古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

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2022年10月

 古村治彦です。

 先週末に中国共産党第20回党大会と第20期中国共産党中央委員会第1回総会(1中総会)が閉幕した。政治局員24名と政治局常務委員7名が発表された。中国国内政治で大きな力を持っていた中国共産主義青年団(共青団)派は追い落とされた。胡春華国務院副総理は政治局員にも残れずに降格となった。第6世代(1960年代生まれ)と共青団派のプリンスが失脚したということになる。政治局常務委員、政治局員はほぼ習近平派に独占された形になる。
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 今回の人事では、金融や銀行業務に精通した人物ではなく、航空、宇宙、軍事といった部門の優秀なテクノクラートたちが引き上げられ、政治局員(24名)に抜擢された。このことについては本ブログで既にご紹介した。下にリンクを張っているので是非お読みいただきたい。

※「第20回中国共産党大会のキーワードは「宇宙クラブ」 2022年9月15日」↓

http://suinikki.blog.jp/archives/86587517.html

※「習近平体制の延長:フランクリン・D・ルーズヴェルト大統領を彷彿とさせる戦争対応体制の構築ではないか 2022年9月11日」↓

http://suinikki.blog.jp/archives/86579263.html

 中国は国外の動乱、混乱に備える体制を整えつつある。具体的にはウクライナ戦争から端を発する第三次世界大戦とも言える状況に備えるということだ。ウクライナ戦争で世界は既に戦時状況になっている。物価高や食料不足、エネルギー不足の生活への影響は深刻さを増している。習近平の第3期政権は国内外の難題に対処するために構築された戦時体制政権である。

 私たちが危惧するのは、アメリカや日本などにいる、短慮、思慮不足、好戦的な、戦争煽動家たちが「ウクライナの次は台湾だ。中国が台湾を攻撃する」「アメリカと中国が戦う」などという根拠のない誇大妄想的な言辞を振り回し、状況を悪化させ、最悪の結果を引き起こすことだ。中国が今台湾に侵攻するメリットはない。既に着々と経済的な統合を進めている。私たちが恐れるべきはアジア地域での戦争だ。戦争を起こしてはいけない。安倍晋三元首相が銃撃によって暗殺され、日本の好戦的なグループは頭目を失っている状態だ。日本の地理的な位置、アメリカとの関係を考えるならば、日本は実は非常に危うい立場にある。「日本は何があっても戦争をしない」という立場を鮮明にすることが何よりも重要だ。

 話が逸れた。中国にとって、2042年の「アヘン戦争後の屈辱の南京条約締結200年」、2049年の「中華人民共和国建国100年」の2040年代に「中華王国(Middle Kingdom)」として、あらゆる面で世界最大最高の国家に復帰することが何よりも重要だ。その過程で台湾との関係はますます深まって実質的な統一、統合は果たされるだろうし、国家体制もまた変化していくことだろう。私たちは今時代の分岐点、大変化の前の混乱の中にいる。

(貼り付けはじめ)

中国共産党第20回党大会:習近平は圧倒的な人事権を行使するが、経済復活の糸口は見つかっていない(The 20th Party Congress: Xi Jinping Exerts Overwhelming Control Over Personnel, but Offers No Clues on Reviving the Economy

ウィリー・ウー=ラップ・ラム(林和立)筆

2022年10月24日

『チャイナ・ブリーフ』(ジェイムズタウン財団)

https://jamestown.org/program/the-20th-party-congress-xi-jinping-exerts-overwhelming-control-over-personnel-but-offers-no-clues-on-reviving-the-economy/

習近平・中国共産党中央委員会総書記は、先日閉幕した第20回党大会と第20期中央委員会第1回総会(1中総会)で習近平総書記が圧倒的な勝利を収めた。習近平が選んだ政治局常務委員たちは、純粋な支持者ばかりだが、イデオロギーやプロパガンダ、「党建設(party construction)」などに精通した官僚が多く、金融や経済に精通した実利的なテクノクラートはほぼ皆無に等しい構成となった。その結果、「新型コロナウイルスゼロ」をはじめとする習近平の保守的で準毛沢東主義的な政策の多くは、当分の間、継続されることになりそうだ。

●習近平派のために他派閥が一掃された

中国共産党の中枢である新しい政治局常務委員会(Politburo Standing CommitteePBSC)では、習近平は引き続き中央委員会総書記と中央軍事委員会主席を兼任する。他の6人の政治局常務委員は習近平派とされる。2002年から2007年まで浙江省で習近平の下で働いた上海市党委書記の李強(Li Qiang)が国務院総理に就任する予定だ。その他、最高意思決定機関には現職の政治局常務委員を含む習近平の盟友が就任する。全国人民代表大会(National People’s Congress)常務委員長に就任する中央紀律検査委員会(Central Commission for Discipline InspectionCCDI)書記の趙楽際(Zhao Leji)、中国人民政治協商会議(Chinese People’s Political Consultative Conference)主席に就任する思想家の王滬寧(Wang Huning)らが名を連ねる。李強のほか、習近平の子飼いの3人が昇進した。北京市党委書記の蔡奇(Cai Qi)は中国共産党中央書記処書記に、広東省党委書記の李希(Li Xi)は次期中央紀律検査委員会に就任する。中国共産党中央弁公庁(CCP General Office)主任で習近平の秘書長を務める丁薛祥(丁薛祥)は常務副総理に就任予定だ(新華網:10月23日;明報:10月23日;日経アジア:10月23日)。

次期政治局を構成する24人の委員と次期中央委員会を構成する205人のうち、習近平に忠誠を誓う人々が大多数を占めている(新華社・ウェイボ:10月23日)。13人の一般政治局員の引退によって、習近平には習近平派閥の人物たちを系政治局員に登用する機会を与えた。全中央委員205人のうち133人(65%)が新たに就任したため、習近平は反主流派グループや他派閥のメンバーを排除する余地が出た(新華網:10月22日)。新政治局委員24人のほぼ全てが習近平派閥だ(Radio Free Asia:10月23日)。新疆ウイグル自治区の馬興瑞(Ma Xingrui)党委書記は、中国航天科技公司(China Aerospace Science and Technology CorporationCASC)の元総経理で、中国国家宇宙局局長を務めた。遼寧省党委書記である張国清(Zhang Guoqing)は、中国北方工業集団公司(China North Industries Group Corporation)の副社長を務めた。浙江省党委書記の袁家Yuan Jiajun)は中国航天科技公司の経営トップを務めた。山東省党委書記の李干杰著名な核物理学者である(サウス・チャイナ・モーニング・ポスト:10月23日)。

次期政治局には、中国共産党の他の2大派閥である共産主義青年団(Communist Youth League FactionCYLF)と上海閥(Shanghai Gang)の代表はいない。元広東省党委書記で元共産主義青年団第一書記の胡春華(Hu Chunhua)副総理は、政治局の一般委員の座と常務副総理に就くと予想されていた。しかし、胡は、政治局常務委員会はおろか、政治局にも残れなかった(Zaobao.com:10月23日;連合日報:10月23日)。この「一党独大(yidangdudaonly one party running the show)」という異常な現象は、最高指導者である習近平の隣に座っていた、共青団派の指導者で胡錦涛元前総書記が、土曜日の第20回党大会閉会式の半分ほどで無残にも引きずり出されたことに起因していると言われている(サウス・チャイナ・モーニング・ポスト:10月22日)。新華社通信は、この出来事について胡錦濤が急病になったからだと報じた。しかし、オブザーヴァーたちの間では、胡錦濤は新しい中央委員会と政治局常務委員会の名簿に公然と不満を表明しており、それは自分の長い間守ってきた派閥の傍流化を示すものであったからだというのが一致した見方である。文化大革命以来の主要な党大会では、胡錦濤のような公然の反対表明は珍しい(ジャパン・タイムズ:10月23日;Hong Kong Free Press:10月22日)。

習近平のもう一つの大きな業績は、中国共産党綱領を改正し、「新時代の中国の特色ある社会主義に関する習近平思想(Xi Jinping Thought on socialism with Chinese characteristics for a new era)」を今後の党と国家の指導原理として明記したことである。これは「2つの確立(two establishes、两个确定、Liang ge queli)の1つである。もう1つの「確立」は、習近平が「中央党当局の核心であり全党の核心(core of the central party authorities and the core of the entire party)」であり続けることで、実質的に毛沢東主席と同じ地位に昇格させることだ(Gov.cn:10月22日;人民日報:10月22日)。

●中国式近代化(Chinese-style Modernization

習近平思想の重要な要素は、いわゆる「中国式近代化(Chinese-style modernization、中国式代化、zhongguoshi xiandaihua)であり、習近平は10月16日の党大会冒頭報告で初めて提起した(新華社:10月16日)。事実上、中国式近代化とは、最高指導者である習近平が21世紀の中国の状況に適したと判断したマルクス主義・社会主義の教義のみを全ての政策決定の基盤とすることを意味する。習近平自身が示した定義によれば、「中国式現代化」は、党の厳格な指導、中国式社会主義的教訓の堅持、「質の高い発展(high-quality development)」の実現、人民の「精神世界(spiritual world)」の充実、共同富裕(common prosperity)の達成、人間と自然のバランスの追求、世界平和と「全人類運命共同体(common destiny for all mankind)」の目標の推進といった要素から構成される(VOA Chinese,:10月20日;人民日報:10月19日)。

習近平の大会報告では、鄧小平の「改革開放政策(reform and open door policy)」について4回言及されているが、習近平は経済発展や国際市場の開放よりも、国家の安全や内外の敵との「争斗(waging strugglesdouzheng)」を優先させたことが明らかである。今後の政策では、特に半導体やAIなどの先端分野における自立を意味する「内部循環(internal circulation)」、公企業と民間企業の両方を厳しく管理することを含む経済の党管理、共同富裕の推進、アメリカとその同盟諸国の「反中(anti-China)」政策がもたらす挑戦への言及と見られる「複雑で困難な世界情勢(complex and challenging global situation)」への国民の備えといった、準毛沢東主義的、閉鎖主義的価値観(autarkist values)に重きが置かれるだろう(BBC Chinese :10月16日)。

外交については、習近平チームは、特に中国の台湾再統合と世界のルール設定者としての「中央の王国(Middle Kingdom)」の地位の回復に関連して、ナショナリズムを引き続き昂揚させるだろう。2049年の中華人民共和国建国100周年までに、アメリカとの差を縮め、世界最強の国にすることも、第20回大会以降の中国共産党の優先課題である。改訂された中国共産党綱領では、北京が「台湾独立に断固として反対し、阻止する」ことを初めて指摘した。これに対し、旧綱領は「中国共産党は民族統一を実現する責任がある」とだけ述べていた(Chinanews.com:10月24日;News Radio French International:10月23日)。

●外交・軍事政策(Foreign and Military Policy

習近平による閉会演説を含む第20回党大会期間中、アメリカに対する言及はなかった。しかし、最高指導者の習近平と幹部たちの発言は、アメリカ主導の「反中国(anti-China)」連合との全面的な競争激化を意図したものであったように思われる。習近平は繰り返し、党大会の出席者たちと全ての中国人に、他国の「覇権主義と虐め(hegemonism and bullying)」に対抗することを呼びかけ、「闘争を行う勇気と闘争に長けること(rave enough to wage struggle, and to be good at waging struggle)」を促した(NPC.gov.cn:10月24日;News.cn:10月18日)。国際ビジネスや中国人と欧米人の通常の人的交流の分野でも、習近平は中国当局が経済的配慮よりも国家の安全保障を優先させることを示唆している。習近平と新しい政治局は、軍事的近代化に対してより多くの資源を投入する可能性があり、台湾や南シナ海で「熱い戦争(hot war)」が勃発する可能性が高まる(VOA Chinese:10月18日;Deutsche Welle Chinese:10月16日)。

習近平は、外交政策の遂行を最新鋭の軍に大きく依存していることを反映し、「68歳定年」の常識を破り、中国共産党中央軍事委員会副主席の張又侠(hang Youxia)を更に1期5年続投させた。張副主席は1950年生まれで、今年退任するものと思われていた。しかし、張副主席の父親と習近平の父親が国共内戦以来の親しい間柄であったことから、張は最高司令官である習近平から全幅の信頼を寄せられている。7人の委員からなる中国共産党中央軍事委員会の新任将官2人である、何衛東(He Weidong、1957年生まれ)副主席、苗華(Miao Hua、1955年生まれ)委員は、福建省の第31野戦軍や、福建省と浙江省の南京軍区(現在は消滅)にいた経験がある。習近平は1985年から2007年まで、福建省と浙江省で様々な役職に就いていた時に、この2人の将官と初めて知り合った可能性が高い。何副主席は台湾を管轄する東部戦区司令部の元司令官であり、苗華はヴェテランの政治委員(political commissar)で、現在は中国共産党中央軍事委員会の政治工作部部長を務めている(Businesstoday.com.tw:10月23日;サウス・チャイナ・モーニング・ポスト:10月23日)。

他の新委員は、軍の規律と腐敗防止を担当する張勝民(Zhang Shengmin、1958年生まれ)、中国人民解放軍陸軍司令員を務め、統合参謀本部参謀総長への就任が予想されている劉振立(Liu Zhenli、1964年生まれ)、航空宇宙技術に優れ、現職の中国共産党中央軍事委員会装備開発部長である李尚福(Li Shangfu、1958年生まれ)の3人だ(Headline News. HK:10月24日;Breakingdefense.com:10月17日)

●結論(Conclusion

社会主義諸国の主要な党大会や会議の多くは具体的な目標への確かな道筋を示すよりも、大言壮語や誓約が多いにもかかわらず、習近平をはじめとする指導者たちの報告が行われた第20回党大会では、「中国式近代化(Chinese-style modernization)」、「中華民族の偉大な復興(the great renaissance of the Chinese nation)」、「闘争の敢行(daring to wage struggles)」など、ほとんど理論化された概念ばかりが強調されている。国家統計局が2022年第3四半期のGDP成長率を3.9%と発表したばかりだが、世界銀行など独立系の研究者やシンクタンクの多くは、中国経済の年間成長率を約2.8%かそれ以下と予想している(Scio.gov.cn:10月24日;CNBC.com:10月18日)。この4カ月間、経済の指揮を執った退任する李克強(Li Keqiang)総理は、外資導入の拡大と新型コロナウイルス感染対応体制の合理化を求め、習主席の訓示に反している(China Brief:7月18日)。しかし、李総理をはじめとする国務院のテクノクラートが推奨する唯一の「切り札(trump card)」は、経済成長を引き上げるためにインフラプロジェクトへの刺激策を強化することだ(Rthk.hk:8月30日;English.gov.cn:7月29日 )。しかし、政府投資は古くからある手段であり、過剰なレバレッジ、無駄、支出に対するリターンの減少を招きやすい。習近平とその取り巻きは今大会での圧勝を喜んでいるが、特に最近アメリカとその同盟諸国から中国に科されている厳しい制裁とボイコットを考えると、彼らは国民と国際社会に対して中国経済の立て直しが可能であると納得させなければならない。

党大会の人事で気になるのは、欧米で教育を受け、市場原理を重視する幹部が次々と退任していることだ。引退した李克強首相の最後の発言の中に、「黄河と長江の水は逆流しない(the waters of the Yellow and Yangtze River won’t flow backwards)」という言葉があった。これは、習近平が行った毛沢東主義復古(restoration)を叱責したものと見られている。この他、習近平の側近だったハーヴァード大学出身の経済学者の劉鶴(Liu He)副首相、アメリカの大学の経済学教授だった中国人民銀行総裁の易綱(Yi Gang)、銀行監督官庁トップの郭樹清(Guo Shuqing)らが欧米諸国で仕事を経験した経歴のある幹部たちが退任することが明らかになった。

新中央委員会メンバー表から、劉鶴に代わる経済担当副首相の候補は国家発展改革委員会主任の何立峰(He Lifeng)が確実視されている(新華網:10月22日)。しかし、何立峰が習近平の信頼を得たのは、主に福建省で長年一緒に仕事をしたことが理由である。何力峰には改革派としての資質がほとんどない。習近平は、数字に強いテクノクラートよりも、プロフェッショナルな党員を好むため、中央委員会と政治局には経済や金融の専門家が少ないという事情もある。この状況を改善し、新型コロナウイルスゼロ体制から厳しい党による経済統制まで、硬直したイデオロギー的教条を形だけ譲歩しない限り、中国が2049年までに超大国の地位を獲得するという夢を実現できるとは、中国と海外の観測筋は信じてくれないだろう。

※ウィリー・ウー=ラップ・ラム(林和立)博士:ジェイムズタウン財団上級研究員、『チャイナ・ブリーフ』定期寄稿者。香港中文大学歴史学部・国際政治経済プログラム修士課程非常勤講師を務める。中国に関する著書が6冊あり、代表作に『習近平時代の中国政治(Chinese Politics in the Era of Xi Jinping)』(2015年)がある。最新作は『中国の未来のための戦い(The Fight for China’s Future)』(ルートレッジ社、2020年)である。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 今回は、『日本は世界最低の英語教育の国だ。英文法の謎を解くが甦る(上・下)』(徳間書店)をご紹介します。発売日は2022年11月2日です。

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日本は世界最低の英語教育の国だ。英文法の謎を解くが甦る(上)

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日本は世界最低の英語教育の国だ。英文法の謎を解くが甦る(下)

 本書は副島隆彦先生の英語分野の代表作である『英文法の謎を解く』(1995年)、『続・英文法の謎を解く』(1997年)、『完結・英文法の謎を解く』(1998年)のちくま新書の3部作を、2冊にまとめて再刊です。

 以下に、はじめ、目次、あとがき(『完結・英文法の謎を解く』から)を貼り付けます。是非手に取ってお読みください。

(貼り付けはじめ)

はじめに

 本書は、ちくま新書から刊行した『英文法の謎を解く』(1995年)、『続・英文法の謎を解く』(1997年)、そして『完結・英文法の謎を解く』(1998年)の3冊を上下2巻の新装版にしたものである。

 この3部作は、幸い読者から好評を得てベストセラーとなり、シリーズトータルで40万部を超え、大きな反響を呼んだ。

「日本人が英語ができないのは、明治から続く日本の英語公(こう)教育に欠陥があるからだ」と、私は主張した。英語教育に関わる人々からの強烈な反発もあった。しかし、あれから 25 年が経過したが、事態はまったく変わっていない。日本人は英語が相変わらずへたである。25 年前に私が書いたことが、驚くべきことに、全く古くなっていない。この間、日本の大学の文学部の英文科卒共同体はいったい何をしていたのか。その責任が今も問われる。

 しかし、さらに真実は、今やどこの大学にも「英文科」はない。滅んでしまった。

 33年前(1989年)に起きた、ある事件(英和辞書のつくり方の欠陥問題を巡って争われた)の所為(せい)もある。

 日本の大学知識人たちは、国内だけで威張っている。世界標準(world values, ワールド・ヴァリューズと言う)から見ると日本には本物の知識人(インテレクチュアルズ intellectuals)はほとんどいない。海外で活躍するビジネスマンや理科系のエンジニアのなかに世界で通用する人々がいる。この真実を正直に認めあう真剣さと正直さが、現実を打開してゆく唯一の方策である。これだけが、日本人の英語学習を根底から変革する。この現実のひどさをみんなで正直に認めて公然と議論しさえすれば、日本人の英語学習問題は、急激に改善する。本書が復刊されたことで、この議論の起爆剤になることを、私はひたすら祈る。

副島隆彦

=====

日本は世界最低の英語教育の国だ。英文法の謎を解くが甦る──上巻目次

第1部 英文法の謎を解く

はじめに 1

第1章 have について考える

have について考える 11

基本動詞 have について考える 11

固有名詞の前の a the について 11

病気の have を覚えよう 13

have be と同祖である 14

超動詞 get の登場 17

イギリス英語とアメリカ英語の違い 19

I donʼt know . をきちんと言おう 20

have を身近にしよう 22

evening は何時? 24

時制について 25

第2章 I am happy.  は、×「私は幸せです」ではない

fine happy の違い 29

超基本語 well, good, nice の使い方 31

You are wrong . の正しい意味 33

Watch your step ! ──足元を見つめよう 35

I hear you. を訳してみよう 38

I am juice. は、日本語英語の極北である 40

please の2通りの使い方 43

第3章 基本的な動詞の使い方を知ろう

say, talk, speak, tell, call について 47

say の使い方 49

tell の使い方 50

call について考える 51

現代英文の基本形 52

前置詞 of の意味 54

あまり便利ではない英和辞書 56

基礎工事のダメな日本人英語 58

第4章 文型理論と品詞分類法はちがう

現在完了形とは何か 59

現在完了形の構文分析 61

be have は別格である 62

叙述用法の be 64

be の使い方の4つの基本種類 65

「構文」とは何か 66

Itʼs a Sony. について 67

文型分類理論の完成 70

現在進行形を考える 72

動名詞か、現在分詞か 74

不定詞とは一体何のことか 77

第5章 It people について考える

Itʼs good. について 85

「天気・天候の it 」について 86

「時間の it 」について 88

it this that も同じである 88

Itʼs me. ’ について 89

「日本人はよく働く」という文を英作文してみよう 90

種類全体を表す the 91

種類全体を表す a 93

数えられる名詞と数えられない名詞 94

猫は昼間はよく寝ています 95

people というコトバもむずかしい 97

統辞論と意味論の両面から考えよう 98

英語の試験のチェックポイント 99

第6章 日本人だけしか使わないヘンな英語

What is the matter with you? はヘンな英語だ 101

Itʼs kind of you to ...... について 103

× hearing test (ヒアリング・テスト)について 105

× speak ill of (スピーク・イル・オヴ)について 106

× had better (ハッド・ベター)について 107

a walking dictionary (ア・ウォーキング・ディクショ

ナリー)について 109

Mother (マザー)について 110

senior to ......,  junior to ......(シニア・トゥー、ジ

ュニア・トゥー)について 110

I go out. I start home. (アイ・ゴー・アウト、アイ・

スタート・ホーム)について 111

第7章 仮定法は、なぜむずかしいか

「ただの条件の文」は仮定法ではない 115

日本人になかなか理解できない理由 116

仮定法・過去の文 177

仮定法・過去完了の文 119

仮定法・過去の文の方がコワイ 120

仮定法とは、最高度に洗練された表現法だ 123

直説法・現在の文 124

「仮定法・現在」「仮定法・未来」の文 126

すっきり分かる「仮定法・過去完了」 129

仮定法 と 条件法 はちがう 133

クレオパトラの鼻──仮定法・過去完了の文 135

今は使われない仮定法・現在の文 136

願望表現の仮定法 139

第8章 英語文法理論の体系英語の山と「節」について

英文法体系の立体図式 145

輸入英文法の混乱 147

英文の立体化モデル 148

英語勉強のスキーの山 152

文と節はどうちがうのか 154

関係代名詞とは何か 155

副詞節 の代表選手は when 161

8種類の 副詞節 162

接続詞の使い方を徹底的に習熟しよう 164

第9章 文型理論と「第5文型の文」

例文を文型理論で考える 167

第5文型の代表文例 170

さまざまな第5文型の文 172

深刻な問題 177

第10章 比較の表現

比較表現 の 連続的展開 183

大学入学試験に出題された問題 194

第2部 続・英文法の謎を解く

はじめに 199

読者からの手紙 199

本書がめざすテーマ 203

第11章 存在の be について考える

It is 3 hours. で考える 205

It wonʼt be long before. について 207

Iʼm late. で到着の be を考える 211

さらに「存在の be」を考える 219

第12章 英文法とドイツ文法の関係について考える

私が書いた一文について 223

第13章 日本人だけしか使わないヘンな英語

テレビ・コマーシャルの英語 233

ニガイ午後の紅茶 238

異文化コミュニケーションの失敗談 246

英語教育の中のヘンな英語 249

日常生活の中のヘンな英語 251

第14章 seem look はきわめて重要な動詞である

seem look の重要性 259

「見ている」のは誰か 260

叙述用法の型の文 262

第2文型か第3文型か 262

その他の代表的な不完全自動詞 268

It seems that...... の重要性について 273

現代アメリカ人は seem を嫌う 275

第15章 good bad 倫理判断と価値判断のちがい

「彼はいい人だね」の「いい」とは何か 279

倫理判断と価値判断の表 282

正義(ジャスティス)について 289

be good at~ について 291

value について 294

第16章 the way how の関係そして what that

the way の使い方 299

関係代名詞・関係副詞の最高級問題 302

助動詞扱いの be to について 308

A is B. の文と「助動詞の is to」の文の区別をつけよう 310

that what の関係について 313

複合関係代名詞 の whatever の早分かり 315

some any every のちがい 316

「~の間」を表わす前置詞 318

日付の書き方 323

あとがき 329

付録① 第5文型の文の表 331

付録② 英文法用語たったこれだけの表(まとめ) 332

付録③ 140 個の基本動詞について 336

付録④ get の七変化論 339

*  *  *

日本は世界最低の英語教育の国だ。英文法の謎を解くが甦る──下巻目次

第2部 続・英文法の謎を解く(承前)

上巻に続いて はじめに 1

第17章 なぜ、日本人は英語がへたなのか 

東アジアの英語文化圏 11

言語的に孤立した国「日本」 13

ピジンとクレオール 15

日本人の英語は、ピジン・イングリッシュ 17

第18章 基本動詞の使い方について考える 

自動詞と他動詞の区別はできない 21

I think that......「~と私は思う」の使い方 25

再び、I go to school. の基本文について 29

第19章 ラテン語文法の「格」と英文法の「文型」の統一に向かって 

ラテン語文法の「格」と英文法の「文型」 37

英文法の「語」とラテン・ドイツ文法の「格」の関係の表 39

20 章 英語の音声について(発音論) 45

英文を音声として読むことは簡単なことではない 45

「アは6つある!」 「二重母音は4つある!」 と覚える 49

日本人の英語発音の致命的欠陥 52

英和辞書の発声表記 56

音声記号を自力で書いてみる 61

子音の清音と濁音 64

日本語のサ行摩擦音について 66

日本語の「フ」と「ヴ」について 67

ダーク・エルの問題 69

「エ」と「イ」の音の区別 72

第3部 完結・英文法の謎を解く

はじめに 75

第21章 「人、人間」を表す one a person 

a person one の法則を知ること 79

people はただの「人々」でいいのか? 81

a person one の複数形が people である! 84

You の使い方も重要 85

We には総称的用法はない 87

Man a man men は全然違う 88

human beings には学術用語的な硬さがある 91

Itʼsto の構文から You を考える 92

a person の代名詞は何? 96

it one はどう違うか 101

第22章 冠詞 a the と複数形の -s の問題はやっぱり奥が深い 

I like a cat. の誤文を訂正する 105

a the の問題はやっかいだ 110

第23章 基本語の All → Many → Some → No

システムとして理解する数量表現の基本 119

重要なのは基本語の理解である 119

All → No の体系表 122

大学受験でよく出題される英作文問題 133

代名詞の one, other, some の使い方 138

第24章 I am a Japanese.

「私は日本人です」は間違い英文らしい 145

I am a Japanese. は誤りか 145

for a long time「長い間」について 149

代表的な不可算名詞と people 163

第25章 「煙草をすってもいいですか」 

相手に許可をもとめる助動詞 may can 169

would の怖さが分かれば一人前 171

学校英語の教え方が問題である 177

第26章 「これを英語でなんと言うの」

Whatʼs the English for this ? 181

外国語の勉強の基本 181

「これを英語でなんと言うの」の英文を考える 184

「語る」と「話す」の違い 188

What 型と How 型の疑問文 190

Whatʼs the English for this ? 193

第27章 第五文型論 再説 

複雑なしくみをもつ第五文型の文 195

動詞 help の使い方 197

「ポン・ポン・ポン・そしてポン」のリズムで理解する 202

大学入試に出題されつづけた悪問 220

第28章 人間の感情・判断を表す動詞 

人間の感情・判断を表す動詞たちの代表選手 227

Iʼm shocked. -ed がむずかしい 235

 

第29章 mind ×心ではない。思考、知能である 

「気にする、いやがる」の mind 243

Yes, I mind. は「私はイヤです」だ 251

Yes No は常にはっきりさせる 254

mind ×「心」ではない 258

mind は思考力である 261

思考に関する数々の抽象語 262

諸辞書の mind の定義 266

日本のマインド・サイエンティストたちの恥さらし 268

mind は頭の中の思考力のことである 280

あとがき 285

付録① 表英文法用語たったこれだけの表 287

=====

あとがき

 この本で、私の『英文法の謎を解く』は、一応、3巻完結となる。多くの読者に恵まれたので著者としては満足しなければならない。寄せられた読者からの手紙や反響を総合して判断すると、『正』編・『続』編の読者の中心部分は、中学・高校の英語教師と、それから学習塾や予備校で英語を教えている教師(大学生を含む)たちであることが分かった。つまり現場の第一線の教師たちが、私の本から真剣に学んでいることが分かった。

 この現場のまじめな教師たちにお願いする。私が独力で築きあげた理論を自分勝手に変造したり、小手先の教室技術として活用するのではなくて、もっと大きく「自分こそは、奇型化しつくした日本英語教育の現場にあって、その責任を負っている者のひとりだ」という自覚と反省を持ってほしい。

 私自身を含めて、このままでは、いかんのです。絶対にいかん。日本人英語教師30万人自身が言語障壁(a language barrier, ランゲッジ・バリアー)の分厚い層として、日本を外側世界から遮断する壁になっている。この現状を何とかせねばならない。

 まだまだ書きたいことはたくさんある(おそらくあと10冊分ぐらい)のだが、目下、私は、アメリカ政治思想研究と国家戦略研究のほうが忙しい。今は、日本人(日本国民)をここまで世界から孤立させてしまった諸原因を探索し、その元凶を発見することに熱中している。

 その仕事が一段落したら、再び、この日本英語教育批判のフィールドに戻って来ます。ここは私の独壇場でありホーム・グラウンドだ。だから誰にも気兼ねする気がない。もし身のほども知らずに、踏み荒らしてくる者があれば鎧袖一触(がいしゅういっしょく)、殲滅(せんめつ)するだけである。

1998年 7月

副島隆彦

(貼り付け終わり)

(終わり)

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ビッグテック5社を解体せよ

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 古村治彦です。

 「副島隆彦の学問道場」の仲間で、福山市立大学名誉教授の藤森かよこさんの新刊『馬鹿ブス貧乏な私たちが生きる新世界無秩序の愛と性』(ベストセラーズ)が2022年10月24日に刊行されました。

bakabusubinbounawatashitachigaikirushinsekai511
馬鹿ブス貧乏な私たちが生きる新世界無秩序の愛と性

 以下に、まえがき、目次、あとがきを貼り付けます。是非手に取ってお読みください。

(貼り付けはじめ)

『馬鹿ブス貧乏な私たちが生きる新世界無秩序の愛と性』

まえがき

 本書の目的は、大きく時代が変わる前の過渡期であり、今までの生き方が通用しないことが予測できる危機の時代において、馬鹿ブス貧乏な普通の女性たちが、無駄に恐怖や不安や焦燥を感じて萎縮(いしゅく)することなく自分なりの人生を創るためのヒントを、愛や性の観点から提示することだ。

「方法」ではなく、「ヒント」を提示すると書いたのは、生き方はいろいろで自分で選ぶしかないからだ。価値観が多様化して混乱している今の時代に、これこそが適切な方法だとは誰も言えない。自分で選ぶしかない。カリスマYouTuber とかオンラインセミナーとかカウンセラーとか占い師とか霊能者とかの意見は参考にしておくだけにしてください。

 本書は、2019年にKKベストセラーズから出版された『馬鹿ブス貧乏で生きるしかないあなたに愛をこめて書いたので読んでください。』(以後、「馬鹿ブス貧乏黄色本」と書く)と、2020年に出版された『馬鹿ブス貧乏な私たちを待つろくでもない近未来を迎え撃つために書いたので読んでください。』(以後、「馬鹿ブス貧乏水色本」と書く)の続編である。

「馬鹿ブス貧乏黄色本」は、馬鹿でブスで貧乏な女性のための自己啓発本だ。私の定義では、馬鹿とは一(いち)を聞いて一を知るのが精一杯で、特に学校の成績が良かったわけでもなく、地頭(じあたま)がいいわけでもなく、平々凡々であり、努力しなければどうしようもない程度の能力の持ち主のことだ。

 ブスというのは、顔やスタイルで食っていけず、繁華街を歩いていてスカウトされたことなど一度もない程度の容貌の持ち主のことだ。

 貧乏とは、賃金労働をして生活費を稼ぐしかなく、大恐慌やハイパーインフレや預金封鎖が起こり、預金保険機構でさえ潰れてペイオフ不可能などの経済的大変動があれば、すぐに困窮する程度の資産しか持っていない状態のことだ。要するに、普通の平凡な女性の状態のことだ。

 世に多く出版されてきた自己啓発本は、スペックが高い人にしか実践できそうもないことばかり書いてあると私には思えた。だから、普通の馬鹿ブス貧乏ではあるが、向上心があり、素直に幸せになりたくて、かつ少しは読書をする女性なら実践できることを、私自身の体験から選んで書いた。

 ところが、2020年にコロナ危機が始まり、私が書いた内容が通用しない状況が、私の予想より30年早く到来した。近未来はほとんどの人間が無用者階級になると、イスラエルの歴史学者のユヴァル・ノア・ハラリは予測している。AI化で普通の人間の仕事が消えたら、馬鹿ブス貧乏な普通の女性たちは、どう生きていけばいいのだろうか。そんなディストピア的近未来への対処法を書いたつもりだったのが、2020年暮れに出版された「馬鹿ブス貧乏水色本」だった。

 それから数か月が経過した2021年の春ぐらいのことだった。前著2冊の出版に際してお世話になったKKベストセラーズの編集者の鈴木康成さんから、「馬鹿ブス貧乏本」の第3弾として「性」について書いてみませんかと誘惑された。表紙はピンク色にしたいそうである。

 私はそのときにこう思った。「共同体のパーツとして埋もれるのではなく、個人が個人として生きて行けるような世界、個人の自由を拡大する世界をつくるというのが18世紀からの世界史の方向だった。この動きは、一時期は後退するとしても元には戻らない。人間関係の解体と希薄化は、個人の自由とセットのものであり、全体としては止めることができない。それでも、人間を癒(いや)すのは他人との絆であり愛でしかない時代は、しばらくは続くだろう。他人との絆を形成する入り口が性体験であることが多いのも事実だと思う」と。

 とはいえ、私は、愛だの性だのについて書くような見識もないし、豊富な経験もない。恋愛とか男女問題に興味があるような年齢はとっくに過ぎた。

 ときどき、動画配信サービスでボーイズ・ラブ(BL)系恋愛ドラマなどを見て胸をキュンキュンさせていれば、それでいいのだ。完璧な美男美女が登場する韓国の恋愛ドラマを視聴して、「こんな美男美女でも排泄(はいせつ)するし、下痢にもなるし、便秘にもなるんだなあ」と思っていればいいのだ。Twitter に氾濫する夫や恋人への愚痴を読んでも、「こんなところに愚痴を書いているうちはダメだな。ほんとうに相手を見切ったら、行動に移すもんな。21世紀に、何でいつまでたっても昭和やっているんだろうか?」と思うだけだ。

 ちなみに、私にとっての愛の定義はシンプルだ。副島隆彦(そえじまたかひこ)は、『副島隆彦の人生道場』(成甲書房、2008年)において、「愛というのは『男女が、一緒にいて、気持ちがいいこと、楽しいこと、嬉しいこと』のことなのだと、気がついた」(128頁)と書いている。要するに、男女だろうが、同性どうしだろうが、人間とペットだろうが、一緒にいて楽しいのなら愛なのだ。納得だ。一緒にいて楽しくないなら、離れているしかない。

 愛の定義はさておいて私は、巨大な水槽のガラスに顔をくっつけて魚を眺めているように、世の中を眺めているのが好きなだけの人間だ。だから、今まで生きてきた日々を振り返っても、「平和な時代に生きて食べてこられたことのありがたさ」を感じると同時に、「あ~~しょうもないことばかりしてきた。というか何もしてこなかったな」という思いがある。何ひとつマトモにできなかった人生ではあるが、それで精一杯だったのだから、しかたがない。後悔しようもない。

 しかし、充実していた時間はいっぱいあった。それは、誰かに何かを届けたくて懸命に作業しているときだった。たとえば、どうやったら興味を持ってもらえるだろうかと、教師時代に自分の担当科目の講義の準備をしていたとき。日本では無名の作家を知ってもらいたくて、その作家に関する紹介のような論文やブログ記事を書いていたとき。その作家アイン・ランド(1905-1982)が1943年に発表した『水源』(ビジネス社、2004年)を読んでもらいたくて、翻訳をしていたとき。誰かが読んでくれるといいなあと思いつつ、原稿を書いているとき。

 やはり、人間は他者に愛情を向けて行動しているときがもっとも充実しているのだろう。たとえ、それが無意味な独り善がりの行為だとしても。そういう時間は、幸福だの不幸だの意識もしないほどに夢中になっている。損だの得だのも考えていない。過去も未来もどうでもいい。他人からどう見えようが、どうでもいい。自分の意識が外部に漏電(ろうでん)していない。何も感じないほどに集中している。

 やはり、そういう時間を、誰かを、何かをひたすら愛しているという時間をなるたけ多く持つことが、人生の幸福で生き甲斐なのだろう。

 私たちは、時代の大きな変わり目にいる。馬鹿ブス貧乏な女性にとっては恐怖と不安がいっぱいの危機の時代だ。どんな未来予測が示されようと、人間は死ぬまでは生きて行くしかない。また生きていける。人間には可塑性(かそせい)がある。適応できる。どんどん変わることができる。

 私やあなたが望むようには世界は変化しないかもしれない。今のような無規範な時代は、人間も従来の生き方の規範から逸脱した生き方をするようになるので、みんなが狂っているように思える。嘆かわしく腹立たしいことばかりが起きているように思える。

 大手メディアは言うまでもなく、毎日毎日おびただしくネット世界で発信されるブログ記事やYouTube 動画や、いろいろな書籍は、現代という危機の時代の不快な様相を見せつけてくる。未来予測も暗いことばかりだ。

大地震や津波や火山噴火や異常気象で人類は選別淘汰される?

 国連のSDGs(Sustainable Development Goals)やら、「世界経済フォーラム」(ダボス会議)が提唱するグレート・リセットによるESG推進によって、大企業から中小企業にいたるまでビジネスのありようが変わる?

 ESGは、環境(Environment)、社会(Society)、ガバナンス(Governance)のことで、現在の地球環境が、人類が居住できなくなるほどに荒廃しないように環境問題に対処することを、各国政府や企業に守らせるよう推進監視するグローバル・プロジェクトだ。「地球を管理しているつもりの人類ピラミッドの最上層の人々」が英知(?)を結集して熟慮して作成した世界大改革シナリオの一環だ。

 たとえば、カーボンニュートラル志向に応じない企業へは投資されないように金融システムをつくり変える? ハイブリッド自動車ではなく、EVをつくるように自動車会社に圧力をかける? クリーンエネルギーはコストがかかるから、二酸化炭素排出量が少ない原発の再稼働を始める? 欧州でも日本でも実際に始めると決まった。

 さんざん社会的不公正を垂れ流してきた「地球を管理しているつもりの人類ピラミッドの最上層の人々」(人類ではなく爬虫類人という説もある)が急にいい子ぶりっこを始めた。誰も反対できない正論の大義名分をぶち上げて、自分たちに都合よくルールを変えるのは、あの人々の常套(じょうとう)だ。

 企業の社会的責任(Corporate Social Responsibility, CSR)というものを、利益の何%かを寄付している程度のことで実行したつもりでいてはダメだ? 企業は、自社の海外の生産拠点にしろ、自社内にせよ、そこで人権問題が起きていないかチェックしろ? 性差別や人権侵害を許してはならない? 取締役の40%は女性にしろ?

 口だけじゃダメで、ちゃんと環境維持と社会的不公正の是正にどれだけ努力して成果を出しているか数値化して報告せよ? そうしないとグローバル市場では投資を受けることができない? 巨額を投資する機関投資家から相手にされない?

 地球の海洋環境の保全のために海底資源の開発はしないことを国連で決める? 日本

はエネルギーさえ自給自足できれば独立国家になれるから、排他的経済水域の海底資源の開発に未来を賭けていたのに? それでは、永遠に日本は外国からたかられ続ける属

国のまま?

 「地球を管理しているつもりの人類ピラミッドの最上層の人々」が長年熟慮して作成した世界大改革シナリオの一部である戦争が始まる? いや、すでに始まっている?

 ナノチップを身体に埋められ、位置情報から電子マネーカードやクレジットカードの使用履歴からネット検索履歴まで監視管理される人畜になる未来が待っている? いや、すでにそうなっている?

 異常気象のために食糧生産ができず、食糧の輸入が途絶え、しばらくの間は食糧危機になる? しばらくの間っていつからいつまで? すでに食品の価格は上がっている。値段は同じでも内容量が減っているステルス値上げも多い。

 世界中央銀行デジタル通貨(Central Bank Digital Currency, CBDC)が発行され現金使用が禁じられ、個人の金融資産と収入支出が全部当局に把握され、新しい資本主義社会になる? これは、グローバル全体主義ですか? 新しい共産主義の別表現ですか?

 不妊剤入りワクチン接種を条件として、ベイシック・インカムが支給されるから、職がない「無用者階級」でも食べて行くことはできるから大丈夫?

 デジタル化やAI化により、ほとんどの人間ができる仕事が消えてすることがなくなっても、暇つぶしのお遊びと創造活動を合体させたようなインターネット上に構築された三次元の仮想現実(Virtual Reality)であるメタバースや拡張現実(Augmented Reality, Extended Reality)のミラーワールドの中で遊んで生きることができる? つまり、引きこもりのオタクが未来の庶民の生存様式になる?

 パンデミックは何度でも起きる? 人間が集まって接する機会を少なくすることしか感染拡大は防げないのだから、学校の授業のオンライン化や企業のリモートワーク化はさらに進む? 企業によっては社員の在宅勤務を常態化するところも出現している。

 飲食店はテイクアウト・サービスが増えた。料理配達サービスもいろいろ出てきた。すべてスマートフォンひとつで予約も支払いもできる。学会もコンサートもオンラインだ。

 私の若い友人の鍼灸(しんきゅう)師兼整体師は、オンラインでセルフ整体のクラスを運営している。料理もオンラインで教えるようになっている。私もそういうサイバー料理教室を受講したことがあるが、なかなか楽しかった。出かけなくてもいいのがラクでいい。人はどんどん人と会わなくなる。

 こういう変化に良いも悪いもない。そういう方向に世界が進むように、「世界経済フォーラム」のような国際機関から指令が各国政府に来ているから、日本もその方向に進む。これは権力者共同謀議論でも何でもない。内閣府だの首相官邸だの総務省だのの官公庁のウエブサイトを調べれば、書いてあることだ(このことについては、「馬鹿ブス貧乏水色本」に詳しく書いた)。

 私自身は短期的には悲観的だが、長期的には楽観的だ。AI化、VR化、さらにAR化は世界を変えていく。システムを変えていく。価値観を変えていく。人間の生活を変え、人間の意識を変え、人間そのものを変えていく。意識(脳や心)が変わると身体が変わる。ホモサピエンスの次の人類が生まれるかもしれないから、今の段階の人類の意識であれこれ心配するのは無意味だ。

 大きく見れば、ジョージ・オーウェル(1903-1950)が1949年に発表した小説『一九八四年』(高橋和久訳、ハヤカワep i文庫、2009年)に描かれたようなBig BrotherGoogle & Apple & Facebook(Meta) & Amazon & Microsoft の合体?)が個人情報と言動をすべて監視管理する世界になっていく。それはディストピアに見えるかもしれないが、脱税を含む犯罪はすぐに摘発されるユートピアでもある。

 個人情報と言動がすべて監視管理される世界になるのはあたりまえではないだろうか? 多くの人々が、「ひ弱で愚かで不用心な人間でも保護され快適に生きて行ける社会」の実現を望んできたのだから。誰もがそういう社会で生きることができるのが人権だと思っているのだから。自助社会は望んでいないのだから。未来社会は人類サファリパークになるしかない。地球は人類愛護精神に満ちた保護領になるしかない。

 保護される動物に自由はない。人間に生殺与奪権(せいさつよだつけん)を握られている類のペットが行使できる気ままを自由とは呼べない。でも、現代の多くの人々はそのようなペットになりたがる。だから、人類ピラミッドの最上層の方々は、人々を安全地帯に囲い込み監視管理するシステムを、その仕組みが見えなくなるほどに複雑に精緻(せいち)にする。

 2050年には実現されているであろう『一九八四年』的世界は、オーウェルが描いた世界よりはるかに洗練されているに違いない。そこに住む人々をして自分たちが管理監視対象の人畜であることを感じさせないほどに快適なものであるに違いない。Big Brother の目などという野暮なあからさまな支配装置はどこからも見えない。

 とはいえ、人間社会は複雑だ。人類ピラミッドの最上層の方々の思いどおりには物事は進まない。パンデミックもウクライナ紛争も、彼らや彼女たちが計画実行したらしいが、予定したほどの「成果」は上げていないらしい。未来はこうなると予定していると、想定外が起きる。地震予測が当たらないのと同じことだ。多くの人々が地震について意識していると地震は起きない。素粒子が誰も観測していないと波動のように振る舞い、誰かが観測していると粒子のように振る舞うように。量子力学の「二重スリット」の実験だ。

 だから、私たちが生きている間は、今のような混乱状態は、しばらくはダラダラと続き、別方向に進む可能性もある。「人類ピラミッドの最上層の方々が実現させようとしている素晴らしき新世界秩序(New World Order)」を私たちが見ることはないのかもしれない。

 とはいっても、どう進もうが、従来のシステムが壊れていくことは確実なので、私たちにとっては、いろいろとハードに違いない。危機に満ちたハードな時代だからこそ、しっかりと生き切りたい。ディストピアの中で幸福を、ユートピアに闇を見つけることができるのが人間なのだから、大丈夫だ。そもそもが、価値基準を手放せば、すべてがユートピアだし、すべてがディストピアなのだ。まさに新世界無秩序だ。

 どんな未来が出来(しゅったい)しても、人間の生命力というものは、どんなにひ弱に無気力に見える人のそれでさえ、強く激しい。だからこそ人類の歴史はいかに過酷であっても、今日(こんにち)にいたるまで続いてきた。だから、私たちは自分の生命力を、欲望を、甘く見ないほうがいい。中途半端な姿勢で生きていては、死ぬに死に切れなくなる。

 死ぬことは怖いことではない。死の世界は未知なので怖がりようもない。私が何よりも怖いのは、身体や脳や心を自分で機能させることができる間に、めいっぱい自分の身体と脳と心を使い倒して夢中に生きないことだ。それは自分にしかできないことだ。自分にしかできないことを自分に課して生きることこそが自由の行使だ。

 本書は、現在の日本社会における愛と性をめぐる現象や問題を紹介、確認し、私が感じていることを書いただけの雑駁(ざっぱく)な構成でできている。7章で成立しているが、各章の間に特にきちんとした論理的な繋がりがあるわけではないし、各章を構成している文と文との間には緩い連関しかない。そのほうが、自由に書けるような気がしたので、そうした。

 本書を書くにあたって、いろいろリサーチして、私は驚いた。私がボケっとしている間に、日本における性的退却や人間関係の解体がかなり進行していることに。と同時に、少なくない人々が、自分の愛と性を充実させることを決して諦めていないことに。そして、現代の愛と性のあり方から、ある未来がぼんやりと見えてくることに。

 愛と性は「生」に直結している。愛と性から逃げることは、生きていることから逃げることだ。人間であることから逃げることだ。

 本書が、未曾有の危機の時代に生きていても、馬鹿ブス貧乏な女性が自分の人生から逃げず、幸福を作り、他者との絆をつくることを諦めないことに、いささかでも寄与(きよ)できるものでありますように。

=====

馬鹿ブス貧乏な私たちが生きる新世界無秩序の愛と性  目次

まえがき …………11

1 章性交と恋愛は自己と他者との遭遇 ………… 27

11 「働く中年女性のための社交クラブ」を設立したかった私 ………… 28

12 性交売買に関する私の見解 ………… 30

13 男娼サービスは江戸時代からあった ………… 33

14 石田衣良の『娼年』『逝年(せいねん)』『爽年(そうねん)』三部作は真摯な性愛小説 ………… 37

15 直接的に他者の身体に触れてこそ他者をリアルに感じる ………… 41

16 恋愛は自分を知るための孤独な修業であり

誰でもできるものではない ………… 44

第2章 男性の女性嫌悪と女性の男性嫌悪が錯綜する日本 ………… 49

21 ハイパー情報化社会が暴露した愛と性のリスク ………… 50

22 AVの質向上が必要 ………… 53

23 女性差別社会では男性も不幸必至 ………… 58

24 二村ヒトシの『すべてはモテるためである』について ………… 61

25 男として生まれても旨味がなくなった時代に生きる男性の苛立ち ………… 67

26 女性の男性嫌悪を増大させる性犯罪に甘い日本 ………… 71

27 女性が貧乏だからこそ女性に相手にしてもらえる男性 ………… 73

第3章 性的退却 ………… 79

31 似非帳簿文化に侵食された性と愛 ………… 80

32 似非帳簿文化が徹底されると男性のほうが孤立しやすい ………… 82

33 性的退却に関する宮台真司の見解 ………… 86

34 エーリッヒ・フロムが提案すること ………… 92

35 日本の性的退却の原因は劣化した食生活という説 ………… 99

36 若者の性的退却の元凶は貧乏という説 ………… 106

37 女性には「乳幼児育児期間収入保障保険」が必要 ………… 110

38 若い女性向けファッション雑誌の凋落が示す女性の変化 ………… 115

第4章 性欲があることをタブーにしない ………… 119

41 性欲の強さは恥じるようなことじゃない ………… 120

42 教師による性犯罪に関する報道の増加について ………… 126

43 男性も男性の性犯罪者の犠牲者になる ………… 130

44 男性の性欲はどうしようもないという説は迷信かもしれない ………… 132

45 障がい者の性 ………… 136

46 障がい者専用性的サービスの必要性 ………… 140

47 高齢者の性欲について語るというタブーを破ったのは女性保健師だった ………… 144

48 晩節を汚し空っぽになるまで生き切る ………… 149

49 高齢だからこそ性交にこだわらず性を追求する ………… 153

第5章 性的退却しない女性たち ………… 157

51 性的退却を憂えるのは男性ばかり ………… 158

52 女性専門風俗産業の盛況 ………… 162

53 女性専用風俗が受容されるようになった理由 ………… 168

54 女性専用風俗利用者は普通の女性たち ………… 170

55 主体的に自分の性欲を管理する女性たち ………… 173

56 女性は繋がる女性専用風俗愛好者オフ会とか不倫互助会とか ………… 175

第6章 妊娠と出産―女性にとって性交だけが性ではない ………… 179

61 女性性の本質は生命を孕は らみ生み出すこと ………… 180

62 上質な遺伝子を求めてSNSで精子提供者を募集する女性 ………… 183

63 妊娠・出産に特別な聖性を付与する必要性 ………… 185

64 子宮スピリチュアル ………… 187

65 自分は子どもによって母として選ばれたと信じること ………… 189

66 主体的に妊娠と出産に関わる女性たち ………… 194

67 アメリカでも日本でも処女懐胎が起きている ………… 196

68 妊娠中絶という女性の性的自己決定権と中絶ビジネスの闇 ………… 202

69 膣ケアや脱毛など女性たちの性的身体の積極的受容は進む ………… 212

第7章 まとめ ………… 219

71 リビドー噴火活動の試行錯誤が生きること ………… 220

72 愛と性の未来 ………… 225

73 エーリッヒ・フロムの『愛するということ』は読んでおく ………… 234

74 「人間は探しているものしか見つけない」 ………… 239

あとがき ………… 243

紹介文献リスト(紹介順) ………… 246

=====

あとがき

 実は、本書は2022年の初夏に出版される予定でした。参考文献リストも入れたら「馬鹿ブス貧乏黄色本」や「馬鹿ブス貧乏水色本」と同じ版の書籍240頁ほどの分量になる原稿を書き、私は、そのデータを2022年3月半ばに編集者の鈴木康成さんに送信しました。

 その初校ゲラが届いたのが4月でした。校正しながら、私は自分の書いたもののゲラを読むのが猛烈に苦痛になりました。自分で書いておきながら、「何だ、これは?」と思ったのです。私は、現代という危機の時代に生きる普通の女性たちをめぐる愛と性に関する諸問題について何も見えてこないような駄文ばかりを書き連ねてしまっていました。

 私は、編集者の鈴木さんに、厚かましくも強引にも、考え直しをさせてくださいと頼み込みました。原稿を全部書き直しさせてくださいと頼み込みました。

 幸いなことに、私のこの迷惑極まりない身勝手な依頼に対して、編集者の鈴木さんは寛大にも、「藤森さんの納得がいくように書き直してください」と言ってくださいました。その書き直し版が本書です。

 というわけで、今回も、鈴木さんには大変に大変にお世話になりました。本書を書くにあたって参考になる記事などもいっぱい教えていただきました。ありがとうございました!

 本書の装幀は、「馬鹿ブス貧乏黄色本」と「馬鹿ブス貧乏水色本」に引き続き、大谷昌稔(おおたにまさとし)さんに担当していただきました。今回も素敵な装幀を、ありがとうございました!

 愉しく明るいカバーイラストも、前著と同じく伊藤ハムスターさんに担当していただきました。ありがとうございました!

 作家の石田衣良さんには、推薦文をいただきました。駄目でもともとで図々しく御願いしてよかった! ありがとうございました!

 そして、最後に、いつも私がSNSで意見交換する方々にお礼を申し上げます。私は、退職後はほぼ引きこもり状態であり、子どもも孫もいませんので、書籍やメディアから以外は、現在の世の中の実情がわかりません。その私の世間知らず状態は、SNSをとおして、いろいろ教えてくださる若い人々から、随分と是正していただきました。みなさまに、この場を借りてお礼を申し上げます。ありがとうございました!

 本書で、私の「馬鹿ブス貧乏本」は最後となります。これから、しばらく不寛容な息

苦しい世の中となるでしょう。新世界無秩序を生き抜くことよりも、瑣末(さまつ)で矮小(わいしょう)な正義感を振り回すことで、鬱屈(うっくつ)を解消しようとする人々が、しばらくは跋扈(ばっこ)することでしょう。「馬鹿」とか「ブス」とか「貧乏」とか、そのような言葉に目くじらを立てる人々は増えていくでしょう。「差別的な言葉だ!」と言って、それらの言葉を禁じても、馬鹿が聡明になるわけでもなく、ブスが美しくなるわけでも、貧乏が消えるわけでもないのですが。

 私の「馬鹿ブス貧乏本」を読んでくださったみなさん、ありがとうございました!

2022年夏のおわり

藤森かよこ

(貼り付け終わり)

(終わり)

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 古村治彦です。

 日曜日に閉会した中国共産党第20回党大会では、最後に、胡錦涛前国家主席が複数の係員に促され、習近平の隣の椅子から退場させられる場面があった。この時、習近平とは言葉を交わし、李克強首相の方を軽くたたく様子が見られた。栗戦書全国人民代表大会常務委員長が大汗をかきながら胡錦涛から書類を取り上げる姿が映像で写された。
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hujintaopartycongress002511

 この胡錦涛の突然の退出については様々な分析がなされている。健康不安説、特に認知症を患っている胡錦涛が最後にどんな行動を取るのか分からないということで退出させたということが言われていたがそれは不自然だ。健康不安だけならば欠席でも良い訳だし(もう引退しているのだから実務などに影響はない)、最高幹部たちもあのような冷淡な態度を取ることはなかったはずだ。不測の事態ということであれば、テレビ中継は途中で停止されるか、全く別の場所を映すかできるはずだが、その様子を中継し続けた。これは、最初からそのように仕組まれたと考えるのが自然なことだ。
 やはり、今回の退出劇は、習近平と側近たちだけで事前に作って、一部の幹部たちだけに知らされたシナリオに沿った動きだったということになるのだろう。現在の最高指導部層は文化大革命時代を生年として過ごして苦労してきた人たちだ。そこから叩き上げ、幾多の競争を勝ち抜き、無数の修羅場を生き抜いてきた人たちだ。どんなに不測の事態が起ころうとも平静を保つことが出来るのだろう。今回の出来事で皆微動だにしなかったのはそういうことだろう。そして、頭脳をフル回転させながら、事態を把握していったはずだ。そして、「共青団派排除の仕上げとしての胡錦涛前主席の排除なのだ」ということをコンマ数秒で理解したのだろう。

 習近平は、この10年で自分の権力基盤を固めることに成功した。江沢民元国家主席をトップとする上海閥を追い落とした。そして、今回の人事では露骨に共青団派を追い落とした。そして、独裁体制を確立した。私はこのブログでも何度も書いているが、習近平が不文律を破って3期目も最高指導者の地位を確保したことは、第二次世界大戦中のアメリカ大統領フランクリン・D・ルーズヴェルトの事績を類推させるものだ。今回、中国は平時モードから戦時モードに切り替えたのだ。「平時の改革などには役立つ共青団系はエリート、お公家様集団で乱世には役に立たない」ということで、切り捨てたということになる。

 習近平が確立しようとしている戦時体制は、中国が世界に出ていって戦争をしようというものではない。アメリカが火をつけて回っている世界の動乱的状況、第三次世界大戦に備えてのものだ。ウクライナ戦争が第三次世界大戦に拡大する可能性もある中、自国の防衛と経済を守るということでの「戦時体制」ということになる。

 共青団(中国共産主義青年団)という組織が潰れた訳ではないし、これからもエリート機関として存続する。そこで育った人材たちは、動乱期を乗り切った後に必要とされる。現在の状況を乗り切るために、幾多の英才を切るということが出来ることは中国の強さということになるだろう。

(貼り付けはじめ)

一体全体、胡錦涛に何が起きたのか?(What the Hell Just Happened to Hu Jintao?

-習近平の前任者は党大会の場から強制的に追い出された。

ジェイムズ・パーマー筆

2022年10月22日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/10/22/china-xi-jinping-hu-jintao-ccp-congress/?tpcc=recirc_trending062921

中国共産党第20回党大会は土曜日に、珍しくも衝撃的なライヴドラマで幕を閉じた。2002年から2012年まで中国共産党の指導者であった胡錦濤は、党大会の最終投票の直前に、明らかに混乱し動揺した状態で、スタッフによって公然と大会から退場させられた。胡錦濤は習近平国家主席の隣の席で、習主席と李克強首相に質問し、習主席が頷く様子をカメラに収めたが、胡錦濤は書類に手をかけ、書類を取るのを妨げたという。胡錦濤は習近平と李克強首相に質問し、習近平は頷いたが、胡錦濤が書類を取るのを習近平が手で制止し、同じく党幹部の栗戦書は立ち上がり、胡を助けようとしたが、隣に座っていた政治理論家の王滬寧に背広の上着を引っ張られ引き戻された。

胡錦濤は習近平のような権力を持ってはいなかった。胡錦涛はいわゆる集団指導の時代の最高指導者だった。前任の江沢民の強大な影響力と戦わなければならなかった。胡錦濤の在任中、汚職は増加した。そして共産党にとってより危険なことに、汚職に関する報道も増加し、ネット上での言論の自由も、限定的ではあるが市民社会団体やNGOの活動も増加した。これは、胡錦濤が自由主義に傾倒したからではなく、党員の多くが党の方針を貫くことよりも金儲けに夢中になっていたからである。

2012年に中国共産党の最高指導者を退任して以来、習近平とは対照的に、胡錦濤は党メディアから称賛されたが、力は失われた。習近平の粛清により、かつての盟友の多くが逮捕され、特に2015年には胡錦涛の首席補佐官の令計劃が逮捕されている。胡錦濤は、自分と同じ共産主義青年団の元リーダーたちの権力ネットワークと関係があったが、その派閥は事実上壊滅したように見える。

一体、何が起こったのだろうか? 土曜日に中国の国営通信社である新華社が発表した中国共産党大会総会メンバーのリストに胡錦濤の名前はあるが、この事件についての説明はなされておらず、当然のことながら、この件についてオンラインで議論しようとすると厳しく検閲される。中国共産党大会は、実際の政治が数週間から数カ月も前に行われる、極めて厳格に演出されたイヴェントであることを念頭に置いてほしい。つまり、胡錦濤の予告なしの不手際な解任は、不手際もしくは陰謀(a cock-up—or a conspiracy)のどちらかである。

第一の可能性は、健康上の危機ということである。胡錦濤は党大会の期間中、目に見えて衰えていた。中国の指導者は皆、髪を染めているので、過去の時代であれば、それだけで権力を完全に放棄したことになっただろうが、習近平政権では白髪が入り込むことが許されている。しかし、カメラが回っている中で、緊急に彼を排除する必要があり、かつ、彼が深いところでそれを嫌がっているというのは、どのような状態なのかが見えにくい。また、秘密主義と慎重さが常識である中国共産党の内部でさえ、なぜ他の人は体の弱い元同僚を助けないのだろうか?

一つの可能性は、胡錦涛に知らされないで、予想外に新型コロナウイルス感染の診断が出ていたことである。しかし、その場合、指導者に近づく者全員に実施された迅速検査で何も検出されなかったのに、タイミング悪くPCR検査が実施され、陽性となったことになる。

第二の可能性は、習近平が、党大会の全会一致の投票で、胡錦濤が棄権するか、反対票を投じるかもしれないという、恐れるような情報が突然出てきた可能性である。それは、胡錦濤が舞台裏でかつての同僚に言った言葉かもしれないし、あるいは認知症の兆候があって、何かが間違っているかもしれないと思って突然パニックに陥ったのかもしれない。そう考えれば、胡錦濤の混乱は理解できる。

習近平が前任者を意図的に公然と貶めたのは、党の規律と司法による処分を行使する前触れだったのかもしれない。党大会では、習近平が党の「核心(core)」であることがしばしば修正され、ほとんど象徴的な憲法に明記され、前例のない3期目を迎えるにあたって、習近平が前面に立ち、中心的存在であることが強調されたのである。

習近平は冒頭の業務報告で、胡錦濤らには言及しなかったが、「党の指導が弱く、空虚で、水増しされていた」と極めて厳しい表現で就任当時の党内情勢を語っていることに留意してほしい。胡錦濤のマルクス主義理論への貢献である『科学的発展展望』についても、習近平の演説の中でわずかに言及されただけである。 このように胡錦濤を貶めることは、長らく党内で勢力を保ってきた元最高幹部層である「退役長老(retired elders)」に対して、習近平の権力は縛られていないという明確なシグナルを送ることにもなる。その場合、栗戦書が胡錦濤に手を差し伸べたのは、かつての仲間に対する本能的な、しかし危険な優しさであったろう。

しかし、それはまた、外の世界に完全に知られていなかった陰謀を除けば、ほとんど不必要な動きだと言える。中国共産主義青年団派(共青団派)の破壊と胡錦涛の仲間たちの追放または逮捕を考えると、胡錦涛がかつて党内で持っていた力はとっくに失われている。他の引退した指導者との関係を除けば、胡錦涛が習近平にとってもっともらしい脅威であると考えるのは非常に難しい。

また、中国のようなレーニン主義体制に見られる官僚劇を好んで行う、残酷極まりない行為でもあった。このシナリオでは、胡錦濤は単に拘束されるか、健康を理由に内密に軟禁される可能性があった。たとえ恥をかかせるにしても、毛沢東が自分に逆らった指導者に繰り返し行ったように、非公開の会議の中で行うことができたはずだ。中国共産党独自の内部秘密警察である中央規律検査委員会(Central Commission for Discipline InspectionCCDI)は、習近平の下で拷問を使う頻度が高くなるなど、厳しい態度で臨んでいることは有名である。軍高官の徐才厚は2014年、がん治療の最中に拘束され、翌年死亡した。

何年も正確な事実が明らかにならない可能性が高い。胡錦濤の健康状態について発表があるかもしれないし、単に事件が公的に説明されないだけかもしれない。万が一、胡錦濤が中央規律検査委員会に正式に拘束されれば、それは事態が大きく深刻化し、いつものように刑事告発と投獄に至るだろう。

胡錦濤に対して何が起きたとしても、習近平の権力は日曜日にはより明白になる。中央委員会の初期名簿(土曜の会議で指導部の中核である常務委員会を名目上決定し、日曜に発表する約200人)には、現首相で胡錦涛の子飼いの李克強や、汪洋、劉鶴といった比較的経済改革に熱心な人物が含まれていなかった。つまり、常務委員会はほとんど習近平の盟友ばかりになる可能性が高い。

2013年頃から、中国ウォッチャーたちは「胡錦濤の下での自由主義の黄金時代(golden age of liberalism under Hu Jintao)」という冗談を言うようになった。当時は、市民社会がゆっくりと、そしてたどたどしく進歩しながらも、政治的に保守的だった時代をそのように考えるのは不条理に思えた。しかし、その後10年間で、この話は冗談では済まなくなった。相対的に見れば、胡錦濤の時代は今やとんでもなく自由で開放的でありそれが、残酷なフィナーレを迎えているように見える。

※ジェイムズ・パーマー:『フォーリン・ポリシー』誌副編集長。

(貼り付け終わり)
(終わり)

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
20211129sankeiad505

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 古村治彦です。

 アメリカの歴代政権は外交戦略の基礎となる「国家安全保障戦略」と題する文書を発表する。これがガイドラインとなって、外交政策が策定されることになる。非常に重要な文書ということになる。最近の歴代政権、バラク・オバマ政権、ドナルド・トランプ政権、ジョー・バイデン政権の「国家安全保障戦略」における対中姿勢を比較するというのが、下に掲載した記事の内容だ。

 簡単に言えば、対中姿勢に関しては、オバマ政権とバイデン政権では、同じ民主党、政権の顔ぶれは多く重なっている(バイデンがオバマ政権で副大統領だった)のに、全く異なっていて、バイデン政権は共和党のトランプ政権の方とよく似ている、ということだ。オバマ政権は「平和で反映する中国の台頭を歓迎する」という姿勢であったが、バイデン政権は「中国とは責任ある態度で競争する」という姿勢になった。トランプ政権は「大国間競争の復活」を強調した。オバマ政権の「関与(engagement)」からトランプ政権とバイデン政権は「競争(competition)」へと変化したということだ。

 ここで重要なのは、戦略文書の文言なのか、実際の行動なのかということだ。バラク・オバマ政権については拙著『』で私は分析をしている。オバマが目指していたのは、所属する党は違うが、ジョージ・HW・ブッシュ元大統領とジェイムズ・ベイカー国務長官の行ったリアリズム外交であった。しかし、党内のバランスなどの点から、ヒラリー・クリントンを国務長官に起用せざるを得なかった。ヒラリーは、人道的介入主義派の頭目であり、人道的介入主義派はネオコンの民主党版ということになる。ヒラリーは「ピヴォット・トゥ・エイジア(Pivot to Asia)」を掲げ、アメリカのアジアでの地位を再び強めることを目指した。そうなればどうしても台頭してくる中国とぶつかることになる。アメリカはアジアから手を引くつもりはなく、インド太平洋という地域概念を打ち出して、中国と競争する姿勢を示した。それは今も続いている。

 トランプ政権は中国との激しい言葉の応酬があった。関税問題でお互いに報復をし合う形になった。交渉でも激しいやり取りがあった。しかし、トランプ大統領の真骨頂は「ディール(取引)」である。彼は対立してケンカ別れをすることではなく、交渉事をうまくまとめて、できるだけ自分の利益を大きくするということで人生を生き抜いてきた人だ。トランプ大統領はアメリカ国内への投資を促進してきた。こうして見ると、言葉遣いは激しいが、対立ではない方向性を目指していたことになる。中国としても輸出過剰になっているので、そこはアメリカに譲歩する部分もあった。

 「国家安全保障戦略」という歴代政権が出している文書の言葉遣い、文言と実際の政策のどちらが、政権の姿勢をより雄弁に語っているかということになれば、それは実際の政策ということになる。オバマ、トランプ、バイデンと並べてみれば、イメージが良いのは、オバマ、バイデン、トランプということになるだろう。しかし、中国との対立関係を演出し、世界を不安定にしているのは実はイメージが良い方だということに私たちは気づいておかねばならない。イメージで実態が見えなくなってしまうことは怖いことだ。

(貼り付けはじめ)

バイデンの新しい国家安全保障戦略:トランプの要素が多く、オバマの要素は少ない(Biden’s New National Security Strategy: A Lot of Trump, Very Little Obama

-大国間競争への新たな焦点はアメリカの考え方に大きな変化をもたらすものとなる。

デイヴィッド・アデセニック筆

2022年10月17日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/10/17/national-security-strategy-nss-biden-trump-obama-china-russia-geopolitics/?tpcc=recirc_trending062921

「アメリカは、安定し、平和で、繁栄する中国の台頭を歓迎する(The United States welcomes the rise of a stable, peaceful, and prosperous China)」。バラク・オバマ政権の「2015年版国家安全保障戦略(2015 National Security Strategy)」に記載されていたこれらの言葉は、既に過ぎ去った時代に属している。水曜日に、この戦略文書が起草された時に副大統領だったジョー・バイデン米大統領は、自身の「国家安全保障戦略(National Security Strategy)」を発表した。そして、これ以上ないほど異なるトーンで書かれている。この文書では、「中国に対する永続的な競争力(a enduring competitive edge)を維持することを優先する」と公約し、「世界をリードする大国になろうとしている」中国を非難している。ロシアについてもまた、バラ色の言葉である潜在的なパートナー(potential partners)としてではなく、世界の平和と安定に対する「直接的かつ持続的な脅威(immediate and persistent threat)」と説明されている。簡潔に言えば、バイデン戦略は前民主党政権(オバマ政権)から180度転換(a 180-degree turn)したものである。それどころか、新しい戦略文書は、ドナルド・トランプ政権が2017年の戦略で最初に結論づけたことを肯定している。それは「大国間競争は復活した([G]reat power competition [has] returned)」。

トランプ政権とバイデン政権が提示した診断が類似しているからといって、アメリカの政策に対する処方箋が同じであるとは言えない。それでも、医学的な診断と同様に、戦略的な診断は治療のための選択肢を狭めることになる。2009 年、当時のオバマ大統領は国連総会での最初の演説で、「人類の歴史のどの時点よりも、現在は国家と人民の利益は共有されている」と宣言した。2010年に発表されたオバマの最初の戦略は、ソ連崩壊後、「平和な民主政治体制の輪が広がり、核戦争の危機が去り、諸大国は平和になり、世界経済が成長した」と報告している。このような背景から、関与(engagement)に重点を置いた戦略が現実的であると思われた。そのため、オバマ大統領の青写真では、「中国、インド、ロシアを含む他の重要な影響力の中心地と、より深く効果的なパートナーシップを構築するために取り組んでいる」と説明されている。

その後、世界が根本的に変わったという訳ではない。2008年の米大統領選で、オバマの対抗馬であった共和党候補のジョン・マケインは、その時には全く異なる戦略的展望を提示していた。マケインは、他の多くの人々と同様、その当時には既にロシアのウラジミール・プーティン大統領を、現在の多くのアメリカ人が見ているように見ていた。2008年の選挙のわずか数カ月前に、モスクワはグルジアに侵攻していた。マケインの中国に対する見方も同様で、インドのような民主政治体制国家を、修正主義的な独裁国家(中国)と同じカテゴリーの潜在的パートナー(potential partners)に位置づけることはなかっただろう。このような見解の相違は、オバマのハト派的なアプローチ(dovish approach)に対して、マケインが外交政策のタカ派(a foreign-policy hawk)であったというのが通常の説明であろう。しかし、タカ派とハト派という比喩は誤解を招きやすい。両陣営の違いは、対立への準備(readiness for confrontation)の違いであると考えるからである。タカ派は敵意を感じ、ハト派は潜在的なパートナーを見るのである(the hawks sense hostility where the doves see potential partners)。

トランプとバイデンの戦略は、脅威に対する認識において、大国間の対立(great-power rivalry)という極めて重要な問題に完全に収斂している。しかし、同じ脅威であっても、冷戦時代の様々な戦略が「封じ込め(containment)」に分類されるように、その対処方法は多様である。バイデンの48ページに及ぶ戦略文書は、政策のレヴェルにおいても、彼のアプローチがドナルド・トランプ前大統領と異なるのか、またどのように異なるのかを示すものが驚くほど少ない。68ページに及ぶトランプの戦略文書は、政策の道筋を明確に示してはいない。この曖昧さの理由は構造的なものだ。冷戦後の国家安全保障戦略はどれも、達成可能な目標に行動方針を合致させる訓練というよりは、願望を羅列したようなもので、国内の批評家や海外の敵対者が読むことになる公的戦略には、この曖昧さが最も期待されるものとなる。より具体的な決定がなされれば、政策が実行に移される前に、反対派が活発に批判する機会を得るようになる。また、世界規模の詳細な行動計画について政権内のコンセンサスを得るには、省庁や国家安全保障上の様々なグループの間で数え切れないほどの意見の相違を裁くことが必要となる。これらが曖昧さを生む要因となる。

それでも、「これは共和党ではなく民主党の大統領の戦略である」ことを示すマークがまだたくさんある。

そのため、バイデンの対中戦略の3つの柱は曖昧なままだ。第一の柱は、「自国の強さの基盤、すなわち競争力、イノベーション、レジリエンス、我が国の民主政治体制に投資すること(“to invest in the foundations of our strength at home—our competitiveness, our innovation, our resilience, our democracy)」である。この政治版「母性とアップルパイ(訳者註:アメリカとアメリカ人を象徴する革新的価値観)」に異論を唱える人がいるだろうか? 第二の柱は、「同盟諸国やパートナーのネットワークと私たちの努力を一致させること(to align our efforts with our network of allies and partners)」である。これは一見、多くのアメリカの友人やパートナーと敵対することを喜んでいるように見えたトランプからの逸脱のように見えるが、70年以上のNATOの歴史の中で、同盟内で争いが常態化していたことを思い出すまでは、そうとは言えない。最後の柱は、この戦略では、アメリカは「私たちの利益を守り、将来のビジョンを構築するために、中国と責任を持って競争する(compete responsibly with [China] to defend our interests and build our vision for the future)」と述べている。これは、「戦略を持つことが戦略だ」と言っているようなものだ。

歴代の各政権では、大統領とスタッフの間の緊張があった。その緊張関係によって、立案された戦略が実際の政策に対しては、信頼性の低いガイドにしかならないこともあった。今回もその可能性がある。トランプの公的な場所での発言、特に西側世界の多くに衝撃を与えた2018年のフィンランドでのプーティンとの共同記者会見は、ロシアが「アメリカの価値と利益に反した世界を形成したいと考えている」と主張した2017年の戦略文書でトランプのスタッフが書いた内容とは全く対照的な内容となった。一方、バイデン自身のスタッフは、中国の侵略があった場合、アメリカの公式な政策ではない台湾を防衛するというシナリオにはない公約を受けて、現在4回も訂正している。新しい国家安全保障戦略では、台湾に関するスタッフの見解が優先されている。だからと言って、それで台湾に関する論争が解決したと考えることができる理由は存在しない

アメリカが直面している最も深刻な脅威について、トランプとバイデンの戦略はほぼ同じ診断をしているかもしれないが、これが共和党ではなく、民主党の大統領の戦略であることを示す指標はまだたくさんある。国連やあらゆる多国間機構に対する懐疑論(skepticism)ではなく、伝統的な温かさ(traditional warmth)がある。同様に、バイデンの戦略では、気候変動に20回、気候危機にも11回言及しているのに対し、トランプでは、気候政策よりもビジネスや投資環境についての言及が多く、気候に関する言及は1回にとどまっている。バイデンは既に3700億ドルの気候関連支出をアメリカ連邦議会に斡旋している。それでも、外交における気候外交の役割については、落胆が感じられる。バイデンの大統領就任直後に発表された暫定的な安全保障戦略では、ホワイトハウスは中国に対する厳しい表現と、「気候変動のような、私たちの国家の運命が絡み合う問題に対する中国政府の協力を歓迎する」構えとのバランスを取っていた。これとは対照的に、新しい戦略文書では中国の「大規模な石炭発電の使用と増強」に対して厳しい言葉が並んでいる。批評家たちが指摘するように、バイデンが就任するずっと前からこれは明白だった。

国家安全保障戦略の内容を深読みするのは危険である(It is perilous to read too much into any National Security Strategy)。その重要性は、アメリカの安全保障政策の基調を定め、その方向性を示すことにある。したがって、民主党政権が共和党の前任者の見解と完全に一致し、現政権の多くを占める前回の民主党ホワイトハウスの見解と大きく異なる診断を示した場合、アメリカの考え方が大きく変化したことを意味する。しかし、対立が寸前で止まると言われるアメリカの外交政策に党派性がなくなると思ったら大間違いである。冷戦時代を振り返れば分かるように、互いに認め合う脅威にどう対処するかという問題は、同じように分裂しかねないのである。

※デイヴィッド・アデセニック:民主政治体制防衛財団の上級研究員兼研究部長。ツイッターアカウント:@adesnik

(貼り付け終わり)

(終わり)

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
20211129sankeiad505

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 古村治彦です。

 私の勝手なイメージであるが、中国の最高指導部を引退した人物たちは長命な人が多いようだ。80代後半、90代、100歳でも元気に何か式典があれば出てくるように思われる。私が物心ついての中国の指導者と言えば、鄧小平だが、鄧小平も92歳まで生きた。今回は105歳になる宋平が出席しており話題となっている。
songpingatccp20thcongress511
宋平
hujintaoatccp20thpartycongress511
胡錦涛(真ん中)

 第20回中国共産党大会にも中央政治局常務委員を務めた「長老たち」が数多く出席した。「特別招待代表」という枠での出席ということだ。以下に新聞記事を貼り付ける。

(貼り付けはじめ)

党大会に江沢民氏らは不在 引退幹部の言動監視し、長老たちの影響力低下か

20221016 2031分 東京新聞

https://www.tokyo-np.co.jp/article/208515

 【北京=白山泉】16日開幕の中国共産党大会では胡錦濤(こきんとう)前総書記(79)ら元最高指導者らが「特別招待代表」として出席し、習近平(しゅうきんぺい)総書記(69)とともにひな壇席に並んだ。ただ、江沢民(こうたくみん)元総書記(96)や、改革派として庶民に人気がある朱鎔基(しゅようき)元首相(93)らの姿はなく、長老の影響力低下も印象づけた。

 江氏はたびたび重病説が流れているが、今年10月上旬には夫人と一緒に籐椅子とういすに座って誕生日を祝う写真がネット上に掲載された。15日に発表された、党大会の議事運営を取り仕切る計46人の「主席団常務委員会」には名を連ねている。

 長老とは、主に引退した最高指導部メンバーを指す。1976年に毛沢東(もうたくとう)が死去した後は、政策や指導部人事に影響を行使してきた。存命の長老は20人弱だが、大半は80歳以上と高齢だ。毛沢東への権力集中と個人崇拝が中国を大混乱に陥れた文化大革命(6676年)につながった反省から、習氏への権力集中には慎重な立場とされる。

 一方、習氏はこうした長老の介入を抑え込むため、反腐敗キャンペーンを推進。元政治局常務委員の周永康(しゅうえいこう)氏らが無期懲役の判決を受け服役中のほか、江氏率いる「上海閥」の有力者や胡氏側近の排除を繰り返し長老に圧力を加えてきた。

 最近は共産党の引退幹部らの言動に対する監視も強めている。共産党機関紙・人民日報は今年5月、引退幹部に党の規律を厳守するよう通知したと報じた。党の人事責任者は「党の方針について勝手な発言をしたり、政治的にマイナスな言論を広げてはならない」などと警告。海外への渡航手続きも厳格化している。

(貼り付け終わり)

 こうした長老たちに注目が集まるのは何か大きなことが起きている時だ。1989年の天安門事件で趙紫陽総書記が失脚することになったが、この時も8名の長老たちが集まって、事態収拾にあたった。習近平が3期目も続投するということについて、党長老たちは批判的だと言われているが、党大会に出席しているということはこの路線をある程度受け入れているということになるのだろう。96歳の江沢民元国家主席、93歳の朱鎔基元首相の第3世代の上海閥コンビは党大会を欠席したことで、「無言の抗議ではないか」という憶測が出ている。96歳と93歳であれば健康問題が本当のところだろうというのが私の考えだが、中国共産党は革命戦争を戦い抜き、情報戦に勝つための秘密主義を守っているので、最高指導部層の情報はほぼ出てこないし、ニューズになる場合には党中央の意向を反映した形になる。また、長老たちには影響力が残っているとは言っても、鄧小平のように実権はない。鄧小平は亡くなる数年前まで中国国家中央軍事委員会主席の座からは降りなかった。鄧小平の実権の裏付けは人民解放軍であった。しかし、現在の長老たちにはそのような実権はないし、後ろ盾となる力もない。そのように考えると、江沢民と朱鎔基の欠席は健康問題なのだろうと思われる。

 長老たちが会議の最前列に座ってボーとした姿を見せるのは、習近平体制の正統性を担保するということだ。党の分裂や内部闘争をしている時ではない、という時に長老たちへの注目が集まる。習近平3期目について、3期目に続投することが非常事態ということではなくて、習近平が3期目も続投しなければならない世界情勢、第三次世界大戦一歩前という状況が非常事態であり、「習近平しかこの状況を乗り切れない、だからまとまらねばならない」ということを長老たちの姿は語っているということになる。
partyeldersatccp20thpartycongress511
党長老たちが最前列に座る

(貼り付けはじめ)

習近平に挑戦するかもしれない中国共産党の長老たち(The Party Elders Who May Challenge Xi

-後継者問題が常に中国共産党のアキレス腱である。

メリンダ・リウ筆

2022年10月13日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/10/13/china-xi-jinping-succession-ccp-party-congress-elders/

かつて彼らは「八仙(八大長老、Eight Immortals)」と呼ばれた。彼らは中国共産党の長老たちで、裏で政治的影響力を行使していた人たちだ。1989年春、街頭デモと党内権力闘争に苦しむ鄧小平は、派閥化した指導部をまとめ、感情的になった国民を落ち着かせるため、7人の引退した高官を呼び寄せた。そして、デモ隊に同調した鄧小平の後継者である趙紫陽を粛清し、兵士には民間人への発砲を命じた。当時、中国のテレビを見ていた私は、外国メディアや外交官たちの中に混じって、表舞台から消えて久しい老革命家たちが、突然、全国放送で再び脚光を浴びることになったことを信じられない思いで一杯だった。一緒にいた西側諸国からの記者は「『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド(Night of the Living Dead)』を見ているようだ」とつぶやいた。

習近平が直面している課題は、1989年の天安門事件(1989 Tiananmen crisis)の流血とは全く異なる。しかし、古い習慣はなかなか消えない。1989年の事件は、後継者問題が中国共産党のアキレス腱であり、扱いを誤れば、最も尊敬されている指導者の評判さえも傷つけかねないことを改めて証明した。

中国の政治活動が混乱し、特に個人的な変化が起きる場合、これまで、党の長老たちが多くの場合に再登板してきた。習近平が2012年に中国共産党総書記に就任するや否や、電光石火のスピードで権力固めに動き、習近平は引退した老兵を視界から消し、闇に葬ろうと必死になっている。そのために、中国共産党はこの春、より厳格な新指針を発表した。この指針は、党の幹部たちに対して、トップレヴェルの政策議論について沈黙し、政治的に否定的な発言を避け、影響力の行使を控え、「違法な社会組織の活動(the activities of illegal social organizations)」を避け、何よりも「あらゆる誤った考え方に断固反対し抵抗する(resolutely oppose and resist all kinds of wrongful thinking)」ことを求めた。

中国の現在の政治的緊張は10月16日に開幕する第20回中国共産党大会の間に解消されるだろうと予測する人がいる。しかし、それは間違いだ。党大会は1つの問題を解決するかもしれないが、それ以上に多くの問題を引き起こすことになるだろう。習近平は中国共産党の指導者として3期目を務めると広く予想されており、1989年に鄧小平の遺産を曖昧にし、機能不全の意思決定を防ぐために採用された数十年の慣習を一部覆すことになる。習近平は3期目の任期を延長するため、あるいは終身在任の可能性もあるため、論争を呼び、政治的資本(人々からの信認や支持)をリスクに晒すという事実は、彼が政治的頭痛の種というパンドラの箱を開けていることを意味する。

ジュード・ブランシェットとエヴァン・S・メディロスは国際戦略研究所(International Institute for Strategic StudiesIISS)の機関誌『サヴァイヴァル:グローバル・ポリティクス・アンド・ストラテジー』の記事で、「第20回中国共産党大会は、これまでの政治的継承のパターンとは大きく異なるものになるだろう」と書いている。彼らは続けて次のように書いている。「習近平の次の任期は、エリート政治の新しい規範を確立する上で決定的なものになるかもしれない」。習近平は「中央の意思決定の主導権を政府官僚から奪い取った」のであり、政権存続への懸念が高まる中で、次の5年間は「国際的な非難を顧みない厳しい措置」に対するリスク許容度が高くなるだろう。その代表例は、習近平が独自に進める、評判の良くない「ゼロ新型コロナウイルス」への固執だ。

習近平が徹底して冷酷に批判者を弾圧するため、公に反対意見を述べることは極めて稀であるが、知られていない訳ではない。10月13日、北京では、大学のキャンパスが集中する海淀区に、驚くべき2つの抗議横断幕が現れた。高速道路の高架橋に掲げられた横断幕は次のように宣言していた。「新型コロナウイルステストにノーと言え、食べ物にイエスと言え。監禁はダメ、自由を。嘘にノー、尊厳にイエス。文化大革命はノー、改革はイエス。偉大な指導者にノー、投票にイエス。奴隷になるな、市民であれ」。もう1つの横断幕にはこう書かれていた。「独裁者で国賊の習近平を追い出せ」。当時記録された写真や映像では、陸橋の上で煙が上がり、音声が録音されているように見えた。横断幕に関するコメントは、警戒する検閲官によってソーシャルメディアからすぐに削除された。一部の人々は、『孤勇者(Lonely Warrior)』というタイトルの中国の歌を共有することで、抗議者(または複数の抗議者)への支持を間接的に示した。

習近平は少なくとも10年前から野心的な権力闘争の下地づくりを始めていた。同時に、習近平の父、習仲勲は有名な党の長老であったため、習近平は早くから党の先輩たち(old guards)に対する理解を深めていたようだ。2015年には早くも、習近平は古い世代からの干渉を望まないことを明らかにした。『人民日報』紙は、江沢民元国家主席を狙ったとみられるヴェイルに包まれた警告で、引退した指導者たちに「人が去るとお茶が冷める(once people leave, the tea cools down)」と助言し、引退した身分に「メンタリティを合わせる(adjust their mentality)」よう促したのである。

それ以来、習近平にはライヴァルを排除し、足を引っ張る仲間を排除する時間がたっぷりあった。習近平が権威を確立するための主な手段は、多くの高官を捕らえた執拗な反腐敗キャンペーン(anti-corruption campaign)だ。習近平の1期目には、全権を握る政治局常務委員会の元メンバー1人と、数十人の小役人や将軍が、リスクの高い反腐敗弾圧の一環として、接待係に取り押さえられた。ブランシェットとメディロスは、この取り締まりは「どう考えても壮大な規模だった」と書いている。

この捜査網(dragnet)は、軍事、治安、諜報部門の重要人物も陥れた。2017年、イスラム教徒が多い新疆ウイグル自治区での強引な政策を撤回するよう北京に提案した後、軍の高官だった劉亜洲は公の場から姿を消し、中国のソーシャルメディアや亡命した元党幹部の蔡霞によると、彼の自宅は家宅捜索された。劉の義父は元八仙の1人である故李先念元国家主席だ。

9月下旬にも、警察幹部の孫力軍が、「複数の重要部門を掌握するための陰謀(cabal to take control over several key departments)」を企て、「邪悪な政治的資質(“evil political qualities)」を持っていたとして、汚職の容疑で起訴され、執行猶予付きの死刑判決を受けた。複数の中国メディアの報道によると、彼の主な罪は江沢民(現在96歳)と結びついた徒党に参加したことだということだ。

江沢民は1989年から2002年まで中国共産党総書記を務め、2004年まで党の強力な機関である中央軍事委員会主席に留まり、権力にしがみついたと見られている。江沢民は中国政治におけるいわゆる「上海閥(Shanghai clique)」のボスとみなされ、中国の引退した最高指導部経験者の中で最も影響力があると考えられるが、体調不良に悩まされているという噂がある。同様に、ぶっきらぼうではあるが広く尊敬されている朱鎔基元首相(93歳)も体調不良と伝えられている。朱鎔基の健康問題は、一部の中国アナリストが、朱鎔基は、習近平の経済的に悲惨で孤立主義的な反新型コロナウイルス政策に愕然としていると主張するのを止めてはいない。匿名希望のある中国側関係者は、「朱鎔基は多くの人が彼に期待を寄せ、適切なタイミングで発言することを期待していることを承知している」と述べている。

しかし、中国共産党の長老たちは、習近平時代になっても糸を引いているのだろうか? 1989年の「八仙」はもういない。当時、鄧小平の後継者である趙紫陽が既に中国共産党総書記になっており、趙が粛清されるまでは、この8人に鄧小平が含まれていた。鄧小平は1997年に死去した。彼らのあだ名は、中国の伝説に登場する超能力を持つ8人の道教の人物を連想させしばらくは定着していた。しかし、習近平政権は、この「8仙」を、党を引退してまだ生きている8人の幹部と呼ぶようになった。現在、習近平が徹底的に政敵を無力化したおかげで、習近平と同世代の潜在的な挑戦者のほとんどは、協力するか、臆病になるか、黙り込むか、牢獄に入れられるかしている。

この事実は、今年105歳になる党の長老である宋平がニューズに出てから、最近飛び交い始めた荒唐無稽な噂の説明に役立つ。9月、宋は慈善基金で演説する姿をビデオに収め、「改革開放(reform and opening up)」について曖昧なことを述べたという。中国のソーシャルメディアは別次元の盛り上がりに突入した。クーデターの噂も流れた。インターネット検閲は、宋の発言に関する報道をサイバースペースから削除しようと躍起になった。宋が発した言葉は、まったく無害なもの、あるいは習近平自身が過去に使ったものであったのならば、気にすることはないはずだ。

宋平は、リスクを冒すような行動派とは見なされていない。彼は保守的と見られており、1989年の八仙には選ばれなかった。なぜなら、彼は当時、党の重要な中央組織部部長という重要な職に就いていたからだ。天安門事件に共鳴した中国共産党員を除名することを発表したのも彼だった。

しかし、宋平の突然の再登場に注目する理由は1つある。宋は三代にわたる政治家であり、健康状態も良好で、20人ほどの党の要である政治局常務委員会の元メンバーの中で最も影響力のある人物である。しかも、中国政治における「中国共産主義青年団派(tuanpaiYouth League faction)」に属する人物だ。中国共産主義青年団は14歳から28歳までの若者の育成を目的とする(10歳代は「少年先鋒(Young Pioneers)」と呼ばれ、赤いハンカチをつけているのがよく見られる)。青年団は、中国の貧しい内陸部の開発を促進し、所得格差に対処しようとすることが多い。上海閥の本拠地である豊かで華やかな東海岸と対照的である。宋は、辺鄙で荒れた甘粛省で出世し、青年団の有力者である胡錦涛元国家主席(宋が鄧に推薦したことでトップへの道筋に乗った可能性がある)と温家宝元首相を指導していた。

習近平時代に共青団派は繁栄していない。首相である李克強は共青団出身と見られているが、習近平が執拗に権力を蓄積し、習近平を頂点とする指導層を確立したため、李の地位と影響力は低下した。習は「万物の主席(chairman of everything)」と呼ばれるようになった。共産主義青年団は官僚的な影響力を失い、主要人物は降格や粛清されている。習近平は共青団幹部を「官僚的でステレオタイプな話ばかりしている」と批判したこともある。李の権限は切り捨てられただけでなく、党の長老と気軽に会うことさえ禁じられたという根拠のない報道もある。

「引退した指導部出身の長老は、習近平を除く最高幹部たちと交際してはいけないことになっている。これは何年も前からそうだった」と、多くの政府高官を知る中国のある情報源は言う。このような背景から、宋平の再登場は、彼の発言ではなく、彼が姿を見せたという事実が、党の共産主義青年団支持者たちが、来るべき人事異動の際に、彼らの候補者をもっと昇進させるよう水面下で働きかけているとの憶測を呼んだのだ。党大会期間中に人事異動が行われる予定だが、政権交代は来年3月の全国人民代表大会(National People’s Congress)で承認される予定だ。

多くのことが危うい。政治局常務委員7名のうち少なくとも2名(習近平を除く)が引退し、政治局委員25名の半数近くが引退すると予想される(現在の年齢基準がそのまま適用されると仮定した場合)。また、中国の最も高位の外交官2名も引退する予定である。そして、李克強は首相を退任する予定であり、その後任が誰になるかが注目される。

習近平は中国政治を未知の領域へと導いている。鄧小平以降の政治に一定の予測可能性をもたらしてきた、任期制限(term limits)やその他の規範を投げ捨てたことで、多くの敵を作ってしまった。逆説的ではあるが、後継者選びを難しくしているのも事実である。ブランシェットとメディロスは、習近平が「明確で信頼できる後継者(clear and credible successor)を指名し、明確で信頼できる権力移譲のスケジュール(clear and credible timeline for the transfer of power)を確立するまで、「後継者に関する不安(succession uncertainty)」の時期が終わらないと予測している。

それは簡単なことではないだろう。シドニーに拠点を置くローウィー研究所のアナリストで、中国共産党の内部構造を解説した『中国共産党:支配者たちの秘密の世界(The Party: The Secret World of China's Communist Rulers)』の著者であるリチャード・マクレガーは次のように述べている。「最も危険なものの1つは、習近平が指名した後継者だ。人々は習近平を攻撃することはできないが、習近平が後継者として推す人物に対しては列をなして攻撃することができる」。

昔なら、中国の最高指導者は党の長老たちに頼み込んで、このような政治的な駆け引きや派閥争いを乗り切った。しかし、現在では、習近平を支持するよりも、習近平を疎ましく思ったり、習近平に怒りを感じたりする人の方が多い。一方、新たに引退する幹部たちが出ることで、新たな党長老を生み出すことになる。古い「仙人」たちのような革命的な資格を欠いていたとしても、新しい長老たちは後輩たちよりも政治に精通し、反撃のエネルギーを持っている可能性がある。中国のことわざには「熟成した生姜はより辛い」というものがある。在任中、解雇や粛清を恐れて、現在の政策を批判するのを思いとどまった人たちもいただろう。引退によって、失うものは何もないと納得する人もいるかもしれない。

※メリンダ・リウ:北京を拠点とする外交政策コメンテイター。『ニューズウィーク』誌北京支局長、共著に『北京の春(Beijing Spring)』がある。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
20211129sankeiad505

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 古村治彦です。

 米中関係は緊張をはらんだものとなっている。特に今年8月下旬にナンシー・ペロシ米連邦下院議長がアジア歴訪の一環で台湾を訪問し、蔡英文相当と会談を持ったことで、中国が反発し、台湾海峡周辺で軍事演習を行った。ウクライナ戦争勃発後、「次は台湾だ(中国が台湾に侵攻する)」という根拠の薄いスローガンもあり、米中間の緊張は高まった。

 アメリカも中国も直接ぶつかって戦闘状態に入る、もしくは大規模な戦争状態に入ることは望んでいない。そんなことになれば世界の成長のエンジンであるアジアに大きな青く影響が出る。その悪影響はウクライナ戦争の比ではない。しかし、「ウクライナの次は台湾だ」「アメリカに協力して日本は中国と戦うべきだ」という空虚ではあるがお勇ましいスローガンを発して、戦争の危機を煽る勢力が世界各国にいる。 日本国内には、「第三次世界大戦の到来を待ち望んでいる」かのように、安全保障に関する話題やテーマを弄ぶ現役の政治家たちが一定数いる。こうした政治家たちの多くは、暗殺された安倍晋三元首相の「遺志」である「日本の核武装」「国民皆兵(徴兵制)」実現を訴えている場合が多い。アメリカが日本の核武装を許すかどうか、少し考えてみれば分かることだ。故安倍元首相を祀り上げる勢力は親米ではあるが、いつ反米に転換するか分からない。なぜなら、彼らは「太平洋戦争で日本は悪くなかった」「日本が太平洋戦争を起こすことでアジア各国の独立が早まった」という歴史修正主義を標榜し、靖国神社・遊就館史観を後生大事に唱えているからだ。これはアメリカにしてみれば全く受け入れられないし、「極東軍事裁判の判決を否定するのですね」ということになる。そうなれば、日本は「敵国」となる。そんな一枚めくれば危うい状況で、日本に核兵器やミサイルの保有を許すことはない。日本の技術力ならば短期間で、アメリカに届く破壊力の大きい核兵器を搭載したミサイルを開発することが出来るのだから。

 話を元に戻すと、バイデン大統領と習近平国家主席の個人的な意思だけでは外交政策は決まらない。中国は独裁体制だが、何でもかんでも習近平が決める訳ではない。アメリカは連邦議会もあり、国務省もあり、ホワイトハウスの中に国家安全保障会議があり、多くのスタッフがいる。そうした人々の影響を受けることになる。国家安全保障会議でアジア太平洋政策を統括するインド太平洋担当調整官カート・キャンベルを始め、中国に対してタカ派的な姿勢を示す政府高官が多い。こうした勢力の声が大きく成れば、バイデンとしても妥協は難しいし、中国の習近平としても、妥協や低姿勢を続けることはできない。そうなれば、緊張関係は高まっていく。

 米中間が緊張をはらむものというのはアジア、太平洋、インド洋といった広範な地域を不安定化させる。これは多くの人々が肯定すると思う。従って、緊張関係を促すような声が大きくなる時にはそれを抑制するというバランスの取り方が重要だ。このバランスが崩れた時に大きな厄災が襲ってくる。

(貼り付けはじめ)

バイデン・習近平のトップ会談でも米中関係の悪化に歯止めをかけられない(Biden-Xi Meeting Unlikely to Halt U.S.-Chinese Slide

-妥協は段々と難しくなりつつある。特に台湾をめぐってはそうだ。

ジェイムズ・クラブトゥリー筆

2022年8月25日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/08/25/biden-xi-pelosi-us-china-taiwan-meeting-g20-summit-indonesia-geopolitics/

ジョー・バイデン米大統領と習近平中国国家主席は仕事をしなければならない。ナンシー・ペロシ米連邦下院議長の台湾訪問とその後の中国の軍事的反応を受け、米中間の二国間関係はここ数十年で最悪の状態にある。バイデンと習近平は、2022年11月にインドネシアで開催されるG20サミットで直接会談する可能性があると考えられている。もし、3カ月後に両者が会談するとしたら、両者は現在事態の収拾について考えているはずである。しかし、そのためには、なぜ台湾の情勢がこれほどまでに不安定なのかを明確に分析し、上からの介入なしには情勢が悪化する可能性が高いことを認識する必要がある。

バイデン大統領は就任以来、習近平と4回、電話やヴィデオを通じて会談している。米中関係が着実に悪化しているにもかかわらず、この2回の通話は実に生産的であった。バイデンは、新たな大国間競争(superpower competition)の時代に向けて「ガードレール(guardrails)」を確立する必要性についてしばしば語っている。一方、習近平は、既存のアジアの地域秩序(regional order)を覆す長期的な目標を抱いている。また、台湾をめぐる中国のレッドライン(red lines)についても、一貫して警告を発している。中国外務省は2022年7月の最後の電話会談での習近平の発言から「火を弄(もてあそ)ぶ者は火によって罰せられることになる」という言葉を引用し、台湾の独立に対する中国の懸念に言及した。しかし、少なくとも短期的には、習近平はアメリカとの関係において安定性と継続性を志向しているようにも見える。

バイデンと習近平の友好的な関係の記録から、両首脳は少なくとも一時的にでも関係悪化に歯止めをかけることができる可能性を示唆している。しかし、そのような期待は、2つの理由から大きく裏切られることになる。

第一に、今回の危機から両者が得た教訓である。簡単に言えば、北京とワシントンの双方は、ペロシの台湾訪問からそれなりに良い結果を得たと考えているのだろう。これでは、今後、妥協したり、同じことを繰り返さないようにしたりするインセンティヴが働かない。

中国には喜ぶべき理由がある。基本的に、北京は戦争によらない手段で、時間をかけて台湾を奪還することを目的としている。しかし、アメリカの無謀な干渉に乗せられて、台湾が正式な独立に向かうことを恐れている。しかし、アメリカの無謀な干渉に乗せられて、台湾が正式に独立するような事態になれば、少なくとも現時点では避けたい戦争に発展する可能性がある。このようなシナリオを避けるためにも、北京はペロシの台湾訪問のような動きに対して極度の不快感を示す必要があると感じている。

しかし、ここ数週間、北京は、初めて弾道ミサイルを台湾の上空に発射するなど、他の重要な目標を達成した。また、今回の軍事演習は、人民解放軍の多くの部門による共同作戦、すなわち将来の封鎖の予行演習を行うという貴重な機会を提供した。その結果、台湾海峡を挟んだ軍事的な現状は、永久に北京に有利に変化する可能性が高い。

重要なことは、中国が地域の多くの国々を味方につけながら、このようなことをやってのけたことである。この危機が勃発した頃、オーストラリアのペニー・ウォン外相は、合理的な国家はミサイルの乱射によって国際紛争を解決することを支持すべきではないとの声明を発表した。その内容は「オーストラリアは、中国が台湾沿岸の海域に弾道ミサイルを発射したことを深く憂慮している。これらの演習は不釣り合いであり、不安定化させるものだ」というものだ。しかし、少なくとも東南アジアの多くは、今回の危機の責任は北京ではなくアメリカにあると考え、ペロシの訪問は不必要な挑発行為であると見ている。

アメリカは、ペロシの台湾訪問をめぐるアジアでの広報戦に負ける危険性があることを、少なくとも認識しているようだ。米国家安全保障会議(the U.S. National Security Council)のカート・キャンベル・インド太平洋担当調整官(Indo-Pacific coordinator)は、2022年8月12日金曜日の午後、異例のオフレコで記者会見を行い、ウォンの批判を事実上繰り返した。「中国の行動は、平和と安定という目標とは根本的に相反するものだ。この作戦の目的は明確で、台湾に対して威嚇し、強要し、その回復力を弱めることだ」と示唆した。

それでも、アメリカには最近の出来事に満足する理由が他にもある。どう考えても、バイデンはペロシの訪台を望んでいなかった。しかし、ペロシが行くことが明らかになると、北京の圧力を前にしても、アメリカは引き下がらなかった。その結果、アメリカは、1997年に当時のニュート・ギングリッチ連邦下院議長が行ったように、米連邦下院議長の訪台を認めるべきという方針を再び確立した。より一般的には、ここ数週間の出来事は、アメリカがオーストラリア、日本、インドといった地域のパートナーに対して、台湾有事のために真剣に計画を立てる必要性を印象付けるのに役立っただろう。

バイデンと習近平が2022年11月の会談で何らかの安定を図るためには、双方の相対的な成功という認識を克服することが第一の関門となるだろう。第二の関門は、どちらかと言えばより複雑なものだ。中国もアメリカも、台湾をめぐる現状を支持すると言っている。しかし、実際には、中国、アメリカ、台湾の三者が何らかの形でその現状を損なっている。

中国は明らかに根本的な事実を変更しようとしている。数十年にわたり軍備増強を行い、必要なら武力で島を奪還できる軍事力を作り上げている。中国はグレーゾーンの軍事戦術と経済的威圧で台湾に対して執拗に圧力をかけている。北京が最近発表した「台湾問題と新時代の中国統一」に関する白書では、台湾に中国軍を駐留させないなど、統一中国における台湾の将来の位置づけに関するこれまでの安心感を取り除く内容になっている。

台湾の国内政治も現状を維持できない方向に進んでいる。各種世論調査によれば、バイデン・習近平会談が予定されている11月26日に行われる台湾の国政選挙では、蔡英文総統率いる民進党(Democratic Progressive Party)が勝利し、北京との関係強化を望む野党国民党(Kuomintang party)が再び敗北することが予想されている。中国の軍事演習後に行われたある世論調査では、台湾国民の5割が独立に賛成しており、台湾国民の独立志向は高まっているようだ。このようなデータは、北京に極度の警戒心を抱かせるだろう。

一方、バイデンは、北京から「サラミ・スライシング(salami-slicing 訳者註:情報や条件を小出しにして時間稼ぎをしたり、相手から譲歩を引き出したりする手法)」と非難されても、ワシントンの「一つの中国(One China)」政策を変えるつもりはないことを強調するのに必死だ。この点については、バイデンのティームも誠実だ。しかし、アメリカのエリートや連邦議会が、台湾を含めて北京に対してより厳しい態度を採る方向に動いており、現状を支える基盤が実際に変化していることは十分に明らかである。

より複雑なことには、様々な危機的状況が現状を更に悪化させる可能性がある。台北には、より多くのハイレヴェルなアメリカからの訪問者が訪れることだろう。2022年11月の中間選挙で共和党が連邦下院を奪還した場合、世論調査の通り、別の米連邦下院議長の訪問が容易に想像される。アメリカはまた、台湾を「主要な非NATO同盟国」のカテゴリーに引き上げ、台湾への武器売却を増加させる超党派の新台湾政策法案を間もなく可決する可能性もある。更に2024年の米大統領選に向けて、共和党の候補者が台湾に対して強硬な姿勢を示す可能性がある。

これらの要素を総合すると、バイデンも習近平も妥協することは難しいということになる。どちらのリーダーも弱腰になる訳にはいかない。2022年11月中旬のG20は、バイデンにとって中間選挙での敗北が痛手となった直後に開催され、バイデンは国内の支持を回復する方法を模索することになる。習近平は、ここ数カ月に習近平ティームが打ち出したような厳しい言葉を撤回することはないだろう。中国の魏鳳和国防相は6月にシンガポールで開かれたシャングリラ・サミットで「歴史の歯車は回っており、誰も中国の統一への道を止めることはできない。もし対立を望むなら、私たちは最後まで戦うだろう」と述べた。

そのような事態を避けるためには、信頼(trust)と妥協(compromise)が必要だが、どちらも危ういほど不足している。台湾をめぐって長期的な安定を得るには、バイデンと習近平が崩れかけた現状を補強するだけでなく、それを再構築することが現実的に必要であるが、現状ではほとんど不可能に見える。より現実的な問題は、両首脳に、少なくとも一時的にでも緊張を緩和させるために、双方の強硬論の主張(hard-line voices)を指導する政治的意志と権限があるかどうかである。そうでなければ、ペロシ訪台をめぐる危機を予見したに過ぎない、より重大な対立への転落は続くと思われる。

※ジェイムズ・クラブトゥリー:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト、アジア国際戦略研究所上級部長。著書に『億万長者による支配:インドの新しい黄金時代を通じての旅路(The Billionaire Raj: A Journey Through India’s New Gilded Age)』がある。ツイッターアカウント:@jamescrabtree
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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 今回は、副島隆彦先生の最新刊『金融暴落は続く。今すぐ金を買いなさい』(祥伝社)をご紹介します。発売日は2022年11月1日です。
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金融暴落は続く。今すぐ金を買いなさい

 以下に、まえがき、目次、あとがきを掲載します。参考にしていただき、手に取ってお読みください。

(貼り付けはじめ)

まえがき

 この本で書く一番大事なことは、以下の事実である。

 実は金(きん)の価格が、世界値段では、ものすごく値上がりしているという事実である。金は、実はロシアをはじめBRICs(ブリツクス)諸国では、1オ(ウ)ンス( once 31・1グラム)で、2700ドルである。これの日本円での価格は、ちょうど1グラム=1・2万円である。金はもう1グラム=1万円を超えているのだ。

 ところが、私たちが今、日本国内で金(きん)を買おうとすると、1グラム=8600円ぐらい(田中貴金属の小売値段)である。安い。100グラムの金の小さな板だったら86万円である。1グラムあたり、世界値段と3400円の差が出ている。

 いったい何が起きているのか。

 ただし私が「世界値段」と書いたのは、ロシア政府が6月に、「金1グラムを、=5000ロシアルーブルとする」と決めて固定したからである。この固定値段を、フィックスト・プライス fixed price と言う。ロシア中央銀行は、世界に向かって、金の地金(じがね)を持参した人にこの値段で買い取ると発表した。だから前述したように、日本円なら1グラムを1万2000円なのである。現在「1ルーブル=2・4円」である(図表を参照)

 だが日本人は、1キロの金の延()べ板(いた)を(自分の)ポケットに入れて、モスクワに飛行機で飛んでいくわけには、そう簡単にはいかない。

 今、日本の金券ショップ(古物商の認可だけ)では、金(きん)1グラム=8460円とかで買い取っている。いわゆるバッタ屋と呼ばれる「おたからや」や「大(だい)(こく)()」のような業者が、どんどん金を買い取っている。それらの金(きん)は、いったいどこに行くのか。興味津々(しんしん)である。

 まさか日本の暴力団とロシアのマフィアが組んで、北海道の漁民たちの漁船で、いつもはタラバガニやシャケやウニを、半分非合法で買い取っている、その船でロシアに金の地金(ゴールド・インゴット)を持ち出しているか分からない(笑)。

 このように金の値段はどんどん上がっている。アメリカは、自分のドル体制とドル紙幣を守りたいから、憎(にく)き金の価格をニューヨークやシカゴでたたき落している。貴金属の先物(さきもの)の市場で、金ETF(イーティーエフ)という仕掛けを使って、たたき落している。政府自(みずか)ら、こんなみっともないことをしている。

 アメリカ政府(NY連邦銀行が係)は、公表している8300トンの金を、もうほとんど持っていない。すっからかんなのだ。だから金が憎らしくて憎らしくて仕方がない。

だから、この本の読者になってくれる皆さんは、金の価格は、これからもっと2倍、3倍になってゆくのだという私の考え(近未来への予言)を信じてください。

 この本の第1章から、このことをガンガン書いていきます。

 ここまで書いたとおり、金(きん)は次第に世界値段のほうに近寄ってゆく。だから、日本国内でも1グラム=1万2000円になる。わざわざ金の延()べ板(いた)を、暴力団に頼んでロシアに持ち出さなくても(笑)、手持ちの金を黙ってじっと持っていればいいのである。

 だから、まだ金(きん)を買ったことのない人は、今からでもいいから金を買いなさい。あなたの旧(ふる)くからの友だちで、金を1グラム2000円とか、3000円で買った人たちを妬(ねた)んでばかりいないで。決心して買いなさい。もうすぐ買えなくなる。だから私はこの本の表紙に、表題(タイトル)に「今こそ金を買いなさい」と打ち込んだ。

 すでに金(きん)を買ってたくさん持っている人たちは、新たな金融制度の大変動(新円切り替えのリデノミネーション)が起きたときに、さらに金の値段も上がるのだが、そのときどのように売るかは前の本で書いた。「それは何ですか、教えてください」という人は勉強が足りない。人が儲かったことを妬(ねた)んで羨(うらや)んで嫉妬(しっと)してばかりいないで、自分で動きなさい。

副島隆彦

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目次

まえがき

1章 金は〝世界値段〟に近づいてゆく

● 金の世界値段は1グラム=1万2000円

● 値段の格差を、どう埋めてゆくか

● 米政策金利はどこまで上げられるのか

● 金利の上げ下げは政府の武器

● 危険な相場と国家自身が張る金融バクチ

● アメリカに迫り来るバブル崩壊

● 危険な債券市場に手を出すな

● 債権()と債券()の違い

● 年金が半分に減らされる!?

● 本当の円とドルの力を「購買力平価」で見る

● 中国人が日本のワンルームマンションを買う理由

● 私たちは、生きてゆく

2章 金融暴落は続く

● 連鎖する大暴落

● 自分で自分に借金をしている

● 2023年末、NY発の大恐慌突入

● ウクライナ開戦と同時期の金融緩和

● 〝日本売りの仕掛人〟は、なぜ負けたのか

● なぜ円安が進んだのか

● ミセス・ワタナベの勝利

● リーマン・ショックの再来

● ドルペグ制の仕組み

● 英ポンドを暴落させたジョージ・ソロス

● 米国債の秘密

● 中国が米国債を売れば、アメリカの金融市場は崩壊する

● 米国債を売らせない法律とは

3章 世界恐慌突入は2024年

● 世界経済体制が変更される

● アメリカを襲う不動産バブル

● ノンバンクがふたたび暴れる

14年前、リーマンは人身御供にされた

● 資本主義の原理を政治力でゆがめた

● 2024年、大恐慌突入の序曲

● 日本の不動産を買う中国人や韓国人たち

4章 賢く金を買う

● 金の値段をどう読むか

● 金の売り方と金券ショップ

● 金券ショップが買い集めた金は、どこへ行くのか

● 自分の金は倉庫業者に預けなさい

● なぜパラジウムは値上がりするのか

● プラチナの可能性

● ソフトバンク、5兆円赤字決算の原因

●「アリババへの投資を5分で決めた」は本当か

● QRコードで成長するPayay

● 新生銀行買収と北尾吉孝

● テレビ朝日買収騒動と孫正義の黒幕

●「評価」と「再評価」は違う

5章 資源〝貧乏〟大国が台頭する

● 仮想通貨を買ってはいけない

● ロシアルーブルは強い

● 金本位制が復活する

●「8515」の時代

● 人民元がルーブルと結合した

● SWIFTからCIPSへ

附章 安倍晋三暗殺の真実

● 統一教会への組織解散命令

● カルトとは何か

● 副島隆彦も命を狙われた

●〝安倍処分〟を世界最高度で決定した者たちの実名

あとがき

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あとがき

 この本を書き終えて、つくづく思う。

 私は、この「エコノ・グローバリスト・シリーズ」25冊を毎年1冊、1998年から書いて出版し続けてきた。

 四半世紀が経()って、まさしくエコノ・グローバリスト econo-globalists たち、すなわち「経済面の地球支配者」たちが滅びつつある。彼らの現在の通称(つうしょう)は、 the Deep State(ザ・ディープステイト) である。

 際限なく(リミツトレス)刷って世界中に垂れ流したドル紙幣が、およそ100兆ドル(1・4京[けい]円)ある。それと貸借(たいしゃく)を取っている米国債の無制限の大増刷が、もはやこれ以上は許されない時代になりつつある。

 なぜならロシアのプーチン大統領が、今年の4月から、ロシア産天然ガスはルーブル通貨でしか売らない、と宣言した。それと同じくして、金(きん)を固定価格(フイツクスド・プライス)にして、「金1グラム=5000ルーブルでロシア中央銀行が買い取る」とした。これで実物資産(タンジブル・アセット)に裏打ちされたお金しか通用しなくなる。

 欧米白人文明のG7(ジーセブン)体制に対決して、中国とロシアを先頭にした非白人の貧乏〝資源〟大国による〝新興国(ニユー)G8〟の連合が出来上がりつつある。「15(欧米):85(その他)」の世界である。

 このことを本書でずっと説明した。

 本書も祥伝社(を定年退職した)岡部康彦氏と、熱海の寓居(ぐうきよ)で寝泊まりして完成させた。記して感謝します。

 私たちは四半世紀、幾山河(いくさんが)を渡ってここまで来た。私は自分の命が尽きるときまで、このシリーズを書き続ける。

2022年11月

副島隆彦

(貼り付け終わり)

(終わり)

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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 ウクライナ戦争についてその原因と責任について議論されることがある。その際に注意にしたいのは「時間の長さ」と「考えるもしくは分析するレヴェル」だ。キエフ・ルーシ、モスクワ・ルーシと呼ばれていた時代から考え始めるのか、20世紀から考え始めるのか、それもソヴィエト連邦成立(1917年)から考えるか、それとも、ソヴィエト連邦崩壊(1991年)から考えるのか、2022年2月23日から24日にかけての48時間で考えるのか、だいぶ異なった主張が出てくるだろう。どの時間軸を取るかということだ。

 そして、「分析レヴェル」だ。3つの分析レヴェルというのは、国際関係論の泰斗ケネス・ウォルツが『人間・国家・戦争』という著書の中で示した考え方だ。また、外交政策分析においても個人レヴェル、国内レヴェル、国際システムレヴェルで分析することが出来る。こうした手法を用いると、色々な説明ができる。

個人レヴェルで言えば、ロシアのウラジミール・プーティン大統領やウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領、更には欧米諸国の指導者たちに焦点を当てて、彼の経歴や権力掌握後からこれまでの行動を心理学的、社会学的な手法を用いて分析するということができる。国内レヴェルで言えば、国内の政治体制やどのようなアクター(政治家や政党、団体など)がどのような活動を行っているか、力を持っているかということを分析して説明することができる。国際システムレヴェルは国際関係論のリアリズムとリベラリズムという理論を用いて分析するということになる。

社会における現象の多くは単一の原因で起きることはない。複数、しかもかなり多くの原因で起きる。それら様々な原因の与える影響の度合い、強さ、大きさは異なる。例えば、ある植物(小学校の時に朝顔の観察日記を奴休みの宿題でやった人は多いだろう)の種を地面に埋めてそこから芽が出る、という現象について考えてみると、その原因は多くある。気温、湿度、日光、肥料(その中にもいろいろな成分ある)、水など素人が考えても様々出てくる。

 人間社会の減少もそれと同じで数多くの原因がある。社会科学はそのうちのどれに焦点を当てるか、どこを強調してモデルを作るかということになる。個別の研究から共通点や法則性を見つけ出して抽象度を高めていき、仮説や理論を生み出して、この仮説や理論がどれだけ当てはまるか、説明する力を持っているかを検証し、試していくということになる。

 話がだいぶ逸れてしまったが、「ウクライナ戦争はロシアが悪い」という言葉は非常に粗雑な言葉だということを私は言いたい。戦争開始を決定したのはウラジミール・プーティンで、ウクライナ国内に侵攻したのはロシア軍だ。それは間違いない。この現象がどうして起きたのか、ということを上記のように順序だてて考えていかねばならない。単純にプーティンが独裁者で奇矯な人物だからだ、ロシアという国は昔から好戦的なのだということでは済まない。「ロシア人たちが非合理的に周囲からの攻撃を心配し、自分たちの安全に関して病的になっている」と馬鹿にするのも間違っている。ロシアの不安を煽り続けたことはなかったか、という視点も必要だ。矛盾した言い方になるが、社会科学は法則を見つける作業ではあるのだが、対象の人間や社会があまりにも複雑であり、人間の理性はあまりにも無力であるのでそのような作業はうまくいかない。従って、今できることは、分析の段階を整理して、落ち着いて考え続けることだ。

(貼り付けはじめ)

ロシア・ウクライナ戦争の原因はロシアか、NATOか?(Who caused the Russo-Ukrainian war, NATO or Russia?

アレクサンダー・J・モトリル筆

2022年7月5日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/opinion/international/3543012-who-caused-the-russo-ukrainian-war-nato-or-russia/

悪い論調の中にはなくなるべきであるにもかかわらず、なくならないものがある。その1つが、ローマ教皇フランシス、シカゴ大学のジョン・ミアシャイマー、コロンビア大学のジェフリー・サックスらが最近行った、NATOがウクライナの加盟除外を断固拒否したためにロシア・ウクライナ戦争が起こったという主張である。言い換えれば、この戦争はロシアとウクライナの問題ではなく、ロシアに隣国への攻撃と侵略を強要した西側の愚かな政策の問題であると主張する人々がいるのだ。

この主張を、ソヴィエト連邦の人々がかつて「歴史の灰の山(ash heap of history)」と呼んだような場所に捨てる上で、少なくとも9つの説得力のある理由が存在する。そしてそれは早ければ早いほどいい。西側諸国の存続がかかっているのだ。それらについてこれらを考えてみよう。

(1)ウクライナが今後20数年の間にNATOに加盟する可能性がゼロであることは、誰もが知っていた。それは、アメリカ人も、ヨーロッパ人も、ウクライナ人も、ロシア人も含めてそうだった。そして、ウクライナにとってNATO加盟は非現実的であったため、アメリカがウクライナの港に船を停泊させたり、ウクライナの東部国境にミサイルを設置したりする可能性もゼロであった。

(2)1991年にNATOの宿敵であったソ連が崩壊して以来、ほとんど全てのNATO加盟諸国の軍隊が資金不足に陥り、それが無視されてきたことは周知の事実である。そのようなNATOがロシアの安全保障に脅威を与えるという考えは、特にロシアが軍隊の近代化のために何十億ドルも費やしてきたことを考えると、馬鹿げていたということになる。

(3)ヨーロッパを訪問してみると、東ヨーロッパのNATO加盟諸国がロシアから攻撃される場合、他のヨーロッパ諸国が軍隊を派遣してそれらを防衛することは考えられないことが理解できる。2017年に行われたヨーロッパの諸国民を対象とした世論調査で、攻撃された場合に自国のために戦う気があるかどうかを尋ねたところ、この点を立証している。ドイツ人の18%が「はい」と答えた。イタリア人の20%、スペイン人の21%、フランス人の29%が同様に「はい」と答えた。

(4)そして悪名高い第5条(NATO条約の相互防衛条項)が存在する。これは、ある加盟国に対する攻撃には、他の加盟国が軍事的対応をとることを保証するものとされている。しかし、そんなことはない。第5条は明確にこう言っている。「締約国は、一国又は複数の締約国に対する武力攻撃は、全ての締約国に対する攻撃と見なすことに同意し、その結果、かかる武力攻撃が行われた場合には、各締約国は、武力の行使を含む必要と認める行動を直ちにとることにより、攻撃を受けた締約国を支援することに同意する」。言い換えると、攻撃された時にどう対応するかは、個々の国家が必要かどうか考える問題なのである。ポーランドは軍隊を派遣するかもしれないし、ドイツは平和行進を組織し、フランスは会議を開くかもしれない。

(5)より詳しく見てみると、NATO、西側諸国、そしてアメリカがロシアにウクライナとの戦争を強要したという主張は根拠のないロシア人像を前提としている。この主張では、ロシアの指導者たちは悪名高くタフな集団であるが、実際には非常に敏感で、ほとんどヒステリックになっている。NATO拡大に関する約束違反やウクライナのNATO加盟の可能性に関する約束がないことに対して、彼ら独特の効用計算に従ってコストと利益を計算するのではなく、感情的に、ほとんど子供のようにふて腐れることによって反応しているのは確かだ。ロシア人、特にプーティン大統領が、現実の、あるいは想像上の侮辱に対して、西側諸国に仕返しするために戦争を起こし、大量虐殺に乗り出すと、誰が本当に信じるだろうか?

(6)フィンランドとスウェーデンがNATO加盟を目指したのは、プーティンの対ウクライナ戦争がきっかけだった。同じように、ウクライナもロシアの攻撃を恐れてNATO加盟を目指した。現在進行中の戦争が示すように、ウクライナの恐怖は完全に正当化された。このような恐怖は誇大妄想(パラノイア)の産物ではなく、17世紀半ばに始まり今日までほとんど衰えることなく続いてきたロシアの侵略と搾取の長い歴史的経験によるものだった。NATO加盟は、ウクライナの求める安全保障を提供するかどうかは別として、ウクライナが存立の危機に直面しているという信念を示すものであった。

(7)ミアシャイマー、サックス、ローマ法王は主張の中で、ロシアの歴史的・現代的帝国主義、プーティン率いるロシアの政治システムの本質、ロシアの帝国主義・権威主義的政治文化の露骨な現実を無視して議論している。あたかもロシアが反応はするが主導権を持たない受動的な行為者であるかのように語っている。このようにして、彼らはロシアから主体性を奪い、その指導者を非理性的な子供にして、それによって戦争の全ての責任を幼稚なロシアから父権的な西洋に転嫁することに成功したのである。

(8)少なくとも14世紀以降、モスクワ大公国(Muscovy)は帝国主義を実践し、ピョートル大帝(Peter the Great)が生み出したロシア帝国はモスクワ大公国の足跡を引き継いでいる。このような帝国主義が長く続いた背景には、ロシアが歴史的に独裁体制であったことと国内外での攻撃的な行動に価値を置く政治文化を持っていることがある。独裁者は、自らの支配を正当化する手段として、外国に対する拡張と侵略を行う。この点で、プーティンはピョートル大帝やイワン雷帝(Ivan the Terrible)と何ら変わるところはない。帝国主義的な政治文化は、拡張と侵略を正常で望ましいこと、ロシアの歴史的運命の一部であるかのように思わせることによって、拡張と侵略を促進させるのである。

(9)ウクライナは確かにロシアに対して脅威を与える。それは、ウクライナが理論上2050年にはNATO加盟国になっている可能性があるからではない。そうではなくて、ロシアとその神話から独立しようとする民主政体国家としてのウクライナの存在自体が、ロシアの帝国主義、ロシアの権威主義、ロシアの政治文化を脅かすからである。プーティンとそのプロパガンダ担当者はそのように言っており、それを信じない理由はない。現在進行中の戦争における彼らの大量虐殺行為は、この点を強調しているに過ぎない。

これらのことは政策にとってどのような意味を持つのだろうか?

第一に、一部の人々が喧伝する単純化された世界観は危険なほど間違っており、脇に置くべきだということである。第二に、ロシアは子供ではなく、領土の拡大、政治的独裁、社会的支配に深くコミットする冷静な計算高い大人である。そして第三に、もしロシアがウクライナの占領に成功すれば、ロシアは拡大を続けるだろう。なぜなら、その帝国主義的プログラム、ファシスト的政治体制、帝国主義的政治文化は、拡大を必要とし、促進するからである。エルミタージュ美術館の館長が簡潔に述べたように、「私たちは皆、軍国主義者であり、帝国建設者である」ということだ。

もしくは、ウクライナが陥落するならば、次はヨーロッパだ。

※アレクサンダー・J・モトリル:ラトガース大学ニューアーク校政治学教授。ウクライナ、ロシア、ソヴィエト連邦、ナショナリズム、革命、帝国、政治理論の専門家。ノンフィクション10冊の著書。著書は『帝国の終焉:諸帝国の衰退、崩壊、復活』と『諸帝国の再現の理由:帝国の崩壊と帝国の復活の比較視点』がある。

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 本日、第20回中国共産党大会が開会される。今回の党大会は、習近平国家主席(中国共産党中央委員会総書記・中国国家中央軍事委員会主席・中国共産党中央軍事委員会主席)が3期目も続投し、中国共産党中央委員会、中国共産党中央政治局、中国共産党駐政治局常務委員会、国務院、国家中央軍事委員会(党中央軍事委員会と顔ぶれが一緒)などの人事が新たに決まるということで注目される。

 このブログでも既にご紹介しているように、習近平政権の3期目、更にその先の4期目も合わせた、5年間もしくは10年間は、「世界の大動乱に備えた準戦時体制」であり、この世界史の転換点とも言える時期を乗り切り、2032年からは、1840年から42年に起きた、中国にとっての屈辱のアヘン戦争200周年で、中国が「中華王国(Middle Kingdom)」に返り咲くという目標を達成する仕上げの時期ということになる。

 これからの10年間の準戦時体制では、航空・宇宙関係出身者の政治への登用が進む。更に、「中国史上最も恵まれた世代」と呼ばれる「第7世代」、1970年代生まれが指導部に多数登用されることにもなる。鄧小平が決めて、江沢民時代から始まった10年おきに同年代で構成される指導部交代という慣例が、習近平によって覆されることになるが、これは、第二次世界大戦中にアメリカのフランクリン・D・ルーズヴェルト大統領が、2選までという慣例を覆し、4選を果たしたことと同様だ。ウクライナ戦争が深刻化し、世界大戦になる可能性が高まっている中で、新しい指導部では乗り切れないという判断もあっただろう。本来であれば、最高指導者を出すはずだった第6世代(1960年代生まれ)がパッとしないということもあったかもしれない。

 不安な点も指摘されている。指導部内の派閥争いだ。中国国内政治には、太子党(有力政治家たちの子女)、中国共産主義青年団派(若手エリート党員の組織、共青団、団派とも呼ばれる)、上海閥(江沢民とその子分たちで構成される派閥)などの派閥がある。習近平は太子党に分類される。上海閥でもあったが、権力を掌握した後に上海閥系を追い出した。現在の李克強国務院総理は共青団系だ。胡錦涛前国家主席は共青団系だ。25名で構成される中国共産党中央政治局、その内の7名で構成される中国共産党中央政治局常務委員会(チャイナ・セヴンと呼ばれる)の人事での比率がどのようになるかが注目される。

 中国はこれからアメリカを追い抜き、世界の覇権国となる。その時期は2040年代ということになる。これからの20年はそのための最後の基礎工事、足場固めということになる。第20回中国共産党大会はその点で大変重要な政治的意味を持つことになる。

(貼り付けはじめ)

中国共産党第20回大会と中国におけるエリート政治の将来:ウィリー・ウー=ラップ・ラムとのインタヴュー(The 20th Party Congress and the Future of Elite Politics in China: An Interview with Willy Wo-Lap Lam

ウィリー・ウー=ラップ・ラム筆

2022年9月20日

『チャイナ・ブリーフ』誌

https://jamestown.org/program/the-20th-party-congress-and-the-future-of-elite-politics-in-china-an-interview-with-willy-wo-lap-lam/

●質問:中国の習近平国家主席は、中国が権威主義的な諸大国の枢軸と、アメリカおよびその同盟諸国(主に自由主義的民主制自体国家の連合)との間のより広い闘争に巻き込まれていると考えていることが広く認識されている。習近平が前任者以上にアメリカとの地政学的な競合を受け入れている理由は何だろうか? 第20回党大会後も習近平は同じ道のりを歩むと考えるか?

■ラム:習近平の最も有名なスローガンである「中国の夢(the Chinese Dream)」の実現と「中華民族の偉大な復興(great renaissance of the Chinese nation)」は、「東洋が台頭し、西洋が衰退する(the East is rising while the West is declining)」という確信に裏打ちされている。この考え方は、かつて改革の最高責任者である鄧小平が「アメリカと仲の良い国は全部栄えている(countries that get on well with the U.S. have all prospered)」と述べた倫理観とは大きく異なる(Guancha.cn:2019年6月10日;フェニックス・テレビ:2015年12月25日)。しかし、中華人民共和国とアメリカが主導する各国の「民主」同盟との間の経済的、技術的、地政学的な争いが大きな原因で、一方では中国、他方ではアメリカとヨーロッパ・アジアの同盟諸国の間で正に新冷戦(new cold war)が勃発している(Project Syndicate:2022年6月17日;サウス・チャイナ・モーニング・ポスト紙:2022年4月20日)。

習近平政権がウラジミール・プーティン率いるロシアを「無制限(ノーリミット、no limits)」で支持し、北京が台湾海峡、日本海、南シナ海で強硬なパワーを発揮していることもあり、北京は世界の舞台で相対的に孤立している。中国はまた、輸出や投資誘致、技術分野に不可欠な重要部品へのアクセスなどにも厳しい制裁が課せられている。

これに対して習近平は、ロシアやパキスタン、カザフスタンなどの中央アジア諸国を含む上海協力機構(Shanghai Cooperation OrganizationSCO)と共に、権威主義諸国家の枢軸(axis of authoritarian states)を形成し、アメリカ主導の同盟に対する中国の対抗能力を強化しようとしている(ザ・ディプロマット:2022年8月22日;Moderndiplomacy.eu:2022年7月30日)。この枢軸の潜在的なメンバーには、イラン、北朝鮮、ミャンマーも含まれる。9月15日にウズベキスタンでプーティン大統領と会談した際、習近平は「中国はロシアと共に大国の役割を担う努力をし、社会の混乱に揺れる世界に安定と前向きなエネルギーを注入する指導的な役割を果たすことを望んでいる」と述べた。プーティンはウクライナ問題で中国に「疑問と懸念(questions and concerns)」があることを認めたものの、モスクワと北京は「公正で民主的で多極化した世界(a just, democratic and multipolar world)」を形成するために協力すると述べた(『ザ・モスクワ・タイムズ』:9月15日;Globalnews.ca:9月15日September 15)。

第20回中国共産党大会の後、アメリカ主導のブロックと中国主導のブロックとの間の全面的な闘争が激化することが予想される。中国とアメリカは、両者の全面的な争いを存在を賭けたゼロサムゲームとみなしている。そして、対立関係に一定の安定を与えていた共生的な経済・気候関連協力が縮小していることから、関係改善の見込みは低い(Cn.nytimes:9月14日;『フォーリン・ポリシー』:6月27日誌)。

●質問:中国は現在、新型コロナウイルスの脅威が続き、経済が低迷しているという、いくつかの厳しい課題に直面している。これらの問題は、習近平が3期目の任期中に一部の政策領域で方針転換を余儀なくされる可能性があるのだろうか?

中国共産党が投票所での正統性を欠いていることを考えれば、経済成長と国民全体の支持、少なくとも納得が中国共産党の正統性の重要な要素である。いわゆる「紅五毛(hongwumaored 50 cents)」(ソーシャルメディア上で党を褒め称えてお金をもらうネットユーザーの通称)を除けば、相当数の国民が、新型コロナウイルス感染拡大による検疫、失業率の上昇、消費財への支出減、不動産・銀行危機などの問題に苛立っている(VOAChinese:9月15日;Cn.wsj.com:9月14日)。第20回中国共産党大会後、習近平は李克強首相をはじめとする国務院テクノクラートが採用した相当数の措置、特に積極的に成長を促進するための経済への流動性注入を継続し、「世界の工場(world’s factory)」から撤退しないよう西側諸国やアジア諸国の投資家たちを説得するとみられる(チャイナ・ブリーフ:9月9日)。

しかし、国務院(state council)は、政府各レベルと国有企業、民間コングロマリットが抱える膨大な債務の原因であるインフラストラクチャ整備支出を強化するという数十年来の方式を、望ましい改善策として挙げている(Gov.cn:7月6日;新華社通信:5月6日)。習近平は、技術革新などの重点分野において、党国家当局が資源を「集中的かつ重点的に」使用する「国体制、juguotizhiwhole country systemic approach)を好むと宣言した(人民日報:9月7日;Qstheory.cn:6月10日)。また、「内部循環(internal circulation)」の重要性についても言及している。これは、中国の広大な国内市場に経済成長を依存するという半閉鎖的な(semi-autarkist)政策の略語である。こうした動きは、鄧小平の市場開放政策への回帰を予感させない。

習近平国家主席や李克強い首相を含む最高指導者たちは、北京が新型コロナウイルスの患者数をコントロールし、感染拡大による死亡を防ぐことができるのは、中国と西洋の統治システムの優劣を示すものであると主張している。また、幹部たちは、徹底的かつ効率的な検疫(quarantine)作業を行うことで、最高指導者である習近平への忠誠心を示すよう奨励されている(Chinesenewsgroup.com:9月7日;Radio French International:6月28日)。

このような強硬な封鎖措置は、経済を停滞させ、一般市民を遠ざけるだけでなく、中国製ワクチンの有効性や、検査、ワクチン製造、検疫の仕組み全体に関わる大規模な腐敗についても疑問を呈した。新型コロナウイルス感染拡大に関連する措置が経済に正面から打撃を与えたため、第20回中国共産党大会後に構成される指導部は検疫措置の範囲と実施に現実的な変更を加えるかもしれない。しかし、「動的なゼロ新型コロナウイルス政策(dynamic zero-Covid policy)」の主要な要素は2023年まで十分に維持される可能性がある。

●質問:中国共産党中央政治局(CCP Politburo)は9月9日、第20回中国共産党大会で採択される予定の中国共産党綱領(CCP Constitution)の改正について検討会を開催した。中国国家憲法(PRC Constitution)と中国共産党綱領は、1980年代初頭から数回にわたって改正されている。今回の改正は何を目指しているのだろうか?

■ラム:中国共産党または中国共産党憲法は、中国または中国国家憲法と区別するために、既に2017年の第19回中国共産党大会で改正され、「新時代の中国の特色ある社会主義に関する習近平思想(Xi Jinping Thought on Socialism with Chinese Characteristics for a New Era)」が党の指針として明記された。今回の改正案では、最高綱領に「2つの確立两个确立、liang ge quelitwo establishes)原則を挿入し、習近平の地位を更に高める可能性がある。習近平同志を党中央の核心(core of the dangzhongyang [central party authorities])、全党の核心(core of the whole party)とし、習近平思想を新時代の中国の特色ある社会主義(Socialism with Chinese Characteristics for a New Era)に優先させる」(中国日報:9月10日;サウス・チャイナ・モーニング・ポスト:9月10日)のだ。また、中国共産党総書記と中国共産党中央軍事委員会主席の任期を廃止するために、中国共産党憲章が改正されるかもしれない(Radio Free Asia:9月11日;VOAChinese:9月10日)。現在の中国共産党綱領では、この2つのトップ地位の在任期間について明確な規定がない。しかし、2018年に国家憲法が改正され、これまで各5年の2期までとされていた国家主席のポストの任期制限が廃止された。

●質問:今回の第20回中国共産党大会は、ポスト毛沢東時代の他の大会とどのように似ていて、どのように違うのか? サプライズはあるのだろうか?

権力者はサプライズを嫌い、そのような出来事が事前に周到に準備されていることを確認するために、あらゆる手段を講じる。だからこそ、最高指導者である習近平は、中国政治に「ブラックスワン(black swans)」が出現しないよう繰り返し警告している(Beijing Daily:8月20日;China.com:5月9日)。21世紀の毛沢東と言われる習近平は、人工知能(artificial intelligenceAI)を活用した大規模な監視体制に確固たる自信を持っており、銀行や不動産のデフォルトや関連スキャンダルをめぐっていくつかの地方で勃発したデモにも動じていない(チャイナ・ブリーフ:7月18日)。習近平のエネルギーのほとんどは、第20回中国共産党大会に向けた人事の最終調整に費やされている。それは、自派の支配を強固にすると同時に、習近平の明らかな毛沢東回帰と反米・反西側の姿勢に心を痛めている党の長老や反対派の多くを宥めるだけの余地を生み出すためだ(Deutsche Welle Chinese:9月9日;Asia Society:8月4日)。

改革開放時代(Era of Reform and Opening Up)においても、党指導部は約2300人の全人代代議員と新任の中央委員会委員の意向を最終的に掌握してきたが、後者は5年に1度の大会を利用して、公共政策について時に異質な意見を述べることがある。今回の党大会は、1人の人間の知恵と功績を称えることが中心で、経済の活性化、新型コロナウイルス感染拡大への対応、対米関係の改善など、新しいアイディアが出てくるかどうかは大いに疑問だ。

●質問:十年前、中国の指導者たちの地位は「同輩中の首席primus inter pares)」、つまり 「first among equals」と表現されることがあった。また、習近平時代におけるエリート政治や派閥抗争をどのように考えるべきか?

■ラム:鄧小平は、「改革時代」において、1人の権力者に対する、個人崇拝(personality cults)や過度な権力集中(over-concentration of powers)を防ぐために、数々の重要な制度改革を断行した。そのひとつが、単独の人物による支配から集団指導体制(collective leadership)への移行であり、政治局常務委員会(Politburo Standing CommitteePBSC)の各メンバーが権力を大きく共有し、総書記は「同輩中の首席(first among equals)」に過ぎないというものであった。中国の幹部はこのモデルを「九龍(責任を分担して、nine dragons)河を飼いならす(九治水、Jiulong zhishui)」と称したHK01.com:2019年8月11日;Yazhou Zhoukan:2019年7月15日)。しかし、習近平は2012年末の政権獲得当初から、全ての意思決定権を自らの手に集中させることに成功した。それでも、李克強首相が率いる共青団派(Communist Youth League Faction)と江沢民元主席が率いていた上海派(Shanghai Faction)の2つの強力な党派の残党は、政治局や政治局常務委員会に少数派として残っている(チャイナ・ブリーフ:2021年10月14日)。第20回中国共産党大会以降、思想・人事から財政・外交に至るまで、習近平と習近平派の権力支配が強まる(チャイナ・ブリーフ:8月12日)。これは、「偉大なる舵とり(Great Helmsman 訳者註:毛沢東の別称)」がほぼ絶対的な権力を握っていた1960年代から70年代の毛沢東時代に一部回帰することになる。

●質問:中国共産党内では習近平の後継者争いが起きているのか? もし、明日、習近平が突然死んだらどうだろうか? 体制は大混乱に陥るだろうか?

■ラム:2032年の第22回中国共産党大会まで習近平が統治するとすれば、後継者を探すのに10年間の猶予がある。この後継者問題は、最高指導者の突然の失脚という不測の事態に中国共産党が対処できるかどうかということと同様に、公式メディアや検閲の厳しいソーシャルメディアにとってタブーである。長年にわたる「七上八下(68歳定年、67歳以下はもう1期、retirement at 68, possibly one more term for cadres aged 67 or under)の規定により、1960年代生まれの第6世代の新星たちは、第20回中国共産党大会または2027年の第21回党大会で中国共産党中央政治局常務委員となるが、それは一時的な措置に過ぎないかもしれない(チャイナ・ブリーフ:2021年11月12日)。その有力候補は、習近平の愛弟子で最高顧問の丁学祥(Ding Xuexiang、1962年生まれ)と重慶市党委書記の陳敏爾(Chen Min’er、1960年生まれ)である。しかし、第22回党大会で丁は70歳、陳は72歳になる(Chinafocus.com:4月7日;Cn.nytimes214日)。年齢条件を満たせるのは第7世代のメンバーか1970年代生まれの幹部だけであるため、習近平の後継者候補はまだ政治の舞台で強いイメージを打ち出していない(チャイナ・ブリーフ:2019年4月9日)。これらの幹部はいずれも次官以上の地位に到達してはいない。更に、新星たちが、国家的に重要な業績を上げ、最高幹部への昇進を勝ち取るまで数年しかない(サウス・チャイナ・モーニング・ポスト:8月29日;Thinkchina.sg:2021年12月6日)。

●質問:中国共産党総書記には国民による投票がないが、習近平が「終身指導者(leader for life)」として一般人や下級党員、仲間であるエリートたちに訴えていることは何か? 基本的に、習近平の「切り札(stump speech)」は何か?

■ラム:多くの中国人は、1978年末に鄧小平が「改革の時代(Era for Reform)」を始めてから30から40年の間に生まれたか、あるいは働き始めた。習近平は、「思想の解放(thought liberation)」や集団指導(collective leadership)から、民間企業の権限強化、西側資本の誘致に至るまで、鄧小平の教えのほとんどを覆した。中国共産党は国民の脱政治化(depoliticized)に成功し、多くの人々の関心とエネルギーを政治から純粋な経済的追求へと移行させた。しかし、習近平は反改革主義的な施策、とりわけ習近平自身の終身在職を含む個人崇拝(personality cults)の復活に対して、大多数の国民と幹部から真の支持を得たことはない。失業率の上昇と株式・不動産市場における中産階級の大きな損失は、習近平にとって、「中華民族の偉大な復興(the great renaissance of the Chinese nation)」などの聞こえが良いが空虚なスローガンの正当化を二重に難しくしている。台湾統一(reunification of Taiwan)や中国が新たな中央の王国(emergence of China as the new Middle Kingdom)となることを含む「中国の夢(Chinese dream)」は、習近平が「終身支配者(ruler for life)」になることを目指す根拠となっている(Indianexpress.com:2021年11月16日;Asia.nikkei.com:2021年10月21日)。しかし、中国とアメリカの経済力、技術力、軍事力の間には依然として強大な差があり、東洋が西洋に取って代わるとは限らない。この画期的な目標を達成できない習近平は、中国の「第2の毛沢東(Second Mao Zedong)」であるという主張の正統性を損なう恐れがある。

※ウィリー・ウー=ラップ・リン(Willy Wo-Lap Lam、林和立)博士:ジェイムズタウン財団上級研究員、『チャイナ・ブリーフ』誌定期寄稿者。香港中文大学歴史学部・国際政治経済修士プログラム非常勤講師。6冊の中国に関する著作を持ち、代表作に『中国政治と習近平時代(Chinese Politics in the Era of Xi Jinping)』(2015年)がある。2020年に最新作『中国の将来のための戦い(The Fight for China’s Future)』(ルートレッジ・パブリッシング)が刊行された。

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