古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

2024年07月

 古村治彦です。

 アメリカ大統領選挙本選挙投開票日まで100日を切った。アメリカや日本の主要メディアでは、「民主党のカマラ・ハリス副大統領が急速に追い上げている」「共和党のドナルド・トランプ前大統領は、副大統領候補のJ・D・ヴァンス連邦上院議員の失言問題もあり苦戦している」という報道がなされている。それは一面では正しいが、一面では正しくない。

 アメリカ大統領選挙は有権者の投票数の合計ではなく、各州の選挙人獲得数で争われる。各州の選挙人は勝者総取り形式で配分される。例えば、カリフォルニア州でA候補が100万1票、B候補が100万票を獲得した場合には、A候補が54人の選挙人全員を獲得する。

 全米50州と首都ワシントン・コロンビア特別区のうち、40以上は既に結果が見えている。分かっている。民主、共和両党のイメージカラーから、民主党優勢州は「ブルーステイト(Blue State、青い州)、共和党優勢州は「レッドステイト(Red State、赤い州)」」と呼ばれている。40以上の州とワシントンDCはきれいに色分けされている。そして、残りの約10州は激戦州(Battleground State)とか、「パープルステイト(紫の州)」などと呼ばれる。大統領選挙の結果を決めるのはこれらの激戦州だ。今回の選挙では、激戦州(Toss-up)は、以下の地図にあるおうど色の州だ。赤と青はそれぞれ、共和党のトランプと民主党のハリスが「固めた」州と言えるだろう。基礎票はトランプ235対ハリス226となる。ここからスタートとなる。

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 おうど色の州で重要なのは、ペンシルヴァニア州とジョージア州だ。この2州をトランプが制すれば、270となって、選挙人538名の過半数を獲得することになり、大統領に当選ということになる。この2州は、2016年の選挙ではトランプが勝利し、2020年の選挙ではバイデンが勝利した。目まぐるしく勝者が変わる州である。この2州が非常に重要ということになる。トランプ銃撃事件が起きたのが、ペンシルヴァニア州バトラーだったことを考えると、トランプ陣営としては、ペンシルヴァニア州を是が非でも取りたい。ウィスコンシン州やアリゾナ州でも勝利できれば、より盤石な勝利ということになる。

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 ハリス陣営としては、この2つの州を明け渡す訳には行かない。何とかどちらか1つの州を取りたいところだ。ネヴァダ州は2016年も、2020年も民主党が取っているので、ここは激戦州だが大丈夫という計算をしているだろう。アリゾナ州選出のマーク・ケリー連邦上院議員を副大統領候補にすれば、アリゾナ州も民主党が取れる可能性が高まる。しかし、そうなると、大統領候補のハリスがカリフォルニア州出身、副大統領候補のケリーがアリゾナ州出身となって、ロッキー山脈より西の西部に偏り、五大湖周辺州や南部にはなじみがない顔ぶれとなってしまう。やはり重要なのは、五大湖周辺州、ペンシルヴァニア州だ。そして、アフリカ系アメリカ人有権者の多いジョージア州だ。ジョー・バイデンはアフリカ系アメリカ人の政治家やコミュニティリーダーと長年にわたり、深い関係を築いていた。ハリスは、父親がジャマイカからのアフリカ系アメリカ人移民ということで何とかアピールしたいところだ。

 激戦州の戦いでは、現在、トランプがやや有利となっている。各州を細かく見ていくと、アメリカや日本の報道とはまた違う姿が見えてくる。

(終わり)

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 古村治彦です。

 私は、「西側諸国(the West、ジ・ウエスト)」対「それ以外の国々(the Rest、ザ・レスト)」の対立構造が世界を変化させると主張している。グローバルノースとグローバルサウスという分裂もこれに似ているが、地理に関する言葉が入っているため、ロシアや中国といった北半球に位置する国々がグローバルサウスに入っていることに違和感を持つ人がいるだろうと考え、これらの言葉を使う際には気を付けている。しかし、マスメディアでは、グローバルノース対グローバルサウスという言葉が良く使われている。

西潟諸国対それ以外に国々という分裂が明らかになったのがウクライナ戦争だった。ウクライナ戦争が発生し、ロシア非難決議について、強制力を持つ国連安保理決議はロシアが拒否権を持っているので、そもそも可決成立しないことは分かっていた。強制力を持たない国連総会決議では、反対5カ国、棄権35カ国、意思を示さずが12カ国となった。人口比で言えば「賛成15対反対85」ということで、世界の大きな分断が明らかになった。以前であれば、西側・欧米諸国の意向に唯々諾々と従っていた国々が、ある程度自分たちの意向で動けるようになっている。それだけ欧米諸国の力が落ちているということが明らかになっている。

その代表格がBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)であり、G20のうちの、西側諸国のG7加盟諸国以外の13カ国である。この13カ国は、BRICS以外では、アルゼンチン、オーストラリア、インドネシア、メキシコ、韓国、サウジアラビア、トルコである。これらの地域大国・二番手国がこれから重要になってくる。以下の論稿では、

ブラジル、インド、インドネシア、サウジアラビア、南アフリカ、トルコを重要な「どちらにも肩入れしない国々(swing states)」「中規模大国(middle powers)」と規定している。これらの国々は、地域のリーダーとしての役割を果たし、国際政治においても重要な役割を果たしている。トルコとサウジアラビアは中東地域の大国であり、地域の安定において重要な存在である。トルコは東西をつなぐ地理的な位置、ロシアとの関係もあり、ウクライナ戦争において和平の仲介を行おうとしている。ブラジルやインドネシア、南アフリカは資源大国としての存在感を示しているが、工業化を目指している。
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 西側諸国の衰退とそれ以外の国々の台頭は大きな世界の流れである。私たちは、そのことをしっかりと理解して、世界の変動に備えねばならない。日本にとって、最も馬鹿らしいのは、アメリカと心中する覚悟で、中国に突っかかり、戦争をしてしまうことだ。

(貼り付けはじめ)

6つのどちらにも肩入れしない国々が地政学の将来を決定する(6 Swing States Will Decide the Future of Geopolitics

-これらのグローバルサウスの中規模大国がアメリカの政策の焦点となるべきだ。

クリフ・カプチャン筆

2023年6月6日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2023/06/06/geopolitics-global-south-middle-powers-swing-states-india-brazil-turkey-indonesia-saudi-arabia-south-africa/

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2018年7月27日、南アフリカのヨハネスブルグで開催されたBRICS首脳会議で挨拶するロシアのウラジーミル・プーティン大統領、インドのナレンドラ・モディ首相、トルコのレジェップ・タイップ・エルドアン大統領

先月、ウクライナのウォロディミール・ゼレンスキー大統領は異例の形でウクライナを飛び出し、サウジアラビアのジッダと日本の広島でほぼ1週間を過ごした。彼の目標は、ロシアのウクライナ戦争を擁護する4大国であるブラジル、インド、インドネシア、サウジアラビアの支持を獲得することだった。これらおよびその他のグローバルサウス(global south)の主要諸国は今日、かつてないほど大きな力を持っている。彼らが新たに発見した地政学的影響力(geopolitical heft)の理由は、彼らがより多くの主体性(agency)を持ち、地域化(regionalization)の恩恵を受け、そして米中間の緊張を利用できることだ。

今日の中規模大国(middle powers)は、第二次世界大戦後、これまで以上に多くの主体性を持っている。これらの国々は、地政学(geopolitics)において大きな影響力を持っているが、世界の2つの超大国であるアメリカと中国ほど強力ではない。グローバルノースには、フランス、ドイツ、日本、ロシア、韓国などが含まれる。ロシアを除いて、これらの国々は米国と幅広く連携しているため、権力と影響力の変化についてはあまり語られていない。

もっと興味深いのは、ブラジル、インド、インドネシア、サウジアラビア、南アフリカ、トルコというグローバルサウスの主要な中規模大国6カ国だ。グローバルサウスのこれらどちらにも肩入れしない国々(swing states)は、米中どちらの超大国とも完全に連携していないため、自由に新たな権力関係を生み出すことができる。これら6カ国は、G―20のメンバーであり、地政学と地経学(geoeconomics)の両方の面で活発に活動している。これら6つの国は、グローバルサウスにおけるより広範な地政学的傾向を示す、良いバロメーターとしても機能している。

これら6つの国の重要性が高まっている理由は多くあるが、長期的な歴史的発展と、より最近の世界的な傾向という2つの要素に分類できる。最初のバケツに関しては、冷戦(Cold War)以来の発展により、これらの中規模大国は、国際関係においてより多くの主体性を得ることができるようになった。冷戦により、対立するブロックへのより厳格な分離が必要となり、今日のどちらにも肩入れしない国々の一部が取り込まれた。その後のアメリカの一極支配(unipolarity)の時代では、ほぼ全ての国がワシントンに対して一定の忠義(fealty)を示す必要があった。今日の中国とアメリカの二極性(bipolarity)は弱まり、全ての中規模大国はより自由に行動できるようになった。

歴史のバケツの2つ目は次の通りだ。過去20年間、世界は重要な形で脱グローバル化(deglobalizing)し、その結果、地域レヴェルで新たな地政学的・地経済的関係が形成されつつある。その結果、地域レヴェルで新たな地政学的・地理経済的関係が形成されつつある。どちらにも肩入れしない中規模大国は全て、地域のリーダーであり、力が地域に委譲されるにつれて、その重要性は増していく。ニア・ショアリング [near-shoring](サプライチェインを自国の近くに移動させること)やフレンド・ショアリング [friend-shoring](敵対国から志を同じくする国へと移動させること)の過程で、一部の企業や貿易関係は中国から他の地域(主にグローバルサウス)へと徐々に移動している。グローバルサウスの、どちらにも肩入れしない中規模大国のいくつかは、地域貿易のハブとして、更に忙しくようになるだろう。インドがその最たる例で、アメリカ企業の一部は、インドに生産拠点を置き、新たなサプライチェインを構築している。エネルギー市場はより地域的なものになりつつあり、サウジアラビアに利益をもたらしている。同様に、サウジの首都リヤドは地域金融のハブとして台頭しつつある。また、国際通貨基金(International Monetary FundIMF)は、世界は分断化(fragmenting)しつつあり、分断化した世界では地域の中規模大国が論理的により重要な役割を果たすと強調している。

第三に、冷戦時代、インドとインドネシアは植民地支配から脱したばかりだった。そのため、米ソ冷戦二極時代の世界的な役割は限られていた。今日、どちらにも肩入れしない中規模大国6カ国は完全に自立したアクターである。しかし、彼らは、非同盟運動(Non-Aligned Movement)や、G―77やBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)のようなグローバルサウスが支配する他のグループの新しい姿ではない。これらのグループは全て、イデオロギー的な親和性(ideological affinity)を持っているか、あるいは持っている。イデオロギー的な親和性がないため、これらの国家は外交政策において強硬な取引主義的アプローチ(hard-core transactional approach)をとることができ、その結果、国際情勢への影響力を高めている。

どちらにも肩入れしない中規模大国の力を高めるその他の要因は、最近の世界的な傾向から生じている。どちらにも肩入れしない中規模大国の力は、米中関係を明確に特徴づける競争と対立(competition and confrontation)から得られる影響力によって強化される。それぞれの超大国は、どちらにも肩入れしない中規模大国が自国に同調することを望んでおり、どちらにも肩入れしない中規模大国が他方を翻弄する機会を作り出している。例えば、中国のバランスをとるための、アメリカ主導の最も重要な取り組みである日米豪印四極安全保障対話(Quadrilateral Security DialogueQuad)に参加して以来、インドの力と影響力は劇的に増大した。ブラジルとインドネシアは、特にリチウム、ニッケル、アルミニウムといった重要な鉱物資源に関する取引を封じ込めようとする中国の熱意から利益を得ている。最近の調査によると、6カ国は、それぞれ特定の問題で、アメリカや中国に傾斜することはあっても、そのほとんどは比較的バランスの取れた忠誠を保っている。今のところ、6カ国は多くの分野で大国を翻弄する自由を手にしている。半導体(semiconductors)、人工知能(artificial intelligence)、量子技術(quantum technology)、5G通信(5G telecommunications)、バイオテクノロジー(biotechnology)などの基盤技術は唯一の例外である。

同様に、グローバルサウスのどちらにも肩入れしない中規模大国は、経済規模が大きく成長しており、国際的な気候政策の影響力を持っている。これらの国々の参加なしに、汚染や気候への影響による課題を解決することはできない。炭素市場(carbon markets)は、排出量への実際の影響に関係なく、これらの中規模大国に更に資源をもたらすことになるだろう。なぜなら、西側企業はネットゼロの地位を追求する際にオフセットを購入する必要があるからである。より広範に、森林破壊と脱炭素化に関する政策には、森林破壊に関してはブラジルとインドネシア、脱炭素化、特に石炭の利用に関する脱炭素化に関しては主にインドとインドネシアといった激戦州の建設的な参加が必要である。最後に、「ジャスト・エネルギー・トラン十ション・パートナシップス」は、気候変動目標に資金を提供するための創造的な解決策を見つけることに重点を置いており、南アフリカとインドネシアが最初の資金提供先となる。このプログラムの結果は今のところまちまちだが、これは2つの中規模大国が気候政策において指導的役割を担う例である。

どちらにも肩入れしない中規模大国6カ国は、制裁(sanctions)とウクライナ戦争の構図作りにおいて重要な役割を果たしてきた。彼らは当初から、西側諸国によるウクライナへの軍事援助や対ロシア制裁に同調することを拒否してきた。彼らは、この戦争は、ヨーロッパのみに影響を及ぼし、世界の安全保障には影響を与えず、開発(development)、債務削減(debt reduction)、食料安全保障(food security)、エネルギー安全保障(energy security)などの分野における国益を促進するものではないと主張している。

しかし、これらの国々が戦争に与えた最も重要な影響は、西側諸国の対ロシア制裁に反対し、場合によってはそれを弱体化させるというリーダーシップの役割を果たしたことである。トルコは、大量の軍需品のロシアへの輸出に関与しており、西側諸国の制裁の精神に違反し、おそらくはその規定にも違反している国の一つである。こうした活動に対し、アメリカは既にトルコ企業4社に制裁をしている。南アフリカはロシアに傾いているものの、他の中規模大国のほとんどは断固として中立を保っている。6カ国はいずれも、戦争開始以来、ロシアとの貿易その他の関係を維持または強化してきた。

国際通貨基金の予測によれば、ロシア経済の今年の成長率は0.7%で、西側諸国が期待していたような、経済を完全に麻痺させる影響はほとんどない。どちらにも肩入れしない中規模大国が、ロシアが経済制裁の影響を弱め、それを続けるために支援をしている。この数字は、クレムリンが、貿易を南と東に向けることで生計を立てられると信じている理由の一つでもある。

グローバルサウスの中規模大国の影響力が大幅に増していることは、彼らの調停イニシアティヴにも表れている。トルコは、ウクライナ戦争に関して最も影響力のある唯一の対外勢力である。トルコのレジェップ・タイップ・エルドアン大統領は、穀物取引の主要な交渉者であり、戦争開始時の和平交渉にも関与した。ブラジルのルイス・イナシオ・ルラ・ダ・シルヴァ大統領は、自らのイニシティヴで名乗りを上げた。一方、インドはより静かに、将来の和平を仲介する立場にある。これらの国家は現在、他の紛争も調停できる立場にある。この点でのインドの地位は特に高く、2月の時点ですでに国連平和維持活動(U.N. peacekeepers)の8%を担っているからだ。インドネシアや南アフリカも調停役や平和維持要員として活躍している。

最後に、これらの国々に見られる科学や工学の専門知識は、将来の核拡散リスクを高めている。仮に次に核兵器が拡散するとすれば、それはグローバルサウスの国々である可能性が高い。近い将来、特にサウジアラビアとの和解が実現した後は、その可能性は低いものの、イランは依然として世界で最も危険な核拡散リスクである。イランが潜在的な核保有国になるには、技術的にあと数歩のところまで来ている。リヤドとの関係が急激に崩壊し、テヘランがダッシュで爆弾製造に乗り出すというシナリオでは、サウジやおそらくトルコも爆弾(核兵器)を求める可能性がある。サウジアラビアがイスラエルとの国交樹立と引き換えに、アメリカに核保証を要求したとされるのはそのためである。

西側支配に対抗する主役として、BRICS諸国が注目されることは、グローバルサウスの興味深い点の多くを見えにくくしている。なぜなら、BRICSに中国とロシアが加わることで、どちらにも肩入れしない中規模大国の重要な台頭が覆い隠されてしまうからだ。

中国とロシアが拡大したBRICSを、そしてBRICSを通じてグローバルサウスを共同支配することは、対処すべき真の脅威である。

中国は今日、二極化した世界における2つの大国のうちの1つである。中国をグローバルサウスの一員と考えるのは大げさだが、それは中国の経済力と広範な地政学的野心が、中国を異なるタイプの国家にしているからである。ロシアは中規模大国だが、衰退しつつある。ロシアはまた、世界へのアプローチにおいて高度修正主義的(hyper-revisionist)であり、これは、グローバルサウスのどちらにも肩入れしない中規模大国にはない見方である。そのため、地政学的に最も活発なBRICSの2カ国の政策は、どちらにも肩入れしない中規模大国とは異なる論理で説明する必要がある。

しかしながら、BRICS諸国が中国の指導の下、グローバルサウスを代表すると主張する、より正式な機関になるのかどうかという疑問は残る。特に、他の19カ国がすでにBRICSへの加盟に関心を示していることを考えれば、この見通しは西側諸国に対する明確な挑戦ということになる。しかし、その脅威が現実のものとなる可能性は低い。インドはBRICSの有力国であり、BRICSを共同支配しようとする中国の動きに断固として反対するだろう。サウジアラビア、ブラジル、トルコ(NATO加盟国)、インド、そして南アフリカでさえも、安全保障や貿易の面で、アメリカやその他の主要な西側諸国と重要な関係を保っている。これらの国々は、アメリカから離れているかもしれないが、それは中国が主導し、ロシアが支援する、アメリカに積極的に反対する組織に参加することとは異なる。現在のところ、BRICSは共通のアジェンダを策定し、実施する能力を示していないため、中国が共闘するための組織的な力はほとんどない。最後に、BRICSはコンセンサスに基づいて運営されている。独自の利害を持つ新メンバーが加わる可能性が高いため、コンセンサスを得るのはさらに難しくなるだろう。

これら6つのどちらにも肩入れしない中規模が注目すべき大国であるという考えに同意しない人もいるかもしれない。これらはいずれもまだ新興市場(emerging markets)であり、近年は世界経済のその部分にとっては好ましい状況ではない。インドを除いて、どちらにも肩入れしない中規模大国の成長率は予想を下回っている。このグループは法の支配(rule of law)を支える制度の発展が遅れている。AIを含む技術革命は、先進工業民主政体諸国(advanced industrialized democracies)よりもグローバルサウスに大きな打撃を与えるだろう。前者は生成型AIの政治的に危険な影響に対抗するためのリソースが少ないからだ。そして、気候目標によって激戦州に影響力が与えられるとしても、気候関連の影響はこれらの国々の一部に重大な損害と苦痛を与えることになる。

しかし全体として、これらの勢力は地政学的にますます強力になっており、今後もさらに強力になるだろうという主張は依然として強い。彼らは最も強力な世界的トレンドの一部から影響力を引き出すことができ、彼らの新たな力はすでに明確に現れている。

最も重要な政策的意味は、世界の力の均衡における、アメリカの地位の大幅な弱体化を防ぐために、ワシントンは、6つのどちらにも肩入れしない中規模大国に対するゲームをアップする必要があるということである。ロシア・ウクライナ戦争や中国との競争において、どちらにも肩入れしない中規模大国がアメリカの後ろ盾になることを拒否しているため、これらの主要国の多くは既に離れつつある。拡大したBRICS、そしてそれを通じたグローバルサウスと中露両国が共闘するという脅威は現実であり、それに対処する必要がある。

ワシントンは、主要6カ国それぞれに対してだけでなく、より広くグローバルサウスに対して、練り上げられた外交戦略を持つ必要がある。先日のG7にどちらにも肩入れしない中規模大国の大半を招待したことは有益なスタートであったが、もっと多くのことが必要となる。より良い戦略は、アメリカの主要外交官によるハイレヴェルの訪問を増やすことから始まるだろう。政策の改善には、アメリカ市場へのアクセスという難題を解決する、より機敏な貿易戦略も含まれる。より広く言えば、アメリカは、アメリカの重要な政策決定に対する、6つのどちらにも肩入れしない中規模大国とグローバルサウスの反応をよりよく予測できるようになる必要がある。例えば、ロシアの戦争に対する西側の政策がグローバルサウスに疎外感(alienation)をもたらした度合いは、ワシントンを驚かせた。2022年2月の侵攻開始以来、アメリカは、追いつ追われつを繰り返している。このような予測能力を持つには、グローバルサウスの多くの国々における感情やエリートの信条をよりよく理解する必要がある。

第二に、米中間の緊張が劇的に高まり、冷戦型の対立に発展した場合、どちらにも肩入れしない中規模大国、更には全ての中堅国の力と影響力は打撃を受けるだろう。デカップリング(decoupling)は拡大し、どちらにも肩入れしない中規模大国はどちらか一方により接近せざるを得なくなるだろう。

最後に、どちらにも肩入れしない中規模大国の台頭により、地政学的な結果に対して影響力を持つ国が世界に増えた。こうした国々の間では、自国の国益を集中的に追求する以上の明確な行動パターンは見られない。地政学上のあらゆる問題で、より多くのドライヴァーが存在するようになった。そのため、ただでさえ困難な地政学的結果の予測がさらに難しくなっている。

※クリフ・カプチャン:ユーラシア・グループ会長。

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(終わり)

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 古村治彦です。

 2024年7月24日夜、ジョー・バイデン大統領は選挙戦からの撤退を表明する演説を行った。具体的な撤退理由は述べなかった。もし、健康に不安がある、認知機能に不安があるということになれば、「それならば大統領職を務めることができないだろうから、辞職して、カマラ・ハリス副大統領に大統領職を譲れ。そもそも、自分は元気だ、大丈夫だと散々言って選挙戦を続けてきたのは嘘をついていたということになるではないか」という批判が出てくるということも考えられる。
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 バイデンの演説の後半は、自分の業績と残りの人気でやりたいことを述べていたが、去ることが確定の大統領は、「レイムダック」と呼ばれ、力は落ちる。これ以上、バイデンのために無理をして尽力しようという人は出てこなくなる。自分の次の仕事の求職活動にいそしむという人も出てくる。その点は院政を敷くこともなく、ドライでシビアというのはアメリカらしくて良いところだ。

 バイデンは選挙戦からの撤退の理由を次のように述べている。「自分のこれまでの大統領としての業績、世界における自分の指導力、アメリカの未来に対する自分のヴィジョンは、いずれも私が2期目を目指すにふさわしい材料だった。しかしながら、絶対に、絶対に、どんなことも、私たちの民主政治体制を守ることを妨げてはならない。個人の野心もそこに含まれる。従って、前に進むための最善の道は、トーチを新しい世代に引き継ぐことだと私は決断した。この国を団結させる最善の方法だ。長年の公職経験が役にたつ時と場所があるのと同様、新しくフレッシュな声、より若い声が役にたつ時と場所がある。そしてその時と場所は、まさに今だ」。自分は大統領として2期目を務めるのにふさわしいと述べながら、「民主政治体制を守る」ために「若い人にバトンを渡すこと、若い声を聞くことが必要」だと述べている。

これでは、バイデン自身が2期目を目指すことが民主政治体制を守ることの邪魔なのだということを認めているようなものだ。それならば、どうして、バイデンが二期目を目指すことが民主政治体制を守ることの邪魔になるのか、ということを述べねばならない。しかし、そこまで追い詰めると、民主党内部やバイデン・ハリス陣営に亀裂を生じさせることになる。だから、ふわっとした、聞こえの良い言葉「民主政治体制を守る」を使ったということになる。更に言えば、「自分ではドナルド・トランプには勝てない」ということをはっきり述べることができないので、このような言葉遣いになった。

 バイデン引きずりおろしには、民主党エリート層、エスタブリッシュメント派が総出で加わり、かなりの圧力をかけたようだ。連邦議員たちは自分たちの選挙が危ない、民主党の選挙の顔である大統領候補がバイデンは自分たちが危ないということになって引きずりおろしに狂奔した、民主党は今年2月から始まった予備選挙の結果を無視している。これまでの選挙で誰一人として、「カマラ・ハリス」と書いた人はいないのだ。民主党は、非民主的な方法で現職大統領ジョー・バイデンを選挙戦から撤退させ、カマラ・ハリス副大統領を、政治家たちの支持で作り出した雰囲気だけで大統領候補に祀り上げた。これは一種のクーデターである。良識ある民主党員ならば、民主党大会でそのことについて言及し、民主的な手続きを求め、全国委員会の責任を追及しなければならない。そのために、反エスタブリッシュメント派の諸グループが民主党全国大会の会場であるシカゴでデモを行うという計画も話し合われているということだ。

 民主党大会前に大統領選挙候補、副大統領候補を決めるという動きにもなっている。全国大会が平穏に終わるかどうかが注目される。

(貼り付けはじめ)

バイデン大統領が大統領執務室で演説を行い民主党を団結させるために辞任したと発言(Biden in Oval Office speech says he dropped out to unite Democrats

アレックス・ガンギターノ筆

2024年7月24日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/administration/4791617-joe-biden-democrats-unite-kamala-harris/

ジョー・バイデン大統領は大統領執務室での演説で、数週間にわたる党内の混乱と退陣への圧力の高まりを経て、民主党を結束させる方法が明らかになったため、再選への挑戦を中止する決断を下したと述べた。

バイデン大統領は、再び出馬することについて考えを変えることができるのは、より高い権力以外に何もないと断言した。しかし、特に連邦議会指導部から、撤退するか、さもなければ民主党が11月に連邦上下両院を失う危険を冒すよう懇願した後、バイデンは最終的に妥協した。

バイデンは「ここ数週間で、この重要な取り組みにおいて私の党を団結させる必要があることが明確になった」と述べた。

バイデンは「何ものも、何物も私たちの民主主義を救うのを妨げるものはない。それには個人的な野心も含まれる。そこで私は、今後の最善の方法は、新しい世代にトーチを引き継ぐ(pass the torch)ことだと明らかになった。それが我が国を団結させる最善の方法だ」と付け加えた。

「国家の大義(cause)は私たちの誰よりも大きい」とバイデンは述べた。

大統領執務室には、ジル・バイデン大統領夫人、子供たち、自分の子供たちの配偶者と子供たち、長年の政治顧問たちのほか、ホワイトハウスの職員も同席した。

バイデンは、ハリス副大統領への支持を表明しており、民主党はハリス副大統領のおかげでエネルギーが活性化され、トランプ前大統領を破る可能性が高まる可能性があると主張している。同行記者たちによると、ハリスはテキサス州ヒューストンからバイデンの演説を観戦した。

日曜日にソーシャルメディアに投稿した書簡の中で、バイデンは立候補ソを取り下げると発表した。この発言は、オバマ前大統領やナンシー・ペロシ元連邦下院議長(カリフォルニア州選出、民主党)など、最も注目を集めている民主党議員の何人かが、トランプ大統領に勝利する可能性が消えつつあることをバイデンに説得しようとしたとの報道を受けてのものだった。

バイデンは演説の中で「公的生活における長年の経験には時と場所がある。新しい声、新鮮な声のための時間と場所もある。そう、若い声です。そしてその時は今だ」と述べた。

バイデンの撤退を求める声は、6月下旬の討論会のパフォーマンスが酷かったことを受けて起きたもので、その最中、81歳のバイデンは考えをまとめるのに苦労し、低くガラガラの声で話していた。彼は、撤退するまで3週間かけて選挙戦に残り、選挙運動を続けると主張した。

バイデン大統領は演説の中で、2020年にトランプ大統領を破った後、政権の継続的なテーマである民主政治体制の維持(preserving democracy)を訴えた。

「この瞬間、私たちは意見の合わない人たちを敵としてではなく、友人、同じアメリカ人として見ることができる。それができるだろうか? 公の場での人格は依然として重要だろうか?」とバイデンは述べた。

バイデンは、オフィスに飾っているベンジャミン・フランクリンの言葉に言及し、建国の父たちはアメリカに「共和国が維持できるのか?」という言葉を与えたと述べた。

バイデンは「私たちが私たちの共和国を維持できるかどうかは、今や皆さんの手にかかっている」と言った。

バイデンは続けて「歴史はあなたの手の中にあり、権力もあなたの手の中にある。アメリカの理念は皆さんの手中にある」と述べた。

バイデンは大統領職を辞任せず、今後6カ月間任期を全うするつもりであることを明らかにした。

バイデン大統領は、ガザ地区におけるイスラエル・ハマス紛争の終結、最高裁判所の改革、性と生殖の権利のための取り組みの継続、癌ムーンショット構想など、1月に退任するまでの計画を概説した。

また、ハリスを「経験豊富」「タフ」「有能」と称賛した。バイデン大統領は、トランプ大統領の名前を決して言及しなかった。

加えて、バイデンは、50年間の政府勤務について感謝の意を表した。

バイデンは、「ペンシルヴァニア州スクラントンやデラウェア州クレイモントでささやかに生まれながら吃音を抱えた子供が、ある日大統領執務室の毅然としたデスクの後ろに座ることは地球上のどこにもない。私は他の多くの人たちと同じように、自分の心と魂をこの国のために捧げてきた。私が皆さんにどれだけ感謝しているか、少しでも分かっていただければ幸いだ」と述べた。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる
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 古村治彦です。

 2024年7月4日のイギリスの総選挙で、労働党が地滑り的な勝利を収め、キア・スターマー党首が首相となった。イギリスの総選挙は、労働党の勝利というよりも、保守党の自滅という面が強い。度重なるスキャンダルにインフレ対策の失敗といった面で国民から愛想をつかされた。また、保革二大政党制であったイギリスでも第三党が存在感を増しており、そのために、二大政党の得票率が大きく下がっている。全体で見れば、労働党は前回選挙と得票率は変わらなかったが、保守党はほぼ半減となり、自由民主党、スコットランド国民党、リフォームUKといった諸政党が存在感を増す結果となった。

 イギリスの労働党の勝利を、進歩主義派・左派・リベラル勢力(社会民主勢力)と位置づけ、世界各国のこうした勢力にとっての勝利のモデルとなるというのが下の論稿の著者の主張である。私は、労働党が勝利したというよりも、保守党が勝手に躓いたという考えであるので、世界的に通じるモデルケースになるとは考えていない。論稿の著者は各国の左派勢力に対する教訓を次のように述べている。

(貼り付けはじめ)

「まず、文化戦争の問題は、ほとんどの有権者にとって中心的な動機ではない。あらゆる主要な文化戦争問題に関して、労働党は保守党ほど人気のない立場にある。しかし、住宅ローン金利が2%から5%に上昇すると、「問題は経済なんだよ、愚か者」ということになる。進歩主義者はポピュリスト右派の非難を恐れる必要はない。有権者はより賢明な答えを必要としている。

第二に、ルール違反や汚職とみなされる行為は有権者にとって強力な動機となり、世界各国での世論調査がこれを証明している。進歩主義派は、利益相反、企業ロビー活動、世界の世界都市の最高級不動産の海外の国富を横領している政治家たちによる買い占め、そして政治的支配によって存在する新興独占企業への対処に対して、より強力な路線を必要としている。そうすることでポピュリスト右翼に真っ向から対抗することになる。

第三に、左翼のオンライン空間におけるアイデンティティ政治の優位性は、この形態の政治に対する国民の理解や関心と一致していない。階級は理解されるが、交差性は理解されない。階級は、様々な場所の進歩主義者にとって最も重要な境界線である場合もあれば、そうでない場合もある。しかし、進歩主義者が勝つためには、上流・中産階級以外の出身で、幻滅し取り残されたと感じている人々の心に響く、生きた経験を持つメッセンジャーが必要だ。つまり、アメリカの民主党にはアンジェラ・レイナーが必要なのである」

(貼り付け終わり)

 教訓としては、経済問題を重視すること(特に人々の生活に関連する)、腐敗やルール違反に対する断固とした態度、中流階級より下の階級出身者へのアピールができる個人的体験を持つ政治家の出現ということになる。日本で考えれば、立憲民主党に対する教区員ということになるが、物価高や国民負担率の増大への対処のための効果的な政策を訴えること、自民党の裏金問題に端を発する現在の与党への不信感の受け皿になることということは考えられやすい。立憲民主党の執行部や幹部の政治家たちに若い人は少なく、また、キア・スターマーやアンジェラ・レイナーのようなタイプはいない。頭が良くて人生の苦労をあまりしていないようなエリートタイプが揃っている。この点が、立憲民主党にとって、これから改善し、アピールしていくポイントということになるだろう。しかし、イギリス労働党の勝利がそのまま世界的な左派リベラル派の躍進の流れにつながるということはないだろうと私は考えている。

(貼り付けはじめ)

世界の左派にとってイギリス労働党の勝利が意味すること(What a U.K. Labour Win Means for the Global Left

-キア・スターマーの勝利はイギリスのイメージを大きく返るだろう。そして、世界中の社会民主主義者を元気づける可能性がある。

マイク・ハリス筆

2024年7月2日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/07/02/uk-election-labour-keir-starmer-sunak-class-supermajority-social-democracy-global-left/
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2022年9月24日、リヴァプールでの遊説の後に支持者たちを写真を撮るキア・スターマー労働党党首

私は世間話が苦手なので、大きな話をしたい。2022年後半、私はキア・スターマーと数人のアドバイザーたちとの個人的な会合の際に次のように言った。「あなたはおそらく、地球上のあらゆる議会の中で、最大多数を占める社会民主主義の指導者になるだろう。どんな感じか?」

スターマー氏の側近たちは苛立ちの表情を浮かべた。一方、イギリスの次期首相になる可能性が高かったスターマーは一瞬話を止めて、話題を逸らそうとした。そして、「何事も当然だと思ってはいけない(We can’t take anything for granted)」と語った。労働党の総選挙キャンペーンの非公式のモットーとなっていた。

しかし、スターマーは選挙での大成功に戸惑っているにもかかわらず(彼は本当に謙虚な人物だ)、75日の朝にはスターマーが世界の社会民主主義のスーパーヒーローとして目覚める可能性が高い。議会を持つ主要経済国の唯一の中道左派指導者となる。超多数派(supermajority)を獲得し、世界中の進歩主義者たちにとって大きな希望だ。

歴史的に間違いなく地球上で最も成功した政党である与党保守党は、現在選挙で忘却に直面している。2019年、ボリス・ジョンソンは労働党の中心地、いわゆる赤い壁(red wall)を破壊した。当時の指導者ジェレミー・コービンが政治的過激主義(political extremism)のサイレン音を受け入れた後、労働党はその基盤から切り離され、脱産業化の中心地で崩壊した。コービンは、バトル・オブ・ブリテンの記念式典での国歌斉唱を拒否し、党を財政逼迫の状況に追い込み、金融資産を持つ者たちを怖がらせた。

労働党は赤い壁を取り戻すだけでなく、ロンドンを取り囲む裕福なロンドン通勤者地区や、昔から保守に投票してきた田舎の選挙区など、青い壁(blue wall)で守られてきた、保守の堅固な議席を獲得し、進歩主義者の夢を実現しようとしている。例えば、イースト・ワーシング・アンド・ショアハムは、1780年に初めて保守党が議席を獲得し、それ以来一貫して保守党が支持を受ける選挙区の1つである。世論調査では、労働党がこの議席を獲得する勢いだ。

イギリスで起きていることは、控えめに言っても中道左派政党にとっては異例な現象だ。労働党はイギリス下院の全議席の70%を獲得する可能性があり、この勝利は1997年のトニー・ブレア元労働党党首・首相の選挙での勝利をも上回る可能性があり、あらゆる国の進歩主義派に教訓を与えることになる。政治的に支配的なスターマーは、高い不支持率に直面し統治課題の追求に苦戦しているフランスとドイツのエマニュエル・マクロンとオラフ・ショルツとは対照的に、完全な政治支配を行うリーダーとしてG7に出席することになるだろう。

イギリスでの労働党の勝利は、3つの主要な点で重要となるだろう。それは、進歩主義派が国政選挙でどのように勝利できるかを再検討し、社会民主党が達成できる最高水準を設定することになる。それは、勝利そのものよりも重要になる可能性のある、新しく予想外の方法でイギリスの政治を再構築するだろう。そしてそれは、イギリスに対する外部の認識を一変させ、イギリスとその将来に対する国際的な見方をリセットするだろう。

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ロンドンのダウニング街でボリス・ジョンソン首相の辞任を求めるプラカードを掲げるデモ参加者(2022年4月13日)

イギリスの政治階級がアメリカの政治階級に対して、病的なほどに執着を抱いているにもかかわらず、アメリカの民主党は池の向こう側を見て、労働党の成功から教訓を得るべき時なのかもしれない。

スターマーの成功の一部は、オーストラリア労働党がそうであったように、文化戦争問題(culture war issues)でオメルタ(omertà、神聖なる誓い)を立てたことである。それらの諸問題には、トランスジェンダーの権利、イギリスの植民地支配の過去、移民などが含まれ、イギリスの右派が利用しようとしてきた問題だ。元人権派弁護士であるスターマーは、論争の的となったルワンダからの強制送還計画を廃止することを約束したが、それはより広範な道徳的声明としてではなく、現実的な理由によるものだった。より広い移民問題に関しても、党は非常に慎重な姿勢で臨んでいる。これは確かに勇敢ではないが、うまくいっている。今回の選挙で文化戦争に火をつけようとしたあらゆる試みがあったが、労働党はそれらの争点について、焦点を絞ったままでうまく対応した。

保守党は文化戦争を引き起こそうとしてきているが、イギリスの有権者たちにとってより顕著なのは、力を持った保守党の汚職と規則違反の認識であり、選挙日を賭けるために、インサイダー情報を利用したという、選挙によって選出された政府職員たちが関与する現在のスキャンダルで人々の怒りは頂点に達した。

新型コロナウイルス感染症のパンデミック中に国民保健サーヴィス(National Health ServiceNHS)向けの保護用具の優先契約を含むスキャンダルや、そこでは驚くべき40億ポンド(50億ドル)相当の欠陥のある機器が調達された(一部は与党とつながりのある企業からのものとされている)スキャンダルなどが起きた。その後、ジョンソンとリシ・スナック現首相が新型コロナウイルス時代の法律違反で警察から罰金を科せられた「パーティーゲート(Partygate)」が登場した。同じく元首相デイヴィッド・キャメロンが関与したロビー活動スキャンダルも国民の大きな怒りを引き起こした。エリートのルール破りは、終わりのない文化戦争とは異なり、有権者の怒りに火をつけた。

並行して、労働党はコービン党首下のアイデンティティ政治の一形態(a form of identity politics)から、階級について非常に積極的な立場(a very proactive position on class)へと方向転換した。スターマーは自身の貧しい生い立ちをイギリスの選挙戦の表舞台に据え、イギリス社会の「階級の天井(class ceiling)」について誠実に語った。スターマーが純資産8億2200万ドルで、民主政治体制国家の指導者の中で最も裕福な指導者となっているスナクと争っていることから、これは特に有権者の共鳴を得ている。

スター魔の定番の演説は次のようなものだ。

「父は工場で工具製造者として働き、母は看護師だった。私たちが育った頃は何もなかった。現在の何百万もの労働者階級の子供たちと同じように、私も生活費の危機(cost-of-living crisis)の中で育った。カーペットがボロボロで窓がひび割れていて、友人たちを家に連れて帰るのが恥ずかしい気持ち、私にはよく分かる。実際のところは、私がサッカーボールを室内で蹴ったのでそのようなことになったので、責任は私にあるのだが」。

このように階級を重視するのは、現代イギリス政治においては異例なことだ。実際、最近の労働党指導者たち、ブレアからゴードン・ブラウン、エド・ミリバンド、コービンに至るまで、様々な点でイギリス労働者階級の部外者だった。ブレアとコービンは比較的裕福な(そして私立学校教育を受けた)生い立ちで、ブラウンとミリバンドは中産階級出身だった。 -階級的背景、そして部分的には、ミリバンドの父親はこの国で最も著名なマルクス主義学者の一人だった。保守党にとって、食料品店の娘だった首相の時代はとうの昔に過ぎ去った。キャメロンとジョンソンは、2年違いで同じエリート私立学校 (イートン校) に通っていた。それだけではない。彼らは同じ大学(オックスフォード大学)に通い、同じプライベート・ダイニング・クラブ [private dining club](最も特権的な人々のための)のメンバーだった。

スターマーは階級政治(class politics)を重視しており、それがうまく機能している。ほとんどの商品やサーヴィス(20%)に適用されるのと同じ付加価値税を私立学校の授業料に課すという約束は、子供を私立学校に通わせている、イギリスの親の6%である非常に裕福な人々からの怒りの爆発につながった。 スターマーにとって有利なことは、私立学校で教育を受けた人たちは保守派に投票する傾向があることが多い。一方、私立学校の税収を州立学校の94%の子供たちの教育に投資するという労働党の公約は、一般の有権者からの支持を集めている。

この階級重視の取り組みにより、他国では右派や極右に囚われてしまった有権者のグループを取り戻した。労働党は現在、得票率の38~42%で労働者階級の有権者の間でリードしており、保守党の22~24%とは対照的である。学歴が最も低い層については、50歳以上を除く全ての年齢カテゴリーで労働党がリードしている。

労働党とイギリス労働者階級との再関与を推進した立役者の1人が、副首相就任を目前に控えているアンジェラ・レイナーだ。レイナーは労働者階級出身であり、16歳で母親になり、37歳で祖母になった。自分の意見にとらわれず、強いお酒を好んで悪びれることのない喫煙者である彼女は、労働組合運動を通じて急速に手腕を発揮し、名前を上げていった。労働党の下院議員選挙候補者になるまで介護施設で働いていた。ライナーの物語は、優れた人々を議会政治に昇格させる方法についての教訓だ。彼女の成功は彼女自身のものだが、組合が彼女を育て、組合員は彼女を副リーダーとして支持した。彼女には真のスターとしての力があり、アメリカの民主党支配層の上層部には彼女のような人は事実上存在しない。

驚くべきことに、階級の側面はイングランドの中間階級を疎外していないように見える。幻滅した郊外派(surbubanites)や中道リベラル派(centrist liberals)は、ますます急進的で機能不全に陥っているように見える保守党によって切り捨てられてきた。スターマーの元首席検察官としての経歴と、正式には「サー・キアー」と呼ばれるナイト爵位は、保守党がポピュリスト右派の主張を悪びれることなく受け入れ、その支持を高めているのと同じように、スターマーに幅広い魅力を与えている。

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2022年10月24日、保守党党首選の勝者として発表され、レベッカ・パウ議員と同僚たちに迎えられるリシ・スナック(中央、右)

労働党の成功の一部は、保守党政権のここ数年間に起こった組織的な集団的混乱によるものである。保守党は2010年以来、5人の首相を国民に推挙してきたが、そのうち4人は国民全体ではなく、白人が大半を占める約17万人の男性党員によって選出された。経済成長は貧弱だ。イギリスだけでもNHSの待機リストには800万人近くの人がいる(この国では民間医療の利用は一般的ではない)。そして、刑務所や地方自治体を含む不可欠な公共サーヴィスはシステム失敗の危機に瀕している。

しかし、より根本的な変化が起こっている可能性を示す兆候は存在する。 65歳以上を除く全ての年齢層で労働党がリードしている。就労していれば、労働党に投票する可能性が高くなる。45歳未満の有権者の45%は労働党に投票する可能性が高いが、保守党を支持しているのは10人のうち1人に過ぎない。今回の選挙ではミレニアル世代がイギリス最大の投票層となる。彼らの主要な問題には、壊滅的な気候変動を防ぐ政策(イギリスの政治的スペクトル全体でよく支持されている)、住宅の建設、交通網の改善(特に自家用車を所有していない都市部のミレニアル世代の多く)、および家族寄りの政策が含まれる。これら全てが今回の選挙に影響を及ぼした。

西側諸国の高齢の住宅所有者たちは、ミレニアル世代向けの新築住宅の建設に反対することで、潜在的には世界最大のカルテル(the world’s largest cartel)を運営することに成功している。労働党は、現在持続可能な開発を妨げている計画規制を大幅に緩和することで、イギリスにおけるこうした状況に終止符を打つことに尽力している。

労働は勤労者への課税を排除しているが、不労所得(unearned income)についてはそのような公約はなされていないため、キャピタルゲイン税(capital gains taxes)の引き上げと、地主層を含む大富豪向けの抜け穴を減らすことで税制のバランスを再調整するのではないかという憶測が広がっている。農地は世代間で、非課税で引き継がれる。労働者には地主に対する愛情も無い。ロンドンの不動産市場が世界中の、国富を横領する政治家たち(kleptocrats)による投機的投資によって膨張してきた約20年を経て、外国人による不動産所有に対する新たな制限や新たな税金を求める国民の欲求が高まっている。

労働党はまた、テクノクラート的な実証主義者のエリート(technocratic positivist elite)で囲まれている。このグループには、スターマーの側近と緊密に連携する野心的な知的シンクタンクである「レイバー・トゥゲザー(Labour Together)」と、生命科学と人工知能における国の比較優位に沿ったテクノ未来主義を受け入れているトニー・ブレア研究所(Tony Blair Institute)が含まれる。スターマー政権の下での公共部門改革は、例えばNHSのデータの宝庫(7000万人分)を医療分野の革新を推進するために利用する可能性を想像すれば、重要なものとなる可能性がある。

労働党が未来に焦点を当てているのとはまったく対照的に、高齢化する右派有権者層は現在、保守党と、民間企業、政党、そしてナイジェル・ファラージの個人的なプラットフォームを組み合わせたような手段である、リフォームUKに二分されている。ファラージは、ドナルド・トランプがイギリスの高級な舞台小道具小道具として持ち出した、EU離脱支持(pro-Brexit、プロ・ブレグジット)の政治家とし闊歩している。イギリス議会保守党は既に右傾化している。保守党の議員たちはヨーロッパ人権条約を非難する複数の声明を出しているが、この中の1つの文書は、保守党議員でニュルンベルクのナチス検察官を務めた、デイヴィッド・マクスウェル=ファイフが共同起草した文書だ。この文書は、ウィンストン・チャーチル首相の戦後ヨーロッパに対するヴィジョンに触発された内容となっている。

一方、保守党議員の一部は既に、このほぼ確実な敗北を、党がポピュリスト的右派に十分に軸足を移していなかった証拠としようとしている。右派が分裂したことで、物議を醸すファラージの保守党入りが現実味を帯びてきており、労働党はこの見通しに歓喜している。言うまでもなく、保守党の次期党首が穏健派になる可能性は低い。党が右傾化すれば、ファラージ主義の器(essel for Faragism)となり、トランプ運動の弱いイギリス版となる日も近いかもしれない。

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2022年8月17日、党首選に先立ち、北アイルランドのベルファストで、保守党の候補者スナク(左)とリズ・トラス(右)を描いた壁画の仕上げを行うアーティストのキアラン・ギャラガー

最後に、大きな動き(vibes)がある。英国政治の進歩主義的な描き直しは、イギリスをめぐる物語を変えるだろう。国民の物語は一瞬にして反転する可能性がある。バラク・オバマからドナルド・トランプに至るまで、あるいは中国経済の優位性の思い込みが、習近平国家主席の下での縮小と衰退の感覚に至るまでの、外国人のアメリカに対する認識を考えてみよう。最近の記憶では、イギリスは大西洋中部のどこかに停泊している、かなり安定した政治的に鈍い島だと思われていた。EU離脱、ボリス・ジョンソン、そしてリズ・トラスがそれに終止符を打った。認識されている実際の混乱と反乱を引き起こす右派から進歩主義的な超多数派への移行により、態度は再び変化する可能性がある。

この大きな変化は、英国経済にとって特に重要だ。イギリスは伝統的な大国ではなくなったかもしれないが、依然として国際的にその地位を大きく上回る文化的地位を保っている。イギリスの GDPの6%は、イギリス音楽の成功からプレミアリーグ、急成長する映画やテレビ産業、ファッション、芸術に至るまで、クリエイティブ産業によるものだ。これはドイツの水準の2倍であり、ドイツの自動車生産のドイツ経済全体の貢献(4.5%)よりも大きい。雰囲気(vibes)を売りにし、創造性の輸出に依存しているこの国にとって、ブレグジット(Brexit)と孤立(isolation)は大きなダメージとなっている。

今では忘れ去られて久しいが、1997年から2008年の金融危機までの最後の労働党政権の間、英国はG7の中で最も急速に成長し、クリントンやブッシュ時代のアメリカを上回る経済成長を遂げた。現在停滞している国の経済を考慮すると、次の議会は更に困難になるだろうが、高度にオープンな社会においては、消費者の信頼感と投資家の信頼感の役割を過小評価することはできない。

2019年の総選挙で労働党が歴史的な敗北を喫した後、本誌に掲載した記事の中で、私は次のように書いた。「急進左翼主義(radical leftism)は、政党として服用すれば、翌朝には元に戻るような薬ではない」。私は選挙については正しかったが、翌朝については間違っていた。

労働党がわずか5年で歴史的敗北を歴史的勝利に変えるとは誰も予想していなかった。保守党が直面した状況は異常だったが、スターマーは厳格な党運営、イデオロギーではなく有権者重視、階級に基づく政治の散りばめが社会民主主義政治を活性化できることを示した。

これは他の中道左派政党にとってどのような教訓となるだろうか?

まず、文化戦争の問題は、ほとんどの有権者にとって中心的な動機ではない。あらゆる主要な文化戦争問題に関して、労働党は保守党ほど人気のない立場にある。しかし、住宅ローン金利が2%から5%に上昇すると、「問題は経済なんだよ、愚か者」ということになる。進歩主義者はポピュリスト右派の非難を恐れる必要はない。有権者はより賢明な答えを必要としている。

第二に、ルール違反や汚職とみなされる行為は有権者にとって強力な動機となり、世界各国での世論調査がこれを証明している。進歩主義派は、利益相反、企業ロビー活動、世界の世界都市の最高級不動産の海外の国富を横領している政治家たちによる買い占め、そして政治的支配によって存在する新興独占企業への対処に対して、より強力な路線を必要としている。そうすることでポピュリスト右翼に真っ向から対抗することになる。

第三に、左翼のオンライン空間におけるアイデンティティ政治の優位性は、この形態の政治に対する国民の理解や関心と一致していない。階級は理解されるが、交差性は理解されない。階級は、様々な場所の進歩主義者にとって最も重要な境界線である場合もあれば、そうでない場合もある。しかし、進歩主義者が勝つためには、上流中産階級以外の出身で、幻滅し取り残されたと感じている人々の心に響く、生きた経験を持つメッセンジャーが必要だ。つまり、アメリカの民主党にはアンジェラ・レイナーが必要なのである。

最も重要なことは、社会民主勢力には一度政権を握ると時間的余裕がないということだ。インフラの崩壊、公共サーヴィスの機能不全、生活水準の低下、住宅不足は全て、1960年代後半のアメリカの偉大なる社会プログラム(Great Society programs)や、イギリスの同時代の同様の政策以来見られない規模で国家が直接介入することを示している。しかし、勢いを増しているポピュリズム右派によって、更なる挑戦を受けることになるだろう。

ジョー・バイデン米大統領のインフレ抑制法は、ロンドンとブリュッセルで進歩主義派の話題となっており、バイデンの大胆さはもっと評価されるべきだ。超過半数を獲得したスターマーには、より大胆な計画を立てる余地がある。進歩主義的なイギリス政府は、この国に対するヨーロッパ人の見方をリセットするだけでなく、成功すれば、緊縮財政(austerity)と財政化(fiscalization 訳者註:税務上の金融取引を電子的に登録するプロセス)は、経済成長や社会の安定を生み出さないという欧州内の進歩的な議論を助けることができる。

スターマーの勝利は、世界の社会民主勢力にとって、裕福な民主政体国家における選挙での成功への最高水準となるだろう。スターマーにとっての課題は、スターマーにとっての挑戦は、多くの危機的状況が同時に起きている(polycrisis)時代における信じられないほどの希望の重さである。労働党が成長を実現し、住宅を建設し、賃金を引き上げることに成功すれば、他の国でも真似できる、そして真似すべき青写真を提供することになる。

※マイク・ハリス:世界的な通信機関である「89up」 の最高経営責任者であり、元労働党議員 3人の議会顧問を務めていた。ロンドンのルイシャム地区評議会の労働党副委員長でもあった。ツイッターアカウント:@mjrharris

(貼り付け終わり)

(終わり)

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる
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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相が訪米し、ジョー・バイデン大統領、カマラ・ハリス副大統領(民主党の大統領選挙候補者にほぼ内定)と会談し、金曜日には共和党の大統領選挙候補者ドナルド・トランプ前大統領とフロリダ州で会談を持つことになっている。ネタニヤフ首相は米連邦議会で通算4度目の演説を行った。連邦議会での演説は、ひじょうに政治的な意味を持つ。今回、連邦下院のマイク・ジョンソン議長(共和党)が招待を主導したが、ネタニヤフ首相に批判的な連邦議会民主党に踏み絵を踏ませる形で、もし招待に反対したら、「反イスラエル的」として攻撃材料にするつもりだった。

 アメリカ政治で大きく見れば、共和党側はイスラエル支持・ネタニヤフ首相支持となり、民主党側はイスラエル支持・ネタニヤフ首相不支持ということになる。共和党側は、民主党内の根強いネタニヤフ首相不支持を利用しようとしている。

 今回のネタニヤフ首相の演説では終始、イスラエルの自己弁護が行われたが、私が気になった言葉は「proud Irish American Zionist」という言葉だった。これは、ネタニヤフ首相が自分とバイデン大統領とは50年近く友人であり、バイデンがネタニヤフ首相に対して、自分は「アイルランド系アメリカン人シオニストであることに誇りを持っている」と述べたと紹介している。ネタニヤフ首相は歴代の民主党所属の歴代大統領とは相性が悪く、バイデン大統領とはまだ相性が良かった。
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 ネタニヤフ首相の連邦議会演説では、民主党所属の連邦議員の半分近く135人が結成した。ナンシー・ペロシ元連邦下院議長やエリザベス・ウォーレン連邦所運議長など有力議員が欠席した。パレスティナ系アメリカ人唯一の連邦議員で、民主党進歩主義派のラシダ・タリブ連邦下院議員は演説に出席し、「戦争犯罪人(War Criminal)」「大量虐殺の罪(Guilty of Genocide)」と書かれたプラカードを掲げていた。カマラ・ハリス副大統領も欠席した。その後のハリス・ネタニヤフ会談で、ハリスは「イスラエルの自衛権は認めるが、今回の攻撃は過剰だ」と述べたと報じられている。
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 ネタニヤフ首相はトランプ前大統領にも目配りをして、「彼がやったことに感謝している。暗殺未遂があったが生き残ったことは素晴らしかった」と賞賛している。金曜日にトランプ前大統領との会談も予定されている。トランプの協力を得るということも、ネタニヤフにとっては重要だ。ネタニヤフは自身に関する汚職に関するスキャンダルを抱えている。紛争が落ちつけば、訴追は免れない。そのために、停戦に関して、非常に高い条件をつけている。考えてみると、トランプもバイデン、ハリスも早期の紛争停止を主張している。その邪魔をするということになれば、ネタニヤフに対する支持もなくなることになるだろう。

 今回のネタニヤフ訪米・連邦議会演説は高度に政治的なものであり、アメリカ政治、イスラエル政治、国際政治に複雑に絡んでいるということになる。

(貼り付けはじめ)

ネタニヤフ首相が米連邦議会演説から得たもの(What Netanyahu Got From His Speech in Congress

-イスラエルの指導者はガザ地区での戦争を擁護したが、彼の訪問はアメリカの政治の影に隠れた。

アダム・デイヴィッド・ミラー、アダム・イスラエレヴィッツ筆

2024年7月25日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/07/25/netanyahu-congress-speech-biden-israel-trump-republicans-democrats/

イスラエルのネタニヤフ首相は、10ヶ月近くも親イスラエルの大統領に反抗し、屈辱を与え、親イスラエルの民主党の大部分とアメリカ国民のかなりの部分を疎外させたにもかかわらず、長い間保留されていたホワイトハウスでの会談を実現させ、さらに、ウィンストン・チャーチル英首相が米連邦議会合同会議で行った3回の演説に勝るとも劣らない4回目の演説を行った。また、ジョー・バイデン大統領が2024年の大統領選から撤退することを決めたことで、イスラエル国内でもネタニヤフ首相の訪問は影を潜めた。

実際、この訪問は、実際に何を達成したかというよりも、それが何を反映したかという点でより重要なものとなった。それが今回の訪問と演説だ。私たちがアメリカとイスラエルのオペレーティングシステムと呼んでいるものは、まだ稼働している。アメリカの国内政治と政策は依然として、敵対的な近隣地域におけるユダヤ人国家の安全保障への深い関与によって形成されており、それがアメリカに対するイスラエルの影響力を維持し、アメリカのイスラエルに対する影響力を弱める現実となっている。しかし、ネタニヤフ首相のイスラエルがアメリカ政治において党派間の対立が深まり、分裂を招く問題となっているため、この体制は深刻なストレスに直面している。ハリス政権が樹立した場合に、特にパレスティナ人に対する政策に関して、イスラエルに対してより厳しいアプローチを取るかどうかはまだ分からない。しかし、共和党と同盟を結んだネタニヤフ首相にとって、ドナルド・トランプとの関係修復はこれまで以上に重要になっている。

(1)「イスラエルは間違いを犯さない」党(The Israel-can-do-no-wrong party

現在、アメリカとイスラエルのオペレーティングシステムの主力は共和党だ。これは明確にしておきたい。イスラエルに絶対に悪いことをしない共和党がいなかったら、ネタニヤフ首相はワシントンに招待されなかっただろう。そして共和党が現在トランプの政党になっているとすれば、共和党はネタニヤフのお気に入りの政党であるということだ。実際、アメリカとイスラエルの関係を扱い、管理するためのネタニヤフ首相の戦略の大部分は、彼の様々な任期中に右傾化してきたイスラエルと、民主党とは異なりイスラエルを支持するだけでなく支持する共和党との絆を強固にすることにかかっている。無批判に、さらには盲目的に。ネタニヤフ首相がその関係を築いたのは、共和党がホワイトハウスを支配している間に親イスラエル政策を促進するためだけでなく、民主党が政権を握っているときに、民主党から支持を得るためにでもあった。ネタニヤフ首相と民主党所属の各大統領との関係は、控えめに言っても波瀾万丈だった。ビル・クリントンは、誕生したばかりのネタニヤフ首相の生意気さと説教癖に激怒し、初の公式会談後、側近らに対し「ここにいるクソ大国気取りの野郎はなんて奴だ?(Who’s the fucking superpower here?)」と怒りを爆発させた。

そして間違いなく、ネタニヤフ首相と共和党との関係は共生関係(symbiotic)にある。共和党は福音派(evangelicals)の好意を集めるために、イスラエルに熱心に言い寄っており、できる限り親イスラエルの強い信条でアメリカ系ユダヤ人を引きつけようとしている。2015年、オバマ政権の核交渉とイランへの対処を弱体化させないにしても妨害するために、ネタニヤフ首相を連邦議会演説に招待したのは、共和党のジョン・ベイナー連邦下院議長だった。そして、マイク・ジョンソン現連邦下院議長が今年、ネタニヤフ首相を連邦議会での講演に招待したのは、共和党を確実に親イスラエルな唯一の政党として描き、民主党を攻撃しようとする試みであったことには、ほとんど疑いの余地はない。ジョンソン議長はつい先週、共和党が唯一の親イスラエル政党であると主張し、ネタニヤフ首相の演説を妨害した者は全員逮捕すると脅迫した。

それでも、共和党員全員がネタニヤフ首相に満足しているわけではない。実際、トランプ大統領は2020年、ネタニヤフ首相が2020年米大統領選挙が盗まれたという主張を支持しなかったことや、ヴィデオメッセージでバイデンを祝福したことに対して激怒していたと伝えられている。トランプ大統領は、インタヴューで『アクシオス』記者のバラク・ラビッドに対し、ヴィデオについて不満を述べ、「くそ野郎はくたばれ(Fuck him)」と発言した。トランプ大統領はガザ地区について多くを語っていないが、準備不足で泥沼状態に陥ったイスラエルを非難し、戦争を早く終わらせるよう促し、イスラエルが広報戦争に負けていると不満を述べた。ネタニヤフ首相は自分に問題があることを承知しているため、新たなヴィデオメッセージを作成し、今回は最近の暗殺未遂事件を受けてトランプ大統領への支持と祈りを表明した。金曜のマールアラーゴでの二人の会談は、多くの利益をもたらす可能性が低いこの旅行の中で最も重要な成果かもしれない。ネタニヤフ首相は、トランプ大統領の1期目の経験から、安全保障問題に関してはトランプ大統領がイスラエルに圧力をかける傾向が薄れ、イスラエルに自由裁量を与えたがるであろうことを分かっている。しかし、トランプ大統領がパレスティナのマフムード・アッバス議長から受け取った書簡を投稿し、称賛したことは、ネタニヤフ首相に、トランプ大統領は非常に予測不可能な(unpredictable)人物であることを思い出させるはずだ。

(2)民主党:イスラエルを非難するが、決して排除するわけではない(Democrats: Down on Israel but by no means out

民主党は、アメリカとイスラエルのオペレーティングシステムを維持する上でも重要な役割を果たしている。チャック・シューマー連邦上院多数党(民主党)院内総務は、3月にネタニヤフ首相の罷免を要求する内容の演説を行ったにもかかわらず、ハキーム・ジェフリーズ連邦下院少数党(民主党)院内総務とともに、ネタニヤフ首相の連邦議会演説への共和党の招待状に結局のところ署名した。民主党は親イスラエル支持層の多くを疎外することを明らかに恐れており、大した戦いもせずにジョンソン連邦下院議長の罠にはまった。イスラエルが人質を取って虐待する過激派と戦っている中、民主党指導部は、ネタニヤフ首相に対する共和党の懸念にもかかわらず、ジョンソン連邦下院議長の招待に関して反対し、共和党から反イスラエルという批判を受けるつもりはなかった。

そして、進歩主義的な民主党議員の間だけでなく、多くの留保がなされている。クリス・ヴァン・ホーレン連邦上院議員、クリス・マーフィー連邦上院議員、クリス・クーンズ連邦上院議員などの民主党主流派は、ネタニヤフ政権に対してより厳しい政策を求めている。(この3人はいずれも、イスラエルへの軍事援助を一部制限することを提案している。ほとんどの民主党所属議員は、特にハマスとの戦いにおいて、以前からのイスラエル支持者であり続けている。更新された民主党の綱領は基本的に主流派的であり、より進歩主義的な党員が望むような批判は避けられている。それにもかかわらず、ネタニヤフ首相の議会演説に欠席した民主党議員の数はおよそ135人(2015年の演説の欠席者数58人の2倍以上)と推定され、ネタニヤフ首相のイスラエルに対する深い不満と疎外感を反映している。

(3)要素としてのハマス(The Hamas factor

アメリカの国内政治が、政権がイスラエルに対して圧力や影響力を行使することを制約する傾向があるとすれば、イスラエルとハマスの紛争の性質は、それを更に制限し、イスラエルの余裕を高める役割を果たす。イスラエルは、アメリカが外国テロ組織として指定したグループとの持続的な紛争(現在10カ月を数える)に従事している。ハマスの2023年10月7日の攻撃は、1200人のイスラエル人の命を奪い、連続的な性的暴力、レイプ、切断、拷問、人質の奪取と虐待を伴った。ハマスの急増は、同じくアメリカが指定したテロリスト集団であるヒズボラがもたらす脅威とともに、20万人のイスラエル人を避難させる結果となり、大統領と選挙で選ばれた議員の大多数が既に持っていた親イスラエル的な感覚をさらに強める結果となった。実際、バイデンがこの紛争に反応する様子を見れば明らかなように、彼はパレスティナ人が被った損失よりもイスラエル人が被った損失の方にはるかに深い共感を示している。そして、この強い親イスラエル、反ハマスの感情は、戦争遂行におけるイスラエルの戦術をめぐって、ワシントンが本格的な圧力をかけることに消極的であることを形作っている。

シューマーは3月の演説で、ネタニヤフ首相の交代を全面的に求めながら、ハマスの行動を「純粋で計画的な悪(pure and premeditated evil)」と表現し、罪のないパレスティナ市民がこれほど多く死んだのはハマスのせいだと非難した。ジョンソンも同様に、ハマスのことを「野蛮で邪悪(barbaric and evil)」であり、イスラエルとハマスの対立を「善と悪、光と闇の対立(between good versus evil, between light versus darkness)」と表現した。1973年、エジプトがシナイ半島でイスラエルを攻撃した際、アメリカがその影響力を行使して戦争開始から3週間後に停戦を迫ったのとは異なり、ハマスの攻撃と8人のアメリカ人を含む人質拘束は、バイデン政権をイスラエルの戦争目的に縛り付け、反対していたイスラエルの政策を変更する影響力を低下させた。イランがハマスの最強の支援者であるという事実は、イランに対するタカ派的な見解で悪名高い連邦議会の多くを味方につけることで、戦争継続を求めるイスラエルの主張を更に強める。

(4)ネタニヤフ首相のゲーム:時間稼ぎと政権維持のために動く(Netanyahu’s game: Buy time and remain in power

ネタニヤフ首相は、停戦の可能性について交渉したり譲歩したりするためにワシントンに来たわけではない。それどころか、国内での政治的地位を高め、バイデンやカマラ・ハリス副大統領との緊張関係を管理し、トランプとの関係を修復するために来たのだ。連邦議会での演説は、イスラエル国内の聴衆の前で自身の政治的持続力を示すための自己満足的な勝利の小道具となった。ネタニヤフ首相の演説にサプライズはなかった。それは、イスラエルの戦争目的に対する厳しく憤怒に満ちた擁護であり、右派の支持基盤を確保し、共和党の有力者を喜ばせ、イスラエルの敵を管理し立ち向かうためには彼一人が不可欠であることを強調するためのパフォーマンス的な演説だった。もともと、それ以外は誰も期待していなかったはずだ。

この訪問はネタニヤフ首相が望んでいたようにはならなかった。民主党大統領選挙候補者としてのハリスの台頭と、バイデンの撤退の影に隠れて、彼はアメリカではその日のメインイベントの主人公にはなれなかったし、おそらくイスラエル国内でもそうではなかった。 2期目を求めない理由を説明したバイデンの大統領執務室での演説は、ネタニヤフ首相の演説ではなく、その日の歴史を作った演説だった。ワシントンでの公式会談に関してネタニヤフ首相は、退任する大統領との機能的な関係の維持と、可能性のある新大統領との関係構築の間で微妙な針を通すことを強いられているが、その一方で、前大統領であるトランプの恩寵を取り戻そうと迎合している。

ネタニヤフ首相が成功するかどうかは、おそらく重要ではないかもしれない。彼の戦略は時間を稼ぐことだ。今週末、イスラエルの議会であるクネセト(Knesset)は夏季休会に入り、10月末にかけてユダヤ人の祝日が明けると再開される。ネタニヤフ首相が停戦協定に同意する意向があるなら、その時がそうする時だろう。国会休会により、ネタニヤフ首相は連立パートナーのイタマール・ベン・グヴィルやベザレル・スモトリヒによる不信任決議案から逃れられるが、両者は合意があれば、ネタニヤフ首相の連立政権を崩壊させると脅迫している。ネタニヤフ首相は、合意の第1段階(6週間の停戦期間中)で、できるだけ多くの人質を救出しようとするかもしれないが、その後、ハマスが合意を破棄するという非常にありそうな想定に基づいて、次のような選択肢を持つことになるだろう。右翼パートナーを連立に引き留めるために戦争を再開する。目標は、アメリカが大統領選挙と議会の選挙に気を取られている間に、ネタニヤフ首相が立場を強め、僅差の議会過半数を維持することだろう。

野心的だろうか? 確かにそうだが、問題外ということではない。ネタニヤフ首相が国会休会期間中も連立政権を維持できる限り、新たな選挙の実施が最も早く求められるのは、2025年初頭となり、イスラエルとアメリカの政治日程が都合よく一致することになる。実際、ネタニヤフ首相は次期米大統領が誰になるかに基づいて戦略と戦術を調整する立場に立つことになる。

※アダム・デイヴィッド・ミラー:カーネギー国際平和財団上級研究員。歴代の共和党、民主党政権で米国務省中東分析官・交渉担当を務めた。著作に『偉大さの終焉:なぜアメリカは偉大な大統領をもう一人も持たない(そして望んでいない)のか(he End of Greatness: Why America Can’t Have (and Doesn’t Want) Another Great President)』がある。ツイッターアカウント:@aarondmiller2

※アダム・イスラエレヴィッツ:カーネギー国際平和財団初級研究員。

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ネタニヤフは団結を訴えが、連邦議事堂の内と外で火の暴流が吹き荒れた(Netanyahu urges unity, but stirs a firestorm inside and outside Capitol

ラウラ・ケリー、マイク・リリス筆

2024年7月24日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/policy/international/4791213-netanyahu-delivers-fiery-speech-congress/

イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は水曜日、連邦議会で激しい演説を行い、連邦議事堂内で民主党所属の連邦議員たちのボイコットを誘発し、外で大規模な抗議活動を引き起こし、11月の選挙まで継続することが見込まれているイスラエル・パレスチナ関係をめぐる党派間の争いを激化させた。

異例の連邦議会合同会議に出席したネタニヤフ首相は、2023年10月7日にハマスが犯した残虐行為を暴力的に詳細に語った。イランや他の地域の敵対国によってもたらされている継続的な脅威について警告した。そして、これらの脅威を完全に根絶するために、アメリカの政策立案者たちにイスラエルの後ろで団結するよう訴えた。

ネタニヤフは、「文明の力が勝利するためには、アメリカとイスラエルが団結しなければならない。バイデン大統領の“イスラエルとの半世紀にわたる友情(half a century of friendship to Israel)”に感謝した。

ネタニヤフ首相は、イスラエルを中東におけるアメリカの最強の同盟国であり、防衛国(defense)と位置づけ、バイデンが一部の重火器を差し控えたり、反対派や抗議活動参加者たちがアメリカの軍事支援を停止するよう呼びかけたりすることに反対し、アメリカの軍事支援の継続と加速を求めた。

ネタニヤフ首相は、「今回の戦争を含め、アメリカの支援に深く感謝しているが、これは例外的な瞬間だ。アメリカの迅速な軍事援助は、ガザ戦争の終結を劇的に早め、中東における広範な戦争の防止に役立つ可能性がある」と述べた。

ネタニヤフ首相のワシントン訪問とそのメッセージを取り巻く雰囲気は、2015年にネタニヤフ首相が連邦議会で行った最後の大規模な演説で、テヘランと核合意を結ぶ努力をめぐってバラク・オバマ政権を非難したときとは一線を画したものとなった。

ネタニヤフ首相は戦争中のバイデン大統領の支援に感謝する一方、金曜日にフロリダ州で共和党大統領候補であるトランプ前大統領との会談に先立って、トランプにも敬意を表し、11月の選挙に向けて、ネタニヤフ首相が共和党と民主党の間で慎重な立場を取っていることが浮き彫りとなった。

「アメリカ人と同様に、イスラエル人もトランプ大統領があの卑劣な攻撃、アメリカの民主政治体制に対する卑劣な攻撃から無事生還したことに安堵した」とイスラエルの指導者は7月13日のペンシルヴァニア州での選挙集会での暗殺未遂事件について語った。

しかし、ネタニヤフ首相が連邦議事堂に登壇しただけで、彼の極右的な政策課題、特にガザ地区でのハマスとの戦争への対応をめぐって、共和党と民主党の間の、そして民主党内部の既に起きている鋭い溝がより深まることになった。

連邦議事堂周辺では、こうした緊張を見逃すことはできなかった。何千人もの活動家がナショナル・モールに集まり、戦争犯罪者とみなされている人物に抗議した。民主党の大統領候補となる可能性が高いカマラ・ハリス副大統領は、通常は外国指導者を歓迎するために立つネタニヤフ首相の背後の壇上にいなかった。

また、ナンシー・ペロシ前連邦下院議長(カリフォルニア州選出、民主党)を含む多数の民主党所属連邦議員は、ネタニヤフ首相が過激な極右派を増長させ、ヨルダン川西岸のパレスティナ人に対する暴力を煽り、二国間解決(two-state solution)の可能性を妨げているとして、演説をボイコットした。

これらの批判者たちは、ネタニヤフ首相がハマスの排除という目標を追求する中で、ガザ地区全域に広範な破壊が発生し、戦闘で数万人のパレスティナ人が死亡するという人道的大惨事の責任があると見ている。

ネタニヤフ首相は水曜日、イスラエルは市街戦史上、戦闘員と比較して民間人の死亡数を最少に抑えたと述べ、こうした批判者たちを一蹴した。これに対して控え目な拍手が起きた。これが、ネタニヤフ首相を最悪の人物と批判したジェリー・ナドラー連邦下院議員(ニューヨーク州選出、民主党)の発言のきっかけとなった。ナドラーはユダヤ人の歴史における最悪の指導者だと述べた。

ナドラー議員は演説後、MSNBCに出演し、演説におけるネタニヤフ首相の不誠実(dishonesty)を非難した。ナドラーは「彼は平和を望んでいると言っているが、彼の政治的関心は戦争をできるだけ長く続けることだ」と語った。

演説に出席した数十人の民主党連邦議員はネタニヤフ首相の発言の間、ほとんどが着席したままだった。

唯一のパレスティナ系アメリカ人の連邦議員であるラシダ・トレイブ連邦下院議員(ミシガン州選出、民主党)は更に一歩進んで、片面に「戦争犯罪者(War Criminal)」、もう片面に「大量虐殺の罪(Guilty of Genocide)」と書かれたプラカードを掲げ、議場にいた共和党議員の一部からブーイングを浴びた。彼女は、ガザ紛争で150人の家族親族を失ったパレスティナ系アメリカ人、ハニ・アルマドホンをゲストに招いていた。

また、出席した人質となっている人たちの家族たちは、ネタニヤフ首相のメッセージにほとんど熱意を示しておらず、アメリカ人8人を含む​​ハマスに拘束されたままの120人を帰国させるための停戦協定締結に向けたあらゆる努力が挫折したと非難した。

伯父がいまだハマスの人質となっているザヒロ・シャハール・モールは、水曜日のネタニヤフ首相の演説に先立ち、民主党連邦議員団を前にして次のように語った。「生きている人質より死んだ人質のほうがましだと考える人がいることは、イスラエルではよく知られている。生きている人質より死んだ人質の方が、はるかに恥が少ないと考えるそのような人物の一人が、アメリカ連邦議会を自分のひねくれた策略に巻き込もうとする大胆さを持っている」。

あるいは、107日に母親が殺害され、妹が今もガザに拘束されているガットは、ネタニヤフ首相が自分の記録を擁護している間に、頭を抱えることもあった。

ガットは「彼の話を聞くのは、イスラエルを引き裂いている9カ月の戦争について、ネタニヤフが話すのを聞くのと、連邦議会で人々が彼よりも人質のために多くの仕事をしたことを称賛するのを聞くのは、私にとっては残念なことだ。怒りを感じている」と述べた。

しかし、ネタニヤフ首相の最も鋭敏な批判者たちが出席していなかったこともあり、議場にいた議員たちは圧倒的にネタニヤフ首相のメッセージを受け入れ、首相が反イスラエル抗議活動の一環として星条旗を燃やすことを非難したとき、何度もスタンディングオベーションと「USAUSA」の大合唱が起こった。また、大学のキャンパスを襲撃し、連邦議事堂の外で起きている抗議活動に怒りを向けた。

ネタニヤフ首相はデモ参加者たちに「あなた方は正式にイランにとって有益な働きをする、愚か者(idiots)になった」と語り、イランがアメリカを脅かす一歩としてイスラエルの破壊を応援しているという発言の共通テーマを強調した。

ネタニヤフ首相は「中東の中心で、イランの前に立ちはだかっているのは、一つの誇り高き親米民主政体国家、私の国、イスラエル国家です」と述べた。

連邦議事堂からわずか数ブロックのところで、戦争犯罪容疑でネタニヤフ首相の逮捕を求めるデモ参加者が結集していた。ネタニヤフ首相の演説後、デモ参加者のグループがユニオン駅の外でアメリカの国旗を降ろし、パレスティナ国旗を掲げたことで、警察と衝突した。

水曜日の演説は、特に2023年10月7日の同時多発テロをきっかけに、ネタニヤフ首相の指導力をめぐる数カ月にわたる連邦議会での議論の集大成となった。

民主、共和両党の連邦議員たちは、イスラエルの自衛権を支持することで事実上一致しているが、民主党連邦議員の多くは、人道的危機を引き起こしたガザでのネタニヤフ首相の積極的な軍事対応と、国際法に違反するヨルダン川西岸でのイスラエル入植地の拡大を率直に非難してきた。

今年3月には、アメリカ史上最高位のユダヤ系政策立案者であるチャック・シューマー連邦上院多数党(民主党)院内総務(民主党)が議場で爆発的な演説を行い、ネタニヤフ首相のリーダーシップは和平の障害であると非難し、彼に代わる新たな選挙をイスラエルで実施するよう求めた。

シューマーの厳しい言動を受けて、マイク・ジョンソン連邦下院議長(ルイジアナ州選出、共和党)は数日以内に、ネタニヤフ首相の連邦議会演説への招待状の草案を作成した。この草案は、最終的にシューマー上院院内総務と連邦下院少数党(民主党)院内総務ハキーム・ジェフリーズ(ニューヨーク州選出、民主党)によって支持されたが、署名は草案を受け取ってから数週間後に行われた。

この遅れは、民主党内の亀裂を反映しており、ネタニヤフ首相の攻撃的な軍事戦略を支持する民主党内の親イスラエル派と、パレスティナ人の窮状により同情的でネタニヤフ首相が民間人の命を守るのにあまりにも少なすぎると非難する議員たちと対立している。

バイデンは人質を奪還し、パレスティナ国家への交渉を行う最善の方法として、イスラエルとハマスの段階的な停戦合意を推進している。ネタニヤフ首相を批判する人々は、ネタニヤフ首相が協定署名の障害になるとみているが、一つの難点は、ハマスが戦後のガザ地区の統治に自らも含めることを主張していることであり、アメリカはこれに反対している。

ネタニヤフ首相はこうした主張に短くうなずき、「私たちが述べているように、私たちは彼らの釈放を確保するために集中的な努力をしている。私はこれらの取り組みのいくつかは成功すると確信しており、そのうちのいくつかは現在実施されている」と述べた。

しかし、彼はそれに続いて、パレスティナの文民政権(civilian administration)が統治する「非武装化され、非急進化された(demilitarized and deradicalized)」ガザ地区を求めた。

「ハマスが武装解除し、降伏し、人質全員を返還すれば、戦争は明日終わる可能性がある。しかし、もしそうでなければ、イスラエルはハマスの軍事能力を破壊し、ガザ地区での支配を終わらせ、人質全員を帰国させるまで戦うだろう」とネタニヤフ首相は述べた。

ネタニヤフは「それが完全な勝利を意味するものであり、私たちはそれ以上のことでは妥協しません」と述べた。

(貼り付け終わり)

(終わり)

bidenwoayatsurumonotachigaamericateikokuwohoukaisaseru001

バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる
bigtech5shawokaitaiseyo501
ビッグテック5社を解体せよ

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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