3部:副島隆彦単独講演(90分以内)
終了  17:00(予定)

※開場、開演時間以外は、あくまで予定です。終了時刻等が変更になる場合もございます。
※お席は全て「自由席」になります。お手荷物・貴重品等はお客様ご自身で管理をお願い致します。
※ご入金いただいた参加費は、いかなる事情がありましても、払い戻しできません。ご了承いただきますようお願い申し上げます。

お申込み→ http://snsi-j.jp/kouen/kouen.html
※学問道場会員の方はログイン(「今日のぼやき」会員ページが読める状態)にしてお申し込みください。

※お申込みフォームでは、「田中宇氏にぜひ質問したいこと」を書いていただけます。質問の内容はできるだけ、簡潔かつ明確にお願いします。

(貼りつけ終わり)

宜しくお願い申し上げます。

(終わり)






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 古村治彦です。

 

 前々回、前回に続いて、『組織の不条理 日本軍の失敗に学ぶ』(菊澤研宗著、中公文庫、2017年)を皆さんにご紹介します。

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組織の不条理 - 日本軍の失敗に学ぶ (中公文庫)

 

③の所有権理論とは、人間は限定的合理性しか持っていなくても、自分の利益を最大化するために取引を行います。その際の取引されるのは、取引財の特定の特質を巡る所有権ということになります。私たちが取引するのは、財のある特質を自由に使える権利、財のある特質が生み出す利益を手にする権利、他人のこの所有権を売る権利ということになります。この所有権理論については、私はよく理解できませんでした。しかし、読み進めていくと、菊澤氏が言いたいことは理解できました。

 

 菊澤氏は、所有権理論を使って今村均中将によるジャワ軍政を分析しています。日本軍は開戦後、瞬く間に東南アジアのほぼ全域を占領しました。そして、軍政を開始しました。日本軍の軍政はどうしても「日本の威光を現地住民と植民地としていた西洋諸国の人々に知らしめる、日本を盟主とする新秩序を教え込む」ということに重きが置かれ、苛烈を極めました。ガダルカナル島の作戦の際にも名前が出てきた辻正信は、シンガポールで中華系住民の大量虐殺を引き起こしています。また、現地の文化や伝統に無理解で、日本の文化や伝統を押し付けたために、現地の人々から反発が起きることもありました。


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今村均 

そうした中で、今村均中将(第16軍司令官)によるジャワ軍政は数少ない成功例となりました。今村は苛烈な弾圧を加えず、「日本の威徳を伝える」ことに重きを置き、かつ、現地の文化や伝統を尊重しました。インドネシアでは日本軍による苛烈な弾圧もない中で、治安が維持されました。今村は日本兵がインドネシアの人々の頭を殴打することを厳しく戒め(頭に神が宿ると考える現地の人々を尊重)、バタビアと呼ばれていたジャワを現地語であるインドネシアに改名しました(日本軍は多くの場合占領地を日本名に改名した)。神社なども作りませんでした。学校教育に投資をし、工業や農業の改善にも努力しました。また、インドネシア独立運動のスカルノやハッタといった幹部たちと協力体制を築きました。オランダ軍の捕虜たちの待遇もある程度の自由を与えるなどしました。

 

 こうした今村軍政に対して、大本営を中心に「手ぬるい」という批判の声が上がりました。しかし、今村は「占領地統治要綱」に書いてある通り、「公正な威徳で住民を悦服」させているのであって、自分は占領地統治要綱に従っているだけだ。だから、軍政を変更するには、占領地統治要綱を改定しなければならないし、自分はその改定に反対であるので、改定するのであれば軍職を賭ける、と言い切りました。

 

今村均は、陸軍士官学校第19期で、この期は旧制中学校出身者だけで構成された期で、バランスが取れた人物が多く輩出されたという評価を受けています(他は陸軍幼年学校卒のコースが主であり、幼年出身者が陸軍主流となった)。田中静壱や本間雅晴といった後に高い評価を受ける人々が今村の同期です。彼らは駐在武官や留学などで英米経験が長かったことでも知られています。旧帝国陸軍軍人で、バランスが取れていたという評価を受けている人々の多くは旧制中学校出身(外国語は英語が中心、幼年ではドイツ語とロシア語など)であることが多く、また、他の学校を受験したり、他の志望であったりしたのが、事情があって陸軍士官学校に入学してしまったというタイプが多いようです。陸軍士官学校や海軍兵学校は大変な難関でしたから、仕方なくで入れる学校ではありませんから、彼らは秀才であったとも言えます。このようなタイプは陸軍で主流には乗れずに、中央から外されてしまうことが多かったということは日本の敗北の理由と言えるでしょう。

 

今村はその温厚篤実の人柄が既に名将の風格を備えていたと言われています。今村は戦後、オーストラリアとインドネシアの軍事法廷で裁かれることになりました。今村は自分の部下が戦犯となった責任を問われて、オーストラリアの法廷で10年の刑を言い渡されました。彼は巣鴨で服役していたのですが、自分の部下と一緒に服役したいとマッカーサーに訴えて、マヌス島にある収容所に自ら移りました。マッカーサーは「武士道を見た」という談話を発表しました。

 

 菊澤氏は次のように分析しています。日本軍は占領地、ジャワの資源、人的資源(住民や捕虜たちの労働)を有効活用したい、一方、ジャワの人々や捕虜たちもまた日本軍を利用したいという関係になります。日本軍は少ない食事と睡眠で住民や捕虜たちに働いてもらいたい、住民や捕虜たちはできるだけ働きたくないということになります。お互いに、どこが均衡点か分からないということになります。となると、広範囲な勝日常的なサボタージュが起きたり、それに対しての弾圧が起きてしまうということになります。日本軍にしてみると、管理や監視のコストが増大します。

 

 今村は捕虜や住民の労働の利益を還元したり、自由や休息を与えたりということを行いました。そうすると、捕虜や住民たちは働いたら自分たちにも得になるということになって、サボタージュをしないということになります。また、教育や文化・伝統保護を通じても多くの権利を認めたために、ジャワの人々は日本軍に敵対しないということになり、治安維持のコストも下がりました。

 

 著者の菊澤氏はその他にも沖縄と硫黄島での戦いも分析しています。沖縄と硫黄島では悲惨な戦いが行われ、沖縄では民間人に約10万の犠牲が出ました。菊澤氏は、2つの戦いで、アメリカ軍は日本軍以上の犠牲を出し、大苦戦となったことに注目しています。そして、沖縄の八原博道高級参謀と硫黄島の栗林忠道司令官がともに大本営の命令をある部分は無視し、命令の目的を理解し、その実現のために合理的な行動を取ったと分析しています。もちろん、日本軍にも多大な犠牲が出て、ほぼ全滅状態となり、戦死した人々1人1人にとっては何が合理性か、ということにはなると思いますが、本土決戦までの時間を稼ぐ、という大本営の目的を的確に把握し、それを成功させたという点で、栗林司令官と八原高級参謀は合理的ということになります。

 

 日本軍の失敗から学び、現代にその教訓を活かすということはこれまでも言われてきました。日本の組織が持つ非合理性や非倫理性は日本軍と共通するところがあるので、それらを改善しなくてはならないと言われてきました。しかし、大企業や官庁、更には内閣まで、日本型組織の持つ欠点を改善するに至っていません。こうした欠点を改善するには、私たち人間が完全に合理性を持つ人間にならねばなりませんが、これは全く実現不可能なことです。そうなると、人間は限定合理性しか持たない、間違うものだ、完全ではないものだということを前提に置いた組織づくりが必要です。

 

 組織において常に批判ができるようにしておくこと、が重要であると思います。失敗が起きた時に失敗を隠すのではなく、失敗を改善のための貴重な機会と捉えることもまた重要です。そして、常に目的を明確にして、その目的のために合理的な方法(一番の近道、お金も時間も労力もかからない方法)は何かを常に求める姿勢が重要だと思います。

 

 しかし言うは易し、行うは難しです。人間はどうしてもこういうことはやりたくないので、昔ながらのやり方のままでいたり、批判に耳を貸さないということになりがちです。ということになれば、嫌でもそのようなことをしなければならないようにルールで定めたり、制度化したりしておくことが必要ということになります。そして、人間は失敗するのだから、失敗に関しては寛容に対応し、失敗から教訓を得られるようにしておくということは頭でわかっていても、なかなか難しいことです。ですから、人間は完ぺきではないと理解しつつ、だから何もしないということではなくて、少しでも改善していくという態度が重要なのだろうと思います。

 

(終わり)



アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12


野望の中国近現代史
オーヴィル・シェル
ビジネス社
2014-05-23


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 古村治彦です。

 

 安倍晋三内閣は改造を経て、新たなスタートを切りました。今回は、安定した仕事のできる人物を集めたということで、「仕事人内閣」だと安倍首相も自画自賛しました(じゃあ、これまでは仕事人内閣じゃなかったのですか、と言いたくなりますが)。しかし、早速、とても仕事人とは思えない人物が入閣していることが明らかになりました。それは、江崎鉄磨(えざきてつま、1943年~、当選6回、自民党二階派)です。江崎代議士は、父である江崎真澄元通産大臣の地盤を引き継いだ二世委議員です。江崎代議士は今回、内閣府特命担当大臣(沖縄及び北方対策担当・消費者及び食品安全・海洋政策)及び領土問題担当大臣として初入閣となりました。

 

江崎氏は二階派に所属していますが、初当選以来、二階俊博代議士とずっと行動を共にしてきた人物です。二階代議士は、江崎代議士の父・真澄氏に近い人物で、竹下派結成時、竹下派結成に反対していた真澄氏に遠慮してすぐには竹下派結成に駆けつけることができないほどでした。

 

鉄磨氏は父真澄氏の秘書を1971年から20年以上務めており、1983年に初当選の二階氏とは古くからの付き合いということになります。二階氏は真澄氏に深い恩義があり、その息子である鉄磨氏を何とかしてあげよう、引き立ててあげねばという気持ちが強いのだろうと思われます。ですから、二階派から是非、江崎氏を入閣させて欲しいと働きかけてそれが実現したようです。

 

 江崎氏はとても正直な人物のようです。彼は入閣の打診に対して、「自分には荷が重い」「年齢が高い」などを理由にして、辞退しようとし、二階氏から叱責されたという報道がなされました。また、国会答弁について、官僚が書いた文書を朗読する、間違いがあってはいけないから、とも述べました。「自分には大臣をやるだけの能力がない」ということを自分自身でよく分かっていて、辞退するというのは、自分自身を冷静に見つめて分析ができているという点で、人間として素晴らしいことだと思います。

 

 しかし、当選6回となると、「入閣適齢期」などと呼ばれ、それだけの期間、国会議員をやっていれば大臣を務める力がついているはずだ、という判断が自民党内のキャリアパスのモデルによってなされるということもまた事実です。しかし、当選回数の多い少ないにかかわらず、大臣に不適格な人物がいるということは、ここまでの安倍内閣の大臣を見てきても明らかです。

 

 私は江崎鉄磨氏は、自民党の二世議員のひとつの典型ではないかと思います。父・真澄氏は閣僚を複数回務めた経験を持っています。1971年から父の秘書を務めた訳ですから、父が、自治大臣、通産大臣、総務庁長官を務めた時には近くで仕事を見てきたはずです。1971年から50年近く政界におり、代議士としても6回も当選してきた人物である真澄氏が、自分が初めて大臣をやるにあたり、「自信がない」と言うのは、そもそも政治家として研鑽を積むとか、大臣を目指して勉強をしてきたということが全くない人物であるということが言えます。議席を守って、親分の言うことを聞いて、平々凡々、穏やかに暮らせたらいい、地盤はしっかりとあるし(少し弱いけど)、何かあったら親分(二階俊博代議士)が何とかしてくれるよという極めて安定志向な政治人生であったと言えます。そして、二世議員の中にはこういうお坊ちゃんがいるのだろうと推察されます。江戸時代のお殿様みたいです。

 

 自民党にとってはこういう人物は、採決の時くらいにしか役に立たない人物です。こうした人物ばかりでは活力がなくなってしまいます。そこで重要なのは、ここ最近の選挙で通って来た安倍チルドレンの面々です。安倍チルドレンは別名「魔の二回生」とも呼ばれています。問題行動を起こす議員たちが複数出ていることが理由です。その一人が豊田真由子議員(とよたまゆこ、1974年~、当選2回、自民党に離党届提出中)です。豊田氏は、秘書へのパワーハラスメント(暴言が録音され、暴力行為もあったと言われている)が明らかにされ、

 

 豊田議員は、都内の超名門女子教育機関である桜蔭中・高を卒業し、ストレートで東京大学文科一類に合格し、東大法学部に進学し、キャリア官僚として厚生省(当時・現厚生労働省)に入りました。在職中にはハーヴァード大学にも留学し、修士号を取得しました。彼女はエリート中のエリートではない、という主張をする人々もいますが、それでもエリート官僚であることは間違いありません。そして、2012年に地縁などなかった埼玉四区から立候補し、初当選します。豊田議員は選挙区内には住まず、家族と一緒に都内に住みながら、通いで選挙区内での活動を行っていたということです。豊田議員はキャリアが示すように、官僚の世界に長くいたこともあって、政策通という評価を受けていたとも言われています。

 

 豊田議員の暴言や暴行(本当であれば)には驚くばかりですが、これは彼女が子供の頃から受けていた虐待が理由としてあるのではないかと私は推察しています。過度の完璧主義と暴言の酷さは彼女の成育歴の中に原因があるのではないかと思います。また、豊田議員が秘書に対して暴言をぶつけていたのは、手違いで別の人物に誕生日のお祝いカードを送ってしまったことに対するお詫び行脚の中で行われ、暴言の中に「これ以上、私の支持者を怒らせるな」という言葉があったことは報道されています。

 

 豊田議員が何よりも恐れていたのは、落選です。官僚はよほどのことがない限りは身分は保障されています(退職勧奨されても次のポジションはしっかりと確保されています)が、議員は選挙に落ちたら、何もできません。政策通として国会で活躍することはできません。豊田議員は落下傘候補として埼玉四区にやってきた人物ですから、古くからの友人、知人、親戚、支援者もいない中で、地盤を固めていかねばなりません。固めきれていない地盤=弱いとなれば他党からも狙われるということになります。自然の世界でまだ力の弱い動物が必死で生き抜こうとする姿が思い出されます。

 

 豊田議員の暴言は彼女の持つ焦りを示すものであり、その焦りとは地盤が強固ではないために、次は落選するかもしれない、そうなれば国会で活躍する、当選を重ねて党の重要なポストや大臣を狙う、ということができなくなるということです。もし豊田議員に何のスキャンダルもなくて、「大臣をやりませんか」となれば彼女は何があっても大臣を引き受けていたことでしょう。

 

 江崎代議士と豊田代議士。2人の代議士は自民党内部が格差社会であることを示しています。親の「遺産」で優雅に代議士生活(落選を経験しているのでそうとばかりも言えませんが)と、代議士の地位を守るために必死で駆けずり回る代議士生活。どちらも自民党の典型的な議員の姿と言うことができます。

 江崎大臣について言えば、「ぼんくら坊ちゃん」気質が、早速安倍内閣の弱点となっています。安倍政権の退陣を求めている私にとっては何とも心強い存在です。沖縄担当大臣として、日米地位協定の変更に言及しました。これは安倍政権ではタブーですが、江崎大臣は至極真っ当なことを述べています。また、皇居での認証式の前に出されたドンペリをグビグビと飲み、初閣議の後に出される日本酒を人よりも飲んで、「会見が控えているのだから」と安倍首相や周囲に制止されたそうです。それに関して、「不適格ならいつでも辞めます」と啖呵を切っています。


 江崎氏のこうしたお殿様気質というか、怖いもの知らずは、開き直りともとれますが、坊ちゃん気質という面もあるのだろうと思います。総理に向かって何でも唯々諾々という大臣が続いてきました。しかし、昔はこれくらいの謀反気がある大臣はいました。


 江崎議員のように総理を恐れない人物は得難い人物であり、坊ちゃん育ちのひ弱さがありながら、いざ開き直った時の怖いもの知らずの態度は、応援したくなります。


 正直さと開き直りが安倍内閣にとってプラスになるか、マイナスになるか、注目です。 

 

(終わり)





アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12



野望の中国近現代史
オーヴィル・シェル
ビジネス社
2014-05-23


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 古村治彦です。

 

 2017年8月7日、若狭勝衆議院議員は、「日本ファーストの会」という国政政党を立ち上げると発表しました。

 

(貼りつけはじめ)

 

●「「日本ファーストの会」設立 小池氏は役職に就かず」

 

8/7() 11:56配信

テレ朝 news

https://headlines.yahoo.co.jp/videonews/ann?a=20170807-00000013-ann-pol

 

 若狭勝衆議院議員が国政選挙をにらんで、政治団体「日本ファーストの会」を立ち上げたことが分かりました。候補者集めの政治塾も開き、小池都知事が講師を務めるということです。

 

 若狭議員は7日午後、自らが代表を務める政治団体「日本ファーストの会」の設立を発表します。「輝照塾」という政治塾も立ち上げ、国政進出に向けた候補者集めを始めます。小池都知事は都政に専念する立場から当面、役職に就かない方針ですが、来月16日に予定される第1回の政治塾で講師を務めるということです。

 

(貼りつけ終わり)

 

 若狭氏は昨日、民進党を離党した細野豪志代議士との連携もあるという発言を行っています。日本ファーストの会は、小池百合子都知事を中心とする地域政党「都民ファーストの会」の国政版となります。若狭代議士の他、長島昭久代議士(民進党除籍)渡辺喜美参議院議員(日本維新の会除名)、松沢成文参議院議員(無所属)が都民ファーストの会を軸に結集すると見られています。ここに細野氏が入ることは大きな戦力になることを意味します。長島氏は細野氏の師匠格として知られています。

 

 「都民ファーストの会」の国政版であるからには「国民ファーストの会」であるべきですが、「日本ファーストの会」ということになりました。ここにこの「小池新党」の限界があります。この政党は「国民ファースト」を名乗ることができなかったということは、「国民のことを第一とはできない、しない」ということになります。

 

 私は今回の動き、都民ファーストの会の躍進から国政政党日本ファーストの会結成までの動きは、安倍晋三政権を支援する動きであり、その裏にアメリカ人脈が動いているということが考えられるということを私は主張したいと思います。

 

 日本ファーストの会が次の衆議院議員選挙で民進党がまだ勝利できている都市部に進出したとすると、民進党はぼろ負けで消滅の危機に瀕することになるでしょう。自民党はもともと負けているのですから、惜敗率で比例復活できる人が出てきたらいいや、というくらいの選挙区です。日本ファーストの会は組織力はない訳ですから、組織で固めた自民党の地盤、特に地方でそこまで切り崩すことは不可能ですから、民進党を切り崩して、「新しい受け皿」を狙うことになるでしょう。

 

 日本ファーストの会がどのような香料や政策を掲げるかはまだ分かりませんが、現在の民進党に比べて、かなり自民党寄りになることは、合流予定の議員たちの顔ぶれを見ても明らかです。そうなれば、「第二自民党」の誕生であり、自民党の補完勢力となることもまた明白です。日本ファーストの会が民進党を食ってくれれば自民党、そして安倍政権は安泰となります。

 

 私はこうした仕掛けはアメリカが行ったものと考えます。このように書くと、陰謀論だ、反米に凝り固まった考えという批判を受けるでしょうが、アメリカが日本政治に深く絡んでおり、アメリカの利益のために日本が存在するという状況が続いていることには多くの人々が気付いているだろうと思います。


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ハガティ

 8月下旬、ウィリアム・ハガティが駐日アメリカ大使として日本にやってきます。ハガティはドナルド・トランプ大統領の政権移行ティームで、政治任用担当者として、登用すべき人物たちの面接を担当していました。今回の大使起用はその論功行賞ということになります。ハガティはヴァンダービルト大学卒業、並びに同校法科大学院終了後にボストン・コンサルティングに入社し、日本で3年間勤務した経験を持っています。その後は、出身地であるテネシー州に戻り、投資会社を立ち上げ、またテネシー州への外国からの投資を誘致していました。また、ジョージ・W・ブッシュ大統領の経済顧問も務めました。


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ヴァンダービルト大学

 ハガティという人物を考える上で重要なのは、彼がヴァンダービルト大学卒業、並びに同法科大学院修了である点です。ハガティは出身地から離れることなく地元の名門大学に進み、そこで法科大学院まで修了しています。テネシー州やナッシュヴィルに大変愛着があるのかもしれませんが、東部の名門大学に進むチャンスもあったでしょうに、彼はテネシー州に残ります。しかし、ボストン・コンサルティングに入社し、極東アジアの日本、東京まで来ることになります。

 

 ハガティはその後の人生でも自分の投資会社をナッシュヴィルで創設し、テネシー州に他の地域や国々からの投資を呼び込む仕事をしていました。ヴァンダービルト大学人脈に組み込まれた地元の名士ということになります。そして、このヴァンダービルト大学には、ジェイムズ・アワー教授がいます。ハガティとアワーの共通項は「日本」です。

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アワー
 

 ジェイムズ・アワーはウィスコンシン州出身で、1963年にマーケット大学(ウィスコンシン州)を卒業後、米海軍に入隊し、佐世保に赴任します。その後、1968年にボストンにあるタフツ大学フレッチャー記念法律外交大学院(フレッチャースクール)の博士課程に入学します。ボストンにあるハーヴァード大学、マサチューセッツ工科大学、タフツ大学は名門校同士で、教授や学生たちの交流が盛んなことで知られています。

 

 アワーはハーヴァード大学教授だったエドウィン・O・ライシャワーの勧めもあって、日本の海上自衛隊の研究で博士号を取得します。博士論文(「日本海上兵力の戦後の再軍備194571年」)は、『よみがえる日本海軍』(妹尾作太男訳、時事通信社、1972年)として日本でも出版されました。その後、在日米海軍司令官付政治顧問、横須賀基地所属ミサイル・フリゲート艦長などを歴任し、1983年に海軍を退役し、国防総省勤務となりました。国防総省では、日本部長や国防次官特別補佐官を歴任し、1988年に国防総省を退官し、ヴァンダービルト大学教授となりました。ヴァンダービルト大学でアワーの薫陶を受けた人物には、長島昭久衆議院議員(民進党除籍)がいます。長島代議士は防衛政策に造詣が深いことで知られています。


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 恩師ジェイムズ・アワーと長島昭久

 ジェイムズ・アワーは防衛省と深い繋がりを持っています。そして、日本初の女性防衛大臣となった小池百合子氏ともつながりを持っています。小池氏は自身の著書の中で、アワーについて「自分よりも防衛省内部に詳しい」と書いています。長島議員は民主党政権時代に防衛大臣政務官、防衛副大臣を歴任しました。

 

 ウィリアム・ハガティ駐日アメリカ大使、ジャパン・ハンドラーズの1人ジェイムズ・アワー、長島昭久衆議院議員、小池百合子東京都知事(元防衛大臣)はこのようにしてつながっていきます。

 

 アメリカのジャパン・ハンドラーズのトップとも言うべき人物マイケル・グリーンは、2012年の段階で、日本の「リベラル」を壊滅することで、安倍政権を成立させることに成功しました。野党は多弱化し、「ゆ党」として維新勢力も出てきて、安倍一強体制が構築されました。

 

 しかし、安倍政権も長期化する中で緩みが出て、傲慢さや強引さが政権運営で目立つようになりました。そうした中で、安倍政権最後の大仕事、総仕上げである改憲(アメリカにとっても利益となる)も先行きが不透明となってきました。こうした中で、小池百合子都知事の誕生、都民ファーストの会の躍進、日本ファーストの会設立といった一連の流れは、安倍政権を別働隊として支える第二自民党、維新に代わる「ゆ党(与党でも野党でもない)」という補完勢力を生み出し、うまくいけば民進党にとどめを刺すというシナリオになっており、このシナリオを描いているのは恐らく、マイケル・グリーンであり、実行者はジェイムズ・アワーなのだろうと私は考えています。

 

 こうした動きを阻止するためには、民進党やその他の野党を自民党に代わる受け皿となるようにすることです。そうしなければ、大政翼賛会ならぬ、「米政(アメリカのための政治)翼賛会」が生み出されてしまうことになります。

 

(終わり)



アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12




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 古村治彦です。

 前回に続いて、『組織の不条理 日本軍の失敗に学ぶ』(菊澤研宗著、中公文庫、2017年)を皆さんにご紹介します。


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組織の不条理 - 日本軍の失敗に学ぶ (中公文庫)

 

②のエージェンシー理論とは、人間の取引関係は依頼人であるプリンシパルと代理人であるエージェントに分けられます。私たちは選挙で代議士を選びますが、有権者はプリンパル、代議士はエージェントとなります。政治家と官僚の関係で言えば、代議士はプリンパル、官僚はエージェントとなります。プリンパルとエージェントはともに自己利益を追求しますが、彼らの利益が一致しない場合が出てきます。エージェントがプリンパルの利益とはならない行動をすることがあります(エージェンシー・スラック問題と言います)。また、両者の間には得られる情報にも差が出てきます(情報非対称と言います)。こうした中で出てくる現象がモラル・ハザード現象とアドバース・セレクション(逆淘汰)現象です。モラル・ハザード現象はエージェントがプリンシパルの意向とは異なる行動をすることです。逆淘汰現象は、プリンシパルがエージェントのモラル・ハザードを防ごうとして合理的に行動することでかえって、非合理的な結果をもたらすということです。

 

 インパール作戦は、ビルマを確保した日本軍がインド方面に向けて進撃する大作戦でした。険しい山岳地帯とジャングルを抜けてインドの要衝インパールを占領して、イギリス支配下にあるインドに刺激を与え、イギリスに打撃を与えることを目的としていました。1944年3月にインパール作戦が開始されました。日本軍はインパール近くまで攻め込みながら、補給が続かなくなり、イギリス軍がジャングルに合わせた戦法と最新鋭の武器を採用し、物資の空中補給をはじめとする物量で日本軍を圧倒しました。イギリス軍はわざと日本軍をインパール近くまで引き寄せて(イギリス軍は少しずつ負ける形で撤退しながら)、補給船が伸びきったところで逆襲をかけ、日本軍を敗退させました。補給が続かなくなった日本軍将兵は撤退途中で飢えと病で力尽き、ビルマへの撤退路は「白骨街道」と呼ばれました。将兵3万が戦死、4万が傷病に倒れるという悲惨な結果に終わりました。

 

 インパール作戦を強く推進したのは、牟田口廉也(むたぐちれんや)第15軍司令官でした。牟田口廉也中将は日本陸軍史に残る世紀の愚将という評価を受けています。インパール作戦に参加し生還した将兵は後々まで「牟田口を許さない」「牟田口が畳の上で死ぬなんて許さない」と強く非難し続けてきました。インパール作戦でその評価を高めた人物もいました。宮崎繁三郎中将は最前線指揮官として激戦で多くの部下を失いながらもコヒマを奪取、その後、撤退中も自身が最後列に立ち、将兵を励まし、傷病兵を保護しながら見事な撤退を行い、日本陸軍きっての名将という評価を受けています。インパール作戦からの生還者たちは、「あの指揮官の下なら死んでもいい」と思わせるほどの人物だったと評価をしています。


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 牟田口廉也

 インパール作戦については、最初から補給の面で全く実行不可能な作戦であるとして反対が多いものでした。第15軍の参謀長・小畑信良少将は兵站(輜重兵科)の専門家で、現地視察を行ったうえで、作戦に強く反対しました。その結果、牟田口司令官から参謀長着任直後だというのに解任されてしまいました。牟田口は「日本人は古来草食動物であったのだから、草を食べればよい、青々としたジャングルで食糧不足とはなんだ」「牛で物資輸送を行い、その牛は最後には食料とする、ジンギスカン作戦だ」「皇軍は弾がなくても食うものがなくても戦うものだ」というような非合理的な思考の持ち主でした。突撃一辺倒の人物であり、司令官には向かない人物であったとも言えるでしょう。


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この時の指揮命令系統は大本営→南方軍→ビルマ方面軍→第15軍となっていました。大本営の真田穣一郎第一部長、南方軍の稲田正純総参謀副長、ビルマ方面軍の中永太郎参謀長といった人々がインパール作戦に反対しましたが、それぞれの上司に説得されたり、解任されたりということになりました。大本営の杉山元参謀総長は「南方軍の寺内さんの頼みだからやらしてやって欲しい」、南方軍の寺内寿一(長州閥の寺内正毅陸軍大将・総理大臣の息子)総司令官は「苦戦が続く南方軍の管轄内での壮挙だ」、ビルマ方面軍の河辺正三司令官は「(日中戦争のはじまりとなった盧溝橋事件以来の上司と部下の関係である)牟田口が是非やりたいということなのでやらせてやりたい」という根拠が薄い理由で作戦の実行を後押ししました。また、東條英機首相・陸相は戦局打開のためにインパール作戦を利用しようと考えていました。

 

インパール作戦に参加した3個師団を率いた佐藤幸徳、山内正文、柳田元三の各師団長は作戦開始前から作戦が失敗に終わると明言し、牟田口司令官に批判的でした。山内師団長はアメリカ留学経験者で、留学先の米陸軍大学校を非常に優秀な成績で卒業したので、アメリカ軍の将官の中にも山内の消息を気にする人たちが多くいました。山内は合理的精神を持った軍人でした。柳田元三は陸軍大学校を優等で卒業した「恩賜の軍刀組」で、こちらも作戦においては合理性を重視しました。

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佐藤幸徳 

師団長たちは作戦中も司令部の牟田口司令官に補給を要請し続け、牟田口を激怒させました。そして、それぞれ敢闘精神の欠如などを理由にして師団長を解任されました。師団長は天皇が直々に任命する(新補)する重職でした。そうした中で、作戦途中で、3名の師団長が解任されるというのは異常事態でした。佐藤幸徳師団長の場合は、補給を受けられないのでは宣戦を維持できないとして、命令に違反して独断で戦場を離脱しました(抗命)。従って、軍法会議にかけられ、死刑を宣告される可能性もありました。しかし、佐藤師団長は「心神耗弱」を理由にして不起訴となり、終戦まで現役に留まりましたが、閑職に追いやられました。佐藤師団長は軍法会議で命がけで軍上層部の無責任を批判するつもりであったのですが、彼の意図通りにはなりませんでした。それは、軍法会議にかけて有罪にしてしまうと、天皇が任命した師団長がこのような不始末を起こしたことに関して天皇にも責任があるという論法につながってしまうからです。

 

 こうしてみると、現場の指揮官や作戦立案者たちはインパール作戦に反対しながら、上層部がかなり根拠薄弱な理由で作戦実行を後押ししたということが分かります。それでは、現実的に実行不可能な作戦がどうして実行されたのか、という疑問が出てきます。日本陸軍の精神偏重主義、兵站軽視と答えるのはあまりに簡単ですし、大本営の中にさえ反対者がいたということも考えると、そればかりという訳にはいきません。

 

 インパール作戦に置いては当事者間の利害が一致していなかったということを菊澤氏は指摘しています。牟田口司令官は、盧溝橋事件を起こした当事者で常に「自分には日中戦争を始め、そして拡大させた責任があるので、戦争のかたをつけるのも自分だ」という奇妙な論理を持っていたということです。そして、個人的にはインドにまで進軍することで軍功を挙げ、大将昇進を狙っていたということです。反対者たちは、兵力や兵站の点から、この作戦はできないという判断をしました。また、情報の非対称性も指摘されています。牟田口は歴戦の指揮官で、上層部、特にビルマ方面軍の中永太郎参謀長に対しては、「あなたは実戦の経験がないからそんなことを言うのだ」と言ったということです。実戦の経験を出されてしまうと、こうした人々(ずっとエリート街道を歩いてきたような人たち)は反論が出来なくなってしまいました。

 

 モラル・ハザードの点からは、大本営は牟田口の「独断専行(命令なしに自分の判断で行動すること)」を懸念していたようです。牟田口はインパール作戦も独断専行で始めてしまうのではないか、という心配をしていたそうです。盧溝橋事件でも牟田口は独断専行で攻撃を開始したという「前科」がありました。この時に成功したので、処分されませんでしたが、この時にきちんと命令違反だとして処分しておけばという気持ちになります。そこで、大本営は「作戦実施準備命令」を出しました。これは何とも曖昧なもので、作戦を実施せよ、という命令ではなく、作戦実施に向けて準備をしておけ、という命令で、現場ではこの命令をどう実行してよいのか困ったそうです。これは、牟田口に独断専行させないために、出されたものですが、結果としては、完全な中止命令ではなかったために、推進派の作戦実施の口実に使われました。そして、合理的な反対派は説得されたり、解任されたりで排除されていき(逆淘汰)、インパール作戦が実施されることになりました。

 

(続く)



アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12


アメリカの真の支配者 コーク一族
ダニエル・シュルマン
講談社
2016-01-22


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 古村治彦です。


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組織の不条理 - 日本軍の失敗に学ぶ (中公文庫)

 

 本日は、『組織の不条理 日本軍の失敗に学ぶ』を皆様にご紹介します。これは、新制度派経済学(New Institutional Economics)によって、旧日本軍の行った様々な事績を分析し、組織の陥りやすい陥穽について論じた本です。著者の菊澤研宗氏は経営学者・経済学者です。著者の菊澤氏は、新制度派経済学の3つの経済学理論(①取引コスト理論、②エージェンシー理論、③所有権理論)を使って、日本軍の失敗と成功の分析を行っています。

 

 太平洋戦争において、日本は最終的に連合国に降伏しました。日本国内のみならず、アジア・太平洋地域において、数多くの人命が損なわれ、傷つき、莫大な物資が浪費されました。太平洋戦争における日本の敗北についての分析については、『失敗の本質―日本軍の組織論的研究』(戸部良一、寺本義也、鎌田伸一、杉之尾孝生、村井友秀、野中郁次郎著、中公文庫、1991年)という本があります。この本も是非お読みいただければと思います。

 

 日本と日本軍の失敗、ということになると、これまで、物量を無視した精神主義、科学を無視する態度、非合理的な神がかりといったことが理由として挙げられてきました。一言で言えば、「アメリカやイギリスは合理的、日本は非合理的だったから負けたのだ、そもそも非合理的だったから勝てない戦争に乗り出してしまったのだ」ということになります。

 

 合理的(rational)というのは、「自分の利益を最大化するために行動する態度」ということになります。たとえば、A点からB点まで向かう際に、最短の2点間の直線状を進む、ということが合理的ということになります。社会科学において、合理的選択論(Rational Choice Theory)が一つの大きな分析枠組となっています。新制度派経済学は、人間の合理性には限界がある、ということを主張しています。

 

 人間の最大の利益は「自分の生命を永らえさせること」ということになりますし、国家にとっての最大の利益は「国家が滅びずに存続し続けること」で、政治家にとっては「選挙に当選して政治家であり続けること」です。そして、こうした利益のために行動することは、全て合理的な行動となり、行動のコストが小さくなればなるほど、素晴らしい行動ということになります。

 

著者の菊澤氏は、「組織の不条理」という言葉をタイトルに使っていますが、不条理という言葉について、「人間が合理的に失敗するということ」「人間組織が合理的に失敗すること」と定義し、その種類を「①全体合理性と合理性が一致しない、②正当性(倫理性)と効率性が一致しない、③長期的帰結と短期的帰結が一致しない」としています。そして、こうした不条理が生まれるのは、「人間が完全に合理的ではないから」という理由を挙げています。

 

 人間が完全に合理的であれば失敗はしないはずですが、限定的合理性しかもたないために、情報収集や分析で失敗をします。合理的に、失敗をしないように行動しても、目的を達成できない、ということが起こります。

 

 著者の菊澤氏は、組織の不条理を説明するための新制度派経済学の理論である、①取引コスト理論、②エージェンシー理論、③所有権理論で、太平洋戦争中の日本軍の行動を分析しています。

 

①の取引コスト理論とは、「人間は限定的合理性しか持たないので、人々は相手の不備に付け込んで利己的利益を追求する」というものです。合理的な行動を取るが結果としては非効率、非倫理が起きるというものです。人間はお互いに限定的合理性しか持っていないので、お互いに騙されないようにしようとします。そうしますと余計なコストがかかってしまいます。たとえば、新しく家を建てるという場合に、依頼主と建築業者の関係で言えば、依頼主は不良物件をつかまされたくない、建築業者はコストを下げて利益を上げたい、ということになります。お互いに完全な合理性を持っていないので、お互いに損をしたくないということになると、間に弁護士を入れるなどということになって余計なお金がかかります、これが取引コストということになります。また、何かを大きく変更する際に、発生するコストも取引コストということになります。本来要らないコストが発生する状態ということになります。菊澤氏はこの理論を使って、ガダルカナル島における日本軍の行動を分析しています。


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1942年8月、日本陸軍はガダルカナル島に滑走路を建設しました。これは、アメリカとオーストラリアとの間を遮断するためのものでした。アメリカは、日本に対する反攻をガダルカナル島から始めると決定していました。滑走路の完成直後、アレクサンダー・ヴァンでクリフト少将率いるアメリカ海兵隊第一師団がガダルカナル島に上陸しました。日本軍は防備(滑走路の建設作業員がほとんどだったので)をしていなかったために、滑走路はすぐに占領されました。

 

 日本陸軍はガダルカナル島奪回のために、ミッドウェイ島上陸に備えていた一木清直大佐率いる一木支隊を逆上陸させ、アメリカ海兵隊を攻撃させました。しかし、白兵突撃を敢行した一木支隊は防備を固めた海兵隊の前に敗退しました。死傷率が8割以上という凄まじい数字が残りました。欧米の基準であれば、この数字は部隊の全滅ということになります。一木支隊長は作戦後に自殺しました。

 

 大本営は続けて川口清健少将率いる川口支隊を派遣しました。川口支隊長もまた白兵突撃を選択し、ジャングルを迂回しての一斉攻撃を行いましたが、日本軍の動きを察知し、防御を固めていた米海兵隊はまたもこの攻撃を跳ね返しました。

 

 二度の攻撃に失敗した大本営は、三度目に向けて本腰を入れて準備をすることになりました。丸山政男中将率いる第二師団と川口支隊の生き残りによる本格的な大攻勢を企図しました。しかし、この時点で制空、制海はすでに米軍の手にあり、日本は兵員、物資、武器の輸送に苦労していました。その結果として、日本軍は深刻な食糧不足状態になり、「ガ島」は「餓島」と呼ばれるようになりました。

 

 第三回の大攻勢を前にして、川口支隊長は攻撃方法の変更と火力の増強を主張しましたが、大本営から派遣されていた辻正信参謀と意見が対立し、攻撃直前に支隊長を解任されました。そして、この大攻勢でもまた白兵突撃が繰り返され、失敗に終わりました。ガダルカナル島の戦いは半年ほど続きましたが、日本軍は最終的に撤退することになりました。

 

 日本軍は何度も失敗しながらなぜ白兵突撃にこだわったのか、という疑問が戦後ずっと残されてきました。日本軍は精神主義偏重であったこと、失敗を隠蔽し、責任を曖昧にし、失敗から学ぶという体質になかったことが理由として挙げられてきました。

 

 菊澤氏は、取引コスト理論でガダルカナル島における日本軍の失敗について分析しています。そもそも日本軍の特異な戦法が白兵突撃でした。1904年の日露戦争で強大なロシア陸軍に対抗したのは、白兵突撃でした。そして、1908年に制定された「戦法訓練の基本」でも白兵突撃に主眼が置かれました。その後、日中戦争や太平洋戦争の緒戦において、白兵突撃は威力を発揮しました。また、ガダルカナル島に派遣された第二師団は伝統的に白兵突撃を得意とする部隊でした。

 

 そうした中で、白兵突撃という戦法を放棄することは、これまでかけた教育にかけた時間と物資と人材を放棄する、伝統を放棄するという大きなコストを支払うことになります。これだけのコストを払うのか、それともそのまま白兵突撃を続けるのか、ということになり、結局、白兵突撃を続けるということになりました。ガダルカナル島での白兵突撃が全く効果なく跳ね返されたということはなく(第2回目の突撃ではアメリカ軍の防衛線を突破しかなり突き進んだ)、アメリカ軍兵士たちを恐怖に陥れるほどの威力もあり、全く無効な戦法ということでなかったために、放棄することができませんでした。従って、日本軍の選択は合理的であるということになります。しかし、合理的な行動が非効率、非倫理的な結果を生み出すことになりました。

 

(続く)



アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12




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