古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

2023年04月

 古村治彦です。

 サウジアラビアとイランの国交正常化、その仲介役が中国だった、というニューズは私にとっては衝撃であった。サウジアラビアとイランはお互いが不倶戴天の敵、サウジアラビアはアメリカの同盟国、イランはアメリカの敵国という水と油の関係にあった。それを中国がうまくまとめて、緊張緩和に持っていったということは驚きだった。まず、中東地域においてはこれまで欧米諸国が旧宗主国、利害関係国ということで、大きな役割を果たしてきた。それが、中国が欧米諸国に代わって、「仲介役」の役割を果たすことができるようになったということが愕きだった。

 更に言えば、中東において核兵器を使用しての戦争が可能な国としては、サウジアラビア、イスラエル、イランが存在している。サウジアラビアとイスラエルはアメリカの重要な同盟国同士であり、イランはアメリカの敵国ということを考えると、核兵器を使った戦争が起きるとすれば、「サウジアラビア対イラン」「イスラエル対イラン」という構図になるだろうと考えていた。それが「サウジアラビア対イラン」の構図が消えたということになった。これは中東地域の状況に関して大きなことである。

 サウジアラビアが西側(the West)・アメリカ陣営から離れつつあり、中露が柱となっている西側以外の国々(the Rest)に参加する姿勢を明確にしていることが今回の出来事で分かる。サウジアラビアがアメリカの陣営を離れて、イランとの関係改善を進めるということは、イスラエルが中東地域で孤立するということになる。「サウジアラビア・イスラエル対イラン」という構図が「イスラエル対イラン・サウジアラビア」ということになる。これは中東のパワーバランスにおける重大な変化だ。イスラエルのパレスティナ政策にも大きな影響を与えることになるだろう。

 付け加えて言えば、中国が世界の大舞台において「仲介者」という大きな役割を果たせることを示した。私はこの絵図面を描いたのは、「三代帝師(江沢民・胡錦涛・習近平の三代にわたって軍師を務めている)」と呼ばれる王滬寧であり、更に言えば、そのバックにはヘンリー・キッシンジャーがいると見ている。このような、思い切った、誰もが難しいと思うようなことをやってのける構想力はキッシンジャー独自のものだと私は考える。キッシンジャーは中東において戦争が起きる危険性を大きく減らした。ここが重要だ。そして、中国がロシアとウクライナの停戦交渉の仲介者としての実力を有しているということを示し、ウクライナ戦争をキッシンジャー自身が考える線で停戦させようとしている。

キッシンジャーの母国アメリカにはサウジアラビア・イランの緊張緩和、ウクライナ戦争の停戦をまとめ上げる力はない。そもそもイランとロシアとは敵対関係にあり、このような重要な交渉をすることもできない。キッシンジャーの構想力を実現することはできない。中国はこれらの国々とはどことも関係を悪化させていない。そうなれば、話ができるのは中国だけという単純な話になる。

30年前のパレスティナ和平、オスロ合意のことを思い出す。パレスティナ側の代表であるパレスティナ解放機構(PLO)のヤセル・アラファト議長とイスラエル側のイツハク・ラビン首相を握手させる真ん中には、アメリカのビル・クリントン大統領が立っていて、両首脳の方を抱くようにして、両者を握手させていた。実際にはノルウェーが仲介役を務めていたが、最後のおいしいところはアメリカに持っていかれ、オスロ合意という名前に地名を残すだけのこととなった。アメリカは世界の重要な問題での調停者・仲介者であり、世界の人々もそれを認めていた。しかし、一世代経過して、アメリカにはそのようなことができなくなっている。時代は変化している。

(貼り付けはじめ)

サウジアラビアとイランとの間の緊張緩和はアメリカにとっての目覚ましの衝撃音である(Saudi-Iranian Détente Is a Wake-Up Call for America

-和平計画は大きな合意であり、それを中国が仲介したのは偶発的な出来事ではない。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2023年3月14日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2023/03/14/saudi-iranian-detente-china-united-states/

中国が仲介役を務めたサウジアラビアとイランの緊張緩和(détente、デタント)は、1972年のニクソンによる中国訪問や1977年のアンワル・サダトによるエルサレム訪問、1939年のモロトフ・リベントロップ協定ほど重要なものではない。それでも、もしこの協定が実現すれば、かなりの大きな合意となる。最も重要なことは、バイデン政権とアメリカの外交政策世界に大きな目覚ましの音を鳴らすことになったことだ。なぜなら、この出来事によって、アメリカの中東政策を長い間不自由な状態にしてきた、自らに課したハンディキャップが露呈したからである。また、中国がいかにして自らを世界の平和のための力として売り出そうとしているのか、も明らかになった。アメリカは近年、こうした動きをほぼ放棄してきた。

中国はどのようにしてサウジ・イラン合意を実現したのだろうか? リヤドとテヘランの間の温度差を小さくしようとする努力は以前から行われていたが、中国はその劇的な経済成長によって中東での役割を増大させているため、両者の合意形成に介入することができた。更に重要なことは、中国がイランとサウジアラビアを仲介できるのは、この地域の大半の国と友好的でビジネスライクな関係を築いているからである。中国はあらゆる方面と国交があり、ビジネスも行っている: エジプト、サウジアラビア、イスラエル、湾岸諸国、さらにはシリアのバッシャール・アル・アサドまで関係を深めている。これこそが、大国が影響力を最大限に発揮する方法なのである。他国が協力してくれるなら、自分も協力するという姿勢を明確にし、他国との関係によって、自分には他の選択肢もあるのだと気づかせるのだ。

一方、アメリカは、中東の一部の国とは「特別な関係(special relationships)」を持ち、その他の国(特にイラン)とは全く関係を持たない。その結果、エジプト、イスラエル、サウジアラビアなどの従属国は、アメリカの支援を当然と考え、エジプトの人権問題、サウジアラビアのイエメン戦争、イスラエルのヨルダン川西岸の植民地化という長期にわたる残虐なキャンペーンなど、アメリカの懸念を不当に軽蔑して扱っている。同時に、イスラム共和国(イラン)を孤立させ、打倒しようとする私たちの努力はほとんど無駄であり、イランの認識、行動、外交的軌道を形成する能力は、ワシントンには実質的にゼロである。この政策は、アメリカ・イスラエル公共問題委員会(American Israel Public Affairs Committee)、民主主義防衛財団(Foundation for Defense of Democracies)などの熱心な努力と、資金力のあるアラブ政府のロビー活動の成果であり、現代のアメリカ外交における自殺点(失敗)の最も明確な例と言えるかもしれない。ワシントンがこの地域の平和や正義を推進するために大したことができないことを示すことで、北京に大きな門戸を開いているのである。

サウジとイランの合意は、米中対立の重要な一面を浮き彫りにしている。ワシントンと北京のどちらが、将来の世界秩序を導く最良の存在と見なされるのだろうか?

1945年以降、アメリカが世界的に大きな役割を果たしてきたことから、アメリカ人は、たとえアメリカが行っていることに疑問があったとしても、ほとんどの国がアメリカの指導に従うと考えることに慣れてしまっている。中国はこの方程式を変えたいと考えており、平和と安定をもたらす可能性の高い存在として自らをアピールすることが、その重要な行動となっている。

原則的に、世界のほとんどの政府は平和を望んでおり、部外者が自分たちのビジネスに介入し、何をすべきかを指示することを望んでいない。アメリカは過去30年以上にわたって、外国政府はリベラルな原則(選挙、法の支配、人権、市場経済など)を受け入れ、アメリカが主導する様々な機関に参加すべきであると繰り返し宣言してきた。つまり、アメリカの「世界秩序(world order)」の定義は、本質的に修正主義的(revisionist)なものだった。 つまり、ワシントンが全世界を豊かで平和なリベラルな未来へと徐々に導いていくということだ。民主党と共和党両方から出た、歴代の米大統領は、この目標を達成するために様々な手段を用い、時には軍事力を行使して独裁者たちを倒し、そのプロセスを加速させた。

その結果、膨大な予算を浪費する占領、破綻国家(failed states)、新たなテロ運動、独裁者間の協力関係の強化、人道的災害など、決して良い結果とはならなかった。ロシアの違法なウクライナ侵攻もその一環である。ロシアの侵攻は、ウクライナをNATOに加盟させようとするアメリカの善意に基づいているが、思慮の足りない努力に、少なくとも部分的に反応したものだ。抽象的には望ましい目標であっても、問題はその結果であり、そのほとんどは悲惨なものとなった。

中国は異なるアプローチを採用している。1979年以降、中国は実際の戦争はしておらず、国家主権(national sovereignty)と不干渉(non-interference)を繰り返し宣言している。この立場は、中国の酷い人権慣行に対する批判を逸らすという点で、明らかに利己的であり、主権への美辞麗句は、中国が不当な領土主張を進め、いくつかの場所で国境紛争を起こすことを止めなかった。北京はまた、批判されると不当に厳しく反応し、外交に好戦的なアプローチを採用したため、憤りと抵抗が高まっている。また、中国が現状を変えるために武力を行使しないとは誰も思わないはずである。

それでも、世界中の独裁者たちが、重武装で道徳を説くアメリカのやり方よりも、中国のやり方の方が心地よいことは容易に想像がつく。民主政治体制国家よりも独裁国家の方がまだ数が多く、その差は10年以上にわたって拡大し続けている。もしあなたが、権力を維持することを第一義とする腐敗した独裁者であったなら、世界の秩序に対してどちらのアプローチをとるのがより親和的だと思うだろうか?

更に言えば、世界のほとんどの国は、戦争がビジネスにとって不利であり、自国の利益に悪影響を及ぼすことが多いことを理解している。大国間の競争が手に負えなくなるのを見たくないのだ。アフリカの古い言い伝えを借りれば、「象が戦えば、草は苦しむ」という。従って、今後数十年の間に、多くの国家は、平和、安定、秩序を促進しそうな大国を支持することを好むようになるであろう。同じ論理で、平和を乱すと思われる大国とは距離を置く傾向がある。

このような傾向は以前にも見られた。20年以上前、アメリカがイラクへの侵攻を準備していた時、同盟国であるドイツとフランスは、武力行使を承認する国連安全保障理事会に反対していた。なぜなら、中東での大きな戦争は、いずれ自分たちを苦しめると考えていたからだ(そして、実際にそうなった)。中国が南シナ海に人工島を建設し、武力で台湾を威嚇しようとすると、近隣諸国はそれに気づき、中国から離れ、互いに、そしてワシントンとより密接に協力し始める。もし、他の国々があなたを解決策の一部ではなく、問題の一部と見なせば、あなたの外交的立場は損なわれる可能性が高い。

バイデン政権にとっての教訓は、外交政策の成功を、何回戦争に勝ったか、何人のテロリストを殺したか、何カ国を改宗(convert)させたかで決めるのではなく、緊張を和らげ、戦争を防ぎ、紛争を終わらせることにもっと注意を払うことである。これは明白なことだ。もしアメリカが、中国が信頼できるピースメーカー(peace maker)であるという評判を確立し、他国との関係において共存共栄する大国であることを認めれば、他国を説得することはますます難しくなるであろう。

サウジアラビアとイランの緊張が緩和されたことは、戦略的に重要な地域で深刻な衝突が起こるリスクを軽減する前向きな進展である。従って、この新たな緊張緩和(デタント)は、たとえ北京の功績があったとしても、歓迎されるべきだ。アメリカの適切な対応は、この結果を嘆くことではなく、より平和な世界を作るために同等かそれ以上のことができることを示すことだ。

※スティーヴン・M・ウォルト:ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。ツイッターアカウント@stephenwalt

(貼り付け終わり)

(終わり)

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 第二次世界大戦後の世界の基軸通貨となったのは、米ドルだ。米ドルが価値の基準であり、米ドルで貿易決済のほとんどが行われてきた。世界の多くの発展途上国(貧乏な国)では、自国の通貨の信用がなく、米ドルが流通するというところも多い。「自国の通貨はいつ紙切れになるか分からないほど信用はないが、米ドルは世界の超大国・派遣のアメリカの通貨だから安心だ」ということになる。日本も外貨準備高でドルを貯めこみ、また、米国債を多く買っている。米ドルは安心だ、だからこれらは安心の資産(運用)ということになる。

 アメリカではインフレ懸念から中央銀行である連邦準備制度(Federal Reserve System)が政策金利の利上げを進めている。これで市場に流れているドルを吸収しようということであるが、これは諸刃の剣だ。政策金利の上昇は住宅ローン金利に反映される。住宅ローンの返済額が大きくなれば、家を持ち切れないという人々が出てくる。そうなれば社会不安が発生する。また、住宅バブルが崩壊することで不景気に突入する可能性が高まる。しかし、金利を上げなければ、インフレ状態は続き、住宅バブルは続く。バブルはいつか弾ける。何より、米ドルの価値が下がる。これは米ドルの信用にもかかわってくる重大な問題だ。政策金利を上げても問題が起き、下げても問題が起きる。「前門の虎、後門の狼」という状態だ。アメリカはドルの信用だけは守らねばならない。そうでなければ、アメリカ国民の生活自体を維持することができなくなるからだ。そのために必死である。

 米ドルが基軸通貨の地位から転落した場合、それに代わる存在は何かということになるが、ユーロはドルと道連れであろうし、円は日本の経済力の低下もあってそのような力はない。中国の人民元が有力候補であるが、ここで出てくるのがBRICs共通通貨という候補だ。BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)が最初にこれらの国々の間だけで通用する通貨を作る。それが役割を拡大していき、最終的には基軸通貨となるというシナリオだ。金(きん)を後ろ盾にする通貨ということになれば、米ドルよりも信用が高まる可能性が高い。

 ドル覇権の崩壊が現実味を帯びてきたことを考えると、アメリカとノルウェー、NATOによるノルドストリーム攻撃・爆破はドル覇権を守るための動きだったという解釈もできる。ヨーロッパに安価なエネルギー源である天然ガスを供給してきたロシアはその取引決済をドルで行っていたが、西側諸国による制裁の後はルーブルで決済をするように求めた。エネルギー源を買えなければ生活は成り立たない。ヨーロッパ諸国はルーブルを手に入れるようになり、ルーブルの価値は安定することになった。英米が画策したルーブルの価値下落によるロシア経済の破綻というシナリオは崩れた。

これが進んで(これを敷衍して考えると)、BRICsの共通通貨で支払うことを求めるようになれば、共通通貨の使い勝手を考えると(ブラジル、インド。中国、南アフリカともこれで決済ができる)、ドルに頼らないということになる。ドイツにとっての最大の貿易相手国は中国だ(日本もそうだ)。ロシアとのノルドストリームを通じての天然ガス取引が実質的に続けば、ドル覇権が脅かされることになる。
 こうした動きに敏感なのがサウジアラビアだ。現在のサウジアラビアはサルマン王太子がバイデン政権との不仲を理由に、これまで強固な同盟関係にあったアメリカの意向に逆らうような動きを見せている。「西側以外の国々(the Rest)」の仲間に入る姿勢を鮮明にしている。サウジアラビアは米ドルで石油を売るということをやってきた。アメリカは極端な話をすれば、「(打ち出の小槌のように)米ドルを刷れば石油が手に入る」(アメリカ以外の国々は米ドルを手に入れるために苦労しなければならない)ということであった。しかし、米ドルの信用が落ち、ドル覇権の崩壊の足音が近づく中で、西側以外の国々(the Rest)のリーダー国である中国に近づいている。中国の仲介受け入れて、イランとの緊張緩和を決定したのは象徴的な出来事だった。サウジアラビアとしては、BRICs共通通貨の出現を待っている状況なのだろう。そのためには米ドルが紙くずになる前に、自国の資産を保全するという動きに出るだろう。その一つが金(きん)の保有量を増やすことである。

金(きん)価格が高騰しているというのは日本でも報道されている。「新型コロナウイルスの感染拡大やウクライナ戦争といった不安定要素があるから金が買われているんだろう」ということが理由として挙げられている。しかし、それだけではない。米ドルの基軸通貨からの転落に備えての資産保全のために金が買われている。

 私たちは世界の大きな転換点に生きているということを改めて認識すべきだ。アメリカと米ドルがいつまでも強いという確固とした信念を持っている人はまずその信念について点検して、考え直した方が良い。

(貼り付けはじめ)

ブリックス通貨はドルの支配を揺るがすことになるだろう(A BRICS Currency Could Shake the Dollar’s Dominance

-脱ドル化(De-dollarization)はついに来たのかもしれない

ジョセフ・W・サリヴァン筆

2023年4月24日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2023/04/24/brics-currency-end-dollar-dominance-united-states-russia-china/?tpcc=recirc_trending062921

脱ドル化の話が取り沙汰されている。先月、ニューデリーで、ロシア国家議会のアレクサンドル・ババコフ副議長は、ロシアが現在、新しい通貨の開発を主導していると述べた。この通貨はBRICS諸国による国境を越えた貿易に使用される予定だということだ。BRICS諸国にはブラジル、ロシア、インド、中国、そして南アフリカが含まれる。その数週間後、北京でブラジルのルイス・イナシオ・ルラ・ダ・シルヴァ大統領がこう言った。「毎晩のように、『なぜ全ての国がドルを基軸に貿易を行わなければならないのか(why all countries have to base their trade on the dollar)』と自問自答している」。

ユーロ、円、人民元といった個々の競争相手が存在する中で、ドルが最強の貨幣であるためにドルの支配が安定しているという説を、こうした動きは弱めている。あるエコノミストは、「ヨーロッパは博物館、日本は老人ホーム、中国は刑務所」と表現した。彼は間違ってはいない。しかし、BRICSが発行する通貨は、それとは異なる。BRICSの通貨は、新進気鋭の不満分子の新しい連合体のようなもので、GDPの規模では、覇者であるアメリカだけでなく、G7の合計を上回るようになっている。

ドル依存から脱却しようとする諸外国の政府の動きは、今に始まったことではない。1960年代から、ドル離れ(dethrone the dollar)を望む声が海外から聞こえてくるようになった。しかし、その話はまだ結果には結びついていない。ある指標によれば、国境を越えた貿易の84.3%でドルが使われているのに対し、中国人民元は4.5%に過ぎない。また、クレムリンの常套手段である嘘は、ロシアの発言に懐疑的な根拠を与えている。ババコフの提案に他のBRICS諸国がどの程度賛同しているかなど、現実的な疑問は山ほどあるが、今のところ答えは不明だ。

しかし、少なくとも経済学的な観点からは、BRICS発行の通貨が成功する見込みは新しいと言える。どんなに計画が時期尚早で、どんなに多くの現実的な疑問が残っていても、このような通貨は本当にBRICS加盟国の基軸通貨として米ドルを追い落とすことができるだろう。過去に提案されたデジタル人民元のような競合とは異なり、この仮想通貨は実際にドルの座を奪う、あるいは少なくとも揺るがす可能性を持っている。

この仮想通貨(hypothetical currency)を「ブリック(bric)」と呼ぶことにしよう。

もしBRICSが国際貿易に通貨ブリックのみを使用すれば、ドルの覇権(dollar hegemony)から逃れようとする彼らの努力を妨げている障害を取り除くことができる。こうした努力は、現在、中国とロシアの間の貿易における主要通貨である人民元のような、ドル以外の通貨で貿易を表記するための二国間協定という形で行われることが多い。障害となっているのは何か? ロシアは、中国からの輸入に消極的である。そのため、二国間取引の後、ロシアはドル建て資産に資金を蓄え、貿易にドルを使用している他の国々から残りの輸入品を購入したいと考える傾向がある。

しかし、中国とロシアそれぞれが貿易に通貨ブリックを使うだけなら、ロシアは二国間貿易の収益をドル建てで保管する必要はなくなるだろう。結局、ロシアは輸入品の残りをドルではなくブリックで購入することになる。つまり、脱ドル(de-dollarization)となるのである。

BRICSが貿易にブリックだけを使うというのは現実的な話なのか? その答えはイエスだ。

まず、BRICSは自分たちの輸入代金を全て自分たちで賄うことができる。2022年、BRICSは全体で3870億ドルの貿易黒字(国際収支の黒字としても知られる)を計上した。

BRICSはまた、世界の他の通貨同盟が達成することができなかった、国際貿易における自給自足のレヴェルを達成する態勢を整えている。BRICSの通貨統合は、これまでの通貨統合とは異なり、国境を接する国同士ではないため、既存のどの通貨統合よりも幅広い品目を生産できる可能性が高い。地理的な多様性がもたらすものであり、ユーロ圏のような地理的な集中によって定義される通貨同盟では、2022年には4760億ドルの貿易赤字が発生するという痛ましい事態が起きているが、自給自足の度合いを高めることができるのだ。

しかし、BRICSはその中だけで貿易を行う必要さえないだろう。それは、BRICSの各メンバーはそれぞれの地域で経済的な強者であるため、世界中の国々が通貨ブリックでの取引を希望する可能性が高いからだ。タイが中国と取引するためにブリックを利用せざるを得なくなったとしても、ブラジルの輸入業者はタイの輸出業者からエビを購入することができ、タイのエビをブラジルの食卓に並べ続けることができる。また、ある国で生産された商品を第三国へ輸出し、第三国から再輸出することで、二国間の貿易制限を回避することもできる。これは、関税のような新しい貿易制限を避けようとした結果である。アメリカが中国との二国間貿易をボイコットした場合、その子供たちは中国製の玩具で遊び続け、それがヴェトナムなどの国に輸出され、さらにアメリカに輸出されることになる可能性がある。

BRICS諸国の各政府が「ブリックを絶対に実現する(bric of bust)」ことを貿易条件として採用した場合、BRICS諸国の消費者に降りかかる絶対的に最悪なシナリオを、今日のロシアから予見することができる。アメリカやヨーロッパの政府は、ロシアの経済的孤立を優先してきた。しかし、一部の西側諸国の製品はロシアに流入し続けている。消費者にとってのコストは現実的だが、破滅的なものではない。BRICS諸国が脱ドル志向を強め、現在のロシアをその上限として、脱ドルのリスクとリターンのトレードオフがますます魅力的に見えるようになるであろう。

BRICS諸国の基軸通貨としてドルから変更するために、ブリックは貿易に使わない時に置いておける安全な資産も必要である。ブリックがそのようになるのは現実的なのだろうか? その答えはイエスだ。

まず、BRICSは貿易と国際収支が黒字であるため、ブリックは必ずしも海外からの資金を集める必要はないだろう。BRICSの各国政府は、自国の家計や企業が貯蓄でブリックの資産を購入するよう、飴と鞭を組み合わせて、事実上強制的に市場を出現させ、補助金を与えることができるようになる。

しかし、ブリック建ての資産は、実は海外投資家にとって非常に魅力的な特徴を持つことになる。世界的な投資家たちの資産としての金(きん)の大きな欠点は、分散投資としてのリスク低減効果があるにもかかわらず、金利が付かないことである。BRICSは金(きん)やレアアースのような本質的な価値を持つ金属を新通貨の裏付けとする予定だと言われているので、ブリック建ての利払い資産は、利払いのある金(きん)に似ていることになる。これは珍しい特徴だ。債券の利子と金の多様性の両方を求める投資家にとって、ブリック債は魅力的な資産となり得る。

確かに、ブリック債が単に金(きん)に利子がつくのと同じ効果があるものとして機能するためには、デフォルトのリスクが比較的低いと認識される必要がある。そして、BRICs諸国の政府債務でさえも、明らかになっていないデフォルトリスクがある。しかし、こうしたリスクは軽減することができる。ブリック建ての債務を発行する各国政府は、債務の満期を短くしてリスク性を下げることができる。投資家たちは、南アフリカ政府が「30年後」に返済してくれることを信用するかもしれないが、時間の単位が一年以内である場合、もしくは数年単位である場合はそうではない。また、価格に関しては、単純にそのリスクに対して投資家を補償することもできる。市場参加者がBRICsの資産を買うのに高い利回りを要求すれば、おそらくそれを得ることができるだろう。なぜなら、BRICS諸国政府はブリックの実行可能性に対価を支払うことをいとわないからだ。

公平を期すために、通貨ブリックは現実的に多くの問題を提起している。ブリックは主に国際貿易に利用され、国内での流通はない可能性が高いため、BRICS諸国の中央銀行の仕事は複雑になる。また、ヨーロッパ中央銀行のような超国家的な中央銀行を設立し、ブリックを管理することも必要である。これらは解決すべき課題だが、必ずしも乗り越えられないものではない。

BRICS加盟国間の地政学も茨の道である。しかし、BRICSの通貨は、利害が一致する明確な分野での協力を意味する。インドや中国のような国々は、安全保障上の利害が対立しているかもしれない。しかし、インドと中国は脱ドルという点で利害を共有している。そして、共有する利益については協力し、その他の利益については競争することができる。

通貨ブリックはドルの頭から王冠を奪うというより、その領土を縮小させることになるだろう。BRICSが脱ドルしても、世界の多くは依然としてドルを使用し、世界の通貨秩序は一極集中(unipolar)から多極化(multipolar)することになるだろう。

多くのアメリカ人は、ドルの世界的役割の低下を嘆く傾向にある。嘆く前に考えるべきだ。ドルの世界的な役割は、アメリカにとって常に両刃の剣(double-edged sword)である。ドルの価値を上げると、結果として、アメリカの商品とサーヴィスのコストが上がり、輸出が減少し、アメリカの雇用が奪われてしまう。しかし、アメリカ国内においては、アメリカに切り込む側の武器は研ぎ澄まされ、海外においてアメリカの敵に切り込む武器は鈍化するのであろう

ドルのグローバルな役割が、国内の雇用や輸出競争力を犠牲にしていることを、少なくとも2014年のコメントから理解しているのは、現在ホワイトハウス経済諮問委員会のトップであるジャレッド・バーンスタインだ。しかし、こうしたコストは、アメリカ経済が世界と比較して縮小するにつれて、時間の経過とともに増大する一方だ。一方、ドルの世界的な役割の伝統的な利点の中には、アメリカが金融制裁を利用して自国の安全保障上の利益を増進しようとする能力があることが指摘される。しかし、ワシントンは、21世紀におけるアメリカの安全保障上の利益は、中国やロシアのような国家主体との競争によってますます定義されると考えている。もしそれが正しいなら、そしてロシアに対する制裁の一定しない実績が示すように、制裁はアメリカの安全保障政策においてますます効果のない手段となっていくだろう。

BRICSの基軸通貨がドルに代わってブリックになった場合、その反応は多様で奇妙なものになるだろう。反帝国主義的な気質を持つBRICS諸国の高官、アメリカ連邦上院の共和党の一部、ジョー・バイデン米大統領のトップエコノミストからは、大きな拍手が送られそうだ。ドナルド・トランプ前米大統領と、彼がしばしば対立する米国の国家安全保障コミュニティからも、ブーイングが起こる可能性がある。いずれにせよ、ドルの支配が一夜にして終わることはないだろうが、ブリックが実現すれば、ドルの支配力が徐々に失われていくことになるのだ。

ジョセフ・W・サリヴァン:リンゼイ・グループの上級顧問。トランプ政権下のホワイトハウス経済諮問会議議長特別顧問・スタッフエコノミストを務めた。ツイッターアカウント:@TheMedianJoe
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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 最近の中国をめぐる動きとして重要なのは、フランスのエマニュエル・マクロン大統領の訪中とブラジルのルイス・イグナシオ・ルラ・ダ・シルヴァ大統領の訪中が続けて実施されたことだ。日本のメディアではフランスのマクロン大統領訪中が大きく取り上げられたが、より重要なのはブラジルのルラ大統領の訪中だ。フランスの世界経済に占める割合もそして外交における存在感も衰退し続けている。

マクロン大統領は訪中して中国の習近平国家主席と会談を持ち、何かしらの発言を行ったが、何の影響力もない。フランス国内の年金制度改悪問題でダメージを受けている。ウクライナ戦争に関して、フランスが独自の立場で動いているということはない。NATOの東方拡大(eastward expansion)の一環で、のこのこと間抜け面を晒して、アジア太平洋地域におっとり刀で出てこようとしているが、全てアメリカの「属国」としての動きでしかない。フランスは戦後、シャルル・ドゴール時代には独自路線を展開し、NATO(1948年結成)から脱退(1966年)したほどだったが、2009年のニコラ・サルコジ政権下で復帰している。

 ブラジルはBRICs、G20の一員として、経済、外交の面で存在感を増している。南米、南半球の主要国、リーダー国として、ブラジルは、独自の外交路線を展開している。欧米中心主義の国際体制の中で独自の動きを行おうと模索している。具体的には中国(そしてロシア)との関係強化とアフリカ諸国との連携である。アフリカ諸国との関係強化は南半球のネットワークの強化ということでもあり、かつ、旧宗主国としての西側諸国から自立した地域を目指すということだ。

このような動きが既に始まっている。それを象徴する言葉が「グローバル・サウス」である。また、学問においては、欧米中心の「世界史(world history)」に対抗する「グローバル・ヒストリー(global history)」が勃興している。欧米中心の政治学や経済学、社会学ではこの大きな転換(欧米近代体制500年からの転換)を分析し、理解することはどんどん難しくなっている。

 ウクライナ戦争は世界が既に第三次世界大戦状態に入っていることを示している。第二次世界大戦の際には、世界は連合諸国(Allied Powers、後にUnited Nations)と枢軸国(the Axis)に分かれた。この第三次世界大戦では、世界は大きく、西側諸国(the West)とそれ以外の国々(the Rest)に分かれている。グローバル・サウスはそれ以外の国々の側だ。この戦いでは、それ以外の国々が優勢となっている。これは日本のテレビや新聞といった主流メディアを見ていても分からないことだ。

(貼り付けはじめ)

ルラ大統領の北京訪問は何故マクロン大統領の訪問よりも重要なのか(Why Lula’s Visit to Beijing Matters More Than Macron’s

-世界の経済の大きな動き、ダイナミズムはグローバル・サウス(global south)に移りつつある。

ハワード・W・フレンチ筆

2023年4月24日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2023/04/24/lula-brazil-china-xi-jinping-meeting-ukraine-france-macron-vassal/

今月初め、フランスのエマニュエル・マクロン大統領が中国を訪問し、中国の習近平国家主席の世界観に同調し、アメリカに対して故意に控えめな姿勢をとり、台湾をめぐる大国の衝突の可能性について、フランスひいては欧州にとって限られた関心事であると発言した。マクロンに対して、ヨーロッパ大陸とアメリカにおいて、批判の声が一斉に上がった。また軽蔑するという声も上がった。

その数日後、ブラジルのルイス・イグナシオ・ルラ・ダ・シルヴァ大統領が北京を訪れ、マクロンと同様に中国の長年の立場を支持し、ブラジリアがワシントンから政治的に距離を置くことを公にするような発言をした。世界のマスコミは注目したが、それほど大きく取り上げなかった。

それぞれの訪問を個別に考えると、どちらの大統領の中国訪問も、過去との劇的な決別を示すものとは見なされることはないだろう。しかし、5年後、もしくは10年後に、どちらが記憶に残るかということになれば、それは南米の指導者の外交であり、はるかに若いフランスの指導者の外交ではないだろう。

今月、マクロン大統領の訪中がより注目を集めたのは、世界がどのように変化しているかという新鮮で冷静な考えよりも、国際メディアの根強い北大西洋バイアスを反映している。一見したところ、それぞれの国の外交には、他国よりも注目されるだけの根拠がある。GDPが約3兆ドルのフランスは、EUの中ではドイツに次ぐ第2位の経済大国であり、ブラジルGDPの約2倍である。

一方、ブラジルの人口は2億1400万人で、フランスの3倍以上、それだけで南米の人口の3分の1を占めている。人口が全てということはないが、将来を左右する可能性があるという点で、ブラジルに有利な議論はここから始まる。しかし、その前に、マクロンとフランスが、世界の中での重みを増し、アメリカとの距離を縮めようとする、一見、恒常的な試みに対して、懐疑的な理由を更に探る価値があると言えるだろう。

「永続的な(perennial)」という言葉の使用が示すように、世界の主要国に対するマクロンの外交には、本当に独創的なものはほとんど存在しない。歴史家の故トニー・ジャットが書いたように、フランスは1940年春、マース川を越えて押し寄せるドイツの戦車師団の前に軍隊が崩壊し、世界の主要国のクラブから追い出され、それ以来、その地位を回復することはなかった。しかし、そのために、この地位を失ったことに対するノスタルジーと悔しさに基づく外交政策が採用されてきたということもない。

第二次世界大戦がフランスに与えた精神的ショックは計り知れないものだ。伝統的に東ヨーロッパ地域に大きな影響力を持っていたフランスはその力を失った。フランス語は、もはや外交における固定の共通言語ではなくなった。戦勝国である連合諸国に対して、ドイツを解体するほどの懲罰を与えるよう説得することはできなかった。そして、経済的な生存と防衛から、国連安全保障理事会(the United Nations Security Council)という世界外交のトップテーブルへの座を含む、多くの事柄において、フランスが反射的に不信感を抱く「人種(race)」、すなわちアメリカとイギリスのアングロサクソン(the Anglo Saxons of the United States and Britain)の支持と寛容に依存してきた。

左右問わず、フランスの指導者たちはかつての高貴な地位を取り戻そうとして、世界に対して2つの時代遅れのアプローチに固執してきた。第一は、帝国の名残をできるだけ長くとどめることだった。その結果、パリはアルジェリアやインドシナで相次いで植民地支配が生み出す苦難に見舞われ、西洋諸国が帝国を支配することはもはや許されないという新しい時代の到来を受け入れる結果となった。それ以来、アフリカにおいて、フランスは、数年ごとに、軍事的関与と深い経済浸透による支配と干渉の古いパターンは過去のものであると宣言しているにもかかわらず、一連の新植民地関係を放棄することに苦労している。中国を訪問したマクロンは、フランスはアメリカの「属国」にはならないと強く宣言した。結果として、マクロンにとっては何とも厳しい皮肉が出現することになった。

もう一つのフランスの伝統的な戦術は、かつて「旧大陸(Old Continent)」を支配した現実政治(realpolitik)への関与である。これは、その時々の支配的な国に対して、完全に対抗しないまでも、常に緊張関係を保ちながらバランスをとること(balancing in tension with, if not completely against, the dominant power of the day)を意味する。この点で、フランスのアプローチが最も特徴的なのは、戦後、フランスがこのゲームを行った主役は、名目上の同盟国であるアメリカであるということだ。シャルル・ドゴールからフランソワ・ミッテラン、そして現在のマクロンに至るまで、そしてその間にフランスを率いたほとんどの人物を含めて、パリはまるで固定観念に従うかのように、ワシントンの最大のライヴァルと個別の理解や和解を得ようとしてきた。時が経つにつれ、これらにはソヴィエト連邦、毛沢東主席が率いた中国、そして今では経済とますます軍事的超大国である習主席の非常に異なる中国が含まれるようになった。

フランスが自国の問題に関して自律性と独立(autonomy and independence)を望むことを非難するのは間違いだ。しかし、パリはこれまで、その姿勢を持続的に評価させるのに必要な手段をほとんど持たず、ほとんど無能な妨害者として、時には単なる驕りや皮肉屋としてしか映らなかった。

中国に媚びることで、マクロンはエアバスのジェット機の大量発注に関する北京の承認を得るなど、予想通り多くの商業取引を実現したが、他に本当に達成したことはあるのだろうか? ロシアのウクライナ侵攻がヨーロッパの平和と安全への願望に対してどのように脅威を与えているのかを考えるよう習近平主席に求めたマクロン大統領は、北京が台湾への領有権を行使するために武器を使用する可能性に対する緊張が強く高まっている時に、台湾をバスに乗せようとしているように思われた。ヨーロッパでは、台湾をめぐる戦争のリスクが高まることへの懸念だけでなく、民主政体世界に対するシステム的な脅威としての中国への懸念も高まっている。恥ずかしいことに、先週、中国の駐仏大使が、かつてソ連に併合されていたEU加盟国であるバルト三国の主権を疑うような発言をしたのは、マクロンの訪中から1カ月も経っていない中で行われた。

更に言えば、アメリカからのヨーロッパの安全保障の独立を求めるマクロン大統領の新たな主張についてどう考えるべきだろうか? これも立派な考えではある。しかし、ワシントンがキエフに軍事的、外交的支援を提供する際に果たした指導的役割がなければ、ウクライナがロシアのウラジミール・プーティン大統領の侵略をなんとか持ちこたえられたことに疑いの余地はない。

ヨーロッパが自分たちの地域を守れるようになることは望ましいことかもしれない。だが、そのために必要な投資をする現実的な見込みは、当分の間、ほとんどないだろう。西ヨーロッパは、より高度な兵器はともかく、ウクライナが必要とする通常の砲弾を維持することさえできない。マクロンは、防衛と自決(defense and self-determination)に関するヨーロッパの良心(conscience of Europe)として真剣に受け止めるべきなのか、それとも彼の発言は、フランス人の貧しさと失われた関連性への郷愁の最新の表現に過ぎないのか、疑問が出てくる。

こうした背景の中で、ブラジルの最近の外交はもっと注目されるべきものである。確かに、南米のブラジルは、アメリカの外交政策から独立した実質的な行動できる余地を確保しようとする姿勢も以前から持っていた。国際基軸通貨(international reserve currency)としてのドルの存続を批判し、アルゼンチンとの通貨統合を模索し、さらにはウクライナ戦争をめぐって欧米諸国を批判するルラの取り組みは、単に象徴的な進歩主義者(iconoclastic progressive)の気まぐれと見るのではなく、最も重要な国家の1つから台頭しつつあるグローバル・サウスの1国として、その欲求を反映したものとして捉える必要がある。

何よりも、ブラジルの重要性が存在するのがこのグローバル・サウスという舞台だ。散らばっているように見えることもあるが、グローバル サウスは、世界の経済ダイナミズムの大部分が変化している場所だ。これは、世界の豊かな国のほとんど、および中国の悲惨な人口統計と、インド、インドネシア、ブラジル、メキシコなどの国々が世界のGDPランキングで力強く上昇するように設定されている世界経済生産のパターンの変化の中にみられる。そして、アメリカとイギリスを含む伝統的な西側の先進諸国は、現在から2050年の間に緩やかに衰退していくことになる。

ルラの発言は、欧米諸国にとって懸念を掻き立てるもの、更には脅威となると考えるのは間違いだ。マクロン大統領の言葉を借りれば、ブラジルは中国の属国になろうとは思っていない。ブラジルの可能性の多くは、自国の道を切り開くことにある。ドゴールはかつて、ブラジルを評して「未来の国(country of future)だ、これからもそうだ」と言ったという。しかし、多様な経済と豊富なソフトパワーを持つ多民族国家でありながら、対外侵略(extraterritorial conquest)の歴史もなく、他国を支配する野心もないブラジルに関しては、ようやくその時代が到来したということかもしれない。

アルゼンチンとの経済関係の強化が示すように、ブラジルは近隣諸国から恐れられてはいない。しかし、南半球のリーダーとしてのブラジルの将来の鍵を握っているのは、アフリカかもしれない。アフリカ大陸は、世界で最も人口が増加している地域であり、近年は堅調な経済成長を遂げているが、急増する若者たちが必要とする雇用の創出やインフラ整備を支援する新しいパートナーシップを切望している。中国は、これまでアフリカとの貿易や投資を独占してきた欧米諸国を抜き、アフリカにおける欧米諸国の代替的存在として急成長している。

ブラジルは、ルラ大統領の就任後、南大西洋の経済・外交パートナーシップを強化するための投資を開始したことは、別の記事で紹介した通りだ。ブラジルとアフリカは、大西洋横断奴隷貿易の悲劇的な歴史によって深く結ばれている。新しい強力な南北関係を率先して構築することで、ブラジルとアフリカは共に、より良い未来への扉を開くことができるだろう。

※ハワード・W・フレンチ:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。コロンビア大学ジャーナリズム専門大学院教授。長年にわたり海外特派員を務めた。最新作には『黒人として生まれて:アフリカ、アフリカの人々、そして近代世界の形成、1471年から第二次世界大戦まで(Born in Blackness: Africa, Africans and the Making of the Modern World, 1471 to the Second World War.)』がある。ツイッターアカウント:@hofrench
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 古村治彦です。

 ウクライナ戦争は膠着状態に陥っている。東部はロシアが既に抑え、バフムトをめぐり激戦が展開されていると報道されている。春季大攻勢(spring offensive)に向けて、ウクライナは軍の態勢を立て直しているとも報じられている。主流メディアの報道では、ウクライナ軍が優勢のはずであるが、実際には苦戦している。主流メディアのウクライナ戦争の戦況報道で利用されているのが、アメリカの戦争研究所(Institute for the Study of War)というシンクタンクの出すデータである。

この戦争研究所は食わせ物のシンクタンクだ。ネオコン一族であるケーガン家の次男で文尾塚・評論家のフレデリックの妻キンバリー・ケーガンが所長をしている。長男は文筆家・評論家のロバート・ケーガン、ロバートの妻が悪名高いヴィクトリア・ヌーランド米国務次官だ。「ネオコンのこうあって欲しい」が先に来るシンクタンクのデータであるということを踏まえて見ておかないと、「メディアの報道ではウクライナ側がかなりロシア側を押し返してないとおかしいよな」ということになる。日本の戦時中の大本営発表と同じだ。

 アメリカでは、最高機密を含むウクライナ戦争に関する米国防総省の機密文書が流出したことが話題を呼んでいる。それによれば、ウクライナ側が苦戦しており、戦争はしばらく続くだろうが、ウクライナ側がロシアを押し返すことは難しいという分析が出ているということだ。簡単に言えば、ウクライナは戦争目的となった(ゼレンスキー大統領が主張している)、「クリミア半島を含む独立時の領土全ての奪還」は不可能であるということである。不可能であることにアメリカは多大なお金を注ぎ込まねばならないことになる。それで軍産複合体が儲かれば良いということになるが、その原資はアメリカ国民の税金であり、アメリカ国民を含む世界中の人々が購入するアメリカ国債だ。

 アメリカとしてはウクライナ戦争を停戦させたい。昨年にヘンリー・キッシンジャー元米国務長官が提示したウクライナ東部をロシア側が実効支配し、ウクライナのNATO加盟は認めないという内容での停戦しかない。しかし、それではヴォロディミール・ゼレンスキー大統領は失脚し、現在のウクライナ政府は持たないということになる。ゼレンスキー大統領を支え、焚きつけているのはイギリスである。イギリスはロシアを消耗させ、ヨーロッパ大陸諸国家のエネルギー源を自国の北海油田産の石油にさせて生殺与奪の権を握ろうとしている。イギリスはウクライナ戦争の停戦には反対するだろう。後ろ盾のイギリスの意向もあり、ゼレンスキーは停戦に応じることはできないということになれば、直近での停戦はできない。しかし、ウクライナ側も限界に近付いている中で、今年中に停戦を求める声も出てくるだろう。その時にゼレンスキーが邪魔であれば処分されることになる。属国の指導者の運命は悲しい。

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アメリカの情報漏洩でウクライナ戦争努力に大打撃が与えられている(US intelligence leak deals severe blow to Ukraine war effort

ブラッド・ドレス、エレン・ミッチェル筆

2023年4月10日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/policy/defense/3943086-us-intelligence-leak-deals-severe-blow-to-ukraine-war-effort/

ここ10年で最大のアメリカ軍機密漏洩は、ウクライナの戦争努力に深刻な打撃を与え、今年の春予想される反転攻勢を前に、ウクライナ軍にとって情報面での脅威となる。

ソーシャルメディアに流出した機密文書は、戦闘の重要な局面における軍需品、訓練、防空システムに関する詳細な情報を提示している。米国防総省は現在も文書の有効性を検証している最中だ。

アメリカとNATOの機密文書数十件(一部は「最高機密(Top Secret)」と表示されている)は、1月にインターネットの目立たない場所で流出し始め、その後はツイッターやテレグラムに流出し、先週注目を集め始めた。

これらの文書は、今年3月までの紛争状況を示しているに過ぎないが、大隊の規模、先進兵器の訓練、レオパルドII戦車などの重戦闘車両の配備など、ウクライナの軍事能力に関する情報を明らかにしている。

また、漏洩された機密情報はキエフの欠点を示している。少なくとも1つの資料には、ソ連時代の対空ミサイルシステム用の弾薬がまもなく底をつき、ウクライナの防空システムの潜在的脆弱性を露呈する可能性があると記されている。

ヨーロッパ政策分析センターの著名な研究員であるカート・ヴォルカーは、ウクライナ戦争に関するアメリカの評価と判断の「スナップショット」を世界に示すものであり、今回の流出は悪影響が懸念されると指摘している。

ヴォルカーは、「ウクライナ人、ロシア人、その他の人々に対して、『われわれの考えはこうだ』というシグナルを送ることになる」とし、「われわれの情報の質、どこから得ているのか、いくつかの手がかりを与えるかもしれない。そうなれば、私たちが情報を集めさせている人たちに、それを停止させるだろう」と述べた。

おそらく最も憂慮すべきリークは、ウクライナの防空に関する情報についてだろう。

2月の日付のついたある文書によると、S300のミサイルは5月までに、SA-11ガドフライミサイルシステムは3月末までに枯渇する。NATOによれば、両システムはウクライナの防空機能の89%を占めており、頻繁に行われるロシアのミサイル攻撃をかわすのに極めて重要である。

ロシアの軍事ブロガーたちは既に、ウクライナが配備している防空システムや戦闘機などの航空機の数を推定した文書など、流出した文書を幅広く拡散している。

NATOの評価では、ウクライナはロシアのミサイル攻撃に対しては後数波しか耐えられないとし、同時に防空システムの設置場所を示す地図も提供している。

大西洋評議会ユーラシアセンターのシニアディレクターで、元駐ウクライナ米大使のジョン・ハーブストは、ウクライナの防空に関する情報を、流出した文書の中で「最も不幸な」部分と言及した。

しかし、ハーブストは、どの文書にも、NATOの同盟国やロシアの諜報機関が既に知っている以外の重要な情報は含まれていないと述べた。

ハーブストは、「情報漏洩された結果、ウクライナの戦争努力に何らかの損害が生じたことは間違いないと思う。しかし、その損害は圧倒的なものかと言えば、おそらくそうではないだろう」と述べた。

他の複数の文書では、ウクライナの旅団の強さや能力、ウクライナがどの兵器システムで訓練を受けたかなどが説明されている。2月の日付のついたある文書では、ウクライナが保有する戦車、歩兵戦闘車、砲兵部隊の数を推定されている。

ロシア国営のタス通信は情報漏洩文書の詳細を報道したが、ロシアはこのリークについて不自然なまでに沈黙を保っている。

ロシアの軍事ブロガーたちは文書について懐疑的なようで、あるアカウント「ウォークロニクル」は、資料の誤字脱字や間違いの存在を指摘し、文書の信ぴょう性に疑義を呈している。

テレグラムで100万人以上のフォロワーを持つブロガー、ライバーは、ウクライナ側が準備不足のように見せかけ、最終的にロシアのミスを促すための「コントロールされたリークと大規模な偽情報キャンペーン」であると主張している。

米国防総省がロシア軍とその能力に関する重要な情報をどのように収集しているかをロシアが把握する可能性があるため、今回のリークはアメリカにとっても懸念となる。

情報漏洩文書には、ウクライナ軍だけでなく、戦車から大砲、航空機に至るまで、ロシア軍に関する詳細な評価も含まれている。

ブルッキングス研究所の上級研究員であるマイケル・オハンロンは、今回の情報漏洩について、「ロシアが通信セキュリティを強化し、彼らの次の動きに関する私たちの知識が減少する可能性がある」と電子メールで述べている。

現在、どれだけの文書がインターネット上に出回っているかは不明だが、複数の報告書やアナリストによると、少なくとも100の別々の文書がネット上に出現しているという。

米国防総省は月曜日、流出の規模や範囲についてコメントを避け、国防総省がまだ調査中であることを明らかにした。

広報担当のクリス・ミーガー国防長官補佐は「米国防総省は24時間体制で、流出の範囲と規模、評価された影響、緩和策を検討している」と記者団に語った。

「私たちは、問題の範囲だけでなく、どのようにこれが起こったかをまだ調査している。この種の情報がどのように、誰に配布されるかを詳しく調べるための措置がとられている。また、何が流出しているのかについてはまだ調査中である」と付け加えた。

ミーガーはまた、文書の形式が、「ウクライナやロシア関連の作戦に関する日々の最新情報や、その他の情報更新を上級指導者に提供するために使用されているものと同様の形式で、国家安全保障に非常に深刻なリスクをもたらしている」と明かした。

調査団体「べリングキャット」は、ユーザーが主にゲームなどの話題について議論するウェブサイト「ディスコード」のチャンネルを通じて、3月上旬に文書が流出したことを突き止めた。

最も早く確認されたリークでは、人気ビデオゲーム「マインクラフト」に関連するディスコードのチャンネルに10件の文書が投稿されたのが最も早く確認されたリークである。べリングキャットは、別のディスコードのサーバーで1月の時点でリークがあった可能性があると発表している。

米国防総省は先週、文書流出について調査し、それに関する正式な刑事調査を司法省に任せる決定を行ったと発表した。米政府関係者は月曜日、調査は「最優先事項」であるとし、文書の一部が改ざんされていることを指摘し、文書を調べる際には注意を促した。

米国防総省は、何枚が改ざんされているかは明らかにしていない。しかし、先週注目された文書では、戦死したウクライナ人の数が膨らみ、ロシアの犠牲者の数が大幅に少なく表示されていた。

ウクライナ大統領府長官顧問のミハイロ・ポドリアックは、情報漏洩について、西側同盟諸国間の「注意をそらし」「不和を招く」試みと形容した。

月曜日、米国防総省は、更に多くの文書がネット上に現れる可能性があるのか、米国防総省の何人の職員がこれらの文書にアクセスできたのかについては質問を受けても説明しなかった。複数の政府関係者によると、今回の情報流出により、米国防総省は一部の機密情報が誰にどのように共有されているかを見直すための措置を講じることになったということだ。
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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 以下になかなか興味深い記事をご紹介する。目的が達成された、もしくはこれ以上進めないということになれば、多くの場合、人は呆然として、次は何をすればよいのか分からなくなる。国家も同じことである。以下の記事では、「中国が、日本、そしてアレキサンダー大王のように、ピークに達する、これ以上は進めないという状況になった時にどうすべきか」ということが論じられている。

 日本は太平洋戦争の無残な敗戦により、都市部を中心に焦土と化した。朝鮮戦争を契機に製造業が復活し、高度経済成長木へと進んでいく。1968年には当時の西ドイツを抜いてGNP(国民総生産、現在はGDPが指標として使用される)で世界第2位となった。しかし、アメリカを追い抜くということはできなかった。アメリカはそれだけ強大な存在だった。

 日本は年率10パーセント以上の高度経済成長を続けながら同時に自民党の地方への分配政策もあり、経済格差は大きく広がらなかった。高度経済成長には格差の拡大がつきものであり、日本でももちろん格差はあったが、他国のような大きな格差はなかった。日本政治研究では「補償型政治(compensation politics)」と呼ばれている。
 日本のバブル経済崩壊後、戦後の体制は時代遅れとされ、新自由主義的な政策が進められた。その当然の帰結として格差は拡大し、国内消費も落ち込み、GDPでは中国に抜かれ、やがてインドにも抜かれ、ドイツにも抜かれる可能性が高まっている。
 高度経済成長の時期はイケイケどんどんで進むことができる。それはどの国も同じだ。日本の場合には、保守本流(田中派と大平派)を中心として、土建屋政治と揶揄されながらも、分配にも配慮した政治が行われていた。経済成長がない現在において、分配に対する配慮がなくなれば、日本社会はジャングルの中の弱肉強食の原理しか残らなくなり、社会は保てなくなる。
 中国は日本政治と経済を詳細に研究している。日本政治の「補償型政治」の面も当然に研究している。中国は格差社会を分配政治も取り入れて、行き過ぎた格差を是正し、中間階級を多く生み出す方向にかじを切っている。

 日本はアジアの中で様々な事象を最初に経験する国である。渡り鳥の集団で言えば、戦闘を飛ぶ鳥だ。我が国日本は先進国となり、高度経済成長が望めない中で、どのように経済成長し、格差を拡大させないかという課題に取り組まねばならない。これは非常に難しい課題だ。格差拡大なき経済成長(economic growth without expansion of inequality)に成功した時、日本は世界から驚嘆の目を向けられ、尊敬されるだろう。

しかし、現状は自公連立政権や補完勢力である維新や国民民主にその処方箋はない。何があるかと言えば、国内の惨状に目を向けさせないための、「外側に敵を作る」「軍事的な脅威を高らかにアピールする」という古典的な方法しかない。アメリカがそれをせよと望む以上、従わざるを得ないのであるが、日本は米中のはざまにいるという条件を利用して、アメリカの属国から抜け出すことを考えねばならなおい。

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中国が日本、そしてアレキサンダー大王から学べる事(What China Can Learn From Japan—and Alexander the Great

-中国は長年の目的意識を再検討する時に来ている。

ハワード・W・フレンチ筆

2023年1月26日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2023/01/26/china-population-decline-birth-rate-economic-growth-gdp-competition/

中国政府は今月、中国の総人口が1950年代後半以降初めて減少したと発表した。毛沢東が大躍進運動(Great Leap Forward)と呼ばれる工業化を加速させるために行った悲惨な作戦で数百万人が餓死した時代から人口は増えていったが、今回の事実は、地政学上の主要ライヴァルであり西洋に代わる極となるであろう中国にとって悲惨な影響を与えるという報道熱を巻き起こした。

一時期、『ニューヨーク・タイムズ』紙だけで、トップページに4本もの大躍進を告げる記事が掲載され、ある意見コラムの小見出しには、中国の「否定できない」逆転劇がこう書かれていた。「中国の台頭は忘れろ。危険なのは中国の衰退である」。

他の報道では、インドがまもなく中国を抜いて世界一の人口国家になること、中国の人口が減少すると経済規模でアメリカを超えることが難しくなり、目標を達成できない可能性があることなどが、この衰退を裏付けるシグナルとその結果を予測する内容として挙げられている。欧米諸国の出版物ではほとんど取り上げられず、自己中心的な偏狭さを露呈しているのが、国連がサハラ以南のアフリカの人口は2030年代初頭までに中国(その後すぐにインド)を追い抜くと予測していることである。

大げさな、場合によっては勝利至上主義的な見出しはともかく、こうした動きや予測は、世界の人口動向をよく見ている専門家たちにとっては、昔からよく知られたものであった。しかし、それ以外の人々にとっては、世界人口の順位とそれが日常生活に及ぼす影響について、多くの人々が慣れ親しんだ長年の感覚に与えた衝撃を乗り越えるのは、それほど早すぎることではないだろう。

中国の発表に照らして現在の状況を理解する最良の方法の1つは、一見果てしなく続く一連の征服の後、最終的にガンジス川に到達したときに泣いたと言われているアレキサンダー大王についての非常に高い有名な物語を知ることだ。既知の世界を全て征服したと思われるアレキサンダー大王は、完全に目標を達成したということなのである。

中国は、世界で最も豊かな国、つまり暗黙のうちに最も強力な国になるという、明らかには言わないが、明確な目標に到達していない。しかし、今こそ北京は、アレキサンダー大王と同様、長年の目的意識を見直し、次に何を追求すべきか、これまで以上に創造的に考えるべき時である。そうすれば、多くの人が突然悪い知らせと認めたものから、幸運を呼び起こすことができるだろう。

歴史は時に韻を踏むと言われているが、中国の現状を最もよく表している韻は、私が1990年代後半から数年間、ニューヨーク・タイムズで日本を担当することになる直前まで遡る。日本について調べていくうちに、長年にわたり、政治的・経済的なイヴェントといえば、現職の首相が新年に日本の最新のGDP成長率の数字を発表して祝うことだと知り、驚かされたことがあった。1950年代後半から1960年代にかけて、成長のための成長が一種の国民的熱病となり、当時の日本の目標は、近年の中国のように、国富(national wealth)でアメリカを超えることであった。

日本の一人当たりの富は1970年代後半に一時的にアメリカに接近し、その後数年間はアメリカを上回ったが、1990年代前半に相対的にピークに達した後、1990年代後半にはアメリカと比較して急落し、再びリードを取り戻すどころか、同程度に近づくことさえなかった。日本は国土が狭く、特に人口が少ないので、GDPの合計でアメリカを上回ることはなかったと思われる。

1980年代に中国が目覚しい経済成長を開始して以来、専門家以外の多くの人々は、中国が一人当たりのGDPで日本と同様にアメリカの富を超える可能性がないことを知らなかったようである。それは、中国が20世紀を通じて一人当たりGDPの平均値でアメリカよりはるかに貧しかったという事実だけでなく、中国の人口動態のピーク時には世界のアメリカの4倍以上という膨大な人口規模があったからである。これだけの人口をアメリカ人と同等の平均的な豊かさにするには、中国経済をアメリカの数倍の規模にする必要がある。

日本は、アメリカとの競争をピークに衰退し、アレキサンダー大王の涙のような危機的状況に陥った。日本は長い間、世界の中で卓越した存在になること以外に、成長の目的を自らに問いかけることはほとんどなかった。長い間、西洋が支配する世界の中で、国のアイデンティティと文化を証明することは、それだけで十分な報酬になると思われていた。

それは、GDPのような粗雑なステータスや幸福の尺度への固執をやめ、他の、間違いなくもっと健康的な追求を徐々に広めていくことを中心としたものであった。その中には、環境保護、健康と長寿、文化の保護、持続可能な経済プロセス、余暇を通じた充足感の重視、そして、まだ非常に遅れており、せいぜい進行中ではあるが、女性の地位向上と職場文化の改革という密接に関連した課題が含まれている。

中国は人口動態の現実から、近い将来、同様の国家目標と前提の抜本的な見直しを始める必要がある。しかし、アメリカや西ヨーロッパ諸国では、中国が今世紀中に急速に人口を減少させることによって、中国との競争を回避できると考えているようだが、それは誤りだ。アメリカの経済規模に匹敵する経済規模を持つ国は、極めて強力な競争相手となり得る。ロシアはよくイタリアと比較されるが、経済規模はカリフォルニア、テキサス、あるいはニューヨークの各州よりも小さい。

しかし、それと同様に、中国が近年取り組んでいるような、兵器やハードパワーへの支出を大きく増やし続けるような、昔ながらの真っ向勝負の大国間競争は、国民の大部分を先進国の生活水準から大きく引き離すことになるという事実を早く理解したほうが、国民にとって良いことだろう。もちろん、アメリカを含む世界の他の国々にとってもそうだ。アメリカは、全体的に豊かであるにもかかわらず、多くの人々が貧困に苦しんでいる。

中国も、早く日本のような方向に舵を切るべきである。世界一の経済大国という過去数十年の目標に代わる新たな国家目標を打ち出すことができなければ、中国は党と国家の存立のために、より平和的でない別の方向に目を向けることになる。

しかし、新しい国家的使命はどのようなものであり、それを達成するにはどうすればよいか? 最近の新型コロナウイルス・ゼロ政策の突然の転換にもかかわらず、そのような移行が中国の習近平国家主席からもたらされると期待する理由はほとんど存在しない。そのため、長い間その力を発揮することを期待されてきた中国の中産階級が、地平線上の唯一の変化の担い手となっている。

中国政府の新型コロナウイルス大量検査体制、広範な監禁、移動制限に対する最近の民衆の抗議は、何千人もの中産階級の都市生活者が街に降り立ったことで、他の多くの面で中産階級からの反発を想像することがこれまで以上に可能になった。中国共産党が国家への義務を果たすために子供を産むように要求しても、女性はますます公然とそれを拒否するようになるかもしれない。

また、中産階級の怨嗟の声も想像できる。彼らの富の大半が蓄えられている不動産市場の危機に直面し、彼らの貯蓄と所得を国家が管理することを諦めざるを得なくなっている。また、間接的にではあるが、民間企業も国家の支配や干渉を減らすよう働きかけることが想像できる。すでに一部の企業家は、アイデアと資本を携えて中国からの脱出を選択し、そうしている。

習近平はまだ気づいていないかもしれないが、彼が率いる中国共産党と国家は、これらの勢力やその他のより強力な勢力との競争にさらされており、中国はその前提を変え、おそらく経済モデルを作り直すことさえ要求されることになるだろう。これらのことは全て「平和的発展(peaceful evolution)」という言葉の下に置くことができる。この言葉は、北京が自らの正しい歴史的目標から逸脱させようとする西洋の巧妙な陰謀の要素であると考える(あるいは信じるふりをする)ものを表現するために、中国共産党が長年にわたって暗に使ってきたものだ。実際、中国が今後も豊かになっていくためには、内部から変革の要請が起こり続けるだろう。

日本のGDPがとりわけ頭を悩ませていた時代の後半に、日本政府は、これまで以上に大量のセメントを投入するなど、ほとんど人為的な方法で経済成長を維持しようとした。生産性を改善したり、将来の成長を保証したりすることには何の役にも立たない財政刺激策を行い、産業を腐敗させながら国家に依存するようになる、補助金を受け入れる産業のポケットを並べることになった。日本は最終的に、その海岸の大部分が浸食を防ぐと言われる巨大なコンクリートのテトラポッドで覆われる地点に達した。この国は既に複数の最先端の鉄道網と大都市間の高速道路、そして田園地帯を蛇行する世界クラスの道路とどこにも通じない壮観ないわゆる橋を建設していたので、他にほとんど何もないように見えた。

最近の中国の経済活動は、あまりにもこのようなものが多い。それは、GDPの成長が抽象的な固定観念(abstract fixation)であり、党と国家の正統性(legitimation)の源泉であるため、成長の落ち込みが迫ると、新しい高速道路や高速鉄道、空港、橋などの無頓着な刺激策で対応する必要があるからである。習近平が理解できるかどうかは別として、今迫っている革命的なアイデアは、インフラに代わって人への支出を始めることである。

※ハワード・W・フレンチ:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト、コロンビア大学ジャーナリズム大学院教授。長年にわたり海外特派員を務めた経験を持つ。最新刊に『黒人性に生まれて:アフリカ、アフリカの人々、そして近代世界の形成、1417年から第二次世界大戦まで(Born in Blackness: Africa, Africans and the Making of the Modern World, 1471 to the Second World War)』がある。ツイッターアカウント:@hofrench

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