古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

2022年08月

 古村治彦です。

 今年11月にアメリカで中間選挙が実施される。連邦上院の一部の議席と連邦会の全議席が選挙の対象となる。大統領選挙と大統領選挙の間に行われるので中間選挙(midterm elections)と呼ばれる。アメリカの大学では楽器の中間試験(midterm exams)をミッドターム(midterm)と略して呼ぶ。11月の選挙は現職大統領と所属政党にとっての中間試験となる。就任後の2年間の仕事ぶりを採点されることになる。歴代政権を見てみると、中間試験の結果はあまり芳しくない人たちが多かった。現在のジョー・バイデン大統領にとっても厳しい採点が下ることになるだろう。ジョー・バイデン大統領の支持率は40%台前半に低迷している。アメリカの有権者は基本的に厳しい。

 現在のところ、中間選挙に関する各種予想では、連邦上院は接戦、連邦下院は共和党が過半数を奪取するということになっている。以下のグラフや図をご覧いただきたい。
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 政党の支持率(赤:共和党、青:民主党)
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 中間選挙に向けて、バイデン政権は学生ローンの徳政令を打ち出してきた。これで多少、大統領に対する支持率が持ち直し、民主党の巻き返しが図れると期待されている。この学生ローン徳政令、具体的には卒業後に学生時代に借りたローンの返済に苦しむ人々が多く(借り手は約4300万人)、そうした人々に徳政令で返済免除とする(あくまで連邦政府の運営しているローンのみ)ということだ。この全国民が対象にならない徳政令については、民主党内部にも反対意見がある。一方、民主党内部の進歩主義派は、「学生ローン返済免除は、自分たちが長年訴え、大統領に働きかけてきた。その成果が出た」と喧伝している。しかし、進歩主義派は民主党内部の予備選挙では勝てておらず、「政策で勝って、選挙で負けている」と評されている。共和党側は学生ローン徳政令については反対している。

今年の11月の中間選挙で、連邦下院で過半数を握ると見られる共和党では、ドナルド・トランプ前大統領が支持・推薦する候補者たちが共和党内部の予備選挙に勝利している。本選挙で勝利すれば連邦議会内で議席を得ることになる。トランプ派は「MAGA派」とも呼ばれている。これはトランプのスローガンである「アメリカを再び偉大に(Make America Great Again)」のそれぞれの単語の頭文字を取った言葉だ。連邦下院で過半数を掌握する共和党内部でMAGA派が勢力を拡大するということになる。

 アメリカの有権者は、経済、特に物価高であり、その原因となっているウクライナ戦争と新型コロナウイルス対策に関心を持っている。これから秋から冬へと移っていく。ウクライナ戦争がその時期まで長引けば、エネルギー高や食料価格の高騰の状態のままで、寒い冬を乗り切らねばならない。人々の不安が中間選挙の結果に反映される。バイデン政権と民主党は思い切った手段を取らねばならないが、それができるかどうかは不透明だ。

(貼り付けはじめ)

オピニオン:2022年中間選挙に向けた有権者の意気込みとその理由(Opinion: Voters are really fired up about the 2022 midterms -- and for good reason

SE・カップ筆

2022年8月25日

CNN

https://edition.cnn.com/2022/08/25/opinions/midterm-elections-critical-future-united-states-cupp/index.html

CNN発。2022年の中間選挙が目前に迫っているが、これほど重大な選挙はないだろう。当然のことながら、アメリカの有権者たちの関心は異常に高い。

ギャラップ社の最新の世論調査によると、アメリカの成人の約半数が2022年の選挙について「かなり」考えていると答えている。1998年から2014年までの全ての選挙に先立つ夏の間の平均は、わずか37%だった。

ギャラップが「関心の強度(intensity)」と呼ぶこの指標は、有権者の熱意を示している。そして、アメリカの有権者の半数は、通常よりも投票に熱心だということになる。

もし、あなたがこのような有権者でないなら、あなたとあなたの生活に直接影響を与える可能性のある選挙をよく見てみるべきかもしれない。今、政治から目を逸らすには、あまりにも多くの緊急課題がこの国に突きつけられている。

インフレイションから景気後退の可能性、ロウ対ウェイド裁判判決の転換と多くの州における人工妊娠中絶へのアクセスの後退、銃乱射事件と銃の改革、国境での移民問題、ロシアとウクライナの戦争、新型コロナウイルスの影響など、アメリカの有権者はこの重要な選挙期間に考慮しなければならない問題を数多く抱えている。

メディアは世論調査から社内外の調査まで、多くの有用なリソースを手にしていますが、有権者がどのように投票するかについては、投票前にしか分かりません。今年は「ロウ対ウェイド裁判判決」が投票率を押し上げると予測することもできるが、一方で、この不安定な経済状況では、民主党が本当に困ってしれない。そこで、我々はその源に直行する。

CNNオピニオン」は新シリーズ「アメリカの未来は今始まる」を開始し、アメリカの有権者の皆さんに意見を求めている。

大統領選挙ばかりに目が釘付けになりがちだが、こうした問題の多くを誰がどのように解決するのかを決めるのは連邦議会選挙である。来る11月の選挙は、少なくとも今後数年間の税制、銃規制、中絶法などの運命を文字通り決定する可能性がある。

「ロー対ウェイド」裁判の判を覆して中絶を事実上禁止している州の民主党は、中絶アクセスを成文化するのに十分な人数を確保できるだろうか?

フロリダ州のような州の共和党は、公立学校に影響を与える反スピーチ法をもっと通すようになるのだろうか?

あなたの州では、銃の安全性に関する法律は廃止されるのか、あるいはさらに前進するのか?

しかし、おそらくこれらの個々の政策問題よりももっと重要なのは、民主政治体制そのものという大きな問題である。NBCニューズの最新の世論調査によると、有権者の多くが11月に優先させたいことの上位に民主政治体制への脅威が挙げられている。2021年の連邦議会議事堂での暴動、2020年の選挙が盗まれたといまだに主張する前大統領、ジョー・バイデンを違法な大統領と信じる有権者の大部分、選挙は不正操作されているという嘘を主張しながら選挙戦を戦う何十人もの政治家候補、これら全てがこの中間選挙への賭けがこれ以上ないほど高いことを意味している。

ギャロップ社によると、インフレイション、食料価格の高騰、景気後退の危機などが大きくクローズアップされている今年、当然のことながら、経済が最優先課題となっているということだ。次いで銃政策、中絶、移民、税制、ロシアのウクライナ戦争、そして気候問題という順になっている。

しかし、それは選挙の投票率の実態に比べれば少しは整然としている。投票所での感情的な、時には非合理的な、動機付けを定量化することは不可能であり、過小評価されることもある。

例えば、どれだけの有権者が、ある1つの問題を他の全ての問題よりも優先しているのだろうか? 例えば、中絶か移民か、どちらを重視して投票するかという二者択一をしているだろうか?

右派のうち何人が、政策よりも、文化戦争的な衝動、「社会的正義のために進むこと(wokeness)」との戦いや「リベラル派を動揺させ敗北させる(owning the libs)」に突き動かされて投票しているか?

ドナルド・トランプ前大統領が選んだ共和党の候補者たちを議会から締め出すことに、より意欲を燃やしている左派の人々は何人いるだろうか?

2020年の大統領選挙が盗まれたという嘘に基づいて投票に行くのは誰だろう? そして、Qアノンや他の過激派グループが押し付ける他のおかしな陰謀論に基づいて投票するのは誰だろうか? 決して少なくない数だろう。

今年は何が有権者を振り向かせるのか、それはあまり意味をなさない。ある予備選挙を考えてみると、かつてワイオミング州のお気に入りだった共和党の娘であるリズ・チェイニーが、トランプが支持する2020年大統領選挙否定派のハリエット・ヘイグマンと対戦した。

連邦下院議員として93%の割合でトランプに好ましい投票し、間違いなく最も保守的な議員の1人であるリズ・チェイニーは共和党から追放された。この出来事は彼女の政策ではなく、トランプに対抗しようとしたことが原因である。

リズ・チェイニーは、2021年1月6日にトランプがもたらした損害について率直な意見を述べ、その数週間後にトランプ弾劾に投票し、1月6日事件に関する連邦議会委員会の役職に就いたことで、彼女は多くの共和党関係者から忌み嫌われる存在になった。実際、2021年、ワイオミング州共和党は、弾劾票を投じたリズ・チェイニーに対して問責決議し、その後、チェイニーを共和党員として認めないことにした。

昨年2月、連邦下院共和党は彼女を共和党所属連邦下院議員会会長の座から外そうとして秘密投票を行った。その結果はチェイニーにとってはつかの間の勝利だったが、61人の共和党議員が彼女を追い出す投票を行い、145人が彼女の残留を支持した。しかし、5月になると、20分足らずの音声投票によって、彼女は永久に追い出された。

最終的に、トランプが選んだヘイグマンからの挑戦に直面したチェイニーは、2016年に彼女を議員に圧倒的に投票した州での予備選で、その時とほぼ同じ差で敗退したのだ。

ワイオミング州の連邦下院議員共和党予備選にもう1つの奇妙なねじれを生じさせたのは、推定で数千人のワイオミング州の民主党員がチェイニーに投票するために党籍を切り替えたことだ。この行動について言えば、その理由はおそらく彼女の政策への支持ではなく、トランプを再び選挙で勝たせないという彼女の公約に対する支持ということになる。

ワイオミング州は確かに特殊なケーススタディだが、これは、一部の有権者がトランプに対する感情よりも政策によって2022年の中間選挙に臨む方法の縮図のようなものであるとも言える。

しかし、他の人々にとっては、トランプ前大統領はそれほど動機づけにならないようだ。例えば、ジョージア州、ノースカロライナ州、アイダホ州、ネブラスカ州では、トランプが選んだ候補者の何人かが他の共和党候補者に負けた。

民主党の予備選挙では、多くの場合、進歩主義派が穏健派候補に敗れており、おそらくバイデンの中道への回帰が再確認されたのであろう。もし彼らが多くの有権者と同じ問題意識を持っているとすれば、バイデンのインフレイションに対するアプローチを諦めず、銃規制、インフラ支出、税金、気候に関する彼の勝利を支持しているのだろうと思われる。

しかし、通常大統領選挙を含む総選挙の年よりもかなり投票率が低い中間選挙において、何が正確に投票率を押し上げるのかは、特に今年は常に定量化が困難となっている。

フロリダ州では、ロン・デサンティス州知事が提出した「教育における親の権利」法案(批判派からは「ゲイと言うな」法案と呼ばれる)が、民主、共和両党をそれぞれ支持する有権者にとって大きな動機づけになる可能性がある。

ロウ対ウェイド裁判判決の転覆によって中絶が事実上禁止された州では、この問題が大きくクローズアップされるかもしれない。

テキサス州やニューヨーク州のように、ユヴァルデやバッファローで起こった恐ろしい銃乱射事件が家族や地域社会にトラウマを与えた各州では、銃政策の行方は多くの有権者にとって一つの争点となり得るだろう。

しかし、他の選挙サイクルのような明確な指標がない以上、私たちは優れたジャーナリズムを発揮し、単純に問うことが肝要だ。「あなたにとって何が重要か、それはなぜか?」

(貼り付け終わり)

(終わり)

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 ナンシー・ペロシ米連邦下院議長が台湾を訪問し、それに中国が反発、軍事演習を行うなど緊張が高まった。しかし、アジア太平洋の国々は、少数のおっちょこちょいを除いて冷静に反応した。今回はそのことについての記事をご紹介する。

 台湾(中華民国)が国連での加盟資格を喪失して以降、台湾は多くの国々との正式な外交関係を喪失している。もちろん、そうした国々との非公式な関係、経済関係は持っているので、世界から完全に孤立している訳ではない。半導体の生産拠点として確固たる地位を築いている。しかし、公式的には外交上の関係はない国がほとんどだ。

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台湾と正式な外交関係を結んでいるのは十数カ国に過ぎない。それらの国々は中米と太平洋地域に多い。近年では中国の外交攻勢もあって、台湾との正式な外交関係を終了させる国々も出ている。これらについては以下の地図を見て欲しい。

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 今回、ナンシー・ペロシ米連邦下院議長が台湾を訪問したことは中国を苛立たせた。しかし、それ以上の影響も効果もなかった。ペロシ議長が訪台したからと言って、台湾に対してより肩入れをする国は出現しなかった。インド太平洋地域において、台湾防衛を明言し、アメリカと一緒にやってやるぞと意気込む国は出てこなかった。アメリカと日本とオーストラリアがややそれに近い態度を示したが、クアッド4カ国の枠組みで重要な参加国であるはずのインドは日米豪の共同声明には加わらなかった。また、米韓同盟でアメリカとは緊密な関係を持つ韓国の場合には、ペロシが訪問しても大統領が直接会うことはなかった。アメリカの勢い込んだ態度に付き合わされて馬鹿を見るのは嫌だ、という考えが明らかだった。

 東南アジア諸国連合(ASEAN、アセアン)加盟の国々も静観の構えだった。フィリピンだけがややアメリカ寄りの姿勢を示したが、それ以上ではなかった。こうして見ると、台湾をめぐっては、「中国対アメリカ・日本・オーストラリア」という構図になっていることが分かる。日本とオーストラリアのおっちょこちょいぶりもなかなかなものだが、アメリカの属国である以上は仕方がない行動でもある。「台湾をめぐって戦争なんか起こすなよ。中国も手荒な真似をせずに徐々に吸収するようにしたら良いし(今もそうしているではないか)、台湾もアメリカを引き込んで大々的に中国と戦うなんて馬鹿なことを考えるなよ(そんなことになったら支持しないからな)」というのが大勢(たいせい)の考え方である。

 ウクライナ戦争勃発当時、「ウクライナの次は台湾だ」という標語を掲げて騒いでいる向きもあったが、「台湾を次のウクライナにしてはいけない」のである。そのために過激な手段を用いることになる機会を作らないようにするのが肝心だ。アメリカに火遊びをさせない、アメリカの軽挙妄動に付き合わない、という大人の態度が重要で、インド太平洋地域全体がそのことが分かっているようであるのは安心材料だ。日本も大きくは分かっているが、それだけでは済まない事情があり、そのこともまた地域全体で分かっているだろうから、それもまた別の意味で安心ということになる。

(貼り付けはじめ)

ペロシの訪問後、インド太平洋地域の大半の国々が中国の側についている(After Pelosi’s Visit, Most of the Indo-Pacific Sides With Beijing

-地域のほぼ全体が中国を支持している。しかし、中国の行動はまた台湾への支持を純化させている。

デレク・グロスマン筆

2022年8月22日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/08/22/china-taiwan-pelosi-crisis-missiles-indo-pacific-allies-support/

ナンシー・ペロシ米連邦下院議長が台湾を訪問した。これをきっかけに、中国は台湾を四方から取り囲み、ミサイルを発射するなど、前例のない軍事訓練を実施し、極めて積極的な姿勢を示した。台湾海峡の緊張が高まったことで、インド太平洋地域の他の国々も予想通り、圧倒的に北京の「一つの中国(One China)」原則(台湾は中国本土の一部である)を支持する反応を示している。しかし、今回のペロシ訪問で、アメリカの主要な同盟諸国も台湾を強く支持していることが明らかになった。特に、台湾をめぐる戦争の可能性に直面した場合、北京の主張的な行動は、他の国々を確実に遠ざけていることが示唆された。

台湾支持の急先鋒は日本とオーストラリアである。東南アジア諸国連合(Association of Southeast Asian NationsASEAN、アセアン)外相会議で、アメリカとともに共同声明を発表し、「国際平和と安定に重大な影響を与える中国の最近の行動に懸念を表明」し、「軍事演習を直ちに中止するよう北京に要請」した。この声明は、オーストラリア、日本、米国が「それぞれの“一つの中国”政策に変更はない」とも述べているが、この点は明らかに焦点とはなっていない。

もう1つの重要な同盟国である韓国は、全く異なるカードを使っていた。ペロシは台北の次にソウルに向かったが、韓国の尹錫烈(ユン・スギョル)大統領は休暇中であると主張し、代わりにペロシとの電話会談を選んだが、これは一部の人々には「無視(sub)」だと解釈された。台湾に関する韓国側の公式声明はない。コメントを求められた大統領府の関係者は、中国や台湾に言及することなく「当事者間の緊密なコミュニケーション(close communication with relevant parties)」を促し、台北への支援を控えた北京に有利な発言であった。

同様に、韓国の朴振外相は、「台湾海峡の地政学的対立の激化は、地域の政治的・経済的安定を阻害し、朝鮮半島に負の波及効果をもたらす」と指摘し、無難な表現に終始している。ペロシが台湾と韓国を訪問した翌週、朴外相は初めて中国を訪問しており、この重要な台湾への中国への関与の直前に、ソウルが北京との間で揺れ動くことを避けたかったことが伺われる。

インド太平洋地域の大半は中国を支持しているが、北京の行動に危機感を募らせ、直接・間接的に台湾を支援している国もいくつかある。

ペロシ訪台はカンボジアで開催されたASEAN外相会議の期間中に行われたため、ASEAN外相会議は「ASEAN加盟諸国がそれぞれの“一つの中国”政策を支持することを改めて表明する」という声明をすぐに発表することができた。台湾については全く言及されなかった。

また、多くのASEAN加盟諸国が個別に声明を発表したが、いずれも台湾の状況を支持するものではなかった。例えば、インドネシアは「挑発的な行動を控えるよう(to refrain from provocative actions)」呼びかけ、「一つの中国」政策を引き続き尊重するとした。シンガポールは「米中両国が共存の道を歩み、自制し、緊張をさらに高めるような行動を慎む(U.S. and China can work out a modus vivendi, exercise self-restraint and refrain from actions that will further escalate tensions)」ことを望んだ。アメリカの重要なパートナーとして急成長しているヴェトナムは、過去の声明を踏襲し、「ヴェトナムは“一つの中国”原則の実施を堅持し、関係者が自制し、台湾海峡の状況をエスカレートさせず、平和と安定の維持に積極的に貢献することを期待する」と述べた。マレーシアとタイも同様の声明を出し、台湾への支持を控えている。

東南アジアのリスク回避の明らかな例外は、中国との条約上の同盟国であり、中国の海洋権益をめぐって公然と対立しているフィリピンの対応であった。ブリンケン米国務長官はASEAN会議後の8月上旬にマニラを訪れ、新大統領のフェルディナンド・マルコス・ジュニアと会談し、台湾危機について「アメリカとフィリピンの関係の重要性を示しているにすぎない。私たちは、私たちが見てきた全ての変化に直面して、その関係を進化させ続けることを願っている」と述べた。

一方、インドは非常に興味をそそられるケースであることが判明している。インドのスブラマニヤム・ジャイシャンカル外務大臣は、ニューデリーはインドへの潜在的な影響について「評価し、監視する」と述べた。しかし、ニューデリーは「一つの中国」という言葉を口にすることを拒否し、その代わりに「インドの関連政策はよく知られており一貫している。改めて説明する必要はない」と述べるにとどまった。ニューデリーが言葉を濁すのは、おそらく、2020年5月に過去数十年で最も大きな衝突が発生した「実質支配線(Line of Actual Control)」として知られる係争中の陸上国境に沿って、インドが中国と独自の不満を抱えているためだろう。更に、近年、インドと台湾の非公式な関係は、特に経済面で拡大しており、ニューデリーが北京に対して強硬策を取ろうとしていることがうかがえる。しかし、中国への対抗を非公式な目的とする日米豪印戦略対話(Quadrilateral Security DialogueQuad)に4カ国が参加しているにもかかわらず、日米豪3カ国声明に署名しなかったことは重要である。ニューデリーはまだ北京との友好関係を維持したいようだ。

他の南アジア諸国では、台湾を支持する動きは見られず、中国だけが支持されている。例えば、北京の「鉄の兄弟(iron brother)」であるパキスタンは、主権国家の「内政不干渉(non-interference in international affairs)」の重要性について、中国に台湾の計画を決定させるための慣用句を使った。バングラデシュ、モルディヴ、ネパール、スリランカも同様に、この危機状況における北京の権利を擁護している。

太平洋諸島の中では、不気味な沈黙が支配している。例外はバヌアツで、「バヌアツは台湾が中国の領土の不可侵の一部であることを再確認する」と発表している。心配なのは、台湾の4つの外交パートナーのうち、マーシャル諸島、ナウル、パラオ、ツバルだけが、これまで台北への支持を表明してきたことである。マーシャル諸島は、台湾の「真の友人であり同盟国(a true friend and ally)」であり続けると述べ、中国を具体的に名指しすることなく「台湾海峡における最近の軍事行動(recent military actions in the Taiwan Strait)」を非難した。しかし、台湾の呉釗燮(ジョセフ・ウー)外相は、台湾に残る14の外交パートナー(うち4カ国は太平洋地域)の全てが、中国よりも台湾に固執していると主張した。台湾は2019年だけでソロモン諸島とキリバスという2つの太平洋島嶼国を中国に奪われており、さらなる外交上の変化が現実的な懸念材料となっている。

アメリカの太平洋地域における緊密なパートナーであり、時に中国に甘いと見られてきたニュージーランドも曖昧な表現に留まるものの、何らかの意見を表明した。ナナイタ・マフタ外相はASEAN会議の際に中国の王毅外相と会談し、「状況のエスカレート防止、外交、対話の重要性」を強調したが、「一つの中国」もしくは台湾への支持を改めて表明することはなかった。その数日前、危機の前にニュージーランドのジャシンダ・アーダーン首相は中国に関する演説を行い、「より強硬な態度(more assertive)」の北京とでも協力関係を続けていくと述べた。アーダーン首相の今後の中国への訪問計画が、ウェリントンの寛容なメッセージに一役買っているのかもしれない。

最後に、インド太平洋諸国には、何の声明も出さないか、あるいは北京への支持を二転三転させている国がいくつかある。モンゴルは台湾をめぐる米中間の緊張が高まっていることにまだ触れていないが、北京は北の隣国が「一つの中国」を再度支持していると主張している。当然のことながら、北朝鮮とミャンマーの軍事政権は、ともに中国の強力な同盟国であり、中国を支持することを表明し、アメリカがこの地域で問題を起こしていることを非難している。

インド太平洋地域の大半の国々が中国を支持しているのは確かだが、オーストラリアと日本、それにインドなど、北京の振る舞いに危機感を募らせ、直接・間接的に台湾を支援している国もある。通常、北京はこのグループを忠誠の海の中の少数の反対勢力と見なすことができる。しかし、問題はこの3カ国がアメリカとともに日米豪印戦略対話を構成しているが、これらの国々は中国以外のこの地域の主要国であることだ。この3カ国を無視することはできず、北京は今後の戦略を見直すことを検討すべきかもしれない。どちらかといえば、北京は台湾を支持するあからさまな民主国家連合を設立することを避けたいだろう。むしろ、これらの強国の1つ、あるいは複数が台湾への支持を薄めることができれば大きな勝利であり、中国の言う統一への野望を否定できないことの証拠となる。幸いなことに、これらの国々の反対は根強く、その声は大きくなるばかりである。

デレク・グロスマン:ランド研究所上級防衛担当アナリスト、南カリフォルニア大学非常勤講師、米国防次官補(アジア・太平洋安全保障問題担当)の概況説明者(情報担当)を務めた経験を持つ。ツイッターアカウント:@DerekJGrossman

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 アメリカのジョー・バイデン政権は、学生ローン(student loan)返済免除計画を発表した。現在、学生ローンを抱えている人は全米で4300万人おり、その平均額は日本円で400万円程度である。1000万円、2000万円と借りている人たちもいる。この返済が若い世代に大きな負担となっている。これは日本でも全く同じ構図となっている。日本育英会の「奨学金(scholarship)」は「学生ローン」であり、無利子ならまだしも、有利子で返済しなければならない種類のものがある。昔は教職に就くと返済免除となったが今はそういう制度はないし、大学を出ても高給の仕事に就ける保証はなく、就職がうまくいかなければ返済は大変厳しいことになる。

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計画について記者会見するスーザン・ライス国内政策委員長

 今回の計画では一般的な学生ローンの借り手の場合は1万ドルを返済免除する、低所得世帯出身(ペル・グラントという連邦政府の奨学金を受けられた人たち)の場合には2万ドルを返済免除とするということだ。現在の所得が単身者の場合は12万5000ドル、夫婦の場合には25万ドル以上の場合にはこの恩恵を受けられない。対象者4300万のうち、90%以上が世帯所得7万5000ドル以下なので、ほとんど(約4000万人)が恩恵を受けることになる。

 今回の発表は中間選挙前のバラマキということになる。学生ローンの返還免除については2020年の米大大統領選挙の民主党予備選挙でもテーマとなった。アメリカ中西部インディアナ州出身のピート・ブティジェッジなどが反対姿勢だった。民主党内部にも学生ローン返済免除計画には反対の声がある。「大学卒業生という、国民の一部の、高所得の職に就いている恵まれた人たちの負債を和らげるために納税者のお金を使うのはおかしい」ということになる。より直接的に言えば、ブルーカラー労働者の税金をホワイトカラー高所得者のために使うのはおかしいということになる。また、前の世代でローンを完済した人たちからすれば、「自分たちだって大変な苦労をして返済したのに、現在ローンを返済している人たちだけというのはズルい」ということになる。

 現在、中間選挙の情勢は連邦上院では接戦、連邦下院では共和党有利となっている。そうした中で、選挙が近づき、民主党側としては何とか挽回したい。インフレイションが続き、人々の生活が苦しい中で、今回の学生ローン返済免除の話が出てきた。これをアメリカ国民がどのように判断するかである。日本でも返済しなければならない奨学金(学生ローン)の負担は若い世代で問題になっている。アメリカの動きを注視しながら日本について考え行く必要がある。

(貼り付けはじめ)

バイデンの学生ローン免除計画についての心に引っかかる5つの疑問(Five lingering questions on Biden’s student loan forgiveness plan

アレックス・ガンギターノ筆

2022年8月25日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/administration/3616040-five-lingering-questions-on-bidens-student-loan-forgiveness-plan/

ジョー・バイデン大統領は、ペル・グラント(Pell Grant、訳者註:連邦政府による返還不要の奨学金制度)受給者に対しては最大2万ドル(訳者註:ペル・グラント利用者[1人当たりの支給額が400ドルから4000ドルと幅がある]は世帯収入が年間2万ドル以下と低所得であるため、ペル・グラントだけではなく他に学生ローンを利用している場合がほとんどである)、その他の学生ローン利用者は1万ドルを免除するという計画を発表した。これは、民主党所属の連邦議員の多くからは喝采を浴び、共和党所属の議員たちからインフレイションを助長するだけだと嘲笑を浴びるという形で、物議を醸している。

アメリカ史上最大規模の学生ローン免除計画この取り組みの効果に関しては多くの疑問も残されている。

ここでは、その中から5つを紹介する。

(1)インフレイションを助長するか?(Will it raise inflation?

バイデン大統領の計画は、既に40年来の高いインフレイション率にマイナスの影響を与える可能性があるとして、直ちに非難を浴び、エコノミストの中には高いインフレイション率をもたらすと警告している人たちもいる。また、何らかの影響があっても、それはごくわずかなものであろうという意見もある。

共和党がインフレイションを理由にしてホワイトハウスを叩く一方で、この計画が実際にインフレイションを引き起こす可能性があるという批判は、少なくともバイデンの政治上の味方の中からも出ている。

ハーヴァード大学教授で、オバマ大統領のトップ経済顧問を務めたジェイソン・ファーマンは水曜日、「既に燃え上がっているインフレイションの火に、およそ5000億ドルのガソリンを注ぐなどは無謀なことだ」と述べた。

ホワイトハウスは、連邦学生ローンの数年にわたる支払い猶予を今年12月31日まで延長する一方で、猶予は2023年1月に終了するため、インフレイションのリスクは軽減されると主張している。政府関係者たちは、ローンの支払い再開と緩和措置の組み合わせにより、インフレイションの影響は基本的にゼロになると主張した。

学生ローン返済の一時停止は、インフレイションを助長するプログラムだと考えられてきたが、他の景気刺激策や新型コロナウイルス感染拡大時に消費者たちがお金を節約したことがより大きな要因であると考えられる。

超党派政策センターの高等教育政策担当副所長ケヴィン・ミラーは「学生ローンの返済が一時停止されたことで、おそらく少しはインフレイションになったことは明らかだ。経済から引き上げられるはずだったお金が人々のポケットに残った」と述べている。

(2)大学はこれに応じて授業料を上げるだろうか?(Will colleges raise tuition in response?

オブザーヴァーの多くは、大学がバイデンの動きに呼応して授業料を上げるかどうか、疑問を持っている。その根拠は免除がより増大するかもしれないというものだ。

ケイトー研究所政策アナリストのニール・マクロウスキーは次のように述べている。「一旦ローンを免除したり取り消したりすると、大々的に重要な前例を作ってしまうことになり、今後の人々に期待や妥当な議論が起きてしまう。人々が、自分のローンを返済する必要がない、あるいは全額返済する必要がないと思えば、もっとローンを組もうとする動機になる」。

また、授業料に直ちに大きな影響を与えるかどうかは疑問だ。 

カリフォルニア大学アーバイン校の学生ローン法担当部長ダリエ・ジメネズは、「ほとんどの学校は基本的に多層的な組織だ。授業料を設定する過程では、非常に多くの入力があるため、平均的あるいは全体的に何らかの即時効果があるかどうかは分からない」と述べた。 

米教育省は、悪質な業者に対して「警戒」し「特別に集中」し、学生負債危機を助長した大学の責任を追及する方法として、負債レヴェルが最悪の教育機関の「監視リスト」を毎年発表する予定であると当局者は述べている。

(3)法廷闘争に耐えられるか?(Will this stand up to court challenges?

バイデンの取り組みに対する法廷での異議申し立てが予想されるが、その正確な内容はまだ明らかになっていない。

ホワイトハウスのキャリーン・ジャン=ピエール報道官は木曜日、ホワイトハウスはその法的権限に自信を持っており、この措置は法廷でも持ちこたえられると述べた。

ホワイトハウスが指摘する法的権限は、2003年の「ヒーローズ法(HEROES Act)によるもので、新型コロナウイルス感染拡大のような国家的緊急事態により、借り手が経済的に悪い状況に置かれないようにするために必要と思われる一定の行動を取る権限を教育長に与えるものである。

ニール・マクロウスキーは、新型コロナウイルス感染拡大時に学生負債を抱える人々がより悪い状況に置かれたことは明確ではないと述べた。 

「大卒者は、仕事を続けることができたので、新型コロナウイルス感染拡大やそれに伴う経済問題、ロックダウンの悪影響から最も隔離されていたようなものだ」とマクロウスキーは語っている。

マクロウスキーは続けて「それは、彼らは仕事を続けることができたからだ。彼らは、ローンが凍結されたことで、より良い生活を送ることができている」と述べた。

また、マクラスキー氏は、バイデンが「基本的にお金を充当している(essentially appropriating money)」と問題提起し、これは連邦議会に属する権限であるとした。しかし、民主党が過半数を握っている連邦議会は、それに異議を唱えることはないだろうと指摘した。

「ローンというのは、返さなければならない政府からのお金のことを言う。今は返さなくてもいいということになると、ローンを補助金に変えてしまうことになる」と述べた。

民主党のクリス・パパス連邦下院議員(ニューハンプシャー州選出)は、この決定について、「連邦議会と私たちの監督・財政責任を回避している」と述べた。

(4)誰に資格があり、そしてないのか?(Who is in and out in terms of eligibility?

この政策は、ローンの借り手のごく少数、ローンを抱えている人たちの5%程度と推定されるが、この人たちを除外しているように見える。

この制度は、所得水準によって対象者に上限を設けており、単身者の場合は12万5000ドル、夫婦の場合は25万ドルとなっている。

ホワイトハウスによると、対象となる全員が救済を申請した場合、4300万人の連邦学生ローンの借り手が恩恵を受け、その90%近くが世帯所得7万5000ドル以下なので、それらの借り手に行き渡ることになるという。

(5)誰が支払うのか?(Who pays for it?

納税者がこのプログラムのツケを払うことになるが、その金額がいくらになるかは明らかではなく、ホワイトハウスはこの問題についての質問を避けている。

木曜日のホワイトハウスでの記者会見で、記者たちがジャン=ピエールに費用の見積もりを求めたが、彼女は、どれだけの借り手がこの申し出に応募するかは不明だと言ってはぐらかし、その場をしのいだ。

ホワイトハウスは、バイデンが赤字削減のために取ったとする他の政策で浮いたお金が、ローン免除の予算となって全額支払われると主張している。

共和党側は、消え去ることのない政治的問題を提起し、攻撃に転じている。

ベン・サッシー連邦上院議員(ネブラスカ州選出、共和党)は、この計画は「ブルーカラー労働者にホワイトカラーの大学院生を助成することを強いる計画(scheme” that “forces blue-collar workers to subsidize white-collar graduate students)」であると述べた。サッシー議員と他の共和党所属の連邦議員たちは、所得水準が12万5000ドルと25万ドルに制限されていることから、この計画は富裕層を助けることになるとも主張している。

連邦上院少数党(共和党)院内総務のミッチ・マコーネル連邦上院議員(ケンタッキー州選出、共和党)は、この決定について、高所得のアメリカ人に有利になる、富の「乱暴な不公平配分(wildly unfair distribution)」であり、借金返済のために犠牲を払った労働者たちに対する「平手打ち(slap in the face)」であると主張した。

民主党が中間選挙で共和党に負けるのではと心配すると考えられるグループであるブルーカラー労働者たちに、両者の主張がどう響くかは、今年11月の選挙で注視されるところだ。

バイデンは、特にマイノリティーのコミュニティで、共和党からの政治的打撃を回避するために、十分な数の人々が免除を支持するであろうことに賭けている。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 安倍晋三元首相の銃撃暗殺事件から、日本政治においては、「政治と宗教」のつながりが焦点になっている。具体的には統一教会と政界(主に自民党)のつながりが取り沙汰されている。私は政治家たちがどの宗教を信仰していてもそれは自由であるが、その情報は公開され、有権者へ投票の際の判断材料として提供されるべきだと考えている。それが嫌なら立候補しなければよい。そして、各政党はどの組織からどのような支援を受けているのかを明確に発表すべきだと考えている。これも有権者の判断のためだ。
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 統一教会は反社会的な行動のために多くの裁判で敗訴となっている。霊感商法や正体を隠しての勧誘や脱会の際の強引な引き留めなどが社会問題となり、かつ合同結婚式という、見知らぬ男女が結婚式で初めて会って有無を言わさずに結婚させられてしまうという儀式などのために、危険視されてきた。マスコミでは1980年代から1990年代にかけて報道されたがそれ以降は報道がなくなっていた。しかし、今回の安倍晋三元首相銃撃事件によってクローズアップされ、統一教会が政界に深くかかわっていることが明らかになった。統一教会と政界の接点の中心にいたのが安倍晋三という人物であった。より大きく言えば、自民党と活発な政治活動を続ける宗教を結び付ける存在が安倍晋三元首相だった。
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 安倍晋三元首相は2006年9月に首相に就任した。その前には安倍元首相や日本の右翼勢力の危険性は取り沙汰されていた。日本国際問題研究所のウェブサイトに玉本偉(たまもとまさる)研究員の論稿(英語で書かれた)が掲載された。その論稿は小泉純一郎首相が周囲の反対を押し切って靖国神社参拝を強行し、「ザ・カルト・オブ・ヤスクニ(the Cult of Yasukuni)」勢力が台頭し、また日本が右傾化することで周辺諸国から孤立するという内容であった。この論稿に対して、産経新聞の古森義久(当時のワシントン特別論説員)が新聞で取り上げ批判した。日本国際問題研究所が外務省からの補助金で運営されている団体なのにこのような偏向した内容の論稿を掲載して良いのかという論理で、日本国際問題研究所に「公開質問状」となる記事を掲載した。日本国際問題研究所の佐藤行雄理事長は狼狽し、産経新聞に謝罪文を送り掲載された。そして、玉本研究員をけん責処分俊、研究員の論説記事を全て削除した。

 それに対して、ニューアメリカ財団研究員スティーヴン・クレモンスは『ワシントン・ポスト』紙に「日本の思想警察の台頭」という記事を掲載した。これは日本の右翼勢力が、暴力も使いながら、言論封殺を行っており、その代表例が古森による玉本論文非難だという内容だった。古森はワシントン・ポストに反論文を掲載した。この頃、加藤紘一衆議院議員(当時)の自宅が放火され全焼するなど、右翼勢力による暴力まで用いた言論封殺の動きが活発だった。第一次安倍政権時代の分析については、副島隆彦先生と弟子たちの論文集『最高支配層だけが知っている日本の真実』(成甲書房)に詳しく書かれている。
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 安倍晋三元首相は、神道政治連盟、日本会議(生長の家の学生部から出た組織)、そして統一教会と深い関係を持ち、「政治と宗教」を象徴する人物であった。2006年の第一次政権時代から、右翼的な宗教との関係があり、日本の右傾化を進めたということになる。そして、国民全体がそれを許容した。その結果が現在のような閉塞状況であり、自民党の極端な右傾化、復古主義である。私たちは「カルト・オブ・ヤスクニ」という言葉をしっかりと覚えておかねばならない。これらの宗教団体は一様に日本国憲法の変更を主張し、自民党の憲法草案はそうした主張が多く盛り込まれたものとなっている。戦前への復古を目指す。このような動きについて、今回の安倍元首相銃撃暗殺事件を契機にして、国民に広く周知され、そうした動きが阻止されるということを願う。

(貼り付けはじめ)

神道は長い間日本の政治と絡み合ってきた-そして、安倍晋三はその多くの団体と関わりを持ってきた(Shinto religion has long been entangled with Japan’s politics – and Shinzo Abe was associated with many of its groups

ケイトリン・ウゴレッツ筆(カリフォルニア大学サンタバーバラ校東アジア言語・文化研究科、博士取得候補者)

『ザ・カンヴァセイション』誌

2022年7月18日

https://theconversation.com/shinto-religion-has-long-been-entangled-with-japans-politics-and-shinzo-abe-was-associated-with-many-of-its-groups-186697

ケイトリン・ウゴレッツは、この記事から利益を得るいかなる企業や組織にも勤務したり、コンサルタントとして相談を受けたり、株式を所有したり、資金提供を受けたりはしておらず、学術分野における任命以上の重要な所属についても明らかにしていない。

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安倍晋三前首相の写真の前で献花する人々。安倍晋三元首相の葬儀を前に、弔問に並ぶ人々(2022年7月12日、東京・増上寺にて)。

安倍晋三元首相の狙撃犯とされる山上徹也容疑者は、安倍首相が統一教会として知られる、救世主の登場を約束する新興宗教運動とつながりがあったことが動機だと警察に供述した。

山上容疑者は、母親がこの団体に「多額の寄付(huge donation)」をしていたと説明し、母親を破産させ家庭を崩壊させたのはこの教会だと非難した。2022年7月11日の記者会見で、統一教会の日本支部長は、山上容疑者と安倍元首相は信者ではないが、山上容疑者の母親が信者であることを認めた。

統一教会は1954年、韓国の宗教指導者、故文鮮明(Sun Myung Moon)によって設立された。文鮮明は、家族を救い、世界平和を実現するために、自分はイエスから遣わされたと主張した。彼の信者は一般的に「ムーニーズ(Moonies)」と呼ばれている。

文鮮明は宗教活動以外にも国際的なビジネス取引や保守的な反共産主義の政治に深く関与した。

安倍家と統一教会の政治的なつながりは、母方の祖父・岸信介、父・安倍晋太郎と3代にわたっている。安倍晋三は2021年の時点でも統一教会関連のイヴェントに有料スピーカーとして登場した。

今回の銃撃の背後に考えられる動機は、日本を最も宗教的でない国の一つと見ている多くの人々を驚かせた。日本の宗教を研究対象としている学者として、私は安倍元首相と彼の政党である保守系与党である自民党が、いくつかの宗教的伝統や宗教政党とつながりを持っていることを知っている。しかし、安倍首相と神道との深いつながりがニュースになることはほとんどない。その理由は不明だ。

神道は長い間、安倍元首相の政治の一部であり、今も自民党にとってそうである。

●神道とは何か?(What is Shinto?

神道は、仏教と並ぶ日本の二大宗教の1つだ。多くの宗教的伝統と同様に、神道は人々にとって異なる意味を持つことがある。ある人々にとっては、日本人の中心的な信仰ということになる。また、神道を宗教として捉えていない人たちもいる。

神道は通常「神々の道(Way of the Gods)」と訳される。簡単に言うと、神道は「カミ(Kami)」と呼ばれる神々を崇拝することに焦点を当てた儀式の伝統の集合だ。これらの強力な神々は、作物の成長を助け、人々の健康を守るなど、多くのことに責任があると信じられている。

神道の神々の中には、日本の皇室とつながりのある神々がいることが知られている。特に太陽の女神(sun goddess)である天照大神(Amaterasu)は、日本の天皇や皇后の祖先であり、国の守護神として崇められている。伊勢神宮(Grand Shrines of Ise)は、日本で最も神聖な場所とされている。

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黒いスーツに身を包んだ男たちが一列になって歩く儀式的な行列。日本の中部にある三重県の伊勢市にある伊勢神宮の外宮(outer shrine)を後にする日本の、明仁上皇(2019年4月18日撮影)。

神道の儀式は、日本中、いや世界中の神社の神職が、神とその管轄下にある地域社会の人々のために行うものである。天皇陛下も毎年、五穀豊穣を祈り、即位や退位の際に国民のために神事を執り行う。

神事に参加することが神聖で、精神を高揚させるという人々もいる。また、神社に参拝することは、単に伝統や国の誇りの問題である人々もいる。

●神道との絡み合い(Entanglement with politics

神道は政治や国家と長い間複雑に絡み合ってきた歴史がある。現存する最古の日本の書物は、天皇や公家がその子孫であると主張する神々の神話的な行為を想起させ、彼らの支配を正当化するものであった。

研究者ジョリオン・トーマスは、著書『偽装された自由(Faking Liberties)』の中で、近代日本における宗教のあり方をめぐる100年にわたる議論の中心に神道があったことを明らかにしている。19世紀まで、日本には西洋で考えられているような「宗教(religion)」という概念はなく、日本語で「宗教」という言葉もなかった。しかし、1889年の明治憲法に信教の自由の権利(the right to religious freedom)が盛り込まれると、政府はどのような伝統や集団が宗教的であるかそうではないかを決定しなければならなくなった。

当時、神道は公式に分裂していた。天皇や神である祖先に関する儀式は無宗教の民間の儀式(「国家神道(State Shinto)」と呼ばれることもある)として、それ以外の個人の信仰や実践に関することは私的宗教として分類された。

第二次世界大戦後、アメリカを中心とする連合諸国(the Allies led by the United States)は日本に占領政府(occupation government)を作り、戦後の国家から神道の全てを宗教に分類して分離した。しかし、他の宗教と同様に、神道も日本の政治と関わりを持ち続けた。

日本における重要な団体の一つに、神道政治連盟(Shinto Association for Spiritual LeadershipSAS)がある。神道政治連盟(SAS)は、約8万社の神社が加盟する神社本庁(Association of Shinto Shrines)の政治部門として1969年に設立された。

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黒いスーツを着た3人の男性が先行している神職と他の3人に頭を下げられながら廊下を歩く。2005年8月15日、物議を醸した東京の靖国神社で戦没者への祈りを捧げた後、神職の後を歩く安倍晋三元首相(当時自民党副幹事長)。

研究者のマーク・マリンズによると、ナショナリスト集団の目的は、天皇の権力を増大し、憲法を改め、学校で神道の道徳教育を実施することである。また、日本の過去の軍国主義を象徴する空間として物議を醸している東京の靖国神社への政府関係者の参拝も支持している。この神社では、植民地支配や戦犯を含む戦没者の霊が、神道の神々として祀られている(are enshrined as Shinto deities)。

安倍首相とその政権は、数十年にわたり神道政治連盟(SAS)と緊密に連携してきた。2016年、安倍内閣の閣僚20人のうち19人が神道政治連盟に所属していた。14人は日本会議(Japan ConferenceNippon Kaigi)のメンバーだった。日本会議は、日本を守る会(Society to Defend Japan)などの神道系団体とつながりのある、神道政治連盟とは別の右翼民族主義団体である。安倍首相は日本会議のメンバーであり、特別顧問を務めていた。

安倍首相とその家族は、政府以外の右翼的な宗教プロジェクトにも関連している。2017年、安倍夫妻は超国家主義的な私立神道小学校に関する汚職スキャンダルに巻き込まれた。土地取得のための政府の巨額値引きに疑問が生じ、安倍夫妻は関係を断ち切り、学校の計画は頓挫した。

ナショナリズムとは別に、安倍は環境保護主義など現代神道の他の側面の政治化に貢献した。2016年、彼はG7首脳を、天照大神が祀られている三重県の伊勢神宮内宮(Inner Shrine of Ise)に招待した。この訪問では、植樹式(tree-planting ceremony)が行われた。学者であるアイケ・ロッツは、安倍がこの行事を利用して正当性を獲得し、国家的な公的精神性(national public spirituality)の一形態として神道を推進したと書いている。

安倍晋三は首相在任中も、そしてその後も、各世代の保守派、ナショナリスト、信奉者にとって、神道政治のリーダーでありモデルであった。この遺産は今後も生き続けている。

カリフォルニア大学サンタバーバラ校の博士課程に在籍するケイトリン・ウゴレッツは、日本の宗教、グローバリゼーション、デジタル技術、大衆文化を専門とする研究者だ。博士論文の研究テーマは、世界規模の神道信者のデジタルエスノグラフィーとオンライン神道共同体の成長というものだ。また、デジタル技術とソーシャルメディアの時代における東アジアの宗教の権威、信憑性、帰属意識、革新性に関連する問題にも関心を持っている。ゲームやアニメのプロジェクトで日本の宗教と大衆文化に関するコンサルティングを行った経験があり、ユーチューブ(YouTube)の教育チャンネル「Eat Pray Anime」を主宰している。

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日本の思想警察の台頭(The Rise of Japan's Thought Police

スティーヴン・クレモンス筆

2006年8月27日

『ワシントン・ポスト』紙

https://www.washingtonpost.com/archive/opinions/2006/08/27/the-rise-of-japans-thought-police/7953533b-62bf-482b-b854-acb7436c4dd5/

他の国であれば、政策通の間で繰り広げられる、利害関係の薄い争いに過ぎないかもしれない。しかし、受け入れ可能なナショナリズムを見つけるのに苦労している日本では、最近起こった、新聞の論説委員と一流の外交政策シンクタンクの編集者との間の激しい争いは、はるかに憂慮すべきものであった。公人に対する右翼の威嚇キャンペーンの最新の攻撃は、言論の自由を圧殺し市民社会の後退を招いているのだ。

2006年8月12日、超保守的な(ultra-conservative)産経新聞に所属するワシントンを本拠とする論説委員である古森義久は、日本国際問題研究所(Japan Institute of International AffairsJIIA)が運営するオンライン・ジャーナル「コメンタリー」の編集長である玉本偉の記事を攻撃した。玉本の記事は、反中国的な恐怖を煽り、戦没者を祀る神社への公式参拝に代表されるような、日本における新しい「タカ派ナショナリズム(hawkish nationalism)」の台頭を懸念するものであった。古森はこの記事を「反日(anti-Japanese)」と決めつけ、主要な著者を「極左知識人(extreme leftist intellectual)」であると非難した。

しかし、古森はそれだけにとどまらなかった。小森は研究所の佐藤幸雄所長に対して、小泉純一郎首相が毎年靖国神社(Yasukuni Shrine)に参拝していることに疑問を呈する著者である玉本を支援するために税金を使ったことについて謝罪するよう要求したのである。

驚くべきことに、佐藤は古森の要求に従った。日本国際問題研究所のウェブサイトは日本の外交政策と国家アイデンティティの問題について率直な議論をする場であるべきだという彼自身の声明も含めてもそうだ。佐藤所長は先週、産経新聞の編集部に手紙を送り、許しを請い、「コメンタリー」の編集管理を全面的に見直すことを約束した。

佐藤の古森と産経新聞に対する降伏は息を呑むほどの出来事であった。しかし、日本を覆っている政治的雰囲気の中では驚くには当たらない。最近のナショナリズムの高まりに刺激され、1930年代の軍国主義(militarism)、天皇崇拝(emperor-worship)、「思想統制(thought control)」への回帰を切望する過激な右翼活動家たちが、より主流の世界に進出し、自分の考えにそぐわない人々を攻撃し始めたのだ。

先週、こうした過激派の一人が、小泉純一郎首相の今年の靖国参拝を批判した元首相候補の加藤紘一の実家を焼き払ったばかりだ。数年前には、富士ゼロックスの小林・トニー・陽太郎会長が「小泉首相は靖国参拝を止めるべきだ」と発言した後、自宅を手製の爆弾で狙われたことがある。爆弾は爆発する前に解体されたが、小林は殺害の脅迫を受け続けた。圧力はその効果をもたらした。小林が率いる大企業の連合組織である経済同友会は、小泉首相の中国に対する強硬姿勢や靖国参拝に対する批判を撤回し、小林は現在ボディーガードと一緒に行動している。

2003年、当時の田中均外務審議官は自宅で時限爆弾を発見した。北朝鮮に甘いということで狙われた。その後、保守派の石原慎太郎都知事が講演で、田中に対する攻撃は「自業自得(had it coming)」と主張した。

自由な発想と脅迫が対峙する(free-thinking-meets-intimidation)もう一つの例は国際的に尊敬されている慶応大学の名誉教授の岩男寿美子である。昨年2月、日本の多くが女性の皇位継承を支持する用意があることを示唆する論文を発表した後、右翼活動家が彼女を脅迫した。彼女は主張の撤回を発表し、現在は身を隠していると伝えられている。

このような過激な言動は、過去に起きた不穏な響きを呼び起こす。1932年5月、犬養毅首相は、満州における中国の主権(recognition of Chinese sovereignty over Manchuria)を認め、議会制民主政治体制(parliamentary democracy)を堅く守ることに反対した右翼活動家の一団によって暗殺された。第二次世界大戦後、右翼の狂信者たちは主に影に隠れていたが、日本の国体(national identity)、戦争責任(war responsibility)、皇室制度(imperial system)に関する微妙な話題に近づきすぎたり、公然と発言したりする人々を脅かすことはあった。

今日の右派による脅迫について憂慮すべき重要な点は、それが機能していること、そしてそれがメディアの中に相互主義を見出したことである。産経新聞の古森は、最近の事件の犯人たちと直接の関係はないが、自分の言葉が頻繁に彼らを動かしていること、そして彼らの行動が自分の発言に恐怖感を与える力を与え、彼らが議論を封じるのを助けていることに気づいていないことはないだろう。更に悪いことに、日本の現首相である小泉純一郎も、来月の選挙で後継者となるであろう安倍晋三も、日本の主要な穏健派の言論が自由に表現されることを抑圧しようとする人々を糾弾するようなことは何も言っていない。

脅迫のケースはまだまだたくさんある。私はここ数日、日本のトップクラスの学者、ジャーナリスト、政府の公務員など数十人と話をした。彼らの多くは、右派からの暴力や嫌がらせを恐れて、数々の事件について公に言及しないよう私に懇願してきた。ある政治評論家は私にこう書いた。「右翼が私の書くものを監視し、さらに問題を起こそうと待ち構えているのは知っている。このような人たちのために時間やエネルギーを無駄にしたくない」。

日本にはナショナリズムが必要だ。しかし、健全なナショナリズムが必要だ。タカ派的で過激なものではないナショナリズムが必要だ。最近、こうしたタカ派的で過激なナショナリズムのために、この国で最も優秀な人たちの多くがその見解を明確に示すことができない状態を余儀なくされている。

スティーヴン・クレモンス:ニューアメリカ財団American Strategy Program)アメリカ戦略プログラム部長兼日本政策研究所(Japan Policy Research Institute)共同創設者。

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私は過激派を支持しない(I Don't Back Extremists

2006年11月11日

『ワシントン・ポスト』紙

https://www.washingtonpost.com/archive/opinions/2006/11/11/i-dont-back-extremists/f78707dc-62cb-4715-b224-89621adb50d1/

「日本の思想警察の台頭」(8月27日)という記事の中で、筆者スティーヴ・クレモンスは私の誠実さに対する攻撃を行い、また重要な事実についても間違っている。クレモンスの発言と事実は次の通りである。

クレモンス氏:産経新聞と古森義久は、「1930年代の軍国主義への回帰を切望する極右活動家の過激化したグループ」と何らかの形で連携している。

私の回答:産経新聞は毎日220万部発行されている日本の主流な新聞である。産経新聞も私もそのような活動家たちとは全く関係がない。

クレモンス氏:小森氏は「自分の言葉がしばしば彼ら(テロリスト)を活気づけ、彼らの行動が今度は彼の主張に対して恐怖感を煽る力を与え、彼らが議論を封じるのを助けることを認識していないことはないだろう」。

私の回答:クレモンス氏は、私が意図的にテロ行為を鼓舞しようとしていると非難している。彼はこの主張に対して何の立証もしないし、することもできない。要するに、産経新聞も私もそのような行為を糾弾し、反対しているのである。

産経新聞は、小泉純一郎首相の政敵である加藤紘一の自宅を放火した事件を厳しく非難している。

小泉純一郎首相の政敵である加藤紘一の自宅を放火した事件では、加藤自らが編集部に感謝の言葉を述べている。

クレモンス氏:古森氏は表現の自由を抑圧した。

私の回答:私は、政府の出資する研究所が、海外の読者に向けて、政府の政策や指導者について、非常に意見の多い批判や誤った報道を英語で発信していることを報道した。私は言論の自由を強く支持しており、政府が出資している客観的であるべき政策研究機関がこのような攻撃を助長していることを国民に知らせることもその一つだ。クレモンス氏が主張するように、私は誰かに謝罪やその他の行動を要求したことはない。

古森義久

編集委員

産経新聞、東京

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 古村治彦です。

 地球規模の世界の支配構造という大きな枠組みで考えると、近代世界以降は、一極(unipolarity)、二極(bipolarity)、多極(multipolarity)ということになる。「極(polarity)」は「軸」冷戦終結後、ソヴィエト連邦崩壊以降の世界は、アメリカが世界で唯一の超大国(superpower)となり、アメリカが支配する一極世界ということになった。第二次世界大戦後の冷戦期は、アメリカとソ連の二極構造であり、一時期のヨーロッパは複数の大国がせめぎ合う多極世界であった。イマニュエル・ウォーラスティンは世界システム論という考えを提唱し、その中で支配的な国家について覇権(hegemony)という概念を用いて説明している。17世紀のオランダ、19世紀のイギリス、20世紀のアメリカがこの覇権(国家)に該当している。

 アメリカ一極世界が崩れつつあるのではないかという考えを多くの人が持つようになっている。アメリカの国力の低下によって、軍事的優位性、経済的優位性が崩れるのではないかと考える人が増えている。それは中国の急速な台頭が原因だ。世界GDPに占める割合ということはこのブログでも再三取り上げている。大まかに言えばアメリカが25%、中国が19%、日本が5%、ドイツが4.5%、インドが3.5%となっている。1968年に日本は西ドイツ(当時)を抜いて世界第2位となったが、現在のアメリカと中国の比率ほどにはアメリカに迫ることはできなかった。アメリカは第二次世界大戦以降、最大の強敵に迫られていることになる。ここで日本について取り上げるのは話を広げ過ぎではあるが、日本はこのままでいけば、インドに抜かれてしまう可能性が高く、中長期的に見てドイツにも抜かれてしまう可能性もある。30年以上にわたり経済成長がなかった国なのでそれも仕方がない。

 アメリカとしては一極世界を維持したいということになる。中露はそれに挑戦する形となる。しかし、中露間には微妙に差がある。ロシアは冷戦期に世界を二分した共産主義陣営の旗頭ソヴィエト連邦の後継国であり、「元超大国」としてのプライドが冷戦終結以降にずたずたに切り裂かれその屈辱からの復活を目指す。プーティンはロシアの復活を目指す。中国はアメリカに経済的にべったりとくっつき、高度経済成長を続けてきた。中国としては世界的なプレイヤーとしての役割を果たしつつも、アメリカとは本格的に衝突することはしたくない。また、アジア太平洋地域、具体的には西太平洋から東南アジアにかけての地域でアメリカの影響力を削ぎたいということもある。

 アメリカとしては中露を引き離したい。中国とロシアを各個撃破したい。しかし、中国もロシアも緊密な関係を保つことでアメリカに対抗できるということは分かっている。両国が1国だけでアメリカと対校することは難しい。ウクライナ戦争によって、「西側世界」対「それ以外の世界」という分裂が明確になり、アメリカとヨーロッパ諸国対中露という構図が明らかになった。下の記事で興味深いのは、最近娘ダリア・ドゥギナが自動車に乗っているところを爆殺されたアレクサンドル・ドゥーギンが「アメリカとヨーロッパを分断する」という「2つの西洋」ということを述べている点だ。そして、中露の関係を深化するように主張している点だ。

 アメリカが中露を離間させることは難しい。そして、ヨーロッパではウクライナ戦争の長期化で「早く停戦して欲しい」という声が高まっている。その声の向かう先はアメリカだ。アメリカが99億ドル(約1兆3000億円)規模の支援を行っているのだから、アメリカがウクライナ戦争を「やらせている」ということになる。ヨーロッパ諸国で反米意識が高まれば、ドゥーギンの主張の実現性も高まるということになる。「自分の陣営が割れないようにして、相手の陣営に楔を打ち込んで分裂させる」というのが戦いの基本のようだ。

(貼り付けはじめ)

上海協力機構首脳会議:多極勢力としての中国の龍とロシアの熊(SCO SUMMIT: CHINESE DRAGON AND RUSSIAN BEAR AS MULTIPOLARITY FORCES

アレクサンドル・ドゥーギン筆

2018年6月14日

『ジオポリティカ』誌

https://www.geopolitika.ru/en/article/sco-summit-chinese-dragon-and-russian-bear-multipolarity-forces

ご親切な招待をいただき感謝申し上げる。まず復旦大学のジャン・ウェイウェイ氏に感謝を申し上げる。今回、私は初めて中国を訪れ、大変に感銘を受けた。私は中国について1冊著作を出している。『黄色い龍(Yellow Dragon)』というタイトルだ。この本で私は中国の歴史、文明、アイデンティティについて書いた。皆さんが中国文化についてのロシア的な見方にご興味がおありならば、そして翻訳することに関心がおありならば、復旦大学に著書をお贈りする。私はアムステルダムで開催された会議にウェイウェイ氏とともに出席した。その会議で、私たちは一極(unipolarity)に対抗する、多極(multipolarity)と新しい世界秩序の側に立っていた。

●一極の時代(Unipolar moment

まず、私は多極世界についての私の考えを明らかにしたい。私は多くの著作を書いてきた(これまでに60冊以上)。その中の一冊のタイトルは『多極世界の理論』だ。科学的なレヴェルで多極性に関する議論を進めることが極めて重要だ。

私たちは今でも一極性の時代の中に生きている。一極性の時代はソヴィエト連邦崩壊、そして二極性(bipolarity)の終焉とともにやってきた。チャールズ・クラウトハマーはそれを「一極性の時代(The Unipolar Moment)」と呼んだ。そして、フランシス・フクヤマは「歴史の終わり(The End of the History)」と呼んだ。

一極性の時代は今でも続いてはいるが、衰退の一途をたどっている。それは熱狂を呼び起こすようなものではない。グローバライゼーションは続き、西洋の覇権はまだ存在してはいるが、明らかに衰退の一途をたどっている。

私たちは今、一極時代の終焉の瞬間に生きている。それは、グローバルな西洋の価値観が普遍的なものとして受け入れられている一極性から移行している。そして、より多くの人々がこの新しいパラダイムのことを多極性と呼ぶことに同意している。

●多極主義と多極性(Multilateralism and multipolarity

多極主義と多極性の間には非常に重要な違いがある。

バラク・オバマが提唱した多極主義の考え方は、西側から中国へ力を分配するという考えに基づくものだった。例えば、ヒラリー・クリントンが提案したG2(米国の指導の下、中国と一緒に統治すること)はその一例である。

しかし、これは本当の多極性とは全く異なるものだ。私は、多極性とは何かということについてのロシアの理解を明らかにしたいと思う。多極性についてのロシアの理解には、西洋の近代そしてポストモダン文化の理解には普遍性というものがないという考えに基づいている。人類には普遍的なものはなく、どの社会にも適用できるような人間の価値の概念もなく、普遍的なものは何もない。異なる文化や文明における人間の理解は全く異なるものとなる。人間についての規範的な概念がないのだから、普遍的な人権の概念を扱うことはできない。西洋文化では、個人という概念があるが、これは人間に対する自由主義的なイデオロギー的な理解である。イスラム文化には、神との個人的な関係という文脈での人間についての別の理解があり、そこでは超越的なレヴェルが絶対的に重要である。中国文化には「仁(Ren)」[1]という概念があり、それは個人というより社会的なものである。また、キリスト教正教会では、人間を個人性(individuality)ではなく、人格(Personality)として理解し、それは人間の社会的関係と神との精神的関係の交差に依存している。ヒンズー教の文化では、人間の概念は仏教文化の伝統であるアドヴァイタ(Advaita)に基づいており、宇宙の幻想があり、人間の運命はこの幻想から自らを解放することであることを暗示している。

従って、人権の概念は普遍的なものではない。私たちが普遍的な価値として受け入れている人権は、人間とは何か、何が正しいかという近代西洋の理解の投影だ。それは西洋のイデオロギー的な概念が私たちに投影されたものだ。

多極性は、このような様々な民族の異質性を肯定的に認識することに基づいている。「人間」という概念は一つではないし、「正しい」「秩序」「普通」「普遍」という概念も一つではない。例えば、中国やロシアの文化は普遍的だが、ヨーロッパや西洋の文化はまた別の意味で普遍的だ。私たちは、西洋とは異なる方法で普遍性を理解している。

つまり、多極性とは、他者を肯定的に理解し、多元的な価値体系を受け入れることに基づいている。科学、文化、政治における最も重要な概念についての議論に基づくものであり、リベラルなアングロサクソンの概念を押しつけるような一極集中的な投影に基づくものではない。

●知的世界における脱植民地化(Intellectual decolonization

多極性のプロジェクトは、西洋の覇権、西洋の帝国主義、西洋の植民地主義を取り除くことであり、経済的、政治的にだけでなく、それは既に実行されている。政治的な意味では、脱植民地化のための戦いは終わっている。経済的な戦いは現在進行中で、中国はここをリードしている。これは、西洋を真似ることなく経済的に成功することができた好例だ。中国モデルは、ミシェル・アグリエッタ氏が規制理論(regulation theory)という観点から説明した。共産党は秩序を守り、中国版民主政治体制を推進する重要な役割を担っており、社会が重要なファクターとなっている。

1990年代のロシアの問題は、西側諸国の模倣をしたことだった。国家、独立、主権、産業など、ほとんど全てを失い、プーティンによって初めて復活を遂げた。中国の経済成長には政治的秩序が不可欠だが、ここには中国の経済的主権と経済的方法による脱植民地化のための戦いの例が見られる。

しかし、植民地主義の最も重要な形態、すなわち、私たちの知性、思考の占有がある。私たちは、思想、哲学、理論、科学、良心の分野で、依然として一極集中の大きな影響下にある。従って、西洋の世界支配を終わらせるべき多極化した世界秩序の中で最も重要なことは、知的脱植民地化なのだ。私たちは、西洋の普遍的な概念言語という幻想から自らを解放しなければならない。私たちはそれを理解し、学び、解体し、西洋を西洋文明の論理的かつ自然な限界の中に置くべきだ。

つまり、西洋の言説は西洋の部分で評価されるのであって、私たちの側では評価されない。従って、私たちは自分の考えを脱植民地化し、西洋文明を通常の植民地以前の限界に戻さなければならない。これは非常に重要なことだ。

中国では、時間の複数性について話すのは簡単だ。なぜなら、中国の文化では、直線的な時間ではなく、周期的な時間を扱っているからだ。だから、戻ることは常に可能だ。多極性は、オスマン帝国、ペルシャ帝国、中国帝国、ロシア帝国、ヨーロッパ帝国といった大帝国が共存していた時代、すなわちコロンブス以前の時代への回帰を基本にしている。それは、この西洋の世界進出に先立つバランスであった。ルネサンスというのは非常に興味深い瞬間だが、近代、つまり啓蒙主義の時代には、ルネサンスは近代への導入のようなものだと考えられていた。しかし、これは直線的な時間の概念に過ぎない。しかし、これは直線的な時間の概念に過ぎず、実際にはルネサンスは文明の失われた機会でもある。ルネサンスに留まるならば、近代化、つまりグローバル資本主義に向かうのとは別の道を歩むことになる。

資本主義の真の力は、民主政治体制や人権とは無関係であり、それは戦争の継続である。戦争は、近代資本主義的力の真の源泉である。フェルナン・ブローデル、カール・シュミット、ジョン・ホブソンたちがそれを証明した。つまり、自由、自由貿易、資本主義の特別な発展形態に関するこれらの神話は全て、植民地化の壮大な物語(metanarrative)だ。カール・フォン・クラウゼヴィッツは「戦争は他の手段による政治の継続である」と述べたが、その言葉を敷衍すれば、現実には、経済とは、他の手段によって政治を継続することである。経済とは政治の継続のもう1つの形態である。

つまり、資本主義とは、武器(weapon)に他ならないということになる。そして、この武器を使う主体は、国家、社会、国民である。このシステムを武器とするなら、誰がこの武器を使うのかを定義する必要がある。中国は、社会主義、資本主義、他の世界との関係の変化を、中国人に有利になるように利用することができる。これは素晴らしい例である。中国人は歴史の主体であり、中国文化は歴史の主体であり、これは多極性の好例である。

さて、多極性のもっと現実的な側面を考えてみよう。多極性は、西側諸国における世界的な決定のポイントが1つではなく、異なるポイントが存在することを前提としている。いわゆる主権国家の多くは主権者ではないので、主権国家の数がそのまま局になることはありえない。彼らは十分に強力ではなく、この主権に対する決定的な重みを持っていない。だから、いわゆる主権から真の主権へと移行する必要がある。多極化した世界は、これらの真の主権国家のバランスに基づいているはずだ。つまり、多極化システムの極の数量は、いわゆる主権国家の数よりも制限されるべきだ。

●2つの西洋(Two Wests

この多極化の特徴をいくつか説明することができる。第一に、西洋を分割する必要がある。アメリカは文明の一つの極であるが、ヨーロッパはそれと同じではない。両者には多くの共通点は存在するが、アメリカとヨーロッパをより分裂させているものがたくさんある。今、これらの違いに形を与える時が来た。このプロセスは、ますます自国中心的になり、ますますグローバリストでなくなっていくトランプ政権の統治によって促進されている。そして、トランプのこの攻撃的なスタイルは、ヨーロッパが自らのアイデンティティ、地政学的位置、利益、そしておそらく軍事的・戦略的独立を再定義する機会を与えることになる。これは非常に良い兆候である。つまり、ヨーロッパがアメリカとはまったく異なる存在として登場することは、重要な変化であり、多極化の重要な現象になる可能性がある。

唯一の決定権を持つように装うグローバルな西側ではなく、2つの西側が存在することになる。この分裂は、他の極を出現させるのに役立つだろう。

●ロシア、中国そして他の様々な極(Russia, China and other poles

多極性の第二の側面について述べる。それはロシアの復活だ。世界政治の多くの側面でそれを見ることができる。プーティンは、独立した国際的なプレイヤーとしてのロシアの主権を回復し始めた。ロシアは経済的には弱いが、軍事的、政治的には強い。ユーラシアの極が出現し、中国の極(独立した国際的なプレイヤーとなり、経済的には中国の方がはるかに発展している)があり、その他がある。上海協力機構はまさにその中核であり、この多極性がどのように作られるかの例である。これはまだ多極ではないが、多極化の方向性を示している。

従って、ロシアと中国という少なくとも2つの多極化の大きな極があると考えている。また、この多極化の文脈には、人口動態、経済、政治的な巨人であるインドが存在する。これは、ロシア、中国、西洋から完全に独立している。イスラム諸国の側では、一極に対する抵抗が高まっており、彼らの文明は、異なる方法で西洋の覇権主義に対抗している。イスラムの人々が国ごとに分かれている場合は克服できない。一国ごとであれば、リビアやイラクのように簡単に破壊することができる。しかし、もしロシアのような新しい極がこれらのイスラム国家を助けるようになれば(シリアの場合のように)、状況は違ってくるだろう。そして、シリアに対する中国の政治的・外交的支援と他の地域大国の関与があれば、イスラム国家を西側からの攻撃から救うことができる(イスラム国は、イスラム世界における社会主義・親ソ連傾向との戦いでCIAが作り出し支援したツールであることは既に知られている。現在は制御不能になっているが、それでも西側の戦略の継続であることには変わりはない)。異なる極が協力して多極化を促進すれば、多極世界が実現する可能性がある。イスラムは、この抵抗、この主権の宗教的な極である。イスラム世界には、イラン、トルコ、サウジアラビア、インドネシア、パキスタンなどのシーア派を中心とするさまざまな極があり、現在はあまり統一されていない。しかし、これらの極は、一極集中を拒否することでは一致している。この極は非常に重要で活発な力であり、台頭しつつある。

ラテンアメリカでは、統一的な立場への第一歩を踏み出した。アフリカ諸国は正式な占領から解放されたが、依然として西洋に依存しており、自分たちが植民地化されていると感じている。このポストコロニアル構造から脱却し、他のプレイヤーの力を借りて汎アフリカ的なプロジェクトで統一することも可能だろう。

私たちは、一極集中から多極への移行期を生きている。一極はまだここにあり、多極性への移行期だ。西洋覇権のドラゴンはまだ生きている。傷つき、弱体化しているが、まだ生きている。黄色い龍とロシアの熊は、覇権を譲ろうとしないこの怪物と戦っている。つまり、私たちはこの戦いの終盤に生きている。私は、最終的に私たちが勝つことを望んでいる。中露は一緒に戦っている。二極支配の夢は捨てよう。それはソヴィエト連邦時代における私たちの過ちだった。中国はG2支配の提案を拒否したがこれは非常に賢明だった。私たちは、多極化した世界のバランスを共に創り上げるべきだ。

[]仁(Ren):繁栄する人間社会を促進するために、模範となる人間が示すべき姿勢や行動を特徴づけるものである。(大英百科事典)

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中国とロシアはより緊密な関係を進めそれがバイデン政権にとっての軍事的な挑戦となっている(China and Russia Turn Deeper Ties into a Military Challenge for Biden

-トランプ政権の高官だったある人物は「私たちは二正面作戦に対応できる群を持たずに二正面作戦をする可能性に対峙している」と述べた。

ジャック・デッチ、エイミー・マキノン筆

2021年4月20日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2021/04/20/china-russia-military-attention-us-policy-xi-putin-biden-taiwan-ukraine/

ロシアと中国の軍事・外交協力の深化は、アメリカの国防計画担当者たちを悩ませている。軍事技術と多くの外交政策目標を共有する2つの宿敵が、アメリカのリーダーシップを再び発揮するというバイデン政権の計画を複雑にしてしまうことを恐れているのだ。

中国は、ウクライナとの国境付近におけるロシアの軍備増強を注意深く監視しており、米国防総省は今週、台湾と南シナ海に対する独自の圧力作戦を視野に入れて、2014年当時の配備よりも規模が大きいと発表した。先週、中国は過去最多の爆撃機と戦闘機を台湾の防空圏に派遣し優位性を誇示した。米軍トップは、北京が今後6年のうちに台湾を武力で奪取しようとする可能性があると警告している。

米国防総省のある高官は匿名を条件に次のように語った。「ロシアがウクライナで最初に行った時と同様に、今起こっていることについて中国は非常に注意を払っているというのが我々の感覚だ。中国は、学んだ教訓をどのように自国の国益に生かすことができるかを見極めるために、注意深く見ていると言ってもよいだろう」。

本誌は現役と元政府高官や専門家11名に取材を行った。北京とモスクワが並行して行っている圧力キャンペーンについては、両国が実際に調整しながら行っていることを示す証拠は今のところない。しかし、両国による軍備増強は、特に悪い時期にジョー・バイデン米大統領の注意を引き伸ばしている。米国防総省は、2つの主要な戦争を同時に計画するという1990年代の考え方を放棄しているので、台湾上空の中国の戦闘機とウクライナ付近に集結するロシア軍の分割画面は、国防総省の戦略立案者たちに、将来起こりうることについて、特に不快感を持って予見させることになった。

ドナルド・トランプ政権時代に国防次官補を務めたエルブリッジ・コルビーは次のように述べた。「2正面作戦の軍隊(two-front military)を持っていないところで、2正面戦争(two-front war)に直面することになる。NATOが台湾をめぐる戦いと同時期にアメリカ軍に救済を期待しても私たちはその両方を行うことはできない。私たちには資産がない。それは私たちにとって大きな問題を引き起こす可能性がある」。

ジョー・バイデン政権は、西太平洋に多くの軍事資産を配置することで、長らく遅れていた「アジアへの軸足転換(pivot to Asia)」を実現しようと躍起になっているが、北京とモスクワの軸足の関係をどう管理するかについては、2019年の米情報機関の評価で、過去60年間のどの時点よりも連携していると評されたままだ。中国の習近平国家主席はかつて、ロシアのウラジミール・プーティン大統領を「親友であり同僚(best friend and colleague)」と表現したことがあった。

ウクライナ国境付近でのロシアによる最近の軍備増強について言えば、モスクワにはまだヨーロッパに大混乱をもたらす能力があることを思い起こさせるものとなった。しかし、今後数年間は中国が戦略的優先事項となる可能性が高い。

バラク・オバマ前大統領の下で駐ロシア大使を務めたマイケル・マクフォールは、「アジアへの軸足転換を望むが、今日のプーティンの脅威に焦点を当てることを犠牲にして欲しくはない」と述べた。

長年にわたり、中国とロシアは、国連安全保障理事会(United Nations Security Council)で戦術的な連携を取り、経済制裁や軍事介入を自由に行うアメリカとヨーロッパにおける同盟国である英仏の影響力に対抗してきた。中露は近年、シリア問題などでも連携が強まっている。国連本部以外では、ロシアと中国は近年、エネルギーや武器などの主要分野で二国間貿易を倍増させ、かつては冷え込んでいた関係を強めている。中露両国とも、アメリカが主導する金融秩序を回避し、ワシントンの世界支配を弱体化させることに関心を抱いている。また、民主政治体制と人権を推進するアメリカの努力に深く懐疑的な点でも一致している。

新アメリカ安全保障センターで大西洋安全保障プログラムのディレクターを務めるアンドレア・ケンドール=テイラーは「中露両国がもたらす課題を増幅させるような相乗効果を生み出す方法についても考え始めなければならない」と指摘する。

1961年の中ソ分裂後、数十年にわたり、2つの大国間の関係は深い不信感によって特徴づけられていた。しかし、冷戦終結後に両国関係は雪解けし始め、2014年にロシアがクリミアに侵攻して併合し、欧米諸国の雪崩式制裁を誘発した後に本格的に動き出した。

その結果、ロシアは東アジアに新たな経済的・政治的パートナーを見つけ、ロシアのガスと中国のエネルギー需要をつなぐ天然ガスパイプラインの30年間で4000億ドルの契約をほぼ即決し、その後、中国のロシアの石油に対する依存度も高まった。

その代わりに、北京はモスクワが西側諸国からもはや入手できない資金やハイテク部品を提供している。中国の防衛産業は急速に発展しているが、ミサイル防衛システムS-400や戦闘機スホイSu-35など、武器輸入の約80%は依然としてロシアからのものだ。中国のJ-11とJ-15戦闘機は、地対空ミサイルの一部と同様に、ロシアの設計をベースにしている。これは双方向の関係だ。新アメリカ安全保障センターの最近の報告書によると、ロシアは西側の制裁に直面し、電子部品や海軍のディーゼルエンジンも中国に頼ってきたということだ。新アメリカ安全保障センターは、ロシアのミサイルや戦闘機の技術は、中国に「より優れた戦略的防空能力と、特に台湾や南シナ海におけるアメリカの優位に対抗する能力の向上」をもたらすと結論づけている。

2009年から2013年までNATOのヨーロッパ統合最高司令官を務めたジェームズ・スタブリディス退役海軍大将は、「古い映画『ジェリー・マグワイア』の言葉を借りれば、彼らはお互いを補完し合っているということになる」と述べた。

中露間における軍事的な関係はどんどん緊密化している。ロシアの2018年の「ボストーク」演習には、旧ソ連以外の軍隊が初めて参加し、数千人の中国人民解放軍部隊が参加した。翌年、プーティンは、ロシアが中国のミサイル攻撃早期警戒システムの開発を支援していることを明らかにした。ロシアと中国はイランとともに2019年にインド洋で大規模な海軍訓練を実施し、中国が日本と領有権を争う東シナ海でも中露両国が合同で演習を行った。

ロシア・ウラジオストクにある極東連邦大学の准教授で、アジア太平洋における中国の専門家であるアルチョム・ルキンは、中露両国は正式な防衛協定を結んでいないが、この関係は事実上「準同盟または協商(quasi-alliance or entente)」であると述べている。

しかし、中露の関係はしばしば便宜上の結婚とみなされる。カーネギー・モスクワ・センターのアジア太平洋プログラムのロシア担当のアレクサンダー・ガブエフは「よく計算された、現実的なパートナーシップであって、愛情はない。中南海(中国の中枢部)でもクレムリンでも、誰も錯覚していないと思う」と語っている。

最近強化された防衛関係も、長くは続かないかもしれない。2014年に行われたロシアに関する国防評価では、北京がロシアの軍事技術から離脱するのに10年以上かかると結論づけている。「中国が南シナ海でより積極的に行動し、アメリカに対抗するためには、このハードウェアが必要だ」とガブエフは述べている。

バイデンの国家安全保障会議でロシア・中央アジア担当上級部長を短期間務めたケンダル=テイラーは、「モスクワがこの関係におけるジュニアパートナーであることは疑いようがなく、プーティンもその地位に長くとどまることはないだろう」と述べ、アメリカ政府当局者たちはこの関係の深さと耐久性に疑問を呈している。

テイラーは次のように述べた。「兄貴は成長する過程で比喩的に言えば弟を殴り、パンツをわざと食い込ませるとか小突いたりとかして虐めていた。しかし、弟が兄貴より大きく、より強くなった。そして今、兄貴は自分がパートナーとして下になったことで、将来どうなるかを恐れているようなものだ」。

リチャード・ニクソン政権時代、ワシントンが中国とロシアを戦わせたのは有名な話だ。近年の和解の度合いを考えると、明らかにそれと同じことはできないのだが、米政府関係者たちはそうした試みを継続している。

例えば、2020年10月に当時のロバート・オブライエン国家安全保障問題担当大統領補佐官とロシアのニコライ・パトルシェフとの外交分野のトップ会談について、トランプ政権のある高官は本誌の取材に対して、オブライエンの次の地位である次席補佐官のマシュー・ポッティンジャーがロシア側に対して中国との提携について警告を発したと述べた。ポッティンジャーは、中露両国には歴史上、数多くの領土争いがあり、それにはシベリアも含まれている。そして、シベリアでは北京官話を話す人の人口が増えているとポッティンジャーは述べた。ポッティンジャーは広報担当を通じてこの記事についてのコメントを拒否した。アメリカはまた、中国の人口の優位性を、二国間協議でロシアの弱さが増していることの表れとして演じたとトランプ政権の元高官2名が述べた。

ワシントンはまた、中国の核兵器の増強と頻繁なミサイル発射に対するロシアの警戒心を高めようと試みた。昨年(2020年)の米露軍備管理協議でロシア当局に脅威を説明するために北京の備蓄に関する膨大な情報の機密指定を解除した。トランプ政権の元高官は、中国が複数の独立した弾頭と道路移動可能な生存システムを開発したことで、米政府関係者が神経質になる中、ロシア政府関係者が核戦力の一部を中国の軍備に向けて氷人を合わせていると米政府関係者に述べた例もあると語った。米国防当局者たちは、ロシア東部軍は数年にわたる大規模な近代化プログラム遂行の只中にあり、長距離対艦ミサイルや戦闘機からハンターキラー潜水艦まで、全てを中国との国境近くに配備していると評価している。

しかし、3か国間の力関係のバランスを取るために、アメリカは中国との会談でロシアの脅威を強調したこともある。2名の元米政府高官によると、トランプ政権は、ロシアが協定内容に虚偽で従わなかった事例があった後、冷戦時代の中距離核戦力条約から2019年に離脱したことを利用して、アメリカの長距離ミサイルがアジアに出現することを恐れる中国に圧力をかけたということだ。「中距離ミサイルが太平洋に現れたら、我々を責めないでプーティンを責めろ」というメッセージを送ったとトランプ政権のある元高官は述べた。

問題は、強力な経済力、強力な海軍を合わせ持つ台頭する大国と、大国からの地位から転落したことで怒りを持つ元大国を抑止する唯一の解決策がないことだ。この元大国は、軍事的威嚇だけでなくハイブリッド戦争と経済的威圧に頼って近隣諸国を屈服させている。

別の米国防総省当局者が匿名を条件に、「私たちは両方を同時に抑止する方法を検討している。しかし、個々に、一方に有効なことが他方に有効でない場合もある」と語っている。

正式な同盟のようなものがなくても、中国とロシアの暗黙の協力関係や、ウクライナと台湾の両方をめぐる緊張の高まりがバイデン政権を窮地に陥れている。

ヨーロッパ・NATO政策担当の国防次官補を務めたジム・タウンゼントは、「今、あなたは2つの敵対する2つの舞台を見ている。これは、プランナーたちが夜中に起きて汗をかくようにするものと同じだ」と語っている。

※ジャック・デッチ:『フォーリン・ポリシー』誌米国防総省・国家安全保障担当記者。

※エイミー・マキノン:『フォーリン・ポリシー』誌国家安全保障・情報諜報担当記者。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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ビッグテック5社を解体せよ

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
20211129sankeiad505

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