古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

2023年08月

 古村治彦です。

 ブラジル、ロシア、インド、中国、南アメリカから構成されるブリックス(BRICS)という国際グループは、2001年にその概念が提出されたものだ。その後、21世紀を通じて、具体的な国際グループとして存在感を増してきた。先日、ブリックスの首脳会談が南アフリカで開催され、新たに6カ国がブリックスに参加することが認められた。その6カ国とは、イラン、サウジアラビア、エジプト、アラブ首長国連邦、エチオピア、アルゼンチンである。地図で見ていただくと分かるが、ペルシア湾と紅海(スエズ運河)、アラビア海、南大西洋、喜望峰、マゼラン海峡をがっちり抑えている。このブログでは、中国がアフリカ西部各国の港湾に投資を行っていることを既にご紹介した。中国の資源確保のための航路づくり、中国の大航海時代の始まりということになる。
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 今回参加を認められた6カ国以外にも加盟申請を行っている国々もあるようだ。これらの国々はブリックスだけにとどまらず、上海協力機構(Shanghai Cooperation OrganizationSCO)、一帯一路計画(One Belt, One Road Initiative)にも参加している。様々な国際機関、国際機構に重層的に参加することで、非西側・非欧米諸国の関係が深まり、強固になっていく。今回。ブリックス通貨(BRICS currency)の導入は行われなかったが、脱ドル化(dedollarization)の流れは変わらない。非欧米諸国は金を購入しており、新たに金本位制を導入するかもしれない。アメリカという国家の「信用(脅し)」で持っているドルの価値が揺らいでいくことになるだろう。
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 中国が今年に入ってイランとサウジアラビアの国交正常化を仲介したというニューズがあった。今回のブリックス拡大に向けた動きであることが明らかになった。ヨーロッパと北米を南半球から、グローバル・サウス(Global South)が圧迫していくという構図が出来上がりつつある。

(貼り付けはじめ)

イラン、サウジアラビア、エジプトが新興国グループに参加(Iran, Saudi Arabia and Egypt Join Emerging Nations Group

-アルゼンチン、エチオピア、アラブ首長国連邦もブリックス(BRICS)に招待され、欧米主導のフォーラムに代わるグループとしての役割が強化された。

スティーヴン・エルランガー、デイヴィッド・ピアーソン、リンゼイ・チャテル筆

2023年8月24日

『ニューヨーク・タイムズ』紙

https://www.nytimes.com/2023/08/24/world/europe/brics-expansion-xi-lula.html

今回の拡大は、グループの主要メンバー2カ国にとって重要な勝利と見なされている。中国の政治的影響力が増大し、ロシアの孤立を軽減するのに役立っている。しかし、ロシアと中国は、両国が利益を促進していると主張している、国々の経済を損なう可能性のある経済的な逆風に直面している。

中国、ロシア、インド、ブラジル、南アフリカに加え、サウジアラビアを筆頭とする中東の3カ国と、ロシアのウクライナ侵攻を強固に支持する反米色の強いイランが参加した。

開催国である南アフリカは、テヘランと長年にわたって関係があり、イランの加盟を支持したが、インドやブラジルのような、いわゆる「グローバル・サウス(Global South)」のリーダーであり、ワシントンと北京の間で行動の自由を守りたい国にとっては、厄介な結果となった。

今回の決定は、現在のグローバルな金融・統治システムを、よりオープンで多様性に富み、制限の少ない、そしてアメリカの政治やドルの力に左右されにくいものに作り変えたいという願望を除いては、多種多様な(heterogenous)、明確な政治的一貫性をもたないこのグループの奇妙な性質を浮き彫りにした。

11カ国を合わせた人口は約37億人だが、5つの民主政体国家(democracies)、3つの権威主義国家(authoritarian states)、2つの独裁的君主制国家(autocratic monarchies)、1つの神政国家(theocracy)で構成されており、なかでもサウジアラビアとイランは数ヶ月前まで宿敵(sworn enemies)だった。

グループを支配し拡大を急ぐ中国を除けば、彼らの経済的影響力は比較的小さい。サウジアラビアとアラブ首長国連邦の参加は、特にブリックス・グループが独自の小規模な開発銀行(development bank)の規模と影響力を拡大しようとしているため、財政的により大きな重みをもたらすことになる。

エジプト、エチオピア、イランが加わったことで、北京はロシアとの「無制限のパートナーシップ(no-limits partnership)」や主権国家ウクライナへの侵攻を黙認したことで、先進諸国の多くの国々を遠ざけてきたにもかかわらず、そのアジェンダへの支持が高まっていることを示そうとしている。

「チャイナ・グローバル・サウス・プロジェクト」のコブス・ファン・スタデン研究員は、「イランは明らかに複雑な選択だ。他の加盟国の中には、欧米諸国との地政学的な緊張を高めるのではないかと懸念している国もあるだろうと想像できる」と述べている。

中国の習近平国家主席は木曜日、「今回の加盟国拡大は歴史的なものだ」と宣言し、「ブリックス諸国が、より広い発展途上国のために団結と協力を目指す決意を示した」と付け加えた。

それでも、中国にとって成功の様相を呈したことは、首脳会談から得られる最も重要な収穫となるかもしれない。さもなければ、米ドルの覇権(hegemony of the U.S. dollar)に匹敵するブリックス通貨(BRICS currency)を確立するという長年の目標を達成できなかったからだ。ブリックス・グループは代わりに、貿易に現地通貨を使用することをメンバーに奨励した。

ブリックス・ブロックの限界のもう1つの象徴は、ロシアのウラジーミル・V・プーティン大統領の欠席だった。プーティン大統領は、西側主導の国際機関である国際刑事裁判所(International Criminal Court)の発行した令状に基づき、ウクライナでの戦争犯罪で指名手配されているため出席できなかった。南アフリカは国際刑事裁判所の決定を無視したくないと考えた。

加えて、今週は、ロシアの傭兵部隊(mercurial mercenary)のリーダーであるエフゲニー・V・プリゴジンが、アメリカや他の西側当局の発表によれば、プライヴェートジェット機内で爆発に巻き込まれ、墜落死したことが明らかになり、クレムリンのイメージは更に悪化した。

今週のサミットで導入された変更が、各国が期待しているような影響を与えるかどうかはまだ分からない。2001年にBRICsという言葉を作った元ゴールドマン・サックスのエコノミストであるジム・オニールは、歴史的な記録は安心できるものではないと言う。

オニールは、BRICs首脳会議は「象徴的なものでしかない」と語り、「BRICs首脳会議が何かを成し遂げたとは私には思えない」と付け加えた。

そして、首脳会議からしばしば発せられる高尚な美辞麗句(lofty rhetoric)は、今後数年間にBRICsメンバーに重くのしかかるであろう重大な問題を隠蔽している。

アジア・ソサエティ政策研究所の中国専門家フィリップ・ル・コレは、「不動産スキャンダル、原因不明の外交部長更迭、中国人民解放軍の将軍の突然の解任など、中国経済が低迷するなか、習近平は自国に誇示するための政治的勝利を必要としていた」と指摘する。

しかし、特に中国とロシアの経済については、挫折が積み重なっているようだ。

ピーターソン国際経済研究所のエコノミスト、ジェイコブ・ファンク・キルケゴールは次のように述べている。「中国が主要な経済的比重(main economic weight)と貿易上の優位性(trading advantages)を提供しているため、ブリックスは常に中国プラス4である。しかし、中国経済は深刻な危機に陥っている。中国経済の不振は中国への一次産品輸出に依存しているブラジルや南アフリカなどの国にとっても困難をもたらす」。

キルケゴールは「ロシア経済自体が制裁の重みで崩壊しつつあり、他のブリックス諸国はロシアを搾取し、安い石油を買いあさり、石油精製品をヨーロッパに送っている」と述べた。

厳重に管理された会議では、表向きは結束をアピールしていたものの、ブリックスのメンバーたちは、経済拡大に関して対立する見解を持ち寄っていた。中国は、ブリックスがアメリカのパワーに対抗するためのプラットフォームであると考え、急速な拡大を推し進めた。しかし、何人かの首脳は、冷戦時代を彷彿とさせるような分裂的な世界秩序への回帰を警告を発し、反発した。

ブリックス諸国は西側の覇権(Western hegemony)に対抗して結束を固めたとはいえ、その目標は依然としてバラバラだ。インドのタクシャシラ研究所中国アナリストであるマノジ・ケワラマーニは、「ブリックスは、様々な利害関係を持つ新たなアクターたちによって、未知の道を進んでいる。ブリックスは扱いにくくなり、あえて言えば、より非効率になるだろう」と述べている。

ブリックス関係者の中には、これに同意しない人たちもいた。

ブリックス交渉の南アフリカ代表であるアニル・スークラルは、西側が支配している各機関の構造は時代とともに変化する必要があると述べた。スークラルは「ブリックスが言っているのは、『もっと包括的になろう(Let’s be more inclusive)』ということだ。BRICSは反西洋ではない」と発言した。

対照的に、キルケゴールは、この組織が拡大しても、致命的に多様であり、「反西洋感情によって何とかまとめられた人為的な創造物」に過ぎないと見ている。

サウジアラビアと並ぶイランの加盟は、ロシアの侵攻軍への供給におけるテヘランの重要な役割と、リヤドのアメリカとの長期的な安全保障同盟を考えれば、おそらく最大の驚きとなった。

サウジアラビアはいまだに兵器のほとんどをアメリカから調達しており、複数のアナリストによれば、アメリカの安全保障の傘をすぐに放棄する意図はないという。しかし、サウジアラビア当局者たちは、ワシントンが本当に中東に関与しているのかについて懐疑的であり、今年初めに北京でテヘランとの和解を交渉し、中国の外交的地位を高めた。

テヘランは決してワシントンのファンではない。そして、北京とは意外にも親密になっている。北京は、国際的な制裁を無視して、大幅に値引きされた石油を購入することで、テヘランを浮揚させる手助けをしてきた。

木曜日、イランの政治担当副大統領であるモハマド・ジャムシディは、イランのブリックス加盟を「歴史的な偉業と戦略的勝利(historic achievement and a strategic victory)」と呼んだ。イランの加盟は、一種の世界的な門番としてワシントンがテヘランに対して持っていた影響力を弱めるものでもある、と「クインシー・インスティテュート・フォー・レスポンシブル・ステートクラフト」のトリタ・パルシは述べた。

デリーに本拠を置くオブザーヴァー・リサーチ財団の副理事長で、キングス・カレッジ・ロンドンのインド研究所で国際関係論を教えるハーシュ・V・パント教授は、インドは重大な懸念を抱きながらも、悪役を演じたくなかったため、この拡大に協力した、と語った。更に、ニューデリーは「このプラットフォームの性質が、地理経済的(geoeconomic)なものから地政学的(geopolitical)なものへと変化する」ことに警戒を怠らないだろうと付け加えた。

木曜日、米国務省はイランの参加については触れず、代わりにホワイトハウスのジェイク・サリヴァン国家安全保障問題担当大統領補佐官が週明けに述べた、バイデン政権が「ブリックスがアメリカや他の国々に対する地政学的ライバルのような存在に進化するとは考えていない」という発言を紹介した。

アナリストの中には、ブリックスへの加盟に関心を示した数十カ国は、西側諸国への警鐘(wake-up call)になるはずだと述べた。

アジア・ソサエティ政策研究所中国分析センターで中国政治を研究するニール・トーマスは、「多くの発展途上国がブリックスへの加盟に熱意を示しているのは、中国の価値中立的なグローバリゼーションの魅力だけでなく、西側諸国がより包括的な国際秩序の構築に失敗していることを反映している」と指摘している。

ワシントンのエドワード・ウォン、ロンドンのイザベル・クワイ、ベルリンのポール・ソンヌ、ニューデリーのスハシニ・ラジがこの記事の作成に貢献した。

※スティーヴン・エルランガー:『ニューヨーク・タイムズ』紙外交担当特派員チーフ、ベルリンを拠点としている。以前はブリュッセル、ロンドン、パリ、イェルサレム、ベルリン、プラハ、ベルグラード、ワシントン、モスクワ、バンコクで取材活動を行った。

※デイヴィッド・ピアーソン:中国外交政策と中国経済と文化の世界とのかかわりを取材している。

※リンゼイ・チャテル:本紙ヨハネスブルク支局を拠点に南アフリカを取材している。本紙インターナショナル・モーニング・ニューズレターでアフリカについて記事を書いている。チャテルは『フォーリン・ポリシー・クアーツ』誌とAP通信に勤務していた。

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ブリックス(Brics)、新たに6カ国を加盟させ2倍以上に拡大(Brics to more than double with admission of six new countries

-ロシアと中国を含む経済圏の大規模な拡大がアメリカと西側の同盟諸国への対抗軸を提供しようとしている。

ジュリアン・ボーガー筆(ワシントン発)

2023年8月24日

『ガーディアン』紙

https://www.theguardian.com/business/2023/aug/24/five-brics-nations-announce-admission-of-six-new-countries-to-bloc

新興経済大国で構成されるブリックス・グループ(Brics group)は、6カ国の新メンバーの加盟を発表した。今回の拡大は、グローバルな世界秩序を再構築し、アメリカとその同盟諸国に対抗しようとしてのことだ。

来年初め、イラン、サウジアラビア、エジプト、アルゼンチン、アラブ首長国連邦(UAE)、エチオピアが、現在の5カ国(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)に加わることが、木曜日にヨハネスブルグで開催された首脳会談の席上で発表された。

中国の習近平国家主席は、この拡大について「歴史的」と表現した。習近平国家主席は、新メンバー加入の重要な推進者であり、ブリックスの拡大がグローバル・サウス(global south)が世界情勢でより強い発言力を持つための方法であると主張してきた。

しかし、この拡大が世界の舞台でブリックスの影響力をどの程度高めることになるのかは不明だ。アナリストたちは、影響力の拡大は、これらの国々がどこまで一致団結して行動できるかにかかっており、新メンバーの加入によって、強力な独裁国家と中所得国や発展途上の民主政治体制国家が混在する、よりバラバラのグループとなった。

「米州対話(Inter-American Dialogue)」でアジア・ラテンアメリカ・プログラムのディレクターを務めるマーガレット・マイヤーズは、「ブリックスの新メンバーが、このブロックに加盟することで何を得ることになるかはまったく明らかではない。少なくとも現時点では、この動きは何よりも象徴的なものであり、世界秩序の再調整に対するグローバル・サウスからの広範な支持を示すものだ」と述べた。

ウラジーミル・プーティンは、国際刑事裁判所(international criminal court)からウクライナでの戦争犯罪の逮捕状が出されている。プーティンは3日間のサミットに直接出席することはなかったが、ブリックスの拡大は、プーティンにとって象徴的な後押しとなる。現在、プーティン大統領は、アメリカが主導する、ロシア軍の撤退と先勝の終結を強いるための努力と企てに対して戦っている。

制裁を回避する方法を探していたイランを加盟させるという決定は、プーティンと習近平の勝利を意味し、グループに反欧米的、非民主的な色合いを与えることに貢献した。彼らは、グループを非同盟(non-aligned)として表現することを好む他のメンバーのより慎重なアプローチに勝った。

厳しい経済問題に直面しているアルゼンチンにとって、加盟は深刻化する危機から脱出するための生命線となりうる。アルベルト・フェルナンデス大統領は、アルゼンチンにとって今回の加盟はアルゼンチンにとっての「新しいシナリオ(new scenario)」となると述べた。

フェルナンデス大統領は「新市場への参加、既存市場の強化、投資の拡大、雇用の創出、輸入の増加の可能性が開ける」と語った。

エチオピアはグループ唯一の低所得国となった。アビイ・アーメド首相は、自国にとって「素晴らしい瞬間(great moment)」だと述べた。

10以上の国々が正式に加盟を申請しているが、加盟候補国が加盟するには、オリジナルの5カ国の間でコンセンサスを得る必要がある。

南アフリカ大統領のシリル・ラマフォサは、加盟諸国が「ブリックス拡大プロセスの指導原則、基準、手順」に合意したと述べた。しかし、これらの基準は説明されなかった。例えば、2億7400万人の人口を持ち、アジアで強力な力を持つインドネシアは、加盟を申請したが今回は認められなかった。

戦略国際問題研究センター(Centre for Strategic and International Studies)の米州プログラム責任者であるライアン・バーグは次のように述べている。「中国とロシアにとって、今回の拡大は勝利だ。中国にとっては、自分たちが望む北京中心の秩序を構築し続けることができる。来年、首脳会議を主催するロシアにとっては、孤立が深刻化している現在、これは大きなチャンスである」。

「ブラジルやインドの立場から見ると、たとえ美辞麗句を並べ立てたとしても、中国のような世界的な大国を含む組織の一員としての力を弱めてしまうため、その拡大にはあまり乗り気ではないだろう」とバーグは述べている。

既に中国と広範な二国間関係を結んでいる加盟諸国にとって、加盟による経済的利益がすぐに得られるとは思えない。ブリックス・グループの新開発銀行(New Development Bank)はまだ比較的小規模だ。しかし、マイヤーズは、この動きは象徴的なものではあるが、重要でないことを意味するものではないと述べた。

マイヤーズは次のように語っている。「これは重要なことであり、G7や他の北半球のグローバル・アクターたちが否定すべきではない。これらの新メンバー(特に主要産油国)が加わったことで、ブリックスの構成は、世界経済と世界人口に占める割合がはるかに大きくなった」。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 第二次世界大戦後からソヴィエト連邦崩壊までの約半世紀、世界は「冷戦構造(Cold War)」にあった。アメリカとソヴィエト連邦がそれぞれの影響圏を確立し、その影響圏がぶつかるとことで、局地的な戦争が行われたが、米ソ両国間での直接の戦争は起きなかった。冷戦については「長い平和(Long Peace)」という評価をする学者もいるが、戦争が起きた地域においてはそのような言葉は空虚に聞こえることだろう。マクロでみるか、ミクロで見るかの差ではあるが、世界は世界大戦が起きなかったということにはなるだろう。

 ソ連崩壊後、アメリカ陣営は「勝った、勝った」の大合唱、民主政治体制、資本主義、法の支配が勝利したと喧伝された。アメリカはこれらの価値観の伝道者、庇護者を自認し、他の国々にこれらを広げて、世界全体を1つの価値観に染め上げよう、そうすれば戦争などなくなり、平和な世界が到来するという「理想主義」が主流になった。アメリカが盟主の世界を改めてきっちりと構築しようということになった。この世界には多様性は存在しない。自分たちの価値観の正しさを押し付ける、押し付けられる、発展具合を勝手に判断されて進んでいる、遅れているということが判定される世界である。

 ポスト冷戦時代において、アメリカを中心とする西側諸国(the West)と、それに対抗するBRICS諸国(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)を中心とする「それ以外の国々(the Rest)」という2つのグループ分け、勢力圏という構図になっている。ポスト冷戦期、アメリカが世界唯一の超大国となる一極構造(unipolar system)が崩れつつある。冷戦期のような二極構造(bipolar system)となるか、多極構造(multipolar system)となるか、という話であるが、やはり、米中二極構造の冷戦期と同じような構造になるだろう。アメリカをはじめとする西側諸国は衰退を続け、それ以外の国々がこれから伸びていくことで、これら2つの勢力圏は均衡状態に入り、やがて、西側陣営が逆転される。前回の冷戦では勝者となった西側が、今回の冷戦では敗者になるという可能性が高まっている。

 アメリカの最大の失敗は、ロシアを自陣営への取り込みに失敗したことだ。中国がここまで急速にかつ強力に成長、台頭すると予測できなかったということはあるだろうが、中露の間を緊密にさせないこと、もしくは離間させることが何よりも重要だった。

しかし、ソ連崩壊を受けて、「お前らは負け犬だ、俺たちの言うことを全て受け入れろ」「民主政体、資本主義、法の支配、人権など、俺たちの価値観を全て完璧に受け入れて実践しろ、そうしたら幸せになるぞ、日本を見て見ろ」という態度で、ロシアを徹底的に見下して、傲岸不遜の態度を取った。それはまるで敗戦国日本の占領と同様であった。誇りと尊厳を傷つけた。結果として、ロシアは「アメリカの価値観を受け入れても幸せにならず、アメリカにずっと下に見られ続ける」ということに気づいてしまった。

 結果として、アメリカは中露を中心とする非西側諸国という対抗グループを生み出してしまった。「これでは新しい冷戦が始まってしまう」という懸念の声が出ている。しかし、既に米中対立は始まっている。冷戦構造になりつつある。そして、今回の冷戦の勝者がアメリカになる可能性は低くなっている。私たちは世界史の大きな転換点に直面している。

(貼り付けはじめ)

冷戦は避けられないのか?(Is Cold War Inevitable?

-封じ込め政策の父ジョージ・ケナンの新しい伝記は、古い冷戦と出現しつつある中国との新しい冷戦は避けられるのかどうかについて疑問が出てくる。

マイケル・ハーシュ筆

2023年1月23日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2023/01/23/cold-war-george-kennan-diplomacy-containment-united-states-china-soviet-union/

ジョージ・ケナンは94歳という高齢になっても、冷戦は避けられないものではなかった、少なくとも回避できたはずだ、あるいは状況を改善できたはずだと主張していた。冷戦終結から10年後、アメリカの冷戦封じ込め戦略(Cold War containment strategy)のやや弱腰な態度の父であったケナンは、よりタカ派で、ケナンの伝記を執筆したジョン・ルイス・ギャディスへの手紙の中で、ソ連の独裁者ヨシフ・スターリンが生きている間は、早期撤退が可能だったかもしれないと主張した。

1952年3月のいわゆる「スターリン・ノート」は、第二次世界大戦後のヨーロッパのあり方について話し合おうというモスクワからの申し出であり、アメリカが「交渉、とりわけ公的な姿勢とは異なる真の交渉(negotiation, and especially real negotiation, in distinction from public posturing)」によって達成される平和の可能性を無視していたことを示した、とケナンは1999年に書いている。

この言葉は今日もなお有効性を持っている。なぜなら、アメリカが中国やロシアとの新たな冷戦に突入している現状では、公的な表向きのポーズがほとんどを占めているからである。しかし、これらの政策について、ワシントンではほとんど議論や考察が行われていない。特に、ソ連に代わってアメリカにとっての地政学的脅威となった中国の挑戦については、民主、共和両党の政治家たちが、北京に対してより厳しい姿勢を取ることで、政敵を互いに出し抜くことに政治的利益を見出そうとしている。その結果、世界のパワーと影響力をめぐる長期的な闘争が勃発し、それは前回の冷戦をはるかに凌ぐものになりかねない。2022年11月に行われた中国の習近平国家主席との首脳会談の後、ジョー・バイデン大統領が「新たな冷戦は必要ない」と主張したにもかかわらず、状況は冷戦に向かっているようになっている。数週間後にアントニー・ブリンケン国務長官が北京を初訪問する予定であるが、これは、昨年のナンシー・ペロシ前米連邦下院議長の台湾訪問以来、全面的に中断している外交関係を修復しようとするものである。

ケナンからのギャディスへの書簡は、新しい伝記『ケナン:2つの世界の間の人生(A Life Between Worlds, by Frank)』に掲載されている。2011年に出版されたギャディスの大著『ジョージ・F・ケナン:あるアメリカ人の生涯(George F. Kennan: An American Life)』には、この手紙のやり取りは掲載されていない。今回の新刊では、ケナンの私的な文書やその他の資料を基礎にして、冷戦が軍事的瀬戸際政策(military brinkmanship)の世界的ゲームに発展した際に、ケナンがいかに熱心にその緩和を追い求めたか、また冷戦後にNATOの国境が急速に東へ拡大することに反対したかが明らかにされている。ウラジーミル・プーティン大統領が出現する直前、ケナンはこの政策がロシアのナショナリズム、反西洋主義を煽り、「冷戦の雰囲気を取り戻す(restore the atmosphere of the Cold War)」と予言した。

コネティカット大学の歴史学者であるコスティリオラは、「ギャディスはケナンの生涯を描いたのだが、冷戦を和らげようとしたケナンの努力に対してはほとんど共感を集められず、注目もされていない」と書いている。また、コスティリオラはケナンの経歴と業績の真実について、「冷戦を、私たちが見るようになった不可避の対立と危機の連続ではなく、対話と外交の可能性の時代として考え直すことを要求している」とも書いている。

ケナンの見解を見直すことは、今日、かつてないほど正当なことになっている。アメリカ史上最も影響力のある戦略家の1人であるこの偉大な外交官ジョージ・F・ケナンは、交渉によって冷戦を脱することができると約束した訳ではなく、やってみなければ分からないと述べただけであった。しかし、当時も今も、新たなチャンスが訪れているにもかかわらず、懸命な努力はしなかったように見える。「20世紀の冷戦を理解し、21世紀の爆発的緊張を和らげる上で、ケナンの教訓は、一見難解に見える紛争について和解の可能性が高いかもしれないということだ」とコスティリオラは書いている。

プーティンはウクライナへの侵攻によって、ロシアを当分の間、和解の外に置くことになったが、中国はまだ外交の門戸を開いているようである。習近平と新しく就任した秦剛外交部長は、1952年のスターリンになぞらえる形で、バイデン政権の最初の2年間、米中両国の対立という厳しい雰囲気から身を引く方法を示唆している。12月31日に放送された新年のメッセージで、習近平は台湾に対して以前は冷淡だった態度をやや和らげたように見えた。秦外交部長は『ワシントン・ポスト』紙の寄稿で、駐米中国大使としての別れを惜しみ、米中関係は「一方が他方を打ち負かし、他方を犠牲にして一国が繁栄するゼロサムゲームであってはならない」と述べた。更に「中米関係のドアは開いたままであり、閉じることはできないという確信をより強めている」とも付け加えた。この数週間、北京では、反米的な言動で知られる外務省の趙立堅報道官をあまり目立たないような形で異動させた。

ソヴィエト連邦とアメリカが対立した冷戦時代と、現在の北京とワシントンの緊張関係には、類似点よりも相違点の方が多いのは不思議なことではない。しかし、その違いは、冷戦時代以上に、長期的な米中対立への転落を断ち切る可能性を持っている。ソ連とアメリカが全く別の勢力圏に存在していたあの時代とは対照的に、世界経済は深く統合されており、アメリカも中国もその中で取引や投資を行うことで多くの富を得ている。昨年、中国経済が急激に減速し、人口が減少したことで、習近平はこのことをあらためて認識した。更に言えば、持続的な国際協力を必要とする新たな課題、とりわけ気候変動や将来のパンデミックの阻止は、当時とは比較にならないほど切実なものとなっている。実際、地球温暖化や新型コロナウイルスのような新型ウイルスによる脅威は、中国とアメリカが互いにもたらす戦略的脅威よりもはるかに大きい可能性が高い。

ソ連が協力的で統制のとれた各国政府で自らを囲んでいたのとは異なり、現在の中国は、増大する軍事力に対抗するアメリカの同盟諸国や西洋化した諸国家に事実上囲まれている。バイデン政権は既に、オーストラリアと日本の武装を支援し、日本、インド、オーストラリアと四極安全保障対話(クアッド)を形成し、アメリカの競争力強化を目的とした率直な保護主義的産業政策を含む、中国とのハイテク貿易の前例のないデカップリングを調整するなど、中国に対する厳しい政策アプローチを打ち出している。

ヴァージニア大学の冷戦専門の歴史学者、メルヴィン・レフラーは必至との電話インタヴューで、ケナンはこのようなアプローチを認めていたかもしれないと指摘しながら、同時にこのような強者の立場から真剣に交渉するよう促していたと語っている。ケナンは、1947年に『フォーリン・アフェアーズ』誌に掲載した有名な「X」論文(“X” article)でソ連封じ込めを提案した時、ソ連の侵略に対して「平和で安定した世界の利益を侵害する兆候を示すあらゆる地点で、ロシアに不変の対抗力をもって立ち向かうよう設計した(designed to confront the Russians with unalterable counterforce at every point where they show signs of encroaching upon the interest of a peaceful and stable world)」強力な対応を促した。彼が交渉を提案したのはその後である。

同様に、今日、レフラーは、ケナンが「もし生きていれば、現状では、中国の周囲に張り巡らされている力関係について話すことになるだろう」と述べた。そして、中国がロシアと戦略的に連携することを懸念するよりも、たとえ習近平が今年モスクワを訪問する予定であっても、ケナンはおそらく、依然として深い関係にある両国の異なる利益に焦点を当てるだろう。特に、ロシアと中国は中央アジアで影響力を競い合っている、とレフラーは指摘している。また、モスクワと北京は、アメリカの支配に敵対しているにもかかわらず、互いに深刻な不信感を抱いている。

これらの相違点は、「今、両者を結びつけている短期的な便宜的な都合よりも」、より重要であるとレフラーは述べている。レフラーは「中国とロシアの協力関係について、冷戦時代の中ソ協力への不安と似ているが、それは誇張であったことが判明している」と述べている。

実際、現代の政策立案者たちがケナンから学べることは多い。特に、地政学(geopolitics)とパワーに対する深い理解から学ぶべき点は多い。ケナンは長年にわたり、優れた戦略的・抽象的な思想家として評価されてきたが、同時に、現実的な外交に関しては、しばしば簡潔な人物であったという評価もある。しかし、生前、ケナンを非難していた人々でさえ、アメリカの国家安全保障体制において、ロシアについて、ケナン以上に知っている人間は誰一人いなかったと認めている。また、ケナンはリベラルなハト派という訳ではなかった。コラムニストのウォルター・リップマンは、封じ込め政策の初期に、後に『冷戦』という本に収められた有名な一連の記事の中で、ケナンを無鉄砲なタカ派、封じ込め政策を戦略上の「怪物(monstrosity)」として激しく攻撃し、この戦略によってアメリカは海外への無限の介入を余儀なくされると書いているほどだ。コスティリオラは、「ケナンが1944年から1948年までの4年間を冷戦の推進に費やしたが、その後の40年間は、彼や他の人々がもたらしたものを元に戻すことに専念した。これは悪くない記録だ」と指摘している。

ケナンは後にリップマンの意見に同意し、封じ込めを主に軍事的な意味で捉えることは意図していなかったと主張するようになった。1948年の時点で、ケナンは交渉の必要性を訴え始め、そのキャンペーンは彼の長い生涯の間継続したとコスティリオラは書いている。2005年に101歳で亡くなる8年前、ケナンは再びロシアの専門知識を駆使して、「NATOの国境をロシアの国境まで拡大することは、ポスト冷戦時代全体において最大の過ちを犯している」と警告した。

プーティンとクレムリンに対する支持者たちの超国家主義や反欧米熱の理由は複雑で、ロシアの歴史に深く遡る。しかし、ケナンは、ロシアの熊を長く強く突きすぎることの危険性について正しかっと言えるだろう。トランプ政権が5年近く前に依頼した、あまり知られていない米陸軍の研究は、プーティンの攻撃性とウクライナ侵攻に対するロシアの大衆的支持の両方を予期していた。情報専門家のC・アンソニー・ファフの共著の中で、この研究について言及していて、「ロシア国民は、地理的な不安と政治的な屈辱感を政府と共有しており、特に東ヨーロッパにおいて、グローバルなパワーと西洋との対立を示すことは、将来のロシア政府の人気を高めることにしかならない」と結論付けている。

このような他国の戦略的利益に対する現実政治的な感性は、ケナンの思考に一貫したテーマとなった。1950年代後半、コスティリオラは、ケナンの有名な「長い電報」や『フォーリン・アフェアーズ』の「X」論文よりも「間違いなく印象的」な一連のラジオ演説で、ケナンは「イギリス、西ドイツ、アメリカの冷戦体制の根幹を揺さぶった」と書いている。ケナンは、当時の冷戦正統派の硬直した核心的な考えであった、ドイツを西半分と東半分に分けることに異議を唱えた。ケナンは、西側がドイツから撤退する代わりに、ソ連が東ヨーロッパから軍事的に撤退すれば、西側と東側は部分的に直接対峙しないようにするための交渉ができると提案した。統一ドイツは中立を保ち、軽武装にとどめ、後に1958年から1959年に、そして1961年から1962年にかけて起きたキューバ・ミサイル危機とハルマゲドンの脅威に至る瀬戸際外交を回避する緩衝材となり得たはずだ。また、統一ドイツはNATOに残留しないということも可能だった。これは、1952年にスターリンが最初に提示した取引提案の内容と同じだった。ケナンは、抑止力のために核兵器を保持することを提案したが、戦術核はヨーロッパの分裂を堅固なものにするだけだと述べた。もし何もしなければ、核軍拡競争の暴走が起こると警告した。

ケナンは、この点でも正しいことを証明した。特に、1957年にモスクワがスプートニクを打ち上げ、ニューヨークとワシントンに核の黙示録的惨禍の脅威をもたらした後、ケナンはミュンヘン会議の時と同じ宥和主義(appeasement)だと非難された。彼の友人で戦略をめぐってライヴァルであったディーン・アチソンは、ケナンが「空想の世界(fantasy)に生きている」と不満を漏らし、ある時は、昔の外交仲間を「馬鹿馬鹿しい、くだらないおしゃべり」をする猿の一種に例えたこともあった。ケナンは打ちのめされ、権力者の誰も「ロシア人との政治的解決に関心がない」と嘆いた。しかし、その間に世界がどれだけ核戦争に近づいたか、人々は忘れがちである。

ケナンは、ヴェトナム戦争についても先見の明を持って反対した。1966年の連邦上院での証言において、人気ドラマ「アイ・ラブ・ルーシー」の放送が延期されるほど全米で注目された、とコスティリオラは書いている。ケナンは、「貧しくて無力な人々」を攻撃して威信を損なうだけで、ヴェトナムの内戦には、封じ込めは適用できないと宣言した。ジョン・クインシー・アダムズの言葉を引用して、アメリカは「破壊すべき怪物を求めて外国に出かけてはならない」と述べた(U.S. should not go “abroad in search of monsters to destroy”)。しかし、NATOの対応と同様、その時点でアメリカの方針は固まっていた。

今日、最も重要な問題は、ワシントンの対決姿勢が同じように定着しているかどうかということだ。民主党と共和党の双方が中国への厳しい対応に同意する理由の1つは、自分たちは長い間北京に騙されてきたという共通意識だ。この四半世紀の間、アメリカの両政党は中国との関わりを熱望していたが、結局、中国の指導者たちは知的財産を盗み、中国経済を発展させ、アメリカを世界を主導する超大国の座から駆逐することに主眼を置いてきたのだと結論付けた。そのためバイデンは、カート・キャンベルやラッシュ・ドーシといったタカ派を対中国のアドヴァイザーとして政権に迎えている。

超党派のコンセンサスを超えて、交渉よりも対決に政治的な偏りがあるのは、少なくともネヴィル・チェンバレン元英首相がミュンヘンでの宥和政策によって悪評を得て以来続言えていることだ。冷戦を含む全ての戦争は、大統領が強気でタフな印象を与えることで有利になるように政治が動いている。このようなアプローチの利点は、大統領に強いリーダー的なイメージを与え、世論調査での評価を高めるという直接的なものだ。一方、コストは長期的かつ拡散的で、悪化し続ける地球温暖化、ゆっくりとエスカレートする軍拡競争と更にゆっくりとした国際システムの崩壊、将来のパンデミックの漠然としたしかし増大する脅威などが挙げられる。一方、より融和的で現実的なアプローチについては、その利点は長期的かつ拡散的であり、そのコストは即時的である。

これらの疑問は、冷戦に関するもう1冊の最新刊『ケネディの撤退:キャメロットとアメリカのヴェトナム封じ込め(The Kennedy Withdrawal: Camelot and the American Commitment to Vietnam)』の核心に触れるものだ。ヴァージニア大学の歴史家マーク・J・セルヴァーストーンは、過剰反応の危険性を認識していた各大統領でさえも、戦争に引きずり込まれてしまうと論じている。セルヴァーストーンは、この本の中で、冷戦時代の最後のタブーの一つである、ジョン・F・ケネディ大統領が生きていればヴェトナムの泥沼化を避けられたというキャメロット神話を解き明かしている。

確かにケネディは、若い連邦上院議員として、本質的にはフランスの植民地主義に対する民族主義的な運動であると認識していた紛争に巻き込まれることに警戒心を抱いていた。これは多くの人々がそのように説明している。セルヴァーストーンが書いているように、ケネディは1954年の時点で、先見の明を持って連邦上院の同僚議員たちに「アメリカの軍事援助をいくら受けても、どこにでもいて同時にどこにもいない敵を征服することはできない」と語っている。ケネディは、暗殺されるまで、より繊細な外交政策を採用し、米ソ間の緊張を緩和するための新しい方法を模索していた。しかし、それでも、ケネディが大統領就任演説で宣言したように、「自由の生存と成功を保証するために、いかなる代償も払い、いかなる重荷も負い、いかなる苦難にも耐え、いかなる友をも支持し、いかなる敵にも対抗する」覚悟を持ち、信頼性に懸念を持った冷戦の戦士であることは確かである。セルヴァーストーンは、ケネディが「ドミノ思考と決意の表明という世界観で行動し続けた」と主張し、コスティリオラは、ケネディがケナンの「離脱」支持を理由にケナンとの関係を避けようとしたと指摘する。

しかし、他の学者たちはそのように考えていない。ピューリッツァー賞を受賞した『戦争の残り火:帝国の崩壊とアメリカのヴェトナムの形成(Embers of War: The Fall of an Empire and the Making of America’s Vietnam)』の著者であり、ケネディの伝記2巻を執筆中のハーヴァード大学の歴史学者フレドリック・ログヴァルは、ケネディはリンドンBジョンソン元大統領よりもはるかに繊細に歴史を学び、ドミノ理論には懐疑的だったと主張している。ケネディなら、勝ち目のない戦争におけるアメリカの存在感を縮小する方法を見つけただろうと考えている。「冷戦が不可避だったとは考えない。また、ヴェトナム戦争も不可避だったとも思わない」と、ログヴァルは電子メールの中で語った。

現状はどうだろうか? 冷戦時代にアチソンたちがソ連について論じたように、現在の習近平政権下の中国は、アメリカの力に対してより強くなるまでの時間稼ぎと、その後の台湾への攻撃しか考えていないと、多くの政策立案者たちは言う。そして、その先にあるのは、何が何でもアメリカに代わって世界をリードする大国となることだと、タカ派は主張している。そして、習近平はこの野望を実現するために、巨大で技術的に進んだ中国経済と、資源に恵まれたロシアの国土を結びつけようとしている。

そうかもしれない。しかし、北京がプーティンをレトリック的に支持する一方で、モスクワのウクライナでの侵略行為に対して、軍事援助や多くの経済援助を行っていないことは注目に値する。中国とロシアのパートナーシップは、冷戦初期の中ソ間のパートナーシップのように、薄っぺらいものであることが証明されるかもしれない。一方、ジョー・バイデン政権は、中国、そしていつの日かプーティン政権後のロシアと共存の道を探るというリアリスト(現実)的アプローチへの真の努力よりも、世間体を気にしているようだが、これは深刻なリスクである。NATOはまたしても、ワシントンや他の西側諸国の首都でほとんど議論されることなく、物議を醸す役割を担っている。

NATOは「北大西洋」の脅威を想定した同盟であるにもかかわらず、昨年夏、ほとんど注目されることなく、その焦点を事実上、中国に対する新たな封じ込め政策へと拡大した。マドリードでの首脳会談で、同盟は初めて日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランドの首脳を招待し、NATOの新しい「戦略コンセプト(strategic concept)」は、北京の野望が西側の「利益、安全、価値」に挑戦するということで、中国を優先事項の1つに挙げている。

バイデンが新たな冷戦を望んでいないのであれば、習近平が望んでいると考えても不思議ではないだろう。しかし、習近平は新型コロナウイルス感染拡大の封じ込めと経済の低迷のために後手に回っており、外交的関与の新たな可能性が存在するかもしれない。レフラーは、「習近平は、自分自身や中国が、競合するイデオロギー体系をめぐるアメリカとの絶対的な存亡の争いに巻き込まれているとは考えていないと思う。習近平は、アメリカと中国の利益が相互に排他的であるとは考えていないようだ」と述べている。あるいは、コスティリオラによれば、ケナンが言うように、「鋭く対立する立場は、外交という長く、必ずしも忍耐強いプロセスにおける提示価格に過ぎない」ということになる。

一つだけ確かなことがある。真剣な外交を試みない限り、それが正しいかどうかは分からないということだ。ケナンが生きていたら、間違いなくこの言葉に同意するだろう。

※マイケル・ハーシュ:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。『資本攻撃:ワシントンの賢人たちがいかにしてアメリカの未来をウォール街に売り渡したか(Capital Offense: How Washington’s Wise Men Turned America’s Future Over to Wall Street)』『私たち自身との戦い:なぜアメリカはより良い世界を築くチャンスを無駄にしているのか(At War With Ourselves: Why America Is Squandering Its Chance to Build a Better World)』2冊の著作がある。ツイッターアカウント:@michaelphirsh

(貼り付け終わり)

(終わり)

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
20211129sankeiad505

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 古村治彦です。

 中国が「一帯一路計画(One Belt, One Road Initiative)」戦略に基づいて、世界各国に進出していることはよく知られている。日本でもよく報道されている。中国の東海岸からヨーロッパまでを陸上と海上でつなぐ、モンゴル帝国時代のユーラシアに訪れた「パクス・モンゴリカ(Pax Mongolica)」時代と大航海時代(Great Navigation)時代を彷彿とさせる大戦略だ。中国自体が外洋に出ていったのは、明時代の鄭和提督の大船団によるアフリカ遠征までだったが、中国はそれ以来の世界進出の時代を迎えている。
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 下記記事によると、中国は現在、「46カ国の78港湾における、123の海港プロジェクト」を実行しており、その投資総額は「299億ドルに達する」ということだ。港湾の開発と管理(port authority)を行うことで、中国は物流で有利な立場に立つことができる。また、現在、中国人民解放軍海軍は、ミャンマー、スリランカ、パキスタン、ジブチに海軍基地を設置している。これは「真珠の首飾り(String of Pearls)」戦略に基づいている。簡単に言えば、インドを包囲するという戦略だ。そして、インド洋でアメリカに対抗するための戦略である。この戦略については拙著『悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める』(秀和システム)で取り上げている。

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中国の海外港湾プログラム
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「真珠の首飾り」戦略

 中国の海洋進出は更に継続していく。下記記事はそのように分析している。その対象となるのが西アフリカだ。私たちは太平洋からインド洋にかけての地域に目が向いている。従って、「それならばアフリカ大陸ならば東部に進出するのではないか」と考えてしまう。しかし、中国はアフリカ西部に進出する。そのために大規模な投資を行っている。そこには。中国の壮大な戦略が隠されている。
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中国の次の海洋戦略は、「南半球の資源大国を繋ぐ大航海時代の逆ヴァージョン」となると私は考える。以下の記事にある通り、中国はこれから西アフリカに重点を置くと見られている。何故、西アフリカなのかと言えば、それは、南アメリカ大陸とつながるためだ。「中国-東南アジアインド洋(スリランカ)-南アフリカ(喜望峰)-西アフリカ-南アメリカ(ブラジル)」というシーレーンを構築する。西側欧米諸国の影響を受けない、「独立した」シーレーンが完成する。ブリックス(BRICS、ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)のうち、南半球にあるブラジルと南アフリカという、南米とアフリカの地域大国でかつ資源大国である国々を中国とつなぐためのシーレーン、航路ということになる。ユーラシア大陸を貫く「一帯一路」が北半球の戦略ならば、こちらは南半球での戦略となる。このシーレーンはまた、「ブリックス通貨(BRICS currency)」の成功のために重要な役割を果たすことになるだろう。

 更に言えば、中国の西アフリカ・南米への進出、「中国の南大西洋戦略」は、アメリカが、バラク・オバマ政権時代のヒラリー・クリントン国務長官が発表した「Pivot to Asia(アジアに軸足を移す)」、更には「インド太平洋戦略」という戦略に対抗するための中国の戦略でもある。アメリカが太平洋とインド洋で中国を「封じ込める」という戦略を推進している。それに対抗して、中国はアメリカの「裏庭(backyard)」である南米とつながろうとしている。大きく言えば、南半球を固めて、アメリカを包囲し、包囲網を縮めていくということになる。中国はそのために南大西洋に進出しようとしている。私たちの目がインド太平洋に向いている間に。中国は周到に次の世界覇権国としての準備を進めている。

(貼り付けはじめ)

中国は世界に発展していく-そして海軍基地を次々と建設(Beijing Is Going Places—and Building Naval Bases

-次に中国が基地を建設するであろう候補地はこれらの場所だ。

アレクサンダー・ウーリー、シェン・ジャン筆

2023年7月27日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2023/07/27/china-military-naval-bases-plan-infrastructure/

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スリランカ・ハンバントタにあるハンバントタ国際港に寄港する中国のミサイル追跡船遠望5号2を歓迎する人々(2022年8月16日)

中国は2017年に中国人民解放軍海軍(People’s Liberation Army NavyPLAN)の初の海外基地をジブチに建設したことで知られている。中国は次はどこに海軍基地を建設するだろうか?

この疑問に答えるため、本稿の著者たちはAidDataの新しいデータセットを用いて、2000年から2021年の間に低・中所得国で中国の国有企業によって融資され、2000年から2023年の間に実施された港湾とインフラ建設に焦点を当てた。この詳細なデータセットは、46カ国の78港湾における、123の海港プロジェクトを捕捉しており、その総額は299億ドルに達する。

私たちの分析の中心的な前提は、対外援助(foreign aid)や投資(investment)を通じて中国が港湾や関連インフラに資金を提供し建設することは、平時でも戦時でも人民解放軍海軍にとって役立つ可能性のある港湾や基地を示す1つの指標になるということである。それには理由がある。中国の法律では、名目上は民間の港湾が、必要な時には必要な分だけ、中国人民解放軍海軍に後方支援を提供することが義務付けられている。港湾の建設や拡張を通じて築かれる経済的な結びつきは永続的なものであり、その関係には長期的なライフサイクルがある。北京はまた、その支出に見合う非貨幣的債務もあると見ている。投資額が大きければ大きいほど、中国は便宜を図ってもらうための影響力を増すはずだ。

私たちのデータは、中国が陸上だけでなく海上でも超大国であり、世界の低・中所得国と並外れた結びつきがあることを明らかにしている。中国の国有銀行はモーリタニアのヌアクショット港の拡張に4億9900万ドルを貸し付けた。シエラレオネの総GDPは40億ドルの国であるが、シエラレオネのフリータウンには、7億5900万ドルの港湾融資を行っている。カリブ海にまで広がる世界的なポートフォリオである。その象徴的な足掛かりとなる場所はアンティグア・バーブーダで、2022年後半、中国の事業体が1億700万ドルを投じてセントジョンズ港の埠頭と護岸の拡張工事を完了させ、港湾を浚渫し、海岸沿いの施設を建設した。 

商業的な投資と将来の海軍基地を結びつけるのは、中国のビジネスのやり方をよく知らない人にとっては奇妙に思えるかもしれない。しかし、中国の港湾建設会社や運営会社の株式は上海証券取引所で取引されているが、一方で公的な政府機関でもある。港湾建設の大手企業としては、中国交通建設股份有限公司(China Communications Construction Company, Ltd.CCCC)がある。中国交通建設は、株式の大半が国有で、上場している多国籍エンジニアリング・建設会社である。その港湾子会社の1つが中国港湾工程有限責任公司(China Harbour Engineering Company, Ltd.CHEC)である。どちらも海外での港湾建設における主要企業である。2020年、米商務省は南シナ海の人工島建設に関与したとして中国交通建設股份有限公司に制裁を科した。

海軍基地建設の立地に関する選択肢を絞り込むために、戦略的位置、港湾の規模や水深、北京との潜在的なホスト国との関係(たとえば国連総会での投票の一致など)といった他の基準も適用した。また、入手可能な場合には、一般に公開されている衛星画像や地理空間マッピングの情報源や技術も利用した。

そこから、私たちは将来の中国人民解放軍海軍基地の候補として、最も可能性の高い8つの候補地を導き出した。それらは、 スリランカのハンバントタ、赤道ギニアのバタ、パキスタンのグワダル、カメルーンのクリビ、カンボジアのリーム、ヴァヌアツのルガンヴィル、モザンビークのナカラ、モーリタニアのヌアクショットである。

中国が資金を提供した港湾インフラと中国人民解放軍海軍基地立地の可能性が高い場所

中国の国有企業は、2000年から2021年にかけて、46カ国78港の拡張・建設プロジェクト123件に299億ドルの融資を約束している。この地図は、49の港湾について正式に承認された、活動中の、または完了したプロジェクトを示し、中国海軍基地として使用される可能性が最も高い8つの港湾の位置を強調している。

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注:地図には、資金提供の約束や中止または中断されたプロジェクトは含まれていない。ロシアのサベッタ港(ヤマル液化天然ガスプロジェクト)は除外されている。このプロジェクトは中国から推定149億ドルの資金提供を受けているが、研究者たちはサベッタ港のみに使われた金額を集計することができなかった。

西太平洋でアメリカを追い出す、あるいは包囲することは北京にとっての優先事項であり、インド洋ではアメリカ、インド、そしていわゆるクアッド同盟(Quad alliance)の他の国々への挑戦でもある。そして、ジブチもそうだが、候補の半分以上はインド太平洋を志向している。驚くべきことには、アフリカの大西洋側における、港湾を含む中国の投資の激しさである。中国の港湾業者について考えると、中国は地政学的に注目されているインド洋よりも、アフリカの大西洋側でより多くの港湾に積極的に投資していることになる。中国はモーリタニアから西アフリカを南下し、ギニア湾を経てカメルーン、アンゴラ、ガボンへと港を建設している。

 

西アフリカや中央アフリカに基地を建設することは、アデン湾での海賊対処任務で自国から遠く離れた場所で活動する方法を学んでからわずか15年しか経っていない海軍にとって、まだ外洋での足場を固めつつある大胆な試みとなる。大西洋の基地は、中国人民解放軍海軍をヨーロッパ、ジブラルタル海峡、主要な大西洋横断航路に相対的に近づけることになる。そして、大西洋へのシフトは流れに逆行することになる。アメリカはインド太平洋に執着しており、イギリスやオーストラリアとAUKUS安全保障パートナーシップを締結し、インドとの物流関係を深め、フィリピンやソロモン諸島に回帰し、パプアニューギニアと防衛協力を行っている。大西洋に中国人民解放軍海軍の基地があれば、ワシントンとブリュッセル(EU)の海軍に関する計算に狂いが生じ、計画立案者たちは図面に戻ることになるだろう。

また、中国は港湾を人里離れた場所に設置することを好んでいることを発見した。その一例が、アンゴラの飛び地であるカイオ港への北京の多額の投資である。十分な水深のある天然の港がないとか、天然資源に近いとか、単純な説明がつくこともある。しかし、ある海運会社の幹部によると、中国の事業体は過去に労働争議や市民の抗議行動、その他の混乱に港がさらされるのを見てきたため、現在ではこうした状況から距離を置くことを好むという。中国の事業体は、多数派で自由な支配権を確保できる、あるいはホスト国の世論の反発を避けられる、安全な新しい場所を好むようだ。これらは、海軍施設をどこに設置するかを決める際のセールスポイントにもなるだろう。

地図上で強調されている、中国人民解放軍海軍の基地の可能性が最も高いトップ8については以下をご覧いただきたい。

(1)ハンバントタ(スリランカ)(Hambantota, Sri Lanka

中国がハンバントタに投じた総額は20億ドル以上を超える。北京はこの施設を直接管理している。その戦略的立地、エリート層や国民の間での中国人気、国連総会での投票におけるスリランカの中国との連携も相まって、ハンバントタは将来の海軍基地の最有力候補である。

(2)バタ(赤道ギニア)(Bata, Equatorial Guinea

米国防総省の情報提供者は、バタ基地に対する中国の関心について懸念を示し、それを主要メディアが取り上げた。基地に関する北京の公式声明がないことは、必ずしも決定的なものではない。基地ができるという発表がなされる直前まで、中国はジブチに対するそのような意図について繰り返し否定していた。商業投資を入り口にして、数カ月以内に建設が始まった。政治的には、赤道ギニアは、カメルーンやトーゴと同様に、全て一族支配、権威主義政権で、長年にわたって政権を維持しており、後継者への政権移譲計画があるか、あるいはその話が持ち上がっている。2022年の『エコノミスト』誌インテリジェンス・ユニットの民主政体指数によると、3カ国とも世界の民主政体ランキングの最下位に位置している。 トーゴは130位、カメルーンは140位、赤道ギニアは158位である。

(3)グワダル(パキスタン)(Gwadar, Pakistan

中国とパキスタンの関係は、戦略的かつ経済的なものだ。パキスタンは、中国が推進する「一帯一路(Belt and Road)」インフラ計画の旗艦国であり、北京にとって最大の軍事品輸出先でもある。パキスタンでは、中国の軍艦は既に定着している。近代化する(modernize)に伴い、パキスタン海軍は中国製の武器を購入する最大の購入者となり、中国が設計した近代的な水上戦艦や潜水艦を運用している。グワダル自体はパキスタンの西の果てに位置し、ホルムズ海峡をカバーする戦略的な場所である。中国はパキスタン国民に、アメリカよりもかなり人気がある。問題を抱えているとはいえ、パキスタンは民主政治体制国家であるため、中国は海軍基地という概念に友好的な指導者を必ずしも永久に当てにすることはできない。グワダルがその大きな構成要素である「一帯一路」の主役である巨大な中国パキスタン経済回廊のパキスタンにおける運命には、多くのことがかかっているかもしれない。この経済回廊の成否は、中国人民解放軍海軍の基地受け入れに影響を与える可能性がある。

(4)クリビ(カメルーン)(Kribi, Cameroon

クリビ港は、中国の投資規模ではハンバントタ港に次ぐ。クリビ港はバタ港と最も競合しそうな港だが、両港の距離は100マイルほどしか離れていない。中国はどちらかを選ぶだろう。カメルーンの国連総会での議決と全体的な地政学的位置づけは、中国とよく一致している。その他では、アンゴラのカイオ、シエラレオネのフリータウン、コートジボワールのアビジャンが、北京の投資規模から、拠点となる可能性がある。シエラレオネの二大政党のうち、1つ(全人民評議会[All People’s Congress])は中国と密接な関係にある。政治集会では、支持者たちが「私たちは中国人だ(We are Chinese)」や「私たちは黒い中国人だ(We are black Chinese )」と叫んでいる。北京はこの国の政治生活に入り込むことに成功している。

(5)リーム(カンボジア)(Ream, Cambodia

現在までの公式投資は小規模だが、カンボジアのリームは何らかの形で中国人民解放軍海軍の施設となる可能性が非常に高い。アメリカや西側諸国はカンボジア人に人気があるが、フン・セン首相は北京にとっての長年の盟友である。フン・センは中国にとって重要な存在である。フン・セン首相は2023年8月に退陣し、息子の後任が予定されているが、今後もフン・セン首相が主導権を握り続けると見られている。カンボジアのエリートたちは、一帯一路構想のもとでうまくやっており、中国と緊密に連携している。2020年、カンボジアの国連総会での投票は中国と同じで、その年の争点となった100票のうちわずか19票で、イラン、キューバ、シリアよりもわずかに高い割合でアメリカと一致した。フン・センは、リームが近いうちに中国人民解放軍海軍を迎えることはないと否定しているが、証拠はそうでないことを示している。

(6)ルガンヴィル(ヴァヌアツ)(Luganville, Vanuatu

北京は何十年もかけて、自国を取り囲む第一列島線を割ろうとしてきた。中国人民解放軍海軍の基地は、おそらくそれほど大きくはないだろうが、南太平洋か中央太平洋のどこかに行かれることが理にかなっている。私たちのデータでは、この地域の港湾インフラへの中国の投資は限られているが、ヴァヌアツではエスピリトゥ・サント島のルガンヴィル港に中国から建設資金が投入されている。9700万ドルの投資は、私たちのデータによれば、ヴァヌアツの世界的な投資額のトップ30に入るもので、決して小さいものではない。そして前例もある。第二次世界大戦中、この戦略的立地にある島には、太平洋で最大級の米海軍の前進基地と修理施設があった。ルガンヴィル港前のセゴンド運河は、船団、浮体式乾ドック、航空基地、補給基地が置かれた、巨大で保護された停泊地(sheltered anchorage)だった。

(7)ナカラ(モザンビーク)(Nacala, Mozambique

モザンビークにおける中国の港湾投資は、他の地域ほど大規模なものではないが、取るに足らないものでもない。モザンビークはまた、ケニアやタンザニアといった東アフリカや南部アフリカの他の国々で見られるような、中国の融資や投資に対する反発も見られない。中国はエリート層にも一般市民にも人気があり、モザンビークのメディア・コンテンツのかなりの部分を中国が後援している。問題は、どこに基地を置くかだ。マプトは最大の港だが、モザンビーク政府とドバイ・ポーツ・ワールドが運営している。中国は、ベイラとナカラの両港の建設や拡張に資金を提供しており、両港は投資総額でトップ20に入っている。ベイラは定期的な浚渫(regular dredging)が必要なため、大型軍艦には浅すぎるだろう。ナカラは最も理にかなった港湾であり、中国による多額の投資が行われており、水深の深い港湾である。

(8)ヌアクショット(モーリタニア)(Nouakchott, Mauritania

モーリタニアは、西アフリカと中央アフリカの中国人民解放軍海軍オプションの渋滞から外れている。例えば、ヌアクショットはバタから2000マイル以上北西にある。西アフリカの国はまた、ヨーロッパとジブラルタル海峡のような隘路にもかなり近い。2020年の国連人権理事会の公聴会では、中国の香港に対する新しい安全保障法について、アンティグア・バーブーダ、カンボジア、カメルーン、赤道ギニア、モザンビーク、パキスタン、シエラレオネ、スリランカ、モーリタニアを含む53カ国が中国を支持した。

特別参加枠(Wild Card):ロシアか?

中国は発展途上国に資金を費やしているが、ロシア海軍の基地に艦隊を駐留させることで、先進国に近い地域に基地を確保することも可能だ。中国の視点からは、明らかなプラス面がある。アメリカとヨーロッパが脅威であるとロシアの指導部を説得する必要がなく、ロシアを誘い出すためのアメリカの魅力攻勢(charm offensive)の危険性もほとんどない。

ロシアは広大な国土全体に海軍基地を有しており、その多くは冷戦時代の遺産である。中国人民解放軍海軍の計画立案者たちにとって魅力的なのは、北太平洋にある基地だろう。そのような施設、例えばカムチャッカ半島のヴィリュチンスクにある既存のロシア軍基地は、安全で、人目に触れることがなく、既存の軍艦の停泊・修理施設を利用でき、中国人民解放軍海軍をアメリカの同盟国である日本とアラスカの間に置くメリットがある。2021年と2022年の両年、中国人民解放軍海軍とロシア海軍は、東シナ海と西太平洋で、日本の主要な島々の周回を含む大規模な合同演習を行った。中国はまた、ノルウェーとロシアの北岸に位置するバレンツ海や、バレンツ海沖の天然の港であるコラ湾でロシア海軍と施設を共有し、北大西洋へのアクセスを提供する可能性もある。

※ロリー・フェドロチコとサリーナ・パターソンがこの記事の作成に貢献した。

※アレクサンダー・ウーリー:ジャーナリスト、元イギリス海軍将校。

※シェン・ジャン:AidData中国発展資金プログラム研究アナリスト。このプログラムで彼は過少申告されている資金の流れを追跡し、地政学上のデータ収集を主導している。中国国際発展に関するAidDataのレポート「一帯一路の資金」の共著者である。

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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古村治彦です。

以下は、読売新聞オンラインの記事で、その内容は高級ブランド品が高値で取引されているという内容だ。その代表例として、エルメスのバーキンバッグが最初に紹介されている。バーキンバッグは、今年7月に76歳で亡くなったモデル・映画女優・歌手として活躍したジェーン・バーキンの名前からとられている。ジェーン・バーキンの偉大さについては、副島隆彦先生の重たい掲示板の文章を是非読んでください。
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※「[3564]ジェーン・バーキンの死(76歳)から思うこと。投稿者:副島隆彦 投稿日:2023-07-23 20:14:35」↓

http://www.snsi.jp/bbs/page/1/

 バーキンが亡くなったということも理由としてあるだろうが、バーキンバッグの中古品の値段が高騰しているということだ。以下に貼り付ける読売新聞の記事によると、中古品で新品の定価(約150万円)の倍の340万円になっているということだ。凄まじいのは、人気のタイプのバーキンバッグは新品の定価が約500万なのに、その6倍の3000万円になって、それが売れたということだ。購入したのは、中国人夫婦だったということだが、この夫婦はいつも出物、掘り出し物を探していて、色々な店に連絡をつけて、お目当ての品物が出たらすぐに買うということをしているのだろうと私は考える。高々と書くと失礼だが、バッグ1つが3000万円というのは想像を絶する世界だ。今、金価格が1グラム9800円だから、約1万円と考えると、3000グラム、3キロと同等、金の延べ棒(1キロ)3本分と考えると何なんだということになる。

 「プレミアム価格」という値段が付く高級ブランド品の存在については、これらがお金に換えられるという点が重要なのだろう。高級時計のロレックスや希少価値の高いナイキのスニーカーも含めて、これらは実物資産ということになる。高級ワインや絵画もそうだ。芸能人、特に急に売れたお笑い芸人が高級時計や高級車を先輩から買うようにアドヴァイスをされて、その理由を質問したところ、「お前が売れなくなったら、それを売って金に換えて当座を凌ぐんだよ」と言われたと話していた。芸能人は見栄の世界と言われ、皆が高級な洋服や装飾品をつけて、高級車を乗り回しているが、これは顕示欲もあるだろうが、浮き草稼業で将来はどうなるか分からないということに備えての防衛の面もあるのだろうと納得した話だった。高級ブランド品はそれくらいの価値があるものなのだ。

 「高級ブランド品なんて金持ちの道楽で、貧乏人に見せつけるための飾りなんだろう」と私は思っていたが、実は実物資産としての価値があるという面を気づかせてくれる記事だった。

(貼り付けはじめ)

〇「バーキン中古バッグ、定価6倍の3200万円…高級品「プレ値」でも引く手あまた」

8/10() 5:02配信

読売新聞オンライン

https://news.yahoo.co.jp/articles/c4667a938ffd3b936efbdaff742c690accbb2a19?page=1

[値段の真相 シン中古市場]<3>

 中古市場では、新品での販売価格を大幅に上回る値段を「プレミアム価格」や「プレ値」と呼ぶ。その代表格が高級ブランドの中古品だ。

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【図】一目でわかる…ロレックスの人気モデル「デイトナ」の価格、このように推移している

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一時、3200万円で売られていた「バーキン」の希少価値が高いモデル(東京・銀座で)=小林泰明撮影

 中古ブランド品流通大手、コメ兵銀座店では、200万円台後半から300万円台のエルメスの人気バッグ「バーキン」が2日に1個のペースで売れる。バーキンの定番モデルの定価は約150万円だが、今年4月の平均価格は340万円近くに達した。担当者は「プレミアム価格でも欲しいという顧客はたくさんいる」と言う。

 バーキンの中でも希少価値が高い限定モデルに至っては一時、定価(約490万円)の6倍を超える3200万円の値札がついた。その後、3000万円弱に価格が変更されたが、今月4日に中国人夫婦が購入したという。

 新品より中古の方がはるかに高い価格の逆転現象は、なぜ起きるのか。

 バーキンはもともと生産数が少ないことで知られる。人気のある色やサイズを正規店で購入するのは極めて難しいとされ、中古品でも欲しがる人は多くいる。そもそも需要と供給のバランスがとれていない。

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(写真:読売新聞)

 2020年以降はコロナ禍も重なった。生産が滞って新品の供給が不安定になる一方、市場で数少ないバーキンに多くの購入希望者が群がった。国内外の富裕層が旅行に行けなくなった分、高額品にお金を使うようになったことも、値上がりに拍車をかけた。

 中古市場に詳しい専門紙・リサイクル通信の瀬川淳司編集長は中古品の価格が高騰する条件について、「希少性、話題性、国際性」の3点を挙げる。

 価格は需要と供給で決まる。そのため市場に出回る数が限られる場合、必然的に「希少性」が高まり、需要に応じて値上がりする。

 SNSで高い発信力を持つインフルエンサーらが商品を使うことで「話題性」を集めれば集めるほど、需要が高まり、価格が上昇する。

 商品が海外も含めて売買されると、海外の富裕層が高い価格で買う機会も増える。商品の市場に「国際性」があれば価格はつり上がりやすい。バーキンは3条件を満たした代表的な「プレ値」商品と言える。

 ここでは価格が上がれば需要が減るという一般的な法則は、働かない。

●ロレックス、投資マネーの行き先にも

 投資マネーの行き先になっている高級ブランド品もある。

 ロレックスの高級腕時計は世界的に人気が高いが、流通量は少ない。人気モデルを定価で手に入れるには、複数の正規販売店に長期間、通い続ける必要があるという。マラソンのように店を巡ることから、ファンの間では「ロレックスマラソン」という言葉まである。

 新品どころか、中古品でも高値で取引され、さらに値上がりも見込める。ロレックスの一部のモデルは利用目的というより、売買によってもうけようとする投資家をひきつける。

 コメ兵によると、ロレックスの人気モデル「デイトナ」は、コロナ禍を受けて生産が減り、供給不足から値上がりするとみた投資家の購入が広がり、中古価格が高騰。定価約180万円のモデルの平均価格は22年春に590万円を超えた。

 その後、ロシアのウクライナ侵略で世界経済の先行きに不透明感が高まると、より安全な資産と目される金に資金を振り向ける動きが強まった。デイトナの価格は下落し、500万円を割り込んだ。

 投資対象と化したロレックスの相場は、世界情勢に合わせて揺れ動く。

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ナイキ中古スニーカー50万円(写真:読売新聞)

●「プレ値」がつくのは、高級ブランドに限った話ではない。

 都内のスニーカー専門店は2017年に約2万円で限定販売されたナイキの中古スニーカーを50万円で売る=写真=。「日本国内では1店舗でしか販売されず、非常に希少性が高い」(関係者)ことが高値の理由という。

 スニーカーはもともと愛好家の間で高値で取引されていたが、近年は値上がりに拍車がかかっている。中古スニーカーを簡単に売買できる海外のアプリが普及し、市場が世界に広がり、高値で買う人を見つけやすくなったことが大きいと言われる。

 「プレ値」の波は、世界規模で押し寄せ、中古市場の価格変動の振幅もまた大きくなっている。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 2022年2月24日にウクライナ戦争が始まって約1年半が経過した。ウクライナ政府は今年の春頃に春季大攻勢(Spring Offensive)をかけてロシアに大打撃を与えると内外に宣伝していた。春が終わり、暑い夏がやってきても(ヨーロッパ各国でも気温40度に達している)、戦争は膠着状態に陥っている。春季大攻勢は宣伝倒れに終わってしまったようだ。西側諸国もこれまで支援を続けているが、現状維持が精いっぱいというところだ。
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NATO加盟国地図

 ウクライナは戦争が始まる前からEUNATOへの参加を熱望してきた。NATO加盟諸国、特にアメリカが軍事支援を強化していたが、ウクライナのNATO加盟に消極的であった。それはウクライナがNATOに加盟し、その後に外国から攻撃を受けたら、NATO加盟諸国は自分たちが攻撃を受けたと見なし、即座に軍事行動を起こさねばならないからだ。ウクライナの仮想敵国はロシアであり、もし2022年のウクライナ戦争前にウクライナがNATOに入っていたら、ウクライナ戦争はロシア対NATOの全面戦争となっていたところだ。アメリカはウクライナへの軍事支援を強めながら、NATO加盟は認めないという、ウクライナもロシアもいたぶるような状態を長く続けていた。アメリカの火遊びが過ぎたのが現状である。

 ウクライナのNATO加盟に関しては、一時期、トルコがスウェーデンとの関係が悪化していたために、反対の姿勢を示していたが(全会一致が原則)、それが解消された。しかし、NATOは様々な条件を付け、更に時期も明確にしないという形で、ウクライナの加盟を保留している。ウクライナ戦争が終わっても、ウクライナがNATOに加盟できるかは不透明だが、ロシアの断固とした姿勢を前にして、NATO加盟諸国は躊躇している。
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EU加盟国地図

 ウクライナのEU加盟も難航している。こちらは軍事同盟という訳でもないし、「ウクライナをEU経済圏に入れてやればよいではないか」と多くの人たちが思っていることだろう。何よりもロシアのウラジーミル・プーティン大統領さえも、「EUは軍事同盟ではないから、ウクライナが加盟しても良い」と述べているほどだ。しかし、EU加盟も又厳しい状況だ。ウクライナは長年にわたり、EU加盟申請を行ってきたが、加盟候補国にすらなれない状況だった。経済状況、民主政治体制の状況、汚職の状況などでEU側が加盟を断ってきた。今回のウクライナ戦争を受けて、EUはやっとウクライナを加盟候補国として認めた。

 ウクライナのEU加盟のハードルになるのは、まず旺盛な農業生産力、特に小麦の生産力だ。ウクライナの安価な小麦がEU市場に流れ出れば、他のEU諸国の農業を破壊することになる。現在でも補助金頼みのEU各国の農業が壊滅することになる。しかも、ウクライナは経済力自体が低いために、EUから補助金を受けられる立場になる。これでは他の貧しい国々にとっては踏んだり蹴ったりだ。

 ウクライナ自体は国土も大きく、軍事力も戦争を経て強大なものとなる。そうした国が新たにEUに加盟することは、東ヨーロッパや中央ヨーロッパの国際関係に変化をもたらすことになる。東ヨーロッパの大国はポーランドであり、ポーランドがウクライナを取り込んで、反ロシアでタッグを組み、東ヨーロッパで影響力を持つと、EU自体とロシアとの間の関係の悪化にもつながる。また、他の国々は、ウクライナが入ることでの発言力の低下を懸念している。しかし、実質的には28カ国の加盟国があっても発言力があるのはドイツとフランスくらいのものではあるが。ウクライナが加盟することで支出する圃場金をどうするかということをまだ多少豊かな国々で話さねばならないが、ウクライナのような貧しい国が加盟するのは迷惑なことというのが本音である。
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 EU諸国はウクライナが加盟することでのデメリットを考え、二の足を踏んでいるが、言葉だけは立派だ。ウクライナ戦争が終わって、事態が落ち着いたら、「そんな話ありましたか?」ととぼけて知らんぷりをするだろう。その時になって、ウクライナは西側諸国、アメリカとヨーロッパに騙された、いいように弄ばれたということに気づくだろう。西側とロシアの間に会って、中立を保ちながら、うまくその状況を利用するということができなかったのは残念なことだ。日本も同様の状況に置かれている。調子に乗って、小型犬が吠え散らかすように虚勢を張って「中国と戦う覚悟を持って」などと平和ボケして叫んでいると大変な目に遭うだろう。後悔先に立たず、だ。

(貼り付けはじめ)

EUはウクライナ参加の準備ができていない(The EU Isn’t Ready for Ukraine to Join

―キエフのNATOへの途が困難であると考えるならば、EU加盟への苦闘を目撃するまでその判断を待つべきだ。

イルク・トイロイジャー、マックス・バーグマン筆

2023年7月17日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2023/07/17/ukraine-eu-european-union-nato-membership-reform-subsidies-budget-reconstruction-agriculture-war-russia/?tpcc=recirc_trending062921

ウクライナはNATOEUの両方に加盟するための待機室にいる。リトアニアのヴィリニュスで開催されたNATO首脳会議は先週、「条件が整えば(considerations are met)」、将来的に同盟に加盟するという漠然とした声明を出しただけで終わり、キエフは失望した。

しかし、少なくともNATOは、同盟諸国間にまだ克服すべき障害があることを正直に示している。これは、EUとそのウクライナ加盟に関するメッセージとは対照的だ。ウクライナのNATO加盟が難航していると考えるならば、ウクライナのEU加盟が真剣に検討される際に何が起きるかがはっきりするまで、その判断を待った方が良い。

ブリュッセル(EU本部)は、ウクライナのEU加盟後の将来について大袈裟な言い回しを使い、キエフのEU加盟があたかも決定事項であるかのように語っている。2月にウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領がブリュッセルを訪問した際、EU首脳たちは戦時中の指導者との記念撮影のために互いに肘がくっつき合うほどに近づいた。シャルル・ミシェルヨーロッパ理事会議長は、ツイートでゼレンスキー大統領に挨拶を送った。その文言は、「お帰りなさい、EUへようこそ」というものだった。

ウクライナとの間でEU加盟について詳細な議論がなされる際に、焦点となるのは、加盟のためにウクライナが何をなすべきなのかということである。戦争によって深く団結したウクライナの人々は、EU加盟に必要な新しい法律の採択や規制の実施など、自分たちの役割を果たすために前進している。ウクライナ人は、司法改革から新しいメディア法の策定、汚職の取り締まりまで、EU加盟のための長い「やることリスト」のチェック済み項目をどんどん増やしている。

ウクライナはモルドヴァと共に、2022年6月にEU加盟候補国(EU candidate)の地位を獲得し、他の加盟待機国が何年もかかっていた複雑なプロセス(byzantine process)を大幅に短縮した。キエフは2023年10月に欧州委員会から最初の書面による進捗評価を受ける予定だ。この勢いを維持するため、ウクライナ政府関係者は年内にも加盟交渉を正式に開始するよう働きかけている。

EUの予算と再分配のプロセスに変更がなければ、あっという間に、キエフはEU予算の膨大な部分を吸い上げることになるだろう。

しかし、ウクライナがEU加盟に向けて急ピッチで取り組んでいる一方で、ブリュッセルとEU加盟諸国はウクライナを吸収するための準備をほとんど整えていない。そのため、ウクライナの加盟に関するEU首脳の大袈裟な美辞麗句は、彼らの行動と一致していない。戦禍に見舞われたウクライナのような規模、人口、低い所得水準、資金調達、復興ニーズを持つ国を吸収するには、EUの制度、政策、予算プロセスの大改革が必要だ。少なくとも、EU資金の分配をめぐって現加盟諸国間で厳しく悪意に満ちた対立を引き起こすだろう。

従って、EU首脳たちが真剣にウクライナの加盟を考えているのであれば、EU改革への取り組みは既に始まっているはずである。この問題の核心はEU予算である。EU予算は、農業補助金と貧困地域への開発プロジェクトという2つの大きな要素に支配されており、これらを合わせるとEUの長期予算の約65%を占める。この2つの問題を考えると、ウクライナの加盟は爆発的なインパクトとなる。ウクライナはヨーロッパで最も貧しい国の一つであり、一人当たりの所得はEU平均の10分の1、EU最貧国のブルガリアの半分以下である。また、ウクライナは現在、膨大なインフラ整備と復興のニーズを抱えている。これに、EUの補助金の対象となる大陸最大級の農業部門が加わる。

もしEUの予算と再分配のプロセスに変更がなければ、キエフはEU予算の膨大な部分を即座に吸い上げることになる。現在、それらの資金は東ヨーロッパをはじめとするあまり豊かではない加盟諸国に流れている。現在EU資金の恩恵を受けている国々の多くは、一夜にして純支出国に転落するだろう。このようなことがスムーズに進むと思うのであれば、あなたはヨーロッパの政治についてよく知らないということになる。

現在のEU内の資金再配分を考えれば、ウクライナの加盟支持に大きな亀裂が入ったのは、EU内部の純資金受給国が集中する東ヨーロッパで起きたことは不思議ではない。実際、ウクライナのヨーロッパ農産物市場へのアクセスをめぐる争いは、EUの農業補助金が再配分されるずっと前からすでに始まっている。ロシアの侵攻後、ブリュッセルはウクライナの穀物やその他の農産物のEU単一市場への参入を認め、ウクライナを支援した。安いウクライナ産品は、ウクライナ周辺のポーランド、ハンガリー、スロヴァキアの農民たちの収入を減少させることになった。ウクライナが収入を得るために必死だったにもかかわらず、ポーランドはEUの規則に違反し、ウクライナの穀物がポーランド領内に入るのを一方的に阻止した。EUは妥協案を提示し、ウクライナの農産物のEU入りを認めたが、歓迎されない競争の影響を最も受ける東ヨーロッパ5カ国を迂回することを義務付けた。

また、ウクライナの最大の軍事的・外交的支援国であるこれら東ヨーロッパ諸国の一部が、ウクライナのEU加盟の前提となるEU改革に真剣に取り組むことに反対しているのも驚くべきことではない。これらの国々は、多額の資金を失う可能性があるだけでなく、ウクライナの加盟に向けたEU改革には、EUの意思決定ルールの合理化も含まれる可能性が高く、個々の加盟国、特にハンガリーやポーランドのようにEUの決定に影響を与えるために拒否権を自由に行使してきた国の力が低下する可能性もある。

EU拡大は、歴史上最も成功した政治的、経済的、社会的政策の1つであり、EUを平和的に拡大し、27カ国、4億5000万人を含むまでになった。新規加盟国にとって、EUへの加盟はしばしば経済的な奇跡をもたらす。市場アクセス、EUからの資金提供、より良い統治に関するEUの規則、そして確かな未来を手に入れることでもたらされる自信などである。しかし、過去10年間、更なる拡大は凍結されてきた。その主な理由は、新規加盟国(通常は貧困国)の加盟に伴う再分配が、政治的に非常に困難だったからである。

2022年2月28日、ロシアの侵攻が始まってわずか4日後にゼレンスキーがEU加盟の正式な申請書を提出して以来、更なる拡大の問題が再び議題に上るようになった。ウクライナとモルドヴァの加盟に加え、EUの指導者たちは、ヨーロッパの安全保障と安定を確保するためには、まだEUに加盟していない国々、特にバルカン半島西部の各国も加盟させなければならないとの認識を強めている。

ウクライナの加盟がEU予算に与える爆発的な影響は、EUが財政連合(fiscal union)を結ぶという議論を迫ることになるだろう。言い換えると、ドイツやフランス、一部の小金持ち国家など、より裕福な加盟国による拠出金の大幅な増加、EU全体の所得税やその他の累進課税、EU独自の債務発行能力の大幅な増加、あるいは上記の全ての実施を意味する。明らかに、これは小さな議論ではない。

また、EUの更なる拡大は、既にハンディキャップを負っているEUの意思決定能力や新しい法律や政策の採択能力にも負担をかけるだろう。例えば、外交政策で必要とされる全会一致を27の主権国家(sovereign member states)の間で達成することは既に至難の業であり、ハンガリーのような非自由主義的でロシアに友好的な国家の存在によって更に複雑になっている。ウクライナや他の加盟を辛抱強く待っている国々が加われば、EUの加盟国は30カ国をはるかに超えるだろう。加盟国が拒否権を武器にしてきた長い歴史があり、他の加盟国がEUの機能を変えることなく意思決定の場に国を増やすことをためらう理由もそこにある。

例えば、ドイツは、外交政策など新たな政策分野への特定多数決方式(qualified majority)の拡大を推進している。全会一致を必要としなくなれば、EUの外交政策決定能力は大幅に効率化される。小国は、拒否権を失うことはEUにおける発言力を失うことになると懸念しているが、これは憲政史を学んだ人なら誰でも知っている議論である。この他、ヨーロッパ委員会の委員(現在は加盟国1カ国につき1人)やヨーロッパ議会の議席の配分に関する懸念もある。EUの拡大は、これらの分野でも改革を必要とするだろう。

EU拡大は、法の支配(rule of law)と民主政治体制(democracy)という未解決の問題にもスポットを当てることになる。EUは自らを民主政体国家の連合体として定義し、市民的権利に関する厳格な規則を定めているが、ハンガリーやポーランドにおける民主主義の衰退や法の支配の後退には深い懸念がある。特に西ヨーロッパ各国政府は、民主政治体制の衰退に対抗するEUの行動力を強化することなしにEUを拡大することに強い警戒感を抱いている。この懸念は、フリーダムハウスが発表した2023年の「世界の自由度」指数で、候補リストに完全に自由と評価された国が1つもないことから、特に深刻である。

ウクライナは、新たなEU拡大の波を起こすきっかけになるかもしれない。EU加盟には改革が必要であり、その改革はバルカン半島西部の各国の加盟を同様に妨げてきた障害の多くを取り除くことになる。ロシアによるウクライナへの残忍な攻撃は、EUが安全保障にとって不可欠な存在であることをヨーロッパの人々に示すことで、別の意味で既にEUの起爆剤となっている。国防に関する調査では、ヨーロッパの人々はEUがより大きな役割を果たすことを望んでいる。決定的に重要なのは、EU加盟各国市民のウクライナ支持率が信じられないほど高いままであることだ。ユーロバロメーターの世論調査によれば、制裁措置、数百万人の難民、エネルギーの切り離し、生活費の危機が1年続いた後でも、EU各国市民の74%がEUのウクライナ支援を支持している。

ウクライナ人はヨーロッパの未来のために戦っている。EUの指導者たちは今、ウクライナを加盟させる準備のために自らの役割を果たす必要がある。ウクライナの加盟を成功させるために必要なEUの制度やプロセスについて、長年の懸案であった改革を進めれば、EUの規模が拡大するだけではない。EUはより強くなる。

※イルク・トイロイジャー:戦略国際問題研究所ヨーロッパ・ロシア・ユーラシア研究プログラム上級研究員、カルロス三世大学講師。ツイッターアカウント: @IlkeToygur

※マックス・バーグマン:戦略国際問題研究所(Center for Strategic and International StudiesCSIS)ヨーロッパ・大西洋・北ヨーロッパ研究センター部長、ヨーロッパ・ロシア・ユーラシア研究プログラム担当部長。米国務省上級顧問を務めた経験を持つ。ツイッターアカウント:@maxbergmann
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