古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

2020年05月

 古村治彦です。

 アメリカ大統領選挙について、「トランプ大統領は延期したり、中止したりするのではないか」「新型コロナウイルス感染拡大という危機的状況を利用して、民主的な手続きを無視するのではないか」という懸念の声がアメリカで出ていた。「トランプは独裁者になるのではないか」という、荒唐無稽な心配の声が上がっていた。

 まず、アメリカ大統領と副大統領の任期は1月20日正午までと決まっており延長はない(アメリカ合衆国憲法修正第20条)。大統領、副大統領が選出されない場合には、連邦下院議長が権限を代行するが、連邦下院議長が選出されていない場合には、連邦上院仮議長が代行する(修正第25条)。アメリカ大統領選挙本選挙の際には、連邦下院議員全議席(435議席)も同時に選挙となるので(連邦下院議員全議席は2年おきに選挙が実施される)、選挙が実施されなければ連邦下院議員がいないということも考えられる。連邦上院(100議席)は2年おきに約3分の1ずつ選挙が実施されるので、常に連邦上院議員は複数名存在することになる。

 アメリカ大統領の任期と本選挙日程(11月の最初の月曜日の次の火曜日)は画集国憲法と連邦法で設定されているので、これらを変更するためには連邦議会で変更された法律を可決しなければならない。そして、これらの基底を無視することは誰もできない。たとえトランプ大統領であってさえもそうだ。

 ここで面白いのは、大統領選挙について各州の権限も大きいということだ。選挙日程や各州の連邦上院の議席数(人口に関係なく各州2議席ずつ)と連邦下院の議席数(人口に比例して配分)を足した数の選挙人(electors)を選出することという大枠は連邦法で決まっている。しかし、選挙の細かい手続きなどは各州で違っていても良いことになっている。

 そこで、今回の新型コロナウイルス感染拡大によって、人々が集まることは良くないということになって、不在者投票の条件緩和(日本では既にそうなっている)や郵便投票、投票日前に選挙管理事務所に投票用紙を出しに行くということが現在できない州でできるようにしようという動きになっている。そのために連邦政府が予算をつけるということにもなっている。

 選挙の延期や中止ということはアメリカではない、あり得ないということになる。デモクラシーの総本家を自認して、世界中にデモクラシーを強制して回ることこそ最上の使命だと考える人も多くいる国であるアメリカにとっては、選挙こそが国の根幹、国柄を形成する制度だ。それをやらないということになれば、アメリカがアメリカではなくなる。戦争があろうが、自然災害があろうが、テロ攻撃があろうが、新型コロナウイルスがあろうが、それは変わらない。

(貼り付けはじめ)

2020年の大統領選挙は延期できるものだろうか?大変な困難しかない。その理由を挙げる(Could the 2020 Election Be Postponed? Only With Great Difficulty. Here’s Why.

―ルイジアナ州とジョージア州は大統領選挙予備選挙を延期させた。現在の危機的状況の中で各種選挙を実施することについての6つの重要な疑問に対して答えを提示する。そして、大統領は、大統領令を出して選挙を中止することはできない。

11月の大統領選挙の投開票日は連邦法によって定められている。これを変更するためには連邦議会によって改正法を可決し、大統領が可決した法案に署名しなければならず、その正当性について裁判が起こされることになるかもしれない。

アレクサンダー・バーンズ筆

2020年3月14日

『ニューヨーク・タイムズ』紙Alexander Burns

https://www.nytimes.com/2020/03/14/us/politics/election-postponed-canceled.html

コロナウイルスの感染拡大は、2020年の大統領選挙の選挙運動に対して日一日と新たな障害を加えている。しかし、これまでの48時間でルイジアナ州とジョージア州が実施いた予備選挙の日程の再設定に追随した州はほとんどない。

アメリカの選挙の歴史において選挙の延期は、そこまで前代未聞という訳ではないが、極めて稀な事態であった。

それでは、これからの数か月で、どれほどの障害が起きると有権者たちは予期することができるだろうか?地方自治体、州政府、連邦政府が選挙の日程やその他の詳細を変更することができるどれだけの裁量を持っているのだろうか?皆さんが持っておられるであろう疑問のいくつかについて私たちは答えを出してみようと試みてみる。

●ルイジアナ州とジョージア州が予備選挙を延期した理由は何か?

ルイジアナ州州務長官R・カイル・アードインは共和党所属で、民主党所属の州知事ジョン・ベル・エドワーズに対して、コロナウイルス感染拡大に対する懸念から、4月4日に実施予定の予備選挙を約2か月延期するように要請した。

両者にはルイジアナ州法によって予備選挙の延期の実施は認められている。ルイジアナ州では、州知事は、緊急事態に際して選挙の日程の再設定が可能ということになっている。州務長官が緊急事態が続いていると認定している間はそのような決定が可能となっている。

ジョージア州州務長官ブラット・ラッフェンスパーガーは土曜日、3月24日に実施予定の予備選挙を5月に延期すると発表した。ジョージア州民主党はこの決定を支持した。

他の各州はコロナウイルスに対応するために予備選挙の日程を変更させているだろうか?

いや、少なくとも、今のところはない。

今度の火曜日に選挙が予定されている4つの州、フロリダ州、オハイオ州、アリゾナ州、イリノイ州は予備選挙の日程を変更することなしに、投票をより安全に行えるように予防策を施して実施することになる。しかし、予備選挙が遅く実施される各州はルイジアナ州とジョージア州の例に倣うことは可能である。

このような直前になっての変更はかなり異例のことであるが、各州には予備選挙の日程と方法を決定できるかなり広範囲な裁量が認められている。予備選挙の日程を設定するための正確なプロセスは各州によって異なる。そのために、かなり多くの州が2016年から2020年の間に予備選挙や党員集会の日程を変更している。また、いくつかの州の共和党はトランプ大統領のために党内での争いを最小化する目的で予備選挙自体を中止することも可能なのである。

しかし、民主党自体には予備選挙を6月9日までに完了させねばならないという規則が存在する。そして、今年はミルウォーキー市で開催される全国大会に出席する代議員は6月20日までに決定されねばならない。この日程に反するルイジアナ州を含む各州は、代議員数の削減というペナルティを政党から科されることになる。

本選挙の日程は連邦法によって設定されており、1845年以降固定されている。本選挙の日程を動かすためには連邦法の変更をしなければならない。連邦議会によって法改正を可決し、大統領が署名しなければならない。この法改正は裁判で正当性を争うことになるかもしれない。

このような通常とは異なる異常事態を引き起こすことについてはあまり求められていない。

もし上記のような条件が全て実現した場合であっても、別の日程を選ぶための柔軟性はあまり存在していない。アメリカ合衆国憲法は新しい連邦議会は1月3日に召集されねばならないと定めている。そして、新しい大統領の任期は1月20日に始めねばならないとしている。これらの日程の変更は通常の立法行為によっては実行できない。

金曜日にルイジアナ州が予備選挙の延期を発表した後、民主党系の選挙法専門の弁護士として有名なマーク・エリスは、11月の選挙自体も見直すことができるのかどうかについて多くの質問が寄せられ、彼はこれを質問の波と表現しているが、それらについて次のように断言した。

マーク・エリスはツイッター上で次のように書いている。「11月の選挙について多くの質問をもらった。各州は予備選挙の日程を決めることができる。一方、連邦規模の本選挙の日程は連邦法で設定されている。11月の最初の月曜日の次の火曜日と決められている。州政府と大統領はこの日程を変更することはできない」。

「マーク・エリス(@marceelias)」

「11月の選挙について多くの質問をもらった。各州は予備選挙の日程を決めることができる。一方、連邦規模の本選挙の日程は連邦法で設定されている。11月の最初の月曜日の次の火曜日と決められている。州政府と大統領はこの日程を変更することはできない」。

ジェイク・タッパー(@jaketapper

「ルイジアナ州州務長官カイル・アードインは4月4日に実施予定とされているルイジアナ州での予備選挙を、コロナウイルスの感染拡大の懸念のために、そして、“ルイジアナ州の州民と選挙関係者の健康と安全を守る”ために、6月20日まで延期すると発表した」。

●大統領は大統領令で選挙を中止もしくは延期することはできるか?

いいえ。大統領は多くの権力と権限を持っている。しかし、選挙に関して言えば、大統領はルイジアナ州知事よりも制限されている。

.●11月の選挙の投票手続きについてはどうか?

大統領選挙の日程は連邦法によって設定されているが、投票手続きについては多くの場合、州レヴェルで管理されている。

投票に関する規則が複雑なパッチワークのようになっているのはそのためだ。いくつかの州では期日前投票が認められている。郵便投票や選挙当日の有権者登録を認めている州が複数存在する。その他に、有権者の本人確認にいくつかの書類しか認めていないところもある。多くの州ではこれらのうちのほとんど、もしくは全部を認めていない。

従って、公衆衛生上の危機的状況に対応するために、各州は投票手続きを見直すことは、特定の日に人々を一つの場所に集める必要がない郵便投票や期日前投票をより簡単にすることで、可能である。

アメリカ国内でコロナウイルス感染拡大が大きくなっているワシントン州では、長年郵便投票を実施してきている。3月10日の大統領選挙予備選挙は混乱なく実施された。

連邦政府は、大統領選挙の日程変更を行うことなしに、異なった投票手続きを実行する、もしくは促進することも可能だ。カリフォルニア大学アーヴァイン校教授で選挙法の専門家リチャード・L・ハセンは、連邦議会は、各州政府が大統領選挙本選挙で「無条件の不在者投票」が実施できるようにしなくてはならないと提案している。これによって選挙の投開票日に誰でも投票所に行っての投票以外の方法を選ぶことができるようになる。

「リック・ハセン(@rickhasen)」

「連邦議会は11月の選挙で各州政府が不在者投票を実施できるように法律を可決すべきだ。連邦議会は不在者投票に対して資金を提供し、それがすぐに実現するようにする必要がある」。

「アレグザンダー・ヘフナー(@heffnera)」

「全ての州知事と州務長官は期日前投票と郵便投票を実施しなければならない。投票は民主政治体制においては継続されねばならない」。

●過去において緊急事態のためにアメリカの各種選挙の日程が変更されたことはあるか?

はい、州や地方自治体レヴェルではあった。

最も記憶に残っているのは、2001年9月11日だ。このテロリスト攻撃はニューヨーク市長選挙の当日朝に行われた。州議会は緊急州法を可決し、選挙の2週間の延期を決めた。2017年、フロリダ州のいくつかの市長選挙が、ハリケーン・イルマのために短期間ではあるが延期された。

2004年、ブッシュ政権内でテロ攻撃があった場合に連邦規模での選挙を延期する方法が議論されたと報じられた。しかし、この考えはすぐに立ち消えとなった。当時の国家安全保障問題担当大統領補佐官コンドリーザ・ライスは「戦時中であってもアメリカでは選挙が実施されてきた、南北戦争当時でも選挙は実施されたのだ。アメリカは決まった時期に選挙を行うべきなのだ」と発言した。

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いいえ、トランプ大統領はコロナウイルスを理由にして11月の選挙を中止することも延期することもできない(No, Trump can't cancel or postpone the November general election over coronavirus

グレイス・パネッタ筆

2020年3月18日

『ビジネス・インサイダー』誌

https://www.businessinsider.com/trump-cant-cancel-or-postpone-the-november-election-over-coronavirus-2020-3

新型コロナウイルスの感染拡大は2020年の選挙に対して既に悪影響を与えている。最後の最後まで選挙陣営の幹部や選挙に関わる役人たちをまごつかせている。

ドナルド・トランプ大統領に批判的な人々の中には、大統領が今回の危機を利用して、今年の大統領選挙本選挙の延期や中止するのではないかという懸念を持っている。

トランプ大統領は大統領令を発して11月3日の本選挙を中止にすることも延期することもできない。国家非常事態、大災害宣言、もしくは戒厳令の下でもそうしたことができないのである。

新型コロナウイルスの感染拡大は既に2020年の選挙に大いに悪影響を与えている。選挙陣営の幹部や選挙関連の役人たちは状況に合わせることに奔走している。

月曜日にまでに、5つの州と自治領は民主党の大統領選挙予備選挙を延期した。

火曜日早朝、オハイオ州最高裁はオハイオ州衛生部に対する訴えを退けた。訴えでは、オハイオ州内のコロナウイルスをめぐる公衆衛生上の緊急事態を受けて投票所の閉鎖と予備選挙の投票を延期するように求めていた。

前例のない国家規模の混乱、株式市場の急落、ホワイトハウスによる一貫性のない対応の中で、ドナルド・トランプ大統領を批判する人々は、今回の危機を利用して、今年の本選挙を延期、もしくは中止するのではないかと疑念を持っている。

たとえば、フォックス・ニュースの政治アナリストであるファン・ウィリアムズは、『ザ・ヒル』誌に掲載した最新の論説記事の中で、次のように疑問を呈している。「大統領選挙までの8か月の間でさらに政治上の穴を深く掘るような状況の中で、トランプ大統領が次の大統領選挙を延期するもしくは中止するための正当化にコロナウイルスを使用することに躊躇するなどと考える人はいるだろうか?」

ベストセラー作家でツイッターにおいて50万のフォロワーを持つカート・エイチェンウォルドは、ヴァーモント州選出のバーニー・サンダース連邦上院議員に対して民主党の大統領選挙予備選挙から撤退するように求めた。そうすれば、各州で予備選挙を中止することができると主張した。エイチェンウォルトはツイッター上で、「トランプ大統領はこの手続きを使って選挙を中止することができるだろう」と書いた。

しかし、トランプ大統領は大統領令を出して11月3日の大統領選挙を一方的に中止、もしくは延期することができない。国家緊急事態もしくは自然災害の宣言や戒厳令の布告があってもそのようなことはできない。

民主党系の選挙法専門の弁護士マーク・エリスやケンタッキー大学法科大学院の投票・選挙法専門の教授ジョシュ・ダグラスを含む専門家たちは、ツイッター上で、各州が選挙人を任命する日程を変更するためには連邦議会が法律を変えるしかないと書いている。

「ジョシュア・ダグラス(@JoshuaADouglas)」

「多くの人々は“それでもトランプ大統領が戒厳令を布告したらどうなるのか?!”と述べている。1866年のミリガン決定(Ex parte Milligan, 1866)で連邦最高裁判所が決定したように、戒厳令の布告があっても憲法を一時停止をすることはできない

しかし、たとえそのようなことが起きても、戒厳令によってトランプ大統領に選挙を延期する、もしくは2021年1月20日の任期最終日を遅らせる力を与えられることはない」。

「ジョシュア・ダクラス(@JoshuaADouglas)」

「多くの人々が私に質問している。いいえ、国家規模の緊急事態の中でも、トランプ大統領は11月の大統領選挙を延期するために、大統領としての行政上の力を使うことはできない。連邦議会だけが大統領選挙の日程を設定できる」。

「マーク・エリス(@marceelias)」

「11月の選挙について多くの質問をもらった。各州は予備選挙の日程を決めることができる。一方、連邦規模の本選挙の日程は連邦法で設定されている。11月の最初の月曜日の次の火曜日と決められている。州政府と大統領はこの日程を変更することはできない」。

ジェイク・タッパー(@jaketapper

「ルイジアナ州州務長官カイル・アードインは4月4日に実施予定とされているルイジアナ州での予備選挙を、コロナウイルスの感染拡大の懸念のために、そして、“ルイジアナ州の州民と選挙関係者の健康と安全を守る”ために、6月20日まで延期すると発表した」。

結局のところ、アメリカ国民は大統領を直接選んでいるのではない。その代わりに、各州は、アメリカ選挙人団(Electoral College)に集合し、投票するために指名された選挙人たち(designated electors)を送り出す。選挙人たちは12月に召集される。選挙人たちは次の大統領と副大統領(連邦上院の議長)を決めるための投票を行う。

月曜日に本誌で掲載されたインタヴューの中でダグラスが述べているように、連邦議会は1845年に全国規模の大統領選挙の日程を11月の最初の月曜日の次の火曜日と定めた法律を可決し、それ以降、日程は変更されていない。

各州が選挙人を任命する手続きはアメリカ合衆国憲法第二条とアメリカ合衆国法典第3冊第1章の両方で設定されている。合衆国憲法第二条では、各州はそれぞれの州から選出されるアメリカが州国連邦下院議員と連邦上院議員を足した数と同数の選挙人を任命しなければならないとしている。この手続きに関しては連邦議会が決定することができる。合衆国法典では選挙人の任命の日程が設定されている。

選挙の日程を変更するためには、連邦議会は合衆国法典第1章を変更するために投票しなければならないだろう。この第1章では次のように定められている。「大統領と副大統領の選挙は、各州においては、4年おきに11月の最初の月曜日の次の火曜日に定められねばならない」。

連邦法には、各州は連邦法が定めた日に、連邦議会が同意しているいくつかのメカニズムによって、各州から選出されている連邦議員の総数と同数の選挙人を任命することと定められている。しかし、連邦法は、選挙人の配分のために選挙自体を実施する必要は定めていない。

実際、ダグラスは本誌に対して、アメリカの初期の歴史においては、多くの州が、今日私たちが知っている形のような大統領選挙を実施していなかったと述べた。その代わりに、各州の上下両院が選挙人を任命するために投票を行い、選挙人たちに対して、選挙人団の中でどのように投票するかを指示するために投票を行った。これは人々が実際に投票しての結果とは反対の結果となるものだった。

現在、全てのアメリカの州は州内における有権者の投票によって選挙人を分配する。しかし、選挙の結果とは異なる形で選挙人は配分される。

ほとんどの州は勝者総取り(winner-take-all)システムを採用している。このシステムは、ある候補者が総投票数の50%以上を獲得すれば、その候補者がその週の選挙人を総取りするというものだ。

しかし、メイン州とネブラスカ州は、選挙人の内2名は選挙の勝者に配分される。その他は州内の議会選挙区の得票数に基づいて配分される。

2020年の選挙が実施されないというこじつけのシナリオにおいても、トランプ大統領とマイク・ペンス副大統領の任期は自動的に延長されるということはない。

トランプ大統領とペンス副大統領の任期は2021年1月20日正午までとなっている。大統領が不在となれば、機能は連邦下院議長(連邦下院議員選挙が実施されればの話だが)が引き継ぐが、連邦下院議長がいなければ、連邦上院仮議長(president pro tempore)が引き継ぐことになる。

新型コロナウイルスの感染拡大がどれほど続くか、11月の本選挙にどの程度の影響を与えるかは、不透明な状況である。

予備選挙を延期することために、各州の役人たちは、感染拡大中に選挙を行うことはアメリカ疾病予防管理センターの出しているガイドラインに反するものだと主張している。このガイドラインは、10名以上の集まりを行わないようにと助言し、人々はお互いに6フィート(約180センチメートル)離れるように推奨している。これは投票所で行列を作るには難しい距離である。

役人たちは、投票において高齢者たちに危険が及ぶことに特に懸念を持っている。高齢者たちは、投票に向かう人と投票所でヴォランティアとして係員を務める人の割合が高く、また、新型コロナウイルスによる健康リスクも高い。

「チャールズ・スチュワート三世(@cstewartiii)」

「選挙に関わる係員たちに関するCOVID-19の問題は、投票所の係員の中における高齢者の数である。多くの人々が健康リスクのために投票所で働くことに躊躇する。グラフが示しているように、この問題のデータはむらがある」。

ダグラスや他の専門家たちは、各州が大統領選挙予備選挙を可能ならば延期すべきだということだけではなく、各州が期日前投票と郵便投票、無条件の不在者投票の実現に向けて動き出すべきだと主張している。こうした制度は既に34州とワシントンDCには導入済みであるが、11月の選挙のために全面的に導入すべきだ。

各州は選挙実施の方策について様々な選択肢を持っているが、連邦議会は各州が確実な選挙の方法と手段を採用することができるようにするための法律を可決させることができる。

オレゴン州選出のロン・ワイデン連邦上院議員(民主党)は既に法案を提出している。法案は、全ての州で有権者全員が郵便投票もしくは投票所に投票用紙を提出することができるようにするもので、また連邦政府が郵便料金の後納する封筒の提供と11月までに各州が郵便投票のために5億ドル(約535億円)の予算をつけるというものだ。

ダグラスは、11月までは長い時間があるとしながらも、各州の州議会議員たちは、根回しをして、不在者投票の条件緩和と郵便投票を構築することで、有権者と選挙に関わる係員たちの安全を守るべきだと発言している。

ダグラスは次のように述べている。「選挙の運営と実施の困難は増していますが、私たちが即座に行動し、私たちがこれらの施策をすぐに実施し始めるならば、選挙は実施できます。選挙は可能だろうか?大丈夫です。現在行動しなければならないだろうか?そうです。コロナウイルスが施策に影響を与えるまで待ち、システムを実際にどのようにこれまで通りに実施するかを考える期間が長くなればなるほど、選挙の実施の困難が募っていきます」。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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アメリカ政治の秘密
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ハーヴァード大学の秘密 日本人が知らない世界一の名門の裏側
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 古村治彦です。

 今年の大統領選挙で民主党の大統領選挙候補者に事実上決定しているジョー・バイデン前副大統領は、自身の副大統領候補として女性を起用すると公約している。今年の大統領選挙民主党予備選挙には女性候補者たちが数多く出た。その数は史上最高だった。予備選挙で善戦したエリザベス・ウォーレン連邦上院議員(マサチューセッツ州選出)、エイミー・クロウブシャー連邦上院議員(ミネソタ州選出)、カマラ・ハリス連邦上院議員(カリフォルニア州選出)といった人々が副大統領候補の候補者として挙げられている。
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 現在の新型コロナウイルス感染拡大はアメリカ国内で深刻であるが、そうした中で、各州の州知事の中で、感染拡大への対応で評価を上げている人たちがいる。ニューヨーク州のアンドリュー・クオモ知事やミシガン州のグレッチェン・ウィットマー知事がそうである。ウィットマーも今年の大統領選挙の副大統領候補として名前が挙がっている。しかし、クオモとウィットマーは次の20204年の大統領選挙に温存している方が両人にとっても民主党にとっても良いだろう。

 そうした中で、スーザン・ライスがPBSのインタヴューに答えて、バイデンの副大統領候補に選ばれたら、「謹んで受諾する」と答えた。ライスも副大統領候補の候補者の1人と考えられている。ライスはバラク・オバマ前政権で国連大使や国家安全保障問題担当大統領補佐官を歴任した。ライスはヒラリー・クリントンの後任の国務長官の候補者として考えられていたが、アメリカ公使が殺害されたリビアのベンガジで起きた事件で味噌をつけてしまい国務長官になり損ねた。

トランプ大統領が最初に国家安全保障問題担当大統領補佐官に選んだマイケル・フリンに関して、ロシア大使との事前の電話会談がマスコミにリークされ、不倫はほぼ活動ができないままに辞任を余儀なくされた。このことに関して、オバマ政権末期にバイデンを含む高官たちがフリンの諜報上の情報を得るための申請をしていた。その高官リストにスーザン・ライスも入っていた。この問題はあまり大きいとは言えないが、オバマ政権によるトランプ政権への妨害ということであり、トランプ大統領は「オバマゲート事件」と呼んでいる。

 ライスは人道的介入主義派、ヒラリー派の人物であるが、オバマとの関係も悪くなかった。両者をつなぐことができた人物である。バイデンがもし大統領に当選すれば、スーザン・ライスも政府高官(国務長官クラス)、ホワイトハウスの最側近のスタッフ(国家安全保障問題担当大統領補佐官クラス)として復帰することも考えられる。しかし、副大統領候補となるには少し弱いところがある。ライスが副大統領候補に選ばれることはないだろう。何よりもヒラリー派の復活に対して、進歩主義派が大反対するだろう。そうなれば、バイデン大統領誕生も危うくなる。

 

(貼り付けはじめ)

スーザン・ライスはバイデンの副大統領候補Susan Rice says she would 'certainly say yes' to be Biden's VP

J・エドワード・モレノ筆

2020年5月14日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/campaign/497924-susan-rice-says-she-would-certainly-say-yes-to-be-bidens-vp

オバマ政権で国家安全保障問題担当大統領補佐官を務めたスーザン・ライスは、民主党大統領選挙候補者を確実にしているジョー・バイデンがライスに副大統領候補になるように依頼してきたら、「確実にイエスと言う」と発言した。


ライスはPBSとのインタヴューの中で、「私は素晴らしい実績を残した女性の方々の中に入れていただいたことを謹んで受諾します。これは大変に光栄なことです。こうした女性たちは副大統領候補として考えられていると報道されています」と述べた。

ライスはまた、バイデン前副大統領が、ライスが副大統領の最良の候補だと考えているのならば、自分としてはノーということはないだろうとも述べた。

ライスは「私は自分ができる限りの努力をして、彼を次期アメリカ大統領にしたいと願っています」と述べた。

バイデンは女性を副大統領候補に起用すると公約している。そして今月初め、彼の副大統領候補選定委員会は「12名以上の女性」を候補者として挙げているとも述べた。

今月CBSが行った世論調査の結果では、エリザベス・ウォーレン連邦上院議員(マサチューセッツ州選出、民主党)が、バイデンの副大統領として、民主党員や民主党支持の有権者の中でトップに選ばれた。ライスは、ミシガン州知事グレッチェン・ウィットマーと並んで6位につけた。

ライスの名前は国家情報局長官代行リチャード・グレネルが発表したオバマ政権の幹部だった人物たちのリストの中にも入っている。グレネルによると、これらの元幹部たちは、トランプ政権で国家安全保障問題担当大統領補佐官を務めたマイケル・フリンの「アンマスキング」につながる文書の提出を求めたということだ。マイケル・フリンに関するアンマスキングとは、2016年の大統領選挙からトランプ大統領の就任式までの期間に出された諜報レポートにおけるフリンの記述について提出を求めるものだ。

このリストの発表によって、共和党の連邦議員たちは、オバマ政権の幹部だった人物たちの行動についての調査を開始した。議員たちはライスの国家安全保障問題担当大統領補佐官時代のコミュニケーションに関連する情報の提供を求めている。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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 古村治彦です。

 新型コロナウイルス感染拡大による経済不安のために、金(きん)価格が高騰している。下の記事にあるように、金の地金を扱う田中貴金属、徳力、石福金属興業、三菱マテリアル、日本マテリアルは緊急事態宣言を受けて、店頭での近似崖の売買を停止した。電話での購入注文は受け付けてきた。田中貴金属では、5月18日からは店頭での買取を再開している。しかし、売渡は行われないようだ。

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直近1カ月間の金価格の動き 

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直近5年間の金価格の動き

 貼り付けてあるグラフが示しているように、金(きん)価格は上がっている。金を資産として保有している、準備が良くできている人たちは、生活資金や事業資金のために金の売却ができる。それで一息つける人も多く出るだろう。「備えあれば患いなし(有備無患)」という言葉は漢文の授業で最初に習う言葉であるが、まさにこの言葉の通りだ。

 金の先物を買っている金融業者は、地金の引き取りを要求し、それに応えられない業者は、金融業者に先物で購入した分の資金に現金をプラスして支払っているということだ。金の先物取引とは、たとえば、「半年後に金1グラム4000円で買う(売る)」という取引だ。現在では金価格が上昇していることもあり、金地金が足りない、準備ができないと実物を渡せないので、差金決済でしか応じないということが起きているそうだ。買金地金が足りないということもあって、日本の金地金商でも、客からの買取を先に行い、売渡は後ということになる。実物を持っていることが強い、ということになる。

 新型コロナウイルス感染拡大の経済への悪影響はこれからも続く。不況、デフレということになる。こういう時には現金と現金に換えられる実物を持っていることが何よりも強いということになる。

(貼り付けはじめ)

●「金などの店頭売買、相次ぎ停止 田中貴金属など地金商 コロナ禍対応で 機動的な売買できず」

日本経済新聞 2020/4/20 17:25

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO58267330Q0A420C2QM8000/

国内地金商最大手の田中貴金属工業は20日、全国の直営店と特約店の店頭で金など貴金属商品の取引を停止すると発表した。新型コロナウイルスの感染防止と従業員の安全の確保が狙い。他の地金商も既に店舗での対面売買をやめており、一時的に貴金属の機動的な売買ができなくなる。

田中貴金属は、地金やコインといった資産用の貴金属商品の売買や貴金属製品の買い取りサービスなどを56日まで停止する。停止期間中は直営店全店を休業するが、電話での地金・コインの購入注文は受け付ける。

徳力本店や石福金属興業など大手地金商も既に56日まで店舗での対面売買を中止。三菱マテリアルや日本マテリアル(東京・千代田)も同様の対応をしている。

換金などの速やかな売買ができなくなり、現物市場の流動性が落ちる見込み。マーケット・ストラテジィ・インスティチュートの亀井幸一郎代表は「事態が長期化すれば、業界として流動性を確保するための対応策が必要になる」と指摘する。

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●「金先物価格が6,000円台に、新型コロナ終息でも安心できない世界経済」

小菅努 | マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト

5/18() 9:37

https://news.yahoo.co.jp/byline/kosugetsutomu/20200518-00179032/

金価格の上昇が続いている。東京商品取引所(TOCOM)の金先物価格は、518日の取引で1グラム=6,000円台に乗せ、取引開始以来の高値を更新した。年初の5,303円に対して、新型コロナウイルスの感染拡大で投資環境が極端に不安定化した3月には一時4,876円まで下落していたが、その後はほぼ一本調子で値位置を切り上げる展開になっている。

新型コロナウイルスの感染被害に関しては、世界的に終息傾向にあり、経済活動の正常化が打診される環境になっている。中国や韓国などで感染被害の第2波も観測されているが、日本も含めた各国で外出・移動規制の緩和・撤廃が進んでおり、経済活動は最悪の状態を脱した可能性が高くなっている。このため、株価や資源価格には下げ一服感がみられるが、こうした環境下で安全資産である金価格が急伸し始めている。

■金融政策と財政政策がフル稼働に

背景にあるのは、景気低迷が長期化するのではないかとの警戒感だ。パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長は513日、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、米経済は「長期」にわたって成長が低迷する可能性を指摘した。4月の米雇用統計では非農業部門就業者数が前月から2,050万人減少し、失業率が前月の4.4%から14.7%まで跳ね上がったが、過去最大規模の経済的ショックによって、回復が勢いづくまでは一定の時間が掛かる可能性を指摘している。

特に公衆衛生上のリスクが長引く事態に強い警戒感を示しているが、新型コロナウイルスの感染抑制に向けた取り組みと同時に、政府と中央銀行の積極的な対応の必要性について言及している。

FRBに関しては、既にゼロ金利政策の導入と無制限の量的緩和政策を実施しており、過去最大規模の金融策を展開している。トランプ米大統領の主張するマイナス金利導入に金融当局は慎重だが、現行政策の縮小・停止を議論できる状況にはなく、追加緩和策の導入を迫られるのではないかとの警戒感が強い。

一方、米議会は既に第14弾の新型コロナウイルス対策法案を成立させ、総額3兆ドルという異例の規模の財政政策を展開している。米国内総生産(GDP)の15%に近い規模だが、議会では民主党が更に3兆ドル規模の追加対策を要請するなど、第5弾、更には第6弾の対策法案の議論も始まっている。

■ドルと米国債に対する信認にリスク

金市場の視点では、FRBの積極的な金融緩和策は、金利低下を通じて金の保有コスト軽減につながることになる。金は原則として金利や配当を発生させることがないため、金利低下局面で買われる一方、金利上昇局面では売られる傾向にある。また、FRBが国債や社債などのリスク性のある資産を購入し続けることで、国際基軸通貨ドルの信認問題も浮上している。ジャンク債と言われる高利回り債も購入しているが、仮に企業のデフォルトなどが大量発生すると、FRBのバランスシートが毀損されることになり、それは必然的にドルの信認に傷を付けることになる。

一方、国債の信頼は財政政策に強く依存するが、当初は1兆ドル規模と予想されていた2020会計年度の財政赤字は、議会予算局の推計では3.4兆ドル規模に膨れ上がる見通しになっている。財政環境の持続性については、ここ数年は「財政の崖」といった形で金市場の関心事になったが、新型コロナウイルス対策で過去に経験したこのない財政出動を迫られる中、財政赤字は一気に拡大し、公的部門の累積債務も急増することになる。財政収支と金価格との間には逆相関関係が認められているが、膨張する財政赤字に対する警戒感も、金価格を強く刺激している。

これらの問題は、直ちにドルや米国債が急落することを意味するものではない。しかし、新型コロナウイルス対策で財政拡張が進み、民間部門で吸収しきれない国債をFRBが積極的に購入する仕組みに対しては、不安を感じる投資家も多い。仮にパウエルFRB議長の認識が正しければ、こうした有事対応は数か月ではなく数年単位の議論になる見通しであり、投資家の不安心理の受け皿として金が再注目されている。

あくまでも一時的な有事対応との見方もある。しかし、前回の世界同時金融危機の際にもこれに近い政策が採用されたが、その後に累積債務の大規模な削減が始まった訳でも、FRBの保有資産売却が本格化した訳ではない。仮にこの政策を正常化しようとすれば、2013年の「バーナンキ・ショック」以上のテーパー・タントラム(量的緩和縮小の示唆に伴う市場の動揺)に見舞われる可能性も高い。

■米中関係の緊迫化も

しかも、この最悪のタイミングで米中関係が再び緊迫化している。トランプ政権内では、新型コロナウイルスへの対応、更には米中通商合意の履行状態について、対中批判の声が強くなっている。トランプ大統領も14日に中国との「断交」断交の可能性を検討しており、中国の習近平・国家主席と現在は会いたくないと発言している。

この流れの中で、米商務省は17日、中国のファーウェイに対する半導体輸出規制の措置を発表し、中国商務省はアップルなど米ハイテク企業に対する報復の可能性を警告している。トランプ大統領の発言一つによって、米中関係が一気に緊迫化する可能性があり、新型コロナウイルスによるダメージからの立ち直りを打診する世界経済が、米中対立のショックを乗り切ることができるのか、高まる不安心理が金相場を押し上げている。

世界経済の低迷、大規模な財政出動と金融緩和政策、米中対立の激化と、新型コロナウイルスは感染被害が終息した後も、投資環境に大きなリスクをもたらすことになる。金価格が改めて上昇傾向を強めていることは、新型コロナウイルスによって生じたショックの後処理には、課題が山積しているとの危機感を反映したものと言えよう。世界同時金融危機後の値動きをみても、金価格の高騰はこれから年単位で展開される可能性が高まっている。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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アメリカ政治の秘密
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ハーヴァード大学の秘密 日本人が知らない世界一の名門の裏側
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 古村治彦です。

 『もうすぐ世界恐慌 そしてハイパー(超)インフレが襲い来る』(副島隆彦著、徳間書店、2019年4月)と『ソフトバンク崩壊の恐怖と農中・ゆうちょに迫る金融危機』(黒川敦彦著、講談社+α新書、2020年3月)から見えてくるのは、それは「アメリカに大事なお金をむしり取られる日本の姿、属国日本の悲しい現実」という冷酷な事実だ。

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もうすぐ世界恐慌 そしてハイパー(超)インフレが襲い来る

 2冊の本が同時に取り上げているのが孫正義氏率いるソフトバンクだ。ソフトバンクに倒産・破綻の危機が迫っているということが書かれている。ソフトバンクの本業は何かはっきりしない会社だ。携帯電話を売っている(ユニークな内容のCMで知られるようになった)ということは誰でも知っているがそれは5000億円程度の規模だ。ソフトバンク自体は「36兆円の資産を持っている」と主張している。私たちがよく知っているソフトバンクの「本業」は資産の70分の1程度だ。このソフトバンクの「資産」をよく見て見ると、そのほとんどは「無形固定資産(知財=のれん=ノウハウ)」だ(『もうすぐ世界恐慌』、167ページ)。『ソフトバンク崩壊の恐怖~』では、「ソフトバンクは既に事業会社ではなく投資会社に変貌している」と書かれている(23ページ)。ここでの問題はソフトバンクの投資先だ。
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ソフトバンク崩壊の恐怖と農中・ゆうちょに迫る金融危機 (講談社+α新書)

 ソフトバンクの投資先企業、ウィーワーク、ウーバー、オヨといった企業には問題が多い。更に、ソフトバンクはビジョン・ファンドという投資会社を作っているが、ビジョン・ファンドが資金提供を受けているのはサウジアラビアのムハマンド・ビン・サルマン皇太子だ。サルマン皇太子からは4兆円の資金提供を受けているが、皇太子からの資金に対して年間7%の利回りを保証している。これは年間2800億円をサルマン皇太子に支払わねばならないということを意味する。

ソフトバンクが持っている中で優良なのは中国のアリババ集団の株式14兆円くらいのものだ。アメリカの通信会社スプリント社を買って失敗、イギリスの半導体会社アーム社を買って失敗という状況もある。そうした中で借金(社債と銀行融資)はどんどん膨らんでおり、総額は27兆円となっている。その内の17兆円はみずほ銀行が貸し付けている。

孫正義氏はスプリント社の買収やアメリカへの500億ドル(約5兆4000億円)規模の投資を当選直後のトランプ大統領に約束した。スプリント社は全米屈指の通信会社と言えば聞こえはいいが、実際にはヴェライゾンなどからは大きく置いていかれている。そんな会社をどうして買ったのかは全くもって不思議だ。また、アメリカへ投資もよく分からない。

こうしたことは、孫正義氏の「上司」「親分」が投資会社ブラックストーンCEOスティーヴン・シュワルツマンとであるということが分かるとなるほどと納得できる。『ソフトバンク崩壊の恐怖~』にはこうしたことは書かれていないが、『もうすぐ世界恐慌』にはっ切りと書かれている。副島隆彦はこれまで繰り返し、孫正義がシュワルツマンの忠実な子分であること、シュワルツマンはデイヴィッド・ロックフェラーの意向を受けて動くこちらも忠実な番頭格の子分であったことを書いてきている。

 『ソフトバンク崩壊の恐怖~』の後半部で指摘されているのは、農林中央金庫とゆうちょが持つ大切な資金が、アメリカの危険な債券に投資されているという実態だ。もちろん、このことは『もうすぐ世界恐慌』でも書かれている。ローン担保証券(Collateralized Loan Obligation、コラタラライズド・ローン・オブリゲーション、CLO)という診療力のない企業への債権を証券化したものだ。これはサブプライムローンと同じだ。焦げ付く危険性が高いものだ。このCLO(黒川氏はアルファベット3文字に略される金融商品は危険だと指摘している)を農林中金とゆうちょが大量に買い込んでいる。それを指導しているのは、ゴールドマンサックス出身の人々だ。また、ゼロ金利で収益が上がらない地方銀行も危険な商品を買い込んでいる。こうした危険な商品が爆発すると、リーマンショック以上の金融爆発が起き、世界恐慌へと進んでしまう。この時、日本人が汗水たらして貯めてきたお金が消え去ってしまう。

 今回の新型コロナウイルス感染拡大は富裕層にもマイナスの影響を及ぼしている。前々回の記事でご紹介したが、トランプ大統領の長年の盟友であり、世界のカジノ産業のトップであるシェルドン・アデルソンは資産を3割も吹っ飛ばしている。4兆円が3兆円になり、1兆円が今年に入って消えてなくなってしまったということだ。フォーブス誌は今年の3月上旬からの12日間で200名以上の富豪が億万長者、ビリオネア(10億米ドル[約1100億円])のステータスから外れたとしている。3月上旬の時点で10億ドル以上の資産を持っている富豪が世界で2200名以上いたが、それが3月18日の時点で2000名になっていたということである。これは3月の中旬時点での数字なので、現在は株式が戻りつつあるにしても、更に億万長者の数は減っているだろう。

 トランプ大統領は就任以来、株高を演出し、好景気だと言い張ることで支持を集めてきた。前回の記事でも名前が出ていた、シェルドン・アデルソンやカール・アイカーンといった、いかがわしい動きをする盟友・友人たちのために株高を演出してきた。日本もその片棒を担がされる形になった。しかし、世界全体が新型コロナウイルス(COIVD-19)感染拡大の悪影響をもろに受けている。これから悪影響はより広く、より深刻に社会や経済に浸透していく。そうなると、世界経済は減速、同時不況ということになる。2008年のリーマンショックを超えるレヴェルとなれば、世界大恐慌ということにもなるだろう。

 不景気、デフレとなれば現金の持つ力は大きくなる。現金と流動性の高い(すぐにお金に換えられる)実物、具体的には金(きん)ということになるというのは、経済に疎い私でも容易に導き出せる考えだ。

(終わり)

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ハーヴァード大学の秘密 日本人が知らない世界一の名門の裏側
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 古村治彦です。

 世界的な大ベストセラー『サピエンス全史』の著者ユヴァル・ノア・ハラリ博士の新型コロナウイルス感染拡大に関する論考をご紹介する。少し古いものであるが、示唆に富んだ内容になっている。
yvalnoahharari110

 ハラリ自身はディストピアに向かうかどうかの岐路に立っている段階という考えであるようだが、私は既にディストピアに向かっている、少なくとも日本はそうだという考えを持っている。最新の監視システムによって、身体の状態だけでなく、感情の動き(喜び、悲しみ、怒り、退屈さ)も監視されるようになっている中で、日本では「健康を守るために」という考えを最高のテーマ、金科玉条にして、より強い管理や国家による統制を求めるような声や動きが出ている。国家の財政的な裏付、支援なき「自粛要請」で数多くの店舗や企業が休業を選択し、少数の営業を続ける店舗などに対して、匿名で貼り紙をするなどして「自粛しろ」と迫る、民間の「自粛ポリス」の出現などは管理統制社会のスタートでしかない。

 人々が正しい情報や知識を得て、自分たちのできる範囲でウイルス対策を行いつつ、社会活動や経済活動を行う、もうウイルスの根絶は不可能なのだから、ウイルスとの「並存」を進めねばならない。国家に統制管理されるのではなく、自分たちで動く、国家に監視されるのではなく、監視する、そのために国家が利用するテクノロジーを私たちこそが使うということが必要となってくる。このような危機的とされる状況の中でこそ、そうしたことが必要だ。文中に「人々が席巻を使用しているかどうかをチェックする警察」という言葉が出てくるが、そのようなものが存在することを私たちは許してはならない。

 今回の新型コロナウイルス感染拡大で国際協調は難しい状況になっている。先進諸国、諸大国で自国優先主義(isolationism、アイソレーショニズム)が勢いを増している中で、このような世界規模の疾病拡大が起きると、国際協調よりも分断が起きることになる。そしてやがて戦争に向かうということになるのだろう。経済的苦境を一気に解決する手段として人類は戦争を選択してきた。今回もそうならないということは断言できない。

 新型コロナウイルスに負けない、とは、私たちが重要だとしてきた諸価値を曲げないということだ。

sapienszenshi110
サピエンス全史 上下合本版 文明の構造と人類の幸福

 (貼り付けはじめ)

ユヴァル・ノア・ハラリ:コロナウイルス後の世界(Yuval Noah Harari: the world after coronavirus

―この嵐はいずれ過ぎ去る。しかし、私たちが今行う選択はこれからの私たちの生活を変化させることになるだろう。

ユヴァル・ノア・ハラリ(Yuval Noah Harari)筆

2020年3月20日

『フィナンシャル・タイムズ』紙

https://www.ft.com/content/19d90308-6858-11ea-a3c9-1fe6fedcca75

人類は現在世界規模の危機に直面している。恐らく、現在を生きている私たちにとって最大の危機である。これから数週間で人々と政府が行う決定がこれから数年間の世界を形作るものとなるだろう。人々と政府は私たちの医療制度を形作るだけではなく、経済、政治、文化をも形作ることになるだろう。私たちは早急にかつ断固とした行動をしなければならない。私たちは自分たちの行動の長期的な結果についても考慮しなければならない。様々な選択肢の中から選択をする時、直近の脅威をどのように乗り越えるだけではなく、嵐が過ぎ去った後にどのような世界に生きるのかということも問わねばならない。そうなのだ、嵐は過ぎ去る、人類という種は生き残る、私たちのほとんどはこれからも生きていく。しかし、私たちはこれまでとは全く違う世界を生きることになるだろう。

多くの短期的な緊急対策は人生にとっての備えとなるだろう。これこそが緊急事態というものの本質である。緊急事態は歴史的なプロセスを加速させて進める。通常の際には決定に至るまで熟慮を重ねて数年を費やすということがあるが、そうしたことが数時間で決定されるということもある。成熟していない危険なテクノロジーでさえも使わなければならない状況に追い込まれている。それは何もしないというリスクの方がより大きくなっているからだ。全ての国々が大規模な社会実験における実験材料のモルモットとなっている。全ての人々が自宅で仕事をし、離れてコミュニケイションを取ることで何が起きるだろうか?全ての学校と大学が授業をインターネットで行うことで何が起きるだろうか? 普通の時期であれば、政府、企業、教育機関はこのような実験を行うことに決して同意などしないだろう。しかし、現在は普通の時期ではないのだ。

この危機の時期において、私たちは2つの極めて重要な選択に直面している。1つ目の選択は、全体主義的な監視(totalitarian surveillance)と市民の力の強化(citizen empowerment)との間の選択である。2つ目の選択は、ナショナリズム的な国内優先主義(nationalistic isolationism)と世界規模での連帯(global solidarity)との間の選択である。

●皮下の監視(Under-the-skin surveillance

地域的な感染拡大を阻止するために、全ての人々はいくつかのガイドラインに従う必要がある。感染拡大阻止には主に2つの方法がある。1つの方法は、政府が人々を監視し、ルールを破った人を罰することである。今日、人類史上初めて、全ての人々を24時間監視できるテクノロジーが完成しているのである。

50年前、KGBは2億4000万人のソ連の住人を24時間監視することはできなかった。また、KGBは集めた情報全てを効果的に処理するということを望むべくもなかった。KGBは人間のエージェントと分析家に頼っていた。そして、KGBは人間のエージェントに全ての市民を尾行させることなどできなかった。しかし、現在、各国政府は、人間のスパイではなく、遍在的なセンサーや強力なアルゴリズムに依存している。

コロナウイルスの感染拡大に対する戦いの中で、各国政府は既に最新の調査ツールを導入している。その最も進んだケースは中国だ。人々のスマートフォンを注意深く監視し、数百万台の顔認証を利用し、人々に体温と体調をチェックし報告するように命じることで、中国の当局はコロナウイルス保有の疑いがある人たちをすぐに特定することができる。それだけではなく、そうした人々の行動を追跡し、接触があった人々を特定することも可能である。数多くのスマートフォンのアプリを使うことで、ウイルス感染者への接近に対して人々に警告を発することができる。

この種のテクノロジー使用は東アジアに限られているものではない。イスラエルのベンジャミン・ネタニヤフ首相はイスラエル総保安庁に対して、通常であればテロリストたちとの戦いに限定されているテクノロジーをコロナウイルスの感染者たちを追跡することに使用することを許可した。重要な議会の小委員会はこの方法を承認することを拒絶した際、ネタニヤフは「緊急布告」を用いて強行した。

これらの動きについてなにも新しいものではないと主張する人がいるだろう。ここ数年、世界各国の政府と各企業は人々を追跡し、監視し、動かして利用するためのより洗練された技術を利用している。しかし、私たちが注意深くなければ、今回の感染拡大は監視の歴史にとって重要な分水嶺となるだろう。それは、大規模な監視設備の設置を拒絶してきた国々でこうした設備の設置が進められるということだけではなく、監視が「皮膚の上」(訳者註:身体)から「皮膚の下」(訳者註:感情)へと重要な転換が起きることになるからである。

これまで、あなたのスマートフォンのスクリーンに指で触り、リンクをクリックする際には、政府はあなたの指が何をクリックするのかについて正確に知りたいと望んでいる。しかし、コロナウイルス感染拡大の中で、関心は変化している。現在、政府はあなたの指の温度と皮下の血圧について知りたいと望んでいる。

●緊急時のプディング(The emergency pudding

監視について私たちが直面している問題の一つは、私たちがどのように監視されているのか、そしてこれからどのようになるかについて正確に理解している人は一人もいないということだ。監視技術は危険なほどの速度で開発されている。10年前のSFで描かれたものが現在ではもう古いニュースとなっているようなものだ。思考実験として、ある政府が全ての市民に対して24時間体制で体温と脈拍数を監視するための生体識別のブレスレットを着用するように求めるということを考えてみる。集められたデータは政府のアルゴリズムによって貯蔵され分析される。このアルゴリズムは、あなた自身が気付く前に、あなたが病気になっていることに気づく。そして、あなたがどこにいて、誰と会ったかということも分かることになる。感染の連鎖は劇的に短くすることが可能になり、切断することができるようになる。このようなシステムが確立されれば、感染拡大などは数日以内に阻止することが可能ということになる。とても素晴らしい話ではないか?

このシステムの欠点は当然のことながら、恐ろしい新しい監視システムに対して正当性を与えるということである。もし私がCNNではなくFOXニュースをより多くクリックするということになると、これは私の政治に関する考えや性格までが分かってしまうことになる。私が映像を見ている間に、私の体温、血圧、脈拍数の変化について監視できるとなると、それによって、私が何に笑い、何に泣き、何に怒るかについて分かることになる。

こうした怒り、喜び、退屈さ、愛が発熱と咳と同様に生物学的な現象であることを記憶しておくことは重要だ。咳(coughs)を認識する技術は笑い(laughs)を認識することもできる。もし各企業と各国政府が私たちの生体認証に関わるデータを一気に集め活用することができるならば、企業や政府は、私たち自身よりも、私たちのことをより多く知ることができるようになるだろう。そして、私たちの感情が次にどのように動くかを予測するだけではなく、私たちの感情を利用することになるだろう。そうすれば彼らは売りたいと望むものを私たちに売りつけることができる。売り込むものは製品であるだろうし、また政治家でもあるだろう。生体認証技術を使った監視を見れば、ケンブリッジ・アナリティカ社のデータハッキング事件などは石器時代の事件のようだ。2030年の北朝鮮について考えてみよう。この時の北朝鮮では全国民が1日24時間ずっと生体認証ブレスレットを直用しなければならないことになっているだろう。ある国民がこの時の偉大なる指導者による演説を聞いているときに、このブレスレットがこの国民の怒りの感情を認識し当局に通告するということになれば、この国民は処分される。

もちろん、読者の中には生体認証技術を使った監視設備は緊急事態の間だけの一時的な手法であると考える人もいるだろう。緊急事態が終われば、この監視システムは放棄されるだろうと考えるだろう。しかし、維持的な手法は常に連続する様々な緊急事態で続くという酷いことが起きる。常に新しい緊急事態が次々と出てくるのだ。例えば、私の住む国イスラエルでは、1948年の独立戦争の時に緊急事態が宣言された。この緊急事態によって、様々な一時的な方策が正当化された。メディアの検閲やプディングを作るための工場用の土地収用(冗談を言っているのではない)が緊急事態宣言によって正当化された。イスラエル独立戦争はとっくの昔に勝利で終わったが、イスラエル政府は緊急事態の終了を宣言することはなかった。そして、イスラエル政府は1948年に行った「一時的な」手法の多くを放棄することはできなかった(緊急時のプディング工場の布告は幸いにも2011年に廃止された)。

コロナウイルスの感染者数がゼロに近づくとしても、データを欲している各国政府は生体認証技術を使った監視システムを継続する必要があると主張することだろう。各国政府がコロナウイルスの第二波の発生に恐怖を持っている、アフリカ中央部での新たなエボラ出血熱が発生している、もしくは、と色々な理由が出されることだろう。ここ数年の私たちのプライヴァシーをめぐっては大きな戦いが発生している。コロナウイルス危機はこの戦いの転換点となるだろう。人々はプライヴァシーと健康のどちらを選ぶかと問われるならば、人々は多くの場合、健康を選ぶことだろう。

●石鹸使用をチェックする警察(The soap police

人々に対して、プライヴァシーと健康のどちらかを選べと求めることは、重大な問題である。なぜならそれは間違った選択肢の提示であるからだ。私たちはプライヴァシーと健康の両方を享受できるし、そうすべきだ。私たちは、全体主義的な監視体制を導入するのではなく、市民の力を強めることで、自分たちの健康を守り、コロナウイルスの感染拡大を阻止することを選ぶことができる。ここ数週間、コロナウイルス感染拡大を封じ込めるための努力の中で成功したのは、韓国、台湾、シンガポールによってなされたものだ。 これらの国々は人々の追跡アプリを使用してはいるが、これらの国々は既存の検査設備、事実の正しい報告、情報が十分に与えられた人々による協力に依存している。

集中化した監視と厳しい刑罰だけが人々を有益なガイドラインに従わせるための方法ではない。人々が科学的事実について教えられている場合、そして、人々が当局は事実を伝えていると信頼している場合、人々は、「ビッグ・ブラザー」型の一人一人への監視システムがなくても、正しいことを行うことができる。自ら進んで実行する意識と知識・情報を持つ人々は、警察に統制された、無知な人々よりも、より強力で効果的な動きをすることができるのだ。

例えば、石鹸を使って手を洗うということについて考えて欲しい。これは人類の衛生にとって大きな進歩なのである。この簡単な行為によって毎年数百万の命が救われている。私たちはそれを当然のこととしているが、石鹸を使って手を洗うことの重要性を科学者たちが発見したのはようやく19世紀になってからだ。それ以前の時代には、医者と看護師たちは一つの外科手術を行った後、手を洗うことなしに次の外科手術を行っていた。今日、数億の人々は毎日手を洗っている。それは石鹸を使用しているかをチェックする警察を恐れているからではなく、人々が事実をきちんと理解しているからだ。私は石鹸を使って手を洗う、それは、ウイルスや細菌について認識し、それらの極めて小さい生命体が疾病を引き起こすことを理解し、石鹸でこれらの生命体を除去できると知っているからだ。

しかし、このようなレヴェルの追従と協力を達成するためには信頼が必要となる。人々は科学を信用し、政府当局を信用し、メディアを信用しなければならない。これまでの数年、無責任な政治家たちが思慮に欠け、科学、政府当局、メディアに対する信頼を損なうような行動を取った。現在、このようなことを行った無責任な政治家たちは権威主義性体制(authoritarianism)に向かいたいという誘惑に駆られているかもしれない。こうした政治家たちは、「人々がコロナウイルス感染拡大の防止のために適切な行動を取るなどということが信じられない」と主張し、権威主義政治体制に向かおうとするだろう。

通常、数年をかけて毀損されてしまった信頼を一晩で回復することは不可能だ。しかし、現在は通常の時期ではない。危機の時には、人々の気持ちもまた考えは急速に変化するものだ。長年にわたり兄弟たちと長年にわたり激しい喧嘩をしていても、緊急事態が起きれば、監視システムを構築する代わりに、お互いに助け合うようになる。監視システムを構築する代わりに、科学、政府当局、メディアに対する人々の信頼を再構築するのに遅いということはない。私たちはまた新しい技術を使わねばならない。しかし、これらの技術は市民の力を強めねばならない。私は自分の体温と血圧を測定したい。しかし、これらのデータを万能な政府を作り出すために使われるべきではない。これらのデータを使って私は個人的な選択を行えるようにすべきであって、政府に決定に関する説明責任を果たさせるようにすべきである。

1日24時間私が自分の健康状態をチェックすることができれば、私は、自分が他人に対する健康上の障害になるということだけではなく、私の健康にどの習慣が貢献するかということも知ることができるようになる。コロナウイルス感染拡大についての信頼できる統計データにアクセスし、分析できることになれば、私は政府が私に真実を伝えているかどうか、政府が感染拡大と戦うために正しい政策を実行しているかどうかを判断できるだろう。監視について話すときはいつも、監視技術は政府が人々を監視するために使うだけではなく、人々が政府を監視するためにも使えることも記憶しておくべきだ。

コロナウイルス感染拡大は私たちの市民性に対する重大な試験ということになる。これから、私たち一人ひとりは、根拠のない権力者共同謀議論(陰謀論、conspiracy theories)と自己中心的な政治家ではなく、科学的データと医療の専門家たちを信頼することを選択すべきだ。もし私たちが正しい選択ができなければ、 自分たちの健康を守る唯一の方法はこれしかないと考えることで、私たちは重要な自由を失うことになるだろう。

●私たちには世界規模のプランが必要だ(We need a global plan

私たちが直面している2つ目の重要な選択は、ナショナリズム的な国内優先主義(nationalistic isolationism)と世界規模での連帯(global solidarity)の間にある。爆発的感染それ自体と結果としての経済危機は世界規模での問題だ。これらの諸問題は世界規模での協力によってのみ解決可能となるだろう。

まずもってウイルスを倒すために、私たちは世界的に情報を共有する必要がある。世界的に情報を共有できることは人々がウイルスに対して持つ優位性となる。中国にいるコロナウイルスとアメリカにいるコロナウイルスは人々にどのように感染するかについてヒントや教訓を交換できない。しかし、中国はアメリカに対してコロナウイルスについて、そしてどのように対処すべきかについて価値ある教訓を多く教えることができる。イタリアの医師がある日の早朝にミラノで発見したことはその日の夕方にはテヘランでの人々の声明を救うということも可能だ。イギリス政府がいくつかの政策でどれを選ぶか躊躇するとき、1か月前に同様のジレンマに直面した韓国政府が助言を与えることができる。しかし、こうしたことが現実化するためには、世界規模での協力と信頼の精神が必要なのである。

世界各国は情報を公開して共有することを進んで行うべきだ。そして、謙虚な姿勢で助言を求め、受け取るデータと知見を信頼すべきだ。また、医療資材の生産と分配について世界規模で努力する必要がある。特に検査機材と人工呼吸器はそうだ。

全ての国が医療資材の生産と分配を個々に行い、手に入る設備を貯めようとする代わりに、世界規模での協調の努力によって、生産は促進され、人々の声明を救うために必要な設備はより公平に分配されることになる。各国は戦争になれば主要な産業を国有化するがそれと同様に、コロナウイルスと人間との戦争には重要な生産ラインを「人間性を与える」必要がある。コロナウイルス感染数が少ない豊かな国は感染数が多い貧しい国に重要な設備を進んで送るようにすべきだ。ある国が支援を必要となれば、他国が必ず支援に来てくれると信頼できるようにすべきだ。

私たちは同様の試みとして、医療関連の人材の共同利用について考慮することになるだろう。感染拡大の影響が他国に比べて少ない国々からは世界各地の感染拡大が深刻な地域に医療スタッフを派遣することも考えられる。これは必要な時期に支援を行うためでもあるし、価値ある経験を更に積み重ねるためでもある。

感染拡大の流れを変えることに注力することで、協力と支援は正反対の流れを作り始めることができるだろう。

世界規模での協力は経済面でも極めて重要である。経済の世界規模での特性とサプライ・チェインについて考える際に、各国政府が自国のことばかりを考慮し、他国について全く考慮しないということになると、その結果は無秩序ということになり、危機をさらに深刻化させることになる。私たちには世界規模での行動計画が必要であり、それは出来るだけ早く必要なのである。

もう一つ必要なものは、旅行や移動について世界規模での合意である。数か月にわたる国際的な旅行や移動の全面的な禁止によって様々な弊害が出てくることだろう。それによってコロナウイルスに対する戦争は阻害されてしまうことになる。世界各国はどうしても必要な旅行者が国境を超えることができるように共同して運用しなければならない。必要な旅行者としては、科学者、医者、ジャーナリスト、政治家、実業家が挙げられる。こうした旅行者に対しては自国であらかじめ検査を受けることについて国際的な合意を結ぶことで旅行を認めることができる。もし注意深く検査された旅行者たちだけが飛行機に乗ることが認められるならば、皆さんは自分たちの国に受け入れやすくなるだろう。

不幸なことに、現在においては、これらの国々はこうしたことはほとんどできない。集団的な停滞は国際社会を覆いつくしている。部屋の中に落ち着いた大人は一人もいないようなものだ。世界の指導者たちは共同の行動計画を作るために既に数週間前に緊急会議を開いたはずだと思っている人もいるだろう。G7各国の指導者たちは今週になってようやくヴィデオ会議の形式を整えたが、何も具体的なプランを生み出すことはできなかった。

2008年の金融危機と2014年のエボラ出血熱の地域的感染拡大のようなこれまでの世界規模の危機において、アメリカは世界の指導者としての役割を自認していた。しかし、現在のアメリカの政権は指導者としての仕事を放棄している。アメリカの現政権が人類の将来よりもアメリカの偉大さをケアしていることは極めて明瞭になっている。

このアメリカの現政権は自分たちに最も近い同盟諸国すらも見捨てている。EUからの旅行を全て禁じた時、EUに対して事前に通告することはなかった。EUにはこのような劇的な手法を採用することについて相談をしただけだった。アメリカのトランプ政権は、あるドイツの製薬企業に対して新しいCOIVD-19のワクチンの独占権を10億ドルで買い取ろうと持ち掛けたことで、ドイツ成否を激怒させた。トランプ政権が徐々に方針を変え、世界規模での行動計画を作成するということになっても、責任を取ったことがない、間違いを認めたことがない、全てを他人に責任転嫁することを日常茶飯事にしている指導者に従うような人はほとんど出ないだろう。

アメリカが指導力を発揮しないことによる穴がほかの国々によって埋められないとなると、現在の感染拡大を止めることはより困難になるだけでなく、これからの国際関係にマイナスの影響を残すことになるだろう。しかし、全ての危機は機会でもある。私たちは、現在の感染拡大が世界の分裂によってもたらされている緊急の危険なのだということを人類に認識させることに役立つだろう。

人類は選択を迫られている。私たちは分裂の道を進むことになるのか、それとも世界的な連帯を採用することになるのか?もし私たちが分裂を選ぶならば、それは現在の危機を長期化させるだけでなく、将来においてより悲惨な状況になることだろう。もし私たちが世界規模での連帯を選ぶならば、それはコロナウイルスに対する勝利だけでなく、21世紀の人類に待ち受けている全ての地域的感染拡大(エピデミック、epidemic)と危機への勝利ともなるだろう。

※ユヴァル・ノア・ハラリは『サピエンス』、『ホモデウス』、『21世紀のための21の教訓』の著者である。

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