古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

2025年03月

古村治彦です。※2025年3月25日に最新刊『トランプの電撃作戦』(秀和システム)が発売になります。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
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『トランプの電撃作戦』←青い部分をクリックするとアマゾンのページに行きます。世界の民主政治体制国家が不安定になっている。それもこれまで世界の模範とされてきた、西側諸国の民主政治体制が動揺している。民主政治体制として歴史の浅い国や、非民主的な国の方が政治的に安定しているというのが現状だ。民主政治体制の「危機」という主張も聞かれるが、それを招いたのは選挙で選ばれた権力者たちによる独走と失敗である。多くの先進諸国で既存の政治に対する失望が広がっているのは、既存の政治家たちが国民を見ていない、国民の意向を無視しているということが原因だ。

 下に掲載した論考では、ナショナリズムと民主政治の不安定な関係を取り上げている。特に、国家がメンバーをどう定義するか、歴史的記憶をどう扱うか、そしてグローバライゼーションにどう対抗するかが問題となっている。ナショナリズムはリベラリズムと緊張関係にあり、一部の国ではその影響が強まっている。

国家のメンバーシップの基準に関しては、各国が民族的要因や共通の憲法上の価値の忠誠を重視している。アメリカでは移民政策が政治問題として浮上し、トランプ政権下では新たな差別の恐れが生じた。ヨーロッパの難民危機やインドでの国籍法改正も、メンバーシップに対する懸念を強化している。これらの動きは、リベラリズムの基盤に影響を与えており、閉鎖的な政策が多くの国で台頭している。

歴史的記憶もその重要な側面であり、国家の集団的アイデンティティにとって欠かせない要素となっている。インドにおけるヒンドゥー教のナショナリズムは、この点で特に顕著であり、宗教的シンボルが政治的課題に利用されている。南アフリカでは、経済的正義を犠牲にした妥協の是非が議論されている。

国民ポピュリズムの台頭により、国家的アイデンティティに異議を唱える意見は反国家的とされることが多く、異論は犯罪化される事例が増えている。ナショナリズムとグローバライゼーションの関係も、選挙において重要な課題となり、自国の利益を優先する傾向が強まっている。グローバライゼーションの否定的な側面が明らかになり、国家の自給自足を求める動きが加速している。

ナショナリズムの特徴は、民主政治体制の誕生とも深く関連しており、経済とナショナリズムの交わりが各国に影響を与えている。ナショナリズムはアイデンティティ政治に強く、リベラリズムとの対立が顕著になる可能性がある。2024年の選挙は、このような闘争を反映しており、リベラルな価値観への脅威が増すか、またはその逆となるかが焦点となる。 この課題に関して、過去の歴史家が述べたように、ナショナリズムに人道的側面を与えることが、未来の歴史についての重要な鍵である。

 リベラルな価値観とは、西洋諸国の推進する価値観であり、これまではそれを受け入れることが進歩であり、文明的な動きであった。しかし、それらに対する異議申し立てや疑問が出ている現状で、それらは揺らいでいる。そして、民主政治体制についても揺らいでいる。そうした中でナショナリズムが影響力を増している。こうした現状はアメリカでも見られる。世界は大きく変わりつつある。

(貼り付けはじめ)

ナショナリズムの亡霊(The Specter of Nationalism

-アイデンティティ政治は選挙に常に影響を与えてきた。2024年、アイデンティティ政治はリベラリズムと、民主政治体制自体に対しての深刻な脅威となるだろう。

プラタップ・バーヌ・メサ筆

2024年1月3日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/01/03/nationalism-elections-2024-democracy-liberalism/?tpcc=recirc_trending062921

世界は民主政治体制(democracy)の未来にとって重要な年が始まろうとしている。インド、インドネシア、南アフリカ、アメリカなど、2024年に投票が行われる主要国のほんの数例を挙げると、これらの国での選挙は通常通りの行事である。しかし、これらの民主政治体制国家の多くは転換点(inflection point)を迎えている。分極化(polarization)、制度の劣化(institutional degradation)、権威主義(authoritarianism)の強まる潮流は逆転できるのだろうか? それとも、民主政治体制は限界点(breaking point)に達するのだろうか?

民主政治体制国家にはそれぞれ独自の特徴が存在する。今年選挙が行われる各国では、有権者はインフレ、雇用、個人の安全、将来の見通しに対する自信など、おなじみの問題で現政権を判断することになる。しかし、2024年の世界選挙に伴う不吉な予感は、1つの事実に起因している。それは、ナショナリズム(nationalism)と民主政治体制の間の不安定な妥協(uneasy accommodation)が深刻なストレスに晒されているということだ。

民主政体の危機は、部分的にはナショナリズムの危機でもあり、現在では4つの問題を中心に展開しているようだ。国家がメンバーシップ(国民、有権者)をどう定義するか、歴史的記憶(historical memory)のあり方をどう普及させるか、主権者としてのアイデンティティをどう位置付けるか、そして、グローバリゼーション勢力とどう戦うかである。これらのそれぞれにおいて、ナショナリズムとリベラリズムはしばしば緊張関係にある。民主政治体制は、この緊張関係を解決するのではなく、うまく切り抜けようとする傾向がある。しかし、世界中で、ナショナリズムがゆっくりとリベラリズムを窒息させつつあり、この傾向は今年、有害な形で加速する可能性がある。2024年には世界史上どの年よりも多くの国民が投票するが、彼らは特定の指導者や政党だけでなく、市民的自由の未来(very future of their civil liberties)そのものに投票することになる。

まず、社会がメンバーシップの基準をどのように設定するかについて議論しよう。政治共同体が主権を持つ場合、誰をメンバーから除外するか、またはメンバーに含めるかを決定する権利がある。自由主義的民主政治体制国家は歴史的に、メンバーの基準として様々なものを選択してきた。民族的および文化的要因を優先する国もあれば、共通の憲法上の価値観への忠誠を要求するだけの市民基準を選択する国もある。

実際には、自由主義的民主政体国家の移民政策は、移民の経済的利点、特定の人々の集団との歴史的つながり、人道的配慮など、様々な考慮事項に基づいて行われてきた。ほとんどの自由主義社会は、メンバーシップの問題を原則的にではなく、様々な取り決めを通じて扱ってきた。その中には、よりオープンなものもあればそうでないものもある。

加盟の問題は政治的に重要性を増している。その原因は様々だ。アメリカでは、南部国境での移民の急増により、この問題が政治的に前面に押し出され、バイデン政権でさえも、約束したリベラル政策の一部を撤回せざるを得なくなった。確かに、移民はアメリカでは常に重要な政治問題であった。しかし、ドナルド・トランプが政治的に登場して以来、移民は新たな側面を獲得した。トランプのいわゆるイスラム教徒入国禁止令は、最終的には撤回されたが、アメリカの将来の移民制度の基礎となる可能性のある、新たな形の明白または隠れた差別の恐怖(the specter of new forms of overt or covert discrimination)を引き起こした。

世界的な紛争や経済および気候の苦境によって引き起こされたヨーロッパの難民危機(Europe’s refugee crisis)は、全ての国の政治に影響を与えている。スウェーデンは、移民を統合するモデルについて深い懸念を強め、2022年に右派政権を誕生させる。イギリスでは、移民に対する懸念がブレグジット(Brexit)に一部影響した。またインドでは、ナレンドラ・モディ首相率いる政府が2019に年国籍改正法を施行し、近隣諸国からのイスラム教徒難民を国籍取得の道から除外することになった。インド政府にとって、加盟を巡る懸念は、多数の民族を優先する必要性から生じている。同様に、南アフリカでは移民の地位をめぐる論争がますます激しくなっている。

メンバーシップの重要性が増していることは、リベラリズムの将来にとって懸念事項だ。リベラルな価値観は歴史的に様々な移民制度やメンバーシップ制度と両立してきたため、リベラルなメンバーシップ制度はリベラルな社会を作るための必要条件ではないかもしれない。よく管理されたメンバーシップ政策がないと、リベラリズムが依拠する社会的結束(the social cohesion)が乱れ、リベラリズムが損なわれる可能性が高いと主張する人もいるだろう。しかし、ハンガリーのヴィクトル・オルバンからオランダのヘルト・ウィルダースまで、閉鎖的または差別的なメンバーシップ制度を支持する世界の政治指導者の多くが、リベラルな価値観にも反対しているというのは注目すべき事実である。そのため、反移民と反リベラルを区別することが難しくなっている。

記憶は、保持し、前進させるべき、集団的アイデンティティに関する永遠の真実の一種(a kind of eternal truth)である。

ナショナリズムの2つ目の側面は、歴史的記憶(historical memory)をめぐる争いである。全ての国家には、集団のアイデンティティと自尊心(self-esteem)の基盤となることができる、使える過去(a usable past)、つまり国民を結びつける物語(a story that binds its peoples together)が必要だ。歴史と記憶の区別(the distinction between history and memory)は誇張されがちだが重要だ。フランスの歴史家ピエール・ノラが述べたように、記憶は事実、特に思い出す主な対象への崇拝にふさわしい事実を探す。記憶には感情的な性質がある。それはあなたを動かし、あなたのアイデンティティを構成するはずだ。それはコミュニティの境界を設定する。歴史はより距離を置いている。事実は常にアイデンティティと共同体の両方を複雑にする。

歴史は道徳に関する物語(a morality tale)というよりは、苦労して得た知識の非常に難しい形態であり、常に選択可能性(selectivity)を意識している。

記憶(memory)は道徳に関する物語として保持するのが最も簡単だ。それは単に過去に関するものではない。記憶は、保持し、前進させるべき、ある個人の集団的アイデンティティに関する一種の永遠の真実だ。

様々な記憶は政治の場でますます強調されている。インドについて、最も明白な例を挙げると、歴史的記憶はヒンドゥー教のナショナリズムの強化の中心だ。2024年1月に、モディ首相はアヨーディヤーでラーマ神を祀る寺院を建立した。この寺院は、1992年にヒンドゥー教のナショナリストがモスクを破壊した場所に建てられている。ラーマ神寺院は重要な宗教的シンボルだ。しかし、インド人にとって最も顕著な歴史的記憶はイギリスによる植民地支配ではなく、イスラム教による千年にわたる征服の歴史であるべきだという与党インド人民党(the ruling Bharatiya Janata Party)の主張の中心でもある。モディ首相は、2020年に寺院の礎石が据えられた8月5日を、1947年にインドがイギリスから独立した8月15日と同じくらい重要な国家の節目であると宣言した。

南アフリカでは、記憶の問題はそれほど顕著ではないように思えるかもしれない。しかし、ネルソン・マンデラ時代の妥協(compromise)は、社会的連帯(social solidarity)のために経済的正義(economic justice)を犠牲にしたと今では一部の人が見ているが、ますます問われている。不平等の継続、経済不安、社会的流動性の低下に直面して、南アフリカ人の多くはマンデラの遺産と、国内の黒人に力を与えるために彼が十分なことをしたかどうかを疑問視している。これは、与党のアフリカ民族会議(the ruling African National Congress)に対する幻滅(disillusionment)を反映している。しかし、この再考は、現代の南アフリカが自らを理解してきた観点から、記憶を再定義する可能性もある。

アメリカでは、国家の物語をどう語るかをめぐる争いは建国の父たち(the Founding Fathers)にまで遡る。ドナルド・トランプからフロリダ州知事ロン・デサンティスまで、政治家たちはアメリカ人であることの意味や「アメリカを再び偉大な国にする(make America great again)」方法に基づいて立候補している。たとえばフロリダ州では、黒人の歴史を教えるための怪しげな基準を設け、生徒が人種や奴隷制度について学ぶ内容を規制しようとしている。これは単なる教育方法の政治的論争ではなく、その背後には、アメリカが過去をどのように記憶し、それゆえに未来をどのように築いていくのかという、より大きな、不安な政治的論争がある。

ナショナリズムの高揚における3つ目の次元は、人民主権(popular sovereignty)、すなわち人々の意思(the will of the people)をめぐる争いである。人民主権とナショナリズムの間には常に密接な関係があり、前者には明確なアイデンティティと互いに特別な連帯感を持つ国民という概念の形成が必要だったからである。フランス革命の時代、ジャン=ジャック・ルソーの思想に触発され、人民主権者は唯一無二の意思を持つとされた(the popular sovereign was supposed to have a singular will)。しかし、もし人民の意志が単一(unitarity)であるならば、差異(differences)をどう説明するのだろうか? 更に言えば、当然のように人々の間に違いがあるのなら、どうやって民意を確かめればいいのだろうか? このパズルを解く1つの方法は、誰が有能な人々の意志を効果的に代表していることができるか、そしてそうすることで、相手側を、単にその意志の代替的な解釈を持っているのではなく、その意志を裏切っているものとして表現できるかということである。このようなパフォーマンスが行われるためには、代替的な視点を代弁する者を民衆の敵(an enemy of the people)として厳しく非難しなければならない。その意味で、「人民(the people)」、一元的な存在として理解される、という修辞的な呼びかけは、常に反多元主義的である危険性(the risk of being anti-pluralist)をはらんでいる。世界中の民主政治体制国家が民主政治体制の多元主義的で代表的な概念を受け入れているときでさえ、国家に転嫁される単一性の痕跡が残っている。国家は団結していなければ国家ではないし、意志を持つこともできない。

政治スタイルとしての国民ポピュリズムは、人民の敵(enemies of the people)ではなく国民の敵(enemies of the nation)を見つけることで繁栄する。

人々は、自分たちの国のアイデンティティを基準にすることで、統一された意志のもとに結集する。つまり、時には、このようなアイデンティティの評価は非常に生産的である。しかし、ナショナリズムの特徴の1つは、ナショナリズム自身が異議を唱える余地を作ろうともがくことだ。反対派が委縮したり汚名を着せられたりするのは、政策的な問題に関して異なる見解を持っているからではなく、その見解が反国家的なものとして表象されるからである。国民ポピュリストのレトリックが、自分たちの国民的アイデンティティやナショナリズムの基準に異議を唱える勢力に向けられることが多いのは偶然ではない。国民のアイデンティティがより争われるようになるにつれ、押し付けられることによってのみ統一が達成される可能性が高まっている。

政治スタイルとしての国民ポピュリズムは、人民の敵ではなく国民の敵を見つけることによって繁栄し、その敵はしばしば特定の複数のタブーによって評価される。トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアンからモディ、オルバン、トランプに至るまで、現代のポピュリストのほぼ全員が、人民とエリートを階級ではなく、誰が国家を真に代表するかという観点から区別している。真のナショナリストとして評価されるのは誰なのか? エリートに対する文化的軽蔑(the cultural contempt for the elite)は、彼らがエリートであるという事実だけでなく、いわばもはや国民の一部ではないエリートとして代表されることができるという事実から強まっている。この種のレトリックは、違いを単なる意見の相違ではなく、扇動的であると見なす傾向がますます強まっている。たとえばインドでは、カシミールに対する政府の姿勢に疑問を呈する学生たちに対して国家安全保障関連の罪が問われている。これは、単なる異議申し立て(a contestation)、あるいはおそらく誤った見解としてではなく、犯罪化される必要がある反国家行為(anti-national act)と見なされている。

ナショナリズムの危機の第4の側面は、グローバライゼーションに関するものだ。ハイパー・グローバライゼーションの時代になっても、国益が色褪せることはなかった。各国がグローバライゼーションや世界経済への統合を受け入れたのは、それが自国の利益につながると考えたからだ。しかし、全ての民主政治体制国家において、今年の選挙で重要なのは、国際システムに関与する条件の再考である。

グローバライゼーションは勝者を生み出したが、同時に敗者も生み出した。アメリカにおける製造業の雇用喪失やインドにおける早すぎる脱工業化(premature de-industrialization)は、グローバライゼーションの再考を促すに違いない。こうしたことは全て、グローバル・サプライチェインへの依存に対する恐怖を際立たせた新型コロナウイルス感染拡大(パンデミック)以前から起こっていたことだ。

世界各国は、経済に対する政治的コントロールの主張、つまり合法的な社会契約(social contract)を結ぶ能力が、グローバライゼーションの条件を再考する必要があると確信するようになっている。傾向としては、グローバライゼーションに懐疑的になり、国家安全保障や経済的な理由から、より大きな自給自足を求めるようになっている。「アメリカ・ファースト」や「インド・ファースト」は、特に中国が権威主義的な競争相手(an authoritarian competitor)として台頭してきた状況では、ある程度理解できる。

しかし、現在のこの瞬間はナショナリズムの政治における大きな転換期のようだ。グローバライゼーションは国益の推進を目指す一方で、ナショナリズムを緩和した。グローバライゼーションは、統合の拡大によって全ての国が相互に利益を得ることができるゼロサムゲーム以外の世界秩序を提示した。国際的な連帯を疑うことはなかった。民主政治体制国家はますますこの前提を放棄しつつあり、世界に重大な影響を及ぼしている。グローバライゼーションが減り保護主義が強まると、必然的にナショナリズムが強まる。この傾向は世界貿易にも悪影響を及ぼし、特に国境開放と商業の高まりを必要とする小国にとっては打撃となる。

ここで説明したナショナリズムの4つの特徴(メンバーシップ、記憶、主権的アイデンティティ、世界への開放性)はそれぞれ、民主政治体制の誕生以来、その影を落としてきた。アメリカでは格差と賃金の低迷、インドでは雇用の危機、南アフリカでは汚職など、どの民主政治体制国家もそれぞれ深刻な経済的課題に直面している。経済問題とナショナリズム政治の間に必要な二項対立(binary)はない。モディのような成功したナショナリストの政治家は、経済的成功をナショナリズムのヴィジョンを強固なものにする手段と考えている。そして、ストレスの多い時代には、ナショナリズムは不満を明確にするための言語となる。ナショナリズムは、政治家が人民に帰属意識と参加意識を与える手段だ(It is the means by which politicians give a sense of belonging and participation to the people)。

ナショナリズムはアイデンティティ政治(identity politics)の最も強力な形態だ。ナショナリズムは、個人とその権利を、ナショナリズムが個人を束縛する強制的なアイデンティティのプリズムを通して見ている。ナショナリズムとリベラリズムは長い間、対立する勢力だった。ナショナリズムをめぐる利害関係が高まらず低まれば、ナショナリズムとリベラリズムと両者の間の緊張関係をうまく乗り越えやすくなる。しかし、2024年の多くの選挙では、これらの国の国民的アイデンティティの性質が、上記の4つの側面に沿って危機に晒される可能性が高まっている。これらの争いは民主政治体制を活性化させる可能性がある。しかし、最近の例を参考にすると、政治におけるナショナリズムの優越性は、リベラルな価値観に対する脅威となる可能性が高い。

ナショナリズムの前進する形態が、その意味を争うことを許さず、あるいは特定のグループの特権を維持しようとすると、一般的に、より分裂的で分極化した社会(a more divisive and polarized society)が生み出される。インド、イスラエル、フランス、そしてアメリカは、それぞれこの課題に直面している。記憶とメンバーシップの問題は、単純な政策審議によって解決される可能性が最も低い。彼らが取引する真実は、共通基盤の基礎となりうる事実に関するものではない。たとえば、私たちがしばしば歴史を選択するのは、その逆ではなく、むしろ私たちのアイデンティティのためであることはよく知られている。

おそらく、最も重要なことは、ナショナリズムの名の下に、リベラルな自由に対する攻撃が正当化されることが多いということだ。例えば、表現の自由(freedom of expression)は、深く大切にされている国家神話(national myth)を標的にすると見なされれば、その限界を知る可能性が最も高い。市民の自由を狭めたり、制度の完全性を軽んじたりすることを厭わないポピュリストや権威主義的な指導者は皆、ナショナリズムのマントをまとっている。そのような指導者は、「反国家的(anti-national)」という言葉を用いて反対意見を取り締まることができる。多くの意味で、今年の選挙は、民主政治体制がナショナリズムのディレンマとうまく折り合いをつけられるか、あるいはナショナリズムを衰退させるか、打ち砕くかを決めるかもしれない。

20世紀のファシズム史の偉大な歴史家であるジョージ・L・モスは、1979年にイェルサレムのヘブライ大学で行われた教授就任講演で、この課題について次のように述べている。「もし私たちがナショナリズムに人間的な側面を与えることに成功しなければ、将来の歴史家たちは、私たちの文明について、エドワード・ギボンがローマ帝国の崩壊について書いたことと同じことを書くかもしれない。つまり、最盛期には穏健主義が卓越し、国民はお互いの信念を尊重していたが、不寛容な熱意と軍事的専制によって崩壊したということだ(that at its height moderation prevailed and citizens had respect for each other’s beliefs, but that it fell through intolerant zeal and military despotism)」。

※プラタップ・バーヌ・メサ:プリンストン大学ロウレンス・S・ロックフェラー記念卓越訪問教授、ニューデリーにあるセンター・フォ・ポリシー・リサーチ上級研究員。

(貼り付け終わり)

(終わり)
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『トランプの電撃作戦』
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世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

※2025年3月25日に最新刊『トランプの電撃作戦』(秀和システム)が発売になります。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
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2024年1月に発表された、グレアム・アリソンの論稿をご紹介する。アリソンについては最新刊『トランプの電撃作戦』(秀和システム)で紹介しているので是非お読みいただきたい。この論稿はトランプが当選する10カ月ほど前に発表されたものであるが、非常に的を射ている内容である。この時期、当時の現職大統領であったジョー・バイデン(民主党)の支持率が上がらず、トランプの勢いが伸びているという状況で、日本でも「もしトラ(もしもトランプが大統領になったら)」という言葉が出ていた。日米、そして世界中のマスコミが一部を除いて、トランプの大統領返り咲きを多くの人々が「心配している」という論調だった。以下の論稿の内容をまとめると以下のようになる。

ドナルド・トランプ前大統領の再登場が懸念されており、彼がホワイトハウスに戻ることで、国際的な関係や政策に大きな影響を与える可能性がある。「トランプ・プット」と呼ばれる概念が出てきており、トランプの再登板が自分の国の利益を守る手段として機能するのではないかとの見方が広がっている。一方で、一部の国々はその影響に備え、「トランプ・ヘッジ」を試みる動きも見られる。特にプーティン大統領にとって、トランプが再び有利な条件で交渉する可能性が高いため、ウクライナ戦争の情勢は注視されている。

また、トランプの影響はヨーロッパの同盟国にも及び、彼らはアメリカの輸出依存からの脱却を模索する動きがある。特にドイツなどでは、自国の防衛を自ら強化すべきだとの声が上がっており、トランプとメルケルの関係から生じた教訓を忘れないようにしている。

COP28では、気候変動に関する国際的な合意が語られるが、現実には各国が化石燃料の使用を増加させている。トランプが再選される場合、気候政策は後退し、化石燃料の利用が促進される危険性が高まる。昨今の国際会議では、トランプの復帰による変化への期待感が広がっており、それが政策に影響を与えつつある。

トランプの2期目は、さらに大胆な貿易政策を進めることが予想されていて、昨今のアメリカの貿易政策は中国との対立が中心となっており、自国の生産依存を無くす動きが強まっている。一方で、世界貿易秩序が崩壊する可能性についても懸念が高まっており、この状況は国際的な経済活動に直接的な影響を与える。

トランプ政権の政策は移民問題にも波及しており、国境を閉ざすことが再び強調される中、アメリカの政治の変化は他国にとって脅威となっている。トランプの選挙運動は国境管理を強化することで票を集める戦略であり、これは国際的にも大きな波紋を呼んでいる。

歴史的に外交における二党間の協力はあったが、近年はそれが難しくなっており、国際関係は不確実性を増している。各国のリーダーたちは、次期アメリカ大統領の影響が自国にとって何を意味するのかを注視し、アメリカの内政が国際的な安定にどう影響するのかを見極める必要がある。このように、2024年のアメリカ大統領選挙が神経を尖らせる要因となっている。

 実際に、2024年11月の大統領選挙でトランプが勝利し、132年ぶりの大統領返り咲きを果たした。アリソンがトランプ政権発足を予測し、それに伴う世界各国の動きを予測して書いているのだが、その内容の正確さには驚くばかりだ。トランプの出現を利用して、自国の利益につなげようという「トランプ・プット」という考え方は非常に重要だ。これくらいのしたたかさが必要である。日本も是非「トランプ・プット」を実行して欲しい。

(貼り付けはじめ)

トランプは既に地政学を作り直している(Trump Is Already Reshaping Geopolitics

-アメリカの同盟諸国と敵対諸国は彼の復帰の可能性にどう反応しているか。

グレアム・アリソン筆

2024年1月16日

『フォーリン・アフェアーズ』誌

https://www.foreignaffairs.com/united-states/trump-already-reshaping-geopolitics

2008年に発生した大規模金融危機前の10年間、連邦準備制度理事会(FRB)のアラン・グリーンスパン議長はワシントンで事実上の半神(a virtual demigod)となった。アリゾナ州選出のジョン・マケイン連邦上院議員は後に有名になった助言を行い、「彼が生きているか死んでいるかは問題ではない。死んでいるのなら、彼を支えて黒い眼鏡をかけさせればいい」と述べた。

グリーンスパンが議長を務めた1987年から2006年までの20年間、FRBはアメリカ経済が加速的に成長した時期において中心的な役割を果たした。グリーンスパンの名声の源泉の1つは、金融市場が「FRBプット(Fed put)」と呼ぶものだった。(プット」とは、一定の期日まで固定価格で資産を売却する権利を所有者に与える契約のことだ)。グリーンスパンの在任中、投資家たちは、金融工学技術者たち(financial engineers)が作り出す新商品がいかにリスキーであっても、何か問題が起きれば、グリーンスパンのFRBが救援に駆けつけ、株価がそれ以下に下落することを許さない床を提供してくれると信じるようになった。その賭けは報われた。ウォール街の住宅ローン担保証券(Wall Street’s mortgage-backed securities)とデリヴァティヴ(derivatives)がリーマン・ブラザーズの破綻を招き、2008年の金融危機が大不況の引き金となった際に、米財務省とFRBは経済が第二の大恐慌に陥るのを防ぐために介入した。

2024年のアメリカ大統領選挙が既に世界各国の意思決定に与えている影響を考えるとき、そのダイナミズムを思い起こす価値がある。指導者たちは今、1年後にドナルド・トランプ前米大統領が実際にホワイトハウスに戻ってくる可能性があるという事実に目覚め始めている。したがって、一部の外国政府は、「トランプ・プット(Trump put)」として知られるようになるかもしれないものをアメリカとの関係に織り込みつつある。トランプ大統領が事実上、自国にとって事態がどの程度悪化するかという下限を設定することになるため、1年後にはワシントンとより良い交渉ができるようになるだろうと期待して、選択を遅らせようとしている。これとは対照的に、「トランプ・ヘッジ(Trump hedge)」とでも呼ぶべきものを探し始めている人々もいる。トランプ大統領の復帰によって、より悪い選択肢が残される可能性が高いと分析し、それに応じて準備を進めているのだ。

●過去の大統領たちの亡霊(THE GHOST OF PRESIDENCIES PAST

ロシアのウラジーミル・プーティン大統領の対ウクライナ戦争における計算は、トランプ大統領の置き土産を鮮やかに示している。ここ数カ月、ウクライナ情勢が膠着状態に陥るにつれ、プーティンは戦争を終わらせる用意があるのではないかとの憶測が広がっている。しかし、トランプ・プットの結果、来年の今頃も戦争が続いている可能性の方がはるかに高い。ウクライナ人の中には、また厳しい冬がやってくる前に停戦を延長するか、あるいは休戦協定を結んで殺戮を終わらせたいと考えている人もいるが、プーティンはトランプが 「1日で (in one day)」戦争を終わらせると約束したことを知っている。トランプの言葉を借りれば 「私は(ウクライナのヴォロディミール・)ゼレンスキー大統領に言うだろう。もこれ以上(の支援)はない。あなたは取引をしなければならない」。1年後、トランプは、ジョー・バイデン米大統領が提示する条件やゼレンスキー大統領が今日合意する条件よりもはるかにロシアに有利な条件を提示する可能性が高いため、プーティンは待つだろう。

対照的に、ヨーロッパにあるウクライナの同盟諸国は、トランプのヘッジを考慮しなければならない。戦争が2年目の終わりに近づくにつれ、ロシアの空爆や砲撃による破壊と死者の写真が連日報道され、戦争は時代遅れになった(war has become obsolete)というヨーロッパ人の持つ幻想(European illusions)が覆されている。予想通り、これはNATO同盟とそのバックボーンである、攻撃された同盟国を防衛するというアメリカの関与に対する熱意の復活(a revival of enthusiasm)につながった。しかし、トランプがバイデンを上回るという世論調査の結果が報道されるにつれて恐怖が高まっている。特にドイツ人は、アンゲラ・メルケル前首相がトランプ大統領との苦い出会いから得た結論を覚えている。彼女が言ったように、「私たちは自分たちの未来のために自分たちで戦わなければならない(We must fight for our future on our own)」ということだ。

ロシアよりも3倍の人口と9倍以上のGDPを持つヨーロッパの共同体が、なぜ自国の防衛をワシントンに依存し続けなければならないのかという疑問を呈したアメリカの指導者はトランプだけではない。2016年に『アトランティック』誌の編集長ジェフリー・ゴールドバーグが行った、よく引用されるインタヴューにおいて、バラク・オバマ元米大統領は、ヨーロッパ諸国(およびその他の国々)を「ただ乗りの奴ら(free riders)」と痛烈に批判した。しかし、トランプはそれ以上のことをした。当時、トランプ大統領の国家安全保障問題担当大統領補佐官だったジョン・ボルトンによると、トランプは2019年の会議でNATOからの完全撤退(withdrawing from the alliance altogether)について真剣に話し合った際、「NATOのことなどどうでもいい(I don’t give a shit about NATO)」と述べたということだ。部分的には、トランプの脅しは、ヨーロッパ諸国に自国の防衛について、GDPの2%を費やすという約束を果たさせるための交渉の策略だったが、それはあくまで一部に過ぎなかった。ジェイムズ・マティス国防長官は、アメリカの同盟諸国の重要性についてトランプ大統領を説得しようとして、2年間も継続的に試みたが、その後、大統領との意見の相違があまりにも深く、もはや長官を務めることはできないとの結論に至り、2018年に提出した辞表の中で、その立場を率直に説明した。現在、トランプ大統領の選挙運動ウェブサイトは「NATOの目的とNATOの使命を根本的に再評価する(fundamentally reevaluating NATO’s purpose and NATO’s mission)」ことを求めている。ウクライナにどれだけの戦車や砲弾を送るかを検討しているヨーロッパの一部の国々は、11月にトランプ大統領が当選した場合、自国の防衛にそれらの兵器が必要になる可能性があるかどうかについて再検討を始めている。

先ごろドバイで閉幕したCOP28気候変動サミットでも、トランプ大統領への期待が働いた。歴史的に、気候変動問題に対処するために各国政府が何をするかについてのCOP合意は、願望が長く、実績が不足していた。しかし、COP28は、「化石燃料からの脱却(transition away from fossil fuels)」という歴史的な合意を宣言し、より非現実的な空想を拡大した。

現実的には、署名した国々は全く逆のことをしている。石油、ガス、石炭の主要な生産者と消費者は現在、化石燃料の使用を減らすのではなく、増やしている。しかも、見渡す限り先までそうし続けるための投資を行っている。世界最大の石油生産国であるアメリカは、過去10年間毎年生産量を拡大しており、2023年には生産量の新記録を樹立している。温室効果ガス排出量世界第3位のインドは、石炭を中心とした国家エネルギー計画によって、優れた経済成長を遂げている。この化石燃料はインドの一次エネルギー生産の4分の3を占めている。中国は、「グリーン」な再生可能エネルギーと 「ブラック」な汚染石炭の両方を生産するナンバーワンの国である。2023年に中国が設置したソーラーパネルの数は、過去50年間にアメリカが設置した数よりも多いが、その一方で、現在、世界の他の国々と合計した数の6倍もの石炭発電所を新たに建設している。

従って、COP28では2030年以降の目標について多くの誓約がなされたものの、今日、各国政府に費用のかかる不可逆的な行動を取らせようとする試みには抵抗があった。トランプ大統領が復帰し、「掘って掘って掘りまくれ(drill, baby, drill)」という選挙公約を追求すれば、そのような行動は不要になることを指導者たちは知っている。COP28のバーで飛び交った悪いジョークは次のようなものだった。「化石燃料からの脱却を目指すCOP28の明言されていない計画とは? それは、COP28woできるだけ早く燃やし尽くすことだ」。

●混乱した世界(A DISORDERED WORLD

トランプ政権の2期目は、新たな世界貿易秩序(a new world trading order)、あるいは混乱(disorder)を約束する。2017年の大統領就任初日、トランプは環太平洋パートナーシップ貿易協定(Trans-Pacific Partnership trade agreement)から離脱した。その後数週間で、ヨーロッパの同等の協定やその他の自由貿易協定の創設に向けた協議は終了した。1974年通商法第301条が行政府に与えた一方的権限を利用して、トランプは3000億ドル相当の中国輸入品に25%の関税を課した。バイデンはトランプが課した関税をほぼ維持している。トランプ政権の貿易交渉担当者ロバート・ライトハイザー(トランプ陣営がこれらの問題に関する主任顧問としている)が最近出版した著書『自由な貿易などない(No Trade Is Free)』で説明したように、トランプ政権の2期目は1期目に比べてはるかに大胆なものになるだろう。

現在の選挙活動において、トランプは自らを「関税男(Tariff Man)」と呼んでいる。トランプ大統領は、全ての国からの輸入品に一律10%の関税を課し、アメリカ製品に高い関税を課している国と同額の関税を課すと約束し、「目には目を、関税には関税を(an eye for an eye, a tariff for a tariff)」と約束している。バイデン政権が交渉したアジア太平洋諸国との協力協定であるインド太平洋繁栄経済枠組(the Indo-Pacific Economic Framework for Prosperity)は、トランプ大統領によれば「初日から機能不全に陥る(dead on day one)」という。ライトハイザーにとって、中国はアメリカの保護貿易措置の中心的な標的となる「致命的な敵(lethal adversary)」である。中国が世界貿易機関(World Trade OrganizationWTO)加盟に先立ち、2000年に認められた「恒久的正常貿易関係(permanent normal trading relations)」の地位の取り消しから始まり、電子機器、鉄鋼、医薬品など「全ての重要分野で中国への依存をなくす(eliminate dependence on China in all critical areas)」ことがトランプ大統領の目標となる。

貿易は世界経済成長の主要な原動力であるため、指導者の多くは、アメリカの取り組みがルールに基づく貿易秩序を本質的に崩壊させる可能性はほとんど考えられないと考えている。しかし、彼らの顧問の中には、アメリカが他国に中国との分離を強いるよりも、世界貿易秩序から自ら分離する方が成功する可能性がある未来を模索している者もいる。

貿易の自由化(trade liberalization)は、世界中の人々の自由な移動(freer movement of people)ももたらした、より大きなグローバライゼイション(globalization)のプロセスの柱となっている。トランプは、新政権の初日に、最初の行動として「国境を閉鎖する(close the border)」と発表した。現在、毎日1万人を超える外国人がメキシコからアメリカに入国している。バイデン政権の最大限の努力にもかかわらず、連邦議会は、中米などからのこの大量移民を大幅に減速させる大きな変更を行わない限り、イスラエルとウクライナへの更なる経済支援を承認することを拒否している。選挙活動中、トランプはバイデンがアメリカの国境を安全に守れなかったことを大きな問題にしている。トランプ大統領は、数百万人の「不法外国人(illegal aliens)」を一斉に取り締まる計画を発表しており、これは「アメリカ史上最大の国内強制送還作戦(the largest domestic deportation operation in American history)」と呼んでいる。メキシコ大統領選の期間中であるメキシコ国民は、北と南の国境を越えて何百万人もの人々が押し寄せ、自国が圧倒されるかもしれないというこの悪夢を表現する言葉をまだ探している。

●更なる4年(FOUR MORE YEARS

歴史的に見れば、主要な外交問題における民主・共和両党の相違は、「政治は水際で止まる(politics stops at the water’s edge)」と言えるほどささやかなものだった。しかし、この10年はそのような時代ではない。外交政策担当者やその海外関係者にとっては有益ではないかもしれないが、アメリカ合衆国憲法は、ビジネスの世界では敵対的買収の試み(an attempted hostile takeover)に相当するものを4年毎に予定している。

その結果として、気候や貿易、NATOのウクライナ支援に関する交渉から、プーティンや中国の習近平国家主席、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン王太子を説得する試みまで、あらゆる問題でバイデンと彼の外交政策ティームは、相手国が1年後に全く異なる政府を相手にしている可能性とワシントンの約束や脅しを天秤にかけるため、ますますハンディキャップを背負うことになる。今年は、世界各国が不信と恍惚と恐怖と希望(disbelief, fascination, horror, and hope)を織り交ぜてアメリカの政治を見守る危険な年になることが予想される。彼らは、この政治劇場が次期米大統領というだけでなく、世界で最も影響力のあるリーダーを選ぶことを知っている。

※グレアム・アリソン:ハーヴァード大学ケネディ記念行政大学院ダグラス・ディロン記念政治学教授。著書に『米中戦争前夜――新旧大国を衝突させる歴史の法則と回避のシナリオ(Destined for War: Can America and China Escape Thucydides’s Trap?)』がある。

(貼り付け終わり)

(終わり)
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『トランプの電撃作戦』
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世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

※2025年3月25日に最新刊『トランプの電撃作戦』(秀和システム)が発売になります。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
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  最新刊『トランプの電撃作戦』(秀和システム)の宣伝ばかりになって申し訳ないが、このブログでしか宣伝ができないのでご容赦いただきたい。

 第2次トランプ政権にとって最重要の人物がイーロン・マスクであることは誰も否定しないだろう。政府効率化省(Department of Government EfficiencyDOGE)を率いて、米連邦政府全体を引きずり回している。しかし、実は、トランプ運動を通じての最重要の人物はピーター・ティールである。ピーター・ティールは、イーロン・マスクと共にペイパル社を大きくし、その後は、パランティア社を創設し、更には様々な企業に資金提供を行っている。最新刊『トランプの電撃作戦』の第1章では、ドナルド・トランプ、ピーター・ティール、イーロン・マスクの関係について詳しく分析している。その際には、以下に掲載する記事を参照した。これまでとは違った姿が見えてくると思う、是非お読みいただきたいと思う。

(貼り付けはじめ)

パランティア社が国防費増加に賭ける投資家たちの「トランプ・トレード(トランプ関連株)」になる(Palantir becomes a ‘Trump trade’ as investors bet on higher defence spending

-アメリカ政府を最大の顧客とする、ピーター・ティールが設立したデータ会社は、選挙以来、企業価値が230億ドルも上昇

タビー・キンダー(サンフランシスコ発)

2024年11月20日

『フィナンシャル・タイムズ』紙

https://www.ft.com/content/f583fa72-858f-418e-b17c-67cad1f2c10a

ドナルド・トランプが今月アメリカ大統領に当選して以来、パランティア社(Palantir)の時価総額は230億ドル以上も増加した。投資家たちは、この秘密主義の米政府からの請負企業が、国家安全保障、移民、宇宙開発に対する連邦政府の支出強化の最大の勝利者になることに賭けている。

今回の株価上昇は、この1年間のパランティア社の驚異的な上昇に拍車をかけるもので、パランティア社の株価は約3倍の1株あたり61ドルに上昇し、企業価値は約1400億ドルに達した。

この急激な上昇は過去12ヶ月で見てみると、半導体メーカーのエヌヴィディア社(Nvidia)を上回るもので、パランティア社の時価総額はアメリカ最大の国防元請企業の1つであるロッキード・マーティン社(Lockheed Martin)よりも大きくなった。

2003年にピーター・ティール、ジョー・ロンズデール、アレックス・カープといった、テクノロジー業界のヴェテランたちによって設立されたパランティア社は、政府や企業が膨大な量のデータを照合・分析し、複雑なパターンを特定したり、業務改善に利用できる詳細な情報(インテリジェンス)を構築したりするのを支援している。

アメリカ政府はパランティア社にとっての最大の顧客となっている。CIAやアメリカ国家安全保障局(National Security Agency)から軍隊や警察に至るまで、テロリストの追跡、ハッカーの阻止、不法移民の強制送還、金融詐欺師の告発のため、パランティア社のシステムを導入している。パランティア社のテクノロジーは、アルカイダの指導者オサマ・ビンラディンの殺害、新型コロナウイルスワクチンの配布、金融業者バーナード・マドフの有罪判決に使われた。

投資家たちは、パランティア社がトランプ政権下で政府の国防支出が増加した場合に有利な立場にあることに賭けている。

パランティア社は2024年5月、国防総省の主要AI戦場情報プログラム「プロジェクト・メイヴン(Project Maven)」を拡張するため、4億8000万ドル規模の5年契約を獲得し、そのデータ処理を利用して軍事上の要点を特定し、アナリストたちの効率を向上させた。

パランティア社に投資しているフォルテ・キャピタル・グループ社のロジャー・モンテフォルテ最高経営責任者(CEO)は、「トランプは、特にイスラエルとウクライナにおいて、任務を遂行する人物になるだろう。パランティア社は極めて重要なプレーヤーになるだろう」と述べている。

モンテフォルテは、パランティア社はイーロン・マスクの電気自動車メーカーであるテスラやパーマー・ラッキーの自律型兵器(autonomous weapons)のスタートアップ企業アンドゥリル社(Anduril)と並んで、「トランプ取引(トランプ関連株)」の「三人組(trifecta)」(新政権に近いことで利益を得られる銘柄[stocks that stand to gain from their proximity to the new administration])の1つであると付け加えた。アンドゥリル社は流通市場取引(secondary market trading)で株価が急騰した民間企業である。

トランプ次期大統領は連邦政府の支出を抑制すると宣言しているが、マスクは防衛費をこれまでの第一次防衛請負企業(traditional defence prime contractors)ではなく「起業家企業(entrepreneurial companies)」により配分すべきだと述べている。

ロケット製造会社スペースX社(Space X)を通じたマスクの宇宙開発への個人的関心も、パランティア社に利益をもたらす可能性がある。2024年6月、パランティア社は「スターラボ(Starlab)」と呼ばれるコンソーシアム(consortium)に参加し、国際宇宙ステーション(International Space Station)の後継となる、NASAやその他の宇宙機関、民間顧客にサーヴィスを提供するための商業宇宙ステーションを10年後に立ち上げる予定だ。

DAデイヴィッドソン社(DA Davidson)」のソフトウェアアナリストであるギル・ルリアは「パランティア社は新政権と2つのレヴェルで連携している。その創設者たちは政権の内輪の影響力の中にいる。もう1つの調整はイデオロギー的なものだ。パランティア社には西洋文明を保護するという明確な使命があり(a clear mission to protect western civilisation)、それは次期政権の哲学と非常によく一致している。」

パランティア社は、第一次トランプ政権下での移民税関捜査局(Immigrations and Customs Enforcement)との契約について、数百万人の移民をアメリカから強制送還する取り組みを促進し、人権侵害に加担していると非難され、擁護団体から攻撃を受けた。

パランティア社の最近の評価ブームは、ピーター・ティールとアレックス・カープが忠実な個人投資家のオンライン軍団から人気を得ていること、人工知能にまつわるマニアックな話題、過去1年間に利益率を改善しながら成長を加速させた結果だ。パランティア社の株価は、ソフトウェア企業の中で最も高い倍率で取引されており、来年予想される収益の40倍、予想利益の130倍で取引されている。

月曜日の投資家たちによるパランティア社株オプション取引は160万件を超え、米オプション市場ではエヌヴィディアとテスラに次いで、3番目に人気のある企業となっている。オプション取引は、投資家が株式の方向性に安価なレヴァレッジをかけた賭けをすることを可能にし、レディッと(Reddit)のような小売取引フォーラムで人気となっている。

新古典派社会理論の博士号を持つアレックス・カープは、愛国主義(patriotism)、社会、テクノロジーに関するイデオロギー的な宣言で、このようなフォーラムで知られるようになった。

カープは、「今世紀はソフトウェアの世紀であり、私たちは市場全体を手に入れるつもりだ。私たちは、最も重要な組織を武装し、防衛するためにこの会社を設立したのであって、無為で退廃的な娯楽を作り出すためにこの会社を設立したのではない」と述べた。

カープは大統領選挙以来、株価高騰により報酬計画に基づく自動売却が開始されたため、パランティア社株の売却で約10億ドルを稼いだ。

パランティア社のピーター・ティール会長は、シリコンヴァレーにおけるトランプ大統領の最大の盟友の1人であり、JD・ヴァンス副大統領の政治的台頭の主な支援者でもある。しかし、ティールはトランプからの選挙運動への寄付要請を断った。

事情に詳しい関係者によると、2009年にパランティア社を去った、ジョー・ロンズデールはイーロン・マスクに近く、トランプ政権移行ティームでの潜在的な役割を担う準備が整っているということだ。

パランティア社に近いある人物は、トランプ大統領の誕生がこのビジネスにとって好材料になるかは、それほど明確ではないと述べた。

この人物は続けて「パランティア社はバイデン政権の下で急成長し、ウクライナ戦争とイスラエルを通じて重要なプレーヤーとなった。トランプ大統領のことは表面的な認識に過ぎない。誰も何らかの形で推測したくない」と述べた。

2010年以来、パランティア社は民間企業へのサーヴィスを拡大し、リオ・ティント社、BP者、ジェネラル・ミルズ社、CVSヘルス社といった企業との大型契約のおかげで成長を加速させた。このAIプラットフォームは、企業のオペレーションやサプライチェーンの管理、不正行為やリスクの検出、創薬、需要予測などを支援するものだ

パランティアは2023年に初の黒字決算を達成したが、これはパランティア社の商業ビジネスが爆発的な人気を博したためだ。民間部門ビジネスは現在では収益の35%を占めている。全体として、パランティアは今年第3四半期に1億4400万ドルという過去最高の純利益を計上し、第4四半期の調整後利益は約3億ドルになると予想した。

パランティア社は2024年9月にS&P500種株価指数に採用され、機関投資家が保有するインデックス・ファンドに組み入れられるようになった。先週、パランティア社は、11月26日にニューヨーク証券取引所からナスダック市場に上場市場を変更すると発表し、ナスダック100の仲間入りを果たす見込みだ。

パランティア社の取締役で8VCのパートナーであるアレックス・ムーアは、この動きは上場投資信託による数十億ドルの株式購入を「余儀なくさせ(will force)」、その結果、個人株主は利益を得ることになるだろうとXで述べた。

しかし、アナリストの中には、株価収益率の高さが懸念材料だと警告する人もいる。リシ・ジャルリア率いるRBCのアナリストは先月、「パランティア社がソフトウェア業界で最も割高な企業である理由を合理的に説明できない」と述べ、目標株価を9ドルに設定した。

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トランプの世紀の大当たり(Trump’s bonanza of the century

-イーロン・マスクをはじめとする超富裕層の起業家たちは規制緩和で利益を得る立場にある

エドワード・ルース筆

2024年12月17日

『フィナンシャル・タイムズ』紙

https://www.ft.com/content/fe4702cc-4643-41d2-9214-63bf3888127f

上げ潮は全てのメガヨットを持ち上げる。しかし、純資産(net worth)の増加という点では、イーロン・マスクはその部類に入る。ドナルド・トランプが11月5日に再選を果たして以来、マスクの資産はおよそ3分の2増の4400億ドルに跳ね上がった。このペースでいけば、トランプ大統領の任期中に彼は楽に兆万長者(trillionaire)になるだろう。

メタ(Meta)の創業者マーク・ザッカーバーグやアマゾンのジェフ・ベゾスといった後発組も、この流れに乗りつつある。両者はトランプ大統領の就任式委員会(inauguration committee)に100万ドルを寄付しており、これは次期政権の機嫌を取る伝統的な方法だ。彼らの資産も急増している。アメリカは史上最大の規制緩和の流れにある。

この上昇気流は、トランプ大統領に票を投じたブルーカラーのアメリカ人という小舟をも持ち上げるのだろうか? トランプはそうなると約束している。トランプが多くの労働者階級の票を獲得した主な理由は、ブルーカラーのアメリカ人が、パンデミックが起こる前に実質所得の中央値が上昇した彼の第1期を思い出したからだ。しかし、マクロ経済の状況はそれ以来大きく変化している。トランプは2017年にゼロ金利の世界を引き継いだ。今回は、金融の拘束がかかっている。トランプ減税の更新によるインフレの影響は急速に進むだろう。アメリカのブルーカラーは失望するだろう。

同じことは、アメリカの富裕層、特にトランプの最も熱心な2つの産業支援者であるAIと暗号通貨(crypto)に出資している富裕層には当てはまらないだろう。トランプの誤った名前の政府効率化省(department of government efficiencyDoge)の共同責任者であるマスクの利益相反(conflicts of interest)の規模は前例がない。神聖ローマ帝国は、帝国でも神聖なものでもなかったが、それと同じように、政府効率化省は政府の部局でもなければ、効率化が真の目的でもない。マスクの目標は予算から2兆ドル(連邦政府支出の約3分の1)を削減することだという。しかしそれは、アメリカの国防予算や、トランプ大統領がそれぞれ増額と維持を公約している社会保障とメディケアを削減しなければ不可能だ。

残るは国内裁量予算[domestic discretionary budget](教育、フードスタンプ、インフラなど)では、1兆ドルにも満たない。私の予想では、イーロン・マスクは連邦議会を説得して財布の権限を放棄させることはできないだろう。しかし、連邦議会はトランプ減税を実施するだろう。その結果、アメリカの財政赤字は拡大し、2024年のGDP比は6.4%と既に高水準に達している。財政赤字の拡大は借入コストの上昇につながる。つまり、アメリカの予算のうち債務返済が占める割合が大きくなることと、実質金利の上昇によって個人所得が減少することである。

しかし、マスクの真の目標は規制緩和だ。彼が規制撤廃に成功するという市場の期待が、彼の純資産高騰に拍車をかけている。マスクが出資している「ドッジコイン(Dogecoin)」の評価額の上昇から、テスラ、スペースX、ニューラリンク社(Neuralink)、エックスエーアイ社(xAI)に至るまで、マスクの会社は全てが急成長している。マスクの利益の範囲と複雑さを考えると、メディアや連邦議会、その他の監視機関が、危機に瀕した複数のプレーをチェックし続けるのは難しいだろう。明白なものには、テスラの自律走行システムに関する責任の緩和、スペースXの国防総省との契約ブーム(そのほとんどが機密扱い)、マスクのAIと脳チップへの投資に対するあらゆるグリーンライトが示されている。

マスクは同輩中の首席(first among equals)である。しかし、オンライン決済会社を立ち上げた当初の「ペイパルマフィア(PayPal mafia)」の仲間たち、特にピーター・ティールやデイヴィッド・サックスも利益を得ている。ティールのデータ分析会社で、米国防総省と大規模な契約(そのほとんどが機密扱い)を結んでいるパランティア・テクノロジーズ社の株価は、11月5日以降、約4分の1上昇した。パランティア社は現在、アメリカの国防産業複合体(America’s defence industrial complex)の旧世界の模範であるロッキード・マーティン社よりも価値がある。

トランプはまた、サックスを暗号通貨ツァー(cryptocurrency tsar.)に任命した。トランプの選挙公約の1つに、連邦準備制度(Federal Reserve)が暗号通貨をバランスシートに加えるというものがあった。もしそれが実現すれば、アメリカの中央銀行は実質的に、多くの経済学者がねずみ講(Ponzi scheme)と見なすものを支援することになる。トランプの勝利以来、ビットコインの価値が10万ドルを超えて急騰しているのは驚きではない。トランプは、ビットコインが10万ドルを超えたとき、自身のソーシャルメディアであるトゥルース・ソーシャルに「どういたしまして(You’re welcome)」と投稿した。

アメリカでは汚職は合法だとよく言われる(It is often remarked that in the US, corruption is legal)。マスクやトランプがこうした利益相反で法を犯しているとは誰も主張していない。本当の審判は政治だ(The real judge is politics)。一般国民の投票の半数弱を獲得したトランプは、均等に分裂した国家(evenly divided nation)を統率しているが、アメリカを作り直すという大任を主張している。

勝者は既に想像を絶する報酬を得ている。これは全て、トランプが大統領に就任する前から起こっていることだ。

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●「PalantirAnduril主導の次世代防衛企業連合が始動、SpaceXOpenAIも参画へ」

XenoSpectrum 20241223

https://xenospectrum.com/palantir-anduril-led-next-generation-defense-companies-alliance-launched/

米防衛テクノロジー大手のPalantir TechnologiesAnduril Industriesが、従来の防衛産業の勢力図を塗り替えるべく、約12社規模の企業連合の結成を進めている。この動きは、8,500億ドル規模の米国防予算の獲得を目指す新興テック企業の野心的な挑戦となる。

目次

新興テック企業が描く次世代の防衛産業像

急成長する防衛テック企業の台頭

■新興テック企業が描く次世代の防衛産業像

この企業連合には、Elon Musk氏率いるSpaceXChatGPT開発元のOpenAIAI関連のScale AI、自律型船舶建造のSaronic Technologiesなどの参画が見込まれている。20251月にも正式発表される見通しだ。関係者によれば、これは単なる企業連合の形成ではなく、「新世代の防衛請負業者を生み出す」取り組みとして位置づけられている。

連合の目的は、Lockheed MartinRaytheonBoeingといった伝統的な防衛産業大手が支配する現状を打破することにある。これらの老舗企業は、艦船、戦車、航空機など、設計から製造まで長期間を要する高額な装備品の製造を主力としてきた。これに対し、シリコンバレーの新興企業群は、より小型で安価な自律型兵器の開発に注力している。彼らは、現代の紛争における実戦での有効性を重視したアプローチを採用している。

すでに連合企業間での技術統合も始まっている。Palantirのクラウドベースのデータ処理を行う「AI Platform」は、Andurilの自律型ソフトウェア「Lattice」と統合され、国家安全保障目的のAIとして提供される。さらにAndurilは、対ドローン防衛システムにOpenAIの高度なAIモデルを組み込み、「空からの脅威」に対処する米政府契約の共同開発にも着手している。

注目すべきは、この連合が単なる技術提供を超えて、国防総省の技術的優先事項の実現と重要なソフトウェア能力の問題解決を目指している点だ。関係者の一人は、これを「産業界の連携(aligning industry)」と表現し、政府の技術ニーズに効率的に応える新たな枠組みとしての期待を示している。ウクライナ戦争や中東での紛争、米中間の地政学的緊張の高まりを背景に、軍事目的で使用可能な先進的AIプロダクトを開発する技術企業への政府の依存度は、さらに高まると予想される。

■急成長する防衛テック企業の台頭

防衛テクノロジー企業の急成長は、株式市場でも顕著な現象となっている。特にPalantirの成長は目覚ましく、同社の株価は過去1年で300%の上昇を記録。時価総額は1,690億ドルに達し、伝統的な防衛大手であるLockheed Martinをも上回る規模にまで成長した。この急成長の背景には、データインテリジェンス分野における同社の独自の技術力と、政府契約の着実な獲得が寄与している。

Palantirの成功は、共同創業者であるPeter Thiel氏の先見性も反映している。Thiel氏は2017年にAndurilの立ち上げ時の主要な出資者としても名を連ねており、現在Andurilの企業価値は140億ドルにまで成長している。防衛テック企業への投資は、ウクライナ戦争や中東情勢の緊迫化を受け、国家安全保障、移民問題、宇宙探査への連邦支出増加の恩恵を受けると見込まれている。

この成長の波は、他の参画予定企業にも及んでいる。Elon Musk氏が率いるSpaceXは、最近の評価額が3,500億ドルに達し、世界最大の非上場企業としての地位を確立した。一方、OpenAI2015年の設立からわずか8年で1,570億ドルという驚異的な企業価値を実現している。注目すべきは、OpenAIが最近になって利用規約を改定し、同社のAIツールの軍事利用を明示的に禁止する条項を削除したことだ。この変更は、同社の政府調達への参入意欲を示す重要な転換点として受け止められている。

これら新興企業は、すでに政府との関係構築でも成果を上げている。SpaceXPalantir20年以上にわたり大型の政府契約を獲得してきた実績を持つ一方、OpenAIAndurilなど比較的新しい企業も、政府調達市場への参入を着実に進めている。特にAndurilは、自律型システムや先進的なセンサー技術を活用した防衛装備品の開発で注目を集めており、従来型の防衛企業とは一線を画す革新的なアプローチで、政府からの支持を広げている。

このような防衛テック企業の台頭は、単なる企業成長の枠を超えて、米国の防衛産業の構造転換を象徴する現象として注目されている。特に、AIや自律システムといった先端技術を軸に、より機動的で効率的な防衛能力の実現を目指す彼らのビジョンは、従来の防衛産業のあり方に根本的な変革を迫る可能性を秘めている。

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パランティア社とアンドゥリル社が米国防総省との契約獲得に向けテック企業のグループと協力関係を築く(Palantir and Anduril join forces with tech groups to bid for Pentagon contracts

-コンソーシアムにはイーロン・マスクのスペースX社(SpaceX)も参加し、アメリカの国防予算8500億ドル(約125兆5000億円)のより大きなスライスを獲得しようとする動きがあるようだ。

タビー・キンダー、ジョージ・ハモンド(サンフランシスコ発)

2024年12月23日

『フィナンシャル・タイムズ』紙

https://www.ft.com/content/6cfdfe2b-6872-4963-bde8-dc6c43be5093

アメリカ最大の防衛テクノロジー企業2社のパランティア社(Palantir)とアンドゥリル社(Anduril)は、アメリカ政府の「元請(prime)」請負業者の寡占状態を打破するため、アメリカ政府の仕事を共同で入札するコンソーシアムを結成するため、約10社の競合他社と交渉中である。

このコンソーシアムは、早ければ1月にも複数のテック企業グループと合意に達したと発表する予定だ。この件に詳しい複数の関係者によると、参加交渉中の企業には、イーロン・マスクのスペースX社(Space X)、チャットGPTChatGPT)メーカーのオープンAI社(OpenAI)、自律造船会社(autonomous ship builder)のサロニック社(Saronic)、人工知能データグループのスケールAI社(Scale AI)などが含まれるということだ。

このグループの結成に携わったある人物は「私たちは、新世代の防衛請負業者を提供するために協力している(We are working together to provide a new generation of defence contractors)」と語った。

この動きは、テック企業がロッキード・マーティン社(Lockheed Martin)、レイセオン社(Raytheon)、ボーイング社(Boeing)といった伝統的な元請請負企業から、アメリカ政府の莫大な防衛予算8500億ドル(約125兆5000億円)のより大きなスライスを奪おうとしていることに起因する。

別の関係者によると、このコンソーシアムはシリコンヴァレーの最も価値のある企業の一部を結集し、その製品を活用してアメリカ政府に最先端の防衛および兵器の能力を供給するより効率的な方法を提供する予定だという。

投資家たちは、ドナルド・トランプ次期政権下で国家安全保障、移民、宇宙探査などへの連邦政府支出が増加し、これらの企業が勝ち組の仲間入りをすると賭けており、防衛技術関連の新興企業が今年記録的な額の資金を集めている中で起こった。

ウクライナや中東での戦争、米中間の地政学的緊張は、軍事目的に使用できる高度なAI製品を開発するハイテク企業へのアメリカ政府の依存度を高め、この分野への投資家を後押ししている。

パランティア社の株価はこの1年で300%も急騰し、時価総額はロッキード・マーティン社よりも大きい1690億ドル(約25兆3500億円)に達した。このデータ・インテリジェンス・グループは、テック投資家のピーター・ティールによって共同設立された。彼は、2017年に立ち上げられ、今年140億ドル(約2兆1000億円)の時価評価を受けたアンドゥリル社にも最初の支援を提供した。

一方、スペースX社の評価額は今月3500億ドル(約52兆5000億円)に達し、世界最大の民間スタートアップとなった。また、オープンAI社は2015年の設立以来、評価額が1570億ドル(約23兆5500億円)に高騰している。

どの企業も、政府の国防予算の一角をつかもうとしている。スペースX社とパランティア社は20年前から大規模な公的契約を獲得しているが、政府調達の経験が浅い企業もある。オープンAI社は今年、利用規約を更新し、自社のAIツールを軍事目的に使用することを明確に禁止しなくなった。

アメリカの国防調達は、ロッキード・マーティン社、レイセオン社、ボーイング社といった数十年の歴史を持つ少数の元請請負企業に有利で、時間がかかり、反競争的だと長い間批判されてきた。これらの巨大コングロマリットは通常、コストが高く、設計と製造に何年もかかる艦船、戦車、航空機を製造している。

シリコンヴァレーの急成長する防衛産業は、小型で安価な自律型兵器の生産を優先してきた。シリコンヴァレーの防衛産業は現代の紛争においてアメリカ同盟諸国をよりよく守ることができると主張している。

コンソーシアムの立ち上げに携わったある人物は、「国防総省の技術的優先事項を実行(execute the technical priorities of the Department of Defense)」し、「重要なソフトウェア能力の問題を解決(olve critical software capability problems)」するために、「産業界の足並みを揃える(aligning industry)」と説明している。

コンソーシアムに参加すると予想される技術グループ間の提携については既に合意されており、統合作業は直ちに開始される予定だ。

クラウドベースのデータ処理を提供するパランティア社の「AIプラットフォーム(AI Platform)」は今月、アンドゥリル社の自律型ソフトウェア「ラティス(Lattice)」と統合され、国家安全保障目的のAIを提供した。

同様に、アンドゥリル社はドローン防衛システムとオープンAI社の高度なAIモデルを組み合わせ、「空中からの脅威(aerial threats)」に関連するアメリカ政府との契約に共同で取り組んだ。

このパートナーシップに関するアンドゥリル社とオープンAI社の共同声明は、「アメリカ国防総省と情報機関が、世界で利用可能な最も先進的で効果的かつ安全なAI駆動技術を利用できるようにすることを目指す」と述べている。

アンドゥリル社、オープンAI社、スケールAI社は、コンソーシアムの創設についてコメントを拒否した。パランティア社、スペースX社、サロニック社はコメントの要請に応じなかった。

=====

●「シリコンバレーと決別した天才起業家、パルマー・ラッキーの現在」

フォーブス誌 2022年6月24日

Jeremy Bogaisky | Forbes Staff

https://forbesjapan.com/articles/detail/48340

https://forbesjapan.com/articles/detail/48340/page2

2014年にVR(仮想現実)テクノロジーを開発する「オキュラス・リフト(Oculus Rift)」をフェイスブックに30億ドルで売却したパルマー・ラッキー(29)は今、軍事テクノロジーのスタートアップ「アンドゥリル・インダストリーズ(Anduril Industries)」の創業者として注目を集めている。

2017年設立の同社は、これまで累計18億ドルを調達しており、フォーブスは現在のラッキーの保有資産を、フェイスブックから得た大金と合わせて14億ドル(約1830億円)と推定している。しかし、アンドゥリルは間もなく評価額80億ドルで、新たな調達を行うと報じられており、そうなれば、ラッキーの保有資産はさらに膨らむことになる。

かつてVRの神童と呼ばれた彼は、9月に30歳になる。

アンドゥリルは米移民税関捜査局(ICE)に、ドローンの映像とセンサーから得たデータで国境警備を行う「ヴァーチャル・ボーダー・ウォール」と呼ばれるシステムを提供している。これは、地上の赤外線センサーが捉えた映像を、ラティス(Lattice)と呼ばれる人工知能(AI)プログラムで分析し、適切な対応を行うシステムだ。

不審な動きを検知した場合はまず、Ghost(ゴースト)と呼ばれる監視用のドローンが飛び立ち、上空から詳細を把握する。フォーブスが確認したデモで、同社のシステムは不審なトラックから降りてきた男が、発射したドローンが中国製のDJI P4であることを突き止め、即座に攻撃用ドローンのAnvil(アンビル)を急行させ、DJI製ドローンを地上に叩き落とした。

「当社の攻撃用ドローンは、とんでもない速さで敵のドローンを撃墜する」と、自身のトレードマークであるアロハシャツを着たラッキーは話した。

今から8年前の彼はVR業界を率いる若き天才起業家として、フォーブスの表紙を飾るなど、多くのマスコミの注目を集めていた。しかし、2016年の大統領選挙でドナルド・トランプを支持したことをめぐる騒動の中で、彼はフェイスブックから解雇された。

■シリコンバレーとの決別

それから間もなく、ピーター・ティールらと組んで防衛関係のスタートアップを設立した彼は、左寄りのシリコンバレーに、きっぱりと分かれを告げた。アンドゥリルは、サンディエゴの米軍基地に近いカリフォルニア州のコスタメサに本社を構えている。

自身を批判する友人たちと別れたラッキーは今、自分が正しかったと感じているという。アンドゥリルは、ウクライナにもシステムを提供しており、一部の人々は彼に謝罪を申し出た。「彼らは今になってようやく、米国がより良い武器を持つことが、実はとても大事なことだと気づいたと」と彼は話した。

昨年の収益が推定15000万ドルのアンドゥリルは、国防総省が欲しがると思う武器や監視システムのニーズを先取りして、自社でそれを開発している。

「我々は、ペンタゴンが何かを必要とするとき、真っ先に思いつくような会社になりたい」と、ラッキーは話す。

アンドゥリルはまた、2019年に買収したゲームスタジオCarbon Gamesのソフトを改良して、複雑なシミュレーションツールを構築した。このツールは、国防総省に戦いのシミュレーションを行わせるもので、VRゴーグルと通常のスクリーンの両方で表示可能な「もしも」のシナリオを何千回も高速で実行することが可能だ。

■ホームスクールで育った天才

学校には通わずに、母親の指導のもとでホームスクールの教育を受けたラッキーは、父親の車の修理を手伝ったときにエンジニアリングに目覚めたという。カリフォルニア州ロングビーチの自宅ガレージで彼は、高出力レーザーや、電磁石を使ったコイルガンなどを製作し、10代半ばで古いゲーム機に最新の電子回路を搭載して、持ち運びができるように改良した。

ゲームへの関心はやがて、VRに移っていった。ソフトウェアで画像を操作すれば、高価で重い光学系を安価で持ち運びが可能なツールできることに気づいたラッキーは、弱冠16歳でVRヘッドセット「Oculus Rift」を開発。それがマーク・ザッカーバーグの目に留まり、2014年にフェイスブックに買収された。

その後、軍事関連のスタートアップのアイデアを思いついたラッキーは、取締役のピーター・ティールと、国防総省の最大の弱点がソフトウェアであるという意見で意気投合したという。

そして、2017年にフェイスブックを追放されたラッキーが、ティールが経営するパランティア(Palantir)の関係者と立ち上げたのがアンドゥリルだ。パランティアは、ラッキーを国防総省のハードウェア担当者として送り込む計画を立てた。

「エンジニアたちは、いつも刺激的なアイデアを提示するラッキーのことを気に入っている」と、元パランティア社員で現在はアンドゥリルの会長を務めるトレイ・スティーブンス(Trae Stephens)は話す。若く創造力あふれる彼は、ときに周囲を混乱させてしまうが、脇を固めるベテランたちが、暴走を防ぐ役割を果たしている。「彼は、誰かが適切にチャンネルを合わせてやれば、とんでもない力を発揮する」とスティーブンスは話した。

創業間もないアンドゥリルが税関・国境警備隊(CBP)に売り込んだのが、国境を違法に横断する人や車両を自動的に検出し、担当者たちを日常的なパトロール業務から解放するシステムだ。2020年に、CBPはアンドゥリルと最大25000万ドルの契約を締結し、今年2月現在で、メキシコとの国境の176の監視塔にそのシステムを配備している。

■数百億ドル規模の受注

同社は今年1月には、米特殊作戦司令部のドローン防衛を担当する契約を獲得し、10年間で10億ドル近い収益を見込んでいる。さらに大きなチャンスと呼べるのは、国防総省が導入を検討中の、すべての監視システムと兵器システムを統合して戦場を一望するためのシステムだ。このプログラムはJADC2Joint All Domain Command and Control)と呼ばれ、パランティアやシースリー・エーアイ(C3 AI)などの大手が数百億ドル規模の受注を争っている。

アンドゥリルは、同社のAIシステムがそれを成し遂げられると考えている。2020年に行われた空軍の試験で、同社のAIは飛来する巡航ミサイルを検知し、F-16やパラディン榴弾砲など複数の兵器システムに標的データを自動的に送って、ミサイルを破壊することに成功した。驚くべきことに、このシステムはたった一人の飛行士でそのミッションを成功させた。

昨年9月まで空軍の最高ソフトウェア責任者だったニコラス・チャイヤンは、「アンドゥリルのチームは間違いなくトップレベルだ」と断言する。チャイヤンは、統合参謀本部のサイロ化した組織が、JADC2のプロジェクトを破滅させるかもしれないと警告した後に、空軍を辞めていた。

しかし、仮にJADC2の契約を獲得できなかったとしても、ラッキーはさほど気にしないと述べている。すでに獲得済みの契約に加えて、アンドゥリルにはベンチャーキャピタルからの潤沢な資金がある。

「国防省が今考えるべきは、次のパルマー・ラッキーをどうやって見つけるかだ。19歳のときの私のように優れた技術と優れたアイデアを持つ人物を、彼らは探さなければならない。今のところ、そのあては全く見当たらないのだから」と、ラッキーは話した。

(貼り付け終わり)

(終わり)
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『トランプの電撃作戦』
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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 古村治彦です。

※2025年3月25日に最新刊『トランプの電撃作戦』(秀和システム)が発売になります。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
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 民主党の反主流派である進歩主義派グループのスター議員であるバーニー・サンダース連邦上院議員とアレクサンドリア・オカシオ=コルテス(AOC)連邦下院議員が一緒になって、「寡頭政治と戦う」というキャンペーンを行っている。AOCはサンダースの大統領選挙民主党予備選挙の手伝いから政治に関心を持ち、地元のヴェテラン議員を破って連邦下院議員になった。AOCは鮮烈なデビューを飾った。このことは、このブログでかなり早い時期にご紹介している。

 サンダースとAOCは、金持ちが政治に影響を与えていることを批判し、その矛先はドナルド・トランプとイーロン・マスクに向かっている。しかし、彼らがまずやるべきは、民主党のホワイトハウス、連邦上下両院での敗北を総括することだ。トリプルレッド状態に何故至ってしまったのかということを反省することだ。最大の反省点は、民主党が労働者たちを見捨てたことだ。そして、民主党こそが金も経ちの党になっていることだ。

 生活が苦しい労働者たちの望む政策ではなく、高尚な、イデオロギーに偏った政策を民主党は実行してきた。民主党はもともと貧しい人、労働者、マイノリティの党であった。しかし、その支持基盤を彼らは見捨てたのだ。そのために、2024年の選挙で大惨敗を喫した。

 サンダースとAOCは、そのことを分かっているだろう。下の記事にあるように、サンダースはキャンペーンを通じて、「無所属の立候補者を増やす」という目的を語っている。「民主党から優秀な政治家を生み出す」ということを述べてはいない。これは、サンダースが民主党に何の期待もしていないということを示している。

 サンダースとAOCはイーロン・マスクを標的にして批判を展開している。マスクが社会保障を「史上最大のネズミ講」と呼んだことを批判している。確かに社会保障は人々にとってのセーフティネットだ。従って、きちんと機能しなければならない。それでは、これだけ人々の不満が募っているのは何故なのかということを考えねばならない。負担と受益のバランスが悪すぎるということは世界各地で起きていることだと考えられる。負担が増える人たちは将来、自分たちが受益者になるときに現在の水準の維持は不可能だという絶望を持っている。一方で、現在の受益者たちは「逃げ切った」「負担よりも受益が多い」ということを自慢げに語る。このような状態を生み出した社会保障政策を主導してきた民主党こそが反省すべき点が多々あると考えられる。

 民主党はリベラルの本筋が離れている。そのことに人々が不満を持っているのだ。そのことが分からずに、ただトランプとマスクを攻撃したところで、民主党の支持が回復するということはない。

(貼り付けはじめ)

オカシオ=コルテスとサンダースが初の共同集会でマスクを攻撃(Ocasio-Cortez, Sanders take aim at Musk in first joint rally

ジャレッド・ギャンズ筆

2025年3月20日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/campaign/5206479-ocasio-cortez-sanders-take-aim-at-musk-in-first-joint-rally/

アレクサンドリア・オカシオ=コルテス(AOC)連邦下院議員(ニューヨーク州選出、民主党)とバーニー・サンダース連邦上院議員(ヴァーモント州選出、無所属)は、今週行っているツアーでの最初の共同集会で、イーロン・マスクへの批判に狙いを合わせた。

進歩主義派の連邦議員たちは、サンダースが全国を回って展開している、「寡頭政治と戦う(Fighting Oligarchy)」ツアーの一環として、木曜日にラスヴェガスに集合した。ネヴァダ州選出のスティーブン・ホースフォード連邦下院議員(民主党)も木曜日のイヴェントに出席した。

オカシオ=コルテスは、マスクのような国内の富裕な人々が、裕福なアメリカ人への追加減税を可能にするために、メディケイドや社会保障(Social Security)などのプログラムを標的にしていると主張した。

オカシオ=コルテスは「私たちがここにいるのは、極端な権力集中と腐敗(an extreme concentration of power and corruption)がかつてないほどこの国を支配しているからだ」と発言した。

オカシオ=コルテスは、アメリカでは寡頭政治が定着しつつあり、最も経済的、政治的、技術的権力を持つ人々が「公共の利益を破壊して自分たち自身を豊かにし、何百万人ものアメリカ人がその代償を払っている(destroy the public good to enrich themselves while millions of Americans pay the price)」と主張した。彼女は特にマスクを名指しした。

連邦政府の規模を縮小し、連邦政府機関全体で大量解雇を実行するトランプ政権の取り組みの顔であるマスクは、連邦政府における詐欺と浪費(fraud and waste in the federal government)を追及したいと繰り返し述べている。

社会保障は、何百万人もの受給者と申請者に事務所への訪問を義務付けている

しかし、マスクの発言の一部と連邦議会の共和党所属の議員たちの行動は、ドナルド・トランプ大統領がこれらのプログラムへの潜在的な削減に関する懸念を和らげようと繰り返し努めているにもかかわらず、社会保障、メディケア、メディケイドへの削減が行われるかもしれないという懸念を煽っている。

マスク氏は社会保障を「史上最大のネズミ講(biggest Ponzi scheme of all time)」と呼び、最近は社会保障のような給付制度(entitlement programs)で詐欺(fraud)が蔓延していると示唆した。

トランプは社会保障、メディケア、メディケイドを削減しないと繰り返し述べているが、亡くなった数千万人が社会保障給付を受けていると何度も虚偽の主張をしている。

一方、連邦下院共和党が承認した予算決議では、メディケイドを監督する下院エネルギー・商務委員会に対し、管轄下のプログラムで少なくとも8800億ドルの削減を行うことを求めている。

オカシオ=コルテスは、現在の政治システムは脅威に対応する能力がなく、むしろ政治における金銭の影響を通じて脅威の発生を許していると述べた。しかし、人々は一致協力して反撃できると彼女は主張した。

オカシオ=コルテスは、議会が政府を閉鎖しないために可決した継続決議(連邦上院民主党の支持を得て可決)に言及したが、この決議は一部の連邦プログラムの予算を削減した。彼女は、ホースフォード議員とジャッキー・ローゼン連邦上院議員(ネヴァダ州選出、民主党)が法案に反対票を投じたことを称賛した。

AOCは、「労働者階級のために闘う勇気を持った彼らのような人々がもっと必要だ」と述べた。

サンダースは、経済的に恵まれた人々と、深刻な所得格差(deep income inequality)に苦しむ大多数の人々の2つの異なるアメリカ(two different Americas)が存在すると主張した。彼は「寡頭政治の強欲(greed of the oligarchy)」を今日のアメリカにおける「最悪の追加(worst addition)」と呼んだ。

サンダースは次のように述べている。「彼らはヘロイン中毒患者のようなものだ。彼らはお金をもっともっともっとと必要としている。そして彼らが望むものを手に入れるために社会保障やメディケイドを破壊することでできるならば、彼らはそうするだろう」。

彼は、削減対象となっているプログラムは家族にとって「死活的に(desperately)」必要であると述べた。彼はまた、木曜日にトランプが教育省を解体しようとした動きを非難し、ペルグラント(連邦政府が運営する返済不要の奨学金)受給者が資金を得るのが難しくなる一方で、学校に費用がかかり、障害のある子供たちが受けていた支援を失うことになると主張した。

サンダースは次のように語った。「今後数週間、数カ月間の私たちの仕事は、トランプをあらゆる面で支持するだけでなく、より多くのことを行うことだ。それは、私たちの国が向かうべき方向についてのヴィジョンを持つことだ」。

オカシオ=コルテスとサンダースは、ラスヴェガスでの訪問に加え、木曜日遅くと日曜日にアリゾナ州、金曜日にコロラド州を訪問する予定だ。
=====
サンダース:「オカシオ=コルテスとのツアーはより多くの無所属の立候補者の立候補を促すことが目的だ」(Sanders: Tour with Ocasio-Cortez meant to encourage more independent candidates

タラ・スーター筆

2025年3月20日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/campaign/5205894-sanders-tour-with-ocasio-cortez-meant-to-encourage-more-independent-candidates/

バーニー・サンダース連邦上院議員(ヴァーモント州選出、無所属)は、『ニューヨーク・タイムズ』紙の木曜日の報道で、アレクサンドリア・オカシオ=コルテス連邦下院議員(ニューヨーク州選出、民主党)とのツアーは、より多くの無所属候補の立候補を促すことが目的であると述べた。

サンダースはニューヨーク・タイムズに対して「このツアーの目的の1つは、人々を結集させて政治プロセスに参加させ、民主党以外の無所属として立候補させることだ」と語った。

サンダースは続けて「この国には草の根レベルで素晴らしい指導者たちがたくさんいる。私たちはそうした指導者たちを前面に押し出さねばならない。そして、それができれば、トランプ主義(Trumpism)を打ち負かし、アメリカの政治状況を変えることができる」と発言した。

サンダースとオカシオ=コルテスのインスタグラム投稿によると、2人の政治家は木曜日にラスヴェガスとアリゾナ州テンピ、金曜日にコロラド州グリーリーとデンバー、土曜日にアリゾナ州ツーソンに立ち寄る予定だ。

サンダースは火曜日、ソーシャルプラットフォームのXの投稿に投稿し、次のように述べた。「今週は、アレクサンドリア・オカシオ=コルテス(@AOC)、グレッグ・カザール(@GregCasar)、スティーブン・ホースフォード(@StevenHorsford)と一緒にネヴァダ州、アリゾナ州、コロラド州に向かい、労働者階級のアメリカ人とタウンホールミーティングを開催する。私たちは協力して、権威主義と寡頭政治(authoritarianism and oligarchy)との戦いに強く立ち向かう。皆さんも参加して欲しい」。

サンダースの発言は、トランプ大統領とその政権とどう戦うかをめぐって民主党内で混乱が起きている中で出されたもので、先週、共和党が作成した予算法案を、党内の多くの激しい反対にもかかわらず、連邦上院の民主党所属議員の少人数のグループが賛成したことで、特に不満が高まった。

サンダースはニューヨーク・タイムズに対して次のように語った。「民主党に希望があるとすれば、手を差し伸べる必要があるということだ。扉を開いて労働者階級の人々を党に入れ、労働者階級の指導者たちを党に迎え入れる必要がある。そうしなければ、この国中で、無所属で立候補する人が出てくるだろうと思う」。

本誌は民主党全国委員会とホワイトハウスにコメントを求めた。

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 古村治彦です。

 2025年3月25日に最新刊『トランプの電撃作戦』(秀和システム)が発売になる。2025年1月20日に発足した第二次ドナルド・トランプ政権、アメリカと世界の動きを網羅的に分析している。断片的な情報に惑わされない、トランプ政権の本質と世界構造の大きな変化について的確に分析ができたと考えているが、読者の皆様のご判断をいただければ幸いだ。
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 以下にまえがき、目次、あとがきを掲載している。参考にしていただき、是非手に取ってお読みください。
『トランプの電撃作戦』著者近影trumpdengekisakusenharuhikofurumura001


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まえがき 古村治彦(ふるむらはるひこ)

 2025年1月20日、第2次ドナルド・トランプ政権が発足した。トランプ大統領は就任直後から異例のスピードで、次々と施策を発表し、実行している。注目を集めているのは、イーロン・マスクが率いる政府効率化省(せいふこうりつかしょう)だ。政府効率化省のスタッフたちは各政府機関に乗り込んで、人事や予算の情報を集め、調査している。そして、米国国際開発庁(USAID)については、マスクの進言もあり、閉鎖が決定された。日本では聞き慣れない、米国国際開発庁という政府機関の名前が日本でも連日報道されるようになった。その他、トランプ政権の動きは、日本のメディアでも連日報道されている。

 第2次トランプ政権の一気呵成(いっきかせい)、電光石火(でんこうせっか)の動きは、米連邦政府と官僚たちに対する「電撃作戦 Blitzkrieg(ブリッツクリーク)」と呼ぶべき攻撃だ。電撃作戦、電撃戦とは、第2次世界大戦中のドイツ軍が採用した、機動性の高い戦力の集中運用で、短期間で勝負を決する戦法だ。トランプとマスク率いる政府効率化省は、相手に反撃する隙を与えないように、短期間で勝負を決しようとしている。

アメリカではこれまで、新政権発足後から100日間は、「新婚期間、ハネムーン期間 honeymoon 」と呼ばれ、あまり大きな動きはないが、支持率は高い状態が続くという、少しのんびりとした、エンジンをアイドリングする期間ということになっていた。しかし、第2次トランプ政権のスピード感に、アメリカ国民と世界中の人々が驚き、翻弄(ほんろう)されている。人々は、トランプ大統領が次に何をするかを知りたがっている。政権発足直後に、これほどの注目を集めた政権はこれまでなかっただろう。

 1月20日以降、メディアや世論調査の各社が、ドナルド・トランプ大統領の職務遂行支持率 job approval ratings(ジョブ・アプルーヴァル・レイティングス)を調査し、結果発表を行っている。アメリカの政治情報サイト「リアルクリアポリティックス」で各社の数字を見ることができるが、2月に入って、支持が不支持を上回り、支持率が伸びていることが分かる。世論調査会社「ラスムッセン・レポート社」が2月9日から13日にかけて実施した世論調査の結果では、トランプ大統領の仕事ぶりの支持率が54%、不支持率は44%だった。トランプの電撃作戦について、アメリカ国民は驚きをもって迎え、そして、支持するようになっている。

「トランプが大統領になって何が起きるか」ということを昨年11月の大統領選挙直後から質問されることが多くなった。私は「私たちが唯一予測できることはトランプが予測不可能であることだ The only thing we can predict is that Trump is unpredictable. 」という、海外の記事でよく使われるフレーズを使ってはっきり答えないようにしていた。ずるい答えで、申し訳ないと思っていたが、トランプ政権がスタートして見なければ分からないと考えていた。

 私は、第2次トランプ政権の方向性について見当をつけるために、昨年の大統領選挙前後から第2次トランプ政権発足直後の数週間まで、アメリカ政治を観察 observation(オブザヴェイション) してきた。洪水のような情報の流れに身を置きながら、トランプの発言やアメリカでの記事を分析した。そして、大統領就任式での演説(素晴らしい内容だった)を聞き、それ以降の動きを見ながら、確信を得たことを本書にまとめた。内容については、読んでいただく読者の皆さんの判定を受けたいと思う。

 本書の構成は以下の通りだ。第1章では、ドナルド・トランプと、テック産業の風雲児であり、トランプを支持してきたイーロン・マスクとピーター・ティールの関係を中心にして、アメリカにおける「新・軍産複合体」づくりの最新の動きを見ていく。ピーター・ティールの存在がなければ、トランプの出現と台頭はなかったということが分かってもらえると思う。

 第2章では、第2次トランプ政権の主要閣僚について解説する。第2次トランプ政権の柱となる政策分野を中心に、閣僚たちの分析を行っている。閣僚たちのバックグラウンドや考え方を改めて分析し、どのような動きを行うかについて分析する。外交関係の閣僚たちは第4章で取り上げる。

 第3章では、2024年の大統領選挙について改めて振り返り、トランプの勝因とジョー・バイデンとカマラ・ハリス、民主党の敗因について分析する。また、次の2028年の大統領選挙にトランプ大統領は立候補できないので、誰が候補者になるかを現状入手できる情報を基にして予測する。

 第4章では、第2次トランプ政権の発足で、アメリカの外交政策はどうなるかについて分析した。ウクライナ戦争、イスラエル・ハマス紛争を中心とする中東情勢、北朝鮮関係について分析する。また、第2次トランプ政権の外交政策の基本は「モンロー主義」であることを明らかにする。

 第5章では、世界全体の大きな構造変化について分析する。アメリカを中心とする「西側諸国 the West(ジ・ウエスト)」対 中国とロシアを中心とする「西側以外の国々 he Rest(ザ・レスト)」の構図、脱ドル化の動き、新興大国の動き、米中関係のキーマンの動きを取り上げている。アメリカの世界からの撤退がこれから進む中で、日本はどのように行動すべきかについても合わせて考えている。

 本書を読んで、読者の皆さんが第2次トランプ政権について理解ができて、戸惑いや不安を減らすことに貢献できるならば、著者としてこれ以上の喜びはない。

2025年2月

古村治彦(ふるむらはるひこ)

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『トランプの電撃作戦』◆目次

まえがき 1

第1章 ピーター・ティールとイーロン・マスクに利用される第2次トランプ政権

●新・軍産複合体づくりを進める2人が支えた132年ぶりの返り咲き大統領 18

●トランプ陣営においてわずか3カ月で最側近の地位を得たイーロン・マスク 24

●第1次トランプ政権誕生に尽力し、影響力を持ったピーター・ティール 28

●第1次トランプ政権で「官僚制の打破」と「規制の撤廃」を求めたピーター・ティール 36

●第2次ドナルド・トランプ政権の人事に影響力を持つ世界一の大富豪イーロン・マスク 40

●トランプを昔から支えてきた側近グループからは嫌われるイーロン・マスク 42

●2010年代から進んでいたティールとマスクの「新・軍産複合体」づくりの動き 46

●選挙後に「トランプ銘柄」と目されたパランティア社、スペースX社、アンドゥリル社の株価が高騰 50

●パルマー・ラッキーという聞き慣れない起業家の名前が出てきたが重要な存在になるようだ 56

●パランティア・テクノロジーズとアンドゥリル社が主導する企業コンソーシアム 59

●21世紀の軍拡競争によってティールとマスクは莫大な利益を得る 64

第2章 第2次ドナルド・トランプ政権は「アメリカ・ファースト」政権となる

●忠誠心の高い人物で固めた閣僚人事 68

●「アメリカ・ファースト」は「アメリカ国内優先」という意味であることを繰り返し強調する 70

●「常識」が基本になるトランプ政権が「社会を作り変える」政策を転換する 72

●40歳で副大統領になったJ・D・ヴァンスはトランプの「後継者」 75

●厳しい家庭環境から這い上がったヴァンス 76

●ピーター・ティールがヴァンスを育て、政界進出へ強力に後押しした 80

●政府効率化省を率いると発表されたイーロン・マスクとヴィヴェック・ラマスワミの共通点もまたピーター・ティール 83

●第2次トランプ政権は国境の守りを固めることを最優先 90

●国防長官のピート・ヘグセスの仕事は国境防衛とアメリカ軍幹部の粛清 96

●「以前の偉大さを取り戻すために関税引き上げと減税を行う」と主張するハワード・ラトニック商務長官 99

●トランプに忠誠を誓うスコット・ベセント財務長官は減税と関税を支持してきた 105

●トランプ大統領は石油増産を最優先するエネルギー政策を推進する 109

●トランプの石油増産というエネルギー政策のキーマンとなるのはダグ・バーガム内務長官 112

●ロバート・F・ケネディ・ジュニアの厚生長官指名でビッグファーマとの対決 116

●「アメリカを再び健康に」で「医原病」に対処する 117

●ジョン・F・ケネディ大統領暗殺事件関連文書の公開はCIAとの取引材料になる 120

●トゥルシー・ギャバードの国家情報長官指名と国家情報長官経験者のジョン・ラトクリフのCIA長官指名 122

●第2次トランプ政権にアメリカ・ファースト政策研究所出身者が多く入った 127

●「裏切り者、失敗者の巣窟」と非難されるアメリカ・ファースト政策研究所 128

●第2次トランプ政権で進めようとしているのは「維新」だ 135

第3章 トランプ大統領返り咲きはどうやって実現できたのか

●共和党「トリプル・レッド」の圧倒的優位状態の誕生 140

●トランプ当選を「的中させた」経緯 142

●アメリカの有権者の不満をキャッチしたトランプ、それができなかったバイデンとハリス 149

●バイデンからハリスへの大統領選挙候補交代は不安材料だらけだった 156

●「自分だったら勝っていただろう」と任期の最後になって言い出したバイデン 161

●カリフォルニア州を含むアメリカ西部出身者で、これまで民主党大統領選挙候補になれた人はいないというジンクスは破られず 164

●アメリカ国内の分裂がより際立つようになっている 168

●2028年の大統領選挙の候補者たちに注目が集まる 173

第4章 トランプの大統領復帰によって世界情勢は小康状態に向かう

●対外政策も「アメリカ・ファースト」 188

●「終わらせた戦争によっても成功を測る」「私たちが決して巻き込まれない戦争」というトランプの言葉 195

●第2次トランプ政権の外交政策を担当する人物たちを見ていく 197

●トランプ大統領の返り咲きによってウクライナ戦争停戦の機運が高まる 202

●ロシアのプーティン大統領に対しては硬軟両方で揺さぶりをかけている 206

●トランプの出現で一気に小康状態に向かった中東情勢 210

●スキャンダルを抱えるネタニヤフはトランプからの圧力に耐えきれずに停戦に合意した 212

●北朝鮮に対しても働きかけを行う 216

●トランプ率いるアメリカは「モンロー主義」へ回帰する―― カナダ、グリーンランド、パナマを「欲しがる」理由 220

●トランプは「タリフマン(関税男)」を自称し、関税を政策の柱に据える 226

●日本に対しても厳しい要求が突きつけられる 229

●日本にとって「外交の多様化」こそが重要だ 236

第5章 トランプ率いるアメリカから離れ、ヨーロッパはロシアに、アジアは中国に接近する

●「ヤルタ2・0」が再始動 240

●参加国の増加もあり影響力を高めるBRICS 244

●「脱ドル化」の流れを何としても止めたいアメリカ 249

●グローバルサウスの大国としてさらに存在感を増すインドネシア 253

●サウジアラビアは脱ドル化を睨み中国にシフトしながらもアメリカとの関係を継続 257

●宇宙開発やAIで続く米中軍拡競争 260

●キッシンジャーは最後の論文で米中AI軍拡競争を憂慮していた 263

●キッシンジャー最後の論文の共著者となったグレアム・アリソンとはどんな人物か 267

●ヘンリー・キッシンジャーの教え子であるグレアム・アリソンが中国最高指導部と会談を持つ意味 269

●トランプが進めるアメリカ一極の世界支配の終焉によってユーラシアに奇妙な団結が生まれるだろう 273

●トランプ大統領返り咲きは日本がアメリカとの関係を真剣に考え直すきっかけになる 275

あとがき 279

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あとがき 古村治彦(ふるむらはるひこ)

 昨年(2024年)、アメリカ大統領選挙が進む中で、私の周りで、「トランプさんはおかしい人だから、何をするか分からない」ということを言う人たちが多くいた。「トランプは狂人 madman(マッドマン)だから、核戦争を引き起こす可能性が高い」というような扇動(せんどう)的な記事がインターネットに出ていたこともある。本書を読んで、こうした考えは誤りだということに気づいてもらえたと思う。

 ドナルド・トランプは合理的(利益のために最短のルートを選ぶことができる)で、めちゃくちゃなことをやるのではなく、そこには意味や理由がきちんと存在する。トランプ政権で大きな影響力を持つイーロン・マスクについてもそうだ。合理性を追求するあまりに、常識や慣例に縛られないので、結果として、非常識な行動をしているように多くの人たちに見られてしまうが、中身を見れば極めて常識的だ。本書で取り上げたように、トランプ、マスクの裏にはピーター・ティールが控えている。ピーター・ティールもまた同種の人間だ。彼らは自己利益を追求しながら、アメリカに大変革(だいへんかく)をもたらそうとしている。

  トランプは、激しい言葉遣いや予想もつかない行動、常人には思いつかないアイディアを駆使して、相手に「自分(トランプ)は常人(じょうじん」とは違う狂人(きょうじん)で、予測不可能だ」と思わせ、相手を不安と恐怖に陥れて、交渉などを有利に進める方法を採る。これを「狂人理論 madman theory(マッドマン・セオリー)」と呼ぶ。トランプはこの方法を使って、現在、アメリカ国内と世界中の人々を翻弄している。しかし、トランプのこれまでの行動を見れば、必要以上に恐れることはないということが分かる。「狂人理論」を使う人間は本当の狂人ではない。トランプの交渉術だと分かっていれば、落ち着いて対処でき、落としどころを見つけることができる。トランプは、「有言実行 walk the talk(ウォーク・ザ・トーク)」の人物であるが、自身の言葉に過度に縛られず、取引を行う柔軟性を持つ。この点がトランプの強さだ。

本書で見てきたように、トランプ返り咲きによって、世界は小康状態 lull(ロル)に向かう。大きな戦争は停戦となる。実際にイスラエル・ガザ紛争は停戦となり、ウクライナ戦争も停戦に向かう動きになっている。これだけでもトランプの功績は大きい。トランプは、大統領就任式の演説で述べたように、「終わらせた戦争」「(アメリカが)巻き込まれない戦争」によって評価されることになる。同時に、しかし、アメリカの製造業回帰、高関税は世界経済にマイナスの影響をもたらすことになる。これから、そのマイナスをどのように軽減するかについて、取ディール引が行われることになる。日本にも厳しい要求が突きつけられることになるだろうが、トランプを「正しく」恐れながら、落ち着いて対処することが必要だ。

 そのためには、トランプ政権が行う施策や行動の根本に何があるかということを理解しておく必要がある。そうでなければ、表面上の言葉や行動に驚き、翻弄され、おろおろするだけになってしまう。私は、本書を通じて、第2次トランプ政権の行動の基本、原理原則を明らかにできたといういささかの自負を持っている。

 本書は2024年12月から準備を始め、2025年1月から本格的に執筆を始めた。2025年1月20日のトランプ大統領の就任式以降の、怒濤(どとう)のような激しい動きを取り入れて、可能な限りアップデイトしたが、皆さんのお手許に届く頃には古くなっているところもあるだろう。あらかじめご寛恕をお願いする。

 これからの4年間は、第2次トランプ政権が何を成し遂げ、何に失敗するかを、そして、世界構造が大きく変化する様子を目撃する刺激的な4年間となる。

最後に、師である副そえじまたかひこ島隆彦先生には、現在のアメリカ政治状況分析に関し、情報と助言をいただいたことに感謝申し上げます。秀和システムの小笠原豊樹編集長には本書刊行の過程を通じて大変お世話になりました。記して感謝します。

2025年2月

古村治彦(ふるむらはるひこ)

 

(貼り付け終わり)

(終わり
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