古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

2024年04月

 古村治彦です。

 2023年12月27日に『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。『週刊現代』2024年4月20日号「名著、再び」に拙著が紹介されました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 アレックス・ガーランド監督作品「シヴィル・ウォー(Civil War)」(2024年)は、アメリカ社会の分裂と内戦を描いたSF・ディストピア作品のようだ。詳しいないようなまだ分からないが、カリフォルニア州とテキサス州(とフロリダ州)が同盟を組み、中央政府に反旗を翻して内戦状態に入っている、映画の中で名前を明かされていないアメリカ合衆国大統領はファシストとして描かれている、ということは分かっている。この映画は「2024年のアメリカ大統領選挙の後に、アメリカが内戦状態、第二次南北戦争になるのではないか」という、感覚の鋭いアメリカ人たちに不安と共にある種の実感を与えているようだ。

 荒唐無稽な物語にして、「南北戦争のような大規模な内戦は起きない」「現実はもっとちゃんとしている」と思わせようとしながら、映画の基底には、現実感があるのだろうと思う。うまくごまかしながら、何かしらの不安を与えるというのは高等技術であり、それがアメリカ人の神経を逆なでしながら、映画を見ないと済まないという気持ちにさせているということになるだろう。


 カリフォルニア州とテキサス州が連合を組むというのは荒唐無稽のようだが、ワシントンDCとニューヨークに巣食う東部エスタブリッシュメントに対しての反感という点では共通点がある。「アメリカでポピュリズムが跋扈している」という書き方をする人間は多いが、こうした人たちは「大衆迎合主義」の意味で使っているが、アメリカのポピュリズムは、「エスタブリッシュメントによって奪われた政治、デモクラシーを一般庶民・大衆が取り戻そうとする動き」ということである。2016年の米大統領選挙では、共和党からはドナルド・トランプ、民主党からはバーニー・サンダース連邦上院議員(ヴァ―モント州選出、無所属)が出て、ヒラリークリントンを苦しめ、最終的には彼女の大統領就任を阻止することに成功した。サンダースの選挙運動からは、民主党進歩主義派の議員たちが生まれ、その代表格がアレクサンドリア・オカシオ=コルテス(AOC)である。トランプとサンダースは水と油のような関係であるが、ポピュリズムという点では共通である。カリフォルニア州とテキサス州が連合するということもあり得る。

 連邦議会でのトランプ派議員たちと進歩主義派議員たちの動きはよく似ている。たとえば、ウクライナ支援に関しては、こうした議員たちは共通して反対している。こうした動きについては、このブログでも紹介している。その中で、「馬蹄理論(horseshoe theory)」を紹介している。政治的なスペクトラムで両端にある「極右」「極左」が近づくということだ。※「2022年08月16日 伝統的な「右と左」「穏健と過激」ではなくポピュリズムによってアメリカ政治を理解する」 http://suinikki.blog.jp/archives/86488603.html

 日本語で言う「南北戦争」は英語では「The Civil War」と言う。「civil war」と言えば、一般的な「内戦」である。ガーランドの映画のタイトル「Civil War」は、「内戦」という意味でもあり、「アメリカの内戦=第二次南北戦争」ということになる。南北戦争(1861-1864年)は、奴隷制度反対の北部と奴隷制度維持の南部の争いで、エイブラハム・リンカーンが奴隷解放の父・英雄というのが教科書通りの定説だ。しかし、実際はそんなに単純なものではない。リンカーンは南部がアメリカ合衆国に留まるならば奴隷制度を維持しても良いと考えていた。南北戦争は勃興する工業中心の北部と、伝統的なプランテーション農業を中心とする南部の経済的な争いが大きかった。奴隷制度はプランテーション経営の根幹であり、それが廃止されれば経営は立ち行かない。また、関税で言えば、北部はアメリカで勃興し始めた興行を守るために保護関税を訴え、南部は競争力のある綿花の輸出のために低い関税を訴えた。そうした違いから南北戦争になった。そして、リンカーンがアメリカで英雄となっているのは、奴隷解放のためではなく、アメリカの連合(Union)を守ったからだ(南部を相当痛めつけることになったが)。

 アメリカ社会の分断・分裂は、第二次南北戦争を引き起こすかもしれない、今年の大統領選挙がそのきっかけになるかもしれない、という漠然とした不安がアメリカ国民の間に存在する。その不安を刺激したのが、現在公開されている「シヴィル・ウォー」だ。優れた小説や映画は時に予言的な役割を果たす。アメリカの分断・分裂は危険水位に達している。

(貼り付けはじめ)

映画「シヴィル・ウォー(Civil War、内戦、南北戦争)」が成功したのは、その中で描かれている政治が荒唐無稽だからだ(‘Civil War’ Succeeds Because Its Politics Make No Sense

-悪夢のようなシナリオは、論理が夢想のように欠如しているがゆえに余計に恐ろしい。

ジョーダン・ホフマン筆

2024年4月13日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/04/13/civil-war-movie-review-garland-us-politics-election-trump/

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「シヴィル・ウォー」で主演を務めるキルスティン・ダンスト(中央)

「ここではそんなことは起こりっこない(It can’t happen here)」。これは、1930年代に小説家シンクレア・ルイスがアメリカ政治に忍び寄るヨーロッパ型ファシズム(European-style fascism)を警告するために使い、1960年代にはミュージシャンのフランク・ザッパがカウンターカルチャー(counterculture)の熱狂的な支持者たちに怯えるアイゼンハワー時代の四角四面ぶりを嘲笑するために使い、2021年1月6日のアメリカ連邦議事堂襲撃事件以来、多くのアメリカ人が自国の安定性を再確認するために使っている常套句だ。アメリカの政治陣営間の対立(animosity)は、私の記憶にある限り、これまでにも増して激しくなっている。しかし、それでは第二次南北戦争(second civil war)が起きるのだろうか?ここではそんなことは起こりっこない。

小説『ザ・ビーチ』(1996年、映画版は2000年)、脚本『28日後...(28 Days Later)』(2002年)、『サンシャイン2057(Sunshine)』(2007年)、映画「エクス・マキナ(Ex Machina)」(2015年)、「アナイアレイション -全滅領域-Annihilation)」(2018年)、「MEN 同じ顔の男たち(Men)」(2022年)、テレビシリーズ「デヴズ(Devs)」(2020年)などを手がけてきた、53歳のイギリス人脚本家兼監督アレックス・ガーランドは、明らかにそう考えていない。しかし、彼の新作「シヴィル・ウォー」は期待を裏切る大胆な作品だ。ジョー・バイデン対ドナルド・トランプの選挙(待てよ、ここでそんなことが起こるのか?)に向けて私たちが夢遊病のように歩くなか、ガーランドの作品はリンカーン・メモリアルの影で武装する「アメリカを再び偉大に(MAGA)」やアンティファ(antifa)の話ではない。彼の大きな芸術的な振れ幅は、スクリーン上で展開されている災難から、アメリカの政治を曖昧にすることだ。そうすることで、内戦の狂気がより鮮明になるのだ。

この映画は、大音量で暴力シーンが執拗なほどに多く含まれる109分間の映画で、2020年後半に脚本が書かれたものだ。当時、アメリカ連邦議事堂に突入することなど、怒りながらポッドキャストをしている人々には全く予想できない時期であった。物語の舞台は「今から数年後」で、アメリカとその大統領(ニック・オファーマンが演じている)は、分離主義勢力の連合(a coalition of secessionist forces)によって窮地に立たされている。このシナリオの経緯や理由は、脚本の適切な位置にある隙間から透けて見えるが、どの時点でも明確な全体像は得られない。信頼できる戦争のための政治理論の欠如は、映画の予告編が公開されて以来、一部の人をイライラさせてきたが(カリフォルニアとテキサスの同盟? なんだそりゃ?)、ニューヨークでのメディア向けの試写会の後、ロビーに数人が集まって、つなげられないいくつかの点について不平を言っていたことを報告したいと思う。敬意を込めて、私は同僚たちに、皆さんは完全に要点を見逃したのだと言いたい。

「シヴィル・ウォー」は、4人の特派員たちに焦点を当てた作品だ。キルスティン・ダンストが演じる主人公リー・スミスは、第二次世界大戦で最も有名な女性写真家の名前もリーであったことをよく知るフォトジャーナリストだ。彼女のそばには、ロイター通信の記者ジョエル(ワグナー・モウラ)がいる。後部座席には、「ニューヨーク・タイムズ紙に残されたもの」で働くヴェテランのジャーナリストであるサミー(スティーブン・マッキンリー・ヘンダーソンが演じる)と、リーに憧れる新米カメラマンのジェシー(カイリー・スペイニー)が座っており、最前線を観客に説明する脚本家としての役割をうまく果たしている。4人は、ホワイトハウスが崩壊する前にニューヨークからワシントンD.C.へ移動することに決める。ジョエルは大統領の言葉が欲しいし、リーは写真を撮りたい。

これが彼ら登場人物たちのモチヴェーションの全てである。国のあり方について彼らが持つかもしれない政治的意見は、この目標の追求のために転化される。主人公のリーは、「私たちが記録するから、他の人たちが疑問を持ってそれを調べる。これこそがなすべき仕事だ」とまで言っている。「シヴィル・ウォー」にはいろいろあるが、細かい部分での繊細さはない。

彼らのヴァンに乗っての旅は、「地獄の黙示録(Apocalypse Now、アポカリプス・ナウ)」のパトロール・ボートの旅に似ており、神経を逆なでするような残虐行為やシュールな恐怖の描写に遭遇する。(私はIMAXシアターで「シヴィル・ウォー」を耳をつんざくような大音量で見た。) デパートのJCペニーの駐車場で燃え尽きたヘリコプターを見たり、高速道路の陸橋で首を絞められた死体を見たり。派閥同士が、自分がどっちの味方なのか分からないまま殺し合っている。これは、シリアやスーダンの問題を扱った映画を見ている多くのアメリカ人が経験するような混乱である。しかし、お洒落でかわいらしい飾りのクリスマス用品店の外で主人公たちを挟み撃ちにするスナイパーは、明らかに違う印象を与える。

しかしながら、映画の中の混乱をつなぎ合わせようとするのは当然のことだ。分かっているのは、映画の中で描かれている大統領が現在3期目だということだ。この大統領は、ある時点でFBIを解散させ、アメリカ市民への空爆を許可した。赤いネクタイを締め、「史上最大の軍事的勝利」などと大げさな発言をするが(トランプみたい?)、落ち着いて完全な文章で話す(トランプらしくない)。横顔のショットで、映画の中で生を明らかにされないアメリカ合衆国大統領に扮したオファーマンは、アル・ゴア元米副大統領を思い出させた。

主要な分離主義者たちは西部勢力(the Western Forces)、つまり、前述のカリフォルニア州とテキサス州の同盟だ。彼らが掲げる旗は、一見すると普通のアメリカ国旗のように見えるが、星が2つだけ付いている。彼らが武器などをどこで手に入れているのかは不明だ。フロリダ州は彼らの味方だが、ヴェテランジャーナリストのサミーはこれを第二次世界大戦における米英露の同盟(the U.S.-British-Russian alliance)に喩えている。同盟の共通の敵が敗北するとすぐに、次の戦いは同盟間の分裂となるだろう。(また、ポートランドは毛沢東主義者によって制圧されていると言われている。)

主人公で、フォトジャーナリストのリーは「アンティファの大虐殺(The Antifa Massacre)」で有名な一発を浴びて覚悟を決めたということが映画の中で語られる。このちょっとした裏話がいかに曖昧であるかは、「シヴィル・ウォー」らしいところだ。アンティファ(antifa)が虐殺を行ったのか、それとも虐殺されたのか? この映画では、そんなことはどうでもいい。なぜなら、結果は同じだからだ。その結果とは、アメリカ社会の完全な解体である。

大統領については、ムアンマル・アル=カダフィ、ベニート・ムッソリーニ、ニコライ・チャウシェスクと比較される。だから、主人公たち4人がワシントンに行くことは急務となる。しかしながら、戦争のさなかにあるニューヨークからワシントンまで行くのは容易なことではない。(ニューヨークは、停電[power blackouts]や、夜間外出禁止令[nightly curfews]が解除されると誰もが自転車で移動するようになったために自動車が通れなくなっているし、時折自爆テロが起きているにもかかわらず、ある程度安定しているようだ)。南行きのハイウェイは侵入不可能で、「フィラデルフィア近辺」に行くのは自殺行為と見なされる。4人はピッツバーグを経由し、ウェストバージニア州を通る長い回り道をする。ぶら下がった死体の横に描かれた「(Go Steelers!、訳者註:プロアメリカンフットボールのピッツバーグ・スティーラズへの応援)」の落書きもその1つだ。

ガソリンタンク半分の価格は300ドル、カナダドルでの表示だ。他に外国の土地について言及されているのは、グリーンランドとアラスカへの安全な航行の話だけだ。

ある夕暮れの場面では、暴力が見過ごしたような小さな町に主人公一行がいる。カメラが傾き、メインストリートのいたるところに武装したスナイパーが現れる。そして、なぜかピンクのサングラスをかけたジェシー・プレモンスが一行を捕らえ、銃を突きつけるシーンがある。彼のキャラクターは、「シヴィル・ウォー」では典型的な悪役に最も近く、「真のアメリカ」のために戦う、血に飢えた外国人嫌いだ(a bloodthirsty xenophobe fighting for the “real America”)。予測不可能な映画の中では珍しく陳腐なキャラクターではあるが、ハラハラドキドキのシーンが多いこの映画では、このシーンは一番緊迫感がある。

政治的な混乱や実存的なドラマがあっても、この映画が興行的にヒットするかどうかはアクションにかかっている。結末を明かしたくはないが、アクションは、「フルメタル・ジャケット」や「ブラックホーク・ダウン」のような、最も激しい戦争映画作りの一部である。ジャーナリストたちは、過激派が政府を転覆させようとするのと同様に、自分たちにとっての最終的な目標を達成しようと躍起になっている。私はガーランドの他の作品(少々評判の悪い「MEN 同じ顔の男たち(Men)」も)のファンだが、彼の大規模な職人技はここで新たなレヴェルに達している。アメリカ人が観ると動揺してしまうが、「シビル・ウォー」は確かに見事な映画となっている。

もちろん、この映画が実際にはトランプについてのものではないと主張する記事がいくらあったとしても、人々がこの映画について、本当にトランプについてのものであると考えないようにさせることは無理だ。ガーランドと配給会社のA24が、アメリカ社会で激しさを増している言論にガソリンを注いでいるかどうかは、議論の余地があるのは確かだ。今度の選挙が明らかな大敗(clear blowout)以外であれば、暴力が街頭を襲うのではないかと心配したことは否定できない。しかし、この映画の政治という丸い穴に四角い釘を打っているかのような不自然さが不安を煽っているのであり、明らかに良い面を支持すると、その不安を台無しにすることになる。何よりも、ガーランドの「シヴィル・ウォー」は、戦争特派員としてのキャリアが決して私にふさわしい選択肢として存在しなかったということを証明した。戦争についての映画を見ただけでこんなに動揺するのなら、私のノートと私は間違いなく戦場にはふさわしくないということになる。

※ジョーダン・ホフマン:ニューヨーク市クィーンズ在住の映画評論家、エンターテインメント・ジャーナリスト。

(貼り付け終わり)

(終わり)
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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 2023年12月27日に最新刊『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。イスラエル、パレスティナ情勢についても分析しています。また、『週刊現代』2024年4月20日号「名著、再び」に拙著が紹介されました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 「アメリカが動けばイスラエルは言うことを聞くはずだ」という内容のブログを掲載して、舌の根も乾かないうちに、「イスラエルはアメリカの言うことを聞かないよ」という文章を掲載するのはおかしいと思われるだろうが、これが国際政治やどのように考えるのかということの面白いところだと思う。

 アメリカはイスラエルにとって最大の支援国であり、アメリカの動向はイスラエルの政策決定にとって重要だ。そのため、イスラエルは、アメリカ国内のユダヤ系アメリカ人たちを動かしてアメリカの世論や政策決定に影響を与えようとしてきた。それが成功している様子は、ジョン・J・ミアシャイマー、スティーヴン・M・ウォルト著『イスラエル・ロビー』に詳しく書かれている。アメリカの連邦議員たち、特に都市部に地盤を持つ議員たちは、ユダヤ系の投票と資金に依存しているため、「支援しない」となれば政治生命が断たれることになる。イスラエルにとってアメリカは最重要の国である。

 支援をする国(アメリカ)と支援を受ける国(イスラエル)で言えば、イスラエルはアメリカ以外からの支援はほぼない状況であるので、イスラエルはアメリカから、支援を見直す、支援を打ち切ると言われてしまえば、立ち行かなくなってしまうので、アメリカの言うことを聞く。しかし、ここで、アメリカにばかり頼っていないという状況が出てくれば、アメリカに対して、「支援を打ち切るならどうぞ」と強い立場に出ることができる。また、支援を受ける国の特殊な事情、例えば、その国がある位置、国内政治体制や価値観の相似などによって、支援を受ける国の方が強い立場に立つことができる。それこそがイスラエルである。

イスラエルは中東にあって西側の形式の自由主義的民主政治体制、資本主義、法の支配などを確立している唯一の国だ。アメリカとしてはイスラエルを存続させることが重要ということになる。また、位置としても非常に微妙なところにある。従って、イスラエルの発言力は強くなる。

 こうして考えると、日本もイスラエルのように、アメリカに対して、ある程度の発言力を持つことができるのではないかと私は考える。それは、「アメリカがあまりに酷いことを日本に求めるならば、日本はアメリカの陣営から飛び出しますよ」という形で、中国と両天秤にかけることだ。しかし、戦後80年、アメリカに骨抜きにされ、アメリカ妄信が骨絡み状態になっている日本には難しいことだ。アメリカが衰退していって、初めて私たちは、その呪縛から解放されるだろう。その時期は私たちが考えるよりもかなり早く到来するだろう。

(貼り付けはじめ)

皆さんが考えるよりも、イスラエルに対するアメリカの影響力は小さい(The United States Has Less Leverage Over Israel Than You Think

-アメリカの影響力の基礎とその欠如について詳しく見てみる。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2024年3月21日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/03/21/us-israel-leverage-biden-netanyahu/

ジョー・バイデン政権は、イスラエルのガザ報復作戦(Israel’s retaliatory campaign in Gaza)を止められなかったことで、執拗な批判にさらされている。バイデン米大統領とその側近たちは、増え続ける死者数(現在3万人を超えている)について憂慮し、故郷を追われた何十万人もの罪のないパレスティナ人に十分な人道支援を届けようとしないイスラエルに苛立ちを募らせていると伝えられている。しかし、バイデンはアメリカの武器の流入を止めず、アメリカは停戦を求める3つの国連安全保障理事会決議について拒否権(veto)を行使している(アメリカが承認する可能性のある決議案が準備中と報じられている)。カナダとは異なり、ガザの国際連合パレスティナ難民救済事業機関(United Nations Relief and Works AgencyUNRWA)の職員がハマス支持者で埋め尽くされていたという非難が今となっては疑わしいと思われるにもかかわらず、アメリカはUNRWAへの資金提供を停止するという決定をまだ翻していない。

バイデンを批判する人々は、アメリカがこの状況に対して多大な影響力を持っており、大統領が毅然とした言葉を発し、アメリカの援助を縮小、もしくは停止するとの圧力(脅し)を加えれば、イスラエルはすぐに方針転換を余儀なくされるだろうと想定している。しかし、この仮定は精査するに値する。弱小国家は、しばしばアメリカの要求に従うことを拒否し、場合によってはそれを無視してしまう。セルビアは1999年のランブイエ会議でNATOの要求を拒否した。イランと北朝鮮は数十年にわたり制裁に耐えてきたが、反抗的な姿勢を維持している。ヴェネズエラではニコラス・マドゥロが依然として権力を握っている。そしてバシャール・アル・アサドは、アメリカが以前から「退去せよ(must go)」と主張してきたにもかかわらず、依然としてシリアを統治している。

これらの指導者たちがアメリカの圧力に逆らうことができたのは、アメリカの支援に依存していなかったからであり、それぞれが、「強硬手段に出るよりも従う方が失うものが大きい」と考えたからである。しかし、ドイツがアメリカの反対にもかかわらず、パイプライン「ノルド・ストリーム2」の建設を継続したように、アメリカの親密な同盟諸国も、アメリカの圧力に抵抗することがある。依存度の高い属国であっても、驚くほど頑固な場合がある。アフガニスタンの指導者たちは、米政府高官の要求する改革を何度も無視して実施しなかったし、ウクライナの司令官たちは昨夏の不運な反攻作戦を計画する際、アメリカの助言を拒否したと伝えられている。カブールとキエフはほとんど全面的にアメリカの物質的支援に依存してきたが、ワシントンは彼らの要求に従わせることができなかった。同様に、イスラエルの指導者たちも、ダヴィド・ベン=グリオンからベンヤミン・ネタニヤフに至るまで、アメリカの圧力に幾度となく抵抗してきた。バイデンから電話がかかってきて、アメリカの援助を打ち切ると脅せば、イスラエルがアメリカの言いなりになると自動的に考えるべきではない。

影響力はどこから来るのか? 偶然にも、私はこの問題について、1987年に、最初の著書の第7章で長々と書いた。支援国が、経済的・軍事的援助、外交的保護、その他の便益を、支援を受ける国に提供することで、支援を受ける国に提供される援助をほぼ独占している場合、支援国が目下の問題について支援を受ける国と同程度の関心を持ち、支援を受ける国に圧力をかけて順守させるために援助水準を操作することに国内的な障害がない場合、支援国はかなりの影響力を持つ。支援を受ける国が他の誰かから同じような援助を受けることができる場合、係争中の問題に関して、支援国よりもはるかに多くのことを気にかけており、それゆえ支援の削減という代償を支払う意思がある場合、あるいは支援国が国内的あるいは制度的な制約のために支援を削減する場合、影響力は低下する。

このような条件によって、なぜ、そして、どのようにして、支援を受ける国の一部が支援国の選好に逆らうことができ、また逆らうことを避けないのかを説明できる。支援国が、弱い同盟国に本質的な価値があると考えている場合(重要な戦略的位置にある、価値観が似ているなど)、あるいは、支援を受ける国の成功が支援国の評判や名声に結びついている場合、支援国は支援を受ける国が頑なに反抗的であっても、その国を切り捨てようとはしない。たとえば、ソ連はアラブの様々な支援を受ける国を自分たちの側に引き留めるのに苦労した。なぜなら、それらの国々は中東における影響力にとって重要な存在であり、クレムリンは、それらの国々が失敗する(あるいはアメリカと同盟を結ぶ)ことを望まなかったからである。同様に、アメリカは南ヴェトナムやアフガニスタンの指導者たちに、支援を撤回すると脅して圧力をかけることはできなかった。もちろん、ヴェトナムのグエン・バン・チュー大統領やアフガニスタンのハミド・カルザイ大統領はこのことをよく理解していた。

更に悪いことに、援助を提供すると、短期的には影響力が低下する。なぜなら、一度提供された援助を取り戻す方法がないからだ。ヘンリー・キッシンジャーはあるジャーナリストに次のように語った際に、彼はこの力関係を完璧に捉えていた。「私はイスラエルのイツハク・ラビン首相に対して妥協するように求めた時、ラビンは、イスラエルは弱いので妥協はできないと答えた。そこで私は彼にもっと武器を与え、妥協するように求めた。ラビンはイスラエルは強いので譲歩する必要はないと言った」。更に言えば、弱くて依存的な支援を受ける国は、自分たちの方がより脆弱で、より多くのことを抱えているため、しばしば、支援国よりも、問題が提起されている問題について気にかけている。そして、同盟諸国が国内の主要な政治的支持層から支持されている場合、その支援国がその影響力を自由に利用する可能性はさらに低くなるだろう。

それでは、アメリカとイスラエルの関係の現状と、バイデンがもたらす可能性のある実際の影響力について何を物語っているかを考えてみよう。

第一に、イスラエルは以前ほどアメリカの支援に依存していないものの、誘導爆弾と砲弾、F-35航空機やパトリオット防空ミサイルなどの先進兵器システムと精密誘導ミサイルの両方を含むアメリカの兵器へのアクセスに依然として大きく依存している。もちろん、高度な兵器を生産しているのはアメリカだけではなく、イスラエルも独自の高度な防衛産業を持っているが、万が一アメリカが援助を遮断した場合に軍隊を再装備するのは困難で費用のかかるプロセスとなるだろう。イスラエルの戦略家たちは長年、潜在的な敵対国に対して質的優位性を維持することが極めて重要であり、アメリカの援助が失われれば長期的にはその能力が危うくなると信じてきた。これに、国連安全保障理事会の拒否権や他国がイスラエル批判を自制するよう圧力をかける形であれ、アメリカの外交的保護の価値が加わると、イスラエルがアメリカから得ている支援に代わるのは不可能ではないにしても困難であることは明らかだ。だからこそ、専門家の多くは、バイデンがすべきことはアメリカの援助を減らすと脅すことだけであり、ネタニヤフ首相には従う以外に選択肢はない、と考えている。

第二に、立場の弱い、援助を受ける国が問題に関心を持っている場合、圧力をかけるのは難しいが、現在、アメリカの手段を強化する方向に決意のバランスが変化している可能性がある。以前の中東紛争ではよくあったことだが、アメリカは自国の利益がより重視される場合にはイスラエルに行動を変えさせることができた。 1956年の第二次アラブ・イスラエル戦争後、ドワイト・D・アイゼンハワー大統領はイスラエルにシナイ半島から撤退するよう圧力をかけることに成功し、アメリカ政府当局は1969年から1970年の消耗戦争と1973年のアラブ戦争中にイスラエルに停戦協定を受け入れるよう説得するのに貢献することができた。ロナルド・レーガン大統領からイスラエル首相メナヘム・ベギンへの怒りの電話も、1982年のレバノン侵攻中のイスラエルによる西ベイルートでの大規模な爆撃作戦を終わらせた。これらのいずれの場合でも、アメリカの指導者たちは、より広範なアメリカの利益が危険に晒されていると信じていたため、強力に行動し、成功した。

しかし、今どちらの側に大きな決意があるのかはわからない。ネタニヤフ首相は国内では不人気となっているが、世論はガザ地区での軍事作戦を支持しており、ネタニヤフ首相に取って代わりたい政治的ライヴァルたちでさえ、これまでネタニヤフを支持してきた。これに加えて、ネタニヤフ首相は二国家共存解決[two-state solution](あるいはパレスティナ人との公正な和平)に反対し、汚職による訴追を避けたいと考え、政権を維持するために極右閣僚たちに依存している。イスラエルは「バナナ共和国(banana republic、訳者註:政治的に不安定で、経済は外国に支配され、1つの産物の輸出に依存する小国)ではない」と宣言したネタニヤフ首相は、アメリカの明確な警告にもかかわらず、イスラエル国防軍(IDF)が混雑するガザ地区の都市ラファを攻撃すると強硬に主張し続けている。しかしネタニヤフはまた、この問題について協議する代表団をワシントンに派遣することにも同意した。

加えて、ガザ地区における危機的状況は世界中でアメリカのイメージに大きなダメージを与え、バイデン政権が冷酷で無力であるように見せている。もし結果がそれほど憂慮すべきものでないならば、アメリカの政策の矛盾は滑稽なものになるだろう。アメリカ政府はガザ地区の飢餓に瀕している避難住民たちに食糧を空輸している。それと同時に、彼らを避難させ飢餓の危険にさらしている軍備をイスラエルに提供している。この状況はバイデンの再選の可能性を危うくする可能性もあり、ホワイトハウスが強硬姿勢を取る新たな理由となった。

私は、アメリカがイスラエルよりもガザ地区の状況を懸念していると言っているのではない。イスラエルとパレスティナで何が起こっても、アメリカで比較的安全に暮らす私たちよりもイスラエル人(そしてパレスティナ人)にとって、ガザ地区の状況は明らかに重要である。私が言いたいのは、どの程度かということを言うことは不可能ではあるが、決意の均衡がワシントンの方向に向かって進んでいるということだけだ。

最後に、国内の制約についてはどうだろうか? 過去の大統領が想像以上に影響力を行使できなかった主な理由は、イスラエル・ロビー(Israel lobby)の力である。アメリカ・イスラエル公共問題委員会(American Israel Public Affairs CommitteeAIPAC)などが議会で行使してきた影響力を考えれば、イスラエルに深刻な圧力をかけようとする大統領は、必ず自分が所属する党の連邦議員たちからも含む、厳しい批判に直面した。ジェラルド・フォード大統領はこの教訓を1975年に学んだ。イスラエルの長期にわたる横暴に対し、関係を見直すと脅したところ、すぐに75人の連邦上院議員が署名した書簡が届き、その動きを非難されたのだ。バラク・オバマは大統領就任1年目に同じ教訓を学んだ。ネタニヤフ首相に入植地建設を止めるよう圧力をかけようとしたとき、共和党所属の連邦議員たちからも民主党所属の連邦議員たちからも同様の反発を受けた。イスラエル・ロビーの影響力は、長い間、結局は失敗に終わったオスロ和平プロセスにおいて、アメリカの交渉担当者がイスラエルの譲歩を得るために、肯定的な誘導策、つまりニンジン(carrots)しか使えずに、結局は棍棒(sticks)を使うことができなかった理由も説明する。

この状況も徐々に変わっていくだろう。アパルトヘイト制度(system of apartheid)を運用している国家を守ることは、特に現在、大量虐殺を行っているという、証明されていないが、もっともらしい告発に直面している場合には、簡単な仕事ではない。イスラエル政府のプロパガンダ(ハスバラ、hasubara)がいくら法廷で無実を訴えても、ガザ地区から流れ出る映像や、イスラエル国防軍兵士自身が投稿した不穏なTikTokYouTubeの動画を完全に否定することはできず、AIPACのような団体が影響力を維持することが難しくなっている。長らくイスラエルを最も忠実に擁護してきたチャック・シューマー連邦上院議員が連邦上院議場で演説し、ベンヤミン・ネタニヤフ首相の政策はイスラエルにとって悪であると宣言したことは、政治の風向きが変わりつつあることが明らかだ。アメリカ政治に対する考え方も、特に若者の間で変化しつつある。イスラエルの行為をアメリカの支持条件とすることには、依然として恐るべき政治的障害(formidable political obstacles)が存在するが、特に選挙の年には、数年前ほど考えられないほどの障害という訳ではない。

私は、ワシントンには確かに潜在的な影響力がたくさんあり、それを利用するための障壁は過去に比べて低くなっていると結論付ける。しかし、イスラエルの現在の指導者たちは、この問題に関して、依然として高い決意を持っているため、アメリカの支援を削減するという信頼できる脅しがあっても、彼らが大きく方針を変えることはないかもしれない。また、バイデンや彼の側近たちが、現在の失敗したアプローチから、より効果的なアプローチに移行するために必要な精神的な調整ができるかどうかも明らかではない。イスラエルへの圧力が機能するかどうかに焦点を当てるのではなく、問うべき真の問題は単に、大規模かつ悪化する人道的悲劇に積極的に加担することがアメリカの戦略的または道義的利益にかなうかどうかである。たとえアメリカがそれを止められなかったとしても、事態をさらに悪化させることの手助けをする必要はない。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。ツイッターアカウント:@stephenwalt

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 古村治彦です。

 2023年12月27日に『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。『週刊現代』2024年4月20日号「名著、再び」に拙著が紹介されました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 2023年10月7日にガザ地区を実効支配するハマスによるイスラエルへの攻撃で、約1200人が殺害され、250人以上が拉致された。そのうちの一部は解放されたが、大部分は拉致されたままだ。被害者家族たちは即時の解放を求めている。イスラエルは人質の解放とハマスの壊滅を掲げて、ガザ地区に侵攻し、激しい攻撃を加えた。ガザ地区では民間人の死傷者が多数出ており、イスラエル軍の過剰な反撃に対しては国際的な非難が高まっている。イスラエルを全面的に支持し、これまでも手厚い支援を行っているアメリカでも、国内世論がイスラエルの過剰な反撃に対して嫌悪を示している。その世論を背景にして、ジョー・バイデン米大統領はイスラエルに対して不満を隠そうとはしていない。

 これまでも何度か行われた停戦交渉で拉致された人質の一部が解放されているが、イスラエルの軍事的な反撃が激しさを増しながら、半年を過ぎようとしているが、人質救出の目途は立っていない。イスラエル国内でもベンヤミン・ネタニヤフ首相の強硬路線に対する反対の声が上がるようになっている。ネタニヤフ首相は政権内部の極右勢力の閣僚たちを頼りに政権運営を行っているが、一番の問題は「ハマスを壊滅させることもできず(ハマス以外の過激派組織が成長することも含めて)、人質を救出することもできず」という状態にあることだ。
 軍事力だけで比べれば、イスラエルがガザ地区を徹底的に破壊して、再占領をすることは容易なことだ。しかし、ガザ地区再占領が今回の軍事作戦の目的ではない。人質を解放することが最優先だ。ハマスの壊滅はそれに比べれば重要度は低い。ネタニヤフ首相はそのことを履き違えている。しかも、軍事作戦を進めれば進めるほどに、国際的な非難の声は大きくなるばかりだ。イスラエルはガザ地区での作戦を中止し、一部部隊を撤退させた。ネタニヤフ首相はただガザ地区を破壊し、パレスティナ人の憎しみを増大させ、肝心の人質の救出にはつながっていない。半年も経ってこのような状態では、ネタニヤフ首相は大きな失敗をしたと言わざるを得ない。

 バカ極右が下手に軍事力を持つとどのようなことを起こすか、日本にとって良い教訓だ。

(貼り付けはじめ)

ネタニヤフ首相の戦争戦略は意味をなしていない(Netanyahu’s War Strategy Doesn’t Make Any Sense

-イスラエルの計画は、それ自体の条件から見てもつじつまが合わない。

アンチャル・ヴォ―ラ筆

2024年4月5日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/04/05/israel-gaza-war-netanyahu-strategy/

2023年11月、私はテルアヴィヴでハマスに人質として拘束されたリリ・アルバッグの父親エリ・アルバッグに会った。ベギン通りの真ん中で19歳の娘の写真を手にしながら、彼はハマスに圧力をかける政府の軍事作戦を支持すると言った。「ハマスが自ら人質を解放すると思うか?」 しかし、アルバッグは我慢の限界に達したようだ。2024年3月下旬、彼はイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相に最後通牒を突きつけ、家族たちはもう支援集会を開かず、反ネタニヤフ抗議運動の拡大に加わって街頭に集まると地元メディアに語った。

問題となっているのは、人質の家族が、親族の帰還(the return of their relatives)とハマスのイスラエルに隣接するガザ地区からの排除(Hamas’s removal from their neighborhood)を、この順で勝利と見なしている一方で、多くの人がこの2つの戦争目的が矛盾していることを以前から知っていたことだ。しかしネタニヤフ首相は軍事作戦開始以来、人質解放よりもハマスの排除を意図的に優先してきたが、実際にはどちらも達成するための一貫した計画はない。

ネタニヤフ首相は、戦争を終結させ、人質を解放し、平和をもたらす見通し、ヴィジョンを欠いたまま、ただ出来事に反応しているだけだと、軍事アナリストやイスラエル国民の一部から非難されることが増えている。

しかし、ネタニヤフは依然として憤慨している。抗議デモに対してネタニヤフ首相は、「勝利がもうすぐ訪れるこの時期に早期の選挙は国を麻痺(paralyze)させ、ハマスを利するだけだ」と述べた。彼は今、100万人以上のパレスティナ人が避難しているガザ地区南部のラファに目をつけている。このような攻撃は国際的な怒りを買うだけでなく、ハマスとの交渉をより難しくするだろう。

2023年10月7日、ハマスがイスラエルの町やキブツ(kibbutzim)を襲撃し、約1200人を殺害、250人以上を拉致した直後、ネタニヤフ首相は宣戦布告した(declared war)。ガザ地区を空爆することでハマスに圧力をかけ、捕虜を解放させ、同時にハマスを排除するというのが、人質の家族に対する基本的なメッセージだった。

しかし、ハマスは、ガザ地区をはじめとするパレスティナ地域だけでなく、レバノン、シリア、イランなどにも拠点を構え、国民から絶大な支持を得ている。ハマスは、どのように排除するつもりなのかという、より根本的な問題については、ネタニヤフ首相は口をつぐんだ。アメリカの情報諜報機関が毎年まとめている脅威評価によれば、イスラエルはハマスの何年にもわたる抵抗に直面する可能性がある。

何年にもわたる対反乱作戦の末、イスラエルの治安部隊がガザ地区でハマスを壊滅させることができたとしても、将来のどうようなグループの再来はどうなるだろうか? イスラエル国防軍(IDF)が更に長い期間をかけてハマスの分派を壊滅させたとしても、ネタニヤフ首相は、政治的解決の目処が立たないまま、武装抵抗をどのように排除するのだろうか?

安全保障担当のある政府高官は匿名を条件に本誌に次のように語った。「私たちはハマスの全24大隊のうち18大隊を壊滅させたが、ハマスの撲滅にはどれだけの距離があるだろうか? それは大きな疑問だ。ハマスを排除することは可能だが、その期限を決めることはできない。もちろん、他のグループが台頭する可能性もある」。

ガザ地区内でのイスラエルの軍事作戦は、ハマスのインフラと軍事能力に大きなダメージを与えたが、平和は保証されていない。イスラエルの世界的に有名な国防軍と治安機関が、10月7日の攻撃の2人の首謀者、モハメド・デイフとヤヒヤ・シンワルを逮捕することができていないという事実、今もガザの裂け目のどこかに2人が身を潜めているという事実が、イスラエルの限界と、ハマス指導部が今も受けている支援の大きさを物語っている。

2月にネタニヤフ首相がついに計画の概要を発表したが、詳細はほとんどなく、イスラエルの専門家たちによって「計画ではない(non-plan)」としてすぐに却下され、「現実から切り離されている(untethered from reality)」と形容され、ただの大騒ぎのように聞こえた。結局のところ、ガザ地区再占領への行程表(ロードマップ、roadmap)以上のものではなかった。

ネタニヤフ首相は、ガザ地区を当面の間、「安全管理(security control)」し、この地域が完全に非武装化されて初めて復興を許可すると述べた。また、パレスティナ人の非武装化を望んでおり、パレスティナの国家承認を否定している。いかなる合意も、イスラエル人とパレスティナ人の「直接交渉によって(through direct negotiations)」のみ達成されるとネタニヤフは語ったが、交渉の時期は明らかにしていない。報道によると、流布された計画では、戦後のガザ地区の文民行政は、ハマス以外の非敵対的な地元の各グループによって運営されることになっている。

パッと見たところでは、ハマスの残忍な攻撃を受けて恐怖に怯え、安全に暮らしたいと願うイスラエル国民にとっては理に適っている。しかし、よくよく考えてみると、辻褄が合わない。最初に、ネタニヤフ首相はイスラエル軍を無期限に派遣するつもりなのか、それとも必要なときに必要なだけイスラエル軍に自由に立ち入ることを望んでいるのか、明らかにしていない。前者はガザ地区の再占領を意味し、後者は事実上の支配を意味する。どちらの選択肢も、イスラエル国民やイスラエルの国際的パートナーにはまだ提示されていない。

たとえ、ネタニヤフ首相が、イスラエルが最近国交を結んだ、アラブ諸国からなる多国籍軍がガザ地区の治安維持を引き継ぐことに同意したとしても、そのような多国籍軍がパレスティナ人の間でどのような信頼を得られるかについては疑問が残る。ハマスの大隊を全て非武装化するのは短期的な課題かもしれないが、その残党や別組織と戦うには何年も、もしかしたら何十年もかかるだろう。治安維持部隊にとっては、反目する準国家を監視するよりは、反乱軍に対処する方がまだ扱いやすい仕事だが、イスラエル軍には大きな犠牲を強いることになる。イスラエルの高圧的な態度は、イスラエル国内でのパレスティナ人の攻撃を抑制するか、もしくは助長するかのどちらかだ。

イスラエルの元国家安全保障担当次席補佐官エラン・ラーマンは、パレスティナ人の非急進化(deradicalize)という目標は、永続的な和平に向けたものだと語った。ラーマンは、「私たちは一過性の現象であり、遅かれ早かれ圧力で崩壊するだろうというパレスティナ人の認識を変える必要があるため、非急進化がカギとなる」と述べた。学校やモスクでの非急進化プログラムは、「イスラエルの生存権を認めない」人々(those who do not “accept Israel’s right to exist”)を対象にしたものだ。

しかしパレスティナ人は、これもまた二国家共存による解決を遅らせるためのネタニヤフ首相の戦術だと言う。結局のところ、パレスティナ人は単にハマスのプロパガンダによってイスラエルに反対しているのではない。パレスティナ人の多くは、イスラエル国家と入植者による土地収奪の犠牲者であり、それは現在の戦争による苦しみ以前の問題なのだ。ネタニヤフ首相は、パレスティナ人の自決の考えをより生産的な形で形成する方法についての計画を明らかにしていない。

ネタニヤフ首相の、地元住民に最終的な文民統制権を与えるという提案もまた、軽率に思える。いったい誰を念頭に置いているのだろうか? あるイスラエル安全保障関係者は、イスラエルに友好的なアラブ諸国、特にアラブ首長国連邦に従順な現地人はテストに合格するだろう、と語った。しかし、そのような指導者はイスラエルの操り人形とみなされ、パレスティナ人の間では立場が弱いかもしれない。ヨルダン川西岸のマフムード・アッバス率いるパレスティナ自治政府(Palestinian Authority)のように、嘲笑の的になるかもしれない。

ネタニヤフ首相のハマス壊滅、ガザ地区の非武装化、パレスティナ人非武装化キャンペーンは、事実上ガザ地区の再占領に等しい。ガザ地区を再占領することは、イスラエル国民の多くが快く思っていないとしても、ネタニヤフ首相の、計画になっていない計画はそこに向かっている。イスラエル国防軍で報道官を務めたジョナサン・コンリカスは「イスラエル人は占領という言葉を使いたがらないが、他に選択肢はない」と述べている。

先月、アメリカは停戦を求める国連安全保障理事会の採決を棄権した。ガザ地区の再占領は亀裂を更に広げるだろう。言い換えれば、ネタニヤフ首相の戦略は、ガザ地区とその200万人の住民、ますます疎外されるアメリカ政府、国際的孤立の増大に対する責任という形で、悲惨な勝利に向かう可能性がある。

※アンチャル・ヴォ―ラ:ブリュッセルを拠点とする『フォーリン・ポリシー』誌コラムニストでヨーロッパ、中東、南アジアについて記事を執筆中。ロンドンの『タイムズ』紙中東特派員を務め、アルジャジーラ・イングリッシュとドイツ国営放送ドイチェ・ヴェレのテレビ特派員を務めた。以前にはベイルートとデリーに駐在し、20カ国以上の国から紛争と政治を報道した。ツイッターアカウント:@anchalvohra

(貼り付け終わり)

(終わり)
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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 2023年12月27日に『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。『週刊現代』2024年4月20日号の、佐藤優(さとうまさる)先生の書評コーナー「名著、再び」で2ページにわたってご紹介いただきました。ありがとうございます。是非お読みください。よろしくお願いいたします。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 4月10日に岸田文雄首相が国賓待遇でアメリカを訪問し、ジョー・バイデン米大統領と首脳会談を行った。岸田首相の連邦議会での演説では「巧みなジョークで大うけ」という演出がなされた。これだけのおもてなしを受けるためには、お土産にどれくらいが必要なのだろうか、と考えると気が重くなる。ウクライナ戦争やパレスティナ紛争で、ウクライナとイスラエルへの支援をしなければならないアメリカからすれば、唯々諾々とお金を出してくれる日本は移動式金庫のようなもので、首相を呼びつければお金を持ってやってくる、「カモがネギを背負ってやってくる」ということでしかない。今回も「共同開発」「協力」などと言う言葉たくさん並べられたが、それぞれの請求書は東京に送られる。

 日本にとっての最大の懸念は、「アメリカの尖兵となって、中国にぶつけられること」であり、「中国と戦争をしなければならない状態にさせられること」だ。日本では、「中国が攻めてくる、攻めてくる」と声高に叫ぶ考えの足りない人たちが一部にいる。中国が日本に軍事的に侵攻してどのような利益があるのか、よく考えた方が良い。そうした日本人は、「日米安全保障条約があるから、いざとなったらアメリカが一緒に戦ってくれる」などとも言う。それは大きな間違いだ。アメリカは日本と一緒になって戦ってくれない。それどころか、いざとなれば、「日本国憲法があるのに中国と勝手に戦争をした」という理由で、日本を米中共同の敵に祀り上げるくらいの論理構成をしてくるだろう。ここで怖いのは、アメリカの間接的なお墨付きを得て、日本が中国に攻め込ませさせられる(中国とぶつけられる)ということだ。日米防衛協力は、自衛隊をアメリカ軍の下に置いて、好きに使えるようにするということだ。そして、自衛隊がアメリカ軍の尖兵となって(アメリカは自分たちの不利益にならない形で)、中国と戦えるようにするということだ。

 日本の自衛隊は今のところ、正式な形でアメリカ軍の指揮下に入っていない。実質的には入っているようなものではあるが、今のところは、アメリカ軍と協議をしてという形を取って、独立した形になっている。今、テーマになっているのは、「いざとなった時に、話し合いなどをしている時間的余裕などないのだから、いざとなったら、自衛隊はアメリカ軍の指揮下に入れるということ」である。このような状態になった時に怖いことは、アメリカがシナリオを書いて、日中が衝突するということを起こされることだ。もしくは、中国人民解放軍の一部(アメリカに使嗾されるスパイのような存在)が暴発して、自衛隊を攻撃するという事件を起こすことだ。

 そのようなことが起きるはずがないと考えるのは当然だろうが、そのようなことが起きる危険については可能性についても私たちは考えておくべきだ。日中が戦わないということを基本線にして、物事を組み立てていく。アメリカには面従腹背、中国には実態を説明して何か起きても自制、そしてどうしようもなくなれば、八百長を仕組む、これくらいのことは日本政府に期待したいところだ。

(貼り付けはじめ)

バイデン・岸田首脳会談は新たな防衛協力を確実なものとする(Biden-Kishida Summit Secures New Defense Cooperation

-アメリカと日本は南シナ海における中国の影響力に対抗することを目的としている。

アレクサンドラ・シャープ筆

2024年4月10日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/04/10/us-japan-summit-biden-kishida-state-visit-south-china-sea/

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ホワイトハウスにてジョー・バイデン大統領の隣で演説を行う日本の岸田文雄首相

●「壊れることのない」パートナーシップ(An ‘Unbreakable’ Partnership

ジョー・バイデン米大統領は水曜日、日本の岸田文雄首相をホワイトハウスに迎え、二国間の防衛・情報協力を強化するための70項目以上の計画を発表した。今回の数日間にわたって行われた日米首脳会談は、南シナ海における中国の野心や北朝鮮の核開発計画への懸念など、インド太平洋における緊張の高まりに対処することを目的としている。

バイデン大統領は、日米のパートナーシップは「壊れることはない(unbreakable)」と述べ、「2つの偉大な民主政治体制国家の間の記念碑的な同盟(monumental alliance between our two great democracies)」を称えた。

バイデンと岸田はまた、日本の自衛隊との連携を強化するため、日本にあるアメリカ軍司令部の機能向上(upgrading)についても話し合う予定だった。両首脳はまた、アメリカと日本がどのような種類の防衛兵器を共同生産できるかを検討するための「軍産評議会(military industrial council)」の設立も発表した。ロイド・オースティン米国防長官と日本の木原稔防衛大臣は今後数カ月かけて詳細を最終決定する予定だ。

第二次世界大戦での日本の敗北後、日本は軍隊を自衛(self-defense)の目的に限定する平和憲法(pacifist constitution)を制定した。しかし、岸田は前任者の安倍晋三政権下で始まったそのドクトリン(doctrine)からの転換を続けている。2021年の首相就任以来、岸田は殺傷兵器の輸出規制を緩和し、2027年までに防衛費をGDPの2%に引き上げると約束し、反撃能力(counterstrike abilities)を高めるためにアメリカ製トマホークミサイルを購入し、日米豪印戦略対話(Quadrilateral Security DialogueQuad)などの安全保障グループの設立を支援した。

岸田首相は「今日、世界はこれまで以上に多くの課題と困難に直面している。日本はアメリカの友人たちと手を携え、共にインド太平洋地域と世界の課題に取り組む先頭に立って進んでいく」と述べた。

首脳会談の中で、バイデンと岸田は、共同月探査計画、人工知能、半導体、クリーンエネルギーに関する研究協力、日本の学校との交流プログラムに参加するアメリカの高校生のための新しい奨学金制度創設を発表した。両首脳の会話の多くは、東京の機密情報保護活動を強化する方法(ways to boost Tokyo’s sensitive intelligence protection efforts)にも及んだ。日本は以前から、中国の挑発行為により対抗するため、ファイブ・アイズ[Five Eyes](オーストラリア、カナダ、ニュージーランド、イギリス、アメリカで構成される情報諜報ネットワーク[intelligence network])への加盟を目指してきた。

木曜日、岸田首相はアメリカ連邦議会の合同会議で演説する史上2人目の日本の指導者となる。また、南シナ海で繰り返される中国とフィリピンの沿岸警備船との敵対行為について話し合うため、バイデン、フィリピンのフェルディナンド・マルコス・ジュニア大統領との三者会談にも出席する。バイデンが計画している岸田首相、マルコス大統領との会談の狙いについて、あるアメリカ政府関係者はロイター通信の取材に対して、「台本をひっくり返し、中国を孤立させる(flip the script and isolate China)」ことだと語った。

※アレクサンドラ・シャープ:『フォーリン・ポリシー』誌「ワールド・ブリーフ」欄記者。ツイッターアカウント:@AlexandraSSharp

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バイデンと岸田にとって勝利のヴィクトリーランをするにはまだ早過ぎる(It’s Too Soon for Biden and Kishida to Take a Victory Lap

-日米同盟にはまだ3つの不愉快な疑問が存在する。

ジェニファー・カヴァナー、ケリー・A・グリ―コ筆

2024年4月9日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/04/09/kishida-biden-japan-summit-united-states-military-alliance/

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2022年5月23日、東京・赤坂の迎賓館で行われた歓迎式典で、儀仗兵を閲兵するジョー・バイデン米大統領と岸田文雄首相。

4月10日にジョー・バイデン米大統領が日本の岸田文雄首相をホワイトハウスに迎える際、国内で国内政治的課題に直面している両首脳は、日米同盟の強靭さを熱心に宣伝するだろうが、それには当然の理由がある。日米安全保障協力は、日米両国の管理の下で新たな高みに達している。日本は防衛費を増額し、同盟諸国は緊急時対応計画(contingency planning)を深め、軍事演習を強化した。

日米両首脳は、結束のイメージが不一致によって損なわれないよう、茨の道を突き進みたくなるだろう。しかし、喫緊の問題が依然として日米同盟の上に横たわっている。過去3年間の急速な進展にもかかわらず、日米両国は、紛争が発生した場合に信頼できる共闘を行うために必要な、協調的な意思決定プロセスと統合をいまだに欠いている。同盟に弱点があると見なされれば、中国を増長させる危険性があるため、これは憂慮すべきことだ。

日米同盟の最大の脅威により効果的に対抗するために、バイデンと岸田は今度の訪問をきっかけにして、3つの難問に緊急に取り組むべきだ。同盟の指揮統制体制をどのように近代化するか、日本がアメリカの地上配備型長距離攻撃能力を自国内に配備すること(the deployment of U.S. ground-based long-range strike capabilities)を認めるかどうか、認めるとすればどのような条件になるのか、そして在日アメリカ軍、特に沖縄の態勢と再配分をどうするか、である。

ワシントンと東京がこれらの問題に対処する窓口は限られており、それを避ければ避けるほど、抑止力(deterrence)が破綻し、日米同盟が真の危機に備えられなくなるリスクが高まる。

軍事同盟にとって、同盟軍の展開と使用をどのように調整するかほど重大な決定はほとんどない。しかしながら、日米同盟はこれまで決して戦争をするための同盟ではなかったため、基本的な軍事調整メカニズムが欠如している。

過去70年間、日米同盟は2つの異なる指揮系統(two separate command structures)で運営されてきた。日米両国はそれぞれ独立した指揮系統を維持し、同盟国全体の指揮官に権限を委譲することはなかった。朝鮮戦争でそうであったように、日本は主として、アメリカがこの地域で作戦を展開するための拠点であり続け、戦場における同盟国ではない状態が続いたので、この取り決めは機能した。

中国の軍事力がより強力になり、自分たちの権益を主張する態度が強まり、日本自身の能力と役割が拡大するにつれて、この取り決めはもはや同盟のニーズに合わなくなっている。今や日米同盟の成功は、並列作戦(parallel operations)ではなく、統合作戦(combined operations)を実施できるかどうかにかかっている。この時代遅れの構造を更新することが、バイデンと岸田が取り組むべき喫緊の課題である。幸いなことに、彼らは今週、指揮系統関係を見直す計画を発表する予定だ。理想的な世界では、日米両国は韓国の連合軍司令部(Combined Forces Command)のような統一司令部構造(unified command structure)を確立するだろうが、日本国内の法的・政治的制約があるため、日本軍がアメリカ軍の指揮下に入ることはできない。

検討中と報じられている、次善の選択肢は、ハワイを拠点とする米太平洋艦隊(U.S. Pacific Fleet)の四つ星の海軍大将クラスが司令官として率いる統合任務部隊(joint task forceJTF)の下で、2つの国の司令部をより緊密に統合することである。在日アメリカ軍(U.S. Forces JapanUSFJ)は現在、統合作戦司令部(joint operational command)ではない。その代わり、三つ星の海軍中将クラスの司令官は日本との日米地位協定(the Status of Forces Agreement with Japan)を監督する管理的な役割を果たし、作戦を実施する権限は限られている。しかし、提案されているオプションでは、統合任務部隊(JTF)は有事の際にアメリカ軍統合部隊の作戦統制権を握り、日本の自衛隊と調整することになる。

しかし、統合任務部隊(JTF)のオプションは、日米同盟の指揮統制の問題に対する特効薬ではない。例えば、日本の陸上自衛隊に命令を下す正式な権限がないため、統合任務部隊(JTF)司令官は説得によってしか同盟を指揮することができないが、ハワイからではその任務がさらに困難になっている。同盟国の指揮系統が重複することは複雑なだけでなく、しばしば軍事的惨事に終わることもある。たとえば、1940年にはフランス側の代表団が複数の階層構造になっていたため、イギリスの同盟諸国は誰と調整すべきか混乱し、フランスのドイツへの降伏に終わった急速な軍事崩壊の一因となった。

バイデンと岸田は、より合理的なアプローチ、具体的には在日アメリカ軍をアメリカの四つ星の大将クラスが司令官を務める統合作戦司令部(joint operational command headquarters)に移行させることを検討すべきだ。このアプローチでは、在日アメリカ軍を日本の将来の統合作戦司令部(Japan’s future joint operational headquarters)と同居させるかどうかや、両者間の調整をどのように行うかといった問題に日米が取り組む必要がある。しかし、情報共有、適時的な意思決定、密接に統合された作戦の効果的な遂行を促進することができるようになり、現在のモデルから大幅に改善されるであろう。

しかし、紛争時に意思決定を行うためのより効果的な枠組みは、いざというときに同盟軍がどのように共闘するのかについての明確なコンセプトも持っていなければ意味をなさない。日米両国はそのような統合計画に向けて取り組んできたが、アメリカ軍が日本本土において、どのようなシステムを使用できるかという疑問はまだ解決していない。例えば、アメリカ軍の地上発射型長距離ミサイルを日本に配備できるかどうかなどである。これは岸田首相とバイデン大統領にとっての2番目の議題になるはずだ。

アメリカの立場からすれば、日本に配備される、信頼できる地上攻撃能力の第一の目的は、台湾海峡や南シナ海、東シナ海周辺にいる中国の水上艦船やその他の標的を狙い撃ちすることだ。そうすることで、この地域で起こりうる様々な事態において、北京に軍事的勝利を簡単に与えないようにすることである。日本は、独自の地上配備型長距離ミサイル[ground-based long-range missiles](アメリカ製トマホーク400発)の購入を計画しているが、主に、北京が日本本土を攻撃した場合に中国本土を標的にするための反撃能力(counterstrike capability)の一部として使用するつもりである。

自国の作戦上の野心を満たすため(To fill its own operational ambitions)、アメリカは、アメリカが所有し、運用している地上配備型トマホークや、より短距離の精密攻撃弾道ミサイルシステム(shorter-range precision-strike ballistic missile systems)を日本国内に配備することに関心を示している。しかし東京都は、アメリカがミサイルを配備することを容認することには否定的だ。アメリカのミサイルを受け入れると、日本は中国からの報復(retaliation)を受けやすくなる、もしくは、先制攻撃(preemptive attack)を招き、民間人に被害が及ぶ可能性が高まるからだ。

しかし、日本が、アメリカの運用しているミサイルを受け入れるかどうかについて曖昧な態度であることは、同盟国軍が中国の軍事作戦を妨害し、低下させる能力について、複雑に様々な要素が絡み合った、抑止力のシグナルを中国に送っている。日本とアメリカには今後の選択肢がいくつかあるが、時間が最も重要である。ミサイルシステムを配備する場合、アメリカのミサイルは紛争が始まるかなり前に日本に配備する必要がある。なぜなら、ミサイルの運搬は攻撃や封鎖(blockade)に対して脆弱であるからだ。紛争以外でも、緊張が高まる中での配備は誤算(miscalculation)と事態悪化(エスカレーション、escalation)の可能性を高めるだろう。

バイデンと岸田は次回の会談でこの問題を完全には解決できないかもしれないが、そのような展開が受け入れられる時期と場所を定義することで議論を進めることはできるだろう。また、長距離ミサイルシステムの共同生産(co-production)や共同管理(shared management)、あるいは二国間軍事演習に長距離ミサイルを組み込むなど、ある種のローテーション体制など、短期的な代替案も検討すべきである。

岸田とバイデンが取り組むべき最後の問題は、在日アメリカ軍の態勢を、特に沖縄における日本自身の防衛態勢とより緊密に連携させることである。第二次世界大戦後、アメリカは沖縄に大規模な軍事プレゼンスを維持してきたが、沖縄は台湾海峡や南シナ海に近いため戦略的に貴重である一方、日本本土から遠いため脆弱でもある。

アメリカは沖縄でより生存可能で信頼できる戦力の構築を目指しており、沖縄の海兵隊連隊(Marine Corps regiment)を転用するという野心的な計画を進めている。これらのアメリカ軍は、近くに駐留する自衛隊と並行して戦い、対艦ミサイル(anti-ship missiles)や無人機(drones)を装備し、中国が発見しにくく、重要なシーレーンで中国の船舶を狙いやすくなる周囲の島々に迅速に分散することを可能にする。

しかし、日本政治は独自の戦力態勢の変更を推進している。日本との長年にわたる兵力再編計画では、約9000人のアメリカ海兵隊が沖縄からグアムなど他の場所に移動することになっており、日本が新基地建設費の3分の1以上を負担すると決定している。

これら2つの取り組みは相互に作用し、対処すべきリスクを生み出している。たとえ危機の時期であっても、沖縄全土に海兵隊を配備することは、既に中国の攻撃の標的になることを恐れている沖縄県民との緊張を悪化させるだろう。こうした憤りは、アメリカ軍と沖縄県民、さらには沖縄と東京との関係を悪化させ、中国の偽情報(disinformation)が日米同盟と日本国内の結束を損なう隙を生む可能性がある。しかし、アメリカ軍を沖縄からグアムに移転すれば、政治的緊張は緩和される可能性があるが、アメリカ軍は統合作戦に直接貢献できなくなる。

政治的緊張(political tensions)を緩和しながら沖縄のアメリカ軍の態勢を維持するために、アメリカと日本は、沖縄のアメリカ軍基地を、2015年の三沢基地や横須賀海軍基地のように、アメリカ軍と日本の陸上自衛隊の両方が使用する統合基地に転換することを検討すべきである。日本の他の地域。この変更は、統合作戦のための部隊をさらに統合し、アメリカ軍が占領軍であるかのような外観を回避し、日米同盟が互恵協力(mutually beneficial cooperation)に基づいていることをより具体的に伝えることになるだろう。

日米同盟は日米両国の安全保障と防衛の要であり、国内の政治的議論においても重要な役割を果たしている。しかし、その目的に沿うためには、日米同盟は効果的な戦闘力になるために真剣になる必要がある。バイデンと岸田は、今回の訪日をきっかけにこうした対話を開始し、日米同盟が最も差し迫った脅威に立ち向かうために十分な強さと信頼性を持つようにすべきである。

※ジェニファー・カヴァナー:カーネギー国際平和財団アメリカン・ステイトクラフト・プログラムの上級研究員、ジョージタウン大学非常勤教授。ツイッターアカウント:@jekavanagh

※ケリー・A・グリ―コ:スティムソンセンターのアメリカ大戦略再構築プログラムの上級研究員、海兵隊大学のブルート・クルラック記念革新・未来戦争センターの非常勤研究員、ジョージタウン大学の非常勤教授。ツイッターアカウント:@ka_grieco
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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 昨年10月に始まった、イスラエルとハマスの紛争は半年以上が経過した。4月7日に、イスラエルはラファへの大攻勢を前にして、ガザ地区から部隊を撤収させると発表した。「勝利の一歩手前まで来ている」中で、一部部隊を撤収させた。その前には、アメリカのジョー・バイデン大統領による、イスラエルのガザ地区への攻勢による民間人の死者の増加や国際支援団体の西側諸国の国民の死亡などについて、不満の表明がなされていた。イスラエルとしては、アメリカ側の不快感を増加させないようにするため、一旦停止ということになったようだ。イスラエルは傍若無人であるが、唯一と言ってよい支援国のアメリカの機嫌を損ねたら立ち行かないことは分かっている。

 このブログでも紹介したが、アメリカ国内の世論は、昨年11月の段階での、イスラエル支援への賛成が多数という状況から変化している。イスラエル支援を求めるアメリカ国民は過半数を割っているのが現状だ。これは、アメリカのジョー・バイデン大統領にとっては、アメリカの世論の動きを背景にして、イスラエルに対して強く出られる。「戦闘を停止せよ、アメリカ世論がそのように求めている。もし停止しない場合には、支援についても再検討する」ということで、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相に圧力をかけることができる。イスラエル側としては、アメリカからの支援が減らされてしまえば、孤立を避けられない。

 アメリカとしては、イスラエルがハマスを支援しているということで、イランに対して攻撃を加えることを迷惑に思っている。ウクライナ戦争もママらない状況で、中東で更に戦争が起きることは好ましくない。そうしている間に主敵である中国がどんどん伸びていく。現在、イスラエルがシリアにあるイラン大使館を攻撃し死傷者が出て、それに対して、イランがイスラエルに報復攻撃を行った(イランの武器が旧式で効果はかなり限定的だったと言われている)。イランが抑制的であったという見方もできるが、中東が不安定化していることは間違いない。それで誰が得をするのかということを考えると、それはアメリカではない。

 アメリカ国内でのユダヤ系の人々の影響力の強さ・大きさはこれまでも語られてきた。マスコミにも多くのユダヤ系の人々がおり、世論形成にも影響を与えてきたと言われている。しかし、今回、アメリカ国内でもイスラエルに対しての批判が高まっているという状況になっている。イスラエルとしては、昨年10月のハマスによる攻撃を利用して、ガザ地区を攻撃し、ハマスの弱体化(育てたのはイスラエルなのに)とガザ地区の破壊、そして、イスラエルとパレスティナの二国共存を葬り去ろうということだったのだろうが、当てが外れている。半年が経過してもイスラエルの思い通りにはなっていない。また、世界中でイスラエルとアメリカに対する批判が高まっている。アメリカは何とかイスラエルを止めたい。そのために、アメリカ国内の世論の動向も武器として使いながら、支援条件を厳しくするなどの圧力をかけていこうとするだろう。

(貼り付けはじめ)

アメリカはイスラエルをどのように抑制できるか(How the U.S. Can Rein in Israel

-条件付き援助(conditional aid)を求める声が広がる中、バイデン大統領は非常に効果的な外交手段を見落としている可能性がある。

バーバラ・エリアス筆

2024年2月16日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/02/16/us-israel-gaza-conditional-aid-diplomacy/

ラファへのイスラエル軍の攻撃が迫る中、アメリカはガザで進行する人道災害に対処する上で、引き続きいくつかのディレンマに直面している。アメリカ国民や政策立案者たちの声はますます高まっており、アメリカがパレスティナの民間人を保護しながら同時にイスラエルの安全保障をどのように支援できるかを問う声が高まっている。

同盟諸国に矯正するのは難しい外交業務であり、特に国防に対する相手国のアプローチを制限する政策を推進する場合にはそうだ。更に言えば、アメリカのイスラエルに対する長年の関与により、アメリカの交渉力はさらに低下する。危機に陥ったイスラエルの意思決定者たちは、アメリカに恩義があると感じるどころか、フーシ派やイランを含む共通の大胆な敵に対して確立された戦略的パートナーシップを維持するというアメリカの利益が、アメリカ政府がイスラエルの政策立案者たちに厳しく圧力をかけることはできないだろうということに賭けている可能性が高い。

アメリカがパートナー諸国に圧力をかける手段として最も頻繁に議論されるのは、諸改革を援助の条件とすることだ。先週、エリザベス・ウォーレン連邦上院議員とクリス・ヴァン・ホーレン連邦上院議員を含む著名な民主党議員たちからの圧力の高まりを受けて、ジョー・バイデン大統領は、アメリカの戦略的パートナー諸国全てに対し、アメリカが提供した軍事援助が国際法に従って使用されていることを証明する書面による確認書の提出を求める「歴史的」指令に署名した。しかし、これがイスラエルの政策にどのような影響を与えるのか、またバイデン政権が違反行為にどのように対応するのかは不明である。この措置がガザのパレスティナ人やアメリカとイスラエルの関係にどのような影響を与えるのかが明確でない理由の1つは、援助を改革の条件とすることに伴う複雑な問題を理解していないことにある。

アメリカの外交官たちが以前にもこのようなことを行おうとした。アメリカは自国の利益を保護しながらパートナーを幅広く支援することを目指しているが、これはイラクやアフガニスタンでの戦争で地域の同盟諸国とともにこれまで直面してきた課題である。もちろん、カブールとバグダッドはイスラエルに比べて制度的および軍事的能力がはるかに限られていたため、反乱鎮圧のための占領に関するこれらの同盟はアメリカとイスラエルのパートナーシップとは大きく異なっていた。それにもかかわらず、これらのパートナーシップの力学には大きな違いがあるにもかかわらず、アメリカ政府は、民主政治体制の促進や人権保護といったアメリカの規範や利益を維持しながら、重要な同盟国を支援する方法を見つけ出す必要があった。

歴史が示しているように、イスラエルにガザ政策の穏健化を行わせるために圧力をかける場合、条件付き援助(conditional aid)は、見落とされがちな外交手段である。しかし、アメリカの一方的な行動の脅威(the threat of unilateral U.S. action)ほどには機能しない可能性がある。

理論的には、条件付き援助の形での「厳しい措置・愛の鞭(TOUGH LOVE)」により、アメリカは影響力と物資を交換することができる。しかし実際には、そのようなアプローチの政治は、見た目よりも複雑で、アメリカにとってリスクが高い。

第一に、援助を制限することはパートナーを弱体化させるリスクがあり、それはほぼ常にアメリカの利益に反することになる。パートナーが失敗した場合、そもそものパートナーシップを動機づけた共通の脅威に対して、アメリカの立場も不安定になる。ワシントンが従えばアメリカも結果に苦しむことをパートナー諸国は理解しているため、このことはそのような脅しの信頼性を制限することになる。

2009年、当時のバラク・オバマ大統領はアフガニスタンのハミド・カルザイ大統領に対し、アフガニスタンにおける汚職と麻薬取引の取り締まりを公式に求めた。なぜアメリカが上記改革を活用するために軍隊と援助を差し控えなかったのかとの質問に対し、元駐アフガニスタン米国大使は率直にその議論は「愚かだ(stupid)」と述べた。なぜなら、カルザイの弱体化はタリバンを活性化させ、アメリカの介入を延長し、アメリカが自国とアフガニスタンのパートナー国に設定した主要な国家建設の基準を後退させる危険性があるからである。

第二に、援助の削減はパートナーシップの将来に損害を与える可能性がある。パートナー諸国が、ワシントンが自国の安全を損なったと判断すれば、イスラエルの場合はロシアを含め、代替の同盟国を探すようになる可能性がある。現在のイスラエルの不安と孤立についての考え方は、並外れた技術を持って行動しない限り、進行中のイスラエル国防軍の作戦中に軍事援助を大幅に制限するというアメリカの脅しは、イスラエル当局者の怒りと抵抗に見舞われる可能性が高いことを意味している。

第三に、専門家たちとは違い、政策立案者たちは、ワシントンのハッタリを非難し、アメリカの要求に従うことを拒否する重要な同盟諸国に対処するという重い責任を負っている。反抗的な同盟諸国はアメリカにとって、双方にとって不利なシナリオを作り出す。アメリカ政府当局者たちが宣言した罰則を遵守し、戦略的パートナーを弱体化させ、場合によっては共通の敵対国を勇気づけるリスクを冒すか、コストを課すことに失敗して信頼性と将来の影響力を失うかのどちらかである。したがって、バイデン政権がイスラエルへの武器供与を遅らせる意向があるとの報道にもかかわらず、ホワイトハウスがまだ明確な計画を発表していないのは驚くべきことではない。

これらのリスクにより、援助の条件付けは、持続可能な外交アプローチとは対照的に、アメリカの外交官たちが通常は使うことを控える、露骨な戦術となっている。アメリカがパートナー諸国に依存すればするほど、援助の条件は魅力的ではなくなる。確かに、無条件援助は、たとえ恐ろしいものであっても、パートナー諸国の政策に対して少なくとも部分的に責任をアメリカに負わせることになるため、無条件援助にもリスクが伴う。たとえば、イラクでは、スンニ派の政治勢力を政府に組み込もうとするアメリカの要請に抵抗するというヌーリ・アル・マリキ元首相の決意が、2014年にイラクとシリアの一部を占拠した反乱の一因となった。幸いなことに、パートナーに圧力をかけるための別の方法がある。

その代わりに、アメリカは、パートナー諸国の参加の有無にかかわらず、それらの国々の国内政治に影響を与える政策を一方的に実施すると脅すことで、パートナー諸国の行動を変えることができる。パートナー諸国に対する強制的なメッセージは、「あなたが政策Xを実施するか、それとも私たちが実行するか、どちらかだ」というものであり、「政策Xを実施しなければ、アメリカは支援を打ち切る」という援助条件の論理とは異なる。前者のメッセージは、同盟国や同盟に広範な損害を与える可能性のある主要資源を削減するという脅しではなく、問題になっている特定の政策に焦点を当てている。

選択的一方的行動(select unilateral action)の脅威は、アメリカの大規模な介入(wide-scale U.S. intervention)を提案することを意図したものではなく、アメリカの利益にとって特に有害な地方政策に影響を与えるように調整することができる。同盟諸国はこれを自国の自治に対する強制的な脅威と認識し、このメッセージを歓迎しない可能性が高いが、目標は賭け金を高め、同盟諸国に妥協に達するよう圧力をかけることだ。

イラク、ヴェトナム、アフガニスタンでは、パートナー諸国の不作為に対して、アメリカが一方的行動を起こすと脅すことで、現地の同盟国がアメリカの要求に従うように仕向けることが多かった。例えばイラクでは、2010年にアメリカがマリキをスンニ派との関与を強めるためにこのアプローチをうまく利用できたのは、バグダッドのシーア派指導者の支持の有無にかかわらず、アメリカが従順なスンニ派指導者との関与を継続すると信頼できる脅しをかけていたからである。(しかし、2011年のアメリカ軍のイラク撤退に伴い、スンニ派民兵を一方的に支援するとの脅しがなくなったことで、アメリカはイラクにおける影響力を失った)。

アメリカが南ヴェトナムの参加の有無にかかわらず、北ヴェトナムとの妥協を進めるという確かな脅しがあったため、アメリカの撤退中にサイゴンの現地パートナーから譲歩を引き出すこともできた。 2010年、アメリカは国連当局者を招いて進捗状況を報告させることで、アフガニスタンにおける穏健な汚職撲滅改革を推進することができた。アフガニスタン政府は傍観されるのではなく、監視プロセスを監視し、途中で政策を形成するという目的もあり、妥協して監視プロセスに参加した。

一方的な行動を取ることで、アメリカの要求を満たすように重要な同盟諸国をうまく誘導してきた実績がある。しかし、それはアメリカが要求された政策を実行する唯一の能力を持っている場合にのみ適用される。例えば、パートナーに国内法の変更や攻撃的作戦からの撤退を強制するためには利用できない。これらはパートナーの参加なしにはアメリカが実施できない改革だからだ。

しかしながら、アメリカは、イスラエルがガザ地区での攻撃をより選択的に行うよう強制するために、この方法を使うことはできない。しかし、ワシントンは、たとえば、ガザ地区での標的に関する詳細な情報を一方的に公開すると脅すことで、イスラエルに活動の透明性と説明責任を高めるよう動機づけることはできる。アメリカの政策立案者たちはまた、監視とモニタリングの一形態として、ガザ地区での民間人の死亡に関する独立調査機関(independent inquiry)の設立を提案したり、紛争に対処するためにアメリカの機関を利用したりすることもできる。ヨルダン川西岸地区でパレスティナ人に対する暴力を扇動した4人のイスラエル人に対し、金融制裁(financial sanctions)を科すという最近のアメリカの決定は、この方向への一歩である。

現在のガザ地区での緊急事態に関して、イスラエルがこの重要な援助を妨害した場合、アメリカは一方的に人道援助(humanitarian aid)を提供すると脅すことができる。たとえば、USNSマーシーやUSNSコンフォートなどの、アメリカ海軍の災害対応艦艇を派遣し、この地域に配属されている空母打撃群(carrier strike groups)に参加させることで、そうすることができる。当然ながら、この措置はイスラエルの軍事作戦を弱体化させかねないと主張する批評家たちもいるだろうが、そうした立場は、パレスティナの民間人とハマスの過激派を区別できないイスラエルの失敗に安住しすぎている。アメリカは、ガザの市民が基本的なニーズと生存を確保できるよう支援することを申し出ることで、現在の攻撃に対する不快感を示すことができる。アメリカの一方的な援助をガザに送り、イスラエル側の協力があろうとなかろうと、この援助は行われると伝えれば、3つの重要なメッセージを送ることができる。

第一に、歴史的記録は、アメリカの一方的な行動に対する確かな脅しが、アメリカによる政権転覆などを避けるためにイスラエルをアメリカの立場に近づける可能性があることを示唆している。第二に、それは地域におけるアメリカの交渉の信頼性を高め、アメリカが紛争における自主的な主体であることと、イスラエルの献身的な同盟国でもあることを強化する。アメリカがイスラエルによるガザ地区占領の継続に反対し、ヨルダン、サウジアラビア、エジプトなどのアラブの主要パートナーとの関係を強化する必要がある可能性があるため、これはますます重要になる可能性がある。最後に、一方的な行動により、アメリカはパレスティナの民間人の死をただ嘆く以上のことができるようになる。アメリカが10月7日に残酷に虐殺されたイスラエルの民間人を守るために行動を開始したのと同じように、現在国連が「終末的な(apocalyptic)」状況と呼ぶ状況に直面しているパレスティナの民間人を守るために、アメリカも行動を開始する可能性がある。

あらゆる国家外交の手段と同様、これはアメリカの外交ツールキットに含まれる数多くのアプローチの1つに過ぎない。条件付援助と比較して議論されることが少ないとはいえ、戦略的パートナーに参加を強制しようとしての一方的な政策行動の威嚇は、安全保障上の同盟関係とパートナーへの物質的支援を維持しつつ、特定のパートナーの政策を問題視することができるので、より微妙でリスクも少ない。加えて、ガザ地区での一方的な政策実行を脅かすことは、アメリカが選択的な援助条件や、イスラエルの立場に異議を唱える国連行動の阻止を再考するなど、さらなる圧力経路(pathways of pressure)を検討することを妨げるものではない。

ガザ地区への攻勢を含むイスラエルの政策がアメリカの利益を侵害するものであっても、アメリカはイスラエルを支援しながら影響を与えようとするため、ワシントンは外交的アプローチにおいて機敏かつ目的意識を持つ必要がある。アメリカはもっとできることがあるし、そうすべきである。

※バーバラ・エリアス:ボードウィン・カレッジ政治学・法学准教授。著書に『同盟国が反乱を起こす理由:反乱鎮圧戦争における反抗的な地元パートナー諸国(Why Allies Rebel: Defiant Local Partners in Counterinsurgency Wars)』がある。ワシントンDCにある国家安全保障公文書館アフガニスタン、パキスタン、タリバンプロジェクト責任者を務めた。

(貼り付け終わり)

(終わり)
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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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