古村治彦です。
このブログでも既にお知らせしたが、私は、11月に発刊する新著の準備を行っている。その新著のテーマは「軍産複合体」である。今回は軍産複合体についての理解を深めるために、古い論稿になるが、ご紹介したい。
軍産複合体(military-industrial complex)という言葉が一般に広まったのは、1961年1月に、ドワイト・アイゼンハワー大統領が退任演説を行い、その中で使ったことがきっかけになった。簡単に言えば、軍と経済界が一体になって、アメリカ国民の税金を蝕むことへの警告であった。アメリカの戦後史は、幾多の戦争によって特徴づけられているが、アメリカを幾多の戦争に駆り立てたのは軍産複合体の存在だった。
アメリカは巨額の国防予算(日本の国家予算を凌駕する)と巨大なアメリカ軍によって、疲弊している。その重過ぎる負担に耐えられなくなっている。だから、ヨーロッパ諸国や日本に対して負担を求めている。日本はGDP比2%まで国防予算を増額することを既に決定しているが、アメリカは3.5%までの増額を求めている。そうなれば、大規模な増税か、国民生活に直結する予算分野である福祉や教育の予算を削ることになる。そうなれば、国民生活はますます苦しくなり、経済成長は期待できなくなる。
軍産複合体が国防費増額を煽れば煽るほど、結局のところ、国民生活は苦しくなり、経済成長は出来ず、国益に反する結果になる。勇ましい世迷言を述べている人々には、このことをよく考えてもらいたい。
(貼り付けはじめ)
軍事産業複合体、50年後の現在(Military-Industrial
Complex, Fifty Years On)
-ドワイト・アイゼンハワー大統領の警告から50年が経過した今も、「軍事産業複合体(military-industrial
complex)」は依然として繁栄し、国家の優先事項を決定づけていると、外交問題評議会(CFR)のレスリー・ゲルブは指摘する。ゲルブは、バラク・オバマ大統領が強力な国内経済の構築を国家安全保障上の課題として提唱すべきだと主張している。
インタヴュー対象者:レスリー・H・ゲルブ
インタヴュアー:バーナード・グウェルツマン
2011年1月12日
外交問題評議会(Council on Foreign Relations、CFR)ウェブサイト
https://www.cfr.org/interview/military-industrial-complex-fifty-years
1961年1月17日は月曜日だった。ドワイト・D・アイゼンハワー大統領は退任演説(farewell address)の中で、台頭する「軍産複合体」(a rising
"military-industrial complex")の影響に警戒するよう国民に警告した。軍事・産業・技術・議会の利害が結びついたこの複合体は、アイゼンハワーの警告演説(cautionary speech)以降、著しく肥大化した、と軍事問題アナリストのレスリー・H・ゲルブは指摘する。過去1年間にアイゼンハワーの警告を引用してきたロバート・ゲイツ国防長官は最近、今後数年間で780億ドルの削減を約束したが、ゲルブはこれが実現するかどうか、またどのような削減が行われるかは不明だと述べる。ゲルブは、連邦予算が巨大な軍事力ではなく経済強化に重点を置く必要性を強調し、バラク・オバマ大統領に対し「経済と雇用(economy and jobs)が民主主義の維持、私たちの経済競争力(economic
competitiveness)と教育制度の維持、そして世界における軍事的安全保障にとって不可欠である」理由を国民に強く訴えるよう助言すると述べた。
アイゼンハワー大統領の演説当時の軍事予算は、現在の金額と比較するとはるかに少なかったのではないか?
そのように思った方、その通りだ。物価調整後の金額で比較すれば。現在の軍事費は年間約7500億ドルである。これをアイゼンハワー時代の予算を現在の価値に換算すると、約4000億ドル、つまり半分強に過ぎない。この差は極めて大きく、アイゼンハワー大統領は当時ですら軍事費の膨張を警告するために特別な努力を払っていたのだ。
第二次世界大戦中、ヨーロッパで連合軍を率いたアイゼンハワーは、なぜそれほどまでに懸念を抱いたのだろうか?
朝鮮戦争以降、軍事費の飛躍的な増加を求める圧力が既に高まっていたため、アイゼンハワーは国防費の抑制に多大な努力を払わなければならなかった。アイゼンハワーは、自分自身がアイゼンハワーであったので、国防費の抑制に努めることができた。しかし、退任の際には、後継者たちが深刻な問題に直面することを自覚していた。だからこそ、アイゼンハワーは軍産複合体の危険性について警告を発した。
あなたは、1960年代には国防総省の高官、1970年代のジミー・カーター政権下では国務次官補(政治・軍事担当)を務めた。どちらの職務でも軍事支出に関わることになったが、軍産複合体の影響力はどれほど大きいだろうか?
1961年1月にアイゼンハワーが述べた通り、これは本当に重大な問題だ。これは巨大な力であり、単なる軍産複合体にとどまらない。アイゼンハワーはその退任演説でテクノロジーの力についても警告した。つまり軍産複合体と技術複合体(technology complex)が存在するのだが、アイゼンハワーがよく認識していたように、それだけでは終わらない。連邦議会が存在するからだ。実態は「軍事産業テクノロジー連邦議会複合体(the military-industrial-technological-congressional complex)」なのである。
アイゼンハワーの退任演説の原稿では、当初「軍事産業連邦議会複合体(the
military-industrial-congressional complex)」と呼んでいた。
その通りだ。軍事費の浪費(それは確かに多い)を一切改善せず、常により多くの支出を求める勢力を合計すれば、予算は増え続ける。第二次世界大戦直後のトルーマン政権とアイゼンハワー政権の支出を実質ドルで比較すると、現在の支出の約半分だった。人々は「GDP比で考えろ」と言って比較を歪めようとする。そうすると、トルーマンとアイゼンハワー政権時代の国民総生産(GNP)はわずか数兆ドルに過ぎなかった。現在はほぼ15兆ドルだ。この基準で比較すると、両政権の軍事予算は巨額に見える。しかしGDP比較は無意味だ。現在のGDPが当時より桁違いに大きいからだ。
軍事費の浪費(それは確かに存在する)を一切是正せず、常により多くの支出を要求する勢力が合わさることで、予算は増え続ける。
あなたはGDPと軍事費について多く執筆している。先ほど議論したこの問題全体を、どう解決すればよいだろうか?
一体どうやってそれを回避できるのか、私には分からない。カーター政権下で私が国務省で政治・軍事問題を担当していたと紹介しもらったが、当時駐イラン米大使だったウィリアム・“ビル”・サリヴァン大使と私は、当時アメリカの同盟国だったイラン国王が経済発展のために資金の一部を使えるように、イランへのアメリカの武器売却を減速させるよう提案した。私たちがその提案をした時、私が言及し、アイゼンハワーも警告していた、この軍産複合体、つまり産業技術と議会の複合体が台頭し、私たちは痛手を受けた。私たちには勝ち目はなかった。イランには使えない兵器を売ってしまった。最新鋭の戦闘機は滑走路に放置され、老朽化していった。
この状況は今も続いているのか?
概ねそう言える。武器輸出はアメリカの巨大な輸出産業だ。私はこれに異論はない。実際、1970年代に国務省に入る前、武器輸出はアメリカの外交政策における主要な手段だと論じた論文を書いた。その後カーター大統領の武器輸出削減政策を実行せざるを得なかった。ご存知の通り、武器販売が国益に反するなら行うべきではない。国益を損なわないなら、もちろん武器を販売すべきだ。軍事関係の構築や輸出促進には有益だが、むやみに武器を売り捌く訳にはいかない。
『フォーリン・アフェアーズ』誌のGDPに関する記事で、あなたはこう書いている。「ワシントンの主な課題は、経済的テーマを軸に外交政策を再構築しつつ、新たな創造的な方法で脅威に対抗することだ。目標は『安全保障(security)』を再定義し、21世紀の現実と調和させることである」。この呼びかけは、ワシントンで何らかの反響を呼んでいるか?
武器輸出が国益に貢献しないなら、行うべきではない。もし国益を損なわないなら、もちろん武器を売ればいい。軍事関係の構築は有益だし、輸出にも良い。だが、むやみに(willy-nilly)武器を売る訳にはいかない。
それは違う。それは一部の人々にとって修辞的な響きを帯びている。オバマ大統領が同じテーマを引用しながら、結局何もしなかった演説を半ダースほど挙げることができる。本論の要点は、単に外交政策に経済的焦点を持つべきだということ、そしてトルーマン大統領とアイゼンハワー大統領が実践したように不可能ではないということだけではない。この二人の大統領は、アメリカ国内経済の構築を国家安全保障の最優先要件とした。彼らは他の全てをこれに従属させるつもりだった。第二に、主要同盟国、すなわち西ヨーロッパと日本の経済を構築するつもりだったし、そして実際にそうした。彼らは私たちのための市場を創出し、同盟諸国を創り出した。そしてアイゼンハワーがジョン・F・ケネディ大統領に政権を引き継いだ頃には、西ヨーロッパ、日本、アメリカの経済力・軍事力・外交力を合計すると、私たちは世界の総力の75~80%を掌握していた。彼らが実現させた政策こそが、私が論じているものだ。
しかし、ソ連崩壊の一因は、ロナルド・レーガンによる戦略防衛構想(スターウォーズ計画)などの巨額軍事支出にあったのではないか?
そのような証拠は全く存在しない。これはネオコンたちの主張だが、旧ソ連から入手した資料、国家安全保障アーカイヴ、回顧録のいずれからも裏付けられていない。ソ連は軍事費の面で私たちと競争しようとは考えていなかった。当時、彼らにはその能力がなかった。つまり、彼らが支出によって経済的混乱に陥った訳ではなく、既に経済的混乱状態にあった。彼らは私たちやレーガン大統領のスターウォーズ計画に対抗しようとしなかった。なぜなら、それが機能しないと考えていたからだ。実際、今日に至るまでミサイル防衛実験のほとんどは失敗している。
ロバート・ゲイツ国防長官は最近、国防予算を780億ドル削減すると発表した。これは重要な発表だったのか?
削減される具体的な金額や内容については、依然として明確ではない。数字を目にするか、専門家が数字を精査し具体的な内容を確かめるまでは何も信用しない。わずか6週間ほど前、『デイリー・ビースト』誌の記事のために同じ数字を調べた際、実質的な国防予算削減どころか、今後5年間で年1~2%の増加を計画している事実を発見したのだ。ゲイツ国防長官は昨年(2010年)5月、アイゼンハワー大統領の故郷であるカンザス州アビリーンを訪れ、アイゼンハワー図書館で演説を行った。ゲイツ国防長官は私が深く敬愛する大統領退任演説の一節を引用し、経済こそが軍事力の基盤であるというアイゼンハワーの主張は正しかったと述べた。当然ながら、誰もが国防予算削減によって経済に貢献するつもりだと結論づけた。しかし私が述べた通り、実際の数値を再検証したところ、削減分は国防総省の他の分野に振り向けられることが判明した。
最近の2週間、ゲイツ国防長官は実際にいくつかの国防費削減のポイントを示唆しているようだが、具体的な規模はまだ分からない。
連邦議会は雇用を維持するために軍事費を高水準に維持することに依存しているようだ。これが大きな要因ではないだろうか?
それは何とも馬鹿馬鹿しいことだ。軍事費は雇用創出において最も非効率的な方法だ。つまり、軍事費で創出される雇用は、例えば同じ金額を道路、橋、高速道路といった国内のインフラ整備に費やした場合よりも少なくなる。
それはどうしてか?
インフラへの支出は労働集約型(labor intensive)だが、国防総省の支出のほとんどは労働集約型(labor intensive)ではなく、技術集約型(technologically
intensive)だ。そのため、高度な訓練と知識を持つ人材が必要となる。道路を解体して建設するほど多くの数の人は必要ではない。
もしオバマ大統領が電話をかけてきて、「今後2年間、何をすべきか助言をいただきたい」と言ったら、あなたは何と答えるか?
私は次のように言うだろう。国内経済と雇用を最優先事項にすることばかり言うのではなく、アメリカ国民に、なぜこれが民主政治体制の維持、経済競争力と学校の維持、そして世界における軍事安全保障にとって不可欠なのかを説明すべきだ。経済が本当に崩壊してしまい、今この厳しい決断を下して再建しなければ、私たちの軍事的安全保障までも危うくすることになるのだと国民に伝えて欲しい。
(貼り付け終わり)
(終わり)

『トランプの電撃作戦』

『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』
















