古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

2024年02月

 古村治彦です。

 2023年12月27日に最新刊『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。世界は大きく「ザ・ウエスト(the West、西側諸国)対ザ・レスト(the Rest、西峩々以外の国々)」に分裂していく、構造変化が起きています。そのことを詳しく分析しました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 「デカップリング(decoupling)」「脱ドル化(de-dollarization)」という言葉を聞くようになった。特に昨年、BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)の総会で、「BRICS通貨の創設が発表されるのではないか」という予測が出て、ドルに代わる世界通貨になるかもしれないということで、話題になった。結局、インドの反対もあり、今回は見送りとなったが、ドルが世界の基軸通貨(key currency)の地位を失う可能性が取り沙汰されるきっかけとなった。このことは、最新刊『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』でも取り上げた。脱ドル化、デカップリングとは、西側世界への経済的な依存を減らすことである。その先頭を走っているのは中国である。下の論稿には、中国が行ってきたデカップリングと脱リスク化について、脱ドル化、技術依存度(technological dependence)を下げる努力、国内の金融部門に外国が関与することを制限することが挙げられている。これらは、20世紀末から西側諸国を中心に進められてきた、グローバライゼーション(Globalization)に逆行する動きであるが、グローバライゼーションに対する逆行こそが、国家を救う道である。

 現在の日本を見てみると、自国通貨である円の価値の低下によって、諸外国から見て、「なんでも安い国」となった。しかも高品質というおまけがつくので、「なんともおいしい」区になっている。現在、バブルを超える勢いで、株式市場が上昇を見せているが、これは、外国からの投資が増大し、それに国内の資金が流れているということである。外国からの資金はいつか日本株を打って出ていく。株高に誘惑されて株式を買ったり、NISA投資をしたりしている日本の人々には損がかぶせられる。そうして国力が奪われていき、日本の衰退は加速していく。グローバライゼーションで利益を得るのは国境を軽々と超えるエリートたちや資産家たちだけである。日本は30年以上、グローバライゼーションによって国力を毀損させられてきた。

 世界の構造が大きく変化しようとしている時期になっている。グローバライゼーションと世界構造の大変化に備えるためにも、デカップリングと脱ドル化を真剣に検討し、議論するべき時だ。しかし、既にアメリカ国債を買いまくり、外貨準備もドルに偏重している日本はこのようなことはできないかもしれない。アメリカと一緒に心中をするしかないということになるだろう。

(貼り付けはじめ)

西側諸国がデカップリングを発明したのではない-中国が発明したのだ(The West Did Not Invent Decoupling—China Did

-北京は長い間、経済を西側諸国から切り離すことで自由裁量(free hand)を手にしようとしてきた。

アガーテ・デマライス筆

2024年2月1日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/02/01/china-decoupling-derisking-technology-sanctions-trade-us-eu-west/

クレムリン・ウォッチャーたちの間で語り継がれている話がある。2014年のロシアによるクリミア侵攻と併合に対して、西側諸国が初めてロシアに制裁を課した直後、ロシアのウラジーミル・プーティン大統領は経済補佐官たちを呼び出した。彼の質問は単純だった。「ロシアの食料自給率はどのような状況なのか?」。補佐官たちはあまり良くないという答えが返ってきた。ロシアは国民に提供する食糧は輸入に頼っていた。プーティンは顔をあ納めさせて、制裁によってモスクワの主食へのアクセスが制限されることを恐れ、何とかするよう命じた。

2022年にロシアが本格的にウクライナに侵攻する時点にまでテープを早送りすると、プーティンはもはや食料の心配をする必要がなくなった。わずか8年で、ロシアは食糧をほぼ自給自足できるようになり、肉、魚、そして、まあまあの品質のチーズまで生産できるようになった。

ロシアが食糧自給を目指したのは、現在流行している経済的デカップリング[economic decoupling](最近では脱リスク[de-risking]と言い換えられている)をめぐる議論よりもずっと以前のことである。政治的言説(political discourse)が示唆するところとは逆に、西側諸国がこうした政策を考案したわけではない。ロシアの例が示すように、西側の民主政治体制国家と対立する国々は、潜在的な敵国から自らを守るために、長い間リスク回避政策(de-risking policy)を追求してきた。

ロシアに比べ、中国は技術、貿易、金融の面で西側諸国への経済的依存(economic reliance)を減らしてきた実績がある。デカップリング(decoupling)とデリスク(de-risking)の発明者であり、世界のリーダーでも存在がいるとすれば、それはどう見ても北京である。

近年、アメリカが中国へのハイテク輸出を次々と規制するずっと以前から、中国の指導者たちはテクノロジーを脱リスクの最初の柱としてきた。例えば、北京の半導体分野への最初の投資計画は、1980年代まで遡るが、当時の中国が基本的なチップを生産する域にも達していなかったことを考えると、その結果は成功と失敗が入り混じったものであったことは間違いない。

中国の計算はシンプルだ。テクノロジーは経済的・軍事的優位性のバックボーンである。したがって、北京にとって技術的な自給自足は、生き残り、繁栄するために必要不可欠なことなのだ。

中国の技術依存度(technological dependence)を下げる努力は過去10年間で推進された。ドナルド・トランプ前米大統領が中国との関係断絶を自慢し始める2年前の2015年、北京は半導体(semiconductors)、人工知能()artificial intelligence、クリーンテクノロジー(clean tech)などの主要技術分野で、自給自足を目指す「メイド・イン・チャイナ2025(Made in China 2025)」の青写真を発表した。

中国は技術的な自給自足を自国が生存し続けるための必須条件と考え、わずか数年で目覚ましい進歩を遂げた。多くのハイテク分野では、中国企業や研究者たちは揺るぎない世界的リーダーであるか(特にクリーン技術分野では、中国企業がソーラーパネル[solar panels]、風力タービン[wind turbines]、電気自動車[electric vehicles]の市場を独占している)、あるいは西側諸国の競合相手とほぼ肩を並べている(人工知能、量子コンピューター[quantum computing]、バイオテクノロジー[biotech]を含む)。

半導体は例外だ。マイクロチップに関して言えば、西側諸国の政策立案者たちは、中国は最先端チップ(cutting-edge chips)の生産において、アメリカ、台湾、韓国に大きく遅れをとっていると指摘し、自らを安心させたがっている。確かにその通りだが、北京はアメリカの輸出規制が危機感を煽ることを歓迎しているのかもしれない。

中国指導部はまた、輸出管理が容易に裏目に出る可能性があることを知っている。歴史が示しているように、長期的には、アメリカの一方的な輸出管理は、ほとんどの場合、輸出収入を制限することでアメリカ企業に損害を与え、その結果、最先端を維持するための研究開発に費やすことができる額も抑制されることになる。言い換えれば、中国政府は長期戦を繰り広げており、アメリカ政府の積極的な戦略が最終的には裏目に出て、西側諸国の技術への依存を減らすという中国の取り組みを更に支援することを期待しているのだ。

金融分野は、北京のリスク回避戦略の2本目の柱であり、長い歴史を持つ。この分野でも、西側諸国経済との関係を断ち切ろうとする中国の努力は、北京からのリスクを取り除くというアメリカとヨーロッパの計画に先行していた。最も明白な例は、北京が国内の金融部門に外国が大きく関与することを認めてこなかったことだ。中国の金融市場は閉鎖的で、外国人投資家は中国株の4%、中国国債の9%しか保有していない。中国独自の銀行システムは、国際金融からほぼ完全に遮断されており、中国人以外の投資家が中国の銀行資産の2%未満しか所有していない。また、国内外への資金移動を厳しく制限する資本規制は、いまだ解除されていない。

しかし、金融分野における北京のリスク回避努力は、外国人を遠ざけるだけではない。中国の指導者たちは不都合な真実に直面している。西側諸国の金融チャネルへの依存は、北京のアキレス腱になるかもしれない。西側諸国は世界の支配的な通貨を所有し、世界の全ての銀行を結ぶ世界的な決済システムであるSWIFTや、世界で最も重要な証券保管機関であるユーロクリア(Euroclear)など、グローバルな金融インフラへのアクセスを支配している。

西側諸国の金融支配が制裁を強力なものにしている。ドルやSWIFTへのアクセスを失うことは、ほとんどの銀行や企業にとって事実上の死刑宣告である。2012年に西側諸国がイランのSWIFTへのアクセスを遮断する決定を下した後、北京はその結果を目撃した。

金融制裁に対抗するための先制攻撃として、中国は3つの戦略を展開している。

第一に、人民元による国境を越えた決済の整備を進めている。世界貿易におけるドルとユーロの優位性を考えれば、その道のりは険しい。しかし、中国の脱ドル化計画(China’s de-dollarization plans)は進展している。人民元で決済される世界的な決済の割合は、2023年にはほぼ倍増し、約4%にまで達した。重要なのは、中国の対外貿易の3分の1が人民元建てになっていることで、中国企業は西側諸国の制裁からある程度身を守ることができる。ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ、そして最近加わった5カ国からなるBRICS圏の通貨の可能性が取り沙汰されているが、人民元がロシアと中国の貿易で最も使用されている通貨になったように、北京もBRICS諸国間の貿易で人民元が選択される通貨になることを望んでいる。

SWIFTに代わる中国の決済システムCIPSthe Cross-Border Interbank Payment System)は、北京の金融リスク軽減の2つ目の礎石となる。2015年に開始されたこの決済ネットワークは、SWIFTよりもはるかに規模が小さい。しかし、SWIFTは世界中のほとんどの銀行を接続している中で、SWIFTが中国の銀行を切断した場合のバックアップとなるだろう。最後に、中国はアラブ首長国連邦やタイなどともデジタル通貨を使った国境を越えた取引を試験的に行っている。中国のデジタル通貨がグローバルになる道のりはまだまだ遠い。しかし、優位性は重要ではないかもしれない。中国の目標は、保護手段として代替金融チャネルを持つことであり、そのためには運用が可能であることが必要なだけなのだ。

中国のリスク回避戦略の3つ目のそして最後の柱は、貿易および中国の投資先としての非友好国への依存を減らすことを伴う。その論拠は、2014年にプーティン大統領がロシアの食糧安全保障を懸念したときの論拠と似ている。紛争、感染症拡大、地政学的な緊張によって経済関係が阻害されたり、サプライチェインが混乱したりする可能性があるため、中国政府は貿易の流れをどこかの国に過度に依存することが弱点だと見なしている。中国のような輸出指向の経済にとって、重要な原材料の輸入や主要な輸出先として特定の国に過度に依存することは致命的となる可能性がある。

中国の貿易におけるリスク回避の努力は、ハイテクや金融のそれよりも最近のもので、2018年の最初の米中貿易戦争が起きた際に始まった。しかし、中国の税関が発表した最新の統計を見てみると、中国は最近、一見非友好的に見える西側諸国との関係を分散させるための明確な努力をもって、貿易のリスク回避を加速させている。

2023年の最初の11か月間で、中国のアメリカへの輸出は2022年の同時期と比較して8.5%減少し、ヨーロッパ連合(EU)への輸出は5.8%減少した。一方、インド、ロシア、タイ、ラテンアメリカ、アフリカを含むほとんどの新興市場への中国の輸出は増加した。西側経済への貿易依存度を減らす中国の努力は功を奏しており、2023年には東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟諸国向けの輸出が、アメリカやEUを抑え、中国の最大の輸出先となった。

中国のリスク回避努力は投資分野にも及んでいる。アメリカン・エンタープライズ研究所のデータによると、2014年までの10年間、G7諸国とオーストラリア、ニュージーランドは、「一帯一路」構想の資金を除いた中国の対外投資フローの半分近くを吸収していた。2022年までに、この割合はわずか15%にまで低下し、インドネシア、サウジアラビア、ブラジルなどの新興諸国が中国からの直接投資の最大の流入を引き寄せている。

中国の他の取り組みと同様、新興国市場への投資促進も、西側諸国のリスク回避策が発明される以前から行われていた。この変化は2017年のデータで顕著になったが、投資プロジェクトは通常、実現までに数年かかるため、開始はもっと早かったと考えられる。

これらのことから、中国のリスク回避の動きは、アメリカやヨーロッパの取り組みよりもはるかに古く、広範囲に及んでいることが分かる。しかし、中国自身のリスク回避戦略に関する議論は、西側諸国の議論の中ではかなり少ない。

これは重大な欠陥である。北京から見ると、中国への依存を減らそうとする西側諸国の圧力は、アメリカの最先端技術への依存から技術的自給自足の優先、西側の銀行チャネルよりも自国の金融インフラへの依存、西側経済よりも新興市場の優先という、中国の長年確立された計画を加速させるもう1つの理由となる。北京の長期にわたる組織的なアメリカやヨーロッパからの離脱は、中国の経済政策の顕著な特徴であり、それは大きな影響を持つ。

リスク回避は双方向である。協力と平和を導く、経済的相互依存(economic interdependence)という考えは、ロシアのウクライナ侵攻で崩れ去ったと主張する人々もいるが、経済的結びつきはアメリカとヨーロッパに対して、北京への大きな影響力を与えている。しかし、現在進行中の中国と西側諸国との関係を断ち切るプロセスは、西側諸国の制裁脅威の抑止効果を弱めることは避けられず、世界、特に台湾海峡をより危険なものとするだろう。

これはまさに中国の戦略であり、そもそも中国が自給自足を目指す基底には、台湾併合という野望がある。アメリカやヨーロッパがリスク回避を発明したのではなく、中国が発明したのである。そして中国は、この分野で最も熟練した実践者のようである。

※アガーテ・デマライス:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ヨーロッパ外交評議会上級政策研究員。著書に『逆噴射:アメリカの利益に反する制裁はいかにして世界を再構築するか』がある。ツイッターアカウント:@AgatheDemarais
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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 2023年12月27日に最新刊『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。今年実施されるアメリカ大統領選挙についての分析も行いました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 米大統領選挙共和党予備選挙は、ドナルド・トランプ前大統領が4連勝となった。既に有力なライヴァルたちは選挙戦から撤退し、ニッキー・ヘイリー元米国連大使・元サウスカロライナ州知事しか残っていない。先週末、サウスカロライナ州で共和党予備選挙が実施された。結果はトランプの圧勝となった。ヘイリーは地元サウスカロライナ州でも敗北を喫し、選挙戦からの撤退が話題に上がっている。トランプの共和党予備選挙の勝利と大統領選挙本選挙候補者指名が確実視されている。これで、大統領選挙本選挙は、民主党のジョー・バイデン大統領対共和党のドナルド・トランプ前大統領の戦いとなる。
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 共和党の反ポピュリズム勢力・反トランプ勢力の旗頭であるコーク一族は、ヘイリーに資金提供を行ってきたが、サウスカロライナ州共和党予備選挙でのヘイリーの敗北を受けて、資金提供を停止すると発表した。大統領選挙でトランプを止めることは不可能だということを敵であるコーク一族も認めたことになる。
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左がデイヴィッド・コーク(故人)、右がチャールズ・コーク(コーク系の総帥)

 コーク一族の資金ネットワークは、連邦下院共和党の議員たちで構成する、議員連盟であるフリーダム・コーカスの議員たちの当選と新しい議員たちの当選を目指すことになる。フリーダム・コーカスは日本では親トランプ派とされているが、実態は、コーク一族の資金が入っている反トランプ派である。それなのに、日本で親トランプ派とされているのは、共和党エスタブリッシュメントに反対する姿勢のために、親トランプ派の議員たちが入っているからである。フリーダム・コーカスは反トランプ派・反エスタブリッシュメントである。詳しく知りたい方は、私が翻訳した『アメリカの真の支配者 コーク一族』(講談社)と、拙著『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)をお読みいただきたい。

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大統領選挙サウスカロライナ州共和党予備選挙の5つのポイント(Five takeaways from the South Carolina GOP primary

ナイオール・スタンジ筆

2024年2月24日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/4487698-five-takeaways-from-the-south-carolina-gop-primary/

サウスカロライナ州チャールストン発。土曜日に行われた大統領選挙サウスカロライナ州共和党予備選挙で、ドナルド・トランプ前大統領が対抗馬のニッキー・ヘイリーを打ち負かし、圧勝した。

アメリカ東部標準時の午後7時に投票が締め切られた瞬間、トランプの選挙戦での勝利が決まった。午後10時前に開票率が83%に達した時点で、トランプは、ヘイリーに21ポイントの差をつけて圧勝した。

大統領選挙ミシガン州共和党予備選挙は来週火曜日に行われる。そして、3月5日は10以上の州で投票が行われるスーパーチューズデーとなる。

サウスカロライナ州での予備選挙についてこれから5つのポイントを挙げていく。

(1)トランプは地滑り的な勝利によって、候補者指名への最終経路に入った(Trump’s landslide puts him on a glide path to nomination

よほどの重大な出来事が起きない限り、トランプが2024年大統領選挙の共和党の指名候補となるのは間違いのないところだ。

トランプ前大統領はこれまでのところ、予備選挙が4州で行われ、4連勝している。サウスカロライナ州では、ヘイリーが知事として2度当選した実績があったが、トランプはヘイリーを叩きのめした。

コロンビアで行われたトランプの勝利演説では、サウスカロライナ州の共和党エスタブリッシュメントがどの程度トランプの後ろ盾になっているかが明らかになった。ティム・スコット連邦上院議員(サウスカロライナ州選出、共和党)とリンジー・グラハム連邦上院議員(サウスカロライナ州選出、共和党)は、ヘンリー・マクマスター州知事(共和党)と一緒に壇上に立ち、トランプに代わって短いスピーチを行った。

チャールストンでは、ヘイリーがたった一人で壇上に立ち、少数の聴衆を前に演説した。

ヘイリーは、トランプは11月の大統領本選挙では当選不可能だと訴え続けている。しかし、彼女の主張が共和党の有権者の支持を得られると信じる根拠はない。

これは必ずしも前サウスカロライナ州知事ヘイリーの失敗ではなく、単に共和党の支持層が依然としてトランプに熱狂していることを反映している。

これまでのところ、どの州でもトランプ前大統領はライヴァルたちに得票率で二桁の差をつけて圧勝している。

候補者指名争いは、掛け声を除けば全て終わっている。

(2)ヘイリーは選挙戦から撤退しない(Haley isn’t quitting

数週間前、ヘイリーがサウスカロライナ州予備選挙を前に選挙戦から撤退するかどうか、疑問を持たれていた。

この当時、トランプの支持者たちは、ヘイリーが惨敗すれば、彼女は選挙戦を止めることになるだろうと予測していた。

しかし、この予測通りにはならなかった。

選挙後のサウスカロライナ州でのヘイリーの演説は、少なくともスーパーチューズデーまでは戦い続けるという断固とした宣言に等しかった。

彼女は、これまでに有権者たちに示してきた約束について言及し、「私は約束を守る女性」と述べた時、その夜最大の歓声を受けた。

彼女の主張の根拠は、多くのアメリカ人がバイデン大統領とトランプ氏の対決に興味を持てない状況にある中で、「この戦いをあきらめない(not going to give up this fight)」というものだ。

ヘイリーは語気と言葉を強め、このような激しい選挙戦は、「アメリカが分裂するだろう」結果をもたらすだろうと示唆した。

前知事ヘイリーは1月に、これまでで最高の献金額を記録したが、選挙戦を継続するための資金を持っている。そして、彼女には熱烈な支持者もいるが、その数はトランプ大統領の指名獲得への影響を与えるほどではない。

サウスカロライナ州での支持者の一人、ネル・パーカーは、ヘイリーは「明かりを灯し続ける資金がある限り選挙戦に留まるべきだ」と本誌の取材に語った。

(3)共和党は現在MAGAMake America Great Again)の政党になっている(The GOP is now the MAGA Party

トランプが共和党内を支配していることを示すのは、トランプのライヴァルたちにつけた票差だけではない。

サウスカロライナ州の共和党有権者のほとんどが、トランプの世界観全体を共有しているということだ。

AP通信の有権者調査「ヴォートキャスト」は、少なくとも初期の結果では、サウスカロライナ州の共和党有権者の約10人に6人が、アメリカのウクライナに対する援助継続に反対していることを示した。これはヘイリーにとって悪いニューズであり、軍事的伝統の強い州においては印象的な結果となった。

この調査によると、サウスカロライナ州の共和党有権者の約10人に7人が、トランプの行動に関する各種の捜査はトランプを弱体化させようとするものだというトランプの主張を受け入れている。

これらの数字を考慮すると、ここにいる共和党員の約10人中6人が自分たちを「アメリカを再び偉大に(MAGA)」 運動の支持者だと考えるのも不思議ではない。

共和党は良い意味でも悪い意味でも、今やトランプの党となっているのだ。

(4)トランプの暴言は本選挙への危険信号となる(Trump’s rhetoric still raises red flags for the general election

共和党のサウスカロライナ州予備選挙で大差をつけたにもかかわらず、11月の本選挙におけるトランプの当選可能性に関する疑問は消えない。

それは、トランプが直面している91件の刑事告発のせいだけではない。それはまた、彼が炎上させる性質(propensity to inflame)を持っているからでもある。

トランプはサウスカロライナ州での予備選挙前夜、金曜日に開催されたアフリカ系アメリカ人保守連合の年次総会で演説した際に、その傾向を再び示した。

トランプは、アフリカ系アメリカ人が自分の警察に捕まった際に撮影される顔写真(mugshot)を「受け入れてくれた」と述べた。これは、犯罪率の高いアフリカ系アメリカ人の有権者たちが、自分が起訴されたことについて共感を持ってくれるだろうということを、不器用に示唆しようとした発言だった。

トランプ前大統領は次のように述べた。「私は何の理由もなく、何でもないことで起訴された。そして多くの人が、だからこそアフリカ系アメリカ人の皆さんが私のことを好きなのだと言ってくれている。アフリカ系アメリカ人の皆さんはひどく傷つけられ、差別されてきたからこそ、私に共感してくれる。実際、アフリカ系アメリカ人の皆さんは私を差別されているように見ている。とても素晴らしいことだが、そこに何かがあるかもしれない」。

翌朝、ヘイリーはサウスカロライナ州キアワアイランドで予備選挙の投票を行った後、トランプによるこれらの発言を非難した。

ヘイリーは「これはドナルド・トランプがテレプロンプターを外したときに起こること、本当にうんざりしてしまう。これがドナルド・トランプが引き起こす混乱というものだ。これが、本選挙の日まで毎日やってくる不快感の原因だ」と述べた。

もちろん、更に別の論争が起きることになっても、トランプに固執している支持者が離れていくことはないだろう。しかし、彼の暴言(よく言えば無礼)は、説得されやすい有権者たちを獲得するチャンスを妨げている。

民主党がよく指摘するように、トランプは2016年と2020年の2度の本選挙で得票総数で敗れている。

(5)ヘイリーの攻撃は共和党支持層を超えてトランプの妨げになる可能性がある(Haley’s attacks could hinder Trump beyond the GOP base

ヘイリーの攻撃はトランプの共和党候補指名獲得への前進を妨げるものではないが、穏健派の共感を呼び、民主党が11月にトランプ前大統領に対して主張を展開して支持を集めるのに役立つ可能性がある。

土曜日の演説でヘイリーは、トランプが政敵たちを「人間のくず(vermin)」という言葉で表現することに異議を唱えた。

サウスカロライナ州での予備選挙までの数日間、ヘイリーはトランプが本選挙で勝つことはできないと述べ、最近のNATOに関する発言で彼がロシアのプーティン大統領に「味方(sided)」していると非難し、トランプをナルシストと評し、軍服を着たことがないと嘲笑した。

トランプ大統領の盟友たちは、ヘイリーがこの種の発言で、トランプに対して損害を与える可能性があるため、ヘイリーの選挙戦からの撤退を望んでいる。ナンシー・メイス下院議員(サウスカロライナ州選出、共和党)は、金曜日、サウスカロライナ州ロックヒルでのトランプの集会で本誌の取材に応じた際、この主張を展開した。

しかし、トランプ前大統領は、ヘイリーが自分よりも得票するという脅威の可能性を打ち砕いた。

しかし、民主党の攻撃広告の絶好の材料となるであろうヘイリーの言葉は、11月の大統領選挙本選挙に向けて、まだまだトランプを苦しめる可能性がある。

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●「米富豪コーク氏団体、ヘイリー氏の支援停止 米報道」

2024年2月26日 日経新聞 

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO78750410W4A220C2EAF000/

【ワシントン=中村亮】米富豪チャールズ・コーク氏の政治団体は、11月の大統領選に向けた共和党の候補指名争いでニッキー・ヘイリー元国連大使の支援を停止する。米ポリティコが25日に報じた。ヘイリー氏への撤退圧力になる。

保守系政治団体「繁栄のための米国民アクション」の首脳が25日、スタッフに宛てたメールでヘイリー氏支援のために資金を使うのをやめると伝えた。

「外部グループが彼女の勝利に向けた道を広げるために大きな貢献をできると思わない」と記した。代わりに11月に大統領選と同時実施の上院選や下院選に資金を振り向けるという。コーク氏の政治団体による動きは、ヘイリー氏の選挙資金が細る予兆となる可能性がある。資金集めが行き詰まると、指名争いから撤退を余儀なくされる公算が大きい。ヘイリー氏は24日、地元である南部サウスカロライナ州の予備選でトランプ前大統領に敗れた。前大統領が1月の中西部アイオワ州の党員集会から5連勝を果たし、ヘイリー氏は反転攻勢の糸口をつかめていない。

米メディアによるとヘイリー氏の選挙陣営は25日、最近24時間で100万ドル(約15000万円)以上の資金を集めたと明らかにした。敗北が続いても、資金集めの勢いが衰えていないとアピールする狙いがある。

ヘイリー氏は25日、中西部ミシガン州で支持者集会を開く。同州では27日に予備選を予定する。16州・地域が予備選を一斉に開く35日のスーパーチューズデーが指名争いの大きな山場になる。

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 昨年12月27日に刊行した、私の最新刊『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を、佐藤優先生が『週刊ダイヤモンド』の「佐藤優 知を磨く読書」コーナーでご紹介くださいました。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

雑誌の86ページに掲載されています。コンビニでは場所によって置いていないところもありますが、駅のキオスク、書店にはありますので、是非お読みください。『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』の第3章で取り上げた、ウクライナ戦争に関する分析について「秀逸だ」「説得力がある」と評価していただきました。佐藤先生、まことにありがとうございます。

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 発売から2カ月が過ぎていますが、大型書店ではまだ購入できます。以下の写真は、2月中旬に私が、東京・池袋にあるジュンク堂書店と東京・新宿にある紀伊國屋書店本店を訪れた際に撮影しました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。

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ジュンク堂書店「陰謀論」コーナーにて

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紀伊國屋書店「話題の本 アメリカ」コーナーにて

 (終わり)
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 古村治彦です。

 2023年12月27日に『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。アメリカの衰退が明らかになりつつある中で、世界の構造が大きく変化していることを分析しています。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 アメリカは第二次世界大戦後、世界覇権国となり、セ狩りを支配し、リードしてきた。冷戦期にはソヴィエト連邦というライヴァルがいたが、ソ連崩壊により、冷戦に勝利し、世界で唯一の超大国となった。ソ連崩壊の前後、アメリカには戦勝気分があった。2000年代以降は、中国の台頭があり、現在は冷戦期のソ連寄りも軍事的、経済的に強大となり、アメリカが中国に追い抜かれるのも時間の問題となっている。そして、世界は、「ザ・ウエスト(the West、西側諸国)対ザ・レスト(the Rest、西側以外の国々)」の二極構造に分裂しつつある。

 アメリカは世界の警察官としてふるまってきたが、直接武力を使ったのは、「自分が確実に勝てると考えた相手」に対してのみだった。その想定がそのままであれば、アメリカの思い通りになったのであるが、ヴェトナムやアフガニスタン、イラクではアメリカの想定通りにはいかず、苦戦し、最終的には撤退することになった。世界で唯一の超大国であるアメリカが、国力で言えば全く相手にならない、問題にならない国々に敗れさったというのは、確かに、周辺諸国からの支援ということもあるが、「決意(resolve)」の問題もあったと、下記論稿の著者スティーヴン・M・ウォルトは主張している。

 アメリカは自国の周辺に深刻な脅威は存在してこなかった。カナダもメキシコもアメリカ侵略を虎視眈々と狙うような国ではなかったし、これからもそうだと言える。東側と西側は大西洋と太平洋によって守られている。大陸間弾道弾(ICBM)の時代となったが、それでもアメリカの存在している、北アメリカ地域、そして、大きくは米州地域に脅威は存在しない。キューバ危機で、キューバにソ連のミサイルが設置される瀬戸際まで行った時が、アメリカにとっての最大の脅威であったと言えるだろう。

 アメリカが軍隊を送ったり、何かしらの問題解決のために介入したりする際には、自国から遠く離れた地域ということになる。世界の様々な問題は、アメリカにとっては遠い世界のことでしかない。敵対国にしても、アメリカ本土に直接進行してくる懸念はない。ミサイルは怖いが、「アメリカにミサイルを発射すれば、その国が終わりになる、なくなってしまうことくらいはよく何でも分かっているだろう」という前提で行動している。アメリカの決意は当事者の中では低くならざるを得ない。結果として、アメリカによる問題解決はうまくいかないということになり、「アメリカは駄目になっている」という印象だけが強まっていく。

 これは世界帝国、世界覇権国の隆盛と衰退のサイクルを考えると仕方のないことだ。ローマ帝国や秦帝国以来、衰退しなかった世界覇権国、世界帝国は存在しない。このことは、『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』の第5章で詳しく紹介した。国旅国の低下に合わせて、決意も低下し、問題解決もできずに力の減退だけが印象付けられる。大相撲、日本のスポーツ界で一時代を築いた、大横綱であった千代の富士が、当時伸び盛りだった、貴花田(後の横綱貴乃花)に敗れ、引退を決意した際の言葉「体力の限界、気力も失せて引退することになりました」はアメリカにも当てはまるようだ。

(貼り付けはじめ)

アメリカは決意の固さの格差に苦しんでいる最中だ(America Is Suffering From a Resolve Gap

-敵国群が自分たちの思い通りにしようとする決意を固めた時にワシントンがすべきこと。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2024年1月30日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/01/30/biden-america-foreign-policy-middle-east-jordan-china/

近年のアメリカの外交政策は、イラクとアフガニスタンでの戦争の失敗、中東での和平努力の失敗、対立している大国の一部の核能力増強、その他数多くの不祥事など、一連の不幸のように見えることがある。そして、親イラン民兵組織による無人機(ドローン)攻撃でヨルダンで3人のアメリカ兵が死亡した最近の逆境は、アメリカ軍がこれらの激動の地域で何をしているのか、そしてアメリカ軍をそこに駐留させておくのは理にかなっているのかという新たな疑問を引き起こしている。

こうした度重なる失敗を、民主、共和両党の無能なアメリカの指導力や、間違った大戦略(grand strategy)のせいにしたくなる誘惑に駆られるが、世界政治を形成しようとするアメリカの取り組みは、次のようなより深刻な構造的問題に直面している。私もその種の批判をたくさん書いてきた。私たちは時々見落としてしまっている。アメリカの取り組みが失敗することがあるのは、アメリカの戦略が必ずしも悪いからでも、政府職員たちの熟練度が思ったほど低いからでもなく、敵対者が結果に大きな利害関係を持ち、彼らの思い通りにするために我々よりも大きな犠牲を払うことをいとわないためである。このような状況では、アメリカの優れた力が敵の優れた決意によって打ち破られる可能性が存在する。

このような問題が生じるのは、アメリカが現代史においてはるかに安全な大国だからである。自国の領土の近くには強力なライヴァルがおらず、大規模で洗練された多様な経済を持ち、数千発の核兵器を保有し、非常に有利な地理的条件を享受している。現在の安全保障と繁栄が永遠に続くとは限らないが、今日、これほど恵まれた立場にある国は他にない(このような大国は他に存在しない)。

その結果、矛盾が生じることになる。アメリカは武力攻撃から自国の国土を守ることを心配する必要がないため、世界各地に進出し、遠く離れた多くの問題に介入できる。しかし、これらの有利な状況は、これら遠く離れた地域で起こっていることがアメリカの生存にとって重大であることはほとんどなく、長期的な繁栄とは、ほぼ関係していない可能性があることも意味している。とりわけ、これは、アメリカが戦ったほぼ全ての主要な対外戦争が、ある程度、選択された戦争(a war of choice)であることを意味する。敵対的な侵略者や急速に悪化する治安状況に直面している国家には、独立を維持するために戦う以外に選択肢はないかもしれないが、アメリカは19世紀以来、こうした問題に直面していない。二度の世界大戦へのアメリカの参戦ですら、厳密に言えば、必要ではなかった可能性が高い。私は、二度の世界大戦に参戦したことは戦略的および道徳的見地から正しい決断だったと信じているが、アメリカの関与については当時激しく議論されており、それには当然の理由がある。

それ以来、アメリカは頻繁に、自国の海岸から遠く離れた敵と、敵の領土の近くまたは領土内で敵と戦うようになった。アメリカに比べてはるかに弱体だった中国が朝鮮戦争に介入したのは、アメリカ軍が中国国境に迫っていたためであり、毛沢東はアメリカとその同盟諸国が朝鮮半島全体を支配するのを阻止するために10万人以上の軍隊を犠牲にすることを厭わなかった。アメリカはヴェトナムに200万人以上の軍隊を派遣し、そのうち5万8000人以上を失うほどヴェトナムに深く介入した。しかし、北ヴェトナムは私たち以上に決意をもって戦い、より深刻な損失に耐え、最終的には勝利した。 2001年9月11日の同時多発攻撃の後、アメリカはアフガニスタンでアルカイダに対して積極的に攻撃な加え、タリバンが権力を取り戻すのを阻止するために何年も留まり続けることさえ厭わなかった。しかし最終的には、タリバンは私たちよりもアフガニスタンの運命を真剣に捉え、決意をもって戦った。同様の状況はウクライナでも明らかだ。アメリカと西側諸国はキエフを支援するために資金や武器を送るなど、費用のかかる手段をウクライナに提供する用意をしているが、ロシアの指導者たちは現地で戦って死ぬために兵士を派遣する強い決意を持っている。ウクライナを支援する諸外国はそうではない。それは、西側諸国の指導者たちが軽薄だからではなく、モスクワ(そしてウクライナ)にとって、それが世界の他の国々よりも大きな問題だからだ。台湾に関する議論にも同じ不快な問題が潜んでいる。アメリカ政府当局者や国防専門家たちが台湾の自治はアメリカにとって極めて重要な国益であるとどれほど強調しても、彼らがこの問題を中国政府よりも重視していると確信するのは難しい。

ここで注意して欲しい。敵国がより多くの利害関係を持ち、より大きな決意を持つという事実は、アメリカがグローバルな関与を引き受けるべきでない、あるいは遠くの紛争に介入すべきではないということを意味するものではない。例えば、相手が危険な行動を選択しないように抑止するためには、同等の決意は必要ないかもしれない。また、1991年のイラク、1999年のセルビア、そしてイラクのイスラム国との対立が示しているように、決意の固い敵が必ずしも勝つということでもない。しかし、アメリカは通常、自国から遠く離れた場所で活動しており、それゆえ敵対する相手が、アメリカより強い決意を持つ傾向があるという事実は、より広範な戦略環境の繰り返し見られる特徴である。

実際、アメリカはこの問題に対して、2つの方法で対処してきた。第一の方法は、アメリカの決意と信頼性に対する評判を、特定の紛争の結果に結びつけることだ。たとえ利害関係がそれほど大きくなくても、アメリカ政府高官たちは、将来どこかで起こる挑戦を抑止するためには、自分たちは勝たなければならないのだと主張する。この戦略は事実上、ある問題に対するアメリカの関心は、当初考えられたものよりも大きく、それはアメリカが過去に行ったかもしれない他のあらゆる公約や関心と結びついていると主張して、アメリカの政策に反対する国々や敵対勢力を納得させようとするものだ。

ヴェトナム、イラク、アフガニスタンで私たちが見てきたように、このやり方は、うまくいっていない戦争や、利益がコストを上回ると思われる戦争に対する国民の支持を維持するのに役立つ。しかし、アメリカに敵対する、もしくは不満を持っている国々を納得させることはできないかもしれない。特に、敵たちの決意が固まる、もしくは他の同盟諸国から、「自国を守るために使えるはずの資源を浪費している」と不満が出たりすればなおさらだ。更に言えば、1つの国家がより多くの関与を引き受ければ引き受けるほど、それら全てを一度に守ることは難しくなり、それぞれの関与の信頼性も低下する。挑戦者たちはいずれこのことを理解し、優位に立つ機会を待つことになる。ドミノ理論(domino theory)の応用形態を持ち出しても、それだけでは効果的な戦略にはならない。

2つ目の解決策は、アメリカが自国にほとんど、またはまったく犠牲を与えずに敵国を倒すことができるように、十分な軍事的および経済的優位性を維持することだ。敵対勢力は、深刻になっている問題により懸念を持つので、彼らが目的を達成するために高い代償を払わなければならないかどうかは、彼らにとって問題にはならないかもしれない。しかし、私たちはそうではない。サダム・フセインが1990年にアメリカに反抗したのは、アメリカ社会が1回の戦争で1万人の兵力を失うことを受け入れないだろうと考えたからだ。ところが、アメリカ政府の指導者たちは、アメリカがそのような多大な犠牲を払って戦いに舞えるということはないということを確信しており、「砂漠の嵐」作戦は、アメリカ政府の指導者たちが正しかったことを証明した。実際、この原則がアメリカの国防と外交政策全体のアプローチを支えていると主張する人もいるだろう。比較的低コストで敵を倒すことができる能力を獲得するために多額の資金を費やしている。アメリカは、多種多様な武力による保護手段に多くの資源を投入し、世界金融システムの主要な結節点に対する支配を利用して他国に一方的な制裁を課している。そして可能な限り、問題が起きている国の地上軍(例えば、イラク特殊部隊対イスラム国、今日のウクライナ軍対ロシア軍といった形)に依存している。

 

 

 

 

 

問題は、特に一極時代(unipolar moment)が終わり、諸大国のライヴァルたちが再び台頭しつつある現在、アメリカがこの規模での優位性を維持するのが難しいことだ。更に言えば、反乱やその他の形態の局地的な抵抗に直面すると、アメリカの軍事的優位性は低下する。テクノロジーの発展(具体例:無人機、監視強化、ミサイル能力の普及など)は、イエメンのフーシ派などの比較的軍事力の弱い主体にも、全体的な能力がはるかに強い敵にコストを課す能力を与えている。ヨルダンで無人機攻撃を行った民兵組織など、弱いながらも意欲的な現地主体は、アメリカに自分たちの望むことを強制することはできないかもしれないが、アメリカが思い通りに行動することが困難にすることはできる。アメリカはこれまで数十年にわたり思い通りに行動することができた。

もし世界が防衛力優位の時代に突入し、ほとんどの国家の決意が身近な地域を対象にすることで最大になるのであれば、どの国にとっても、広大で揺るぎない世界的影響力を行使する能力は低下するだろう。5つ以上の大国が、自国が存在する地域である程度の影響力を行使するが、自国の領土から離れれば離れるほど、その影響力は急速に低下するという多極的な秩序(multipolar order)が出現することも想像できる。影響力が低下するのは、パワーを投射する能力(the ability to project power)が距離とともに低下するためでもあるが、遠くへ行けば行くほど、決意のバランスが他国へシフトするためでもある。

このような世界では、アメリカはこれまでよりも慎重に戦いを選択する必要があるだろう。なぜなら、どこにでも行き、あらゆることを行うコストは上昇し、遠く離れた敵国は、自分たちが存在する地域内で、それらのコストをより喜んで支払うようになる。私たちよりも彼らがコストを負担する決意を持っている。良いニュースとしては、アメリカの現在の同盟諸国の一部が、自分たちの利益になるということで、自分たちと自分たちの周囲を守るためにもっと行動し始める世界になるかもしれないということだ。私たちが過去75年暮らしてきた世界とは異なる世界になるだろうが、アメリカ人はそれを過度に心配する必要はない。以前にも主張したように、それはアメリカ人にとって有利な世界になる可能性さえある。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。ツイッターアカウント:@stephenwalt

(貼り付け終わり)

(終わり)
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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 2023年12月27日に最新刊『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。近いうちにある週刊誌にて紹介していただけることになりました。詳しくは決まりましたらお知らせいたします。よろしくお願いいたします。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 イエメン内戦は長期化している。政府側と反政府組織フーシ派の間の戦いとなっているが、政府側をサウジアラビアが支援し、フーシ派側をイランが支援している。あ氏アラビアとイランとの間で国交正常化が合意されたことにより、この構図も変化を見せつつある。サウジアラビアがフーシ派と停戦交渉を行っている。そうした中で、アメリカとイギリスが共同でフーシ派を攻撃した。アメリカとイギリスは、紅海上において、フーシ派が民間船舶(中国やイランの船舶を除く)に対して攻撃を行い、世界の物流に影響を与えていることを理由に挙げている。フーシ派は、イスラエルによるガザ地区への過剰な攻撃に対する攻撃として、紅海上で民間船舶を攻撃している。これを受けて、世界の海運各社は航路変更を余儀なくなされている。これに対して、サウジアラビアは、アメリカやイギリスに同調せず、静観の構えを見せている。
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紅海の地図
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フーシ派の関連地図

 アメリカとイギリスの攻撃は沈静化しかけていた紅海の状況を再び不安定化させている。サウジアラビアとしては、アメリカとイギリスには介入して欲しくなかったところだが、アメリカとイギリスとしては、物流の停滞による物価高もあり、何もしないという訳にはいかなかった。そして、西側諸国においては、「中国はイランとの関係も深いのだから、紅海の状況を何とかせよ、フーシ派をおとなしくさせるために何かやれ」という批判の声が上がっている。中東地域は中国にとっても、エネルギー面において重要な存在であり、中国も中東地域において重要な役割を果たしつつある。サウジアラビアとイランの国交正常化合意を仲介したのは中国である。
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紅海航路と迂回航路の違い
 パレスティナ紛争や紅海の危機的な状況において、中国は何もしていないという批判の声が上がっている。しかし、これはなかなか難しい。中国が中東地域において活発に動き始めてまだ20年くらいだ。それに対して欧米諸国は戦前から植民地にするなど長期間にわたって深くかかわってきた。中東地域においての役割については欧米諸国の方が先輩であり、一日(いちじつ)の長がある。そして、欧米諸国の政策の失敗が現在の状況である。それを修正して、正常化するのは欧米諸国の責任だ。どうしても駄目だ、万策尽きたということならば、他の国々の出番もあるだろう。「中国が何とかせよ」というのが、「自分たちの力ではどうしようもありません、私たちが馬鹿でした、どうもすいません」ということならばまだしも、ただの自分勝手な言い草であるならば、中国が何かをするという義理はない。欧米諸国は一度徹底的に追い込まれて、自分たちの無力を自覚することだ。それが世界の構造の大変化の第一歩である。

 

(貼り付けはじめ)

紅海危機が中国の中東戦略について明らかにする(What the Red Sea Crisis Reveals About China’s Middle East Strategy

-中国は確かに中東地域のプレイヤーになったが、今でもまだ極めて利己的なゲームをしている。

ジョン・B・アルターマン筆

2024年2月14日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/02/14/red-sea-crisis-china-middle-east-strategy-egypt-yemen/

昨年(2023年)3月、中国の王毅外相の顔に満足感があったのを見逃すことはできなかった。サウジアラビアとイランの間の和平合意を仲介したばかりの、王毅中国外相(当時)は、二国の代表を優しく近づけた。王毅は彼らの間に立ち、しっかりとコントロールしていた。

王毅外相が満足する理由は複数存在した。多くの人が不可能だと考えていたことを中国がやってのけただけでなく、それが可能な唯一の国でもあった。サウジアラビアとイランの両国は敵対していたが、それぞれが中国を信頼していた。アメリカは中東の安全保障を重視していたが、中国は実際にそれを提供していた。王毅のあり得ない成功は、中東における中国の役割の重要性の高まりを示す新たな兆候となった。

しかし、この4ヵ月の間、2023年3月のような自信に満ちた中国外交は影を潜めている。半世紀以上にわたるパレスティナ人への支援、10年以上にわたるイスラエルとの緊密な関係、イラン、サウジアラビア、エジプトなどへの数百億ドル規模の投資にもかかわらず、最近の中国は静けさを保っている。

さらに明らかなのは、紅海の海運に対するフーシ派による3ヶ月に及ぶ攻撃によって、中国の貿易が大打撃を受け、中国の一部の地域パートナー諸国が首を絞められ始めたとき、北京はしばしば、外交的、軍事的、経済的に、パートナー諸国はおろか、自国の広範な利益を追求するために行動することができないか、あるいはしたくないように見えたことである。

中国は自らを台頭する世界大国(rising global power)として宣伝しようとし、平和と繁栄を確保するという世界的な野望を達成できていないアメリカを非難することを好む。アラブのコメンテイターらは、2022年12月にサウジアラビア・リヤドで行われた中国の習近平国家主席を招いての首脳会談をめぐる温かさを、その5カ月前にジェッダで行われたジョー・バイデン米大統領とサウジアラビア指導部とのより緊迫した会談を対比させた。『アルリヤド』紙は「西側の独立筋」の主張を引用し、「中東地域は中期的には独裁と覇権(hegemony)から離れ、開発、投資、人民の幸福、紛争からの距離に基づく中国の影響力を通じての、戦略地政学的なバランスと政治的正義の段階に移行するだろう」と主張した。

それこそが、中国がこれらの国に望んでいる未来の姿である。間違ってはいけないのは、中国はアメリカを主要な戦略的挑戦と見なしており、それ以外のものは重要ではないということだ。

驚くべきことは、これがどれほど真実であるかということである。過去4カ月間の中国の行動と不作為は、数十年にわたる中東への投資にもかかわらず、北京がこの地域で重視しているのは、依然としてアメリカを弱体化させるためであることを浮き彫りにしている中国は確かに中東地域のプレイヤーになったが、今でもまだ極めて利己的なゲームをしている。

中国の中東への関心の大元はエネルギーだ。中国は30年前に初めて石油の純輸入国となり、過去20年間のほとんどにおいて、世界の石油需要の増加のほぼ半分を中国が占めてきた。この期間を通じて、中国の輸入石油の約半分は中東地域から来ている。

中国にとって、中東への依存は一貫して脆弱性ともなる。アメリカは半世紀にわたり、この地域の安全保障を支配してきた。中国人の多くは、米中両国が敵対した場合、アメリカが中国にとって不可欠なエネルギー供給を遮断することを恐れている。同様に、中東にはホルムズ海峡、バブ・エル・マンデブ海峡、スエズ運河という、世界貿易に不可欠な3つの海運の重要地点(chokepoints)がある。アフリカ、ヨーロッパ、そしてアメリカ東海岸に向かう多くの中国製コンテナは、この3つの地点すべてを通過する。アメリカ海軍は現在、これら全ての重要地点を守る態勢を整えているが、同時に通行を阻害することも可能だ。

中国の戦略は、アメリカと対立するのではなく、アメリカと共存することであり、アメリカとの関係とともに中国との関係も発展させるよう地域諸国を説得することだ。10年ほど前、中国はアルジェリア、エジプトとの「包括的戦略パートナーシップ(comprehensive strategic partnerships)」を宣言し、後にサウジアラビア、イラン、アラブ首長国連邦をリストに加えた。偶然にも、北京は昨年8月、後者4カ国がBRICSブロック(当時はブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカで構成)に加盟するよう働きかけ、新規加盟国全体の5分の4を占めた。中国は、中東全域で経済関係を深め、その過程で貿易と開発を促進することを主張している。

中東諸国は中国の地域的役割の拡大を歓迎している。その理由として、中国が西側諸国の自由化圧力から解放してくれることが挙げられる。また、中国が厳格な規制よりもスピードを重視する経済パートナーとなってくれるからでもある。中東諸国は中国を台頭する世界大国と見ている。10年以上にわたって歴代米大統領が「ワシントンの主要な利益はアジアにある」と宣言してきたのだから、中東諸国が中国と強固な関係を築かないということはあり得ないのである。

中国が提示している主張は、各国は西側諸国との関係とともに中国との関係も発展させることができるというものだ。原則としては正しいが、現実問題としてはより複雑である。西側諸国の政府は、中国がこの地域に技術投資を行うのは、中国のスパイ活動の道具を組み込むためだと非難している。その結果、西側諸国の政府は、中東地域の各国政府がその技術を獲得することを、安全保障上の多種多様な協力体制の確立にとっての障害と見なしている。

中国の学者たちは、アメリカの地域安全保障の取り組みを厳しく批判してきた。ある著名な中国人学者は、「中国は、アメリカの無謀な軍事行動とプレゼンスの結果としての地域の不安定化の犠牲になっている」と書いている。王毅が2022年1月に中東6カ国の外相と会談したことを伝える中国メディアの記事では、王毅が「中東の主人は中東の人々だと私たちは確信している。『力の空白(power vacuum)』など存在せず、『外からの家父長制(patriarchy from outside)』など必要ない」と述べたことを伝えた。

中国の専門家たちが頻繁に主張しているには、アメリカのアプローチは中東諸国への敬意が不十分だということだ。ある学者は「あまりにも長い間、覇権国であったため、アメリカは自国の利益のために他国に圧力をかけることに慣れているが、他国の懸念には耳を貸さない」と指摘している。

2023年3月にサウジアラビアとイランの合意が成立したとき、中国側はこれを「中東の平和と安定の実現のための道をならすものであり、対話と協議を通じて国家間の問題と意見の相違を解決する素晴らしいモデルとなる」とし、「中国は建設的な役割を継続する」と公約した。

しかし、中東で暴力が勃発してから数カ月、中国は世界的な懸念声明に便乗することはあっても、独自の声明を発表することはほとんどなかった。最も明確に非難したのは、2023年10月にイスラエルがガザ市のアル・アハリ病院を攻撃したと当初は考えられていたが、後にパレスティナ側のロケット弾の誤射によるものと判明した事件に対してである。

中国は、2023年10月7日に発生したハマスによるイスラエル民間人に対する攻撃も非難しておらず、紅海の船舶に対するフーシ派の攻撃も非難していない。和平会議の開催が一般的には望ましいと表明すること以外に、この地域で展開し相互に関連する危機のいかなる要素にも対処するための中国の外交提案はない。中国にとって、高官の訪問、奨励と懲罰、調停などの外交手段は全てが保留されている。

2024年1月のジェイク・サリバン国家安全保障問題担当大統領補佐官と王毅外相とのタイでの会談での議題は紅海の安全保障についてであった。この会談の前に、中国とイランの政府関係者は口をそろえて、中国はイラン政府に対し、フーシ派への支援について苦言を呈したが無駄だったと主張した。このような発言は、単にアメリカの圧力から王毅を守るためなのか、それとも中国がイランの思惑に影響を与えることができないという現実を反映したものなのかは明らかではない。

一方で、西側諸国と中東諸国の外交官たちは、人命を守り、緊張を緩和し、世界貿易の自由をより促進するための、何らかの方法を見つけようと、互いに深く関わっている。

この地域での出来事が中国の利益を直接的に傷つけるものではないと主張するのは難しい。まずフーシ派から話を始めることができる。彼らはイランから年間約1億ドルを受け取っている。イランは中国との貿易が全体の3分の1を占めているが、その貿易額は中国貿易の1パーセントにも満たない。

中国はイランよりも世界の他の国々に対してより注意を払っている。一部の報告によると、通常は紅海南部を通過するコンテナ船の90%が同海域を避けるために航路を変更したということだ。平常時、紅海航路は世界のコンテナ輸送量の約 3分の1、アジアとヨーロッパ間の全貿易量の40% を占めている。輸送のボトルネック(bottleneck)となっているのは、コンテナ価格が3倍から4倍に高騰しており、ヨーロッパに向かうエネルギー輸送がアフリカを迂回し、配送の遅れによりサプライチェインが麻痺していることだ。

中国は貿易立国(trading nation)であると同時に海洋立国(maritime nation)でもある。世界貿易における争いは中国に直接影響を与えるだけでなく、将来の混乱を避けるために、投資家たちを「ニアショアリング(nearshoring)」(サプライチェインの依存をより近くて友好的な国々にシフトすること)に向かわせる。

混乱はまた、中国の中東への投資にも打撃を与える。中国は紅海の各種施設に数百億ドルを注ぎ込んできた。ジブチの軍事基地だけでなく、東アフリカ、サウジアラビア、スーダンの港湾施設、鉄道、工場、その他無数のプロジェクトに注ぎ込んできた。これらの投資は一帯一路計画の一部だ。これらのプロジェクトは全て、紅海航路の断絶によって危機に瀕している。

中東全域で、イランの代理諸勢力がこの地域を戦争に導くと脅しており、その一部はイスラエルへの攻撃を通じてその脅迫に説得力を持たせている。イスラエル自身もほぼ20年にわたって中国との関係を着実に強化してきた。アメリカン・エンタープライズ研究所の中国グローバル投資トラッカーによると、中国は過去10年間でイスラエルに90億ドル近く投資し、30億ドル相当のプロジェクトを構築した。

中国がイランの代理になるどころか、イランをコントロールできると期待する人はほとんどいないが、中国がそのつもりすらないようであることは注目に値する。しかし、今回の紅海危機において中国はチャンスも見出している。

中国はこの危機を利用するために2つのことを行った。 1つ目は、中東におけるアメリカの役割に対するグローバル・サウスの敵対心を刺激しようとして、アメリカを批判することだ。2023年10月に『チャイナ・デイリー』紙に掲載されたあるコラムは、「アメリカはガザ地区において、『歴史の間違った側(wrong side of history)』に属しており、ガザ地区におけるより大きな人道危機の回避を支援することで、世界唯一の超大国としての世界的責任を果たすべきだ」と主張した。中国メディアは、グローバル・サウスの反米感情と反イスラエル感情両方を煽る形で、アメリカの外交努力を非難し続けている。中国メディアは、今回の紛争を根本的に解決するためには二国家解決策の追求が必要であるが、それを阻害しているのは、根本的に、アメリカのイスラエルの肩入れが存在している(これが今回の紛争の基底にある)、と時に間接的に、時に直接的に、主張している。

 中国が行っている2番目のことは、当面の経済的利益に配慮することだ。中国船舶の需要が高まっており、荷主はフーシ派が中国籍の船舶を攻撃しないと信じている。紅海を航行する一部の船舶は、攻撃を避けるために「全員が中国人の乗組員」を船舶追跡装置に表示されるようにしていると発表している。

中国は中東において、急速に変化する状況に適応するために外交が緊張していることを示している。加えて、共通の利益につながる困難なことを行うことへの嫌悪感を示している。中国当局者たちは協力する代わりに、パートナー諸国や同盟諸国を犠牲にして自国の利益を推進するためのギリギリの方法を模索している。

それは、中国がしばしば名刺代わりとして宣伝するような「ウィン・ウィン(win-win)」の論理ではない。現在、中国を含む全員が負けている中で、中国は状況を傍観している。

※ジョン・B・アルターマン:戦略国際問題研究所(Center for Strategic and International StudiesCSIS)上級副所長、ブレジンスキー記念国際安全保障・戦略地政学(geostrategy)部門長、中東プログラム部長。

(貼り付け終わり)

(終わり)
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