古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。X accountは、@Harryfurumura です。ブログ維持のために、著作のお買い上げもよろしくお願いします。

2026年03月

 古村治彦です。

 第二次ドナルド・トランプ政権の目玉政策にゴールデンドーム・ミサイル防衛システム(Golden Dome missile shield)がある。政権発足直後の2025年1月27日に、トランプ大統領はゴールデンドーム計画を発表した。これは、イスラエルのミサイル防衛システムであるアイアンドームをアメリカに適用する計画だ。国土の大きさを考えると、大規模な計画になり、約1850億ドル(約30兆円)規模の大型プロジェクトである。私は拙著『シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体』(2025年11月、ビジネス社)でゴールデンドーム計画について分析を行った。そして、これは、ピーター・ティールが率いるパランティア・テクノロジーズ社、イーロン・マスクが率いるスペースX社、パルマー・ラッキーが率いるアンドゥリル・インダストリーズ社が重要や役割を果たす、特に、オペレイティングシステムで重要な役割を果たすと書いた。

 以下の記事にあるように、パランティア社とアンドゥリル社がゴールデンドーム計画のソフトウェア開発を行っているということが報道された。この約30兆円に及ぶ巨大プロジェクトの根幹を両社が請け負うということである。さらに私は両社は長期的にゴールデンドーム計画に関与し、長期契約(サブスクリプション)で安定して利益を上げるということを目指しているとも書いた。実際にその通りに動いているようだ。

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シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 

 何度も宣伝になり申し訳ないが、是非、拙著『シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体』をお読みいただきたい。

(貼り付けはじめ)

アンドゥリル社とパランティア社がゴールデンドーム・ミサイル防衛システムのソフトウェアを開発中と情報源が述べる(Anduril, Palantir developing Golden Dome missile shield's software, source says

ロイター通信

2026年3月25日

https://www.reuters.com/business/aerospace-defense/anduril-palantir-developing-golden-dome-missile-shields-software-source-says-2026-03-24/

2026年3月24日(ロイター通信)。米大統領ドナルド・トランプが推進するミサイル防衛システム「ゴールデンドーム」構想向けソフトウェアの開発で、アンドゥリル社とパランティア・テクノロジーズ(PLTR.O)社が協力しているとこのテーマに詳しい取材源が火曜日に取材に対して答えた。

1850億ドル規模のゴールデンドーム・ミサイル防衛計画(Golden Dome missile defense project)は、弾道(ballistic)ミサイル、巡航(cruise)ミサイル、極超音速(hypersonic)ミサイルを迎撃できる宇宙配備型防衛システムの構築を目指しており、数百社が防衛システム開発で役割を果たそうとして競っている。

アンドゥリル社とパランティア社は、ゴールデンドーム構想の発足当初から参画に関心を示してきた。ロイターは昨年、アンドゥリル社とパランティア社がイーロン・マスクの率いるスペースX社と共同でプロジェクトの様々な部分で協力していると報じた。

アンドゥリル社は昨年(2025年)11月、ゴールデンドーム関連の小規模契約を6件獲得し、競合するミサイル防衛システムの試作機を開発する企業の1つにも選ばれた。情報源によると、アーリリア・テクノロジーズ社(Aalyria Technologies)、スタートアップ企業のスケールAIScale AI)、そしてソフトウェア企業のスウープ・テクノロジーズ社(Swoop Technologies)もこのプロジェクトに取り組んでいるという。

各社はロイターのコメント要請に期日までに応じなかった。この件は『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙が火曜日に最初に報じた。

ロッキード・マーティン社(LMT.N)、RTX社(RTX.N)、ノースロップ・グラマン社(NOC.N)は既に主契約企業としてこのプログラムに参加している。

プログラムの責任者は先週、主要な宇宙関連能力の開発を加速させるため、プロジェクト費用が100億ドル増の1850億ドルになったと述べた。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 
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 古村治彦です。

 アメリカとイスラエルがイランに対して大規模攻撃を行ったが、それ以前はオマーンを仲介役として核開発に関する交渉を行っていた。イギリスの『ガーディアン』紙の報道によると、イラン側の譲歩によって核兵器開発繋がる物質の放棄を受け入れ、アメリカによる経済制裁の大幅解除に合意直前であったが、結局、イスラエルの使嗾によって、アメリカとイスラエルはイランに大規模攻撃を行った。アメリカ軍の制服組はイラン攻撃のリスクの大きさを助言し、JD・ヴァンス副大統領(海兵隊時代にイラク派遣を経験)は攻撃に消極的で、「攻撃するならば、長引かないように、大規模で短期間に終わるようにすべき」と主張していた。結局、ドナルド・トランプ大統領によって攻撃が決断されたが、当初の想定と大きく外れ、戦争は長引くことになった。攻撃開始から1カ月弱が経とうとしているが、停戦の目途は立っていない。

 アメリカのウクライナと中東(イラン)の外交交渉の最前線に立っているのが、スティーヴ・ウィトコフ特使とトランプ大統領の娘婿ジャレッド・クシュナーである。ウクライナ戦争の停戦がうまくいかず、イランとの関係も結局戦争になってしまったことで、ウィトコフとクシュナーに対する評価は低い。実際、以下の論稿にあるように「落第」「不合格」「F」という評価になっている。しかし、私はあえて両者を擁護したいと思う。

ウクライナに関しては、トランプが選挙戦から政権発足直後のように、ウクライナに対する支援を打ち切るというカードを使って、ウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領に停戦を迫っていれば、停戦は実現していた可能性は高い。もちろん、条件交渉はする必要があるが、大枠ではその方向に進んでいただろう。しかし、トランプが中途半端にウクライナ支援を継続するという方向転換を行ったために、ゼレンスキー大統領は嫌な決断を先延ばしできる状況になっている。これでは条件交渉もできない。

 イランについては、戦争開始の隠れ蓑のために交渉を続けさせられていたということになる。ガーディアン紙の報道の通りならば、イランの譲歩もあって、アメリカとの合意は間近であったようだ。それで困難な立場になるのがイスラエルだ。イスラエルはイランが核兵器外の通常兵器を維持したままで、アメリカの経済制裁解除を勝ち取ってしまえば、経済力の上昇と共に軍事力強化も進み、中東地域におけるイスラエルの優位性が崩れてしまう。そして、アメリカの西半球撤退もあり、孤立してしまう危険性を避けるために、アメリカを中東地域に縛り付けておくために、戦争を選択した。トランプ周辺には親イスラエル人脈が張りめぐらされている。ウィトコフとクシュナーも親イスラエルである。しかし、交渉役としてイランと合意直前であったことは強調されるべきだろう。

 交渉役の出来ることは限られている。その後ろの指導者たちの意向が最重要である。交渉役が仕事を失敗していると非難することは簡単だが、その後ろにいる指導者たちこそが最も批判されるべき立場である。

(貼り付けはじめ)

スティーヴン・ウィトコフとジャレッド・クシュナーの外交手腕は落第(F評価)(Witkoff and Kushner Get an F in Diplomacy

-経験不足で任務に手を広げすぎたトランプ政権の特使たちは3つの最前線で失敗した。

アーロン・デイヴィッド・ミラー、ダニエル・C・カーツァー筆

2026年3月3日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/03/03/witkoff-kushner-trump-fail-diplomacy-iran-ukraine-gaza/

オマーンとスイスで行われたアメリカとイラン交渉の失敗と、戦争への急展開は、イランとの交渉がいかに困難であるかを痛烈に思い起こさせる出来事である。しかし同時に、ドナルド・トランプ米大統領が紛争解決のために構築した交渉体制が、いかに混乱を極めているかも露呈している。

アメリカ外交の歴史において、大統領が3つの歴史的な紛争の解決を、親友と義理の息子に同時に委ねるという前例は存在しない。ヘンリー・キッシンジャー元国家安全保障担当大統領補佐官兼国務長官は、1970年代に中国との国交正常化、ヴェトナム戦争に関するパリ和平協定、そして1973年の第四次中東戦争後の3つの撤退協定という、3つの偉業を成し遂げた。しかし、スティーヴン・ウィトコフとジャレッド・クシュナーはキッシンジャーとは似ても似つかない。そして戦略的思考という点では、トランプはリチャード・ニクソンとは比べ物にならない。

トランプの家族や友人にアメリカの外交を委ねることには、もちろんメリットもある。それは、仲介者がトランプと個人的なつながりや信頼関係を築き、主要な意思決定者と接触できる点だ。しかし、デメリット、特に大統領執務室に大人の監督者がいないという点は、そうしたメリットをはるかに上回る。トランプの三段構えの交渉術(three-ring negotiating)は失敗に終わっている。その理由は以下の通りだ。

●戦略における空白(Strategic vacuum

ロシア・ウクライナ、イラン、イスラエル・パレスティナという3つの紛争におけるアメリカの政策は、方向性が欠如しており、全体的な戦略もなく、手段と目的の連携もほとんど取れていない。トランプ大統領はウクライナのウォロディミール・ゼレンスキー大統領に対して強い偏見を示し、この紛争における明白な侵略者であるロシアに圧力をかけることにも同様に消極的である。制裁(sanctions)を通じてロシアの諸機関にかけられたわずかな圧力は、トランプ大統領がウクライナへの圧力、すなわちヨーロッパにウクライナ向けアメリカ製兵器の費用を負担させ、キエフの長距離攻撃能力を否定することでウクライナにかけた圧力に比べれば、取るに足らないものだ。アメリカの交渉担当者は、ロシアのウラジーミル・プーティン大統領に戦争停止を迫ろうとしない大統領によって身動きが取れなくなっている。表面的には、プーティン大統領の戦争目的からすれば、いかなる合意もほぼ不可能である。それにもかかわらず、トランプ大統領の指示を受けたクシュナーとウィトコフは、ロシアに迎合し、トランプ大統領が持つ強力な影響力を行使することを拒否することで、自ら交渉の場から退いてしまった。

現在進行中のアメリカとイスラエルによるイラン攻撃も、同様に戦略的なポイントを欠いている。トランプ大統領と報道官たちは、戦争開始を正当化するに足る重大な理由を説明しようと、必死に言葉を選んでいる。トランプ大統領は体制転換(regime change)を理由に挙げたものの、その後の発言ではその点に触れていない。一方、ピート・ヘグセス米国防長官は体制転換ではないと述べている。ダン・ケイン米統合参謀本部議長は、イランの海外への軍事力投射能力(Iran’s capacity to project its power abroad)を破壊することを目的としたと述べた。トランプ大統領は、イランのミサイルがアメリカに向けて発射される寸前だと述べたが、軍関係者はイランがアメリカを攻撃する計画を立てている証拠はないと述べている。

ウィトコフとクシュナーは、トランプ大統領の意図を察知し、その指示の下、トランプ大統領とイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相が戦争を画策する一方で、イランと交渉し、実現不可能な要求を突きつけるという欺瞞戦略(a deception strategy)を実行したことは明らかだ。2025年6月のイランとの戦争と現在の紛争の両方において、トランプ政権は戦争が差し迫っていることを知りながら、フォローアップ協議を予定し、マルコ・ルビオ米国務長官のイスラエル訪問まで計画していた。オマーン外相は、アメリカが戦争に突入する前日、ワシントンで不運にも孤立無援の状態に陥った。

ガザ地区については、ウィトコフとクシュナーの茶番劇(charade)はさらに顕著だ。トランプ大統領は停戦を皮切りに、イスラエルに20項目の和平案を受け入れさせることに成功したが、その後は真剣な交渉ではなく、一連のパフォーマンス的な行動が続いている。いわゆる「平和評議会(Board of Peace)」はガザ地区への資金調達に役立つ可能性を秘めているが、ハマスに非武装化(demilitarizing)を、イスラエルに撤退(withdrawing)を迫る真剣な圧力がなければ、ハマス支配地域では資金となる建設事業は存在しないだろう。ネタニヤフ首相とハマスは明らかに現状維持(status quo)を望んでいる。

クシュナーがダヴォスで開催された今年の世界経済フォーラムで発表したガザ地区の近未来計画(a day-after plan)は、ホームレス、食糧不安、健康被害が依然として存在する社会について、ディズニーランドのような幻想的な空想を描く内容に過ぎなかった。ガザ和平案にはパレスティナ側の高官代表は関与しておらず、パレスティナ自治政府の役割もほとんどなく、トランプ政権はヨルダン川西岸におけるイスラエルの併合政策を抑制しようとする努力すら見せていない。ましてや、イスラエルが現在占領しているガザ地区の50%以上からイスラエルを撤退させるなど、なおさらである。イランとの戦争はトランプ案の実施を遅らせるだけであり、ガザ地区は分断され、機能不全に陥り、散発的な暴力が蔓延するだろう。

●専門知識もなく、プロセスもない(No expertise, no process
ウィトコフとクシュナーの不動産取引能力を評価するには、私たちよりも、不動産業界の専門家たちの方が適任だろう。外交官として数十年の経験を持つ私たちは、ウィトコフとクシュナーのティームがイスラエル・パレスティナ紛争の根深い問題、共有する宗教空間の重なり合い、そして双方の要求とニーズについて、明らかに無認識もしくは無理解であると結論づけることができる。これは確かに不動産取引の一面もあるが、それ以上に複雑な問題だ。トランプ政権1期目、クシュナーは私たちの1人に、過去の合意や交渉について聞く気はないと語った。その後、イスラエルとパレスティナ間の和平交渉の過去の試みから学ぶべきことは何もないと宣言した。クシュナーはアブラハム合意ではより大きな成果を上げた。しかし、トランプ政権のパレスティナに対する政策は完全に失敗だった。実際、トランプが1期目にパレスティナとの関係を断ち、イスラエルが既に支配している歴史的パレスチナ・イスラエルの大地(Eretz Israel、エレツ・イスラエル)の78%に加えて、ヨルダン川西岸の30%を併合することを容認する一方的な計画を提示したことは、外交がいかに現実からかけ離れていたかを如実に示している。

ウクライナにおいて、トランプ大統領はウィトコフとクシュナーに対し、ゼレンスキー大統領に自国領土の戦略的に重要な部分を、ウクライナ全土の征服という長年の目標を放棄する気配すら見せない侵略者に割譲するよう迫るよう指示した。プーティンの特使キリル・ドミトリエフは、トランプ政権に対し、トランプや側近、その家族のビジネス利益につながるロシアでの商業取引案で誘惑してきた。アメリカ側交渉担当者は、紛争の複雑な背景や大西洋横断・世界的安全保障への広範な影響にはほとんど関心を示さず、むしろウクライナがロシアの要求に屈服する形で合意を急ぐ姿勢を見せている。

同様にイランでは、オマーンのホスト兼仲介者たちが、ウィトコフとクシュナーが真剣に交渉しているという幻想を剥ぎ取った。トランプが2018年に包括的共同行動計画(JCPOA)から離脱した後、新たな合意達成のハードルは越えられないほど高くなった。イランがウラン濃縮制限や侵入的な査察を受け入れる可能性はあったが、濃縮をゼロにすることを期待するのは最初から無理な話だった。ウィトコフとクシュナーは、JCPOAを破棄した大統領から「無償の濃縮ウラン供給(free enriched uranium)」を約束されても、イランがそれを信じるだろうと本気で考えていたのだろうか? 戦争直前にフォックスニューズで語ったウィトコフの発言は、イランがアメリカの圧力に「屈服(capitulated)」しなかったことに驚愕していることを露呈していた。

●規律の欠如(No discipline

トランプ大統領と交渉担当者は、国内外を問わず、交渉や戦略的コミュニケイションにおいて一切の規律を示していない。ガザ問題では、トランプがネタニヤフ首相の目標に同調し、イスラエルの利益に従属する姿勢が致命的な欠陥となっており、1990年代半ば以降のアメリカの仲介努力の大半を損なってきた。イスラエル・パレスティナ紛争には2つの当事者が存在するが、ウィトコフとクシュナーはネタニヤフの利益のみに対処しようとしてきた。

トランプのトゥルース・ソーシャルのプラットフォームが国内政治で彼に提供する利点はあるが、外交政策、特にこれら3つの交渉においては、それは極めて大きな負担となっている。ウィトコフとクシュナーがロシア、ウクライナ、イスラエル、オマーンと接触する一方で、トランプはSNSで威嚇と空虚な誇大発言を繰り返している。結果としてアメリカの交渉相手は、何を信じればよいのか全く判断がつかない状態だ。

このような外交を行うことがいかに困難なことかを私たちは知っている。特に、紛争終結よりも自らの地位維持やイデオロギーへの固執に重きを置く指導者たちとの交渉はなおさらだ。私たちもその場に立ち会い、成功と失敗を経験してきた。したがって、キッシンジャーを復帰させ、ジェームズ・ベイカーとタッグを組ませ、ジョージ・HW・ブッシュのような外交判断力と経験を持つ大統領をホワイトハウスに据えたとしても、ロシアとウクライナ問題を打開できるかどうかは分からない。ましてやイランやイスラエル・パレスティナ紛争の解決などなおさらである。仲介者がどれほど有能であろうと、紛争当事者双方に「合意が望ましく実現可能である(a deal is desirable and possible)」という共通の切迫感がなければ、仲介者がインセンティヴとディスインセンティヴを用いて合意へと導くことはできない。

しかし、気まぐれな大統領、戦略の欠如、強い偏見、素人同然で無理な交渉担当者、そして自己利益追求の度合いが重なり、ウィトコフとクシュナーが3つの交渉全てで失敗に終わった理由が明らかになった。これらの紛争のいずれも、最良の状況下でも外交的解決が可能だったかどうかは定かではない。しかし、トランプ大統領の失敗したリーダーシップと、ウィトコフとクシュナーの失敗した交渉によって、状況は悪化する一方だ。アメリカ、イスラエル、イランは戦争状態にあり、ロシアとウクライナは依然として戦争状態にあり、イスラエルとハマスも事実上戦争状態にある。寛大に評価するならば、クシュナーとウィトコフには今学期の成績評価を「評価保留(incomplete)」とするべきだろう。しかし、実際に何か重要な成果を出すまでは、彼らにはF評価を与えざるを得ない。

※アーロン・デイヴィッド・ミラー:カーネギー国際平和財団上級研究員。歴代の共和党政権と民主党政権の両方で米国務省の中東アナリスト兼交渉官を務めた経歴を持つ。著書に『偉大さの終焉:なぜアメリカはもう偉大な大統領を持てないのか(そして望まないのか)(The End of Greatness: Why America Can’t Have (and Doesn’t Want))』がある。Xアカウント:@aarondmiller2

※ダニエル・C・カーツァー:駐エジプト米大使、駐イスラエル元米大使を歴任。プリンストン大学公共国際問題大学院で外交と紛争解決について教鞭を執っている。Xアカウント:@DanKurtzer

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 古村治彦です。

 2026年4月7日(火)18時~20時で、独利言論フォーラム(Independent Speech Forum)の代表理事・編集長を務めておられる、鹿児島大学元教授の木村朗先生からお声がけをいただき、「トーク茶話会」を行います。木村先生とは鹿児島で以前にお目にかかってからのご縁です。
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茶話会のテーマは、「トランプ政権と世界秩序の変容〜日本の選択は?」です。茶話会では私が40分から50分ほどトークをした後に、お茶とお菓子をいただきながら、参加者の皆さまとお話をするという形だそうです。

今年1月のヴェネズエラ攻撃とニコラス・マドゥロ大統領拘束連行、2月末からのアメリカとイスラエルによるイラン大規模攻撃とイランによる報復攻撃によって、国際情勢は混とんとなっています。このブログでも連日、様々な角度から分析や私の主張をご紹介していますが、茶話会を通じて、皆さまと意見を交換し、交流をする機会をいただけたらと思います。

平日の夕方からということで、大変かとは存じますが、参加をご検討いただければ幸いです。よろしくお願いいたします。

※参加お申し込みについては下記アドレスの案内の要領に従ってお願いいたします。

https://isfweb.org/post-71485/

(終わり)

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 古村治彦です。

 以下に紹介している、スティーヴン・M・ウォルトの論稿は昨年9月に発表された論稿であるが、現在の状況において非常に重要な内容を含んでいるのでご紹介したい。政治的な殺害、つまり暗殺は外交や国際関係にとって危険であり、同時に国内政治においても危険である。そのことをウォルトは論稿の中で説明している。

 今回のイスラエルとアメリカによるイランに対する大規模攻撃に当てはめてみよう。アメリカはイランと核開発に関して交渉を行っていた。オマーンが仲介役を務めていた。しかし、最終的には、アメリカのドナルド・トランプ大統領は、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相に説得(洗脳)されイランに対する大規模攻撃を行った(2025年だけでネタニヤフは6回訪米し、トランプと会談を持っている)。攻撃はイラン政府や軍の指導者を多数殺害した。その中にはイランの最高指導者であるアリ・ハメネイ師も含まれている。ハメネイ師が自宅にいることを特定し、攻撃を加えて殺害した。

 ここで重要なのは、交渉中の相手国の最高指導者を、「宣戦布告もなしに」、奇襲攻撃をして、殺害したことである。これは政治的な殺害、暗殺である。下記論稿の内容に沿って考えると、なぜ暗殺が良くないかと言うと、信頼を損ない、交渉や階段を持つことが出来なくなるからだ。実際に、イランはアメリカからの交渉を拒否している。アメリカと交渉しても、交渉中に攻撃を受けるかもしれない、もしくは、交渉で合意した内容を守らないかもしれないという疑念は当然出てくる。それほどの重大事をアメリカとイスラエルは起こしている。

そして、「邪魔な奴は殺してしまえばよい」ということが当然に行われるようになれば、それは国内でも同様のことが起きる可能性にもつながる。

 アメリカとイスラエルが国際法無視で暗殺者集団と同様のことを行っていれば、国際社会における信頼を失ってしまう。それは長期的に見て、アメリカとイスラエルの国益を損ない、アメリカ国民とイスラエル国民を苦しめることになる。

(貼り付けはじめ)

暗殺はどのようにして再び常態化したのか(How Assassinations Became Normal Again

-国内外における政治的な殺害(political killings)は、かつては頻繁に起こっていたが、その後ほぼなくなり、そして再び頻繁に起こるようになった。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2025年9月18日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2025/09/18/assassination-political-violence-charlie-kirk-normal/

インフルエンサーのチャーリー・カーク殺害事件と、イスラエルによるハマス幹部殺害未遂事件(カタール爆撃)には、どのような共通点があるのだろうか? もちろん、明白かつ重要な相違点もある。カーク事件は動機が明らかになっていない個人による単独犯行(isolated act)とみられる一方、後者は動機が明白な選出された政府による意図的な軍事行動である。しかし、2つの事件は、国家間および国家内部における現代政治の規範の広範な崩壊(the broader erosion of norms in contemporary politics)、特に暗殺を正当な政治戦術とみなす傾向(the tendency to see assassination as a legitimate political tactic)の兆候と捉えることもできる。

政治的な殺人(political killings)は、もちろん新しい現象ではない。しかし、ウォード・トーマスが2000年に『インターナショナル・セキュリティ』誌に掲載した画期的な論文で示したように、数世紀にわたり、ある国の指導者が他国の指導者を殺害しようとする行為に対しては、極めて効果的な規範が存在していた。国家による暗殺(assassinations)は、かつては一般的だったが、時が経つにつれ、この戦術は主要諸国の間で廃れ、暗殺を禁じる規範が徐々に形成されていったとトーマスは主張した。

この変化は、物質的・戦略的な利害と、変化する規範意識が複合的に作用した結果である。暗殺は、弱小国がより強力なライヴァル国に対して用いることのできる手段であったが、大国(great powers)は暴力的な政治行動(すなわち戦争)を、自国の優位な資源が有利に働く可能性が高い戦場に限定することを好んだ。さらに、各国の支配者たちは、たとえ他の相違点がどうであれ、何千人もの国民を血みどろの戦場に送り込んで死なせようとしながらも、互いに殺し合わないという共通の利益を有していた。

暗殺に反対する規範は、国家指導者は一般市民とは異なる道徳的原則に従うのであり、国家のために行った行為について個人的に責任を問われるべきではないという、現実政治の考え方も反映していた。一般市民が人を殺害すれば起訴され有罪判決を受ける可能性があるが、「国益(in the national interest)のため」に戦争を開始した君主や首相は、その決定の結果として何千人もの命が失われたとしても、何の罰も受けずに済むことがあった。失敗に終わった戦争を始めた指導者は権力の座から追放されることはあっても、公的な立場で行動していた限り、裁判にかけられたり処罰されたりすることはほとんどなかった。

この二重基準(double standard)が最も鮮明に表れたのは、第一次世界大戦後だ。廃位されたドイツ皇帝(deposed German kaiser)ヴィルヘルム2世は、オランダでの平穏な亡命生活を送り、余生を全うすることを許された。1世紀前、ナポレオン・ボナパルトも、幾度となくヨーロッパを戦争に巻き込んだにもかかわらず、直接的な処罰を免れた。もっとも、彼は最終的に南大西洋の孤独な流刑地で老い、生涯を閉じた。驚くべきことに、この暗殺禁止の規範は、凄惨な戦争の最中でさえも守られていた。連合国(the Allies)はアドルフ・ヒトラーを暗殺しようとはしなかった(一部のドイツ人は試みた)。また、日本の昭和天皇やイタリアの指導者ベニート・ムッソリーニを直接標的にすることもなかった。(アメリカは日本の山本五十六海軍大将を標的にし、その飛行機を撃墜して殺害したが、彼は軍司令官であり、文民の公職者ではなかった。)

トーマスによれば、第二次世界大戦後、新たな倫理的・物質的配慮が定着するにつれて、この規範は崩れ始めた。ニュルンベルクおよび東京の戦争犯罪裁判において、勝利した連合国は、公的行為と私的行為との従来の区別を否定し、日本およびドイツの元政府高官たちに対し、その公的(かつ疑いようのないほど凶悪な)行為について個人的責任を問うた。同様の動きが、『世界人権宣言(the Universal Declaration of Human Rights)』の採択や、戦争犯罪(war crimes)、ジェノサイド(genocides)、その他の人道に対する罪(crimes against humanity)の責任者を処罰するという、残念ながら一貫性に欠けるものの、世界的に高まりつつある取り組みの原動力となった。その後の国際刑事裁判所(the International Criminal Court)の創設や、こうした重大な犯罪の有罪とみなされた指導者を制裁しようとする関連の取り組みも、同じ広範な潮流の一部であった。

なぜこのような規範的視点の転換が重要だったのか? それは、個々の指導者が自らの決定に対して道義的責任を負うようになったことで、特に邪悪あるいは危険であると判断された者たちに対する直接的な措置を正当化することが容易になったからである。一人の指導者(そしておそらくは少数の側近)を標的とすることは、はるかに多くの人命が失われる戦争を始めるよりも望ましいとみなされる可能性もあった。暗殺は、政治的問題に対処する上でより費用対効果の高い方法のように見え始め、少なくとも軍事的に最も能力のある国々においては、軍事技術の発展によって精密攻撃(precision strikes)や標的殺害(targeted killings)が可能になるにつれて、その傾向はさらに強まった。

そのため、国家が支援するライヴァル指導者の暗殺は極めて稀なことではなく、時が経つにつれてより一般的になった。例えば、冷戦時代には、アメリカはフィデル・カストロ、パトリス・ルムンバ、ゴ・ディン・ディエム、ムアマル・アル・カダフィ、その他複数の外国指導者を直接殺害、殺害への協力、または殺害を試みた。ブッシュ政権は2003年のイラク侵攻開始時にサダム・フセインを意図的に標的とし、2020年にはトランプ政権がミサイル攻撃でイランの精鋭部隊であるコッズ部隊の司令官カセム・ソレイマニを殺害した。(ソレイマニは軍事指導者であると同時に高官でもあった。もし外国が統合参謀本部議長を意図的に標的にしたらアメリカ人がどう反応するか想像してみて欲しい。)イスラエルは長年にわたり、ハマスやヒズボラの指導者、そして複数のイラン人民間核科学者を含む多くの政治的敵対者たちを殺害してきた。北朝鮮は1968年と1983年の2度、韓国の大統領暗殺を企てた。ウクライナは、ロシアがウォロディミール・ゼレンスキー大統領の暗殺を繰り返し試みたと主張している。かつて存在した「各国政府は他国の要人を標的にしてはならない(governments should not target their foreign counterparts)」という規範は、もはや風前の灯火(on life support)となっている。

これは少なくとも3つの理由から非常に懸念すべき事態となっている。

第一に、強力な規範であっても、強大な国家が自らの意思で行動することを完全に阻止することはできないも。しかし、確立された規範に違反すれば、違反国は評判を損なうことになり、他国は違反した国との緊密な関係や協力関係を維持することを躊躇するようになる。規範が崩壊するにつれ、評判を損なう行為によって、抑止力(deterrent)は低下し、暗殺を極端な手段ではあるものの、正当な政治行動とみなす国が増えるだろう。世界中の政府はより恐れを抱き、互いを信用しなくなり、既存の紛争に対する相互に受け入れ可能な解決策を見出すことはより困難になる。結局のところ、自らを殺害しようと積極的に企んでいる相手と、誠実に交渉できるだろうか? 規範が崩壊すればするほど、世界の政治はより醜悪で、より争いの多いものになるだろう。

第二に、そして第一の点から派生する点として、暗殺を禁じる規範を放棄することは、単に会談が危険であるという理由が発生することになり、ライヴァル同士の会談を阻害することになる。その結果、進行中の紛争に対する外交的解決の道はさらに狭まるだろう。また、第三者が外交的解決取り組みを支援しようとする意欲も削ぐことになる。これこそが、イスラエルによるカタールへの攻撃がこれほど無謀であった理由である。それは、責任ある国際社会の一員としてのイスラエルの評判をさらに損なうだけでなく、一部の国々がイスラエルの外交活動を仲介する意欲を削ぐことになるからだ。どの国も時として敵と対話する必要があり、その過程を円滑に進めるには通常、中立的な第三者の仲介が不可欠である。このようにカタールの主権を侵害し、暗殺を禁じる規範に背くことは、国際外交がより一層必要とされているこの時期に、その歯車にさらなる砂を撒き散らすことになる。イスラエルが、ワシントンから目立った制裁を受けることなく、名目上ではあるがアメリカの同盟国を攻撃する姿勢を示したことは、この地域におけるアメリカの既に傷ついている評判にさらなる打撃を与えた。もっとも、その評判がこれ以上低下する余地があるとは到底思えないのではあるが。

最後に、対立する外国の要人を標的にして殺害することは全く問題ないという考え方は、一部の人々にとって、意見の合わない国内の政治家に対する暴力行為を正当化しやすくする。いずれの場合も、標的となりうる人物はまず悪の権化(the embodiment of evil)、国家に対する致命的な脅威(a mortal threat to the nation)として悪魔化される(demonized)。一度そのレッテルが貼られると、彼らに対処するための極端な手段は許容され、場合によっては必要不可欠とさえ思えるようになる。もしあなたがアメリカ人で、国内における暴力的な政治活動の増加(JD・ヴァンス副大統領や他の政権関係者が述べている嘘とは異なり、これは圧倒的に右派によるものであり、左派によるものではない)を懸念しているのなら、アメリカ合衆国、その最も緊密な同盟諸国の一部、そして他の主要諸国が、海外における暗殺に対する規範をいかに損なってきたかについても懸念すべきである。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。Blueskyアカウント:@stephenwalt.bsky.socialXアカウント:@stephenwalt

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(終わり)

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 スティーヴン・M・ウォルトによる以下の論稿は2025年7月に発表された論稿であるが、現状を理解する上で重要な内容となっている。ここで重要なのは、政治的力、政治的な魅力と政策立案・遂行を分けて考えている点だ。私はこのことが出来ていなかった。第二次ドナルド・トランプ政権に持つ違和感を言語化できていなかったが、この政治的な力と政策立案・遂行を分けることで、私の抱える違和感を言語化できるように思う。

トランプは生粋の政治家ではなく、財界人としても主流から外れたアウトサイダーだ。そうした人物が既存の政治を破壊するためにワシントンに乗り込んだ。彼の個人的な魅力で大きな政治力を持った。しかし、政策立案・遂行は彼一人ではできない。周囲に人材を配置しなければならない。第二次政権の特徴は、イスラエルとの関係が深い人物が揃ったことだ。国家情報長官であるトゥルシー・ギャバードは民主党所属の連邦下院議員時代から、非主流派であり、イランやロシアとの交渉を主張し続けてきた。ギャバード長官以外は親イスラエル派であり、今回のイラン攻撃を推進した。トランプは政治的な力を持つが、政策立案・遂行の力を持たず、結果として、政策の失敗をしてしまうことになった。更に言えば、トランプに周辺に配置された人物たちはワシントンの既存政治、エスタブリッシュメントの息のかかった人物たちであり、彼らによって、トランプ政治が変容させられたということが考えられる。

 トランプが政策立案・遂行を任せる人物の選定に失敗したとも言えるだろう。しかし、選定の過程で述べたことと実際に政権発足後に実行することに乖離がある場合、つまり、嘘をついた、もしくは態度を変化させたと言うことになる。

 私がここで重要だと考えているのは、JD・ヴァンス副大統領の存在である。第二次トランプ政権が大統領選挙期間の公約をことごとく破っている状況で、ヴァンスは非常に苦心してトランプ政権内でバランスを取りながら、選挙期間中の公約を守る、もしくは守る姿勢を見せている。トランプが州に騙されて搦(から)めとられている様子も見ている。そうした中で、彼がトランプの後継者として、トランプの失敗を学んでいると私は見ている。政治力を持ちながら、政策立案・遂行に失敗するのは、自分を利用しようとして集まる、もしくは集められる人物たちの影響が大きいということを学んでいるだろう。

 トランプもまた騙され、利用されたということを考えると、ワシントンの既存の政治、エスタブリッシュメントたちの力は大きく、簡単に打ち破ることが出来ないということが認識される。

(貼り付けはじめ)

ドナルド・トランプが逃した好機は積み上がっている(Trump’s Missed Opportunities Are Piling Up

-トランプ政権にはアメリカをより良い方向に変えるという前例のない好機があった。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2025年7月29日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2025/07/29/trumps-missed-opportunities-are-piling-up/

好むと好まざるとにかかわらず、ドナルド・トランプ米大統領は、この10年近くにわたり、アメリカ政界で最も重要な人物であり続けている。今や、私たちは彼を評価する十分な時間があり、彼について2つのことが明白になっている。第一に、トランプの政治的魅力は当初から過小評価されていたこと、そして彼は時を経るごとに、より有能な政治家へと成長してきたことだ。度重なる嘘、公約違反、重罪判決、性犯罪、そして自分の望みを阻むあらゆる規範を容赦なく破壊する姿勢にもかかわらず、彼は共和党を自らの理想とする姿へと変貌させ、最初の任期の惨憺たる実績にもかかわらず、2024年の再選を果たした。彼は今、アメリカ史上最も過激な政治変革を試みている。権威主義的な政権掌握(an authoritarian takeover)は着々と進んでおり、成功する可能性が高い。

彼について分かったもう一つのことは、彼が政策立案者として極めて無能だということだ。無知、衝動性、そして能力よりも忠誠心を優先する傾向が相まって、彼は幾度となく愚かな決断を下してきた。彼は権力を集中させ、私腹を肥やし、弱者を威圧することには長けているが、アメリカ全体に利益をもたらす建設的な政策を立案・実行する能力には長けていないことが明らかになった。

政治的手腕(political adroitness)と政策立案能力の欠如(policymaking ineptitude)の組み合わせは、まさに悲劇(tragedy)のようになっている。なぜなら、トランプはそのカリスマ性と有利な立場(共和党が連邦上下両院を支配し、従順とは言わないまでも、トランプに理解を示す最高裁判所が存在する)を活かせば、近年の大統領が国家の深刻な問題に取り組むことを困難にしてきた膠着状態と機能不全(the logjams and dysfunction)を打破できたはずだからだ。もしトランプがこの機会を建設的に、そして異なる政策のために活用していれば、「アメリカを再び偉大にする(make America great again)」ために大きく貢献できたかもしれないし、ひいては彼が長年主張してきた「アメリカ史上最も偉大な大統領の一人(one of the country’s greatest presidents)」という称号にふさわしい人物になれたかもしれない。

しかし、イギリス国教会の祈祷書を言い換えるならば、トランプは「なすべきことをせず、なすべきでないことをした。彼には健全さが全くない([has] left undone those things which [he] ought to have done,; and [he has] done those things which [he] ought not to have done; and there is no health in [him])」となる。そして、アメリカはこれらの失敗によって大きな苦しみを味わうことになるだろう。

私が言いたいことは何か?

まず、トランプはアメリカの過剰な軍事プレゼンスを縮小し、同盟諸国に防衛努力のより大きな分担を促し、国防総省の肥大化した軍事予算を抑制することで、差し迫った国内のニーズに対応し、増大する国家債務を削減するために必要な資源を確保できたはずだ。ロシアのウクライナでの行動も少なからず影響しているものの、トランプは一部の同盟国にさらなる協力を促すことに成功したが、アメリカの世界的な軍事プレゼンスは縮小されておらず、国防予算は増え続けている。その一方で、連邦議会が可決したばかりの予算案は、アメリカの債務水準を数兆ドル増加させ、上位1%の富裕層をさらに富ませ、幅広い公共サーヴィスを削減し、大多数のアメリカ人の生活を改善する効果はほとんどないだろう。さらに、この予算案には、警察国家(police state)の萌芽となる要素も含まれている。

なんという機会の損失だろう! 中国を含む先進工業国を訪れれば、きらびやかな近代的な空港、安全で効率的かつ手頃な価格の公共交通機関、穴だらけではない道路、超高速の都市間鉄道、そして最先端の港湾やその他の重要なインフラが整っていることに気づくだろう。これらの国の多くは、優れた医療制度と高い平均寿命も誇っている。かつてアメリカはそのインフラの質で世界を驚嘆させたが、同盟諸国やライヴァル諸国に追いつくことはできなかった。その代わりに、愚かな対外戦争や長期にわたる介入(foolish foreign wars and protracted interventions)に数兆ドルを浪費してしまった。さらに悪いことに、国内は深刻な分極化に陥っており、政治システムには拒否権が行き渡っているため、私たちが求める長期的なプログラムを立ち上げ、実行することはほぼ不可能となっている。トランプは、自らが繰り返し主張する(そして最高裁が認める意向を示している)大統領権限を行使し、こうした行き詰まりを打開して国内で「国家建設(nation-building)」を行うこともできたはずだ。しかし彼は、大学への脅迫、NPR(公共ラジオ)やPBS(公共テレビ)への資金削減、トランスジェンダーの選手への処罰、メディケイドの縮小、そしてジョー・バイデン前大統領やバラク・オバマ元大統領が関与したあらゆる政策の解体を選んだ。

トランプは、科学に対する連邦政府の支援を大幅に削減し、大学キャンパスには反ユダヤ主義が蔓延しているという荒唐無稽な主張に基づいて高等教育を攻撃する代わりに、連邦政府の権限を活用して、科学研究におけるアメリカの優位性を維持することもできたはずだ。ソ連がスプートニクを打ち上げた後、ドワイト・D・アイゼンハワー大統領がそうしたように、連邦政府の支援によって生み出された発見から、その後の世代のアメリカ人は多大な恩恵を受けてきた。アメリカはまた、世界中から最も優秀な人材を引き寄せ、留める能力からも恩恵を受けてきた。しかしトランプは今、その優位性を逆転させようとしている。中国はすでに研究開発費でアメリカを上回り、研究者たちはより多くの特許や科学論文を生み出しており、電気自動車やクリーンエネルギーといった将来の重要技術のいくつかにおいて主導的な役割を獲得している。トランプの対応とはどうだろうか? それは一方的な知的武装解除(unilateral intellectual disarmament)の政策である。

もし、その強大な権力を公益のために使おうとする強力な大統領であれば、アメリカ国民の健康を守ることを使命とする機関をロバート・F・ケネディ・ジュニアのようなペテン師たちに委ねたりはしなかっただろうし、気候危機に対処するための、遅ればせながらなお不十分な国の取り組みを後退させるようなこともなかったはずだ。もしトランプが真に偉大なことを成し遂げたいと望むなら、彼は自身の第一期政権における数少ない成功事例の一つ記録的な速さで命を救うCOVID-19ワクチンの開発を可能にした「ワープ・スピード」計画を基盤とし、バイデンが推進しようとしたグリーン・トランジションを加速させるはずだ。誤解のないように言っておくが、気候変動は現実のものであり、事態はさらに悪化するだろう。なぜなら、大気物理学の法則はフォックスニューズを見たり、ソーシャルメディア上のプロパガンダに左右されたりしないからだ。パリ協定からの離脱や化石燃料への依存強化を促すというトランプ氏の決定は、問題を悪化させ、米国はその結果に対する備えが不十分になるだろう。

アメリカの偉大さについて言えば、より賢明なトランプであれば、同盟諸国を搾取すべき属国(vassals)のように扱うのではなく、アメリカの戦略的パートナーシップの改革と強化に尽力するだろう。あるヨーロッパ連合(EU)当局者が「ゆすりたかり(shakedown)」と正しく指摘した彼の気まぐれで強圧的な関税政策は、アメリカの消費者の物価を上昇させ、国内外の経済成長を鈍化させるだろう。また、アメリカの同盟諸国がトランプの国防費増額要求に応じることをより困難にするだろう。デンマーク、カナダ、韓国、日本といった親米諸国と対立することは、歴代大統領の中でも最も愚かな決断の一つと言えるだろう。これらの国々は歯を食いしばってトランプの要求の一部を受け入れるかもしれないが、二度とアメリカを以前と同じように見ることはなく、ワシントンの指示に従う、もしくは、将来的にワシントンが望むような調整を行うことに消極的になるだろう。

トランプ大統領が本当に前任者よりも外交手腕に優れていることを示したいのであれば、ガザ地区での虐殺を終わらせるためにアメリカの影響力を活用し、イランとの新たな核合意に現実的なアプローチを取り、ウクライナ和平に向けて飴と鞭(carrots and sticks)を組み合わせるべきだった。しかし、彼はこの問題を素人外交官のスティーヴ・ウィトコフに任せてしまい、結果として中東地域でのさらなる惨劇(carnage)、アメリカのイメージのさらなる悪化(もはやこれ以上悪化する余地があるのか​​どうかも怪しいが)、そしてロシアの前進を招いた。

一方、トランプ大統領とマルコ・ルビオ国務長官は外交団を弱体化させ、かつて多くの国際機関で支配的だったアメリカの地位を放棄している。『ニューヨーク・タイムズ』紙が先週報じたように、北京はこれにいち早く乗じて、様々な国際フォーラムで存在感を高め、取引を成立させている。こうした動きは一見不可解に思えるかもしれないが、これらの機関こそ、多くの国際関係を形作るルールや技術基準が確立される場なのである。中国当局は、将来的に影響力を拡大するための専門知識と人脈を築き上げており、一方で、アメリカはますます存在感を失っている。スコット・ベセント米財務長官は、先日開催されたG20サミットに出席することさえしなかった。なぜか? それは、南アフリカで開催されたからだ。中国は、外交の価値、直接対話の利点、そしてソフトパワーの重要性を理解しているからこそ、すでにアメリカよりも多くの外交官と在外公館を擁している。トランプ大統領はそれを理解していない。アメリカの当局者やビジネスリーダーが、もはや「アメリカ製(made in America)」ではないルールで世界を渡り歩かなければならないことに気づいた時、それは大きな衝撃となるだろう。そして、まさにトランプ大統領がアメリカを導こうとしている世界こそが、そうした世界なのだ。

最後に、トランプは、国をさらに分断するのではなく、共和党に対する影響力と、政府の三権全てを掌握している立場を利用して、国を統一することもできたはずだ。彼は、実績のある女性やマイノリティを政府の要職から追放し、「無能な白人男性のためのアファーマティブ・アクション(affirmative action for incompetent white guys)」を推進するのではなく、より過激な形の「ウォークイズム(wokeism)」からの撤退を(すでに進行中だったプロセスだが)巧みに促し、厳格な実力主義の必要性を強調することもできたはずだ。その好例が、ピート・ヘグセス米国防長官、あるいはダレン・ビーティーだ。ビーティーは、白人至上主義者とのつながりを理由に第一期トランプ政権から解雇された陰謀論者だが、つい先日、アメリカ平和研究所の所長に任命されたばかりだ。トランプは、法的に疑問の残る強制送還を承認し、海外からの有能な人材にとってアメリカをはるかに魅力のない場所にしてしまうのではなく、賢明な移民制度改革を推進することもできたはずだ。

要するに、トランプには、アメリカを弱体化させている政治的分断を縮小し、国際的な地位を強化する可能性のある、広範囲にわたる、そして長らく待望されていた改革(far-reaching and long-overdue reforms)に着手する絶好の機会があった。もし彼がそのカリスマ性と政治的手腕を、より思慮深く、国民の利益を重視する政策に注いでいれば、私を含め、彼を最も厳しく批判する人々も納得したかもしれない。しかし彼は正反対の道を選び、支持率が急速に低下しているにもかかわらず、その姿勢を改める気配は全く見られない。

読者の皆さんが何を考えているかは分かっている。「もしトランプがこうしたことを少しでも実行していたら、穏健な民主党員のような振る舞いになり、MAGA支持層が反旗を翻していただろう」と考えているだろう。私はそうは考えない。ジェフリー・エプスタインのスキャンダルはさておき、トランプの支持層は、たとえ過去の立場と真っ向から矛盾していても、彼が言うことならほぼ何でも飲み込む用意があるようだ。私は、彼が支持基盤を説得し、上述した政策を受け入れさせることができたと確信している。特に、その多くの施策が彼らにとってすぐに利益となるものであったならばなおさらだ。無党派層や穏健派は喜んだだろうし、それによって2024年の大統領選挙で彼に僅差の勝利をもたらした緩やかな連合が固まったはずだ。化石燃料業界は反対しただろうが、その他の経済界は、規制改革や、おそらくは控えめな減税によって、説得できたかもしれない。

しかし、私のこのフィクションのシナリオには致命的な欠陥(a fatal flaw)がある。それは、別のトランプを想定している点だ。自らの天才性を確信し、自己顕示欲にのみ執着し、ルールや規範を軽視する復讐心に燃えるナルシストではなく、私のシナリオが想定するのは、真に民主政治体制を守り、できるだけ多くのアメリカ人の生活を向上させ、世界政治におけるアメリカの特権的な地位を維持したいと願う大統領である。残念ながら、トランプはそのような人物ではない。だからこそ、彼に与えられた機会は浪費され、あるいはそれ以上に台無しにされているのだ。素晴らしい未来はあり得たはずだが、この大統領の下では実現しなかった。トランプ自身が称賛されることを切望していることを考えれば、これは彼自身の悲劇だと捉えることもできるだろう。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。Blueskyアカウント:@stephenwalt.bsky.socialXアカウント:@stephenwalt

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 古村治彦です。

 イスラエルが主導して始まった、イスラエルとアメリカによるイランに対する大規模攻撃と、イランによる報復攻撃は終息の目途が立っていない。イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、レバノンにまで侵略の手を伸ばし、21世紀にもなって、遅れてきた帝国主義、植民地主義を展開している。イランの石油関連施設への攻撃はイスラエルが単独で実施し、これに対してトランプ大統領は、アメリカは攻撃に参加しておらず、このような攻撃を止めるようにネタニヤフ首相に求め、ネタニヤフ首相も今後はそのような攻撃を控えると発言した。しかし、トランプ大統領はイランに対して、ホルムズ海峡の安全航行を保証しなければ、電力設備攻撃を行うと発言し、イラン側は湾岸諸国へのさらなる攻撃を行うと発表し、事態は深刻化している。

 そうした中で、私が懸念しているのは、BTCパイプラインへの攻撃である。BTCパイプラインはカスピ海沿岸のアゼルバイジャンのバクー油田から、ジョージアを通り、トルコの地中海沿岸にあるジェイハン港までをつないでいる。ここからイスラエルに石油が輸出されている。アゼルバイジャンの国民の大多数が、イランと同じイスラム教シーア派(世俗主義である)であるが、イスラエルとの良好な関係を維持している。それは、石油を通じての経済的つながりということになる。
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 以下にあるように、アゼルバイジャンとトルコはイスラエルに対して複雑な態度を取らざるを得ない。ガザ地区やヨルダン川西岸地区におけるイスラエルの圧制と横暴に対しては、同じイスラム教として反発をするのが当然であるが、経済や安全保障の面でイスラエルと敵対することはできない。従って、どっちつかず、どちらも支援するということになる。

 イランがエスカレーションを望んでいるならば、開戦当初にBTCパイプラインを攻撃するはずだ。イスラエルへの石油供給を断てば、イスラエルの軍事行動を制限できるし、イスラエル国内の生活にも打撃を与えることができるからだ。しかし、イランはそれをしなかった。問題は、アメリカとイスラエルがエスカレーションを辞さない姿勢を崩さないことだ。そうなれば、イランとしておBTCパイプライン攻撃を選択することになる。これに対して、イスラエルが保有する核兵器を使用するという最悪の決断をするする可能性も出てくる。

 ホルムズ海峡の安全航行に注目が集まるが、BTCパイプライン攻撃の可能性について、私たちは憂慮すべきである。アメリカとイスラエルの自制と反省、そして、辞を低くしての停戦要請が必要になってくるが、それは不可能であろう。せめて事態の悪化、エスカレーションが進まないことを祈るのみだ。

(貼り付けはじめ)

トルコは自国の石油禁輸措置を破っているのか?(Is Turkey Breaking Its Own Oil Embargo?

-レジェップ・タイイップ・エルドアン大統領はパレスティナの大義(the Palestinian cause)を擁護する一方で、彼の政権がイスラエルへの支援を助長していることを示す証拠が存在する。

ハンナ・ルシンダ・スミス筆

2025年1月29日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2025/01/29/israel-gaza-war-cease-fire-turkey-oil-export-embargo/

2024年11月末、トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領は、国営放送のフォーラムで基調講演を行い、ガザ地区への支持を改めて表明した。聴衆の中にいたトルコの親パレスティナ活動家セイマ・ユルドゥルムは声を上げるべき時が来たことを悟った。彼女は「パレスティナへの支持表明と現場での行動との矛盾を指摘せざるを得ないと感じた」と語った。

ユルドゥルムとトルコの活動家グループ「パレスティナのための千人の若者」のメンバー8人は、生放送のテレビカメラの前で「ジェノサイドを支援するのをやめろ!」と叫び、水面下で行われているトルコからイスラエルへの石油輸出に注目を集めた。武器輸出ほど目立たないものの、石油輸出はイスラエルの戦争遂行に不可欠な要素である。抗議者たちが会場から退場させられると、エルドアン大統領は激しく反論した。「ここでシオニストの代弁者になるな(Do not be the mouthpiece of Zionists here)」。

エルドアン大統領は、特に2023年10月7日のハマスの攻撃とそれに続くイスラエル軍によるガザ地区への攻撃以降、世界中のスンニ派イスラム教徒の擁護者としてのイメージを確立する上で、パレスティナ人への支持を長らく中心的な要素としてきた。当初は紛争の仲介役を申し出ていたエルドアン大統領は、その後ハマスへの明らかな支持を表明し、イスラエルを「パレスティナの兄弟たちに対する全面的なジェノサイド政策を実行しているテロ国家(terrorist state [that] is implementing a policy of total genocide against our Palestinian brothers)」と非難した。

ガザ国境でイスラエル治安部隊がパレスティナ人60人を殺害した事件を受け、4年間の凍結状態を経て2022年に回復したトルコとイスラエルの関係は、昨年再び断絶した。2024年4月9日、トルコは建設資材を含む54品目のイスラエルへの輸出を停止した。数週間後、トルコは二国間貿易を全面的に停止した。2023年の貿易額は68億ドルに達し、その76%はトルコからの輸出品(主に鉄鋼、建設資材、機械装置)だった。

エルドアン大統領はその後、トルコはイスラエルとの「あらゆる関係を断絶した()severed all ties」と表明した。1月19日に発効したイスラエルとハマスの停戦合意後も禁輸措置は継続されており、エルドアン大統領はイスラエル指導者たちの戦争犯罪に対する責任追及を「増強する(intensify)」と表明している。

しかし、ロビー団体プログレッシヴ・インターナショナルが支援する、イスラエルへのエネルギー販売停止を各国政府に求めるキャンペーン「ストップ・フューリング・ジェノサイド」の研究者たちは、禁輸措置にもかかわらず、石油を積んだ貨物船が依然としてトルコからイスラエルへ航行し、痕跡を隠蔽しようとしていることを示す証拠をメディアに公開した。

研究者たちは、船舶追跡データ、港湾記録、衛星画像、目撃証言を用いて、2024年10月28日にトルコのジェイハン港を出港し、イスラエル方面へ向かった原油タンカー「シーヴィゴール号」を追跡した。2日後、タンカーは追跡装置の電源を切った。7日後に再び電源が入った時、シーヴィゴール号はイスラエル沿岸からまっすぐ離れ、シチリア島方面へ向かっていた。イタリアのリポスト港に入港した際、タンカーはトルコを出港した時よりも大幅に軽量化されていた。『フォーリン・ポリシー』誌が入手した調査報告書によると、これらの期間の間に、衛星画像にはシーヴィゴール号と外観が一致するタンカーが11月5日にイスラエルのアシュケロン港に入港する様子が写っていた。12月にメディアに公開された追加調査では、他のタンカーも同様の手法を用いていることが示唆されている。

トルコは、自国の港からイスラエルへ向けて貨物が出荷されている事実はないと否定している。2024年11月10日、トルコ政府エネルギー省は、石油輸出継続の主張は「根拠がない(baseless)」とし、イスラエルへの出荷が通常行われるジェイハン港で操業する全ての企業および関係者は、トルコの公式禁輸措置を遵守していると断言する声明を発表した。

しかし、問題はこうした否定が示唆するよりもはるかに複雑である。石油輸出は二国間の単純な取引ではなく、複数の国家および企業間の複雑な外交的・法的合意に基づいている。今回のケースでは、イスラエルへの石油輸出は、トルコの最も強力な同盟国の1つであるアゼルバイジャンをも巻き込むことになる。石油輸出を完全に停止しても、エルドアン大統領にとってイスラエルとの関係において政治的な代償はほとんどないだろうが、トルコの財政に打撃を与え、ひいては最も重要な地域関係の1つを損なう可能性もある。エルドアン大統領は、この代償を支払うつもりはないようだ。

トルコは自国のエネルギー資源は乏しいものの、主要なエネルギー輸送国(a major energy transit country)であり、それが国庫収入をもたらし、外交上の影響力を高めている。この地域は、アゼルバイジャン、イラクのクルド人地域、ロシアからトルコを経由してヨーロッパへガスと石油を運ぶパイプラインが縦横に走っている。トルコを通過する2本の石油パイプラインのうち、イラクからジェイハンまでを結ぶパイプラインは、アンカラとバグダッド間の紛争により2023年に停止された。もう1本のバクー・トビリシ・ジェイハン(BTC)パイプラインは2006年から稼働しており、カスピ海からジョージアを経由してトルコの地中海沿岸までアゼルバイジャン産の原油を運び、そこからイスラエルへ送っている。

パイプラインの終点であり、原油が貨物船に積み込まれるジェイハンでは、アゼルバイジャンとのつながりを示す痕跡が至る所に見られる。そこにはトルコ・アゼルバイジャン友好公園があり、パイプラインのルートを示す地図が刻まれた記念碑が建ち、その前には近代トルコの建国者ムスタファ・ケマル・アタテュルクとアゼルバイジャンの元大統領ヘイダル・アリエフの像が立っている(ターミナル自体もアリエフの名にちなんで名付けられている)。両国関係はソ連崩壊以降、友好的であったが、近年ではトルコがアゼルバイジャンによるアルメニアからのナゴルノ・カラバフ地域奪還に多大な支援を提供することで、アゼルバイジャンの支持をさらに高めた。

しかし、両国はイスラエル問題で意見が分かれている。エルドアン大統領はパレスティナの大義を声高に支持しているが、アゼルバイジャンはイスラエルと緊密ながらも異例の同盟関係にある。2011年以降、アゼルバイジャンとイスラエルの関係は、イスラエルによるアゼルバイジャンへの武器売却と、アゼルバイジャンによるイスラエルへの石油売却によって強化されてきた。2024年1月、トルコによる禁輸措置が発効する前、イスラエルはアゼルバイジャン産原油の最大の輸入国であり、この月だけで2億9700万ドル相当の原油を購入し、そのすべてがジェイハン・パイプラインを経由して輸出された。(『フォーリン・ポリシー』誌は、アゼルバイジャンのエネルギー省と国営石油会社SOCARに対し、BTCパイプラインを通じたイスラエルへの輸出が継続されているかどうかを問い合わせたが回答は得られなかった。)

関係する企業の利害関係が事態をさらに複雑にしている。パイプライン建設に関する協定はアゼルバイジャン、トルコ、ジョージアが締結したが、運営はBTC社が行っている。同社の11の株主のうち、最大株主はBPである。その他は、アゼルバイジャン、フランス、ハンガリー、インド、日本、ノルウェー、トルコ、アメリカに拠点を置くエネルギー企業である。各社は、生産された原油の自社分を個別に販売する権利を有している。

トルコが1999年にこのコンソーシアムと締結したホスト政府協定に基づき、トルコは自然災害、トルコが開始していないトルコ領内での戦争、または国際的な禁輸措置の場合にのみ、パイプラインを通る石油の輸送を停止できる。トルコはBTCパイプラインからイスラエルへの石油輸送を一方的に禁止することはできず、もしそうすれば関係者への賠償責任を負うことになる。

つまり、BTC契約によれば、トルコは他の関係者の合意を得るか、多額の罰金を科されるかのどちらかを選ばなければ、イスラエルへの石油輸送を阻止することはできない。これはエルドアン大統領にとって禁輸措置問題の格好のスケープゴートとなり得る。法的に、トルコは身動きが取れない状態にあるのだ。(トルコのエネルギー省と通信局は、一方的な禁輸措置を課すことが可能かどうかについてのコメント要請に回答しなかった。)

しかし、エルドアン大統領はこの件について説明するどころか、親パレスティナの姿勢を改めて強調し、トルコは石油輸送による経済的利益を享受している。2024年11月、エルドアン大統領率いる公正発展党(AKP)所属のオズレム・ゼンギン議員は議会で、トルコがBTCパイプラインを通じて原油1バレルあたり1.27ドルの収入を得ていることを明らかにした。このパイプラインは毎日70万バレルが輸送されており、年間約3億2500万ドルの収入となる。これは、トルコが経常収支赤字の削減を目指す上で、極めて重要な外貨獲得源となっている。

活動家たちは、BTC協定の条項に関わらず、トルコは国際法に基づきイスラエルへの石油輸出を阻止する権限を有していると主張している。トルコは国連ジェノサイド条約の締約国であり、ジェノサイド行為の防止と処罰を義務付けられている。英国を拠点とするロビー団体「パレスティナのためのグローバル・エネルギー禁輸」の活動家ナジ・ムハンマドは、国際司法裁判所がイスラエルに対して起こしたジェノサイド訴訟の当事国として、トルコはBTCパイプラインの終点における立場を利用してイスラエルへの輸出を阻止する法的根拠も有していると述べている。「ジェノサイドを防止するというこの法的義務は、いかなる契約上の問題にも優先する」とムハンマドは語った。

エルドアン大統領にとって、この問題は当分解決しそうにない。「人々はエネルギー輸送とジェノサイドがどのように関連しているかを理解し始めている」とムハンマドは述べた。国内では、これらの疑惑はエルドアン大統領の支持基盤である宗教的・親パレスティナ派の有権者、特に若い保守層を激怒させている。すでに、石油輸出の継続を詳述した「ジェノサイドを助長するのを止めろ」報告書は抗議活動を引き起こし、左派と保守的なイスラム教徒という政敵同士が結集して二重基準を非難する声を上げている。

これらの暴露はエルドアン大統領にとって国際的にも問題となり、彼がしばしば西側諸国に対して向ける偽善という非難を、イスラエルに対しても浴びることになるだろう。これはイスラム世界における彼の評判を傷つけ、急速に変化する中東情勢において西側諸国に対する影響力を獲得しようとする彼の試み​​を阻害する可能性がある。

シリアのバッシャール・アル・アサド大統領の失脚に伴い、エルドアン大統領はダマスカスの新政権に対する政治的影響力を行使しようと画策している。トルコの情報機関トップであるイブラヒム・カリンは、アサド大統領が国外に逃亡してからわずか4日後にダマスカスを訪問した。シリアの新閣僚の何人かはトルコと直接的なつながりを持っている。アメリカは既にトルコを、アサド政権を打倒した過激派組織「ハヤト・タハリール・アル・シャーム」への裏ルートとして利用しており、他の地域大国を関与させないようにしている。

しかし、トルコがイスラエルとの関係を継続していることに対する地域全体のイスラム教徒の怒りが高まれば、イスラエルによるシリア領土の占領が続いている現状を鑑みると、エルドアン大統領のダマスカスにおける影響力は阻害される可能性がある。

抗議活動で最大4年8カ月の懲役刑に直面しているユルドゥルムは、トルコの政策変更にはほとんど期待を抱いていない。彼女の目には、エルドアン大統領は自らの言動と現実との乖離を指摘する人々を黙らせようとしているように映る。ユルドゥルムは次のように述べている。「エルドアン大統領は、イスラエルとの重要な貿易・ビジネス取引、特に大企業や多額の資金が絡む取引について、一貫して言及を避け、あるいは全面的に否定している。これは無視できない厳しい現実だ」。

※ハンナ・ルシンダ・スミス:トルコ在住のジャーナリスト。著書に『エルドアン台頭:トルコの魂をめぐる戦い(Erdogan Rising: The Battle for the Soul of Turkey)』、共著に『ザリファ:男社会における女性の闘い(Zarifa: A Woman’s Battle in a Man’s World)』がある。Xアカウント:@hannahluci

(貼り付け終わり)

(終わり)

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 現在は世界中で過剰さがあふれている。極端さと言っても良いだろう。政治の世界で言えば、ドナルド・トランプ大統領や高市早苗首相がその象徴である。過度なナショナリズム、過度な断定(言い切り)、過度な自己中心、過度な依存が特徴である。有権者にしても、中庸ではなく、過激を求める傾向がある。そのことは日本だけではなく、西側先進諸国において共通の現象になっている。このことはこのブログでも既に紹介した。

※古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ:「20260309日先進西側民主政体国家の有権者は破れかぶれになっているのかもしれない」

https://suinikki.blog.jp/archives/90360730.html

 過剰を求める反対の動きが抑制であり、中庸である。国際関係論ではその考えを持つ人たちを「リアリスト(Realist)」「抑制者(restrainer)」と呼ぶ。ウォルトは「抑制主義」について以下のように書いている。長くなるが、いくつか引用する。「アメリカ外交政策における抑制という考え方は、アメリカの力を用いて民主政治体制、市場経済、法の支配、その他のリベラルな価値観を世界中に広め、できるだけ多くの国をアメリカが支配する国際機関に取り込もうとする、リベラル覇権(liberal hegemony)の大戦略(grand strategy)に反対する形で生まれた。抑制者は、軍事力によって民主政治体制を広めようとするのは無謀な試みであり、他国を脅迫したり威嚇したりすることは通常逆効果となり、敵対国を疑心暗鬼にさせ、同盟国や中立国を敵に変えてしまうと確信している(Restrainers believe that trying to spread democracy with military force is a fool’s errand, and that threatening or bullying other states usually backfires, making adversaries more suspicious and turning allies or neutrals into enemies)。そのため、外交こそがアメリカ・ファーストの行動であり、武力行使は最後の手段(last resort)であるべきだと彼らは考えている」「抑制者は、世界は危険な場所であり、アメリカは一部の国と深刻な利害の衝突を抱えていることを認識しているものの、過剰な軍事費支出や海外での武力行使を正当化するために用いられる、絶え間ない脅威の誇張には反対している」「アメリカが国家安全保障への支出を減らし、依然として大きな力を持っているにもかかわらず、より賢明にその力を行使すれば、より安全で繁栄した国になると考えている」。第一次政権時のドナルド・トランプは抑制主義であったが、現在のドナルド・トランプは全くの別人である。下記論硬はスティーヴン・M・ウォルトによる昨年9月の論稿であるが、現在の状況を警告しているかのようでもある。

 私は昨年の5月頃に第二次ドナルド・トランプ政権における外交政策に大きな転換点があったと考えている。ここで抑制者から介入主義者に変化している。私たちはこのことをより深く研究する必要がある。

(貼り付けはじめ)

ドナルド・トランプは決して抑制者にはなれない(Donald Trump Will Never Be a Restrainer

-最終判決は下された。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2025年9月30日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2025/09/30/donald-trump-foreign-policy-restrainer-realist-war-defense-diplomacy/

ドナルド・トランプ米大統領が外交政策におけるリアリスト(foreign-policy realist)もしくは、「抑制者(restrainer)」なのかという議論に終止符を打つべき時が来た。確かに、彼の政策決定における気まぐれなアプローチや、言行不一致の傾向は、特に明確な理由もなく極端から極端へと態度を翻す時(ウクライナ問題を参照)には、彼の見解を捉えること(to pin down)を困難にしている。彼の発言や行動の中には、リアリスト・抑制者というレッテル(labels)に合致するように見えるものもあるかもしれないが、彼はリアリスト・抑制者ではない。

私がこの問題を提起するのは、レッテルが重要であり、誰がどのようなアプローチや思想と結びつけられるかによって、様々な考え方や政策提案がどのように受け止められるかが左右されるからだ。公平を期すために言えば、トランプは「永久戦争(forever wars)」への批判、外交政策エスタブリッシュメントへの不信感、裕福な同盟諸国に自衛のための行動を促そうとする姿勢、そして海外におけるリベラルな価値観の擁護への明らかな無関心などにおいて、抑制の提唱者のように聞こえる時もある。(この点において、彼は異例なほど一貫性を見せている。なぜなら、言論の自由や法の支配といった、厄介なリベラルな価値観に対しても、アメリカ国内で同様に敵対的な姿勢をとっているからだ。)要するに、内容ではなくスタイルだけを見れば、トランプはリアリスト・抑制者の典型的なメンバーだと結論づけるかもしれない。

この議論をしているもう一つの理由は、トランプをリアリスト・抑制者とレッテルを貼ることが、時に政治的な得点稼ぎ(to score political points)に利用されることがあるからだ。JD・ヴァンス副大統領のようなMAGA支持者の中には、抑制者というレッテルを受け入れることで、トランプが以前の公約を守り、アメリカが莫大な予算のかかる海外関与に陥るのを防いでいるとアピールする人たちもいる。(トランプ政権1期目には、傲慢なマイク・ポンペオ国務長官も同様の策略を試みたが、説得力はなかった。)対照的に、抑制に反対する人々は、アメリカの外交政策の軍事化(the militarization of U.S. foreign policy)に反対し、世界各地へのアメリカの介入を批判してきた個人や組織(例えば、クインシー責任ある国家運営研究所など)の信用を失墜させるために、トランプにそのレッテルを貼ろうとすることがある。(念のため申し添えておくと、私はクインシー研究所の理事を務めており、時折、同研究所の出版物に寄稿している。)

しかしながら、現時点ではトランプの実績が、この問題を解決する上で重要な手がかりとなる。そのためには、抑制者が何を主張しているのかを明確にする必要がある。そして、その出発点として最も適切なのは、この運動にその名を与えたバリー・ポーゼンの著書『抑制:アメリカの大戦略の新たな基盤(Restraint: A New Foundation for U.S. Grand Strategy)』であろう。さらに、ダリル・プレス、ユージン・ゴールズ、ハーヴェイ・サポルスキーによる初期の論文、クリストファー・レインによる注目すべきエッセイ、そしてジョン・ミアシャイマー、モニカ・トフト、シディタ・クシ、そして私自身による後期の著作も参照すべきだろう。

アメリカ外交政策における抑制という考え方は、アメリカの力を用いて民主政治体制、市場経済、法の支配、その他のリベラルな価値観を世界中に広め、できるだけ多くの国をアメリカが支配する国際機関に取り込もうとする、リベラル覇権(liberal hegemony)の大戦略(grand strategy)に反対する形で生まれた。抑制者は、軍事力によって民主政治体制を広めようとするのは無謀な試みであり、他国を脅迫したり威嚇したりすることは通常逆効果となり、敵対国を疑心暗鬼にさせ、同盟国や中立国を敵に変えてしまうと確信している(Restrainers believe that trying to spread democracy with military force is a fool’s errand, and that threatening or bullying other states usually backfires, making adversaries more suspicious and turning allies or neutrals into enemies)。そのため、外交こそがアメリカ・ファーストの行動であり、武力行使は最後の手段(last resort)であるべきだと彼らは考えている。彼らはアイソレイショニストでも平和主義者でもない。なぜなら、アメリカは主要地域における有利な勢力均衡(balances of power)の維持に貢献する利益を有しており、同盟国は有用ではあるが、責任を果たさせるべきであり、重要な国益を守るためには武力行使が必要となる場合もあり、適切に設計された国際機関は国家間の競争の中でも協力関係を促進できると信じているからである。抑制者は、世界は危険な場所であり、アメリカは一部の国と深刻な利害の衝突を抱えていることを認識しているものの、過剰な軍事費支出や海外での武力行使を正当化するために用いられる、絶え間ない脅威の誇張には反対している。

抑制者はあらゆる問題について意見が一致する訳ではない。例えば、中国に対してより積極的に対抗すべきだと主張する者もいれば、中国の台頭を容認する努力を強化すべきだと主張する者もいる。しかし、彼らは近年の民主党政権と共和党政権下でアメリカの国家戦略を特徴づけてきた、自己中心的で傲慢な姿勢に反対するという点では一致している。何よりも、抑制者は気まぐれな軍事力行使に反対し、アメリカが国家安全保障への支出を減らし、依然として大きな力を持っているにもかかわらず、より賢明にその力を行使すれば、より安全で繁栄した国になると考えている。

それでは、なぜトランプは真の抑制者ではないのか? その理由をいくつか挙げてみよう。

第一に、トランプ大統領はアメリカの国防予算の不必要な増額を依然として支持しており、その額は最近1兆ドルを超え、依然として他のどの国の国防予算をも大きく超えている。さらに悪いことに、彼はこれらの巨額の予算の一部を本来の目的である「外国の脅威からアメリカを守る(defending the United States against foreign dangers)」ことから逸脱させ、国内の架空の敵(fictitious domestic enemies)を追いかけるために流用している。脅威を弱めるどころか、トランプ大統領は国内外の架空の敵を利用して、大統領権限を危険なレヴェルまで拡大することを正当化している。抑制者は長年、過剰な軍事化(excessive militarization)は最終的にアメリカ国内の市民の自由を脅かすと警告してきたが、トランプ大統領は彼らの警告が正しかったことを証明してしまった。

第二に、抑制者は、アメリカはヨーロッパと中東地域における軍事的プレゼンスを縮小し、中東地域ではより公平な姿勢を取るべきだと考えている。トランプ大統領にはこれら両方を行う十分な機会があったにもかかわらず、どちらも実行していない。両地域におけるアメリカのプレゼンスはほぼ変わらず、トランプ大統領は中東地域におけるアメリカの「特別な関係(special relationships)」をさらに強化し、中東地域の敵対勢力との真剣な対話を拒否している。

第三に、トランプ大統領は、際限のない紛争にアメリカ軍地上部隊を投入することには慎重な姿勢を示しているものの、目に見える形ではあるものの戦略的に疑わしい軍事行動に空軍力を行使することには全く抵抗がない。2025年1月に大統領に復帰して以来、イエメンとイランの標的を攻撃し、カリブ海で麻薬密輸に関与していたとされる複数の船舶を軍に撃沈するよう命じた。これらの行動の合法性は疑わしいだけでなく、いずれも重要かつ永続的な戦略的目的を達成する可能性は低い。フーシ派は依然として強硬な姿勢を崩さず、イランは核開発計画を放棄しておらず、数隻の船舶を撃沈すればアメリカへの麻薬流入が減少すると考える者は夢物語を語っているに過ぎない。トランプ大統領の関税政策と並んで、こうした無意味な軍事行動は外交政策における自制とは正反対であり、トランプ政権に今もなお仕えている数少ない真の抑制者たち(彼らは自分が誰であるかを分かっている)が、こうした行動をどう思っているのか、私は疑問に思わずにはいられない。

第四に、トランプ大統領は、抑制者の一部が提唱するように、経済・安全保障に関する諸問題に関して中国と包括的な合意に達することも、また、他の抑制者が主張するように、アジアにおける中国の勢力均衡を図り、地域覇権の確立を阻止するための連合を強化する真剣な努力もしていない。それどころか、トランプ政権は日本、韓国、インドといったアメリカの重要なパートナー国との貿易をめぐって対立を煽り、ジョージア州のバッテリー工場で韓国人労働者を不当に扱うことで韓国との関係をさらに悪化させ、科学技術分野における中国に対するアメリカの競争力を組織的に弱体化させている。

第五に、抑制者、特に超党派を標榜するクインシー研究所のような組織が提唱する重要な提言の1つは、アメリカ外交を活性化させ、軍事力の反射的な行使を控えることである。しかし、以前にも述べたように、トランプ大統領とその側近たちは、準備不足、人員不足、一貫性のない取り組み、そして最終的には失敗に終わる外交交渉の典型例と言えるだろう。トランプ大統領とマルコ・ルビオ国務長官兼国家安全保障担当大統領補佐官は、国務省を骨抜きにし、通常の省庁間協議プロセスを無視し、ガザ地区とウクライナに関する重要な交渉を、明確な資格がなく、潜在的な利益相反を抱える不動産弁護士(スティーヴ・ウィトコフ)に委ねてしまった。彼らがほとんど成果を上げていないのは何も不思議に思うものではないか?

トランプ大統領自身の外交姿勢については、先週の国連総会での彼の全くもって奇妙なパフォーマンスをご覧になることをお勧めしたい。国連が好きであろうと、トランプ大統領を嫌っていようと、彼がそこで見せた光景、そしてそれが我が国とその指導者について世界に何を物語ったのかを知れば、誰もが不快感を覚えるはずだ。トランプは持ち時間15分をほぼ45分も超過し、数十人の世界の指導者たちを前に、支離滅裂で自己憐憫に満ち、虚偽と侮辱に満ちた長時間のスピーチを続けた。この演説は、世界で最も力のある国がこれほど無能な人物の手に委ねられていることに、アメリカの敵対諸国を安堵させ、残されたアメリカの友好諸国を同じ理由で不安にさせたことは間違いない。

従って、トランプは抑制者でもリアリストでもない。もっと適切な表現はいくつかあるが、それらを挙げるには私は礼儀正し過ぎるのかもしれない。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。Blueskyアカウント:@stephenwalt.bsky.socialXアカウント:@stephenwalt

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 古村治彦です。

 私は昨年11月末に著書『シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体』を出した。著作の中で私は次のように主張した。ピーター・ティール率いるビッグデータ分析やAI開発のパランティア・テクノロジーズ社、イーロン・マスク率いる宇宙開発のスペースX社、パルマー・ラッキー率いるドローン開発のアンドゥリル・インダストリーズ社が「新・軍産複合体(Neo Military-Industrial Complex)」を形成し、アメリカ政府とアメリカ軍に食い込む形で、大型契約を締結し、巨額の利益を生むということになる。その具体例が「ゴールデンドーム」という、ドナルド・トランプ大統領が発表した、アメリカ全土を防衛するシステムである。このシステムの重要な点は、長期契約(サブスクリプション契約)によって、長期にわたり、巨額の利益を上げる点にある。そして、彼らは大規模な戦争を忌避するだろう。新・軍産複合体は長期契約で利益を上げるが、米中衝突などの大規模な演奏は望まないし、そのようなことになったら、技術提供を止めるなどして阻止することになるだろう。


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シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 

 今回のイラン攻撃は大規模攻撃である。私の主張の一部は外れているという指摘があるだろう。しかし、今回のイラン攻撃について、イスラエルとアメリカの目論見は、最初の一撃でイランを屈服させるというものであった。しかし、それが外れてしまい、大規模化、長期化せざるを得なくなった。アメリカはこのような形になることを望んでいなかったし、想定していなかった。

 以下の論稿は、私の主張の正当性を担保してくれる内容になっている。「サブスクリプション」という言葉も出てくる。最先端の高度技術を提供する民間企業が政府の政策遂行、軍の作戦遂行においてイニシアティヴを取るという時代がそこまで来ている。最後に宣伝になって恐縮だが、是非、拙著『シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体』をお読みください。よろしくお願いいたします。

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スターリンクは地政学を民営化した(Starlink Has Privatized Geopolitics

-ウクライナからイランまでイーロン・マスクのサーヴィスは外交政策の仲裁者(an arbiter)となった。

ロバート・ムガー、ミシャ・グレニー筆

2026年3月20日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/03/20/starlink-spacex-musk-geopolitics-war-ukraine-russia-iran/

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ウクライナのドネツクで戦闘任務中にウクライナ兵がスターリンク衛星モデムを調整している(2025年3月12日)

スターリンクは単なる商用通信サーヴィスではない。それは、戦争をいかに戦われるか、国内の混乱へ国家は以下に対処するか、そして政府の統治が及ばない分野において犯罪組織が如何に活動するかについて、ますます左右する戦略的インフラ(strategic infrastructure)になっている。スターリンクが政治的にこれほど重要な意味を持つのは、その地球規模のネットワーク網だけでなく、その背後にあるガヴァナンスモデルにもある。

今や民間企業が軌道上のゲートキーパーとなり、誰が、どこで、どのような条件で、どのような技術的制約の下で接続できるかを決定する役割を担っている。多くの紛争において、こうした決定は軍事的、政治的な影響を及ぼし、国家はそれを再現したり制御したりすることが困難になっている。多くの戦略的サプライチェインが民間企業に依存している現状において、スターリンクは公共の安全保障機能に対する民間企業の裁量権が極めて集中している事例と言えるだろう。

スターリンクの地政学的な重要性は、その規模に比例する。2025年12月中旬時点で、軌道上には9357基のスターリンク衛星が存在していた。 2026年1月、アメリカ連邦通信委員会(FCC)はスペースXに対し、第2世代衛星7500基の追加配備を承認した。これにより、スペースXの衛星総数は約17000基となる。スペースXは以前から、最大42000基の衛星運用を目指すという野心を表明してきた。

スターリンクのサーヴィス提供範囲も拡大している。現在、160の市場でサーヴィスを展開しており、その決定に対処しなければならない軍、通信規制当局、法執行機関の数も増加している。競合他社と比較すると、スターリンクの圧倒的な優位性はより明確になる。低軌道における最大のライヴァルであるユーテルサット・ワンウェブ(Eutelsat OneWeb)は約650基の衛星を運用している一方、アマゾンのカイパー衛星群(Amazon’s Kuiper constellation)は2月時点でわずか200基強にとどまっている。スターリンクは事実上の独占状態にあり、当面の間、競合相手は存在しないことになる。

スターリンクは現在、世界中で1000万人以上のアクティヴユーザーを抱えていると発表しており、スペースXは2026年末までにその数を倍以上に増やすことを目標としている。その成長は、米国のT-Mobileをはじめとする携帯電話事業者との提携によってさらに加速しており、ドイツテレコムは2028年からヨーロッパでスターリンクを利用した衛星通信サーヴィスを開始する予定だ。

スターリンクの商業的な強みは、地上基地局や光ファイバー網が届かない農村部、遠隔地、災害被災地への接続にある。しかし、こうした重要な通信レイヤーを支配することで、スターリンク社は地政学的に大きな影響力を持つことになる。特に紛争、緊急事態、そして接続性が軍事、政治、人道的な結果を左右するあらゆる状況において、その影響力は顕著になる。

ウクライナ情勢は、スターリンクが戦場の通信にどのような影響を与え、戦略的な依存関係を生み出すかを示す、これまでで最も明確な事例と言えるだろう。2022年のロシアによる本格的な侵攻で地上ネットワークが機能停止した後、ドローン、分散型指揮、迅速な標的設定サイクルが特徴的なこの戦争において、スターリンク端末は運用インフラとなった。2025年初頭までに、ウクライナは少なくとも4万7000台のスターリンク端末を確保したが、その大部分はポーランド、ドイツ、アメリカ、そしてスペースX自身を含むパートナー国政府やその他の支援国から供給されたものだった。安定したモバイル帯域幅がなければ、ウクライナ軍はドローン映像の送信、兵站の調整、そしてこの紛争の特徴である分散型火力支援ネットワークの維持ができなかった。これらの端末は単なる利便性ではなく、効果的な抵抗のための必要条件だったのだ。

この依存関係は即座に攻撃対象領域を生み出した。ロシア軍は第三者ルートを通じてスターリンクへのアクセス権を取得したと報じられており、2024年にはロシア支配地域におけるスターリンクネットワークの利用が繰り返し懸念事項となった。問題は深刻で、スペースXとウクライナ国防省は不正接続を抑制するために認証管理を導入した。ウクライナ当局は、前線におけるロシア軍の利用が阻害されたと述べ、軍事顧問たちは、この影響はロシア軍の作戦にとって重大な後退であると評した。

この一連の出来事は示唆に富む。企業内のエンジニアが商業アクセスに関する方針に基づいて下した決定が、実戦中の戦争における戦術的バランスを崩した。条約による承認も、議会での採決もなかった。その決定を左右したのは、一企業の利用規約(a firm’s terms of service)だった。

戦略的、地政学的な側面はさらに深刻だ。2025年初頭、アメリカの交渉担当者は、ウクライナが重要な鉱物資源に関する合意を受け入れなければ、スターリンクへのアクセスを制限するとア圧迫を与えたとされる。スペースXのオーナーであるイーロン・マスクは関連性を否定したが、圧迫の信憑性と、それがキエフにもたらした不安は、その具体的な内容よりも重要だった。

すでに前例があった。2022年、マスクは、ロシア占領下のクリミア半島近辺でのスターリンクの通信網をウクライナ海軍のドローン作戦支援のために提供することを拒否したと報じられている。その理由として、事態のエスカレーションに関するリスクについて個人的な見解を挙げた。民間供給業者が個人的な直感に基づいて、最前線の国家が実施できる作戦を決定できる場合、その関係はもはや商業的なものではなくなる。それは主権の委譲であり、説明責任を負わない行政機関によって行使される戦略的機能である。

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衛星放送受信アンテナが点在するテヘラン中心部の住宅街の窓(2026年1月20日)

イランは、スターリンクの地政学的影響を示すもう1つの事例である。2026年1月に大規模な抗議デモが発生した後、イランの政権は史上最長かつ最も厳しいインターネット遮断を実施し、国内の接続率を通常の約4%にまで低下させた。近年、密輸され闇市場で取引された数万台のスターリンク端末は、弾圧の様子を外部に伝える重要な経路となったようだ。イラン国内の利用者には利用料が免除されたと報じられており、トランプ政権はスターリンク端末約6000台を密かにイランに持ち込んだ。これらの端末は単なる消費財としてではなく、アメリカの外交政策の手段として利用された。

テヘランの対応は前例のないものだった。政府当局は、地上妨害装置、GPSスプーフィング装置、携帯電話妨害装置を各地域に配備した。報道によると、治安当局は戸別訪問による捜索を行い、ドローンや情報提供者を使って衛星アンテナや端末の位置を特定し、利用者をスパイ容疑で告発した。イラン議会は既に、スターリンク端末の無許可所持・使用を犯罪と定めており、軽微な違反には懲役刑、スパイ行為や協力行為には死刑を含むさらに厳しい刑罰を科すことを規定していた。イランは国際電気通信連合(ITU)に対し、スターリンクが国家主権を侵害しているとして正式に提訴していた。

第2段階は2月28日に始まり、アメリカとイスラエルがイランの軍事施設、核施設、政府機関を標的とした共同攻撃を開始した。最高指導者アリ・ハメネイ師の暗殺は、イランによるイスラエル、中東各地のアメリカ軍基地、湾岸諸国、その他複数の国へのミサイルとドローンによる報復攻撃を引き起こした。イラン国内の通信状況はさらに悪化し、通常の約1%にまで低下した。

この段階において、スターリンクの役割はまさに矛盾をはらんだものとなった。密輸された端末によって、一部のイラン人は政府庁舎への攻撃を記録し、通信規制の努力にもかかわらず映像を拡散することができた。しかし、衛星通信へのアクセスは反体制派に限られていた訳ではないようだ。従来のネットワークが劣化するにつれ、スターリンクは国家と関係のある主体によっても利用された可能性がある。サイバーセキュリティ研究者たちは、インターネット遮断期間中、イラン情報保安省に関連する一部の活動がスターリンクのIPアドレス範囲から発信されていたと指摘している。同時に、イラン政府当局は検閲を回避しようとする市民によるスターリンクへのアクセスを妨害または低下させていたと報じられている。

また、別のサイバーセキュリティグループは、スターリンクを装った罠を利用した監視マルウェアを特定した。これは、同じ通信プラットフォームが抗議活動参加者、監視活動者、そして国家と関係のあるサイバー攻撃者によってどのように利用されうるかを示している。

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カリフォルニア州ヴァンデンバーグ宇宙軍基地から打ち上げられた28基のスターリンク衛星を搭載したスペースX社のファルコン9ロケットが上昇している(2025年9月28日)

米国防総省は、イランを、低軌道システムが持続的な電子妨害や戦時下の混乱下でどのように機能するかを示す好例として捉えている。持続的な圧力によってスターリンクの耐障害性が著しく低下する可能性があるならば、例えば台湾におけるスターリンクの役割を支える前提は見直される必要がある。これはシステムの有用性を損なうものではない。単に、ネットワークが宇宙空間にあるというだけで耐障害性が保証される訳ではないことを意味する。

スターリンク技術は、犯罪組織や反乱組織のネットワークにも浸透しつつある。犯罪組織は、分散型通信の力を活用して作戦を遂行しようとしている。統治能力が低く、スペースXに対する影響力も乏しい脆弱な国家にとって、課題は喫緊の課題だ。通信網が地上の基地局やケーブルではなく、上空から提供されるようになると、遠隔地や紛争地域でのアクセス規制が困難になり、民間事業者がどのような条件で協力してくれるのかを交渉することもさらに難しくなる。

ブラジルのアマゾン熱帯雨林は、その具体的な例を示している。2025年6月、ブラジル連邦検察庁は、違法採掘や犯罪行為におけるスターリンクサーヴィスの利用を抑制するため、スターリンクと協定を締結した。この協定では、アマゾン地域における新規利用者に対し、身分証明書と居住証明の提出を義務付け、捜査対象となっている端末に関するデータをブラジル当局と共有することを認めている。また、違法行為に関与している疑いのある端末については、サーヴィスが停止される可能性がある。ブラジル環境庁の作戦調整官であるヒューゴ・ロスは、犯罪組織がスターリンクを利用して取締チームのリアルタイム位置情報を送信し、摘発を予測したり、現場の職員の安全を脅かしたりしていたことを指摘している。ブラジルは実行可能な合意を取り付けたものの、それは問題が環境犯罪の現場に深く根付いた後のことだった。

メキシコの組織犯罪の状況は、関連するリスクを示唆している。麻薬カルテルは、アメリカ国境沿いで拡大する技術軍拡競争の中で、密輸、監視、治安部隊への攻撃にドローンを活用している。このエスカレーションは、今や民間空域管理にも波及している。2026年2月、アメリカ連邦航空局(FAA)は、アメリカの対ドローン対策の展開への懸念から、テキサス州エルパソ周辺の空域を突然閉鎖したが、数時間後に制限を解除した。この一件は、犯罪組織によるドローンの脅威が、戦術的な安全保障対応だけでなく、深刻な外交的・航空的混乱を引き起こしかねないことを示した。

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左:メキシコ陸軍の対ドローン特殊部隊がメキシコ・ナウカルパン州で報道陣向けにデモンストレーションを行った(2026年2月17日)右:チャド・アドレの難民キャンプで、仮設小屋の横に設置されたソーラーパネルがスターリンク回線に電力を供給している(2026年2月19日)

アフリカのサヘル地域では、状況はさらに深刻だ。イスラム国家ジャマート・ナスル・アル・イスラム・ワル・ムスリミン(JNIM)やイスラム国西アフリカ州(ISWAP)などの反政府勢力は、リビアとナイジェリアからマリ、ニジェール、その他の紛争地域へとスターリンク機器の違法な供給網を構築している。2024年6月、JNIMはマリのガオ地域での作戦中にスターリンク端末が使用されている様子を映した動画を公開した。昨年(2025年)、ナイジェリア軍はボコ・ハラムに対する襲撃作戦で、サンビサ森林地帯の司令官からスターリンクの機器を押収した。

2025年を通して、ジハード主義グループは衛星通信をますます活用し、分散した部隊の連携、プロパガンダの配信、そして地上ネットワークに対する国家統制によって恩恵を受けていた傍受型監視の回避を図った。ニジェールとチャドは監視体制強化のため、2025年初頭にスターリンクの合法化と規制に着手したが、密輸ネットワークは今後も存続する可能性が高い。

スターリンクは宇宙分野における唯一の存在ではない。商業宇宙セクターは、国​​家防衛と軍事力にとってますます重要な役割を担うプレーヤーで溢れている。その結果、各国が同時に受け入れ、統制しようとする戦略的サーヴィスの市場が拡大している。通信分野では、イリジウムが防衛通信に深く根付いている。2024年、スターリンク社は合えりか宇宙軍と、高度なモバイル衛星サーヴィスとその維持管理に関する5年契約を発表した。これは、見通し外通信における商用プロバイダーへの依存が続いていることを示している。

ユーテルサット・ワンウェブとアマゾンのカイパー衛星群も防衛・政府市場で競合しており、ヨーロッパ連合(EU)のIRIS2構想は、EUの主権能力強化への野心を反映している。マクサール(Maxar)、プラネット(Planet)、ブラックスカイ(BlackSky)の商用画像データは、カペラ(Capella)とICEYEのレーダーデータとともに、軍事目標設定と状況認識に組み込まれている。

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ウクライナのロボティネ近郊の最前線の雪原に立つスターリンクデヴァイス。ドローン偵察・攻撃部隊の一部(2024年1月23日)

近年の紛争は、こうした仕組みをさらに深化させている。商用衛星、端末、データ契約は、今や軍事サプライチェインの一部となっている。そして、弾薬や防空システムと同様に、政治的圧力によってその供給が制限、転用、あるいは兵器化される可能性がある。商用宇宙は、国家が権力を行使し、また抑制する手段の一部になりつつある。

イランが最も鮮明に露呈させたのは、ウクライナやその他のスターリンク利用事例で部分的にしか明らかにならなかった統治上の欠陥である。国際人道法は、国家に対し軍事目標と民間目標を区別することを求めているが、午前中に反体制派に利用されていた端末が、午後には軍事攻撃を支援するために利用される可能性もある。

国連憲章の下で、商用衛星ネットワークの妨害行為を武力行使とみなすべきかどうかを判断するための、確立された国際的な枠組みは存在しない。商用機器の秘密裏の配備が情報戦行為に該当するか否かを規定する規則もない。CEOの意見が戦場の結果を左右する場合、民間事業者の責任を問う仕組みも存在しない。また、リアルタイムで民生用と軍事用を行き来するシステムを運用する商用衛星事業者の義務についても、明確な合意は得られていない。

戦略的な接続性は、もはや地理的な問題ではなく、ガヴァナンスの問題となっている。帯域幅は軌道上から供給され、情報はサブスクリプション方式(subscription)で購入される。主権(sovereignty)は、民間企業との関係、交渉によるアクセス協定、そして争点となる技術的設定を通じて、ますます行使されるようになっている。商用衛星インフラを、それに伴う規律、冗長性、そして法的枠組みといったあらゆる要素を含めた戦略的依存関係として扱わない国家は、危機に際して、その依存関係が他国によって管理されることを覚悟しなければならないだろう。

スターリンクの新たな地政学は既に始まっている。問題は、各国がそれを統治するのか、それとも単に反応するだけなのか、ということである。

※ロバート・ムガー:「セクデヴ」グループ最高責任者、イグナイト研究所共同創設者、ロバート・ボッシュ・アカデミー研究員。著述家であり、イアン・ゴールデンとの共著『未知の地:今後100年を生き抜くための100枚の地図(Terra Incognita: 100 Maps to Survive the Next 100 Years)』がある。Xアカウント:@robmuggah

※ミシャ・グレニー:人間科学研究所所長。多くの著作があり、『マクマフィア:深刻な組織犯罪(McMafia: Seriously Organised Crime)』と『宿敵:ブラジル最重要指名手配犯の追跡(Nemesis: The Hunt for Brazil’s Most Wanted Criminal)』がある。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 なぜアメリカのドナルド・トランプ大統領がイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相に乗せられて(ほぼ洗脳のような形で)、イランに対して大規模攻撃に踏み切ったのかということはこれから様々な分析がなされるだろう。大きく分ければ、トランプの個人的な資質や考え、アメリカ政府やホワイトハウス、アメリカ国内の状況とそれによる影響、そして、国際関係の状況の大きく3つに分けることが出来るだろう。

 下記論稿の著者スティーヴン・M・ウォルト(ハーヴァード大学教授)は、2007年に、ジョン・J・ミアシャイマー(シカゴ大学)と『イスラエル・ロビー』(邦訳は副島隆彦訳、講談社、2007年)を発表した。『イスラエル・ロビー』は衝撃を持って迎えられた。アメリカ国内では称賛を集める一方で、激しい批判にも晒された。特にユダヤ系諸団体や親イスラエル派の個人からは罵詈雑言に近い非難が寄せられた。「アメリカの外交政策に国内のロビー団体が影響を与える」というのは先ほどの分類で言えば、二番目の分類になる。是非、『イスラエル・ロビー』をお読みいただきたい。
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スティーヴン・M・ウォルト(左)とジョン・J・ミアシャイマー
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 今回のイラン攻撃について、ウォルトはイスラエル・ロビーの影響があったと分析している。ドナルド・トランプ大統領の周辺人物はほぼ親イスラエル、親ネタニヤフの人物で方得られていること、トランプが選挙資金の面から恩義を感じていること、民主党側もイスラエル・ロビーの影響力を受けて、戦争阻止や停戦に積極的に動いていないということを挙げている。確かに、アメリカ連邦議会ではトランプ大統領のイラン戦争に関する権限を制限する決議案を上下両院で否決している。『イスラエル・ロビー』で詳しく分析されているが、アメリカの選挙区(都市部がほとんど)によってはユダヤ系アメリカ人が集住しており、有権者グループとして力を持っている、もしくは弁護士や医師などの高学歴で専門職に就く割合が高く、巨額の政治資金を提供できるということから、政治家に影響を与えることが出来るということから、選挙に勝とうと思えば、イスラエル・ロビーやユダヤ系の人々の意向に反対することは難しいということになる。

 ウォルトは論稿の結語で「ロビー活動の影響力が弱まり、アメリカがイスラエルとのより正常な関係を確立するまで、こうした事態は繰り返される可能性が高く、アメリカは冷酷ないじめっ子のように見え、私たち全員にとって不利益となるだろう」と書いている。今まさに、このような状況になっている。そうした中で、アメリカ一辺倒の外交を行う日本と高市早苗首相は異常と言わざるを得ない。

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イラン戦争におけるイスラエル・ロビーの責任(The Israel Lobby’s Responsibility for the Iran War

-アメリカ・イスラエル間の特別な関係を擁護する人々は特別な役割を果たしてきた。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2026年3月17日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/03/17/israel-lobby-iran-war-trump-responsibility/
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ドナルド・トランプ氏が2016321日、アメリカ・イスラエル公共問題委員会(AIPAC)の年次政策会議で演説を行った(2016年3月21日、ワシントンDC

速報:イラン戦争は予想通りに進んでいない。「計画通り(planned)」に進んでいないと言いたいところだが、この状況ではその言葉は全く不適切に思える。アメリカをはじめとする各国が、またしても中東地域で惨敗を喫する中、誰が責任を負うべきかを知りたがっている。責任の所在を明確にすることは極めて重要だが、同時に、責任のない人間が不当に非難されることもあってはならない。

当然のことながら、有識者の一部は、これはイスラエルのために戦われている戦争だと考えている。彼らはその証拠として、マルコ・ルビオ米国務長官の発言を挙げている。ルビオ長官は、トランプ政権はイスラエルが攻撃を仕掛けてくることを知っており、イランがアメリカ軍に対して報復する可能性を予測したため、先制攻撃を選択したと述べていた。さらに、イスラエル首相ベンヤミン・ネタニヤフは数カ月前からイランとの戦争を強く主張しており、元『イェルサレム・ポスト』紙編集長で、現在は『ニューヨーク・タイムズ』紙のコラムニストであるブレット・スティーヴンスのような親イスラエル派の評論家は、過去に繰り返しイランに対する戦争を訴え、現在もなお今回の戦争を擁護している。

ここで1つの明らかな疑問が生じる。アメリカ国内の「イスラエル・ロビー(Israel Lobby)」はこの戦争にどの程度の責任を負っているのだろうか? しかしながら、この問題を詳しく検討する前に、2つの注意点を述べておく。

第一に、まだ初期段階であり、今後数カ月の間に、この事態がどのように、そしてなぜ起こったのかを示す証拠がさらに明らかになるだろう。また、事態がさら​​に悪化すれば(go further south)、いつものように責任転嫁や混乱(kick up dust and shift the blame)を招く動きも出てくるだろう。2003年のイラク戦争とは異なり、今回の紛争はアメリカ国民に戦争を正当化するための長期にわたるキャンペーンが行われなかったため、誰が戦争を推進し、誰が疑問を呈していたのかを正確に把握するのは困難だ。

第二に、ロビー活動の影響を評価する際には、その定義を正しく定めることが不可欠となる。ジョン・ミアシャイマーと私が2007年に出版したこのテーマに関する著書で明らかにしたように、イスラエル・ロビーは宗教や民族によって定義されるものではなく、むしろその構成員が推進しようとする政治的立場によって定義される。それは、アメリカとイスラエルの「特別な関係(special relationship)」を維持することを共通の目標とする、諸団体や諸個人の緩やかな連合体である。実際には、この特別な関係とは、イスラエルがどのような行動を取ろうとも、寛大な軍事的・外交的支援を提供することを意味する。このイスラエル・ロビーはユダヤ人と非ユダヤ人の両方で構成されており、多くのアメリカ系ユダヤ人はイスラエル・ロビーに属しておらず、特別な関係を支持していない。さらに、イスラエル・ロビーの中核を成す人々(キリスト教シオニスト[Christian Zionists]など)の中には、ユダヤ人ではない人もいる。

したがって、イラク戦争の責任をアメリカ系ユダヤ人コミュニティに押し付けることは、2003年のイラク戦争の責任をアメリカ系ユダヤ人コミュニティに押し付けたのと同様に、分析的に誤りであるだけでなく、危険な分断を招くことになる。実際、2002年から2003年にかけて行われた調査では、ユダヤ系アメリカ人はアメリカ国民全体に比べて、イラクのサダム・フセイン大統領に対する戦争への支持が低いことが示された。イスラエルのユダヤ人政策研究所(Jewish People Policy InstituteJPPI)は最近、ユダヤ系アメリカ人の大多数がイランとの戦争を支持していると主張する世論調査結果を発表したが、これは慎重に選ばれた、明らかに代表性のない回答者グループによるものであり、ほぼ間違いなく偽りだ。(ちなみに、JPPIがこのような疑わしい調査結果を発表するのは無責任であり、まさに私たちが皆阻止したい反ユダヤ主義を助長する危険性がある。)また、最大の主流派リベラル系親イスラエル団体であるJストリートや、ニュー・ジューイッシュ・ナラティブ、ユダヤ平和の声といった進歩的な団体が、既に戦争を非難する声明を発表していることも注目に値する。

それでは誰に責任があるのか?

第一の、そして最も明白なのは、ドナルド・トランプ大統領と、彼の無能で無責任な忠実な側近たちだ。2003年のジョージ・W・ブッシュ大統領と同様に、トランプも決断を下し、その結果に対する最終的な責任を負う。そしてもちろん、地域全体におけるイスラエルの覇権確立を目指しているものの、米国の積極的な支援なしにはそれが不可能なベンヤミン・ネタニヤフ首相も、直接的な責任を負う。

しかし、トランプ大統領が私たちに信じさせようとしていることとは違い、どの大統領も完全に単独で行動する訳ではなく、トランプ大統領が周囲の人々から聞くことに左右される可能性があることは周知の事実である。そして、トランプ大統領の側近たちには、イスラエルを熱烈に擁護する者、イスラエルからの選挙資金を長年受け取ってきた者、あるいはその両方である者が多数含まれている。トランプ大統領の中東特使であるスティーヴ・ウィトコフとジャレッド・クシュナーは、駐イスラエル米大使のマイク・ハッカビーと同様に、イスラエルの熱烈な支持者である。国家安全保障担当大統領補佐官も兼務するルビオ国務長官は、連邦上院議員時代からイスラエルとの特別な関係を反射的に支持し、親イスラエル派の選挙資金を最も多く受け取った人物の1人である。現ホワイトハウス大統領首席補佐官のスージー・ワイルズは、ネタニヤフ首相の2020年の再選キャンペーンでコンサルタントを務めた。国家情報長官を務めたトゥルシー・ギャバード(トランプ政権発足以前にイスラエルへの過剰な支援を批判していた)を除けば、政権上層部でイスラエルとの距離を置くことを公然と支持する人物はほとんどいない。

第二に、トランプ大統領自身も、故シェルドン・アデルソンとその妻ミリアムといった熱心な親イスラエル派の人物に恩義を感じていることを認めている。エリ・クリフトンとイアン・ラスティックが『ザ・ネイション』誌の最近の記事(および近刊予定の著書)で述べているように、トランプ大統領は2025年10月のクネセト(イスラエル議会)演説で、近年のアメリカの選挙で最大の献金者であるミリアム・アデルソンを名指しし、彼女はアメリカよりもイスラエルを愛しているかもしれないとさえ示唆した。こうした懸念は、一部の民主党指導者がイスラエルの開戦やトランプ政権の参戦を批判することに消極的で、むしろ戦争計画の不備に焦点を当てている理由を説明するかもしれない。

第三に、この戦争は突如として起こったものではない。確かに、アメリカとイランは何十年にもわたって対立しており、両国が互いに抱く疑念は、イスラエルやロビー団体だけの責任ではない。とはいえ、AIPAC、民主政体防衛財団、アメリカ・シオニスト連盟、反核イラン連合といったロビー団体は、長年にわたりイランを悪者扱いし、アメリカ企業がイランで事業を行うことを阻止し、イランの元大統領であるアクバル・ハシェミ・ラフサンジャニとモハメド・ハタミによる関係改善の試みを妨害してきた。(後者の点については、2007年に出版した書籍の第10章をお読みいただきたい。)Jストリートとは異なり、これらの団体は、イランのウラン濃縮能力と核兵器備蓄を削減した2015年の合意を阻止するために奔走し、イランが完全に合意を遵守していたにもかかわらず、最終的には2018年にトランプ大統領に合意を破棄するよう説得した。トランプがそうしていなければ、当然ながら、今日イランの核開発計画を懸念する理由ははるかに少なかっただろう。

最後に、民主党と共和党のどちらの大統領もイスラエルに実質的な圧力をかけることをほぼ不可能にすることで、ロビー活動はネタニヤフ首相が地域全体で「無謀な行動(reckless driving)」を取ることを可能にした。イスラエルによるパレスチナ住民への継続的な抑圧、ガザ地区、レバノン、イエメン、シリア、イラン、そしてカタールへの度重なる攻撃などがその例だ。スティーヴン・サイモンが指摘するように、イスラエルがアメリカを今回の戦争に参加することを「強制(compel)」したのではない。トランプ政権は自発的に、そして熱心に参戦した。このことは事実だが、ロビー活動が特別な関係を守り、イスラエルが平和を乱し続けることを可能にした役割は、なぜアメリカ人が遠く離れた地で多大な犠牲を伴う紛争に巻き込まれ続けるのかを理解する上で役立つ。

結論は以下の通りだ。今回の惨事が展開する中で、アメリカ人をはじめとする人々は、責任者を追及したいと考えるのは当然のことだ。彼らは、大統領をはじめとする特定のグループや個人に焦点を当てるべきだ。彼らは、イスラエルの地域政策を支持し、さらなる暴力の乱発がアメリカの国益になると自らを納得させた。ロビー活動の影響力が弱まり、アメリカがイスラエルとのより正常な関係を確立するまで、こうした事態は繰り返される可能性が高く、アメリカは冷酷ないじめっ子のように見え、私たち全員にとって不利益となるだろう。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。Blueskyアカウント:@stephenwalt.bsky.socialXアカウント:@stephenwalt

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 古村治彦です。

 私は映画については全くの門外漢である。しかし、私が毎日目を通している『フォーリン・ポリシー』誌のウェブサイトには、映画評論や文化評論が掲載される。先日は映画「国宝」の評論が掲載されておりそのことを紹介した。映画や文化は人間社会の重要な一要素であり、映画や演劇、小説、絵画などから歴史や社会について学ぶことが出来る。これらは人間社会にとって必要不可欠な要素である。

 1950年代から1960年代にかけて、フランスで「ヌーヴェルヴァーグ」と呼ばれる、一連の新しい手法を取り入れた映画が多く出てきたことは知識として知っており、写真や映像でそのスタイリッシュな様子は見たことがある。しかし、昨年、「ヌーヴェルヴァーグ」をテーマにした映画「ヌーヴェルヴァーグ」がNetflixで公開されたことは知らなかった。

 今回ご紹介する映画評論でヌーヴェルヴァーグについて少しだけ分かったような気がする。第二次世界大戦後の混乱が収まり、社会に安定がもたらされる中で、若者たちの既存の価値への反逆ということがあったのだろうと月並に考えている。これから様々な映画にも興味関心をもって接していきたいと思えるようになった。是非これからヌーヴェルヴァーグの映画を見ていきたい。

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フレンチ・ヌーヴェルヴァーグは今でも新しい(The French New Wave Is Still New

-リチャード・リンクレイター監督の映画「ヌーヴェルヴァーグ(Nouvelle Vague)」は、私たちがまだ「勝手にしやがれ(Breathless)」の余韻から立ち直れていないことを示している。

ジョーダン・ホフマン筆

2025年11月21日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2025/11/21/nouvelle-vague-linklater-review-french-new-wave/

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オーブリー・デュリンがジャン=ポール・ベルモンド役、ゾーイ・ドゥイッチがジーン・セバーグ役、そしてギヨーム・マルベックが監督のジャン=リュック・ゴダール役で出演する映画「ヌーヴェルヴァーグ」の1シーン

Netflixで配信中のリチャード・リンクレイター監督の最新作「ヌーヴェルヴァーグ」の、特に活気に満ちた場面で、パリの街角でカメラの前で準備をしている2人の俳優を通りすがりの人が見かけ、何を撮影しているのか尋ねる。「ドキュメンタリーなんだ」とジャン=リュック・ゴダール役のギヨーム・マルベックは言い放つ。「ジャン=ポール・ベルモンドとジーン・セバーグがフィクションを演じているドキュメンタリーなんだけどね」。

ゴダールの画期的な長編映画「勝手にしやがれ」の制作過程を再現した、「ヌーヴェルヴァーグ」は、自らが神話を弄んでいることを十分に承知している。このやり取りが実際にあったかどうかは問題ではない。映画界に最も大きな衝撃を与えたムーヴメントの1つに対するリンクレイターのこの大胆な賛辞は、いわゆるヌーヴェルヴァーグの何がそんなに新しかったのか、そしてリンクレイター自身を含め、あらゆる革新的な映画監督がいかにその影響を受け続けているのかを的確に捉えている。

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パリの『カイエ・デュ・シネマ』編集部で新聞を読むジャン=リュック・ゴダールとクロード・シャブロル(1959年)

ヌーヴェルヴァーグ(このムーヴメントのフランス語名)とは、1950年代末から1960年代にかけて、主に型破りな『カイエ・デュ・シネマ』誌で批評家として地位を確立した後、映画製作に乗り出した、意欲的な映画監督たちのグループを指す言葉だ。会員証は発行されず、彼らの作風は多種多様であったが、彼ら(全員ではなかった)が若い(全員ではなかった)男性監督たちに共通していたのは、古臭く、陳腐で、確立されたフランス映画を打破したいという強い思いだった。彼らはまた、映画監督の作品には繰り返し現れるテーマや作風の特徴があるという、現在では定説となっている「作家主義」理論(the auteur theory)の普及にも貢献した。さらに、このグループの多くは、他の多くの真面目な批評家が低俗な芸術として切り捨てたものの中に芸術的価値を見出す先駆者であった。例えば、アルフレッド・ヒッチコックは興行的に大きな成功を収め(アカデミー作品賞も受賞した)、多くのエリート層は彼を研究対象としてふさわしくないと考えていた。フランスの批評家たちは、彼を偉大な芸術家として最初に称賛した人々であった。

しかし、ヌーヴェルヴァーグに明確な最終目標があったとすれば、それは革命的なリアリズムの実現だった。フランソワ・トリュフォーにとってそれは、たまたま犯罪者であったとしても共感を呼ぶ登場人物(sympathetic characters who may just happen to be lawbreakers)を描いた、重厚な人間ドラマを意味した。アラン・レネにとっては、現代の観客が「雰囲気だけで成り立っている(today’s audiences would say were entirely powered by vibes)」と評するような、夢のような映像交響曲だった。2022年に91歳で亡くなったフランス系スイス人監督ジャン=リュック・ゴダールにとって、それは映画の慣習を無視するだけでなく、むしろ嫌悪感を抱くことを意味した。彼の代表作「勝手にしやがれ(Breathless)」は、ごく基本的なあらすじを基に、ほぼ即興で制作された。

具体的な例を挙げると、映画「ヌーヴェルヴァーグ」で描かれているように、「勝手にしやがれ」の架空の制作現場で、あるスタッフが基本的な映画製作のガイドラインが無視されていることに懸念を表明する。「彼女は以前、別のストライプのセーターを着ていた」「視線がおかしい」 「君は何度も一線を越えている。編集の時、みんな同じように見ているだろう」。

「分かっている」とマルベック演じるゴダールは言う。「だが、気にしない。」

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「ヌーヴェルヴァーグ」の1シーンでゴダールを演じるマルベック

この(架空の)口論の最中にゴダールが撮影しているシーンは、「勝手にしやがれ」の中で最も長く、最も影響力のあるシーンだ。そこでは、警察から逃亡中のチンピラであるミシェル(ジャン=ポール・ベルモンド)と、彼の新しいアメリカ人の恋人パトリシア(ジーン・セバーグ)が、彼女の切手ほどの広さのアパートで、のんびりとした午後を過ごし、軽妙な会話を交わし、本を引用し、音楽を聴き、そして愛を交わす。私はこのシーンを人生で10回以上観たが、一度たりとも映像の矛盾を気にしたことはない。

これにはいくつかの理由がある。まず、この時点で私たちはすでにゴダールの世界に浸っており、そこでは「正しい」編集とされるものがしばしば無視され、ジャンプカットによるコラージュ効果が用いられている。今日ではこのような手法に驚くことはほとんどないが、「勝手にしやがれ」が公開された1960年当時は、映写室の故障でもない限り、このような映像を見ることはなかった。ゴダールは意図的にこの手法を用いた最初の映画監督ではないが、その使用は最も大きな影響力を持ったと言えるだろう。

ジャンプカットを用いた最も有名なシーンは、ミシェルとパトリシアがオープンカーで疾走する場面で、彼らの旅路を軽快に駆け抜けていくように編集している。これは現実の再現よりも、出来事のよりリアルな記憶を優先している。このシーンには、映画全体に流れるジャズのスコアが使われており、ゴダールがメロディーから予測可能なフレーズを削ぎ落とし、即興演奏を行うジャズ的な姿勢を反映している。

ゴダールの手法がこれほど好評を博したもう1つの重要な理由(これは「ヌーヴェルヴァーグ」でもはっきりと述べられている)は、1959年の「勝手にしやがれ」の撮影当時、ジャン=ポール・ベルモンドとジーン・セバーグほど写真映えする人物は他にいないということだ。ファッションの流行は移り変わるが、映画公開から数十年経った今でも、セバーグの短く刈り込んだブロンドの髪型とストライプのシャツ、そしてベルモンドのタバコとフェドーラ帽(それ自体がハンフリー・ボガートへの直接的なオマージュである)が似合わなくなった瞬間はない。「勝手にしやがれ」は時代を超越した作品なのだ。さらに、『パリ・マッチ』誌や『ルック』誌で活躍した戦場カメラマンを経験したラウル・クタールが撮影監督を務めたことも、成功の要因の1つだった。

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左:ゴダールの「勝手にしやがれ」の1シーンのベルモンドとシーバーグ。右:「ヌーヴェルヴァーグ」の1シーンのベルモンド役のデュランとセバーグ役のドイッチュ。

映画「勝手にしやがれ」が長年にわたり人を保っていることの理由として面白いのは、ストーリーがほとんどないことだ。ミシェルは自動車泥棒で、マルセイユからパリへ向かう途中、警官を追い越し、そのうちの一人を撃ってしまう。警官がミシェルのことを知っていたのかどうかも定かではない。ともあれ、彼は指名手配犯となるが、パリに戻ってからの彼の主な関心事は、少なくとも2人いる恋人のうちの1人、パトリシアを口説くことだった。(彼は短い滞在中に別の恋人から盗みを働く。)パトリシアは両親の金でパリに滞在し、ソルボンヌ大学で授業を受けながら、『ニューヨーク・ヘラルド・トリビューン』紙で中身の良く分からない仕事をしている。空港での記者会見に派遣されることもあるが、ブランドTシャツを着て路上で新聞を売っている姿も目撃されている。

とにかく、ミシェルとパトリシアは愛や運命、幸福について語り合い、映画を見に行き、フォークナーの言葉を引用し合う。そしてついに、警察がミシェルを逮捕する。フランソワ・トリュフォーは、新聞で読んだ同様の事件の記事を基に短い脚本を書き、カイエ・デュ・シネマの仲間で、初の長編映画製作を熱望していたゴダールは、トリュフォーの脚本に忠実に従うことで、ほぼ資金を確保することができた。(トリュフォーの「大人は判ってくれない(the 400 Blows)」は既にヒットしていた。)しかし、いざ撮影が始まると、ゴダールは毎日即興で撮影を進めた。新しいアイデアが浮かばないと撮影を中断したり、街中でこっそり撮影したり、カフェテリアを駆け回ったり、カメラの後ろから俳優にセリフを指示したりする

ドリー撮影用機材を用意する資金がなかったため、撮影監督クタールは手持ちカメラで撮影し、車椅子に乗って移動した。街中で撮影する際に通行人の視線を避けるため、カメラレンズ用の穴を開けた郵便配達車にクタールを隠した。(映画「ヌーヴェルヴァーグ」はこのちょっとした仕掛けを再現しているが、ファンの中には、ベートーヴェンが交響曲第5番の冒頭の音符を夢想する様子を見ているような気分になる人もいるだろう。)

こうした逸話は、長年にわたり映画制作の教授陣と1年生の間で多くの論争を引き起こしてきた。どの学生も、カメラを手に取り、気ままに動き回れば、何の準備もなしに「勝手にしやがれ」のような映画が作れると思っている。しかし、ベルモンドやセバーグのようなカリスマ性を持つ俳優や、クタールのような撮影監督の技術を持つ俳優は滅多に見つからない。ましてや、最終的にスクリーンに映し出された時に何がダイナミックに見えるかを直感的に理解できる人はなおさらだ。

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映画「ヌーヴェルヴァーグ』撮影現場でのマルベックとリチャード・リンクレイター監督

ジャン=リュック・ゴダールの途方もないエゴを証言する文章やドキュメンタリーは数えきれないほど存在する。特筆すべきは、映画「ヌーヴェルヴァーグ」がゴダールを貶めるような描写を一切していないことだ。(最近のゴダールの伝記映画であるミシェル・アザナヴィシウス監督の映画「グッバイ・ゴダール!」にはもう少し辛辣な描写がある。)リチャード・リンクレイターは、「ぶらぶらする」映画(“hanging out” film)というジャンルに回帰した最も偉大な監督の一人である。オースティンを拠点とするこの映画監督の経歴には、「バッド・チューニング(Dazed and Confused)」(1993年)、「6才のボクが、大人になるまで(Boyhood)」、(2014年)そして「ビフォア(Before)」三部作(1995年、2004年、2013年)といった、人間味あふれる作品が含まれている。これらの作品はどれもストーリー展開は極めてシンプルだが、魅力的で立体的な登場人物描写で観客を魅了する。リンクレイター監督は、パトリシアの寝室でのあの長く「不適切な」シーンから生まれたかのような映画をいくつも作っている。

映画「ヌーヴェルヴァーグ」は「勝手にしやがれ」の編集スタイルを模倣している訳ではないが、リンクレイターはゴダールが使用したのと同様のモノクロフィルムで撮影し、長年のキャリアで初めてフランス語で作品を制作した。さらに重要なのは、オリジナル作品に見られたジャジーなクールさと若々しい活力をそのまま維持している点だ。彼の描くゴダールは相変わらず少し風変わりだが、脅威というよりはグルーチョ・マルクスのようなキャラクターに近い。彼が考えをまとめるためにその日の撮影を中断すると、キャストとスタッフは苛立ちを隠せないが、その後、皆で飲みに行って語り合う。

リンクレイターが、映画史における激動の時代の1つである「勝手にしやがれ」の伝説的な瞬間を、臆することなく再現できるのは当然のことだろう。彼自身のデビュー作である「スラッカー」は1990年に公開された、筋書きのない独白を繰り広げる奇人たちの連続を描いた作品だが、「勝手にしやがれ」に匹敵するほどの影響力を持っていると言えるだろう。これはアメリカのインディペンデント映画運動における最初期かつ最も影響力のある作品の1つであり、ケヴィン・スミスやクエンティン・タランティーノの同様に会話の多い作品に先駆けて作られた。全ての道はシャンゼリゼ通りに通じており、そこでジーン・セバーグは「ニューヨーク・ヘラルド・トリビューン!」と叫ぶ。

■「勝手にしやがれ」を超えて:フランス・ニューウェーブのおすすめ作品5選(Beyond Breathless: 5 Additional French New Wave Recommendations

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映画「気狂いピエロ」の撮影現場(フランス)でのゴダール、アンナ・カリーナ、ベルモンド(1965年)

(1)「大人は判ってくれない()」(1959年)、監督:フランソワ・トリュフォー。多くの人がこれをヌーヴェルヴァーグ最初の作品と位置づけている。ジャン=ピエール・レオは、14歳のトリュフォーをモデルにした架空の人物を演じ、学校をサボってパリの無法地帯で危険な目に遭う。監督と主演俳優はその後20年以上にわたり、このキャラクターを何度も演じることになる。

(2)「気狂いピエロ(Pierrot le Fou )」(1965年)、監督:ジャン=リュック・ゴダール。この映画を最も簡潔に表現するなら、「勝手にしやがれ」をさらに過激に、より多くのルールを破り、カラーで描かれた作品と言えるだろう。

(3)「5時から7時までのクレオ(Cléo From 5 to 7)」(1962年)、監督:アニエス・ヴァルダ。20世紀の多くの芸術運動と同様に、フランスのヌーヴェルヴァーグも少々男性中心の傾向があったが、アニエス・ヴァルダはその中でも際立った女性の声を示す存在であった。彼女の2作目の長編映画は、リアルタイムで撮影され、生検の結果から癌の診断を受けるかどうか、医師からの連絡を待つパリの歌手を描いている。

(4)『コレクションする女』(1967年)、監督:エリック・ロメール。監督の道徳物語シリーズの4作目となるこのゆったりとしたペースの海辺の物語は、フランス人がどれほど休暇を取るかという神話を払拭するには至らない。

『去年マリエンバートで』(1961年)、監督:アラン・レネ:映画界に『フィネガンズ・ウェイク』があるとすれば、それはこの作品だろう。謎めいた、しかし精緻な構図で描かれた、不気味なシャトーを舞台にした豪華なミステリーである。当時のレネの作品は、ヌーヴェルヴァーグのスピード感あふれる同僚たちとは対照的だったが、フランス映画界の常識を覆すものだった。

(5)「去年マリエンバートで」(1961年)、監督:アラン・レネ。映画界に小説『フィネガンズ・ウェイク』があるとすれば、それはこの作品だろう。謎めいた、しかし精緻な構図で描かれた、不気味なシャトーを舞台にした豪華なミステリーである。当時のレネの作品は、ヌーヴェルヴァーグのスピード感あふれる同僚たちとは対照的だったが、フランス映画界の常識を覆すものだった。

※ジョーダン・ホフマン:ニューヨーク市クイーンズ在住の映画評論家兼エンターテインメント・ジャーナリスト。Xアカウント:@jhoffman

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