古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

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2024年05月

 古村治彦です。

 2023年12月27日に最新刊『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。アメリカ政治について詳しく分析しました。2024年はアメリカ大統領選挙の年です。『週刊現代』2024年4月20日号「名著、再び」(佐藤優先生書評コーナー)に拙著が紹介されました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 アメリカ連邦議会(上院と下院)の民主、共和両党の議員たちの間には、議員連盟(caucus)と呼ばれるグループがある。民主、共和両党内の議員連盟は、日本の派閥(faction)的な色合いがあるが、明確な親分・子分関係は存在せず、イデオロギーや信条が近い議員たちが一緒に行動するというような形のものである。民主、共和両党に複数の議連があり、採決の時などに、賛成、反対の動きや票読みの際に、注目を集める。

 『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』でも取り上げたが、アメリカ連邦下院共和党において、重要な存在になっているのが、「フリーダム・コーカス」と呼ばれる議連だ。この議連は、日本語では「自由議員連盟」と訳されることもある。フリーダム・コーカスは、保守派・リバータリアン派の議連である。オバマ政権時代に、勢いを伸ばした、ティーパーティー運動に源流があり、ティーバーティ―運動で当選した議員たちが結成した議連であり、政府による介入や規制を排除することを求めている。2015年に結成された比較的新しい議連であるが、メンバーは41名を数える。共和党の連邦下院議員が217名の内の41名が属しており、一大勢力となっている。共和党内で最も右寄りの議連であり、エスタブリッシュメント派とも対立する場面があり、トランプ支持の議連と言われるが、そのような単純な話では済まない。この議連には、トランプ支持派の議員たちも入っているが、同時に、トランプに対して反対する、リバータリアンの議員たちも入っており、中で対立が起きた。トランプ派の議員たちが、自分たちだけの議連を結成しようとして、その動きを潰されたことがある。

 昨年(2023年)、トランプ派として有名なマジョ―リー・テイラー・グリーン連邦下院議員(ジョージア州選出)が「アメリカ・ファースト・コーカス(議連)」を結成する動きを見せた。グリーンを中心とするトランプ派の議員たちがフリーダム・コーカスから独立する動きを見せた。それに対して、連邦下院共和党指導部とフリーダム・コーカスの幹部メンバーたちが激怒し、アメリカ・ファースト・コーカスが結成されたら、参加議員たちは、議会のどの委員会にも参加させないという脅しを行った。委員会に所属できなければ、立法作業に参加する道を閉ざされることになり、議員活動はできなくなる。トランプ派の議員たちはおとなしく従うしかなかった。首謀者のグリーン議員は、フリーダム・コーカスから追放処分となった。

 共和党所属の連邦議員たちの間では、トランプに対する恐れと反感、諦観が入り混じっている。トランプに表立って反対すれば、「あいつは落とすべきだ」とトランプに言われてしまう。そうなると、トランプ支持者たちは、その議員を落選させてしまう。これまでにも、トランプに反対した議員たちは多くは落選させられる、もしくは自主的な引退を選択することになった。だから、議員たちはよほど選挙に自信があるなら別だが、表立っては従うしかない。しかし、同時に反感もある。それが、トランプ派議員たちに対する動きとして出てくる。このような複雑な動きになっているので、一概に「この議連はトランプ支持の議連」と決めつけてしまうのは実態に即していないということになる。

(貼り付けはじめ)

グリーンがフリーダム・コーカスから追放された、と幹部メンバーが言及(Greene ousted from Freedom Caucus, board member says

エミリー・ブルックス筆

2023年7月6日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/house/4084065-greene-ousted-from-freedom-caucus-board-member-says/

強硬派のフリーダム・コーカスは、マジョーリー・テイラー・グリーン連邦下院議員(ジョージア州選出、共和党)をメンバーから除名するための投票を実施した、とフリーダム・コーカスの幹部メンバーであるアンディ・ハリス連邦下院議員(メリーランド州選出、共和党)は述べた。

ハリスは木曜日、『ポリティコ』誌とCNNの取材に対して、「マジョーリー・テイラー・グリーンは、彼女のこれまでの行動を理由にして、連邦下院フリーダム・コーカスから除名されるべきかどうかの投票が実施された」と述べた。

連邦下院フリーダム・コーカスの報道担当者は、コーカスの秘密保持条項を指摘して、コーカスがグリーンを除名したかどうかについて、その正否を認めなかった。

フリーダム・コーカスは「連邦下院フリーダム・コーカスはメンバーの地位や資格(membership)や内部のプロセスについてコメントしない」と発表した。

今回のニューズに関する声明の中で、グリーンは連邦下院フリーダム・コーカスにおける、彼女の地位について直接言及しなかった。

グリーンは「連邦議会において、私は自分が代表している選挙区であるジョージア州北部を最優先にして仕事をしている。ワシントンにおけるいかなるグループのためにも仕事をしていない。アメリカ・ファーストの考えは、私のキリスト教の信仰に導かれ、鋼で鍛えられ、私の人格に焼き付けられ、決して変わることはない」と述べた。

グリーン議員は「私は、この国を破壊しようとするアメリカを憎んでいる民主党と、連邦議会の儀仗で毎日戦っている。私は、国境を守り、子宮の中にいる、もしくは生まれた後の子どもたちを守り、永遠に続く外国の戦争を終わらせ、この国を救うために働くことを望む人となら誰とでも協力する。共和党は、2024年にドナルド・トランプ大統領が選挙に勝利する時、共和党主導の、強力で統一された連邦議会が何をするのかをアメリカに示すことができる期間は、既に2年を切っている。私が最重要視しているのはこの一点であり、他には何もない」と締めくくった。

広報担当のハリスは、グリーン議員が正式にフリーダム・コーカスから外れたかどうか質問され、次のように答えた。「私の知る限り、そういうことだ」。

ケヴィン・マッカーシー連邦下院議長(カリフォルニア州選出、共和党)がジョー・バイデン大統領と交わした債務法案の合意を支持することで、多くの同僚と対立したため、グリーン議員はフリーダム・コーカスから排除されることになった。グリーン議員はマッカーシーに近い支持者となっている。フリーダム・コーカス所属の同僚議員たちの多くが反対し、1月に歴史的な15票差の連邦下院議長選挙を余儀なくされた時でさえ、マッカーシーを議長候補として支持した。

ハリスは、債務法案とグリーンのマッカーシー支持について、「その全てが重要だったと思います」と語った。

しかし、グリーン議員と同様の、お騒がせ議員であるローレン・ボーバート下院議員(コロラド州選出、共和党)との最近の衝突が、結果としてフリーダム・コーカス所属の議員らにグリーン議員の排除投票を促したようで、広報担当ハリスはそれを「決定的な一撃となった(the straw that broke the camel’s back)」と語った。

グリーン連邦議員は2023年6月下旬、ボーバートが国土安全保障省長官アレハンドロ・マヨルカスに対する弾劾訴追を強行する意表をつく行動に出た後、連邦下院の議場でボーバートを「小娘(little bitch)」と呼んだ。グリーンは、ボーバートが連邦下院共和党所属議員会に自分の決定について説明しに来なかったことを批判し、ボーバートがマヨルカスに対する弾劾訴追についても自分の行動を真似ただけのことだと非難した。

ハリスは、「グリーンが同僚議員ボーバートに使った表現は、おそらく同僚議員、特に女性議員に対して使うべきではなかったと思う」と述べた。

『ポリティコ』誌が先週初めて報じたこの投票は、連邦下院が独立記念日を前に2週間の休会に入る前の朝に行われた。

ハリスは投票方法については明言しなかったが、連邦下院フリーダム・コーカスのスコット・ペリー会長(ペンシルヴァニア州選出、共和党)を「真のリーダー(true leader)」であり、「素晴らしい仕事(great job)」をしていると称賛した。

しかし、グリーンを排除する動きは、ペリーやフリーダム・コーカス全体に対する外部からの批判を呼んでいる。

ある共和党幹部補佐官は本誌の取材に対して、「私がスコット・ペリーなら、8月の休会前の3週間の会期を前に、これが最後の見出しになることを望んでいる。HFCをめぐるドラマの連続のせいで、議員たちはどの議案も通過させることができない。指導部も疲れているはずだ」と述べた。

連邦下院フリーダム・コーカスのメンバーと下院共和党指導部との間の最も差し迫った争いは、予算と支出レヴェルをめぐるものだ。先月、同グループの一部メンバーとその協力者たちは、債務上限法案で設定された歳出水準の上限に抗議し、下院議場での立法活動を1週間妨害した。

それ以来数週間、同グループのメンバーは支出レヴェルについて定期的に指導部と会談してきたが、意見の相違が残ったまま2週間の休暇に入った。

支出レヴェル以外にも、フリーダム・コーカスのメンバーは、自分たちの法案を強行採決するための特権的動議で、指導部の頭痛の種を増やした。マヨルカス弾劾訴追案を強行採決したボーバートの動きは最終的に委員会に差し戻されたが、これに加え、アナ・パウリナ・ルナ議員(フロリダ州選出、共和党)は、アダム・シフ議員(カリフォルニア州選出、民主党)のトランプ前大統領に関する発言に対する問責決議案を強行採決した。

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マジョーリー・テイラー・グリーンは、共和党からの反撃を受ける中で、「アメリカ・ファースト」コーカス発足の計画を放棄する(Marjorie Taylor Greene scraps planned launch of controversial ‘America First’ caucus amid blowback from GOP

ダニエラ・ディアズ筆

CNN

2021年4月18日

https://edition.cnn.com/2021/04/17/politics/marjorie-taylor-greene-america-first-caucus/index.html

CNN発。保守派のマジョーリー・テイラー・グリーン連邦下院議員は金曜日、報道担当者を通じて「アメリカ・ファースト」コーカス(議員連盟)の発足を確認していたにもかかわらず、共和党内の指導者たちから反撃を受け、コーカスの発足を取りやめることになった。

グリーン議員の報道担当ニック・ダイアーは土曜日の午後、ジョージア州選出の共和党連邦下院議員グリーンは「何も立ち上げない」とCNNに送った電子メールの中で述べた。

ダイアーは、パンチボウル・ニューズが入手した、煽動的な表現が使われたコーカスの宣伝ビラに言及しながら、「議員は、何も立ち上げてようとしていないを明確にしたいと望んでいる。これはごく初期の提案であり、合意も承認もされていない」とCNNに送ったメールの中で語った。

ダイアーは更に、「彼女はその文言を承認しておらず、何も立ち上げる予定はない」と付け加えた。

これは、グリーン議員の事務所が「ごく近いうちに」コーカスを発足させると言っていた金曜日からの大きな後退だ。

ダイアーは金曜日、CNNに送った声明の中で、「アメリカ・ファースト・コーカス(議員連盟)の綱領が近々発表されるので、楽しみにしていてください」とダイアー氏はCNNに声明の中で述べていた。

グリーンは土曜日の午後、一連のツイートで、彼女の「アメリカ・ファースト」コーカスのスタッフ・レヴェルの草案は、「私が読んでいない外部グループからのもの」だと主張した。彼女はまた、メディアが「誤った物語(false narratives)」を作り、人種に焦点をあてて、「アイデンティティ政治(identity politics)を通じ、憎しみでアメリカ国民を分断している」と非難した。

グリーンはツイッター上で、ドナルド・トランプ前大統領のアメリカ・ファーストのアジェンダの提唱を進める計画を示唆した。

新しいコーカス(議員連盟)を宣伝するチラシは、「アングロサクソン独自の政治的伝統に対する共通の敬意(common respect for uniquely Anglo-Saxon political traditions)」を呼びかけ、選挙の整合性に関する一連の共同謀議論を前面に押し出している。

チラシはまた、「大量の移民」が「独自の文化とアイデンティティを持つユニークな国としてのアメリカの長期的な存続的な未来」を脅かすと警告する、白人中心主義的な(nativist)主張も概説している。

連邦議会の議員連盟は通常、特定の政策課題を推進しようとする議員たちで構成される任意団体である。このグループは正式な議会の立法機構の外で運営されているが、その多くは、議論に影響を与え、共通の政策提言を増幅させることに成功している。

金曜日、新しいコーカス(議員連盟)に関する報道がなされる中、ダイアーはチラシの初期案が流出したことに不満を述べたが、CNNに対する声明では、このコーカス(議員連盟)の結成計画が進行中であることを確認した。

グリーン議員の事務所からの発言の撤回は、連邦下院共和党トップのケヴィン・マッカーシー連邦下院議員・連邦下院少数党院内総務が間接的に同議員の新しいコーカスに言及しながら、「共和党はリンカーンの党であり、すべてのアメリカ人にさらなる機会を与える党であり、排外主義的な白人中心主義者にとっての犬笛(dog whistles)ではない」とツイートした翌日に行われた。

また、連邦下院共和党第3位の地位にある共和党連邦下院議員会議長リズ・チェイニーは、グリーンの新しいコーカス(議員連盟)に関する報道についてツイッター上で次のように反応した。

チェイニー議員は「共和党は、万人に平等な機会、自由、正義を信じている。私たちは子供たちに寛容、良識、道徳的勇気という価値観を教えている」と彼女は書いた。「人種差別、民族主義、反ユダヤ主義は悪だ。歴史が教えているように、私たちには皆、そのような悪意ある憎しみに立ち向かい、拒絶する義務がある」と書いた。

闘争中の共和党のマット・ギーツ下院議員(フロリダ州選出)は、金曜日に次のようにツイートした。彼は現在、性売買と売春の疑惑で連邦捜査を受けている、「私はマジョ―リー・テイラー・グリーン議員(@mtgreenee)と共に、アメリカ・ファースト・コーカスに参加することを誇りに思う。私たちは戦争を終わらせ、不法移民を阻止し、アメリカの労働者にとっての公平な貿易を推進する。これは、ビッグ・メディア(主流メディア)、ビッグ・テック(GAFAなど)、ビッグ・ガヴァメント(大きな政府)に属するアメリカ・ラスト派による単なる反撃に過ぎない」。

共和党のポール・ゴーサー連邦下院議員(アリゾナ州選出)は、「アメリカ・ファースト」コーカスの立ち上げ計画への関与を否定し、土曜日の声明で 「連邦下院フリーダム・コーカスに所属して、アメリカ・ファーストの問題に取り組み続ける」と記した。パンチボウル・ニューズは、ゴーサーがこの「アメリカ・ファースト」コーカス(議員連盟)に関与していると報じていた。

彼は土曜日、パンチボウル・ニューズの報道を読み、初めてビラの存在を知ったと主張した。

共和党のアダム・キンジンガー連邦下院議員(イリノイ州選出)は、新しいコーカス(議員連盟)についての最初の報道を受けて「うんざりしている」と述べ、金曜日、新しい議員連盟に参加する議員から委員会の割り当てを剥奪され、共和党の議員会議への参加を阻止されるべきだと述べた。

キンジンガ―議員は「私たちは、共和党員、共和党所属を名乗ることを阻止することはできないが、彼らは共和党に属しいていないと声を大にして言うことはできる」とツイッターに投稿した。

この記事は追加で更新された。

CNNのアリ・メイン、ヴェロニカ・ストラカルシ、アニー・グレイヤー、ライアン・ノーブルズ、ポール・ルブランがこのレポートに貢献した。

(貼り付け終わり)

(終わり)
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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 2023年12月27日に『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。『週刊現代』2024年4月20日号「名著、再び」(佐藤優先生書評コーナー)に拙著が紹介されました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 アメリカ大統領選挙は、民主党は現職のジョー・バイデン大統領、共和党は予備選挙を圧倒的な勢いで勝ち進み、ライヴァルたちを蹴散らしたドナルド・トランプ前大統領がそれぞれ候補者に内定し、いち早く、「バイデン対トランプ」の構図となり、攻守所を変えて、2020年大統領選挙の再戦となっている。現在のところ、トランプが若干のリードという状況だ。ただ、五大湖周辺の激戦州となっている、ミシガン、ウィスコンシン、ペンシルヴァニア各州の世論調査の数字は拮抗しており、予断を許さない。これらの州をバイデンが取ると、数字上では選挙人獲得数で、バイデンが僅差で勝利を収める。

 私は個人としてはトランプ大統領支持である。もしアメリカ国民で投票権を持っているならば、トランプ大統領に投票する。しかし、バイデンを操っているエスタブリッシュメント派(民主党、そして共和党)は、非常に手強い。また、政府を握っているということは、大きな力を持っているということで、やれることの数や範囲は大きい。また、彼らは、バイデンも含めて、数々の犯罪行為に手を染めている(その代表がヒラリーだ)。彼らが逮捕を逃れるためにも、バイデン再選が彼らにとって望ましいということになる。
 アメリカ国内の分断は深刻化している。経済格差も大きくなり、かつ、教育格差(経済格差に連動する)、人種間格差(これもまた前記2つに連動する)などが大きくなっている。そうしたことから、「内戦」「第二次南北戦争」という声も上がっている。「選挙が正常に実施されない」という予測も出ている。確かに、全米各地の投票所での民主、共和両党の支持者やそれ以外の人々による、にらみ合いや衝突が起きることは考えられるが、それがアメリカ全土に広がるかどうかは不透明だ。トランプにしても、バイデンにしても、自身がアメリカ合衆国大統領であると主張するためには、「民主的な選挙」で選ばれた、という正統性が必要だ。

 トランプが大統領に当選すれば、ロバート・ライトハイザーが財務長官に就任するだろうという見方が出ている。ライトハイザーは米通商代表部に勤務した経験を持つ弁護士で、貿易交渉に長けた人物として知られてきた。そして、トランプ1期目の政権で、米通商代表に就任した。そして、米中間の関税引き上げ競争、米中貿易戦争を指揮した。その彼が、トランプ政権の財務長官になるという話だ。
 ライトハイザーは、現在、トランプ陣営の経済政策顧問を務めており、トランプ政権発足後に財務長官に起用されるということは絵空事ではない。ライトハイザーの影響は、現在のバイデン政権にも引き継がれている。バイデン政権は中国製の電気自動車の関税を100%に引き上げると発表したが、このような保護主義的、ナショナリスト的な関税政策は、トランプ政権下で激化したものであり、その主導者がロバート・ライトハイザーだった。

ライトハイザーは、中国製品に対する関税引き上げ(60%)や中国政府が出している補助金に対する調査など、積極的な姿勢を示している。ライトハイザーが財務長官になれば、アメリカの通商政策だけでなく国際経済政策も変化することになるだろう。

ライトハイザーは、貿易赤字に注目し、炭素国境税の導入や人権侵害者への制裁などを提案している。彼は中国を敵対国と位置付けている。ライトハイザーは現在のバイデン政権の「強いドル」政策(輸入品が安くなる)ではなく、「弱いドル」政策(輸出品が安くなる)を進めることになる。アメリカらの輸出を増やすことで、雇用を増やすということを目指す。そうなれば、日本に関して言えば、円高が進むということになる。

「バイデン、トランプ、どちらが勝つか」という予測ももちろん重要だろうが、「どちらが勝って、どのようになるか、何が起きるか」というより細かいことにも注目していく必要があるだろう。

(貼り付けはじめ)

トランプが世界経済を革命的に変化させる手助けをするであろう人物(The Man Who Would Help Trump Upend the Global Economy

-ロバート・ライトハイザーは財務長官となる可能性があり、貿易政策以外にも革命を起こそうとしている。

エドワード・アルデン筆

2024年5月18日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/05/18/robert-lighthizer-trump-election-trade-tariffs-treasury-secretary/?tpcc=recirc_trending062921

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この10年近く、アメリカの通商政策は、1人の人物のイメージで作り替えられてきた。その人物とは、ロバート・ライトハイザーである。ドナルド・トランプ大統領時代の通商代表(trade representative)として、彼は、60年にわたるルールに基づく多国間貿易システム(multilateral trading system)の支持から離れ、強固なナショナリスト的アプローチへと、アメリカを方向転換させた。ジョー・バイデン大統領の下でライトハイザーの後任となったキャサリン・タイは、彼が築いた道を歩み続けている。トランプ大統領の元高官たちのほとんどが、トランプ大統領は再び大統領になるにはふさわしくないと非難しているにもかかわらず、ライトハイザーは他の多くの人々と同じように、トランプ大統領をより大きな公共の利益のための、欠陥のある船(flawed vessel for some greater public good)であると信じている。ライトハイザーは、2024年の選挙戦でもトランプの政策顧問の一人であり、11月にトランプが勝利すれば、より大きな仕事(おそらく財務長官)を任されるだろう。アメリカの通商政策だけでなく、より広範なアメリカの国際経済政策を変革するというライトハイザーの使命はまだ始まったばかりだ。

ライトハイザーの影響力は先月、バイデンが激戦州ペンシルヴァニア州ピッツバーグにある北米最大の産業別労働組合であるユナイテッド・スティールワーカーズの本部を訪問した際に最大限に発揮された。訪問後、政権はライトハイザーの要請でトランプ大統領が最初に課した一部の中国からの輸入品に対する関税を大幅に引き上げる計画を発表した。今週、タイ通商代表による見直しを受けて、バイデン政権は輸入された中国製電気自動車に100%の関税を課し、中国製の半導体、リチウムイオン電池、太陽電池、鉄鋼、アルミニウムの税率を引き上げた。タイ通商代表はまた、造船業界に対する中国の補助金に対する新たな第301条調査(ライトハイザーが復活させた1970年代の米国通商一国主義[trade unilateralism]の手段)にも着手した。更なる関税が中国に課せられる可能性が高い。そして、ライトハイザー自身も、トランプが大統領に選ばれたら、アメリカの輸出を増やすために強い米ドルの価値を切り下げるようアドバイスしており、このアドバイスは財務省ポストのオーディションの内容として広く読まれている。

ライトハイザーの影響力の拡大は、トランプ大統領の通商政策に見られる攻撃的なナショナリズムが一過性のものではないことを、アメリカの最も親密な同盟国を含む貿易相手国に警告するものである。その代わりに、アメリカは、民主、共和両政党の垣根を越えて、国際経済政策に「アメリカ・ファースト(America First)」のアプローチを取り入れる選択をした。この選択が意味するところは、今後何年も、おそらく何十年も続くだろう。そのため、自由貿易と多国間ルールのアメリカによる受け入れを非難の代弁者として、キャリアを積んできたライトハイザーは、その中間に位置する人物ということになる。

ライトハイザーがアメリカの次世代の国際経済政策の立案者になるとは考えにくい。第二次世界大戦の終戦直後に生まれた彼は、弁護士としてキャリアのほとんどを外国の競争からアメリカの鉄鋼産業を守ることに費やした。かつてアメリカの製造業の基幹産業であった鉄鋼は、情報技術、成長しているグリーン産業、高等教育や観光を含む国際サーヴィス貿易が急増する経済が支配する経済において、今や誤差の範囲のシェアを占めているだけだ。しかし、ライトハイザーが鉄鋼から学んだ教訓、つまり、アメリカの貿易相手国が、生産に補助金を出したり、商品を原価以下でダンピングしたりするなどの略奪的な行為に従事し、アメリカの雇用を奪い、製造業を空洞化させているという教訓は、今や民主、共和両党の貿易当局者たちにとって福音となっている。

ライトハイザーは2023年に著書『どんな貿易も自由ではない(No Trade Is Free)』を発表した。この本は、貿易自由化(trade liberalization)のメリットに関する長年にわたるコンセンサスに対する痛烈な告発である。フランクリン・D・ルーズベルトからバラク・オバマに至るまで、アメリカの歴代大統領は、世界的な貿易障壁(global trade barriers)の交渉による削減が、アメリカと世界をより豊かで安全なものにすると信じていた。ライトハイザーは常にこれに反対していた。しかし、ドナルド・レーガン政権時代に米通商代表部に短期間勤務した後、彼は世間から忘れ去られた存在になったが、連邦議会の公聴会にはたびたび登場した。特に2001年に実現した世界貿易機関(WTO)への中国の加盟に警告を発した。トランプが2020年の選挙で敗北した後に書かれた彼の著書は、アメリカの通商体制に対する「私はあなたにそう言ったよね(I told you so)」となるものだ。関税を引き下げ、世界的な貿易ルールでワシントンの手を縛ることは、「私が予想した以上に明白で、議論の余地のない失敗(a starker, more indisputable failure than even I could have predicted)」であり、アメリカの製造業の喪失、アメリカ人の賃金の低迷、中国に対するアメリカの戦略的地位の急激な低下をもたらしたとライトハイザーは書いている。しかし、「多国籍企業と輸入業者の影響下にある共和党と民主党のエスタブリッシュメント派は、自分たちの過ちを認識したくなかったし、認識することが不可能だった(political establishments of both the Republican and Democratic parties, under the influence of multinational corporations and importers, were unwilling or unable to recognize their mistakes)」と彼は主張する。

ライトハイザーは任期の4年間、米通商代表を務めた。これは、気まぐれな大統領の下では稀な業績である。彼は、アメリカを別の方向に変えることができた。ライトハイザーは世界の大部分からの鉄鋼とアルミニウムの輸入品に最大25%の関税を課し、中国のアメリカ向け輸出の4分の3に同様の関税を課し、北米自由貿易協定(North American Free Trade AgreementNAFTA)の再交渉にカナダとメキシコを強硬に参加させた。こうした動きは、主に国内で人気があり、メキシコでの労働法の執行を強化し、アメリカでの生産拡大を求める条項をめぐって、民主党は新たなアメリカ・メキシコ・カナダ協定を支持して結集した。バイデン政権はまた、ジャネット・イエレン財務長官の当初の強い反対にもかかわらず、対中関税を維持した。

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ワシントンのホワイトハウスの大統領執務室で、新たな関税を課す措置に署名したドナルド・トランプ米大統領に並んで立っているロバート・ライトハイザー米通商代表(2018年1月23日)

しかし、ライトハイザーはまだ始まったばかりだ。彼が思い描いているのは、最も単純な言葉で言えば、世界経済における安定化勢力(a stabilizing force in the global economy)となることをあまり心配せず、アメリカの狭い経済的利益を追求することをはるかに心配するアメリカの姿である。財務長官となったライトハイザーは、その使命を遂行するためにより多くの手段を手にすることになる。

ライトハイザーの重要な指標は、従来の経済学者がほとんど注目しないもの、それは、貿易赤字(trade deficit)だ。アメリカは、1975年以来、毎年財とサーヴィスの赤字を出しており、2022年にはなんと9510億ドルに達するが、2000年代半ばの経済規模に比べて貿易赤字ははるかに大きかった。しかし、ほとんどの経済学者は、貿易赤字は国民貯蓄率の関数(a function of national savings rates)であり、これはアメリカの高い消費と低い民間および公的貯蓄の必然的な結果であるため、貿易面での政府の介入の影響をほとんど受けないと考えている。ライトハイザーはこれに反対し、赤字はアメリカの富が競合国、最も重要なのは中国に直接移転するものであり、政府の強制的な行動によって是正できると考えている。

ライトハイザーは、中国だけでなく世界の他国との貿易のバランスを取ることをアメリカの政策目標とするだろう。その影響は非常に大きくなるだろう。ライトハイザーがトランプに提案したとされる手段の1つは、他の通貨に対して米ドルを安くするための協調的な取り組みだ。他の条件が同じであれば、ドルが安くなれば外国人がアメリカの輸出品に支払う価格は下がり、アメリカ人にとって輸入品はより高価になり、貿易を均衡に近づけるのに役立つだろう。しかし、ドルは世界通貨(world currency)としての役割もあり、長い間過大評価されてきた。最近では、好調なアメリカ経済と中東とヨーロッパの紛争を受けて投資家たちが安全なアメリカ資産を求めて高騰している。詳細は乏しいが、ライトハイザーは、1971年にリチャード・ニクソン米大統領と、1987年にロナルド・レーガン大統領が取った措置、つまり、貿易相手国がドルに対して自国の通貨を切り上げる措置を講じることに同意しない限り、関税を課したり脅したりする行為の再現を構想しているようだ。今日の世界的な金融の流れの規模(レーガン大統領がドル安に取り組んだときの水準の何倍にもなっている)を考えると、通貨の安定を乱すことの結果を予測するのは難しい。

ライトハイザーは同様に、アメリカに拠点を置く製造業の競争力を促進するため、アメリカの税制の見直しを構想している。複雑な歴史的理由から、アメリカの輸出は長い間、アメリカの税制によって損なわれてきた。ヨーロッパをはじめとするほとんどの国は付加価値税(value-added taxesVAT)に大きく依存しており、国外に持ち出される商品やサーヴィスは通常免除されている。一方、アメリカの税金は所得税が主体であり、国際貿易ルールの下ではそのような税金は払い戻されない。ヨーロッパに輸出するアメリカ企業は、ヨーロッパでの売上に対して、アメリカの法人税と現地の付加価値税の両方を支払う。ライトハイザーは、付加価値税の利点を模倣して法人税制を「国境調整可能(border adjustable)」にすることで、これを終わらせたいと考えている。しかし、このような改正は連邦議会の試練を乗り越えなければならず、過去にはウォルマートのようなアメリカの大手輸入業者からの反発で失敗に終わっている。ライトハイザーが財務長官になれば、再びこの問題に取り組むことを期待したい。
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左:アメリカが鉄鋼とアルミニウムに関税を課した後、ブリュッセルでヨーロッパ通商担当委員との会談に臨むライトハイザー米通商代表と世耕弘成経済産業大臣(2018年3月10日)。右:ホワイトハウスで行われたアメリカ・メキシコ・カナダ通商協定の署名式で、マイク・ペンス副大統領とライトハイザー代表に挟まれスピーチするトランプ大統領(2020年1月29日)。

しかし、ライトハイザーのお気に入りの手段は、ホワイトハウスが最も明確にコントロールされている関税であることに変わりはない。今年3月の『エコノミスト』誌に寄稿したライトハイザーは、トランプ大統領が当選した場合、新たな関税を課すと発表した計画を擁護し、関税撤廃という、アメリカの「大胆な実験」は「失敗した」と主張した。アメリカの貿易赤字を削減し、再工業化を加速させるためには、新たな関税(少なくとも一律10%)が必要である。それは、「経験上、これは成功し、高賃金の産業雇用が創出される」からだ。ライトハイザーは、そのような取り組みがどこまで可能かを示唆している。全ての輸入品に対して、「均衡を達成するまで、年々段階的に高い関税率を課すべきである」と書いている。言い換えれば、全ての貿易に対して最低10%の関税をかけるというのは、あくまでも最初の一手にすぎないということだ。

ライトハイザーはさらに、デ・ミニミス(de minimis、それ以下の輸入品は関税を完全に免除される価格)として知られるあいまいな規定の削除を目指すだろう。2015年の貿易円滑化および貿易執行法により、連邦議会は消費財の少量出荷に対する高価な事務手続きを排除することを目的として、その料金を200ドルから800ドルに引き上げた。この変化は、ちょうど海外からのオンライン注文が普及し始めたときに起こった。中国のファストファッション大手の「Shein(シーイン)」社のことを考えてみよう。シーイン社は2015年に零細企業から、年間売上高が少なくとも300億ドルの巨大企業に成長し、現在ではアメリカに単一の店舗やブランドを持たずにアメリカのファストファッション市場の30%近くを占めている。シーイン社のショッピングアプリのダウンロード数は、2015年には全世界で300万件にも届かなかったが、昨年は2億6000万件以上に増加した。シーイン社のビジネスモデルには、デ・ミニミス免除により中国製の衣料品をアメリカの消費者に免税で直接発送することが含まれている。FedEx(フェデックス)やUPS などの大手運送会社も喜んで協力している。ライトハイザーは、この規定により多くの中国企業が相互主義を必要とせずにアメリカ市場に関税を払うことなしにアクセスできるようになっていると主張している。

11月にどちらが勝とうとも、ライトハイザーの影響力は残るだろう。バイデンは、アメリカの製造業を促進することと、アメリカの保護主義(protectionism)の高まりを懸念する同盟諸国との共通点を模索することの間で一線を画そうとしてきた。しかし選挙の年、バイデン政権の公平性は失われつつある。オハイオ州選出のシェロッド・ブラウン連邦上院議員(民主党)の要請を受けたバイデンは、例えば、日本の日本製鉄によるUSスティールの買収計画を阻止すると約束した。日本製鉄は既に、全ての労働組合契約を尊重し、アメリカ本社をヒューストンからピッツバーグに移転し、雇用削減や海外への生産移転を行わないことを約束している。しかし、アメリカの労働組合は依然としてこの取引に反対している。そのためバイデンは、国家安全保障を理由に買収を阻止すると発言しているが、この動きはアジア太平洋におけるアメリカの最も重要な同盟国を激怒させるに違いない。

ライトハイザーと民主党の共通点は、多くの人が認識しているよりもはるかに深い。気候変動について考えてみよう。トランプを含む多くの共和党員は科学に懐疑的であり、化石燃料の使用を削減するための政府の行動に反対している。しかし、ライトハイザーは炭素を多く含む輸入品に対する追加関税を強く支持しており、この政策はヨーロッパ連合が既に導入しており、現在バイデン政権が真剣に検討している。ライトハイザーは著書『どんな貿易も自由ではない(No Trade Is Free)』の中で、セメント、肥料、アルミニウムなどの排出量集約的な製品に追加関税を課すことになる炭素国境税(carbon border tax)を支持しており、そうしなければ「私たちが許容できるよりもはるかに多くの炭素を使用している」製品を生産する国に利益をもたらすと主張している。

タイ米通商代表と勇敢な労働省の下で、バイデン政権はまた、世界中の人権侵害者や労働者の権利侵害者を制裁するために貿易手段をより積極的に利用するようになった。ライトハイザーはそれよりもはるかに先を行くだろう。ライトハイザーは著書の中で、輸出企業が環境保護、労働規則、労働者の健康と安全に関するアメリカと同等の基準を順守しない限り、全ての輸入を阻止すべきだと提案している。

これらの構想の最大の標的は、もちろん中国である。中国を貿易相手国としてではなく、敵対的な敵対国として扱い、アメリカの対中政策転換を開始したのはトランプ政権である。この転換で重要な役割を果たしたライトハイザーは、中国を「アメリカが国家として、そして西側スタイルの自由民主主義政府として、アメリカ革命以来直面してきた最大の脅威」だと声高に主張した(mince no words)。その証拠に、ライトハイザーは、中国の巨大な経済規模を挙げている。これは、ナチス・ドイツや帝国主義時代の日本はおろか、旧ソヴィエト連邦よりもはるかに有能な敵国である。ライトハイザーは、完全な経済的デカップリング(decoupling)に近いものを求めるだろう。その第一歩として、ライトハイザーは、北京のWTO加盟を認めるために2000年に連邦議会が与えた中国の「最恵国待遇(most favored nation)」の撤廃を提案する。そうなれば、米大統領は中国に差別的な関税をかけることができるようになる。

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(左から)中国の劉鶴副首相と貿易合意に署名する前のマイク・ペンス副大統領、ロバート・ライトハイザー米通商代表、ドナルド・トランプ大統領(2020年1月15日)

民主党側でそこまで進めようという人はほぼいない。今のところ、バイデン政権は、半導体や新しい電気自動車技術など、制限する必要がありそうな戦略的な対中貿易と、自由に取引できる一般消費財(ordinary consumer goods)貿易とを区別しようとしている。「小さな庭と高いフェンス」や「デリスク」というフレーズで包含されるバイデン政権の戦略は、米中貿易における相互利益の余地をまだ多く想定している。しかし、中国が脅威と見なされれば、見なされるほど、ライトハイザーの包括的なデカップリング(decoupling)の論理は説得力を増すだろう。アメリカの対中貿易はいかなる形であれ、中国を豊かにする可能性が高く、将来的には中国をより手強い敵にする可能性がある。特に選挙の年には、米中関係におけるニュアンスの違いを求める声はかき消されてしまうだろう。

しかし、ライトハイザーのアジェンダの影響力が民主、共和両党で拡大し、持続するだろうが、その混乱は専門家の多くが懸念しているよりも小幅なものになるかもしれない。トランプ大統領が関税を課した際、世界の貿易システムはかつて考えられていたよりも回復力があることが証明され、米中貿易の小幅な下落とインフレの小幅な上昇にとどまった。しかし、アメリカのちょっとした保護主義が突然、より有害なものにエスカレートする危険性も高まっている。ライトハイザーのトランプ政権時代の戦友であるピーター・ナヴァロ前ホワイトハウス通商製造業政策局長は、2021年1月6日に起きた連邦議事堂襲撃事件に関する連邦議会の調査への協力を拒否した罪で現在服役中だが、アメリカが全面的に関税の相互撤廃を要求することを望んでいる。ある製品の関税をアメリカの水準まで引き下げることを拒否した国(ヨーロッパの乗用車に対する10%の関税をアメリカの2.5%まで引き下げる必要がある)は、相殺関税(offsetting tariffs)に直面することになる。(その場合、ヨーロッパはアメリカの輸入SUVに対する25%の関税を相殺することで報復するだろう)。民主党もまた、風力タービンや電気自動車を含む多くのクリーンエネルギー製品に新たな関税を課すことを熱望している。先月、タイ米通商代表は連邦議会の委員会で、バイデン政権は、アメリカの電気自動車産業を保護するために「早期の行動、断固とした行動(early action, decisive action)」を取ると述べた。

民主、共和両党とも保護主義を支持する傾向が強まっていることは、この先更に多くのことが起こることを示唆している。他国がこれに応じれば、1920年代や1930年代以来の貿易戦争(trade wars)や通貨戦争(currency wars)が勃発することは容易に想像できる。

確かに、歴史は繰り返さなければならないという規則はない。アメリカは単に、自由化の方向に行き過ぎ、急ぎすぎた通商政策を修正し、アメリカの一部の産業や労働者を略奪的な競争に晒されている最中にあるだけかもしれない。確かに中間地点は可能だ。しかし、あらゆる証拠は、アメリカが反対方向にあまりにも速く進みすぎるという深刻な危険に晒されていることを示唆している。それが疑わしい場合は、私たちが生きている間に登場したアメリカ通商政策の最重要な人物であるライトハイザーがこれまでに何をし、何を言い、そしてこれからも何をしようとしているのかをよく見て欲しい。

※エドワード・アルデン:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ウェスタン・ワシントン大学のロス記念特別客員教授、米外交評議会の上級研究員。著書に『調整の失敗:アメリカ国民はどのようにして世界経済に取り残されたか(Failure to Adjust: How Americans Got Left Behind in the Global Economy)』がある。ツイッターアカウント:@edwardalden

(貼り付け終わり)

(終わり)
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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 2023年12月27日に『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。『週刊現代』2024年4月20日号「名著、再び」(佐藤優先生書評コーナー)に拙著が紹介されました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 2024年5月19日に、イランのエブラヒム・ライシ大統領とホセイン・アミール=アブドラヒアン外相、他に政府高官たちが乗ったヘリコプターが墜落事故を起こし、搭乗員たちが全員死亡した。大統領と外相という最重要の政府高官たちが同じヘリコプターに登場していたというのは、安全管理の面から解せないところであるが、ライシ大統領の事故に、アメリカやイスラエルが絡んでいるということはひとまずないようだ。
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 今回の事故で、イランとイスラエルとの間の状況がさらに悪化するということはないと考えられる。これまで、イスラエルがシリアのダマスカスにあるイラン大使館を攻撃し、イスラム革命防衛隊の司令官クラスを殺害している。報復として、イランはイスラエルにドローンやミサイルによる攻撃を行った。両国間の関係が悪化し、より大規模な戦闘ということになれば、両国が直接領土を接してはいないので、航空機やミサイルによる攻撃が主体となり、最後は核兵器使用ということまで考えられる。ライシ大統領は、イランの国家最高指導者であるアリ・ハメネイ師の意向に沿って、強硬な態度を取ってきた。しかし、同時に、状況がさらに悪化しないように、細かい点で配慮を見せてきた。この流れは変わらないようだ。しかし、イスラエルと対峙する、レバノンのヒズボラとガザ地区のハマス、それらを支援するイスラム革命防衛隊を強化することは忘れないだろう。
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 イランにしてみれば、イスラエルとそれを支援するアメリカが国際世論の批判に晒されて、孤立することが望ましい。実際に、イスラエルによるガザ地区での作戦実行が過剰な防衛であって、一般市民に大きくの犠牲者が出ているということは、批判を招いている。ハマスについては、パレスティナ内部でも決して大きな支持を集めている訳ではないが、パレスティナの代表のような振る舞いをし、イランにとって有効な存在になっている。ハマスとヒズボラを使って、イスラエルを攻撃するということはイランにとって重要な戦略となっている。
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更には、イランが紅海の入り口にあるイエメンのフーシ派も支援していることも大きい。これによって、貿易海運に影響が出ており、アメリカが率いる西側諸国にとっては頭が痛い問題である。

イランが中国やロシアの支援を受けて、中東での動きを活発化させている。それは、中国が仲介してのサウジアラビアとの国交正常化合意が実現したことが大きい。サウジアラビアも向米一辺倒から脱却しており、中東におけるアメリカとイスラエルの重要性が縮小している。重要なのは、中東の現状が核兵器使用の大きな戦争にまで進まないようにコントロールすることであり、イランもそれを望んでいるようだ。
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(貼り付けはじめ)

イランがイスラエルに勝てると信じているその理由(Why Iran Believes It’s Winning Against Israel

-イラン政府は、地域秩序の再構成(regional reordering)が進行中であると結論づけた。大統領と外務大臣が亡くなってもその流れは変わらないだろう。

アリ・ヴァエス、ハミドレザ・アジジ筆

2024年5月20日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/05/20/iran-israel-war-deterrence-raisi-crash/?tpcc=recirc_latest062921

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バグダッドのイラン大使館前にて、イランの故エブラヒム・ライシ大統領を弔う人々のキャンドルリストの横で警備するイラク軍兵士(5月20日)

日曜日(5月19日)、イランのエブラヒム・ライシ大統領とホセイン・アミール=アブドラヒアン外相を含む数名の政府高官がヘリコプター墜落事故で死亡した。この事件は、4月にイランとイスラエルの間で前例のないエスカレーションが起こった後に発生し、イランの地域政策と現在進行中のイスラエルとの対立に潜在的な影響を与えるのではないかという予測が出ている。

イラン行政府のトップに突然空白が生じたにもかかわらず、イランの外交・地域政策の戦略的方向性は、主に最高指導者アリ・ハメネイ師(Ayatollah Ali Khamenei)によって決定され、イスラム革命防衛隊(Islamic Revolutionary Guard CorpsIRGC)の影響を受けており、今後も変わらないと見られている。しかし、イランとイスラエル間の最近の事態悪化は、既にイランの戦略的思考(strategic thinking)と地域的計算(regional calculations)に影響を与えている。

イランにとって、イスラエルが4月1日にダマスカスにあるイラン大使館を攻撃し、高級指揮官を含む、イスラム革命防衛隊メンバー数人を殺害したことは一線を越えた。イランの立場からすれば、標的の幹部と施設の性格の両方が、イスラエルによる容認できない、事態悪化を意味する。

当面の問題として、テヘランは、イランが主権領土に相当すると見なしている場所への攻撃を放置すれば、イスラエルがイラン領内で、更に多くのイラン政府高官を標的にする可能性があると考えている。しかし、おそらく、より重要なことは、イラン政府関係者たちが、ダマスカスにあるイラン大使館攻撃を、ヒズボラの後方支援を断ち切ることを目的としたものであり、イスラエルによるレバノン侵攻という、より大きな目的に向けての中間的な動きと認識したことであろう。

2023年12月にイスラエルがダマスカス郊外で、イスラム革命防衛隊のラジ・ムサビ准将を殺害したことで、レヴァント地域におけるイランの非国家同盟組織の支援を担当する、イランの後方支援担当責任者(chief of logistics)が排除された。2024年1月の同様の攻撃で、シリアにおけるイスラム革命防衛隊の情報諜報責任者が解任され、4月1日にはモハメド・レザ・ザヘディ将軍が殺害されたことで、レヴァント地域の作戦責任者が排除された。

イランはまた、国内および地域の同盟国、組織の面子を保つ必要もあった。4月のダマスカス攻撃後、一部の強硬派は指導部を公然と批判し始めた。そのため、テヘランは武力で対応しなければならないと考えたが、戦争を引き起こすことなく、ある程度の抑止力を回復する必要があった。

414日未明、イスラエルに対し、高度に電波誘導を用いた大規模な無人機とミサイルによる攻撃を実施することで、戦争にならない範囲での報復を行った。優先事項は死と破壊ではなく、むしろイスラエルの領土を直接攻撃する勇気があることを示すことであった。もちろん、攻撃の規模を考えると、死と破壊の危険が当然のこととしてあった。イラン政府はおそらく、イスラエルとアメリカの防衛能力に関する重要な情報を収集しながら、自国が持つ能力のどの部分を公開するかを選択した可能性が高い。

イスラム革命防衛隊の航空宇宙戦隊司令官は、イランが今回の作戦のために準備した能力の20%未満しか投入しなかったのに対し、イスラエルは、アメリカや他の同盟諸国の支援を受け、防衛兵器をフル動員しなければならなかったと示唆した。これらの主張が少しでも正確であれば、イランがより高度な兵器を用いて、更なる大規模な攻撃を行う場合、特に奇襲的で長期間に及ぶような攻撃の場合、今回成功した防衛を再現できるのかという疑問が生じる。

イスラエルとそのパートナーたちは、この攻撃をほぼ無力化すること(neutralizing)に成功したが、テヘランは支持者・支援者の間での立場を強め、おそらくアラブ各国の路上で、パレスティナの権利擁護を公言し実行しているという評判を高めた。ガザでの戦争の惨状から国際的な関心をそらすことなく、このようなことが成し遂げられた。この事実は、アメリカやヨーロッパ諸国の大学キャンパスで行われた親パレスティナ派の抗議行動によって、より浮き彫りにされた。

この観点からすると、今回のイランによる攻撃の成功は、その限定的な軍事的成果からではなく、より強力な超大国の支援を受けている、強力な敵を直接標的にしたという事実そのものからもたらされた。ハメネイ師が主張しているように、イランがイスラエルに送った重要なシグナルは、イスラエルがイラン軍を切り崩し、レヴァントでの行動ができないようにすることを目的とする、今後の作戦を抑止するために、テヘランはある程度のリスクを受け入れることができるということであった。

しかし、この攻撃の直後に、イスラム革命防衛隊の最高司令官が設定したレッドライン(イランの標的に対するいかなる攻撃も、イランがイスラエルを再び直接攻撃する原因となる)は、イスラエルが現地時間4月19日にイスファハンで行った空対地ミサイル攻撃(イラク領空からS-300ミサイル防衛システムのレーダーを空対地ミサイルで攻撃、ナタンツの機密核施設に近接)に照らして、すぐに空威張りであることが示された。

イランにとって、イスラエルとの暗闘が現状に戻ることは、おそらく受け入れられる結果だろう。テヘランからすれば、せいぜい、シリアにおけるイランの武器輸送と施設を標的とするイスラエルのマバム(「戦争の中の戦争[war within the wars]」)キャンペーンの範囲を制限する方法を見つけることだろう。イランは少なくとも、イスラエルがイランの上級指揮官を標的にすること、そして、イラン国内で屈辱的な秘密工作を行うのを止めさせたいと考えている。イランがこれらの目的を達成できるかどうかを判断するのは時期尚早である。

今、重要なのは、イスラエルとイランの二国間の対立(bilateral rivalry)が、より広い地域情勢の中でどのように位置づけられるかということである。イスラエルとアメリカは、アラブ諸国との一時的な地域協力関係(ad hoc regional cooperation with Arab states)を活性化させ、ミサイルの一斉射撃を阻止したと自慢することができた。しかし、関係するアラブ諸国は、イスラエルから名指しされたり、味方についたと見られたりすることを避けたがった。イスラエルがアラブ諸国の行動を、自国に有利な反イラン地域同盟(anti-Iran regional alliance)の出現を示唆するものだと決めつけようとしたのとは反対に、アラブ諸国の指導者たちは、イスラエルとイランとの間の緊張が、自国を銃撃戦に巻き込む可能性があるという、以前から恐れていたことが証明されたと考えたのである。

イランの指導者たちは、ヒズボラという地域的な槍の先端を使わなかった、自分たちの報復が、更なる事態悪化の可能性を軽減することに成功したと、今のところは確信しているようだ。イランの攻撃からイスラエルを守るには10億ドル以上の費用がかかり、少なくとも5カ国が参加する大規模なティームワークが必要であるのに対し、イランには攻撃に2億ドルの費用がかかったということは、イスラエルもアメリカも、更なる戦闘を求めていないことを暗示している。したがって、イスラエルとアメリカ軍がおそらく同じことをしているのと同じように、イランには学んだ教訓に焦点を当てる余地がある。

イランがパンチを手加減してやったと主張しているにもかかわらず、アメリカ政府当局者たちは、その目的は「明らかに重大な損害と死者を引き起こすことであった」と評価している。今回の場合、パンチは当たらなかった。これは攻撃の脆弱性と防御力の両方の結果であると思われる。長距離を飛行するイランの無人機はほぼリアルタイムで探知され、発射体の多くはイスラエル領土に到達する前に迎撃されたからだ。かなりの割合(おそらく半分程度)が迎撃された。弾道ミサイルのうち多くが、自然に失敗して到達できなかったと報じられている。

これらの欠陥を正すために、イランはイスラエルに近い地域で武器の開発と備蓄を強化し、シリアでのプレゼンスの強化を必要とするだけでなく、将来の攻撃手段の一環として極超音速ミサイルを含むより先進的なミサイルの開発を加速させようとする可能性がある。

イスラエルによるイランへの報復は、イスラエルがイランの核施設に重大な損害を与える能力を持っていることをイランの指導者たちに思い知らせるものだった。また、イラン国内における、S-400のような、より高性能な防空システムの欠如や、近隣の空域に侵入するイスラエルの本質的に揺るぎない能力といった、テヘランの主要な欠点も露呈した。前者の欠点に対処するため、テヘランは、イランとヨーロッパの関係を更に悪化させることになるとしても、弾道ミサイルと引き換えにロシアの最新兵器を入手する努力を強化するだろう。

後者の欠点に対処するために、特にシリアでは、ロシアに助けを求める可能性もある。しかし、イラクではアメリカ軍が立ちはだかり、イランは、イラクの民兵組織にアメリカ軍基地を狙い続けるよう促し、イラク政府への政治的圧力を強めることで、イラクから約2500人のアメリカ軍を追い出そうとする動機をより高める可能性が高い。

テヘランはまた、シリアのユーフラテス川以東で、既に不安定な状態にあるクルド人主導のシリア民主軍の支配を緩めるための努力を強化する可能性が高い。これにより、イランは、シリアへの(そしてその先のレバノンへの)陸上アクセスポイントを増やし、同時にユーフラテス川西岸のデイル・エゾル州での影響力を強化することができる。最後に、テヘランは度重なる諜報活動の失敗により、国外にいる上級指揮官の所在が明らかにされてしまったことや、国内が脆弱になったことへの対処にも注力するだろう。

イラン指導部は、イランが10月以来実証してきた能力、つまり地域パートナーの非対称戦闘能力と、イスラエル上空を飛ぶイランのミサイル弾頭の永続的なイメージが、ガザ紛争の余波と相まって、地域秩序の再構成の前兆となる可能性があると信じている。

イラン政府の目には、イスラエルは世界的にますます排斥されると映っている。ロシア、中国、インドのような他の大国が影響力を拡大するにつれ、アメリカはもはやこの地域の最も重要なプレーヤーではなくなるだろう。そしてペルシア湾岸アラブ諸国(Gulf Arab states)は、イランに対して団結することを避け、代わりにシリアやヒズボラなどのイランの同盟国や組織との関係改善を目指すことになるだろう。

イラン指導部は、短期間に核弾頭を開発できる、制限核兵器保有国(threshold nuclear weapons state)としてのイランの地位を強化したいという願望でこのヴィジョンを補完している。特に、西側諸国が効果的で持続的な経済制裁緩和を行う能力があるかについてのテヘランの悲観的な見方を考慮すれば、イランの核能力の大幅な縮小を目的とした将来の合意は困難ということになるだろう。

しかし、イランの指導者たちは、永続的な現実が彼らの強気な物語を台無しにし、短期および中期の両方のリスクをもたらすことに気づくかもしれない。イランとイスラエルがゲームの新しいルールをまだ完全に定義してテストしていないことを考えると、特にイランは自慢の戦略的忍耐力(strategic patience)を放棄し、より攻撃的な姿勢に置き換えるべきだと信じる、政府内の人々が優勢であるように見えるため、両国は誤算を示す可能性がある。これらの強硬派は、イスラエルが、近いうちにイランが越えてはならない一線を堅持する姿勢を試すことになり、イランがそれに失敗すれば、4月14日に取った多大なリスクから得られる利益は失われると信じている。

そうなれば、双方の誤算(miscalculation)のリスクが高まり、壊滅的な打撃を与えかねない状況悪化の連鎖につながりかねない。中期的には、イランが中東で消滅しつつあるパクス・アメリカーナ(Pax Americana、アメリカによる平和)に代わる新たな秩序が生まれつつある、と見ていることが、かえってペルシア湾岸アラブ諸国が、アメリカの安全保障をより強固なものにする要求を倍加させ、テヘランが直面する脅威に対する認識を深めることになりかねない。

※アリ・ヴァエス:インターナショナル・クライシス・グループのイランプロジェクト部長、ジョージタウン大学外交学部非常勤講師。ツイッターアカウント:@AliVaez

※ハミドレザ・アジジ:ジャーマン国際・安全保障問題担当研究所訪問研究員。シャヒド・バレスティ大学地域研究助教(2016-2020年)。テヘラン大学地域研究学部訪問講師(2016-2018年)。ツイッターアカウント:@HamidRezaAz

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ライシ大統領の死がイランの未来に意味するもの(What Raisi’s Death Means for Iran’s Future

-ヘリコプター墜落事故によるライシ大統領の突然の死は、地域的な混乱の中でイランに不確実性をもたらす。

ジャック・ディッチ筆

2024年5月20日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/05/20/iran-president-helicopter-crash-raisi-politics-supreme-leader/

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イラン大統領エブラヒム・ライシがシリアのダマスカスを訪問(2023年5月3日)

イランのエブラヒム・ライシ大統領は日曜日、他のイラン政府高官たちの一団を乗せたヘリコプターがイラン北部の山中に不時着した事故で死亡し、イランと中東地域の将来に大きな疑問を生じさせた。

イラン国営のイスラム共和国通信が確認したところによると、ホセイン・アミール=アブドラヒアン外相と他の高官たちもイランの東アゼルバイジャン州を移動中に墜落し死亡した。墜落現場が発見されるまでの数時間、濃霧が捜索・救助活動を妨げた。霧は非常に濃く、イラン側はヘリコプターの位置を特定するためにヨーロッパ連合(EU)の衛星の支援を要請せざるを得なかった。

ライシ大統領の死は、イランが強硬な方向(hard-line direction)に進み、中東を地域戦争(regional war)の危機に晒される恐れがあったイラン政治の短い変革の時代(transformative era)に終止符を打った。ライシは政権の座に就いて約3年間、イランの国内政治と社会政策をより保守的な方向に動かし、2017年の大統領選挙でライシを破った前任者のハッサン・ロウハニの後、イランをこの地域における明らかなアメリカの敵対者の立場へと更に推し進めた。ロウハニは、代理攻撃(proxy attacks)を強化する前に、まずイランの核開発をめぐる西側諸国との緊張緩和を模索した。

イスラム法学者で、アリ・ハメネイ師(Ayatollah Ali Khamenei)との緊密な関係で知られ、多くの当局者や専門家たちが高齢化する最高指導者の後継者候補とみなされてきた、ライシの大統領在任期間中、イランはウラン濃縮(uranium enrichment)を加速させ、包括的共同行動計画(Joint Comprehensive Plan of Action)の交渉を遅らせた。アメリカはライシが大統領に就任する3年前の2018年に協定を離脱した。

ライシ政権下のイランはまた、シャヘド自爆ドローンや大砲の大規模な輸出でウクライナに対するロシアの戦争を支援し、ハマスによる2023年10月のイスラエルへの越境攻撃の後、アメリカとイスラエルに対する地域の代理民兵組織(regional proxy militias)による攻撃を増加させ、ライシの死のわずか1カ月前には、イスラエルに対して大規模なドローンとミサイル攻撃を開始した。

複数の専門家によれば、ライシの後任が誰になろうとも、彼が追求した戦略はイランの政治的・聖職的指導部の上層部の間で堅持されており、変わることはないだろうという。

民主政治体制防衛財団(Foundation for Defense of DemocraciesFDD)のイラン上級研究員ベーナム・ベン・タレブルーは次のように述べている。「ライシがいてもいなくても、政権は10月7日以降の中東の成り行きに満足している。イランは、アメリカとイスラエルに対して、代理人を使って直接攻撃したが、4月に見られたような、一触即発(tit-for-tat)の状況にも何度か直面しながら、状況を有利になるように進めている」。

イラン憲法では、選挙が実施されるまでの50日間は、ムハンマド・モクバー筆頭副大統領が政権のトップを務めることになっている。アナリストによれば、最近の議会選挙は記録的な低投票率だったという。更に、2021年の前回の大統領選挙では、ライヴァルたちを追い落とし、ライシ候補の勝利を確実にするために、ハメネイと協力者たちは多大な努力を行った。

ライシは大統領に就任する前、1988年に推定5000人の反体制派の処刑を担当した、イラン検察委員会の委員を務めていた。ライシは国連から人道に対する罪で告発され、米財務省から制裁を受けていた。そして、その強圧的なアプローチは、2022年9月にイラン道徳警察が、22歳のマフサ・アミニが公共の場で適切にヒジャブを着用しなかったとして交流した後に死亡した事件がそれに続き、これが全国的な抗議活動を引き起こした。

臨時選挙や来年に予定されている正式な大統領選挙という地平線の先には、イランの支配層のトップに激震が走る可能性がある。国家元首(head of state)の息子であるモジタバ・ハメネイ以外に、85歳のハメネイの後継者となりうる人物は限られているため、ライシの死はイランの政治的未来を更なる混乱に陥れる可能性がある。

イラン経済の主要部分を支配するイラン国軍最大の部隊である、イスラム革命防衛隊(Islamic Revolutionary Guard CorpsIRGC)も、この混乱を利用して自らの力を増大する可能性がある。

米国防大学近東アジア戦略研究センター教授で退役米陸軍大佐のデービッド・デ・ロシュは、「ライシがいなくなってしまう場合、後継者は明白になっていない。本当に興味深いのは、イスラム革命防衛隊が基本的に、スローモーションクーデター(slow-motion coup)を完了するかどうかを見ることだ」と述べている。

救助隊が墜落したライシのヘリコプターを捜索中に、国営メディアはイラン国民にライシのために祈るよう求めた。その代わりに、墜落の報道を受けて、イラン国民の一部は祝賀の花火を上げ、強硬派の指導者の死について歓喜したようだ。

米海軍大学院准教授で、ヴェテランのイラン専門家であるアフション・オストヴァールは、ライシ大統領の死去が確認される前に、「今日の墜落とライシ大統領と外相の死亡の可能性はイラン政治を揺るがすだろう」とXへの投稿で書いた。オストヴァールは続けて、「原因が何であれ、不正行為(foul play)の認識は政権内に蔓延するだろう。野心的な分子が利益を求めて圧力をかけ、政権の他の部分からの反発を強いられる可能性がある。このような事態が起きることに備えておくべきだ」。

専門家たちは、臨時選挙でも2025年のイラン大統領選挙でも、自由化を進める人物が現れる可能性は低いとしながらも、ライシの死は、水面下で続いてきた抗議運動の復活にわずかな隙を残す可能性があると述べている。

「民主政治体制防衛財団の専門家ベン・タレブルーは、「講義運動は死んでいない。これらの運動は、ストライキや労働組合など、低レヴェルの周辺地域で活動している。全国的な引き金になるかもしれないし、何も起こらないかもしれない。しかし、イランの抗議運動の物語はいつ起こるか、起きるかどうかの問題でもある」と述べた。

※ジャック・ディッチ:『フォーリン・ポリシー』誌国防総省・国家安全保障担当記者。ツイッターアカウント:@JackDetsch

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 2023年12月27日に『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。『週刊現代』2024年4月20日号「名著、再び」(佐藤優先生書評コーナー)に拙著が紹介されました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 拙著『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』でも詳しく書いたが、西側諸国では、エネルギー高から波及しての、物価高が続き、ウクライナ支援も合わせて、「ウクライナ疲れ」「ゼレンスキー疲れ」が国民の間に生じている。「早く戦争を終わらせて欲しい」「取り敢えず停戦を」という声は大きい。

ウクライナ戦争勃発後、アメリカとヨーロッパ諸国(西側諸国)は、ロシアに対して経済制裁を科した。ロシアからの格安の天然ガスを輸入していたが、輸入を停止することになった。アメリカはそれに代わって、天然ガスをヨーロッパ向けに輸出することになったが、ヨーロッパの足元を見て、高い値段で売りつけている。これはヨーロッパ諸国の人々からの恨みを買っている。以下の記事では、西側諸国の制裁がロシアに大きな打撃を与えており、ヨーロッパ諸国の経済には影響を与えていないということだが、かなり厳しい主張ということになるだろう。
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 10年ほど前から、ヨーロッパ諸国で勢力を伸長させているポピュリスト勢力(アメリカのドナルド・トランプ大統領誕生も同じ流れ)は、プーティン寄りの姿勢を取り、ウクライナ戦争の停戦を求めている。これは、アメリカで言えば、連邦議会の民主党左派・進歩主義派議員たちと、共和党のトランプ派議員たちの考えと同じだ。彼らもまた、アメリカの国内世論の一部を確実に代表している。
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ポピュリスト勢力は人種差別的と批判される。そういう側面もあるが、彼らは既存の政治に対する、人々の不満を吸い上げ、代表している。エスタブリッシュメントたちが主導する政治が戦争をもたらしていると多くの人々が考えている。トランプ前大統領の「アメリカ・ファースト(America First)」は「孤立主義(Isolationism)」を基礎としているが、これは「国内問題解決優先主義」と訳すべきだ。そして、「アメリカ・ファースト」は「アメリカが何でもナンバーワン」ということではなく、「アメリカのことを、まず、第一に考えよう」ということだ。ここのところを間違ってはいけない。ポピュリストたちに共通しているのは、「外国のことに首を突っ込んで、税金を浪費するのではなく、自国の抱える諸問題を解決していこう」ということであり、そうした側面から見れば、ポピュリストたちが違って見えてくる。

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ヨーロッパのポピュリストたちが制裁反対の戦いでクレムリンに加わる(European Populists Join the Kremlin in Anti-Sanctions Fight

-彼らは「制裁はロシアよりもヨーロッパを傷つける」と誤った主張を展開している。

アガーテ・デマライス筆

2024年3月11日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/03/11/russia-sanctions-oil-gas-populists-europe-elections/?tpcc=recirc_latest062921

ヨーロッパのポピュリスト政党の多くがロシアに友好的な傾向を持つことを考えれば、ヨーロッパのポピュリストたちがしばしばクレムリンの主張をオウム返しにしたがるのも当然と言えるだろう。最近では、極右から極左まで多くのヨーロッパの政党が要求しているように、欧米諸国の対モスクワ制裁の停止を求めることもその1つだ。

対モスクワ制裁解除要求の背後にある通常のシナリオは基本的なものだ。フランスの「国民連合(National RallyRassemblement National)」、ドイツの「ドイツのための選択肢(Alternative for GermanyAlternative für Deutschland)」、ハンガリーのヴィクトール・オルバン首相はいずれも、制裁は裏目に出ており、ヨーロッパ経済には打撃を与えているが、モスクワには打撃を与えていないと主張している。EU全域のポピュリスト政党が6月のヨーロッパ議会選挙に向けて準備を進めており、このような論調はますます目立つようになるだろう。だからこそ、このような誤った主張を論破する絶好の機会なのだ。

ロシアに好意的な政治家たちが最もよく口にするのは、制裁がヨーロッパの企業や消費者を破滅に追いやるというものだ。これらの主張の中で最も広まっているのは、制裁がヨーロッパにおけるエネルギー価格の高騰(およびインフレ)を引き起こしているというものだが、これは最も簡単に反証できる。2022年初頭に世界の炭化水素価格が高騰したのは、ロシアによるウクライナ攻撃とヨーロッパに対するガス恐喝がきっかけだった。欧米諸国がロシアのエネルギー輸出に制裁を課し始めたのは、その年の11月であり、石油・ガス価格はすでに下落していた。

もう1つの主張は、制裁がロシア市場へのアクセスを失ったEUの輸出志向企業にペナルティを与えているというものだ。しかし、現実はもっと穏やかなものだ。ロシアはEU企業にとって決して主要な市場ではなく、2021年にロシア企業がEUの輸出品のわずか4%を購入したにすぎない。EUの対ロ輸出の約半分が制裁の対象となることを考えると、EUの輸出のわずか2%が影響を受けることになる。

フランスの研究機関である国際経済予測研究センター(Centre d'Etudes Prospectives et d'Informations Internationales)の国家レヴェルのデータは、この評価を裏付けている。それによると、対ロ制裁がフランス経済に与える影響はほとんど無視できるもので、フランスの輸出のわずか0.8%、約40億ユーロ(44億ドル)しか影響を受けていない。視点を変えれば、これはフランスのGDPの0.1%ほどに相当する。この調査はフランスのみを対象としているが、おそらく他のEU経済圏でもこの調査結果は劇的に変わることはないだろう。ドイツ企業と並んで、フランス企業はヨーロッパでロシアと最も深い関係にある企業である。このことは、他の多くのヨーロッパ諸国の企業は、より少ない影響しか受けていないことを示唆している。

制裁がヨーロッパ経済を圧迫しているというクレムリン寄りの主張の別のヴァージョンは、EU企業が制裁のためにロシアへの投資を断念せざるを得なかったという考えに基づいている。例えば『フィナンシャル・タイムズ』紙は、ウクライナへの本格的な侵攻が始まってから2023年8月までの間に、ヨーロッパ企業はロシア事業から約1000億ユーロ(約1094億ドル)の損失を計上したと計算している。

この数字は正確かもしれないが、制裁と大いに関係があるという考えは精査に耐えない。現段階では、制裁によってヨーロッパ企業がロシアでビジネスを行うことは、防衛など一部の特定分野を除けば妨げられていない。それどころか、ヨーロッパ企業のロシアでの損失には他に2つの原因がある。1つは、風評リスクを恐れ、ロシアの税金を払いたくないためにモスクワの戦争に加担したくないという理由で、多くの企業が撤退を選択したことだ。

損失の第二の原因は資産差し押さえの急増で、クレムリンは多くのヨーロッパ企業に、場合によってはわずか1ルーブルの価値しかない資産の売却を迫っている。言い換えれば、仮に制裁がない世界であったとしても、かつてロシア市場に賭けていたヨーロッパ企業は現在、大規模な損失に直面している。もちろん、クレムリンは、収用は制裁に対する報復手段に過ぎないと主張している。この台詞は、欧米諸国の侵略から自国を守るためだけだというモスクワのインチキ主張の長いリストの、もう1つの項目にすぎない。

ヨーロッパのポピュリスト政治家たちが好んで売り込むもう1つの論点は、ロシアのエネルギーに対するヨーロッパの制裁は、これまで見てきたように、コストがかかるだけでなく、役に立たないというものだ。この神話(myth)にはいくつかのヴァージョンがあるが、最もポピュラーなものは、G7とEU加盟諸国が合意したEUの石油禁輸と石油価格の上限は、ロシアの石油生産者に影響を与えないというものだ。それは、ロシアは、ヨーロッパ向けの石油をインドに振り向けることができるからだ。

実際、以前はヨーロッパ向けだったロシアのバルト海沿岸の港からの原油輸出の大部分は、現在インドの精製業者が吸収している。しかし、このような見方は、モスクワにとってインドの精製業者に石油を売ることは、ヨーロッパに売るよりもはるかに儲からないという事実を無視している。インドへの航路は、ヨーロッパへの航路よりもはるかに長い(したがってコストが高い)。加えて、インドのバイヤーたちは値切ることができる。彼らは、ヨーロッパ市場の損失を補うことでクレムリンの好意を受けていると考えており、そのためロシア産原油の急な値引きを受ける権利がある。

キエフ経済学院の研究によれば、ロシアの損害は無視できるものではないという。過去2年間で、クレムリンは推定1130億ドルの石油輸出収入を失ったが、その主な原因はEUによるロシア産石油の禁輸だった。EUの禁輸措置とG7とEUの石油価格上限がともに完全に効力を発揮した昨年、ロシア全体の貿易黒字は63%減の1180億ドルに縮小し、ウクライナ戦争を遂行するためのクレムリンの財源に制約を課すことになった。

ロシアの石油輸出企業にとって、今年は良い年にならないかもしれない。先月クレムリンは、輸出収入の減少を国家に補填するため、石油会社は利益の一部を放棄する必要があると発表した。ロシアの石油会社ロスネフチなどにとって、モスクワが国内のエネルギー企業に戦争資金調達への直接的な協力を求めるのは初めてのことだ。

制裁の実施が強化されるにつれ、制裁は無意味だという考えはさらに薄れていくだろう。 2023年10月以来、アメリカはG7とEUの原油価格上限を回避してロシア産原油を輸送していたタンカー27隻に制裁を課しており、これにより、どちらかの圏に拠点を置く企業がこれらのタンカーと取引することは違法となる。これは西側諸国の制裁解釈の劇的な変化を浮き彫りにしている。最近まで、価格上限はG7かEUを拠点とする海運会社または保険会社がロシア石油の輸送に関与する場合にのみ適用されていた。ワシントンは現在、西側企業とのつながりをより広範囲に解釈している。

たとえば、ロシアの幽霊船団(ghost fleet)のかなりの割合を占めるリベリア船籍のタンカーは、リベリアがアメリカを拠点とする企業に船籍業務を委託しているため、現在では石油価格上限の対象となる。これと並行して、西側諸国はインドの石油精製業者への圧力を強め、ロシアからの石油供給を止めるよう働きかけている。クレムリンを落胆させているのは、こうした努力が功を奏しているように見えることだ。今年に入ってから、インドのロシア産原油の輸入量は、2023年5月のピークから徐々に約3分の1に減少している。

制裁はロシアに損害を与えるよりもヨーロッパに損害を与えるというポピュリストたちの主張は、精査に耐えられない。現実には、これらの措置がヨーロッパ企業に与える影響は小さいが、ロシアは原油のルートを欧州から外そうとしているため、ますます逆風に直面している。

制裁にはコストがかかり、効果もないという主張を否定するのは簡単だが、このシナリオがすぐに消えることはなさそうだ。ロシアに好意的な政治家たちがヨーロッパ議会やその他の選挙に向けてキャンペーンを強化するにつれ、このような主張が今後数週間でますます広まることが予想される。制裁がロシアに深刻な影響を及ぼしていないのであれば、クレムリンと西側の同盟国は制裁を弱体化させるためにこれほどエネルギーを費やすことはないだろう。

※アガーテ・デマライス:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ヨーロッパ外交評議会上級政策研究員。著書に『逆噴射:アメリカの利益に反する制裁はいかにして世界を再構築するか』がある。ツイッターアカウント:@AgatheDemarais

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 古村治彦です。

 2023年12月27日に『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。『週刊現代』2024年4月20日号「名著、再び」(佐藤優先生書評コーナー)に拙著が紹介されました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 中東におけるキープレイヤーとしては、サウジアラビア、イラン、イスラエル、アメリカが挙げられる。これらの国々の関係が中東情勢に大きな影響を与える。アメリカは、イスラエルと中東諸国との間の国交正常化を仲介してきた。バーレーンやアラブ首長国連邦(UAE)といった国々が既にイスラエルとの国交正常化を行っている。アメリカにとって重要なのは、サウジアラビアとイスラエルの国交正常化であった。昨年、2023年前半の段階では、国交正常化交渉は進んでいた。こうした状況が、パレスティナのハマスを追い詰めたということが考えられる。

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中東諸国がイスラエルと国交正常化を行うと、自分たちへの支援が減らされる、もしくは見捨てられるという懸念を持ったことが考えられる。ハマスをコントロールしているのはイランであり、イランの影響力はより大きくなっていると考えられる。イランは、レバノンの民兵組織ヒズボラも支援している。イランは、ハマスとヒズボラを使って、イスラエルを攻撃できる立場にいる。イランの大後方には中国がいる。

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 イスラエルとしては、サウジアラビアと国交正常化を行い、中東地域において、より多くの国々をその流れに乗せて、自国の安全を図りたいところだった。イランを孤立させるという考えもあっただろう。しかし、ここで効いてくるのが、2023年3月に発表された、中国の仲介によるサウジアラビアとイランの国交正常化合意だ。これで、イランが中東地域で孤立することはなくなった。イスラエルとすれば、これは大きな痛手となった。そして、アメリカにしてみても、自国の同盟国であるサウジアラビアが「悪の枢軸」であるイランと国交正常化するということは、痛手である。これは、中国が中東地域に打ち込んだくさびだ。

 アメリカはサウジアラビアと防衛協定を結ぼうとしているが、それには、イスラエルとの関係が関わってくる。アメリカはサウジアラビアとイスラエルという2つの同盟国を防衛するということになるが、サウジアラビアとイスラエルとの関係が正常化されないと、アメリカとサウジアラビアとの間の防衛協定交渉も進まない。サウジアラビアのアメリカ離れということもある。ここで効いてくるのはサウジアラビアとイランの国交正常化合意だ。アメリカとイスラエルの外交が難しくなり、中国の存在感が大きくなる。

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サウジアラビアは次のエジプトへの道を進んでいる(Saudi Arabia Is on the Way to Becoming the Next Egypt

-アメリカ政府はリヤドとの関係を大きく歪める可能性のある外交協定を仲介している。

スティーヴン・クック筆

2024年5月8日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/05/08/saudi-arabia-us-deal-israel-egypt/?tpcc=recirc062921

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サウジアラビアの紅海沿岸都市ジェッダのホテルで開催されたジェッダ安全保障・開発サミット(GCC+3)期間中に、家族写真のために到着したジョー・バイデン米大統領とサウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン王太子(2022年7月16日)

彼らはそうするだろうか、それとも、しないだろうか? それがここ数週間、中東を観察している専門家たちが問い続けてきた疑問だ。アメリカとサウジアラビアは、両国当局者たちが少なくとも2023年半ばから取り組んでいる大型防衛協定プラス協定(big defense pact-plus deal)を発表するだろうか?

2024年4月末のアントニー・ブリンケン米国務長官のリヤド訪問と、ジェイク・サリバン国家安全保障問題担当大統領補佐官の保留中のリヤド訪問計画により、合意の可能性の話に緊迫感と期待感が注入された。報道によると、サウジアラビアとジョー・バイデン政権は準備ができているが、「いくつかの障害は残っている(obstacles remain)」という。これはイスラエルを指す良い表現だ。

ワシントンとリヤドの当局者間の協議が始まったとき、バイデン政権はサウジアラビアとの単独合意では、米連邦議会から適切な支持は決して得られないという確信を持っていた。連邦上院で過半数を占める民主党の議員と少数派の共和党の議員(防衛協定に署名する必要がある)は、アメリカをサウジアラビアの防衛に関与させることに二の足を踏む可能性が高い。しかしホワイトハウスは、そのような協定がイスラエルとサウジアラビアの国交正常化を巡るものであれば、連邦議会の支持が得られる可能性が高いと推測していた。

2023年9月時点では、それは素晴らしいアイデアだったが、今ではやや理想的過ぎる考えになっている。ガザでの7カ月にわたる残忍な戦争の後に、サウジアラビアがイスラエルとの国交正常化実現に求めている代償は、イスラエル人にとって大き過ぎ、イスラエル人の約3分の2がこの考えに反対している。それだけに基づいて、国防協定のための正常化協定を追求し続ける正当性はない。

しかし、ワシントンの当局者、そして、特にリヤドは、いずれにせよイスラエルをこの協定案から外したがっているはずだ。そうでなければ、アメリカとサウジアラビアの二国間関係に三国間関係の論理を持ち込むことになる。アメリカとエジプトの関係が何かを示すものであるとすれば、それはワシントンとリヤドの関係を深く不利な方向に歪めかねない。

ジョー・バイデン米大統領がサウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン王太子を本質的にペルソナ・ノン・グラータ(好ましからざる人物、persona non grata)であると宣言し、米連邦議会の議員たちがサルマン王太子の人権侵害疑惑の責任を追及するよう要求したのは、ずいぶん昔のことのように思える。

リヤド当局者たちが当時予測していたように、バイデン大統領がサウジアラビアの指導者たちを必要とする時が来るだろう。彼らはそれほど長く待つ必要がなかった。新型コロナウイルス感染拡大後の旅行客の急増とロシアのウクライナ侵攻によるガソリン価格の上昇圧力は、ホワイトハウスに特別な難題を突きつけた。その結果、世界規模のエネルギー価格の高騰はアメリカ経済の健全性を脅かし、ひいてはバイデンの選挙での見通しを脅かした。このためバイデンはリヤドに外交官を派遣し、最終的には2022年7月に自らリヤドを訪問するに至った。サウジアラビア政府高官たちにもっと石油を汲み上げるよう説得し、アメリカ人のガソリン代負担を軽減させ、大統領は低迷する世論調査の数字を少しでも改善することを望んでいた。

そして、エネルギー価格の高騰が部分的に後押ししたインフレと、ヨーロッパにおけるロシアのウクライナ侵攻は、ホワイトハウスの中国に対する厳しいアプローチを背景にしていた。バイデンは政権発足当初から、世界中で北京を出し抜くことを優先課題としていた。最も影響力のあるアラブ国家として、サウジアラビアはその戦略の重要な要素になると期待されていた。

そしてイランの脅威が存在した。ドナルド・トランプ米大統領(当時)が2018年にワシントンを脱退させた核合意である「包括的共同行動計画(Joint Comprehensive Plan of Action)」にテヘランが再加盟するよう、米政府高官たちが政権発足後2年の大半の期間を費やして追い回した結果、バイデンは、イランが実際にはアメリカやペルシャ湾西側の近隣諸国との新たな関係を望んでいないという結論に達したようだ。

結果として、アメリカ政府はイランの封じ込め(containing)と抑止(deterring)を目的とした、地域の安全保障を強化する取り組みに乗り出したが、その取り組みにおいてサウジアラビアが重要な役割を果たすことが期待されている。しかし、核合意と、2019年の自国領土へのイラン攻撃に対するトランプ大統領の反応に消極的だったことを受けて、リヤド当局者らは賢明に振舞った。その結果、彼らは現在、サウジアラビアの安全保障に対するアメリカの取り組みを大枠で規定する、正式な合意を望んでいる。

2017年と2018年に自らが負った傷のせいで、米連邦議事堂内におけるサウジアラビアの不人気が続いており、その結果、かつてはサウド家の忠実な召使であったが、ムハンマド王太子を激しく批判するようになった、ジャーナリストのジャマル・カショギの殺害にまで至ったことを考えると、連邦議会では支持大きいイスラエルが協定を締結するはずだった。しかし、このアイデアはうまく設計されているかもしれないが、サウジアラビアとアメリカとの防衛協定のための、サウジアラビアとイスラエルとの国交正常化は、アメリカとサウジアラビア当局者が最も重要であると信じている関係に、重大な下振れリスクをもたらすことを示している。

アメリカのサウジアラビアへの関与が、サウジのイスラエルとの国交正常化を条件とするならば、その関係、すなわちイスラエルとサウジアラビアの関係の質は、明白な意味でも、そうでない意味でも、ワシントンとリヤドの二国間関係に影響を及ぼす可能性が高い。

エジプトは、このダイナミズムがどのように展開するかを示す典型的な例である。ホスニ・ムバラク前大統領の時代を通じて、とりわけ長期政権末期には、アメリカ・エジプト・イスラエルの三者関係の論理がエジプト政権に対する、破壊的な政治批判をもたらした。ムバラクの敵対勢力、特にムスリム同胞団(Muslim Brotherhood)は、イスラエルのせいで、ワシントンがエジプトをこの地域の二流大国(second-rate power)にしたのだと主張した。

換言すれば、ムバラクと側近たちは、イスラエルが2度にわたってレバノンに侵攻し、ヨルダン川西岸とガザ地区を入植し、イェルサレムを併合するのを傍観していた。そうしなければイスラエルとの関係が危険に晒され、ひいてはイスラエルとの関係が損なわれるからである。そうなれば、エジプトとアメリカとの関係を損なうことになる。その結果、エジプトはイスラエルに直接挑戦するのではなく、国連やその他の国際フォーラムの場でイスラエルに抗議をする、つまり弱者の武器(weapons of the weak)を使うことになった。

2007年頃、エジプトからガザ地区への密輸トンネルの存在が初めて発見されたとき、イスラエルとその支持者たちはワシントンでそれを喧伝した。もちろん、彼らが憤慨するのは当然のことだが、エジプト政府関係者たちは、イスラエルがこの事態を二国間問題として処理せず、ワシントンを巻き込むことを選択したため、エジプトはカイロの軍事支援が危険にさらされることを恐れたと、私的な会話で苦言を呈した。米連邦議会の議員たちも、エジプトの軍事援助を削減し、他の支援にシフトするかどうか公然と議論していた時期だった。エジプトから見れば、特に敏感な時期に密輸トンネルをめぐって批判を浴びせられたことで、エジプトとイスラエルの二国間の問題が、ワシントンとカイロの問題になり、アメリカとエジプト関係に不当に緊張が走ることになった。

サウジアラビアとの安全保障協定を確保する努力にイスラエルを含めることは、既に複雑な二国間関係を更に複雑にすることを求めるだけだ。そのようなことをする価値はほとんどない。もちろん、エジプトとサウジアラビアには多くの違いがある。国境を接していないことから、イスラエルの安全保障上の懸念が、アメリカとエジプトとの関係で見られるような形でアメリカとサウジアラビアとの関係に影響を与えることはないだろう。

それでも、イランを管理するサウジアラビアの微妙なアプローチがイスラエルを怒らせた場合はどうなるのか? エジプトと同様、サウジアラビアは、アメリカの安全保障援助に依存している。イスラエルがサウジアラビア王室の外交政策の進め方を好まなければ、アメリカとサウジアラビアの関係に問題が生じる可能性は現実のものとなる。

バイデン政権がサウジアラビアとの防衛協定を望むなら、締結しよう。協定を結ぶにあたり、十分な根拠があるはずだし、バイデン大統領は懐疑論者を説得できるほど熟練した政治家だ。

※スティーヴン・A・クック:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。外交評議会エニ・エンリコ・マッテイ記念中東・アフリカ研究上級研究員。最新作に『野望の終焉:中東におけるアメリカの過去、現在、将来』は2024年6月に刊行予定。ツイッターアカウント:@stevenacook

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