古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

2024年09月

 古村治彦です。
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※2024年10月29日に佐藤優先生との対談『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』(←この部分をクリックするとアマゾンのページに飛びます)が発売になります。予約受付中です。よろしくお願いいたします。

 先週金曜日に自民党総裁選挙が実施され、石破茂新総裁が選出された。それから週末にかけて、人事構想が報道されるように、明けて9月30日月曜日には、なんと、10月27日に投開票となる、解散総選挙が実施されることが決まった。何とも慌ただしい数日間となった。今回の人事は、安倍派清和会を排除するものとなった。麻生太郎元首相は最高顧問就任の打診を受諾する方向であるという。総裁選挙で子分の河野太郎を見捨てて、結局負けるという大失態を演じた麻生は静かに引退させてもらえずに、晒し者になる。「最高顧問だって()」と鼻で笑われながら、じろじろと見られることになるだろう。菅義偉元首相は副総裁になる。自民党の機構上、副総裁には何の力もないが、肩書だけは立派だ。自民党執行部に入った以上、石破を支える立場ということになり、倒閣運動などをする場合にはその座から去らねばならない。自分の持ち球である小泉進次郎の出来が悪すぎて、半分失敗したようなものだから、しばらくは静かにしているだろう。

 驚きだったのは森山裕議員の幹事長就任、小泉進次郎議員の選対本部長就任である。森山議員が石破新総裁に進言して、早期の解散総選挙が実現したということで、森山幹事長は、選挙を仕切って、石破で勝たせるということに全力だろう。ここで勝利すれば、森山議員の自民党内での影響力も増す。実質的に選対を仕切るのは森山氏だ。選対本部長の小泉進次郎議員は厳しい立場だ。裏金議員や統一教会関係議員の公認をどうするか、で血刀をぶら下げて同僚議員の首を切らねばならないことになる。小泉議員に恨みが集中する。ここをうまく乗り切れば、小泉復権ということになるが、うまくいかなければ、弊履の如く捨てられてしまうだろう。正念場である。

 重要なのは林芳正議員の官房長官続投である。林氏は今回の総裁選挙でも豪雨対策で公務優先し、評価を上げた。岸田派宏池会として林芳正議員が後継者となり、ポスト石破ということになる。官房副長官には青木一彦参議院議員が選ばれた。茂木派は茂木敏光議員が総裁選挙で敗北し、力を失っていく。既に退会している小渕優子議員と青木一彦参議院議員が小渕派経世会(七日会)を再建していく。小渕優子議員は組織運動本部長ということで、自民党の政治運動全般、様々な団体や組織との交渉などを統括する立場となる。ここで、人脈を広げておくこと将来の総理総裁候補となるためには重要だ。

 私が興味を持っていたのは、総裁選挙で小林鷹之代議士を支援した福田達夫議員の処遇だった。安倍派清和会の次期プリンスという位置づけだった。清和会は、岸-安倍系と福田系の2つの流れがあり、昭和時代は特に跡目相続の際に争いが絶えない派閥だった。福田達夫議員は幹事長代行ということで、森山幹事長を支える執行部入りということになった。これは、安倍派との分離を示している。総裁選挙で最下位だった加藤勝信議員は財務大臣に就任。加藤議員の岳父加藤六月は、安倍派の相続争いで、森喜朗に敗れて苦杯をなめたという経験を持つが、これは森喜朗への当てつけかと思うほどだ。

 石破執行部・政権は、裏金問題や統一教会問題を利用しての安倍派清和会弱体化を意図したものだ。それがよく示されている。

(貼り付けはじめ)

●「麻生氏が最高顧問、過去に岸信介氏らの名も 党役員・閣僚人事の全容」

9/29() 21:20配信 朝日新聞デジタル

https://news.yahoo.co.jp/articles/585915f4721464642bb833192781d6c825e1ee9a

 自民党の石破茂新総裁による党役員・閣僚人事の全容が29日、判明した。党最高顧問に麻生太郎副総裁(84)を充て、総務会長には鈴木俊一財務相(71)を起用する。1日に発足する新内閣の閣僚のうち初入閣は13人、女性は2人。いずれも防衛相経験者の岩屋毅衆院議員(67)を外相に、中谷元衆院議員(66)を防衛相に起用する。

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【チャート図】固辞相次ぐ石破人事 船出は分断消えぬまま

■組織運動本部長に小渕氏、小泉氏は選対委員長

 幹事長に内定している森山裕総務会長(79)が29日、都内で麻生氏と会談した。関係者によると、森山氏から最高顧問を打診し、麻生氏は応じる意向を示したという。総裁選の決選投票で高市早苗経済安全保障相(63)を支持した麻生氏を処遇し、党の最高意思決定機関である総務会のトップに麻生派の鈴木氏を充てることで挙党態勢を演出する。過去には首相経験者の岸信介氏や福田赳夫氏らが最高顧問を務めた。

 また、国会対策委員長に坂本哲志農林水産相(73)、組織運動本部長に小渕優子選挙対策委員長(50)を充てる。平井卓也広報本部長(66)は続投する。副総裁に菅義偉前首相(75)、政調会長に小野寺五典元防衛相(64)、選対委員長に小泉進次郎元環境相(43)はすでに内定している。

■文科相に阿部俊子氏、三原じゅん子氏も初入閣

 今回の人事では、裏金問題で政治資金収支報告書の不記載が発覚した議員は起用しない方向だ。

 閣僚のうち外相の岩屋氏、防衛相の中谷氏はいずれも石破氏に近く、防衛政策に詳しい。外交・安全保障を重視する石破氏の姿勢を反映した形だ。石破氏が主張する日米地位協定の改定やアジア版NATO創設の実現に向けた交渉を担当する。

 女性閣僚は、こども政策担当相に三原じゅん子・元厚生労働副大臣(60)、文部科学相に阿部俊子・文科副大臣(65)を起用する。

 総裁選で石破氏の推薦人だった議員が多く登用される。村上誠一郎元行政改革相(72)は総務相、小里泰弘首相補佐官(66)は農林水産相、平将明党広報本部長代理(57)はデジタル相、赤沢亮正財務副大臣(63)は経済再生相、伊東良孝元農水副大臣(75)は沖縄・北方担当相となる。

 法相に牧原秀樹(53)、厚生労働相に福岡資麿(51)、経済産業相に武藤容治(68)、環境相に浅尾慶一郎(60)、復興相に伊藤忠彦(60)、国家公安委員長に坂井学(59)、経済安保相に城内実(59)の7氏が就く。

 安全保障担当の首相補佐官には長島昭久衆院議員(62)が就く。官僚トップの事務の官房副長官は佐藤文俊・元総務事務次官(67)を起用する。政務の官房副長官は橘慶一郎衆院議員(63)と青木一彦参院議員(63)が内定している。

=====

●「森山氏進言受け石破氏、衆院選「10月27日」短期決戦へ決断…立民・野田氏は「ひょう変」批判」

9/30() 6:26配信 読売新聞オンライン

https://news.yahoo.co.jp/articles/104f97d7f92b14180609632bec143d3ac066a2ab

https://news.yahoo.co.jp/articles/104f97d7f92b14180609632bec143d3ac066a2ab?page=2

https://news.yahoo.co.jp/articles/104f97d7f92b14180609632bec143d3ac066a2ab?page=3

[スキャナー]

 自民党の石破茂新総裁が衆院選を「10月15日公示―27日投開票」で行うのは、政権発足の勢いに乗り、短期決戦で勝利を収めたいとの思惑からだ。森山裕新幹事長らも強く進言した。党役員・閣僚人事は総裁選の論功行賞と首相経験者への配慮の色合いが濃く、世論の評価につながるかどうかは不透明だ。(政治部 森藤千恵、阿部真司)

 「新政権の信を問うのはやっぱり早い方がいいと思っている」

 29日のフジテレビの番組で石破氏はこう強調した。

 10月1日に召集される臨時国会の審議については、党首討論を挙げ、「(国民に)判断いただける材料をきちんと調える」と述べた。

 4日の衆参両院での所信表明演説とそれに続く各党代表質問を終えた後、党首討論で野党側との論戦に応じたうえで、衆院解散に踏み切る意向を示したものとみられる。

 石破氏は9日に衆院を解散し、ラオスで10~11日に開かれる東南アジア諸国連合(ASEAN)関連首脳会議で首脳外交デビューを果たしたい考えだ。

ひょう変

 石破氏は総裁選の論戦では、「世界情勢がどうなるか分からないのに『すぐ解散する』という言い方はしない」(9月14日)と語るなど、早期解散に慎重姿勢を示すこともあった。

 衆院解散を巡っては、憲法69条に内閣が不信任となった場合、解散か総辞職を選ぶ規定があることから、解散はこれに限るべきだとの主張がある。一方、憲法7条には内閣の助言と承認による天皇の国事行為の一つとして解散が書かれており、これを根拠にした「7条解散」が定着しているのが実情だ。

 石破氏は元々、首相がタイミングを選べる「7条解散」に否定的で、自身のブログでも「解散は政権の延命や党利党略目的で行われるべきものではない」(2023年6月9日)と指摘していた。

 この日の番組では、石破氏は「国民の審判を経ないまま、新政権ができた。どうですかと判断を求めるのも69条の趣旨には合致する」と説明したが、立憲民主党の野田代表から「全く納得できない。これまでおっしゃってきたことと違う」と、ひょう変ぶりを突っ込まれる場面があった。

メリット

 石破氏が早期解散に傾斜したのは、森山総務会長が幹事長ポストを引き受けるにあたり、衆院選をできる限り急ぐことで、総裁選の盛り上がりを活用できるメリットを説いたことが大きいとみられる。

 岸田首相や菅前首相も森山氏と同じ考えだった。さらに、公明党も来年夏の参院選を見据え、早期の衆院選を求めていたことが石破氏の背中を押した。

 内閣支持率は発足直後に最も高まり、閣僚らの不祥事などで徐々に低下していくことが多い。

 2008年9月に就任した麻生首相は当初、高い支持率を誇ったが、解散のタイミングを逸し、衆院議員の任期満了直前の解散を迫られ、選挙に惨敗して政権交代を許した。

 今の衆院議員の任期満了は25年10月に迫っており、自民党内では「麻生政権の二の舞いは避けたい」との懸念が強い。

 党役員・閣僚に内定した顔ぶれを見ると、石破新総裁と関係が近い議員や、総裁選の決選投票で石破氏支持に回った議員が目立つ。

 「私の政策に真っ向反対と言われると、閣内不一致や執行部不一致が起こるので、なかなかつらい」

 石破氏は29日のフジテレビ番組でこう述べ、自身と考え方が近い議員の起用を重視する考えを示した。

 石破氏の思い入れが強い要所には古くから親交がある同じ防衛相経験者から、総裁選で石破氏の選挙対策本部長を務めた岩屋毅氏が外相、中谷元氏が防衛相、小野寺五典氏が党政調会長に就く。経済再生相の赤沢亮正財務副大臣、デジタル相の平将明・元内閣府副大臣は、旧石破派で長く石破氏を支えてきた面々だ。

 決選投票で石破氏の支持に回った旧岸田派や菅義偉・前首相のグループへの配慮もにじむ。

 一方で、決選投票を争った高市経済安全保障相の取り込みにも気を配った。石破氏は29日の番組で、高市氏について「今まで色んなキャリアを経てきた。党全体、国全体のためであれば起用したい」と語った。

 だが、高市氏は、党の意思決定を仕切る総務会長の打診を断り、距離を置く姿勢を鮮明にした。総裁選で5位となった小林鷹之・前経済安保相も党広報本部長を固辞した。

 そこで石破氏が「挙党態勢」を演出するために頼ったのは麻生副総裁だった。

 幹事長に就く森山総務会長は29日、東京都内で麻生氏と面会し、党最高顧問への就任を依頼し、麻生氏は受諾した。

 唯一、派閥を維持する麻生派(54人)は決選投票で高市氏支持に回ったが、総務会長に鈴木財務相が就き、武藤容治・元経済産業副大臣と、浅尾慶一郎・参院議院運営委員長が初入閣することになった。ただ、旧安倍派からの入閣はゼロで、「のけ者扱いだ」(同派若手)との反発も出ている。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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 古村治彦です。
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 2024年9月27日に実施された自民党総裁選挙の結果は驚きを持って迎えられた。それは、勝ち目が薄いと思われていた石破茂議員が勝利したからだ。1回目の投票の結果で、石破氏が強いと思われていた党員票で、1票差とは言え、高市早苗議員に負けて、議員票は元々強くないので、「党員票で圧倒できなかったとなると、石破氏の勝ち目はほぼなくなった」と考えた人が多いと思う。決選投票での石破氏の逆転勝利は、1956年の自民党総裁選挙、石橋湛山が岸信介を決選投票で、7票差で破り逆転勝利を収めたことを思い起こさせる。

 昨日、私は決選投票後に、「これまでと違って、どの勢力がどの候補に入れたのかという投票の分析が難しいな」と感じていた。今日になってX(旧ツイッター)上で以下の新聞記事が紹介されている。重要なのは、X上に表示された以下の図である。

「●石破茂氏、議員票呼び込み逆転 3人の「首相」の暗躍」(日本経済新聞、2024年9月28日付)

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA26CIB0W4A920C2000000/?n_cid=SNSTW005

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 この図では、菅義偉、麻生太郎の2人の元首相と、岸田文雄首相、それぞれに近い総裁選挙候補者たちを支持した票が決選投票でどのように動いたか、この3人がどのような動きをしたのかを示している。菅義偉元首相は小泉進次郎議員を全面的に支援していたが、小泉議員は3位に沈んだ。党員票では1位を獲得しながら、党員票で、高市、石破両氏に大差をつけられての3位に沈むという結果になってしまった。小泉氏の議論の弱さ、更に言えば、頭脳明晰さに欠ける発言や行動が自民党の党員・党友に見透かされてしまったということだった。菅氏は決選投票で石破議員に乗る決断を下した。小泉敗退のショックを和らげることに成功した。岸田首相は態度をはっきりさせていなかったが、極右・ネトウヨの高市議員には乗れなかっただろう。また、麻生太郎元首相に岸田派に手を突っ込まれ、上川陽子議員を擁立されてしまったことへの怒りもあっただろう。上川議員は当て馬であり、捨て駒だった。上川陽子待望論などは麻生元首相が作り出した、ただの幻でしかなかった。


 問題は麻生太郎元首相だ。麻生元首相は土壇場で、自派の後継者と見られてきた河野太郎議員を見捨てて、高市議員支援を配下の議員たちに指示した。その結果が、高市議員の1回目の投票での1位獲得、河野議員の大惨敗であった。しかし、麻生氏は最後の最後で敗北を喫することになった。石破氏の地方での強さを見誤ったということになるだろう。
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決選投票になれば、党員票は都道府県連票として、各都道府県1票となる。各都道府県単位で見れば、石破氏は過半数の24で勝利を収めていた。更に2つの件で2位を確保し、決選投票になれば26票を獲得できることは決まっていた。高市氏は18票、2位を確保した県は3であった。1回目の党員票では、獲得した票を368票に比例分配する形になる。高市氏は人口の多い大都市部で勝利を収め、石破氏は地方部で勝利を収めた。決選投票では各都道府県1票となる。人口が多い東京都や大阪府でも1票、人口が少ない鳥取県や島根県でも1票となる。決選投票の方式が石破氏に有利に働いたことは間違いない。
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 来年までには行われる総選挙での顔ということを考えると、高市氏は右に寄り過ぎて、中道のやや右の有権者を獲得することはできない。そこにアピールするのは石破氏だという計算を議員たちが行っただろう。そして、同じ有権者層を狙うとしている立憲民主党の野田佳彦代表との戦いでは、石破氏の方が有利であり、潜在的な立憲支持者たちも取り込むことができると考えただろう。立憲は厳しい戦いを強いられることになるだろう。

 自民党は保守本流、地方を基盤とする政党に回帰することを選んだ。保守傍流の安部政治を清算し、少しは変化を見せるだろう。このような土俵際での選択ができるところが自民党の強さである。そして、自民党は見えない民意を汲み取る力を持っているということになるだろう。

(終わり)

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 古村治彦です。
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 2024年9月27日午後、自民党総裁選挙が実施された。9名の候補者が出馬して、選挙運動が行われ、投開票が実施された。1回目の投票は議員票(367票)と党員票(367票)で行われた。1回目の選挙の結果は以下の通りだ。
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(1)高市早苗181票(議員票72票;党員票109)

(2)石破茂154票(議員票46票;党員票108票)

(3)小泉進次郎136票(議員票75票;党員票61票)

(4)林芳正65票(議員票38票;党員票27票)

(5)小林鷹之60票(議員票41票;党員票19票)

(6)茂木敏光47票(議員票34票;党員票13票)

(7)上川陽子40票(議員票23票;党員票17票)

(8)河野太郎30票(議員票22票;党員票7票)

(9)加藤勝信22票(議員票16票;党員票6票)

 有力と見られていた、小泉進次郎議員が3位に沈んだ。過半数を獲得した候補者が出なかったために、1位の高市早苗議員と2位の石破茂議員による決選投票が実施された。決選投票は議員票(367票)と都道府県連票(47票)と、議員票の割合が高くなる。決選投票の結果は以下の通りだ。

(1)石破茂215票(議員票189票;都道府県連票26票)

(2)高市早苗194票(議員票173票;都道府県連票21)

無効票:5票
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 選挙の結果、石破茂議員が自民党の新総裁に選出された。そして、首相に指名されることが確実になった。私は、小泉進次郎議員選出が確実という見立てが政治のプロの間でなされていることを知り、絶望していた。更に、最近になって高市早苗議員の人気が急上昇していると報道されて、ますます嫌になっていた。「前門の小泉、後門の高市」で困ったことだなと思っていた。更に、麻生太郎元首相・副総裁が自身の率いる麻生派に1回目の投票で、自派の河野太郎議員ではなく、高市早苗議員に投票せよと促したという報道を見て、ますます嫌になっていた。麻生議員は高市議員が「勝ち馬」になると見ているのだと考え、なんてことだと諦めの気持ちになっていた。

 そうした絶望や諦めの気持ちが大きかった分、決選投票で石破議員が選出された時には、安堵感を持った。もちろん、石破氏が最善の選択肢ではない。しかし、最悪の選択肢を避けることができたというのは日本国にとって何よりのことだった。安倍晋三政治の清算ということがそのまま進められるな、自民党保守本流政治の復活が期待できるなと感じている。しかし、もちろん、石破氏に対する自民党内の反感、拒否感は大きい、党内運営は厳しいものとなるだろう。何か小さな失敗でも倒閣運動も起きるだろう。

 こうして見ると、立憲民主党の野田佳彦新代表選出は何とも悪い選択となった。野田代表は中道から少し右の有権者の支持を狙うと発言した。自民党総裁に、その層にアピール力を持つ石破新総裁が選ばれた。石破氏対野田氏でどちらに勝ち目があるか、と言えば、残念ながら石破氏だろう。野田氏は民主党の介錯人を務めた。最悪の場合、二度目の介錯人を務めることになるだろう。

 麻生太郎議員は晩節を汚す大きな判断ミスを行った。高市議員が勝利していれば、キングメイカーとして存在感を増していただろうが、自派の河野議員を見捨て、勝ち馬にも乗れずという最悪の結果となった。もっと早くに引退しておれば、晩節を汚すこともなかっただろうに、最後の最後でこのようなことになった。麻生派は派内で麻生太郎議員に対する引退勧告を出すべきだろう。84歳という年齢を考えればもう引退してもおかしくない。麻生派の跡目争いということが起きて、麻生派は分裂するだろうが、河野氏にどれだけの議員がついていくだろうか。今回の選挙で人望のなさが露呈した。これからの政治生命も脅かされてしまうだろう。小林鷹之議員は福田達夫議員と中曽根康隆議員の、安倍派と二階派の若手たちの支援を受けてある程度は戦えただろうが、それ以上のことはない。最初から最後まで不思議だったのは、そして今でも不思議なのは、上川陽子議員の人気が上がっていると言われ続けたことだ。一体何だったのか、一種の陽動、当て馬だったのだろうかと考えざるを得ない。

 今回の自民党総裁選挙では、最悪の選択肢を回避することになった。それが何よりの収穫である。自民党が大きく変わることはないし、議員たちがルールを守るということが一番実現困難なことだろう。しかし、最悪の事態を免れた。そのことが大きい。

(貼り付けはじめ)

●「自民新総裁の石破茂氏 元銀行員、安全保障や農政の論客」

9/27() 15:30配信 毎日新聞

https://news.yahoo.co.jp/articles/c6f78ed348ffd0f8d69bda571f1537bcf9847ed4

 5回目の挑戦にして初めて自民党総裁に選ばれた石破茂氏とはどんな人物なのか。

 父は、自治相や鳥取県知事を務めた石破二朗氏。慶応大を卒業後、三井銀行(現三井住友銀行)に勤めていたが、父の死後に田中角栄元首相の勧めで1986年衆院選に自民党公認で出馬して初当選した。

 リクルート事件後につくられた若手議員のグループで中心的役割を担い、選挙制度改革を訴えた。非自民の細川護熙連立政権が誕生した93年に自民党を離党。新生党や新進党に所属し、97年に自民党へ復党した。安全保障や農政の論客として知られ、防衛相や農相を歴任している。

 歴代最長政権を築いた安倍晋三元首相とは距離があったとされ、安倍政権に批判的な発言を繰り返してきた。各種世論調査では「次の首相にふさわしい人」でトップに顔を出す一方、党内の国会議員の人気は高くなく、総裁選では敗退を繰り返していた。

 今回の総裁選は「38年間の政治生活の総決算。最後の戦いに挑む」との思いで臨んでいた。

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<独自>自民・麻生副総裁が高市氏支持へ、麻生派議員にも指示 1回目から

9/26() 22:44配信 産経新聞

https://news.yahoo.co.jp/articles/385a69f027f45a2b77afa8d7d1186ce7c2c9e95f

自民党の麻生太郎副総裁が、総裁選(27日投開票)で高市早苗経済安全保障担当相を支持する意向を固め、岸田文雄首相(党総裁)らに伝えたことが分かった。26日、複数の党幹部が明らかにした。麻生氏はこれまで麻生派(志公会)の河野太郎デジタル相を支援する考えを示していた。麻生派は河野氏や上川陽子外相らに推薦人を出していたが、麻生氏は1回目の投票から高市氏を支援するよう同派議員に指示を出した。

総裁選は高市氏のほか、石破茂元幹事長と小泉進次郎元環境相の3人が激しく競り合う混戦となっている。麻生氏はこのうち、首相在任中に自らに退陣要求を突きつけた石破氏や、関係が良好ではない菅義偉前首相と近い小泉氏支持には難色を示していた。

ただ、党として派閥解消を掲げる中、麻生氏の派閥単位での指示が同派議員に徹底されるかは不透明だ。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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 古村治彦です。

このブログで頻繁に取り上げている、ハーヴァード大学のスティーヴン・M・ウォルト教授の論稿を取り上げる。ウォルトはトランプに対して批判的であり、トランプがアメリカ大統領に再選されれば、アメリカの国際的な地位が危険に晒されると主張している。彼の論稿の骨子は次の通りだ。

トランプは、これまでのアメリカの外交政策、特に介入主義的な政策を強く批判し、アイソレイショニスト的な政策、アメリカ・ファースト(アメリカ国内問題解決優先主義)の政策を主張している。これについては過剰な面もある。

トランプは、他国がアメリカの意向に従うという考えを持っているが、これは現在の国際関係においては成り立たなくなっている。そのため、彼の一極主義的なアプローチは、アメリカの世界的地位を傷つけるリスクがある。彼の任期中、外交政策に対する関心は低く、国務長官の任命も不適切だった。その結果、アメリカは国際的な合意から離脱し、対外的な信頼を失うこととなった。

トランプの再選が実現すれば、外交政策はより悪化する可能性があり、特に彼の経済政策は有害な結果をもたらすと予想される。彼は貿易戦争を強化し、保護主義的な政策を推進する意向を示しているが、これは国際競争力を低下させ、経済成長を妨げる。

また、アメリカの移民政策も厳しくなる見込みで、これにより経済成長の基盤が揺らぐ可能性がある。トランプ政権下では、環境問題への取り組みも後退し、気候変動や公衆衛生の問題が無視される恐れがある。彼の政策は、アメリカのソフトパワーを損ない、国際的な信頼性を低下させることになる。さらに、トランプは、政府を弱体化させる一方で大統領権限を強化しようとしており、これは複雑な現代社会においては逆効果だ。

最後に、トランプが再選されれば、アメリカの国際的な地位や影響力が著しく低下し、国内外における混乱が増すことが懸念される。このような状況は、アメリカの未来にとって非常に危険な結果をもたらす可能性がある。従って、トランプの再選は極めて無謀な選択だ。

 アメリカの国力の衰退による、アメリカの国際舞台での影響力の減退は既に私たちに突きつけられている現実だ。今から、この退勢を押しとどめることは誰であっても不可能だ。アメリカは撤退戦を行うことになる。世界の超大国、覇権国、帝国として君臨してきたが、その範囲を小さくしていって、最終的にはアメリカ本国(本土)に引き上げることになる。トランプはそのための指導者である。アメリカの国際的地位が脅かされるというのは当たり前のことだ。現在でも既に脅かされている。もう今までのように、自分が一声号令をかければ皆がつき従うということはないのだ。そのことをアメリカ人は理解できていない。アメリカ人は自分たちが置かれている状況を冷静に判断できていない。状況を冷静に判断するためには、「外側からの目」が必要だ。「アメリカが駄目になる」という流れの中に、自分たちが置かれているために、巻き込まれているために、冷静な判断ができない。

 ウォルトのような一流の学者、知識人であっても、この大きな流れの中にいて、冷静な判断ができない。それほどに状況判断は難しいことだし、これからの世界構造の大変化は、今までにないものとなるということになるだろう。

(貼り付けはじめ)

トランプとヴァンスの一極主義的妄想(The Trump-Vance Unilateralist Delusion

-共和党の陣営は、根本的に非現実的な外交政策を軸に統一した。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2024年7月24日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/07/24/trump-vance-project-2025-foreign-policy-unilateralism-realism-restraint/

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2024年7月15日、ウィスコンシン州ミルウォーキーのファイザーブ・フォーラムで開催された共和党全国大会初日に登場したドナルド・トランプとJD・ヴァンス連邦上院議員

民主党の新しい大統領候補カマラ・ハリス副大統領に対する熱狂にもかかわらず、選挙予想では依然として共和党の陣営が11月に勝利する可能性が高い。関係する利害を考慮すると、ドナルド・トランプ前大統領が再び主導することがアメリカの外交政策にとって何を意味するのかを詳しく検討しないのは無責任と言わざるを得ない。

良いニューズから始めよう (長くかからないので、リラックスしておいて欲しい)。少なくともレトリック的には、トランプも副大統領候補のJD・ヴァンスも、ネオコンたちやリベラル介入主義者たち(neoconservatives and liberal interventionists)が過去30年以上にわたって推進してきた失敗に終わったリベラル覇権戦略(strategy of liberal hegemony)を否定している。彼らは同様に、外交政策「愚か者(Blob)」とその時代遅れの正統性への頑固な固執を軽蔑している。私は、彼らは後者の批判を行き過ぎていると思う。問題は主に野心的な政治任命者にあり、彼らの下で働く何千人もの献身的な公務員ではない。しかし、特定の社会通念に対する彼らの軽蔑には、一定のメリットがある。このため、私が知っている数人の現実主義者たちは、ヴァンスの参加とトランプ勝利の見通しについてほぼ目がくらんでいるようだ。ウクライナや他のいくつかの問題に関するヴァンスの見解を考えると、私も時流に乗るのではないかと思うかもしれない。

残念ながら、良いニューズはこれで終わる。トランプやヴァンスを支持する現実主義者たちは近視眼的であると私は考える。11月にトランプとヴァンスが勝利すれば、アメリカの世界的地位に長期的に多大なダメージを与えることになるだろう。

中心的な問題は、トランプとヴァンスが、世界におけるアメリカの位置づけと、一方的に思い通りにする能力について、時代遅れのイメージで動いていることだ。彼らはネコンサヴァティヴィズムを否定しているかもしれないが、アメリカはやりたい放題で、他の国家はその意向に従うだけだと信じている。しかし、これは「一極主義的な瞬間(unipolar moment)」には当てはまらなかったことであり、中国が経済的にアメリカと肩を並べ、インド、ブラジル、南アフリカ、トルコといった国々が独自の道を歩み、他の大国を互いに翻弄できるようになった現在では、さらに当てはまらなくなっている。今日の世界では、アメリカの指導者たちは、自分たちの行動に対して他国がどう反応するかを注意深く考えなければならない。

トランプの一極主義的な本能は以前から明らかであり、彼がその考えを変えたという証拠はない。トランプは最初の任期中、真の外交にはほとんど関心を示さず、外交政策への対応もひどいものだった。「重要なのは自分だけだ」と主張し、外交政策の要職を何カ月も空席にし、無能な国務長官を1人だけでなく2人も任命した。北朝鮮の金正恩委員長を説得して、核兵器を放棄させることができると考えたがうまくいかず、北京を刺激することなく中国に関税をかけることができると考えた。また、自称「取引の達人(master dealmaker)」は、見返りをほとんど得ずに譲歩を申し出る傾向があり(ニューヨーク・タイムズ紙のコラムニストであるトーマス・フリードマンは、このアプローチを「ギブアウェイの技芸(art of the giveaway)」と名づけた)、イランとの核合意やパリ協定など、アメリカにとって非常に利益となる合意から離脱する傾向があった。

こうした傾向は、2期目には更に悪化する可能性が高い。ヘリテージ財団の「プロジェクト2025」は、トランプ前大統領のアジェンダを知るための最良の指針であろうが、既に国務省を弱体化させることを目的とした、各種の施策を概説している(2025年1月20日に全てのアメリカ大使に辞表を提出するよう要求するなど)。より重要なのは、同盟諸国にも敵対国にも最後通牒(ultimatums)を突きつけ、アメリカが要求することには何でもすぐに従うという外交政策を求めていることだ。これは外交でも対外政策抑制の戦略でもない。何十年もの間、アメリカの対外政策を妨げてきたのと同じ「取るか取られるか(take it or leave it)」のアプローチなのだ。

トランプ大統領の対外経済政策の扱いは特に有害となる可能性が高い。1期目の中国との貿易戦争はアメリカが得た以上の犠牲を出し、その目的を達成できなかったが、トランプは大統領に復帰した場合には、このアプローチを倍増させたいと考えている。今回に限っては、中国だけでなく、全ての国に関税を課そうとしている。確立された経済理論と豊富な歴史経験は、広範な保護主義政策が国々を豊かにするどころかむしろ貧しくしていることを示しているが、それこそがトランプ大統領が約束していることだ。

貿易を制限することは、特定の狭い状況(国家安全保障に関わる技術を保護するためなど)では理にかなっているが、全体として、特に共和党が通常反対する、国内調整プログラム(domestic adjustment programs)と組み合わせる場合、開かれた世界経済は、アメリカに利益をもたらす。他国よりも革新し、仕事をし、競争していくことができると自信を持っている国々は、貿易障壁の削減に熱心だ。他人の商品を締め出す必要性を感じるのは、競争を恐れる人々だ。トランプ、ヴァンス、共和党は巨額の関税を要求することで、アメリカの労働者や企業指導者に対し、アメリカが世界舞台で競争できる能力に自信がないことを伝えている。もちろん、トランプ前大統領がこの計画を推進すれば、他の国々が報復するのは避けられず、当然のことながらアメリカの輸出業者に打撃を与え、世界経済成長をさらに低下させることになる。私たちは皆、自分が消費するものに対してより多く支払うことになり、バイデン政権がうまく抑制してきた新型コロナウイルス感染症後のインフレが再燃する可能性がある。もし、トランプがこの国をこの道に進めば、将来的に国は弱くなり、ほとんどのアメリカ人の生活は悪化するだろう。

もちろん、それは迫りくる保護主義の脅威だけではない。多くの人は今でもそうではないと信じているが、第二次世界大戦後、民主党は共和党よりもはるかに優れたアメリカ経済の管理人であった。民主党がホワイトハウスを支配すると経済成長と雇用創出が高まり、失業率とインフレが低くなる傾向がある。過去10回の不況のうち9回も共和党の政権下で発生した。経済力は世界的な影響力の基盤であるため、トランプ2.0のもとで生じるであろう経済的困難により、アメリカの経済基盤はより強固ではなくなり、世界中に影響力を及ぼす能力は低下するだろう。

また、アメリカが現在直面している主要な戦略的課題にトランプとヴァンスがどのように対処するかについて楽観視することは難しい。他のほぼ全員と同様、トランプも中国をアメリカの利益に対する長期的な主要な挑戦者と見なしている。問題は、中国に対する彼の政策が矛盾に満ちていることだ。彼の最初の任期中に環太平洋連携協定(Trans-Pacific Partnership)を放棄したことは、東アジアにおけるアメリカの経済的影響力を維持するために切望されていた努力を損ない、アジア諸国がアメリカに望む支援を与えることを困難にした。トランプ大統領は、中国が攻撃した場合に、アメリカが台湾を支援すべきかどうか疑問を呈しているが、中国がアジアの現状を修正しやすくする(そして、おそらくは世界最先端の半導体メーカーの一部を支配する)ことは難しい。北京を牽制したいという願いを込めて。共和党タカ派はまた、核実験禁止条約から離脱し、核兵器実験を再開するよう主張しているが、これは中国の新型核開発努力を促進し、最終的にはアメリカと同等に達することになる不必要な措置である。これは戦略的に意味があるのだろうか?

ヨーロッパについて言えば、トランプとヴァンスはウクライナを支援し続けることに公然と疑義を呈しており、トランプが24時間以内に戦争を終わらせることができると主張していることは、彼がいかにウクライナの状況を理解していないかを示している。ウクライナを支援し、(民主党政権が11月以降にやりそうなように)持続可能な外交的解決を強く求めるのと、キエフの運命をただ見捨てるのとでは天と地ほどの差がある。同様に、中国に対処するための資源を確保するために、アメリカのヨーロッパの同盟諸国と新たな役割分担を慎重に交渉し、実施することと、急激な撤退や、より多くの支出をするよう彼らを威圧する辛らつなキャンペーンに従事することとは、大きな違いがある。ヨーロッパが自国の防衛により大きな責任を持つようになることには大賛成だが、トランプ2.0はその目標を最悪の方法で追求しそうだ。

そして中東だ。バイデンの中東政策は大失敗だったが、トランプの1期目の政策も、バイデンと基本的に同じで、同様に効果がなかった。バイデン同様、トランプはイスラエルが望むものは何でも与え、パレスティナ問題は安全に無視できると考え、地域の重要なライヴァルたちとの対話を拒否する一方で、要求の厳しい保護諸国(client states)との「特別な関係(special relationships)」を追求することに重点を置いた。このアプローチに適用できるレッテルはたくさんあるが、「現実主義(realism)」はそれには当てはまらない。トランプは、イランの核開発を抑制することに成功した2015年の合意を破棄し、代わりにテヘランに「最大限の圧力(maximum pressure)」を課した。ヴァンスに関して言えば、バイデンは「同盟国イスラエルを助けるために何もしていない」と奇妙に主張し(2023年10月7日以降に提供された数十億ドルの軍事援助を知らないようだ)、バイデン政権はイスラエルのガザ地区での残忍な戦争をもっと強力に支援すべきだったと考えている。要するに、ヴァンスは、アメリカやイスラエルのイメージがどれほど損なわれようとも、大量虐殺を支持することに満足しているのだ。もちろん、これはイスラエル・ロビー(民主、共和党両政党の問題)に迎合しているだけという側面もあるが、一極主義者たちが世界の他の国々の意見に無関心であることを露呈している。アメリカの中東政策は何十年もの間、超党派で失敗を繰り返してきたが、トランプがホワイトハウスに戻っても、これ以上良くなることはないだろう。

トランプと共和党は、他のいくつかの問題についても、長期的にアメリカを弱体化させる政策を採用する可能性が高い。彼らは移民に対する障壁を引き上げ、何百万人もの人々をアメリカから追放しようとしているが、こうした人々の多くが現在有給で雇用され、アメリカの長期的な成長見通しに貢献しているという事実を無視している。中国、日本、韓国、ドイツ、その他のほとんどの強国とは異なり、アメリカの人口は、今後100年にわたって増加し続け、その年齢の中央値は主要なライヴァル諸国よりも低くなる。労働人口が若く、定年退職者が少ないことは、アメリカ経済に有利であり、その優位性を維持できるかどうかは移民にかかっている。オラクル、アップル、テスラ、アマゾン、その他無数の成功した企業の創設者を含む、才能ある移民を惹きつけ、その子孫の忠誠心を獲得するアメリカの能力は、アメリカ建国以来の強さの源泉であった。トランプとヴァンスはそれを脇に追いやろうとしている。

アメリカは、トランプとヴァンスの下で環境に関しても大きく後退するだろう。満員の最高裁判所に権限を与えられた彼らは、アメリカ国民がますます暑くなる夏を乗り越える中でも、気候変動やその他の環境破壊の原因に対処する取り組みを逆転させるのは確実だ。山火事、洪水、その他の気象関連の出来事に対して費用を支払わなければならない。そして、地球の気温は、毎年新たな記録を樹立している。パンデミックへの備えに関して言えば、漂白剤が新型コロナウイルス感染症を治療できると考えた人物に責任者を戻してほしいと本当に考えるだろうか?

これらの立場は、今日の共和党が、そしてトランプ自身が、利己的な利益や宗教的信念に沿わない科学や理性に対して基本的に敵対的であることを思い起こさせる。共和党は、気候変動に関する科学的コンセンサスや、将来のパンデミックに備える必要性、あるいは生殖に関する選択の制限が、既に公衆衛生に与えている影響を否定し続けている。驚くべきことに、MAGA運動はまた、その独立性、名声、知識への貢献によって世界の羨望の的となり、技術革新の原動力となっているアメリカの世界トップクラスの大学にも、政治的見解を押し付けようとしている。ハンガリーのヴィクトール・オルバン首相が中央ヨーロッパ大学をハンガリーから追い出そうとしたキャンペーンは、ハンガリーをより賢く、より強く、より繁栄させるものではなかった。

トランプ・ヴァンス政権の誕生は、アメリカのソフトパワーの残滓を一掃するだろう。偽善、腐敗、そして、政治的機能不全(hypocrisy, corruption, and political dysfunction)は、アメリカの制度の世界的魅力を著しく低下させているが、その魅力が完全に消えた訳ではない。もしアメリカが、有罪判決を受けた重罪犯で性犯罪者であることが確定している男を再選させ、2020年に正々堂々と負けたことをいまだに否定し、平和的な政権移譲を妨害しようとした男を再選させ、彼の最初の任期中に彼のために働いた何十人もの高官が彼の立候補に反対するならば、かつてアメリカを賞賛していた国々は、アメリカの政治システムを模倣するのではなく、避けるべきもののモデルとして見るようになるだろう。そして、トランプとその部下たちが、ハンガリーで彼の友人オルバンが成功させたように、アメリカの制度を改編し、将来の選挙を無意味なものにしてしまうという、非常に現実的な危険もまだある。

トランプ・ヴァンス・プロジェクト2025というアメリカのヴィジョンが私を心配させる最後の理由がもう1つある。いくつかの顕著な例外(ジェンダーや生殖に関する権利などに関する原理主義的な見解を押し付けたいという願望など)を除いて、彼らは大統領をより強力にし、同時に政府の残りの部分を可能な限り弱体化させたいと考えている。彼らが認識していないのは、現代社会は非常に複雑な実体であり、特に相互依存する世界(interdependent world)の複雑な課題に直面した場合、それらを結びつけるには強力で効果的な政治的および社会的制度が必要であるということだ。イーロン・マスクのような大富豪は、効果的な政府を必要としない。なぜなら、彼らは民間のボディガードを雇い、プライベートジェットに乗り、ゲート付きコミュニティに住み、高価な家庭教師や私立学校を使って子どもを教育し、たとえどれだけかかっても必要な医療費を全て支払うことができるからだ。これらの幸運な少数の人にとって、政府は邪魔なだけだ。しかし、残りの私たちは、子供たちの教育、インフラの構築と維持、経済の管理、適切な老後の備え、そして世界との関わりを効果的な公的機関に依存している。非効率な国家や略奪的な国家よりも悪いのは、国家が存在しないことだけだ(The only thing worse than an inefficient or predatory state is no state at all)。連邦政府を解体しようとする人々、あるいはそれを自分たちの統治のために利用しようとする人々によって連邦政府が支配されたら何が起こるのか、私たちはこれから明らかになるのではないかと危惧している。トランプ前大統領は今、国家統一の必要性を口先だけで訴えているかもしれないが(彼の政治キャリアの全ては分断の悪化に基づいていた)、しかし彼と共和党が提示している議題は、私たち全員を危険にさらす可能性がある国内の混乱を招くレシピだ。

ここ数十年、共和党政権と民主党政権がそれぞれアメリカの力を浪費するようなことをしてきたとはいえ、アメリカには他国を圧倒する大きな利点がある。トランプ前大統領は、アメリカが世界的に有利な地位を獲得するのに役立った多くの制度を壊滅させたいと考えていることが明らかであるため、トランプ前大統領に2度目の就任機会を与えることは、極めて無謀な賽の投げ方である。後で、私が警告しなかったとは誰にも言わせない。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。ツイッターアカウント:

@stephenwalt
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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる
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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

1945年2月4日から11日にかけて行われた、アメリカのフランクリン・D・ルーズヴェルト大統領、イギリスのウィンストン・チャーチル首相、ソヴィエト連邦のヨシフ・スターリン書記長が参加して、戦争の結末と戦後世界の行方について話し合いが行われた。戦後世界の構造が決定された重要な首脳会談であった。

日本関係で言えば、ソ連が対日参戦し、千島列島を含む地域をソ連が獲得するということが決定された。ヨーロッパ関係で言えば、ポーランドの国境線が西寄りに設定され、東ヨーロッパ諸国をソ連が実質的に支配すること、共産ブロックに含まれるということが決定された。ソ連は東ヨーロッパを緩衝地帯とすることで、西欧列強からの侵略を防ぐことができるという安心感を得ることができた。

 重要なことは、これらの重要な事項をアメリカ、イギリス、ソ連で決めたということだ。そこにはフランスは入っていない。フランスはドイツに敗れた時点で、列強の地位から脱落しているということになる。これこそが大国間政治(great-power politics)ということである。これらの大国が世界の運命を決め、一国の行く末を決める。決められる弱小国には何の相談もなく、小国の国民の意思など全く考慮されない。これが国際政治の真骨頂だ。

 今回の論稿で重要なのは、指導者個人レヴェルの分析がなされていることだ。国際政治では、個人レヴェル、国内政治レヴェル、国際関係レヴェルの3つの分析のレヴェル(levels of analysis)がある。今回の論稿や個人レヴェル、具体的には、ヤルタ会談に参加したルーズヴェルト、チャーチル、スターリンの考えや行動を分析の中心に据えている。何よりも重要なのは、ルーズヴェルトが瀕死の状態であったということだ。実際に階段から2か月後の4月にルーズヴェルトは死亡した。その状態で世界の運命を決める会談に臨んでいたということは世界にとって大きな不幸であった。そして、ルーズヴェルトは副大統領ハリー・トルーマンを信頼しておらず、彼の抗争を全く伝えていなかった。そのため、トルーマンは何も知らない状態で大統領に昇格することになった。ルーズヴェルトは自身の死後のことまで考えていなかった。チャーチルはイギリスの国力が減退している中で、大国としての矜持を保とうとして、得意の弁舌を駆使し、ソ連のスターリンと対峙したが、気力が充実し、自身の要求貫徹にこだわったスターリンの主張を覆すには至らなかった。チャーチルとスターリンは、自国の利益を第一に考えていたということになる。その点で彼らは交渉しやすかったと言えるだろう。ルーズヴェルトは国際連合や世界の秩序維持について話したが、チャーチルとスターリンも、それぞれの国が何を得られるのかということにしか関心がなかった。それがイギリスの帝国(植民地)の維持であり、東ヨーロッパのソ連の勢力圏入りであった。両国は、戦後ポーランドの体制について対立したが、最終的には米英側が譲歩した。しかし、スターリンの要求も全てが実現するには至らなかった。スターリンとソ連に対する米英両国の信頼は失われていた。

 ルーズヴェルトがより健康であったならば、ヤルタ会談の結果はどうだっただろうかということは今でも話さされることである。歴史に「If」はないというのは常套文句であるが、たとえルーズヴェルトの健康状態がより良かったところで、どこまで結果が変わっていたかというとそれには疑問が残る。

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ルーズヴェルト、ヤルタ、そして冷戦の起源(Roosevelt, Yalta, and the Origins of the Cold War

-末期病状のアメリカ大統領がヨーロッパの半分をソ連が支配すると決定した協定についていかに交渉したか。

フィリップ・パイソン・オブライエン筆

2024年9月1日

『フォーリン・ポリシー』

https://foreignpolicy.com/2024/09/01/roosevelt-stalin-yalta-europe-division-soviet-world-war/

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「ヨーロッパのごった煮」と題された漫画で、ヤルタ会談でのルーズヴェルト、スターリン、チャーチルが描かれている。

フランクリン・D・ルーズヴェルト米大統領が1943年末にワシントンに戻ったとき、彼はほとんど働くことができなかった。ルーズヴェルトは、元々が病弱であり、そして運動不足で、酒もタバコも止められず、特にタバコが大好きだった。血圧は危険なレヴェルまで上昇し、冠状動脈疾患も進行していた。彼は、彼の参謀であり、いつも一緒にいたウィリアム・リーヒに、この仕事を続ける体力が自分にあるかどうか分からないと打ち明けたほどだった。

しかし、それから間もなく、ルーズヴェルトは他に選択肢がないと判断した。権力を手放し、戦後の新たな世界秩序の構築において尊敬はされるものの、二の次的な人物になるという見通しは、彼にとってあまりにも恐ろしかった。そして1944年、ルーズヴェルトは国際関係史上最も利己的な選択をすることになるが、これは非常に自己中心的であり、歴史家たちは未だにこの問題に言及することを避けている。

ルーズヴェルトは、死にかけながら大統領選に出馬することを決めただけでなく、副大統領候補を、自分が好きでもなく、打ち解けることもなく、自分の後を継いで大統領になる準備も一切していない人物に変更することに決めたのだ。ルーズヴェルトは、現職のヘンリー・ウォレス副大統領が左翼的すぎると見られていることを懸念し、より穏健なハリー・トルーマンを副大統領候補に選んだ。政治的には賢明な選択だった。トルーマンは、ミズーリ州出身で、ルーズヴェルトの貴族的な存在感をうまく引き立てる政治的庶民感覚を持っていた。トルーマンは、急進的なウォレスに特に魅力を感じなかった中西部と南部で、ルーズヴェルトを助けることができた。

トルーマンは、彼自身の評価では、国際関係の経験がほとんどなかったが、ルーズヴェルトは、トルーマンが何も得られないようにするつもりだった。1944年11月の選挙から1945年4月にルーズヴェルトが死去するまでの間、彼の業務日誌には2人の会談が6回しか記録されていない。ルーズヴェルトは、1945年2月の重要なヤルタ会談などの計画にトルーマンを加えることを積極的に避けていたようだ。ルーズヴェルトは基本的に、この危機において、アメリカと世界を率いることができるのは自分だけであり、だから自分は生きなければならない、と語っていた。もし彼が死んだら、そう、「我が亡き後に洪水よ来たれ(Après moi, le déluge)」だ。

その理由は、ルーズヴェルトが戦後世界についての具体的なヴィジョンを書き記すことも、議論することもほとんどなかったからだ。ルーズヴェルトは通常、「4人の警察官(four policemen)」-イギリス、中国、ソ連、アメリカを通じて秩序を保つという広範で不定形な概念で人々を幻惑し、国際連合(United States)の創設について希望的観測を語ったが、難しい質問に答えることは避けた。

戦争終結後、アメリカ軍はヨーロッパに永久に駐留するのか? ドイツは永久に分割されるべきなのか? ソ連との軍事同盟は継続されるのか、もしそうなら、アメリカは、ソ連の東欧支配を受け入れるのか? アジアと太平洋における戦後処理はどうなるのか? オランダやフランスのようなヨーロッパ帝国は再建を許されるのか? アメリカ軍はかつて日本が占領していた地域に入るだろうか? 混沌とした政治状況にある中国は、どのようにして世界の警察官の一人となるのだろうか?

もしルーズヴェルトが、これらの質問に対する明確な答えを持っていたとしても、ルーズヴェルトはそれを自分の胸に秘めていた。リーヒが回顧録で認めているように、「もしルーズヴェルト以外に、アメリカが何を望んでいるのかを知っている人物を見つけられたら、それは驚くべき発見だろうと感じたこともあった」ということであった。

ルーズヴェルトは、アメリカ政府に具体的な戦争の目的と目標を提示することを拒否することで、プロイセンの軍事戦略家カール・フォン・クラウゼヴィッツが提唱した「戦略とは目的、方法、手段を結びつけることである(strategy is the connection between ends, ways, and means)」という公理を嘲笑していた。ルーズヴェルトは、どの戦争指導者よりも、方法と手段については明確な考えを持っていた。それは、兵士ではなく、空と海の力と多くの機械で戦争を戦うことであった。しかし、それらは目的から切り離されているように見えた。目的とは、彼がその時々に望むものだった。

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1944年のモスクワ訪問で、英首相ウィンストン・チャーチル(左)がヨシフ・スターリンと歩く

ルーズヴェルトが戦後、アメリカにとって何を望むかについて、いろいろな意味で秘密主義を強めていたとすれば、ソ連の指導者ヨシフ・スターリンは直接的であることを厭わなかった。ルーズヴェルトは安全保障と強靭さを求めており、無定形な国際保証や国際理解よりも直接的な支配を好んだ。スターリンは、優雅(airy-fairy)に見えるルーズヴェルトの考えから離れ、ソ連の独裁者は直接支配への希望を明確にした。

スターリンが最も明晰になったのは、おそらく1944年10月、モスクワでウィンストン・チャーチル英首相と二人きりで会談したときだろう。チャーチルとスターリンは、しばしばアヴェレル・ハリマン駐ソ連大使も同席した公式会談では、ルーズヴェルト的概念に基づく和平を模索しているふりをしようとしていた。しかし、二人きりになると、二人の態度は違った。

ある晩、二人きりの会話の中で、二人は未来に目を向け、アメリカの影響力のないヨーロッパについて語った。その結果、有名な「パーセンテージ協定(Percentages Agreement)」が結ばれ、チャーチルとスターリンはこの地域を利益圏(spheres of interest)に分割した。

この合意は、スターリンとチャーチルがどのように交渉を進めたかったかを、おそらく最も忠実に表している。ルーズヴェルトと比べれば、彼らには戦争に対するより具体的な目的があったことは確かだ。チャーチルにとっては、大国としてのイギリスとその帝国の維持であった。スターリンにとっては、東欧、中欧、南欧におけるソ連の最大限の拡大だった。どちらも、ルーズヴェルトの国際親善と協力(international goodwill and cooperation)という概念にあまり時間を割いていなかった。

パーセンテージ協定もまた、政治的かつ個人的な夢物語だった。ルーズヴェルトは政治的な理由からこのような協定に同意するはずもなく、3人は戦後のヨーロッパと世界にとってより実行可能な枠組みを考案するために集まる必要があった。チャーチルとスターリンの極めて具体的な戦略目標と、ルーズヴェルトの無定形な戦略目標を調和させる必要があった。

この違いの結果は、1945年2月4日から2月11日までクリミアで開催された、戦争中の全ての大戦略会議(grand-strategic meetings)の中で最も物議を醸したヤルタ会議、コードネーム「アルゴナウト(Argonaut)」となった。

今日に至るまで、ヤルタ会談は、何が合意されたのか、より正確に言えば、3人の主役が何に合意したと考えていたのかについて、激しい議論を巻き起こしている。ある意味、問題は会議そのものではなく、その結論は当時ビッグスリーの誰にとっても「決定的(definitive)」なものではなかった。

本当の問題は、ルーズヴェルトがほどなく死去したことであり、ルーズヴェルトは自分が行った取引の真意を極秘にしていたため、トルーマンは結局、ルーズヴェルトの意図を推測するしかなかった。

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左から:チャーチル、ルーズヴェルト、そしてヨシフ・スターリン(1945年2月のヤルタ会談での交渉の後)

ヤルタ会談開催の頃までには、アメリカ大統領は終わりに近づいていた。1944年の再選を目指し、わずかなエネルギーも使い果たしていた。選挙運動には比較的わずかしか顔を出さなかったが、選挙が終わると、持続的な仕事はできなくなっていた。ルーズヴェルト大統領の本当の状態はアメリカ国民には知らされていなかった。1945年1月20日の大統領就任式など、公の場に姿を見せなければならないときは、ホワイトハウスに担ぎ込まれる前に数分間だけ話をした。

ルーズヴェルトがヤルタに到着する頃には、彼の体調は更に悪化していた。体重はさらに減り、目の下には大きく膨らんだ黒いクマができており、常に休息を必要としていた。1944年8月のケベック会議で最後にルーズヴェルトを見た、イギリス代表団の何人かは、この短期間でのルーズヴェルトの衰えにショックを受けた。チャーチルの秘書の1人は、ルーズヴェルトを見て「この世の人とは思えない(was hardly in this world at all)」と言った。

スターリンは元気だった。首脳会談までに、ロシア軍はベルリンから100マイルも離れていないオーデル川に到達していた。いったん再編成し、次の攻撃のために休息を取れば、ドイツの首都は陥落することは確実だった。ヤルタ会談前にポーランドの大部分を征服したことは、スターリンにとって今後の会談で非常に有利に働いた。彼は、どのようなポーランドを建設したいかの構想を持っており、妥協する気はなかった。

ヤルタ会談の主役はルーズヴェルトとスターリンだった。この頃、イギリスには、アメリカやソ連に自国の要求を呑ませるだけの軍事力も財政力もなかった。スターリンはまだ武器貸与プログラム(lend-lease program)によるアメリカの支援を必要としており、ドイツが敗北した後の太平洋戦争への参加を熱望していた。ルーズヴェルトは、世界平和の保証として、戦後も何らかの形で米ソ戦時同盟(U.S.–Soviet wartime alliance)の継続を画策していた。

首脳たちと最側近のアドヴァイザーたちによる最初の全体会議では、戦争に勝利しようとしているという事実が祝われた。それは、ヨーロッパにおける戦争の軍事的概観であり、アドルフ・ヒトラーのドイツが必然的に粉砕されたことを物語るものだった。指導者それぞれが互いの軍のパフォーマンスを称賛し、戦争の最終段階における緊密な連携について語った。

軍事的な概要が明らかになると、指導者たちは戦後の世界に目を向けた。スターリンは、大国政治(great-power politics)について、未来を決めるのはこの3人であり、小国の意見に耳を傾けることに時間を費やすべきではないという見解を述べた。ルーズヴェルトはスターリンを支持し、「大国はより大きな責任を負っており、和平はこのテーブルについた三大国によって書かれるべきだ(the Great Powers bore the greater responsibility and that the peace should be written by the Three Powers represented at this table)」という意見に同意した。

しかし、チャーチルには居心地が悪かった。スターリンと対立して、真っ向から反論するつもりはなく、代わりに、大英帝国に対するチャーチルのヴィジョンが、この見解にどのように適合するかは決して明確にしなかったが、小国の意見に耳を傾け、ある程度の謙虚さを示すことが大国の義務であると主張した。スターリンはそれを面白がったようで、次の選挙で負けるかもしれないと言ってチャーチルをからかい始めた。

会議の残りの時間は、ビッグスリーが世界の他の国々の運命を決定し、その大部分は友好的に行われた。ドイツについては、主にドイツを解体すべきかどうかで意見が分かれた。反対していたスターリンは、そのような決定を将来まで先送りすることを望んだ。実際、そのような決定を先延ばしにするのは簡単だった。重要な第一歩であるドイツの明確な占領区域への分割は既に行われていたからだ。

この話し合いで最も興味深かったのは、ルーズヴェルトがアメリカ軍は、2年以上はヨーロッパに駐留しないと主張したことだろう。それを聞いたチャーチルは、今こそフランスに強力な軍隊を増強すべきだと答えた。スターリンは、それは構わないが、フランスにはドイツの支配について大きな発言権を与えるべきではないと主張した。

ヤルタ会談で決着したもう1つの大きな問題は、ソ連の対日参戦(Soviet entry into the war against Japan)だった。春にはドイツに勝利することが決まっていたため、スターリンは崩壊する日本からできるだけ多くの戦利品(spoils)を奪おうと躍起になっていた。この時点で、アメリカは日本を倒すためにロシアの助けなど必要ないことを十分承知していたが、スターリンはそれを、以前の誓約を果たすためという枠にはめた。

自縄自縛に陥ったルーズヴェルトは、スターリンの援助をありがたく受け入れるしかなかった。もちろん、スターリンには代償が用意されていた。最終合意では、ソ連は南サハリン、千島列島、中国の大連港の支配権(ソ連から大連港までの鉄道を含む)を手に入れることになる。

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ロックフェラーセンターに掲揚されている連合国の各国の国旗が半旗になっている(1945年4月13日)

翌日は、新しい国際連合についての議論から始まった。スターリンもチャーチルも、自分たちにはそれほど関心がなかったとしても、ルーズヴェルトにとってそれがいかに重要であるかを理解していたようだ。スターリンは、前年8月から10月にかけてワシントンのダンバートン・オークス邸宅で開催された会議で作成された国連機構の概要を読んでいなかったことを認めた。

そして、ポーランドの運命が持ち出され、会場の緊張は高まった。ポーランドの問題は、ある意味では単純であり、ある意味では基本的に難解であった。ポーランドは戦後、国家として再興されるが、その国境はずっと西にあるという合意があった。ルーズヴェルトとチャーチルは、ヒトラーとの汚い取引で確保したポーランドの東半分をスターリンが保持し、その代わりに新生ポーランドがドイツ東部の大部分を与えられることを受け入れた。

ポーランドの将来の政治構造は全く別の問題だった。アメリカとイギリスは戦前のポーランド亡命政府をロンドンに認めていた。スターリンは、戦前のポーランドの手によるソ連軍の敗北を思い出し、直ちにルブリン委員会(Lublin Committee)と呼ばれる新しい共産主義政府の樹立に動いた。

ロンドンか、ルブリンか、どちらのポーランド政府が統治するかという問題は、ヤルタの大きな対立点(confrontation)となった。この問題が最初に持ち上がったとき、ルーズヴェルトは会議全体を通じて最も長い演説を行った。持てる力を振り絞り、普段の理性的で魅力的な自分を演出しようとしたルーズヴェルトは、強い親ソ派を含む5つの異なる政党の代表からなる複数政党による暫定大統領評議会の設立を提案した。この組織が、新しい選挙が行われるまでポーランドを統治することになる。チャーチルは、いつものように雄弁に、自由で独立したポーランドをさらに力強く訴えた。「チャーチルは、「ポーランドが自分の家の主人となり、自分の魂の支配者となることが、英政府の切なる願いである」と述べた。

スターリンは、ルーズヴェルトの魅力やチャーチルの雄弁など気にも留めなかっただろう。この時点でスターリンは、東ヨーロッパにおける自らの優越(supremacy)が米英両国に認められたと計算していた。彼は、ポーランドの運命が「戦略的安全保障(strategic security)」の問題であり、ポーランドがソ連と国境を接する国であるからというだけでなく、歴史を通じてポーランドがロシアへの攻撃の通路であった」と述べた。

そして、スターリンはナイフを深く突き刺した。彼もまた、民主的なポーランドを望んでいた。彼の見る限り、ルブリン・ポーランド政府は自由で効率的な統治を行っており、しかも赤軍の後方地域の安全確保とパトロールに貢献していた。ところが、ロンドン・ポーランド政府は、この調和を終わらせ、ソ連戦線の背後で反乱を起こす恐れがあった。要するに、彼らはヒトラーの仕事を代わりにしていたということになる。

スターリンは「ルブリン政府の工作員がやったこととロンドン政府の工作員がやったことを比較すると、前者は良くて、後者は悪いことが分かる。私たちは後方に平和を与えてくれる政府を支持するつもりであり、軍人としてそれ以外のことはできなかった」と述べスターリンは鉄槌(gauntlet)を下し、議論は何日も続いたが、変わることはなかった。赤軍はポーランドに進駐し、スターリンは赤軍を指揮し、ルブリン政府に権力を握らせ、戦前のポーランド国家からのいかなる影響も容認しなかった。ルーズヴェルトとチャーチルは、スターリンの条件を受け入れるか、あるいは同盟を破棄するかという、ほとんど不可能な窮地に立たされた。首脳3人全員が分かっていたように、スターリンにポーランド政府の構成を変更させることは不可能だった。

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ヤルタ会談で会談するスターリンとルーズヴェルト(1945年2月)

しかし、ルーズヴェルトは試してみることを決心した。翌日、彼らがこの問題に戻ると、彼はスターリンをなだめるためにロンドン政府をすべて切り捨てることから始めた。ルーズヴェルトは、ルブリン政府は何があっても力を持つだろうと理解し、新しい臨時政府の樹立を協議するために、ルブリン政府と他の政党からなる委員会を半分ずつ設置し、バランスをとることだけを提案した。

スターリンは失速し、それが延々と続いた。ルーズヴェルトはスターリンに私信を送り、ポーランドには多党制の民主的な政府が誕生することをアメリカ国民に伝えてもらえれば国内にとって大きな助けになると懇願した。

たとえルーズヴェルトが、スターリンが自らの選択と条件で政権を樹立しようとしていることを理解していたとしても、ルーズヴェルトが国内でそのような政治的ニーズを抱いていることをスターリンが理解できなかったことは、彼の戦略家としての進化がそこまでしか進んでいなかったことを示している。スターリンは、ルーズヴェルトが本当にアメリカ連邦議会や有権者、その他の権威に答える必要があるとは思えなかった。

これはスターリンがいかに全てを台無しにしようとしていたかを示すものだった。ドイツ軍の侵攻以来、彼が機転を利かせて行動してきたのは、生き残るために現実的な面が偏執的な面を抑えてきたからだとすれば、戦争が終結し勝利が確実となったとき、昔の偏執的なスターリンが姿を現したということになる。スターリンには、ルーズヴェルトが融通を利かせるというサインを本当に望んでいることが理解できなかった。

ルーズヴェルトは会議の残りの時間についてスターリンに圧力をかけたが、最終的にスターリンはほんのわずかな譲歩しかしなかった。スターリンは、資本主義政府は実際には民主的ではないという暗黙の指摘とともに、ルブリン政府は真の民主政治体制を代表していると既に述べていたため、これにはほとんど何の意味もなかった。

ポーランドに関するこの合意は、ソ連の東欧支配の基本的枠組みを確立した歴史的なものだった。赤軍が支配するところでは、スターリンは自分の利益に合う政府を樹立するためにやりたい放題だった。

ルーズヴェルトは、この侮辱を個人的に受け止めたが、他にどうすればいいのか分からなかった。ルーズヴェルトは、病気がちで、闘い続けるには疲れきっていた。彼が真実を認めた相手は、会議のほとんど全ての時間をルーズヴェルトと過ごしたリーヒだった。ポーランドで合意された文言は基本的にスターリンのやりたい放題を許すものだとリーヒがコメントしたとき、ルーズヴェルトにできたのは譲歩することだけだった。

彼には他のことをする力がなかった。ルーズヴェルトは「それは分かっている、ビル、でももう戦うには疲れたんだ」と述べた。
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1944年8月、ワシントンのホワイトハウスで会食をするハリー・トルーマンとルーズヴェルト

ヤルタ会談が終わるまでには、スターリンは満足せざるを得なかった。わずか4年足らずの間に、彼の国際的立場は一変し、その変化の多くは彼自身の行動に責任があった。ヒトラーを助けることで、結果としてソ連を攻撃されるという自分が作り出した災難から、米英両国に東欧支配を受け入れさせるまで押し戻したのだ。スターリンは今や、帝政ロシアがかつて支配していた以上の領土の領主であり支配者であった。その過程で、彼は米英両国の援助を使って力をつけ、世界最大の軍隊を作り上げた。第二次世界大戦の初期、スターリンは、最悪の大戦略家(the worst of the grand strategists)だったが、ヤルタ会談の頃には間違いなく最高の戦略家になっていた。

その後、スターリンは自分が成し遂げたことを全て破壊すると脅した。ヤルタ以後、スターリンは米英両国との協力関係を装うことからさえも遠ざかり始めた。彼の以前の戦略的成功は、同盟国、特にルーズヴェルトのニーズに合わせて行動を調整することで、ダイナミックな状況に実質的に対応する能力から生まれたものだった。しかし今、彼は公然と東ヨーロッパを従属させ始め、ルーズヴェルトやチャーチルの必要性にはリップサービスすら行わなくなった。

スターリンは、ルーズヴェルトに対して、常に示していた配慮と機転をもって接することさえ止めた。彼は、ドイツの収容所から解放されたアメリカ人捕虜の世話をするためにポーランドにアメリカ人将校を入国させることを拒否し、アメリカ大統領を深く侮辱した。間もなく、スターリンはさらに踏み込むことになる。スターリンは、ルーズヴェルトがヒトラーと土壇場で取引をすることで自分を裏切ろうとしていると、奇妙な言葉で非難したのだ。

これは、スターリンがルーズヴェルトに対して行ったのと同じくらい侮辱的な告発だった。スターリンの頭の中では、ルーズヴェルトはスターリンに歩み寄ろうとしていたのであり、スターリンがルーズヴェルトを極悪非道な裏切り者として非難したことは、ルーズヴェルトの心に深く突き刺さった。ルーズヴェルトはついに我慢の限界に達したようで、1945年3月、スターリンに対する彼の態度は大きく変化した。ルーズヴェルトのスターリンに対する最後の電報は、戦争期間において、もっとも厳しく、率直なものだった。

ポーランドに関する長い電報の中で、ルーズヴェルトは基本的に、ヤルタでスターリンが自分に嘘をつき、ルブリン委員会に他の要素を入れることを拒否したと非難した。「私は、このことが私たちの合意にも、私たちの話し合いにも合致しない」と述べている。

チャーチルは、ルーズヴェルトの強い口調を喜んだ。イギリスの指導者チャーチルは、ヤルタ会談について嫌悪感を抱き、ルーズヴェルトにスターリンに対する「断固とした、露骨な態度(firm and blunt stand)」をとるよう迫った。事態は対決(confrontation)の様相を呈していた。

そして4月12日、ルーズヴェルトはジョージア州ウォームスプリングスの屋敷で再び休暇を取っていた。

アメリカの政策は、トルーマンの手に委ねられたが、トルーマンはルーズヴェルトが本当は何を達成したかったのか、どのように達成するつもりだったのか、まったく知らなかった。その後の3年間、トルーマンは、無知(ignorance)であったために、スターリンの戦略的な行き過ぎと失策(Stalin’s strategic overreach and blundering)と相まって、ルーズヴェルトが常に避けたいと望んでいた冷戦を生み出すことになる。

※フィリップ・パイソン・オブライエン:セントアンドリュース大学戦略学教授。最新刊に『戦略家たち:チャーチル、スターリン、ルーズヴェルト、ムッソリーニ、そして、ヒトラー-いかにして戦争が彼らを形作り、いかにして彼らが戦争を形作ったか(The Strategists: Churchill, Stalin, Roosevelt, Mussolini, and Hitler—How War Made Them and How They Made War)』がある。ツイッターアカウント:@PhillipsPOBrien

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(終わり)

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