古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

2024年12月

 古村治彦です。

 最近、ブログの更新が滞りまして申し訳ございません。来年第一四半期に本を出すことになりまして、その準備に追われております。年末年始で終わらせねばならない事務作業もあり、ブログでの発信ができない状態でした。「でした」と書きましたが、本の原稿のために、来年になってもしばらくは更新が滞ると思います。大変申し訳ございません。

 2024年は皆様に大変お世話になりました。ありがとうございます。私としましては、2023年末に刊行しました『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を、佐藤優先生に2度にわたって書評にてご紹介いただきました。それがご縁となりまして、佐藤先生との対談『世界覇権国交代劇の真相』(秀和システム)を10月末に刊行することができました。来年の本は単著になりますが、対談本が出ていなければなかったお話と言えます。来年以降は年間で何とか2冊本が出せたら良いなと考えております。皆様のご指導、ご鞭撻がなければ本の商売は成り立ちません。今後ともなにとぞよろしくお願い申し上げます。

 2024年の日本は能登半島を中心とする大規模な地震から始まりました。復興が思い通りに進まないという中で1年が終わろうとしていることを考えると、日本全体が置かれている状況は決して明るいとは申せません。先日は一人当たりのGDPで韓国に抜かれて、OECD加盟国中22位になったという報道がありました。2025年度は上昇すると予想されており、世界全体では37位(2024年は39位)になると見られています。

※2024年12月23日付「セカイハブ 【2025年】世界の一人当たり名目GDPランキング(IMF)」

https://sekai-hub.com/statistics/imf-gdp-per-capita-ranking-2025

少子高齢社会、為替などの理由から大したことではないという言い訳じみたことを言う人たちもいますが、2000年には世界で2位、2012年には13位だったことを考えると、順調に「右肩下がり」で来ています。「右肩下がり」が順調では困ります。この21世紀の第一四半期を通じての「右肩下がりの経済衰退」のトレンドはこれからも続くでしょう。日本が世界の経済成長から取り残されている状況が続く限り、厳しいでしょう。全体の名目GDPではドイツに再逆転を許して第4位となりましたが、2025年中にインドに抜かれて第5位になるでしょう。10年以内に6以下で日本を脅かしそうな国はないので、ここがしばらく定位置と言うことになるでしょう。購買力平価(purchase power parity)で計算したGDPでは、「中国、アメリカ、インド、ロシア、日本、ドイツ、ブラジル、インドネシア」という順番になっており、この10年で更に順位が下がるでしょう。

日本の国力の衰退を示す1つの現象として、円安も影響してのインバウンドの増加があります。1980年代、1990年代、日本人は「安い、安い」と世界中に旅行に行きました。現在は世界中から「安い、安い」と観光に来られる国になりました。そして、これは良くないことですが、1990年代、2000年代では、外国からの売春婦が東京の繁華街に多く見られたものですが(新大久保ではこの通りにはどこどこの国の人、別の通りには別の国の人という「棲み分け」がありました)、いまでは、未成年の女性たちも含めて、日本人女性が繁華街で客引きをするようになっているということが報道されています。また、ハワイなどで日本人女性が「出稼ぎ」で売春をしているということで、女性の一人旅は警戒され、強制送還されることもあると聞きます。

現状について色々と言い訳がましいことを言っても仕方がありません。日本は確実に貧しくなっています。

 日本は太平洋戦争での惨めな敗戦から立ち上がりました。1956年の経済企画庁発表の『経済白書』の中の一節、「もはや戦後ではない」は戦後復興がひと段落した後、1960年代から1970年代にかけての「奇跡の経済成長(economic miracle)」が始まることを予感させました。1960年代から1970年代にかけて、日本は毎年10%以上の経済成長を続けました。この時期の日本の高度経済成長の特徴は「格差なき経済成長(economic growth without inequality)」でした。国民の9割が「自分は中流だ」と考えるような国になりました。経済格差の小さな経済大国であった日本は、バブル期以降崩壊しましたが、その崩壊を促進し、後戻りできないまでにしたのは、小泉・竹中路線です。21世紀に入っての日本の凋落について、小泉純一郎、竹中平蔵はその罪。万死に値すると言わねばなりません。

 日本は貧しくなり、日本国民は「衣食足りて礼節を知る」状態から堕落し、アノミー状態に陥っています。格差が亢進し、社会的全体を覆う無力感とその反対の怒りは大きくなっています。アノミー状態になることで、社会的な規範は崩れ、自殺者は増えることになります。格差が進めば、「金持ちから税金を取れ」という主張から、「国が機能しないならば実力行使だ」ということになり、犯罪が増加することになるかもしれません。闇バイトと称してお金が欲しい若者たちを使嗾しての犯罪行為は既に起きています。

 このような状態は昭和初期とよく似ています。日本では「戦前」「戦後」という言葉が使われます。それは、太平洋戦争が最後の戦争であって、戦前は1945年8月15日以前、戦後は1945年8月15日以降ということがコンセンサスとなっているからです。現在の日本の状況は「『もはや戦後ではない』ではない」、ポスト戦後時代、新しい「戦前」と言えるのではないかと思います。

 日本国憲法の下では、日本は戦争ができません。国際紛争を解決する手段としての戦争は永久に放棄しています。ですから、日本は、1945年以降は永久に「戦後」ですし、そうあり続けねばなりません。この経済の衰退、貧困の亢進による社会の閉塞感を外に向けて、戦争を行うことで解決することはできません。

 「日本は均衡点まで落ち続ける。それはしばらく続く、おそらく団塊ジュニア世代がいなくなるまで(あと30年くらいは続く)」という前提で、物事を考えねばなりません。2050年頃の日本は元・先進国として、遺産も食いつぶして、裸一貫からやり直すことになるでしょう。そのようなことができるのかどうか分かりません。しかし、これからの30年は衰退が続くということを覚悟して、均衡点まで落ち続け、そこからの反転攻勢ができることに期待したいものです。

 2024年は世界各国で故呉伊勢レヴェルの選挙が実施され、指導者が交代するということもありました。台湾、インドネシア、インド、フランス、イギリス、日本、アメリカで選挙がありました。その中でも最も重要だったのは、アメリカ大統領選挙です。共和党のドナルド・トランプ前大統領が民主党のカマラ・ハリス副大統領を破り、132年ぶりの大統領返り咲きを達成しました。米英仏というこれまで世界をリードしてきた、民主政治体制の本家本元とも言える先進諸国で選挙が実施されましたが、一抹の不安感を覚える結果となりました。民主政体国家の不安定さと非民主国家の安定ぶりが対比され、民主政治体制の正統性に疑問符がつくということになっています。大富豪イーロン・マスクが大規模な資金を出すことで、トランプ政権に大きな影響力を持つということもそれで果たして良いのかという疑問符がつきます。アクトン卿の至言「権力は腐敗する、絶対権力は絶対的に腐敗する」を考える時、「政治は腐敗から逃れることはできないし、きれいごとだけでは政治はできない」ということになるが、民主政治体制は綺麗事を前面に押し出しているために、失望感が大きいということになるのだろうと思います。

おめでたい年末年始になんとも暗い話で申し訳ありません。良い年になりますよ、などと安易に言える状況ではありません。「正月は冥土の旅の一里塚 めでたくもあり めでたくもなし」(一休禅師)。「それでもなお」、私たちは進み続けるしかありません。
(終わり)

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世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む

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 古村治彦です。
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※2024年10月29日に佐藤優先生との対談『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』(←この部分をクリックするとアマゾンのページに飛びます)が発売になりました。よろしくお願いいたします。

 アメリカでは11月末の感謝祭(Thanksgiving Day)のあたりから、ホリデーシーズンに入るという感じで、一年を振り返るということも行われる。世界での大きな出来事から個人的な出来事まで、色々なことがあった。私で言えば、昨年末ギリギリに『』を刊行し、それがご縁になって、佐藤優先生との共著『』を出すことができた。来年も著書が出せるように、それが皆様のお役に立つ者であるように精進したい。より個人的なことは差し控えるが、大病もせず(慢性的な病気はあるがその状態が悪化せず)、大きな怪我もせずというのはありがたいことだったと思う。

 2024年は世界各国で国政レヴェルの選挙が実施された。思い出せるだけでも、台湾、インドネシア、インド、フランス、イギリス、日本、アメリカといった国々で選挙が実施され、指導者が交代することになった国もある。なんと言っても、アメリカ大統領選挙でドナルド・トランプが当選し、『』の内容から「トランプ当選を当てましたね」と言われたのは大きかった。また、共和党がホワイトハウス、連邦上下両院、連邦最高裁、アメリカの行政、立法、司法の三権を握ることになった(クアドルプル・レッド状態)。2025年からの第二次ドナルド・トランプ政権がどのようになるか、注目される。

 世界での戦争は2024年中に終わる可能性はない。ウクライナ戦争と中東での戦争は、小休止という状態であるが、正式な停戦には至っていない。この状態で2025年を迎えることになりそうだ。

 私は以下のスティーヴン・M・ウォルトの論稿で、世界で核兵器が使用されなかったことは最低限のことであるが、良かったということに同意する。それは多くの人もそうだと思う。ロシアにしても、イスラエルにしても、核兵器を使うということは、ハードルがとても高いことであるが、可能である。それでも、状況が深刻化しても、核兵器使用はなかった。核兵器を使用すればよいという主張がなかった訳ではない。地域紛争においては核兵器を使用しないという前例の積み重ねも重要だ。それがモラル面でのハードルになり、抑止力になる。もっとも、非常に脆弱なものではあるが。

 このブログは2025年も続くか、なんとなく日本のホリデーシーズンに入った感もあるので、このような文章を書いた。

(貼り付けはじめ)

2024年で感謝すべき10の理由(10 Reasons to Be Thankful in 2024

-何はともあれ、今年、世の中には感謝すべきことがいくつかある。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2024年11月28日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/11/28/thanksgiving-10-reasons-thankful-geopolitics-governance-human-rights/

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ワシントンのホワイトハウスで感謝祭の七面鳥「ピーチ」に恩赦を与えるジョー・バイデン米大統領(11月25日)

今日はアメリカでは感謝祭(Thanksgiving)であり、この時期には感謝の気持ちをリストアップするのが私の習慣となっている。残念なことに、今回はその作業にもう少し努力が必要だ。

中東での紛争は、何千人もの罪のない人々の命を犠牲にし、アメリカの評判を落とし、将来のトラブルの種をまき続けている。ウクライナにおけるロシアの戦争は期待外れの結末に向かいそうだ。多くの国でポピュリストが台頭し、現代社会が直面する困難な課題に対する解決策をほとんど示さないまま、分裂と疑念(division and suspicion)をまき散らしている。地球は熱くなり続け、気候危機への対策は停滞している。

アメリカの有権者は、犯罪者を次期大統領に選んだばかりだ。彼は今、国民から金をむしり取り、自分たちを富ませようとする忠誠者、蓄財家、変わり者で構成される政府をせっせと任命している。いい時代ではないか?

それでも私は、ほろ苦いものもあるが、今年感謝すべき10の理由を見つけた。

(1)アメリカの選挙は異議を唱えられなかった(1. The U.S. Election Was Not Challenged

11月5日に行われた米大統領選挙の結果は、私が望んだものではなかったが、結果をめぐる長期にわたる揉め事や、選挙を盗もうとする別の努力に終始しなかったことに感謝している。もしドナルド・トランプ次期大統領が敗北していたら、彼と共和党は結果を覆そうとあらゆる手を尽くしたに違いない。しかし、民主党は、悲しい心で、しかし見事な潔さで結果を受け入れることで、その気品と合衆国憲法への関与を示した。トランプ2期目は国にとって良いことではないかもしれないが、秩序ある平和的な権力移譲(orderly and peaceful transfer of power)は行われた。

(2)(非常な) 老兵の退場(2. Out With the (Very) Old Guard

民主党について言えば、何十年もの間、民主党を支配してきた老人支配政治(gerontocracy)がついにその舞台を譲ることになり、私は感謝している。ジョー・バイデン大統領、ナンシー・ペロシ連邦下院議員、チャック・シューマー連邦上院議員、ステニー・ホイヤー連邦下院議員、クリントン夫妻、その他何人かが、理想よりも数年遅れて日没へと向かうのを見るのは残念でならない。これらの人々は、政治家としてのキャリアの中で良いこともしたし、それは私たちも感謝すべきことだが、アメリカ国民との関係が希薄になる中で権力にしがみついたことも事実だ。新しい血と新しいアイデアが必要な時だ。

新鮮な思考がアメリカの外交政策にも及ぶことを願っている。アントニー・ブリンケン国務長官やジェイク・サリバン国家安全保障問題担当大統領補佐官を含むバイデンチームは、リベラルな覇権(libera hegemony)という失敗した戦略を少し手直しして復活させようとした。時代遅れの信念や政策にしがみついた結果、ウクライナやガザ地区で悲惨な結果を招いた。こうした考え方が今後のアメリカの外交政策に与える影響は少ない方がいい。

(3)有権者が見逃したソフトランディング(3. The Soft Landing That U.S. Voters Missed

バイデン政権の外交政策ティームの全員がひどいパフォーマンスだったわけではない。ジャネット・イエレン財務長官、ジャレド・バーンスタイン経済諮問委員会委員長、ジェローム・パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長が新型コロナウイルス不況後のアメリカ経済を管理していたことに感謝している。彼らは多くの識者があり得ないと想定していた「ソフトランディング(soft landing)」を成し遂げた。もちろん彼らの実績は完璧ではなかったが、もっと悪くなる可能性もあった。

有権者がバイデンの功績を高く評価しなかったのは残念だが、その理由の1つは、バイデンが高齢のため、一般市民に説明することができなかったことだ。不平等と住宅費の上昇に対処するためのより大きな努力は助けになっただろうが、これらの問題を解決するための真剣な対策が連邦議会を通過したり、地方の障壁を乗り越えたりすることはなかった。アメリカの有権者は11月5日に感謝の念を抱かなかったのは明らかだが、私は感謝している。

(4)生殖の自由の反撃(4. Reproductive Freedom Battles Back

トランプ陣営の明らかな女性差別、安全な妊娠中絶を事実上不可能にするプロジェクト2025の計画、女性の身体以外のあらゆるものを規制緩和しようと急ぐ連邦最高裁の判例を無視する姿勢を考えれば、今年の選挙がリプロダクティブ・フリーダム、女性の健康、そして、ジェンダーの権利にとってより広範に何を意味するのか、多くの人々が落胆したのは当然である。

しかし、選挙戦の様相はまったく暗澹たるものではなかった。女性の健康と権利を守るための投票イニシアティヴは、それが検討されていた10州のうち7州で可決され、中絶の権利を支持する候補者が、トランプ大統領を支持した州を含む重要なレースで勝利した。ささやかな慰めかもしれないが、今年はもらえるものは何でももらうつもりだ。

(5)大量破壊兵器のタブーは守られてきた(5. The WMD Taboo Held Up

核兵器を保有する国々が関与する暴力的な紛争が継続・拡大しているにもかかわらず、大量破壊兵器(weapons of mass destructionWMD)が使用されることなく今年も1年が過ぎたことに、私たちは感謝しなければならない。しかし、私たちの感謝は、核兵器、そしておそらく他の大量破壊兵器の敷居が低くなっているという知識によって和らげられるべきである。アメリカを含むいくつかの国の強硬なタカ派は、核兵器の使用について公然と語り始めている。来年の感謝祭のリストにこの項目を入れられればいいのだが、年々その可能性が低くなっているのが心配だ。

(6)国際刑事裁判所の逮捕令状(6. The ICC Arrest Warrants

国際刑事裁判所(International Criminal CourtICC)が政治的圧力に屈することなく、ハマス軍最高責任者のモハメド・デイフ(彼はもう生きていないかもしれない)、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相、ヨアヴ・ギャラント元イスラエル国防相に逮捕状を発行したことに感謝したい。この逮捕令状は、戦争犯罪や人道に対する犯罪を命じたり犯したりした人間が、国際社会から特別扱いされ、制裁を受ける可能性があることを示す希望的な兆候である。

私は、リアリストとして、このような措置が一部の指導者の悪行を止めるものではないことを認識している。しかし、執行メカニズムが弱いか存在しない、食うか食われるか(dog-eat-dog)の国際政治においても、国家は政府が罪のない市民に故意に過度の残虐行為を加えることを阻止しようとすることはできる。今回の逮捕状によって、ハマスやイスラエルの指導者たちが選んだと思われる暗い道に向かわないよう、将来の指導者たちが何人かでも説得されるのであれば、私たちはそれにも感謝しなければならない。

(7)公務員(7. Civil Servants

政治家や専門家たちは、お役所仕事で社会を窒息させ、私たちに自分たちの好みを押し付けていると思われる政府関係者を批判するのが大好きだ。彼らは格好の標的だが、多くの場合、不十分なリソースを使いながら、私たち全員の状況をより良くするために毎日働いている、ほとんど献身的でほとんど政治に無関心で組織的に低賃金の何千人もの公務員なしでは社会は機能しない。

アメリカは、このような人々が、イデオローグや日和見主義者から指示を受ける忠誠者やハッカーに取って代わられるとどうなるかを発見しようとしているのかもしれない。この戦略は他の国ではあまりうまくいっておらず、今後数年で公共サーヴィスが劇的に低下すれば、アメリカ人は満足しないだろう。私が間違っていればいいと思う。今のところは、トップに任命された人たちの気まぐれや愚行にもかかわらず、公的機関の運営を維持してきた専門知識と献身に感謝することにしよう。

また、ジョシュ・ポール、アネル・シェリーン、ハリソン・マンといった政府関係者にも特別な感謝の意を表する。彼らは出世主義(careerism)よりも道徳と原則を優先し、バイデン政権によるイスラエルの虐殺に対する非良心的かつおそらく違法な支援に抗議して辞任した。もし彼らの上司の何人かが彼らの例に倣っていれば、アメリカの政策はより建設的な方向に舵を切ったかもしれない。

(8)著述家たち(8. Authors

幸運なことに、私は仕事上、たくさんの本を読む必要があり、私を教育し、挑戦し、インスピレーションを与え、楽しませてくれた多くの著述家に毎年感謝している。全員に言及することはできないが、ステイシー・E・ゴダード、エリン・ジェン、シーピン・タン、スティーヴ・コル、カルダー・ウォルトン、アダム・シャッツ、ジェイムズ・ゴールドガイアー、ダニエル・チャーデル、ヴィクトリア・ティンボア・フイ、ノーム・チョムスキー、ネイサン・ロビンソンに簡単に感謝の意を表したい。私は彼らが書いた全てに同意する訳ではないが、その全てに多くの価値があると感じた。

そして、ナターシャ・ウィートリーに特別な応援を送りたい。著書『国家の生と死(The Life and Death of States)』は、オーストリア=ハンガリー帝国の終焉と近代国家制度の創設のめくるめく歴史であり、法制史、哲学、法学などの多くの学問分野の並外れた組み合わせとなっている。決して軽い読み物ではないが、非常に読み応えがあり、深く考えさせられる内容だった。

軽めの作品としては、故ポール・オースター、ジュリアーノ・ダ・エンポリ、バリー・アイスラー、ボニー・ガーマス、そして特にジョージ・スマイリーを完全に満足のいく形で甦らせるという不可能に近い偉業を成し遂げたニック・ハーカウェイの作品に喜びを見出したことに感謝している。私の読書人生を豊かにしてくれた上記の全ての人々に感謝する。

(9)希望の光か?(9. A Silver Lining?

これは時期尚早かもしれないが、第二次トランプ政権が、敵対者たちが警告していた無能で執念深い、そして過度の傲慢さを示しているという初期の兆候に対して、暫定的に感謝の意を表したいと思う。はっきり言っておくが、私はアメリカに悪いことが起こることを望んでいる訳ではない。私の心配は、いずれにせよそれらが起こるのではないかということだ。

これが引き起こすであろう問題や、多くのアメリカ人が耐えることになる苦しみを私は喜ばないが、トランプ、イーロン・マスク、ロバート・F・ケネディ・ジュニア、そしてその他の人々が最終的に多大な損害を与えるのであれば、むしろそうするほうが良いと思う。それは迅速かつ誰の目にも明白だ。そうなれば、他の非自由主義的な独裁者たちがやったように、トランプとその手下たちが権力を維持するために選挙制度を再配線する前に反発が始まるかもしれない。興味がある方のために付け加えておくが、私は間違いであると証明されることを嬉しく思うし、物事がそのように進むのであれば喜んでそれを認めるつもりだ。

(10)個人的な幸せ(10. Personal Blessings

私は幸運にも今学期をウィーンの人間科学研究所 (IWM) のゲストとして過ごすことができた。考えたり書いたりするのにこれ以上良い環境はない。とても良いホストをしてくれたミーシャ・グレニー、イワン・クラステフ、そしてIWMのスタッフに感謝する。最後に、たとえあなたがコメントで私に課題を与えてくれた読者の一人であっても、このコラムを読むことを選択した全ての人に、私は深く感謝し続ける。

そして、以前はトゥイッターとして知られていた地獄のサイトに代わるサイトがあることに特に感謝している。今後は、@stephenwalt.bsky.social で私をフォローして欲しい。素晴らしい感謝祭になりますように!

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。「Bluesky」アカウント:@stephenwalt.bsky、「X」アカウント:@stephenwalt

(貼り付け終わり)

(終わり)

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 古村治彦です。
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 ウクライナ戦争は2022年2月に始まってもうすぐ3年が過ぎようとしている。初期段階でウクライナ軍が善戦してロシア軍の進撃を止め、西側諸国がロシアに経済制裁を科して戦争は早期に集結するかと思われたが、結局、ロシアは経済制裁を受けても持ちこたえ、戦争は継続している。

西側諸国はウクライナに支援を続けているが、そのほとんどはアメリカが負担している。ウクライナ戦争停戦を訴えて当選した、ドナルド・トランプ次期大統領が正式に就任するのが2024年1月20日で、それ以降、ウクライナ戦争の停戦協議は本格化すると考えられる。現状は、ウクライナは東部や南部で奪われた地域を奪還できていないが、ロシア領内クルスク州の一部を占領している。地図を見てもらえれば分かるが、ロシアにとっては喉に刺さった小骨程度のことであるが、やはり、ここを奪還できるかどうかということは重要になってくる。ウクライナとしてはクルスク州を取引材料にして、ロシアから何らかの条件を引き出したいところだ。
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 ロシアとしては、停戦協議にはクルスク州を奪還してから応じたいところだ。アメリカの支援が切れる今年1月以降に攻勢をかけて、ウクライナ軍をロシア領内から撤退させ、それから停戦交渉をするということになる。また、自分たちで攻勢をかけなくても、トランプ大統領に停戦協議に応じたいが、クルスク州を奪還しない限り無理だと言えば、トランプ大統領が、ウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領に圧力をかけてウクライナ軍を撤退させるということも外交交渉で出来るだろう。

 停戦後に、平和維持活動として、ポーランドとフランスがウクライナに将兵4万人を派遣するという計画があるという報道もある。ウクライナのゼレンスキー大統領がウクライナのNATO加盟の必要性を訴え、NATO加盟まで、外国の軍隊の駐留を求めるという発言があった。これはロシアを非常に刺激する発言であり、ポーランドとフランス両国の軍隊がウクライナに4万人も駐兵するということはロシアにとって受け入れがたいことだ。ウクライナとしては逆に、外交交渉の材料として、NATO加盟と外国軍隊の駐留を取引材料に仕える可能性もある。ここで重要なのはポーランドである。ポーランドは中欧の大国であるが、同時に、歴史的にヨーロッパ全体に不安定要因ともなる国家である。ポーランドは、反ロシアという点ではウクライナと共闘できるが、ウクライナの南西部ポーランド国境地帯ガリツィア地方には実質はカトリック教徒のユニエイトがおり、ウクライナとの関係が深い。ポーランドがウクライナ南西部の支配を狙っている可能性がある(ロシアがウクライナの頭部を持っていったんだから自分たちもという考え)。
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 ウクライナ戦争の停戦交渉はロシアの占領地域はそのままという現状を認めるところが前提となり、ウクライナのNATO加盟を認めるかどうか、外国軍駐留を認めるかどうかというところになるだろう。軍事同盟ではないEU加盟については、ロシアも認められるところがあるだろう。しかし、EU側が負担増大を懸念してウクライナの加盟を認めない。トランプ次期大統領がNATOからの脱退も示唆しており、NATOの力が弱体化し、西側諸国の国力も低下している中で、ウクライナは西側とロシアの間で両天秤をかけるという柔軟な動きが必要となってくる。

(貼り付けはじめ)

●「ポーランドとフランス、軍派遣を協議か 戦闘終結後のウクライナに」

毎日新聞 2024/12/12 09:37(最終更新 12/12 09:37

https://mainichi.jp/articles/20241212/k00/00m/030/036000c

 ポーランドのメディアは11日、同国とフランスが、ロシアとの戦闘終結後のウクライナで平和維持活動に当たる4万人規模の外国軍派遣の可能性を協議していると報じた。フランスのマクロン大統領は12日にポーランドの首都ワルシャワでトゥスク首相と会談する予定で、議題に上るとみられる。

 ウクライナのゼレンスキー大統領は9日、自国の安全を保証するには北大西洋条約機構(NATO)加盟が必要だとした上で、加盟までの間、外国軍が駐留する案を検討していると述べていた。

 マクロン氏とゼレンスキー氏は7日、トランプ次期米大統領を交えた3者会談をパリで行っており、こうした案を議論した可能性もある。

 フランスのルモンド紙は11月、フランスと英国が欧州各国からのウクライナへの派兵を議論していると報じた。米メディアによると、トランプ氏の政権移行チームでは、ロシアとの戦闘を凍結し非武装地帯が設けられた場合、欧州諸国が警備を担う案が浮上している。(共同)

 

 

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ウクライナのクルスク侵攻がもたらす地政学的チャンス(The Geopolitical Opportunity of Ukraine’s Kursk Offensive

-ウクライナのクルスク侵攻はワシントンに対して、より賢いアジアへの意向(pivot to Asia)を示す道となる。

A・ウェス・ミッチェル筆

2024年8月15日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/08/15/kursk-ukraine-russia-offensive-incursion-china-asia-us-geopolitics-strategy/?tpcc=recirc062921

写真

ウクライナのロシアへの奇襲侵攻の中、破壊された国境検問所を通過するウクライナの軍用車両(2024年8月14日)

現在、クルスク地方で進められているような、ウクライナのロシア本土への侵攻は、アメリカの地政学的課題を順序立てて解決するという広範な戦略の一環として、戦争をより迅速に終結させる好機である。ロシアの侵攻2日目に私が『フォーリン・ポリシー』誌に書いたように、このような順序立ての戦略は、中国、イラン、ロシアとの同時かつ多方面にわたる戦争を回避するための最良の選択肢である。ウクライナ人が最近の成果を強固なものにし、おそらくそれを土台にするのに必要な手段を与えることで、ワシントンはキエフがモスクワを交渉のテーブルにつかせるのを助け、西側諸国が再武装する時間を稼ぎ、アメリカがインド太平洋に関心を移すのを可能にするチャンスがある。しかし、そのためには、ジョー・バイデン政権が、ウクライナによるアメリカ製兵器の使用制限を撤廃し、紛争の明確かつ達成可能な最終状態を定義する必要がある。これはリスキーではあるが、中国かイランが二正面戦争でアメリカと対峙するまでウクライナに援助を垂れ流すという選択肢よりは望ましい。

クルスク攻防戦がチャンスを生み出すには、この攻防戦が2022年以降のウクライナのロシア侵攻作戦とどう違うのかを理解する必要がある。第一に、ウクライナで最も優秀で西側で訓練された部隊を含む少なくとも5個旅団(brigades)の要素に加え、戦車、大砲、無人機、戦闘機が関与しており、規模がはるかに大きい。

第二に、今回の侵攻は過去の侵攻よりもはるかに深い。詳細は確認されていないが、ウクライナ側は国境のロシア側にある70以上の村、鉄道路線、重要なガス中継ハブ、合計1000平方キロメートル(386平方マイル)以上を支配しているようだ。第三に、ウクライナ側は急襲(raid)に成功しても立ち去るどころか、更に兵力と装備を投入し、侵攻を強めているようだ。

まだ多くのことがうまくいかない可能性がある。1つは、ロシア軍が攻撃している他の戦線からウクライナの兵力を引き離す可能性があることだ。モスクワはクルスクへの新戦力の投入を遅らせているが、ロシア軍にはまだ多くの予備兵力がある。

それにもかかわらず、この侵攻によってロシアの意外な弱点が明らかになった。ロシアの国境はほとんど守られていなかった。ウクライナ軍は戦略的な奇襲を仕掛け、敵国に戦争を持ち込み、ウクライナに必要な士気を高めた。ウラジーミル・プーティンは今、この攻撃を厄介なものとして軽視し、徴兵制(政治的に不人気な行動)と国内治安部隊、そして再配置された少数の前線部隊でやり過ごすか、あるいはウクライナ人を退去させ、より大規模な再配置で国境の残りの部分を強化するかというディレンマに直面している。つまり、ウクライナの橋頭堡を封じ込めることはできても、追い出すことはできそうにない。

数的劣勢にもかかわらず、ウクライナ側が地歩を固める可能性は十分にある。これまでのところ、この戦争では、陣地戦(positional warfare)における攻撃よりも防御の方が思いのほか有利であることが明らかになっている。秋の雨季を間近に控え、ウクライナ軍は容易に離脱できないような強固な突出部を形成できる可能性がある。今後、ロシア側は、ウクライナの長くて、穴だらけの国境を監視するために、より多くの軍隊を配備することを避けられないだろう。

このような事態は戦略的に重要である。それは、これまでロシアが勝利のセオリーとしてきた、戦争を長引かせることが、より大規模でおそらくより強力な紛争当事者であるロシアに有利に働くという考えに疑問を投げかけるからだ。クルスク作戦が最終的に失敗したとしても、現在の膠着状態を逆転させ、ウクライナが相対的に有利になるようなウクライナの戦略を描くことができる。プロイセンの軍事理論家カール・フォン・クラウゼヴィッツが19世紀に記したように、「軽く保持された、あるいは無防備な地方の占領は、それ自体が有利であり、この有利さが敵に最終的な結果を恐れさせるのに十分であれば、それは平和への近道と考えることができる」。もしキエフが小規模でもロシアの国境地帯を占領し、保持することができれば、モスクワは自国の領土において、西側の制裁によってこれまで耐えてきたことよりも重大な痛手を被る可能性を考慮しなければならなくなる。

これらは全て、より広範なアメリカの戦略に影響を与える。私は以前から、ウクライナにおけるロシアの戦争に対するアメリカの最適なアプローチは、中国が台湾に対して準備するよりも速い時間軸で、ロシアに代理敗北を与える機会として利用することだと主張してきた。過去2回の国家防衛戦略で、アメリカは複数の主要な相手と同時に戦争する準備ができていないことが明らかになった。ロシアの継続的な侵略に対して集中的かつ規律ある方法で資源を使うことで、アメリカはヨーロッパに対するロシアの脅威を弱め、その上でインド太平洋における抑止力を強化するための余地(bandwidth)を確保するチャンスがある。

問題は、アメリカが敵国ほど時間をうまく使えていないことだ。ウクライナ戦争が始まって以来、アメリカの国防予算は比較的横ばいで推移している。中国はこの時間を利用して、自国の銀行業界を制裁から守り、エネルギー供給をアメリカが混乱させにくいルートへと方向転換し、台湾近辺に攻撃部隊を増強し、アメリカとの核バランスを達成する努力を加速させている。イランはこの間、国防予算を増やし、中東全域の代理勢力に軍備を提供し、核兵器開発期間をほぼゼロに縮めてきた。

敵国が24時間体制で武装している一方で、アメリカは自国の防衛産業基盤を、ウクライナを支援できる状態にまで引き上げるのに苦労している。国防総省の推計によれば、アメリカは毎月8万発の155ミリメートル榴弾砲の砲弾を生産する予定だ。ウクライナが防衛陣地を維持するだけでも月に少なくとも7万5千発が必要であること、そして1990年代半ばには、アメリカが月に80万発以上の砲弾を生産していたことを考えるまでは、この数字は印象的だろう。オランダと同規模の経済規模を誇るロシアは現在、アメリカとヨーロッパを合わせた量の3倍の弾薬を生産している。最近の試算によると、アメリカがウクライナに提供したパトリオットミサイル迎撃機、ジャヴェリン対戦車システム、スティンガー防空システムの在庫を補充するには、現在の生産レヴェルで5年かかるという。

ヨーロッパの状況は更に悪い。高飛車な美辞麗句を並べ立てながらも、ほとんどのNATO諸国は、戦争を抑止するための必須条件である戦争への備えについて、中途半端な努力しかしていない。再軍備への意欲を好転させると宣言したにもかかわらず、ドイツは過去2年間、国防予算の不足を容認してきた。最近ではウクライナ支援を半減させ、2025年の国防予算はドイツ国防省が要求した額ではなく、インフレを補うのがやっとというわずかな増額にとどめた。2022年と2023年のNATO首脳会議で、西ヨーロッパの同盟諸国がNATOの東側に師団規模の部隊を配備すると約束し、その後、東側の防空を改善すると約束したが、実現されていない。最近の報告書によれば、ヨーロッパには長期にわたる紛争を遂行するための「備え、産業能力、サプライチェーン、雑誌の充実度、兵站、質量、資源、そして特に『戦う意志(will of fight)』が欠けている」という。

要するに、ワシントンとその同盟諸国は、ロシアの侵攻という衝撃を受けてからの時間を賢く使わなかったが、敵対国は賢く使ったということだ。2年以上前から、主要先進諸国との長期にわたる紛争にどのような規模の努力が必要かは明白であった。それにもかかわらず、アメリカもその同盟諸国も、そのような事態に備えるために必要な準備に近いものは何もしてこなかった。

このような背景から、クルスク侵攻のようなウクライナのロシアへの侵攻は戦略的な意味を持つ。もしウクライナ側が、ロシアの小さな地域さえも危険に晒すことができることを証明できれば、時間さえかければ、ロシアのウラジーミル・プーティン大統領に、キエフにとってより有利な条件で交渉のテーブルにつかせることができるかもしれない。ウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領は、これが作戦の目的だと明言している。プーティンは、「敵は将来的に交渉の立場を改善しようとしている」と発言し、それを認めた。

東ヨーロッパ戦争の最終段階で領土が果たしてきたユニークな役割を強調するのは価値があることだ。過去において、ロシアが戦争後に不利な条件を達成できなかったのは、相手がロシアの領土を保持していたときだけである。例えば、1921年のポーランド・ソヴィエト戦争終結時、ソヴィエト・ロシアはポーランド軍がソ連領の一部を占領した後に西進を終了した。これとは対照的に、フィンランド・ソヴィエト冬戦争では、フィンランド軍がほとんどの軍事戦に勝利したにもかかわらず、ソヴィエト領土を占領することができなかったため、フィンランド領土の大部分を割譲して終結した。

言い換えれば、ウクライナにとって領土は、ロシアに対する制裁緩和やその他の経済的インセンティヴよりも価値のある、最も重要な影響力なのである。したがって、西側諸国の目的は、ウクライナにとって可能な限り最良の条件で、できるだけ早く戦争を終結させる方法として、ゼレンスキーがロシアの領土を保持するのを支援することであるべきだ。

そのためには、バイデン政権はこれまでやりたがらなかった2つのことを実行する必要がある。第一に、戦場での優位性を維持するために必要な武器をウクライナに提供し、キエフがそれらの武器を使用する方法に対する制限を撤廃すべきである。これにはリスクがない訳ではなく、ロシアはNATOやアメリカを直接脅かす形で紛争をエスカレートさせて対応する可能性がある。しかし、これらのリスクは、代替案のリスクと対比させて考慮する必要がある。例えば、ヨーロッパが安定する前にアジアを優先しようとする試みや、イランに対する先制攻撃など、より劇的で危険な試みである。おそらく最悪は、現在の漸進的な路線を継続することであり、その場合、アメリカの軍事備蓄が枯渇した瞬間に台湾に対する中国の動きでアメリカ政府に直面する可能性があり、おそらくそれ自体がさらにエスカレートする可能性を秘めたシナリオとなるだろう。

第二に、ワシントンは戦争に対する明確で達成可能な政治目標を定義する必要がある。その目標は、2022年2月までのウクライナの国境内に主権を回復し、独自の外交政策を担当し、経済的に実行可能で軍事的に強力になることである。それは本質的に価値がある。また、将来のロシアのヨーロッパ侵略に対する防波堤(breakwater against future Russian aggression)として機能する可能性もあり、それによってアジアにより重点を置くというアメリカの目標を支援する。

これらの線に沿ってアメリカの目標を定義することは、バイデン政権の曖昧で不安定な戦争アプローチを放棄することを意味する。バイデン大統領は、最終目標について、ロシアの体制転換(regime change)であると繰り返し示唆した。明らかに達成可能ではないことに加えて、このような、アメリカの目標を組み立てると、戦場で交渉が望ましい地点に達したときにアメリカがウクライナを支援することが困難になる。外交とは、侵略に直面したときの降伏や甘い合理性のことではない。むしろ、クラウゼヴィッツが書いたように、それは国家が「敵軍を殲滅するよりも目標に向かうより短い道(shorter route to the goal than the destruction of the opposing armies)」を見つけるための重要な媒体である。

制限のない軍事援助の拡大と最終目標の明確化という両方の点で、ワシントンとその同盟諸国は緊迫感を持って行動する必要がある。時計の針はアメリカに不利に働いている。時間が賢明に活用されていないという単純な理由で、順序決定戦略は2022年当時よりもリスクが高まっている。しかし、配列決定のリスクは、代替手法のリスクよりも依然として低い。配列処理には、おそらく最後の一押しが必要となる。

だからこそ、ウクライナ人を助けると同時に、複数の大国が敵対する戦争でアメリカ軍を支援できるよう防衛産業基盤の整備を急ぐという、2つの側面からアプローチすることが重要だ。また、ワシントンがヨーロッパの同盟諸国に対し、戦争に備えて現在行っている以上のことを行うよう働きかけることも重要だ。そうでなければ、得られるのは短い猶予だけで、アメリカが戦争を抑止するためにアジアでの態勢を強化することはできない。

戦略は固定されたものではなく、状況に応じて決まる。アメリカとその同盟諸国は現実と差し迫った選択に目を覚ます必要がある。アメリカが真剣に戦争の準備を始めない限り、実際には一度に一つ、あるいはもっと悪いことに複数の戦争を同時に戦わなければならないことになるかもしれない。

A・ウェス・ミッチェル:「ザ・マラソン・イニシアティヴ(The Marathon Initiative)」代表。トランプ政権でヨーロッパ・ユーラシア担当国務次官補を務めた。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる
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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。
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※2024年10月29日に佐藤優先生との対談『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』(←この部分をクリックするとアマゾンのページに飛びます)が発売になりました。よろしくお願いいたします。

 2024年の大統領選挙(11月5日)で勝利したトランプが政権構想を発表する前の9日に、第一次政権で国連大使を務めたニッキー・ヘイリーと、国務長官を務めたマイク・ポンぺオについて、第二次政権では政権入りさせないと発表した。ポンぺオは、トランプに近い大物として、アメリカでも、日本でも、第二次政権の国務長官候補として名前が挙がっていた。ニッキー・ヘイリーは今回の大統領選挙の共和党予備選挙に出馬して、トランプと指名を争った経緯があり、また、選挙期間中にはトランプ批判を繰り返したことから、厳しいかなと思っていたが、ポンぺオの政権入りの可能性消滅には驚いた。
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ニッキー・ヘイリー
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マイク・ポンぺオ

 日本製鉄がアメリカのUSスティールの買収に動く中で、マイク・ポンぺオを指南役に迎えたという報道があり、トランプに近いポンぺオに説得してもらって、トランプの反対を取り下げてもらうという心づもりがあったであろうことは容易に推測されるが、トランプがポンぺオを遠ざけたということは望ましくない計算違いということになるだろう。しかし、それまでの状況から、ポンぺオがトランプの側近であるという判断は間違っていない。これがトランプの「予測不可能」なところだということも言える。

 第二次トランプ政権の顔触れを見ると、第一次政権の大物はほぼ入っていない。ヘイリーもポンぺオも第一次政権の閣僚級(国連大使は閣僚級の扱い)、国家安全保障会議に出席できる権限を持つ、アメリカ最高位の職に就いていたということであり、大物は退けたということにはなる。しかし、ポンぺオはトランプ批判をしておらず、何故ポンぺオまで外されるのかという疑問が残る。ポンぺオもまた、大統領選挙共和党予備選挙に出馬して、トランプに対抗するという憶測が流れていたが、結局は出馬しなかった。それでもトランプ周辺から外された格好だ。

 ここからは私の見解を述べる。ヘイリーとポンぺオが外されたのはどうしてか?両者には第一次トランプ政権の閣僚だったという共通点はあるが、トランプとの距離感に差がある。ヘイリーが外されるのは理解できるが、ポンぺオが外されるのは理解できない。ヘイリー、ポンぺオのもう一つの共通点は、「コーク兄弟との近さ」があり、そのために両者が外された理由ではないかというのが私の考えである。コーク兄弟はトランプに反対し続けてきた。コーク兄弟についてはこのブログでも何度も紹介してきたし、私は、コーク兄弟についての評伝『アメリカの真の支配者 コーク一族』を翻訳した。
charleskoch201
チャールズ・コーク

※古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

20190507日「トランプ大統領に反対する共和党のグループはネオコン派とリバータリアン」
https://suinikki.blog.jp/archives/78919932.html

 ヘイリーは今回の大統領選挙共和党予備選挙でコーク兄弟の全面支援を受けて出馬したが、トランプに敗北した。ポンぺオはカンザス州選出の連邦下院議員として政界に進出したが、そのパトロンとなったのがコーク兄弟だった。コーク兄弟が所有するコーク・インダストリーズの本社はカンザス州ウィッチタにある。コーク兄弟はリバータリアニズムを信奉し、リバータリアンの勢力を拡大するために巨額の資金を投じてきた。彼らから見れば、ポピュリストのトランプは危険な人物である。規制を嫌い、自由な経済活動を何よりも重視するリバータリアンのコーク兄弟にとって、関税引き上げなどは全く受け入れられない。

 トランプ陣営から見れば、ヘイリーとポンぺオは「仇敵のコーク兄弟との距離が近すぎる」ということになる。それならば第一次政権で閣僚に起用したのはどうしてかということになるが、これはやはり、トランプとトランプ陣営がアマチュアだったということになるだろう。第一次政権での混乱はやはり人物の見極めが甘かったことが原因という分析がなされていたのだろう。そのために、今回はそのようなことがないように人選し、反逆する可能性がある人物はあらかじめ排除しておくということになったのではないかと思う。

 第二次トランプ政権には4年間しか時間がない。政権内の内部抗争に時間を取られてしまうのは損である。しかし、ここで前言を翻すようであるが、ポンぺオに関しては、北朝鮮との交渉の経験もあり、対北朝鮮外交において、特使などに起用されることも考えられる。私たちはまず、トランプが「予測不可能」であるということを前提にして考えを組み立てる必要がある。

(貼り付けはじめ)

●「トランプ氏、ヘイリー元国連大使とポンペオ元国務長官を起用せず」

読売新聞 2024/11/10 12:09

https://www.yomiuri.co.jp/world/20241110-OYT1T50039/

 【ワシントン=今井隆】トランプ次期米大統領は9日、新政権ではニッキー・ヘイリー元国連大使とマイク・ポンペオ元国務長官を起用しないと明らかにした。両氏について、「現在検討中のトランプ政権に招くつもりはない」と自身のSNSに投稿した。

 ヘイリー氏は前政権で国連大使を務めた。大統領選では共和党指名候補争いに立候補し、トランプ氏を繰り返し批判した。選挙戦から撤退した後にトランプ氏への支持を表明した。

 ポンペオ氏は前政権で中央情報局(CIA)長官や国務長官を務めた。党指名候補争いへの立候補に意欲的とみられていたが、見送った経緯がある。米メディアは、国防長官候補の一人と報じていた。

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億万長者のコーク兄弟が支援するネットワークがニッキー・ヘイリーへの支出を停止(Billionaire Koch brothers-backed network stops Nikki Haley spending

トム・ゲイガン筆

2024年226

BBCニューズ

https://www.bbc.com/news/world-us-canada-68401537

億万長者のコーク兄弟によって設立されたリバータリアン系保守団体が、ニッキー・ヘイリーの大統領選挙キャンペーンへの資金提供を停止した。

アメリカン・フォ・プロスペリティ・アクション(Americans for Prosperity ActionAFP)による資金提供中止の決定は、共和党候補指名を目指すヘイリーにとって新たな後退となった。

ヘイリーは土曜日、地元サウスカロライナ州でドナルド・トランプ前大統領に敗れた。トランプは予備選で4連勝を達成した。

しかし、彼女は戦い続けることを誓った。

日曜日にAFPの会長兼CEOはスタッフに宛てた電子メールで、AFPの支援はヘイリーではなく、11月の選挙で重要な連邦上院と連邦下院の選挙に集中すると述べた。

「彼女は闘い続けることを明言しており、私たちは心から彼女を支援する」とエミリー・サイデルは書いている。

サイデルは続けて「しかし、この先の予備選挙での課題を考えると、どのような外部団体も、彼女の勝利への道を広げるような重要な変化をもたらすことはできないだろう」と書いている。

ヘイリー選対は、まだ継続するのに十分な資金が入ってくると主張している。

ヘイリーのスポークスマンであるオリビア・ペレス・クバスは、AFPの支援に感謝し、サウスカロライナ州での敗北以来100万ドルが入ってきていると述べた。クバスは「続けるための燃料は十分にある。私たちには救うべき国がある」と述べている。

AFPは、ヘイリーがトランプへの明確な挑戦者としての地位を確立しようとしていた11月に支持と資金援助を表明していた。

それ以来、彼女は共和党内のトランプの対抗馬の中で最も耐久性があることを証明してきたが、今彼女がどのように勝利への道を見出すことができるかは不明である。

11月には、トランプとジョー・バイデン大統領(民主党)の再戦に向かう可能性が高まっている。

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コーク・ネットワーク、2024年大統領選予備選でドナルド・トランプ以外の共和党支持を計画(Koch network plans to back a Republican – other than Donald Trump – in the 2024 presidential primary

フレデリカ・ショーテン筆
2023年2月5日

https://edition.cnn.com/2023/02/05/politics/koch-network-republican-primary-2024/index.html

億万長者チャールズ・コークに関連する巨大なネットワークが2024年の大統領選挙予備選挙で共和党の候補者一人に資金と支援を提供する準備を進めている。

コーク・ネットワークの主要政治部門であるアメリカン・フォ・プロスペリティ・アクション(Americans for Prosperity ActionAFP)は、「共和党の大統領選挙予備選挙で、我が国を前進させることができ、勝利することができる候補者を支援する用意がある」と、AFPCEOAFP Actionの最高顧問であるエミリー・サイデルは、日曜日に発表された声明メモでこのように述べた。

この声明メモにはドナルド・トランプについての言及はないが、AFPアクションの関係者がCNNに確認したところによると、同ネットワークは前大統領のホワイトハウス候補を支援する予定はないという。

サイデルはAFPのスタッフや活動家に宛てて「私たちの国家に新たな章を書くには、過去のページをめくる必要がある。したがって、この国にとって最善のことは、2025年に新たな章を代表する大統領が誕生することだろう」と書いている。

直近の2回のホワイトハウス候補指名争いを傍観してきたコークが共和党予備選挙に参加するという決断を下したことで、共和党の大統領候補者たちは、カンザス州を拠点とする実業家と、彼の影響力のある自由市場ネットワークに資金を提供する数百人の富裕層献金者を取り込もうと奔走することになりそうだ。

トランプはホワイトハウス在任中、政権の通商政策や強硬な移民政策を厳しく批判するコーク当局者らと頻繁にスパーリングを行った。

AFPアクションは2024年の政治活動の予算を発表していないが、同ネットワークは過去の選挙サイクルで数億ドルを費やしており、共和党全国委員会の資金力に匹敵する。アメリカンズ・フォ・プロスペリティは36州に常駐のスタッフを擁し、全国に数百万人の草の根活動家を抱えている。

また、AFPアクションの政治部門は、より多くの争いに影響を与え、予備選挙に参加する新たな有権者を見つけるため、議会や州レベルの予備選により早く、より積極的に関与する計画だとAFPアクション関係者は述べた。

サイデルは、首都に「有害な状況(toxic situation)」を作り出し、政策の進展を妨げていると語る「壊れた政治(broken politics)」に対処するために、このネットワークは活動を強化していると語った。

サイデルは「共和党は、アメリカの核心原則に反することを主張する悪い候補者を指名している。そしてアメリカ国民は彼らを拒否している」と書いている。

そして、民主党は 「更なる極端な政策(more and more extreme policies)」を推し進めているとしている。

2024年の立候補を検討している共和党議員の中には、マイク・ペンス元副大統領をはじめ、コーク・ワールドと長年のつながりがある者もいる。ペンスの長年の最側近であるマーク・ショートは、かつてコーク・ネットワークで政治活動を監督していた。

もう1人の候補者マイク・ポンペオ前国務長官は、コーク・インダストリーズの本社があるカンザス州ウィチタを代表する連邦下院議員だったとき、コークの政治委員会から資金援助を受けていた。元サウスカロライナ州知事のニッキー・ヘイリーは、今月末に共和党候補指名への立候補を表明する予定だが、少なくとも1回はコークの献金者の集会に出席している。また、コッホが支援するスーパーPACは、ロン・デサンティスが2018年の共和党予備選挙で競り勝ち知事になる前に支援していた。

リバータリアン寄りのネットワークは近年、公の場で優先順位の再設定に取り組み、トランプ時代には共和党ブランドから距離を置くよう努めてきた。

しかし、同ネットワークは、他の政治・政策問題で当時の大統領や共和党全国委員会と衝突したにもかかわらず、例えば2017年に1兆5000億ドル規模の税制改革を推進するために多額の費用を投じて、トランプ主導の取り組みを支持した。

サイデルは、ネットワークの広がりの1つの兆候として、AFPAFPアクションが昨年の中間選挙で450以上のレースに参加し、700万以上のドアをノックし、1億通以上の郵便物を発送したことを指摘した。

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ランド・ポールが別のイヴェントを欠席する中、ロン・ポールがコーク兄弟のイヴェントに参加‘Ron Paul Headlines One Koch Brothers Event—as Rand Paul Skips Another

-元連邦下院議員のロン・ポールがコーク兄弟主催の#YALcon15で観衆を沸かせる一方、息子のランド・ポールは大きな撤退を行った。若きリバータリアンの戦いの内幕を報じる。

オリヴィア・ナッジ筆

2015年8月3日

『デイリー・ビースト』誌

https://www.thedailybeast.com/ron-paul-headlines-one-koch-brothers-eventas-rand-paul-skips-another/

ヤング・アメリカンズ・フォー・リバティ・カンファレンス(Young Americans for Liberty Conference#YALcon15)に参加する大学生たちは、ある参加者の言葉を借りれば 「迷える子犬(lost puppies)」だ。

自分の興味(アイン・ランドやフリードリヒ・ハイエク)が仲間に共有されていないため、自分のキャンパスになじめない子供たちだ。しかし、#YALcon15のウェブサイトによれば、彼らはたった30ドルで、「原理に基づいて勝つことに参加する若者を動員する(mobilize young people committed to winning on principle)」ことを目的としたリバータリアン会議に参加することができる。そして彼らは96時間、ここワシントンDCにあるライアン・ホールと呼ばれるアメリカ・カトリック大学の寮で、最も装飾的な蝶ネクタイを締め、自分たちと同じような人たち、つまり「原理に基づいて勝つ(Winning on Principle)」ことに参加する人たちのために作られたスピーチやプレゼンテーションに耳を傾けながら、一緒に家を見つけたような気分に浸ることができる。

私が見たのは、順不同だが、キルトを着た若者(彼は二晩続けて同じものを着ていた)、黒いマーカーで「#RAWMILK」と書かれたピンクのボタンダウンシャツを着た若者(彼はウィスコンシン州出身だと言っていた)、YouTube スターにどうすれば自分もスターになれるかを一対一で尋ねている若きリバータリアンたちの列。そして、ロン・ポールを生で見ることを生涯待ち望んでいた若者たち(原理に基づいて勝利することに専念している!)の1マイルの長さの列がそこにはあった。

しかし、ロン・ポールは彼らのダンブルドア(『ハリー・ポッター』の登場人物)かもしれないが、#YALcon15はロン・ポールの元スタッフが中心となって運営され、そのほとんどがコーク兄弟によって支援されている。ロン・ポールはこのコークのイヴェントの主役を務めたが、彼の息子ランドは南カリフォルニアで開催されたコーク兄弟の献金者イヴェントを欠席し、関係者を落胆させた。共和党の大統領選予備選候補者たちが週末に西部に向かう準備をしている中、ケンタッキー州選出の連邦上院議員ランド・ポールはアイオワ州でのちょっとした選挙イヴェントに向かった。

ランド・ポール陣営は私や他の記者に、彼はコーク家の集まりへの招待状を受け取っていたが、先約があり、予定を無断ですっぽかすような人物ではないと断言した。しかし、彼の欠席は、a)資金調達がうまくいっておらず、億万長者の助けが必要なこと、b1月の前回のコーク家サミットでのパフォーマンスで非難されたこと、という事実によって、より不可解なものとなった。コーク家サミットでは、ランド・ポールは、『ポリティコ』誌のケン・ヴォーゲル記者が特徴として挙げた「とりとめのない、時には不人気な回答(rambling and sometimes unpopular answers)」をし、ブルーのブレザーにジーンズ、カウボーイブーツという彼の特徴的な服装を身に着けていた。この服装は一部の超富裕層の寄付者にとっては不快なほどカジュアルな服装だった。

若いポールの選挙キャンペーンは、リバータリアン傾向を持つ有権者から明らかな人気を得ているのと同時に、共和党の他の派閥や民主党にも広くアピールできる人物として自らを位置づけようとしている。そうなると、選挙に勝つことを最優先とするリバータリアンであるコーク家のお気に入りであることは明らかだ。しかし、そうはなっていない。1月にブルームバーグ・ポリティックスに寄稿したデイヴ・ウェイゲルが指摘したように、「ポールのリバータリアニズムはコーク家のリバータリアニズムではない」ということになる。

しかし、若いリバータリアンたちにとって、この運動には顔がある。「彼は“エサ”なんだ(He’s the bait)」と、「Antiwar.com」の創設者であるジャスティン・ライモンドは私に言った。ライモンドはリバータリアン運動の中核と呼ばれるグループの一員であり、彼のような人々にとってコーク家は売国奴(sellouts)なのだ。

デイヴィッド・コークは1980年にリバータリアンとして大統領選に出馬し、落選した。その後、彼はシンクタンクなどを通じて他の方法で政治に影響を与えることに目を向けたが、同時にリバータリアニズムを主流にした。政策に真の影響力を持つには勝たなければならず、勝つためには魅力的でなければならない。そこでリバータリアン運動は、コークが設立したケイトー研究所(Cato Institute)と、マレー・ロスバードが設立したルートヴィヒ・フォン・ミーゼス研究所(Ludwig von Mises Institute)という、より筋金入りのリバータリアンに奉仕する別々の派閥に分裂した。ウェイゲルが書いたように、ロン・ポールはロスバードに近い。彼が大統領選に出馬した2007年、主流派のリバータリアンの間で「懸念された(the worry)」のは、ポールのブランドであるポピュリスト(populist)、連邦準備制度理事会(FRB)叩きのリバータリアニズムは、この哲学を売り込む最良の方法ではないということだった。

チャールズ・コークの元友人であるガス・ディゼレガは、コーク一族は「共和党の保守派と同盟を結ぶことを決めた。その後、彼は魂を失い、言うなれば、かつて持っていた知的誠実さ(intellectual honesty)を全て失った」と述べた。

ロン・ポールへの支持に消極的であった訳ではないが、ロン・ポールが若者たちをリバータリアニズムに引き込み、「原理で勝つ(Win on Principle)」ために、より現実的には右派候補の草の根活動家として集中するための正しい方法であることをコークは理解しているのかもしれない。

そのため、コーク兄弟が南カリフォルニアで最も勝利する可能性が高い候補者を選ぶことに集中している間、国の反対側では別の種類の皮肉を用いていた。

ライモンドは次のように述べている。「コークの人々はYALに寄生しているようなものだ。彼らはYALを伝道ベルトのように使って、人々を自分たちのネットワークに吸い込み、自分たちが持っているどんな計画にも彼らを吸い込もうとしている」。

#YALcon15は、各参加者の名札の裏に「プラチナ」、「ゴールド」、「シルヴァー」と書かれて、分類される23の組織によって後援されており、これら23の組織の大部分はコーク兄弟の募金ネットワークの一部だ。または批評家によって「コクトパス(Kochtopus)」と呼ばれている。

#YALcon15 の「プラチナ」スポンサーは次の通りだ。チャールズ・コークによって設立されたチャールズ・コーク研究所、コーク兄弟が資金提供しているリーダーシップ研究所、 スチューデント・フォ・リバティもコーク兄弟から資金提供を受けている。フリーダム・ワークス(Freedom Works)は、1984年に健全な経済のための市民としてコーク兄弟によって設立されたが、2004年に2つの組織に分離され、もう1つは同じくプラチナ寄付者としてリストされており、アメリカンズ・フォ・プロスペリティ(Americans for Prosperity)と名付けられ、最終的にコーク家の中心的な政治団体となった。

「ゴールド」のスポンサーは、コーク兄弟が寄付者であり、デイヴィッド・コークが理事を務めるリーズン財団、薬物政策同盟、教育における個人の権利財団 (Foundation for Individual Rights in EducationFIRE) は、コークの寄付者ネットワークから100万ドル以上を受け取っている。コークが資金提供したグループであるフリーダム・パートナーズ1100万ドルを注ぎ込んだジェネレーション・オポチュニティ(Generation Opportunity,

コンサヴァティヴス・コンサーンド・アバウト・ザ・デス・ペナルティがある。

「シルヴァー」スポンサーは以下の通りだ。ハリー・リードがコーク兄弟を公に批判したため、かつて連邦上院倫理特別委員会に苦情を提出したティーパーティー・ペイトリオッツ(Tea Party Patriots)、コーク兄弟が資金提供しているフリーダム・パートナーズ(Freedom Partners)、ヘリテージ財団(Heritage Foundation)はチャールズ・コーク財団から1万1000ドル以上、フリーダム・パートナーズから100万ドル以上を受け取っている。正義研究所(The Institute for Justice)、そのシードマネーはチャールズ・コークによって提供された。チャールズ・コークによって共同設立されたケイトー研究所、アイン・ランド研究所はケイトー研究所の元最高経営責任者であるジョン・アリソンの支援を受けている。コーク兄弟が資金提供を敷いている、コーク兄弟の弟ウィリアムが所属する独立研究所、コーク兄弟が資金提供したアメリカ研究基金がある。コーク兄弟が支援するNRA(全米ライフル協会)もある。コーク兄弟から資金提供を受けている人道研究所が組織する自由基金(Liberty Foundation)。経済教育財団 (FEE)、そしてアメリカズ・フューチャー財団はコーク家のフェローシップ・プログラムからインターンを受け入れている。

YALのウェブサイトによると、ゴールドスポンサーは1万2000ドル、シルヴァースポンサーは6000ドルの寄付が必要だ。プラチナスポンサーがいくら寄付しなければならないかについての情報はない。 YALの広報担当者は私の問い合わせに応じなかった。

キャンパスから歩いてすぐのブルックランド・パイントのバーに座って、原理で勝つことに専念するシンシナティ出身の若者ジミー・マヘイニーは、どうしてここに来ることになったのかについて話していた。トーマス・マッシー連邦下院議員とジャスティン・アマシ連邦下院議員はちょうど彼や他のYALメンバーと話をしたばかりで、マヘイニーは彼らをとても気に入っており、実際、フェイスブック上で「いいね!」したことさえあった。しかし、マヘイニーの政治的覚醒のきっかけは彼らではなかった。それはもちろんロン・ポールだった。マヘイニーはトランペットを吹くのが好きで、ある日、マーチングバンドの仲間たちがロン・ポールについて話しているのを耳にした。「私は彼とリバータリアニズムについてさらに調べ続けた。そして突然、これが実に理にかなっていることに気づいた」と彼は話した。

木曜日の夕方、会議室はロン・ポールのスピーチを前に予想通り満員だった。聴衆は彼が出てくる前から「連邦政府を終わらせろ(END THE FED)」と叫び始め、彼が出てくるとすぐに立ち上がった。

ロン・ポールは「未来はあなたの手の中にあると私が思うことは秘密ではない。国際的にも経済的にも、今のように全世界がひっくり返った事はかつてなかった」と述べた。

学生たちは、まるで目の前で魔法をかけられているかのように、夢中になってロン・ポールを見つめていた。携帯電話で彼の様子を撮影している人もいた。彼が法定通貨(fiat money)と連邦準備制度(Federal Reserve)について冗談を言ったとき、彼らはまさに適切な瞬間に笑った。「ワシントンに戻っても、あまり興奮はしない。実際のところ、私はあそこを訪れることさえない」とロン・ポールは連邦議事堂を示唆しながら述べた。「それはあまりにも憂鬱なことだ」と述べて、誰もが笑った。ロン・ポールは次のように語った。「しかし、私がここにいるのは、皆さんのような若者が将来のことを考え、あそこにいる大勢の人たちが知っているより少しは理解しているのだから、落ち込む必要はないと分かっているからだ。皆さんは自由とは何かを理解しており、そしてそれが重要なのだ!」

スピーチの後、マヘイニーはツイッターにミームを投稿した。「DIE STATIST SCUM(国家主義のくずに死を)」と書かれていた。ジミーは、「ロン・ポール(RP)は#YALcon15のようだ」というキャプションを付けた。彼はフェイスブックにロン・ポールとの写真を投稿した。ジミーはにやりと笑い、2本の指を横に広げてV字にし、右目の上にかざした。

土曜日になっても、人々はスピーチのことを話していた。キャンパスのメインビル「プライズ」の外では、少人数のグループがマルボロを吸っていた。そのうちの一人は、スピーチの後に警備員とともに芝生を歩くポールを見かけ、彼と話すことができた。ニュージャージー州南部から来たある若者は、前夜に飲みすぎて一日中寝ていたと愚痴をこぼした。スピーチの最中、彼は疲れて居眠りをしていた。別の若者は「彼はどんなリバータリアンなのか?」と質問した。ロン・ポールのために起きていられない人なんているのか?

訂正:この記事の前のヴァージョンではジョン・アリソンをケイトー研究所成功経営責任者と誤って描写した。正確には彼は元最高経営責任者だ。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる
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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。
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※2024年10月29日に佐藤優先生との対談『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』(←この部分をクリックするとアマゾンのページに飛びます)が発売になりました。よろしくお願いいたします。

 今回は、スティーヴン・M・ウォルトによるノーム・チョムスキーを評価する内容の論稿をご紹介する。ウォルトはリアリスト、チョムスキーは左翼という立場の違いはあるが、アメリカの介入主義的な外交政策について厳しく批判しているという点では共通している。

ノーム・チョムスキーは、言語学者として知られているが、半世紀以上にわたりアメリカの外交政策に対する批判者としてもまた知られている。チョムスキーはアメリカの介入主義的な外交政策を手厳しく批判してきた。彼は最新刊『アメリカの理想主義の神話』(共著)を刊行し、その中で「アメリカの外交政策が高尚な理想に基づいている」という主張に対する批判を行っている。チョムスキーとネイサン・J・ロビンソンはこの考え方を否定している。彼らは、アメリカが歴史的に多くの残虐行為を行ってきたことを指摘し、国際法を無視する行動が常態化していると述べている。

また、チョムスキーとロビンソンは、アメリカの外交政策が少数の特権的なグループによって決定されていると主張し、これらのグループが企業の利益を優先することが多いと指摘している。彼らは、アメリカの高官たちが自らの行動を正当化するために道徳的な理由を持ち出す一方で、実際には自己利益に基づいて行動していると批判している。

さらに、一般市民が不正義な政策を容認する理由について、著者たちは政治的メカニズムの欠如や政府による情報操作を挙げている。彼らは、国民が政府の行動を理解し、変化を求めることが重要であると考えているが、情報を得た市民が必ずしもより良い政策を支持するとは限らないとも警告している。

最後に、アメリカの外交政策が世界に与える影響について、他国がそれを止めようとしない理由についての疑問も提起されている。著者たちは、アメリカの行動が国際的な力のダイナミクスに影響を与えていることを示唆し、他国の反応や同盟関係の複雑さについても考察している。世界各国はアメリカの力の減退に懸念を持っているが、同時に、アメリカの押しつけがましい、介入主義的な外交政策の減退は歓迎するだろう。

 以下の論稿を読むと、アメリカ外交について理解を深めることができる。

(貼り付けはじめ)

ノーム・チョムスキーの正しさが証明されている(Noam Chomsky Has Been Proved Right

-左翼的な外交政策に対するこの著述家の新たな主張は主流派の関心を引いている

スティーヴン・M・ウォルト筆

2024年11月15日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/11/15/chomsky-foreign-policy-book-review-american-idealism/

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ドイツのカールスルーエで講演するノーム・チョムスキー(2014年5月30日)

半世紀以上にわたって、ノーム・チョムスキーは間違いなく、世界で最も首尾一貫して、妥協を許さず、知的尊敬を集める現代アメリカの外交政策に対する批判者であり続けた。著書、記事、インタビュー、スピーチにおいての着実な流れの中で、彼はワシントンの進める多くの予算が必要で、非人道的なアプローチを繰り返し暴露してきた。共著者のネイサン・J・ロビンソンが序文で書いているように、『アメリカの理想主義の神話(The Myth of American Idealism)』は、「(チョムスキーの)仕事全体から洞察(insights)を引き出し、アメリカの外交政策に対する彼の中心的な批判を紹介できる一冊にする」ために書かれた。その目的は見事に達成されている。

本のタイトルが示しているように、本書の中心的なターゲットは、アメリカの外交政策は民主政治体制、自由、法の支配、人権などの高尚な理想によって導かれているという主張である。この考え方に賛同する人々にとって、アメリカが他国に与えた損害は、素晴らしい意志が伴う目的と善意(noble purposes and with the best of intentions)によって取られた行動の意図しない、非常に残念な結果(unintended and much regretted result)である。アメリカ人は指導者たちから、自分たちが「なくてはならない国(indispensable nation)」であり、「世界が知る自由のための最大の力(the greatest force for freedom the world has ever known)」であることを常に思い起こさせられ、道徳的原則(moral principles)が「アメリカ外交の中心(center of U.S. foreign policy)」であることが保証される。このような自己満足的な正当化(self-congratulatory justifications)は、政治家やエスタブリッシュメント派知識人の大合唱によって延々と繰り返される。

チョムスキーとロビンソンにとって、これらの主張はナンセンスだ。建国したてのアメリカ共和国は、先住民族に対する大量虐殺キャンペーンを展開することで「明白な運命(マニフェスト・デスティニー、Manifest Destiny)」を達成しただけでなく、それ以来、数多くの残忍な独裁政権を支援し、多くの国で民主化プロセスを妨害するために介入し、インドシナ、ラテンアメリカ、中東で何百万人もの人々を殺害する戦争を行ったり支援したりしてきた。アメリカの高官たちは、他国が国際法に違反するとすぐに非難するが、国際刑事裁判所や海洋法条約、その他多くの国際条約への加盟は拒否する。また、1999年にビル・クリントン大統領がセルビアに戦争を仕掛けたときや、2003年にジョージ・W・ブッシュ大統領がイラクに侵攻したときのように、自ら国連憲章に違反することをためらうこともない。

ソンミ村虐殺事件、アブグレイブ刑務所での虐待、CIAの拷問プログラムなど、紛れもない悪行が暴かれたときでさえ、処罰されるのは下級の職員たちであり、その一方で、こうした政策の立案者は依然としてエスタブリッシュメント派側の尊敬を集めている。

チョムスキーとロビンソンが語る偽善の記録は、悲痛で説得力がある。心の広い読者であれば、この本を読んで、アメリカの指導者たちが自分たちのむき出しの行動を正当化するために持ち出す敬虔な根拠を信じ続けることはできないだろう。

しかし、なぜアメリカの高官たちがこのような行動をとるのかを説明しようとすると、本書は説得力を欠く。 チョムスキーとロビンソンは、「意思決定における国民の役割は限定的(the public’s role in decision-making is limited)」であり、「外交政策は、国内から権力を得ている小さなグループによって立案され実行される(foreign policy is designed and implemented by small groups who derive their power from domestic sources)」と主張する。これらの小さなグループとは、「軍産複合体、エネルギー企業、大企業、銀行、投資会社など、そして、私たちの生活のほとんどの側面を支配している私的帝国(private empires)を所有し、管理している人々の言いなりになっている政策志向の知識人たち」である。

特別な利害関係者の重要性は疑う余地がないし、より広範な国民の役割も限られている。まず、企業の利益と国家の安全保障上の利益が衝突した場合、前者が損をすることが多い。たとえば、ディック・チェイニーが1990年代に石油サーヴィス会社ハリバートンを経営していたとき、彼はイランでの金儲けを妨げる「制裁好き(sanction-happy)」な外交政策に苦言を呈した。他のアメリカの石油会社もイランでの投資を望んでいただろうが、アメリカの制裁は強固なままだった。同様に、アップルのようなハイテク企業は、中国の先端技術へのアクセスを制限する最近のアメリカの取り組みに反対している。規制は確かに見当違いかもしれないが、重要なのは、企業の利害が常に主導権を握っている訳ではないということだ。

チョムスキーとロビンソンはまた、他の大国がアメリカとほぼ同じような行動を取り、これらの国もまた、自分たちの残虐な行為を白紙に戻すために、「白人の責務(white man’s burden)」、「文民主義的使命(la mission civilisatrice)」、つまり、「社会主義を守る必要性(the need to protect socialism)」といった手の込んだ道徳的正当化理由を作り出したことを認めている。このような行動が、(軍産複合体はおろか)近代的な企業資本主義の出現に先行していたことを考えると、これらの政策は、アメリカという企業の特定の要求というよりも、大国間競争の論理と関係が深いことが示唆される。また、資本主義以外の大国が同じような行動をとったのであれば、ライヴァルに優位に立つため、あるいはライヴァルが自分たちと同じような優位に立つのを防ぐために、国家が自分たちの価値観を捨てるよう促しているのは、何か別のものだということになる。リアリストにとって、その別の何かとは、他の国家がより強くなり、有害な方法で権力を行使することを決めたらどうなるかという恐怖である。

 

このような政策を実行する人々についての彼らの描写も、読者によっては単純だと感じるだろう。彼らに言わせれば、アメリカの高官たちは皮肉屋である。彼らは、自分たちが純粋に利己的な理由で悪いことをしていることを理解しており、他者への影響などあまり気にしていない。しかし、彼らの多くは、自分たちのしていることはアメリカにとっても世界にとっても良いことであり、外交政策には痛みを伴うトレードオフが必然的に伴うと信じているに違いない。彼らは自分自身を欺いているかもしれないが、ハンス・モーゲンソーのような思慮深いアメリカ外交政策批評家たちは、政治の領域で自分の道徳的純度を保つことの不可能性を認めていた。チョムスキーとロビンソンは、自分たちが好む政策の潜在的なコストや否定的な結果についてほとんど語らない。彼らの世界では、道徳的なことと有利なことの間のトレードオフはほとんどなくなっている。

『アメリカ理想主義の神話』は更に2つの疑問を提起しているが、詳細に扱われているのは1つだけである。最初の疑問は次の通りだ。なぜアメリカ人は、コストがかかり、しばしば失敗し、道徳的に恐ろしい政策を容認するのか? 一般市民は、過剰な軍備に費やされた数兆ドルや、不必要で失敗した戦争で浪費された数兆ドルから、数え切れないほどの恩恵を受けることができたはずなのに、有権者は同じことを繰り返す政治家を選び続けている。それはなぜだろうか?

一般的に説得力のある彼らの答えは2つある。 第一に、一般市民には政策を形成する政治的メカニズムが欠けている。その理由の1つは、米連邦議会が戦争宣言に関する憲法上の権限を大統領に簒奪させ、あらゆる怪しげな行動を深い秘密のベールに包むことを許しているからである。第二に、政府機関は、情報を分類し、リークした人間を訴追し、国民に嘘をつき、物事がうまくいかなかったり、不正行為が露見したりしても、責任を問われることを拒否することによって、「同意を捏造(manufacture consent)」するために非常な努力をしている。彼らの努力は、政府の主張を無批判に繰り返し、公式のシナリオに疑問を呈することはほとんどない、一般的に従順なメディアによって助けられている。

私自身、これらの現象について書いたことがあるが、外交政策のエスタブリッシュメント派がその世界観をどのように追求し、擁護しているかについての彼らの描写は、おおむね正確であると感じた。しかしながら、国民の認識が高まればアメリカの政策が改善されるかと言えば、そうとは言い切れない。チョムスキーとロビンソンは、もしもっと多くのアメリカ人が自分たちの政府が何をしているかを理解すれば、声を上げて変化を求めるようになるだろうと考えている。そう思いたいが、よりよく情報を得た国民が、より利己的で、近視眼的で、不道徳な外交政策を支持する可能性はある。特に、チョムスキーとロビンソンの処方箋が、費用のかかる、あるいは痛みを伴う調整を必要とすると考えた場合には。ドナルド・トランプ前大統領は、裸の私利私欲以外の理想に関与することを微塵も表明したことがないにもかかわらず、アメリカの有権者の半数以上の忠誠心を集めている。

また、ニューズソースが増え、主流メディアへの不信感が増すにつれ、従来のエリートが同意を捏造する能力が衰えているのではないかという疑問もあるだろう。問題は同意の捏造なのか、それとも過去に国民の同意を得た具体的な政策なのか?  イーロン・マスク、ピーター・ティール、ジェフ・ベゾスのような人々が新たなエリートの中核として登場した場合、彼らはチョムスキーやロビンソンが望むものに近い(同一ではないが)、より介入度の低い外交政策を支持する可能性が高い。もしそうなったとしても、チョムスキーとロビンソンは、この新しいエリートが自分たちの支持する政策への同意を捏造する能力を批判するだろうか?

第二の疑問は、詳細には触れられていないが、世界の他の国々に関するものである。もしアメリカの外交政策が(本書の副題にあるように)「世界を危険に晒す(“endangers the world)」のであれば、なぜもっと多くの国がそれを止めようとしないのだろうか? ワシントンは現在、いくつかの厳しい敵対諸国に直面しているが、それでもまだ多くの本物の熱狂的な同盟諸国を持っている。同盟諸国のなかには日和見主義的な(opportunistic)国や、アメリカの巨大なパワーに怯えている国もあるかもしれないが、親米的な指導者の全てが飼いならされたカモや私利私欲にまみれた傭兵という訳ではない。世界的な調査によれば、一部の地域(中東など)では、アメリカが行っていることに深く、正当な怒りを抱いているにもかかわらず、アメリカに対する支持と称賛は驚くほど高い。アメリカの世界的なイメージも、過去には驚くべき回復力を見せたことがある。ジョージ・W・ブッシュが大統領だったときに急落し、有権者がバラク・オバマを選んだとたんに急回復した。

世界の多くの地域で懸念されているのは、アメリカの力の抑圧的な性質(oppressive nature)であることではなく、むしろその力が後退する可能性である。チョムスキーとロビンソンは、アメリカが過去100年にわたって多くの悪いことをしてきたことは間違いないが、正しいこともいくつか行ってきたはずだ。本書では、アメリカの外交政策の肯定的な側面はほとんど扱われておらず、その省略が本書の最大の限界である。

このような留保はあるものの、『アメリカ理想主義の神話』はチョムスキーの考え方を知るための入門書として貴重な著作である。実際、学生がこの本を読むのと、『フォーリン・アフェアーズ』誌や『アトランティック』誌といった、現職や元米政府高官が時折寄稿する論稿集を読むのとでは、どちらがアメリカの外交政策について学べるかと問われれば、チョムスキーとロビンソンの圧勝だろう。

私が40年前にキャリアをスタートさせたときには、この最後の文章は書かなかっただろう。しかし、私はずっと注目してきたし、証拠が積み重なるにつれて私の考え方も進化してきた。かつてはアメリカの左翼的な言説の片隅にとどまっていたアメリカの外交政策に対する視点が、今や多くのアメリカ政府高官が自らの行動を擁護するために拠り所にしている、使い古された決まり文句よりも信頼できるものとなっていることは、残念ではあるが明らかになった。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。「X」アカウント:@stephenwalt

(貼り付け終わり)

(終わり)

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