古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。X accountは、@Harryfurumura です。ブログ維持のために、著作のお買い上げもよろしくお願いします。

2025年11月

 古村治彦です。

 2025年11月21日に『シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体』 (ビジネス社)を刊行します。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
sillionvalleykarasekaishihaiwoneraugunsanfukugoutainoshoutai001
シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 
 最新刊の刊行に連動して、最新刊で取り上げた記事を中心にお伝えしています。各記事の一番下に、いくつかの単語が「タグ」として表示されています。「新・軍産複合体」や新刊のタイトルである「シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体」を押すと、関連する記事が出てくる。活用いただければ幸いです。

『新・軍産複合体』20251128産経新聞広告001
 2025年11月28日付産経新聞朝刊三面に新刊の広告宣伝を掲載していただきました。また、版元のビジネス社のnoteに、新刊についてご紹介いただきました。是非、お読みください。また、情報共有・拡散のご協力、よろしくお願いいたします。

https://note.com/businesssha/n/n560c1760e235

 アマゾンのページで、読者の方にレヴューを掲載していただきました。高い評価をいただき、かつ、内容を的確かつ簡潔にまとめた内容になっております。是非参考にして、新刊『シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体』をお読みください。よろしくお願いいたします。

(終わり)
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シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 

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『トランプの電撃作戦』
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世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 2025年11月21日に『シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体』 (ビジネス社)を刊行します。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
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シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 
 最新刊の刊行に連動して、最新刊で取り上げた記事を中心にお伝えしている。各記事の一番下に、いくつかの単語が「タグ」として表示されている。「新・軍産複合体」や新刊のタイトルである「シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体」を押すと、関連する記事が出てくる。活用いただければ幸いだ。

 911テロ事件(2001年)が発生した当時のジョージ・W・ブッシュ政権(2001~2009年)の副大統領を務めたディック・チェイニーが今年2025年に死去した。ジョージ・W・ブッシュ(子)政権の副大統領、実質的には大統領として、「影の大統領」として、911テロ事件後のアフガニスタン戦争、イラク戦争を主導し、アメリカを泥沼(quagmire)に引きずり込んだ。毀誉褒貶の多い政治家だった。

 チェイニーはイェール大学に入学したが、勉学に身が入らず、中退する羽目になった。故郷のワイオミング州に戻り、建設業に従事したが、生活は乱れ、酒におぼれ、飲酒運転で逮捕されるということもあった。高校時代からの恋人リンがチェイニーの生活を立て直し、チェイニーはワイオミング大学に編入学し卒業できた。リンと一緒にウィスコンシン大学大学院に進学した(リンは文学専攻、チェイニーは政治学専攻)。大学院在学中にウィスコンシン州のウォーレン・ノールス州知事のスタッフとなり、そこから政治の世界に入った。

連邦議会フェローシップでワシントンに行き、そこで当時若手の連邦下院議員だったドナルド・ラムズフェルドと知り合い、ラムズフェルドがリチャード・ニクソン大統領の辞任後に大統領に昇格したジェラルド・フォード大統領によって大統領首席補佐官に任命された際、チェイニーはラムズフェルドの首席補佐官となり、ホワイトハウス入りした。そして、ラムズフェルドが1年で大統領首席補佐官から国防長官に転身すると、大統領首席補佐官となった。当時34歳、史上最年少の大統領首席補佐官就任だった。フォード政権終了後は1979年から1989年までワイオミング州選出の連邦下院議員(5回当選)を務め、連邦下院共和党内で地歩を固め、政策委員長、共和党連邦下院議員会長(序列第3位)、連邦下院少数党(共和党)院内幹事(序列第2位)を務めた。院内総務、連邦下院議長を狙える位置にいたが、1989年、ジョージ・HW・ブッシュ(父)政権の国防長官に就任した。1991年の湾岸戦争を主導したことで知られる。

ビル・クリントン政権時代は、ハリバートンでCEOを務めた。チェイニーはリバートンの最大の個人株主であった。ハリバートンは、世界最大の石油掘削機の販売会社であり、イラク戦争後のイラクの復興支援事業やアメリカ軍関連の各種サービスも提供したことでも知られている。湾岸戦争と後のイラク戦争で巨額の利益を得た。

 2001年からのジョージ・W・ブッシュ(子)政権では副大統領を務めた。前述した通り、911テロ事件後のアフガニスタン戦争とイラク戦争を主導し、アメリカを泥沼に引きずり込んだ。チェイニーの基本的な考えは、「アメリカ大統領への徹底的な献身」であり、「大統領権限の強化」である。このことを1970年代から半世紀近くにわたって矜持として持っていた。「強い大統領」が多くのことを決定するという考えである。これは、現在で言えば、単一執行権理論(Unitary Executive Theory)と呼ばれる考えであり、その先駆けであった。ジョージ・W・ブッシュ政権下でのアフガニスタン戦争とイラク戦争の遂行で、大統領の権限強化が進められたが、このことを説明する理論が単一執行権理論である。現在のトランプ政権の動きもこの理論で説明できる。もちろん、三権分立(separation of power)を弱めるという批判もある。アメリカの民主政治体制への信頼が揺らぐ中で、賢人王(哲人王)への希求が高まっている。チェイニーはその先駆けとなった人物と言えるだろう。

(貼り付けはじめ)

対テロ戦争の設計者ディック・チェイニーが死去(Dick Cheney, Architect of the War on Terrorism, Dies

-元アメリカ副大統領は大統領と国家の権力強化を目指したが、最終的には両者を弱体化させた。

ジェフリー・A・エンゲル筆

2025年11月4日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2025/11/04/dick-cheney-obituary-legacy-iraq-war-bush-torture-9-11/?tpcc=recirc_latest062921

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2005年12月18日、イラク西部のアル・アサド空軍基地で海兵隊員たちに演説を行うディック・チェイニー米副大統領

1941年、アメリカ合衆国が第二次世界大戦に参戦し、世界との関係を根本的に変革した年に生まれたリチャード・ブルース・「ディック」・チェイニーは、人脈と強い信念を武器に、30代半ばを迎える頃にはアメリカ政界の中心へと華々しく上り詰め、40年近くその地位に留まった。11月3日、肺炎と心血管疾患の合併症により84歳で逝去した。

物腰柔らかで、自らの判断力に極めて自信を持っていたチェイニーのキャリアは、世界におけるアメリカの役割が絶えず変化していく中で、変革をもたらす可能性と、同時に、人々を不安にさせる不安を象徴するものとなった。チェイニーはヴェトナム戦争後に海外でのアメリカ軍の展開に課された制約に難色を示し、1990年代初頭には当初アメリカの冷戦と湾岸戦争での勝利に疑問を呈しながら、その後はアメリカの勝ち誇った態度(triumphalism)を共有し、911テロ攻撃に対するワシントンの恐怖と攻撃的な反応を体現し、そして最終的には混沌とした世界における完璧な安全を求めて、アメリカ史上最悪の戦略的決定の1つに数えられる2003年のイラク侵攻と占領の指揮に協力した。

2009年に正式に公職を退く頃には、彼の助言はほぼ無視され、アメリカは就任時よりも貧しく、弱体化し、分断が進み、国際的な人気も低下していた。また、アメリカ本土で911同時多発テロのような別のテロ攻撃に見舞われることもなかった。

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1975年4月18日、当時大統領次席補佐官だったチェイニー氏は、ワシントンのホワイトハウス閣議室で話を聞いている

ネブラスカ州とワイオミング州で育ったチェイニーは、若い頃から公職で成功するために必要な知性(the intelligence)は備えていたものの、規律(the discipline)は身につけていなかった。「ビールこそが人生に欠かせないものだという信念を共有していた(shared my belief that beer was one of the essentials of life)」同級生たちと過ごす時間が長すぎたため、イェール大学を2度にわたって退学処分された後、故郷に戻り建設業に就き、将来は不透明だった。「イェール大学を退学処分になった後、私は悪い道を歩み始めた。22歳の時、飲酒運転で2度逮捕されてしまった」とチェイニーは2015年に当時を振り返ってこのように語った。「刑務所にも行った。・・・それが私にとっての目覚めの音(a wake-up call)となった」。高校時代の恋人リン・ヴィンセントからの最後通牒(an ultimatum)も同様に彼を突き動かした。リン・チェイニーは後に「最終的には、田舎の電線作業員とは結婚する気はないとはっきりと言った」と述べている。

同時に、チェイニーはヴェトナムにおけるアメリカ軍の泥沼に自ら関与する気はなかった。家族や学業上の理由で5回も徴兵猶予(draft deferments)を受けた。「1960年代は兵役よりも優先すべきことがあった」と彼は数十年後に語っている。そのなかにはウィスコンシン大学大学院での勉学も含まれていた。リンはそこで文学を学び、チェイニー自身も政治学の博士号を取得することを目指していたが、結局は取得しなかった。兵役義務の年齢制限に達すると、チェイニーは連邦議会フェローシップを熱心に受け入れた。このフェローシップは、政治を単に学ぶだけでなく、実際に政治に関わる機会を与えてくれた。

チェイニーは、当時イリノイ州選出の若手連邦下院議員だったドナルド・ラムズフェルドとの最初の面談について「面接で落とされた」と語った。フェローシップは連邦議会のスポンサーを見つける必要があり、ラムズフェルドに十分な印象を与えることができず、彼のスタッフに加わることができなかった。チェイニーは、当初ウィスコンシン州選出のウィリアム・スタイガー連邦下院議員の事務所に入ることができた。それでもラムズフェルドは後にチェイニーをリチャード・ニクソン大統領の経済機会局the Office of Economic OpportunityOEO)に入れた。ラムズフェルドとチェイニーはその後数十年にわたり、政治的にも個人的にも深い結びつきを持ち続けた。1974年、ジェラルド・フォード大統領がラムズフェルドにホワイトハウススタッフのリーダーを任命すると、チェイニーは33歳にしてラムズフェルドの主席補佐官となった。

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1974年11月16日、ホワイトハウスのウエストウイングのオフィスで、ベティ・フォード大統領夫人と話す大統領首席補佐官ドナルド・ラムズフェルド(左)と大統領次席補佐官ディック・チェイニー

チェイニーがわずか5年で連邦議会の一スタッフから大統領補佐官へと驚異的な出世を遂げたことは、近接性と人脈(proximity and personal connections)の力だけでなく、粘り強さ(perseverance)の証明でもあった。チェイニーはラムズフェルドに対する最初の悪い印象を、自ら進んで経済機会局の再編案を提出することで覆し、ラムズフェルドが国家において存在感を増すにつれ、忠実で信頼でき、いつでも対応できる人物であることを示した。ラムズフェルトは「ディックに何かを任せると、それは実現した。必ず実行された」と述べている。

フォードはチェイニーに注目した。1975年に大規模な閣僚の変更でラムズフェルドが国防長官に就任すると、大統領はチェイニーを大統領首席補佐官に昇格させた。34歳という史上最年少の大統領首席補佐官となり、フォード政権が抱える問題に対応できる実務家としての役割を果たした。フォードは後に、「ディックは素晴らしかった。彼は入ってきて、10項目の議題を処理し、処理し終えて去っていった」と語った。

チェイニーはまた、効果的な「嫌な仕事ができる人間(hatchet-man)」としての手腕も示した。「私の方法は直接的だった」とチェイニーは後に、他人を解雇する手腕と評判が高まったことについて説明している。「ほのめかしも、冷たい態度も、苦痛に満ちた長期の退職手続きもなかった。それらは誰にとっても良くない——大統領にとっても、解雇される側にとっても」と述べた。大統領首席補佐官としての彼の支持基盤はただ1つ、最終的に気にかけた意見もただ1つだった。「大統領の利益に反する行動を取る者は——意図的であれそうでなくとも——ただ去るべきだった」とチェイニーは語った。

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1976年8月7日、メリーランド州キャンプ・デイヴィッドへの週末旅行中にアスペン・ロッジのリビングルームで書類に目を通すホワイトハウス首席補佐官チェイニーとジェラルド・フォード大統領

チェイニーが上司の政策を露骨に優先させたことで、政治的傾向は見えにくくなりながらも、職の安定性は確保された。これは意図的なものだった。彼の唯一の政策は、ウォーターゲート事件とニクソン大統領の辞任を受けて昇格した、選挙で選ばれていない大統領フォードの政策だけだった。政治的に穏健派だったフォードは、チェイニーについて「私に絶対的に忠実だ」と結論付けた。しかし、別の側近はチェイニーを「フォード、ラムズフェルド、いや、チンギス・ハーンよりもやや右派」と考えていた。

チェイニーのホワイトハウス初期の経験は、彼の官僚政治(bureaucratic politics)へのアプローチを形作り、大統領権力への制約に対する生来の嫌悪感を強めた。その点で、彼は20世紀における絶え間ない安全保障危機の中で、大統領が外交においてあまりにも全能になりすぎたという通説に反論した。歴史家アーサー・シュレジンジャーが1973年に主張したように、大統領はあまりにも「帝国主義的(imperial)」だった。東南アジアにおける泥沼の混乱と敗北は、統制されない行政権というより大きな問題の兆候であり、憲法の再構築が必要だという論理が展開された。

チェイニーはこれに反対した。大統領による制約はアメリカの力、特に軍事力の有効性を弱めるだけだと彼は主張した。外交政策はしばしば厳しい選択を迫られ、必ずしも公の場で精査されることが最善とは限らない。時には、有能な参謀総長(an effective chief of staff)と同様に、軍最高司令官(the commander in chief)でさえ国家の優先事項を追求するために、真の戦略や動機を隠さなければならない。「ウォーターゲート事件やヴェトナム戦争をめぐる多くの出来事が・・・(大統領の)権威を弱めることになった」と彼は数年後に説明した。

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1976年10月9日、フォードと共にダラスで選挙運動をしていたチェイニーがバンパーカーを運転している

チェイニーは、真の憲法上の問題は、現代世界が、アメリカ合衆国憲法の起草者たちが想像していたよりもはるかに速く、相互に結びついていることだと主張した。「特に私たちが生きているこの時代においてはそうなっている」とチェイニーは2005年に述べた。もっとも、チェイニーの政治活動のどの年代にも同様の感情が見受けられるが、「私たちが直面する脅威の性質を考えると・・・合衆国大統領は憲法上の権限を損なわれてはならない」。ヴェトナム戦争の真の教訓は、卓越した武力が機能しなかったということではなく、武力が過度に抑制されていたということだとチェイニーは結論づけた。

チェイニーは1980年代初頭、アメリカン・エンタープライズ研究所のフォーラムで次のように語った。「ウォーターゲート事件とヴェトナム戦争のトラウマに苛まれ、私たちは行政機関と連邦議会の関係を改変してきた。その主目的は、過去に起きたとされるような権力乱用を将来にわたり回避することにある」チェイニーは「アメリカは1980年代のどこかで、世界のどこかで武力行使に訴えざるを得ない状況に直面するだろう」と警告した。その避けられない決着の日へ備えるため、「ここ数年の傾向を抑制しなければ、大統領の権威を損なうことになる」とも述べた。

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1984年度予算の行き詰まりを協議するため、当時ワイオミング州選出の連邦下院議員だったチェイニーなど共和党指導部と会談するロナルド・レーガン大統領(1983年517日)

フォードは1976年の大統領選挙で敗北し、チェイニーは束縛から解放された。独立性を貫く彼は、1978年のワイオミング州選出の連邦下院議員選挙に出馬し圧勝した。しかし彼には暗い影が差していた。選挙運動中、チェイニーは恐ろしい心臓発作を起こした。これは今後数年間で彼が経験する一連の心臓疾患の始まりであった。この経験に戒められ、彼は1日に3箱も吸っていた喫煙の習慣を止め、コーヒーの摂取も制限した。しかし、家族や友人の助言にもかかわらず、政治から離れることはなかった。チェイニーは近しい人々の考えを次のように説明した。「賢明な人間なら、自分が送っているこの狂った生活を辞めるのが賢明だ。心臓発作を起こしたのだ。もう諦めて家に帰り、ゆっくり休むべきだ。家族への責任を果たしながら、こんな生活を続けて生き延びられると思うか?」

チェイニーは政界に復帰し、共和党内で急速に地位を固めた。共和党政策委員会の委員長に選出された最年少の連邦下院議員となった彼は、選挙区の支持基盤に沿って、議会で最も一貫して保守的な投票記録の1つを積み重ねてきたにもかかわらず、イデオロギー的な硬直性よりも和解(reconciliation)を重視する姿勢で評判を築いた。ある時、深夜の電話で、彼を「穏健派(moderate)」と呼んだ記者を激しく非難したことがある。しかし、その後、連邦議会での交渉のプロであり、約束を守る人物として知られるようになった。

しかし、大統領の権威に対する揺るぎない信念は変わらなかった。ロナルド・レーガン大統領の最初の任期末にチェイニーは次のように書いている。「大統領の外交政策にさらなる制約が必要だと考える人々には、基本的に同意できない。さらなる制約は必要ない。・・・必要なのは、自らの指揮下にある手段を自由に使いこなせる大統領だ」。そして、無知な連邦議員に詮索される恐怖から解放された大統領だ。特にこの時代においては、連邦議員としては異例なことに、チェイニーは行政権を促進し、その効率性、柔軟性、そして他の連邦議員たちが躊躇するだけだった一方で、力強く問題を解決する能力を称賛した。チェイニーは1983年に、「もし大統領が過ちを犯したら、当然その代償を払うことになる。しかし、特定の決定を下す際には、大統領を信頼しなければならない。軍事力が行使される可能性のあるあらゆる状況において、協議と法的議論が可能であるという考えに常に立ち返るのは良いことだが、世の中はそうはいかないのだ」と述べた。

レーガン大統領のホワイトハウスが連邦議会の意見を度々無視したことは、チェイニーの立場を不利に働かせた。レーガン政権第2期には、無許可かつ違法な外交政策の発覚が相次ぎ、イラン・コントラ事件へと発展した。しかし、チェイニーは批判に動じることはなかった。レーガン政権の不正行為に関する正式調査に関する反対意見書(minority report)を主導した際、大統領にも守護者が必要だと考えた。チェイニーは、「連邦下院共和党幹部として、レーガンの選択を支持し擁護するためにできる限りのことをするのが私の責任だ」と述べた。たとえそれが間違っていたとしても、賢明な人物たちが国家の安全保障を念頭に置いて行った選択であり、事後には寛大に評価されるべきであり、あるいは、むしろ全く評価されるべきではないとチェイニーは主張した。

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西ドイツのキルヒ=ゴンスでブラッドレー戦闘車両の能力について説明を受けるチェイニー国防長官(1989年10月26日)

1989年初頭、連邦下院共和党序列第2位だったチェイニーは、連邦下院議長就任を視野に入れつつも、ホワイトハウス復帰への関心を失っていなかった。そして運命と人脈が再び彼を取り巻く。ジョージ・HW・ブッシュ大統領が国防長官に最初に指名した、ブッシュと同じテキサス州出身のジョン・タワーは、その年に連邦上院で否決された。ブッシュ大統領は、主にジェイムズ・ベイカー国務長官とブレント・スコウクロフト国家安全保障問題担当大統領補佐官の助言を受け、チェイニーに目を向けた。2人はフォード大統領時代にチェイニーと仕事をした経験があり、彼の能力を高く評価し、判断力を信頼していた。そしておそらくこの時、最も重要なのは、チェイニーがすぐに承認されるだろうと確信していたことだった。2人はまた、チェイニーが大統領権限にどれほど熱心であるかを身をもって知っていた。 1980年、レーガン政権の首席補佐官に任命された後、ベイカーがチェイニーに助言を求めた際、ワイオミング州唯一の連邦下院議員が最初に助言したのは「行政府の権力と権限を回復すること(restore power and authority to the executive branch)」だった。

国防長官を務めるには、まさに目まぐるしくも気が遠くなるような時代だった。冷戦終結が近づく中、超大国間の関係は流動的であり、その波紋は世界中に広がっていた。そうした波紋の1つが中東で生じた。チェイニーは、1990年から1991年にかけてイラクが隣国クウェートへの征服を試みた動きを阻止するため、アメリカが主導し国連が承認した戦争の主要な立案者だった。しかしチェイニーは戦争の初期段階では支持派ではなかった。チェイニーは、イラクのサダム・フセイン大統領による侵攻後の最初の緊急会議で大統領と国家安全保障会議に「世界は石油を切実に必要としている」と訴えた。チェイニーは、イラクのサダム・フセイン大統領による侵攻後の最初の緊急会議で大統領と国家安全保障会議に「貧しいクウェートにはほとんど関心がない」と述べた。チェイニーは、米国もそうであると主張した。クウェートの石油こそが真に重要なものだった。

チェイニーはソ連の改革や超大国関係における新たな平和的時代の展望に対しても、同様の冷徹な計算を適用した。他の人々がソ連指導者ミハイル・ゴルバチョフの民主化への約束を称賛する中、チェイニーはブッシュ(父)政権最高幹部の中でも、ゴルバチョフが提案した改革の誠実さやその妥当性さえも疑う懐疑派(skeptics)の1人であり続けた。チェイニーは1989年に国防長官に就任して間もなく公の場で次のように主張した。「冷戦の終結を宣言したい人間たちがいる。彼らは脅威が大幅に減ったと認識し、警戒レヴェルをそれに応じて下げられると信じたいのだ。しかし私は慎重さが求められると考える」。この発言はゴルバチョフを不安にさせ、ゴルバチョフはイギリスのマーガレット・サッチャー首相に電話し、ブッシュ大統領がチェイニーのような人物の影響を強く受けており、「我々のペレストロイカの成功、ソ連の新たなイメージの構築が西側にとって有益ではない」と信じていると不満を訴えた。

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ジョージ・HW・ブッシュ大統領とチェイニー国防長官がホワイトハウスのローズガーデン付近を歩きながら、砂漠の嵐作戦の準備について話し合っている(1991年頃)

ゴルバチョフが、チェイニーの真意を聞いていたら、さらに不安になっただろう。「独裁政権に服従している人々に自由の息吹が与えられることを、私たちは十分に期待できる」と、ペンタゴンでの最初の夏にチェイニー副大統領は記している。彼は続けて「しかし、希望だけで国防政策を決定づけることはできない。グラスノスチ(glasnost)とペレストロイカ(perestroika)の結果がどうなるかは確かではないし、ソ連経済がより近代化されたからといって、ソ連軍の脅威が軽減されるとも断言できない」と書いている。したがって、チェイニー副大統領は「(ソ連の力を封じ込めて、対抗するために)効果的な政策を、希望があるという理由によって放棄すべきだと考えるのは危険だ。極めて危険だ」と結論付けた。

ゴルバチョフが嘘をついている可能性、あるいは彼の成功がソ連の強気派の台頭につながるといった可能性は、チェイニーがアメリカの防衛体制強化を勧告するのに十分な理由だった。しかし、チェイニーは大統領の権威を重んじており、上司への揺るぎない忠誠心もその一因となった。自分の見解がブッシュの考えと合致しないと告げられても、チェイニーはソ連問題でもクウェート問題でも、直ちに政権の方針に従った。彼の考えでは、大統領の下で働く者には真の顧客であり支持者となる存在はただ1人しかおらず、その人物こそがたまたま世界で最も権力のある人物、アメリカ合衆国大統領であった。

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1991年、サウジアラビアの某所にある秘密のF-11基地の格納庫で、チェイニーと統合参​​謀本部議長コリン・パウエル将軍がアメリカ軍兵士たちに演説している

クウェートに対する戦争計画を策定し、実行するのはチェイニーと当時統合参謀本部議長だったコリン・パウエルの責務であり、2人はためらうことなく、持てる限りの軍事力の行使を求めた。これはヴェトナム戦争の二の舞ではない。今回は「軍関係者が、文民の支持を得ていないなどと言い訳することは不可能だ」とチェイニーは回想している。

ブッシュ大統領はチェイニーとパウエルの要請を受け、テーブルから立ち上がり部屋を出て行った。その時に「君たちの言うことはよく分かった。アメリカ軍がもっと必要であれば言って欲しい」と述べた。チェイニーは驚きつつも、同時に喜びも覚えていた。「大統領は自分が今承認したことを理解しているのか?」と声に出して自問した。信じられないというよりは、むしろ確認の意味でそのような行動を取った。ブッシュ大統領は戦争担当者たちに、アメリカの力を最大限に活用する自由を与えた。これはヴェトナム戦争時代の前任者たちには与えられなかった裁量権だった。

一世代の中で最大規模のアメリカの海外軍事遠征(the largest U.S. overseas military expedition in a generation)が実施され、それは成功を収めた。しかしチェイニーとパウエルは、クウェートの解放が確実になればブッシュ大統領は戦闘を終結させ、イラクの長期占領につながるようないかなる措置も避けるべきだと助言した。ブッシュ大統領は、彼らの勝利のスピードに驚き、わずか100時間の地上戦で本当に戦争を終わらせるべき時なのかと自問した。チェイニーは後に「そこにいた私たち、軍民の全員の意見はイエスだった。私たちの目的はクウェートの解放だった」と述べた。

その目的が達成され、勝利を宣言し、感謝する同盟国からの称賛を受けると同時に、アメリカの軍事力の鮮明な示威に震え上がった世界中の人々の尊敬を集める時が来た。「この全てを通して、アメリカは明らかに世界唯一の真の超大国(the one real superpower in the world)として出現した」とチェイニーは誇らしげに語った。ヴェトナムの亡霊はついに払拭されたのだ。チェイニーは更に「アメリカのリーダーシップ能力は改めて実証された」と述べた。地球上のどの国も、アメリカのスピード、富、そして殺傷力に匹敵しないものとなった。

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1991年6月10日、ニューヨークで行われた湾岸戦争勝利記念パレードに出席したチェイニー、パウエル、そしてノーマン・シュワルツコフ将軍

この成功の鍵は、アメリカが新たな泥沼、特に自国の軍事力と技術的優位性(military and technological advantages)にそぐわない泥沼に陥らなかったことだった。アメリカ軍は空、夜、そして広大な砂漠地帯を掌握していた。しかし、都市や民間人の統制については同じことが言えなかった。チェイニーはこの点を、耳を傾ける人全員に、特に大統領に強調した。もしアメリカがフセインを捕らえ、その政権を転覆させていたら、「問題は、その代わりに何を置くかだ」とチェイニーは1992年に説明した。彼は次のように述べた。「その時、イラク統治の責任を引き受けることになる。さらに私の頭に浮かぶ疑問は、サダムがどれだけのアメリカ人の犠牲者を生むに値するのかということだ。・・・そして、その答えは、それほど多くはないということになる」。チェイニーは2000年になっても同じ考えだった。「私たちは今でも正しい決断をしたと思っている」と、副大統領退任後に初めて公開された口述記録の中で語っている。「1991年にバグダッドに行くべきではなかったと思う」。

アメリカの歴史がどれだけ長く研究され、教えられても、この言葉の皮肉は薄れることはないだろう。チェイニーは10年後、まさにそのような占領を主張し、彼の当初の評価が正しかったことを証明するために、一世代のアメリカ軍と同盟諸国軍、そして何百万人ものイラク人が血を流した。この10年間で変化したのは、フセインが驚くべきことに生き延びたことだ。これは長引く傷となった。冷戦後の多くの勝利主義者と同様に、チェイニーは、アメリカの指導力に対する危険な非難であり、ひいてはアメリカの覇権にとっての障害だと考えた。

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共和党大統領候補のジョージ・W・ブッシュと副大統領候補のチェイニーはワイオミング州キャスパーでの最初の訪問中に群衆を見渡している(2000年7月26日)

フセイン大統領は1991年の湾岸戦争を辛うじて生き延びたが、その後の10年間は​​国際制裁やアメリカの圧力を無視し続けた。2000年の大統領選挙で共和党が僅差で勝利し、副大統領として権力の座に返り咲いたチェイニーは、この任務を完遂しようと決意していた。「この男(サダム・フセイン)を始末するつもりか、それともしないのか?」と、2003年のイラク侵攻を前に、ブッシュ大統領が新たな外交措置を議論していた際、チェイニーは挑発的に問いかけた。外交ではアメリカの力、そして大統領が持つ強大な力を十分に発揮することはできないとチェイニーは考えていた。

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左:2001年9月11日のテロ攻撃後、ホワイトハウスを出発するチェイニーと妻のリン・チェイニー。右:キャンプ・デイヴィッドへ向かう途中、マリーン・ツーに搭乗するチェイニー

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2001年9月11日のテロ攻撃について話し合うチェイニーとブッシュ

恐怖が変化を促した。キャリアを通じて一貫して大統領権限を擁護してきたチェイニーが、イラク問題、占領の責任を負うことになってもフセイン打倒が必要だという考え(the need to topple Hussein even given the responsibility of occupation)、について心変わりしたのは、2001年9月11日のテロ攻撃が生み出した恐怖によるものだった。ハイジャックされた飛行機がワシントンに急降下する中、地中深くのホワイトハウス地下壕に身を潜めたチェイニーは、初めて暴力と権力の標的となる感覚を味わった(Cheney for the first time felt what it was like to be on the receiving end of violence and power)。それはトラウマ的でありながら、同時に物事を明快にした。あの忘れがたい日の終わりに、煙を上げる国防総省上空を飛行しながら、彼は後に次のように回想している。「私たちはどのように対応すべきか、アメリカの力と影響力をいかに発揮すべきかを考え始めた」。

チェイニーは前年2000年に共和党の副大統領候補に指名された(彼は選考プロセスも主導した)。外交経験の乏しい大統領選挙候補者ブッシュ(子)に重みと経験をもたらすためだった。彼は今や新たなテロ脅威への最大限の攻撃的対応の触媒(a catalyst for a maximally aggressive response to the new terrorist threat)となった。国防長官として復帰した旧友ラムズフェルドと協力し、チェイニーはアメリカの対応を国務省ではなく国防総省と中央情報局(CIA)に集中させることに貢献した。彼は、影響力や威信といったソフトな資源ではなく、アメリカのハードな軍事力を使うことに注力した。アメリカが主導する相互接続性(interconnectivity)、民主的平和(democratic peace)、グローバリズム(globalism)の称賛は、アメリカの国土に死と破壊をもたらした。武力こそがより良く国土を守ることができるということになった。

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2001106日、アメリカがタリバン支配下のアフガニスタン攻撃を開始する前日、ワシントンで会談するチェイニー副大統領とラムズフェルド国防長官(当時)

チェイニーは、国務省の文化的に根付いた行動前の交渉重視の姿勢について、「私の考えでは、国務省は逆のことをしていた」と書いている。外交は時間がかかるものであり、チェイニーの考えでは、外交推進派は、9月の朝に世界がどれほど変化したかを理解していなかった。チェイニーは、「他国を怒らせることを懸念して国益にかなう政策を妥協するのではなく、同盟諸国やパートナー諸国を説得するための外交努力を行いつつ、自国の安全保障に最も役立つ政策を行うべきだ」と主張した。

当時のチェイニーのメッセージは明確で、率直で、そして警告に満ちていた。「テロリストたちに避難所(sanctuary)を与えれば、アメリカ合衆国の激しい怒りに直面することになる」と、911同時多発テロの数日後に公に警告し、これは映画館で歓声をあげるようなクリーンな紛争ではないと付け加えた。チェイニーは「目的を達成するためには、基本的にあらゆる手段を使うことが不可欠になる。外の世界は卑劣で、下劣で、危険で、汚いビジネスであり、私たちはその中で活動しなければならない」と述べた。アメリカ人は「いわばダークサイドで働かなければならない(work sort of the dark side)」とチェイニーは言った。数日のうちに、チェイニーのオフィスは新たな種類の戦争のガイドライン策定を支援した。それは敵という概念だけでなく、概念に対しても戦うものであり、拷問を含むこれまで考えられなかった手段や戦術が新たな影響力を持つものだった。

全員が同意した訳ではない。当時のFBI長官ロバート・モラーはブッシュ大統領に次のように警告した。「もし私たちがこれらの措置のいくつかを実行すれば、テロ実行犯を訴追する能力を損なう可能性がある」。当時国務長官を務めていたコリン・パウエルもまた、世界が過度に好戦的な対応を取れば、世界貿易センターとペンタゴンの煙と瓦礫の中から生まれた国際的な善意が最終的に損なわれることを懸念していた。『ル・モンド』紙の見出しは「私たちは皆アメリカ人だ(We are all Americans)」(フランス語で「私たちは皆アメリカ人だ(Nous sommes tous Américains)」)と宣言した。「もし私たちが単独で行動し、何が最善かを知っていると主張し、世界の支持を失うならば、私たちは戦略的に誤りを犯すことになるだろう」とパウエルは記者団に語った。

チェイニーは、新たなテロ攻撃から国土を守るという点において、国際世論(world opinion)は有益ではあるものの必ずしも必要ではないと考えていた。そして、1970年代における大統領の行動に対する連邦議会の監視と同様に、国際世論は潜在的に制約となると考えていた。チェイニーは同僚たちに次のように語った。「私たちの任務を他者に決めさせてはならない。私たちはアメリカを守るためにあらゆる手段を講じる義務があり、そのために賛同してくれる連合パートナーが必要だった」。しかし、そのような連合はワシントンの行動能力を決して阻害してはならない。そして、国土安全保障の「任務(the mission)」が「連合を定義づけるべきであり、その逆ではない」と彼は述べた。

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2006年4月18日、カンザス州フォート・ライリーで行われた部隊集会でアメリカ軍兵士たちに手を振るチェイニー

チェイニーはブッシュ政権の対応、特によりデリケートな(つまり違法となる可能性のある)側面を主導した。具体的には、アフガニスタンおよび世界各地でアルカイダのテロリスト容疑者たちを逮捕または排除する権限の付与、捕獲された戦闘員とその支持者の無期限拘留、そして彼らが提供する可能性のあるあらゆる有用な情報の積極的な追及(拷問を含む)などが挙げられる。ブッシュ政権とチェイニーの顧問弁護士たちは、自らの新たな政策を「超法規的移送(extraordinary rendition)」および「強化尋問(enhanced interrogation)」と呼んだ。これらの政策は、新立法というよりも、既存の法律の強引な解釈と期限の定めのない権限付与によって正当化されていた。「連邦議会に訴えれば、望むだけの法改正を実現できたはずだ」と新政策の実施に関わった連邦判事は説明した。この判事は続けて「しかし、このホワイトハウスは、大統領の権力が最高であることを示すことを望んでいた」と述べた。

ブッシュ政権による国際法・国際規範の違反は、グアンタナモ湾アメリカ軍施設などにおける公然の場で無期限拘束されるカフカ的な状況(the Kafkaesque quality of indeterminate detention in public view at places like the U.S. military compound at Guantanamo Bay)、そしてイラクのアブグレイブ刑務所施設などで生み出された暴力的な画像によって露呈し、最終的にアメリカの評判を傷つけた。国際社会におけるアメリカの対テロ戦争への支持は減退し、特に長年の同盟諸国において、アメリカの指導力に対するより根本的な信頼も失われた。2000年に実施された世論調査では、ドイツ人の78%がアメリカに好意的な見解を持っていたが、2007年までにその割合は30%にまで低下した。イギリスではブッシュ政権発足時83%だった支持率が退陣時には53%に。フランス国民の支持はほぼ半減となった。トルコでは2007年までに、アメリカを好意的に見る回答者は10人に1人以下になった。世界の大国の中で、ブッシュ政権終了時点で2001年よりアメリカを高く評価していたのはロシアのみだった。

チェイニーは再び動じなかった。世論は政策を決定しない(public opinion didn’t make policy)——外国人がアメリカの選挙で投票する訳でもない——厳格な合法性は、アメリカ国民を守るために必要な行動を取る勇気のない者、あるいは実際の責任から遠く離れて意見が無意味な者たちが提起する哲学的問題に過ぎない。「名誉を守りたいがために、多くの人の命を犠牲にするつもりか?」と彼は修辞的に問いかけた。「それとも、第一に求められる職務を果たすのか? アメリカ合衆国とその国民の命を守るという、お前の責任を果たすのか?」

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2004年5月8日、アブグレイブ刑務所でアメリカ当局に拘束されているイラク人囚人の親族が収容所内でアメリカ兵がイラク人囚人を虐待している写真を見て反応を示している

連邦議会調査官を含む事後批判者たちは、政権のやり方を「拷問(torture)」と呼んだ。チェイニーは「強化尋問技術」を好み、「大統領が承認した全ての技術は、事実上、司法省によって承認されていた」と主張した。さらに、チェイニーは言葉や定義をめぐる論争は、国民の安全を守るというアメリカの政策の本質を見失っているとさらに激しく主張した。 「私たちがやったことと同じことをするか、それとも引き下がって『アメリカに対するテロ攻撃があることは皆さんご存知でしょうが、私たちに悪いイメージを与える可能性があるため、内容を伝えるよう強制はしません』と言うか、どちらかを選ぶとしたら、それは私にとっては難しい選択ではない」とチェイニーは続けた。

チェイニーの拷問に対する信念は、明白な強制下で得られた情報に疑問を呈し、軽視し、あるいは完全に無視する、圧倒的多数の専門家によって誤った、あるいは少なくとも異論を唱えられた。苦痛に苦しむ人々は、拷問を止めさせるために何でも言うだろう。しかし、チェイニーはそうではないと信じていた。拷問は効果的であり、対テロ戦争においてブッシュ政権は国際的な配慮よりも必要性を優先せざるを得なかったと彼は主張した。911事件は酷い出来事だった。もっと酷い事態になっていた可能性もあった。次のテロ攻撃――そしてまた確実に起こると思われた――は、計り知れないものになるかもしれない。

チェイニーは、歴史家ロン・サスキンドが「1%ドクトリン(the one percent doctrine)」と名付けた理論を展開した。これは、ある出来事の発生確率とその潜在的な結果をプロットすることでリスク評価を計算する最も基本的な方法を指している。次の攻撃は核兵器や生物兵器によるものになる可能性があり、その結果は計り知れないほど恐ろしいものになる可能性があるため、わずかなリスクでさえ許容できないとされた。チェイニーはブッシュの国家安全保障ティームに対し、「脅威が現実となる可能性が1%でもあれば、対応においてはそれを確実なものとして扱わなければならない」と繰り返し警告した。

その根拠に基づき、アメリカは軍事連合を率いてフセインを権力の座から引きずり下ろし、実際には数年前に停止されていたとされる大量破壊兵器計画を根絶させた。チェイニーは政権の応援団長として、情報機関や国家安全保障関係者が入手可能な証拠から結論づけられなかったことを明言した。「端的に言えば、フセインが現在、大量破壊兵器を保有していることに疑いの余地はない」と、2002年初頭、アフガニスタンで911テロ攻撃を企て支援した者たちとの戦闘が依然として激化していたにもかかわらず、チェイニーは公に警告した。「[フセインが]それらの兵器を蓄積し、友好国、同盟国、そして私たち自身に対して使用しようとしていることは疑いようがない」とチェイニーは述べた。

チェイニーは、長年彼のトレードマークとなってきた冷静な確信をもって、中東、そして実に世界全体がイラクの独裁者なしでより良い場所になるだろうと断言した。「イラク国民の立場から見れば、イラク国内の状況は非常に悪化している」と、かつては反対を唱えていたアメリカ主導の占領開始の数日前にチェイニーは次のように説明した。「実際、私たちは解放者(liberators)として迎え入れられるだろうと私は確信している」。

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2008年3月18日、イラクのバグダッド北部にあるバラド空軍基地に駐留するアメリカ軍兵士と話すチェイニー

イラク戦争も、世界的な対テロ戦争も、チェイニーが予言した通りには進まなかった。チェイニーとその直属の部下たちは、フセインに不利な証拠と論拠を無謀に集めたと当時の専門やや後の学者たちは認めている。民主党からこのような批判が出るのは当然かもしれないが、ブッシュ政権、特にチェイニーが、情報の質に関わらずイラク戦争に突入することに固執していたという見方は、従来の党派の垣根を越えたものとなっている。

例えばスコウクロフトやローレンス・イーグルバーガー国務長官といった共和党の重鎮たちは、戦闘開始前にイラク侵攻の是非を疑問視していた。彼らには経験が味方していたが、ブッシュ元大統領の元報道官が持つ内部の視点はなかった。この人物は2008年、ホワイトハウスが「戦争の正当性を主張する上で率直さと誠実さを欠いていた」と指摘している。他にも批判は数多くある。当時、影響力のある人物で懐疑的な見解を公に表明する者はほとんどいなかったが、戦争開始から一世代が経過した今、侵攻を称賛する政策立案者や有識者はごくわずかである。大統領の弟であり大統領候補でもあるジェブ・ブッシュは2016年に、「今知っていることを当時知っていたなら、私はイラクに侵攻するという決断はしないだろう」と認めている。

より強い非難が続いた。「彼らは嘘をついた」と大統領候補のドナルド・トランプは2016年に断言した。チェイニーとブッシュは共に「大量破壊兵器があると発言したが、実際には存在しなかった」と述べた。さらに重要なのは、トランプがさらに「彼らは大量破壊兵器が存在しないことを知っていた」と付け加えたことだ。トランプは、いかなる基準で見ても、真実性や歴史的正確さを測る指標としては信頼できない。しかし、ブッシュ、チェイニー、そしてその他の侵略推タカ派(pro-invasion hawks)に、単に無能さだけでなく不正行為をも押し付けることで、この問題に関するアメリカ有権者の不満と不信感を煽った。2004年初頭の世論調査では、半数強が、ブッシュ(子)政権が「戦前の情報に関して誇張したり嘘をついたりした」と考えていた。それから15年が経ち、世論調査では、回答者の3分の2、その中にはアメリカ軍退役軍人の64%も含まれ、911事件後に始まり、2003年のイラク侵攻によって促進された軍事作戦は「戦う価値がない(not worth fighting)」と考えた。

将来の歴史家たちは、チェイニーがフセインについて、大量破壊兵器計画を進行中だと信じたことが誤りだったのか、あるいは意図的に断片的なデータを選び出してそう見せかけたのか、疑問を抱き、議論するのは間違いないだろう。その議論は間違いなく、キャリアや評判、終身在職権の決定に影響を与えるだろう。既に疑いの余地のない事実もある。チェイニーは戦争を主張した。フセインが当時大量破壊兵器を保有し、さらに増強を望んでいるだけでなく、テロリストに密かに渡してアメリカに対して使用する可能性があると公の場で自信満々に述べた。チェイニーは、アメリカ主導のイラク占領が歓迎され、比較的容易に進むと確信を持って約束した。そして結局、チェイニーの助言はブッシュが承認した決定に重大な影響を与えた。この決定は、アメリカ外交・軍事史上おそらく最悪の戦略的判断として歴史に刻まれるだろう。

イラクでの敗北は、一世代前のウォーターゲート事件やヴェトナム戦争と同様に、アメリカ国民の政府への信頼を崩壊させた。この敗北が直接的な原因ではないにせよ、党派対立が激化し、2021年1月6日の連邦議会議事堂乱入事件の記憶がまだ生々しい現在、南北戦争以来の最も深刻な政治危機と一部で評される状況を生み出した。しかし敗北は亀裂を深刻化させた。数兆ドルの支出、数万人の戦死・負傷兵、国際社会における米国の地位低下、そしてアメリカ国民による自国制度への信頼喪失は、チェイニーが2009年に退任してから何年も経った今も、アメリカ社会に傷跡を残し続けている。

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2011年9月9日、ワシントンのアメリカン・エンタープライズ研究所で、911同時多発テロに関する議論に参加するチェイニー

チェイニーは、任期の最後まで、現実の世界では政治指導者は不完全な情報に基づいて難しい選択を迫られると主張し自分自身を弁護してきた。「ホワイトハウスの地下バンカーから、我が国への組織的かつ壊滅的な攻撃を目の当たりにすると、自らの責任に対する考え方が変わることは認める」と発言した。こうした見方は、不作為(inaction)を無効化した。2018年にも、イラク侵攻と占領は「正しい行動(the right thing to do)」だったと主張し、同じ情報があれば、再びそう助言するだろうと述べた。「私たちは(情報諜報)を47通りの方法で検証し、最終的に、必要な正しい行動をとったと確信している」と述べた。結果が重要だとチェイニーは主張した。「サダムがいなくなったことで世界はより良い場所になったと思う。ブッシュ大統領は2003年当時、必要な正当性を全て持っていたと思う」と彼は述べた。最終的に、イラク、アフガニスタン、そして911後のより広範な対テロ戦争において、「私たちは必要なことをした」と語った。

チェイニーは注目すべき人生を送った。しかし、ワシントンでの輝かしい経歴と長年にわたる功績は、信念を貫く保守派としての実績と同様に、いずれは姿を消していくことになるだろう。彼の最大の遺産は、むしろ、執拗に、そして最終的には有害な形で行使してきた行政権(executive authority)である。

チェイニーの遺産を考える上で、イラクでの泥沼、チェイニーが未完で残したアフガニスタン戦争、あるいはアメリカの国際的地位の毀損と空っぽの財政にどれほどの重みを与えるべきかを評価する際には、1983年の彼の言葉を思い出すべきである。「現実の世界は確実性を求め、大多数の魂を震撼させるような決断を下す覚悟のある男女を必要とする。大統領が、側近の補佐官たちの支援を受けて、『過ちを犯したなら、当然その代償を払うことになる』が、『大統領が特定の決断を下す際には、私たちは大統領を信頼しなければならない』」。

チェイニーとブッシュは、記録的な低支持率で政権を去った。経済は大恐慌以来最悪の不況に直面し、イラクとアフガニスタンでは終息の見通しが立たないまま戦争が続き、ワシントンの国際的な評判は深く傷ついた。しかし、チェイニーは、911同時多発テロ後に祖国への2度目の大規模テロ攻撃がなかったことを何よりも強調し、持ち前の自信を見せ、自らの功績を認められていると感じていた。自身が策定に関わった包括的国家安全保障戦略について、2009年には「機能した」と語った。「もし私が決断するとなれば、もう一度やるだろう」と述べた。

任期を2期務めた大統領ブッシュを含め、他の人々はとっくの昔にチェイニーの言うことに耳を傾けなくなっていた。チェイニーの不安な脅威予測に早くから賛同し、それを広めたブッシュは、2期目の終わりには彼の助言をほとんど無視していた。2007年、チェイニーからイランがスタートさせつつあった核開発計画への攻撃を迫られたブッシュ大統領は、チェイニーが退任前にイランの大量破壊兵器の可能性に「対処する(take care of)」必要があると繰り返し主張したことに憤慨し、その助言を拒否した。「副大統領の意見に賛同する人は他にいるか?」とチェイニー副大統領が即時軍事攻撃(an immediate military strike)を主張した後、ブッシュ大統領は主要な補佐官たちに質問した。チェイニーが後に回想しているように、「部屋の中で誰も手を挙げなかった」ということだ。

※ジェフリー・A・エンゲル:サザンメソジスト大学米大統領歴史研究センターの創設担当部長。

(貼り付け終わり)

(終わり)
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シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 

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『トランプの電撃作戦』
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世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 2025年11月21日に『シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体』 (ビジネス社)を刊行します。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
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シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 
 最新刊の刊行に連動して、最新刊で取り上げた記事を中心にお伝えしている。各記事の一番下に、いくつかの単語が「タグ」として表示されている。「新・軍産複合体」や新刊のタイトルである「シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体」を押すと、関連する記事が出てくる。活用いただければ幸いだ。

イスラエルとハマスの紛争、ガザ地区への攻撃と民間人殺傷は、停戦合意によって、小康状態になっているが、民間人の苦境は続いている。イスラエルに対する国際刑事裁判所のカリム・カーン検察官が、イスラエルのネタニヤフ首相とガラント国防大臣に対して逮捕状を請求したことによる。カーンは同時にハマスの指導者に対しても逮捕状を請求した。これに対して、ネタニヤフ首相はカーンを反ユダヤ主義者と非難し、法律専門家もカーンがイスラエルとハマスを同じレベルに置いたことに動揺した。多くの一般市民も怒りを抱くが、その感情だけではカーンの訴えの根拠を判断するのは難しい。しかし、カーンは証拠を集めるため、国際法の専門家からなる委員会に相談し、その結果、彼が特定した容疑者が戦争犯罪や人道に対する罪を犯したと信じるに足る合理的な根拠があると結論付けた。ネタニヤフ首相とガラント大臣に対する主な容疑は、ガザの民間人に対する共通の計画として、飢えや暴力を用いた行為に関与した点である。つまり、これは人道支援の妨害が失策ではなく、意図的な行為であったという主張を基にしている。カーンはビデオや衛星画像などを資料として提示しているが、具体的な証拠は公にはされていない。
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テオドール・メロン

国際刑事裁判所において重要な役割を果たしたのは、ユダヤ人の著名な法学者テオドール・メロンである。メロンは、入植地の問題についても指摘している。1967年における入植の開始時、彼は法的な観点から問題があることをイスラエル政府に伝えたが、無視された。仮にイスラエル政府が当時のアドバイスに従っていれば、入植地はなかったかもしれず、中東の平和にも違った道があったと考えられる。入植地の存在がイスラエルの外交政策に影響を与え、特にネタニヤフ政権においてその傾向が強化された。そのような人物が国際刑事裁判所で重要な役割を果たした。メロンという人物はイスラエルの愛国者と言える存在だろう。イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は私利私欲のために、ナショナリズムを利用し、中東と世界に災厄を与えている。メロンは現在も存命である(95歳)。彼に続き、イスラエルのために、イスラエルの政策を批判する人たちはたくさんいる。私たちはそのことに思いをいたすべきだ。

(貼り付けはじめ)

イスラエルをイスラエル自身から救おうとした男(The Man Who Tried to Save Israel From Itself

-今回、イスラエルはテオドール・メロン(Theodor Meron)の警告に従わなければならない。

ガーショム・ゴレンバーグ筆

2024年6月4日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/06/04/israel-settlements-occupation-theodor-meron-gaza-netanyahu/?tpcc=recirc062921

「ハーグの偽善(the Hague’s Hypocrisy)」と、イスラエルの大衆向け日刊紙は見出しに大々的に書き立てた。ライヴァル紙は負けじとばかりに「ハーグの恥辱(the Hague’s Disgrace)」と見出しを付けた。

国際刑事裁判所のカリム・カーン検察官が、人道に対する罪(crimes against humanity)でイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相とヨアヴ・ガラント国防大臣に対して逮捕状を請求すると発表したとき、イスラエル国内で最も明らかな国民の反応は激怒だった。カーン検察官が同時にハマスの指導者3人の逮捕を要請しても、この怒りは収まらなかった。

ネタニヤフ首相は予想通り、カーンが「反ユダヤ主義の火(the fires of antisemitism)」を煽っていると非難した。しかし、首相に深く批判的なイスラエルの法律専門家ですら、カーンがイスラエルとハマスの司令官を同じカテゴリーに入れているように見えることに動揺している。ある人は「攻撃者(ハマス)と攻撃される側(イスラエル)の間に法的同等性を設けるのは容認できない」と書いた。

私もごく普通のイスラエル人なので、その反射的な怒りをいくらか共有できる。世界はイスラエルの行動に過剰な注目を払い、2023年10月7日にどちらの側が残虐行為を犯し、この戦争を引き起こしたのかを忘れているようだ。

しかし、怒りは、カーンがネタニヤフとガラントを訴える根拠となるかどうかを判断する上で、あまり有効な手段ではない。私にとって、その疑問に答える鍵は、ある名前にある。テオドール・メロンだ。

カーンは、要請書を提出する前に、戦争法に関する主要な専門家で構成される委員会に証拠を提出した。委員会は全員一致で、「カーンが特定した容疑者が、国際刑事裁判所の管轄権の範囲内で戦争犯罪および人道に対する罪を犯したと信じるに足る合理的な根拠がある」と結論付けた。ホロコースト生存者であり、法学者であり、元イスラエル外交官でもある94歳のテオドール・メロンは、これらの専門家の中でも群を抜いて著名な人物である。

私が「T・メロン」という名前に初めて出会ったのは、20年以上前、占領地におけるイスラエル人入植地の歴史に関する著書『偶然の帝国(The Accidental Empire)』の調査中に、イスラエル国立公文書館でのことだった。故レヴィ・エシュコル・イスラエル首相の事務所から機密解除されたファイルのページ下部に、彼の署名があった。ページ上部には「極秘(Most Secret)」と記されていた。その間に記された情報が、私を彼についてもっと知りたいという気持ちにさせた。

メロンは1930年、ポーランドのカリシュで、彼自身が「中流階級のユダヤ人家庭(middle-class Jewish family)」と表現する家庭に生まれた。「幸せだったが、残念ながら短かった幼少期」は、9歳の時にドイツ侵攻によって終わりを迎えた。ナチスが支配するゲットーや強制労働収容所で暮らしながらも、どうにかホロコーストを生き延びた。しかし、彼の家族のほとんどは生き延びられなかった。終戦直後、15歳の時、彼は当時イギリス領だったパレスティナのハイファ市に移住した。

それからの6年間、彼にとって唯一の学校教育は苦痛に満ちたものとなった。失われた教育の年月は「私に学びへの強い渇望を与えてくれた」と彼は後に語っている。彼は新しい言語で高校を卒業し、ヘブライ大学で法学の学位を取得し、ハーヴァード大学で博士号を取得し、ケンブリッジ大学で国際法の博士研究員として研究を行った。

1957年、学術界のポストに就く見込みのないメロンは、イスラエル外務省からのオファーを受けた。1967年の六日間戦争(第三次中東戦争)直後、37歳にしてイスラエル外務省の法律顧問、つまり事実上イスラエル政府における国際法の最高権威に任命された、天才(wunderkind)なのである。

大使としての10年の任期を経て、彼は学術界に戻った。多くのイスラエル人学者と同様に、これは海外留学を意味した。メロンの場合は、ニューヨーク大学ロースクールへの留学だった。彼の法律に関する論稿は、「国際刑事裁判所(international criminal tribunals)の法的基盤構築に貢献した」と評されている。国際刑事裁判所の始まりは、ユーゴスラビア崩壊後の戦争犯罪を扱うために1993年に国連が設立した裁判所である。

当時アメリカ市民であったメロンは、2001年に国際刑事裁判所の判事に任命された。彼は数年間、同裁判所の所長と控訴裁判所判事を務めた。インタヴューで、彼は自身の立場を「胸が締め付けられる(poignant)」と同時に「気が重くなる(daunting)」と語った。かつてナチスの少年囚人だった彼が、今やジェノサイドを含む犯罪の裁判長を務めているのだ。彼は特に、「レイプと性奴隷制を人道に対する罪と定義した」判決を誇りに思っている。

メロンは、1990年代後半、再びオックスフォード大学の法学教授として、また最近ではイスラエルとハマスの指導者に対する訴訟を担当する国際刑事裁判所所長カーンの顧問も務めている。

カーンの令状請求は有罪判決ではないことを肝に銘じておくことが重要だ。メロンをはじめとする専門家たちが確認したのは、証拠と法律がネタニヤフとガラント、そしてハマス関係者のヤヒヤ・シンワル、モハメド・デイフ、イスマイル・ハニヤを裁く根拠を提供しているということだ。

専門家たちの報告書は、国際刑事裁判所(ICC)に訴訟適格がないとするイスラエルの主張を否定した。「ガザ地区を含むパレスティナは、国際刑事裁判所規程の適用上、国家である」と専門家たちは述べた。イスラエルとは異なり、パレスティナは国際刑事裁判所の管轄権を受け入れている。したがって、国際刑事裁判所はガザ地区における行動、そしてイスラエル領内でのパレスティナ人の行動について判決を下すことができると報告書は述べている。

『フィナンシャル・タイムズ』紙に寄稿した共同意見記事の中で、メロンと同僚たちは「これらの容疑は紛争の理由とは全く関係がない」と強調した。その点を敷衍すると、イスラエルは正当化可能な防衛戦争(a justifiable war of defense)を行っているかもしれないが、政府首脳を含む一部のイスラエル人は、その戦争遂行の過程で罪を犯した可能性がある。

シンワル、デイフ、ハニヤに対する起訴案には、10月7日のイスラエル攻撃における民間人殺害という人道に対する罪である絶滅(extermination)、人質の確保、強姦といった戦争犯罪が含まれている。

ネタニヤフとガラントに対する主な容疑は、ハマスを根絶やしにし、イスラエル人人質を解放し、ガザ地区の住民を処罰するために、「ガザ地区の民間人に対する飢餓やその他の暴力行為を用いるという共通の計画(a common plan to use starvation and other acts of violence against the Gazan civilian population)」に関与したという点である。言い換えれば、人道支援の妨害は失策ではなく、戦争遂行のための意図的な手段だったとされている。

カーンは、生存者へのインタヴュー、ビデオ資料、衛星画像など、自身が収集した証拠の種類を列挙している。しかし、証拠そのものは公表していない。今のところ、私たちは専門家全員の一致した見解に頼るしかない。そして、カーンの主張が確固たるものかどうかを判断できるのは、おそらくメロン以上に適任な人物はいないだろう。メロンがイスラエルを迫害していると示唆するのは滑稽であり、彼が反ユダヤ主義者だと主張するのは言語道断だ。

これは判決ではない。告発を真剣に受け止めるべき理由だ。

実際、イスラエル政府がテオドール・メロンの訴えをもっと早く、つまり私がアーカイヴで発見した覚書を書いた1967年9月に真剣に受け止めていれば、イスラエルはこのような状況には陥っていなかっただろう。

当時、エシュコル首相は、3カ月前の予期せぬ戦争でイスラエルが征服した領土に入植地を建設すべきかどうかを検討していた。エシュコルは、1948年にアラブ軍に制圧されたキブツ、クファル・エツィオンの再建に傾いていた。その場所は、ヨルダン川西岸地区のヘブロンとベツレヘムの間にあり、その間ヨルダンの支配下に置かれていた。エシュコルはまた、同じくイスラエルに最近征服されたシリア領ゴラン高原への入植にも関心を持っていた。

しかし、閣議において法務大臣は「施政下」地域[administered” territory](政府が占領地を指す用語)への民間人の定住は国際法違反になると警告していた。エシュコルの局長は外務省の法律顧問に意見を求めた。

メロンの回答は断定的だった。「私の結論は、施政下における民間人の定住は、ジュネーブ条約第4条の明示的な規定に違反となる」。メロンによると、1949年の戦時における文民保護に関する条約は、占領国が自国民の一部を占領地に移動させることを禁じている。この規定は、征服国による「植民地化を防止することを目的としている(aimed at preventing colonization” by the conquering state)」と彼は書いている。

9日後、イスラエルの若者の一団が政府の支援を受けてクファル・エツィオンに入植地を設置した。当初、この入植地は公に軍事前哨基地(a military outpost)とされていた。メロン自身も指摘していたように、占領地に臨時の軍事基地を建設することは合法だった。しかしこれは策略であり、新たな入植地の民間性が高まるにつれ、その効果は急速に薄れていった。

そこでイスラエル政府はすぐに、著名なイスラエル人法学者イェフダ・ブルムとメイア・シャムガルの主張に頼るようになった。彼らは、ジュネーブ条約第4条はヨルダン川西岸地区には適用されないと主張した。ヨルダンの主権は国際的にほぼ完全に承認されていないため(というのが彼らの主張だった)、ヨルダン川西岸地区は占領地ではないという主張だ。

メロン自身が最初の覚書から50年後の2017年に書いたように、この理論は根拠がない。ジュネーブ条約は国家や主権主張を守ることを目的としたものではない。占領下の人々を占領国の行為から守るものだ。

ここで疑問が生じる。もしエシュコル政権が1967年に歯を食いしばり、自国の弁護士の意見を受け入れていたらどうなっていただろうか?

まず、占領地に入植地は存在しなかっただろう。イスラエルの広大な郊外、より小規模なゲート付き郊外、そして小さな前哨基地からなるネットワーク全体は存在しなかっただろう。イスラエル軍はこれらのコミュニティを警備する必要もなく、イスラエルは占領地に自らを縛り付けるために莫大な資源を投入することもなかっただろう。

今頃、イスラエルの隣にパレスティナ国家が誕生していたのか、あるいはどこか別の場所で平和が実現していたのか、私たちには分からない。入植地は和平合意の唯一の障害ではなかった。しかし、大きな障害の1つであることは確かだ。さらに、入植地の一部、つまりイデオロギー的な郊外は、土地の放棄に断固反対するイスラエルの過激な宗教右派の温床となってきた。ネタニヤフ政権の二大極右政党は入植者によって率いられており、入植地を中核的な支持基盤としている。入植地がなければ、イスラエルが現在の苦境を回避できた可能性は高かっただろう。

当時、メロンの意見を受け入れていれば、イスラエルの政治家や軍指導者の間に国際法に対する異なる姿勢、すなわち厳格な遵守の姿勢が確立されていたかもしれない。おそらくそのような姿勢が、ネタニヤフとガラントに、現在の戦争を異なる方法で遂行させ、国際刑事裁判所の検察官が現在主張しているような行為を回避させていたかもしれない。

しかし、キーワードは「疑惑(alleged)」だ。カーンが主張する犯罪の重要な要素は、それらが意図的であったこと、つまり飢餓(starvation)やその他の民間人の死因が政策として設定されていたことだ。

イスラエルの指導者たちが、ガザ地区の人々への食糧やその他の基本的なニーズの供給を意図的に阻止した可能性は確かにある。つまり、援助が遮断されたのは、ハマスに人質解放、あるいはガザの支配権を放棄するよう圧力をかけるためだ。ハマスはガザ地区の民間人を人間の盾として利用してきた。おそらくネタニヤフ首相は、彼らの苦しみをハマスに対する武器として利用しようとしたのだろう。

ガザ地区の人々に食糧を届けられなかったのは、戦闘の混乱、エジプトの失策、ハマスの行動、イスラエル兵が援助活動員に誤射したこと(イスラエル兵が時折、他のイスラエル人に対して誤射したことも同様)、そしてイスラエル政府の無能さ(10月7日にイスラエルを無防備な状態に陥れた悲惨な無能さの継続)といった複数の要因が重なった結果である可能性もある。

世界中のあまりにも多くの人々が、主に先入観やメディア報道の洪水に基づいて、これらの可能性のどれが真実なのかを既に確信しているようだ。しかし、もしカーンがネタニヤフとガラントを裁判にかけることに成功したとしても、確固たる証拠によって意図を立証する必要があるだろう。

メロンの1967年のメモを発見したことで、もう1つ教訓を得た。政府の意図を示す最良の証拠は、しばしば何十年も秘密にされた文書の中に隠されているということだ。これは戦争における決定においてはなおさら当てはまり、イスラエル自身がガザ地区で何が起きたのかを調査すべき理由をさらに強めるものだ。

国際刑事裁判所がイスラエルの機密文書にアクセスする可能性は低い。一方、10月7日の悲惨な情報漏洩以降の戦争遂行の全過程を調査するイスラエルの国家調査委員会は、そのようなアクセスを要求し、政府高官や将校を召喚して証言を求めることができるだろう。

カーンの発表で明確に示されたのは、イスラエルが容疑犯罪について独自に「独立かつ公平な(independent and impartial)」調査を実施するのであれば、カーンはイスラエルの判断に従うという点だ。これは「補完性(complementarity)」の原則であり、国際刑事裁判所の管轄権は各国の司法制度が機能しない場合にのみ適用される。

調査委員会は刑事手続きではない。しかし、イスラエルが自国で調査を実施するのであれば、カーンには自らの調査を中断または終了する十分な理由があるだろう。

しかし、イスラエル国内では、ネタニヤフ政権が必要な独立性と広範な権限を有する調査委員会を設置することはないのは明らかだ。それは、国の深刻な政治危機が政権の崩壊と新たな選挙に繋がった場合にのみ可能となる。

ネタニヤフ首相は、カーン首相による逮捕状請求に対する国民の反射的な怒りを利用して、失った支持をいくらか回復させようとしている。しかし、理性的な反応は正反対だ。国際刑事裁判所での訴訟の可能性は、ネタニヤフ政権を終わらせ、戦争のあらゆる側面を調査する新たな理由となる。

言い換えれば次のようになる。1967年、占領開始当初、イスラエル政府は国際法に関する非常に若い顧問からの警告を無視した。今日、イスラエルは戦争法に関する非常に老練な権威、つまり同じ人物からの新たな警告に耳を傾ける必要がある。

※ガーショム・ゴレンバーグ:イスラエルのジャーナリスト・歴史家。最新作に『影の戦争:暗号解読者、スパイ、そしてナチスを中東から追い出すための秘密の闘争(War of Shadows: Codebreakers, Spies, and the Secret Struggle to Drive the Nazis From the Middle East)』がある。ツイッターアカウント:@GershomG

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シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 

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 古村治彦です。

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 中国経済は崩壊しているという言説は21世紀になって毎年聞かされている。日本が追い抜かれて遠く置いていかれて、「日本は安い、安い」と買いまくられるようになってもこの言説を頼りに自尊心を慰めている人たちがいる。名目GDPで言えば、日本は世界第2位ではなく、世界第5位に後退している。日本は他国のことを心配している暇はなく、また、中国経済が崩壊してしまえば、その悪影響を浴びてしまうのは日本である。

 中国の経済成長のスピードは落ち着いてきている。中国政府は高度経済成長からの転換を図っている。中国政治において、『人民日報』紙の記事や論説を分析することは重要だ。たとえば、最高幹部クラスの動向、名前が出なくなってしばらくして更迭といったことが記事を一定期間分析することで分かる。また、中国政府が人々に知らせたい、周知させたい政策も分析することで分かる。重要な政策のキーワードの出た回数を統計的に分析するという手法もある。これらの手法を内容分析、コンテンツ分析(content analysis)という。

 中国政府は、人民日報に「中財文」名義で一連の経済に関する論稿を発表した。一連の論稿を通じて、中国指導部が成長鈍化や地政学的制約、構造的成熟という時代状況に対して意図的に優先順位を再編し用としていることが明らかになった、

「中財文」は、中国共産党の指導や長期計画、国家と市場の融合が「管理された均衡」を生むと主張し、現在、国内需要の弱さ、地方財政の圧迫、デフレ傾向、需給ミスマッチといった実際に起きている問題を率直に認めている。これからの中国経済においては、「確実性」に重点を置き、貧困削減やグリーン開発、「一帯一路」といった開放的取り組みを通じて中国の台頭を世界善の力として描き、西側の政策不安定さと対比して方向性と一貫性の維持を強調している。そして、社会セーフティネット強化による予備的貯蓄の削減を通じて消費を間接的に刺激し、保育、介護、医療、教育など需要と供給のギャップが大きい分野への投資拡大を求めている。中財文は、需要喚起重視から事業の拡大・アップグレード重視へのシフトである。

 中国は中長期的な計画を立て、突発的な事象に対応しながら物事を進めている。これは日本でも戦後の高度経済成長の間続けられたことである。それが安易なアメリカ礼讃、アメリカも法によって打ち崩されて「失われた30年」となった。アメリカは行き当たりばったりである。アメリカ型モデルの終焉と中国型モデル(もともとは日本型モデル)の台頭の時代を私たちは生きている。

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北京の暗号化された社説が壮大な経済計画を明らかに(Beijing’s Coded Editorials Reveal Big Economic Plans

-『人民日報』紙は産業変容に向けた楽観的な計画を提示した。

リジー・C・リー、シェンイー・ワン筆

2025年10月14日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2025/10/14/china-peoples-daily-editorials-zhong-caiwen/

9月30日、中国の市民たちが「ゴールデンウイーク」の連休を迎える中、中国共産党(Chinese Communist PartyCCP)の旗艦紙(flagship newspaper)である『人民日報』紙は、綿密なタイミングを計った社説キャンペーンを開始した。権威ある論評が掲載される2面には、数日連続で「習近平経済思想指導による中国経済特集(Special Series on China’s Economy Under the Guidance of Xi Jinping Economic Thought)」と題された論説が掲載された。それぞれの論説には、中財文というペンネームの書名が付けられていた。

中国の政治コミュニケーションシステムにおいて、こうしたペンネームは無作為なものではない。それは、共産党の諸機関が主要な政策方針を明確にし、検証するためのシグナルであり、集合的な声なのである。

2024年に、人民日報に初めて登場した「中財文」という名称自体は、同音異義語である。「中」は「中央」、「財」は金融と経済、「文」は「記事」または「論評」を意味する。これは、中国共産党の最高経済政策機関である中央財経委員会(Central Commission for Financial and Economic AffairsCCFEA)の集合的な意見を表していると考えられる。

同様に、匿名の情報源が仮名システムと並行して使用され、公式メディアのインタヴュー対象者として取り上げられることも、シグナリングの役割を果たしている。2015年、当時の李克強首相が外遊中、人民日報は匿名の「権威ある人物(authoritative person)」、中央財経委員会委員長の劉鶴と多くの人々が理解している人物へのインタヴューを掲載した。この記事は「供給サイド構造改革(supply-side structural reform)」を提唱し、今後数年間の政策重点をデレヴァレッジ(訳者註:過剰な負債を減らすこと)と効率性(deleveraging and efficiency)へと転換することを示唆した。

このような回りくどい手法の使用は、中国政治における曖昧さと隠喩の文化(a long-standing culture of ambiguity and allusion in Chinese politics)を長年反映しており、それが中国共産党のプロパガンダ活動を形成している。この慣行は、公式メッセージに組織的な権威を与えると同時に、より多元的でメディアに精通した言説にますます敏感になっている国民に向けて、そのトーンを和らげることを可能にしている。

1960年代以降、歴代の中国共産党指導者は、指導原則を明確に示したり、主要な政策転換の基盤を整えたりするために、匿名の執筆グループに依存してきた。その具体例としては、中ソ分裂期における毛沢東時代の論評から、1989年以降の改革再開を促した『解放日報』紙の「黄福平(Huang Fuping)」論文まで多種多様にある。例えば近年、中央規律検査委員会(Central Commission for Discipline Inspection)は、規律上の優先事項を伝え、反腐敗運動(anti-corruption campaigns)に対する国民の理解を深めるために、「鐘紀軒(Zhong Jixuan)」という匿名の著者の論稿を発表した。

専門家の多くは、このシリーズを経済への信頼を高め、前向きな雰囲気を醸成するための単なる政治的な見せかけに過ぎないと断じている。その見方は間違ってはいないが、不完全である。各論文は目新しさに欠けるが、明快さでそれを補っている。これらを併せて読むと、中国指導部が経済移行をどのように捉えているかについて、これまでで最も体系的な説明の1つが提示されている。それは、危機への対応(a response to crisis)ではなく、成長の鈍化(slower growth)、地政学的制約(geopolitical constraints)、そして構造的成熟(structural maturation)を特徴とする時代における、優先順位の意図的な再編である。

中財文シリーズの初期の論稿は、その後の論稿に続く主要な経済メッセージの統一的な概念的基盤を構築している。最初の論稿は、不安定な世界における中国の軌跡を考察する。地政学的不確実性の中で戦略的冷静さを保つ能力は、今や比較優位(comparative advantage)の一形態であると主張する。その根底にあるのは、世界は予測不可能(unpredictable)かもしれないが、計画性と継続性(planning and continuity)に根ざした中国のモデルは、軌道を維持する上で優位な立場にあるということだ。

2番目の論稿は、その安定性(stability)を制度的構造に帰結させる。党の指導、理論的適応性、長期計画、そして国家協調と市場メカニズムの融合(party leadership, theoretical adaptability, long-term planning, and the fusion of state coordination with market mechanisms)が相互に補完し合うものとして強調し、「管理された均衡(managed equilibrium)」とも呼べるものを提唱する。中財文によれば、このシステムは非常に優れているということだ。

3番目の論稿は現在に目を向け、異例の率直さで論じている。中財文は、国内需要の弱さ、地方自治体への財政圧力、デフレ傾向、そして「需給ミスマッチ」の継続(weak domestic demand, fiscal pressures on local governments, deflationary tendencies, and persistent “supply-demand mismatch”)など、一連の経済の逆風を公然と認めている。

中国共産党中央メディアにおけるこうしたリスクの直接的な列挙は顕著であり、今月開催される第4回全体会議(4中全会)での第15次5カ年計画に関する議論を前に、期待感をコントロールしようとする試みを示唆している。しかし、この論文のレトリックの転換も同様に印象的である。これらの弱点を構造的な欠陥として捉えるのではなく、技術革新と産業再編の過渡的な兆候(transitional symptoms of technological upgrading and industrial realignment)として捉えているのだ。

そのメッセージは、現在の「弱点(pain points)」は必要な変革の副産物(by-products)であり、システム全体の不調の兆候ではないということを伝えている。従って、この安心感は自信を示すと同時に、国内外の人々に対し、より緩やかながらもより安定した調整期への備えを促し、減速を変革の証、つまり短期的な摩擦(short-term friction)を乗り越えて長期的な回復力(long-term resilience)を獲得する経済の証として再解釈している。

同様のメッセージが最終回でも再解釈され、シリーズは「確実性(certainty)」そのものを成長の資産(a growth asset)と定義し、中国を世界の善を担う力として描くこと(portraying China as a force for global good)で締めくくられている。貧困削減(poverty reduction)、グリーン開発(green development)、そして「一帯一路」などの取り組みを通じた開放性(openness through initiatives such as the Belt and Road Initiative)における中国の成果を称賛するとともに、世界に対しイデオロギーの違いを乗り越え、中国の台頭を自らの視点で捉えるよう促している。西側諸国の政変と政策の不安定さ(political turnover and policy volatility in the West)を背景に、中国の強みは方向性と一貫性を維持する能力(ability to sustain direction and coherence)にあると主張している。

10月3日号の中間回「中国の経済構造転換と高度化には大きなチャンスがある(China’s Economic Transformation and Upgrading Contain Major Opportunities)」では、具体的な実務の詳細を取り上げている。化学、機械、繊維、軽工業といった伝統的なセクター(traditional sectors such as chemicals, machinery, textiles, and light industry)は、依然として支配的な産業基盤の屋台骨(he backbone of a still-dominant industrial base)であり、置き換えるのではなく、アップグレイド(upgraded)していく必要があると指摘している。

自動化、デジタル化、そして環境改善(automation, digitalization, and environmental retrofitting)は、旧来の産業を生産性の高い研究施設へと変革するメカニズムとして位置付けられている。同時に、先進製造業、人工知能、ロボット工学、バイオ医薬品(advanced manufacturing, artificial intelligence, robotics, and biopharma)は、「産業の自立(industrial self-reliance)」の新たな柱として位置づけられている。

これは、雇用の継続を通じて社会の安定を維持しながら、中国の製造業システムをバリューチェーンの上流へと徐々に移行させるという、共産党の二つの目標を明確に示している。

This clarifies the party’s dual goals: preserving social stability through continuity of employment while gradually shifting China’s manufacturing system up the value chain.

子の論説はさらに、技術革新こそが決定的な変数(the decisive variable)であると述べている。研究開発の集中度(intensity of research and development)が高まり、2024年には3兆6000億元(約5000億ドル、約75兆円)に達し、経済協力開発機構(Organization for Economic Cooperation and DevelopmentOECD)の水準に近づくと予測され、研究と産業応用の融合が進んでいること(the growing integration of research with industrial application.)を称賛している。この論説では、中国で毎年500万人ものSTEM(科学・技術・工学・数学)系の卒業生が輩出されていることを指す「エンジニア配当(engineer dividend)」に言及し、大規模に組織化された人的資本は国家の財産となるという指導部の信念を要約している。これは、自発性(spontaneity)ではなく、協調性(coordination)を通じて制度化された創造性(creativity institutionalized)という明確なヴィジョンである。その長所はスピード、連携、そして安全性といった明白なものだ。しかし、語られないのは、そのコスト、つまりボトムアップ型の実験や分散型のリスクテイクの余地の減少である。

この欠落は重大な結果をもたらす。草の根レベルの取り組みの欠如は、指導部が今や認めている経済の逆風の中で、ますます顕著になっている。深刻な財政的圧力にさらされている地方自治体は、多くの場合、予算の不足を補うために略奪的な料金徴収や恣意的な執行に頼り、民間セクターや起業家セクターに大きな負担をかけている。

That omission is consequential. The lack of grassroots initiative has become increasingly visible in the very economic headwinds the leadership now acknowledges. Local bureaucracies, under acute fiscal pressure, have in many cases turned to predatory fee collection and arbitrary enforcement to fill budget gaps, placing heavy strain on the private and entrepreneurial sector.

多くのスタートアップ企業や小規模民間企業にとって、脆弱なマクロ環境と過剰な規制(the combination of a weak macro environment and regulatory overreach)が相まって、慎重な雰囲気を生み出している。データガヴァナンス、国境を越えた情報の流れ、さらには学術連携にまで及ぶ中国政府の「セキュリティ第一(security first)」の考え方は、この状況を悪化させ、ヴェンチャーキャピタルの活動を鈍化させ、プライヴェートエクイティの流出を加速させている。

中国の技術革新推進における課題は、技術力ではなく、制度の弾力性(institutional elasticity)である。つまり、統制を目的として設計されたシステムが、最終的に世界的な技術リーダーシップに求められる不確実性、長期的な実験、そして失敗への寛容さ(the kind of uncertainty, long-term experimentation, and tolerance for failure)を育むことができるかどうかである。

この緊張関係は消費と社会投資(consumption and social investment,)の領域にも及んでおり、そこでは論文における自信が曖昧さへと変わっていく。本分析は、持続的な需要の最大の障害(the principal obstacle to sustained demand)は流動性の不足(insufficient liquidity)ではなく、家計の信頼感の弱さ(diagnoses weak household confidence)であると正しく診断している。提案されている解決策は、社会セーフティネットを強化して予備的貯蓄(precautionary savings)を減らし、間接的に消費を刺激する(stimulate consumption indirectly)という、長年の処方箋と整合している。

この文書は、保育、高齢者介護、医療、教育(child care, elder care, health care, and education)といった、需要と供給のギャップ(the gap between need and provision)が依然として大きい分野への投資拡大を求めているものの、これらの目標をどのように実現できるかについてはほとんど示唆していない。地方政府は依然として財政的に逼迫しており、家計所得は停滞し、民間企業は依然として慎重な姿勢を崩していない。アナリストたちが指摘するように、「深刻な信頼の危機(massive crisis of confidence)」によって民間企業は投資や雇用に消極的になっており、経済界は民間セクター支援に関する公式の保証を依然として懐疑的に受け止めている。

一連の中財文の政策における最も示唆的なシグナルの1つは、これまでの需要の「喚起」重視(the earlier emphasis on “boosting” demand)から、事業拡大とアップグレードへの重点転換(a focus on expansion and upgrading)にある。この変化は、補助金や下取りプログラム(subsidies and trade-in programs)といった従来の政策手段が概ね効果を発揮しなくなったという認識を反映している。家計が古い自動車、家電製品、電子機器を買い替えることを促すこれらの政策は、耐久財消費の短期的な急増をもたらしたが、持続的な勢いは限定的であった。雇用と所得の伸び悩みが消費の全面的な回復を阻み、ベース効果が高く限界収益が減少するため、その効果は今年後半には弱まる可能性が高い。

伝統的な景気刺激策の限界が明らかになるにつれ、議論はサーヴィス主導型消費(service-led consumption)、特に文化・商業・スポーツ・観光などの分野へと移行している。これらの分野では、地方自治体が活動を活性化させる新たな取り組みを実験的に進めている。

サーヴィス主導型消費の分野は、トップダウン型プロジェクトが特徴の習近平時代において大きく制限されてきた地方の実験的取り組みにとって、最大の政治的余地を秘めている。これにより、地方当局者たちは国家の優先事項に沿いながら、地域の経済的圧力を緩和する、目に見える低リスクプロジェクトを推進できる。とはいえ、サーヴィスインフラ、労働力、制度的支援といった供給側の基盤整備が需要の大幅な回復に先行する必要があるため、短期的な効果は限定的だろう。

しかしながら、このアプローチは政治的意思のレヴェルにおける重要な理念転換を示している。再分配(redistribution)を成長の制約と見なす代わりに、国家はこれを新たな成長の原動力として位置づけるようになった。特に人々の生活向上につながるサーヴィス分野においてそのようになっている。医療、高齢者介護、教育、保育(health care, elder care, education, and child care)はいずれも市場と雇用に富む分野として描かれている。例えば、10月3日付の論稿は、60歳以上の国民が3億人を超える中国が、介護施設ベッドや医師・看護師の深刻な不足に直面していると指摘する。保育・教育から高齢者介護・医療サーヴィスに至るこうした「差し迫った生活課題(urgent livelihood concerns)」への対応は、数百万の新規雇用を生み出し、巨大な国内市場を開拓しうる。それでも、政治的意図と政策実行は必ずしも同義ではない。

次の優先事項は、インフラ整備が依然として国家にとって安定した成長の手段として最も重視されていることを明確に示していると言えるだろう。その目標は、鉄道や高速道路といった分野への物理的な投資と、スマートシティシステムといった技術革新を融合させ、インフラを経済の安定装置として、また発展途上の中部・西部地域への成長の波及経路として活用することだ。

都市化政策(urbanization policy)も同様の論理で進められている。全国の都市化率が頭打ちとなっていることから、重点は都市の拡大から都市の質、すなわち古い地域の改修、公共設備のアップグレード、治水対策の改善、公共交通機関の近代化へと移行している。この再構築は、不動産市場の低迷を変革の機会へと楽観的に転換するものだ。

しかし、この工学的な論理は、経済が直面するより根深い不調、すなわち地方自治体、民間企業、そして家計の間に絡み合う不況を完全に払拭することはできない。問題は景気循環的なものでも、新型コロナウイルス感染症のパンデミックや不動産価格の低迷の名残でもなく、構造的なものだ。

長年にわたり土地売却による資金調達に依存してきた結果、地方自治体は財政的に疲弊し、社会保障支出の能力が制約されている。民間部門は、言葉の上では保証されているものの、依然として規制の曖昧さに直面し、リスク選好度は低下している。一方、家計は人口動態の逆風と将来の所得増加への信頼感の低下を背景に、依然として警戒感を抱いている。

中財文の論稿の最終章では、人口動態の課題を認識しつつも、それを機会として捉え直している。医療、高齢者介護、教育への需要の高まりは、包摂的成長の新たな原動力となり得ると論じている。政府はこれらの分野を拡大することで、人口動態の圧力(demographic pressure)を、当局が「新たな質の高い生産力(new quality productive forces)」と呼ぶものへと転換することを目指している。

労働力を吸収し、サーヴィス部門の技術革新を促進し、国内消費を支える、より強固な「ケア経済(care economy)」の可能性は確かに存在する。しかし、中財文のテクノクラート的楽観主義において未解決のまま、対処されていないのは、中国が直面する移行期の中心的なディレンマである。中国の過去の成功は、まさに国家協調、行政の動員、政策規律(state coordination, administrative mobilization, and policy discipline)といったメカニズムの上に築かれたものであり、それが今、次の成長段階を阻害するリスクをはらんでいるのだ。

中財文の論稿は、回復力を強調する点で正しいが、真の回復力とは、中央集権的な統制だけでなく、適応を伴うものである。不確実性を受け入れ、権限を分散させ、国家、市場、そして社会の間の信頼を再構築する必要がある。

今後の道のりは、成長と再分配、中央主導と地方自治、短期的な確実性と長期的なダイナミズムといった、痛みを伴うトレードオフを伴うだろう。中国がこれらのトレードオフを乗り越えられるかどうかは、近代化の軌跡だけでなく、そのモデルが継続的に刷新できるかどうかも決定づけるだろう。

※リジー・C・リー:中国分析・アジア・ソサエティ政策研究所中国経済専門研究員。

※シェンイー・ワン:中国分析・アジア・ソサエティ政策研究所リサーチアシスタント。

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『人類を不幸にした諸悪の根源 ローマ・カトリックと悪の帝国イギリス』
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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 2025年11月21日に『シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体』 (ビジネス社)を刊行します。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
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 最新刊『シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体』のテーマである「新・軍産複合体」について、「単なる思いつき、妄想だろう」という言葉をかけられた。しかし、それは違う。「単なる思いつき、妄想」ではない。『悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める』(秀和システム、2021年)から、新・軍産複合体について調査・分析を始めた。新聞や雑誌の記事を中心にした一次資料を渉猟し、「何が起きているのか」「どうしてそのようなことが起きているのか」ということを念頭に調べ上げた結果である。今回ご紹介する記事のタイトルには「新しい軍産複合体(the New Military-Industrial Complex)」という言葉が使われている。この記事は2024年の記事であり、私がこの記事の真似っこをしたということは言えない。「思いつき、妄想」だと思われる方には、是非これまでの本と一緒に、最新刊も読んでもらいたい。

 下記論稿では、私のこれまでの主張が裏付けられる内容が描かれている。アメリカ軍がシリコンヴァレーのテック産業のパランティア・テクノロジーズ社(ピーター・ティール)やアンドゥリル・テクノロジーズ社(パルマー・ラッキー)との関係を深めているということが強調されている。「米国防総省は、各種の無人システムに数十億ドルを費やす構えであり、その過程でハイテク・スタートアップ企業が新たな富を得ることが期待されていることから、シリコンヴァレーを中心とした新たな軍産複合体の出現を見ることができる。当然ながら、退役軍人が有利な職を求めてシリコンヴァレーに集まり、プライベート・エクイティ企業が新たな興味関心に資金を注いでいる」と書かれている。

 結論部は私と意見が異なるが、このように、新・軍産複合体出現は既に重要な事象となっている。最新刊で私は様々な角度から分析をし、このことを日本に伝える努力を行った。是非お読みいただきたい。

(貼り付けはじめ)

新しい軍産複合体に遭遇する(Meet the New Military-Industrial Complex

-米国防総省とシリコンヴァレーの同盟が、第三次世界大戦で中国を打ち破るためにAIをどのように活用しているか。

マイケル・T・クラレ筆

2024年4月22日

『ザ・ネイション』誌

https://www.thenation.com/article/world/ai-military-power-war-china-taiwan-silicon-valley/

2024年3月5日、カリフォルニア州キャンプ・ペンドルトン海兵隊基地のブリーフィング用テントの中を覗き込むと、巨大なフロアスクリーンに、西太平洋を舞台にした「赤」(侵略側)と「青」(防衛側)の部隊の一進一退の攻防が映し出されていた。アメリカの「同等の能力を持つ敵対国(near-peer adversary)」(中国を意味する一般的な代名詞)とされる赤軍の空・海兵隊は、ワシントンの同盟諸国が占領する「青」の領土の奥深くまで侵入したが、青軍の戦闘部隊によって撃退または破壊された。太平洋における第二次世界大戦の現代化版としか言いようのないシナリオでは、青の軍隊は空と海からの攻撃を水陸両用攻撃で補強し、演習開始時に占領した島々から赤軍の侵略者を追い払った。

私がコンピュータの生成したこれらの交戦を見ている間、実際のアメリカ軍と同盟諸国の軍部隊は、赤軍と青軍の両方の役割を演じ、ハワイからテキサスまでの地域で空、海、地上の作戦行動を行った。これらの模擬戦闘は、艦船、飛行機、戦車が互いにロケット弾やミサイルを撃ち合うという、大国間の重要な戦闘で予想されるようなものだった。しかし、この演習は、プロジェクト・コンヴァージェンス・キャプストーン4(Project Convergence Capstone 4PCC4)として知られるこの演習の主な目的は、従来の火力ではなく、むしろ人工知能(AI)、自動データ配信、その他の先端技術を駆使して、アメリカ軍であれ同盟軍であれ、バラバラの戦闘ユニットをまとめ、戦闘での成功を確実にすることである、という点で、ほとんどのアメリカの訓練作戦とは一線を画していることを私は知った。アメリカ陸軍はPCC4について発表した際に次のように述べた。「将来の統合(すなわち多軍種)および多国籍軍の戦闘員は、将来のハイパーアクティブな戦場で勝利するために、機械速度で運用される統合能力を必要とする。キャップストーン4は、こうした必須能力を開発するための学習キャンペーンにおける継続的な実験の最高峰となる」。

アメリカ陸軍はPCC4を発表する際に次のように発表した。「将来の統合軍(すなわち、多軍種)および多国籍軍の戦闘員は、将来の超活発な戦場で勝利するために、機械スピードで動作する統合能力を必要とする。キャップストーン4は、そのような必要不可欠な能力を開発するための学習キャンペーンにおける永続的な実験の頂点となる機会となる」。

プロジェクト・コンヴァージェンスは、次世代部隊の兵器と戦術を設計するために、2018年に設立された陸軍フューチャーズ・コマンド(司令部)によって、ほぼ毎年実施されている。最初のイヴェントであるプロジェクト・コンヴァージェンス2020(Project Convergence 2020PC20)は、アリゾナ州ユマ試験場で開催され、500名の陸軍隊員が参加した。その後の反復ごとに複雑さが増し、2021年には統合軍種(プロジェクト・コンヴァージェンス2021、Project Convergence 2021PC21)、2022年には多国籍イヴェント(PC22)となった。(2023年には演習は実施されなかった。)

今年は、アメリカ軍5軍(陸軍、海軍、空軍、海兵隊、宇宙軍)のほか、オーストラリア、カナダ、フランス、日本、ニュージーランド、イギリスの軍から4000名が参加し、これまでで最も手の込んだ複雑なものとなった。PCC4は、4週間にわたる2つのフェーズで行われた。キャンプ・ペンドルトンを中心に、2月23日から3月3日まで行われたフェーズ1では、「インド太平洋における海上シナリオ(maritime scenario in the Indo-Pacific)」に焦点が当てられ、主に航空戦と海上戦が行われた。カリフォルニア州フォート・アーウィンにある陸軍のナショナル・トレーニング・センターで実施されたフェーズ2は、3月11日から20日まで行われ、無人兵器システムの広範囲な使用を含む陸上戦闘演習に重点が置かれた。その多くは一般公開されなかったが、私は3月5日にキャンプ・ペンドルトンに招待された約20人の報道陣の1人として、一連のブリーフィングと武器のデモンストレーションを受けた。

陸軍フューチャーズ・コマンド副司令官のロス・コフマン中将は、フェーズ1終了後の35日、「今年、私たちは脅威の範囲を(PC22の)10倍に拡大した」と報道陣に語った。通信とデータ共有を支援するために2つのマルチドメイン任務部隊が投入されたことを指摘し、「インド太平洋シナリオにおいて、かつてない規模で初めて効果的にデータを移動できるようになった」と主張した。

キャンプ・ペンドルトンのパシフィック・ビューズ・イヴェントセンターで講演したコフマン中将は、PCC4によって構築されたデータ共有ネットワークが電子的な「橋渡し」として機能し、統合部隊のあらゆる部隊間で戦闘情報を瞬時に共有できるようになったと説明した。コフマン中将は「この橋渡しによって、複数のセンサーから複数の射撃装置に情報を渡すことが可能になった。陸軍のセンサーが各軍種の射撃装置にデータを渡し、各軍種のセンサーが他の全ての軍種に同じデータを渡すことが可能になった」と述べた。

広大な太平洋に散在する異なる戦闘部隊間で迅速に情報を共有できることは、将来中国(あるいは当時の言葉で言えば「同等の能力を持つ敵対国」)との紛争において、アメリカまたはその同盟諸国が勝利を確実なものにするために不可欠だと言われていた。想定される敵国は膨大な数の艦船、航空機、ミサイルを保有しているため、アメリカ主導の連合軍は、これらの部隊を迅速に特定し、深刻な被害を与える前に、最適な位置にいる「シューター(shooters)」を用いて無力化する必要があると説明された。迅速な行動を取らなければ、アメリカ、またはその同盟国に多大な損失をもたらし、勝敗の定まらない長期の消耗戦に陥る可能性があると主張されていた。

CJADC2と「レプリケーター」(CJADC2 and “Replicator”

PCC4ネットワークは、プロジェクト・コンヴァージェンスの第1フェーズにおいて、標的データや攻撃命令の伝送に使用されただけでなく、米国防総省の統合全領域指揮統制システム(the Pentagon’s Combined Joint All-Domain Command and ControlCJADC2)のモデルとしても活用された。CJADC2は、センサー、データリンク、自動戦闘管理システムを駆使し、アメリカ軍の全部隊を連携させる精巧なネットワークだ。米国防総省のエリック・パホン報道官は35日に次のように説明した。「CJADC2は、現代戦におけるデータの量と複雑さに対応し、敵を決定的に打ち負かすために不可欠な戦闘システムだ。CJADC2により、統合部隊は自動化、人工知能、予測分析、機械学習を用いて、戦場全体の情報を迅速に『感知(sense)』し、『理解(make sense)』し、『行動(act)』し、回復力と堅牢性を備えたネットワーク環境を通じて、情報に基づいたソリューションを提供できるようになる」。

現在までのところ、CJADC2のコスト、構成部品、請負業者など、詳細な情報はほぼ公開されていない。キャスリーン・ヒックス国防副長官は昨年(2023年)8月、このプロジェクトに関する異例の公開討論で、アメリカの防衛関連請負業者の代表者たちに対し、「これは、アメリカの中核的な戦闘機能である指揮統制を進化させる、概念、技術、政策、そして人材の集合体だ」と述べた。ヒックス国防副長官はさらに、「CJADC2では、あらゆる領域にわたってセンサーを統合し、データを融合するとともに、最先端の意思決定支援ツールを活用して、ハイテンポな作戦を可能にする」と続けた。

米国防総省高官たちがCJADC2をいかに重視しているかは、ヒック国防副長官が3月4日にキャンプ・ペンドルトンを訪問し、プロジェクト・コンヴァージェンスとCJADC2技術の試験を視察したことからも明らかになった。米国防総省が発表した報告書によると、ヒック国防副長官は各軍の歴史的に互換性がなかった通信ネットワークを、複数の軍種が共有するネットワークに統合する取り組みの進捗状況について、上級将校たちと協議した。これは膨大な作業であり、多くの「難題(challenges)」を突きつけていると言われている。

キャンプ・ペンドルトン滞在中、ヒック国防副長官は軍が自律型兵器システム[autonomous weapons systems](人間の操縦者ではなく、主にAIによって操作される戦闘装置)を戦闘体制に統合する取り組みの進捗状況についても、より深く理解しようと努めた。2023年8月に国防産業協会(the National Defense Industrial AssociationNDIA)の会員に向けた演説で、ヒック国防副長官は、将来、中国人民解放軍(PLA)との紛争において、アメリカ軍が勝利するためには、こうしたシステムの開発と配備が不可欠であると明言した。人民解放軍が従来の戦闘力尺度[conventional measures of power](彼女の言葉を借りれば、「より多くの艦船、より多くのミサイル、より多くの人員」)において優位に立っていることを考えると、アメリカ軍は将来の戦場に多数の「全領域消耗型・自律型」兵器(“all-domain attritable autonomous” weapons)、つまりあらゆる種類の、低コストで使い捨て可能な自動操縦ドローンを投入する必要がある。ヒックス国防副長官は、「人民解放軍の圧倒的な戦力には、私たち自身の圧倒的な戦力で対抗するが、私たちの戦力は計画を立てることも、攻撃することも、相手を打ち負かすことも、より困難になるだろう」と断言した。

しかし、ヒックス国防副長官も認めているように、米国防総省の既存の調達システムは、長年、大手兵器メーカーから艦船、航空機、戦車といった「高額」品(“big-ticket” items)を購入することに重点を置いてきたため、この種の多くのハイテク機器の取得に対応できる体制が整っていない。ヒックス国防副長官は、既存の軍産複合体の主な柱であるこれらの大企業は、それぞれの仕事は得意だが、AI主導の「消耗型・自律型」兵器(“attritable autonomous” weapons)を迅速に大量に生産するための技術的および起業家的なスキルを持ち合わせていないと指摘した。むしろ、米国防総省は、必要な機能を提供できるようにするために、多くがシリコンヴァレーにルーツを持つスタートアップ企業に、より依存する必要があるだろう。ヒックス国防副長官は、そうした機能へのアクセスを獲得することが「レプリケーター(Replicator)」の主目的であると断言した。ヒックス国防副長官は昨年(2023年)8月に次のように明確に述べた。「アメリカは依然として、大規模で精巧で、高価で、数が少ないプラットフォームから利益を得ている。しかし、レプリケーターは、小型でスマート、安価で多数のプラットフォームを活用することによって、あまりにも遅いアメリカ軍の技術革新の移行を活性化させるだろう。」

レプリケーターは新しい取り組みではあるものの、連邦議会から強力な支持を得ており、2024年度国防予算案では最終盤で、2億ドルが計上され、2025年度予算ではさらに5億ドルの予算が約束されている。しかし、レプリケーター・プログラムが本格化するにつれて、今後さらに数百万ドル、最終的には数十億ドル規模の資金が投入される可能性が高いため、アンドゥリル社(Anduril)、パランティア社(Palantir)、シールドAI社(ShieldAI)といった防衛関連のハイテク・スタートアップ企業の多くが、プロジェクト・コンヴァージェンスなどの軍事演習に自社製品を貸し出し始めており、これが長期的な調達契約につながることを期待している。

例えば、PCC4のフェーズ2では、青軍の歩兵部隊が複数のアンドゥリル・ゴーストXAnduril Ghost-X)監視ドローンを使用し、赤軍の要塞を偵察し、その後の地上攻撃に備えて位置をマークした。約90cmのローターを備えた、昆虫のような洗練されたデザインのゴーストは、25キロの航続距離を持ち、様々なセンサーシステムを搭載できる。 PCC4では、ハイヴ(Hive)無人航空システム(unmanned aerial systemUAS)も展示されていた。これは、自律的に群れをなして飛行するように特別に設計されたドローンで、ドローン群は互いに連携して動き、様々な弾薬で敵の防衛網を圧倒することができる。フォート・アーウィンで試験されたハイヴ・ドローンは、運用を監督する陸軍関係者から聞いたところ、「人間の操縦者から非常に限定的な制御を受けた後、3機以上のUASプラットフォームが群れをなして任務を遂行する、攻撃用の小型無人航空機システムのプロトタイプ」ということだ。

コフマン中将によれば、今年のプロジェクト・コンヴァージェンスでは、無人兵器システムの使用が前回の10倍に増加したということだ。しかし、ヒックス国防副長官と同様に、コフマン中将やPCC4の他の幹部たちも、必要な技術は国防総省の軍需研究所やボーイングやロッキード・マーチンといった伝統的な防衛請負業者から得られるものではなく、必要な専門知識を持つアンドゥリルやパランティアのようなスタートアップ企業から得なければならないと指摘した。ランディ・A・ジョージ陸軍参謀総長は、35日にキャンプ・ペンドルトンで行われたブリーフィングで、「産業界、特にデータネットワークや無人システムにおいては、多くの点で商業技術がリードしている」と述べた。

米国防総省は、各種の無人システムに数十億ドルを費やす構えであり、その過程でハイテク・スタートアップ企業が新たな富を得ることが期待されていることから、シリコンヴァレーを中心とした新たな軍産複合体の出現を見ることができる。当然ながら、退役軍人が有利な職を求めてシリコンヴァレーに集まり、プライベート・エクイティ企業が新たな興味関心に資金を注いでいる。

『ニューヨーク・タイムズ』紙の最近の調査によると、少なくとも50名の元米国防総省および国家安全保障担当の政府高官たち(そのほとんどが過去5年以内に退官)が現在、防衛関連のヴェンチャー・キャピタルやプライベート・エクイティ企業で働いている。その中には、トランプ政権下で国防長官を務め、現在はヴェンチャー・キャピタル企業レッドセル社(Red Cell)の代表を務めるマーク・T・エスパーもいる。エスパーは対ドローン技術メーカーのエピラス社(Epirus)など、軍事関連のスタートアップ企業に投資している。また、元陸軍長官ライアン・マッカーシーは、在任中にフューチャーズ・コマンドの設立に尽力し、現在は防衛関連投資を行うヴェンチャー・キャピタル企業の代表を務めている。

●私たちはどこへ向かうのか?(Where Are We Headed?

プロジェクト・コンヴァージェンス・キャップストーン4は、アメリカの現在の政治・軍事・技術体制とその進化の様相を完璧に縮図したものと言えるだろう。3週間にわたるこの演習から多くの知見を得たが、特に際立った点が3つある。

第一に、アメリカ軍は中国との戦争への備えに完全に固執している。これは、米国防総省の正式なドクトリンにも、軍高官たちの言動にも明らかだ。例えば、PCC4のシナリオは、中国が西太平洋にある友好的な島嶼国(台湾? フィリピン?)を攻撃し、その後、アメリカだけでなくオーストラリア、日本、ニュージーランド、イギリスを巻き込んだ地域規模の紛争が発生するという仮想的なものだった。この点を念頭に、この演習の主目的は、これらの部隊間の通信と戦闘行動の連携をテストすることだった。「世界のどこで戦おうとも、私たちは共同パートナーと戦うことになると承知している」とジョージ陸軍参謀総長は、3月5日のブリーフィングで、「あらゆるセンサー、あらゆる射撃装置に頼り、それらを連携させる必要がある」と述べた。

キャンプ・ペンドルトンで私が話し相手になった人々は、制服を着た軍人であろうと民間請負業者の代表であろうと、中国との戦争に備えることばかりに注力することの起こりうる結果について、ほとんど懸念を抱いていないようだった。陸軍フューチャーズ・コマンド副司令官のコフマン中将は、「私たちは戦争を回避することを望んでいる。しかし、もし要請があれば、我が国の男女は同盟諸国やパートナーと共に戦うだろう」と断言した。この一文、オーストラリア、ニュージーランド、そしてPCC4に代表される他の国々が、将来中国と戦争する場合には参加することを前提としている、と、PCC4での(模擬)作戦の地域規模を合わせると、近代兵器を用いた第二次世界大戦のようなシナリオを目の当たりにしているという結論に至るのも無理はない。これがあらゆる陣営にもたらす甚大な破壊を考えると、両交戦国が敗北を回避するために核兵器の使用を放棄するという保証はどこにあるのだろうか? プロジェクト・コンヴァージェンスでは、そのような保証は全く与えられなかった。

第二に、第一の点に密接に関連することだが、アメリカ政府関係者たちは、将来のいかなる紛争においても、中国を打ち負かすためにAIやその他の先端技術を利用することに絶対の決意を抱いているという観察である。これはレプリカント・イニシアティブの最大の目的であり、PCC4の戦闘シナリオの基本的な組織原理でもある。私は何度も何度も、アメリカ軍は将来の米中戦争で「情報支配(information dominance)」を達成するために先端技術を採用しなければならず、それによってアメリカ軍と同盟軍は、中国の脅威が連合軍の資産に大きな損害を与える前に察知し、攻撃できるようにならなければならないと聞かされた。

しかし、ここでもまた、人工知能や関連技術に過度に依存することの危険性についてはほとんど耳にしなかった。ChatGPTや他の「生成AIgenerative AI)」プログラムの作成に使われる高度なアルゴリズム(the sophisticated algorithms)は、驚くべき結果を達成することができる一方で、業界関係者に「幻覚(hallucinations)」と呼ばれるような、誤った、誤解を招く結果を生み出すことでも知られている。軍事システム、特に戦闘部隊の指揮統制に関わるシステムを制御するために、これらやその他の高度なAIプログラムに頼ることは、システム不全の重大なリスクをもたらし、兵士の命を危険に晒したり、意図しないエスカレート事件を引き起こしたりする可能性がある。ヒックス国防副長官をはじめとする政府高官たちは、この問題について懐疑的な人々を安心させようと、重要な戦闘に関する決定に関しては、人間は常に「ループの中にいる(in the loop)」と主張している。しかし、私がペンドルトンで経験したのは、AIと自律性の軍事利用を何としてでも加速させようとする動きであり、そのようなシステムに対する人間の支配力が急速に低下していることを示唆していた。

最後に、先に示唆したように、米国防総省とシリコンヴァレーの同盟に基づく新たな軍産複合体の出現を目の当たりにしている。この変化がアメリカの国内政策と外交政策にどのような影響を及ぼすかはまだ分からないが、少なくとも、議会に対する軍事費引き上げの圧力が強まり、中国との戦争への備えが一層重視されることになるだろう。伝統的な兵器メーカーと同様、新たなハイテク企業家たちも、議会で自分たちの大義を押し通すために多くのロビイストを雇い、その一方で多くの人々が北京に対抗する必要性を公に語っている。

私の見解の一部は、米メディアにも掲載されているが、3つ全てがこのように関連づけられている訳ではなく、また、それらがもたらす危険性についても十分な評価がなされている訳ではない。しかし、明らかなように、これらの動向はアメリカおよび国際社会の安定にとって重大なリスクを伴うため、私たちは細心の注意を払い、場合によっては重大な規制措置を求める必要がある。特に、AIと自律技術の戦争への拙速な適用については、より一層の懸念を表明し、いかなる状況下においても人間があらゆる戦争遂行システムを完全に制御し続けるべきであると主張しなければならない。オーストリア、フランス、ドイツ、そして他の多くの国々が主張するように、そのような制御が保証できない自律型兵器は全面的に禁止されるべきだ。

(貼り付け終わり)

(終わり)
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シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 


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『人類を不幸にした諸悪の根源 ローマ・カトリックと悪の帝国イギリス』
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『トランプの電撃作戦』
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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 古村治彦です。

 今回は、最新刊『シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体』(ビジネス社)をご紹介します。発売日は2025年11月21日です。今回のテーマは「新・軍産複合体」です。これまでの著作で取り上げてきた「新・軍産複合体」に絞っての単著となります。以下にまえがき、目次、あとがきを掲載します。是非手に取ってお読みください。よろしくお願い申し上げます。 最新刊の刊行に連動して、最新刊で取り上げた記事を中心にお伝えしています。各記事の一番下に、いくつかの単語が「タグ」として表示されています。「新・軍産複合体」や新刊のタイトルである「シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体」を押すと、関連する記事が出てきます。活用いただければ幸いです。

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シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体

(貼り付けはじめ)

まえがき 古村治彦

■トランプ大統領に振り回される世界

ドナルド・トランプ Donald Trump(一九四六年生まれ、七九歳)は、二〇二四年のアメリカ大統領選挙で勝利し、二〇二五年一月二〇日に政権に返り咲いた。現職大統領が選挙で敗北し、その後、再び当選して大統領に復帰したというのは、アメリカ史上、一三二年ぶりの重大な出来事となった。

 第二次政権発足後のトランプは、就任初日から次々と大統領令を発し、不法移民の摘発の厳格化や行政機関の削減、更には高関税政策を次々と実行に移した。大統領選挙でトランプ陣営に多額の寄付を行い、側近となったイーロン・マスク率いる政府効率化省Department of Government Efficiency(デパートメント・オブ・ガヴァメント・エフィシエンシィ)、DOGE(ドージ)が各政府機関に乗り込んで、調査を行い、数千人の政府職員を解雇した。このことは日本でも詳しく報道された。

 トランプの電光石火(でんこうせっか)の動きに、アメリカ国内、そして世界が振り回されることになった。トランプ大統領と良好な関係にあったイーロン・マスクは二〇二五年五月に政府効率化省から離れ、更には、予算案をめぐり、トランプと対立するようになった。マスクは更に、新しい政党「アメリカ党 American Party(アメリカン・パーティー)」の立ち上げを画策している。

日本関連で言えば、二〇二五年四月のトランプ関税 Trump Tariff(タリフ)のショックがあったが、日本政府の粘り腰の交渉で、関税を引き下げることに成功した。

■「エプスタイン問題」が今後のトランプのアキレス腱となる

 二〇二五年七月に入ってから、トランプ政権にとってアキレス腱となり得る事案が話題を集めている。

 それは、ジェフリー・エプスタイン Jeffrey Epstein(一九五三〜二〇一九年、六六歳で没)の起こした児童買春事件に関するファイルを公開するかどうかの問題だった。トランプが二〇二四年の大統領選挙で公開を約束した、エプスタイン事件ファイル、特に「顧客リスト」の機密解除の後の公開が焦点となった。二〇二五年七月六日に、司法省は、ファイルは存在せず、エプスタインは自殺だったと発表した。

 これに対して、トランプを支持した勢力、MAGA[マガ]Make America Great Again[メイク・アメリカ・グレイト・アゲイン])派と呼ばれる人々から激しい批判の声が上がっている。(註1)トランプの名前が顧客リストに掲載されていたために、ファイルの公開が見送られたと誰もが考えた。

トランプは批判を強めるMAGA派の人々に対して、「弱虫 weaklings(ウィークリングス)」「お前たちの支持はいらない」と激しく非難した。MAGA派からすれば、顧客リストの公開なしはトランプの卑劣な「裏切り betrayal(ベトレイヤル)」にほかならない。二〇二五年二月に、パム・ボンディPam Bondi(一九六五年生まれ、五九歳)司法長官 Attorney General(アトーネイ・ジェネラル)が、エプスタインのファイルにトランプの名前が出てくることを報告しており、そのために公開しないという決定がなされたとされており、対応をめぐって共和党内部にも分裂が起きている。

 エプスタイン事件への対応が取り沙汰されるようになって、トランプの動きがおかしくなった、そして、イーロン・マスクとの関係悪化につながったと私は判断している。トランプとイーロン・マスクの仲違いが表面化した際に、マスクはXへの投稿で、「ドナルド・トランプは、エプスタイン・ファイルに載っている。これこそが書類が公開されない真の理由だ(Donald Trump is in the Epstein files. That is the real reason they have not been made public.)」と書いている(後に謝罪した)。

 政府効率化省を率いて、連邦政府各機関の調査を行ったイーロン・マスクは自身が抱える天才ハッカー集団を総動員して、各機関のコンピュータを調査し、様々な情報を入手したであろうことは間違いないので、マスクのXへの投稿には信憑性が高いと私は考えている。

 そうなると、トランプは自分の支持者たちを裏切ったということになる。そして、トランプは既存勢力、MAGA派が敵視するディープステイト側に寝返ったということになる。

■アメリカをこれまで動かしてきた軍産複合体

 本書は、現下のトランプ政権をめぐる激しい動きではなく、その下にある、より大きな動きについて見ていく。そのためのキーワードとなるのが「軍産複合体(ぐんさんふくごうたい)Military-Industrial Complex(ミリタリー・インダストリアル・コンプレックス)、MIC(エムアイシー)」という言葉だ。

 この「軍産複合体」という言葉について簡単に説明すると、軍需産業 defense industry(ディフェンス・インダストリー)と軍隊・政府機関が密接に結びつく、互恵(ごけい)的な reciprocal(レシプロカル)連合体ということになる。

 民間企業である軍需産業が、政府の一部門で多くの予算と多数の人員を抱える軍隊と結びついて、お互いの利益となる、予算獲得や予算そのものの拡大のために、協力して影響力を行使するということになる。

 アメリカで見てみると、軍産複合体には、民間の軍需産業や軍隊だけではなく、米連邦議会 Congress(コングレス)や学術界などの社会各層も入っているとも解釈されている。広範囲にわたる連合体ということになる。

 アメリカの巨大軍需産業の代表的な企業としては、①ロッキード・マーティン社Lockheed Martinボーイング社 BoeingRTXコーポレーション社 RTX Corporationノースロップ・グラマン社 Northrop Grummanゼネラル・ダイナミクス社 General Dynamicsなどの名前が挙げられる。

 RTX社は旧名がレイセオン・テクノロジーズ社であり、レイセオン・テクノロジーズ社は元々レイセオンとユナイテッド・テクノロジーズ社が合併した巨大企業で、レイセオンという名前の方が良く知られている。

 この五大巨大軍需産業は、国防総省(註2)やアメリカ軍の主要な契約(請負)企業contractors(コントラクターズ)であり、「プライム primes」と呼ばれ、優遇されてきた。

 ロッキード・マーティン社は、戦闘機、ミサイル、艦船、人工衛星などを製造し、二〇二四年の売上は約七一〇億ドル(約一〇兆五〇〇億円)、二〇二五年八月の時価総額は約一〇四五億ドル(約一五兆二〇〇〇億円)だ。

 ボーイング社は民間航空機製造でも知られているが、爆撃機やミサイル、宇宙開発の分野にも進出しており、二〇二四年の売上は、約六六五億ドル(約九兆八〇〇〇億円)、二〇二五年八月の時価総額は約一七一六億ドル(約二四兆九〇〇〇億円)だ。

 RTXコーポレーション社は、航空エンジン、機体、ミサイル、防空システムなどのメーカーで、二〇二四年の売上は、約八〇七億ドル(約一一兆七〇〇〇億円)、二〇二五年八月の時価総額は約二〇九二億ドル(約三〇兆三〇〇〇億円)だ。

 ノースロップ・グラマン社は、戦闘機、人工衛星、ミサイルなどを製造し、二〇二四年の売上は約四一〇億ドル(約六兆円)、二〇二五年八月の時価総額は約八四〇億ドル(約一二兆二〇〇〇億円)だ。

 ゼネラル・ダイナミクス社は、造船や宇宙開発、情報機器に強いメーカーで、二〇二四年の売上は約四八〇億ドル(約七兆円)、二〇二五年八月の時価総額は約八六〇億ドル(約一二兆五〇〇〇億円)だ。

 他にも軍需産業には多くの企業があるが、これらの巨大軍需企業は、アメリカ国防総省Department of Defense(デパートメント・オブ・ディフェンス)の元請(もとうけ)契約業者 prime contractors(プライム・コントラクターズ)として優遇され、国防予算から巨額の利益を上げてきた。

 日本経済新聞二〇二四年八月二日付記事「米欧防衛8社、紛争特需で増産投資 時価総額五年で倍増」では、「ロシアのウクライナ侵略や中東情勢の緊迫で、弾薬やミサイルを増産している。好業績を受け、これまで防衛銘柄を敬遠していた投資マネーも流入している」と書かれている。ウクライナ戦争や中東での紛争で、巨大軍事産業は莫大な利益を上げ、それは今も続いているということだ。戦争は彼らにとっての「飯(めし)のタネ」ということになる。

■軍産複合体には都合が悪い「アメリカ・ファースト」

ドナルド・トランプ大統領は、こうした軍需産業に対して、大統領選挙を通じて拒否反応を示していた。

 トランプは昨年(二〇二四年)の大統領選挙の運動期間中、九月のウィスコンシン州での選挙集会で本書のテーマの核心となることについて発言した。『フォーブス』誌二〇二四年九月一三日付記事「ドナルド・トランプは軍産複合体を抑制できるか?(Will Donald Trump Tame the Military-Industrial Complex?)」で、トランプの重要な発言が紹介されている。以下に引用する。

(引用はじめ)

私は好戦主義者たち warmongers(ウォーモンガーズ)を追放するだろう。常に戦争をしたがっている連中がいる。それはなぜか? ミサイルは一発で二〇〇万ドルもする。これが答えだ。彼らは世界中の至る所にミサイルを落とすのが大好きだ。私の(前の)政権の時には戦争などなかった。……私は好戦主義者たちを国家安全保障分野から追放し、必要とされてきた軍産複合体の一掃を実行する。戦争を利用しての利益追求を止め、常にアメリカ・ファースト America first を推進するためだ。私たちはアメリカ国内問題解決を第一に考える。私たちは終わりのない戦争に終止符を打つ。軍産複合体の人々は、終わりのない戦争を決して終わらせることはない。(翻訳は引用者)

(引用終わり)

 この記事で私は「好戦主義者」と翻訳したが、これは「戦争屋(せんそうや)」と言い換えても良いだろう。

 トランプは、巨大軍事産業が金儲けのために、戦争を引き起こしている、戦争の元凶(げんきょう)だと喝破[かっぱ](堂々と論じて人々が隠したがる真理を明らかにすること)している。ウクライナ戦争の即時停戦とウクライナへの支援の停止も同時に訴えていた。トランプは、好戦主義者・戦争屋たちを排除して、アメリカが戦争に巻き込まれないようにすると訴えた。そして、大統領に返り咲いた。

 ドナルド・トランプはこれまで一貫して、「アメリカ・ファースト America First」を訴えてきた。

「アメリカ・ファースト」は、「アメリカが何でも一番だぞ」という単純な、子供じみた優越感を示した言葉ではない。その真意を含んで正確に日本語に訳すと、「アメリカ国内問題解決優先主義」ということになる。アメリカ国内では、経済格差の拡大やインフラの老朽化といった問題が深刻化している。そういった問題の解決を優先しようという考え方である。

 国内重視姿勢であり、海外の問題をアメリカが出しゃばって解決しようとするのは止めよう(ほとんどの場合、アメリカは失敗してきた)、外国の問題解決は外国がすればよいという考えだ。このような考え方を「アイソレイショニズム Isolationism」という。アメリカ外交にとって、建国以来の重要な伝統だ。アイソレイショニズムを「孤立(こりつ)主義」と訳すのは間違いだ。世界の大国であるアメリカが、世界から孤立すること自体があり得ないことだ。このように訳すと、実態を見誤ってしまう。

 トランプはこの伝統に回帰することを訴えた。そして、多くのアメリカ国民がそれを支持した。しかし現状は、ウクライナへの支援は継続し、トランプが進めた「大きく美しい一つの法案」(One Big Beautiful Bill Act(ワン・ビッグ・ビューティフル・ビル・アクト) of 2025OBBBA 2025)では、防衛予算は前年比で増額となった。

■新たな軍産複合体がすでに形成されつつある

 私は、前作『トランプの電撃作戦』(秀和システム、二〇二五年)において、「ペイパル・マフィア Paypal Mafia」の総帥(そうすい)にして、シリコンヴァレーの新興テック産業の多くの操業に関わってきたピーター・ティール Peter Thiel(一九六七年生まれ、五八歳)が、トランプ政権の樹立に大きく貢献したことを明らかにした。そして、ティールと、イーロン・マスク Elon Musk(一九七一年生まれ、五四歳)が新・軍産複合体 Neo Military Industrial Complex(ネオ・ミリタリー・インダストリアル・コンプレックス)づくりを行っていると分析した。

 現在のアメリカ経済において、シリコンヴァレー発のテック産業が大きな存在となっている。その代表が、GAFA(ガーファ)と呼ばれる巨大テック企業である。グーグル社 Google、アップル社 AppleFacebook(現在はメタ社 Meta)、アマゾン社 Amazonは売上、時価総額ともに世界トップ一〇を占めている。これら以外にもテック産業は成長を続けて、アメリカの経済や社会において存在感を増している。

 二〇二五年一月一五日、ジョー・バイデン Joe Biden(一九四二年生まれ、八二歳)前大統領は、退任演説 Farewell Address(フェラウェル・アドレス)において、軍産複合体に言及した。以下の該当部分を引用する。

(引用はじめ)

ご存知のように、アイゼンハワー大統領は退任演説で軍産複合体(ぐんさんふくごうたい)military-industrial complexの危険性について言及した。演説から引用すると、彼は当時、私たちに「誤った権力の破滅的な台頭の可能性(the potential for the disastrous rise of misplaced power)」について警告した。

 六日後(言い間違い)、いや六〇年後、私はアイゼンハワー大統領と同様に、我が国に真の危険をもたらす可能性のあるテック産業複合体 tech-industrial complex(テック・インダストリアル・コンプレックス)の台頭を懸念している。

 アメリカ国民は、権力の濫用を助長する偽情報 misinformation(ミスインフォメーション)と虚偽 disinformation(ディスインフォメーション)の雪崩(なだれ)に埋もれつつある。報道の自由 free press(フリー・プレス)は崩壊しつつある。編集者は姿を消しつつある。ソーシャルメディアはファクトチェックを放棄している。真実は、権力と利益のために語られる噓によって覆い隠されている。

 私たちは、子供たち、家族、そして民主政治体制 democracy(デモクラシー)そのものを権力の濫用から守るために、ソーシャルプラットフォームに責任を負わせなければならない。(翻訳は引用者)

(引用終わり)

 バイデン前大統領は、ドワイト・アイゼンハワー Dwight D. Eisenhower(一八九〇〜一九六九年、七八歳で没 在任:一九五三│一九六一年)元大統領の退任演説(本書第二章で詳しく見る)を意識して、アイゼンハワーが使ったことで注目されるようになった軍産複合体を意識して、「テック産業複合体」という言葉を使い、その存在に警告を発している。

 巨大テック産業が政治や社会、人々の日常生活に過度な影響力を持つことを懸念し、警鐘を鳴らしている。

 シリコンヴァレー発の巨大テック産業の重要人物たちのほとんどは、民主党支持で、二〇二〇年の大統領選挙ではジョー・バイデン(大統領在任:二〇二一│二〇二五年)を、二〇二四年ではカマラ・ハリス Kamala Harris(一九六四年生まれ、六〇歳)を支援した。バイデンは、独占禁止法を盾にして巨大テック産業の影響力の削減を行おうとしたが、中途半端に終わった。

 二〇二四年の大統領選挙後、シリコンヴァレーの巨大テック産業は軒並み、トランプ支持を表明し、二〇二五年一月の大統領就任式に多額の献金を行い、CEOたちがばつが悪そうな顔をして就任式に出席した。バイデンとしては、テック産業の手のひら返しを許せないということもあって、恨み節として「テック産業複合体」という言葉が出てきたのだろう。しかし、バイデンが指摘するように、テック産業は様々な場面で、影響力を増しているのも事実だ。

■「米中戦争」の主役は双方の新・軍産複合体が担う

私はトランプが批判した軍産複合体と、バイデンが批判したテック産業が交わる領域についてこれから書いていく。

より具体的には、これまでの著作でも触れてきたが、「新・軍産複合体」づくりだ。

 より具体的には、シリコンヴァレーで、第一次トランプ政権誕生に大きく貢献したピーター・ティール、第二次トランプ政権誕生に貢献したイーロン・マスク、ティールが引き立てたシリコンヴァレーの天才児パルマー・ラッキー Palmer Luckey(一九九二年生まれ、三三歳)が軍産複合体に食い込もうとしていることを詳述していく。

更に、これまでの軍産複合体について、新旧の軍産複合体の違い、ティールたちに影響を与えている思想の新潮流、中国の軍産複合体、軍産複合体の変化を前提にした米中関係の予測について見ていく。

本書の構成を簡単に紹介する。

 第一章では、シリコンヴァレーのテック産業が、新しい軍産複合体づくりを行っている様子を人物と人脈を手掛かりにして見ていく。具体的には、ドナルド・トランプの政権獲得に貢献し、大きな影響力を持つ、ピーター・ティール、イーロン・マスク、そして、ティールの庇護の下で成功を収めたパルマー・ラッキーといった、シリコンヴァレー発のテック産業の大立者(おおだてもの)たちが、自分たちの所有するパランティア・テクノロジーズ社 Palantir Technologies、スペースX社 Space X、アンドゥリル・インダストリーズ社 Anduril Industriesが国防総省とアメリカ軍との大規模な契約を結ぶことを目指している。第二次トランプ政権の軍事関係の人事についても見ていく。

 第二章では、戦後アメリカの軍産複合体の歴史を概観している。主に、第二次世界大戦後の冷戦がスタートした時期から軍産複合体は大きな影響力を行使してきた。第二次世界大戦後もアメリカは多くの戦争を戦ってきた。アメリカの戦争において重要な役割を果たしてきた軍産複合体の成り立ちや役割について、ニューヨーク財界人が作った「現在の危機委員会」や、アメリカの介入主義の思想潮流であるネオコン派の人物たちの名前を挙げて詳述する。

 第三章では、古くからの軍産複合体と新・軍産複合体の違いについて見ていく。二つの間にある大きな違いは、ビジネスモデルの違いと、底流にある思想の違いである。ビジネスモデルの違いで大きいのは、私たちにとってもなじみ深い言葉「サブスク」である。底流にある思想に関しては、古くからの軍産複合体の基底にあるのは介入主義(かいにゅうしゅぎ)であり、新・軍産複合体の場合は暗黒啓蒙(あんこくけいもう)である。これらを詳述し、二つの間の違いを明確化する。

第四章では、アメリカの新しい軍産複合体づくりが国際関係に与える影響について考える。現在、国際関係における最重要のファクターは、米中関係 US -China relations(ユーエス・チャイナ・リレイションズ)である。より具体的に言えば、「米中戦争は起きるのか」ということが重要なテーマになる。

 まず、中国における軍産複合体の形成について見ていく。習近平政権下、中国は軍の近代化を進めており、そのための中心戦略が「軍民融合(ぐんみんゆうごう)」であり、習近平は二〇二三年からの国家主席三期目の中国共産党指導部人事で「軍工航天系(ぐんこうこうてんけい)」のテクノクラートたちを登用していることを紹介する。

 続けて、ピーター・ティール、イーロン・マスク、パルマー・ラッキーの対中観について、そして、暗黒啓蒙の中にある「中華未来主義(ちゅうかみらいしゅぎ)」について見ていく。そして、アメリカの軍産複合体の「変容 transformation(トランスフォーメイション)」によって、米中関係も変化していくだろうということを結論づける。

 本書を通じて、アメリカ政治の表面に出てこないが、確かなそして大きな動きについて、読者の皆さんに理解を深めていただけることを願っている。

二〇二五年九月

古村治彦(ふるむらはるひこ)

【註】

註1 『ロイター通信』二〇二五年七月三〇日付記事「情報BOX:「エプスタイン問題」とは何か、未公開文書巡りトランプ氏と支持層に亀裂も」

註2 二〇二五年九月に戦争省 United States Department of Warに改名

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『シリコンヴァレーから世界支配を狙う 新・軍産複合体の正体』 目次

まえがき

トランプ大統領に振り回される世界 3

「エプスタイン問題」が今後のトランプのアキレス腱となる 4

アメリカをこれまで動かしてきた軍産複合体 6

軍産複合体には都合が悪い「アメリカ・ファースト」 9

新たな軍産複合体がすでに形成されつつある 11

「米中戦争」の主役は双方の新・軍産複合体が担う 14

新旧・軍産複合体の人脈関連図と関係企業

新・軍産複合体の人脈図(1):トランプ政権 26

新・軍産複合体の人脈図(2):ウエストエグゼク社 28

これまでの軍産複合体の人脈の歴史(1):第一次「現在の危機委員会」まで 30

これまでの軍産複合体の人脈の歴史(2):第二次「現在の危機委員会」まで 32

これまでの軍産複合体の人脈の歴史(3):ジョージ・W・ブッシュ政権とネオコン 34

新旧軍産複合体企業 36

第1章 アメリカで新しい軍産複合体が出現しつつある

ミッシェル・フロノイというキーパーソンの浮上 40

バイデン政権と濃密につながるウエストエグゼク社 41新・軍産複合体づくりの動きが見えてきた 44

新・軍産複合体の中心人物ピーター・ティール 46

反福祉、反税金、反中央政府の自由至上主義者(リバータリアン)ンたち 51

政界ネットワークを着々と拡大するティール 53

ビン・ラディンの発見と殺害で政府機関の信用を得る 55

第二次トランプ政権の「台風の目」となっていたイーロン・マスク 57

アメリカにとって不可欠の存在にわずか二〇年で成長したスペースX社 61

ティールに育てられた「シリコンヴァレーの異端児」パルマー・ラッキー 63

アンドゥリル社は新時代の軍需企業として台頭 67

ピーター・ティールが見出して、育てたJ・D・ヴァンス 70

防衛関係のスタートアップに投資するスティーヴン・フェインバーグ 75

「アジア・ファースト」軍事戦略を目論むエルブリッジ・コルビー 80

陸軍の文民トップには新・軍産複合体寄りの二人が就任した 84

トロイ・メインク空軍長官はイーロン・マスクと昵懇の中 90

第二次トランプ政権は新・軍産複合体づくりを支援する 92

第2章 二〇世紀は軍産複合体の世紀だった

「アメリカの世紀」は戦争によって築かれた 96

世界最強の軍隊を支える軍産複合体 98

軍産複合体の脅威を警告したドワイト・アイゼンハワー大統領 101

「現在の危機委員会」は米国民が軍拡を受け入れるように仕向けた 106

軍産複合体の生みの親であるバーナード・バルーク 112

財界人にとって安全な投資先となった軍需産業 114

第二次「現在の危機委員会」の創設がレーガン政権につながった 118

ネオコンや人道的介入主義派の源流となったヘンリー・ジャクソン 123

ジョージ・W・ブッシュ政権を牛耳ったネオコンは軍産複合体そのものだった 126

二一世紀になっても米国民を煽っている「現在の危機委員会」 132

二〇世紀で作り上げられた軍産複合体は二一世紀で変容する 137

第3章 新・軍産複合体は旧来と何が違うか

防衛システムのサブスクリプション契約を目論む 142

基盤となる思想も新旧大いに異なる 145

古くからの軍産複合体のビジネスモデルは「お手盛り」でコスト軽視 146

一致団結して国防予算削減を妨げる者たち 149

イーロン・マスクが政府効率化省を率いた理由 151

新たなミサイル防衛システム「ゴールデンドーム」導入が大きなチャンス 154

時代遅れの巨大軍需産業に取って代わるシリコンヴァレーのテック産業 157

「サブスク」でアメリカ軍をコントロールする新・軍産複合体 162

ウクライナ戦争で核戦争の危機を回避したイーロン・マスク 165

トランプは旧・軍産複合体にも利益を与える方向に転換した 169

トランプとマスクとの仲違いが新・軍産複合体づくりに影響 172

古くからの軍産複合体の思想の基盤は介入主義だ 176

ピーター・ティールが影響を受ける新しい思想潮流「暗黒啓蒙」 178

暗黒啓蒙の思想家カーティス・ヤーヴィン 181

ディープステイトと非ディープステイトの対立構図が浮かび上がる 186

第4章 新しい軍産複合体の台頭で米中関係はこうなる

アメリカが煽り立てる中国脅威論のおかしさ 192

「アメリカ以後の世界」へと歴史は流れている 196

戦争を必要としない新・軍産複合体と米中関係 198

中国の軍民融合はアメリカの軍産複合体と同様の機能を持つ 202

習近平体制三期目のキーワードは「軍工航天系」で、軍民融合を進める 206

中国の軍産複合体幹部が異例の昇進 212

最先端技術の軍への応用を可能にする人事 215

ピーター・ティールは中国に対して批判的だが理想は中国の体制のはずだ 219

中国に恩義があるイーロン・マスクが中国を敵視する理由がない 224

アメリカは世界の警察官をやめるべきと主張するパルマー・ラッキー 226

ニック・ランドが生み出した中華未来主義が重要だ 228

新・軍産複合体が米中衝突を望むことはない 233

新・軍産複合体の後ろ盾があるJ・D・ヴァンス副大統領がトランプの後継者 238

あとがき 243

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あとがき 古村治彦

「西洋 the Westの衰退と非西洋 the Rest の再興」は私の大きなテーマである。フランスの歴史人口学者エマニュエル・トッドは、「西洋の敗北 the Defeat of the West(ザ・デヒィート・オブ・ザ・ウエスト)、La défaite de l’Occident(ラ・ディフェツ・ドゥ・ロクスィダン)」という言葉を使っている。

 世界は今、大きな構造変化の時期を迎えている。西洋近代支配五〇〇年が終わり、非西洋諸国がBRICSを中心にして勃興(再興)しようとしている。

世界覇権は中国に移る。現在の日本の衰退は、世界規模で位置づければ、西洋の衰退という大きな流れの中で起きている現象ということになる。私たちはこのことをまずしっかりと認識しなければならない。

 アメリカ国内に目を向けると、アメリカの国力の減退はもう覆(おお)い隠(かく)せない状況になっている。アメリカは世界覇権国として、第二次世界大戦後の世界を支配してきたが、その世界支配を続けられなくなっている。その象徴がドナルド・トランプ大統領の誕生だ。

 トランプは、戦後のアメリカ支配体制を終わらせるために、時代の要請によって生み出された。世界帝国アメリカの墓堀り人 gravedigger(グレイヴディガー)である。私はそのように判断している。

 トランプ大統領誕生には、本書の主人公であるピーター・ティールとイーロン・マスクが大きく貢献した。彼らが目指しているのが、「新・軍産複合体」である。

 私は、本書を通じて、アメリカ政治の大きな流れである「新・軍産複合体」づくりについて詳述した。ティールやマスク、そして、パルマー・ラッキーは、これからのアメリカ政治において、「影の大統領」とも言うべき、政商 influence peddlers(インフルエンス・ペドラーズ)となるだろう。アメリカ史に引き付けて言えば、二一世紀の「泥棒男爵 robber barons(ロバー・バロンズ)」ということになる。

「新・軍産複合体は中国を敵視しない、戦争を必要としない軍産複合体となる」という私の主張は、突飛に聞こえるかもしれない。私の主張に説得力があるかどうかは、読者の皆様の評価を俟(ま)ちたい。

ドナルド・トランプ大統領は、第二次政権が始まった当初、様々な政策を行い、期待通りの動きを見せた。しかし、その後は、既存の勢力、ディープステイト側に妥協しているように見える。エプスタイン問題でも、ウクライナ停戦でも、昨年の選挙期間に行った自身の主張から大きく後退している。既存勢力に媚びを売り、何とか四年間の任期を無事に終えようという意図が透(す)けて見える。しかし、アメリカの衰退、アメリカ国内の分裂 division(ディヴィジョン)を止めることは不可能だ。大きな流れは誰にも止められない。

 本書の執筆中、日本では、石破茂総理大臣の退陣表明があった(二〇二五年九月七日)。そして、一〇月四日に自民党総裁選挙の投開票が行われ、最終的に高市早苗が新総裁に選ばれた。公明党の連立与党離脱で日本政界に激震が走った。これから連立与党の枠組みの変更と総理指名に向けて、協議が行われることになる。

 石破首相はアメリカに隷属的に盲従することなく、是々非々(ぜぜひひ)で事態に対応した。国防予算の対GDP比三・五%引き上げ要求を拒絶し、日米の外相と国務長官、防衛相と国防長官が会合を行う「2+2」の開催を見送ったことは本文の中で紹介した。

 石破政権は在任期間こそ短かったが、石破政権の業績を後世の歴史家が高く評価するだろう。世界の大きな構造転換に直面する日本で、石破茂というリーダーが誕生したことは倖(ぎょうこう)だった。対米隷属(れいぞく)路線からの小さな軌道修し正(きどうしゅうせい)が将来に大きな違いを生み出すと私は確信している。

 最後に、師である副島隆彦(そえじまたかひこ)先生には推薦の言葉をいただきました。ありがとうございます。本書の執筆にあたり、フリーの編集者の大久保龍也氏、ビジネス社の中澤直樹氏には企画の段階から大変お世話になりました。特に大久保氏には、私のデビュー作、二作目を担当していただいて以来、久しぶりにタッグを組むことができたことは、私にとって光栄なことでした。記して感謝します。

二〇二五年一〇月

古村治彦(ふるむらはるひこ)

(貼り付け終わり)

(終わり)
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シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 


jinruiwofukounishitashoakunokongen001
『人類を不幸にした諸悪の根源 ローマ・カトリックと悪の帝国イギリス』
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『トランプの電撃作戦』
sekaihakenkokukoutaigekinoshinsouseishiki001
世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む

bidenwoayatsurumonotachigaamericateikokuwohoukaisaseru001

バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 2025年11月21日に『シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体』 (ビジネス社)を刊行します。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
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シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 
 最新刊の刊行に連動して、最新刊で取り上げた記事を中心にお伝えしている。各記事の一番下に、いくつかの単語が「タグ」として表示されている。「新・軍産複合体」や新刊のタイトルである「シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体」を押すと、関連する記事が出てくる。活用いただければ幸いだ。

 高市早苗首相の台湾をめぐる発言で日中関係は悪化している。日本政府としては、「高市首相の発言と、これまでの姿勢は別で、日本側に変更はない」という何とも苦しい言い訳をすることになる。高市首相が国会の場で早めに発言を撤回・修正していればここまでの深刻な状況にならずに済んだ。「高市首相から失言を引き出した野党が悪い」という、なんとも考えの足りない、思考力と知恵を持つようにお勧めしたい人たちの擁護論がむなしく響く。一般国民が言うならまだしも、政治のプロの世界やマスコミに出ている人たちもそのようなことを述べているというのは滑稽さを通り越して、日本の将来への不安が増大するばかりである。

 世界屈指の大都市ニューヨーク市長にゾーラン・マムダニが当選した。マムダニがアンドリュー・クオモ元ニューヨーク州知事(2011-2021年)・住宅都市開発長官(ビル・クリントン第二期政権)を民主党予備選挙で破った時点で、マムダニについてはこのブログでご紹介した。本選挙で再び、アンドリュー・クオモと戦うことになり、勝利した。

※古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

2025年7月15日付記事「ニューヨーク市長選挙の民主党候補者予備選挙でゾーラン・マムダニが勝利した」

https://suinikki.blog.jp/archives/89819926.html

 マムダニ当選に驚く人々はアメリカ政治についてあまり知識がない人たちなのだろうと思う。一般の日本人ならそれは当然であるが、論壇で驚いたと言っているような人は、論壇から退いた方が良い。アメリカでは2010年代から、民主党左派に分類される民主社会主義勢力が伸長している。生活の苦しさ、アメリカの衰退は資本主義に対する疑念を人々の間に引き起こしている。特に若者たちの間では資本主義への疑念と社会主義への支持が拡大している。以下の記事をお読みいただきたい。

(貼り付けはじめ)

資本主義と大企業に肯定的なアメリカ人が減っている…最新の意識調査で明らかに

Bryan Metzger[原文](翻訳:Ito Yasuko、編集:井上俊彦)

Business Insider Japan

Sep 19, 2025, 7:30 AM

https://www.businessinsider.jp/article/2509-big-business-capitalism-15-year-low-popularity-americans/

・アメリカで大企業を肯定的に見ている人は37%しかいない。

・アメリカでは、資本主義や大企業を好意的に見る人が、ますます少なくなっている。

資本主義を好意的に見ている人は54%だ。過半数ではあるが、それでも4年前に比べると大幅に減少している。

18歳から34歳に限れば、資本主義を肯定的に見ている人は43%しかいない。

アメリカ人はますます、大企業と資本主義への嫌悪感を増しつつある。だが、社会主義へと傾いているというわけでもない。

ギャラップ(Gallup)による最新の世論調査によると、大企業を肯定的に評価しているアメリカ人はわずか37%で、2021年の46%から大きく減少した。

2019年には、52%の人が大企業を肯定的に見ていた。10年足らずで驚くべき転換と言えるだろう。

この調査では、資本主義を肯定的に評価している人は54%で、2021年から6ポイント減となっていることも分かった。ギャラップが2010年にこの質問を始めて以来、最低だ。

同時に、アメリカ人は資本主義の別の側面を、依然として肯定的に捉えている。81%が自由企業体制を、95%が中小企業を肯定的に見ている。

資本主義に対する否定的な見方は、特に18歳から34歳の若年層で顕著で、肯定的は43%で54%が否定的だ。

実際、若年層の49%が社会主義を肯定的に見ており、否定的なのは46%だ。

この結果は、民主社会主義者の州議会議員、ゾーラン・マムダニ(Zohran Mamdani)が若者の支持を得てニューヨーク市長選挙の民主党予備選で勝利したことの説明になるかもしれない。

また、バーモント州選出の上院議員、バーニー・サンダース(Bernie Sanders)や、ニューヨーク州選出の下院議員、アレクサンドリア・オカシオ=コルテス(Alexandria Ocasio-Cortez)といった資本主義に批判的な政治家が2016年以来、アメリカの政界で頭角を現している。

とはいえ、社会主義の一般大衆の支持率は概ね横ばいの状態が続いている。今年、肯定的に見ていると述べたアメリカ人は39%だったが、2021年は38%だ。一方、今年、社会主義を否定的に見ているをしたのは57%だった。

社会主義と資本主義の見方には、党派間でも大きな違いがある。

共和党では、74%が資本主義を肯定的に評価している一方、社会主義を肯定的に見ているのはわずか14%。民主党では、資本主義を肯定的に評価しているのは42%、66%が社会主義を肯定的に見ている。

この調査は、アメリカの成人1094人を対象に、81日~5日に実施された。誤差の範囲は4ポイントだ。

(貼り付け終わり)

 アメリカには社会主義の伝統が存在する。その代表的な人物がユージン・デブスだ。以下の論稿はデブスについて紹介している。そして、社会主義とはアメリカの理想の実現だということを述べている。民主政治体制は識字率の上昇によって発展していくが、高学歴化が進むにつれて、格差を求める声が強くなり、民主政治体制が揺らいでしまう。現在のアメリカはアメリカの理想からほど遠い。資本主義は格差を助長する。更には社会階層、階級を固定し、社会流動性を弱める。アメリカの若者たちはこれに加えて、アメリカの国力の低下にも直面している。社会主義は彼らにとって望ましいものとなりつつある。

(貼り付けはじめ)

ゾーラン・マムダニはアメリカの社会主義の伝統をどう活用するか(How Mamdani Taps Into an American Socialist Tradition

-この運動の創始者たちはカール・マルクスよりもトマス・ペインとエイブラハム・リンカーンの言葉を多く引用した。

ジュリアン・E・ゼリザー筆

2025年11月17日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2025/11/17/mamdani-eugene-debs-american-socialist-tradition/?tpcc=recirc_latest062921

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オハイオ州カントンで反戦演説を行うユージン・デブス(1918年)

11月4日の勝利演説で、ニューヨーク市長に選出されたゾーラン・マムダニは大統領選挙に5回出馬したある人物の言葉を引用した。ブルックリンに集まった熱狂的な支持者たちにマムダニは次のように語りかけた。「今夜、私たちの街の太陽は沈んだかもしれない。しかし、ユージン・デブスがかつて言ったように、『私には人類にとってより良い日の夜明けが見える(I can see the dawn of a better day for humanity)』の心境だ」。

出席者の多くはデブスが誰なのか分からなかったかもしれないが、この言及は完全に理にかなったものだ。結局のところ、デブスはアメリカ社会主義の歴史において変革をもたらした人物だった。多くの評論家たちは社会主義をアメリカという国土に馴染みのない、つまり外国から輸入されたものとして扱うが、アメリカには長きにわたる社会主義の伝統があり、それは政府のヴィジョンと、働くアメリカ人の擁護、そして個人主義、自由、そして市民共和主義(civic republicanism)といった価値観の尊重を融合させてきた。

そして、アメリカ政治における社会主義の歴史を考えると、マムダニの権力掌握は、一部の人が考えるほど驚くべきことではない。

デブスはアメリカ生まれの人物だ。インディアナ州テレホートに移民の息子として生まれ、公立高校を中退して鉄道員の職を得た。しかし、彼の真の情熱は、働くアメリカ人を組織することだった。1875年、彼は「機関車機関士同胞団(the Brotherhood of Locomotive Firemen)」に入団し、2年後の1877年の鉄道ストライキ後に「ストライキは、正義を求める平和的努力が失敗し、絶望に追い込まれた人々が頼る最後の手段である(Strikes are the last means which are resorted to by men driven to desperation after peaceful efforts to obtain justice have failed)」という劇的な演説を行って全国的な注目を集めた。

機関車機関士同胞団での地位向上に伴い、デブスは地方政治にも積極的に参加するようになり、最初は市政、そして、1884年に有権者たちに選出されてインディアナ州議会議員に選出されると、州全体の政治にも積極的に関わるようになった。 

デブスは常に、労働者階級のアメリカ人の経済的・身体的安全、そして市民としての権利を重視していた。既存の労働組合が特定の職種を中心に組織されていた時代にキャリアをスタートさせたデブスは、企業が国家を席巻し始めた時代に、産業別に労働者を組織する必要性を信じていた新しい世代に属していた。1893年、彼は機関車機関士同胞団を離れ、シカゴで「アメリカ鉄道組合(the American Railway Union)」を設立した。この産業モデルのもとで、鉄道で働く人なら誰でも加入できた。組合は1894年の夏、グレイト・ノーザン鉄道に対して18日間のストライキを成功させた。

アメリカ鉄道労働組合がプルマン社に対するストライキを組織し、労働組合の承認を要求した後、デブスはプルマンの車両を牽引する列車に対する全国的なボイコットに参加した。このボイコットは鉄道業界全体に深刻な混乱をもたらしたが、グローヴァー・クリーブランド大統領が差し止め命令を獲得し、連邦軍を派遣してストライキを鎮圧した。デブスが裁判所命令に従うことを拒否したため、デブスは逮捕され、法廷侮辱罪で6カ月間投獄された。収監中、デブスは社会主義に関する書籍を広く読んだ。1897年、民主党のウィリアム・ジェニングス・ブライアン大統領選挙運動に携わった翌年、デブスは支持対象を変更し、1901年に「アメリカ社会党(the Socialist Party of America)」の設立を支援した。また、1905年には「世界産業労働者組合(the Industrial Workers of the WorldIWW)」創設に関わった労働運動指導者の1人でもあった。

アメリカには「労働者党(the Workingmen’s Party)」や「社会主義労働党(the Socialist Labor Party)」といった社会主義組織が以前から存在していたが、デブスのような運動を全国的に注目させる人物はいなかった。デブスは演説台の上で拳を振り上げ、身を乗り出して熱意を込めて語るカリスマ性で知られていた。1904年には「民主社会主義党(the Socialist Democratic Party)」の大統領候補として出馬し、40万票を獲得した。(彼は1900年に初めて立候補し、9万票以下しか獲得できなかった。)その後、彼はさらに3回立候補することになる。1912年、共和党のウィリアム・ハワード・タフト大統領、民主党のウッドロウ・ウィルソン、進歩党のセオドア・ルーズベルトと対峙したデブスは、90万票以上、約6%の得票を獲得した。彼はある演説で次のように語った。「私は理論家であり夢想家かもしれないが、私は壁に書かれた文字を見ることができると思い。世界は不満の波に覆われており、変化が差し迫っている」と語った。

デブスが実践した社会主義は、ヨーロッパで台頭しつつあった社会主義とは異なっていた。彼は、働くアメリカ人を保護することに尽力しつつも、個人の市民権における権利と義務を強調する共和主義的価値観に確固として根差した、強固な政府を構想した。歴史家ニック・サルヴァトーレがデブスの古典的伝記で指摘したように、デブスは社会主義を伝統的なアメリカの理想の否定ではなく、その実現と見なしていた。彼の信念は共和主義(republicanism)、福音主義プロテスタンティズム(evangelical Protestantism)、機会均等の原則(the principle of equality of opportunity)に由来していた。デブスの急進主義(radicalism)は、カール・マルクスよりもトマス・ペインやエイブラハム・リンカーンの思想に共鳴していた。サルヴァトーレは「デブスは共和主義の伝統を真摯に受け止め、市民権の概念に内在する個人の尊厳と力を強調した」と記している。デブスの核心的な課題の多く——労働者の失業保険と老齢保険(unemployment and old age insurance for workers)、公民権と女性参政権(civil rights and women’s suffrage)、無償教育(free education)、公益事業の集団所有または強力な規制(collective ownership or stronger regulation of utilities)——は、20世紀のリベラルの間で広く支持を得るようになる。彼の究極の目標は、労働者の権利を尊重し保護する民主的な形態の企業資本主義(a democratic form of corporate capitalism that respected and protected the rights of workers)であった。

キリスト教は一貫してデブスの公共の利益に対する理解を形成した。「社会主義とは何か?」デブスはニュージャージー州の聴衆に問いかけた。そして、「単なるキリスト教の実践に過ぎない。それは人間の平等を認めるものだ」と述べた。1912年の選挙集会で、デブスは星条旗の前で演説した。その両側には赤い横断幕が掲げられ、一方には「社会主義、世界の希望(Socialism, the Hope of the World)」と、もう一方には「私たちは多数、彼らは少数(We Are Many, They Are Few)」と書かれていた。

社会主義運動内部には緊張関係があり、特に女性参政権と人種的正義(racial justice)にどれだけの注意を払うべきかをめぐって緊張が高まっていました。デブスは人種別に隔離された(segregated)聴衆への演説を拒否することで、自らの立場を明確にしました。

しかし、デブスの思想、特に戦争への反対は、ウィルソン大統領にとって容認できなかった。第一次世界大戦中の第一次赤狩り(the first Red Scare)の際、司法長官A・ミッチェル・パーマーは戦時中の反対意見に対する強硬な弾圧を開始し、市民の自由を踏みにじり、国家権力を用いて言論の自由を抑圧した。パーマーは、オハイオ州カントンでデブスがウォール街の金融家たちが主導するヨーロッパ戦争を非難し、貧しいアメリカ人が戦わされていると非難する演説を行った後、デブスを標的にした。その後まもなく、政府は1917年のスパイ活動法(the Espionage Act of 1917)と1918年の治安維持法(the Sedition Act of 1918)に基づきデブスを起訴した。1918年9月、デブスは有罪判決を受け、懲役10年の刑を宣告された。

彼は有罪判決を受けた際に反抗的に次のように宣言した。「何年も前、私は全ての生き物との繋がりを認識し、自分はこの世で最も卑しい者たちより少しも優れている訳ではないと考えている。その時も今も、私はこう言っている。下層階級が存在する限り、私はその中にいる。犯罪者が存在する限り、私はその中にいる。獄中の魂が存在する限り、私は自由ではない」。

アトランタの連邦刑務所の独房に収監されていたにもかかわらず、デブスは屈服しなかった。1920年、社会党は彼を大統領候補に指名した。これは彼にとって5度目の、そして最後の大統領選挙の選挙戦となった。獄中から出馬し、90万票以上を獲得した。1921年のクリスマス、ウォーレン・G・ハーディング大統領は彼の刑期を減刑し、釈放した。デブスは5年後、イリノイ州で亡くなった。

この時代に選挙で成功を収めた社会主義者はデブスだけではなかった。社会主義者は連邦下院にも議席を獲得した。その中には、デブスに影響を与えたミルウォーキー出身のヴィクター・バーガーもおり、バーガーは1910年に連邦下院議員に当選した。ニューヨーク出身の社会主義者で、国際婦人服労働組合の元弁護士であるマイヤー・ロンドンは、1915年から2期(非連続)、連邦下院議員を務めた。

多くの社会主義者が地方自治体レヴェルで成功を収め、公共料金や公共サーヴィスといった現実的な問題に集団の利益という理念を効果的に結び付けた。

第一次世界大戦中の弾圧とロシア革命後の分裂の結果、1920年代には社会主義は政治勢力として弱体化した。デブスの死は、彼の指導の下で大きく成長した運動をより衰退させることになった。

1930年代の大恐慌期、経済崩壊によって労働者が指導力と救済を切望する中で、社会主義は再び勢いを取り戻した。オハイオ州出身の長老派教会の牧師ノーマン・トーマスは、社会主義の灯を守る存在として台頭した。1932年の大統領選挙では、彼は90万票近くの票を獲得した。社会主義者は共産主義者と同様に、公民権運動の重要な同盟者でもあった。当時、アメリカの大部分はジム・クロウ法の南部の永続性(the permanence of the Jim Crow South)を受け入れていた。

しかし、1950年代の第二次赤狩り(the second Red Scare)の時代、フランクリン・D・ルーズヴェルト政権下で、この運動の思想の多くが主流政治に吸収されたにもかかわらず、アメリカの社会主義は再び周縁(the margins)へと退いてしまった。作家マイケル・ハリントンなどのアメリカの社会主義者たちは、影響力のある作品を組織し出版し続けた(1962年に発表されたハリントンの『もう一つのアメリカ』は、リンドン・B・ジョンソンの貧困との戦いに影響を与えたと言われている)が、彼らはリベラルな民主党員によって大部分無視され、周辺的な勢力(a peripheral force)にとどまった。

1980年代、ロナルド・レーガンが保守運動を権力の座に押し上げたことで、アメリカにおける社会主義はついに終焉を迎えたかに見えた。『ニューヨーク・タイムズ』紙によると、1984年後半、プリンストン大学で開催された会議に、歴史家たちがノーマン・トーマスの功績を称えるために集まった。出席者の中で、自分たちが記念すべき出来事の将来性に希望を抱いていた人はほとんどいなかったが、これは特にレーガンが民主党のウォルター・モンデールに圧勝した後だったからだ。出席者の多くは「アメリカ民主社会主義党(the Democratic Socialists of America)」の党員たちだった。

この会議で表明された懸念は杞憂に終わったが、社会主義が再び勢いを取り戻すまでには数十年を要した。ニューヨーク市長のデイヴィッド・ディンキンス(1990-1993年)のように、かつて民主社会主義者だった人物が権力を握った者もいたが、その数は依然として少なかった。

時が経つにつれ、経済格差の拡大と、中道へと傾いた民主党への不満(rising economic inequality and frustration with a Democratic Party that shifted to the center)が、新たな世代を運動に引き寄せた。2011年のウォール街占拠運動(Occupy Wall Street in 2011)は、ニューヨークの街頭に抗議者たちが集結し、上位1%の権力に挑むという、重要な転換点となった。民主社会主義者を自認するヴァーモント州選出の無所属上院議員バーニー・サンダースは、民主社会主義党(DSA)のメンバーではなかったが、2016年と2020年の民主党候補指名選挙で、アレクサンドリア・オカシオ=コルテス連邦下院議員(民主党)やマムダニを含む新世代の活動家を鼓舞した。サンダースのメッセージは、国民健康保険や労働組合の権利強化といった、この伝統に基づく理念を前面に押し出したものだった。民主社会主義党の会員数は着実に増加し、2025年には8万人を超えた。イスラエル問題などをめぐって民主社会主義党内に亀裂が生じたものの、民主社会主義者は現在、主流派に返り咲いている。

リベラル派と中道派は民主党内、特に指導部において依然として強力な勢力を維持しているが、長年にわたり民主社会主義者との対話を続けてきた。両派閥間の駆け引きは党の政策課題を広げ、1990年代の新自由主義全盛期には議題から外れていた政策について真剣な議論を巻き起こしてきた。

デブスが20世紀初頭に築き上げた伝統は今もなお強く残っている。歴史家マイケル・カジンが主張するように、社会主義は依然として大きな魅力を放っている。「彼らの先人たちの多くと同様に、彼らははるかに平等な社会を夢見ているが、国民皆保険制度(Medicare for All)や再生可能エネルギーで動く経済(an economy that would run on renewable sources of energy)といった現実的な目標のために闘っている」とカジンは指摘した。

ニューヨーク市長に選出されたマムダニは中道左派寄りかもしれないが、国内政治に関する彼の核となる考え方、すなわち政府の支援を通じて勤勉なアメリカ人の生活を手頃で安全なものにする必要(the need to make life affordable and secure for hardworking Americans through government assistance)性は、アップルパイのようにアメリカ的である。マムダニの提案である「ユニバーサルチャイルドケア(universal child care)」などは他の民主党員よりも大胆かもしれないが、彼の主張は明らかに広く共感を呼んでいる。民主社会主義の思想(democratic socialist ideas)は20世紀初頭から主流政治に深く根付いており、彼のメッセージは幅広い支持を得るだろう。

※ジュリアン・E・ゼリザー:『』誌コラムニスト。プリンストン大学歴史学・公共問題教授。ニューズレター『ロング・ビュー』の著者で、このニューズレターはニュースを客観的に捉えるものである。Xアカウント:@julianzelizer

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(終わり)
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 高市早苗首相の台湾をめぐる発言で日中関係は悪化している。日本政府としては、「高市首相の発言と、これまでの姿勢は別で、日本側に変更はない」という何とも苦しい言い訳をすることになる。高市首相が国会の場で早めに発言を撤回・修正していればここまでの深刻な状況にならずに済んだ。「高市首相から失言を引き出した野党が悪い」という、なんとも考えの足りない、思考力と知恵を持つようにお勧めしたい人たちの擁護論がむなしく響く。一般国民が言うならまだしも、政治のプロの世界やマスコミに出ている人たちもそのようなことを述べているというのは滑稽さを通り越して、日本の将来への不安が増大するばかりである。

国際関係論学者であるジュリオ・プリエセが日本経済新聞の取材を受け、日中関係と米中関係について答えている。その内容な簡単にまとめると、アメリカが中国に対して融和的な態度を取り、「雪解け(デタント)」が進んでいる。トランプ関税でもアメリカが中国に譲歩した形になった。トランプ大統領は高市首相の発言とそれに対する中国の対応について、FOXニューズにインタヴューされ、日本を「友人」と言わないというはぐらかしで、高市首相を支持しなかった。こうしたことで、中国は日本に対して厳しい態度を取ることができると踏んで、現在のような状況になっている。

※日本経済新聞2025年11月17日付記事「中国、対日強硬の裏に米中「雪解け」 欧州大学院のジュリオ・プリエセ氏」(Deep Insight+ 本社コメンテーター 秋田浩之)

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD1727K0X11C25A1000000/

 高市政権はアメリカからはしごを外された形になった。お金だけを数十兆円も取られて、味方をしてもらえないというのは何とも悲惨な話である。アメリカとしても、日本の軍国主義復活の用な動きは容認できない。日本は黙ってアメリカの言うことを聞いて、軍隊を出せと言われたと時に出し、死ねと言われた時に死ぬ、それ以上は求められていない。自分で何かをするように決めることなど許されていないのだ。米中関係の改善の中で、そうした動きの邪魔になるようなことをしても助けてもらえない。下手をすれば、「高市首相は危険だ、米中両国にとって共通の敵だ」という認定をされるシナリオも考えられる。

 知恵もなく、思考力もなく、高市首相を誕生させた、自民党と一般国民は歴史の教訓から多く学ぶべきである。そして、現実を客観的に直視すべきである。

(貼り付けはじめ)

日本の新首相の台湾への脅威に関する発言が中国との緊張を呼ぶ(Japan's new leader's remarks on threats toward Taiwan spark tensions with China

アンソニー・クーン筆

2025年11月17日

アメリカ公共ラジオ

https://www.npr.org/2025/11/17/g-s1-98081/spat-over-taiwan-china-japan
韓国ソウル発。高市早苗首相が、中国の台湾に対する軍事行動は日本の対応を正当化する可能性があると示唆したにもかかわらず、日本は中国政府に上級特使を派遣し、日本の政策に変化はないと中国政府に保証した。

中国は、高市首相が日本初の女性首相に就任してから1カ月も経たないうちに、政治的・経済的圧力を強めている。

中国外務省の毛寧報道官は記者会見で、高市首相の発言は日中関係の政治的基盤を深刻に損なうものであり、高市首相は「台湾に関する誤った発言(wrongful remarks on Taiwan)」を撤回すべきだと指摘した。

毛報道官はまた、中国の李強首相が南アフリカで開催されるG20サミットで高市首相と会談する予定はないと述べた。

11月7日、高市首相は複数の国会議員から、中国が、自治政府が支配している台湾に対して軍事行動を起こすシナリオについて問われ、「軍艦が使用され、武力行使が伴えば、どう見ても国家存亡の危機となる事態になり得る(If warships are used, accompanied by the exercise of military force, then however you look at it, it could be a situation posing an existential threat to the country)」と答えた。

日本は、第二次世界大戦後の憲法で戦争行為を禁じられている。しかし、2015年に成立した安全保障関連法制により、日本またはアメリカなどの緊密な同盟国が日本の存立を脅かす攻撃を受けた場合、自国を防衛する権限が認められている。

一方、中国は、台湾が独立を宣言した場合、あるいは外国の干渉があった場合、軍事力行使の可能性を排除していない。

●中国は撤回を要求している(China demands retraction
、中国外務省の林剣報道官は先週、「日本は直ちに卑劣な発言を訂正し、撤回しなければならない。さもなければ、日本はあらゆる責任を負わなければならない」と述べた。

高市首相は発言の撤回を拒否しているが、具体的な想定シナリオについては今後コメントしないとしている。

在大阪中国総領事の薛剣は、ソーシャルメディアへの投稿で、より強い言葉を使った。「無謀にも侵入する汚らしい首は、一瞬の躊躇もなく切り落とさなければならない(the filthy head that recklessly intrudes must be cut off without a moment's hesitation)」とXに書き込んだ。

多くの人がこれを高市首相の首だと解釈した。その後、日本政府が抗議したことで、この投稿は削除された。

金曜日、中国は経済的圧力をかけた。中国政府は、高市首相の挑発的な発言によって日本の安全が損なわれており、中国人は日本を訪問すべきではないと警告した。

専門家の中には、高市首相率いる日本が長年の台湾に対する曖昧な政策(long-standing policy of ambiguity towards Taiwan)を放棄するのではないかと懸念している人もいるが、変化はほとんどないと見ている人もいる。

高市首相の政治面の師である故安倍晋三元首相は、「台湾有事は日本有事でもある(a Taiwan contingency would also be a Japan contingency)」と発言したことで知られている。しかし、これは首相退任後の発言であり、具体的なシナリオには触れなかった。

インディアナ大学ブルーミントン校の東アジア国際関係論教授アダム・リフは「日本が長年続けてきた戦略的曖昧性(strategic ambiguity)の立場から脱却する可能性は極めて低いだろう」と述べている。

リフは、台湾が日本の南西諸島に近接していること、そしてアメリカと同盟関係にあることを考えると、台湾をめぐる紛争は日本の安全保障にとって、そしてあらゆるイデオロギーを持つ日本の指導者たちにとって、重大な問題となるだろうと述べている。

「特に平時において、日本が関心を持ち、必ずしも特定の行動方針を約束することなく、日本がこの問題に利害関係を持っていることを示すことは、歴代の指導者が抑止力を強化するために試みてきたことの一つだと思います。そして、これは何十年も前から行われてきました」とリフ氏は述べる。

"Especially in peacetime, signaling that Japan cares, Japan has a stake in this without necessarily committing to any particular course of action," Liff says, "is one thing that I think successive leaders have tried to do in order to bolster deterrence. And this goes back decades."

●堅調な世論調査の数字、脆弱な連立(Robust poll numbers, fragile coalition

しかし、慶應義塾大学名誉教授の添谷芳秀は、高市首相は強硬派の保守派という狭い政治基盤を喜ばせ、ひいては自身の政治信条を正当化しようとしているように見えると指摘する。

添谷教授は、「この発言を喜ぶのは、限られた支持者だけだろう。高市首相もそのことを承知しているはずだ。そして、こうした全体的な文脈において、日本の首相がこのような発言をするのは無謀(reckless)だ」と述べた。

高市首相とその内閣の支持率は70%近くと、歴代首相の支持率を上回っている。

しかし、共同通信社が週末に行った世論調査によると、台湾紛争の際に日本は自衛権を行使すべきだと回答した人が約49%、反対する人が約44%だった。

添谷教授はさらに、高市首相の発言は、先月韓国で習近平国家主席と会談し、日中関係を安定的かつ建設的に維持することで合意した外交的成果を無駄にしているようだと付け加えた。

高市首相はまた、日本の中核となる安全保障戦略文書の見直し、場合によっては改訂、さらには核兵器非保有の誓約についても検討したいと述べている。

しかし、数十年にわたる政策を根本から見直すのに必要な政治的影響力を高市首相が持っているかはまだ分からない。

高市首相が率いる与党自民党は国会で過半数を握っておらず、専門家の一部は、高市首相が政権維持のために築き上げた新たな連立政権は不安定で短命に終わる可能性があると見ている。

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 低排出水素とは、製造過程で発生する二酸化炭素の排出を抑えて生産される水素のことだ。水素は、クリーンな次世代エネルギーと見なされ、発電、熱利用、燃料電池自動車などに使用される。これから重要性が増大していく分野と目される。水素を生産する電解装置の面で、中国がアメリカをリードしている。アメリカはこれから電解装置や水素輸出の面で技術革新を行い、中国と対抗すべきというのが下に掲載した論稿の趣旨である。

 次世代のクリーンエネルギーや重要資源、レアアースの分野で、中国はアメリカに対して優位な立場にいる。中国は十年から数十年の単位で、中長期な計画を立てて、それを実行している。首尾一貫した長期的な政策遂行を行うことが可能な体制になっている。アメリカは、こうしたことが非常に「苦手」である。中国のこのような中長期的な計画立案と政策遂行のモデルは、高度経済成長時代の日本の「産業政策」である。アメリカは日本を抑え込むことができたが、中国の場合はそういう訳にはいかない。日本がアメリカに押しつぶされていなければ、「失われた30年」は全く違ったものとなっていただろう。アメリカに迎合し、日本を潰した小泉純一郎・竹中平蔵から安倍晋三の対米隷属・統一教会志向の売国政権の罪は万死に値する。

現在の高市早苗政権の危なっかしい対中強硬姿勢は日本の国益を損なう。重要資源・レアアース、水素エネルギーの分野で、中国から制裁を受けるようなことになれば、日本経済は崩壊する。それほど日本経済は中国に依存している。私たちは、先の大戦の教訓を思い出し、冷静な対応を行うべきだし、高市政権の危険性を認識し、早期に退陣させることが肝要である。
(貼り付けはじめ)
中国は次世代エネルギーのサプライチェインで既に先行している(China Is Already Pulling Ahead on the Next Energy Supply Chain

-低排出水素は地経学的競争における新たなフロンティアとして急速に注目を集めている。

ジェイン・ナカノ、マシアス・ザカライアス筆

2025年11月10日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2025/11/10/green-hydrogen-china-supply-chain/

アメリカが炭化水素を中心としたエネルギー支配のヴィジョンを追求する一方で、中国はまた別の未来のエネルギーサプライチェインを支配するべく着々と歩みを進めている。低排出水素を製造するための主要技術は、地経学的競争(geoeconomic competition)における新たなフロンティアの1つとして急速に注目を集めており、アメリカは再び後れを取る可能性がある。

エネルギー転換における「スイス・アーミー・ナイフ(Swiss Army knife 訳者註:多機能・高機能なもの)」と呼ばれる水素(hydrogen)は、他に類を見ない柔軟性を備えている。天然ガスや再生可能エネルギーなど、様々な資源から生産可能だ。水素の最大の価値提案の1つは、費用対効果の高いクリーンな代替エネルギーがなく、電化も難しい「排出削減が困難な」セクターの脱炭素化(decarbonize the “hard to abate” sectors that lack cost-effective clean alternatives and are difficult to electrify)に貢献できることだ。これには、石油化学精製や製鉄といった重要な産業基盤セクターに加え、海運・航空セクター向けの革新的なクリーン燃料も含まれる。さらに、水素は長期にわたるエネルギー貯蔵として機能するため、エネルギーシステムの統合(integration)、回復力(resilience)、信頼性(reliability.)の向上にも活用できる。

つまり、水素の利用は、アメリカの産業に国際舞台での競争上の優位性を与えると同時に、新たな輸出機会を創出し、国の電力システムを強化する可能性がある。

懸念されるのは、アメリカとその同盟諸国が技術革新ではリードしながらも、製造とコスト削減で後れを取るという状況が繰り返される可能性があることだ。その結果、供給途絶に対する回復力と構造安定性(resilience and robustness)に欠けるグローバルサプライチェインが生まれることになる。中国は既に太陽光発電と電気自動車用バッテリー(solar photovoltaics and electric vehicle batteries)のグローバルサプライチェインを支配している。そして今、電気を使って水を水素と酸素に分解する重要な装置である電解装置(electrolyzers)についても、同様の優位性を確立しようと、取り組みを強化している。さらに、世界への輸出機会を視野に入れ、先進的な電解装置技術の開発にも多額の投資を行っている。

中国の水素への取り組みを形容するには言葉が足りないが、いくつかの注目すべき点がある。第一に、中国は世界最大の水素生産国であり、消費国でもあるだけでなく、電解装置の設置容量も世界最大だ。さらに、世界の生産能力の約60%を占めるアルカリ型(ALK)電解装置の製造において、中国は世界をリードしている。中国の最新の焦点は、ALKを超えて専門知識を広げ、より柔軟で再生可能エネルギー源と互換性のあるタイプの陽子交換膜(proton exchange membranePEM)電解装置技術を習得することだ。

しかし、中国が水素を気候変動対策のみに求めていると想定するのは誤りだ。確かに、クリーン水素技術の推進に向けた中国の取り組みは、自国の排出量削減に貢献すると同時に、世界のエネルギー転換を促進することは間違いない。中国は世界最大の温室効果ガス排出国(the world’s largest emitter of greenhouse gases)であるだけでなく、鉄鋼とセメントという最も炭素集約的な素材の生産量世界一でもある。水素は、新たに導入される排出量に基づく関税制度に適合する、よりクリーンな素材の生産に役立つ可能性がある。しかし、中国は、排出量削減への利用以外にも、クリーン水素を多くの点で重要視している。クリーンな分子である水素は、電力セクターの回復力とエネルギー自立に向けた取り組みにも結びついている。

朗報なのは、競争はまだ終わっていないということだ。アメリカとヨーロッパは、PEM電解装置とその膜などの関連技術の初期の革新者であり、製造者でもある。たとえば、アメリカに拠点を置く化学会社は、PEM 膜の業界標準として広く認識されているものを製造しながら、この分野で技術の進歩を続けている。

しかし、今後の兆候かもしれないが、ヨーロッパは安価な中国製電解装置が国内市場に津波のように押し寄せる可能性に警鐘を鳴らし始めている。ALK型とPEM型の両電解装置技術で世界をリードするイノヴェーターであるヨーロッパは、太陽光やEVバッテリー部門で見られたような製造業の衰退の繰り返しを回避するための取り組みを強化している。ヨーロッパ水素銀行は他の対策に加え、初回の入札で落札者に中国企業が多く含まれていたことを受けて、ヨーロッパ各国国内の電解装置製造を強化するため、入札に厳格な「レジリエンス要件」を導入した。重要な要件の1つは、銀行から補助金を受けるプロジェクトは、電解装置スタック容量の中国製が25パーセント以下であることを保証しなければならないというものだ。

製造業の競争力が重要であるのと同様に、技術革新への継続的な投資が、安定して多様化したサプライチェインに引き続き不可欠であることは言うまでもない。2005年から2020年まで、アメリカ、ドイツ、日本の3カ国で、上位10カ国による電解装置関連の国際特許出願のほぼ3分の2を占めた。この期間中、中国の特許のうち国際特許はわずか3%で、中国の取り組みは巨大な国内市場に集中していた。しかし、状況は急速に変化している。2022年の時点で、中国は水素関連技術、特に水素製造技術において世界最大の特許保有者になったと報じられている。中国はまだ、複雑なスタックの設計とエンジニアリング、またはPEM電解装置用のスタックアセンブリとコンプレッサーの製造を習得していない。しかし、中国が技術革新でも西側諸国を追い抜くのは時間の問題かもしれない。

 

 

 

一方、アメリカの水素経済は転換点にある。インフラ投資・雇用法(the Infrastructure Investment and Jobs ActIIJA)に基づく電解槽製造・導入の拡大に向けたインセンティヴ構造、ならびにインフレ抑制法によって促進される堅調なクリーン水素生産エコシステムの見通しは、宙に浮いた状態だ。IIJAが電解槽製造・リサイクルの研究開発・実証・導入に充てた15億ドルの支援(アメリカが世界競争力を維持する上で重要な基盤となった)は、最近のプロジェクト相次ぐ中止の波に直撃された。資金削減に加え、電解ベースの国内水素プロジェクトの見通しが暗いことから、アメリカの電解槽セクターは危険な未来に直面している。

さらに悪いことに、時間はアメリカに味方していない。中国は技術的課題を克服し、2035年までにPEM技術サプライチェインを確立することを目指している。これは中国の「水素産業発展計画(Hydrogen Industry Development Plan)」における主要目標だ。国営紙『チャイナ・デイリー』紙が2024年8月に報じたところによると、中国は今や「新エネルギー製品分野において、水素電解装置という新たな主要輸出製品の可能性を目前に控えている」という。この記事は、海外需要に対応するため生産能力拡大を進める複数の中国企業の名前を挙げている。北京のPERIC水素技術公司の事例では、電解装置の輸出収益が2021年以降ほぼ毎年倍増している。中国メーカーはアジア、欧州、中南米、中東など複数地域への供給を開始している。

中国との競争力を維持するには、特に水素技術のように初期段階にありながらも有望な分野において、政府による戦略的な役割が求められている。アメリカの水素および電解装置の需要は顕在化に時間がかかるかもしれないが、多くの国が新興バリューチェインに将来の経済・エネルギー機会を見出しているため、世界市場は成長を続けている。

この状況に対応するために、アメリカは二本柱のアプローチをとる必要がある。第一に、石油化学や鉄鋼など、需要が現実的かつ永続的な少数のセクター向けに、クリーンな水素生産を現実的に拡大する必要がある。こうしたアンカープロジェクトを重点的に展開することで、国内の電解装置製造を活性化させると同時に、アメリカの水素供給を拡大し、新たな世界的需要に対応できるようになる。ヨーロッパの需要は、アメリカの現在の消費量に相当する輸出機会を生み出す可能性があり、日本と韓国も2050年までにさらに多くの水素を輸入する計画だ。

第二に、アメリカは、同盟諸国が水素エネルギー利用の野望を追求する際に、技術面でのリーダーとして、そして最適な供給業者としての地位を確立すべきである。これは、最先端のアメリカ製電解装置および関連機器の輸出を目的とした製造能力への重点的な投資を意味する。国際開発金融公社(the International Development Finance CorpIDF)などの金融機関を活用して新興諸国にアプローチすることは、アメリカの電解装置メーカーにとって世界的な機会を拡大する1つの方法となり得る。アメリカが今年、アラビア半島への高官訪問で示した地政学的機敏性、数兆ドル規模の投資と商業提携を確保に成功したが、今やエネルギー技術の新たなフロンティアにも適用されるべきである。結局のところ、サウジアラビアの世界最大の画期的なグリーン水素プロジェクトであるNEOMに代表されるように、この地域の水素利用の野望を支える電解装置をアメリカ企業が供給しない理由はない。

技術革新を醸成し、国内製造業を奨励し、成長市場での製品の宣伝を行うことによってのみ、アメリカと西側諸国は、クリーン水素によるエネルギー安全保障と排出量削減の両方のメリットを享受しながら、堅牢かつ透明性の高いグローバルサプライチェインを実現できる。

※ジェイン・ナカノ:戦略国際問題研究所(Center for Strategic and International Studies)エネルギー安全保障・気候変動プログラム上級研究員。

※マシアス・ザカライアス:戦略国際問題研究所(Center for Strategic and International Studies)エネルギー安全保障・気候変動プログラム研究員。

(貼り付け終わり)

(終わり)
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シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 


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『人類を不幸にした諸悪の根源 ローマ・カトリックと悪の帝国イギリス』
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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

2025年11月21日に『シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体』 (ビジネス社)を刊行します。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
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シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 
 最新刊の刊行に連動して、最新刊で取り上げた記事を中心にお伝えしている。各記事の一番下に、いくつかの単語が「タグ」として表示されている。「新・軍産複合体」や新刊のタイトルである「シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体」を押すと、関連する記事が出てくる。活用いただければ幸いだ。

 サミュエル・ハンティントンの主張した「諸文明間の衝突(Clash of Civilizations)」論は、発表してから数年後に、911同時多発テロ事件が発生して注目を浴びた。中華文明と西洋文明の対立ということは、現在の「西側諸国(the West)対それ以外の国々(the Rest)」にもつながる。

 しかし、世界はそれほど単純ではないというのが下に掲載した論稿の主張だ。世界をこのように単純に切り分けることはできない。様々な文明や文化はお互いに重なり合い、影響を与え合い、発展している。こうした多様性を無視した議論は排外主義に陥る。そうした排外主義が衝突を生み出し、最悪の場合には戦争に至ることもある。排外主義を克服することこそが文明的な営為である。しかし、世界の多くの地域で、このような文明的な営為が後退している。

サミュエル・ハンティントンが「日本文明」という言葉を使ったことで、「日本は凄いんだ」「日本は偉いんだ」という主張がなされるようになった。しかし、下に掲載した論稿には次のように書かれている。「これは、本書が1990年代初頭に執筆されたこと、当時日本が台頭する超大国として広く認識されていたことによる副産物である(a byproduct of the book being composed in the early 1990s, when Japan was widely perceived as a rising superpower)」。これは言い換えるならば、1990年代初頭の日本は世界第2位の経済大国として台頭しており、サーヴィスで1つの文明としてハンティントンは取り扱ったが、現在からみれば、これは現実に即していないということである。1990年代前半の日本の世界のGDPに占める割合は現在の中国と同じ程度で(17%程度)、アメリカにとっても脅威であった。一人当たりのGDPも高かった。それから30年後、日本は世界第5位、GDPの割合は5%程度、必然的に一人当たりのGDPも下がり続け、先進国のレヴェルからずり落ちてしまうところに来ている。「金の切れ目が縁の切れ目」という言葉もあるが、日本が貧乏になってしまって、「日本文明」という言葉も「茶番」のような扱いになっている。日本の文化が海外の人々から好かれているということとは根本的に別の話だ。日本は文明ではない。文明は社会システム、文化は生活様式を指す。日本は中華文明の1つの形態(社会システム)でしかなく、それは数千年前からそうだったということだ。生活様式は環境に合わせて独自の変化を遂げている。しかし、朝鮮半島や中国と似ている部分も多い。

(貼り付けはじめ)

文明の衝突を売り込む方法(How to Sell a Clash of Civilizations
-サミュエル・ハンティントンの有名なテーゼの矛盾は同時にその力でもある。

ニック・ダンフォース筆

2025年6月27日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2025/06/27/samuel-huntington-clash-of-civilizations-civilizational-state/

サミュエル・ハンティントンの『文明の衝突と世界秩序の再構築』は1996年の出版以来、世界的な影響力を持ち、ワシントンから北京に至るまでの指導者たちに引用されている。ハンティントンの主張は、彼が定義する世界の主要文明、すなわち文化、宗教、人種のカテゴリーが混在する文明間で、地政学的な紛争がますます増加するというものだ。批判者たちが指摘するように、ハンティントンの主張はナンセンスだ。

ハンティントンの思想は、彼の文明概念は全く首尾一貫しておらず、混乱していて、「曖昧(mushy)」であり、世界紛争の断層線(fault line)を意味のある形で説明できないと主張する人々から激しく批判され、嘲笑されてきた。しかし、もしかしたら、それがハンティントンのポイントなのかもしれない。

シリア内戦やロシアのウクライナ侵攻といった近年の主要紛争が、ハンティントンの文明区分間のものではなく、その内部で発生したというだけではない。区分自体が地図上に点在している。イスラム教やヒンドゥー教といった文明は広範な宗教的アイデンティティを持つ一方、正教(キリスト教の一派として)は独自のアイデンティティへと昇華されている。一方、東アジアは、中国文明、仏教文明、そして単に日本文明という、曖昧な形で分断されている。これは、本書が1990年代初頭に執筆されたこと、当時日本が台頭する超大国として広く認識されていたことによる副産物である(a byproduct of the book being composed in the early 1990s, when Japan was widely perceived as a rising superpower)。

最後に、「アフリカ」という広義の区分は、粗雑な地理的カテゴリーであると同時に、さらに粗雑な人種的カテゴリーを想起させる。政治学者アンジャリ・ダヤルが指摘するように、ハンティントンの文明は、ボルヘスが架空の中国百科事典で描いた動物の想像上の区分に少し似ている。「(a)皇帝の所有物、(b)防腐処理された、(c)飼いならされた、(d)乳飲み豚…(k)極細のラクダの毛の筆で描かれた、(l)などなど・・・」である。

残念ながら、支離滅裂な概念も、誤った解釈をすれば強力な概念となり得る。ハンティントンの区分の曖昧さこそが、紛争を政治的目的に沿うように枠組みづけるためのレトリック技法として最適である。人間の文化は複雑で絶えず変化しており、宗教、芸術、言語、歴史、そしてイデオロギーといった無数の繋がりが重なり合って成り立っている。

文明に関するレトリック(civilizational rhetoric)は、評論家や政治家に、この構造を切り刻み、自らのアジェンダに最も適した方法で作り変えるための柔軟性を与えている。ある日、ロシアは西洋に挑戦するスラブ国家であった。次の日、ウラジーミル・プーティンはキリスト教文明を多くの敵から守っている。西洋では、人種差別的な恐怖がイデオロギー的な恐怖へと再構成され、ハンティントンの冷戦後の世界では、文明の分断(civilizational divides)として再構成された。黄禍論(Yellow Peril)は赤い中国(Red China)へと、そしてそれは「中国的」世界(“Sinic” world)へと変化した。かつて私たちは常に東アジアと戦争状態にあったが、今や東アジアは常に私たちの文明の敵(civilizational foe)となっている。

文明に関するレトリックの柔軟性は、他にも利益をもたらす。それは、「西洋文明(Western civilization)」を守ることに尽力する連合を維持し、西洋を根本的に世俗的(secular)と考える人と西洋を根本的にキリスト教的(fundamentally Christian)と考える人を結びつける一方で、西洋を根本的に白人的(fundamentally white)と考える人を庇護してきた。

そして、この柔軟性(malleability)こそが、ロシア、中国、インド、トルコといった国々が自らを「文明国家(civilizational states)」として再ブランド化することで、ナショナリズムを一段と高めることに役立ってきた。

文明の曖昧さは、その言葉自体の進化に端を発している。当初は、他社会にも自国の下層階級にも適用できる、普遍的な洗練の基準を指していた。しかし、時が経つにつれ、文明は独自の伝統や価値観を持つ個別の文化単位を指すようになった。ゲーム「シヴィライゼーション」で最もよく表現されているこの概念は、多様な文化を名目上は平等であるかのように提示していた。

しかし、この概念は階層構造から完全には逃れられなかった。文明という用語で語る人々は、ほとんどの場合、自分たちの文明が道徳的または技術的に最も進歩していると考える。一方、他の文明は富や地政学的な力によって順位付けされる。また、ゲームのように、たとえ文字や建築のモチーフが異なっていても、全ての文明は最終的に西洋が開拓した道を辿ると考える人も多くいる。

必然的に、文明の中には他の文明よりも文明化されたものがある。1893年の教室の地理図に描かれたこの美しいイラストを考えてみよう。文明は尖塔で築かれるかもしれないし、パゴダや玉ねぎ型のドームで築かれるかもしれない。しかし、尖塔のある文明は前面に出て、工場がたくさんあるように見える。

こうした根深い排外主義(chauvinism)のおかげで、自国の優位性に絶対的な自信を持ち続けながら、異なる文明を行き来することが容易になる。とりわけプーティンは、この点を巧みに利用している。プーティンはウクライナ侵攻を正当化するためにロシア文明という概念を持ち出したことで悪名高いが、これは彼が用いる数多くの文明の組み合わせの1つに過ぎない。ロシアは、ギリシャへの働きかけで強調されているように、正教文明の守護者(the defender of Orthodox civilization,)であり、セルビアへのロシアからのアピールの定番であるスラブ文明の守護者(the defender of Slavic civilization)でもある。

もちろん、プーティンの野望はこうした限定的な文明的アイデンティティをはるかに超えている。広く報道されているように、ロシアは共通のキリスト教文明的アイデンティティを掲げることで、欧米諸国の右翼運動や福音派運動(right-wing and evangelical movements)に浸透してきた。2013年にプーティンは次のように述べたと伝えられている。「ヨーロッパ大西洋岸諸国の多くは、西洋文明の基盤を構成するキリスト教的価値観を含め、自らのルーツを実際に拒絶している。彼らは道徳的原則、そしてあらゆる伝統的アイデンティティ、すなわち国民的、文化的、宗教的、そして性的アイデンティティさえも否定している」。

イスラム教徒が疎外感を抱かないように、ロシアの文明に関するレトリックは彼らにも通じるものがある。ロシアの外交官たちは、西側諸国では西洋文明のキリスト教的ルーツを擁護する一方で、トルコにおいては共通のユーラシア的アイ​​デンティティを訴えてきた。ユーラシア的価値観の文化的・歴史的基盤は、ステップや強大な国家といった漠然としたものになりがちだが、西洋の覇権に対する共有された敵意(a shared hostility toward Western hegemony)の中にその根拠を見出す。

トルコは、文明に関するレトリックの矛盾した可能性を受け入れてきたもう1つの国である。オスマン文明の継承者を自称するトルコは、国内では民族的・宗教的ナショナリズムを一層強化しつつ、世界に対してはより包括的な姿勢を示すことができる。例えば、911事件の余波で、トルコとスペインは協力して文明同盟(the Alliance of Civilizations)を立ち上げ、アル・アンダルスとオスマン帝国の異宗教間の遺産を称賛したが、1492年や1915年の壊滅的な宗派間の暴力については一切触れなかった。

同様に、イスタンブールは2010年のヨーロッパ文化首都(European Capital of Culture)に立候補し、歴史的な教会、シナゴーグ、モスクを多数紹介する洗練されたビデオを作成した。そして選出された後、レジェップ・タイイップ・エルドアン政権は付随する助成金をモスクの修復のみに充てた。

こうした機会主義的な再構成(opportunistic reframings)は全く新しいものではない。歴史上の帝国はしばしば複数の形で自らを定義してきた。清帝国は、チンギス・ハンの遺産の継承者、東南アジアの人々にとっては「転輪王(wheel-turning king)」に率いられた仏教王朝、そして、中国本土においては儒教の伝統の継承者という立場を同時に主張することができた。オスマン帝国もまた、イスラム教の「カリフ(caliph)」と「ローマ皇帝(Caesar of Rome)」に加えて、中央アジアにおける「カーン(khan)」の称号を主張した。さて、このゲームの文明版は、支配者自身を超えて、その時点で最も強力または有用であるアイデンティティの観点から国全体を左右するようになった。

実際、「文明国家(the civilizational state)」の台頭が盛んに喧伝されているにもかかわらず、この用語はより排他的な形態のナショナリズムを推進する人々によって用いられる傾向がある。例えば、インドを「文明国家」と宣言する与党インド人民党(Bharatiya Janata Party)の指導者たちは、現代インド文化に貢献する多様な宗教的・言語的影響を称賛しようとしている訳ではない。それどころか、彼らはヒンドゥー至上主義を優先するために、その多様性を意図的に排除しようとしているのだ。

ヨーロッパとアメリカ合衆国では、「西洋文明」という概念が、対立する文化的排外主義(cultural chauvinism)を融合させる一因となってきた。この旗印の下、イスラム教徒の統合を啓蒙主義の世俗主義への脅威(a threat to Enlightenment secularism)と非難する新無神論者は、イスラム教徒の移民を十字軍の新たな戦線と見なすキリスト教原理主義者と結束する可能性がある。啓蒙主義やキリスト教の実際の歴史に特に関心がないのであれば、キリスト教は常に他に類を見ないほど世俗的であったと主張することで、この矛盾を解消しようとすることもできるだろう。あるいは、実際には白人について口に出さずに白人について語ることが本当の目的なら、スティーヴ・キング元下院議員が「他人の赤ん坊で私たちの文明を取り戻すことはできない」とツイートした際に念頭に置いていた「西洋文明」の犬笛ヴァージョン(dog-whistle version)に頼ることもできる。

究極的に言えば、文明に関するレトリックは、公然と受け入れることが歴史的な複雑性を伴う国々にとって、新たな形の民族ナショナリズムを提供する。例えば、人種のるつぼイデオロギーを持つアメリカ合衆国(the United States with its melting pot ideology)、対立する各国のナショナリズムを抱えるヨーロッパ連合諸国(European Union states with their rival nationalisms)、共産主義に触発された多国籍国家構造を持つロシアと中国(Russia and China with their Communist-inspired multi-national state structures)、多様なポスト植民地主義の遺産を持つインド(India with its diverse post-colonial inheritance)、そしてナショナリズムが伝統的に世俗的であったトルコ(Turkey, where nationalism was traditionally secular)などである。今や、文明という名のもとで、これら全ての国々のナショナリストたちは、自らが好む言語的、宗教的、文化的アイデンティティ(their preferred linguistic, religious, and cultural identities)を何の弁明もなく祝福することができる。

「西洋文明(Western civilization)」は、その最も熱心な主導者たちにとって様々な意味を持つが、「西洋民主政治体制(Western democracy)」を意味することはあまりない。実際、これらの国々において、文明という概念を最も熱心に受け入れてきたのは、包括的民主政治体制を明確に拒否する人々であった。この用語自体は、やや時代錯誤的で、やや階層主義的であり、20世紀リベラリズムの普遍的な志向とは正反対である。むしろ、驚くほど再現性の高い権威主義モデル(surprisingly replicable model of authoritarianism)に、各国特有の解釈を与えている。

この意味で、ハンティントンの文明区分を地図上に表したり、その矛盾を指摘したりすることは本質を見失っている。文明の観点から見ると、どこに線を引くかよりも、線を引くという行為そのものが重要だ。狂信的排外主義(chauvinism)、これこそがポイントなのである。

※ニック・ダンフォース:『フォーリン・ポリシー』誌副編集長。Xアカウント:@NicholasDanfort

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