古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

2023年09月

 古村治彦です。

 米中両国の貿易戦争という言葉は、ドナルド・トランプ大統領時代から使われている。お互いの輸出入に対して高関税をかけるということをやり合った。今回ご紹介するのは、米中経済戦争(economic war)についての記事だ。経済戦争とは、多くの産業分野で、敵対国に勝つ、市場のシェアを奪い、技術で優位に立つために戦いを仕掛けるということだ。現在、米中間では経済戦争が起きており、中国側が有利だというのが下の記事の筆者の分析だ。中国は経済戦争に勝つために、産業政策(Industrial Policy)を実施し、成功している。産業政策の本家本元は日本である。産業政策を世に知らしめたのは故チャルマーズ・ジョンソンの著書『通産省と日本の奇跡』である。日本はアメリカの属国であったため、日米間の戦いは、最初からアメリカの勝利と決まっていたが、中国は大胆に勝負を仕掛け、状況を有利に動かしている。

以下の記事で重要なのは、次の記述だ。

(貼り付けはじめ)

中国はアメリカの技術や産業能力に対して大規模な正面攻撃を仕掛けてきている。2006年に発表された「科学技術発展のための国家中・長期計画(National Medium- and Long-Term Plan for the Development of Science and Technology)」は、この対立における最初の攻撃と考えることができ、2015年には習近平の「メイド・イン・チャイナ2025(Made in China 2025、中国製造2025)」戦略がそれに続く。どちらも中国が自給自足(self-sufficiency)を目指す重要技術を特定し、主要産業における外国企業の市場参入制限、広範な知的財産の盗用、技術移転の強制、中国企業への巨額の補助金などを背景としている。後者の文書では、主要産業における中国の市場占有率の数値目標も追加された。
=====
 しかし、通信機器、高速鉄道、建設機械、航空宇宙、半導体、バイオテクノロジー、クリーンエネルギー、自動車、コンピュータ、人工知能など、中国の国内先端産業の育成に用いられる巨額の補助金やその他の不公正な慣行は、比較優位とは無関係だ。自国企業を強化し、外国企業の競争力を削ぐという、産業分野における破壊的侵略(industrial predation)による支配欲が反映されているのである。1995年から2018年にかけて、中国とアメリカが先進産業で占める世界生産のそれぞれのシェアの変化には強い負の相関があるのはこのためだ。言い換えると、アメリカがシェアを失った産業で、中国がシェアを獲得したということだ。
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アメリカの産業戦略が首尾一貫していない主な理由の一つは、戦略を策定し、全ての政府機関がそれに沿うようにすることを仕事とする主体が存在しないことである。このような戦略は、中央集権化され(centralized)、大統領の権限に裏打ちされたものでなければならない。そして適切な資金を提供する必要がある。共和制の擁護者が軍事防衛予算の増額を求めるのは当然だが、アメリカは経済防衛予算の増額も必要としている。

(貼り付け終わり)

 簡単に言うならば、中国は特定の産業分野に資源、資金、人材を集中させるための産業政策を実行した。その分野とは、「通信機器、高速鉄道、建設機械、航空宇宙、半導体、バイオテクノロジー、クリーンエネルギー、自動車、コンピュータ、人工知能」といった最先端産業である。これらの産業分野でアメリカに勝つために、官民協調、一丸となって戦う、そのために政府は目標を設定し、それに誘導するために関税や補助金などを利用するという、「産業政策」を実施している。そして、それが成功しつつある。

中国は、電気自動車やスマートフォンの分野で国産化に成功し、市場シェアを拡大させている。「国産化」が重要なのは、重要な部品を外国に頼っている場合、経済制裁などが行われると、その製品が作れなくなるが、国産化はその危険を回避できるということになる。米中間に当てはめると、スマートフォンの重要なチップをアメリカ製に頼っていては、中国は経済制裁などの不安を抱えたままになる。また、アメリカはチップの供給を止めることができるという優位な立場に立つ。しかし、中国が国産化に成功すれば、アメリカはその優位を失う。これは経済戦争において重要な要素となる。

バイデン政権は遅ればせながら、産業政策を実施しようとしている。しかし、状況を好転させるのはなかなかに難しい。

(貼り付けはじめ)

米中経済戦争を如何にして勝つか(How to Win the U.S.-China Economic War

-最初のステップは経済戦争をきちんと定義することだ

ロバート・D・アトキンソン筆

2022年11月8日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/11/08/us-china-economic-war-trade-industry-innovation-production-competition-biden/?tpcc=recirc062921

中国が単なる軍事的敵対者ではなく、経済的敵対者であることが、アメリカに明らかになりつつある。中国が先端産業において得た経済的利益の多くは、アメリカが失ったものであり、その逆もまた然りで、両国は技術革新と生産能力の両方において優位性を求めて争っている。この傾向は今後も続くと思われる。中国の習近平国家主席は昨年(2021年)、「技術革新が世界の主戦場となり、技術優位の競争はかつてないほど激しくなるだろう」と述べ、このことを認めている。

経済戦争(economic war)は、経済競争(economic competition)とは別物だ。例えば、カナダとアメリカは経済的に競争しているが、両国とも貿易は互いに有益な比較優位(comparative advantage)に基づいて行われることを理解している。これとは対照的に、中国はアメリカの技術や産業能力に対して大規模な正面攻撃を仕掛けてきている。2006年に発表された「科学技術発展のための国家中・長期計画(National Medium- and Long-Term Plan for the Development of Science and Technology)」は、この対立における最初の攻撃と考えることができ、2015年には習近平の「メイド・イン・チャイナ2025(Made in China 2025、中国製造2025)」戦略がそれに続く。どちらも中国が自給自足(self-sufficiency)を目指す重要技術を特定し、主要産業における外国企業の市場参入制限、広範な知的財産の盗用、技術移転の強制、中国企業への巨額の補助金などを背景としている。後者の文書では、主要産業における中国の市場占有率の数値目標も追加された。

経済戦争は前例がないということではない。1900年から1945年まで、ドイツは様々な不公正な貿易慣行を用いて世界的に経済的、政治的な力を獲得し、最終的には軍事力のために利用した。しかし、北京は経済戦争を別の次元に引き上げた。中国の長年にわたる、そして増大する攻撃は、競争相手を潰し、アメリカを経済的な属国(economic vassal state)とすることを目的としている。

ドナルド・トランプ前米大統領の貿易戦争は、アメリカの産業・技術力に対する中国の長年の攻撃に対する反応であった(不十分な表現ではあったが)。当時、ワシントンの専門家たちの多くは、アメリカが本格的な経済戦争に突入したという認識ではなく、トランプの保護主義的な傾向によるものと考えていた。中国の経済侵略の意図と程度が広く理解されるようになったのは、ここ数年のことだ。ジョー・バイデン米大統領が中国への先端チップや半導体装置の輸出を新たに禁止したのは、バイデンと政権内の一部の人々がそれに気づいた証拠だ。

バイデンの禁止令にもかかわらず、アメリカは中国との長期的な経済戦争への備えがほとんどないままである。北京の技術革新重商主義施策(innovation-mercantilist practices)は、世界貿易機関(World Trade OrganizationWTO)が違法と見なす戦術を用いて、先端産業の生産高の大きなシェアを獲得しようとするもので、他国の産業政策(industrial policies)をはるかに超えるものである。それを無視して、中国が軌道修正すると信じたり、アメリカの多くの政策立案者たちのように、中国は民主的で自由な市場でない、あるいは高齢化が進んでいるため成功できないと思い込んだりするのは、砂の中に頭を突っ込んで最善の結果を望むのと同じことだ。賭け金は大きい。戦争に勝てば、国内の賃金や競争力を高め、経済や国家の安全保障を向上させることができる。しかし、負ければその反対となる。

アメリカの国家安全保障分野のエリートたちは、軍事戦争に対する計画を真剣に捉えている。戦争ゲームの演習や米国防総省の支援に多大な資源を費やしている。戦闘を研究するために、数多くの戦争専門大学を設立している。戦争のあらゆる側面について助言するために、数え切れないほどのコンサルタントたちを雇っている。過去の紛争から学ぶために歴史学者を雇う。そして、連邦政府内の各機関と連携する。このような動きをしている。

このようなシステムは、経済戦争にはほとんど存在しない。計画もない。評価もない。戦略もない。経済安全保障システムもない。せいぜい、個々のプログラムやイニシアチヴがあるだけで、政府全体の戦略やシステムを構成することはできない。台湾への侵攻がないこともあり、ワシントンを眠りから覚ますような、中国の大規模な経済攻撃はないだろうと人々は考えている。

ワシントンの政界関係者のほとんどは、少なくともまだ、北京との経済関係を勝ち負けで考えてはいない。政策立案者たちは、外国の敵がアメリカの国家安全保障上の重要な利益を攻撃する可能性があることは理解しているが、アメリカの経済上の重要な利益に関しても同じことが言えるということはあまり認めたくないようだ。実際、経済アドバイザーのほとんどは、貿易が相互に利益をもたらすという比較優位(comparative advantage)の概念をいまだに提唱している。例えば、アメリカは旅客機の製造が得意で、中国は5G機器の製造に長けているといった具合だ。

しかし、通信機器、高速鉄道、建設機械、航空宇宙、半導体、バイオテクノロジー、クリーンエネルギー、自動車、コンピュータ、人工知能など、中国の国内先端産業の育成に用いられる巨額の補助金やその他の不公正な慣行は、比較優位とは無関係だ。自国企業を強化し、外国企業の競争力を削ぐという、産業分野における破壊的侵略(industrial predation)による支配欲が反映されているのである。1995年から2018年にかけて、中国とアメリカが先進産業で占める世界生産のそれぞれのシェアの変化には強い負の相関があるのはこのためだ。言い換えると、アメリカがシェアを失った産業で、中国がシェアを獲得したということだ。

ワシントンはまた、政府の援助や戦略的指示がなくても、企業が自らの利益のために行動すれば経済厚生(economic welfare)が最大化するという自由市場の教義に固執している。しかし、経済学者アダム・スミスやフリードリヒ・ハイエクの最も熱心な信奉者でさえも、市場の力だけでは国家に必要な軍事力を生み出すことはできないと信じている。だからこそ政府が介入し、計画を立てなければならない。しかし、ワシントンの専門家の多くは、その論理を経済戦争の能力にまで広げようとしない。

確かに、経済戦争(economic war)と軍事戦争(military war)は異なる。経済戦争では直接的な死傷者はほとんど出ないが、戦闘ははるかに長期にわたって行われる。しかし、どちらの戦争も最終的には国家の自律的な存続能力(the ability of the state to exist autonomously)を脅かすことになる。

必要な戦争に対する戦略を持たないことより悪いのは、まったく戦わないことだ。ワシントンは、北京がほとんどの先端産業で世界的な主導権を獲得するのを阻止し、中国の経済的なアメリカ(および緊密な同盟諸国)への依存度を大幅に高めること(その逆ではなく)を確実にするという包括的な目標を掲げて、経済戦争を戦うことに関与する必要がある。

問題は、そのような戦略をどのように策定し、運用するかである。これまでのところ、米連邦政府は真のアメリカの経済競争力戦略を生み出すことに失敗している。アメリカの歴代政権がこのテーマについて何かを発表してきたが、それは大抵の場合、実績や有利な政策、あるいは将来の政策意図のリストでしかなかった。最近ホワイトハウスが打ち出したバイオエコノミー構想は、アメリカのバイオテクノロジー産業をいかに成長させるかを提案したものだが、競争力のある産業分析に基づいたものではなかった。また、このプログラムは、ホワイトハウス科学技術政策局が主導する、内容が狭いものだ。効果的なバイオ産業戦略、特に中国に対する戦略には、貿易政策、税制政策、規制政策、その他様々な要素を盛り込む必要がある。

アメリカの産業戦略が首尾一貫していない主な理由の一つは、戦略を策定し、全ての政府機関がそれに沿うようにすることを仕事とする主体が存在しないことである。このような戦略は、中央集権化され(centralized)、大統領の権限に裏打ちされたものでなければならない。そして適切な資金を提供する必要がある。共和制の擁護者が軍事防衛予算の増額を求めるのは当然だが、アメリカは経済防衛予算の増額も必要としている。

ワシントンが、経済戦争戦略が必要だと判断した場合、誰が経済戦争戦略を主導すべきかを最初に決めなければならない。軍事戦略を主導するのは米国防総省である。なぜなら米国防総省は軍事戦争を戦うための機関だからだ。しかし、経済戦争は多面的であるため、米商務省が単独で経済安全保障戦略を主導することはできない。

この戦線における米政府機関間の効果的な連携は、自動的に行われるとは期待できない。中国との経済戦争に勝利することがアメリカの国際経済政策の第一目標であるというコンセンサスはまだ得られておらず、様々な機関がそれぞれの狭い範囲での、時には相反する利益を推進するために行動することが多い。例えば、財務省や国務省が対中強硬策に反対し、商務省や米国防総省がそれを支持するというのはよくあることで、通常は膠着状態(stalemate)に陥る。財務省と国務省が国際協調と世界金融の調和を求めるのに対し、商務省と米国防総省は中国を弱体化させ、アメリカ企業を後押ししたいと考えているのだ。

そのため、連邦議会は、敵対者、特に中国との経済競争を管理するために、ホワイトハウス国家経済安全保障会議(White House National Economic Security Council)を設立すべきである。これは、「人工知能に関する国家安全保障委員会(National Security Commission on Artificial Intelligence)」が提案し、超党派の連邦議員グループによって連邦議会に提出された、「技術競争力評議会(Technology Competitiveness Council)」創設のアイデアと似ている。技術競争力評議会の役割は、アメリカがどのようにして中国に経済的に勝つことができるかに関する政府全体の戦略を確立し、調整し、アメリカの主要な活動全てがこの目標の達成に向けて連携できるようにすることになる。連邦議会はまた、米中経済戦争における連邦議会自身の様々な取り組みに一貫性を与えるために、「統合経済競争力委員会(Joint Economic Competitiveness Committee)」を設立すべきである。連邦議会は現在、様々な委員会や小委員会が存在しているが、これらはまったく連携していない。

一旦、政策立案者たちが、アメリカが中国と経済戦争状態にあることを受け入れ、アメリカの取り組みを指導する組織を設立することになれば、次の問題は、「それでは、戦争に勝つために一体何をすべきか」ということになる。

いかなる経済戦争戦略も、軍事戦争戦略と同様に、2つの重要な課題を包含しなければならない。1つは、敵よりも速く行動すること(running faster than the adversary)だ。この場合、主要産業におけるアメリカの競争力を高める国内政策を通じて、迅速に行動するということになる。もう1つは、アメリカの主要産業における競争力を高めることにより、敵である中国の速度を低下させることである。そのために、アメリカから得ている経済投入と、不公平な貿易慣行から利益を得ている中国企業によるアメリカ市場へのアクセスを妨げることが必要だ。

これは、税金、貿易、独占禁止法、外交と海外援助、諜報、科学技術、製造など、多くの分野で政策を見直し、修正することを意味する。言い換えれば、中国との経済戦争に勝つためには、アメリカの経済政策と外交政策のほぼ全ての部分が連携する必要があるということだ。確かに、各政府機関はそれぞれの優先政策を持っている。それらを調整するのが大統領の仕事ということになる。

例えば、アメリカの対外援助は、受け入れ国が中国側につくかどうかという点と、明らかに関係しているだろう。財務省は人民元に対するドルの価値を下げるよう促すだろう。税制政策は、貿易部門、特に先進産業の減税に重点を置くことになる。通商政策ではアメリカの先進産業の公平な扱いが優先されるだろう。独占禁止法規制当局は大企業を解体するという取り組みを放棄するだろう。科学政策は応用研究に焦点を当てることになるだろう。国務省は、中国の経済侵略に対する行動を調整するために、私が以前から主張してきた貿易のためのNATOの組織化を主導するだろう。そして諜報機関と国内法執行機関は商業諜報活動と対諜報活動を優先するだろう。

そのためには、ワシントンは人材を必要としている。国防、情報、外交政策に携わる公務員や政治任用者(political appointees)のほとんどは、これらの分野を専門とする一流大学を卒業している。しかし、現在アメリカの大学で経済戦争について教えているところはない。ワシントンは、この新興分野に特化した大学や職業訓練プログラムに資金を提供する必要がある。また、超党派の連邦上院議員グループが提案した「グローバル競争分析室(Office of Global Competition Analysis)」のような、米中両国の先端産業の強み、弱み、機会、脅威を評価する分析能力を大幅に向上させる必要がある。

最後に、政治的分裂(political divisions)を克服しなければならない。これまで連邦政府が経済戦争のために動員してきた範囲は限られているが、二大政党が優先してきた武器は異なっている。民主党は財政支出を行い、共和党は減税と規制緩和を行っている。もしアメリカの軍事政策が、一方の政党は海軍を、もう一方の政党は空軍を支持するというように二分されていたとしたらどうだろう。しかし、経済戦争に関しては、それがアメリカの現状なのだ。共和党と民主党がそれぞれの違いを脇に置き、同じ目標を抱くことで、アメリカを中国より優位に立たせることになるのだ。

※ロバート・D・アトキンソン:情報技術・革新財団創設者兼会長、ジョージタウン大学エドマンド・A・ウォルシュ記念外交学部非常勤教授。クリントン、ジョージ・W・ブッシュ、オバマ、トランプ、バイデン各政権で助言役を務め、最新刊『技術革新経済:国際的な優位のための戦い(Innovation Economics: The Race for Global Advantage)』を含む4冊の著書がある。ツイッターアカウント:@RobAtkinsonITIF

(貼り付け終わり)

(終わり)

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ビッグテック5社を解体せよ

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
20211129sankeiad505

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 古村治彦です。

 2023年9月13日、ロシアのウラジーミル・プーティン大統領と、北朝鮮の最高指導者である金正恩朝鮮労働党総書記・国務委員会委員長が、ロシア極東のボストチヌイ宇宙基地で首脳会談を行った。両国は西側世界では特に評判が悪い「ならず者国家(rouge state)」である。プーティンと金正恩は独裁者として忌み嫌われている存在だ。その2人が首脳会談を行って、西側メディアが悪口ばかりになるのは当然のことだ。

 ウクライナ戦争が2年目を迎え、戦況は膠着状態に陥っている。ロシアは、戦争の初期段階で、西側諸国からの経済制裁を受けたが、それを持ちこたえ、石油の輸出によって外貨を稼ぐことができている。それでも戦争の長期で、武器の減少が取り沙汰されている。そうした中で、金委員長をプーティンが直接出迎えて厚遇したということは、北朝鮮からの武器供与を求めてのことだろうというのが多くの人の見方だ。北朝鮮からすれば、ロシアからの技術供与や食糧支援を求めているということのようだ。

 北朝鮮とロシアの二国関係は、互恵的な関係ということが言える。お互いがお互いの望むものを持っており、それを与え合うことで、お互いが利益を得るということになる。北朝鮮とロシアの接近によって、ロシアが北朝鮮にミサイル技術や宇宙技術を供与することになれば、北朝鮮のミサイル、核兵器がより高度になり、東アジア地域における、危険が増すという考えも出てくるだろう。

 しかし、ロシアも中国もそこまで甘くはない。北朝鮮の位置を考えれば(両国と国境を接している)、北朝鮮に高度のミサイルを持たせることは、中露両国の安全保障にとっても脅威となる。特に中国の場合、黄海を超えれば、すぐに北京である。北朝鮮のミサイルがアメリカや日本を向いているうちは良いが、それがいつ北側(ロシア)や西側(中国)に向かうかは分からない。従って、致命的に重要な技術を北朝鮮に供与することはない。中露は全面的に北朝鮮を信頼してはいない。あくまで自分たちがコントロールできる範囲に置いておかねばならない。

 アメリカからすれば、北朝鮮を中露両国から引き離すということが重要だ。ドナルド・トランプ前米大統領は、前代未聞の米朝首脳会談を成功させた(2018年のシンガポール、2019年のヴェトナムの首都ハノイ)。ここで、北朝鮮の非核化の見返りとしてのアメリカからの経済支援による経済開発といった話も出ていた。しかし、ジョー・バイデン政権になってからは米朝関係には何の進展もない。トランプのような政界のアウトサイダーだからこそなしえた成果であったのだろう。北朝鮮からすれば、トランプがいなくなれば、アメリカは約束を反故にする、もしくは北朝鮮の体制転換のために北朝鮮に浸透してくるということは分かっていることであり、アメリカとの交渉にはおいそれとは乗れないということになる。

 北朝鮮は、この機会にロシアとの関係を良好なものとしておくことは、対中関係にも影響を与えるという計算もあるだろう。中露両国を両天秤にかけるということだ。北朝鮮はいつも実にしたたかだ。

(貼り付けはじめ)

プーティンと金がお互いから欲しいもの(What Putin and Kim Want From Each Other

-最近の両者による首脳会談は、ロシアと北朝鮮の関係がいかに取引的なものになっているかを示した。

アンキット・パンダ筆

2023年9月15日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2023/09/15/russia-north-korea-putin-kim-summit-diplomacy-weapons-missiles-space-cooperation-sanctions/

新型コロナウイルスの感染拡大のさなか、3年以上にわたって自主的に課した、厳しい孤立主義(isolationism)を経て、北朝鮮の指導者金正恩は今週、思い切って国境の外に飛び出した。金委員長はロシアのウラジーミル・プーティン大統領に会うため、かつて父親が好んだのと同じ装甲列車(armored train)に乗って、ロシア極東に向かった。金委員長が外国指導者と会談するのは2019年以降では初めてのこととなった。プーティン露大統領は、ホスト役を務めることで、最近のG20BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)首脳会談への欠席が象徴する、プーティン自身の外交的孤立の中で、外交分野における自身の正常なイメージを示すことができた。

プーティン大統領は、2019年に初めて会った北朝鮮の指導者である金正恩に対する親近感を示し、ロシア語で非公式に挨拶した。金委員長は、ウクライナに対するモスクワの「聖なる闘争(sacred struggle)」に対する北朝鮮の献身を告白した。両者とも西側諸国が支配する世界秩序に対して団結を示すことを目的としていたが、その戦略的一致は実際には両指導者にとって困難な状況によって引き起こされた、より取引的な論理から生じている。簡単に言えば、それぞれが相手に提供できるものがたくさんあるということだ。

金正恩とプーティンは、お互いに正確に何を求めてきたのかを胸に秘めている。典型的な首脳同士による首脳会談とは異なり、両者は協議や合意内容を示唆するいかなる種類の共同声明も発表しないことを選択した。しかし、両国間で行われている、最近の他のハイレヴェルの外交行為と同様に、両者の会談の様子は、より明白なものであった。

金委員長の訪問に先立って、ロシアのセルゲイ・ショイグ国防大臣は、兵器調達に携わる他の国防高官らに囲まれ、北朝鮮の兵器が豊富に展示されている平壌の展示場を視察した。北朝鮮が、ロシアが長年支持してきた国連安全保障理事会の支持による包括的な武器禁輸下にあるという事実は、大きな障害ではないようだ。

金・プーティン首脳会談の開催地の選定も同様に微妙だった。まず、両首脳はロシアの比較的新しいボストチヌイ宇宙基地での会談を選んだ。これは、モスクワがカザフスタンのバイコヌール宇宙基地への依存を減らすために設計されたロシア東部の宇宙基地である。ロシア国営メディアは、プーティンが、そこで会談することを決めたのは、金正恩が「ロケット技術に大きな関心を持っている」ことを認めたからだと述べ、北朝鮮の指導者は「宇宙開発を進めようとしている。だから私たちはボストチヌイ宇宙基地に来たのだ」と述べたと報じた。実際、北朝鮮は成熟した宇宙開発プログラムを開発しようとしているが、今年2度の衛星打ち上げ失敗が示すように、成長の余地がある。ロシアの宇宙打ち上げ技術の援助は、軍事偵察衛星(military reconnaissance satellites)の開発を含む平壌の軍事的近代化の野望(military modernization ambitions)の実現に大いに貢献するだろう。

しかし、北朝鮮がロシアの利益を全力で支援することで得られる恩恵は他にもある。プーティン大統領との会談後、金委員長の列車はコムソモリスク・ナ・アムーレに向けて進み、そこで金委員長はSu-35戦闘機とSu-57戦闘機を生産する工場を訪れた。これらの戦闘機は現在朝鮮人民軍空軍が利用できる旧式の機体よりもはるかに先進的なシステムだ。新しい戦闘機を調達できなくても、北朝鮮は、既存のソ連製軍用機を強化し、耐空性と信頼性を大幅に向上させるためのスペアパーツやコンポーネントの安定供給から恩恵を受ける可能性がある。

金正恩はまた、自国のミサイル計画を強化するために、ロシアのサプライヤーから調達した原材料や複合材へのアクセスも求めるだろう。北朝鮮は、ケブラーやアラミド繊維のような素材をロシアから調達し、高度なミサイルに使用するために、組織的な犯罪ネットワークに長い間依存してきた。ロシアがこのような移転を積極的に促進することは、国連制裁違反ではあるが、平壌の軍事的野望の実現を支援することになる。北朝鮮はまた、秘密裏に技術支援を求める可能性もある。国際的なルールや規範を蔑ろにするプーティン大統領によって、これまで両国間で考えられなかったような技術協力が実現可能になるかもしれない。

ミサイルや戦闘機といったハード面以外で、金正恩は、新型コロナウイルス感染拡大を通じて、北朝鮮で深刻化している栄養面の問題に対処できる食糧援助の可能性についてもプーティンに打診したようだ。このような援助は制裁に違反するものではないが、それにもかかわらず、金正恩が近年、核の近代化に巨額の資金をつぎ込みながらも公然と認めている食糧不足に対処する一助となるだろう。北朝鮮とロシアは国境と領海を接しているので、大規模輸送も容易だ。

ロシアは北朝鮮の目的に対して外交的支援を提供することもできる。北朝鮮は既に、国連安全保障理事会におけるロシアと中国の庇護からかなりの恩恵を受けている。 2019年の米朝外交の最終段階の崩壊以来、中国政府とロシア政府はいずれも新たな制裁や国連での正式な非難さえも明確に拒否している。2016年と2017年の、例外的に広範な分野別の措置に対する黙認とは全く異なり、北朝鮮を積極的に支援していることになる。昨年は、北朝鮮の大陸間弾道ミサイル実験を非難する米大統領声明を両国とも支持しなかった。

一方、今回の会談に対するロシア政府の関心は、ロシア軍が使用しているソ連時代の発射装置と逆互換性のある、北朝鮮が大量に保有している砲弾やロケット弾の弾薬にあると考えられる。昨年9月に『ニューヨーク・タイムズ』紙が取材したあるアメリカ政府の情報筋は、そのような移送はすでに行われていたと示唆したが、これはおそらく時期尚早であったと思われる。むしろ、最近相次いでいる北朝鮮とロシアの二国間外交は、こうした移転を促進することを目的としていたとみられ、ホワイトハウス報道官はショイグ防衛相の訪問後、それが「積極的に進められている(actively advancing)」と述べた。

プーティン大統領と金委員長の首脳会談で、イデオロギーを共有する姿勢を見せようとしたにもかかわらず、プーティンと金正恩は相手の要求に完全に応じるつもりはないかもしれない。例えば、北朝鮮はロシア海軍の核推進技術へのアクセスを求めるかもしれない。同様に、ロシアはウクライナで使用される可能性のある、より高度な北朝鮮ミサイルの入手を求めるかもしれないが、金正恩は自国の国防と抑止力のためにミサイルを保有することを好むかもしれない。

両国の会談は、北東アジアにおける新たな権威主義的枢軸(a new authoritarian axis)の話を促すだろうが、この関係の最近の高まりが、各国の目先の戦略的利益よりも、深い基盤を持っていることを示唆するものはほとんどない。モスクワは自国に有利なように世界秩序を修正しようとしているかもしれないが、その努力のパートナーとして北朝鮮を参加させても使い道は限られる。

一方、北朝鮮にとって、ロシアとより深い関係を築きたいという願望は、新型コロナウイルス感染拡大とロシアのウクライナ侵攻の両方に先行している。金正恩が2019年にロシアの極東でプーティンと初めて会ったのは、前回失敗した米朝首脳会談の直後だった。その年の暮れ、金正恩は自国の戦略的アプローチについて「新しい方法」に従うことを示唆した。ロシアとのより良い関係は、この新しい方法の一部であると思われる。ロシアが孤立し、世界的な規範に背くことを厭わなくなるなど、現在の地政学的ダイナミクスは、平壌に絶好の機会を与えている。

金正恩の訪問は人々を驚かせた。特に注目すべきは、2019年以来の海外訪問に中国ではなくロシアを選んだことだ。2018年、金委員長は最終的に韓国やアメリカとの首脳外交に向かう前に、中国の習近平国家主席との会談を選んだ。中国側の声明によれば、両者の最初の会談で、習主席は何よりもまず、両国間の「ハイレヴェルの交流」の重要性を強調し、「同志委員長(Comrade Chairman)と頻繁に連絡を取り合いたい」と述べたということだ。

しかし、金委員長の選択は、北京と平壌の間に大きな溝があることを示すものではない。金委員長と習近平は新型コロナウイルス感染拡大の最中に書簡を交換し、ある中国高官は最近、平壌の軍事パレードに出席した。しかし、少なくとも短期的には、金正恩は習近平よりも、ますます絶望的になっているプーティンを、より積極的な後援者となるだろうと評価している可能性が高い。北京と平壌はともにプーティンの戦争努力を支持しているが、大規模な軍需物資の提供を望んでいるのは北朝鮮だけだ。

ロシアの対ウクライナ作戦に対する北朝鮮の支援は、戦場での変革にはつながらないだろう。通常弾薬の不足は、ロシアと迅速な勝利の間に立ちはだかる要因とは言い難い。平壌による弾薬供給に対して、期待される最も重要な短期的効果は、ロシアが将来NATOと衝突する場合、自国の備蓄を補充し、維持できるようになることであろう。

アメリカにとって、金委員長とプーティンの関係が緊密になるという見通しは悪いニューズだが、終末をもたらすようなものではない。仮にプーティンと金正恩が互いにほとんど関心を持たなかったとしても、両首脳は単独でアメリカの利益に対する深刻な挑戦を続けるだろう。

おそらく、この関係がもたらす結果として、北朝鮮の継続的な核兵器保有に対する現状維持の外交アプローチへの影響ほど重要なものはないであろう。既存の国連制裁体制に直面して、ロシアが公然と北朝鮮を露骨に支援すれば、空想的な短期目標である非核化(denuclearization)が不可能になるだろう。

このことは、ここ数十年でアメリカの対北朝鮮アプローチを見直すための最も重大なきっかけとなる可能性が高い。現在、外交の展望は漠然としているように見えるが、ワシントンは、かつて金正恩がドナルド・トランプ前米大統領に会うためにハノイ行きの列車に乗るように仕向けたのも、大国との関係を進めるための、ほぼ同じ取引的アプローチだったことを思い起こすべきだ。

金委員長にモスクワから目を背けるよう促すのは難しいだろう。しかし、アメリカは北朝鮮に少なくとも外交の可能性をもう一度考えるきっかけを与えるために、外交部門が持つ、あらゆるツールを活用する用意を行っているはずだ。金委員長は昨年、アメリカは無制限の交渉を求め、北朝鮮に対して敵意がないことを公言しているにもかかわらず、「ジョー・バイデン政権の行動、特に韓国を安心させるために取った措置の多くが北朝鮮に悪影響を与えている。無制限の交渉や敵は存在しない、などの言葉を信じるに足る理由は存在しない」と不満を述べた。

ワシントンはまた、金正恩がハノイに行った際に求めていたのは、限定的な核の譲歩と引き換えに、自国の経済に対する分野別の制裁を緩和するという取引であったことを思い起こすべきだ。制裁緩和の見通しを利用することは、北朝鮮の不遵守を防ぐためのスナップバック(訳者註:元の状態に素早く戻すという意味)条項付きで、誘惑としての価値を持ち続けるかもしれない。しかし、ワシントンがすぐに行動を起こさなければ、金正恩がかつて交渉の場で制裁緩和を求めていた意義はかなり薄れてしまうかもしれない。ロシアが北朝鮮との取引の意欲を示している現在ではなおさらである。

最後に、アメリカとその同盟諸国は、より高性能化する北朝鮮の核兵器が危機や紛争で使用されるリスクを軽減することに引き続き関心を持っている。今後の交渉の前提が核リスクの軽減や抑制に焦点を当てることができると金委員長に示唆すれば、北朝鮮が外交的により苦境に陥る理由を生み出すことになるだろう。

※アンキット・パンダ:ワシントンに本拠を置くカーネギー国際平和財団各政策プログラムスタントン記念上級研究員。著書に『金正恩と彼の爆弾:北朝鮮における生存と抑止(Kim Jong Un and the Bomb: Survival and Deterrence in North Korea)』がある。ツイッターアカウント:@nktpnd

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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 アメリカには、プリンストン大学公共・国際問題大学院、ハーヴァード大学ケネディ・スクール、タフツ大学フレッチャー法律・外交大学院といった、将来、政府に入って仕事をすることを目指す学生向けの政策大学院(Policy Schools)と呼ばれる大学院がある。これらのアイヴィー・リーグなどの一流有名大学の政策大学院を出た人々が米国務省や米国防総省に入って仕事をすることになる。こうした政策大学院の教育の特徴は、学術研究に重点を置くのではなく、学術研究で得られた成果を実際に応用する、現実的、実践的なプログラムである。

 実践的なプログラムにはもちろん、日本でも流行っているインターンシップも入っているが、多くの場合に行われるのは、ケーススタディ(Case Study、事例研究)である。国内政治や国際政治で起きた出来事について、その当時の政府関係者たちがどのように対処したか、どのようにうまく対処したか、どのように失敗したか、ということを分析的に、かつ批判的に学んでいく。どうしてそのような方策を選んだのか、ということも学び、それに理論を応用するということも行う。理論と実践の2つの方面から学んでいくことになる。

 下記の記事で、スティーヴン・ウォルト教授は、自分たちが教えていることは時代遅れになっておいて、学生たちが卒業後に政府機関などで働く際に役に立たないことが多いのではないか、という疑問を持っていると書いている。これは正直な書き方である。自分のやっていることに対する懐疑を持つということはなかなかできることではない。

 2020年代、世界は大きく変動している。新型コロナウイルス感染拡大騒動とウクライナ戦争は大変動の兆候である。更に、ウクライナ戦争で明らかになった、「西側諸国(the West)」対「それ以外の国々(the Rest)」の分断ということも起きている。小さな事件であれば、これまでの学術成果で分析も可能だろうが、問題は、もっと大きな、より俯瞰的な視点が必要な大変化、大変動が起きているということだ。それに、これまでの国際関係論や政治学の学術研究の成果が追い付いていないというのが、それらに携わる専門家たちの偽らざる考えなのだろう。ウォルトがそれをはっきりと書いたところに意味がある。考えてみると、学問の世界は西洋中心主義(Ethnocentrism)で進んできており、学術研究の対象は西洋諸国であり続けた。そこで見られたパターンや循環などとは違うことが起きつつある。

学術界から飛び出して、より一般的なところから考えてみたい。人々の間には、世界的な大変動の兆候を感じ、不安感が広がっている。自分たちがこれまで生活してきた世界の秩序や構造が変化すると、自分たちの生活はどうなるのかという不安を持つようになる。はっきりと書けば、西洋諸国の人々は自分たちに有利だった世界の終焉が近づいていることに怯えている。一方で、それ以外の国々の人々は、元気で、これからもっと生活を良くするぞ、世界は自分たちのものになるぞ、という気合が入っている。世界は大きな転換点を迎えている。

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核政策大学院はまだ意味を持っているのか?(Do Policy Schools Still Have a Point?

-世界規模の激動の時代に公共政策学の教授として長いキャリアを積んだある学者の回想。スティーヴン・M・ウォルト筆

2023年9月8日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2023/09/08/do-policy-schools-still-have-a-point/

数週間前に授業が始まったが、年度が始まるにあたり、私は奇妙なことを考えた。私はキャリアのほとんどをいくつかの公共政策大学院(schools of public policy)で教えてきた(最初はプリンストン大学でキャリアをスタートさせ、その後、現在はここハーヴァード大学で教えている)。これらの大学は、学生を公共部門(public sector)に就職させるために存在するが、卒業生の多くはキャリアのある時点で他の仕事に就くことになる。私は、同僚や私が、加速度的に変化する時代の中で、関連性が急速に薄れていくような知識やスキルを教えている可能性はないのだろうか、と考えた。明日の分からない新世界で価値が高まるかもしれない別の能力を、学生たちが身につけるのを助ける機会を、私たちは見逃していないだろうか? 従来の公共政策教育学へのアプローチを見直すべきか、少なくとも深刻な調整を加えるべきか? 過去に何度か「カリキュラム改革(curriculum reforms)」を経験してきた私は、私たちの取り組みが十分に進んでいるのか疑問に思った。

少し背景を見てみよう。公共政策大学院は、数十年前から高等教育の成長産業(growth industry)となっている。こうしたプログラムの起源は第二次世界大戦前にまで遡ることができるが、元々の数は少なかった。近年は人気が高まり、多くの大学にプログラムが設置されるようになっている。プリンストン大学公共・国際問題大学院、ハーヴァード大学ケネディ・スクール、タフツ大学フレッチャー法律・外交大学院、シラキュース大学マックスウェル市民・公共問題大学院、フランス国立行政学院、その他数校は何十年も前から存在するが、シカゴ大学ハリス公共政策大学院、オックスフォード大学ブラヴァトニク行政大学院、ベルリンのヘルティー・スクール、テキサスA&M大学ブッシュ政府・公共サービス大学院、その他多くの大学院は最近創設されたものだ。

これらの学校にはそれぞれ独自の特徴を持つが、同時にいくつかの類似点も存在する。それらのほとんどは、公共政策の効果的な実施に必要と思われる特定の基本的な分析スキル、通常の経済学、統計、政治分析、倫理、リーダーシップトレーニング、管理の組み合わせを伝えようとしている。また、特定の政策分野(国家安全保障政策、地方自治体、人権、財政、環境など)に関する実質的な専門知識を学生に習得する機会も与え、同時にチームビルディング、ライティング、スピーキングのスキルを鍛え、どのように政策を推進するかを研究する。また自身の専攻分野が様々な政治制度で作られていることも学ぶ。

地域によって違いはあるものの、これらのプログラムはすべて、公的部門や政治の世界で指導者になるべき人々が、自分たちが活動している世界を理解し、現在および将来の公共問題に対する効果的な解決策を考案するのに役立つ学術的知識があることを前提としている。そしてその前提には、過去の人類の経験から導き出された知識は、今後も正確であり続け、これから起こるであろう新たな問題に対しても適切であり続けるという、更なる確信が暗黙のうちに含まれている。言い換えるならば、このようなプログラムを構築する教授陣は、通常、人間の行動に関する永続的な法則「enduring laws of human behavior」(「需要と供給(supply and demand)」、「力の均衡(the balance of power)」、「集合財理論(collective goods theory)」など)を発見したと考えている。また、指導者が複雑な問題に取り組まなければならなかった過去の事例を学生たちに示すことで、生徒の将来のキャリアに役立つ教訓になると考えている。これらのツールを学び、これらのケースを吸収すれば、どんなことにも対応できるようになる、ということである。

そう思いがちだが、どうだろうかと疑問を持っている。もし私たちが、今日の知識が役に立たなくなったり、適切でなくなったりするような形で変容しつつある世界に足を踏み入れているとしたらどうだろうか?

正直なところ、このようなことを考えている(疑問を持っている)自分に私自身が驚いた。私は一般的に、最新の新展開(原子爆弾、多国籍企業、ビッグテック、イスラム過激派、グローバリゼーション、人権革命など)が政治や社会の本質を変容させ、過去の経験を陳腐化させるという主張には懐疑的だ。結局のところ、政治的リアリズム(political realism)は、人間の本質の不変の特徴(unchanging features of human nature)と歴史的経験の連続性(continuities of historical experience)を強調する。リアリストにとって、政治生活の最も重要な特徴(権力闘争、戦争、同盟、国家の興亡、誤った認識など)は、それを最小化しようとする私たちの努力にもかかわらず、時空を超えて繰り返され続けるのである。言っておくが、私はこれらの不朽の名言のほとんどは、少なくともしばらくの間は有用であり続けると考えている。

しかし、私たちの目の前で起きていることについて考えてみよう。

第一に、気候変動が急速に加速していることを示す証拠は、私たちの周囲に溢れている。化石燃料(fossil fuels)やその他の温室効果ガス(greenhouse gases)の燃焼を遅らせ、最終的には元に戻そうとする努力は、期待外れに終わっている。地球の平均気温が上昇するという最悪のケースを予測すると、その可能性はますます高くなり、この事態は政治、移住、食糧生産、水不足、生物多様性、洪水や干ばつなどの自然災害の頻度や強度に深刻な影響を及ぼしそうだ。人類はこれまでも地球の気候変動に適応してきたが、ごく近い将来、これほど急速かつ広範囲に適応を迫られることはなかった。

第二に、更に強力になっていく人工知能の発達は、人間の様々な活動を混乱させ、既存の政治制度に多くの不愉快な問題を提起している。このような能力がどこまで拡大するのか、私には見当もつかないが、現段階では誰にも分からない。しかし、全てではないにせよ、人間の生き方を良くも悪くも変えてしまう可能性は非常に大きく、その変化のスピードは、産業革命(Industrial Revolution)がそれに比べればむしろ退屈なものに思えるかもしれない。

第三に、過去数十年にわたって見てきたように、スマートフォンの出現とソーシャルメディアの普及は政治の世界を一変させ、既存の政治制度に新たな予期せぬ負担を強いている。この有害な新テクノロジーのミックスに、人工知能(AI)の登場とディープフェイクの可能性などが加わると、民主的説明責任(democratic accountability)と国民間のコンセンサス(public consensus)という慣れ親しんだ概念が足場を失い始める。私は、既存の政治システムはいずれこれらのテクノロジーを抑制し、真実と虚偽を区別する私たちの集団的能力を維持する方法を見つけるだろうと考える傾向があるが、私はそれに私の年金資金を賭けない。

最後に、現在進行中の生物学、健康、長寿研究における目覚ましい革命を忘れてはならない。この傾向は、新しいAIツールによって加速される可能性が高い。老化や病気のメカニズムが解明され、それを遅らせたり、逆行させたり、あるいは対抗したりする方法が考案され始めると、現在よりもはるかに長生きする人類が何人か、もしかしたら何百万人も出てくるかもしれない。遺伝子編集やその他の技術は、将来の世代をカスタマイズする可能性を生み出し、あらゆる種類の不快な道徳的・政治的問題を引き起こすだろう。人類は過去にも様々な方法で惑星の生物学を改変してきたが、意図的にそれを行う能力は急速に高まっている。

このような傾向(およびその他の傾向)を全て合わせると、非線形的な変化(nonlinear changes)の可能性が出てくる。そして、その最終的な影響を、確信を持って予測することは不可能だ。そして、これらの重大な進展は全て、急速に、同時に起こっている。それは、現実の世界における「同時に至るところで全て(Everything Everywhere All at Once)」のように見え始めている。もしそうだとすれば、今日の公共政策を学ぶ学生たちは、数年後に彼らが直面するであろう問題には不向きなツールキットを身に付けていることになるかもしれない。

私が言っていることをまとめよう。AIやその他の技術開発が、多かれ少なかれ絶え間なく、しかしこれまでに見たことのない規模で、遠大な市場破壊を引き起こす世界に向かっているとしたらどうだろう? いくつかの新しいダイエット薬(例えば、オゼンピック)がダイエット業界全体に何をもたらしているかを見てみたら分かる。気候の変化によって、ジェット機での移動が法外に高価になったり、環境的に持続不可能になったり、あるいは大気の乱気流の増大によって危険すぎるものになったりしたらどうだろう? 現在何千万人もの人々が住んでいる地球の広大な地域が、居住不可能になったらどうだろう? 宇宙ゴミの連鎖的な衝突、悪意あるハッカー、敵対国の意図的な行動によって、世界的な通信を担う衛星が破壊される日への備えはできているだろうか? デジタル化以前の時代にどのように物事を進めていたか、覚えているだろうか? そして、これら全ての進展がもたらす政治的影響が、慣れ親しんだ統治様式、長年にわたる同盟関係、経済依存のパターン、そして過去75年以上にわたって世界政治をほぼ決定してきた制度的特徴を破壊するとしたらどうだろうか?

私が言いたいのは、急速に相互接続が進む世界では、私たちが当たり前だと思ってきた(そして自信を持って学生たちに教えてきた)慣れ親しんだ真実、原則、慣行のいくつかは、それほど役に立たないかもしれないということだ。このような状況下で重要になるのは、適応する能力、古い考えを捨てる能力、健全な科学と蛇の油を見分ける能力、そして公共のニーズを満たす新しい方法を考案する能力である。過去にどのように物事が動いたかを生徒に教え、それ以前の時代に由来する時代を超えた真理を植え付けることは、それほど役に立たないかもしれない。

私は、現在のカリキュラムを投げ捨て、ミクロ経済学、民主政治体制理論、公会計、計量経済学、外交政策、応用倫理学、歴史学など、今日の公共政策カリキュラムの構成要素を教えるのを止めようと提案しているのだろうか? そうではない。しかし、私たちがこれまで知っていた世界とは根本的に異なる世界、しかも彼らが考えているよりも早く訪れるであろう世界に対して、子どもたちが準備できるよう、より多くの時間と労力を割くべきである。

私は小さな提案を3つ提示したい。

第一に、いささか逆説的ではあるが、激変の見通しは基本理論(basic theories)の重要性を浮き上がらせる。過去の経験から導き出された経験的パターン(例えば、「民主政体国家は互いに争わない(democracies don’t fight each other)」など)は、その法則が発見された政治的・社会的条件がもはや存在しないのであれば、ほとんど意味をなさないかもしれない。根本的に新しい状況を理解するためには、何が起こりそうかを予見し、異なる政策選択の結果を予測するのに役立つ因果関係の説明[causal explanations](すなわち理論)に頼らざるを得なくなる。単純化された仮説検証や単純な歴史的類推から導かれる知識は、何が何を引き起こしているのかを伝え、様々な行動の影響を理解するのに役立つ厳密で洗練された理論に比べると、あまり役に立たないだろう。「応用歴史学(applied history)」を教えるためのより洗練された努力も、過去の出来事が適切に解釈されなければ失敗に終わるだろう。過去は決して私たちに直接語りかけることはない。全ての歴史的解釈は、ある意味で、私たちがこれらの出来事に持ち込む理論や枠組みに依存している。私たちは、過去のある瞬間に何が起こったかを知るだけでなく、なぜそのようなことが起こったのか、現在も同様の因果関係が働いているのかどうかを理解する必要がある。因果関係の説明を提示するには理論が必要である(Providing a causal explanation requires theory)。

同時に、既存の理論のいくつかを修正する(あるいは放棄する)必要があるだろうし、新しい理論を発明する必要があるかもしれない。私たちは何らかの理論に依存することから逃れることはできないが、特定の世界観に厳格かつ無批判に固執することは、自分の本能(instincts)だけで行動しようとするのと同じくらい危険なことである。そのため、公共政策大学院では、学生に現在よりも幅広い理論的アプローチに触れさせ、それらについて批判的に考え、長所とともにその限界を見極める方法を教えるべきである。

急速に変化する世界に向けて学生を準備させるためには、一般的な理論が誤った政策選択につながった歴史的事例や、全く新しい状況に対処するために新たな理論を考案しなければならなかった事例を教えるべきである。1930年代におけるケインズ経済学の発展や、冷戦期における抑止理論(deterrence theory)の洗練は、この点で有益な例となるだろう。また、政策立案者がもはや通用しないアイデアや政策に固執したために失敗したケースを探し、他の指導者が即興的に革新し、迅速に成功したケースと対比させるべきだ。

最後に、私たち(というより私自身)は、学生たちが当然と思いがちな基準や労働条件の枠にとらわれず、適応し、即興的に行動することを求めるような演習や課題を考案することで、より創造的になるべきである。例えば、学生をいくつかのティームに分け、全員に共通の課題を与える。ノートパソコン、タブレット、スマートフォン、グーグル検索などはもちろん、大学図書館のオンラインカードカタログさえも使えない。現代のエリート大学の学生が、手動のタイプライターとペンと鉛筆と紙しか頼るものがなかったら、どうやって仕事をするだろうか? そのような訓練は、その場その場に適応して問題を解決する能力の重要性を浮き彫りにするだろう。

あるいは、学生たちに、もっともらしいが根本的に異なる世界を想像し、その主な特徴は何か、その新しい状況にどう対処すべきかを考えさせることもできる。NATOが解体し、国連が崩壊したら、アメリカ、ロシア、ドイツ、エストニア、中国、サウジアラビアなどはどのように対応するだろうか、あるいはどう対応すべきだろうか? 科学界が完全に立場を逆転させ、今日の気候変動は完全に自然なものであり、人間の活動はほとんど影響を与えていないと結論づけたとしたら、彼らはどのような政策選択を勧めるだろうか?(はっきり言っておくが、これが現実的な可能性だと言っているのではない) 学生たちの考えを変えるためではなく、自分の信念に対する健全な懐疑心や、一見説得力があるように見える議論を評価する能力を高めるために思考力を高めることが必要だ。

読者の皆さんにはお分かりだと思うが、私はまだこれらの問題について考え中であり、私の提案は暫定的なものである。しかし、私はこれらの問題について考え続けるつもりだ。私の同僚たち(そして私の学生たち)がそれらについてどのような意見を述べるのかに興味を抱いている。公共政策大学院が人気を博しているのにはいくつかの理由がある。しかし、だからと言って、私たちが学生たちに提供しているものを改善できないということではない。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。ツイッターアカウント:@stephenwalt

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 2024年11月にアメリカ大統領選挙本選挙が実施される。現在、民主、共和両党では、各党の候補者を決める予備選挙に向けた準備が進んでいる。民主党では現職のジョー・バイデン大統領が2期目を目指す意向を示しているため、他の有力な政治家たちが立候補を表明しておらず、ロバート・F・ケネディ・ジュニアとマリアンヌ・ウィリアムソンが正式に立候補を表明している。来年2月に全米各州で予備選挙(予備選挙と党員集会)が始まる。現在のところ、民主党としては討論会などを予定していない。「他に有力候補もいないし、バイデン大統領で決まっている」というイメージづくりに躍起になっている。
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バカ息子のハンターと歩くジョー・バイデン
 ジョン・F・ケネディ元大統領の甥、ジョン・F・ケネディの弟ロバート・F・ケネディ元司法長官の息子であるロバート・F・ケネディ・ジュニアは現在のところ、民主党予備選挙におけるバイデンの対抗馬であるが、支持率はまだ上がっていない。しかし、下の記事にあるように、根強い支持を受けている。日本でも有名なミュージシャンのエリック・クラプトンがケネディ・ジュニアのために資金集めイヴェントで演奏し、220万ドルをケネディ・ジュニアの選対とケネディ・ジュニアを支援する政治活動委員会に寄付したということだ。ケネディ・ジュニアとエリック・クラプトンはワクチン反対という考えで共鳴し、クラプトンが今回支援を行ったということである。
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ロバート・F・ケネディ・ジュニアと夫人。右側の2人は息子たち

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イヴェントでのケネディとエリック・クラプトン(右)
 ケネディ・ジュニアの指示率の数字が上がっていないからと言って、ジョー・バイデンが安泰ということはない。民主党支持の有権者の3分の2が「バイデン以外が民主党の候補者になれば良いのに」と考えていることが世論調査の結果、明らかになった。今年3月に行われた同様の世論調査の結果の数字よりも、今回の数字が上がっている。それだけ、「バイデンで大丈夫か」と考える民主党支持の有権者が増えているということだ。彼らの最大の懸念は「年齢」であり、簡単に言えば「年を取ればとるほど、色々な能力が衰えるが、それで大統領が務まるのか」ということである。時間が経過すればするほど、この懸念は高まっていく。年齢を元に戻したり、減らしたりはできないからだ。
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 しかしそれでも、ジョー・バイデンとその取り巻きたちは、合法、非合法問わず、あらゆる手段を用いて、大統領選挙当選を画策し、実現するだろう。共和党側ではドナルド・トランプ前大統領が現在のところ、共和党予備選挙において圧倒的に有利に選挙戦を展開しているので、共和党の候補者になるのはトランプだろう。トランプの人気は本物であるが、それでもバイデンが当選することになると私は考えている。トランプが当選すれば、バイデン前政権の犯罪を暴き立てることになるが、それにはノルドストリーム爆破事件も含まれるだろう。そうなれば、バイデンをはじめとしてバイデン政権中枢は軒並み逮捕、投獄されるだろう。それを避けようとしてバイデン、バイデン周辺、民主党は必死だ。

 しかし、そのようなことになれば、アメリカの分断は加速するだろう。人々の意向が反映されない選挙結果が公然とまかり通ることになれば、「民主政治体制の家元」を自認するアメリカはその基盤を失うことになる。そうなれば、分裂、分断はどんどん進むことになるだろう。そして、アメリカの衰退に拍車をかける結果となるだろう。アメリカ帝国の没落だ。

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エリック・クラプトンがロバート・F・ケネディ・ジュニアの選挙運動のための資金100万ドルを集めるのに貢献(Eric Clapton helps raise $1 million for RFK Jr. campaign

サラ・フォーティンスキー筆

2023年9月19日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/blogs/blog-briefing-room/news/4213178-eric-clapton-helps-raise-1-million-for-rfk-jr-campaign/

エリック・クラプトンが、月曜日夜に行われた非公開の資金集め集会で、民主党大統領選挙予備選挙候補ロバート・F・ケネディ・ジュニアの大統領選挙運動のために100万ドルを集めた、とケネディ選対が火曜日に発表した。

クラプトンと彼のバンドはイヴェントに出演し、ケネディの選挙運動に100万ドル、ケネディを支援する政治活動委員会(political action committee)に120万ドル、合計220万ドルを集めた。

ケネディはプレスリリースの中で、「昨晩ロサンゼルスで私の集まりに、彼の音楽の芸術性(musical artistry)と反骨精神(rebellious spirit)をもたらしてくれたエリック・クラプトンに深く感謝している」と述べた。また、月曜日の夜のイヴェントについて「一生に一度の音楽パフォーマンス(once-in-a-lifetime musical performance)だった」と形容した。

ケネディ陣営は今年8月下旬、クラプトンがこの非公開の資金集めイヴェントで演奏すると発表した。このイヴェントのチケットは最初3300ドルであったが、最高値として6600ドルをつけた。

ケネディとクラプトンは共に、ワクチンへの懐疑的な見方を明確に表明しており、世間からは激しい反感(fierce blowback)を買っている。

火曜日の声明で、ケネディはクラプトンを賞賛したが、新型コロナウイルスワクチンに対する共通の懐疑論については言及しなかった。

ケネディはプレスリリースの中で、「分断された私たちの社会で、私たちを再びひとつに団結できるようになる可能性を最も持っているのは、あらゆる知的な合意よりも音楽なのではないかと私は考えることがある」と述べている。

「エリックは人間の奥底から歌っている。もし彼が私の中に、この国に団結をもたらす可能性を見出しているとしたら、それは彼のようなアーティストが、どんな障害も乗り越えようとする人間の無限の力への埋もれた信仰を呼び起越してくれることによってのみ可能だ」と続けて述べた。

ケネディは、現職のバイデン大統領に挑戦する大統領選挙民主党予備選挙の立候補者2人のうちの1人である。ケネディも作家のマリアンヌ・ウィリアムソンも現職大統領であるバイデンに対抗する大きな前進はしていないが、ケネディは、バイデンの選挙運動に対する重大な脅威を阻止しようと画策している民主党エスタブリッシュメント派の努力を批判している。
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民主党支持の有権者の3人に2人が「バイデンを大統領選挙の民主党候補にすべきでない」と回答:調査結果(2 in 3 Democratic-aligned voters now say Biden should not be nominee: survey

ローレン・スフォーザ筆

2023年9月7日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/campaign/4191729-two-in-three-democratic-aligned-voters-now-say-biden-should-not-be-nominee/

民主党支持の有権者のおよそ3人に2人が、ジョー・バイデン大統領とは別の候補者を希望していることが、木曜日に発表された世論調査の結果で明らかになった。

CNNの実施した世論調査では、民主党支持および民主党寄りの有権者の67%が、民主党がバイデン以外の人物を大統領選挙の民主党候補に指名することを望んでいると回答した。この数字は、今年3月に同様の質問にこのように回答した54%から増加したことになる。別の候補者を望む人のうち、82%が現職大統領以外の候補者を希望すると回答した。

バイデンに代わる、特定の候補者の名前を挙げたのは18%だった。現在、予備選挙に立候補を表明している2人(マリアンヌ・ウィリアムソンとロバート・F・ケネディ・ジュニア)のうちの1人を支持すると答えたのはそれぞれわずか1%だった。一方、バーニー・サンダース連邦上院議員(ヴァーモント州選出、無所属)とピート・ブティジェッジ運輸長官支持はそれぞれ3%、カリフォルニア州知事ギャビン・ニューサムとミシガン州知事グレッチェン・ウィットマーはそれぞれ2%の支持を得た。

世論調査によると、民主党支持の有権者のうち、バイデンを信頼に値する人物と見る人の割合は今年3月以降で19ポイント低下し、現在は51%となっている。また、民主党支持の有権者の間では、バイデンは大統領として効果的に職務を果たすだけの体力と鋭敏さを持っていると見る人の数も減少しており、これは現在49%で、今年3月以降で14ポイント減少している。

民主党支持の有権者にとっての最大の懸念はバイデンの年齢で、民主党支持の有権者の半数近くがバイデンの年齢を最大の懸念事項として挙げている。半数以上が彼の年齢が心身の能力に悪影響を及ぼす可能性があると答え、60%が再選される能力に悪影響を及ぼすと答え、61%が再選された場合、もう1期を全うする能力に影響を及ぼす可能性があると答えている。

今回の世論調査はSSRS社が8月25日から31日にかけて実施した。登録有権者11259人を対象に実施し、誤差は3.5%ポイントである。

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 私が著書『悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める』(2021年)で取り上げ、最近になって、ヴェテランのジャーナリスト歳川隆雄氏が記事で取り上げた、ワシントンに本拠を置くコンサルティング会社ウエストエグゼク・アドヴァイザーズ社についての記事をご紹介する。ジョー・バイデン政権には、ウエストエグゼク社出身者が数多く入っており、代表格としては、アントニー・ブリンケン国務長官、アヴリル・ヘインズ国家情報長官、イーライ・ラトナー国防次官補などがいる。共和党のドナルド・トランプ政権時代には、こうした人々は、ウエストエグゼク社で働き、クライアント企業の問題解決のために活動していた。ウエストエグゼク社のクライアントは公表されていないが、創設者のミシェル・フロノイ元米国防次官(バラク・オバマ政権)と国防産業との関係が密接で深いために、国防産業の各企業がクライアントになっていると考えるのが自然だ。
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ミシェル・フロノイ

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林芳正外相(当時)との夕食会にて(一番奥・2022年)
 ウエストエグゼク社とバイデン政権の関係については、今年に入って、ウエストエグゼク社の現役の幹部社員が米国防総省戦略資本局のコンサルタントとして、兼職して働くことになり、「この兼職は大丈夫か、倫理上の問題はないのか」「利益相反問題は大丈夫か」という声が上がった。ウエストエグゼク社のクライアントが米国防総省から仕事を受けるというようなことが起きる場合、兼職のコンサルタントがその地位を利用して、有利な契約を結ぶというようなことが起きるのではないかという懸念がある。

 ここでポイントは米国防総省に新たに新設された戦略資本局という部局の存在である。この戦略資本局創設の目的は、「動きの鈍い連邦官僚機構(federal bureaucracy)と、ベンチャーキャピタルの支援を受けた最先端の仕事(cutting-edge work)をする民間企業とを結びつけること」「国家安全保障にとって極めて重要なテクノロジーに対する民間投資を拡大させる」となっている。国防に関わる重要な武器はハイテク化が進んでいる。武器開発、武器の基礎となる技術開発は政府だけで担えるものではない。民間部門も参加しなければならない。官民連携、官民協調を調整し、促進するのが戦略資本局ということになる。そこに、ウエストエグゼク社のコンサルタントが、ウエストエグゼク社に在籍のままで特別政府職員として入ったということはそうした関係構築、調整のためということになる。
 軍産複合体(military-industry complex)という有名な言葉(ドワイト・アイゼンハワー大統領が退任演説で使った)がある。アメリカ軍と民間国防企業が結びつき、肥大化し、税金を食い物にするということは第二次世界大戦後の冷戦期からずっと続いている。現在は、中国を標的として、アメリカ軍と民間国防産業は無図美月を深めている。また、官民協調は、中国の特徴でもあり、それを模倣しようとしている。バイデン政権は、日本研究の泰斗故チャルマーズ・ジョンソンが通産省研究を行って発見した、「産業政策」を採用している。アメリカの国防分野における「産業政策」の推進役がウエストエグゼク社ということになるだろう。

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回転ドアを通じて実現するかもしれない「偉大な三人組」(A Revolving-Door Trifecta

-本日の重要ポイント:国務省で同じことが繰り返されるかもしれない。

ロバート・カットナー筆

2023年8月25日

『ジ・アメリカン・プロスペクト』誌

https://prospect.org/blogs-and-newsletters/tap/2023-08-25-revolving-door-trifecta/

現在、ホワイトハウスで国家安全保障会議インド太平洋担当調整官(White House coordinator for Indo-Pacific Affairs at the National Security Council)を務めるカート・キャンベルが、国務副長官(deputy secretary of state)に就任する可能性があると報じられている。これは、グローバルな貿易政策が国内の産業や労働の目標に役立つことを望む人々にとっては、あまり良いニューズではない。

キャンベルはヴェテランである。彼は2013年までオバマ政権下で東アジア・太平洋担当国務次官補(assistant secretary of state for East Asian and Pacific Affairs)を務めたが、その後政府を離れ、様々な企業をクライアントに持つコンサルティング・ロビイング会社「ジ・アジア・グループ(The Asia Group)」を設立した。キャンベルは政府とのコネクションやアクセスを利用して、クライアントたちの利益に貢献した。キャンベルは、現在のアメリカでは廃案となっているTPP(環太平洋戦略的経済連携協定、Trans-Pacific Partnership)の強力な推進者であった。このTPPは表向きには貿易取引の促進の仮面をかぶった、企業の希望リストに過ぎないものだった。
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カート・キャンベル

もしキャンベルが国務副長官に指名され、承認されれば、革命的な経歴を持つ他の2人の外交政策高官に加わることになる。本誌が既に報じているように、ジェイク・サリヴァン国家安全保障問題担当大統領補佐官は、キャンベルと同じく、民主党がホワイトハウスから離れている間、企業コンサルタントとして有利なキャリアを積んでいた。主な顧客はウーバーだった。
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ジェイク・サリヴァン

外交政策に関する回転ドア三人組の最後を飾るのは、トニー・ブリンケン国務長官だ。ブリンケンは、ジョー・バイデン政権に、イーライ・ラトナー国防次官補(インド太平洋担当)を含む12人以上の高官を送り込んだコンサルティング会社「ウエストエグゼク(WestExec)」社の共同設立者兼マネージング・パートナーだった。本誌のジョナサン・ガイヤー編集長(当時)がウエストエグゼク社に関するこの見事な調査記事で書いているように、この会社のクライアントは「技術や防衛において物議を醸すような利害関係を持っており、その元コンサルタントが現在設定し実行する立場にある政策と交錯している」。
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アントニー・ブリンケン

このような回転ドアのパターンは、明示的・黙示的な利益相反(conflicts of interest)という点で十分に悪質である。もっと陰湿なのは、国家の安全保障について、経済的な概念よりも軍事的な概念に重きを置くメンタリティを強化することだ。米国企業や投資銀行家の利害が絡む経済的な深い問題を追及するよりも、狭義の軍事・技術問題に目を向けたタカ派的な対中外交政策を構築する方が簡単なのだ。

キャンベルは当初、中国をグローバル貿易システムに参加させることが、より民主的で市場志向の国家(more democratic and market-oriented nation)への移行(transition)を促進するという見解を共有していた。現在は、狭義の国家安全保障に関しては、対中国タカ派(China Hawk)となっている。

しかし、キャンベルの貿易に関する見解や、労働者中心の経済を構築するというバイデノミクス(Bidenomics)の国内的な願望との関連性には、並行した進化は見られない。これは、提案されているインド太平洋経済枠組(IPEFIndo-Pacific Economic Framework)のようなイニシアティヴの詳細が、輸出規制に関するバイデンの大統領令の詳細と同様に、まだ非常に未確定であるためだ。

キャンベルにはもう一つ、ホワイトハウスとの深いつながりがある。彼はバイデン政権の国家経済会議議長であるラエル・ブレイナードと結婚しており、ブレイナードもまた、貿易に関する見解は新潮流というよりはむしろ旧態依然としたリベラル派である。つまり、この政権の中心は、通商政策を国内経済政策と緊密に結びつけることから離れている。

必要なのはもっと異論を唱えることであり、自分の意見を強めるための、エコーチェンバーを増やすことではない。悲しいことだが、異端児(outliers)はトランプ政権時代に企業コンサルタントとして働いていなかった人々だ。例えば、キャサリン・タイ米通商代表(U.S. Trade Rep)は、古い企業版自由貿易を取り壊す必要性に厳しい。しかし、タイはクラブのメンバーではない。

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ペンタゴン(米国防総省)が民間部門と提携することに関する倫理上の厄介な諸問題(The thorny ethical issues of the Pentagon partnering with the private sector

―企業コンサルタントと米国防総省顧問を同時に務めることは法律上問題ではないのか。

ジョナサン・ガイヤー筆

2023年4月28日

『ヴォックス』誌

https://www.vox.com/politics/2023/4/28/23698006/pentagon-investing-capital-ethical-gray-areas-consulting

※ジョナサン・ガイヤーは『ヴォックス』誌で外交政策、国家安全保障、世界情勢の記事執筆を行っている。2019年から2021年まで『ジ・アメリカン・プロスペクト』誌に勤務し、編集長としてジョー・バイデン、ドナルド・トランプ両政権の外交政策ティームを取材した。

ここ数年、連邦政府内で、情報機関や軍事機関が次々と新設されているが、その最大の目的は、動きの鈍い連邦官僚機構(federal bureaucracy)と、ベンチャーキャピタルの支援を受けた最先端の仕事(cutting-edge work)をする民間企業とを結びつけることである。

いくつかの軍事機関や情報機関がベンチャー・キャピタル・オフィスを立ち上げ、ジョー・バイデン大統領のティームが実行しているCHIPS法(半導体関連法)は、アメリカのハイテク製造部門を発展させるための官民パートナーシップを前提としている。

公益と企業利益の境界線が曖昧であることを考えると、こうした努力は倫理的な問題を引き起こす可能性がある。そして、最近のキャリア上の動きが、そのような問題を物語っている。

今週、弁護士のリンダ・ロウリーは、米国防総省に新設された戦略資本局(Office of Strategic CapitalOSC)に非常勤のコンサルタントとして勤務することを発表した。彼女はリンクトイン(LinkedIn)に、「国家安全保障を支援するために、新興の最先端技術(emerging and frontier technologies)に民間資本を誘致し、その規模を拡大する」ことに貢献できることに、いかに興奮しているかを投稿した。

しかし、際立っていたのは、ロウリーがウエストエグゼク・アドヴァイザース社(WestExec Advisors)という、ハイテク企業や防衛関連企業を扱うワシントンの巨大なコネクション・コンサルタント会社での民間部門の仕事を辞めないということだ。戦略資本局の仕事は、ウエストエグゼク社が提供するサーヴィスと酷似している。現在、彼女は民間部門と公的部門で同時に働いていることになる。

ロウリーの兼職は厄介事に見えるが違法ではない。バラク・オバマ政権の倫理担当トップを務めたウォルター・シャウブは私の取材に対して、「企業の顧問に国防に関する仕事をさせることは、国民の利益を最優先するための理想的な方法とは思えない」と答えた。
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リンダ・ロウリー

「私は異なる組織で同時に働くことになるが、それぞれの組織は異なる問題を取り扱っており、利益相反(conflicts of interest)が起きるとは想定していない。しかし、利益相反が起こらないように細心の注意を払う」と、LinkedInで、シャウブの発言に対して、このように投稿した。(私はロウリーとウエストエグゼク社に対してコメントを求めたが、回答は記事執筆時点で得られていない)。

時代遅れの安全保障法が、何百人もの命を奪ったのかもしれない。

米国防総省はその原則を繰り返し、ロウリーが具体的な投資決定に携わることはないと述べた。

米国防総省の広報担当者は声明の中で、「こうした職員たちは、我が国の重要技術への民間部門の投資に関して情報を拡散し、奨励するという米国防総省の役割に関連する、広範な政策議論に貢献するために雇用されている。米国防総省の倫理担当官は、特別政府職員(special government employees)に対し、倫理規則に関する明確なガイドラインを提供し、特に利益相反を回避する方法を教えている」と述べた。

しかし、政府倫理の専門家によれば、こうした政策協議の中で利害の対立が生じなかったことを確認するのは難しいということだ。ロウリーのように「特別政府職員(special government employees)」として雇用する場合、国民への情報開示は少なくて済む。より広く言えば、ロウリーが活動しているグレーゾーンは、民間企業と政府を結びつけることが何を意味するのか、利益を得るのはアメリカ国民なのか企業なのかという、より大きな問題につながっている。

核心的な問題は、ロウリーの兼任が特別なことなのか、それとも今日の政府のあり方を代表するものなのかということだ。戦略資本局によれば、特別政府職員として採用された職員は、ロウリー以外には1人しかいないと発表している。しかし、政府全体で実質的な役割を担うこうした任命者が増えていることは、同様の問題を引き起こす可能性がある。

民間企業とのつながりに油を差すような(grease connections)役所が増え、政策立案者だった人間たちが政府を離れると回転ドアを利用して企業コンサルティングに参加し続けるので、この問題は今後も起こり続けるだろう。

●政府が民間部門の助けを求める時(When the government seeks the private sector’s help

2022年12月、米国防総省は戦略資本局を創設した。この部局の目的は、国家安全保障にとって極めて重要なテクノロジーに対する民間投資を拡大させるというものだ。

多くの新しい軍事技術の最大の消費者となるのは、もちろん政府であることが多い。しかし、米国防総省との契約には何年もかかることがあるため、新興企業が連邦政府の官僚機構に入り込むのに苦労することも多い。それは「死の谷(valley of death)」と呼ばれ、過去20年間、新興企業が米国防総省に入る際に直面するハードルを克服するために、様々な新しい部門が設計されてきた。これはまた、2017年にアントニー・ブリンケンと共同でウエストエグゼク・アドヴァイザーズ社を設立したオバマ政権下の米国防総省の高官を務めた、ミシェル・フロノイが幅広く研究してきた重要な政策分野でもある。

2019年、フロノイは、アメリカが技術的優位性(tech superiority)を維持する方法についての記事を共同で発表した。この記事の中で一つの提案を行っている。それは、「政府は、重要な技術や資源の供給者を民間資本につなげる手助けをすることもできる」というものだ。これは、戦略資本局の目的と同じだ。

2024年度米国防総省予算で、バイデン政権は戦略資本局への資金提供として1億1500万ドルを求めており、最終的には融資や融資保証などの金融ツールを利用して関心のある新興企業を後押しすることになる。初年度は主に研究で構成される。リンクトインによると、現在オフィスの一員としてリストアップされているスタッフはほんの一握りだという。投資ツールを展開する新たな当局を模索する中で、同局は中小企業庁の投資プログラムと提携した。

戦略事務局の背後にあるアイデアは新しいものではない。陸軍と空軍における投資の取り組みと、2015年に発足したインキュベーターである国防技術革新ユニット(Defense Innovation UnitDIU)を基盤としている。国防技術革新ユニットが支援して数十億ドルの成功を収めた新興企業の中には、軍事技術企業の「アンドゥリル」社がある。

3月末にシリコンヴァレー銀行が破綻した際、多くの軍事技術系新興企業が経済的ストレスに晒された。プレスリリースによると、戦略資本局は「米国防総省や他の政府の同僚と積極的に協力し、国家安全保障コミュニティを擁護」し、「危機に対する国家安全保障関連の影響を常に監視」していた、ということだ。

●政府と民間企業で同時に働くことの何が問題か(What’s off about working for government and the private sector at once

官民パートナーシップは成功を収めているが、倫理的な問題を引き起こす可能性がある。

利益相反が主要の懸念事項である。そのため政府職員は勤務先、投資先、顧客、資産を申告で開示し、倫理担当官や上司と連携してえこひいき(favoritism)を避け、自身の経済的利益に影響を及ぼす可能性のあるプロジェクトに携わらないようにする。

民間部門と密接な関係を持ち、政府の請負業者を雇用する職務は特に問題を引き起こす。国防技術革新ユニットのCFOによると、2018年から2022年までに国防技術革新ユニットのディレクターを務めていたマイケル・ブラウンは、非倫理的な雇用や契約に関与していたとされている。これらの苦情は米国防総省監察官によって立証されず、昨年ブラウンは潔白を証明された。しかし、この出来事により、ブラウンはバイデン政権下での米国防総省の幹部への指名を受けられなかった。

リンダ・ロウリーのような非常勤職員は「地雷(landmines)」となる可能性がある。

ロウリーは、ジョー・バイデン大統領のホワイトハウスの科学技術政策事務局(Office of Science and Technology Policy)に勤務していた。彼女が退職し、2022年にウエストエグゼク社に入社した際、ウエストエグゼク社は、「リンダの豊富な知識ベースを活用し、クライアントが戦略的機会を活用できるよう支援する」と述べた。ウエストエグゼク・アドヴァイザーズ社は、大手ハイテク企業、大手銀行、主要な軍事請負業者(military contractors)、新しい防衛技術の新興企業などをクライアントに持つ。ウエストエグゼク社は、「プライヴェート・エクイティや多国籍企業と新興テクノロジー」を結びつけることを専門としてきた。

ロウリーが特別政府職員(special government employeeSGE)に指定されたことで、彼女はクライアントを公にすることなく、政府とウエストエグゼク社で同時に働くことができるようになった。

特別政府職員とは、365日のうち130日以内しか働かないという人を指す。パンデミック(世界的大流行)の規制の中で官僚機構がゆっくりと動いていた新型コロナウイルスの初期には、特別政府職員の活用は合法的だったのかもしれない。そして、特定の問題に対して技術的な知識が必要とされる場合には、役に立つ分類でもある。2011年から2013年まで政府倫理局の局長代理を務めたドン・フォックスは、「特別政府職員オプションの大きなメリットの一つは、他の方法では得られないような人材を、限られた期間だけ集めることができる」と言う。

しかし、この特殊な特別政府職員の役割は、政府請負業者として働く、連邦政府の諮問委員会の委員を務めるなど、民間部門のアドヴァイザーが通常果たす可能性のある他の役割よりも透明性が低い。セントルイスにあるワシントン大学のキャスリーン・クラーク教授(法学)は、「後者はより倫理的な保護措置があり、公開会議の要件など、より透明性が高い。この種の特別政府職員には当てはまらない」と述べている。

米国防総省広報官は、「特別政府職員に指定された職員は、広範な政策協議に職務を限定され、特定の投資に関する協議には参加しない」と述べた。

しかし、監視団体「リヴォルヴィング・ドア・プロジェクト」のジェフ・ハウザーは、この特別政府職員の役割は政府の権限を搾取的に利用することになるのではないかという懸念を持っている。ハウザーは私の取材に対して、「あなたが政府で取り組んでいる決定について、特定の結果に継続的な関心を持つ団体に雇用され続けているという事実を無視するには、人間の頭脳の中に防火壁を作ることが必要であり、そんなことは不可能だ」と答えた。

直近のデータが利用な暦年である2021年には、約1600名の特別政府職員たちが国防長官事務局で働いていた。

複数の専門家によれば、注目されるような採用のために特別政府職員を使いすぎることは、政府の倫理執行に対する信頼を損なう可能性がある。この呼称を使用した最も著名な人物は、バイデン政権におけるアニタ・ダンだ。アニタ・ダンは大統領上級顧問としてホワイトハウスを出入りし、短い任期の間、クライアントや金銭的利害関係の公表を避けていた。次期国務省報道官のマット・ミラーは、ロシアのウクライナ侵攻が始まった当初、ホワイトハウスの通信担当官として働いていた特別政府職員だったと見られる。

この傾向はおそらくドナルド・トランプ政権ではより顕著で、国務省のウクライナ特使カート・フォルカーのような著名な人物が任命された。ホワイトハウスのエメット・フラッド弁護士は特別政府職員としてスタートし、後にフルタイムに変更された。アイルランド特使を務めていたミック・マルバニーは、この指定を受けて働いていた。しかし、トランプ政権の大胆かつ前例のない倫理的不正行為によって、バイデン政権における厄介な力学を曖昧になるということがあってはならない。

2013年から2017年まで、オバマ政権下で政府倫理局を率いていたシャウブは、ロウリーは潜在的な対立を緩和するために積極的な透明性対策を取ることができると指摘する。大きな懸念は、既にバイデン政権と数多くのつながりを持つウエストエグゼク社が、同社に関連する仕事を政府機関で行っている人物タイルことで、極めて有利な立場に立つのではないかということだ。

現在は政府監視プロジェクトにいるシャウブは私の取材に対して、「ロウリーは、ウエストエグゼク社の仕事におけるクライアントを公表し、また政府での仕事について情報公表することもできる。もちろん、それは自発的な情報開示になるだろう。世論は厳しく当たることになるだろう。政府は国民に、この人事によって利益相反は起きないという、具体的な保証をする義務がある」と語った。

官民で同時に兼職をしているのはロウリーだけではない。ニュー・ビスタ・キャピタルの航空宇宙・防衛部門の投資家を務めているカーステン・バートク・トゥー(Kirsten Bartok Touw)も、戦略資本局のアドヴァイザーを務めている。
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カーステン・バートク・トゥー

米国防総省の戦略資本局は新設の部局のため、その仕事の責任が明確ではない可能性がある。米空軍事績法務顧問を務めた経験を持つドン・フォックスは私の取材に対して、「役割については定期的に最新情報を知りたいと思う。全く新しい職務やオフィスでは、これが反復的なものになる可能性がある」と語った。新しい部局の業務範囲は変化する可能性がある。

現在の倫理法や主要な改革の多くは、ウォーターゲート事件後に生まれ、トランプ政権はその限界と執行を試した。フォックスが言うように、「一般の人々の認識は、ある意味、全てだ」ということである。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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ビッグテック5社を解体せよ

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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