古村治彦です。
2023年12月27日に最新刊『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。アメリカの外交政策についても詳しく分析しました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
2024年11月にアメリカ大統領選挙が実施される。現段階で、民主党は現職のジョー・バイデン大統領、共和党はドナルド・トランプ前大統領がそれぞれ、候補者に指名されることが確実視されており、2020年に続いて、バイデン対トランプの構図になる。各種世論調査を見てみると、両者の対決は接戦で、ややトランプ有利となっている。トランプが大統領に返り咲く場合、もしくはバイデンが大統領として二期目を迎える場合、どちらになっても、アメリカの外交政策は大きく変わらないというのが、今回下にご紹介している、ハーヴァード大学教授スティーヴン・M・ウォルトの主張だ。
アメリカにとって重要な外交政策の対象は、ウクライナ、中東、そして中国だ。トランプ前大統領はウクライナ戦争勃発後からウクライナへの支援に反対し、即時の停戦を行うようにロシアに働きかけるべきだ、自分にはそれができると主張している。ウクライナ、ロシア療法に圧力をかけてでも停戦すべきだと述べている。バイデン政権はウクライナ支援を行ってきたが、ウクライナ戦争の状況を好転させるまでには至らず、アメリカ国内での共和党の反対によって、ウクライナ支援を継続できない状況にある。結果として、停戦に向かうしかないという状況だ。
中東に関しては、バイデン政権は、サウジアラビアに対して宥和的な姿勢を示しているが、サウジアラビアはバイデン政権との関係修復を望んでいない。アメリカはサウジアラビアとイスラエルとの間の国境正常化を行おうとしたが、その試みはとん挫している。対イスラエルに関しては、バイデン政権は、イスラエルの過剰な攻撃を止めるに至っていない。トランプも恐らく、イスラエルを止めることはできないし、まず、止めることはしないだろう。
中国に関しては、トランプもバイデンも強力な競争相手として、敵対的に見ている。中国と対峙するために、アジア地域の同盟諸国に対して、負担の増加を求めており、それについて、同盟諸国は嫌気が差しながら、しぶしぶ従っている状況だ。
バイデン政権の方が、トランプ政権に比べて、より理想主義的な外交を行うと見られていたし、公約でもそのようなものが多かった。しかし、現実としてはうまくいっていない。それは、アメリカの力が減退している中で、それに気づいている国々がアメリカに従わなくなっているからだ。世界の構造は大きく変化しつつある。そうした中で、アメリカにできることの範囲はどんどんと狭まっている。
(貼り付けはじめ)
トランプが再び大統領に就任してもアメリカの外交政策は大きく変わらないだろう(Another
Trump Presidency Won’t Much Change U.S. Foreign Policy9
-世界の恐怖はほとんどが誇張されているに過ぎない。
スティーヴン・M・ウォルト筆
2024年1月22日
『フォーリン・ポリシー』誌
https://foreignpolicy.com/2024/01/22/another-trump-presidency-wont-much-change-u-s-foreign-policy/
不測の事態が起きない限り、2024年の米大統領選は現職のジョー・バイデン大統領とドナルド・トランプ前大統領の再戦となる。アメリカ国民の多くは、どちらも出馬しない方が幸せだと考えているが、2024年11月に直面するのはそのような選択ではないだろう。この選挙は既に、アメリカの民主政治体制と世界に対するアプローチに広範囲な影響を及ぼす、画期的な出来事として位置づけられている。
第一の問題、つまり国内で起こりそうな結果については、選択肢は明確だ。トランプは有罪判決を受けた詐欺師であり、性的虐待者であり、前任の大統領時代には無能な最高責任者であった。民主政治体制の原則と法の支配に対する彼の関与は存在せず、彼と共和党は2期目も、権力を、政敵を罰するために利用し、アメリカを事実上の独裁政治に向かわせるつもりであることが懸念される。女性の権利は更に縮小され、気候変動を食い止める努力は放棄され、裕福なアメリカ人や企業は、より広範な社会的・政治的影響をほとんど考慮することなく、自分たちの利己的な利益を自由に追求するようになるだろう。あなたがバイデンや彼の政策をどう思おうとも、彼がそのようなことをする可能性はない。私にとっては、それだけでトランプに反対票を投じる十分な理由ということになる。
しかし、外交政策に目を向けると、その違いはそれほど顕著ではない。現在、多くの人々がトランプ大統領の2期目がアメリカの外交政策に劇的な影響を及ぼすのではないかと懸念しているが、その違いは皆さんが思っているほど大きくはないだろう。トランプは1期目と同じように、不安定で、気まぐれで、粗野で、特にNATOの同盟諸国に対して対立的な態度をとるだろう。しかし、他の点では、トランプ大統領の2期目は、バイデンが更に4年間の任期で大統領を務めた場合とそれほど変わらないかもしれない。このことを理解するためには、現在の外交政策で間違いなく最も重要な3つの議題について、それぞれの人物がどのように対処する可能性があるかを考えてみればよい。ウクライナ、中国、中東である。
●ウクライナ(Ukraine)
共和党の一部議員の反対や、キエフが戦争に勝利したり、失った領土を回復したりする能力について悲観的な見方が強まっているにもかかわらず、戦争が始まって以来、バイデン政権はウクライナに全面的に関与してきた。ウクライナ人とその西側の支持者たちは、トランプ大統領がアメリカの支援を打ち切り、ウクライナをヨーロッパからの援助に頼り、ロシア軍のなすがままにするのではないかと心配している。トランプは得意な大げささで、戦争を「1日で(in one day)」解決できると自慢し、ウクライナの勝利を望んでいるのかと聞かれると、言葉を濁した。従って、トランプ当選でアメリカの政策が大きく変わると多くの人々は思うかもしれない。
しかし、バイデンがもう1期当選すれば、たとえ追求の方法が違っても、同じような道をたどる可能性が高いのだ。戦争の潮流は2023年にウクライナに有利に傾き、これまで、ウクライナの支持者たちはウクライナの運命を逆転させ、ロシアが不法に征服し併合した領土を解放するための楽観的な計画を考え続けているが、彼らの希望はほぼ間違いなく幻想であり、米国防総省はおそらくそのことを分かっている。バイデンと彼のティームは選挙前にこのことを認めるつもりはないだろう。なぜなら、そうなればこれまでの戦争への対応に疑問符がつくからだ。しかし、もし大統領に再選されれば、キエフにもっと現実的な目標を採用し、和解に向かうよう圧力をかけるだろう。
私は、バイデンなら慎重なやり方でウクライナへ圧力をかけ、キエフが可能な限り最良の取引を行う手助けをしようとすると信じている。これとは対照的に、トランプ大統領はおそらく、北朝鮮の金正恩委員長との素人同士の仲良しな態度(amateurish bromance)で見せたような外交的手腕を発揮し(つまり、何もしない)、ウクライナとはさっさと手を切って逃げようとするだろう。しかし、より大きなポイントは、トランプ政権になっても、バイデン政権が続いても、2025年1月以降の戦争終結を交渉しようとするだろうということであり、その結果得られる合意は、キエフの戦争目的よりもロシアの戦争目的にかなり近いものになる可能性が高いということだ。
●中国(China)
トランプはその最初の任期中、それまでの対中経済関与政策を決定的に変更し、米国経済に打撃を与え、是正されるはずだった二国間の貿易赤字にはほとんど何の効果もない、お粗末な貿易戦争(trade war)を開始した。バイデンはこのアプローチを改め、更に強化し、先端技術のいくつかの主要分野をマスターしようとする中国の努力を阻害することを意図して、ますます厳しい輸出規制を課した。あからさまな保護主義(protectionism)を拒否した、ある政権高官は、このアプローチを国家安全保障上の懸念に焦点を絞ったもの(つまり「高いフェンス(high fence)」のある「小さな庭(small yard)」)だと擁護した。しかし、庭の大きさはどんどん大きくなっており、中国に対するより対決的なアプローチは、超党派の強いコンセンサスを得ている数少ない問題の1つである。
このため、2024年11月にどのような結果が出ようとも、アメリカの対中政策は大きく変わることはないだろう。バイデン政権とトランプ前政権の公式声明は、中国をアメリカの世界的優位に対する主要な挑戦者の1つと見なしており、その見方は、どちらかと言えば、今日より顕著になっている。トランプは、アメリカの保護に過度に依存していると繰り返し非難している、アメリカのアジアの同盟諸国に対して、やや対立的な態度を取るかもしれないが、北京に本気で立ち向かうつもりなら、アジアの同盟諸国を見捨てることはできない。
結論は次の通りだ。中国との関係に関しては、バイデンもトランプも2期目には同じ合唱曲の歌詞を歌うことになるだろう。
●中東(The Middle East)
アメリカの中東政策が大混乱に陥っていることを考えれば、バイデンもトランプも2025年には軌道修正を図りたいと考えるかもしれない。悲しいことに、どちらが大統領になっても将来、過去と異なる行動を取ることを期待する理由はない。実際、最も印象的なのは、この不安定な地域に対処する際、このまったく異なる2人の大統領がいかに似たような行動をとってきたかということである。
トランプは大統領として、イランの核開発に上限を設けていた核合意を破棄し、在イスラエル米大使館をエルサレムに移転し、ワシントンのパレスティナ問題担当領事事務所を閉鎖した。彼はまた、熱狂的にイスラエルの入植者たちを支持する弁護士を駐イスラエル大使に任命した。彼の和平計画は、二国家解決(two-state solution)というアメリカの長年の目標を嘲笑するものであり、一方で素人外交官(そして娘婿)であるジャレッド・クシュナーのアラブ・イスラエル国交正常化計画を後押しするものだった。その結果、アブラハム協定(Abraham Accords)は、イスラエルとバーレーン、モロッコ、アラブ首長国連邦、スーダン(後者は現在内戦状態にある)との間に外交関係を樹立したが、ヨルダン川西岸とガザ地区でイスラエルの過酷な支配下に暮らす500万人のパレスティナ人の苦境には何も対処しなかった。
この状況を引き継いだバイデンは何をしたのか? 彼は事態を悪化させた。イランとの核合意に復帰することを選挙公約に掲げていたにもかかわらず、イランの選挙で強硬派が政権を握り、共同包括行動計画への復帰がさらに困難になるまで、彼は逡巡した。結果は次の通りだ。イランは今、かつてないほど核爆弾所有に近づいている。バイデンとアントニー・ブリンケン米国務長官はパレスティナ人について、トランプと同じように扱い、在エルサレム米総領事館の再開を遅らせ、和平プロセスの再開にはほとんど力を注がなく、ヨルダン川西岸で増加するイスラエル人入植者たちによる暴力行為には目をつぶった。入植者たちの行為は、イスラエル史上最も極右的な政府によって公然と支持されていないが、容認されてきた。
トランプと同様、バイデンとブリンケンはサウジアラビアの機嫌を取ることに集中し、亡命ジャーナリストのジャマル・カショギ殺害に関与したサウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン王太子を「不可触民(pariah)」として扱うというバイデンの選挙公約を完全に覆した。共和党政権と民主党政権にまたがって存在感を示すブレット・マクガーク(Brett McGurk、1973年-)の指導の下、アメリカは昨年、イスラエルとの国交正常化と引き換えにサウジアラビアに安全保障(およびその他の特典)を与える取引を完了させようとしていた。マクガークは、おそらく近年の米国政策で最も影響力のある唯一の設計者である。パレスティナ問題はまたしても脇に追いやられ、ジェイク・サリヴァン国家安全保障問題担当大統領補佐官は昨年秋、中東は「ここ数十年来で最も静かだ(quieter than it has been for decades)」と自画自賛した。
トランプに始まり、バイデンが続けたこれらの誤りは、世界中で見られる、逆噴射を引き起こした。2023年10月7日、ハマスの戦闘員たちはガザの野外刑務所を脱獄し、イスラエルの国境地帯に残忍な攻撃を仕掛けた。イスラエルの市民に対する彼らの不可抗力とも言える残忍な攻撃は重大な犯罪であったが、イスラエルの獰猛で不釣り合いな、そして間違いなく大量虐殺的な対応は、イスラエルのイメージ、アメリカの評判、そして世界の良心に対する、更に深刻な汚点である。
かつてブリンケン国務長官が「人権をアメリカの外交政策の中心に据える」と述べたアメリカは、この外交的・人道的大惨事にどう対応したのだろうか?
ガザで既に2万3000人以上のパレスティナ人を殺戮したイスラエルに、何十億ドルもの軍事援助を急ぎ提供し(その過程でアメリカの法律を迂回したと報じられている)、停戦を求める国連安全保障理事会決議(U.N. Security Council resolutions)に何度も拒否権を行使し(vetoing)、イスラエルの大量虐殺を非難する南アフリカの国際司法裁判所への広範な文書による申請を「メリットがない(meritless)」として却下した。アメリカ政府高官はイスラエルに行動を慎むよう求めたと伝えられているが、アメリカの支援を縮小すると脅した訳ではない。予想通り、ベンヤミン・ネタニヤフ政権はアメリカの要請を無視してきた。
今年、誰が選挙で勝とうとも、何かが変わると期待する理由はない。バイデンもブリンケンも自称シオニストであり、どちらもイスラエルに軌道修正を迫るような意味のある圧力をかけることはないだろう。トランプはどちらの側にもあまり関心がないように見えたが、アメリカにおける政治的影響力のバランスを理解しており、彼の反イスラム偏重(anti-Muslim bias)はよく知られている。バイデンの2期目には、ある種の和平プロセス(peace process)を復活させる試みが見られるかもしれないが、それがアメリカのこれまでの努力以上のことを成し遂げられると騙されるべきではない。結局のところ、バラク・オバマ前大統領の二国家解決への努力を台無しにしたと言われるバイデンが、もう1期務めたとしても、二国家解決を達成する可能性はないだろう。トランプ大統領は、義理の息子であるジャレッド・クシュナーと同じように、資金の流れに従う可能性が高い。ウクライナや中国と同様、アプローチの類似性は、世界観や外交スタイルの違いを凌駕している。
明らかにしておきたいが、私は今回の選挙がアメリカの外交政策に難の影響も及ぼさないと言っているのではない。例えば、トランプが大統領になれば、アメリカをNATOから脱退させようとするかもしれないが、そのような動きは間違いなく外交・防衛政策当局からの多大な抵抗に直面するだろう。トランプは主に国内の課題、そして長引く法的問題に焦点を当てる可能性があり、その場合、既に限定されている外交問題への関心がより減ることになり、現状を強化する傾向があるだろう。トランプはその1期目で外交政策の人材の見極めが不十分であった(そして前例のない離職率を引き起こした)ため、その傾向がアメリカの政策実行を妨げ、外国政府がさらなるリスク回避につながる可能性がある。バイデン2とトランプ2の間には微妙な違いがあるだろうが、私は根本的な変革が起きる方には賭けない。
全体として、次の選挙は外交政策の重要な問題よりもアメリカの国内政治にはるかに大きな影響を与えるだろう。冒頭で述べたように、国内での利害は十分に大きく、明確であり、十分な懸念が存在するため、投票方法を決めるのにそれほど問題はないだろう。私は民主政治体制下での生活が好きなので、2024年11月には主要州で過半数の有権者が私の考えに同意してくれることを願うばかりである。
※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』コラムニスト、ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。ツイッターアカウント:
@stephenwalt
(貼り付け終わり)
(終わり)
ビッグテック5社を解体せよ