古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

2025年09月

 古村治彦です。

 このブログでも既にお知らせしたが、私は、11月に発刊する新著の準備を行っている。その新著のテーマは「軍産複合体」である。今回は軍産複合体についての理解を深めるために、古い論稿になるが、ご紹介したい。

 軍産複合体(military-industrial complex)という言葉が一般に広まったのは、1961年1月に、ドワイト・アイゼンハワー大統領が退任演説を行い、その中で使ったことがきっかけになった。簡単に言えば、軍と経済界が一体になって、アメリカ国民の税金を蝕むことへの警告であった。アメリカの戦後史は、幾多の戦争によって特徴づけられているが、アメリカを幾多の戦争に駆り立てたのは軍産複合体の存在だった。

 アメリカは巨額の国防予算(日本の国家予算を凌駕する)と巨大なアメリカ軍によって、疲弊している。その重過ぎる負担に耐えられなくなっている。だから、ヨーロッパ諸国や日本に対して負担を求めている。日本はGDP比2%まで国防予算を増額することを既に決定しているが、アメリカは3.5%までの増額を求めている。そうなれば、大規模な増税か、国民生活に直結する予算分野である福祉や教育の予算を削ることになる。そうなれば、国民生活はますます苦しくなり、経済成長は期待できなくなる。

 軍産複合体が国防費増額を煽れば煽るほど、結局のところ、国民生活は苦しくなり、経済成長は出来ず、国益に反する結果になる。勇ましい世迷言を述べている人々には、このことをよく考えてもらいたい。

(貼り付けはじめ)

軍事産業複合体、50年後の現在(Military-Industrial Complex, Fifty Years On

-ドワイト・アイゼンハワー大統領の警告から50年が経過した今も、「軍事産業複合体(military-industrial complex)」は依然として繁栄し、国家の優先事項を決定づけていると、外交問題評議会(CFR)のレスリー・ゲルブは指摘する。ゲルブは、バラク・オバマ大統領が強力な国内経済の構築を国家安全保障上の課題として提唱すべきだと主張している。

インタヴュー対象者:レスリー・H・ゲルブ

インタヴュアー:バーナード・グウェルツマン

2011年1月12日

外交問題評議会(Council on Foreign RelationsCFR)ウェブサイト

https://www.cfr.org/interview/military-industrial-complex-fifty-years

1961年1月17日は月曜日だった。ドワイト・D・アイゼンハワー大統領は退任演説(farewell address)の中で、台頭する「軍産複合体」(a rising "military-industrial complex")の影響に警戒するよう国民に警告した。軍事・産業・技術・議会の利害が結びついたこの複合体は、アイゼンハワーの警告演説(cautionary speech)以降、著しく肥大化した、と軍事問題アナリストのレスリー・H・ゲルブは指摘する。過去1年間にアイゼンハワーの警告を引用してきたロバート・ゲイツ国防長官は最近、今後数年間で780億ドルの削減を約束したが、ゲルブはこれが実現するかどうか、またどのような削減が行われるかは不明だと述べる。ゲルブは、連邦予算が巨大な軍事力ではなく経済強化に重点を置く必要性を強調し、バラク・オバマ大統領に対し「経済と雇用(economy and jobs)が民主主義の維持、私たちの経済競争力(economic competitiveness)と教育制度の維持、そして世界における軍事的安全保障にとって不可欠である」理由を国民に強く訴えるよう助言すると述べた。

アイゼンハワー大統領の演説当時の軍事予算は、現在の金額と比較するとはるかに少なかったのではないか?

そのように思った方、その通りだ。物価調整後の金額で比較すれば。現在の軍事費は年間約7500億ドルである。これをアイゼンハワー時代の予算を現在の価値に換算すると、約4000億ドル、つまり半分強に過ぎない。この差は極めて大きく、アイゼンハワー大統領は当時ですら軍事費の膨張を警告するために特別な努力を払っていたのだ。

第二次世界大戦中、ヨーロッパで連合軍を率いたアイゼンハワーは、なぜそれほどまでに懸念を抱いたのだろうか?

朝鮮戦争以降、軍事費の飛躍的な増加を求める圧力が既に高まっていたため、アイゼンハワーは国防費の抑制に多大な努力を払わなければならなかった。アイゼンハワーは、自分自身がアイゼンハワーであったので、国防費の抑制に努めることができた。しかし、退任の際には、後継者たちが深刻な問題に直面することを自覚していた。だからこそ、アイゼンハワーは軍産複合体の危険性について警告を発した。

あなたは、1960年代には国防総省の高官、1970年代のジミー・カーター政権下では国務次官補(政治・軍事担当)を務めた。どちらの職務でも軍事支出に関わることになったが、軍産複合体の影響力はどれほど大きいだろうか?

1961年1月にアイゼンハワーが述べた通り、これは本当に重大な問題だ。これは巨大な力であり、単なる軍産複合体にとどまらない。アイゼンハワーはその退任演説でテクノロジーの力についても警告した。つまり軍産複合体と技術複合体(technology complex)が存在するのだが、アイゼンハワーがよく認識していたように、それだけでは終わらない。連邦議会が存在するからだ。実態は「軍事産業テクノロジー連邦議会複合体(the military-industrial-technological-congressional complex)」なのである。

アイゼンハワーの退任演説の原稿では、当初「軍事産業連邦議会複合体(the military-industrial-congressional complex)」と呼んでいた。

その通りだ。軍事費の浪費(それは確かに多い)を一切改善せず、常により多くの支出を求める勢力を合計すれば、予算は増え続ける。第二次世界大戦直後のトルーマン政権とアイゼンハワー政権の支出を実質ドルで比較すると、現在の支出の約半分だった。人々は「GDP比で考えろ」と言って比較を歪めようとする。そうすると、トルーマンとアイゼンハワー政権時代の国民総生産(GNP)はわずか数兆ドルに過ぎなかった。現在はほぼ15兆ドルだ。この基準で比較すると、両政権の軍事予算は巨額に見える。しかしGDP比較は無意味だ。現在のGDPが当時より桁違いに大きいからだ。

軍事費の浪費(それは確かに存在する)を一切是正せず、常により多くの支出を要求する勢力が合わさることで、予算は増え続ける。

あなたはGDPと軍事費について多く執筆している。先ほど議論したこの問題全体を、どう解決すればよいだろうか?

一体どうやってそれを回避できるのか、私には分からない。カーター政権下で私が国務省で政治・軍事問題を担当していたと紹介しもらったが、当時駐イラン米大使だったウィリアム・“ビル”・サリヴァン大使と私は、当時アメリカの同盟国だったイラン国王が経済発展のために資金の一部を使えるように、イランへのアメリカの武器売却を減速させるよう提案した。私たちがその提案をした時、私が言及し、アイゼンハワーも警告していた、この軍産複合体、つまり産業技術と議会の複合体が台頭し、私たちは痛手を受けた。私たちには勝ち目はなかった。イランには使えない兵器を売ってしまった。最新鋭の戦闘機は滑走路に放置され、老朽化し​​ていった

この状況は今も続いているのか?

概ねそう言える。武器輸出はアメリカの巨大な輸出産業だ。私はこれに異論はない。実際、1970年代に国務省に入る前、武器輸出はアメリカの外交政策における主要な手段だと論じた論文を書いた。その後カーター大統領の武器輸出削減政策を実行せざるを得なかった。ご存知の通り、武器販売が国益に反するなら行うべきではない。国益を損なわないなら、もちろん武器を販売すべきだ。軍事関係の構築や輸出促進には有益だが、むやみに武器を売り捌く訳にはいかない。

『フォーリン・アフェアーズ』誌のGDPに関する記事で、あなたはこう書いている。「ワシントンの主な課題は、経済的テーマを軸に外交政策を再構築しつつ、新たな創造的な方法で脅威に対抗することだ。目標は『安全保障(security)』を再定義し、21世紀の現実と調和させることである」。この呼びかけは、ワシントンで何らかの反響を呼んでいるか?

武器輸出が国益に貢献しないなら、行うべきではない。もし国益を損なわないなら、もちろん武器を売ればいい。軍事関係の構築は有益だし、輸出にも良い。だが、むやみに(willy-nilly)武器を売る訳にはいかない。

それは違う。それは一部の人々にとって修辞的な響きを帯びている。オバマ大統領が同じテーマを引用しながら、結局何もしなかった演説を半ダースほど挙げることができる。本論の要点は、単に外交政策に経済的焦点を持つべきだということ、そしてトルーマン大統領とアイゼンハワー大統領が実践したように不可能ではないということだけではない。この二人の大統領は、アメリカ国内経済の構築を国家安全保障の最優先要件とした。彼らは他の全てをこれに従属させるつもりだった。第二に、主要同盟国、すなわち西ヨーロッパと日本の経済を構築するつもりだったし、そして実際にそうした。彼らは私たちのための市場を創出し、同盟諸国を創り出した。そしてアイゼンハワーがジョン・F・ケネディ大統領に政権を引き継いだ頃には、西ヨーロッパ、日本、アメリカの経済力・軍事力・外交力を合計すると、私たちは世界の総力の75~80%を掌握していた。彼らが実現させた政策こそが、私が論じているものだ。

しかし、ソ連崩壊の一因は、ロナルド・レーガンによる戦略防衛構想(スターウォーズ計画)などの巨額軍事支出にあったのではないか?

そのような証拠は全く存在しない。これはネオコンたちの主張だが、旧ソ連から入手した資料、国家安全保障アーカイヴ、回顧録のいずれからも裏付けられていない。ソ連は軍事費の面で私たちと競争しようとは考えていなかった。当時、彼らにはその能力がなかった。つまり、彼らが支出によって経済的混乱に陥った訳ではなく、既に経済的混乱状態にあった。彼らは私たちやレーガン大統領のスターウォーズ計画に対抗しようとしなかった。なぜなら、それが機能しないと考えていたからだ。実際、今日に至るまでミサイル防衛実験のほとんどは失敗している。

ロバート・ゲイツ国防長官は最近、国防予算を780億ドル削減すると発表した。これは重要な発表だったのか?

削減される具体的な金額や内容については、依然として明確ではない。数字を目にするか、専門家が数字を精査し具体的な内容を確かめるまでは何も信用しない。わずか6週間ほど前、『デイリー・ビースト』誌の記事のために同じ数字を調べた際、実質的な国防予算削減どころか、今後5年間で年1~2%の増加を計画している事実を発見したのだ。ゲイツ国防長官は昨年(2010年)5月、アイゼンハワー大統領の故郷であるカンザス州アビリーンを訪れ、アイゼンハワー図書館で演説を行った。ゲイツ国防長官は私が深く敬愛する大統領退任演説の一節を引用し、経済こそが軍事力の基盤であるというアイゼンハワーの主張は正しかったと述べた。当然ながら、誰もが国防予算削減によって経済に貢献するつもりだと結論づけた。しかし私が述べた通り、実際の数値を再検証したところ、削減分は国防総省の他の分野に振り向けられることが判明した。

最近の2週間、ゲイツ国防長官は実際にいくつかの国防費削減のポイントを示唆しているようだが、具体的な規模はまだ分からない。

連邦議会は雇用を維持するために軍事費を高水準に維持することに依存しているようだ。これが大きな要因ではないだろうか?

それは何とも馬鹿馬鹿しいことだ。軍事費は雇用創出において最も非効率的な方法だ。つまり、軍事費で創出される雇用は、例えば同じ金額を道路、橋、高速道路といった国内のインフラ整備に費やした場合よりも少なくなる。

それはどうしてか?

インフラへの支出は労働集約型(labor intensive)だが、国防総省の支出のほとんどは労働集約型(labor intensive)ではなく、技術集約型(technologically intensive)だ。そのため、高度な訓練と知識を持つ人材が必要となる。道路を解体して建設するほど多くの数の人は必要ではない。

もしオバマ大統領が電話をかけてきて、「今後2年間、何をすべきか助言をいただきたい」と言ったら、あなたは何と答えるか?

私は次のように言うだろう。国内経済と雇用を最優先事項にすることばかり言うのではなく、アメリカ国民に、なぜこれが民主政治体制の維持、経済競争力と学校の維持、そして世界における軍事安全保障にとって不可欠なのかを説明すべきだ。経済が本当に崩壊してしまい、今この厳しい決断を下して再建しなければ、私たちの軍事的安全保障までも危うくすることになるのだと国民に伝えて欲しい。

(貼り付け終わり)

(終わり)

※2025年11月に新刊発売予定です。新刊の仮タイトルは、『「新・軍産複合体」が導く米中友好の衝撃!(仮)』となっています。よろしくお願いいたします。
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『トランプの電撃作戦』
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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 ジェフリー・エプスタインが引き起こした、未成年に対する性的虐待・搾取問題は、エプスタインが逮捕され、裁判で有罪判決を受け、収監され、死亡(自殺説、謀殺説がある)してもなお、アメリカとイギリスの上流社会、エリート社会に深刻な影響を残している。以下の写真を見て欲しい。これは、2000年に、ドナルド・トランプ大統領の邸宅であるマール・ア・ラーゴでのパーティーでの一枚だ。ドナルド・トランプ(Donald Trump、)とメラニア夫人(Melania Trump)の隣にいる人物はイギリス王室ヨーク公アンドルー王子(Prince Andrew, Duke of York、1960年-、65歳)だ。エリザベス女王にとっての次男、現在のイギリス国王チャールズ3世の弟だ。そして、少し離れたところに小さく男性がジェフリー・エプスタイン(1953-2019年、66歳)だ。
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ドナルド・トランプ、メラニア夫人、アンドルー王子、ジェフリー・エプスタイン

 アンドルー王子がエプスタインと共に、未成年者に対する性的な虐待・搾取を行っていたことは明らかになっている(王子側は否定)。また、トランプ自身もそのようなことをしていないと否定しているが、数々の写真や証拠からその主張は虚偽であるとも言われている。エプスタインが遺した記録やファイルは、全部が公開されてしまえばアメリカやヨーロッパの上流社会、エリート社会が崩壊してしまいかねない深刻なものだ。トランプはそのようなファイルは存在していないと否定し、自身の支持者たちから攻撃されている。

 アンドルー王子と妻のサラ(1996年に離婚)については、不行跡で母であるエリザベス2世を散々困らせていたということだ。エプスタインのような怪しい人物たちと平気で交際し、彼らに「イギリス王室、王子と知り合いだ」というお墨付きを与えることになった。イギリス王室はスキャンダルが良く起きる印象がある。その中でも、アンドルー王子は特に話題になる。その内容も軽いものではない。こうなると、わざわざ税金で、王室を「養っている」ことの意味に疑念を持つイギリス国民も多く出てくる。国民に近く、親しみを持たれることは王室にとって重要なことであるが、スキャンダルまみれということになると、その存在まで危険に晒すことなる。イギリス王室廃止論がイギリス国民の間で拡大するのが困るのだ。最近のトランプ大統領に対する、イギリスの最大限のおもてなし、国賓待遇は、エプスタイン・ファイルの公開を止めてくれたことに対する、最大限の感謝ということになるだろう。

 トランプも結局、上流階級の人間で、汚れているアメリカ政治、ワシントン政治を徹底的に掃除するまでには至らないのではないかという疑念が出ている。そして、エスタブリッシュメント、エリートたちを守る方向に舵を切っているようである。ポピュリズムは常に裏切られ、敗北する運命にある。しかし、ポピュリズムは何度でも復活する。

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女王のゴシップの全て(All the Queen’s Gossips

-2冊の新刊では、王室にまつわる物語と実際の犯罪が織りなす複雑な世界を探求する。

ジェイムズ・パルマー筆

2025年9月12日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2025/09/12/prince-andrew-jeffrey-epstein-queen/

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2024年5月16日、ロンドンのバッキンガム宮殿で、アンディ・ウォーホルのシルクスクリーン版画「統治している女王たち(ロイヤルエディション)連合王国女王エリザベス2世(Reigning QueensRoyal EditionQueen Elizabeth II of the United Kingdom)」を撮影するカメラマン。

ある夜、イングランドの女王がジョニー・キャッシュの夢に現れた。「ジョニー・キャッシュ! あなたは旋風の中のいばらの樹のようなものだ」と彼女は言った。目覚めた後もその言葉は彼の心に残り、その後7年をかけて、彼はそれを終末的な歌『ザ・マン・カムズ・アラウンド』へと昇華させた。

彼の名声にもかかわらず、キャッシュとエリザベス2世は一度も会ったことがなかった。しかし、彼女は、世界中の無数の人々にとってそうであったように、彼の夢の世界において強力な存在感を占めていた。クレイグ・ブラウンの著書『Q:女王をめぐる航海(Q: A Voyage Around the Queen)』は、平凡なものから官能的なものまで、彼女に関する多くの人々の夢を詳細に記している。

これは、伝説的に書きにくい題材にブラウンが取り組む手法の1つである。過去10年ほど、英国随一の風刺作家であり続けているブラウンは、その荒唐無稽なものへの目を伝記にも向け始めた。女王の妹マーガレット王女の混沌とした生涯を描いた著作もその1つで、ありえたかもしれない未来(might-have-beens)、噂の分析(dissection of rumors)、パロディ(parody)、逸話(anecdote)が混在している。

マーガレット王女は豊富な材料を提供した。しかし、姉の生涯の大半が公の場で行われたのに対し、エリザベス自身は職業的に退屈であった。彼女は立憲君主の役割を徹底的に体現し、自らの内面を一切明かさなかった。私生活では、十代の頃に心を奪われた若くハンサムな男性と結婚し、90代後半に二人とも亡くなるまで共に過ごした。公の場で発言する際、彼女は自分自身としてではなく、政府の代表として語ったのである。

本書の副題が示しているように、これはエリザベス自身というより、彼女に対する人々の反応を描いた著作である。彼女は不動の中心的存在であり、その周囲を国際的な変わり者や夢想家たちが巡る。病に伏すマーガレット・サッチャーからセックス・ピストルズ、ルーマニアの独裁者の妻エレナ・チャウシェスクに至るまで、魅力的な逸話が散りばめられている。女王は他人の人生を漂いながら、時折「それはとても興味深いですわね」とか「ご遠方からいらっしゃったのですか?」と口にする。

エリザベス女王の人間味が垣間見える瞬間もいくつかある。例えば、アイルランド共和軍の爆撃で双子の兄弟と祖父母を亡くしたばかりの少年を優しく母親のように扱う場面などだ。ブラウンは、エリザベス女王がコーギーを愛する理由は、この雑多で奔放な小型犬が、エリザベスにはできないような振る舞いをするからだと示唆している。1978年にイギリス政府から公式訪問の一環として栄誉を受けたルーマニアのニコラエ・チャウシェスク大統領のように、明らかな悪人(n obvious bad egg)にナイトの称号を授与しなければならない時も、エリザベスは彼の無作法さ(boorishness)について軽く文句を言う程度だった。彼女はある友人に、ドナルド・トランプ米大統領が「とても失礼(very rude)」で、肩越しにじっと見つめるのを止められないと打ち明けた。(トランプ大統領は、自分が女王と交流したときほど「女王がこれほど楽しんでいる姿を人々が見たことがないほどだった」と宣言した。)

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1982年7月28日、英ノーフォークのビーチでコーギー犬と散歩するエリザベス女王。

ブラウンは以前の著書と同様に、伝記の信憑性の低さに着目している。例えば、1982年にエリザベス女王の寝室に忍び込み、話しかけ始めた失業中の男、マイケル・フェイガンについて、様々な主張がなされていることを列挙している。二人の短い会話には、全く異なる解釈が6つも存在する。

エリザベス女王は、富裕層や有名人であっても、言葉を失う者から狂気じみた行動に至るまで、様々な反応を引き起こした。日本の億万長者で超国家主義者にして、戦争犯罪の疑いもある笹川良一がノーベル平和賞獲得のロビー活動の一環としてガーデンパーティーに潜り込み、彼女に会うために泣き叫びながら足元にひれ伏した際、彼女は「立ち上がってもよろしくってよ(He can get up, you know)」と述べた。

笹川良一は、同じく不誠実な人物であるチェコ系イギリス人実業家ロバート・マクスウェルのゲストとしてそのパーティーに招かれた。マクスウェルの娘ギスレーンは現在、父親よりもさらに悪名高い人物となっている。彼女は後に、彼女の恋人であるジェフリー・エプスタインと、エリザベス女王の次男であるアンドルー王子の関係において、重要な役割を果たすことになる。

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2020年7月1日、ロンドンのショーディッチでのヨーク公アンドルー王子の壁画。王子は、ジェフリー・エプスタインとイギリスの社交界の人物、ギスレーン・マクスウェルとの関係について、厳しい疑惑追及の目にさらされていた。

不名誉な形で王室の職務から解任されたアンドルーは、母親とは正反対の、無分別で精力的なプレイボーイであり、パブで退屈な意見を口にする傾向があった。そのため、彼については書きやすい。イギリス王室に関するより伝統的な書籍は、おべっか使いか、スキャンダルを暴くかの 2つに分類される。文学エージェントであり歴史家でもあるアンドルー・ラウニーの『有資格者:ヨーク家の興亡(Entitled: The Rise and Fall of the House of York)』は、明らかに後者に属し、伝記というよりも、ラウニーが見つけたあらゆる卑劣な話や宮廷のゴシップを駆使してアンドルーを攻撃する、いわば小銃(a blunderbuss shot)のような著作となっている。

その中には、アンドルー王子とエプスタイン、そしてマクスウェルとの関係の程度に関する新たな主張も含まれている。ラウニーによれば、マクスウェルもアンドルーの「たまの逢瀬を楽しむ恋人(occasional lover)」だったという。その関係により、アンドルーは王室の職務のほとんどを失った。それは、エプスタインの犠牲者の1人であるヴァージニア・ジュフレ(彼女が17歳のときに王子と3回寝たと証言している)の証言と写真による証拠がありながら、アンドルー王子が彼女と会ったことをきっぱりと否定したという、悲惨なインタヴューの後だった。イギリスにおけるアンドルー王子の評判は最悪である。この本は、著者が、この本で取り上げた人物が名誉毀損訴訟を起こすことは決してないという確信を持って書いたものである。

ヨーク公アンドルー王子に同情の念を抱くことは難しいが、ラウニーの著書は、情報源のない話でさえ、王室の人々にどれほど簡単に貼りつくかを、意図せずに実証している。エリザベス女王は手出しできない存在であるため、王室の他のメンバーには、さらに簡単にデマが貼りつく。

この本は、アンドルー王子とエプスタインのつながりなど、よく知られた事実と、何十年も前にアンドルー王子を知っていた人物や匿名の元スタッフからラウニーが一度聞いた話とを区別できないという欠点がある。アンドルー王子は13歳になる前に、本当に複数の女性とセックスをしたのだろうか? 彼はハンサムな若い船乗りたちに密かな嗜好を持っているのだろうか? ある元ガールフレンド(彼女の名前はファーストネームのみで言及されている)が主張するように、彼は「2人の女性が同時に施術する4つの手マッサージ」を好んでいるというのは本当だろうか? 彼は、カーテンを開けるためだけに、メイドを自宅の4階に呼び上げているのだろうか?

これらの噂はどれも真実かもしれない。しかし、その全てが真実であるということについては、私は強い疑いを持っている。宮殿のスタッフや王室関係者は、厳密な正確さを陽気に無視する、非常にゴシップ好きな集団だ。1990年代初頭、フィリップ王配の警護担当者から、当時のチャールズ王太子がダイアナ妃よりカミラを好んだ真の理由について聞いた話があるが、それは『フォーリン・ポリシー』の読者の皆さんには伝えられない。その話は真実とは思えなかったが、卑猥でありながら非常に滑稽で、それゆえに魅力的な話だった。
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1988年2月11日、英リヴァプールを公式訪問中のアンドルー王子とヨーク公夫人サラ。この日、夫妻は最初の子供を妊娠していることを発表していた。

ラウニーが得意とするのは、収入と支出の両方に関するお金のことだ。彼は、アンドルー王子と、ファーギーとしてよく知られる元妻サラ・ファーガソンが、結婚後の1986年の合計収入が、必要額よりもはるかに少ないと感じていたことを明らかにしている。アンドルー王子の海軍からの給与とファーギーの出版社の給与は合わせて3万2000ポンド(現在の約16万ドル)だった。しかし、この収入以外に、イギリス政府が公的な支出を賄うために、現在の金額で約25万ドルに相当する金額を、毎年、王室関係歳費として支払っていた。また、複数の住宅も与えられ、かなりの家産も相続していた。

しかし、それでも彼らのニーズには十分ではなかった。ラウニーの記述では、ファーギーは夫よりも好印象で、親切で寛大な友人であるだけでなく、子供向けの本からダイエット・プログラムの広告契約に至るまで、数百万ポンドの収入を生み出す、ある種の前衛的なキム・カーダシアンのような存在として描かれている。だが夫妻の浪費は途方もない規模で、資金源に疑問が集中した。特に2010年、ファーギーが中東の長老であるシェイク(sheikh)に扮したタブロイド記者に対し、元夫への接触権を50万ドル超で売却すると約束する様子が録音された事件後はなおさらだった。

ラウニーによれば、アンドルー王子夫妻がアメリカの金融業者であり性犯罪者でもあるジェフリー・エプスタインと初めて出会ったのは1989年、アンドルー王子が現在主張している時期よりも約 10年も前のことだった。エプスタインとアンドルー王子の関係に関する資料は興味深く、多くの場合新しい情報であり、英国のマスコミに激しい論争を巻き起こしたが、その構成は混沌としており、文脈にも欠けている。ラウニーは、アンドルー王子が単なる友人ではなく、エプスタインと長年にわたる親密な関係にあり、その価値を金融業者であるエプスタインが認識しており、彼を「スーパーボウルのトロフィー(Super Bowl trophy)」と呼んでいたことを明らかにしている。より思慮深い本であれば、エプスタインが活動していたより広範な社会、つまり社会学者アシュリー・ミアーズが著書『極めて重要な人物たち(Very Important People)』で述べているように、性的対象として見なされる若い女性を提供することが、富裕層や権力者間の重要な社会的つながりの形態となっている社会について考察していたかもしれない。

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左から:2000年2月12日、フロリダ州パームビーチのマー・ア・ラゴ・クラブで開催されたパーティーでのメラニア・トランプ、アンドルー王子、グウェンドリン・ベック、エプスタイン。

アンドルー王子は、中東のプレイボーイ、中央アジアの独裁者、アメリカの億万長者、中国のスパイ容疑者など、その世界の人々の多くと親しい間柄だった。エプスタインのスキャンダル以前、彼のライフスタイルの多くは、イギリス政府の暗黙の了解のもとで成り立っていた。イギリス政府は、外国の独裁者たちに好印象を与えるため、アンドルー王子を貿易に関する「特別代表(special representative)」として活用していた。

アンドルー王子が付き合う人々は特に酷いようだが、複数の王室関係者に、どれほど多くの詐欺師や児童虐待者が取り付いているかについては驚くほどのレヴェルだ。ブラウンは、2005年にエリザベス女王の80歳の誕生日に肖像画を描いた、かつて愛されたオーストラリアの芸術家であり歌手でもあるロルフ・ハリスを取り上げている。しかし、その数年後、彼は児童に対する連続性的犯罪で有罪判決を受けた。死後、イギリスで最も多作な性犯罪者の1人であることが明らかになった有名人、ジミー・サヴィルは、チャールズの非公式顧問であり、アンドルー王子の無神経な発言を受けて、王室のための広報ハンドブックを編集した。チャールズの長年の友人であり、精神的指導者でもあった南アフリカ人作家ローレンス・ヴァン・デル・ポストも、死後、14歳の少女を性的虐待した常習的な嘘つきであることが明らかになった。

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1965年12月頃、王室専用列車の中で、窓から手を振る若いアンドルー王子(左)と、別の窓に映るエリザベスと他の3人の子供たち。

エリザベス女王は、この種の不気味な人物や取り巻きをほとんど避けるために、十分な距離感を保っていた。しかし、より依存心が強く、世間に疎い子供たちはそうではなかった。アンドルー王子はさらに一歩進んで、エプスタインのような人物に王室の庇護を与えるだけでなく、セックス、強制、搾取の世界にも参加していた。エプスタインに関する資料がさらに明らかになるにつれて、世界でも最も人脈の広い小児性愛者の1人と親しい他の著名人と同様、アンドルー王子の関与の全容がさらに明らかになるかもしれない。

アンドルー王子の(名前の明かされていない)元側近の1人は、王子が何度も繰り返し読んでいるというお気に入りの本は『リプリー(The Talented Mr. Ripley)』だと主張している。パトリシア・ハイスミスによるこのスリラーは、性的両性具有の社会病質者(a sexually ambivalent sociopath)が、裕福な怠け者を魅了し、そして破滅させるという古典的な作品である。アンドルー王子にとっては、これは一種の戒めとなる物語かもしれない。

※ジェイムズ・パルマー:『フォーリン・ポリシー』誌副編集長。Blueskyアカウント:@beijingpalmer.bsky.social

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 2025年10月に実施される自民党総裁選の候補者が出揃いつつある。現在のところ、高市早苗議員と小泉進次郎議員が激しく争っており、他の候補者たちは厳しい戦いが予想される。茂木、小林、林の各氏は東京大学、ハーヴァード大学ケネディ記念行政大学院の同窓生の争いとなっている。高市氏、小泉氏もアメリカ経験があるが、3人の経歴に比べれば見劣りする。5人中4人がアメリカの名門大学の大学院で修士号を取得しているのは、属国の面目躍如と言うべきだろう。
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 高市早苗議員を応援するのは麻生太郎元首相と、自民党内で唯一解散せずに残っている麻生派である。麻生氏は、前回の総裁選挙で、私怨もあって石破茂議員当選を阻止すべく、高市議員支援を行い、敗れた。今回は、選挙での敗北を台木名分にして、石破降ろしの陣頭指揮を執り、いつまでも権力者気取り、キングメイカー気取りで、死ぬまで議席と権力を離さないという強い姿勢を見せている。麻生氏は自分に挨拶があるなしで愛い奴と判断し、女性を美醜で判断するような発言を平気で行ってきた過去があり、いつまでも権力の周辺にいてよい人物ではない。21世紀も四半世紀が過ぎようしている時代に、時代の大きなうねりや大転換、構造変化についていけない人物が日本の権力者となっていることは、現在の日本の不幸であり、将来の歴史家も「日本を救った祖父吉田茂、日本をダメにした孫麻生太郎」という評価を降すだろう。その頃の日本は先進国の地位を失っているだろう。

 高市議員は故安倍晋三元首相の正統な後継者を自認している。しかし、安倍派の幹部だったことはなく、安倍派四人衆(松野博一議員、西村康稔議員、萩生田光一議員、世耕弘成議員)は面白くないだろう。しかし、彼らはもはや自民党の総裁になる力はない。自民党を離れているものもいる。そうなれば、高市氏を応援するしかない。麻生太郎議員の下について、高市政権樹立の際に、おこぼれをもらって生き延びるしかない。

 小泉進次郎を支えるのは、菅義偉元首相だ。「小石河連合」(小泉進次郎議員、石破茂首相、河野太郎議員)という動きもあったが、河野議員は、派閥の両州である麻生氏から派閥を譲ってもらうためには膝を屈して従わねばならない。麻生議員がいつまでも引退しないために、河野議員も年齢を重ねてしまい、チャンスを逸する可能性もある。昔は、派閥継承のクーデターもあったが、河野氏にはその気概もなく、仲間もいないようだ。この人望のなさが致命的になっている。河野一郎、河野洋平と続く、自民党総理総裁に限りなく近づきながら、結局厳しかったという、四半世紀にわたる悲劇性がつきまとう。

 小泉議員は石破政権の農林水産相でありながら、菅義偉議員と共に、石破首相に退陣を迫り、最近の出馬意向表明では、石破首相の路線を継承するという心にもないことを述べている。系統としては保守傍流である小泉議員には保守本流の石破首相の継承者にはなれない。石破首相の継承者は林芳正官房長官である。残念であるが、今回の総裁選挙では、林議員は厳しい戦いとなる。

 麻生議員が推す高市議員対菅議員が推す小泉議員の戦いということになる。決選投票でどのような動きになるかであるが、高市、小泉両陣営は多数派工作も同時並行して進めねばならないが、派閥がなくなっている状況では単純にはいかない。連立組み換えということも視野に入り、自民党所属議員たちはより多くの要素を考慮して判断しなくてはならなくなる。国民民主党と日本維新の会が対象となるだろうが、麻生議員は国民民主党と参政党を評価しているということで、単細胞のネトウヨと思考は変わらない。菅議員は日本維新の会と関係が深い。横浜でのカジノ理研は潰されたが、大阪でのカジノ理研は残っている。小泉政権樹立となったら、横浜でのカジノ開設の話も復活する可能性もある。

 連立の枠組みの変更については、それぞれの議席数を考えねばならない。衆議院の過半数は233議席、参議院は125議席だ。各党の議席数は、自民党(衆:196議席、参:100)、公明党(衆:24議席、参:21議席)、国民民主党(衆:27議席、参:25議席)、日本維新の会(衆:35議席、参:19議席)、参政党(衆参:15議席)である。公明党は中道保守を連立相手に求めているとなると、参政党は除外される。国民民主党と日本維新の会のどちらかが連立に参加となれば自公の連立政権は盤石となる。参加政党が多くなるのは望ましくない。高市総理総裁なら国民民主(と閣外協力で参政党)、小泉総理総裁なら日本維新の会ということになるだろう。国民民主党、日本維新の会が同時に連立入りする可能性は低いのではないかと思う。

 小林鷹之議員の出馬表明の発言で気になる部分があった。以下の新聞記事によると、「防衛費増にも言及し、政府方針の「国内総生産(GDP)比2%だと到底足りない」と指摘した。国家安全保障戦略の早期改定を掲げた」ということだ。これは、私の新著でも取り上げたが、エルブリッジ・コルビー米国防次官の日本に大軍拡を求める路線に盲従するということを示している。コルビー次官は著書の中で、「日本の国防費は対GDP比3%まで増額せよ」と主張している。日本はアメリカに強要されて2%まで増額するということになっているが、更に増額せよと言っている。更には、時事通信2025年6月21日付記事「米、日本に防衛費3.5%要求 反発で2プラス2見送りか―英紙報道」によると、3.5%までの増額を日本政府に要求し、石破政権から反発を受けたということだ。NATO諸国は、3.5%プラス軍事インフラ整備1.5%にまで増額するという決定をしているが、日本が付き合う必要はない。アメリカの軍需産業を延命させるために、日本人の生活を切り詰めて、貧しい生活をしてまで貢ぐ必要はない。日本人の生活を大事にする、日本人ファーストなどと言うならば、アメリカからの要求をきちんとはねのけるだけのことができなければ、ただの口先番長でしかない。そして、この小林議員の発言で、この小林議員も立派な対米隷属派だということが明らかになった。高市氏とそんなに変わらない。「日本初の女性首相を」「世代交代で一気に50代を首相に」という掛け声に騙されてはいけない。日本の為になる人こそが選ばれるべきだ。しかし、今回の自民党総裁選挙は既に失望、絶望しかない。

■自民党総裁選候補者の略歴

●高市早苗(1961年生まれ、64歳):奈良県立畝傍高等学校卒業-神戸大学経営学部-松下政経塾(5期)-連邦議会立法調査官(Congressional Fellow)-日本短期大学助手-キャスター-無所属-自由党・自由改革連合-新進党-自民党

●小泉進次郎(1981年生まれ、44歳):関東学院六浦高校-関東学院大学経済学部-コロンビア大学大学院(政治学・ジェラルド・カーティス)修士-戦略国際問題研究所(CSIS)日本部研究員(マイケル・グリーン)-小泉純一郎私設秘書

●茂木敏充(1955年生まれ、69歳):栃木県立足利高校-東京大学経済学部-丸紅-読売新聞-ハーヴァード大学ケネディ記念行政大学院修士-マッキンゼー・アンド・カンパニー-平成維新の会事務局長-日本新党-無所属-自民党

●小林鷹之(1974年生まれ、50歳):開成高校-東京大学法学部-大蔵省-ハーヴァード大学ケネディ記念行政大学院修士

●林芳正(1961年生まれ、64歳):山口県立下関西高校-東京大学法学部-三井物産-サンデン交通-山口合同ガスーハーヴァード大学ケネディ記念行政大学院修士

(貼り付けはじめ)

●「世代交代」掲げる小林鷹之氏、現役世代の手取り増へ「定率減税」明言…林官房長官も出馬の意向表明

9/16() 23:08配信 読売新聞オンライン

https://news.yahoo.co.jp/articles/372c287e31ab99ee889ce8c23a0ebde4868597ca

 自民党の小林鷹之・元経済安全保障相(50)は16日、記者会見を開き、党総裁選(22日告示、10月4日投開票)への立候補を正式に表明した。現役世代支援のための所得税の「定率減税」の実施や、消費税減税を将来的な選択肢とする考えを示した。林芳正官房長官(64)は16日、国会内で記者団に「党をリードし、この国のかじ取りをしていきたい」と語り、出馬の意向を表明した。

 小林氏は国会内での記者会見で「党に対する(怒りの)声が日に日に膨らんでいくのを感じてきた。強い危機感を持っている」と述べ、「世代交代が必要だ。もう一度、世界の真ん中に日本を立たせる」と訴えた。

 経済成長を促す戦略分野への大胆な投資と同時に、現役世代の手取り増対策が必要だとして、所得税額から一定割合を差し引く「定率減税」を期間限定で実施すると明言した。恒久的な所得税制見直し議論にも1年程度で結論を得るとした。

 消費税減税に関しては、現下の物価高対策としてではなく、将来的な経済低迷時の内需喚起のための「選択肢の一つ」と位置付けた。

 防衛費増にも言及し、政府方針の「国内総生産(GDP)比2%だと到底足りない」と指摘した。国家安全保障戦略の早期改定を掲げた。

 少数与党下での野党との連携は、政策ごとの「部分連合」と連立枠組み拡大議論を同時並行で進める方針だとした。

 内閣の要である官房長官を務める林氏は「石破首相を非力ながらお支えしてきた。後を引き継いでいきたい」と強調した。週内に記者会見を開き、政策を公表する。

 小泉進次郎農相(44)は閣議後の記者会見で「正式表明に向けて陣営と一つ一つ積み上げていきたい」と述べた上で、昨年9月の総裁選に出馬した加藤財務相が陣営の選挙対策本部長に就くと明らかにした。

 総裁選を巡っては、高市早苗・前経済安保相(64)が出馬の意向を固め、茂木敏充・前幹事長(69)は出馬を表明済みだ。記者会見は小泉氏が20日、高市氏が19日に行う方向で調整している。

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●「茂木氏、連立拡大「追求」 自民総裁選出馬を表明―小林氏も意向固める」

時事通信 編集局202509101958分配信

https://www.jiji.com/jc/article?k=2025091000748&g=pol

 自民党の茂木敏充前幹事長(69)は10日、国会内で記者会見し、石破茂首相(党総裁)の後継を選ぶ総裁選(22日告示、10月4日投開票)への出馬を正式に表明した。「基本的な政策が一致できる政党と新たな連立の枠組みを追求する」と明言し、連立政権の枠組み拡大を目指す考えを示した。日本維新の会、国民民主党を例示し「相手もあるが、しっかり話をしたい」と語った。小林鷹之元経済安全保障担当相(50)も出馬の意向を固めた。

 茂木氏は「自民は結党以来最大の危機だ。最悪の状況だからこそ立ち上がる決意をした」と述べた。立候補を表明したのは茂木氏が初めて。出馬に必要な国会議員20人の推薦人確保にも自信を示した。

 少数与党に陥った党の立て直し策として、小泉進次郎農林水産相(44)や小林氏に触れ「次の時代を担うリーダー候補が多くいる。若手を積極的に登用する」と強調した。

 政策面では、自民が参院選で公約した現金給付を取りやめると言明。地方自治体が自由に使える「生活支援特別地方交付金」創設を打ち出した。東京と地方の賃金格差を是正する必要性も指摘。3年間で年収を1割増やす目標を掲げた。

 野党が主張する消費税減税については否定的な考えをにじませ、「与党だけではなく、野党も巻き込み、しっかりした議論を進めたい」と述べた。

 小林氏は10日、昨年の総裁選での推薦人らと協議した後、記者団に「近く結論を出したい」と語った。11日には自身の政策勉強会を開く。来週に記者会見して正式に表明する方向だ。

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●「小泉進次郎農相、総裁選出馬の意向表明…加藤財務相の選対本部長起用は「私から依頼した」」

2025/09/16 11:54 読売新聞

https://www.yomiuri.co.jp/politics/20250916-OYT1T50040/

 自民党総裁選(22日告示、10月4日投開票)に立候補する意向を示している小泉進次郎農相(44)は16日午前の閣議後の記者会見で「正式表明に向け、関係者や陣営の皆さんと一つひとつ積み上げていきたい」と述べ、出馬の考えを表明した。昨年の総裁選に出馬した加藤財務相は出馬を見送り、小泉陣営の選挙対策本部長に就く。

 小泉氏は13日に地元の神奈川県横須賀市で開いた支援者らとの会合で、出馬する意向を伝えていた。週内に正式な記者会見を開き、自身の考える政策などについて説明する見通しだ。

 小泉氏は16日の記者会見で、加藤氏の選対本部長起用について「私から依頼し、受けてもらった。大変心強い」と語った。

 加藤氏は安倍元首相に近く、菅内閣では官房長官を務めた。小泉氏側には保守層を引き寄せる狙いがあるとみられる。加藤氏は15日夜のユーチューブ番組で、総裁選に関し「党として具体的な政策をどう進めていけるかが問われる。今回は応援する側につこうと思っている」と言及していた。

 16日午後には、林芳正官房長官(64)が総裁選に立候補する意向を記者団に表明するほか、小林鷹之・元経済安全保障相(50)も記者会見を開き、総裁選で訴える政策などを公表する予定だ。

 総裁選には、高市早苗・前経済安保相(64)も出馬の意向を固めており、19日に記者会見を開く方向だ。茂木敏充・前幹事長(69)もすでに出馬を表明している。

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●「【速報】小泉農水大臣が石破総理に自民党総裁選出馬の意向を伝達 防災庁や農政など石破路線を継承する考え表明」

9/17() 14:38配信 TBS NEWS DIG Powered by JNN

https://news.yahoo.co.jp/articles/145686561ffc18832f663190804ee6478248c507

小泉農水大臣は17日、石破総理と面会し、自民党総裁選に出馬する意向を伝えました。小泉氏は、防災庁の設置や農政など、石破路線の一部を継承する考えを示しています。

「総裁選の出馬の意向を地元の支援者に伝えたので、きょうは総理に改めて私から地元への報告をしてきましたと、そういうお話しをさせていただきました」

小泉農水大臣は午後、総理官邸を訪れ、石破総理とおよそ40分間会談し、総裁選に出馬する意向を伝えました。

会談後、小泉氏は出馬の理由について、“物価高や治安の不安、外交・安全保障などに向き合うためにも、まず自民党が今の体制をしっかりと立て直すことが先決だという危機感からだ”と訴えました。

石破総理からは、増産する方針を発表したコメ政策などの農政について「決して巻き戻ることがないようにしてもらいたい」と伝えられたということです。

また、小泉氏は石破政権の路線について「地方経済や防災庁、農政といったものはしっかりと引き継ぎ、巻き戻らないように進めたい」という考えを示しています。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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『トランプの電撃作戦』
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世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 副島先生の最新刊『中国はアメリカに戦わずして勝つ』(ビジネス社)が2025年10月1日に発売になる。
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『中国はアメリカに戦わずして勝つ』←青い部分をクリックするとアマゾンのページに飛びます

本書は副島先生の中国研究本は18冊目になる。本書の注目点は、体調不良が噂される習近平の後継者は誰になるのかという点で、副島先生は陳吉寧(ちんきつねい)という人物の名前を挙げている。全く聞いたことがない人物であり、日本での紹介は初と言えるだろう。
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陳吉寧

 以下に、まえがき、目次、あとがきを掲載する。参考にしていただき、是非手に取ってお読みください。

(貼り付けはじめ)

まえがき 副島隆彦(そえじまたかひこ)

この本の書名(タイトル)「中国はアメリカに戦わずして勝つ」にある、「戦わなくても勝てる」は何故か。第3章で説明する。

この本で、一番の大事は、「習近平の次は誰になるか」である。きっとこの問題には多くの人が関心を持つだろう。

どうも噂(うわさ)どおり習近平の体調は良くないようだ。この噂(ルーマー)が5月から世界中に広がった。だから中国の次のトップは誰かが問題になる。私は、ここではっきりその名前を書く。最有力は陳吉寧(ちんきつねい)(チェン・ジーニン 1964年生まれ、現在61歳)という人物である。日本人は誰も聞いたことがない名前の男だ。

私のこの予測(予言)についても、本書の第1章に書く。中国のトップ人事のことに、多くの人が関心を持つだろう。

3ページに載せた、米と中の関税(タリフ)(貿易)交渉についての最新の動きを説明する。去る7月28、29日にアメリカ財務長官のスコット・ベッセントと、中国の何か立峰(かりつほう)副首相が交渉した。この記事にあるとおり、どうせトランプは習近平と2人で直接、サシで話し合おうとしている。果たして、この秋から来年にかけて首脳会談となって習近平がトランプの要望(その実は哀(あい)願、願訴である)に応じるかまだ分からない。

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中国は、アメリカにヘコヘコしない。日本、欧州(EU)、イギリスのように「関税(タリフ)を15%にしてくれて、よかった!」というような軟弱野郎ではない。中国は〝音無しの構え”である。自分の方からは、尻尾(しっぽ)を出さない。余計なことは一切言わない。何故なら、アメリカ(トランプ)は、強大国で強そうなことをさんざん言っているが、本当は、国家財政(ファイナンス)がボロボロの借金(負債)大国だ。だから、世界中に関税(タリフ)(外国への税金(タックス))をかけて、おカネをぶったくって国家予算に回しているのである。日本からは7月22日に、合意で(ただし、まだ合意文書なし)80兆円〈5500億ドル〉を払わせる。トランプは、これを日本からの投資(インヴェストメント)(自由に使える)だ、と強弁(きょうべん)する。しかし日本側の赤沢(あかさわ)大臣は、「これは融資(ゆうし)(ローン)です(厳しいヒモ付き)」と言った。

日本のメディア〈テレビ・新聞〉は、この初原(しょげん)(そもそも)の「アメリカは破産している」を言わない。トランプが狂ったように、外国への課税をしているのだ、と書かない。説明しない。

 現在の最先端の半導体(はんどうたい)戦争の主役は、① 台湾TSMC(ティエムエスシー)(モーリス・チャン元会長、94歳)と、中国ファーウェイ(華為技術。任正非(じんせいひ)CEO、80歳)と、それからこの3年で急激に出現したNVIDIA(エヌビディア)(米国企業。しかし台湾人のジェンスン・フアン社長・CEO、62歳)と、それから、中国 DeepSeek(ディープシーク)というAI(エイアイ)企業の40歳(1985年)のガキンチョの梁文鋒(りょうぶんぽう)である。

この4社の競争のことも説明する。なんだ、みーんな中国人じゃないか。

加えて、Apple(アップル)社の最新のスマホiPhone(アイフォーン)16(シックスティーン)は、ぜーんぶ、本当は中国製じゃないか。フォックスコン(富士康(こう)、郭台銘(グオダイミン)会長、74歳)が中国各地で作っている。

これらのことも全部ぶちかまして真実(本当のこと)を私は書く。

 この本の仕上がりに石破辞任のニューズが流れた。石破首相は、よく頑張った。アメリカに80兆円(5500億ドル)の貢(みつ)ぎ金(がね)を、最後の最後まで、払わないと、頑張った。日本国民の為(ため)である。それで自民党内でイジめが続いて辞任表明した(9月7日午後6時)。

 このあと、日本に反共(はんきょう)右翼の政権ができるだろう。参政党と国民民主党と連合する。新しい政党になるかも。そうなると自民党は分裂する。残った全国の温厚な保守の経営者、資産家たちの意向を受けた、自民党ハト派(中国、ロシアとも仲良く付き合う)の政党ができるだろう。私はこの動きを支持する。

副島隆彦(そえじまたかひこ)

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『中国はアメリカに戦わずして勝つ』 目次

まえがき ──

第1章  習近平の次のトップが分かった

「戦わずして勝つ」は「孫子兵法」に書いてある ──14

習近平の次のトップは誰か ──20

アメリカのトランプ大統領の動揺が中国に影響している ──30

第2章  日本人よ、バカ右翼に乗せられるな。日米中の背景を理解せよ

日本の過去のあやまちを昭和天皇は鄧小平に詫びた ──40

松下幸之助は鄧小平に「よろしおます」と言った ──47

こういう流れで中国はアメリカと組んだ ──51

第3章 米中半導体戦争

米中の関税交渉と半導体交渉が重なり合う ──58

スマホ屋の時価総額が日本のGDPに匹敵する異常事態 ──75

半導体は6つある ──76

「線幅2ナノ」の技術競争に中国企業が加わった ──7

 TSMCとトヨタとソニーの関係──79

日本のロジック半導体で起きた〝問題〟 ──82

中国は台湾に攻め込まなくても奪い返せる ──84

この状況下でさらにバカさが目立ってきた日本人 ──87

商売人は商売になる方に付くのが当たり前なのだ ──90

台湾のTSMCの争奪戦というのが、米中問題の正体 ──92

台独の人たちはすでに台湾脱出の準備を終えている ──94

TSMCのモーリス・チャンが開き直ったから恐ろしい ──96

半導体が中国人にしか作れなくなったから、台湾が中国に帰ってくる ──98

第4章  「中国が衰退し、日本が復活する」の大ウソ。煽動する者たち

ソロスのブレーンが突然表に出てきた ──102

バブル崩壊後の1992年からが、「失われた30年」 ──111

1995年に、斎藤ジン氏はサイスを卒業 ──117

2009年から2017年がバラク・オバマ大統領 ──119

その国のことは、その国の頭のいい原住民に聞かないと分からない ──122

同性愛者特有の「血の命脈」 ──123

第5章  「日本を中国にぶつけよ」

参政党を操るアメリカの新戦略参政党躍進の裏にあるもの ── 134

神谷宗幣を操っているのはこの男だ ──147

「日本を中国にぶつける」という戦略 ──150

第6章  トランプは、参院選を利用して

石破を脅して日本から70兆円を奪ったトランプが自讃した「史上最大の取引」 ──154

変質するトランプ政治 ──160

日本人が理解しようとしない「ファースト!」の真の意味 ──166

日本の操り方を変えてきたアメリカに備えよ ──171

第7章 習近平と父習仲勲の苦難の人生の物語

育ての親の胡錦濤を平然と切り捨てた習近平 ──182

「大長征」の真実は地獄の逃走劇だった ──186

毛沢東は裏で日本とつながっていた ──190

フランスに通行料を払って中国を侵略しに行った日本軍 ──193

習仲勲の失脚と文化大革命 ──198

凄さと曲解を合わせ持つ、遠藤誉の習近平論 ──201

鄧小平を嫌う中国のインテリたち ──210

毛沢東が死ぬまで、中国は堕ち続けた ──215

中国人エリートたちが海外留学で獲得するもの ──220

集団発狂した人間の群れの恐ろしさ ──223

善人は使い物にならないと分かった鄧小平 ──226

女も稼げという客家の精神 ──231

習近平は戦争ができる男だと鄧小平に見込まれた ──234

天安門事件の学生たちは留学したあと海亀になった ──236

葉剣英が鄧小平と習近平をつなげた ──238

サッチャーは鄧小平の脅しに震えた ──244

1992年に天皇は夫婦が中国に行ったことの重要性 ──248

あとがき ──250

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あとがき 副島隆彦

この本は、私の18冊目の中国研究本である。これまでの18年間(2007年末から)に私は年に1冊の割合で、コツコツと自分の中国本を書いてきた。その全18冊の表紙を小さな画像(写真)にして、表題(タイトル)を1ページの一覧表にしようと企てたが、今回はできなかった。来年やります。

私は、18年前の2007年(アメリカでリーマン・ショックの金融危機が起きる前年。私は54歳だった)に、中国旅行から帰ったあと、猛然と中国の政治経済についての本を書きたくなった。いや、どうしても書かなければいけないのだと激しく焦(あせ)った。

中国は巨大な成長を始めていた。そのことに私は現地(広東(カントン)省の東莞(トンガン)市)で気づいたからだ。中国の現在を、日本の政治的0 知識人の眼を通して「中国で何が起きているのか」を通史として書き残さないといけない、と強く思った。

それは司馬遷(しばせん)が『史記(しき)』(紀元前90年)を編年体(へんねんたい)で書いたことの伝統に従ったものである。18年前の第1巻の私の中国本の書名(タイトル)は、『中国 赤い資本主義は平和な帝国を目指す』(ビジネス社、2007年12月刊)である。ここに刻印された文字たちは、やがて歴史の証拠となる。

私の志(こころざしを理解してくれた、この本の版元(はんもと)(出版社のこと。あるいは書肆(しょし))の社長が、私が毎年、時間を見つけて、中国の現地の各都市(その年に大事件が起きた都市)に現地調査に行く費用を出してくれた。毎回100万円の出費がかかった。担当の岩谷健一氏が同行して写真を撮り、資料集めを手伝ってくれた。有難いことである。

私には今に至るも、たった一人の中国人の親友もいない。中国語もできない。人物名を漢字で表現する拼音(ピンイン)さえ読めない。それなのに私はずっと、中国の各地を見て、そして次々に起きた政治動乱の跡の気配(けはい)を感じに現地に行った。住民たちは何事(なにごと)も無かったように静かに暮らしている。中国報道プロパーの新聞記者たちではない者が、厳格で冷酷な政治知識人の目を通して、中国を観察しその記録を残さなければいけないのだ、との強烈な自我(信念)がこの作業を私に続けさせた。漱石や芥川が書いた中国探訪記に続くものだ。

「中国は崩壊する。中国共産党の一党独裁に反抗する民衆反乱が起きて、中国は必ず滅びる」と書いて多くの本にした、数十人の、歪(ゆが)んだ精神をした反共(はんきょう)右翼たちは、全員が、その本たち(証拠として残っている)と共に滅び去った。あ、まだ、何人か残党(リメインンズ)が残っているか。

今の巨大中国(私が作ったコトバ。書名にも使った)に戦争を挑(いど)む、そして勝てると思う馬鹿はいなくなった。

それでもまだアメリカが「日本を上手に騙(だま)して、唆(そそのか)して、中国にぶつけろ。台湾有事(ゆうじ)を嗾(けしか)けて、戦争をさせろ」という悪辣(あくらつ)な戦略で動いている。そのことを本書で書いた。

日本人は動かない。全くと言っていいぐらいに動かない。押し黙っている。「なんで、また(英と米に)騙(だま)されて戦争なんかするものか。真平御免(まっぴらごめん)だ」と、腹の底で思っている。しかし、口には出さない。まだあと日本だけでも500万人はいる反共右翼たちが残存しているが、あと数年で勢力として消えるだろう。私の冷静な客観予測(近(きん)未来への予言(プレディクト))である。

なぜ日本人の大半は、そして台湾人も、「戦争になる」の煽動(せんどう)に乗らないか。その理由の一つは、倨傲(きょごう)に聞こえるかもしれないが、私、副島隆彦が、この30年間、「アジア人どうし戦わず。戦争だけはしてはいけない」と書き続けたからだ。日本国における私の地位は自(おの)ずとそれぐらいはある。

この本の最終章だった「台湾は今どうなっているか」の台湾現地調査の報告は、50ページ分もあって浩瀚(こうかん)(分厚い)になるので、来年に回した。今の私には、もう1、2年を争うということがなくなった。遅らしてもどうということはない。

この本では、3年前の中国本で約束した「習仲勲(しゅうちゅうくん)、習近平親子の2代に渡る苦労」(第7章)をようやく完成させたことがよかった。この2人が分かれば、現代中国のこの100年間の苦闘の歴史が分かり、大きく概観(アウトルック)できると考えたからである。

最後に、私は上野千鶴子(ちづこ)女史(東大の女性学の講座を護(まも)った。私より5歳上)が、そのマルクス主義フェミニズム(略称マルフェミ)の立場から、戦闘的に男女の性愛論を書き並べた本たちが北京大学の超(ちょう)秀才の女子学生たちの話題になり深い感動を与えていることを知っている。

現在の中国共産党(中共(ちゅうきょう))研究の最先端(せんたん)はまさしく、この中国で起きている、「私たちエリート女たちにもっと男女の性愛の自由を認めよ。日本の自由さを見よ」という女性闘争である。これには、中共の幹部の男たちが動揺してオロオロしているはずである。

まるで、1919年の五四(ごし)運動(中国の現代政治闘争の始まり)の再来だ。

中国社会科学院は、まさしく金看板のマルクス主義フェミニズムの上野千鶴子を招いて、新たなる意識(文化)革命を中国で開始すべきだ。中国が文化の先進国0 0 0 0 0 0 である日本から学ぶことは、まだまだたくさんある。私は、中国人指導者と知識人層が( 魯迅(ろじん)のときと同じく)今も日本人を深いところで尊敬していることを鋭く知っている。箸の上げ下ろしから鰻(うなぎ)の蒲焼(かばやき)の食べ方まで、日本人の一挙手一投足を凝視している。日本を通して世界を学べ、は今も中国で生きている。

それでもアメリカ帝国の属国(ぞっこく)を長くやり過ぎた日本は、この40年間で本当に貧乏になった。中国どころか台湾、韓国からさえ哀(あわ)れみ(憐憫(れんびん))で見られる。

それなのに、何と、私たち日本人は、恐れ入ることに今も威張っている。襤褸(ぼろ)は着てても心は錦、の構えを、一般庶民でも持っている。愚かと言うか、何と言うか。40年も経済成長が止(と)まって貧乏なくせに。全く以(もっ)て明(あき)れ返(か)える。全てが見通せる私のような総合知識人の目には何でも映(うつ)る。

上野千鶴子女史は、女性学(ウィメンズ・スタディーズ)が流行廃(はやりすた)れしたあと、さらに才長(さいた)けて、老人(老女)評論家になって、名著『おひとりさまの老後』(2007年、法研刊)を書いた。人は老いて末期(まっき)を迎えたら、施設に入らないで(収容されないで)自分の家で死ぬべきだ論に私は深く同感した。だから私も自分の家で死ぬ(直前にだけ病院に入院する)と決めた。この意味でも、私は上野千鶴子が老いて、ますます中国に乗り込んで勇ましく中国の知識人層と権力者層に、いろいろと号令を掛けることを望む。

 最後の最後に。この本を書き上げる最後の1カ月は、この夏の猛暑と共に私の地獄だった。モノカキ人生を40年もやって、200冊も書いて、それでもまだ、このように、1冊の本を仕上げるのに、のたうち回っている。私には人生の達観はない。サラサラと書かれた本に碌(ろく)な本はない。このことを痛感している名うての編集者であり、苦しい本作りに同伴してくれた大久保龍也氏に記して感謝します。

2025年9月

副島隆彦(そえじまたかひこ)

(貼り付け終わり)

(終わり)

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『トランプの電撃作戦』
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 古村治彦です。

 今回は、力石幸一著『名画は知っている 恐ろしい世界史の秘密』(ビジネス社)を紹介する。発売日は2025年10月1日だ。

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『名画は知っている 恐ろしい世界史の秘密』←青い部分をクリックするとアマゾンのページに飛びます

 著者の力石幸一氏は徳間書店の編集者だ。私の著作や翻訳の担当をしていただいた。力石氏は、編集者をしながら、美術研究をライフワークとしてきた。2013年6月29日開催の「副島隆彦の学問道場」の定例会「いい加減にしろ!マイケル・グリーン」にて講演を行った。その後も研究を続け、今作『名画は知っている 恐ろしい世界史の秘密』が生まれた。
※以下のアドレスからDVDの注文ができます↓

https://snsi.jp/category/item/dvd/

 以下に、まえがぎ、目次、あとがき、副島先生による解説文を掲載した。是非お読みいただき、手に取ってご覧ください。

(貼り付けはじめ)

まえがき ── 芸術は「美」である以上に「真実」 力石幸一(ちからいしこういち)

 なぜ西洋絵画と世界史をつなぐような本を書こうと思ったのか。本書を手にとられた方は、頭のなかに大きな疑問符が浮かんでいるに違いありません。美術はもちろん歴史の専門家でもない人間が、絵画芸術と世界史について語ろうというのですから。まずはじめに、そもそもの理由について、説明しておく必要がありそうです。

それは2006年10月でした。上野の東京文化会館にハンガリー国立歌劇場のオペラを観に出かけました。マチネーだったので公演が終わってもまだ陽が高い時間です。せっかく上野にいるのだから絵でも見て帰ろう。そんな軽い気持ちで、国立西洋美術館で開催中だったベルギー王立美術館展に行くことにしました。そのときは、まさか、この展覧会が私の絵画観を一変させてしまうとは、思いもしないことでした。

 展覧会場に入って正面に展示されていたブリューゲルの絵に少し心が動きました。『イカロスの墜落のある風景』という題名です。ブリューゲルの名前は知ってはいたものの、確か農民画家と呼ばれていたはず……くらいの知識しかありません。少し先に、同じブリューゲルの『鳥罠のある風景』もあったのですが、こちらは同じブリューゲルとは思えない、どこか偽物のような感じがしました(実際にあとで調べてみると、息子のピーテル・ブリュゲル2世の模写絵でした)。

そして18世紀ころのオランダ絵画によくある大きな肖像画がこれでもかと並んだ展示室にうんざりしながら、次の展示室にまわったときに、ある1枚の絵の前で、私はふいに立ち眩(くら)みのように自分の体がゆらゆらとゆれるのを感じたのです。絵のなかに自分自身が取り込まれてしまうような眩暈(めまい)に襲われました。その絵とは、ポール・デルヴォーの『終着駅』(図0 -1)でした。

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すっかり夜のとばりが降りている駅のプラットホームに一人の少女がひっそりと立っています。最終の電車が駅を出ていくようです。少女は最終電車に乗り遅れたのでしょうか。前方にはアンテナのような架線が見えて、その上に三日月があります。右側には月明りにしては妙に明るい白い壁の家々が並んでいる。幻想的なその絵を見ただけで自分の存在がゆさぶられるような感動が襲ってきたのです。

この絵は自分の頭の中にある夢の世界そのものではないか。この絵を頭の中に入れて持ち帰りたいという衝動にかられるほどでした。絵を見るだけで、それほど強く心を動かされたのは、人生初めての体験でした。そして、少しおおげさにいうと、この絵によって、私の なかで絵画を見る回路が、一気に開いたような気がしたのです。

しばらくデルヴォーの絵の前で呆然としていました。そのうちに、最初に見たブリューゲルの絵が気になってきました。何か謎めいた絵だと感じていたからです。そこで入口近くの展示まで戻って、ピーテル・ブリューゲルの『イカロスの墜落のある風景』(図0-2)をもう一度じっくり見直したのです。

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 海岸に面した丘の上の畑で牛にスキをひかせた農夫がのんびりと農作業をしています。海には大型船が浮かんで多くの水夫が一心不乱に作業をしている。その手前の海面にポチャーンとイカロスが海に墜落していて、その足だけが見えている。ところが釣り人も犬をつれた羊飼いも、そして帽子をかぶった農作業をしている農夫もイカロスの失墜を見ていない。というより、イカロスの存在を無視しているのです。そのとき、この絵が何を言おうとしているか、私のなかで明確なイメージが見えてきたのです。 

 イカロスの失墜は、ギリシア神話にある有名な説話です。クレタ島の塔に閉じ込められた天才的な工人ダイダロスが、大きな翼を蜜蝋で体に密着させることで鳥のように空を飛べるようになります。そして息子のイカロスにも翼をつけさせて大空に舞い上がる。それを農夫と羊飼いと釣り人が見上げて驚く。ダイダロスは、あまり高く飛べば太陽の熱で蜜蝋が溶けて飛べなくなると息子のイカロスに注意を与えたにもかかわらず、イカロスは自らの力を過信して傲慢にも太陽にも届けとばかりに天高く飛びあがり、太陽の熱で蜜蝋が溶けて墜落してしまう。

 このイカロスの失墜の物語は、神にも届く塔を建てようとしたバベルの塔と同様に、人間の傲慢(ごうまん)さをいさめる説話だとされるのですが、ブリューゲルの絵で見ると、どこかちぐはぐで、おかしなところだらけです。

 まず変なのは、イカロスが天高く舞う姿に驚くはずの農夫も羊飼いも釣り人もイカロスを無視しています。もっと言えば、船で作業する水夫たちもイカロスの存在とはまったく関係なしに自分たちの仕事に没頭しているのです。そして、天高くのぼっているはずの太陽はなんと西の海に沈もうとしているではありませんか。

 ここではこれ以上詳しく述べる余裕がありません。結論を先に言えば、ブリューゲルはこの絵で、イカロスの物語をどこかあざ笑っていて、何かを見ないようにしているように感じられたのです。それは別の言葉で言えば無関心ということです。

 ではブリューゲルは、何に対して無関心だったのか。その疑問はキリスト教と西洋近代の歴史に深くかかわりがあるはずだという確信が私の頭のなかで大きく広がっていきます。

 その謎を解くために、私は世界中の美術館を回ることになります。イタリアのウフィツィ美術館、スペインのプラド美術館を始め、ベルギーからオランダ、ドイツなど、ヨーロッパの有名美術館をくまなく見て歩きました。この本に解説と推薦をいただいた、副島隆彦先生と一緒にウィーン、ロッテルダム、アントワープなどの美術館を回ったこともあります。一度ならず二度訪れた美術館もかなりの数になります。

 本書は、そうした私の美術探究によって世界史の謎を解こうという試みです。何と無謀な、と思われるかもしれません。しかし、絵画のなかには画家たちが生きた時代の真実がこめられているのです。だから、その画家たちの真実を汲みあげることができれば、彼らが生きた歴史の秘密に迫ることができるはずなのです。

 一般に、絵画芸術は美術とも呼ばれるように、「美」というものをどう捉えるのかという風に理解されています。学校教育においても「美」について、その技法や構図、描写の特性などについて学びます。しかし、あえて言いますが、「美」は絵画にとって1つの属性にすぎません。

 1枚の絵画には、作者である画家が、その人生のなかで刻印された、ありとあらゆる感情がこめられているはずです。理想と現実のはざまで感じた絶望や希望など、人間として生きた証がそのまま絵には描き込まれている。それらは作品のなかである種の思想として結実していると言ってもいい。それを感じ取るのが絵画を鑑賞するということなのだと、私はあのポール・デルヴォー体験から思うようになっていました。

 よく、芸術を鑑賞することについて、いろいろな観方があっていいし、そのほうが面白いと言う人がけっこういます。しかし、私はそうは思いません。芸術から直接放射されてくる真実の光をそのまま受け止めなければ、芸術を正しく理解することはできないと思うのです。芸術とは作者にとっての真実をそのまま伝えることのできる最高度のコミュニケーション・ツールなのです。

 もし私のこの仮説が正しいとすれば、絵画はすぐれた批評(クリティーク)の手段となりえます。そのような視点から絵画芸術を通して、その絵が描かれた時代の真実を浮かび上がらせようというのが、本書のもくろみです。

 何を大風呂敷を広げているのかと言われそうですが、これまで世界の誰も言ってこなかった話が、少しはできるのではないかと思っています。本書を読み終わったときには、あなたの芸術と世界史に対する理解は大きく変わっているかもしれません。楽しみながらお読みいただければ幸いです。

力石幸一(ちからいしこういち)

=====

『名画は知っている 恐ろしい世界史の秘密』◆目次

まえがき ── 芸術は「美」である以上に「真実」 2

第1章 フランドル絵画がイタリア・ルネサンスの起爆剤となった 15

ルネサンスは地中海世界の大変動によって始まった 16

『ポルティナーリ祭壇画』が『ヴィーナスの誕生』に与えた衝撃 21

その後のトンマソ・ポルティナーリ 42

第2章 ヤン・ファン・エイクがキリスト教に背を向けた 49

ヤン・ファン・エイクというとてつもない革命児 50

肖像画のポーズの取り方も北方ルネサンスがルネサンスに影響を与えた 65

『宰相ロランの聖母子』というとてつもない傑作 67

『聖母を描く聖ルカ』は、『宰相ロランの聖母子』への反発から描かれた 80

『アルノルフィーニ夫妻の肖像』という画期的な肖像画の真実 84

「中世の秋」ではなく、「近代の春」ではなかったのか 92

第3章 謎の画家ボスの奇想という毒の正体 107

ファン・エイクを継承する者としてのボス 108

『快楽の園』はボスの作品としか考えられない 111

プラド美術館の見事なキュレーションのぜいたくさ 115

樹木人間はボスその人ではないか 116

ブルゴーニュ公国とハプスブルクの結婚 120

カトリック教会の堕落とボスの芸術の意味 135

第4章 ブリューゲルは農民作家などではない 137

北方ルネサンスの3人と日本の琳派の3人 138

ヤン・ファン・エイクの思想を継承したブリューゲル 145

スペイン軍による宗教弾圧がブリューゲルの作品に落とす影 151

十字架の横に配置された絞首台の意味とは 155

ブリューゲル自身がしばしば自らの作品に登場する理由 158

ボスの継承者としてのブリューゲル 162

ブリューゲルはなぜ風景を作品に描き込むのか 166

ブリューゲルの絵にはなぜ時間が流れているのか 175

ブリューゲルを「農民画家」とするのは間違い 179

バベルの塔はなぜつくりながら崩れているのか 186

絞首台とカササギが訴えかけてくるブリューゲルの遺言 194

第5章 なぜネーデルラントから近代が始まるのか 197

キリスト教中世から近代への移行に成功したネーデルラント 198

エラスムスとルターの自由意志論争から浮かび上がるもの 201

「個人」というパラドキシカルな存在を生みだしたカルヴァンの教義 204

デカルトがアムステルダムで見た個人主義 205

ネーデルラントでなぜ自由主義が生まれたのか 207

バンコ・デ・メディチはなぜ破産したのか 210

ポトシ銀山からの銀の大量流入がスペインを衰亡させた 215

資本主義の秘密は銀行の「貸付」にあった 218

あとがき 221

解説文(副島隆彦) 225

=====

あとがき 力石幸一(ちからいしこういち)

 ピーテル・ブリューゲルの『イカロスの失墜のある風景』を見たときから、ずいぶん遠くまで旅してきたような気がします。

 絵の話かと思ったら、近代資本主義の話になっているじゃないかと、ここまで読まれた方はあきれているかもしれません。しかし、ブリューゲルの絵を見続け、さらにヤン・ファン・エイク、ヒエロニムス・ボスの絵を知ることで、私のなかに中世から近代に至るヨーロッパの風景が見えてきたのです。その風景を追いかけていくうちに、自分なりの近代理解ができあがってしまったのですからしかたありません。

「まえがき」で述べたように、絵画芸術に目覚めるきっかけは、ポール・デルヴォーの『終着駅』という絵でした。あのとき、一瞬立ちくらみのようになったことの種明かしをすると、じつはあの絵の遠近法が微妙に狂っていて、見ている自分の位置がはっきりしなくなることで夢のなかのような幻想的な感覚に陥ったのでした。

音楽や演劇や映画などの芸術は時間によってドラマが進行します。ところが、絵画芸術には静止した画面があるだけなので、時間概念がなくて意味をとりにくいとずっと感じていました。ところが、デルヴォーの絵を見たことで、じつは絵画にも時間が存在していることに気づかされたのです。デルヴォーは、遠近法を操作することによって空間を延長したりゆがませたりすることで時間をつくっていました。ブリューゲルの風景にも時間が流れています。その絵のなかにある時間は永遠の時間です。そして、それは一瞬の永遠なのです。限られた時間を生きる私たちは、永遠は一瞬であり、一瞬は永遠であるというパラドックスのなかにあります。音楽や演劇などの時間芸術においても、究極的な感動はある瞬間に表れます。そのとき、感極まった一瞬に私たちは永遠を見ることができるのです。

考えてみれば、この世界はパラドックスだらけです。自由という不自由があれば、富という不幸もある。善と悪は裏表で、真は偽に一瞬でひっくり返ります。

この本を通してずっと、ルネサンスや北方ルネサンスの画家たちの絵を見てきたのは、そこにどんなパラドックスが隠されているのかを探す旅だったようにも思います。

 最後の結論となった資本主義の精神と利子の問題もその例外ではありません。近代資本主義が始動するときには、必要だった利子と個人のあくなき成功への欲望という要素は、いま否定されるべきものになろうとしています。

大きなバブルが崩壊するごとに紙幣を刷り続けてきた副作用として金利が低下し、日本ではマイナス金利まで経験しました。人間の限りない欲望は環境破壊を引き起こし、貧富の格差による分断が不可避となっています。従来の資本主義の原理はどんづまりにまで追い詰められています。これは大きなパラドックスではないでしょうか。ちょっと大げさな言い方になりますが、われわれはこのパラドックスの解決なしに未来を生きることは不可能なのです。この本が、そんな大きな問題を考えるきっかけになってくれればと念じています。

 本書のような奇妙な本の企画を認めていただき、出版のために奔走してくれたビジネス社編集部の小笠原豊樹さん、そして企画書を見て出版を即決していただいたビジネス社の唐津隆社長のお力添えがなければこの本が出版されることはありませんでした。本当にありがとうございました。

また、副島隆彦先生には、この本の原型となる話をした際に、即座に学問道場の自力講演会で話すよう促していただきました。さらに出版にあたっては身に余る推薦と解説文をいただきました。副島先生とは何度もヨーロッパ各地の現地取材に同行させていただき、この本でも紹介した名画の数々も一緒に鑑賞しました。その際に議論した内容も本書に反映することができました。ここに記して深甚なる感謝の意を表します。

2025年8月

力石幸一(ちからいしこういち)

=====

解説文(副島隆彦)

 この本の著者である力石幸一氏が、彼自身の生涯の執念である、日本人が理解するべきヨーロッパ中世絵画の要諦を一冊の本にまとめた。著者と共に喜びます。氏は、私の金融本を20年以上にわたって担当した。

 この本の構想について、私はずいぶん以前から情熱を込めて何度も聞いていた。ぜひ出版

すべきと私も督励(とくれい)した。ちょうど彼が徳間書店の役員を退任した時、私が主宰する学問道場の自力講演会で話してもらった(2013年6月29日)。1時間半くらいの講演だったが、冒頭で「芸術は真実言論です」と話し始めて、聴衆の興味を魅(ひ)きつけた。その模様はDVDに収録してあるので、いまでも見ることができる。

 しかし、ヨーロッパ絵画論を一冊の本にまとめることは講演のようにはいかない。膨大な

量の関連資料に当たって、骨格をしっかりとつくらなければならない。

 この本の出発点としてヨハン・ホイジンガ著の大作『中世の秋』(中公文庫)を中心テーマに置いている。ホイジンガのこの作品は、ヤン・ファン・エイクの作品群が表現しているブルゴーニュ公国(現在のフランス東部、ドイツ西部、ベルギー、オランダあたりまでを含んだ国)の歴史・文化を掘り下げた世界的な名著である。氏はこの本を標的にして、批判する。

 ホイジンガはヤン・ファン・エイクの芸術について、『中世の秋』で次のように言う。
(引用はじめ)

 ファン・エイクの自然主義は、美術史においては、ふつう、ルネサンスを告知するひとつの徴表と考えられているのだが、むしろ、これは、末期中世の精神の完璧な開花とみてしかるべきものなのである。

(引用終わり)

 ホイジンガは、ファン・エイクには「中世の思想」しかなかった、と書いている。「中世は終わった」のだと書く。それに異を唱えて本書は、このホイジンガの認識は誤りだ、と。

 ルネサンスは、ヨーロッパに人文(じんぶん)主義を生み開花させた。だがその花は咲き続けることなく、短い命を終えてしまった。このことは、ヤーコブ・ブルクハルト著の『イタリア・ルネサンスの文化』への違和感の表明でもある。その批判、反論の中核にカトリック教会批判がある。

 ファン・エイクが瞠目(どうもく)すべき名画『宰相ロランの聖母子』などで示した、カトリックへの鋭い批判精神は、その後も長く北方ルネサンスのなかに生き続けた。その精神が西洋の近代(モダーン)の隆盛へとつながった。つまり、北方ルネサンスは「中世の秋」ではなく「近代の春」を用意したのだと強力に論じている。

 ファン・エイクに続いたのが、ヒエロニムス・ボス(ボッシュ)であり、このボスを継いだのが、ピーテル・ブリューゲルだ。この3人のオランダ近代絵画の天才画家は、同時代を生きたわけではない。少しずつずれる。作品に表現されるカトリック批判の思想を脈々と継承したのである。この3人のオランダ画家が共有した新しい政治思想に注目したことが、本書の優れた着眼点になっている。ここに本書の真骨頂(しんこっちょう)がある。

 そして、この北方ルネサンスの3人の画家の絵画思想の継承が、何と、日本の琳派(りんぱ)における俵屋宗達(本阿弥光悦)、尾形光琳、酒井抱一の3人の仕事に表れている、とするところに著者の優れた感受性(本質を見抜く力)を見る。

 絵画芸術について、「美」はひとつの属性(アトリビュート)にすぎない。絵画には、その時代を生きた作者の真実がそのまま表現されている。作品から放射されるその真実の光をどう捉(とら)えるのかが重要なのだ。本書のなかにその実例が名画の鑑賞ごとに次々と展開される。よくある美術ガイドブックなどとは次元が異なる優れた解釈は、驚きの連続である。著者は美術の専門家ではないから、学術的な観点には欠けているだろう。だが、その鑑賞眼力には確かな手ごたえがある。

 ファン・エイク、ボス、ブリューゲルの3人の生きた時代をつないでいくと、まさにヨーロッパ近代(モダーン)が生まれていった過程にぴたりと重なる。

 彼らの作品には、カトリック信仰への強い不信がさまざまなかたちで反映されていることが如実に指摘される。力石氏は、ブリューゲルはカルヴァン派の思想家だ、と断言する。このことは、ブリューゲル研究者の森洋子明治大学名誉教授に対する痛烈な批判であり、明確な追及、論難である。ブリューゲルの作品を次々に見てゆくと、彼がカルヴァン派であったことを前提にしないと、その作品を十分に理解できないことがわかってくる。

 そして、西洋的な「個人」はカルヴァン派の信仰の中からしか生まれないという結論は、マックス・ウェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』の主張と重なりあう。しかし、ウェーバーがカルヴァンの救済の予定説(プレデスティネイション・オブ・サルヴェイション)から導き出した、「成功する人間は必ず救われる」とする企業家(資本家)の個人の存在だけでは、資本主義は始動しない。本書の著者は、そこに利子の存在を加えるのである。

 ルネサンス期(西暦1400年代。クワトロチェント)のフィレンツェにおけるメディチ銀行をはじめとする初期の大銀行( 両替商(マネーチェインジャー))たちは、今日の銀行業のほとんどを行なっていた。しかし、ひとつだけ除外されていたのが、「貸付け」であった。お金を貸すことはできても、カトリック教会は利子(インタレスト)をとることを禁じていた。利子なしに「貸付け」ができるはずがない。この「貸付け」が、乗数効果(マルチプライアー・エフェクト)を生んで資本(カピタール)を拡大させるメカニズムである。これこそが資本主義(カ ピタリスムス)の最大の秘密だと著者は明確に書く。

 私の師匠であった小室直樹先生は、マックス・ウェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』の謎解きに熱中していた。日本のウェーバー研究の泰斗(たいと)で第一人者であった大塚久雄教授と2人で長時間話込んでいた。小室先生が生きておられたら、本書の結論をどのように評価しただろうかと、興味が盡(つ)きない。

 ヨーロッパ(泰西(たいせい))名画たちの読解から始まり、中世から近代に胎動した世界史の動きを、その中心を見据えるためにおそらく50回以上のヨーロッパの美術館、遺跡巡(めぐ)りを敢行した著者の人生の奮闘に深い敬意を表する。まだ豊かだった頃の出版社のカネを原資にして、幾度かそれに同行した者として、ヨーロッパ近代資本主義(モダーン・カピタリズム)の誕生の秘密に絵画筋から迫った本書が、多くの読者に受け入れられることを強く望む。

2025年8月

副島隆彦(そえじまたかひこ)

(貼り付け終わり)

(終わり)

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