古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

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2022年05月

 古村治彦です。

 スイスの保養地ダヴォスで開催された世界経済フォーラム(WEF)に、インターネット(オンライン)を通じてヘンリー・キッシンジャーが登場した。キッシンジャーはウクライナ戦争勃発以前の状態に戻り、そこから交渉を始め、ウクライナは領土に関して譲歩すべきだ、そうやって戦争を終結させるべきだという考えを述べた。戦争以前の状態とは、2014年のロシアによるクリミア併合とウクライナ東部のドンバス地方でロシア系住民の多い地域の自治という状態から始めるということだ。キッシンジャーはクリミアとウクライナ東部(どの程度の広さまでを含むかは不明瞭)についてウクライナは譲歩(割譲)すべきだと述べたということになる。

 ウクライナ側では当然のことながらこれに対して反発が出ている。ヴォロディミール・ゼレンスキー大統領は「全ての領土を回復するまで戦う」と発言した。これは非常に重要な発言だ。ゼレンスキーの述べる「全ての領土」には2014年以降、ロシアに併合されているクリミア半島、自治区となっている東部地域も完全に回復するということになる。2014年以降に抱えた問題をこの戦争の機会を利用して一気に武力解決する、そのために戦争を継続するということになる。

2014年以降、ウクライナがこうした地域の回復のために武力をしようとすれば西側諸国は反対し、武器を供与するということに躊躇しただろう。しかし、現在はそうではない。西側諸国はそこまでの想定はしていないだろう。とりあえずロシア軍を撤退させることで戦争終結と考えているだろう。しかし、ウクライナの現政権にとっての戦争終結はクリミアと東部地方の回復である。と言うことは、戦争はより長期化し、より激戦化するということになる。ウクライナにしてみれば、敵(ロシア)を追い出すだけではなく、機会を捉えて敵を追おうということだ。

 ロシアのウラジミール・プーティン大統領の核兵器使用を含む確固とした姿勢を受け、『ニューヨーク・タイムズ』紙ですら、「もう戦争を止めたら(ウクライナが譲歩して)」ということを言い出した。アメリカ国内に向けた核攻撃の可能性が出てきて震えあがっているのだ。調子に乗って威勢のいいことを言ってみても、これでは何とも情けない限りだ。EUもまたロシアはいつでも隣人だと言い出した。そのうちにEUに入っていないウクライナを助ける義理はないなどと言い出すだろう。ヨーロッパ諸国が歴史的にやって来たことを見ればこれくらいのことはずるいとも悪辣とも言われない、日常茶飯事のことだ。

 ウクライナが全領土を回復することは不可能だ。西側諸国もそこまでのことには付き合いきれない。自分たちの身だって危うくなるのだ。そんな不可能なことを言い出して戦争を継続するということに何の正当性があるのか。かえって戦争を拡大し非常に危険なことだ。

(貼り付けはじめ)

ゼレンスキーはキッシンジャーによるウクライナが領土の一部をロシアに譲歩するという提案を拒絶(Zelensky rips Kissinger over suggestion Ukraine cede territory to Russia

ブラッド・ドレス筆

2022年5月25日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/news/3502032-zelensky-rips-kissinger-over-suggestion-ukraine-cede-territory-to-russia/

ウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領は水曜日、ヘンリー・キッシンジャー元米国務長官が今週初め、平和の名の下にウクライナの一部の領土をロシアに譲渡するよう示唆したことを非難した。

水曜日の演説で、ゼレンスキーはキッシンジャーが「遠い過去から姿を現し、ウクライナの一部をロシアに与えるべきだと発言した」と述べた。キッシンジャーは「カレンダーは2022年ではなく1938年だ」(これは、ナチスドイツがチェコスロヴァキア西部の土地を併合することを認めたミュンヘン協定にちなむ)と語った。

ゼレンスキーは次のように発言している。「ウクライナに対してロシアに何かを譲るよう助言する人々のこうした地政学的な思惑の裏にあるのは、“偉大な地政学者たち”は常に普通の人々を見ようとしないということがある。平和という幻想と交換しようと提案する領土に実際に住んでいる何百万人もの人たちがいるのだ。常に人々を見なければならない」。

月曜日にスイスのダヴォスで開催された世界経済フォーラムで、98歳のキッシンジャーは、モスクワとキエフの間で「平和に関する交渉を始める必要がある」と述べ、「理想的には、国境線は現状(status quo ante)に戻すべきだ」と述べた。

ロシアは2014年にウクライナからクリミア半島を併合し、東部のドネツク州やルハンスク州で分離主義運動を煽動した。ロシアのプーティン大統領は、ウクライナに軍を移動させ、本格的な攻撃を開始する前に、これらの地域の独立を宣言した。

ロシアはキエフ占領の野望を少なくとも一時的に縮小しているため、プーティンは戦争を終わらせる前に少なくとも東部のいくつかの地域を支配下に置きたいと考えているだろうと多くの人が見ている。

ゼレンスキーは水曜日、プーティンを指して「独裁者との再会を急ぐ人たち」には耳を貸さないと述べた。

ゼレンスキーは次のよう述べた。「ロシアが何をしようと、“その国益に配慮しよう”という人が必ずいる。今年もダヴォス会議でそうした声が聞かれた。何千発ものロシアのミサイルがウクライナを攻撃しているにもかかわらず、だ。何万人ものウクライナ人が殺されたにもかかわらず」。

ロシアがウクライナに侵攻したのは、プーティンが、ウクライナが加盟への関心を高めていた30カ国からなる安全保障ブロックであるNATOの勢力拡大を恐れたからでもある。しかし、戦争が始まって3カ月以上が経過し、プーティンの侵略は安全保障意識の高い北欧諸国のフィンランドとスウェーデンを刺激し、両国は西側の安全保障同盟に加盟する動きを見せている。

ロシアはウクライナ戦争で何度も敗北し攻勢が停滞した。その後、NATOはウクライナがロシアとの戦争に勝つことができると主張している。

ゼレンスキーは、ウクライナは「全ての領土を取り戻すまで」戦うと宣言し、最新の演説では、「国家を守る全ての人々は、東部におけるロシア軍の極めて激しい攻勢に抵抗している」と述べた。

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キッシンジャー発言の後ゼレンスキーがウクライナは全ての領土を回復するまで戦い続けると述べる(Zelensky says Ukraine will fight until it regains all its territories after Kissinger remark

キャロライン・ヴァキル筆

2022年5月25日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/policy/international/3501584-zelensky-says-ukraine-will-fight-until-it-regains-all-its-territories-after-kissinger-remark/

ウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領は、水曜日に開催された世界経済フォーラムで、ウクライナは全領土を取り戻すまで戦うと述べた。これは、ヘンリー・キッシンジャー元米国務長官が、ウクライナの国境はロシアの侵攻開始前と同じであるべきだと発言した後の発言である。

ゼレンスキーは「ウクライナが全領土を取り戻すまで戦うと言うとき、その意味はただ1つだ。それは独立と主権の話だ」と語った。

ウクライナ大統領の発言は、月曜日に世界経済フォーラムで発言したキッシンジャーが異なる結果を示唆した後のものだ。

キッシンジャーはウクライナとロシアとの国境線について次のように発言した。「私の考えでは、交渉と和平交渉に向けた動きは、戦争の結果の概要を説明するために、今後2ヶ月の間に開始する必要がある。しかし、その前に、特にロシア、グルジア、ウクライナのヨーロッパに対する最終的な関係の間に、克服するのがますます難しくなる動乱と緊張を生み出す可能性がある。理想的には、国境線は現状に戻るべきだ」。

2014年、ロシアはクリミアを併合したが、この動きはアメリカをはじめとする多くの国が違法と見なしている。侵攻開始のわずか数日前、ウクライナ東部の2つの離脱地域がロシア政府によって独立国家と認められた。

今回の発言は、ロシアのウクライナ侵攻が3カ月に及んでいることを受けてのものだ。ゼレンスキーは水曜日、ウクライナはロシアとの話し合いに前向きであるが、モスクワがそうし

ゼレンスキーは「少なくともロシア側が血みどろの戦争の段階から外交に移行する意欲を示していることを理解すればこの段階に移行することができる」と述べた。

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キッシンジャーは僭称を終結させるためにウクライナは領土を譲歩すべきだと述べる(Kissinger says Ukraine should cede territory to Russia to end war

ティモシー・ベルタ筆

2022年5月24日

『ワシントン・ポスト』紙

https://www.washingtonpost.com/world/2022/05/24/henry-kissinger-ukraine-russia-territory-davos/

ヘンリー・A・キッシンジャー元米国務長官は月曜日、ロシアからの侵略を終わらせるためにロシアに領土の一部を譲歩すべきだと述べた。戦争が4カ月目に入る中、ウクライナ人の大多数が反対している立場を提示した。

スイスのダヴォスで開催された世界経済フォーラムでの会議に登場し、キッシンジャーは、ウクライナでロシアに屈辱的な敗北を求めないようアメリカと西側諸国に促し、ヨーロッパの長期的安定を悪化させる可能性があると警告した。

西側諸国は、ヨーロッパにおけるロシアの重要性を思い起こし、「その場の雰囲気に流されない」ようにすべきだと述べた。続いて、キッシンジャーはまた、西側諸国がウクライナに「status quo ante」(以前の状態を意味する)の交渉を受け入れさせるよう推し進めることを求めた。

『デイリー・テレグラフ』紙は次のように報じている。98歳になるキッシンジャーは次のように述べた。「簡単に乗り越えられないような動乱や緊張を生み出す前に、これから2ヶ月の間に交渉を始める必要がある。理想的には、分水嶺は現状復帰(status quo ante)であるべきだと述べた。その先まで戦争を追求すると、ウクライナの自由のためではなく、ロシアそのものに対する新たな戦争が起きてしまう」。

リチャード・M・ニクソン大統領とジェラルド・フォード大統領の時代に国務長官を務めたキッシンジャーが言及した「現状維持(status quo ante)」とは、ロシアがクリミアを正式に支配し、ウクライナの最東端のルハンスクとドネツクの2つの地域を非公式に支配する状況を回復させることを指す。ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシアとの和平交渉に入るための条件として、侵攻前の国境線を回復させることを強調している。

キッシンジャーの発言は、ロシアによるウクライナ戦争が「国際秩序全体に疑問を投げかけている」と各国首脳が指摘する中でなされた。ヨーロッパ委員会のウルスラ・フォン・デア・ライエン委員長はダヴォス会議で、この戦争は「ウクライナの生存の問題」や「ヨーロッパの安全保障の問題」だけでなく、「国際社会全体の課題」であると述べた。ライエンは、ロシアのウラジミール・プーティン大統領の「破壊的な怒り」を嘆きながらも、ロシアが「民主政治体制、法の支配、国際ルールに基づく秩序の尊重に戻る道を見出せば、いつかヨーロッパにおける地位を回復できるだろう。それはロシアが私たちの隣人だからだ」と述べた。

和平と引き換えに土地を手放さないという点では、ウクライナ人の多くがゼレンスキーに同意している。キエフ国際社会学研究所が今月行った世論調査の結果によると、ウクライナ人の82パーセントが、たとえ戦争が長引くことになっても、ウクライナの土地を手放す用意はないと答えている。5月13日から先週水曜日にかけて行われた世論調査によると、侵略を終わらせるために土地を手放すことは価値があると考える人はわずか10%で、8%はどちらとも言えないと答えたということだ。

この世論調査の対象者には、クリミア、セヴァストポリ、ドネツク州とルハンスク州の一部地域など、2月24日以前にウクライナ当局の支配を受けなかった地域の住民は含まれていない。また、2月24日以降に海外に出国した国民も含まれていない。

キッシンジャーの発言は、ウクライナが和平を実現するためには「痛みを伴う領土問題への決断」が必要だとする『ニューヨーク・タイムズ』紙編集部の最近の論説に続くものだ。

ニューヨーク・タイムズ紙の編集部は木曜日に掲載した論稿の中で次のように述べている。「結局のところ、厳しい決断をしなければならないのはウクライナ人である。ロシアの侵略に対して戦い、死亡し、家を失ったのは彼らなのだ。戦争の終結がどのようなものかを決めなければならないのも彼らである。もしこの紛争が本当の交渉につながれば、ウクライナの指導者たちは、妥協案が要求する痛みを伴う領土問題を解決しなければならないだろう」。

この論説記事は、ゼレンスキー大統領の顧問を務めるミハイロ・ポドリャクなどの反発を受けた。彼らは「ロシアへの譲歩は、平和への道ではなく、数年先送りの戦争につながる」と指摘した。

キッシンジャーは月曜日のコメントの中で、各国が道徳や原則よりも現実的な目的を優先させる現実政治優先的アプローチ(realpolitik approach)を長年提唱しており、ヨーロッパの指導者たちに対して、ヨーロッパにおけるロシアの位置を見失わないように、そして、ロシアが中国と永久に同盟を結ぶリスクを冒してはならないと促した。

デイリー・テレグラフ紙は、キッシンジャーが「ウクライナ人が示したヒロイズムに知恵を添えてくれることを期待する」と発言したと報じている。

批評家たちは、キッシンジャーの発言を、ある人が使った言葉である「不幸な介入(an unfortunate intervention)」と形容している。ウクライナ議会議員であるイナ・ソヴスンは、キッシンジャーの立場を「本当に恥ずべきことだ!」と糾弾している。

「アメリカの元国務長官が、主権国家の領土の一部を放棄することが、どの国にとっても平和への道だと信じているなんて何と哀れなことか」とソヴサンはツィートした。

ポドリャクは、たとえ和平につながるとしても、ウクライナは領土を譲ることはできないとの主張を繰り返し、「誰かの財布を満たすために主権をその代償にすることはない」と述べた。ポドリャクは火曜日にキッシンジャーがプーティンと握手している古い写真をツイートし、戦争を戦っているウクライナ人がこの老いぼれた外交官の提案に耳を傾けなかったことに感謝していると述べた。

ポドリャクはツィートの中で次のように述べた。「キッシンジャー氏は戦争を止めるためにロシアにウクライナの一部を与えることを提案する。それと同じくらい簡単に、ポーランドやリトアニアをロシアが奪うことを許可するだろう。塹壕の中のウクライナ人たちがダヴォス会議のパニッカーたち(錯乱している人間たち)の発言に耳を傾ける時間がないのは良いことだ。彼らは自由と民主政治体制を守るのに今のところ少しばかり忙しいのだから」。

(貼り付け終わり)
(終わり)

※6月28日には、副島先生のウクライナ戦争に関する最新分析『プーチンを罠に嵌め、策略に陥れた英米ディープ・ステイトはウクライナ戦争を第3次世界大戦にする』が発売になります。


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 古村治彦です。

 アメリカ外交分野の重鎮にして最長老のヘンリー・キッシンジャー(98歳)が『フィナンシャル・タイムズ』紙のインタヴューに登場し、ウクライナ戦争と国際情勢についての分析を話した。ヘンリー・キッシンジャーは米中G-2路線の主導者である。一方で、「中国をここまで強大な敵に育て上げたのはキッシンジャーだ」という非難の声もアメリカ国名には根強い。
henrykissinger516
ヘンリー・キッシンジャー

 キッシンジャーは5月上旬、イギリスの『フィナンシャル・タイムズ』紙のインタヴューを受けた。キッシンジャーはウクライナ戦争勃発を受け、自分が活躍した冷戦時代とも異なり、ソ連崩壊後のポスト冷戦時代とも異なる「全く新しい時代を私たちは生きている」と述べた。そして、核戦争の可能性(第三次世界大戦の可能性)にも言及している。

 キッシンジャーはヨーロッパがロシアを排除することで、中国との関係をより永続化し、緊密化することに警告を発した。ヨーロッパ(西側諸国全体)に対して、「中露が緊密な関係を築いてしまえば、ユーラシア半島の西の端で圧迫を受けるのはヨーロッパだがそれで良いのか(戦争はウクライナだけでは済まないぞ)」ということを言いたいのだろう。

 中国の上海協力機構(SCO)を基盤とした一帯一路計画はヨーロッパを取り込むことも掲げているが、それが切れてしまうということは、ヨーロッパがユーラシア大陸の中で孤立してしまうということだ。中東までが「西側以外の世界(the Rest)」に入っているとなると、孤立は深まるばかりだ。ロシアと切れてしまえば、これから有望な海上輸送路となるであろう北極海を使えないとなり、世界経済の成長にとっての重要なエンジンとなる北東・東南アジア地域へのアクセスも厳しいということになる。世界は「西側(the West)」がいなくても機能する方向に動きつつある。

 それが日本を含む西側諸国にとって良いこととは言えない。個人レヴェルならば、感情や正義感で判断しても全く構わない。しかし、世界管理や国家運営となればそういう訳にはいかない。方程式はより複雑になる。より複雑な数式の答えが「ロシアとの関係を切らない」「ロシアに譲歩する」というものになることは理解されにくいものだと思う。しかし、個人のレヴェルと国家運営、世界管理の観点は全く異なるということは理解されるだろうと思う。多くの人たちにとってキッシンジャーは全くもってけしからんことを言っているということになるだろう。しかし、冷酷な国際政治の舞台ではこういう答えになる。

(貼り付けはじめ)

「私たちは現在全く新しい時代の中で生きている」-ヘンリー・キッシンジャー(‘We are now living in a totally new era’ — Henry Kissinger

冷戦の戦略家が、ワシントンDCで開催された「FTウィークエンド・フェスティヴァル」でロシア、ウクライナ戦争、そして中国について論じた

エドワード・ルース(インタヴュアー)、ワシントンDCにて

2022年5月9日
『フィナンシャル・タイムズ』紙

https://www.ft.com/content/cd88912d-506a-41d4-b38f-0c37cb7f0e2f

この記事は、5月7日にワシントンで行われた、ヘンリー・キッシンジャー元米国務長官・国家安全保障問題担当大統領補佐官に対して、『フィナンシャル・タイムズ』紙米国版編集者エドワード・ルースが行ったインタヴューを編集したものである。

フィナンシャル・タイムズ:今年の初め、私たちはニクソン訪中50年記念を迎えた。もちろん、あなたは中国とアメリカの合意形成の組織者、調整者だった。そして、米中合意は冷戦において非常に大きな変化であった。あなたはロシアから中国を分離させた。それは、180度の転換ということを私たちに感じさせている。そして現在、ロシアと中国は非常に緊密な関係に戻っている。私からあなたへの第一問目の質問は次のようなものだ。私たちは、中国との新たな冷戦の中にいるのか?

ヘンリー・キッシンジャー:私たちが中国に対して国を開いた際、ロシアはアメリカにとって第一の敵だった。しかし、米中関係は最悪だった。敵が2つ存在する場合、2つとも同じに扱うことは賢いことではないというのが対中国交回復における私たちの考え方だった。

対中国交正常化をも成功させたのは、ロシアと中国の間で自律的に発展した緊張関係であった。旧ソ連のレオニード・ブレジネフは、中国とアメリカが一緒になるとは考えなかった。しかし、毛沢東は、アメリカに対してイデオロギー的な敵意はあっても、対話を始める準備はできていた。

原則的に中露同盟は既得権益に反するもので、今は成立している。しかし、私には、それが本質的に永続的な関係であるようには見えない。

フィナンシャル・タイムズ:私はロシアと中国の距離をさらに広げることがアメリカの地政学的利益になると考えている。これは間違っているのか?

ヘンリー・キッシンジャー:ウクライナ戦争が終わった後、世界の地政学的状況は大きく変化するだろう。そして、予見される全ての問題で、中国とロシアが同じ利害関係を持つことは不自然なことだ。不一致の可能性は生まれないと思うが、状況はそうなると考えている。ウクライナ戦争後、ロシアは最低限ヨーロッパとの関係や、NATOに対する一般的な態度を見直す必要が出てくるだろう。敵対する2国に対して、彼らを追い込むような形で敵対的な立場をとるのは賢明ではないと考える。ヨーロッパとの関係や内部の議論においてこの原則に従えば、歴史は全く異なるアプローチを適用する機会を与えてくれるだろう。

そうではあるが、中露のどちらかが西側の親しい友人になる訳ではなく、具体的な問題が発生したときに、異なるアプローチを採用するという選択肢を残しておくということだ。これからの時代、ロシアと中国を一括りにして考えるべきではない。

フィナンシャル・タイムズ:ジョー・バイデン政権は地政学的な課題として、「民主政治体制対独裁政治体制」を掲げている。私は、それが間違った枠組であることを暗に示唆しているように考えているがいかがだろうか?

ヘンリー・キッシンジャー:私たちはイデオロギーの違い、解釈の違いを認識しなければならない。体制転換(regime change)を政策の主要な目標とする覚悟がない限り、対立の主要な問題とするのではなく、問題が生じたときにその重要性を分析するために、この意識を活用すべきだ。技術の進化と、現在存在する兵器の巨大な破壊力を考えると、体制転換を求めることは他者の敵意によって押し付けられるかもしれないが、私たち自身の態度によってそれを生み出すことは避けるべきだろう。

フィナンシャル・タイムズ:あなたはおそらく、核武装した2つの超大国間の対立をどのように管理するかについて、今生きている誰よりも多くの経験を持っていることだろう。しかし、プーティン大統領や周囲の人々から次々と発せられる今日の核攻撃に関する発言について、私たちが今日直面している脅威の観点からどのように考えるか?

ヘンリー・キッシンジャー:私たちは今、交流の速さと発明の繊細さによって、想像すらできなかったレヴェルの大惨事を生み出しうるテクノロジーに直面している。そして、現在の状況の奇妙な側面は、武器が双方で増殖し、その精巧さが年々増していることだ。

しかし、その兵器が実際に使用されたらどうなるかという議論は、国際的にほとんどなされていない。私が一般的に訴えているのは、どの立場であれ、私たちは今、全く新しい時代に生きていることを理解し、その点を軽視して逃げてきたということだ。しかし、テクノロジーが世界に広がれば、本来そうであるように、外交も戦争も別の内容が必要になり、それが課題になってくるだろう。

フィナンシャル・タイムズ:あなたはプーティンと20~25回会っていると聞いている。ロシア軍の核ドクトリンでは、体制が存続の危機に瀕していると感じれば核兵器で対応するとしている。この状況において、プーティンのレッドラインはどこにあると考えるか?

ヘンリー・キッシンジャー:私は国際政治を学ぶ者として、15年ほど前から年に1回ほどプーティンに会い、純粋に学術的な戦略論議をしたことがある。彼の基本的な信念は、ロシアの歴史に対する一種の神秘的な信仰であり、その意味で、特に我々が最初に何かした訳ではなく、ヨーロッパと東洋との間に開いたこの大きな隔たりに不快感を覚えているのだと考えている。ロシアはこの地域全体がNATOに吸収されることに脅威を感じていたため、プーティンは不快に思い、脅威を感じていた。しかし、これは言い訳にはならないし、私は独立国を乗っ取るような大規模な攻撃を予測した訳でもない。

彼は国際的に直面した状況について誤算していたと考えている。このような大事業を維持するロシアの能力についても明らかに誤って認識していた。和解の時が来たら、全ての人はこのことを考慮に入れる必要がある。以前の関係に戻るのではなく、今回の件でロシアの立場が変わるのだ。

フィナンシャル・タイムズ:プーティンが正しい情報を得ていると考えるか?もしそうでなければ、私たちはどれほどのプーティンの誤算に備えるべきか?

ヘンリー・キッシンジャー:このような危機的状況では、相手にとってのレッドラインが何であるかを理解する必要がある。このエスカレーションはいつまで続くのか、さらにエスカレートする余地はどのくらいあるのか、というのが明白な疑問だ。あるいは、彼は能力の限界に達しており、戦争をエスカレートさせることが、将来、大国として国際政策を行う適性を制限するほど、彼の社会を緊張させることになるのはどの時点なのかを判断しなければならないのだ。

私は、彼がいつその時点に到達するのかを判断することはできない。その時、彼は70年間一度も使われたことのない兵器のカテゴリーに移行することでエスカレートするのだろうか?もしその一線を越えてしまったら、それは非常に大きな出来事となるだろう。というのも、私たちは次の分水嶺が何であるかを世界的に検討してこなかったからだ。私たちができないことの一つはそれをただ受け入れることだというのが私の意見だ。

フィナンシャル・タイムズ:あなたは中国の習近平国家主席や前任者たちに何度も会っており、中国をよく知っている。中国は今回の戦争からどのような教訓を得ているだろうか?

ヘンリー・キッシンジャー:中国の指導者は現在のところ、プーティンが陥ったような事態をいかに避けるか、また、いかなる危機が生じたとしても、世界の主要な地域から敵視されないような立場に立つにはどうすればよいかを考えているのだろうと考えている。

ワシントンのジェイムズ・ポリティがインタヴューを文字起こししまとめた。
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ヘンリー・キッシンジャーがウクライナ戦争をプーティンが終結させなければならない時点を予言(Henry Kissinger Predicts Point at Which Putin Will Have To End Ukraine War

ギウリア・カーボナロ筆

2022年5月10日

『ニューズウィーク』誌

https://www.newsweek.com/henry-kissinger-predicts-vladimir-putin-end-russia-ukraine-war-1705194

ヘンリー・キッシンジャーは、ウラジミール・プーティン大統領はウクライナへの侵攻を開始した際、国際情勢とロシア自身の能力を見誤っていた、と確信している。プーティン大統領は、ロシアが将来も大国である可能性が事実上消滅した時点で、戦争を終わらせなければならないだろう、と元国務長官キッシンジャーは予測している。

1970年代にリチャード・ニクソンとジェラルド・フォードの両政権に仕えたキッシンジャーは、週末の『フィナンシャル・タイムズ』紙のイヴェントで、紛争が核戦争の領域にまで発展することを懸念していると述べた。

キッシンジャーは冷戦時代、アメリカの外交政策形成に重要な役割を果たした。キッシンジャーの主導により、米ソ間の緊張は緩和され、特に米中間の緊張は1972年のニクソン大統領の歴史的な北京訪問につながったのである。

土曜日にワシントンで開催された「FTウィークエンド・フェスティヴァル」で、キッシンジャーはフィナンシャル・タイムズ紙の米国版担当編集者であるエドワード・ルースに、2つの敵を異なる形で扱うことによって、モスクワと北京を分断することに成功したと話した。ヨーロッパでの敵対関係の中で、アメリカは今一度同じことを試みるべきだと、キッシンジャーは言った。

元国務長官キッシンジャーは中国とロシアの両方に対して「敵対的な立場」を取ることで、両者を接近させることにならないよう警告した。「ウクライナ戦争の後、ロシアは最低でもヨーロッパとの関係やNATOに対する一般的な態度を見直す必要があるだろう」と述べた。

ウクライナ戦争は11週目に入り、ロシアは今のところウクライナ国内で大きな目的を達成することができないでいる。4月上旬、キエフ周辺に展開していたロシア軍は、クレムリンによってウクライナ南東部に方向転換し、ドンバス地方の「完全解放」を新たな目標とした。その結果、ウクライナ軍は北部の大部分を再び支配下に置くことができた。

西側諸国の情報機関や国際政治の専門家たちは、ロシアが5月9日にソヴィエト連邦のナチス・ドイツに対する敗北を祝う戦勝記念日のパレードを行うため、月曜日にプーティンが重大な発表を行うことを期待していた。しかし、驚くべきことに、ロシア大統領はウクライナへの全面戦争宣言や総動員を発表することを控えた。この動きはロシア国民が耐えられるかどうかをプーティンが警戒している表れではないかと分析されている。

現段階では戦争の結末を予測するのは難しい。戦争の結末にはどのようなものがあるかについて質問され、キッシンジャーはインタヴュアーのルースに対して、「ロシアはウクライナ紛争で軍事力と資源を消耗し、大国としての地位を失うまで戦い続けるだろう」と述べた。

キッシンジャーは次のように語った。「このエスカレーションはいつまで続くのか、更にエスカレートする余地はどのくらいあるのかというのが明らかな疑問だ。あるいは、能力の限界に達し、戦争をエスカレートさせることが、将来、大国として国際政策を行う適性を制限するほど社会を緊張させることになるのがどの時点なのかを判断しなければならないのか?」。

その時、ロシアが戦争を終わらせるために核兵器に頼るかは予測できないとキッシンジャーは言った。彼は「冷戦時代とは全く異なる時代に私たちは生きている」と述べた。

冷戦時代にキッシンジャーが目指した「核災害の回避」に関しても、ここ数十年で状況は大きく変化し、核兵器使用の潜在的な意味について、まったく新しい議論が必要になっているとキッシンジャーは述べた。

キッシンジャーは「テクノロジーが世界に広がるにつれ、本来そうであるように、外交も戦争も異なる内容を必要とするようになり、それが課題となるだろう」と述べた。

「私たちができないことの1つはそれをただ受け入れることだ、というのが私の意見だ」と結論付けた。
(貼り付け終わり)
(終わり)

※6月28日には、副島先生のウクライナ戦争に関する最新分析『プーチンを罠に嵌め、策略に陥れた英米ディープ・ステイトはウクライナ戦争を第3次世界大戦にする』が発売になります。


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   古村治彦です。

 ウクライナ戦争において、ウクライナ政府のサイバー担当の若い副首相ミハイロ・フェドロフ(Mykhailo Fedorov、1991年-、31歳)についてはこのブログでもご紹介した。ウクライナはサイバー軍を創設し、サイバー戦争でロシア(強力なサイバー軍を保有している)に強力に対抗しているということは日本でも報道で紹介されている。ロシア国内の金融機関はインフラ施設に対するサイバー攻撃を行っている。

 ウクライナのサイバー軍はインターネット上で攻撃目標を公表し、世界中の協力者たち、ヴォランティアたちに攻撃を行うように「仕向けている」。協力者たちは世界中からロシアにサイバー攻撃を仕掛けている。

この攻撃に対して、ウクライナ政府は謝意を示しながらも、公式には支持しないという奇妙な態度を取っている。下の論稿から引用する。
(引用貼り付けはじめ)

ウクライナ国家特殊通信・情報保護局のヴィクター・ゾーラ副局長は次のように述べている。「もちろん、ロシア軍とロシア政府のインフラに対する攻撃活動は全てウクライナにとって有益なものだ。私たちは公式にヴォランティアによるロシアに対するサイバー攻撃を支持することはできない。しかし、攻撃を行えるヴォランティアに感謝している」。

(引用貼り付け終わり)

 ヴォランティアたちがロシア国内の攻撃目標に攻撃を仕掛けることには感謝するが、公式に支持はできないということはどういうことか。これは、「ロシア国内へのサイバー攻撃はヴォランティアが勝手にやっているだけのことで、ウクライナ政府は支持していないし指示していない」ということだ。それは、世界中のヴォランティアたちがサイバー攻撃、ハッキングなどは犯罪行為になるということだ。ウクライナ戦争という状況下、ロシア国内へのサイバー攻撃は黙認されているかもしれないが、冷静に見れば、ウクライナ国民でもない人間がロシアへのサイバー攻撃やハッキングをすれば犯罪行為ということになる。義勇軍を気取って、安全だからということでハッキングをしているのだろうが、これは犯罪行為ということになるだろう。だから、ウクライナ政府は慫慂も支持もできないが、勝手にやってくれたことには感謝するということになる。

 ウクライナ戦争勃発直後、ウクライナへ世界中から義勇兵が向かっているという報道もあった。日本からも数十人が渡航を希望しているという報道があった。しかし、日本政府は「私戦の禁止」を理由にしてそのようなことを行わないようにと釘を刺した。サイバー攻撃に参加するヴォランティアたちも同様である。従って、ロシアに対する義憤にかられるのは理解できるが、慎重な対応を行う、赤十字などへ寄付を行うなど穏健な対応をすべきということになるだろう。
(貼り付けはじめ)
ウクライナのインターネット上のヴォランティアたちはロシア国内の複数の攻撃目標をつけ狙っている(Ukraine’s Online Volunteers Go After Russian Targets

-キエフはサイバー攻撃を支持していないと述べているが、サイバー攻撃を行っている人々に感謝している。

ジャスティン・リン筆

2022年5月3日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/05/03/ukraine-it-army-hackers-russia-war/?tpcc=recirc_latest062921

2022年4月20日、ウクライナIT軍の公式「テレグラム」チャンネルで、「今日は金融データ運営会社を攻撃する」と宣言された。そこには、ロシアとベラルーシの金融機関のウェブサイトのリストと、そのウェブサイトの構成に関する重要な情報が添付されていた。

それから24時間以内に、これらのウェブサイトの多くがオフラインになった。「テレグラム」チャンネルは「よくやってくれた」と報告した。そして、新たな攻撃目標のリストが添付されていた。数時間のうちに、それらもオフラインになった。

ウクライナの巨大なサイバー軍団は、ウクライナで急成長している技術部門の労働者と世界中から集まったヴォランティアの両方によって構成され、専門家たちが誰も予想もしなかった方法でロシアに対して逆転のための攻撃を仕掛けた。

ウクライナの副首相兼デジタル変換担当大臣ミハイロ・フェドロフは次のように述べた。「ロシアの本格的な侵略以前は、数多くのサイバー攻撃にさらされていたにもかかわらず、私たちが行ったのは明らかに防御的なものだった。それが、ロシアの戦車が走り始めてから、劇的に変わった」。

2月下旬にロシアがウクライナへの侵攻を開始した時、多くのアナリストたちがロシアの軍事的勝利を予想したように、モスクワもその定評ある攻撃的サイバー能力でウクライナの技術基盤を破壊するだろうという予測が多くあった。

しかしそうはならなかった。

それどころか、ウクライナは自国の重要インフラに対する大量のサイバー攻撃を積極的に撃退し、ロシアに闘いを挑んでいる。

フェドロフは「私たちは実際に反撃を開始した」と述べた。

ウクライナ政府関係者はロシアに対するサイバー攻撃に感謝の意を表しているが、IT軍はキエフの指揮系統には属していない。

ウクライナ国家特殊通信・情報保護局のヴィクター・ゾーラ副局長は次のように述べている。「もちろん、ロシア軍とロシア政府のインフラに対する攻撃活動は全てウクライナにとって有益なものだ。私たちは公式にヴォランティアによるロシアに対するサイバー攻撃を支持することはできない。しかし、攻撃を行えるヴォランティアに感謝している」。

ロシアのハッカー組織は複雑で大規模である。そして、国家予算から多額の資金が出ている。「ノットペトヤ(NotPetya)」や「サンドウォーム(Sandworm)」といったサイバーウイルスの犯人とされるスパイ組織ロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)に所属する国家レベルのハッカー、アメリカを標的とした「ファンシーベアー(Fancy Bear)」のようなハッカー集団、ロシア政府から暗黙の了解を得て活動する多くの犯罪ハッカー集団などが存在する。ウクライナの状況はロシアとは全く対照的なものだ。

しかしながら、ウクライナのヴォランティア・ハッカー軍団は、かなり規律正しく活動している。ハッカーたちは、ランダムな攻撃目標ではなく、意図的かつ慎重に選ばれた目標を攻撃していると主張している。IT軍団の「Q&A」には、「もし全員がランダム(無差別)の標的を攻撃し始めたら、攻撃力を失ってしまうことになる」と書かれている。

ここ数週間で、ハッカーたちが公共の利益になると信じてハッキングした情報を流出させる分散型秘密分散ポータル(ウェブサイト)は、ロシアの金融機関、不動産管理会社、旅行会社、鉄道会社、さらにはロシア政府自身から2テラバイト以上のハッキング資料をアップロードしている。ハッカーたちは、国営ガスプロム、ロシア中央銀行、教育省、さらにはロシア正教会から膨大な量の電子メールをハッキングした。

ウクライナのIT軍団のウェブサイトには、攻撃対象が記録されている。ある攻撃の際に標的となった64個のウェブサイトとサーヴァのうち、約43個が「死亡(オフラインになった)」となり、更に11個が「健康ではない」と評価されました。

ウクライナ戦争以前、ウクライナには強力なハイテク部門があり、年間40~50パーセントの成長率を記録し、比較的安価な労働力と高学歴の人々、そして技術科目を重視する学校のおかげでうまく機能していた。しかし、多くの技術者たちが国外に流出し、リモートで仕事をする者もいれば、職を失い、ロシアとの戦いに身を投じている者もいる。

しかし、全てのハッカーがウクライナ人ではない。ハッカー集団「アノニマス」はウクライナ政府への支援を表明し、ロシア国内の生活を混乱させるために世界的な活動を展開している。特に、ロシア国営テレビの膨大なプロパガンダを中断して、戦争の実像を映し出すなどの活動を行っている。

ウクライナ政府は、誰がロシアに対してサイバー攻撃しているにせよ、慎重に対応しなければならない。一つは、ロシアのデータを狙うことで、軍事目標と民間目標の境界線が曖昧にならないかという懸念がある。フェドロフは「ウクライナでは、国民一人ひとりの個人情報を非常に重視している」は述べている。ウクライナのデジタルサービス構築の責任者であるフェドロフは、ウクライナ政府が厳密に必要なデータのみを収集することを主張している。フェドロフは「ロシアでは、基本的に状況が逆だと思います。ロシアでは、国民のデータは国家が所有すると考えている。そして、国家は脆弱である。これが真実だ」とも述べている。

フェドロフは続けて「そのデータを流出させることで、より的を絞った介入、つまり詐欺やソーシャルエンジニアリングを使った操作や攻撃の可能性を可能にすることができる」と述べた。

調査団体「べリングキャット(Bellingcat)」は、ロシアの人気フードデリバリーサービスのハッキングにより、国家安全保障サーヴィスの従業員の身元が明らかになったことを報告した。このようなデータは、より専門的な国家のサイバーアクターが、特定のセキュリティや軍事関係者をターゲットにする際に有利に働く可能性がある。

2022年3月、ウクライナ側のハッカーはロシアの通信・メディア担当省庁であるロシア連邦通信・情報技術・マスコミ分野監督庁(Roskomnadzor)から大量のデータを流出させた。また3月には、『フォーブス』誌は、ロシア連邦通信・情報技術・マスコミ分野監督庁が分散型サーヴィス妨害攻撃(ウェブサイトをアクセス不能にする大規模攻撃)に対する防御のための国家プログラムを構築するために、現在懸命に取り組んでいると報じた。

フェドロフは「これはロシアの情報システムに対する前例のない攻撃となった。ウクライナ政府によるIT軍の組織と専門性が高まっている。そして、今後しばらくは有効だと思う」と述べた。

ロシアの通信社インタファクス通信によると、ロシア政府は外国からのサイバー攻撃から防御しようとして、外国のインターネットトラフィックを制限しているということだ。しかし、今のところあまり効果は上がっていない。

フェドロフは次のように述べている。「IT軍の有効性はロシア人自身が言っていることから判断できる。そして、彼らが言っていることは、データ漏洩や重要な情報システムのダウンタイムが発生しているということだ」。

また、あまり対立的でない戦術もある。IT軍団は、「トリップアドバイザー(TripAdvisor)」をはじめとするクラウドソーシングの口コミサイトに、戦争に関する情報を発信するヴォランティアも派遣している。ヴォランティアたちは「残念なことに、プーティンはウクライナとの戦争を卑劣にも開始し、私たちの食欲を台無しにした」と言った書き込みをしている。ハッカーアクティヴィスト(hacktivists、ハクティビスト)たちは、ユーザーが無作為にロシアの携帯電話に親ウクライナのメッセージを送ることができるサイトも立ち上げている。

こうした行動は、西側諸国では広報分野における大きな一撃となるかもしれないが、ロシアではその影響ははるかに小さいだろう。世論調査のデータによると、ロシアのプーティン大統領と彼の戦争に対する支持は戦争が始まって以来、実際に上昇していることが明らかだ。

大西洋評議会が発行している『ウクライナ・アラート』誌の編集者ピーター・ディキンソンは次のように述べている。「ロシア人はプロパガンダの裏を読むことが得意であり、その気になれば簡単に別の情報源にアクセスできる。何千万人ものロシア人が、クレムリンのテレビが宣伝するオーウェル的な嘘を容易に受け入れ、この国の戦争応援団が表明する感情を共有しているというのが恐ろしい真実である」。

ロシアは国家、非国家、その中間に位置する様々なサイバーアクターを利用しているかもしれない。しかし、ウクライナはロシアに対して公式に攻撃的なサイバー活動を開始する予定はないようだ。

ウクライナ国家特殊通信・情報保護局のヴィクター・ゾーラ副局長は「ウクライナに対するサイバー攻撃を組織する彼らの能力を制限するために、私たちは防衛だけを行っている」と述べている。もしウクライナ政府がロシアのインフラへの攻撃を開始したいのであれば、ウクライナ国内の法的枠組みを採用する必要がある。

ゾーラは続けて次のように述べている。「NATOは、今サイバースペースで何が起きているのかを非常に注意深く見守っている。そしておそらく、攻撃的な作戦がどのように提供され、何が限界なのかを理解する上で何らかの変化が生じるだろう」。

現在まで、NATOはサイバーパワーの展開に慎重だった。NATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長は、大規模で高度なサイバー攻撃は同盟創設条約第5条を発動させ、集団的対応につながる可能性があると述べているが、その限界がどのようなものか、集団的対応とはどのようなものなのかは不明確だ。このように明確でないため、NATO加盟国はロシアに対するサイバー作戦を避けてきたし、少なくとも公式には認めず黙認してきた。

サイバーセキュリティの専門家であるエリカ・ロナーガンとサラ・モラーは、『ポリティコ』誌に発表した最近の論稿の中で、「大規模攻撃に至らないサイバー攻撃は、同盟諸国の問題ではなく、国家の問題として扱う」ように提唱している。そうすることで、5条を発動すべきタイミングが明確になり、各国がサイバー攻撃に対して「国家に合わせた対応」を取ることができるようになると彼らは主張している。

一方、ゾーラは、ウクライナ政府の要求はかなり単純なものだと主張している。彼は「まず武器。第二に制裁だ」と述べた。サイバーセキュリティに関しては、西側諸国はロシアとのデジタル関係を遮断し続ける必要があるとも述べた。彼はそれを「技術的ロックダウン(technological lockdown)」と呼んでいる。

ウクライナのロシアに対するサイバー攻撃の有効性は、モスクワがウクライナ国内のITインフラに対する砲撃を強化する動機となり得る。これまでウクライナは、IT産業の大富豪イーロン・マスクやアメリカ、ヨーロッパが提供するスターリンク端末のおかげで、ウクライナ国内の大部分をオンラインに保つことに成功してきた。これらの端末のいくつかは、既に砲撃の被害を受けている。ここ数日、ロシア軍はケルソン地方でのインターネット接続を遮断することに成功した。

ウクライナ政府は声明の中で、「今回の爆撃は、ロシアがウクライナに対して行っている戦争の進展に関する真の情報にウクライナ国民がアクセスできないようにし、ロシアで行われているのと同じように、彼らの偽情報によるプロパガンダを唯一の情報源にしようとするもう一つの敵(ロシア)による試みである」と述べた。

※ジャスティン・リン:トロントを拠点とするジャーナリスト。
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(終わり)

※6月28日には、副島先生のウクライナ戦争に関する最新分析『プーチンを罠に嵌め、策略に陥れた英米ディープ・ステイトはウクライナ戦争を第3次世界大戦にする』が発売になります。


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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。
 世界が「西側世界(the West)対それ以外の世界(the Rest)」に分断していることがウクライナ戦争によって明らかにされた。ここで重要なのは大きな戦争を起こさないことだ。ウクライナ戦争から更に大きな戦争に向かう流れを遮断することだ。ここで重要なのは、「米中G-2Group of Two)」という考え方だ。G-2という考え方は一時期喧伝されたが、米中対立激化によって話題にされることが少なくなった。
 「西側対それ以外」の2つの陣営のリーダーはそれぞれアメリカと中国だ。西側は衰退を続け、それ以外の国々は成長を続けており、近い将来に力関係は大きく変化することになるだろう。成長と発展が止まった旧先進国とそれ以外ということになるだろう。世界の構造は大きく変化していく。こうした変化に伴って世界は不安定化していく。そうなれば世界全体で安全と平和を確保することが難しくなっていく。小さな戦争が頻発するということにもなりかねない。それが大きな戦争につながるということも出てくるだろう。

 こうした悪い方向への変化を抑制するために、米中G-2による世界管理が必要である。中国がここまで大きくなり、BRICsを中心とする発展途上諸国も力をつけている中で、これまでのようなアメリカ一極の世界管理、西側諸国中心の世界構造には限界が近づいている。私たちは自分たちの考え方、世界観を大きく変えねばならない。

 今回のウクライナ戦争はG-2を機能させるためのタイミングとなる。戦争当事国であるウクライナとロシアに対して、まずは停戦、それからお互いが譲り合えるポイントを探り、和平交渉を行えるようにし、講和条約を締結して平和を回復できるようにする。そのためには、ウクライナとロシアが属しているグループのそれぞれのリーダーである米中が出てこなければ済まない。中国は目立つようなことはあまりしたくないだろうが、米中G-2時代を確立するためにはここが1つのタイミングということになる。停戦と戦争が与える経済への悪影響の払しょくのために米中両国の果たすべき役割は大きい。
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ウクライナにとってのG-2時代を理解する(Grasping the G-2 moment for Ukraine

ジーチュン・ジュー筆

2022年49

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/blogs/congress-blog/3263053-grasping-the-g-2-moment-for-ukraine/

ウクライナで展開されている人道上の災厄を止めるために、イスラエルやトルコなど一部の国が仲介を試みている。しかし、実際に戦争終結に貢献できるのは、アメリカと中国という二大超大国だけだ。

ワシントンと北京の政策は結果的であり、ウクライナ戦争の結果を形成する。3月18日に行われたジョー・バイデンと習近平のヴィデオ通話は、正しい方向への一歩と言える。両首脳は外交的解決への支持を表明したが、具体的な方策の提示には至らなかった。今こそ、取り組みを強化し、関係者全てを交渉のテーブルに着かせるべきだろう。

グループ・オブ・ツー((Group of Two)、いわゆるG-2は、2005年に経済学者のC・フレッド・バーグステンが提唱した概念で、中国の世界貿易機関(WTO)加盟後、中国経済が拡大する中で、アメリカと中国の経済関係を説明するためのものだ。この概念は、現代世界における米中関係の中心性を認識する用語として、外交政策分野で一定の評価を得た。元国家安全保障問題担当大統領補佐官ズビグニュー・ブレジンスキー、歴史学者のナイオール・ファーガソン、元世界銀行総裁ロバート・ゼーリック、林義豪経済学者のジャスティン・イーフー・リンなどがG-2を評価し、唱導した。G-2の協力体制は、世界経済を安定させるだけでなく、国際安全保障にも貢献すると期待されていた。

2010年、中国経済は日本を抜いて経済規模で世界第2位となり、アメリカとの差が縮まった。中国の習近平が政権を握り、バラク・オバマ大統領が2期目を迎える頃には、米中関係の力学は変化していた。アメリカは、中国の急速な台頭に対応するため、「ピボット(pivot)」政策またはアジアへの戦略的重点の再調整を決定した。中国はアメリカの利益に対する挑戦であり、脅威であるとさえ見なされるようになった。二国間関係がより競争的になるにつれて、G-2 のコンセプトは静かに消えていった。

今日、G-2を復活させるべき時が来ている。それは、アメリカと中国が和解して世界の諸問題についての解決に関する考えが一致したからではない。米中二大国が世界を脅かすウクライナ危機を協力して直ちに食い止めなければならないからだ。

ロシアによる主権国家への正当な理由なき侵略は正当化できない。しかし、ジョージ・ケナン、ヘンリー・キッシンジャー、ジョン・ミアシャイマーなど多くの人々が指摘しているように、冷戦後、NATOの東方拡大に対するロシアの深刻な懸念をワシントンが無視したことが災いのもととなったのだ。つまり、アメリカは少なくとも部分的にはこの危機に責任があることは間違いなく、その汚名を晴らすために何か建設的なことをしなければならない。

ロシアのウクライナ戦争は、中国が最も大切にしている外交原則の1つである主権と領土の一体性の尊重の原則に反するものでもある。中国最高指導部はロシアの残忍な侵攻に驚かされたと伝えられている。中国はロシアの侵攻を支持せず、ロシアに関する国連決議にも棄権した。中露関係には「限界はない」と喧伝されているが、そこには国連憲章で定められた信条と原則という底辺がある。中国は平和的で責任ある大国であることを公約している。今こそ中国が輝く時である。

ウクライナ紛争を解決するために、中国は内外の制約を受けている。中国が調停に関心を示している以上、西側諸国、特に米国から何らかの励ましと誘惑があれば、中国がより深く関与する決断を下すのに役立つだろう。そのような前向きな姿勢には、中国の積極的な外交の結果、危機が終結すれば、中西部の関係は大幅に改善されるという北京への再保証が含まれる。制裁の脅威を振りかざしたり、公然と北京に圧力をかけたりすることは逆効果である。

China faces internal and external constraints for leading the efforts to end the Ukraine war. Since China has expressed interest in mediation, some encouragement and enticement from the West, particularly the United States, would be conducive to China’s decision to get more deeply involved. Such positive gestures could include reassurance to Beijing that relations between China and the West will significantly improve if the crisis is brought to an end as a result of active Chinese diplomacy. Brandishing threats of sanctions or publicly pressuring Beijing is counterproductive.

ヨーロッパ地域における戦争は、世界経済に深刻な打撃を与え、エネルギー価格は高騰している。ロシアもウクライナも今すぐ紛争から脱却するための出口が必要である。アメリカと中国は、世界の利益を第一に考えるべきだ。2000年代の北朝鮮に関する6カ国協議での協力や、2021年11月のグラスゴーでの気候変動に関する合意など、以前は両国の相違が大きな課題への協力を阻むことはなかった。

今こそバイデンと習近平は、それぞれNATOとプーティンに対する並々ならぬ影響力を行使して、紛争の実行可能な解決策を描くべき時である。アメリカと中国が主導する複数の関係国が参加するプラットフォームは、ロシアの安全保障上の懸念に配慮しつつ、ウクライナの主権を確保する、相互に受け入れ可能な解決策を見出すことを目指すべきだろう。アメリカと中国は、そのような結果に対する共同保証を提供し、ウクライナとロシアの戦後復興を支援する必要がある。双方の犠牲者が日々増えている今、逡巡している時間はない。

これこそがまさにG-2が輝く瞬間だ。バイデンも習近平もタイミングを逃してはならない。

※ジーチュン・ジュー:ペンシルヴァニア州バックネル大学政治学・国際関係論教授。

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 古村治彦です。
 ウクライナ戦争によって、ヨーロッパ地域を覆っていた偽善と「西側諸国(the West)対それ以外の世界(the Rest)」という分断が明らかになった。「○○(国名が入る)はウクライナだ」という粗雑な主張が展開され、「防衛のために防衛費の増額と装備の増強が必要だ」「先制攻撃を行えるようにすべきだ」という主張が雨後の筍のように出てきている。他人の不幸に便乗し、他人のふんどしで相撲を取る、なんとも恥ずべき主張だ。
 ウクライナ戦争を契機にして、核兵器保有を主張する政治家たちが北東アジア諸国、具体的には日本と韓国で出てきている。核兵器を保有していることでそれが抑止力となるという考えがその根底にあるが、果たしてそうだろうか。他国が攻撃してきて、進攻してきて、たとえば日本が核兵器を使用することができるだろうか。通常兵器で攻撃してきた相手に核兵器で応酬するというのは「過剰防衛」の謗りを免れない。核兵器は特に先進諸国にとって使えない最終兵器である。また、安全保障のジレンマという考え方がある。ある国(A国)が自国の防衛能力を増強すれば、隣国(B国)はそのことを脅威に感じ、こちらも更に防衛能力を引き上げる。そうなればA国はせっかく防衛能力を高めたのに、安心感が得られずに、更に防衛能力を高めるために無理をする。このような無理が続き、両国ともに破綻するということになる。
 アジア地域、特に東南アジアには東南アジア諸国連合(ASEAN)という素晴らしい枠組みがある。国家制度や経済制度が違う国々が集い、何か問題があれば拙速に断定などをせずに話し合う。このような制度こそが平和と安全を守るために重要だ。北東アジア地域の中国、韓国、北朝鮮、台湾、中国にもこのような枠組みを構築すべきだ。EUNATOのような偽善で過度な理想主義で粉飾された、本質的には戦争を誘発するような枠組みは必要ない。
 今回のウクライナ戦争を教訓は際限なき軍拡競争に走ることではない。外交と地域の枠組みによって平和と安定を守るということであるべきだ。
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ウクライナはアジアに戦争を考えさせる(Ukraine Has Asia Thinking About War
-大規模な紛争の再来はアジア諸国の軍備増強につながる。

ウィリアム・チューン筆

2022年4月29日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/04/29/ukraine-russia-war-asia-china-military-defense-spending-geopolitics/?tpcc=recirc_latest062921

ロシアによるウクライナ侵攻に伴って、都市の破壊と市民に対する残虐行為が発生した。これによって世界の多くの国々にハードパワーの優位性を再認識させることになった。春。ブランズは『ブルームバーグ』誌に寄稿した論稿の中で、ロシアのウラジミール・プーティン大統領はポスト冷戦時代の考え方、すなわち大規模で暴力的な紛争は過去のものになったという考え方を崩壊させた。

ウクライナ戦争は、アメリカの学者アーロン・フリードバーグがかつて「大国間紛争のコックピット」と呼んだ、「インド太平洋地域が最も不安定な武力紛争のリスクにさらされている」という広範な認識も覆した。ロシアがこれまで土地の強奪や紛争の扇動を何度か行ってきたが、これまでパワーバランス(力の均衡)に大きな影響を与えることはなかったが、制度がしっかりしているヨーロッパは概して安全な場所と見なされてきた。ヨーロッパに比べ、インド太平洋は、EUNATOのような平和や安全を増進する制度がなく、アメリカ、中国、インド、日本、ロシア、朝鮮半島にある韓国と北朝鮮と世界トップ7の軍隊が集結し、南シナ海、台湾、朝鮮半島、尖閣諸島などいくつかの不安定なホットスポットがあって、更に危険な場所であると考えられてきた。

ロシア・ウクライナ戦争の前から、冷戦終結後に衰退した軍事的な国家統治手段がアジアで復活しつつあることは、専門家の間で指摘されていた。これまでアジアでは、地域経済や地域制度の進化に注目が集まる一方で、ヨーロッパと同様に軍事力が地域の力学に果たす役割の重要性が過小評価される傾向があった。

現在、変化が起きつつある。ロシア・ウクライナ戦争は多くのアジア諸国が自国の防衛力の必要性を見直すきっかけとなっている。日本や韓国などのアメリカの正式な同盟諸国は、ロシアがウクライナに侵攻し、米英露が1994年のブダペスト覚書で約束した安全保障に関する合意を踏みにじっているにもかかわらず、アメリカがロシアと敵対することを拒否していることを正確に評価している。ソウルや東京から見ると、アメリカのエスカレートへの懸念は、NATO加盟諸国や日本、韓国といった条約上の同盟諸国を守る義務に優先するように見える。西側諸国の首都がエスカレートを恐れているのなら、なぜ同盟諸国を守ることに消極的にならざるを得ないのだろうか?

ロシア・ウクライナ戦争の前から、日本は中国の急速な軍拡と北朝鮮の核開発への懸念から、既に10年連続で防衛費を引き上げてきた。今、安倍晋三元首相は、ドイツの核シェアリング協定と同様に、日本国内でアメリカの核兵器を受け入れることを検討するよう提案し、古い議論を復活させた。安倍元首相は、ウクライナは1994年に核兵器を放棄したため、より強力で修正主義的な隣国ロシアに対して脆弱になってしまったと主張している。

韓国の防衛態勢の見直しは、韓国内の核兵器保有に対する意欲の高まりを反映している。

安倍首相の提案は、後任の岸田文雄首相によって即座に否定された。しかし、与党の自民党(LDP)内では一定の支持を得ている。自民党の意思決定機関(decision-making body)である総務会(General Council)の福田達夫総務会長は、この議論を「避けるべきでない」と述べた。自民党の高市早苗政務調査会長は、核兵器を持ち込まないというこれまでの鉄則についての議論について「抑制すべきではない」と述べた。自民党以外では、一部の保守系野党も核武装の選択肢を公に出すことを望んでいる。

韓国においても、政策立案者たちはアメリカの「核の盾」に依存し続けられるかどうかを懸念している。ユン・スギョル次期大統領は、韓国とアメリカの同盟関係の強化を公約に掲げ、先制攻撃のための能力開発を目指している。ソ・ウク国防相は、韓国は北朝鮮のミサイル発射台に対する攻撃を「正確かつ迅速に」実施することができると述べた。ユン次期大統領は、1991年に撤去されたアメリカの核兵器を韓国に戻すようアメリカに求める考えだと報じられている。その他の選択肢としては、核爆撃機や潜水艦の韓国への配備を求めることも考えられる。ユン次期大統領はまた、韓国に対弾道ミサイル防衛システムを追加配備すること(過去に中国の怒りを買った措置)や、ドナルド・トランプ前米大統領時代に中断していた年2回の米韓軍事演習(野外訓練を含む)の本格的な再開を要求している。

韓国の防衛態勢の見直しは、韓国において核兵器保有に対する意欲が高まっていることを反映している。今年2月の世論調査では、韓国人の71%が韓国独自の核開発を望み、56%がアメリカ軍による核兵器の再配備を支持している。大統領府政策企画委員会のチョ・ギョンファン委員は、ロシア・ウクライナ戦争は、「本当に危機に瀕している時には、頼るべきは自分の力しかない、自分で自分自身を守るしかないのだ」ということを思い知らされたと述べた。

台湾では、ロシアの侵攻に対するウクライナの執拗な抵抗によって、中国による水陸両用の侵攻のシナリオに新たな光を当てる結果になった。ウクライナの非対称戦法、例えば小型で携帯性に優れた対戦車ミサイル「ジャベリン」や対空ミサイル「スティンガー」は、台湾のアナリストが台湾軍の海・空における同様の戦術を強調するきっかけとなった。あるアナリストによると、トランプ政権発足後、台湾がアメリカから購入した18種類の武器のうち116種類は、高性能戦闘機や軍艦といった大規模なものではなく、こうした非対称能力の強化に重点を置いている武器だということだ。

その他の複数の措置も存在する。台湾のジョセフ・ウー外相は、アメリカの武器取引は更に発表されると述べた。国内では、台湾はミサイルの年間生産量を2倍以上にするつもりである。また、4ヶ月の徴兵期間を1年に延長する計画も存在する。

北東アジア地域に比べ、東南アジア諸国はウクライナ紛争を契機に軍事力を強化する動きは少ない。しかし、それでも、紛争時には外部からの支援よりも自助努力に頼るべきという考え方は、今回の戦争で後押しされているように見える。

シンガポールも戦略環境の変化を痛いほど実感している。リー・シェンロン首相は、ウクライナを自国のモデルと見ている。自国を守ろうとする意志は、「ウクライナ人が持ち続けているもので、この世界で自分たちの安全を守るために、シンガポール人が持たなければならないものだ」と記者たちを前にして語った。この発言は特定の国に向けられたものではないが、シンガポール軍は、島国への攻撃や、シンガポールが依存するシーレーンへの干渉を抑止することを目的としていると広く考えられている。アジアで最も高い一人当たりの国防費により、シンガポールの軍隊は既に東南アジアで最も優れた装備を保有している。

今年3月初め、シンガポールのン・エンヘン国防相は、シンガポール軍(SAF)が情報、サイバー能力、心理的防衛を組み合わせた新しいデジタル・インテリジェンス・サービスを立ち上げ、シンガポール軍をネットワーク化した部隊として再編成すると発表した。この決定はウクライナ情勢が原因ではないが、ロシアがウクライナで展開したようなハイブリッド戦争に対処するためにシンガポール軍を再構築すると述べた。

退任予定のフィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領はプーティンを「個人的な友人」と呼んでいるが、ドゥテルテは3月、反米主義だった過去と決別し、ロシア・ウクライナ戦争がアジアに波及した場合にフィリピン軍の事施設の利用をアメリカに提案した。4月21日には、ドゥテルテはフィリピンの国軍と警察に対し、あらゆる事態に「備える」よう呼びかけた。

ヴェトナムは、モスクワとの良好な関係を持っていることから、ロシアを直接非難することを拒否している。しかし、ワシントンの出方次第では、ハノイがアメリカの言いなりになる可能性は十分にある。現在、ヴェトナムはロシア製戦闘機の購入を意図しており、アメリカによる制裁の対象になる可能性がある。フィリピンやインドネシアがロシアの武器購入計画を撤回したのと同じアメリカ制裁法に基づいているのだ。しかし、アメリカはヴェトナムが中国、特に南シナ海で対抗するために軍備を強化することに本質的な関心を持っており、ヴェトナムは安価なロシア製ジェット機を購入する意図を持っている。したがって、アメリカ・ヴェトナム合同軍事演習の再開に関連して制裁が免除される可能性もある。

アジア各国の政府は、アジア地域で戦争がすぐに起こるとは考えていない。しかし、中国は、例えば、南シナ海でグレーゾーンやハイブリッド戦法を用いることで、ロシアのやり方を模倣する可能性がある。南シナ海では、中国は既に自国の領有権主張について、ウクライナに関するロシアと同じような歴史物語を作り出している。アメリカのインド太平洋戦略に対する北京の主張は、NATOにウクライナへの攻撃を強いられたというモスクワの主張とも平行している。3月、中国の楽玉成外務次官は、NATOの拡大が戦争を引き起こしたというロシアの主張を支持し、米国のインド太平洋戦略は「ヨーロッパの東方拡大というNATO戦略と同じくらい危険だ。放っておけば、この地域は "奈落の底に突き落とされる」と述べた。ロシアがウクライナへの攻撃を正当化するために、このようなレトリックを用いたことを考えると、アジア各国の防衛強化への決意は強まっていく。

ヨーロッパは、ハードパワーの現実を残酷なまでに再認識させられた。アジアは、第二次世界大戦後、多くの紛争を経験しているので、そのような再認識は必要ない。しかし、アジアでも、ロシアの侵攻は、将来の紛争に備えるという新たな真剣さを各国政府に植え付ける結果となった。

※ウィリアム・チョン:ISEAS・ユソフ・イシャク研究所上級研究員兼研究所の論説ウェブサイト「フルクラム」編集長。「フルクラム」は東南アジアを専門としている。ツイッターアカウントは@willschoong
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(終わり)

※6月28日には、副島先生のウクライナ戦争に関する最新分析『プーチンを罠に嵌め、策略に陥れた英米ディープ・ステイトはウクライナ戦争を第3次世界大戦にする』が発売になります。


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 古村治彦です。

2022年5月28日に副島隆彦先生の最新刊『有事の金。そして世界は大恐慌へ』(徳間書店)が発売になります。以下にまえがきとあとがきを貼り付けます。ぜひてにとってお読みください。

yuujinokinsoshitesekaihadaikyoukouhe511
有事の金。そして世界は大恐慌へ

(貼り付けはじめ)

まえがき

 この本は、突如、始まったウクライナ戦争(2022年2月24日)と金融、経済の関係について書く。戦争(政治の延長)と経済(お金と実物[じつぶつ])の関係が、これからどうなってゆくのか、を書く。

 日本人にとっては、9000キロも離れた遠くの国でのことだが大事件である。しかも、ネット(SNS)が発達した現在では、ロシア軍の戦車が次々と火を噴いて吹き飛び、むごたらしく散乱するロシアの若い兵隊たちの死体の映像が、スマホの画面にもバンバン入って来た。ロシア兵は開戦2カ月で2万人死んだようだ。ウクライナ兵も爆撃で同じぐらい死亡しただろう。手足を吹き飛ばされた負傷兵はどちらもその倍の4万人ずつ出ているだろう。戦争というのは真にむごたらしいものである。軍需産業(ぐんじゅさんぎょう)というのも有るから、人類(人間)は戦争をやめない。

 これからの世界経済は、どうなるのか。世界はロシア、中国を中心とする新興国(しんこうこく)連合(ユーラシア同盟) 対(たい) アメリカ西欧の西側同盟(ザ・ウエスト)とに分裂する2つの世界に分かれる、という説がある。いや、それ以上にウクライナ戦争は第3次世界大戦に繋(つな)がり核戦争(ニュークレア・ウォーフェア)も起きる、地球の大破壊の時代に入ってゆくという説まで出ている。私は大きくは後者の立場である。

 前ページに載せた「ウクライナ戦争とNYダウ(株価)の関係」の表のとおり、アメリカのバイデン政権(と英ボリス・ジョンソン首相)は、2021年の11月から、ロシアのプーチン大統領を着々とウクライナにおびき出す策略を実行した。開戦させる(プーチンに侵略させる)べく、手ぐすねを引いた。「相手に先に手を出させる。そして大(だい)悪人に仕立て上げる」は、アメリカのこの200年間の常套(じょうとう)手段である。日本に先に手を出させた真珠湾攻撃(1941年12月8日)と全く同じ手口である。

 バイデンは、開戦わずか1週間後の3月2日に勝利宣言とも言える、米議会での一般教書演説(ステイト・オブ・ユニオン)(国民の団結演説)を行った。このあとも予定どおりウクライナ軍の勝利すなわちアメリカが背後から指揮、命令する代理戦争、は快進撃した。

 ところが、3月8日に、株(ストック)と債券(ボンド)の暴落が起きた。前掲のグラフを参照。そして金(ゴールド)が暴騰(とう)して1オンス2079ドル(日本の小売りで1グラム8400円)が起きた。市場(マーケット)(市況)の方が政治(軍事、外交)よりも先を行く。市場は、必ずしもウクライナ(すなわちアメリカ)の勝利を予想しなくなった。

 このあとは、「資源(実物) 対(たい) ドル(の信用)の闘い」の世界に変わった。アメリカは、初めの戦術(tacticsタクティックス)で勝ったが、長期戦の戦略(strategyストラテジー)では決して勝っていないことがはっきりしてきた。ロシア(プーチン体制)に対する厳しい経済制裁(エコノミック・サンクション)がどうも効()かない。このことも判明した。

 アメリカは、ロシアをウクライナで嵌()めてドロ沼状態(quagmire[クアグマイア] situation[シチュエイション])に陥れたと、英米の指導者たち(経済界のトップたちも)は、一斉に欣喜雀躍(きんきじゃくやく)した。と思ったら、ロシア制裁のダダ漏れ(ほころび)が起きた。ここから先が、大変だ。

 世界は文字通り大動乱の時代に入った。だから「有事(ゆうじ)の金(きん)」なのである。金(きん)は実物資産の王者である。金はこのあと1グラム1万円を超えて、さらに上がるだろう。私は今の3倍になる、と予言してこの本で書き続ける。

 さあ、日本人は、どうやって自分の財産を守り、平和を守り、戦争をしないで済み、生き延びてゆけるか。この本で私の知能の限りを尽くして書く。

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あとがき

 この本を書き上げようとしている4月22日(金)に、NYダウ(平均株価)は860ドル急落した。続けて4月30日にも939ドル落ちて、3万3000ドルを割った(終値3万2977ドル)。

 アメリカ経済はうまくゆかない。ウクライナ戦争で、アメリカはゼレンスキー政権を全力で兵器支援したが、勝利しない。3月15日からは手詰まり、膠着状態(stalemate[ステイルメイト])に陥った。株価は戻るし、これからもズルズルとこんなものだろう。

 FRBの金融政策は、高(ハイ)インフレを何とか抑え込んで(金融引き締めで)、かつ、景気刺激(金融緩和で)も続ける、という脵裂(またさ)き状態だ。痩()せよう(ひきしめ)と思いながら、ついつい食べてしまう(デブ)私たちの日常と同じだ。

「資源(含むエネルギー) 対(たい) ドル(アメリカの金融世界支配)の戦い」でどうやら「ドル」の負けがはっきりしてきた。私たちは、この3月、4月にSNSで焼けただれて砲塔が吹き飛んだロシア軍の戦車とロシア兵の若者たちの死体と、爆撃で廃墟と化したウクライナの諸都市の映像を毎日のように見て考え込んだ。日本もあんな目に遭()わなければいいが、が日本国民の根底からの暗黙の合い言葉であった。私は投資家と小(しょう)資産家(小[]金持ち層)のために金融本を書き続けている。だが決して金儲け一点張りの人間ではない。でも私の予言どおり金(きん)が上がってよかった。金はまだまだ、今の3倍まで上がる。

 今回も、徳間書店編集部の力石幸一氏の尽力に預(あずか)った。私が極端言論(極(きょく)(ろん))に走ろうとするのを、それとなく押し止めてくださった。記して感謝します。

2022年5月

副島隆彦 

(貼り付け終わり)

(終わり)

※6月28日には、副島先生のウクライナ戦争に関する最新分析『プーチンを罠に嵌め、策略に陥れた英米ディープ・ステイトはウクライナ戦争を第3次世界大戦にする』が発売になります。


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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 2022年5月9日はロシアでは対ナチス・ドイツ戦争(大祖国戦争)勝利記念日(ベルリン陥落)だった。ウラジミール・プーティン大統領の演説に注目が集まったが、激しい言葉遣いはなかった。ウクライナ戦争については、西側諸国からの高度な武器供与を批判しながらも、対ナチス・ドイツ戦争、第二次世界大戦で連合諸国だったアメリカ、イギリス、フランス、中国に対する感謝の言葉もあった。抑制的な内容だった。

 ウクライナ戦争によって秋からになったのは、世界における深刻な分断である。この分断は「西側諸国とそれ以外の世界」というものだ。日本は先進諸国(民主政治体制)で構成される西側諸国に含まれている。西側諸国、特にアメリカが世界を主導するという構図が冷戦終結後に続いてきた訳だが、今回のウクライナ戦争によってこの構図が崩れつつあるということが明らかになった。国連の場でこれまで3回にわたりロシアを非難する決議が出されたが、これらに対して反対、棄権する国々も多く出た。それらの国々は「BRICs(ブリックス)」を中心とする、アジア、南米、中東、アフリカ諸地域にある非西側諸国だ。

 これらの国々はロシアと経済的、軍事的に緊密な関係を結んでおり、今回の戦争でそうした関係を崩したくないという意向を持っている。更に言えば、アメリカに対する不信感、アメリカが主導する西側諸国に対する不信感を持っている。

 世界の構造は変化している。昔であれば西側先進諸国の言うことは全てが正しく、これらの国々のようになりたいというのが当たり前だった。日本人である私も戦後の日本に生まれたことは幸運だったなぁと思うことは多かった。特に外国に行けばそう感じた。
 しかし、それが変化しつつあるのだ。私たちはウクライナ戦争を通じて、そのことを目撃している。現在の世界一の富豪であるイーロン・マスクは日本が消滅するという発言を行った。世界の認識はこれである。戦後西側諸国の「優等生」であった日本の衰退・没落から消滅へという流れは世界の流れを象徴している、そのように感じられる。毛沢東の大戦略である「農村が都市を包囲する」という言葉を援用するならば「それ以外の世界が西側を包囲する」ということになり、西側諸国全体の衰退・没落が始まっていくのだろう。世界は大きく変化する。

(貼り付けはじめ)

西側vsそれ以外の世界(The West vs. the Rest
-21世紀版冷戦の時代にようこそ

アンジェラ・スタント筆

2022年5月2日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/05/02/ukraine-russia-war-un-vote-condemn-global-response/

ロシアのウラジミール・プーティン大統領は、ウクライナへの侵攻を開始する前に4つの大きな誤算をしている。ロシアの軍事的な能力と効果を過大評価し、ウクライナ人の抵抗の意志と反撃の決意を過小評価した。また、ロシアの攻撃に直面して混乱した西側諸国が政治的に団結することは不可能であり、ヨーロッパやアメリカのアジアの同盟諸国がロシアに対する広範囲な金融、貿易、エネルギー制裁を支持することは決してないと考えたことも間違いであった。

しかし、プーティンは1つだけ間違っていなかった。それは、私が「それ以外(the Rest)」と呼ぶ非西側世界がロシアを非難したり、制裁を科したりしないだろうということをプーティンは正しく予測していた。戦争が始まった日、ジョー・バイデン米大統領は、西側諸国はプーティンが「国際舞台から排除される人物(pariah on the international state)」とするだろうと言ったが、世界の多くの人々にとって、プーティンは排除される人物とはなっていない。

ロシアはこの10年間、1991年のソ連崩壊後に撤退した中東、アジア、中南米、アフリカの国々との関係を深めてきた。そして、2014年のクリミア併合以降、クレムリンは中国に積極的にアプローチしている。欧米諸国がロシアを孤立させようとすると、北京は「パワー・オブ・シベリア」という大規模なガスパイプラインの契約に署名するなど、モスクワを支援するために歩み寄った。

国連は開戦以来、ロシアの侵攻を非難する決議を2回、人権理事会のメンバーシップ停止決議を1回、計3回行っている。これらの決議は可決された。しかし、棄権や反対票を投じた国々の人口規模を集計すると、世界人口の半分以上にもなる。

簡潔に述べるならば、世界はロシアの侵略を不当とする見解で一致していないし、世界のかなりの国々がロシアの行為を罰することを望んでいないのである。実際、ロシアの現状を利用して利益を得ようとする国々もある。プーティン率いるロシアとの関係を危うくしたくないという意向があり、それによって今だけでなく戦争が終わった後も、同盟諸国などとの関係を管理する欧米諸国の能力を複雑にしていくだろう。

ロシアを非難しないことで非西側諸国を率いているのは中国である。中国が何をするにしてもロシアを支援するという理解がなければ、プーティンはウクライナに侵攻することはなかっただろう。プーティンが冬季オリンピック開催中の北京を訪れた際に署名した2月4日の露中共同声明は、「無制限」のパートナーシップと欧米の覇権主義を押し返すという約束を謳ったものである。駐アメリカ中国大使によると、習近平国家主席は北京での会談でプーティンのウクライナ侵攻計画を知らされていなかったということだ。プーティンが習近平に何を言ったか、それが何らかの示唆であったのか、それとももっと明確なものであったのか、それはおそらく誰にも分からない。

しかし、この主張をどう解釈しようとも、中国がロシアによるウクライナ侵略開始以来、ロシアを支持してきたことは否定できない。国連でのロシア非難決議の際には棄権し、人権理事会のロシアのメンバーシップ停止決議には反対票を投じた。中国メディアは、ウクライナの「非ナチ化(denazifying)」と「非軍事化(demilitarizing)」に関するロシアのプロパガンダを忠実に再現し、戦争の責任をアメリカとNATOに押し付けている。ブチャの虐殺がロシア軍によって行われたかどうかを疑問視し、独立した調査を要求している。

しかし、中国の立場にはいささかの迷いがある。また、敵対行為の停止を求め、ウクライナを含む全ての国家の領土保全と主権を信じると繰り返している。中国はウクライナにとって最大の貿易相手国であり、ウクライナは「一帯一路」プロジェクトの一部であるため、ウクライナが経験する経済的荒廃を歓迎することはできない。

しかし、習近平は同じ独裁者であるプーティンと同盟を結び、アメリカ主導の世界秩序に大きな不満を持ち、自分たちの利益をないがしろにしてきたと考える。彼らはポスト欧米の世界秩序を構築することを決意しているが、その秩序がどのようなものであるべきかについては考えが異なっている。

中国にとって、それはルールに基づく秩序であり、中国が現在よりもはるかに大きな役割を果たすことになるだろう。一方、プーティンが考えているのは、ルールの少ない破壊的な世界秩序であろう。中露両国とも、自国の国内制度や人権記録に対する欧米諸国からの批判にアレルギーがある。中国とロシアは、独裁国家にとって安全な世界を実現するために、互いを必要としている。習近平はプーティンが敗北するのを見たくないのだろう。それゆえ、中国はウクライナにおける暴力と残虐行為の規模や、より大規模な戦争へのエスカレーションの危険性に不快感を抱いているにもかかわらず、ロシアに対して発言することを躊躇している。

しかし、中国の大手金融機関はこれまで欧米諸国による制裁に従順だった。欧米諸国との関係における中国の経済的利害はロシアよりはるかに大きいのである。また、欧米諸国によるロシアへの制裁が広範囲に及んでいることから、仮に台湾に侵攻した場合、欧米諸国がどのような反応を示すか、北京は考えているはずである。中国側はこの制裁を慎重に検討しているに違いない。

もう一つ、世界最大の民主政治体制国家であり、アメリカ、日本、オーストラリアとともに「四極安全保障対話(Quadrilateral Security Dialogue)」のパートナーであるインドが、ロシア批判に消極的だ。インドは3つの国連決議に棄権し、ロシアへの制裁を拒否している。インドのナレンドラ・モディ首相は、ウクライナのブチャで起きた民間人に対する残虐行為の報告を「非常に憂慮する」とし、インドの国連大使は「これらの殺害を明確に非難し、独立調査の要請を支持する」と述べたが、モディも国連大使もロシアを非難していない。

インドのスブラマニヤム・ジャイシャンカル外相は、ロシアは「様々な分野で非常に重要なパートナー」であり、インドはロシアの武器と石油を購入し続けていると述べた。実際、インドは兵器の3分の2をロシアから調達しており、モスクワの最大の武器取引先である。冷戦時代、非同盟諸国のリーダーであったインドにこれ以上武器を供給したくないという意向がアメリカにあり、そのことはヴィクトリア・ヌーランド米国務次官も認めている。アメリカは現在、インドとの防衛協力の強化を考慮中だ。

モディ首相がロシアを非難しないのには複数の理由がある。中国がカギとなる。インドはロシアを中国に対する重要なバランサーと見ており、ロシアは2020年のインドと中国の国境衝突の後、インドと中国の緊張を和らげるために行動した。さらに、冷戦時代のインドの伝統である中立性とアメリカに対する懐疑心が、インド国内におけるロシアに対するインド国民のかなりの共感を生んでいる。今後、インドはロシアとの伝統的な安全保障関係とクワッドにおける米国との新たな戦略的パートナーシップのバランスを取る必要がある。

プーティンのこの10年間の外交政策の大きな成功の一つは、ロシアが中東に戻り、ソ連崩壊後に撤退した国々と再び関係を結び、それまでソ連と関係のなかった国々と新たな関係を構築したことである。

現在、ロシアは、サウジアラビアなどのイスラム教スンニ派が率いる国々、イランやシリアなどのイスラム教シーア派が率いる国々、イスラエルなど、この地域の全ての国と対話し、あらゆる紛争の全ての側のグループと関係を持っている唯一の大国である。このような中東諸国との関係の構築の成果は、ロシア・ウクライナ戦争が勃発した時から顕著になった。

国連での最初の決議投票では、アラブ諸国のほとんどがロシアの侵攻を非難する票を投じたが、その後、22カ国からなるアラブ連盟は非難を行わなかった。また、人権理事会におけるロシア非難の投票では、多くのアラブ諸国が棄権した。サウジアラビア、アラブ首長国連邦、エジプト、イスラエルなどアメリカの強固な同盟諸国は、ロシアに制裁を科していない。実際、プーティンとサウジのムハンマド・ビン・サルマン皇太子はウクライナ戦争開戦後、2度にわたって会談を持っている。

イスラエルの立場は、ロシアとイランの両軍が存在するシリアで、アサド政権を支持するロシアによって大きく左右される。イスラエルはロシアと軍事衝突回避(deconfliction、デコンフリクション)協定を結び、シリアにいるイラン軍の攻撃目標を攻撃できるようにした。イスラエルは、ロシアと敵対することで、北部の国境を守る能力が損なわれることを恐れている。イスラエルはウクライナに野戦病院やその他の人道支援を送っているが、武器は送っていない。イスラエルのベネット首相は一時、ロシアとウクライナの仲介役を務めたが、失敗に終わった。

多くの中東諸国にとって、アメリカは信頼できないパートナーであり、これらの国々はアメリカに対して懐疑的だ。自分たちの国の人権を批判するアメリカへの苛立ちも対露姿勢を形成に影響を与えている。唯一、真に親露なのはシリアで、ロシアの軍事支援がなければ、アサド大統領はとっくに失脚していただろう。

近年、ロシアがアフリカに戻り、傭兵のワグネル・グループがアフリカで失脚した指導者たちを支援していることから、アフリカ大陸はロシアへの非難や制裁をほとんど拒否してきた。アフリカ諸国のほとんどは、ロシアの侵略を非難する投票に棄権し、人権理事会からロシアのメンバーシップを停止することに反対票を投じた。新興経済国グループであるブリックス(BRICS)の民主政体国家のメンバーである南アフリカは、ロシアを批判していない。

アフリカ諸国の多くにとって、ロシアは、反植民地闘争の際に支援したソ連の後継者とみなされている。ソ連はアパルトヘイト時代のアフリカ民族会議を支援し、現南アフリカ指導部はロシアに感謝の念を抱いている。中東と同様、アメリカに対する敵意もアフリカのロシアによるウクライナ侵略に対する考えに影響を及ぼしている。

アメリカの裏庭においてさえも、ロシアは応援団を抱えている。キューバ、ヴェネズエラ、ニカラグアは予想通りモスクワを支持したが、他の国々もウクライナ侵攻を非難することを拒否した。ブリックス(BRICS)の一員であるブラジルは「公平」な立場を表明し、ジャイル・ボルソナロ大統領は侵攻直前にモスクワを訪問しプーティンと会談を持ち、「ロシアと連帯する」ことを宣言した。ブラジルは依然としてロシアからの肥料の輸入に大きく依存している。

更に問題なのは、メキシコがアメリカ、カナダと北米共同戦線を張り、ウクライナ侵略を非難しようとしないことである。アンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール大統領の率いるモレナ党は、2022年3月に下院でメキシコ・ロシア友好議員連盟を発足させ、ロシア大使を招いて演説会を開いたほどである。1970年代の伝統的な左翼の反米主義が、このようなロシアの受け入れの大きな理由であり、ロシアに西側諸国との不和をもたらす新たな機会を与えているのであろう。

非西側諸国は世界人口の半分以上を占めるが、その半分は貧しい国であり、多くが後進国で構成されている。欧米諸国のGDP、経済力、地政学的な力を合わせると、侵略を非難せず、ロシアに制裁を加えることを拒否した国々の影響力をはるかに凌駕している。

それにもかかわらず、戦争終結後の世界秩序を形成するのは、現在の「西側」と「それ以外」の分断である。その鍵を握るのが中国とインドであり、プーティンが紛争終結後も国際的に孤立することがないようにするためである。実際、11月に開催されるG20サミットのホスト国であるインドネシアは、プーティンの出席を歓迎するとしている。しかし、その一方で、ウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領も招待している。

この残酷な戦争の後、アメリカはヨーロッパでの軍事的プレゼンスを高め、NATOの東側にある1つ以上の国に軍隊を恒久的に駐留させることになるであろう。プーティンの長年の目標の一つがNATOの弱体化であるとすれば、彼のウクライナとの戦争は目的の正反対を達成した。NATOという同盟を再活性化させただけでなく、アフガニスタン後に新たな目的を与え、スウェーデンやフィンランドが加盟すると見られることから、その拡大も期待できる。NATOは、プーティンが政権を維持している限り、そしておそらくその後も、次のロシアの指導者が誰であるかによって、ロシアに対する封じ込め強化政策に戻るだろう。

しかし、この21世紀版の冷戦では、非西側諸国は、前の冷戦で多くの人々がしたように、どちらかの側につくことを拒否するだろう。冷戦時代の非同盟運動(nonaligned movement)は、新たな形で再登場する。今回は、アメリカと同盟諸国がプーティンを排除しても、非西側諸国はロシアとの関係を維持するだろう。

ロシアは経済的に衰退するだろうが、「主権的インターネット」の構築に成功すれば、脱近代化し、中国への依存度はますます高まっていくだろう。しかし、ロシアは、多くの国家がビジネスに満足し、モスクワと敵対しないように細心の注意を払う国であることに変わりはない。

※アンジェラ・ステント:ブルッキングス研究所非常勤研究員。著書に『プーティンの世界:それ以外の世界と共に西側に対抗するロシア』。ツイッターアカウントは@AngelaStent
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 古村治彦です。

 ウクライナ戦争によって、「戦争はどんどんハイテク化しているんだな」ということが私のような軍事面のズブの素人にも強く印象付けられた。昔のように戦車同士が大会戦を行うとか兵士たちがどんどん突撃するということは1990年代の湾岸戦争の頃から既に見なかったが、今や無人偵察機や衛星情報による位置確定などがなされる時代になった。そして、ミサイル兵器などより破壊能力と精密さが上がっている。それらが連動することによって、より効果的にピンポイントで敵側にダメージを与えることができるようになった。それでも戦争は最後はやはり人が行って場所を制圧しなければならないようだ。当たり前のことではあるが。

 ハイテク機器の面に関しては西側がロシアに先んじているということは間違いない。戦争開始当初、ロシア軍は普通に西側諸国の企業の部品が入った携帯電話を使い、連絡を取り合っていてそのために司令官クラスの位置が掴まれてピンポイントで攻撃を受け手戦死することが複数あった。西側諸国の各ハイテク企業は「愛国的な」行動として、そうした位置情報などを提供し、それがウクライナ軍に伝わっているという構図があるようだ。
 また、西側各国の政府や民間企業はウクライナ国内でインターネットが使える状態を維持するために資金と技術を提供している。それによってウクライナ国民もロシア軍に関する情報を提供できる状態になっている。「ハイテク戦」ではロシアは敗北しているということになるだろう。
 ロシア側は現在、そうしたハイテク戦で何とか挽回しようとしているようだ。どこまでできるかは分からないが、ロシアのハッカー技術や偽情報拡散の能力を考えれば、ある程度まで挽回ができるものと思われる。また、西側諸国に対するインターネットを利用した攻撃ということも考えられる。

 戦争のハイテク化を印象付けたウクライナ戦争はいつまで続くことになるか。先の見通しは立っていない。

(貼り付けはじめ)

中国のドローン・メーカーがロシアとウクライナでの事業を一時停止(Chinese drone-maker suspending operations in Russia, Ukraine

モニク・ビールス筆

2022年4月27日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/policy/international/3467506-chinese-drone-maker-suspending-operations-in-russia-ukraine/

中国のドローン・メーカー「DJI」は火曜日、ロシアとウクライナでの事業を一時的に停止すると発表した。

DIJは声明の中で「DJIは、様々な管轄区域におけるコンプライアンス要件を社内で再確認作業を行っている。この見直し作業が完了するまで、DJIはロシアとウクライナにおける全ての事業活動を一時的に停止する」と述べた。

DJIは直接、この決定は「現在の敵対行為を考慮し、販売に関するコンプライアンスを見直すための努力を行う」と述べた。

『ワシントン・ポスト』紙は、DJIの広報担当者は中国メディアに対し、一時停止は「今回の声明は特定の国をターゲットにしたものではなく、当社の原則に関するものだ」と述べたと報じた。

ウクライナ政府当局は以前、DJIがウクライナの軍事情報をモスクワにリークしたと非難したが、DJIはこうした主張をきっぱりと否定しているとロイター通信は報じている。

しかしDJIは、自社製品のいかなる軍事利用にも反対しているとCNNは報じた。

ロシアによるウクライナ侵攻からわずか3週間後の3月、ウクライナのミハイロ・フェドロフ副首相は、「ロシア軍がミサイルを誘導するためにDJI製品を使用している」とする書簡を書き公表した。

フェドロフは「あなた方はこの殺人行為の協力者となりたいのか?」とツイートで同社に問いかけた。そして「ロシアがウクライナ人を殺すのを助けているあなたの製品をブロックして欲しい!」と訴えた。

深センに本社を置くDJIは、民生用・産業用ドローンの世界最大のメーカーである。

中国企業DJIがロシアでの事業を停止するという決定は特に珍しいもので、西側諸国がいわれのない攻撃を行ったロシアに強力な制裁を科しても、中国はロシアによるウクライナ侵略の中でモスクワとの関係を強化しようと考えている。

中国の楽友成外務次官は今月初めに声明を発表しその中で、「国際情勢がどのように変化しようとも、中国は引き続きロシアとの戦略的協調を強化し、ウィン・ウィンの協力を目指し、両国の共通の利益を共同で守り、新しいタイプの国際関係と人類が未来を共有する共同体の構築を促進する」と述べた。

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ウクライナ政府へ衛星ネットサービスの端末を大量供与、米国

2022.04.07 Thu posted at 17:15 JST

https://www.cnn.co.jp/usa/35186011.html

(CNN) 米政府の援助機関である国際開発局(USAID)は7日までに、ロシア軍の侵攻を受けたウクライナ政府に対し米宇宙企業スペースXが手がける人工衛星経由のインターネットサービス「スターリンク」の端末5000個を供与したと発表した。

ロシア軍がウクライナの通信基盤を妨害する事態などに備え、米政府がこの端末送付の資金面や輸送で支援してもいる。

スターリンクは、世界の遠隔地や紛争地域でインターネットが利用出来る通信環境を提供するもので、端末やテレビ用の小型アンテナに似た装置などを使う。

USAIDは声明で、「プーチン(大統領)による野蛮な侵攻がウクライナの光ファイバー網や移動体通信の接続網を切断したとしても、スターリンクの端末はウクライナの公職者や重要な民生サービスの提供者によるウクライナ国内あるいは世界各地との通信の維持を可能にする」と強調した。

ロシアが軍事侵攻に踏み切った今年2月、スペースXの創業者であるイーロン・マスク氏はウクライナ上空で初めてスターリンクのサービスを起動。ツイッター上でより多くの端末も同国へ向かっているとも発表していた。

マスク氏の行動は、ロシアの侵攻が続けばウクライナのネット接続環境が消滅するとの懸念を示した同国副首相の嘆願に応じたものだった。USAIDが今回の大量な端末供与に踏み切る前、スペースXがウクライナ側に便宜を図っていた端末の数は明らかではない。

スペースXは2019年5月以降、スターリンク用の衛星を2000基以上打ち上げてきた。今後数年間でさらに約4万2000基の配備を計画している。
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ロシアがウクライナのGPSに妨害攻撃か 米宇宙軍が言明

4/25() 17:40配信

ニューズウィーク日本版

https://news.yahoo.co.jp/articles/3ae5fef51a1abb1378df9e20b5536d16bba897b5

──ドローンや救護車両などの運用に欠かせないGPSが、ウクライナで妨害を受けているという。米宇宙軍幹部が明かした

ロシアによるGPS妨害は侵攻以前からたびたび発生していた......

ウクライナ軍および市民は現在、GPS(全地球測位システム)による正確な位置情報を得られていない可能性がある。米宇宙軍で作戦担当副本部長を務めるデイヴィッド・トンプソン将軍が、米NBCの番組に出演し、ロシアによる妨害工作の可能性を明かした。

番組司会者が「ウクライナではGPSが利用不能になっているのですか?」と問いかけると、氏は「その通りです。ロシアはアメリカが提供するGPS信号をウクライナ国内で妨害しています。辺りには妨害工作車が存在し、(GPS信号の)受信と利用を妨げているため、ウクライナの人々はGPSを利用できない可能性があります」と説明した。

GPSが機能不全となれば、戦線への直接的な影響が懸念される。ウクライナでは軍事ドローン「バイラクタルTB2」がロシア戦車を相手に善戦し、市販の小型ドローンも偵察に貢献している。これらの飛行制御はGPSに依存している。

戦禍の国民生活にも悪影響が及びかねない。自動車の車載ナビやスマホの地図などはGPSを前提としており、救助車両の到着の遅れなど市民生活への支障が憂慮される。

GPSは、アメリカ宇宙軍が運用する衛星測位システムだ。ウクライナを含む世界の多くの国で利用されているが、妨害はウクライナ国内に留まるとみられる。衛星測位システムにはGPSのほか、欧州版の「ガリレオ」やロシア版の「GLONASS(グロナス)」などが存在する。

■ 地上の信号を妨害

ロシア側はGPS衛星を直接攻撃することなく、地上の補助的な送信設備をねらった模様だ。

GPSのしくみとして、約30基の衛星が軌道上に配備されている。予備機を除く24基が稼働しており、このうち少なくとも4基の電波を捉えることで現在地を算出するしくみだ。電波には発信時刻と衛星の位置が記録されており、発信から受信までにかかった時間差をもとに各衛星との距離を計算し、現在地を特定する。

ただし、衛星からの電波だけでは、10メートル程度の誤差が生じる。このため、地上のGPS基地局からも並行して電波を受信し、精度向上のヒントとして利用する。今回ロシア側の妨害を受けているのは、この地上局が発する電波だ。

妨害は今回が初というわけではなく、侵攻以前からたびたび発生していた。米シンクタンクの戦略国際問題研究所は、2014年ごろから断続的に行なわれてきたと分析している。宇宙ポータルサイトの『Space.com』によると、ロシア軍は大型トラックのような形状の独自開発の車両を保有しており、ここに妨害装置が搭載されているという。

■ ロシア版GPSは「数年内に崩壊」説も

ウクライへの妨害を活発化するロシアだが、一方で自身の衛星については、かなりお粗末といわざるを得ない状況だ。ロシア版衛星測位システム「GLONASS」を開発したものの、綱渡りの運用が続く。

GLONASSでは本来24基の衛星が必要なところ、稼働中の衛星はこれを下回る23基だ。6基前後の豊富な予備機を擁するGPSとの差異が際立つ。さらに、GLONASSには寿命間近の機体も多く、半数ほどはいつ動作不良に陥ってもおかしくない。設計上の数を満たせなくなるとまず一部地域で精度が低下し、その後18基を割った時点でロシア全域をカバーできなくなる。

匿名の専門家は欧州報道機関の『ラジオ・フリー・ヨーロッパ』に対し、「打ち上げの動向を根本的に変えない限り、GLONASSシステムは数年以内に崩壊を迎えるでしょう」との予測を示している。

位置情報のみならず偵察衛星網についても、衛星の数が少なすぎるとの指摘がある。個々の機体としても解像度の低い旧式の技術を採用しているうえ、一部衛星には耐用年数の限界が近づく。これが偵察活動の不調を招き、キーウ陥落作戦の主な失敗要因のひとつになったとの観測すら出ているほどだ。

対するウクライナは、アメリカから偵察衛星の画像提供を受けている。その仔細は明かされていないが、仮に高解像度のスパイ衛星である「キーホール12」シリーズの画像を入手しているとするならば、その解像度は1ピクセルあたり5センチほどだ。面積あたりでは商用衛星の9倍の精度となる。ラジオ・フリー・ヨーロッパは、ロシア車両に描かれた「V」の文字も容易に読めるほどだと述べ、両陣営間の偵察精度の差異を指摘している。

■ 衛星への直接攻撃もあり得る

ただし、ロシア側は乱暴な一手で性能差を詰めてくる可能性がある。アメリカ宇宙軍は、米衛星への直接攻撃も起こりうるとみて監視体制を強化している。

ブルームバーグは、アメリカ国防情報局の最新の見解を報じている。それによると同局は、ロシアが「アメリカの宇宙関連サービスを無力化あるいは阻止する対抗システムを推進している」とみて警戒を強めている。

同局がまとめた報告書は、ロシアがすでに「衛星のセンサーの目を眩ますものを含め、複数の地上レーザーを保有している」との見解を示し、「おそらく2020年代中盤から終盤にかけて、さらに効果的に衛星を損傷するためのレーザーを配備するだろう」と分析している。

ロシア自身の衛星網に抜きん出た点はないものの、妨害の手法は今後も発展する可能性がありそうだ。

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民間衛星がロシア軍の動き「丸裸」に…偽情報拡散に対抗、戦争犯罪疑惑の捜査にも

2022/04/29 13:55

https://www.yomiuri.co.jp/world/20220429-OYT1T50049/

https://www.yomiuri.co.jp/world/20220429-OYT1T50049/2/

 【ワシントン=冨山優介、蒔田一彦】ロシアによるウクライナ侵攻では、米民間企業の人工衛星がロシア軍の動きを細かく捉え、注目を集めている。観測データは、戦争犯罪疑惑の追及でも役割を果たしている。

 米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は21日、ウクライナ南東部マリウポリ郊外を3月から4月上旬に撮影した4枚の衛星画像を掲載した。画像では日ごとに直線的に並んだ穴が増える様子が分かる。記事は、約300に達した穴が「集団墓地とみられる」と分析し、世界で反響を呼んだ。

 撮影したのは米宇宙企業マクサー・テクノロジーズの衛星だ。マクサー社は自社の衛星で撮影した高解像度の画像を、各国政府や報道機関などに販売し、一部は無償提供している。取材に応じた同社幹部のスティーブ・ウッド氏は「報道機関への画像提供は偽情報拡散への対抗に役立つ。侵攻とそれに伴う人道的危機を記録するために画像の共有を続ける」と話す。

 国連によると、1957年以降、衛星などの人工物は世界で計1万2000基以上が打ち上げられ、近年は年間1000基を超えるペースで増えている。その多くが民間企業の衛星だ。

 電子部品の高性能化や小型化に伴い、衛星も小さく、安価で製造することが可能になった。カメラの性能も向上し、民間衛星でも地表の数十センチ大の物を見分けられる精度だ。

ussatelliteuseinukraine511

「客観的見方 提供」

 民間衛星のデータは、国際刑事裁判所(ICC)などによるロシア軍の戦争犯罪疑惑を巡る捜査にも活用されている。米紙ポリティコによると、以前は各国の軍や情報機関しか得られなかったようなデータが民間企業から入手できるようになり、捜査すべき場所の特定や証拠の収集がしやすくなっているという。

 マクサー社と同様、衛星を運用し、画像を販売する米宇宙企業プラネット・ラボの広報担当者は「我々のデータは各国政府や人権団体が重要な情報を記録するのに役立つ。進行中の出来事について客観的な見方を提供できるからだ」と意義を強調する。

「攻撃対象」懸念も

 新たな問題も浮上しつつある。米専門家はワシントン・ポスト紙に「交戦国が民間企業から提供されたデータを攻撃に使用すれば、その企業は紛争当事者とみなされる可能性が高い」として、民間衛星が攻撃対象になり得るとの見方を示した。

■増える監視 隠蔽は不可能…米ジョンズ・ホプキンス大上級講師 ジョン・オコナー氏

 民間衛星の画像が注目される現状について、米中央情報局(CIA)で衛星画像分析に携わった米ジョンズ・ホプキンス大上級講師のジョン・オコナー氏(地理空間情報学)に聞いた。(ワシントン 冨山優介)

 現在、ウクライナの特定の地点の画像を得ようと思えば、1日に100回以上の頻度で得ることが可能だ。民間企業と20以上の国々の衛星がカバーしているからで、その間隔は短ければ数分、長くても1時間半程度だ。地上での何かの行為を 隠蔽いんぺい するということは、実質的に不可能だ。

 2001年のアフガニスタン戦争や03年のイラク戦争の当時は、民間衛星は少なく、地球上のどこでも多数の衛星で監視できるような状況ではなかった。かつては国家が独占していた軍事機密に近いような画像も、今は多くの人が目にするようになっている。今回、ロシアも米欧の側も、情報をコントロールすることはできなくなっていると言える。

 ロシア軍の残虐さは国際的にも異質だが、宇宙からは多数の衛星で、地上では市民らがスマホで撮影した写真のSNSへの投稿によって、白日の下にさらされる。今後の紛争や戦争時には、軍隊の司令官はそうした監視の目を意識しなければならなくなるだろう。

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 古村治彦です。

 ウクライナ戦争は「消耗戦(attrition warfare)」に進んでいる。ロシア軍はウクライナ国内の軍事物資生産拠点や輸送拠点を中心に攻撃を行っている。これによってウクライナ国内の生産能力は下がっている。ウクライナは西側諸国からの支援を要請し、西側諸国はその要請に応え、より高度な武器を供給している。一方、ロシアは経済制裁の影響もあり、物資が不足していると指摘されている。ウクライナ戦争が長期戦の様相を呈し、「消耗戦」となっている。
 消耗戦ではロシアが不利であるのはその通りだ。西側諸国による経済制裁によって必要な物資を手に入れることは難しいだろう。そうなれば消耗戦となってしまうとロシアに不利だ。そこで出てくるのが核攻撃とロシアからのエネルギー資源の輸出制限というオプションだ。ヨーロッパ諸国はロシアからの石油と天然ガスに依存している。この供給を止められると国民生活に大打撃ということになる。西側諸国が高度な武器をウクライナに供給するということはロシアから見れば「共闘者による敵対行為」ということになる。そうなれば、攻撃対象となり得るし、エネルギー資源を供給する義理もない。

 消耗戦は不毛な戦いとなる。ロシア側が何らかのカードを切れば、ヨーロッパ諸国にとっても大きな痛手となる。そうなれば敵愾心が燃え上がり、戦争はエスカレートしながら継続することになる。何とも厳しい状況が続くことになる。

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ロシア軍はプーティンのウクライナ非武装化命令を文字通りに受け止めている(Russian Troops Are Taking Putin’s Orders to Demilitarize Ukraine Literally

-ロシアの攻撃はウクライナ軍が切実に必要とする重装備を生産する施設に打撃を与えている。

ジャック・デッチ、ロビー・グラマー筆

2022年5月4日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/05/04/russia-demilitarize-ukraine-arms-facilities/

ロシアは火曜日夜にウクライナ全域で大規模なミサイル攻撃を実施した。ロシア軍はウクライナ国内の武器輸送の重要な拠点である西部の都市リヴィウの鉄道分岐点を含むウクライナ全域の攻撃目標にミサイルを叩きつけた。ウクライナ政府関係者や専門家たちによると、ロシアによる大規模なミサイル攻撃はウクライナ全域の最重要な防衛生産地域の目標への攻撃を強化する可能性が高まっていると示唆している。

ロシアの攻撃は、ウクライナ軍の軍事能力を潰し、ウクライナ東部の支配をめぐる戦いでモ苦戦を続けているロシア軍部隊の立場を優位にするため、ウクライナの主要産業基地や防衛産業の重要拠点を標的にしてきた。また、ロシアが攻撃を強化しているため、ウクライナは西側諸国からのハイエンド(高度な)兵器システムへの要望を高めている。

複数のウクライナ政府関係者が本誌に語ったところによると、ロシアはキエフ近郊の対艦ミサイル施設、ハリコフのマリシェフ戦車工場、ハリコフ、マリウポリ、ミコライフの各都市の重工業団地を破壊したり、大きな被害を与えたりしているということだ。特に多連装ロケットシステム、大砲、戦車、装甲兵員輸送車などは、ロシアの攻撃により、ウクライナ側で切実に必要とされている。

前述のウクライナ政府関係者はメディア対応する権限を持っていないために匿名で続けて次のように語った。「ロシアが私たちの施設を全て破壊したため、私たちはそのような重装備が必要だ。この戦争は本格的な戦争なのだ。毎日人員や武器を失っているが、部隊を再完成させるだけのことだ」。

ロシア軍によるウクライナ全域へのミサイル攻撃は、2カ月にわたる戦争において、一連の軍事的失敗が続いた後に行った戦略の転換をいみじくも表している。ウクライナ軍の強固で効果的な抵抗もあり、ロシア軍がキエフを占領してウクライナ政府を転覆させる試みは阻止された。しかし、複数の専門家たちはウクライナの重要な防衛生産拠点を攻撃するという戦略の根本は侵攻初期段階にまで遡ることができると指摘する。ロシアのウラジミール・プーティン大統領は、2月24日にロシアの本格的な侵攻が始まったドンバス地方での軍事作戦を発表した際、ウクライナの「脱ナチス化」と「非軍事化」の意図を宣言した。侵攻早々、ロシアはキエフにあるウクライナの軍用輸送機メーカー、アントノフ社の組立工場に連続攻撃を行い、2名が死亡した。

シンクタンクのCNAのロシア軍専門家マイケル・コフマンは次のように述べている。「ロシアはウクライナ国内で達成すべき目標を設定し、その目標の一部は非軍事化だと考えている。プーティンがウクライナでの2つの目標を脱ナチス化と非武装化と宣言したとき、ロシア軍はそれを文字通り受け止めた。軍産複合体の一部である主要な軍事インフラや施設を攻撃すればいいのだ、と」。

ウクライナはかつてソ連の防衛産業の中心地と考えられた。冷戦時代からの軍事生産施設が大量に残っている。ウクライナの防衛産業は国有企業に統合され、2010年以降は装甲車、固定翼機、国産対戦車兵器の開発など、ウクライナ軍への装備品供給の大部分を担ってきた。ロシア軍はウクライナの燃料基地や生産施設を攻撃する努力を続けてきた。一方、ウクライナ軍はロシア軍に対抗しロシア軍を困らせるために物資を移動させることで挑戦してきた。

CNAのロシア専門家コフマンは、ロシアは主に防衛・航空宇宙部門の一部、戦車の製造・修理、燃料・弾薬の貯蔵施設と確認できるものを攻撃したようだと述べた。あるロシア政府高官は金曜日に、ロシア軍がキエフのアルチョム宇宙ロケット工場を破壊したと主張したが、ある米国防総省高官とウクライナ当局者たちはこれに反論し、ウクライナの首都に対する巡航ミサイル攻撃は工場ではなく住宅地を攻撃し、ジャーナリスト1人が死亡したと指摘した。

ロシアによる大規模な侵攻は、モスクワにとって急速に軍事的な泥沼に陥った。モスクワは、数日のうちにキエフを占領し、ウクライナの抵抗をほとんど受けずに親ロシア政権を樹立することを期待していたと伝えられている。コフマンによれば、ウクライナ人は基本的な機器の修理や点検はできるだろうが、ロシアが占領・包囲している地域の軍事・産業施設にはほとんど対応できない。例えば、アゾフ海沿岸のマリウポリのアゾフスタル製鉄所では、ロシア軍が迷路状の施設を襲撃しているため、数百人の市民が閉じ込められたままになっていると報道されている。

しかし、ロシアがウクライナの防衛産業への攻撃を強化することは、ロシア軍が自国の軍隊、物資、弾薬の在庫を消耗し、西側諸国がロシアの侵略を圧し戻すためにウクライナへの軍事支援を強化する中で、より長引く消耗戦となった戦争を優位に進める意図を示すことにもなる。

米国防総省のある高官は国防総省が定めた基本規則に基づいて匿名を条件で次のように語った。「ロシアがやろうとしていることは、ウクライナが自国の物資を補充し、自国を強化する能力を奪うことだと考えている。例えば、電力施設への攻撃が試みられている。おそらくロシア側は、電力を遮断すれば、列車の移動能力に影響を与えることができると考えているのだろう」。

ロシアは精密誘導弾が不足しており、西側による大規模な制裁によって世界の供給チェインから切り離されているため、ロシア軍の軍需品を補充するのに苦労しているだろう。

元ヨーロッパ駐留アメリカ軍司令官で現在はワシントンにあるシンクタンクのヨーロッパ政策分析センターで戦略研究のパーシング講座を担当するベン・ホッジスは次のように語っている。「ロシアがこの消耗戦の段階に入ると、ロシアの防衛産業は制裁のために精密弾薬を作ることさえできなくなる。少なくとも、ウクライナの新しい軍事物資を生産する能力を低下させようとするだろう」。

ホッジスはまた、ロシアがウクライナの防衛産業を標的にした攻撃を行っても、戦争に決定的な優位性を与えることはないだろうと持述べた。

ホッジスは「この消耗戦では、ロシアがいつまでこれを維持できるかに絞られる。彼らは無限の供給能力を持っているわけではない」。

※ジャック・デッチ:『フォーリン・ポリシー』誌国防総省・国家安全保障記者。ツイッターアカウントは@JackDetsch

※ロビー・グラマー:『フォーリン・ポリシー』誌外交・安全保障担当記者。ツイッターアカウントは @RobbieGramer
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 古村治彦です。

 ウクライナ戦争は終わりの見えない状況になっている。2月24日に始まってすぐに、停戦交渉が行われた。停戦交渉が断続的に行われてやがて停戦に至るものと私は考えていた。これは非常に甘い見通しだったと反省している。3月末になって停戦交渉という言葉が報道から消え始めた。「ウクライナ軍が善戦してロシア軍が首都キエフを掌握することを阻止できた、西側諸国が支援しているウクライナ軍は強い、ウクライナ軍がロシア軍を追い出すまで戦う」という流れになった。いくらウクライナ軍が強いと言っても無傷では済まない。ウクライナ軍にもウクライナ国民にも犠牲者が数多く出ている。しかし、そのようなことは顧みられない。日本のいつもはリベラルな仮面をかぶった好戦主義者たち(日本版ネオコン)の人々はここを先途と「どんどんやれやれ」「自由と人権と民主政治体制を守るために犠牲になれ(自分は安全な場所にいるけど)」という最低な存在になり果てている。

 アメリカやヨーロッパ諸国がより攻撃能力の高い武器をウクライナに供与するという転換を行ったことはこのブログでも既にご紹介した。下の論稿にあるように、ウクライナ戦争は停戦交渉ということではなく、「やるかやられるか」の段階に進んだということになる。プーティンを打ち倒すか、プーティンの目的を達成させるか、ということである。更に言えば、「ロシアを弱体化させる」という究極の目的が設定されている。

 「ロシアの弱体化」というアメリカとNATO諸国へのプーティンの対応は「核攻撃」ということになる。下の記事にあるウように、これをただの脅しの言葉と楽観的に捉えているNATO幹部が多くいるようだが、なんと馬鹿な人間たちなのだろう。何かに対処するにあたり、悲観的に考慮し一度決めたら楽観的に行動するということが原則だが、楽観論で考えてしまえば痛い目に遭うということは歴史が示している。人間は学ばない生き物である。

 ジョー・バイデン大統領による新たなアプローチによって、ウクライナ戦争の終わりは見えなくなり、更に戦争がエスカレートし、核戦争に至る可能性も高まっているということが下に紹介した記事の趣旨である。これまでの状況を冷静に判断すればこのような結論に至るのが当然である。停戦交渉を双方が行って一刻も早く停戦を実現することが最良であるが、その可能性は低くなっている。何と馬鹿げた状況であろう。

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バイデンの危険な新たなウクライナ戦略:終わりのない戦い(Biden’s Dangerous New Ukraine Endgame: No Endgame

-ロシアを「弱体化」させる戦略で、バイデン米大統領はウクライナ戦争を世界規模の戦争に変えようとしているのかもしれない。

マイケル・ハーシュ筆

2022年4月29日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/04/29/russia-ukraine-war-biden-endgame/

今週一連の劇的な変化が起きた。ジョー・バイデン米大統領とNATOの同盟諸国は、ロシアの侵攻からウクライナを守るための政策を、ロシアのパワーと影響力を弱めるための政策へとエスカレートさせている。そうすることで、降伏するか、ロシア軍を更に派遣し攻撃を強化するか、ウクライナを越えて戦争を拡大させる可能性を高めるか、といった選択肢しかロシアのウラジミール・プーティン大統領に残さないことになるのではないかと専門家の中には懸念を持っている人々がいる。

木曜日、バイデンは連邦議会に対し、ウクライナに対して330億ドル(従来の2倍以上)の軍事、経済、人道支援を追加するよう要請した。そして、プーティンに対して「ウクライナを支配することにあなたは決して成功しない」という明確なメッセージを送ると述べた。バイデンはホワイトハウスでの発言で、この新しい政策は「ロシアの侵略に懲罰を与え、将来の紛争のリスクを軽減する」ことを意図していると述べた。

バイデン大統領のこうした言動はロイド・オースティン米国防長官が今週行った明確な宣言に追随し、その中身は全く同じものとなった。オースティン国防長官は、キエフでウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領と会談した後、アメリカの目的は長期にわたってロシアの力を削ぐことであり、ウクライナへの軍事攻撃を「再現する能力」を持たせないことだと発言した。ポーランドに一時滞在中、オースティンは「ロシアがウクライナへの侵攻のようなことをできない程度に弱体化することを望んでいる」とも語った。

この変化によって、ロシアのセルゲイ・ラヴロフ外相に、アメリカや西側諸国がロシアとの「代理戦争」に突入し、核戦争に発展する可能性のある世界大戦を再び引き起こす危険があると宣言させたのかもしれない。「危険は深刻であり、そして現実でもある。そして、私たちはそれを過小評価してはならない」とラヴロフは語った。プーティンはまた今週、2月24日の侵攻開始以来続けてきたように、NATOに対して核兵器を使用するオプションがまだ存在することを再び示唆し、「そして、必要であれば、それらを使用する」と述べた。

アメリカによる新たな攻撃的アプローチに多くの賛意が寄せられている。特に現役や元のNATO幹部たちから賛辞が送られている。こうした人々はロシアからの核兵器による反撃という脅威は空虚な脅しの言葉に過ぎないと主張している。

NATO事務総長のアンデルス・フォグ・ラスムセンはインタヴューの中で、「アメリカによる攻撃的アプローチは前進する唯一の方法だ」と述べた。ラスムセンは更に次のように述べた。「プーティンの考えでは、西側の政策はとにかくロシアを弱体化させるものということになるので、これまでのアプローチと新たなアプローチには何の違いもない。それなのに、なぜ公然と話さないのか。過去に犯した過ちは、プーティンの野心、彼の残忍性を過小評価したことである。同時に、ロシア軍の強さを過大評価したことだ」。

アメリカとNATOの新たな戦略は、プーティンがウクライナの完全征服から東部と南部での新たな攻撃へとその野望を縮小せざるを得なくなったこと、つまりウクライナが戦場で成功を収め続けていることも一因となっている。ドイツを含むNATOの同盟諸国は、今週まではウクライナにより効果の高い重攻撃用武器を送ることを躊躇していたが、現状を受けて支援を強化した。ドイツのオラフ・ショルツ首相は、国内外からの政治的圧力を受け、今週初め、ウクライナに対空戦車50台を提供すると発表した。

しかし、他のロシア専門家は、アメリカと西側同盟諸国は事実上、これまで避けてきたレッドラインを踏み越えていると懸念を持っている。バイデンは、2カ月に及ぶ紛争の大半で、大規模な攻撃兵器や飛行禁止区域など、アメリカやNATO軍をロシアと直接対立させると思われるような軍事支援を承認することを拒否してきた。しかし今、追加支援と経済制裁の強化によって、バイデン大統領はプーティンを、戦い続けるか降伏するかのどちらかしかない状況に追い込んでいる、と懸念する人々もいる。降伏することは、プーティンが長年の目標としている、西側諸国に対してロシアの立場を強化するということの放棄を意味する。しかし、プーティンは長い間、欧米諸国の目的はロシアの弱体化や封じ込めだと言ってきたが、ウクライナやジョージア(グルジア)を中心とする周辺諸国に対して10年半にわたって攻撃的な動きを続けてきた中で、降伏したことは一度もない。

戦略国際問題研究所(CSIS)のヨーロッパ専門家ショーン・モナハンは「クレムリンの目には、西側がロシアを追いかけて捕まえようとしているように映っている。これは以前であれば暗黙の了解というところだったが今や現実となっている」と述べている。モナハンは更に次のように述べた。「バイデンが先月ポーランドで行った首脳会談で、“この男(プーティン)は権力の座に留まることはできない”と発言したことと合わせて考えると、領土戦争をより広い範囲の対立に変え、ウクライナ戦争を終わらせるための和平交渉をはるかに困難にし、あるいは現時点で不可能にさえするかもしれない」。バイデン政権幹部たちは後に、大統領はロシアの政権交代を求めている訳ではないと述べて火消しに努めた。

CIAでロシア担当主任分析官を務めたジョージ・ビーブは、バイデン政権は「アメリカにとっての最重要な国益とはロシアとの核衝突を回避すること」であることを忘れている可能性があると指摘している。ビーブは更に「ロシアは、自分たちも負けるのであれば、他の誰をも敗北させる能力(訳者註:核攻撃能力)を持っている。そしてそれは、私たちが向かっている場所かもしれない。今回の転換は危険な方向への転換だ」と述べた。

おそらく最も懸念されるのは、プーティンがロシア訪問をしたアントニオ・グテーレス国連事務総長に対して、交渉による解決の可能性をまだ希望していると述べたにもかかわらず、もはや交渉による解決の可能性がないように見えることである。

あるヨーロッパにある国の上級外交官は匿名を条件にして次のように述べた。「プーティンを弱体化させる政策と、それを口に出して言うことは全く別のことだ。プーティンにとって政治的解決に至る道を探さなければならないのだから、このような発言をするのは賢明ではないということになるだろう」。

アメリカ政府元高官で、現在はジョージタウン大学で国際関係の研究をしているチャールズ・カプチャンは「より危険になっている。ジャベリンや対戦車ミサイルを越えて、政治的に大詰め(endgame)、どのように戦争を終結させるかについて話し始める必要がある」と述べている。前述のビーブは次のように述べている。「国際的な解決という文脈で制裁を緩和する意思があることを、何らかの形でロシア側に控えめに伝える方法を見つける必要がある。ウクライナへの軍事支援もテコとして使えるだろう」。

しかし、そのような交渉の実現はこれまで以上に可能性が低くなりそうだ。両者とも長い戦いに身を投じているように見える。火曜日にプーティン、そしてラヴロフと会談した後、グテーレスは近々に停戦が実現する可能性はなく、戦争は「会談で終わることはない」と認めた。

ほんの1ヶ月前まで、ゼレンスキーはNATOに加盟しない中立のウクライナという考えを持ち、ウクライナ東部の分離主義勢力を認めると提案していた。しかし、ゼレンスキーはその後、ヨーロッパ連合理事会のシャルル・ミシェル議長に対し、ロシアの残虐行為に鑑み、ウクライナの世論は交渉に反対し、戦争継続に賛成していると述べた。

一方、フィンランドとスウェーデンはNATOへの加盟に関心を示しており、長年の非同盟政策を転換し、ロシア北部国境に新たな一触即発(ヘアトリガー、hair-trigger)の環境が出現する可能性がある。NATOの東方拡大をウクライナ侵攻の理由にしてきたプーティンにとってこれは大きな痛手となる。

そして、こうした緊張がすぐに緩和される見込みはほとんどない。オースティン米国防長官は今週、40カ国からなる「ウクライナ・コンタクト・グループ(Ukraine Contact Group)」を招集した。マーク・ミリー米統合参謀本部議長は「少なくとも年単位になるであろう」と述べた「長引く紛争(protracted conflict)」に備える準備をアメリカは進めている。

バイデンは、プーティンが戦術核や戦略核を配備した場合、アメリカがどのような対応を取る可能性があるかについては言及していない。更に、冷戦後の環境において、米露両国は核兵器の配備について明確なルールを設定していない。特に、中距離核戦力条約のような冷戦時代の軍備協定が棚上げされ、核兵器の運搬システムがより高速化し、自動デジタル化システムによって支配的に運営されるようになったためだ。「脱エスカレートするためにエスカレートする」と呼ばれるクレムリンの政策(西側が彼を止めようとすれば核武装すると脅す)の下、プーティンは年々、通常戦争の計算に核兵器を再導入している。政権を担ってきた20年の間に、彼はヨーロッパ大陸で、原子力巡航ミサイル、大洋上核武装魚雷、極超音速滑空機、さらに低収量の核兵器の建設を許可してきた。

しかし、プーティンはこれまで核兵器を使用すると脅したことはなく、また、使用する可能性があるかどうか、どのように使用するかを明らかにしたこともない。ウクライナ危機が起きるまで、アメリカの戦略家たちはプーティンによる核兵器の配備が脅威となるとは考えていなかった。プーティンはまずサイバー攻撃など非核兵器でエスカレートしてくるというのが大方の見方だった。

また、専門家の多くは、ロシア大統領がウクライナ国内で戦術核兵器を使用することで大きな利益を得るとは思えないと主張している。プーティンは十分に理性的な人物であり、核武装した大陸間弾道ミサイルをアメリカに発射することは考えないと見ている。しかし、プーティンは以前にも、独立したウクライナがロシアの支配から離れることは受け入れられないと示唆しており、2021年7月に発表した論稿で、そのような事態は「私たちに対する大量破壊兵器の使用に匹敵する結果になる」と書いている。

アメリカ政府の核軍備交渉官を務めたロバート・ガルーチは、ロシアの核による威嚇は新しい戦術であり、「ウクライナ周辺、つまりロシアとの国境を越えてロシア軍と直接衝突することになれば、真剣に受け止めるべきだろう」と述べた。

現在クインシー・インスティテュート・フォ・レスポンシブル・ステイトクラフトで大戦略部門の部長を務めるビーブは、ウクライナ戦争は不安定な膠着状態に陥る可能性が高いが、それは冷戦時代の多くよりも不安定で危険なものになる可能性があると語った。ビーブは「ウクライナとヨーロッパを分断し、ゲームのルールがないような、ある種の長期的で不安定な対立に終わる可能性が高い。“新たな冷戦”というより、欧州の傷の化けの皮が剥がれる」と述べた。

イギリスのリズ・トラス外相が今週の講演で示唆したように、新たに強化された欧米諸国とNATOがその範囲を欧州、中央アジア、中東を越えてインド太平洋にまで拡大すれば、事態は更に複雑になる可能性がある。トラス英外相は次のように述べた。「NATOはグローバルな展望を持ち、世界的な脅威に対処する用意がなければならない。インド太平洋における脅威を先取りし、日本やオーストラリアなどの同盟国と協力して、太平洋を確実に守る必要がある。そして、台湾のような民主政体国家が自らを守れるようにしなければならない」。

このことは、ロシアだけでなく、中国とも世界的な冷戦が長引くという見通しを示している。アメリカとその同盟諸国は、「資源に恵まれたロシアと、技術的にも経済的にも強力な中国との同盟」に直面し、容易に熱が高くなる可能性があるとビーブは言う。

※マイケル・ハーシュ:『フォーリン・ポリシー』誌上級記者。ツイッターアカウントは@michaelphirsh

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