古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

2024年02月

 古村治彦です。

 2023年12月27日に最新刊『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。アメリカの外交政策についても詳しく分析しました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 2024年11月にアメリカ大統領選挙が実施される。現段階で、民主党は現職のジョー・バイデン大統領、共和党はドナルド・トランプ前大統領がそれぞれ、候補者に指名されることが確実視されており、2020年に続いて、バイデン対トランプの構図になる。各種世論調査を見てみると、両者の対決は接戦で、ややトランプ有利となっている。トランプが大統領に返り咲く場合、もしくはバイデンが大統領として二期目を迎える場合、どちらになっても、アメリカの外交政策は大きく変わらないというのが、今回下にご紹介している、ハーヴァード大学教授スティーヴン・M・ウォルトの主張だ。

 アメリカにとって重要な外交政策の対象は、ウクライナ、中東、そして中国だ。トランプ前大統領はウクライナ戦争勃発後からウクライナへの支援に反対し、即時の停戦を行うようにロシアに働きかけるべきだ、自分にはそれができると主張している。ウクライナ、ロシア療法に圧力をかけてでも停戦すべきだと述べている。バイデン政権はウクライナ支援を行ってきたが、ウクライナ戦争の状況を好転させるまでには至らず、アメリカ国内での共和党の反対によって、ウクライナ支援を継続できない状況にある。結果として、停戦に向かうしかないという状況だ。

 中東に関しては、バイデン政権は、サウジアラビアに対して宥和的な姿勢を示しているが、サウジアラビアはバイデン政権との関係修復を望んでいない。アメリカはサウジアラビアとイスラエルとの間の国境正常化を行おうとしたが、その試みはとん挫している。対イスラエルに関しては、バイデン政権は、イスラエルの過剰な攻撃を止めるに至っていない。トランプも恐らく、イスラエルを止めることはできないし、まず、止めることはしないだろう。

 中国に関しては、トランプもバイデンも強力な競争相手として、敵対的に見ている。中国と対峙するために、アジア地域の同盟諸国に対して、負担の増加を求めており、それについて、同盟諸国は嫌気が差しながら、しぶしぶ従っている状況だ。

 バイデン政権の方が、トランプ政権に比べて、より理想主義的な外交を行うと見られていたし、公約でもそのようなものが多かった。しかし、現実としてはうまくいっていない。それは、アメリカの力が減退している中で、それに気づいている国々がアメリカに従わなくなっているからだ。世界の構造は大きく変化しつつある。そうした中で、アメリカにできることの範囲はどんどんと狭まっている。

(貼り付けはじめ)

トランプが再び大統領に就任してもアメリカの外交政策は大きく変わらないだろう(Another Trump Presidency Won’t Much Change U.S. Foreign Policy

-世界の恐怖はほとんどが誇張されているに過ぎない。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2024年1月22日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/01/22/another-trump-presidency-wont-much-change-u-s-foreign-policy/

不測の事態が起きない限り、2024年の米大統領選は現職のジョー・バイデン大統領とドナルド・トランプ前大統領の再戦となる。アメリカ国民の多くは、どちらも出馬しない方が幸せだと考えているが、2024年11月に直面するのはそのような選択ではないだろう。この選挙は既に、アメリカの民主政治体制と世界に対するアプローチに広範囲な影響を及ぼす、画期的な出来事として位置づけられている。

第一の問題、つまり国内で起こりそうな結果については、選択肢は明確だ。トランプは有罪判決を受けた詐欺師であり、性的虐待者であり、前任の大統領時代には無能な最高責任者であった。民主政治体制の原則と法の支配に対する彼の関与は存在せず、彼と共和党は2期目も、権力を、政敵を罰するために利用し、アメリカを事実上の独裁政治に向かわせるつもりであることが懸念される。女性の権利は更に縮小され、気候変動を食い止める努力は放棄され、裕福なアメリカ人や企業は、より広範な社会的・政治的影響をほとんど考慮することなく、自分たちの利己的な利益を自由に追求するようになるだろう。あなたがバイデンや彼の政策をどう思おうとも、彼がそのようなことをする可能性はない。私にとっては、それだけでトランプに反対票を投じる十分な理由ということになる。

しかし、外交政策に目を向けると、その違いはそれほど顕著ではない。現在、多くの人々がトランプ大統領の2期目がアメリカの外交政策に劇的な影響を及ぼすのではないかと懸念しているが、その違いは皆さんが思っているほど大きくはないだろう。トランプは1期目と同じように、不安定で、気まぐれで、粗野で、特にNATOの同盟諸国に対して対立的な態度をとるだろう。しかし、他の点では、トランプ大統領の2期目は、バイデンが更に4年間の任期で大統領を務めた場合とそれほど変わらないかもしれない。このことを理解するためには、現在の外交政策で間違いなく最も重要な3つの議題について、それぞれの人物がどのように対処する可能性があるかを考えてみればよい。ウクライナ、中国、中東である。

●ウクライナ(Ukraine

共和党の一部議員の反対や、キエフが戦争に勝利したり、失った領土を回復したりする能力について悲観的な見方が強まっているにもかかわらず、戦争が始まって以来、バイデン政権はウクライナに全面的に関与してきた。ウクライナ人とその西側の支持者たちは、トランプ大統領がアメリカの支援を打ち切り、ウクライナをヨーロッパからの援助に頼り、ロシア軍のなすがままにするのではないかと心配している。トランプは得意な大げささで、戦争を「1日で(in one day)」解決できると自慢し、ウクライナの勝利を望んでいるのかと聞かれると、言葉を濁した。従って、トランプ当選でアメリカの政策が大きく変わると多くの人々は思うかもしれない。

しかし、バイデンがもう1期当選すれば、たとえ追求の方法が違っても、同じような道をたどる可能性が高いのだ。戦争の潮流は2023年にウクライナに有利に傾き、これまで、ウクライナの支持者たちはウクライナの運命を逆転させ、ロシアが不法に征服し併合した領土を解放するための楽観的な計画を考え続けているが、彼らの希望はほぼ間違いなく幻想であり、米国防総省はおそらくそのことを分かっている。バイデンと彼のティームは選挙前にこのことを認めるつもりはないだろう。なぜなら、そうなればこれまでの戦争への対応に疑問符がつくからだ。しかし、もし大統領に再選されれば、キエフにもっと現実的な目標を採用し、和解に向かうよう圧力をかけるだろう。

私は、バイデンなら慎重なやり方でウクライナへ圧力をかけ、キエフが可能な限り最良の取引を行う手助けをしようとすると信じている。これとは対照的に、トランプ大統領はおそらく、北朝鮮の金正恩委員長との素人同士の仲良しな態度(amateurish bromance)で見せたような外交的手腕を発揮し(つまり、何もしない)、ウクライナとはさっさと手を切って逃げようとするだろう。しかし、より大きなポイントは、トランプ政権になっても、バイデン政権が続いても、2025年1月以降の戦争終結を交渉しようとするだろうということであり、その結果得られる合意は、キエフの戦争目的よりもロシアの戦争目的にかなり近いものになる可能性が高いということだ。

●中国(China

トランプはその最初の任期中、それまでの対中経済関与政策を決定的に変更し、米国経済に打撃を与え、是正されるはずだった二国間の貿易赤字にはほとんど何の効果もない、お粗末な貿易戦争(trade war)を開始した。バイデンはこのアプローチを改め、更に強化し、先端技術のいくつかの主要分野をマスターしようとする中国の努力を阻害することを意図して、ますます厳しい輸出規制を課した。あからさまな保護主義(protectionism)を拒否した、ある政権高官は、このアプローチを国家安全保障上の懸念に焦点を絞ったもの(つまり「高いフェンス(high fence)」のある「小さな庭(small yard)」)だと擁護した。しかし、庭の大きさはどんどん大きくなっており、中国に対するより対決的なアプローチは、超党派の強いコンセンサスを得ている数少ない問題の1つである。

このため、2024年11月にどのような結果が出ようとも、アメリカの対中政策は大きく変わることはないだろう。バイデン政権とトランプ前政権の公式声明は、中国をアメリカの世界的優位に対する主要な挑戦者の1つと見なしており、その見方は、どちらかと言えば、今日より顕著になっている。トランプは、アメリカの保護に過度に依存していると繰り返し非難している、アメリカのアジアの同盟諸国に対して、やや対立的な態度を取るかもしれないが、北京に本気で立ち向かうつもりなら、アジアの同盟諸国を見捨てることはできない。

結論は次の通りだ。中国との関係に関しては、バイデンもトランプも2期目には同じ合唱曲の歌詞を歌うことになるだろう。

●中東(The Middle East

アメリカの中東政策が大混乱に陥っていることを考えれば、バイデンもトランプも2025年には軌道修正を図りたいと考えるかもしれない。悲しいことに、どちらが大統領になっても将来、過去と異なる行動を取ることを期待する理由はない。実際、最も印象的なのは、この不安定な地域に対処する際、このまったく異なる2人の大統領がいかに似たような行動をとってきたかということである。

トランプは大統領として、イランの核開発に上限を設けていた核合意を破棄し、在イスラエル米大使館をエルサレムに移転し、ワシントンのパレスティナ問題担当領事事務所を閉鎖した。彼はまた、熱狂的にイスラエルの入植者たちを支持する弁護士を駐イスラエル大使に任命した。彼の和平計画は、二国家解決(two-state solution)というアメリカの長年の目標を嘲笑するものであり、一方で素人外交官(そして娘婿)であるジャレッド・クシュナーのアラブ・イスラエル国交正常化計画を後押しするものだった。その結果、アブラハム協定(Abraham Accords)は、イスラエルとバーレーン、モロッコ、アラブ首長国連邦、スーダン(後者は現在内戦状態にある)との間に外交関係を樹立したが、ヨルダン川西岸とガザ地区でイスラエルの過酷な支配下に暮らす500万人のパレスティナ人の苦境には何も対処しなかった。

この状況を引き継いだバイデンは何をしたのか? 彼は事態を悪化させた。イランとの核合意に復帰することを選挙公約に掲げていたにもかかわらず、イランの選挙で強硬派が政権を握り、共同包括行動計画への復帰がさらに困難になるまで、彼は逡巡した。結果は次の通りだ。イランは今、かつてないほど核爆弾所有に近づいている。バイデンとアントニー・ブリンケン米国務長官はパレスティナ人について、トランプと同じように扱い、在エルサレム米総領事館の再開を遅らせ、和平プロセスの再開にはほとんど力を注がなく、ヨルダン川西岸で増加するイスラエル人入植者たちによる暴力行為には目をつぶった。入植者たちの行為は、イスラエル史上最も極右的な政府によって公然と支持されていないが、容認されてきた。

トランプと同様、バイデンとブリンケンはサウジアラビアの機嫌を取ることに集中し、亡命ジャーナリストのジャマル・カショギ殺害に関与したサウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン王太子を「不可触民(pariah)」として扱うというバイデンの選挙公約を完全に覆した。共和党政権と民主党政権にまたがって存在感を示すブレット・マクガーク(Brett McGurk、1973年-)の指導の下、アメリカは昨年、イスラエルとの国交正常化と引き換えにサウジアラビアに安全保障(およびその他の特典)を与える取引を完了させようとしていた。マクガークは、おそらく近年の米国政策で最も影響力のある唯一の設計者である。パレスティナ問題はまたしても脇に追いやられ、ジェイク・サリヴァン国家安全保障問題担当大統領補佐官は昨年秋、中東は「ここ数十年来で最も静かだ(quieter than it has been for decades)」と自画自賛した。

トランプに始まり、バイデンが続けたこれらの誤りは、世界中で見られる、逆噴射を引き起こした。2023年10月7日、ハマスの戦闘員たちはガザの野外刑務所を脱獄し、イスラエルの国境地帯に残忍な攻撃を仕掛けた。イスラエルの市民に対する彼らの不可抗力とも言える残忍な攻撃は重大な犯罪であったが、イスラエルの獰猛で不釣り合いな、そして間違いなく大量虐殺的な対応は、イスラエルのイメージ、アメリカの評判、そして世界の良心に対する、更に深刻な汚点である。

かつてブリンケン国務長官が「人権をアメリカの外交政策の中心に据える」と述べたアメリカは、この外交的・人道的大惨事にどう対応したのだろうか? ガザで既に2万3000人以上のパレスティナ人を殺戮したイスラエルに、何十億ドルもの軍事援助を急ぎ提供し(その過程でアメリカの法律を迂回したと報じられている)、停戦を求める国連安全保障理事会決議(U.N. Security Council resolutions)に何度も拒否権を行使し(vetoing)、イスラエルの大量虐殺を非難する南アフリカの国際司法裁判所への広範な文書による申請を「メリットがない(meritless)」として却下した。アメリカ政府高官はイスラエルに行動を慎むよう求めたと伝えられているが、アメリカの支援を縮小すると脅した訳ではない。予想通り、ベンヤミン・ネタニヤフ政権はアメリカの要請を無視してきた。

今年、誰が選挙で勝とうとも、何かが変わると期待する理由はない。バイデンもブリンケンも自称シオニストであり、どちらもイスラエルに軌道修正を迫るような意味のある圧力をかけることはないだろう。トランプはどちらの側にもあまり関心がないように見えたが、アメリカにおける政治的影響力のバランスを理解しており、彼の反イスラム偏重(anti-Muslim bias)はよく知られている。バイデンの2期目には、ある種の和平プロセス(peace process)を復活させる試みが見られるかもしれないが、それがアメリカのこれまでの努力以上のことを成し遂げられると騙されるべきではない。結局のところ、バラク・オバマ前大統領の二国家解決への努力を台無しにしたと言われるバイデンが、もう1期務めたとしても、二国家解決を達成する可能性はないだろう。トランプ大統領は、義理の息子であるジャレッド・クシュナーと同じように、資金の流れに従う可能性が高い。ウクライナや中国と同様、アプローチの類似性は、世界観や外交スタイルの違いを凌駕している。

明らかにしておきたいが、私は今回の選挙がアメリカの外交政策に難の影響も及ぼさないと言っているのではない。例えば、トランプが大統領になれば、アメリカをNATOから脱退させようとするかもしれないが、そのような動きは間違いなく外交・防衛政策当局からの多大な抵抗に直面するだろう。トランプは主に国内の課題、そして長引く法的問題に焦点を当てる可能性があり、その場合、既に限定されている外交問題への関心がより減ることになり、現状を強化する傾向があるだろう。トランプはその1期目で外交政策の人材の見極めが不十分であった(そして前例のない離職率を引き起こした)ため、その傾向がアメリカの政策実行を妨げ、外国政府がさらなるリスク回避につながる可能性がある。バイデン2とトランプ2の間には微妙な違いがあるだろうが、私は根本的な変革が起きる方には賭けない。

全体として、次の選挙は外交政策の重要な問題よりもアメリカの国内政治にはるかに大きな影響を与えるだろう。冒頭で述べたように、国内での利害は十分に大きく、明確であり、十分な懸念が存在するため、投票方法を決めるのにそれほど問題はないだろう。私は民主政治体制下での生活が好きなので、2024年11月には主要州で過半数の有権者が私の考えに同意してくれることを願うばかりである。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』コラムニスト、ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。ツイッターアカウント:

@stephenwalt

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(終わり)
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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。
 2023年12月27日に『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。2023年10月に始まったイスラエルとハマスの紛争についても分析しています。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 イスラエルとハマスとの紛争、その後のイスラエルによるガザ地区への過酷な攻撃が今も継続中だ。イスラエルによるガザ地区への苛烈な攻撃に対しては、体調虐殺(ジェノサイド)だという批判の声が上がっている。アメリカは、一貫してイスラエル支持の姿勢を崩していないが(もちろん崩せないが)、ガザ地区の状況については憂慮しており、イスラエル側に自制を求めているが、イスラエルはアメリカ側の言うことを聞かない。アメリカは、イスラエルに引きずられる形になっている。それでも、「イスラエルを支援しているアメリカが何とかしろ」というアメリカに向けた批判の声も大きくなっている。

 私は最新作『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』の中で、世界は「ザ・ウエスト(the West、西側諸国)対ザ・レスト(the Rest、西側以外の国々)」という対立構造で、これからの世界は動いていくと書いた。ザ・ウエストの旗頭はアメリカで、ザ・レストの旗頭は中国である。ザ・レストには南半球の発展途上国が多いことから、「グローバル・サウス(Global South)」とも言う。アメリカが世界唯一の超大国として、一極構造であった世界から大きく変化しつつある。今回のパレスティナ紛争についても、この構図が当てはまる。

 中国は紛争発生当初から、即時の停戦を求めてきた。最近では、イスラエルによるガザ地区への攻撃を憂慮し、パレスティナ側に立つ姿勢を見せているが、深入りすることはせず、調停者の役割までは担うという姿勢を見せいている。中国の調停案はイスラエルには受け入れがたいものであるが、中国は強硬な態度を示していない。これは、アメリカの失敗、敵失を待っているということも言える。アメリカが自滅していくのを待っているということになる。そして、ザ・レスト、グローバル・サウスの旗頭として、これらの国々の意向を尊重しながら行動しているということになる。中国は慎重な姿勢を見せている。

 アメリカとイスラエルはお互いに抱きつき心中をしているようなものだ。イスラエルはアメリカを巻き添えにしなければ存続できない。アメリカはイスラエルを切り離したいが、もうそれはできない状況になっている。お互いがお互いにきつく抱きついて、行きつくところまで行くしかない。非常に厳しい状況だ。

 世界の大きな構造変化から見れば、アメリカとイスラエルは即座に停戦し、パレスティナ国家の実質的な確立を承認すべきであるが、イスラエルの極右勢力の代表でもあるベンヤミン・ネタニヤフ首相には到底受け入れられない。また、ハマスにしてもイスラエルとの共存は受け入れがたい。中国としてもパレスティナの過激派組織をどのように扱うかは頭の痛いところであろうが、イランとの関係を使ってうまく対処するだろう。二国間共存に向かうように今回の機器をうまく利用できるとすれば、それはアメリカではなく、中国だ。

(貼り付けはじめ)

中国がイスラエルとハマスの戦争をどのように利用するか(How China Is Leveraging the Israel-Hamas War

-ワシントンとグローバル・サウスとの間に広がり続けている分断は、北京に有利に作用している。

クリスティーナ・ルー筆

2024年1月31日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/01/31/china-israel-hamas-global-south-us-foreign-policy/?tpcc=recirc062921

イスラエルによるガザ地区での軍事作戦に対する世界的な怒りが高まるなか、中国は、この戦争に対するワシントンとグローバル・サウス(Global South)のスタンスの間に広がる分断(divide)を利用し、北京自身の外交政策上の野心を高めることに注力してきた。

イスラエル・ハマス戦争の過程を通じて、中国は深刻化し続ける紛争に巻き込まれたり、地域のつながりが危​​険に晒されたりすることを警戒し、慎重に傍観者の立場を守り続けてきた。しかし、アメリカ政府がイスラエル支援をめぐって激しい反発に直面する中、中国政府もまた、ブラジル、インド、南アフリカ、パキスタンを含む数十カ国の集合体である、いわゆるグローバル・サウスと連携する機会を捉えている。アメリカの立場とは大きく異なり、イスラエルの行動を非難した。

戦略国際問題研究センター(Center for Strategic and International StudiesCSIS)で中東プログラムの部長を務めるジョン・アルターマンは、「中国は、そのほとんどをアメリカに任せている。中国が中東で追求している唯一の利益は、アメリカとグローバル・サウスの大部分との間に大きな分断が生まれるのを見守ることだ」と述べた。

イスラエル・ハマス戦争に対する中国のアプローチは当初から慎重さが特徴だった。例えば、中国の習近平国家主席は、2023年10月7日のハマスの最初のイスラエル攻撃後の検討まで2週間近く待ったが、一方、初期の政府声明ではハマスの名前さえも言及せずにいたが、この対応はイスラエル当局の怒りを買った。それ以来数カ月間、中国は自らを和平調停者(peacemaker)として位置づけ、紛争に直接関与するまでは至らないようにしながら、停戦とパレスティナ国家の確立を呼びかけた。

ブルッキングス研究所の研究員パトリシア・キムは本誌の取材に対して、電子メールを通じて答え、「中国は、現在進行中の紛争において実質的な役割を明らかに回避している」と語った。キムは更に、「中国政府は自らを地域の権力仲介者として見せたいと考えているが、安全保障の提供者(security provider)としての役割を果たすことや、地域における関係を危うくする可能性のある困難な状況に直接介入することには全く興味がない」と述べた。

こうした力関係は紅海でも明らかであり、フーシ派がパレスティナ人との連帯と主張して行った数か月にわたる商業船舶に対するフーシ派の攻撃により、世界貿易が混乱している。しかし、紅海を守るために船舶を派遣する国が増えているにもかかわらず、中国は自国の海軍の介入に抵抗している。中国政府が関与に最も積極的に取り組んでいるのは、フーシ派を支援するイランに非公式に介入を迫っているとロイター通信が報じたが、イラン当局者はこの報道を否定した。

北京のアプローチは、ワシントンとは対照的である。ワシントンは、イスラエルの建国以来、長年イスラエルの最も強力な支持者の1人であり、数十億の軍事援助で同国を支援してきただけでなく、パレスティナ紛争が始まって以来、国際舞台でイスラエルの主要な擁護者(primary defender)として行動してきた。国連安全保障理事会(United Nations Security Council)でアメリカの拒否権(veto)を行使し、中国だけでなく、グローバル・サウスの国々を含む数十カ国が支持する停戦を求める決議を阻止してきた。ジョー・バイデン政権は紅海でも行動を起こし、イエメンのフーシ派に対する攻撃を開始し、紅海の航行の自由を確保するために国際タスクフォースを動員した。

しかし、ガザでのイスラエルの軍事作戦が壊滅的な人道的被害をもたらしている中、ハマスが運営するガザ保健省によると、イスラエル軍は戦争開始以来、ガザで2万6000人ものパレスティナ人を殺害しているということだ。イスラエルに対するワシントンの揺るぎない支援に、世界の多くの人々はますます不満を募らせ、幻滅している。ガザでは現在、50万人以上の人々が「壊滅的なレベルの深刻な食糧不足(catastrophic levels of acute food insecurity)」に直面しており、統合食糧安全保障段階分類は12月に警告を発している。

そして、中国政府はその分断を利用しようとしている。「チャイナ・グローバル・サウス・プロジェクト(China Global South Project)」の共同創設者エリック・オランダーは、次のように述べた。「中国は、分断によって、世界の他の国々の目、彼らが関心を寄せる世界の地域において、アメリカを更に弱体化させることになると感じている。これは、アメリカがいかに孤立しているかを示し、世界と歩調が合っていないことを示し、そしてアメリカの偽善を示すという、中国に対する彼らの戦略にそのまま反映されている。」

オーランダーは、「中国は、自国の外交政策を追求し、アメリカ主導の国際秩序の欠点について彼らが言おうとしている価値観のいくつかを広めるという点で、これをかなり巧みに演じていると考える」と述べた。

この戦略の一環として、中国は自らを平和調停者であると公言し、5項目の和平計画を提案し、イスラエル・パレスチナ和平会議の開催を呼びかけている。2023年10月、北京はカタールとエジプトに地域特使を派遣し、停戦(ceasefire)を促した。それ以来、ガザへの約400万ドルの人道支援(humanitarian aid)を約束し、アラブ・イスラム諸国の閣僚代表団を受け入れ、紛争をめぐるBRICSブロック(当時はブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカで構成)の事実上の首脳会議に参加した。

中国の張軍国連大使は、戦争が始まって1カ月後、安全保障理事会のブリーフィングにおいて、「中国は、敵対行為の停止と平和の回復を促進するために、たゆまぬ努力を続けてきた。中国は引き続き、国際的な公正と正義の側に立ち、国際法の側に立ち、アラブ・イスラム世界の正当な願望の側に立っていく」と述べた。

中国の王毅外相は2024年1月、アフリカの多くの国々を訪問した。その際、イスラエル・ハマス戦争の仲介役の1人であるエジプトへの訪問の機会を利用し、停戦とパレスティナ国家の確立を繰り返し訴えた。

しかし、専門家たちは、北京の行動はほとんどがパフォーマンスであり、具体的な成果はほとんど得られていないと主張している。ヨーロッパ外交問題評議会のマーク・レナードが『フォーリン・アフェアーズ』誌上で指摘したように、2023年11月のBRICS首脳会議では、共同声明も現実的なロードマップも作成できなかった。ブルッキングス研究所によれば、中国が提案した和平案では、紛争解決の責任は北京ではなく、国連安全保障理事会にあるとしている。

大西洋評議会の非常勤研究員であるアーメド・アブドゥは2023年12月、「中国の外交用語の不明瞭さと、世界第2位の経済力を持っているにも関わらずガザに提供した金額の少なさ」を引き合いに出し、イスラエルとハマスの戦争調停に対する中国の真剣さは「巧妙な欺瞞(smoke and mirrors)」に過ぎないと書いている。

中国政府は紛争に巻き込まれるのではなく、バイデン政権の世界的な信頼性に疑問を投げかける一環として、ワシントンを厳しく追及し、米中両国の間の立場の違い対比させることに重点を置いている。こうした努力は国連安全保障理事会でも全面的に表れており、中国は2023年10月にアメリカの提出した安保理決議案が停戦を求めていないとして批判し、拒否権を発動した。ロシアもこの決議案に拒否権を発動した。

中国の張国連大使は、「アメリカは加盟諸国のコンセンサスを無視した新たな決議案を提出した」と述べた。北京を含む他の理事国が修正案を提案した後でも、ワシントンは彼らの「主要な懸念(major concerns)」を無視し、「善悪を混同(confuses right and wrong)」した決議案を提出したと張国連大使は続けて述べた。

12月下旬、人道的即時停戦(immediate humanitarian ceasefire)を求める安全保障理事会決議案(Security Council draft resolution)にワシントンが拒否権を発動した後、中国は再びその投票を利用して自らをグローバル・サウスと並び称し、ワシントンの立場を際立たせた。張国連大使は、決議案の約100の共同提案者の1人として、中国政府は「草案がアメリカによって拒否権を発動されたことに大きな失望と遺憾の意を感じている。これら全ては、二重基準(double standard)が何であるかを改めて示している」と述べた。

中国国営メディアもこうした意見に同調し、アメリカと中国の立場の相違にさらに注目した。『環球時報』はアメリカの拒否権について、「ガザ住民の安全と人道的ニーズに配慮すると主張しながら、紛争の継続を容認するのは矛盾している。紛争の継続を容認しながら、紛争の波及を阻止することを主張するのは自己欺瞞(self-deceptive)である」と書いている。

さらに最近、北京はイスラエルの行動に対する怒りの最も明確なケースの1つにおいて、グローバル・サウスと協調している。国際司法裁判所(International Court of JusticeICJ)での南アフリカによるイスラエルに対する大量虐殺訴訟がそれである。国際司法裁判所(ICJ)には判決を執行する手段はないが、南アフリカが提起した裁判は、イスラエルに対する国際的な圧力の高まりを反映している。

国際司法裁判所は、イスラエルがガザで大量虐殺を犯しているかどうかという問題についてはまだ判決を下しておらず、おそらくこれから何年も判決を下すことはないままだろうが、先週の金曜日には、イスラエルの軍事作戦の緊急停止を命じるよう裁判所に求めた南アフリカの要求に応えた。国際司法裁判所は判決の中で、イスラエルに対し、ガザの民間人への被害を最小限に抑えるために「あらゆる手段を取る(take all measures)」よう命じた。

この判決が発表された後、中国の国営メディアは、イスラエルのガザでの行動に対して「見て見ぬふりをするのをやめるよう」いくつかの主要国に働きかけることになる((some major countries to stop turning a blind eye))との期待を表明した。これに対してバイデン政権は、プレトリアによる大量虐殺疑惑は「根拠がない(unfounded)」という立場を繰り返したが、国際司法裁判所の判決はイスラエルに市民の安全を確保するよう求めるイスラエルの要求に沿ったものだとも述べた。

中国は長年、グローバル・サウス諸国との政治的・経済的関係を育むことを優先しており、王外相は最近、2024年の最初の外遊をエジプト、チュニジア、トーゴ、コートジボワールを訪問して締めくくった。中国外相が今年最初の世界歴訪の目的地をアフリカにするのは34年連続となる。その後、王外相はブラジルとジャマイカを訪問した。

アトランティック・カウンシルの専門家であるアブドゥは、「中国はイスラエルを、巻き添え被害を与える存在として扱うことにした。中国は、グローバル・ガバナンスと戦略的優先事項のために、これらの国々の支援を求めている」と述べている。

※クリスティーナ・ルー:『フォーリン・ポリシー』誌記者。ツイッターアカウント:@christinafei

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 2023年12月27日に最新刊『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。準備中に、イスラエルとハマスの紛争が始まり、そのことについても分析しました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 アメリカは戦後、中東地域で大きな影響力を保持してきた。親米諸国と反米諸国が混在する中で、石油を確保するために、中東地域で超大国としての役割を果たしてきた。1993年にはオスロ合意によって、イスラエルとパレスティナの和平合意、二国間共存(パレスティナ国家樹立)を実現させた。しかし、中東に平和は訪れていない。パレスティナ問題は根本的に解決していない。今回、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相はパレスティナ問題を「最終解決」させようとしているかのように、徹底的な攻撃を加えている。アメリカは紛争解決について全くの無力な状態だ。イスラエルを抑えることもできていないし。パレスティナへの有効な援助もできていない。

 アメリカの中東政策について、下の論稿では、「社会工学(social engineering)」という言葉を使っている。この言葉が極めて重要だ。「社会工学」を分かりやすく言い換えるならば、「文明化外科手術」となる。はっきり書けば、非西洋・非民主的な国々を西洋化する(Westernization)、民主化する(democratization)ということだ。日本も太平洋戦争敗戦後、アメリカによって社会工学=文明化外科手術を施された国である。アメリカの中東政策は、アラブ諸国に対して、西洋的な価値観を受け入れさせるという、非常に不自然なことを強いることを柱としていた。結果として、アメリカの註徳政策はうまくいかない。それは当然のことだ。また、アメリカにとって役立つ国々、筆頭はサウジアラビアであるが、これらに対しては西洋化も民主化も求めないという二重基準、ダブルスタンダード、二枚舌を通してきた。

 アメリカの外交政策の大きな潮流については、私は第一作『アメリカ政治の秘密』(PHP研究所)で詳しく書いたが、大きくは、リアリズムと介入主義(民主党系だと人道的介入主義、共和党系だとネオコン)の2つに分かれている。第三作『悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める』(秀和システム)で、私は「バイデン政権は、ヒラリー・クリントン政権である」と結論付けたが、ヒラリー・クリントンは人道的介入主義派の親玉であり、バイデンはその流れに位置する。従って、アラブ諸国を何とかしないということになるが、それではうまくいかないことは歴史が証明している。それが「社会工学」の失敗なのである。

 最新作『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)で、私は世界が大きく「ザ・ウエスト(西洋諸国)対ザ・レスト(西洋以外の国々)」に分裂していくということを書いたが、西洋による社会工学=文明化外科手術への反発がその基底にある。私たちは、文明化外科手術を中途半端に施された哀れな国である日本という悲しむべき存在について、これから向き合っていかねばならない。

(貼り付けはじめ)

「バイデン・ドクトリン」は物事をより悪化させるだろう(The ‘Biden Doctrine’ Will Make Things Worse

-ホワイトハウスは中東に関して、自らの利益のために野心的過ぎる計画を策定している。

スティーヴン・A・クック筆

2024年2月9日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/02/09/biden-doctrine-israel-palestine-middle-east-peace/

アメリカに「中東についてのバイデン・ドクトリン(Biden Doctrine for the Middle East)」は必要か? 私がこの質問を発するのは、トーマス・フリードマンが先週の『ニューヨーク・タイムズ』紙でバイデン・ドクトリンについて述べていたからだ。どうやらバイデン政権は、「イランに対して強く毅然とした態度(a strong and resolute stand on Iran)」を採用し、パレスティナの国家化(statehood)を進め、サウジアラビアに対して、サウジアラビアとイスラエルとの関係正常化(normalization)を前提とした、防衛協定(defense pact)を提案する用意があると考えられている。

フリードマンのコラムがホワイトハウス内の考え方を正確に反映しているなら、そしてそうでないと信じる理由はないが、私は「ノー」の評価を下すことになる。これまで中東変革を目的とした大規模プロジェクトを避けてきたジョー・バイデン大統領とその側近たちは、特にパレスティナ国家建設に関しては、噛みつく以上に多くのことを実行しようとしている。これが更なる地域の失敗になる可能性が高い。

第二次世界大戦後のアメリカの中東外交を振り返ると、興味深いパターンが浮かび上がってくる。政策立案者たちがアメリカの力を使って悪いことが起こらないようにした時は成功したが、ワシントンの軍事、経済、外交資源を活用して良いことを起こそうとした時は失敗してきた。

中東地域で国際的な社会工学(social engineering 訳者註:文明化外科手術)にアメリカが公然と取り組もうとしたきっかけは、1991年にまでさかのぼる。その年の1月から2月にかけて、アメリカはイラクの指導者サダム・フセインのクウェート占領軍を打ち破った。そしてその10ヵ月後、ソ連の指導者たちはこの連合を終わらせることを決定した。アメリカは、唯一残された超大国として独り立ちしたのである。冷戦に勝利したワシントンは、平和を勝ち取ること、つまり世界を救済することを決意した。中東でこれを実現するために、アメリカ政府高官が求めた主な方法は「和平プロセス(the peace process)」だった。

フセインによるクウェート吸収への努力が行われ、イスラエルとその近隣諸国との紛争との間に関連性がほとんどなかったにもかかわらず、イスラエルとアラブとの間に和平を築こうとするアメリカの努力は、砂漠の嵐作戦後のワシントンの外交の中心となった。もちろん、抽象的なレベルでは、イラクもイスラエルも武力によって領土を獲得していたが、1990年8月のイラクのクウェート侵攻と1967年6月のイスラエルの先制攻撃はあまりにも異なっていたため、比較の対象にはなりにくかった。

中東和平へのアメリカの衝動は、国際法(international law)というよりも、アメリカの力がより平和で豊かな新しい世界秩序の触媒になりうるという信念に基づくものだった。もちろん、これは主流の考え方から外れたものではなかった。結局のところ、アメリカは世界をファシズムから救ったのであり、ジョージ・HW・ブッシュ大統領がマドリードで平和会議を招集した当時、ソヴィエト共産主義は死にかけていた。

あらゆる努力にもかかわらず、ブッシュの中東における目標は依然として主にアラブとイスラエルの和平問題の解決に限定されていた。和平プロセスが決定的に変化する様相を呈したのはクリントン政権になってからである。 1993年の同じ週、イスラエルのイツハク・ラビン首相とパレスティナ解放機構の指導者ヤセル・アラファトが、当時のアメリカのアメリカ大統領ビル・クリントンと国家安全保障問題担当大統領補佐官アンソニー・レイクの支援と許可のもとでオスロ合意の最初の合意に署名した。ビル・クリントンとアンソニー・レイクは、ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題大学院(SAIS)の学生と教職員の前に現れ、冷戦直後の世界におけるクリントン政権の米国外交政策の目標を述べた。クリントン大統領のアプローチの中心は、レイクが「民主政治体制の拡大(democratic enlargement)」と呼んだものだった。

クリントン率いるティームが中東の変化を促進する方法はパレスティナを通じてであった。クリントンは、イスラエル人とパレスティナ人の間の和平は、より平和で繁栄した統合された地域を生み出し、それによって中東の国家安全保障至上国家群の存在の理論的根拠を損なうことになると推論した。平和の後、アラブ世界では権威主義が民主的な政治制度に取って代わられることになる。主要な側近の一人の言葉を借りれば、「クリントンは変革の目標を自らに設定した。それはアラブ・イスラエル紛争を終わらせることによって中東を21世紀に移行させることだ」ということだ。

和平が政治的変化をもたらすという考えは魅力的だったが、クリントンはこの地域の権威主義的な政治の理由を見誤っていた。いずれにせよ、イスラエル人とパレスティナ人の間で紛争終結に向けた合意を成立させようとしたクリントンの努力は、ほぼ10年かけても実を結ばなかった。クリントンが大統領を退任すると、暴力がイスラエルとパレスティナの両地域を巻き込み、第2次インティファーダ(Intifada)が発生した。

クリントンの次の大統領ジョージ・W・ブッシュは当初、クリントンが中東和平に割いた時間とエネルギーに懐疑的だったが、実はブッシュはパレスティナ国家をアメリカの外交政策の目標と宣言した最初の大統領だった。そこに到達するために、彼は前任者の論理をひっくり返した。ブッシュのホワイトハウスにとって、パレスティナの政治機構を民主的に改革し、ヤセル・アラファトを追放して初めて和平が成立するということになっていた。

クリントン前大統領と同様、ブッシュは失敗した。大統領執務室をバラク・オバマ大統領に譲った時、パレスティナの民主政治体制も和平もパレスティナ国家も存在しなかった。クリントンとブッシュは、中東に対するアプローチがまったく異なる2つの政権にもかかわらず、中東の政治的・社会的変革という共通の野心的目標を共有していた。

イラクの変革であれ、いわゆるフリーダム・アジェンダによる民主政体の推進であれ、パレスティナ国家建設の努力であれ、中東においてアメリカは失敗を繰り返していると認識していながら、オバマもドナルド・トランプ大統領もバイデンもそのことを念頭に置いていなかった。新しい中東を社会工学的に設計したいという願望を持っていた。バイデンの場合、彼はイスラエル人とパレスティナ人を交渉させ、和平協定に署名させるための当時の国務長官ジョン・ケリーの奮闘を監督したが、二国家解決には悲観的な見方をした。バイデンの側近たちは就任直後、過去の政権の地域的野望は繰り返さないと明言した。

そして、2023年10月7日、ハマスによる約1200名のイスラエル人の残忍な殺害と、イスラエルによるガザ地区での徹底的な破壊を伴う軍事的対応が始まった。トーマス・フリードマンによれば、イスラエルとハマスの戦争が続き、ほとんどがパレスティナの民間人である死体が積み重なる中、バイデンは中東で成し遂げたいこと、つまり、石油の自由な流れを確保すること、イスラエルの安全保障に対する脅威を防ぐ手助けをすること、中国を出し抜くこと、は、再び外部から中東の変化を促すような新しく野心的なアメリカのドクトリンなしには実現しそうにないという結論に達したということだ。

公平を期すなら、イランがワシントンとの新たな関係を望んでいないことをホワイトハウスが理解したことは好ましい進展だ。また、サウジアラビアとの防衛協定は、中国との世界的な競争という点では理にかなっている。しかし、パレスティナの国家建設にアメリカが多額の投資をすることは、以前の取り組みのように失敗に終わる可能性が高い。

確かに、今回は違いがある。10月7日以降、専門家たちが何度も繰り返してきたように、戦争は新たな外交の機会を開く。しかし、イスラエルとパレスティナという2つの国家が並んで平和に暮らすことで、現在の危機から脱するチャンスが訪れると信じる理由はほとんど存在しない。

バイデンと彼のティームは、二国家解決を追求するしかないと感じているかもしれないが、自分たちが何をしようとしているのかを自覚すべきである。今回のイスラエル・パレスティナ紛争は、アイデンティティ、歴史的記憶、ナショナリズムといった、とげとげしい、しかししばしばよく理解されていない概念に縛られている。

イスラエル人とパレスティナ人の闘争には宗教的な側面もある。特にハマスとメシアニック・ユダヤ人グループ(messianic Jewish groups)は、ヨルダン川と地中海の間の土地を神聖化している。パレスティナの政治指導者たち(ハマスもパレスティナ自治政府も)は、ユダヤ教とパレスティナの歴史的つながりを日常的に否定している。これらの問題から生まれる対立的な物語は、バイデン政権が現在思い描いているような共存には向いていない。

そして、イスラエルとパレスティナの社会における残忍な政治が、長年にわたる当事者間の膠着状態を助長してきた。ガザを中心としたイスラエルとハマスの闘争は、イスラエル人がパレスティナ人の和平のための最低限の要求(完全な主権を持つ独立国家[a fully sovereign independent state]、エルサレムに首都設置[a capital in Jerusalem]、難民の帰還[a return of refugees])を受け入れることをより困難にする可能性が高い。同様に、パレスティナ人は、自分たちの鏡像であるイスラエルの最低限の和平要求に同意することはできないだろう。 イスラエル人が求めているのは、エルサレムをイスラエルの分割されていない永遠の首都とすること、1967年6月4日に引かれた線を越えて領土が広がる国家とすること、そしてパレスティナ難民を帰還させないことである。

新しいアイデアを失い、ガザ戦争で世界の競争相手である中国に立場を譲ることを懸念し、若い有権者たちからの支持の喪失を懸念しているバイデンとそのティームは、和平プロセスにしがみついているが、失敗に終わった事業であり、過去30年間で、今ほど、これ以上成功する見込みはない時期は存在しなかった。

ある意味、大統領を責めるのは難しい。和平プロセスの努力をしていれば安全なのだ。大統領の党内にはそれを支持する政治的支持がある。彼は努力したと言うことができる。中東を変革しようとするこの最新の動きが、おそらく何年にもわたる交渉の結論の出ない交渉の末にパレスティナ国家を生み出せなかった時、バイデンはとうに大統領職を終えていることだろう。

その代わりにアメリカは何をすべきか? これはとても難しい問題だ。それは、この問題が、解決不可能な紛争を解決するためのアメリカの力の限界を認識するように、特にアメリカの政策立案者、連邦議会議員、そしてワシントン内部(the Beltway、ベルトウェイ)の政策コミュニティに求めているからだ。

それでも、アメリカにできる重要なことは存在する。それは、イランがこれ以上地域の混乱を招くのを防がなければならないということだ。ワシントンは、既に起こっている地域統合の後退を食い止めるために努力しなければならない。そしてアメリカの指導者たちは、イスラエル人に対し、なぜイスラエルを支持する政治が変わりつつあるのかを説明することができる。ある意味では、これはイスラエル人とパレスティナ人の間の和平について、より利益をもたらす環境作りに役立つだろうが、それが実現し、実際に利益をもたらす保証はない。

2001年のある出来事を思い出す。イスラエルのアリエル・シャロン首相との記者会見で、コリン・パウエル米国務長官(当時)は「アメリカは当事者たち以上に和平を望むことはできない(The United States cannot want peace more than the parties themselves)」と発言した。これこそがバイデン大統領が陥っている罠なのである。

※スティーヴン・A・クック:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト、米外交評議会中東・アフリカ研究部門エニ・エンリコ・マテイ記念上級研究員。最新作『野心の終焉:中東におけるアメリカの過去、現在、未来(The End of Ambition: America’s Past, Present, and Future in the Middle East)』が2024年6月に発刊予定。ツイッターアカウント:@stevenacook

(貼り付け終わり)

(終わり)
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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 2023年12月27日に最新刊『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行いたしました。前半はアメリカ政治、後半は世界政治の分析となっています。2024年にアメリカはどうなるか、世界はどうなるかを考える際の手引きになります。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 今回は地政学の大きな流れをまとめた優れた論稿をご紹介する。著者のハル・ブランズはジョンズ・ホプキンズ大学教授で、『フォーリン・ポリシー』誌や『フォーリン・アフェアーズ』誌に多くの論稿を発表し、著書『デンジャー・ゾーン 迫る中国との衝突』(飛鳥新社)もある。ハルフォード・マッキンダー、アルフレッド・セイヤー・マハン、ニコラス・スパイクマン、カール・ハウスホーファーといった、地政学の大立者の思想を簡潔にまとめている。また、現代にまで引き付けて、分析を加えている。

 地政学の有名な理論としては、「ランドパワー・シーパワー」「ハートランド・リムランド」「生存権(レーベンスラウム)」といったものがあるが、簡潔に述べるならば、「イギリス、後にはアメリカが、世界を支配するためには、ユーラシア大陸から有力な挑戦者が出てこないようにする」ということである。地政学がドイツに渡れば、「ドイツが生き残るためには拡大していかねばならない」ということになった。
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 現在に引き付けて考えてみると、「ロシアと中国を抑え込むために、アメリカは、ヨーロッパ(とイギリス)、日本を使う」ということであり、「インド太平洋」という概念を用いるということになる。これは逆を返して考えれば「ユーラシアでロシアと中国が団結して強固な結びつきで一大勢力となって、アメリカやイギリス、日本を“辺境化”する」ということになる。今、私たちは世界の中心がアメリカやイギリスであると考えるが、ユーラシアに世界の中心が移れば、アメリカもイギリスも世界の外れということになる。世界は大きな構造変化を起こしつつある。これからはユーラシア大陸の時代ということになるだろう。

 世界を大きく、俯瞰で見るために地政学は有効である。地政学的な素養は学者だけではなく、多くの人々にとっても必要である。現在の世界を説明するために、そして、新たな状況の出現を予測したり、考えたりすることは有意義なことだ。そして、新たな時代には新が地政学の思想が出てくることだろう。それが今から楽しみだ。

(貼り付けはじめ)

地政学は期待と危機の両方をもたらす(The Field of Geopolitics Offers Both Promise and Peril

-世界で最も悲惨な学問(science)は、ユーラシア大陸を非自由主義や略奪にとって安全なものにするかもしれないし、そうした力から守るかもしれない。

ハル・ブランズ筆

2023年12月28日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2023/12/28/geopolitics-strategy-eurasia-autocracies-democracies-china-russia-us-putin-xi/

アレクサンドル・ドゥーギン(Aleksandr Dugin、1962年-、62歳)はちょっとした狂人だ。このロシアの知識人は2022年、ドゥーギン自身を狙ったと思われる、ウクライナの工作員が仕掛けたモスクワの自動車爆弾テロで、彼の娘が殺害され、西側で大きな話題となった。ドゥーギンが標的にされたのは、ウクライナでの大量虐殺を伴う征服戦争(genocidal war of conquest in Ukraine)を何年も前から堂々と提唱していたからだろう。「殺せ! 殺せ! 殺せ!」。2014年、ロシアのウラジーミル・プーティン大統領が初めてウクライナに侵攻した後、彼はこう叫んだ。更に、「これは教授としての私の意見だ」と述べた。娘の葬儀でも、ドゥーギンはメッセージに忠実だった。幼児だった娘の最初の言葉の中に、「私たちの帝国(our empire)」という言葉があったと彼は主張した。

本当かどうかは別として、このコメントはプーティン大統領の外交政策を形作る熱狂的なナショナリズムを知る窓となった。それはまた、よく誤解されている伝統である、地政学(geopolitics)への窓でもある。単に力の政治(power politics)の同義語として使われることも多い地政学は、実際には19世紀後半から20世紀初頭にかけて現れた、国際関係に対する独特の知的アプローチであり、その洞察(insights)と倒錯(perversions)が現代を深く形作ってきた。

ドゥーギンは1990年代、アメリカに対抗するためにユーラシア帝国を再建することで、落ちぶれた(down-and-out)ロシアがその偉大さを取り戻すことができると主張し、一躍有名になった。これは、1904年にイギリスの地理学者ハルフォード・マッキンダー(Halford John Mackinder、1861-1947年、86歳で没)が提唱した「これからの時代はユーラシアに依拠する侵略者とオフショアのバランサーとの衝突(clashes between Eurasian aggressors and offshore balancers)によって定義される」という論文の奇妙な世界への応用であった。マッキンダーの論文は、地政学という学問分野の確立に貢献した。ドゥーギンの暴言やプーティンの犯罪が示すように、地政学は今日でも知識人や指導者に影響を与えている。

地政学は、地理学が、テクノロジーと相互作用するかを研究する学問であり、グローバルパワーをめぐる絶え間ない争いに関して研究する学問である。地政学が注目されるようになったのは、ユーラシア大陸という中心的な舞台を支配することで、現代世界を支配しようとする巨人同士の衝突の時代が始まってからだ。そして、冷戦後の時代に地政学が時代遅れのものに思えたとしても、酷い戦略的対立関係が再登場している今、その重要性は急劇に高まっている。しかし、20世紀の歴史と現代の戦略的要請を理解するには、地政学の伝統は1つではなく、2つあることを理解する必要がある。

マッキンダーと彼の知的継承者たちに代表される、地政学の民主的な伝統が存在する。これは恐ろしいが悪とは​​言い難い。それは、猛烈な無政府状態の世界で自由主義社会がどのように繁栄できるかを理解することを目的としているからだ。そして、ドゥーギンに象徴される独裁的な地政学学派があり、それはしばしば純粋かつ単純な毒である。この独裁学派地政学はプーティン大統領と中国の習近平国家主席の政策によく表れている。民主諸国家の政策立案者たちが新たな時代を形作るには、自らの地政学の伝統を再発見する必要がある。

経済学が陰鬱な学問だとすると、地政学はそれほど明るい科学ではない。地政学は1890年代から1900年代にかけて出現した。この時代は、帝国間の競争が激化し、交通と通信の革命により世界が1つの戦場となり、戦略家たちが危険で相互につながりのある世界で生き残るための絶対条件を見極めようとしていた時代だった。地政学の研究は常に、世界中の自由の運命の中心となりつつある超大陸であるユーラシアに特別な焦点を当ててきた。

マッキンダーが論文「歴史の地理的軸(The Geographical Pivot of History)」で説明しているように、テクノロジーはユーラシア大陸の地理を紛争の温室(hothouse of conflict)にしてきた。鉄道の普及は軍隊の移動時間を大幅に短縮し、野心的な国家、特に急速に近代化する独裁国家が陸地の端から端まで覇権を求める時代を予見していた。それらの国家が資源豊富な超大陸を征服した後は、比類なき海軍の建設に目を向けることになる。

マッキンダーの厳しい予測は、大陸の諸大国がユーラシア大陸を支配することを目指し、やがて世界を支配するというものだった。マッキンダーは、やがてロシアが世界を支配すると懸念していた。マッキンダーの言う、リベラルな超大国は、ユーラシア大陸の分断を維持することで、この世界的専制主義(global despotism)を阻止しなければならない。マッキンダーにとって、そのリベラルな超大国はイギリスだった。イギリスは、陸と海で覇権を狙う国々をけん制しながら、その周辺では、危険に晒されている「橋頭堡(bridge heads)」を保持しなければならないとマッキンダーは考えた。

アルフレッド・セイヤー・マハン(Alfred Thayer Mahan、1840-1914年、74歳で没)は、アメリカに出現したマッキンダーの分身のような存在であった。シーパワー(sea power)の伝道師であるマハンは、中米地峡に運河を建設し、戦艦軍団を編成し、難攻不落の海洋強国を築き上げるようアメリカに働きかけ、知的キャリアを積んだ。しかし、マッキンダーのように、マハンも超大陸を神経質に見つめていた。彼は次のように見ていた。蒸気の時代(age of steam)には、ユーラシア大陸の統合は海を隔てた国々を脅かすかもしれない。もしかしたら、ロシア皇帝が中東や南アジアを突破して、より温暖な海域とより広い地平線を目指すかもしれない。あるいは、日本やドイツが自国内の支配を確立した後、海を越えてさらに遠くを見据えるかもしれない。

マッキンダーが卓越した陸の力が卓越した海の力につながると考えたとすると、マハンはユーラシア大陸内の危険をコントロールするには、その周辺の海域を支配する必要があると考えた。そこでマハンは、米英の海洋同盟(maritime alliance between the United States and Britain)に狙いを定め、2つの海洋民主政治体制国家が海を取り締まり、それぞれの自由の伝統にふさわしい世界システムを維持することを目指した。マハンは1897年、「英語を話す民族の心情の統一(unity of heart among the English-speaking races)」こそが、「この先の疑わしい時代における人類の最良の希望となる(lies the best hope of humanity in the doubtful days ahead)」と書いている。

地政学の闘技場で重要な3人目の人物は、第二次世界大戦の世界的混乱の中で頭角を現したオランダ系アメリカ人の戦略家であるニコラス・スパイクマン(Nicholas J. Spykman、1893-1943年、49歳で没)だ。スパイクマンはマッキンダーの主張や考えを次のように改造した。最も鋭い挑戦は、荒涼としたロシアの「ハートランド(heartland)」ではなく、ユーラシア大陸に深く切り込みながら、隣接する海を越えて攻撃することができるダイナミックで工業化された、「リムランド(rimland)」の国々、すなわちドイツと日本だ。鉄道がマッキンダーを魅了し、戦艦がマハンを夢中にさせたとすれば、スパイクマンを悩ませたのは爆撃機(bomber)であった。ひとたび全体主義国家がヨーロッパとアジアを制圧すれば、彼らの長距離航空戦力(long-range airpower)が新世界(西半球)の海洋進入路を支配し、その一方で封鎖と政治戦争がアメリカを弱体化させ、殺戮に向かうとスパイクマンは考えた。ユーラシア大陸内のパワーバランスを冷酷に調整することによってのみ、ワシントンは致命的となりかねない孤立を避けることができると主張した。

現在、これらの思想家たちを分析することは憂鬱であり、逆行的でさえある。マハンは誇らしげに自らを「帝国主義者(imperialist)」と呼び、マッキンダーは中国に「黄禍(yellow peril)」のレッテルを貼った。地政学が拠り所とする二重の決定論(dual determinism)、すなわち地理が世界の相互作用を強力に形成し、世界は過酷で容赦のない場所であるということを、全員が受け入れていた。スパイクマンは1942年に「国家が生き残れるのは、絶えずパワーポリティックスに献身することによってのみである」と書いている。

それは正しくなかった。マッキンダー、マハン、そしてスパイクマンは、新しいテクノロジーと、より凶暴な暴政の夜明けによって、より恐ろしくなった世界規模での対立の時代を乗り切ろうとしていた。マハンが言うところの「個人の自由と権利(the freedom and rights of the individual)」を尊重する民主的な社会が、「個人の国家への従属(the subordination of the individual to the state)」を実践する社会からの挑戦を生き残ることができるかどうか、3人とも最終的にはそれを懸念していた。つまり3人とも、どのような戦略、マッキンダーの言葉を借りれば「権力の組み合わせ(combinations of power)」が、許容可能な世界秩序を支え、ユーラシア大陸の統合が新たな暗黒時代の到来を告げるのを防ぐことができるかを見極めようとしていた。

この民主学派地政学(democratic school of geopolitics)は、非自由主義的な諸大国によって運営される超大陸を、避けるべき悪夢とみなした。権威主義学派地政学(authoritarian school)は、それを実現すべき夢と考えた。

自由主義の伝統に彩られた地政学が英米の創造物であるとすれば、より厳しく独裁的な倫理観を持つ地政学はヨーロッパ大陸で生まれたものだ。後者の伝統は、19世紀後半にスウェーデンの学者ルドルフ・チェーレン(Rudolf Kjellen、1864-1922年、58歳で没)とドイツの地理学者フリードリヒ・ラッツェル(Friedrich Ratzel、1844-1904年、59歳で没)が始まりである。これらの思想家たちは、ヨーロッパの窮屈で熾烈な地理学の産物であり、当時の最も有害なアイデアのいくつかを生み出した。

チェーレンとラッツェルは社会ダーウィニズム(social Darwinism)の影響を受けていた。彼らは、国家を拡大しなければ滅びる生命体とみなし、国民性を人種的な用語で定義した。彼らの一派は、1901年にラッツェルが作り出した「生存圏(Lebensraum)」、生活空間(living space)の探求を優先した。この伝統は、大陸の征服と開拓に成功したアメリカからインスピレーションを得ることもあったが、帝国ドイツのように、拡張主義的なヴィジョンと非自由主義的、軍国主義的な価値観が両立していた国々で最も開花した。そしてその後の数十年の歴史が示すように、この反動的でゼロサムの傾向を持つ地政学は、前例のない侵略と残虐行為の青写真(blueprint)となった。

このアプローチの典型は、カール・ハウスホーファー(Karl Haushofer、1869-1946年、76歳で没)である。彼は第一次世界大戦時には砲兵司令官を務め、1918年の敗戦後、ドイツ復活(German resurrection)の大義を掲げた。ハウスホーファーにとって、地政学は拡大と同義だった。第一次世界大戦後、ドイツは連合国によって切り刻まれた。ドイツが取るべき唯一の対応は、「現在の生活空間の狭さから世界の自由へと爆発することだ(out of the narrowness of her present living space into the freedom of the world)」と彼は書いている。ドイツは、ヨーロッパとアフリカにまたがる資源豊富な自国の帝国を主張しなければならない。抑圧され、持たざる国、すなわち日本とソヴィエト連邦が、ユーラシア大陸と太平洋の他の地域でも同様のことをすると、彼は信じていた。

ハウストホーファーが「汎地域(pan-regions)」と呼ぶものを統合することによってのみ、修正主義諸国は敵に打ち勝つことができた。また、協力することによってのみ、敵、すなわちイギリスによる分割統治(divide-and-conquer)を阻止することができた。この地政学の目標は、独裁的な軸によって支配されるユーラシアであった。マッキンダーが警告していたことを、ハウシュホーファーは彼の著作から惜しみなく借用し、実現する決意を固めた。

騒乱や殺人なしにこれが達成できるという気取りはなかった。ハウスホーファーは「世界は、政治的な整理整頓(political clearing up)、権力の再分配を必要としていた。小国はもはや存在する権利がない」と書いている。ハウストホーファーは、1930年代後半から1940年代初頭にかけてドイツが行った「生存圏」の獲得という殺人行為を支持することになった。

ハウスホーファーは、アドルフ・ヒトラーが1920年代に収監されている間、アドルフ・ヒトラーの相談役を務めていた。ヨーロッパのライヴァルを排除することの重要性、東方における資源と空間の必要性など、ヒトラーの『我が闘争(Mein Kampf)』の中心的主張は、純粋なハウスホーファーの主張であったと歴史家のホルガー・ヘルヴィッヒは書いた。ヒトラーが英米のシーパワーへの回答として提唱した広大なユーラシア陸軍帝国も、同様にハウスホーファーの思想に影響を受けたものだった。歴史上最も大胆な土地強奪は、ヒトラーの誇大妄想(megalomania)、病的な人種差別主義、権力への壮大な渇望に起因する。それはまた、悪の地政学(geopolitics of evil)に支えられていた。

国家と国家の衝突は思想の衝突である。20世紀を解釈する1つの方法は、民主学派地政学が独裁主義的な地政学を打ち負かしたということである。

第一次世界大戦、第二次世界大戦、そして冷戦において、根本的に修正主義的な諸国家(radically revisionist states)は、ハウストホーファーの脚本をそのまま実行に移した。ドイツ、日本、ソヴィエト連邦はユーラシア大陸の広大な土地を占領し、近隣の海と争った。支配地域は、時には殺人的な残虐性をもって統治された。しかし、リベラルな超大国が指揮を執り、民主国家が持つ最高の地政学的洞察に導かれた世界連合によって、彼らは最終的に敗北した。

マッキンダーによれば、これらのオフショア(ユーラシア大陸から離れた)諸大国(offshore powers)は、ユーラシア大陸の捕食者たちが超大陸を蹂躙し、彼らの注意が完全に海洋に向くのを防ぐために、陸上に同盟諸国を育成した。マハンが予見したように、米英は大西洋を支配し、ワシントンの圧倒的なパワーを発揮させるために同盟を結んだ。そして、スパイクマンが推奨したように、アメリカは大西洋と太平洋にまたがる同盟関係を構築し、かつての同盟国であったソ連を封じ込めるために、日本とドイツという改心した敵を利用することで、ユーラシア大陸の分断を維持することに最終的に関与することになる。

実際、こうした闘いでは道徳的な妥協が繰り返された。西側民主政体諸国は、第二次世界大戦ではソ連の指導者ヨシフ・スターリンと、冷戦後期では中国の指導者毛沢東と悪魔の取引(devil’s bargains)をした。彼らは、封鎖、爆撃、クーデター、秘密介入といった戦術を用いたが、それはより高い善への貢献によってのみ正当化できるものだった。スパイクマンは、「全ての文明的生活は、最終的にはパワーにかかっている。と書いている。民主政体諸国は、世界最悪の侵略者が最も重要な地域を支配するのを防ぐために、冷酷にパワーを行使した。

1991年のソヴィエト連邦の戦略的敗北と解体によって頂点に達したこれらの勝利の報酬は、繁栄する自由主義秩序と、グローバル化と民主化によって地政学が時代遅れになったという感覚であった。しかし残念なことに、世界は今、独裁的な挑戦者たちが古い地政学的思想を武器とする、新たな対立の時代に突入している。

プーティンの新帝国主義プログラム(neoimperial program)について考えてみよう。1990年代から、ドゥーギンは、ロシアは覇権主義的な「大西洋主義者」連合(“Atlanticist” coalition)によって存在を脅かされていると主張し、ロシアの安全保障エリートたちの間でその名を知られるようになった。ハウホーファーと同様、ドゥーギンはマッキンダーを逆転させることで活路を見出した。ドゥーギンは2012年に、モスクワにとっての最良の戦略は「私たち自身の手でロシアのために偉大な大陸ユーラシアの未来を作ることだ(great-continental Eurasian future for Russia with our own hands)」と書いている。旧ソ連の諸共和国を取り戻し、不満を抱く他の国々と結びつきを強めることで、ロシアはユーラシア修正主義者のブロック(bloc of Eurasian revisionists)を構築することができる。「ロシアの核心地域(The heartland of Russia)」は「新たな反ブルジョア、反米革命の舞台(“staging area of a new anti-bourgeois, anti-American revolution)」だとドゥーギンは1997年に書いた。西側諸国ではプーティンとドゥーギンの結びつきはしばしば誇張されてきたが、後者の著作は前者が何をしたかを知る上で悪くない指針となる。

プーティンのロシアは、その支配から逃れようとした近隣諸国(グルジアとウクライナ)の領土を分割し、一方で毒殺、戦略的腐敗、その他の戦術を駆使して他のポスト・ソヴィエト諸国を従属させ、隷属させてきた。西側諸国の政治的不安定を煽り(これもドゥーギンが提唱した共同体を崩壊させる戦術である)、その一方で、プーティンの言葉を借りれば、「現代世界の両極の1つ(one of the poles of the modern world)」として機能しうるユーラシアの制度を構築しようとしている。その一方で、プーティンはユーラシアを独裁的で反米的な大国の要塞とすることを目指して、中国やイランと擬似的な同盟関係を結んでいる。プーティンはまたもやドゥーギンの言葉を引用し、ロシアは「リスボンからウラジオストクまで」広がる「共通地帯(common zone)」を作らなければならないと述べている。プーティンはまた「ユーラシア超大陸は、ロシアが守るべき“伝統的価値”の避難所(a haven for the “traditional values”)であり、ロシアが利用すべき“大いなる機会”の源泉(a source of “tremendous opportunities”)である」と述べた。

2022年2月のロシアのウクライナ侵攻は、広々としたユーラシア大陸の中心地とダイナミックなヨーロッパ大陸の縁を結ぶウクライナを征服することで、この計画を加速させることを意図していた。ここでプーティンは、ドゥーギンが規定した血なまぐさい倫理観をもって、ロシアの「偉大な大陸ユーラシアの未来(great-continental Eurasian future)」を追求した。拷問、強姦、殺人、去勢、大量拉致、ウクライナの民族的アイデンティティを抹殺する組織的な努力は、専制的な政権の残虐性を帯びたユーラシア拡張の地政学の再来を示している。

中国の国家運営もまた、おなじみの弧を描いている。第二次世界大戦以来最大の海軍増強を行うことで、北京は台湾を奪取し、スパイクマンが西太平洋の「限界海域(marginal seas)」と呼ぶ重要な海域を支配する力を身につけようとしている。この目標を達成すれば、中国はユーラシア大陸で最も活気のある地域の覇者となる。また、世界中に基地を持つブルーウォーター・ネイヴィー(外洋海軍)への投資を自由に行うことで、習近平の言葉を借りれば「海洋大国(great maritime power)」となる。マハンが生きていれば、きっとこの中国の動きに注目していたことだろう。

マッキンダーの思想を応用した考えが中国の戦略にも反映されている。習近平の「一帯一路(the Belt and Road)」構想は、それに続くいくつかのプログラムと同様、東南アジアから南ヨーロッパ、そしてそれより遠方の国々を、経済的、技術的、外交的、そしておそらくは軍事的な影響力で包み込むことを意図している。これがうまくいけば、中国は中国中心の超大陸の周縁部(periphery of a Sino-centric supercontinent)にしがみつこうとしているヨーロッパに対して、圧倒的な地位を占めることになり、おそらくは北京が管理するシステムの中で、アメリカを二流の地位に追いやることさえできるだろう。学者ダニエル・S・マーキーは著書『中国の西方水平線』の中で、「ユーラシア大陸の資源、市場、港湾へのアクセスは、中国を東アジアの大国から世界の超大国へと変貌させる可能性がある」と書いている。習近平の中国は、人民解放軍の劉亜州上将が2004年に提言したように、「世界の中心を掌握する(seize for the center of the world)」ことを決意した。

しかし、中国の国家運営がマハンとマッキンダーの見識を採用しているとすれば、その意味するところは独裁的な伝統に沿ったものということになる。中国の外交官たつは、台湾が中国と統一された後に台湾の住民を「再教育(reeducate)」することを約束しているが、この脅しは20世紀最悪の犯罪の記憶を呼び起こさせる。中国が支配するユーラシア大陸は、ハウスホーファーが誇りに思うような権威主義的な汎地域となるだろう。北京とモスクワは、時には上海協力機構(Shanghai Cooperation Organization)を通じて協力し、中央アジアにおける潜在的なカラー革命(color revolutions)を阻止し、国境を越えて逃亡する反体制派を追い詰めてきた。その一方で、専制政治の近代化は北京の積極的な援助によって続けられている。「中国のデジタル・シルクロード(China’s Digital Silk Road)」は、最先端の監視装置を装備することで、非自由主義的な政府を強化している。

膨張と抑圧がどのように相互作用しているかを示す最も明確な例は、中国国内において見られる。習近平政権は新疆ウイグル自治区を、ウイグル族を強制収容所に押し込め、容赦ないデジタル弾圧を実施することで、人道上のホラーショーと化している。北京は「独裁の器官(organs of dictatorship)」を駆使し、「絶対に容赦しない(absolutely no mercy)」と習近平は2014年に指示した。この政策の根拠は地政学にある。新疆ウイグル自治区は、中国のユーラシア大陸への重要な輸送ルートの上に位置しているため、「新疆ウイグル自治区は特別な戦略的意義を持つ(Xinjiang work possesses a position of special strategic significance)」と習近平は述べている。それは、中国の力によって残虐行為が拡散することを予感させるものだ。

ハウホーファーの後継者たちは、非自由主義と略奪にとって安全なユーラシアを求めている。民主世界はその試練に応えるため、自らの地政学的系譜を復活させる必要がある。

ワシントンは今、マハンが夢見たような艦隊のような戦艦を必要としているわけではない。

技術革新は、その本質ではないにせよ、ライヴァル関係のリズムを変化させる。今日の競争は、新しい能力と新しい戦争領域を特徴としており、かつてないほど長距離の敵を攻撃することが容易になっている。しかし、いくつかの現実は変わらない。グローバル秩序を安定させるには、その中心にある悪意ある覇権主義(hegemony)を回避する必要がある。民主学派地政学は、このように常に変化しながらも、私たちが考えているほど斬新ではない世界をナビゲートするための心象地図(mental map)と一連の原則を提供している。

第一に、地政学とリベラルな価値観は相反するものではない。後者を守るには前者をマスターすることが不可欠だ。自由主義世界は理性、道徳、進歩を称賛するが、地政学的伝統は闘争と争いを強調する。しかし、西側の自由主義秩序の前提条件は、二度の世界大戦と冷戦において、自由の最も恐ろしい敵を打ち砕くか封じ込める力の組み合わせを生み出すことであった。世界が、ほんの数年前に出現した、破滅的な戦争や独裁的な優勢から安全ではなくなっていることを考えると、リベラルな価値観の隆盛には、パワーポリティックスにおいて地政学をスムーズに応用できる能力を国家が持つことが再び必要となるだろう。

地政学を学ぶ者なら、2つ目の洞察も理解できるだろう。スパイクマンは、ユーラシア大陸が枢軸諸国(the Axis)に制圧されそうになっていた1940年代初頭に、彼の代表的な著作を執筆した。リベラル勢力がどん底状態に陥ったことが、ユーラシア大陸の均衡が新たに崩れないようにすることで、次の戦争を防ぐ戦略を求めるスパイクマンの主張につながった。

スパイクマンが着想した戦略の歴史的成果のおかげで、西側諸国は、プーティンがウクライナに強硬に攻撃しないように、重要な援助を提供することで、東ヨーロッパの奥深くでロシアと均衡を保つことができるようになった。ワシントンとその同盟諸国は、中部太平洋ではなく台湾海峡で北京の力を牽制することができる。このような立場を維持するための軍事的・外交的要求は重いが、修正主義者たちが勢いづいた後に、より弱い立場からバランスを取ることに比べれば、その要求が少ないことは確かである。

ポジションを維持するためには、第3の原則を守る必要がある。それは、地政学とは同盟政治(alliance politics)であり、ユーラシア大陸の覇権をめぐる戦いは、同盟の構築と破棄の競争ということだ。スパイクマン、マッキンダー、マハンが把握していたように、海外の大国は、たとえ超大国であっても、最前線の同盟国の助けがあって初めてユーラシア大陸の情勢を調整することができる。逆に、覇権国家を目指す国は、海外からの支援を阻止し、隣国を孤立させることによってのみ、隣国を制圧することができる。

したがって、ユーラシア大陸のバランスは、アメリカが旧世界の周辺地域に介入するために必要な主権的、軍事的優位性を維持できるかどうかにかかっている。しかし、たとえ強制、賄賂、選挙妨害、その他の介入戦術を用いる敵対者に対して、遠く離れた大陸にアクセスし、影響力を与え、追加の能力を与える同盟と安全保障ネットワークをワシントンが適応させて強化すればそれは問題ではない。それらの同盟は全く別のもとして考える必要がある。

マッキンダーが思い起こさせるように、パートナーのタイプや場所も重要である。中国との戦いは主に海洋問題である。しかし、これは4つ目の教訓であるが、ランドパワーとシーパワーは、たとえその相対的なメリットが際限なく議論されるとしても、互いに補完し合うものである。ワシントンが太平洋で孤立無援の敵に直面することを望むならば、ヴェトナムや特にインドなど、中国の脆弱な陸上国境に沿ってディレンマを生み出すような友好諸国の存在が必要になる。

ヴェトナムもインドも理想的なパートナーではないが、これは第5の原則を強調している。アメリカにとって戦略とは、民主的な団結と卑劣な妥協を融合させる技術である(art of blending democratic solidarity with sordid compromises)。ユーラシア大陸の大西洋と太平洋の縁に広がる自由民主諸国は、ワシントンの連合の中核である。しかし、バランスを維持するには、常に非自由主義的なアクターたちと非自由主義的な行為が関与してきた。

この世代の修正主義者たちを封じ込めるには、シンガポールからサウジアラビア、トルコに至るまで、友好的な、あるいは単に二律背反的な権威主義者の弧に対峙する必要がある。ライヴァル関係の激化によって、ワシントンが秘密裏の謀略、経済的妨害工作、代理戦争に手を染めることになっても、ショックを受ける必要はない。覇権をめぐる争いは、比較的立派な民主国家に醜いことをさせるものである。

しかし、第6の教訓を忘れてはならない。ユーラシアの争いは一次元的なものでも、単地域的なものでもない。マハン、マッキンダー、そしてスパイクマンはみな、ユーラシア大陸を巨大で相互に結びついた舞台と見なしていた。最近では、アメリカにとって本当に重要なのは台湾だけであり、軍事力だけが真に重要なパワーの一種であるという、より還元主義的な見方(reductionist view)をする分析者たちもいる。西太平洋で中国に敗戦した場合の結果は、確かに画期的なものとなるだろう。しかし、自由世界が直面している問題はそれだけではない。

今日のウクライナにおける仮定の話ではない戦争の結果は、バルト海から中央アジアまでの戦略的バランスを形成し、ユーラシアの独裁国家とそれに対抗する自由民主政体国家との間の優位のバランスを形成する。だからこそ、ウクライナを切り離せという声は、ワシントンの最も脆弱な西太平洋の同盟諸国からはほとんど聞こえてこないのだ。

更に言えば、マッキンダーが1904年の論文で書いたように、中国は対外的にも対内的にも拡大することができる。ユーラシア大陸に進出すれば、「偉大な大陸の資源に海洋の出入り口を加える(add an oceanic frontage to the resources of the great continent)」ことができる。また、スパイクマンが付け加えるように、政治戦争(貿易、技術、その他の非軍事的手段の利用)は、戦争そのものと同様に敵を軟化させることができる。つまり、これらの思想家たちは、北京の経済的・技術的影響力を封じ込めることは、その軍事力を牽制するのと同じくらい重要であり、ワシントンがユーラシア大陸の一部分に焦点を当て、他の地域を排除するような単純なことはできないということを理解している。

その多くは、将来に対する厳しい見通しを示している。しかし、民主学派地政学が冷徹なパワーに関する計算の専門知識を必要とするのであれば、それだけに限定することはできない。最後の洞察は、世界的な危機は創造の機会であるということだ。

20世紀において、ユーラシア大陸における挑戦諸国の活動は、世界の民主国家に前例のない協力を呼び起こした。ユーラシアの挑戦諸国の活動は、世界の民主国家にかつてない協調を呼び起こし、侵略の計画を退けるとともに、世界の多くの地域にかつてない繁栄と幸福をもたらした自由主義秩序の基礎を築いた。現在の対立関係の中で成功する連合とは、20世紀の時と同様に、地球規模のグループが、かつてないほど軍事的、経済的、技術的、外交的に団結して、この時代の最も差し迫った課題に対処するものである。マッキンダーは、「反感を買う個性(A repellent personality)」には「敵を団結させる(uniting his enemies)」という美点があると書いた。民主学派地政学の目標は、今日また新たな時代の創造を可能にする安全保障を提供することであるべきだ。

ハル・ブランズ:ジョンズ・ホプキンズ大学ポール・H・ニッツェ記念高等国際関係大学院(SAIS)ヘンリー・A・キッシンジャー記念特別教授、アメリカン・エンタープライズ研究所上級研究員。ツイッターアカウント:@HalBrands
(貼り付け終わり)

(終わり)
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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
20211129sankeiad505

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 古村治彦です。

 2023年12月27日に最新刊『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を発売しました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 サウジアラビアは隣国イエメンの内戦で政府側を支援し、反体制派フーシ派との戦いを続けてきた。フーシ派を支援しているのはイランである。同時に、サウジアラビアは、フーシ派との和平交渉を続けてきた。中国が仲介したサウジアラビアとイランの国交正常化交渉開始も追い風になっている。しかし、これに水を差す形になったのは、アメリカとイギリスによるフーシ派への攻撃だ。これによって、サウジアラビアとフーシ派との和平交渉はとん挫する形になった。
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 アメリカはイスラエルと中東諸国との間の和平を進めている。実際に一部の中東諸国とイスラエルとの間に和平が成立している。サウジアラビアもアメリカの仲介でイスラエルとの和平、国交正常化を続けてきたが、2023年10月8日のハマスによるイスラエル攻撃、その後のイスラエルの過剰報告によって、サウジアラビアとイスラエルとの和平は絶望的になっている。イスラエルは中東で孤立状態になっている。
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 フーシ派は紅海で船舶攻撃を行っている。紅海はスエズ運河を通じて、地中海とインド洋を繋ぐ重要地点である。紅海の安全が保障されない状況では、世界の物流も厳しい状況になる。結果として、物価にも影響が出る。サウジアラビアは自国の安全を最優先にして、フーシ派を暴れさせないように、和平交渉を行ってきた。フーシ派はパレスティナ紛争をめぐり、イスラエルとの和平を行った各国への攻撃も行う可能性を持っている。こうなれば中東全体の不安定要因となる。サウジアラビアの和平交渉が重要であったのだが、米英両国によるフーシ派攻撃によって状況は悪化することになった。

 中東の状況がこれから悪化することになる。注目していかねばならない。

(貼り付けはじめ)

紅海上での衝突をサウジアラビアが傍観している理由(Why Saudi Arabia Is Staying on the Sidelines in the Red Sea Conflict

-フーシ派との数年にわたる戦争の後、リヤドは何よりも自国の安全を確保しようとしているが、和平交渉は不安定であり、この計画は裏目に出る可能性がある。

ヴィーナ・アリ=カーン筆

2024年1月16日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/01/16/saudi-arabia-red-sea-conflict-houthis-us-strike/?tpcc=recirc_trending062921

ほんの数年前であれば、サウジアラビアはフーシ派の拠点を狙った米英共同攻撃の機会を利用しようとしただろう。リヤドはほぼ10年間、フーシ派と残酷な戦争を戦ってきた。しかし今日、イエメン内戦から手を引き、国境を越えた攻撃から自国を恒久的に守るためにフーシ派指導部と微妙な和平交渉を行っているリヤドにとって、イエメンのグループであるフーシ派に対する西側の攻撃はまさに望むところとは正反対である。

紅海における緊張が高まる中、サウジアラビアは紛争に関わらないことを選択した。その代わり、サウジアラビアとフーシ派の間のコミュニケーションラインはオープンなままであり、リヤドは攻撃の標的にならないよう、あからさまにワシントンに味方することを避けている。今のところ、この戦略はうまくいっているように見えるが、長期的にサウジアラビアの保護が保証されるのかという大きな疑問が残る。

1月12日未明。米英軍機はイエメンのフーシ派軍事拠点数十カ所を標的とした。その翌日、ワシントンはフーシ派の拠点への新たな空襲を開始し、司令部、弾薬庫、ミサイル発射システム、無人機を標的にした。復讐を誓うフーシ派は1月15日、アメリカ所有のコンテナ船に弾道ミサイルを発射した。(ワシントンは1月16日に再び報復した)。

これらの攻撃は、紅海の商業船舶に対するフーシ派の2ヶ月にわたる攻撃に続くもので、反政府勢力フーシ派は、ガザ地区のパレスティナ人との連帯を示すものだと主張している。フーシ派は、これらの攻撃はイスラエルと関係のある船舶に限定されていると言っているが、実際には、射程距離圏内にある全ての船舶を標的にしている。これまでに30件近いフーシ派による国際海運への攻撃により、少なくとも50カ国が影響を受けている。

世界の主要なコンテナ海運会社のほとんどが、世界の輸送量の約15%、最大で3分の1を扱うスエズ運河に通じる重要な水路である紅海を避ける決定を発表するまでに時間はかからなかった。

アントニー・ブリンケン米国務長官の最近の中東歴訪は、ガザ紛争を封じ込めるよう地域アクターに圧力をかけることを意図したものだった。しかし、ペルシャ湾岸諸国はフーシ派をよく知っており、彼らに対する影響力も限られているため、大した反応はしなかった。別の試みとして、アメリカはサウジアラビアに対し、反体制派との和平交渉において紅海の危機を考慮し、交渉のペースを落とすよう促した。

それにもかかわらず、フーシ派とリヤドは、紅海の危機が両者の合意を妨げることを避けるために、協議を継続することを選択した。米英両国の攻撃を受けて、サウジアラビア外務省は「大きな懸念(great concern)」を表明し、エスカレートを避けるために「自制(self-restraint)」を求めた。

リヤドには、フーシ派との新たな手に負えない紛争に巻き込まれる気はまったくない。サウジアラビアは反政府勢力への軍事対処を通じて過去の教訓から学び、直接戦闘を行うことの危険性を痛感している。

フーシ派が主張した2019年のアラムコ攻撃は、2つの主要石油施設を標的とし、サウジアラビアの石油生産の半分を一時的に停止させたが、これが転機となった。その原因はアメリカの対応の遅れにあった。アメリカから裏切られたと感じたリヤドは、その後数年間、外交政策を急速に見直し、ワシントンの救援に頼るのではなく、地域の頭痛に対する外交的解決策(diplomatic solutions to its regional headaches)を模索するようになった。

最近では、リヤドは代わりにイランとの対話を続けている。イエメン攻撃の前日、サウジアラビアのファイサル・ビン・ファルハン外相はイランのホセイン・アミール=アブドラヒアン外相から連絡を受けた。サウジアラビアの皇太子であるムハンマド・ビン・サルマンにとって、待望の「ビジョン2030(Vision 2030)」(国民経済の多様化を目的とした大規模な改革計画)に向けた重要な数年間において、状況を混乱させるようなエスカレーションは最も避けたいことだ。その結果、サウジアラビアは紅海の危機において沈黙を守ることを選択し、2023年春に発表された中国が仲介するイランややフーシ派とのコミュニケーションチャンネルが、地域の混乱や将来のフーシ派の攻撃から自国を守ることになると期待している。

これらの新しいコミュニケーションラインは、紅海におけるフーシ派の行動を阻止することを目的としている訳ではない。むしろ、どのような状況であれ、地域のエスカレーションからサウジアラビアを孤立させるための、より広い努力の現実的な一部なのだ。今のところ、この戦略はうまくいっているようで、リヤドは標的にされていない。実際、サウジアラビアがフーシ派に対するアメリカ主導の海上連合(maritime coalition)に参加しないという決断を下した理由には、イランとアメリカの緊張の矢面に立たされた経験が影響している。

サウジアラビアの最優先事項は自国を守ることだ。サウジアラビアはイエメン戦争からの迅速な撤退を望んでおり、西側諸国と反体制派との最近のいざこざがこれを台無しにすることはないだろう。2021年以来、オマーンが促進したフーシ派との交渉は困難な中で進んできた。リヤドはようやくフーシ派との効果的な意思疎通が可能になった。それゆえサウジアラビアは、紅海でのアメリカの作戦を支援するためだけに、フーシ派の攻撃から自国を守るのに十分だとサウジアラビアが考えているこの関係を危うくする価値はないと判断している。

むしろ、最近のエスカレーションは、サウジアラビアにできるだけ早く合意をまとめようとする、更なる誘因を与えた。 2023年11月末に向けて、リヤドはイエメン政府とフーシ派との間の将来の国連主導の協議の基礎を築くことを目的とした提案草案を国連イエメン担当特使に提出した。伝えられるところによると、協定の一部にはサウジアラビアの最優先事項である国境を守るための緩衝地帯(buffer zone)が含まれている。

リヤドも自画自賛している。サウジアラビアは以前から、フーシ派がより高度なドローン能力を獲得し、紅海に近い地域を支配する危険性についてワシントンに警告してきたが、彼らの目には、精彩を欠いた対応しか受けられなかった。それゆえ、サウジアラビアは、フーシ派に対する残忍な戦争で何年も自国を批判してきた同じ西側のパートナーを、なぜ支援しなければならないのかと疑問を呈している。

しかし、サウジアラビアの計算は間違っている可能性がある。最終的な和平合意はまだ確実なものとなっていない。現在存在しているのは、いつ崩壊するか分からない脆弱な理解だけだ。正式な和平合意がなければ、将来的にフーシ派が紅海やその国境でサウジアラビアを標的にすることを阻止するものはない。

状況がエスカレートすればするほど、その可能性は高まるばかりだ。フーシ派自身も、リヤドの保護が、より広範な紛争に関与しないという決断にかかっていることを内心認めている。フーシ派はサウジアラビアの弱点である国境を認識しており、いつでもこれを利用することができる。アメリカによる第2次空爆のわずか数時間後、フーシ派はサウジ国境沿いで軍事作戦を実施し、アメリカに味方した場合の潜在的な結果についてサウジアラビアに警告を発した。

問題を更に複雑にしているのは、もしリヤドがイスラエルとの国交正常化交渉を再開することになれば、サウジアラビアは再び反政府勢力の格好の標的になりかねないことだ。フーシ派は、アブラハム協定(2020年にイスラエルと一部のアラブ諸国がアメリカの仲介によって国交正常化した協定)に対する批判の声を避けておらず、この問題はアラブ首長国連邦に対する批判の中心となっている。

サウジアラビアが国交正常化交渉を進めれば、フーシ派がゴールポストを移し、イスラエルと同盟関係にあると思われる国々を標的にすると宣言し、和平交渉でサウジから更なる譲歩を引き出す正当な理由にする可能性が高い。確かなことは、リヤドはフーシ派による将来の標的の可能性に留意しながら、イスラエルとの協議を再開する必要があるということだ。

サウジアラビア・フーシ派両陣営にとって理想的な世界であれば、和平交渉は紅海の危機から切り離されたままであろう。しかし、今日の現実はそうではない。この地域は急速にヒートアップしており、イエメンの脆弱な和平プロセスを完全に脅かしかねない事態に、より多くの関係者が次々と参戦している。アメリカがフーシ派を対外テロ組織として指定するなど、非軍事的なアプローチを選択すれば、フーシ派の国連主導の和平交渉への参加は危うくなり、イエメンの地域紛争が再燃し、事実上の停戦が終わる恐れが出てくる。

他方、米英がイエメンへの攻撃を続ければ、フーシ派は、バーレーンを含むこの地域にある米軍基地や、イスラエルと連携しているとみなす湾岸諸国の首都を標的にすることで、これまで彼らが脅してきたように、状況をさらに悪化させる可能性がある。少なくとも、このような攻撃は和平交渉を完全に頓挫させ、サウジアラビアに行動を起こさせ、イエメンをより複雑な地域戦争(regional war)に巻き込むことになるだろう。

全体として、イエメンにおいてサウジアラビアに残された、自分たちを有利にする選択肢はない。2つの問題を区分するという戦略は、今のところリヤドを守ることに成功しているが、これは公式な和平合意がない場合の一時的な応急処置にすぎない。イエメン紛争の将来は、今や紅海の動乱と表裏一体であり、イエメンの和平プロセスはこの不快な現実についてきちんと考慮しなければならない。

※ヴィーナ・アリ=カーン:ニューヨークを拠点とするイエメンとペルシア湾地域の研究者。イスタンブールで、インターナショナル・クライシス・グループのイエメン研究担当を務めた経験を持つ。

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