古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

2023年01月

 古村治彦です。

 「韓国が核武装する」という話を聞いて、「そんな馬鹿なことはあり得ない」「アメリカが許すはずがない」という反応をする人たちがほとんどだろう。朴正熙大統領が最後暗殺されたのも核武装を目指した彼をアメリカが許さずに最後はCIAが殺害指令を出したからだという話もあるほどで、日本と同じくアメリカの属国である韓国の核武装は、日本がそうであるように許されるはずがないというのは常識的判断である。

 朝鮮半島の非核化はドナルド・トランプ政権時代に動くかに見えた。トランプ大統領と北朝鮮の金正恩国務委員化委員長が会談を行い、「CVID(完全かつ検証可能で不可逆的な廃棄、complete, verifiable, irreversible dismantlement)」で合意した。しかし、その後は何の進展もなかった。北朝鮮は核開発を進めている。旧ソ連時代からの関係でロシアが支援しているという話もある。

 北朝鮮がアメリカ本土を射程に収めるミサイルと核兵器を保有することになれば、「アメリカは本土攻撃を受けるリスクを冒してまで韓国を守ってくれるだろうか」という疑問が韓国側に生じてくるのは当然のことだ。特に現在のウクライナ戦争の状況を見れば、「アメリカはロシアの核攻撃を怖がってウクライナを本格的に防衛するということを行わない」ということになる。そうなれば韓国としては北朝鮮との対抗上、自国で核兵器を所有しなければならなくなると。

 朝鮮半島を西洋的な考えから見ればそういうことになるだろう。しかし、大前提として、北朝鮮の核兵器とミサイルは韓国向けに建造されたものではない。中国、ロシア、アメリカ、日本という大国の間で生きていくための抑止力である。北朝鮮のミサイルはアメリカと日本にだけ向いているのではない。ロシアと中国にだって向いている。勧告はそのことを知っている。「北朝鮮の核兵器」とは「朝鮮半島の朝鮮民族が持つ核兵器」である。韓国は自分たちで核兵器を開発して保有する必要はない。韓国が自国で核兵器を持ったとして、どこに照準を合わせるのか。北朝鮮ではあるまい。やはり中国、ロシア、アメリカ、日本ということになる。

 このようなことを書けば身もふたもないということになる。「韓国と北朝鮮が赤の他人で仇敵」ということであれば、韓国の核武装も現実味を帯びる。しかし、両国は共に言葉も同じ民族だ。そのことをよくよく考慮しなければならない。

 アメリカにとってそんな危険な状況を作り出すことは得策ではない。韓国は日本とは立場の違うアメリカにとっての属国である。韓国の核兵器とミサイルがアメリカに向かうということを起こしてはならない。だから、アメリカはそのようなことを許すことはない。しかし、このような議論が出てくるというのは、アメリカの信頼性が低下し、国力が減退し、衰退国家となっている証拠ということになる。

(貼り付けはじめ)

ワシントンは韓国に原爆を持たせる許可を与えるかもしれない(Washington Might Let South Korea Have the Bomb

-北朝鮮の核武装によりかつてタブーとされていた選択肢が考えられるようになっている。

ダグ・バンドウ筆

2023年1月17日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2023/01/17/us-south-korea-nuclear-weapons-denuclearization/

北朝鮮の核武装の野望を抑えようとするワシントンの試みは行き詰まりを見せている。北朝鮮は核保有国(nuclear state)である。北朝鮮の核兵器は規模と精巧さを増している。アメリカへの先制攻撃(preemptive strike)はできないだろうが、アメリカが韓国防衛に関与していることに対して報復することはできるようになるかもしれない。

このバランスの変化は、アメリカと韓国の間で核政策をめぐる深刻な議論を巻き起こしている。まず、北朝鮮が既に爆弾を持っているのに、非核化(denuclearization)、有名なCVID(完全かつ検証可能で不可逆的な廃棄、complete, verifiable, irreversible dismantlement)を追求することに意味があるのかという疑問である。金正恩委員長に核廃棄を説得、もしくは強要できると考える楽観主義者たち(Panglossians)はまだ少数派である。ワシントンの公式政策は、北朝鮮を核保有国として断固として認めないが、現実はいずれ政策の後退を余儀なくされるかもしれない。

更に重要なことは、韓国のエスタブリッシュメント派がアメリカの核兵器を手に入れたい、あるいは少なくともそれに近づきたいと考えていることである。あるいは、韓国の尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領は、ソウルが独自に核兵器を開発する可能性を示唆した。多くの韓国政府関係者は、半島に「戦略的資産(strategic assets)」を駐留させ、ヨーロッパのような「核の共有(nuclear-sharing)」を望んでいる。韓国の冷笑主義者、もしくはリアリストたちは、アメリカの関与の持続性と約束の誠実さを疑っており、自国(韓国)独自の核兵器を欲しがっている。アメリカの政策立案者の中には、その可能性に前向きな人もいるようだ。

北朝鮮の核戦力の増強は、朝鮮半島の安全保障の現状に脅威を与えている。1953年の米韓相互防衛条約(Mutual Defense Treaty)の批准(ratification)以来、アメリカは韓国の防衛を約束した。アメリカの責任は戦場に限られていたため、初期のころは比較的簡単に約束できた。朝鮮戦争(Korean War)は激烈で破壊的であったが、これまでの世界的な紛争と同様に、その暴力はアメリカ本土にはほぼ及ばなかった。そして最近まで、北朝鮮はアメリカや太平洋の領土にさえ到達する術を持たなかった。例えば、1953年に韓国の李承晩大統領(当時)が休戦協定への署名を拒否したにもかかわらず、半島統一(to unify the peninsula)のために戦わないという選択をしたように、アメリカは自国に有利なように政策を調整することが容易にできた。

しかしながら、ソウルの政策立案者たちは、通常兵器と核兵器の両方による拡大抑止力(extended deterrence)の実行可能性(viability)について、ますます神経質になっているように見える。昨年(2022年)、北は90回を超える弾道ミサイル(ballistic missiles)実験を行い、世界的な注目を浴びた。平壌は大陸間弾道ミサイル(intercontinental ballistic missiles)に核弾頭(nuclear warheads)を搭載し、アメリカの諸都市を危険に晒すことに精力的に取り組んできた。もし、金正恩がアメリカ本土に「炎と怒り(fire and fury)」をもたらすことができたら、ワシントンは韓国との約束を守れるだろうか?

ウクライナはアメリカの条約上の同盟国ではないが、それでもこうした懸念は強まっている。ジョー・バイデン政権はロシアのエスカレーション、特にモスクワの核兵器使用の可能性に懸念を示しているが、高度化する兵器移転(arms transfers)を止めるのではなく、減速させている。結果として、北朝鮮がロシアと同様の(ロシアよりも規模が小さいのではあるが)核兵器能力を持つ場合のアメリカの対応に対する疑問を生じさせる。

尹大統領は次のように説明した。「拡大抑止力と呼ばれるものは、アメリカが全て面倒を見るから心配するなということでもあった。しかし、今はそれだけでは国民を納得させるのは難しい」。尹大統領は、アメリカの核兵器の使用について、ソウルが手を貸す考えを示した。大統領は「核兵器はアメリカのものだが、計画や情報の共有、演習、訓練はアメリカと米国が共同で行うべきだ」と述べた。

これは合理的な懸念である。もちろん、アメリカの政府当局者たちは、韓国に対する深くかつ永遠の関与を表明することで韓国側の懸念に応えた。ホワイトハウスは2022年5月、韓米同盟について「磐石な基盤(rock solid foundation)」と形容した。バイデン政権は更に、バイデン大統領訪韓を次のように称賛した。「ジョー・バイデン大統領は、核、通常兵器、ミサイル防衛能力を含むアメリカの防衛能力の全範囲を使用して、韓国に対するアメリカの拡大抑止の約束を確認する」と述べた。

しかしながら、一般的な保証はほとんど意味をなさない。ウクライナ人は、キエフがソ連時代の核兵器を放棄することと引き換えに提示された、歯切れの悪い、内容があいまいな1994年のブダペスト・メモランダムについて覚えている。

将来、米韓両軍が北上し、北朝鮮が最後通牒(ultimatum)を出し、同盟諸国軍が北朝鮮の領土から撤退しなければ、あるいはワシントンが紛争から完全に撤退しなければ、アメリカ本土を核攻撃すると脅している紛争を想像してみるといい。ワシントンの視点に立てば、韓国にはアメリカの多くの都市と何百万人ものアメリカ人を犠牲にする価値のあるものは何もないだろう。未来のアメリカ大統領ならどうするだろうか?

だからこそ、独立した抑止力に対する韓国の強力な後押しがある。国民の支持も強い。しかし、ほとんどの人は避けられない複雑な事態を考慮していないのではないだろう。現在、レ任浩永(イム・ホヨン)退役陸軍大将や国会議員の趙慶泰(チョ・ギョンテ)など、この考えを推し進めようとしている人物もいる。既に述べたように尹大統領も可能性を示唆している。しかし、ソウルの公式政策は一般的にワシントンから兵器を提供されることを望んでいる。

ワシントンは韓国製の原子爆弾については徹頭徹尾反対している。その理由の1つは、原則としての核不拡散(nonproliferation in principle)に忠実であることだ。また、通常は明言されないが、友好諸国間での核の独占を維持することで、アメリカのアジアにおける優位性(America’s Asian predominance)を維持したいとの考えもある。

しかし、この政策的な難問については、一部の人々の考えを変えつつあるようだ。例えば、フーヴァー研究所のマイケル・オースリンは早くからこの問題を提起している。彼は次のように書いている。「金正恩がいわれのない核攻撃を行うとは考えにくいが、経験豊富な韓国ウオッチャーたちは、戦争が起きれば負けが明らかになった時点で、間違いなく核兵器を使用すると私は考えている。このようなリスクが高まるにつれ、アメリカは韓国との数十年にわたる同盟関係を見直すことを避けられなくなるだろう。ワシントンが韓国を助けると約束し続けるだけで、アメリカの民間人に対する脅威はグロテスクなまでに拡大するだろう」。

オハイオ州選出の連邦下院議員を長年務めたスティーヴ・シャボットは最近、「ワシントンが 日本と韓国の両方と核兵器プログラム自体を検討するための話し合いに入るべきだ」という驚くべき提案を行った。彼は、この道を進む必要がないことを望むが、「韓国と話すだけでも中国の注意を引くことができ、もしかしたら彼ら(中国)は初めて北朝鮮を抑制するために積極的に行動するかもしれない」と主張した。

かつて、私を含む一部の専門家は、少なくともこのような議論を始める理由として、この可能性を提示していた。しかし、北朝鮮の核兵器が増え続けている現状では、北朝鮮の核武装を阻止するタイミングはほぼ確実に過ぎている。仮に北京がその気になったとしても、パンドラの箱に詰め物をするようなものだ。いずれにせよ、中国は以前にも増して国境の安定を維持することに関心を持ち、アメリカが軍事封じ込め(military containment)だけでなく経済的封じ込め(economic containment)に動いた後は、アメリカに便宜を図ることには以前に比べて関心が薄くなっている。

その場合、シャボットの主張は明白な疑問をもたらすだろう。アメリカは同盟諸国の核兵器製造を容認するのか? 特に岸田文雄内閣は軍事費の大幅増を約束しており、同時に2050年までに約2000万人(約17%)の日本の人口が減少すると予想され、大規模な軍備を整えることが難しくなっているため、韓国の原爆は日本国内で議論を引き起こすことは必至であろう。

拡大抑止を止めれば、金正恩がアメリカ本土を人質(hostage)に取ることはできなくなる。北朝鮮以外の国にも利点がある。北京は、軍事的に領有権を主張する際に、これまでとは異なるリスク計算に直面することになる。台湾への核技術移転も考えられる。ただし、中国のアメリカへの先制攻撃を防ぐために、アメリカが直接兵器を台湾に提供しなければならなくなるかもしれない。

しかしながら、このような政策の欠点も明らかである。核兵器が増えれば、事故(accidents)や漏えい(leaks)、脅威(threats)の機会が増え、戦争が起きれば事態が悪化する可能性がある。中国は核開発を加速させることで対抗するかもしれない。北朝鮮は、核兵器の制限に関する交渉に消極的になるだろうが、いずれにしても交渉には応じないかもしれない。アメリカが核武装した北朝鮮と対峙することを望まないのであれば、核武装したイランやロシアと戦争するリスクを冒すだろうか。他の同盟諸国も核武装の選択肢を検討するかもしれない。

しかし、友好諸国への核拡散(friendly proliferation)を許す、あるいは助長する可能性はもはや否定できない。特に韓国は、ワシントンの承認なしに核武装を進めることを決定する可能性がある。もしアメリカがイスラエルへの制裁を望まず、インドとパキスタンへの処罰を諦め、北朝鮮を阻止できなかったら、ソウルやおそらく東京の核開発を阻止できるのだろうか? そうすることの代償は見合うのだろうか? そうすることは可能なのだろうか? アメリカは、特に中国を封じ込めようとしている間は、同盟を解消したり、制裁を課したりすることはないだろう。

長年にわたり、同盟諸国の核武装を認めることは考えられなかった。それゆえ、韓国と台湾の核開発に対してアメリカは圧力をかけてきた。しかし、それは北朝鮮が実質的な核保有国になる前のことである。アジアにおける拡大抑止力は、アメリカ国民にとってそれほどリスクにはならない。韓国のために全てを賭ける覚悟がない限り、アメリカの政策立案者たちは、これまで考えられなかったようなこと、つまり韓国の各爆弾所有について考えなければならない。

※ダグ・バンドウ:ケイト―研究所上級研究員。ロナルド・レーガン大統領の特別補佐官を務めた。複数の著作があり、最新作は『仕掛け線:変化した世界における韓国とアメリカ外交政策(Tripwire: Korea and U.S. Foreign Policy in a Changed World)』である。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
20211129sankeiad505

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 古村治彦です。

 「アメリカは中国とロシアの間を引き離すように中国に働きかけるべきだ」という声が上がっている。現在、ウクライナ戦争を戦っているロシアに対して、中国は表立って支援を行ってはいない。しかし、中露両国間には正式な条約を結んでの同盟関係、相互防衛関係は存在しないが、中露間の関係は緊密になっている。中国の一帯一路計画や上海協力機構(SCO)にロシアは参加し、ユーラシア同盟としての関係を築いている。ロシアはヨーロッパ志向(思考)を捨て、ユーラシア国家として生きていくという道を選択した。

中国はウクライナとの関係も良好であり、中国初の空母「遼寧」は、ウクライナの空母「ワリヤーグ」(1988年竣工)を購入し、改造したものだ。正確に言えば、ソ連時代に建造した空母であるが、造船所がウクライナにあり、ソ連崩壊の混乱とウクライナの独立があり、造船所がウクライナに国有化されるなどしたため、ロシアとウクライナの間での交渉の結果として海外に売却するということになっていた。ウクライナは所有権を持っていただけのことで、建造したのは旧ソ連ということになる。

 中国とロシアの間は離れがたく見えるが、それでも相違点は存在する。中国は現在の国際秩序の中で、自由貿易体制の利点を利用して高度経済成長を達成している。国際秩序の急速な変更は望んでいない。短期的、中期的には現状維持を望んでいる。ロシアは冷戦時代にアメリカと世界を二分して渡り合った。その前にはロシア帝国としてヨーロッパで覇を競った。ソ連崩壊でロシアはプライドを傷つけられた。ロシア国民はプーティン大統領が国民生活を改善し、ロシア帝国を復活させてくれるということで支持している。ロシアは現状に対する挑戦国となっている。ここが中露両国間の相違点だ。

 アメリカは中国を潜在的な脅威として捉えていて、強硬な対中姿勢を取っている。そうなれば、中国としてはアメリカとバランスを取る必要が出てくるので、ロシアの接近を受け入れるということになる。

ドナルド・トランプ大統領時代に「ヤルタ2.0」という風刺写真が出たことがある。1945年のソ連のヤルタでの米ソ英3カ国の首脳会談(フランクリン・D・ルーズヴェルト米大統領、ヨシフ・スターリンソ連共産党書記長、ウィンストン・チャーチル英首相)で戦後世界の管理体制が決められた。

このことを受けて、ドナルド・トランプ米大統領、習近平中国国家主席、ウラジミール・プーティン露大統領の米中露三帝が世界を管理するという意図が風刺写真に込められている。米中露がうまく折り合いをつけてやっていれば、世界は平和だという意図もその写真には込められている。現在は、冷戦初期のような段階になっている。アメリカが中露に対して強硬な姿勢を取り、それぞれとの戦争の可能性も出てきて、世界は第三次世界大戦に近づいている。
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 中国がソ連と中国を離間させて、世界政治を動かしたのはリチャード・ニクソン大統領、ヘンリー・キッシンジャーの国務長官時代のことだ。この時代のことを懐かしみ、「アメリカは中国とロシアの間を引き離すべきだ」という主張が出ている。

 しかし、1970年代と現在では状況が大きく異なっている。アメリカの国力が衰退し、中国とソ連は国力を増大させている。中露は共にアメリカの衰退を待って、国際秩序の変更を行う(その規模やスピードには両国間で相違はあるが)、より露骨に言えば、西洋近代500年の支配を終わらせるという決意をしている。そして、それを西洋以外の新興の国々(the Rest)が支持している。中露は「ザ・レスト」の旗頭になっている。ここでアメリカに近づくことはもうできない。

 ジョー・バイデン政権ではなく、ドナルド・トランプ政権が続いていたら現在の状況はどうなっていただろうかということを考えることがある。そんなことを考えても仕方がない、詮無き事ではあるが、現在のような世界的に厳しい状況になっていなかったのではないかと考えてしまう。2024年にジョー・バイデンが米大統領に再選されることが世界に幸せをもたらすのかということも考えてしまうと、先行きはなかなか暗いと言うしかなくなる。

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ワシントンは中国をロシアに対立させる機会を失いつつある(Washington Is Missing a Chance to Turn China Against Russia

-稀な状況で危機が重なったことで北京が軌道修正する可能性が出てきている。

ロバート・A・マニング、ユン・サン筆

2023年1月19日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2023/01/19/us-china-russia-ukraine-allies-war/?tpcc=recirc_latest062921

直感に反するかもしれないが、ロシアのウクライナ戦争、経済の低迷、反ゼロ新型コロナウイルスの反動、中国の習近平国家主席が一連の政策を撤回したこと、これらの出来事が中国に与える政治・経済的コストによって、ウクライナに関する米中協力のスペースを開く可能性がある。また、ウクライナ戦争が台湾への世界的な支持を集めていることも、北京にとって重荷になる可能性がある。

ウクライナ戦争が始まって以来、中国はロシアを言葉の上では支援し、NATOの行動を非難してきたが、モスクワを実質的に支援することを約束することは避けてきた。中露同盟は、西側諸国でよく見られるように、修正主義的な2つの独裁国家の間の単純なイデオロギー的共感ではない。むしろ、現実的でやや取引的な関係であり、アメリカは少なくとも特定の問題に関して、両者を引き離す機会を逸している可能性がある。

第一に、昨年9月に旧ソ連のカザフスタンを訪問した際、習近平は「断固として(resolutely)」カザフスタンの主権を支持すると約束し、モスクワをけん制(a snub to)した。そして、同じ9月の上海協力機構(Shanghai Cooperation OrganizationSCO)の会議で、ロシアのウラジミール・プーティン大統領は、ウクライナ戦争をめぐる中国の「疑問と懸念(questions and concerns)」を前代未聞の形で公に認めた。2022年10月初旬、中国は国連安保理と総会の両方で、ロシアのドンバス併合を非難する投票に反対票を投じず、棄権(abstain)した。北京はまた、インドとともにウクライナ戦争の終結を訴えた。

これは、傷ついた西側諸国との傷ついた外交関係を修復しようとする試みと並行して行われた。ヨーロッパ連合(EU)当局者によれば、北京はNATOを非難する発言を止め、中国政府当局者たちが、中国はロシアの核使用を容認できないと考えていると語ったという。

中国は、「ウクライナの領土はどの範囲になるか」についてのロシアの解釈を支持する余地を十分に残しつつも、一貫してウクライナの「主権と領土保全(sovereignty and territorial integrity)」への支持を繰り返してきた。このような矛盾した、やりにくい努力を続けている。中国は侵略を正当化しているロシアを含む「当事者全て(all parties)」に自制(restraint)を呼びかけ、ウクライナの現在の状況に失望を表明してきた。それでも、 2022年2月 24日以前からウクライナとの強固な経済的および軍事的関係にもかかわらず、中国のメディアは親ロシアおよび反 NATO の偽情報を絶え間なく流しつつ、中国はウクライナに対してはわずか300万ドル程度の人道援助(humanitarian aid)しか提供していない。

ロシアと中国は、国際秩序が自由主義的民主政治体制家によって不当に支配されているという見解とアメリカの優位性(primacy of the United States)を共有することで結びついた。中露両国は自由主義的な国際秩序に対する地政学的な脅威(geopolitical threats)として認識されており、それは当然、欧米諸国、特にアメリカに対する中露両国が持つ脅威認識と同様だ。こうした地政学的な懸念の共有は、2014年、クリミア危機でロシアが孤立し、バラク・オバマ政権のアジアへの軸足転換(pivot to Asia)で、中国の周辺地域の安全保障環境に対する不安が強まりそして加速した。加えて、習近平の冷戦時代からのロシアへの親近感、絶対的政治指導者(strongman)としてのプーティンへの憧れが、中露の緊密な連携に対するトップリーダーのお墨付きをもう1つ与えることになった。

しかし、中国も他の国と同様、自国の利益を最優先しており、その利益はウクライナをめぐるモスクワの利益とますます乖離している。中国は、農業貿易、軍事技術協力、「一帯一路(Belt and Road)」社会資本(インフラ)整備プロジェクトなどで強固な関係を築いてきたロシアがウクライナに侵攻したことで、かなり困惑している。

プーティンがウクライナに侵攻した際、ウクライナには6000人以上の中国人が滞在していた。北京にはほとんど何の事前通報もなかったために、中国人の避難作戦を開始するために中国政府は東奔西走奔走させられることになった。中国政府は非公式に、避難民の一部が殺害されたことを認めている。このことは、プーティンが習近平に対して、戦争について知らされていなかったという中国当局者の主張を裏打ちしており、何が起こるかについてロシアは中国に対して正直ではなかったことを示唆している。プーティンは中国を、ロシアとの「無制限の(no-limits)」協力と、主権と領土保全に関する基本的な外交政策原則を選択的に、自分に都合が良い形で適用するプーティンとの間で、無駄な努力をする立場に追い込んだ。

プーティンのウクライナ戦争は、中国経済が困難な時期に、中国の経済的利益を直撃することになった。ウクライナ戦争による世界経済の混乱は、中国にとって最大の海外市場のいくつかに打撃を与えている。中国は問題を抱えた発展途上諸国への最大の資金の貸し出し者であるため、ウクライナ戦争と欧米諸国の制裁の影響でエネルギー、食糧、肥料の価格が上昇し、中国の融資返済の努力を複雑にしており、中国の巨額の債務問題を悪化させている。

ウクライナは北京が嫌うアメリカとの同盟関係を強化している。そして、次は自分たちだと恐れる旧ソ連諸国とロシアの関係を弱め、これらの国々がワシントンとの対話に関心を高めるように仕向けている。ウクライナ戦争の影響は、中国の大国としての外交政策の信頼性に疑問を投げかけている。プーティンがアメリカ主導の秩序を害する混乱を自らの利益と見なす破壊者(disrupter)であるのに対し、北京は中国の利益に有利なように世界の制度を再編成することに関心を持っている。この点は、米国の政策に織り込まれるべき、両国の間の重要な違いである。

特に、台湾問題に影響を与えている。岸田首相が「東アジアは明日のウクライナになるかもしれない(East Asia could be the Ukraine of tomorrow)」と言ったように、プーティンの戦争に対する西側諸国の反応と台湾へのアナロジー(類推)は、北京が今後の台北に対する行動を考える上で新たな要素を加えたことはほぼ間違いない。

ロシア経済への制裁が強まる中、中国が半導体などの重要なテクノロジーを提供するかどうかが1つの指標になるだろう。問題を抱えるジュニアパートナーとの協力関係を制限しているのは、中国がロシアと距離を置いていることを示すというよりも、巻き込まれての副次的な制裁を恐れてのことなのかもしれない。いずれにせよ、アメリカは、ウクライナに関する米中協力を可能にするのに十分な新しい機会が開かれるかもしれないという命題を検証することで失うものはほとんどない。

もしアメリカが、ウクライナに関するロシアと中国の見解の間の政治的空間が、米中間の慎重な協力のための新たな機会を開くほど広がっている可能性を見分けるのが遅くなっているが、それは初めてのこととは言えない。冷戦時代の反共産主義の影響力は、中ソが国境で短時間ながら激しい対立を繰り広げた時でさえ、アメリカが中ソの緊張を利用するのを複雑化し遅らせた。中ソの緊張は1950年代半ばにはアメリカの情報アナリストにとっては明白であったが、当時のリチャード・ニクソン米大統領とヘンリー・キッシンジャー国家安全保障問題大統領補佐官が中国との国交回復を利用し、この時代最大の戦略転換の1つを生み出したのは1971年になってからのことであった。

米国の近視眼(myopia)と確証バイアス(confirmation bias)は、中露両国を互いに接近させ、中国の対ウクライナ政策を過度に単純化することになる。中露同盟の宣言を額面通りに受け取ることで、アメリカは中露両国のそれぞれの国益とアプローチにおける重要な相違点を捉え損ねている。そこをうまく捉えればアメリカ外交のためのスペースを開く可能性が出てくる。

ウクライナ戦争初頭から、ワシントンは中国をロシアの共犯者として糾弾する「私は糾弾する(J'accuse[訳者註:フランスの作家エミール・ゾラがドレフェス事件で出した著作の書名]」を延々と繰り返してきた。プーティンの侵攻計画を中国が事前に知っていたというリークが何度も報道機関に流れたのは、やってもいない犯罪の責任を中国に負わせることが目的だった。プーティンが白紙委任(blank check)したロシアとの「無制限(no-limits)」の協力を進めた習近平は、確かに軽率であり賢明ではなかったと考えられる。しかし、北京の不可能に近いバランス行動、一種の親ロシア的な中立努力は、戦争への積極的参加とは決定的に異なる。

中国がロシアと経済的な関わりを継続していることは問題だが、インドやトルコ、そして南半球の多くの国々も同様である。北京はロシアへの石油・ガスプロジェクトやアジアインフラ投資銀行への融資を中止している。2022年7月までに、複数のアメリカ政府高官は、中国は、ロシアから制裁を科すという脅しを受けながらも、ロシアが制裁を逃れるのを助けず、モスクワの戦争行為に軍事支援をしなかったことを公然と認めている。

北京がロシアを非難したり、制裁を科したりすることを拒否していることは、もちろん道徳的に問題であり、政治的に役に立たないし、一貫して親ロシア的な国内メッセージも同様である。しかし、これは道徳的な問題であると同時に、実際的な問題でもある。

ワシントンは、中露同盟が確立され、揺るぎないものであるという前提で動いているが、現実には、より限定的な戦略的パートナーシップである。両国間には相互防衛に関する第5条のような協定は存在しない。

アメリカが公然と非難を繰り返したところで何の解決にもならない。アメリカとの戦略的競争が中国の対外関係における最も重要なテーマであり続ける限り、特に台湾をめぐる緊張が高まる中で、北京はアメリカに対抗するために必要なパートナーとしてモスクワを見るだろう。しかし、戦争が長引くにつれ、中国の風評被害と経済的コストは増大し、衰退しつつある戦略的資産との悪い取引と見なされつつあることから、いくつかの問題で北京を遠ざけることができるかもしれない。

アメリカは、中露両国の違いを緩和し、橋渡しするのではなく、中露両国間の断層(Sino-Russian fault lines)を探ろうとするはずである。2022年7月にアントニー・ブリンケン米国務長官が中国側に行ったような道徳的な嘆願は、変化をもたらすというよりも、中国のナショナリズムを煽る傾向がある。戦略的競争という文脈の中で、中国との協力や非干渉という戦術的転換(pivot)は、利害が重なったときに移行し、利害に利益をもたらし、おそらくわずかな信頼を再構築することができる。北京の計算を形成するために、ワシントンは単に懲罰的な行動だけでなく、相互の脆弱性(vulnerability)と懸念の分野を指摘する必要がある。

中国が制裁体制外でロシアに経済貢献することを抑止するためのアメリカの警告は聞き入れられそうにない。中国最高指導部序列第3位である栗戦書は、2022年9月にロシアを訪問した際、貿易、インフラ、エネルギーなどに関して、ロシアとの経済協力の強化を約束した。これは昨年(2022年)12月の習近平・プーティン間のズーム会談で更に確認された。北京の見解では、アメリカは中国とロシアとの経済関係、特にエネルギー関連技術やその他の天然資源の領域での協力を永久に阻止することはできない。

ロシアの意思決定に決定的な影響力を持つ数少ない国の1つとして、中国がウクライナ危機の調停(to mediate)を早くから申し出ていることを検証しておく必要がある。中国は紛争の当事者ではないと主張するかもしれないが、紛争を助長してきたのは事実である。大国として、戦争を早期に終結させる責任から逃れることはできないことを明確にする必要がある。

ウクライナに関する米中対話の入口として考えられるのは、プーティンの核兵器使用の公然たる脅威と、77年間の歴史を持つ核に関するタブーを破ることの結果に対する相互懸念である。ジョー・バイデン米大統領は「ハルマゲドン(Armageddon)」の脅威を口にした。中国は「先制不使用(no first use)」を明言しており、ロシアの核兵器使用は北京を自衛不可能な状態に追い込むことになる。また、ウクライナでの核兵器使用が北朝鮮に対する制限を低くし、北東アジアでの核拡散に拍車をかけるという懸念が共有されているので、予防手段(preemptive measures)の議論が急がれているのであろう。

また、戦争終結の方法と手段、更にはウクライナの経済再建の将来についても、戦争の進む方向を見据えて考えなければならない。アメリカ、ヨーロッパ連合(EU)、日本、世界銀行、国際通貨基金、ヨーロッパ復興開発銀行が協調して経済資源を動員することは、政治的困難と資源の枯渇を考えると非常に困難であろう。世界有数の貸し手である中国に、その議論に加わる機会や努力の調整の機会が与えられなければ、中国独自の復興努力が欧米諸国の努力を複雑にしたり妨害したりすることになりかねない。協調的でグローバルなキャンペーンにおいて、中国が公正な役割を果たすための対話が模索されるべきだろう。

問題は、ウクライナに関して利害が一致する可能性のある分野を探るのに十分な政治的空間を開くために、いかにして米中間の相互不満(mutual grievances)を中断するか、あるいは少なくとも区分けする(compartmentalize)かである。アメリカは道徳的なレトリックを抑えて、まずは北京との静かなバックチャンネル・アプローチで関心を探るのが賢明であろう。また、ブリンケンが近く訪中する際には、問題の範囲が限定的かつ現実的であることを強調し、ウクライナのアジェンダを形成するよう努めるべきであろう。

北京がよりソフトなアプローチを示唆しているにもかかわらず、その困難に幻想を抱いてはならない。しかし、ウクライナ情勢がいかに悲惨なものになっているかを考えると、必要は発明の母(necessity may well be the mother of invention)ということになるかもしれない。

そのためには創造的な外交が必要だが、中露間の対立、北京の広範な利益、戦争を終結させ紛争後のウクライナを再建するために北京が果たせる積極的な役割など、冷静な判断も必要となるだろう。このような利害に基づく取引的なアプローチは、自己実現的な予言である北京・モスクワ同盟の強化を回避するのに有効であろう。

※ロバート・A・マニング:スティムソンセンター、同センター・リイマジニング大戦略プログラム名誉上級研究員。ツイッターアカウント:@Rmanning4

※ユン・サン:スティムソンセンター中国プログラム部長。

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 古村治彦です。

 新型コロナウイルスの感染拡大が世界的な問題になって3年余りが経過している。思い返してみればその最初は中国の武漢市であった。その当時、日本でもアメリカでも武漢市での混乱の様子や人々が戸惑い慌てている様子を連日報道していた。中国政府はうまく対応していない、強権的に人々を抑圧している、中国はパンデミックでたいせいに大きな影響が出るのではないかというような主張もなされていた。その後、同じような光景が世界各地で見られた。西側諸国の感染者数や死亡者数(それぞれ1000人あたりの数)を見れば、先進諸国がうまく対応してきたと評価する人は少ないと思う。

 アメリカの外交専門誌『フォーリン・ポリシー』誌に感染拡大初期の中国の様子を現地に住む人物が回顧して書いた記事が掲載された。その内容は「中国政府がいかに効果的に新型コロナウイルス感染拡大に対応したか」というものだ。著者エリック・リーは英語で文章が書けるくらいの人物であり、おそらく中国以外の英語圏で教育を受けたものと考えられる。中国系の苗字であるが、国籍は中国ではないのではないかとも考えられる。中国の上海に在住し、子供たちは中国の公立学校で教育を受けているところから、中国でこれからも暮らすことを選択しているのだろう。彼の各内容はある程度割り引いて読まねばならないだろうとは思う。

 しかし、中国が新型コロナウイルス感染拡大に対して国家を挙げて、ある程度効果的に対応したということは認めなければならない。私は中国の対応は、「戦時態勢に向けた訓練」という意味が強かったのではないかと思う。第三次世界大戦が勃発し、中国が攻撃を受ける場合を想定しての

 中国の戦時態勢を率いるのが習近平だ。習近平がこれまでの慣例を破って、中国国家主席として3期目に突入しているが、このブログで何度も指摘しているが、戦時態勢構築のためである。中国国民は「賢帝」習近平を先頭にして戦時態勢の準備を進めているということになる。習近平の人気、支持率の高さは一般国民の意思が反映されているという解釈もある。「賢帝」という言葉はいささか過剰な高評価とも思われるが、そういう評価があるということを私たちは知っておくことも良いのだろう。民主的な選挙で選ばれた指導者が「賢帝」になり得ないということを私たちは身近で経験できているのは悲しいことだ。

(貼り付けはじめ)

習近平は「賢帝」である(Xi Jinping Is a ‘Good Emperor’

-一人の中国の擁護者は、なぜ新型コロナウイルス感染拡大によって習近平、党、北京への信頼が高まったかを語る。

エリック・リー筆

2020年5月14日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2020/05/14/xi-jinping-good-emperor-coronavirus/

上海では、生活も仕事も徐々に平常に戻りつつある。私も同僚もオフィスに戻った。レストランやバーも再開し、入り口で体温チェックをしている。私が出資している中国最大の自転車シェアリング会社「ハローバイク」は、利用者が大流行前の70%に戻ったと報告している。中国の他の地域でも程度の差こそあれ、同じようなことが起こっている。永遠に続くと思われた悪夢は、もう終わったのかもしれない。この機会に、中国の社会と政府について私が学んだ5つのことについて話してみよう。中国は時宜を得て正しい指導者を持つという幸運に恵まれた。

中国の人々は、自分たちの政治機関を信頼している。私たちの中国に対する理解は、権威主義的一党独裁国家(authoritarian one-party state)は国民の真の信頼を維持することができないという定義に支配されてきた。しかし、そろそろそれを脇に置く時期が来ている。大自然がこれほどのインパクトを与えてくれたのだから、もはや現実は無視できない。

2020年1月23日、中国政府は武漢市を封鎖し、更に総人口5600万人の湖北省全域に人類史上最大の検疫(quarantine)を命じた。2日後、チベットを除く全ての省が最高レヴェルの健康緊急事態を宣言し、7億6000万人以上の都市住民が家に閉じこもり、必要な時だけ外出を許され、公共の場ではマスク着用が義務づけられた。ほとんどの農村も閉鎖された。当時、全国で報告された感染者は571人、死亡者は17人であり、その後の世界的な状況を考えると、むしろ少ない方であった。

この措置の大きさには中国全土が驚かされた。人口2400万人の上海で、数日前まで渋滞していた道路が一夜にして人も車もいなくなった。最初は1週間か2週間で終わるだろうと思っていた。しかし、封鎖は継続した。人々は家に留まり、通りは空いたままだった。

何億人もの人々が即座に、そしてほぼ完全に封鎖に従ったことは、私にとって本当に驚きとなった。中国に行ったことがある人なら、中国の人々がどれほど手に負えないように見えるかを知っているだろう。中国の正規の警察は非武装である。上海の街角では、交通違反の切符をめぐって警察官と口論している人を見かけることがよくある。これほど長い間、多くの人がこのような大規模な封鎖に完全に服従したのは、自発的な行動以外に説明のしようがない。確かに、誰も病気になりたくないという利己心で説明できる部分もある。しかし、教養ある若者の大群が政府の命令や警告に公然と反抗してビーチやクラブに集まり(少なくとも初期の段階では)、警察の厳しい取締りが今も続いている他の国々と比較すれば、利己心だけでは説明できないことは明らかである。政治機関の専門性と自分たちを守る能力に対する国民の極めて高度な信頼だけがこのような服従をもたらす。

このような服従は、中国の厳格な治安維持体制によるものだと主張する人もいるかもしれない。これは2つの理由で的外れである。第一に、治安部隊が有効なのは少人数の活動家に対してであり、数億人の膨大な人口が集団で不服従を選択した場合には有効にはならない。第二に、感染拡大期間中、監禁を強制する大規模な強制行動があったという報告はほとんどなく、証拠もほとんどない。

また、中国政府は国民とのコミュニケーションにも余念がない。毎日、市、県、全国的レヴェルで新しいデータが発表された。テレビでは毎時間、政府の専門家たちが新型コロナウイルスと国の対応について詳しく話していた。どの新聞も、ソーシャル・ディスタンシングを置くことの重要性について書いている。つまり、信頼は盲目的なものではなかった。

中国の市民社会は健在だ。2月初旬に中国のソーシャルメディアにどっぷり浸かっていたら、逆の結論になったかもしれない。文化大革命終結後の最大の国民的トラウマの中で、国民の怒りが渦巻いていたのだ。15年前のSARS流行後に政府が構築した、地方当局が北京に早期警報する仕組みは、コロナウイルス発生の初期段階で明らかに失敗していた。その原因は、官僚が悪い知らせを上層部に伝えることを恐れていたためと推測され、中国の政治体制に重大な欠陥があることが露呈された。12月にコロナウイルスの危険性を最初に警告し、地元警察から口止めされた武漢の医師李文亮が自らウイルスに感染し、騒動は最高潮に達した。それだけを見れば、中国のチェルノブイリの瞬間、あるいは「アラブの春」の始まりと見る向きもあろう。しかし、結果はそうではなかった。

中国中央政府が人類史上最も大規模な疫病対策に動員をかけると、国は一つにまとまった。50万人のヴォランティアが湖北省の最前線に向かい、衛生要員、検疫要員、後方支援要員として健康と生命を危険に晒しながら活動した。全国では200万人以上の国民がヴォランティアとして登録し活動した。ソーシャルメディアは、彼らの感動的なストーリーや画像で溢れ始めた。カフェやレストランでは、ビジネスが壊滅的な損失を被っているにもかかわらず、ヴォランティアに食べ物や飲み物を無料で提供していた。ある写真には、武漢のコミュニティワーカーが宅配用の薬包で肩からつま先まで覆われている様子を写したもので、話題になった。ほぼ全ての地域で24時間体制の検問所が設けられ、ヴォランティアと警備員が出入りを管理し、人々の体温をチェックした。また、多くの地域がヴォランティアを組織し、高齢者などの弱い立場の住民の生活をチェックした。14億人もの人々が、全ての道路、全ての地域、全ての村で、このようなことが起こっていることを想像してみて欲しい。犯罪はほぼ皆無だった。

インターネット上では、政府や様々な社会機関がコロナウイルスの特徴やパンデミックの進行状況について膨大な量の情報を発信した。ソーシャルメディアでも大規模な市民参加型の情報発信が行われた。今、私はCNNBBCで、欧米諸国の専門家や当局者たちが、ウイルスが硬い表面やエアロゾル状で生存できる時間の長さなどについて話しているのを見ている。しかし、こうしたことは、2月の時点で既に何千万人もの中国のネットユーザーが毎日、毎時間話していたことだ。

政府はトップダウンで、パンデミックに対する「人民の戦争(people’s war)」を呼びかけた。そして、これはまさにボトムアップで起こったことだった。私はこれまで、中国では権威主義的な政党支配国家が市民社会の発展を許さないから市民社会が弱いのだという、多くの政治思想家の共通認識を、多少なりとも信じていた。しかし、それは、市民社会が国家とは別のもの、あるいは国家と対立するものであるという、一般的なリベラル派の定義に基づいていることに思い至った。中国の市民社会を古典的な定義、すなわちアリストテレスが「コイノニア・ポリティケ(koinonia politike)」(国家と区別されない政治的共同体)と呼んだもので見てみると、このパンデミックを通じて、おそらく世界で最も活気に満ちているように見えた。

中国では、国家の能力は市場よりも重要である。中国に限らず、最も議論が尽きないテーマの一つが、市場と国家の関係(relationship between the market and the state)である。今回は、国家が勝利し、大勝利を収めた。最も熱心な新自由主義者以外には、市場の成長とともに国家の能力を維持することが、何百万人とは言わないまでも何十万人もの死者を出すかもしれない想像を絶する破滅から中国を救ったことは極めて明白である。

1月下旬の疫病対策が始まると、中国国家は行動を開始した。中央政府は国家の医療資源を調整し、いち早く湖北省に集中させた。全国から217の医療チーム、42,000人以上の医療関係者が機材や物資とともに湖北省に派遣された。中央政府は、約17千台の人工呼吸器の湖北への輸送を調整した。その結果、流行の中心地である湖北省では、人工呼吸器が大きく不足することはなかった。

At the onset of the counter-epidemic operation in late January, the Chinese state swung into action. The central government coordinated national medical resources to quickly concentrate on Hubei province. In total, 217 medical teams with more than 42,000 medical personnel were dispatched to Hubei from around the country, along with equipment and supplies. The central government coordinated the shipment of around 17,000 ventilators to Hubei. The result was that the epicenter of the outbreak never experienced any major shortage of ventilators.

武漢では、10日間で1000床の巨大な新病院が建設された。その後、コンヴェンションセンターなどの既存の建造物を利用して、市内16カ所、計1万3000床の仮設病院を建設し、隔離された環境で軽症の患者を治療した。工業用マスクの原料を生産する国営エネルギー大手シノペックは、35日間かけて生産ラインを設計し直し、医療用マスクの生産に対応させた。自動車メーカーも組立ラインからマスクや医療用品を送り出した。マスクの生産量は1月の1日2千万枚から2月下旬には1億1600万枚になった。

それでは、これらのことを誰がやったのか? 全国から湖北に派遣された医師や看護師は、ほとんどが国営病院に勤務する国家公務員であった。病院を建設し、マスクを製造したのも国有企業である。

広大な国土にもかかわらず、この作戦は非常によく組織化されていた。北京から、中央政府が毎週、時には毎日、地方に対策を展開する。北京から、中央政府が週単位、時には日単位で地方に施策を展開し、地方政府には、その地方の事情に合わせた自由な発想で指示が出された。そして、省政府が市や県に同じように下降線を引いていく。また、その逆もある。また、その逆もしかりで、地方政府から北京へも意見が上がってくる。例えば、武漢のある学術チームは、既存の病院では、感染の恐れのある軽症の患者を多数収容することができないことを発見し、「仮設病院」のアイデアを提案した。その結果と提案を北京に送ったところ、承認され、24時間以内に実施するよう命じられた。

また、中国は国家としては経済危機の影響を和らげるために迅速に行動した。企業への直接の補助金に加え、政府は労働法の施行方法を調整し、不況時に従業員に給与を全額支払う義務を免除するようにした。その代わり、各企業は従業員を解雇せず、最低賃金と健康保険を維持するよう求められた。また、地主が国有企業の場合は、家賃の減額や免除を受けることができた。

中国共産党が中心的な役割を果たしてきた。この危機を乗り越えるにあたり、3名の人物が無名から全国的な名声を得るに至った。警告を無視した最初の内部告発者である李医師は、新型コロナウイルスで死亡した。鍾南山は、このパンデミックのための国家公衆衛生総責任者であり、アメリカのアンソニー・ファウチと同様に、対疫病作戦の表の顔として活躍している。張文宏は、上海で流行対策活動を主導してきた華山病院の医師である。経歴も地域も世代も全く異なる3人だが、2つの共通点がある。まず、全員が医師である。コロナウイルスを最初に警告し、警察に口止めされた武漢の医師がウイルスに感染したことで、騒動は最高潮に達した。

この試練の中で、中国共産党は最も目立つ存在であった。張は、私の家の2ブロック先にある病院で働いている。上海防衛のための医療チーム編成について語る彼の姿がヴィデオに収められていた。「党員は問答無用で真っ先に行け!」と叫んでいた。このヴィデオはインターネット上で大いに拡散された。

連日、武漢に向かう中国共産党の旗の前で宣誓する党員ヴォランティアの映像が中国のインターネット上に溢れ、自分の命より他人の命を優先させることを誓った。4月29日現在、前線で死亡した496人の医療従事者とヴォランティアのうち328人が党員である。

中国の習近平国家主席は「賢帝(good emperor)」だ。何年か前に、アメリカの政治学者フランシス・フクヤマが、「悪帝問題(bad emperor problem)」という言葉を作った。権威主義的な政治体制では、たとえ良い統治者が出るにしても、この体制では悪い統治者が権力を持って国を滅ぼすことを防ぐことはほとんどできないという理論的な意味である。今は、この理論を議論する時期でも場所でもない。しかし、今、私が知っていることは、習近平は「賢帝」だということだ。

1月28日、習近平は世界保健機関(WHO)のトップとの会談で、自分が伝染病対策作戦の直接の責任者であることを国民に告げた。このとき、未来はこれほど暗く、不確かなものではないと感じたが、日和見主義や責任回避はこの最高指導者の性格には存在しない。武漢と湖北を封鎖することは、非常に大きな結果をもたらすので、彼一人の決断であったろう。武漢・湖北の封鎖は、彼一人の決断であったろうが、結果的に国家を破滅から救う決断となった。彼は、政治局常務委員会(Politburo Standing Committee)の会議を主宰し、政策指示を出し、それを公表するという前代未聞の行動に出た。公の場ではマスクを着用した。17万人の第一線の政府関係者や有志とテレビ会議を行った。まさに「人民の戦争」は、全国民の前で彼自身が主導した。

習近平は強力な指導者として、特に国際的に、しかし国内的にも非難されることが多かったし、今後もそうであることは間違いない。欧米諸国のメディアや政府は、メディアや政治的異論に対する規制を強化し、新疆ウイグル自治区のイスラム教徒に対する政策が物議を醸しているとして、習近平政権を攻撃している。国内の反対派の中には、北京に政治権力を集中させようとする最近の動きに反対する者もいる。しかし、私の知人や中国の政治評論家の間では、最も厳しい批判をする人たちでさえ、この一世一代の危機における彼の舵取りを認めている。私は、この後、習近平の国民的人気は急上昇すると思っている。

習近平の指導力は、政府全体の社会的信用を高めた。初期段階でミスがあり、その結果、発生時の対応が遅れたことは明らかである。そして、特に内部告発者(whistleblower)である李医師の明らかな口封じに対する正当な怒りもあった。しかし、中国がほとんど知られていないウイルスに不意を突かれたことも事実である。今、中国人は、14億人の人々が数ヶ月にわたって何が起こるかを世界に示した後にもかかわらず、多くの国の政府がパンデミックの抑制に苦心しているのを恐怖の目で見ているため、自国政府の最初の誤りは、検討と反省に値するものの、もはやそれほど許しがたいとは思えない。中国のインターネット上には、武漢に向かうヴォランティアが中国共産党の旗の前で宣誓する画像が溢れかえっていた。

私にとっても、世界中の多くの人にとっても、新型コロナウイルスは生涯で最も特別な出来事であることは間違いない。ビジネスマンとして、政治学を学ぶ者として、確かに影響を与えた。しかし、親として最も感情的な影響を受けたのはこの出来事だった。私の子どもたちは、上海の公立学校に通っている。1月27日、上海は2月に予定されていた春学期の開始を延期すると発表した。子供たちは喜んだ。しかし、その喜びは長くは続かなかった。2週間後、上海市教育局から学校再開の命令が出た。上海市教育局では、全教育課程をオンライン学習に対応させるべく、記録的な速さで準備を進めていた。その新しい教材がメールで送られてきて、プリントアウトするように言われた。2日目に自宅のインクジェットプリンターが壊れた。そこで、業務用のレーザープリンターを購入し、中学校の教科書を1000ページ以上印刷した。

全ての学校は、毎日、朝8時から夕方4時まで、中国語、数学、物理、英語と、普段の学校と同じようにパソコンの画面の前で、次々と授業を続けている。宿題は毎晩、プリントアウトしたものを写真に撮り、学校のシステムにアップロードして提出する。翌朝、採点され、訂正を求められる。子供たちが家にいるのは良いことだ。しかし、私たち親の負担は大変なものだ。子供たちにこれほど怒鳴ったことはなかった。

3月19日の朝、私は目を覚まし、約2カ月間毎朝続けてきたように、前日のコロナウイルスの数値を確認しようとスマホに手を伸ばした。その朝、中国で確認された感染者数は8万928人、累積死亡者数は3245人であることを確認した。「新たな確定症例はゼロ!」となった。

私は急いで1階に降りて、子供たちに良い知らせを伝えた。子供たちの臨時教室になっているダイニングルームに入ると、国歌の前奏が聞こえてきて、私は足を止めた。子供たちは制服姿でパソコンの前に立ち、国旗掲揚の儀式を見守っていた。私は久しぶりに涙を流した。

※エリック・リー:ヴェンチャー・キャピタリスト、政治学者。上海在住。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
20211129sankeiad505

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 古村治彦です。

 ジョー・バイデン大統領のワシントンDCにある古い事務所とデラウェア州ウィルミントンにある自宅ガレージから、バラク・オバマ政権の副大統領を務めていた時代の政府機密文書が発見された。発見は昨年11月2日の中間選挙直前であったが、アメリカ政府はこの事実をすぐには発表せず、今年に入ってCBSニューズがスクープ報道して、それに追随する形でホワイトハウスは事実として認めた。

 ヒラリー・クリントンが国務長官時代に私的なEメールアドレスと私的なサーバを使って、機密情報を含む公的な情報をやり取りしていたこと、ドナルド・トランプ前大統領の邸宅からも政府機密文書が発見されたこと、そして、今回のバイデン大統領の事務所と自宅から機密文書が発見された。子のようなことが続くというのは、アメリカの公文書管理に関して緩みが出ているということになるだろう。そして、公文書のほとんどは大した中身のものではなくて、あってもなくても良いものがほとんどということなのだろうと推察される。

 バイデン政権にとっての問題は、現在、連邦下院で過半数を握っている共和党が、バイデン大統領と息子のハンター・バイデンのウクライナとの関係について追及しているが、見つかった公文書の中にウクライナ関連のものがあったということである。これは、共和党側からすれば、バイデン父子がウクライナを「個人所有」「私有化」していた論理構成で攻勢をかけるということになる。

 中間選挙の前に公文書発見が公表されなかったのは、ヒラリー・クリントンに結び付けられ、ヒラリーの二の舞となることを避けたかったという意図があったのは間違いないところだ。これが選挙前に発表されていたら、ヒラリーのEメール問題に絡められ、「Lock Him Up !(彼を逮捕せよ!)」というスローガンが全米各地で叫ばれていたことだろう。民主党側としては、この問題を大きくしたくないところだろう。しかし、政治とはけたぐり合いであり、より過激に言えば殺し合いである。どんな材料でも相手を攻撃できるとすれば利用する。利用されないように問題を封じ込めるという守りも必要だ。

 その守りが甘ければ、蟻の一穴から堤防が崩壊するということが起きる。バイデンのホワイトハウスは守りが甘いということになる。特に「きまじめ」「きちんとしている」ということを売りにバイデンは大統領に当選しているので、このような問題は意外なダメージを与えることになる。

(貼り付けはじめ)

更に5つの機密文書がバイデンのウィルミントンの自宅から発見と弁護士たちが発言(Five more classified documents found at Biden’s Wilmington home, lawyer says

ブレット・サミュエルズ筆

2023年1月14日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/administration/3813424-five-more-classified-documents-found-at-bidens-wilmington-home-lawyer-says/

ホワイトハウスは土曜日、ジョー・バイデン大統領の副大統領時代の機密文書が、木曜日にデラウェア州ウィルミントンのバイデンの自宅で更に5通発見されたと発表した。

バイデン大統領特別顧問であるリチャード・サウバーは声明の中で、水曜日の夜にバイデンの自宅のガレージに隣接する部屋で1通の機密文書が発見されたと述べた。その文書を発見した弁護士は、セキュリティクリアランス(機密文書取扱適格性)を持っておらず、結果として捜索を一時中断したとサウバーは述べた。

セキュリティクリアランスを持っているサウバーは、司法省(DOJ)への文書の転送を促進するために木曜日の夜にウィルミントンに到着した。

サウバーは「同行した司法省の職員に機密文書を移している間に、一緒にあった資料の中からさらに5ページ、合計6ページの分類記号が発見された。同行した司法省の職員はすぐにそれらを手に入れた」と述べた。

5通の資料が更に発見されたことで、バイデンの古い事務所とウィルミントンの自宅で発見された機密表示のある資料の数は、およそ20通になった。バイデンは金曜日の夜にウィルミントンの自宅に到着した。バイデンは頻繁に週末を自宅で過ごしている。

サウバーは、追加の質問について、この問題を今後検討するために木曜日に任命された特別検察官に照会し、ホワイトハウスが特別検察官に協力することを改めて表明した。

サウバーは声明の中で次のように述べた。「大統領の弁護団は、ペンシルヴァニア大学バイデンセンターの文書を公文書館に、ウィルミントンの自宅にある文書を司法省に提供するために、直ちに自発的に行動した。私たちは発見された文書について、どのように判別され、どこで発見されたか、具体的な詳細について公表した」。

バイデン大統領の弁護団は11月2日、ペンシルヴァニア大学の名誉教授を務めていたバイデンが2017年から2019年にかけて使っていたワシントンDCの事務所で、機密事項が記されたおよそ10通の書類を発見した。その発見は、CBSニューズが報道した後、月曜日にホワイトハウスによって事実確認がなされた。

水曜日には、2カ所目で更なる文書が見つかったと報じられた。ホワイトハウスは木曜日、事務所での文書発見後、弁護士がデラウェア州ウィルミントンとレホボトビーチにあるバイデンの自宅を捜索し、バイデンのウィルミントンの自宅ガレージで機密資料を発見し、さらに隣の部屋でも1通の文書を発見したことを確認した。

5つの追加文書は木曜日の夕方に発見されたが、土曜日の朝まで調査結果は公表されなかった。

ホワイトハウスは、このプロセスに関する質問について、司法省へ注意が向くように何度も逸らした。メリック・ガーランド司法長官は、文書の取り扱いに関する調査を担当する特別検察官(special counsel)を任命した。

しかし、バイデン政権に対しては、調査結果について国民に開示するのが遅いという批判を浴びている。

バイデン大統領の個人弁護士であるボブ・バウアーは、土曜日に発表した声明で、「本職は適切な場合には、公共の透明性の重要性と、調査の完全性を守るために必要な確立した規範と制限のバランスを取ろうとした」と述べました。

バウアーは「これらの考慮は、捜査が進行中の間、捜査に関連する詳細の公開を避けることを必要とする。定期的な情報公開は、当局が新しい情報を得る能力を弱めるか、状況が進展するにつれて情報が不完全になる危険性がある」と付け加えて述べた。

バイデン大統領は、副大統領時代の機密文書が見つかったことについて驚いていると述べ、政府の機密資料の取り扱いについて真剣に受け止めていると繰り返し述べている。

バイデン大統領は、自宅のガレージは施錠されていると述べており、ある時点で、文書のいくつかは彼の個人的な図書館で見つかった可能性があると示唆した.

今回の特別検察官の任命により、直近の2名の大統領が機密文書をどのように扱ったかを審査する特別検察官が2人存在することになるが、それぞれのケースの内容は大きく異なっている。

ガーランド司法長官は11月、トランプ前大統領の機密資料の取り扱いに関する調査を監督する特別検察官を任命した。連邦政府当局は昨年、トランプ前大統領のフロリダ州の邸宅で、最高機密と記された文書を含む数百点の政府機密資料を発見した。

トランプ大統領と彼のティームが数カ月にわたって捜査当局の捜査活動を妨害し、国立公文書館が求める文書の引き渡しに協力しなかったため、FBI8月にトランプの邸宅の式内を捜索した。
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民主党はバイデンに関する議論がクリントンのEメール問題の再来となるのではないか危惧している(Democrats worry Biden controversy will be Clinton emails repeat

エイミー・パーネス筆

2023年1月14日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/administration/3812626-democrats-worry-biden-controversy-will-be-clinton-emails-repeat/

民主党は、ジョー・バイデン大統領のデラウェア州ウィルミントンの自宅と前事務所で見つかった機密文書をめぐる論争が、予想される再選キャンペーンに大きく立ちはだかることを懸念しているようだ。

民主党側は、バイデン大統領がこの問題を克服できると確信していると述べる一方で、多数の機密文書の一斉公開が、選挙戦開始を控えた大統領にとって問題を複雑にしているとも述べている。

非公式の場では、民主党側はバイデンが何が起こったかを説明し、2016年の民主党大統領候補ヒラリー・クリントンのメール論争(元国務長官クリントンが政府の仕事をする際に私用メールアカウントを使用していたことを認めた)と比較することがどれほど厳しいことになるだろうかと考えている。

また、2022年8月に機密文書が押収されたフロリダ州の邸宅をFBIが捜索したことをめぐり、トランプ前大統領に対する民主党の攻撃を複雑化させ、共和党に贈り物を与えることになる。

この問題について率直に話すために匿名を条件にした民主党系のあるストラティジストは次のように語っている。「これは大統領にとってかなり大きな問題になるだろう。共和党は常にスキャンダルを煽動するのが得意で、ここでのバイデン大統領の状況はトランプに関わる状況とは全く異なるにもかかわらず、彼らはこれが大きな問題であるかのように行動するだろう」。

民主党は内心ではこの問題の存在と重要性を認めているが、公の場ではトランプとバイデンの状況は劇的に異なると反論している。

民主党系ストラティジストのヴェテランであるロデル・モリノーは「リンゴとオレンジ位に違うのだ」と語った。同時に、民主党は「共和党がこれをウォーターゲート事件以来の大スキャンダルに仕立て上げることに対して徹底的に準備する必要がある」と警告を発した。

モリノ-は「この事件は確実な武器ではないが、共和党側は試してくるだろう」と述べた。

連邦下院監視・説明責任委員会の共和党側委員たちは今週、バイデンが所有していた機密文書について調査を開始した。

共和党全国委員会(RNC)は今週、プレスリリースやソーシャルメディア上で、バイデンが自家用のコルヴェットを自宅のガレージにバックで入れている映像ファイルの公開などこの話題に多くのエネルギーを注いでいる。「これは、ジョー・バイデンが機密文書を隠していた、鍵のかかったガレージの映像だ」と、共和党全国委員会のリサーチアカウントからツイッター上に投稿されたものもあった。

テッド・クルーズ連邦上院議員(テキサス州選出、共和党)はツイッターで、2016年に進行中のクリントンの問題と冗談交じりに結びつけた。「ビッグストーリーが明日やってくる。ヒラリーのサーバもジョーのガレージにあった」とジョークを述べた。

木曜日と金曜日、記者たちは、このニューズがバイデンの再選出馬の決断に影響を与えるかどうか政権関係者たちに厳しく質問した。

金曜日に行われたホワイトハウスの記者会見で、大統領上級顧問ケイシャ・ランス・ボトムズ(公共関与担当)は、「機密文書の発見が再出馬の決断に影響するか」と記者団から質問された。

ボトムズは「そのような質問があったことは大統領にお知らせする。大統領自身がこの質問について話すだろう」と答えるにとどめた。

機密文書の発見がバイデン大統領の再出馬の決断に影響を与えるかどうか質問されたホワイトハウスのアンドリュー・ベイツ副報道官は「それはない」と答えた。

ベイツは「バイデン大統領は、司法省の独立性を尊重し、政治から切り離すという約束を守っている 。バイデン大統領の政策が評価され、民主党大統領として60年ぶりの中期選挙の好結果をもたらした後も含めて、出馬の意向を彼から直接聞いているはずだ」とも述べた。

ベイツは次のように述べた。「インフレ率の低下、過去50年間で最低の失業率、アメリカ国内の雇用の回復、薬剤費の引き下げなど、全て先週だけのことですが、大統領の関心はアメリカの家族のためにさらなる進歩を遂げることだ。また、連邦下院共和党のヴィジョンである富裕層の減税のための中間層への増税、インフレの悪化、中絶の禁止などに直面している」。

2020年の大統領選挙でバイデン選対に参加したある側近は、もし機密文書の開示が問題になければ、共和党は何か別のことで大統領を攻撃しているだろうと語った。しかし、文書問題でバイデンを追及することは、同じテーマでトランプがお荷物になっているため、彼らにとっては負け戦になる。

この側近は、トランプが何ページもの公文書を所有しいて、それを提出するようにというFBIの要求になぜ抵抗したのかという疑問に対して共和党は答えるのが難しいはずだと述べた。この側近はまた、中間選挙で実証されたように、誰がより法律を守っているかで争うことは共和党にとって勝ち目のない状況になると述べ、FBIへの資金提供拒否、1月6日の連邦議事堂への侵入者の擁護、2020年大統領選挙結果についての陰謀論を指摘した。

最終的には、有権者たちはインフレ率の低下を含む問題にもっと関心を持つだろうとこの側近は語った。

機密文書論争が起こる前、バイデン大統領と側近たちは一連の良いニューズの流れに乗っていた。

それは、中間選挙が予想以上に成功を収め、民主党が連邦上院の過半数を握り、2024年の大統領再選に向けてバイデンの地位が強化されたからだ。

共和党は、2024年に誰が党を率いるべきか、党はトランプから脱却する必要があるのか、といった議論に分断されているように見える。先週の連邦下院議長選挙も共和党内の分裂を浮き彫りにした。

バイデンは世論調査の数字を少しずつ上げ、インフレの鈍化など経済も改善の兆しを見せている。

こうした一連の良いニューズは、バイデンが大統領選への再出馬を表明する準備として、幸先のよいスタートを切ることになった。

しかし、バイデンが機密文書を所持していることが、最初はワシントンのかつてのオフィスで、その後ウィルミントンの自宅ガレージ内で発見されたことから、民主党は神経質になっている。木曜日の特別検察官の任命は更に不安を煽った。

木曜日の夜、MSNBCに出演したバイデン大統領の元報道官ジェン・サキは、その不安の一端を口にした。

サキは「誰も特別検察官任命を望んでいない。大統領選に出馬するかもしれない前の年に、『今年は特別検察官がいて欲しい』と考えることはないだろう。誰もそんなことは望んでいない」と述べた。ホワイトハウスは、これは「政権移行期のずさんなスタッフの仕事」であり、「長期的には、たとえ短期的な痛みを伴っても、彼らの利益になる」可能性があると確信しているとサキは付け加えた。 

連邦議会民主党議会選挙対策委員会委員長を務めたスティーヴ・イスラエル元連邦下院議員(ニューヨーク州)は、オバマ前大統領が2012年に再選に成功する前のティーパーティーの多数派から学んだ教訓を指摘し、共和党が機密文書の発見に過剰に反応する可能性があると述べた。

イスラエルは次のように語った。「オバマ大統領は順調に再選を果たし、民主党は連邦下院で8議席上回って過半数を獲得した。何が起こったかというと、共和党の多数派が手を出しすぎたのだと私は考える。彼らは自分たちの支持基盤を発奮させたが、しばらくして、毎日の詮索ではなく、集中力と日常の課題を求める穏健派有権者を失った」。

しかし、非公式の場では、民主党側はバイデンが2023年を迎えることを望んでいた方法ではないことを認めた。

あるクリントン選対に参加したあるヴェテランは「誰もが好き勝手なことを言えるが、これでバイデンは完全に弱体化した。この問題はいつまで経っても解決しないだろう」と述べた。

クリントンの元側近は続けて次のように述べた。「迷惑な話だし、彼らが好むと好まざるとにかかわらず、この問題は残り続けるだろう。そしてつぎのような疑問が生まれるだけだ。もし彼がガレージでコルヴェットと一緒に書類についてこんなに軽薄なことをしているなら、他に何をやっているのか誰にも分からないだろう」。

共和党系ストラティジストであるスーザン・デルペルシオは、機密文書の発見は共和党への贈り物だと語った。

デルペルシオは機密文書発見について「これは大皿に盛られたものだ。それ自体は大したことではないが、共和党がそれをどう武器にするかだ」と述べた。

現在まで、共和党がバイデンに対して持っていたのは、バイデンの息子ハンター・バイデンに関する税金やビジネス取引に関する論争と経済に関する問題だけだったとデルペルシオは言う。

デルペルシオは次のように語った。「バイデンが出馬しない理由を探していたのならこれはかなり良い理由だ。彼はこんな選挙戦を望んではいないはずだ。釈明ばかりしていたら負けてしまうことになる」。
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ホワイトハウスはなぜもっと早く機密文書発見を公表しなかったのか説明するよう圧力を受けている(White House under pressure to explain why it didn’t reveal documents discovery earlier

アレックス・ガンギターノ筆

2023年1月14日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/administration/3812679-white-house-under-pressure-to-explain-why-it-didnt-reveal-documents-discovery-earlier/

ホワイトハウスは、バイデン機密文書の発見がなぜすぐに公表されなかったのか説明するよう圧力を受けており、中間選挙を控えて最初の発見について沈黙を保っておこうとする意図的な試みがあったのではないかという批判が公然となされている。

最初の文書が最初に発見されたのは2022年11月2日で、選挙からわずか6日後のことだった。しかし、ホワイトハウスは、今週初めにCBSニューズが報道するまでこの発見について公表しなかった。

ホワイトハウスのカリーヌ・ジャン=ピエール報道官は金曜日、機密文書発見時にすぐに明らかにしなかったのは大統領を政治的ダメージから守るためだったのかという質問に対して、「それはあなたの言い分に過ぎない」と答えた。

ジャン=ピエール報道官は「私はここで非常に明確にしてきたし、ここ数日、異なる機会で何度もその質問に答えてきた。ここにはプロセスがあり、私たちはそのプロセスを尊重するつもりだ」と付け加えて答えた。開示のタイミングについてスタッフが戦略の立案に関与したかとの質問には「ノー」と答えた。

2022年12月20日にバイデンのデラウェア州ウィルミントンの自宅のガレージの収納スペースから2回目の機密文書が発見され、今週も隣の部屋の収納資料の中から1ページの文書が発見された。バイデンの自宅の捜索は水曜日に終了した。

メリック・ガーランド司法長官は、バイデン大統領のウィルミントンの自宅で更に機密文書が発見されたとの公表を受け、機密文書発見を調査する特別顧問としてロバート・ハーを木曜日に任命した。また、ホワイトハウスが機密文書を発見した際、リアルタイムで通知されたと述べた。

バイデンの長年の盟友で情報将校出身のクリス・カーニー元連邦下院議員(ペンシルヴァニア州選出、民主党)は、「機密文書発見のタイミングは実に不思議だ」と述べた。カーニーは更に「バイデン大統領は、この厄介なエピソードについて説明責任を果たし、その責任を受け入れなければならない。ここで最も重要なことは、個人的な政治的恥辱を防ぐことではなく、我が国の安全保障を守ることだ」と発言した。

記者たちは金曜日、ジャン=ピエール報道官は機密文書について、1週間を通して質問に答えたというが、CBSがニューズを流したために、彼女は全く質問に直面しなかったと指摘した。彼女は、調査が進行中だからだと主張した。

報道官は「司法省は独立した機関であり、私たちはその調査プロセスを尊重する」と述べた。

連邦議会共和党も公表のタイミングに疑問を呈しており、連邦下院監督・説明責任委員会は今週、公文書に関する調査を開始した。

今週、ジェイムズ・コマー連邦下院監督・説明責任委員会委員長(共和党)は「よく見て欲しい、これは11月2日の出来事だ。ジョー・バイデンはアメリカ史上最も透明性の高い大統領になると述べた。なぜ今になってこのことが分かったのか? CBSは素晴らしい仕事をした、CBSの報道がなければ私たちは知ることができなかった」とCBSで語った。

ホワイトハウスが公表しないまま、11月と12月に機密文書がバイデンの自宅から発見されたというニューズは、12月にインフレが鈍化したという連邦政府の報告などの今週の他の政治的展開に影を落としている。

共和党系のストラティジストであるダグ・ヘイは、もし11月に発見が明らかになったとしても、同じことが起こっただろうと主張した。そして、民主党は選挙の最終週に自分たちのメッセージから注意をそらすことを望まなかっただろうとも述べた。

ヘイは「これは、タイミングについて、非常に合理的に出てくる最初の質問の一つです。2022年の選挙に大きな影響を与えただろうか? これについてははっきりしないが、過去にさかのぼってその影響を否定することはできない」と述べた。

ヘイは更に「民主党側が主張していたのが、『トランプの信奉者である非常識な人たちが立候補しているのを見よ』というものだったことを考えると、明らかに民主党が望んでいたメッセージとは違う」とヘイは述べた。

ジョージワシントン大学の法学教授で元司法省職員のスティーヴン・サルツバーグは、2016年の選挙直前にジェームズ・コミー前FBI長官が当時の大統領候補ヒラリー・クリントンに対する捜査について詳細を発表したやり方が、多くの人の口に「後味の悪さ(bad taste)」を残したと指摘している。

サルツバーグ「とは言っても、選挙が終わった後、なぜ積極的に公表しなかったのか分からない。発見された際、マスコミはこぞってそれを取り上げ、それで彼らは守勢に回った」と述べた。

ホワイトハウスは、特に選挙の前に、この発見を黙っておこうとする意図的な試みがあったかどうかという質問に対して、本誌に以前の声明を紹介した。これらの声明の中では、司法省の調査は進行中であり、ホワイトハウスが発言できることは限られていると繰り返し述べている。

バイデンのワシントンオフィスでは、副大統領時代から2020年の大統領選出馬までの間に使用した、機密事項が記された10通の文書が、他の個人的な資料と混ざって発見されたと伝えられている。それらの文書には、ウクライナ、英国、イランに関するブリーフィング資料が含まれていたとされる。

現在ノサマン社の上級政策顧問を務めるカーニーは「ワシントンで政治家を指弾するのはよくあることだが、管理されていない情報文書がこの国の安全保障に与えうる損害を忘れることはできない。バイデンであれ、トランプであれ、あるいは他の誰であれ、文書を管理できなくなれば、国家の重大な損害につながる可能性がある」と述べている。

カーニーは更に、機密文書を扱ったことのある人間として、「国の指導者が情報報告に対してこれほどまでに軽率になれることに激怒している」と付け加えた。

バイデンのティームは、機密文書が発見された直後に国立公文書館と司法省に警告を発したとホワイトハウスは発表している。

これは、トランプ前大統領の政府文書の取り扱いとは明確に区別される。当局者は昨年夏にFBIの捜査が行われる前に、トランプに複数回にわたり文書返還を要求していた。

バイデンは今週、メキシコでの記者会見で、自身の古いワシントンオフィスで機密文書が見つかったと知って驚いたとコメントした。また、その文書が何についてであったかは知らないと付け加えた。

しかし、ホワイトハウスが当時この発見を公表しなかったことについて、大統領を守るために発見を非公開にしたかったのかどうかなど、機密文書の中身以上に疑問を生じさせている。

ヘイは次のように述べた。「バイデンの記者会見とカリーヌのブリーフィングの間に、私は政治には古い一線があることを思い知らされた。釈明していたら負けだ。昨日は、良い経済ニューズの日であったはずなのに、釈明の日になってしまった」。

ブレット・サミュエルズはこの記事の作成に貢献した。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 世界は問題にあふれている。個人生活から、それぞれの国家、国際社会、国際関係まで、それぞれのレヴェルで様々な問題が存在する。複数の問題が複雑に絡まって、こんがらがって、にっちもさっちもいかない状態に起きることもある。

 以下の論稿の著者スティーヴン・M・ウォルトはまず現代の諸問題(大きな衝撃)を10個挙げている。それらは、(1)ソヴィエト帝国の崩壊、(2)中国の台頭、(3)911テロ攻撃と対テロリズム国際戦争、(4)2008年の金融溶解、(5)アラブの春、(6)世界規模の難民危機、(7)ポピュリズム、(8)新型コロナウイルス、(9)ウクライナでの戦争、(10)気候変動である。これらはメディアの主要なテーマであったし、現在でも主要なテーマになっている。昔の表現を使えば、「新聞の一面記事を飾る」ということになる。

 これらの問題に対処する際に、「一気にできるだけ早く(問題があることは良くないことで許せない)」という理想主義で対処すると大抵失敗する。共産主義革命がよい例だ。革命によって、旧体制が抱える諸問題を一気に解決しようとすると思いもよらなかった新たな問題が起きたり、無理をすることで人々や社会に大きな負担を与えたりすることになる。諸問題に対処するためには、「ゆっくりと堅実に(問題が起きるのは人間や社会が存在する限り仕方がないのだから慎重に対応しよう)」という態度が必要だ。

 何か追われているという感覚がみなぎっている時代に「ゆっくりと堅実に」という態度は非常に難しくなっている。

(貼り付けはじめ)

世界はどれだけの衝撃に耐えられるか?(How Many Shocks Can the World Take?

-私たちはあらゆることがあらゆる場所で一度に起こった時に何が起こるかを目の当たりにしている。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2022年10月24日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/10/24/how-many-shocks-can-the-world-take/

このコラムの常連読者の皆さんは、私が警鐘を鳴らすのが好きではないことをご存じだろう。ある外交政策決定がもたらすコストやリスクを心配することはあっても、外交政策の専門家たちが脅威を誇張し、最悪の事態を想定する傾向に対して、私は反発する傾向があるが、いつもそうだという訳ではない。しかし、いつもそうとは限らない。時に、オオカミが本当にドアの前にいて、心配し始める時がある。

今日、私を悩ませているのは、私たちの集団的な対応能力を圧倒するような一連の混乱の中で私たちが生きているのではないかという、歯がゆい不安である。もちろん、世界の政治が完全に静止していることはないが、これほど深刻な衝撃の連続は、長い間、見たことがあない。私たちは人間の知恵が最終的に解決してくれると考えることに慣れている。しかし、政治学者のトーマス・ホーマーディクソンが何年も前に警告したように、解決すべき問題の数があまりにも多く複雑になると、その心強い仮定は当てはまらないかもしれない。

(1)ソヴィエト帝国の崩壊The breakup of the Soviet empire

ソヴィエト連邦の崩壊と東欧のビロード革命(velvet revolutions)は、多くの点で前向きな展開であったが、同時にかなりの不確実性(uncertainty)と不安定性(instability)をもたらし、今日でも反響を呼ぶ政治展開(NATO拡大など)への扉を開いてしまったのだ。アゼルバイジャンとアルメニアの戦争、ユーゴスラビアの崩壊とその後のバルカン戦争、アメリカの不健康な傲慢さの助長、中央アジアの政治の再構築などに直接つながったのである。ソ連の庇護を失ったことで、アフリカ、中東、アメリカ大陸の政府も不安定になり、予測不可能な、そして時には不幸な結果を招いた。歴史は終わったのではなく、別の道を歩んだ。

(2)中国の台頭(China’s rise

アメリカ人は当初、一極(unipolar)の時期は長く続くと考えていたが、ほとんどすぐに新たな大国のライヴァルが出現した。中国の台頭は、おそらく突然の、あるいは予期せぬ衝撃ではないだろうが、それでも極めて急速であり、西側の専門家の多くは、それが何を予兆しているかを見誤っていた。中国はまだアメリカよりかなり弱く、国内外で深刻な逆風(headwinds)に晒されているが、目覚しい経済成長、高まる野心、拡大する軍事力は否定しようがない。また、中国の経済発展は、気候変動を加速させ、世界の労働市場に影響を与え、現在の超グローバリズムに対する反発の引き金にもなっている。その富と力(wealth and power)の増大は中国国民の生活を向上させ、他の人々にも恩恵を与えたが、既存の世界秩序に衝撃を与えていることに変わりはない。

(3)911テロ攻撃と対テロリズム国際戦争(The 9/11 attacks and the global war on terrorism

2001年9月、世界貿易センターを破壊し、米国防総省に被害を与えた同時多発テロは、アメリカの外交政策を一変させ、アメリカは10年以上にわたってテロとの戦いに巻き込まれることになった。この出来事は、アフガニスタンのタリバン打倒と2003年のイラク侵攻に直結し、いわゆる「永遠の戦争(forever wars)」は、結局、あの日失ったものをはるかに上回る血と財をアメリカに浪費させたのである。また、テロとの戦いは中東諸国を不安定にし、意図せずして「イスラム国」のような集団を生み出し、その行動はヨーロッパにおける右翼過激派の台頭を助長した。更に言えば、アメリカ国内政治の軍事化(militarization)と分極化(polarization)、アメリカ国内における右翼過激派の主流化(mainstreaming)を加速させたことは、どう考えても大きな衝撃だった。

(4)2008年の金融溶解(The 2008 financial meltdown

アメリカのサブプライムローン市場の崩壊は、金融パニックを引き起こし、瞬く間に世界中に広がった。ウォール街の「宇宙の支配者(Masters of the Universe)」とされた人々は、他の誰よりも誤りやすい(あるいは腐敗しやすい)ことが判明し、この問題を起こした人々は責任を問われることはなかったが、危機発生前のような威信と権威を伴って発言することはできなかった。ヨーロッパは急激な景気後退(sharp recession)、長引く通貨危機(protracted currency crisis)、10年にわたる苦しい緊縮財政(painful austerity)に見舞われ、ポピュリズム政党に再び政治的な追い風を与えた。中国当局もまた、この危機を欧米の衰退を示す兆候であり、自国の外交政策上の野心を拡大する機会であると考えていた。

(5)アラブの春The Arab Spring

忘れられようとしているが、「アラブの春」は、いくつかの国で政権を倒し、一時は広く民主制度移行(democratic transitions)を期待させ、リビア、イエメン、シリアで現在も続く内戦(civil wars)を引き起こした騒々しい出来事であった。この革命は権威主義的な弾圧(authoritarian crackdowns)(「アラブの冬[Arab Winter]」として知られる)で終わり、改革者たちが獲得した成果のほとんど全てを覆した。ヨーロッパで起きた1848年の革命のように、「近代史が転換できなかった転換点(turning point at which modern history failed to turn)」であった。しかし、それは意思決定者の多くが時間と関心を消費し、多くの高官の評判を落とし、多大な人的被害をもたらした。

(6)世界規模の難民危機The global refugee crisis

国連難民高等弁務官事務所によると、「強制移住者(forcibly displaced)」の数は2001年の約4200万人から、2021年には約9000万人に増加すると言われている。難民の流入は、それ自体、私たちが経験した他の衝撃の結果であるが、それ自体が深刻な影響を及ぼし、この問題は簡単には解決できない。そのため、近年、各国政府や国際機関が対応に苦慮しているもう1つの衝撃となっている。

(7)ポピュリズムが人気になる(Populism becomes popular

2016年は、少なくとも2つの衝撃的な出来事があった。ドナルド・トランプがアメリカの大統領に選ばれ、イギリスがヨーロッパ連合からの離脱に票を投じた。どちらも予想を裏切り、反対派が懸念していた通りの悪い結果となった。トランプは、選挙期間中に現れた通り、腐敗し、気まぐれで、ナルシストで、無能であることが証明されたが、彼の最も厳しい批判者たちでさえ、アメリカの民主政治体制の基盤(foundations of American democracy)を攻撃する彼の意欲を過小評価していた。実際、選挙での敗北から2年以上が経過し、複数の法的問題に直面しているトランプは、アメリカの政治生活に毒を及ぼし続けている。ブレグジットは、イギリスでも同様の影響を及ぼした。EU離脱はイギリス経済に大きなダメージを与えただけでなく(まさに反対派の警告通り)、保守党の現実逃避を加速させ、ボリス・ジョンソン前首相の風刺的で連続的に不正直な行動や、リズ・トラス首相のダウニング街10番地での短い在任期間を完全に破綻させるに至った。世界第6位の経済大国が、このような愚か者の連続によって統治されるのは、誰にとっても良いことではない。

(8)新型コロナウイルス(COVID-19

次はどうなる? 世界的な大流行(パンデミック)はどうだろうか? 専門家は以前から、このような事態は避けられない、世界はそれに対する備えをしていないと警告していたが、そう舌警告はあまりにも的確なものであったことが判明した。少なくとも6億3千万人が感染し(実際の数はもっと多いだろう)、公式の世界死者数は650万人を超え、パンデミックは多くの国々(特に発展途上諸国)の貿易、経済成長、教育成果、雇用に大きな影響を及ぼしている。ワーク・ライフ・パターンは崩壊し、各国政府は自国の経済を救うために緊急対策を講じなければならず、将来の生産性の伸びはほぼ確実に低下し、金融緩和政策とサプライチェインの混乱が相まって、政府や中央銀行が現在その抑制に苦慮している持続的インフレの引き金となった。

(9)ウクライナでの戦争(The war in Ukraine

ロシアのウクライナ侵攻がもたらす影響の全容はまだ分からないが、それは決して些細なことではないだろう。この戦争はウクライナに甚大な損害を与え、武力による領土獲得を禁じた既存の規範を脅かし、ロシア自身の軍事的欠陥を露呈し、ヨーロッパの本格的な再軍備に火をつけ、世界のインフレを悪化させ、核兵器使用の可能性を含むエスカレーションのリスクをここ数十年で見られなかったレヴェルまで高めた。ロシアと欧米諸国の関係は以前から悪化していたが、これが2022年に大規模な戦争につながり、ワシントンやヨーロッパの外交政策課題を支配することになるとはほとんど予想されていなかった。

(10)気候変動(Climate change

これらの出来事の背後には、気候変動という動きの緩慢な衝撃が隠されている。気候変動の影響は、自然災害の悪化、内戦の激化、深刻な被害を受けた地域からの移住の増加として現れている。移住や気温上昇への適応には多大な費用がかかり、温室効果ガス排出削減のための国際協力も進んでいない。つまり、気候変動の規模は、各国政府があまりにも長い間無視してきた衝撃のひとつであり、今後数十年にわたって対処していかなければならないものだ。

この他にも様々な出来事があり、そのうちの1つや2つでもうまく対処するのは容易ではない。このような急激な連続に対処するなど、ほぼ不可能であることははっきりしている。

第一の問題は処理能力(bandwidth)である。あまりにも多くの混乱があまりにも早く発生すると、政治指導者には創造的な解決策を考慮したり、代替案を慎重に検討したりする時間や注意力がなくなってしまう。政治指導者たちは、創造的な解決策を考えたり、代替案を慎重に検討したりする時間や注意力を持てず、ひどい対応をとる可能性が高くなる。また、選択した解決策がどの程度うまく機能しているかを評価する時間も十分になく、誤りを適時に修正することも困難になる。

第二に、資源は有限なので、過去の危機で今必要な資産を使い果たした場合、最新の衝撃に適切に対処することが不可能になる可能性がある。指導者たちが直面する問題が多ければ多いほど、それぞれの問題に注意を払い、必要な資源を提供することは難しくなる。

第三に、連続する衝撃がつながっている場合、ある問題を解決しようとすると、他の問題を悪化させる可能性がある。 例えば、ウクライナ侵攻後、ヨーロッパがロシアから天然ガスを買わなくなったのは良いことだったが、この措置によりエネルギーコストが上昇し(インフレを悪化させ)、天然ガスの代わりに石炭を燃やすと温室効果ガスの排出が増え、気候変動を悪化させることにつながった。ウクライナ支援に注力することは正しいことかもしれないが、中国の台頭がもたらす問題から時間と労力を奪うことになる。中国が軍事力を強化するために西洋の技術を利用することを制限することには、それなりの理由がある。しかし、チップなどの先端技術に輸出規制を課すことは、アメリカの経済成長を損ない、少なくとも短期的には、アメリカ企業の一部に大きな打撃を与えることになる。一度に解決しようとする問題が多ければ多いほど、ある問題への対応で他の問題への取り組みが損なわれる危険性が高くなる。

最後に、指導者たちが極めて幸運であるか、異常に熟練していない限り、複数の衝撃に対処しようとすると、政治システム全体に対する国民の信頼が損なわれる傾向がある。ロシアの攻撃に対するウクライナの人々のように、明確な危機がひとつでも発生すれば、市民は政府のもとに集い、政策の成功によって、担当者は自分たちのしていることを本当に理解しているのだと確信することができるかもしれない。しかし、公務員が誰もが対処できないほどの衝撃に直面し、繰り返し良い結果を出せなかった場合、市民は彼ら(そして彼らが助言を求めている専門家たち)に対する信頼を失うことになる。関連する知識、経験、責任を持つ人々を信頼する代わりに、市民は専門知識を軽視するようになり、権力者共同謀議論(conspiracy theories)やその他の現実逃避(flights from reality)に弱くなる。もちろん、この問題は、責任者が目に見えて不正直で、腐敗し、利己的で、国民から軽蔑されても仕方がないような人物であれば更に悪化してしまう。

この物語にハッピーエンドはない。それで、ただ最後に思うことがある。私たちは、「速く動いて、壊す(move fast and break things)」ことが呪文になっている時代に生きてきた。それは、動きの速いデジタル技術の世界だけに限ったことではない。近年、私たちが経験した衝撃を考えると、今は「ゆっくりとそして堅実に(slow down and fix stuff)」をモットーにした方がいいのだろう。この機会を逃さないようにしたいものだ。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。ツイッターアカウント:@stephenwalt

(貼り付け終わり)

(終わり)

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