古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

2023年11月

古村治彦です。

ヘンリー・キッシンジャー元国務長官・元国家安全保障問題担当大統領補佐官が100歳で亡くなった。彼が創設したコンサルティング会社キッシンジャー・アソシエイツが発表した。キッシンジャーについては、このブログでも特に多くご紹介してきた。このページの右側にある、「記事検索」の欄に「キッシンジャー」と入れてもらうと、キッシンジャーに関する記事がたくさん表示される。一番下まで行くと、「次の5件」という表示が出るので、それを押すと、次々と表示されるので、是非お試しいただきたい。

 私は2023年5月に長文の「キッシンジャー論」を翻訳し、このブログでご紹介した。以下にそのリンクを貼るので、「記事検索」と併せてご覧いただきたい。

(1)「同意しないことに同意する」というところから始めるキッシンジャーのリアリズム的な外交政策の真髄(第1回・全3回) 20230501

http://suinikki.blog.jp/archives/87343779.html

(2)「同意しないことに同意する」というところから始めるキッシンジャーのリアリズム的な外交政策の真髄(第2回・全3回) 20230502

http://suinikki.blog.jp/archives/87343787.html

(3)「同意しないことに同意する」というところから始めるキッシンジャーのリアリズム的な外交政策の真髄(第3回・全3回) 20230503

http://suinikki.blog.jp/archives/87343791.html  
 キッシンジャーについては1960年代からアメリカの安全保障。外交政策に関わり、様々な業績を残したので、それを簡単にまとめることは難しい。上記記事のようにどうしても長くなる。キッシンジャーについては近年であれば、中国の習近平国家主席、ロシアのウラジーミル・プーティン大統領と頻繁に会談を持っていた。両首脳はキッシンジャーを厚遇した。キッシンジャーは非西洋諸国の中心的な2人の首脳に対して、様々な指南を行い、その最大のものはアメリカとは戦争してくれるな、ということだった。
 キッシンジャーはドナルド・トランプ大統領に対しても外交的な指南を行った。大統領選挙期間中、トランプは、娘イヴァンカの夫ジャレッド・クシュナーを介して、キッシンジャーとコンタクトを取り、キッシンジャーのニューヨークの私邸を訪問した。大統領当選後も、キッシンジャーはホワイトハウスを訪問している。トランプ政権下では、アメリカは大きな戦争を起こさず、巻き込まれることもなかった。バイデン政権下では、ウクライナ戦争とパレスティナ紛争が起きた。
 キッシンジャーについては毀誉褒貶がつきまとい、厳しい批判がある。しかし、彼の業績を今一度振り返り、リアリズムに基づいた外交政策とは何かについて、私たちはよくよく考える必要がある。
 キッシンジャー亡き世界とは、日本の戦前に例えるならば、最後の元老西園寺公望が亡くなった後の日本のようなことになるかもしれない。アメリカ、そして世界において、ブレーキ役がいなくなり、世論を含めて、強硬論が更に強くなり、戦争の可能性が高まるということも考えられる。しかし、少なくとも、習近平とプーティンがいる限りは、アメリカ、中国、ロシアが直接戦うということは起きないだろう。そのことはキッシンジャーの置き土産、遺産ということになるだろう。
(貼り付けはじめ)

アメリカの外交官ヘンリー・キッシンジャーが100歳で死去(American diplomat Henry Kissinger dies at 100

ミランダ・ナッザリオ筆

2023年11月29日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/blogs/blog-briefing-room/4334541-american-diplomat-henry-kissinger-dies-at-100/

元外交官・元大統領補佐官のヘンリー・キッシンジャーが水曜日、100歳で死去した。彼のコンサルティング会社が水曜日夜に発表した。

キッシンジャー・アソシエイツの声明によると、キッシンジャーはコネティカット州にある自宅で死去した。

キッシンジャーは、国家安全保障分野と外交政策分野で幅広いキャリアで知られた。1969年から1975年にかけて、リチャード・ニクソン大統領の下で、国家安全保障問題担当大統領補佐官を務めた。補佐官在任中に、ニクソンはキッシンジャーを第56代国務長官に指名し、国務長官と国家安全保障問題担当大統領補佐官の両方を同時に務めた最初の人物となった。

ジェラルド・フォード大統領の下で、国務長官に留任したが、フォード大統領は国家安全保障問題担当大統領補佐官からは退任させた。

キッシンジャーは1923年生まれ、当時はハインツ・アルフレード・キッシンジャーという名前だった。彼は人生の初期をドイツで過ごした。彼の家族はユダヤ系で、ナチスが権力を掌握した後、アメリカに移民した。アメリカに移民後、キッシンジャーは名前をヘンリーに改めた。

第二次世界大戦中、ドイツ語通訳としてアメリカ陸軍に入隊した。戦後、キッシンジャーはハーヴァード大学に入学し、1950年に学士号を取得し、1954年に博士号を取得した。その後は、アイヴィーリーグに残り、ハーヴァード大学政治学部教授、国際問題研究センター副所長を歴任した。

彼のキャリアは1960年代までに政府の仕事に移行し、ニクソンに国家安全保障問題担当大統領補佐官に任命されるまで、いくつかの政府機関でコンサルタントを務めた。

国務省に入ったのは、エジプトがイスラエルに奇襲攻撃を仕掛けて、1973年に起きたアラブ・イスラエル戦争が勃発する数週間前のことだった。キッシンジャーは国務省で指揮を執り、イスラエルが米国からの物資を確実に受け取れるよう支援し、その後、イスラエルとエジプト、後にシリアとイスラエル間の交渉を仲介するため、中東地域を行き来する「シャトル外交(shuttle diplomacy)」を開始し、何度も中東を訪問した。

国務長官を退任した後も、キッシンジャーは外交問題に関するアドヴァイザーを務め、後に「中央アメリカに関する全米超党派委員会(National Bipartisan Commission on Central America)」の委員長を務めた。その後、ロナルド・レーガン元大統領とジョージ・HW・ブッシュ(父)元大統領の下で大統領対外情報・諜報諮問委員会(President’s Foreign Intelligence Advisory Board)の委員を務めた。

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●「キッシンジャー元米国務長官が100歳で死去、米中国交樹立の立役者」

11/30() 10:49配信 ブルームバーグ

https://news.yahoo.co.jp/articles/53d6bd8d43b33168aecaa2d6d2eec8952d74fd42

(ブルームバーグ): ニクソン、フォード米政権で国務長官を務め、1970年代の米外交政策決定で重要な役割を果たしたキッシンジャー元米国務長官が、米コネティカット州の自宅で死去した。100歳だった。元国務長官の関係者が明らかにした。

キッシンジャー氏は大統領補佐官として、72年のニクソン大統領による電撃的な中国訪問を実現させ、79年の米中の国交樹立につながる土台を築いた。

冷戦下での旧ソ連とのデタント(緊張緩和)や戦略兵器制限条約の実現に貢献したことで歴史に名を残す一方、ベトナムとカンボジアに対する大規模な空爆を支持したことなどで批判も受けた。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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古村治彦です。

 今回は、副島隆彦の最新刊『金融恐慌が始まるので 金(きん)は3倍になる』(祥伝社)をご紹介します。発売は12月1日です。
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金融恐慌が始まるので 金は3倍になる

 以下に、まえがき、目次、あとがきを掲載します。参考にして、是非手に取ってお読みください。

(貼り付けはじめ)

まえがき

 この本の書名は、『ドルが没落するので 金(きん)は3倍になる』である。まさしくそのまま本書を貫(つらぬ)く私の主張である。なぜ金(ゴールド)が、これから今の3倍になるのか。しかも、それは3年後(2027年)である。その理由は、アメリカの金融市場が崩れて(コラプス)米ドルによる世界支配が終わるからだ。だから、まだまだ今のうちに金を買いなさい、という本である。

 とくに、これまでまだ一度も金(きん)を買ったことのない人は、「今すぐ買いなさい」と私は言う。それに対して。これまでに金を買ってきた人は、金(きん)1グラム=9000円(小売り)を割ったら買いなさい。金は9月の終わりから10月の初めにかけて、少し値下がりした。だから、値下がりの節目(ふしめ)である小売り(リーテイル)で9000円(卸売[おろしうり]、ホールセールスで8000円)になったら、買い増しなさい。とくに、これからは金貨(ゴールドコイン)で買い増しなさい。その買い方は、本書P28以下で、指図(さしず)します。

 金の値段(小売)は8月29日に1グラム=1万円を突破した。このあと1万円を割って、9621円(10月6日) まで下がっている。だが、大きくは、すでに達成された1グラム=1万円(小売)の大台は維持されて基調は変わらない。10月26日には1万0569円の高値を付けた。いくらアメリカ政府(米財務省とFRB)とゴールドマン・サックスが結託(けつたく)して、米ドルの信用を守り抜くために、金(きん)への憎しみを込めて、金(きん)の先物市場(ペイパー・ゴールド。証券化された紙キレの金)を使って、NY先物(さきもの)市場(フューチャー・マーケット)で金(きん)の値段を、必死で上から叩いて押し潰(つぶ)すとしても、もう、そろそろ限界に来つつある。

 現在の世界の金融・経済は、もう何が起きてもおかしくはない。それぐらいの激しい変動期に入っている。

 表面上は、金融市場(株(ストツク)と債券(ボンド)と為替(FX)など)は今も穏やかに、大変化は起きていないように見える。いや、そのように見せかけている。だから、世界の足元の地盤(グラウンド)はしっかりしているように見える。だが本当は、アメリカを中心にしてかなりぐらぐらとしている。これを loose the ground(ルーズ・ザ・グラウンド) という。地盤が崩れつつある。

 比較相対的(comparatively[コンパラテイヴリー])に、日本は大丈夫である。なぜなら、ここまで30年間、日本はずっとヒドい不況と不景気(これがデフレ経済)で痛めつけられて、日本の国民生活はヒドい貧乏状態を続けてきた。だから、日本は足腰がしっかりしているのである。目下(もっか)の世界を吹き荒れる、金融恐慌と大戦争(核戦争(ニユークレア・ウオーフエア)を含む)の予兆と恐怖が押し寄せても、日本国民は、さらにじっと我慢して、この大混乱期を乗りこえるだろう。

 私はこれまでずっと当たり前のことを書いてきた。私はこの生き方の態度を変えない。この26年間、自分が書いてきた本たちで、ずっと「金を買いなさい。必ず上がるから」「アメリカ発の金融恐慌になる。アメリカは、世界覇権(ワールド・ヘジエモニー)を失う」と、ずっと書いてきた。1998年6月に出版した『悪(あく)の経済学』(祥伝社刊)から、ずっとである。

 このことで私は、自分の主張が26年間まったく変わらないことを確認できる。あの26年前の1998年ごろは、金1グラムは1200円であった。だから1キロの延()べ板で120万円だった。それが26年後の今、1グラム=1万100円になったので、1キロ=1000万円である。8・4倍である。これ以上は、私は自分で自分を褒()める言葉を使わない。自惚(うぬぼ)れでものを言う奴を、人々は軽蔑するからだ。すべては、冷静な客観的事実(オブジェクティブ・ファクト)で判定される。

 この私が、これから3年後には、金1グラムはさらに実質3万円(小売)になるだろうと書くのだから、皆さんは私の主張に耳を傾けるべきだ。

 もう、私の、この一見(いっけん)、傲慢(ごうまん)な書き方に、書評(ブックレビュー)で悪罵(あくば)を投げる者はいなくなった。金融の専門家を名乗る人々を含めてだ。「副島、ハズレー」と以前書いた者たち自身が、ハズレーの人生を歩んでいる。

 どうやらウクライナでの戦争は、ロシアの勝ちのようである。日本国内では今もテレビ、新聞を始め、「ウクライナ軍が勝利、前進をしている」という報道がまだずっと続いている。まともな知能と判断力を持つ人ならば「あれ、おかしいなぁ。ロシアと中国がそんなに負けているようには見えない」と思っている。この感覚と判断が正しい。私たちは、日本国内の、嘘だらけの洗脳報道に騙(だま)されないようにしなければいけない。あいつらはアメリカの手先たちだ。

 アメリカ政府は、もうほとんど金(きん)を持っていない。貿易決済(ぼうえきけっさい)用に金(きん)を全部使ってしまった。これまでずっと公表されてきた8200トンは、ほとんど無い。ケンタッキー州のフォート・ノックス米陸軍基地の洞窟(どうくつ)にあるFRB(NY連銀[ニューヨークれんぎん])の金庫は、ほぼスッカラカンである。ただし、アメリカの金持ち層は、イーグル金貨(コイン)(アメリカの国章である白頭(はくとう)ワシの絵が刻印されている)を中心に、金(きん)を持っている。

 この本では、その他いろいろの金融市場の数値や金融理論を使いながら、ドルによる世界支配がもうすぐ終わることを証明していく。

 私の本の書き方は、横綱相撲である。私は今さら、私と対立する主張をする者たちを大技(おおわざ)で投げ飛ばすことはない。投げ飛ばすと自分の体にも打撃が来るからだ。それよりは、ぐっと両手で相手を押さえて、じりじりと押してそのまま土俵を割らせる。これが横綱相撲である。そろそろ、周(まわ)りの人たちからもそのように見えるだろう。

副島隆彦

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まえがき

1章 金(きん)の値段は3倍にハネ上がる

● 金は再高騰して、1グラム=1万4000円へ

● なぜ「売り」と「買い」の差額が、わずかなのか

●「野口(のぐち)コイン」を勧める

● 金貨〝ヒロヒト・コイン〟の謎

● 買取業者に注意せよ

● その古い金貨(アンテイーク・コイン)は本物か

● 金1グラムが、いくらになったら買い時なのか

● 金・ドル体制が終わる

●「金〝資源〟本位制」が世界規模で誕生する

● 米ドルは世界の基軸通貨ではなくなる

2章 世界で「脱ドル化(デイー・ダラライゼイシヨン)」が進んでゆく

● 世界の中心が、欧米から貧乏大国同盟に移ってゆく

● 脱ドル化(ディー・ダラライゼイション)が世界で進む

● 2024年、BRICS新通貨(BRICS債券)の誕生

●「アメリカの副島隆彦」は何を書いたか

● 世界中の有識者たちが震え上がった

●「ドル覇権(ヘジェモニー)の崩壊」が始まる

● 米国務長官と財務長官は、なぜ慌(あわ)てて中国へ行ったのか

● だから金は、3年後、3倍に跳()ね上がる

3章 金利(イールド)の上昇から不景気(リセツシヨン)突入へ

● 造幣局の職員が金貨を売る

● 中央銀行は、財務省の振り出す国債を引き受けてはいけない

● 近代経済学(アメリカ計量経済学)の滅亡

● 属国・日本は耐え続ける

● 米国債の利回りが上昇している。要注意だ

● 格下げされた米国債

●「利回りの上昇」から「景気後退」を予測したアナリスト

● リスク資産(株式)の暴落が起きるだろう

● 日本はインフレではない

● アメリカ人のバブル不動産投資は止まらない

● 不況入りの条件が整った

● なぜ実質金利(リアル・イールド)が重要なのか

● 住宅ローン金利は、日米でこれほど違う

● 株価だけが異常に高い2社

● リセッション(不景気突入)は、いつ来るか

4章 お金も腐る

● 中古品が投げ売りになって、モノが腐る

● 銀行が買った日本国債を日銀の口座に寝かしておくと……

● 危ない銀行と健全な銀行

● 米地銀、連鎖破綻の真相

● 債券市場(ボンド・マーケツト)が恐ろしいことになっている

● 次のシリコンバレー銀行(バンク)はどこか

● SBI新生銀行を中心に、日本の地銀の再編が進む

● ますます世界で「脱ドル化(デイー・ダラライゼーシヨン)」が進む

5章 半導体の先端技術で読むこれからの世界

● ファーウェイの最新スマホ「Mate(メイト) 60」の衝撃

● 半導体の「6分野」を説明する

●「線幅2ナノ」の技術競争に中国企業が加わった

● TSMCとトヨタとソニーの関係

● 日本のロジック半導体で起きた〝問題〟とは

● 量子コンピュータを世界で初めて開発した日本人

● アメリカが日本の半導体メーカーを潰した

● 私は日米半導体戦争の動きを見続けてきた

● 東芝はNAND型フラッシュメモリーの発明者を冷遇した

● キオクシアとWD、経営統合の裏で……

● 中国の技術がアメリカを凌(りよう)()する

● 中国が主導する世界最先端企業連合

●「台湾有事」と騒ぐな

● アップルの製品は、ほとんど中国製だ

● GAFA+Mの「土台」となる半導体企業が重要だ

● ナノチップ製造に必要な露光装置

● NAND型について、副島隆彦が説明する

あとがき

巻末特集

半導体の新技術で

大成長する15銘柄

=====

あとがき

 この本を書き上げて、私の頭の中ではっきりと纏(まと)まったのは、私が作った「お金も(退蔵[たいぞう]していると)腐(くさ)るのだ」理論である。これは、経済学理論としてきわめて斬新(ざんしん)なものであり、おそらくこれまで誰も提言しなかった。私はすでに、アメリカ理論経済学(近代経済学(モダーン・エコノミツクス)の現代版)は、学問(サイエンス)としては死んで絶滅した、という本を1冊書いている。『経済学という人類を不幸にした学問』(日本文芸社、2020年刊)である。

 アメリカ帝国の〝衰退と没落(フォール・ダウン)〟が誰の目(頭)にも明瞭になって来た。それは世界政治の勢力論としてだけでなく、金融・経済の領域では、米ドルによる世界一局支配が一気に崩れつつあることからも分かる。世界貿易の決済通貨としての米ドルの比率は、もうすぐ50パーセントを割るだろう。

 英と米がウクライナ戦争を用意周到に、虎視眈々(こしたんたん)と仕掛けて、ロシアのプーチンを罠(わな)に嵌()めようとした。ロシアルーブルを国際送金決済システム(SWIFT[スウィフト])から遮断(しゃだん)し、追放した(2022年2月)。そのことで、かえって、現在も続く金ドル体制(およびドル石油体制)が動揺し、打撃を受けた。そして中東産油諸国(アラビア、イスラム圏)が、アメリカの支配から脱出しつつある。このことによく表われている。

 私が本書で唱導(しょうどう)する「お金(マネー)も腐(くさ)る」論は、米ドルという通貨(カレンシー)の信用崩壊は、その背後にある「10年物(もの)米国債の暴落」という債券市場(ボンド・マーケツト)で長期金利がハネ上がってゆくことが、今のアメリカの最大の危機であり、もうすぐ金融(および財政)危機(マネタリー・アンド・ファイナンシャル・クライシス)が起きる必然を洞察(どうさつ)したことである。

 ここで「金利が上がる」とは、中古の(既発債の)国債市場で、実質利回り(リアル・イールド)real yield)の下落が、市場関係者たちの、目下の最大の恐怖の的(まと)であることを、本書で描き出したことにある。これが「お金も(放っておくと)腐る」理論として、私の頭の中で結実した。

 本書書き上げの伴走は、いつものとおり岡部康彦氏にお願いした。コロナ・ウイルス騒ぎとワクチンという、これもアメリカが仕組んだ日本民族抹殺計画に、身をもって自分の体の痛みに耐えながら、この本は成った。記して感謝します。

2023年11月

副島隆彦

(貼り付け終わり)

(終わり)

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 古村治彦です。

 今回は、現在、ジョー・バイデン政権で、国家安全保障問題担当大統領補佐官を務めるジェイク・サリヴァン(Jake Sullivan、1976年-、46歳)が2020年当時に書いた論稿を紹介する。共著者のジェニファー・ハリス(Jennifer M. Harris、1981年-、42歳)はサリヴァンよりも若く、彼の右腕とも言うべき存在だ。サリヴァンは2011年から2013年まで、バラク・オバマ政権、ヒラリー・クリントン国務長官が率いる国務省で、政策企画本部長(Director of Policy Planning)を務めた。この時、政策企画本部でスタッフとして働いていたのがジェニファー・ハリスだった。
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ジェイク・サリヴァンとジョー・バイデン
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ジェニファー・ハリス

 ハリスはノースカロライナ州にあるウェイクフォレスト大学を卒業後、オックスフォード大学に留学し、修士号を取得した。帰国後にイェール大学法科大学院を修了し、弁護士となった。オックスフォード大学留学、イェール大学法科大学院修了、弁護士という経歴は、ジェイク・サリヴァンと同じだ。

政策企画本部は、国務省の重要な政策や構想(initiative)を担当する、頭脳集団、参謀集団だ。ジェニファー・ハリスはヒラリー国務長官が提唱した「エコノミック・ステイトクラフト」という考えの主要な立案者だった。

バイデン政権では、国家安全保障会議と国家経済会議の2つのホワイトハウスの機関に属する国際経済・労働担当上級部長を務めた。しかし、今年2月に辞任した。国家安全保障会議を主宰するのは国家安全保障問題担当大統領補佐官であり、ここでもサリヴァンは、ハリスの上司となった。ジェニファー・ハリスは、バイデン政権内の「対中強硬派」として知られていた。以下の論文から重要な部分を引用する。
(引用はじめ)

政策立案者たちは、過少投資(underinvestment)が国家安全保障にとって、アメリカの国家債務よりも大きな脅威であることを認識すべきである。ワシントンの内外で毎年開かれる会合で、上級の国家安全保障専門家たちは、国家安全保障上の脅威の筆頭として、いまだに債務を非難している。将軍や提督たちは、定期的に連邦議会でその旨を証言している。しかし、もう議論の余地はないだろう。債務ではなく、長期停滞[secular stagnation](それによって、不安定な金融状況によってのみ満足のいく成長が達成される)の方が、はるかに差し迫った国家安全保障上の懸念なのだ。結局のところ、低成長に直面した緊縮財政と投資不足が、ハンガリーのヴィクトール・オルバンやブラジルのジャイル・ボルソナロのような不安定化する独裁政権を生み出すかを、世界は10年間も実証してきたのだ。

(中略)

産業政策[industrial policy](広義には、経済の再構築を目的とした政府の行動)を提唱することは、かつては恥ずべきことだと考えられていた。40数年の中断にもかかわらず、産業政策は深くアメリカ的である。ヘンリー・クレイのアメリカン・システムから、ドワイト・D・アイゼンハワーの州間高速道路網、リンドン・ジョンソンの偉大な社会(グレイト・ソサエティ)に至るまで、アメリカの歴史を通じて受け継がれてきた伝統である。

産業政策への回帰は、単に数十年前にこの国がやり残したことを取り戻すだけであってはならない。特定のセクターで勝者を選ぶことに注力するのではなく、月に人類を送り込む、ネット・ゼロ・エミッションを達成するといった大規模な使命(ミッション)に政府が投資することに注力すべきだというコンセンサスが生まれつつある。

(中略)

 もう一つの理由は、他国、特にアメリカの競争相手がそれを実践していることだ。習近平国家主席が主導している「中国製造2025(メイド・イン・チャイナ2025、Made in China 2025)」戦略は、中国を商業と軍事の両分野でテクノロジーと先端製造業のリーダーへと飛躍させることを目的とした、10年間の青写真である。正確な見積もりは難しいが、中国の補助金だけでも数千億ドルに達する。こうした投資は、人工知能、太陽エネルギー、5Gなど、多くの専門家たちが、中国はアメリカと肩を並べるか、既に上回っていると確信している、いくつかの分野で、大きな成果を上げている。

もしワシントンが民間部門の研究開発に大きく依存し続ければ、その研究開発は長期的な革新的な進歩ではなく、短期的な利益を生む応用に向けられているので、アメリカ企業は中国企業との競争で負け続けることになるだろう。そして、危機の際に、軍事技術からワクチンに至るまでの必需品を生産するのに必要な製造基盤が欠如すれば、アメリカは更に不安定を増すだろう。(翻訳は引用者)

(引用終わり)

 サリヴァンとハリスは、政府が産業政策を通じて巨額の投資を行うべきこと、そして、中国が産業政策を行っているのだから、競争に勝つためには、アメリカも産業政策を実施すべきであることを訴えている。サリヴァンは国家安全保障問題担当大統領補佐官であり、ハリスは、国家安全保障会議と国家経済会議の両方に所属する、国際経済・労働担当上級部長を務めた。これは、ジェイク・サリヴァンをはじめとする、バイデン政権の最高幹部たち産業政策の実施が、経済対策や景気対策の域を超えて、安全保障の問題であると考えていることを示している。

(貼り付けはじめ)

アメリカは新しい経済哲学を必要としている。外交政策の専門家たちがそれを助けることができる(America Needs a New Economic Philosophy. Foreign Policy Experts Can Help.

-アメリカは、経済政策を誤れば、大戦略を正しいものにすることはできない。
ジェニファー・ハリス、ジェイク・サリヴァン筆
2020年27

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2020/02/07/america-needs-a-new-economic-philosophy-foreign-policy-experts-can-help/

アメリカの外交政策立案者たちは今、力がますます経済的な尺度で測定され、行使される世界に直面している。権威主義的資本主義(authoritarian capitalism)が、主流モデルになっている市場民主政治体制(market democracy)として挑戦しており、技術的混乱、気候変動、格差が政府と国民の間の結びつきを緊張させている。このような世界では、少なくとも他の何よりも経済が、地政学(geopolitics)におけるアメリカの成功と失敗を左右する。

ソヴィエト連邦が享受したことのないレヴェルの経済力と影響力を既に獲得している中国への対応となれば、なおさらだ。軍事力が重要であることに変わりはないが、米中間の新たな大国間競争は、結局のところ、それぞれの国がいかに効果的に自国の経済を管理し、世界経済を形成するかにかかっている。

共和国成立の初期から第二次世界大戦後までのアメリカの歴史を振り返って見ると、大戦略(grand strategy)の変化により、重商主義(mercantilism)から自由放任絶対主義(laissez-faire absolutism)、ケインズ主義(Keynesianism)から新自由主義(neoliberalism)へ、経済哲学(economic philosophy)の変化が時々必要となった。その変更を確実な者にするため、国家安全保障(national security)に関する議論が重要であることが証明されている。アメリカが新たな大国間競争(great-power competition)の時代に入り、格差、テクノロジー、気候変動などの強力な要素と闘っている今日も同様である。

これまでと同様、アメリカは過去数十年間に拡大した経済イデオロギー(不完全に新自由主義と呼ばれることもある)を超えて、経済の運営方法、経済が果たすべき目標、そしてそれらの目標を達成するために経済をどのように再構築すべきかを再考する必要がある。 そしてこれは経済的であると同時に地政学的な義務でもある。そしてこれまでと同様、国家安全保障と外交政策のコミュニティは、この国内経済政策の議論において積極的な役割を果たし、必要な改革を提唱し実現を支援すべきである。

今日、国内政策の穏健な専門家たちは、経済学者たちが多くのことを間違えており、重大な修正が必要であることを受け入れ、真の清算を経験している。その結果、労働者の力、資本への課税、独占禁止政策、公共投資の範囲などに関する議論に著しい変化が生じている。対外政策の専門家たちは、アメリカの競争力を強化するために何が必要かをより重視し始めたが、同じような基本的な清算はしていない。外交政策の専門家たちは、国内外を問わず、自国の経済前提において何を変える必要があるのか、より鋭く体系的な感覚を養うべき時が来ている。

過去3年間、ドナルド・トランプという国家的緊急事態(national emergency)に対処するため、外交政策に取り組む民主党と反トランプの共和党が団結して、同盟、価値観、制度に関する一連の重要な提案の中核を擁護してきた。そうすることで、経済に関する難しい質問についての意見の相違を無視したり、回答を避けたりする傾向があった。そして過去30年にわたり、外交政策の専門家たちは経済学に関する質問を国際経済問題を担当する小さな専門家コミュニティにほとんど丸投げしてきた。

その理由の1つは、経済学と外交政策は異なるものであるべきだという考えからきている。あたかも両者を混ぜ合わせると、長い間客観的な科学として扱われてきた経済学が、地政学の利己的な影響によって汚されてしまうからと考えられた。また、外交政策のエリートたちが、アメリカ社会の他の多くの人々と同じように、この経済学の正統性を内面化し、委任が単なる便宜的な問題であるかのように信じ込むようになったことも一因である。例えば、バラク・オバマ政権とジョージ・W・ブッシュ政権が、国内経済政策ではこれほど異なるアプローチを採用していたのに、環太平洋経済連携協定(TPP)から国際通貨基金(IMF)に至るまで、対外経済政策ではほぼ同じアプローチをとっていたのはこのためだ。

しかし、外交政策の専門家は、新たな経済政策論争を傍観する必要はないし、むしろ傍観すべきではない。過去において、アメリカの大戦略はその時々の経済理論に基づいて構築されてきた。例えば、アメリカは建国当初、重商主義(mercantilism)に基づく帝国を退けていた。フランスやイギリスのような既成勢力に勝てないことは百も承知だったが、アメリカは重商主義を否定し、代わりに自由貿易モデルを採用し、その普及に貢献した。実際、アメリカがアダム・スミスやデイヴィッド・リカードに早くから傾倒していたのは、地政学的に生き残るためでもあった。

冷戦時代にも似たようなことがあった。アメリカ政府は、イギリスの経済学者ジョン・メイナード・ケインズによって提唱された処方箋を用い、第二次世界大戦後の数十年間、ソ連経済が太刀打ちできないペースで経済成長を達成した。これは、公共投資(public investment)と、完全雇用(full employment)を優先する金融政策によって、消費者需要と工業生産を刺激するというものだった。歴史は、当時のケインズ主義の台頭を、世界大恐慌(Great Depression)と世界大戦に対する明白で必然的な対応として解釈する傾向があるが、冷戦の初期には、このアプローチが正統派として定着することは明確ではなかった。

1933年から1944年まで国務長官を務めたコーデル・ハルや、ヴェテランの外交官ジョージ・ケナンのようなアメリカの国家安全保障の専門家を含むさまざまな人物たちが、ソヴィエトに打ち勝つには、大恐慌前の数十年間に主流だった自由放任主義の経済哲学を捨てることが必要だと主張したからである。ケナンは冷戦初期に、より拡張的な経済学を主張する際に、1930年代の外交政策の惨状は、1920年代の「失われた機会(lost opportunities)」に起因すると主張した。

歴史は再びノックを鳴らしている。中国との競争の激化と国際政治・経済秩序の変化は、現代の外交政策当局に同様の本能を呼び起こすはずだ。今日の国家安全保障の専門家たちは、過去40年間主流だった新自由主義経済哲学を乗り越える必要がある。この哲学は、個人の自由と経済成長の両方を最大化する最も確実な道としての競争市場に対する反射的な信頼と、それに対応する政府の役割は、財産権の行使を通じて競争市場を確保することに限定されるのが最善であり、市場の失敗という稀な事例にのみ介入するという信念に要約される。

外交政策の専門家たちが次の経済哲学を考え出す必要はない。その任務はより限定的であり、新自由主義の後に何が起こるべきかについて展開中の議論に地政学的視点を提供し、その後、新たなアプローチが出現したときに国家安全保障を主張することである。

この目的を達成するために、外交政策コミュニティは多くの古い思い込みを捨てる必要がある。経済学の主流派からは、従来のアプローチの最も有害な要素が捨て去られつつあるが、外交政策の会話には、ある種の決まり文句がまだ残っている。

第一に、政策立案者たちは、過少投資(underinvestment)が国家安全保障にとって、アメリカの国家債務よりも大きな脅威であることを認識すべきである。ワシントンの内外で毎年開かれる会合で、上級の国家安全保障専門家たちは、国家安全保障上の脅威の筆頭として、いまだに債務を非難している。将軍や提督たちは、定期的に連邦議会でその旨を証言している。しかし、もう議論の余地はないだろう。債務ではなく、長期停滞[secular stagnation](それによって、不安定な金融状況によってのみ満足のいく成長が達成される)の方が、はるかに差し迫った国家安全保障上の懸念なのだ。結局のところ、低成長に直面した緊縮財政と投資不足が、ハンガリーのヴィクトール・オルバンやブラジルのジャイル・ボルソナロのような不安定化する独裁政権を生み出すかを、世界は10年間も実証してきたのだ。

これはなにも、借金や赤字が決して問題ではないということではない。むしろ、それは良い借金と悪い借金の区別を強調することであり、この点は現在経済界で広く受け入れられている。アメリカの国家安全保障コミュニティは、当然のことながら、中国に対するアメリカの長期的な競争力を決定するインフラ、テクノロジー、技術革新、教育への投資を主張し始めている。成長、インフレ、金利が全て遅れているため、政策立案者たちは、アメリカにはこれらの投資を行う余裕がないというシンプソン・ボウルズ委員会に遡る(そして2021年に民主党が大統領に就任すれば戻る可能性が高い)議論に怯えるべきではない。

しかし、悪い借金は中長期的な成長の可能性を高めることなくリスクを生む。トランプ政権の2018年税制法案は、1兆5000億ドルから2兆3000億ドル(2009年の景気刺激策の2倍から3倍)の値札を掲げており、高価な教訓となっている。企業やアメリカの富裕層に対するトリクルダウン減税を、アメリカの低・中所得層から富裕層へ何兆ドルも再分配するゾンビ・イデオロギーとしか見なせないほど、棺桶に釘が刺さりすぎている。

企業やアメリカの富裕層へのトリクルダウン減税という考えは信用できない。それは単に、アメリカの中低所得層から富裕層へ何兆ドルも再分配するものであり、外交政策専門家たちはそれを否定すべきである。

第二に、産業政策[industrial policy](広義には、経済の再構築を目的とした政府の行動)を提唱することは、かつては恥ずべきことだと考えられていた。40数年の中断にもかかわらず、産業政策は深くアメリカ的である。ヘンリー・クレイのアメリカン・システムから、ドワイト・D・アイゼンハワーの州間高速道路網、リンドン・ジョンソンの偉大な社会(グレイト・ソサエティ)に至るまで、アメリカの歴史を通じて受け継がれてきた伝統である。

産業政策への回帰は、単に数十年前にこの国がやり残したことを取り戻すだけであってはならない。特定のセクターで勝者を選ぶことに注力するのではなく、月に人類を送り込む、ネット・ゼロ・エミッションを達成するといった大規模な使命(ミッション)に政府が投資することに注力すべきだというコンセンサスが生まれつつある。

産業政策に立ち返るべき最大の地政学的理由は気候変動だ。炭素に課税するだけでは気候変動に対処できない。それには、研究開発、新技術の展開、気候に優しいインフラの開発を通じて脱炭素アメリカ経済(post-carbon U.S. economy)への移行を裏付ける、計画的かつ方向性のある公共投資の急増が必要となる。

もう一つの理由は、他国、特にアメリカの競争相手がそれを実践していることだ。習近平国家主席が主導している「中国製造2025(メイド・イン・チャイナ2025、Made in China 2025)」戦略は、中国を商業と軍事の両分野でテクノロジーと先端製造業のリーダーへと飛躍させることを目的とした、10年間の青写真である。正確な見積もりは難しいが、中国の補助金だけでも数千億ドルに達する。こうした投資は、人工知能、太陽エネルギー、5Gなど、多くの専門家たちが、中国はアメリカと肩を並べるか、既に上回っていると確信している、いくつかの分野で、大きな成果を上げている。

もしワシントンが民間部門の研究開発に大きく依存し続ければ、その研究開発は長期的な革新的な進歩ではなく、短期的な利益を生む応用に向けられているので、アメリカ企業は中国企業との競争で負け続けることになるだろう。そして、危機の際に、軍事技術からワクチンに至るまでの必需品を生産するのに必要な製造基盤が欠如すれば、アメリカは更に不安定を増すだろう。

第三に、政策立案者たちは、あらゆる貿易協定が良い貿易協定であり、より多くの貿易が常に解決策であるという通念を乗り越えなければならない。細部が重要なのだ。TPPをどう考えるにせよ、国家安全保障コミュニティは、その実際の中身を探ることなく、疑うことなくTPPを支持した。アメリカの貿易政策は、長年にわたってあまりにも多くの過ちを犯してきた。

ノーベル賞受賞者で経済学者のポール・クルーグマンは最近、中国の世界貿易機関(WTO)加盟がアメリカ国内の地域社会に与える影響について、「物語の重要な部分を見逃していた」と指摘し、この問題について謝罪の意を表明した。彼は、デイヴィッド・オーサー、デイヴィッド・ドーン、ゴードン・ハンソンらによる、アメリカの雇用が中国に奪われ、1990年代後半の議論では伝統的な経済学者たちによって否定されていた、劇的な雇用の喪失を記録した研究に、部分的に反応したのである。

新しい思想家たちはまた、個々の合意を超えて、今日の経済に適用される貿易理論の基本前提の一部に疑問を投げかけている。例えば、原則として損失者が補償される限り、貿易は必然的に双方の生活を豊かにするという考えは、経済学の分野で当然の圧力に晒されている。これは、法人税を広範囲に分配するどころか、そもそも法人税を徴収することでその利益を利用してきたアメリカの恐るべき実績を考えると特に当てはまる。

貿易に対するより良いアプローチは、貿易から得られる理論的利益の多くを損なうタックスヘイブン(租税回避地)や抜け穴をより積極的に標的にすることである。また、企業投資のために世界を安全にするのではなく、アメリカ国内の賃金を向上させ、高賃金の雇用を創出することに焦点を当てるべきである。例えば、ゴールドマン・サックスのために中国の金融システムを開放することが、なぜアメリカの交渉の優先事項なってしまうのか? また、対外貿易政策を労働者や地域社会への国内投資と結びつけ、貿易調整を中途半端な約束に終わらせないようにすべきである。

うまく行けば、別のコースで経済的利益だけでなく、戦略的利益も得られるはずだ。ほんの一例を挙げると、TPPには存在しない為替操作(currency manipulation)に関する規定は、アメリカの中産階級を助けるだけでなく、複数の大陸にわたって中国の力を強化するために設計された一連のインフラプロジェクト、中国が進める一帯一路構想(Belt and Road InitiativeBRI)のような取り組みに資金を提供する能力を制限することによって、アメリカの戦略的地位をも助けるだろう。中国は一帯一路の資金の多くを外貨準備の備蓄を通じて賄ってきた。この外貨準備は、輸出の競争力を高めるため、自国通貨の価値を下げるために外国為替市場に何年も大規模な介入を行って蓄積したものである。

第四に、外交政策の専門家たちは、アメリカを拠点とする多国籍企業にとって良いことが、必然的にアメリカにとっても良いことであるという考えを捨てなければならない。アメリカの外交官は納税者の金で世界中を飛び回り、アメリカ企業が外国で契約や取引を勝ち取るよう働きかけている。しかし、こうした契約や取引によって創出される雇用は、アメリカ国内ではなく海外で創出されることがあまりにも多く、利益の全てまたは大部分は、アメリカの労働者や地域社会ではなく、投資家にもたらされる。

製薬業界を例にとれば、アメリカは医薬品開発において誰もが認めるリーダーであり、アメリカの交渉担当者の多くは医薬品を輸出の強みの源泉とみなしてきた。そのため、アメリカの貿易取引では大手製薬企業に対して寛大な条件が提示されている。知的財産(intellectual property)はアメリカが所有しているが、有効成分のほとんどは海外で製造されている。これはグローバル化の当然の事実のように聞こえるかもしれない。しかし、アメリカの医薬品の最大の輸入元は低賃金国ではなく、アイルランドとスイスである。

これは世界資本が低賃金国に移動しているということを示していない。それは税金逃れのために起こっている。カリフォルニア大学バークレー校の経済学者ガブリエル・ザクマンの試算によると、アメリカ企業が利益をアイルランドやスイスなどの税制の緩い管轄区域に移しているため、アメリカ政府は年間700億ドル近くの税収を失っているという。これは毎年徴収される法人税収のほぼ20パーセントに相当する額だ。

その結果、経済学者のブラッド・セッツァーが示したように、現在、アメリカの医薬品貿易赤字は民間航空の黒字を上回っている。実際、アメリカはスマートフォンよりも多くの医薬品を輸入している。アメリカ政府が、アメリカの利益から完全に乖離した業界にこれほど多くの政治資金を投じるべきかどうか、その答えは決して明白ではない。

政府による企業擁護は特権であり、権利ではない。今後のアメリカの政権は、海外で活動するアメリカ企業のために外交的影響力を行使するかどうか、またその方法を決定する際に、税制と歳入を考慮に入れるべきである。

最後に、外交政策の専門家の助けが自ら答えを導き出す中心となる分野がいくつかある。好例の1つは、独占禁止政策(antitrust policy)の再活性化に関して現在進行中の活発な議論だ。経済の集中(economic concentration)が低成長、賃金の停滞、不平等の拡大と関連している証拠を踏まえると、新たな経済的コンセンサスがどのような形で現れても、新たな形の独占禁止法が必要な要素となるだろう。

しかし、例えばアメリカが大規模なテクノロジー・プラットフォームを解体する場合、ワシントンが新たな国際的独占禁止法戦略も導入しない限り、中国のハイテク巨大企業に世界的な市場シェアを譲り渡すだけだと懸念する声もある。特に、戦略的技術の数々が天秤にかかっていることを考えると、外交政策コミュニティは、それらがどこで、どのように生産されるかについて、何か言うべきことがあるはずだ。

より広く言えば、国家安全保障上の懸念によって引き起こされる議論と、それを代弁する指導者たちは、しばしば、どのアイデアに価値があり、どのアイデアが真剣であるとみなされ、どのアイデアがそうでないかを決定する、強力な検証の源である。経済を管理し成長させる方法に関する新しい常識は、外交政策コミュニティがそのケースを説明する手助けをすれば、より容易に定着するだろう。

そして何よりも重要なのは、今日の世界に対する新たな大戦略(grand strategy)は、その背後にある経済哲学と同じ程度のものでしかないということである。過去の思い込みは、とりわけ国内の混乱と、アメリカの対中アプローチにおける弱点や盲点を招いた。今こそそれを捨てる時だ。外交政策界は積極的に新しい経済モデルを模索すべきである。アメリカの国家安全保障はそれにかかっている。

※ジェニファー・ハリス:ルーズヴェルト研究所研究員・ブルッキングス研究所非常勤上級研究員。2008年から2014年にかけて国務省政策企画局局員、2004年から2008年にかけて国家情報会議スタッフを務めた。ツイッターアカウント:@jennifermharris

※ジェイク・サリヴァン:カーネギー国際平和財団非常勤上級員。バラク・オバマ大統領次席アシスタント、2013年から2014年にかけてジョー・バイデン副大統領国家安全保障担当補佐官、2011年から2013年まで国務省政策企画局局長を務めた。

(貼り付け終わり)
(終わり)

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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 久しぶりの投稿となりました。実は9月に新型コロナウイルス感染しました。その時に、ある出版社から、書籍出版の話をいただきました。回復後に原稿を書き始めました。それがようやくひと段落したので、ブログを再開します。よろしくお願いいたします。

 今回は、バイデン政権で重職を務める2人の論文をご紹介する。筆者は、ジェイク・サリヴァン国家安全保障問題担当大統領補佐官とホワイトハウスの国家安全相会議(主宰は国家安全保障問題担当大統領補佐官)でインド・太平洋調整官を務め、最近、米国務副長官に指名されたカート・キャンベルの論文だ。テーマは米中関係だ。重要な部分を以下に引用する。
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(左から)アシュトン・カーター元国防長官、カート・キャンベル、ジェイク・サリヴァン
(引用はじめ)

軍事力に資源を集中していたソ連とは異なり、中国は地理経済学を主要な競争の場と見なしている。将来を見据え、人工知能、ロボット工学、先端製造業、バイオテクノロジーなどの新興産業や技術に多額の投資を行っている。中国は、欧米企業の相互待遇を否定することで、これらの分野での優位性を追求している。アメリカは中国に恒久的な正常貿易関係を認め、世界貿易機関(WTO)への加盟を支援し、世界で最も開かれた市場の一つを維持してきた。しかし、産業政策、保護主義、そして完全な窃盗の組み合わせを通じて、中国は自国市場にさまざまな公式・非公式の障壁を設け、アメリカの開放性を利用してきた。

(註略)

中国との経済競争において最も決定的な要因は、アメリカの国内政策である。新たな「スプートニクの瞬間(Sputnik moment)」、つまり、ソヴィエト連邦が世界初の人工衛星を打ち上げた時のように、国民の研究を強力に鼓舞するような瞬間、という考え方は大げさかもしれないが、政府はアメリカの経済的・技術的リーダーシップを促進する役割を担っている。しかしアメリカは、ドワイト・アイゼンハワー大統領が提唱した州間高速道路システムや、科学者ヴァネヴァー・ブッシュが推進した基礎研究イニシアティヴなど、まさにその時期に行った野心的な公共投資から目を背けている。ワシントンは、基礎科学研究への資金を劇的に増やし、クリーンエネルギー、バイオテクノロジー、人工知能、コンピューティング・パワーに投資しなければならない。同時に連邦政府は、あらゆるレヴェルの教育とインフラ(社会資本)への投資を拡大し、アメリカの人口統計学的・技能的優位性を継続的に高める移民政策を採用すべきだ。公共投資を飢餓状態に追い込みながら、中国への強硬路線を求めるのは自滅的である。競争を考えれば、こうした投資を「社会主義的」と表現するのは特に皮肉である。実際、エリザベス・ウォーレン上院議員(マサチューセッツ州選出、民主党)やマルコ・ルビオ上院議員(フロリダ州選出、共和党)のような奇妙なイデオロギー仲間は、アメリカの新たな産業政策について説得力のある主張を行っている。

(中略)

アメリカはまた、中国による知的財産の窃盗、的を絞った産業政策(targeted industrial policies)、経済と安全保障分野の混合に直面して、技術的優位性を守らなければならない。そのためには、双方向の技術投資と貿易の流れをある程度制限する必要があるが、こうした努力は全面的に行うのではなく、国家安全保障や人権にとって重要な技術については、制限を課し、そうでないものについては通常の貿易と投資を継続できるようにする、選択的に行うべきである。このような対象を絞った制限であっても、産業界や他国政府との協議のもとで実施されなければならない。これを怠れば、知識や人材の流れを阻害し、世界のテクノロジー・エコシステムをバルカン化させかねない。そのような事態は、中国に対するアメリカの重要な競争上の優位性を無にすることになる。つまり、世界最高の人材を調達し、世界中から最大のブレークスルーを合成することができるオープンな経済ということである。一方、技術規制の行き過ぎは他国を中国に向かわせる可能性がある。特に、中国は既に多くの国にとって最大の貿易相手国である。(翻訳は引用者)

(引用終わり)

 サリヴァンとキャンベルは、中国との競争を念頭に置いて、アメリカ国内で「ワシントンは、基礎科学研究への資金を劇的に増やし、クリーンエネルギー、バイオテクノロジー、人工知能、コンピューティング・パワーに投資しなければならない。同時に連邦政府は、あらゆるレヴェルの教育とインフラ(社会資本)への投資を拡大し、アメリカの人口統計学的・技能的優位性を継続的に高める移民政策を採用すべきだ」と述べている。この内容がバイデン政権において実際に実行されている。バイデン政権が実施しているのは、産業政策(Industrial Policy)だ。具体的には、半導体製造強化である(CHIPS法)。

 アメリカは、中国に対して技術的優位を保ちたい。それが、軍事的な優位にもつながるからだ。しかし、中国もまた、効率的な産業政策を実施し、それに成功している。アメリカは、中国に追いつかれつつある。下記論文の題名は「悲劇的な結末を迎えない競争(Competition Without Catastrophe)」だ。キャンベルは対中強硬派として知られているが、中国との対決は「悲劇的な結末」を迎えることもあるということは分かっているようだ。アメリカが中国に対して採用できる対処方法はかなり限られつつある。

(貼り付けはじめ)

悲劇的な結末を迎えない競争(Competition Without Catastrophe

-アメリカは如何にして、中国に挑戦し、共存することができるか?

カート・M・キャンベル、ジェイク・サリヴァン筆
2019年9・10月号(発行日:2019年8月1日)

『フォーリン・アフェアーズ』誌

https://www.foreignaffairs.com/articles/china/competition-with-china-without-catastrophe

アメリカは現在、冷戦終結以来、最も重大な外交政策の見直しの最中にある。ワシントンは依然としてほとんどの問題で激しく意見が分かれているが、中国に関与する時代があっさりと幕を閉じたというコンセンサスは高まっている。現在議論されているのは、次に何が来るかということである。

アメリカの外交政策の歴史を通じて行われてきた、多くの議論がそうであったように、この議論にも生産的な革新と破壊的なデマゴギーの両方の要素がある。トランプ政権の国家安全保障戦略が2018年に掲げたように、「戦略的競争(strategic competition)」が今後のアメリカの対北京アプローチを活気づけるべきだという点については、専門家のほとんどが同意できるだろう。しかし、「戦略的」という言葉で始まる外交政策の枠組みは、しばしば答えよりも多くの問題を提起する。「戦略的忍耐(strategic patience)」は、いつ何をすべきかについての不確かさ(uncertainty)を反映する。「戦略的曖昧さ(strategic ambiguity)」は、何をシグナルとすべきかの不確かさを反映している。そしてこの場合、「戦略的競争」は、何をめぐる競争なのか、勝つとはどういうことなのかについての不確かさを反映している。

新たなコンセンサスの急速な合体により、米中競争に関するこれらの本質的な疑問は未解決のまま放置されている。アメリカは一体何のために競争しているのか? そして、この競争の最も妥当な望ましい結果とはどのようなものだろうか? 競争の手段と明確な目的を結びつけることができなければ、アメリカの政策は競争のための競争へと流れ、やがて危険な対立の連鎖に陥ることになる。

アメリカの政策立案者やアナリストたちは、40年にわたる対中外交・経済関与戦略(four-decade-long strategy of diplomatic and economic engagement with China)の根底にあった楽観的な前提を、ほとんど、そして当然ながら、捨ててきた。このことについては、本稿の著者の1人である、カート・キャンベルが昨年、イーライ・ラトナーと共に、本誌に論稿を発表した。しかし、競争を受け入れることを急ぐあまり、政策立案者たちは旧来の希望的観測の代わりに新たな希望的観測を持ち込もうとしているのかもしれない。中国の政治体制、経済、外交政策に根本的な変化をもたらすことができると思い込んだことが、関与の基本的な間違いだった。ワシントンは今日、同じような過ちを犯す危険を冒している。競争によって、関与が失敗した中国の変革を成功させることができると思い込んでいる。

米中両国の間には多くの分断があるが、それぞれが大国として相手と共存していこうという覚悟が必要である。アメリカの正しいアプローチの出発点は、ワシントンの決定が北京の長期的な発展の方向性を決定する能力について謙虚になることからでなければならない。中国の軌跡に関する仮定に依存するのではなく、アメリカの戦略は、中国の体制に将来何が起ころうと、それに耐えうるものでなければならない。冷戦の最終的な終結のような決定的な終局状態ではなく、アメリカの利益と価値観に有利な条件での、明確な安定した共存状態を目指すべきである。

そのような共存には、競争と協力の要素が含まれ、アメリカの競争的努力は、そのような有利な条件を確保することに向けられる。このことは、アメリカの政策が関与の域を超えつつあることから、短期的にはかなりの摩擦を意味するかもしれない。過去には、積極的な結びつきのために摩擦を回避すること自体が目的であった。今後、中国政策は、アメリカがどのような関係を築きたいかということだけでなく、アメリカがどのような利益を確保したいかということについても考えなければならない。ワシントンが追い求めるべき安定した状態とは、正しくその両方に関するものである。つまり、競争が続く中でも、危険なエスカレート・スパイラルを防ぐために必要な一連の条件である。

アメリカの政策立案者たちは、この目標を手の届かないものとして諦めるべきではない。もちろん、中国がこのような結果をもたらすかどうかに口を出すことは事実である。従って、米中関係においては今後も警戒が合言葉であり続ける必要がある。共存はアメリカの利益を守り、避けられない緊張が全面的な対立に発展するのを防ぐ最良の機会を提供するが、それは競争の終結や基本的に重要な問題での降伏を意味するものではない。むしろ共存とは、競争を解決すべき問題としてではなく、管理すべき条件として受け入れることを意味する。

●冷戦の論理ではなく、冷戦からの教訓を(COLD WAR LESSONS, NOT COLD WAR LOGIC

現在の競争に関するぼんやりとした言説を考えると、現在の競争を理解するために、アメリカ人が記憶している唯一の大国間競争である冷戦に立ち戻りたいという誘惑は理解できる。この類推(analogy)には直感的な魅力がある。ソ連と同様、中国は抑圧的な政治体制と大きな野心を持つ大陸規模の競争相手である。中国が提起する挑戦はグローバルで永続的なものであり、その挑戦に応えるには、1950年代から1960年代にかけてアメリカが追求したような国内動員(domestic mobilization)が必要となる。

しかし、この類推は適切ではない。今日の中国は、かつてのソ連よりも経済的に手ごわく、外交的に洗練され、イデオロギー的に柔軟な競争相手となっている。そしてソ連とは異なり、中国は世界に深く組み込まれており、アメリカ経済と結びついている。冷戦はまさに生存競争(existential struggle)だった。アメリカの封じ込め戦略(U.S. strategy of containment)は、ソ連がいつか自重で崩壊するという予測、つまりこの戦略を最初に策定した外交官ジョージ・ケナンが信念をもって宣言したように、ソ連には「自らの崩壊の種(the seeds of its own decay)」が含まれているという予測に基づいて構築された。

今日ではそのような予測は当てはまらない。現在の中国国家が最終的に崩壊するという前提で、あるいはそれを目的として、新たな封じ込め政策を構築するのは間違っている。中国には人口動態、経済、環境など多くの課題があるにもかかわらず、中国共産党は状況に適応する驚くべき能力を示しており、それはしばしば残酷な場合もある。一方、集団監視と人工知能の融合により、より効果的なデジタル権威主義が可能になり、改革や革命に必要な集団行動を組織することはおろか、熟考することも困難になる。中国が深刻な国内問題に遭遇する可能性は十分にあるが、崩壊の予想は賢明な戦略の基礎を形成することはできない。たとえ国家が崩壊したとしても、それはアメリカの圧力ではなく国内の力学の結果である可能性が高い。

冷戦の類推は、中国がもたらす実存的脅威を誇張し、アメリカとの長期競争において中国がもたらす強みを軽視するものである。アジアのホットスポットにおける紛争のリスクは深刻ではあるが、冷戦時代のヨーロッパほど高くはなく、また核エスカレーションの脅威もそれほど大きくはない。ベルリンとキューバで起こったような核の瀬戸際政策は、米中関係に当然の帰結ではない。また、米中の競争が世界を代理戦争に陥らせたり、イデオロギー的に一致した国々が武力闘争の準備をするライヴァルブロックを生み出したりしたこともない。

しかし、危険性が低下したとはいえ、中国は極めて挑戦的な競争相手である。前世紀において、ソヴィエト連邦を含め、アメリカの敵対国がアメリカのGDPの60%に達したことはなかった。中国は2014年にそのしきい値を超えた。購買力ベースで、そのGDPはすでにアメリカのGDPを25%上回っている。中国はいくつかの経済分野で世界のリーダー的存在になりつつあり、その経済はソ連時代よりも多様化、柔軟化、高度化している。

中国はまた、自国の経済的影響力を戦略的影響力に変えることにも優れている。ソ連が内向きの閉鎖経済(closed economy)が足かせになったのに対し、中国はグローバル化を受け入れ、世界の3分の2以上の国にとって最大の貿易相手国となった。軍事化された米ソ紛争には欠けていた、経済的、人的、技術的なつながりが、中国とアメリカおよびより広い世界との関係を規定している。世界的な経済主体として、中国はアメリカの同盟諸国やパートナーの繁栄の中心となっている。学生や観光客は世界の大学や都市を溢れている。その工場は、世界の高度な技術の多くを生み出す工場だ。この太いつながりの網のおかげで、どの国がアメリカと連携し、どの国が中国と連携しているのかを判断することさえ困難になっている。エクアドルとエチオピアは投資や監視技術を中国に期待しているかもしれないが、これらの購入が、アメリカからの意識的な離反の一環であるとはほとんど考えられない。

中国はソ連よりも手ごわい競争相手として浮上しているが、アメリカにとって不可欠なパートナーでもある。アメリカと中国が協力しても解決が難しい地球規模の問題は、アメリカと中国が二大汚染国であることを考慮すると、両国が協力しなければ解決することは不可能である。その中で最も重要なのは気候変動(climate change)である。経済危機、核拡散、世界的パンデミックなど、他の多くの国境を越えた課題にも、ある程度の共同努力が必要だ。この協力の必要性は、冷戦時代にはほとんど似ていない。

新たな冷戦という概念から、封じ込めの最新版を求める声が上がる一方で、こうした考え方に抵抗感を示すのが、中国との融和的な「重大な交渉(grand bargain)」の提唱者たちである。このような交渉は、米ソのデタント(detente)の条件をはるかに超えるものだ。このシナリオでは、アメリカはアジアにおける影響力の範囲を中国に事実上譲歩することになる。このシナリオでは、アメリカはアジアにおける影響力の範囲を事実上中国に譲歩することになる。推進派は、アメリカの国内的な逆風と相対的な衰退を考えれば、この譲歩は必要だと擁護する。この立場は現実的なものと宣伝されているが、封じ込め以上に耐えうるものではない。世界で最もダイナミックな地域を中国に譲ることは、アメリカの労働者や企業に長期的な損害を与える。アメリカの同盟国や価値観にダメージを与え、主権を持つパートナーを交渉の材料にすることになる。重大な交渉はまた、投機的な約束のために、アメリカの同盟関係や西太平洋で活動する権利さえも放棄するような、厳しく恒久的なアメリカの譲歩を必要とするだろう。このようなコストは容認できないだけでなく、大筋合意は強制力を持たない。台頭する中国は、嗜好や国力が変われば、協定に違反する可能性が高い。

新しい封じ込めの擁護者たちは、管理された共存を求めるいかなる声も、重要な交渉のヴァージョンの論拠とみなす傾向があり、重要な交渉の擁護者たちは、持続的な競争を示唆するいかなる声も、封じ込めのヴァージョンのケースとみなす傾向がある。この対立は、中国の屈服や米中領有を前提としない、両極端の間の道を見えにくくしている。

その代わり、軍事、経済、政治、グローバル・ガバナンスという4つの重要な競争領域において、北京と良好な共存条件を確立し、米ソ対立のような脅威認識を引き起こすことなく、アメリカの利益を確保することを目指すべきである。ワシントンは冷戦の教訓に耳を傾けるべきであるが、その論理が今でも通用するという考えは否定すべきである。

●持続可能な抑止に向かって(TOWARD SUSTAINABLE DETERRENCE

真にグローバルな戦いであった冷戦時代の軍事競争とは対照的に、ワシントンと北京にとっての危険はインド太平洋に限定される可能性が高い。それでも、この地域には南シナ海、東シナ海、台湾海峡、朝鮮半島という少なくとも4つの潜在的なホットスポットがある。どちらの側も紛争を望んでいないが、米中両国が攻撃能力に投資し、この地域での軍事的プレゼンスを高め、これまで以上に接近して活動するにつれて、緊張が高まっている。ワシントンは、中国がアメリカ軍を西太平洋から追い出そうとしていると恐れ、北京は、アメリカが中国を囲い込もうとしていると恐れている。人民解放軍の元海軍司令官である呉勝利提督は、このような事態は「戦争の火種になりかねない」と警告している。

しかし、インド太平洋における米中両軍の共存を不可能と片付けるべきではない。アメリカは、中国の兵器の到達範囲を考えると、軍事的優位を回復するのは難しいことを受け入れ、その代わりに、中国がアメリカの行動の自由を妨害したり、アメリカの同盟諸国やパートナーに物理的な威圧を加えたりすることを抑止することに集中しなければならない。北京は、アメリカが主要な軍事的プレゼンス、主要な水路での海軍活動、同盟とパートナーシップのネットワークを持つ、この地域の常駐大国であり続けることを受け入れなければならないだろう。

台湾と南シナ海は、この全体的なアプローチに最も重大な課題をもたらす可能性が高い。いずれの場合も、軍事的な挑発や誤解は、壊滅的な結果を伴うより大きな火種を容易に引き起こす可能性があり、このリスクは、ワシントンと北京双方の指導者たちの思考をますます活性化させるに違いない。

台湾に関しては、歴史的な複雑さを考慮すると、現状を一方的に変更しないという暗黙の約束(tacit commitment)がおそらく期待できる最善のものである。しかし、台湾は潜在的な引火点であるだけではない。それはまた、米中関係の歴史の中で、誰にも言われていない最大の成功でもある。この島は、アメリカと中国の間の曖昧な空間の中で、双方が一般的に採用した柔軟で微妙なアプローチの結果として成長、繁栄、民主化されてきた。このように、台湾をめぐる外交は、他の様々な問題に関して、ますます困難を極める米中外交のモデルとなる可能性があるが、これには同様に、激しい関与、相互の警戒、ある程度の不信感、そして国際社会への対応が含まれる可能性が高い。忍耐と必要な自制が求められる。一方、南シナ海では、航行の自由に対する脅威が中国自身の経済に壊滅的な結果をもたらす可能性があるという中国政府の理解は、アメリカの抑止力と組み合わせることで、よりナショナリズム的な感情を調整するのに役立つかもしれない。

このような共存を実現するためには、ワシントンは米中の危機管理と自国の抑止力の両方を強化する必要がある。冷戦時代の敵対国同士であった米ソ両国は、偶発的な衝突が核戦争にエスカレートするリスクを軽減するため、軍事ホットラインを設置し、行動規範を定め、軍備管理協定を締結するなど、協調して取り組んできた。宇宙空間やサイバースペースといった新たな潜在的紛争領域がエスカレートのリスクを高めている現在、アメリカと中国は危機管理のための同様の手段を欠いている。

あらゆる軍事領域において、米中両国は、少なくとも米ソ海事事故協定(1972年)のような正式で詳細な協定を必要としている。この協定は、海上での誤解を避けることを目的とした一連の具体的なルールを定めたものである。米中両国はまた、特に南シナ海での衝突を回避するために、より多くのコミュニケーション・チャンネルとメカニズムを必要とする。二国間の軍事関係はもはや政治的な意見の相違を人質に取るべきでなく、双方の軍高官がより頻繁に実質的な話し合いを行い、個人的な関係を築くとともに、双方の作戦に対する理解を深めるべきだ。歴史的に見ても、こうした努力の一部、特に危機管理コミュニケーションについては、進展が難しいことは明らかになっている。中国の指導者たちは、危機管理コミュニケーションによってアメリカが恐れを持つことなく行動することを助長しかねず、また現場の軍幹部に権限を委譲しすぎることを恐れている。しかし、中国が力をつけ、軍事改革を進めていることから、こうした懸念は和らいでいるかもしれない。

この領域におけるアメリカの効果的な戦略には、意図しない衝突のリスクを減らすだけでなく、意図的な衝突を抑止することも必要である。北京が領土紛争において、武力による威嚇を利用して既成事実を追求することは許されない。とはいえ、このリスクを管理するためにアメリカ軍がこの地域で優位に立つ必要はない。トランプ政権の元国防総省高官エルブリッジ・コルビーが主張しているように、「支配を伴わない抑止は、たとえ非常に偉大で恐ろしい相手であっても可能」なのである(deterrence without dominance—even against a very great and fearsome opponent—is possible)。

インド太平洋における抑止力を確保するために、ワシントンは、空母のような高価で脆弱なプラットフォームから、莫大な資金を費やすことなく中国の冒険主義を阻止するように設計された、より安価な非対称能力(asymmetric capabilities)へと投資の方向を変えるべきである。これには、北京自身のプレイブックを参考にすることが必要だ。中国が比較的安価な対艦巡航ミサイルや弾道ミサイル(antiship cruise and ballistic missiles)に依存してきたように、アメリカは長距離無人空母艦載攻撃機(long-range unmanned carrier-based strike aircraft)、無人水中ヴィークル(unmanned underwater vehicles)、誘導ミサイル潜水艦(guided missile submarines)、高速攻撃兵器(high-speed strike weapons)を導入すべきである。これらの兵器は全て、攻撃作戦が成功するという中国の自信を失わせ、衝突や誤算のリスクを軽減しながらも、アメリカと同盟諸国の利益を守ることができる。アメリカはまた、東南アジアやインド洋に軍事的プレゼンスを分散させ、必要な場合には恒久的な基地ではなく、アクセス協定を活用すべきである。そうすることで、アメリカ軍の一部を中国の精密打撃複合体(China’s precision-strike complex)の外に置き、危機に迅速に対処する能力を維持することができる。また、人道支援、災害救援、海賊対処任務など、中国との紛争にとどまらない幅広い事態に対処できるよう、アメリカ軍の態勢を整えることもできる。

●互恵性を確立する(ESTABLISHING RECIPROCITY

軍事力に資源を集中していたソ連とは異なり、中国は地理経済学を主要な競争の場と見なしている。将来を見据え、人工知能、ロボット工学、先端製造業、バイオテクノロジーなどの新興産業や技術に多額の投資を行っている。中国は、欧米企業の相互待遇を否定することで、これらの分野での優位性を追求している。アメリカは中国に恒久的な正常貿易関係を認め、世界貿易機関(WTO)への加盟を支援し、世界で最も開かれた市場の一つを維持してきた。しかし、産業政策、保護主義、そして完全な窃盗の組み合わせを通じて、中国は自国市場にさまざまな公式・非公式の障壁を設け、アメリカの開放性を利用してきた。

この構造的不均衡により、安定した米中経済関係への支持が損なわれており、たとえ習国家主席とドナルド・トランプ大統領が短期通商停戦に合意できたとしても、関係が断絶するリスクが高まることに直面している。アメリカのビジネス界の多くは、知的財産を盗むために国家ハッカーを雇うこと、外国企業に事業の現地化と合弁事業への参加を強制すること、国内の大企業に補助金を与えること、その他外国企業を差別することなど、中国の不公平な行為を容認するつもりはもうない。

アメリカの労働者と技術革新を保護しながら、こうした摩擦の拡大を緩和するには、中国が世界の主要市場に完全にアクセスできるようにすることが必要であり、そのためには、中国が自国の経済改革を進んで採用することが条件となる。ワシントンとしては、アメリカの経済力の核心的な源泉に投資し、志を同じくするパートナーからなる統一戦線を構築して互恵関係の確立を支援し、自業自得を避けながら技術的リーダーシップを守らなければならない。

中国との経済競争において最も決定的な要因は、アメリカの国内政策である。新たな「スプートニクの瞬間(Sputnik moment)」、つまり、ソヴィエト連邦が世界初の人工衛星を打ち上げた時のように、国民の研究を強力に鼓舞するような瞬間、という考え方は大げさかもしれないが、政府はアメリカの経済的・技術的リーダーシップを促進する役割を担っている。しかしアメリカは、ドワイト・アイゼンハワー大統領が提唱した州間高速道路システムや、科学者ヴァネヴァー・ブッシュが推進した基礎研究イニシアティヴなど、まさにその時期に行った野心的な公共投資から目を背けている。ワシントンは、基礎科学研究への資金を劇的に増やし、クリーンエネルギー、バイオテクノロジー、人工知能、コンピューティング・パワーに投資しなければならない。同時に連邦政府は、あらゆるレヴェルの教育とインフラ(社会資本)への投資を拡大し、アメリカの人口統計学的・技能的優位性を継続的に高める移民政策を採用すべきだ。公共投資を飢餓状態に追い込みながら、中国への強硬路線を求めるのは自滅的である。競争を考えれば、こうした投資を「社会主義的」と表現するのは特に皮肉である。実際、エリザベス・ウォーレン上院議員(マサチューセッツ州選出、民主党)やマルコ・ルビオ上院議員(フロリダ州選出、共和党)のような奇妙なイデオロギー仲間は、アメリカの新たな産業政策について説得力のある主張を行っている。

このような国内基盤の上に、ワシントンは志を同じくする国々と協力し、国有企業から固有の技術革新政策、デジタル貿易に至るまで、世界貿易機関(WTO)が現在扱っていない問題について、新たな基準を定めるべきである。理想的には、これらの基準はアジアとヨーロッパをつなぐものである。そのためにアメリカは、WTOシステムの上に市場民主政治体制国家のルール設定イニシアティヴを重ねることで、これらのギャップを埋めることを検討すべきである。理屈は簡単だ。中国がこの新しい経済共同体への平等なアクセスを望むのであれば、自国の経済・規制の枠組みも同じ基準を満たさなければならない。この共同体の引力が合わさることで、中国は選択を迫られることになる。フリーライド(ただ乗り)を抑制して貿易ルールに従うか、世界経済の半分以上から不利な条件を受け入れるか、もし北京が、必要な改革は経済体制の変更に相当すると主張するのであれば、そうすることもできるが、世界は中国に互恵的な待遇を提供する権利がある。場合によっては、北京がアメリカの輸出や投資を扱うのと同じように中国の輸出や投資を扱うことで、ワシントンが中国に一方的に相互措置を課す必要があるかもしれない。このような努力は困難でコストがかかるものであり、トランプ政権が中国に対して共通の立場をとるのではなく、アメリカの同盟国と貿易摩擦を起こすという決断を下したのは、まさにアメリカの影響力の無駄遣いである。

アメリカはまた、中国による知的財産の窃盗、的を絞った産業政策(targeted industrial policies)、経済と安全保障分野の混同に直面して、技術的優位性を守らなければならない。そのためには、双方向の技術投資と貿易の流れをある程度制限する必要があるが、こうした努力は全面的に行うのではなく、国家安全保障や人権にとって重要な技術については、制限を課し、そうでないものについては通常の貿易と投資を継続できるようにする、選択的に行うべきである。このような対象を絞った制限であっても、産業界や他国政府との協議のもとで実施されなければならない。これを怠れば、知識や人材の流れを阻害し、世界のテクノロジー・エコシステムをバルカン化させかねない。そのような事態は、中国に対するアメリカの重要な競争上の優位性を無にすることになる。つまり、世界最高の人材を調達し、世界中から最大のブレークスルーを合成することができるオープンな経済ということである。一方、技術規制の行き過ぎは他国を中国に向かわせる可能性がある。特に、中国は既に多くの国にとって最大の貿易相手国である。

この点で、中国企業フアウェイの5Gインフラ開発への参加に対するトランプ政権の大声で一方的なキャンペーンは、警告となるかもしれない。もし、アメリカのトランプ政権が事前に同盟諸国やパートナーと調整し、創造的な政策立案を試みていたら(例えば、フアウェイの機器の代替品の購入に補助金を与える多国間融資イニシアティヴを確立するなど)、他の供給者を検討するよう各州を説得することにもっと成功したかもしれない。そうすれば、フアウェイがアメリカ商務省のアメリカ技術を供給できない事業体のリストに登録されたことを受けて、現在5G展開で直面している2年の遅れを最大限に活用できたかもしれない。テクノロジー分野における中国との貿易を制限する今後の取り組みが成功するには、慎重な検討、事前の計画、多国間支援が必要となる。そうしないと、アメリカの技術革新を損なう危険がある。

●反中国ではなく、親民主政治体制を(PRO-DEMOCRACY, NOT ANTI-CHINA

米中間の経済・技術競争は、新たな対立モデルの出現を示唆している。しかし、対立する2つのブロックの間に鋭いイデオロギー的分裂があった冷戦時代とは異なり、ここではその境界線はより曖昧である。ワシントンも北京も冷戦に特徴的だったような布教活動をしている訳ではないが、中国がそのシステムを明確に輸出しようとしていないとしても、最終的にはソ連よりも強力なイデオロギー的挑戦をしてくるかもしれない。国際秩序が最も強力な国家を反映するものであるならば、中国が超大国の地位を獲得することは、独裁政治へ他の国々が近づく可能性が出てくる。中国の権威主義的資本主義(authoritarian capitalism)とデジタル監視(digital surveillance)の融合は、マルクス主義よりも耐久性があり、魅力的であることが証明されるかもしれない。独裁者や民主政治の面での後進国への支援は、アメリカの価値観に挑戦し、中国北西部における100万人以上のウイグル族の拘束など、中国自身の残酷な慣行の隠れ蓑を提供するだろう。世界中で民主的な統治が失われていることが、アメリカの利益にとって重要なことなのかどうか疑問に思う人もいるかもしれない。民主的な政府はアメリカの価値観に沿い、良い統治を追求し、国民を大切にし、他の開かれた社会を尊重する傾向がある。

ワシントンは、米中競争の中で点数を稼ぐためではなく、これらの価値観の魅力を高めることに集中することで、政治的な領域で中国と共存するための有利な条件を確立することができる。中国のプレゼンスが世界的に高まるなか、アメリカは冷戦時代にありがちだった、ライヴァル政府との関係だけで第三国を見るという傾向を避けるべきである。トランプ政権の政策の中には、ラテンアメリカでモンロー・ドクトリンを発動したり、アフリカで中国に対抗することを主眼とした演説を行ったりなど、この古いアプローチを反映しているものがある。中国のイニシアティヴに対して、ワシントンが自国を北京との競争における戦場としてしか考えていないと感じられるような、考えなしの対応をするよりも、自国の条件に基づいて国家と意図的に関わるような姿勢の方が、アメリカの利益と価値を高めることができるだろう。

中国の一帯一路構想(China’s Belt and Road Initiative)は、この原則を実際に適用する最も明白な機会を提供する。アメリカとそのパートナー諸国は、あらゆる港湾、橋梁、鉄道路線など、あらゆる場面で中国と戦うのではなく、進歩に最も役立つ質の高い、高水準の投資について各国に積極的に売り込むべきである。反中国だからという理由ではなく、成長促進、持続可能性促進、自由促進という理由で投資を支援することは、特に中国の国家主導の投資が各国である程度の反発を引き起こしているため、長期的にははるかに効果的である。コスト超過、入札なしの契約、汚職、環境悪化、劣悪な労働条件などが原因である。

この観点から、民主政治体制を守る最善の方法は、良い統治に不可欠な価値観、特に透明性(transparency)と説明責任(accountability)を強調し、市民社会(civil society)、独立メディア、情報の自由な流れを支援することである。こうした措置を講じることで、民主主義が後退するリスクを減らし、発展途上国の生活を向上させ、中国の影響力を低下させることができる。このような行動をとるには、アメリカとその同盟諸国やパートナーから多国間資金を注入し、各国に真の選択肢を与える必要がある。しかし、もっと根本的なことも必要である。アメリカは、人的資本と良好なガバナンスへの投資が、中国の搾取的アプローチよりも長期的には良い結果をもたらすという確信に、より大きな自信を持つ必要がある。

また、人間の倫理について難しい問題を提起する新技術の規範を設定するには、スコアよりも原則に焦点を当てることが不可欠である。人工知能からバイオテクノロジー、自律型兵器から遺伝子編集された人間に至るまで、適切な行動を定義し、遅れをとっている国々に一線を画すよう圧力をかけるために、今後数年間は重要な闘いが繰り広げられるだろう。ワシントンは、このような議論のパラメーターを遅滞なく形成し始めるべきである。最後に、中国との共存は、アメリカが、中国国民に対する中国政府による非人道的な扱いや、外国NGO職員の恣意的な拘束に対して声を上げることを妨げるものではないし、また妨げることはできない。北京のウイグル人抑留に対する西側の相対的な沈黙は、道徳的な汚点を残している。したがって、アメリカとそのパートナーは国際的な圧力を動員し、中立的な第三者による抑留者への接見と、抑留に加担している個人や企業への制裁を要求すべきである。中国は、そのような圧力は関係を不安定にすると脅すかもしれない。しかしワシントンは、人権侵害について発言することを、予測可能で日常的な関係の一部とすべきだ。

●競争と協力を守る(SEQUENCING COMPETITION AND COOPERATION

米中関係の競争が激化するにつれ、協力の余地はなくなることはないにしても、縮小するだろうという考えは、しばしば信仰の対象であると考えられている。しかし、敵国であっても、アメリカとソ連は、宇宙探査、伝染病、環境、地球規模の共有物など、多くの問題で協力する方法を見つけた。現代の課題の性質を考慮すると、アメリカと中国の間の協力の必要性ははるかに深刻である。米中両国の指導者は、このような国境を越えた課題における協力を、一方の当事者の譲歩としてではなく、双方にとって不可欠な必要性として考慮すべきだ。

協力と競争のバランスを適切に保つために、ワシントンはそれぞれの順序を考慮する必要がある。アメリカは歴史的に、まず中国と協力し、次に中国と競争しようとしてきた。一方、中国政府は、第一に競争し、第二に協力することに非常に慣れており、戦略的利益分野におけるアメリカの譲歩に明示的または暗黙的に協力の申し出を結びつけている。

今後、ワシントンは国境を越えた課題に関して熱心な求婚者になることを避けるべきである。熱心さがかえって交渉材料となり、協力の幅を狭めることになりかねない。直感に反するかもしれないが、北京との効果的な協力には競争が不可欠である。多くの中国政府関係者のゼロサム戦略思考では、アメリカのパワーと決意に対する認識は非常に重要であり、中国官僚機構は長い間、両者の変化に注目してきた。このような敏感さを考えると、ワシントンが毅然とした態度で臨み、コストを課すことさえできる能力を示すことは、共通の大義(common cause)を見出すことについて真剣に語ることと同じくらい重要である可能性がある。従って、最善のアプローチは、競争によってリードし、協力の申し出によってフォローし、グローバルな課題に対する中国の支援とアメリカの利益に対する譲歩の間のいかなる関連性の交渉も拒否することであろう。

●二極を超えて(BEYOND THE BILATERAL

アメリカの政策立案者が念頭に置いておくべき冷戦の教訓がもう1つある。それは、中国との競争におけるアメリカの最大の強みの1つは、他の国々よりも両国に関係しているということである。アメリカの同盟諸国とパートナーの重みを総合すると、あらゆる分野で中国の選択が決まる可能性があるが、それはアメリカがこれら全ての関係を深め、それらを結びつけるよう努めた場合に限られる。米中競争に関する議論の多くは二国間の側面に焦点を当てているが、アメリカは最終的には、アジアとその他の世界の関係と制度の密なネットワークに中国戦略を組み込む必要があるだろう。

これはトランプ政権にとって覚えておきたい教訓だ。これらの永続的な利点を活用する代わりに、関税や軍事基地の支払い要求などにより、アメリカの伝統的な友人の多くを疎外し、主要な制度や協定を放棄または弱体化させてきた。国連や世界銀行から世界貿易機関に至るまで、多くの国際機関はアメリカが設計と主導に協力し、航行の自由、透明性、紛争解決、そして貿易。これらの機関から撤退することで、アメリカの長期的な影響力を犠牲にして短期的な余裕と柔軟性が得られ、中国政府が規範を再構築し、これらの機関内で独自の影響力を拡大することが可能になる。

アメリカは、同盟を削減すべきコストではなく、投資すべき資産と見なす必要がある。有能な同盟諸国からなる独自のネットワークを構築する有意義な能力がない以上、北京はアメリカがこの長期的な優位性を浪費することほど望むことはないだろう。中国との明瞭な共存関係を確立することは、どのような状況下でも困難であるが、支援なしには事実上不可能である。アメリカが抑止力を強化し、より公正で互恵的な貿易システムを確立し、普遍的価値を守り、世界的な課題を解決するには、単独では不可能である。効果的なものにするためには、アメリカのいかなる戦略も同盟諸国とともに始めなければならない。

※カート・M・キャンベル:「ジ・アジア・グループ」会長兼最高経営責任者。2018年から2019年にかけてマケイン研究所キッシンジャー記念研究員を務めている。2009年から2013年にかけて国務次官補(東アジア・太平洋問題担当)を務めた。

※ジェイク・サリヴァン:カーネギー国際平和財団非常勤上級研究員。2013年から2014年にかけて国家安全保障問題担当副大統領補佐官、2011年から2013年にかけて国務省政策企画局局長を務めた。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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ビッグテック5社を解体せよ

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