古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

2022年09月

 古村治彦です。

 世界規模での食糧価格とエネルギー価格の高騰は続いている。あらゆる商品の値上げが続き、経済はインフレイション状態になっている。好景気の結果としてのインフレイションならば物価上昇率を給与の上昇率が上回り好循環となるが、日本の場合は給料が上がらない中で物価だけが上がるということになり、人々の生活は苦しくなり、社会は不安定になる。社会が不安定になれば、体制に対する不満から騒擾や暴動、戦争が起こりやすくなるというのは歴史が示している通りだ。

社会不安からの騒擾、体制転換について思い出すのは、2011年の「アラブの春(Arab Spring)」と呼ばれた、アフリカ北部、サハラ砂漠以北(Sub-Sahran)の国々で起きた大規模な反政府デモと体制転換にまで行きついた出来事である。アラブの春によって各国の独裁者たちは排除されることになった。非民主的な体制から民主体制へと移行することを「民主化(democratization)」と呼ぶ。

 民主化というのは素晴らしいもののように思われる。確かに独裁体制や王政の圧政から人々が解放され、人々の意思が政治に反映されるということは素晴らしいことだ。しかし、多くの場合、民主化の陰には大国の思惑がある。現代で言えばアメリカの思惑がある。アメリカはデモクラシーのチャンピオンとして、「世界中にデモクラシーを拡散する」という使命を持っているのだと考える人は多い。そして、「世界中が民主国家になれば戦争は亡くなり平和になる」という「民主平和論(democratic peace theory)」という考えが出てくる。しかし、現実はそのようにはうまくいかない。

アラブの春を例に取れば、一般の人々による自発的な、下からの民主化に向けた動きということになっている。しかし、拙著『アメリカ政治の秘密』(PHP研究所)で明らかにしたように、米国務省とビッグテック(2011年当時にはこの言葉は一般的ではなかった)のツイッターとフェイスブックが関与したものである。計画的なものであった。アメリカは自分たちがみんしゅかしたいと考える国々の社会不安を利用する、もしくは社会不安を引き起こすということをこれまでやってきた。

 今回のウクライナ戦争をきっかけにエネルギー価格や食料価格の高騰が続いている。これらによって対ロシア制裁に踏み切った先進諸国内での人々の生活は苦しさを増している。日本でもあれだけ暑かった夏も過ぎ、朝晩は涼しい、もしくは寒いということになっている。ヨーロッパ諸国では例年天然ガスの価格が安い夏に冬に備えて備蓄するということが行われていたが、今年の夏はそれができなかった。今年の冬がどのような寒さになるかは分からないが、降雪地帯も多いヨーロッパ各国では厳しい冬を迎えることになるだろう。人々は自衛策として薪を貯蔵しているという話も報道されている。

 先進諸国が対ロシア経済制裁を行えばロシアはすぐに屈服するという楽観的な見通しは外れて、先進諸国の国内で不満が醸成され、社会不安が起きるような状況になっている。各国で民主化を起こす前に、自国の政権がどうなるかが分からない状況になっている。アメリカでは大統領を出し、連邦上下両院で過半数を握っている民主党に対して、11月の中間選挙で厳しい判断が下されることになる。

 日本でもあれだけ盤石と見えた自民党に対しての逆風が吹いている。岸田文雄政権の支持率が低迷している。これは、安倍晋三元首相の国葬魏の強行、統一教会と自民党との深い関係、東京オリンピックでの汚職捜査の進展、これらに加えて、人々の生活に不安感が増している状況で冬を迎えるという状況がある。

 ロシアとの関係を維持している新興国や発展途上国は少なくとも天然ガスに関しては、先進諸国よりもずっと有利な立場にいる。現物を握っている方が強いということ、先進諸国の自分たちへの過大評価と西側以外の国々(the Rest)への過小評価が一緒になって現在の状況を作り出している。先進諸国内で政情不安が起きないとも言えない。「他人の心配をしている場合か」ということだ。

(貼り付けはじめ)

食糧価格の高騰で独裁国家が崩壊した時の準備はできているのだろうか?

デイヴィッド・A・スーパー筆

2022年8月23日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/opinion/international/3611666-are-we-ready-for-when-dictatorships-implode-over-rising-food-prices/

ロシアがウクライナに侵攻し、世界有数の農業国である2つの国へのアクセスが阻害されたことで、世界中で食料価格が高騰している。戦闘当時両国が輸出していない商品も、入手できなくなった小麦やひまわり油で代用され、より高価になっている。さらに、エネルギー価格も高騰しているため、多くの発展途上国では、食糧が必要な時期に、食糧に使えるお金がさらに少なくなっている。

歴史上、食糧価格の高騰は、安定した専制君主(despots)に対する民衆の反乱を数多く引き起こしてきた。腐敗した政権に異議を唱えれば弾圧を受ける恐れがあった人々が、家族を養えなくなると怯え、捨て鉢になるのである。このような国民の怒りの爆発がいつ起きてもおかしくない状況にある。

残念ながら、私たちの短絡的な政策が、これらの国々の多くで民主化運動を迫害し、しばしば民主化を挫折させる一因となっている。世俗的な民主政体を求める野党の指導者たちは、民衆の反乱を指導し、怒りを前向きな方向に導くことができるだろう。もし私たちがこうした勇気はあるが困難な状況にある、人々を積極的に擁護し始めなければ、いかなる動乱も不寛容な宗教的過激派や、新世代の腐敗した日和見主義の専制君主に乗っ取られる可能性が高いだろう。

10年前の「アラブの春(Arab Spring)」革命は、専制君主制の民主化と近代化(to democratize and modernize)を目指したものと広く受け止められているが、そのきっかけはパン価格の高騰であった。エジプト革命の主要なスローガンは「パン、自由、社会正義(Bread, Freedom, and Social Justice)」であった。失業率が上昇し、食品価格が18.9%に上昇した時期に、国から補助されたパンが不足したことが、人々を街頭に繰り出させることになった。同様の価格高騰は、アラブの春以降、各地で反乱の引き金となった。

豊かな欧米諸国は、発展途上諸国の経済的に不安定な人々にとって食糧価格の重要性を過小評価しがちである。特に抑圧的な政権の下で家族を養うのに苦労している人々は、政治は自分たちにはできない贅沢だと感じているかもしれない。しかし、食糧価格が高騰すると、彼らは街頭に立つしかないと感じるかもしれない。

エジプトほど、ポジティヴな方向にもネガティヴな方向にも導く可能性を秘めた国はないだろう。エジプトは世界のアラブ系人口の約4分の1を擁し、軍事、政治、文化、宗教の分野で重要な役割を担っている。また、エジプトは小麦の輸入大国でもある。

数十年前、アンワル・エル=サダト大統領は、民衆の怒りで政権が倒れそうになった時、パンの値上げを撤回した。それ以来、歴代政権は低所得者層が利用できるように、基本的なパンの価格を低く抑えている。

汚職と新型コロナウイルス感染拡大によってエジプト経済がボロボロになる中、現大統領のアブドルファッターフ・アッ=シシ将軍は昨年、パンの値上げを提案した。批判が殺到し、政府はすぐに撤回した。今となっては、選択の余地はないのかもしれない。この地域の他の政府も同じような状況に置かれている。

レバノンは更に酷い状況だ。名目上はエジプトよりもずっと民主的だが、レバノンの政治は、敵対する外国勢力の代理人として機能する各ブロックによって腐敗したままである。

スリランカでは飢えた人々が通りを埋め尽くし、経済が大きく破綻して食糧を買うことができなくなった。

ギニアの首都ではデモ隊が暴れまわっている。

このように事件を数え上げればきりがない。

このような状況下では、「簡単な」解決策を約束したり、おなじみのスケープゴートを非難したりするデマゴーグが暴徒の先頭に立つことはあまりにも容易である。デマゴーグはもちろん、国民に永続的な救済をもたらすことはないだろうが、それが明らかになる前に、彼らは権力の座を固めてしまうだろう。

エジプトはその典型的な例である。何百万人ものエジプト人が、選挙で選ばれたものの抑圧的で無能なムスリム同胞団(Muslim Brotherhood)の大統領モハメド・モルシに対して立ち上がった時、シシ大統領は彼らの願望を代弁すると主張し、権力を掌握したのである。何千人もの平和的なムスリム同胞団と世俗的な抗議者たちを殺害し、彼を脅かす可能性のある反対派の人物を投獄または追放した後、シシ大統領は厳しく管理された偽の選挙を実施した。

より良い方法がある。

食糧価格に対する民衆の反乱が、軍事専制主義者たち(miliary despots)とイスラム専制主義者たち(Islamic despots)の間の終わりなき二項対立の新たな局面を引き起こすのではなく、これらの反乱は有意義で持続的な変化のための機会を提供することができるだろう。世俗的で民主的な統治は、経済の成長の可能性を奪っている腐敗を不安定にする可能性がある。また、公的資金を際限のない軍備増強から国民のニーズに応えることに振り向けられるかもしれない。そして、不可避なこととして、無能な人々が大統領官邸に入り込もうとする時、民主的移行(democratic transitions)は、ムバラク大統領やシシ大統領のように長期にわたる損害を与える前に、その扉を開くことができる。

残念なことに、これらの国々の世俗的な民主的な指導者たちが刑務所に収監されたままでは、食糧を求める反乱は良い方向に向かうことはないだろう。

アラブの春デモを遅ればせながら一時的に支援したオバマ政権は、その後ほとんど関心を失ってしまった。ドナルド・トランプ政権も、抑圧的なシシ政権に制裁を加える瞬間があったが、その後、両大統領は結束を固めた。

ジョー・バイデンはより良くできるはずだ。

エジプトの民主活動家でブロガーのアラ・アブデル=ファッタは、アラブの春の重要な指導者だったが、シシが権力を握って以来、何度も投獄されている。彼は現在ハンガーストライキ中で、その健康状態は悪化していると伝えられている。 アル=シシ大統領は、幅広い国民的対話を望んでいると主張するが、アブデル=ファッタのような本物の反対派の声と話すよりも、むしろ投獄しているのである。

バイデン大統領は、シシ大統領に対して、正当な野党の声を投獄する限り、二国間関係の進展は不可能であるという明確なシグナルを送ることができるし、そうすべきである。彼は特に、アブデル=ファッタを釈放し、必要な治療を受けさせるよう主張すべきだ。

投獄された世俗的な民主政体擁護者たちのために立ち上がることはそれだけの価値がある。民主的で豊かなウクライナがロシアやベラルーシの独裁政権に疑問を抱かせるように、自由で民主的なエジプトは、この地域の多くの専制政権を弱体化させるだろう。多くの高学歴者が潜在能力を発揮できるようになったエジプトは、経済の停滞と化石燃料への依存で知られるこの地域において、急速に持続可能な繁栄を達成することだろう。

デイヴィッド・A・スーパー:ジョージタウン大学法学部カーマック・ウォーターハウス記念法学・経済学教授。また、センター・オン・バジェット・アンド・ポリシー・プライオリティーズの顧問弁護士を数年間務めた。ツイッターアカウント:@DavidASuper1

(貼り付け終わり)

(終わり)

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 古村治彦です。

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新装版 小室直樹の学問と思想

 今回は2022年9月1日にビジネス社から発売された『新装版 小室直樹の学問と思想』をご紹介します。本書は1992年に弓立社(ゆだちしゃ)から発刊され、2011年にビジネス社で復刊されました。今回、小室直樹先生生誕90周年ということで、新たに「はじめに 副島隆彦」と「おわりに 橋爪大三郎」を収めたものとなっています。

 以下に「はじめに 副島隆彦」、目次、「あとがき 新装・増補版に寄せて 副島隆彦」を貼り付けます。『小室直樹の学問と思想』をまだお読みになったことがない方は是非手に取ってお読みください。

(貼り付けはじめ)

はじめに 副島隆彦

 何ということだろう。西暦2022年の今、世界史にプーチンが率いる「ロシア帝国の大復活」が起きつつある。

 一体全体、何たることか。小室直樹先生の業績『ソビエト帝国の崩壊』(1980年刊)から42年。ロシアが大国になって戻って来て、ロシア帝国となって甦(よみがえ)りつつある。何と言う歴史の皮肉だろう。滅んだはずのソビエト赤色(せきしょく)帝国が、ロシア連邦(フェデレーション)の形で、仰々しく世界勝利者として復権しつつある。逆に、アメリカ帝国と西側(ザ・ウエスト)同盟(NATO[ネイト―]とEU[イーユー])のほうが、ウクライナ戦争で 緒戦(しょせん)の優位が消えて、たじたじとなり、敗勢が濃くなって来た(今年7月)。

 こんなご時勢で、『小室直樹の学問と思想』の再(さい)復刊(初版1992年刊)に私は立ち合うことになった。丁度30年が経たった。私自身が、もう老人になって(古希[こき]70歳)、自分の脳がスリ切れそうだ。知識人などという無残な商売は、わずか30年の時代の変化に耐えられない。私は己(おの)れに向かって冷笑する。

 日本の小室直樹と共にソビエトの崩壊を予言したことで知られる(1976年。邦訳『最後の転落 ソ連崩壊のシナリオ』)フランス知識人のイマニュエル・トッド(1951年生。71歳)が、再び時の人である。トッドは、「ウクライナ戦争の原因と責任は何よりもアメリカとNATOにある」とはっきりと書いた(『第三次世界大戦はもう始まっている』文春新書、2022年6月刊)。何故なら、プーチンがあれほどに、「これ以上NATOの東方拡大(イースターン・エクスパンジョン)をするな。ロシアは絶対に許さない」と何十度も警告を発しウクライナ国境線で軍事演習を行って威圧した。それなのに、西側は故意にプーチンの堪忍袋の緒を切らせた。アメリカとNATO(真実は英と米のディープステイト)は、手ぐすねを引いてロシアを打ちのめし、弱体化(ウィークン)できると思っ

て戦争を仕掛けた。

 ところが西側(ザ・ウエスト)のほうが開戦から4カ月経ったら、〝ゼレンスキー支援疲れ〟でボロボロになった。ロシアの味方に付いた中国とインドとサウジアラビアとブラジル、メキシコ、インドネシアなどの新興国・資源貧乏大国の同盟(新世界[エマージング]8と言う)のほうが大きく勝ち始めた。さらには、ロシアの核兵器のほうが進んでいて超音速(ハイパーソニック)で迎撃(インターセプト)できないので、西側(ザ・ウエスト)は脅し上げられる破目になった。ざまあ見ろである。

 小室直樹先生は、この本が出た時(1992年)言った。

「今こそ、マルクスを勉強し直さなければ。次に滅ぶのは、アメリカ資本主義である」とはっきり私に言った。さすがに大(だい)天才はちがう。そして先生は東ベルリンで刊行されていたドイツ語原書のマルクス・エンゲルス全集を購入して、デーンと書斎に置いた。まさしくアメリカ帝国と西側資本主義が、私たちの目の前で滅び始めている。

 あれから40年の歳月(さいげつ)が経ち、私はあきれかえって茫然(ぼうぜん)として立ちすくむ。思想と学問の研究に人生を入れあげたといっても、何事(なにごと)のことがあろう。この程度のことであったか。

 だがそれでも、本書『小室直樹の学問と思想』は、読者に検証されて世界史の荒波の中に屹立(きつりつ)する岩礁(がんしょう)のようでありたい。

=====

新装版 小室直樹の学問と思想──目次

はじめに

副島隆彦 1

まえがき 新装・増補版に寄せて橋爪大三郎 3

対談 橋爪大三郎・副島隆彦「小室直樹が我々に残した思想と意志」 8

〈復刻〉 現代の預言者 小室直樹の学問と思想 ソ連崩壊はかく導かれた …… 29

復刻(旧版)目次 …… 30

あとがき 新装・増補版に寄せて副島隆彦 265

おわりに 橋爪大三郎 269

小室直樹 略年譜・主要文献 271

=====

あとがき 新装・増補版に寄せて 副島隆彦

 今から二八年まえの一九八三年一月二六日。ロッキード事件裁判の検察官による元首相・田中角栄に対する論告求刑(ろんこくきゅうけい)があった。その日のテレビ番組で小室直樹先生が「検察官たちを送電線に逆さ吊りにしろ」と発言し、翌朝の番組では羽交い絞めにされて画面から消えた。私はその番組をたまたま見ていた。このあと、小室直樹先生の「小室ゼミ」のドアを叩いた。小室ゼミの実質の筆頭が橋爪大三郎しだった。このとき、私は二九歳で小室先生は五〇歳だった。そのとき、田中角栄は六四歳、小沢一郎氏は四〇歳である。

 日本の国にとって、田中角栄という偉大な国民政治家が、どれほど重要であるかを、小室直樹という学者が一所懸命に日本国民に説明した。小室は言った。「ロッキード事件が作ってしまった新たな規範とは何か。それは行政権力と司法権力の野合である。こうなったら、もうデモクラシーは、ほかに何があってもたちまち、頓死(とんし)するのである」と。田中角栄が切り拓いた日本国の戦後の成長経済の道は大変すばらしかった。そして私は小室直樹先生から多くを学んだ。

 角栄が検察庁と法務省、裁判所を使ったアメリカによる弾圧を受けてから三四年後の今、今度は、小沢一郎がまったく同じ仕掛けで検察庁から違法な攻撃を受けている。二〇〇人もの若い政治家を育てた小沢一郎というすばらしい政治家を、アメリカべったりの日本の保守勢力が、今もいじめている。田中角栄の遺伝子を正しく受け継いでいる小沢一郎という優れた国民政治家を、行政官僚、司法官僚たちが押さえつけようとしている。目下(もっか)の闘いは、お金の問題、すなわち財務官僚たちとの闘いではない。

 政治 Justice[ジャスティス]の力を政治的に悪用して、国民から選挙では選ばれていない司法・準司法の官僚がなぜ日本国の最高権力となり得るのか。国民から選挙で選ばれた代表である議員(政治家)たちがまったく力を持てない国にされてしまっている。ロッキード事件(一九七六年から)の時とまったく同じように、再びアメリカの力で、小沢一郎へ強制起訴などという非道なことを行っている。今こそ私たちは、日本の官僚体制を破壊しなければならない。

 私はデモクラシーを「民主主義」などと訳さない。「民主政治」と書く。デモクラシー demos-cracy(デモス-クラシィ)とは、代議制民主体制のことである。

 デモス demos- とはピープル、すなわち国民、一般大衆のことだ。クラシィ -cracy とは「体制、制度」のことである。大衆、国民が選挙で選んだ代表たちに本当の力、権力を持たせよということだ。国民に選ばれた代表たち、つまりリーダーたち権力(パウア)を持つということである。日本には本当のデモクラシーが未(いま)だない。官僚(ビューロクラット)たちが実質的に簒奪[さんだつ](盗み取っていること)している。

 小室直樹先生は本物の、日本では珍しい本当の天才でした。しかし、先生の優れた能力、知能、学問、思想を日本国が認めなかった。本当ならば小室先生を東京大学の学長にするべきだった。そうしたら、一〇〇人では済まない、一〇〇〇人のソシアル・サイエンティスト、すなわち近代学問(モダン・サイエンス)の学者たちが育っていただろう。小室直樹の才能をないがしろにして、不遇のままにした日本という国はまことに卑小で矮小(わいしょう)な国である。小室直樹が味わった悲運を払拭していく努力を私たちはこれからしていく。

 小室直樹先生の霊が現れたとしたら、何を私に望むであろうか。

 私たちが小室先生の学統を継いでいく。この私たちもあと一〇年、二〇年で死んでゆく。若い人たちにトーチを、火を繋いでいかなければならない。私には小室ゼミの一〇年間分ぐらいの資料しかない。橋爪さんは、もっと大量にたくさんの資料をお持ちである。その資料を使って、小室先生が話したことを復活させるべく、橋爪さんが小室先生の学問を話して映像で残す講義録をこれから作ってゆきたい。

 小室先生が望んだのは、思考に系統性を持つ世界基準(ワールド・ヴァリューズ)の知識である。立体的に造形的に思考することであり、世界と渡り合える知識人を育てることだった。これからアメリカが衰退するのに乗じて、日本はできる限り自立、独立すべきだ。それには、アジア諸国と戦争せず、戦争を煽動する愚かな考えに騙(だま)されず、アジア人どうし戦わず、平和に交渉し、大人の態度で、本気で対等で、ものおじせず交渉することだ。なにごとにも騙されない、操(あやつ)られない、洗脳されない、そういう国民の自覚、自立が大切である。

 残された私たちは日本の若い人たちに、何を繋いでいくか。小室先生は小室ゼミで、無料(ただ)でお金を一円も取らずに、私たちに教えてくださった。そのご恩に報いるために、私はインターネットを駆使して世界標準での知識・思想を学びたいという若い人間たちを「副島隆彦の学問道場」で育てている。小室直樹先生の御霊(みたま)に対して私が捧げることができるのは、このささやかな努力である。

 本書が、小室直樹の学問を学び継ぐ上での、さらに若い世代にとっての入門書になってほしい。

二〇一一年三月

副島隆彦

(貼り付け終わり)

(終わり)

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 古村治彦です。

 『愛子天皇待望(たいぼう)論』(弓立社)が2022年10月7日に発売されます。

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愛子天皇待望論

 愛子さまは2022年3月17日に成人を迎え、初めての単独記者会見に臨んだ。この記者会見での受け答えの様子、ユーモアのセンスと頭の回転の速さで国民の多くが「この人が天皇で良い」と考えるようになった。以下のアドレスで記者会見の映像を見ることができる。

https://www.youtube.com/watch?v=FJEPm1xlhgY

※【映像ノーカット】愛子さま初めての単独記者会見(2022317日)

  「愛子天皇待望論」の邪魔になっているのが皇室典範という皇室関係の法律の、第1条「皇位は、皇統に属する男系の男子が、これを継承する」という条文だ。愛子天皇を実現するためには変更することが必要だ。この問題を含め、天皇、皇室をめぐる諸問題を副島先生がまとめ、分析をしている。それが 『愛子天皇待望論』だ。私たちが教えられてきた、習ってきて、常識とされることに鋭く切り込んで、新たな考えや視点を獲得することができる。

 以下に、まえがき、目次、あとがきを貼り付けます。

(貼り付けはじめ)

まえがき

愛子さまは、2022年3月17日に、皇居で「成年(成人)の記者会見」を立派に行っ

た。これが国民へのすばらしいお披露目(ひろめ)となった。大変評判がよかった。愛子さまはしっかりした語り口で、軽い冗談まで交えて皇室記者たちの笑いを誘った。このテレビ放送を見た多くの国民が、これを見て微笑(ほほえ)ましく思い、高く評価して、「この女性が日本の次の天皇になるにふさわしい」と判断した。

眞子さん・小室圭氏問題は遠くに過ぎ去り、日本人の多くが女性天皇を受け容れ、次は愛子天皇でいいと考えた。日本国民の8割がこれまでのいろいろの世論調査でも「愛子さまでいい」となっている。

 ところが岸田政権は、ピタリと止まって、女性(女系)天皇容認に向かって法律改正を

する動きを見せない。

日本の国家体制にとってこのことは重大であるに決まっている。天皇については、憲法第1条から8条に定めている。その次の第9条が、戦争放棄と平和憲法の定めである。天皇のお世継(よつぎ)問題が停滞している。岸田政権は、7月の参院選挙を自民党勝利で乗り切ったのだから、皇室典範(こうしつてんぱん)という法律(今はただの法律だ)を、改正する動きに出るだろう。それが多くの国民の希望だからだ。

7月8日に安倍晋三元首相が、特異な宗教団体の抗争に絡んで死亡した。しかし、この

動きを今後の日本国は皆で乗り越えてゆく。

今こそだ。今こそやるべきだ。今や急激に、 「天皇は絶対に男でなければいけない」と、頑迷に唱える者たちの政治勢力が衰えている。皇室典範をたった一行「皇位は、皇統に属する男系及び女系の長子が継承する」と、書き変えさえすればそれで済むことである。

私たちはそれをじっと待つしかない。しかし、それでも私たち国民の側から、もっと積

極的に、「女性天皇でいい。愛子さまでいい」という声を大きく上(あ)げなければいけないと思う。だから私は、この愛子天皇待望(たいぼう)論を書いてゆく

=====

愛子天皇待望論*目次

まえがき 2

第1章 次の天皇は愛子(あいこ)さまであるべきだ。 11

国民は女性天皇を望んでいる 11

皇族の表記 16

頑迷な右翼、国粋主義者たち 21

普通の国民の視点から 23

皇室典範と岸田政権 25

20歳を迎えた愛子さまの今後 28

「眞子(まこ)さま騒動」と日本人 32

女という生き物が持つ劣性 38

もう世界は王族と大貴族の時代ではない 45

君主政の国・日本 52

第2章 「万世一系」などない 69

安倍晋三と天皇家 69

イギリスが作った「現人神(あらひとがみ)」 70

「万世一系」はまやかし 75

日本の近代史で1番ワルい男 80

第3章 雅子さまの頭のご病気問題を考える 83

雅子さまの頭のご病気の本当の原因は何か 83

「帰国子女」と「合いの子さん」が抱えるクレオール問題 101

モスクワ↓スイス↓日本↓アメリカと移動した子供時代 105

「脳が割れる問題」とアイデンティティー・クライシス 106

超エリート階級が抱える精神の傷 115

雅子さまを苦しめたスキャンダルとバッシング 117

雅子さまを選んだ皇太子は我慢強い立派な人である 122

第4章 天皇家は安倍元首相を嫌っている 135

富田メモと『昭和天皇実録』 142

A級戦犯とは 148

終戦の経緯と戦後の世界体制 153

安倍晋三らの「歴史修正(しゅうせい)主義」を世界はどう見るか 157

A級戦犯合祀を受け、昭和天皇は 169

今、日本国民が理解すべきこと 174

「富田メモ」のその後 175

第5章 天皇という現人神[あらひとがみ](生き神さま)を作ったのはイギリスである 183

本物のワル・山縣有朋 183

山縣有朋の「語られない秘密」 190

病弱だった大正天皇 194

時の権力者が天皇をつくる 196

今に連なるワルの系譜「長州閥」と山縣の子分たち 204

日本を裏で操ったイギリスの制度と思想 214

現人神(あらひとがみ)とイギリス国王 220

6章 「ザ・カルト・オブ・ヤスクニ」 229

「昭和天皇・富田メモ」は米国の意思がリークさせた 229

民族派・愛国派の構想を瓦解させた「異変」 235

アメリカ大使館が仕掛けた「日本の思想警察」復活説 240

「産経・古森公開質問状」と「元国連大使」の愚かな行動 243

あとがき 249

=====

あとがき

この本『愛子天皇待望論』を書きあげて、私は思う。日本のいわゆるリベラル派あるいは反(はん)自民党(反[はん]保守党)の人々は、天皇家(皇室)のことに触(ふ)れたがらない。そういう長い慣行というか傾向がある。それがいけなかった。このことが大きく天皇家を国民から孤立させてしまった。

 天皇家のことについて気軽に語ることは、億劫(おっくう)で口はばったいと感じて発言を避ける雰囲気が日本国民にある。それを打ち破らなくてはならない。

 私は、今回、初めて天皇家とその代(だい)替わり(皇位継承)の問題について、この一冊の本を書く、と決心した。ところが、いざ書き出してみて、たった一行の文、あるいは、ひとつの文字、そして一行の文の敬語(尊敬語、丁寧語)の使い方ひとつで、ものすごく苦労した。天皇問題について何か書くことは大変なことだ、と知った。 「自分の文章は間違った(誤った)言葉づかい(文遣[ふみづか]い)をしているのではないか。自分に知性と教養が足りないことが、人様[ひとさま](読者)に露呈(露見)するのではないか」と、気が引(ひ)けた。天皇家のことになると、日本人はごく短く、仲間うちでボソボソと己れの感情を吐露(とろ)するだけで、日頃は無視している。日本国の長い伝統と重い数々の歴史が後(うしろ)にあるからだ。

 この3年間、あれほど、眞(まこ)子と小室圭問題で、2人を論難した(悪口を言った)人々は、やがて穏(おだ)やかになって自分の生活に戻っていった。さらには両親である秋篠宮家にまで飛び火して、罵(ののし)りの言葉を投げる人々が、まだ少数だがいる。世界中がコロナウイルスとワクチンの問題、そして2月からのウクライナ戦争の惨事まで、次々に事件が起こるから、いつまでも、ひとつのことで騒いでいられない。

 小室眞子さんは皇族の地位を離れて臣籍降下して、一般人(ふつうの国民)になったの

だから、これで国家問題として終わりである。あとはお世継(よつぎ)である愛子さまをどうやって私たち国民が暖かく見守ってゆくか、の問題である。

 前述したがリベラル派さらには左翼的な国民(私もここに入る)は、天皇の問題になると複雑な気持ちになって、あまり触(さわ)りたくない。

 その理由と原因を考えると、やはり戦前までの国家体制としての天皇制が持ったさまざまの抑圧と強権発動(きょうけんはつどう)と、それから、戦争にまで至って多くの国民を死なせた「天皇の戦争責任問題」があるからだ。私もやはり、天皇制と帝国憲法に戦争責任があったと思う。

 大きな観点から見て敗戦後のこの77年間の日本の天皇家は、日本国民に何も悪いことはしていない。この大きな判断に、私は至り着く。明仁(あきひと)上皇と美智子(みちこ)上皇后は、ひたすら50年間、かつて激戦地となった各地をひとつひとつ訪れ、戦死した者たちのための鎮魂(ちんこん)と慰霊のための墓参を熱心に行った。

 鎮魂と慰霊による平和への希求こそは、天皇家に課せられた最も重要な責務である。だから私なりに紆余曲折(うよきょくせつ)し懊悩(おうのう)したあとに、次の天皇を愛子さまにすることが、日本が2度と戦争しないで済む、平和な国であるために極めて大事なことだ、と結論づける。

 明仁上皇はすでに89歳になる。美智子上皇后は88歳である。長男(徳仁[なるひと]天皇)の長女である愛子さまの皇位継承を、何よりも念願し心待ちにしているだろう。私たち日本国民の大多数意思が、それを実現しなければいけない。

 その一方で天皇家になんでも責任を押しつける、という風潮が日本にあることを、私たちは気づいて留意しなければいけない。

 天皇という国王がいるせいで、全てを天皇の所為(せい)にできる、という悪弊(あくへい)が日本には有る。政治家(国家指導者)も国民も、自分たち自身の責任を自覚せずに、安易な天皇崇拝と天皇畏敬(いけい)あるいは天皇への反感(反発)によって胡麻化(ごまか)してしまう。これは明らかに国王制度をいつまでも持っていることから来る悪習、弊害である。

 超然とした特別な人々の存在を、国民文化としていつまでも無自覚に認めてゆくわけに

もゆかない。私は本文の中で書いたが、これから60年後に、愛子天皇が80歳になった頃に大きな体制変動が起きるだろう。天皇制を国家体制から外(はず)して、日本が、本物の民主政治(デモクラシー)の国になってゆくべき道筋のことにも留意しなければいけない。

 だが、今は、とにかく愚劣で頑迷で旧弊(きゅうへい)なだけの「男の天皇しか認めない」人々との明確な対決のためにも、日本国民のものおじしない敢然たる態度と、注意を喚起するために、私はここに愛子天皇待望論を書いた。

 最後に。

 私の「愛子さまを次の天皇にするべきだ。それが日本国民の大多数の願いです」という主張と主題だけを聞いて、あれこれ言わず、 「本を出しましょう」と快く出版を引き受けてくださった、弓立社の森下紀夫氏に感謝します。

 ウクライナ戦争の勃発があったために、私はその戦況(せんきょう)の追いかけに没頭した。だから丸々3ヶ月間、私はこの本の原稿を放ったらかしにした。この間、辛抱強く待って下さったフリー編集者の小川哲生氏に多大のご苦労をおかけした。これまでに頂(いただ)いた長年の友誼と併せて感謝します。

 最後に書き足す。この本の原稿は6月までにほとんど出来あがっていた。だから安倍晋

三元首相の名が、生きている人として、おそらく本書の中に100ヶ所以上に出てくる。

 そうしたら、7月8日(2022年)に、あの安倍晋三銃撃死亡の大事件が起きた。私

は、気が抜けて茫然自失した。10日間、病気で寝込んだ。この本の内容に、深く深く関

わっているからである。私は何かを強く予見していた。そしてそれが現実のものとなった。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
20211129sankeiad505

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 古村治彦です。

 2022年10月16日に第20回中国共産党大会が開催される。今回の党大会の焦点は人事であり、それについて前回、林和立の記事をご紹介した。林は今回の党大会における人事は、国防・航空宇宙産業(中国語では工航天系、jungonghangtianxi)出身者たちの登用が特徴となるだろうと書いている。今回は、アメリカの有名シンクタンクであるブルッキングス研究所のチェン・リーの記事をご紹介する。チェン・リーは航空宇宙産業出身者たちを「宇宙クラブ(cosmos club)」、中国語では「航天系(hangtianxi)」、「宇宙帮(yuzhoubang)」という言葉で一つのエリート集団としてまとめ、今回の中国共産党大会で多くが中央委員会入り、2から3人ほどが政治局(25人)入りするだろうと主張している。第7世代(1970年代生まれ)と合わせて、こうした人々がどれだけ登用されるのかに注目が集まる。

 習近平体制3期目、4期目は宇宙開発で中国がアメリカをリードすることを目指しているという論調であるが、これはより露骨に言えば、宇宙戦争などアメリカとの軍事衝突を含む、不測の国家安全保障に大きな危機を与える状況に即応できる体制を作るということになるだろう。これまでの兵士たちが銃を撃ち合う、戦車や航空機が戦うという戦争のイメージから大きく変化した戦争に備えるということになると思う。そして、習近平体制で後継者と次の政権の主要メンバーを決めておくということになる。そのキーワードが「第7世代」と「宇宙クラブ」ということになる。

 こうして見ると、中国の国家指導者層作りの精密さには驚くばかりだ。日米はまずオールドタイマーがいつまでも居座り、新陳代謝がうまくいかず、加えて能力選定や判定の手続きも機能していないように見える。日米は昔のソ連の国家指導者と同様に機能不全に陥っているのではないかとすら思えてしまう。結果として、こうしたところに国力の減退が見えてしまう。日本の閉塞状況、終わりの始まりを実感する。

(貼り付けはじめ)

習近平時代での「宇宙クラブ」の急速な台頭:第20回中国共産党大会に向けたカウントダウン(The rapid rise of 'the cosmos club' in the Xi Jinping era: Countdown to the 20th Party Congress

チェン・リー(ブルッキングス研究所ジョン・L・ソーントンセンター部長)筆

2022年9月9日

『シンク・アジア』

https://www.thinkchina.sg/rapid-rise-cosmos-club-xi-jinping-era-countdown-20th-party-congress

中国共産党中央委員会に航空宇宙分野の出身者がいることは目新しいことではないが、習近平時代ほど、このグループがこれほどの割合と規模で国家や省レヴェルの指導層に浸透したことは歴史上ない。ブルッキングス研究所ジョン・L・ソーントン中国センター部長であるチェン・リーは、彼らのうち2人、あるいは3人が第20回党大会の政治局有力候補となり、そのほとんどが習近平の3期目以降に重要な役割を果たすだろうと語っている。

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2021年10月19日、中国東部浙江省の杭州で開催されたクラウドコンピューティングと人工知能(AI)の会議「アプサラ会議」で展示された中国の宇宙ステーション「天宮(Tiangong)」の模型

過去10年間、中国の宇宙開発における野心と成果は、世界中で大いに注目されてきた。それほど注目されていないが、おそらく同じように注目されているのが、中国の政治指導層における航空宇宙産業の経営者の台頭である。最近、「宇宙クラブ(the cosmos club、航天系 [hangtianxi]、宇宙帮[yuzhoubang])」という新しい言葉が生まれた。この言葉は、中国の宇宙・航空産業から国家・省レヴェルの指導者にまで上り詰めた、独特のテクノクラート集団を指す。

いくつかの中国語メディアの論評によると、第20回中国共産党大会の前夜、宇宙クラブは新たな「政治的高地(political highland、政[]高地[zhengtan gaodì])」を占拠している。新疆ウイグル自治区党委書記の馬行瑞(Ma Xingrui、1959年-)、湖南省党委書記の張慶偉(Zhang Qingwei、1961年-)、浙江省党委書記の袁家軍(Yuan Jiajun、1962年-)、国務委員の王勇(Wang Yong、1955年-)、国務院国有資産監督管理委員会(state-owned Assets Supervision and Administration Commission SASAC)委員長の郝鵬(Hao Peng、1960年-)、国務院工業情報化部長の金壮龍(Jin Zhuanglong、1964年-)などが名を連ねている。

この6人の指導者たちは、中国の宇宙・航空産業で数十年の実務経験があり、現在、中国共産党中央委員会の正式メンバーである。このうち2人、あるいは3人は今秋の第20回党大会で政治局(訳者註:25名)の有力候補となり、そのほとんどが習近平の3期目以降に重要な役割を果たすことになる。

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左から:(上段)張慶偉湖南省党委書記、馬興瑞新疆ウイグル自治区党委書記、王勇国務委員、(下段)金壮龍国務院工業情報化部長、郝鵬国有資産監督管理委員会委員長、袁家軍浙江省党委書記

中国共産党中央委員会に航空宇宙関連の経歴を持つ指導者たちが存在することは、もちろん新しいことではない。しかし、このグループは習近平時代におけるほどの割合と規模で国家や省レヴェルの指導部に浸透したことはない。過去10年間、これらの指導者の一部は省長(党委書記や知事)を務め、長い間、国のトップへの足がかりとされてきたポジションに就いた。また、国務院の重要な閣僚ポストを務める者もいる。第19期中央委員会メンバー376人のうち、宇宙クラブ所属と呼べる指導者(文官、軍人を含む)は46人もおり、全体の12.2%を占めている。

中国共産党指導部内のこのような独特のグループの強さは、間違いなく、中国が「宇宙開発クラブ(space club)」において重要な役割を果たそうとする願望を反映している。イギリスの学者マーク・ヒルボーンが2020年の研究で述べたように、中国の宇宙計画は「特に印象的で、ここ2年間だけでも多くの国の宇宙での全成果を凌ぐ発展を示している」のである。中国の指導者たちにとって、昨年の天宮宇宙ステーションの打ち上げほど、中国の愛国心を喚起するのに有効なものはないだろう。新浪微博(Sina Weibo)のライヴビューは3億1千万回に及んだ。このエリート集団の強い代表性は、中国共産党指導部の中に、宇宙産業の「加速的発展(accelerated development)」に対するより広い支持があることの表れと見ることができるだろう。

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2022年7月24日、中国南部の文昌宇宙基地から飛び立つ、中国の天宮宇宙ステーション第2モジュールを搭載したロケット

エリート形成の観点からは、この集団は党指導部内の新たなテクノクラート集団に凝集される可能性がある。これは、将来の政治指導者の採用ルートを広げるだけでなく、民生と軍事の融合を含む中国指導部全体の方向性に大きな影響を与え、今後の政策選択や最高レヴェルの意思決定に影響を与える可能性が高い。

●航空宇宙産業出身の指導者たちが中央委員会に多数昇進(The prevalence of leaders with aerospace backgrounds in the Central Committee

これまでこのシリーズでは、中国共産党指導部における国有企業や金融機関出身の経営者の重要性が、特に若い年齢層で高まっていることを分析してきた。しかし、CEOから政治家に転身した人々の中で、航空宇宙・航空部門からキャリアを積んだ指導者ほど、今日の高位指導層で優位に立っているグループはない。

この2つの分野の構造的発展について、中国当局は、「航空能力と宇宙開発能力の統合(integrated air and space capability、空天一体[kongtian yiti])」として、同一のカテゴリーに(商業的にも軍事的にも)分類している。

図表1は、第19期中国共産党中央委員会に宇宙クラブから参加した人々の産業背景を、他の産業と比較したものである。航空宇宙産業が最も多く、委員12人、委員候補16人の合計28人である。このグループの代表は、2位の銀行・金融グループの代表の2倍である。

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石油・化学分野での勤務経験者はわずか6人で、航空宇宙・航空機分野の4分の1以下である。これは、過去20年のいくつかの中央委員会では、上位のリーダーにとって石油分野が他の産業分野よりも高い、唯一最も重要なビジネス経歴だったことと比べると大きな変化である。

●航空宇宙産業出身の指導者たちを登用する習近平の強い意向(Xi Jinping’s strong inclination to promote leaders with aerospace backgrounds

習近平は長い間、中国の宇宙開発計画、つまり軍事と民生の両面における航空宇宙産業を優先させることを提唱しており、それは中国の国力と世界舞台での地位を示す最高の証であると考えている。習近平が2013年にトップ(国家主席)に就任して間もなく、試作品の宇宙ステーションで宇宙飛行士と時間を共有したが、中国の宇宙開発の夢(China’s space dream)は「中国をより強くする夢の一部」であると述べた。より大きく言えば、宇宙開発計画は国の再興(national rejuvenation)という長期的なヴィジョンに不可欠な部分である。

2016年以降、中国は1970年に中国初の人工地球衛星「東方紅1号(Dongfanghong-1)」が打ち上げられた4月24日を「中国宇宙の日(China’s Space Day)」と定めている。習近平をはじめとする中国共産党の指導者たちにとって、中華人民共和国は今、宇宙の次のフロンティアを開拓するための惑星間競争に全速力で取り組んでいるのである。

2017年1月、習近平は、習近平自身をトップとする「軍民融合発展委員会(Military-Civilian Fusion Commission)」という軍民の開発統合を監督する新しい委員会を設立した。軍民融合開発についての最も重要な技術提供者は、月探査計画(Lunar Exploration Programme、通称:嫦娥計画)、有人宇宙飛行計画(神舟計画)、天宮宇宙ステーションなど、注目の大型プロジェクトを実施してきた航空宇宙産業であると言ってよいだろう。

習近平が航空宇宙産業出身者を登用する重要な理由は他にもある。(1)エリートの選別ルートの拡大、(2)政治権力基盤の拡大・多様化、(3)技術革新志向の強い新世代のテクノクラートの育成、(4)経済ローカル主義と地方政治派閥を弱めるために「アウトサイダー」を省や市の指導層に登用する、(5)経済効率と地方の国際競争力を高めるため、中国の主要企業の元CEOを省長に任命する、(6)軍民企業の一体的発展を促進する、(7)より近代化した防衛産業を構築し国家安全を強化する、などが挙げられる。

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中国有人宇宙機関(China Manned Space Agency CMSA)が2022年9月2日に撮影・公開した配布資料画像で、6時間の宇宙遊泳を成功させ、船室モジュールに戻る中国の宇宙飛行士、陳冬と劉洋

「メイド・イン・チャイナ2025」計画に基づく中国の積極的な産業政策は、航空宇宙、造船、ロボット工学など、中国指導部が「戦略的に重要な分野」で国家が支援する国内プレイヤーを促進することを目的としている。宇宙クラブのメンバーたちは、中国が最重要視するハイテク分野でキャリアを積んできた。

中国の反体制派で中央党校の機関誌『学習時報』の元編集者である鄧禹文は、最近『サウスチャイナ・モーニング・ポスト』紙の取材に対して、「習近平は航空宇宙・防衛分野で活躍した人物をより信頼している」と述べている。ある意味、中国の航空宇宙・防衛産業におけるこれらのテクノクラートは、中国共産党の指導者が「中国の特色ある社会主義(socialism with Chinese characteristics)」と呼ぶもの、あるいは批評家が「国家資本主義(state capitalism)」と表現するものを最もよく実現できているのだ。

航空宇宙産業出身の指導者たちの台頭は、政治的な考慮によっても説明することができる。これらの指導者たちは、専門家としてのキャリアのほとんどを技術分野で過ごし、省・市の指導者としての在職期間も比較的短かった。その結果、国のトップに対して忠実に動く傾向が強い。このことは、宇宙クラブに所属する有力者の経歴を詳しく見てみると明確だ。

●「宇宙クラブ」出身で注目される著名な候補者たち(Prominent candidates to watch from 'the cosmos club'

中国共産党中央委員会には、長い間、数人のロケット科学者がいた。いわゆる「2つの爆弾、1つの衛星(两一星、two bombs, one satellite)」計画(原爆、大陸間弾道ミサイル、人工衛星を指す中国の一般的な表現)の主要な貢献者の何人かは、中国共産党中央委員会の委員を務めた。国際的に著名な科学者である銭学森(Qian Xuesen、1911-2009年、97歳で没)は第9-12期中央委員候補、朱光亜(Zhu Guangya、1924-2011年、86歳で没)は第9-10期中央委員候補、第11-14期中央委員、鄧稼先(Deng Jiaxian、1924-1986年、62歳で没)は第12期中央委員、宋健(Song Jian、1931年-、90歳)は第12期中央委員候補、第13-15期中央委員、周光召(Zhou Guangzhao、1929年-、93歳)は第13-15期中央委員、羅恩杰(Luan Enjie)は第13-15期中央委員候補)をそれぞれ務めた。

最近では、中国航空工業集団公司の元会長で党委書記を務めた林左鳴(Lin Zuoming、1957年-)が第16,17期中央委員候補、第18期中央委員を務めた。しかし、上記の航空宇宙産業のテクノクラートは、いずれも省・市の指導者を務めたことはない。航空宇宙産業の発展初期における唯一の例外は河北省党委書記を務めた張雲川(、1946年-)だ。

張はハルビン軍事工程学院(Harbin Institute of Military Engineering)で教育を受けたテクノクラートで、江西省、新疆ウイグル自治区、湖南省で省レヴェルの指導部を経験した。その後、2003年から2007年にかけて、国家国防科技工業局(State Administration of Science, Technology, and Industry for National DefenseSASTIND)局長、「嫦娥プロジェクト」指導グループ長を歴任した。退任前の2007年から2011年まで河北省党委書記を務めた。第16、17期の中央委員も務めた。

表1は、第20期中央委員会入りが予想されている、航空宇宙産業での指導者経験を持つ著名な候補者20人を紹介したものである。彼らは、科学技術研究や軍産複合体に専従することが多かった一昔前の航空宇宙業界の先輩たちに比べ、政治的・職業的なキャリアパスが多様であるように見える。これらの新星たちの最も特徴的な点は、彼らの仕事の経験のほとんどが、4つの領域にまたがっていることが多いということである。科学技術研究、軍産複合体での管理業務、国務院での閣僚としての指導、省レヴェルのトップでの経験である。

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航空宇宙と航空部門で実質的な指導者経験を共有している (30年または 40 年にわたって働いている人たちもいる) ことに加えて、現在、6人が省レヴェルの指導者を務めている (3人は党委書記、1人は省長)。国務院閣僚クラスの郝鵬、懐進鵬(Huai Jinpeng、1962年-)、唐登傑(Tang Dengjie、1964年-)を含むその他の人々は、以前は省長や省党委副書記を務めていた。その半数以上 (11人) は国務院副部長または部長としての指導経験があり、そのうち5人は現在国務院の部長を務めている。馬興瑞、懐進鵬、曹淑敏(Cao Shumin、1966年-)、張広軍(Zhang Guangjun、1965年-)などの一部の人々は、大学の党委書記、学長、学部長も務めた。

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懐進鵬

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唐登傑

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曹淑敏

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張広軍

これらの有力な昇進候補の中には、既に中央委員会で長い在職期間を持つ者たちもいる。例えば、張慶偉は1960年代以降の世代(第6世代)のメンバーとして初めて中央委員会に在籍した。2002年、41歳の時に第16期中央委員会の委員となり、その後3期の委員会でもその座を守っている。袁家軍と金壮龍は、第17期中央委員会に中央委員候補として初参加した。劉石泉(Liu Shiquan、1963年-)は第16期中央委員会から4期連続委員候補を務めている。

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劉石泉

4人の指導者は、これまで中央委員会に参加したことがない。黄強(Huang Qiang、1963年-)は現在四川省長であることから、第20期中央委員会で委員になる可能性が高い。陝西省組織部長の程福波(Cheng Fubo、1970年-)と安徽省副省長の張紅文(Zhang Hongwen、1975年-)の、第7世代に属するリーダー2人は、今秋の第20回党大会で、中央委員会の委員候補補欠に任命されると見られる、第7世代の有力候補たちである。

最も重要なことは、第20回中国共産党大会において、中国史上初めて航空宇宙分野の指導的立場にある民間人指導者のうち2人、あるいは3人政治局(25人)入りすることが期待されていることだ。全体として、宇宙クラブのメンバーは、この秋に決定される中国共産党中央委員会で記録的な割合で代表占めることになるであろう。

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黄強

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程福波

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張紅文

この記事は最初に『チャイナ・USフォーカス』の「人事改造リポート(Reshuffling Report)」シリーズの一環で、「習近平時代での「宇宙クラブ」の急速な台頭:第20回中国共産党大会に向けたカウントダウン」として掲載された。このシリーズはブルッキングス研究所ジョン・L・ソーントン中国センター部長チェン・リーによる実証的な研究を基礎にした一連の記事で構成されている。このシリーズは第20回中国共産党大会に向けた記事の内容になっている。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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 古村治彦です。

 2022年9月27日の安倍元晋三元首相の国葬については反対論が国民の多数を占めている。私は正直に言って、国葬が決定された直後、「世論調査を刷れば国民の半分くらいは賛成ということになるんだろう」と考えていた。安倍晋三元首相は選挙に強く6回の国政選挙で勝利を収めていたのだから、国民の半分くらいは国葬に賛成するだろうと思っていた。しかし、私の考えは間違っていた。国民の過半数が安倍元首相の国葬に反対という世論調査の結果が多く出た。安倍元首相の人気や人々からの支持はそれほど高くなかったということになる。そして、安倍元首相率いる自民党が選挙で勝ち続けたのは選挙制度のおかげも大きいということが私の中で明らかになった。

 私は国葬という話が出てきた時から反対だ。国葬を行うための根拠となる法律はない。国会での審議もおざなりで、閣議決定で国葬実施が決まった。国家が行う行事はすべからく税金の支出が伴う。税金の使われ方を行政府が勝手に決めるというのは危険な暴走行為である。更に言えば、国家の行う全てにおいて重要なのは手続きだ。そこに毛ほどの瑕疵があれば、その行事や行為には正当性はない。今回の国葬に関しては、手続き面で多くの瑕疵がある以上、国葬に正当性はなく、それを強行することは、日本という国家の正統性もなくなるという重大な暴走ということになる。だから、私は国葬に反対だ。

 そして、安倍元首相暗殺事件によって日本政界と統一教会の深い関係が白日の下に晒された。安倍晋三元首相やその周辺の「保守」と呼ばれる政治家たちは、韓国や中国に対する嫌悪感を煽る、ナショナリスティックな言動を繰り返してきた。しかし、安倍元首相は韓国を拠点とし、「日本は韓国に奉仕する存在」と主張してきた統一教会と深い関係を築いていた。この矛盾に戸惑う人が多い。「反共」という補助線を引けばある程度理解できる。

文鮮明は「反共」を旗印にして、アメリカの共和党や世界各地の独裁者たちと深い関係を築いてきた。冷戦下、反共産主義であれば、「自由と人権の総本家」を自称するアメリカも独裁国家を支援してきた。文鮮明は膨大な資金(日本の信者や弱っている人々から搾り取った)を使ってそうした人々に取り入ってきた。日本の窓口が岸信介から発する自民党清和会であり、笹川良一であった。文鮮明が築いた反共ネットワークは、独裁国家や独裁者たちをつなぐネットワークであり、岸信介や安倍晋三はそのラインに連なる。

更に言えば、こうした反共ネットワークの基底にあるのはアメリカのCIAだった。CIAの謀略や世界各国の指導者たちをエージェントにしていった様子は『』(ティム・ワイナー著)に詳しい。岸信介は戦前には満州国建国から国家総動員計画を作り上げ、戦後はアメリカのエージェント、具体的にはCIAのエージェントとなった。日本を「反共の防波堤(bulwark against Communism)」とすることに成功した。「反共」の旗印さえ掲げれば、後は何でも良かった。岸信介の権力志向と戦前回帰志向も日米安保条約改定までは利用価値があり不問に付された。岸の日米安保改定については評価する主張もあるが、現在の「対米従属」を固定化する枠組みを強化したという点では、「反米で独立志向の立派な岸信介」という評価は過大評価だと私は考える。

 今回の安倍晋三元首相の暗殺と国葬は日本の戦後政治が抱えてきた負の部分を一部ではあるが国民に示すことになった。日本政治の汚れた部分を急に全部きれいにすることはできないし、そもそも政治に汚い部分が存在するのは当然のことだ。しかし、あまりにも汚れ過ぎている場合にはその掃除が必要だ。自民党内部の良識ある人々も含めて国民的な動きとして掃除を行うことが重要だ。

(貼り付けはじめ)

安倍晋三元首相の殺傷事件をきっかけにして統一教会について詳細に調べられる(Shinzo Abe’s Killing Puts Unification Church Under Microscope

-日本の与党と韓国の統一教会との関係が国民の怒りを買っている。

ウィリアム・スポサト筆

2022年8月29日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/08/29/shinzo-abe-killing-unification-church-japan/

東京発。安倍晋三元首相が暗殺された事件をきっかにして、予想もしなかった公の場での議論が起きている。当初は悲しみの声が覆っていたが、犯人が人々に注目させたかった問題について、政府に対する人々の怒りに変化している。

合法的であれ何であれ日本では銃を入手することはほぼ不可能なので、先月起きた安倍元首相襲撃は、粗末な手製の武器で行われたが、いくつかの計画変更により首相が標的になった。犯人の長期的な目標は、統一教会の宗教指導者を狙うことだったようだ。統一教会(Unification Church)は、韓国を拠点とする宗教団体で、信者に対する強引な資金集め(heavy-handed fundraising among members)や集団結婚式(mass wedding ceremonies)で知られ、論争の的になっている。統一教会の最高指導者の代わりに安倍元首相を攻撃しようと決めたのは、安倍元首相が世界平和統一家庭連合(Family Federation for World Peace and Unification)として知られる統一教会とつながりがあると考えたからである。

安倍元首相暗殺で逮捕された41歳の元自衛隊員の男性、山上徹也容疑者は、1984年に父親が亡くなった後、母親が統一教会に入り、家族が経済的に破綻したことに怒りを持っていたと捜査当局に供述している。家族の1人によると、母親は長年にわたって合計70万ドル以上の献金をしていたという。1954年にカリスマ性のある文鮮明によって設立されたこの教会は、高圧的な資金調達の手法に詐欺の疑いがあるとして、日本の警察と何度も揉めている。日本人の会員数の推定は調査によって大きく異なるが、日本の信者は主要な収入源であると考えられている。世界的には200万人から300万人の信者がいると言われている。

山上は当初、教団の再興指導者、特に2012年に文鮮明が亡くなった際に教団を引き継いだ文鮮明の未亡人、韓鶴子(Hak Ja Han、ハンハクジャ)を標的にしようと考えていたという。しかし、新型コロナウイルス感染拡大の影響で韓鶴子は予定していた日本への渡航をキャンセルし、更に山上は韓国への渡航が不可能になった。2021年の同時期、ある教団大会で安倍元首相が行った賛辞のビデオを見て予定を切り替えたという。安倍の祖父で戦後の首相だった岸信介の1950年代までさかのぼる、教会と日本の与党・自民党の関係も山上は知っていたのだろう。

政治に精通した文鮮明は、その厳格な反共主義的見解において、日米の保守派と共通の基盤を見出した。統一教会は常に論争にさらされ、カルトと揶揄されたが、それでも文鮮明は世界の有力者たちと親しくなり、彼らはしばしばその好意に応えた。また、ウォーターゲート事件で苦境に立たされたニクソン大統領を支援したことで、ニクソン大統領から感謝されたこともある。

文鮮明は、1990年にはソヴィエト連邦を訪問し、ミハイル・ゴルバチョフ大統領と会談し、政治・経済改革への支持を表明した。1995年、ジョージ・HW・ブッシュ(父)元米大統領とバーバラ・ブッシュ夫人は、文鮮明の妻が運営する教会系の団体である世界平和女性連合(Women’s Federation for World Peace)の大規模な会合で演説を行った。安倍元首相が登場した2021年のネットイベントには、ドナルド・トランプ前米大統領も登場し、文氏が1982年に設立した、共和党支持の『ワシントン・タイムズ』紙を絶賛した。

文鮮明にとって、日本は勧誘と資金調達のための肥沃な土地だった。宗教が人生において非常に重要であると答えた日本人はわずか10%であり(多くの人は神道の結婚式と仏教の葬儀を抵抗感なく行き来する)、統一教会を含む多くのニューエイジ宗教に引き寄せられる人々もいる。外部の人間から見れば、こうした宗教は世間知らずの人々からお金を搾取する洗脳カルトだが、人気が衰えないのは、何らかのニーズを満たしていることを示唆している。自民党にとって統一教会は、熱心でよく組織された支持者集団であり、信者の票集めという選挙戦の最前線での仕事を引き受けてくれた。

こうした政党と宗教のつながりは異常なことではなく、必ずしも裏があるわけでもない。アメリカの福音派(U.S. evangelicals)と共和党の密接な関係は周知の通りである。同時に、アメリア南部の黒人教会は、会員の投票率を上げるのに十分な効果があることが証明されており、ジョージア州とテキサス州の共和党は日曜日の投票を禁止しようとしたが、これは悪い方向に作用した。

日本では、過去10年間連立政権の一翼を担ってきた公明党は、1930年に設立され、過去には政府からしばしば疑いの目で見られてきた仏教運動である創価学会という宗教団体に支えられている。公明党の山口那津男代表は、宗教と政治が結びついている問題について、8月初旬の記者会見で、統一教会は別問題であると示唆し、慎重な姿勢を示している。山口代表は「社会的な問題を抱えたり、大きな迷惑をかけたりする団体については、政治家は選挙で支援を求めたり、国民を誤解させるような行動を慎むべきだ」と述べた。

安倍元首相暗殺がなければ、今さらスキャンダルに爆発することもなかっただろう。統一教会の資金調達方法は、何年も前から批判されてきた。2009年には訴訟を受けて、資金調達方法を改め、信者が返還を要求したお金を返すと約束したが、最近になって、少なくともいくつかの問題が続いていることを認めている。統一教会関係者は、元信者からの苦情を聞く仕組みがあることを指摘し、該当件数は着実に減少していると主張している。

しかし、7月8日に安倍首相が殺害されてからの数週間で、国民は統一教会の政治的なつながりに目覚め、どんなに無害に見えても心配だと感じるようになったようである。違法なものは見つかっていないが、着実な報道は、この国の最も確立された政党と、倫理的に問題があり、弱い立場の日本人を食い物にしているように見える韓国の宗教団体とのつながりに焦点をあてている。その中でも、萩生田光一元経済産業大臣は、ブッシュ元大統領が演説したのと同じ教会関連の女性団体の会合に出席し、数年にわたり毎年650ドル程度の寄付をしていたことが判明した。萩生田は、この会のメンバーは一般の有権者であり、自分はこの会の慈善活動を支援していると説明した。

このような報道の中で、共同通信社は日本の国会議員712人全員を対象に、教会との関係を問うアンケートを実施した。その結果、100人が「何らかのつながりがある」と答えた。そのほとんどは、イヴェントに参加したり、募金活動のチケットを教会員に売ったりすることであった。また、30人の議員は、教会の会員が票集めを手伝ってくれたと言っている。

国民の反応は強く、多くの政治家たちがその関係を否定したり、ごまかしたりしたが、新たな報道で事実が発覚し、不信感が募った。また、出席した会合や寄付が統一教会と関係しているとは知らなかったと説得力のない主張をする政治家もいた。自民党と統一教会とのつながりが次々と明らかになるにつれ、岸田文雄首相はますます圧力を受けるようになった。岸田首相は、政権に新しい活力を注入するために、日本ではおなじみの内閣改造にいち早く踏み切った。首相はまた、閣僚や高官は教会との関係を絶つべきだと述べたが、その作業は個々の議員に任されているようだった。岸田は最近の記者会見で、「統一教会をめぐって国民から様々な意見が寄せられている。政治の信頼を確保するために、政治家はどう行動すべきかを考えるべきだ」と述べた。

しかし、性急な措置も功を奏さず、統一教会とつながりのある議員3人がまだ閣内に残っているとの報道がなされた。このため、7月上旬の参議院議員選挙で好成績を収め、わずか1カ月前に勢いに乗っていた政権が危うくなっている。7月中旬には63%あった支持率は、毎日新聞の最新の調査では36%にとどまっている。岸田の任期が危ういと言うのは早計だが、これほどの急落があれば、普通なら不運な指導者は退陣に追い込まれる。このように国家指導者が損切りをする傾向があるため、安倍首相を除いて、日本は過去16年間、回転ドア首相が続出している。

9月下旬に予定されている安倍首相の国葬(state funeral)は、戦後日本の政治家の国葬としては、第二次世界大戦を終結させたサンフランシスコ条約の交渉にあたった吉田茂に次いで2例目であることも、こうした事態が暗礁に乗り上げた一因となっている。今回の国葬は、日本を再び世界に知らしめた安倍首相の幅広い影響力を示す、有力者の集まりとなることが約束されている。出席予定者は、バラク・オバマ前米国大統領、カマラ・ハリス米副大統領、ナレンドラ・モディ・インド首相などだ。フランスのエマニュエル・マクロン大統領やドイツのアンゲラ・メルケル元首相も出席する可能性があると報じられている。このように世界的な支持を得ているにもかかわらず、毎日新聞の世論調査では53%の人が国葬に反対していると答えている。

岸田内閣に向けられた国民の怒りは、統一教会と自民党のつながりと偽善に対する一般的な不安以上に、明確な焦点がないように思われる。安倍元首相は韓国との関係で強硬な姿勢を示したが、これは日本の多くの地域に長年存在する反韓感情の底流を反映したものだ。

しかし、安倍元首相が殺害された後に明らかになったことは、親日的なナショナリストの感情と、弱者から金を引き出すことに熱心な韓国の宗教団体を結びつけた、皮肉な関係を指摘するものだった。多くの世界的人物がそうであるように、安倍首相も常に国際的な議論より国内での議論の方が多かった。死後もそうである。

※ウィリアム・スポサト:東京を拠点とするジャーナリスト。2015年から『フォーリン・ポリシー』誌に寄稿している。20年以上にわたり、日本の政治と経済を取材しており、ロイター通信とウォールストリート・ジャーナル紙で勤務していた。2021年にはカルロス・ゴーン事件と日本への影響について共著を出版した。
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