古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

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2025年03月

古村治彦です。※2025年3月25日に最新刊『トランプの電撃作戦』(秀和システム)が発売になります。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
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『トランプの電撃作戦』←青い部分をクリックするとアマゾンのページに行きます。世界の民主政治体制国家が不安定になっている。それもこれまで世界の模範とされてきた、西側諸国の民主政治体制が動揺している。民主政治体制として歴史の浅い国や、非民主的な国の方が政治的に安定しているというのが現状だ。民主政治体制の「危機」という主張も聞かれるが、それを招いたのは選挙で選ばれた権力者たちによる独走と失敗である。多くの先進諸国で既存の政治に対する失望が広がっているのは、既存の政治家たちが国民を見ていない、国民の意向を無視しているということが原因だ。

 下に掲載した論考では、ナショナリズムと民主政治の不安定な関係を取り上げている。特に、国家がメンバーをどう定義するか、歴史的記憶をどう扱うか、そしてグローバライゼーションにどう対抗するかが問題となっている。ナショナリズムはリベラリズムと緊張関係にあり、一部の国ではその影響が強まっている。

国家のメンバーシップの基準に関しては、各国が民族的要因や共通の憲法上の価値の忠誠を重視している。アメリカでは移民政策が政治問題として浮上し、トランプ政権下では新たな差別の恐れが生じた。ヨーロッパの難民危機やインドでの国籍法改正も、メンバーシップに対する懸念を強化している。これらの動きは、リベラリズムの基盤に影響を与えており、閉鎖的な政策が多くの国で台頭している。

歴史的記憶もその重要な側面であり、国家の集団的アイデンティティにとって欠かせない要素となっている。インドにおけるヒンドゥー教のナショナリズムは、この点で特に顕著であり、宗教的シンボルが政治的課題に利用されている。南アフリカでは、経済的正義を犠牲にした妥協の是非が議論されている。

国民ポピュリズムの台頭により、国家的アイデンティティに異議を唱える意見は反国家的とされることが多く、異論は犯罪化される事例が増えている。ナショナリズムとグローバライゼーションの関係も、選挙において重要な課題となり、自国の利益を優先する傾向が強まっている。グローバライゼーションの否定的な側面が明らかになり、国家の自給自足を求める動きが加速している。

ナショナリズムの特徴は、民主政治体制の誕生とも深く関連しており、経済とナショナリズムの交わりが各国に影響を与えている。ナショナリズムはアイデンティティ政治に強く、リベラリズムとの対立が顕著になる可能性がある。2024年の選挙は、このような闘争を反映しており、リベラルな価値観への脅威が増すか、またはその逆となるかが焦点となる。 この課題に関して、過去の歴史家が述べたように、ナショナリズムに人道的側面を与えることが、未来の歴史についての重要な鍵である。

 リベラルな価値観とは、西洋諸国の推進する価値観であり、これまではそれを受け入れることが進歩であり、文明的な動きであった。しかし、それらに対する異議申し立てや疑問が出ている現状で、それらは揺らいでいる。そして、民主政治体制についても揺らいでいる。そうした中でナショナリズムが影響力を増している。こうした現状はアメリカでも見られる。世界は大きく変わりつつある。

(貼り付けはじめ)

ナショナリズムの亡霊(The Specter of Nationalism

-アイデンティティ政治は選挙に常に影響を与えてきた。2024年、アイデンティティ政治はリベラリズムと、民主政治体制自体に対しての深刻な脅威となるだろう。

プラタップ・バーヌ・メサ筆

2024年1月3日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/01/03/nationalism-elections-2024-democracy-liberalism/?tpcc=recirc_trending062921

世界は民主政治体制(democracy)の未来にとって重要な年が始まろうとしている。インド、インドネシア、南アフリカ、アメリカなど、2024年に投票が行われる主要国のほんの数例を挙げると、これらの国での選挙は通常通りの行事である。しかし、これらの民主政治体制国家の多くは転換点(inflection point)を迎えている。分極化(polarization)、制度の劣化(institutional degradation)、権威主義(authoritarianism)の強まる潮流は逆転できるのだろうか? それとも、民主政治体制は限界点(breaking point)に達するのだろうか?

民主政治体制国家にはそれぞれ独自の特徴が存在する。今年選挙が行われる各国では、有権者はインフレ、雇用、個人の安全、将来の見通しに対する自信など、おなじみの問題で現政権を判断することになる。しかし、2024年の世界選挙に伴う不吉な予感は、1つの事実に起因している。それは、ナショナリズム(nationalism)と民主政治体制の間の不安定な妥協(uneasy accommodation)が深刻なストレスに晒されているということだ。

民主政体の危機は、部分的にはナショナリズムの危機でもあり、現在では4つの問題を中心に展開しているようだ。国家がメンバーシップ(国民、有権者)をどう定義するか、歴史的記憶(historical memory)のあり方をどう普及させるか、主権者としてのアイデンティティをどう位置付けるか、そして、グローバリゼーション勢力とどう戦うかである。これらのそれぞれにおいて、ナショナリズムとリベラリズムはしばしば緊張関係にある。民主政治体制は、この緊張関係を解決するのではなく、うまく切り抜けようとする傾向がある。しかし、世界中で、ナショナリズムがゆっくりとリベラリズムを窒息させつつあり、この傾向は今年、有害な形で加速する可能性がある。2024年には世界史上どの年よりも多くの国民が投票するが、彼らは特定の指導者や政党だけでなく、市民的自由の未来(very future of their civil liberties)そのものに投票することになる。

まず、社会がメンバーシップの基準をどのように設定するかについて議論しよう。政治共同体が主権を持つ場合、誰をメンバーから除外するか、またはメンバーに含めるかを決定する権利がある。自由主義的民主政治体制国家は歴史的に、メンバーの基準として様々なものを選択してきた。民族的および文化的要因を優先する国もあれば、共通の憲法上の価値観への忠誠を要求するだけの市民基準を選択する国もある。

実際には、自由主義的民主政体国家の移民政策は、移民の経済的利点、特定の人々の集団との歴史的つながり、人道的配慮など、様々な考慮事項に基づいて行われてきた。ほとんどの自由主義社会は、メンバーシップの問題を原則的にではなく、様々な取り決めを通じて扱ってきた。その中には、よりオープンなものもあればそうでないものもある。

加盟の問題は政治的に重要性を増している。その原因は様々だ。アメリカでは、南部国境での移民の急増により、この問題が政治的に前面に押し出され、バイデン政権でさえも、約束したリベラル政策の一部を撤回せざるを得なくなった。確かに、移民はアメリカでは常に重要な政治問題であった。しかし、ドナルド・トランプが政治的に登場して以来、移民は新たな側面を獲得した。トランプのいわゆるイスラム教徒入国禁止令は、最終的には撤回されたが、アメリカの将来の移民制度の基礎となる可能性のある、新たな形の明白または隠れた差別の恐怖(the specter of new forms of overt or covert discrimination)を引き起こした。

世界的な紛争や経済および気候の苦境によって引き起こされたヨーロッパの難民危機(Europe’s refugee crisis)は、全ての国の政治に影響を与えている。スウェーデンは、移民を統合するモデルについて深い懸念を強め、2022年に右派政権を誕生させる。イギリスでは、移民に対する懸念がブレグジット(Brexit)に一部影響した。またインドでは、ナレンドラ・モディ首相率いる政府が2019に年国籍改正法を施行し、近隣諸国からのイスラム教徒難民を国籍取得の道から除外することになった。インド政府にとって、加盟を巡る懸念は、多数の民族を優先する必要性から生じている。同様に、南アフリカでは移民の地位をめぐる論争がますます激しくなっている。

メンバーシップの重要性が増していることは、リベラリズムの将来にとって懸念事項だ。リベラルな価値観は歴史的に様々な移民制度やメンバーシップ制度と両立してきたため、リベラルなメンバーシップ制度はリベラルな社会を作るための必要条件ではないかもしれない。よく管理されたメンバーシップ政策がないと、リベラリズムが依拠する社会的結束(the social cohesion)が乱れ、リベラリズムが損なわれる可能性が高いと主張する人もいるだろう。しかし、ハンガリーのヴィクトル・オルバンからオランダのヘルト・ウィルダースまで、閉鎖的または差別的なメンバーシップ制度を支持する世界の政治指導者の多くが、リベラルな価値観にも反対しているというのは注目すべき事実である。そのため、反移民と反リベラルを区別することが難しくなっている。

記憶は、保持し、前進させるべき、集団的アイデンティティに関する永遠の真実の一種(a kind of eternal truth)である。

ナショナリズムの2つ目の側面は、歴史的記憶(historical memory)をめぐる争いである。全ての国家には、集団のアイデンティティと自尊心(self-esteem)の基盤となることができる、使える過去(a usable past)、つまり国民を結びつける物語(a story that binds its peoples together)が必要だ。歴史と記憶の区別(the distinction between history and memory)は誇張されがちだが重要だ。フランスの歴史家ピエール・ノラが述べたように、記憶は事実、特に思い出す主な対象への崇拝にふさわしい事実を探す。記憶には感情的な性質がある。それはあなたを動かし、あなたのアイデンティティを構成するはずだ。それはコミュニティの境界を設定する。歴史はより距離を置いている。事実は常にアイデンティティと共同体の両方を複雑にする。

歴史は道徳に関する物語(a morality tale)というよりは、苦労して得た知識の非常に難しい形態であり、常に選択可能性(selectivity)を意識している。

記憶(memory)は道徳に関する物語として保持するのが最も簡単だ。それは単に過去に関するものではない。記憶は、保持し、前進させるべき、ある個人の集団的アイデンティティに関する一種の永遠の真実だ。

様々な記憶は政治の場でますます強調されている。インドについて、最も明白な例を挙げると、歴史的記憶はヒンドゥー教のナショナリズムの強化の中心だ。2024年1月に、モディ首相はアヨーディヤーでラーマ神を祀る寺院を建立した。この寺院は、1992年にヒンドゥー教のナショナリストがモスクを破壊した場所に建てられている。ラーマ神寺院は重要な宗教的シンボルだ。しかし、インド人にとって最も顕著な歴史的記憶はイギリスによる植民地支配ではなく、イスラム教による千年にわたる征服の歴史であるべきだという与党インド人民党(the ruling Bharatiya Janata Party)の主張の中心でもある。モディ首相は、2020年に寺院の礎石が据えられた8月5日を、1947年にインドがイギリスから独立した8月15日と同じくらい重要な国家の節目であると宣言した。

南アフリカでは、記憶の問題はそれほど顕著ではないように思えるかもしれない。しかし、ネルソン・マンデラ時代の妥協(compromise)は、社会的連帯(social solidarity)のために経済的正義(economic justice)を犠牲にしたと今では一部の人が見ているが、ますます問われている。不平等の継続、経済不安、社会的流動性の低下に直面して、南アフリカ人の多くはマンデラの遺産と、国内の黒人に力を与えるために彼が十分なことをしたかどうかを疑問視している。これは、与党のアフリカ民族会議(the ruling African National Congress)に対する幻滅(disillusionment)を反映している。しかし、この再考は、現代の南アフリカが自らを理解してきた観点から、記憶を再定義する可能性もある。

アメリカでは、国家の物語をどう語るかをめぐる争いは建国の父たち(the Founding Fathers)にまで遡る。ドナルド・トランプからフロリダ州知事ロン・デサンティスまで、政治家たちはアメリカ人であることの意味や「アメリカを再び偉大な国にする(make America great again)」方法に基づいて立候補している。たとえばフロリダ州では、黒人の歴史を教えるための怪しげな基準を設け、生徒が人種や奴隷制度について学ぶ内容を規制しようとしている。これは単なる教育方法の政治的論争ではなく、その背後には、アメリカが過去をどのように記憶し、それゆえに未来をどのように築いていくのかという、より大きな、不安な政治的論争がある。

ナショナリズムの高揚における3つ目の次元は、人民主権(popular sovereignty)、すなわち人々の意思(the will of the people)をめぐる争いである。人民主権とナショナリズムの間には常に密接な関係があり、前者には明確なアイデンティティと互いに特別な連帯感を持つ国民という概念の形成が必要だったからである。フランス革命の時代、ジャン=ジャック・ルソーの思想に触発され、人民主権者は唯一無二の意思を持つとされた(the popular sovereign was supposed to have a singular will)。しかし、もし人民の意志が単一(unitarity)であるならば、差異(differences)をどう説明するのだろうか? 更に言えば、当然のように人々の間に違いがあるのなら、どうやって民意を確かめればいいのだろうか? このパズルを解く1つの方法は、誰が有能な人々の意志を効果的に代表していることができるか、そしてそうすることで、相手側を、単にその意志の代替的な解釈を持っているのではなく、その意志を裏切っているものとして表現できるかということである。このようなパフォーマンスが行われるためには、代替的な視点を代弁する者を民衆の敵(an enemy of the people)として厳しく非難しなければならない。その意味で、「人民(the people)」、一元的な存在として理解される、という修辞的な呼びかけは、常に反多元主義的である危険性(the risk of being anti-pluralist)をはらんでいる。世界中の民主政治体制国家が民主政治体制の多元主義的で代表的な概念を受け入れているときでさえ、国家に転嫁される単一性の痕跡が残っている。国家は団結していなければ国家ではないし、意志を持つこともできない。

政治スタイルとしての国民ポピュリズムは、人民の敵(enemies of the people)ではなく国民の敵(enemies of the nation)を見つけることで繁栄する。

人々は、自分たちの国のアイデンティティを基準にすることで、統一された意志のもとに結集する。つまり、時には、このようなアイデンティティの評価は非常に生産的である。しかし、ナショナリズムの特徴の1つは、ナショナリズム自身が異議を唱える余地を作ろうともがくことだ。反対派が委縮したり汚名を着せられたりするのは、政策的な問題に関して異なる見解を持っているからではなく、その見解が反国家的なものとして表象されるからである。国民ポピュリストのレトリックが、自分たちの国民的アイデンティティやナショナリズムの基準に異議を唱える勢力に向けられることが多いのは偶然ではない。国民のアイデンティティがより争われるようになるにつれ、押し付けられることによってのみ統一が達成される可能性が高まっている。

政治スタイルとしての国民ポピュリズムは、人民の敵ではなく国民の敵を見つけることによって繁栄し、その敵はしばしば特定の複数のタブーによって評価される。トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアンからモディ、オルバン、トランプに至るまで、現代のポピュリストのほぼ全員が、人民とエリートを階級ではなく、誰が国家を真に代表するかという観点から区別している。真のナショナリストとして評価されるのは誰なのか? エリートに対する文化的軽蔑(the cultural contempt for the elite)は、彼らがエリートであるという事実だけでなく、いわばもはや国民の一部ではないエリートとして代表されることができるという事実から強まっている。この種のレトリックは、違いを単なる意見の相違ではなく、扇動的であると見なす傾向がますます強まっている。たとえばインドでは、カシミールに対する政府の姿勢に疑問を呈する学生たちに対して国家安全保障関連の罪が問われている。これは、単なる異議申し立て(a contestation)、あるいはおそらく誤った見解としてではなく、犯罪化される必要がある反国家行為(anti-national act)と見なされている。

ナショナリズムの危機の第4の側面は、グローバライゼーションに関するものだ。ハイパー・グローバライゼーションの時代になっても、国益が色褪せることはなかった。各国がグローバライゼーションや世界経済への統合を受け入れたのは、それが自国の利益につながると考えたからだ。しかし、全ての民主政治体制国家において、今年の選挙で重要なのは、国際システムに関与する条件の再考である。

グローバライゼーションは勝者を生み出したが、同時に敗者も生み出した。アメリカにおける製造業の雇用喪失やインドにおける早すぎる脱工業化(premature de-industrialization)は、グローバライゼーションの再考を促すに違いない。こうしたことは全て、グローバル・サプライチェインへの依存に対する恐怖を際立たせた新型コロナウイルス感染拡大(パンデミック)以前から起こっていたことだ。

世界各国は、経済に対する政治的コントロールの主張、つまり合法的な社会契約(social contract)を結ぶ能力が、グローバライゼーションの条件を再考する必要があると確信するようになっている。傾向としては、グローバライゼーションに懐疑的になり、国家安全保障や経済的な理由から、より大きな自給自足を求めるようになっている。「アメリカ・ファースト」や「インド・ファースト」は、特に中国が権威主義的な競争相手(an authoritarian competitor)として台頭してきた状況では、ある程度理解できる。

しかし、現在のこの瞬間はナショナリズムの政治における大きな転換期のようだ。グローバライゼーションは国益の推進を目指す一方で、ナショナリズムを緩和した。グローバライゼーションは、統合の拡大によって全ての国が相互に利益を得ることができるゼロサムゲーム以外の世界秩序を提示した。国際的な連帯を疑うことはなかった。民主政治体制国家はますますこの前提を放棄しつつあり、世界に重大な影響を及ぼしている。グローバライゼーションが減り保護主義が強まると、必然的にナショナリズムが強まる。この傾向は世界貿易にも悪影響を及ぼし、特に国境開放と商業の高まりを必要とする小国にとっては打撃となる。

ここで説明したナショナリズムの4つの特徴(メンバーシップ、記憶、主権的アイデンティティ、世界への開放性)はそれぞれ、民主政治体制の誕生以来、その影を落としてきた。アメリカでは格差と賃金の低迷、インドでは雇用の危機、南アフリカでは汚職など、どの民主政治体制国家もそれぞれ深刻な経済的課題に直面している。経済問題とナショナリズム政治の間に必要な二項対立(binary)はない。モディのような成功したナショナリストの政治家は、経済的成功をナショナリズムのヴィジョンを強固なものにする手段と考えている。そして、ストレスの多い時代には、ナショナリズムは不満を明確にするための言語となる。ナショナリズムは、政治家が人民に帰属意識と参加意識を与える手段だ(It is the means by which politicians give a sense of belonging and participation to the people)。

ナショナリズムはアイデンティティ政治(identity politics)の最も強力な形態だ。ナショナリズムは、個人とその権利を、ナショナリズムが個人を束縛する強制的なアイデンティティのプリズムを通して見ている。ナショナリズムとリベラリズムは長い間、対立する勢力だった。ナショナリズムをめぐる利害関係が高まらず低まれば、ナショナリズムとリベラリズムと両者の間の緊張関係をうまく乗り越えやすくなる。しかし、2024年の多くの選挙では、これらの国の国民的アイデンティティの性質が、上記の4つの側面に沿って危機に晒される可能性が高まっている。これらの争いは民主政治体制を活性化させる可能性がある。しかし、最近の例を参考にすると、政治におけるナショナリズムの優越性は、リベラルな価値観に対する脅威となる可能性が高い。

ナショナリズムの前進する形態が、その意味を争うことを許さず、あるいは特定のグループの特権を維持しようとすると、一般的に、より分裂的で分極化した社会(a more divisive and polarized society)が生み出される。インド、イスラエル、フランス、そしてアメリカは、それぞれこの課題に直面している。記憶とメンバーシップの問題は、単純な政策審議によって解決される可能性が最も低い。彼らが取引する真実は、共通基盤の基礎となりうる事実に関するものではない。たとえば、私たちがしばしば歴史を選択するのは、その逆ではなく、むしろ私たちのアイデンティティのためであることはよく知られている。

おそらく、最も重要なことは、ナショナリズムの名の下に、リベラルな自由に対する攻撃が正当化されることが多いということだ。例えば、表現の自由(freedom of expression)は、深く大切にされている国家神話(national myth)を標的にすると見なされれば、その限界を知る可能性が最も高い。市民の自由を狭めたり、制度の完全性を軽んじたりすることを厭わないポピュリストや権威主義的な指導者は皆、ナショナリズムのマントをまとっている。そのような指導者は、「反国家的(anti-national)」という言葉を用いて反対意見を取り締まることができる。多くの意味で、今年の選挙は、民主政治体制がナショナリズムのディレンマとうまく折り合いをつけられるか、あるいはナショナリズムを衰退させるか、打ち砕くかを決めるかもしれない。

20世紀のファシズム史の偉大な歴史家であるジョージ・L・モスは、1979年にイェルサレムのヘブライ大学で行われた教授就任講演で、この課題について次のように述べている。「もし私たちがナショナリズムに人間的な側面を与えることに成功しなければ、将来の歴史家たちは、私たちの文明について、エドワード・ギボンがローマ帝国の崩壊について書いたことと同じことを書くかもしれない。つまり、最盛期には穏健主義が卓越し、国民はお互いの信念を尊重していたが、不寛容な熱意と軍事的専制によって崩壊したということだ(that at its height moderation prevailed and citizens had respect for each other’s beliefs, but that it fell through intolerant zeal and military despotism)」。

※プラタップ・バーヌ・メサ:プリンストン大学ロウレンス・S・ロックフェラー記念卓越訪問教授、ニューデリーにあるセンター・フォ・ポリシー・リサーチ上級研究員。

(貼り付け終わり)

(終わり)
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『トランプの電撃作戦』
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世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

※2025年3月25日に最新刊『トランプの電撃作戦』(秀和システム)が発売になります。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
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2024年1月に発表された、グレアム・アリソンの論稿をご紹介する。アリソンについては最新刊『トランプの電撃作戦』(秀和システム)で紹介しているので是非お読みいただきたい。この論稿はトランプが当選する10カ月ほど前に発表されたものであるが、非常に的を射ている内容である。この時期、当時の現職大統領であったジョー・バイデン(民主党)の支持率が上がらず、トランプの勢いが伸びているという状況で、日本でも「もしトラ(もしもトランプが大統領になったら)」という言葉が出ていた。日米、そして世界中のマスコミが一部を除いて、トランプの大統領返り咲きを多くの人々が「心配している」という論調だった。以下の論稿の内容をまとめると以下のようになる。

ドナルド・トランプ前大統領の再登場が懸念されており、彼がホワイトハウスに戻ることで、国際的な関係や政策に大きな影響を与える可能性がある。「トランプ・プット」と呼ばれる概念が出てきており、トランプの再登板が自分の国の利益を守る手段として機能するのではないかとの見方が広がっている。一方で、一部の国々はその影響に備え、「トランプ・ヘッジ」を試みる動きも見られる。特にプーティン大統領にとって、トランプが再び有利な条件で交渉する可能性が高いため、ウクライナ戦争の情勢は注視されている。

また、トランプの影響はヨーロッパの同盟国にも及び、彼らはアメリカの輸出依存からの脱却を模索する動きがある。特にドイツなどでは、自国の防衛を自ら強化すべきだとの声が上がっており、トランプとメルケルの関係から生じた教訓を忘れないようにしている。

COP28では、気候変動に関する国際的な合意が語られるが、現実には各国が化石燃料の使用を増加させている。トランプが再選される場合、気候政策は後退し、化石燃料の利用が促進される危険性が高まる。昨今の国際会議では、トランプの復帰による変化への期待感が広がっており、それが政策に影響を与えつつある。

トランプの2期目は、さらに大胆な貿易政策を進めることが予想されていて、昨今のアメリカの貿易政策は中国との対立が中心となっており、自国の生産依存を無くす動きが強まっている。一方で、世界貿易秩序が崩壊する可能性についても懸念が高まっており、この状況は国際的な経済活動に直接的な影響を与える。

トランプ政権の政策は移民問題にも波及しており、国境を閉ざすことが再び強調される中、アメリカの政治の変化は他国にとって脅威となっている。トランプの選挙運動は国境管理を強化することで票を集める戦略であり、これは国際的にも大きな波紋を呼んでいる。

歴史的に外交における二党間の協力はあったが、近年はそれが難しくなっており、国際関係は不確実性を増している。各国のリーダーたちは、次期アメリカ大統領の影響が自国にとって何を意味するのかを注視し、アメリカの内政が国際的な安定にどう影響するのかを見極める必要がある。このように、2024年のアメリカ大統領選挙が神経を尖らせる要因となっている。

 実際に、2024年11月の大統領選挙でトランプが勝利し、132年ぶりの大統領返り咲きを果たした。アリソンがトランプ政権発足を予測し、それに伴う世界各国の動きを予測して書いているのだが、その内容の正確さには驚くばかりだ。トランプの出現を利用して、自国の利益につなげようという「トランプ・プット」という考え方は非常に重要だ。これくらいのしたたかさが必要である。日本も是非「トランプ・プット」を実行して欲しい。

(貼り付けはじめ)

トランプは既に地政学を作り直している(Trump Is Already Reshaping Geopolitics

-アメリカの同盟諸国と敵対諸国は彼の復帰の可能性にどう反応しているか。

グレアム・アリソン筆

2024年1月16日

『フォーリン・アフェアーズ』誌

https://www.foreignaffairs.com/united-states/trump-already-reshaping-geopolitics

2008年に発生した大規模金融危機前の10年間、連邦準備制度理事会(FRB)のアラン・グリーンスパン議長はワシントンで事実上の半神(a virtual demigod)となった。アリゾナ州選出のジョン・マケイン連邦上院議員は後に有名になった助言を行い、「彼が生きているか死んでいるかは問題ではない。死んでいるのなら、彼を支えて黒い眼鏡をかけさせればいい」と述べた。

グリーンスパンが議長を務めた1987年から2006年までの20年間、FRBはアメリカ経済が加速的に成長した時期において中心的な役割を果たした。グリーンスパンの名声の源泉の1つは、金融市場が「FRBプット(Fed put)」と呼ぶものだった。(プット」とは、一定の期日まで固定価格で資産を売却する権利を所有者に与える契約のことだ)。グリーンスパンの在任中、投資家たちは、金融工学技術者たち(financial engineers)が作り出す新商品がいかにリスキーであっても、何か問題が起きれば、グリーンスパンのFRBが救援に駆けつけ、株価がそれ以下に下落することを許さない床を提供してくれると信じるようになった。その賭けは報われた。ウォール街の住宅ローン担保証券(Wall Street’s mortgage-backed securities)とデリヴァティヴ(derivatives)がリーマン・ブラザーズの破綻を招き、2008年の金融危機が大不況の引き金となった際に、米財務省とFRBは経済が第二の大恐慌に陥るのを防ぐために介入した。

2024年のアメリカ大統領選挙が既に世界各国の意思決定に与えている影響を考えるとき、そのダイナミズムを思い起こす価値がある。指導者たちは今、1年後にドナルド・トランプ前米大統領が実際にホワイトハウスに戻ってくる可能性があるという事実に目覚め始めている。したがって、一部の外国政府は、「トランプ・プット(Trump put)」として知られるようになるかもしれないものをアメリカとの関係に織り込みつつある。トランプ大統領が事実上、自国にとって事態がどの程度悪化するかという下限を設定することになるため、1年後にはワシントンとより良い交渉ができるようになるだろうと期待して、選択を遅らせようとしている。これとは対照的に、「トランプ・ヘッジ(Trump hedge)」とでも呼ぶべきものを探し始めている人々もいる。トランプ大統領の復帰によって、より悪い選択肢が残される可能性が高いと分析し、それに応じて準備を進めているのだ。

●過去の大統領たちの亡霊(THE GHOST OF PRESIDENCIES PAST

ロシアのウラジーミル・プーティン大統領の対ウクライナ戦争における計算は、トランプ大統領の置き土産を鮮やかに示している。ここ数カ月、ウクライナ情勢が膠着状態に陥るにつれ、プーティンは戦争を終わらせる用意があるのではないかとの憶測が広がっている。しかし、トランプ・プットの結果、来年の今頃も戦争が続いている可能性の方がはるかに高い。ウクライナ人の中には、また厳しい冬がやってくる前に停戦を延長するか、あるいは休戦協定を結んで殺戮を終わらせたいと考えている人もいるが、プーティンはトランプが 「1日で (in one day)」戦争を終わらせると約束したことを知っている。トランプの言葉を借りれば 「私は(ウクライナのヴォロディミール・)ゼレンスキー大統領に言うだろう。もこれ以上(の支援)はない。あなたは取引をしなければならない」。1年後、トランプは、ジョー・バイデン米大統領が提示する条件やゼレンスキー大統領が今日合意する条件よりもはるかにロシアに有利な条件を提示する可能性が高いため、プーティンは待つだろう。

対照的に、ヨーロッパにあるウクライナの同盟諸国は、トランプのヘッジを考慮しなければならない。戦争が2年目の終わりに近づくにつれ、ロシアの空爆や砲撃による破壊と死者の写真が連日報道され、戦争は時代遅れになった(war has become obsolete)というヨーロッパ人の持つ幻想(European illusions)が覆されている。予想通り、これはNATO同盟とそのバックボーンである、攻撃された同盟国を防衛するというアメリカの関与に対する熱意の復活(a revival of enthusiasm)につながった。しかし、トランプがバイデンを上回るという世論調査の結果が報道されるにつれて恐怖が高まっている。特にドイツ人は、アンゲラ・メルケル前首相がトランプ大統領との苦い出会いから得た結論を覚えている。彼女が言ったように、「私たちは自分たちの未来のために自分たちで戦わなければならない(We must fight for our future on our own)」ということだ。

ロシアよりも3倍の人口と9倍以上のGDPを持つヨーロッパの共同体が、なぜ自国の防衛をワシントンに依存し続けなければならないのかという疑問を呈したアメリカの指導者はトランプだけではない。2016年に『アトランティック』誌の編集長ジェフリー・ゴールドバーグが行った、よく引用されるインタヴューにおいて、バラク・オバマ元米大統領は、ヨーロッパ諸国(およびその他の国々)を「ただ乗りの奴ら(free riders)」と痛烈に批判した。しかし、トランプはそれ以上のことをした。当時、トランプ大統領の国家安全保障問題担当大統領補佐官だったジョン・ボルトンによると、トランプは2019年の会議でNATOからの完全撤退(withdrawing from the alliance altogether)について真剣に話し合った際、「NATOのことなどどうでもいい(I don’t give a shit about NATO)」と述べたということだ。部分的には、トランプの脅しは、ヨーロッパ諸国に自国の防衛について、GDPの2%を費やすという約束を果たさせるための交渉の策略だったが、それはあくまで一部に過ぎなかった。ジェイムズ・マティス国防長官は、アメリカの同盟諸国の重要性についてトランプ大統領を説得しようとして、2年間も継続的に試みたが、その後、大統領との意見の相違があまりにも深く、もはや長官を務めることはできないとの結論に至り、2018年に提出した辞表の中で、その立場を率直に説明した。現在、トランプ大統領の選挙運動ウェブサイトは「NATOの目的とNATOの使命を根本的に再評価する(fundamentally reevaluating NATO’s purpose and NATO’s mission)」ことを求めている。ウクライナにどれだけの戦車や砲弾を送るかを検討しているヨーロッパの一部の国々は、11月にトランプ大統領が当選した場合、自国の防衛にそれらの兵器が必要になる可能性があるかどうかについて再検討を始めている。

先ごろドバイで閉幕したCOP28気候変動サミットでも、トランプ大統領への期待が働いた。歴史的に、気候変動問題に対処するために各国政府が何をするかについてのCOP合意は、願望が長く、実績が不足していた。しかし、COP28は、「化石燃料からの脱却(transition away from fossil fuels)」という歴史的な合意を宣言し、より非現実的な空想を拡大した。

現実的には、署名した国々は全く逆のことをしている。石油、ガス、石炭の主要な生産者と消費者は現在、化石燃料の使用を減らすのではなく、増やしている。しかも、見渡す限り先までそうし続けるための投資を行っている。世界最大の石油生産国であるアメリカは、過去10年間毎年生産量を拡大しており、2023年には生産量の新記録を樹立している。温室効果ガス排出量世界第3位のインドは、石炭を中心とした国家エネルギー計画によって、優れた経済成長を遂げている。この化石燃料はインドの一次エネルギー生産の4分の3を占めている。中国は、「グリーン」な再生可能エネルギーと 「ブラック」な汚染石炭の両方を生産するナンバーワンの国である。2023年に中国が設置したソーラーパネルの数は、過去50年間にアメリカが設置した数よりも多いが、その一方で、現在、世界の他の国々と合計した数の6倍もの石炭発電所を新たに建設している。

従って、COP28では2030年以降の目標について多くの誓約がなされたものの、今日、各国政府に費用のかかる不可逆的な行動を取らせようとする試みには抵抗があった。トランプ大統領が復帰し、「掘って掘って掘りまくれ(drill, baby, drill)」という選挙公約を追求すれば、そのような行動は不要になることを指導者たちは知っている。COP28のバーで飛び交った悪いジョークは次のようなものだった。「化石燃料からの脱却を目指すCOP28の明言されていない計画とは? それは、COP28woできるだけ早く燃やし尽くすことだ」。

●混乱した世界(A DISORDERED WORLD

トランプ政権の2期目は、新たな世界貿易秩序(a new world trading order)、あるいは混乱(disorder)を約束する。2017年の大統領就任初日、トランプは環太平洋パートナーシップ貿易協定(Trans-Pacific Partnership trade agreement)から離脱した。その後数週間で、ヨーロッパの同等の協定やその他の自由貿易協定の創設に向けた協議は終了した。1974年通商法第301条が行政府に与えた一方的権限を利用して、トランプは3000億ドル相当の中国輸入品に25%の関税を課した。バイデンはトランプが課した関税をほぼ維持している。トランプ政権の貿易交渉担当者ロバート・ライトハイザー(トランプ陣営がこれらの問題に関する主任顧問としている)が最近出版した著書『自由な貿易などない(No Trade Is Free)』で説明したように、トランプ政権の2期目は1期目に比べてはるかに大胆なものになるだろう。

現在の選挙活動において、トランプは自らを「関税男(Tariff Man)」と呼んでいる。トランプ大統領は、全ての国からの輸入品に一律10%の関税を課し、アメリカ製品に高い関税を課している国と同額の関税を課すと約束し、「目には目を、関税には関税を(an eye for an eye, a tariff for a tariff)」と約束している。バイデン政権が交渉したアジア太平洋諸国との協力協定であるインド太平洋繁栄経済枠組(the Indo-Pacific Economic Framework for Prosperity)は、トランプ大統領によれば「初日から機能不全に陥る(dead on day one)」という。ライトハイザーにとって、中国はアメリカの保護貿易措置の中心的な標的となる「致命的な敵(lethal adversary)」である。中国が世界貿易機関(World Trade OrganizationWTO)加盟に先立ち、2000年に認められた「恒久的正常貿易関係(permanent normal trading relations)」の地位の取り消しから始まり、電子機器、鉄鋼、医薬品など「全ての重要分野で中国への依存をなくす(eliminate dependence on China in all critical areas)」ことがトランプ大統領の目標となる。

貿易は世界経済成長の主要な原動力であるため、指導者の多くは、アメリカの取り組みがルールに基づく貿易秩序を本質的に崩壊させる可能性はほとんど考えられないと考えている。しかし、彼らの顧問の中には、アメリカが他国に中国との分離を強いるよりも、世界貿易秩序から自ら分離する方が成功する可能性がある未来を模索している者もいる。

貿易の自由化(trade liberalization)は、世界中の人々の自由な移動(freer movement of people)ももたらした、より大きなグローバライゼイション(globalization)のプロセスの柱となっている。トランプは、新政権の初日に、最初の行動として「国境を閉鎖する(close the border)」と発表した。現在、毎日1万人を超える外国人がメキシコからアメリカに入国している。バイデン政権の最大限の努力にもかかわらず、連邦議会は、中米などからのこの大量移民を大幅に減速させる大きな変更を行わない限り、イスラエルとウクライナへの更なる経済支援を承認することを拒否している。選挙活動中、トランプはバイデンがアメリカの国境を安全に守れなかったことを大きな問題にしている。トランプ大統領は、数百万人の「不法外国人(illegal aliens)」を一斉に取り締まる計画を発表しており、これは「アメリカ史上最大の国内強制送還作戦(the largest domestic deportation operation in American history)」と呼んでいる。メキシコ大統領選の期間中であるメキシコ国民は、北と南の国境を越えて何百万人もの人々が押し寄せ、自国が圧倒されるかもしれないというこの悪夢を表現する言葉をまだ探している。

●更なる4年(FOUR MORE YEARS

歴史的に見れば、主要な外交問題における民主・共和両党の相違は、「政治は水際で止まる(politics stops at the water’s edge)」と言えるほどささやかなものだった。しかし、この10年はそのような時代ではない。外交政策担当者やその海外関係者にとっては有益ではないかもしれないが、アメリカ合衆国憲法は、ビジネスの世界では敵対的買収の試み(an attempted hostile takeover)に相当するものを4年毎に予定している。

その結果として、気候や貿易、NATOのウクライナ支援に関する交渉から、プーティンや中国の習近平国家主席、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン王太子を説得する試みまで、あらゆる問題でバイデンと彼の外交政策ティームは、相手国が1年後に全く異なる政府を相手にしている可能性とワシントンの約束や脅しを天秤にかけるため、ますますハンディキャップを背負うことになる。今年は、世界各国が不信と恍惚と恐怖と希望(disbelief, fascination, horror, and hope)を織り交ぜてアメリカの政治を見守る危険な年になることが予想される。彼らは、この政治劇場が次期米大統領というだけでなく、世界で最も影響力のあるリーダーを選ぶことを知っている。

※グレアム・アリソン:ハーヴァード大学ケネディ記念行政大学院ダグラス・ディロン記念政治学教授。著書に『米中戦争前夜――新旧大国を衝突させる歴史の法則と回避のシナリオ(Destined for War: Can America and China Escape Thucydides’s Trap?)』がある。

(貼り付け終わり)

(終わり)
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『トランプの電撃作戦』
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世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

※2025年3月25日に最新刊『トランプの電撃作戦』(秀和システム)が発売になります。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
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  最新刊『トランプの電撃作戦』(秀和システム)の宣伝ばかりになって申し訳ないが、このブログでしか宣伝ができないのでご容赦いただきたい。

 第2次トランプ政権にとって最重要の人物がイーロン・マスクであることは誰も否定しないだろう。政府効率化省(Department of Government EfficiencyDOGE)を率いて、米連邦政府全体を引きずり回している。しかし、実は、トランプ運動を通じての最重要の人物はピーター・ティールである。ピーター・ティールは、イーロン・マスクと共にペイパル社を大きくし、その後は、パランティア社を創設し、更には様々な企業に資金提供を行っている。最新刊『トランプの電撃作戦』の第1章では、ドナルド・トランプ、ピーター・ティール、イーロン・マスクの関係について詳しく分析している。その際には、以下に掲載する記事を参照した。これまでとは違った姿が見えてくると思う、是非お読みいただきたいと思う。

(貼り付けはじめ)

パランティア社が国防費増加に賭ける投資家たちの「トランプ・トレード(トランプ関連株)」になる(Palantir becomes a ‘Trump trade’ as investors bet on higher defence spending

-アメリカ政府を最大の顧客とする、ピーター・ティールが設立したデータ会社は、選挙以来、企業価値が230億ドルも上昇

タビー・キンダー(サンフランシスコ発)

2024年11月20日

『フィナンシャル・タイムズ』紙

https://www.ft.com/content/f583fa72-858f-418e-b17c-67cad1f2c10a

ドナルド・トランプが今月アメリカ大統領に当選して以来、パランティア社(Palantir)の時価総額は230億ドル以上も増加した。投資家たちは、この秘密主義の米政府からの請負企業が、国家安全保障、移民、宇宙開発に対する連邦政府の支出強化の最大の勝利者になることに賭けている。

今回の株価上昇は、この1年間のパランティア社の驚異的な上昇に拍車をかけるもので、パランティア社の株価は約3倍の1株あたり61ドルに上昇し、企業価値は約1400億ドルに達した。

この急激な上昇は過去12ヶ月で見てみると、半導体メーカーのエヌヴィディア社(Nvidia)を上回るもので、パランティア社の時価総額はアメリカ最大の国防元請企業の1つであるロッキード・マーティン社(Lockheed Martin)よりも大きくなった。

2003年にピーター・ティール、ジョー・ロンズデール、アレックス・カープといった、テクノロジー業界のヴェテランたちによって設立されたパランティア社は、政府や企業が膨大な量のデータを照合・分析し、複雑なパターンを特定したり、業務改善に利用できる詳細な情報(インテリジェンス)を構築したりするのを支援している。

アメリカ政府はパランティア社にとっての最大の顧客となっている。CIAやアメリカ国家安全保障局(National Security Agency)から軍隊や警察に至るまで、テロリストの追跡、ハッカーの阻止、不法移民の強制送還、金融詐欺師の告発のため、パランティア社のシステムを導入している。パランティア社のテクノロジーは、アルカイダの指導者オサマ・ビンラディンの殺害、新型コロナウイルスワクチンの配布、金融業者バーナード・マドフの有罪判決に使われた。

投資家たちは、パランティア社がトランプ政権下で政府の国防支出が増加した場合に有利な立場にあることに賭けている。

パランティア社は2024年5月、国防総省の主要AI戦場情報プログラム「プロジェクト・メイヴン(Project Maven)」を拡張するため、4億8000万ドル規模の5年契約を獲得し、そのデータ処理を利用して軍事上の要点を特定し、アナリストたちの効率を向上させた。

パランティア社に投資しているフォルテ・キャピタル・グループ社のロジャー・モンテフォルテ最高経営責任者(CEO)は、「トランプは、特にイスラエルとウクライナにおいて、任務を遂行する人物になるだろう。パランティア社は極めて重要なプレーヤーになるだろう」と述べている。

モンテフォルテは、パランティア社はイーロン・マスクの電気自動車メーカーであるテスラやパーマー・ラッキーの自律型兵器(autonomous weapons)のスタートアップ企業アンドゥリル社(Anduril)と並んで、「トランプ取引(トランプ関連株)」の「三人組(trifecta)」(新政権に近いことで利益を得られる銘柄[stocks that stand to gain from their proximity to the new administration])の1つであると付け加えた。アンドゥリル社は流通市場取引(secondary market trading)で株価が急騰した民間企業である。

トランプ次期大統領は連邦政府の支出を抑制すると宣言しているが、マスクは防衛費をこれまでの第一次防衛請負企業(traditional defence prime contractors)ではなく「起業家企業(entrepreneurial companies)」により配分すべきだと述べている。

ロケット製造会社スペースX社(Space X)を通じたマスクの宇宙開発への個人的関心も、パランティア社に利益をもたらす可能性がある。2024年6月、パランティア社は「スターラボ(Starlab)」と呼ばれるコンソーシアム(consortium)に参加し、国際宇宙ステーション(International Space Station)の後継となる、NASAやその他の宇宙機関、民間顧客にサーヴィスを提供するための商業宇宙ステーションを10年後に立ち上げる予定だ。

DAデイヴィッドソン社(DA Davidson)」のソフトウェアアナリストであるギル・ルリアは「パランティア社は新政権と2つのレヴェルで連携している。その創設者たちは政権の内輪の影響力の中にいる。もう1つの調整はイデオロギー的なものだ。パランティア社には西洋文明を保護するという明確な使命があり(a clear mission to protect western civilisation)、それは次期政権の哲学と非常によく一致している。」

パランティア社は、第一次トランプ政権下での移民税関捜査局(Immigrations and Customs Enforcement)との契約について、数百万人の移民をアメリカから強制送還する取り組みを促進し、人権侵害に加担していると非難され、擁護団体から攻撃を受けた。

パランティア社の最近の評価ブームは、ピーター・ティールとアレックス・カープが忠実な個人投資家のオンライン軍団から人気を得ていること、人工知能にまつわるマニアックな話題、過去1年間に利益率を改善しながら成長を加速させた結果だ。パランティア社の株価は、ソフトウェア企業の中で最も高い倍率で取引されており、来年予想される収益の40倍、予想利益の130倍で取引されている。

月曜日の投資家たちによるパランティア社株オプション取引は160万件を超え、米オプション市場ではエヌヴィディアとテスラに次いで、3番目に人気のある企業となっている。オプション取引は、投資家が株式の方向性に安価なレヴァレッジをかけた賭けをすることを可能にし、レディッと(Reddit)のような小売取引フォーラムで人気となっている。

新古典派社会理論の博士号を持つアレックス・カープは、愛国主義(patriotism)、社会、テクノロジーに関するイデオロギー的な宣言で、このようなフォーラムで知られるようになった。

カープは、「今世紀はソフトウェアの世紀であり、私たちは市場全体を手に入れるつもりだ。私たちは、最も重要な組織を武装し、防衛するためにこの会社を設立したのであって、無為で退廃的な娯楽を作り出すためにこの会社を設立したのではない」と述べた。

カープは大統領選挙以来、株価高騰により報酬計画に基づく自動売却が開始されたため、パランティア社株の売却で約10億ドルを稼いだ。

パランティア社のピーター・ティール会長は、シリコンヴァレーにおけるトランプ大統領の最大の盟友の1人であり、JD・ヴァンス副大統領の政治的台頭の主な支援者でもある。しかし、ティールはトランプからの選挙運動への寄付要請を断った。

事情に詳しい関係者によると、2009年にパランティア社を去った、ジョー・ロンズデールはイーロン・マスクに近く、トランプ政権移行ティームでの潜在的な役割を担う準備が整っているということだ。

パランティア社に近いある人物は、トランプ大統領の誕生がこのビジネスにとって好材料になるかは、それほど明確ではないと述べた。

この人物は続けて「パランティア社はバイデン政権の下で急成長し、ウクライナ戦争とイスラエルを通じて重要なプレーヤーとなった。トランプ大統領のことは表面的な認識に過ぎない。誰も何らかの形で推測したくない」と述べた。

2010年以来、パランティア社は民間企業へのサーヴィスを拡大し、リオ・ティント社、BP者、ジェネラル・ミルズ社、CVSヘルス社といった企業との大型契約のおかげで成長を加速させた。このAIプラットフォームは、企業のオペレーションやサプライチェーンの管理、不正行為やリスクの検出、創薬、需要予測などを支援するものだ

パランティアは2023年に初の黒字決算を達成したが、これはパランティア社の商業ビジネスが爆発的な人気を博したためだ。民間部門ビジネスは現在では収益の35%を占めている。全体として、パランティアは今年第3四半期に1億4400万ドルという過去最高の純利益を計上し、第4四半期の調整後利益は約3億ドルになると予想した。

パランティア社は2024年9月にS&P500種株価指数に採用され、機関投資家が保有するインデックス・ファンドに組み入れられるようになった。先週、パランティア社は、11月26日にニューヨーク証券取引所からナスダック市場に上場市場を変更すると発表し、ナスダック100の仲間入りを果たす見込みだ。

パランティア社の取締役で8VCのパートナーであるアレックス・ムーアは、この動きは上場投資信託による数十億ドルの株式購入を「余儀なくさせ(will force)」、その結果、個人株主は利益を得ることになるだろうとXで述べた。

しかし、アナリストの中には、株価収益率の高さが懸念材料だと警告する人もいる。リシ・ジャルリア率いるRBCのアナリストは先月、「パランティア社がソフトウェア業界で最も割高な企業である理由を合理的に説明できない」と述べ、目標株価を9ドルに設定した。

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トランプの世紀の大当たり(Trump’s bonanza of the century

-イーロン・マスクをはじめとする超富裕層の起業家たちは規制緩和で利益を得る立場にある

エドワード・ルース筆

2024年12月17日

『フィナンシャル・タイムズ』紙

https://www.ft.com/content/fe4702cc-4643-41d2-9214-63bf3888127f

上げ潮は全てのメガヨットを持ち上げる。しかし、純資産(net worth)の増加という点では、イーロン・マスクはその部類に入る。ドナルド・トランプが11月5日に再選を果たして以来、マスクの資産はおよそ3分の2増の4400億ドルに跳ね上がった。このペースでいけば、トランプ大統領の任期中に彼は楽に兆万長者(trillionaire)になるだろう。

メタ(Meta)の創業者マーク・ザッカーバーグやアマゾンのジェフ・ベゾスといった後発組も、この流れに乗りつつある。両者はトランプ大統領の就任式委員会(inauguration committee)に100万ドルを寄付しており、これは次期政権の機嫌を取る伝統的な方法だ。彼らの資産も急増している。アメリカは史上最大の規制緩和の流れにある。

この上昇気流は、トランプ大統領に票を投じたブルーカラーのアメリカ人という小舟をも持ち上げるのだろうか? トランプはそうなると約束している。トランプが多くの労働者階級の票を獲得した主な理由は、ブルーカラーのアメリカ人が、パンデミックが起こる前に実質所得の中央値が上昇した彼の第1期を思い出したからだ。しかし、マクロ経済の状況はそれ以来大きく変化している。トランプは2017年にゼロ金利の世界を引き継いだ。今回は、金融の拘束がかかっている。トランプ減税の更新によるインフレの影響は急速に進むだろう。アメリカのブルーカラーは失望するだろう。

同じことは、アメリカの富裕層、特にトランプの最も熱心な2つの産業支援者であるAIと暗号通貨(crypto)に出資している富裕層には当てはまらないだろう。トランプの誤った名前の政府効率化省(department of government efficiencyDoge)の共同責任者であるマスクの利益相反(conflicts of interest)の規模は前例がない。神聖ローマ帝国は、帝国でも神聖なものでもなかったが、それと同じように、政府効率化省は政府の部局でもなければ、効率化が真の目的でもない。マスクの目標は予算から2兆ドル(連邦政府支出の約3分の1)を削減することだという。しかしそれは、アメリカの国防予算や、トランプ大統領がそれぞれ増額と維持を公約している社会保障とメディケアを削減しなければ不可能だ。

残るは国内裁量予算[domestic discretionary budget](教育、フードスタンプ、インフラなど)では、1兆ドルにも満たない。私の予想では、イーロン・マスクは連邦議会を説得して財布の権限を放棄させることはできないだろう。しかし、連邦議会はトランプ減税を実施するだろう。その結果、アメリカの財政赤字は拡大し、2024年のGDP比は6.4%と既に高水準に達している。財政赤字の拡大は借入コストの上昇につながる。つまり、アメリカの予算のうち債務返済が占める割合が大きくなることと、実質金利の上昇によって個人所得が減少することである。

しかし、マスクの真の目標は規制緩和だ。彼が規制撤廃に成功するという市場の期待が、彼の純資産高騰に拍車をかけている。マスクが出資している「ドッジコイン(Dogecoin)」の評価額の上昇から、テスラ、スペースX、ニューラリンク社(Neuralink)、エックスエーアイ社(xAI)に至るまで、マスクの会社は全てが急成長している。マスクの利益の範囲と複雑さを考えると、メディアや連邦議会、その他の監視機関が、危機に瀕した複数のプレーをチェックし続けるのは難しいだろう。明白なものには、テスラの自律走行システムに関する責任の緩和、スペースXの国防総省との契約ブーム(そのほとんどが機密扱い)、マスクのAIと脳チップへの投資に対するあらゆるグリーンライトが示されている。

マスクは同輩中の首席(first among equals)である。しかし、オンライン決済会社を立ち上げた当初の「ペイパルマフィア(PayPal mafia)」の仲間たち、特にピーター・ティールやデイヴィッド・サックスも利益を得ている。ティールのデータ分析会社で、米国防総省と大規模な契約(そのほとんどが機密扱い)を結んでいるパランティア・テクノロジーズ社の株価は、11月5日以降、約4分の1上昇した。パランティア社は現在、アメリカの国防産業複合体(America’s defence industrial complex)の旧世界の模範であるロッキード・マーティン社よりも価値がある。

トランプはまた、サックスを暗号通貨ツァー(cryptocurrency tsar.)に任命した。トランプの選挙公約の1つに、連邦準備制度(Federal Reserve)が暗号通貨をバランスシートに加えるというものがあった。もしそれが実現すれば、アメリカの中央銀行は実質的に、多くの経済学者がねずみ講(Ponzi scheme)と見なすものを支援することになる。トランプの勝利以来、ビットコインの価値が10万ドルを超えて急騰しているのは驚きではない。トランプは、ビットコインが10万ドルを超えたとき、自身のソーシャルメディアであるトゥルース・ソーシャルに「どういたしまして(You’re welcome)」と投稿した。

アメリカでは汚職は合法だとよく言われる(It is often remarked that in the US, corruption is legal)。マスクやトランプがこうした利益相反で法を犯しているとは誰も主張していない。本当の審判は政治だ(The real judge is politics)。一般国民の投票の半数弱を獲得したトランプは、均等に分裂した国家(evenly divided nation)を統率しているが、アメリカを作り直すという大任を主張している。

勝者は既に想像を絶する報酬を得ている。これは全て、トランプが大統領に就任する前から起こっていることだ。

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●「PalantirAnduril主導の次世代防衛企業連合が始動、SpaceXOpenAIも参画へ」

XenoSpectrum 20241223

https://xenospectrum.com/palantir-anduril-led-next-generation-defense-companies-alliance-launched/

米防衛テクノロジー大手のPalantir TechnologiesAnduril Industriesが、従来の防衛産業の勢力図を塗り替えるべく、約12社規模の企業連合の結成を進めている。この動きは、8,500億ドル規模の米国防予算の獲得を目指す新興テック企業の野心的な挑戦となる。

目次

新興テック企業が描く次世代の防衛産業像

急成長する防衛テック企業の台頭

■新興テック企業が描く次世代の防衛産業像

この企業連合には、Elon Musk氏率いるSpaceXChatGPT開発元のOpenAIAI関連のScale AI、自律型船舶建造のSaronic Technologiesなどの参画が見込まれている。20251月にも正式発表される見通しだ。関係者によれば、これは単なる企業連合の形成ではなく、「新世代の防衛請負業者を生み出す」取り組みとして位置づけられている。

連合の目的は、Lockheed MartinRaytheonBoeingといった伝統的な防衛産業大手が支配する現状を打破することにある。これらの老舗企業は、艦船、戦車、航空機など、設計から製造まで長期間を要する高額な装備品の製造を主力としてきた。これに対し、シリコンバレーの新興企業群は、より小型で安価な自律型兵器の開発に注力している。彼らは、現代の紛争における実戦での有効性を重視したアプローチを採用している。

すでに連合企業間での技術統合も始まっている。Palantirのクラウドベースのデータ処理を行う「AI Platform」は、Andurilの自律型ソフトウェア「Lattice」と統合され、国家安全保障目的のAIとして提供される。さらにAndurilは、対ドローン防衛システムにOpenAIの高度なAIモデルを組み込み、「空からの脅威」に対処する米政府契約の共同開発にも着手している。

注目すべきは、この連合が単なる技術提供を超えて、国防総省の技術的優先事項の実現と重要なソフトウェア能力の問題解決を目指している点だ。関係者の一人は、これを「産業界の連携(aligning industry)」と表現し、政府の技術ニーズに効率的に応える新たな枠組みとしての期待を示している。ウクライナ戦争や中東での紛争、米中間の地政学的緊張の高まりを背景に、軍事目的で使用可能な先進的AIプロダクトを開発する技術企業への政府の依存度は、さらに高まると予想される。

■急成長する防衛テック企業の台頭

防衛テクノロジー企業の急成長は、株式市場でも顕著な現象となっている。特にPalantirの成長は目覚ましく、同社の株価は過去1年で300%の上昇を記録。時価総額は1,690億ドルに達し、伝統的な防衛大手であるLockheed Martinをも上回る規模にまで成長した。この急成長の背景には、データインテリジェンス分野における同社の独自の技術力と、政府契約の着実な獲得が寄与している。

Palantirの成功は、共同創業者であるPeter Thiel氏の先見性も反映している。Thiel氏は2017年にAndurilの立ち上げ時の主要な出資者としても名を連ねており、現在Andurilの企業価値は140億ドルにまで成長している。防衛テック企業への投資は、ウクライナ戦争や中東情勢の緊迫化を受け、国家安全保障、移民問題、宇宙探査への連邦支出増加の恩恵を受けると見込まれている。

この成長の波は、他の参画予定企業にも及んでいる。Elon Musk氏が率いるSpaceXは、最近の評価額が3,500億ドルに達し、世界最大の非上場企業としての地位を確立した。一方、OpenAI2015年の設立からわずか8年で1,570億ドルという驚異的な企業価値を実現している。注目すべきは、OpenAIが最近になって利用規約を改定し、同社のAIツールの軍事利用を明示的に禁止する条項を削除したことだ。この変更は、同社の政府調達への参入意欲を示す重要な転換点として受け止められている。

これら新興企業は、すでに政府との関係構築でも成果を上げている。SpaceXPalantir20年以上にわたり大型の政府契約を獲得してきた実績を持つ一方、OpenAIAndurilなど比較的新しい企業も、政府調達市場への参入を着実に進めている。特にAndurilは、自律型システムや先進的なセンサー技術を活用した防衛装備品の開発で注目を集めており、従来型の防衛企業とは一線を画す革新的なアプローチで、政府からの支持を広げている。

このような防衛テック企業の台頭は、単なる企業成長の枠を超えて、米国の防衛産業の構造転換を象徴する現象として注目されている。特に、AIや自律システムといった先端技術を軸に、より機動的で効率的な防衛能力の実現を目指す彼らのビジョンは、従来の防衛産業のあり方に根本的な変革を迫る可能性を秘めている。

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パランティア社とアンドゥリル社が米国防総省との契約獲得に向けテック企業のグループと協力関係を築く(Palantir and Anduril join forces with tech groups to bid for Pentagon contracts

-コンソーシアムにはイーロン・マスクのスペースX社(SpaceX)も参加し、アメリカの国防予算8500億ドル(約125兆5000億円)のより大きなスライスを獲得しようとする動きがあるようだ。

タビー・キンダー、ジョージ・ハモンド(サンフランシスコ発)

2024年12月23日

『フィナンシャル・タイムズ』紙

https://www.ft.com/content/6cfdfe2b-6872-4963-bde8-dc6c43be5093

アメリカ最大の防衛テクノロジー企業2社のパランティア社(Palantir)とアンドゥリル社(Anduril)は、アメリカ政府の「元請(prime)」請負業者の寡占状態を打破するため、アメリカ政府の仕事を共同で入札するコンソーシアムを結成するため、約10社の競合他社と交渉中である。

このコンソーシアムは、早ければ1月にも複数のテック企業グループと合意に達したと発表する予定だ。この件に詳しい複数の関係者によると、参加交渉中の企業には、イーロン・マスクのスペースX社(Space X)、チャットGPTChatGPT)メーカーのオープンAI社(OpenAI)、自律造船会社(autonomous ship builder)のサロニック社(Saronic)、人工知能データグループのスケールAI社(Scale AI)などが含まれるということだ。

このグループの結成に携わったある人物は「私たちは、新世代の防衛請負業者を提供するために協力している(We are working together to provide a new generation of defence contractors)」と語った。

この動きは、テック企業がロッキード・マーティン社(Lockheed Martin)、レイセオン社(Raytheon)、ボーイング社(Boeing)といった伝統的な元請請負企業から、アメリカ政府の莫大な防衛予算8500億ドル(約125兆5000億円)のより大きなスライスを奪おうとしていることに起因する。

別の関係者によると、このコンソーシアムはシリコンヴァレーの最も価値のある企業の一部を結集し、その製品を活用してアメリカ政府に最先端の防衛および兵器の能力を供給するより効率的な方法を提供する予定だという。

投資家たちは、ドナルド・トランプ次期政権下で国家安全保障、移民、宇宙探査などへの連邦政府支出が増加し、これらの企業が勝ち組の仲間入りをすると賭けており、防衛技術関連の新興企業が今年記録的な額の資金を集めている中で起こった。

ウクライナや中東での戦争、米中間の地政学的緊張は、軍事目的に使用できる高度なAI製品を開発するハイテク企業へのアメリカ政府の依存度を高め、この分野への投資家を後押ししている。

パランティア社の株価はこの1年で300%も急騰し、時価総額はロッキード・マーティン社よりも大きい1690億ドル(約25兆3500億円)に達した。このデータ・インテリジェンス・グループは、テック投資家のピーター・ティールによって共同設立された。彼は、2017年に立ち上げられ、今年140億ドル(約2兆1000億円)の時価評価を受けたアンドゥリル社にも最初の支援を提供した。

一方、スペースX社の評価額は今月3500億ドル(約52兆5000億円)に達し、世界最大の民間スタートアップとなった。また、オープンAI社は2015年の設立以来、評価額が1570億ドル(約23兆5500億円)に高騰している。

どの企業も、政府の国防予算の一角をつかもうとしている。スペースX社とパランティア社は20年前から大規模な公的契約を獲得しているが、政府調達の経験が浅い企業もある。オープンAI社は今年、利用規約を更新し、自社のAIツールを軍事目的に使用することを明確に禁止しなくなった。

アメリカの国防調達は、ロッキード・マーティン社、レイセオン社、ボーイング社といった数十年の歴史を持つ少数の元請請負企業に有利で、時間がかかり、反競争的だと長い間批判されてきた。これらの巨大コングロマリットは通常、コストが高く、設計と製造に何年もかかる艦船、戦車、航空機を製造している。

シリコンヴァレーの急成長する防衛産業は、小型で安価な自律型兵器の生産を優先してきた。シリコンヴァレーの防衛産業は現代の紛争においてアメリカ同盟諸国をよりよく守ることができると主張している。

コンソーシアムの立ち上げに携わったある人物は、「国防総省の技術的優先事項を実行(execute the technical priorities of the Department of Defense)」し、「重要なソフトウェア能力の問題を解決(olve critical software capability problems)」するために、「産業界の足並みを揃える(aligning industry)」と説明している。

コンソーシアムに参加すると予想される技術グループ間の提携については既に合意されており、統合作業は直ちに開始される予定だ。

クラウドベースのデータ処理を提供するパランティア社の「AIプラットフォーム(AI Platform)」は今月、アンドゥリル社の自律型ソフトウェア「ラティス(Lattice)」と統合され、国家安全保障目的のAIを提供した。

同様に、アンドゥリル社はドローン防衛システムとオープンAI社の高度なAIモデルを組み合わせ、「空中からの脅威(aerial threats)」に関連するアメリカ政府との契約に共同で取り組んだ。

このパートナーシップに関するアンドゥリル社とオープンAI社の共同声明は、「アメリカ国防総省と情報機関が、世界で利用可能な最も先進的で効果的かつ安全なAI駆動技術を利用できるようにすることを目指す」と述べている。

アンドゥリル社、オープンAI社、スケールAI社は、コンソーシアムの創設についてコメントを拒否した。パランティア社、スペースX社、サロニック社はコメントの要請に応じなかった。

=====

●「シリコンバレーと決別した天才起業家、パルマー・ラッキーの現在」

フォーブス誌 2022年6月24日

Jeremy Bogaisky | Forbes Staff

https://forbesjapan.com/articles/detail/48340

https://forbesjapan.com/articles/detail/48340/page2

2014年にVR(仮想現実)テクノロジーを開発する「オキュラス・リフト(Oculus Rift)」をフェイスブックに30億ドルで売却したパルマー・ラッキー(29)は今、軍事テクノロジーのスタートアップ「アンドゥリル・インダストリーズ(Anduril Industries)」の創業者として注目を集めている。

2017年設立の同社は、これまで累計18億ドルを調達しており、フォーブスは現在のラッキーの保有資産を、フェイスブックから得た大金と合わせて14億ドル(約1830億円)と推定している。しかし、アンドゥリルは間もなく評価額80億ドルで、新たな調達を行うと報じられており、そうなれば、ラッキーの保有資産はさらに膨らむことになる。

かつてVRの神童と呼ばれた彼は、9月に30歳になる。

アンドゥリルは米移民税関捜査局(ICE)に、ドローンの映像とセンサーから得たデータで国境警備を行う「ヴァーチャル・ボーダー・ウォール」と呼ばれるシステムを提供している。これは、地上の赤外線センサーが捉えた映像を、ラティス(Lattice)と呼ばれる人工知能(AI)プログラムで分析し、適切な対応を行うシステムだ。

不審な動きを検知した場合はまず、Ghost(ゴースト)と呼ばれる監視用のドローンが飛び立ち、上空から詳細を把握する。フォーブスが確認したデモで、同社のシステムは不審なトラックから降りてきた男が、発射したドローンが中国製のDJI P4であることを突き止め、即座に攻撃用ドローンのAnvil(アンビル)を急行させ、DJI製ドローンを地上に叩き落とした。

「当社の攻撃用ドローンは、とんでもない速さで敵のドローンを撃墜する」と、自身のトレードマークであるアロハシャツを着たラッキーは話した。

今から8年前の彼はVR業界を率いる若き天才起業家として、フォーブスの表紙を飾るなど、多くのマスコミの注目を集めていた。しかし、2016年の大統領選挙でドナルド・トランプを支持したことをめぐる騒動の中で、彼はフェイスブックから解雇された。

■シリコンバレーとの決別

それから間もなく、ピーター・ティールらと組んで防衛関係のスタートアップを設立した彼は、左寄りのシリコンバレーに、きっぱりと分かれを告げた。アンドゥリルは、サンディエゴの米軍基地に近いカリフォルニア州のコスタメサに本社を構えている。

自身を批判する友人たちと別れたラッキーは今、自分が正しかったと感じているという。アンドゥリルは、ウクライナにもシステムを提供しており、一部の人々は彼に謝罪を申し出た。「彼らは今になってようやく、米国がより良い武器を持つことが、実はとても大事なことだと気づいたと」と彼は話した。

昨年の収益が推定15000万ドルのアンドゥリルは、国防総省が欲しがると思う武器や監視システムのニーズを先取りして、自社でそれを開発している。

「我々は、ペンタゴンが何かを必要とするとき、真っ先に思いつくような会社になりたい」と、ラッキーは話す。

アンドゥリルはまた、2019年に買収したゲームスタジオCarbon Gamesのソフトを改良して、複雑なシミュレーションツールを構築した。このツールは、国防総省に戦いのシミュレーションを行わせるもので、VRゴーグルと通常のスクリーンの両方で表示可能な「もしも」のシナリオを何千回も高速で実行することが可能だ。

■ホームスクールで育った天才

学校には通わずに、母親の指導のもとでホームスクールの教育を受けたラッキーは、父親の車の修理を手伝ったときにエンジニアリングに目覚めたという。カリフォルニア州ロングビーチの自宅ガレージで彼は、高出力レーザーや、電磁石を使ったコイルガンなどを製作し、10代半ばで古いゲーム機に最新の電子回路を搭載して、持ち運びができるように改良した。

ゲームへの関心はやがて、VRに移っていった。ソフトウェアで画像を操作すれば、高価で重い光学系を安価で持ち運びが可能なツールできることに気づいたラッキーは、弱冠16歳でVRヘッドセット「Oculus Rift」を開発。それがマーク・ザッカーバーグの目に留まり、2014年にフェイスブックに買収された。

その後、軍事関連のスタートアップのアイデアを思いついたラッキーは、取締役のピーター・ティールと、国防総省の最大の弱点がソフトウェアであるという意見で意気投合したという。

そして、2017年にフェイスブックを追放されたラッキーが、ティールが経営するパランティア(Palantir)の関係者と立ち上げたのがアンドゥリルだ。パランティアは、ラッキーを国防総省のハードウェア担当者として送り込む計画を立てた。

「エンジニアたちは、いつも刺激的なアイデアを提示するラッキーのことを気に入っている」と、元パランティア社員で現在はアンドゥリルの会長を務めるトレイ・スティーブンス(Trae Stephens)は話す。若く創造力あふれる彼は、ときに周囲を混乱させてしまうが、脇を固めるベテランたちが、暴走を防ぐ役割を果たしている。「彼は、誰かが適切にチャンネルを合わせてやれば、とんでもない力を発揮する」とスティーブンスは話した。

創業間もないアンドゥリルが税関・国境警備隊(CBP)に売り込んだのが、国境を違法に横断する人や車両を自動的に検出し、担当者たちを日常的なパトロール業務から解放するシステムだ。2020年に、CBPはアンドゥリルと最大25000万ドルの契約を締結し、今年2月現在で、メキシコとの国境の176の監視塔にそのシステムを配備している。

■数百億ドル規模の受注

同社は今年1月には、米特殊作戦司令部のドローン防衛を担当する契約を獲得し、10年間で10億ドル近い収益を見込んでいる。さらに大きなチャンスと呼べるのは、国防総省が導入を検討中の、すべての監視システムと兵器システムを統合して戦場を一望するためのシステムだ。このプログラムはJADC2Joint All Domain Command and Control)と呼ばれ、パランティアやシースリー・エーアイ(C3 AI)などの大手が数百億ドル規模の受注を争っている。

アンドゥリルは、同社のAIシステムがそれを成し遂げられると考えている。2020年に行われた空軍の試験で、同社のAIは飛来する巡航ミサイルを検知し、F-16やパラディン榴弾砲など複数の兵器システムに標的データを自動的に送って、ミサイルを破壊することに成功した。驚くべきことに、このシステムはたった一人の飛行士でそのミッションを成功させた。

昨年9月まで空軍の最高ソフトウェア責任者だったニコラス・チャイヤンは、「アンドゥリルのチームは間違いなくトップレベルだ」と断言する。チャイヤンは、統合参謀本部のサイロ化した組織が、JADC2のプロジェクトを破滅させるかもしれないと警告した後に、空軍を辞めていた。

しかし、仮にJADC2の契約を獲得できなかったとしても、ラッキーはさほど気にしないと述べている。すでに獲得済みの契約に加えて、アンドゥリルにはベンチャーキャピタルからの潤沢な資金がある。

「国防省が今考えるべきは、次のパルマー・ラッキーをどうやって見つけるかだ。19歳のときの私のように優れた技術と優れたアイデアを持つ人物を、彼らは探さなければならない。今のところ、そのあては全く見当たらないのだから」と、ラッキーは話した。

(貼り付け終わり)

(終わり)
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『トランプの電撃作戦』
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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 古村治彦です。

※2025年3月25日に最新刊『トランプの電撃作戦』(秀和システム)が発売になります。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
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 民主党の反主流派である進歩主義派グループのスター議員であるバーニー・サンダース連邦上院議員とアレクサンドリア・オカシオ=コルテス(AOC)連邦下院議員が一緒になって、「寡頭政治と戦う」というキャンペーンを行っている。AOCはサンダースの大統領選挙民主党予備選挙の手伝いから政治に関心を持ち、地元のヴェテラン議員を破って連邦下院議員になった。AOCは鮮烈なデビューを飾った。このことは、このブログでかなり早い時期にご紹介している。

 サンダースとAOCは、金持ちが政治に影響を与えていることを批判し、その矛先はドナルド・トランプとイーロン・マスクに向かっている。しかし、彼らがまずやるべきは、民主党のホワイトハウス、連邦上下両院での敗北を総括することだ。トリプルレッド状態に何故至ってしまったのかということを反省することだ。最大の反省点は、民主党が労働者たちを見捨てたことだ。そして、民主党こそが金も経ちの党になっていることだ。

 生活が苦しい労働者たちの望む政策ではなく、高尚な、イデオロギーに偏った政策を民主党は実行してきた。民主党はもともと貧しい人、労働者、マイノリティの党であった。しかし、その支持基盤を彼らは見捨てたのだ。そのために、2024年の選挙で大惨敗を喫した。

 サンダースとAOCは、そのことを分かっているだろう。下の記事にあるように、サンダースはキャンペーンを通じて、「無所属の立候補者を増やす」という目的を語っている。「民主党から優秀な政治家を生み出す」ということを述べてはいない。これは、サンダースが民主党に何の期待もしていないということを示している。

 サンダースとAOCはイーロン・マスクを標的にして批判を展開している。マスクが社会保障を「史上最大のネズミ講」と呼んだことを批判している。確かに社会保障は人々にとってのセーフティネットだ。従って、きちんと機能しなければならない。それでは、これだけ人々の不満が募っているのは何故なのかということを考えねばならない。負担と受益のバランスが悪すぎるということは世界各地で起きていることだと考えられる。負担が増える人たちは将来、自分たちが受益者になるときに現在の水準の維持は不可能だという絶望を持っている。一方で、現在の受益者たちは「逃げ切った」「負担よりも受益が多い」ということを自慢げに語る。このような状態を生み出した社会保障政策を主導してきた民主党こそが反省すべき点が多々あると考えられる。

 民主党はリベラルの本筋が離れている。そのことに人々が不満を持っているのだ。そのことが分からずに、ただトランプとマスクを攻撃したところで、民主党の支持が回復するということはない。

(貼り付けはじめ)

オカシオ=コルテスとサンダースが初の共同集会でマスクを攻撃(Ocasio-Cortez, Sanders take aim at Musk in first joint rally

ジャレッド・ギャンズ筆

2025年3月20日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/campaign/5206479-ocasio-cortez-sanders-take-aim-at-musk-in-first-joint-rally/

アレクサンドリア・オカシオ=コルテス(AOC)連邦下院議員(ニューヨーク州選出、民主党)とバーニー・サンダース連邦上院議員(ヴァーモント州選出、無所属)は、今週行っているツアーでの最初の共同集会で、イーロン・マスクへの批判に狙いを合わせた。

進歩主義派の連邦議員たちは、サンダースが全国を回って展開している、「寡頭政治と戦う(Fighting Oligarchy)」ツアーの一環として、木曜日にラスヴェガスに集合した。ネヴァダ州選出のスティーブン・ホースフォード連邦下院議員(民主党)も木曜日のイヴェントに出席した。

オカシオ=コルテスは、マスクのような国内の富裕な人々が、裕福なアメリカ人への追加減税を可能にするために、メディケイドや社会保障(Social Security)などのプログラムを標的にしていると主張した。

オカシオ=コルテスは「私たちがここにいるのは、極端な権力集中と腐敗(an extreme concentration of power and corruption)がかつてないほどこの国を支配しているからだ」と発言した。

オカシオ=コルテスは、アメリカでは寡頭政治が定着しつつあり、最も経済的、政治的、技術的権力を持つ人々が「公共の利益を破壊して自分たち自身を豊かにし、何百万人ものアメリカ人がその代償を払っている(destroy the public good to enrich themselves while millions of Americans pay the price)」と主張した。彼女は特にマスクを名指しした。

連邦政府の規模を縮小し、連邦政府機関全体で大量解雇を実行するトランプ政権の取り組みの顔であるマスクは、連邦政府における詐欺と浪費(fraud and waste in the federal government)を追及したいと繰り返し述べている。

社会保障は、何百万人もの受給者と申請者に事務所への訪問を義務付けている

しかし、マスクの発言の一部と連邦議会の共和党所属の議員たちの行動は、ドナルド・トランプ大統領がこれらのプログラムへの潜在的な削減に関する懸念を和らげようと繰り返し努めているにもかかわらず、社会保障、メディケア、メディケイドへの削減が行われるかもしれないという懸念を煽っている。

マスク氏は社会保障を「史上最大のネズミ講(biggest Ponzi scheme of all time)」と呼び、最近は社会保障のような給付制度(entitlement programs)で詐欺(fraud)が蔓延していると示唆した。

トランプは社会保障、メディケア、メディケイドを削減しないと繰り返し述べているが、亡くなった数千万人が社会保障給付を受けていると何度も虚偽の主張をしている。

一方、連邦下院共和党が承認した予算決議では、メディケイドを監督する下院エネルギー・商務委員会に対し、管轄下のプログラムで少なくとも8800億ドルの削減を行うことを求めている。

オカシオ=コルテスは、現在の政治システムは脅威に対応する能力がなく、むしろ政治における金銭の影響を通じて脅威の発生を許していると述べた。しかし、人々は一致協力して反撃できると彼女は主張した。

オカシオ=コルテスは、議会が政府を閉鎖しないために可決した継続決議(連邦上院民主党の支持を得て可決)に言及したが、この決議は一部の連邦プログラムの予算を削減した。彼女は、ホースフォード議員とジャッキー・ローゼン連邦上院議員(ネヴァダ州選出、民主党)が法案に反対票を投じたことを称賛した。

AOCは、「労働者階級のために闘う勇気を持った彼らのような人々がもっと必要だ」と述べた。

サンダースは、経済的に恵まれた人々と、深刻な所得格差(deep income inequality)に苦しむ大多数の人々の2つの異なるアメリカ(two different Americas)が存在すると主張した。彼は「寡頭政治の強欲(greed of the oligarchy)」を今日のアメリカにおける「最悪の追加(worst addition)」と呼んだ。

サンダースは次のように述べている。「彼らはヘロイン中毒患者のようなものだ。彼らはお金をもっともっともっとと必要としている。そして彼らが望むものを手に入れるために社会保障やメディケイドを破壊することでできるならば、彼らはそうするだろう」。

彼は、削減対象となっているプログラムは家族にとって「死活的に(desperately)」必要であると述べた。彼はまた、木曜日にトランプが教育省を解体しようとした動きを非難し、ペルグラント(連邦政府が運営する返済不要の奨学金)受給者が資金を得るのが難しくなる一方で、学校に費用がかかり、障害のある子供たちが受けていた支援を失うことになると主張した。

サンダースは次のように語った。「今後数週間、数カ月間の私たちの仕事は、トランプをあらゆる面で支持するだけでなく、より多くのことを行うことだ。それは、私たちの国が向かうべき方向についてのヴィジョンを持つことだ」。

オカシオ=コルテスとサンダースは、ラスヴェガスでの訪問に加え、木曜日遅くと日曜日にアリゾナ州、金曜日にコロラド州を訪問する予定だ。
=====
サンダース:「オカシオ=コルテスとのツアーはより多くの無所属の立候補者の立候補を促すことが目的だ」(Sanders: Tour with Ocasio-Cortez meant to encourage more independent candidates

タラ・スーター筆

2025年3月20日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/campaign/5205894-sanders-tour-with-ocasio-cortez-meant-to-encourage-more-independent-candidates/

バーニー・サンダース連邦上院議員(ヴァーモント州選出、無所属)は、『ニューヨーク・タイムズ』紙の木曜日の報道で、アレクサンドリア・オカシオ=コルテス連邦下院議員(ニューヨーク州選出、民主党)とのツアーは、より多くの無所属候補の立候補を促すことが目的であると述べた。

サンダースはニューヨーク・タイムズに対して「このツアーの目的の1つは、人々を結集させて政治プロセスに参加させ、民主党以外の無所属として立候補させることだ」と語った。

サンダースは続けて「この国には草の根レベルで素晴らしい指導者たちがたくさんいる。私たちはそうした指導者たちを前面に押し出さねばならない。そして、それができれば、トランプ主義(Trumpism)を打ち負かし、アメリカの政治状況を変えることができる」と発言した。

サンダースとオカシオ=コルテスのインスタグラム投稿によると、2人の政治家は木曜日にラスヴェガスとアリゾナ州テンピ、金曜日にコロラド州グリーリーとデンバー、土曜日にアリゾナ州ツーソンに立ち寄る予定だ。

サンダースは火曜日、ソーシャルプラットフォームのXの投稿に投稿し、次のように述べた。「今週は、アレクサンドリア・オカシオ=コルテス(@AOC)、グレッグ・カザール(@GregCasar)、スティーブン・ホースフォード(@StevenHorsford)と一緒にネヴァダ州、アリゾナ州、コロラド州に向かい、労働者階級のアメリカ人とタウンホールミーティングを開催する。私たちは協力して、権威主義と寡頭政治(authoritarianism and oligarchy)との戦いに強く立ち向かう。皆さんも参加して欲しい」。

サンダースの発言は、トランプ大統領とその政権とどう戦うかをめぐって民主党内で混乱が起きている中で出されたもので、先週、共和党が作成した予算法案を、党内の多くの激しい反対にもかかわらず、連邦上院の民主党所属議員の少人数のグループが賛成したことで、特に不満が高まった。

サンダースはニューヨーク・タイムズに対して次のように語った。「民主党に希望があるとすれば、手を差し伸べる必要があるということだ。扉を開いて労働者階級の人々を党に入れ、労働者階級の指導者たちを党に迎え入れる必要がある。そうしなければ、この国中で、無所属で立候補する人が出てくるだろうと思う」。

本誌は民主党全国委員会とホワイトハウスにコメントを求めた。

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 古村治彦です。

 2025年3月25日に最新刊『トランプの電撃作戦』(秀和システム)が発売になる。2025年1月20日に発足した第二次ドナルド・トランプ政権、アメリカと世界の動きを網羅的に分析している。断片的な情報に惑わされない、トランプ政権の本質と世界構造の大きな変化について的確に分析ができたと考えているが、読者の皆様のご判断をいただければ幸いだ。
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 以下にまえがき、目次、あとがきを掲載している。参考にしていただき、是非手に取ってお読みください。
『トランプの電撃作戦』著者近影trumpdengekisakusenharuhikofurumura001


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まえがき 古村治彦(ふるむらはるひこ)

 2025年1月20日、第2次ドナルド・トランプ政権が発足した。トランプ大統領は就任直後から異例のスピードで、次々と施策を発表し、実行している。注目を集めているのは、イーロン・マスクが率いる政府効率化省(せいふこうりつかしょう)だ。政府効率化省のスタッフたちは各政府機関に乗り込んで、人事や予算の情報を集め、調査している。そして、米国国際開発庁(USAID)については、マスクの進言もあり、閉鎖が決定された。日本では聞き慣れない、米国国際開発庁という政府機関の名前が日本でも連日報道されるようになった。その他、トランプ政権の動きは、日本のメディアでも連日報道されている。

 第2次トランプ政権の一気呵成(いっきかせい)、電光石火(でんこうせっか)の動きは、米連邦政府と官僚たちに対する「電撃作戦 Blitzkrieg(ブリッツクリーク)」と呼ぶべき攻撃だ。電撃作戦、電撃戦とは、第2次世界大戦中のドイツ軍が採用した、機動性の高い戦力の集中運用で、短期間で勝負を決する戦法だ。トランプとマスク率いる政府効率化省は、相手に反撃する隙を与えないように、短期間で勝負を決しようとしている。

アメリカではこれまで、新政権発足後から100日間は、「新婚期間、ハネムーン期間 honeymoon 」と呼ばれ、あまり大きな動きはないが、支持率は高い状態が続くという、少しのんびりとした、エンジンをアイドリングする期間ということになっていた。しかし、第2次トランプ政権のスピード感に、アメリカ国民と世界中の人々が驚き、翻弄(ほんろう)されている。人々は、トランプ大統領が次に何をするかを知りたがっている。政権発足直後に、これほどの注目を集めた政権はこれまでなかっただろう。

 1月20日以降、メディアや世論調査の各社が、ドナルド・トランプ大統領の職務遂行支持率 job approval ratings(ジョブ・アプルーヴァル・レイティングス)を調査し、結果発表を行っている。アメリカの政治情報サイト「リアルクリアポリティックス」で各社の数字を見ることができるが、2月に入って、支持が不支持を上回り、支持率が伸びていることが分かる。世論調査会社「ラスムッセン・レポート社」が2月9日から13日にかけて実施した世論調査の結果では、トランプ大統領の仕事ぶりの支持率が54%、不支持率は44%だった。トランプの電撃作戦について、アメリカ国民は驚きをもって迎え、そして、支持するようになっている。

「トランプが大統領になって何が起きるか」ということを昨年11月の大統領選挙直後から質問されることが多くなった。私は「私たちが唯一予測できることはトランプが予測不可能であることだ The only thing we can predict is that Trump is unpredictable. 」という、海外の記事でよく使われるフレーズを使ってはっきり答えないようにしていた。ずるい答えで、申し訳ないと思っていたが、トランプ政権がスタートして見なければ分からないと考えていた。

 私は、第2次トランプ政権の方向性について見当をつけるために、昨年の大統領選挙前後から第2次トランプ政権発足直後の数週間まで、アメリカ政治を観察 observation(オブザヴェイション) してきた。洪水のような情報の流れに身を置きながら、トランプの発言やアメリカでの記事を分析した。そして、大統領就任式での演説(素晴らしい内容だった)を聞き、それ以降の動きを見ながら、確信を得たことを本書にまとめた。内容については、読んでいただく読者の皆さんの判定を受けたいと思う。

 本書の構成は以下の通りだ。第1章では、ドナルド・トランプと、テック産業の風雲児であり、トランプを支持してきたイーロン・マスクとピーター・ティールの関係を中心にして、アメリカにおける「新・軍産複合体」づくりの最新の動きを見ていく。ピーター・ティールの存在がなければ、トランプの出現と台頭はなかったということが分かってもらえると思う。

 第2章では、第2次トランプ政権の主要閣僚について解説する。第2次トランプ政権の柱となる政策分野を中心に、閣僚たちの分析を行っている。閣僚たちのバックグラウンドや考え方を改めて分析し、どのような動きを行うかについて分析する。外交関係の閣僚たちは第4章で取り上げる。

 第3章では、2024年の大統領選挙について改めて振り返り、トランプの勝因とジョー・バイデンとカマラ・ハリス、民主党の敗因について分析する。また、次の2028年の大統領選挙にトランプ大統領は立候補できないので、誰が候補者になるかを現状入手できる情報を基にして予測する。

 第4章では、第2次トランプ政権の発足で、アメリカの外交政策はどうなるかについて分析した。ウクライナ戦争、イスラエル・ハマス紛争を中心とする中東情勢、北朝鮮関係について分析する。また、第2次トランプ政権の外交政策の基本は「モンロー主義」であることを明らかにする。

 第5章では、世界全体の大きな構造変化について分析する。アメリカを中心とする「西側諸国 the West(ジ・ウエスト)」対 中国とロシアを中心とする「西側以外の国々 he Rest(ザ・レスト)」の構図、脱ドル化の動き、新興大国の動き、米中関係のキーマンの動きを取り上げている。アメリカの世界からの撤退がこれから進む中で、日本はどのように行動すべきかについても合わせて考えている。

 本書を読んで、読者の皆さんが第2次トランプ政権について理解ができて、戸惑いや不安を減らすことに貢献できるならば、著者としてこれ以上の喜びはない。

2025年2月

古村治彦(ふるむらはるひこ)

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『トランプの電撃作戦』◆目次

まえがき 1

第1章 ピーター・ティールとイーロン・マスクに利用される第2次トランプ政権

●新・軍産複合体づくりを進める2人が支えた132年ぶりの返り咲き大統領 18

●トランプ陣営においてわずか3カ月で最側近の地位を得たイーロン・マスク 24

●第1次トランプ政権誕生に尽力し、影響力を持ったピーター・ティール 28

●第1次トランプ政権で「官僚制の打破」と「規制の撤廃」を求めたピーター・ティール 36

●第2次ドナルド・トランプ政権の人事に影響力を持つ世界一の大富豪イーロン・マスク 40

●トランプを昔から支えてきた側近グループからは嫌われるイーロン・マスク 42

●2010年代から進んでいたティールとマスクの「新・軍産複合体」づくりの動き 46

●選挙後に「トランプ銘柄」と目されたパランティア社、スペースX社、アンドゥリル社の株価が高騰 50

●パルマー・ラッキーという聞き慣れない起業家の名前が出てきたが重要な存在になるようだ 56

●パランティア・テクノロジーズとアンドゥリル社が主導する企業コンソーシアム 59

●21世紀の軍拡競争によってティールとマスクは莫大な利益を得る 64

第2章 第2次ドナルド・トランプ政権は「アメリカ・ファースト」政権となる

●忠誠心の高い人物で固めた閣僚人事 68

●「アメリカ・ファースト」は「アメリカ国内優先」という意味であることを繰り返し強調する 70

●「常識」が基本になるトランプ政権が「社会を作り変える」政策を転換する 72

●40歳で副大統領になったJ・D・ヴァンスはトランプの「後継者」 75

●厳しい家庭環境から這い上がったヴァンス 76

●ピーター・ティールがヴァンスを育て、政界進出へ強力に後押しした 80

●政府効率化省を率いると発表されたイーロン・マスクとヴィヴェック・ラマスワミの共通点もまたピーター・ティール 83

●第2次トランプ政権は国境の守りを固めることを最優先 90

●国防長官のピート・ヘグセスの仕事は国境防衛とアメリカ軍幹部の粛清 96

●「以前の偉大さを取り戻すために関税引き上げと減税を行う」と主張するハワード・ラトニック商務長官 99

●トランプに忠誠を誓うスコット・ベセント財務長官は減税と関税を支持してきた 105

●トランプ大統領は石油増産を最優先するエネルギー政策を推進する 109

●トランプの石油増産というエネルギー政策のキーマンとなるのはダグ・バーガム内務長官 112

●ロバート・F・ケネディ・ジュニアの厚生長官指名でビッグファーマとの対決 116

●「アメリカを再び健康に」で「医原病」に対処する 117

●ジョン・F・ケネディ大統領暗殺事件関連文書の公開はCIAとの取引材料になる 120

●トゥルシー・ギャバードの国家情報長官指名と国家情報長官経験者のジョン・ラトクリフのCIA長官指名 122

●第2次トランプ政権にアメリカ・ファースト政策研究所出身者が多く入った 127

●「裏切り者、失敗者の巣窟」と非難されるアメリカ・ファースト政策研究所 128

●第2次トランプ政権で進めようとしているのは「維新」だ 135

第3章 トランプ大統領返り咲きはどうやって実現できたのか

●共和党「トリプル・レッド」の圧倒的優位状態の誕生 140

●トランプ当選を「的中させた」経緯 142

●アメリカの有権者の不満をキャッチしたトランプ、それができなかったバイデンとハリス 149

●バイデンからハリスへの大統領選挙候補交代は不安材料だらけだった 156

●「自分だったら勝っていただろう」と任期の最後になって言い出したバイデン 161

●カリフォルニア州を含むアメリカ西部出身者で、これまで民主党大統領選挙候補になれた人はいないというジンクスは破られず 164

●アメリカ国内の分裂がより際立つようになっている 168

●2028年の大統領選挙の候補者たちに注目が集まる 173

第4章 トランプの大統領復帰によって世界情勢は小康状態に向かう

●対外政策も「アメリカ・ファースト」 188

●「終わらせた戦争によっても成功を測る」「私たちが決して巻き込まれない戦争」というトランプの言葉 195

●第2次トランプ政権の外交政策を担当する人物たちを見ていく 197

●トランプ大統領の返り咲きによってウクライナ戦争停戦の機運が高まる 202

●ロシアのプーティン大統領に対しては硬軟両方で揺さぶりをかけている 206

●トランプの出現で一気に小康状態に向かった中東情勢 210

●スキャンダルを抱えるネタニヤフはトランプからの圧力に耐えきれずに停戦に合意した 212

●北朝鮮に対しても働きかけを行う 216

●トランプ率いるアメリカは「モンロー主義」へ回帰する―― カナダ、グリーンランド、パナマを「欲しがる」理由 220

●トランプは「タリフマン(関税男)」を自称し、関税を政策の柱に据える 226

●日本に対しても厳しい要求が突きつけられる 229

●日本にとって「外交の多様化」こそが重要だ 236

第5章 トランプ率いるアメリカから離れ、ヨーロッパはロシアに、アジアは中国に接近する

●「ヤルタ2・0」が再始動 240

●参加国の増加もあり影響力を高めるBRICS 244

●「脱ドル化」の流れを何としても止めたいアメリカ 249

●グローバルサウスの大国としてさらに存在感を増すインドネシア 253

●サウジアラビアは脱ドル化を睨み中国にシフトしながらもアメリカとの関係を継続 257

●宇宙開発やAIで続く米中軍拡競争 260

●キッシンジャーは最後の論文で米中AI軍拡競争を憂慮していた 263

●キッシンジャー最後の論文の共著者となったグレアム・アリソンとはどんな人物か 267

●ヘンリー・キッシンジャーの教え子であるグレアム・アリソンが中国最高指導部と会談を持つ意味 269

●トランプが進めるアメリカ一極の世界支配の終焉によってユーラシアに奇妙な団結が生まれるだろう 273

●トランプ大統領返り咲きは日本がアメリカとの関係を真剣に考え直すきっかけになる 275

あとがき 279

=====

あとがき 古村治彦(ふるむらはるひこ)

 昨年(2024年)、アメリカ大統領選挙が進む中で、私の周りで、「トランプさんはおかしい人だから、何をするか分からない」ということを言う人たちが多くいた。「トランプは狂人 madman(マッドマン)だから、核戦争を引き起こす可能性が高い」というような扇動(せんどう)的な記事がインターネットに出ていたこともある。本書を読んで、こうした考えは誤りだということに気づいてもらえたと思う。

 ドナルド・トランプは合理的(利益のために最短のルートを選ぶことができる)で、めちゃくちゃなことをやるのではなく、そこには意味や理由がきちんと存在する。トランプ政権で大きな影響力を持つイーロン・マスクについてもそうだ。合理性を追求するあまりに、常識や慣例に縛られないので、結果として、非常識な行動をしているように多くの人たちに見られてしまうが、中身を見れば極めて常識的だ。本書で取り上げたように、トランプ、マスクの裏にはピーター・ティールが控えている。ピーター・ティールもまた同種の人間だ。彼らは自己利益を追求しながら、アメリカに大変革(だいへんかく)をもたらそうとしている。

  トランプは、激しい言葉遣いや予想もつかない行動、常人には思いつかないアイディアを駆使して、相手に「自分(トランプ)は常人(じょうじん」とは違う狂人(きょうじん)で、予測不可能だ」と思わせ、相手を不安と恐怖に陥れて、交渉などを有利に進める方法を採る。これを「狂人理論 madman theory(マッドマン・セオリー)」と呼ぶ。トランプはこの方法を使って、現在、アメリカ国内と世界中の人々を翻弄している。しかし、トランプのこれまでの行動を見れば、必要以上に恐れることはないということが分かる。「狂人理論」を使う人間は本当の狂人ではない。トランプの交渉術だと分かっていれば、落ち着いて対処でき、落としどころを見つけることができる。トランプは、「有言実行 walk the talk(ウォーク・ザ・トーク)」の人物であるが、自身の言葉に過度に縛られず、取引を行う柔軟性を持つ。この点がトランプの強さだ。

本書で見てきたように、トランプ返り咲きによって、世界は小康状態 lull(ロル)に向かう。大きな戦争は停戦となる。実際にイスラエル・ガザ紛争は停戦となり、ウクライナ戦争も停戦に向かう動きになっている。これだけでもトランプの功績は大きい。トランプは、大統領就任式の演説で述べたように、「終わらせた戦争」「(アメリカが)巻き込まれない戦争」によって評価されることになる。同時に、しかし、アメリカの製造業回帰、高関税は世界経済にマイナスの影響をもたらすことになる。これから、そのマイナスをどのように軽減するかについて、取ディール引が行われることになる。日本にも厳しい要求が突きつけられることになるだろうが、トランプを「正しく」恐れながら、落ち着いて対処することが必要だ。

 そのためには、トランプ政権が行う施策や行動の根本に何があるかということを理解しておく必要がある。そうでなければ、表面上の言葉や行動に驚き、翻弄され、おろおろするだけになってしまう。私は、本書を通じて、第2次トランプ政権の行動の基本、原理原則を明らかにできたといういささかの自負を持っている。

 本書は2024年12月から準備を始め、2025年1月から本格的に執筆を始めた。2025年1月20日のトランプ大統領の就任式以降の、怒濤(どとう)のような激しい動きを取り入れて、可能な限りアップデイトしたが、皆さんのお手許に届く頃には古くなっているところもあるだろう。あらかじめご寛恕をお願いする。

 これからの4年間は、第2次トランプ政権が何を成し遂げ、何に失敗するかを、そして、世界構造が大きく変化する様子を目撃する刺激的な4年間となる。

最後に、師である副そえじまたかひこ島隆彦先生には、現在のアメリカ政治状況分析に関し、情報と助言をいただいたことに感謝申し上げます。秀和システムの小笠原豊樹編集長には本書刊行の過程を通じて大変お世話になりました。記して感謝します。

2025年2月

古村治彦(ふるむらはるひこ)

 

(貼り付け終わり)

(終わり
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『トランプの電撃作戦』
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世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

※2025年3月25日に最新刊『トランプの電撃作戦』(秀和システム)が発売になります。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
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日本では高齢社会が深化し、社会保障費の増加により、現役世代の社会保障負担が増大し、社会保険制度に対する不満が高まっている。「世代間の助け合い」という聞こえの良いスローガンはあるにしても、現在の高齢者たちが現役時代に負担した割合と、現在の現役世代の負担率を考えるならば、現役世代の不満は理解できる。消費税が全て社会保障に使われるというおためごかしもあって、国民は増税や負担増に辟易している(野党第一党の立件民主党すらもその国民の不満にこたえていない)。

 アメリカでも同様の不満が起きている。イーロン・マスクは社会保障を「最大のネズミ講」と呼んで非難している。社会保障制度に対する不満が起きている。そうした中で、『フォーリン・ポリシー』誌に、アメリカの社会保障制度の歴史に関する論稿が掲載されたのでご紹介したい。アメリカの社会保障制度の歴史は1930年代に始まったもので、100年ほどの歴史を持っている。

制度の歴史を振り返ると、1935年にフランクリン・D・ルーズヴェルト大統領のもとで始まった。それまでそのような制度は存在しなかった。社会保障は普遍的な給付を重視し、全ての労働者を対象にすることで多様な層の支持を得る仕組みである。しかし、制度の創設当初から南部民主党による黒人労働者や女性の排除があり、その後も特定のカテゴリーの労働者が除外される政治的な障害が続いてきた。

そして、制度開始からの政治的混乱を経て、1950年代には大幅な改善が図られ、保守的な選択肢としての老齢保険が支持を集めた。社会保障税は制度の財源として重要であり、労働者が支払うことで制度の安定が図られてきた。その後、制度は徐々に拡大し、1960年代には医療給付が追加され、民主、共和両党間で給付の増額を競う展開へと発展した。1972年以降、社会保障制度は増税を伴いながらも給付金の調整が行われ、その人気は根強いものである。

これに対し、共和党は制度削減の選択肢を模索したが常に反発に遭い、制度の存続が続いている。例えば、レーガン大統領の提案に民主党が反対したことで、制度が保護される結果となった。現在も社会保障は多くのアメリカ人の重要な収入源であり、87%が優先事項と考えている。特に65歳以上の高齢者にとっての依存度が高く、将来的にも6900万人が受給予定だ。

マスクの「政府効率化省」の案は、この制度に対して新たな脅威となる可能性があり、労働人口の減少や退職者の増加に如何に対処するかが重要な課題である。トランプ政権下での改革が高齢者に与える影響が懸念され、ルーズヴェルト時代の理念が再確認される必要がある。

 社会保障制度がセーフティネットであることはアメリカも日本も共通している。問題は負担と受益のバランスだ。2つがちょうどイーヴンであれば問題ではないが、世代間で、負担よりも受益が大きい、樹液よりも負担が大きいということの不公平が出ているのが現状だ。ここを解決することが制度を存続させ、セーフティネットとしての役割を果たさせるために重要ということになるだろう。「私たちは逃げ切って良かったわ」というような言葉が出てくるようでは、社会保障制度の未来はない。

(貼り付けはじめ)

社会保障(ソーシャル・セキュリティ)は「ネズミ講」か?(Is Social Security a “Ponzi Scheme”?

-引退した全てのアメリカ人にとって、この恩恵(benefits)は非常に現実的なものだ。

ジュリアン・E・ゼリザー筆

2025年3月10日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2025/03/10/social-security-musk-ponzi-scheme-benefits/

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社会保障システムの紹介を行うポスター(1935年)

大統領のアドヴァイザーであるイーロン・マスクは最近、ジョー・ローガンのポッドキャストに出演し、社会保障制度(Social Security)は「史上最大のネズミ講(the biggest Ponzi scheme of all time)」だと主張した。実際、社会保障制度はアメリカの社会的セーフティネットの中で最も効果的かつ永続的な構成要素の一つである。社会保障制度は、高齢者の貧困問題(problem of poverty amongst the elderly)を緩和するために、他の何よりも大きな役割を果たしてきた。この制度は完璧とはとても言えないが、連邦議会は改革が必要な場合には、長期にわたってその構造を改善・強化し続けてきた。この制度は、赤(共和党優勢州)と青(民主党優勢州)の両方の州に住む家族の生活の中心であるため、国政における「第三のレール(third rail)」となっている。

最近まで、ドナルド・トランプ大統領はこの問題から距離を置くことを十分承知していた。おそらく、トランプ大統領を誕生させた多くの有権者を含め、ほとんどの有権者にとって、この制度の削減はほとんど魅力がないという事実を敏感に感じ取っているのだろう。

しかし、政府の労働力を鑿(のみ、chisel)ではなく大ハンマー(sledgehammer)で再編しようとする彼の取り組みと同様、マスクは結局、政権のエネルギーの多くを消耗する政治的泥沼に大統領を引きずり込むことになるかもしれない。今年90周年を迎える社会保障制度を脅かすことは、民主党を活気づけ、共和党を萎縮させるのに他のほとんど何にもまして効果的だろう。共和党は、社会保障制度を党にとって負ける問題と認識するだろう。

フランクリン・D・ルーズヴェルト大統領と民主党が過半数を占める連邦議会は、ニューディール(New Deal)の最盛期である1935年に社会保障制度を創設した。アメリカは、ドイツ(1889年)やデンマーク(1891年)のようなヨーロッパ諸国が数十年前に導入したような、退職者のための連邦社会保険制度(federal social insurance programs for retirees)をまだ採用していなかった。1934年、フランシス・パーキンス労働長官を委員長とする経済保障委員会(the Committee on Economic Security)は、退職者に給与税を財源とする年金(pensions)を支給する連邦保険制度(federal insurance program)の創設を連邦議会に提案した。

重要なのは、この制度が普遍的(universal)なものであることで、ミーンズテスト(訳者註:社会保障制度の給付を申請する市民の資格を確認するための資力調査)によって受給者を決定するのではなく、対象となる仕事に従事する全ての労働者を含めることであった。この制度の創設者たちの信念は、歴史的に連邦政府のプログラムに対してアンビバレントな(二律背反的な)国民性において、ミーンズテストが受給者に汚名を着せるのに対し、普遍的給付は手当てとは見なされないというものだった。普遍的給付はまた、保険の傘の下にある全ての人が何かを受け取ることになるため、多くの異なる所得階層をプログラムの継続に投資できるという利点もあった。

加えて、老齢保険(Old-Age Insurance)と呼ばれるこの制度は、一部の改革派が求めていた連邦政府が負担する定額の月額年金に代わる、より保守的な選択肢とみなされていた。ルーズヴェルトは次のように述べた。「私たちは、人生の危険や変化に対して国民の100% を保険で守ることはできないが、失業や貧困に苦しむ老年期(poverty-ridden old age)に対して、平均的な市民とその家族をある程度保護する法律を制定しようと努めてきた」。

社会保障税(Social Security taxes)は、この法案の重要な部分であった。第一に、社会保障税は、一般的な税収に頼らない、財政的に保守的な給付金の支払い方法を提供するものであった。連邦議会は、労働者に増税する必要がないよう、長期的な年間コストを考慮することを余儀なくされた。当初、連邦議会は余剰資金の蓄積も計画していた。第二に、給与税(payroll taxes)は、労働者に制度に「お金を払っている(paying into)」という感覚を与えることで、制度に投資しているという感覚を与え、その結果、将来にわたって給付を受ける資格がある。「この税金があれば、政治家が私の社会保障制度を廃止することはできない」とルーズヴェルトは後に語っている。

しかし、すぐに問題に直面した。

多くの主要委員会を支配していた南部民主党(Southern Democrats 訳者註:アメリカ南部を地盤とする保守的な民主党員たち)は、黒人の雇用が多い2つの労働力層である農業労働者と家事労働者を制度から除外するよう主張した。アメリカ南部は、公民権介入への扉を容易に開く可能性のある連邦政策に、彼らを巻き込みたくなかった。また、連邦議員たちは単身賃金世帯のためのプログラムを構想していたため、女性も除外された。当時、こうした労働者は男性であると想定されていた。最後に、将来のための余剰金という概念は、このパッケージの最も疑わしい部分であった。実際には、余剰資金は国債に投資されることになった。(労働者がまだ大恐慌の影響と闘っていた時期に、短期的には使われない資金を集めることは好都合だった)

社会保障制度開始から最初の5年間、この制度は政治的に不安定な状況にあった。連邦議会は1939年に労働者の未亡人と扶養家族にまで適用範囲を拡大したが、老齢年金保険に対する政治的な支持は弱いままだった。多くの共和党員がルーズヴェルトの施策を攻撃した。1936年、共和党の大統領候補アルフ・ランドンは、この制度は巨大な官僚機構(a massive bureaucracy)を生み出す「残酷な詐欺(cruel hoax)」であり、「彼らが納める現金が現在の赤字と新たな浪費に使われる可能性は十分にある」と考えた。連邦議会の反対派は、1939年から給与税の増税を8回凍結し、一般歳入から給付金を賄うようロビー活動することで、この制度を覆そうとした。一般歳入から給付金を賄うと、政治的に価値のある特定給与税がなくなり、社会保障が他の全ての裁量的制度の変動に左右されることになる。

1950年、民主党のハリー・トルーマン大統領がホワイトハウスに入ると、彼の政党がこの制度を救った。連邦議会は老齢年金保険(Old Age Insurance)を増額し、税金を上げ、農業労働者から始めて徐々に対象となる仕事の種類を拡大した。連邦議会は剰余金を集めるという考えを放棄し、給付金が厳格な賦課方式(strict pay-as-you go basis)で支払われるようにした。今日の労働者たちが今日の退職者を賄うということになった。1954年、共和党のドワイト・アイゼンハワー大統領は弟に宛てた手紙の中で、「いかなる政党であれ、社会保障や失業保険を廃止し、労働法や農業プログラムを撤廃しようとするなら、我が国の政治史上、その政党の名前は二度と聞かれなくなるだろう」と警告した。国民一人ひとりの個人番号が記載された社会保障カードは誇りとなった。社会保障番号はもともと、政府が制度のために労働者の収入を記録できるようにするために作られたものだが、現在では最も一般的な身分証明書の1つとなった。

その後の数十年間、社会保障は着実に拡大した。1964年、共和党候補のバリー・ゴールドウォーターがプログラムを任意にすることを提案し、それによってその普遍的な構造を弱めると、リンドン・ジョンソン大統領はゴールドウォーターを非難した。ジョンソン大統領はゴールドウォーターの提案を、自分が急進的な保守主義者であることを示すもう一つの証拠として使った。1965年、連邦議会は医療給付(これも普遍的な給付として構築されたメディケア)を社会保障に加えた。これはジョンソンの立法上の最大の勝利の一つであった。1972年、ヴェトナム戦争の支出から生じたインフレにアメリカ人が苦しむ中、共和党と民主党は給付の増額を競った。両党間の競争は拡大の是非ではなく、どのように拡大するかについてになった。リチャード・ニクソン大統領と連邦議会の共和党所属の議員たちは、物価上昇時に生活費の自動調整(automatic cost-of-living adjustments)が行われるよう、インフレに対する給付のスライド制(index benefits to inflation)を推進した。連邦下院歳入委員会委員長で民主党のウィルバー・ミルズ議員は、給付金に対する裁量権の維持を目指し、連邦議会に増額を投票させるという昔ながらの方法を選んだ(これにより、控除も確実に受けられる)。最終的な社会保障改正案には、両党の提案が盛り込まれた。給付金はなんと20%も増加し、法案はプログラムを指数化した。

1972年以降、社会保障局や超党派委員会による保険数理予測(actuarial predictions)に基づいて、連邦議会が段階的に増税し、給付金を調整した事例が数多くある。たとえば、1983年の社会保障改正案では、給与税を増税し、生活費調整を延期して、近い将来までプログラムを支払い可能な状態にした。

社会保障給付を直接削減しようとする共和党の努力は決して成功していない。この制度は非常に人気がある。1981年にレーガンが財政不足に対処しようとしたとき、予算管理局(Office of Management and Budget)のデイヴィッド・ストックマン局長は早期退職者への給付を大幅に削減することを提案した。連邦下院民主党はこれに反発し、ティップ・オニール連邦下院議長は「これは制度破壊への第一歩だ(the first step to destroying the program)」と警告した。レーガンは手を引き、この制度がアメリカ政治の「第三のレール(third rail)」になったという見方が生まれた。2005年、ジョージ・W・ブッシュ大統領は、ジョン・ケリー連邦上院議員に勝利して再選を果たしたばかりであったため、社会保障制度を民営化し(privatize)、労働者が給与課税の一部を投資口座に投資できるようにすることで、退職時にその口座がどうなっているかというリスクを負うという大規模な計画を提案した。ナンシー・ペロシ連邦下院少数党(民主党)院内総務とハリー・リード上院少数党(民主党)院内総務は、大統領に大敗を喫した。

2008年には5000万人以上が社会保障給付を受けていた。2025年には、約6900万人のアメリカ人が約1兆6000億ドルの給付を受けることになる。この中には、65歳以上のアメリカ人10人のうちほぼ9人が含まれ、社会保障は収入の31%を占める。加えて、65歳以上の男性の39%、同年齢の女性の44%が、収入の少なくとも50%を社会保障から受け取っている。国立退職保障研究所によると、アメリカ人の87%が、社会保障は予算の優先事項であり続けるべきだと考えている。この数字には共和党員の86%も含まれている。

なぜ多くのアメリカ人が、この制度の創設者が予言したように、この制度に払い込んだというプライドを持ち、毎月の給付金を受け取るに値すると等しく信じているのかは、衝撃的なことではない。

これまでの第二次トランプ政権の実績を考えれば、マスクが本気で社会保障を政権の矢面に立たせようとしていないと信じる理由はない。実際、社会保障の効率化にとって現在最大の脅威は、マスクのいわゆる「政府効率化省(Department of Government Efficiency)」そのものであり、社会保障庁から数千人の雇用を削減する案を推進し、支払いシステムにアクセスできるようになったからだ。

確かに、この制度は退職者の増加や労働人口の減少に対処しなければならない。しかし、トランプとマスクの「焦土作戦的アプローチ(burn-down-the-house approach)」は高齢者にとって危険であり、1970年代から制度の不均衡を是正し続けてきた漸進的改革(賃金の課税上限額の引き上げや給与課税の引き上げなど)よりも悪い選択肢である。例えば、ブルッキングス研究所は、基本プログラムの完全性を維持しながら支払能力を達成する方法を示す1つの包括的な研究を提唱している。

これまでこの戦いから遠ざかっていたトランプだが、パートナーのマスクが、トランプでさえ逃げ出せないような事態に彼を引きずり込んでいることに気づくかもしれない。雇用不安と物価の上昇、そして年金支給額の伸び悩み(stagnant pension coverage)が深刻化している今、ルーズヴェルトの遺産はかつてないほど重要である。

※ジュリアン・E・ゼリザー:プリンストン大学歴史学・公共問題教授。最新刊に『コロンビア・グローバル・リポーツ』誌との共著となった『パートナーシップの防御』がある。Xアカウント:@julianzelizer

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 古村治彦です。

※2025年3月25日に最新刊『トランプの電撃作戦』(秀和システム)が発売になります。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
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 ヘンリー・キッシンジャーが最後に発表した(と考えられる)論稿を以下にご紹介する。この論稿については、『トランプの電撃作戦』でも取り上げた。論稿の共著者はハーヴァード大学教授グレアム・アリソンだ。これは推測になるが、この論稿の草稿はアリソンが書き、キッシンジャーが目を通し、加筆修正したのだろう。キッシンジャーが共著者として名前を出しているというのは、アリソンがそれだけの実力を持つ学者であるからだ。最新刊『トランプの電撃作戦』でも書いたが、アリソンはキッシンジャーのハーヴァード大学の教え子である。

 冷戦期、アメリカとソ連は、核兵器開発競争から協力しての核兵器管理に移行した。これは、突発的な核兵器を使っての戦争の発生を抑制して、世界を破滅させ異様にするとともに、核兵器開発や保有による負担を軽減するためのものであった。また、核兵器が多くの国に拡散しないようにするということもあった。核兵器の世界規模での管理体制構築が進められた。それによって、冷戦期は「長い平和(long peace)」と呼ばれるような状態を保つことができた(実際に戦争が起きた地域もあるが)。

 20世紀の核兵器開発技術に相当するのが、21世紀ではAIartificial intelligence、人工知能)である。AIの軍事転用は既に進んでいる。そのことも『トランプの電撃作戦』で取り上げている。20世紀に米ソ間で核兵器開発について管理(control)がなされたように、AIに関しても、管理なされるべきだというのが、キッシンジャーとアリソンの主張である。21世紀の管理は米中両国で行われることになる。そのためには米中間での対話が必要である。ドナルド・トランプ米大統領と習近平中国国家主席の間での対話が何よりも重要ということになる。

 『トランプの電撃作戦』で詳しく分析したが、米中露による新たな枠組みができつつある。アメリカ一極支配が終わる中で、アメリカと中露による世界管理ということになっていくだろう。詳しくは是非新刊をお読みいただきたい。

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AI 軍備管理への道(The Path to AI Arms Control

-アメリカと中国は大惨事(Catastrophe)を回避するために協力する必要がある

ヘンリー・A・キッシンジャー、グレアム・アリソン筆

2023年10月13日

『フォーリン・アフェアーズ』誌

https://www.foreignaffairs.com/united-states/henry-kissinger-path-artificial-intelligence-arms-control

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上海で展示されるテスラのロボット(2023年7月)

※ヘンリー・A・キッシンジャー(HENRY A. KISSINGER):キッシンジャー・アソシエイツ会長。国家安全保障問題担当大統領補佐官(1969-1975年)、米国務長官(1973-1977年)を歴任。

※グレアム・アリソン(GRAHAM ALLISON):ハーヴァード大学ダグラス・ディロン記念政治学教授。著書に『戦争に進む運命:アメリカと中国はトゥキュディデスの罠を避けられるか?(Destined for War: Can America and China Escape Thucydides’s Trap?)』がある。

今年は、史上最も悲惨な戦争(the deadliest war in history)が終結し、近代において大国間戦争(great-power war)がなかった最長期間が始まってから78周年を迎える。なぜなら、第一次世界大戦のわずか20年後に第二次世界大戦が勃発したからであり、第三次世界大戦の亡霊(the specter of World War III)は、理論上全人類を脅かすほど破壊的となった兵器を使って戦い、その後の冷戦の数十年にわたって張り付いていたからである。アメリカによる広島と長崎の原爆を使用しての破壊により、日本は即時無条件降伏(Japan’s immediate unconditional surrender,)を余儀なくされたとき、世界が今後70年間にわたり核兵器の使用を事実上一時停止するとは誰も考えなかった。ほぼ80年後、核兵器保有国がわずか9カ国になるということは、さらにありそうもないことのように思えた。核戦争(nuclear war)を回避し、核拡散(nuclear proliferation)を遅らせ、数十年にわたる大国の平和をもたらした国際秩序の形成において、この数十年にわたってアメリカが示したリーダーシップは、アメリカの最も重要な成果の一つとして歴史に残るだろう。

今日、世界が別の前例のない、ある意味では更に恐ろしいテクノロジーである人工知能(artificial intelligence)によってもたらされる特有の課題に直面しているため、多くの人が歴史に教訓を求めているのは驚くべきことではない。超人的な能力を備えたマシンは、宇宙の支配者としての人類の地位を脅かすのだろうか? AIは集団暴力手段(means of mass violence)における国家の独占を弱体化させるだろうか? AIによって、個人や小集団が、これまで大国の権限であったような規模で人を殺すことができるウイルスを生成できるようになるのだろうか? AI は今日の世界秩序の柱である核抑止力(nuclear deterrents)を侵食する可能性があるだろうか?

現段階では、誰もこれらの質問に自信を持って答えることはできない。しかし、この2年間、AI革命の最前線に立つテクノロジー・リーダーたちと一緒にこれらの問題を探求してきた結果、AIの無制限な進歩がアメリカと世界に破滅的な結果をもたらすという見通しは非常に説得力を持ち、各国政府の指導者たちは今すぐ行動を起こさなければならないという結論に達した(we have concluded that the prospects that the unconstrained advance of AI will create catastrophic consequences for the United States and the world are so compelling that leaders in governments must act now)。彼らも他の誰も未来がどうなるかを知ることはできないが、困難な選択と行動を今日から始めるには十分なことが分かっている。

指導者たちがこうした選択をする際には、核時代に学んだ教訓がその決定に影響を与える可能性がある。何億人もの人々を殺害する可能性がある前例のないテクノロジーの開発と導入を競う敵対者たちでさえ、共通の利益が存在する島を発見した。二者独占(duopolists)として、アメリカとソ連の両国は、この技術が自国を脅かす可能性のある他の国家に急速に拡散するのを防ぐことに関心を持っていた。ワシントンとロシアは両国とも、核テクノロジーが自国の国境内で不正行為者やテロリストたちの手に渡った場合、脅威に利用される可能性があることを認識しており、それぞれが自国の兵器庫のために堅固な安全システムを開発した。しかし、敵対する社会の不正行為者が核兵器を手に入れれば、それぞれが脅される可能性もあることから、両者とも、このリスクを互いに話し合い、これが起こらないようにするために開発した慣行や技術について説明することが自分たちの利益になると考えた。米ソ両国の核兵器の保有量が、どちらも自滅する反応を引き起こさずに相手を攻撃できないレベルに達すると、相互確証破壊(mutual assured destructionMAD)という逆説的な安定性を発見した。この醜い現実が内面化されるにつれ、各勢力は自らを制限することを学び、戦争につながる可能性のある対立を避けるために敵対者を説得して自国の取り組みを抑制する方法を見つけた。実際、アメリカとソ連の両政府の指導者たちは、自国が最初の犠牲者となる核戦争を回避することが重大な責任であると認識するようになった。

今日 AI によってもたらされる課題は、単なる核時代の第2章ではない。歴史は、スフレを作るためのレシピを載せた料理本ではない。AI と核兵器の違いは、少なくとも類似点と同じくらい重要だ。しかし、適切に理解され、適応されれば、80年近く大国間戦争がなかった国際秩序の形成において学んだ教訓は、今日AIに立ち向かう指導者たちに利用できる最良の指針となる。

現時点では、AI 超大国は2つだけだ。最も洗練された AI モデルをトレーニングするために必要な人材、研究機関、大量のコンピューティング能力を備えているのはアメリカと中国だけだ。これは、AI の最も危険な進歩と応用を防ぐためのガイドラインを作成するための狭い機会を彼らに提供する。アメリカのジョー・バイデン大統領と中国の習近平国家主席は、おそらく11月にサンフランシスコで開催されたアジア太平洋経済協力会議の直後に首脳会談を開催することでこの機会を捉えるべきであり、そこでは、今日直面している最も重大な問題の1つと見るべきものについて、延長的で直接、対面で議論することができるだろう。

■核兵器時代からの様々な教訓(LESSONS FROM THE NUCLEAR AGE

1945年、原子爆弾が日本の都市を壊滅させた後、パンドラの箱を開けた科学者たちは、自分たちが作り出したものを見て恐怖に慄いた。マンハッタン計画の主任科学者ロバート・オッペンハイマーは、バガヴァッド・ギーター(Bhagavad Gita)の一節を暗唱した。「今、我は死神、世界の破壊者になれり(Now I am become Death, the destroyer of worlds.)」。オッペンハイマーは、原爆を制御するための過激な手段を熱烈に支持するようになり、機密保持資格(security clearance)を剥奪された。「ラッセル・アインシュタイン宣言(Russell-Einstein Manifesto)」は1955年、バートランド・ラッセルやアルバート・アインシュタインだけでなく、ライナス・ポーリングやマックス・ボルンなど11人の一流の科学者が署名し、核兵器の恐るべき威力を警告し、世界の指導者たちに決して核兵器を使用しないよう懇請した。

ハリー・トルーマン米大統領は、この決断について考え直すとは決して言わなかったが、彼も彼の国家安全保障ティームのメンバーたちも、この驚異的な技術を戦後の国際秩序にどのように組み入れることができるのか、実行可能な見解を持っていなかった。アメリカは、唯一の原子大国としての独占的地位を維持すべきなのか? それは可能なのか? その目的を達成するために、アメリカはソ連と技術を共有できるのか? この兵器のある世界で生き残るためには、指導者たちは各国政府よりも優れた権威を発明する必要があったのだろうか? トルーマンの陸軍長官であったヘンリー・スティムソン(ドイツと日本の勝利に貢献した人物)は、核兵器の拡散を防ぐ大国の「コンドミニアム(condominium)」を作るために、アメリカが独占している原爆をソ連の指導者ヨシフ・スターリンとイギリスの首相ウィンストン・チャーチルと共有することを提案した。トルーマンは、国務次官ディーン・アティソンを委員長とする委員会を設置し、スティムソンの提案を追求する戦略を練らせた。

アティソンは根本的にスティムソンに同意した。破滅的な戦争(catastrophic war)に終わる核軍拡競争を防ぐ唯一の方法は、原子兵器を単独で所有する国際機関を創設することである。そのためには、アメリカが核兵器の秘密をソ連や他の国連安全保障理事会のメンバーたちと共有し、核兵器を新しい国連の「原子力開発機関(atomic development authority)」に移譲し、全ての国が兵器を開発したり、兵器級の核物質を製造する能力を独自に構築したりすることを禁じなければならない。1946年に、トルーマンは、アティソンの計画を実現するための協定を交渉するため、金融家であり大統領顧問であったバーナード・バルークを国連に派遣した。しかし、この提案はソ連の国連代表アンドレイ・グロムイコによって断固拒否された。

3年後、ソ連が独自の(核)爆弾製造に成功すると、アメリカとソ連は人々が冷戦(Cold War)と呼び始めた時代、つまり爆弾と弾丸以外の競争に突入した。この競争の中心的な特徴は、核の優位性(nuclear superiority)を追求することでした。この2つの超大国の核兵器は、最盛期には6万発以上の兵器を備えており、その中には有史以来の全ての戦争で使用された、全ての兵器よりも爆発力の高い弾頭も含まれていた。専門家たちは、全面核戦争(all-out nuclear)が地球上の全ての生きている魂の終焉を意味するかどうかを議論した。

数十年にわたり、米政府とロシア政府は核兵器の開発に数兆ドルを費やしてきた。アメリカの原子力事業の現在の年間予算は500億ドルを超えている。この競争の初期の数十年間、米ソ両国は、決定的な優位性を獲得することを期待して、以前は想像もできなかった躍進を遂げた。兵器の爆発力の増加には、新しい指標の作成が必要だった。元の核分裂兵器のキロトン(1000トンの TNT が放出するエネルギーに相当)から、水素核融合爆弾のメガトン(100万トンが放出するエネルギーに相当)までだ。米ソ両国は、弾頭を30分以内に地球の反対側の標的に届けることができる大陸間ミサイル、数百マイルの高さで地球を周回する衛星を発明し、数インチ以内で標的の座標を特定できるカメラを搭載し、本質的に弾丸を弾丸で攻撃することができる防衛装置を発明した。ロナルド・レーガン大統領の言葉を借りれば、核兵器を「無力で時代遅れ(impotent and obsolete)」にする防衛を真剣に想像する専門家たちもいた。

■概念的な武器庫(THE CONCEPTUAL ARSENAL

こうした発展を形成しようとする中で、戦略家たちは第一撃と第二撃を区別する概念的な兵器を開発した。彼らは、確実な報復対応(retaliatory response)に不可欠な要件を明確にした。そして、敵が1つの脆弱性(vulnerability)を発見した場合でも、兵器の他の構成要素が壊滅的な対応に利用できるようにするために、潜水艦、爆撃機、地上発射ミサイルという核兵器の三本柱を開発した。兵器の偶発的または許可されていない発射のリスクが認識されたことで、許容アクションリンク (核兵器に埋め込まれた電子ロックで、適切な核発射コードがなければ作動しないようにする) の発明が促進された。冗長性(redundancies)は、指揮統制システム(command-and-control systems)を危険に晒す可能性のある技術革新(invention)から保護するために設計され、これがインターネットへと進化したコンピュータネットワークの発明の動機となった。戦略家ハーマン・カーンが有名な言葉で述べたように、彼らは「考えられないことを考えていた(thinking about the unthinkable)」ということになる。

核戦略(nuclear strategy)の中核にあるのは抑止(deterrence)の概念であり、考えうる利益に比例しないコストを脅し取ることで、敵の攻撃を防ぐことである。抑止を成功させるには、能力だけでなく信頼性も必要だと理解されるようになった。潜在的な犠牲者たちには、断固とした対応をとる手段(means)だけでなく、意志(will)も必要だった。戦略家たちは、この基本的な考え方をさらに洗練させ、拡大抑止(extended deterrence)などの概念を導入した。拡大抑止は、政治的メカニズム、すなわち同盟による保護の誓約(pledge of protection via alliance)を用いることで、主要諸国に自国の軍備を増強しないよう説得しようとするものであった。  

1962年、ジョン・F・ケネディ米大統領がソ連のニキータ・フルシチョフ書記長と、ソ連がキューバに配備した核弾頭ミサイルをめぐって対立したとき、米情報諜報機関は、ケネディが先制攻撃に成功したとしても、ソ連が既存の能力で報復し、6200万人のアメリカ人が死亡する可能性があると見積もっていた。1969年、リチャード・ニクソンが大統領に就任したとき、アメリカはアプローチを再考する必要があった。私たちの1人、キッシンジャーは後にこの課題について次のように述べている。「私たちが優勢だった時代に形成された防衛戦略は、新たな現実の厳しい光の下で再検討されなければならなかった。・・・いかなる好戦的なレトリックも、既存の核兵器備蓄が人類を破滅させるのに十分であるという事実を覆い隠すことはできない。・・・核戦争の惨事を防ぐこと以上に崇高な義務はない」。

この状態を明確にするため、戦略家たちは皮肉な頭文字をとってMADという言葉を作った。これは次のような意味である。「核戦争に勝つことはできない。だから決して戦ってはならない」。運用上、MADは相互確証脆弱性(mutual assured vulnerability)を意味した。米ソ両国はこの状態から逃れようと努めたが、最終的にはそれが不可能であることを認識し、米ソ両国の関係を根本的に再認識する必要があった。1955年、チャーチルは「安全が恐怖の丈夫な子供になり、生存が消滅の双子の兄弟になる(safety will be the sturdy child of terror, and survival the twin brother of annihilation)」という最高の皮肉を指摘した。価値観の違いを否定したり、重要な国益を損なったりすることなく、死闘を繰り広げるライヴァルは、全面戦争(all-out war)以外のあらゆる手段で敵を打ち負かす戦略を立てなければならなかった。

こうした戦略の柱の 1 つは、現在では軍備管理(arms control)として知られる、一連の暗黙的および明示的な制約だ。MAD 以前、各超大国が優位に立つためにあらゆる手を尽くしていたときでさえ、米ソ両国は共通の利益のある分野を発見していた。誤りを犯すリスクを減らすため、アメリカとソ連は非公式の協議で、相手国による領土監視(surveillance of their territory)に干渉しないことで合意した。放射性降下物から国民を守るため、大気圏内核実験(atmospheric testing)を禁止した。一方が、相手側が先制攻撃を仕掛けるだろうと確信して攻撃する必要性を感じる「危機不安定性(crisis instability)」を回避するため、米ソ両国は1972年の弾道弾迎撃ミサイル制限条約(Anti-Ballistic Missile Treaty)でミサイル防衛を制限することで合意した。1987年に調印された中距離核戦力全廃条約(Intermediate-Range Nuclear Forces Treaty)では、ロナルド・レーガン大統領とソ連の指導者ミハイル・ゴルバチョフが中距離核戦力を廃止することで合意した。1972年と1979年に締結された条約の締結につながった戦略兵器制限交渉(Strategic Arms Limitation Talks)により、ミサイル発射台の増加は制限され、その後、1991年に締結された戦略兵器削減条約(Strategic Arms Reduction TreatySTART)と2010年に締結された新STARTにより、ミサイル発射台数は削減された。おそらく最も重大なことは、アメリカとソ連が、核兵器の他国への拡散は両国にとって脅威であり、最終的には核の無政府状態(anarchy)を招くリスクがあると結論付けたことだろう。米ソ両国は、現在核拡散防止体制(nonproliferation regime)として知られる体制を樹立した。その中心となるのが1968年の核拡散防止条約(Nuclear Nonproliferation Treaty)であり、現在186カ国がこの条約を通じて独自の核兵器の開発を控えることを誓約している。

AIをコントロールする(CONTROLLING AI

AIを封じ込める方法に関する現在の提案には、こうした過去の響きが数多く聞こえてくる。億万長者のイーロン・マスクによるAI開発の6カ月間の停止の要求、AI研究者のエリゼル・ユドコウスキーによるAI廃止の提案、心理学者ゲイリー・マーカスによるAIを世界政府機関が管理すべきという要求は、核時代に失敗した提案の繰り返しである。その理由は、いずれも主要国に自国の主権を従属させる(subordinate)必要があるからだ。競争相手が新技術を適用して自国の生存と安全を脅かすのではないかと恐れて、大国が自国でその技術の開発を放棄した例は歴史上ない。イギリスやフランスなどアメリカの緊密な同盟国でさえ、アメリカの核の傘に頼るだけでなく、独自の国家核能力の開発を選んだ。

核の歴史から得た教訓を現在の課題に応用するには、AI と核兵器の顕著な違いを認識することが不可欠だ。まず、核技術の開発は政府が主導したのに対し、AI の進歩を推進しているのは民間の起業家、技術者、企業だ。MicrosoftGoogleAmazonMetaOpenAI、そして少数の小規模なスタートアップ企業で働く科学者たちは、政府の類似の取り組みをはるかに上回っている。さらに、これらの企業は現在、間違いなく技術革新を推進しているが、コストがかかる、企業間の闘争に巻き込まれている。これらの民間主体がリスクと報酬の間でトレードオフを行うため、国家の利益が軽視されることは間違いないところだ。

第二に、AIはデジタルだ。核兵器は製造が難しく、ウラン濃縮から核兵器の設計まで全てを実行するには複雑なインフラストラクチャが必要だった。製品は物理的な物体であるため、数えることができる。敵の行動を検証できる場合は、制約が生じる。AIは、全く異なる課題を表している。その主な進化は人間の心の中で起こる。その適用性(applicability)は実験室で進化し、その展開を観察することは困難だ。核兵器は実体があるが、人工知能の本質は概念的だ(the essence of artificial intelligence is conceptual)。

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中国国旗とアメリカ国旗を示すスクリーン(北京、2023年7月)

第三に、AIが進歩し普及するスピードが速く、長期にわたる交渉は不可能であることだ。軍備管理は数十年かけて発展してきた。AI に対する制限は、AIが各社会の安全保障構造に組み込まれる前に、つまり機械が独自の目的を設定し始める前に行う必要がある。専門家の一部には、これは今後5年以内に起こる可能性が高いと指摘している。このタイミングには、まず国内、次に国際的な議論と分析、そして政府と民間部門の関係における新たなダイナミクスが必要だ。

幸いなことに、生成型AIを開発し、アメリカを主要なAI超大国にした各種大手企業は、株主だけでなく、国と人類全体に対しても責任があることを認識している。多くの企業がすでに、導入前にリスクを評価し、トレーニングデータの偏りを減らし、モデルの危険な使用を制限するための独自のガイドラインを作成している。トレーニングを制限し、クラウド コンピューティング プロバイダーに「顧客を知る(know your customer)」要件を課す方法を模索している企業もある。バイデン政権が7月に発表したイニシアティヴは、正しい方向への大きな一歩であり、7つの大手AI企業のリーダーをホワイト ハウスに招き、「安全、セキュリティ、信頼(safety, security, and trust)」を確保するためのガイドラインを確立するという共同誓約を行った。

私たち著者の1人であるキッシンジャーが『AIの時代(The Age of AI)』の中で指摘しているように、進化し、しばしば目を見張るような発明や応用がもたらす長期的な影響について体系的な研究を行うことが急務となっている。アメリカが南北戦争以来の分断状態(divided)にあるとはいえ、AIの無制限な進歩がもたらすリスクの大きさは、政府と企業の両リーダーに今すぐ行動を起こすことを求めている。新たなAIモデルを訓練するマスコンピューティング能力を持つ各企業と、新たなモデルを開発する各企業や研究グループは、その商業的AI事業がもたらす人間的・地政学的影響を分析するグループを作るべきだ。

この課題は超党派的なものであり、統一した対応が必要だ。大統領と連邦議会は、その精神に則り、民間部門、連邦議会、アメリカ軍、情報諜報機関の著名な超党派の元リーダーで構成される国家委員会(national commission)を設立すべきだ。国家委員会は、より具体的な義務的セーフガードを提案すべきだ。これには、GPT-4などのAIモデルのトレーニングに必要な大量コンピューティング機能を継続的に評価することや、企業が新しいモデルをリリースする前に極度のリスクに対してストレステストを行うことなどが含まれるべきだ。ルール策定の作業は困難だが、国家委員会は人工知能に関する国家安全保障委員会(National Security Commission on Artificial Intelligence)にモデルを置くことになるだろう。2021年に発表された委員会の勧告は、アメリカ軍と米情報諜報機関が中国とのAI競争で行っている取り組みに弾みと方向性を与えた。

■二大AI超大国(THE TWO AI SUPERPOWERS

アメリカが国内でAIを統制するための独自の枠組みを構築しているこの初期段階であっても、世界で唯一のもう1つのAI超大国と真剣な対話を始めるのに早すぎることはない。中国のテクノロジー分野の国家的リーダーである百度(Baidu、同国最大の検索エンジン)、バイトダンス(ByteDanceTikTokの制作者)、テンセント(TencentWeChatのメーカー)、アリババ(Alibaba、電子商取引のリーダー)は、中国の政治システムがAIにとって特に困難をもたらしているにもかかわらず、ChatGPTの独自の中国語版を構築している。中国は高度な半導体を製造する技術ではまだ遅れをとっているが、近い将来に先行するための基本技術を備えている。

バイデンと習近平は近い将来、AI軍備管理について私的な会話をするために会うべきだ。11月にサンフランシスコで開催されるアジア太平洋経済協力会議がその機会を提供してくれる。各首脳は、AIがもたらすリスクを個人的にどのように評価しているのか、壊滅的なリスクをもたらすアプリケーションを防ぐために自国は何をしているのか、国内企業がリスクを輸出しないよう自国はどのように保証しているのかについて話し合うべきだ。次回の協議に反映させるため、米中のAI科学者たちや、こうした進展の意味を考察してきたその他の人々で構成される諮問グループを設けるべきである。このアプローチは、他分野における既存のトラックII外交に倣ったものであり、政府の正式な承認はないものの、その判断力と公平性から選ばれた人物でグループを構成するものである。日米両政府の主要な科学者たちとの議論から、私たちはこれが非常に生産的な議論になると確信している。

この議題に関するアメリカと中国の議論と行動は、11月にイギリスが主催するAI安全サミットや国連で進行中の対話など、AIに関する新たな世界的対話の一部に過ぎない。各国が自国の社会の安全を確保しながら国民の生活を向上させるためにAIを採用しようとするため、長期的には世、界的なAI秩序(global AI order)が必要となる。その取り組みは、AIの最も危険で潜在的に破滅的な結果を防ぐための国家的取り組みから始めるべきである。これらの取り組みは、大規模なAIモデルの開発に携わる様々な国の科学者たちと、ここで提案されているような国家委員会のメンバーたちとの間の対話によって補完されるべきである。最初は先進的なAIプログラムを持つ国々の間での正式な政府交渉では、国際原子力機関に匹敵する国際機関とともに、国際的な枠組みを確立することを目指すべきである。

バイデンや習近平をはじめとする世界の指導者たちが、数十年前に核の脅威に対処した先人たちと同じように、AIがもたらす課題に真正面から向き合おうと今行動すれば、果たして成功するだろうか? 歴史という大きなキャンバスと今日の分極化の進展を見れば、楽観視することは難しい。それにもかかわらず、核保有国間の平和が78年続いたという白熱した事実は、AIの未来がもたらす革命的で避けられない課題を克服しようとする全ての人々を鼓舞するのに役立つはずだ。

(貼り付け終わり)

(終わり)
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『トランプの電撃作戦』
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世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

※2025年3月25日に最新刊『トランプの電撃作戦』(秀和システム)が発売になります。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
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  国際秩序(international order)は変化しつつある。覇権国アメリカによる一極支配は衰退しつつある。それに伴って世界は新しい秩序作りに向かうことになる。それは、これまでの西洋近代支配600年の終焉を意味する。非西洋世界の勃興により、これまでの規範も変改していく。西洋的な価値観が普遍的な価値観であるという世界は終わっていく。そうした状況の中で、以下の論稿は非常に重要な内容である。簡単に言えば、フランシス・フクヤマの唱えた「歴史の終わり(End of History)」対サミュエル・ハンティントンの唱えた「文明間の衝突(Clash of Civilizations)」ということだ。冷戦に西洋が勝利して、晴雨用的な価値観が世界の普遍的な価値観になるというフクヤマの考えは、今や、結局、諸文明間の争いが続くとしたハンティントンの考えに取って代わられつつある。

 以下の論稿を要約すると次の通りになる。私たちは現在、重要な国際関係の再編成の瞬間に直面している。これまでのリベラルな国際秩序の終焉を迎えている。過去の変曲点(変化する時点)では、旧秩序が徐々に崩壊し、成功する新しい秩序は長い間考案されてきていた。例えば、1919年には戦争の違法化や諸国家による議会設立(国際連盟)が検討され、1945年には国際連盟の改編(国際連合)が計画されていた。1990年代の冷戦終結後における新たな覇権は、国際社会の国境は武力で変更できないことや、国家主権の原則、自由で公正な貿易の重要性、多国間機関による紛争解決といった基盤に依存していた。これらは主にアメリカが擁護していた規範の柱だった。

近年、特にロシアと中国からのこの規範に対する挑戦を受けている。特に、アメリカがこれらの原則を拒否していることが、問題の核心となる。新たに誕生しようとしている国際秩序の性質は、ゼロサムの交流主義や強者・弱者の権力政治、アイデンティティ政治の力強い主張を特徴としていると考えられる。この特徴は、「ベルリンの壁」崩壊後の国際競争とは異なり、より平等な競争環境を形成する。冷戦終結時、フクヤマの「歴史の終わり」とハンティントンの「文明の衝突」の論争は非常に注目を集め、特に後者は批判的な評価を受けた。

フクヤマは、冷戦の終結を自由主義的民主主義の普及と見なしたのに対し、ハンティントンは文明間の紛争が続くと予測した。冷戦後の国際秩序はフクヤマの規範的枠組みの下で機能していたが、最近ではその原則が挑戦を受けている。特にロシアのクリミア併合は、リベラルな国際秩序の明確な否定と見做される。

2014年を境に、新興勢力が自国の価値観を持ち込むようになり、フクヤマの理想が崩れつつあることが明白になっている。これまでの楽観的なリベラル国際主義は失われつつあり、様々な国で文明間の衝突の現象が顕著になっている。新しい国際秩序では、力強い自己主張を行う者に運命が向かい、冷酷さが報われる状況が続くだろう。つまり、ハンティントンの予見が現実になり、変化が進行する中で、私たちはますます不安定な国際関係の中で生きることになる。

 私たちは頭の中を大きく変化させなければならない。これまでの常識が通じない世界が出現しようとしている。このような時代を目撃できるということは、この時代に生まれて、生きて、幸運だったということになるだろう。

(貼り付けはじめ)

サミュエル・ハンティントンが復讐する(Samuel Huntington Is Getting His Revenge

-世界的な「文明の衝突」という考えは間違っていなかった。ただ時期尚早だっただけだ。

ニルス・ジルマン筆

2025年2月21日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2025/02/21/samuel-huntington-fukuyama-clash-of-civilizations/?tpcc=recirc062921

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サミュエル・ハンティントン(2002年)

私たちは今、1989年、1945年、あるいは1919年に匹敵するほど重大な、世代を超えた国際関係の再編成の瞬間に立っている。これらの過去のエピソードと同様、1990年代に形成されたリベラルな国際秩序(liberal international order)が終焉を迎える瞬間は、希望と恐怖(hope and fear)が同じ程度に交錯する瞬間である。このような重要な局面では、有能な実行者(competent operators)よりもむしろカリスマ的な日和見主義者(charismatic opportunists)が輝くものである。

これまでの変曲点(inflection points)では、旧秩序はゆっくりと破綻し、その後に一気に崩壊した(collapsing all at once)。それぞれの時代に生きた人々にとってはこれらの大変化は必ずしも明確ではなかったが、振り返ってみると、それぞれのケースで成功する新しい秩序は、長い間構想されていたことが分かる。例えば、1919年には、戦争の違法化(outlawing of war)と諸国家による議会設立(establishment of a parliament of nations)が何十年も前から検討されていた。1918年には、ウッドロー・ウィルソン米大統領が国家の資格要件の基礎(basis of qualification for a state)として「民族自決(national self-determination)」を提案していた(ただし白人主導の国家に限られた[(albeit only for white-led nations])。1945年には、国際連盟(League of Nations)を改革し、実効力のある安全保障理事会(effective security council)を設置するという構想が1942年から計画が出ていた。しかし、大戦末期の核兵器の出現によって計算は変更され、冷戦(Cold War)が生み出された。そして、1989年以前には、東西・南北の権力闘争(East/West and North/South power struggles)に代わる普遍的な「リベラル(liberal)」あるいは「ルールに基づく(rule- based)」国際秩序の構想が、1970年代にはすでに提案されていた。

1990年代に出現した冷戦後の新たな覇権(hegemony)は、いくつかの規範の柱に基づいていた。すなわち、(a) 国際社会における国境(international borders)は力で書き換えられないこと(この戦後規範を守ることが、1991年の湾岸戦争(Gulf War)の表向きの開戦理由であった)、(b) 甚だしい人権侵害が行われていない限り、国家主権の原則は依然として適用されること(この例外は、最終的には「保護する責任(the responsibility to protect)」という名目で正式に規定される)、(c) 自由で公正な貿易は全ての当事者に利益をもたらすため、世界的な経済・金融統合(global economic and financial integration)は全ての国が受け入れるべきであること、(d) 国家間の紛争は多国間機関における法的交渉を通じて解決されること、1995年の関税及び貿易に関する一般協定(General Agreement on Tariffs and TradeGATT)から世界貿易機関(World Trade OrganizationWTO)への格上げは、この原則を制度的に具体化した象徴的な例である。

確かに、これらの柱のどれもが反対のない状態進んだ訳ではない。覇権はコンセンサス(consensus)と同じではない。過去15年間、それぞれの柱は、特にウラジミール・プーティンのロシアと習近平の中国によって、ますます直接的な形で挑戦されてきた。決定的だったのは、1990年代と2000年代にこれらの原則の最大の擁護者であると主張したアメリカが、現在ではその全てを拒否していることだ。ネイサン・ガーデルズが数週間前に主張したように、再任されたドナルド・トランプが主導して、アメリカは今や世界有数の修正主義国家(revisionist state)であり、この主張は最近ハワード・フレンチによって繰り返された。

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アテネを訪問するフランシス・フクヤマ(2017年1月27日)

旧秩序が死につつある中、今日の国際関係を悩ませている中心的な問題は、誕生しようと苦闘している新秩序(new order)の性質である。この新秩序に最終的にどのようなラヴェルが付けられるにせよ、その定義的な特徴には、国際経済におけるゼロサム交流主義(zero-sum transactionalism)、「強者はできることをし、弱者は我慢しなければならないことをする」というトゥキュディデス流の権力政治(Thucydidean power politics)、そして「文明国家(civilizational states)」を中心としたアイデンティティ政治の力強い主張が含まれるだろう。これらの特徴は、チャールズ・クラウトハマーが「一極化の瞬間(unipolar moment)」とよく表現した「ベルリンの壁」崩壊後の国際競争の場よりもはるかに平等な国際競争の場で形作られるだろう。このベルリンの壁崩壊は、かつてフランスの外務大臣を務めたユベール・ヴェドリーヌの言葉を借りれば、アメリカが唯一の「極超大国(hyperpower)」として登場した時期であった。

この最後の大きな再編の際、国際関係における最も顕著な論争は、フランシス・フクヤマの「歴史の終わり(End of History)」(予言的にベルリンの壁崩壊のわずか数ヶ月前に発表された)と、その4年後に出版されたサミュエル・ハンティントンの「文明の衝突(Clash of Civilizations)」との間で行われた。フクヤマ自身も、「歴史の終わり」は「世界の経験的状況に関する発言ではなく、自由主義的民主政治体制の政治制度の正当性または妥当性に関する規範的な議論である(not a statement about the empirical condition of the world, but a normative argument concerning the justice or adequacy of liberal democratic political institutions)」と認めていた。しかし、当時のリベラル派は、フクヤマの規範的なヴィジョン(normative vision)は支持に値すると感じていた。そして世紀の変わり目までに、リベラル派はボリス・エリツィンのロシアと江沢民の中国の改革をじっと見つめ、フクヤマが論点だけでなく文体でも議論に勝ったと確信することができた。

ハンティントンは合意しなかった。フクヤマ同様、『フォーリン・ポリシー』誌の共同創刊者であるハンティントンは、共産主義の東側(the communist East)と民主政治体制の西側(the democratic West)、豊かなグローバルノース(the rich global north)と貧しいグローバルサウス(the poor global south)の間の冷戦の分裂は「もはや意味をなさない(no longer relevant)」と主張した。しかし、自由主義的国際主義者(liberal internationalist)のフクヤマが、冷戦の終結は、選挙民主政治体制と管理された資本主義(フクヤマが「人類の統治の最終形態(the final form of human government)」と呼んだもの)の一般原則に沿っている国々の間での永続的な平和の前兆であると予想したのに対し、リアリスト(realist)のハンティントンは、全く異なる軸に沿ってではあるが、継続的な紛争が特徴的な世界(a world marked by continued conflict)を予見した。

ハンティントンにとって、重要な地政学的アクターたち(critical geopolitical actors)は、英国の歴史家アーノルド・J・トインビーが1934年から1961年にかけて12巻で出版した『歴史の研究(A Study of History)』で定義した用語で理解される「文明(civilizations)」となった。ハンティントンにとって、文明間の「断層線(fault lines)」(不吉な地殻変動の比喩に注目[notice the ominously tectonic metaphor])は、冷戦後の秩序の断裂点(sites of rupture)となるだろう。

文明のアイデンティティは今後ますます重要になり、世界は7つか、8つの主要な文明の相互作用(interactions)によって大きく形作られるだろう。これには西洋、儒教、日本、イスラム、ヒンズー、スラブ正教、ラテンアメリカ、そしておそらくアフリカの文明が含まれる。将来最も重要な紛争は、これらの文明を互いに隔てる文化的断層線(cultural fault lines)に沿って起こるだろう。

ハンティントンの新秩序のヴィジョンは明らかにフクヤマのものより暗いものだった。両者のヴィジョンは曖昧ではあったが。フクヤマは、永続的な平和の代償(the price of perpetual peace)はテクノクラートの退屈さであり、イデオロギー闘争の「大胆さ、勇気、想像力、理想主義」は単なる「経済的計算、技術的問題の果てしない解決、環境問題、洗練された消費者の要求の満足」に取って代わられるだろうと論じて、有名な論稿を締めくくった。フクヤマにとって、これからの「退屈の世紀(centuries of boredom)」は、政治的栄光の機会を失った世界で社会的認知を求める人々にとって実存的危機(existential crisis)を生み出すだろう。

対照的に、ハンティントンは、不公平な文化的差異(invidious cultural distinctions)に基づく集団アイデンティティ(group identities)は永続的であり、冷戦の普遍化イデオロギー(the universalizing ideologies of the Cold War)が衰退するにつれて、より明白になるだけだと主張した。ハンティントンは、オリジナルの論文の議論を拡張した1996年の著書で、「中核国家(core states)」が自らの文明の「勢力圏(spheres of influence)」内で支配を強めるという曖昧な均衡(equivocal equilibrium)を予見した。一方では、「文明の衝突は世界平和に対する最大の脅威(clashes of civilizations are the greatest threat to world peace)」であり、避けられない文化の違いを強調することが終わりのない敵意(never-ending hostility)の基盤を形成する。(ハンティントンはまた、文明の衝突[the clash of civilizations]によって定義される世界秩序において、移民に対する敵意(hostility to immigrants)が国内政治の決定的な特徴となることを予見した)

一方、新秩序にいる全員が「異質な」文明(“alien” civilizations)に自らの文化体系を押し付けようとする愚かさを認識している限り、「文明に基づく国際秩序は世界大戦に対する最も確実な防御策である(an international order based on civilizations is the surest safeguard against world war)」。諸文明間の文化的敵意(Cultural hostility between civilizations)は避けられないかもしれないが、幸運にも「衝突(clash)」は暴力的な衝突ではなく、単に騒々しい破裂音で終わるかもしれない。

フクヤマと比較すると、ハンティントンの論稿とそれに続く著作は、どちらかといえば、より多くの注目を集めた。その多くはより批判的な調子で書かれていた。歴史家や人類学者は文明というカテゴリーの一貫性のなさを批判した(ハンティントン自身も文明は流動的であると認めていた)。一方、国際関係学者たちは、当時の最も激しい紛争の多く(スンニ派とシーア派のイスラム教徒間の残忍な戦争やアフリカ全土での戦争など)は、文明間(between them)ではなく、文明内(within civilizations)で起こっていたと指摘した。コスモポリタン、グローバリスト、リベラルたちは、この本が政治的力学の分析をしているというよりも、むしろそのあからさまな非道徳主義(amoralism)を嫌っていた。

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左:ルワンダの元軍司令官アナトール・ンセンギユンバが、ルワンダ国際戦犯法廷が大量虐殺の罪で判決を下すのを待つため法廷に座っている(2008年12月18日)。

右:ボスニアの大量虐殺の犠牲者の親族たちが、国連判事がボスニアのセルビア人元司令官ラトコ・ムラディッチに終身刑を宣告した、スレブレニツァ近郊の旧ユーゴスラビア国際戦犯法廷からの生中継中に反応している(2017年11月22日)。

冷戦終結後の最初の数十年間、国際秩序(international order)は主にフクヤマの述べた規範的枠組み(normative frame)の範囲内で機能していた。1990年代半ばから2010年代半ばにかけて、世界のほとんどの国の政治指導者たちは、嫌々ながらも「リベラルな国際」ルール(“liberal international” rules)に従って行動した。ヨーロッパは、ヨーロッパ連合の行政機構への統合を推進した。貿易紛争はWTOに持ち込まれ、その裁定は概ね尊重された。戦争犯罪者たちの追及は不平等だったが、逮捕されると、旧ユーゴスラビア国際刑事裁判所(1993年設立)、ルワンダ国際刑事裁判所(1994年設立)、国際刑事裁判所(2002年設立)など、公式の国際法廷に引きずり出された。

アメリカが戦争を決意したとき、1990年代のバルカン半島、2003年のイラク、2011年のリビアのように、国連やNATOなどのいくつかの国際機関の法的承認(legal approbation of some international entity)を求めた(ただし、反対票で戦争を阻止することはできない)。実際、ジョージ・W・ブッシュは、世界的な対テロ戦争とイラクの政権交代はハンティントン流ではなくフクヤマ流に遂行されていると何度も主張した。ブッシュは、「男女の共通の権利とニーズに関して言えば、文明の衝突などは存在しない」と強く主張した。ブッシュは次のように述べた。「自由の必要条件は、アフリカ、ラテンアメリカ、そしてイスラム世界全体に完全に当てはまる。イスラム諸国の人々は、あらゆる国の国民と同じ自由と機会を望み、それ等を持つに値する。そして、彼らの政府は彼らの希望に耳を傾けるべきだ」。

冷戦後の和解の結果として、最大の地政学的敗者となり、当然のことながら最も強力な反対をする大国であるロシアでさえ、新秩序への敬意を示し、切り離した隣国(1992年以降はトランスニストリアをモルドバから、2008年以降はアブハジアと南オセチアをグルジアから)の様々な部分の併合を事実上(法律上ではなく)試みた。これらの事例はいずれも、悪徳が美徳に捧げる賛辞(the tribute that vice pays to virtue)だったかもしれないが、それでも賛辞であることに変わりはない。

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ロシア国会が、クリミア半島はウクライナの一部であるという国際社会の主張を無視してクリミア併合に投票した後、クリミア半島のセバストポリ市の中心部でロシア国旗を振る男性(2014年3月21日)。

フクヤマ的(つまりヘーゲル的)な言い方をすれば、全ての時代はその後継者の種を含んでいる。2010年代の初めには、ポスト歴史的な規範構造に亀裂が入り始めていた。20年前にハンティントンが述べていたような、文明論的観点から自国を認識する新興勢力が、国際秩序を支える普遍的価値観に公然と異を唱え始めたのである。1990年代には、シンガポールやマレーシアのような小国の指導者たちが(西欧の価値観とは異なる)「アジアの価値観(Asian values)」という考えを推進していたが、2014年までには、プーティンも習近平もロシアと中国を、西欧民主政治体制国家の価値観とは異なる(そして彼らの視点からは、西欧民主政体国家の価値観よりも優れた)明確な価値観を持つ「文明(civilizations)」と公然と表現するようになっていた。

10年後の今となっては、2014年はリベラルな国際秩序の腐敗が壊疽し始めた、極めて重要な年であったと考えられる。その年のロシアによるクリミア半島の事実上の併合(Russia’s de jure annexation of the Crimean peninsula)は、リベラルな国際秩序の重要な柱の1つである「国境は武力で書き換えてはならない(borders are not to be rewritten by force.)」という明確な断絶であり、顔面からの拒絶であった。プーティンは、クリミアは常に「ロシア世界(the Russian world)」の一部であったと主張し、明白に「文明的」根拠(explicitly “civilizational” grounds)に基づいて自らの動きを正当化した。同様に、2014年にナレンドラ・モディとBJP(インド人民党)が多元主義的なインド国民会議を追い落としたのは、ヒンドゥー教のイデオロギーに基づくもので、インドをヒンドゥー教に基づく文明国家として提示した(数億人のヒンドゥー教徒以外のインド人のことは念頭にない)。そして、習近平は、中国の自由化に関する戦略的な曖昧さに関心を示さず、イデオロギー的な直接対決にますます関心を寄せるトップリーダーとして登場し、フクヤマのユートピア的ヴィジョンの終焉を告げた。2020年代半ばには、民主化の「第三の波」(democratization’s “third wave”)は、未来の繁栄(the flourish of the future)というよりも、偽旗(a false flag)のように見えた。

この観点からすると、過去25年間はハンティントン流の予測(Huntingtonian prediction)が長期間にわたり孵化(long incubation)していた期間ということになる。ハンティントンが冷戦後の新たな秩序の輪郭について間違っていたというよりは、彼の直感が早すぎたということが今では明らかになっている。彼は、その秩序の中に潜む反律法主義的要素(antinomian element)を的確に捉え、次の秩序、つまり過去10年間に本格的に出現してきた秩序の基礎として出現する瞬間を待ち望んでいた。

1990年代後半のリベラルな国際主義の楽観主義(liberal internationalist optimism)の頂点から見ると、現在の状況は「ハンティントンの復讐(the revenge of Huntington)」と捉えるのが最善である。自由主義的民主政治体制とテクノクラート的に管理されるグローバル資本主義(global capitalism)を支持する普遍的な合意(universal consensus)という夢は死に、モスクワや北京からデリーやイスタンブール、そしてもちろん今やワシントンDCに至るまで、文明の衝突者たちがほぼあらゆる場所で台頭している。この新しい秩序の中で、運命は礼儀正しく秩序ある者よりも、大胆で自己主張の強い者に向けられる (しかし、好まれるとは限らない)。歴史後期の官僚主義的ルールの無菌的な退屈に苦しむ代わりに、私たちは歯と爪が赤く染まった国際システムの血なまぐさい興奮を楽しむことになる。冷酷さは報われ、無力さは利用される。ハンティントンは墓場で微笑んでいることだろう。

※ニルス・ジルマン:歴史家で、ベルグルーエン研究所の執行副会長兼最高執行責任者。

(貼り付け終わり)

(終わり)
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 一般にはあまり知られていないが、アナキズム研究の分野で知られた政治学者で人類学者のジェイムズ・C・スコットの追悼記事をご紹介する。
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スコットは政治学の分野で大きな業績を残した。スコットについて、以下の記事を使って紹介していく。スコットの著作は1979年の『モーラル・エコノミー』に始まり、多岐にわたるテーマを扱いながらも、中央集権的な支配形態への関心で統一されている。スコットは学問の枠には収まらず、監視と統制に対抗する姿勢を持ち続けた。

彼はマレーシアでのフィールドワークを通じて、弱者の視点を重視し、政治的現象を市民の視点から探求した。スコットの著作は、限界に位置する人々や地域への焦点を当て、特に「ゾミア(Zomia)」という用語を通じて独自の視点を持っていた。ゾミアとは、中央集権的な政府が支配することが困難な山岳地帯を示す言葉で、スコットはゾミアの人々は、近代的な価値観から意図的に離れて、同化されないことを選択したという主張を行った。

スコットの業績は詳細へのこだわりと、彼が描いた地理的・文化的背景の深さがファンに強い印象を与えている。彼は単なる社会科学者ではなく、市民の視点を持つ思想家であり、特に『弱者たちの武器』や『ゾミア』は、文化の重要性を強調するものであった。スコットは政治現象を考察し、統治と抵抗の多様な様式を政治的なものとして捉え直したことが特徴的である。

彼の主な著作『国家のように見る(Seeing Like a State)』では、国家が活動する地域を客観的に観察するのではなく、支配の目的に沿った見方をすることを告げていた。彼は国家による「読みやすさ」の追求が、集団を識別・分類することで公私両面の制度を変容させる様子を述べ、国家の手段が市民の福祉にも必要であると主張した。

スコットはモダニズムの成功例と失敗例の区別について明確にしていないが、近代国家に対する懐疑的ながらも必要性を認めていた。また、彼は近代的介入の影響を農業や社会に遡って考察するなど、漠然とした懐疑を抱いた。彼の著作には緊張感が存在し、時には理論の一貫性が欠けているようにも見えるが、その批判に耐えるだけの価値があった。

スコットの心理に迫る自己主張には、計画された都市や社会に対する本能的な抵抗感が見受けられる。彼の研究は、従来の枠を超えて多様な歴史的詳細を整理する功績があった。 スコットの思想は、異なる学問領域に多大な影響を与え、彼の著作は時間を超えて評価されることだろう。彼の功績は、現代の政治と社会研究において独自の地位を確保するものとなった。

 国民国家という枠組み、近代西洋の価値観、民主政治体制全てが揺らいでいる。そうした中で、スコットの研究を見直すということはこれから重要になっていくだろう。

(貼り付けはじめ)

ジェイムズ・C・スコットは世界を説明するために国境を手荒く厚かった(James C. Scott Trampled Across Borders to Explain the World

-政治学者にして、人類学者、アナーキストであるスコットは世界の周縁(margins)を愛した。

デイヴィッド・ポランスキー筆

2024年7月31日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/07/31/james-c-scott-trampled-across-borders-to-explain-the-world/

今月のワシントンの政治的興奮は、より静かではあるが、やはり重要な出来事を見えにくくしている。それは、過去半世紀で最も影響力のある知識人の一人であった、政治学者で人類学者のジェイムズ・C・スコットが7月19日に亡くなったというものだ。これは、従来の権力の中枢から注意を逸らすか、権力の理解を複雑にしようと執拗に努めた著述家にとって適切なエピローグとなった。

1979年の『モーラル・エコノミー――東南アジアの農民叛乱と生存維持(The Moral Economy of the Peasant)』に始まり、2017年の『反穀物の人類史(Against the Grain、アゲインスト・ザ・グレイン)』まで、スコットのテーマは、ドイツの林業からマレーシアの村落まで多岐にわたるが、中央集権的な支配形態がどのように行使され、またどのように抵抗されるかというテーマ的関心によって統一されている。

厳密に言えば、スコットは幸いにも学問分野の境界に束縛されず、監視と統制(surveillance and control)に反対を主張した著述家にふさわしい人物だった。そして彼は、自身の主要分野である政治学の慣習を健全に軽視し続けた。 42歳の時にマレーシアで新たな人類学のフィールドワークを始める準備ができていた学者は他にはほとんどいなかっただろう。その2年間の調査には、彼の初期の主要著作の1つである『弱者たちの武器(Weapons of the Weak)』につながる、1つの村での14カ月の生活が含まれていた。

1960年代と70年代の東南アジア研究が、スコットだけでなく、クリフォード・ギアツ、アンナ・ツィン、ベネディクト・アンダーソンなど、その時期に影響力を持った学際的な一連の印象的な研究の基礎となった人物が出たのは何故かという問題は未解決の疑問である。おそらくそれは、アイデンティティと統治(identity and governance)の問題に取り組んでいる比較的歴史が浅い国家の激動の性質だったのかもしれないし、あるいはスコットが『武器(Weapons)』で書いたように、「今や消えつつある左翼の民族解放戦争との学術的なロマンス(the now fading left-wing, academic romance with wars of national liberation)」だったのかもしれない。

スコットの仕事は、最も基本的な意味で地政学的であった。彼は政治社会が発展する自然環境に執拗に焦点を当て、それらの社会がどのように環境をコントロールしようと試みるのか(そしてしばしば失敗するのか)に特に注意を払った。生前、彼は河川に関する著作を執筆中で、そのなかには、スコットが魅力的だと感じた、湿地帯やその他の地形がその性質上、中央集権的な支配に抵抗しているように見える地域での無法者たちの物語である、中国の古典『水滸伝(The Water Margin)』の考察も含まれていた。

限界性(marginality)が彼の著作の中心だった。彼は諸大国の辺境(the edge of the great powers)にある人々や場所について書き、遠く離れた政府がほとんど影響力を持たなかった東南アジアの高地地域である「ゾミア(Zomia)」という用語を広めた。また、風景に対する彼の興味は理論的なものに限定されなかった。彼はイェール大学で林業と農業の研究において兼任の職を歴任し、コネチカット州で自身の農場を保有した。

おそらくスコットの最大の貢献は、彼の物語を埋めるための目もくらむような詳細の付加であろう。監視と管理について聞くのと、近世ヨーロッパの地籍図を見るのは別のことだ。また、科学的な林業について聞くのと、原生林のもつれた多様性に代わって、画一的な畝を見るのとでは、また別のことである。このような例は他にもたくさんあるが、現在、何世代もの読者の心に彼の説明を印象づけるのに役立っている。

彼はまた、非常に政治的な著述家でもあった。これは、デモ行進やソーシャルメディア上で党派的な主張をすることを政治的と呼ぶ学者のような、うんざりするような意味ではない。つまり、単なる社会科学者としてではなく、一市民の視点から政治現象を見つめた思想家だったということだ。『弱者たちの武器』や『ゾミア――脱国家の世界史(The Art of Not Being Governed)』のような著作は、外国の社会組織様式に対する感性や集団的自由の重要性に対する彼の評価において、ヘロドトスを思い起こさせる。実際的には、ヘロドトスは建設的なアナーキストであり、組織化された共同体の権利を尊重する人であった。

スコットは意識的に、政治生活に伴うものについての理解を拡大し、農民社会が採用する様々な統治と抵抗の様式(the various modes of rule and resistance)を意味のある政治的なものとして扱うことに努めた。彼はエキゾチック化(exoticization)に抵抗し、これらのアイデアが歴史的および文化的隔たりを越えてどのように翻訳され得るかを実証し、たとえば産業化以前の社会の活動を先進社会の階級対立と結び付けたり、ゾラやエリオットと文学的な類似点を描いたりした。これはある意味、大きな問題であり、私たちが本当に「政治(politics)」を意味するものについて継続的に検討する必要がある。しかし少なくとも、これらの慣行は近代国家そのものの慣行と比べて政治的であるわけではないとスコットは説得力を持って主張している。

近代国家(modern state)は、彼の最も重要かつ永続的な作品の主題であった。哲学者ジョン・グレイが20世紀に関する「最も深遠で示唆に富む研究の1つ」と呼んだ『国家のように見る(Seeing Like a State)』である。ニーチェは『道徳の系譜(Genealogy of Morality)』の中で、何も考えず、ただ観察し記録するだけの目、つまり、何を見るか、見たものをどう解釈するかを選択する心を持たない目という考えを嘲笑している。スコットは、国家が活動する地域を客観的に 「見る(see)」のではなく、統制と支配という自らの目的のために 「見る」のだということを教えてくれる。

近世ザクセンにおける科学的林業の発展から、チャンディーガルやブラジリアのような近代都市の計画、東アフリカにおける村落化まで、幅広く、しばしば予想外の様々なケーススタディを用いながら、彼は「読みやすさ(legibility)」、すなわち国家官僚機構が管理する集団を識別し分類する能力(the ability of state bureaucracies to identify and categorize the populations they administer)が、公的・私的制度の双方を、しばしば不利益を被る形で、いかに大きく変容させるかを実証している。苗字、標準化された度量衡、財産権、その他もろもろは全てこのプロセスの産物である。しかし、彼が 「ハイ・モダニズム(high modernism)」と呼ぶこのアプローチは、より伝統的な地域知の形態と対立し(必ずしも優れている訳ではない)、根本的には市民よりもむしろ国家の欲望に奉仕するものである。

しかし、国家権力に懐疑的なリバータリアンやアナーキストに受け入れられる一方で、スコットはその役割について、彼のファンの多くよりもはるかに曖昧であった。彼は、近代国家の持つ各種の手段は、「現代の専制君主になろうとする者の企てと同様に、私たちの福祉と自由の維持に不可欠である。市民権(citizenship)の概念や社会福祉の提供を支えるものであり、望ましくない少数派を一網打尽にする政策を支えるものでもある(are as vital to the maintenance of our welfare and freedom as they are to the designs of the would-be modern despot. They undergird the concept of citizenship and the provision of social welfare just as they might undergird a policy of rounding up undesirable minorities)」。読みやすさは現代の福祉国家に必要な要素である。誰が誰で、誰が何を持っているのかが分からなければ、金持ちに課税し、貧乏人を助けることはできない。

驚くべきことに、スコットは決して大それた考えから逃げることなく、後の著作『反穀物の人類史』(社会科学史上最も適切な名前を持つ著作の1つ)において、その考えを倍加させた。さて、この問題はハイ・モダニズムに限ったことではなく、階層社会の起源と、社会的・経済的統制の一形態としての農業の利用まで5000年前に遡る。とりわけこの試みは、ルソー的な社会懐疑論[skepticism of society](人間の自然な幸福は社会生活に取り込まれることによって破壊される)を、近代的な歴史学的手法と融合させるという、最も野心的な試みの1つであった。定住した政治社会(settled political societies)の良し悪しなど、長い間閉ざされてきたと考えられてきた問題を再び掘り起こすこのような試みは、まさに優れた歴史学や優れた政治思想がなすべきことである。

もちろん、スコットの仕事には常に緊張感があった(彼が尊ぶ傾向のある種類の社会は、終身在職権付与制度を支持する傾向にはなかった)。より広く言えば、スコットの規範的主張と記述的主張は時に対立しているように見えた。『国家のように見る』の副題は次のようなものだった。「人間の状態を改善するためのある計画がいかに失敗してきたか(How certain schemes to improve the human condition have failed)」である。しかし、タンザニアにおけるニエレレの集団化計画のように、そのような失敗の明確な例が数多くある一方で、多くの近代主義的計画は計り知れない成功を収めている。

実際、モダニズムそのものを、人間の状態を改善するための包括的で中央集権的な計画だと考えることもできる。その成功を認めるのに、スティーヴン・ピンカーを全面的に援用する必要はない。しかし、近代科学の前提の1つは、物質的な利益を確保するにはローカルな知識では不十分だということだ。スコットの例の1つを挙げれば、マレーシアの木からアリを取り除く方法を知ることがいかに有用であろうとも、ワクチン、グリーン革命、そして「自然を支配する(master nature)」ための様々な方策は、寿命を延ばし、概して人類の健康と快適さを向上させることにはるかに成功していることが証明されている。

他の人々が指摘しているように、スコットが近代的介入(modern intervention.)の成功例と失敗例をどこでどのように区別しているのかは必ずしも明確ではない。ル・コルビュジエの醜悪で非人間的な建築物のような失敗の多くは、そのようなモダニズムのアプローチが満足させることができない、人間の繁栄(human flourishing)という非物質的な考えに照らして理解するのが最善である。ノルウェー・トウヒのような単一の樹種が、樹上レヴィットタウンのように自然の多様な緑に取って代わるのを見るのは、何か不気味な感じがする。ブリュージュの曲がりくねった迷路は、ブラジリアの広大な計画空間よりもはるかに私たちを惹きつける。

スコットは哲学者ではなかったが、彼の作品は人間の本質に関するある種の暗黙の主張に迫っている。私たちの中には、計画された都市を好まない何かがあり、それは外国による支配に抵抗する(あるいは抵抗すべき!)何かがあるのと同じである。彼は保守派とは距離を置いているが、彼が最も似ている哲学者はマイケル・オークショットであり、彼もまた現代政治を象徴的に批判している。オークショットと同様、彼は退屈な日常化への強烈な不満を紹介し、オークショットと同様、読者は真の代替案がどのようなものなのか、いささか不確かなままで置かれている。

スコットの学術研究は、政治社会の物語によって形成された。全ての物語がそうであるように、それは必然的に不完全で過剰なものであったが、そのおかげで彼は、異なる研究分野にまたがる膨大な数の歴史的詳細を、彼の著作を発見する人間に強力な影響を及ぼす方法で整理することができた。結局のところ、彼の著作は、それ自身の欠点と他人の批評の両方に耐えている。この時代に、いや、どの時代にも、そう言える著述家が何人いるだろうか?

※デイヴィッド・ポランスキー:政治理論研究者で、地政学と政治思想史に関する論稿を数多く発表。平和・外交研究所研究員を務めている。

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※2025年3月25日に最新刊『トランプの電撃作戦』(秀和システム)が発売になります。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
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 第2次ドナルド・トランプ政権が発足し、直後からスピード感を持って物事が動いている。是非最新刊『トランプの電撃作戦』(秀和システム)を読んで、トランプとトランプ政権の行動原理について知っていただければ幸いだ。

 早速、「トランプに3期目を!」という声が出ている。アンディ・オグルズ連邦下院議員 (テネシー州選出、共和党)が、大統領の任期制限(term limits)を定めた、憲法修正第22条の例外条項設定に向けて動き出している。保守系の団体でも「第3期プロジェクト(Third Term Project)」がオグルズ議員支援のために動き出している。

 アメリカ大統領は任期制限がある。2期8年までしかできない。これは、初代大統領ジョージ・ワシントン以来の「不文律(unwritten rules)」であったが、1947年に米連邦議会が憲法の修正条項として任期制限を設定した。この憲法修正条項の修正は連邦上下両院それぞれでの3分の2以上の賛成と、4分の3以上の州の賛成が必要であり、現実的には不可能である。

 しかし、以下の論稿にある通り、「トランプが3期目を目指す」「トランプなら3期目を実現するかもしれない」という思惑がアメリカ政界で広がることで、トランプの影響力行使に大きなプラスになる。トランプの力はそれほどのものだ。トランプが3期目を目指すことはないが、次の大統領選挙において、トランプが誰を後継者として指名するか、もしくは支持するかが重要になってくる。トランプから支持を得られた人物が共和党の候補者になることは確実だ。現在の最側近であるイーロン・マスクは南アフリカ生まれであるので、大統領になる資格を持たない。現在のところ、最も自然なのは、JD・ヴァンス副大統領が後継者になることだ。それはどのようなことからそのように考えられるのかについては、最新刊『トランプの電撃作戦』で書いているので、是非読んで欲しい。このブログでも紹介したが、公開している目次を読めば、このブログの読者で、勘の良い皆さんならば、どういうことかをたちどころに理解されるだろう。

 「トランプが3期目も大統領になれるか」ということが重要ではない。憲法修正という高いハードルを越えられのではないかという思い(支持者には期待と反対者には恐れ)を人々に持たせることが重要だ。それによって政治の世界で行使できる力も変わってくる。これは好き嫌いの問題ではなく、現実の問題である。

(貼り付けはじめ)

トランプの3期目の予告は見事な政治戦略だ(Trump’s third-term tease is a brilliant political strategy

ミラ・アダムス筆

2025年3月7日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/opinion/campaign/5180505-trumps-third-term-tease-is-a-brilliant-political-strategy/

先月開催された保守政治行動会議(Conservative Political Action ConferenceCPAC)は、第47代大統領を祝う「トランプルーザ(Trumpalooza 訳者註:paloozaは「宴」や「パーティー」の意味)」の愛の祭典となった。イーロン・マスクがチェーンソーを振り回す舞台上の芝居や、スティーヴ・バノンのナチス式敬礼に加え、注目を集める心配な「第3期プロジェクト(Third Term Project)」のデビューもあった。

プロジェクトのリーダーであるシェーン・トレホは、「草の根レヴェルでトランプが正当に第3期目を獲得できるよう支援を推進している。2020年、トランプは務めるはずだった任期を盗まれたと私たちは考えている」と語った。

「第3期プロジェクト」の使命は、トランプ大統領就任の3日後にアンディ・オグルズ連邦下院議員 (テネシー州選出、共和党) が提出した憲法修正案(proposed constitutional amendment)を支持することだ。オグルズ議員は、トランプ大統領が3期目を務めることを可能にする例外条項を憲法修正第22条(22nd Amendment)に設けたいと考えている。実質的には、これは完全にトランプ大統領に特化した提案であり、連続しない 2期の任期を務めた大統領にのみ適用される。

「第3期プロジェクト」のCPACデビューはおかしなもので、歴史的な皮肉なものとなった。バナーには、トランプ大統領の横顔の胸像が、古典的な古代ローマ様式で描かれていた。これは、2069年前の3月、政敵に暗殺されるまで「終身独裁者(dictator for life)」の地位に就いた将軍であり政治家であったジュリアス・シーザー(Julius Caesar)の象徴的な彫刻を模倣したものだ。

2023年12月まで話を進めると、当時のトランプは、もし当選しても「第一日目を除いて(except for day one)」独裁者(dictator)にはならないと誓った。その後、一般投票ではわずかに1.5パーセントポイント、選挙人投票では312対226というより説得力のある票差で勝利した後、トランプは鉄拳(iron fist)で統治し、アメリカを「アメリカの黄金時代(America’s Golden Age)」に導く圧倒的な権限を得たと信じているように見える。

就任式(Inauguration Day)のその日から、トランプは大統領の権限を戦略的に拡大することを止めていない。彼は、憲法で義務付けられた行政府、立法府、司法府間の連邦権力の分離と均衡(separation and balance of federal powers between the executive, legislative and judicial branches)を覆そうとすることに大きな誇りを持っているようだ。

建国の父たち(the Founders)は、独立を宣言した相手のような、全能の独裁的な支配者(all-powerful, despotic ruler)から身を守るために、特に力が同等の諸政府機関を設けた。トランプはこの微妙なパワーバランス(delicate power balance)を試すことに熱心で、連邦最高裁は根本的な影響を伴う判決を下し続け、トランプが従わなければならない行政権をチェックしている。

これは、トランプが2028年の大統領選挙に合法的に再出馬できるよう、オグルズが修正を夢見ている憲法修正第22条に私たちを戻してくれる。

この修正案が連邦下院と連邦上院で3分の2以上の多数で通過する可能性はゼロで、ましてや4分の3の州で批准される可能性はない。しかし、ショーマンであるトランプが、3期目について熱烈な支持者たちに対して予告することを止めることはないだろう。今年2月、ホワイトハウスで行われた黒人歴史月間を祝うイヴェントで、トランプは友好的な集まりに「再出馬すべきか? 君たちが教えてくれ(Should I run again? You tell me.)」と質問した。そして、「そこにあなたたちの論争がある(There’s your controversy right there,)」と付け加えた。この言葉に続いて、「更に4年(four more years)」の掛け声が続いた。

これより前、大統領の2期目が始まる1週間前、トランプは、自身が所有するドラル・ゴルフリゾートで行われた共和党の祝賀会で、連邦下院議長マイク・ジョンソン議員(ルイジアナ州選出、共和党)に再選の質問をした。挑発的に、大統領は「私には再選は認められていないと思う。よく分からない。再選は認められているのか、マイク? 君を巻き込まない方がいいな」と述べた。

しかし、トランプが自ら関与してくることは間違いない。なぜなら、3期目についてのほのめかしは、マキャベリ的な戦略を後押しし、権力拡大への飽くなき追求を後押ししているように見えるからだ。トランプが期限付きのレームダックであるという政治的現実を考えると、3期目の見通しは、2029年1月に避けられない彼の政治キャリアの期限を軽視するのに役立つ。その間、トランプ氏は恐怖による統治(to rule through fear)を続け、敵味方(friends and foes)に絶対的な忠誠を要求する。

トランプは、3期目の見通しをできるだけ長く利用して、自身の政策への支持を集め、「仕事を完了する(finish the job)」ことができるだろう。これは、「3期目プロジェクト」のスローガンだ。しかし、2026年の中間選挙後は、結果にかかわらず、レームダック状態となり、2028年の空席のある大統領選挙戦が始まる。では、トランプはどう行動するだろうか?

もし彼が健康を維持して、有権者の少なくとも45%から支持され続ければ、82歳で再出馬する勇気はあるだろうか? MAGAのインフルエンサーであるスティーヴ・バノンが推進する疑わしい非連続任期論(non-consecutive term argument)を使って、憲法修正第22条を試すだろうか? バノンは最近のCPACスピーチで、再びトランプの2028年出馬を主張した。

3期目の話は2028年の共和党の大統領選挙出馬希望者たちを動揺させ、トランプの権力をさらに強めさせる。最も注目すべきは、野心的で率直で目立つ存在になりつつある彼の自然な後継者であるJD・ヴァンス副大統領に対するトランプのコントロールを助けることだ。

更に言えば、トランプはいつでも政治劇(political theater)に加わることができる。「再出馬(run again)」という質問をして見せびらかすこともできる。友好的な群衆が「更に4年!」と叫ぶことは彼にとって嬉しいことだ。報道の見出しはそれに従う。認識は現実だ(Perception is reality)。人々は次の任期を「要求(demand)」している。トランプの行動は、2028年の大統領候補者全員を圧倒する可能性がある。

トランプは報道の見出しを確保する論争を起こすのが大好きなので、違法な3期目、あるいは少なくともその曖昧さはぴったりだ。彼は、あらゆるプラットフォームでのMAGAメディアの増幅によって「正常化(normalized)」されるまで、嘘を繰り返したり、とんでもない政策や人事を主張したりする技術を完璧に身に付けている。彼は2028年の大統領選を「正常化(normalize)」するだろうか?

その場合、民主党と不満を抱く共和党は、1947年に共和党が支配する連邦下院と連邦上院が、憲法修正第22条の非常に明確な制限「大統領職に2回以上選出される者はいない(No person shall be elected to the office of the President more than twice)」を可決したことを有権者に思い出させるべきだ。その後、4分の3の州で批准されるまで1951年までかかった。この修正は、民主党のフランクリン・ルーズヴェルト大統領が1932年から1944年までの4回の選挙で勝利したことに対する共和党の回答だった。

戦後の共和党は任期制限によって大統領の権力を抑制しようとした。現在、オグルズ連邦下院議員と「第3期プロジェクト」の旗は「トランプ2028年・・・そしてその先も!」と叫んでいる。

フランクリン・ルーズヴェルトの4度の大統領選挙勝利は、大恐慌(Great Depression)との戦い、そして第二次世界大戦中のリーダーシップの結果だったことを思い出して欲しい。

逆に、アメリカ人はトランプの攻撃的な行動と政策が、意図せずして新たな恐慌や中国との戦争を誘発しないことを祈るべきなのである。

※ミラ・アダムス:論説記者、2004年と2008年の2回の大統領選挙で共和党側陣営のクリエイティヴティームに参加した。

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