古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

2022年12月

 古村治彦です。

  古村治彦です。

 2022年も押し詰まりいよいよ大晦日を迎えた。年齢を重ねると一年の経過を早く感じると誰でも言うことをやはり言ってしまう。2022年は戦いの年だった。2月24日にウクライナ戦争が勃発し、現在も続いている。ウクライナ東部ではロシア軍とウクライナ軍の攻防戦が続いている。アメリカが大部分を占めるが、欧米諸国からの支援が継続されている。これによってウクライナは戦争が継続できている。ウクライナは輸血をされながら病原体と戦っているが、肉体には相当のダメージを追っているような状況だ。相当な無理な状態に置かれ、ウクライナ国民の犠牲も増え続けている。

 ロシアは戦争初期段階で経済制裁を受けたが、その影響を乗り越えている。ロシアからの石油や天然ガスを西側諸国(the West)は受け入れないとなったが、西側以外の国々(the Rest)が引き受けることで戦費が継続できている。ロシア軍はウクライナの首都キエフに向かって進軍していたが、アメリカから供与された最新式の武器とアメリカからの軍事顧問団から訓練を受けていたウクライナ軍の抵抗によって、戦争をウクライナ東部に限定している。ロシア軍が負け続け、ウクライナ軍が勝ち続けているという印象操作ももはや続けられない。ロシア軍はウクライナ東部で守りを固め、ウクライナ軍を引き込みつつ、補給線を伸ばしてそこをミサイル攻撃で叩くという作戦のようだ。前線と古い言葉でいうと銃後の区別がつかない状況は一般の人々を疲弊させる。

 ウクライナ戦争の影響を受け、食糧価格とエネルギー価格の上昇によるインフレが一般国民の生活を直撃した。インフレに対応として利上げを行えば景気は悪くなる。しかし、インフレを放置することはできない。どちらにしても厳しい状況だ。一番の特効薬は、ウクライナ戦争の停戦である。世界中の人々を助けるために一日も早い停戦が望ましい。しかし、状況は厳しい。ヴォロディミール・ゼレンスキー大統領と側近たちがウクライナ政府を掌握し続けている限り停戦は難しい。

 中国はウクライナ戦争には冷静に対応している。しかし、「ウクライナの次は台湾だ」と戦争を煽動するアメリカのネオコン派(共和党系)と人道的介入主義派(民主党系)の策動で、東アジア、インド太平洋地域をめぐる状況は不安定となっている。日本もクアッド(日米豪印戦略対話)に組み込まれるだけではなく、オーカス(米英豪軍事同盟)の枠組みに参加することで、「対中包囲網」の最前線に立たされることになった。軍事費の倍増と先制攻撃の容認によって、戦時体制に傾斜していく。2024年の米大統領選挙でジョー・バイデンが再選されるような状況になると、米中戦争の危険が高まると考える。

 2023年もウクライナ戦争は続いていくだろう。戦争が年単位ということになれば、西洋諸国からも停戦を求める声が強まっていくだろう。アメリカが支援を減少、もしくは停止すれば戦争はすぐに終わるということになれば、「アメリカが世界の超大国だと威張るならば戦争を止めろ」という声がアメリカに向かうだろう。誰も戦争を停めようという声を上げられない、誰も猫に鈴をつけることが出来ないという状況をゼレンスキー大統領は利用している。しかし、世界の人々の不満と怒りがどこかの時点で爆発する。アメリカのジョー・バイデン大統領はその時にゼレンスキーを切り捨ててさっさと停戦するだろう。だから、私たちは堂々と声を上げて、ウクライナ戦争停戦を求めるべきだ。
 属国の指導者の運命は覇権国の意向に左右される。日本では今年7月8日に安倍晋三元首相が暗殺された。あれだけアメリカの覚えがめでたく、憲政史上最長の首相在任期間を誇った人物だった安倍元首相だが、最後は弊履のごとく棄てられた。安倍晋三という人物は、二律背反的な「アメリカに憧れ徹底的に親米でありながら、無邪気な、無分別な行動や発言がどうしても反米につながってしまう」人物であった。アメリカのために日本が中国との最前線に立てるようにし、国富を貢ぎながら、太平洋戦争では日本は悪くなかった論(靖国神社遊就館史観)を唱え(アメリカの戦争の大義を否定)、核武装を主張するという行動を取った(日米同盟は日本が再び逆らわないようにするための装置でしかない)。日本が核武装すれば北朝鮮のようにアメリカの言うことに逆らうようになることはアメリカにとって自明の理だ。安倍晋三はアメリカに徹底的に利用され、最後は捨てられた。ゼレンスキーの運命も安倍晋三のようになるだろう。2022年は私たちに政治の酷薄さを認識させた年となった。

 最後に、2022年は大変お世話になりまして、まことにありがとうございます。2023年もご指導、ご鞭撻賜りますよう、よろしくお願いいたします。良いお年をお迎えください。

(終わり)

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 2022年は戦争の年となった。ウクライナ戦争によって、ウクライナとロシアの両国民の多くは直接的に生命の危機に瀕している。戦争と経済制裁の影響を受けて、世界規模で資源や食料の価格が高騰し、他国の人々の生活にも大きな影響が出ている。一般庶民にとっては「生活防衛」のために「戦いの年」でもあった。

 戦争はいつの時代も起きる。人間が種として存続し、国家が存続し、欲望が存続するならば、戦争はなくならないだろう。国際関係論のリアリズムの原理は、「国家をコントロールする上部の世界政府のような存在がない以上、戦争はなくなることはない」というものだ。これは悲しいが真実ということになるだろう。

 それでも、戦争の危険を減らすことはできる。ある国の指導者が「戦争を起こす」という考えを持って実際に戦争を起こすまでの間に、何とか止めることはできないかということだが、万能薬はないが、少しは効果のある方法はある。それは、「戦争は利益をもたらさないし、解決ももたらさない」ということを歴史から学ぶことだ。

 アメリカは世界の警察官を自任し、アフガニスタンやイラクで戦争を起こしたが、その結果はアメリカにとって利益にならず、問題解決にもつながらなかった。儲かったのは、政治家たちと武器商人たちだけだった。アメリカが傲慢にも「民主的な政治体制や人権や自由主義的なイデオロギーや価値観は世界中に移植可能だ。世界の全ての国が民主国家になって西洋的な価値観を報じるようになれば世界は平和になる」と考えて、戦争を仕掛けたことで仕掛けられた国は不幸になった。独裁者を外科手術のようにして排除することはできても別の不幸が起きる。このことを私たちは21世紀になって学んだ。

 「戦えばうまくいく、事態を打開できる」などという言葉で指導者層が自分たち自身を騙して戦争に突入し、悲惨な結果となった国がある。それが日本だ。防衛費を増額し、先制攻撃を可能にすることで、またぞろこのようなお勇ましい掛け声が飛び交うようになっている。私たちはこのことをよくよく考えねばならない。私たちは、アメリカのようにいつでも「戦時中」であってはいけない。子や孫の代まで「戦後」を生きていけるようにしなければならない。そのためには戦争を起こしてはいけないということになる。

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世界平和に向けたリアリストのガイド(The Realist Guide to World Peace

-戦争を終わらせたいと望むにあたりリアリストになる必要はない。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2022年12月23日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/12/23/a-realist-guide-to-world-peace/

休暇の季節だ。毎年、平和について考えることが奨励される短い期間だ。この時期には戦争中の軍隊が停戦を宣言することもあるし、世界中の様々な信仰の共同体では、平和を追求し維持することが神聖な義務であると語られる。幸運にも、私たちの多くはこれから数日間、友人や家族と楽しく過ごし、人間の残酷な本能を少なくともひとまず脇に置いておこうとすることだろう。

正直なところ、2022年は平和にとって良い年ではなかった。ウクライナでの残忍で無意味な戦争(終結の兆しはなく、更に悪化する可能性もある)に加え、イエメン、ミャンマー、ナイジェリア、エチオピア、シリアなど多くの場所で暴力的な紛争がまだまだ進行中だ。11月にバリ島で開催されたG20サミットでは、ジョー・バイデン米大統領と習近平中国国家主席がかなり友好的な会談を行ったが、世界で最も強力な2カ国は、多くの重要な問題で依然として分裂したままだ。このような世界情勢と、世界を主導する大国であり続けたいアメリカの意向を考えれば、連邦上院が国防予算の8%増を可決したことに誰も驚かないはずだ。ドイツや日本など、以前は平和主義に傾いていた国々でさえ、2022年には劇的な再軍備に踏み切った。

私のようなリアリストにとっては、これらの動きは驚くべきことではない。リアリズムの中心的な教訓は、中央政府の存在しない、独立した国々の世界では、戦争の可能性が常に存在し、国家が行うことの多くに影を落としているということだ。戦争は本質的に破壊的であり、しばしば不確実であるため、リアリストたちは理想主義的な十字軍(idealistic crusades)を警戒し、他者が正当であろうとなかろうと、重要な利益とみなすものを脅かす危険性に注意を払う傾向がある。むしろ、全ての学派や潮流のリアリストたちが強調するのは、指導者たちが乏しい情報や自らの妄想に容易に惑わされ、崇高な目的でさえも残念な結果を生み出しかねない世界の悲劇的特徴だ。

しかし、リアリストたちもリアリズムに対する批判者たちも、深刻な紛争の可能性に対して手を上げて、何もすることができないと宣言することはできない。国家間および国家内の戦争は常に危険であるが、真の課題は、新たな戦争のリスクを最小限に抑え、既存の戦争を終結させるのに役立つ政策を考え、実行することだ。平和の利益と戦争のコストやリスクがかつてないほど高まっている今日、この課題は人類史上最も緊急性の高いものとなっている。

第一に、利益について考えてみよう。経済的相互依存(economic interdependence)が国家間および国家内の平和を促進すると考える人は多いが、ロシアのウクライナ侵攻によって、この考えに疑問を呈することになる。しかし、今回のロシアのウクライナ侵攻はその考えを覆すものだ。その反対が真実である。平和は相互依存をより現実的なものにし、経済交流の恩恵をより低いリスクで享受することを可能にする。戦争の危険が減れば、投資家は安心して資本を他国に送ることができ、政府は貿易相手国が交換から少しでも多くの利益を得ているかどうかを心配する必要がなくなり、国家はライヴァル国が自国に害をなすような知識を得ることを心配せずに外国人訪問者や留学生を迎えることができ、精巧なサプライチェーンにとってのリスクが少なく、誰もが常に相対優位性(relative interdependence)を追求するのではなく、共同の利益を追求することができる。大国間の深刻な対立がないことが、近年のグローバライゼイションの時代を促進し、その欠陥にもかかわらず、人類に莫大な利益をもたらした。また、戦争がなければ、社会は自分たちとは異なる文化からのアイデアや教訓を交換することに、よりオープンになることができる。

次に、コストとリスクについてだ。もちろん、その最たるものは人的・経済的な代償である。戦争が始まって以来、20万人近いウクライナ人とロシア人が死傷し、数百万人の難民が流出した可能性がある。ウクライナにかかる経済的コストは恐ろしいほど大きく、ロシア自身の経済も衰退しており、戦争は他の多くの国々の経済問題や食糧不足を悪化させた。同様に、イエメンの内戦とサウジアラビアの介入で40万人近くが死亡し、既に貧しい国土を荒廃させ、アフリカとラテンアメリカの内戦はこれらの地域を浸食し、国外への移住を促し続けている。

しかし、紛争の直接的なコストは、その代償の一部に過ぎない。国家間の競争が激化し、戦争のリスクが高まれば、相互の利害に関する事柄であっても、協力する能力は低下する。気候変動、疫病の蔓延、難民の増加など、人類は今日、多くの困難な問題に直面している。そのどれもが、クリミアや台湾、ナゴルノ・カラバフを誰が統治するかということ以上に重要な問題であり、簡単に解決できるものではない。各国が争えば争うほど、あるいは戦争の準備に時間と労力と資金を割けば割くほど、こうした他の問題への対処は難しくなる。

また、戦争がエスカレートしたり拡大したりするリスクも避けられない。国家は勝利を得るため、もしくは敗北を避けるため、必ずより多くのことをしたくなり、第三者は意図的に、あるいは不注意によって、より深く関与するようになることが多い。言うまでもなく、このような危険は、核兵器を保有する国家が関与している場合には、特に懸念される。核兵器がエスカレートする可能性は極めて低いかもしれないが、その可能性を完全に否定するのは無謀であろう。それは平和主義を主張するものではないが、戦争よりも平和を好む強力な理由となる。

平和の困難さは、個々の独裁者の傲慢さと愚かさのせいだと言いたいところだが、今年はそのどちらにも欠けることがないのはご存じの通りだ。ロシアのウラジミール・プーティン大統領には、NATOの拡大とロシアの安全保障への影響を懸念する正当な理由があったかもしれない。しかし、その懸念に対する彼の「解決策(solution)」は、何千人もの罪なき死者と膨大な人的被害をもたらし、ロシアをより強くも安全にもすることはないだろう。サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン王太子によるイエメンへの介入や、イランの政権やミャンマーの軍事政権が進める残忍な弾圧についても、同じことが言えるかもしれない。しかし、独裁政治が問題だと結論づける前に、強力な民主国家が偏執症(パラノイア)と傲慢の危険な組み合わせに屈することがあることを思い出して欲しい。ジョージ・W・ブッシュ元米大統領、ディック・チェイニー元副大統領とその部下たちが2003年に示した具体例を思い出して欲しい。

残念ながら、私は恒久平和の方程式を持ち合わせてはいない。しかし、私はよく観察している。最近の戦争で顕著なのは、戦争を始めた国に大きなマイナスになることがいかに多いかということだ。1905年に日本がロシアに対して行ったように、あるいはドイツ統一戦争でビスマルクのプロイセンが行ったように、大国が大きな戦争を始めて劇的な戦略的利益を得ることができた時代は、もう過去のものとなったようだ。イラクのサダム・フセイン元大統領はイランを攻撃し、クウェートに侵攻し、いずれも大敗を喫した。アメリカはイラクとアフガニスタンに侵攻し、コストのかかる泥沼に陥った。2011年のリビアへの介入は破綻国家(failed state)を生み出した。イスラエルによるレバノンへの介入は18年間の占領を招き、その結末はアメリカがアフガニスタンで行った長い努力と何ら変わらないものとなった。セルビアのコソボへの攻撃は、最終的にセルビアの指導者スロボダン・ミロシェヴィッチの戦争犯罪者としての起訴と権力の排除につながった。実際、戦争を始めるという決断が、その責任者に大きな利益をもたらしたという例は、最近あまりないように思われる。例えば、エチオピアのティグライ人民解放戦線に対する作戦は、政府に有利な和平合意で終わったかもしれないが、この戦争はアビイ・アーメド首相のかつての名声を大きく傷つけた。

他にも色々あるが、大体がこんなところだろう。ナショナリズム、迅速な外交コミュニケイション、抵抗運動を煽る国際武器市場の繁栄、不完全ながらも広く受け入れられている征服に反対する規範、核兵器の冷静な影響、顕在的脅威に対してバランスを取ろうとする国家の強い傾向などが相まって、ほとんどの攻撃的戦争は仕掛け手にとって怪しげな提案になっているだろう。しかし、強力な国家であっても、戦争を仕掛けることによって達成できることには限界があるように思われる。

従って、世界の指導者たちに向けた私の休暇シーズンのメッセージは次のようになる。万が一、自国が攻撃された場合、あるいは重要な同盟諸国が同じような状況に陥った場合、それを支援できるような防衛力をぜひとも維持することだ。同時に、自国の外交・安全保障政策が、知らず知らずのうちに他国の死活的利益を侵害していないかどうかを自問してほしい。もし侵害していれば、自国を無防備にしたまま問題を軽減するために何かできることはないかを考えてみる。その可能性を誠実に、そして率直に相手と探ってみるべきだ。

最も重要なことは、もしあなたの助言者の一人が、戦争を始めることで政治的問題を解決できると説得し始めたら、そしてその助言者が、「条件はぴったりで、星は並び、時は適切で、コストは低く、リスクは小さく、行動すべき時は今だ」と言ったら、その助言に丁寧に感謝し、すぐにセカンドオピニオンを求めることだ。その間に、勝利を確信して戦争に突入し、代わりに平和を選択した方が良かったと考えられる元指導者たちについて考える時間を持つことになるだろう。

追記:このコラムは、今年3月に97歳で逝去した、亡き友人シド・トポルのことを考えながら書いた。シド・トポルは驚くべき人物で、私(そして他の多くの人々)に対して、仕事において平和をより優先させるよう繰り返し訴えてきた。私は数年前、シドに触発され、毎年少なくとも1回は平和をテーマにしたコラムを書くことにした。今年は、彼の思い出を称賛しながら、このコラムを執筆する。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。ツイッターアカウント:@stephenwalt
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 古村治彦です。

 米中関係は世界第1位と第2位の経済大国間の関係であるため、関係の良好さが米中両国にとどまらず、世界規模で影響を与えることになる。中国が奇跡の経済成長を遂げる中で、世界経済はそれにけん引されてきた。中国以外にある程度の大きな規模で経済成長を続けてきた国はなく、中国の経済減退は世界的に大きな影響を及ぼす。アメリカは世界のGDPの25%を占める世界最大の経済大国であるので、同様の影響を持つ。

 国際関係論という学問分野の中に、リアリズムという潮流があり、スティーヴン・M・ウォルトはその潮流・学派を代表する大家(たいか)である。中国共産党大会が開催され、習近平が政権3期目を継続するにあたり、米中関係に関して冷静に分析をしている。ウォルトは、「人間は間違いを犯す存在だ(無誤謬ではない)」という基本的な原理から、1人の独裁者による支配は間違いを起こし、それを修正することが難しいとしている。それで中国が弱体化すれば、トレイドオフでアメリカにとって素晴らしいことになるとしている。

 しかし、こうしたシナリオには悪い面もあって、中国が弱体化すれば経済成長が鈍化し、世界的に悪影響を及ぼす、中国を守ろうとする国家主義的な動きが活発になり、米中関係が悪化する、習近平が自分の正統性を証明するために、より危険な動き(台湾侵攻など)を行う可能性が高まる、ということが考えられる。

 こうしたウォルトの思考は、リアリズムの基本的な諸原理に従ったものである。これらを応用して、このように分析している。彼のこうした分析は、ウォルトが中国専門家ではないので、大づかみではあるが、細かい点で足りないところがあると考えている。中国と習近平は基本的に現在の国際秩序を崩す考えはないし、非常に守勢的である。アメリカの対中強硬姿勢に受動的に対応しているだけのことであって、アメリカが敵対的な姿勢を止めれば、中国がアメリカに対して攻撃的になることはない。また、台湾侵攻はウクライナ戦争の状況を考えれば短期的には起きないと考えられるし、人的、経済的関係の深さを考えると、軍事的な侵攻を行う必要はない。こちらもアメリカが煽動しなければ自体が大きく変わることなく、淡々と進んでいく。

 問題はアメリカであり日本だ。経済的には中国と関係が深いのに、国内の諸問題や分断から、両国の一般国民の目を逸らさせるために、対中強硬姿勢を取るという愚かな行為で、結果的に不安定な状況を作り出し、平和を脅かす行為をしている。

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習近平率いる中国はアメリカにとって良くて、そして悪い(Xi’s China Is Good—and Bad—for the United States

-中国共産党第20回党大会の戦略的意味合いは2つの全く異なる方向に分かれる。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2022年11月1日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/11/01/xis-china-is-good-and-bad-for-the-united-states/

「大国間競争の新時代に入った」というのはもはや決まり文句のようなものだが、しかしながら、それが真実でない訳でもない。アメリカの新国家安全保障戦略、最近発表された国防戦略、高度なコンピューターチップや関連技術に対する強硬な輸出規制の実施などを見れば、ジョー・バイデン政権が中国を長期的な戦略的ライヴァルとして見ていることは明白だ。中国の習近平国家主席と彼の側近たちも同じような見方をしているようだ。シートベルトを締めよう。波乱万丈の展開になりそうだ。

このような状況下で、今回の中国共産党第20回全国代表大会をどう解釈すべきだろうか? 習近平の前任者である胡錦濤への屈辱と思われるドラマもあり、プロのチャイナウォッチャーたちにはたまらない内容となった。習近平は前例のない3期目の政権を獲得し、より忠実な人物を要職に登用することで支配力を強化し、経済重視のテクノクラートから国家主義志向の役人に交代し、自らが終身国家主席となる可能性が高くなった。オーストラリア元首相のケヴィン・ラッドが指摘するように、経済成長と発展はもはや最優先事項ではなく、国家の安全保障と中国共産党の権威の維持が中国にとっての最優先事項なのである。

私は中国の専門家ではない。しかし、世界最強の2国間の関係とその力の均衡(balance of power)が、世界政治の多くの側面に重大な影響を及ぼすことは、専門家でなくても理解できるだろう。ここで、当然の疑問が生じる。今回の中国共産党大会での決定は、力の均衡と米中競争にどのような影響を及ぼすのだろうか? アメリカの立場からすれば、最近北京で行われたことは良いニュースだったのか、そうでなかったのか?

私にとっての問題は、この出来事について、アメリカ人が少し落ち着くべき話と、もっと神経質になるべき話の2つを語れることだ。更に悪いことに、この対照的なストーリーは相互に排他的ではなく、相互に補強し合う可能性さえある。

まず、アメリカの立場から見て良い話から始めよう。

北京で起きたことは、中国が数十年にわたって大国としての出現を遅らせたのと同じような独裁者による統治(one-man rule)に戻りつつあることを示唆している。中国は既に大きな逆風に晒されている。経済の減速、人口の高齢化と労働力の減少、そしてそのパワーと野心に対する国際的な懸念の増大である。このような事態は避けられないものであるが(例えば、経済が成熟すれば必ず成長は鈍化し、人口動態の不均衡は一夜にして解決できない)、習近平の厳格な新型コロナウイルス・ゼロ政策、中国の高成長技術部門への抑圧、習近平の統治下で採用した外交政策への好戦的「オオカミ戦士(wolf-warrior)」アプローチによって悪化させられてきた。また、中国の問題は、アメリカが技術へのアクセスを制限しようとすることにとどまらず、アジアやヨーロッパの国々が中国との緊密な経済関係に対して警戒心を強めていることだ。ドイツのオラフ・ショルツ首相らは、中国との経済関係を維持しようと努めているが、EUが投資協定の中断を決定するなど、中国の急成長を支えた開放性が閉ざされつつある。

これらの不利な展開を考えると、最近の党大会は途中で修正する機会だったかもしれないが、代わりに正反対のことが起こった。習近平は、より経済志向のテクノクラートよりも国家主義志向の政府高官を昇格させ、最高指導者機関を忠実な部下たちでいっぱいにし、毛沢東と同等の最高指導者としての地位を確立するためのキャンペーンを続けた。

これは中国企業や一般市民にとっては悪いニュースかもしれないが、アメリカにとっては良いニュースかもしれない。なぜなら、毛沢東は中国にとって多くの点で災難だったからだ。毛沢東は革命指導者としては優秀であり、戦時向けの戦略家であったかもしれないが、経済の運営や世界的な影響力を持続させるための物質的な基盤の確立については全く考えていなかった。毛沢東の指導力は、中国の潜在能力を数十年にわたり未開発のままにし、1958年の大躍進(Great Leap Forward)や1960年代の文化大革命(Cultural Revolution)などの災厄を引き起こし、中国国内だけで膨大な人的被害をもたらした。毛沢東の死後、彼の政策が放棄された後、中国は目覚しい発展を遂げた。毛沢東の後継者たちは、1人の「無誤謬」の指導者(single, “infallible” leader)に依存することの危険性を認識し、集団指導(collective leadership)の原則を確立し、過去の過ちの悲劇を繰り返さないようにしようとした。

しかしながら、習近平の時代になって、中国は逆の方向に向かっている。習近平を公然と批判することは事実上不可能であり、習近平の政策がいかに無策であっても実行に移され、その一部が裏目に出れば、元に戻すことは困難となるだろう。党大会後、経済政策に「経験豊富な大人がいない(no adults in the room)」ことが投資家たちに伝わり、中国株が急落したのは偶然ではないだろう。習近平が歴史上初めて完全無欠の政治指導者であると信じているのでなければ(彼は既にそうではないことを証明している)、習近平の権力強化は、中国が、彼の選択に疑問を持ち、行き過ぎを抑制できる仲間を持つ、それほど意志の強くない指導者のもとで行われてきたであろうよりも、富や権力、そして外国人に対する魅力が減少することを意味している。今後、習近平が間違ったことをした際に、誰がそれを指摘するのだろうか? 部下は、上司が聞きたいと思うことを伝え、悪い知らせは自分の印象が悪くならないよう封じ込める傾向がさらに強くなるのではないか? これは非効率的であり、重大なミスを引き起こす危険性を高める。結局のところ、北京の新しい権力構成は、アメリカが優位な立場を維持するための努力を支援することになる。

しかし、その反面、大きなマイナス面もある。少なくとも3つの潜在的な問題があると思う。

第一に、中国の経済成長が低下することは、アメリカと中国の間の力の均衡にとっては良いことかもしれないが、すでに不況の瀬戸際にある世界経済にとっては良いことではないだろう。習近平政権下の中国がこのまま低迷を続ければ、アメリカを含む多くの国々の経済が打撃を受け、多くの国の一般市民が傷つき、あらゆる種類の過激派が利益を得ることになるだろう。

第二に、国家安全保障の問題を優先させる(そして経済成長よりもそれを優先させる)ことは、スパイラルモデルの力学が働いていることを明白に示している。中国のパワーと野心の高まりは、アメリカなどの防衛的反応を促した。当然のことながら、北京は国際環境がより危険になったことを認識し、アメリカ主導で中国の将来の成長を抑制しようとする動きから自らを守ろうとする。

残念なことに、米中両国関係の悪化は、既に気候変動などの共通の課題への対応を難しくしており、今後、このような問題での協力はより難しくなる可能性が高い。気候変動問題では、中国とアメリカは、ナイアガラ川でカヌーを漕いでいるカップルが、滝に向かって進んでいるにもかかわらず、どちらが後ろに座って舵を取るかを争っているように見える。

第三に、数週間前に述べたように、抑制のきかない独裁者や、同じ考えを持つ小さなグループ(反対者は1人もいない)が国を率いる場合、大きな失策を犯す可能性が高く、それを修正するのも困難だ。民主国家にもこの危険性はあるが、高度に中央集権的な独裁国家にはより多く存在するように考えられる。そうであれば、習近平の権力強化は、北京が今後、毛沢東以後のほとんどの時代よりも誤りを犯しやすいと予想されることを意味している。しかし、台湾を奪還しようとするような、極めて危険な失敗をする可能性があるとすれば、それは良いニュースではない。

そこで、私の2つのストーリーが一緒になる可能性がある。習近平の中央集権化によって、中国の経済的活力が更に失われ、既に直面している構造的問題がさらに深刻化するならば、毛沢東と同等かそれ以上の中国近代最大の最高指導者として習近平にかけられている期待も危うくなるだろう。毛沢東に匹敵する、あるいは凌ぐということは、毛沢東が成し遂げられなかったこと、例えば台湾の正式な支配を取り戻すことにかかっている。もし彼が中国の相対的な力がピークに達したと疑い始めたら、まだやれるうちに行動しておこうという誘惑が高まるだろう。この目標を公然と語り、周囲を警戒させ、それを実行に移すことは大きな賭けだが、これも独裁者(あるいは閉じた意思決定集団)が犯しやすい誤算である。

もう一つ、中国が市場原理から離れ、マルクス・レーニン主義の教えを重視し、集団指導(collective leadership)を避けてワンマンな個人崇拝(one-man cult of personality)に走るのを見て、アメリカ人が満足するのを抑えなければならない理由がある。アメリカの政治体制も深刻な問題を抱えており、中間選挙後に事態が悪化することを予期させる十分な根拠がある。世界で最も強力な2つの国家は、どちらのシステムが最も早く機能不全に陥るかを執拗に競い合っているように見える。残念ながら、北京での出来事にもかかわらず、私は中国が勝っているとは思っていない。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。

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 古村治彦です。

 ウクライナ戦争はやがて越年し、開戦から11カ月近くが経過しようとしている。ほぼ1年と言ってよい。ロシア軍の侵攻に対して、ウクライナ軍が押し返したが、現在は膠着状態というところだ。ロシアがウクライナの領土の20%近くを掌握している状況には変化がない。「ロシアは敗北しつつある」という主張もなされてきたが、これだけの面積をウクライナ軍がこれから全て奪還するということはほぼ不可能であろうと思う。そのためには、西側諸国、特にアメリカとイギリスからの最新鋭戦闘機の投入が必要になる。

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ウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領は、東部の激戦地バフムトでウクライナ軍将兵を激励した後、その足でウクライナ国内を横断し、ポーランドからアメリカの首都ワシントンに向かい、ジョー・バイデン大統領と会談し、米連邦議会で演説を行い、支援を訴えた。今回のゼレンスキーのワシントン訪問は戦争勃発後初めての外国訪問となった。
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 バイデンは20億ドル分の追加支援を発表した。しかし、ロシア軍に致命的な打撃を与えるような武器の供与はなされていない。そうなれば、戦争が長期化し、ウクライナ国民の苦しみは続いていくことになる。厳しい冬を迎え、やはり進めるべきは停戦交渉だ。それこそが日本国民を含む世界の多くの人々が救われる唯一の途だ。

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●「ゼレンスキー氏とバイデン氏の会談、ウクライナ兵からの「贈り物」も」

20221222日 BBC日本語版

https://www.bbc.com/japanese/video-64060517

ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が21日にアメリカ・ワシントンを訪れ、ホワイトハウスでジョー・バイデン米大統領と会談した。ゼレンスキー氏にとっては、ロシアによる軍事侵攻が今年2月に始まって以降で初の外国訪問となった。

米東部時間21日午後2時半(日本時間22日午前4時半)ごろホワイトハウスの大統領執務室にゼレンスキー氏を迎え入れたバイデン氏は、アメリカはウクライナの「公正な平和」を支援していると語り、世界はウクライナの大統領に「感銘を受け」続けているとたたえた。また、米誌タイムが「今年の人」にゼレンスキー氏を選んだことを念頭に、本人を「あなたは今年の人だ」と呼んだ。

これに対してゼレンスキー氏は、アメリカ訪問は「大きな名誉」だとして、アメリカによる「多大な支援」を「心からありがたいと思っている」と述べた。

また、訪米前に訪れていたウクライナ東部ドネツク州の激戦地バフムートに言及し、現地の軍指揮官からバイデン大統領への軍事勲功メダルを託されたと説明。バイデン氏が「とても勇敢な大統領」なので、勇気をたたえるメダルを授けたいと、「とても勇敢な指揮官」からことづけされたとして、バイデン氏に勲章を手渡した。この指揮官は、アメリカが提供したM142高機動ロケット砲システム(HIMARS)の使用を担当しているという。

 

バイデン氏は、自分にそれほどの勲章を受ける資格はないものの「とてもありがたい」としてこれを受け取り、バフムートで戦うウクライナ軍の指揮官に返礼品を送りたいと答えた。

(貼り付け終わり)

 ウクライナ軍は戦争を継続できるであろうが、問題はウクライナ国民の生活がどうなるかである。厳しい冬季にエネルギー不足となれば、弱者から凍死などの危機的状況に陥ることになる。ウクライナ政府は国民の生活を支えながら、戦争を継続するという難しい仕事をしなければならない。ウクライナへの支援は西側諸国にとっても大きな負担である。西側諸国の国民や政治家の一部には「どこまで続く泥濘(でいねい、ぬかるみ)ぞ」と、もういい加減にしてもらいたいという声が出ている。

 

 

 

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ロシア・ウクライナ戦争が冬季に入る中で起きる5つの重要な疑問(Five crucial questions as Russia-Ukraine war enters winter

エレン・ミッチェル、コリン・メイン筆

2022年11月25日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/policy/defense/3748660-five-crucial-questions-as-russia-ukraine-war-enters-winter/

ウクライナ全土に冬が訪れる中、ロシアの空爆はとどまるところを知らない。

クレムリンが派遣しているロシア軍がウクライナの都市や主要インフラを攻撃しているにもかかわらず、キエフの軍隊は回復力(resilient)を証明し、ウクライナ東部と南部の占領地域からロシア軍を追い出している。

ウクライナ軍を更に強化しているのは、アメリカとヨーロッパ諸国からの安定した軍事・人道支援であり、アメリカ政府が水曜日に発表した、極めて必要な防空弾薬を含む4億ドルの重要な支援もその1つである。

西側諸国の武器は、ロシアの動きをとどめ、ミサイル弾幕を鈍らせるのに役立ったが、ロシアがウクライナのエネルギーシステムを完全に麻痺させることで冬を兵器化しようとしている。国際社会は季節が戦いにどのように影響するかを注意深く見守っている。

ロシア・ウクライナ戦争が冬に入る中で、5つの重要な疑問を見ていく。

(1)戦闘において冬がどれくらいの役割を果たすか?(How much will winter play a role in the fight?

戦闘が10ヶ月目に入り、ウクライナに冬が訪れ、寒さが厳しくなるにつれ、戦闘は徐々に先細りになると予想されている。

ウクライナは9月に開始した反攻作戦(counteroffensive)で占領地の解放に成功したが、ロシアは現在もウクライナの約20%の領土を支配している。ドネツク州やルハンスク州などウクライナ東部の大部分とクリミアもその範囲に含まれる。

コリン・カール政策担当米国防次官は先週、「ウクライナの雪によって道がぬかるんでいる天候(sloppy weather in Ukraine)」が既に戦闘をやや減速させており、ぬかるみによってどちらの側も大規模な攻勢を実行するのは困難になっていると述べた。

カール次官は「気候の課題は今後数週間で更に悪化すると思うので、その結果として戦闘が遅くなるかどうかを見なければならないと考えている」と記者団に語った。

米国防総省によると、厳しい冬に備え、アメリカは発電機やテントに加え、数万枚のパーカー、フリースの帽子、ブーツ、手袋などの防寒具を提供しようとしていると述べている。

(2)ウクライナ国民は寒冷な気候の中でどれくらい苦しむだろうか?(How much will Ukrainians suffer in the cold?

ウクライナは、全土の主要な人口密集地やエネルギー社会資本(インフラ)に対して、ロシアによる容赦ない空爆に晒されている。

モスクワは10月以降、ミサイルやドローンによる攻撃を強化し、イランが提供するカミカゼ・ドローンを使って主要都市を狙い、最大限の被害を与えている。

11月14日だけでも、ロシアは推定60から100発のミサイルをウクライナの多数の都市に向けて発射した。

ウクライナ政府系の送電システム運営会社ウクレナーゴ(Ukrenergo)の社長によれば、先週はウクライナの送電網への攻撃で「甚大な」被害を受けたが、国内の火力発電所も水力発電所も現在のところ無傷だということだ。

結果は壊滅的なものとなっている。ウクライナのエネルギー省は水曜日、クレムリンの攻撃によって「大多数の電力消費者が電力を失った」と指摘している。

世界保健機関(WHO)のヨーロッパ地域局長であるハンス・ヘンリ・P・クルージによると、ウクライナはエネルギー節約のために計画停電を行っているが、冬の間は市民が大きな被害を受けると予想され、寒さが厳しくなるにつれ、今後数か月で200万から300万人が避難する可能性があるということだ。

また、米統合参謀本部議長マーク・ミリー陸軍大将は先週、冬の到来とともに「ウクライナの家族は電力も、更に言えば暖房も使えなくなる」と述べ、それが「計り知れない苦痛」を人々にもたらすと予想した。

ミリー議長は記者団に対して次のように語った。「人間の基本的な生存と生活が深刻な影響を受け、ウクライナの人々の人的苦痛が増すだろう。これらの攻撃は、ウクライナの病人や高齢者をケアする能力を間違いなく阻害するだろう。病院は部分的に稼働することになるだろう。高齢者は風雨にさらされることになるだろう」。

(3)ロシアはウクライナ東部で領土を獲得できるか?(Can Russia take territory in the east?

ロシアは数週間前から東部の都市アヴディフカとバフムトを攻撃し、ウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領が「本物の地獄」と表現する状況を作り出している。

そして、状況は悪化の一途を辿っている。ドネツク州東部の砲撃は今週エスカレートしており、戦争監視団は、ロシアが南部のケルソンから撤退した後、東部に更に軍隊と武器を送り込む可能性があると述べている。

ウクライナ軍参謀本部は火曜日、「敵は、接触線付近の我が軍の位置と居住地への砲撃を止めない」と発表した。

ウクライナ軍参謀本部は声明の中で「重要なインフラや民間住宅への砲撃が続いている。バフムトとアヴディフカ方面では、敵は攻撃的な行動に集中している」と述べている。

しかし、ウクライナは今のところ何とか持ちこたえている。

先月、戦争の専門家たちの間で、ドネツクでのロシアの取り組みを主導しているワグネル準軍事部隊が、10月末までにバフムトを奪取する期限を与えられているとの話が広まり、プーティンは、他の地域で増大する損失を相殺するために勝利を切望している。

ウクライナがバフムトを失えば、ロシアはドネツクの他の重要都市に進出することが可能になる。

ロシアは、以前ケルソンにいた2万人以上の部隊から、今後数カ月間の戦争に参加するために動員されているとされる20万人近い予備役まで、十分な支援軍勢力を持っている。

しかし、ワグネル・グループを設立したロシアのオリガルヒで戦争タカ派のエフゲニー・プリゴジンでさえ、ウクライナ軍の進展が遅いことを認めている。

プリゴジンは先月発表した声明の中で次のように述べている。「私たちの部隊は常に最も激しい敵の抵抗にあっているが、敵は十分に準備され、動機づけられ、自信に満ちて調和的に働いていると考えている。これは、私たちの戦闘機が前進することを妨げるものではないが、私はそれがどれくらいかかるかについてコメントすることはできない」。

(4)ロシアの動員は効果を発揮するだろうか?(Will Russia’s mobilization start to make a difference?

プーティンが予備役の動員という劇的な措置を取り、ウクライナでの戦争に30万人の兵士を加える可能性が出てから2ヶ月以上が経過した。

この動きはロシアで即座に影響を及ぼし、「特別軍事作戦(special military operation)」に参加するために召集された息子や父親を持つ何千もの家族にとって、戦争がより身近に感じられるようになった。

しかし、予備役が訓練を受け、装備を整え、戦場に送り出されるまでには数カ月かかると予想されていた。それでも、訓練された強固なウクライナ軍部隊に対して、ロシアの予備役投入がどのような影響を与えるのか、もし与えることができるとすれば、それには大きな懐疑が残っている。

戦争研究所は、「ロシアの動員された予備役が抗議と脱走を続けているにもかかわらず、新しく編成された部隊の最初のグループは訓練を受け、ロシアに併合されたウクライナ東部のザポリツィア、ルハンスク、ドネツク地域に配備されている」と報告している。

戦争研究所は、「ロシア軍は、ドネツク州での攻撃活動を再開し、ルハンスク州での防御態勢を維持するために、新たに動員されたもしくは再配置された軍人を使い続けるだろう」と今月(11月)初めに報告している。

クレムリンはまた、来年の春と夏にロシア軍を強化するために、12月と2023年1月に始まる動員の「第二波(second wave)」を準備していると伝えられている。

このような大規模な動員によって、ロシア軍がこれまで苦しんできた士気低下や兵站の問題を克服できるかどうかは不明確である。

(5)ロシアとウクライナ双方は交渉を行う可能性があるだろうか?(Could the two sides talk?

ウクライナで戦闘が激化する中、アメリカと他の西側諸国は、モスクワとの和平交渉に向かうようキエフをどれだけ強く後押しできるか、頭を悩ませている。

今月初め、ミリー議長は、ロシア軍は9カ月間の紛争で「あらゆる(every single)」目的に失敗し、「本当に酷い(really hurting bad)」状態であるため、戦争を終わらせるための交渉の窓があるかもしれないと述べた。

先週、ミリー議長は記者団に対し、「交渉は、自分が強く、相手が弱いときに行いたいものだ。政治的解決の可能性はあるかもしれない。私が言っているのは、その可能性があるということだけだ。私が言っているのはそれだけのことだ」と述べた。

しかし、ミリーは、冬季を間近に控えたこれからの戦いの現実も強調した。

ウクライナ人がクリミアを含む全てのロシア軍を国から追い出すというウクライナの軍事的勝利の可能性は「高くない」とミリーは予測した。

これらのコメントは、ミリー議長がニューヨークでのイヴェントで交渉を推進しているように見えた1週間後に出された。ミリー議長はイヴェントで聴衆に対して、今回の戦争でウクライナとロシア双方は、軍事上の勝利を獲得することは不可能で、戦争を交渉で終わらせることが必要だということを受け入れるべきだと述べた。

ミリーは「交渉の機会があれば、平和を実現できるのであれば、それを掴むべきだ」と述べた。

しかし、ホワイトハウスは、キエフにモスクワとの会談や領土の譲渡を強要しているのではないと強調している。

ジョン・カービー国家安全保障担当報道官は先週、記者団に対し「交渉の準備ができたかどうか、いつ交渉に応じるか、そしてその交渉がどのようなものかは、ゼレンスキーが決めることだ」と述べた。

カービー報道官は「アメリカからは誰も、ゼレンスキー大統領を交渉のテーブルに着かせた

また、ゼレンスキーが今月初め、交渉が合意される前にプーティンが政権から退くという要求を取り下げたことも、今後の交渉の可能性に関する憶測を呼んでいる。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
20211129sankeiad505

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 古村治彦です。

 アメリカはバラク・オバマ政権下でのヒラリー・クリントン国務長官(2009-2013年)下で策定した「アジアへ軸足を移す(Pivot to Asia)」を基にして「中国封じ込め(containment of China)」を進めている。この流れはドナルド・トランプ政権でも変わらず、ジョー・バイデン政権も推進している。その中で、構築されたのが「クアッド(Quad)」と呼ばれる日米豪印戦略対話(Quadrilateral Security Dialogue)である。アメリカ、オーストラリア、インド、中国によるインド太平洋における安全保障の枠組みと言えば聞こえは良いが、簡単に言えば中国封じ込め、東南アジア諸国を取られないための枠組みである。しかし、インドは両天秤をかけている。
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 インド太平洋地域における枠組みにAUKUS(オーカス)がある。これはオーストラリア、イギリス、アメリカの枠組みである。アメリカが原子力潜水艦建造技術をオーストラリアに供与する、オーストラリアはフランスとの間で進めていたディーゼル潜水艦建造協力を破棄するということで、フランスが態度を硬化させたことで注目を集めた。オーストラリアは原潜を持ち、原潜の製造・修理工場を国内に持つことで、対中国の最前線ということになる。アメリカ軍と協力して中国海軍の源泉とにらみ合うことになる。オーストラリアにおけるアメリカの核兵器の配備、オーストラリアによる買い兵器開発と保有まで進む可能性もある。この「アングロサクソン軍事同盟」はクアッドに代わる枠組みになる可能性がある。
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 オーカスが結成された当初、日本政府は参加することはないと述べていたが、日本も参加して「JAUKUS(ジャーカス)」にすべきだという議論は出ている。日本がクアッドとオーカスに参加するということになると、対中国に備えた軍備増強を図るということになる。岸田文雄政権は「防衛費の対GDP比2%」という総額ありきの防衛予算増額を決め、そのために増税を国民に押し付けようとしている。国民から搾り取ってその金でアメリカから武器を買うということになる。アメリカから武器を買って済むことならまだ我慢もできるかもしれないが、問題は外国に対しての先制攻撃を可能にする安全保障戦略を発表している。先制攻撃と軍備拡張は「いつか来た道」である。国民に塗炭の苦しみを味わわせた先の大戦の反省はすっかり忘れられている。

 先の大戦の前も「日本は世界の五大国だ」「国際連盟の常任理事国だ」と浮かれ、大国意識だけが増長し、実態とはかけ離れた自己意識の肥大のために、最後は大きく進むべき道を誤ることになった。「日本は世界第3位の経済大国だ」「日米同盟は世界で最も重要な同盟だ」などというスローガンに踊らされて、調子になってバカ踊りをやって後で泣きを見ることがないようにするのが大人の態度であるが、今の日本の政治家にそのような期待をすることは難しい。

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日本がAUKUSに参加すべき理由(Why Japan Should Join AUKUS

-東京はインド太平洋において不可欠な安全保障上のアクターとなった。

マイケル・オースリン筆

2022年11月15日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/11/15/japan-aukus-jaukus-security-defense-pact-alliance-china-containment-geopolitics-strategy-indo-pacific/?tpcc=recirc_latest062921

インド太平洋地域では、新たな四カ国同盟(quad)が形成されつつある。それはオーストラリア、インド、日本、アメリカが参加する日米豪印戦略対話(Quadrilateral Security DialogueQuad)よりも大きな影響を与える可能性がある。中国の影響力とパワーの拡大に対抗して、オーストラリア、イギリス、日本、米国が安全保障上の利害を一致させるようになったことで、新たな連携が生まれつつある。2021年に締結された豪英米防衛協力協定(Australia-United Kingdom-United States defense cooperation pact、通称AUKUS)に日本が加わり、JAUKUSとなる見込みであり、これまでの同盟(alliance)や準同盟(quasi-alliance)にはなかったインド太平洋の自由主義的民主政体諸国(liberal democracies)間の安全保障協力

このようなパートナーシップはあらかじめ決まっていたものではない。実際、今年初め、日本がAUKUSへの加盟をひそかに検討しているという報道があったが、東京はすぐに否定し、当時のホワイトハウスのジェン・サキ報道官もこの報道内容を否定した。しかし、日本はこの3カ国と連携するようである。これは、日本の安全保障姿勢を一変させるだけでなく、インド太平洋においてますます重要な役割を果たすアクターに変貌させた戦略的革命の一部となる。7月に暗殺された安倍晋三首相(当時)の下、日本は共同兵器開発に関するほとんどの制限を撤廃し、軍事予算を着実に増やし、自衛隊がパートナー諸国の軍隊との集団的自衛権に関与することを認めるなどより積極的な防衛態勢を取るようになっている。

2021年10月の就任以来、岸田文雄首相は安倍元首相の外交・安全保障政策を基礎とするだけでなく、アジアや世界の主要自由主義的な諸国と日本の関係を拡大・強化した。岸田首相は、ロシアがウクライナに侵攻した後、直ちにワシントンやヨーロッパ各国とともにロシアへの制裁を行った。また、NATOとの関係を深め、6月には日本の指導者として初めてNATO首脳会議に出席した。国内では、岸田首相は日本の防衛予算を増やし続け、1000億ドル近くまで倍増させる可能性があり、近く新しい国家安全保障戦略(national security strategy)を発表する予定である。アジア専門家たちにとって重要なことは、日本の戦略的変革は政治家たちの個性がもたらしたのではなく、むしろ深刻化する中国と北朝鮮の脅威と結びついている。アジアの安全保障環境が不安定なままである限り、東京はその能力を高め、パートナーシップを拡大し続けるだろう。

岸田首相のアプローチの核となる要素は、AUKUSの3カ国との着実な連携だ。10月下旬、キャンベラと東京は安全保障協力に関する共同宣言に署名した。正式な相互防衛協定(formal mutual defense pact)ではないが、この協定は日本とオーストラリアの「特別な戦略的パートナーシップ(Special Strategic Partnership)」を強化するものであり、グローバルな規範と地域の開放性に対する両国の支持を繰り返し表明している。1月には既に、日豪両国は軍の相互アクセス協定(military reciprocal access agreement,)に調印しており、これにより、訪問部隊の手続きが容易になり、オーストラリアと日本の軍隊が合同演習(joint exercises)を実施し、アメリカを含めて災害救援に協力できるようになる。

実際のJAUKUSを作るには、次のステップとして、日本の参加を徐々に正式なものにする方法を検討する必要があるだろう。

新たな安全保障協力宣言により、日豪両国は、情報の共有、サイバー防御に関する協力、サプライチェーンの確保などの活動を行いながら、軍隊間の「実践的な協力を深め、相互運用性を更に強化する」ことに合意している。完全に実施されれば、提案された協力の範囲は、各国にとって最も重要なパートナーシップとなるだろう。

一方、英国と日本は12月に、日本が既にオーストラリアと結んでいる協定と同様の相互アクセス協定に署名し、互いの国への軍隊の入国を緩和し、合同軍事演習と兵站協力を強化する予定である。これは、東京とロンドンが次世代戦闘機の開発でイタリアと協力するという7月の発表に続くものだ。イギリス海軍と海上自衛隊は前月、英仏海峡で合同演習(joint exercises)を行ったが、これは新型空母HMSクイーン・エリザベスと打撃群が日本を訪れてからちょうど1年後のことであった。

イギリスにとって、日本とのアクセス協定は、ボリス・ジョンソン首相が最初に説明したインド太平洋地域へのロンドンの「傾斜(tilt)」の骨に、更に肉を付けることになる。日英の防衛関係の深化は、リシ・スナック新首相がロンドンの最も重要な公的戦略文書である「統合的レビュー(integrated review)」を中国の脅威により明確に焦点を当てるよう改訂する見込みであることと合わせて、日本とのアクセス協定は、インド太平洋地域におけるキャンベラ、東京、ワシントンとのより正式な協力関係を構築する舞台となるものである。

しかし、4カ国が正式な合意に達する前であっても、中国の前進に対してバランスを取ることを目的とした行動の調整のおかげで、非公式のJAUKUSが既に出現している。2021年10月には、4カ国の海軍がインド洋で共同訓練を行っている。 8月、AUKUSが極超音速技術と対極超音速技術の両方の開発に焦点を当てると述べた直後に、日本は極超音速ミサイルを研究すると発表した。同様に、日本は量子コンピューティングへの投資を増やしており、その投資の一部は、世界で2番目に高速なスーパーコンピューターを所有する富士通によって行われている。このイニシアティヴは、潜在的な軍事的影響を伴う量子および人工知能技術を共同開発するというAUKUSの関与と一致している。

同様に、4カ国は国内の安全保障問題でも連携を強めている。4カ国はいずれもファーウェイを国内の通信ネットワーク、特に6Gから締め出しているが、その実施状況はまちまちだ。更に言えば、イギリスの安全保障担当大臣トム・トゥゲンドハットが最近、イギリスに残る孔子学院を全て閉鎖すると発表したことは、世界中の大学に圧力をかけて中国批判を封じ込め、中国国家の利益につながる肯定的なシナリオを押し付けてきた北京系組織の存在と影響力を、4カ国それぞれが削ごうとして動いていることを意味する。

実際のJAUKUSを作るための次のステップは、日本の参加を徐々に正式なものにする方法を検討することだ。まず、量子コンピュータや極超音速機開発など、共通の関心を持つ分野について、AUKUSの17のワーキンググループのいくつかに日本の関係者を招き、見学させることから始めることができるだろう。次の段階として、日本のJAUKUSにおけるステータスを変更したり、共同運営グループの会合に定期的に出席したりすることを検討することも考えられる。共同運営グループは、AUKUSが重視している2つの主要テーマ、潜水艦(submarines)と最先端の技術を使った能力(advanced capabilities)について方針を決定し、長期的なメンバーシップを議論する。また、オーストラリアへの原子力潜水艦供給という AUKUS の中核的な取り組みに東京がどのように参画できるかを冷静に探れば、特に軍事利用のための原子力技術に反対する日本の国内政治において、潜在的な外交的・政治的地雷の可能性を排除することができるだろう。

その過程や最終的な地位が同盟であれ協定であれ、あるいはもっと非公式なものであれ、JAUKUSは、インド太平洋を戦略的に考える意思と能力を持つ4つの主要な自由主義的な諸国による安全保障上の懸念とイニシアティヴの収束の自然な展開である。政策や目標の共通性が明らかになるにつれ、JAUKUS諸国は、インド太平洋地域の安定を維持するために、それぞれの努力を更に調整し、結合することの利点を理解するであろう。

※マイケル・オースリン:スタンフォード大学フーヴァー研究所研究員。著書に『アジアの新しい地政学:再形成されるインド太平洋に関する諸論稿(Asia’s New Geopolitics: Essays on Reshaping the Indo-Pacific)』がある。

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