古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

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2025年04月

 古村治彦です。

※2025年3月25日に最新刊『トランプの電撃作戦』(秀和システム)が発売になります。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
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ドナルド・トランプ大統領による高関税(相互関税)の発表があり、その最大の標的が中国であるという状況になっている。145%という法外な関税(1万円の商品の場合には、1万4500円の関税がかけられ2万4500円になる)が中国に対して課されると発表され、中国は対抗措置として対米関税を125%にまで引き上げた。その後、トランプ大統領は高関税を引き下げる意向を示しているが、中国は強気の姿勢を崩さず、譲歩を強いられる交渉には応じないと予想される。

 こうした中で、「中国は自由貿易を守る旗手だ」「中国経済はアメリカの高関税を乗り越える」という主張も出ている。市場や国際社会の評価も中国にとってプラスの内容になっている。しかし、下記論稿の著者スコット・ケネディは、中国経済のマイナス要素をいくつか指摘している。中国は新型コロナウイルスの影響で深刻な経済危機に見舞われ、多くの都市住民が厳しいロックダウンに直面した。政府のゼロコロナ政策から期待された経済回復は失敗し、国内経済は依然として困難を抱えている。家庭の貯蓄が増え、出産を控える傾向が強まる中、中国政府の政策に対する不満も高まっている。国際的に見ても、投資家たちが中国市場への信頼感が揺らいでいると強調している。

ところが、2025年には状況が一変し、中国の経済が立ち直りつつある兆しが見えるとスコット・ケネディは指摘している。この変化は、政府が経済問題を認識し刺激策を発表したことや新技術の開発によって可能になったものだとケネディは主張している。

中国国内では、経済成長の期待が高まり、特に電気自動車や半導体分野での需要が急増している。国際的なビジネス界でも、アメリカの貿易政策の変化によって中国への不信感が高まっていた状況は、今では中国の経済回復期待に変わりつつあるとケネディは主張している。

最終的に、アメリカの政治の動向が中国の指導者に新たな影響を及ぼしており、トランプの行動は中国に安定要素を提供していると見られる。アメリカの政治体制そのものに対する信頼感は低下しており、中国の指導者たちはこの状況を利用できる。

 トランプ大統領はアメリカが世界覇権国であることを辞めるために時代によって生み出された人物である。戦後世界体制を軍事と経済で支えてきたアメリカはその負担に耐えられず、その役割を終えようとしている。この大きな構造変化は世界に大きな影響を及ぼす。アメリカは強いドルによって生み出された膨大な貿易赤字と財政赤字を何とかしたい。そのために、連邦政府の規模を縮小し、高関税によってドル安誘導でアメリカ人の生活を引き締めようとしている。しかし、それで節約できるとしてもたかが知れている。最も手っ取り早いが、最も劇薬であるのが、アメリカ国債の踏み倒しである。「もう借金は払わない」と言ってしまえば、世界経済は大混乱になり、「世界一安全な資産」を世界一保有している日本は大変なことになる。しかし、トランプとアメリカにとってみれば、「これまでさんざん世話をしてやっただろう、そのコストだ」と言って平然と日本を裏切るだろう。それくらいの最悪のシナリオを考えておかねばならない。そして、日本はアメリカから少しずつでも離れて、中国との関係を改善しておくことが重要だ。

(貼り付けはじめ)

北京がトランプ大統領を打ち破れると考える理由(Why Beijing Thinks It Can Beat Trump

-中国のエリート層は自国の体制に新たな自信を抱いている。

スコット・ケネディ筆

2025年4月10日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2025/04/10/trump-china-tariffs-trade-war/?tpcc=recirc062921

これは歴史上最も短期間で終わる革命かもしれない。ドナルド・トランプ米大統領が、最恵国待遇(most-favored-nation status)と内国民待遇(national treatment)に基づく世界貿易システムを、個別に交渉された二国間協定に置き換える計画の一環として、世界各国にいわゆる相互関税(reciprocal tariffs)を課してからわずか1週間後、彼は事実上この実験を中止した。確かに、ほぼ全ての国に10%の関税が課されており、自動車、鉄鋼、アルミニウムへの高関税も依然として課されているが、これらはおそらく上限であり、これらの障壁が動く唯一の方向は下がるしかない。

もちろん、唯一の例外は中国だ。中国は(常に強調しなければならないが)、本稿執筆時点で、貿易相手国への標準関税(he standard tariffs on trading partners)、トランプ大統領の最初の任期中に課されジョー・バイデン大統領によって維持された懲罰的関税(the penal tariffs imposed during Trump’s first term and left in place by President Joe Biden)、フェンタニル関連製品への20%の関税(the 20 percent on fentanyl-related goods)、そして、4月9日に発表された追加関税(the duties announced on April 9)を含めると、アメリカから約150%の関税に直面している。

トランプ大統領のファンは、これは北京を標的に絞るための隠された計画だと言う。また、市場が暴落し、企業がショック状態に陥った後、退路を断つための面目を保つための転換だと見る人もいるだろう。いずれにせよ、中国が無傷で済むのは、トランプ大統領がまたすぐに突然のUターンをしない限り難しいようだ。アメリカは、金融制裁や留学生などの渡航の全面禁止など、自らに大きな負担はかかるものの、更に多くの痛みを課すことができる。中国が世界経済と社会から切り離されること(A China cut off from the global economy and society)で、経済的、政治的、地政学的に甚大な問題に直面することになる。

こうした危険性にもかかわらず、中国政府は現状維持(to stand its ground)しか選択肢がないと考えているように思われ、指導部は自分たちだけが譲歩を求められるような交渉には応じないだろう。更に言えば、私が最近中国やその他の地域を訪れた際に感じたのは、中国国内および国際社会が中国のシステムの回復性と強さ(resilience and strengths)について、より幅広く、そしてやや肯定的に再評価し始めていることである。

2022年末から2024年末にかけて中国を訪れた際、私は中国があらゆる面で苦闘しているのを目の当たりにした。新型コロナウイルス感染症のパンデミックが続いた最後の数カ月は、多くの都市で住民が息苦しいロックダウンに直面し、数十万人、いや数百万人が重症を負ったり、命を落としたりするなど、深い傷跡を残した。政府のゼロコロナ政策の終了に伴い期待されていた経済回復は、急速に消え去った。経済成長を活性化させようと、電気自動車、バッテリー、医療機器、ロボット工学などの新たな製造施設に巨額の資本が投入されたが、国内消費はそれに追いつかず、需給ギャップが拡大し、工場の門前では深刻なデフレが続いた。

パンデミックによる不安、住宅市場の崩壊、そして脆弱な社会保障網により、世帯は予防的貯蓄を拡大し、若い夫婦は出産を控える傾向にあり、人口動態の問題は悪化した。より広範な政治的緊縮政策(the broader political tightening)と国家安全保障への重点化も国民感情に悪影響を及ぼした。消費者信頼感指標(indicators for consumer confidence)は2022年初頭に急落し、それ以降ほとんど変動していない。

その結果、この時期、中国人の間では、なぜ中国指導部が問題の深刻さを認めず、成長促進に必要な措置を講じようとしないのかという議論が盛んに行われた。その根拠として、国のトップに上り詰めるまでの苦難に関する正確な情報が不足していること、賢明な統治計画を持たない弱いチームであること、経済よりも安全保障を優先していること、あるいは指導部が先進技術(プロパガンダで「新生産力(new productive forces)」と呼ばれるもの)を最も重要な成長の原動力として重視することに熱心に取り組んでいることなどが挙げられた。

こうした国内の不安は、中国国外にも反映されていた。2023年初頭、JPモルガンがマイアミで開催した数千人の機関投資家向けカンファレンスでは、「中国は投資可能か?(Is China investible?)」が中心的な議論となった。ゼロコロナの終焉は新たな機会を意味すると主張する人がいる一方で、サプライチェインの脆弱性や民間部門への取り締まりを、投資を控える理由として強調する人もおり、意見の一致はなかった。

1年後、同じ会議でコンセンサスを得た答えは「ノー」だった。国際投資家たちは、中国の短期的な環境と長期的な軌道について、数々の懸念を表明した。多くの投資家たちが保有ポジションを売却し、資金を他の場所、特にアメリカに再配分したと述べています。

2025年まで時を早送りすると、中国国内のムードは、そして多くの外部の観測者からも、明らかに明るくなっている。その一因は、最近の国内情勢にある。第一に、昨年9月に指導部が深刻な経済課題を認め、大規模な景気刺激策を発表したことだ。その詳細は今年3月に明らかになった。第二に、ディープシーク(DeepSeek)の画期的な大規模言語モデルが発表された。これは、中国のイノヴェーターがアメリカ主導の技術規制を回避する方法を見つけることができたことを示唆している。

2025年3月に中国で行われた企業幹部との協議では、参加者たちは景気後退の最悪期は過ぎ去り、新たな成長の兆しが見え始めていると示唆した。ある自動車メーカー幹部は、EVモデルの需要が予想をはるかに上回るペースで伸びており、海外生産拠点の開設計画を前倒しすると述べた。

アメリカから制裁を受けている半導体企業の幹部は、西側諸国の装置サプライヤーからのサーヴィス支援がない状況下で、生産効率と品質が向上したと述べた。安堵のため息をつく時だと述べる者は誰もおらず、政策を発表することと実際に成果を出すことの間には大きな隔たりがあることを強調した。ある幹部は、民間企業が国有企業と比較して融資に支払う金利が依然として高いことを強調した。とはいえ、過去数年間の暗雲は消え去った。

国際的なビジネス界でも同様の変化が見られた。マイアミで開催されたJPモルガンの2025年初頭版カンファレンス(および他の場所で行われた同様のカンファレンス)では、投資家たちはもはや中国指導部の失策とされる行動について不満を漏らすことはなかった。その代わりに、彼らは「景気刺激策はどの程度の規模になるのか?(How big will the stimulus be?”)」と「景気刺激策はいつ成長加速につながるのか?(When will the stimulus translate into faster growth?)」という2つの質問を繰り返した。

毎年3月に北京で開催される中国開発フォーラム(the China Development Forum)では、欧米諸国の主要多国籍企業と中国の指導者が一堂に会し、次々と企業幹部が中国への新規投資計画を披露した。

中国の政策変更や技術革新がムードの変動の一因となっているものの、信頼回復の最も重要な源泉は、12タイムゾーン離れたワシントンにある。2025年第1四半期、北京、上海、ニューヨーク、マイアミなど、どこで開催されても、会議のたびに最大の話題はトランプ大統領だった。ほぼ全ての会話は、彼の政策に対する当惑といったものだった。

最も憂慮すべきことは、状況がこれほどまでに異なるにもかかわらず、多くの人が、促されることもなく、今日のアメリカを、1966年から1976年にかけての文化大革命(the 1966-76 Cultural Revolution)の時期の中国と比較していることだ。文化大革命は、中国が苦難の時代における政治的な類推(analogy、アナロジー)としてよく用いるものであり、西側諸国の一部の人々にとってナチス・ドイツがそうであるのと同じだ。しかし、アメリカ政府の行動は、アメリカで働いたり学んだりした経験を持つ中国人観察者たちを真に驚かせた。

私が中国で話した多くの人々は、自国における顕著な問題である政府の無駄遣いを削減し、汚職を減らす必要性を理解していると述べた。しかし、専門者たちは、イーロン・マスク率いる政府効率化省が、次々と無計画に政府機関を解体し、数万人の公務員を解雇する動きを主導している理由に、何度も困惑していた。米中科学技術協力の可能性を議論する会合で、ある中国政策専門家は、基礎科学研究、気候、医療、宇宙など、様々な分野におけるアメリカ政府機関や大学への予算削減リストを聞いた後、驚きの表情でこう問いかけた。「アメリカ政府は科学を信じているのだろうか?(Does the U.S. government even believe in science anymore?)」。

メディア、弁護士、そして裁判所への攻撃に、人々は多くの機会で衝撃を受けた。ある専門家は、自分と友人たちは中国で最も親米的な人々の1人であり、中国で学び、米国企業で働いたことを誇りに思っていると述べた。しかし、彼らが知る中国は目の前で変化しているように見え、もはや子供たちを中国に住ませたり、勉強させたりすることは考えられない、と付け加えた。

アメリカ国内の行動に対する困惑と同じくらい広まっていたのが、アメリカの貿易政策と外交政策の根本的な変化に対する困惑だった。トランプ大統領が自ら宣言した「解放記念日(Liberation Day)」の2週間足らず前、フェンタニル関連の関税が課された後に行われた議論において、中国人は、アメリカがなぜアメリカと世界に多大な繁栄をもたらしてきた多国間貿易体制(the multilateral trading system)を解体しようとするのか理解できなかった。アメリカが関税を利用して製造業の生産と雇用を劇的に回復させることができるという考えは、全くの空想だとみなされた。また、アメリカが同盟諸国を見捨てて、ウラジーミル・プーティン率いるロシアを支持する理由を疑問視する人もいた。

これらの発言の重要性は、それが正しいかどうかとは大きく関係ない。むしろ、アメリカにおける政府の無能さと社会の分断と見なされるものに対する広範な認識は、中国人が自国の現在と未来を再評価するための、目に見えない鏡となっているのだ。

現実には、中国の指導者の多くは極めてイデオロギー的であり、汚職は蔓延し、政治的粛清は依然として行われ、情報は統制され、科学者(物理学者と社会科学者の両方)は知的自由に対する大きな障壁に直面し、市場に対する不公平な規制が蔓延し、産業政策(industrial policy)は外国企業を著しく不利な立場に置いている。これらは全て、中国の発展の見通しと他国との関係を脅かしている。しかし、2025年のアメリカのレンズを通して見ると、中国のシステムは異なる視点から見える。

体制支持派のナショナリストにとって、トランプはまさに贈り物だ。彼の非自由主義的な方向転換は、アメリカが中国の政治体制に対するイデオロギー的な挑戦を放棄したことを意味する。更に、トランプがアメリカの統治機関、経済、そして同盟関係を弱体化させることは、「中国を再び偉大な国にする(making China great again)」ことを意味する。そして、多国間貿易体制(the multilateral trading system)への攻撃は、中国がアメリカに対する責任ある統治者として見られることをはるかに容易にする。

多くの無政治の中国人にとって、今日の中国や多くの具体的な政策には熱意がない。しかし、それと比較すると、中国は比較的安定しており、予測可能である(predictable)と感じており、彼らは自らの体制とそれを支持する世界の中で生きることに最低限の満足感を抱いている。

長年アメリカを称賛してきたリベラルな中国人にとって、ワシントンのトランプ的な転換は深い悲しみをもたらす。彼らにとって、アメリカはまさに「丘の上の灯台(light on a hill)」であり「烽火(beacon)」であった。2008年の世界金融危機において、アメリカは自由市場に対する中国の信頼を損なった。2025年、政治的内紛(political infighting)により、アメリカは自国の政治体制の信用を失墜させつつある。こうした憂鬱の帰結は、人々の諦め(resignation)である。この中国人にとって、解放記念日は正反対の感情に違いない。

今後数週間、数ヶ月の間、トランプが全面的な貿易戦争宣戦布告(full-scale declaration of trade war)を撤回したとしても、北京とワシントンの対立は予測不可能な展開を続けるだろう。米中両国には経済的な強みと弱みがあり、互いに相手の弱点を狙う可能性がある。両国はアジア、ヨーロッパ、アフリカ、そしてラテンアメリカ諸国を取り込み、相手を出し抜き、孤立させようと画策するだろう。これから多くのドラマが繰り広げられるだろう。

しかし、中国やその他の地域での私の会話から、皮肉にも2つの確かなことが浮かび上がってくる。第一に、北京の決意が新たになっていることを考えると、トランプ政権が1月20日に中国から得られなかった譲歩を今後数ヶ月で引き出せる可能性はほぼゼロだ。エスカレーション(escalation)、瀬戸際政策(brinksmanship)、そして不安定さ(volatility)は、途方もない時間の無駄になるだろう。

そして第二に、どちらが相手方の経済を弱体化させるのに効果的か、あるいは交渉の場でどちらが相手を出し抜くかに関わらず、少なくとも今のところは、真のシステム競争は終わった。祝賀ムードであろうと哀悼ムードであろうと、ほとんどの中国人にとって、トランプの赤いネクタイは白旗なのだ(Whether in celebration or mourning, to most Chinese, Trump’s red tie is a white flag)。

※スコット・ケネディ:戦略国際問題研究所上級研究員、中国ビジネス・経済学部門評議委員長。

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(終わり)
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『トランプの電撃作戦』
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世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

※2025年3月25日に最新刊『トランプの電撃作戦』(秀和システム)が発売になります。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
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 今回は、国際関係論の泰斗、ハーヴァード大学教授のスティーヴン・M・ウォルトによる、国際関係論の理論を使っての第2次ドナルド・トランプ政権の分析を行っている論稿をご紹介する。ウォルトによると、2つの理論で説明できるということで、1つの理論は「力の均衡・脅威理論(balance-of-power/threat theory)」、もう1つは「
the theory of collective goods)」だ。

脅威の均衡理論の論理は単純明快で、中央権力のない世界では、ある国家が強くなりすぎると、その国家が利用可能な権力をどのように使うか不透明なため、全ての国家が懸念を持つ傾向がある。弱小国は強国を牽制し、攻撃される場合には団結して抵抗しようとする。特に、近隣に悪意を持つ強国が存在する場合、バランスをとる必要性は強まる。

この理論は、アメリカが第二次世界大戦以来、世界最強の経済・軍事大国であったにもかかわらず、ほとんどの国がアメリカとバランスを取るよりも協調することを選んできたという異常事態を説明する。多くの国々は、近隣の危険な国々に対抗するためにアメリカと協力し、冷戦時代の同盟体制が崩壊する結果となった。アメリカは、他国から脅威視されていないため、強力なバランシング連合には直面しなかった。

アメリカの地理的な位置は依然として大きな資産だが、トランプ政権の好戦的なアプローチは前例のないもので、アメリカのパートナー諸国は信頼が揺らいでいる。トランプが新たな脅威を持って現れたことで、他の国々は次に標的になるのではと懸念している。特に、トランプによる大胆な行動が他国の指導者たちを結束させ、トランプの政策に抵抗する動きを生んでいる。 カナダの政治家がトランプに対抗するための会議を提案したり、中東の政府がトランプの提案を拒否したりすることは、トランプの外交政策が新たな抵抗を引き起こしている証拠である。アメリカの外交政策には、大きな変化が生じており、他国が取るべき対応策や、アメリカとの関係を再評価する必要性が増大している。短期的には譲歩を得られるかもしれないが、トランプのアプローチは長期的には裏目に出て、アメリカのライヴァル諸国に新たなチャンスを与える可能性がある。

集合財理論(the theory of collective goods)が作用するには、協調行動と代償を払う意志が不可欠であり、他国がまったくの無策でいることが許される訳ではない。特に政治的に緊張している国々には、バランスを取ることが難しい。

アメリカの力を行使するには一定の自制心が求められるが、トランプ政権にはその意識が欠けている。約束を守り、他国を尊重することがなければ、外交政策の影響力は衰えてしまう。アメリカは個別に譲歩して他国を引き離すことができ、それゆえにアメリカの立場は揺らいでいる。アメリカの強力な武器が存在することは明らかだが、強硬な外交手段がどのような帰結をもたらすかは、これからの課題である。威圧や罰の手段によって、他国との関係は悪化し、アメリカの影響力は減少する恐れがある。現在、我々が目にしているのは、今後の国際政治がどのように変化していくのかを示す重要な分岐点である。

 これら2つの理論を用いての分析は、アメリカがこれまでの役割を放棄し、世界各国にとっての不安定要素や脅威となるために、アメリカに対して対抗するために世界各国がまとまるという未来図を提示している。アメリカは成果の警察官であることを辞め(これはバラク・オバマ政権からの動きであるが)、西半球にこもろうとしている。これは、アメリカの国是である「モンロー主義」への回帰である。こうした大きな動きによって、アメリカへの信頼は低下し、世界各国は大変化に備えるために、協調して行動することになる。これは、最新刊『トランプの電撃作戦』(秀和システム)で分析した通りだ。世界は大きな構造変化によって大変化を迎える。私たちはそうした世界史でも稀有な時代に際会していることになる。

(貼り付けはじめ)

国際関係論の理論が予測するトランプ2.0の内容(What IR Theory Predicts About Trump 2.0

-米大統領の外交政策革命(foreign-policy revolution)に関する学術的評価はこうなる。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2025年2月3日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2025/02/03/ir-theory-trump-balance-power/

私は誓う。今週はドナルド・トランプ米大統領以外の話題を書くつもりだったが、ホワイトハウスから噴出する悪質な政策の嵐を無視することはできない。重要な事柄について書くべきであり、世界最強国の外交政策はまさにその1つだ。特に、それが突如として広範囲に及ぶ奇怪な事態へと突入する時はなおさらだ。従って、トランプ政権が実行しようとしている外交政策の革命に焦点を当て続けることをどうか許して欲しい。

重要な問題は、トランプによる関税課税、世界保健機関(the World Health OrganizationWHO)からの脱退、そしてその他最近の取り組みがアメリカ国民の生活にどのような影響を与えるかということだ。そして、その答えの一部は、トランプによる強引な威圧と脅迫の試み(Trump’s heavy-handed attempts to browbeat and bully them)に、世界がどう反応するかにかかっている。まずは、最も親密な同盟諸国から。この問題については数週間前にも書いたが、今日は、その根底にあるより広範な概念的・理論的な問題について考察したいと思う。

私が見たように、ここにあるのは、世界の仕組みに関する対立理論の衝突(a clash of rival theories about how the world works)である。1つは、私の古くからの友人である「力の均衡・脅威理論(balance-of-power/threat theory)」であり、もう1つは「集合財理論(the theory of collective goods)」である。どちらの視点も、世界がどのように機能しているのか、その仕組みについて重要なことを教えてくれる。ここで起きる疑問は、今起こりそうなことについて、どちらが最も明確な洞察を与えてくれるかだ。

脅威の均衡理論から始めよう。その論理は単純明快だ。中央権力のない世界では、ある国家が強くなりすぎると、その国家が自由に使える権力をどのように使うか分からないため、全ての国家が懸念する傾向がある。その結果、弱小国は力を合わせて強国を牽制し、強国が弱小国を征服・支配しようとすれば打ち負かそうとする傾向が強くなる。強い国が近くにある場合、他国を征服することを主目的としていると思われる強力な軍隊を持っている場合、特に悪意を持っていると思われる場合、バランスを取る傾向は強まる。

とりわけ、この理論は、世界政治における顕著かつ永続的な異常事態(a striking and enduring anomaly)を説明するのに役立つ。アメリカは第二次世界大戦以来、世界最強の経済・軍事大国であったが、世界の大国や中堅国のほとんどは、アメリカとバランスを取る(balance against it)よりも、アメリカと協調する(to align with it)ことを好んだ。彼らは、アメリカのバンドワゴンに飛び乗る[jumping on the U.S. bandwagon](すなわち、ワシントンをなだめるために同調する[aligning with Washington in order to appease it])のではなく、彼らのすぐ隣にあり、危険な野望を抱いていると思われる国々(ソ連など)に対して、アメリカとバランスを取っていたのである。その結果、アメリカの冷戦同盟体制は崩壊した。 アメリカの冷戦時代の同盟システムは、モスクワと同盟を結ぶ様々なパートナーよりも常に豊かで、軍事的に強く、影響力があった。

アメリカは、その巨大な力にもかかわらず、同等に強力なバランシング連合(an equally powerful balancing coalition)に直面したことがない。これは、他の主要な世界大国から地理的に離れていることも一因だが、カナダなどの近隣諸国を含む多くの主要諸国がアメリカを特に脅威とは見なしていなかったことも一因である。この状況は、アメリカが単独で世界大国の頂点に立ち、他国がその影響力を抑制するためにもっと努力するはずだった一極化時代(the unipolar era)にも続いた。「ソフト・バランシング(soft balancing)」を試みる、ささやかな試みもあったが、ほとんどは中東の「抵抗枢軸(Axis of Resistance)」のような比較的弱いアクター群の間で行われた。アメリカの同盟諸国は、しばしばアメリカの判断力に疑問を呈し、アメリカの政策が意図せず自国に損害を与えるのではないかと懸念していたが(2003年のイラク侵攻は、こうした懸念が正しかったことを裏付けた)、全体としては依然としてアメリカを深刻な脅威ではなく、有用なパートナーと見なしていた。アメリカの優位性(U.S. primacy)は、民主党政権と共和党政権の両方がNATOのような多国間機関を通じて大きな影響力を行使し、同盟諸国の指導者たちにワシントンの要求に応じるよう圧力をかけているときでさえ、一般的に敬意を持って接していたため、容認可能でもあった。

もちろん、アメリカの地理的な位置は変わらず、依然として大きな資産だ。しかし、カナダやデンマークといった伝統的に親米的な国々に対するトランプ政権の好戦的なアプローチは前例のないものだ。アメリカのパートナー諸国は、アメリカがもはや信頼できないのではないかと懸念しているだけでなく(トランプはルールなど無意味だと考えており、火曜日に何かを約束して金曜日に撤回することに何の抵抗も感じないため)、アメリカが積極的に悪意を持っているのではないかとも懸念している。トランプ大統領がパナマ運河の奪還(retake the Panama Canal)、グリーンランドの征服(conquer Greenland)、カナダを51番目の州にする(make Canada the 51st state)と脅迫すれば、既存の条約の内容やパナマ、デンマーク、グリーンランドの人々がそれについてどう思っているかに関わらず、全ての国が次は自分たちかもしれないと懸念してしまうことになる。

脅威均衡理論(balance-of-threat theory)が予測するように、これらの国々の指導者の一部は既に、トランプの危険な政策に抵抗するための協調的な取り組みを提唱している。先週、カナダのクリスティア・フリーランド元財務大臣(ジャスティン・トルドー首相の後任として自由党党首に就任することを目指している)は、トランプの関税と主権侵害への共同対応策を策定するため、メキシコ、パナマ、カナダ、ヨーロッパ連合(European UnionEU)の首脳会議の開催を求めた。カナダのホッケーのファンたちがアメリカ国家「星条旗(The Star-Spangled Banner)」の演奏にブーイングをしたのは(今週末のように)、何か深刻な問題があることを意味している。エジプト、ヨルダン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、カタール、パレスティナ自治政府、アラブ連盟は、ガザ地区とヨルダン川西岸地区からパレスティナ人を民族浄化する(to ethnically cleanse)という、トランプの提案を断固として拒否する共同声明を発表した。トランプが現在の路線を継続するならば、こうした動きは必然的に拡大し、一部の国々は、たとえワシントンに対する影響力を高めるためであっても、北京の支援を求めることになるだろう。

これは米国の外交政策における大きな変化(a sea change)であり、アメリカとその主要な大国であるライヴァル諸国との間に認識される差異を必然的に狭めることになる。アメリカのアジアのパートナー諸国は、地域のパワー・バランス(power balance、力の均衡)を懸念し、その維持にアメリカが協力することを望んでいるため、ワシントンと協力することを熱望してきた(アメリカの指導者たちを満足させるために、政策の一部を調整してきた)。しかし、アメリカがロシアや中国のように振る舞い始め、新たな貿易戦争の脅威(threatening new trade wars)を与え続ければ、ワシントンと緊密に結びついていることの利点は薄れていくだろう。アメリカに追従することに慣れている国々は、アメリカの気まぐれから自国を守るためにヘッジをかけ、他の戦略を模索するだろう。

まとめると、世界政治のより永続的で強力な理論の1つは、トランプ大統領の外交政策への急進的なアプローチが裏目に出ることを示唆している。短期的には多少の譲歩(concessions)を勝ち取るかもしれないが、長期的には世界的な抵抗が強まり、アメリカのライヴァル諸国にとっては新たなチャンスとなるだろう。

しかし、ここで集合財理論が作用し、それは逆の方向を指し示している。アメリカの力を抑制するには、協調行動(coordinated action)と、反対に伴うコストを負う意図(a willingness to bear the costs of opposition)が必要だ。他国をトランプに対抗させるには時間がかかり、一部の政府はただ乗りして、誰かが大変な仕事をしてくれることを期待する誘惑に駆られるだろう。このような状況下では、アメリカは分割統治(divide-and-conquer)を行い、個別に譲歩することで一部の州を引き離そうとする可能性がある。バランスの取れた連合を組織することの難しさは、特に政治体制自体が緊張状態にある国々にとっては、決して軽視すべきではない。そして、トランプがまさにそれを当てにしている。

しかし、特記すべき点がある。世界を「不均衡(off-balance)」な状態に維持するには、アメリカの力を選択的に行使し、相当の自制心を持つことが求められる。それは、より弱い国々やそれらの指導者たちを屈辱させる機会を常に探そうとしないことである。他国は、アメリカが約束を守ること、そして合意や譲歩が新たな要求を招くだけではないこと(Washington will keep its promises and that cutting a deal or making a concession won’t simply invite new demands)を確信しなければならない。残念ながら、自制心(restraint)を発揮し、約束を守り、他者を尊重することは、トランプの戦略には含まれていなかった。そして、彼が公務員を骨抜きにする一方で、任命した有能な人材は、アメリカの外交政策が巧みに遂行される可能性をさらに低くしている。

アメリカ合衆国が強力な武器(a mailed fist)を持っていることは誰も疑わない。しかし、そのヴェルヴェットの手袋を脱いだ時に何が起こるのか、我々はこれから発見することになる。リアリストたちが何十年も警告してきたように、そして過去の侵略者たちの行動が私たちに思い出させてくれるように、他国を威圧し罰するために強硬な外交手段を用いる国家は、最終的には当初のバランスへの抵抗や集団行動の障害を乗り越え、友好国は減り、敵は増え、影響力ははるかに弱まることになる。アメリカ合衆国が最も近い隣国や多くの長年のパートナーを永久に疎外するなど考えられなかったが、まさに今、我々はその方向に向かっている。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。ブルースカイ・アカウント:: @stephenwalt.bsky.socialXアカウント:@stephenwalt

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(終わり)
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『トランプの電撃作戦』
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世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

※2025年3月25日に最新刊『トランプの電撃作戦』(秀和システム)が発売になります。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
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 今回は、興味深い論稿をご紹介する。民主党系のストラティジストが書いた文章で、内容は、イーロン・マスクが行っている政府効率化(連邦政府職員の削減、連邦政府機関の一部の閉鎖、予算の削減)がトランプと支持者たちを離間させるというものだ。 

論稿の著者ブラッド・バノンは「マスクはトランプのスケープゴートにされる可能性がある。民主党は、トランプを弱体化させることが最終目標であり、マスクを攻撃することではないと認識すべきである」と主張している。失業保険や生活保護など、連邦政府の予算が入っている福祉制度や労働対策制度を利用している低所得者層にとって、連邦政府の予算削減は生活に直結する大問題だ。

これまでにブログで何度も書いているが、トランプは、アメリカの貧乏白人、白人労働者たちの支持を受けて、彼らの代表として、既存の政治を壊すためにワシントンにやって来ている。貧しい白人、白人労働者たちが望んでいるのは、雇用であり、働かせてくれさえすれば、そして、生活できるだけの給料を保証してくれれば、福祉に頼ることなく、自分で生活を立て直すという考えを持っている。

 彼らの考えはもっともで素晴らしい。しかし、実態は厳しいだろう。トランプ政権下の4年間でどれだけの雇用が、一度、製造業が去ってしまった地域に戻るだろうか。しかも、彼らが望むだけの賃金となると、どうしても競争力は限定されてしまう。そうなると、彼らもまた我慢を強いられる。自分たちの思い通りにはいかないし、福祉に頼るということも続くことになるだろう。

 以下の論稿で重要なのは、後半の以下の記述だ。「マスクを嫌うバノンは私だけではない。トランプの大統領顧問を務めたスティーヴ・バノン(私とは血縁関係はない)は、長年の堅固なトランプ支持ポピュリスト勢力(the old diehard Trump populists)と、マスクを中心とするトランプ・ワールドの新たな有力企業勢力(the new dominant corporate wing of Trump World)との間で、MAGA内戦が勃発すると警告している。バノンはこれを、トランプ連合内の億万長者と労働者階級の勢力間の戦い(a battle between the billionaire and working-class elements within the Trump coalition)だと表現した」。

 既に、日本でも報道されているように、政権内部には不協和音が起きつつある。最新刊『トランプの電撃作戦』(秀和システム)でも、政権内の不協和音、衝突については触れているが、より鮮明になっているようだ。私は違和感を覚えていたが、それが「長年の堅固なトランプ支持ポピュリスト勢力(the old diehard Trump populists)と、マスクを中心とするトランプ・ワールドの新たな有力企業勢力(the new dominant corporate wing of Trump World)」という形で言語化されている。トランプ政権はポピュリズム政権であるが、大富豪であるイーロン・マスク、そして、ピーター・ティールが支えていることの違和感はあった。これが顕在化しつつある。

 トランプという巨大な存在によって、そうした不協和音を抑えることができるだろうが、それがいつまで続くだろうかということは私の最新の興味関心ということになる。

(貼り付けはじめ)

マスクは民主党がトランプを労働者階級の支持層から引き離すために必要な楔となるかもしれない(Musk may be the wedge Democrats need to separate Trump from his working-class base

ブラッド・バノン筆

2025年2月23日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/opinion/5158364-elons-musk-vs-trump-division/

イーロン・マスクはメディアの注目を独占している。この状況が続く限り、彼にはそれを楽しんでいて欲しい。マスクはトランプ大統領の影を薄くし始めており、トランプのようなナルシストが長く我慢するはずがない。

木曜日、クールなサングラスをかけ、チェーンソーを振り回すマスクは、今年のCPAC保守派会議の主役だった。FOXニューズのショーン・ハニティとの共同インタヴューでは、トランプを圧倒した。トランプが脇役に甘んじていた最近の大統領執務室での会合の報道では、マスクと息子が中心人物だった。カルヴィン・クーリッジがネイティヴ・アメリカンの頭飾りを身につけて以来、最悪の大統領写真撮影の機会だった(意識が高ぶっていることを許して欲しい)。

マスクはフレッド・アステアの真似を精一杯やっている。重力に逆らって天井で踊っている。この綱渡りは、彼の失墜が更に悲惨なものになることを意味するだけだ。

2週間前に『エコノミスト』誌が実施した全国世論調査によれば、トランプ大統領は既に不人気であり、人命が失われる数が増えるにつれ、事態はさらに悪化するだろうことは間違いない。

トランプの支持率も、2度目の就任以来低下している。彼に対するネガティヴな評価が警戒すべきレヴェルにまで達すれば(そして必ずそうなるだろう)、脚光を浴びることを好むこの大企業経営者であるマスクは大統領のスケープゴート(scapegoat)にされるだろう。トランプの元側近の多くと同様に、彼も使い捨てられる存在だ(He is disposable like so many of Trump’s former associates)。民主党は、私たちの最終目標は大統領を弱体化させることであり、マスクを弱体化させることではないことを忘れてはならない(Democrats must remember that weakening the president, not Musk, is our ultimate goal)。マスクがトランプの意のままに動いているのであって、その逆ではないことを明確にすべきだ(We should make it clear that Musk is doing Trump’s bidding and not the other way around)。

国民の60%以上は、マスクがトランプに大きな影響力を持っていると考えているものの、マスクにそう望んでいるのはアメリカ人の5人に1人だけだ。共和党員の3人に1人でさえ、この大企業経営者マスクは大統領に過大な影響力を持っていると考えている。

トランプは、マスク、Metaのマーク・ザッカーバーグ、Amazonの『ワシントン・ポスト』紙のジェフ・ベゾスといった超富裕層のテック業界の巨人たちと肩を並べている。ワシントン・ポストで最近起きた騒動は、トランプの企業カルテルがいかに集中的な権力を持っているかを如実に示している。公益団体コモン・コーズは、マスクを批判するラップアラウンド広告を一面、裏面、そして中面1ページに掲載することを提案した。しかし、注文を受けた後、ワシントン・ポストは尻込みして広告掲載を断った。ワシントン・ポストのモットーは、「ワシントン・ポストで民主政治体制は闇の中で死ぬ(Democracy Dies in Darkness at the Washington Post)」に変更されるべきだ。

ワシントン・ポストが広告掲載を拒否したことは、言論の自由に対する明白かつ差し迫った脅威だ。また、トランプ、マスク、ベゾスが、機能不全に陥ったアメリカ民主政治体制の心臓部に血液を送り込む情報動脈(the information arteries)を、いかに強大に締め上げているかを如実に示している。

マスクは世界で最も富裕な人物の1人、いや、最も裕福な人物と言えるだろう。彼は政府効率化省をリードする頭脳(the brain behind the Department of Government Efficiency)だ。彼の冷酷な指揮下で在宅医療や学校給食を失う貧しいアメリカ国民のことを、彼には気遣う理由など存在しない。効率化をあえて追求するあまり、彼は大切なものを駄目にし()throw the baby out with the bathwater、何百万人もの人々に奉仕する連邦政府機関を丸ごと潰そうとしている。彼の執拗な追求には、政府撲滅省(the Department of Government Eradication)というより適切な名称がふさわしいだろう。そして、彼が直属する大統領の真の目的はまさに政府の撲滅なのだ。

最近、政府効率化省(DOGE)は移民・関税執行局(the Immigration and Customs Enforcement Agency)で80億ドルの無駄遣いを発見したと主張した。『ニューヨーク・タイムズ』紙が調査したところ、実際の数字は800万ドルだったことが判明した。マスクが80億ドルと800万ドルの違いも分からないのであれば、他に何を間違っているだろうか? 彼は政府支出の効率化(efficiency in government spending)を担うべき人物ではない。

彼はまた、行動と言動において利益相反(conflict of interest)そのものだ。彼の巨大な企業的利益は、彼が担う重要な政府責任と真っ向から衝突している。彼のロケット会社スペースX社は連邦政府の請負業者である。

マスクを嫌うバノンは私だけではない。トランプの大統領顧問を務めたスティーヴ・バノン(私とは血縁関係はない)は、長年の堅固なトランプ支持ポピュリスト勢力(the old diehard Trump populists)と、マスクを中心とするトランプ・ワールドの新たな有力企業勢力(the new dominant corporate wing of Trump World)との間で、MAGA内戦が勃発すると警告している。バノンはこれを、トランプ連合内の億万長者と労働者階級の勢力間の戦い(a battle between the billionaire and working-class elements within the Trump coalition)だと表現した。

民主党と進歩主義派は、この分裂につけ込むことができる。苦境に立たされた労働者世帯を支援するという自らの関与を強調することで、こうした分裂をうまく利用することができる。彼らは、トランプが新政権発足初日に物価を引き下げるという、今や放棄された選挙公約を実行してくれることを期待していた。

分断統治(divide and conquer)は常に敵を倒す効果的な手段だった。私たちはMAGA内の分裂につけ込まなければならない。マスクは、トランプを労働者階級の支持層から引き離すために必要な楔(wedge)となるかもしれない。

※ブラッド・バノン:民主党の全国規模担当ストラティジストであり、民主党、労働組合、そして進歩主義的な問題団体のための世論調査を行うバノン・コミュニケーションズ・リサーチCEO。彼は、権力、政治、政策に関する人気の進歩主義派ポッドキャスト「デッドライン・DC・ウィズ・ブラッド・バノン(Deadline D.C. with Brad Bannon)」の司会者を務めている。

(貼り付け終わり)

(終わり)
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『トランプの電撃作戦』
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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 古村治彦です。

※2025年3月25日に最新刊『トランプの電撃作戦』(秀和システム)が発売になります。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
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 ドナルド・トランプには大統領としては残り4年間弱しか時間がない。そのうち、最終年はレイムダック化と呼ばれる、次はないのだからということで、人々が離れて実質的に力を失う時期があるとなると、3年間ほどしかない。2026年11月には中間選挙(連邦上院議席の一部と連邦下院の全議席の選挙)が実施され、だいたい与党側が議席を減らすので、連邦上下両院での優位も崩れるかもしれない。そうなれば、政権運営は難しくなるので、最初の2年間で勝負を決しておかねばならない。

トランプは、アメリカの抱える財政赤字と貿易赤字を何とかしようと、電撃作戦を仕掛けた。巨大な連邦政府(職員は約200万人)と巨額の連邦政府予算(約7兆ドル、約1000兆円に達する)の削減を行うために、イーロン・マスクを政府効率化省のトップに据えた。私たちは新自由主義全盛の頃に、アメリカは小さい政府で効率が良い、決定スピードが速いなどと嘘を教えられてきたが、共和党と民主党の大統領、連邦議会は、アメリカ連邦政府を巨大化させてきた。そのくせ、日本は国家予算を削り、人員を減らすことを、アメリカの手先にして売国奴、買弁の小泉純一郎や竹中平蔵に強要されてきた。話が逸れたので元に戻す。

 貿易赤字に対しては、高関税を課すことになった。関税を支払うのは、輸入する業者たちだ。そして、関税が上がった分で業者や取引業者が吸収できない分は消費者が価格の上昇ということで支払うことになる。物価上昇については、トランプ大統領はエネルギーの増産で対処しようとしているが、アメリカ政府の輸出増加を狙う、ドル安誘導で物価上昇は避けられない。アメリカ国民は、強いドルのおかげで世界中から製品を比較的安価に手に入れることができた。そして、外国に支払ったドルは、「世界で最も安全な資産」である米国債購入で、アメリカに戻るというシステムを作り上げ、借金漬けの生活を送ることが可能になった。

 トランプはそのような戦後のシステムとそれが生んだひずみを解消しようとしている。もちろん、それはうまくいかないだろう。はっきり言って、アメリカの製造業が復活するなんてことはないし、アメリカの借金が全てチャラになることはない。多少の延命になるかどうかだ。しかし、これまでの政治家たちが先送りにしてきたことを何とかしようという姿勢を見せているだけでも、アメリカ国民の評価を得るだろう。

 以下の論稿にあるように、これまでの常識で見ていけば、トランプはすぐに失敗することになるだろう。しかし、現状はこれまでとは大きく異なっている。戦後の世界構造、いや、近代600年の世界構造が大きく動揺している。その中で、時代精神、心性を体現する人物としてトランプは出現した。このことを分からなければ、右往左往するだけのことになってしまう。

(貼り付けはじめ)

これは「トランプのピーク」になるかもしれない(This Could Be ‘Peak Trump’

-彼の権力への復帰は印象的なものだが、これから困難な仕事が始まる。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2025年1月27日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2025/01/27/peak-trump-war-diplomacy-tariffs-economy/

トランプ政権の発表だけを聞いたり、これまでに業績を上げてきたジャーナリストたちによる、まるで目の前の出来事に戸惑うような(the deer-in-the-headlights)説明だけを読んだりすれば、トランプ新政権は既に抗えないほどの勢いを増大させているという結論を皆さんは持つかもしれない。トランプの君主的な野心(Trump’s monarchical pretensions)を考えると、彼は間違いなく、自分には制限がなく、抵抗は無駄だと皆に思わせたいと思っているだろう。しかし、それは事実ではない。トランプの華々しい復帰と初期の広範な取り組みを、止められない勢いだと誤解すべきではない。むしろ、後になって、この時期を振り返ったえら、トランプ的傲慢さの頂点(the highwater mark of Trumpian hubris)だったということになるだろう。大袈裟な約束をするのは簡単だが、実際に成果を上げるのは非常に困難なのだ。

もちろん、トランプの手腕を過小評価すべきではない。彼は、疑わしい事業に銀行から融資を取り付け、騙されやすい顧客に、決して実現しないものに金を支払わせることに大いに長けている。彼は、事実がどうであろうと、アメリカは絶望的な状況にあり、自分だけがそれを解決できると有権者を説得することに驚くほど長けていることを証明してきた。これは、様々な問題の責任を負わせる架空の敵(fictitious enemies)を見つけることにも同様に長けているからだ。過去の犯罪に対する処罰を逃れることにかけては並外れた技能を持っており、自身、家族、そして仲間に利益をもたらすことにも長けている。そして正直に言って、彼は疑問視されるべき正統性(orthodoxies that deserved to be questioned)、特にアメリカを不必要で失敗に終わる戦争に引きずり込む外交政策エスタブリッシュメントの傾向に、果敢に挑戦してきたことでも恩恵を受けている。

トランプが才能を発揮できていないのは、政府を運営し、首尾一貫した政策を立案し、一般のアメリカ国民に広範かつ具体的な利益をもたらすことにおいてだ。彼の最初の任期における実績は忘れてはならない。貿易赤字は改善するどころか悪化し、不法移民は大幅に減少せず、パンデミックへの対応の失敗で何千人ものアメリカ人が不必要な死を遂げ、北朝鮮は核兵器を増強し、イランはウラン濃縮を再開し、大々的に宣伝されたアブラハム合意は、2023年10月7日のハマスによるイスラエル攻撃の布石となった。彼はアメリカ・メキシコ国境に壁を建設することはなく、メキシコは費用を負担しなかった。中国は、トランプが交渉した大規模貿易協定で約束した2000億ドル相当のアメリカ製品を購入しなかった。まさに多くの勝利を得た!

今回はもっと良い結果になるだろうか? もしかしたらその可能性はある。2017年とは異なり、今回は彼には要職に忠実な側近が就いており、ホワイトハウスには有能で有能な首席補佐官(chief of staff)がいると誰もが認めるだろう。しかし、こうした強みをもってしても、トランプの政治政策に潜む深刻な矛盾(deep contradictions)や、彼が直面するであろう障害(obstacles)を解消することはできない。

それらの点を列挙してみよう。

第一に、偉大な平和調停者(a great peacemaker)として歴史に名を残したいというトランプ氏の願望と、自分の思い通りにするために相手を威圧し、武力行使で脅すという彼の根強い特長との間には、明らかな緊張関係がある。巧みな強制外交の使用(the adroit use of coercive diplomacy)は和平努力を促進することもあるが、あらゆる方向に大きな棒を振り回すトランプの特長は、どこでも通用する訳ではない。遅かれ早かれ、彼のブラフは見破られ、彼は引き下がるか、行動を起こさなければならないだろう。彼の怒りの矛先となっている相手の中には、「泥沼(quagmire)」に陥っている存在もおり、武力行使の脅しは、従わせるどころか、抵抗を強める傾向がある。彼はまた、ロシアによるウクライナ戦争と、ほぼ確実に崩壊するイスラエルとハマスの停戦という、特に厄介な2つの紛争を引き継いだ。そして、後者については24時間以内に解決できると選挙運動中に自慢していたことを、既に撤回している。

第二に、トランプの経済政策は到底納得のいくものではなく、彼は自らが表明した目標の一部を犠牲にするか、経済破綻の危機(a potential economic trainwreck)に直面することになるだろう。減税(tax cuts)の延長、関税(tariffs)の導入、そして労働者の国外追放(deporting)は、いずれも財政赤字の拡大とインフレの再燃を招く恐れがあり、トランプが得意とする予測不可能性(unpredictability)によって生じる不確実性(uncertainty)は、企業の足かせにもなるだろう。トランプと支持者たちは、規制緩和(deregulation)と「無駄な(wasteful)」支出の削減でこの矛盾は解消されると主張しているが、国防総省への支出を増やすのであれば、多くのアメリカ人が依存し支持している社会保障制度を大幅に削減しない限り、大した節約にはならない。トランプ大統領は、ジョー・バイデン前大統領から極めて健全な経済を引き継いだ。更に重要なのは、トランプ大統領が実施すると約束した政策が、この落ち込みをより悪化させるということだ。

第三に、トランプが他国(特にメキシコ)を罰すると脅すことと、反移民政策の間には明らかな矛盾がある。メキシコへの関税は、多くのアメリカの製造業が依存するサプライチェインを混乱させるだけでなく、メキシコ経済に打撃を与え、より多くの人々がリスクを無視してアメリカへの移住を試みるようになるだろう。不法移民を阻止する最良の方法は、近隣諸国を不況に陥れるのではなく、経済的に繁栄させることだが、トランプはこのことを理解しているのだろうか?

第四に、政府機関を骨抜きにし、公務員にリトマス試験を課し、不適格者や深刻な問題を抱えた人物を主要な政府機関の責任者に据えることは、不可欠な公共サーヴィスの低下を確実に招く。政府機関は政治の格好の標的だが、億万長者ではないアメリカ人は、特に緊急事態において、それらの機関が円滑に機能することを頼りにしている。公共サーヴィスが低下した場合、一般のアメリカ人は憤慨するだろうし、トランプには他に責める相手はいないはずだ。

第五に、大学やその他の知識生産組織を攻撃することは、アメリカを愚かにし、人的資本を減退させ、他の国々の追い上げを助長することになる。大学を標的にするなら、技術革新を推進し、効果的な公共政策の策定に貢献し、社会全体の幸福に貢献する将来の科学者、エンジニア、医師、芸術家、社会科学者、弁護士、その他の専門家を誰が教育することになるのだろうか? 大学、非政府組織、シンクタンクにMAGAアジェンダを押し付けることで、各国が致命的な過ちを避けるための健全な議論が阻害されてしまう。これは、アメリカのような開かれた社会が、権威主義的なライヴァル国よりも一般的に豊かで、強く、過ちを犯しにくい理由を説明するものだ。賢明な大統領なら、この優位性を手放したいと思うだろうか?

第六に、トランプ氏が政府の腐敗を全く新しいレヴェルに引き上げると信じるに足る理由は十分にある。彼は既に、金持ちでテクノロジー業界の大富豪たちからの金銭と譲歩を強要している。彼らは金銭の授受に躍起になっている。関税やその他の貿易制限を課すことで、企業は例外を求め、それを得るために金銭を投じるため、腐敗が蔓延する新たな機会が生まれる。腐敗が蔓延すると、資源は人材買収に浪費され、投資は最も優秀なイノベーターや最も有望な事業ではなく、独裁者の言いなりになる忠誠心の高い層に流れていく。開発専門家たちは、腐敗の削減と法の支配の強化が経済成長を促進すると強調しているが、トランプはアメリカを逆の方向に導こうとしているようだ。彼と彼の仲間はより豊かになるだろうが、あなたはそうならないだろう。

第七に、トランプの二期目は、ある意味で、共和党が長年追求してきたいわゆる統一された行政権の実現に向けた集大成と言えるだろう。行政権の集中(the concentration of executive power)は1世紀以上にわたり着実に進んできたが、近年の最高裁判決はこの傾向を加速させ、トランプの君主制的な本能(Trump’s monarchical instincts)を強めている。抑制されない権力の問題は、独裁者の過ちを正す術がないことだ。特に、情報環境も掌握し、自らの失策を指摘する者を排除したり、沈黙させたりできる場合、猶更だ。人間は誤りを犯す生き物であり、過ちは避けられないが、抑制されない権力を持つ指導者は、大きな過ちを犯しがちだ。ヨシフ・スターリン、毛沢東、アドルフ・ヒトラー、ベニート・ムッソリーニ、サダム・フセイン、ムアンマル・カダフィ、そして北朝鮮の金王朝が、権力を掌握し、やりたい放題になった時にどれほどの損害を与えたかを考えてみて欲しい。中国の習近平国家主席の最近の一連の失策もまた、警告となる具体例となる。

就任演説でトランプは、アメリカ合衆国を新たな「黄金時代(golden age)」へと導くと宣言した。しかし、寡頭政治家たち(oligarchs)が政治を支配し、縁故資本主義(crony capitalism)が蔓延し、政府が市民社会(civil society)の独立した機関を威圧し、嘘が政治言説の常套手段となり、宗教的教義が公共政策の主要要素を左右し、問題は常に変化する内外の「敵(enemy)」のせいにされるような国のヴィジョンとは、到底合致しない。これはアメリカ合衆国というより、ロシア、中国、あるいはイランに近い。そして、大多数のアメリカ人が本当に望んでいるのは、そのような状況ではないだろう。

良いニューズなのは、そこに到達するにはまだ道のりが長く、独裁政治(autocracy)への道には落とし穴がたくさんあるということだ。22024年11月5日のアメリカ大統領選挙以来、トランプが続けてきた勝利のラップソングは終わりを迎え、彼の突飛な公約を全て実現するという困難な仕事が始まる。特に誠実さや清廉さといった基本的規範を軽蔑する人物には嫌悪感を抱いているものの、もしトランプが私の予想を覆し、専門家の予想を覆し、アメリカをより豊かで、より団結し、より安全で、より尊敬され、より平穏な国にしてくれるなら、嬉しい驚きを感じるだろう。しかし、私はそれに賭けるつもりはない。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。Bluesky: @stephenwalt.bsky.socialXアカウント:@stephenwalt

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下記論稿の著者であるスティーヴン・M・ウォルトは2020年の大統領選挙ではジョー・バイデン、2024年の選挙ではカマラ・ハリスに投票した。トランプ支持ではない。そうした人物(しかも、国際関係論の大物学者である)から見た、ジョー・バイデン政権の外交はどうだったかということは興味をそそる話題である。論稿の中で、ウォルトはバイデン政権の外交は、「成功ではなかった」という評価をしている。

 バイデン政権の外交は、エスタブリッシュメントの意向に沿った外交となり、よく言えば、国際協調主義、悪く言えば、事なかれ主義となった。バイデン政権下における、世界の重要な出来事・事件は、やはり、ロシアによるウクライナ侵攻・ウクライナ戦争だ。ウォルトも指摘している通り、ウクライナ戦争は、アメリカと西側諸国によるロシアへの挑発が原因で、NATOの拡大とウクライナへの軍事に偏った支援(火遊び)をロシアが安全保障上の脅威に感じ、最終的に侵攻を誘発した。

バイデン政権は、戦争を短期間で終結させるための努力をせず、重要な武器、具体的には制空権を確保するための戦闘機をウクライナに供給しなかった。もっとも、アメリカがウクライナに戦闘機を供給していたら、ロシアの対アメリカ、対ヨーロッパへの出方は厳しいものとなっていただろうことは容易に推測できる。戦争がウクライナを超えてヨーロッパに拡大し、アメリカが米軍派遣にまで追い込まれ、戦争は泥沼化するということになった可能性もある。そうなれば、アメリカは大きく傷つき、中国の世界覇権国化を早めることになっただろう。結局、バイデン政権はウクライナ戦争に対処する意図も能力も持たずに、事なかれ主義で時間を経過させるだけで、ウクライナとロシアの国民の被害を拡大し、アメリカ国民の税金を無駄に注ぎ込むだけになってしまった。

 

ウクライナ戦争に次いで、世界的な出来事・事件となったのは、イスラエルとハマス間の戦争だ。イスラエルのガザ地区への攻撃になって、民間人に多数の死者が出て、地区が大きく破壊されることで、国際的な批判を招いた。バイデン政権がそうした批判に応えることなく、イスラエル支持を貫き、攻撃を継続させた。結果として、アメリカは人道を叫びながら、イスラエルには好き勝手させている、という「二枚舌」だという批判がなされ、アメリカに対する信頼を損なうことになった。

バイデン政権のウクライナや中東での政策は、アメリカの国際的地位やルールに対する信頼性に打撃となった。バイデン政権の外交は「成功ではなかった」ということになる。しかし、これは、バイデン政権だけの責任ではない。そもそも、アメリカの国力が落ちたこと、アメリカ国内政治の混乱、アメリカ国民の自分たちの生活に対する不満と不安と言ったことも要因として挙げられる。アメリカが世界の覇権国・超大国として行動することができなくなっている。これをバイデン政権だけで何とかしようとしてできるということではない。大きな構造転換に即した大きな変化が必要であり、アメリカ国民はそのためにトランプを大統領に選んだということになる。

(貼り付けはじめ)

ジョー・バイデンの外交政策最終報告書(Joe Biden’s Final Foreign-Policy Report Card

-退任するアメリカ大統領の国際的な功績を容赦なく検証する。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2025年1月14日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2025/01/14/joe-biden-final-foreign-policy-report-card-ukraine-israel-gaza-afghanistan/

私は2020年にジョー・バイデン米大統領に投票した。そして、ここの読者の皆さんもご存知の通り、昨年11月には、バイデン政権の外交政策への対応に懸念を抱きながらも、カマラ・ハリス副大統領を支持した。バイデンが国際舞台での最後の退任を迎えるにあたり、彼と彼のティームはどれほどの成果を上げたのだろうか? 当然のことながら、バイデンの最後の外交政策演説では、素晴らしい成果を挙げたと述べられていた。しかし、私の評価は大きく異なる。

最も大まかに言えば、バイデン政権は、かつてのアメリカの穏健な国際的リーダーシップの時代へと時計の針を戻そうとした。「アメリカ・ファースト」ではなく、アメリカは、台頭する独裁政治(autocracy)の波に対抗するため、他の仲間の民主政体諸国と連携し、いわゆる自由世界のリーダーを自称する、役割を再開しようとした。

大西洋を越えた友好関係(trans-Atlantic amity)は回復され、アジアにおける同盟関係は強化され、アメリカは人権といった自由主義的価値観を外交政策の「中心(center)」に据えるだろう。ワシントンは主要な国際機関を支援し、気候変動を阻止するための取り組みを主導し、イランの核開発計画の撤回に成功した合意に復帰し、中国やロシアといった大国によるライヴァルを封じ込めるために多くの同盟諸国を動員するだろう。軍事費の増額(increased military spending)と技術優位性を維持する(preserve technological supremacy)ための積極的な措置は、アメリカの優位性(U.S. primacy)を将来にわたって長期化させるだろう。

確かに、バイデンは、冷戦終結から2017年に当時のドナルド・トランプ大統領がホワイトハウスに就任するまでアメリカの外交政策を導いてきた「自由主義的な覇権(liberal hegemony)」の青写真を完全に受け入れた訳ではない。それどころか、バイデンはトランプのグローバライゼーションからの撤退を継続した。トランプの関税をそのまま維持し、輸出規制やその他の経済制裁を更に積極的に行使し、製造業の雇用を復活させる(これは実現しなかった)とともに、半導体、人工知能、その他の先端技術におけるアメリカの支配(U.S. dominance)を確保するために国家産業政策(national industrial policies)を採用した。

しかし、全体として見ると、バイデンのアプローチは、数十年にわたってアメリカの外交政策を導いてきた主流派エリートのコンセンサスにすんなりと収まっていた。それは、同じ世界観を共有する経験豊富なティームによって運営され、進歩主義派や外交政策のリアリストたちは脇に追いやられていた。

彼らはどれほどうまくやったか? 公平を期すために言えば、実績には確かにいくつかの重要な成功が含まれている。

2021年のバイデンの就任を、ヨーロッパにおけるアメリカの同盟諸国の多くは明らかに安堵感を持って迎えた。バイデンとアントニー・ブリンケン国務長官は共に筋金入りの大西洋主義者(die-hard Atlanticists)であり、彼らは迅速に行動して、アメリカがヨーロッパの同盟諸国の安全保障に引き続き確固たる関与を維持することをヨーロッパの同盟国に保証した。

もちろん、ヨーロッパの好意的な反応は驚くべきことではなかった。アメリカを事実上の第一対応国(first responder 訳者註:現場に第一に到着して対応する人)とすることは、ヨーロッパにとって非常に有利な取引だからだ。この立場は2つの点で成果を上げた。1つは、2022年にロシアがウクライナに侵攻した際に、政権が迅速な対応を調整するのに役立ったこと(下記参照)。もう1つは、インフレ抑制法やCHIPS・科学技術法といった保護主義的な側面、そして中国に対する様々な輸出規制を、これらの措置に伴うコストを承知の上で、一部の主要同盟国に受け入れるよう説得できたことだ。

バイデン政権はまた、中国の台頭に対抗するための幅広い取り組みの一環として、アジアにおけるアメリカのパートナーシップを強化したことでも評価に値する。これらの措置には、フィリピンの基地へのアクセス拡大、キャンプ・デイヴィッドでの韓国と日本の首脳の接遇(新たな三国間安全保障協定の締結につながった)、そしてオーストラリア、イギリス、アメリカ間のAUKUSイニシアティヴを通じたオーストラリアとの安全保障関係の強化などが含まれる。

バイデン政権は、いくつかの主要技術分野における中国の進出を阻止するためのアメリカの取り組みも改善したが、この取り組みの長期的な影響は依然として不透明である。また、米中関係は依然として激しい競争状態にあるものの、あからさまな対立に発展することはなく、政権は米中関係の大幅な悪化を招くことなくこれらの目標を達成したとも言える。

確かに、バイデン政権の取り組みは、中国の不利な人口動態と経済の失策(これらは北京に緊張を抑制する十分な理由を与えた)と、中国の修正主義(Chinese revisionism)に対する地域的な懸念に後押しされた。バイデン政権はアジアに向けて有意義な経済戦略を実行できなかったことで非難されるかもしれないが、国内で超党派が保護主義(protectionism)に傾倒していたことを考えると、戦略を策定するのは困難な道のりだっただろう。

最後に、バイデンは、アフガニスタンにおけるアメリカの無益な戦争を終わらせるという、勇気ある、そして私の考えでは正しい決断をしたにもかかわらず、不当に批判された。アフガニスタン政府は、アメリカが撤退を選べばいつ崩壊するか分からない、いわば砂上の楼閣(a house of cards)のような存在だったため、撤退は悲惨な結果に終わる運命にあった。更に言えば、駐留期間が長引いたとしても、結果は大きく変わらなかっただろう。

バイデンは短期的には政治的な代償を払ったが、彼の決断は2024年までにほぼ忘れ去られ、先の選挙ではほとんど影響を与えられなかった。アメリカが撤退して以来、アフガニスタンで起きた出来事を喜ぶべき人は誰もいないが、アメリカは自らの行動を全く理解しておらず、決して勝利するつもりはなかったことはますます明らかになっている。この事実を認識し、それに基づいて行動する勇気を持ったバイデンには、十分な評価を与えるべきだ。

残念ながら、これらの成果は、より深刻ないくつかの失敗と比較検討されなければならない。

最初の失敗はウクライナ戦争である。バイデン政権はウクライナへの支援とロシアに課したコストをことごとく誇示したがるが、この主張を支持する人々は、ウクライナが払った莫大な代償と、この戦争がヨーロッパ諸国に与えた損害を無視しがちである。

ここで重要なのは、この戦争が突如としてどこからともなく現れたのではなく、ワシントン自身の行動が生み出した問題であることを認識することである。もちろん、ロシアは違法な戦争を開始したことに全責任を負っているが、バイデンとそのティームに非難の余地がない訳ではない。特に、彼らは自らの政策がこの戦争を不可避なものにしていることに気づかなかった。具体的には、彼らはNATOの無制限拡大(open-ended NATO enlargement)と、ウクライナを西側諸国との緊密な安全保障パートナーシップに、そして最終的にはNATOに加盟させることに固執し続けた。

ウラジーミル・プーティン大統領だけでないロシアの指導者たちが、この事態の進展を存亡の危機と捉え、武力行使による排除も辞さない姿勢を明確に示していたにもかかわらず、彼らはこの危険な行動方針を固守した。戦争の脅威が迫る中、政権は外交的解決を模索し衝突を回避するための努力を中途半端なものにとどめた。

戦争が勃発すると、バイデン政権は可能な限り速やかに戦争を終結させようとしなかったという過ちを犯した。バイデン政権はロシア軍がどうしようもなく無能であり、「前例のない(unprecedented)」制裁を課せばロシア経済が破綻し、プーティン大統領に方針転換を迫られると確信していたが、これは後に過度に楽観的な想定であったことが判明した。

こうした誤った判断の結果、政権は戦争終結に向けた初期の取り組みをほとんど支援せず、むしろ頓挫させてしまった可能性さえある。また、2022年秋にウクライナ情勢の見通しが一時的に改善した際にも(マーク・ミリー統合参謀本部議長が助言したように)、停戦の見通しを探ることもなかったし、ロシアの防衛網の正面に大規模な攻勢をかけることは失敗する運命にあるとウクライナの指導者に伝えることもなかった。

残念ながら、この戦争はウクライナとその西側諸国にとって重大な敗北に終わる可能性が高い。アメリカとNATOの当局者たちは同盟の結束はかつてないほど強固だと主張しているが、彼らの楽観的なレトリックは、この戦争がヨーロッパの安全保障と政治に及ぼした甚大な損害を無視している。この紛争は、ほとんどのヨーロッパ諸国政府(その多くは今や手に負えない財政的圧力に直面している)に多大な経済的負担を強い、エネルギーコストの上昇はヨーロッパの競争力を更に低下させ、右翼過激派の復活を助長し、ヨーロッパ内部の分裂を深刻化させた。また、中国との均衡を保つために投入できたはずの関心と資源を逸らした。

確かに、ロシアも莫大な犠牲を払ったが、モスクワが北京とより緊密に結びつき、西側諸国を弱体化させる、更なる機会を模索することは、アメリカやヨーロッパにとって決して利益にならない。この戦争が起こらなかった方が、ヨーロッパ、アメリカ、そして特にウクライナにとってはるかに良い状況になっていただろう。そして、戦争の可能性を高めた政策に対して、バイデン政権は大きな責任を負っている。

二つ目の災難は、言うまでもなく中東情勢だ。あらゆる大統領の夢がここで潰えてしまうかのようだ。バイデンの最大の失策は、選挙公約を放棄し、トランプから引き継いだ誤った政策を継続したことだった。彼はイラン核合意に復帰すると公約していたにもかかわらず、復帰しなかった。その結果、テヘランは爆弾級に近いレヴェルの核濃縮(nuclear enrichment)を再開し、強硬派の影響力を強化した。

また、政権はトランプと同様にパレスティナ人の将来に関する問題を無視し、サウジアラビアとイスラエルの関係正常化に向けた努力に注力したが、その試みは失敗に終わった。このアプローチは、パレスティナ人が永久に疎外されるのではないかという恐怖を強め、ハマスの指導者たちが2023年10月7日にイスラエルに対する残虐な攻撃を開始するきっかけとなった。

バイデン政権の状況判断の誤りは、ジェイク・サリヴァン国家安全保障問題担当大統領補佐官が、ハマスの攻撃のわずか8日前に、この地域は「ここ20年で最も静かだ(quieter than it had been in two decades)」と宣言したことで、痛ましいほど露呈した。

それ以来、バイデンと彼のティームは、イスラエルが最低限の自制を求める要請を無視し、少なくとも4万6000人、おそらくははるかに多くのパレスティナ人を殺害した容赦ない無差別軍事作戦を遂行したにもかかわらず、あらゆる場面でイスラエルを支持してきた。この猛攻撃はガザ地区の大部分を居住不能にし、全ての大学とほぼ全ての病院を破壊し、数百人のジャーナリストを殺害し、200万人以上の民間人に甚大な苦しみと永続的なトラウマを与えた。

イスラエルが10月7日以降に対応したことが正当であったことを否定する良識ある人はいないが、イスラエルの報復キャンペーンは戦略的、道徳的な理由から弁解の余地のないものであった。とりわけ、この容赦ない暴力の行使は、ハマスを壊滅させ、残りの人質を解放するという公約を達成することができなかった。そして、バイデン政権は、それを可能にした爆弾投下と外交的保護を提供したのだ。

少し立ち止まって、これが何を意味するのか考えてみて欲しい。アムネスティ・インターナショナル、ヒューマン・ライツ・ウォッチ、国際司法裁判所(ICJ)、国際刑事裁判所(ICC)、複数の独立救援機関、そしてジェノサイドに関する著名な専門家たちは皆、イスラエルが重大な戦争犯罪を行い、「おそらく(plausibly)」アメリカの全面的な支援を受けてジェノサイドを行っていると結論付けている。国連事務総長のアントニオ・グテーレスは、ガザ地区の状況を「道徳的な暴挙(moral outrage)」と称した。虐殺の様子を捉えた動画はソーシャルメディアで容易に見ることができる。

これらの自称「ルールに基づく秩序(rules-based order)」の擁護者たちは、イスラエルを遮断し、その不均衡な対応を非難するどころか、停戦と残りの人質の解放を求める国連安全保障理事会の決議を複数回拒否し、ICJICCへの攻撃を開始した。また、ヨルダン川西岸の占領下で暮らすパレスティナ人に対する暴力の増大を阻止するための真剣な努力も行っていない。これらの行動は、複数の政府高官が抗議の辞任に追い込まれ、国務省をはじめとする関係機関の士気を著しく低下させたとみられる。

22025年1月13日に国務省で行った退任演説で、バイデンはこれらの政策が功を奏したと示唆したようだ。ハマスとヒズボラは大幅に弱体化し、シリアのバシャール・アル=アサド大統領は失脚し、イランは深刻な打撃を受け、イランの核インフラを破壊するための空爆作戦を実施するリスクは減少した。この観点からすれば、これらの目的は手段を正当化すると言えるだろう。

この弁明は道徳的に空虚(vacuous)であり、戦略的にも近視眼的(shortsighted)だ。イスラエルとサウジアラビアの関係正常化は先送りされ、ジハード主義的なテロリズムの新たな波が目前に迫っているかもしれない。ハマスとヒズボラは弱体化したものの壊滅した訳ではない。イエメンのフーシ派は依然として抵抗を続けている。パレスティナ人が自らの国家、あるいは「大イスラエル(greater Israel)」における政治的権利を求める願望は消えることはないだろう。イランの指導者たちは、ムアンマル・アル=カダフィとアサドに降りかかった運命を回避するには、核兵器開発こそが最善の方法だと結論付ける可能性が高い。もしそうすれば、中東は再び不必要な戦争に見舞われ、原油価格は上昇し、アメリカは莫大な損失を伴う破綻に巻き込まれることになるだろう。たとえ消えることのない道徳的汚点を無視したとしても、これらの展開はどれもアメリカの利益にはならない。

バイデン政権によるイスラエル・ハマス戦争への対応は、差し迫った戦略的必要性によって強いられたのではないことを忘れてはならない。それは意識的な政治的選択だった。政府は存亡の危機に直面した際に、時に道徳的原則を妥協することがあるのは誰もが認めるところだが、ガザ地区の状況はアメリカにとってほとんど、あるいは全く危険をもたらすものではなかった。ワシントンはイスラエルによるジェノサイドへの支持を拒否しても、自国の安全や繁栄を少しでも危険に晒すことなく、行動できたはずだ。

バイデンとブリンケンがそうしなかったのは、選挙の年にイスラエル・ロビー(Israel lobby)の政治的影響力を恐れたか、イスラエルは通常のルールから除外される特別なケースだと考えていたからだろう。こうした露骨な二重基準(double standard)は、既存の秩序の正当性を必然的に損ない、アメリカの衰退しつつある道徳的権威(moral authority)を浪費した。今後、中国の外交官たちが他国に対し、西側諸国の人権観は偽善的な戯言だと説得しようとする時、イスラエルとハマスとの戦争はまさにその好例となるだろう。バイデンは、アメリカは「模範を示す力によって(by the power of our example)」主導するとよく言うが、今回の場合、他国が拒否することを願うべき模範を示したことになる。

バイデンは自称シオニストだが、ネタニヤフ首相の行動を無条件に支持したことはイスラエルにとっても良いことではなかった。イスラエルの首相と元国防大臣は、現在、国際刑事裁判所(the International Criminal Court)から逮捕状が出されている。これはプーティンと共通の問題であり、その汚点は消えることはないだろう。イスラエルのメシアニック過激派(Messianic extremists)は懲らしめられるどころか、むしろ強化され、世俗派と宗教派のイスラエル人の間の溝を深め、ヨルダン川西岸併合への圧力を強めている。

イスラエルがこの目標を推し進めれば、第二次世界大戦後の領土獲得を禁じる規範は更に弱まり、他の指導者たちは自らが切望する土地を奪取するよう促されるだろう。また、このような措置はヨルダン川西岸地区とイスラエル本土との区別を消し去り、イスラエルがアパルトヘイト国家であるか否かをめぐる議論に終止符を打つことになるだろう。これは容易に新たな民族浄化(ethnic cleansing)につながり、ヨルダンなどの近隣諸国に恐ろしい人道的被害と危険な影響を及ぼす可能性がある。私には、これらがイスラエルの利益となるとは到底考えられない。

最後に、ウクライナと中東における戦争(バイデン政権の政策が一因となって引き起こされた戦争)は、膨大な時間と関心を費やし、長期的に見てより重要な問題に十分な重みを与えることを困難にした。将来のパンデミックへの備えは停滞し、気候変動対策の進展は必要な水準を大きく下回った。そして、政権が信頼できる移民政策を打ち出せなかったことは、昨年11月にハリスに大きな痛手を与えた。

アフリカは重要性が増しているにもかかわらず、非常に軽視されてきた。過去4年間で、ブリンケンはイスラエル(人口1000万人弱)を16回、ウクライナ(人口3560万人)を7回訪問したが、人口約15億人のアフリカ大陸を訪問したのはわずか4回だった。

バイデン政権発足時の最重要目標は、「ルールに基づく秩序(rules-based order)」を強化し、独裁政治(autocracy)に対する民主政治体制(democracy)の優位性を示すことだった。しかし、バイデンとブリンケン国務長官は、都合の良い場合には躊躇なくルールを破り、ルールの執行を試みていた複数の機関(世界貿易機関、国際司法裁判所、国際刑事裁判所など)を積極的に弱体化させた。

他国はもはや、このような行動をトランプのような異端者(a rouge outlier)のせいにすることはできない。彼らは、これをアメリカの対外姿勢の本質的な要素として正しく認識するだろう。一方、バイデン政権が大々的に宣伝した「民主政治体制サミット(democracy summits)」にもかかわらず、世界中で民主政治体制は後退し続けており、強固な民主政治体制への関与が紙一重の人物が来週ホワイトハウスに復帰することになる。

ここに悲しい皮肉がある。確かにいくつかの成果はあったものの、バイデンのウクライナと中東情勢への対応の誤りは、彼が強化したいと述べていた「ルールに基づく秩序(rules-based order)」に甚大な、そしておそらくは致命的なダメージを与えた。バイデンとそのティームは、いくつかの重要な国際規範を一貫して遵守しなかったことで、次期政権(第2次トランプ政権)がそれらを完全に放棄することを容易にし、多くの国々が喜んでそれに追随するだろう。

こうなる必要はなかったが、ジョー・バイデンの外交政策の遺産は、ルールに縛られなくなり、繁栄が失われ、そして非常に、より危険な世界となるだろう。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。Bluesky@stephenwalt.bsky.socialXアカウント:@stephenwalt

(貼り付け終わり)

(終わり)
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 ウクライナ戦争は現在も継続中であるが、大きな展開は見られない。そうした中で、トランプ政権が発足して、サウジアラビアで、アメリカとロシアによる停戦に向けた交渉が行われている。その場にウクライナはいない。私がこれまでの著作で書いてきているように、残念なことであるが(悲しいことであるが)、ウクライナはその交渉には参加できない。

ウクライナ戦争はアメリカがウクライナに代理で行わせた戦争であり、当初の目論見通りに進まず(ロシアが早期に手を上げると思っていた)、完全に失敗した中で、トランプ政権になって、停戦に向けた動きが始まっている。ウクライナは米露間で決まった条件を飲むしかない(多少の変更はできるだろうが)。そして、それを飲まないということになれば、ヴォロディミール・ゼレンスキー大統領は、アメリカによって失脚させられるだろう。気の毒なのはウクライナ国民であり、ロシア国民だ。早く戦争が止まれば助かった命は多くあっただろう。アメリカと西側諸国の「火遊び(NATOの東方拡大)」によって、貧乏くじを引かされたのはウクライナ国民だ。

 停戦の条件はどうなるか分からないが、現状のままということになる可能性が高い。そうなれば、ウクライナは東部4州が独立するということになり、国土を失うということになる。ウクライナと西側諸国が「勝利」で終わるということはないだろう。そうなれば、「誰のせいで、誰の責任で、このような失敗をしてしまったのか、どうして戦争が起きてしまったのか」という話は当然出てくるだろう。

 下記論稿にあるように、責任の所在について色々と考えが出てくるだろうが、そもそも論で、西側諸国全体に責任を期する考えは大っぴらに出てくることはないだろう。アメリカとヨーロッパ諸国が、実際にウクライナを支援する意図はないが、ロシアを刺激し、ロシアに手を出させて戦争を起こさせて、打撃を与えるというような、稚拙な考えで、ウクライナの軍事部門だけを支援した結果が現在である。しかし、そのようなことを言えば、アメリカとヨーロッパ諸国のエスタブリッシュメントに責任が及んでしまうので、そのようなことは言えない。だから、もっと小さな、枝葉末節なことを言って、煙に巻いてしまおうということになるだろう。武器を与える与えないというのは、ウクライナ戦争において重要な要素ではある。しかし、それよりも重要な論点がある。

 アメリカをはじめとする西側諸国(the West)の失敗と減退をウクライナ戦争は象徴している。そして、日本に住む私たちが得るべき教訓は、西側諸国の火遊びに巻き込まれず、決して戦争を起こさないということだ。

(貼り付けはじめ)

「ウクライナを失ったのは誰か?」についてのユーザーガイド(A User’s Guide to ‘Who Lost Ukraine?’

-長期にわたる議論にどのように備えるか。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2025年1月8日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2025/01/08/users-guide-to-who-lost-ukraine/

ロシアのウクライナ戦争がどのように、そして、いつ終結するのか、正確なところは誰にも分からないが、その結末はキエフとその西側諸国の支持者にとって失望となる可能性が高い。そうなれば、次の局面では誰が責任を負ったのかをめぐる激しい論争が繰り広げられるだろう。参加者の中には、悲劇的な出来事から真摯に学びたいという思いから行動する者もいれば、責任を回避したり、他者に責任を転嫁したり、政治的な利益を得ようとしたりする人もいるだろう。これはよくある現象だ。ジョン・F・ケネディの有名な言葉がある。「勝利には100人の父親がおり、敗北は孤児だ(Victory has 100 fathers, and defeat is an orphan[訳者註:勝利の際にはたくさんの人が自分のおかげだと名乗り出るが、敗北の際には自分が原因だと名乗り出る人はいない]」。

この思想戦(this war of ideas)が勃発するのを待つ必要はない。なぜなら、いくつかの対立する立場は既に存在しており、他の立場は容易に予測できるからだ。ここで、それらの詳細な評価を示すつもりはない。このコラムは、戦争がなぜ起こったのか、そしてなぜ私たちの大多数が期待したようには進まなかったのかという、対立する説明をまとめた便利なチェックリストに過ぎない。

論点1:ウクライナが核兵器を放棄したのは間違いだった。一部の専門家によると、最初の大きな誤りは、ウクライナに旧ソ連から継承した核兵器を、実効性のない安全保障上の保証と引き換えに放棄させたことだ。もしキエフが独自の核兵器を保有していれば、ロシアの軍事介入を心配することなく、自らが望む経済協定や地政学的連携を自由に追求できたはずだというのがこの論点の趣旨だ。この論点は、最近ビル・クリントン元米大統領によっても引用されているが、ロシアは2014年にクリミアを占領したり、2022年に核兵器を保有するウクライナの残りの地域に侵攻したりする勇気はなかっただろう、なぜならそのようなことをするリスクが大きすぎるからだという主張である。この論点には技術的な反論(つまり、ウクライナが核兵器を保有していたとしても、使用できたかどうかは明らかではない)もあるが、それでもなお、検討に値する反事実的仮定(a counterfactual worth pondering)である。

論点2:ウクライナのNATO加盟招請は、戦略上極めて重大な失策だった。1990年代、洗練された戦略思想家たちが、NATOの拡大は最終的にロシアとの深刻な問題につながると警告したが、彼らの助言は無視された。こうした専門家の一人であるイェール大学の歴史家ジョン・ルイス・ギャディスは1998年に次のように述べている。「国務省は、NATOの新規加盟国が誰になるかを決めるまでの間、モスクワとの関係は正常に進展すると保証している。おそらく次は豚でも空を飛べるぞとでも言おうとするだろう(Perhaps it will next try to tell us that pigs can fly)」。ブッシュ政権が2008年のブカレスト首脳会議でジョージアとウクライナのNATO加盟を提案した際、アメリカ政府内からの警告は強まったが、加盟への機運を断ち切ることはできなかった。ロシアの抗議活動と安全保障上の懸念は軽々しく無視され、キエフと西側諸国間の安全保障上の結びつきが着実に強まったことで、最終的にロシアのウラジーミル・プーティン大統領は2022年に違法な戦争を開始するに至った。

この見解によれば、要するに、拡大論者がロシアの懸念の深さを理解せず、モスクワの反応を予測できなかったためにウクライナが侵略されたということになる。この主張は、ウクライナの最も熱烈な支持者にとっては忌まわしいものだ。彼らは、プーティン大統領はNATOが何をしようと遅かれ早かれ攻撃してきたであろう、なだめることのできない侵略者だから戦争が起きたのだと主張する。しかし、戦争が起きた理由に関するこの説明は論理的に一貫しており、それを裏付ける十分な証拠もある。こう言ってもロシアの行動を少しも正当化するものではないが、西側諸国の指導者たちはNATOの東方拡大(expanding NATO eastward)を始めた時点で、モスクワが何か酷いことをする可能性を考慮すべきだったことを示唆している。彼らはおそらく自らの行動が戦争の可能性を高めたことを認めることはないだろうが、他国を支援しようとする西側諸国の善意の努力が裏目に出るのはこれが初めてではないだろう。

論点3:NATOの拡大速度が遅すぎた。この論点は論点2の裏返しである。真の誤りはNATO拡大の決定や、後にウクライナに加盟行動計画の策定を要請したことではなく、キエフをより早く加盟させ、自衛手段を提供できなかったことだと主張する。この論点は、キエフが北大西洋条約第5条の保護と西側諸国の直接的な軍事支援の見込みを享受していれば、モスクワは軍事行動を取らなかっただろうと想定している。少なくとも、NATOは2014年にロシアがクリミアを占領した後、ウクライナの軍事力拡大をより迅速に支援すべきだった。そうすれば、将来のロシアの侵攻を抑止または撃退する上で、ウクライナはより有利な立場に立つことができたはずだ。この見方では、NATOの優柔不断さ(そして、バラク・オバマ政権がウクライナへの実質的な軍事支援に消極的だったこと)が、キエフを最悪の立場に追い込んだ。モスクワはキエフの西側への傾きを存亡の危機と見なしていたが、ウクライナはロシアの予防戦争(a Russian preventive war.)に対する十分な防御手段を欠いていたのだ。

論点4:西側諸国は2021年に真剣な交渉に失敗した。ウクライナが西側諸国(the West)への接近を着実に続ける中で、危機は2021年に頂点に達した。ロシアは3月と4月にウクライナ国境に軍事力を動員した。アメリカとウクライナは9月に新たな安全保障協力協定(a new agreement for security cooperation)に署名し、ロシアは軍備を強化し、12月にはモスクワがヨーロッパ安全保障秩序(the European security order)の抜本的な改革を求める2つの条約案を発表した。これらの条約案は真剣な提案ではなく、戦争の口実と広く見なされ、アメリカとNATOはロシアの要求を拒否し、控えめな軍備管理案を提示したにとどまった。その結果、米露両国はウクライナの地政学的連携について真剣な交渉を行うことはなかった。ロシアの要求全体が受け入れられなかった可能性もあるが、この見解は、アメリカとNATOはそれらを「受け入れるか、拒否するか」の最後通牒(a take-it-or-leave-it ultimatum)ではなく、最初の試みと捉えるべきだったと主張する。もしワシントン(そしてブリュッセル)がモスクワの要求の一部(全てではないが)についてもっと妥協する姿勢を持っていたら、この戦争は避けられ、ウクライナは多くの苦しみから逃れることができただろうか?

論点5:ウクライナとロシアは共に戦争を早期に終結させなかったために敗北した。後知恵(hindsight)で言えば、ウクライナとロシアは共に、戦争開始直後に終結していればより良い結果になっていただろう。この論点の1つは、2022年4月にイスタンブールでウクライナとロシアの両国は合意に近づいたものの、西側諸国が提案された条件に反対したため、最終的にウクライナは合意から離脱したというものだ。もう1つの論点は、2023年まで米統合参謀本部議長を務めたマーク・ミリー退役大将の主張と関連付けられることもある。それは、ハリコフとヘルソンにおけるウクライナの攻勢がロシアを一時的に不利な状況に追い込んだ後、ウクライナとその支援諸国は2022年秋に停戦を推進すべきだったというものだ。戦争を早期に終結させようとする努力が成功したかどうかは分からないが、戦闘が終結し、特に条件がキエフにとって不利なものであれば、これらの論点は再び注目を集めるだろう。モスクワがその侵略行為に対して支払った莫大な代償を考えれば、2022年初頭に交渉によって合意に達していた方がモスクワにとってもずっと良かったかもしれない。

論点6:ウクライナは背後から刺された。当然のことながら、ウクライナ国民と西側諸国の最も熱烈な支持者たちは、キエフへの支援が不十分で、そのスピードも遅く、支援内容にも制限が多すぎると長年不満を訴えてきた。もしキエフがロシアの凍結資産(Russia’s frozen assets)に加えて、エイブラムス戦車、F―16、パトリオット、ATACMS、ストームシャドウ、砲弾などをもっと多く受け取り、これらの兵器を自由に使用することができていたなら、ロシアは今頃決定的に敗北し、ウクライナは失った領土を全て取り戻していただろう。この見解は、西側諸国の強硬派(hard-liners)を今回の惨事の責任から見事に免責するものだ。問題は彼らの助言が間違っていたのではなく、十分な熱意を持ってそれに従わなかったことにあると示唆しているからだ。結果として、今後、様々な方面から、いわば、陰謀(dolchstoss、ドルクストス)の復活とも言える批判が聞かれることが予想される。

論点7:それはキエフの失敗だ。ウクライナ人がロシアの手によって耐え忍んできた苦しみを考えると、結果を自らの戦略的ミスのせいにするのは無神経であり、残酷ですらある。とはいえ、戦後、何が間違っていたのかを評価する試みには、2023年夏のウクライナ軍の不運な(ill-fated)攻勢(西側諸国の評論家の多くが不可解にも成功すると確信していた)と、戦術的には成功していたものの戦略的には疑問視されていた、2024年夏のクルスク侵攻が間違いなく含まれるだろう。ウクライナ軍は英雄的に戦い、印象的な戦術的創意工夫(impressive tactical inventiveness)を見せたが、戦後の批評家たちは、内部腐敗による戦力の消耗、防衛体制の構築に十分な努力を払わなかったこと、そしてキエフが若い世代を戦闘に動員する意欲、あるいは能力がなかったことに焦点を当てるだろう。

論点8:これは現実政治(realpolitik)だ。プーティン大統領をはじめとするロシア人は、この戦争をアメリカ主導によるロシアの弱体化維持のための執拗な努力の一環と見ているが、西側諸国の中には、ウクライナはロシアを長期にわたる莫大な費用を伴う戦争に巻き込むための単なる犠牲の駒に過ぎないと考える人もいるのではないかと思う。これはまさにマキャベリズム的な見方で、NATOの拡大とウクライナ加盟はモスクワを激怒させ、最終的には軍事的対応を引き起こすことを西側諸国のエリート層(特にアメリカ人)が理解していたことを示唆している。もし戦争がウクライナを越えて拡大せず、西側諸国の軍隊が介入しなければ、はるかに裕福な西側諸国はウクライナを長期間戦闘に引き留め、ロシアを徐々に疲弊させていくことができるだろう。同様の戦略は1980年代のアフガニスタンでソ連に対して効果を発揮しており、ロシアが最近シリアとモルドヴァで後退していることは、それが効果を上げていることを示唆している。私自身、この説明には大きな疑問を抱いているが、時が経てばアーカイブから何が明らかになるのか興味がある。

論点9:他の全てが失敗したらトランプのせいにする。ジョー・バイデン米大統領はある意味で幸運だった。アフガニスタンの終盤とは異なり、ウクライナの決着は他の誰かの監視下で起こるだろう。結果がウクライナに不利になれば、批評家たちは責任の一部を次期大統領のドナルド・トランプに押し付けるだろう。トランプは自分が弱いと思われ、結果の責任を負わされることを恐れ、これまで示唆してきた以上の支援をウクライナに与えるかもしれないが、バイデンほどの言論的、物質的な支援は行わないだろう。もしウクライナがロシア占領下の4州とクリミアを永久に失うか、新たな凍結紛争(frozen conflict)に巻き込まれることがあれば、トランプの政敵は喜んで彼に責任を負わせるだろう。

ウクライナで何がうまくいったのか、何がうまくいかなかったのかを健全かつ公平に議論すれば、正しい教訓を学び、将来に向けてより良い行動を選択できるだろう。しかし、過去の失敗から正しい教訓を学べる保証はない。このコラムの常連の読者の皆さんは、私がこれらの様々な議論の中でどれが最も説得力があると考えているか既にご存知だろうが、ここでの私の目的は誰かを責め立てることではない。今は、このコラムを切り取って、非難の矛先が向けられ、激しい論争が始まるのを待ちたい。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。ブルースカイ・アカウント:@stephenwalt.bsky.socialXアカウント:@stephenwalt

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 古村治彦です。

※2025年3月25日に最新刊『トランプの電撃作戦』(秀和システム)が発売になります。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
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トランプ関税は世界を震撼させた。そのショックから世界はだいぶ回復している。最近、本のおかげもあって、色々な人に「トランプ政権やアメリカはどうなるんですか」「トランプはどうしたいんですか」という質問を受けることがある。ドナルド・トランプは有言実行の人物であり、発言したことをそのまま実行している。その点で非常に分かりやすい。そして、トランプは、ロナルド・レーガン政権をモデルとしているので、レーガン政権の政策も考えれば、トランプ政権の基本の柱は「2つの赤字、財政赤字と貿易赤字の解消」である。そのために、連邦政府の職員の大量解雇や政府機関の閉鎖を進めているし、高関税(とドル安誘導)もその一環だ。

 トランプ大統領の経済アドヴァイザーで、大統領経済諮問会議議長のスティーヴン・ミランの「マール・ア・ラーゴ合意(協定)」については以前にもこのブログでご紹介した。高い関税とドル安合意(1985年のプラザ合意の同様の)は各国経済に大きな影響を与えるが、各国はアメリカからの安全保障を受けているので、それを取引材料にして、それを受け入れるという考えになっているようだ。アメリカが国を守ってやる代わりに(それでも自分たちでも防衛費を増額せよということはある)、その代償を支払うのが当然だということになる。

先日、赤沢亮正経済産業大臣が訪米し、トランプ大統領とも会談を持ったが、席上で、日本のアメリカ軍駐留経費負担の5倍増(年間約2600億円から年間約1兆3000億円への増額)を求められたというのは、日本からは、なんでも搾り取ろう、それができる相手だというアメリカの意向がはっきりと見えて、属国の悲哀を感じる。それなら、今まで貯め込んできたアメリカ国債(世界で第1位の保有額を誇る)を売って資金を調達しますと言えないのが辛いところだ。他国であればそれくらいの交渉をするだろう。しかし、アメリカの衰退ぶりをトランプ政権が見せてくれていることは象徴的な出来事であり、にほんもいつまでも「従米一辺倒」では国益を大きく損なうことになる。

 アメリカが抱える深刻な問題である、財政赤字と貿易赤字は、アメリカが「強いドル」で、世界中から安い価格で物品を購入、それをドルで支払い、外国に支払ったドルは米国債という形でアメリカに戻るというシステムが生み出した結果である。結局、アメリカは借金で生きる国柄となった。トランプ大統領はそこを何とかしようとしている。彼が「製造業の国」という言葉を大統領就任式の演説で使ったのは極めて重要である。しかし、残念ながら、アメリカが製造業の国として復活するにはもう手遅れである。それだけのインフラも質の高い、生産性の高い労働者も既にアメリカには存在しない。

 歴史的に見ても、貿易や製造業で大きく発展した国では、成功者たちは金融の投資によって、安定的な収入を得られる形にして、富裕層となっていく。そして、金融の割合が大きくなり、貿易や製造業は衰退していく。アメリカも既にその段階になっている。汗水たらして働くのが尊い、それが正しい生き方だという倫理感もなくなっている。日本も既にそうなっている。それは国家の衰退に兆候なのである。

 ドナルド・トランプはアメリカの衰退を象徴する人物として、後の歴史書に記録されるだろう。彼が衰退を招いたということではなく、アメリカが衰退していることを初めて明確にした人物として、そして、その時代の時代精神、心性を象徴する人物として記録されるだろう。

(貼り付けはじめ)

トランプ大統領の貿易に関する矛盾が現実のものとなった(Trump’s Trade Contradictions Come Home to Roost
-ドルは上昇するどころか下落している。これは関税に関する理論に反する行動であり、投資家たちがアメリカへの信頼を失っていることを示している。

ピーター・コイ筆

2025年4月8日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2025/04/08/trump-trade-tariff-dollar-markets-confidence/

ドナルド・トランプ米大統領は、長らくドルについて2つの考えを抱いてきた。世界市場でアメリカ製品を安くするためにドルを弱めたいと述べる一方で、世界の主要な準備通貨(reserve currency)としての地位を維持するためにドルを強くしたいとも主張してきた。

これら2つの目標は決して両立しない。そして今、彼の関税戦争(tariff war)がアメリカ経済を脅かす中、現実が厳しくなっている(we’re seeing reality bite)。トランプは望んだ通りドル安を実現している。1月の就任以来、ドルは主要通貨に対して5%下落している。しかし、彼が約束したドル高はどこにも見られない。

昨年、トランプの主要アドヴァイザーの1人であるスティーヴン・ミランは、いわゆる「マール・ア・ラーゴ協定(Mar-a-Lago Accord)」を構想した。これは、アメリカが貿易相手国に対し、事実上ドルの価値下落への協力を求めるというものだ。理論的には、これは強い立場から切り下げを画策することになる。

むしろ、ドルが下落しているのは、アメリカの弱体化に対する認識によるものだ。投資家たちは、短期的には貿易戦争(trade war)がアメリカの景気後退を引き起こし、長期的にはアメリカへの信頼の喪失が世界貿易の中心であるドルの役割を危うくするのではないかと懸念している。INGのグローバル市場責任者であるクリス・ターナー氏は顧客向けメモの中で、「アメリカの関税がアメリカ経済に逆風を吹き込むことで、ドルは無防備な状態になっている」と述べた。

トランプは、強いドルは一長一短(mixed blessing)だと正しく指摘している。輸入品は安く、輸出品は高くなるため、グローバル市場で競争する企業の労働者たちは打撃を受ける。トランプは、自ら「アメリカ経済の空洞化(the hollowing out of the American economy)」と呼ぶ状況を逆転させると公約しており、関税と並んでドル安は彼の政策の重要な柱となっている。

しかし、強いドルはアメリカの消費者たちにとって物価も下げることになる。そして、アメリカがドルの価値を維持するという確信こそが、他国が緊急時の準備金(emergency reserves)としてドルを保有し、国際取引で米ドルを使用することに積極的かつ熱心に取り組んできた主な理由である。

ブルッキングス研究所の昨年の分析によると、ドル資産は世界の外貨準備高の59%を占め、ユーロ圏内の決済を除く国際決済の58%でドルが利用されている。これは、世界の経済生産高に占めるアメリカのシェアが約4分の1に縮小しているにもかかわらず、準備高と決済の割合は大きい。

この優位性は、アメリカに重要な地政学的影響力を与えている。2024年11月30日のTruth Socialへの投稿で、トランプ大統領はブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカに対し、ドルに挑戦しないよう警告した。トランプは、「彼らは新たなBRICS通貨を創設することも、強力な米ドルに代わる他の通貨を支持することもないだろう。もしそうするならば、100%の関税に直面することになるだろう」と書いている。

トランプ大統領の目標は、強いドルの良い部分は維持しつつ、その負担を軽減することだった。しかし、負担軽減は決して痛みを伴わないものではなかった。輸入価格は上昇し、貿易相手国はアメリカの輸出品に対して報復措置を取っており、トランプ大統領は「貿易戦争は良いことだし、勝つのも簡単だ(trade wars are good, and easy to win)」という1期目の任期中のメッセージから、偉大さへの道には「多少の混乱はあるだろう(there’ll be a little disturbance)」という警告へと方向転換した。

過去の経済混乱期において、アメリカ金融市場は比較的好調だった。それは、アメリカが投資家たちにとって安全な避難先とみなされていたためだ。世界的な金融危機のように、アメリカが問題の主因となった局面でさえも同様だった。しかし、今回はそうではない。アメリカの株価指数は、ヨーロッパ、中国、日本の株価指数と足並みを揃えて下落している。これは、アメリカが国際金融における特権的な地位を失いつつあることを改めて証明している。投資家や政府は、もはや信頼できる富の貯蔵庫ではないドル資産を保有したがらない。

確かに、これまでのドルの下落幅は株価の下落幅よりも小さいが、驚くべきことにドルは下落している。経済理論によれば、国が関税を引き上げると、通常はその国の通貨が上昇するはずだ。

なぜ関税がドルを押し上げるのだろうか? それは需要と供給(supply and demand)だ。関税は当初、アメリカの輸入需要を減少させるため、海外に流出するドルは減少する。ドルが比較的不足しているとき、他の通貨に対するドルの価格は上昇する。ドル高は輸入品を安くすることで、関税の初期効果を部分的に相殺する。経済学者のオリヴィエ・ジャンヌは2020年に、関税関連のニューズが2018年の中国人民元の下落の約3分の1を説明すると推定した。

貿易介入が通貨市場に相殺効果をもたらすという考えは、決して新しいものではない。1752年、スコットランドの哲学者であり、経済学者でもあるデイヴィッド・ヒュームは、輸出制限(restrictions on exports)は「それらに対する為替レートを上昇させる以外に何の目的も持たない」と記した。

貿易理論に反して、今回の件でドルが上昇していない理由は、アメリカ経済の健全性に対する懸念がドルに下押し圧力(downward pressure on the dollar)をかけており、それが予想される貿易フローから生じる上昇圧力(the upward pressure)を圧倒しているためである。

トランプのドル高に対する複雑な感情は、彼の貿易政策における唯一の矛盾ではない。トランプは、関税によって歳入が増加し(おそらく所得税を廃止するのに十分な額になるだろう!)、製造業の雇用がアメリカに戻ってくると約束している。

しかし、ドル安・ドル高のディレンマと同様に、これら2つの目標を同時に達成することは不可能である。関税によって多額の収入が生まれるのは、外国製品が依然としてアメリカに流入しているからに過ぎない。その場合、関税によって製造業の雇用が回復することはない。逆に、関税によって製造業の雇用が回復するとすれば、それは輸入が枯渇するからに過ぎず、つまり関税によって多額の収入が戻ってくる訳ではない。経済の基本原則は、(イギリスの元首相ボリス・ジョンソンの発言にもかかわらず)ケーキを食べて、それをまた食べることはできない、ということだ。

オランダの経済学者ヤン・ティンベルゲンがまだ生きていたら、トランプ大統領に対し、関税で一度に多くのことを達成しようとしていると指摘できただろう。1969年に第1回ノーベル経済学賞を受賞したティンベルゲンは、それぞれの政策目標にはそれぞれ独自の手段が必要だと述べた。パイロットが2つの空港の平均に着陸することはできないという直感的な理解だ。

(最近CNNに出演したスコット・ベセント米財務長官は、この難問は段階的に解決できると述べた。当初は関税による収入は多額になるだろうが、それは「縮む氷の塊(shrinking ice cube)」のようなものだ。時間が経つにつれて輸入は減少し、国内製造業が成長していく。そして、その経済活動への課税が関税収入に取って代わるだろう。まあ、そうかもしれない。)

さらに、トランプ関税のコストを負担するのはアメリカ人か外国人かという永遠の疑問がある。関税は輸入時点で支払われることになっているが、それでは最終的に誰がそのコストを負担するのかという疑問には答えられない。ベセントはその答えを知っていると考えている。ベセントはボスであるトランプの発言に同調し、3月初旬にCBSニューズに対し、中国は「いかなる関税も負担するだろう(will eat any tariffs that go on)」と語った。

しかし、経済学者たちは、それはどちらが市場力(market power)を持っているかにかかっていると指摘する。もし中国の各メーカーがアメリカの顧客を維持するために関税コストを負担しなければならないと感じれば、関税コストの全額を負担することになるだろう。これがベセントのシナリオだ。一方、もし中国のメーカーが関税コストを顧客に押し付けることで済むなら、最終価格は関税分だけ上昇し、アメリカ人がそのコストの全額を負担することになるだろう。

現実はおそらく、これらの両極端の間のどこかにあるだろう。トランプ氏が前回大統領を務めた際、中国やその他の輸出国は関税の恩恵を受けなかった。受けたのはアメリカ国民だ。経済学者のメアリー・アミティ、スティーブン・J・レディング、そしてデビッド・E・ワインスタインは、2018年と2019年に課された関税に関する、2020年の記事の中で、「アメリカの関税は、依然としてほぼ全額をアメリカ企業と消費者が負担し続けている(U.S. tariffs continue to be almost entirely borne by U.S. firms and consumers)」と述べている。

多くの主流派経済学者たちは、関税が特定の状況下では正当な手段となり得ることに同意している。例えば、世界貿易機関(World Trade OrganizationWTO)は、貿易相手国による補助金などの不公正な慣行から自国を守るために、各国が関税を課すことを認めている。また、成長過程にある「幼稚産業(infant industries)」、つまり、競争(competition)から保護する必要がある産業を保護する関税を擁護する経済学者もいる。

しかし、トランプは、関税を必要悪(necessary evils)ではなく、それ自体が善であると考えている。最近NBCニューズに対し、輸入車への25%の関税は「完全に」恒久的だと語った。また、不法移民やフェンタニルの密売の削減など、貿易とはかけ離れた目標を達成するために関税を利用することも志向している。最近では、ロシアがウクライナ停戦への取り組みを妨害した場合、ロシア産原油を購入する国に関税を課すと警告した。

トランプの思考に一貫した方向性を見出すのは難しいがアドヴァイザーたちの一部は試みている。

前述のミランは、トランプ大統領の大統領経済諮問委員会(Council of Economic Advisors)の委員長を務めており、11月にトランプの広範な関税政策の少なくとも一部、すなわち「マール・ア・ラーゴ合意」の枠組みを示した。そこにはドルの評価を正す試みも含まれており、準備金や取引の主要通貨であり続けながらドルをいかに安くできるかを示した。

ミランは、他国がアメリカ資産への投資のためにドルを蓄積しているため、ドルが過大評価されており、その結果、アメリカ製品の価格が高騰し、産業が空洞化していると主張した。

ミランは論文の中で、貿易赤字の削減はドルを弱めるのではなく、上昇圧力をかけることを認めている。彼の解決策は、市場の力に逆らってドルを押し下げるために介入する意思のある国々の連合を形成することだ。これは、1985年のプラザ合意の現代版であり、日本円、西ドイツのドイツマルク、その他の通貨に対するドルの価値を下落させた。

ミランは、高関税(high tariffs)はアメリカに貿易相手国からドルを押し下げるための協力を得るための「交渉力(negotiating leverages)」を与えると記している。それでも通貨切り下げ計画に同意しない貿易相手国は、高関税に直面し、アメリカ軍の保護を失うリスクを負うだろうとミランは付け加えた。この華々しい発言は、トランプへの支持を一層高めたかもしれない。

ミランは、ドル操作(dollar manipulation)のいかなるシナリオも「友好国、敵国、そして中立貿易相手国の間のより明確な線引き(a much stronger demarcation between friend, foe and neutral trading partner)」を必要とすると述べた。ベセントも同様の表現を用い、アメリカの要求に従う意思に応じて各国を緑、黄、赤の「バケツ(buckets)」に分類することについて言及した。

この春、経済学者モーリス・オブストフェルドは、3月27日に開催されたブルッキングス研究所の経済活動に関する論文会議で発表した論文の中で、トランプ政権の関税政策とドル政策を分析した。カリフォルニア大学バークレー校のオブストフェルド教授は、国際通貨基金(International Monetary FundIMF)の元チーフエコノミストである。

オブストフェルドは、提案されているマール・ア・ラーゴ協定をあまり高く評価していない。オブストフェルドは次のように書いている。「約束されたマクロ経済のファンダメンタルズの変化が実現しない限り、為替レートへの影響は短命に終わる可能性が高い。また、他国がなぜ同調するのかは不明だ。それは、自国通貨が過小評価されていると考える国はほとんどないからだ」。

アメリカの貿易相手国との関税戦争を煽ったことで、トランプ大統領は意図せぬ結果の渦に巻き込まれた。それは、経験の浅い旅人にとっては方向感覚を失わせる場所であり、行き止まりや曲がり角、そして上っているように見えて実際には下っているエッシャーの絵にある階段が数多く存在する。トランプ大統領は、抜け出す道を見つけるために専門家たちの指導を受けることができるかもしれない。

※ピーター・コイ:経済を専門とするジャーナリスト。

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(終わり)
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 ドナルド・トランプ新政権はアメリカの内外で大きな不協和音を起こしている。トランプ政権の打ち出す政策に不安や不満を抱いている人はアメリカ国内、海外に多くいる。これまでにないスピート間で次々と予想を超える政策を打ち出していて、人々が振り回されているということはある。

 「トランプが世界を脅迫している」という考えも出てきている。高い関税を課して、経済にダメージを与えようとしているという考えだ。これについては、トランプ政権の「アメリカ・ファースト」から考えると、国内問題解決を優先しようとしているために、外国のことまで構っていられないということはある。

 しかし、トランプ関税を見ていると、追加関税の課税延期や中国のスマートフォンや周辺機器について例外とするといった措置が取られている。アメリカ国債の金利が上昇したことで、それに不安を覚えたトランプ政権がこのような措置を取ったと考えられている。アメリカは万能ではない。そして、アメリカの問題を解決しようとして、1つの方策を取れば、新たな問題が起きるということで、いたちごっこの状態になっている。アメリカの抱える様々な問題に対する簡潔な処方箋ということはない。はっきり言ってしまえば、アメリカが世界覇権国の地位から退く際に、どれだけ被害を少なくするかという程度のことしかできない。

 トランプ政権はアメリカの抱える貿易赤字を何とかしたいと考えており、そのために、高関税を課すのだが、これはアメリカ国民に対しても、相当な負担を強いることになる。それでも、「アメリカを、アメリカ国民を汗水流して働く製造業の国にする」ということであれば、こうするしかないということで実行される。しかし、アメリカ国内の生産能力が、トランプの掲げる理想にどれだけ近づけるか甚だ疑問である。

 アメリカが万能の神のように最大の力を持って、世界を従わせることができる時代は終わった。中国をはじめとする新興諸大国が一致協力して対処すれば、アメリカに対抗することができるようになっている。日本は、この大きな世界構造の大転換をまずしっかりと把握し、アメリカの脅しに負けずに、「正しく」恐れながら、交渉して国益を追求することができる。そのことを私たちはまず知るべきだ。

(貼り付けはじめ)

トランプは全世界を脅迫することはできない(Trump Can’t Bully the Entire World

-声高に脅迫するだけでは外交政策とは言えない。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2024年12月30日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/12/30/trump-bully-world-america-foreign-policy/

本や映画では、いじめっ子の運命は容易に予測できる。しばらくは主人公を苦しめるだろうが、やがて誰かが立ち上がり、弱点を暴き、報復する。読者であるあなたも何度も目にしてきただろう。ハリー・ポッターはドラコ・マルフォイを屈辱させ、ヴォルデモートを倒す。マーティ・マクフライはビフを一度ならず三度も打ち負かす。シンデレラはハンサムでチャーミングな王子を手に入れ、意地悪な義理の妹たちは何も得られない。トム・ブラウンはフラッシュマンに勝利し、エリザベス・ベネットはキャサリン・ド・バーグ夫人に逆らい、ダーシーの愛を勝ち取る。このおなじみの筋書きは、善が最終的に悪に打ち勝つという、心強い教訓を与えてくれる。

問題は、残念ながら、現実は本やハリウッド映画の世界ではないということだ。実際、2024年はいじめっ子にとってまさに絶好の年だった。ロシアのウラジーミル・プーティン大統領は、恐ろしい代償を払っているとはいえ、ウクライナで勝利を収めている。ハンガリーのヴィクトル・オルバーン首相率いる非自由主義的なポピュリズムは、ヨーロッパで勢いを増している。イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、2023年10月に自国をハマスの攻撃にさらし、何万人もの罪のないパレスティナ人の命を奪った大量虐殺キャンペーンを主導し、国際刑事裁判所(International Criminal Court)から逮捕状が出ているにもかかわらず、依然としてイスラエルの実権を握っている。そして、アメリカの次期大統領ドナルド・トランプは、(今のところは)世界一の富豪、イーロン・マスクを傍らに、ホワイトハウスに復帰する。

トランプ、マスク、そして彼らの部下たちは、全世界を脅迫できる(they can bully the entire world)と確信しているようだ。就任宣誓もしていないのに、要求を受け入れなければ関税やその他の制裁措置をちらつかせている。批判する新聞社を訴え、従わない企業幹部を処罰するとも警告している。トランプが指名したFBI長官と共和党所属の連邦議員の一部は、彼の政敵を攻撃することに躍起になっているようだ。このやり方は、単なる取引主義(quid-pro-quo transactionalism)の域をはるかに超えている。トランプが自分たちに危害を加えるかもしれないという恐怖を煽り、脅迫し、先手を打って譲歩を強要しようとする露骨な試みだ。

トランプがこのやり方が通用すると考えているのも無理はない。私がかつて所属していた共和党は、ゼリー一杯分の骨を持つ、節操のない日和見主義者の哀れな集団であることが露呈した。裕福な企業のリーダーたちはトランプ大統領の機嫌取り(to curry favor)に躍起になり、ABCや『ロサンゼルス・タイムズ』紙といったかつて名声を博した報道機関は白旗を揚げ、風に指を突っ込んだ骨のない評論家たちは共犯へと転じている。大学やその他の独立した思考の源泉も、身を潜め、帆を絞り始めるだろうと私は予想している。

彼らの後ろには、世界の星々も並んでいるようだ。ヨーロッパは経済的に停滞し、政治的にも分裂している。カナダのトルドー政権は生命維持装置に頼っている。ロシアは過剰拡大(overstretched)状態になっている。中国経済はデフレに陥り、圧力に対してより脆弱になっている。中東の抵抗枢軸(the Axis of Resistance in the Middle East)は混乱しており、シリアのアサド大統領の追放は、アメリカとイスラエルの優位性に挑戦する取り組みに対する最新の打撃に過ぎない。驚くことではないが、次期米政権は、今こそトランプ大統領の要求に応じないあらゆる者に対し、アメリカが最大限の圧力をかける時だと考えている。そして、一見すると、このアプローチは効果を上げているように見える。カナダのジャスティン・トルドー首相はすでにマール・アー・ラーゴへの旅を済ませ、NATO加盟諸国は現在、国防費のGDP比3%目標について話し合っている。イランの大統領は、外部世界との緊張緩和を望んでいると繰り返し述べている。アメリカ、そして暗にトランプ大統領も、勢いに乗っているようだ。

アメリカは今、トランプやマスクの気まぐれで世界政治を再構築しようとしているのだろうか? かつてアメリカを窮地に陥れた、ナイーヴなリベラルな理想主義(the naive liberal idealism)を捨て、一極体制(the unipolar moment)への回帰を目の当たりにしているのだろうか? トランプは本当に世界全体を脅迫できるだろうか?

私はそのことに疑いを持っている。

私が懐疑的な理由の1つは、この映画を以前に見たことがあるからだ。1990年代当時、アメリカの政治家や評論家たちは、歴史はアメリカが有利に進み、次々と国々がアメリカの圧倒的な力と自由民主政体資本主義(liberal democratic capitalism)の抗しがたい魅力に屈するだろうと考えていた。抵抗するのは、指導者たちがその指示を受け取っていない少数の「ならず者国家(rogue states)」だけで、彼らは抑制され、最終的には従わざるを得なくなるだろう。それがうまくいかなければ、政権交代という選択肢は常にあった。しかし、楽観主義者の予測通りには物事は進まなかった。それがそもそもトランプのような人物が誕生した理由の1つである。

第二に、抑制されない権力は他者を不安にさせ、あからさまな威圧は人々を怒りと恨み(angry and resentful)に駆り立てる。典型的な反応は、アメリカの圧力に対抗しようとすることだ。それは、ロシア、中国、イランが行ったように公然と、あるいは前回の一極体制下でアメリカの同盟諸国が行ったように「ソフト・バランシング(soft balancing)」によって行われる。繰り返し屈服する指導者たちは、国内から抵抗圧力(domestic pressures to resist)に直面することになるだろう。特に、トランプ大統領の要求に応じることが自国の国民に大きな負担を強いる場合は猶更だ。

この問題は、トランプの政治に対する純粋に取引的なアプローチ(Trump’s purely transactional approach to politics)によって更に悪化している。アメリカはこれまで、その優位性を武器に同盟諸国に圧力をかけ、自国の望む行動を取らせてきた。しかし、それは共通の価値観を強調し、自国の利益だけでなく、主に志を同じくする国々からなるより広範な共同体の利益のために行動していると主張しながら行われてきた。武力(mailed fist)はあったが、同時にヴェルヴェットの手袋も備えていた。アメリカの権力に一定の制限を課す多国間機関の範囲内で行動する意思があったため、アメリカの優位性は脅威が少なくなり、そのリーダーシップは他国にとってより受け入れやすいものとなった。トランプはこうした点を全く考慮しておらず、長年のパートナー諸国でさえ、安易に従いすぎて新たな要求を招くことを警戒するだろう。

更に言えば、トランプは大げさな脅しをかけることで短期的には損失を被らないが、実際に実行に移せば損失を被ることになる。アメリカは他国よりも大きく強いため、関税やその他の制裁措置を課すことは、アメリカ自身よりも他国に打撃を与える可能性がある。しかし、関税やその他の強制措置を課すことは、特に中国のような大国や、アメリカ産業が主要な原材料や製品を依存している国々を相手にする場合、コストがないということはない。加えて、はるかに弱い国でさえ、自国の重要な利益が危機に瀕している場合、セルビアがコソヴォ問題で行ったように、そしてイランが数十年にわたって行ってきたように、大きな代償を払うことを躊躇しないということはある。つまり、トランプが誰に対しても要求できる金額には限界があるということだ。

第四に、トランプのような強引な人物は、ターゲットと一対一で交渉することを好む。そうすることで自身の影響力を最大化できるからだ。彼は、かつてアメリカの「敵(foes)」の1

つと表現したヨーロッパ連合(European UnionEU)と直接交渉することを望まないだろう。彼は、個々のヨーロッパ諸国と直接交渉し、それぞれ個別に協定を結ぶことを望んでいる。しかし、このアプローチは非効率的で時間がかかるため、多くの新しい協定は成立しないだろうと私は推測する。

第五に、威圧的な国に直面している国々は、実際には従わずとも、従っているふりをする方法を数多く持っている。既に見てきたように、抜け目のない外国の指導者の中には、トランプのエゴをくすぐり、彼の考えを何でも話し合う用意があると言いながら、実際には些細な、あるいは象徴的な譲歩(symbolic concessions)しか示さない人もいる。カナダは国境の厳格化とフェンタニル前駆物質のアメリカへの輸送規制に全く抵抗がないと述べているが、カナダは不法移民や前駆物質の主要な供給国ではないため、これは意味のない約束だ。他の国々も同様のアプローチを取るだろう。トランプに「彼の要求に応じる」と言いながら、その後は中国がトランプの最初の任期中に成功したように、足踏みするのだ。これは、純粋に取引中心で、主に二国間主義的なアプローチが破綻するもう1つの例である。世界全体と一対一で交渉する場合、誰が約束を果たし、誰が怠慢をしているのかを監視するのは、非常に困難な作業となる。

第六に、トランプは実際の成果よりも体裁を重視していることを忘れてはならない。彼は、北朝鮮の金正恩委員長とのリアリティ番組のような首脳会談は大成功だったと考えている。世界中が注目し、視聴率も高かった。しかし、大騒ぎは何も生みださず、勝者はトランプではなく金だった。金は米大統領との直接会談に付随する威信と正当性を獲得し、トランプは何も得られなかった。

アメリカは万能(all-powerful)ではない。例えば、債券市場は独自の思惑を持っており、アメリカの財政赤字が爆発したり、インフレが急激に再燃したりすれば、トランプは債券市場の影響力の大きさに気づくかもしれない。トランプの国内政治への影響力は揺るぎないものということではない。連邦上下両院における共和党の議席差は僅差で、大統領選挙での圧勝は、彼が主張するような地滑り的勝利には程遠いものだった。少しでもつまずけば、2026年に再選を目指す全ての連邦議員は、トランプから距離を置く方法を模索し始めるだろう。最近の政府歳出法案をめぐって数十人の共和党議員がトランプに反対する姿勢を見せていることは、彼が直面するであろう制約のもう1つの兆候である。そして、世界中の全ての大言壮語やソーシャルメディアの誇大宣伝も、物理、化学、生物学の法則を変えることはできない。トランプがトゥルース・ソーシャルで何を吐き出そうと、環境は注意を払わないし、保健福祉長官に指名されたロバート・F・ケネディ・ジュニアが何を信じていようと、フォックス・ニューズのコメンテイターが何を言おうと、ウイルスは進化し続けるのだ。

最後に、歴代米大統領は皆、予想も計画もしていなかった問題や危機といった厄介なサプライズに直面する。ジョージ・W・ブッシュにとっては9月11日、バラク・オバマにとってはアラブの春(the Arab Spring)とロシアによるクリミア併合(the Russian seizure of Crimea)、ジョー・バイデンにとってはロシアによるウクライナ侵攻(Russia’s invasion of Ukraine)とガザ、レバノン、ヨルダン川西岸地区での大虐殺(the carnage in Gaza, Lebanon, and the West Bank)だ。トランプ政権の最初の任期では、新型コロナウイルス感染症のパンデミックがそれに当たり、この予期せぬ危機への対応の失敗が2020年の大統領選挙での敗北の主因の1つとなった。主要分野に無能な変わり者を擁し、まるで道化師のような政権を作り上げてきたトランプ2.0は、どんな予期せぬ問題が大統領の座に降りかかっても、準備不足なのかもしれない。

明確にしておきたい。トランプが大きな棍棒を振りかざして、一部の国々に自分の望むものの一部を与えさせることができないと私は言っているのではない。十分な数の人々を脅せば、標的となった国々のいくつかは間違いなく従うだろう。彼はそうした事態が起きるたびに(たとえ実際の利益がわずかであっても)、自らの手柄を全て自分のものにし、裏目に出たり失敗に終わったりした脅しを皆が見逃してくれることを願うだろう。トランプは多くの事実無根のことを人々に信じ込ませる能力が実証されている一方で、報道機関も同様に彼に責任を負わせることができない。このアプローチは、アメリカ国民に彼が素晴らしい仕事をしていると思わせる可能性もある。しかし、外交政策において真の成果を着実に生み出すことは不可能だ。小説家や脚本家が好むような、ある種の報いを受けることになるかもしれない。そんな映画を私は見たい。

※スティーヴン・M・ウォルト:『』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。ブルースカイ・アカウント:@stephenwalt.bsky.socialXアカウント:@stephenwalt

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 古村治彦です。

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 私がこのブログで紹介している、国際関係論の大物学者スティーヴン・M・ウォルトの論稿をご紹介する。彼は昨年、オーストリアのウィーンにある人間科学研究所に客員研究員と滞在した。彼がオーストリア大罪を通じて得た知見を基にして、アメリカとオーストリアを比較する内容の論稿になっている。ちなみに、ある調査では、ウィーンが世界で一番住みやすい都市となっている。私は旅行したことはないが、確かに、ハプスブルク王朝の都で、ヨーロッパ有数の都市というイメージはある。

 ウォルトは両国の類似点として、右派ポピュリズムへの移行を挙げている。オーストリアではオーストリア自由党が台頭し、アメリカではドナルド・トランプが大統領に当選した。ウォルトは両国の相違点として、経済格差の大きさを挙げている。オーストリアは経済格差が小さく、アメリカは大きい。ここで、ウォルトは重要な指摘を行っていて、それは、「経済格差が右派ポピュリズムを台頭させる訳ではない」ということだ。それでは何が右派ポピュリズムを台頭させるのかという疑問が出てくるが、そのことについては論稿では触れていない。

 ウォルトは、アメリカはヨーロッパを見習うべきだという主張を行っているが、それは不可能な話、無理な話だ。そのことはウォルト自身が書いている通りに、アメリカ社会のダイナミクスとヨーロッパでは異なるからだ。私は国民皆保険(universal health insurance)について思い出す。アメリカ留学中に、大学の日本政治の授業に出席した際、日本研究専門家である先生が学生たちに「ヨーロッパや日本は国民皆保険であるが、アメリカではそうではない」と一言ポロっと発言した。次の授業の冒頭で、その先生は「私はアメリカを批判した訳でもないし、社会主義を称揚した訳でもない」と述べた。不思議に思って、先生に話を聞いたところ、前回の授業の後に、学生の中に保護者に先生の発言を伝え、保護者が学校側に「アメリカを批判するような人物を先生にしているのか」「社会主義者を雇うな」というような抗議の電話があったということだ。

 国民皆保険の話1つでこのような騒ぎになる。アメリカには平等や相互扶助という考えが広がるのは難しい。しかし、アメリカはこれから国力を落とし、世界覇権国としての地位から転落していく。世界最強の国の国民として享受してきた特権や生活水準がなくなっていく。そうした中で、アメリカ人たちも考えを変えていくかもしれない。しかし、その時には「時すでに遅し」ということになるだろう。

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オーストリアはアメリカのヨーロッパにおけるモデルとなるべきだ(Austria Should Be America’s European Model

-西側諸国で最も過小評価されている国の1つから学ぶ政治的教訓。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2024年12月11日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/12/11/austria-should-be-americas-european-model/

ハーヴァード大学の同僚だった故シドニー・ヴァーバは、著名な学者であり、また機知に富んだ人物でもあった。彼が皮肉たっぷりに残した格言の一つ(one of his tongue-in-cheek aphorisms)に、「その上空を飛行したことのない国について書くべきではない(you should never write about a country you haven’t flown over)」というものがある。この控えめな基準からすれば、私はここ数ヶ月、ウィーンの人間科学研究所の客員として過ごしてきたので、オーストリアについて書く資格は十分にあると言えるだろう。

人間科学研究所は素晴らしく協力的な環境で、私はここで過ごした時間を心から楽しんだ。しかし、以下に述べる考察は、オーストリアの政治や文化に関する広範な調査や深い知識に基づくものではない。一方で、私は今、ドナルド・トランプ次期米大統領が任命した一部の人々が新しい職務に関して持っていると思われるよりも、オーストリアについて多くの専門知識を持っている。

オーストリアとアメリカ合衆国には、顕著な類似点と重要な相違点がいくつか存在し、両国の最近の選挙は両者を浮き彫りにした。両国にはどのような共通点があり、どのような相違点があり、アメリカ人はオーストリアの経験からどのような教訓を得ることができるだろうか?

第一に、類似点について。オーストリアとアメリカ合衆国はどちらも豊かな工業化した民主政治体制国家(wealthy industrial democracies)だ。アメリカ合衆国は建国以来(不完全なものではあるが)共和国(a republic)であり、オーストリアは第二次世界大戦後に占領していた外国軍が最終的に撤退した1955年以降、安定した民主政体国家となっている。

両国とも、直近の選挙でポピュリスト勢力が大きな勝利を収めたものの、直接的な政治的影響は異なるだろう。オーストリアで9月に行われた世論調査では、ヘルベルト・キクル率いる極右政党オーストリア自由党(Austrian Freedom PartyFPO)が、ナチスのシンボルやレトリックを時々用い、過去に疑わしい行動歴があったにもかかわらず、最大の得票率(28.8%)を獲得した。言うまでもなく、アメリカ合衆国では、有罪判決を受けたトランプが再び大統領選に勝利し、共和党が連邦上下両院を制した。

オーストリアは議院内閣制を採用しており、オーストリア自由党は絶対多数(an absolute majority)を獲得できなかったため、他の主要政党が政権樹立を阻止しており、現首相カール・ネハンマーが引き続き複数党連立政権(a multiparty coalition)の首班を務める可能性もあるが、その樹立は困難なプロセスであることが証明されている。

類似点はそれだけではない。両国において、移民反対は他のヨーロッパ諸国と同様に、ポピュリスト政治家にとって大きな追い風となっている。両国の投票パターンは、都市部と農村部の根深い分断(a profound urban-rural divide)を反映している。つまり、ウィーンをはじめとするオーストリアの都市は、中道左派に大きく傾いている(人口でオーストリア第2位の都市であるグラーツの市長は共産主義者だ)。一方、アメリカの多くの赤い(共和党支持)の州の各都市では、青い(民主党支持)、または拮抗した状態(紫色)に投票の投票になっている。

両国には強力な宗教的伝統もある。オーストリアでは依然としてカトリック教徒が圧倒的に多く、アメリカ人は多様な宗教に属しているが、両国とも宗教的慣習(religious observance)は衰退しつつあり、オーストリアの信者もますます多様化している。

まとめると次のようになる。オーストリアは人口約900万人の小国であり、アメリカ合衆国は人口約3億4000万人の大陸規模の超大国だが、両国にはいくつかの顕著な類似点がある。中でも特に顕著なのは、近年のポピュリスト右派へのシフト(a recent shift toward the populist right)だ。

それでは、違いは何だろうか? おそらく最も顕著なのは不平等・格差(inequality)だ。両国とも裕福だが、所得の分配はアメリカ合衆国よりもはるかに平等だ。オーストリアのジニ係数[Gini coefficient](不平等・格差の指標)はアメリカ合衆国よりも10ポイント低く(29.8対39.8)、オーストリアでは人口の下位50%が所得の22%を得ているのに対し、アメリカ合衆国ではこの数字はわずか13%だ。オーストリアでは上位10%が所得の29%を得ているのに対し、アメリカ合衆国では上位10%が所得の45%を得ている。

したがって、ロンドンに拠点を置く調査機関「ワールド・エコノミクス」がオーストリアの経済的平等を世界21位、米国を66位と大きく下回る順位にランク付けしているのも当然と言えるだろう。これは、現代のポピュリズムが経済的不平等・格差とあまり密接に関係していないことを示唆している。

世界で最も住みやすい都市の1つという名声にふさわしいウィーンに住めば、その違いはさらに顕著になる。私が到着して間もなく、同僚の1人が次のように述べた。「ウィーンは、1世紀以上も社会主義政権に支配された都市がどのような存在になり得るかを示している」。ウィーンには、アメリカのどの都市も匹敵できない、素晴らしい公共交通機関(extraordinary public transit that no U.S. city can match)がある。地下鉄、路面電車、バスは快適で、運行頻度も高く、時間通りで、ほぼどこにでも行くことができる。しかも、移動手段は驚くほど安価である。私の月間パスは全路線が乗り放題で、料金はわずか51ユーロだ。

同様に、オーストリアには優れた公営住宅制度[a remarkable system of public housing](オーストリアでは「ソーシャルハウジング[social housing]」として知られている)があり、その構造と目的はアメリカ合衆国とは大きく異なる。オーストリアでは、最貧困層のみを対象とし、貧困層を他の住民から巧妙に隔離する手段として利用されるのではなく、はるかに幅広い層の住民がソーシャルハウジングの入居資格を得ており、これもアメリカ合衆国の同等の制度よりもはるかに魅力的だ。

その結果、オーストリアの公営住宅の居住者はより幅広い社会階層(a wider range of social classes)に及び、これらのコミュニティはアメリカの公営住宅事業に見られる多くの機能不全から解放されている。手頃な価格の住宅が広く利用できるため、民間の1年賃貸はアメリカのほとんどの都市よりもはるかに安価だ。(ただし、私が現在住んでいるアパートのような短期賃貸は数が少なく、高額なのが難点だ。)

ヨーロッパの多くの国々と同様に、オーストリアの公衆衛生制度(public health system)もアメリカを凌駕しており、これがオーストリアの平均寿命がアメリカよりもはるかに高い(81歳対76.4歳)理由の1つとなっている。オーストリアの殺人率はアメリカの8分の1だ。誰であっても、どこに住んでいても、オーストリアははるかに安全な場所だ。もしもっと多くのアメリカ人がウィーンで数ヶ月間生活する機会があれば、バーニー・サンダース連邦上院議員の考えが正しいのではないかと疑い始める可能性がある。

もちろん、オーストリアはオーストリア=ハンガリー帝国の崩壊時に帝国主義の野望を放棄した小さな中立国(neutral country)であり、そのため無分別な海外進出に国富を浪費していないという点も有利に働いている。

オーストリアは完璧か? もちろんそんなことはない。オーストリアの官僚機構は時に苛立たしいほど独断的だ。ウィーン市民は常に礼儀正しいものの、移民を特に歓迎しているということもない。公営住宅制度も完璧ではない。そして、オーストリアはヨーロッパの多くの国を悩ませているのと同じ人口動態上の問題(高齢化と人口減少)に直面している。ウィーンの物価は安くなく、インフレと公的債務は深刻な問題であり、オーストリア社会は変化を嫌う。シリコンヴァレーの合言葉が「早く動いて、物事を壊せ(move fast and break things)」だとすれば、オーストリアのスローガンは「ゆっくり動いて、可能な限り維持しろ(move slowly and conserve as much as possible)」なのかもしれない。

他の国と同じように、オーストリアにも過去には完全には忘れ去られていない不快な出来事がいくつかある。そして、薬局を含めほとんどの店が閉まっている日曜日にイブプロフェンが買えたら良いのであるが。

しかし、こうした特徴にもかかわらず、オーストリアには多くの魅力がある。一般のアメリカ人の日常生活を真に改善したいと願うアメリカ大統領は、オーストリアの例から貴重な教訓を学ぶことができるだろう。残念ながら、アメリカ人がそのような人物を選出する機会を得るまでには、少なくとも4年はかかるだろう。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。ブルースカイ・アカウント:@stephenwalt.bsky.socialXアカウント:@stephenwalt

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(終わり)
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『トランプの電撃作戦』
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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 古村治彦です。

※2025年3月25日に最新刊『トランプの電撃作戦』(秀和システム)が発売になります。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
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 トランプ関税は迷走している。90日間の実施延期が発表されたり、対中ではスマートフォンや周辺機器への課税が例外とされたりで、「アメリカは強気で始めたが、米国債の弱点もあり、いつか後退するぞ」という考えが出てきつつある。そのために株式市場は落ち着き、株価は上昇している。トランプ関税の主眼は、アメリカの貿易赤字を解消することであり、アメリカの製造業を復活させることだ。そして、アメリカ製品を売るためにドル安に誘導することだ。

 アメリカの最大の貿易赤字を生み出している国は中国である。アメリカの対中貿易赤字は約3000億ドルだ。対日赤字は約680億ドルだ。日本はそこまで大きくない。1000億ドルを超えているのは中国、メキシコ、ヴェトナムだ。アメリカはスマートフォンや付属品、周辺機器を中国で生産している。そして、中国はアメリカ国債の世界第2位の保有国だ。これらの点はアメリカにとって中国に対峙する際の弱点となる。中国はアメリカに対して簡単に屈服することはないし、そんな必要もない。中国はアメリカの属国ではない。そこは1980年代の日米貿易摩擦の際の日本との最大の違いだ。
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 更に言えば、アメリカが世界唯一の超大国として、強いドルを背景にして、世界中の産品を買うことで、外国を経済成長させ、その儲かった分でアメリカ国債を買わせて、ドルをアメリカ国内に還流させ、アメリカ国内の生活を豊かにする(借金によって)というスキームは終わりを迎えようとしている。他人の借金で生きるというアメリカ人の生活をトランプは変革させようとしている(彼個人は汗水たらして働くなんてできないだろうが)。

 アメリカが世界覇権国の地位から退くことによって(必然的にそのための乱暴なやり方が進められることで)、世界各国の中国に対する信望が高まる。少なくとも「アメリカよりはだいぶまし」という状況になる。そうなれば、相対的に中国の国際的な地位は更に高まる。日本は、アメリカ一辺倒の対外政策を選択し続けることは不可能だ。やはり中国や韓国と言った東アジアの周辺国との関係を改善し、アメリカの世界覇権国の地位喪失後の世界に備える必要がある。

 トランプ政権によって、世界の構造の大変化は進められることになる。日本はその大変化に備えねばならない。

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トランプ関税は習近平中国国家主席への贈り物だ(Trump’s Tariffs Are a Gift to Xi

-中国への高額な関税にもかかわらず、アメリカ主導の経済のジェットコースターは北京にとって有利に働く可能性がある。

ハワード・W・フレンチ筆

2025年4月10日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2025/04/10/trump-us-tariffs-china-impact-xi-jinping-global-order/

2012年に中国の指導者である習近平が権力の座に就いて間もなく、数十年にわたる低摩擦外交(low-friction diplomacy)と世界屈指の経済成長(world-beating economic growth)によって築き上げてきた中国の優位性を、彼がいかに容易に浪費したかを見て、専門家たちたちは困惑し始めた。

習近平は統治開始初期、南シナ海全域の領有権を主張する積極的な動きを強めた。中国はまた、新型空母をはじめとする軍事技術の導入を進め、軍の近代化(the modernization of its armed forces)を加速させた。また、習近平は中国人民解放軍に対し、戦争に備えるだけでなく勝利も目指すよう熱心に訴え、近隣諸国に警鐘を鳴らした。

国内では、習近平は大規模な反汚職運動(anti-corruption drive)を開始したが、これはすぐに批判者や潜在的なライヴァルを威圧するためのキャンペーンと映った。間もなく、習政権はこの政治攻勢(political offensive)を拡大し、言論統制(constrain speech)を更に強化した。そして、急速な成長と革新で中国の台頭を支えてきたアリババなど、中国で最も成功した企業のトップたちを脅迫し、屈辱を与えた。

多くの中国人は、規律ある行政部門(a disciplined executive)への権力の集中(the concentration of power)は、民主政治体制の喧騒と混沌(the palaver and chaos)の中では不可能な方法で物事を成し遂げるという、お決まりの議論に頼って権威主義(authoritarianism)を正当化した。長年、私の授業に出席する中国人の大学院生たちは、この制度上の優位性(systemic advantage)を誇っていたが、習近平による弾圧の息苦しい雰囲気と、それに伴う憂慮すべき経済減速(the alarming economic slowdown)によって、その主張は終焉を迎えた。

突然、会話は政治理論家たちが「悪帝​​」問題(the “bad emperor” problem)と呼ぶものへと移った。新世代の若者たちは、ほぼ確実にチャンスが巡ってきた時代の喪失を嘆き、権威主義体制下での生活を単なる運の問題と捉え始めた。彼らは、一見すると啓蒙的な独裁者(a seemingly enlightened dictator)が、一瞬にして軽率で無知な暴君(a rash and benighted despot)に取って代わられる可能性があることに気づいたのである。この振り子の揺れ(pendulum swing)を経験した人々にとって、権威主義には決定的な欠点があった。政府を投票で追放できる民主政体とは異なり、国民には、不運を耐えてより良い後継者を期待する以外に頼る手段がないのだ。

しかし、これは権威主義に固有の問題だけではない。近年、世界最古かつ最強の民主政体国家が今や「悪い皇帝」のジレンマに直面していることが、ますます明らかになっている。

アメリカが誇る牽制と均衡のシステム(the United States’ vaunted system of checks and balances)は、ドナルド・トランプ米大統領の権力を抑制する上でほとんど無力であることを毎週のように露呈している。『フィナンシャル・タイムズ』紙のあるコラムニストは最近次のように書いている。トランプ政権は「アメリカ共和国とアメリカが築き上げた世界秩序に対する包括的な攻撃を行っている。国内では、国家(the state)、法の支配(the rule of law)、立法府の役割(the role of the legislature)、裁判所の役割(the role of the courts)、科学へのコ関与(the commitment to science)、そして大学の独立性(the independence of the universities)が攻撃されている。今、彼は自由主義的な国際秩序を破壊している」。

再選された民主的な指導者のほとんどが任期制限(term limits)に縛られていると感じている一方で、トランプは2期目には更に無謀な行動を取り、憲法で定められた8年の任期制限を超えて権力を拡大する懸念を繰り返し提起している。

皮肉なことに、トランプ大統領の最も無謀な行動のいくつかは、中国に集中している。水曜日、トランプ大統領は中国を除くほぼ全ての国に対する恣意的で不合理な高関税の課税を停止した。トランプ大統領自身は気づいていないかもしれないが、145%にまで引き上げられた対中関税の劇的なエスカレーションは、習近平国家主席への贈り物となる可能性が高い。

確かに、北京は短期的には、そしておそらく長期的にも困難に直面するだろう。しかし、トランプ大統領の行動は、習近平国家主席自身の欠点から中国国民の目を逸らさせ、自国の政治体制の優位性、そして中国を抑え込もうとするワシントンの悪意ある企みに関する、長年にわたる北京のプロパガンダに力を与えることになる。

世界全体にとって、中国は今や、安定と現状維持を志向する国際秩序において、より穏健な勢力として映っている(To the world at large, China now looks like a more moderate force in the international order oriented toward stability and the status quo)。もし、ある国家がどの超大国と手を組むか選択しなければならない場合、中国は好ましい選択肢として浮かび上がってくるかもしれない。

トランプ大統領の北京に対する極端な措置は、中国と通常は不信感を抱く隣国である日本と韓国、そして中国とヨーロッパの間に和解の道(avenues for rapprochement)を開いた。株価と債券市場の低迷の中で、トランプ大統領が突如、自らの誇る取引締結能力を証明しなければならなくなったことで、東京とソウルのトランプ大統領政権に対する交渉力も強化されただろう。これは、無謀な経済戦争(a reckless economic war)を仕掛け、他の指導者たちが自分の尻にキスしたがっていると豪語するほど愚かで権力に酔った大統領を抑制できなかったことに対する、ワシントンが払うであろう戦術的な代償である。

なぜトランプ大統領は、このような行動に価値があると考えているのだろうか? コメンテイターたちが頻繁に指摘するように、トランプ大統領の世界観の多くは、アメリカの産業的優位性の時代(the waning era of U.S. industrial preeminence)が衰退しつつあった、1970年代と1980年代に形成された。当時、トランプ大統領はまず日本を、そして次に中国を、アメリカの雇用、生産、そしてアイデアを「盗んでいる(stealing)」と非難した。トランプにとって、国家の階層構造の頂点に立つワシントンの地位は、確かにノスタルジーにとらわれているが、同時に生得権にもとづいているようだ。そして、関税によって他国を罰することで、アメリカから奪ったはずのものを返還できると考えているようだ。

これは経済学の基礎だけでなく、世界史についても大きな誤解だ。中国は確かに、近年の急成長の中で、高速鉄道の技術から戦闘機の設計に至るまで、海外から知的財産を盗み、競争から自国経済を守る方法を編み出してきたと考えられる。しかし、トランプは、19世紀のアメリカを含め、近代以降、新興国が同様のことを行ってきたことに気づいていないようだ。

しかし、自動車、輸送、再生可能エネルギー、ロボット工学における中国のリーダーシップ、そして人工知能や宇宙探査におけるアメリカとの熾烈な競争は、窃盗だけで片付けられるものではない。トランプが理解していないのは、中国の功績の大部分は、国民の勤勉さと犠牲、そして継続的かつ意図的な国家改革によってもたらされてきたということだ。産業界においては、バイオメディカルやロボット工学といった最先端分野を特定し、多額の投資を行ってきた。そして、それは高等教育の改善とより広範な教育機会の提供に向けた、同様に協調的な取り組みによって支えられてきた。

悪い皇帝は自信過剰(self-sure)で衝動的(impulsive)なだけではない。彼らはまた、情報に疎い傾向がある。それは、彼らが自らの政党を完全に服従させ、イエスマンに取り囲まれるまでに、自分たちの意見に反する情報に触れることはほとんどなくなるからだ。

トランプは、自身の無敵感(invincibility)とアメリカ合衆国の無敵感を混同している。国内で誰も彼に抵抗できなかったため、今では世界で誰も彼に抵抗できないと考えている。たとえ政権のメンバーが中国について人種差別的な軽蔑的な発言をしても、だ。JD・ヴァンス副大統領は先週、アメリカ人は「中国の農民(Chinese peasants)」から借りるべきではないと述べた。日曜日には、ハワード・ラトニック商務長官が、世界的なスマートフォン革命を可能にした中国の工場を、大量の労働者が「小さなネジを締める([screw] in little screws)」だけの作業場だと一蹴した。

一方、スコット・ベセント米財務長官は今週、中国のビジネスモデルは破綻しており、アメリカ市場なしでは「生き残れない(can’t survive)」と述べた。(中国の対米輸出が世界の輸出に占める割合が、1990年代後半の42%という高水準から現在では約13%へと着実に減少していることは考慮に入れていない。)ベセントは、ワシントンの指示に北京が従うような世界を思い描いている。彼は次のように述べている。「バランスを取り戻せ。消費を増やし、生産を減らす。私たちは消費を減らし、生産を増やす。私たちは競争条件を大幅に平等にする」。

トランプの顧問の中で最も冷静な人物としばしば評される人物によるこの傲慢な発言は、そのナイーヴさに驚かされる。これは、1985年のプラザ合意(the 1985 Plaza Accord)のような、アメリカの全能の過去に対するトランプのノスタルジーを反映している。プラザ合意は、西ドイツや当時非常に競争力があった日本とのアメリカの貿易赤字を削減するために、世界の主要通貨を再調整した、一見すると一筆書き(the stroke of a pen)のような合意だった。

しかし、経済が減速し、人口が減少し始めた中国でさえ、1980年代の日本とは全く異なる。当時の日本ははるかに小さな国で、アメリカとの貿易に依存し、安全保障もアメリカに頼っていた。中国の人口は日本の約11倍であるだけでなく、わずか1世代余りで、ほとんどの国にとって主要な貿易相手国となり、世界銀行よりも大きな資金源となり、そして一流の軍事力を持つに至った。

中国外務省は最近の声明で次のように述べている。「中国は古代文明(an ancient civilization)を有し、礼儀正しさと正義の国である。私たちは問題を起こさず、また問題に怯むこともない。中国に対して圧力をかけたり脅迫したりすることは、正しい対処法ではない。中国はこれまで、そして今後も、自国の主権、安全保障、そして発展の利益を守るために断固たる措置を講じていく」。

レトリックはさておき、北京のこの冷静な発言は基本的に正しい。アメリカは関税を根拠に中国を威嚇することはできないだろうし、悪しき工程の大統領が自らの力と国家の能力を誇張することによっても中国を威嚇することはできないだろう。自国の弱点に目を向けなければならないのであって、決して戻ってこない過去に対する見当違いのノスタルジーではなく、未来に向けた前向きで要求の高いアジェンダが必要だ。

※ハワード・W・フレンチ:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。コロンビア大学ジャーナリズム大学院教授。長年にわたり特派員を務めた。最新作に『黒人として生まれて:アフリカ、アフリカの人々、そして近代世界の形成、1471年から第二次世界大戦まで(Born in Blackness: Africa, Africans and the Making of the Modern World, 1471 to the Second World War.)』がある。ブルースカイ・アカウント: @hofrenchbluesky.socialXアカウント:@hofrench
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