古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

2022年11月

 古村治彦です。

 先日、アメリカの中間選挙が終わった。アメリカ政治はこれから2024年大統領選挙に向かって進んでいく。このブログの読者の方々には当たり前の知識であるが、アメリカ大統領選挙はまず民主、共和両党の候補者を決める予備選挙(primary)が実施され、候補者が決定してから、本選挙(general election)が行われる。予備選挙は選挙年の2月頭のアイオワ州での党員集会(Caucus)から始まり、6月まで続く。その間に大統領選挙候補者が決まり、7月の全国大会で正式決定となる。そして、11月に本選挙が実施される。予備選挙に向けた選挙運動は選挙年の前年から始まる。非常に長丁場の戦いということになる。

 民主党は現職のジョー・バイデンが2期目に向けて立候補表明を行った。現在のところ、有力な対抗馬による立候補表明はない。共和党はバイデンに挑戦する候補者選びということになる。2016年の大統領選挙で当選し、2020年に敗れたドナルド・トランプ前大統領が大統領選挙への立候補を表明した。これから共和党の予備選挙は盛り上がっていくだろう。このブログで何度もご紹介しているが、現在のところ、各種世論調査の結果を見ると、トランプが一番人気だ。その他の立候補が見込まれる有力な人物たちに大きなリードを保っている。

 それでも2024年米大統領選挙共和党予備選挙に挑戦する可能性が高い人物たちについて知っておくことは重要だ。中間選挙で共和党が予想よりも結果が振るわなかったのはトランプの神通力が落ちたからだという主張が出ている。そういう主張とセットで、では誰が2024年大統領選挙の候補者に望ましいのかということはなしになる。トランプとは距離を置いている保守派や穏健派の人物たちの名前が取りざたされているが、一つ言えることは若い、フレッシュな名前は出ていないということだ。トランプ政権出身者3人の名前が挙がっている。また、州知事の名前が3人上がっているが、共和党で成功した大統領というのは州知事出身が多い。最近ではロナルド・レーガン、ジョージ・W・ブッシュ(息子)の名前が挙げられる。

 こうした人々の中から予備選挙に立候補する人たちが出てくるだろう。現在のところ、フロリダ州知事のロン・デサンティスがトランプにとっての有力な対抗馬ということになっている。アメリカ国内政治においてラティーノ系の存在感が増していること、大統領選挙において激戦州であるフロリダ州の確保が重要であることから、デサンティスの名前が挙がっている。デサンティスの知名度拡大や実績のアピールがこれから全国的に進められるかどうかがカギとなるが、共和党支持有権者たちへのトランプの影響力を上回ることは非常に困難な試みということになるだろう。

(貼り付けはじめ)

2024年にトランプに挑戦する可能性が高い7人の共和党の政治家たち(Seven Republicans most likely to challenge Trump in 2024

キャロライン・ヴァキール筆

2022年11月22日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/campaign/3745399-seven-republicans-most-likely-to-challenge-trump-in-2024/

2024年にドナルド・トランプ前大統領に対抗することを決意するだろう新星や注目すべき声はどれなのか、多くの共和党の政治家たちに注目が集まっている。

トランプは今月初め、ホワイトハウスへの3度目の出馬を正式に表明した。しかし、共和党の中間選挙の結果では、トランプが支持した候補者たちがそれぞれの選挙戦で苦戦し、ゴールラインを越えられなかった。この結果は、他の共和党の政治家たちの大統領選挙への出馬を後押しするものとなった。

これからは、次の選挙サイクルで前大統領に挑戦する可能性が最も高い7人の共和党の政治家たちについて見てみよう。

(1)フロリダ州知事ロン・デサンティス(Florida Gov. Ron DeSantis (R))
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デサンティスは中間選挙前から2024年大統領選挙の挑戦者と目されていたが、共和党候補としてフロリダ州で民主党のチャーリー・クリストに19ポイントの差をつけて再選を決めたことで、共和党にとって総じて厳しい選挙戦の中の明るい兆しとなった。

フロリダ州知事デサンティスは、新型コロナウイルス規制をめぐってジョー・バイデン政権と対立し、ディズニーなどの企業に対して文化闘争を煽ったことで知られている。デサンティスは2024年に出馬するかどうかについての質問は避けてきた。しかし、週末、彼の発言は、彼が立候補を躊躇しないことを示唆した。

デサンティス氏は土曜日に共和党ユダヤ連合の会合に出席し次のように述べた。「このような時代には、勝利に代わるものはない。フロリダにいる私たちは光だ。自由はフロリダが先導して支配する。私たちは4年間で誰もが想像していた以上のことを成し遂げたが、これだけは言える。まだまだやることはたくさんあるし、私はまだ戦い始めたばかりだ」。

共和党はデサンティスが知事再選に成功したことで浮かれていると述べる一方で、共和党系のストラティジストでトランプ陣営に参加した経験を持つブライアン・セトチックは、「州議会で共和党が過半数を握っているので、デサンティス知事には有利に働く」と指摘する。それは、デサンティス知事にとって予備選挙や総選挙で有利になる法案を通そうとして、それが可能だからだ。

(2)ニッキー・ヘイリー元米国連大使(Former U.N. ambassador Nikki Haley
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ヘイリーは2024年の大統領選挙を目指すという意向をちらつかせ、ニューハンプシャー州連邦上院選挙の共和党候補のドン・ボルドゥックやジョージア州知事のブライアン・ケンプ(共和党)などの候補のために遊説するなど、中間選挙期間中に存在感をはっきりと示している。

ヘイリー氏は共和党ユダヤ人連合で「そして、もしバイデンがイランとの核開発合意に復帰することに成功したら、私はあなたに約束する。私は以前にも言った。次の大統領は就任初日にそれを破砕するだろう」と発言し拍手喝采を浴びた。

元国連大使で、サウスカロライナ州知事を2期務めたヘイリーは、その素晴らしい経歴を共和党内で称賛を浴びている。しかし、党員の中には、トランプの2024年の大統領選挙への立候補が、ヘイリーやトランプの政権で働き、「トランプに近い」と見なされかねない候補者の見通しを複雑にしていると指摘する者もいる。

共和党系のストラティジストであるスコット・ジェニングスは次のように語った。「それは、これらのトランプに使い候補の一部が抱える問題だ。マイク・ポンペオやマイク・ペンスたちがそうだが、この人たちの何人かはトランプ政権にいた人たちだ。つまり、トランプを支持した有権者たちは2024年もトランプを選ぶことができる訳だが、自分を選ぶなどとどうして考えることができるのか?」と語った。

ヘイリーは以前、トランプが2024年に立候補しても出馬しないと発言し、2021年にAP通信に「トランプ前大統領と相談する」と語っていた。しかし、ヘイリーが出馬の可能性を示唆しているので、彼女がその計画に固執しない可能性がある。

(3)マイク・ペンス前米副大統領(Former Vice President Pence
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ペンスは、アイオワ州やニューハンプシャー州を訪問していることから、2024年のホワイトハウスを目指すのではという憶測が出ている。新しい回顧録の刊行は、彼の政治的将来についての質問をさらに増やし、彼は次に来るかもしれないことについて、ちらりとほのめかした。

共和党系のストラティジストであるソウル・アヌジスは「副大統領としてトランプ政権の一員として何をしたか、何を決定したかという記録をもとに出馬することができる。しかし同時に、『私はより優しく、よりソフトで、より穏やかな大統領候補だ』と言うこともできる」と語った。

アヌジスは、2021年1月6日の連邦議事堂暴動後のペンスとトランプの対立が、党内の一部の議員が前副大統領を支持するかどうかを複雑にするかもしれないが、共和党内主流派の活動家の間ではそれほど大きな要因にはならないかもしれないと示唆した。

(4)マイク・ポンぺオ元米国務長官(Former Secretary of State Mike Pompeo
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カンザス州選出連邦下院議員、トランプ政権下のCIA長官、国務長官を務めたポンペオは、大統領就任に向けた野望を予告し、前の上司であるトランプを間接的に非難することに躊躇していない。ヘイリーと同様、ポンぺオ前国務長官は外交政策の経験を持ってホワイトハウスを目指す戦いに臨むことになる。

セトチックは、「ポンペオは確かに大統領仕の事にふさわしい人物であるが、彼には以前から資金調達基盤と選挙基盤もない」と述べた。

「ポンぺオは現代の政治に必要な“その要素”を持っているかどうか分からない」と続けて述べた。

(5)ヴァージニア州知事グレン・ヤングキン(Virginia Gov. Glenn Youngkin (R)
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ヤングキンは2021年、ヴァージニア州知事選でテリー・マコーリフ前知事(民主党)に勝利し、共和党として10年以上ぶりに知事の座を赤にひっくり返したことで注目を浴びた。プライベート・エクイティの経営者出身で、知事選に出馬した際、文化戦争、とりわけ批判的人種理論(critical race theoryCRT)にも足を踏み入れたが、中間選挙では、党内の異なる連合間の統合者として自己投影することも目指した。

アリゾナ州のカリ・レイク、ウィスコンシン州のティム・ミシェルズ、ネバダ州のジョー・ロンバードといった共和党の知事選挙候補者たちと共に選挙戦を繰り広げた。ヤングキンは先月、CNNの「ステイト・オブ・ザ・ユニオン」に出演し、「共和党は、全ての点で意見が一致しないからといって、人を避けたり排除したりしない政党でなければならないと思う」と述べた。

アヌジスは、「ヤングキンは、まだ紫や青に傾いているような、典型的なスイングステートで勝利した、堅実な保守派だ。彼は、保守的なメッセージを、エッジの効いた、対立的なものにすることなく、また、対立的で論争の的になるような問題を取り上げながら、穏やかに自分の意見伝えることができることを示した」と述べた。

(6)メリーランド州知事ラリー・ホーガン(Maryland Gov. Larry Hogan (R)
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共和党支持者や関係者の多くは、中間選挙が党にとって不本意な結果をもたらすまでトランプ批判を避けてきたが、ホーガンはトランプ前大統領への不満を公にすることを避けてはこなかった。メリーランド州知事ホーガンは大統領選挙立候補を検討していることを明らかにしたが、共和党員の中には、彼のネヴァー・トランプ主義(never-Trumpism)が、トランプを支持する共和党内の集団に良い影響を与えるかどうか確信が持てない者もいるようだ。

ジェニングスは次のように語った。「もし、あなたがネヴァー・トランプ主義者であるならば、あなたが獲得しようとしている票は、トランプに2回投票した人たちからの票であることを忘れてはいけない。共和党の予備選挙では、一部の例外を除き、基本的に全員がトランプに2回投票しているのだから」。一方でホーガンが大統領選に出馬する権利を得たことにも言及した。

ジェニングスは続けて次のように述べた。「そういう有権者の多くは、トランプ時代にネヴァー・トランプ主義者が民主党を本質的に助けて溜飲を下げていたのだと考えている。トランプ支持者たちはネヴァー・トランプ派を何らかの形で煽る、対決しようとすると思う」。

(7)連邦上院議員テッド・クルーズ(テキサス州選出、共和党)(Sen. Ted Cruz (R-Texas)
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クルーズも大統領選挙への再挑戦の道を閉ざしてはいないが、2024年に連邦上院議員再選を目指すことを考えれば、その計算はより難しいものになるだろう。クルーズは議員再選を目指すと表明しているが、ホワイトハウスの野望がその計画を変更するかどうかは不明である。

共和党関係者たちは、クルーズが出馬を決めた場合、候補者としてのブランディングの方法を変えるかどうかに関心があると述べている。また、保守派としての素晴らしい実績はあるが、まだ顔と名前が十分に売れていないとの声もある。

セトチックは次のように語った。「彼の保守派としての実績は申し分ない。彼は優秀な男だ。保守派の資格は申し分ない。しかし、彼には好感度の問題があると思う。2016年に有権者が彼に特に好感を持ったとは思えない。あれから彼は進化したのか、それは重要な問題だ」。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 2022年11月15日、16日にインドネシアのバリでG20サミットが開催された。G20サミット期間中に日中、日米、米中の二国間の首脳会談が実施された。現代は情報通信技術の発展によって、直接対面しなくても顔を見ながら話をすることができる。リモートワークやリモート飲み会ということが日本でも盛んになっている。しかし、多くの人々が異口同音に述べているのは、「やはり直接会った方が話は進みやすい、誤解が少ない」ということだ。不思議なもので、画面を通さないでお何場所で直接会って話をした方が良いということだ。これはどうも世界共通の感覚のようだ。

 中国が厳しい新型コロナウイルス対策(ゼロコロナ対策)を行っているのは日本でも報道されている。国内で厳しいロックダウンを実施しているし、外国からの渡航も制限している。そのために、外交官や専門家たちの相互交流が制限され、その結果として米中間の緊張関係が高まっているということが今回ご紹介する論稿の趣旨だ。相手が何を考えているか、自分が何を考えているか、胸襟を開いて話し合う、もしくは言葉ではない、たとえば表情や態度といったことからの推察や洞察が相互理解に深く寄与している。

 新型コロナウイルス感染拡大で直接の首脳会談の機会も減っている。そうした中で、ウクライナ戦争が勃発したのは象徴的だ。お互いがお互いの考えを理解する機会を持たずに、敵意を高め続けていけばそのような悲劇的な結果になる可能性も高まる。首脳同士が直接会談を持つということは非常に重要である。

 更に言えば、そうしたトップ外交だけではなく、民間の交流も重要だ。観光旅行も物見遊山ではあるが、相互理解にとって重要だ。相互に学生たちが留学し合うということは将来にとって重要だ。

 新型コロナウイルス感染拡大によって世界規模で相互交流が中断された。その間に相互理解ではなく、相互不信が進んでしまったとしたらそれもまた新型コロナウイルス感染拡大がもたらしたマイナスの影響だ。新型コロナウイルスに打ち勝つために、相互理解を深めるために、交流を促進できるよう方策を整えることが重要だ。

(貼り付けはじめ)

習近平・ジョー・バイデン会談は中国の破壊的な孤立を解消するのに役立つかもしれない(Xi-Biden Meeting May Help End China’s Destructive Isolation

-北京は世界から危険なほど孤立している。

スコット・ケネディ

2022年11月14日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/11/14/xi-biden-meeting-china-isolation/

中国は、悪名高い「ゼロ新型コロナウイルス」管理策と海外渡航制限により、1970年代半ば以降で最も深刻に孤立した状態になっている。中国の都市生活者の多くは、自国が北朝鮮のような孤立化の方向に進んでいると見ており、数年前に作られた造語「西朝鮮(West Korea)」を自国を表現するために使うことが多くなっている。中国はまだ「隠者の王国(Hermit Kingdom)」にはなっていないが、新型コロナウイルス発生後、ワシントンのシンクタンクの専門家として初めて中国を訪れた私は、中国の孤立化が平壌と同様に世界にとって危険であることを確信した。

G20サミットに併せて、インドネシアのバリ島で会談したジョー・バイデン米大統領と習近平中国国家主席は、互いの孤立を解消することが最優先課題であり、そうすることが両国の自己利益になると同時に、世界の他の国々の利益にもなると理解していたようである。これは、悲惨な状況になっているだけに、緊急に必要なことである。

北京首都国際空港に隣接する検疫ホテルの窓からの風景が、中国が内向きになったことを知る最初の手がかりとなった。北京へのフライトは2019年の水準から3分の2以上減少し、私が滞在した10日間、海外の航空会社の飛行機が着陸してくるのを見なかった。市内では、外国人観光客の不在がさらに鮮明になった。私が宿泊したホテルはアメリカの大手チェインに属していたが、宿泊客が少ないため、レストランは週のうち何日かしか営業していなかった。

2020年初頭、中国は外国人観光客への門戸を閉じた。かつて中国の大都市で見慣れたバックパッカーも、高級バスに乗った裕福なツアー客も、1人も見かけなくなった。それ以来、多くの国々からの駐在員やその家族、そして彼らの子供たちを教えていた欧米諸国出身の教師たちが去っていった。多国籍企業のCEOたちはかつて中国に集まっていたが、今は離れている。各国の大使館は人手不足に陥っている。北京はもはや進取の気性に富む外交官にとって人気のある目的地ではなく、主にゼロ新型コロナウイルス政策のおかげで、以前よりも苦労の多い場所になっているからである。何度も追放され、ヴィザの取得に何年もかかった結果、ほんの一握りのアメリカ人ジャーナリストしか中国に残っていない。

私のような欧米の学者は、長い検疫のために主に中国を避けているが、カナダ人のマイケル・コブリグのような扱いを受けるかもしれないと懸念する専門家も存在する。コブリグは外交官から学者に転身し、カナダがアメリカの引渡し要求に応じてファーウェイ幹部の孟晩舟を拘束した報復として、同じカナダのマイケル・スパーバーとほぼ3年間不当に収監された人物だ。

次世代の中国専門家となり得たかもしれない若いアメリカ人の数は少なくなっている。米政府関係者によると、2018年のピーク時に1万1000人以上いたアメリカ人留学生は、現在、中国全土で300人未満に減っているということだ。

滞在する外国人は、常にその理由を自問する。配偶者が中国人であるとか、子供の教育を中断させたくないとか、儲かる仕事があるとか、答えは様々である。ある友人は「義務感から中国から離れないのだ」と打ち明けた。「もし、私が去ったら、誰がここで目撃するのだろう」と彼は述べた。

海外に出かける中国人の数も減っている。中国人経営者、観光客、学者などは、旅行に対する不安や帰国後の長い検疫を避けたいなどの理由で、ほとんど家にこもっている。外国人との広範な交流の政治的リスクは新型コロナウイルス感染拡大前に高まっていたようだが、学者の多くは、新型コロナウイルスを国内に持ち帰ることを恐れて、大学が海外旅行を承認してくれないと本誌に語っている。最新のデータによると、2021年時点で30万人を超えるアメリカへの留学生を含め、海外にはまだ多数の中国人留学生がいるが、そのほとんどは検疫の要求のために故郷から切り離された状態だ。

物理的な隔離と直接の接触の制限がもたらす結果は深刻だ。相互理解がまず犠牲になる。文書を読んだり、オンラインで会議を開いたりしても、顔を合わせての長時間の交流の代わりにはならない。北京と上海における中国側との会話から、アメリカ、ウクライナ、台湾、技術競争、新型コロナウイルス、その他の問題に対する公式および個人の意見の幅について、ネットで得るよりはるかに大きな洞察を得ることができた。また、現地に赴くことで、それらの意見や議論が中国国内の社会力学によってどのように形成されているかを知ることができた。

更に言えば、直接会っての交流が少ないため、中国の政策コミュニティでは、アメリカを悪者扱いし、中国のあらゆる行動を正当化し、北京がワシントンとの闘いに勝利していると結論づける、揺るぎないコンセンサスを特徴とする「共鳴室(echo chamber)」の形成が強化される。このような歪んだ見方を打破する唯一の効果的な方法は、長期的かつ反復的な対面での関与と外交だ。協力の拡大が目的であれ、抑止が目的であれ、効果的なコミュニケイション(聞くことと話すことの両方)が重要である。

中国の外交政策専門家で長年の友人である人物が「必要なものは全てオンラインで手に入るから、もうアメリカに行く必要はない」と本誌に語っていたが私は深く憂慮している。「もし私が国務省に行ったとしたら、米中間の諸課題のリストを渡されるだけだ」と彼は言った。しかし、他の国の人々はもちろん、色々なアメリカ人と旅行して話をしなければ、アメリカの政策の原点や、アメリカ人が中国の政策をどう評価しているかを理解することはほぼ不可能だ。同じことが、オフィスから中国を見るアメリカ人にも当てはまる。

また、限られたつながりによって、相手に対する非人間化(dehumanization)、共感の欠如(lack of empathy)、そして問題が解決され関係が修復されることへの希望を放棄する行為、すなわち離反(estrangement)を生み出す。ワシントン同様、北京でも関係の軌跡について運命論に(fatalism)遭遇した。その結果、最悪の事態を想定した計画が強化され、それが双方の行動と反撃の悪循環を生み、さらなる緊張の激化(escalation of tensions)を招いている。

米中両国は今、そのような状況に置かれているが、そこに留まっている必要はない。習近平・バイデン会談では、3時間半の間に幅広いテーマについて議論し、台湾に関するレッドラインを明確にし、ロシアと北朝鮮に向けた核兵器の使用に反対する共通の合意を打ち出すことに成功した。しかし、それ以上に注目すべきは、米中両国の高官たちによる定期的な交流を行う権限を与えることで合意したことだ。その場限りのコミュニケイションにとどまらず、いくつかのワーキンググループを通じて対話を進めると発表した。

アメリカ人の中には、北京との対話は中国の時間稼ぎであると懸念する人がいるのも当然のことだ。正しい姿勢は、対話の機会を与え、それがうまくいかなければ中断することである。また、バイデン政権が現在進めている、中国の軍事力を助ける可能性のある先端技術の制限、アメリカの技術革新に対する支援の拡大、中国の人権侵害に対する発言、台湾に関する公約の遵守などを、対話の拡大が妨げることはないと考えられる。

次のステップは、双方が双方向の海外渡航を促進することだ。最初は企業幹部、学者、学生、そして最終的には観光客の渡航を促進する。そのためには、航空便の増便を許可し、中国の場合はヴィザの発給を増やし、検疫期間を最近設定された8日間を下回るまで徐々に短縮することが必要であろう。公衆衛生上のリスクを最小限に抑えるため、中国は海外からの入国者に対する検査の頻度を増やし、国内の人々に対してはワクチン接種を拡大し、十分な治療薬を入手・配布し、新型コロナウイルス患者の増加に備えて病院を準備することができるだろう。

最終的には、相手国に赴任する双方の記者の数を制限することをめぐる対立の解決策を見出すことだ。中国はアメリカの記者の中国へ戻ることを歓迎すべきである。それは、海外から中国を報道しようとするよりも、現地にいた方がニュアンスやバランスの取れた報道ができる可能性が高いからだ。そしてアメリカは、中国の報道機関の全社員が、実際には生粋のジャーナリストであることを保証する方法を見出すことができるはずである。

米中両国の政府と社会の間で直接対面してのコミュニケイションを拡大することは、明白な紛争の可能性を減らし、アメリカの国家安全保障と経済を強化し、米中両国が気候変動やその他の地球規模の課題に協力して取り組む可能性を高める方法で、責任を持って戦略的競争(strategic competition)を追求するための中核となるものである。

※スコット・ケネディ:戦略国際問題研究所(Center for Strategic and International StudiesCSIS)上級顧問、中国ビジネス・経済学部門評議員会長。

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(終わり)

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
20211129sankeiad505

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 古村治彦です。

 私はプロゴルフの世界には疎いのだが、PGAツアーとか全米オープン、全英オープンといった言葉は知っている。国際的な機関であるPGAが主催してツアーを開催し、伝統のある有名な大会があるということは分かる。日本ではJPGAがツアー主催し、プロゴルファーの資格認定を行っていることも分かる。こうした中で、サウジアラビアのソヴィリン・ウェルス・ファンド(政府系ファンド)が出資してLIVゴルフ・ツアーが2021年に創設された。この新しいゴルフ・ツアーではティーム対抗戦、54ホールの試合(一般的には72ホール)などの新機軸が実施されている。PGALIVツアーに参加した選手のPGAのツアーに参加することを認めていない。そのために、有名選手たちの多くはLIVツアーには参加していない。それでも何人かの有名ゴルファーとの契約に成功した。サウジアラビアがLIVツアーに出資しているのは

 今回はゴルフ界の既存の統括団体に挑戦する新興勢力の挑戦という構図を国際政治に当てはめると、新興勢力が既存の国際機関の内容や機能を変化させようとする、もしくは自分たちで新しい機関を創設するということになる。具体的には中国やロシアが国際機関やルールを自分たちに都合が良いものに変えようという試みだ。しかし、それはなかなかに難しいことだ。既存の機関の方が強く、また、伝統があることから、正当性が担保されていて、中々新しいものが入り込む余地はない。ゴルフの世界で言えば、LIVツアーには、私でも名前を知っているような、タイガー・ウッズやジャック・ニクラウスらの有名ゴルファーは参加していない。それは、LIVツアーに参加すれば、PGAが主催するツアーには出られなくなり、伝統ある有名な全米オープンやマスターズにも出場できなくなるからだ。

 国際政治に目を転じてみれば、ヨーロッパの非公式の列強政治の枠組みが崩壊して第一次世界大戦が起き、その後はヴェルサイユ体制と国際連盟の機能不全によって、第二次世界大戦が勃発した。戦後は米ソ両超大国による冷戦構造の中で、国際連合が作られた。国連常任理事国である米ソ(後に露)英仏中(台湾から本土)の5つが世界の大きな決定を行うということになった。しかし、実態は米ソ二大超大国の二極構造から冷戦終結・ソ連崩壊によるアメリカ一極構造へと変化していった。21世紀に入って、中国が台頭し、既存の秩序に挑戦する形になっている。第二次世界大戦後の世界構造が大きく変化する中で、国際機関の性格が変化する、新たな国際機関が創設されるということはある。そうした大変化の際に、戦争が起きることが多いが、米中対立から戦争へと発展するという可能性は存在する。国際政治の変化に常に目を配っておく必要がある。

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ゴルフの魂のための戦い(The Battle for the Soul of Golf

-サウジアラビアが主催するあるゴルフトーナメントは、中国や他の新興諸国が既存の国際機関を独自のものに置き換えるのに苦労する理由を示している。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2022年8月9日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/08/09/liv-tour-saudi-golf-china-soft-power-battle-for-soul-of-golf/

サウジアラビアがスポンサーとなった新しいゴルフ・ツアーであるLIVゴルフ・ツアーは、王国の不安定なパブリックイメージを「スポーツウォッシュ(sportswash)」するための露骨な試みであると言えるかもしれない。この新しい試みは、プロゴルフ界を騒がせたが、最初のイヴェントにはあまり観客が集まらなかった。サウジアラビアがマスターズ・トーナメントと肩を並べることはないかもしれないが、新しい挑戦者が既成の秩序に対抗しようとする際に直面する障害と同様であることは明らかだ。実際、中国が現在の国際機構を中国の意向に沿ったものに置き換えようとする動きも、同じような力によって阻まれているように見える。

スポーツに興味のない人のために説明すると、LIVゴルフ・ツアーは、サウジアラビアのソヴリン・ウエルス・ファンド(Saudi sovereign wealth fund)が支援する新しいゴルフトーナメントである。LIVゴルフ・ツアーは、多くの有名なプロゴルファーを招待し、スター選手には多額の契約金を支払い、優勝者には多額の賞金を約束し、最下位まで参加者全員に相当な報酬を保証している。これに対し、PGAツアーをはじめとする著名なゴルフ団体(全英オープンを運営するR&A協会を含む)は、LIVツアーに参加する者は既存のツアーイヴェントに参加する資格がないと宣言している。

PGAの決定はいくつかの興味深い法的問題を提起するが、私はLIVツアーが苦しい戦いに直面していると思う理由は次の通りだ。サウジアラビアのソヴリン・ウエルス・ファンドからの多額の資金が提供されているが、LIVツアーには何の歴史もない。サウジアラビアのソヴリン・ウエルス・ファンドは、ゴルファーたちが子供の頃から優勝を夢見てきた、そしてファンが毎年楽しみにしている象徴的なトーナメントを後援していない。ゴルフは伝統を重んじるスポーツであり、LIVツアーにはそうしたものが何もない。かつて全米オープンを制したジョン・ラームが言ったように、「何百年も続いているフォーマットで、世界最高峰の選手と対戦したい」ということになる。

LIVツアーの斬新なフォーマット(54ホール対72ホール、カットなし、支払い保証付き)もゴルフの歴史と相反するもので、ファンにとって明白な利点はない。LIVツアーのイヴェントはまた、多少人工的なティーム形式を含むが、この配置がライダーカップのような国際的なティーム競技を取り巻くような激しい関心を生み出すとは想像しにくい。オーガスタナショナルやセントアンドリュースのような有名なコースがないだけで、基本的には同じものだ。既存のPGAツアーは、テレビ放映、多くの企業スポンサー、既存のサテライトツアーや大学のスポーツプログラム、アメリカやその他の地域のゴルフクラブで働くプロの広大なネットワークとの幅広いコネクションを持っている。

新しいゴルフ・ツアーはまた、批判的な視線に悩まされている。サウジアラビアはこの新しいツアーで、ジャーナリストのジャマル・カショギの殺害や911テロ事件を実行したサウジアラビア国民のことを忘れさせたいと考えているが、911テロ事件の遺族や王国の人権記録を懸念する人々は、選手がティーアップする度にこの問題を持ち出すだろう。新しいツアーは、過去の残虐行為を深い砂の罠に隠す代わりに、批評家たちにこれらの問題を前面に押し出す機会を無限に与え、そうでなければ非政治的なゴルファーに、通常は説得力のない話題を避けるか変えようとすることを強いるのである。

新ツアーの大物選手(フィル・ミケルソン、ブルックス・ケプカ、ブライソン・デシャンボーなど)が、最も好感の持てる選手という訳ではない。これらの中で最も大物のミケルソンには長年にわたって倫理的な問題があった。もちろん、これらの選手にはファンがいるが、お金をもらって道徳的なディレンマを無視することに決めた傭兵のように見えるのを避けることは不可能である。彼らに道徳心がないとは言わないが(あるいは、既存のツアー参加者が皆、美徳の模範であるとも言わないが)、金が全てであるかのように見えないようにするのは難しいことだ。スポーツは、正当化されようがされまいが、英雄崇拝の上に成り立っているのであって、このような人たちを英雄視することはない。

最後に、プロ・スポーツのリーグは、二大政党制のようなものであることを忘れてはならない。一度(ひとたび)リーグが確立され、ファンの忠誠心が固まってしまうと、競合する存在は参入することが困難になる。アメリカン・バスケットボール・アソシエーション、ユナイテッド・フットボール・リーグ、ワールド・ボクシング・リーグ、ノース・アメリカン・サッカー・リーグは全て数年で崩壊し、最近の話で言えば、ヨーロッパのサッカーの既存の構造をエリート・スーパーリーグに置き換える試みは、ファンの熱烈な反発に直面して崩壊した。ワールドティームテニスのような構想は、テニスプロフェッショナル協会や女子テニス協会のツアー、ウィンブルドンや全米オープンのようなメジャーイヴェントに捧げられる熱意や関心には到底及ばない。アメリカン・フットボール・リーグ(AFL)は、このパターンの例外であるが、1970年にNFLと合併することで生き残った。

それでは、このことは国際政治と、中国とロシアが既存の制度を自分たちの好みに合わせたり、自分たちで設計した制度に置き換えたりする努力と、どのような関係があるだろうか?

LIVのケースは、制度論の重要な前提である「制度は粘着性を持つ傾向がある(Institutions tend to be sticky)」ということを物語っている。一旦確立された既存の組織や制度は、長い間存在することによって、やがて永続的な性格を獲得することができる。ゴルフでは、4大メジャートーナメント(全米オープン、全英オープン、マスターズ・トーナメント、PGAツアー)のいずれかに勝つことが、偉大さを評価する基準になっている。もちろん、これは完全に恣意的な尺度だが、ゴルファーやファンがそれをより深刻に真剣に受け止めていない訳ではない。

長く続いていることは、それ自体の正当性を証明する。アメリカとヨーロッパの同盟諸国が、NATOの大きな記念日を祝うたびに、人類の歴史の中で最も成功した同盟だと賞賛していることを見て欲しい。国連安全保障理事会の構造のように、もはや作られた当時の状況を反映していない制度でさえ、しばしば驚くほど変化や代替が効かないことがある。

過去数十年間、中国とロシアは、リベラルなルールに基づく秩序と呼ばれるものを構成する様々な制度(institutions)やレジーム(regimes)に対する多くの代替案を策定し、あるいは強化しようと試みてきた。上海協力機構(Shanghai Cooperation OrganizationSCO)のような安全保障パートナーシップ、ロシアのユーラシア経済連合(Eurasian Economic UnionEEU)のような新興の地域組織、ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカからなるいわゆるブリックス(BRICS)諸国の象徴的なサミット、中国のアジアインフラ投資銀行(Asian Infrastructure Investment BankAIIB)や「地域包括的経済連携(Regional Comprehensive Economic Partnership)」など様々な構想がある。中国の「一帯一路構想(Belt and Road Initiative)」も、基本的には二国間の取り決めであり、新たな国際機関ではないが、国際機関の1つに加えてもよいかもしれない。

AIIBをはじめとするこれらの構想は成功を収めているが、世界銀行(World Bank)や国際通貨基金(International Monetary FundIMF)といった既存の機関や、アメリカが当初のTPPTrans-Pacific Partnership)から離脱した後に日本が主導したTPPに取って代わるには至っていない。その理由を理解するのは難しいことではない。これらの制度は今でもそれなりに機能しており、中国や他の国によって作られた代替制度はより良いものであることを示すには至っていない。ドルが世界の基軸通貨として支配を続けていることは既存の金融制度を強化しており、代替通貨が普及することをより難しくしている。

つまりは、既存の仕組みが存続しているのは、その仕組みに参加することが多くの国々の利益につながるからである。アメリカが NATO、世界銀行、世界貿易機関(World Trade OrganizationWTO)といった機関や、ドルの中心的役割、SWIFTといった金融決済システムを、自国の特定の利益を高めるために利用してきたことに疑問の余地はない。他の国々は、より良い代替案が存在しないので、このような取り決めに従わざるを得なかった。

PGAツアーで人気と尊敬を集める有名なプロゴルファーたちがLIVツアーを敬遠するように、ほとんどの主要国は既存の秩序にこだわり、中国が主導する代替策を警戒している。

しかし、中国自身を含む他の国々がしばしばこうした協定から利益を得てきたことも事実であり、他国を犠牲にしてアメリカだけが豊かになるために利用されてきた訳ではない。このような取り決めが崩壊しない限り、あるいは中国が明らかに優位なものを構築できない限り、他の国がこの取り決めを放棄することはないだろう。ちょうど、ほとんどのプロゴルファーが、PGAサーキットでの出場枠が失われるなら、LIVツアーに飛び乗ることはないだろう。

更に言えば、PGAツアーの人気選手であるローリー・マキロイ、タイガー・ウッズ、ジャスティン・トーマス、ラームがLIVツアーを公然と避けているように、ほとんどの経済・軍事主要国は既存の秩序にこだわり、中国主導の代替策を警戒し続けているのだ。

これまで、中国やロシアと手を組んだ国々は、比較的弱いか、特に人気がないかのどちらかであった。もし、あなたが親密なパートナーとして名前を挙げる国が北朝鮮、ベラルーシ、ヴェネズエラ、キューバ、イランといった国々で、デンマーク、日本、オーストラリア、ドイツ、カナダ、その他のG20の加盟諸国ではないとしたら、あなたは特に印象深いパレードを率いているとは言えないだろう。EUが2021年の主要投資協定の停止を決定したことが示すように、中国の強引な外交や疑問符が付く人権状況によって、他の国も北京に近づき過ぎることを警戒している。

皮肉なことに、中国は既存の国際組織の中で影響力を高めようとする努力の方が成功している。世界のデジタル・インフラの将来に影響を与えるというキャンペーンがその成功を示している。同じ理屈で、サウジアラビアがゴルフで自国のイメージを改善しようとするのも、その巨万の富を利用して、全く新しい選択肢を作ろうと大げさに取り組むのではなく、アメリカ、ヨーロッパ、アジアに既に存在するツアーの中でイヴェントのスポンサーになる方が成功するかもしれない。サウジアラビアが支援するイギリスのサッカークラブ、ニューカッスル・ユナイテッドの成功と、それに対する比較的穏やかな政治的反発は、この戦略がいかにうまく機能するかを示唆している。

だからと言って、LIVツアーが失敗する運命にあるとか、中国が自国のデザインに合わせた一連のグローバルな制度を構築することができないと言っているのではない。PGAツアーが苦境に陥ったり、現在PGAツアーに参加しているゴルファーたちの怒りを買ったりすることがあれば、スポーツの世界観は、たとえそれが古い秩序の伝統を欠いていたとしても、新しい代替手段を受け入れるかもしれない。同様に、ナポレオン戦争、第一次世界大戦、第二次世界大戦の後のように、現在のグローバルな制度が完全に崩壊した場合、瓦礫の中から現れた最も強力な国家は、新しい秩序構築のための理想的なポジションにいることだろう。

PGAツアーや現在の秩序に固執する国々が学ぶべき教訓は、自分の家を正常に保つことが優先され、対立構造を積極的に阻止しようとするよりも重要であるということである。そして、理想主義的に聞こえるかもしれないが、一時的にせよ、どちらの例も、道徳的な配慮が重要なアクターの対応を形作ることがあることを思い起こさせる。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。

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(終わり)

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 古村治彦です。

 今年の冬はエネルギー価格の高騰があり、世界各国で厳しい冬になりそうだ。光熱費の高騰により生活が苦しくなる。ウクライナ戦争によって、ロシアに対しては経済生成が発動され、ロシアからの天然ガス輸入ができなくなった。ロシアは天然資源輸出ができなくなれば、経済的に行き詰って戦争を継続できなくなるだろうと考えられていた。しかし、そのような目算は崩れてしまった。非西側諸国によるロシアの天然資源輸入が大きかった。

アメリカや日本をはじめとする先進諸国は産油諸国に石油の増産を求めているが、これはこれまでのところうまくいっていない。サウジアラビアは増産を拒否している。ここにも西洋諸国(the West)対それ以外の世界(the Rest)の対立構造が明らかになっている。ロシアは非西洋諸国、具体的には中国やインドに石油を割安で輸出している。これでお互いにウィン・ウィンの関係を築いている。

ヨーロッパはロシアからの天然資源輸入がなくなり、アメリカからの高い天然ガスを買わねばならず、通常であれば安い夏の時期に買っておいて冬に備える備蓄も全くできなかったことから、厳しい冬になる。偶然見たテレビニューズの取材に対して、「薪を備蓄して冬に備える」と答えていたドイツ国民の声が印象的だった。

 日本でも東京都の小池百合子知事がタートルネックのセーターやスカーフの着用を推奨して話題になった。首元を温めれば暖房の設定温度は低くできるということのようだ。暖房や建物の建材などのエネルギー効率を高めれば、エネルギー消費を減らすことができる。気候変動のためにそうすべきということは長年言われてきたが、今回のウクライナ戦争とそれに影響を受けてのエネルギー価格高騰もあるので、こうした動きを促進しようという主張は出てきている。

 しかし、「言うは易く行うは難し」である。これから建物を全面的に改修するなり建て替えるなりするには多額の資金がかかる。更に言えば、こうした建材の材料費も高騰している。そことの兼ね合いが難しい。エネルギー効率を高めておけば、戦争が終わってエネルギー価格が下がればこれまでよりもエネルギー関連支出が下がるということになるから良いではないかということであるが、戦争でそのような対策が進むというのは何とも皮肉なものだ。

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そうだ、私たちはエネルギー需要の削減について話す必要がある(Yes, We Need to Talk About Cutting Energy Demand

-エネルギー供給のみに集中することで、世界は危機に立ち向かうための最も安価で迅速な方法のいくつかを無視している。

ジェイソン・ボードフ、メーガン・L・オサリヴァン筆

2022年6月29日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/06/29/energy-demand-supply-efficiency-conservation-oil-gas-crisis-russia-europe-prices-inflation/

ドイツは先週、ロシアがヨーロッパへの天然ガス供給を更に制限することで、エネルギー不足が差し迫ることを警告し、エネルギー部門を戦時体制(war footing)に移行させた。冬が到来した時に必要となる在庫を満たすヨーロッパの能力を低下させることによって、ロシアは、ウクライナを征服し、西側諸国の抵抗を断ち切るためのキャンペーンの一環として、エネルギー輸出を武器化するためのレバレッジを高めている。ドイツのロベルト・ハーベック・エネルギー経済大臣は、ガスシステムを政府によるエネルギー配給の一歩手前の「警報」段階までエスカレートさせ、ドイツ国民に対し、消費行動を自発的に変えてエネルギーを節約することで「変化を起こす」よう呼びかけた。

ハーベックは、今日のエネルギー危機に対する解決策として、極めて重要かつ過小評価されていることを指摘した。現在採用されている多くのアプローチとは異なり、効率性を高めることで、ロシアのレバレッジを減らし、エネルギー価格の高騰に対処し、気候変動に対処するための炭素排出を抑制することを同時に実現することが可能となる。実際、サーモスタットの調節や運転時間の短縮から、スマートなデジタル制御や建物の断熱に至るまで、効率と節約の向上は、これらの課題全てに対処する最も迅速、安価、かつ簡単な方法の1つである。エネルギー危機がまだまだ続く中、世界中の政策立案者たちは短期・中期・長期のエネルギー消費の削減をあらゆる戦略の中心に据えるべきだ。残念ながら、ドイツが市民や企業に節電を呼びかけるのは、迫り来るエネルギー不足に対処するために多くの国がとっているアプローチの例外である。

ロシアがヨーロッパ大陸へのガス供給を削減するのではないかというヨーロッパ各国の懸念はここ数週間で現実のものとなった。ヨーロッパの数カ国への選択的な供給削減の後、ロシアはドイツへの主要ガスパイプラインの能力を60%も削減し、他の多くの国への輸出を削減した。ヨーロッパの天然ガス価格は50%以上上昇し、電力価格は2021年12月以来の高水準に上昇した。これを受けて、欧州連合(EU)加盟国10カ国が様々な段階のガス緊急事態を宣言している。

一方、原油価格は、世界的な供給不足、ロシアの輸出抑制、精製能力の限界などを背景に、ほぼ過去最高値の水準で推移している。ガソリンや軽油の価格高騰は、インフレを引き起こし、人々の生活を圧迫し、世界各国政府にとって政治的な頭痛の種となっている。例えば、ジョー・バイデン米大統領は最近、連邦ガソリン税の一時停止を議会に要求した。

石油、ガス、石炭の使用量を削減するには、効率性への投資と需要の節約が最も安価で迅速な方法であることが多い。

今回の危機に対して、各国は石油やガスの代替資源を求め、石炭の利用を増やすことで対応している。最近、液化天然ガス(LNG)を船で供給する米独の長期契約と並んで、ヨーロッパ各国はカタールと同様の契約を結ぼうとしている。ドイツ、オランダ、フィンランド、フランスなどがLNG輸入設備の新設を発表している。LNG輸入基地を1つも持たず、ロシアのパイプラインガスへの依存度を高めているドイツは、現在3基の基地を計画しており、ドイツ政府は最近、基地を建設する間、より迅速にガスを輸入できるようにするため、浮体式貯蔵・再ガス化装置4隻をチャーターしている。オランダは、ガス採掘に起因すると思われる地震によって停止した、最大の陸上ガス田の再開を検討している。ドイツ、オーストリア、イタリア、オランダは、古い石炭発電所を復活させる計画を発表した(ただし、ドイツは不可解にも今年末に最後の石炭発電所2基を停止させる計画で原子力発電所は復活させない)。そして先週、バイデンは石油業界の幹部を招集し、アメリカの石油生産と精製を促進する方法を探ろうとした。

これらの措置は全て戦争によって起きているので嘆かわしいことではあるが、現在の危機への対応としては適切なものだ。本誌にも書いたように、ロシアからのエネルギー供給の多くを喪失しても、消費者に安全で安価な燃料を確保するためには、少なくとも短期的、中期的には、他の化石燃料供給源の活用と更なるインフラへの投資が必要だということは厳然たる事実である。より多くのエネルギー供給を求める動きは、もちろんクリーンエネルギーにも及び、ヨーロッパではゼロ炭素エネルギーへの投資を増やし、その目標を前倒しで達成しようとしている。

しかし、掘削と圧送、製油所の限界への挑戦、数十億ドル規模のLNG施設の建設、ヨーロッパにおけるクリーンエネルギー供給の促進といった努力は、エネルギー使用量を削減するためのより重要なプログラムと対をなす必要がある。再生可能エネルギーの拡大と化石燃料との戦いに注目が集まる中、世界は悲しいことに、エネルギーの最も重要な事実の1つを見失っている。石油、ガス、石炭の使用量を削減し、ロシアのエネルギー資源の輸入の必要性を減らすには、効率的な投資と需要の節約が最も安価で迅速な方法だ(言うまでもなく、二酸化炭素排出量も削減できる)。

国際エネルギー機関(IEA)によると、ヨーロッパの建物で暖房のサーモスタットを摂氏1度(華氏1.8度)調節するだけで、年間100億立方メートルのガス使用を抑えることができるという。ちなみに、バイデンは3月、今年中にヨーロッパに150億立方メートルのガスを供給すると公約している。また、IEAのネットゼロエミッション達成のためのロードマップでは、建物の改修、消費電力の少ない家電製品への切り替え、自動車の燃費基準の引き上げ、産業廃熱回収の改善などの対策を通じて、エネルギー効率が今後10年間で2番目に大きな貢献を果たすとされている。効率化が進むと、その反動でエネルギー使用量が増えることがあるが、これは「リバウンド効果」と呼ばれるもので、効率化と節約による正味の効果は非常に大きく、すぐに利用可能でしかも低コストで利用できる。

確かに、EUのエネルギー安全保障計画(REPowerEU)には、2030年までにEUの2020年の基準シナリオと比較して、効率化のためのエネルギー節約を9~13%に引き上げるという目標が含まれている。例えば、フランスでは、2018年に初めて採用されたアパートの改修と、ガスを使用する効率の悪いボイラーに代わる電気暖房の設置に対する補助金を増やすと発表している。古い建物が多いフランスの建物の改修は、エネルギー使用量削減の可能性が最も高いと専門家は指摘しています。このような努力は、効率性を確保するためのスタート地点に過ぎないにもかかわらず、この危機の中で、ヨーロッパ各国政府は、エネルギー需要よりもエネルギー供給に大きな関心を寄せている。

世界的なエネルギー危機に対する供給中心の対応は、ヨーロッパ以外では更に顕著である。IEAによれば、エネルギー効率化投資の成長率は2022年に鈍化するとされており、2050年までに排出量を正味ゼロにするという気候変動目標を達成するために必要な要素には及んでいない。IEAによれば、「最もクリーンで、最も安価で、最も信頼できるエネルギー源は、各国が使用を避けることができ、一方で市民に十分なエネルギーサービスを提供できるものである」ということだ。世界的な効率化の推進は、気候変動に関する目標を達成するために必要なだけでなく、短期的には、全ての消費国、特にヨーロッパの各消費国がロシアの石油とガスの損失による不足に対処するために、必要なエネルギー供給を解放することができ、また、価格の抑制にもつながる。

現在のように石油採掘とインフラ整備に偏って力を注ぐことは、環境的に悪いだけでなく、半世紀前にエネルギー分野の象徴的存在であるエイモリー・ロヴィンズが警告したように、困難でコスト高になる。1973年の石油危機をきっかけに発表された論稿の中で、ロヴィンズは、世界のエネルギー需要を満たすために、採掘、抽出、産業施設などの大規模プロジェクトという「ハード・パス(hard path)」ではなく、保全、効率、再生可能エネルギーという「ソフト・パス(soft path)」をとるよう、エネルギー分野のリーダーたちに強く求めた。

今日、彼の論稿を読み返すと、ロヴィンズの警告がいかに的確であったか、そしてその警告に耳を傾けていれば、私たちはどれほど幸福になれたか、ということに気づかされる。半世紀前に彼が書いたように、今日、「節約は、通常、政策というより価格によって誘導され、必要であることは認められているが、現実よりも修辞的な優先順位が与えられている」のである。加えて、「優先順位は圧倒的に短期的である」と嘆き、目先の政治的・経済的な不安に応えるために、「積極的な補助金や規制によってエネルギー価格が経済水準や国際水準を大きく下回り、成長が深刻に阻害されないように抑制されている」と指摘した。実際、今日の高値に対応して、政府はエネルギー価格の補助金を出し、燃料税を停止している。市場価格が必要なレヴェルまで上昇しているときに、需要を抑制する努力を怠っているのだ。

また、ロヴィンズは、1976年に気候変動の危険性をいち早く指摘し、「石炭へのシフトは、その時あるいはその後すぐに、地球気候に大きな、そしておそらく取り返しのつかない変化をもたらす」と警告し。彼は「205年のエネルギー収入型経済への橋渡しをするために、化石燃料を短期間かつ控えめに使用する過渡的技術」の利用を提唱しており、これは最近本誌で我々が主張したことである。確かに、原子力発電に断固として反対するなど、ヴィビンズのヴィジョンには問題点も多い。しかし、過去半世紀にわたってエネルギーのリーダーたちが困難な道を選んでこなかったならば、今日のヨーロッパと世界の他の地域は、ロシアのエネルギー供給喪失に対処するためにどれほど良い状態にあっただろうかと考えると反省しなければならない。

エネルギー効率と省エネルギーが、エネルギー使用量と排出量に大きな影響を与えるにもかかわらず、社会や政治の注目を浴びてこなかったのには、多くの理由がある。家主は断熱や改修の費用を負担しなければならないが、借主は光熱費の節約によって利益を得ることが多い。これは経済学者に「プリンシパル・エージェント問題(principal-agent problem)」と呼ばれるものだ。消費者たちは、将来的な総電力コストよりも、家電製品の購入価格に注目する傾向がある。これは、「近視眼的(myopia)」として知られる行動現象である。また、節電の呼びかけは政治的な意味合いが強く、1970年代のエネルギー危機の際、ジミー・カーター米大統領(当時)がカーディガンのセーターを着て犠牲を求めた苦い思い出を呼び起こされる。

「ソフト・パス」を歩むのに最適な時期が数十年前であったとすれば、二番目に最適な時期は今である。効率や節約というと、個人的な犠牲や窮乏を連想する人もいるかもしれないが、より効率的な経済は市民の生活の質を下げる必要はなく、同じかそれ以上の生産高を上げるために、より少ないエネルギーの使用を要求するだけのことなのだ。

サーモスタットの調整など、ささやかな行動の変化が必要な節約もあるが、一人当たりのエネルギー消費量が最も多い国の消費者に、ウクライナ人が命がけで究極の犠牲を払っている時に、消費をもう少しだけ減らすように求めるのは、過大な要求にはならない。今年の冬のヨーロッパのガス危機への対応、燃料費高騰による家計への打撃、ロシアのエネルギー供給停止による経済的打撃など、世界のエネルギー政策指導者は、エネルギー効率の価値を早く再認識し、省エネルギーをロシアの侵略に対抗する強力な武器とすべきであろう。

ジェイソン・ボードフ:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト、コロンビア大学気候専門大学院創設学部長、コロンビア大学国際公共問題大学院国際エネルギー政策センター創設部長。国際公共問題担当職業実行教授。米国家安全保障会議上級部長、バラク・オバマ元大統領上級顧問を務めた。ツイッターアカウント:@JasonBordoff

※メーガン・L・オサリヴァン:ハーヴァード大学ケネディ記念大学院国際問題実行部門ジーン・カークパトリック記念教授。著書に『僥倖: 新しいエネルギーの豊富さが世界の政治を覆し、アメリカの力を強化する方法』がある。ジョージ・W・ブッシュ大統領イラク・アフガニスタン担当国家安全保障問題担当大統領次席補佐官、大統領特別補佐官を務めた。ツイッターアカウント: @OSullivanMeghan

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 古村治彦です。

 政治学(Political SciencePoliSci)の一分野として国際関係論(International RelationsIR)がある。国際関係論は1つの大きな学問分野として捉えられることもある。国際関係論には、3つの大きな学派(Schools)が存在する。(1)リアリズム(Realism)、(2)リベラリズム(Liberalism)、(3)コンストラクティヴィズム(Constructivism)である。これらの中でもまた細分化されていくのであるが、大きく3つあるということが分かればそれで十分だ。これらの学派の諸理論を使ってウクライナ戦争とそれを含む世界の現状を分析するとどのようなことになるかということを以下の論稿で紹介している。

 リアリズムは国家のパワー(力)と力の均衡を重視する。力の均衡が保たれていることで平和が維持される。冷戦期は米ソ二大超大国が世界秩序を形成する二極化世界だったがソ連崩壊後はアメリカ一国による世界秩序維持の一極化された世界であった。その中で、中国が経済的、軍事的に力を伸ばし、アメリカに挑戦する形になっている。世界覇権国の交代が平和裏に行われたことはなく、また、一極化から多極化へと進むと世界は不安定になり(考慮しなければならない相手国の数が増え、意図を誤解・曲解する危険性が高まる)、大国間の戦争の可能性が高まるということになる。

 リアリズムは「各国家は国益のために協力し合う」という楽観的な見方をする。そして、国際機関の役割や経済的な相互依存を重視する。「争うよりも協力し合うことで国益追求ができる」という考え方だ。しかし、国際機関は国益がぶつかり合う場所となり、経済的相互依存が平和的な関係をもたらすということもない(米中関係を考えてみれば分かる)。現在の世界は西側諸国(民主的な国々)の集まり対それ以外の国々の集まり(非民主的な国々)の断絶が深刻になっている世界であり、協力は大変に難しい状況だ。

 構成主義(Constructivism、コンストラクティヴィズム)の学者たちは、新しい考え(new ideas)、規範(norms)、アイデンティティー(identities)などの価値観を重視する学派だ。価値観の面でも世界では断絶が起きている。ソ連崩壊によって冷戦は終了し、西側が勝利した、西側の価値観である自由主義、人権、民主政治体制が勝利した、これこそが「歴史の終わり」だということになった。しかし、中国の台頭もあり、西側的な価値観に対する懐疑と批判が出てきている。それによって両者の対立は深まるばかりということになっている。

 西側諸国とそれ以外の世界の対立が激化すればそれは戦争につながるという悲観的な予測が成り立つほどに、現在の世界は不安定化し、対立は深まっている。短期的に見れば、アメリカがウクライナ戦争に大規模な支援を行っている現状で、中国と事を構えるということは考えにくい。また、中国も現在の経済力、軍事力でアメリカを圧倒することはできないので、これから10年単位で整備していかねばならない。しかし、中期的、長期的に見れば、直接対決、大国間戦争という可能性も捨てきれない。世界の大きな転換の期間がスタートしたと言いうことが言えるだろう。

(貼り付けはじめ)

国際関係論の理論は大国間の争いが起きる可能性を示している(International Relations Theory Suggests Great-Power War Is Coming

-国際関係論の教科書を紐解くと、アメリカ、ロシア、そして中国は衝突するコースに乗っていることになる。

マシュー・コーニグ筆

2022年8月27日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/08/27/international-relations-theory-suggests-great-power-war-is-coming/?tpcc=recirc_latest062921

今週、世界中の何千人もの大学生が、初めて国際関係論の講義の入門編を受け始めることになる。教授たちが近年の世界の変化に敏感であれば、国際関係論の主要な諸理論が大国間の争いの到来を警告していることを教えることになるだろう。

何十年もの間、国際関係論の理論は、大国は協力的な関係を保ち、武力衝突を起こさずにその相違を解決することができるという、楽観的な根拠を与えてきた。

国際関係論の現実主義(Realism)の諸理論はパワーに焦点(power)を当て、何十年もの間、冷戦(Cold War)時代の二極世界(bipolar world)と冷戦後のアメリカが支配する一極世界(unipolar world)は、誤算(miscalculation)による戦争が起こりにくい比較的単純なシステムであると主張してきた。また、核兵器は紛争のコスト(cost of conflict)を引き上げるので、大国間の戦争は考えられないと主張した。

一方、国際関係論のリベラリズム(Liberalism)の理論家たちは、制度(institutions)、相互依存(interdependence)、民主政治体制(democracy)という3つの原因変数(causal variables)が協力(cooperation)を促進し、紛争を緩和すると主張した。第二次世界大戦後に設立され、冷戦終結後も拡張され依存している国際機関や協定(国連、世界貿易機関、核不拡散条約など)は、大国が平和的に対立を解決するための場を提供している。

更に言えば、経済のグローバライゼイションによって、武力紛争はあまりにもコストがかかりすぎるようになった。ビジネスがうまくいき、皆が豊かになっているのに、なぜ喧嘩をするのか? 最後に、この理論によれば、民主政治体制国同士が争う可能性が低く、協力する可能性が高い。過去70年間に世界中で起きた民主化(democratization)の大きな波が、地球をより平和な場所にしたのである。

同時に、構成主義(Constructivism、コンストラクティヴィズム)の学者たちは、新しい考え(new ideas)、規範(norms)、アイデンティティー(identities)が、国際政治をよりポジティブな方向に変えてきたと説明した。かつて、海賊、奴隷、拷問、侵略戦争は当たり前のように行われていた。しかし、この間、人権規範の強化や大量破壊兵器(weapons of mass destruction)の使用に対するタブーにより、国際紛争に対するガードレールが設置された。

しかし、残念なことに、これら平和をもたらす力はほとんど全て、私たちの目の前で崩壊しつつあるように見える。国際関係論の諸理論によれば、国際政治の主要な駆動力(major driving forces)は、米中露の新冷戦が平和的である可能性が低いことを示唆している。

まず、パワーポリティクスから始めよう。私たちは、より多極化した世界(more multipolar world)に入りつつある。確かに、ほとんど全ての客観的な尺度によれば、アメリカは依然として世界を主導する超大国であるが、中国は軍事力と経済力において第2位の地位を占めるまでに強力に台頭してきた。ヨーロッパは経済的、規制的な存在である。より攻撃的なロシアは、地球上で最大の核兵器備蓄を維持している。インド、インドネシア、南アフリカ、ブラジルなどの発展途上の主要諸国は、非同盟路線(nonaligned path)を選択している。

リアリズムの学者たちは、多極化体制は不安定であり、大きな誤算による戦争が起こりやすいと主張する。第一次世界大戦はその典型的な例である。

多極化体制が不安定なのは、各国が複数の潜在的敵対勢力(multiple potential adversaries)に気を配らなければならないからだ。実際、現在、米国防総省は、ヨーロッパにおいてはロシア、インド太平洋においては中国との同時衝突の可能性に頭を悩ませている。更に言えば、ジョー・バイデン米大統領は、イランの核開発問題に対処するための最後の手段として、軍事力行使の可能性を残していると述べている。アメリカによる3正面戦争もあり得ない話ではない。

誤算による戦争は、ある国家が敵国を過小評価した時に起こることが多い。国家は敵国のパワーや戦う決意を疑い、敵国を試す。敵国がハッタリで、そうした挑戦が報われることもある。しかし、敵国が自国の利益を守ろうとするのであれば、大きな戦争に発展する可能性がある。ロシアのウラジミール・プーティン大統領は、ウクライナに侵攻する際、戦争は簡単だと誤った判断をしたのだろう。リアリズムの学者の中には、以前からロシアのウクライナ侵攻を警告していた人もいるし、ウクライナ戦争がNATOの国境を越えて波及し、米露の直接対決に発展する可能性もまだ残っている。

加えて、中国の習近平国家主席が台湾をめぐって誤算を犯す危険もある。台湾を防衛するかどうかで混乱するワシントンの「戦略的曖昧さ(strategic ambiguity)」政策は、不安定さに拍車をかけるだけだ。バイデンは台湾を守ると言ったが、彼が率いるホワイトハウス自体がそれに反論した。多くの指導者たちが混乱しており、その中にはおそらく習近平も含まれている。習近平は、台湾への攻撃から逃れられると勘違いし、それを阻止するためにアメリカが暴力的に介入してくるかもしれない。

更に、イランの核開発問題で何人もの米大統領が何の根拠も裏付けもなく、「あらゆる選択肢がある(all options on the table)」と脅したことで、テヘランはアメリカの反応なしに核開発に踏み切れると思い込んでしまうかもしれない。もしイランがバイデンの決意を疑い、そして誤解すれば、戦争に発展する可能性がある。

また、リアリストの学者たちは力の均衡(balance of power、バランス・オブ・パワー)の変化にも注目し、中国の台頭とアメリカの相対的な衰退について懸念を持っている。権力移行理論(power transition theory)によると、支配的な大国(dominant great power)が没落し、新興の挑戦者(ascendant challenger)が台頭するとしばしば戦争に発展する。専門家の中には、米国と中国がこの「トゥキディデスの罠 (Thucydides Trap)」に陥っているのではないかと心配する人もいる。

彼らの機能不全の独裁体制により、北京やモスクワがすぐに米国から世界のリーダーシップを奪う可能性は低いが、歴史的な記録を詳しく見てみると、挑戦者は拡大する野心が妨げられた時に侵略戦争(wars of aggression)を開始することがある。第一次世界大戦中のドイツや第二次世界大戦中の日本のように、ロシアはその衰退を逆転させようとしている可能性があり、中国も弱く、そして危険である可能性がある。

核抑止力(nuclear deterrence)はまだ機能しているという意見もあるだろうが、軍事技術は変化している。人工知能(artificial intelligence)、量子コンピュータと通信(quantum computing and communications)、積層造形技術(additive manufacturing)、ロボット工学(robotics)、極超音速ミサイル(hypersonic missiles)、指向性エネルギー(directed energy)などの新技術が、世界経済、社会、戦場を一変させると予想され、世界は「第4次産業革命(Fourth Industrial Revolution)」を体験している。

多くの防衛専門家は、私たちは軍事における新たな革命の前夜にいると考えている。これらの新技術は、第二次世界大戦前夜の戦車や航空機のように、攻勢に転じた軍隊に有利に働き、戦争の可能性を高める可能性がある。少なくとも、これらの新兵器システムは力の均衡の評価を混乱させ、上記のような誤算のリスクを高める可能性がある。

例えば、中国は、極超音速ミサイル、人工知能の特定の応用、量子コンピューティングなど、こうした技術のいくつかでリードしている。こうした優位性、あるいは北京ではこうした優位性が存在するかもしれないという誤った認識が、中国を台湾に侵攻させる可能性がある。

一般に楽観的な理論(optimistic theory)であるリベラリズムでさえも、悲観主義(pessimism)になる理由がある。確かに、国際関係論のリベラル派の人々は制度、経済的相互依存(economic interdependence)、民主政治体制がリベラルな世界秩序の中での協力を促進したことは事実である。アメリカと北米、ヨーロッパ、東アジアの各地域の民主的同盟諸国は、かつてないほど結束を強めている。しかし、これらの同じ要因が、自由主義的世界秩序(liberal world order)と非自由主義的世界秩序(illiberal world order)の間の断層において、ますます対立を引き起こしている。

新たな冷戦の中で、複数の国際機関は新たな競争の場となっただけのことだ。ロシアと中国がこれらの機関に入り込み、本来の目的から反している。2月にロシア軍がウクライナに侵攻した際、ロシアが国連安全保障理事会(United Nations Security Council)の議長を務めたことを誰が忘れることができるだろうか? 同様に、中国は世界保健機関(World Health OrganizationWHO)での影響力を利用して、新型コロナウイルスの出所に関する効果的な調査を妨害した。独裁者たちは、自分たちの深刻な人権侵害が精査されないように、国連人権理事会(U.N. Human Rights Council)の議席を争っている。国際機関は協力を促進する代わりに、ますます紛争を悪化させている。

また、リベラル派の学者たちは、経済的な相互依存が紛争を緩和すると主張する。しかし、この理論には常に「鶏と卵の問題(chicken-and-egg problem)」がある。貿易が良好な関係を促進するのか、それとも良好な関係が貿易を促進するのか?私たちは、その答えをリアルタイムで見ている。

自由世界は、モスクワと北京にいる敵対的な存在に経済的に依存しすぎていることを認識し、できる限り早くその関係を断ち切ろうとしている。欧米諸国の各企業は一夜にしてロシアから撤退した。アメリカ、ヨーロッパ、日本の新しい法律や規制は、中国への貿易と投資を制限している。ウォール街が、中国人民解放軍と協力してアメリカ人殺害を目的とした兵器を開発している中国のテクノロジー企業に投資するのは、単に非合理的なことでしかない。

しかし、中国は自由な世界からも切り離されつつある。習近平は、中国のハイテク企業がウォール街に上場することを禁止しているが、これは西側の諸大国と独自情報を共有したくないからだ。自由主義国と非自由主義国の間の経済的相互依存は、紛争に対するバラスト(ballast 訳者註:船のバランスを取る装置)として機能してきたが、今や侵食されつつある。

民主平和理論(democratic peace theory)は、民主政治体制国家は他の民主国家と協力するとしている。しかし、バイデンが説明するように、今日の国際システムの中心的な断層は、「民主政治体制と独裁政治体制の戦い(the battle between democracy and autocracy)」である。

確かに、アメリカはサウジアラビアのような非民主的国家と友好的な関係を保っている。しかし、世界秩序は、アメリカとNATO、日本、韓国、オーストラリアなどの現状維持志向(status quo-oriented)の民主的同盟諸国と、中国、ロシア、イランなどの修正主義的独裁国家(revisionist autocracies)との間でますます分裂しているのである。ナチス・ドイツ、ファシスト・イタリア、大日本帝国に対する自由世界の対立の響きを探知するために聴診器(stethoscope)を必要とすることはない。

最後に、グローバルな規範の平和的効果に関するコンストラクティヴィズムの主張には、これらの規範が本当に普遍的なものかどうかという疑問が常につきまとう。中国が新疆ウイグル自治区で大量虐殺を行い、ロシアが血も凍るような核の脅威を示し、ウクライナで捕虜を去勢する中で、私たちは今、ぞっとするような答えを手に入れたのである。

更に言えば、コンストラクティヴィズムの学者たちは、国際政治における民主政治体制対独裁政治体制の対立が、単に統治(governance)の問題ではなく、生き方(way of life)の問題であることに注目するかもしれない。習近平やプーティンの演説や著作は、独裁体制の優位性や民主政治体制の欠点について、しばしばイデオロギー的な主張を展開している。好むと好まざるとにかかわらず、私たちは、民主的な政府と独裁的な政府のどちらが国民のためにより良い成果を上げられるかという20世紀型の争いに戻っており、この争いにより危険なイデオロギー的要素が加わっている。

幸いなことに、良いニューズもある。国際政治を最もよく理解するには、いくつかの理論の組み合わせの中に見出すことができるかもしれない。人類の多くは自由主義的な国際秩序を好み、この秩序はアメリカとその民主的同盟諸国の現実主義的な軍事力によってのみ可能である。更に、2500年にわたる理論と歴史が示唆するのは、こうしたハードパワーによる競争では民主政治体制国家が勝利し、独裁国家は最終的に悲惨な結末を迎える傾向があるということだ。

残念ながら、歴史を正義の方向に向ける明確な瞬間は、しばしば大国間の戦争(major-power wars)の後にしか訪れない。

今日の新入生たちが卒業式で、「第三次世界大戦が始まった時、自分はどこにいたか」などと回想していないことを願おう。しかし、国際関係論の理論には、そのような未来の出現を懸念する理由を多く示している。

※マシュー・コーニグ:大西洋協議会スコウクロフト記念戦略・安全保障研究センター副部長、ジョージタウン大学政治学部、エドマンド・A・ウォルシュ記念外交関係学部教授。最新刊に『大国間競争の復活:古代世界から中国とアメリカまでの民主政治体制対独裁性体制』がある。ツイッターアカウント:@matthewkroenig

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