古村治彦です。
私は年末から年始にかけて『NHKと政治 蝕まれた公共放送』(川崎㤗資著、朝日文庫、2000年)という本を読んでいました。この本はNHK政治部記者やボン支局長を歴任した川崎㤗資氏が自身の経験を踏まえながら、戦後HNKの負の歴史を網羅的に書いた著作です。川崎氏自身はこの本に出てくる主要人物たちに批判的であったために、左遷されるなど人事上の不利益を蒙った人です。この本には、NHKが「みなさまのNHK」として、国民から受信料を徴収して運営されている「公共放送」なのだという建前が虚しくなってしまう程に、政治に絡め取られている様子が赤裸々に描かれています。
戦後NHKを動かしたのは、NHKの所管官庁である郵政族の元祖である田中角栄と、鈴木善幸元首相とは入魂の間柄であった政治記者上がりの島桂次(後に会長となるがスキャンダルで辞任)と労働組合である日本放送労働組合(日放労)の委員長に就任し、後に社会党から代議士となった上田哲といった人物たちです。こうした構図は、55年体制下の自民党と社会党の関係が投射されています。自民党と社会党も表面上は激しく対立しながら、実際には裏取引で、政治を「安定」させていました。彼らが衝突と妥協をしながらNHKが運営されていった訳ですが、その過程でNHKは政治に絡め取られていきました。
戦後すぐのNHKは、戦前と戦中の反省を踏まえ、「民主化」されました。しかし、郵政省はその人事権などを掌握しようとして巻き返しを図りました。戦後すぐにはNHKの会長は「放送委員会」という独立した組織が決めていたのですが、これもいつの間にか解散となり、郵政省と自民党、そしてNHKがそれぞれに望ましい候補者を立て、調整をするということになりました。初代会長の高野岩三郎は就任の挨拶で、「権力に屈せず、ひたすら大衆に奉仕することを恪守(かくしゅ)すべきである」と述べましたが、こうした時代は短く、すぐに郵政省と自民党に奉仕する存在に堕していきました。
そうは言っても、NHKはGHQ占領下においてはGHQに奉仕する存在でもありました。ここのGHQとNHKの関係については、川崎氏はあまり触れていないのは残念なことです。日本が独立を果たした後、少しずつ、「放送の中立性」が侵害されていきました。都合の悪い番組(風刺番組『日曜娯楽版』とその後身である『ユーモア劇場』)などは打ち切りになったり、ニュースなどでもカットされたりすることがありました。それは安保騒動や大きな政治スキャンダル(ロッキード事件やリクルート事件など)の時にもありました。こうしたことは、最近始まったことではなく、伝統的に行われてきた訳です。
そして、現在に目を転じてみると、NHKの最高意思決定機関である(会長の人事も決める)経営委員会には安倍晋三首相のオトモダチである放送作家の百田尚樹氏や大学教授の長谷川三千子氏といった人々が入っています。こうした人々の影響なのか、NHKの放送姿勢も政権寄りになっていると言われています。
そして、今回、世の中を風刺する漫才が人気の漫才コンビ・爆笑問題がNHKで放送される漫才の中で政治に触れられないという出来事が起こりました。「NHKからの圧力は一切なかった」と爆笑問題の二人は述べています。爆笑問題は、NHKで多くの番組を持ってきた(不確かな記憶で申し訳ありませんが、歌番組の司会や演芸番組の司会、そして教養番組の司会など)ので、NHKはいわばお得意さんです。彼らの知名度と芸人としてのランクを引き上げたのはNHKでの番組であったと言えましょう。ですから、彼らがNHKを批判するようなことはなかなかできません。しかし、自身が民放でやっているラジオ番組で、「政治家さんのネタがあったんだけど全部だめって言われた。あれは腹立った」とかなり踏み込んだ発言をしています。こうした政治風刺などに過敏に反応してしまうのが今のNHKであり、そして、これがNHKの伝統なのだということが、私は今回の事件と『NHKと政治』を読んではっきりと分かりました。

爆笑問題
NHKは「公共放送」として、税金ではなく、国民から受信料を徴収して運営されています。そして、その理念は「大衆にひたすら奉仕する」ということであると思います。しかし、これまでのNHK、そして現在のNHKは果たしてそのような理念通りに運営されているでしょうか。もしそうでないのなら、私は国営放送にすべきではないかと思います。いまのように「公共放送」を隠れ蓑にしながら政権側の宣伝活動や都合の悪いことを報道しないのは大変性質が悪いです。国営放送となったら、見る国民の側に、「あれは国の宣伝機関だから」とある程度の警戒感と心構えができ、割り引いて放送を見ることができます。
しかし、よく考えてみると、マスコミ各社の最高幹部連中が首相との会食やゴルフに嬉々として出かけて、恬として恥じないような国では、本当の意味で「大衆に奉仕する」放送を期待することが無理なのかもしれません。そう考えると、ため息しか出ない、今の日本の状況です。
(新聞記事転載貼り付けはじめ)
●「NHK:お笑い番組で「政治ネタ却下」 爆笑問題明かす」
毎日新聞 2015年01月07日 23時34分(最終更新 01月08日 01時34分)
http://mainichi.jp/select/news/20150108k0000m040137000c.html
お笑いコンビの爆笑問題が、NHKのバラエティー番組に出演した際、用意していた政治家についてのネタをNHK側から却下されていたことを、7日未明放送のTBSラジオで明らかにした。
番組は3日に生放送された「初笑い東西寄席2015」。爆笑問題は司会を務め、漫才も披露したが、政治的なネタはなかった。
ラジオでの発言によると、3日の放送前の打ち合わせで当日のネタのチェックがあり、「プロデューサーに却下され」たという。また、コンビの一人、田中裕二さんは「政治家さんのネタがあったんだけど全部だめって言われた。あれは腹立った」と明かし、もう一人の太田光さんは「誤解しないでもらいたいんだけど、政治的圧力は一切かかってない」と説明した。その上で、太田さんが「テレビ局側の自粛というのはあります」などと話すと、田中さんは「それは色濃くなっているのは肌で感じる」と応じた。
NHK広報局は「放送にあたって娯楽番組の通常の打ち合わせを出演者と行った。その中身については普段から答えていない」とコメントしている。
(新聞記事転載貼り付け終わり)









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